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特表2024-534269神経変性疾患を治療するための方法および物質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-18
(54)【発明の名称】神経変性疾患を治療するための方法および物質
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20240910BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240910BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240910BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240910BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240910BHJP
   G01N 33/545 20060101ALI20240910BHJP
   G01N 33/552 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
A61K39/395 N
A61P25/28
G01N33/53 D
G01N33/543 501A
G01N33/543 541A
G01N33/545 A
G01N33/552
G01N33/543 575
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024537808
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-04-17
(86)【国際出願番号】 US2022042073
(87)【国際公開番号】W WO2023034324
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/238,252
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/238,329
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/346,240
(32)【優先日】2022-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/393,885
(32)【優先日】2022-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】503146324
【氏名又は名称】ザ ブリガム アンド ウィメンズ ホスピタル インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】The Brigham and Women’s Hospital, Inc.
(71)【出願人】
【識別番号】524076501
【氏名又は名称】アビシニア バイオロジクス,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】セルコエ,デニス ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】リウ,レイ
(72)【発明者】
【氏名】ロートン,ロバート レスリー
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085AA16
4C085CC23
4C085EE01
4H045BA18
4H045BA42
4H045BA50
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA34
4H045GA21
(57)【要約】
本明細書には、アミロイドベータタンパク質の可溶性多量体(oAβ)に特異的に結合する抗体を製作および使用するための方法、ならびにoAβの病原性多量体の形成に関連する疾患の診断および治療においてそれらを使用するための方法が記載されている。また、所望の抗原に対する標的化体液性免疫応答を刺激するようにペプチド免疫原にコンジュゲートすることができるヘルパーT細胞(Th)担体ペプチドが提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の発生を刺激するための合成ペプチド免疫原であって、アミロイドベータタンパク質の多量体(oAβ)を含むアミロイドβタンパク質(Aβ)の凝集形態に存在する立体構造エピトープに特異的であるが、単量体形態には特異的ではない合成ペプチド免疫原。
【請求項2】
単離されたアミロイドベータ配列GYEVHHQKLV(配列番号1)または配列YEXHH(配列番号41)を含み、配列中Xは疎水性アミノ酸(V、I、またはL)である、請求項1に記載の合成ペプチド免疫原。
【請求項3】
ペプチド配列CGKCGYEVHHQKLVPNVLKQHHVEYGCK(配列番号2)もしくはCGKCGYEVHHQKLVPNGYEVHHQKLVCK(配列番号3)または表Aに示されている配列番号5~17の1つのペプチド配列を含む、請求項1または2に記載の合成ペプチド免疫原。
【請求項4】
前記ペプチドは、N末端に連結された担体タンパク質をさらに含み、任意選択で、前記担体タンパク質は、マレイミドにより連結されている、請求項3に記載の合成ペプチド。
【請求項5】
前記担体タンパク質は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、またはオボアルブミン(OVA)を含む、請求項4に記載の合成ペプチド。
【請求項6】
前記担体タンパク質は、任意選択で(i)Pam3Cys(N-α-パルミトイル-S-2,3-ビス(パルミトイルオキシ)-(2RS)-プロピル-L-システインを有し、パルミトイル-Cys((RS)-2,3)が2番目のリジン(K4)に付着している配列KSSKSKKKFISEAIIHHLHSRHPGK(配列番号4)を有するペプチドを含み、前記担体タンパク質はマレイミドを介して前記N末端にコンジュゲートされている、請求項4に記載の合成ペプチド。
【請求項7】
任意選択で(i)Pam3Cys(N-α-パルミトイル-S-2,3-ビス(パルミトイルオキシ)-(2RS)-プロピル-L-システインを有し、パルミトイル-Cys((RS)-2,3)が2番目のリジン(K4)に付着している配列KSSKSKKKFISEAIIHHLHSRHPGK(配列番号4)を有する合成ペプチド。
【請求項8】
1つまたは複数の生物学的流体を含む試料中の、好ましくはヒト対象に由来する試料中のoAβを検出するための方法であって、
前記試料を、表面に結合した捕捉抗体と接触させるステップであって、前記捕捉抗体は71A1または1G5抗体を含む、ステップ、
前記試料を、検出可能な標識を含む標識検出抗体と接触させるステップであって、前記検出抗体は、前記検出抗体が前記捕捉抗体-αAβ複合体に結合するのに十分な条件下で、前記捕捉抗体-αAβ複合体に結合する、ステップ、および
前記検出可能な標識を検出し、任意選択で定量化するステップであって、前記検出可能な標識の量は、前記試料中のoAβの量に比例し、それにより前記試料中のoAβを検出するステップ
を含む方法。
【請求項9】
前記1つまたは複数の生物学的流体は、血液または血漿を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記表面は、プレートまたはビーズの表面である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記プレートは、マルチウェルプレートまたは試験ストリップである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ビーズは、磁気ビーズ、プラスチックビーズ、セラミックビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、メチルスチレンビーズ、アクリルポリマービーズ、カーボングラファイトビーズ、二酸化チタンビーズ、ラテックスまたは架橋デキストラン、例えば、SEPHAROSEビーズ、セルロースビーズ、ナイロンビーズ、架橋ミセル、またはTEFLON(登録商標)ビーズから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記捕捉抗体は、ビオチン部分にコンジュゲートされており、前記表面はストレプトアビジンでコーティングされており、前記抗体はビオチン-ストレプトアビジン結合を介して前記表面に付着している、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記検出抗体は、前記捕捉抗体とは異なるエピトープでAβに結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記捕捉抗体は親和性タグを含み、前記検出抗体は前記親和性タグに結合する、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記検出可能な標識は、放射性同位体、化学発光物質、蛍光物質、金属錯体、ルシフェラーゼなどの生物発光物質、または核酸である、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
前記試料中のoAβ濃度の検出および任意選択の定量化は、前記検出抗体が放射性同位体で標識されている場合は、ラジオイムノアッセイ法(RIA)を使用すること、前記検出抗体が化学発光物質で標識されている場合は、化学発光イムノアッセイ法(CIA)を使用すること、前記検出抗体が蛍光物質で標識されている場合は、蛍光イムノアッセイ法(FIA)を使用すること、前記検出抗体が金属錯体で標識されている場合は、電気化学発光イムノアッセイ法(ECLIA)を使用すること、前記検出抗体がルシフェラーゼなどの生物発光物質で標識されている場合は、生物発光イムノアッセイ法(BLIA)を使用すること、前記検出抗体が核酸で標識されている場合は、抗体を標識した核酸をPCRにより増幅することおよび前記核酸を検出することを含む免疫PCR法を使用すること、免疫複合体の形成により生じる濁度を検出する比濁イムノアッセイ法(TAI)を使用すること、複合体の形成により凝集したラテックスを検出することを含むラテックス凝集比濁アッセイ(LA)を使用すること、またはセルロース膜での反応を使用したイムノクロマトグラフィーアッセイを使用することを含む、請求項8~14のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
表面、任意選択でプレートまたはビーズ、
71A1または1G5から選択され、任意選択で前記表面に連結された捕捉抗体、
検出抗体、および
既知濃度のoAβを含む標準物質
を含むキット。
【請求項19】
前記表面は、プレートまたはビーズの表面である、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
前記プレートは、マルチウェルプレートまたは試験ストリップである、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記ビーズは、磁気ビーズ、プラスチックビーズ、セラミックビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、メチルスチレンビーズ、アクリルポリマービーズ、カーボングラファイトビーズ、二酸化チタンビーズ、ラテックスまたは架橋デキストラン、例えば、SEPHAROSEビーズ、セルロースビーズ、ナイロンビーズ、架橋ミセル、またはTEFLON(登録商標)ビーズから選択される、請求項19に記載のキット。
【請求項22】
前記捕捉抗体は、ビオチン部分にコンジュゲートされており、前記表面はストレプトアビジンでコーティングされており、前記抗体はビオチン-ストレプトアビジン結合を介して前記表面に付着している、請求項18に記載のキット。
【請求項23】
前記検出抗体は、前記捕捉抗体とは異なるエピトープでAβに結合する、請求項18に記載のキット。
【請求項24】
前記捕捉抗体は親和性タグを含み、前記検出抗体は前記親和性タグに結合する、請求項18に記載のキット。
【請求項25】
検出可能な標識は、放射性同位体、化学発光物質、蛍光物質、金属錯体、ルシフェラーゼなどの生物発光物質、または核酸である、請求項18に記載のキット。
【請求項26】
対象におけるoAβの蓄積に関連付けられる神経障害を治療するための方法であって、治療有効量の71A1抗体もしくはその抗原結合性断片または1G5抗体もしくはその抗原結合性断片を前記対象に投与するステップを含む方法。
【請求項27】
前記障害は、脳アミロイド血管症(CAA)およびアルツハイマー病(AD)である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記抗体は、前記対象の脳に投与される、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である、請求項26~28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2021年8月30日に出願された米国特許仮出願第63/238,252号、2021年8月30日に出願された米国特許仮出願第63/238,329号、2022年5月26日に出願された米国特許仮出願第63/346,240号、および2022年7月30日に出願された米国特許仮出願第63/393,885号の利益を主張するものである。上述の文献の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府の支援を受けた研究または開発
本発明は、国立衛生研究所により授与された助成金番号AG006173、AG015379、AG071865、およびAG063046に基づく政府支援によりなされた。政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【0003】
本明細書には、アミロイドベータタンパク質の可溶性多量体(oAβ)に特異的に結合する抗体を製作および使用するための組成物および方法、ならびにoAβの病原性多量体の形成に関連する疾患の診断および治療においてそれらを使用するための方法が記載されている。また、所望の抗原に対する標的化体液性免疫応答を刺激するようにペプチド免疫原にコンジュゲートすることができるヘルパーT細胞(Th)担体ペプチドが提供される。
【背景技術】
【0004】
アルツハイマー病(AD)は、組織病理学的レベルおよび臨床レベルの両方においてゆっくりと進行する神経変性疾患であり、すべての認知症の約70%の原因である。一時的な軽度記憶喪失および最小限の断続的な認知障害という初期症状は、5~15年かけて徐々に重度の認知症および死亡に結び付く。現在、推定620万人のアメリカ人、世界中で4500万人を超える人々がアルツハイマー病を抱えたまま暮らしており、多大な家族的、社会的、および経済的負担を引き起こしている。ADは、高齢アメリカ人の死亡原因の第5位であり、2020年には認知症を有する患者の無報酬介護は、2567億ドルであると評価された(2021 Alzheimer's facts and figures)。2021年6月にアデュカヌマブが承認されるまで、ADの治療に承認された薬物は、4つのコリンエステラーゼ阻害剤および1つのN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニストの5剤のみだったが、これらは対症療法に過ぎず効果は最小限であり、こうした薬物はいずれも、ADの根本的な原因を治療するものでもなく、認知機能低下を遅らせるものでもない(Cummings et al, 2016)。アデュヘルムという商品名で販売されているアデュカヌマブは、アルツハイマー病の治療に利用可能な初めての疾患修飾療法である。アデュヘルムは、不溶性Aβ凝集体に対して高い特異性を有し、時間依存的および用量依存的に脳Aβ斑負荷を低減することが示されている(Arndt et al, 2018;Sevigny et al, 2016)。この承認は、アミロイド仮説に対して重要な臨床的裏付けを与え、Aβが薬物標的であることを実証するものであるが、アデュヘルムは標的エンゲージメントが陽性であり斑負荷を低減することができるにも関わらず、認知機能低下に対するこの薬物の効果については深刻な疑念が残されている(Knopman et al, 2021)。アデュヘルムの承認は、ADに苦しむ患者および家族にとって恩恵であり、より効果的で手頃な価格のAD診断戦略および疾患修飾療法を開発する緊急の必要性を浮き彫りにしている。
【発明の概要】
【0005】
本明細書には、アミロイドベータタンパク質の可溶性多量体(oAβ)に特異的に結合する抗体を製作および使用するための組成物および方法、ならびにoAβの病原性多量体の形成に関連する疾患の診断および治療においてそれらを使用するための方法が記載されている。また、所望の抗原に対する標的化体液性免疫応答を刺激するようにペプチド免疫原にコンジュゲートすることができるヘルパーT細胞(Th)担体ペプチドが提供される。
【0006】
したがって、本明細書では、抗体の発生を刺激するための合成ペプチド免疫原であって、アミロイドベータタンパク質の多量体(oAβ)を含むアミロイドβタンパク質(Aβ)の凝集形態に存在する立体構造エピトープに特異的であるが、単量体形態には特異的ではない合成ペプチド免疫原が提供される。一部の実施形態では、合成ペプチド免疫原は、配列GYEVHHQKLV(配列番号1)または配列YEXHH(配列番号41)を含み、配列中、Xは疎水性アミノ酸(V、I、またはL)である。
【0007】
一部の実施形態では、合成ペプチド免疫原は、配列CGKCGYEVHHQKLVPNVLKQHHVEYGCK(配列番号2)またはCGKCGYEVHHQKLVPNGYEVHHQKLVCK(配列番号3)を含む。一部の実施形態では、合成ペプチド免疫原は、図13に示されている配列、つまり配列番号5~17を含む。一部の実施形態では、合成ペプチド免疫原は、ペプチド1、3、5、7、8、11、または13の配列を含み、好ましくはペプチド5、8、または7が最も良好である。
【0008】
一部の実施形態では、合成ペプチド免疫原は、N末端に連結された担体タンパク質をさらに含み、任意選択で、担体タンパク質は、マレイミドにより連結されている。一部の実施形態では、合成ペプチド免疫原は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、またはオボアルブミン(OVA)を含む担体タンパク質を含む。
【0009】
一部の実施形態では、合成ペプチド免疫原は、任意選択で(i)Pam3Cys(N-α-パルミトイル-S-2,3-ビス(パルミトイルオキシ)-(2RS)-プロピル-L-システインを有し、パルミトイル-Cys((RS)-2,3)が2番目のリジン(K4)に付着している配列KSSKSKKKFISEAIIHHLHSRHPGK(配列番号4)を有するペプチドを含む担体タンパク質を含み、担体タンパク質はマレイミドを介してN末端にコンジュゲートされている。
【0010】
また、本明細書では、任意選択で(i)Pam3Cys(N-α-パルミトイル-S-2,3-ビス(パルミトイルオキシ)-(2RS)-プロピル-L-システイン)を有し、パルミトイル-Cys((RS)-2,3)が2番目のリジン(K4)に付着している配列KSSKSKKKFISEAIIHHLHSRHPGK(配列番号4)を有する合成ペプチド、および抗原に対する免疫応答を増加させるためにそれらを使用するための方法が提供される。
【0011】
さらに、本明細書に記載のペプチドを含む組成物が提供される。
【0012】
加えて、本明細書では、1つまたは複数の生物学的流体を含む試料中の、好ましくはヒト対象に由来する試料中のoAβを検出するための方法が提供される。こうした方法は、試料を、表面に結合した捕捉抗体であり、71A1抗体または1G5抗体を含む捕捉抗体と、捕捉抗体-oAβ複合体の形成に十分な条件下で接触させ、任意選択で洗浄して未結合タンパク質を除去するステップ;試料を、検出可能な標識を含む標識検出抗体と接触させるステップであって、検出抗体は、捕捉抗体-oAβ複合体に結合するのに十分な条件下で捕捉抗体-oAβ複合体に結合する、ステップ;および検出可能な標識を検出し、任意選択で定量化するステップであって、検出可能な標識の量は、試料中のoAβの量に比例し、それにより試料中のoAβを検出するステップを含む。
【0013】
一部の実施形態では、1つまたは複数の生物学的流体は、全血、血漿、血清、尿、唾液、呼気、エキソソームまたはエキソソーム様微小胞、リンパ、脳脊髄液、または痰中血液もしくは血漿を含む。組織を使用することもできる。好ましくは、試料は、全血、血漿、または血清である。一部の実施形態では、試料は希釈されている。例えば、血漿を含む試料は、1:2~16倍、例えば、1:4~1:8倍に希釈されている。CSFを含む試料は、1:10~1:20倍、例えば1:12~1:18、例えば1:16倍に希釈されていてもよい。
【0014】
一部の実施形態では、表面は、プレートまたはビーズの表面である。一部の実施形態では、プレートは、マルチウェルプレート(例えば、96ウェルプレート)または試験ストリップである。一部の実施形態では、ビーズは、磁気ビーズ、プラスチックビーズ、セラミックビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、メチルスチレンビーズ、アクリルポリマービーズ、カーボングラファイトビーズ、二酸化チタンビーズ、ラテックスまたは架橋デキストラン、例えば、SEPHAROSEビーズ、セルロースビーズ、ナイロンビーズ、架橋ミセル、またはTEFLON(登録商標)ビーズから選択される。
【0015】
一部の実施形態では、捕捉抗体はビオチン部分にコンジュゲートされており、表面はストレプトアビジンでコーティングされており、抗体は、ビオチン-ストレプトアビジン結合を介して表面に付着している。
【0016】
一部の実施形態では、検出抗体は、捕捉抗体とは異なるエピトープにてAβと結合する。
【0017】
一部の実施形態では、捕捉抗体は親和性タグを含み、検出抗体は親和性タグに結合する。
【0018】
一部の実施形態では、検出可能な標識は、放射性同位体、化学発光物質、蛍光物質、金属錯体、ルシフェラーゼなどの生物発光物質、または核酸である。
【0019】
一部の実施形態では、試料中のoAβ濃度の検出および任意選択の定量化は、検出抗体が放射性同位体で標識されている場合は、ラジオイムノアッセイ法(RIA)を使用すること、検出抗体が化学発光物質で標識されている場合は、化学発光イムノアッセイ法(CIA)を使用すること、検出抗体が蛍光物質で標識されている場合は、蛍光イムノアッセイ法(FIA)を使用すること、検出抗体が金属錯体で標識されている場合は、電気化学発光イムノアッセイ法(ECLIA)を使用すること、検出抗体がルシフェラーゼなどの生物発光物質で標識されている場合は、生物発光イムノアッセイ法(BLIA)を使用すること、検出抗体が核酸で標識されている場合は、抗体を標識した核酸をPCRにより増幅して核酸を検出することおよび核酸を検出することを含むイムノPCRを使用すること、免疫複合体の形成により生じる濁度を検出する比濁イムノアッセイ法(TAI)を使用すること、複合体の形成により凝集したラテックスを検出することを含むラテックス凝集比濁アッセイ(LA)を使用すること、またはセルロース膜上の反応を使用するイムノクロマトグラフィーアッセイを使用することを含む。
【0020】
加えて、本明細書では、表面、任意選択でプレートまたはビーズ;71A1または1G5から選択され、任意選択で表面に連結された捕捉抗体;検出抗体;および既知濃度のoAβを含む標準物質を含むキットが提供される。一部の実施形態では、表面は、プレートまたはビーズの表面である。一部の実施形態では、プレートは、マルチウェルプレートまたは試験ストリップである。
【0021】
一部の実施形態では、ビーズは、磁気ビーズ、プラスチックビーズ、セラミックビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、メチルスチレンビーズ、アクリルポリマービーズ、カーボングラファイトビーズ、二酸化チタンビーズ、ラテックスまたは架橋デキストラン、例えば、SEPHAROSEビーズ、セルロースビーズ、ナイロンビーズ、架橋ミセル、またはTEFLON(登録商標)ビーズから選択される。
【0022】
一部の実施形態では、捕捉抗体はビオチン部分にコンジュゲートされており、表面はストレプトアビジンでコーティングされており、抗体はビオチン-ストレプトアビジン結合を介して表面に付着している。
【0023】
一部の実施形態では、検出抗体は、捕捉抗体とは異なるエピトープにてAβと結合する。
【0024】
一部の実施形態では、捕捉抗体は親和性タグを含み、検出抗体は親和性タグに結合する。
【0025】
一部の実施形態では、検出可能な標識は、放射性同位体、化学発光物質、蛍光物質、金属錯体、ルシフェラーゼなどの生物発光物質、または核酸である。
【0026】
また、本明細書では、対象におけるoAβの蓄積に関連付けられる神経障害を治療するための方法であって、治療有効量の71A1抗体もしくはその抗原結合性断片または1G5抗体もしくはその抗原結合性断片を対象に投与するステップを含む方法が提供される。また、例えば、対象におけるoAβの蓄積に関連付けられる神経障害を治療するための方法で使用するための、71A1抗体もしくはその抗原結合性断片または1G5抗体もしくはその抗原結合性断片、および71A1抗体もしくはその抗原結合性断片または1G5抗体もしくはその抗原結合性断片を含む組成物が提供される。一部の実施形態では、障害は、脳アミロイド血管症(CAA)またはアルツハイマー病(AD)である。一部の実施形態では、抗体は、対象の脳に投与される。一部の実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である。
【0027】
本明細書では、1つまたは複数の生物学的流体中に存在する標的分析物をアッセイするための定量方法が提供される。こうした方法は、(i)ヒト患者から流体試料を得るステップ;(ii)前記流体中に存在する前記標的分析物を、前記流体から前記標的分析物を認識および単離する第1の作用剤またはプローブ(捕捉プローブ)を用いて捕捉するステップ;ならびに(iii)前記標的分析物の異なるエピトープを認識する、検出器シグナルとコンジュゲートされた第2の作用剤またはプローブ(検出器プローブ)を使用して、前記生物学的流体中の前記分析物の濃度を定量化するステップであって、前記標的分析物は、前記検出器シグナルにより定量される、ステップで構成されている。一部の実施形態では、標的分析物は、アミロイドβタンパク質(Aβ)に由来する可溶性神経毒性多量体抗原(oAβ)である。一部の実施形態では、oAβは、Aβペプチドアイソフォームで構成されている。一部の実施形態では、Aβペプチドアイソフォームは、生物学的流体中に天然に分泌されるAβペプチドである。一部の実施形態では、前記天然に分泌されるAβペプチドとしては、As37、As38、As39、Aβ40、Aβ42、As43、およびそれらの任意のN末端バリアントが挙げられる。一部の実施形態では、捕捉プローブおよび検出器プローブとしては、モノクローナル抗体、モノクローナル抗体の誘導体、モノクローナル抗体の修飾体、またはポリクローナル抗体が挙げられる。一部の実施形態では、前記捕捉モノクローナル抗体は、oAβ選択的であり、本明細書に記載のAsペプチドのいずれかで構成されている可溶性多量体を認識して結合する。一部の実施形態では、捕捉モノクローナル抗体は、71A1または1G5.9である。一部の実施形態では、捕捉プローブまたはモノクローナル抗体は、相補的結合分子にコンジュゲートされている。一部の実施形態では、相補的結合分子としては、これに限定されないが、ビオチンが挙げられる。一部の実施形態では、捕捉プローブは、基材または表面に結合している。一部の実施形態では、基材または表面は、ストレプトアビジンでコーティングされている。一部の実施形態では、捕捉プローブの基材または表面としては、ビーズ、粒子、ミクロスフェア、ナノチューブ、ポリマー、プレート、ディスク、またはディップスティックが挙げられる。一部の実施形態では、ビーズのタイプは、磁気ビーズ、プラスチックビーズ、セラミックビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、メチルスチレンビーズ、アクリルポリマービーズ、カーボングラファイトビーズ、二酸化チタンビーズ、ラテックスまたは架橋デキストラン、例えば、SEPHAROSEビーズ、セルロースビーズ、ナイロンビーズ、架橋ミセル、またはTEFLONビーズとして特徴付けることができる。一部の実施形態では、検出器プローブまたはモノクローナル抗体は、AβのN末端エピトープを認識する。一部の実施形態では、検出器プローブまたはモノクローナル抗体としては、これに限定されないが、3D6が挙げられる。一部の実施形態では、検出器プローブまたはモノクローナル抗体は、これらに限定されないが、酵素標識、色素、蛍光標識、または金属標識にコンジュゲートされている。一部の実施形態では、蛍光標識は、理想的には594nmまたは633nmレーザー線に好適な励起を示す明色近赤外蛍光色素である。一部の実施形態では、蛍光標識は、共焦点顕微鏡レンズおよび光検出器を使用して測定される。
【0028】
また、本明細書では、可溶性神経毒性Aβ多量体の堆積および/または産生により特徴付けられる神経疾患または状態の存在および経過について、ヒト患者をスクリーニングするための非侵襲的方法であって、(i)本明細書に記載の方法を使用して、前記ヒト患者に由来する体液中の可溶性神経毒性Aβ多量体抗原の量を定量化するステップ;(ii)前記ヒト患者試料中の可溶性神経毒性Aβ多量体の量を、正常なヒト参照集団から単離された流体試料中の可溶性神経毒性Aβ多量体の量と比較するステップを含み、(iii)前記正常ヒト参照集団の流体試料中に存在する可溶性多量体の量と比べた、前記ヒト患者の流体試料中に存在する可溶性神経毒性Aβ多量体の量の変化は、前記神経疾患もしくは状態の存在および/または経過に関するバイオマーカーまたは診断である、方法が提供される。一部の実施形態では、非侵襲的方法スクリーニングは、前記神経疾患または状態に対する療法的介入の有効性についてのバイオマーカーである。
【0029】
さらに本明細書では、ヒト患者から得られた試料中の可溶性神経毒性Aβ多量体抗原の量を定量化するためのキットであって、(i)本明細書に記載の捕捉および検出器試薬、ならびに(ii)前記ヒト患者試料中の可溶性神経毒性Aβ多量体抗原を定量化するための前記試薬を使用するための説明書で構成されるキットが提供される。
【0030】
加えて、本明細書では、患者におけるアミロイドの病理学的細胞外堆積により部分的または全体的に特徴付けられる疾患を予防するための、進行を遅らせるための、または治療するための方法であって、アミロイドベータタンパク質(oAβ)の神経毒性多量体を阻害する作用剤の1つまたは複数の治療有効用量を前記患者に投与するステップで構成される方法が提供される。一部の実施形態では、作用剤はモノクローナル抗体である。一部の実施形態では、モノクローナル抗体は71A1または1G5である。一部の実施形態では、作用剤は、これらに限定されないが、以下の経路:経口、舌下、非経口、腹腔内、筋肉内、静脈内、局所、眼内、鼻腔内、脳内、脳室内、および槽内により投与される。一部の実施形態では、疾患は、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病である。
【0031】
別様に定義されていない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書には、本発明で使用するための方法および物質が記載されている。当技術分野で公知の他の適切な方法および物質も使用することができる。物質、方法、および例は説明のためのものに過ぎず、限定することを意図したものではない。本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー、および他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。矛盾が生じた場合、定義を含む本明細書が優先されることになる。
【0032】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および図面から、ならびに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本明細書ではNETL-1とも呼ばれる、例示的なペプチド免疫原の概略図である。この例では、マレイミド担体にコンジュゲートされたペプチドが示されている。
図2】マレイミド活性化(SH反応性)マイクロタイタープレートにコンジュゲートされたAβ40、NETL1、またはNETL2ペプチドに対する結合についてアッセイした、精製されたモノクローナル抗体を用いた標準的な酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)である。
図3-1】図3A~3D:1G5および71A1は、ヒト脳浸漬抽出物からAβをプルダウンする。(A)ヒト脳浸漬抽出物を調製するための概略図。
図3-2】1G5および71A1は、ヒト脳浸漬抽出物からAβをプルダウンする。(B)異なる抗体によるヒト脳浸漬抽出物からのプロテインGを用いた免疫沈降の免疫ブロット。Aβの中間領域およびN末端に対する2つの抗体により検出した。入力レーンには7.5μLの抽出物を使用した。IPは800μLの抽出物からのものだった。
図3-3】1G5および71A1は、ヒト脳浸漬抽出物からAβをプルダウンする。(C)ヒト脳浸漬抽出物からの指定の抗体による免疫沈降または免疫沈降後上清(すべて8M GnClで変性)のELISAにより測定されたAβx-40およびx-42。n=3、平均±SD。
図3-4】1G5および71A1は、ヒト脳浸漬抽出物からAβをプルダウンする。
図4-1】図4A~4D:1G5および71A1は、ヒト脳内のAβをin situで認識する。(A)ヒト脳凍結切片に対して1C22、1G5、および71A1を使用した免疫組織化学的特徴。スケールバー=200μm。
図4-2】1G5および71A1は、ヒト脳内のAβをin situで認識する。(B)1C22または71A1を使用した、ヒト脳凍結切片に対する免疫組織化学的特徴。Aβ単量体抗体D54D2で二重標識した。左側2つのパネルではバー=200μm、右側パネルでは100μm。
図4-3】1G5および71A1は、ヒト脳内のAβをin situで認識する。(C)aCSF(n=6)、ヒト脳浸漬抽出物(n=5)、2.12ug/mLの71A1(n=4)、または2.12ug/mLの71A1(n=4)と予め混合したヒト脳浸漬抽出物による処理後のLTP誘導。平均±SD。(D)aCSF(n=6)または71A1で親和性精製されたoAβ(n=4)による処理後のLTP誘導。平均±SD。
図4-4】図4E~4F:海馬スライスに対する電気生理学的記録の統計検定。(E)ヒト脳浸漬抽出物処理対2.12ug/mLの71A1と予め混合した同じ抽出物処理(図4C)の多重t検定分析:60分間の記録にわたるq値分布。
図4-5】海馬スライスに対する電気生理学的記録の統計検定。(F)aCSF処理対71A1で精製されたoAβ処理間(図4D)の多重t検定分析:60分間の記録にわたるq値分布。
図5-1】図5A~5C:1G5および71A1はヒトCSFからAβを認識する。(A)異なる抗体による3つのヒトCSFからの免疫沈降物または免疫沈降後上清(すべて8M GnClで変性)のELISAにより測定されたAβx-40およびx-42。技術的複製物=3、平均±SD。
図5-2】(図5Aの続き)1G5および71A1はヒトCSFからAβを認識する。
図5-3】1G5および71A1はヒトCSFからAβを認識する。(B)71A1による19個の個々のヒトCSFからの免疫沈降物または免疫沈降後上清(すべて8M GnClで変性)のELISAにより測定されたAβx-40およびx-42。技術的複製物=3、平均±SD。
図5-4】1G5および71A1はヒトCSFからAβを認識する。(C)71A1による免疫沈降物(すべて8M GnClで変性)のELISAにより測定されたAβx-40およびx-42と、同じCSFからのADmark Aβ1-42測定値との間の相関性。ピアソン相関が使用されている。
図6-1】図6A~6I:oAβに特異的な71A1/3D6イムノアッセイの開発。(A)SMCxPROビーズベースイムノアッセイの概略図。
図6-2】oAβに特異的な71A1/3D6イムノアッセイの開発。(B~C)較正物質としてのADDLに対する1G5/3D6および71A1/3D6アッセイ成績。(D)1G5/3D6および71A1/3D6アッセイを使用したADDLシグナルの平均CVおよび回収率。
図6-3】oAβに特異的な71A1/3D6イムノアッセイの開発。(E)較正物質としてのADDLに対する1C22/3D6および71A1/3D6アッセイ成績。(F)DTTによる還元無し(-)または有り(+)の、Aβ1-40 S26二量体のPAGE分析のCBB染色。
図6-4】oAβに特異的な71A1/3D6イムノアッセイの開発。(G~H)DTTによる還元無し(天然)または有りの、Aβ1-40 S26二量体に対する1C22/3D6および71A1/3D6アッセイ成績。(I)ヒト脳浸漬抽出物に対する71A1/3D6アッセイ成績:左パネル:ADDLにより較正された系列希釈脳抽出物からの71A1/3D6シグナルの生値;中央パネル:希釈係数により調整した計算値;右パネル;1:1Kに対して正規化した各希釈物の回収率;n=3、平均±SD。
図6-5】(図6Iの続き)oAβに特異的な71A1/3D6イムノアッセイの開発。
図7-1】図7A~7D:71A1/3D6イムノアッセイは、ヒト脳から高分子量oAβを認識する。(A~B)Superdex200 increase SECカラムにより分画された分子量較正物質およびヒト脳可溶性抽出物のクロマトグラム(UV280nm吸光度)。
図7-2】71A1/3D6イムノアッセイは、ヒト脳から高分子量oAβを認識する。(C)SEC画分から71A1/3D6イムノアッセイにより測定された未変性oAβ。n=3、平均±SD。
図7-3】71A1/3D6イムノアッセイは、ヒト脳から高分子量oAβを認識する。(D)SEC画分からMSD ELISAにより測定された、未変性(赤色バー)のまたは変性(青色バー)単量体Aβx-42。n=2、平均±SD。
図8-1】図8A~8F:CSF中の71A1/3D6免疫反応性oAβは、t-タウレベルおよびp-タウレベルと相関する。(A)ヒトCSFに対する71A1/3D6アッセイ成績:左パネル:系列希釈CSFからの71A1/3D6シグナルの生値(ADDL較正物質に対する);中央パネル:希釈係数により調整した計算値;右パネル:1:2に正規化した各希釈物の回収率;n=3、平均±SD。
図8-2】CSF中の71A1/3D6免疫反応性oAβは、t-タウレベルおよびp-タウレベルと相関する。(B~C)CSF中の71A1/3D6反応性oAβレベルと、Aβ1-42、t-タウ、およびp-タウのADmark測定値との間の相関性。n=29。ピアソン相関が使用されている。
図8-3】CSF中の71A1/3D6免疫反応性oAβは、t-タウレベルおよびp-タウレベルと相関する。(D)CSF中の71A1/3D6反応性oAβレベルと、Aβ1-42、t-タウ、およびp-タウのADmark測定値との間の相関性。n=29。ピアソン相関が使用されている。
図8-4】CSF中の71A1/3D6免疫反応性oAβは、t-タウレベルおよびp-タウレベルと相関する。(E)Superdex 200 Increase SECカラムで分画したヒトCSFのクロマトグラム(UV280nm吸光度)。
図8-5】CSF中の71A1/3D6免疫反応性oAβは、t-タウレベルおよびp-タウレベルと相関する。(F)SEC画分での71A1/3D6イムノアッセイにより測定された未変性のoAβ。n=3、平均±SD。
図9-1】図9A~9G:71A1/3D6イムノアッセイは、ヒト血漿からoAβを正確に定量化する。(A)ヒト血漿に対する71A1/3D6アッセイ成績:左パネル:ADDL較正物質に対する系列希釈血漿からの71A1/3D6シグナルの生値;中央パネル:希釈係数により調整した計算値;右パネル:1:4に正規化した各希釈物の回収率;n=3、平均±SD。
図9-2】71A1/3D6イムノアッセイは、ヒト血漿からoAβを正確に定量化する。(B)ヒト脳ホモジネート(Brain H)、ヒト脳浸漬抽出物(Brain S)、またはヒトCSFを、8倍希釈した個々の血漿にスパイクすることによるスパイクイン回収試験。n=3、平均±SD。
図9-3】71A1/3D6イムノアッセイは、ヒト血漿からoAβを正確に定量化する。(C)入力血漿と比較した、様々な抗体により免疫枯渇させた8倍希釈の個々の血漿からのoAβの71A1/3D6アッセイ。n=4。
図9-4】71A1/3D6イムノアッセイは、ヒト血漿からoAβを正確に定量化する。(D)8M GnClで変性させた(または変性させなかった)、ヒト脳浸漬抽出物、CSF、および血漿からのoAβの71A1/3D6アッセイ。n=3、平均±SD。
図9-5】71A1/3D6イムノアッセイは、ヒト血漿からoAβを正確に定量化する。(E)73個のヒト血漿(メイヨー高齢者コホート)からのoAβの71A1/3D6アッセイ、n=4。
図9-6】71A1/3D6イムノアッセイは、ヒト血漿からoAβを正確に定量化する。(F)系列希釈血漿からの71A1/3D6シグナルの生値(ADDL較正物質に対する);n=3、平均±S.
図9-7】71A1/3D6イムノアッセイは、ヒト血漿からoAβを正確に定量化する。(G)すべての希釈物の平均に対して正規化した各希釈物の回収率;n=3、平均±SD。
図10-1】図10A. APP NLGF/NLGFマウス脳浸漬抽出物中のoAβの定量化は、マウス脳における71A1陽性oAβの年齢依存性蓄積を示す。
図10-2】図10B. 6月齢のAPP NLGF/NLGFマウスおよび年齢一致野生型マウスの海馬における長期増強(LTP)の測定は、6月齢のAPP NLGF/NLGFマウスにおけるLTP機能障害を示す。
図10-3】図10C. 6月齢のAPP NLGF/NLGFマウスからの浸漬抽出物を使用して野生型マウス海馬を処理し、続いてLTP測定を行った。6月齢のAPP NLGF/NLGFマウス脳抽出物は、処理した野生型マウス海馬のLTPを損なうことができた。また、処理に71A1を混合すると、6月齢のAPP NLGF/NLGFマウス脳抽出物により引き起こされる機能障害をレスキューすることになる。
図11-1】図11A. 自発的交替行動(spontaneous alteration)およびアーム進入(arm entry)の両方により示される、71A1または対照抗体で処置したマウスのY迷路行動。71A1処置は、対照抗体処置と比較して、雄マウスの成績を有意に向上させたが、雌では向上させなかった。
図11-2】(図11Aの続き). 自発的交替行動(spontaneous alteration)およびアーム進入(arm entry)の両方により示される、71A1または対照抗体で処置したマウスのY迷路行動。71A1処置は、対照抗体処置と比較して、雄マウスの成績を有意に向上させたが、雌では向上させなかった。
図11-3】図11B. 71A1処置は、雄マウスの脳内のoAβ量を減少させた(統計的有意性のない傾向)。
図12-1】図12A. 抗体試験APP NLGF/NLGFマウスの脳抽出物で処置した野生型マウス海馬のLTP測定の概略図。
図12-2】図12B. 野生型マウス海馬を、71A1処置雄マウス(n=3)および対照抗体処置雄マウス(n=2)の脳抽出物で処理して、71A1処置がAPP NLGF雄マウス脳のシナプス毒性を低減したことを示した。これは、野生型マウス海馬のLTPを阻害することができなかったことにより反映される。
図13】New England BioLabのPh.D.-12(商標)ファージディスプレイペプチドライブラリーキットを使用して単離した、Mab71A1に結合する、合成ペプチド模倣体である12個アミノ酸の配列。順に配列番号5~17が表示されている。
図14-1】14A~14B:図13に示されているような、マレイミド活性化マイクロタイタープレートにコンジュゲートされたペプチド模倣体(A)1~7および(B)8~13に対する結合についてアッセイした、精製されたモノクローナル抗体71A1を用いたELISA。
図14-2】14A~14B:図13に示されているような、マレイミド活性化マイクロタイタープレートにコンジュゲートされたペプチド模倣体(A)1~7および(B)8~13に対する結合についてアッセイした、精製されたモノクローナル抗体71A1を用いたELISA。
【発明を実施するための形態】
【0034】
生化学的および形態学的研究は、ADの臨床的機能障害には、早期シナプス機能不全(Tu et al, 2014;Anderton et al., 1998;Cummings et al., 1998)、続いてシナプス喪失の増加、広範な神経炎性ジストロフィー、神経原線維タングル、およびフランク神経細胞死(frank neuronal death)を含むより深刻な神経細胞変化が伴うことを示唆している(Serrano-Pozo et al, 2011;Tonnies & Trushina, 2017;Terry, 1963;Gomez-Isla et al., 1996;Sze et al., 1997;Anderton et al., 1998)。この進行性病態生理の開始の根底にある機序には、加齢性調節異常、ならびにアミロイドβタンパク質(Aβ)の蓄積、ならびにその後の微小管関連タンパク質タウの過剰リン酸化および凝集が関与していると考えられており、これらは両方とも、剖検時に、それぞれ原線維を多く含む老人斑および神経原線維タングルにおいて観察することができる(Braak & Braak, 1996;Perl, 2010;Esiri et al., 1997)。死後脳組織においてこうした末期病変が観察されること、および神経原線維タングルの前にアミロイド斑が出現することは、原線維の蓄積それ自体がADの進行の根底にあるという推定に結び付いている(Serrano-Pozo et al, 2011)。このような印象は、進行性神経変性が、高度に凝集した原線維状Aβにより誘導され得るが、同等濃度のAβ単量体では誘導され得ないという、一次神経細胞培養の研究により部分的に支持されてきた(Mattson et al., 1993b;Pike et al., 1993;Lorenzo et al., 1994)。さらに、幾つかの研究は、Aβ調節異常が、タウ過剰リン酸化の前に起こり、タウ過剰リン酸化を誘導して、最終的には疾患の臨床症状に結び付く可能性が高いことを示している(Zheng et al 2002;Wu et al, 2018;Bloom 2014;Viola and Klein, 2015)。
【0035】
アルツハイマー病(AD)の特徴は、アミロイドbタンパク質(Aβ)で構成されており、脳細胞間の正常な情報伝達を妨害し、最終的には神経細胞死に結び付くと考えられていた原線維を多く含む斑の形成である。アミロイド斑の蓄積は、かつては、アルツハイマー病に見出される神経細胞毒性の唯一の原因であると考えられていたが、ベータアミロイドの小型可溶性凝集体は、より毒性である可能性がある(Hong et al, 2018;Cline et al, 2018)。
【0036】
Aβは、アミロイド前駆体タンパク質またはAPPと呼ばれるより大型のタンパク質のペプチド断片である。APPの一部分は、ニューロンの表面に発現され、その後この部分が切断されて、Aβと呼ばれる40個または42個アミノ酸の断片が産生される。多量体Aβアセンブリ、およびプロトフィブリル(PF)と呼ばれるより大型の中間体が、原線維生成の過程で形成される。in vitro研究では、Aβおよびプロトフィブリルの可溶性多量体種は、神経生理を変化させる可能性があり、神経毒性を示す可能性があることが示されており、こうしたアセンブリがADの病態生理において役割を果たしている可能性があることが強く示唆されている(Cleary et al, 2005;Hon et al, 2018;Shankar et al, 2018;O'Malley et al, 2016)。多量体形態のAβを特異的に認識することができる抗体の開発は、脳機能不全および傷害の開始において多量体形態が果たす中心的な役割を理解する上で非常に貴重なものとなるだろう。特に、こうした抗体は、こうしたアセンブリがいつ生じ、それらがトランスジェニックマウスおよびAD患者の記憶障害および認知機能低下とどのように相関し得るのかを特定するのに有用だろう。加えて、プロトフィブリルまたはAβの固有の小型凝集体がヒトで形成される場合、こうした新規抗体は、血液および/または組織中でこうしたアセンブリを特定する上で貴重であり、ADの初期段階の診断を助けることができる。
【0037】
Aβは、in vivoでは、脳細胞から構成的に分泌される単量体から基本的になる低分子量種(LMW Aβ)として蓄積し始めると考えられている(Haass et al., 1992;Shoji et al., 1992)。低分子量種は、ある特定の状況下では、成熟斑で観察されるように、多量体へと、最終的には幅7~10nmの成熟アミロイド原線維へと進行する可能性がある。Aβ多量体(二量体、三量体、四量体、およびおそらくはより大型のアセンブリ)は、Aβを構成的に分泌するAPPを過剰発現するある特定の細胞株の条件培地中で(Podlisny et al., 1995;Xia et al., 1997;Podlisny et al., 1998)およびAD患者の脳脊髄液中で(Pitschke et al., 1998;Walsh et al., 2000)特定されている。幾つかの研究室からの最近のデータは、Aβ原線維形成中に形成される多量体種が神経傷害に寄与する可能性があることも示唆している(Hong et al, 2018;Li et al, 2018)。例えば、アミロイド原線維よりもゆっくりと沈降するAβ複合体は、MTT変換アッセイにより定量化すると、培養PC12細胞に対して神経毒性効果を有することが示された(Oda et al., 1995)。加えて、β-1-抗キモトリプシンは、原線維形成を阻止することができるが、Aβ誘導性神経毒性を減少させない(Aksenova et al., 1996)。混合脳培養物においてニューロンを死滅させる、AD大脳皮質から単離された可溶性Aβ多量体種も報告されている(Giulian et al., 1996;Roher et al., 1996)。さらに、最近報告された、Aβ由来拡散性リガンド(ADDL)と呼ばれる合成Aβの可溶性形態は、in vitroで神経毒性である(Lambert et al., 1998)。この前原線維概念を裏付けるように、ヒトAPPを過剰発現するトランスジェニックマウスは、あらゆる実質的なAβ堆積または神経病理が観察される前に、行動変化および/または電気生理学的変化を示す(Holcomb et al., 1998;Chapman et al., 1999;Hsia et al., 1999)。こうしたデータは、Aβの前原線維形態がシナプス機能不全を引き起こす可能性があり、したがって、ADの初期段階における早期記憶喪失および軽度認知変化に寄与する可能性があることを明確に示唆している。興味深いことに、最近のヒト研究では、AD患者の精神状態とシナプス喪失との間の最も良好な相関性は、可溶性Aβの量であることが見出された。しかしながら、可溶性Aβ種の生物物理学的特質は決定されなかった(Lue et al., 1999)。
【0038】
上記に記載のように、原線維形成は、LMW Aβの準安定中間種への移行を介して進行し、準安定中間種が原線維の形成へと進んで行くと考えられている(Harper et al., 1997a;Teplow, 1998)。2つの研究室が、そのような中間体を合成Aβ原線維の形成において特定し、それらはプロトフィブリル(PF)と呼ばれている(Harper et al., 1997a;Harper et al., 1997b;Walsh et al., 1997)。研究室では、低分子量Aβ(LMW)(つまり単量体/二量体)およびPFの両方の電気生理および神経毒性、ならびにそれらと原線維状Aβとの関係性が調査された(Hartley et al., 1999)。こうしたより初期の種は両方とも、培養された一次皮質ニューロンにおいて数日間にわたって毒性を再現性よく誘導することが見出された。この毒性は、コンゴレッド結合および免疫電子顕微鏡法で測定して、アミロイド原線維の検出可能な出現とは関連付けられなかった(Hartley et al., 1999)。PFは、固有の生物学的活性を有することと一致して、興奮性シナプス後電流(EPSC)、興奮性シナプス後電位(EPSP)、活動電位(AP)、および膜脱分極(MD)を活発におよび再現性よく増加させた(Hartley et al., 1999)。重要なことには、PFは、50~100nMという低い用量でもそのような効果を示すのに対し、同じ濃度で同時に調製および適用した単量体Aβは、電気生理学的応答を誘発しないことが見出された。PFのこうした効果は、適用後65分以内は完全に可逆性だった(Ye et al., 2000を参照)。
【0039】
PFの生物学的活性を解明することは、ADの神経機能不全の機序における初期Aβ中間体の役割およびそれに付随する療法上の意義を決定する助けとなるはずである。興味深いことに、他のタンパク質の凝集は、パーキンソン病、プリオン病、ハンチントン病のようなポリグルタミン伸長障害、および前頭側頭型認知症において重要な役割を果たしている可能性がある(Kim et al., 1999;Lansbury et al., 2000)。したがって、初期Aβ凝集およびそれに伴う神経機能不全の詳細を理解することは、タンパク質凝集が関与する他の脳疾患を理解するためのプロトタイプとしての役目を果たすことができる。したがって、病理学的種を特定するために重要なプロトフィブリル特異的抗体などの試薬は、こうした神経変性疾患におけるそれらの役割を決定する上で非常に貴重であると考えられる。
【0040】
アミロイドプロトフィブリルおよびアミロイド原線維の研究では、ポリペプチド鎖が原線維の長軸に対してほぼ垂直に延び、鎖間水素結合が軸に対して平行である特徴的なβシート構造が示されている。アルツハイマー病において「老人斑」を形成するのはアミロイド原線維である。原線維がどのように形成されるのか、および原線維形成に結び付く初期事象の正確な性質はあまりよく理解されていない。Aβペプチドのβシート中間体は、プロトフィブリルと呼ばれることが多く、原線維形成の過程で形成される。こうした構造を疾患発症の初期に免疫学的に検出することができれば、ADの病態形成におけるそれらの役割を決定する上で有用であり得る。さらに、こうした初期アセンブリは、ADの発症に少なくとも部分的に関与している場合、診断マーカーとして使用することができる可能性があり、そうした構造を標的とする療法剤の開発に寄与することができる。プロトフィブリルを検出する抗体は、この取り組みにおいて非常に価値があると考えられ、療法有効性のモニターに有用であると考えられる。複数の研究により、抗Aβ抗体によるAD動物モデルの受動免疫化は、Aβ負荷を低減することができ、行動欠陥を反転させることができることが示唆されている(Morgan, 2011)。これは、初期の病理学的種に対する抗Aβ抗体による受動免疫化が、ADの早期介入に重要な価値を有することになることを示していると考えられる。
【0041】
ペプチド免疫原
本明細書には、合成ペプチド免疫原、例えば、任意選択で6~50アミノ酸長、例えば、少なくとも6、7、8、9、10、11、または12個アミノ酸、最大で15、20、25、30、35、40、45、または5個アミノ酸のペプチド、ならびにAβ凝集体に結合するが、通常存在する単量体Aβアミノ酸ペプチドには結合しない抗体の開発を容易にするために使用することができる、Aβペプチド内の領域の構造および配列が記載されている。一部の実施形態では、合成ペプチド免疫原は、Aβペプチド配列GYEVHHQKLV(配列番号1)を含む。
【0042】
一部の実施形態では、合成ペプチド免疫原は、以下のペプチド配列を含む。
CGKCGYEVHHQKLVPNVLKQHHVEYGCK(配列番号2)
【0043】
ペプチド免疫原は、例えば、これらに限定されないが、IgGサブクラス1モノクローナル抗体71A1および1G5を含む単離されたおよび精製された抗体の生成に有用である。
【0044】
加えて、本明細書では、71A1可変領域に結合するペプチド模倣体配列を含むペプチド免疫原が提供される。こうしたペプチド模倣体は、mab 71A1または1g5に特異的なAベータ多量体の三次元構造の一部を模倣する直線状ペプチド配列であり、したがって、こうした抗体にも結合する直線状配列を有する天然抗原構造を模倣する(図13を参照)。
【0045】
こうしたペプチド模倣体を、モノクローナル抗体71A1および市販のファージディスプレイライブラリーキットを使用して親和性選択した(実施例6を参照)。したがって、図13に示されている配列、例えば、配列番号5~17の1つを含むペプチドも提供される。
【0046】
【表1】
【0047】
一部の実施形態では、ペプチド免疫原は、配列YEXHH(配列番号41)を含み、配列中、Xは疎水性アミノ酸(V、I、またはL)である。一部の実施形態では、ペプチド免疫原は、配列GYEVHHQKLV(配列番号1)、またはこの配列と少なくとも80、85、90、95、もしくは99%同一である配列を含み、例えば、1、2、もしくは3つのアミノ酸に突然変異を含む。
【0048】
本発明のペプチドおよびペプチド免疫原は、当業者に周知の化学合成法により製作することができる。例えば、Fields et al., Chapter 3 in Synthetic Peptides: A User's Guide, ed. Grant, W. H. Freeman & Co., New York, N.Y., 1992, p. 77を参照されたい。したがって、ペプチドは、側鎖保護アミノ酸を使用してt-BocまたはF-moc化学のいずれかにより保護されたアルファ-NHを用いた固相合成の自動メリフィールド技術を使用して、例えば、Applied Biosystemsペプチド合成機モデル430Aまたは431で合成することができる。Thエピトープに対するコンビナトリアルライブラリーペプチドを含むペプチド構築物の調製は、カップリングのための代替アミノ酸の混合物を所与の可変位置に提供することにより達成することができる。所望のペプチド免疫原が完全にアセンブリされた後、標準的な手順に従って樹脂を処理して、ペプチドを樹脂から切断し、アミノ酸側鎖の官能基を脱ブロッキングする。遊離ペプチドをHPLCで精製し、例えばアミノ酸分析または配列決定により生化学的に特徴付ける。ペプチドの精製および特徴付け方法は、当業者に周知である。
【0049】
ペプチドおよびペプチド免疫原は、例えば動物において免疫応答を誘発するために、例えば、Aβ、例えばAβ凝集体(oAβ)に結合する抗体を生成するために使用することができる。抗体を製作するための方法は当技術分野で公知であり、本明細書に記載されている。また、本明細書では、本明細書に記載のペプチドおよびペプチド免疫原を使用するための方法、および本明細書に記載のペプチドおよびペプチド免疫原を含む組成物が提供される。一部の実施形態では、組成物はアジュバントを含む。一部の実施形態では、アジュバントはペプチドに共有結合で連結されている。一部の実施形態では、ペプチドは、Tepi-2(配列番号4)を含む担体、またはキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、もしくはオボアルブミン(OVA)に共有結合で連結されている。
【0050】
抗体71A1および1G5
上記に記載のように、本発明者らは、Aβ多量体には特異的に結合するが、Aβ単量体には結合しない抗体を得ることに成功した。つまり、本開示は、Aβ多量体には結合するが、Aβ単量体には結合しない抗体を提供する。
【0051】
本発明の方法および組成物に有用な抗体としては、71A1および1G5、ならびにそれらのバリアントおよび誘導体が挙げられる。
抗体71A1
重鎖:
DNA配列
【0052】
【化1】
予測されるタンパク質配列(太字は相補性決定領域(CDR)である)
【0053】
【化2】
軽鎖:
DNA配列
【0054】
【化3】
予測されるタンパク質配列(太字は相補性決定領域(CDR)である)
【0055】
【化4】
抗体1G5
重鎖:
DNA配列
【0056】
【化5】
予測されるタンパク質配列(太字は相補性決定領域(CDR)である)
【0057】
【化6】
軽鎖:
DNA配列
【0058】
【化7】
予測されるタンパク質配列(太字は相補性決定領域(CDR)である)
【0059】
【化8】
【0060】
抗体
本開示の抗体としては、未修飾(天然)モノクローナル抗体、非ヒト動物抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、ミニボディ、二重特異性抗体(例えば、oAβ、およびトランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体(IR)、または低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質-1(LRP-1)など、RMTに関与する受容体に結合するもの)、アミノ酸配列修飾抗体、他の分子(例えば、ポリエチレングリコールなどのポリマー)にコンジュゲートされた修飾抗体、および糖鎖修飾抗体などの任意のタイプの抗体、ならびにそれらの抗原結合性断片を挙げることができる。
【0061】
本発明の方法および組成物に使用される抗体は、好ましくは単離されているかまたは精製されている。本明細書に記載の物質に使用される「単離された」および「精製された」という用語は、その物質が、天然源に含まれている可能性のある少なくとも1つの他の物質を実質的に含まないことを示す。したがって、「単離された抗体」および「精製された抗体」は、抗体(タンパク質)が由来する細胞源または組織源に由来する炭化水素、脂質、または他の夾雑タンパク質などの細胞物質を実質的に含まない抗体を指す。抗体が化学的に合成されている場合、この用語は、化学前駆体物質または他の化学物質を実質的に含まない抗体を指す。好ましい実施形態では、本明細書で提供される抗体は単離されているかまたは精製されている。
【0062】
「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用される場合、異なる抗体の混合物を含む「ポリクローナル」抗体調製物の抗体とは対照的に、共通の重鎖アミノ酸配列および共通の軽鎖アミノ酸配列を共有する抗体を含む抗体分子の調製物の1つを指すことが意図されている。モノクローナル抗体は、ファージ、細菌、酵母、またはリボソームディスプレイのような幾つかの新規技術、ならびにハイブリドーマ由来抗体(例えば、標準的なKohlerおよびMilsteinハイブリドーマ技術((1975) Nature 256:495-497)などのハイブリドーマ技術により調製されるハイブリドーマにより分泌される抗体)により例示される古典的な方法により生成することができる。したがって、非ハイブリドーマ由来抗体は、非古典的な方法論により得られた可能性のあるものであっても、依然としてモノクローナル抗体と呼ばれる。モノクローナル抗体には、上記で言及されている特異性に加えて、他の免疫グロブリンの夾雑がないハイブリドーマ培養物から合成することができるという利点がある。したがって、「モノクローナル」は、実質的に均質な抗体集団から得ることができる抗体の特質を示す。この用語は、抗体を産生するための任意の特定の方法の要件を示すものではない。
【0063】
「単離された抗体」は、本明細書で使用される場合、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことが意図されている(例えば、グロブロマー(globulomer)と特異的に結合する単離された抗体は、グロブロマー以外の他の抗原と特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、グロブロマーと特異的に結合する単離された抗体は、他の抗原に対して交差反応性を示す可能性がある。さらに、単離された抗体は、他の細胞性物質および/または化学物質を実質的に含んでいなくてもよい。
【0064】
抗体の「抗原結合性断片」または「抗原結合性部分」という用語は、本明細書で使用される場合、抗原と特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つまたは複数の断片を指す。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片により発揮させることができることが示されている。また、そのような抗体実施形態は、2つまたはそれよりも多くの異なる抗原と特異的に結合する、二重特異性、二特異性、または多重特異性形式であってもよい。抗体の「抗原結合性断片」という用語内に包含される結合性断片の例としては、(i)VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、およびCH1ドメインからなる一価断片であるFab断片;(ii)ヒンジ領域のジスルフィド架橋により連結された2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片;(iii)VHドメインおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメインおよびVHドメインからなるFv断片、(v)単一の可変ドメインを含むdAb断片(Ward et al., (1969) Nature 341:544-546);および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によりコードされているが、組換え法を使用して、VL領域およびVH領域が対合して一価分子(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Bird et al. (1988) Science 242:423-426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照)を形成する単一タンパク質鎖として製作することを可能にする合成リンカーにより接合されていてもよい。そのような単鎖抗体も、抗体の「抗原結合性断片」という用語に包含されることが意図されている。ダイアボディなどの他の形態の単鎖抗体も包含される。ダイアボディは、VHドメインおよびVLドメインが単一ポリペプチド鎖で発現されるが、同じ鎖上の2つのドメイン間での対合を可能にするには短過ぎるリンカーが使用されているため、ドメインが強制的に別の鎖の相補的ドメインと対合し、2つの抗原結合部位を作出する、二価の二重特異性抗体である(例えば、Holliger, P., et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448;Poljak, R. j., et al. (1994) Structure 2:1121-1123を参照)。そのような抗体結合性部分は当技術分野で公知である(Kontermann and Dubel eds., Antibody Engineering (2001) Springer-Verlag. New York. 790 pp. (ISBN 3-540-41354-5)。
【0065】
またさらに、抗体またはその抗原結合性断片は、抗体または抗体部分と1つまたは複数の他のタンパク質またはペプチドとの共有結合的または非共有結合的会合により形成される、より大型の免疫接着分子の一部であってもよい。そのような免疫接着分子の例としては、四量体scFv分子を製作するためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov, S. M., et al. (1995) Human Antibodies and Hybridomas 6:93-101)ならびに二価およびビオチン化scFv分子を製作するためのシステイン残基、マーカーペプチド、およびC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov, S. M., et al. (1994) Mol. Immunol. 31:1047-1058)が挙げられる。FabおよびF(ab’)2断片などの抗体部分は、それぞれ完全抗体のパパイン消化またはペプシン消化などの、従来技法を使用して完全抗体から調製することができる。さらに、抗体、抗体部分、および免疫接着分子は、本明細書に記載のような標準的組換えDNA技法を使用して得ることができる。
【0066】
「キメラ抗体」という用語は、1つの種に由来する重鎖および軽鎖可変領域配列、ならびに別の種に由来する定常領域配列を含む抗体、例えば、ヒト定常領域に連結されたマウス重鎖および軽鎖可変領域を有する抗体を指す。
【0067】
「CDR移植抗体」という用語は、1つの種に由来する重鎖および軽鎖可変領域配列を含むが、VHおよび/またはVLのCDR領域の1つまたは複数の配列が別の種のCDR配列で置き換えられている抗体、例えば、マウスCDRの1つまたは複数(例えば、CDR3)がヒトCDR配列で置き換えられているマウス重鎖および軽鎖可変領域を有する抗体を指す。
【0068】
「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト種(例えば、マウス)由来の重鎖および軽鎖可変領域配列を含むが、VH配列および/またはVL配列の少なくとも部分が、より「ヒト様」に、つまりヒト生殖系列可変配列により類似するように変更されている抗体を指す。ヒト化抗体の1つのタイプは、ヒトCDR配列が、対応する非ヒトCDR配列を置き換えるように、非ヒトVH配列およびVL配列に導入されているCDR移植抗体である。特に、「ヒト化抗体」という用語は、目的の抗原と免疫特異的に結合し、実質的にヒト抗体のアミノ酸配列を有するフレームワーク(FR)領域および実質的に非ヒト抗体のアミノ酸配列を有する相補性決定領域(CDR)を含む抗体またはそのバリアント、誘導体、アナログ、もしくは断片である。本明細書で使用される場合、CDRの状況における「実質的に」という用語は、非ヒト抗体CDRのアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一であるアミノ酸配列を有するCDRを指す。ヒト化抗体は、CDR領域のすべてまたは実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリン(つまり、ドナー抗体)のCDR領域に対応し、フレームワーク領域のすべてまたは実質的にすべてが、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のフレームワーク領域である、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメイン(Fab、Fab’、F(ab’)2、FabC、Fv)の実質的にすべてを含む。また、好ましくは、ヒト化抗体は、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも部分を含む。一部の実施形態では、ヒト化抗体は、軽鎖ならびに重鎖の少なくとも可変ドメインの両方を含む。また、抗体は、重鎖のCH1領域、ヒンジ領域、CH2領域、CH3領域、およびCH4領域を含んでいてもよい。一部の実施形態では、ヒト化抗体は、ヒト化軽鎖のみを含む。他の実施形態では、ヒト化抗体は、ヒト化重鎖のみを含む。特定の実施形態では、ヒト化抗体は、軽鎖のヒト化可変ドメインおよび/またはヒト化重鎖のみを含む。
【0069】
ヒト化抗体は、IgM、IgG、IgD、IgA、およびIgEを含む任意のクラスの免疫グロブリン、ならびに限定ではないが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含む任意のアイソタイプから選択することができる。ヒト化抗体は、1つよりも多くのクラスまたはアイソタイプに由来する配列を含んでいてもよく、当技術分野で周知の技法を使用して所望のエフェクター機能を最適化するために、特定の定常ドメインを選択することができる。
【0070】
ヒト化抗体のフレームワーク領域およびCDR領域は、親配列と正確に対応する必要はなく、例えば、ドナー抗体CDRまたはコンセンサスフレームワークは、CDRまたはその部位のフレームワーク残基がドナー抗体にもコンセンサスフレームワークにも対応しないように、少なくとも1つのアミノ酸残基の置換、挿入、および/または欠失により突然変異されていてもよい。しかしながら、好ましい実施形態では、そのような突然変異は広範囲にわたるものではないだろう。通常、ヒト化抗体残基の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%が、親FRおよびCDR配列の残基に対応することになる。本明細書で使用される場合、「コンセンサスフレームワーク」という用語は、コンセンサス免疫グロブリン配列のフレームワーク領域を指す。さらに、本明細書で使用される場合、「コンセンサス免疫グロブリン配列」という用語は、関連する免疫グロブリン配列のファミリーにおいて最も頻繁に出現するアミノ酸(またはヌクレオチド)から形成される配列を指す(例えば、Winnaker, From Genes to Clones (Verlagsgesellschaft, Weinheim, Germany 1987を参照)。免疫グロブリンのファミリーでは、コンセンサス配列の各位置は、ファミリー内のその位置に最も頻繁に出現するアミノ酸により占められている。2つのアミノ酸が等しい頻度で出現する場合、いずれがコンセンサス配列に含まれていてもよい。
【0071】
「組換えヒト抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現させた抗体、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(Hoogenboom H. R., (1997) TIB Tech. 15:62-70;Azzazy H., and Highsmith W. E., (2002) Clin. Biochem. 35:425-445;Gavilondo J. V., and Larrick J. W. (2002) BioTechniques 29:128-145;Hoogenboom H., and Chames P. (2000) Immunology Today 21:371-378)、ヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor, L. D., et al. (1992) Nucl. Acids Res. 20:6287-6295;Kellermann S-A., and Green L. L. (2002) Current Opinion in Biotechnology 13:593-597;Little M. et al (2000) Immunology Today 21:364-370を参照)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段により調製、発現、作出、もしくは単離された抗体など、組換え手段により調製、発現、作出、もしくは単離されたすべてのヒト抗体を含むことが意図されている。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。しかしながら、ある特定の実施形態では、そのような組換えヒト抗体は、in vitro突然変異誘発(または、ヒトIg配列に対してトランスジェニックである動物が使用される場合は、in vivo体細胞突然変異誘発)を受け、したがって、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に由来および関連しているが、in vivoではヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在していなくてもよい配列である。(Kabat et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, US Department of Health and Human Services, NIH Publication No 91-3242, 1991も参照されたい)。しかしながら、本明細書で提供されるヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によりコードされていないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダムまたは部位特異的突然変異誘発により、またはin vivoでの体細胞突然変異により導入される突然変異)を含んでいてもよい。(Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, New York: Cold Spring Harbor Press, 1990も参照)。
【0072】
「キメラ抗体」という用語は、1つの種に由来する重鎖および軽鎖可変領域配列、ならびに別の種に由来する定常領域配列とを含む抗体、例えば、ヒト定常領域に連結されたマウス重鎖および軽鎖可変領域を有する抗体を指す。
【0073】
「CDR移植抗体」という用語は、1つの種に由来する重鎖および軽鎖可変領域配列を含むが、VHおよび/またはVLのCDR領域の1つまたは複数の配列が、別の種のCDR配列に置き換えられている抗体、例えば、マウスCDRの1つまたは複数(例えば、CDR3)がヒトCDR配列で置き換えられているマウス重鎖および軽鎖可変領域を有する抗体を指す。
【0074】
本明細書で提供される組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有し、また定常領域を含んでいてもよい。(Kabat et al. (1991) supraを参照されたい)。しかしながら、ある特定の実施形態では、そのような組換えヒト抗体は、in vitro突然変異誘発(または、ヒトIg配列に対してトランスジェニックである動物が使用される場合は、in vivo体細胞突然変異誘発)を受け、したがって、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に由来および関連しているが、in vivoではヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在しなくてもよい配列である。しかしながら、ある特定の実施形態では、そのような組換え抗体は、選択的突然変異誘発もしくは復帰突然変異またはその両方の結果である。
【0075】
「復帰突然変異」という用語は、ヒト抗体の体細胞突然変異アミノ酸の一部またはすべてが、相同性生殖系列抗体配列の対応する生殖系列残基で置き換えられるプロセスを指す。本明細書に記載のヒト抗体の重鎖配列および軽鎖配列を、VBASEデータベースの生殖系列配列と別々にアラインして、最も高い相同性を有する配列を特定する。VBASEは、GenBankおよびEMBLデータライブラリーの最新リリースを含む公開配列から収集されたすべてのヒト生殖系列可変領域配列の包括的な要覧である。このデータベースは、配列決定されたヒト抗体遺伝子の保管庫としてMRCタンパク質工学センター(ケンブリッジ、英国)で開発された(ウェブサイト: mrc-cpe.cam.ac.uk/vbase-intro.php?menu=901)。本明細書に記載の抗体における差異を、そのような異なるアミノ酸をコードする規定のヌクレオチド位置を突然変異させることにより、生殖系列配列へと復帰させる。復帰突然変異の候補としてこのようにして特定された各アミノ酸の役割は、抗原結合における直接的または間接的な役割について調査されるべきであり、ヒト抗体の任意の望ましい特質に影響を及ぼす、突然変異後に見出されるあらゆるアミノ酸は、最終的なヒト抗体に含まれるべきではない。復帰突然変異を受けるアミノ酸の数を最小限に抑えるために、最も近い生殖系列配列とは異なるが、第2の生殖系列配列の対応するアミノ酸と同一であることが見出されたアミノ酸位置は、第2の生殖系列配列が、問題のアミノ酸の両側の少なくとも10個、好ましくは12個のアミノ酸に関してヒト抗体の配列と同一および共線性である限り、そのままであってもよい。復帰突然変異は、抗体最適化のいずれの段階でも生じる可能性がある。
【0076】
「標識結合タンパク質」は、抗体または抗体部分が、誘導体化されているかまたは別の機能性分子(例えば、別のペプチドまたはタンパク質)に連結されているタンパク質である。例えば、標識結合タンパク質は、抗体または抗体部分を、別の抗体(例えば、二重特異性抗体またはダイアボディ)、検出可能な作用剤、細胞傷害剤、医薬品、および/または抗体もしくは抗体部分と別の分子(ストレプトアビジンコア領域またはポリヒスチジンタグなど)との会合を媒介することができるタンパク質もしくはペプチドなどの、1つまたは複数の他の分子実体に機能的に連結する(化学カップリングにより、遺伝子融合により、非共有結合的会合により、または別様に)ことにより導出することができる。
【0077】
本明細書で使用される場合、「グリコシル化結合タンパク質」は、抗体またはその抗原結合性断片が1つまたは複数の炭水化物残基を含むタンパク質を含む。初期in vivoタンパク質産生では、翻訳後修飾として知られているさらなるプロセスが起きる可能性がある。特に、糖(グリコシル)残基が酵素的に付加される可能性があり、これはグリコシル化として知られているプロセスである。得られたタンパク質は、共有結合で連結されたオリゴ糖側鎖を有し、グリコシル化タンパク質または糖タンパク質として知られている。抗体は、Fcドメインならびに可変ドメインに1つまたは複数の炭水化物残基を有する糖タンパク質である。Fcドメインの炭水化物残基は、Fcドメインのエフェクター機能に重要な効果を示し、抗原結合または抗体の半減期に対する効果は最小限である(R, Jefferis, Biotechnol. Prog. 21 (2005), pp. 11-16)。対照的に、可変ドメインのグリコシル化は、抗体の抗原結合活性に対して効果を示す可能性がある。可変ドメインのグリコシル化は、おそらくは立体障害のため抗体結合親和性に否定的な効果を示すか(Co, M. S., et al., Mol. Immunol. (1993) 30:1361-1367)または抗原に対する親和性の増加をもたらす可能性がある(Wallick, S. C., et al., Exp. Med. (1988) 168:1099-1109;Wright, A., et al., EMBO J. (1991) 10:2717 2723)。さらに、結合タンパク質のO結合型またはN結合型グリコシル化部位が突然変異されているグリコシル化部位突然変異体を製作することができる。当業者であれば、標準的な周知の技術を使用してそのような突然変異体を生成することができる。生物学的活性を保持しているが、結合活性が増加または減少されているグリコシル化部位突然変異体も企図される。
【0078】
さらに、抗体または抗原結合性断片のグリコシル化を修飾することができる。例えば、非グリコシル化抗体を製作することができる(つまり、抗体はグリコシル化を欠如する)。グリコシル化を変更して、例えば、抗原に対する抗体の親和性を増加させることができる。そのような炭水化物修飾は、例えば、抗体配列内のグリコシル化の1つまたは複数の部位を変更することにより達成することができる。例えば、1つまたは複数の可変領域グリコシル化部位の排除をもたらす1つまたは複数のアミノ酸置換をなし、それによりその部位でのグリコシル化を排除することができる。そのようなグリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を増加させることができる。そのような手法は、国際出願公開第03/016466号A2パンフレット、米国特許第5,714,350号明細書および第6,350,861号明細書にさらに詳細に記載されており、こうした文献の各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0079】
加えてまたは代替的に、フコシル残基の量が低減された低フコシル化抗体またはバイセクトGlcNAc構造(bisecting GlcNAc structure)が増加された抗体など、変更されたタイプのグリコシル化を有する修飾抗体を製作することができる。そのようなグリコシル化パターンの変更は、抗体のADCC能力を増加させることが示されている。そのような炭水化物修飾は、例えば、グリコシル化機構が変更された宿主細胞にて抗体を発現させることにより達成することができる。グリコシル化機構が変更された細胞は、当該技術分野に記載されており、組換え抗体を発現させ、それによりグリコシル化が変更された抗体を産生する宿主細胞として使用することができる。(例えば、Shields, R. L. et al. (2002) J. Biol. Chem. 277:26733-26740;Umana et al. (1999) Nat. Biotech. 17:176-1、ならびに欧州特許第1,176,195号明細書;国際出願公開第03/035835号パンフレットおよび国際公開第第99/5434280号パンフレットを参照。こうした文献の各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。)
【0080】
タンパク質グリコシル化は、目的のタンパク質のアミノ酸配列、ならびにタンパク質が発現される宿主細胞に依存する。生物が異なれば、異なるグリコシル化酵素(例えば、グリコシルトランスフェラーゼおよびグリコシダーゼ)が産生され、利用可能な基質(ヌクレオチド糖)が異なる。そのような要因により、タンパク質グリコシル化パターンおよびグリコシル残基の組成は、特定のタンパク質が発現される宿主系に依存して異なる場合がある。本発明に有用なグリコシル残基としては、これらに限定されないが、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、n-アセチルグルコサミン、およびシアル酸を挙げることができる。好ましくは、グリコシル化結合タンパク質は、グリコシル化パターンがヒトであるようなグリコシル残基を含む。
【0081】
当業者であれば、異なるタンパク質グリコシル化は、異なるタンパク質特質をもたらす可能性があることは公知である。例えば、酵母などの微生物宿主で産生され、酵母内因性経路を使用してグリコシル化された療法用タンパク質の有効性は、CHO細胞株などの哺乳動物細胞で発現される同じタンパク質の有効性と比較して低減される可能性がある。そのような糖タンパク質は、ヒトにおいても免疫原性であり、投与後のin vivo半減期の低減を示す可能性もある。ヒトおよび他の動物の特定の受容体は、特定のグリコシル残基を認識し、そのタンパク質の血流からの迅速なクリアランスを促進することができる。他の有害効果としては、タンパク質フォールディング、溶解度、プロテアーゼに対する感受性、輸送、運搬、区画化、分泌、他のタンパク質もしくは因子による認識、抗原性、またはアレルギー誘発性の変化を挙げることができる。したがって、専門家は、グリコシル化の特定の組成およびパターン、例えばヒト細胞または意図されている対象動物の種特異的細胞で産生されるものと同一のまたは少なくとも類似したグリコシル化組成およびパターンを有する療法用タンパク質を選ぶ可能性がある。
【0082】
細胞のその宿主とは異なるグリコシル化タンパク質の発現は、異種性グリコシル化酵素を発現するように宿主細胞を遺伝子改変することにより達成することができる。専門家であれば、当技術分野で公知の技術を使用して、ヒトタンパク質グリコシル化を呈する抗体またはその抗原結合性断片を生成することができる。例えば、酵母菌株は、そうした酵母菌株で産生されるグリコシル化タンパク質(糖タンパク質)が、動物細胞、特にヒト細胞のものと同一のタンパク質グリコシル化を呈するように、天然に存在しないグリコシル化酵素を発現するように遺伝子改変されている(米国特許出願公開第20040018590号明細書および第20020137134号明細書、ならびに国際出願公開第05/100584号A2パンフレット)。
【0083】
さらに、当業者であれば、ライブラリーのメンバー宿主細胞が、バリアントグリコシル化パターンを有する目的のタンパク質を産生するように、種々のグリコシル化酵素を発現するように遺伝子操作された宿主細胞のライブラリーを使用して目的のタンパク質を発現することができることを理解するだろう。次いで、専門家であれば、特定の新規グリコシル化パターンを有する目的のタンパク質を選択および単離することができる。好ましくは、特に選択された新規グリコシル化パターンを有するタンパク質は、生物学的特性の向上または変更を呈する。
【0084】
「活性」という用語は、抗原に対する抗体の結合特異性/親和性などの活性を含む。
【0085】
本開示の目的では、配列の「断片」は、指定のヌクレオチド配列の領域に対応する、およそ少なくとも6個、好ましくは少なくとも約8個、より好ましくは少なくとも約10個、さらにより好ましくは少なくとも約15個ヌクレオチドの連続配列であると定義される。
【0086】
「同一性」という用語は、特定の比較ウィンドウまたはセグメントにわたる、ヌクレオチドごとまたはアミノ酸ごとの2つの配列の関連性を指す。したがって、同一性は、2つのDNAセグメント(または2つのアミノ酸配列)の同じ鎖(センスまたはアンチセンスのいずれか)間の同様性、対応性、または同等性の度合いであると定義される。「配列同一性のパーセンテージ」は、特定の領域にわたって最適にアラインされた2つの配列を比較し、一致位置の数を得るために、同一の塩基またはアミノ酸が両配列に存在する位置の数を決定し、その数を、比較されているセグメントの位置の総数で除算し、その結果に100を乗算することにより計算される。配列の最適なアラインメントは、Smith & Waterman, Appl. Math. 2:482 (1981)のアルゴリズムにより、Needleman & Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970)のアルゴリズムにより、Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. (USA) 85:2444 (1988)の方法により、および関連アルゴリズムを実装したコンピュータープログラム(例えば、Clustal Macaw Pileup(Higgins et al., CABIOS. 5L151-153 (1989))、FASTDB(Intelligenetics)、BLAST(National Center for Biomedical Information; Altschul et al., Nucleic Acids Research 25:3389-3402 (1997))、PILEUP(Genetics Computer Group, Madison, Wis.)、またはGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA (Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0, Genetics Computer Group, Madison, Wis.)により実施することができる(米国特許第5,912,120号明細書を参照)。
【0087】
本開示の目的では、「相補性」は、2つのDNAセグメント間の関連性の度合いであると定義される。相補性は、一方のDNAセグメントのセンス鎖が、適切な条件下で、他方のDNAセグメントのアンチセンス鎖とハイブリダイズして、二重らせんを形成する能力を測定することにより決定される。「相補体」は、標準塩基対合規則に基づき所与の配列と対合する配列であると定義される。例えば、一方のヌクレオチド鎖の配列のA-G-Tは、他方のヌクレオチド鎖のT-C-Aと「相補性」である。
【0088】
2つのアミノ酸配列間の「類似性」は、両配列に一連の同一のならびに保存されたアミノ酸残基が存在することであると定義される。2つのアミノ酸配列間の類似性の度合いが高いほど、2つの配列の対応性、同様性、または同等性は高くなる。(「2つのアミノ酸配列間の同一性は、一連の全く同じかまたは不変のアミノ酸残基が両配列に存在することであると定義される。」)「相補性」、「同一性」、および「類似性」の定義は、当業者であれば周知である。
【0089】
「によりコードされる」は、ポリペプチド配列をコードする核酸配列を指し、ポリペプチド配列またはその部分は、核酸配列によりコードされるポリペプチドに由来する少なくとも3個アミノ酸、より好ましくは少なくとも8個アミノ酸、さらにより好ましくは少なくとも15個アミノ酸のアミノ酸配列を含む。
【0090】
さらに、核酸分子の一本鎖形態が温度およびイオン強度の適切な条件下で他の核酸分子にアニーリングすることができる場合、核酸分子は別の核酸分子に「ハイブリダイズ可能」である(Sambrook et al. “Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition (1989), Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.)を参照)。温度およびイオン強度の条件は、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を決定する。
【0091】
「ハイブリダイゼーション」という用語は、本明細書で使用される場合、一般に、プローブ配列および標的配列の性質に応じて、当業者であれば容易に明らかになるようなストリンジェンシーの適切な条件での核酸のハイブリダイゼーションを意味するために使用される。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件は当技術分野で周知であり、インキュベーション時間、温度、および/または溶液のイオン強度を変えることにより、所望のストリンジェンシーに応じた条件の調整は容易に達成される。例えば、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, Cold spring harbor Press, Cold Spring harbor, N.Y., 1989を参照。この文献は上述の通り、参照により本明細書に組み込まれる。(また、Short Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al.およびTijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology-Hybridization with Nucleic Acid Probes, “Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays” (1993)を参照。両文献とも参照により本明細書に組み込まれる)。具体的には、条件の選択は、ハイブリダイズされる配列の長さ、特にプローブ配列の長さ、核酸の相対的GC含有量、および許容されるミスマッチの量により決定される。より低い度合いの相補性を有する鎖間の部分的なハイブリダイゼーションが所望の場合、低ストリンジェンシー条件が好ましい。完全なまたはほぼ完全な相補性が所望の場合、高ストリンジェンシー条件が好ましい。典型的な高ストリンジェンシー条件では、ハイブリダイゼーション溶液は、6×S.S.C.、0.01M EDTA、1×デンハート液、および0.5%SDSを含む。ハイブリダイゼーションは、クローニングしたDNAの断片の場合は約3~4時間、全真核生物DNAの場合は約12~約16時間、摂氏約68度で実施される。中程度のストリンジェンシーの場合、3×塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム(SSC)、50%ホルムアミド(pH7.5ではこの緩衝液の0.1M)、および5×デンハート液の溶液でのフィルタープレハイブリダイゼーション(filter pre-hybridizing)およびハイブリダイゼーションを使用することができる。次いで、摂氏37度で4時間プレハイブリダイゼーションし、続いて3,000,000cpmに等しい量の標識プローブを用いて摂氏37度で合計16時間ハイブリダイゼーションし、続いて2×SSCおよび0.1%SDS溶液で洗浄し、室温で各回1分間の洗浄を4回行い、摂氏60度で各回30分間の洗浄を4回行ってもよい。乾燥後、フィルムに曝露する。より低いストリンジェンシーの場合、ハイブリダイゼーションの温度を、二本鎖の融解温度(Tm)を摂氏約12度下回る温度に低減させる。Tmは、GC含有量および二本鎖長ならびに溶液のイオン強度の関数であることが知られている。
【0092】
「ハイブリダイゼーション」には、2つの核酸が相補的な配列を含むことが必要である。しかしながら、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて、塩基間にはミスマッチがあってもよい。上述のように、核酸のハイブリダイゼーションに適切なストリンジェンシーは、核酸の長さおよび相補性の度合いに依存する。そのような変数は当技術分野で周知である。より具体的には、2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の度合いが大きくなるほど、そうした配列を有する核酸のハイブリッドのTm値は大きくなる。100ヌクレオチド長よりも長いハイブリッドの場合、Tmを計算する数式が導出されている(Sambrook et al., supraを参照)。より短い核酸とのハイブリダイゼーションの場合、ミスマッチの位置がより重要になり、オリゴヌクレオチドの長さがその特異性を決定する(Sambrook et al., supraを参照)。
【0093】
本明細書で使用される場合、「単離された核酸断片または配列」は、任意選択で、合成、非天然、または改変ヌクレオチド塩基を含む、一本鎖または二本鎖であるRNAまたはDNAのポリマーである。DNAのポリマーの形態の単離された核酸断片は、cDNA、ゲノムDNA、または合成DNAの1つまたは複数のセグメントで構成されていてもよい。(指定のポリヌクレオチドの「断片」は、指定のヌクレオチド配列の領域と同一または相補的なおよそ少なくとも約6個ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約8個ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約10個ヌクレオチド、さらにより好ましくは少なくとも約15個ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも約25ヌクレオチドの連続配列を含むポリヌクレオチド配列を指す。)ヌクレオチド(通常は5’-一リン酸形態で見出される)は、以下のように1文字指定で参照される:「A」はアデニル酸またはデオキシアデニル酸(それぞれRNAまたはDNA)、「C」はシチジル酸またはデオキシシチジル酸、「G」はグアニル酸またはデオキシグアニル酸、「U」はウリジル酸、「T」はデオキシチミジル酸、「R」はプリン(AまたはG)、「Y」はピリミジン(CまたはT)、「K」はGまたはT、「H」はAまたはCまたはT、「I」はイノシン、および「N」は任意のヌクレオチドを表す。
【0094】
「機能的に同等である断片または部分断片」および「機能的に同等の断片または部分断片」という用語は、本明細書では同義的に使用される。こうした用語は、断片または部分断片が活性酵素をコードするか否かに関わりなく、遺伝子発現を変更する能力またはある特定の表現型を産生する能力が保持されている、単離された核酸断片の一部分または部分配列を指す。例えば、断片または部分断片をキメラ構築物の設計に使用して、形質転換植物において所望の表現型を産生することができる。活性酵素をコードするか否かに関わらず、核酸断片またはその部分断片を、植物プロモーター配列に対して適切な方向性で連結することにより、共抑制またはアンチセンスに使用するためのキメラ構築物を設計することができる。
【0095】
「相同性」、「相同性の」、「実質的に類似する」、および「実質的に対応する」という用語は、本明細書では同義的に使用される。こうした用語は、1つまたは複数のヌクレオチド塩基の変化が、遺伝子発現を媒介するかまたはある特定の表現型を産生する核酸断片の能力に影響を及ぼさない核酸断片を指す。また、こうした用語は、初期の未修飾断片と比べて、得られた核酸断片の機能特性を実質的に変更しない、1つまたは複数のヌクレオチドの欠失または挿入などの、本発明の核酸断片の修飾を指す。したがって、当業者であれば理解することになるように、本発明は、特定の例示的配列よりも多くを包含することが理解される。
【0096】
「遺伝子」は、コード配列の前(5’非コード配列)および後(3’非コード配列)に調節配列を含む、特定のタンパク質を発現する核酸断片を指す。
【0097】
「天然遺伝子」は、それ自体の調節配列を有する自然界に見出される遺伝子を指す。対照的に、「キメラ構築物」は、自然界では通常は一緒に見出されることがない核酸断片の組合せを指す。そのため、キメラ構築物は、異なる供給源に由来する調節配列およびコード配列、または同じ供給源に由来するが自然界で通常見出されるものとは異なる様式で配置されている制御配列およびコード配列を含んでいてもよい。(「単離された」という用語は、配列がその天然の環境から取り出されていることを意味する。)
【0098】
「外来性」遺伝子は、宿主生物には通常見出されないが、遺伝子導入により宿主生物に導入されている遺伝子を指す。外来性遺伝子は、非天然生物またはキメラ構築物に挿入された天然遺伝子を含むことができる。「導入遺伝子」は、形質転換手順によりゲノムに導入されている遺伝子である。
【0099】
「コード配列」は、特定のアミノ酸配列をコードするDNA配列を指す。「調節配列」は、コード配列の上流(5’非コード配列)、その内部、またはその下流(3’非コード配列)に位置し、転写、RNAプロセシングもしくは安定性、または関連コード配列の翻訳に影響を及ぼすヌクレオチド配列を指す。調節配列としては、これらに限定されないが、プロモーター、翻訳リーダー配列、イントロン、およびポリアデニル化認識配列を挙げることができる。
【0100】
「プロモーター」または「調節遺伝子配列」は、コード配列または機能的RNAの発現を制御することが可能なDNA配列を指す。この配列は、近位およびより遠位の上流エレメントからなり、後者のエレメントはエンハンサーと呼ばれることが多い。そのため、「エンハンサー」は、プロモーターまたは調節遺伝子配列の活性を刺激することができるDNA配列であり、プロモーターの固有エレメントであってもよくまたはプロモーターのレベルもしくは組織特異性を増強するために挿入される異種性エレメントであってもよい。また、プロモーター配列は、遺伝子の転写部分内部におよび/または転写配列の下流に位置してもよい。プロモーターは、それらの全体が天然遺伝子に由来してもよく、または自然界に見出される異なるプロモーターに由来する異なるエレメントで構成されていてもよく、またはさらには合成DNAセグメントを含んでいてもよい。当業者であれば、異なるプロモーターは、異なる組織もしくは細胞タイプにおいて、または異なる発生段階において、または異なる環境条件に応答して遺伝子の発現を指図することができることが理解される。ほとんどの宿主細胞タイプにおいてほとんどの時間で遺伝子の発現を引き起こすプロモーターは、一般的に「構成的プロモーター」と呼ばれる。植物細胞に有用な種々のタイプの新しいプロモーターが絶えず発見されている。数多くの例を、Okamuro and Goldberg, Biochemistry of Plants 15:1-82 (1989)に見出すことができる。さらに、ほとんどの場合、調節配列の正確な境界は完全に画定されていないため、一部の変異を有するDNA断片が同一のプロモーター活性を有する可能性があることが認識されている。
【0101】
「イントロン」は、タンパク質配列の一部分をコードしない遺伝子内の介在配列である。したがって、そのような配列はRNAへと転写されるが、その後切除され、翻訳されない。この用語は、切除されたRNA配列にも使用される。「エキソン」は、転写される遺伝子配列の一部分であり、その遺伝子に由来する成熟メッセンジャーRNAに見出されるが、必ずしも最終的な遺伝子産物をコードする配列の一部である必要はない。
【0102】
「翻訳リーダー配列」は、遺伝子のプロモーター配列とコード配列との間に位置するDNA配列を指す。翻訳リーダー配列は、翻訳開始配列の上流の完全にプロセシングされたmRNAに存在する。翻訳リーダー配列は、一次転写物のmRNAへのプロセシング、mRNA安定性、または翻訳効率に影響を及ぼす可能性がある。翻訳リーダー配列の例は記載されている(Turner, R. and Foster, G. D. (1995) Molecular Biotechnology 3:225)。
【0103】
「3’非コード配列」は、コード配列の下流に位置するDNA配列を指し、ポリアデニル化認識配列およびmRNAプロセシングまたは遺伝子発現に影響を及ぼすことが可能な調節シグナルをコードする他の配列を含む。ポリアデニル化シグナルは、通常、mRNA前駆体の3’末端へのポリアデニル酸トラクトの追加に影響を及ぼすことにより特徴付けられる。異なる3’非コード配列の使用は、Ingelbrecht et al., Plant Cell 1:671-680 (1989)により例示されている。
【0104】
「RNA転写物」は、RNAポリメラーゼ触媒性のDNA配列転写からもたらされる産物を指す。RNA転写物は、DNA配列の完全な相補性コピーである場合は一次転写物と呼ばれるか、またはRNA転写物は、一次転写物の転写後プロセシングに由来するRNA配列であってもよく、成熟RNAと呼ばれる。「メッセンジャーRNA(mRNA)」は、イントロンを有さず、細胞によりタンパク質へと翻訳され得るRNAを指す。「cDNA」は、mRNAテンプレートに対して相補性であり、酵素逆転写酵素を使用してmRNAテンプレートから合成されるDNAを指す。cDNAは一本鎖であってもよく、またはDNAポリメラーゼIのクレノウ断片を使用して二本鎖形態に変換されていてもよい。「センス」RNAは、mRNAを含むRNA転写物を指し、細胞内またはin vitroでタンパク質へと翻訳され得る。「アンチセンスRNA」は、標的一次転写物またはmRNAのすべてまたは一部に相補的であり、標的遺伝子の発現を阻止するRNA転写物を指す(米国特許第5,107,065号明細書)。アンチセンスRNAの相補性は、特定の遺伝子転写物の任意の部分、つまり5’非コード配列、3’非コード配列、イントロン、またはコード配列に対するものであってもよい。「機能的RNA」は、アンチセンスRNA、リボザイムRNA、または翻訳されなくてもよいが細胞プロセスに影響を及ぼす他のRNAを指す。「相補体」および「逆相補体」という用語は、mRNA転写物に関して本明細書では同義的に使用され、メッセージのアンチセンスRNAを画定することが意図される。
【0105】
「内因性RNA」という用語は、天然に存在するかまたは天然に存在しない、つまり、組換え手段、突然変異誘発などにより導入されたかに関わらず、本明細書で提供される組換え構築物による形質転換前の宿主のゲノムに存在する任意の核酸配列によりコードされる任意のRNAを指す。
【0106】
「天然に存在しない」という用語は、自然界に通常見出されるものと一致しない、人工的なものを意味する。
【0107】
「作動可能に連結した」という用語は、一方の機能が他方により調節されるように、単一の核酸断片上で核酸配列が付随していることを指す。例えば、プロモーターは、コード配列の発現を調節することが可能な場合(つまり、コード配列がプロモーターの転写制御下にある場合)、コード配列に作動可能に連結している。コード配列は、センス方向またはアンチセンス方向で制御配列に作動可能に連結していてもよい。別の例では、相補的RNA領域は、直接的または間接的のいずれかで、標的mRNAの5’に、もしくは標的mRNAの3’に、もしくは標的mRNA内部に作動可能に連結していてもよく、または第1の相補的領域は標的mRNAの5’側であり、その相補体は標的mRNAの3’側である。
【0108】
「発現」という用語は、本明細書で使用される場合、機能的な最終産物の産生を指す。遺伝子の発現には、遺伝子の転写およびmRNAの前駆体または成熟タンパク質への翻訳が伴う。「アンチセンス阻害」は、標的タンパク質の発現を抑制することが可能なアンチセンスRNA転写物の産生を指す。「共抑制」は、同一のまたは実質的に類似した外来性遺伝子または内因性遺伝子の発現を抑制することが可能なセンスRNA転写物の産生を指す(米国特許第5,231,020号明細書)。
【0109】
「成熟」タンパク質は、翻訳後にプロセシングされたポリペプチドを指す。つまり、一次翻訳産物に存在するプレペプチドまたはプロペプチドが除去されたものである。「前駆体」タンパク質は、mRNAの翻訳の一次産物を指す。つまり、プレペプチドおよびプロペプチドは依然として存在している。プレペプチドおよびプロペプチドは、細胞内局在化シグナルであってもよいが、それに限定されない。
【0110】
「安定的形質転換」は、宿主生物のゲノムへの核酸断片の移入を指し、遺伝子的に安定した遺伝がもたらされる。対照的に、「一過性形質転換」は、宿主生物の核またはDNA含有細胞小器官への核酸断片の移入を指し、組込みまたは安定的な遺伝を伴わない遺伝子発現がもたらされる。形質転換された核酸断片を含む宿主生物は、「トランスジェニック」生物と呼ばれる。「形質転換」という用語は、本明細書で使用される場合、安定的形質転換および一過性形質転換の両方を指す。
【0111】
本明細書で使用される標準的な組換えDNAおよび分子クローニング技術は、当技術分野で周知であり、Sambrook, J., Fritsch, E. F. and Maniatis, T., Molecular Cloning: A Laboratory Manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press: Cold Spring Harbor, 1989 (以降は「Sambrook」)により詳細に記載されている。
【0112】
「組換え」という用語は、例えば、化学合成により、または遺伝子工学技法による核酸の単離されたセグメントを操作することにより、2つのそうでなければ分離されている配列のセグメントを人為的に組み合わせることを指す。
【0113】
「PCR」または「ポリメラーゼ連鎖反応」は、大量の特定のDNAセグメントを合成するための技法であり、一連の反復サイクルからなる(Perkin Elmer Cetus Instruments, Norwalk, Conn.)。典型的には、二本鎖DNAを熱変性させ、標的セグメントの3’境界に相補的な2つのプライマーを低温でアニーリングさせ、次いで中間温度で伸長させる。この連続する3つのステップの1セットをサイクルと呼ぶ。
【0114】
ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)は、鋳型を繰り返して複製することにより、DNAを短時間で何百万倍も増幅するために使用される強力な技法である。(Mullis et al., Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 51:263-273 (1986);Erlichら、欧州特許出願第50,424号明細書;欧州特許出願第84,796号明細書;欧州特許出願第258,017号明細書;欧州特許出願第237,362号明細書;Mullis、欧州特許出願第201,184号明細書;Mullisら、米国特許第4,683,202号明細書;Erlich、米国特許第4,582,788号明細書;およびSaikiら、米国特許第4,683,194号明細書)。このプロセスでは、特定のin vitro合成オリゴヌクレオチドのセットを使用してDNA合成を開始させる。プライマーの設計は、分析しようとするDNAの配列に依存する。この技法は、高温で鋳型を融解させ、プライマーが鋳型内の相補的配列にアニーリングすることを可能にさせ、次いでDNAポリメラーゼで鋳型を複製するというサイクルを数多く(通常は20~50回)行うことにより実施される。
【0115】
PCR反応の産物は、アガロースゲルで分離し、続いて臭化エチジウム染色およびUV透照により視覚化することにより分析される。代替的に、標識を産物に組み込むために、放射性dNTPをPCRに追加してもよい。この場合、PCRの産物は、ゲルをX線フィルムに曝露することにより視覚化される。PCR産物を放射性標識することの追加の利点は、個々の増幅産物のレベルを定量化することができることである。
【0116】
「組換え構築物」、「発現構築物」、および「組換え発現構築物」という用語は、本明細書では同義的に使用される。こうした用語は、当業者に周知の標準的な方法論を使用して細胞のゲノムに挿入することができる遺伝物質の機能単位を指す。そのような構築物は、それ自体で使用してもよく、ベクターと併せて使用してもよい。ベクターが使用される場合、ベクターの選択は、当業者に周知のように宿主植物を形質転換するために使用されることになる方法に依存する。例えば、プラスミドを使用することができる。当業者であれば、本明細書に記載の単離された核酸断片のいずれかを含む宿主細胞の形質転換、選択、および増殖を成功させるためにベクターに存在しなければならない遺伝子エレメントを十分に承知している。当業者であれば、異なる独立した形質転換事象は異なる発現レベルおよびパターンをもたらし(Jones et al., (1985) EMBO J. 4:2411-2418;De Almeida et al., (1989) Mol. Gen. Genetics 218:78-86)、したがって、所望の発現レベルおよびパターンを示す系統を得るためには、複数の事象をスクリーニングしなければならないことも認識しているだろう。そのようなスクリーニングは、DNAのサザン分析、mRNA発現のノーザン分析、タンパク質発現のウエスタン分析、または表現型分析により達成することができる。
【0117】
本明細書で提供される物質(抗体など)について使用される「単離された」および「精製された」という用語は、その物質が、天然源に含まれている可能性のある少なくとも1つの他の物質を実質的に含まないことを示す。したがって、「単離された抗体」および「精製された抗体」は、抗体(タンパク質)が由来する細胞源または組織源に由来する炭化水素、脂質、または他の夾雑タンパク質などの細胞物質を実質的に含まない抗体を指す。抗体が化学的に合成されている場合、この用語は、化学前駆体物質または他の化学物質を実質的に含まない抗体を指す。好ましい実施形態では、本発明の抗体は単離されているかまたは精製されている。
【0118】
抗体を製作するための方法
また、本発明は、ヒト免疫グロブリン遺伝子座を含む非ヒトトランスジェニック動物を本明細書に記載のペプチド免疫原で免疫することにより、非ヒト非マウス動物からモノクローナル抗体を製作するための方法を提供する。当技術分野で公知の方法を使用してそのような動物を生み出すことができる。好ましい実施形態では、非ヒト動物は、ラット、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、またはウマであってもよい。抗体産生不死化ハイブリドーマを、免疫動物から調製することができる。免疫化後、動物を犠牲にし、当技術分野で周知のように脾臓B細胞を不死化骨髄腫細胞と融合させる。例えば、上記のHarlow and Laneを参照されたい。好ましい実施形態では、骨髄腫細胞は、免疫グロブリンポリペプチドを分泌しない(非分泌細胞株)。融合および抗生物質選択の後、抗原(例えば、グロブロマー)もしくはその部分、または目的の抗原を発現する細胞を使用して、ハイブリドーマをスクリーニングする。好ましい実施形態では、初期スクリーニングは、酵素結合免疫測定法(ELISA)またはラジオイムノアッセイ(RIA)、好ましくはELISAを使用して実施される。ELISAスクリーニングの例は、国際出願公開第00/37504号パンフレットに提供されている。この文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0119】
抗体産生ハイブリドーマを選択し、クローニングし、下記でさらに考察されているように、ロバストなハイブリドーマ増殖、高い抗体産生、および望ましい抗体特質を含む望ましい特質についてさらにスクリーニングする。ハイブリドーマは、in vivoでは、同系動物、免疫系を欠如する動物、例えばヌードマウスにおいて、またはin vitroでは細胞培養において培養および拡大増殖させることができる。ハイブリドーマを選択、クローニング、および拡大増殖させる方法は、当業者に周知である。好ましくは、免疫動物はヒト免疫グロブリン遺伝子を発現する非ヒト動物であり、脾臓B細胞は非ヒト動物と同じ種に由来する骨髄腫に融合される。
【0120】
一態様では、本発明は、アルツハイマー病の治療、診断、および予防に使用されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供する。好ましい実施形態では、ハイブリドーマはマウスハイブリドーマである。別の好ましい実施形態では、ハイブリドーマは、ラット、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、またはウマなどの非ヒト非マウス種において産生される。別の実施形態では、ハイブリドーマは、ヒト非分泌性骨髄腫が、グロブロマーに対する抗体を発現するヒト細胞と融合されたヒトハイブリドーマである。
【0121】
組換え抗体は、米国特許第5,627,052号明細書、国際出願公開第92/02551号パンフレット、およびBabcock, J. S. et al. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 7843-7848に記載のような、当該技術分野では選択リンパ球抗体法(SLAM、selected lymphocyte antibody method)と呼ばれる手順を使用して、単一の単離されたリンパ球から生成することができる。この方法では、目的の抗体を分泌する単一細胞(例えば、免疫動物に由来するリンパ球)を、抗原(例えば、グロブロマー)またはその断片がビオチンなどのリンカーを使用してヒツジ赤血球にカップリングされており、抗原に対して特異性を有する抗体を分泌する単一細胞を特定するために使用される抗原特異的溶血斑アッセイを使用してスクリーニングする。目的の抗体分泌細胞を特定した後、重鎖および軽鎖可変領域cDNAを逆転写酵素PCRにより細胞からレスキューし、次いでこうした可変領域を、COS細胞またはCHO細胞などの哺乳類宿主細胞において、適切な免疫グロブリン定常領域(例えば、ヒト定常領域)の背景で発現させることができる。次いで、in vivo選択されたリンパ球に由来する増幅された免疫グロブリン配列でトランスフェクトした宿主細胞を、例えば、トランスフェクトされた細胞をパニングしてIL-18に対する抗体を発現する細胞を単離することにより、in vitroでのさらなる分析および選択にかけることができる。増幅された免疫グロブリン配列を、国際出願公開第97/29131号パンフレットおよび国際出願公開第00/56772号パンフレットに記載のものなどのin vitro親和性成熟法などにより、in vitroでさらに操作することができる。
【0122】
「エピトープ」という用語は、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に特異的に結合することが可能なあらゆるポリペプチド決定基を含む。ある特定の実施形態では、エピトープ決定基としては、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリ(phosphory)、またはスルホニルなどの、分子の化学的活性表面群が挙げられ、ある特定の実施形態では、特定の三次元構造特質および/または特定の電荷特質を有していてもよい。エピトープは、抗体が結合する抗原の領域である。ある特定の実施形態では、抗体は、タンパク質および/または巨大分子の複雑な混合物中でその標的抗原を優先的に認識する場合、抗原に特異的に結合すると言われる。
【0123】
「免疫する」という用語は、本明細書では、免疫レパートリーが、天然の遺伝子的に未改変の生物に存在するか、または人工ヒト免疫レパートリーを提示するように改変されたトランスジェニック生物に存在するかに関わらず、そのレパートリーに抗原を提示するプロセスを指す。同様に、「免疫原性調製物」は、抗原の免疫原性を増強することになるアジュバントまたは他の添加剤を含む抗原の配合物である。その例は、精製されたペプチドまたはペプチド免疫原を完全フロイントアジュバンと共にマウスに同時注射することであると考えられ、一部の実施形態では、アジュバントはペプチドに共有結合で連結されている。本明細書で定義される「超免疫化」は、強力な免疫応答を発現させることを目的として、免疫原性調製物中の抗原を宿主動物へと連続して複数回提示する行為である。
【0124】
また、本主題の発明は、上記に記載の完全長抗体だけでなく、それらの部分または断片、例えばそれらのFab部分も含むことが留意されるべきである。加えて、本主題の発明は、例えば、結合特異性、構造などの点で本発明の抗体と同じ特性を有するあらゆる抗体を包含する。
【0125】
「抗体」は、同じ構造的特質を有する糖タンパク質を指す。抗体は、特定の抗原に対して結合特異性を示す。本明細書では、「抗原」は、対応する抗体に結合し、in vivoで抗原-抗体反応を誘導する能力を有するタンパク質を指す。
【0126】
アミロイドの主成分であるAタンパク質は、40~42個アミノ酸からなるペプチドであり、アミロイド前駆体タンパク質(APP)と呼ばれる前駆体タンパク質からプロテアーゼの作用により産生されることが知られている。超遠心分離された沈降物画分に収集されたアミロイド原線維の他に、APPから産生されるアミロイド分子は、可溶性単量体に加えて多量体非線維性アセンブリを含む。「Aβ多量体」は、非線維性アセンブリを指し、これには、例えば、Aβ40(Aβ1~40)多量体およびAβ42(Aβ1~42)多量体またはそれらの組合せを挙げることができる。例えば、本明細書に記載の「Aβ42多量体」は、SDS-PAGEでは45~160kDa、Blue Native PAGEでは22.5~1,035kDaの分子量を示す分子である。モレキュラーシーブを使用すると、こうした分子は、主に>100kDa保持溶液に収集される。原子間力顕微鏡で観察すると、こうした分子は、高さ1.5~3.1nmの粒状、ビーズ状、およびリング状の分子が混在した形態学的特徴を示す。ゲル濾過法では、680kDaまたはそれよりも高い分子量を有する分子を空隙容積画分8に、17~44kDaの分子量を有する分子を画分15に溶出させることができる。
【0127】
Aβ多量体に結合するがAβ単量体には結合しない限り、本明細書に記載の抗体の起源および形態には制限はない。
【0128】
モノクローナル抗体は、公知の技法を使用して産生することができる。例えば、モノクローナル抗体は、KohlerおよびMilstein(Nature 256: 495-7, 1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法により、または組換えDNA法(Cabilly et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3273-7, 1984)により産生することができるが、方法はこれらに限定されない。例えば、ハイブリドーマ法を使用する場合、Aβ多量体(例えば実施例に記載のAβ四量体)を感作抗原として使用し、従来の免疫化方法に従って免疫を実施する。得られた免疫細胞を、従来の細胞融合法により既知親細胞と融合させ、従来のスクリーニング方法を使用してモノクローナル抗体産生細胞をスクリーニングおよび単離することができる。
【0129】
モノクローナル抗体は、以下のよう産生することができる。Balb-cマウスを、任意選択で完全フロイントアジュバントを使用して乳化した本明細書に記載のペプチド免疫原で、抗原を足蹠に注射することにより免疫する。その後、追加免疫を、例えば6回実施する。次いで、例えばポリエチレングリコール1500を使用してSp2/O-Ag14細胞と融合させることにより、鼠径リンパ節からハイブリドーマを産生させる。
【0130】
感作抗原で免疫する動物には特に制限はないが、好ましくは、細胞融合に使用される親細胞との適合性を考慮して選択される。一般に、げっ歯動物、ウサギ目、または霊長類が使用される。げっ歯動物としては、例えば、マウス、ラット、およびハムスターが挙げられる。ウサギ目としては、例えばウサギが挙げられる。霊長類としては、例えば、カニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Macaca mulatta)、マントヒメザル、およびチンパンジーなどの狭鼻下目(旧世界)サルが挙げられる。
【0131】
動物を、公知の方法に従って感作抗原で免疫する。例えば、標準的な方法としては、免疫は、感作抗原を哺乳動物に腹腔内または皮下注射することにより実施される。
【0132】
上述の免疫細胞と融合させる親細胞の例は、実施例で後述することになるSp2/O-Ag14細胞である。しかしながら、種々の他の公知細胞株を使用することができる。
【0133】
上述の免疫細胞と骨髄腫細胞との細胞融合は、基本的には、例えばKohlerおよびMilstein法(Kohler and Milstein C., Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)を含む、公知の方法に従って実施することができる。
【0134】
このようにして得られたハイブリドーマを、ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含む、HAT培養培地などの従来の選択培地で培養することにより選択する。上記で言及されているHAT培養培地での培養は、一般に、所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)を死滅させるのに十分な時間にわたって数日~数週間継続する。次に、従来の限界希釈法を実施して、所望の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングおよびシングルクローニングする。
【0135】
その後、得られたハイブリドーマをマウスの腹腔へと移植し、所望のモノクローナル抗体を含む腹水を抽出する。例えば、抗体は、親和性クロマトグラフィーを含むがそれに限定されないカラムクロマトグラフィー、濾過、限外濾過、塩沈殿、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、および等電点電気泳動の選択された組合せなどの従来のタンパク質分離および/または精製方法により、腹水から精製することができる(Antibodies: A Laboratory manual, Harlow and David, Lane (edit.), Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)。
【0136】
親和性カラムには、プロテインAカラムおよびプロテインGカラムを使用することができる。使用されるプロテインAカラムの例としては、Hyper D、POROS、およびSepharose F.F.(Pharmacia)が挙げられる。
【0137】
クロマトグラフィー(親和性クロマトグラフィーを除く)としては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、および吸着クロマトグラフィーが挙げられる(“Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual”, Daniel R Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。クロマトグラフィーを実施する場合、HPLCおよびFPLCなどの液相クロマトグラフィー法を使用することができる。
【0138】
このようにして調製されたモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、従来の培養培地で継代培養してもよく、液体窒素中で長期保管してもよい。
【0139】
抗体産生のために、免疫原を使用してあらゆる哺乳動物を免疫することができる。しかしながら、ハイブリドーマを産生することによりモノクローナル抗体を調製する場合、好ましくは、ハイブリドーマ産生のために細胞融合で使用した親細胞との適合性が考慮される。
【0140】
一般に、げっ歯動物、ウサギ目、または霊長類が免疫化に使用される。げっ歯動物としては、例えば、マウス、ラット、およびハムスターが挙げられる。ウサギ目としては、例えばウサギが挙げられる。霊長類としては、例えば、カニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Macaca mulatta)、マントヒメザル、およびチンパンジーなどの狭鼻下目(旧世界)サルが挙げられる。
【0141】
ヒト抗体遺伝子レパートリーを有するトランスジェニック動物の使用は、当技術分野で公知である(Ishida et al., Cloning and Stem Cells 4: 91-102, 2002)。他の動物と同様に、ヒトモノクローナル抗体を得るには、トランスジェニック動物を免疫し、次いで動物から抗体産生細胞を収集し、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを産生させ、こうしたハイブリドーマから抗タンパク質ヒト抗体を調製することができる(国際公開第92/03918号パンフレット、第94/02602号パンフレット、第94/25585号パンフレット、第96/33735号パンフレット、および第96/34096号パンフレットを参照)。
【0142】
代替的に、がん遺伝子で不死化されたリンパ球を、モノクローナル抗体産生に使用することができる。例えば、EBウイルスなどに感染させたヒトリンパ球などを、免疫原でin vitro免疫する。次に、免疫したリンパ球を、無制限に分裂可能なヒト由来骨髄腫細胞(U266など)と融合させ、したがって所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマが得られる(特開昭63-17688号公報(未審査の日本特許出願公開))。
【0143】
上述の方法のいずれかによりモノクローナル抗体を得たら、遺伝子工学法を使用して抗体を調製することもできる(例えば、Borrebaeck C A K and Larrick J W, Therapeutic Monoclonal Antibodies, MacMillan Publishers, UK, 1990を参照)。例えば、抗体を産生するハイブリドーマまたは免疫化リンパ球など、抗原産生細胞から所望の抗体をコードするDNAをクローニングし、次いでクローニングしたDNAを適切なベクターに挿入し、ベクターを好適な宿主細胞に移植すること(transecting)により、組換え抗体を調製することができる。そのような組換え抗体も本発明に含まれる。
【0144】
診断のための方法、組成物、およびキット
可溶性oAβが初期AD病態形成において中心的な役割を果たすという証拠が増えているにも関わらず、例えばヒト血漿においてoAβを非侵襲的に検出および定量化するための高感度で特異的な方法に対する大きな満たされていないニーズが存在する。合成Aβ1-40環状ペプチドを免疫原として使用することにより生成されたモノクローナル抗体1G5および71A1は、広範に特徴付けられており、本明細書に記載の多量体特異的イムノアッセイの開発に使用される。本明細書に示されているように、1)1G5および71A1は、Aβ単量体に対する反応性を示さずに、ヒト脳、CSF、および血漿から可溶性oAβを認識し、2)71A1は、電気生理学的アッセイにおいて、oAβを多く含むAD脳抽出物のシナプス毒性を中和し、3)検出器としての3D6と対にして捕捉体としての71A1を使用する超高感度イムノアッセイは、0.6pg/mLというより低いLLoQを達成し、ヒト脳、CSF、および血漿中のoAβを低い変動係数(CV)で信頼性高く定量化する。血液中の内因性ヒトoAβを定量化する高感度で特異的なイムノアッセイが利用可能になれば、脳および生物流体におけるAβの多量体化および解体の動的プロセスに関する将来の研究が可能になり、oAβと、血液中のAβ単量体[32~34]、タウ断片[35、36]、およびpTau[37~43]を含む他の公知のADバイオマーカーとの相関性が確立されるはずである。さらに、こうした知見は、71A1免疫反応性oAβを中和することの潜在的な療法利益を裏付けている。まとめると、こうした進歩により、ADにおけるoAβの病理学的役割に関する理解が深まり、アルツハイマー病および加齢性βアミロイドーシスにおける、アミロイドbタンパク質のこの重要な病原性形態をモニターするための道が開かれることになる。
【0145】
合成および天然Aβ多量体の検出が、約20年前にアミロイド仮説を修正して以来[1、2]、oAβを視覚化して、それらの構造がより小型の多量体種と部分的に重複する可能性のあるAβ単量体および原線維と区別するためのより良好なツールを生成するための継続的な努力がなされてきた。脳内の不溶性Aβ斑に比べてシナプス毒性がより強いAβの形態であると考えられている可溶性oAβを認識し、さらに中和するための試みとして、モノクローナル抗体が開発されている[3、4、14]。それらの中で、モノクローナル抗体1C22[26]は、脳およびCSFの両方のoAβに対して高度に特異的であることが示されている[30、53]。本発明者らは、以前に、Roche社の抗Aβ抗体クレネズマブのABBYおよびBLAZE第2相治験に参加したAD対象104人のCSF中の1C22陽性多量体を定量化し、1C22/3D6アッセイで測定された多量体Aβレベルは、高い割合のクレネズマブ治療患者において有意に減少したが、プラセボ群では体系的な変化は起こらなかったことが見出された[31]。本発明者らは、こうしたデータに促されて、潜在的により高い結合力および特異性を有する、oAβに対する新規抗体の試験にさらに取り組んだ。二量体立体構造を模倣する可能性のある環化Aβペプチド免疫原を設計することにより、陽性クローン1G5および71A1は、免疫原および合成Aβ多量体に対して高い結合能力および特異性を示した。この研究では、本発明者らは、こうした2つの新規抗体を、a)oAβを特異的に認識する能力、b)ヒト脳抽出物、CSF、および血漿中のoAβを定量化する能力、およびc)AD大脳皮質に由来する拡散性Aβ多量体のシナプス毒性を中和する能力に関して検証した。
【0146】
本発明者らは、まず、AD脳浸漬抽出物中のAβアセンブリに結合する1G5および71A1の能力を調査した。こうした抽出物には、高度に拡散性およびシナプス毒性であるoAβ種が含まれていることが確認されている[11]。本発明者らは、中間領域特異的抗体およびN末端(Asp-1)特異的抗体の両方でプローブしたIP免疫ブロットにより、およびAβx-40およびx-42を検出するELISAを使用したIP-ELISAにより調査したところ、1G5および71A1は両方ともAβのプルダウンに成功したことを見出した。興味深いことに、多量体特異的ベンチマーク抗体1C22[30]と比較して、1G5および71A1は両方とも、ヒト脳浸漬抽出物中の可溶性Aβ種に対して非常により低い結合能力を示した。同様に、本発明者らが、免疫組織化学によりこうした3つの抗体を比較したところ、1G5および71A1は、標準Aβ抗体D54D2による二重標識により確認して未固定クリオスタット切片において斑を認識した。3つの多量体優先抗体はすべて、未変性凍結切片のAβ堆積を良好に染色したが、染色強度は、4%PFAにより切片を固定すると実質的に減退した。これは、こうした抗体が固定架橋に感受性の立体構造エピトープを認識することを示唆している。71A1および1G5は、1C22よりも、脳内のAβ堆積のより少ない部分を認識した。それにも関わらず、71A1は、AD脳浸漬抽出物により誘導される海馬LTPの阻害から保護する一貫した能力を示し、わずか30分間で皮質片からの単純な拡散により得られた脳Aβのごく一部(約12%)が、回復可能なシナプス毒性の多くを付与するという以前の知見を補強した[11]。さらに、AD浸漬抽出物から71A1で親和性精製したoAβは、強力なシナプス毒性を付与し、71A1は、ひいては、AD脳由来の可溶性oAβの毒性を中和することができ、それはこの新しい抗体の魅力的な潜在的療法特性を示す。
【0147】
脳由来の可溶性Aβに関するこうしたデータとは対照的に(図1C)、本発明者らのIP-ELISAは、以下のように、CSFにおけるAβ結合能力の順位序列が逆転したことを示した:71A1>1G5>>1C22(図3A)。脳浸漬抽出物とCSFとの間のこの違いは顕著であり、脳とCSFとの間で可溶性oAβアセンブリに差異があることを示唆すると解釈することができる。さらに、こうしたoAβ優先抗体の3つすべては、Aβ40およびAβ42を等しく免疫沈降させた。これは、CSF中のoAβは多様なAβ単量体バリアントを含むことを示唆する。血漿などの生物流体から低レベルのoAβを免疫沈降よりも正確に定量化するために、本発明者らは、Erenna SMCxPROプラットフォーム(Millipore)での超高感度サンドイッチイムノアッセイを開発し、捕捉抗体としての71A1および検出器抗体としての3D6(Aβ Asp-1 N末端に対する)を使用して、0.6pg/mLのLLoQ、および低いアッセイ内CV%(<10%)により示される高い再現性、および優れた(約100%)回収率を達成した(図4D)。oAβに対する71A1/3D6イムノアッセイの特異性は、71A1が、それらの単量体成分よりも合成ADDL[1]およびS26C Aβ1-40二量体[45]を強力に優先することにより示された(図4)。
【0148】
合成Aβペプチドから調製したoAβに対する71A1/3D6イムノアッセイの安定性および相対的多量体特異性をこのように検証した後、本発明者らは、AD脳浸漬抽出物の未変性SEC画分に対してアッセイを実施し、アッセイが、以前に報告された多量体特異的1C22/3D6アッセイと同様に[53]、高MWのAβ多量体を認識し、Aβ単量体を認識しないことを観察した(図5C、5D)。71A1/3D6アッセイの多量体特異性を確認した後、本発明者らは、ヒトCSFおよび血漿中のoAβレベルの定量化へと進んだ。重要なことには、本発明者らは、CSF中の71A1免疫反応性oAβレベル(n=29)が、CLIA承認のADmarkアッセイで測定して、同じ試料中の総タウおよびpT181タウと有意に相関していたことを見出した。しかしながら、本発明者らは、71A1/3D6シグナルとAβ1-42単量体レベルとの間の相関性を観察しなかった。
【0149】
次いで、本発明者らは、この研究の主な目標である、ヒト血漿に対する71A1/3D6イムノアッセイの特徴付けに進んだ。血漿マトリックス干渉の効果を受けない血漿中oAβの定量化の妥当性を示すために、本発明者らは、1)希釈回収率、2)3つの異なる天然Aβ源(ヒト脳可溶性ホモジネート、ヒト脳浸漬抽出物、およびCSF)でのスパイク回収率、3)71A1、1C22、および陰性対照抗体4-64(HIV糖タンパク質120に対して生じた)による免疫枯渇、および4)GnCl(oAβを単量体へと迅速に解体する強力なカオトロピック塩)で処理した脳ホモジネート、CSF、および血漿を調査した。71A1/3D6イムノアッセイはこうした試験にすべてに合格し、1)血漿希釈およびスパイクイン実験の両方で最適な回収率を示し、2)71A1による免疫枯渇性シグナルを示したが、1C22または対照抗体では示されず、3)3つすべての試料タイプのGnCl処理後、71A1シグナルが顕著に減少または消失した。最後に、本発明者らは、認知的に正常なヒト対象73名(人口統計データは表1)の血漿コホートに対して71A1/3D6アッセイを実施し、血漿中の71A1陽性多量体の平均(+/-SD)濃度43.34±29.09pg/mLを得た。
【0150】
本発明者らの研究は、幾つかの突出した知見を提供する。第一に、本発明者らは、天然ヒト多量体Aβの立体構造エピトープを認識する新しい抗体の設計および詳細な特徴付けについて報告する。第二に、本発明者らは、1G5および71A1が、参照多量体優先抗体1C2よりも生物流体中のoAβに対して高い結合能力を有することを示す。第三に、71A1は、AD脳浸漬抽出物中の高拡散性多量体のシナプス毒性を中和する。第四に、新規71A1/3D6サンドイッチELISAは、ヒト血漿中のoAβを高感度に再現性よく定量化する。本発明者らの知る限り、これは、多量体選択的立体構造抗体を使用してヒト血漿中のoAβを定量化した最初の報告である。今や、このアッセイは、内因性oAβの構造特性、ヒト血漿およびCSFにおける動力学、および機能的細胞毒性を含む、内因性oAβの生物学的特徴を調べるための固有のツールとなるだろう。本発明者らは、oAβ血漿イムノアッセイに関する3件の報告を見出した[55~57]。これらはいずれも、同一の捕捉抗体および検出器抗体を使用することを含み、したがって定量化には表面上に少なくとも2つの同一の露出エピトープが必要である。82E1を捕捉抗体および検出器抗体の両方として使用する1つのそのようなアッセイは、Immuno-Biological Laboratories(IBL)から市販されている。こうしたアッセイは、N末端エピトープが利用可能であり露出している限り、二量体からプロトフィブリル、さらには原線維に至るまでの幅広い範囲のAβを認識することになる。また、報告されているすべてのアッセイには、アッセイ特異性を試験するための希釈直線性、スパイクイン回収率、および免疫枯渇などの詳細な特徴付けが欠如している。本明細書に記載の例示的な71A1/3D6アッセイは、単量体を検出しない新規多量体特異的抗体を捕捉体として使用することによる特異性の向上、およびSMCxPROシステムによる感度の向上を呈する。
【0151】
今や、この新しいアッセイは確立され、技術的に検証され、本発明者らおよび他の研究者は、この新しいアッセイを使用して、大規模で明確に画定された横断的および縦断的なヒトコホートを系統的に調査し、血漿oAβレベルを、Aβ37からAβ43までの6つのC末端バリアントすべてを検出するAβ単量体アッセイ[32]、複数のAD表現型と相関するN末端タウ断片を検出するNT-1タウアッセイ[35、36]、およびThr181、Thr217、およびThr231でリン酸化されたタウを検出する非常に有望な最近のアッセイ(「緒言」を参照)などの他の確立された新興のADバイオマーカーと相関付けることができる。複数のコホートでのそのような詳細な相関性分析は、CSFおよび血漿における振興の抗アミロイド治療の効果をモニターすることを含み、ADの初期病態形成および経過におけるoAβ動力学の関与に関するさらなる洞察を明らかにするはずである。ヒト血漿中の内因性oAβに対するこの高感度で特異的なアッセイの作出、分析的検証、および初期応用は、多くの研究室からの広範な証拠により、ADにおけるAβの重要な生物活性形態であり、したがって疾患修飾療法の主要な標的であることが示唆されている種を検出および追跡するための長年求められてきた方法を提供する。
【0152】
したがって、本明細書では、例えば、本明細書に記載の、例えばヒト対象、または動物モデル、例えばヒト化APPマウス、または獣医学的対象、例えばネコもしくはイヌからの、1つまたは複数の生物学的流体を含む試料中に存在するoAβをアッセイするための方法が提供される。こうした方法は、試料中のoAβを定量的にアッセイするために使用することができる。こうした方法は、ヒト患者に由来する流体試料、例えば、血液または血漿を含む試料に対して使用することができる。試料は、当技術分野で公知の方法を使用して得ることができる。試料としては、例えば、組織、全血、血漿、血清、尿、唾液、呼気、エキソソームまたはエキソソーム様微小胞、リンパ、脳脊髄液、または痰を挙げることができる。
【0153】
一部の実施形態では、表面(例えば、プレートまたはビーズの表面などの表面)に結合した捕捉抗体および標識された検出抗体を使用するサンドイッチイムノアッセイが使用される。こうした方法は、試料中のoAβを認識して結合する第1の作用剤またはプローブ(捕捉抗体)を用いて、試料中に存在するoAβを捕捉するステップを含んでいてもよい。好ましくは、捕捉抗体は、本明細書に記載の71A1抗体もしくは1G5抗体またはそれらの抗原結合性断片である。捕捉抗体は、好ましくは、表面、例えば、マルチウェルプレートなどのプレートの表面、ビーズ、例えば、ビーズ、粒子、ミクロスフェア、ナノチューブ、ポリマー、プレート、ディスク、またはディップスティックの表面に付着している。ビーズとしては、磁気ビーズ、プラスチックビーズ、セラミックビーズ、ガラスビーズ、ポリスチレンビーズ、メチルスチレンビーズ、アクリルポリマービーズ、カーボングラファイトビーズ、二酸化チタンビーズ、ラテックスまたは架橋デキストラン、例えば、SEPHAROSEビーズ、セルロースビーズ、ナイロンビーズ、架橋ミセル、またはTEFLON(登録商標)ビーズを挙げることができる。一部の実施形態では、捕捉抗体はビオチン部分にコンジュゲートされており、表面はストレプトアビジンでコーティングされており、抗体はビオチン-ストレプトアビジン結合を介して表面に付着している。
【0154】
試料を、oAβ-捕捉抗体複合体に結合する第2の検出抗体と接触させる。例えば、検出抗体は、oAβに結合することができるが、前記標的分析物の異なるエピトープを認識し、oAβに対する結合について捕捉(例えば、71A1または1G5)抗体と競合しない。oAβに結合する例示的な検出抗体としては、3D6(例えば、Feinberg et al. Alzheimers Res Ther. 2014;6:31)または82E1が挙げられ、71A1または1G5はサンドイッチアッセイでの検出器としても使用することもできる。代替的に、捕捉抗体は親和性タグを含んでいてもよく、検出抗体は親和性タグに結合してもよい。親和性タグの例としては、ヘマグルチニン(HA)、HISタグ、FLAGタグ(DYKDDDDK、配列番号38)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、Sタグ、Strepタグ、VSVG、V5、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、c-myc、およびそれらの組合せが挙げられる(例えば、Kimple et al., Curr Protoc Protein Sci. 2013; 73: Unit-9.9を参照)。タグに結合する検出抗体は公知であり、例えば、BioRad、ThermoFisher、および他の業者から市販されている。好ましくは、検出抗体は、例えば、放射性同位体、化学発光物質、蛍光物質、金属錯体、ルシフェラーゼなどの生物発光物質、または核酸で標識されている。
【0155】
こうした方法は、例えば、検出抗体が放射性同位体で標識されている場合は、ラジオイムノアッセイ法(RIA)を使用して、検出抗体が化学発光物質で標識されている場合は、化学発光イムノアッセイ法(CIA)を使用して、検出抗体が蛍光物質で標識されている場合は、蛍光イムノアッセイ法(FIA)を使用して、検出抗体が金属錯体で標識されている場合は、電気化学発光イムノアッセイ法(ECLIA)を使用して、検出抗体がルシフェラーゼなどの生物発光物質で標識されている場合は、生物発光イムノアッセイ法(BLIA)を使用して、検出抗体が核酸で標識されている場合は、抗体を標識した核酸をPCRにより増幅することおよびその核酸を検出することを含む免疫PCR法を使用して、免疫複合体の形成により生じる濁度を検出する比濁イムノアッセイ法(TAI)を使用して、免疫複合体の形成により凝集したラテックスを検出するラテックス凝集比濁法(LA)を使用して、またはセルロース膜での反応を使用するイムノクロマトグラフィーアッセイを使用して、試料中のoAβの濃度を検出し、任意選択で定量化するステップをさらに含む。一部の実施形態では、この方法は、SMCxPROまたはErenna(MilliporeSigma)などの蛍光ベースELISAプラットフォームである。
【0156】
検出は、抗体、またはその抗原結合性断片、バリアント、もしくは誘導体を検出可能な物質にカップリングすることにより容易にすることができる。検出可能な物質の例としては、種々の酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、放射性物質、種々の陽電子放射断層撮影法で使用される陽電子放出金属、および非放射性常磁性金属イオンが挙げられる。診断薬として使用するために抗体にコンジュゲートすることができる金属イオンについては、例えば、米国特許第4,741,900号明細書を参照されたい。好適な酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。好適な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチンおよびアビジン/ビオチンが挙げられる。好適な蛍光物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、塩化ダンシル、またはフィコエリトリンが挙げられる。発光物質の例としては、ルミノールが挙げられる。生物発光物質の例としては、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンが挙げられる。好適な放射性物質の例としては、125I、131I、111In、または99Tcが挙げられる。一部の実施形態では、蛍光標識は、理想的には594nmまたは633nmレーザー線に好適な励起を示す明色近赤外蛍光色素である。一部の実施形態では、標識は、蛍光タンパク質であるかまたはそれを含む。多くのレポータータンパク質が当技術分野で公知であり、以下のものが挙げられる:緑色蛍光タンパク質(GFP)、緑色蛍光タンパク質のバリアント(GFP10)、高感度GFP(eGFP)、TurboGFP、GFPS65T、TagGFP2、mUKGEmerald GFP、スーパーフォールダーGFP、GFPuv、不安定化EGFP(dEGFP)、Azami Green、mWasabi、Clover、mClover3、mNeonGreen、NowGFP、Sapphire、T-Sapphire、mAmetrine、光活性化型GFP(PA-GFP)、Kaede、Kikume、mKikGR、tdEos、Dendra2、mEosFP2、Dronpa、青色蛍光タンパク質(BFP)、eBFP2、アジュライトBFP、mTagBFP、mKalamal、mTagBFP2、shBFP、青緑色蛍光タンパク質(CFP)、eCFP、Cerulian CFP、SCFP3A、不安定化ECFP(dECFP)、CyPet、mTurquoise、mTurquoise2、mTFPI、光スイッチ可能なCFP2(PS-CFP2)、TagCFP、mTFP1、mMidriishi-Cyan、アクアマリン、mKeima、mBeRFP、LSS-mKate2、LSS-mKatel、LSSmOrange、CyOFP1、Sandercyanin、赤色蛍光タンパク質(RFP)、eRFP、mRaspberry、mRuby、mApple、mCardinal、mStable、mMaroonl、mGarnet2、tdTomato、mTangerine、mStrawberry、TagRFP、TagRFP657、TagRFP675、mKate2、HcRed、t-HcRed、HcRed-Tandem、mPlum、mNeptune、NirFP、Kindling、近赤外蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質(YFP)、eYFP、不安定化EYFP(dEYFP)、TagYFP、Topaz、Venus、SYFP2、mCherry、PA-mCherry、Citrine、mCitrine、Ypet、IANRFP-AS83、mPapayal、mCyRFP1、mHoneydew、mBanana、mOrange、Kusabira Orange、Kusabira Orange2、mKusabira Orange、mOrange2、mKOK、mKO2、mGrapel、mGrape2、zsYellow、eqFP611、Sirius、Sandercyanin、shBFP-N158S/L173I、近赤外タンパク質、iFP1.4、iRFP713、iRFP670、iRFP682、iRFP702、iRFP720、iFP2.0、mIFP、TDsmURFP、miRFP670、Brilliant Violet(BV)421、BV605、BV510、BV711、BV786、PerCP、PerCP/Cy5.5、DsRed、DsRed2、mRFP1、ポシロポリン(pocilloporin)、ウミシイタケGFP、MonsterGFP、paGFP、もしくはフィコビリタンパク質(Phycobiliprotein)、またはそれらのいずれか1つの生物学的に活性なバリアントもしくは断片。ルシフェラーゼなどの他のタンパク質も使用することができる。
【0157】
抗体、またはその抗原結合性断片、バリアント、もしくは誘導体は、それを化学発光化合物にカップリングすることにより検出可能に標識することもできる。次いで、化学発光タグ付き抗体の存在は、化学反応の過程中に生じる発光の存在を検出することにより決定される。特に有用な化学発光標識化合物の例は、ルミノール、イソルミノール、テロマティックアクリジニウムエステル(theromatic acridinium ester)、イミダゾール、アクリジニウム塩、およびシュウ酸エステルである。
【0158】
抗体、またはその抗原結合性断片、バリアント、もしくは誘導体を検出可能に標識することができる方法の1つは、それを酵素に連結し、連結された産物を酵素イムノアッセイ(EIA)に使用することによる(Voller, A., “The Enzyme Linked Immunosorbent Assay (ELISA)” Microbiological Associates Quarterly Publication, Walkersville, Md., Diagnostic Horizons 2 (1978), 1-7);Voller et al., J. Clin. Pathol. 31 (1978), 507-520;Butler, Meth. Enzymol. 73 (1981), 482-523;Maggio, E. (ed.), Enzyme Immunoassay, CRC Press, Boca Raton, Fla., (1980);Ishikawa, E. et al., (eds.), Enzyme Immunoassay, Kgaku Shoin, Tokyo (1981)。抗体に結合している酵素は、例えば、分光光度法、蛍光分析法、または視覚的手段により検出することができる化学部分が生成されるように、適切な基質、好ましくは発色基質と反応することになる。抗体を検出可能に標識するために使用することができる酵素としては、これらに限定されないが、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ-5-ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ-グリセロホスフェート、デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ、およびアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。加えて、酵素の発色基質を使用する比色法により検出を達成することができる。検出は、基質の酵素反応の程度を、同様に調製された標準物質と比較して視覚的に比較することによっても達成することができる。
【0159】
検出は、様々な他のイムノアッセイのいずれかを使用して達成することもできる。例えば、抗体、またはその抗原結合性断片、バリアント、もしくは誘導体を放射性標識することにより、ラジオイムノアッセイ(RIA)を使用して抗体を検出することが可能である(例えば、Weintraub, B., Principles of Radioimmunoassays, Seventh Training Course on Radioligand Assay Techniques, The Endocrine Society, (March, 1986))を参照。この文献は参照により本明細書に組み込まれる)。放射性同位体は、これらに限定されないが、ガンマカウンター、シンチレーションカウンター、またはオートラジオグラフィーを含む手段により検出することができる。
【0160】
抗体、またはその抗原結合性断片、バリアント、もしくは誘導体は、152Euまたはランタニド系列の他のものなどの蛍光発光金属を使用して検出可能に標識することもできる。こうした金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの金属キレート基を使用して抗体に付着させることができる。
【0161】
種々の部分を、抗体、またはその抗原結合性断片、バリアント、もしくは誘導体にコンジュゲートさせるための技法は周知である。例えば、Arnon et al., “Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy”, in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy, Reisfeld et al. (eds.), pp. 243-56 (Alan R. Liss, Inc. (1985);Hellstrom et al., “Antibodies For Drug Delivery”, in Controlled Drug Delivery (2nd Ed.), Robinson et al. (eds.), Marcel Dekker, Inc., pp. 623-53 (1987);Thorpe, “Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review”, in Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications, Pinchera et al. (eds.), pp. 475-506 (1985);“Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy”, in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy, Baldwin et al. (eds.), Academic Press pp. 303-16 (1985)、およびThorpe et al., “The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates”, Immunol. Rev. 62 (1982), 119-158を参照されたい。
【0162】
本明細書には、アミロイドーシス、例えばCAAまたはアルツハイマー病(AD)を有すると対象を診断するための方法が含まれる。こうした方法は、対象から試料を得るステップ、ならびに試料中のoAβの存在および/またはレベルを評価するステップ、ならびにその存在および/またはレベルを、1つまたは複数の参照、例えば正常レベルの、例えば未罹患対象のレベルのoAβを表す対照参照と、および/またはアミロイドーシス(例えば、CAAまたはAD)に関連付けられるタンパク質のレベル、例えばADまたはアミロイドーシスを有する対象におけるレベルを表す疾患参照と比較するステップを含む。一部の実施形態では、こうした方法は、対象が、アミロイドーシス、例えばADまたはCAAを有すると特定された場合、対象に、治療、例えば、当技術分野で公知のまたは本明細書に記載の治療を施すステップをさらに含んでいてもよい。治療としては、コリンエステラーゼ阻害剤、例えば、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン;NMDAアンタゴニスト、例えばメマンチン;またはモノクローナル抗体、例えばアデュカヌマブ、または本明細書に記載の抗体が挙げられる。代替的にまたは加えて、こうした方法は、対象に対してさらなる診断検査、例えば精神状態および神経心理学的検査、または例えば磁気共鳴画像法(MRI)もしくはコンピューター断層撮影法(CT)もしくは陽電子放出断層撮影法(PET)スキャン、例えば、フルオロデオキシグルコース(FDG)PETイメージング、アミロイドPETイメージング、もしくはタウPETイメージングを使用したイメージングを推奨または実施するステップをさらに含んでいてもよい。
【0163】
本明細書で使用される場合、「試料」という用語は、本発明の方法を使用して生物学的マーカーの存在について試験しようとする物質を指す場合、特に、組織、全血、血漿、血清、尿、唾液、呼気、エキソソームもしくはエキソソーム様微小胞(米国特許第8.901.284号明細書)、リンパ、脳脊髄液、または痰を含む。使用される試料のタイプは、検査しようとする生物学的マーカーの同一性および方法が使用される臨床状況に応じて様々であってもよい。
【0164】
oAβの存在および/またはレベルは、当技術分野で公知の方法を使用して、例えば、ウエスタンブロットを含むがこれに限定されない、タンパク質の定量的イムノアッセイ法;酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、例えばサンドイッチELISA;ビオチン/アビジンタイプのアッセイ;タンパク質アレイ検出;ラジオイムノアッセイ;免疫組織化学(IHC);免疫沈降アッセイ;FACS(蛍光活性化細胞選別);質量分析法(Kim (2010) Am J Clin Pathol 134:157-162;Yasun (2012) Anal Chem 84(14):6008-6015;Brody (2010) Expert Rev Mol Diagn 10(8):1013-1022;Philips (2014) PLOS One 9(3):e90226;Pfaffe (2011) Clin Chem 57(5): 675-687)を使用して評価することができる。こうした方法は、典型的には、直接的または間接的のいずれかでシグナルをもたらす蛍光分子、化学発光分子、放射性分子、および酵素分子または色素分子などの標識を明らかにするステップを含む。本明細書で使用される場合、「標識」という用語は、放射性作用剤またはフルオロフォア(例えば、フィコエリトリン(PE)またはインドシアニン(Cy5)などの検出可能な物質と、抗体またはプローブとのカップリング(つまり、物理的連結)、ならびに検出可能な物質との反応性によるプローブまたは抗体(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、HRP)の間接的標識化を指す。
【0165】
一部の実施形態では、表面、例えばビーズまたはマイクロタイタープレートのウェルが、それに対してタンパク質を試験しようとする捕捉抗体でコーティングされているELISA法を使用することができる。次いで、生物学的マーカーを含むかまたは含むと疑われる試料をウェルに適用する。抗体-抗原複合体が形成されることになるのに十分な時間が経過した後、プレートを洗浄してあらゆる未結合部分を除去し、検出可能に標識された分子を添加する。十分なインキュベーション期間の後、プレートを再度洗浄してあらゆる過剰な未結合分子を除去し、当技術分野で公知の方法を使用して標識分子の存在を決定する。競合ELISAまたは競合アッセイ、およびサンドイッチELISAなどのELISA法の変法も使用することができる。そうした変法は当業者に周知である。
【0166】
一部の実施形態では、oAβの存在および/またはレベルは、疾患参照におけるタンパク質の存在および/またはレベルと同等であり、対象は、アミロイドーシス、例えば、ADまたはCAAに関連付けられる1つまたは複数の症状を有している。その場合、対象はアミロイドーシス、例えばADまたはCAAを有しているか、または有していると診断することができる。一部の実施形態では、対象は、アミロイドーシス、例えばADまたはCAAの明白な兆候または症状を有していないが、評価したタンパク質の1つまたは複数の存在および/またはレベルが、疾患参照におけるそうしたタンパク質の存在および/またはレベルと同等である。その場合、対象は、アミロイドーシス、例えばADまたはCAAを発症するリスクの増加(一般集団のリスクレベルを上回る)を有する。一部の実施形態では、個人が、アミロイドーシス、例えばADもしくはCAAを有するか、またはアミロイドーシス、例えばADもしくはCAAを発症するリスクの増加を有すると決定されたら、次いで、例えば当技術分野で公知であるかまたは本明細書に記載の治療を施してもよい。
【0167】
好適な参照値は、当技術分野で公知の方法を使用して、例えば、標準的な臨床治験方法論および統計分析を使用して決定することができる。参照値は、任意の関連形態を有していてもよい。一部の場合では、参照は、oAβの意義のあるレベルについての所定の値、例えば、正常なoAβレベル、例えば、未罹患の対象もしくは本明細書に記載の疾患を発症するリスクのない対象におけるレベルを表す対照参照レベル、および/またはアミロイドーシス、例えばADもしくはCAAに関連付けられる状態に関連付けられるタンパク質のレベル、例えばアミロイドーシス、例えばADもしくはCAAを有する対象におけるレベルを表す疾患参照を含む。
【0168】
所定のレベルは、中央値または平均などの単一のカットオフ(閾値)値であってもよく、または他のセグメントとは統計的に異なると決定される、臨床治験集団の上位四分位もしくは下位四分位、三分位、または他のセグメントの境界を画定するレベルであってもよい。所定のレベルは、信頼区間などのカットオフ値(または閾値)の範囲であってもよい。所定のレベルは、1つの画定された群における疾患の発症リスクまたは疾患の存在との関連性が、別の画定された群における疾患のリスクまたは存在よりも1倍高いかまたは低いかなど(例えば、およそ2倍、4倍、8倍、16倍、またはそれよりも大きく)、比較グループに基づいて確立することができる。所定のレベルは、例えば、対象の集団(例えば、対照対象)が、低リスク群、中リスク群、および高リスク群などの群へと、または最小四分位が最も低いリスクを有する対象であり、最大四分位が最も高いリスクを有する対象である四分位へと、またはn分位の最小分位が最も低いリスクを有する対象であり、n分位の最大分位が最も高いリスクを有する対象であるn分位(つまり、n個の等しく離間された間隔)へと均等に(または不均等に)分割される範囲であってもよい。
【0169】
一部の実施形態では、所定のレベルは、同じ対象における、例えば異なる時点、例えばより早期の時点でのレベルまたは出現である。
【0170】
所定の値に関連付けられる対象は、典型的には、参照対象と呼ばれる。例えば、一部の実施形態では、対照参照対象は、本明細書に記載の障害(例えば、アミロイドーシス、例えばADまたはCAA)を有していない。
【0171】
疾患参照対象は、アミロイドーシス、例えばADまたはCAAの1つまたは複数を有する(または発症のリスクの増加を有する)対象である。リスクの増加は、一般集団における対象のリスクを上回るリスクであると定義される。
【0172】
したがって、一部の場合では、対象におけるoAβのレベルが、oAβの参照レベル未満であるかまたは等しいことは、臨床状態を示す(例えば、本明細書に記載の障害、例えばアミロイドーシス、例えばADまたはCAAの不在を示す)。他の場合では、対象におけるoAβのレベルが参照レベルよりも大きいかまたは等しいことは、アミロイドーシス、例えばADもしくはCAAの存在、または疾患のリスクの増加を示す。一部の実施形態では、対象におけるレベルが参照レベル未満である量は、対象を対照対象から区別するのに十分であり、任意選択で、対照対象におけるレベルよりも統計的に有意に低い。対象におけるoAβのレベルがoAβの参照レベルに等しい場合、「等しい」とは、ほぼ等しい(例えば、統計的に異なっていない)ことを指す。
【0173】
所定の値は、選択された特定の集団の対象(例えば、ヒト対象)に依存してもよい。例えば、一見健康な集団は、本明細書に記載の障害を有する、有する可能性が高い、または有するリスクがより高い対象の集団が有することになるレベルとは異なるαAβのレベルの「正常」範囲を有するだろう。したがって、選択される所定の値は、対象(例えば、ヒト対象)が属するカテゴリー(例えば、性別、年齢、健康状態、リスク、他の疾患の存在)を考慮してもよい。適切な範囲およびカテゴリーは、当業者による単なる日常的な実験で選択することができる。
【0174】
可能性またはリスクの特徴付けにおいて、多数の所定の値を確立することができる。
【0175】
また、本明細書では、試料中のoAβの量を定量化するためのキットが提供される。キットは、本明細書に記載の捕捉抗体および検出器抗体、任意選択で陽性対照、および任意選択で試料中のoAβを定量化するための前記試薬の使用説明書を含む。
【0176】
治療のための方法および組成物
アミロイドーシスは、様々な組織における病原性アミロイドの細胞外および/または細胞内堆積により引き起こされる臨床障害である。アミロイドーシスの兆候および症状としては、以下のものが挙げられる:重度の疲労および脱力感;息切れ;手や足のしびれ、うずき、もしくは痛み;足首および脚のむくみ;おそらくは出血を伴う下痢もしくは便秘;舌の縁が波打って見えることがある舌肥大;肥厚もしくはあざのできやすさなどの皮膚の変化;および目の周りの紫斑。大脳皮質および血管の両方における斑の形態のアミロイドβペプチド(Aβ)の脳内蓄積は、脳アミロイド血管症(CAA)およびアルツハイマー病(AD)と関連付けられる。
【0177】
アミロイドベータタンパク質の可溶性多量体(oAβ)がアルツハイマー病(AD)の病原性カスケードの開始を支援するという強力な証拠があり、単量体でもなく原線維状AβでもなくoAβを標的とする療法戦略が示唆される。本明細書に記載の抗体71A1は、合成単量体よりもoAβに対して約100倍感度が高い。71A1が、AD可溶性脳抽出物から特異的に免疫沈降させる物質は、完全な抽出物と同様にシナプス機能を損なう。本明細書に示されているように、脳抽出物を71A1と共にプレインキュベートすることにより、そのシナプス毒性が中和される。疾患関連oAβに対する71A1は、その固有の活性により、アミロイドーシス、例えばADまたはCAAの治療に療法的に有用となる。
【0178】
したがって、本明細書では、対象におけるoAβの蓄積に関連付けられる障害、例えばアミロイドーシス、例えばADまたはCAAを治療するための方法が提供される。こうした方法は、治療有効量の71A1抗体またはその抗原結合性断片を、対象に、例えば対象の脳に投与するステップを含む。この状況で使用される場合、「治療する」は、アミロイドーシス、例えばADまたはCAAの少なくとも1つの症状を改善することを意味する。多くの場合、アミロイドーシスは、影響を受けた臓器の機能障害をもたらす。したがって、治療は、oAβを低減させ、正常機能に戻すかまたは近づけることができる。例えば、ADおよびCAAは、進行性認知機能低下に関連付けられる。ADまたはCAAを治療するための本明細書に記載の治療有効量の化合物の投与は、認知障害の減少、進行性認知機能低下の速度の低下、または進行性認知機能低下の停止をもたらすことになる。
【0179】
医薬組成物および投与方法
本明細書に記載の方法は、本明細書に記載の抗体、例えばmAb 71A1もしくは1G5またはそれらの抗原結合性断片を活性成分として含むかまたはからなる医薬組成物の使用を含む。一部の実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体、非ヒト動物抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、ミニボディ、二重特異性抗体、アミノ酸配列修飾抗体、他の分子(例えば、ポリエチレングリコールなどのポリマー)にコンジュゲートされた修飾抗体、あるいはmAb 71A1もしくは1G5のHC CDRおよびLC CDR、またはmAb 71A1もしくは1G5のHCおよびLC全体を含む糖鎖修飾抗体である。
【0180】
医薬組成物は、典型的には、薬学的に許容される担体を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という文言には、薬学的投与に適合する食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、ならびに等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。
【0181】
医薬組成物は、典型的には、その意図された投与経路に適合するように製剤化されている。投与経路の例としては、非経口、例えば静脈内送達;脳室内、脳内、もしくはくも膜下腔内注射;またはCSFへの注射が挙げられる。
【0182】
好適な医薬組成物を製剤化するための方法は当技術分野で公知である。例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st ed., 2005; and the books in the series Drugs and the Pharmaceutical Sciences: a Series of Textbooks and Monographs (Dekker, NY)を参照されたい。例えば、非経口、皮内、または皮下投与に使用される溶液または懸濁物としては、以下の成分を挙げることができる:注射用水、食塩溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗細菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝剤;および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度を調整するための作用剤。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することができる。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、または複数用量バイアルに封入することができる。
【0183】
注射使用に好適な医薬組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散物、および滅菌注射溶液または分散物を即時調製するための滅菌粉末を挙げることができる。静脈内投与の場合、好適な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、パーシッパニー、ニュージャージー州)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。いずれの場合でも、組成物は無菌でなければならず、容易に注射できる程度に流動性であるべきである。組成物は、製造および保管の条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの好適な混合物を含む溶媒または分散媒であってもよい。適正な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散物の場合には必要な粒子サイズの維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、およびチメロサールなどにより達成することができる。多くの場合、組成物中には、等張剤、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウムが含まれていることが好ましいだろう。注射可能な組成物の持続的な吸収は、吸収を遅延させる作用剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含めることによりもたらすことができる。
【0184】
滅菌注射溶液は、必要な量の活性化合物を、上記に列挙されている成分の1つまたは組合せを有する適切な溶媒に組み込み、必要に応じて続いて濾過滅菌することにより調製することができる。一般に、分散物は、基本分散媒、および上記に列挙されているものからの必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルに活性化合物を組み込むことにより調製される。滅菌注射溶液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥および凍結乾燥であり、それにより、事前に滅菌濾過したその溶液から、活性成分+任意の追加の所望の成分の粉末が得られる。
【0185】
一部の実施形態では、療法用化合物は、インプラントおよびマイクロカプセル化送達系を含む制御放出製剤など、療法用化合物を身体から急速に排除されることから保護することになる担体を用いて調製される。化合物は、例えばポンプ、例えば外科的に埋め込まれたリザーバポンプを使用して送達することもできる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生分解性で生体適合性のポリマーを使用することができる。そのような製剤は、標準的な技法を使用して調製してもよく、または、例えばAlza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から商業的に得ることができる。ナノ粒子(例えば、リポソーム、ポリマー性ナノ粒子、デンドリマー、クラスリンナノ粒子、または金属ナノ粒子)、操作された二重特異性抗体(例えば、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体(IR)、または低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質-1(LRP-1)にも結合するもの。例えば、Faresjo et al., Fluids Barriers CNS. 2021;18:26;Bajracharya et al., Pharmaceutics. 2021 Dec; 13(12): 2014を参照)、集束超音波とマイクロバブルとの組合せ、血液脳関門(BBB)通過特性を有する細胞外小胞を使用して、BBBを通過する送達を強化することができる。例えば、Bajracharya et al., Pharmaceutics. 2021 Dec; 13(12): 2014を参照されたい。リポソームを含むナノ粒子も、薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号明細書に記載のような、当業者に公知の方法に従って調製することができる。代替的に、例えば、本明細書に記載の療法用抗体をコードする核酸(好ましくは、ヒトでの使用のためにコドン最適化されている)を含む、抗体をコードするウイルスベクター(AAVなど)を送達することができる。
【0186】
医薬組成物は、投与の説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサーに含まれていてもよい。
【0187】
投薬量
「有効量」は、有益なまたは所望の結果をもたらすのに十分な量である。例えば、療法量は、所望の療法効果を達成する量である。この量は、疾患または疾患症状の発症を予防するために必要な量である予防有効量と同じであってもよくまたは異なっていてもよい。有効量は、1回または複数回の投与、適用、または投薬量で投与することができる。療法用化合物の治療有効量(つまり、有効投薬量)は、選択された療法用化合物に依存する。組成物は、1日1回または複数回から1日おきを含む1週間に1回または複数回まで投与することができる。当業者であれば、これらに限定されないが、疾患または障害の重症度、以前の治療、対象の一般的健康状態および/または年齢、ならびに存在する他の疾患を含むある特定の要因は、対象を効果的に治療するために必要な投薬量およびタイミングに影響を及ぼす可能性があることを理解するだろう。さらに、本明細書に記載の治療有効量の療法用化合物による対象の治療としては、単一の治療または一連の治療を挙げることができる。
【0188】
療法用化合物の投薬量、毒性、および療法効果は、細胞培養物または実験動物にて、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的な量)およびED50(集団の50%に対して療法的に有効な用量)を決定するための標準的な薬学的手順により決定することができる。毒性効果と療法効果との間の用量比が治療指数であり、比LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。毒性副作用を呈する化合物を使用してもよいが、未感染細胞への潜在的な損傷を最小限に抑え、それにより副作用を低減させるために、そのような化合物を患部組織部位へと標的化する送達系を設計するように注意する必要がある。
【0189】
細胞培養アッセイおよび動物研究から得られるデータは、ヒトに使用するための投薬量範囲を処方する際に使用することができる。そのような化合物の投薬量は、毒性をほとんどまたは全く示さない、ED50を含む循環濃度の範囲内にあることが好ましい。投薬量は、使用される剤形および使用される投与経路に応じて、その範囲内で変化させることができる。本発明の方法で使用される任意の化合物の場合、治療有効用量は、初期には、細胞培養アッセイから推定することができる。用量は、動物モデルでは、細胞培養で決定されるIC50(つまり、症状の最大半量阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように処方してもよい。そのような情報を使用して、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィーで測定することができる。
【実施例
【0190】
本発明を以下の例でさらに説明するが、それらは、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲を限定するものではない。
【0191】
[実施例1]
ペプチド免疫原
ヒトアミロイドbタンパク質42(Aβ42)アミノ酸配列および免疫原性ペプチドの生成に使用される配列内の領域(aa9~18)は以下の通りである。
【0192】
【化9】
【0193】
この配列を選択したのは、複雑な側鎖を含むアミノ酸のクラスターがあるためであった。こうしたアミノ酸は、二量体、三量体、さらにはより複雑な構造にアラインすると、Aβ凝集の初期に形成され得るものと同様の特徴的な三次元構造を作出する固有の配向性に再会合する可能性があると考えた。こうした構造は、未凝集単量体配列には存在しない、抗体結合のための「ネオエピトープ」である可能性がある。免疫原設計の主な目的は、Aβが初期に凝集した際に作出され、その後より大型の凝集体が形成されると失われる立体構造ネオ抗体エピトープに対して、免疫応答の焦点を可能な限り限定することになる理想的には安定二量体であるが、安定三量体またはさらに安定4個ペプチド構造であってもよい分子を作出することであった。
【0194】
この領域の合成ペプチド型は、配列CGKCGYEVHHQKLVPNVLKQHHVEYGCK(配列番号2)を有し、Balb/cマウスにおける免疫原として使用するために作製した。
【0195】
環化ペプチドの概略図を図1に示す。Mab 71A1および1G5は両方とも、独占所有のT細胞エピトープペプチドにコンジュゲートされたこの免疫原を使用して単離した。
【0196】
この免疫原は、本明細書ではNETL-1とも呼ばれ、上記に図示したAβ配列内の10個アミノ酸のストレッチに由来した。この領域は、Aβプロトフィブリル凝集の形成に必要なβシート変換と同様の、アルファヘリックス立体構造からβシート立体構造への最初の変換に関与する可能性があると考えられる配列に由来するものであった。樹脂から切断する前にペプチドの環化を可能にするとキンクが形成されるため、プロリンおよびアスパラギンを追加した後、10個アミノ酸のストレッチを逆方向に繰り返した。N末端システインを使用して、完全に合成され樹脂から切断されたペプチドを、スルフヒドリル反応性ELISAプレートおよびマレイミド活性化KLH(キーホールリンペットヘモシアニン)などの担体タンパク質に、またはTepi2と称される独占所有のマレイミド-ペプチド担体にコンジュゲートした。マレイミドは、スルフヒドリル反応性であり、システインは、他のスルフヒドリル基またはマレイミドとのコンジュゲーションに利用可能な遊離スルフヒドリル基を有する。水溶性を増加させるために、ペプチドのN末端に追加のリジンを追加した。スクリーニング用の対照ペプチドは、C末端システインを有する完全長Aβ40(DAEFRHDSGYEVHHQKLVFFAEDVGSNKGAIIGLMVGGVV、配列番号40)ならびにNETL1で使用されるものと同じAβ10アミノ酸ペプチド配列であるが、逆方向の反復を有しておらず、追加のN末端リジンおよびシステインを有するNETL-2ペプチドの両方を含んでいた。
【0197】
Tepi2は、抗原提示細胞(APC)上のクラスII MHC抗原の背景で提示されると、ヘルパーT細胞を活性化して、Aベータ配列構造に対する抗体応答を開始させる配列である。例示的なTepi2は以下の通りである。
【0198】
【化10】
【0199】
これは、Pam3Cys(N-α-パルミトイル-S-2,3-ビス(パルミトイルオキシ)-(2RS)-プロピル-L-システインを有し、パルミトイル-Cys((RS)-2,3)が2番目のリジン(K4)に付着しているペプチド配列(配列番号4)である。Pam3Cysは、自然免疫応答を刺激することが公知であるリポペプチドアジュバントである。自然免疫応答は、多くの微生物または寄生虫に見出される、Pam3Cysに類似した成分に結合する生殖系列コードパターン認識受容体(PRR)を使用する応答である。自然免疫系の誘導は、多くの炎症性サイトカインの産生をもたらし、直ちに宿主防御応答を引き起こして、特異的抗体産生の誘導などの抗原特異的適応免疫応答を初回刺激することができる。(Janeway CA Jr, Medzhitov R. Innate immune recognition. Annu Rev Immunol (2002) 20:197-216)。
【0200】
大型のタンパク質担体を用いて続けるのではなく、Tepi2をペプチド免疫原に結合させる目的は2つある。第一に、大型タンパク質担体自体が抗体応答を誘導し、活性化されたB細胞の多くは、こうしたタンパク質上に見出される不要で無関連のエピトープに応答する。したがって、Tepi-2担体をその後の追加免疫物質に付着させることにより、所望のAベータペプチド免疫原に特異的な初回刺激B細胞の継続的な活性化が制限された。第二に、Tepi2の追加のアミノ酸組成に対する抗体応答は、Tepi2でコーティングされたプレートを用いたELISAでは、本発明者らの手ではまったく測定することができなかった。
【0201】
[実施例2]
生化学および免疫学
NETL-1は、ペプチドの生成に使用される樹脂(Anaspec,Inc)から切断する前のコンジュゲーションおよび合成後修飾に利用可能なスルフヒドリルを有する3つのシステインを含んでいた。ペプチドは、Applied Biosystems 432Aなどの自動ペプチド合成機でFMOC化学を使用して合成した。ペプチドは、合成プロセスを通して、アミノ酸の完全性を保証するために必要な側鎖保護基(Trt-tert-ブチルオキシカルボニルまたはBoc)を有している。こうした基は、ペプチドの合成に使用される樹脂から最終産物を切断する際に除去しなければならない。NETL-1には、ペプチドの両c末端に2つのシステイン(C4およびC27)が挿入されている。こうしたシステインを使用して、樹脂からの最終切断の前に樹脂上でペプチドを環化した。この課題を達成するために、システインを、アセトアミドメチル(ACM)基で保護した。タリウムIII手順を使用してACM基を除去すると、こうしたシステインは、樹脂からペプチドを切断するために使用される異なる条件下で除去されるBoc保護基に影響を及ぼすことなく、優先的に切断された。ACM保護基の除去は、遊離スルフヒドリルを生成し、それらが互いに優先的に反応して樹脂上でループを形成すると考えられる。ある程度のペプチド間二量体も形成されることになる可能性がある。無論、潜在的なβシート構造を作出するこうした合成アクロバットを使用して安定二量体構造を作り出すスキームは、いずれの結合優先性も排除しない。最初のAベータ9-18配列のC末端バリンの後、または免疫原のN末端もしくはC末端のいずれかにアミノ酸を追加しても、凝集の初期に形成される安定小型Aベータ構造を形成するという同じ目標を達成することができる。次いで、天然の連続した「直線状」配列ではなく三次構造に応答する単離された71A1および1G5抗体を、多くの異なる構成に対する応答性レパートリーから取り出した。樹脂から最終的に切断した後、コンジュゲーションのためにペプチドのN末端に利用可能な遊離スルフヒドリルを有する安定会合二量体がもたらされる可能性が高い。
【0202】
安定二量体化を作出するために使用することができる追加のアミノ酸保護基がペプチド配列内に存在する。例えば、モノメトキシトリチル(MMT)保護基は、ACM保護基よりも強力な酸、塩基、求核剤に対してより感受性であるため、除去がより容易な多用途アミノ保護基である。NETL-1で使用される10個アミノ酸のストレッチは、下記に図示されているように、プロリンおよびアスパラギンで区切ってタンデムに繰り返すこともできる。
C G K C G Y E V H H Q K L V P N G Y E V H H Q K L V C K(配列番号3)
【0203】
最初のシステイン(C1)は、ペプチド合成中および樹脂からの切断中、すべてのアミノ酸に使用されているTRT基により保護することができる。例えば、二番目のシステイン(C4)はACT基で、三番目のシステイン(C27)はMMT基で保護することができる。MMT基を最初に除去して、C4ジスルフィド架橋による隣接ペプチド間のジスルフィド結合を可能にし、その後ACT基を除去して、同じ隣接ペプチド間に追加のC27ジスルフィド架橋を可能にすることになる。ペプチドを樹脂から切断すると、隣接する繰返し二量体を有する安定ペプチド構造を生成させることができる。
【0204】
【化11】
【0205】
単量体Aβ40またはAβ42ペプチドでは利用可能ではない固有の三次元構造を有する安定二量体、三量体、または4個ペプチドの凝集体を作出することを念頭に置いて、他の保護基および戦略を、このプロセスおよびNETL-1ペプチド合成プロセスにて同じ目標のために使用することができる。
【0206】
正常な免疫応答は、リンパ球のB細胞サブセットおよびT細胞サブセットの両方の活性化を含む。複雑なタンパク質に対して開始される応答には、そのタンパク質に由来するペプチド断片の取込みおよび消化、続いて細胞表面提示が必要である。こうした断片は、B細胞上のMHC分子と呼ばれる細胞表面発現分子およびAPCまたは抗原提示細胞と呼ばれる特殊細胞に会合した状態で細胞内環境に提示される。T細胞は、MHCに会合するこうしたペプチド断片を認識する特殊な受容体を有する。この認識は、T細胞内部で細胞間事象を開始させ、それによりサイトカインの産生および合成がもたらされる。こうしたサイトカインは、B細胞成熟を刺激し、最終的には抗体分泌B細胞を発生させる。
【0207】
T細胞活性化のプロセスおよび機序を理解および解明しようとする多くの研究が存在する。T細胞の活性化に関与するタンパク質内の配列は、T細胞エピトープと呼ばれ、そうした配列の特定およびそうした配列間の特質は免疫学者の関心分野である。通常、小型ペプチドに対する抗体応答が求められる場合、ペプチドは、KLHまたはBSAなどの大型担体分子にコンジュゲートされる。このコンジュゲーションプロセスは、B細胞およびAPCが、大型担体タンパク質に由来するT細胞エピトープペプチドを内部移行、プロセシング、および提示することを可能にする。しかしながら、こうした担体に関する問題は、担体も多数のB細胞エピトープを有しており、大半の場合、こうした領域に対する抗体応答が、担体にコンジュゲートされたペプチドに対する応答を圧倒してしまうことである。その結果、時間の経過と共に、対象のペプチドに対する比力価が減少する。この現象は、T細胞エピトープを使用した場合には生じない。その理由は、認識に利用可能なB細胞エピトープは、担体にコンジュゲートされたペプチドまたは分子に由来するものだけであるからである。
【0208】
Mab 71A1および1G5を刺激するために使用されるT細胞エピトープは、特に小型分子およびペプチドに対するマウス抗体応答を開始するために本発明者らが使用した配列である。例えば、それら自体が目的のタンパク質に由来する小型ペプチド免疫原にコンジュゲートされたこうした配列は、マウスにおいて目的のペプチドに対する抗体応答を生成することになる。T細胞エピトープに対する抗体応答は観察されない。加えて、本発明者らは、こうした配列のみがT細胞増殖に結び付くことになることを示す研究を過去に行っていた。この意味で、こうしたT細胞エピトープは、B細胞およびAPC上のMHCと会合した状態で、T細胞により認識される複合体を提示する可能性が高くなるだろう。この認識により、こうしたT細胞エピトープにコンジュゲートされた分子に対する抗体応答に結び付くことになる開始要件が完了する。
【0209】
NETL-1ペプチド間のあらゆるジスルフィド結合を低減させるために、5mM EDTAを含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液pH6.5中にて、NETL-1ペプチドを1:1のモル比でT細胞エピトープペプチドにコンジュゲートした。対照Aβ42-システインおよびNETL-2を両方とも同様に処理した。
【0210】
完全な環化および切断プロトコールは以下の通りである。まず、環化させることになるペプチド樹脂の質量を決定し、環化に必要なタリウムIIIの質量を決定する:(XmM NETL12×2)×543.2mg/mM=YmgタリウムIII。DMFを使用してガラスバイアル内で樹脂を膨潤させる。必要とされる容積のタリウムIII(ペプチド樹脂を膨潤させるために添加した量と同じ量)をペプチド樹脂に移す。0℃で2時間撹拌しながら反応を可能にする。反応混合物を、濾過のために適切なサイズのガラス焼結フィルターフラスコに移す。ペプチド-樹脂混合物をDMFで3回洗浄し、次いでペプチド-樹脂混合物をDCMで3回洗浄する。
【0211】
焼結フラスコを覆い、混合物を一晩乾燥させる。乾燥したペプチド-樹脂をカバー付きのガラスバイアルに移し、収量を決定する。
【0212】
翌日、環化ペプチド-樹脂を秤量し、磁気フレア(magnetic flea)または撹拌子を含む適切なサイズのガラスバイアルに入れる。
【0213】
チオアニソール、脱イオン水、エタンジチオール、およびトリフルオロ酢酸を含む切断カクテルを調製し、氷上で冷却する。冷却したカクテルの全容積をペプチド-樹脂を含むバイアルにゆっくりと添加し、氷上で15分間、その後室温で165分間撹拌する。
【0214】
切断反応中に、MTBEを氷上で冷却する。100~150mgペプチド-樹脂毎に、およそ35mlの冷却MTBEを使用する。ペプチド-樹脂-カクテル混合物をQuik-Sepカラムにかけて冷却MTBEへと流す。TFAで洗浄する。遠心分離して切断されたペプチドをペレットにし、次いで冷却MTBEでペプチドペレットを洗浄/再懸濁する。遠心分離および洗浄を3回繰り返す。
【0215】
前回の遠心分離と同様に遠心分離してペプチドをペレットにし、手短に乾燥させる。ペレットを最小容積の氷酢酸に溶解する。凍結および凍結乾燥を1または2回繰り返す。
【0216】
[実施例3]
免疫化および抗体スクリーニング
Balb/cマウスに、KLHコンジュゲートNETL-1ペプチドによる一次免疫および二次免疫を行った。その後の追加免疫は、T細胞エピトープコンジュゲートペプチドを用いて3週間間隔で実施した。この手法は、KLHが、ペプチドに対する強力な免疫応答を初期に確立することを可能にした。KLHに対する抗体応答がペプチドに対する応答を圧倒し始める前に、T細胞エピトープは、KLH内に含まれるB細胞エピトープに起因する無関連抗体応答をさらに誘導することなく、目的の構造に対するさらなる追加免疫を可能にする。T細胞エピトープは、B細胞応答を最小限に誘導するかまたはまったく誘導しないが、B細胞誘導および成熟に重要である強力なT細胞増殖応答を誘導する。
【0217】
NETL-1免疫原の背後にある理論的根拠は、環化ペプチドにより形成されるより焦点を絞ったエピトープが、完全長Aβ40内に見出される単量体10aaペプチド配列に対する応答の誘導が最小限であるかまたはまったくないように、応答を、選択された10aa配列に由来する二量体構造に制限することができるということだった。両応答が観察された。本発明者らは、ペプチド構造がいかに小さくとも、単量体配列と交差反応する認識に利用可能な最小限のエピトープが常に存在する可能性があるという事実により、これを部分的に説明することができる。NETL-1およびNETL-2の両方に特異的な幾つかのモノクローナル抗体を単離した。NETL-1に結合したが、NETL-2にもAβ40にも結合しなかった2つの分離物7aおよび1gが明らかになった。こうした分離物を、さらなる特徴付けのためにサブクローニングした。2つの単離されたサブクローンであるMab 71A1および1G5を選択し、組織培養で増殖させ、特異性の確認および将来の研究のために精製した。71A1および1G5モノクローナル抗体は両方とも、環化ペプチドNETL-1に結合し、対照ウェルにも、Aβ40単量体ペプチドにも、対照ペプチドNETL-2にも結合しなかった(図2)。図2は、マレイミド活性化(SH反応性)マイクロタイタープレートにコンジュゲートされたAβ40、NETL1、またはNETL2ペプチドに対する結合についてアッセイした、精製されたモノクローナル抗体による標準的な間接酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)である。1時間のインキュベーション後、ウェルを洗浄し、次いで西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRPO)コンジュゲートヤギ抗マウス二次抗体100μlを添加し、プレートをさらに1時間インキュベートしてから、TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)基質を添加した。分光光度計で650nmの吸光度を測定した。
【0218】
[実施例4]
ヒト血漿中の可溶性Aβ多量体を検出および定量化するための超高感度イムノアッセイ
この例では、高齢対象およびAD対象の大規模コホートを分析して、この重要な病原性種の動力学および療法に対する応答を評価するためにヒト血漿中のシナプス毒性oAβを定量化するための高感度でハイスループットの安価な方法が記載される。
【0219】
方法
実施例4では以下の方法を使用した。
【0220】
Aβ多量体特異的抗体71A1および1G5の生成
モノクローナル抗体71A1(親クローン7A1aのサブクローン)および1G5は、単量体Aβの二量体化の際に形成される三次元構造を潜在的に模倣するように設計された合成立体構造ペプチド免疫原に対して生じたものだった。Aβ1-40のアミノ酸残基9~18を含むペプチド免疫原を合成し、環化して、安定二量体形成物へのフォールディングを可能にするように合成後修飾した(特許出願中)。Aβペプチドの残基9~18を選択した背後にある理論的根拠は、この領域のアミノ酸が、Aβの凝集形態にのみ存在する固有の三次元構造へと再会合する可能性が高いと考えられるということだった。Balb/cマウスを、脾臓摘出術手順の前に、一次および二次免疫にはマレイミド活性化キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)担体複合体を使用し、その後の追加免疫には独占所有のヘルパー2T細胞エピトープを使用して、この立体構造ペプチド免疫原で免疫した。免疫化マウス脾細胞および融合パートナーとしてのマウス骨髄腫F0細胞を使用して融合を実施した。免疫原による一次スクリーニングおよびサブクローニングの後、特に2つのモノクローナル候補71A1および1G5は、環化ペプチドに対して高い特異性を示したが、直線状ペプチドに対しては特異性を示さなかった。こうした抗体の初期特徴付けは、Aβの合成および内因性多量体形態に対して高い特異性を有し、単量体Aβには結合しないことを示していた[44]。
【0221】
試薬
合成β-アミロイドペプチド1-40および1-42は、Anaspecから購入した。セリン26がシステインで置換されたAβ1-40(Aβ S26C)は、Keck Biotechnology Center(エール大学、ニューヘブン、コネチカット州)から購入した。アミロイドβ由来拡散性リガンド(ADDL)[1]およびS26C二量体を、以前の報告[45]に従って調製した。
【0222】
マウス
雄および雌のC57BL/6Jマウスを両方とも使用した。マウスを含むすべての手順は、ハーバード大学医学部およびブリガムアンドウィメンズ病院の動物福祉ガイドラインに準拠していた。
【0223】
可溶性脳「浸漬」抽出物の調製
「浸漬」法を使用した、可溶性タンパク質の死後脳組織からの抽出を、以前に記載のように実施した[11]。簡単に説明すると、新たに解凍した冠状スライスから皮質灰白質を切り出し、次いでMcIlwain組織チョッパーで幅0.5mm間隔に切り刻んだ。切り刻んだ組織片を秤量し、1:5重量:容積で、抽出緩衝液(25mM Tris、150mM NaCl、5μg/mlロイペプチン、5μg/mlアプロチニン、2μg/mlペプスタチン、120μg/ml Pefabloc、5mM EDTA、5mM NaF、pH7.2)に添加した。組織小片を、50ml Eppendorfタンパク質LoBindチューブ内で30分間4℃にて旋回させることにより浸漬した。Sorvall Lynx 6000卓上遠心分離機(Thermo Fisher)でFiberlite F14-14×50cyローターを用いて2,000gで10分間4℃にて遠心分離することにより組織小片を除去した。上清の上部約90%を除去し、次いでOptima L90K超遠心分離機(Beckman Coulter)でSW41Tiローターを用いて40,000rpmで110分間4℃にて遠心分離した。上清の上部約90%を、さらなる研究のために「浸漬抽出物」として保持した。脳tris緩衝食塩水(TBS)浸漬抽出物を1.5ml Eppendorfタンパク質LoBindチューブにアリコートし、-80℃で保管した。
【0224】
ヒト生物流体および脳組織
2つの臨床コホート:1つはBWH Division of Cognitive and Behavioral Neurologyからのもの、もう1つはMayo Clinic Study of Agingからのものから、ヒトCSFおよび血漿を得た。表1には、両コホートの人口統計上の特質およびさらなる詳細が示されている。腰椎穿刺診断のために紹介されたBWH患者は、血漿試料および追加のCSFの提供、ならびにBWH IRBの承認下での医療記録へのアクセスに同意した。血液をEDTAチューブに収集し、1500gで15分間遠心分離し、血漿をアリコートして-80℃で凍結した。すべては収集後3時間以内だった。CSFをポリプロピレンチューブ(Sarstedt)へと直接吸引した。CSFの一部を、ADmarkパネル(Aβ1-42、T-タウ、およびP-タウからなる)のためにAthena Diagnosticsに送付し、残りはドライアイスで直ちに凍結し、次いで解凍して後日アリコートした。臨床診断情報は、ADmarkまたは研究ELISA結果が判明する前に、有資格行動神経科医によるカルテレビューから得た。
【0225】
Mayo Clinic Study of Aging(MCSA)は、ミネソタ州オルムステッド郡に住む住民を対象とした集団ベースの前向き研究である。研究設計および参加者募集の詳細は公開されている[46、47]。2004年に、ロチェスター疫学プロジェクト(REP)医療記録リンクシステムを使用して70歳~89歳のオルムステッド郡住民を記載のように一覧にした[48]。2012年には、MCSAは50歳以上の住民を含むように拡大された。本分析には、本発明者らが、本明細書に記載のように血漿Aβ多量体を測定した73人のMayo参加者が含まれていた。対象の登録、試料の収集、施設間での試料の共有は、メイヨークリニックおよびオルムステッドメディカルセンターが承認した。研究プロトコールは、メイヨークリニックおよびオルムステッドメディカルセンターの施設内治験審査委員会による承認を受け、すべての参加者から書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0226】
BWHまたはMGHにおいて、診断解剖を受けたADの可能性が高い死亡ドナーからヒト脳組織を得た。一方の半球を診断のために固定し、他方の半球を冠状にスライスし、-80℃で凍結した。すべてのヒト対象研究は、マサチューセッツ州ジェネラルブリガム施設内治験審査委員会による事前承認を受け、すべてのヒト対象についてインフォームドコンセントを得た。
【0227】
【表2】
【0228】
電気生理学的細胞外フィールド記録
実験は、以前に記載のように実施した[13]。簡単に説明すると、マウス(1~3月齢)をハロタンで深く麻酔し、断頭した。横断鋭利海馬スライス(350μm)を、206mMスクロース、2mM KCl、2mM MgSO、1.25mM NaHPO、1mM CaCl、1mM MgCl、26mM NaHCO、10mM D-グルコース、pH7.4を含む氷冷した酸素化スクロース増強人工脳脊髄液(oxygenated sucrose-enhanced artificial cerebrospinal fluid)(aCSF)中で切断した。解剖後、95%Oおよび5%COで飽和させた、以下のもの(単位はmM):124 NaCl、2 KCl、2 MgSO、1.25 NaHPO、2.5 CaCl、26 NaHCO、10 D-グルコース(pH7.4)を含むaCSF中でスライスをインキュベートし、記録前に少なくとも90分間回復を可能にした。記録は、aCSFに沈水させたチャンバー内で室温の同じ溶液中で実施した。海馬のCA1領域のフィールドEPSP(fEPSP)を記録するために、標準的手順を使用した。最大値の40~50%だったfEPSP振幅を誘発した刺激強度の低周波数(0.05Hz)で試験刺激を適用し、応答の安定性を確保するために実験を開始する前に試験応答を10分間記録した。安定した試験応答が得られたら、実験処理のために、0.5mLのAD脳TBS浸漬抽出物を、9.5mLのaCSF灌流液に添加し、ベースラインをさらに30分間記録した。抗Aβ抗体実験では、71A1抗体をAD脳抽出物のアリコートに添加し、混合しながら30分間インキュベートし、次いで混合物を脳スライス灌流緩衝液に添加した。LTPを誘導するために、100Hzの刺激を20秒間隔で2回連続(1秒間)してスライスに適用した。pClamp11によりトレースを得、Clampfit11を使用して分析した。データ分析は以下の通りである。初期fEPSP傾きを使用してfEPSP振幅を測定し、3つの連続する傾き(1分間)を平均し、前処置刺激の10分前に記録した平均値に対して正規化した。データは平均値±SEMとして表示されている。有意差は、事後テューキー検定による一元配置ANOVA検定を使用して決定した。
【0229】
電気泳動およびWB
MES-SDSランニング緩衝液(Invitrogen)を使用して試料を4-12%または12%Bis-Trisゲル(SurePAGE、Genscript)に負荷し、ニトロセルロース膜に転写し、標準的WBを使用して種々のタンパク質をプローブした。得られたブロットをECLで検出し、シグナルをフィルムで捕捉した。
【0230】
免疫沈降
800μLのヒト脳TBS浸漬抽出物またはCSF試料を、10μgの抗体と共に4℃で1時間インキュベートした。免疫沈降物(IP)をプロテインG磁気ビーズ(Bio-Rad)と共に4℃で一晩インキュベートし、次いでTBSで3回洗浄した。IP後溶液も分析のために保存した。次いで、免疫沈降タンパク質を、8M塩酸グアニジン(GnCL)(Thermo-Fisher)で溶出した。
【0231】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
脳TBS浸漬抽出物またはCSF(総容積350μL)を、Superdex200 increaseに注入し、TBS、pH7.4で高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)装置(AKTA;GE Healthcare)に流した。下流の実験のために500μLの画分を収集した。カラムを、1,350~670,000Daの範囲のゲル濾過標準物質(Bio-Rad)で較正した。
【0232】
71A1を使用した親和性精製
脳TBS浸漬抽出物(2mL)を、50ugのビオチン化71A1で予めコンジュゲートした高容量ストレプトアビジンアガロース樹脂(Pierce)と、室温(RT)で2時間旋回させながら混合した。ビーズを10カラム容量のSMCxPRO洗浄緩衝液でよく洗浄し、0.2Mグリシン(pH3)で溶出し、続いて1M Tris-HCl(pH8.5)で中和した。親和性精製した物質を、PD MidiTrap G-25を使用してPBS(pH7.4)で脱塩してから、海馬スライスに適用した。
【0233】
MSD ELISA
ヒト脳抽出物、CSF、免疫沈降試料、およびSEC画分を各々、洗浄緩衝液(0.05% Tweenで補完したTBS)中1%BSAで希釈した。本発明者らの自家製Meso Scale Discoveryアッセイ(MSD)電気化学発光プラットフォームでは、未コーティング96ウェルマルチアレイプレート(Meso Scale Discovery、#L15XA-3)の各ウェルを、捕捉抗体を含む30μLのPBS溶液でコーティングし(すべてのヒトAβ ELISAについて、3μg/mL 266、Aβの中間領域を認識するモノクローナル抗体[ソラネズマブのマウスアナログ])、室温で一晩インキュベートし、続いて洗浄緩衝液中5%BSAで1時間、室温にて>300rpmで振盪しながらブロッキングした。検出抗体溶液は、ビオチン化検出抗体、100ng/mLのストレプトアビジンスルホTAG(Meso Scale Discovery、#R32AD-5)、および洗浄緩衝液で希釈した1%BSAを用いて調製した。ブロッキングステップに続いて、50μL/ウェルの試料、続いて25μL/ウェルの検出抗体溶液を、>300rpmで振盪しながら室温で2時間インキュベートし、インキュベーション間に150μLの洗浄緩衝液でウェルを洗浄した。製造業者のプロトコールに従ってプレートを読み取り、分析した。特異的抗原の検出に使用した抗体は、hAβ(1-40特異的)の場合は139-5(ウサギ組換え体、Biolegend)であり、hAβ(1-42特異的)の場合はD3E10(ウサギ組換え体、Cell Signaling Technology)だった。
【0234】
SMCxPROイムノアッセイ
SMCxPROプラットフォーム(Sigma Millipore)は、単一分子計数技術に基づいており、典型的には、従来の検出系と比較して20~100倍の感度増加が可能である。Sigma Milliporeのキットを使用して、ビオチン化捕捉mAb(1C22、1G5、および71A1)をストレプトアビジン磁性粒子(MP)(Dynabeads MyOne、Thermo Fisher Scientific)に、MP1ミリグラム当たり12.5μgのビオチン化抗体の比率でコンジュゲートした。捕捉mAbが結合したMPを、1%Triton X-100、0.0005%(重量/容積)d-デス-チオ-ビオチン、および0.1%ウシ血清アルブミン)を有するAβ多量体アッセイ緩衝液(Tris緩衝液;50mM Tris、150mM NaCl、pH7.6)で50μg/mLに希釈した。50μLのこの懸濁物を150μLの試料、標準物質、またはブランクに添加し、25℃の振盪インキュベーターで600rpmにて2時間インキュベートした。磁石を使用してMPを単離し、HydroFlexプレート洗浄機(Tecan Group AG、メンネドルフ、スイス)を使用して1×SMC洗浄緩衝液で洗浄することにより、未結合物質を除去した。蛍光標識(Alexa-647色素)検出抗体3D6(20μL、200ng/mL)を各ウェルに添加した。次いで、抗体-多量体Aβサンドイッチを有するMPを、Jitterbug振盪機(Boekel、フェスタービル、ペンシルベニア州、米国)を使用して撹拌しながら25℃で1時間インキュベートした。洗浄緩衝液で4回洗浄することにより未結合検出試薬を除去した。洗浄緩衝液を吸引により除去し、溶出緩衝液B(11.5μL/ウェル)で10分間25℃にて振盪することにより蛍光標識3D6検出抗体を放出させた。次いで、11μLの溶出物を、中和緩衝液D(11μL/ウェル)を含む清浄96ウェルプレートのウェルに移した。次いで、中和した試料(20μL/ウェル)を、黒色384ウェル読取りプレート(Aurora)に移し、SMCxPRO機器で読み取った。蛍光標識抗体を642nmレーザーで励起させ、検査空間を通過させると、蛍光標識抗体は共焦点顕微鏡レンズおよび光子検出器を使用して測定される光を放射する。検出器からの出力はパルス列であり、各パルスは、検出された1つの光子を表す。信頼定量化の下限(LLoQ)は、バックグラウンドの2倍のシグナルを提供し、算出された回収パーセンテージが80%~100%であり、分散係数(CV)が≦20%である、最小逆補間標準物質であると規定した。
【0235】
免疫組織化学
新鮮なまたは解凍した(冷凍ストックから)ヒト脳ブロックを、Tissue-Tek(登録商標)O.C.T.に包埋した。化合物を-80℃で一晩凍結させた。クライオスタット(Leica)を使用して20~30μm厚に切片化する前に、凍結ブロックを2時間-20℃に変更して、切片化のために組織を柔らかくした。次いで凍結切片を、MAS-GP(商標)Adhesion顕微鏡スライド(Matsunami)に直接マウントし、染色まで4℃で保管した。3,30-ジアミノベンジジン(DAB)染色には、凍結切片を、0.3%Triton-X100(PBST)を含むPBSで30分間平衡化し、続いて内因性ペルオキシダーゼ活性および抗体非特異的結合をそれぞれ1時間ブロッキングした。一次抗体をPBSTで希釈し、切片とともに4℃で一晩インキュベートした。PBSTで3回洗浄した後、切片を、ビオチン化二次抗体と共に1時間インキュベートした。免疫反応産物を、1)増強試薬として硫酸ニッケルアンモニウムを含むDAB、または2)Vina Green chrome(Biocare Medical)と共にインキュベートすることにより視覚化した。染色切片を、Axioskop2(Zeiss)を使用して観察した。
【0236】
定量化および統計分析
統計分析はすべて、GraphPad Prism 9ソフトウェアを使用して実施した。実験の統計詳細は、本文および/または図凡例に記載されている。
【0237】
[実施例4.1]
71A1および1G5の免疫原設計およびモノクローナル抗体生成
モノクローナル抗体71A1(親クローン7A1aのサブクローン)および1G5は、単量体アミロイドβタンパク質(Aβ)の二量体化の際に形成される潜在的な三次元構造を模倣するように設計された合成立体構造ペプチド免疫原に対して生じたものだった。Aβ1-40のアミノ酸残基9~18を含むペプチド免疫原を合成し、環化して、安定二量体様形成物へのフォールディングを可能にするように合成後修飾した(特許出願中)。Aβペプチドの残基9~18を選択した背後にある理論的根拠は、この領域のアミノ酸が、Aβの凝集形態にのみ存在する固有の三次元構造へと再会合する可能性が高いと考えられるということだった。
【0238】
Balb/cマウスを、脾臓摘出術の前に、一次および二次免疫にはマレイミド活性化キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)担体複合体を使用し、その後の追加免疫には独占所有のヘルパー2T細胞エピトープを使用して、この環化立体構造ペプチドで免疫した。免疫化マウス脾細胞および融合パートナーとしてのマウス骨髄腫F0細胞を使用して融合を実施した。免疫原による一次スクリーニングおよびサブクローニングの後、特に2つのモノクローナル抗体候補(71A1および1G5)は、環化ペプチドに対して高い特異性を示したが、直線状ペプチドに対しては特異性を示さなかった。こうした抗体の初期特徴付けは、Aβの合成および内因性多量体形態に対して高い特異性を有し、単量体Aβには結合しないことを示していた[44]。
【0239】
[実施例4.2]
71A1および1G5は、ヒト脳のAβを生化学的および組織学的に認識する
本発明者らは、こうした2つの新規抗体1G5および71A1を、ヒトAβの天然源に対して試験した。まず、本発明者らは、「浸漬抽出」と呼ばれる最近開発された方法[11]を使用して、Tris緩衝食塩水(TBS)中でわずか30分間インキュベートした神経病理学的に典型的なAD皮質の細かく刻んだ脳小片からホモジナイズせずに高拡散性Aβ種を得た。こうした拡散性水性抽出物は、AD皮質試料のシナプス毒性活性のほとんどを保持することが示されている。浸漬後の脳小片をその後ホモジナイズすることにより、より多くのAβが得られるが、これにはシナプス毒性活性はほとんどない[11]。浸漬手順を図3Aに図示する。本発明者らは、陽性対照抗体4G8(主として抗単量体)および1C22(抗多量体)ならびに陰性対照正常マウスIgGと共に、1G5および71A1を使用して、AD脳浸漬抽出物からの免疫親和性プルダウンを実施した。1G5および71A1は両方とも、異なるAβエピトープに対して生じた2つのウサギモノクローナル組換え抗体(mAb)でプローブしたイムノブロットから判断して、AD脳浸漬抽出物からプルダウンしたAβは、4G8および1C22と比較して非常により少なかったが、AβをプルダウンしなかったマウスIgGよりも一貫して多くをプルダウンした(図3B)。変性SDS-PAGEでは、可溶性oAβが単量体へとおよびある程度共有結合で結合した二量体へと解体されるため[49]、本発明者らは、約6~7kDa付近およびそれを下回る箇所にイムノブロットシグナルを観察した(図3B、下段パネル(長時間曝露))。次いで、この知見を確認するために、本発明者らは、本発明者らの高度に特異的な自家製Aβx-40およびx-42単量体イムノアッセイを使用して[50、51]、1G5、71A1、1C22(陽性対照)、およびマウスIgG(陰性対照)により3つの個々のAD脳からプルダウンされたAβ含有量を定量化した。図3C(プロテインGビーズでプルダウンしたAβを、次いで塩酸グアニジン(GnCl)で変性させた)および図3D(IP後上清に残ったAβを、次いでGnClで変性させた)に示されているように、1G5および71A1は両方とも、常に陰性対照マウスIgGよりも多いが、1C22よりは非常により少ない、少量だが一貫した量のAβをAD脳浸漬抽出物からプルダウンした。この結果は免疫ブロットデータと一致した(図3B)。また、4つの抗体によるプルダウンおよび免疫枯渇が一貫していることを示すために、本発明者らは、4つの抗体によるIPでおよびIP後に得られた、3つのAD脳からのAβ質量(単位はng、ADDL標準物質に対して測定)を計算した。
【0240】
このようにして1G5および71A1が高度に可溶性のヒト脳抽出物に由来するAβに結合することができることを確立した後、本発明者らは、免疫組織化学を使用して、1G5および71A1がヒト脳内のAβ斑を標識することができるか否かを調べた。本発明者らは、免疫組織化学での使用についてまず1C22を試験した際、1C22は、典型的なPFA固定AD脳切片を染色することはできなかったが、未固定の凍結切片を容易に染色することができたことを見出した(図4A)。さらに、後者の切片を4%PFAで20分間処理すると、1C22免疫反応性のほとんどが減少した(図4A)。この現象は、立体構造エピトープを認識する抗体によく見られるものである。1G5および71A1について、本発明者らは、1)両抗体が、未固定凍結切片中の細胞外アミロイド斑(つまり、堆積したAβ)を同様のパターンで標識し、2)20分間の4%PFA処理により、標識が実質的に減少したことを見出した(図4A)。
【0241】
こうした抗体が実質部Aβを標識したことをさらに確立するために、本発明者らは二重免疫染色を使用した。凍結切片をD54D2で連続的に標識し(Aβ N末端領域に対して。DABにより視覚化された総Aβを表す)、次いで1C22または71A1(Vina Greenにより視覚化)のいずれかで標識した。図4Bでは、左側パネルは、D54D2のみがアミロイド斑を標識したことを示し、中央パネルは、総Aβ(DAB)についてのD54D2および1C22または71A1(vina Green)により二重標識されたアミロイド斑を示し、右側パネルは二重標識斑を高倍率で示す。こうした知見は、71A1および1G5が、Aβ脳堆積をin situで認識することを裏付けている。また、本発明者らは、Aβに対する特異性を示すために、1C22、1G5、および71A1を、斑のない対照脳で試験した。3つの抗体はすべていかなるシグナルも検出することができなかった(データは示さず)。
【0242】
1G5および71A1の免疫反応性は、以前に示されている多量体優先性1C22[52、53]と類似していたため、本発明者らは、次に、2つの新しい抗体が、可溶性AD脳抽出物のAβ誘導性シナプス毒性に対する防御を示すことができるか否かを調べた。本発明者らは、野生型(wt)マウス脳海馬スライスの電気生理学を使用して[54]、スライス灌流液に2.12μg/mLで添加した71A1は、AD浸漬抽出物による海馬LTPの阻害を完全に防止するが、それ自体はLTPに対して効果を示さないことを見出した(図4C)。具体的には、人工脳脊髄液(aCSF)ビヒクル単独でのfEPSP傾きは、152.6±5.3%(N=6);aCSF+AD抽出物では:115.7±4.9%(N=5);aCSF+71A1単独では:149±8.3%(N=4);および71A1と事前混合したaCSF+AD抽出物では:154.9±9.8%(N=4)だった。この効果は、本発明者らが以前に報告したmAb 3D6および82E1のoAβ中和利益とよく似ていた[13]。さらに、本発明者らは、71A1を使用して、同じAD脳浸漬抽出物からoAβを親和性精製し、精製されたoAβのシナプス毒性をwtマウス脳海馬スライスに対して試験した。親和性精製されたoAβも、海馬LTPを有意に抑制した(図4D)。1)AD脳抽出物単独と71A1と事前混合したAD脳抽出物との間の差異の統計分析は、71A1が抽出物により引き起こされるLTP欠損を有意にレスキューしたことを裏付け(図4E)、および2)71A1で精製したoAβとaCSF対照との間の差異の統計分析は、71A1で精製したoAβが、入力浸漬抽出物と同様に、LTPを有意に阻害したことを示した(図4F)。まとめると、こうしたデータは、71A1反応性Aβ種が、プロテインGによる免疫沈降により示されるようにAD脳におけるoAβが少数集団であるにも関わらず(図3B~3D)、71A1により中和することができるシナプス毒性を付与することを示している。
【0243】
[実施例4.3]
71A1および1G5は、1C22の逆で、脳よりもCSFにおいて優先的にAβ種に結合する
次に、本発明者らは、1G5および71A1が、別の天然源であるヒトCSFからAβをどの程度認識することができるかを調べた。脳浸漬抽出物からの親和性プルダウンで使用したものと同様の実験セットアップを用いて(図3C、3D)、本発明者らは、1G5、71A1、1C22、およびマウス正常IgG(対照)を使用して、ブリガムアンドウィメンズ病院の記憶障害クリニックで収集されたAD患者に由来する3つの個々のCSF試料からのプルダウンを行った。1G5および71A1は各々、GnCL変性後のAβx-40およびx-42単量体イムノアッセイにより測定して、驚くほど多量のAβを免疫沈降させ(図5A、上段パネル)、それに対応してIP後上清ではAβの量は減少した(図5A、下段パネル)。さらに、上記で研究した可溶性AD脳抽出物とは対照的に、1G5および71A1は両方とも、1C22よりも高い相対量のAβx-42をCSFからプルダウンした。これは、ヒト脳とCSFとの間には天然Aβ集団に差異がある可能性があることを示唆する。また、本発明者らは、3つのCSF試料すべてにおいて、71A1が1G5よりも高いAβプルダウン効率を示したことを見出した(図5A)。したがって、本発明者らは、71A1を使用して、同じBWHクリニックからの19個の異なるCSFに対してIP-ELISAを実施することにした(患者人口統計および診断については表1を参照)。71A1は、CSF試料のすべてからAβを免疫沈降した(図5B)。次に、本発明者らは、このIP-ELISAデータが、本発明者らのクリニックにより同じCSFから得られた市販のADmark Aβ1-42レベルと相関するか否かを調べた。本発明者らの71A1免疫沈降物(IP)からのAβx-42シグナル(GnCl変性後)は、本発明者らの19個のCSF全体にわたってADmark CSF Aβ1-42レベルと有意に相関し(R=0.43、p=0.0046)(図5C)、本発明者らの71A1親和性精製の特異性および信頼性が裏付けられた。ここで、本発明者らは、図5Aの3つのCSFからの、4つの抗体によるIPおよびIP後のAβ質量(ng)も計算した。本発明者らは、脳浸漬抽出物の場合とは異なり、4つの異なる抗体のIP+IP後が、3つの個々のCSF試料にわたって同じ傾向を共有していたものの、完全には一致しなかったことを見出した。この知見は、本発明者らが、IP-ELISAをさらに使用して、oAβを生物流体試料から正確に定量化することを妨げた。
【0244】
上記の結果は、数多くの脳、CSF、および潜在的には血漿試料中の71A1反応性Aβ種の相対レベルを定量化するためのこうしたAβ IP-ELISA手法の技術的限界を浮き彫りにしている。したがって、本発明者らは、生物流体中の見かけのAβ多量体をより正確に定量化するためのサンドイッチイムノアッセイの開発を進めた。この状況において、本発明者らは、ヒトCSF中の1C22反応性Aβ多量体を以前に定量化したが、1C22は、高感度Erennaイムノアッセイ系(Millipore)を用いた場合でも、少量のCSF Aβ多量体をプルダウンしたため(図5A)、すべての試料から十分なレベルを得るために希釈せずに(ニートで)CSFを使用することを余儀なくされた(図5A)。本発明者らは、脳抽出物よりもCSF中のAβ多量体に対して高い結合能力を有する(1C22とはまったく対照的に)71A1の固有の特性(上記)を活用して、CSFおよび最終的には血漿などの生物流体中のoAβレベルをより良好に定量化するための、71A1を捕捉体として使用するサンドイッチイムノアッセイを設計した。
【0245】
[実施例4.4]
71A1/3D6アッセイは、Aβ多量体を高感度で特異的に定量化する
本発明者らは、ヒトCSFおよび血漿中で検出を行うための、1G5および71A1反応性Aβ種の定量化高感度イムノアッセイを開発した。Erenna(Millipore)プラットフォームで確立した本発明者らの1C22/3D6 oAβサンドイッチELISAと同様に[30、31]、本発明者らは、磁気ストレプトアビジンコーティングビーズにコンジュゲートされた捕捉抗体としてのビオチン化1G5または71A1、および検出器抗体としての3D6(Alexa-647色素で標識)を、ビーズベースのイムノアッセイプラットフォームSMCxPRO(Millipore社製のErennaのアップグレードバージョン)で使用した(図6A)。図6B~6Dに示されているように、本発明者らが合成ADDLの従来の較正物質を使用した場合[1]、71A1/3D6アッセイおよび1G5/3D6アッセイは両方とも、1)本発明者らが以前に開発した1C22/3D6多量体アッセイ[30]と同じ0.6pg/mLのLLoQ;2)80~120%であると計算された回収率;3)CSFおよび血漿で使用される適切な希釈率で検出可能な分析物濃度の範囲全体を容易にカバーする(下記を参照)0.6~80pg/mLのADDL濃度範囲にわたって20%を大幅に下回るアッセイ内CVを示した。プルダウン有効性および一貫性の観点で71A1が1G5を凌駕した本発明者らのIP-ELISAアッセイで観察されているように(図5A)、本発明者らは、ヒト生物流体に見出される多量体Aβに対する71A1/3D6アッセイの特異性を検証することに焦点を当てた。
【0246】
71A1が単量体AβよりもoAβを優先的に認識するか否かを評価するために、本発明者らは、ジスルフィド結合を介して共有結合で連結された合成S26C Aβ40二量体[45]を使用した。この二量体は、DTTなどの還元剤により単量体形態へと戻すことができる。本発明者らは、このAβ40二量体に対する新しい71A1/3D6アッセイおよび以前の1C22/3D6アッセイを比較する前に、まず、2つのアッセイが、ADDLに対して同じ感度を有することを示した(図6E)。1C22/3D6 oAβアッセイおよび71A1/3D6アッセイは両方とも、還元単量体対応物よりも非還元S26C Aβ40二量体(図6FのSDS-PAGEにより確認)に対して強力で有意な結合優先性を示した(図6G~6H)。この結果は、1C22抗体および71A1抗体は両方とも、高次構造を有するAβに優先的に結合する一方で、単量体Aβとの結合は100分の1よりも少ないことを示唆している。さらに、71A1/3D6アッセイは、1C22/3D6アッセイよりもS26C Aβ40二量体に対して非常により高い感度を示した。71A1/3D6アッセイでは8pg/mLのS26C Aβ40二量体が、1C22/3D6アッセイでの1.5ng/mLのS26C Aβ40二量体と同様のシグナルを示した(図6G対6H;横軸の単位が違うことに留意されたい)。これは、AD脳由来oAβ対CSF中のoAβに対するそれぞれの結合優先性の点で、71A1と1C22との間で観察された違いを説明するのに役立つ可能性がある(図3Cおよび5Aを比較)。
【0247】
合成多量体Aβ対単量体Aβに対する71A1/3D6アッセイの感度および特異性を評価した上で、本発明者らは、71A1/3D6アッセイが、ヒト脳浸漬抽出物などの天然源からoAβを容易におよび正確に測定することができるか否かの試験に進んだ。本発明者らは、ヒト脳浸漬抽出物(組織:浸漬緩衝液=1:5重量/容積)を、1000倍、2000倍、4000倍、および20,000倍に系列希釈し、希釈した試料を71A1/3D6アッセイで測定した(図6I)。本発明者らは、希釈した脳浸漬抽出物試料からのシグナルが、完全に希釈可能であり、20,000倍での平均回収%は93.3%であることを見出した(図6I、下段パネル)。71A1/3D6アッセイのこの希釈直線性試験は、幅広い濃度範囲にわたって天然の生物学的物質からoAβを測定する能力を示した。
【0248】
[実施例4.5]
71A1/3D6アッセイは、脳内の高分子量Aβ多量体を認識する
次に、本発明者らは、どの種類の天然oAβ種が71A1/3D6イムノアッセイにより検出されるのかを調査した。本発明者らは、非変性サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して、分子量(MW)標準物質で較正されたSuperdex 200 Increase高分解能カラムでヒトAD脳浸漬抽出物を分画した(図7A)。本発明者らは、カラムの空隙容量から開始して30個のSEC画分に対して71A1/3D6アッセイを実施した(図7BにおけるUV280クロマトグラムの画分)。71A1/3D6シグナル(pg/mL単位のADDL較正物質で測定)は、空隙容量範囲内の画分番号3~6でピークに達した。これは、推定分析物サイズが少なくとも670kDaであることを示す(図7C)。画分番号3~6のこの71A1/3D6シグナルが実際にAβを表していることを確認するために、本発明者らは、8M GnClを使用して30個の画分を変性させ、次いで十分に確立された単量体Aβ42イムノアッセイ(捕捉:m266、検出器:D3E10、MSDプラットフォーム)[11、50]でそれらを測定した。本発明者らは、GnCl放出単量体Aβ種が、71A1/3D6アッセイと同じ画分番号3~6でピークに達したことを見出した(図7C図7D[GnCl(+)=明灰色バー、各対のバーの右側]と比較されたい)。本発明者らは、同じAβ単量体アッセイにより、天然で単量体である種(図7D:GnCl(-)=濃灰色バー、各対の左側)が、主に画分番号19~26に溶出することを見出した。まとめると、こうしたデータは、AD脳浸漬抽出物の画分番号3~6で観察された豊富な71A1/3D6シグナルが、GnClによりAβ単量体へと変性させることができる高次高MW可溶性Aβ多量体を表しており、このアッセイでは、1C22/3D6 oAβアッセイで以前に検出されたパターンと同様に[30、53]、単量体の検出が非常に不良であることを示唆している。
【0249】
[実施例4.5]
71A1/3D6アッセイは、ヒトCSF中の低分子量Aβ多量体を定量化する
71A1/3D6アッセイをヒトCSFに対して検証するために、本発明者らは、脳浸漬抽出物で使用したステップと同様の希釈直線性試験を実施した(図8A)。本発明者らは、1:2および1:4希釈では98.94%の平均回収率を観察し、その範囲では測定は正確で安定していたが、1:8希釈(図8A)では希釈回収率が最適未満だった。その理由は不明である。本発明者らは、71A1/3D6アッセイを使用して、記憶障害クリニック(ブリガムアンドウィメンズ病院)で集められた、様々な神経学的診断を受けた36人の対象のコホート(表1:患者人口統計および診断情報)に由来するCSFを測定することに進んだ。36個の試料すべてが、71A1/3D6アッセイにより定量化され、平均レベルは5.47ng/mLであり、範囲は1.75~20.38ng/mLだった(図8B~8D)。本発明者らは、こうしたCSF 71A1/3D6レベルが、広く使用されている市販のADmark臨床アッセイ(Athena Diagnostics)により測定した、CSF中のAD病理の他のバイオマーカーと相関するか否かを調べた。ADmarkデータは、36試料中29試料で利用可能であったため、こうした29試料に対して相関性を実施した。こうしたCSFでは71A1/3D6 oAβシグナルとADmark Aβ1-42単量体レベルとの間に統計的に有意な相関性はなかったが(図8B)、71A1/3D6シグナルとADmark総タウ(R=0.41、p=0.0002)およびホスホ-タウ(phosho-tau)(pT181)(R=0.42、p=0.0001;ピアソン相関係数)との間には強力に有意な相関性があった(図8C~8D)。脳浸漬抽出物SEC画分の本発明者らの分析と同様に(図7A~7D)、本発明者らは、カラムの空隙容量から開始してヒトCSFの30個のSEC画分に対して71A1/3D6アッセイを実施した(UV280クロマトグラムは図8Eに示されている)。71A1/3D6シグナル(pg/mL単位のADDL較正物質で測定)は、2つのピークを示した:より小さなピークは番号3~6、より大きなピークは番号24~28だった(図8F)。これは、脳浸漬抽出物(図7C)とは異なる分布だった。こうしたデータをまとめると、71A1/3D6アッセイは、脳浸漬抽出物に見出される高分子量多量体に加えて、ヒトCSFに見出される低分子量Aβ多量体を定量化することができることが示される。
【0250】
[実施例4.6]
71A1/3D6アッセイはヒト血漿中のAβ多量体を定量化する
CSFは、その採取が多くの人々にとっては侵襲的すぎると考えられており、扱いが比較的複雑であり高価であるため、バイオマーカー開発にとってまったく魅力的ではない。さらに、連続的な腰椎穿刺測定が行われることは非常にまれである。対照的に、採血は日常的に実施され、侵襲性が最小限であり、安価である。したがって、本発明者らは、イムノアッセイによる正確な定量化に技術的課題をもたらす非常に複雑なマトリックスである血漿における、71A1/3D6アッセイの正確性を確立しようとした。本発明者らは、1)血漿希釈および回収、2)分析物スパイク回収、および3)免疫枯渇により、血漿中のマトリックス干渉の度合いを試験した。4倍希釈と比べて、71A1/3D6アッセイは、6つの個々の血漿(メイヨークリニックアルツハイマー病研究センターから)の各々の最大16倍希釈でほぼ100%の希釈回収率(平均96.6%)を示した(図9A)。また、本発明者らは、このアッセイでは、ニート血漿(希釈なし)を使用した場合にのみ、血漿のマトリックス効果を観察した(図9F~9G)。したがって、本発明者らは、以下の実験では1:8希釈を使用することを選択した。本発明者らは、AD対象に由来する天然oAβの3つの異なる供給源である、脳ホモジネート、脳浸漬抽出物、およびCSFを使用して、8倍希釈血漿試料に対して分析物スパイク回収実験を実施した。それにより、それぞれ97.5%、92.9%、および99.7%の優れた平均回収率値が得られた(図9B)。次いで、本発明者らは、ビオチン化抗体およびストレプトアビジンコーティングプレートを使用して、8倍希釈した個々の血漿に対して免疫除去実験を試みた。71A1は、71A1/3D6シグナルの平均で61.5%を免疫枯渇させたが、1C22は、71A1/3D6シグナルの15.6%を免疫枯渇させたに過ぎなかった(図9C)。これは、71A1/3D6アッセイが血漿中のoAβ検出に対して特異的であることを示している。さらに、本発明者らは、脳ホモジネート、CSF、および血漿中のAβ多量体対単量体に対する71A1/3D6アッセイの特異性を調査した。本発明者らは、8MのGnClによる多量体変性処理を施したかまたは施さなかったこうした試料を測定し、GnClが、脳ホモジネートからの71A1/3D6シグナルを>70%、血漿からの71A1/3D6シグナルを>84%減少させ、CSFからのシグナルを消失させた(>99%)ことを見出した(図9D)。イムノアッセイに対するGnClの否定的な効果を排除するために、アッセイ前にすべての試料を大幅に希釈した(GnClの最終濃度は<0.25M)。
【0251】
要約すると、AD対象に由来する3つの異なる天然oAβ源を用いた血漿希釈回収実験およびスパイク回収実験のデータはすべて、血漿71A1/3D6アッセイにおいて有意なマトリックス干渉を示さなかった。さらに、免疫枯渇実験は、個々のヒト血漿中のその標的に結合する71A1の能力を浮き彫りにする。したがって、本発明者らは、認知的に正常な73人のコホート(メイヨークリニックアルツハイマー病研究センター)の8倍希釈血漿試料に対して71A1/3D6イムノアッセイを実施した。合成oAβ(ADDL)標準曲線に基づく平均希釈調整濃度は、43.34±29.09pg/mLだった(図9E、左側)。こうした四重重複血漿試料のCVは、5人の対象を除いて≦20%であり(図9E、右側)、血漿アッセイの一貫性が示された。
【0252】
[実施例5]
多量体指向性Aβ抗体は、脳内のシナプス毒性多量体Aβを減少させ、ヒト化APPノックインマウスの行動異常を改善する
アミロイドベータタンパク質の可溶性多量体(oAβ)がアルツハイマー病(AD)の病原性カスケードの開始を支援するという強力な証拠が存在し、単量体または原線維状AβではなくoAβを標的とする療法戦略が示唆される。新しい抗体71A1は、合成単量体よりもoAβに対して約100倍感受性である。71A1がAD可溶性脳抽出物から特異的に免疫沈降させる物質は、完全抽出物と同様にシナプス機能を損なう。それと一致して、脳抽出物を71A1と共にプレインキュベートすることにより、そのシナプス毒性が中和される。71A1は、疾患関連oAβに対して潜在的に固有の活性を有しており、そのためAD治療の新規候補となる。
【0253】
方法
15mg/kgの71A1または抗KLH(陰性対照)を、45匹のヒト化APPノックインマウス(APP NLGF/NLGF)に、8週齢から20週齢まで毎週i.p.投与した。自発的交替行動(spontaneous alternation)(Y字迷路)により認知を評価した。生化学的、電気生理学的、および免疫組織化学的分析のために、21週齢で脳を採取した。自家製の超高感度アッセイを使用して単量体Aβおよび多量体Aβを測定するために、脳の拡散性(「浸漬」)抽出物を調製した。同じ浸漬抽出物のアリコートを使用して野生型マウス海馬スライスを処理し、長期増強(LTP)を測定して、処理後のAPPNLGF/NLGF脳におけるシナプス毒性を評価した。
【0254】
結果
6月齢のAPPNLGF/NLGFの脳に由来するoAβは、野生型マウスのLTPを損なったが、これは71A1での処置によりレスキューされる(図10A~10Cを参照)。図11Aに示されているように、71A1処置は、対照抗体処置と比較して、雄マウスのY迷路成績を有意に向上させたが、雌マウスでは向上させなかった。その時点で、71A1処置は、雄マウスの脳におけるoAβ量を減少させた(統計的有意性のない傾向、図11B)。加えて、71A1処置は、APP NLGF雄マウス脳のシナプス毒性を低減させ、それは、野生型マウス海馬のLTPを阻害しなかったことにより反映される(図12A~12Bを参照)。
【0255】
こうした結果は、71A1が、ADの療法候補としての多量体優先性モノクローナル抗体であり、脳oAβおよびoAβ誘導性シナプス毒性を減少させることを示している。これは、oAβ優先性であると注意深く特徴付けられた抗体を使用した最初の概念実証マウス試験を提供するものであると本発明者らは考える。本発明者らは、1)oAβ濃度とそのシナプス毒性との間の相関性があったこと、および2)71A1は、oAβを標的とすることによりAPPNLGF/NLGFマウスの認知障害の側面を改善したことを観察した。
【0256】
[実施例6]
71A1可変領域に結合するペプチド模倣体の特定
New England Biolabs(NEB)Ph.D.-12(商標)ファージディスプレイペプチドライブラリーキット(説明書添付)を使用して、固定化されたMab 71A1に結合したアミノ酸残基ペプチドリガンド(本明細書ではペプチド模倣体と呼ぶ)を単離した。New England Biolabs Ph.D.-12(商標)ファージディスプレイペプチドライブラリーキットは、M13バクテリオファージのマイナーコートタンパク質(pIII)に融合されたランダムな12個アミノ酸のペプチド(12量体)のコンビナトリアルライブラリーである。このペプチドを、バクテリオファージの表面上に融合タンパク質の提示をもたらすコートタンパク質との融合物として発現させた。ライブラリーは2.7×109個のエレクトロポレーション配列からなり、10μlの供給ファージ中に各配列のおよそ55コピーが得られるように1回増幅した。
【0257】
固定化された71A1抗体を使用して、可変領域に結合した、図13に示されている12個アミノ酸のペプチドを単離した。Thermo Scientific(商標)AminoLink Plusカップリング樹脂を使用して、Mab 71A1を固定化した。陰性対照粒子は、無関連ペプチド配列に対して特異性を有するモノクローナル抗体3C7を使用して製作した。NEBライブラリーでパニングした71A1粒子の産生に使用したThermo Scientific(商標)AminoLink Plusカップリング樹脂プロトコールは提供されている。簡単に説明すると、2mLのaminolink粒子スラリーを、15mLコニカルチューブで2000×gで10分間遠心分離することにより、10mLの0.1M重炭酸ナトリウム緩衝液pH10で2回洗浄した。次いで、この結合緩衝液中の10mgの71A1抗体を、2mLのeppendorphチューブに移した粒子に添加し、室温で2時間回転させた。次いで、スラリーをMillipore Ultrafree-MC遠心分離フィルターユニットに添加し、樹脂を、2mLの0.1Mリン酸ナトリウム、0.15MのNaCl、pH7.2の結合緩衝液で3回洗浄した。次いで、遠心分離した粒子を、2mLのpH7.2緩衝液および40μlの50mMシアノ水素化ホウ素ナトリウム溶液と混合し、4時間回転させた。aminoLinkゲルは、抗体の第一級アミンと自発的に反応するアルデヒド官能基を含む。次いで、形成されたシッフ塩基結合を、穏やかな還元剤であるシアノ水素化ホウ素ナトリウムの存在下で安定第二級アミン結合へと還元する。次いで、粒子を2mLの1M Tris HCL、pH7.4で2回洗浄し、2mLのこの同じ緩衝液および40μlのシアノ水素化ホウ素ナトリウムに再懸濁して、粒子上の未結合部位をブロッキングし、30分間回転させた。1M塩化ナトリウムで5回洗浄した粒子を、1mLのPBSに懸濁した。
【0258】
まず、ライブラリー(10μl)を、アイソタイプ一致で可変領域無関連の固定化された3C7抗体粒子(200μlをMilipore Ultrafree-MC遠心分離フィルターユニットに添加)と混合して、非特異的に結合したバクテリオファージを除去した。2000×gの回転数で遠心分離することによりこうした対照粒子からライブラリーを除去し、次いで、新しいMilipore Ultrafree-MC遠心分離フィルターユニット中で、固定化された71A1抗体(200μl)と混合し、その後未結合ファージを2000×gで遠心分離することにより洗い流した。その後、粒子を1mLのPBSで洗浄し、この手順を数回繰り返した。特異的に結合したファージを、100μlの0.1Mグリシン-HCl、pH2.0を使用して、固定化された抗体から溶出させた。バクテリオファージを、キットに付属し、ここに含まれているプロトコールに記載のように、液体培養大腸菌(E coli)細菌の感染および増殖により増幅した。次いで、単離および増幅したバクテリオファージを、PEG/NaCl(20%(重量/容積)ポリエチレングリコール-8000、2.5M NaCl)沈殿を使用して細菌上清から単離した。単離されたファージを増幅し、追加の結合/増幅サイクルにより、抗体可変領域に対する結合配列について、ファージのプールを濃縮した。3~4ラウンド後、個々のクローンを、DNA配列決定(AIBioTech-American International Biotechnology Services、リッチモンド、バージニア州)および単離されたDNA配列から作成したその後のアミノ酸予測(図13)により特徴付けた。
【0259】
精製されたモノクローナル抗体71A1を用いた標準的な間接酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を使用して、0.1M重炭酸ナトリウム緩衝液pH10中10μg/mLでマレイミド活性化マイクロタイタープレートにコンジュゲートさせ、PBSおよび2%BSAでブロッキングしたペプチド模倣体1~13(図13の配列)に対する結合をアッセイした。1時間のインキュベーション後、ウェルを洗浄し、次いで西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRPO)コンジュゲートヤギ抗マウス二次抗体100ulを添加し、プレートをさらに1時間インキュベートしてから、TMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)基質を添加した。分光光度計で650nmの吸光度を測定した。図14A~14Bに示されている結果は、ファージディスプレイにより単離されたペプチド模倣体のすべてではないがほとんどが、モノクローナル抗体71A1に結合することを示している。このアッセイでは、ペプチド1、3、5、7、8、11、および13が最も多くの結合を示し、ペプチド5、8、および7が最も良好だった。
参考文献
【0260】
【表3-1】
【0261】
【表3-2】
【0262】
【表3-3】
【0263】
【表3-4】
【0264】
【表3-5】
【0265】
【表3-6】
【0266】
【表3-7】
【0267】
【表3-8】
【0268】
【表3-9】
【0269】
【表3-10】
【0270】
【表3-11】
【0271】
【表3-12】
【0272】
【表3-13】
【0273】
【表3-14】
【0274】
【表3-15】
【0275】
他の実施形態
本発明をその詳細な説明と併せて記載したが、上述の記載は例示を目的とするものであり、添付の特許請求の範囲により規定される本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。他の態様、利点、および改変は、以下の特許請求の範囲内に含まれる。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
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図5-3】
図5-4】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図6-5】
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図8-4】
図8-5】
図9-1】
図9-2】
図9-3】
図9-4】
図9-5】
図9-6】
図9-7】
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図12-1】
図12-2】
図13
図14-1】
図14-2】
【配列表】
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【国際調査報告】