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特表2024-534263B7-H3及びTGFβに特異的に結合する二重特異性分子、並びにその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】B7-H3及びTGFβに特異的に結合する二重特異性分子、並びにその用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240910BHJP
   C07K 16/22 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20240910BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240910BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240910BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/22
C12N15/13
C12N15/115 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K45/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537288
(86)(22)【出願日】2022-08-29
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 KR2022012859
(87)【国際公開番号】W WO2023027561
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】10-2021-0114096
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0108139
(32)【優先日】2022-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】524074792
【氏名又は名称】セラノティックス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】THERANOTICS CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】(Misagangbyeon Skypolis, Mangwol-dong) 543Ho, 5th Floor, Na-dong, 135, Misagangbyeonhangang-ro, Hanam-si Gyeonggi-do 12902, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, ビョン ホン
(72)【発明者】
【氏名】リ, ジョン ウク
(72)【発明者】
【氏名】パク, ドン ウン
(72)【発明者】
【氏名】リ, ジョン ウン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC412
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB17
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、B7-H3抗体またはその抗原結合断片と、それに結合したTGFβ結合部とを含む二重特異性分子およびその用途に関し、より詳細には、B7-H3及びTGFβに二重特異的に結合することにより、癌を含む様々な疾患の免疫チェックポイント阻害剤として利用できる、二重特異性分子に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B7-H3抗体またはその抗原結合断片と、それに結合したTGFβ結合部とを含む、二重特異性分子。
【請求項2】
前記B7-H3抗体またはその抗原結合断片は、下記HCDRを含む重鎖可変領域および下記LCDRを含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の二重特異性分子:
(a)配列番号1、10及び19のHCDRと配列番号28、37及び45のLCDR;
(b)配列番号2、11及び20のHCDRと配列番号29、38及び46のLCDR;
(c)配列番号3、12及び21のHCDRと配列番号30、39及び47のLCDR;
(d)配列番号4、13及び22のHCDRと配列番号31、40及び48のLCDR;
(e)配列番号5、14及び23のHCDRと配列番号32、41及び49のLCDR;
(f)配列番号6、15及び24のHCDRと配列番号33、42及び50のLCDR;
(g)配列番号7、16及び25のHCDRと配列番号34、43及び51のLCDR;
(h)配列番号8、17及び26のHCDRと配列番号35、44及び52のLCDR;または、
(i)配列番号9、18及び27のHCDRと配列番号36、42及び53のLCDR。
【請求項3】
前記TGFβ結合部は、TGFβに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片、アプタマーおよびTGFβ受容体からなる群より選択される、請求項1に記載の二重特異性分子。
【請求項4】
前記TGFβ結合部は、リンカーによって連結されている、請求項1に記載の二重特異性分子。
【請求項5】
前記TGFβ結合部は、配列番号280のアミノ酸配列からなる、請求項1に記載の二重特異性分子。
【請求項6】
前記TGFβ結合部は、TGFβ1、TGFβ2及びTGFβ3からなる群より選択されるいずれか1つのTGFβに特異的に結合する、請求項1に記載の二重特異性分子。
【請求項7】
前記重鎖可変領域は、下記HFRからなる群より選択されるいずれか1つのフレームワーク配列を含み、前記軽鎖可変領域は、下記LFRからなる群より選択されるいずれか1つのフレームワーク配列を含む、請求項2に記載の二重特異性分子:
(hf1)配列番号54、63、68及び334のHFR;
(hf2)配列番号55、63、69及び334のHFR;
(hf3)配列番号56、64、70及び334のHFR;
(hf4)配列番号56、64、71及び334のHFR;
(hf5)配列番号57、64、70及び334のHFR;
(hf6)配列番号58、64、72及び334のHFR;
(hf7)配列番号59、65、73及び334のHFR;
(hf8)配列番号60、65、73及び334のHFR;
(hf9)配列番号61、66、74及び334のHFR;および、
(hf10)配列番号62、67、75及び334のHFR、
(lf1)配列番号76、82、86及び335のLFR;
(lf2)配列番号77、82、87及び335のLFR;
(lf3)配列番号78、83、88及び335のLFR;
(lf4)配列番号79、84、89及び335のLFR;
(lf5)配列番号80、84、90及び335のLFR;
(lf6)配列番号80、84、91及び335のLFR;
(lf7)配列番号81、85、92及び335のLFR;
(lf8)配列番号93、98、101及び336のLFR;
(lf9)配列番号93、98、102及び336のLFR;
(lf10)配列番号93、98、103及び336のLFR;
(lf11)配列番号93、98、104及び336のLFR;
(lf12)配列番号94、98、105及び336のLFR;
(lf13)配列番号95、99、106及び336のLFR;
(lf14)配列番号96、99、107及び336のLFR;および、
(lf15)配列番号97、100、108及び336のLFR。
【請求項8】
前記重鎖可変領域は、配列番号127、128、129、130、131、132、135、142及び152からなる群より選択されるいずれか1つであり、前記軽鎖可変領域は、配列番号211、221、223、224、225、231、307、309及び317からなる群より選択されるいずれか1つである、請求項2に記載の二重特異性分子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の二重特異性分子をコードする遺伝子。
【請求項10】
請求項9に記載の遺伝子が挿入されたベクターが導入された細胞。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の二重特異性分子を含む、癌の治療または予防用薬学組成物。
【請求項12】
前記癌は、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、神経膠腫、神経芽腫、前立腺癌、膵臓癌、大腸癌、結腸癌、頭頸部癌、白血病、リンパ腫、腎癌、膀胱癌、胃癌、肝癌、皮膚癌、脳腫瘍、脳脊髄癌、副腎腫瘍、黒色腫、肉腫、多発性骨髄腫、神経内分泌腫瘍、末梢神経鞘腫瘍および小円形細胞腫瘍からなる群より選択されるいずれか1つである、請求項11に記載の癌の治療または予防用薬学組成物。
【請求項13】
PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA4阻害剤、LAG3阻害剤、TIM3阻害剤およびTIGIT阻害剤からなる群より選択される免疫チェックポイント阻害剤をさらに含む、請求項11に記載の癌の治療または予防用薬学組成物。
【請求項14】
CAR-T、TCR-T、細胞傷害性Tリンパ球、腫瘍浸潤リンパ球、NKおよびCAR-NKからなる群より選択される細胞治療剤をさらに含む、請求項11に記載の癌の治療または予防用薬学組成物。
【請求項15】
薬剤として使用するための請求項1~8のいずれか一項に記載の二重特異性分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B7-H3及びTGFβに特異的に結合する二重特異性分子に関する。
【背景技術】
【0002】
B7ホモロジー3タンパク質(B7 homology 3 protein;B7-H3)(CD276及びB7RP-2とも呼ばれ、本明細書ではB7-H3と総称する。)は、免疫グロブリンスーパーファミリーのI型膜貫通糖タンパク質である。
【0003】
ヒトB7-H3は、推定シグナルペプチド、V様およびC様Igドメイン、膜貫通領域および細胞質ドメインを含む。ヒトにおけるエクソンの重複は、いくつかの保存されたシステイン残基を含むIgV-IgC-IgV-IgC様ドメイン(4IgB7-H3アイソタイプ)、または単一のIgV-IgC様ドメイン(2IgB7-H3アイソタイプ)のいずれか1つを有する2つのB7-H3アイソタイプの発現につながる。ヒト組織および細胞株における主なB7-H3アイソタイプは、4IgB7-H3アイソタイプである。
【0004】
B7-H3は、共刺激および共阻害シグナリング機能の両方を有することが報告されている。
【0005】
B7-H3は、多くの免疫細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞、および抗原提示細胞(APC))で常時発現されるものではなく、その発現は誘導され得る。
【0006】
また、B7-H3の発現は免疫細胞に限定されない。B7-H3転写体は、結腸、心臓、肝臓、胎盤、前立腺、小腸、精巣および子宮を含む様々なヒト組織、並びに造骨細胞、線維芽細胞、上皮細胞および他の非リンパ球系細胞で発現され、潜在的に免疫学的および非免疫学的機能を示す。しかし、正常組織におけるタンパク質の発現は典型的に低レベルに維持され、そのため、転写後調節が加えられ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、B7-H3及びTGFβに二重特異的に結合する、新規な二重特異性分子を提供することを目的とする。
【0008】
本発明は、B7-H3及びTGFβに特異的に結合する二重特異性分子の医学用途(薬学組成物、治療方法など)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1.B7-H3抗体またはその抗原結合断片と、それに結合したTGFβ結合部とを含む、二重特異性分子。
【0010】
2.前記項目1において、B7-H3抗体またはその抗原結合断片は、下記HCDRを含む重鎖可変領域と、下記LCDRを含む軽鎖可変領域とを含む、二重特異性分子:
(a)配列番号1、10及び19のHCDRと配列番号28、37及び45のLCDR;
(b)配列番号2、11及び20のHCDRと配列番号29、38及び46のLCDR;
(c)配列番号3、12及び21のHCDRと配列番号30、39及び47のLCDR;
(d)配列番号4、13及び22のHCDRと配列番号31、40及び48のLCDR;
(e)配列番号5、14及び23のHCDRと配列番号32、41及び49のLCDR;
(f)配列番号6、15及び24のHCDRと配列番号33、42及び50のLCDR;
(g)配列番号7、16及び25のHCDRと配列番号34、43及び51のLCDR;
(h)配列番号8、17及び26のHCDRと配列番号35、44及び52のLCDR;または、
(i)配列番号9、18及び27のHCDRと配列番号36、42及び53のLCDR。
【0011】
3.前記項目1において、TGFβ結合部は、TGFβに特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片、アプタマーおよびTGFβ受容体からなる群より選択される、二重特異性分子。
【0012】
4.前記項目1において、TGFβ結合部は、リンカーによって連結されている、二重特異性分子。
【0013】
5.前記項目1において、TGFβ結合部は、配列番号280のアミノ酸配列からなる、二重特異性分子。
【0014】
6.前記項目1において、TGFβ結合部は、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3からなる群より選択されるいずれか1つのTGFβに特異的に結合する、二重特異性分子。
【0015】
7.前記項目2において、重鎖可変領域は、下記HFRからなる群より選択されるいずれか1つのフレームワーク配列を含み、軽鎖可変領域は、下記LFRからなる群より選択されるいずれか1つのフレームワーク配列を含む、二重特異性分子:
(hf1)配列番号54、63、68及び334のHFR;
(hf2)配列番号55、63、69及び334のHFR;
(hf3)配列番号56、64、70及び334のHFR;
(hf4)配列番号56、64、71及び334のHFR;
(hf5)配列番号57、64、70及び334のHFR;
(hf6)配列番号58、64、72及び334のHFR;
(hf7)配列番号59、65、73及び334のHFR;
(hf8)配列番号60、65、73及び334のHFR;
(hf9)配列番号61、66、74及び334のHFR;および、
(hf10)配列番号62、67、75及び334のHFR、
(lf1)配列番号76、82、86及び335のLFR;
(lf2)配列番号77、82、87及び335のLFR;
(lf3)配列番号78、83、88及び335のLFR;
(lf4)配列番号79、84、89及び335のLFR;
(lf5)配列番号80、84、90及び335のLFR;
(lf6)配列番号80、84、91及び335のLFR;
(lf7)配列番号81、85、92及び335のLFR;
(lf8)配列番号93、98、101及び336のLFR;
(lf9)配列番号93、98、102及び336のLFR;
(lf10)配列番号93、98、103及び336のLFR;
(lf11)配列番号93、98、104及び336のLFR;
(lf12)配列番号94、98、105及び336のLFR;
(lf13)配列番号95、99、106及び336のLFR;
(lf14)配列番号96、99、107及び336のLFR;および、
(lf15)配列番号97、100、108及び336のLFR。
【0016】
8.前記項目2において、重鎖可変領域は、配列番号127、128、129、130、131、132、135、142及び152からなる群より選択されるいずれか1つであり、軽鎖可変領域は、配列番号211、221、223、224、225、231、307、309及び317からなる群より選択されるいずれか1つである、二重特異性分子。
【0017】
9.前記項目1~8のいずれか1つの二重特異性分子をコードする遺伝子。
【0018】
10.前記項目9の遺伝子が挿入されたベクターが導入された細胞。
【0019】
11.前記項目1~8のいずれか1つの二重特異性分子を含む、癌の治療または予防用薬学組成物。
【0020】
12.前記項目11において、癌は肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、神経膠腫、神経芽腫、前立腺癌、膵臓癌、大腸癌、結腸癌、頭頸部癌、白血病、リンパ腫、腎癌、膀胱癌、胃癌、肝癌、皮膚癌、脳腫瘍、脳脊髄癌、副腎腫瘍、黒色腫、肉腫、多発性骨髄腫、神経内分泌腫瘍、末梢神経鞘腫瘍および小円形細胞腫瘍からなる群より選択されるいずれか1つである、癌の治療または予防用薬学組成物。
【0021】
13.前記項目11において、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA4阻害剤、LAG3阻害剤、TIM3阻害剤およびTIGIT阻害剤からなる群より選択される免疫チェックポイント阻害剤をさらに含む、癌の治療または予防用薬学組成物。
【0022】
14.前記項目11において、CAR-T、TCR-T、細胞傷害性Tリンパ球、腫瘍浸潤リンパ球、NKおよびCAR-NKからなる群より選択される細胞治療剤をさらに含む、癌の治療または予防用薬学組成物。
【0023】
15.薬剤として使用するための前記項目1~8のいずれか1つの二重特異性分子。
【発明の効果】
【0024】
本発明の二重特異性分子は、B7-H3とTGFβに特異的に結合する。
【0025】
本発明の二重特異性分子は、TGFβを細胞内に内在化することができる。
【0026】
本発明の二重特異性分子は、免疫チェックポイント阻害剤として活用することができる。
【0027】
本発明の二重特異性分子は、他の免疫チェックポイント阻害剤と併用投与することができる。
【0028】
本発明の二重特異性分子は、CAR-T、CAR-NTなどの細胞治療剤と併用投与することができる。
【0029】
本発明の二重特異性分子を対象に投与して疾患を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、#1~#9二重特異性分子の濃度によるB7-H3に対する結合親和度を示す。
図2図2は、#1~#9二重特異性分子の濃度によるRKO細胞株に対する結合親和度を示す。
図3図3は、#1~#9二重特異性分子の濃度によるRKO/B7-H3細胞株に対する結合親和度を示す。
図4図4は、#1~#9二重特異性分子の濃度によるTGFβ1に対する結合親和度を示す。
図5図5は、TGFβ2の濃度による#1~#9二重特異性分子に対する結合親和度を示す。
図6図6は、#1~#9二重特異性分子の濃度によるTGFβ3に対する結合親和度を示す。
図7図7は、#1~#9二重特異性分子(#1(TRAP)~#9(TRAP))およびTGFβ結合部なしのB7-H3モノクローナル抗体(#1(mono)~#9(mono))の濃度によるB7-H3及びTGFβに対する二重特異性結合親和度を示す。TGFβ結合部なしのB7-H3モノクローナル抗体(#1(mono)~#9(mono))の処理時には、B7-H3及びTGFβへの二重特異性結合が確認されなかった。
図8図8は、#1~#9二重特異性分子(#1(TRAP)~#9(TRAP))およびTGFβ結合部なしのB7-H3モノクローナル抗体(#1(mono)~#9(mono))の濃度によるB7-H3及びTGFβに対する二重特異性結合親和度を示す。TGFβ結合部なしのB7-H3モノクローナル抗体(#1(mono)~#9(mono))の処理時には、B7-H3及びTGFβへの二重特異性結合が確認されなかった。
図9図9は、pHAbアミンで標識された#1~#9二重特異性分子をRKO細胞株、RKO/B7H3細胞株に処理した後、二重特異性分子の内在化(internalization)の程度を測定したものである。
図10図10は、何も処理していないRKO/B7H3(Non-treat);および#1~#9二重特異性分子を処理したRKO/B7H3細胞株の浸潤アッセイ(invasion assay)の結果を示す。顕微鏡を用いて浸潤(invasion)の程度を撮影し、Image Jを用いて浸潤された細胞の割合を計算した。
図11図11は、何も処理していないRKO/B7H3(Non-treat);および#1~#9二重特異性分子を処理したRKO/B7H3細胞株の遊走アッセイ(migration assay)の結果を示す。顕微鏡を用いて遊走(migration)の程度を撮影し、クリスタルバイオレット(crystal violet)で染色された細胞の色を抽出して測定したOD値の割合を計算した。
図12図12は、RKO/B7H3細胞株に#1~#9二重特異性分子を処理した後のTGFβ分泌アッセイ(secretion assay)の結果を示す。
図13図13は、B7-H3を過剰発現させた大腸癌細胞株(CT26-TN)を移植したマウスに#1~#9二重特異性分子を投与した後の腫瘍の体積変化を示す。G1(賦形剤(vehicle))、G2(IgG)は陰性対照群、G3(#5)は#5二重特異性分子投与群、G4(#5+Co)は#5二重特異性分子およびPD-1阻害剤(anti PD-1)併用投与群、G5(Co)はPD-1阻害剤(anti PD-1)投与群を示す。
図14図14は、マウス血清における#5二重特異性分子によるTGFβの濃度変化を示す。G1(賦形剤(Vehicle))、G2(IgG)は陰性対照群、G3(#5)は#5二重特異性分子投与群、G4(#5+Co)は#5二重特異性分子およびPD-1阻害剤(anti PD-1)併用投与群、G5(Co)はPD-1阻害剤(anti PD-1)投与群を示す。*:p value<0.5(賦形剤(vehicle)群との比較)
図15図15は、B7-H3/TGFβ二重特異性分子を処理した後の腫瘍内の免疫細胞の数を示す。G1(賦形剤(vehicle))、G2(IgG)は陰性対照群、G3(#5)は#5二重特異性分子投与群、G4(#5+Co)は#5二重特異性分子およびPD-1阻害剤(anti PD-1)併用投与群、G5(Co)はPD-1阻害剤(anti PD-1)投与群を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、B7-H3およびTGFβに特異的に結合可能な、二重特異性分子に関するものである。
【0032】
本発明は、B7-H3抗体またはその抗原結合断片と、それに結合したTGFβ結合部とを含む二重特異性分子を提供する。
【0033】
本発明におけるB7-H3抗体の抗原結合断片は、B7-H3に特異的に結合する能力を維持する抗体の1つ以上の断片を指す。
【0034】
抗体は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgA2など)、またはサブクラスのものであってもよい。
【0035】
抗原結合断片には、(i)VH、VL、CH1およびCLドメインからなる1価(monovalent)の断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域において二硫化結合によって連結された2つのFab断片を含む2価(bivalent)の断片であるF(ab’)断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の1つのアーム(single arm)のVLおよびVHドメインからなるFv断片;(v)VHドメインからなる単一ドメインまたはdAb断片;(vi)単離された相補性決定領域(CDR);および、(vii)合成リンカーによって選択的に連結された2つ以上の分離されたCDRの組み合わせが含まれる。
【0036】
また、Fv断片のVLドメイン及びVHドメインは分離された遺伝子によって暗号化されるが、これらはVL及びVHドメインと対をなすことにより、1価分子を有する単一タンパク質鎖(単鎖Fv(scFv)または単鎖抗体と呼ばれる。)を生成できるように、組換え方法を用いて合成リンカーによって連結することができる。このような単鎖抗体(scFv)もまた、抗原結合断片に含まれる。
【0037】
抗原結合断片は、当技術分野で公知の技術を用いて得られ、断片の機能的スクリーニングは、完全(intact)な抗体と同様の方法で使用される。抗原結合部位は、組換えDNA技術により、あるいは完全(intact)な免疫グロブリンの酵素的または化学的破壊によって産生することができる。抗体は、異なる表現型、例えばIgG(例えば、IgGl、IgG2、IgG3またはIgG4サブタイプ)、IgA1、IgA2、IgD、IgEまたはIgM抗体として存在し得る。
【0038】
本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)とを含む。
【0039】
本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域は、以下の重鎖相補性決定領域(HCDR)を含み、軽鎖可変領域は、以下の軽鎖相補性決定領域(LCDR)を含む:
(a)配列番号1、10及び19のHCDRと配列番号28、37及び45のLCDR;(b)配列番号2、11及び20のHCDRと配列番号29、38及び46のLCDR;(c)配列番号3、12及び21のHCDRと配列番号30、39及び47のLCDR;(d)配列番号4、13及び22のHCDRと配列番号31、40及び48のLCDR;(e)配列番号5、14及び23のHCDRと配列番号32、41及び49のLCDR;(f)配列番号6、15及び24のHCDRと配列番号33、42及び50のLCDR;(g)配列番号7、16及び25のHCDRと配列番号34、43及び51のLCDR;(h)配列番号8、17及び26のHCDRと配列番号35、44及び52のLCDR;または、(i)配列番号9、18及び27のHCDRと配列番号36、42及び53のLCDR。
【0040】
重鎖相補性決定領域(HCDR)はHCDR1、HCDR2及びHCDR3からなり、軽鎖相補性決定領域(LCDR)はLCDR1、LCDR2及びLCDR3からなる。例えば、前記配列(a)において、配列番号1のアミノ酸配列はHCDR1、配列番号10のアミノ酸配列はHCDR2、配列番号19のアミノ酸配列はHCDR3であり、配列番号28のアミノ酸配列はLCDR1、配列番号37のアミノ酸配列はLCDR2、配列番号45のアミノ酸配列はLCDR3である。
【0041】
本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片は、前記のような相補性決定領域を含むだけで、フレームワーク配列に関係なくB7-H3抗原に特異的に結合する。
【0042】
本発明の重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、様々なフレームワーク配列を含むことができる。
【0043】
本発明の重鎖可変領域は、例えば、以下の重鎖フレームワーク配列(HFR)からなる群より選択されるいずれか1つの配列を含むことができる:
(hf1)配列番号54、63、68及び334のHFR;(hf2)配列番号55、63、69及び334のHFR;(hf3)配列番号56、64、70及び334のHFR;(hf4)配列番号56、64、71及び334のHFR;(hf5)配列番号57、64、70及び334のHFR;(hf6)配列番号58、64、72及び334のHFR;(hf7)配列番号59、65、73及び334のHFR;(hf8)配列番号60、65、73及び334のHFR;(hf9)配列番号61、66、74及び334のHFR;および、(hf10)配列番号62、67、75及び334のHFR。
【0044】
本発明の軽鎖可変領域は、例えば、以下の軽鎖フレームワーク配列(LFR)からなる群より選択されるいずれか1つの配列を含むことができる:
(lf1)配列番号76、82、86及び335のLFR;(lf2)配列番号77、82、87及び335のLFR;(lf3)配列番号78、83、88及び335のLFR;(lf4)配列番号79、84、89及び335のLFR;(lf5)配列番号80、84、90及び335のLFR;(lf6)配列番号80、84、91及び335のLFR;(lf7)配列番号81、85、92及び335のLFR;(lf8)配列番号93、98、101及び336のLFR;(lf9)配列番号93、98、102及び336のLFR;(lf10)配列番号93、98、103及び336のLFR;(lf11)配列番号93、98、104及び336のLFR;(lf12)配列番号94、98、105及び336のLFR;(lf13)配列番号95、99、106及び336のLFR;(lf14)配列番号96、99、107及び336のLFR;および、(lf15)配列番号97、100、108及び336のLFR。
【0045】
本発明の重鎖フレームワーク配列(HFR)はHFR1、HFR2、HFR3およびHFR4からなり、軽鎖フレームワーク配列(LFR)はLFR1、LFR2、LFR3およびLFR4からなる。例えば、前記配列(hf1)において、配列番号54のアミノ酸配列はHFR1、配列番号63のアミノ酸配列はHFR2、配列番号68のアミノ酸配列はHFR3、配列番号334のアミノ酸配列はHFR4である。また、例えば、前記配列(lf1)において、配列番号76のアミノ酸配列はLFR1、配列番号82のアミノ酸配列はLFR2、配列番号86のアミノ酸配列はLFR3、配列番号335のアミノ酸配列はLFR4である。
【0046】
本発明の重鎖可変領域のフレームワーク配列(hf1~hf10)と、軽鎖可変領域のフレームワーク配列(lf1~lf15)は、任意に組み合わせることができる。
【0047】
本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片の重鎖および軽鎖相補性決定領域配列と、重鎖および軽鎖フレームワーク配列は、任意に組み合わせることができる。例えば、(a)~(i)のいずれか1つの重鎖および軽鎖相補性決定領域配列と、(hf1)~(hf10)のいずれか1つの重鎖フレームワーク配列と、(lf1)~(lf15)のいずれか1つの軽鎖フレームワーク配列を任意に組み合わせることができる。
【0048】
本発明の重鎖可変領域は、例えば、配列番号127、128、129、130、131、132、135、142及び152からなる群より選択されるいずれか1つのアミノ酸配列からなっていてもよい。
【0049】
本発明の軽鎖可変領域は、例えば、配列番号211、221、223、224、225、231、307、309及び317からなる群より選択されるいずれか1つのアミノ酸配列からなっていてもよい。
【0050】
本発明の(a)~(i)の相補性決定領域を有する抗体またはその抗原結合断片は、そのエピトープ(抗原決定因子)が同一でも異なっていてもよい。エピトープとは、抗体または抗原結合断片が特異的に結合するB7-H3抗原の部位を意味する。本発明では、(a)、(d)、(e)、(g)、(h)及び(i)の相補性決定領域を有する抗体又はその抗原結合断片のエピトープが同じであり、(b)及び(c)の相補性決定領域を有する抗体またはその抗原結合断片のエピトープが同じである。
【0051】
本発明の一実施形態では、二重特異性分子のうちの#1~#9二重特異性分子は、以下のような重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む:#1:配列番号127の重鎖可変領域および配列番号307の軽鎖可変領域;#2:配列番号128の重鎖可変領域および配列番号317の軽鎖可変領域;#3:配列番号129の重鎖可変領域および配列番号309の軽鎖可変領域;#4:配列番号130の重鎖可変領域および配列番号211の軽鎖可変領域;#5:配列番号131の重鎖可変領域および配列番号221の軽鎖可変領域;#6:配列番号132の重鎖可変領域および配列番号231の軽鎖可変領域;#7:配列番号142の重鎖可変領域および配列番号223の軽鎖可変領域;#8:配列番号152の重鎖可変領域および配列番号224の軽鎖可変領域;および、#9:配列番号135の重鎖可変領域および配列番号225の軽鎖可変領域。
【0052】
本発明の#1~#9二重特異性分子では、#1、#4、#5、#7、#8及び#9二重特異性分子のB7-H3エピトープが同じであり、#2及び#3二重特異性分子のB7-H3エピトープが同じである。
【0053】
本発明のTGFβ結合部は、TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3からなる群より選択されるいずれか1つに特異的に結合することができる。例えば、TGFβ1のみに特異的に結合してもよく、TGFβ1、TGFβ2及びTGFβ3のすべてに特異的に結合してもよい。
【0054】
本発明のTGFβ結合部は、TGFβに特異的に結合できればその種類を限定せず、例えば抗体またはその抗原結合断片、アプタマー、または、TGFβ受容体であってもよい。
【0055】
TGFβ抗体またはその抗原結合断片は、TGFβに特異的に結合することが知られている公知の抗体または抗原結合断片を使用することができ、例えば、韓国公開特許第10-2022-0052919号に記載の「TGF-βリガンドに結合できるscFv」を使用することができる。
【0056】
TGFβに特異的に結合するアプタマーは、TGFβに特異的に結合することが知られている公知のアプタマーを使用することができ、例えば、核酸アプタマーまたはペプチドアプタマーを使用することができる。
【0057】
TGFβ受容体は公知のTGFβ受容体、その変異体またはそれらの切片を使用することができ、例えば、韓国公開特許第10-2022-0052919号に記載の「TGF-β受容体の細胞外部分」を使用するか、または配列番号337のアミノ酸配列を含むポリペプチドを使用することができる。
【0058】
本発明の二重特異性分子のTGFβ結合部は、B7-H3抗体またはその抗原結合断片に直接連結されていてもよく、リンカーで連結されていてもよい。
【0059】
リンカーは、二重特異性分子がB7-H3とTGFβに結合することを阻害しないものであれば、長さおよび配列を制限せずに自由に使用できる。例えば、リンカーは、アミノ酸Gとアミノ酸Sを含む単位配列(例えば、GGGGS)が1個、2個、3個、4個、5個、またはそれ以上連続したものであってもよく、単位配列GGGGSが3個連続した配列番号338のアミノ酸配列を有するポリペプチドであってもよい。
【0060】
本発明のTGFβ結合部は、B7-H3抗体またはその抗原結合断片のN末端またはC末端にコンジュゲートされていてもよい。例えば、B7-H3抗体の重鎖C末端または軽鎖C末端にTGFβ結合部がコンジュゲートされていてもよく、scFvのN末端またはC末端にTGFβ結合部がコンジュゲートされていてもよい。
【0061】
本発明の二重特異性分子は、B7-H3またはTGFβに結合することができ、B7-H3及びTGFβの両方に二重結合することができる。
【0062】
本発明の二重特異性分子は、B7-H3への結合力に優れている。
【0063】
本発明の二重特異性分子は、癌微小環境のTGFβと結合し、細胞表面に存在するB7-H3に結合することにより、TGFβを細胞内に内在化して除去することができる。
【0064】
本発明の二重特異性分子は、B7-H3の生成を抑制することができる。
【0065】
本発明の二重特異性分子はT細胞の活性化に寄与する。
【0066】
本発明は、前述のB7-H3抗体またはその抗原結合断片と、それに結合したTGFβ結合部とを含む二重特異性分子をコードする遺伝子を提供する。
【0067】
本発明の二重特異性分子をコードする遺伝子は発現ベクターに含まれ得る。発現ベクターは、プロモーター、プロモーターと作動可能に連結されたB7-H3抗体またはその抗原結合断片遺伝子、制限酵素切断部位などを含む。
【0068】
本発明の発現ベクターは、ウイルスベクター、ネイキッドDNAまたはRNAベクター、プラスミド、コスミドまたはファージベクター、陽イオン性縮合剤と会合したDNAまたはRNAベクター、或いはリポソーム内にカプセル化されたDNAまたはRNAベクターであってもよい。
【0069】
本発明の発現ベクターは、宿主細胞に導入することができる。
【0070】
本発明の宿主細胞は、動物細胞、植物細胞、真核微生物などの真核細胞であってもよく、例えば、NS0細胞、Vero細胞、Hela細胞、COS細胞、CHO細胞、HEK293細胞、BHK細胞、MDCKII細胞、Sf9細胞などであってもよい。
【0071】
本発明の宿主細胞は原核細胞であってもよく、例えば、大腸菌、古草菌などであってもよい。
【0072】
本発明は、前述の宿主細胞を培養して、B7-H3抗体またはその抗原結合断片と、それに結合したTGFβ結合部とを含む二重特異性分子を製造する方法を提供する。培養は公知の方法によって行うことができ、培養温度、培養時間、培地の種類およびpHなどの条件は、細胞の種類などによって適宜調整することができる。
【0073】
本発明の二重特異性分子の製造方法は、生産された二重特異性分子を分離、精製して回収するステップをさらに含むことができる。例えば、二重特異性分子の回収のために、ろ過、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、HPLCなどの方法を用いることができる。
【0074】
本発明は、前述のB7-H3抗体またはその抗原結合断片と、それに結合したTGFβ結合部とを含む二重特異性分子を含む、癌の治療または予防用薬学組成物を提供する。
【0075】
本発明の二重特異性分子は、B7-H3が発現された癌細胞のB7-H3に結合してB7-H3の活性を中和(抑制)し、TGFβを細胞内に内在化させて除去させることによって免疫細胞の活性化を誘導することができ、これにより癌を治療することができる。
【0076】
本発明の二重特異性分子は、癌細胞の表面に免疫チェックポイント分子であるB7-H3の発現を抑制することにより、免疫細胞の活性化を誘導し、これにより癌を治療することができる。
【0077】
本発明の二重特異性分子は、TGFβを除去することにより、免疫細胞の活性化を誘導し、これにより癌を治療することができる。
【0078】
本発明の癌はEGFR過剰発現の癌であってもよい。
【0079】
本発明の癌は、肺癌(小細胞肺癌および非小細胞肺癌)、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、神経膠腫、神経芽腫、前立腺癌、膵臓癌、大腸癌、結腸癌、頭頸部癌、白血病、リンパ腫、腎癌、膀胱癌、胃癌、肝癌、皮膚癌、脳腫瘍、脳脊髄癌、副腎腫瘍、黒色腫、肉腫(骨肉腫および軟部組織肉腫)、多発性骨髄腫、神経内分泌腫瘍、末梢神経鞘腫瘍および小円形細胞腫瘍からなる群より選択されるいずれか1つであってもよい。
【0080】
本発明の薬学組成物は固形癌にさらに効果的であり得る。
【0081】
本発明の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含むことができ、担体と共に製剤化することができる。「薬学的に許容可能な担体」とは、生物体を刺激せず投与化合物の生物学的活性および特性を阻害しない担体または希釈剤を意味する。
【0082】
液状組成物の薬学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝食塩水、アルブミン注射液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれらの混合物を含む。必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤および潤滑剤を付加的に添加し、水溶液、懸濁液、乳濁液などの注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。
【0083】
本発明の薬学組成物は製剤に制限がない。例えば、経口用または非経口用製剤で製造することができる。より具体的には、口腔(oral)、直腸(rectal)、鼻腔(nasal)、局所(topical;頬および舌下を含む)、皮下、膣(vaginal)または筋肉内、皮下および静脈内投与を含む。また、吸入(inhalation)または注入(insufflation)による投与に適した形態を含む。
【0084】
本発明の薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与する。有効量は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路、排出割合、治療期間、同時使用される薬物を含む要素、およびその他の医学分野でよく知られている要素によって決定できる。
【0085】
本発明の薬学組成物の投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食物、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度などによって異なり得る。適正な投与量は、例えば、患者の体内に蓄積された薬物の量及び/又は使用される本発明の有効成分の効能程度によって異なり得る。
【0086】
一般に、インビボ動物モデルおよびインビトロで有効であると測定されたEC50に基づいて計算することができ、例えば、体重1kg当たりに0.01μg~1gであってもよい。日、週、月、または年の単位期間に、単位期間当たりに一回または数回に分けて投与してもよく、若しくはインフュージョンポンプを用いて長期間連続して投与してもよい。反復投与の回数は、薬物の体内滞在時間、体内薬物濃度などを考慮して決定する。疾患の治療経過によっては、治療された後でも再発防止のために組成物を投与することができる。
【0087】
本発明の薬学組成物は、免疫チェックポイント阻害剤をさらに含むことができる。例えば、本発明の薬学組成物は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、CTLA4阻害剤、LAG3阻害剤、TIM3阻害剤およびTIGIT阻害剤からなる群より選択される免疫チェックポイント阻害剤をさらに含むことができる。
【0088】
本発明の薬学組成物は、細胞治療剤をさらに含むことができる。例えば、本発明の薬学組成物は、CAR-T(Chimeric antigen receptor T cell)、TCR-T(T Cell Receptor-T cell)、細胞傷害性Tリンパ球(Cytotoxic T Lymphocyte、CTL)、腫瘍浸潤リンパ球(Tumor Infiltrating Lymphocyte、TIL)、NK(Natural Killer cell)、およびCAR-NK(Chimeric Antigen Receptor-Natural Killer cell)からなる群より選択される細胞治療剤をさらに含むことができる。
【0089】
本発明の薬学組成物は、有効成分の溶解性および吸収性を維持ないし増加させる成分をさらに含有することができる。また、化学治療剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、免疫調節剤などをさらに含むことができる。
【0090】
本発明の薬学組成物は、哺乳動物に投与された後に活性成分の迅速、持続または遅延された放出を提供できるように、当技術分野で公知の方法を用いて製剤化することができる。製剤は、粉末、顆粒、錠剤、エマルジョン、シロップ、エアロゾル、軟質または硬質のゼラチンカプセル、滅菌注射溶液、滅菌粉末の形態であってもよい。
【0091】
本発明は、B7-H3抗体またはその抗原結合断片と、それに結合したTGFβ結合部とを含む二重特異性分子をコードする遺伝子を対象に投与するステップを含む癌の治療方法を提供する。治療可能な癌は前述の通りである。
【0092】
本発明の二重特異性分子、またはそれをコードする遺伝子は、治療を目的でヒト対象体に投与することができる。
【0093】
本発明の二重特異性分子、またはそれをコードする遺伝子は、獣医学的な目的でまたはヒト疾患の動物モデルとしてB7-H3を発現する非ヒト哺乳動物に投与することができる。
【0094】
本発明は、薬剤として使用するためのB7-H3抗体またはその抗原結合断片と、それに結合したTGFβ結合部とを含む二重特異性分子を提供する。
【0095】
本発明の二重特異性分子は、治療を目的で「B7-H3の活性が有害な疾患または障害」を患っている対象体に投与することができる。
【0096】
本発明の「B7-H3の活性が有害な疾患または障害」は、特定の疾患または障害を患っている対象体において、B7-H3の存在が障害の病理生理学に責任があるか、または障害の悪化に寄与する因子であることが判明したり、または疑われる疾患および障害を含む。
【0097】
本発明の薬剤は抗癌剤であってもよい。癌は前述の通りである。
【0098】
配列番号1~27は、本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域における相補性決定領域(HCDR)配列である。配列番号1~9はHCDR1配列、配列番号10~18はHCDR2配列、配列番号19~27はHCDR3配列である。
【0099】
配列番号28~53は、本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片の軽鎖可変領域における相補性決定領域(LCDR)配列である。配列番号28~36はLCDR1配列、配列番号37~44はLCDR2配列、配列番号45~53はLCDR3配列である。
【0100】
配列番号54~75は、本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域におけるフレームワーク配列(HFR)である。配列番号54~62はHFR1配列、配列番号63~67はHFR2配列、配列番号68~75はHFR3配列である。
【0101】
配列番号76~92は、本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片のκ軽鎖可変領域におけるフレームワーク配列(LFR)である。配列番号76~81はLFR1配列、配列番号82~85はLFR2配列、配列番号86~92はLFR3配列である。
【0102】
配列番号93~108は、本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片のλ軽鎖可変領域におけるフレームワーク配列(LFR)である。配列番号93~97はLFR1配列、配列番号98~100はLFR2配列、配列番号101~108はLFR3配列である。
【0103】
配列番号109~198は、前述のHCDRおよびHFR配列を含む本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域(VH)配列である。
【0104】
配列番号199~333は、前述のLCDRおよびLFR配列を含む本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片の軽鎖可変領域(VL)配列である。
【0105】
配列番号334は、本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片の重鎖可変領域フレームワーク配列におけるHFR4配列である。配列番号335及び336は、本発明のB7-H3抗体またはその抗原結合断片の軽鎖可変領域フレームワーク配列におけるLFR4配列である。
【0106】
配列番号337は、本発明の一実施形態によるTGFβ受容体のアミノ酸配列である。配列番号338は、本発明の一実施形態によるリンカーのアミノ酸配列である。
【0107】
配列番号339~347は、本発明の一実施形態による#1~#9二重特異性分子の「B7-H3抗体重鎖配列」、「リンカー配列(配列番号338)」、「TGFβ受容体配列(配列番号337)」が順に連結されている配列である。B7-H3抗体重鎖配列は、前述のB7-H3抗体の重鎖可変領域の後に配列番号348の重鎖定常領域配列が連結されている配列である。
【0108】
以下、本発明を、実施例を挙げてより詳細に説明する。
【実施例
【0109】
本発明の一実施形態による二重特異性分子のB7-H3結合力、TGFβ結合力、TGFβ細胞内在化能、癌細胞の浸潤および遊走抑制能などに対する実験結果を下記実施例にまとめた。図表および本文中、#1は、配列番号339の(B7-H3抗体重鎖)-(リンカー)-(TGFβ結合部)および配列番号307のB7-H3抗体軽鎖可変領域を含む二重特異性分子;#2は、配列番号340の(B7-H3抗体重鎖)-(リンカー)-(TGFβ結合部)および配列番号317のB7-H3抗体軽鎖可変領域を含む二重特異性分子;#3は、配列番号341の(B7-H3抗体重鎖)-(リンカー)-(TGFβ結合部)および配列番号309のB7-H3抗体軽鎖可変領域を含む二重特異性分子;#4は、配列番号342の(B7-H3抗体重鎖)-(リンカー)-(TGFβ結合部)および配列番号211のB7-H3抗体軽鎖可変領域を含む二重特異性分子;#5は、配列番号343の(B7-H3抗体重鎖)-(リンカー)-(TGFβ結合部)および配列番号221のB7-H3抗体軽鎖可変領域を含む二重特異性分子;#6は、配列番号344の(B7-H3抗体重鎖)-(リンカー)-(TGFβ結合部)および配列番号231のB7-H3抗体軽鎖可変領域を含む二重特異性分子;#7は、配列番号345の(B7-H3抗体重鎖)-(リンカー)-(TGFβ結合部)および配列番号223のB7-H3抗体軽鎖可変領域を含む二重特異性分子;#8は、配列番号346の(B7-H3抗体重鎖)-(リンカー)-(TGFβ結合部)および配列番号224のB7-H3抗体軽鎖可変領域を含む二重特異性分子;#9は、配列番号347の(B7-H3抗体重鎖)-(リンカー)-(TGFβ結合部)および配列番号225のB7-H3抗体軽鎖可変領域を含む二重特異性分子である。
【0110】
また、図表および本文中、#1、#2等で表記したものと、#1(TRAP)、#2(TRAP)等で表記したものは、本発明の一実施形態による二重特異性分子を意味するものであり、#1(mono)、#2(mono)等で表記した場合は、TGFβ結合部を含まないモノクローナル抗体を意味する。
【0111】
実施例1:ELISA法を用いたB7-H3結合力の試験
タンパク質B7-H3へのB7-H3/TGFβ二重特異性分子の結合力を確認するために本実験を行った。
【0112】
実験方法
以下の方法により、#1~#9二重特異性分子の濃度によるB7-H3への結合力を確認した。
【0113】
1X PBS溶液中の組換えヒトB7-H3タンパク質(R&D Systems、Cat#1027-B3-100)(30μL、20nM)でプレートをコーティングした後、プレートを覆い、2~8℃で一晩コーティングした。その後、ウェル当たりに150μLのPBSで1回洗浄し、ブロッキングバッファー(Blocking buffer, 1X PBS-T w/3% BSA)をウェル当たりに120μLで室温で2時間ブロッキングした。ブロッキングバッファーを捨て、一連の希釈液を用いて(ブロッキングバッファーを用いて、#1~#9二重特異性分子を一連的に2倍に希釈した;2-fold serial dilution)30μLの抗体溶液を加え、室温で1時間反応させ、ウェル当たりに150μLの洗浄緩衝液でウェルを3回洗浄した。ブロッキングバッファーに希釈した抗HAタグ抗体のHRP接合体30μLを各ウェルに加え、室温で1時間反応させた。その後、ウェル当たりに150μLの洗浄緩衝液でウェルを3回洗浄し、TMBを用いてHRP反応を展開し、1N HClを用いて反応を停止した後、450nmにおける光学密度(optical density, OD)を測定した。
【0114】
結果
#1~#9二重特異性分子の濃度によるB7-H3への結合力、および#1~#9二重特異性分子を処理した場合、50%のB7-H3が抗原-抗体結合状態で存在することを可能にするそれぞれの二重特異性分子の濃度(EC50)を確認した(図1、表1)。#1~#9二重特異性分子が優れた結合力でB7-H3に特異的に結合することが確認された。
【0115】
【表1】
【0116】
実施例2:Cell ELISA法を用いた抗体のB7-H3結合力の試験
細胞膜に発現したB7-H3へのB7-H3/TGFβ二重特異性分子の結合力を確認するために本実験を行った。
【0117】
実験方法
2.1.試薬の準備
1X PBS及び1X PBS-T(0.05% Tween 20)を準備した。ブロッキングバッファーは、BSAを3%BSA in 1X PBS-T(0.05% Tween 20)になるように作製した。抗体希釈バッファー(Antibody dilution buffer)は、BSAを1%BSA in 1X PBS-T(0.05% Tween20)になるように作製した。
【0118】
2.2.細胞の採取および播種
RKO細胞株、RKO/B7H3細胞株から細胞を採取した後、3×10 cells、100μL/wellで播種(seeding)できるように培養培地(10%FBSを追加)で希釈して細胞濃度を合わせた。細胞培養プレート、96ウェルプレートに100μL/wellで播種した後、5%CO、37℃インキュベーターで一晩培養した。
【0119】
2.3.細胞固定およびブロッキング
1)8%パラホルムアルデヒド溶液を96ウェルプレートに100μL添加し、300g、10分間遠心分離を行った後、遠心分離時間を含めて合計20分間室温で固定した。
【0120】
2)その後、固定液を除去し、1X PBSを250μL/wellで添加してウェルを3回洗浄した。
【0121】
3)洗浄後、ブロッキングバッファーを250μL/well添加し、室温で1時間反応させた。ブロッキングバッファーを除去した後、1X PBS-Tを250μL/wellで添加してウェルを再び洗浄し、ウェルに残っているPBS-Tは払った(この洗浄過程を3回繰り返した。)。
【0122】
2.4.抗体反応
#1~#9二重特異性分子を連続希釈(serial dilution)法で希釈した後、下記表2に示す濃度の希釈試料(二重特異性分子)を100μLずつduplicateで96ウェルプレートに分注し、室温で2時間の間、二重特異性分子が結合するようにした。その後、洗浄を3回行った。
【0123】
本実験で使用した二重特異性分子の濃度を下記表2に示す。
【0124】
【表2】
【0125】
2.5.検出抗体反応
抗ヒトIgG F(ab’)2,ウサギIgGペルオキシダーゼ結合抗体(Peroxidase AffiniPure Rabbit Anti-Human IgG,F(ab’)2 fragment specific antibody)を、抗体希釈バッファーを用いて1:5,000の割合で希釈し、各ウェルに100μLずつ分注した後、室温で1時間反応させた。その後、ウェルを3回洗浄し、100μLの1-step TMB substrate溶液を各ウェルに分注した後、光を避けて10分間室温で反応させた。10分後、50μLの1N HClを各ウェルに添加してTMB反応を停止させ、450nmにおけるO.D値を測定した。
【0126】
結果
#1~#9二重特異性分子の濃度によるRKOおよびRKO/B7H3細胞株への結合親和度を確認した。
【0127】
B7-H3を過剰発現させなかったRKO細胞株に対しては#1~#9二重特異性分子のすべてが弱い結合力を示したが(図2)、細胞膜にB7-H3を過剰発現させたRKO/B7H3細胞株に対しては#1~#9二重特異性分子のすべてが強い結合力を示した(図3および表3)。
【0128】
表3は、RKO/B7H3細胞に対する各二重特異性分子のEC50濃度を示す。
【0129】
【表3】
【0130】
実施例3:ELISA法を用いたTGFβ1、TGFβ2及びTGFβ3結合力の試験
タンパク質TGFβ(TGFβ1、TGFβ2及びTGFβ3)へのB7-H3/TGFβ二重特異性分子の結合力を確認するために本実験を行った。
【0131】
実験方法
3.1.TGFβ1またはTGFβ3への結合力の試験
1X PBS溶液中の組換えヒトTGFβ1タンパク質(R&D Systems、Cat#7754-BH-025/CF)およびTGFβ3タンパク質(R&D Systems、Cat#8420-B3-025/CF)(30μL、0.5μg/ml)をそれぞれプレートにコーティングした後、プレートを覆い、2~8℃で一晩培養した。その後、ウェル当たりに150μLのPBSで1回洗浄し、ブロッキングバッファー(1X PBS-T w/3% BSA)をウェル当たりに120μLで室温で2時間ブロッキングした。ブロッキングバッファーを捨て、#1~#9二重特異性分子を含む溶液(5倍連続希釈)30μLを加えて室温で1時間反応させ、ウェル当たりに150μLの洗浄緩衝液でウェルを3回洗浄した。ブロッキングバッファーに希釈したHRP接合抗ヒトIgG1 Fc Ab 30μLを各ウェルに加え、室温で1時間反応させた。その後、ウェル当たりに150μLの洗浄緩衝液でウェルを3回洗浄し、TMBを用いてHRP反応を展開し、30μLの1N HClで反応を停止した。その後、450nmにおける光学密度(optical density, OD)を測定した。
【0132】
3.2.TGFβ2への結合力の試験
#1~#9二重特異性分子を含む1X PBS溶液(30μL、0.5μM)でプレートをコーティングした後、プレートを覆い、2~8℃で一晩培養した。その後、ウェル当たりに150μLのPBSで1回洗浄し、ブロッキングバッファー(1X PBS-T w/3% BSA)をウェル当たりに120μLで室温で2時間ブロッキングした。ブロッキングバッファーを捨て、組換えヒトTGFβ2タンパク質(R&D Systems、Cat#302-B2-010/CF)を30nMから4倍に連続希釈し、各希釈液をウェル当たりに30μLを加え、室温で1時間反応させた。ウェル当たりに150μLの洗浄緩衝液(1X PBS-T)でウェルを3回洗浄した後、組換えヒトTGFβ2タンパク質と結合するBiotinylated-TGF-beta2抗体をブロッキングバッファーに希釈し、各ウェル当たりに30μLずつ入れた後、室温で1時間反応させた。ウェル当たりに150μLの洗浄緩衝液(1X PBS-T)でウェルを3回洗浄した後、ブロッキングバッファーに希釈した30μLのストレプトアビジン(sterptavidin)-HRPを各ウェルに加え、室温で1時間反応させた。ウェル当たりに150μLの洗浄緩衝液(1X PBS-T)でウェルを3回洗浄した後、TMBを使用してHRP反応を展開し、30μLの1N HClで反応を停止した。その後、450nmにおける光学密度(optical density, OD)を測定した。
【0133】
結果
#1~#9二重特異性分子の濃度によるTGFβ1及びTGFβ3タンパク質への結合力、および#1~#9二重特異性分子を処理した場合、50%が抗原-抗体結合状態で存在することを可能にする各抗体の濃度(EC50)(TGFβ1、TGFβ3)とTGFβ2の濃度(EC50)を確認した(図4及び6、表4及び6)。
【0134】
また、TGFβ2タンパク質濃度による#1~#9二重特異性分子の結合力、およびTGFβ2タンパク質を処理した場合、50%が抗原-抗体結合状態で存在することを可能にするTGFβ2タンパク質の濃度を確認した(図5および表5)。
【0135】
これにより、#1~#9二重特異性分子が優れた結合力でTGFβ1、TGFβ2及びTGFβ3に特異的に結合することを確認した。
【0136】
表4は、#1~#9二重特異性分子を処理した場合、50%がTGFβ1と抗原-抗体結合状態で存在することになる二重特異性分子の濃度(EC50)を示す。
【0137】
【表4】
【0138】
表5は、#1~#9二重特異性分子に抗原を処理した場合、50%がTGFβ2と抗原-抗体結合状態で存在することになるTGFβ2の濃度(EC50)を示す。
【0139】
【表5】
【0140】
表6は、#1~#9二重特異性分子を処理した場合、50%がTGFβ3と抗原-抗体結合状態で存在することになる二重特異性分子の濃度(EC50)を示す。
【0141】
【表6】
【0142】
実施例4:ELISA法を用いたB7-H3及びTGFβ1同時結合力の試験
B7-H3及びTGFβ1へのB7-H3/TGFβ二重特異性分子の同時結合力を確認するために本実験を行った。
【0143】
実験方法
1X PBS溶液中の組換えヒトTGFβ1タンパク質(30μL、0.5μg/ml)をプレートにコーティングした後、プレートを覆い、2~8℃で一晩培養した。その後、ウェル当たりに150μLのPBSで1回洗浄し、ブロッキングバッファー(1X PBS-T w/3% BSA)をウェル当たりに120μLで室温で2時間ブロッキングした。ブロッキングバッファーを捨て、4-foldで希釈した抗体溶液を30μLずつ加えて室温で2時間反応させ、ウェル当たりに150μLの洗浄緩衝液(1X PBS-T)でウェルを3回洗浄した。
【0144】
その後、ブロッキングバッファーに希釈したHis-tagヒトB7-H3タンパク質30μLを各ウェルに加え、室温で2時間培養し、ウェル当たりに150μLの洗浄緩衝液でウェルを3回洗浄した。ブロッキングバッファーに希釈した抗ヒスタグ抗体のHRP接合体30μLを各ウェルに加え、室温で1時間反応させた。その後、ウェル当たりに150μLの洗浄緩衝液でウェルを3回洗浄し、TMBを用いてHRP反応を展開し、30μLの1N HClで反応を停止した。その後、450nmにおける吸光度(Optical density、OD)を測定した。
【0145】
結果
#1~#9二重特異性分子(#1(TRAP)~#9(TRAP))がB7-H3タンパク質とTGFβ1タンパク質に同時に結合することを確認した。また、TGFβ結合部なしのB7-H3モノクローナル抗体(#1(mono)~#9(mono))は、TGFβ1と結合しないことを確認した。
【0146】
表7及び8は、#1~#9二重特異性分子(#1(TRAP)~#9(TRAP))を処理した場合、50%がB7-H3およびTGFβ1と抗原-抗体結合状態で存在することになる二重特異性分子の濃度(EC50)を示す。
【0147】
【表7】
【0148】
【表8】
【0149】
実施例5:細胞内在化(Cell internalization)の試験
B7-H3/TGFβ二重特異性分子のB7-H3内在化(internalization)能力を確認するために本実験を行った。
【0150】
5.1.抗体-pHAbアミン反応性染料コンジュゲーション(Ab-pHAb amine reactive dye conjugation)
炭酸水素ナトリウム0.084gを蒸留水に溶かした後、pHメーターを用いてpHを8.5とし、最終ボリュームを100mLとした後、シリンジフィルターで異物をろ過して、平衡化バッファー(10mM炭酸水素ナトリウムバッファー、pH8.5)を作製した。その後、脱塩カラムを用いて、抗体のバッファーを平衡化バッファーに交換した。カラムの保存液(storage solution)を除去し、抗体の保存液を平衡化バッファーに変更するために、カラムのボトムクロージャー(bottom closure)を除去した後、1.5mLマイクロ遠心チューブ(microcentrifuge tube)に入れた。
【0151】
1,500gで1分間遠心分離を行い、新しいマイクロ遠心チューブに変えた。その後、洗浄を行った。平衡化バッファーを300μL入れ、1,500gで1分間遠心分離をし、2回行った。2回行った後、平衡化バッファーを300μL入れ、1,500gで2分間遠心分離した。その後、各抗体を70μL入れ、1,500gで2分間遠心分離を行った。
【0152】
アミン反応性染料を-80℃で取り出し、14,000gで10秒間遠心分離して沈殿させた染料にDMSOと蒸留水を1:1で混合し、10mg/mLに25μLを入れ、3分間ボルテックスして十分に溶かした。
【0153】
その後、抗体-pHAbアミン反応性染料コンジュゲーションを行った。
【0154】
抗体100μgにpHAbアミン反応性染料1.2μLを加えた後、室温で1時間ゆっくりと混合した。その後、脱塩カラムに抗体とpHAbアミン反応性染料コンジュゲーション試薬を入れ、1,500gで2分間遠心分離して未反応の染料を除去した。pHAbアミン染料とコンジュゲートした抗体の濃度は、以下の計算式を用いて換算した。
【0155】
【0156】
(但し、抗体の分子量(Molecular weight of antibody)=150,000、pHAb反応性染料の吸光係数(Extinction coefficient of pHAb Reactive Dye)=75,000、pHAb反応性染料の補正係数(Correction factor for pHAb Reactive Dye)=0.256)
【0157】
5.2.細胞播種(Cell seeding)
RKO細胞株およびRKO/B7H3細胞株を採取した後、細胞計数を行った。培養培地を用いて3×10cells/mLの細胞濃度で浮遊させた。
【0158】
96ウェルブラック、クリアボトムプレート(clear-bottom plate)にウェル当たりに3×10cellsとなるように100μLずつ分注し、5%CO、37℃培養器で24時間培養した。
【0159】
5.3.一次抗体とpHAbアミン標識された二次抗体のコンジュゲーション
RPMI1640(phenol free、serum free)培地に一次抗体(control IgG、二重特異性分子#1~#9)の4μg/mLとpHAbアミン標識された二次抗体を1:4の割合で入れて混合した。その後、37℃の恒温水槽に入れて1時間反応させた。
【0160】
5.4.コンジュゲーション抗体の処理
細胞播種時に入れた培養液を除去した後、一次抗体とpHAbアミン標識された二次抗体をコンジュゲートした溶液をウェル当たりに100μLずつ分注した。5%CO、37℃培養器で24時間反させた。
【0161】
5.5.固定および洗浄
コンジュゲートされた抗体を処理した培養液を除去し、4%ホルムアルデヒドを100μLずつ分注した。96ウェルプレートを300gで10分間遠心分離した後、10分間室温で反応させた。その後、1X PBSをウェル当たりに250μL加えて3回洗浄し、1X PBSをウェル当たりに100μL加えた。
【0162】
5.6.分析
マイクロプレートリーダーを用いて、Ex 520nm/Em 565nmにおけるOD値で蛍光数値を測定した。
【0163】
結果
B7-H3を過剰発現させなかったRKO細胞株では、#1~#9二重特異性分子を処理した群において蛍光強度の大きな差がなかった。このことから、内在化(internalization)がほとんど起こらないことが分かった(図9)。
【0164】
一方、B7-H3を過剰発現させたRKO/B7H3細胞株では、#1~#9二重特異性分子を処理した群において蛍光強度が大幅に増加した。つまり、#1~#9二重特異性分子は、細胞表面に過剰発現したB7-H3と結合して内在化(internalization)する能力が優れていることを確認した(図9)。
【0165】
実施例6:浸潤(Invasion)試験
B7-H3/TGFβ二重特異性分子の癌細胞浸潤(invasion)抑制効果を確認するために本実験を行った。
【0166】
6.1.試薬の準備
培養培地:500mLのRPMI 1640培地に50mLのFBS、5mLの抗生物質-抗真菌剤(antibiotic-antimycotic)(100X)、5mLのNEAA(Non-essential Amino acid)、5mLのピルビン酸ナトリウム(sodium pyrubate)を加えて作製した。1X PBS:900mLの三次蒸留水に100mLの10X PBSを混合して作製した。0.2%クリスタルバイオレット:40mLのメタノールに10mLの1%クリスタルバイオレット溶液を加えて転倒(inverting)混和し、遮光して室温で保存した。
【0167】
6.2.トランスウェル挿入およびマトリゲル・コーティング
アルコールランプで鉗子を加熱し、冷やす。トランスウェル(Transwell)をSPL 24ウェルプレートに取り付けた。SFM(Serum Free Media、無血清培地)で1:10の割合で希釈したマトリゲル(Matrigel)をインサートウェル(トランスウェルの内側)に22μLずつ分注した後、メンブレンに均一に広げた。その後、マトリゲルを固めるために室温で1~2時間乾燥した。
【0168】
6.3.RKO、RKO/B7H3細胞株の培養
10cmディッシュで培養中であったRKO、RKO/B7H3の培地を除去し、8mLのDPBSで洗浄した後、1mLのT/E(トリプシン-EDTA)溶液を入れ、37℃の培養器で2~3分間置いて細胞を剥離した。剥離した細胞を6mLのSFMを用いて15mLチューブに回収した後、700rpmで3分間遠心分離した。上清液を除去した後、細胞ペレットを3mLのSFMで溶いた後、セルカウントを行った。SFMを加えて細胞の濃度を5×10cells/mLとした。
【0169】
RKO及びRKO/B7H3をそれぞれ1×10cells/200μLのみインサートウェルにゆっくりと入れ、10%FBSが添加されている培養培地600μLをアウターウェルに添加した。
【0170】
抗体処理効果を確認するために、RKO/B7H3(2X10cells/200μL)細胞株にそれぞれ20μg/mL濃度の#1~#9抗体を混合してインサートウェルにゆっくり入れ、20%FBSが添加されている培養培地600μLをアウターウェルに添加した。その後、37℃、5%CO培養器で48時間培養した。
【0171】
6.4.クリスタルバイオレット染色
24ウェルプレートに、600μLの1X PBS、0.2%クリスタルバイオレット、三次蒸留水を各ウェルに分注した。
【0172】
培養された細胞を取り出し、インサートウェルを逆さまにして内側の培地を除去した後、PBSに浸して洗浄した。その後、インサートウェルを0.2%クリスタルバイオレットに入れて30分間室温で染色した。
【0173】
インサートウェルを取り出し、逆さまにして内側のクリスタルバイオレットを除去した後、三次蒸留水に浸して染色を止めた。
【0174】
鉗子でインサートウェルをつかみ、広い筒に入った三次蒸留水で振って洗浄した後、綿棒を用いて内側のメンブレンに浸潤(invasion)されていない細胞を拭き取った。
【0175】
6.5.写真撮影およびデータ分析
細胞の浸潤(invasion)の程度を写真撮影し、Image Jを用いて浸潤した細胞の数を数えた。
【0176】
結果
何も処理していないRKO/B7H3細胞株(図10のNon-treat)では、癌細胞の浸潤が活発に進行した。これに対し、RKO/B7H3細胞株に#1~#9二重特異性分子を処理して培養した場合には、浸潤が減少した(図10)。B7-H3が過剰発現される場合には、癌細胞の浸潤が活発に進行するが、B7-H3抗体により浸潤が抑制され、特に、#1~#9二重特異性分子の浸潤抑制効果が優れていることを確認した。
【0177】
実施例7:遊走(Migration)の試験
B7-H3/TGFβ二重特異性分子の癌細胞の遊走抑制効果を確認するために本実験を行った。
【0178】
実験方法
7.1.試薬の準備
培養培地:500mLのRPMI 1640培地に50mLのFBS、5mLの抗生物質-抗真菌剤(antibiotic-antimycotic)(100X)、5mLのNEAA、5mLのピルビン酸ナトリウム(sodium pyrubate)を加えて作製した。1X PBS:900mLの三次蒸留水に100mLの10X PBSを混合して作製した。0.2%クリスタルバイオレット:40mLのメタノールに10mLの1%クリスタルバイオレット溶液を加えて混合した後、遮光して室温で保存した。
【0179】
7.2.トランスウェル挿入
アルコールランプで鉗子を加熱して冷やし、トランスウェルをSPL 24ウェルプレートに使用量のみ取り付けた。
【0180】
7.3.RKO、RKO/B7H3の播種および培養
10cmディッシュで培養中であったRKO、RKO/B7H3の培地を除去し、8mLのDPBSで洗浄した後、1mLのT/E溶液を入れ、37℃の培養器で2~3分間置いて細胞を剥離した。剥離した細胞を6mLのSFMを用いて15mLチューブに回収し、700rpmで3分間遠心分離した。上清液を除去した後、細胞ペレットを3mLのSFMで溶いた後、セルカウントを行った。SFMを加えて細胞の濃度を1×10cells/mLとした後、細胞を2×10cells/200μLの密度でインサートウェルにゆっくりと添加した後、10%FBSが添加されている培養培地600μLをアウターウェルに加えた。その後、37℃、5%CO培養器で16時間培養した。
【0181】
7.4.クリスタルバイオレット染色
24ウェルプレートに、600μLのPBS、0.2%クリスタルバイオレット、三次蒸留水を各ウェルに分注した。培養された細胞を取り出し、インサートウェルを逆さまにして内側の培地を除去した後、PBSに浸して洗浄した。その後、インサートウェルを0.2%クリスタルバイオレットに入れて30分間室温で染色した。インサートウェルを取り出し、逆さまにして内側のクリスタルバイオレットを除去した後、三次蒸留水に浸して染色を止めた。鉗子でインサートウェルをつかみ、広い筒に入った三次蒸留水で数回振って洗浄した後、綿棒を用いて内側のメンブレンに遊走(migration)されていない細胞を拭き取った。
【0182】
7.5.写真撮影
癌細胞の遊走の動度を顕微鏡により確認した後、撮影した。
【0183】
7.6.クリスタルバイオレットの抽出
新しい24ウェルに100%メタノールを200μLずつ加えた後、写真撮影を終えたインサートウェルを入れ、インサートウェルの内側に100μLの100%メタノールを入れた後、パラフィルムで密封した。その後、1時間室温で混合した後、染色した試薬を抽出した。インサートウェルを除去した後、200μLを取って96ウェルプレートに移した後、590nmにおけるOD値を測定した。測定されたOD値から遊走の程度を比較した。
【0184】
7.7.データの分析
クリスタルバイオレット抽出により得られたOD値の分析は、非処理(non-treated)RKO/B7H3細胞の値を基準として実験群のOD値を割って、遊走の程度をパーセントに換算して比較した。
【0185】
結果
何も処理していないRKO/B7H3細胞株(図11のNon-treat)では、癌細胞の遊走(migration)が活発に進行した。これに対し、RKO/B7H3細胞株に#1~#9二重特異性分子を処理して培養した場合には、癌細胞の遊走が減少した(図11)。つまり、B7-H3が過剰発現される場合には、癌細胞の遊走が活発に進行するが、B7-H3抗体により癌細胞の遊走が抑制され、特に、#1~#9二重特異性分子の癌細胞の遊走抑制効果が優れていることを確認した。
【0186】
実施例8:TGFβ分泌抑制効果の確認
B7-H3/TGFβ二重特異性分子(#1~#9二重特異性分子)を処理した後、RKO/B7H3細胞から分泌されたTGFβ死滅効果を確認するために本実験を行った。
【0187】
実験方法
8.1.試薬の準備
1X PBS、洗浄バッファー(Washing buffer、1X PBS-T(0.05% tween20))、ブロッキングバッファー(1% BSA in 1X PBS-T(0.05% Tween20)、抗体希釈バッファーおよび中和バッファー(Neutralization buffer)を準備した。抗体希釈バッファーとしては、洗浄バッファーと同一のバッファーを使用した。中和バッファーとしては、1M HEPESを25mL、5N NaOHを12mL、三次蒸留水を13mL加えて混合して調製した。
【0188】
8.2.RKO/B7H3細胞株の培養、候補抗体の処理および上清液の採取
RKO/B7H3細胞を24ウェルプレートにウェル当たりに1×10cellsとなるように分注した後、5%CO、37℃培養器で24時間培養した。培地を除去し、SFMを各ウェルに200μLずつ分注して除去した後、各ウェルにSFMを500μLずつ分注し、5%CO、37℃培養器で48時間培養した。細胞培養48時間後、B7-H3/TGFβ二重特異性分子(#1~#9二重特異性分子)(20nM)を処理し、24時間培養した。抗体処理24時間後、上清液を1.5mlチューブに入れて300gで3分間遠心分離し、上清液400μLを新しい1.5mチューブに集めて-80℃で保存した。
【0189】
8.3.捕捉抗体のコーティング(100μL/well;2μg/ml)
ヒトTGFβ1捕捉抗体(保存濃度:240μg/ml、-20℃)を溶解した後、2μg/mlの濃度となるように1X PBSを用いて1:120の割合で希釈した。その後、0.2μg/well(100μl/well)ずつ96ウェルプレートにそれぞれ分注した後、室温で一晩反応させた。その後、洗浄バッファーを用いて各ウェルを3回洗浄し、各ウェルにブロッキングバッファー250μL/wellを分注し、室温で2時間反応させた。
【0190】
8.4.ELISAアッセイ
1)スタンダードの準備:ヒトTGFβ1(ストック濃度(stock concentration):190ng/ml、-20℃)を、抗体希釈バッファーを用いて1:95の割合で希釈した後、2,000pg/mlの濃度から2倍連続希釈を行い、ヒトTGFβ1スタンダードを製作した。
【0191】
2)サンプル(前記で得られたRKO/B7H3培養上清液に#1~#9二重特異性分子処理群および対照群(Non-treat))を96ウェルプレートに100μLずつ分注し、1N HC1を20μLずつ加えた後、プレートを10秒間振盪した。その後、室温で10分間反応させ、1.2N NaOH/0.5M HEPESを20μLずつ加えて中和した。
【0192】
3)1)で作製したスタンダードとサンプルを各ウェル当たりに100μLずつ分注し、室温で2時間反応させた。その後、洗浄溶液を用いて3回洗浄した。
【0193】
4)抗体希釈バッファーを用いて検出抗体(TGF-beta1 Biotinylated Antibody、R&D Systems、Cat# BAF240)、ストック濃度(stock concentration):3μg/ml、20℃)を1:60の割合で希釈して50ng/mlの検出抗体を作製した。希釈した検出抗体を各ウェルに100μL/mlずつ分注した後、室温で2時間反応させた。その後、洗浄溶液を用いて3回洗浄した。
【0194】
5)抗体希釈バッファーを用いて1:40の割合で希釈したストレプトアビジン-HRPを各ウェルに100μL分注し、遮光して室温で20分間反応させた。その後、洗浄溶液を用いて3回洗浄した。
【0195】
6)TMBを各ウェルに100μLずつ分注し、遮光して室温で20分間反応させた。その後、停止液(Stop solution)である1N HC1を各ウェル当たりに50μLずつ分注して基質反応を終了させた。
【0196】
7)450nmにおける吸光度(O.D値)を測定した。
【0197】
結果
B7-H3/TGFβ二重特異性分子(#1~#9二重特異性分子)投与群では、免疫抑制性物質であるTGFβ1が完全に死滅したことを確認した(図12)。
【0198】
実施例9:癌モデルにおける抗癌効果の評価(In vivo efficacy test)
インビボ(In vivo)マウス癌モデルにおいて、B7-H3/TGFβ二重特異性分子(#1~#9二重特異性分子)を処理した場合に腫瘍増殖が抑制されることを確認するために本実験を行った。
【0199】
9.1.動物モデルの作製
7週齢のBalb/c雌性(Korea Biolink)を用いた。マウス大腸癌細胞株であるCT26細胞にB7-H3を過剰発現して作製した細胞株CT26-TN細胞を5X10cells/mLの濃度でDPBSに希釈し、個体当たりに100μL(5X10cells)ずつ右フランク(flank)に皮下移植した。細胞株移植後7日目に電子キャリパー(caliper)を用いて、下記式より腫瘍体積を算出した。
【0200】
腫瘍体積(Tumor volume,mm)=<長さ(length,mm)x幅(width,mm)>x0.5
【0201】
9.2.群分離
腫瘍細胞株の移植後7日目に移植された右腫瘍を測定し、ほとんどの個体の腫瘍サイズがそれぞれ約40~120mmに達したとき、1つの個体において両側に移植された腫瘍のサイズを測定し、当該平均値の腫瘍サイズを基準としてZ配列法により群分離を行った。
【0202】
9.3.抗体の投与
投与濃度:#5二重特異性分子投与群-#5二重特異性分子10mg/kg、#5二重特異性分子および抗PD-1抗体併用投与群-#5二重特異性分子および抗PD-1抗体をそれぞれ10mg/kg。
【0203】
全ての試験物質は週2回、2週間、合計4回静脈投与(insulin syringeを使用)を行った。陰性対照物質(賦形剤(vehicle,PBS)、IgG)も同様に投与した。
【0204】
【表9】
【0205】
9.4.腫瘍サイズおよび体重の測定
群分離後、移植されたすべての腫瘍に対して、腫瘍体積を週2回、3週間測定した。同時に、全ての動物に対して群分離後に週2回測定して記録した。
【0206】
9.5.解剖
群分離日を0日(Day0)として、22日(Day22)に腫瘍を摘出して個体別に写真撮影した後、腫瘍の重量を測定した。
【0207】
結果
陰性対照群である賦形剤(vehicle,PBS)およびIgG投与群では、移植したCT26-TN細胞株の成長が急激に増加したが、#5二重特異性分子投与群(G3)では、regrouping後7日目から腫瘍増殖が抑制されることを確認した。また、#5二重特異性分子および抗PD-1抗体(BioXcell、Cat#BE016)併用投与群(G4)では、腫瘍増殖が顕著に抑制されることを確認した(図13)。
【0208】
実施例10:マウス癌モデルにおける血清中のTGFβの定量化
インビボマウス癌モデルにおいて、B7-H3/TGFβ二重特異性分子(#1~#9二重特異性分子)を処理した後の血清中のTFGβの変化を確認するために本実験を行った。
【0209】
実験方法
10.1.材料
マウスTGF-β1 DuoSet ELISAキット(Cat#:DY1679)
インビボ癌モデルの抗癌試験を完了したマウスから分離した血清
【0210】
10.2.抗体の準備
マウスTGFβ1捕捉抗体をPBSに1:120の割合で希釈し、マウスTGFβ1検出抗体をPBSに1:60の割合で希釈し、ストレプトアビジン-HRPをPBSに1:40の割合で希釈した。
【0211】
10.3.血清サンプルの準備
40μLの血清に10μLの1N HClを加えた後、室温で10秒間振盪した後、10分間培養した。その後、反応停止のために10μLの1.2N NaOH/0.5M HEPESを入れ、PBSで1:2の割合で希釈した。
【0212】
10.4.ELISAアッセイ
1日前(15~18時間前)に96ウェルプレートに希釈した捕捉抗体を100μLずつ分注して室温で培養した後、200μLのPBS-T(PBS+0.05%Tween20)で洗浄した。
【0213】
150μLのブロッキングバッファー(PBS+5%Tween20)を入れて室温で1時間培養した後、200μLのPBS-Tで洗浄した。その後、Kitに提供された標準溶液(standard solution)とあらかじめ準備した血清サンプルをduplicationで96ウェルに100μLずつ分注して室温で2時間反応した後、200μLのPBS-Tで3回洗浄した。100μLの検出抗体をウェルに分注して室温で2時間反応した後、200μLのPBS-Tで3回洗浄した。100μLのストレプトアビジン-HRPを分注して室温で20分間反応させた後、200μLのPBS-Tで3回洗浄した。100μLのTMB溶液を分注した後、遮光して室温で発色反応した。その後、発色反応を終了させるために50μLの1N HClを入れた。最後に、450nmにおけるO.D値を測定した。
【0214】
結果
#5二重特異性分子投与群(G3)と#5二重特異性分子および抗PD-1抗体併用投与群(G4)におけるマウス血清中のTGFβの濃度が、陰性対照群である賦形剤(vehicle,PBS)投与群(G1)およびIgG投与群(G2)と比較して有意に(賦形剤(vehicle)群を基準としてp値(p value)<0.5)減少したことを確認した(図14を参照)。
【0215】
実施例11:Tumor Infiltrating Lymphocytes(TIL)の分析
インビボマウス癌モデルにおいて、B7-H3/TGFβ二重特異性分子(#1~#9二重特異性分子)を処理した場合、免疫細胞の癌組織内の免疫細胞であるリンパ球(lymphocyte)の浸透能力が増加するかどうかを確認するために本実験を行った。
【0216】
実験方法
11.1.腫瘍細胞の分離
インビボ癌モデルの抗癌試験を完了したマウスから摘出した腫瘍に10mLのDPBSを添加して洗浄した後、残っている血液を除去した。
【0217】
6mLのRPMI-1640(Hyclone、Cat# CM058-050)培地を入れて、はさみで細かく刻んだ後、消化液(digestion solution)(50mL RPMI-1640+100mg コラゲナーゼD(collagenase D)(Merck、Cat# 11088858001)+10mg DNase I(Sigma-Aldrich、Cat#D4513))600μLを加え、37℃、120rpmで1時間反応させた。
【0218】
70μmのセルストライナー(SPL、Cat#SPL93070)に入れて大きな組織をろ過した後、1mLを15mLチューブに入れて15℃、2,000rpmで10分間遠心分離した後、上清液を除去し、DPBSで1回洗浄した。その後、蒸留水に希釈した1X RBC lysisバッファー(BioLegend、Cat#420301)を500μL添加してペレットを溶いて、室温で5分間反応させた。
【0219】
前記と同様の方法によりDPBSで2回洗浄した後、ペレットをFACSバッファー(DPBS+1%FBS+0.1%アジ化ナトリウム)によく溶いて細胞を準備した。
【0220】
11.2.FACS分析抗体の情報
FACS分析に使用される抗体としてはBioLegend製を使用した。その情報を下記表10に示す。
【0221】
【表10】
【0222】
11.3.蛍光染色
細胞分離の実験方法により分離された腫瘍の単一細胞は、Purified Rat anti-Mouse CD16/CD32(Mouse BD Fc BlockTM.BD biosciences.Cat#553141)を10分間前処理してFCブロッキングを行った後、FACSバッファー(DPBS+1%FBS+0.1%アジ化ナトリウム)に、抗体を提供されたデータシートに示されている希釈率で希釈した後、4℃で遮光して1時間反応させた。
【0223】
反応が終わった細胞は、FACSバッファーを用いて2回洗浄した後、2%パラホルムアルデヒド(PFA)を用いて固定した。染色が終わった細胞は、フローサイトメーター(Attune、Thermo Fisher Scientific)を用いて測定し、FlowJoTMV10(Flowjo、LLC)を用いて分析した。
【0224】
結果
マウスから摘出した腫瘍のCD4+、CD8+ T細胞に対してFACS分析を行ったところ、#5二重特異性分子投与群(G3)と#5二重特異性分子および抗PD-1抗体併用投与群(G4)では、CD8+ TIL免疫細胞の癌組織への浸透能力が賦形剤(vehicle,PBS)投与群(G1)およびIgG投与群(G2)と比較して増加したことを確認した。これに対し、CD4+ T細胞は、陰性対照群と抗体投与群との間に差がないことを確認した。このことから、細胞障害性リンパ球(cytotoxic lymphocyte)(CD8+T細胞)が癌組織に浸透し、癌細胞に細胞傷害(cytotoxic)効果を示すことができることが分かった(図15)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【配列表】
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【国際調査報告】