(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント阻害剤の医薬製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240910BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240910BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240910BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240910BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240910BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A61K39/395 T
A61K47/12
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/26
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513744
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-16
(86)【国際出願番号】 IN2022050790
(87)【国際公開番号】W WO2023031970
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】202141040074
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512276315
【氏名又は名称】ドクター レディズ ラボラトリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ジャヤラマン, ムラリ
(72)【発明者】
【氏名】ケー ゴウド, サイシャラン
(72)【発明者】
【氏名】ナンカール, スニール アショク
(72)【発明者】
【氏名】ナナス, マヤ
(72)【発明者】
【氏名】アガルワル, ロヴィシャ
(72)【発明者】
【氏名】サルカール, プジャ
(72)【発明者】
【氏名】インガレ, マヘシュ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイコブ, ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】スレーシュ, アビラミ
(72)【発明者】
【氏名】プリヤ, アール. エル. シュリ ランガ
(72)【発明者】
【氏名】ラバーラ, スマン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076CC27
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD42
4C076DD46
4C076DD51
4C076FF36
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085DD61
4C085EE01
(57)【要約】
本発明は、ヒトプログラム死受容体-1(PD-1)/プログラム死受容体 リガンド 1(PD-Ll)に対する抗体および抗原結合フラグメントの医薬製剤、ならびにその調製方法に関する。開示される製剤は、キレート剤を含まず、低濃度から高濃度までの抗PD1/抗PD L1抗体を安定化し、異なる投与モード(皮下/静脈内)に適したものにする。本発明の医薬製剤は、抗PD1/PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントであって、ここで上記製剤は、抗PD1/PD-L1抗体、4.5~6.5のpH
を有する緩衝液を含み、上記製剤は、キレート剤(chelator)/キレート剤(chelating agent)を含まない、抗PD1/PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントを開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗PD1抗体、5.0~6.0のpHを有するコハク酸もしくは酢酸緩衝液、またはその派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせ、糖、アミノ酸、および界面活性剤を含む抗PD1抗体の液体医薬製剤であって、ここで前記製剤は、キレート剤を含まない、製剤。
【請求項2】
前記抗PD1抗体の濃度は、10mg/ml~200mg/mlの範囲に及ぶ、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記抗PD1抗体は、ニボルマブまたはペムブロリズマブである、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記糖は、トレハロースまたはスクロースである、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
前記界面活性剤は、ポリソルベート80またはポリソルベート20である、請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
前記アミノ酸は、グリシンまたはプロリンである、請求項1に記載の製剤。
【請求項7】
前記アミノ酸は、メチオニンを含まない、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
ペムブロリズマブ、5.0~6.0のpHを有する10~15mMの酢酸緩衝液もしくはコハク酸緩衝液、その派生物もしくは塩またはこれらの組み合わせ、4%~8%(w/v) トレハロース、100~200mM グリシンもしくはプロリン、および0.2mg/ml 界面活性剤を含むペムブロリズマブ抗体の液体医薬製剤であって、ここで前記製剤は、キレート剤および抗酸化剤を含まない、製剤。
【請求項9】
ニボルマブ、5.0~6.0のpHを有する10~20mMのコハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液、その派生物もしくは塩またはこれらの組み合わせ、4%~8%(w/v) トレハロース、および0.2mg/ml 界面活性剤を含むニボルマブ抗体の液体医薬製剤であって、ここで前記製剤は、キレート剤を含まない製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、治療用抗体製剤の分野に関する。より具体的には、本発明は、ヒトプログラム死受容体(programmed death receptor)-1(PD-1)/プログラム死受容体 リガンド 1(PD-Ll)に対する抗体および抗原結合フラグメントの安定な製剤、ならびにその調製のための方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
過去20年間にわたり、組換えDNA技術は、多くのタンパク質、特に、抗体治療剤の商品化をもたらした。これらの治療用抗体の有効性は、主に、その安定性、投与経路ならびにそれらの投与形態および濃度に依存する。これは、次に、治療用抗体が、治療用抗体の安定性および活性を保持するために適切に製剤化されることを必要とする。
【0003】
各投与経路および投与形態のための製剤は、特有であり得、従って、特定の要件を有する。固体投与形態(例えば、凍結乾燥散剤)は、一般に、液体(水性)製剤より安定である。しかし、凍結乾燥製剤の再構成は、かなり、バイアルにかなりの過剰充填が必要であり、取り扱いにおける注意を要し、液体製剤に対して高い生産コストを伴う。液体製剤は、これらにおいて有利であり、通常、注射用タンパク質治療剤のために(エンドユーザーについては利便性および製造業者については調製のしやすさに関して)好ましいが、この形態は、ストレス(温度、pH変化、撹拌など)下での変性、凝集および酸化に対するタンパク質の感受性を考慮すると、常に実現可能なわけではない。これらのストレス要因の全ては、治療用タンパク質/抗体の生物学的活性の喪失を生じ得る。
【0004】
よって、適切な緩衝液中で抗体を製剤化することが必要であり、また、賦形剤の選択は、製剤中の抗体の安定性にも影響する。液体製剤中での抗体の安定性は、上記製剤中で使用される賦形剤の種類のみならず、上記賦形剤の互いに対する量および割合にも依存する。これらとは別に、上記製剤の粘性、視覚的外見のような他の要因にも、任意の製剤を調製する間に注意を払わなければならない。
【0005】
ヒトプログラム死-1タンパク質(PD-1)またはヒトプログラム死リガンド-1タンパク質(PDL-1)に結合する抗体は、治療用抗体のごく数例であり、種々の腫瘍性障害を処置することにおけるその広いスペクトルに起因して、重要性が非常に増している。
【0006】
抗PD-1/PD-L1抗体は公知であるが、十分に安定でありかつヒト患者への投与に適した抗PD-1抗体を含む新規な医薬製剤は、当該分野で未だに必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
概要
本発明は、抗PD-1/PD-L1抗体の医薬製剤を開示する。
【0008】
本発明の医薬製剤は、抗PD1/PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントであって、ここで上記製剤は、抗PD1/PD-L1抗体、4.5~6.5のpH
を有する緩衝液を含み、上記製剤は、キレート剤(chelator)/キレート剤(chelating agent)を含まない、抗PD1/PD-L1抗体またはその抗原結合フラグメントを開示する。上記製剤は、必要に応じて、1種またはこれより多くの薬学的に受容可能な安定化剤を含む。
【0009】
特に、本発明の開示される製剤は、抗PD1/PD-L1抗体を、低濃度から高濃度まで、約10mg/ml~約200mg/mlまで安定化し、異なる投与経路に適したものにする。
【0010】
一局面において、本発明は、抗PD-1/PD-L1抗体組成物において粒子形成を制御する方法であって、ここで上記方法は、コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液もしくはヒスチジン緩衝液、またはその派生物もしくは塩、あるいはこれらの組み合わせを、抗体組成物に添加することを含み、ここでは得られた抗体組成物は、いかなるキレート剤(chelator)/キレート剤(chelating agent)をも含まない方法を開示する。上記緩衝液組成物は、上記抗体生成の予備製剤化中におよび/または製剤化段階で添加され得る。
【0011】
さらに、本発明は、抗PD-1/PD-L1抗体の、その組成物中でのチャージバリアント、脱アミド化、および/または凝集を低減する方法であって、ここで上記方法は、コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液もしくはヒスチジン緩衝液、またはその派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせを上記抗体組成物に添加することを包含し、ここでその得られた抗体組成物は、キレート剤(chelator/chelating agent)を含まない方法を開示する。上記緩衝液組成物は、上記抗体生成の予備製剤化中におよび/または製剤化段階で添加され得る。
【0012】
さらに、本発明は、抗PD1/抗PDL1抗体組成物の、その組成物中での乳白色を制御する方法であって、ここで上記方法は、コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液もしくはヒスチジン緩衝液、またはその派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせを、上記抗体組成物に添加することを含み、ここでその得られた抗体組成物は、キレート剤(chelator/chelating agent)を含まない方法を開示する。上記緩衝液組成物は、上記抗体を上記組成物中において可溶性形態で維持し、それによって、乳白色(opalescence)を維持するために、上記抗体生成の予備製剤化中におよび/または製剤化段階で添加され得る。
【0013】
本発明はまた、抗PD1/抗PDL1抗体にコロイド安定性を付与する方法であって、ここで上記方法は、上記抗PD1/PD-L1抗体を、コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液もしくはヒスチジン緩衝液、またはその派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせを含む緩衝液組成物中で製剤化する工程を包含する方法を開示する。
【0014】
本発明の製剤のpHは、約pH4.5~約pH6.5の範囲にある。
【0015】
本発明の開示される製剤は、以下の、25℃~40℃の範囲に及ぶ温度で1日~28日/4週間の範囲に及ぶ期間を含む加速条件のうちの少なくとも1つの下で安定性を示す。上記製剤中の抗体は、安定であり、40℃で2週間にわたる貯蔵後ですら上記製剤中の抗体のモノマー内容物を98%またはこれより高く(≧98%)維持する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用される用語「約」は、特定の値から20%までの変動を意味し、含む。
【0017】
用語「抗体」は、本明細書で使用される場合、完全な抗体または任意の抗原結合フラグメント(すなわち、「抗原結合部分」)またはその融合タンパク質を包含する。
【0018】
本明細書で使用される用語「緩衝液」とは、酸または塩基の添加の際に、選択した値の付近での、溶液のpHのいかなる変化にも耐える作用因子に言及する。本明細書での緩衝液は、緩衝剤、またはその派生物、またはその塩および組み合わせを含む。
【0019】
用語「安定な」製剤とは、その中にある抗体が、その物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物学的活性を保持する製剤に言及する。
【0020】
安定性試験は、時間経過中の種々の環境要因の影響下で抗体の質の証拠を提供する。ICHの「Q1A: 新原薬および製品の安定性試験(Stability Testing of New Drug Substances and Products)」は、加速安定性試験からのデータが、抗体の輸送中に起こり得る表示貯蔵条件より高いまたは低い、短期間移動の影響を評価するために使用され得ることを述べている。
【0021】
種々の分析方法が、医薬製剤中の抗体の物理的および化学的分解を測定するために利用可能である。抗体は、色および/もしくは清澄性の視覚的検査の際に、またはUV光散乱によるかもしくはサイズ排除クロマトグラフィーによる測定の場合に、凝集、沈殿および/または変性の徴候が実質的に示さない場合、医薬製剤中で「その物理的安定性を保持する」。抗体は、目的の抗体の化学的改変(例えば、脱アミノ化、酸化など)の結果としてのバリアントを含み得る生成物バリアントの形成を全くまたは最小限にしか示さない場合に、医薬製剤において「その化学的安定性を保持する」といわれる。分析方法(例えば、イオン交換クロマトグラフィーおよび疎水性イオンクロマトグラフィー)は、化学的生成物バリアントを調査するために使用され得る。
【0022】
用語「モノマーとは、本明細書で使用される場合、2本の軽鎖および2本の重鎖からなる抗体を説明する。抗体組成物の上記モノマー含有量は、代表的には、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析される。SECの分離原理によれば、大きな分子または高分子量(HMW)を有する分子が、先ず溶離し、続いて、より小さなまたはより低い重量の分子が溶離する。抗体組成物に関する代表的なSECプロフィールにおいて、ダイマー、マルチマー等を含み得る凝集物が先ず溶離し、続いて、モノマーが溶離し、短縮された(clipped)抗体バリアントまたは分解生成物が最後に溶離され得る。状況によっては、上記凝集物ピークまたは上記分解生成物ピークは、ベースライン分離ピークとして溶離されない場合もあるが、代わりに、ショルダーまたは異常な広いピークとして溶離する場合もある。抗体の、特に治療用抗体の適切な活性を維持するために、凝集物の形成または生成物のフラグメント化の形成を低減し、よって、モノマー含有量を目標値へと制御することは望ましい。安定性試験中の種々の時点で測定される場合、凝集物の形成および分解生成物含有量を阻害する能力は、目的の抗体の候補製剤の適切性を示し得る。TOSCHのTSK-GEL G3000SWXL(7.8mm×30cm)カラムは、SECを行うために、waterHPLCで使用され得る。
【0023】
用語「主要ピーク」とは、本明細書で使用される場合、カチオン交換クロマトグラフィー中で多量に溶離するピーク(主なピーク)に言及する。カチオン交換クロマトグラフィー中に、主要ピークに対して酸性である電荷で主要ピークより速く溶離するピークは、酸性バリアントピークといわれる。カチオン交換クロマトグラフィー中に、主要ピークより相対的に塩基性である電荷で主要ピークより遅く溶離するピークは、塩基性バリアントピークといわれる。主要ピーク含有量は、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)によって決定され得る。利用可能なIECのモードは2つ存在する。すなわち、カチオンおよびアニオン交換クロマトグラフィーである。負に荷電した分子は、アニオン交換樹脂に結合する一方で、正に荷電した分子は、カチオン交換樹脂に結合する。抗体組成物の代表的なカチオン交換クロマトグラフィープロフィールでは、酸性バリアントが先ず溶離し、続いて、主要ピークが、およびその後、最後に塩基性バリアントが溶離する。上記酸性バリアントは、抗体改変(例えば、アスパラギン残基の脱アミド化)の結果である。上記塩基性バリアントは、C末端リジン残基の不完全な除去の結果である。一般に、抗体において、リジン残基は、重鎖および軽鎖の両方のC末端に存在する。重鎖および軽鎖の両方においてリジンを含む抗体分子は、K2バリアントといわれ、重鎖および軽鎖のうちのいずれか一方においてリジン残基を含む抗体分子は、K1バリアントといわれ、何も有しない抗体分子は、K0分子といわれる。カルボキシペプチダーゼB酵素(CP-B酵素)は、K2バリアントおよびK1バリアントに存在するC末端リジン残基に対して作用するので、それらをK0分子として変換する。状況に応じて、IEC分析は、カルボキシペプチダーゼB(CP-B)酵素で消化したサンプルに関して行われ得る。代表的な安定性試験では、安定な製剤が、試験中に、チャージバリアント(酸性および塩基性バリアント)の形成の低減をもたらし、よって、主要ピーク含有量の何らかの低減を最小限にすることが予測される。
【0024】
薬学的に受容可能な賦形剤とは、添加剤またはキャリアに言及し、これは、製剤中の抗体の安定性に寄与し得る。上記賦形剤は、安定化剤および張度調整剤を包含し得る。安定化剤および張度調整剤の例としては、塩、界面活性剤、ならびにこれらの誘導体および組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の医薬製剤中の少なくとも1種の安定化剤は、サッカリドまたはアミノ酸であり得る。
【0025】
用語、糖は、本明細書で使用される場合、一般式Cn(H2O)nという全ての炭水化物の一般式を有する有機化合物を含む。糖は、モノサッカリド、ジサッカリド、およびポリサッカリドに言及し得る。糖の例としては、スクロース、トレハロース、グルコース、デキストロース、ラフィノースなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
用語、「ポリオール」または「糖アルコール」とは、本明細書で使用される場合、複数のヒドロキシル基を含む有機化合物を含む。ポリオールの例としては、マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられる。
【0027】
界面活性剤とは、種々のストレス条件(撹拌、剪断、高温への曝露などのような)に対してタンパク質製剤を保護するために使用される薬学的に受容可能な賦形剤に言及する。適切な界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Tween(登録商標) 20TMまたはTween(登録商標) 80TM)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー(例えば、Poloxamer、Pluronic(登録商標))、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などまたはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
塩の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛および/または酢酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
用語「乳白色」または「乳白色の外観(opalescent appearance)」とは、溶液中の構成要素のうちの1種またはこれより多くのものの濃度(例えば、タンパク質および/または塩濃度)の関数としての、溶液(例えば、タンパク質調製物)中で検出される濁度に言及する。濁度は、既知の濁りの懸濁物を使用して生成される標準曲線を参照することによって計算され得る。医薬組成物に関する濁度を決定するための参照標準は、米国薬局方または欧州薬局方の基準に基づき得る。ここで、本発明において、乳白色を測定するために、先ず、ホルマジン溶液を、等容積の硫酸ヒドラジン溶液およびヘキサメチレンテトラミン溶液を混合することによって調製し、次いで、希釈して種々の基準乳白色標準を調製した。乳白色標準は、ROS-I、ROS-II、ROS-IIIおよびROS-IVを含む。
【0030】
比濁法は、可溶性の凝集物の存在を検出するために、または乳白色を示すために使用される濁度測定法(turbidometric method)である。出力は、比濁計濁度単位(NTU)に関して列挙される。
【0031】
「予備製剤化工程」とは、治療用生成物へのタンパク質の製剤化の前に行われる任意のまたは複数の工程に言及する。このような工程の例としては、クロマトグラフィー、濾過(限外濾過、滅菌濾過、ナノ濾過、ダイアフィルトレーション、タンジェンシャルフロー濾過、デプス濾過)、またはタンパク質を濃縮するために、もしくは緩衝液を異なる/適切な緩衝液へと交換するために行われる任意の他の工程が挙げられる。本明細書で言及される濾過工程は、タンジェンシャルフロー濾過モードにおいて行われ得る。
【0032】
「製剤化工程」とは、予備製剤化工程から得られる原薬から医薬品を調製するための下流のクロマトグラフィー工程および濾過工程の後に続く工程に言及する。
【0033】
用語「キレート剤(chelator)またはキレート剤(chelating agent)」とは、金属原子と少なくとも1つの結合を形成し得る化合物に言及する。キレート剤は、代表的には、多座配位子であり、これは、そうでなければ、不安定性を促進し得る種と複合体を形成する安定化剤として組成物中で使用され得る。例示的なキレート剤としては、アミノポリカルボン酸、ヒドロキシアミノカルボン酸、N-置換されたグリシン、2-(2-アミノ-2-オキソクチル(oxocthyl))アミノエタンスルホン酸(BES)、デフェロキサミン(DEF)、ナイアシンアミド、デスオキシコレート(desoxycholate)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、N-2-アセトアミド-2-イミノ二酢酸(ADA)、ビス(アミノエチル)グリコールエーテル、N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)、trans-ジアミノシクロヘキサン四酢酸(DCTA)、N-ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIMDA)、N,N-ビス-ヒドロキシエチルグリシン(ビシン)、N-(トリスヒドロキシメチルメチル)グリシン(トリシン)、グリシルグリシン、デスオキシコール酸ナトリウム、エチレンジアミン;プロピレンジアミン;ジエチレントリアミン;トリエチレンテトラアミン(トリエン)、エチレンジアミンテトラアセトEDTA;EDTA二ナトリウム、EDTA、EDTAカルシウム、シュウ酸およびマレートが挙げられる。
【0034】
本明細書で言及される用語「抗酸化剤(antioxidant)」は、他の分子の酸化を阻害する作用物質(agent)に言及し、緩衝液構成要素の一部ではない。本明細書での抗酸化剤の例としては、シトレート、メチオニン、リポ酸、尿酸、グルタチオン、トコフェロール、カロテン、リコペン、システイン、ホスホネート化合物、例えば、エチドロン酸、デフェロキサミン(desferoxamine)およびマレートが挙げられる。
【0035】
実施形態の詳細な説明
本発明は、抗PD1/抗PDL1抗体の医薬製剤を開示する。承認された抗PD1抗体製剤のうちのいくつかは、賦形剤のうちの1つとしてキレート剤を含む。しかし、キレート剤の使用は、常に有益であるわけではない場合もあるというそれ自体の結果を含む。例えば、モノクローナル抗体製剤へのキレート剤(例えば、EDTA)の添加は、モノクローナル抗体におけるFe2+またはFe3+誘発性クリッピングの増強をもたらす。キレート剤の存在下での容器からの金属の漏れの加速およびキレート化状態下での金属の活性状態の両方が原因で、触媒活性が増強される可能性がある。本発明は、この問題に対処する改善された抗体製剤を提供する。
【0036】
一実施形態において、本発明は、ヒトプログラム細胞死タンパク質1(PD-プログラム死受容体リガンド 1(PDL1)に対する抗体の医薬製剤であって、上記製剤は、
(i)抗PD-1/抗PDL1抗体、および
(ii)約4.5~約6.5のpHを有する緩衝液、
を含み、
ここで上記製剤は、キレート剤(chelator)またはキレート剤(chelating agent)がない製剤を開示する。
【0037】
別の実施形態において、本発明は、ヒトプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)/プログラム死受容体 リガンド 1(PDL1)に対する抗体の医薬製剤であって、上記制剤は、
(i)抗PD-1/抗PDL1抗体、
(ii)約4.5~約6.5のpHを有する緩衝液、
(iii)1種またはこれより多くの安定化剤;および
(iv)界面活性剤;
を含み、
ここで上記製剤は、 キレート剤(chelator)またはキレート剤(chelating agent)を含まない製剤を開示する。
【0038】
上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記製剤において言及される緩衝液は、有機緩衝液もしくは無機緩衝液、および/またはその塩あるいはこれらの組み合わせである。
【0039】
本発明の上記で言及した実施形態において、上記有機緩衝液は、コハク酸緩衝液または酢酸緩衝液またはクエン酸緩衝液またはヒスチジン緩衝液であり、上記製剤において言及される無機緩衝液は、リン酸緩衝液である。
【0040】
一実施形態において、本発明は、抗PD1/PDL1抗体組成物中で、抗PD1/PD L1抗体にコロイド安定性を付与する方法であって、ここで上記方法は、コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液もしくはヒスチジン緩衝液、またはその派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせを含む緩衝液組成物を、上記抗体組成物に添加することを伴い、ここで上記緩衝液組成物は、いかなるキレート剤(chelator)もキレート剤(chelating agent)も含まない方法を開示する。上記緩衝液組成物は、上記抗体生成の予備製剤化でおよび/または製剤化工程で添加される。
【0041】
一実施形態において、本発明は、ヒトプログラム細胞死タンパク質1(PD- プログラム死受容体 リガンド 1(PDL1)に対する抗体の医薬製剤であって、
(i)抗PD-1/抗PDL1抗体、
(ii)コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液、その派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせ、
(iii)1種またはこれより多くの安定化剤;および
(iv)界面活性剤;
を含み、
ここで上記製剤は、いかなるキレート剤(chelator)もキレート剤(chelating agent)も含まない製剤を開示する。
【0042】
別の実施形態において、本発明は、抗PD-1/PD-L1抗体組成物における粒子形成を制御する方法であって、ここで上記方法は、キレート剤を含まず、コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液またはその派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせを含む緩衝液組成物を、上記抗体生成の予備製剤化および/または製剤化段階の間に上記抗体組成物に添加することを包含する方法を開示する。
【0043】
さらに別の実施形態において、本発明は、抗PD1/PD-L1抗体組成物においてチャージバリアントの形成を制御する方法であって、ここで上記方法は、キレート剤を含まず、コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液またはその派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせを含む緩衝液組成物を、上記抗体生成の予備製剤化および/または製剤化段階の間に、上記抗体組成物に添加することを包含する方法を開示する。
【0044】
一実施形態において、本発明は、抗PD1/PD-L1抗体組成物の凝集および/またはフラグメント化を制御する方法であって、ここで上記方法は、キレート剤を含まず、コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液またはその派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせを含む緩衝液組成物を、上記抗体生成の予備製剤化および/または製剤化段階の間に、上記抗体組成物に添加することを包含する方法を開示する。
【0045】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記コハク酸緩衝液またはその派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせは、コハク酸緩衝液、もしくはコハク酸-アルギニン緩衝液もしくはコハク酸-リン酸緩衝液である。上記コハク酸緩衝液組成物はまた、少なくとも1種またはこれより多くの薬学的に受容可能な賦形剤/安定化剤をさらに含み得るが、上記緩衝液組成物は、いかなるキレート剤(chelator)もキレート剤(chelating agent)も含まない。上記組成物は、上記抗体生成の予備製剤化および/または製剤化段階の間に添加され得る。
【0046】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記クエン酸緩衝液またはその派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせは、クエン酸緩衝液もしくはクエン酸-ヒスチジン緩衝液もしくはクエン酸-アルギニンもしくはクエン酸-リン酸緩衝液である。上記クエン酸緩衝液組成物はまた、少なくとも1種またはこれより多くの薬学的に受容可能な賦形剤/安定化剤をさらに含み得るが、いかなるキレート剤(chelator)もキレート剤(chelating agent)も含まない。上記組成物は、上記抗体生成の予備製剤化および/または製剤化段階の間に添加され得る。
【0047】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記酢酸緩衝液組成物は、酢酸緩衝液もしくは酢酸-アルギニン緩衝液もしくは酢酸-リン酸緩衝液である。上記酢酸緩衝液組成物はまた、少なくとも1種の薬学的に受容可能な賦形剤/安定化剤をさらに含み得るが、いかなるキレート剤(chelator)/キレート剤(chelating agent)も含まない。上記組成物は、上記抗体生成の予備製剤化および製剤化段階の間に添加され得る。
【0048】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記1種またはこれより多くの薬学的に受容可能な賦形剤/安定化剤としては、糖、ポリオール、またはアミノ酸、または塩が挙げられる。上記1種またはこれより多くの安定化剤は、キレート剤(chelator)もキレート剤(chelating agent)も含まない。
【0049】
一実施形態において、本発明は、
i)抗PD1/抗PD L1抗体、
ii)10~50mM コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液、
iii)マンニトール、もしくはトレハロース、もしくはスクロースもしくはソルビトールを含む1種もしくはこれより多くの安定化剤;塩化ナトリウム、および
iv)界面活性剤、
を含む抗PD1抗体/抗PD L1抗体の医薬製剤であって、
ここで上記製剤は、キレート剤(chelator)/キレート剤(chelating agent)を含まない製剤を開示する。
【0050】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記安定化剤は、アミノ酸を含み得る。
【0051】
上記で言及した実施形態において、上記アミノ酸は、メチオニンを含まない。
【0052】
一実施形態において、本発明は、抗PD1抗体、5.0~6.0のpHを有するコハク酸もしくは酢酸緩衝液、糖、アミノ酸、および界面活性剤を含む抗PD1抗体の液体医薬製剤であって、ここで上記製剤は、キレート剤および抗酸化剤を含まない製剤を開示する。
【0053】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記糖は、トレハロースまたはスクロースである。
【0054】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記アミノ酸は、グリシンまたはプロリンである。
【0055】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記界面活性剤は、ポリソルベート80またはポリソルベート20である。
【0056】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、本発明の開示される製剤のpHは、約4.5~約6.5の範囲にある。
【0057】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、本発明の開示される製剤のpHは、約5.0~約6.0の範囲にある。
【0058】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、本発明の開示される製剤のpHは、6.0±0.2である。
【0059】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、本発明の請求された抗PD1-抗PDL1抗体製剤は、以下の条件のうちの少なくとも1つの下で安定性を示し、ここでその温度は、1日間~6ヶ月間までを含む期間にわたって25℃~50℃の範囲に及ぶ。
【0060】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記抗PD1抗体は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、セミプリマブ、またはドスタルリマブ(dosrtalimab)である。
【0061】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記抗PDL1抗体は、アテゾリズマブ、アベルマブまたはデュルバルマブである。
【0062】
一実施形態において、本発明は、ペムブロリズマブ、5.0~6.0のpHを有する10~15mMの酢酸緩衝液もしくはコハク酸緩衝液、その派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせ、4%~8%(w/v) トレハロース、100~200mM グリシンもしくはプロリン、および0.2mg/ml 界面活性剤を含むペムブロリズマブの液体医薬製剤であって、ここで上記製剤は、キレート剤および抗酸化剤を含まず、上記製剤に存在する抗体の濃度は、10mg/ml~200mg/mlの範囲にある製剤を開示する。
【0063】
一実施形態において、本発明は、ニボルマブ、5.0~6.0のpHを有する10~20mMの酢酸緩衝液もしくはコハク酸緩衝液、その派生物もしくは塩あるいはこれらの組み合わせ、4%~8%(w/v) トレハロース、および0.2mg/ml 界面活性剤を含むニボルマブ抗体の液体医薬製剤であって、ここで上記製剤は、キレート剤も抗酸化剤も含まず、上記製剤に存在する抗体の濃度は、10mg/ml~200mg/mlの範囲にある製剤を開示する。
【0064】
上記で言及した実施形態において、上記界面活性剤は、ポリソルベート20またはポリソルベート80である。
【0065】
本発明の上記で言及した実施形態の全てにおいて、上記製剤中の抗体の濃度は、約10mg/ml~約200mg/mlである。好ましくは、上記製剤中の抗体の濃度は、10mg/ml、または25mg/ml、または30mg/mlまたは40mg/mlまたは50mg/ml、または60mg/ml、または70mg/ml、または80mg/ml、90mg/ml、または100mg/ml、または110mg/ml、または120mg/ml、または140mg/mlまたは150mg/mlまたは160mg/ml、または170mg/mlまたは175mg/mlまたは180mg/mlまたは190mg/mlまたは195mg/mlまたは200mg/mlである。
【0066】
本発明の上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記抗PD1/PD-L1抗体製剤は安定であり、40℃で2週間の貯蔵の後ですら、上記製剤中に0.9%未満の高分子量(HMW)種またはフラグメントを含む。
【0067】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記抗PD1/PDL1 抗体製剤の重量オスモル濃度は、600mOsm/kg未満、好ましくは、300mOsm/kg未満である。
【0068】
本発明で開示される抗PD1/PDL1 抗体製剤は、生物学的に活性である。
【0069】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、抗PD1/PD L1抗体の製剤は安定な液体(水性)製剤であり、これは、非経口投与のために使用され得る。非経口投与としては、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内投与、または非経口投与の範囲に入ると概して考えられ、当業者に周知であるとおりの任意の他の送達経路が挙げられる。
【0070】
本発明の上記の実施形態のうちのいずれかにおいて、上記安定な液体/水性製剤は適切であり、凍結乾燥散剤として凍結乾燥され得る。さらに、抗PD1/PDL1抗体の凍結乾燥製剤は、投与に適した液体製剤を達成するために適切な希釈剤で再構成され得る。
【0071】
上記で言及した実施形態のうちのいずれかにおいて、上記液体/水性抗PD1/PD-L1抗体は、凍結乾燥プロセスと適合性であり、その凍結乾燥プロセスは、上記抗体の品質属性に影響しない。
【0072】
本発明の別の局面は、本明細書で記載される主題の製剤のうちのいずれかを含む、バイアル、プレフィルドシリンジまたはオートインジェクターデバイス、または任意の他の適切なデバイスを提供する。ある特定の実施形態において、上記バイアルまたはプレフィルドシリンジまたはオートインジェクターデバイス中に貯蔵される上記水性製剤は、抗PD1/抗PDL1抗体、コハク酸緩衝液もしくは酢酸緩衝液もしくはクエン酸緩衝液もしくはヒスチジン緩衝液またはその派生物あるいはこれらの組み合わせ、糖および界面活性剤を含む。
【0073】
本発明のある特定の具体的局面および実施形態は、以下の実施例を参照することによってより十分に記載される。しかし.これらの実施例は、本発明の範囲を限定するとは如何様にしても解釈されるべきではない。
【実施例】
【0074】
実施例
本発明の医薬組成物中での貯蔵に適した抗PD1抗体、ニボルマブを、当該分野で公知の標準的方法によって生成する。例えば、ニボルマブを、哺乳動物宿主細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞)での免疫グロブリン軽鎖および重鎖の遺伝子の組換え発現によって調製する。さらに、その発現されるニボルマブを採取し、その粗製採取物を、精製、濾過および必要に応じて希釈または濃縮工程を含む標準的な下流のプロセス工程に供する。例えば、ニボルマブの粗製採取物を、標準的クロマトグラフィー技術(例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーおよびその組み合わせ)を使用して精製し得る。その精製されるニボルマブ溶液をさらに、1種またはこれより多くの濾過工程に供し得、その得られる溶液を、さらなる製剤化試験に供する。
【0075】
実施例1: ニボルマブ製剤の安定性に対する種々の緩衝液および安定化剤の効果の評価
種々の緩衝液バックグラウンドにある(例えば、ヒスチジン/コハク酸/クエン酸/酢酸緩衝液バックグラウンドにある)精製ニボルマブ抗体、およそ25mg/mlを、下流のクロマトグラフィー工程から得た。ニボルマブの安定性に対する種々の緩衝液および/または安定化剤(例えば、糖/ポリオール/アミノ酸/キレート剤)の効果を知るために、緩衝液交換工程を行い、その濃度を10mg/mlに調整した。その後、界面活性剤ポリソルベート80を上記製剤全てに添加した。ニボルマブは、商品名オプジーボ(登録商標)の下で承認されており、承認されている製剤は、20mM クエン酸緩衝液、3% マンニトール、2.92mg/mL NaCl、0.2mg/mL PS80および0.008mM DTPAクエン酸中に、10mg/ml ニボルマブを含む。オプジーボ(登録商標)製剤は、この実験の中で使用されており、N1として表示される。ニボルマブ安定性に対するキレート剤(例えば、EDTA)の効果を評価するために、EDTAを、ニボルマブ製剤のうちの1つに添加した。全てのニボルマブ製剤の最終組成を、表1に示す。全ての製剤を、40℃で4週間、および25℃で4週間の加速安定性試験に供した。
【0076】
サンプル全てを、それらの粒子形成、乳白色、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して高分子量種に関して測定した。乳白色を測定するために、種々のUSP基準乳白色標準物質を、4000 NTU((比濁計濁度単位)を有するホルマジン懸濁物を含む一次乳白色溶液を希釈することによって調製した。全てのニボルマブ製剤を、40℃で4週間および25℃で4週間の加速安定性試験に供した。25℃で4週間の加速安定性条件に供したサンプルを、オービタルシェイカーを使用して、3日間、300 RPMでの撹拌にさらに供した。その後、上記サンプルを、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して高分子量(HMW)種およびモノマー含有量に関して分析し[結果を表2に示す]、チャージバリアントを、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)を使用して測定し[結果を、表3(a)および3(b)に示す]、粒子形成[表4]、および乳白色[表5]に関してもチェックした。
【0077】
表1: 実施例1に従って調製した種々のニボルマブ製剤の組成
【表1】
【0078】
表2: 40℃で4週間貯蔵した場合の、実施例1に従って調製したニボルマブ製剤のSECデータ
【表2-1】
【表2-2】
Wは、週数を示す; ND-検出されず
【0079】
表3(a): 製剤を40℃で4週間貯蔵した場合の、実施例1に従って調製したニボルマブ製剤のIEXデータ
【表3a】
【0080】
表3(b): 製剤を40℃で4週間貯蔵した場合の、IEXによって測定される、実施例1に従って調製したニボルマブ製剤の塩基性バリアント
【表3b-1】
【表3b-2】
【0081】
表4: 実施例1に従うニボルマブ製剤の粒子形成の測定
【表4】
【0082】
表5: 実施例1に従って調製したニボルマブ製剤の乳白色
【表5-1】
【表5-2】
【0083】
上記製剤全てを、pHの変化に関してもチェックした。40℃で4週間の貯蔵後にすら、上記製剤のpHに変化はないことが観察された。そして上記サンプルは全て、40℃で4週間の貯蔵後にすら無色であることが観察された。上記製剤全ての重量オスモル濃度は、350mOsm/kg未満であることが見出された。さらに全ての製剤を、凍結/融解安定性試験に供したところ、全ての製剤は安定であることが見出された。
【0084】
実施例2: 他の抗PD1抗体製剤の安定性
別の抗PD1抗体、ペムブロリズマブをCHO細胞において発現させ、その発現させた抗体を、当該分野で既に公知の技術によって精製した。下流のクロマトグラフィー工程から得た35mg/mlの精製ペムブロリズマブを、コハク酸またはヒスチジン 酢酸緩衝液との緩衝液交換工程に供した。さらに、下流のクロマトグラフィー技術から得た酢酸緩衝液中のペムブロリズマブを、そのまま維持した。種々の緩衝液中のペムブロリズマブ抗体サンプル全てに、種々の賦形剤(例えば、糖、アミノ酸、キレート剤および界面活性剤)の組み合わせを添加した。この実験において使用したアミノ酸の濃度は、100mM~200mMの範囲内である。全ペムブロリズマブサンプルの組成を、以下の表6に示す。
【0085】
その後、これらのサンプルを、40℃で1ヶ月間の加速安定性試験に供し、上記サンプルの種々の品質属性(例えば、pHの変化、重量オスモル濃度;SECを使用して高分子量含有量、モノマー含有量および低分子量含有量、ならびにIEXを使用してチャージバリアント(例えば、酸性バリアント、塩基性バリアント))を測定した。さらに、これらのサンプルを、乳白色に関してチェックした。上記試験の結果を、表7~10に示す。
【0086】
表6: 実施例2に従って調製したペムブロリズマブ製剤の組成
【表6】
【0087】
表7: 実施例2に従って調製したペムブロリズマブ製剤の種々の品質属性
【表7】
T0は、ゼロ時点でのデータを表す; Mは、月数を示す; Wは、週数を示す
【0088】
表8: 40℃で1ヶ月間貯蔵した場合の、実施例2に従って調製したペムブロリズマブ製剤のSECデータ
【表8】
T0は、ゼロ時点でのデータを表す; Mは、月数を示す
【0089】
表9: 40℃で1ヶ月間貯蔵した場合の、実施例6に従って調製したペムブロリズマブ製剤のIEXデータ
【表9】
T0は、ゼロ時点でのデータを表す;Mは、月数を示す
【0090】
表10: 実施例2に従って調製したニボルマブ製剤の乳白色
【表10】
【0091】
実施例3: 高濃度のペムブロリズマブ製剤
35mg/mlの濃度の酢酸緩衝液中のペムブロリズマブを、コハク酸緩衝液と緩衝液交換し、続いて、250mg/mlまで遠心分離フィルター/限外濾過を使用して濃縮した。あるいは、酢酸緩衝液中のペムブロリズマブを、限外濾過を使用して250mg/mlまで濃縮した。その後、上記抗体の濃度を、製剤緩衝液を使用して140mg/ml~180mg/mlに調整し、種々の賦形剤(例えば、糖、アミノ酸および界面活性剤)を、高濃度ペムブロリズマブ製剤を調製するために添加した。さらに、上記製剤を、40℃で1週間の加速安定性条件に供した。上記製剤の詳細とともに、品質属性を、以下の表11(a)および表11(b)に示す。
【0092】
表11(a): 実施例3に従って調製した高濃度ペムブロリズマブ製剤の組成、および上記製剤の品質属性
【表11a】
【0093】
表11(b): 実施例3に従って調製した高濃度ペムブロリズマブ製剤の組成、および上記製剤の品質属性
【表11b】
【0094】
実施例4: ペムブロリズマブ抗体製剤の安定性に対するイオン強度の強度の評価
イオン強度の役割を評価するために、下流のクロマトグラフィー工程から得た酢酸緩衝液中の35mg/ml ペムブロリズマブを、10mMまたは20mMのいずれかの酢酸緩衝液中で製剤化した。これに、賦形剤(例えば、トレハロース、アルギニンおよび界面活性剤)を添加した。その後、上記サンプルを、40℃で2週間の加速安定性試験に供した。そしてこれらのサンプルの高分子量種、モノマー含有量および低分子量含有量を、SECクロマトグラフィーを使用して測定した。その試験の結果を、以下の表12に示す。
【0095】
表12: 実施例4に従って調製したペムブロリズマブ製剤の組成およびSECによって測定した上記製剤のサイズバリアント
【表12】
NDは、検出されない、を示す; T0は、T0時点でのデータを示す
【国際調査報告】