(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-19
(54)【発明の名称】pH誘起相分離による食用架橋多孔質中空繊維及び膜の製造方法並びにその使用
(51)【国際特許分類】
C12M 1/12 20060101AFI20240911BHJP
C12N 5/00 20060101ALN20240911BHJP
A23J 3/00 20060101ALN20240911BHJP
【FI】
C12M1/12
C12N5/00
A23J3/00 501
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024509383
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 EP2022073261
(87)【国際公開番号】W WO2023021213
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597035528
【氏名又は名称】メルク パテント ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディッカー,ケビン・ティー
(72)【発明者】
【氏名】シルビア,ライアン
(72)【発明者】
【氏名】シュニッツラー,アレッタ
(72)【発明者】
【氏名】パテル,ジェイビン
(72)【発明者】
【氏名】セラ,ルカ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB01
4B029CC02
4B029DG10
4B065AA90X
4B065AA91X
4B065BC42
(57)【要約】
クリーンミート製品の製造に適した食用架橋多孔質中空繊維及びシート膜の製造方法、それから作製された中空繊維及びシート膜並びにその使用方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を製造する方法であって、
a)i)1つ以上の食用タンパク質、ii)1つ以上の溶媒、iii)形成浴を用意する工程であって;前記1つ以上の溶媒又は前記形成浴が、1つ以上の多価カチオン若しくはアニオン又は緩衝液も含む、工程と;
b)前記1つ以上の溶媒中で前記1つ以上の食用タンパク質を共混合して、混合物を形成する工程と;
c)前記混合物を前記形成浴中に押し出して、押出中空繊維を形成するか、又は前記混合物を前記形成浴中にキャストして、シート膜を形成する工程と;
d)前記押出中空繊維又はシート膜を、前記1つ以上のタンパク質を少なくとも部分的に架橋するのに十分な熱及び照射のうちの1つ以上から選択されるエネルギー源に曝露して、食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を形成する工程と;
を含む方法。
【請求項2】
1つ以上の食用多糖類をさらに用意し、工程b)において、前記1つ以上の多糖類を前記1つ以上の溶媒中で前記1つ以上の食用タンパク質と共混合する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
可塑剤をさらに用意し、工程b)において、前記可塑剤を前記1つ以上の溶媒中で前記1つ以上の食用タンパク質と共混合する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上のタンパク質が、エンドウ、大豆、小麦、カボチャ、米、玄米、ヒマワリ、キャノーラ、ヒヨコマメ、レンズマメ、リョクトウ、シロインゲンマメ、トウモロコシ、エンバク、ジャガイモ、キヌア、ソルガム及びピーナッツからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上の多糖類が、寒天、キトサン、キチン、アルギネート、アルギン酸ナトリウム、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、タピオカ、グアーガム及びビーンガムからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の溶媒が、水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、エタノール、グリセリン及びプロピレングリコールからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記形成浴が、1)水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸のうちの1つ以上、又は2)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうちの1つ以上と組み合わせて、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄及びカリウムのうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記イオンが、Ca2+、Mg2+、Fe3+、Zn2+、トリポリホスフェート及びクエン酸三ナトリウムからなる群から選択され、前記選択されたイオンが、前記1つ以上の多糖類の部分的架橋を少なくとも可能にすることができる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
工程d)における前記熱が約70℃~約140℃であり、約0PSI~約20PSIゲージの圧力下、約50%~約100%の相対湿度で、約2~約60分間加えられるか、又は前記中空繊維若しくはシート膜が、大気条件で約60℃~約100℃の水浴に浸される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程b)の前記混合物が加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程b)の共混合が約0℃~約90℃で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記混合物がpH約10~約13であり、前記配合浴がpH約3~約5である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
形成後、前記膜がpH約6.8~約7.8に中和される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
形成後、前記膜がpH約7.3~約7.5に中和される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記照射が、電子ビーム、UV光及びガンマ線照射からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記照射が工程中又は工程後に適用される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記照射が、約1~約100kGy又は約10~約50kGyである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記空隙率が約1%~約90%である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記空隙率が約50%~約80%である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜をコーティングでコーティングして、細胞接着を増強する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記コーティングが、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン又はこれらのタンパク質から単離された短鎖ペプチド配列のうちの1つ以上から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記短鎖ペプチド配列が、RGD、YIGSR、IKVAV、DGEA、PHRSN及びPRARIからなる群のうちの1つ以上から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記食用架橋多孔質中空繊維の外表面を修飾して、細胞接着を増強する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を可塑剤でコーティングする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記表面修飾が、プラズマ、コロナ、摩耗、エッチング、アブレーション、又はスパッタコーティングのうちの1つ以上から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記タンパク質が、溶媒に溶解する前に粉末化又は微粉砕される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記タンパク質が、少なくとも70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.9%純粋である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記多糖類が、少なくとも70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.9%純粋である、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記混合物中のタンパク質対多糖類の比が、およそ10:1~およそ1:10又はおよそ1:99~およそ99:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記混合物中のタンパク質対多糖類の比が、およそ4:1~およそ1:4である、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記混合物中のタンパク質対多糖類の比が、およそ1:1又はおよそ7:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記形成浴が、i)水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸のうちの1つ以上、又はii)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうちの1つ以上と組み合わせて、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄及びカリウムのうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
請求項1~32に記載の方法のいずれかによって作製された中空繊維又はシート膜。
【請求項34】
食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を製造する方法であって、
a)i)1つ以上の食用タンパク質、ii)1つ以上の食用多糖類、iii)1つ以上の溶媒及びiv)形成浴を用意する工程であって、前記形成浴が、1)水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸のうちの1つ以上、又は2)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうちの1つ以上と組み合わせて、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄及びカリウムのうちの1つ以上を含む、工程と;
b)前記1つ以上の溶媒中で前記1つ以上の食用タンパク質及び1つ以上の食用多糖類を共混合して、混合物を形成する工程と;
c)前記混合物を前記形成浴中に押し出して、押出中空繊維を形成するか、又は前記混合物をキャストして、シート膜を形成する工程と; d)前記押出中空繊維又はシート膜を、前記1つ以上のタンパク質を少なくとも部分的に架橋するのに十分な熱及び照射のうちの1つ以上から選択されるエネルギー源に曝露して、食用架橋多孔質中空繊維を形成する工程と;
を含む方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法によって作製された中空繊維又はシート膜。
【請求項36】
1つ以上のタンパク質、1つ以上の多糖類、1つ以上の溶媒、可塑剤及び/又は前記形成浴の1つ以上の構成成分が、米国食品医薬品局(FDA)によって一般に安全と認められている(GRAS)、請求項1~35のいずれか。
【請求項37】
得られたシート膜又は中空繊維が、細孔崩壊を伴わずに乾燥するために、10~50%の水のグリセロールとの交換を受ける、請求項1~36のいずれか。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、これにより内容全体が参照により組み込まれる、2021年8月19日に出願された米国仮特許出願第63/234,796号の優先権の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
膜の完全性及び細孔特性は、膜ベースのバイオリアクターにおける有効な使用のために最も重要である。膜は、支持構造を妨害することなく膜を通した培地及び栄養素の移動を可能にし、接着細胞の培養のためのより大きな表面積を可能にするために、自己支持性である必要がある。さらに、食用食品を製造するために、膜は一般に安全とみなされている(GRAS)材料で作製される必要がある。なおさらに、技術的態様(すなわち、非毒性で消化可能である)と実用的な消費者によって許容される態様(すなわち、消費者にとって許容できる食感及び口当たりを有する)の両方から食用である膜を作製することは、当技術分野で達成されていない。フラットシート(例えば、ナノ多孔質膜)であろうと繊維(例えば、中空繊維)であろうと、そのような膜の製造は成し遂げ難かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
必要とされているのは、細胞培養に適しており、食用である膜ベースのバイオリアクターで使用するための高い完全性の膜である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、例えば、ヒト及び動物の消費用の食品を製造するための、バイオリアクターでの使用に必要な構造的完全性を有するpH誘起相分離又はプロトン誘起相分離によって膜(すなわち、膜フィルム及び繊維)を作製する、新規で自明でない方法を開発した。この膜は、GRAS材料を用いて作製されており、自己支持性であり(すなわち、バイオリアクター内の培養条件によって必要とされる流体力を扱う又は流体力に曝露された場合に、自重崩壊せず、容易に裂けたり、容易に破れたりしない)、かつ、技術的な面と、実用的に消費者によって許容可能であるという面との両方の面で、食用である。
【0005】
本発明の膜は、最も広い実施形態では、1つ以上の植物又は動物タンパク質、1つ以上の食用多糖類、及び任意選択的に1つ以上の多糖類架橋剤を含む。タンパク質、多糖類及び任意選択の架橋剤を共混合し、形成浴中に押し出す。形成浴は、膜中の多糖類の架橋をもたらす1つ以上のイオン(すなわち、カチオン又はアニオン)を含有する。さらに、本発明の一部の態様では、形成浴中のpH変化が、相分離誘導膜形成をもたらす。
【0006】
本発明者らは、膜中の多糖類の架橋が、特に細胞培養条件下で十分な膜の完全性を確保するには不十分であることが多いことを経験的に学習した(例示参照)。本発明者らはさらに、膜に必要な完全性を付与する方法を発明した。形成浴中で膜を形成した後、膜を熱又は照射などのエネルギー源に曝露する。理論によって限定されないが、本発明者らは、エネルギー源への曝露が膜中の多糖類及び/又はタンパク質の架橋をもたらし、それによって、消費者の受け入れに必要な品質を維持しながら膜に必要な完全性が提供されると考えている。
【0007】
また、食品に使用するための膜を提供することに関して、化学的架橋の先行技術は、この用途のために回避する必要がある毒性化合物を使用することが多い。又は、先行技術のポリマー修飾技術は、架橋部位を増加させるために使用され得るが、規制上の課題に直面し得る。
【0008】
別の態様では、本発明の膜を、1つ以上の薬剤でコーティング又は他の方法で修飾して、例えば、細胞接着及び細胞増殖を増強することができる。膜を、熱又は照射への曝露の前又は後にコーティングすることができる。
【0009】
形成、エネルギー源への曝露及び任意選択のコーティング後、膜を部分的に乾燥させる、及び/若しくは保存してもよく、又はさらなる処理(例えば、サイズに合わせて切断し、バイオリアクターカートリッジ又はカプセルに組み込むことによって)に供してもよい。
【0010】
したがって、本発明は、例えば構造化クリーンミート(clean meat)製品を製造するための膜バイオリアクター(フィルム又は繊維ベース)に使用するための食用3Dナノ及びミクロ多孔質構造に関する。培養培地は膜を通過して、膜の片面又は両面で細胞を育てる。接着細胞のために先行技術の中空繊維膜バイオリアクターが存在するが、細胞を取り出すためにはトリプシン又は他の化学的/酵素的工程が必要である。このような工程は、商業規模のクリーンミート製造にはあまりに高価すぎ、さらに、あらゆる組織様構造を破壊する。したがって、本発明は、培養肉製品の製造に使用される肉細胞と共に消費される膜を企図する。本発明はさらに、少なくとも部分的に溶解可能な膜を企図する。この態様は、例えば、最終的な構造化肉製品に所望の食感を達成するために必要とされ得る。
【0011】
接着細胞足場のための食品ベースの材料は、当技術分野において記載されている。しかしながら、これらの材料フォーマットは、(中空繊維)膜バイオリアクターには適していない。これらの材料フォーマットは、一般に、非多孔質フィルム、繊維ベースのマット(エレクトロスピニング又はロータリージェットスピニングなど)、又はスポンジ(通常、凍結乾燥、押出工程、及び/又は発泡工程から誘導される)である。
【0012】
膜バイオリアクターは、特定の膜幾可学的形状を有する非常に特殊な細孔径を必要とする。中空繊維バイオリアクター(HFBR)は、典型的には、細胞型、バイオリアクター設計及びバイオプロセスに応じて、5KDa~0.1μmの間の細孔径を有する。
【0013】
本発明は中空繊維を企図しているが、本発明の一般概念はフラットシート(フィルム状)膜にも適用することができる。シート膜は、例えば、ポリマーを犠牲表面上にキャストし、次いで、この犠牲表面がポリマーを固化させるように設計された浴に入ることによって形成される。中空繊維は、ノズル/紡糸口金から浴中に紡ぎ出されることによって形成される。中空繊維を製造する場合、当業者に知られているように、ボア流体も正確に決定及び制御されなければならない。シート膜及び中空繊維の製造に関するさらなる詳細は以下である。
【0014】
本発明者らが本発明の膜を作製するために発明した方法は、複数の工程を利用する。ヒトの栄養上の考慮及び細胞接着の考慮のために、高タンパク質含有量が好ましい。しかしながら、タンパク質の分子量は、繊維形成特性のための十分な鎖の絡み合い又は構造的完全性を与えるには一般的に低すぎる。このため、追加の「担体」ポリマーが膜ポリマーに添加される(すなわち、ドープ溶液)。本明細書で教示されるように、担体ポリマーは、例えば、アルギネート、セルロース、ペクチン、キチン、キトサン、ジェランガム、キサンタンガム、アラビノキシラン、グルコマンナン及び当業者に公知のその他のもののうちの1つ以上から選択される多糖類である。
【0015】
タンパク質及び多糖類は、GRAS溶媒のブレンド中で混合される。1つ以上のタンパク質及び1つ以上の多糖類が選択され、その混合物が形成されると、それらは固化(形成)浴中で固化されて、キャストされる膜の寸法を瞬時又はほぼ瞬時に固定する。ある実施形態では、浴が、例えばCa2+、Mg2+などの多価カチオンを含有することが企図される。具体的には、本発明者らによって実証されたのは、Ca2+が膜中のアルギネート、ペクチン又は他の多糖類を瞬時に架橋することであった。これにより、繊維/シートの寸法が固定され、所望の3次元目標が達成される。
【0016】
しかしながら、この時点では、タンパク質は架橋されておらず、多糖類がイオン架橋されているだけである。文献に記載され、実際に見られるように、イオン架橋多糖類は、細胞培養培地中で解離し得る。したがって、細胞培養に使用する場合、膜の安定性をさらに高め、膜の完全性を確保するために、追加の架橋工程が必要である。共有結合架橋には過酷な化学物質が必要であるため、この手法は食用製品には好ましくない。本発明の革新は、物理的架橋を使用することであり、前記物理的架橋は、熱、ガンマ、電子ビーム、ベータ、X線、又はUVのうちの1つ以上などのエネルギー源を介して生成される。これらは、潜在的な病原体を死滅させるか、又は弱めるために食品業界で使用されているので、食品での使用に安全であることが当業者によって理解される。
【0017】
代替手法は、トランスグルタミナーゼなどの、食品用途に既に承認されているタンパク質用の架橋剤を使用することであることが本発明によってさらに企図される。タンパク質の架橋に加えて、又はその代わりに、混合物を作り出す前に多糖類を修飾して、ポリマー上の潜在的な架橋部位を増加させることができることがなおさらに企図される。
【0018】
本発明はさらに、タンパク質をアルコール/水ブレンドに直接溶解し、膜を酸浴中で固化させるなどの他の手法を企図する。本発明はなおさらに、植物タンパク質単離物をアルカリ溶液に溶解し、次いで、アルコール又は中和酸/苛性溶液などの有機凝固剤で固化することを企図する。例えば、キトサンを5%酢酸に溶解し、より高いpHの浴に押し出すと、ポリマーは繊維の形状に固化する。
【0019】
キトサンを、わずかに酸性の浴(約5%の酢酸、クエン酸など)に溶解し、次いで、固化したキトサンの空隙率を保持及び/又は維持するある濃度のトリポリホスフェート/トリポリリン酸ナトリウム(TPP)を含有する浴に堆積/紡糸することもできる。ボア流体はまた、浴溶液と同様の溶液を含有することができる。
【0020】
化学又は酵素架橋剤スキャンをボア流体(中実繊維又は中空繊維を形成する場合にノズルボアで使用される流体;ボア流体は当業者に公知である)及び/又は形成浴に添加して、多糖類及びタンパク質ブレンド中にある植物タンパク質の架橋を助けることもできる。浴又はボア流体に任意選択的に含まれ得る架橋剤の例は、トランスグルタミナーゼ、トリポリホスフェート、ゲニピン(ゲニピンは、ジェニパ・アメリカーナ(Genipa americana)果実抽出物に見られる化学化合物である)、又は当業者に公知の他の酸化酵素である。
【0021】
本発明の別の態様は、ドープ溶液(すなわち、タンパク質、多糖類混合物)に不溶性(少なくとも使用される溶媒系に)繊維を含浸させることができるというものである。これらの繊維は、例えば、細菌ナノセルロース、ナノセルロース、又は他の適切な繊維であり得る。これらの繊維は2つの機能を果たすことができ、第1の機能は、応力ひずみ曲線チャートによって定義される「靭性」の増加をもたらす機械的補強である。これらの繊維の第2の機能は、筋管整列を促進することであろう。押出中、これらの繊維は中空繊維と自然に整列し、中空繊維膜の表面にある繊維はそこで増殖した細胞の整列を促進する。
【0022】
本発明の別の態様は、繊維自体の幾可学的形状及びトポグラフィである。好ましくは、繊維は、約300~約700ミクロンの外径を有する。繊維長と平行、実質的に平行又は本質的に平行に延びる縞又は溝は、本発明の方法によって作製された繊維に所望され、組み込まれる構造的特徴であり得る。繊維に沿った縞又は溝は、ドープ溶液の配合及び混合を通して、ノズルの幾何学的形状を通して、又は当業者に公知の方法による形成浴の乱流を通して紡糸方法に組み込むことができる。
【0023】
この方法の別の工程は、膜若しくは繊維の表面を変化させるか、又は膜若しくは繊維をコーティングする所望の化学工程又は化合物を使用することによって、膜及び繊維上の細胞接着を増加させることであり得ることがさらに企図される。適切な工程及び化合物の例としては、それだけに限らないが、プラズマ処理、それだけに限らないが、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン等を含むタンパク質、又はそれだけに限らないが、RGD、YIGSR、IKVAV、DGEA、PHRSN、PRARI等を含むそれらのタンパク質から単離された短鎖ペプチド配列の付加を通した細胞結合部位の付加が挙げられる。
【0024】
細胞接着を超える標的用途にも適用することができるコーティングが企図される。ヘパリンは、繊維表面の成長因子濃度を増加させることができる。細胞分化を助ける化合物も適用することができる。例えば、高い脂質含有量を有するコーティングは、適切な細胞の脂肪細胞への分化を促進することができる。
【0025】
非生物学的(すなわち、所望の細胞の増殖及び維持に直接関連しない)結果に向けられたコーティングも企図される。保存剤及び/又は抗生物質を使用して、腐敗を防止するか、又は培養前及び培養中に無菌環境を維持することができる。染料、顔料、ベータカロチン等をコーティングとして、又は繊維ドープ溶液に直接適用して、所望の外観を得ることができる。同様に、フレーバー及び芳香剤をコーティングとして、又は繊維ドープ溶液に直接適用して、所望のフレーバープロファイルを得ることができる。可塑剤(例えば、ソルビトール及びグリセロールなどの糖アルコール)をコーティングとして、又はドープ溶液若しくはボア流体に直接適用することもできる。可塑剤は、取り扱い性を高め、細孔崩壊を最小限に抑え、貯蔵寿命を延ばし、口当たりを変える。
【0026】
本発明はまた、本発明の方法によって作製された膜(中空繊維及びシート膜)を含む。
【0027】
本発明は、食用架橋多孔質中空繊維及び膜シートを製造する方法であって、a)i)1つ以上の食用タンパク質、ii)1つ以上の食用多糖類、iii)1つ以上の溶媒及びiv)形成浴を用意し、1つ以上の溶媒又は形成浴が、1つ以上の多価カチオン又はアニオンも含む、工程;b)1つ以上の溶媒中で1つ以上の食用タンパク質及び1つ以上の食用多糖類を共混合して、混合物を形成する工程;c)混合物を形成浴中に押し出して、押出中空繊維を形成するか、又は混合物を浴上にキャストして、膜シートを形成する工程;及びd)押出中空繊維又は膜シートを、1つ以上のタンパク質を少なくとも部分的に架橋するのに十分な熱及び照射のうちの1つ以上から選択されるエネルギー源に曝露して、食用架橋多孔質中空繊維を形成する工程を含む方法を企図する。
【0028】
本方法は、1つ以上のタンパク質が、エンドウ、大豆、小麦、カボチャ、米、玄米、ヒマワリ、キャノーラ、ヒヨコマメ、レンズマメ、リョクトウ、シロインゲンマメ、トウモロコシ、エンバク、ジャガイモ、キヌア、ソルガム及びピーナッツからなる群から選択されることをさらに企図する。
【0029】
本方法は、1つ以上の多糖類が、寒天、キトサン、キチン、アルギネート、アルギン酸ナトリウム、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、タピオカ、グアーガム及びビーンガムからなる群から選択されることをさらに企図する。
【0030】
本方法は、1つ以上の溶媒が、水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、エタノール、グリセリン及びプロピレングリコールからなる群から選択されることをさらに企図する。
【0031】
本方法は、イオンが、Ca2+、Mg2+、Fe3+、Zn2+、トリポリホスフェート及びクエン酸三ナトリウムからなる群から選択され、選択されたイオンが、1つ以上の多糖類の部分的架橋を少なくとも可能にすることができることをさらに企図する。
【0032】
本方法は、熱が約120℃~約140℃であり、約0PSI~約20PSIゲージの圧力下、約50%~約100%の相対湿度で、約2~約60分間加えられるか、又は繊維が、大気条件で約60℃~約100℃の水浴に浸されることをさらに企図する。
【0033】
本方法は、照射が、電子ビーム、UV光及びガンマ線照射からなる群から選択されること、照射が工程中又は工程後に適用されること、並びに照射が約1~約100kGy又は約10~約50kGyであることをさらに企図する。
【0034】
本方法は、中空繊維又は膜シートの空隙率が約1%~約90%又は約50%~約80%であることをさらに企図する。
【0035】
本方法は、食用架橋多孔質中空繊維をコーティングでコーティングして、細胞接着を増強する工程をさらに含むことをさらに企図する。
【0036】
本方法は、コーティングが、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン又はこれらのタンパク質から単離された短鎖ペプチド配列のうちの1つ以上から選択されることをさらに企図する。
【0037】
本方法は、短鎖ペプチド配列が、RGD、YIGSR、IKVAV、DGEA、PHRSN及びPRARIからなる群から選択されることをさらに企図する。
【0038】
本方法は、方法が、食用架橋多孔質中空繊維の外表面を修飾して、細胞接着を増強する工程をさらに含み、表面修飾が、プラズマ、コロナ、摩耗、エッチング、アブレーション、又はスパッタコーティングのうちの1つ以上から選択されることをさらに企図する。
【0039】
本方法は、タンパク質が、溶媒に溶解する前に粉末化又は微粉砕されることをさらに企図する。
【0040】
本方法は、タンパク質が少なくとも70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.9%純粋であることをさらに企図する。
【0041】
本方法は、多糖類が少なくとも70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.9%純粋であることをさらに企図する。
【0042】
本方法は、前記混合物中のタンパク質対多糖類の比がおよそ10:1~およそ1:10であるか、又は前記混合物中のタンパク質対多糖類の比がおよそ4:1~およそ1:4であることをさらに企図する。本方法は、前記混合物中のタンパク質対多糖類の比がおよそ1:1であることをさらに企図する。本方法は、前記混合物中のタンパク質対多糖類の比がおよそ1:7又はおよそ7:1であることをさらに企図する。場合によっては、タンパク質と多糖類との間の固体比は、100:1又はおよそ1:100、又は排他的に100%タンパク質単離物である。
【0043】
本方法は、形成浴が、例えば、15g/Lの濃度又はおよそ15g/Lの濃度の塩化カルシウムが溶解したRO(逆浸透)水を含むが、所望の濃度が、約4g/L~約20g/L、約12g/l~約18g/L又は約14g/L~約16g/Lであり得ることをさらに企図する。連続工程では、形成浴は供給及びブリード系を有し、調製された15g/Lの塩化カルシウムが浴の側面に供給され、浴が同じ速度でブリードされる。
【0044】
本方法は、形成浴が、i)水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸のうちの1つ以上、又はii)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうちの1つ以上と組み合わせて、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄及びカリウムのうちの1つ以上を含むRO水を含むことをさらに企図する。
【0045】
本方法は、食用架橋多孔質中空繊維及び膜シートを製造する方法であって、a)i)1つ以上の食用タンパク質、ii)1つ以上の食用多糖類、iii)1つ以上の溶媒及びiv)形成浴を用意し、形成浴が、主に水であり、1)酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸若しくは他の適切な酸のうちの1つ以上、又は2)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム若しくは他の適切な塩基のうちの1つ以上と組み合わせて、塩化カルシウム、塩化亜鉛、マグネシウムイオン、カリウムのうちの1つ以上をさらに含む、工程;b)1つ以上の溶媒中で1つ以上の食用タンパク質及び1つ以上の食用多糖類を共混合して、混合物を形成する工程;c)混合物を形成浴中に押し出して、押出中空繊維を形成するか、又は混合物を浴上にキャストして、膜シートを形成する工程;及びd)押出中空繊維又は膜シートを、1つ以上のタンパク質を少なくとも部分的に架橋するのに十分な熱及び照射のうちの1つ以上から選択されるエネルギー源に曝露して、食用架橋多孔質中空繊維を形成する工程を含む方法を企図する。この実施形態では、形成浴にイオンが補充される。
【0046】
本方法はさらに、本発明の方法によって作製されるいずれかの中空繊維又はシート膜(すなわち、膜シート)に関し、これを企図する。
【0047】
本発明はさらに、膜又は本発明を用いて製造されたクリーンミート、構造化肉、培養肉、ラボ培養肉、栽培肉、細胞ベースの肉など、及びこれらの肉を作製する方法に関する。
【0048】
本発明が、食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を製造する方法であって、a)i)1つ以上の食用タンパク質、ii)1つ以上の溶媒、iii)形成浴を用意し;1つ以上の溶媒又は形成浴が、1つ以上の多価カチオン若しくはアニオン又は緩衝液も含む、工程;b)1つ以上の溶媒中で1つ以上の食用タンパク質を共混合して、混合物を形成する工程;c)混合物を形成浴中に押し出して、押出中空繊維を形成するか、又は混合物を形成浴中にキャストして、シート膜を形成する工程;及びd)押出中空繊維又はシート膜を、1つ以上のタンパク質を少なくとも部分的に架橋するのに十分な熱及び照射のうちの1つ以上から選択されるエネルギー源に曝露して、食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を形成する工程を含む方法に関することが企図される。
【0049】
本発明の方法が、1つ以上の食用多糖類を用意し、1つ以上の多糖類を1つ以上の溶媒中で1つ以上の食用タンパク質と共混合することに関することがさらに企図される。
【0050】
本発明の方法が、可塑剤を用意し、可塑剤を1つ以上の溶媒中で1つ以上の食用タンパク質と共混合することに関することがさらに企図される。
【0051】
本発明の方法が、1つ以上のタンパク質が、エンドウ、大豆、小麦、カボチャ、米、玄米、ヒマワリ、キャノーラ、ヒヨコマメ、レンズマメ、リョクトウ、シロインゲンマメ、トウモロコシ、エンバク、ジャガイモ、キヌア、ソルガム及びピーナッツからなる群から選択されることに関することがさらに企図される。
【0052】
本発明の方法が、1つ以上の多糖類が、寒天、キトサン、キチン、アルギネート、アルギン酸ナトリウム、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、タピオカ、グアーガム及びビーンガムからなる群から選択されることに関することがさらに企図される。
【0053】
本発明の方法が、1つ以上の溶媒が、水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、エタノール、グリセリン及びプロピレングリコールからなる群から選択されることに関することがさらに企図される。
【0054】
本発明の方法が、形成浴が、1)水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸のうちの1つ以上、又は2)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうちの1つ以上と組み合わせて、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄及びカリウムのうちの1つ以上を含むことに関することがさらに企図される。
【0055】
本発明の方法が、前記イオンが、Ca2+、Mg2+、Fe3+、Zn2+、トリポリホスフェート及びクエン酸三ナトリウムからなる群から選択され、前記選択されたイオンが、1つ以上の多糖類の部分的架橋を少なくとも可能にすることができることに関することがさらに企図される。
【0056】
本発明の方法が、工程b)の混合物が加熱されることに関することがさらに企図される。
【0057】
本発明の方法が、前記形成された中空繊維若しくはシート膜が、約0PSI~約20PSIゲージの圧力下、約50%~約100%の相対湿度で、約2~約60分間加えられる、約70℃~約140℃若しくは約120℃~140℃で加熱されるか、又は中空繊維若しくはシート膜が、大気条件で約60℃~約100℃の水浴に浸されることに関することがさらに企図される。
【0058】
本発明の方法が、共混合が約0℃~約90℃で実施されることに関することがさらに企図される。
【0059】
本発明の方法が、前記混合物がpH約10~約13であり、前記配合浴がpH約3~約5であることに関することがさらに企図される。
【0060】
本発明の方法が、形成後に、膜がpH約6.8~約7.8に中和されることに関することがさらに企図される。
【0061】
本発明の方法が、形成後に、膜がpH約7.3~約7.5に中和されることに関することがさらに企図される。
【0062】
本発明の方法が、照射が、電子ビーム、UV光及びガンマ線照射からなる群から選択されることに関することがさらに企図される。
【0063】
本発明の方法が、照射が工程中又は工程後に適用されることに関することがさらに企図される。本発明の方法が、照射が約1~約100kGy又は約10~約50kGyであることに関することがさらに企図される。
【0064】
本発明の方法が、中空繊維又はシート膜の空隙率が、約1%~約90%、約25%~約75%又は約40%~約60%であることに関することがさらに企図される。
【0065】
本発明の方法が、中空繊維又はシート膜の空隙率が約50%~約80%であることに関することがさらに企図される。
【0066】
本方法が、食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜をコーティングでコーティングして、細胞接着を増強する工程をさらに含むことがさらに企図される。
【0067】
本発明の方法が、コーティングが、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン又はこれらのタンパク質から単離された短鎖ペプチド配列のうちの1つ以上から選択されることに関することがさらに企図される。
【0068】
本発明の方法が、短鎖ペプチド配列が、RGD、YIGSR、IKVAV、DGEA、PHRSN及びPRARIからなる群から選択される1つ以上であることに関することがさらに企図される。
【0069】
本発明の方法が、食用架橋多孔質中空繊維の外表面を修飾して、細胞接着を増強することに関することがさらに企図される。本発明が、食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を可塑剤でコーティングする工程をさらに含む方法に関することがさらに企図される。本発明が、表面修飾が、プラズマ、コロナ、摩耗、エッチング、アブレーション、又はスパッタコーティングのうちの1つ以上から選択されることに関することがさらに企図される。
【0070】
本発明の方法が、タンパク質が、溶媒に溶解する前に粉末化又は微粉砕されることに関することがさらに企図される。
【0071】
本発明の方法が、タンパク質が、少なくとも70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.9%純粋であることに関することがさらに企図される。
【0072】
本発明の方法が、多糖類が、少なくとも70%、80%、90%、95%、98%、99%、99.9%純粋であることに関することがさらに企図される。
【0073】
本発明の方法が、前記混合物中のタンパク質対多糖類(タンパク質:多糖)の比が、およそ10:1~およそ1:10又はおよそ1:99~およそ99:1、98:2、97:3、96:4、95:5又は90:10であることに関することがさらに企図される。本発明が、前記混合物中のタンパク質対多糖類の比がおよそ4:1~1:4であることに関することがさらに企図される。本発明が、前記混合物中のタンパク質対多糖類の比がおよそ1:1又は7:1であることに関することがさらに企図される。
【0074】
本発明が、形成浴が、i)水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸のうちの1つ以上、又はii)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうちの1つ以上と組み合わせて、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄及びカリウムのうちの1つ以上を含むことに関することがさらに企図される。
【0075】
本発明が、本発明の方法のいずれかによって作製された中空繊維又はシート膜に関することがさらに企図される。
【0076】
本発明が、食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を製造する方法であって、a)i)1つ以上の食用タンパク質、ii)1つ以上の食用多糖類、iii)1つ以上の溶媒及びiv)形成浴を用意し、形成浴が、1)水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸のうちの1つ以上、又は2)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうちの1つ以上と組み合わせて、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄及びカリウムのうちの1つ以上を含む、工程;b)1つ以上の溶媒中で1つ以上の食用タンパク質及び1つ以上の食用多糖類を共混合して、混合物を形成する工程;c)混合物を形成浴中に押し出して、押出中空繊維を形成するか、又は混合物をキャストして、シート膜を形成する工程;及びd)押出中空繊維又はシート膜を、1つ以上のタンパク質を少なくとも部分的に架橋するのに十分な熱及び照射のうちの1つ以上から選択されるエネルギー源に曝露して、食用架橋多孔質中空繊維を形成する工程を含む方法に関することが企図される。
【0077】
本発明が、1つ以上のタンパク質、1つ以上の多糖類、1つ以上の溶媒、可塑剤及び/又は形成浴の1つ以上の構成成分が、米国食品医薬品局(FDA)によって一般に安全と認められている(GRAS)、中空繊維又はシート膜を製造する方法に関することが企図される。
【0078】
本発明が、本発明の方法のいずれかによって作製される得られた膜又は中空繊維が、乾燥のために10~50%の水のグリセロールとの交換を受け、前記乾燥が細孔崩壊をもたらさないことに関することがさらに企図される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】本発明の膜及び中空繊維を製造するために使用されるある方法の概略図である。
【
図2】本発明の膜及び中空繊維を製造するために使用される別の方法の概略図である。
【
図3A】本発明の方法で製造された中空繊維膜を示す図である。
【
図3B】本発明の方法で製造された中空繊維膜を示す図である。
【
図4A】本発明の方法で製造された繊維の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す図である。
【
図4B】本発明の方法で製造された繊維の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す図である。
【
図4C】本発明の方法で製造された繊維の走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す図である。Aは、乳清タンパク質及びアルギネートブレンドの表面細孔がおよそ20nm又は約1000kDaであることが分かることを示している。この画像はまた、方法からの縞が繊維の長さと平行であることを示している。Bは、およそ100nm以下の表面細孔を有するカボチャタンパク質単離物及びアルギネートブレンドの表面細孔を示している。Cは、カボチャタンパク質単離物を用いて作製された繊維の低解像度画像を示している。
【
図5A】本発明の方法によって製造された繊維を示す図である。
【
図5B】本発明の方法によって製造された繊維を示す図である。本発明の中空繊維は、バイオリアクター内で必要とされる重量を容易に支持することができる。(A)示される繊維は2メートル長である。(B)本発明の方法によって製造された繊維は、少なくとも9グラムを支持することができる。
【
図6】尿素及び水酸化ナトリウム溶液からのリョクトウキャストフィルムを示す図である。画像は、ドクターブレード技術を介してガラス上にキャストされたリョクトウドープ溶液である。ドープ溶液は凝固前に透明であることが分かる。
【
図7】S64スピンドルを装備したBrookfield(マサチューセッツ州ミドルボロ)粘度計を使用した粘度を示す図である。2%アルギネート及び10%タンパク質単離物の粘度が示されている。各混合物は、測定前にpH11に調整されたpHを有していた。
【
図8】単純設計プロットを量で示す図である。これは、尿素、エタノール、及び水酸化ナトリウムを含む水を見るMinitab(ペンシルバニア州州立大学)を使用した実験の設計である。
【
図9】
図8の溶媒ブレンド形態における15%ゼインの温度掃引を示す図である。これは、12.5%程度の低いエタノールを含む溶媒系がゼインを溶解できることを示している。
【
図10】
図8の溶媒条件を使用することによって、水中の同じアガロースと比較した場合に、アガロースのゲル化特性を変化させることができることを示す図である。
【
図11】所与の混合温度範囲内で、特に40℃超で、
図8の所与の溶媒系を用いて、いずれの成分も固化させることなく、ゼイン及びアガロースをブレンドできることを示す図である。
【
図12A】フィルムキャスティング工程(左)からなるゼイン膜製造方法の画像を示す図である。
【
図12B】酢酸緩衝液(0.2M、pH4.5)中での凝固工程(右)からなるゼイン膜製造方法の画像を示す図である。
【
図13】120℃に設定された熱グリセロール浴を1時間にわたって使用した、リョクトウアルギネート膜の架橋工程を示す図である。
【
図14A】膜の弾性率(左)を示すグラフを示す図である。
【
図14B】膜のひずみ(右)を示すグラフを示す図である。
【
図15A】様々な組織(左)の弾性率を示す図である
【
図15B】本発明の例示的な膜材料(右)の弾性率を示す図である。
【
図16】各製造工程を調査及び検証するために異なる製造プロトコルに従って製造された膜の画像(1~6)を示す図である。ACは「pH4.5で0.2Mのアセテート浴」を表し、HはpH7.4で0.1Mの「HEPES緩衝液」(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)浴を表し、Gは「グリセロール浴」を表し、HGは「熱グリセロール浴」を表し、HWは「熱水」(オートクレーブ)を表し、0は「工程を実施しない」を表す。
【
図17】
図17A及びBは、膜の弾性率(A:左)及び膜の破断ひずみ(B:右)をそれぞれ示す図である。試料6は、プロトコルAC-0-G-HG、5はプロトコルAC-0-0-HG、2はプロトコルAC-0-0-HWに従って製造される。
【
図18】
図18A~Cは、熱処理(グリセロールに基づくプロトコル)されたリョクトウ膜の酢酸浴中での凝固時間の増加時の弾性率(A:左)の変化、ひずみ(B:中心)及び最終応力(C:右)の変化を示す図である。図は、10分間~最大3時間凝固させた膜の機械的特性を示している。
【
図19】
図19A~Cは、リョクトウ膜のグリセロールに基づく熱処理時間の増加時の弾性率(A:左)、ひずみ(B:中心)及び最終応力(C:右)の変化を示す図である。凝固浴(10分)と水-グリセロール交換(10分)の両方の持続時間を一定に保ち、120℃の最終温度に達した後の熱処理持続時間を変化させることによって、グリセロールに基づく熱処理を調査した。
【
図20】グリセロールを使用したリョクトウ膜の熱処理に関するレオロジー調査を示す図である。温度勾配に対するタンジェントデルタ(δ)の変化を示すグラフ。
【
図21】
図21A~Cは、リョクトウ膜のグリセロールに基づく熱処理時間の増加時の(A)弾性率、(B)ひずみ及び(C)最終応力の変化を示す図である。
【
図22】37℃の細胞培地でインキュベートした場合の、小麦グルテン、リョクトウ及びゼインを含むアルギネート及びグルテンタンパク質ブレンドの弾性率値を示す図である。3、10、及び21日間のインキュベーションの前後に機械的引張測定を行った。
【
図23】37℃の細胞培地でインキュベートした場合の、小麦グルテン、リョクトウ及びゼインを含むアルギネート及びグルテンタンパク質ブレンドの破断ひずみ値を示す図である。3、10、及び21日間のインキュベーションの前後に機械的引張測定を行った。
【
図24】37℃の細胞培地でインキュベートした場合の、小麦グルテン、リョクトウ及びゼインを含むアルギネートタンパク質ブレンドの膜表面積を示す図である。3、10、及び21日間のインキュベーションの前後に測定を行った。
【
図25】細胞培地中37℃でインキュベートした場合の、小麦グルテン、リョクトウ及びゼインを含むアガロースタンパク質ブレンドの膜表面積を示す図である。3、10、及び21日間のインキュベーションの前後に測定を行った。
【
図26】
図26A及びBは、細胞培地中37℃で3、10及び21日間のインキュベーションの前後で、トランスグルタミナーゼ架橋あり及びなしで調製された玄米-アルギネートブレンド間の(A)弾性率及び(B)ひずみの比較を示す図である。
【
図27】
図27A~Fは、大豆タンパク質単離物(A~C:上)及びリョクトウ(D~F:下)を含むタンパク質膜の、弾性率(A及びB:左)、破断ひずみ値(B及びE:中心)及び表面積(C及びF:右)を示す図である。大豆タンパク質単離物については、細胞培地中37℃での3、10及び21日間のインキュベーションの前後、並びにリョクトウについては、細胞培地中37℃で5、12及び30日間のインキュベーションの前後に測定を行った。
【
図28】大豆タンパク質単離物膜表面(上)及び断面(下)の走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図29】リョクトウタンパク質単離物膜表面(上)及び断面(下)の走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図30】ゼインタンパク質単離物膜表面(上)及び断面(下)並びにゼインタンパク質単離物&アガロース膜表面(上)及び断面(下)の走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図31】ゼインアルギネート(左)及びエンドウタンパク質-k-カラギーナン(右)膜の表面及び断面の走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図32】リョクトウ-アガロース(左)及び大豆-アルギネート(右)膜の表面及び断面の走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
【
図33】リョクトウ-アルギネート中空繊維の断面(上)及び表面(下)の走査型電子顕微鏡法を示す図である。
【
図34】C2C12細胞株を使用して、ゼイン、大豆、リョクトウTG-架橋リョクトウ膜で行われた蛍光細胞接着及び増殖試験を示す図である。生(緑色)/死(赤色)アッセイを48時間の増殖期間後に行った。顕微鏡写真は赤色染色をほとんど示さず、ほぼ全ての細胞が生存していることを示している。
【
図35】C2C12細胞株を使用して、フィブロネクチン、コラーゲン及びキトサンでコーティングされたリョクトウ膜並びにキトサン膜に対して行われた細胞蛍光接着及び増殖試験を示す図である。生(緑色)/死(赤色)アッセイを48時間の増殖期間後に行った。顕微鏡写真は赤色染色をほとんど示さず、ほぼ全ての細胞が生存していることを示している。
【
図36】C2C12細胞株を使用して、熱処理された及び熱処理されていない大豆-アルギネート、ピーナッツ-アルギネート並びにゼイン-アガロース膜に対して行われた蛍光細胞接着及び増殖試験を示す図である。生(緑色)/死(赤色)アッセイを48時間の増殖期間後に行った。顕微鏡写真は赤色染色をほとんど示さず、ほぼ全ての細胞が生存していることを示している。
【
図37】QM7細胞株を使用して、大豆、フィブロネクチン及びコラーゲンでコーティングされたリョクトウ並びにキトサン膜に対して行われた蛍光細胞接着及び増殖試験を示す図である。生(緑色)/死(赤色)アッセイを48時間の増殖期間後に行った。顕微鏡写真は赤色染色をほとんど示さず、ほぼ全ての細胞が生存していることを示している。
【
図38】アルギネート:リョクトウベースの膜に対する乾燥及び再水和の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
構造化肉製品
本発明は、それだけに限らないが、例えば、構造化クリーンミートを製造するためにバイオリアクターで使用するのに適した完全性の中空繊維を含む食用膜、及びそれを用いた構造化クリーンミートの製造方法、及び本発明の中空繊維を用いて製造された構造化クリーンミートを企図する。クリーンミート(当技術分野では「培養肉」又は「ラボ培養肉」としても知られている)は、当技術分野において、実験室、工場、又は細胞の大規模培養に適した他の製造施設で細胞から成長させた肉又は肉様製品(本明細書ではまとめて「クリーンミート」又は「クリーンミート製品」と呼ばれる)として定義される。
【0081】
「構造化肉製品」、「構造化クリーンミート製品」、「構造化培養肉」又は「構造化培養肉製品」は、動物由来の天然肉のような、動物由来の天然肉に類似している又は動物由来の天然肉を思わせる食感及び構造を有する肉製品又はクリーンミート製品である。本発明の構造化肉製品は、1)食感及び外観において、2)調理及び消費のために調製される場合(例えば、スライス、粉砕、調理等される場合)の取り扱い性において、並びに3)人によって消費される場合の口当たりにおいて、天然肉に似た食感及び構造を有する。本発明の材料及び方法は、構造化クリーンミートの製造に使用される場合、これらの基準のうちの少なくとも1つ、これらの基準のうちの2つ、又はこれらの基準のうちの3つ全てを達成する。先行技術は、これらの基準のいずれかを十分に満たす構造化肉製品を製造することができない。
【0082】
本発明の構造化肉製品は、本発明の中空繊維を含むバイオリアクター(後述する)内で適切な細胞(同様に後述する)を培養することによって、これらの基準を満たす。本発明の中空繊維は、少なくともかなりの部分において、製品の所望の外観、取り扱い性及び口当たりを提供する構造及び食感を最終的な構造化クリーンミート製品に提供する。さらに、本発明の中空繊維は、構造化クリーンミート製品への細胞の成長に適した環境を提供するのに役立つ。これに関連して、本発明の中空繊維は、少なくとも培養された細胞の接着、筋細胞又は筋細胞様細胞(すなわち、構造及び外観において筋細胞に実質的に類似する)に類似する形態への細胞の伸長、及び筋小管又は筋小管様構造(すなわち、構造及び外観において筋小管に実質的に類似する)への筋細胞の形成に適した表面を提供する。
【0083】
本発明の膜の製造
本発明において、「膜(membrane)」又は「膜(membranes)」という用語は、それだけに限らないが、中空繊維膜及びシート(すなわち、フラット)膜を含む本発明の方法によって製造されるあらゆる多孔質膜構造を指すことが理解される。特に具体的に指示しない限り、「膜」、「中空繊維」、「中空繊維膜」及び「シート膜」への言及は、形状、形態又は外観にかかわらず、本発明の方法によって製造されるあらゆる膜構造を含むと理解される。
【0084】
例示的な製造方法を
図1及び
図2に概略的な形態で示す。
【0085】
本発明の食用及び/又は溶解可能な中空繊維及びシート膜は、親水コロイド(すなわち、キサンタン、メチルセルロース、アルギネート、寒天、ペクチン、ゼラチン、カラギーナン、セルロース/ジェラン/グアー/タラ/ビーン/他のガムなどの多糖類)、タンパク質(例えば、ポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質及びアミノ酸;例えば、様々なデンプン(トウモロコシ/ジャガイモ/米/小麦/ソルガム)、植物単離物(例えば、大豆/ゼイン/カゼイン/小麦/リョクトウタンパク質)、脂質(例えば、遊離脂肪酸、トリグリセリド、天然ワックス及びリン脂質)、アルコール(例えば、ポリアルコール)、炭水化物及び他の天然物質、例えばアルギネートのうちの1つ以上から作製されることが企図される。さらに、細胞接着及び細胞増殖を助ける他の材料を中空繊維に添加するか、又は中空繊維上にコーティングすることができることが企図される。例えば、中空繊維添加剤又はコーティングは、植物から単離されるか、又はより単純な物質から合成される、当業者に公知の細胞外マトリックス(ECM)成分及び抽出物、ポリ-D-リジン、ラミニン、コラーゲン(例えば、コラーゲンI及びコラーゲンIV)、ゼラチン、フィブロネクチン、植物ベースのECM材料、コラーゲン様、フィブロネクチン様及びラミニン様材料を含む、当業者に公知のタンパク質、ヒドロゲル、又は他のコーティングのうちの1つ以上であることが企図される。全体的な結果は、本発明の繊維が肉及び肉製品の食感及び構造を付与し、本発明によって製造される構造化クリーンミート製品に、実際の肉と同様の食感、外観、取り扱い性及び口当たりを与えることになる。
【0086】
大豆及びリョクトウタンパク質単離物が、本発明の方法によって製造される膜に所望の特性のいくつかを付与することが本発明の発明者らによって認められている。大豆(グリシン・マックス(Glycine max))とリョクトウ(ヴィグナ・ラジアタ(Vigna radiata))の両方がマメ科植物(すなわち、エンドウ又はマメ)に関連する同じ分類科であるマメ科(Fabaceae)に由来することも本発明者らによって認められている。Doyle,J.J.,Leguminosae,Encyclopedia of Genetics,2001,1081-1085。本発明は理論によって限定されないが、この科の他のメンバー、特にグリシン属(Glycine)及びヴィグナ属(Vigna)を含むミレティオイド(Millettioid)及びファセオロイド(Phaseoloid)は、大豆及びリョクトウタンパク質単離物と実質的に同様に作用すると考えられる。
図39を参照されたい。
【0087】
より具体的には、本発明の中空繊維は、セルロース、キトサン、コラーゲン、ゼイン、アルギネート、寒天、イヌリン、グルテン、ペクチン、マメ科植物タンパク質、メチルセルロース、ゼラチン、タピオカ、キサンタン/グアー/タラ/ビーン/他のガム、タンパク質(例えば、それだけに限らないが、様々な形態のトウモロコシ/ジャガイモ/米/小麦/ソルガムデンプン、植物単離物及び大豆/ゼイン/カゼイン/小麦タンパク質を含むポリペプチド、ペプチド、糖タンパク質及びアミノ酸(これらは全て当業者に公知である))、脂質(例えば、遊離脂肪酸、トリグリセリド、天然ワックス及びリン脂質)のうちの1つ以上を含み得る。セルロースポリマーは、酢酸酪酸セルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース等を含み得る。より具体的には、本発明の中空繊維は、1つ以上のマメ科植物タンパク質と親水コロイドの混合物を含み得る。
【0088】
ある実施形態では、本発明の中空繊維が、食用、溶解可能又は食用で溶解可能であることが企図される。換言すれば、繊維は、食用であるか若しくは溶解可能であるか、又はその両方であり得る。なおさらに、溶解可能な繊維については、様々な溶解度が存在し得る。例えば、一部の繊維は、適切な溶媒(例えば、米国食品医薬品局(FDA)又は消耗物質の安全性を評価する資格があると認識されている他の組織によって一般に安全とみなされている非毒性溶媒)に曝露すると容易に溶解可能であり得る。他の繊維は、あまり容易に溶解可能であり得ない。これに関して、培養されている細胞が必要なレベルの培養密度に達した後に、あまり容易に溶解可能でない繊維を部分的に溶解し、それによって、本発明の構造化クリーンミートに所望の口当たり及び食感を提供するのに十分な繊維を残すが、本発明の構造化クリーンミート製品を噛み切れない又は噛み応えがあると思わせ得る過剰な繊維は残さないようにすることができる。溶解可能な中空繊維構成成分は、当業者に公知である。例えば、アルギネートは、Ca2+キレート剤に曝露されると溶解可能である。本発明のある実施形態では、本発明の中空繊維が、繊維を部分的に溶解可能にする量のアルギネートを含むこと、及び/又は本発明の中空繊維を含む装置内のあるパーセンテージの繊維がアルギネートを含むことが企図される。
【0089】
本発明のある実施形態では、1つ以上の架橋剤が本発明の中空繊維に使用されることが企図される。架橋剤は、その名称が暗示するように、中空繊維の他の構成成分の1つ以上を結合して繊維を強化する。本発明のある実施形態において、架橋剤は、本発明の中空繊維の溶解可能な成分又は溶解可能な成分のうちの1つであってもよい。本発明によって企図される例示的な架橋剤及び架橋機序としては、それだけに限らないが、共有結合エステル架橋(米国特許第7,247,191号明細書)及びUV架橋(米国特許第8,337,598号明細書)が挙げられ、これらの文献は共に全体が参照により本明細書に組み込まれる。さらに、中空繊維の製造における架橋剤の使用は、当業者に公知である。例えば、全て全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第9,718,031号明細書;米国特許第8,337,598号明細書;米国特許第7,247,191号明細書;米国特許第6,932,859号明細書及び米国特許第6,755,900号明細書を参照されたい。
【0090】
本発明の膜及び繊維は、タンパク質と多糖類のブレンドから製造される。タンパク質対多糖類の比は、およそ1:99~およそ99:1、およそ1:10~10:1、およそ2:5~5:2、およそ3:7~7:3、およそ4:6~6:4又はおよそ1:1、又は言及される比の範囲内のあらゆる比であることが企図される。好ましい実施形態では、混合物のタンパク質含有量が多糖類含有量よりも高い。好ましい実施形態では、タンパク質含有量が、約90%、95%、98%、99%又はそれを超える。
【0091】
本発明の膜が、さらに強化される、すなわち、増加した完全性及び強度を与えられるが、膜中のタンパク質を架橋する製造方法工程が組み込まれることがさらに企図される。本発明者らは、本発明の膜の形成後、本発明の膜が、適切なエネルギーレベルで適切な量の時間、エネルギー源に曝露されると、タンパク質が少なくとも部分的に架橋し、それによって、本発明の膜に先行技術の膜よりも増加した完全性が与えられることを見出した。以下の例示節は、熱又は照射を用いて及び用いないで処理されるいくつかの膜(すなわち、中空繊維膜)の例を提供する。言及されるエネルギー源に曝露されることを加えずに製造された中空繊維は、エネルギー源に曝露されることを加えて製造された中空繊維と比較して完全性を欠いていた。
【0092】
熱は、乾熱又は湿熱のいずれかを介して供給され得る。本発明の1つの方法は、約50%~100%の相対湿度で約2~約60分間、0psi(周囲圧力)~20psi以上の圧力で約60℃~約100℃の温度を利用する。さらに、本発明の膜又は繊維を大気条件で約60℃~約100℃の水浴に浸すことによって熱が供給され得る。
【0093】
本発明の膜及び繊維はまた、あらゆる形態の放射線(例えば、電子ビーム、ガンマ、UV等)を介してエネルギーに曝露され得る。本発明の膜及び繊維は、約1~約100kGy、約5kGy~約75kGy又は約10kGy~約50kGy照射され得る。本発明の膜及び繊維は、約0.1分間~約60分間、約1分間~約50分間、約2分間~約40分間、及び約2分間~約30分間、及び列挙された値に入るあらゆる値の間前記放射線に曝露され得る。
【0094】
中空繊維製造技術、特に膜製造技術は、一般に当業者に公知である(例えば、Vandekar,V.D.,Manufacturing of Hollow Fiber Membrane,Int’l J Sci&Res,2015,4:9,pp.1990-1994、及びその中に引用されている参考文献を参照されたい)。フラットシート膜と同様に、公知の中空繊維の製造方法は、典型的には、ある相分離の技術を含む。一般的な方法である非溶媒誘起相分離には、熱誘起相分離(thermally induced phase separation)、蒸気誘起相分離、熱誘起相分離(heat induced phase separation)(例えば、参照により本明細書に組み込まれるMilliporeSigmaの米国特許第5,444,097号明細書参照)、又はその組み合わせが含まれる。しかしながら、熱押出及び延伸などの他の技術を中空繊維及び膜形成に使用することができる。典型的には、非溶媒、熱不安定化、又は溶媒の除去によって溶液中のポリマーを不安定化する。ここに記載されるように、ポリマー(この場合、多糖類及びタンパク質)の溶解に続いて、複数の架橋工程を介したゲル化又は固化が行われる。繊維をさらに延伸して、100μm未満の直径及び10μm程度の薄さの壁厚を有する繊維を製造することができる。
【0095】
膜シートは、液体ポリマー溶液が急冷溶液に入り、溶媒が引き抜かれると液体ポリマー溶液が固化する同様の転相、並びにそれだけに限らないが、溶媒蒸発などの当業者に公知の他の技術(例えば、MilliporeSigmaの米国特許出願公開第2020/0368696号明細書参照)を使用して製造することができる。例えば、Gas Separation Membranes,Polymeric and Inorganic,Chapter 4,Ismail,et al.,Springer,2015及びMilliporeSigmaの米国特許出願公開第2007/0084788号明細書を参照されたい。
【0096】
本発明の一部の態様では、pH誘起相分離(“pH Induced Phase Separation”or“Proton Induced Phase Separation;”Satoru Tokutomi,Kazuo Ohki,Shun-ichi,Ohnishi,Proton-induced phase separation in phosphatidylserine/phosphatidylcholine membranes,Biochimica et Biophysica Acta(BBA),Biomembranes,Volume 596,Issue 2,28 February 1980,Pages 192-200)が、本発明の膜(すなわち、中空繊維及びシート膜)の製造に使用される。pH誘起相分離は以下の実施例節で例示される。pHによって制御される高分子の液相分離が細胞生理学において研究されているが(Adame-Arana,O.,et al.,Liquid Phase Separation Controlled by pH,2020 Oct 20;119(8):1590-1605;Epub 2020 Sep 16)、本発明者らが、初めて中空繊維及びシート膜、特にクリーンミート又はクリーン構造化ミート製品の製造に適した膜の製造においてpH誘起相分離を利用したと考えられる。pH誘起相分離の使用は、本発明の膜に予想外の驚くべき利益を与える。すなわち、機械的完全性、細孔径、及び空隙率が、従来の方法よりも向上する。
【0097】
乾式紡糸は、ポリマーを極めて揮発性の溶媒に溶解することを伴う。溶媒/ポリマー混合物は、押出及び溶媒の蒸発後に加熱され、ポリマーは固化する。
【0098】
湿式紡糸は、方法が変更可能なより多数のパラメータを伴うため、より汎用性がある。ポリマーと溶媒の混合物は、溶媒と非溶媒の交換のために脱混合及び/又は相分離が起こる非溶媒浴に押し出される。押出と非溶媒浴との間には、中空繊維膜の形成が始まる空隙が存在する。
【0099】
溶媒の使用を排除するか、又は最小限に抑えることができる技術は、冷延伸を用いた溶融紡糸(MSCS)である。この手法は、費用対効果の高い製造をもたらすが、構造制御及び食品材料の潜在的な分解を犠牲にする可能性がある。この技術では、材料が押出のために加熱され、次いで、中空繊維壁中に細孔を機械的に形成するように冷却される際に引っ張られる。これらの技術の3つ全てが広く研究されており、それらが十分に要約された技術分野で公知である(Tan,XM.and Rodrigue,D.,Polymers(Basel),2019,Aug 5:11(8)参照)。
【0100】
これらの技術の修正も当業者に公知である。例えば、複数のポリマー及びポリマー層から構成される中空繊維を製造するための修正湿式紡糸押出方法が開示されている国際公開第2011/108929号(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。非合成材料からの中空繊維の製造も当業者に公知である。例えば、その全体が本明細書に組み込まれるSuzukiの米国特許第4,824,569号明細書を参照されたい。
【0101】
構造化肉製品を製造するための本発明の中空繊維膜
ある実施形態では、本発明の中空繊維の巨視的構造が、繊維に沿った細胞の配向を促進することが企図される。これに関して、中空繊維が構築される成分分子の配向が、中空繊維の長さに平行、本質的に平行又は主に平行に配向されることが本発明によって望まれる。成分分子が、少なくとも中空繊維の外表面に、細胞接着を助け、細胞配向を助ける表面テクスチャを作り出すことがさらに企図される。したがって、ある実施形態では、本発明の中空繊維の表面テクスチャが、細胞接着のための接着点を作り出すことが企図される。別の実施形態では、本発明の中空繊維上で増殖された細胞(特に、筋細胞、筋細胞様細胞又は筋細胞の特性を有する細胞)が、インビボで筋細胞と同様であり、筋細胞に類似する中空繊維の長さに沿って配向し、延伸することがさらに企図される。
【0102】
したがって、足場の表面構造の配向は、形成中の筋管の整列と直接相関する。あたかも骨格筋が既存の構造に沿って形成したいかのように考えることができる。繊維束は、整列した筋管を形成するために骨格筋構造を厳密に模倣することが想起され得る。したがって、中空繊維バイオリアクターは、組織様細胞密度を達成するだけでなく、他の技術では達成されない筋管整列も達成し、議論されている全ての技術の最も現実的な口当たりをもたらす。整列現象は、My mistake:Decellularized Apium graveolens Scaffold for Cell Culture and Guided Alignment of C2C12 Murine Myoblast-Santiago Campuzano,2020,Ph.D.thesis,University or Ottawa,pp58-59を総説することによってより良く理解することができる。
【0103】
構造化クリーンミート製品を製造することに関して、本発明の中空繊維は、本発明に適したサイズの範囲を有することが企図される。本発明の中空繊維が、中空繊維上で増殖された細胞が実際の肉の密度と同様の密度を達成し、細胞間に最小限の空隙空間を有するように間隔をあけられることも企図される。一実施形態では、本発明の中空繊維が、約0.1mm~約3.0mmの外径、約0%の空隙率(拡散ベースにする)~75%の空隙率、及び約0.008~約0.5mm又は約0.01mm~約0.2mm、又は上記で具体的に繰り返されていない0.008mm~0.5mmの間のあらゆる厚さの壁厚を有することが企図される。このサイズが繊維の管腔を通る培地の輸送に適しており、中空繊維の壁を通る培地の適切な流れを可能にすると同時に、細胞増殖を支持するのに十分剛性であり、さらに所望の最終製品構造、食感、取り扱い性及び口当たりを提供することが本発明者らによって見出された。しかしながら、所望の構造化クリーンミート製品(例えば、牛肉、家禽、魚、豚肉等)に応じて、繊維の直径、壁厚及び空隙率の変化に関する他の実施形態が企図される(後述)。
【0104】
繊維空隙率 本発明の中空繊維は、繊維の壁を通る培地の適切な流れを可能にすると同時に、細胞増殖及び細胞支持に適した表面を確保する空隙率を有する必要がある。中空繊維の空隙率は、部分的に、中空繊維の壁の厚さ及び中空繊維の組成に関連する。壁が十分に薄い場合、約0%の空隙率で十分であり得、培地が中空繊維壁を通って拡散することを可能にする。本発明の中空繊維の空隙率は、75%又は90%ほど高くてもよい。したがって、本発明の中空繊維の空隙率の範囲は、0%~約90%、約10%~約75%、約30%~約60%、又は上記で具体的に繰り返されていない0%~75%の間のあらゆるパーセンテージ値である。
【0105】
本発明の中空繊維は、細孔形成工程も受け得る。細孔形成機序は、膜形成の分野で周知の以下の技術のうちの1つである:TIPS=熱誘起相分離、NIPS=非溶媒誘起相分離、VIPS=蒸気誘起相分離、pH誘起相分離、MSCS=延伸と組み合わせた溶融紡糸(Review on Porous Polymeric Membrane Preparation.Part II:Production Techniques with Polyethylene,Polydimethylsiloxane,Polypropylene,Polyimide,and Polytetrafluoroethylene,Xue Mei Tan,1,2,2019参照)。全てのシナリオにおいて、ポリマーは、熱溶融又は化学溶解のいずれかによって液相になる。そこからポリマーを円筒形状に押し出し、スピンドル上に引き込む。押出工程の間、ボア流体を使用して中空繊維形態が自重崩壊するのを防止することができる。押出ノズルと巻戻しスピンドルとの間には、水浴又は大気環境チャンバなどの細孔形成チャンバも存在し得る。
【0106】
本発明はまた、バイオリアクターにおける本発明の中空繊維の構成も企図する。繊維構成は、繊維の配置と間隔の一方又は両方を含み得る。繊維は、コンフルエントで細胞間に最小限の空隙空間を有する細胞集団の増殖を可能にするあらゆる構成で構成され得る。例えば、繊維は、正方形/長方形(行及び列)又は三角形/六角形(ハニカム)充填モードで配向することができる。したがって、一実施形態では、繊維が、端から見た場合に、行及び列の規則的なパターンを形成するように配置されることが企図される。別の実施形態では、繊維が、端から見た場合に、ハニカムパターンを形成することが企図される。別の実施形態では、本発明の繊維がランダム又は半ランダムに配置されることが企図される。別の実施形態では、中空繊維が、様々な密度の規則的又は半規則的なパターンで配置されることが企図される。
【0107】
中空繊維は、外径が約0.1mm~約3.0mm、約0.5mm~約2.0mm及び約0.8mm~約1.3mmの範囲、並びに引用された値の間のあらゆる値であり得る。1.0mmの中空繊維は、外径の周りに約0.3mm~約0.5mmの肉の成長を想定している。およそ1.1mmの端部直径は、約85本の中空繊維/cm2の肉をもたらすことができる。
【0108】
別の実施形態では、繊維が、様々な程度又は量の繊維間空間を有することが企図される。例えば、より高い密度の繊維の行がより低い密度の繊維間に散在することを使用して、天然の魚肉で一般的であるような、最終的な構造化クリーンミート製品の食感の変化を生成することができる。なおさらに、様々な直径、空隙率及び壁厚の繊維を同じ中空繊維カートリッジに使用して、天然肉の外観、食感、取り扱い性及び口当たりをシミュレートすることができることが企図される。
【0109】
あらゆる構成において、繊維は、繊維間の間隔が、十分な培地(及びそこに含有される栄養素、成長因子等)の流れが細胞塊の全てに到達することを可能にする距離であるように間隔をあけられる。これは、当然のことながら、少なくとも部分的には、培地の流速及び中空繊維壁の空隙率に関連するが、中空繊維の外壁の表面から細胞までの物理的距離に大いに関連する。換言すれば、培地及び栄養素は、細胞塊を通る限られた距離だけ移動又は拡散する。現在、酸素及び栄養素の拡散の最大値は200μmであると考えられている。Rouwkema,J.,et al.,(2009)Supply of Nutrients to Cells in Engineered Tissues,Biotechnology and Genetic Engineering Reviews,26:1,163-178。したがって、繊維間の間隔は、ある繊維の外壁から隣接する繊維の外壁まで約400μmであるべきである。培地が中空繊維と中空繊維間の間隔の両方を通って流れる培養条件では、間隔はより大きくなり得る。例えば、間隔は、ある繊維の外壁から隣接する繊維の外壁まで800μmとなり得る。これらの数値は、培養工程が拡散のみに依存する場合である。しかしながら、(例えば)ポンプの使用は、(拡散のみに頼るのではなく)中空繊維から、中空繊維間の細胞培養空間を通って、ハウジング出口への培地の流れを生じさせ、繊維をさらに離間させることを可能にする。例えば、一部の実施形態では、繊維間の最大距離が、約0.05mm(50μm)~約5.0mm;約0.1mm~約3.0mm;約0.1mm~約2.0mm;約0.1mm~約1.0mm若しくは約0.2mm~約0.5mm、又は言及される値の間のあらゆる距離である。培地が中空繊維の中心から培養物を通ってハウジング出口に流れることが好ましい実施形態であるが、培地の流れは逆方向であってもよく、又は所望であれば一方向から他方向に交互になってもよいことも企図される。培地流の方向を交互にすることは、全ての細胞が十分な培地供給を受けることを確実にするのを助けると考えられる。
【0110】
本発明のある実施形態は、ランダム性の程度が、本発明の中空繊維の距離に固有のものであることである。前の段落で与えられた数値は、所与の組立についての平均繊維間距離である。本発明のある実施形態では、スペーサ及び/又は組立技術を使用して、繊維間の距離を確保、正規化、又は制御することができる。例えば、Han G,Wang P,Chung TS.,Highly robust thin-film composite pressure retarded osmosis(PRO)hollow fiber membranes with high power densities for renewable salinity-gradient energy generation,Environ Sci Technol.2013 Jul 16;47(14):8070-7.Epub 2013 Jun 28又はChun Feng Wana,Bofan Li a,Tianshi Yang a,Tai-Shung Chung,Design and fabrication of inner-selective thin-film composite(TFC)hollow fiber modules for pressure retarded osmosis(PRO),Separation and Purification Technology,172:32-42,2017を参照されたい。
【0111】
細胞密度が高密度になりすぎるか、又は細胞塊の厚さが厚くなりすぎると、培地が中空繊維から最も離れた細胞に到達する能力が困難になる。これらの細胞に対する培地の欠如は、リアクター内の死細胞及び/又は細胞が増殖できないデッドスペースをもたらし得る。結果として、培地が中空繊維カートリッジを通ってハウジング出口に流れる必要がある。すなわち、培地の流れは、少なくともコンフルエントに達し、構造化クリーンミート製品が収穫されるまで維持される必要がある。当業者であれば、本明細書の教示に基づいて、所与の所望の構造化クリーンミート製品について、本発明の繊維の正確な間隔及び空隙率を計算することができるだろう。
【0112】
本発明の中空繊維は、本明細書で「中空繊維カートリッジ」と呼ばれるものに配置及び固定することができる。一実施形態では、中空繊維カートリッジが、中空繊維の端部を所望の配置でエンドピースに固定することによって作製されることが企図される。例えば、各繊維は、第1の端部及び第2の端部を有する。各端部は、エンドピース、すなわち第1及び第2のエンドピースに固定される。エンドピースは、例えば、不活性であり、細胞に対して非毒性であることが当技術分野で知られている樹脂又はプラスチックであり得る。中空繊維の第1又は第2の端部の少なくとも一方は、中空繊維の内部管腔が外部環境と流体連通するようにエンドピース内に配置される。したがって、エンドピース内の中空繊維のこの配置により、中空繊維の外部環境(すなわち、中空繊維の外側であるが、例えば滅菌バイオリアクターの内側)から中空繊維の内部管腔に培地を流すことができる。
【0113】
当業者は、中空繊維をモジュール又はカートリッジに組み立てる方法を理解している。これらの技術は、本発明の中空繊維に適用可能である。手短に言えば、紡糸後、中空繊維は長さに合わせて切断され、繊維の端部は、繊維端部の周りを流れて固化する樹脂に包まれる(すなわち、ポッティングされる)。時々、「ポッティング溶液」、すなわち液体樹脂が繊維の細孔に入ったり、繊維の細孔を塞いだりしないように、繊維の断面を物質(例えば、焼き石膏又は当業者に公知の他の容易に除去可能な材料)に包んで繊維の細孔を閉じることができる。例えば、Vandekar,V.D.,Manufacturing of Hollow Fiber Membrane,Int’l J Sci&Res,2015,4:9,pp.1990-1994、及びその中に引用されている参考文献を参照されたい。本発明では、本発明の構造化クリーンミートの製造に使用するために束がハウジングに挿入されたら、「ポッティングされた」束の端部の一方又は両方をトリミング又は切断して繊維の開口端部を露出させ、培地の流れを可能にする。
【0114】
なおさらに、一部の実施形態では、本発明の中空繊維カートリッジが、第1のエンドピースと第2のエンドピースとの間に所望の距離を維持するための固定装置を有することが企図される。これは、例えば、本発明の中空繊維カートリッジを例えばバイオリアクターハウジングにより容易に挿入するために必要となり得るか、又は好まれ得る。
【0115】
したがって、一実施形態では、本発明の中空繊維カートリッジが、所望の配置で配置された多数の中空繊維を含有することが企図される。本発明の中空繊維は、第1の端部及び第2の端部を有する。この配置は、中空繊維の第1の端部及び第2の端部を第1のエンドピース及び第2のエンドピースに固定することによって維持される。中空繊維は、記載のように固定されると、互いに平行、実質的に平行、又は本質的に平行に配置される。さらに、第1のエンドピース及び第2のエンドピースは、互いに平行、実質的に平行、又は本質的に平行に配置される。なおさらに、本発明の中空繊維カートリッジの中空繊維は、本発明の中空繊維カートリッジのエンドピースに対して垂直、実質的に垂直又は本質的に垂直に配置される。中空繊維カートリッジの直径及び長さは、製造される所望の構造化クリーンミート製品及びバイオリアクター構成に依存する。
【0116】
本発明のある実施形態では、本発明の中空繊維カートリッジの中空繊維が、約40~約120/cm2の平均密度、約60~約100/cm2の平均密度、約70~約90/cm2の平均密度、又は上に示される値の間であるが、具体的に繰り返されていないあらゆる値であることが企図される。
【0117】
本発明のある実施形態では、本発明の中空繊維カートリッジ内の中空繊維が、細胞の添加前に中空繊維間に空隙空間を有し、中空繊維間の空隙空間が、中空繊維カートリッジの総面積の約25%~約75%、又は中空繊維カートリッジの総面積の約40%~約60%、又は上に示される値の間であるが、具体的に繰り返されていないあらゆる値であることが企図される。
【0118】
本発明のある実施形態では、本発明の中空繊維カートリッジが、ハウジングに取り外し可能に挿入されるように設計されることが企図される。すなわち、カートリッジは、本発明の構造化クリーンミート製品のあらゆるさらなる所望の処理のために、製造運転の開始時にハウジングに挿入され、製造運転の終了時に取り出される、すなわち収穫され得る。構造化クリーンミート製品の収穫後、本発明の新たな中空繊維カートリッジをハウジングに挿入し、工程を繰り返すことができる。これに関して、本発明の中空ファイバカートリッジ用のハウジングは、バイオリアクター又はバイオリアクター系の一部である。
【0119】
リアクターの構成。本発明は、培養物及び除去される廃棄物を通して十分な培地流を維持することができる限り、いかなる特定のリアクター構成にもリアクター系構成にも限定されない。中空繊維リアクターは、典型的には管状形状であるが、楕円形、フラット(シート状)、長方形、又はあらゆる他の形状であってもよい。好ましい実施形態では、リアクターが、本発明の中空繊維を含む挿入可能/除去可能なインサートを含む。コンフルエントな細胞増殖(本明細書で定義される)に達した後、インサートを除去し、インサート端部の除去及びあらゆるさらなる所望の処理によって製品を完成させることができる。さらなる処理は、例えば、スライス、表面テクスチャ加工、フレーバー添加等の形態をとることができる。又は、収穫及び装置の解体の前にさらなる肉の強化を行うことができる。例えば、培地を中空繊維装置から流しだすことができ、次いで、添加剤が繊維の中又は周囲に直接送り込まれるだろう。
【0120】
適切なリアクター系の非限定的な例。最も適切なタイプのリアクター系は供給バッチ系であるが、あらゆる利用可能なリアクターが本発明の中空繊維及び中空繊維カートリッジで使用するのに適していることが企図される。例えば、MOBIUS(R)系(MilliporeSigma、マサチューセッツ州ベッドフォード)は、本発明で使用するために容易に変換することができる商用系の一例である。構造化クリーンミート製品が製造されるバイオリアクター(すなわち、本発明の中空繊維を含むリアクター)に、別のバイオリアクターで増殖させた細胞を播種してもよい。中空繊維装置を播種しているバイオリアクター(細胞増殖(増殖)及び細胞拡大に適したリアクター)は、既存の市販のリアクター、例えば撹拌タンク又は波型リアクターであり得る。増殖/拡大バイオリアクターは、例えば撹拌タンク又は波型リアクター(当業者に公知である)であり、懸濁液、弱凝集体バイオマス、マイクロキャリア培養物、又は当業者に公知の他の適切なリアクターであることが企図される。製造バイオリアクター(すなわち、本発明の中空繊維を含むリアクター)は、例えば、単回使用、複数回使用、半連続又は連続であり得ることが企図される。本発明はさらに、本発明の中空繊維を含む複数のリアクターのマニホールドを企図する。
【0121】
したがって、本発明の例示的なリアクター系が、1つ以上の本発明の中空繊維カートリッジ、前記中空ファイバカートリッジを保持するように寸法決めされたハウジング;前記ハウジング内の1つ以上の入口に流体接続された培地供給源;前記ハウジング内の1つ以上の培地出口;並びに前記培地入口及び/又は出口を通して前記中空繊維カートリッジに培地を供給する、及び/又は前記中空繊維カートリッジから廃棄培地を除去するための1つ以上のポンプを備えることが企図される。なおさらに、入口は、中空繊維の内部に流体接続されている。なおさらにまた、中空繊維バイオリアクターは、自動制御装置又は自動制御系を備えてもよい。
【0122】
本発明はまた、肉製品を製造する方法であって、例えば100,000個の細胞~100,000,000個の細胞(105~108)の密度で筋細胞、筋細胞様細胞又は1つ以上の筋細胞様特性を発現する設計された細胞の1つ以上を、本発明の中空繊維リアクター内の中空繊維間の空隙空間に播種する工程(Radisic,et al.,Biotechnol Bioeng,2003 May 20:82(4):403-414)、並びに約80%~約99%の培養密度、85%~約99%の培養密度、約90%~約99%の培養密度、約95%~約99%の培養密度、約98%~約99%の培養密度又は約100%の培養密度(又は列挙されたパーセント値の間のあらゆる値)を達成するまで細胞を培養し、前記第1の保持装置及び前記第2の保持装置をそれぞれ前記中空繊維の第1の端部及び第2の端部から除去する工程を含む方法を企図する。
【0123】
播種後、中空繊維カートリッジは、中空繊維の第1の端部及び第2の端部の一方又は両方を通して中空繊維の内部へ、中空繊維の壁を通して前記細胞が播種される中空繊維間の空隙空間へ及び前記出口の1つ以上を通して前記ハウジングへ、細胞に供給される培地を有する。別の実施形態では、培地が装置の入口と出口の両方から繊維間を流れることもできることが企図される。例えば、1つの流体経路は繊維壁を通り、第2の流体経路は繊維の周りにある。装置が、複数の入口及び出口を有することができることが企図される。細胞がコンフルエントに達した後、あらゆる残留培地及び廃棄物を洗い流し、中空繊維の内部及び/又は細胞間のあらゆる残りの空隙空間に脂肪、フレーバー、着色料、塩及び保存剤のうちの1つ以上を注入する。
【0124】
本発明の構造化クリーンミート製品への添加に適した脂肪としては、それだけに限らないが、飽和、モノ不飽和、多価不飽和脂肪、例えばトウモロコシ油、キャノーラ油、ヒマワリ油、及びベニバナ油、オリーブ油、ピーナッツ油、大豆油、亜麻仁油、ゴマ油、キャノーラ油、アボカド油、種子油、ナッツ油、ベニバナ油及びヒマワリ油、パーム油、ヤシ油、オメガ-3、魚油、ラード、バター、加工動物脂肪、脂肪組織、若しくは細胞農業由来脂肪、又はその組み合わせが挙げられる。オレオレジンなどの合成脂肪も使用することができる。実際、食品医薬品局(FDA)によって認識されたあらゆる脂肪が、本発明における使用に適しており、本発明の構造化クリーンミート製品における使用に企図される。FDA食品添加物リストには、天然物質及び抽出物(NAT)、栄養素(NUTR)、精油及び/又はオレオレジン(無溶媒)(ESO)がある。
【0125】
本発明の構造化クリーンミート製品に使用するのに適したフレーバーとしては、それだけに限らないが、FDAの食品添加物リストに記載されているあらゆるフレーバーが挙げられる。これらは、天然香味料(FLAV)、精油及び/又はオレオレジン(無溶媒)(ESO)、酵素(ENZ)、天然物質及び抽出物(NAT)、非栄養甘味料(NNS)、栄養甘味料(NUTRS)、スパイス、他の天然調味料及び香味料(SP)、合成フレーバー(SY/FL)、燻蒸剤(FUM)、アスパルテーム、スクラロース、サッカリン及びアセスルファムカリウムを含む人工甘味料、及び酵母抽出物、又はその組み合わせとして記録され得、本発明の構造化クリーンミート製品における使用に企図される。
【0126】
本発明の構造化クリーンミート製品に使用するのに適した食感強化剤としては、それだけに限らないが、精製植物材料、グアーガム、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、ベータグルカン、大豆、小麦、トウモロコシ若しくはイネ単離物及びビート繊維、エンドウ繊維、竹繊維、植物由来繊維、植物由来グルテン、カラギーナン、キサンタンガム、レシチン、ペクチン、寒天、アルギネート及び他の天然多糖類、穀物殻、クエン酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム及び塩、又はその任意の組み合わせが挙げられ、本発明の構造化クリーンミート製品における使用に企図される。これらは、可溶化剤及び分散剤(SDA)並びに天然物質及び抽出物(NAT)としてFDAの食品添加物リストに記録され得る。
【0127】
本発明の構造化クリーンミート製品に使用するのに適した栄養添加物としては、それだけに限らないが、ビタミン、微量元素、生物活性化合物、内因性抗酸化剤、例えばA、B錯体、C、D、Eビタミン、亜鉛、チアミン、リボフラビン、セレン、鉄、ナイアシン、カリウム、リン、オメガ-3、オメガ-6、脂肪酸、マグネシウム、タンパク質及びタンパク質抽出物、アミノ酸塩、クレアチン、タウリン、カルニチン、カルノシン、ユビキノン、グルタチオン、コリン、グルタチオン、リポ酸、スペルミン、アンセリン、リノール酸、パントテン酸、コレステロール、レチノール、葉酸、食物繊維、アミノ酸、並びにその組み合わせが挙げられ、本発明の構造化クリーンミート製品における使用に企図される。一般に安全とみなされている(GRAS)か、又はFDAによって承認されているあらゆる食品添加物が、本発明の構造化クリーンミート製品における使用に企図され、本明細書に組み込まれる。例えば、www.fda.gov/food/food-additives-petitions/food-additive-status-listを参照されたい。
【0128】
一般に安全とみなされている(GRAS)か、又はFDAによって承認されているあらゆる天然又は人工の食品着色料が、本発明の構造化クリーンミート製品における使用に企図される。例えば、example:www.fda.gov/industry/color-additive-inventories/color-additive-status-listを参照されたい。
【0129】
予言的細胞型。本発明の中空繊維は、インビトロ又は実験室で成長させられる肉及び肉製品、すなわち本発明の構造化クリーンミートの製造に適した特定の細胞型を増殖させるために使用されるように設計される。したがって、多くの異なる型の細胞が中空繊維上(及び所望であれば本発明の中空繊維カートリッジ内)で増殖することができるが、繊維を、筋肉細胞(すなわち、筋細胞)、又は筋肉細胞の特性を有する細胞、又は筋肉細胞の特性を有するように設計された細胞(本明細書ではまとめて筋肉細胞又は筋細胞と呼ばれる)をコンフルエントまで増殖させ、筋肉の天然構造(すなわち、肉)を模倣するために使用されるように開発した。好ましくは、筋肉は骨格筋である。すなわち、本発明の中空繊維は、筋細胞を増殖させて筋線維又は筋原線維を得るのに適するように本発明者らによって設計される。さらに、本発明の中空繊維上及び本発明の中空繊維を含むリアクター内で、他の型の細胞を増殖させることができる。これらの細胞は、独立して、又は筋肉細胞と組み合わせて増殖させることができる。例えば、脂肪細胞又は脂肪細胞の特性を有するか若しくは脂肪細胞の特性を有するように設計された細胞(本明細書ではまとめて脂肪細胞と呼ばれる)を筋肉細胞と共に培養して、天然の筋肉又は肉に似た最終製品を得ることができる。本発明の中空繊維は、本発明の筋肉細胞と共培養される他の細胞、例えば線維芽細胞、線維芽細胞の特性を有する細胞、又は線維芽細胞の特性を有するように設計された細胞を含むのにも適している。
【0130】
特に、筋肉細胞と脂肪細胞の共培養に関して、筋肉細胞対脂肪細胞の比は、99:1、95:5、92:8、90:10、88:12、85:15、82:18、80:20、75:25、又は100:0~75:25(両端を含む)のあらゆる比であり得る。
【0131】
本発明での使用に適した細胞は、現在食物が得られているあらゆる動物から得ることができるか、又は誘導することができる。顕著な例は、ウシ、ブタ、ヒツジ、魚(例えば、マグロ、サケ、タラ、ハドック、サメ等などの魚)、甲殻類、鳥類(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル等)である。養殖ではなく伝統的に捕獲されている動物(例えば、シカ、エルク、ムース、クマ、ウサギ、ウズラ、野生のシチメンチョウ等)又はその組み合わせなど、より外来性の細胞源を使用することもできる。
【0132】
本発明で使用される細胞は、所望の特性を有する分化細胞の生成に適したあらゆる方法によって誘導され得る。例えば、分化した筋細胞様特性、脂肪細胞様特性等を有する細胞を誘導するのに適したあらゆる手順。筋細胞のこのような特性としては、例えば、長い管状細胞の外観を有し、ミオシン及びアクチンの大きな相補物を有することが挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。筋細胞はまた、他の筋細胞と融合して、筋肉、すなわち肉に、その特有の食感を与えるのに役立つ筋肉の単位である筋原線維を形成する能力を有する。脂肪細胞(当技術分野では脂質細胞及び脂肪細胞とも呼ばれる)のこのような特性としては、例えば、細胞の体積の90%以上も占め得る大きな脂質胞を有することが挙げられるが、必ずしもこれに限定されない。本発明の中空繊維は、少なくとも部分的に、骨格筋に典型的に見られる結合組織(当技術分野で「筋膜」と呼ばれる)の置換を提供する。
【0133】
本発明において有用な細胞としては、それだけに限らないが、間葉系幹細胞又は人工多能性幹細胞(iPSC)から誘導される細胞が挙げられる。iPSCは、多数の細胞型を誘導することができるそれらの多能性状態に戻るように操作された細胞である。換言すれば、iPSCは、体細胞から直接作製することができる多能性幹細胞である。この技術は2006年に最初に報告され(Takahashi K,Yamanaka S,25 August 2006,“Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors”Cell,126(4):663-76)、その時点から進歩し(例えば、Li,et al.,30 April 2014,“Generation of pluripotent stem cells via protein transduction”Int.J.Dev.Biol.,58:21-27参照)、筋肉細胞の作製を含み(例えば、Rao,et al.,9 January 2018,“Engineering human pluripotent stem cells into a functional skeletal muscle tissue”Nat Commun.,9(1):1-12参照)、当業者に周知である。
【0134】
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0135】
本開示の要素又はその好ましい実施形態を導入する場合、「a」、「an」、「the」、及び「前記(said)」という冠詞は、1つ以上の要素があることを意味することを意図している。「含む(comprising)」、「含む(including)」、及び「有する(having)」という用語は、包括的であることを意図しており、列挙された要素以外の追加の要素が存在してもよいことを意味する。
【0136】
「含む(comprising)」、「から本質的になる(consisting essentially of)」及び「からなる(consisting of)」という移行句は、MPEP 2111.03(米国特許審査便覧第9版、改訂2019年10月;米国特許商標庁)に示される意味を有する。「から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句を使用するあらゆる請求項は、本発明の必須の要素のみを列挙していると理解され、そこに従属する請求項に列挙されるあらゆる他の要素は、それらが従属する請求項に列挙される発明に必須ではないと理解される。
【0137】
本明細書に列挙される全ての範囲は、全ての整数、分数及び小数を含む、引用された範囲(両端を含む)内の全ての値を含む。
【実施例】
【0138】
一般的な材料及び方法:
全ての試薬は市販されており、特に明記しない限り、さらに精製することなく使用した。ゼイン、水酸化ナトリウム、尿素、ヒドロキシプロピルセルロース、k-カラギーナン、酢酸ナトリウム、トリポリホスフェート(TPP)、(塩酸37%、抗生物質抗真菌剤溶液(100倍)及び小麦グルテン、ウシ血清由来のフィブロネクチンは、MilliporeSigma(マサチューセッツ州バーリントン)から購入した。ウシコラーゲンはCorning(ニューヨーク州コーニング)から購入し;大豆タンパク質単離物(SPI)はBulkSupplements(ネバダ州ヘンダーソン)から購入し;キトサン(キノコ由来)はModernist Panty(米国メイン州エリオット)から購入し;エンドウ及びピーナッツバタータンパク質単離物はNorCal Organic(カリフォルニア州クレセントシティ)から購入し;リョクトウ、ソラマメ及びヒヨコマメタンパク質単離物はGreen Boy(カリフォルニア州レドンドビーチ)から購入し;アガロースはHispanagar(スペインブルゴス)から購入し;玄米タンパク質単離物はZen Principle(ネバダ州インクラインビレッジ)から購入し;アルギン酸ナトリウム及びMooGloo(商標)RMトランスグルタミナーゼはModernist Pantry(メイン州エリオット)から購入した。
【0139】
細胞培地安定性試験:
膜を1×3.5インチの正方形試料に切断し、抗生物質抗真菌剤溶液(2倍)(当業者に公知)を含有する細胞培地中、37℃で実験に応じて最大21日間又は30日間インキュベートした。各膜タイプについて、各時点でインキュベーション中に3つの試料を機械的に試験した。
【0140】
粘度:
S64スピンドルを使用してBrookfield(マサチューセッツ州ミドルボロ)Viscometer DV-II+Proで調製したドープ溶液の粘度測定を行った。
【0141】
機械的試験:
Zwick Roell(ジョージア州ケネソー)TestControl II装置を使用して1×3.5又は0.5×3.5インチ正方形試料で膜引張試験を実施し、Zwick Roell testXpert II V3.71ソフトウェアを使用してデータを分析した。
【0142】
凍結乾燥:
試料を、シンチレーションバイアル内において、液体窒素下、水中で1時間にわたって凍結させた。その後、Labconco(ミズーリ州カンザスシティ)凍結乾燥機2.5 L-80℃を使用して凍結試料を乾燥させた。
【0143】
走査型電子顕微鏡法:
試料を3nmのイリジウムでコーティングしスタブにマウントし、ThermoScientific(マサチューセッツ州ウォルサム)Quanta 200F又はJOEL(マサチューセッツ州ピーボディ)JCM 6000走査型電子顕微鏡(日本東京)を使用して画像化する。
【0144】
統計分析:
エラーバーを平均の標準誤差として計算する。
【0145】
レオロジー:
円錐固定具を使用して、TA Aresレオメーター(デラウェア州ニューキャッスル)で、配合されたドープ及び膜のレオロジー分析を行った。
【0146】
[実施例1]-食用中空繊維を製造する方法
本発明の膜を製造するための例示的な製造方法の概略図については、
図1及び
図2を参照されたい。
【0147】
1.ドープ溶液の作製
a.ドープ溶液の作製は、多段階混合工程を必要とする。
【0148】
i.まず、タンパク質溶液を作製した。これには、14重量%の植物タンパク質濃縮物を弱アルカリ性緩衝液に溶解することが必要であった。混合物を20,000rpmで数分間均質化した。具体的には、微粉化植物タンパク質粉末を使用した。
【0149】
ii.第2の溶液は、タンパク質混合物と同じ緩衝液に溶解した2%アルギネート、2%ヒドロキシプロピルセルロースを含む担体ポリマーを含有する。これをハイブリダイザーによって35℃で48時間溶解した。
【0150】
iii.1:1比で、タンパク質溶液と担体ポリマー溶液を混合した。混合を、オーバーヘッド撹拌装置を用いて、引き続いて35℃のハイブリダイザー中で12時間によって完了した。
【0151】
iv.最終混合物は、2%の多糖類及び7%の植物タンパク質の結果として生じる濃度を有し、ドープ溶液と呼ばれる。
【0152】
b.15g/lの塩化カルシウムを0~1g/lのトランスグルタミナーゼを含む逆浸透(RO)水に溶解することによってボア溶液の作製を完了する。
【0153】
2.延伸及び固化
a.加圧容器及びギアポンプを使用して、ドープ溶液を同軸オリフィスを通して押し込む。紡糸口金と浴との間には特定の距離があり、これはドープ溶液のレオロジー特性に基づいて調整され得る。
【0154】
b.固化浴(本明細書では形成浴とも呼ばれる)も15g/lの塩化カルシウムであり、アルギネートをイオン架橋することによって繊維の3D構造に固定される。
【0155】
3.架橋工程
a.この用途では、アルギネートのイオン架橋が、細胞培養培地中のナトリウム塩によって作られる一価結合による二価結合の解離に十分に機能しない可能性がある。酵素トランスグルタミナーゼ架橋及びアルギネート-カルシウム架橋を超える架橋が望まれた。
【0156】
b.次いで、繊維を100℃近くの熱に曝露して、繊維内のタンパク質を熱架橋した。概念実証は、121℃で60分間のオートクレーブを介して実証された。
【0157】
c.代替的又は追加的に、繊維をおよそ50kGy(キログレイ)の電子ビーム又はガンマ線照射に曝露して、混合物のセルロース部分を物理的に架橋した、すなわち、タンパク質を架橋した。本明細書の教示を利用して当業者によって決定され得るように、最終線量は、電子ビームを通過する材料の滞留時間及び材料のグレードに応じて、およそ5kGy~およそ100kGyとなり得る。
【0158】
4.コーティング工程
a.繊維をプラズマチャンバに連続的に通し、次いで、15%グリコール/ソルビトール(1:1)混合物の水中溶液(用途に応じて、グリコール/ソルビトールの比は、1:14~14:1の範囲であり得る)に浸した。この工程は、可塑剤を介した中空繊維の多孔質構造の崩壊を最小限に抑えるように設計された。
【0159】
図3A及び
図3Bは、実施例1の方法(方法)で作製した中空繊維膜の顕微鏡写真を示している。
図4A~
図4Cは、本実施例の方法で作製した中空繊維膜の走査型電子顕微鏡写真を示している。
図5Aは、この実施例の方法で作製された1本の中空繊維の長さを示している。
図5Bは、中空繊維の1つの引張強度の実証を提供する。
[実施例2]-二次架橋工程のない繊維の予言的実施例
a.実施例1で上に定義されるように作製した中空繊維ドープ溶液を使用する。この実施例では、3つの条件を対象とする。全ての条件は、同じドープ溶液から形成する。このドープ溶液は、1部のヒドロキシプロピルセルロース、1部のアルギン酸ナトリウム塩(Sigma Aldrich、ミズーリ州セントルイス)及び7部のエンドウタンパク質単離物である。
【0160】
b.第1の条件では、繊維を15g/lの塩化カルシウム浴中に直接押し出し、直ちに固化させる。浴中で10分後、繊維をMilliQ(商標)水(MilliporeSigma、マサチューセッツ州ベッドフォード)ですすぎ、次いで、DMEM F12培地に72時間浸す。細胞培養培地から繊維を取り出すと、繊維は取り扱いできない。繊維はもはや溶液の外側で自重を支えることができない。イオン架橋部位の大部分は解離している。
【0161】
c.第2の条件では、繊維を15g/lの塩化カルシウム浴中に直接押し出し、直ちに固化させる。浴中で10分後、繊維をMilliQ(商標)水ですすぎ、次いで、121℃で30分間オートクレーブ処理する。次いで、室温に冷却したら、繊維をDMEM/F12(ダルベッコ改変イーグル培地/栄養混合物F-12;ThermoFisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)培地に72時間浸す。細胞培養培地から繊維を取り出すと、繊維はある程度の完全性を喪失してしまう。繊維は取り出すことができるが、およそ5インチの繊維自体を自己支持することしかできない。イオン架橋部位の大部分は解離しているが、熱架橋したタンパク質は依然として繊維の完全性を高める役割を果たす。
【0162】
d.第3の条件では、繊維を15g/lの塩化カルシウム浴中に直接押し出し、直ちに固化させる。浴中で10分後、繊維をMilliQ(商標)水ですすぎ、次いで、ベンチトップ電子ビーム改質装置内で50kGyのシングルパスに曝露し、DMEM/F12培地に72時間浸す。細胞培養培地から繊維を取り出すと、繊維はそれらの完全性を維持し、それらの自重を支持することができる。イオン架橋部位は細胞培養培地中で解離しやすく、アルギネートとセルロースの両方の骨格のいくらかの鎖切断が存在し得るが、タンパク質ポリマーネットワークの物理的架橋は培地中での解離に耐性である。
【0163】
これらの実施例は、熱及び/又は照射によるタンパク質の架橋が、本発明の中空繊維の完全性の向上をもたらし、例えば細胞培養装置又は濾過装置での使用に適したものにすることを示している。
[実施例3]-ドープ溶液の調製
1.1.タンパク質溶液
1.1.2.尿素に基づく方法:
ゼイン:57gのゼイン粉末を300mLのMilliQ(商標)水に0℃及び機械的撹拌下で添加することによって、ゼイン溶液(15% w/v)を調製した。30分後、11.25gの尿素を懸濁液に添加し、引き続いて83mLのNaOH溶液(0.4N)を添加した(
図12)。その後、反応物を室温(23℃)まで加温し、さらに使用する前に18時間撹拌した。
【0164】
ゼイン:72gのゼイン粉末を300mLのMilliQ(商標)水に0℃及び機械的撹拌下で添加することによって、ゼイン溶液(19% w/v)を調製した。30分後、14.30gの尿素を懸濁液に添加し、引き続いて83mLのNaOH溶液(0.6N)を添加した(
図12)。その後、反応物を室温(23℃)まで加温し、さらに使用する前に18時間撹拌した。
【0165】
ゼイン-ヒドロキシプロピルセルロースブレンド:1.75gのHPCをMilliQ(商標)水に添加し、18時間にわたって機械的撹拌によって混合することによって、0.5% w/vのヒドロキシプロピルセルロース(HPC)溶液(0.5% w/v)を調製した。その後、溶液を、氷浴を使用して0℃に冷却し、ゼイン(72g)をそこに添加した。懸濁液を0℃でさらに20分間撹拌させた後、14.30gの尿素及び83mLのNaOH溶液(0.6N)を添加した。反応物を室温(23℃)まで加温し、さらに使用する前にさらに18時間撹拌した。
【0166】
大豆タンパク質単離物:機械的撹拌下で76gのSPI粉末を300mLのMilliQ(商標)水に添加することによって、大豆タンパク質単離物(SPI)溶液(20% w/v)を調製した。30分後、11.25gの尿素を懸濁液に添加し、引き続いて83mLのNaOH溶液(0.4N)を添加した。その後、反応物をさらに使用する前に18時間撹拌させた。
【0167】
エンドウタンパク質単離物:機械的撹拌下で76gのPPI粉末を300mLのMilliQ(商標)水に添加することによって、大豆タンパク質単離物(SPI)溶液(20% w/v)を調製した。30分後、11.25gの尿素を懸濁液に添加し、引き続いて83mLのNaOH溶液(0.4N)を添加した。その後、反応物をさらに使用する前に18時間撹拌させた。
【0168】
リョクトウ:機械的撹拌下で57gのPPI粉末を300mLのMilliQ(商標)水に添加することによって、リョクトウ溶液(15% w/v)を調製した。30分後、11.25gの尿素を懸濁液に添加し、引き続いて83mLのNaOH溶液(0.4N)を添加した。その後、反応物をさらに使用する前に18時間撹拌させた。
図6を参照されたい。
【0169】
小麦グルテン:機械的撹拌下で56gのグルテン粉末を300mLのMilliQ(商標)水に添加することによって、グルテン溶液(15% w/v)を調製した。30分後、11.25gの尿素を懸濁液に添加し、引き続いて83mLのNaOH溶液(0.4N)を添加した。その後、反応物をさらに使用する前に16時間撹拌させた。
【0170】
1.1.3.ハイブリダイゼーションに基づく方法:
リョクトウアルギネートブレンド:
45グラムのリョクトウタンパク質単離物を252グラムの水中に量り取り、25000rpmで5分間均質化することによって、リョクトウタンパク質単離物(Green Boy)及びアルギネート(]Modernist Pantry)ブレンドを配合する。そこから3mLの10N NaOH(及び任意選択の6gの尿素)を添加し、それをさらに5分間均質化する。そこから、ゲル溶液を40℃のホモジナイザーに一晩入れる。
【0171】
1.2.アルギネート-タンパク質ブレンド溶液
代替のリョクトウ及びアルギネートドープ配合物:
したがって、タンパク質単離物及びアルギネートの複数の可能な配合物を見出す配合量決定試験(ranging study)を行った。1つの例示的な配合及び混合方法は以下の重量で表される:0.2%のアルギネート、15%のリョクトウタンパク質単離物、1%の10N NaOH、2%の尿素(任意選択)、81.8%のMilliQ(商標)水。
【0172】
第1の工程は、タンパク質単離物を溶液中で濡らし(すなわち、懸濁し)、分散させることである。タンパク質単離物を秤量し、MilliQ(商標)水を添加する。ホモジナイザー(IKA、ドイツシュタウフェン)などの高剪断ミキサーを、5~10分間、又はスラリーが流体様挙動に戻るまで、25,000rpmに設定する。分散したら、NaOH(及び所望であれば尿素)をタンパク質及び水に添加し、次いで、粘性ゲルが形成されるまでさらに5分間溶液を均質化する。そこから、プロペラを取り付けたオーバーヘッドミキサーを100~500rpmに設定して、溶解したタンパク質を撹拌する。アルギネートを混合溶液に15分間にわたってゆっくり添加する。アルギネートが混合物全体に均質に分散し、部分的に溶解したら、溶液をジャーに入れ、蓋をし、ハイブリダイザーに24時間入れる。
図7を参照されたい。
【0173】
i.1.2.1.尿素に基づく方法
ゼイン-アルギネート:尿素法に従って調製したゼイン溶液(15% w/v)を様々な濃度(2% w/v、4% w/v、6% w/v及び8% w/v)の予め作製したアルギネート水溶液と機械的撹拌下で20分間混合することによって、様々なバイオポリマー比のゼイン-アルギネートブレンドを調製した。
【0174】
SPI-アルギネート:尿素法に従って調製したSPI溶液(20% w/v)を様々な濃度(2% w/v、4% w/v、6% w/v及び8% w/v)の予め作製したアルギネート水溶液と機械的撹拌下で20分間混合することによって、様々なバイオポリマー比のSPI-アルギネートブレンドを調製した。
【0175】
PPI-アルギネート:尿素法に従って調製したPPI溶液(20% w/v)を様々な濃度(2% w/v、4% w/v、6% w/v及び8% w/v)の予め作製したアルギネート水溶液と機械的撹拌下で20分間混合することによって、様々なバイオポリマー比のSPI-アルギネートブレンドを調製した。
【0176】
リョクトウ-アルギネート:尿素法に従って調製したリョクトウ溶液(15% w/v)を様々な濃度(2% w/v、4% w/v、6% w/v及び8% w/v)の予め作製したアルギネート水溶液と機械的撹拌下で20分間混合することによって、様々なバイオポリマー比のリョクトウ-アルギネートブレンドを調製した。
【0177】
グルテン-アルギネート:尿素法に従って調製したグルテン溶液(15% w/v)を様々な濃度(2% w/v、4% w/v、6% w/v及び8% w/v)の予め作製したアルギネート水溶液と機械的撹拌下で1時間混合することによって、様々なバイオポリマー比のグルテン-アルギネートブレンドを調製した。
【0178】
1.3.タンパク質-アガロースブレンド溶液
1.3.1.尿素に基づく方法
ゼイン-アガロース:尿素法に従って調製したゼイン溶液(15% w/v)を様々な濃度(1% w/v、2% w/v及び4% w/v)の予め作製したアガロース水溶液と混合することによって、様々なバイオポリマー比のゼイン-アガロースブレンドを調製した。それぞれの量のアガロースを60℃で300mLのMilliQ(商標)水に添加し、溶解が完了するまで2時間撹拌させることによって、アガロース溶液を調製した。均質なブレンドを得て、キャスティング前のアガロースの固化を回避するために、新たに調製したアガロース溶液を40℃で予熱したゼイン溶液に添加し、20分間撹拌させた。溶液は、キャスティング前に40℃に保った。
【0179】
ゼイン-アガロースで調査したが、配合結果及び方法は、他の植物ベースのタンパク質と同様の結果を有すると予想される。アガロース及びトウモロコシタンパク質(ゼイン)の配合は、2つのポリマーが共通の溶媒も溶解温度も利用しないので、些細なタスクではない。ゼインを40℃超で安定化することと、必要なエタノールの必要なパーセントを約20%未満のレベルに低下させることの組み合わせが同時に達成される。配合物についての実験のMinitab(ペンシルバニア州州立大学)設計を使用して、0.04 N水酸化ナトリウム、尿素及びエタノールを含む溶媒系をパーセントw/vで調べる。
【0180】
エタノール、尿素、及び0.04N NaOHの組み合わせがゼインを溶解できることが分かった。驚くべきことに、ゼインは、0.04N NaOH及び尿素の存在下で10%のエタノール含有量で溶解することができた。シンプレックス設計プロットを
図8に示す。しかしながら、エタノールを含まないゼインは、約40℃未満の温度で安定ではなかった。この所見は、温度掃引レオロジーデータによって裏付けられる。
図9を参照されたい。
【0181】
さらに、約5%の尿素、19%のエタノール及び76%の0.04N NaOHから構成されるこの溶媒系は、アガロースのゲル化特性を低下させることが分かった。
図10を参照されたい。
【0182】
さらに、この溶媒系においてアガロースとゼインを一緒に混合すると、両方のポリマーを1つの系内で一緒に混合することの実現可能性を示すレオロジー特性が見られる(
図11参照)。
【0183】
リョクトウ-アガロース:尿素法に従って調製したリョクトウ溶液(15% w/v)と様々な濃度(1% w/v、2% w/v及び4% w/v)の予め作製したアガロース水溶液を混合することによって、様々なバイオポリマー比のリョクトウ-アガロースブレンドを調製した。それぞれの量のアガロースを60℃で300mLのMilliQ(商標)水に添加し、完全に溶解するまで2時間撹拌させることによって、アガロース溶液を調製した。均質なブレンドを得て、キャスティング前のアガロースの固化を回避するために、新たに調製したアガロース溶液を40℃で予熱したリョクトウ溶液に添加し、20分間撹拌させた。溶液は、キャスティング前に40℃に保った。
【0184】
グルテン-アガロース:尿素法に従って調製したグルテン溶液(15% w/v)と様々な濃度(1% w/v、2% w/v及び4% w/v)の予め作製したアガロース水溶液を混合することによって、様々なバイオポリマー比のグルテン-アガロースブレンドを調製した。それぞれの量のアガロースを60℃で300mLのMilliQ(商標)水に添加し、完全に溶解するまで2時間撹拌させることによって、アガロース溶液を調製した。均質なブレンドを得て、キャスティング前のアガロースの固化を回避するために、新たに調製したアガロース溶液を40℃で予熱したゼイン溶液に添加し、20分間撹拌させた。溶液は、キャスティング前に40℃に保った。
【0185】
1.4 植物ベースのキトサン
キノコベースのキトサン:Modernist Pantryから購入した。様々な濃度のキトサン(5% w/v及び7% w/v)を、35℃のハイブリダイザーを介して5%酢酸に一晩溶解した。10g/Lのトリフェニルホスフェートを含有する形成浴を固化/架橋に使用した。キトサン膜を処理前に一晩架橋させた。
【0186】
1.5 K-カラギーナン
K-カラギーナン:K-カラギーナンを、様々な濃度(2% w/v、4% w/v及び10% w/v)でMilliQ(商標)水中において90℃に加熱した。高温で、溶液を予熱したプレート上にキャストし、15g/Lの塩化カルシウムを含有する形成浴に浸した。別のシナリオでは、K-カラギーナンを溶液中で塩化カルシウムと共に加熱した。冷却すると、溶液は膜に固化した。
【0187】
b.膜の調製/形成
524ミクロンギャップのバーを装備した自動フィルムキャスター(BYK Drive 6フィルムキャスター、マサチューセッツ州レミンスター)又は600ミクロンギャップのハンドキャスターのいずれかを使用して膜をキャスティングした。どちらの場合も、各膜に対して40mLのドープ溶液を使用し、約25×15cm2の面積の膜寸法に導いた。膜配合に応じて、異なる凝固条件を適用した。
【0188】
中空繊維の場合、ドープ溶液を、Rame-hart instrument,Co.(ニュージャージー州スッカサナ)から購入した同軸ニードルを通して押し出した。又は、特注の実験室規模の中空繊維紡糸機を使用し、はるかに高い粘度(最大100,000センチポアズ:cP)の処理を可能にした。
【0189】
2.1.タンパク質膜
尿素法又はハイブリダイザー法のいずれによって得られたかにかかわらず、フラットシートタンパク質膜を酢酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH4.5)中にキャストし(
図12A及び
図12B参照)、同緩衝液中で10分間~最大3時間平衡化させた。その後、膜をHEPES(0.1M、pH7.4)で洗浄し、70/30% w/vのエタノール/水溶液中で保存した。
【0190】
これとは異なり、ゼイン膜は、2倍の抗生物質抗真菌剤溶液を含有するHEPES緩衝液(0.1M、pH7.4)中で保存した。
【0191】
2.2.タンパク質-アルギネートブレンド膜
尿素法又はハイブリダイザー法のいずれによって得られたかにかかわらず、フラットシートタンパク質-アルギネートブレンド膜を、CaCl2(15g/L)を含有する酢酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH4.5)中にキャストし、同緩衝液中で10分間~最大3時間平衡化させた。その後、膜を、CaCl2(15g/L)を含有するHEPES(0.1M、pH7.4)で洗浄し、70/30% w/vのエタノール/水溶液中で保存した。
【0192】
ドクターブレード技術を使用して(当業者に公知であるように)、アルギネートとリョクトウタンパク質の混合物をPTFEシート上にコーティングする。次いで、シートを、15g/Lの塩化カルシウムを含有するpH4.5の酢酸緩衝液に入れる。pH11からpH4.5へのシフトにより、タンパク質の凝固が引き起こされ、塩化カルシウムがアルギネートを架橋した。ベンチ上で、膜を緩衝液中に10分間置く。膜が形成され、白色(灰白色)になったら、膜を取り出し、振盪する99.5%グリセリン浴に10分間入れる。
【0193】
2.3.タンパク質-アガロースブレンド膜
尿素法又はハイブリダイザー法のいずれによって得られたかにかかわらず、タンパク質-アガロースブレンド膜を、40℃に保った熱溶液から酢酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH4.5)中にキャストし、同緩衝液中で10分間~最大3時間平衡化させた。その後、膜を、CaCl2(15g/L)を含有するHEPES(0.1M、pH7.4)で洗浄し、70/30% w/vのエタノール/水溶液中で保存した。
【0194】
3.膜架橋:
3.1 トランスグルタミナーゼ(TG)で架橋されたタンパク質-アルギネート
ゼイン-アルギネート-TG:上記のように調製したゼイン-アルギネート膜を、HEPES(0.1M、pH7.4)及びCaCl2(15g/L)を含有する、Modernist Pantry(メイン州エリオット)から購入したMooGloo(商標)溶液(TG)(25% w/v)中、4℃で24時間インキュベートした。125mLのMooGloo(商標)溶液を各膜に使用した。その後、各膜を、CaCl2(15g/L)を含有する250mLのHEPES(0.1M、pH7.4)で2回洗浄した。最後に、膜を、CaCl2(15g/L)並びに2倍濃縮ペニシリン-ストレプトアビジン及び抗真菌剤を含有するHEPES(0.1M、pH7.4)中で保存した。
【0195】
PPI-アルギネート-TG:上記のように調製したPPI-アルギネート膜を、HEPES(0.1M、pH7.4)及びCaCl2(15g/L)を含有するMooGloo(商標)(TG)溶液(25% w/v)中、4℃で24時間インキュベートした。125mLのMooGloo(商標)溶液を各膜に使用した。その後、各膜を、CaCl2(15g/L)を含有する250mLのHEPES(0.1M、pH7.4)で2回洗浄した。最後に、膜を70/30% w/vのエタノール/水溶液中に保存した。
【0196】
玄米-アルギネート-TG:上記のように調製した玄米-アルギネート膜を、HEPES(0.1M、pH7.4)及びCaCl2(15g/L)を含有するMooGloo(商標)(TG)溶液(25% w/v)中、4℃で24時間インキュベートした。125mLのMooGloo(商標)溶液を各膜に使用した。その後、各膜を、CaCl2(15g/L)を含有する250mLのHEPES(0.1M、pH7.4)で2回洗浄した。最後に、膜を70/30% w/vのエタノール/水溶液中に保存した。
【0197】
リョクトウ-アルギネート-TG:上記のように調製したリョクトウ-アルギネート膜を、HEPES(0.1M、pH7.4)及びCaCl2(15g/L)を含有するMooGloo(商標)(TG)溶液(25% w/v)中、4℃で24時間インキュベートした。125mLのMooGloo(商標)溶液を各膜に使用した。その後、各膜を、CaCl2(15g/L)を含有する250mLのHEPES(0.1M、pH7.4)で2回洗浄した。最後に、膜を70/30% w/vのエタノール/水溶液中に保存した。
【0198】
3.2 グリセロールによる熱架橋
3.2.1 タンパク質膜
水が多孔質構造全体にわたって交換されるにつれて、膜が半透明から透明に変化する。そこから、膜を取り出し、130℃に設定した第3の浴に10分間入れる。タンパク質が架橋されたら、足場が生物学的性能のために生理的pHにあることを確実にするために、pH7.4のHEPES緩衝液を含有する最終浴に膜を入れる。
【0199】
SPI:SPIフラットシート膜を、PTFE支持シートを使用して酢酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH4.5)中にキャストし、同緩衝液中で10分間~最大3時間平衡化させた。その後、PTFE支持膜をグリセロール浴に移し、10分間~3時間にわたって水溶液をグリセロールと交換した。その後、膜を熱グリセロール浴を通して又はオーブンを使用することによって熱架橋した。最初の場合、膜を100℃の撹拌グリセロール浴に移し、10分間インキュベートした。その後、グリセリン浴の最終温度(110℃~140℃の間)及び温度増分を変化させることによって、様々な温度勾配を調査した。オーブン処理の場合、膜を100℃~140℃の範囲の様々な温度及び10~24時間の様々な持続時間でインキュベートした。
【0200】
リョクトウ:リョクトウフラットシート膜を、PTFE支持シートを使用して酢酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH4.5)中にキャストし、同緩衝液中で10分間~最大3時間平衡化させた。その後、PTFE支持膜をグリセロール浴に移し、10分間~3時間にわたって水溶液をグリセロールと交換した。その後、膜を熱グリセロール浴を通して又はオーブンを使用することによって熱架橋した。最初の場合、膜を100℃の撹拌グリセロール浴に移し、10分間インキュベートした。その後、グリセリン浴の最終温度(110℃~140℃の間)及び温度増分を変化させることによって、様々な温度勾配を調査した。オーブン処理の場合、膜を100℃~140℃の範囲の様々な温度及び10~24時間の様々な持続時間でインキュベートした。
【0201】
小麦グルテン:小麦グルテンフラットシート膜を、PTFE支持シートを使用して酢酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH4.5)中にキャストし、同緩衝液中で10分間~最大3時間平衡化させた。その後、PTFE支持膜をグリセロール浴に移し、10分間~3時間にわたって水溶液をグリセロールと交換した。その後、膜を熱グリセロール浴を通して又はオーブンを使用することによって熱架橋した。最初の場合、膜を100℃の撹拌グリセロール浴に移し、10分間インキュベートした。グリセリン浴の最終温度(100℃~140℃の間)を変化させることによって、様々な温度勾配を調査した。オーブン処理の場合、膜を100℃~140℃の範囲の様々な温度及び10時間~24時間の様々な持続時間でインキュベートした。
【0202】
3.2.2 タンパク質-アルギネート膜
リョクトウ-アルギネート:リョクトウ-アルギネートフラットシート膜を、PTFE支持シートを使用して、CaCl
2(15g/L)を含有する酢酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH4.5)中にキャストし、同緩衝液中で10分間~最大3時間平衡化させた。その後、PTFE支持膜をグリセロール浴に移し、10分間~3時間にわたって水溶液をグリセロールと交換した。その後、膜を熱グリセロール浴を通して又はオーブンを使用することによって熱架橋した。最初の場合、膜を100℃の撹拌グリセロール浴に移し、10分間インキュベートした。その後、グリセリン浴の最終温度(110℃~140℃の間)及び温度増分を変化させることによって、様々な温度勾配を調査した。オーブン処理の場合、膜を100℃~140℃の範囲の様々な温度及び10~24時間の様々な持続時間でインキュベートした。
図13を参照されたい。
【0203】
小麦グルテン-アルギネート:小麦グルテン-アルギネートフラットシート膜を、PTFE支持シートを使用して、CaCl2(15g/L)を含有する酢酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH4.5)中にキャストし、同緩衝液中で10分間~最大3時間平衡化させた。その後、PTFE支持膜をグリセロール浴に移し、10分間~3時間にわたって水溶液をグリセロールと交換した。その後、膜を熱グリセロール浴を通して又はオーブンを使用することによって熱架橋した。最初の場合、膜を100℃の撹拌グリセロール浴に移し、10分間インキュベートした。その後、グリセリン浴の最終温度(110℃~140℃の間)及び温度増分を変化させることによって、様々な温度勾配を調査した。オーブン処理の場合、膜を100℃~140℃の範囲の様々な温度及び10~24時間の様々な持続時間でインキュベートした。
【0204】
ゼイン-アルギネート:ゼイン-アルギネートフラットシート膜を、PTFE支持シートを使用して、CaCl2(15g/L)を含有する酢酸ナトリウム緩衝液(0.2M、pH4.5)中にキャストし、同緩衝液中で10分間~最大3時間平衡化させた。その後、PTFE支持膜をグリセロール浴に移し、10分間~3時間にわたって水溶液をグリセロールと交換した。その後、膜を熱グリセロール浴を通して又はオーブンを使用することによって熱架橋した。最初の場合、膜を100℃の撹拌グリセロール浴に移し、10分間インキュベートした。その後、グリセリン浴の最終温度(100℃~110℃及び100℃~140℃の間)を変化させることによって、様々な温度勾配を調査した。オーブン処理の場合、膜を100℃~140℃の範囲の様々な温度及び10~24時間の様々な持続時間でインキュベートした。
【0205】
4 膜コーティング
4.1 ウシコラーゲンコーティング(方法1)
リョクトウ膜をウシコラーゲンでコーティングして、それらの細胞に対する親和性を増加させて、細胞接着及び増殖を促進した。乾燥した直径14mmのリョクトウ膜ディスクを、室温で2時間、3mg/mLのコラーゲン溶液に浸した(20mLのコラーゲン溶液当たり20個のディスク)。その後、コラーゲン溶液を除去し、ディスクを100%エタノール溶液に入れ、使用前に4℃で保存した。
【0206】
4.2 ウシコラーゲンコーティング(方法2)
リョクトウ膜をウシコラーゲンでコーティングして、それらの細胞に対する親和性を増加させて、細胞接着及び増殖を促進した。乾燥した直径14mmのリョクトウ膜ディスクを、室温で2時間、3mg/mLのコラーゲン溶液に浸した(20mLのコラーゲン溶液当たり20個のディスク)。その後、コラーゲン溶液を除去し、ディスクをHEPES溶液(0.1M、pH7.4)中37℃で1時間インキュベートした。その後、HEPES溶液を除去し、ディスクを使用前に4℃で70/30 w/vエタノール-水溶液中に保存した。
【0207】
4.3 ウシフィブロネクチンコーティング(方法1)
リョクトウ膜をウシフィブロネクチンでコーティングして、それらの細胞に対する親和性を増加させて、細胞接着及び増殖を促進した。乾燥した直径14mmのリョクトウ膜ディスクを、室温で2時間、2.5mg/mLのフィブロネクチン溶液に浸した(20mLのフィブロネクチン溶液当たり20個のディスク)。その後、フィブロネクチン溶液を除去し、ディスクを100%エタノール溶液に入れ、使用前に4℃で保存した。
【0208】
4.4 キトサンコーティング
リョクトウ膜をキトサンでコーティングして、それらの細胞に対する親和性を増加させて、細胞接着及び増殖を促進した。乾燥した直径14mmのリョクトウ膜ディスクを、室温で1時間、1% w/vのキトサン酢酸溶液に浸した(0.2M、pH4.5、20mLのキトサン溶液当たり20個のディスク)。その後、キトサン溶液を除去し、ディスクを10% TPP溶液に入れ、3時間撹拌した。その後、ディスクをMilliQ(商標)水で2回洗浄し、4℃で70/30 w/vで保存した。
【0209】
保存:
膜は、抗生物質/抗真菌剤を含む70/30エタノール/MilliQ(商標)w/v OR HEPES中に保存することができる。乾燥できる場合でも、細孔崩壊への注意を考慮しなければならない。乾燥は、凍結乾燥装置を用いて達成することができる。水及び20~40%グリセリンからなる別の交換浴を使用してHEPESを交換する場合、よりスケーリング可能で柔軟な膜を乾燥させることができる。膜の細孔が20~40%のグリセリンで満たされている場合、多孔質構造を乾燥させることができる。
図38を参照されたい。
【0210】
5.膜の機械的試験
ZwickRoel試験機を使用して、引張モードで、膜の機械的特性を特性評価した。
図14に示されるように、膜の弾性率は広範囲の値を網羅し、本発明者らの材料ポートフォリオが中空繊維の多様な設計仕様に包括的に対処することを可能にする。例えば、k-カラギーナンベースの膜は、100kPa未満の弾性率を有し、したがって、筋肉細胞の増殖及び分化のための基質として適している(
図15参照)。中空繊維が最終的な培養肉製品の一部になるため、実際の肉の食感プロファイルも本発明者らの材料の設計仕様として考慮する必要がある。これに関して、本発明者らは、肉、特にホールカットステーキに特徴的であることが知られている100~300kPaの弾性率範囲に入る熱処理大豆、アガロースブレンド及び一部のアルギネートブレンドを設計した。弾性率及び破断ひずみに関して最も高い機械的性能は、リョクトウ及びゼインなどの純粋なタンパク質、又はアルギネート-タンパク質ブレンドで達成される。これらの最後の材料は、中空繊維が広範囲の製作工程を経て、最終的にバイオリアクターに設置された場合に作業条件を維持することを可能にする構造成分として使用することができる。
【0211】
結果
5.1 グリセロール法の最適化
逐次凝固(1)、中和(2)、グリセリン-水の交換(3)及びグリセリン熱処理(4)工程を含むグリセロール架橋の最終工程を、表1に示される各工程の効果を試験することによって検証した。アセテート中での凝固及びHEPES中での中和の後、グリセロール熱処理の非存在(試料1、AC-H-0-0)は、機械的に不安定であり、ペースト稠度を有する膜をもたらす(
図16参照)。同様に、グリセロール処理をオートクレーブ処理(121℃)に置き換えると、不安定で脆い膜がもたらされる(試料4 AC-0-0-HW)。最初のアセテート凝固工程及び中和工程を除去し、グリセロール熱処理のみを適用した場合(試料3 0-0-G-HG)にも、粉末状の機械的に不安定な膜が得られた(
図16参照)。このことは、膜の安定性に不可欠な凝固タンパク質ネットワークを有することの重要性を強調している。また、凝固が酸性条件ではなくむしろ中性条件(HEPES)で起こる場合、非常に脆い膜が得られる(試料4 0-H-G-HG)。最後に、熱処理の前に室温で水をグリセロールと交換することは、加熱グリセロール浴と接触した場合の水の突然の膨張に起因する大きな気泡の形成を回避するのに役立つ(試料5 AC-0-0-HG)。結果として、アセテート浴を使用してドープ溶液を凝固させ、室温で水をグリセロールと交換し、最後に加熱グリセロール浴を使用してタンパク質ネットワークを熱架橋することによって最良の膜が得られた(試料6 AC-0-G-HG)。他の膜試料と比較して、AC-0-G-HGに従って得られたものは、最も高いヤング率及び最も低いひずみを有する最も安定な膜をもたらし、より高いタンパク質架橋度を示す(
図17参照)。
【0212】
【表1】
表1:グリセロール架橋法の最適化のための実験条件。ACは「pH4.5で0.2Mのアセテート浴」を表し、Hは「pH7.4で0.1MのHEPES浴」を表し、Gは「グリセロール浴」を表し、HGは「熱グリセロール浴」を表し、HWは「熱水処理」(オートクレーブ121℃)を表し、0は「工程を実施しない」を表し;Yは「はい」を表し;Nは「いいえ」を表す。
【0213】
グリセロールに基づく熱処理の各工程をさらに最適化して、膜の形態及び機械的特性を改善した。アセテート浴持続時間を変化させ、水-グリセロール交換(10分)条件とグリセロールに基づく熱処理(温度勾配:100℃で10分、120℃まで勾配及び120℃で30分)条件の両方を一定に保つことによって、アセテート凝固工程の効果を調査した。
図18は、10分間~最大3時間凝固させた膜の機械的特性を示している。凝固時間を増加させても弾性率、最終ひずみ及び最終応力の統計学的差異は観察されず、調査した10分枠内で凝固が完了したことを示している。これらの結果は、膜pHの中和、したがって、凝固工程の成功を可能にするには10分で十分であることを示唆している。次に、凝固浴(10分)と水-グリセロール交換(10分)の両方の持続時間を一定に保ち、120℃の最終温度に達した後の熱処理持続時間を変化させることによって、グリセロールに基づく熱処理を調査した。
図19に示されるように、熱処理時間が増加すると、より強力で強靭な膜が得られ、最終的なひずみ及び応力の値がそれぞれ2倍及び3倍になる。30分後、膜の機械的特性はプラトーを開始し、30分試料と60分試料との間の最終応力にほとんど差がないことも認識される。熱処理は膜の機械的特性に対してより大きな効果を有するように見えるので、勾配の最終温度の効果を評価するためにさらなる調査を行った。今回、レオロジー分析を使用して膜の物理的特性の変化を監視した。最初に凝固させ(10分間)、水-グリセロール交換(10分間)を受けた膜に対して、レオメーターチャンバ内で熱処理を直接実施した。
図20及び
図21に示されるように、膜を20℃から開始して4度/分の熱勾配に供し、100℃、120℃及び140℃の3つの異なる最終温度で平衡化させた。50~60℃では、タンジェント(δ)が減少し始め、したがって、タンパク質アニーリング工程の開始が膜固化をもたらすことを示唆している。熱によって駆動されるタンパク質のアンフォールディング及び鎖間物理的架橋の形成が、固化工程の機序であると考えられている。興味深いことに、等温勾配の最終温度の変化時に、タンジェント(δ)の傾向が観察される。勾配最終温度の上昇にわたってタンジェント(δ)のより低い値が得られ、したがって、膜がアニーリング温度の上昇時に強化工程を受けることを示唆している。この傾向は、レオロジー実験から得られた試料に対して行われた引張試験によって確認された。
図20に示されるように、弾性率、最終応力及びひずみの増加は、最終等温温度の上昇時に観察される。
【0214】
膜構造の形成は、50~60℃付近で始まり、最終的な等温温度に関係なく同じ速度で形成し続ける。しかしながら、最終的な得られる膜構造強度は、最終的な等温条件によって影響を受けるように見える。より高い等温温度は、より高い弾性(より低いタンジェント(δ))を有する膜をもたらす。
【0215】
6.細胞培地における安定性試験
細胞培養条件下で材料の安定性を試験するために、膜を37℃で最大30日間細胞培地中でインキュベートし、機械的試験を様々な時点で実施してそれらの完全性を調査した。k-カラギーナン及びそのエンドウタンパク質単離物ブレンドは、細胞培養培地中で非常に不安定であることが判明し、1日のインキュベーション後に既に完全に溶解していた。これとは異なり、アルギネートブレンド及びアガロースブレンドは、より長いインキュベーション時間にわたってより安定であることが分かった。後者の場合、膜の性能は、アルギネート及びアガロース多糖類成分の安定性によって主に影響を受けると考えられる。この所見は、多糖類の性質に応じた2つの異なる安定性傾向の存在によって支持される。アルギネートブレンドは弾性率とひずみの両方の劇的な減少を受け、ゼインブレンドは10倍を超える弾性率の減少を受ける。対照的に、アガロースブレンドは、21日間の全インキュベーション期間を通してその機械的特性をほぼ完全に維持する。
図22、
図23、
図24及び
図25を参照されたい。
【0216】
アルギネートブレンドの場合、機械的安定性の漸進的な低下は、カルシウム-グルタル酸架橋ポリマーネットワークの脱複合体化によって引き起こされると考えられていた。この仮説は、インキュベーション時間における膜の顕著な膨潤挙動によって支持され、これは膜表面積の増加として定量化された(
図22)。対照的に、アガロースブレンドベースの膜では膨潤は観察されなかった。膨潤傾向と機械的安定性傾向との間の相関は、多糖類ネットワークが、アルギネートの場合に培養条件下で崩壊を受けた膜の主な構造成分であることを示している。
【0217】
細胞培養条件におけるアルギネート-タンパク質ブレンドの安定性を高めるために、タンパク質成分の架橋を調査した。トランスグルタミナーゼは、加工肉を調製するために食品業界において一般的に使用されるので、試験するための第1の架橋候補として選択された。この場合も、玄米-アルギネートブレンドについて示されるように、インキュベーション時間の増加で弾性率とひずみの両方の減少が観察された。
図26を参照されたい。
【0218】
タンパク質ポリマーネットワークの物理的架橋を誘導し、最終的に細胞培養中に膜を安定化するための代替手法として熱アニーリングを選択した。相逆転移によって形成された膜多孔質構造の崩壊を回避するために、グリセロールを水交換媒体とアニーリング工程のための熱伝達ベクターの両方として使用した。アルギネートブレンドと比較して、熱アニーリングした大豆とリョクトウの両方が、細胞培地中37℃でインキュベートした場合に弾性率の低下を示さない。21日後、大豆膜は弾性率の増加を受け、その値はほぼ2倍になった。破断ひずみ(破断伸び)は影響を受けなかったが、大豆の場合、表面積のわずかな減少が、経時的に起こる可能性のあるさらなる架橋工程を示唆した。30日間のインキュベーション後、リョクトウについて、破断を引き起こすのに必要な力のわずかな減少が観察された。アルギネート-タンパク質ブレンドと比較して細胞培養条件における機械的安定性が高く、アガロース-タンパク質ブレンドと比較して破断ひずみが高いことにより、これらの熱処理された純粋なタンパク質材料が、バイオリアクター用途のための膜を開発するための好ましい候補となる。
図27を参照されたい。
【0219】
7.空隙率の画像化
7.1 フラットシート膜
走査型電子顕微鏡を介して製造された膜の空孔率を調査した。
図28及び
図29にそれぞれ示されるように、熱処理された大豆及びリョクトウタンパク質膜は、表面上のサブミクロン範囲のより小さい細孔及び断面に位置する20~50ミクロン範囲のより大きな細孔を特徴とする不均質な空隙率を示す。凝固工程中に膜-浴溶液界面で起こる急速な凝固工程が、表面上に位置するより薄い空隙率の起源となると考えられている。対照的に、膜のコアで生じるより遅い凝固工程は、より大きな細孔をもたらすより大きな相分離を可能にする。ゼイン及びアガロース-ゼインの場合、異なるシナリオが観察され、均質な空隙率が膜全体にわたって観察される。
図30は、この後者の場合、相分離工程が非常に均質な細孔径分布をもたらすフィブリル化工程の結果であったことを示している。本発明は理論によって限定されないが、アガロースとゼインの両方がタンパク質自己集合を介してフィブリル化を受けることが知られていると仮定される。アルギネート-ゼイン及びエンドウ-k-カラギーナン膜の場合に同様の結果が観察され(
図31参照)、バイオポリマーのフィブリル化も膜形成の主要な工程であった。対照的に、リョクトウ-アガロース及び大豆-アルギネート膜では、スキニング効果(skinning effect)が観察された。
図32を参照されたい。
【0220】
7.2 中空繊維膜
走査型電子顕微鏡を使用して中空繊維の空孔率を調査した。
図33は、リョクトウ-アルギネート(15%-0.2%)中空繊維の断面(上部)及び表面(下部)を示している。繊維は、全断面にわたって50ミクロン範囲以下の細孔を示すが、スキニング効果は観察されなかった。繊維壁厚は、200ミクロンを超える厚さを有する組織で典型的に観察される理論的拡散を考慮して外側栄養素拡散を最適化することを目標とした値である100ミクロン範囲であった。
【0221】
8.細胞接着及び増殖試験
C2C12(
図34、
図35及び
図36参照)及びQM7(
図37参照)細胞株を使用して、製造された膜を細胞接着及び増殖について試験した。一般に、純粋なタンパク質膜の場合、より高い接着度及び増殖度が得られ、これはC2C12とQM7の両方の場合において、より伸長した形態を有する細胞の存在によって支持された所見である。タンパク質膜をコラーゲン及びフィブロネクチンなどの細胞接着タンパク質でコーティングした場合に、最良の結果が達成された。これとは異なり、タンパク質-多糖類ブレンドの場合、より球形でクラスター様の集合した細胞が見られ、C2C12細胞株とQM7細胞株の両方に対する材料の親和性が低いことを示している。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を製造する方法であって、
a)i)1つ以上の食用タンパク質、ii)1つ以上の溶媒、iii)形成浴を用意する工程であって;前記1つ以上の溶媒又は前記形成浴が、1つ以上の多価カチオン若しくはアニオン又は緩衝液も含む、工程と;
b)前記1つ以上の溶媒中で前記1つ以上の食用タンパク質を共混合して、混合物を形成する工程と;
c)前記混合物を前記形成浴中に押し出して、押出中空繊維を形成するか、又は前記混合物を前記形成浴中にキャストして、シート膜を形成する工程と;
d)前記押出中空繊維又はシート膜を、前記1つ以上のタンパク質を少なくとも部分的に架橋するのに十分な熱及び照射のうちの1つ以上から選択されるエネルギー源に曝露して、食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を形成する工程と;
を含む方法。
【請求項2】
1つ以上の食用多糖類をさらに用意し、工程b)において、前記1つ以上の多糖類を前記1つ以上の溶媒中で前記1つ以上の食用タンパク質と共混合する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
可塑剤をさらに用意し、工程b)において、前記可塑剤を前記1つ以上の溶媒中で前記1つ以上の食用タンパク質と共混合する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上のタンパク質が、エンドウ、大豆、小麦、カボチャ、米、玄米、ヒマワリ、キャノーラ、ヒヨコマメ、レンズマメ、リョクトウ、シロインゲンマメ、トウモロコシ、エンバク、ジャガイモ、キヌア、ソルガム及びピーナッツからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上の多糖類が、寒天、キトサン、キチン、アルギネート、アルギン酸ナトリウム、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、タピオカ、グアーガム及びビーンガムからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の溶媒が、水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸、水酸化ナトリウム、エタノール、グリセリン及びプロピレングリコールからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記形成浴が、1)水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸のうちの1つ以上、又は2)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうちの1つ以上と組み合わせて、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄及びカリウムのうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記
1つ以上の多価カチオン若しくはアニオン又は緩衝液が、Ca2+、Mg2+、Fe3+、Zn2+、トリポリホスフェート及びクエン酸三ナトリウムからなる群から選択され、前記選択された
1つ以上の多価カチオン若しくはアニオン又は緩衝液が、前記1つ以上の多糖類の部分的架橋を少なくとも可能にすることができる、請求項
2に記載の方法。
【請求項9】
工程d)における前記熱
が70℃
~140℃であり
、0PSI
~20PSIゲージの圧力下
、50%
~100%の相対湿度で
、2~60分間加えられるか、又は前記中空繊維若しくはシート膜が、大気条件
で60℃
~100℃の水浴に浸される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
工程b)の前記混合物が加熱される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程b)の共混合
が0℃
~90℃で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記混合物がp
H10
~13であり、前記
形成浴がp
H3~5である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
形成後、前記膜がp
H6.8
~7.8に中和される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
形成後、前記膜がp
H7.3
~7.5に中和される、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記照射が、電子ビーム、UV光及びガンマ線照射からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記照射が工程中又は工程後に適用される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記照射が
、1~100kGy又
は10
~50kGyである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記
多孔質中空繊維又はシート膜の空隙率
が1%
~90%である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記
多孔質中空繊維又はシート膜の空隙率
が50%
~80%である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜をコーティングでコーティングして、細胞接着を増強する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記コーティングが、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン又はこれらのタンパク質から単離された短鎖ペプチド配列のうちの1つ以上から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記短鎖ペプチド配列が、RGD、YIGSR、IKVAV、DGEA、PHRSN及びPRARIからなる群のうちの1つ以上から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記食用架橋多孔質中空繊維の外表面を修飾して、細胞接着を増強する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を可塑剤でコーティングする工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記表面修飾が、プラズマ、コロナ、摩耗、エッチング、アブレーション、又はスパッタコーティングのうちの1つ以上から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記タンパク質が、溶媒に溶解する前に粉末化又は微粉砕される、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記タンパク質が、少なくとも70
%純粋である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記多糖類が、少なくとも70
%純粋である、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記混合物中のタンパク質対多糖類の比が
、10:1
~1:10又
は1:99
~99:1である、請求項
2に記載の方法。
【請求項30】
前記混合物中のタンパク質対多糖類の比が
、4:1
~1:4である、請求項
2に記載の方法。
【請求項31】
前記混合物中のタンパク質対多糖類の比が
、1:1又
は7:1である、請求項
2に記載の方法。
【請求項32】
請求項1~
31に記載の方法のいずれかによって作製された中空繊維又はシート膜。
【請求項33】
食用架橋多孔質中空繊維又はシート膜を製造する方法であって、
a)i)1つ以上の食用タンパク質、ii)1つ以上の食用多糖類、iii)1つ以上の溶媒及びiv)形成浴を用意する工程であって、前記形成浴が、1)水、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸のうちの1つ以上、又は2)水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのうちの1つ以上と組み合わせて、カルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄及びカリウムのうちの1つ以上を含む、工程と;
b)前記1つ以上の溶媒中で前記1つ以上の食用タンパク質及び1つ以上の食用多糖類を共混合して、混合物を形成する工程と;
c)前記混合物を前記形成浴中に押し出して、押出中空繊維を形成するか、又は前記混合物をキャストして、シート膜を形成する工程と; d)前記押出中空繊維又はシート膜を、前記1つ以上のタンパク質を少なくとも部分的に架橋するのに十分な熱及び照射のうちの1つ以上から選択されるエネルギー源に曝露して、食用架橋多孔質中空繊維を形成する工程と;
を含む方法。
【請求項34】
請求項
33に記載の方法によって作製された中空繊維又はシート膜。
【請求項35】
1つ以上のタンパク質、1つ以上の多糖類、1つ以上の溶媒、可塑剤及び/又は前記形成浴の1つ以上の構成成分が、米国食品医薬品局(FDA)によって一般に安全と認められている(GRAS)、請求項1~
31、33及び34のいずれか。
【請求項36】
得られたシート膜又は中空繊維が、細孔崩壊を伴わずに乾燥するために、10~50%の水のグリセロールとの交換を受ける、請求項1~
31、33及び34のいずれか。
【国際調査報告】