(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】水性の再充電可能な亜鉛金属バッテリー用の負に帯電したアイオノマー膜を有するアセンブリ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/414 20210101AFI20240910BHJP
H01M 50/497 20210101ALI20240910BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240910BHJP
H01M 10/36 20100101ALI20240910BHJP
H01M 4/50 20100101ALI20240910BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240910BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
H01M50/414
H01M50/497
H01M50/489
H01M10/36 Z
H01M4/50
H01M4/38 Z
H01M4/42
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514452
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-04-12
(86)【国際出願番号】 IN2022050760
(87)【国際公開番号】W WO2023031954
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】202111040210
(32)【優先日】2021-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596020691
【氏名又は名称】カウンスィル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】COUNCIL OF SCIENTIFIC & INDUSTRIAL RESEARCH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】ヴィジャヤクマール,ヴィディアナンド
(72)【発明者】
【氏名】トリス,アルン
(72)【発明者】
【氏名】クリアン,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ,ミーナ
(72)【発明者】
【氏名】バディガー,マノハール ヴィルパックス
(72)【発明者】
【氏名】クルンゴット、スリークマール
【テーマコード(参考)】
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H021EE05
5H021EE18
5H021EE25
5H021HH03
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK02
5H029AL11
5H029AM00
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ12
5H029CJ28
5H029DJ04
5H029HJ04
5H029HJ14
5H029HJ20
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA08
5H050CA05
5H050CB13
5H050DA19
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA27
5H050HA04
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、スルホン化ポリビニルアルコール(PVS)とポリビニルアルコール(PVA)の架橋によって作製された、負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜を有する、水性の再充電可能な亜鉛金属バッテリー用(AZMB)のアセンブリに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カソード、
(b)アノード、
(c)電解質、および
(d)負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜を含み、
前記負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜は、ポリビニルアルコール(PVA)と架橋したスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)を含む、水性の再充電可能な亜鉛金属バッテリー用電気化学セルアセンブリ。
【請求項2】
前記負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜が、Zn
2+イオンを伝導する、請求項1に記載の電気化学セルアセンブリ。
【請求項3】
前記カソードが、MnO
2カソードである、請求項1に記載の電気化学セルアセンブリ。
【請求項4】
前記アノードが、亜鉛金属アノードである、請求項1に記載の電気化学セルアセンブリ。
【請求項5】
前記電解質が、水性のZnSO
4である、請求項1に記載の電気化学セルアセンブリ。
【請求項6】
前記負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜が、100~500ミクロンの厚さである、請求項1に記載の電気化学セルアセンブリ。
【請求項7】
セルが、0.25A/gの電流密度で330mAh/gの比容量を有する、請求項1に記載の電気化学セルアセンブリ。
【請求項8】
30:70~70:30の割合で、ポリビニルアルコール(PVA)と架橋したスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)を含む負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜。
【請求項9】
工程a)ポリビニルアルコール(PVA)ポリマー2~8gを溶媒として乾燥ジメチルスルホキシド(DMSO)70~90mLに70~95℃の温度で30~90分間溶解すること、
工程b)炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、および炭酸リチウムから選択される塩基0.5~2gとプロパンスルトン1~2gを工程a)の溶液に加え、10~20時間還流して反応混合物を得ること、
工程c)工程b)で得られた反応混合物を、蒸留水に対してセルロース膜で10~15時間透析し、次いで蒸留により過剰の水を除去して黄色の液体を得ること、
工程d)工程c)の黄色の液体のスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)0.1~0.5gを、ポリビニルアルコール(PVA)水溶液1~5gと水1~5gに混合すること、
工程e)工程d)で得られた混合物を20~30時間撹拌し、ペトリ皿に注ぐこと、および
工程f)上記反応混合物を30~60℃の熱風オーブンで10~20時間加熱し、P-AS-C膜材料を得ることを含む、負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜(P-AS-C)の製造方法。
【請求項10】
P-AS-C膜を半径0.3~0.9mmの小ディスクに打ち抜き、打ち抜いた膜を1MZnSO
4.7H
2O溶液中で72時間膨潤させ、Zn
2+の取り込みを確保することをさらに含む、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に電気化学的エネルギー貯蔵/電気化学的エネルギー変換の技術分野に関する。具体的には、本発明は、水性の再充電可能な亜鉛金属バッテリー用の負に帯電したアイオノマー膜を有するアセンブリに関する。より詳細には、本発明は、水性の再充電可能な亜鉛金属バッテリー(AZMB)用の、スルホン化ポリビニルアルコール(PVS)とポリビニルアルコール(PVA)の架橋によって作製された負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜を有するアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
水性の再充電可能な亜鉛金属バッテリー(AZMB)は、有望な電気化学的エネルギー貯蔵技術として最近広く注目されている。AZMBsには、金属亜鉛(Zn)アノードと適切なカソードが水性の電解質中に結合しており、その間をZn2+イオンが可逆的にシャトリングする。
【0003】
サイクル中の高表面積亜鉛(HSAZ)の析出/亜鉛金属アノードにおける亜鉛デンドライトの成長は、水性の再充電可能な亜鉛金属バッテリー(AZMB)のサイクル安定性を低下させるという重大な問題を引き起こす。電解質、界面相、およびセパレータを調整することで、上記の課題に取り組む試みが過去にいくつか行われてきた。
【0004】
例えば、学術誌「ACS Applied Materials&Interfaces 2018,10(45),38928-38935,DOI:10.1021/acsami.8」に掲載されたLiuらによる「Dendrite Suppression Membranes for Rechargeable Zinc Batteries.b14022」と題された論文は、樹枝状Zn析出を抑制(又は抑圧する;suppress)するための電極表面でのZn2+イオンフラックスの均質な分布を可能にする、架橋ポリアクリロニトリルをベースとする高分子陽イオン交換膜の使用を実証した。
【0005】
学術誌「Angewandte Chemie 2020,132(38),16737-16744」に掲載されたCuiらによる「An Interface-Bridged Organic-Layer that Suppresses Dendrite Formation and Side Reactions for Ultra-Long-Life Aqueous Zinc Metal Anodes」と題された別の論文は、有機-無機ハイブリッド中間相(負に帯電したナフィオンアイオノマーとゼオライトをベース)によるZn金属表面の改質を提案している。このハイブリッド界面は、Zn2+イオン以外のすべての小分子がZn-金属表面に到達するのを防ぎ、起こりうる副反応を回避して優れた界面安定性を提供する。
【0006】
同様に、学術誌「Journal of The Electrochemical Society 2013,160(11),D519」に掲載されたBanikらによる「Suppressing dendrite growth during zinc electrodeposition by PEG-200 additive」と題された論文は、Znデンドライト成長に対するポリ(エチレングリコール)(PEG)ベースの犠牲表面保護層のプラスの効果を証明した。
【0007】
しかしながら、AZMBの完全なセル作製とサイクル研究は、前述のすべての報告で欠落している。Zn金属の表面改質の他の方法としては、TiO2、CaCO3、カーボンコーティング、濃縮電解質の使用などの無機材料によるコーティングがある。
【0008】
最近、Caoらによる「A universal and facile approach to suppress dendrite formation for a Zn and Li metal anode(ZnおよびLi金属負極のデンドライト形成を抑制するための普遍的かつ容易なアプローチ)」と題する論文が、学術誌「Journal of Materials Chemistry A 2020, 8 (18),9331-9344,DOI:10.1039/D0TA02486D」に掲載された。酸化グラフェン(GO)で修飾したガラス繊維セパレータを、MnO2||ZnフルセルにおけるZnデンドライトの発生抑制に用いた。GO修飾セパレータは良好なめっき/剥離プロファイルを示したが、セルのレート-容量と比容量は既存のいくつかの報告と比較して劣っていることがわかった。
【0009】
さらに、Kurungot,S.らによる「Nafion Ionomer-Based Single Component Electrolytes for Aqueous Zn/MnO2 Batteries with Long Cycle Life」と題された別の論文が、学術誌「ACS Sustainable Chemistry&Engineering2020,8(13),5040-5049,DOI:10.1021/acssuschemeng.9b06798」に掲載され、ポリプロピレン、ガラス繊維、フィルターペーパーなどの従来の中性セパレータが、AZMBにおける樹枝状Zn析出を促進することが報告された。その代替として、Znデンドライト抑制のためのZn2+-統合Nafion(商標)(スルホン化テトラフルオロエチレンベースのフッ素樹脂-共重合体)膜の可能性が報告されている。利点はあるものの、ナフィオン(商標)には、経済性の点で欠点がある。さらに、PTFE骨格の疎水性特性によりイオン伝導性が低いため、常温条件下でのNafion(商標)による吸水性は劣る。従って、電解質の取り込み(intake)、電気化学的特性、加工性において、Nafion(商標)より優れたZn2+伝導性アイオノマー膜を設計することが不可欠である。
【0010】
したがって、電解質の取り込み、電気化学的特性、加工性を改善するために、Nafion(商標)のような他の負に帯電したアイオノマー膜の優れた代替品として、Zn2+伝導性アイオノマー膜を設計する必要性が当技術分野にはある。
発明の目的
【0011】
本発明の主な目的は、水性の再充電可能な亜鉛-金属バッテリーAZMB)用の、経済的に実行可能な負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜を有するアセンブリを提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、水性の再充電可能な亜鉛-金属バッテリー(AZMB)用の負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜を提供することである。
【0013】
本発明の他の目的は、負に帯電したデンドライト抑制アイオノマーの製造方法を提供することである。
【発明の概要】
【0014】
従って、この目的を達成するために、本発明は、水性の再充電可能な亜鉛-金属バッテリー(AZMB)のための、経済的に実行可能な負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜を有するアセンブリを提供する。アセンブリは、MnO2カソード、Zn金属アノード、水性のZnSO4電解質、および負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜で構成されている。
【0015】
一実施形態において、本発明は、水性の再充電可能な亜鉛-金属バッテリー(AZMB)用のナフィオン(Nafion)(商標)および中性セパレータの代替となり得るものとして、スルホン化ポリビニルアルコール(PVS)とポリビニルアルコール(PVA)の架橋によって作製された、負に帯電したデンドライト抑制およびZn2+伝導性(又は導電性;conductivity)アイオノマー膜を提供する。
【0016】
実施形態の一態様では、ポリビニルアルコール(PVA)とスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)という2つのポリマーを戦略的に架橋させることにより、自立性(又は自立構造;self-standing)の負に帯電したアイオノマー膜(P-AS-C)が調製される。得られたPVA-co-PVS共重合体膜(P-AS-C)は、PVSから発生したスルホン酸基(SO3-)の存在により、アイオノマー特性を示す。水性のZnSO4溶液中で膨潤させると、P-AS-C膜はZn2+イオンを伝導(又は導電;conduct)できるようになる。以後、P-AS-C-Zn膜と呼ぶ。
【0017】
水性の再充電可能な(又は二次電池、又は充電式rechargeable)亜鉛-金属バッテリーのための電気化学セルアセンブリであって、電気化学セルアセンブリは、(a)カソード(b)アノード(c)電解質(又は電解液;electrolyte)、および(d)負に帯電した(又は負電荷、又は負の電気を帯びた;negatively charged)デンドライト抑制(又は防止、又は阻害;inhibit)アイオノマー膜を含む。ここで、負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜は、ポリビニルアルコール(PVA)と架橋したスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)を含む。
【0018】
本発明の別の態様では、電気化学セルアセンブリの負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜は、Zn2+イオンを伝導する。
【0019】
本発明の別の態様では、電気化学セルのカソードは、MnO2カソードである。
【0020】
本発明の別の態様では、電気化学セルのアノードは、亜鉛金属アノードである。
【0021】
本発明の別の態様では、電気化学セルの電解質は、水性(又は水系;aqueous)のZnSO4である。
【0022】
本発明の別の態様では、電気化学セルの負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜は、100~500μmの厚さである。
【0023】
本発明の別の態様では、電気化学セルは0.25A/gの電流密度で330mAh/gの比容量を有する。
【0024】
別の態様では、本発明は、ポリビニルアルコール(PVA)とスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)とを30:70~70:30の割合で、ポリビニルアルコール(PVA)と架橋したスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)を含む、負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜に関する。
【0025】
実施形態の一態様では、負に帯電したアイオノマー膜(P-AS-C)の製造方法が提供され、かかる製造方法は以下の工程を含む:
工程a)2~8gのPVAポリマーを70~90mLの乾燥DMSO溶媒に70~95℃で30~90分間溶解すること、
工程b)炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、および炭酸リチウムから選択される塩基0.5~2gとプロパンスルトン1~2gを工程a)の溶液に加え、10~20時間還流すること、
工程c)工程b)で得られた反応混合物を、セルロース膜で蒸留水に対して10~15時間透析し、次いで蒸留により過剰の水を除去して黄色の液体を得る(又はもたらす;afford)こと、
工程d)0.1~0.5gのPVSを1~5gのPVA水溶液と1~5gの水に混合すること、
工程e)工程d)で得られた上記混合物を20~30時間撹拌し、ペトリ皿に注ぐこと、および
工程f)上記の反応混合物を30~60℃の熱風オーブンで10~20時間加熱し、P-AS-C膜を得ること。
【0026】
本発明の別の態様では、負に帯電したアイオノマー膜の製造方法は、P-AS-C膜を半径0.3~0.9cmの小ディスクに打ち抜き、打ち抜いた膜を0.5~2MZnSO4・7H2O溶液中で60~80時間膨潤させ、Zn2+の取り込み(uptake)を確保する(又は確実にする;又は保証する;ensure)ことをさらに含む。
【0027】
さらに別の態様では、本発明は、ポリビニルアルコール(PVA)と架橋したスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)を含む負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜に関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1:ピークを割り当てたPVSポリマーの
1HNMRスペクトル。
【0029】
【
図2】
図2:ピークを割り当てたPVSポリマーのFTIRスペクトル。
【0030】
【
図3】
図3:透析および精製後のPVS溶液の写真。
【0031】
【
図4】
図4:(a)P-AS-C膜と(b)PVA-C膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像。
【0032】
【
図5】
図5:P-AS-C膜の(a)エネルギー分散型分光法(EDS)元素マッピングと(b)エネルギー分散型X線分析(EDAX)。
【0033】
【
図6】
図6:PVA-C膜とP-AS-C膜の引張強度分析。
【0034】
【
図7】
図7:1M ZnSO
4水溶液でのP-AS-CおよびPVA-C膜の膨潤試験(電解質溶液に3日間浸漬する前と後の膜の重量差を考慮して収集)。P-AS-C膜はPVA-C膜と比較して高い電解質摂取量を示した。
【0035】
【
図8】
図8:(a)P-AS-C-Zn膜と(b)PVA-C-Zn膜のナイキスト・プロット(温度範囲10~50℃)。
【0036】
【
図9】
図9:Zn
2+伝導性アイオノマー電解質膜(P-AS-C-Zn)の加工における様々な工程。PVSとPVAポリマーの結晶化による架橋により、自立したP-AS-C膜が形成される。P-AS-C膜はZnSO
4溶液中で膨潤すると、P-AS-C膜はZn
2+イオンを確実に取り込む。したがって、形成されたP-AS-C-Zn膜は、MnO
2|P-AS-C-Zn|Znフルセルの製造に使用される。
【0037】
【
図10】
図10:(a)温度の関数としてのイオン伝導度の変化を表すln(σ)対1000/Tプロット(アレニウスプロット);(b)SS||ZnセルアセンブリにおけるP-AS-C-Zn膜およびPVA-C-Zn膜に関連するCVプロファイルの比較;(c)Zn||Zn対称セルにおけるP-AS-C-Zn膜およびPVA-C-Zn膜のZnめっき/剥離プロファイル。
【0038】
【
図11】
図11:(a),(b)Zn|P-AS-C-Zn|Znおよび(c),(d)Zn|PVA-C-Zn|Znセルから回収されたZn金属(作用電極)表面のFESEM像;(e)Zn|P-AS-C-Zn|ZnおよびZn|PVA-C-Zn|Zn対称セルから回収されたZn金属(作用電極)表面のXRDプロファイルを、サイクルされていない原始的なZnと比較したもの。
【0039】
【
図12】
図12:(a)と(b)異なる倍率でのZn(初期(pristine))電極のFESEM像。
【0040】
【
図13】
図13:(a)MnO
2|PVA-C-Zn|Znおよび(b)MnO
2|P-AS-C-Zn|ZnセルのOCVおよび2nd放電で記録されたナイキスト・プロットの比較。関連するランデルス等価回路モデルとフィットも示す。
【0041】
【
図14】
図14:MnO
2|P-AS-C-Zn|ZnおよびMnO
2|PVA-C-Zn|Znセルの(a)CVおよび(b)GCDプロファイルであり、それぞれスキャンレート0.1mVs
-1、電流密度0.25Ag
-1で記録された。MnO
2|P-AS-C-Zn|ZnおよびMnO
2|PVA-C-Zn|Znセルの(c)レート性能および(d)サイクル安定性。
【0042】
【
図15】
図15:さまざまなスキャンレートで記録した(a)MnO
2|P-AS-C-Zn|Znと(b)MnO
2|PVA-C-Zn|ZnのCVプロファイル。
【0043】
【
図16】
図16:さまざまな電流密度で記録した(a)MnO
2|P-AS-C-Zn|Znと(b)MnO
2|PVA-C-Zn|ZnのGCDプロファイル。
【0044】
【
図17】
図17:電流密度0.25Ag
-1におけるMnO
2|P-AS-C|Zn,MnO
2|処理Nafion(商標)|Zn,およびMnO
2|未処理Nafion(商標)|Znセルの比容量の比較。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明の図および説明は、本発明の明確な理解に関連する要素を説明するために簡略化されていることを理解されたい。詳細な説明は、添付の図面を参照して以下に記載する。
【0046】
本発明は、水性の再充電可能な亜鉛-金属バッテリー(AZMB)のための、経済的に実行可能で負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜を有するアセンブリを提供する。このアセンブリには、MnO2カソード、Zn金属アノード、水性のZnSO4電解質、負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜が含まれる。
【0047】
一実施形態において、本発明は、水性の再充電可能な亜鉛-金属バッテリー(AZMB)用のNafion(商標)および中性セパレータに代わる可能性のあるものとして、スルホン化ポリビニルアルコール(PVS)とポリビニルアルコール(PVA)の架橋によって作製された、負に帯電したデンドライト抑制およびZn2+伝導性アイオノマー膜を提供する。
【0048】
実施形態の一態様では、ポリビニルアルコール(PVA)とスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)という2つのポリマーを戦略的に架橋することにより、自立型の負に帯電したアイオノマー膜(P-AS-C)が調製される。得られたPVA-co-PVS共重合体膜(P-AS-C)は、PVS由来のスルホン酸基(SO3-)の存在により、アイオノマー特性を示す。水性のZnSO4溶液中で膨潤させると、P-AS-C膜はZn2+イオンを伝導するようになる。
【0049】
実施形態の一態様では、負に帯電したアイオノマー膜(P-AS-C)を調製するためのプロセスが提供され、このプロセスは以下の工程を含む:
(a)ポリビニルアルコール(PVA)ポリマー2~8gを乾燥ジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒70~90mLに70~95℃で30~90分間溶解する;
(b)炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウムから選択される塩基0.5~2gとプロパンスルトン1~2gを工程a)の溶液に加え、10~20時間還流し、反応混合物を得る;
(c)工程b)で得られた反応混合物をセルロース膜上で蒸留水に対して10~15時間透析し、次いで蒸留により過剰の水を除去して黄色の液体を得る;
(d)0.1~0.5gのスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)を、1~5gのPVA水溶液と1~5gの水に混合する;
(e)工程d)で得られた上記混合物を20~30時間撹拌し、ペトリ皿に注ぐ;および
(f)上記の反応混合物を30~60℃の熱風オーブンで10~20時間加熱し、P-AS-C膜を得る。
【0050】
【0051】
MnO
2||Znセルの比容量を4種類のセパレータ、すなわち(1)非処理Nafion(商標)、(2)前処理Nafion(商標)、(3)P-AS-C-Znアイオノマー膜、および(4)PVA-C-Zn膜(非アイオノマー)と比較した。比較のため、電流密度0.25A/gにおけるMnO
2||Znセルの比容量を取った。比容量値の比較を表-1に示す(参考:
図17)。
【0052】
【0053】
上記のデータから、P-AS-Cアイオノマー膜は未処理のNafion(商標)よりも比容量の点で明らかに優れていることが明確である。P-AS-Cの親水性炭化水素骨格は、未処理Nafion(商標)の疎水性フッ素系骨格と比較して、より優れたイオン伝導に役立っている。前処理を施したNafion(商標)の性能が非処理のNafion(商標)より優れているのは、前処理の結果、より親水性のクラスターが形成されたためと考えられる。P-AS-Cの利点は、前処理工程がなくても、前処理および非処理のNafion(商標)と同等の性能を示すことができることである。さらに、P-AS-Cフィルムの加工は、Nafion(商標)と比較して容易であり、コスト効率に優れている。
【0054】
さらに、P-AS-C膜の場合、Nafion(商標)のパーフルオロエーテル鎖とは異なり、骨格は炭化水素鎖である。そのため、P-AS-C膜はナフィオン(商標)よりも親水性が高く、ナフィオン(商標)に比べて電解質を多く取り込むことができ、イオン伝導の向上に役立つ。P-AS-C膜は親水性であるため、前処理した状態でも、親水性ドメインによって形成されるクラスターはP-AS-Cの方が多くなる。このため、P-AS-CはNafion(商標)よりも優れている。Nafion(商標)膜とP-AS-C-Zn膜を使用したAZMBセルのサイクル安定性は、ほぼ同等である。P-AS-C-Zn膜の加工を改善することで、膜厚をさらに100マイクロメートル以下にすることができる。これにより、Nafion(商標)膜に近い性能をさらに向上させることができる。
【0055】
一実施形態において、本発明は、ポリビニルアルコール(PVA)と架橋したスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)を含む負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜に関する。
【0056】
本発明の別の実施形態では、負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜は親水性である。
【0057】
本発明の別の実施形態では、負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜は、100~500ミクロンの厚さである。好ましくは、300ミクロンの厚さである。
【0058】
本発明の一実施形態では、負に帯電したデンドライト抑制アイオノマー膜中のスルホン化ポリビニルアルコール(PVS)とポリビニルアルコール(PVA)は、好ましくは30:70~70:30の範囲で存在し、最も好ましい比率は50:50である。
【0059】
引張強度測定
P-AS-C膜を長方形(幅5mm、長さ30mm)に打ち抜き、厚さを測定し、1kNのロードセルを装備した較正済み万能試験機(モデル:5943、インストロン、ノーウッド、マサチューセッツ州、米国)の引張グリップに負荷する。引張測定は、クロスヘッド速度1mm/minで3連で行う。荷重と伸長はBluehill(登録商標)IIソフトウェアにより記録され、プロットされる。
【0060】
ゼータ電位測定
PVSとPVA(0.1%w/v)の水溶液を調製し、これらの溶液のpHを測定する。溶液を透明ポリスチレンキュベットにロードし、ゼータ電位アナライザー(Model:ZetaPALS, Brookhaven Instruments, USA)を用いてゼータ電位を3連で測定する。
【0061】
電気化学的特性評価
サイクリックボルタンメトリー(CV)や電気化学インピーダンス分光法(EIS)などの電気化学分析にはBioLogic VMP3 Potentiostatを使用する。作製したセルのガルバノ静電サイクルには、Neware BTS-4008-5V 10mAを使用した。すべての電気化学セルはCR2032コイン電池アセンブリで作製した。MnO2||Znフルセルの作製には、亜鉛金属箔(0.95cm2面積、厚さ100μm)を負極(アノード)として、電着MnO2を正極(カソード)として使用した。電極中のMnO2の担持量は≒1mgcm-2であった。MnO2|P-AS-C-Zn|ZnおよびMnO2|PVA-C-Zn|Znセルの作製には、それぞれP-AS-C-ZnまたはPVA-C-Zn膜(厚さ≒300μm、面積≒1.40cm2)を使用した。同様に、Zn|P-AS-C-Zn|ZnおよびZn|PVA-C-Zn|Znセルも作製し、0.1mAhcm-2の電流密度で1時間(0.1mAhcm-2)Znめっき剥離分析を行った。
【0062】
イオン伝導度測定では、対象の膜をCR2032コインセルアセンブリ内の2つのステンレス(SS)スペーサーの間に配置し、OCVで1MHz~1Hzの周波数範囲間を10mVの電圧振幅でEIS測定を行った。インピーダンス測定中の温度制御にはESPEC環境チャンバーが使用され、10℃ごとに応答が記録される(測定中、セルを各温度に30分間保つことで平衡が維持される)。各温度で得られたバルク抵抗から、式S1を用いて膜のイオン伝導度を計算する。
σ=lA-1Rb
-1......(式S1)
ここで、「Rb」はバルク抵抗、「l」は厚さ、および「A」は膜の面積である。
【0063】
MnO2||ZnフルセルのEIS分析は、OCVで1MHzから100mHzの周波数範囲の間で10mVの電圧振幅で行われ、2nd放電サイクル後の平衡電位は≒0.8Vである。フルセルのCVは、1、0.5、0.3、0.1mVs-1のスキャンレートで記録した。フルセルのガルバノ静電充放電(GCD)プロファイルは、0.25、0.5、1、3Ag-1の電流密度で記録した。AZMBフルセルの比容量値はすべて、カソードのMnO2負荷で正規化した。P-AS-C-Zn膜およびPVA-C-Zn膜のCVは、SS||Znセルにおいて、-0.25~2Vの電位ウィンドウ対Zn|Zn2+の間で、0.5mVs-1のスキャンレートで記録し、酸化および還元安定性ウィンドウを理解した。
【0064】
材料特性
【0065】
20mgのPVSと0.6mlのD2OをNMRチューブに移し、ボルテックスミキサーで混合する。溶解後、1HNMRスペクトルを400MHzスペクトロメーター(Model:Avance,Bruker,Germany)で記録する。一滴のPVSをKBrセルに入れ、FTIRスペクトロメーター(Spectron One, PerkinElmer,Waltham,MA,USA)にロードする。PVSのIRスペクトルが記録され、バックグラウンドが差し引かれる。電気化学的特性評価には、BioLogic VMP3ポテンショスタットとNeware BTS-4008-5V 10mAバッテリーテスターを使用した。インピーダンス測定中の温度制御にはESPEC環境チャンバーを使用した。SEM画像はQuanta 200-3Dを用いて収集した。エネルギー分散型X線分光法(EDX)検出器を備えたQuanta 200-3D装置は、エネルギー分散型分光法(EDS)元素マッピングおよびエネルギー分散型X線分析(EDAX)に使用される。電界放出型走査電子顕微鏡(FESEM)分析にはNova Nano SEM 450を使用。X線回折(XRD)分析は、高強度マイクロフォーカス回転アノードX線発生装置(CuKα(α=1.54オングストローム))を装備したリガクのMicroMax-007HF装置で実施した。
【実施例】
【0066】
以下の実施例は例示であり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0067】
PVA-CおよびPAS-C膜の調製に使用した材料は、ポリビニルアルコール(98mol%加水分解、LOBA Chemie社製)、1,3-プロパンスルトン(Sigma Aldrich社製)、炭酸カリウム(Merck社製)、ジメチルスルホキシド(SD Fine Chemicals社製)である。MnO2の電解析出には東レカーボンペーパーを集電体として用い、Global Nanotech社(ムンバイ)から供給された。MnO2電解析出に使用した塩Mn(OOCCH3)2および(NH4OOCCH3)はSigma Aldrichから購入した。
【0068】
実施例1:MnO2の電解析出
MnO2の電解析出は、標準的な3電極セルアセンブリ(ACS Sustainable Chemistry&Engineering 2020,8(13),5040-5049,DOI:10.1021/acssuschemeng.9b06798)で行った。この目的のために、作用電極として東レカーボンペーパー(面積1cm2)、対極として白金メッシュ、準参照電極として白金ワイヤーを使用した。電解析出浴には、25mLの脱イオン水に溶解した432mgのMn(OOCCH3)2と193mgの(NH4OOCCH3)を入れた。作用電極に4mAcm2の定電流を流し、≒1mgのMnO2を析出させた。
【0069】
実施例2:P-AS-C-Zn膜の調製
PVAとプロパンスルトンの開環反応によって得られるスルホプロピル化によってPVAにアイオノマー特性が付与され、スルホプロピルポリビニルアルコール(PVS)が合成された。PVSの合成には等モル比のPVAとプロパンスルトンを用いた。均一反応中に形成されるスルホン酸基を中和するために炭酸カリウムを使用した。典型的な手順では、5.0gのPVAを80mlの乾燥DMSO溶媒に85°Cで1時間かけて溶解した。K2CO31gとプロパンスルトン1.77gを加え、16時間還流した。冷却後、生成物を蒸留水に対してセルロース膜で12時間透析し、次いでロタ蒸発させて過剰の水分を除去し、黄金色の液体を得た。
【0070】
約0.225gのニートPVSを2.25gの10%(w/v)PVA水溶液と2.025gの水と混合する。混合物を24時間撹拌し、ガラスペトリ皿(直径4.5cm)に注ぎ、45℃の熱風オーブンで12時間加熱し、P-AS-C膜を得た。剥離した膜を半径≒0.67cmの小ディスクに打ち抜き、1M ZnSO4.7H2O溶液中で3日間膨潤させ、Zn2+を確実に取り込ませた。アイオノマー膜の引張強度は10~30MPaの範囲であり、吸水能力は乾燥重量の150~200%の範囲である。
【0071】
実施例3:PVA-C-Zn膜の調製
実施例2と同様の手順で、PVSを含まないPVA-C膜も調製した。剥離した膜を直径≒0.3~0.9cmの小ディスクに打ち抜き、0.5~2M ZnSO4.7H2O溶液中で3日間膨潤させ、Zn2+を確実に取り込ませた。
【0072】
本発明の利点
スルホプロピル化ポリビニルアルコール(PVS)ベースのZn2+伝導性アイオノマー膜は、ナフィオン(商標)に代わる可能性のあるAZMB用中性セパレータとして初めて紹介された。
【0073】
ポリビニルアルコール(PVA)とスルホプロピルポリビニルアルコール(PVS)という2つのポリマーを戦略的に架橋することにより、自立型の負に帯電したアイオノマー膜(P-AS-C)が調製される。
【0074】
膜のアニオン特性により、優れたZnめっき/剥離プロファイル(1100時間以上安定、故障なし)、スムーズなZn析出、高いサイクル安定性(MnO2|P-AS-C-Zn|Znフルセルで500サイクルにわたって50%の容量保持)が得られる。
【0075】
電流密度0.25Ag-1で≒330mAhg-1という高い比容量を示し、これは未処理のNafion(商標)の同等品よりも高い。
【国際調査報告】