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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】コーティングされた切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20240910BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20240910BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20240910BHJP
   B23C 5/10 20060101ALI20240910BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23B51/00 J
B23C5/16
B23C5/10 Z
C23C14/06 A
C23C14/06 P
C23C14/06 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516477
(86)(22)【出願日】2022-09-08
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2022074975
(87)【国際公開番号】W WO2023041415
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】21197469.6
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520333435
【氏名又は名称】エービー サンドビック コロマント
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン, ラース
(72)【発明者】
【氏名】サイコフ, エッバ
【テーマコード(参考)】
3C022
3C037
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C022KK03
3C037CC02
3C037CC08
3C037CC09
3C037CC10
3C037CC11
3C046FF02
3C046FF03
3C046FF04
3C046FF05
3C046FF10
3C046FF13
3C046FF16
3C046FF17
3C046FF25
4K029AA02
4K029AA04
4K029BA58
4K029BB02
4K029BC02
4K029BD05
4K029CA04
4K029CA13
4K029DA08
4K029DB04
4K029DB14
4K029DD06
4K029EA01
4K029FA05
4K029JA02
(57)【要約】
本発明は、基材(5)およびコーティング(6)を含むコーティングされた切削工具(1)であって、コーティング(6)が、Ti1-xAlN(0.35≦x<0.67)である第1のナノ層タイプ(9)、Ti1-ySiN(0.10≦y≦0.25)である第2のナノ層タイプ(10)、およびTi1-zAlN(0.70≦z≦0.90)である第3のナノ層タイプ(11)の交互ナノ層の約0.5~約10μmのナノ多層(8)を含み、ナノ多層(8)における各ナノ層タイプTi1-xAlN(9)、Ti1-ySiN(10)、およびTi1-zAlN(11)の平均ナノ層厚さが、1~30nmである、コーティングされた切削工具(1)に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(5)およびコーティング(6)を含むコーティングされた切削工具(1)であって、コーティング(6)が、Ti1-xAlN(0.35≦x<0.67)である第1のナノ層タイプ(9)、Ti1-ySiN(0.10≦y≦0.25)である第2のナノ層タイプ(10)、およびTi1-zAlN(0.70≦z≦0.90)である第3のナノ層タイプ(11)の交互ナノ層の約0.5~約10μmのナノ多層(8)を含み、ナノ多層(8)におけるナノ層タイプTi1-xAlN(9)、Ti1-ySiN(10)、およびTi1-zAlN(11)のそれぞれの平均ナノ層厚さが、1~30nmである、コーティングされた切削工具(1)。
【請求項2】
ナノ多層(8)における各ナノ層タイプのうちの全ての厚さの合計間の比率、Ti1-xAlN(9):Ti1-ySiN(10):Ti1-zAlN(11)がa:b:c[式中、0.5<a<3、0.5<b<3、0.5<c<3、好ましくは、0.75<a<2.5、0.75<b<2.5、0.75<c<2.5、最も好ましくは、0.9<a<2.25、0.9<b<2.25、0.9<c<2.25である]である、請求項1に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項3】
第1のナノ層タイプ(9)がTi1-xAlNである場合、適切には0.40≦x≦0.67、好ましくは0.45≦x≦0.62である、請求項1または2に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項4】
第2のナノ層タイプ(10)がTi1-ySiNである場合、適切には0.13≦y≦0.23、好ましくは0.17≦y≦0.21である、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項5】
第3のナノ層タイプ(11)がTi1-zAlNである場合、適切には0.70<z≦0.85、好ましくは0.75<z≦0.85である、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項6】
ナノ多層における各ナノ層タイプTi1-xAlN、Ti1-ySiN、およびTi1-zAlNのナノ多層(8)における平均ナノ層厚さが、適切には1~20nm、好ましくは1.5~10nm、最も好ましくは2~5nmである、請求項1から5のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項7】
ナノ多層における、ナノ層タイプTi1-xAlN(9)、Ti1-ySiN(10)、およびTi1-zAlN(11)のうちのいずれか1つと、ナノ層タイプTi1-xAlN(9)、Ti1-ySiN(10)、およびTi1-zAlN(11)のうちの残りの2つのうちのいずれかとの間の、ナノ多層(8)における平均ナノ層厚さの比率が、適切には0.1~10、好ましくは0.5~5、最も好ましくは0.8~2である、請求項1から6のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項8】
ナノ多層(8)における、一連の10個の連続ナノ層、好ましくは8個、最も好ましくは6個の連続ナノ層内に、ナノ層タイプTi1-xAlN(9)、Ti1-ySiN(10)、およびTi1-zAlN(11)のうちの全てが存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項9】
ナノ多層(8)の厚さが、約1~約8μm、好ましくは約1.5~約5μmである、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項10】
コーティング(6)が、基板(5)の最も近くのナノ多層(8)の下方に、約0.1~3μm、好ましくは約0.5~約2μmの厚さを有するTiNまたは(Ti、Al)Nの内層(7)を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項11】
内層(7)が、Ti1-tAlN(0.35≦t≦0.70)である、請求項10に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項12】
内層(7)が、Ti1-uAlN(0.35≦u<0.67)およびTi1-vAlN(0.70≦v≦0.90)の交互ナノ層の(Ti、Al)Nナノ多層である(Ti、Al)N層である、請求項10に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項13】
コーティングされた切削工具(1)の基材(5)が、超硬合金、サーメット、セラミック、立方晶窒化ホウ素、および高速度鋼の群から選択される、請求項1から12のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【請求項14】
コーティングされた切削工具(1)が、金属機械加工のための切削工具インサート、ドリル、またはソリッドエンドミルである、請求項1から13のいずれか一項に記載のコーティングされた切削工具(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ti1-xAlN(0.35≦x<0.67)、Ti1-ySiN(0.10≦y≦0.25)、およびTi1-zAlN(0.70≦y≦0.90)の交互ナノ層のナノ多層を含むコーティングを含むコーティングされた切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属機械加工操作は、例えば、旋削加工、フライス加工、および穴あけ加工を含む。長い工具寿命を提供するために、インサートなどのコーティングされた切削工具は、様々なタイプの摩耗に対して高い耐久性を有するべきである。切削工具の耐摩耗性を増強するために、様々なタイプの耐摩耗性コーティングが当技術分野において知られている。
【0003】
切削工具は、一般に、少なくとも1つのすくい面および少なくとも1つの逃げ面を有する。切れ刃は、すくい面および逃げ面が交わる箇所に存在する。
【0004】
逃げ面の摩耗は、主にアブレシブ摩耗メカニズムから、切れ刃の逃げ面で明らかに生じる。逃げ面は、加工物の移動を受け、逃げ面の摩耗が多過ぎると、加工物の表面テクスチャーが不十分になり、切削プロセスが不正確になり、切削プロセスにおける摩擦が増加する。
【0005】
より良好な逃げ面耐摩耗性が提供される場合、ある特定の金属機械加工操作についてより長い工具寿命がもたらされる。
【0006】
コーティングはまた、機械加工操作の最中に、基材に付着したままでなくてはならず、すなわち、剥離してはならない。ISO-M(ステンレス鋼)およびISO-S(耐熱超合金および例えばチタン)などのいくつかの加工物材料タイプは、いわゆる粘着性材料であり、他の加工物材料タイプよりも剥離を誘導する。これらの材料タイプは、スミアリング挙動(smearing behaviour)も有し、このスミアリング挙動は、加工物材料が切削工具表面上に擦り付き、それによって、最終的に、切れ刃上に加工物材料の構成刃先(BUE)が形成され得ることを意味する。そのようなBUEによって、コーティングが剥離することがあるか、または切削工具の刃先の一部が剥がれることさえある。
【0007】
様々な金属機械加工操作が、コーティングされた切削工具に様々に影響を与える。旋削加工は、例えば、連続的な金属機械加工操作であり、その一方で、フライス加工は、本質的により断続的である。フライス加工では、熱的負荷および機械的負荷が経時的に変化する。熱的負荷は、いわゆる熱亀裂(本明細書では、「櫛状亀裂」と呼ばれる)をコーティング内にもたらし得る熱的張力を誘導し、その一方で、後者は、切れ刃に疲労を引き起こし、チッピング、すなわち、基材の残部から離れた切れ刃の小さな断片をもたらし得る。したがって、フライス加工におけるコーティングされた切削工具の一般的な摩耗タイプは、亀裂およびチッピングである。特に切れ刃におけるコーティングの高いレベルの靱性によって、そのようなチッピングが低減され得る。したがって、高い耐櫛状亀裂性および刃先線靱性は、工具寿命にとって非常に重要である。
【0008】
市場の現在市販されている切削工具よりも優れた特性を有する切削工具を提供するために、コーティングが、耐摩耗性、刃先線靱性、耐櫛状亀裂性、耐剥離性などの点で優れた特性を有する、コーティングされた切削工具の継続的な需要がある。上述の特性のうちの1つ以上が改善されると、より長い工具寿命がもたらされる。
【0009】
ナノ多層コーティングは、金属機械加工のための切削工具の分野で使用されている。これらのコーティングにおいて、ある点で異なる少なくとも2つの層は、ナノ層のスタックのコーティングを交互に形成する。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、高い逃げ面耐摩耗性および高い耐剥離性を少なくとも示すコーティングされた切削工具を提供することである。
【0011】
本発明の目的は、基材およびコーティングを含むコーティングされた切削工具であって、コーティングが、Ti1-xAlN(0.35≦x<0.67)である第1のナノ層タイプ、Ti1-ySiN(0.10≦y≦0.25)である第2のナノ層タイプ、およびTi1-zAlN(0.70≦z≦0.90)である第3のナノ層タイプの交互ナノ層の約0.5~約10μmのナノ多層を含み、ナノ多層における各ナノ層タイプTi1-xAlN、Ti1-ySiN、およびTi1-zAlNの平均ナノ層厚さが、1~30nmである、コーティングされた切削工具によって実現される。
【0012】
本明細書において、「第1のナノ層タイプ、第2のナノ層タイプ、および第3のナノ層タイプの交互ナノ層のナノ多層」とは、異なるタイプのナノ層が一般にナノ多層においてある特定の順序で交互になっていることを意味する。しかしながら、PVD反応器内でナノ多層を堆積させるために選択される手法を理由に、例えば、コーティングされる工具のいわゆる3回回転を使用すると、ナノ多層内のいくつかの箇所において、3つのタイプのナノ層の順序の変更があり得る。
【0013】
一実施形態では、ナノ多層における各ナノ層タイプのうちの全てのナノ層厚さの合計間の比率、Ti1-xAlN:Ti1-ySiN:Ti1-zAlNがa:b:c[式中、0.5<a<3、0.5<b<3、0.5<c<3、好ましくは、0.75<a<2.5、0.75<b<2.5、0.75<c<2.5、最も好ましくは、0.9<a<2.25、0.9<b<2.25、0.9<c<2.25である]である。
【0014】
ナノ多層における各ナノ層タイプのナノ層厚さの合計間の比率、Ti1-xAlN:Ti1-ySiN:Ti1-zAlN、すなわち、a:b:cは、走査型透過電子顕微鏡(STEM)分析によって、好ましくはエネルギー分散型X線分光法(EDS)と組み合わせて決定することができ、基材表面に垂直な距離にわたって、元素組成および個別ナノ層の厚さが決定される。平均ナノ層厚さの少なくとも25倍の距離が使用される。第1のナノ層タイプTi1-xAlNのナノ層のナノ層厚さの合計は「a」であり、第2のナノ層タイプTi1-ySiNのナノ層のナノ層厚さの合計は「b」であり、第3のナノ層タイプTi1-zAlNのナノ層のナノ層厚さの合計は「c」である。
【0015】
ナノ多層における各ナノ層タイプTi1-xAlN、Ti1-ySiN、およびTi1-zAlNの平均ナノ層厚さはまた、上述のSTEM/EDS分析によって決定することができる。
【0016】
第1のナノ層タイプがTi1-xAlNである場合、適切には0.40≦x≦0.67、好ましくは0.45≦x≦0.62である。
【0017】
第2のナノ層タイプがTi1-ySiNである場合、適切には0.13≦y≦0.23、好ましくは0.17≦y≦0.21である。
【0018】
第3のナノ層タイプがTi1-zAlNである場合、適切には0.70<z≦0.85、好ましくは0.75<z≦0.85である。
【0019】
ナノ多層における各ナノ層タイプTi1-xAlN、Ti1-ySiN、およびTi1-zAlNのナノ多層における平均ナノ層厚さは、適切には1~20nm、好ましくは1.5~10nm、最も好ましくは2~5nmである。
【0020】
ナノ多層における、ナノ層タイプTi1-xAlN、Ti1-ySiN、およびTi1-zAlNのうちのいずれか1つと、ナノ層タイプTi1-xAlN、Ti1-ySiN、およびTi1-zAlNのうちの残りの2つのうちのいずれかとの間のナノ多層における平均ナノ層厚さの比率は、適切には0.1~10、好ましくは0.5~5、最も好ましくは0.8~2である。
【0021】
適切には、ナノ多層における、一連の10個の連続ナノ層、好ましくは8個、最も好ましくは6個の連続ナノ層内に、ナノ層タイプTi1-xAlN、Ti1-ySiN、およびTi1-zAlNのうちの全てが存在する。
【0022】
ナノ多層の厚さは、適切には約1~約8μm、好ましくは約1.5~約5μmである。
【0023】
一実施形態では、コーティングは、ナノ多層の下方に、好ましくは基材の最も近くに、TiNまたは(Ti,Al)Nの内層を含む。(Ti,Al)N層は、単層、または異なるTi/Al比率の交互ナノ層のナノ多層のいずれかであり得る。好ましくは、内層は(Ti,Al)Nである。(Ti,Al)Nが内層として使用される場合、(Ti,Al)Nは、適切にはTi1-tAlN(0.35≦t≦0.67、好ましくは0.40≦t≦0.67、最も好ましくは0.45≦t≦0.62)である。好ましい実施形態では、内層の(Ti,Al)NにおけるTi-Alの関係は、ナノ多層の第1のナノ層タイプにおけるTi-Alの関係と同じである。これは、ナノ多層ですでに使用されているのと同じターゲットが使用され得る場合、これによって製造が簡略化されるためである。この内層の厚さは、適切には約0.1~約3μmであり、好ましくは約0.5~約2μmである。
【0024】
一実施形態では、コーティングされた切削工具の色を制御する目的で、コーティングは、第1のナノ層タイプTi1-xAlN(0.35≦x<0.67)、第2のナノ層タイプTi1-ySiN(0.10≦y≦0.25)、または第3のナノ層タイプTi1-zAlN(0.70≦z≦0.90)のうちのいずれか1つの最外単一層を含む。
【0025】
最外層のx、y、またはzの値は、好ましくは、ナノ多層のTi1-xAlN、Ti1-ySiN、またはTi1-zAlNのx、y、またはzと同じである。これは、ナノ多層ですでに使用されているのと同じターゲットが使用され得る場合、これによって製造が簡略化されるためである。
【0026】
この最外層の厚さは、適切には約0.1~約0.5μm、好ましくは約0.1~約0.3μmである。
【0027】
第1のナノ層タイプ、第2のナノ層タイプ、および第3のナノ層タイプのナノ層は、適切には、カソードアークエバポレーション堆積層である。また、TiNまたは(Ti,Al)Nの任意選択的な内層、ならびに任意選択的な最外単一層は、適切には、カソードアークエバポレーション堆積層である。
【0028】
コーティングされた切削工具の基材は、超硬合金、サーメット、セラミック、立方晶窒化ホウ素、および高速度鋼の群から選択され得る。一実施形態では、基材は、5~18重量%のCoを含む超硬合金である。
【0029】
コーティングされた切削工具は、適切には、金属機械加工のための切削工具インサート、ドリル、またはソリッドエンドミルである。切削工具インサートは、例えば、旋削加工インサートまたはフライス加工インサートである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】フライス加工インサートである切削工具の一実施形態を示す概略図である。
図2】旋削加工インサートである切削工具の一実施形態を示す概略図である。
図3】基材と、異なる層を含むコーティングとを示す本発明のコーティングされた切削工具の一実施形態の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図面における実施形態の詳細な説明
図1は、すくい面2と、逃げ面3と、切れ刃4とを有する切削工具(1)の一実施形態の概略図を示す。切削工具1は、この実施形態では、フライス加工インサートである。図2は、すくい面2と、逃げ面3と、切れ刃4とを有する切削工具1の一実施形態の概略図を示す。切削工具1は、この実施形態では、旋削加工インサートである。図3は、基材5とコーティング6とを有する本発明のコーティングされた切削工具の一実施形態の断面の概略図を示す。コーティング6は、第1の(Ti,Al)N最内層7、続いて、Ti1-xAlN、Ti1-ySiN、およびTi1-zAlNである交互ナノ層9、10、および11のナノ多層8からなる。
【0032】
一実施形態では、ナノ多層8における各ナノ層タイプ9、10、11のナノ層厚さの合計間のナノ多層8における比率であるa:b:cのTi1-xAlN:Ti1-ySiN:Ti1-zAlNがあり、1.5<a<2.5、0.75<b<1.25、0.75<c<1.25、好ましくは、1.75<a<2.25、0.9<b<1.1、0.9<c<1.1である。この実施形態では、ナノ多層8は、適切には、Ti1-xAlN/Ti1-zAlN/Ti1-xAlN/Ti1-ySiNの順序で、第1のナノ層タイプ9であるTi1-xAlN、第2のナノ層タイプ10であるTi1-ySiN、および第3のナノ層タイプ11であるTi1-zAlNの連続ナノ層の繰り返しシーケンスを含む。ナノ多層8は、適切には、(Ti1-xAlN/Ti1-zAlN/Ti1-xAlN/Ti1-ySiN..)から構成されており、m=15~1500、適切にはm=30~800である。
【0033】
さらなる実施形態では、ナノ多層8における各ナノ層タイプ9、10、11のナノ層厚さの合計間のナノ多層8における比率であるa:b:cのTi1-xAlN:Ti1-ySiN:Ti1-zAlNがあり、0.75<a<1.25、1.5<b<2.5、0.75<c<1.25、好ましくは、0.9<a<1.1、1.75<b<2.25、0.9<c<1.1である。この実施形態では、ナノ多層8は、適切には、Ti1-xAlN/Ti1-ySiN/Ti1-zAlN/Ti1-ySiNの順序で、第1のナノ層タイプ9であるTi1-xAlN、第2のナノ層タイプ10であるTi1-ySiN、および第3のナノ層タイプ11であるTi1-zAlNの連続ナノ層の繰り返しシーケンスを含む。ナノ多層(8)は、適切には、(Ti1-xAlN/Ti1-ySiN/Ti1-zAlN/Ti1-ySiN)から構成されており、n=15~1500、適切にはn=30~800である。
【0034】
さらなる実施形態では、ナノ多層8における各ナノ層タイプ9、10、11のナノ層厚さの合計間のナノ多層8における比率であるa:b:cのTi1-xAlN:Ti1-ySiN:Ti1-zAlNがあり、0.75<a<1.25、0.75<b<1.25、1.5<c<2.5、好ましくは、0.9<a<1.1、0.9<b<1.1、1.75<c<2.25である。この実施形態では、ナノ多層8は、適切には、Ti1-zAlN/Ti1-xAlN/Ti1-zAlN/Ti1-ySiNの順序で、第1のナノ層タイプ9であるTi1-xAlN、第2のナノ層タイプ10であるTi1-ySiN、および第3のナノ層タイプ11であるTi1-zAlNの連続ナノ層の繰り返しシーケンスを含む。ナノ多層8は、適切には、(Ti1-zAlN/Ti1-xAlN/Ti1-zAlN/Ti1-ySiN)から構成されており、p=15~1500、適切にはp=30~800である。
【0035】
さらなる実施形態では、ナノ多層8における各ナノ層タイプ9、10、11のナノ層厚さの合計間のナノ多層8における比率であるa:b:cのTi1-xAlN:Ti1-ySiN:Ti1-zAlNがあり、0.75<a<1.25、0.75<b<1.25、0.75<c<1.25、好ましくは、0.9<a<1.1、0.9<b<1.1、0.9<c<1.1である。この実施形態では、ナノ多層8は、適切には、Ti1-xAlN/Ti1-ySiN/Ti1-zAlNの順序で、第1のナノ層タイプ9であるTi1-xAlN、第2のナノ層タイプ10であるTi1-ySiN、および第3のナノ層タイプ11であるTi1-zAlNの連続ナノ層の繰り返しシーケンスを含む。ナノ多層8は、適切には、(Ti1-xAlN/Ti1-ySiN/Ti1-zAlN)から構成されており、q=20~2000、適切にはq=40~1000である。
【0036】
さらなる実施形態では、コーティング6は、ナノ多層8の下方に、好ましくは基材5の最も近くに、(Ti,Al)Nの内層7を含み、内層7は、Ti1-uAlN(0.35≦u<0.67、適切には0.40≦u≦0.67、好ましくは0.45≦u≦0.62)およびTi1-vAlN(0.70≦v≦0.90、適切には0.70≦v≦0.80)の交互ナノ層の(Ti,Al)Nナノ多層である(Ti,Al)N層である。
【0037】
(Ti,Al)Nナノ多層におけるTi1-uAlN層の平均ナノ層厚さは、適切には1~30nm、好ましくは1~20nm、最も好ましくは2~10nmである。この内層7の厚さは、適切には約0.1~約3μmであり、好ましくは約0.5~約2μmである。
【実施例
【0038】
実施例1(本発明)
CNMG120408MMおよびR390-11T308M-PMの形状の焼結超硬合金切削工具インサートブランク上に堆積させたTi0.85Si0.15N、Ti0.50Al0.50N、およびTi0.20Al0.80Nナノ層のナノ多層を含むコーティングされた切削工具を提供した。超硬合金の組成は、Co10重量%、Cr0.4重量%、および残分WCであった。超硬合金ブランクを、4つのアークフランジ(各フランジは、複数のカソードエバポレーターを含む)を含む真空チャンバ内でカソードアークエバポレーションによってコーティングした。Ti0.50Al0.50のターゲットを、互いに対向したフランジのうちの2つにおいて、エバポレーター内に取り付けた。残りのターゲットであるTi0.85Si0.15およびTi0.20Al0.80を、互いに対向した残りの2つのフランジにおいて、エバポレーター内に取り付けた。ターゲットは、円形および平面状であり、直径は、一般市場で入手可能な100mmであった。アークエバポレーションのための適切なターゲット技術パッケージは、IHI Hauzer Techno Coating B.V.,Kobelco(Kobe Steel Ltd.)およびOerlikon Balzersなどの市場のサプライヤーから入手可能である。
【0039】
コーティングされていないブランクを、PVDチャンバ内で3回回転を受けるピンに取り付けた。
【0040】
チャンバを高真空(10-2Pa未満)にポンプダウンし(pump down)、チャンバ内に位置しているヒーターによって約450~550℃に加熱した。次いで、ブランクをArプラズマにおいて60分間エッチングした。
【0041】
最初に、Ti0.50Al0.50ターゲットのみを使用することによって、Ti0.50Al0.50Nの最内層を堆積させた。
【0042】
チャンバ圧力(反応圧力)を4PaのNガスに設定し、(チャンバ壁に対して)-50VのDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを150Aの電流でアーク放電モードにおいて(それぞれ)70分間動作させた(2つのフランジ)。テーブル回転速度は、5rpmであった。約1.4μmの厚さを有するTi0.50Al0.50Nの層をブランク上に堆積させた。
【0043】
次いで、取り付けられたターゲットを全て使用することによって、ナノ多層を堆積させた。
【0044】
チャンバ圧力(反応圧力)を4PaのNガスに設定し、(チャンバ壁に対して)-70VのDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを150Aの電流でアーク放電モードにおいて(それぞれ)35分間動作させた(4つのフランジ)。テーブル回転速度は、5rpmであった。約1.4μmの厚さを有するナノ多層コーティングをブランク上に堆積させた。
【0045】
回転速度は、ある特定の段階の厚さと相関関係にあり、現在の堆積速度および使用される設備の場合の5rpmのテーブル回転速度が、各ナノ層Ti0.50Al0.50N、Ti0.85Si0.15N、およびTi0.20Al0.80Nの約2nmの平均個別ナノ層厚さと相関関係にあると結論付けられた。ナノ多層のナノ層の数は、約700である。
【0046】
ナノ多層は、Ti0.50Al0.50N/Ti0.20Al0.80N/Ti0.50Al0.50N/Ti0.85Si0.15Nの順序で、連続ナノ層の繰り返しシーケンスを含む。
【0047】
最後に、作製した個別のコーティングされた切削工具間で均一な色を得るために、Ti0.85Si0.15ターゲットのみを使用することによって、Ti0.85Si0.15Nの最外層を堆積させた。バイアスが-60Vであり、カソードを10分間動作させたことを除いて、全ての堆積パラメーターが、前の層を堆積させる場合と同じであった(1つのフランジ)。Ti0.85Si0.15Nの層を約0.2μmの厚さに堆積させた。
【0048】
ナノ多層において、各ナノ層Ti0.50Al0.50N、Ti0.85Si0.15N、Ti0.20Al0.80Nそれぞれのナノ層厚さの合計の比率、すなわち、Ti0.50Al0.50N:Ti0.85Si0.15N:Ti0.20Al0.80Nは、約2:1:1である。この比率は、同じであると仮定された各ターゲットからの堆積速度、堆積の最中の回転、および堆積時間から推定される。
【0049】
コーティングされた切削工具は、「試料1(本発明)」と称する。
【0050】
実施例2
CNMG120408MMおよびR390-11T308M-PMの形状の焼結超硬合金切削工具インサートブランク上に堆積したTi0.85Si0.15N、Ti0.50Al0.50N、およびTi0.20Al0.80Nナノ層のナノ多層を含むコーティングされた切削工具を提供した。超硬合金の組成は、Co10重量%、Cr0.4重量%、および残分WCであった。超硬合金ブランクを、4つのアークフランジ(各フランジは、複数のカソードエバポレーターを含む)を含む真空チャンバ内でカソードアークエバポレーションによってコーティングした。Ti0.50Al0.50のターゲットを、互いに対向したフランジのうちの2つにおいて、エバポレーター内に取り付けた。残りのターゲットであるTi0.85Si0.15およびTi0.20Al0.80を、互いに対向した残りの2つのフランジにおいて、エバポレーター内に取り付けた。ターゲットは、円形および平面状であり、直径は、一般市場で入手可能な100mmであった。アークエバポレーションのための適切なターゲット技術パッケージは、IHI Hauzer Techno Coating B.V.,Kobelco(Kobe Steel Ltd.)およびOerlikon Balzersなどの市場のサプライヤーから入手可能である。
【0051】
コーティングされていないブランクを、PVDチャンバ内で3回回転を受けるピンに取り付けた。
【0052】
チャンバを高真空(10-2Pa未満)にポンプダウンし、チャンバ内に位置しているヒーターによって約450~550℃に加熱した。次いで、ブランクをArプラズマにおいて60分間エッチングした。
【0053】
最初に、Ti0.50Al0.50ターゲットのみを使用することによって、Ti0.50Al0.50Nの最内層を堆積させた。
【0054】
チャンバ圧力(反応圧力)を4PaのNガスに設定し、(チャンバ壁に対して)-50VのDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを150Aの電流でアーク放電モードにおいて(それぞれ)70分間動作させた(2つのフランジ)。テーブル回転速度は、5rpmであった。約1.4μmの厚さを有するTi0.50Al0.50Nの層をブランク上に堆積させた。
【0055】
次いで、Ti0.85Si0.15ターゲットおよびTi0.20Al0.80ターゲットの使用を交互にすることによって、ナノ多層を堆積させ、厚さ約35nmのTi0.85Si0.15N/Ti0.20Al0.80Nナノ多層の第1のシーケンスを生成した。テーブル回転速度は、5rpmであった。次いで、Ti0.50Al0.50ターゲットのみを使用して、厚さ約35nmのTi0.50Al0.50N層を生成した。この手順を、Ti0.50Al0.50Nの「単層」と組み合わされたナノ層Ti0.85Si0.15NおよびTi0.20Al0.80Nのナノ多層シーケンスの20個のシーケンスが完了するまで繰り返した。堆積したナノ多層の合計厚さは、約1.4μmであった。
【0056】
チャンバ圧力(反応圧力)を4PaのNガスに設定し、Ti0.85Si0.15およびTi0.20Al0.80ターゲットを使用する場合は、(チャンバ壁に対して)-40VのDCバイアス電圧を、Ti0.50Al0.50ターゲットを使用する場合は、(チャンバ壁に対して)-80VのDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを150Aの電流でアーク放電モードにおいて(それぞれ)70分間動作させた(一度に2つのフランジ)。テーブル回転速度は、5rpmであった。約1.4μmの厚さを有するナノ多層コーティングをブランク上に堆積させた。
【0057】
回転速度は、ある特定の段階の厚さと相関関係にあり、現在の堆積速度および使用される設備の場合の5rpmのテーブル回転速度が、各ナノ層Ti0.85Si0.15NおよびTi0.20Al0.80Nの約2nmの平均個別ナノ層厚さと相関関係にあると結論付けられた。
【0058】
最後に、作製した個別のコーティングされた切削工具間で均一な色を得るために、Ti0.85Si0.15ターゲットのみを使用することによって、Ti0.85Si0.15Nの最外層を堆積させた。バイアスが-60Vであり、カソードを10分間動作させたことを除いて、全ての堆積パラメーターが、前の層を堆積させる場合と同じであった(1つのフランジ)。Ti0.85Si0.15Nの層を約0.2μmの厚さに堆積させた。
【0059】
コーティングされた切削工具は、「試料2(比較)」と称する。
【0060】
実施例3
Ti0.80Si0.20Nナノ層と、Ti0.40Al0.60Nナノ層と、それぞれ、CNMG120408MMおよびR390-11T308M-PMの形状の焼結超硬合金切削工具インサートブランク上に堆積した高AlのTi0.25Al0.75N、Ti0.15Al0.85N、またはTi0.05Al0.95Nナノ層のうちの1つとのナノ多層を含むコーティングされた切削工具の試料の3つの異なるセットを提供した。超硬合金の組成は、Co10重量%、Cr0.4重量%、および残分WCであった。超硬合金ブランクを、4つのアークフランジ(各フランジは、複数のカソードエバポレーターを含む)を含む真空チャンバ内でカソードアークエバポレーションによってコーティングした。Ti0.80Si0.20のターゲットを、互いに対向したフランジのうちの2つにおいて、エバポレーター内に取り付けた。残りのターゲットであるTi0.40Al0.60および使用される高Alの(Ti,Al)ターゲット(3回の異なる動作において、それぞれTi0.25Al0.75、Ti0.15Al0.85、またはTi0.05Al0.95)を、互いに対向した残りの2つのフランジにおいて、エバポレーター内に取り付けた。ターゲットは、円形および平面状であり、直径は、一般市場で入手可能な100mmであった。アークエバポレーションのための適切なターゲット技術パッケージは、IHI Hauzer Techno Coating B.V.,Kobelco(Kobe Steel Ltd.)およびOerlikon Balzersなどの市場のサプライヤーから入手可能である。
【0061】
コーティングされていないブランクを、PVDチャンバ内で3回回転を受けるピンに取り付けた。
【0062】
チャンバを高真空(10-2Pa未満)にポンプダウンし、チャンバ内に位置しているヒーターによって約450~550℃に加熱した。次いで、ブランクをArプラズマにおいて60分間エッチングした。
【0063】
最初に、Ti0.40Al0.60ターゲットのみを使用することによって、Ti0.40Al0.60Nの最内層を堆積させた。チャンバ圧力(反応圧力)を4PaのNガスに設定し、(チャンバ壁に対して)-70VのDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを150Aの電流でアーク放電モードにおいて(それぞれ)100分間動作させた(1つのフランジ)。テーブル回転速度は、5rpmであった。約1μmの厚さを有するTi0.40Al0.60Nの層をブランク上に堆積させた。
【0064】
次いで、取り付けられたターゲットを全て使用することによって、ナノ多層を堆積させた。
【0065】
チャンバ圧力(反応圧力)を4PaのNガスに設定し、(チャンバ壁に対して)-100VのDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを150Aの電流でアーク放電モードにおいて(それぞれ)50分間動作させた(4つのフランジ)。テーブル回転速度は、5rpmであった。約2μmの厚さを有するナノ多層コーティングをブランク上に堆積させた。
【0066】
テーブル回転速度は、ある特定の段階の厚さと相関関係にあるため、現在の堆積速度および使用される設備の場合の5rpmのテーブル回転速度が、作製した3つの異なるナノ多層において、各ナノ層Ti0.40Al0.60N、Ti0.80Si0.20N、ならびにまたTi0.25Al0.75N、Ti0.15Al0.85NおよびTi0.05Al0.95Nそれぞれの約2nmの平均個別ナノ層厚さと相関関係にあると結論付けられた。ナノ多層の3つの異なるセット全てにおけるナノ層の数は、約1000である。
【0067】
試料の第1のセットのナノ多層は、Ti0.40Al0.60N/Ti0.80Si0.20N/Ti0.25Al0.75N/Ti0.80Si0.20Nの順序で、連続ナノ層の繰り返しシーケンスを含む。試料の第2のセットのナノ多層は、Ti0.40Al0.60N/Ti0.80Si0.20N/Ti0.15Al0.85N/Ti0.80Si0.20Nの順序で、連続ナノ層の繰り返しシーケンスを含む。試料の第3のセットのナノ多層は、Ti0.40Al0.60N/Ti0.80Si0.20N/Ti0.05Al0.95N/Ti0.80Si0.20Nの順序で、連続ナノ層の繰り返しシーケンスを含む。
【0068】
最後に、作製した個別のコーティングされた切削工具間で均一な色を得るために、試料の3つの異なるセットについてのそれぞれのナノ多層を堆積させる場合に使用したそれぞれの高Alの(Ti,Al)ターゲットのみを使用することによって、最外層を堆積させた。バイアスが-100Vであり、カソードを10分間動作させたことを除いて、全ての堆積パラメーターが、前の層を堆積させる場合と同じであった(1つのフランジ)。Ti0.25Al0.75N、Ti0.15Al0.85N、またはTi0.05Al0.95Nの層を、試料の3つの異なるセット上に、約0.2μmの厚さにそれぞれ堆積させた。
【0069】
ナノ多層において、各ナノ層Ti0.40Al0.60N、Ti0.85Si0.15N、ならびにTi0.25Al0.75N、Ti0.15Al0.85N、およびTi0.05Al0.95Nのうちの1つのそれぞれの厚さの厚さ比率合計、すなわち、Ti0.40Al0.60N:Ti0.85Si0.15N:(Ti0.25Al0.75N、Ti0.15Al0.85N、またはTi0.05Al0.95N)は、約1:2:1である。この比率は、同じであると仮定された各ターゲットからの堆積速度、堆積の最中の回転、および堆積時間から推定される。
【0070】
作製したコーティングされた切削工具は、以下のように称する:
- ナノ多層が、Ti0.80Si0.20N、Ti0.40Al0.60N、およびTi0.25Al0.75Nのナノ層で構成されている、コーティングされた切削工具についての「試料3」、
- ナノ多層が、Ti0.80Si0.20N、Ti0.40Al0.60N、およびTi0.15Al0.85Nのナノ層で構成されている、コーティングされた切削工具についての「試料4」、
- ナノ多層が、Ti0.80Si0.20N、Ti0.40Al0.60N、およびTi0.05Al0.95Nのナノ層で構成されている、コーティングされた切削工具についての「試料5」。
【0071】
実施例4
CNMG120408MMおよびR390-11T308M-PMの形状の焼結超硬合金切削工具インサートブランク上に堆積したTi0.80Si0.20N、Ti0.40Al0.60N、およびTi0.25Al0.75Nナノ層のナノ多層を含むコーティングされた切削工具を提供した。超硬合金の組成は、Co10重量%、Cr0.4重量%、および残分WCであった。超硬合金ブランクを、4つのアークフランジ(各フランジは、複数のカソードエバポレーターを含む)を含む真空チャンバ内でカソードアークエバポレーションによってコーティングした。Ti0.80Si0.20のターゲットを、互いに対向したフランジのうちの2つにおいて、エバポレーター内に取り付けた。残りのターゲットであるTi0.40Al0.60およびTi0.25Al0.75を、互いに対向した残りの2つのフランジにおいて、エバポレーター内に取り付けた。ターゲットは、円形および平面状であり、直径は、一般市場で入手可能な100mmであった。アークエバポレーションのための適切なターゲット技術パッケージは、IHI Hauzer Techno Coating B.V.,Kobelco(Kobe Steel Ltd.)およびOerlikon Balzersなどの市場のサプライヤーから入手可能である。
【0072】
コーティングされていないブランクを、PVDチャンバ内で3回回転を受けるピンに取り付けた。
【0073】
チャンバを高真空(10-2Pa未満)にポンプダウンし、チャンバ内に位置しているヒーターによって約450~550℃に加熱した。次いで、ブランクをArプラズマにおいて60分間エッチングした。
【0074】
最初に、Ti0.40Al0.60およびTi0.25Al0.75ターゲットのみを使用することによって、Ti0.40Al0.60NおよびTi0.25Al0.75Nナノ層のナノ多層である最内層を堆積させた。
【0075】
チャンバ圧力(反応圧力)を4PaのNガスに設定し、(チャンバ壁に対して)-100VのDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを150Aの電流でアーク放電モードにおいて(それぞれ)50分間動作させた(2つのフランジ)。テーブル回転速度は、5rpmであった。約1μmの厚さを有するTi0.40Al0.60NおよびTi0.25Al0.75Nのナノ多層の層をブランク上に堆積させた。現在の堆積速度および使用される設備の場合の回転速度は、ある特定の段階の厚さと相関関係にあるため、平均個別ナノ層厚さが約2nmであると結論付けられた。
【0076】
次いで、取り付けられたターゲットを全て使用することによって、Ti0.80Si0.20N、Ti0.40Al0.60N、およびTi0.25Al0.75Nナノ層のナノ多層を堆積させた。
【0077】
チャンバ圧力(反応圧力)を4PaのNガスに設定し、(チャンバ壁に対して)-100VのDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを150Aの電流でアーク放電モードにおいて(それぞれ)50分間動作させた(4つのフランジ)。テーブル回転速度は、5rpmであった。約2μmの厚さを有するナノ多層コーティングをブランク上に堆積させた。
【0078】
回転速度は、ある特定の段階の厚さと相関関係にあり、現在の堆積速度および使用される設備の場合の5rpmのテーブル回転速度が、各ナノ層Ti0.40Al0.60N、Ti0.80Si0.20N、およびTi0.25Al0.75Nの約2nmの平均個別ナノ層厚さと相関関係にあると結論付けられた。ナノ多層のナノ層の数は、約1000である。
【0079】
ナノ多層は、Ti0.40Al0.60N/Ti0.80Si0.20N/Ti0.25Al0.75N/Ti0.80Si0.20Nの順序で、連続ナノ層の繰り返しシーケンスを含む。
【0080】
最後に、作製した個別のコーティングされた切削工具間で均一な色を得るために、Ti0.25Al0.75ターゲットのみを使用することによって、Ti0.25Al0.75Nの最外層を堆積させた。全ての堆積パラメーターが、前の層を堆積させる場合と同じであり、カソードは、10分間動作させた(1つのフランジ)。Ti0.25Al0.75Nの層を約0.2μmの厚さに堆積させた。
【0081】
3つのナノ層タイプのナノ多層において、各ナノ層Ti0.40Al0.60N、Ti0.80Si0.20N、Ti0.25Al0.75Nそれぞれの厚さの厚さ比率合計、すなわち、Ti0.40Al0.60N:Ti0.80Si0.20N:Ti0.25Al0.75Nは、約1:2:1である。この比率は、同じであると仮定された各ターゲットからの堆積速度、堆積の最中の回転、および堆積時間から推定される。
【0082】
コーティングされた切削工具は、「試料6」と称する。
【0083】
実施例5
CNMG120408MMおよびR390-11T308M-PMの形状の焼結超硬合金切削工具インサートブランク上に堆積したTi0.80Si0.20N、Ti0.40Al0.60N、およびTi0.15Al0.85Nナノ層のナノ多層を含むコーティングされた切削工具を提供した。超硬合金の組成は、Co10重量%、Cr0.4重量%、および残分WCであった。超硬合金ブランクを、4つのアークフランジ(各フランジは、複数のカソードエバポレーターを含む)を含む真空チャンバ内でカソードアークエバポレーションによってコーティングした。Ti0.15Al0.85の2つのターゲットを、互いに対向したフランジのうちの2つにおいて、エバポレーター内に取り付けた。残りのターゲットであるTi0.40Al0.60およびTi0.80Si0.20を、互いに対向した残りの2つのフランジにおいて、エバポレーター内に取り付けた。ターゲットは、円形および平面状であり、直径は、一般市場で入手可能な100mmであった。アークエバポレーションのための適切なターゲット技術パッケージは、IHI Hauzer Techno Coating B.V.,Kobelco(Kobe Steel Ltd.)およびOerlikon Balzersなどの市場のサプライヤーから入手可能である。
【0084】
コーティングされていないブランクを、PVDチャンバ内で3回回転を受けるピンに取り付けた。
【0085】
チャンバを高真空(10-2Pa未満)にポンプダウンし、チャンバ内に位置しているヒーターによって約450~550℃に加熱した。次いで、ブランクをArプラズマにおいて60分間エッチングした。
【0086】
最初に、Ti0.40Al0.60ターゲットのみを使用することによって、Ti0.40Al0.60Nの最内層を堆積させた。
【0087】
チャンバ圧力(反応圧力)を4PaのNガスに設定し、(チャンバ壁に対して)-70VのDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを150Aの電流でアーク放電モードにおいて(それぞれ)100分間動作させた(1つのフランジ)。テーブル回転速度は、5rpmであった。約1μmの厚さを有するTi0.40Al0.60Nの層をブランク上に堆積させた。
【0088】
次いで、取り付けられたターゲットを全て使用することによって、ナノ多層を堆積させた。
【0089】
チャンバ圧力(反応圧力)を4PaのNガスに設定し、(チャンバ壁に対して)-100VのDCバイアス電圧をブランクアセンブリに印加した。カソードを150Aの電流でアーク放電モードにおいて(それぞれ)50分間動作させた(4つのフランジ)。テーブル回転速度は、5rpmであった。約2μmの厚さを有するナノ多層コーティングをブランク上に堆積させた。
【0090】
回転速度は、ある特定の段階の厚さと相関関係にあり、現在の堆積速度および使用される設備の場合の5rpmのテーブル回転速度が、各ナノ層Ti0.40Al0.60N、Ti0.80Si0.20N、およびTi0.15Al0.85Nの約2nmの平均個別ナノ層厚さと相関関係にあると結論付けられた。ナノ多層のナノ層の数は、約1000である。
【0091】
ナノ多層は、Ti0.15Al0.85N/Ti0.40Al0.60N/Ti0.15Al0.85N/Ti0.80Si0.20Nの順序で、連続ナノ層の繰り返しシーケンスを含む。
【0092】
最後に、作製した個別のコーティングされた切削工具間で均一な色を得るために、Ti0.15Al0.85ターゲットのみを使用することによって、Ti0.15Al0.85Nの最外層を堆積させた。全ての堆積パラメーターが、前の層を堆積させる場合と同じであり、カソードは、10分間動作させた(1つのフランジ)。Ti0.15Al0.85Nの層を約0.2μmの厚さに堆積させた。
【0093】
コーティングされた切削工具は、「試料7」と称する。
【0094】
ナノ多層において、各ナノ層Ti0.40Al0.60N、Ti0.80Si0.20N、Ti0.15Al0.85Nそれぞれの厚さの厚さ比率合計、すなわち、Ti0.40Al0.60N:Ti0.80Si0.20N:Ti0.15Al0.85Nは、約1:1:2である。この比率は、同じであると仮定された各ターゲットからの堆積速度、堆積の最中の回転、および堆積時間から推定される。
【0095】
作製した試料1~7は、表1に一覧にされている。
【0096】
表2は、試料1~7をさらに要約している。
【0097】
実施例6
作製した試料の性能を決定するために、切削試験を行った。
【0098】
使用される用語の説明:
以下の表現/用語は、金属切削において一般に使用されるが、以下の表で説明される:
(m/分):1分あたりのメートルでの切削速度
(mm/刃):(フライス加工における)1つの刃あたりのミリメートルでの送り速度
(mm/rev):(旋削加工における)1回転あたりの送り速度
z:(数)切削具における刃の数
(mm):ミリメートルでの半径方向の切削深さ
(mm):ミリメートルでの軸方向の切削深さ
【0099】
逃げ面摩耗試験:
縦旋削加工
加工物の材料:Sverker 21(工具鋼)、硬度約210HB、D=180、L=700mm
=125m/分
=0.072mm/rev
=2mm
切削液なし
【0100】
工具寿命についてのカットオフ基準は、0.15mmの逃げ面摩耗VBである。
【0101】
耐剥離性:
評価は、オーステナイト系ステンレス鋼における旋削加工試験によって行った。凝着摩耗およびコーティングの剥離を引き起こすために、(半径方向のフェーシング(radial facing)の最中の1回の動作において)切削深さaを4~0mmと0~4mmとの間で変化させた。インサートをSEM分析によって評価した。
【0102】
操作:フェーシング(旋削加工)
加工物の材料:オーステナイト系ステンレス鋼のバーSanmac 316L、L=200mm、D=100mm、約215HB
インサートのタイプ:CNMG120408MM
冷却:あり
切削深さa=4~0mm、0~4mm
切削速度V=140m/分
送り速度f=0.36mm/rev
【0103】
本発明内の試料1、3、4、6、および7は、高い逃げ面耐摩耗性を有し、本発明外の比較試料2および5よりもはるかに少ない逃げ面摩耗を示すと結論付けられる。
【0104】
本発明内の試料1、3、4、6、および7は、高い耐剥離性を有し、本発明外の比較試料2よりもはるかにより良好に機能すると結論付けられる。
【0105】
代替的な内層の効果:
試料3および試料6は、試料6が、単一の(Ti,Al)N層ではなく内部(Ti,Al)Nナノ多層を有する点で異なる。試料6において代替的な内層を有することによる耐櫛状亀裂性および刃先線靱性に対する効果を決定するために、試料3および試料6について、さらなる切削試験を行った。
【0106】
耐櫛状亀裂性:
操作:肩削りフライス加工
工具ホルダー:C5-391.20-25080
加工物の材料:Toolox33(工具鋼)、L=600mm、I=200mm、h=100mm
インサートのタイプ:R390-11T308M-PM
切削速度V=250m/分
送り速度f=0.2mm/rev
切削深さa=3mm
半径方向の嵌合a=12.5mm
切削液あり
【0107】
工具寿命の終了についての基準は、最大チッピング高さVB>0.3mmである。
【0108】
刃先線靱性:
加工物の材料:Dievar unhardened,P3.0.Z.AN
z=1
=200m/分
=0.20mm
=12mm
=3.0
切削の長さ=12mm
切削液なし
【0109】
カットオフ基準は、刃先線のチッピングが少なくとも0.5mmであること、または逃げ段階もしくはすくい段階のいずれかにおける測定された深さが0.2mmであることである。工具寿命は、これらの基準を達成するための切削入口の数として提示される。
【0110】
耐櫛状亀裂性試験および刃先線靱性(ELT)試験の両方の結果は、内側のTi0.40Al0.60N層の代わりに、内側のナノ多Ti0.40Al0.60N/Ti0.25Al0.75N層の存在によって改善される。
図1
図2
図3
【国際調査報告】