(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】調製プロセス
(51)【国際特許分類】
A61K 47/68 20170101AFI20240910BHJP
C07K 1/107 20060101ALI20240910BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240910BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20240910BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A61K47/68
C07K1/107
C07K16/00
C07K16/40
C07K16/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513816
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 AU2022051071
(87)【国際公開番号】W WO2023028658
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522003486
【氏名又は名称】テリックス ファーマシューティカルズ (イノベーションズ) ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スターリット、オリヴァー ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ウィートクロフト、マイケル ポール
【テーマコード(参考)】
4C076
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA50
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA50
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、デスフェリオキサミンキレート配位子とタンパク質とで鉄錯体化コンジュゲートを調製するプロセスであって、実質的に中性のpHで実施されるプロセスを提供する。また、鉄錯体化コンジュゲートからキレート化鉄を除去するために、鉄錯体化コンジュゲートを、実質的に中性のpHで、デスフェリオキサミン、デスフェリオキサミン類似体及びHBEDから選択される遊離キレート配位子に曝露するプロセスも開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質と連結したデスフェリオキサミン(desferrioxamine)キレート配位子のコンジュゲートを調製するためのプロセスであって、
タンパク質と連結し鉄と錯体を形成したデスフェリオキサミンキレート配位子を含む、鉄錯体化コンジュゲート(iron complexed conjugate)を、実質的に(substantially)中性のpHで、デスフェリオキサミン、デスフェリオキサミン類似体(analogue)及びHBED又はそれらの組合せから選択される遊離キレート配位子(free chelating ligand)に曝露することにより、鉄をキレートした前記コンジュゲートの前記デスフェリオキサミンキレート配位子から鉄を除去し、キレート化鉄(chelated iron)を実質的に含まない、前記デスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質に連結したコンジュゲートを得ることを含む、プロセス。
【請求項2】
前記タンパク質がタンパク質標的捕捉剤(protein targeting agent)である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記タンパク質が抗体である、請求項1又は請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記タンパク質がギレンツキシマブ(girentuximab)である、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記デスフェリオキサミンキレート配位子が、DFO、DFO
*、DFOSq、DFONCS、DFO
*Sq及びDFO
*NCSから選択される、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ペプチド又はタンパク質が、共有結合及びスクシニルから選択される共有結合リンカーを介して前記デスフェリオキサミンキレート配位子に結合している、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記鉄錯体化コンジュゲートを前記遊離キレート剤に曝露する工程を周囲温度で実施する、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記周囲温度が約20℃~約25℃である、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記実質的に中性のpHが生理的pHである、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記pHが約7~約8である、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記pHが、約7.2又は約7.4である、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記コンジュゲートを、水を含む溶媒中で前記遊離キレート配位子に曝露する、請求項1~請求項11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記デスフェリオキサミン類似体が、DFO
*、DFOSq、DFONCS、DFO
*Sq及びDFO
*NCSから選択される、請求項1~請求項12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記鉄錯体化コンジュゲートを、過剰モルの前記遊離キレート剤に曝露する、請求項1~請求項13のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記鉄錯体化コンジュゲートと前記遊離キレート剤とのモル比が約1:50~約1:5000である、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
曝露する工程の前に、鉄をキレート化したデスフェリオキサミンキレート配位子をタンパク質とコンジュゲートして、鉄と錯体を形成したデスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質に連結したコンジュゲートを得ることをさらに含む、請求項1~請求項15のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項17】
デスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質に連結したコンジュゲートを調製するプロセスであって、実質的に中性のpHで、
鉄をキレートしたデスフェリオキサミンキレート配位子と極性有機溶媒とを含む第1の組成物と、
タンパク質を含む第2の組成物と、
を組み合わせることにより、鉄と錯体を形成したデスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質と連結した鉄錯体化コンジュゲートを形成することを含む、プロセス。
【請求項18】
前記極性有機溶媒が、アセトニトリル(ACN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はそれらの組み合わせを含む、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記タンパク質に対して過剰モルの、鉄をキレートした前記デスフェリオキサミンキレート配位子を組み合わせることを含む、請求項17又は請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記過剰モルが、前記タンパク質に対して少なくとも約2モル当量の、鉄にキレートした前記デスフェリオキサミンキレート配位子である、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記タンパク質と連結し鉄と錯体を形成したデスフェリオキサミンキレート配位子を含む、前記鉄錯体化コンジュゲートを、実質的に中性のpHで、デスフェリオキサミン、デスフェリオキサミン類似体及びHBED又はそれらの組み合わせから選択される遊離キレート配位子に曝露することにより、鉄をキレートした前記コンジュゲートの前記デスフェリオキサミンキレート配位子から鉄を除去し、キレート化鉄を実質的に含まない、前記デスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質に連結したコンジュゲートを得ることをさらに含む、請求項17~請求項20のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項22】
デスフェリオキサミンキレート配位子がタンパク質に連結したコンジュゲートを調製するプロセスであって、
鉄をキレートしたデスフェリオキサミンキレート配位子をタンパク質とコンジュゲートして、鉄と錯体を形成した前記デスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質に連結した鉄錯体化コンジュゲートを得ることと、
前記タンパク質と連結し鉄と錯体を形成した、前記デスフェリオキサミンキレート配位子を含む、前記鉄錯体化コンジュゲートを、実質的に中性のpHで、デスフェリオキサミン、デスフェリオキサミン類似体及びHBED又はそれらの組合せから選択される遊離キレート配位子に曝露することにより、鉄をキレートしたコンジュゲートのデスフェリオキサミンキレート配位子から鉄を除去し、キレート化鉄を実質的に含まない、前記デスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質に連結したコンジュゲートを得ることと、
を含む、プロセス。
【請求項23】
請求項1~請求項22のいずれか一項に記載のプロセスによって製造される、タンパク質コンジュゲート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、オーストラリア仮出願第2021902837号(2021年9月1日出願)の優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、タンパク質とデスフェリオキサミン(DFO)又はその類似体とのコンジュゲートから鉄を除去するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
キレート配位子(chelating ligand)を有するタンパク質コンジュゲートは、例えば、その治療剤、診断剤又はセラノスティック剤として使用できる可能性があるため、継続的に関心が寄せられている。
【0004】
キレート配位子は、典型的には多座であり、好ましくは治療又は診断に有望な核種に対して選択的である。
【0005】
特に商業規模でタンパク質コンジュゲートを調製する際に生じる1つの問題点として、様々な調製段階に必要とされる比較的厳しい合成条件に起因する凝集体の形成がある。タンパク質凝集体は、固体凝集体又は可溶性凝集体であり得る。
【0006】
凝集を軽減する戦略としては、凝集体形成を減少させるコンジュゲートの調製方法又は凝集したタンパク質をタンパク質コンジュゲートから分離する精製方法を適合させることが挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、凝集体が少なく、意味のある収率で所望のコンジュゲートを得ることが可能な、キレート配位子を有するタンパク質コンジュゲートを調製するための、少なくとも代替的なプロセスを提供することが継続的に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書における任意の先行技術への言及は、この先行技術が任意の管轄区域における共通の一般知識の一部を形成すること、又はこの先行技術が当業者によって理解され、関連性があると見なされ、且つ/又は他の先行技術と組み合わされると合理的に予想され得ることを認めるものでも示唆するものでもない。
【0009】
一態様では、本発明は、DFOキレート配位子と連結したタンパク質を含むコンジュゲートを調製するためのプロセスであって、鉄をキレートしたコンジュゲートを周囲温度及び中性pHでEDTA以外の遊離キレート配位子(free chelating ligand)に曝露することを含むプロセスを提供する。いくつかの実施形態では、前記遊離キレート配位子は、デスフェリオキサミン(desferrioxamine)、デスフェリオキサミン類似体(analogue)及びHBED、又はそれらの組合せから選択される。
【0010】
キレート配位子は、金属と安定な錯体を形成可能な官能基を本質的に含む。コンジュゲート合成の過程で、前記キレート配位子上の配位部位は、ほかの不活性な金属と錯体を形成することによって都合よく保護され得る。例えば、DFOは、DFO-タンパク質コンジュゲートの調製過程で鉄と錯体を形成し得る。保護金属は、特に半減期が比較的短い可能性がある放射性核種については、最終的な治療剤、診断剤又はセラノスティック剤の形成前に除去されなければならない。
【0011】
別の態様では、本発明は、タンパク質と連結したデスフェリオキサミンキレート配位子のコンジュゲートを調製するためのプロセスであって、実質的に中性のpHで、鉄をキレートしたデスフェリオキサミンキレート配位子と極性有機溶媒とを含む第1の組成物と、タンパク質を含む第2の組成物とを、組み合わせることにより、鉄と錯体を形成したデスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質と連結した鉄錯体化コンジュゲートを形成することを含む、プロセスを提供する。
【0012】
さらなる態様では、本発明は、タンパク質と連結したデスフェリオキサミンキレート配位子のコンジュゲートを調製するプロセスであって、
鉄をキレートしたデスフェリオキサミンキレート配位子をタンパク質とコンジュゲートして、鉄と錯体を形成した前記デスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質に連結した鉄錯体化コンジュゲートを得ることと、
前記タンパク質と連結し鉄と錯体を形成した、前記デスフェリオキサミンキレート配位子を含む、前記鉄錯体化コンジュゲートを、実質的に中性のpHで、デスフェリオキサミン、デスフェリオキサミン類似体及びHBED又はそれらの組合せから選択される遊離キレート配位子に曝露することにより、鉄をキレートしたコンジュゲートのデスフェリオキサミンキレート配位子から鉄を除去し、実質的にキレート化鉄を含まない、前記デスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質に連結したコンジュゲートを得ることとを、
含む、プロセスを提供する。
【0013】
別の態様は、本発明のプロセスによって製造されるタンパク質コンジュゲートを提供する。
【0014】
選択した定義
化学用語は、それらの一般的な意味を有することが意図される。
【0015】
「アルキル」という用語は、飽和直鎖炭化水素基及び分岐鎖炭化水素基を含むことが意図される。いくつかの実施形態では、アルキル基は、1~12個、1~10個、1~8個、1~6個又は1~4個の炭素原子を有する。いくつかの実施形態では、アルキル基は、5~21個、9~21個又は11~21個の炭素原子、例えば、11個、13個、15個、17個又は19個の炭素原子を有する。直鎖アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル及びn-オクチルが挙げられるが、これらに限定されない。分岐アルキル基の例としては、イソプロピル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、イソペンチル及び2,2-ジメチルプロピルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
「ハロ」という用語は、クロロ(-Cl)基、ブロモ(-Br)基、フルオロ(-F)基及びヨード(-I)基を含むことが意図される。いくつかの実施形態では、ハロは、クロロ、ブロモ及びフルオロから選択されてもよく、好ましくはフルオロから選択される。
【0017】
本明細書で使用される場合、「セラノスティック」という用語は、化合物/材料が診断及び治療に使用できるものであることを指す。「セラノスティック試薬」という用語は、患者の疾患又は病態の検出、診断及び/又は治療の両方に適した任意の試薬に関するものでる。セラノスティック化合物/材料の目的は、異なる診断剤と治療剤との間にみられる生体内分布及び選択性の望ましくない差を克服することである。
【0018】
本明細書で使用される場合、「及び(並びに)/又は(若しくは)」という用語は、「及び(並びに)」若しくは「又は(若しくは)」、又はその両方を意味する。
【0019】
名詞の後に続く「(s)」という用語は、単数形及び複数形、又はその両方を意図する。
【0020】
本明細書で使用される場合、文脈から別段必要とされる場合を除き、用語「含む」並びに、「含んでいる」、「含む」及び「含まれる」などの前記用語の変化形は、さらなる添加物、構成要素、整数及び工程を除外することを意図するものではない。
【0021】
本明細書に開示されている数の範囲(例えば、1~10)への言及には、その範囲内のすべての有理数(例えば、1、1.1、2、3、3.9、4、5、6、6.5、7、8、9及び10)への言及、及びその範囲内の任意の範囲の有理数(例えば、2~8、1.5~5.5及び3.1~4.7)への言及も包含され、したがって、本明細書に明示的に開示されているすべての範囲のすべての部分範囲が本明細書に明示的に開示されていることが意図される。これらは具体的に意図されるものの例に過ぎず、列挙される最低値と最高値の間にある数値の可能な組み合わせはすべて、本出願で同様に明示的に記載されているものと見なされるべきである。
【0022】
本発明の様々な特徴は、特定の値又は値の範囲を参照しながら説明される。これらの値は、様々な適切な測定技術の結果に関連することが意図されるものであり、したがって、任意の特定の測定技術に固有の誤差の範囲を含むものと解釈されるべきである。本明細書で言及される値の一部は、少なくとも部分的にこの変動を説明するために、「約」という用語で示される。「約」という用語は、値を記載するために使用される場合、その値の±10%、±5%、±1%又は±0.1%以内の量を意味し得る。
【0023】
文脈上別段の指示がない限り、任意の実施形態を、本明細書に記載の任意の他の実施形態と組み合わせてもよい。
【0024】
本発明のさらなる態様及び上述の諸段落に記載された態様のさらなる実施形態は、実施例として記載され、添付の図面を参照する、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例3に記載のDFOトランスキレーション条件について、本明細書に記載のプロセスの様々な工程にわたってサイズ排除クロマトグラフィ高速液体クロマトグラフィ(SEC-HPLC)によって求めた、単量体に対する高分子量凝集体のパーセント(%HMW)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、タンパク質と連結したDFOキレート配位子のコンジュゲートを調製するプロセスに関する。本明細書に記載されるコンジュゲートは、DFOキレート配位子とタンパク質とをコンジュゲートすることによって好都合に調製され得る。前記DFOキレート配位子は、典型的には、DFOキレート剤の保護基として働く鉄と錯体を形成している。コンジュゲーション後、鉄保護基をトランスキレーションによって除去し得る。これらの工程をそれぞれ別々に実施してもよく、又は、好ましい実施形態では、これらの工程を一般には市販の出発材料から順次、実施してもよい。
【0027】
本明細書に記載のプロセスは、本明細書に記載の改良されたコンジュゲーション工程及び/又はトランスキレーション工程のいずれか又は両方を含む。改良されたコンジュゲーション工程のみによって製造したコンジュゲートを、(EDTAを介するトランスキレーションを含めた)当技術分野で公知の任意の手段によってさらに処理し得ることが理解されよう。さらに、当技術分野で公知の任意の手段によって調製したコンジュゲートを、本明細書に記載のいずれかのトランスキレーション条件に供し得る。また、あるプロセスは、本明細書に記載のコンジュゲーション工程及びトランスキレーション工程の両方を含み得ることも理解されよう。
【0028】
コンジュゲーション
一態様では、プロセスは、鉄と錯体を形成したデスフェリオキサミンキレート配位子をタンパク質とコンジュゲート(又はカップリング)することを含む、コンジュゲートを形成する工程を含む。この工程を当技術分野で公知の任意の既知のコンジュゲーション技術によって実施してもよい。
【0029】
コンジュゲートする工程は、実質的に中性のpHで実施するのが好都合であり得る。本発明より前には、コンジュゲートする工程にはpHの上昇が好ましいと考えられていたが、本発明者らは、驚くべきことに、カップリング反応が実質的に中性のpHの下で進行することを発見した。一部のタンパク質カップリングパートナーは高pH(例えばpH>8)下で分解され得るため、実質的に中性のpHが有利である。これらのタンパク質カップリングパートナーは、変性によって、又は望ましくない高分子量凝集体を形成することによって、分解され得る。さらに、コンジュゲーション工程及びトランスキレーション工程の両方を含む本明細書に記載のプロセスの諸態様及び諸実施形態では、両方の工程にわたって実質的に同じpH条件を維持することが可能であることによって、時間のかかる工程間の滴定が回避されるため、製造プロセス全体の時間が短縮される。
【0030】
前記コンジュゲーション工程は、実質的に中性のpHで実施するのが有利である。本発明者らは、コンジュゲーション反応が、実質的に中性のpHで、以前は必須であると考えられていた高pH条件に少なくとも匹敵する収率で進行する(pH7.2とpH8.4とpH9.6とを比較する実施例1を参照されたい)ことを示した(実施例を参照されたい)。この工程では、許容可能なコンジュゲートとタンパク質との比が達成され、前記プロセスによって凝集体形成が回避される。いくつかの実施形態では、前記コンジュゲーション工程のpHは、前記トランスキレーション工程のpHと実質的に同じである。したがって、いくつかの実施形態では、前記pHは約7~約8である。いくつかの実施形態では、前記pHは、生理的pH、例えば約7.4である。いくつかの実施形態では、前記pHは、約7.2である。前記コンジュゲートは、既に三次構造を取っている可能性のあるタンパク質を含むため、実質的に中性のpH(及び/又は生理的pH)を維持することは、前記コンジュゲートが、前記タンパク質の三次構造の溶媒に露出している位置に形成され、前記タンパク質の目的とする機能に干渉する可能性を減じるようにするのに有利である。
【0031】
鉄をキレートしたデスフェリオキサミンキレート配位子を前記タンパク質と直接連結させてもよく、又は、これらの部分を連結基を介して連結させてもよい。前記連結基は、本明細書に記載される連結基のいずれかを含めた任意の適切な連結基であり得る。
【0032】
前記コンジュゲートする工程は、任意の適切な溶媒中で実施してもよく、典型的には、前記タンパク質を水性担体中に、好ましくは水性緩衝液中に準備し、前記DFOキレート配位子を、極性有機溶媒を含む組成物として準備してもよい。
【0033】
したがって、典型的には、前記第2の組成物は、水をさらに含んでいてもよく、好ましくは水性緩衝液をさらに含んでいてもよい。任意の適合する水性緩衝液を使用し得る。適切な緩衝液としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。いくつかの実施形態では、前記第2の組成物は、前記第1の組成物と組み合わせる前に有機溶媒を実質的に含まない。
【0034】
前記第1の組成物は、水と混和性の任意の極性有機溶媒、例えばアセトニトリル(ACN)、ジメチルスルホキシド(DMSO)又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、(例えば、抗体などの前記タンパク質を含む)前記第2の組成物を(例えば、鉄をキレートしたDFO部分を含む)前記第1の組成物に加えてもよい。しかし、典型的には、前記第1の組成物を前記第2の組成物に加える。前記第1の組成物と前記第2の組成物を、任意の適切な手段によって、任意の適切な速度で、組み合わせ得る。
【0036】
これらの実施形態では、前記第1の組成物中の鉄錯体化DFOキレート配位子の最小濃度は、約1.25mg/ml、1.5mg/ml、2mg/ml、2.5mg/ml、3mg/ml、4mg/ml又は5mg/mlであり得る。キレート配位子の最大濃度は、約10mg/ml、7.5mg/ml又は5mg/ml以下であり得る。いくつかの実施形態では、溶媒を含む前記第1の組成物中のキレート配位子の濃度は、約1.25mg/ml~約10mg/ml又は1.5mg/ml~約5mg/mlであり得る。前記第2の組成物は、典型的には水性であることから、タンパク質の安定性に影響を及ぼし得る極性有機溶媒の添加を最小限に抑えるために、前記第1の組成物中のDFOキレート配位子の濃度は高い方が好ましい。
【0037】
前記デスフェリオキサミンキレート配位子は、鉄との錯体として準備するのが好都合である。前記鉄は、鉄(II)又は鉄(III)であり得る。典型的には、前記鉄を前記デスフェリオキサミンキレート配位子でキレート化する。
【0038】
前記タンパク質とのコンジュゲーション前の前記デスフェリオキサミンキレート配位子を、前記コンジュゲーション反応のための活性化基又は活性化基を形成することができる基で官能化してもよい。例えば、前記デスフェリオキサミンキレート配位子は、カルボン酸、酸ハロゲン化物(例えば、酸塩化物)、混合無水物又は活性化エステル(例えば、テトラフルオロフェニルエステル)の形態で活性化されている、カルボニル部分を含み得る。典型的には、前記コンジュゲーション工程は、前記タンパク質のアミノ酸残基の側鎖とアミド結合又はエステル結合を形成することを含む。
【0039】
前記タンパク質とのコンジュゲーション前の前記デスフェリオキサミンキレート配位子は、所望の連結基に対応する部分を含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、前記DFOキレート配位子は、一端がDFOに連結しており、他端が、前記コンジュゲーション反応のための活性化基又は活性化基を形成することができる基で官能化されている、スクシニル部分を含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、前記連結基は、鉄と錯体を形成した前記デスフェリオキサミンキレート配位子に連結した第1の部分と前記タンパク質に連結した第2の部分とで分けられ得る。これらの実施形態では、前記コンジュゲートする工程は、前記第1の部分と前記第2の部分とをカップリングして、前記連結基を、したがって前記コンジュゲートを形成することを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質を前記連結基で官能化し、次いで、それを鉄と錯体を形成した前記デスフェリオキサミンキレート配位子とコンジュゲートする。
【0042】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質と、前記連結基と、鉄と錯体を形成したデスフェリオキサミンキレート配位子とが、三成分カップリングでコンジュゲートされ、前記タンパク質と前記連結基との間、及び前記連結基と、鉄と錯体を形成した前記デスフェリオキサミンキレート配位子との間で、結合が形成される。
【0043】
典型的には、前記コンジュゲートする工程では、過剰モル量の前記デスフェリオキサミンキレート配位子を前記タンパク質に対して供する。例えば、前記デスフェリオキサミンキレート配位子を前記タンパク質に対して少なくとも約1.1:1、1.5:1、1.6:1、1.7:1、1.8:1、1.9:1、2:1、2.1:1、2.2:1、2.3:1、2.4:1、2.5:1、2.6:1、2.7:1、2.8:1、2.9:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、7.5:1、8:1、9:1、10:1、11:1又は12:1の最小過剰量で供し得る。タンパク質に対するデスフェリオキサミンキレート配位子の最大過剰モル量は、約100:1、90:1、80:1、70:1、60:1、50:1、40:1、30:1、20:1、15:1、12.5:1、10:1、8:1、7.5:1、7:1、6.5:1、6:1又は5:1以下であり得る。前記コンジュゲートする工程における前記デスフェリオキサミンキレート配位子と前記タンパク質とのモル比は、最小値が最大値よりも小さい限り、上記の最小値のいずれかから任意の最大値までであってもよく、例えば、約1.1:1~約100:1又は約1.5:1~約15:1、約2:1~約8:1、又は約1.1:1~約5:1であってもよい。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記プロセスは、コンジュゲーション後に精製工程を含まず、鉄と錯体を形成し前記コンジュゲーション反応のための活性化基又は活性化基を形成することができる基で任意に官能化された未反応のデスフェリオキサミンキレート配位子の存在下で、前記鉄錯体化コンジュゲートを、本明細書に記載の曝露工程に供する。
【0045】
トランスキレーション
一態様では、本明細書に記載のプロセスは、鉄錯体化形態のコンジュゲートを、実質的に中性のpHで前遊離キレート配位子に曝露することを含む。前記鉄錯体化コンジュゲートは、前記DFOキレート配位子への鉄キレート化を含む。前記遊離キレート配位子は、EDTA以外の任意の鉄キレート剤であってもよい。
【0046】
DFO及び(DFO*、DFOsq、DFONCS、DFO*sq及びDFO*NCSを含めた)その類似体は、治療、診断及び/又はセラノスティックスに有望な所望の核種に対して選択的なキレート配位子である。具体的には、DFO及びその類似体は、89Zrに対する選択的キレート剤である。89Zrは、半減期が3.3日に及ぶベータプラスエミッター(av)(0.396MeV)である。89Zrは、陽電子放射断層撮影(PET)画像化に応用できる可能性があり、タンパク質コンジュゲート(本発明の方法によって製造されるものなど)に含ませると、抗体の循環半減期と一致する3.3日という長時間にわたる半減期のため、免疫PET(イムノPET)画像化において特に興味深いものとなる。イムノPET画像化では、適切な抗体にコンジュゲートされた放射性核種複合体を使用することによって、腫瘍細胞上の腫瘍関連抗原の発現に基づいて腫瘍が画像化される。
【0047】
ジルコニウムに加えて、DFO及びその類似体も鉄のキレート剤である。合成的変換によってDFOを取り扱うための従来のプロセスは、鉄キレート化DFOを含むのが好都合である。鉄キレート化形態のDFOは、保護形態として働き、DFOの配位部位に連結し、それらが他のいくつかの合成的変換に関与するのを妨げる。
【0048】
コンジュゲートのDFOのキレート部分にキレート化された鉄原子は、任意の適切な形態であり得る。例えば、前記鉄は、鉄(II)若しくは鉄(III)又はそれらの組み合わせであり得る。いくつかの実施形態では、前記鉄は鉄(II)である。他の実施形態では、前記鉄は鉄(III)である。
【0049】
前記鉄錯体化コンジュゲートへの前記遊離キレート配位子の曝露は、実質的に中性のpHで実施するのが有利である。本発明者らは、本プロセスのこの工程で実質的に中性のpHを維持することによって、凝集体形成が回避され、したがって、収率が大幅に改善されることを示した(実施例を参照されたい)。いくつかの実施形態では、前記鉄錯体化コンジュゲートへの前記遊離キレート配位子の曝露を、約7~約8のpHで実施する。いくつかの実施形態では、前記実質的に中性のpHは、生理的pHであり、典型的には約7.4である。いくつかの実施形態では、前記pHは、約7.2である。コンジュゲートは、既に三次構造を取っている可能性のあるペプチドを含むため、実質的に中性のpH(及び/又は生理的pH)を維持することは、凝集体形成の回避に役立つと考えられる。
【0050】
前記鉄錯体化コンジュゲートを前記遊離キレート配位子に曝露すると、コンジュゲートに連結した鉄が実質的に除去され得る。鉄の除去は事実上、DFOキレート部分から遊離キレート配位子への鉄の移動であり、したがって、本明細書ではトランスキレーション工程又はトランスキレーションプロセスと称されることがある。いくつかの実施形態では、トランスキレーション後、コンジュゲートは、約1ppm、0.75ppm、0.5ppm、0.4ppm、0.3ppm、0.25ppm又は0.2ppm以下の錯体化鉄を含み得る。錯体化鉄を実質的に含まないコンジュゲートは、検出可能な濃度ゼロから上記のいずれかの濃度までの錯体化鉄を含んでもよく、例えば、検出可能な量ゼロから約1ppmまでの錯体化鉄又は検出可能な量ゼロから0.3ppmまでの錯体化鉄を含んでもよい。トランスキレーション後の錯体化鉄の濃度は、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)によって測定され得る。
【0051】
タンパク質
本発明の方法によって製造されるコンジュゲートのタンパク質は、前記デスフェリオキサミンキレート配位子とコンジュゲートすることができ、望ましくない凝集体を形成する可能性のある、任意のタンパク質であり得る。
【0052】
前記凝集体は、微粒子を形成し、それらが形成された溶液から沈殿し得る不溶性凝集体であってもよく、又は前記凝集体は可溶性凝集体であってもよい。本明細書で使用される場合、「凝集体」という用語は、前記タンパク質の高分子量(HMW)凝集体、典型的には、二量体よりも大きい多量体を含むものと理解される。前記凝集体は、微粒子を形成し、それらが形成された溶液から沈殿し得る不溶性凝集体であってもよく、又は前記凝集体は可溶性凝集体であってもよい。
【0053】
特に関心のあるDFO-タンパク質コンジュゲートの種類の1つは、タンパク質部分が、投与後に被験体内にコンジュゲートを局在化させて、例えばPET、SPECT又はそれ以外の適切な画像化技術による画像化を補助することができるものである。したがって、いくつかの実施形態では、前記タンパク質はタンパク質標的捕捉剤(protein targeting agent)であり得る。
【0054】
本明細書で使用される場合、「タンパク質標的捕捉剤」は、
1.(遊離形態であっても放射性核種などの核種をキレート化するときであっても)前記デスフェリオキサミンキレート基との安定なコンジュゲーションが可能であり、
2.取り扱う過程で有害な凝集体を形成する可能性があり、
3.投与後、被験体内で局在化する(例えば、前記タンパク質標的捕捉剤は、1又は複数の器官、細胞小器官、細胞型又は受容体型に局在し得る)ことが可能である、
任意のタンパク質を指す。
【0055】
前記タンパク質標的捕捉剤は、ポリペプチド、ある特定の生物学的標的に結合することができる、又はある特定の代謝活性を発現することができるタンパク質(例えば、抗体及びその誘導体、例えばナノボディ、ダイアボディ、抗体フラグメントなど)であり得る。
【0056】
適切な標的化剤の非限定的な例としては、VEGF受容体を標的とする分子、ボンベシン又はGRP受容体を標的とする分子の類似体、ソマトスタチン受容体を標的とする分子、RGDペプチド又はavp3及びavP5を標的とする分子、アネキシンV又はアポトーシス過程を標的とする分子、エストロゲン受容体を標的とする分子、プラークを標的とする生体分子、PSMAを標的とする分子、炭酸脱水酵素を標的とする分子(例えば、炭酸脱水酵素IX;CAIX)が挙げられる。
【0057】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、ナノボディ、ダイアボディ、抗体フラグメントなどを含めた抗体又はその誘導体である。いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、抗体又はその抗原結合フラグメントである。
【0058】
任意の実施形態では、前記タンパク質は、炭酸脱水酵素IX(CAIX)に結合するための抗体又はその抗原結合フラグメントである。好ましい抗体はcG250、好ましくはギレンツキシマブ(girentuximab)(INN)であり、本明細書ではGmAbとも称される。別の特に好ましい実施形態は、ハイブリドーマ細胞株DSMACC2526によって産生されるモノクローナル抗体G250である。抗体cG250は、本来のマウスモノクローナル抗体mG250のlgG1カッパ軽鎖キメラ型である。その抗原結合フラグメントの抗体はまた、ギレンツキシマブのヒト化形態であってもよい。特に好ましい実施形態では、前記CAIXに結合するための抗体は、国際公開第2021/000017号パンフレットに記載されている抗体であり、上記パンフレットの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質はポリペプチドである。前記ポリペプチドは、少なくとも約20個、25個又は30個アミノ酸残基の最小限の配列を含み得る。前記ポリペプチドは、最大約35個、40個、45個又は50個のアミノ酸残基を含み得る。前記ポリペプチドは、例えば約20個~約50個のアミノ酸残基を含めた、上記の最小値のいずれかから任意の最大値までの任意のアミノ酸配列長を含み得る。ペプチドの凝集については、Zapadka KL、Becher FJ、Gomes dos Santos AL、Jackson SEによる(2017)「Factors affecting the physical stability(aggregation)of peptide therapeutics」、Interface Focus第7巻、20170030、http://dx.doi.org/10.1098/rsfs.2017.0030で概説されており、上記文献は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、天然タンパク質であり、その供給源から単離される。いくつかの実施形態では、前記タンパク質は合成又は半合成である。前記タンパク質は、所望のタンパク質を形成する直接的なアミノ酸合成、組換え技術及びフラグメントの連結を含めた、当技術分野で公知の任意の手段によって調製され得る。
【0061】
リンカー
コンジュゲートは、前記DFOキレート剤と連結した前記タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質とDFOキレート剤は、共有結合を介して直接結合している。いくつかの実施形態では、前記タンパク質とDFOキレート剤は、連結基を介して結合している。
【0062】
いくつかの実施形態では、前記連結基は二官能性リンカーである。前記二官能性リンカーは、前記DFOキレート剤と前記タンパク質とを共有結合によって連結させることができる、任意のジラジカル種であり得る。
【0063】
適切な二官能性リンカーとしては、ブロモアセチル、チオール、スクシンイミドエステル(例えばスクシニル)、テトラフルオロフェニル(TFP)エステル、マレイミド、(天然アミノ酸及び非天然アミノ酸を含めた)アミノ酸、ニコチンアミド、ニコチンアミド誘導体、又は当技術分野で公知の任意のアミン系若しくはチオール系修飾化学物質の使用が挙げられる。
【0064】
いくつかの実施形態では、前記二官能性リンカーはスクシニルである。
【0065】
いくつかの実施形態では、前記二官能性リンカーは、前記DFOキレート部分と前記タンパク質との間で2個~10個の原子の最長線形経路を定める一連の原子を含む。
【0066】
いくつかの実施形態では、前記二官能性リンカーは、-O-、-NR-、-S-、-C(O)-、-C(O)O-、-C(O)NR-、-OC(O)-、-NRC(O)-、-OC(O)O-、-NRC(O)O-、-OC(O)NR-、-NRC(O)NR-から選択される1又は複数の基によって任意に中断される、C1~10アルキル又はハロC1~10アルキルであってもよく、上式中、Rは、H及びC1~4アルキルから選択される。
【0067】
いくつかの実施形態では、前記二官能性リンカーは、キレート部分を含み得る。これらの実施形態では、前記リンカーのキレート部分は、(1又は複数の)異なる放射性核種を前記DFOキレート配位子に連結させ得る。いくつかの実施形態では、前記キレート部分は、6-ヒドラジニルニコチンアミド部分であり得る。前記6-ヒドラジニルニコチンアミド部分は、典型的には、テクネチウム-99(99mTc)に結合する。
【0068】
遊離キレート配位子
本明細書に記載のプロセスは、鉄連結形態のDFOキレート配位子-タンパク質コンジュゲートを遊離キレート配位子に曝露することを含む。前記DFOキレート部分をコンジュゲーション工程で、その鉄連結形態で前記タンパク質とコンジュゲートして、望ましくない化学反応から前記DFOキレート部分を効果的に保護する。
【0069】
好ましくは、前記遊離キレート配位子は、EDTAよりも鉄に対して高い親和性を有する。したがって、典型的には、前記遊離キレート配位子はEDTA以外のものである。
【0070】
また、好ましくは、前記遊離キレート配位子は、鉄に対して、前記コンジュゲートのDFOキレート部分と同等の、又はそれより優れた親和性を有する。
【0071】
EDTAは、広く使用されている鉄キレート剤である。その使用は、生体システムで例えばキレート療法として使用される場合を含め、化学変換において鉄と連結し、溶液から鉄を除去するためであることが記載されている。しかし、本明細書に記載のタンパク質コンジュゲートのDFOキレート部分による鉄のキレート化の阻害には、高温及び低pHが必要であった(実施例1及び2)。これらの反応条件は、タンパク質コンジュゲートの不可逆的凝集の形成を生じさせ、収率の著しい低下をもたらした。驚くべきことに、本発明者らは、鉄連結コンジュゲート中間体をEDTA以外のキレート配位子に曝露することによって、高温の必要性が回避され、反応を周囲温度で進行させることが可能になることを発見した。さらなる試験により、高温であっても、実質的に中性のpHで反応を実施すると、凝集体の形成が回避されることが明らかになった(実施例2)。
【0072】
遊離キレート配位子は鉄のキレート剤である。前記遊離キレート配位子は、二座、三座、四座、五座、六座、七座又は八座であり得る。
【0073】
前記遊離キレート配位子は、DFO、DFO類似体及びN,N-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N-二酢酸(HBED)又はそれらの組合せから選択され得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、前記遊離キレート配位子は、DFO又はその類似体である。
【0075】
いくつかの実施形態では、前記遊離キレート配位子はHBEDである。
【0076】
いくつかの実施形態では、前記遊離キレート配位子は、(6,6”-ビス[N,N”,N”’-テトラ(カルボキシメチル)アミノメチル)-4’-(3-アミノ-4-メトキシフェニル)-2,2’:6’,2”-テルピリジン)、DOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N’,N”,N”’-四酢酸、テトラキセタンとしても知られている)、TCMC(DOTAのテトラ-第1アミド)、DO3A(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-トリス(酢酸)-10-(2-チオエチル)アセトアミド)、CB-DO2A(4,10-ビス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザビシクロ[5.5.2]テトラデカン)、NOTA(1,4,7-トリアザシクロノナン-三酢酸)Diamsar(3,6,10,13,16,19-ヘキサアザビシクロ[6.6.6]エイコサン-1,8-ジアミン)、DTPA(ペンテト酸又はジエチレントリアミン五酢酸)、CHX-A”-DTPA([(R)-2-アミノ-3-(4-イソチオシアナトフェニル)プロピル]-トランス-(S,S)-シクロヘキサン-1,2-ジアミン-五酢酸)、TETA(1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸)、Te2A(4,11-ビス(カルボキシメチル)-1,4,8,11-テトラアザビシクロ[6.6.2]ヘキサデカン)、HBED(N,N-ビス(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N-二酢酸)、DFO(デスフェリオキサミン)並びにその類似体又は誘導体、例えばDFO*及びDFOsq(DFO-スクアラミド)、HYNIC(6-ヒドラジノニコチンアミド)及びHOPO(3,4,3-(LI-1,2-HOPO)など、又は本明細書に記載の他の配位子又はその誘導体からなる群より選択される。適切な誘導体は、分子の非配位部分への修飾を含み、カルボキシル基の代わりにアミドが存在するなど、官能基相互変換を含み得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、前記遊離キレート配位子は、コンジュゲートに含まれるDFOキレート部分と一致し、例えば、前記DFOキレート部分はDFO*であってもよく、これらの実施形態では、前記遊離キレート配位子はDFO*も含み得る。
【0078】
鉄をキレートしたコンジュゲートに対して過剰モルの前記遊離キレート配位子を使用してよい。遊離キレート配位子の当量数を増加させることは、コンジュゲート連結キレート剤と遊離キレート剤との間の鉄キレート化の平衡を利用することによって、鉄キレート化を阻害するのに役立ち得る。しかし、コストの観点からみて、及び反応生成物の精製が複雑になる可能性があることから、不必要に過剰な試薬を避けることが望ましい。
【0079】
いくつかの実施形態では、鉄をキレートしたコンジュゲートに対する前記遊離キレート配位子の最小モル当量数は、少なくとも約50モル当量、55モル当量、60モル当量、65モル当量、70モル当量、75モル当量、80モル当量、90モル当量、100モル当量、110モル当量、120モル当量、130モル当量、140モル当量、150モル当量、200モル当量、250モル当量、300モル当量、250モル当量、400モル当量、450モル当量、500モル当量、550モル当量、600モル当量、650モル当量、700モル当量、750モル当量、800モル当量、850モル当量、900モル当量、950モル当量、1000モル当量、1100モル当量、1200モル当量、1300モル当量、1400モル当量又は1500モル当量であり得る。鉄をキレートしたコンジュゲートに対する前記遊離キレート配位子の最大モル当量数は、約5000モル当量、4750モル当量、4500モル当量、4250モル当量、4000モル当量、3750モル当量、3500モル当量、3250モル当量、3000モル当量、2750モル当量、2500モル当量、2250モル当量、2000モル当量、1750モル当量、1500モル当量、1250モル当量、1000モル当量、750モル当量、500モル当量、450モル当量、400モル当量、350モル当量、300モル当量、275モル当量、250モル当量、225モル当量、200モル当量、175モル当量又は150モル当量以下であり得る。鉄をキレートしたコンジュゲートに対する前記遊離キレート配位子の当量数は、選択する最小値が最大値よりも小さい限り、上記の最小量のいずれかから上記の最大量のいずれかまでであってもよい。例えば、いくつかの実施形態では、前記遊離キレート配位子のモル当量数は、鉄をキレートしたコンジュゲートに対して約50~約5000モル当量、約100~約200モル当量又は約1200~約2000モル当量である。
【0080】
あるいは、モル当量数をモル比で表してもよい。前記鉄連結コンジュゲートに対して前記遊離キレート配位子の過剰モルが50であることを、前記鉄連結コンジュゲートと前記遊離キレート配位子とのモル比1:50で表してもよい。したがって、いくつかの実施形態では、前記鉄錯体化コンジュゲートと前記遊離キレート配位子との最小比は、少なくとも約1:50、1:55、1:60、1:65、1:70、1:75、1:80、1:90、1:100、1:110、1:120、1:130、1:140、1:150、1:200、1:250、1:300、1:250、1:400、1:450、1:500、1:550、1:600、1:650、1:700、1:750、1:800、1:850、1:900、1:950、1:1000、1:1100、1:1200、1:1300、1:1400又は1:1500であり得る。前記鉄錯体化コンジュゲートと前記遊離キレート配位子との最大比は、約1:5000モル当量、1:4750モル当量、1:4500モル当量、1:4250モル当量、1:4000モル当量、1:3750モル当量、1:3500モル当量、1:3250モル当量、1:3000モル当量、1:2750モル当量、1:2500モル当量、1:2250モル当量、1:2000モル当量、1:1750モル当量、1:1500モル当量、1:1250モル当量、1:1000モル当量、1:750モル当量、1:500モル当量、1:450モル当量、1:400モル当量、1:350モル当量、1:300モル当量、1:275モル当量、1:250モル当量、1:225モル当量、1:200モル当量、1:175モル当量又は1:150モル当量以下であり得る。前記鉄錯体化コンジュゲートと前記遊離キレート配位子との比は、最小比が最大比よりも小さい限り、上記の最小比のいずれかから任意の最大比までであってもよく、例えば、約1:50~約1:5000、約1:100~約1:200又は約1:1200~約1:2000であってもよい。
【0081】
前記遊離キレート配位子を任意の適切な形態で前記鉄錯体化コンジュゲートと組み合わせてもよい。いくつかの実施形態では、前記遊離キレート配位子を液体組成物として準備するのが好都合であり得る。前記液体組成物は、溶媒などの液体担体を含み得る。典型的には、前記液体組成物は、遊離キレート配位子の水溶液である。前記液体組成物中の遊離キレート配位子の最小濃度は、少なくとも約1mM、5mM、10mM、20mM、30mM、40mM、50mM、60mM又は65mMであり得る。前記液体組成物中の遊離キレート配位子の最大濃度は、約200mM、175mM、150mM、125mM、100mM、90mM、80mM、75mM又は70mM以下であり得る。前記液体組成物中の遊離キレート配位子の濃度は、上記の最小濃度のいずれかから上記のこれらの最大濃度のいずれかまでであってもよく、例えば、約1mM~約200mM又は約65mM~約70mMであってもよい。
【0082】
いくつかの実施形態では、前記鉄錯体化コンジュゲートへの前記遊離キレート配位子の曝露は、周囲温度であり得る。典型的には、周囲温度は、約15℃~約30℃、約20℃~約25℃又は約20℃±約5℃であり得る。典型的には、先行するコンジュゲートする工程は、周囲温度で実施され、温度変化を最小限に抑えることによって過程全体の時間を短縮し、また、より大きな規模(例えば、数グラムスケール、数百グラムスケール又はキログラムスケールから)で凝集体形成を回避するのにも役立ち得るため、周囲温度が好ましい。
【0083】
いくつかの実施形態では、本プロセスは、タンパク質にコンジュゲートされていない未コンジュゲート鉄錯体化DFOキレート部分の存在下で、鉄錯体化コンジュゲートを遊離キレート配位子に曝露することを含み、タンパク質とのコンジュゲーションのためのDFOキレート部分を活性化する官能基(例えば、ペンタフルオロフェニルエステル、混合無水物又は酸ハロゲン化物)又はコンジュゲーションのために活性化することができる官能基(例えば、カルボン酸、C1~6アルキルOC(O)-又はアミド)を含み得る。
【0084】
さらなる工程
いくつかの実施形態では、本プロセスは、曝露工程の後にコンジュゲートを精製する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、この精製工程は、本プロセスに含まれる唯一の精製工程である。精製工程は、遊離キレート配位子、鉄錯体化遊離キレート配位子及び任意に存在する未コンジュゲートDFOキレート部分からコンジュゲートを分離することを含み得る。前記コンジュゲートは、精製後、溶媒をさらに含む溶液中に保持され得る。前記溶媒は、ACN、DMSO、水又はそれらの組み合わせから選択され得る。精製工程は、典型的には、カラムクロマトグラフィ、例えば、PD-10カラム又はタンジェンシャルフローろ過(例えば限外ろ過/ダイアフィルトレーション(UF/DF))によってコンジュゲートを精製することを含む。いくつかの実施形態では、本プロセスは、1又は複数のろ過工程(例えば、PD-10カラム)とUF/DFとを含む、精製を含み得る。これらの実施形態では、前記精製は、第1のろ過工程(例えば、PD-10カラムによるろ過)と、UF/DFプロセスと、第2のろ過工程(例えば、PD-10カラムによるろ過)とを、含み得る。
【0085】
本プロセスは、任意の粒子状物質を除去し、且つ/又はバイオバーデンを減じるための、1又は複数のさらなるろ過工程を任意に含んでもよい。
【0086】
本明細書に記載のプロセスの任意の工程は、例えば、磁性撹拌子又はオーバーヘッド式機械的撹拌機による混合を含み得る。
【0087】
本プロセスは、遊離DFO-タンパク質コンジュゲートの濃度を調整する工程を含み得る。標的最終濃度は、前記タンパク質の性質に依存し、当業者は、前記遊離DFO-タンパク質コンジュゲートを取り扱うのに望ましい濃度を理解するであろう。前記タンパク質が抗体であるいくつかの実施形態では、前記標的濃度は、約1.8mg/ml~約2.2mg/mlであり得る。
【0088】
具体的な実施形態
別の態様では、デスフェリオキサミンキレート配位子がタンパク質に連結したコンジュゲートを調製するプロセスであって、
鉄をキレートしたデスフェリオキサミンキレート配位子をタンパク質とコンジュゲートして、鉄と錯体を形成したデスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質と連結した鉄錯体化コンジュゲートを得ることと、
前記タンパク質と連結し鉄と錯体を形成した、前記デスフェリオキサミンキレート配位子を含む、前記鉄錯体化コンジュゲートを、実質的に中性のpHで、デスフェリオキサミン、デスフェリオキサミン類似体及びHBED又はそれらの組合せから選択される遊離キレート配位子に曝露することにより、鉄をキレートしたコンジュゲートのデスフェリオキサミンキレート配位子から鉄を除去し、キレート化鉄を実質的に含まない、前記デスフェリオキサミンキレート配位子が前記タンパク質に連結したコンジュゲートを得ることと、
を含む、プロセスが提供される。
【0089】
いくつかの実施形態では、コンジュゲートする工程と曝露工程のpHは、実質的に同じである。
【0090】
いくつかの実施形態では、前記コンジュゲートする工程と前記曝露工程のpHは、約7~約8であり、好ましくは約7.2又は約7.4である。
【0091】
いくつかの態様では、前記タンパク質はギレンツキシマブ(girentuximab)である。
【0092】
いくつかの実施形態では、前記デスフェリオキサミンキレート配位子と前記タンパク質は、スクシニル結合基を介して結合している。
【0093】
いくつかの実施形態では、前記デスフェリオキサミンキレート配位子はデスフェリオキサミンである。
【0094】
いくつかの実施形態では、鉄をキレートしたデスフェリオキサミンキレート配位子を、極性有機溶媒、好ましくはACN、DMSO又はそれらの組み合わせから選択される極性有機溶媒をさらに含む組成物に準備する。
【0095】
いくつかの実施形態では、前記タンパク質に対して過剰モルの、鉄をキレートしたデスフェリオキサミンキレート配位子を供する。
【0096】
いくつかの実施形態では、過剰モルの前記遊離キレート配位子を前記鉄錯体化コンジュゲートに対して供する。前記過剰モルは、本明細書に記載のいずれかのものであり得る。
【0097】
いくつかの実施形態では、本プロセスは、コンジュゲーション工程(1又は複数)とトランスキレーション(又は曝露)工程との間に精製工程を含まない。
【0098】
いくつかの実施形態では、前記コンジュゲーション工程及び前記曝露工程を周囲温度(例えば、約18~25℃)で実施する。
【0099】
本明細書に記載のプロセスによって得られるコンジュゲート
別の態様は、本明細書に記載のプロセスによって得られる又は製造される、タンパク質にコンジュゲートされたDFOキレート部分を含むコンジュゲートに関する。
【0100】
別の態様は、本明細書に記載のプロセスによって得られる又は製造されるコンジュゲートを含む、組成物を提供する。
【0101】
前記コンジュゲートは、タンパク質に対するコンジュゲートの最小比が少なくとも約0.2、0.25、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8又は0.9であることを特徴とし得る。前記コンジュゲートは、タンパク質に対するコンジュゲートの最大比が約4、3.5、3、2.5、2、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1又は0.9以下であることを特徴とし得る。前記コンジュゲートのタンパク質に対するコンジュゲートの比は、最小値が最大値よりも小さい限り、上記の最小比のいずれかから上記の最大比のいずれかまでであり得る。例えば、タンパク質に対するコンジュゲートの比は、約0.2~約4又は約0.9~約1であり得る。典型的には、タンパク質に対するコンジュゲートの比は、この工程を含むプロセスにおけるコンジュゲーション工程の条件によって最も影響を受ける。
【0102】
鉄を実質的に含まないコンジュゲートを含む組成物は、単量体コンジュゲートに対して、約1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.05%、0.01%、0.005%、0.001%、0.0005%、0.0001%以下の濃度の高分子量(HMW)タンパク質凝集体を含み得る。前記コンジュゲートを含む組成物は、上記の割合のいずれかから任意の他のパーセントまで、例えば、約0.01%~約1%、好ましくは0.0001%~約0.1%のHMW凝集体を含み得る。単量体コンジュゲートに対するHMW種の濃度は、SEC-HPLC及び前記HMW種に起因するピーク下面積と前記単量体タンパク質のピーク下面積との比較によって求め得る。実施例に、適切なSEC-HPLCプロトコルの一例がDFO-スクシニル-ギレンツキシマブコンジュゲートについて記載されている。
【0103】
いくつかの実施形態では、前記組成物は、二量体コンジュゲートをさらに含み得る。典型的には、前記二量体は、約1%、0.9%、0.8%又は0.7%以下の濃度で存在する。前記二量体は、上記のいずれかの濃度の間、例えば約0.7%~約1%で存在し得る。二量体の濃度は、例えば、SEC-HPLC及びそれぞれの関連するピークのピーク下面積の比較によって、HMW種の濃度と同様の方法で求め得る。
【0104】
前記コンジュゲートを含む組成物は、溶媒を含み得る。前記溶媒は、本明細書に記載の任意の溶媒であり得る。いくつかの実施形態では、前記溶媒は、ACN、DMSO、水及びそれらの組み合わせから選択され得る。いくつかのタンパク質では、より高い濃度で凝集が起こることが知られている。放射性標識を目的とするコンジュゲートを含む組成物は、放射性標識工程に適した濃度、好ましくはその後の対象への投与に適した濃度のコンジュゲートを有するべきである。したがって、いくつかの実施形態では、鉄及び溶媒を実質的に含まないコンジュゲートを含む組成物中のコンジュゲートの最大濃度は、最大約10mg/ml、7.5mg/ml、5mg/ml、4mg/ml、3mg/ml、2mg/ml、2.5mg/ml、2.4mg/ml、2.3mg/ml、2.2mg/mlであり得る。鉄及び溶媒を実質的に含まないコンジュゲートを含む組成物中のコンジュゲートの最小濃度は、少なくとも約0.5mg/ml、1mg/ml、1.5mg/ml又は1.8mg/mlであり得る。例えば、そのような組成物中のコンジュゲートの濃度は、約1~約10mg/mL、約1.5mg/ml~約5mg/ml、約1.5mg/ml~約5mg/ml又は約1.8~約2.2mg/mLであり得る。
【0105】
<実施例>
定義
%CV:変動係数:標準偏差を平均値で除してパーセントで表したもの。Syn.:%RSD(相対標準偏差)
A280:280nmでの吸光度
A428:428nmでの吸光度
ACN:アセトニトリル
BDS:バルク原薬
BSA:ウシ血清アルブミン
CAR:キレート剤対抗体比
CE:キャピラリ電気泳動法同様にiCE:イメージキャピラリ電気泳動法及びCESDS:ドデシル硫酸ナトリウム(を使用する)キャピラリ電気泳動法
cIEF:キャピラリ等電点電気泳動法同様にicIEF:イメージキャピラリ等電点電気泳動法
DCU:デジタル制御ユニット
DFO:デスフェリオキサミン(syn.:デフェロキサミン又はデスフェラール(登録商標))
DMSO:ジメチルスルホキシド
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
DS:原薬
【0106】
ELISA:酵素結合免疫吸着測定法
ESI:エレクトロスプレーイオン化法
GmAb:キメラギレンツキシマブ、syn.WX-G250、未改変抗体
GmAb-DFO:キメラギレンツキシマブ-N-スクシニルデスフェラルコンジュゲート、syn.:GmAb-N-sucDf
GmAb-DF-Fe:鉄(III)を除去してGmAb-DFOが製剤として生成する前の中間体コンジュゲート
HBED:N,N’-ジ(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸一塩酸塩
IgG:免疫グロブリンG
kDa:キロダルトン
【0107】
LC:液体クロマトグラフィ
MS:質量分析法
MW:分子量
PD:プロセス進行
PDA:フォトダイオードアレイ。Syn.:DAD-ダイオードアレイ検出器
QTOF:四重極飛行時間
QS:必要量
RM:標準物質
RCP:放射化学的純度
RPM:毎分回転数
SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
SEC:サイズ排除クロマトグラフィ;SE-HPLC:サイズ排除高速液体クロマトグラフィも参照のこと
SOP:標準操作手順
SR:置換率。Syn.:キレート剤対抗体比(CAR)
Syn.:同義語
TFP-N-sucDf-Fe:N-スクシニルデスフェラル:Fe(III)テトラフルオロフェニルエステル、(syn:DFOTFP);二官能性キレート剤
USP:米国薬局方
WFI:洗浄用水
Zr-89:Syn.89Zr、陽電子放出放射性核種
【0108】
実施例1:DFOとギレンツキシマブとの鉄をキレートしたコンジュゲート(GmAb-N-sucDf-Fe)の調製
この実施例では、スクシニル結合基を介してギレンツキシマブに結合したDFOの鉄をキレートしたコンジュゲートの調製、並びにDFO-ギレンツキシマブコンジュゲートを得るためのギレンツキシマブ(GmAb)とテトラフルオロフェニル-N-スクシニルデスフェリオキサミン鉄キレートのコンジュゲーション反応の至適化の試験について記載する。この手順は、標準的な諸プロセスと自動反応システムの使用とを組み合わせたものである。自動反応装置で実施する任意の工程を代替的に従来の設備で実施してもよく、同様に、各工程のスケールを調整することによって、プロセス全体を自動システムで実施されるよう適合させることも可能である。
【0109】
出発材料
ギレンツキシマブ(GmAb)抗体、4.91mg/mL、2~8℃で保存。
【0110】
二官能性キレート剤:テトラフルオロフェニル-N-スクシニルデスフェリオキサミン鉄キレート(TFP-N-sucDf-Fe)、-20±5℃で保存。
【0111】
手順
GmAb溶液の調製
GmAbを10mMリン酸ナトリウム水溶液、150mMNaCl水溶液(pH7.2)に溶かした4.91mg/mlの溶液をGmAb出発プールとする。一旦調製したすべての溶液を、使用前に0.2μmのろ過装置でろ過した。GmAb出発プールはpHが7.2であり、GmAb出発プールの一部を分割し、pH8.4又はpH9.6に滴定して、GmAbpH調整済みプール(本明細書ではpH調整済みGmAbプールと称することもある)を得た。GmAbpH調整済みプールの濃度は、合計体積又はGmAb出発プールと添加した塩基の体積に基づいて計算することができ、又は濃度は、UV-vis分光光度測定法によって実験的に求めることができる(以下のプロトコルを参照されたい)。
【0112】
TFP-N-sucDf-Fe溶液の調製
選択した溶媒(ACN又はDMSO)をそれぞれ用いて、各容器中の溶媒の全体積に影響を及ぼさずに当量数を変えることができるように、TFP-N-sucDf-Feの溶液を3種類の異なる濃度値、つまり、
(i)のちのコンジュゲーション工程でGmAbに対して3モル当量のTFP-N-sucDf-Feを供するための2.5mg/ml
(ii)7.5当量を供するための6.25mg/ml
(iii)12当量を供するための10.0mg/ml
の濃度値で調製した。
【0113】
TFP-N-sucDf-FeとGmAbのコンジュゲーション
TFP-N-sucDf-Fe溶液をそれぞれ、GmAb出発プール又はGmAbpH調整済みプールの入った別個の容器に添加した。添加中は、各反応容器の混合速度を維持し、次いでインキュベーション時間中は、混合速度を低下させた。インキュベーション時間終了時の溶液は、溶液中にGmAb-N-subDf-Feを含有するコンジュゲート済み生成物プール(コンジュゲート済みプール)となる。コンジュゲート済み生成物プールを(必要に応じて)標的pH7.0に滴定して、pH調整コンジュゲート済み生成物プール(本明細書では、コンジュゲートpH調整済みプールと称されることもある)を得た。プロセスのこの段階における反応混合物の色は、淡橙色から暗橙色の範囲内にあった。TFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比が3:1から12:1に増大するにつれて、反応混合物の橙色が濃くなった。すべての反応混合物の外観は透明で、微粒子は含まれていなかった。
【0114】
GmAb-N-sucDf-FeからのFeの除去
コンジュゲートpH調整済みプールを35℃に加熱した(加熱コンジュゲート済みプール又は温度調整コンジュゲート済み生成物プール)。加熱した溶液をpH4.4~4.5に滴定して、低pHコンジュゲート済み生成物プールを得た。35℃に予熱した25mg/mlのEDTAジナトリウム水溶液をGmAb1グラム当たり15mLのEDTA溶液の比で添加し、撹拌しながら110分間インキュベートすることによってキレート化鉄を除去して、トランスキレート化生成物プールを得た。この反応の進行を428nmでの吸光度測定によってモニターした。典型的には、トランスキレーション溶液は、最大40分間透明のままであり、次いで、若干乳白色に見え始めた。110分の間、いずれの試料にも目に見える微粒子は観察されなかった。インキュベーション後、トランスキレート化生成物プールをpH6.8~7.2に滴定して、中和済みトランスキレート化生成物プールを得た。標的生成物をPD-10カラムクロマトグラフィによって精製して、PD-10生成物プールを得た。全試料について、0.9%塩化ナトリウムでカラムを平衡化した後、試料1.9mLをPD-10カラムに添加し、試料に0.9%塩化ナトリウム0.6mLを添加することによって積層して、負荷体積2.5mLを得た後、追加の移動相をPD-10カラムに流し、出口溶液を清浄な容器に収集した。
【0115】
各PD-10精製済み生成物プールを0.22μm再生セルロースシリンジフィルタでろ過した。ろ液を清浄な滅菌容器に収集して、バルク原薬(BDS)を得た。
【0116】
A280によって評価した収率はすべて87%超であった。
【0117】
プロセスのこの段階における反応混合物の色は、無色から薄黄色の範囲内にあった。リンカーとGmAbとのモル比が3:1から12:1に増大するにつれて、反応混合物がより黄色を帯びるようになった。すべての反応混合物の外観は、透明からわずかな乳白色であり、微粒子は含まれていなかった。
【0118】
LC-MSによるコンジュゲート対抗体比(CAR)の決定
選択したBDS試料について、CARをLC-MSによって求めた。最小体積200μLの試料を使用して、約2mg/mLで試験を実施した。GmAb-N-sucDfコンジュゲートの標的CAR値を0.9とした。
【0119】
求めたCAR値は、0.59から4.10の範囲内にあった。アルカリ条件下でコンジュゲーションを実施したところ、CAR値が増大した。得られたCAR値のうち、コンジュゲーション工程のpHをpH7.2から8.4又は9.6に上昇させた(TFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比は一定に保持した)場合にCARの増大がみられた。中性pH条件下で実施したコンジュゲーション(TFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比は3:1)では、最低CAR値0.59が得られたが、pH値8.4及び9.6では、同じTFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比でそれぞれ、CAR値が1.26及び1.16であった。
【0120】
TFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比12:1でコンジュゲーションを実施したところ、4.10もの高いCAR値が得られた。モル比7.5:1では、pHに応じてCAR値が1.88から2.80の範囲内にあった。
【0121】
得られたCARデータに基づくと、好ましいTFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比は、CAR値が0.59から1.26の範囲内に収まった3:1である。
【0122】
ナノドロップ(商標)分光光度計によるギレンツキシマブ(GmAb)の濃度の決定
ナノドロップにウシ血清アルブミン(BSA)標準物質を使用して、システム適合性の測定を実施した。このシステム適合性の測定では、各実行の開始時及び終了時に0.95~1.05mg/mLの範囲内でBSA濃度の判定基準をすべて満たし、ナノドロップ機器が各試験日に適切に機能していることが確認された。
【0123】
PBS緩衝液(pH7.1)を使用して、ナノドロップのブランク測定を実施した。
【0124】
GmAb溶液のO.D.(A280)をナノドロップ分光光度測定法によって測定した。A280測定値は6.629であった。
【0125】
吸光係数1.35(mg/mL)-1cm-1及び以下の式(1)を用いて、GmAb出発材料の濃度を算出した。
【0126】
【0127】
GmAb開始プール中のGmAb濃度は、4.91mg/mlであることがわかった。
【0128】
算出したGmAbの濃度(4.91mg/mL)に各反応物の体積(2.3mL)及び毎日実施する反応の総数を乗じることによって、利用可能な総GmAbタンパク質を算出した。毎日3回反応を実施したため、GmAbの量は、全日程とも33.9mgと算出された。
【0129】
各反応物の体積(2.3mL)に毎日実施する反応の総数を乗じることによって、GmAbプールの総体積を算出した。
【0130】
同様のプロトコルを適用して、280nmでの吸光度検出(A280)を用いることによって、プロセス全体を通して得られた試料中のGmAb及びGmAb含有コンジュゲートの濃度を評価した。
【0131】
結論
CAR値が0.9に近く、単量体の純度の高いGmAb-DFOコンジュゲートの生成のためのコンジュゲーション条件を検討した。検討したパラメータには、3種類の値のpH(7.2、8.4及び9.6)、3種類の値のTFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比(3:1、7.5:1及び12:1)及び溶媒(アセトニトリル及びDMSO)を含めた。
【0132】
コンジュゲーションの程度は、中性pH条件下よりもアルカリ性条件下の方が高くなる傾向がみられた。TFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比3:1では、中性pHでCAR値が最も低かった(アセトニトリル及びDMSOのリンカー溶液を使用したときのCARは、それぞれ0.78及び0.59)。リンカーとGmAbとのモル比が同じ(3:1)で、pH値がよりアルカリ性であるとき、CAR値はすべて1.0を上回り、最大1.26に達した(pH8.4、DMSOのTFP-N-sucDf-Fe溶液を使用)。
【0133】
大きいTFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比を用いた条件下でも、コンジュゲーションの程度が増大した。中性pH、モル比12:1では、CAR値は、アセトニトリル及びDMSOのリンカー溶液を使用したとき、それぞれ2.97及び2.79に達した。よりアルカリ性の条件下では、CAR値は4.10(モル比12:1、pH8.4)にまで達した。
【0134】
いくつかの場合には、TFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比が3:1から12:1に増大したとき、HMW凝集体の形成(単量体ピークに対する相対保持時間「RRT」が70%)が、若干ではあるものの、増大する傾向がみられた。BDSの全体的な単量体純度は、いずれの場合も許容範囲内にあった。しかし、以前の製造キャンペーンでみられた通り、より大きな規模でのHMW凝集体形成のレベルが問題となり得ることが示されている。小規模で生成するHMW凝集体のレベルが大規模で同じ条件下で生成するHMW凝集体のレベルと相関するという傾向はみられない。したがって、HMW凝集体の相対量は、規模が大きくなると増大し、相当な濃度のHWM凝集体及びそれに応じた収率の損失につながることが予想される。
【0135】
この試験の結果を考慮すると、0.9に近いCAR値を得るには、TFP-N-sucDf-FeとGmAbとのモル比を3:1にするのが理想的である。pH9.6では、得られたCAR値は1.10であった。しかし、中性pH条件下であっても、CAR値0.78を達成することができる。良好なCAR値はアルカリ性条件下で得ることができるが、中性pH条件では、より合理化された(必要な滴定工程がより少ない)プロセスを用いて、許容可能な条件を維持して顕著な凝集を回避しながら、許容可能なCARが得られる。
【0136】
この実施例で得られた結果から、3種類の最良のコンジュゲーション条件は、以下のコンジュゲーション条件、つまり、(1)pH7.2、モル比3:1、DMSOに溶かしたTFP-N-sucDf-Fe、(2)pH7.2、モル比3:1、ACNに溶かしたTFP-N-sucDf-Fe及び(3)pH8.4、モル比3:1、ACNに溶かしたTFP-N-sucDf-Feを用いるものであることが示唆された。
【0137】
これらの3種類の条件及びBDS(pH9.6、モル比3:1、ACNに溶かしたTFP-N-sucDf-Feで調製したもの)を実施例2の出発材料として使用した。
【0138】
実施例2では、これらのコンジュゲーション生成物を使用して、TFP-N-sucDf-Feの添加速度、TFP-N-sucDf-Fe添加濃度及びTFP-N-sucDf-Fe製造業者を含めた追加のコンジュゲーション反応パラメータを評価した。測定した応答には、SEC-HPLCによる高分子量(HMW)種の%、LC/MSによるキレート対抗体比(CAR)及びA280によって測定される反応の収率が含まれる。
【0139】
実施例2:GmAb-NsucDf-FeからのFe除去の改善
この実施例に記載する試験には、実施例1に記載した通りに調製したBDSを出発材料として使用した。反応混合物を3等分した。
【0140】
1つの容器には、実施例1に記載のものと同様の条件(EDTA、pH4.4及び35℃)を用いた。これらの条件下、実施例1で概説したプロトコルに従って、A428によってトランスキレーションの過程をモニターした。
【0141】
第2の容器では、周囲温度及び中性pH(pH7.0)でDFOメシラートを使用してトランスキレーションを実施することによって、評価を実施した。これらの条件下、色の変化は全く予想されなかったが、A280及びA428によってトランスキレーションをモニターした。
【0142】
第3の容器では、周囲温度及び中性pHでHBED(N,N’-ジ(2-ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン-N,N’-二酢酸一塩酸塩)を使用してトランスキレーションを実施することによって、評価を実施した。A428によってトランスキレーションをモニターしたが、HBEDは428nmで吸収する。
【0143】
コンジュゲートをPD-10カラムを使用して精製し、単量体純度に関するSEC-HPLC、プロセス収率に関するA280及びトランスキレーションプロセスの効率を求める放射化学的純度によって、特性を解析した。
【0144】
この実施例で試験したスクリーニング反応を表1にまとめる。
【0145】
【0146】
EDTAジナトリウム、DFO又はHBEDを用いたキレート化鉄の除去
リンカーを安定化するために使用したキレート化鉄を、EDTAジナトリウム、DFO又はHBED(それぞれトランスキレート剤と称する)を用いて、GmAb1グラム当たりEDTA溶液15mLの比又はトランスキレート剤とGmAbとのモル比150:1で除去した。
【0147】
A280値を測定して濃度を実験的に求め、その結果を各試料について報告する。A280による濃度は理論的濃度よりも高く、この結果は、未コンジュゲートDFO出発材料の存在及び試料のわずかな混濁に起因するものである可能性が高い。
【0148】
反応混合物へのEDTAジナトリウム溶液(35℃に予熱)、DFO又はHBEDの添加
この工程を開始する前に、EDTA溶液が35℃に平衡化されていることを確認した。DFO又はHBED溶液は加熱せず、周囲温度(20~25℃)のままにした。
【0149】
各反応容器の混合速度を維持した。
【0150】
手動ピペットを使用して、各反応容器に各トランキレート剤溶液を添加した。
【0151】
トランスキレーション反応混合物のインキュベーション
実施例1で考察した結果に基づいて、EDTAジナトリウム溶液を添加した後、各反応容器を35±2℃で110分間インキュベートした。DFO又はHBEDを使用して実施したトランスキレーションを周囲温度(20~25℃)でインキュベートした。
混合速度を維持した。
20分、40分、80分及び100分のインキュベーション後、溶液の色及び428nmでの吸光度を観察することによって、各トランスキレーション反応の進行を確認した。110分後にインキュベーションを停止した。
【0152】
トランスキレート剤としてEDTAを使用した反応では、色が薄橙色から透明に変化した。DFO又はHBEDを使用した反応では、色の変化は観察されなかった。さらに、110分間のインキュベーションの過程では、いずれの反応でも目に見える微粒子は観察されなかった。
【0153】
pH6.8~7.2への調整
トランスキレーション反応を停止させるために、(必要に応じて)反応物をpH7.0±0.2に滴定した。この滴定は、自動反応装置に接続されたドーズシリンジポンプ及びpHプローブを使用して自動化されたものである。反応容器をインキュベータから取り出した。混合速度を維持された。プロセスのこの段階における各反応混合物の外観は、無色で、わずかに乳白色であり、微粒子は含まれていなかった。
【0154】
PD-10カラムを使用した中和済みトランスキレート化生成物プールの精製
滴定後、中和済みトランスキレーション生成物を、PD-10カラムを用いるカラムクロマトグラフィによって精製した。各PD-10カラムを0.9%塩化ナトリウム25mLで平衡化した。すべての試料について、その体積の試料をPD-10カラムに加え、試料にさらに0.9%塩化ナトリウムを積層して、総負荷体積2.5mLを得た。2.5mLの試料が利用可能である場合は、0.9%塩化ナトリウムは必要とされなかった。通過画分を廃棄した。0.9%塩化ナトリウム3.5mLを各PD-10カラムに加え、溶液を完全に充填層に入れた。通過画分を清浄な収集容器に収集した。
【0155】
各試料についてA280値を用いた実験濃度を測定して、希釈が必要であるかどうかを判定した。希釈が必要である場合、0.9%塩化ナトリウムを使用して、各試料の濃度を1.8~2.2mg/mLの範囲内に収めた。
【0156】
トランスキレート剤としてEDTAを使用した反応では、プロセスのこの段階における各反応混合物の外観は、無色で、わずかな乳白色から透明であり、微粒子は含まれていなかった。
【0157】
トランスキレート剤としてDFO又はHBEDを使用した反応では、プロセスのこの段階での各反応混合物の外観は淡黄色で、わずかな乳白色から透明であり、微粒子は含まれていなかった。
【0158】
バルク原薬(BDS)を生成するための最終ろ過
各PD-10精製済み生成物プールを0.22μm再生セルロースシリンジフィルタでろ過した。ろ液を清浄な滅菌容器に収集して、バルク原薬を得た。
【0159】
A280を用いて濃度を測定し、各試料の最終濃度を求めた。
各反応の収率は86%超であった。
【0160】
トランスキレート剤としてEDTAを使用した反応では、各BDSの外観は、無色で透明であり、微粒子は含まれていなかった。
【0161】
トランスキレート剤としてDFO又はHBEDを使用した反応では、各BDSの外観は、淡黄色で、透明であり、微粒子は含まれていなかった。
【0162】
得られたBDS試料を、2~8℃又は-20℃で保存するために微量遠心管に分注した。
【0163】
分析試験
A280によるタンパク質濃度
実施例1に記載の手順に従ってタンパク質濃度を測定した。
【0164】
SEC-HPLC
試験用の試料をすべて、(必要に応じて)試料緩衝液を使用して2mg/mLに希釈した。試料緩衝液には、試料の土台成分がGmAb抗体以外すべて含まれていた。
【0165】
試料を試料緩衝液で2mg/mLに希釈した後、試料90%に対し移動相10%の比で試料を混合した。
【0166】
HPLCに注入する前に、試料はろ過しなかった。代わりに、試料を13,000×gで5分間遠心分離した。次いで、上清溶液をHPLCバイアルに移した。
オートサンプラの温度を4℃に設定した。
【0167】
SEC-HPLCの結果を下の表2に示す。
【0168】
表2:SEC-HPLCの結果1。反応番号は表1に詳述したものに対応する。
【表2-1】
【表2-2】
【0169】
【0170】
【0171】
【0172】
注:
PD工程番号:(1)pH調整済みGmAbプール(pH9.6)、(2)コンジュゲート済み生成物プール、(3)pH調整コンジュゲート済み生成物プール(pH7.0)、(4)温度調整コンジュゲート済み生成物プール(35℃)、(5)低pHコンジュゲート済み生成物プール(pH4.4)、(6)トランスキレート化生成物プール、(7)中和済みトランスキレート化生成物プール(pH7.0)、(8)PD-10生成物プール、(9)バルク原薬。
【0173】
加熱及びpH4.4への滴定を必要とするいくつかの反応では、凝集体の形成が生じた(HMW70%RRT)。凝集体形成は、トランスキレーションの過程全体を通して生じ続けた。
【0174】
DFO又はHBEDを使用した反応(中性トランスキレート化条件)では、HMW種の形成は観察されなかった。
【0175】
GmAbへの添加前にTFP-N-sucDf-Fe溶液を15分間保持した反応(RXN番号25及び28)では、TFP-N-sucDf-Fe溶液を5分間保持した反応(RXN番号23及び26)又は10分間保持した反応(RXN番号24及び27)ではHMW種が最大0.5%に達するにとどまったのに比して、HMW含有量が高かった(最大1.7%)。
【0176】
より希釈した1.25mg/mLのTFP-N-sucDf-Fe溶液を添加したところ、HMW形成が最大4.4%と比較的高くなり、これは、反応混合物に導入されたアセトニトリルが多いことに起因する可能性が高い。
【0177】
いずれの反応も、二量体含有量は0.8±0.1%で比較的変化はみられなかった。
【0178】
LC-MSによるCAR
選択したBDS試料をLC-MSによって分析して、CARを求めた。最小体積200μLの試料を使用して、約2mg/mLで試験を実施した。
【0179】
CARの結果を表3に示す。
【0180】
表3:選択した試料のCAR及びRCPの結果
【表3】
【0181】
平均CAR値は、0.59から1.36の範囲内であった。
【0182】
放射化学的純度
選択したBDS試料について、最小0.5mgを使用して放射化学的純度(RCP)の試験を実施した。RCPの結果は上の表3に含まれている。
【0183】
放射化学的純度の値は、64%~100%の範囲内であった。RXN番号1で得られたBDSでは、100%のRCPがみられた。コンジュゲーション及びトランスキレーション(HBEDトランスキレート剤)の両方をpH8.4で実施する条件(RXN番号12)では、RCPが最低値の64%であった。
【0184】
DFOをトランスキレート剤として使用した中性pH下でのトランスキレーション条件(RXN番号2)では、放射化学的純度95.3%が得られた。
【0185】
結論
この試験では、いくつかの代替的なコンジュゲーション条件及びトランスキレーション条件を検討した。7.1、8.4及び9.6の様々なpH値を用いて、代替的なコンジュゲーション戦略を探求した。また、リンカーの添加速度、リンカーの濃度及び添加前のリンカーの保持時間も検討した。代替のトランスキレート剤としてDFO及びHBEDをEDTAと比較して検討した。
【0186】
中性pHでのコンジュゲーション条件では、有望な結果が得られ、0.78という許容可能なCAR値が得られた。CAR値は、リンカーの濃度を2.5mg/mL(標準濃度)から1.25mg/mL及び5.0mg/mLに変えた場合、比較的変化が少なかった(CARの範囲1.06~1.13)。しかし、希薄な方の1.25mg/mLのリンカー溶液を使用した場合、凝集体の増加がみられた。リンカーの保持時間及びリンカーの添加速度もCARの変化をほとんどもたらすことはなかったが、TFP-N-sucDf-Feの添加保持時間が15分に達すると、凝集体の形成が増大した。
【0187】
DFOを中性pHのトランスキレーション条件下でトランスキレート剤として使用して、95.3%という高い放射化学純度が得られた。HBEDをトランスキレーションに使用した場合、放射化学純度が低くなった(RXN番号3、90%及びRXN番号12、64%)。EDTAを使用するトランスキレーション条件では、100%という最良の放射化学的純度が得られたが、HMWの%が高くなるpH4.4への滴定及び加熱が必要となり、より大きな規模には適さない。
【0188】
実施例3
実施例1及び2に記載した試験に従い、鉄除去(トランスキレーション)工程にDFOを遊離キレート配位子として使用して、以下の一般手順を開発した。同様のプロセスでDFO類似体及びHBEDを含めた他の遊離キレート配位子に置き換え得ることが想定される。
【0189】
DFOプロセスの概要
ACNでTFP-N-sucDf-Feの溶液を調製し、出発材料GmAbプールに直接添加した。反応物を周囲温度で30±2分間インキュベートして、コンジュゲート済み生成物プールを得た。遊離DFOの添加によってGmAb-N-sucDf-Feから鉄を除去した。反応物を周囲温度でインキュベートして、トランスキレート化生成物プールを得た。トランスキレート化生成物プールを0.05m2のSartobran(登録商標)セルロースアセテートフィルタを使用してろ過し、ろ過済みトランスキレート化プールを得た。フィルタを0.9%NaClで洗い流した。次いで、ろ過済みトランスキレート化生成物プールを0.9%NaCl中へのUF/DFプロセスに供して、UFDFコンジュゲーションプールを得た。0.05m2のSartobran(登録商標)セルロースアセテートフィルタを使用してUFDFコンジュゲーションプールをろ過して、ろ過済みUFDFコンジュゲーションプールを得た。生成物が完全に回収されるようにフィルタを0.9%NaClで洗い流して、ろ過済みUFDFコンジュゲーションプールを得た。
【0190】
この一般プロトコルはGmAb出発物質1.0gで実施した。プロセスの各段階におけるHMW凝集物の%を
図1に示す。
図1から、DFOプロセスではGmAbコンジュゲートの凝集が生じないことがわかる。
【0191】
このDFOプロセスの結果を表4にまとめる。
【0192】
【0193】
注:
IgG=免疫グロブリン、すなわちGmAb
%HC=重鎖のパーセント
%LC=軽鎖のパーセント
pI=等電点
TLC=薄層クロマトグラフィ
【0194】
実施例4:プロセスの1.0gへのスケールアップ
この実施例では、実施例1と同様のプロセスのスケールアップについて記載する。
【0195】
GmAb-DFOの調製
10mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、150mMNaClにGmAbを溶かした溶液(5mg/mL、1000mg)を出発材料として使用した。
【0196】
TFP-N-sucDf-Fe溶液を、最終濃度2.5mg/mLになるまでACNに溶解して調製した。
【0197】
TFP-N-sucDf-Fe溶液をリンカーとmAbとのモル比3:1でGmAb出発材料に直接添加した。
【0198】
TFP-N-sucDf-Fe溶液を添加した後、反応物を室温で30分間、絶えず混合しながらインキュベートして、コンジュゲート済み生成物プールを得た。
【0199】
Fe錯体化抗体コンジュゲートからFeを除去するためのトランスキレート剤として使用するDFOメシラートを水で調製して、最終濃度67.2mMにした。
【0200】
DFOメシラートトランスキレート剤を、トランスキレート剤とmAbとのモル比1500:1でコンジュゲート済み生成物プールに直接添加した。
【0201】
反応混合物を室温で110分間、絶えず混合しながらインキュベートして、トランスキレーションプロセスを完了させ、トランスキレート化生成物プールを得た。
【0202】
トランスキレート化生成物プールを0.05m2の0.2μmセルロースアセテートフィルタでろ過した後、UF/DFプロセスに供して、50kDaのMWCO膜を使用して未反応のTFP-N-sucDf-Fe、DFOメシラート-Fe錯体、他の小分子を除去し、生成物を最終製剤緩衝液に製剤化した。これにより、UF/DFコンジュゲートプールが得られた。
【0203】
UF/DFコンジュゲートプールを0.05m2の0.2μmセルロースアセテートフィルタでろ過した後、濃度を調整して製剤化生成物プールを得た。
【0204】
製剤化生成物プールをミリパック20フィルタを使用して滅菌ろ過して、バルク原薬を得た。
【0205】
表5.実施例4に従って調製したGmAb-DFOの特性解析
【表5】
【0206】
注:(1)以下に記載の一般プロトコルに従って試験を実施した。(2)残存DFOのLOQ(定量限界)は2.21μg/mLである。(3)ELISAアッセイによって測定した。
【0207】
実施例5:プロセスの5.0gへのスケールアップ
この実施例では、実施例1と同様のプロセスのスケールアップについて記載する。
【0208】
GmAb-DFOの調製
10mMリン酸ナトリウム(pH7.2)、150mMNaClにGmAbを溶かした溶液(5mg/mL、5000mg)を出発材料として使用した。
【0209】
TFP-N-sucDf-Fe溶液を、最終濃度5.0mg/mLになるまでACNに溶解して調製した。
【0210】
TFP-N-sucDf-Fe溶液をリンカーとmAbとのモル比6:1でGmAb出発材料に直接添加した。
【0211】
TFP-N-sucDf-Fe溶液を添加した後、反応物を室温で30分間、絶えず混合しながらインキュベートして、コンジュゲート済み生成物プールを得た。
【0212】
Fe錯体化抗体コンジュゲートからFeを除去するためのトランスキレート剤として使用するDFOメシラートを水で調製して、最終濃度67.2mMにした。
【0213】
DFOメシラートトランスキレート剤を、トランスキレート剤とmAbとのモル比1500:1でコンジュゲート済み生成物プールに直接添加した。
【0214】
反応混合物を室温で110分間、絶えず混合しながらインキュベートして、トランスキレーションプロセスを完了させ、トランスキレート化生成物プールを得た。
【0215】
トランスキレート化生成物プールをUF/DFプロセスに供して、30kDaのMWCO膜を使用して未反応のTFP-N-sucDf-Fe、DFO-メシラート-Fe錯体、他の小分子を除去し、生成物を最終製剤緩衝液に製剤化した。これにより、UF/DFコンジュゲートプールが得られた。
【0216】
UF/DFコンジュゲートプールの濃度を調整して、製剤化生成物プールを得た。
【0217】
製剤化生成物プールをミリパック20フィルタを使用して滅菌ろ過して、バルク原薬を得た。バルク原薬の純度を(以下に概説する一般プロトコルに従って)SEC-HPLCによって評価したところ、以下のことが明らかになった。
【0218】
単量体ピーク99.4%超
RRT(%):100±2%
HMW凝集体0.05%
RRT(%):約70%
【0219】
バルク原薬は、実施例4の生成物の特性解析で利用されるいずれかの技術によって、及び以下に概説する通りに、さらに特性を解析してもよい。
【0220】
表4~表5に記載の分析試験のための一般プロトコル
ドデシル硫酸ナトリウムを使用するキャピラリ電気泳動(CE-SDS)(非還元)。試料をアッセイ緩衝液に緩衝液交換し、ヨードアセトアミドと混合した。試料を70℃に加熱し、冷却した後、96ウェルプレートに加えた。試料及び適切な対照を、モーリス(商標)キャピラリ電気泳動システムを使用して泳動させた。
【0221】
CE-SDS(還元)。
試料をアッセイ緩衝液に緩衝液交換し、2-メルカプトエタノールと混合した。試料を70℃に加熱し、冷却した後、96ウェルプレートに加えた。試料及び適切な対照を、モーリス(商標)キャピラリ電気泳動システムを使用して泳動させた。
【0222】
キャピラリ等電点電気泳動法(cIEF)。
試料を水で希釈し、96ウェルプレートに加え、モーリスキャピラリ電気泳動システムを使用して分析した。酸性種及び塩基性種の相対面積を主要ピークのpIとともに求めた。
【0223】
TLC。
放射性標識試料をTLC紙にスポットし、展開緩衝液の入った展開槽に入れた。展開後、ラジオクロマトグラムを取得し、放射性標識効率をGmAb-DFOに結合した89Zrのパーセントとして算出した。
【0224】
SEC-HPLC。
実施例2に記載した通りである。
【0225】
SEC-HPLC(RAD)。
放射性標識した試料を、必要に応じて移動相で希釈した。Yarra(商標)SEC-3000カラムを使用して試料を分析した。UV及び放射能検出器の両方を使用してデータを取得した。単量体89Zr-DFO-GmAbのピーク面積を観察可能なピーク面積全体と比較することによって、放射化学的純度を求めた。
【0226】
液体クロマトグラフィ質量分析(LC-MS)。
LC-MSは、コンジュゲート抗体と未コンジュゲート抗体とを分離することができるカラムを使用して、標準的な方法の下で操作した。
【0227】
相対結合活性。
当技術分野で公知の任意の手段によって測定してもよい。いくつかの実施形態では、ELISAアッセイ又は任意の他の適切な免疫学的アッセイによって相対結合活性を求めてもよい。
【国際調査報告】