(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】クラッド内バリア層を含む光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/036 20060101AFI20240910BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
G02B6/036 501
G02B6/02 376B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513456
(86)(22)【出願日】2022-08-29
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 US2022041937
(87)【国際公開番号】W WO2023034237
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509094034
【氏名又は名称】オーエフエス ファイテル,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【氏名又は名称】岡部 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100209808
【氏名又は名称】三宅 高志
(72)【発明者】
【氏名】クレンプ,トリスタン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジエ
(72)【発明者】
【氏名】ルオ,ジアウェイ
(72)【発明者】
【氏名】ストロフ,アンドレイ,エー.
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AB03
2H250AB05
2H250AB66
2H250AD01
2H250AD08
2H250AD13
2H250AD17
2H250AH38
(57)【要約】
水素拡散バリアは、光ファイバ構造内のクラッド内層(すなわち「リング」)として含まれる。水素拡散バリアリングはアルミナ(または他のガラス酸化物)で構成されてもよく、光ファイバの中心コア領域に対して最適な位置でファイバクラッド内に配置される。バリアリングの厚さは、水素透過性などの特性を制御するために、製造プロセスによって制御されてもよい。他のアルカリおよびアルカリ土類金属酸化物は、バリアリングの組成に含まれてもよく、ファイバ製造プロセスでの結晶形成を防止するのに有用である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心Cおよび半径R
coreを有すると定義される光コア領域と、
シリカ材料を含み、光コア領域を囲む内側クラッド層と、
前記内側クラッド層を囲むとともに、前記光コア領域の中心から距離R
1に配置された内側半径および前記光コア領域の中心から距離R
2(>R
1)に配置された外側半径を有し、シリカより高い密度を有する酸化物材料を含むシリケートガラスを含む、バリアリングと、
前記バリアリングを囲む外側クラッド層とを、
備えることを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記バリアリングは、前記光コア領域の前記中心Cへの水素拡散性を低下させるのに十分な濃度の酸化物材料を含むシリケートガラスを含むことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
R
1は約10μmから約60μmまでの値を示すことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記バリアリングは、UV照射に対して透明な材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記バリアリングに含まれる前記酸化物材料は、少なくとも酸化アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記バリアリングの組成は、ゼロでない濃度のアルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ。
【請求項7】
前記バリアリングは、前記バリアリングと前記外側クラッド層との間の熱膨張係数(CTE)に差を生じさせるのに十分な前記酸化物材料の濃度を含むことにより、前記外側クラッド層をファイバ線引後に圧縮状態に維持することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項8】
前記バリアリングの前記CTEは、少なくとも-40°Cから+85°Cまでの温度範囲にわたって前記光ファイバの機械的信頼性を提供するのに十分であることを特徴とする請求項7に記載の光ファイバ。
【請求項9】
前記バリアリングの前記CTEが、+300°Cを超える温度において前記光ファイバの機械的信頼性を提供するのに十分であることを特徴とする請求項7に記載の光ファイバ。
【請求項10】
前記バリアリングは、クラッド材料によって分離された複数の層を含み、各層は、所定の濃度の前記酸化物材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項11】
前記バリアリングは、R
1からR
2までの均一な前記酸化物材料の濃度を示すことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項12】
前記バリアリングは、R
1からR
2までの放射状に変化する前記酸化物材料の濃度を示すことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項13】
前記酸化アルミニウムの濃度は、約20モル%までの非ゼロ量であることを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ。
【請求項14】
選択される前記アルカリ金属酸化物は、Li
2O、Na
2O、およびK
2Oからなる群から選択される1つであり、
前記アルカリ土類金属酸化物は、MgO、CaO、およびBaOからなる群から選択される1つであることを特徴とする請求項6に記載の光ファイバ。
【請求項15】
前記光ファイバは、マルチモードファイバであり、前記光コア領域は、グレーデッドインデックスゲルマニウム添加シリカ材料を含むことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本出願は、米国仮出願63/238,600(2021年8月30日)の利益を主張し、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、光ファイバ設計の分野に関し、より詳細には、クラッド内バリアリングを組み込んで、例えば、光ファイバのコア領域に向かう水素の拡散を制限するとともに、ファイバの機械的および熱的特性を改善する構成に関する。
【背景技術】
【0003】
光ファイバベースのセンサは、石油およびガス生産における分散型ファイバ光センシング(例えば、環境条件に関する情報を提供する「ダウンホール」センサとして)のような様々な過酷な環境用途のために広く使用される技術でとなっている。したがって、光ファイバは、特に長期間にわたって過酷な環境にさらされる場合に、減衰および機械的強度などのパラメータの著しい劣化なしにその機能を実行することが不可欠である。多数の過酷な環境用途における1つの問題は、光ファイバの性能に対する水素侵入の影響である。
【0004】
光ファイバのコア領域への水素分子の侵入は、様々な波長で水素誘起損失をもたらすことが知られており、最も顕著な吸収ピークは1240nm付近に中心がある。実際、水素拡散は、上述の過酷な環境センシング用途にとって周知の問題であった。分子状水素誘起ピークの重要な特徴はその可逆性であり、すなわち、水素分子がファイバから拡散すると、ピークは減少し、おそらく消失さえする。
【0005】
そのような分子状水素の外方拡散は、いくつかの改善をもたらすことができるが、これらの過酷な環境用途における別の損失メカニズムは、典型的な高温条件に関する。特に、充分な熱エネルギーが利用可能である場合、OH基の形成は、水素および酸素反応の生成物として生じ得、この場合、約1380nmで不可逆的な吸収ピークを生成する。
【0006】
現在の解決策は、炭素コーティングが使用される、線引中にファイバ上に外側コーティングを形成することを含む。しかしながら、水素拡散バリアとしての有効性は、150°C未満の温度に限定される。水素誘起減衰を軽減するために、線引のままの光ファイバを重水素に富む環境に曝すことができ、重水素との反応は、O-H基よりも低い周波数で光を吸収するO-D基の発生をもたらす。したがって、消費された反応部位は、H2とのさらなる相互作用にあまり利用可能でなくなる。しかしながら、H-D交換は重水素不動態化の利益を減少させる。さらに、重水素不働態化は、使用可能な帯域幅の短波長端の変動、または格子間H2減衰の存在を妨げず、これは、その使用を非常に特定の場合に限定される。
【発明の概要】
【0007】
上述の必要性は、光ファイバ設計の分野に関し、より詳細には、光ファイバのコア領域に向かう水素の拡散を制限する構成に関する本発明によって対処される。
【0008】
本発明の原理によれば、水素拡散バリアをクラッド内層(すなわち、「リング」)としてファイバ構造内に含むことが提案される。以下では時々「バリアリング」と呼ばれるが、クラッド内層は、好ましくはアルミナを含み、光ファイバの中心コア領域に対して最適な位置でファイバクラッド内に配置される。バリアリングの厚さはまた、水素透過性などの特性を制御するために製造プロセスによって制御されてもよい。他のアルカリおよびアルカリ土類金属酸化物がバリアリングの組成に含まれてもよく、ファイバ製造プロセス中の結晶形成を防止するのに有用である。
【0009】
アルミナは、(従来のシリカクラッド材料の2.19g/cm3の密度と比較して)3.98g/cm3のオーダーの密度を有する、クラッド層を形成するために使用される従来のシリカ材料よりも高い密度を示すので、バリアの好ましい成分である。アルミナはまた、シリカよりも低い不純物多孔性(約4%低い)および低い水素透過性を示す。形成において、バリアリングは、典型的には、最大20モル%のアルミナを含有するシリケートガラス組成物(ゼロではない量のアルミナを含有する組成物)である。
【0010】
クラッド層に対する熱膨張係数(CTE)の差などのバリアリングの他の特性は、高温(例えば、300°C超)での光ファイバの機械的強度および疲労特性を改善することが見出されている。例えば、CTEの差は、ファイバの外側クラッド層をファイバ線引後に圧縮状態に維持させ、機械的に安定したファイバを提供する。バリアリングの存在はまた、外側クラッド内の亀裂の伝播を排除しないまでも低減し、したがってファイバのコア領域がこれらの機械的欠陥の存在によって影響を受けるのを防止するように機能し得る。本発明の原理によるバリアリングの包含は、広い温度範囲(例えば、-40°C未満から+85°Cを超える範囲にわたる)にわたって熱安定性を維持する光ファイバを提供することも見出されており、熱安定性は、モード安定性(例えば、減衰、分散など)と機械的信頼性の両方を促進することが知られている。上述のように、このタイプのファイバがダウンホールセンシング用途に使用される場合、この過酷な環境におけるモード特性および物理的特性の安定性は極めて重要である。
【0011】
有利には、アルミナ添加シリカ材料はUV透過性であり、ファイバコア領域内のブラッグ格子(Bragg gratings)または長周期格子などのUV誘起構造の形成に関連する製造ステップに影響を及ぼさない。関心のある他の波長範囲(例えばIR)内の透明性は、特定の用途に有用であり得る。本発明の目的のために、特定の波長における透明性は、100%の透明性を必要としないが、刻印ビームが通過し、ファイバのコアに沿って格子の書き込みを行うことを可能にするのに充分な値である。
【0012】
本発明の例示的な実施形態は、光コア領域と、内側クラッド層と、内側クラッドを取り囲むバリアリングと、バリアリングを取り囲む外側クラッド層とを備える光ファイバの形態をとることができる。バリアリングの内縁は、光学コア領域の中心から距離R1で配置され、その外径は、所望の断面積を提供する距離R2(>R1)に配置される。バリアリングは、シリカよりも密度の高い酸化物材料を含むシリケートガラスで形成される。
【0013】
特定の実施形態は、バリアリングが光コア領域の中心に向かう水素の拡散率を低減するように特に構成される光ファイバとして定義され得る。好適な水素拡散バリアリングは、定義されたレベルの拡散率低減を達成するように選択された濃度の酸化アルミニウムを含むシリケートガラスを含み得る。
【0014】
本発明の他の実施形態およびさらなる実施形態は、以下の議論の過程において、および関連する図面を参照することによって明らかになるであろう。
【0015】
ここで図面を参照すると、いくつかの図において、同様の数字は同様の部分を表す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の原理に従ってバリアリングを含むように形成された例示的な光ファイバの断面を示す。
【
図2】バリアリングの配置およびバリアリングとして使用されるように選択された材料の拡散係数を含む要因に基づく、ファイバのコア領域への水素拡散の差を示すプロットである。
【
図3】リングの厚さの関数としてバリアリングに侵入する伝搬光パワーフラクションを示すグラフである。
【
図4】バリアリングの配置とその断面積との関係を、ファイバ断面積と比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、クラッド内バリアリングを含むように本発明の原理に従って形成された例示的な光ファイバ10の切欠側面図である。図示のように、光ファイバ10は、内側クラッド層14によって囲まれたコア領域12を含む。バリアリング16は、内側クラッド層14を取り囲む層として形成されるように示され、外側クラッド層18はバリアリング16を取り囲むように形成される。保護コーティング20は、外側クラッド層18を取り囲むものとして示されている。この図には示されていないが、完全なファイバ設計は、その最終形態において追加のコーティングおよびジャケット層をさらに含み得ることを理解されたい。コア領域12は、シリカ、又は特定の導波用途に有用な添加シリカ(Ge添加SiO2は1つの可能な選択である)を含み得る。内側クラッド層14および外側クラッド層18は、一般に、「シリカ」とも呼ばれる二酸化ケイ素(SiO
2)を含む。バリアリング16は、好ましくは、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を含有するシリケートガラスであり、おそらく、比較的高濃度のAl
2O
3を有する高品質ガラスの形成を支援するために含まれ得る追加のガラス系酸化物(例えば、上記のアルカリおよびアルカリ金属酸化物)である。
【0018】
以下で詳細に論じるように、本発明の態様は、光ファイバ10の導波コア領域12への水素の内方拡散を遅らせるバリアリング16の能力である。水素の内方拡散を遅くすることに関してバリアリング16の有効構成を決定するのに有用なパラメータは、コア半径(R
core)、バリアリング16の内側半径(R
1)、およびバリアリング16の外側半径(R
2)として
図1に示される。したがって、バリアリング16の断面積(CSA)は、以下によって定義される。
【数1】
比較的高濃度の酸化アルミニウム(例えば、非ゼロ濃度の酸化アルミニウム、最大約20モル%のAl
2O
3である)を含有するシリケートガラスは、主にその物理的特性の結果として、特にその高密度、低いイオン多孔性、および低い水素透過性(全て純粋なシリカの特性と比較して)の点で、好ましい水素拡散バリア材料である。バリアリング16の1つの例示的な組成は、非ゼロ濃度の酸化アルミニウム、最大約20モル%のAl
2O
3(例えば)、および追加の25モル%のアルカリ金属酸化物(例えば、Na
2OまたはK
2O)またはアルカリ土類金属酸化物(例えば、MgO、CaO、BaO)を有するシリケートガラスを含み得る。20モル%のAl
2O
3は、使用され得る実際の濃度に対する制限と見なされるべきではない。むしろ、20モル%は、光ファイバ10のコア領域12に沿って伝搬する光信号のモード特性を乱し得る高屈折率(Al
2O
3の含有に関連する)を示すことなく、水素拡散率を低減する所望の効果を提供する許容可能なレベルであることが見出されている。少なくとも光学プリフォーム製造プロセスの能力、シリケートガラスに含まれる追加の金属酸化物の組み合わせなどに基づいて、Al
2O
3の他の濃度を使用することができると考えられる。
【0019】
クラッド層を形成するためのシリカ(SiO2)ガラスの使用に対するAl2O3(および上記の他の金属酸化物)のより高い密度およびより小さいイオン多孔性は、分子状水素(ならびに水素イオン)の移動を妨げ、より低い水素透過性をもたらすことが見出されている。高いAl2O3濃度を含有するシリケートガラスにおいても同様の挙動が起こることが分かっている。例えば、例示的なアルミナ系バリアリングの密度は、純粋なシリカガラスよりも11%まで高くてもよく、同じ材料のイオン多孔性は、純粋なシリカガラスよりも4%低くてもよい。バリアリング自体は、標準的なシリカクラッド材料の水素透過性よりも約4桁低い水素透過性を有し得る。
【0020】
コアに対するバリアリングの配置に関して、リングの所与のCSAに対して、リングによって提供される水素拡散率の低減は、リングがコアにより近く位置付けられるにつれて増加することが見出されている。1つのシミュレーションにおいて、R
1(
図1参照)の位置を50μmから15μmに(バリアリングのCSAおよびファイバ直径を同じに維持しながら)シフトさせると、水素拡散時間が2倍減少することが分かった。約10μmまたは約60μmまでの低いR
1の値は、選択肢の1つである。しかしながら、コアのモードガイド特性がバリアリング中のかなりのアルミナ含有量の比較的高い屈折率特性によって影響を受けないように、コアの外縁(
図1にR
coreとして示す)とバリアリングとの間に間隔ギャップが必要であることを理解されたい。すなわち、伝搬モードの光場閉じ込めを維持するために、コア領域12を取り囲むために、内側クラッド層14のある程度の厚さが必要である。
【0021】
バリアリングの全体的な特性は、主として、ファイバを通ってコア領域への(望ましくない)水素の拡散速度を制御することに関連する。H2透過性、バリア材料の拡散速度、コアに対するバリア開始半径および終了半径、ならびにバリアリングのCSAは、バリアリングの重要な設計因子であると考えられる。環境中のH2が理論的分析においてファイバコアに到達するための全体的な拡散時間は、バリアリングの有効性を説明するのに有用であると考えられる。
【0022】
H2透過性(または拡散速度)はまた、環境H2がファイバコアと相互作用するのを防止する上で重要な役割を果たす。例えば、所与のバリアリングの同じ物理的特性について、H2拡散時間は、拡散速度が1000倍低い場合の80倍の遅延と比較して、バリアリング材料の拡散速度が10倍低い場合に2倍の遅延を受けることができる。シリカとバリアリングとの間のH2透過性の差は、バリアリング材料(例えば、バリアリングのシリケートガラスに含まれるAl2O3のモル%である)の作用として約2~5桁で変動し得る。
【0023】
バリア材料の位置およびCSAは、ファイバ幾何学形状および導波路設計における実世界の制限により、H2拡散時間を増加させる際に二次的役割を果たすと推定される。所与のバリア材料およびCSAについて、バリアリングをコアに近づけることによって、H2拡散時間を3倍まで増加させることができる。
【0024】
図2は、本発明のこの態様を示すプロットのセットを含む。特に、
図2は、時間(時間で測定)の関数としてコア領域12の中心における相対水素濃度をグラフ化している。プロットIは、バリアリングを含まない従来技術の従来のファイバに関連する。プロットII、III、およびIVは、コア領域12の中心からの分離(バリアリング16の内側半径位置R
1によって定義される)およびバリアリングの拡散係数D(バリアリング内のAl
2O
3の濃度の既知の関数)の両方に関して、バリアリング16の異なる構成に関連する。
【0025】
予想通り、Al2O3濃度の増加(すなわち、拡散係数Dの低下)は、コア領域12へのH2の拡散を遅らせることが見出されている。定量的には、従来技術のプロットIと比較して、値D=7.3×10-16m2/s(標準シリカより100倍低い)を有するバリアリング16は、正確なリング位置に応じて、拡散時間を1桁以上増加させる。特に、プロットIIは、バリアリング16がコア領域12から比較的離れて位置する(R1=50μm)場合のH2拡散を、バリアリング16がコア領域12により近く位置する(R1=15μm)場合のプロットIIIと比較して示す。ここで示されるデータは、バリアリング16をコア領域12に比較的近接して配置すること(プロットIII)が、コア内のH2濃度があるレベルに達するまでの時間を延長するという結論につながる。また、内側半径R1を50μmから15μmに減少させると、拡散係数(D)の値を7.3×10-16m2/sから3.0×10-16m2/sに減少させるよりも水素拡散の初期段階を阻止するのに効率的な構成が得られるという事実にも興味深い。これは、プロットIIIに示される結果をプロットIVの結果と比較することによって明らかである。したがって、固定されたDおよびCSAを有する設計を仮定すると、本発明の好ましい実施形態は、コア領域12を通って伝搬する信号の光学モードを損なうことなく、バリアリング16を可能な限りコア領域12の近くに配置するべきである。上述のように、約10μmから約60μm以上のオーダーのR1の値も使用することができる。
【0026】
クラッド内バリアリングを含むことの利点を要約すると、リングをできるだけ厚くし、非拡散性にすると最適な結果が得られる。また、(伝搬モードに干渉することなく)できるだけコアの近くにリングを配置することは、水素がコア領域に到達するのを防止するという点で最適な結果を提供する。拡散バリアとしての改善の研究は、H2/D2の所定の濃度(Couter)がコア領域12の中心Cに到達するのにかかる時間を測定することによって行うことができる。バリアリングのない従来のファイバでは、外径Router=62.5μmにおいて、コア12の中心が、それぞれ5%レベルの濃度CouterまでT5%=1.03時間を要する。周囲のクラッドよりも10倍大きい拡散定数を示すようにバリアリング16を形成することは、T5%時間を倍増させることが分かっている。拡散定数を数千倍以上にさらに増加させると、約85.8時間のT5%値がもたらされる。
【0027】
あるいは、バリアリング材料の拡散定数を変更する代わりに、リング面積を2倍にすることにより、T5%値が10~22時間の範囲に増加することが見出された。これらのパラメータのすべてを検討する際、バリアリング16のCSAが固定量として留まる場合、バリアリング16をできるだけコア領域12の近くに配置することが最良であり得る。
【0028】
上述のように、バリアリング16の内側半径R
1の値およびリング16の厚さδ(δ=R
2-R
1)は、(コア領域12に沿って伝搬する光信号に関連する)バリアリング16内の許容可能な光場の存在によって制限される。
図3は、異なるδの値のバリアリング内の基本モードLP01パワーフラクションを示すグラフであり、所与の厚さδ内のLP01パワーフラクション(power fraction)は、半径方向位置rにおける基本モードの複素値電場E(r)の弾性率|E(r)|に基づいて、以下のように定義される。
【数2】
【0029】
図示されるデータは、8.2μmのコア直径およびクラッドの屈折率より高い0.0052であるコア屈折率を有する従来のステップインデックスシングルモードファイバ(SMF)と関連付けられる。表示されたデータを検討する際に、バリアリング16における10-5の相対電力限界が所望される場合、バリアリングは、コアの中心から約20μmに位置するべきである。δ=2μmとδ=20μmとの間の層厚では、バリアリング内に存在するパワーフラクションの変化はごくわずかであることに留意されたい。
【0030】
図4は、コア領域12の中心Cに対するバリアリング位置の関数として、上記で特定されたδの例示的な厚さ値に対するCSAフラクションをプロットする。データは、直径125μmの従来の光ファイバについて開発されたものである。「CSAフラクション(CSA fraction)」は、ここでは、バリア層CSAとファイバ自体の総CSAとの比として定義される。
【数3】
【0031】
図4のデータは、比較的厚いバリアリングをファイバコアから遠くに配置することは、効果的な水素バリアとして機能するために比例してより高いCSAフラクションを必要とすることを示す。フラクショナルCSAは、δとバリアリング中心半径(R
1+R
2)/2の両方に比例する。
【0032】
バリアリングの物理的特性(すなわち、その厚さ、コアからの距離、およびクラッドの外縁に対する配置)に加えて、H2拡散の減速に関するバリアリングの有効性は、バリアリング材料自体の選択によって影響を受ける。したがって、上述のように、アルミナが好ましい選択であるが、アルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物を使用してもよい。後者の場合、特定の用途に重要なバリアリング16の他の特性を考慮する必要がある。上記で述べられ、以下で詳細に論じられるように、周囲のクラッド層のCTEに対するバリアリングのCTEは、ファイバ線引後に外側層が残留圧縮応力を示すことが望ましい場合に重要であり得る。用途がコア領域内での格子の形成を必要とする場合、UV(および/またはIR)透明性も重要である。
【0033】
バリアリング16はまた、追加の利益をもたらす方法でH2と反応するゲッターとして機能することができる。特に、Si-OおよびAl-Oネットワークの両方からの非架橋酸素正孔中心(NBOHC)欠陥、および(Si-O、Al-O、Si-F、Si-Cl、Al-F、Al-Clなど。)などの歪み結合など、ファイバ線引中にバリアリングに生成される点欠陥がある。これらの点欠陥は、H2分子と反応して、不動の-OH、Si-Hなどを形成することができる。これらの点欠陥の濃度は、生成されたバリアリングとH2との化学反応性を決定する。上述の結果と同様のシミュレーション結果に基づいて、バリアリングが125μm直径のシリカファイバにおけるシリカクラッド材料よりも2桁小さいH2拡散率を有する場合、約2200μm2のリング面積で、H2がコア中心で特定の濃度に達するのにかかる時間を10分の1に短縮することができる。バリアリングが3桁低い拡散率を有する場合(同じ2200μm2面積を維持しながら)、時間遅延は80倍増加し得る。
【0034】
本発明の構造のバリアリングは、おそらく異なる材料組成および/またはCSAの隣接層の連続セットの形態をとり得ることを理解されたい。隣接層(多層バリアリングを形成する)の使用は、水素拡散率ならびにファイバの構造特性に影響を及ぼすように制御され得る。
【0035】
バリアおよびゲッターの包括的な効果を最大にするために、バリアリングの化学組成およびファイバ線引条件が重要な役割を果たすことが見出されており、これらの2つの条件の間に固有のトレードオフがあることが理解される。例えば、線引張力を増大させると、欠陥部位の濃度を増大させることができ、同時に、より多孔質な構造によりH2透過性も増大させる。加えて、このクラッド内バリア層を作成するために利用される製造技術は、最終構造の特性に影響を及ぼし得る。有利には、当技術分野で周知の従来の製造プロセスを使用して、バリアリング16を組み込むことができる(最初にクラッドの生成を中断し、その後クラッド形成プロセスを再開する)。修正化学気相成長(MCVD:modified chemical vapor deposition)、プラズマ化学気相成長(PCVD:plasma chemical vapor deposition)、気相軸付け成長(VAD:vapor axial deposition)、外部気相成長(OVD:outside vapor deposition)、ゾルゲル(sol gel)、ガラスフリット蒸着(glass frit deposition)、または「管内管(tube-in-tube)」プロセスなどであるがこれらに限定されない技法も使用され得る。
【0036】
一実施形態では、バリアリング16は、典型的には約10μm未満のRcoreの値を有するシングルモードファイバ(SMF)の形成に使用することができる。典型的なSMF設計では、コア領域12はゲルマニウムドーパントを含む。本発明の教示に従ってバリアリング16を含むことにより、このようなゲルマニウム添加SMFは、多くの環境においてこれまで選択肢ではなかった水素含有環境において使用することができる。したがって、クラッド内バリアリングを含むSMFは、従来のSMFよりも改善されたレベルの水素耐性を提供し得、また、純粋なシリカコアファイバよりもコスト競争力があり得る。同様の利益は、バリアリング16をマルチモードファイバ(MMF)構成に組み込むときに見出され得る。
【0037】
さらに本発明の原理によれば、バリアリング16は、コア領域12に向かう水素の拡散を遅くすることを越えて、一連の重要な特性を示すように形成することができる。例えば、バリアリング16は、好ましくは、標準的なライトスループロセスを使用してコア領域12にブラッグ格子または長周期格子を形成することを可能にするUV(および/またはIR)透明材料で構成される。バリアリング16はまた、先行技術よりも線引のままのファイバの機械的信頼性を改善し、ファイバ10の作業可能な温度範囲を増大させるように構成されてもよい(後者は、例えば、ダウンホール感知用途のための重要な特徴である)。これらの重要な特性は、以下のうちの1つまたは複数を含み得る。密度、イオン多孔性、CTE、ガラス転移以上の粘弾性挙動、屈折率、およびUV透過性(場合によっては、IR帯域などの他の波長での透明性も望ましい)。
【0038】
CTEおよび粘弾性挙動、ならびにファイバ線引条件は、後に線引ファイバ内で「凍結」(すなわち、固定化)される残留応力の生成に影響を及ぼす。バリアリング16を含むことに起因する圧縮残留応力は、ファイバの強度およびファイバの疲労特性を改善することができる。これは、約300°C以上の高温で特に重要であって、化学誘発ガラス腐食が加速される。実際、ファイバ線引後に外側クラッド層18が圧縮状態に留まることにより、腐食およびファイバ上の表面亀裂の伝播が妨げられ、バリアリング16は、亀裂伝播ならびに水素拡散に対するバリアと考えられ得る。亀裂形成および伝播の場合、特にリングが引張応力下にある場合、このバリアは必ずしもリング位置と一致しないことがある。
【0039】
過酷な環境内で遭遇し得る高温での本発明の光ファイバの機械的信頼性を評価する際に、その疲労抵抗係数(n値と呼ばれる)はまた、バリアリングの包含に関連するこの圧縮残留応力によって制御され得る。n値は、動的引張強度試験データから導出され、場合によっては、「応力腐食パラメータ」とも呼ばれる。これは、加えられた応力および破損までの時間の測定値から計算される。n値は、特定の環境で応力がかかった場合に、ファイバが破損するまでにかかる時間を予測するためのモデリングに使用される。動的疲労応力腐食係数(n値)の業界最小要件は18である。この点に関して、動的疲労応力腐食係数は、ガラスファイバのシリカ構造における傷が歪み下でどれだけ速く伝播するかの指標を提供する。本発明のファイバに関して、特定のn値は、バリアリング自体の特性の機能であり得る。温度依存性はいくつかの要因によって影響を受け、n>>20の値は、(標準的な従来のnの値~18と比較して)高温でのファイバ信頼性を保証するために重要であると考えられる。さらに、一定のn値を維持することは、長期間にわたって(特に高温環境において)動作するための要件であると考えられる。この場合、n値は、ガラスコーティング界面の劣化のプロセスおよびバリアリングに関連する応力緩和によって決定される可能性が最も高い。
【0040】
[実施例]
水素拡散のバリアとしてアルミナリングを組み込むことによる改善は、2つの異なるエージング条件のセットの下で、Rcore=31.25μmおよびRouter=62.5μmを有するマルチモードファイバに関して研究されている。
【0041】
エージング条件の第1のセットは、以下を含む。(1)5%のH2および95%のN2のフォーミングガスを使用すること。(2)1000psiのガス圧を使用すること。(3)50°Cの周囲温度。(4)24時間のエージング時間。エージング条件の第2のセットは、(1)、(2)、および(4)について同じ値を使用したが、条件(3)については、より高い100°Cの周囲温度を使用した。
【0042】
【0043】
上記の表は、定義された条件の2つのセット下での水素中でのエージング「前」および「後」の条件に対する3つのサンプルファイバの減衰測定(減衰α(単位dB/km))の結果(同じパラメータを有する3つの個々のファイバの組について平均化された結果)を要約する。1245nmにおける減衰ピークは、ファイバのコア中に拡散した分子状水素の濃度に起因することが知られているが、1420nmの減衰ピークは、ガラスとの水素相互作用の生成物として形成されるファイバコア中のOH基に関連する。
【0044】
エージング条件の第1のセット下で1245nmの減衰ピーク(すなわち、分子状水素ピーク)の振幅の最大の減少は表に示され、
図3のプロットにおいて35%として証明され、一方、1420nmの減衰ピーク(OH)に関連する最大値は25%である。試験ファイバは、最適化された組成のバリアリングを含むように具体的に作製されておらず、依然として先行技術に対して35%の増加をもたらすことができたことに留意されたい。
【0045】
本明細書で使用される用語および表現は、特定の意味が本明細書で別段示されている場合を除いて、それらの対応するそれぞれの調査および研究領域に関してそのような用語および表現に与えられる通常の意味を有することが理解されるであろう。第1および第2などの関係用語は、単にあるエンティティまたは動作を別のエンティティまたは動作と区別するために使用されてもよく、必ずしもそのようなエンティティまたは動作間の実際のそのような関係または順序を必要とすることも含意することもない。用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、またはそれらの任意の他の変形は、非排他的な含有をカバーすることを意図しており、要素またはステップのリストを含むプロセス、方法、物品、または装置が、それらの要素またはステップのみを含むのではなく、明示的に列挙されていない、またはそのようなプロセス、方法、物品、または装置に固有の他の要素またはステップを含み得る。「a」または「an」が先行する要素は、さらなる制約なしに、その要素を含むプロセス、方法、物品、または装置における追加の同一の要素の存在を排除しない。
【0046】
特に明記しない限り、本明細書(以下の特許請求の範囲を含む)に記載される任意のおよび全ての測定値、値、評価、位置、大きさ、サイズ、および他の仕様は、近似であり、正確ではない。そのような量は、それらが関連する機能およびそれらが関連する技術分野において慣習的なものと一致する妥当な範囲を有することが意図される。例えば、他に明示的に述べられていない限り、パラメータ値などは、程度の用語(例えば、およそ、実質的に、または約)によって認定されるか否かにかかわらず、列挙された量から±10%も変動し得る。
【0047】
本開示は、その例示的な実施形態を参照して説明されている。本開示において開示されるすべての例示的な実施形態および条件付き図は、本開示が関係する技術分野の当業者による本開示の原理および概念の理解を支援する目的で説明されている。したがって、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で本発明を変形して実施できることを理解できるであろう。種々の特徴を有する多数の実施形態が本明細書で説明されているが、本明細書で議論されない他の組み合わせにおけるそのような種々の特徴の組み合わせは、本明細書に添付される請求項によって定義されるような実施形態の範囲内であることが考慮される。
【国際調査報告】