(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-19
(54)【発明の名称】ペロブスカイトインクの安定化方法及びその方法によるペロブスカイトインクの配合
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240911BHJP
C09D 11/52 20140101ALI20240911BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20240911BHJP
H10K 85/50 20230101ALI20240911BHJP
【FI】
H10K30/50
C09D11/52
H10K30/40
H10K85/50
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024536336
(86)(22)【出願日】2022-08-25
(85)【翻訳文提出日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 CA2022051290
(87)【国際公開番号】W WO2023023864
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524073670
【氏名又は名称】ソライレス エンタープライゼス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SOLAIRES ENTREPRISES INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】ディーパック ガンガダラン
(72)【発明者】
【氏名】マクスード サイダミノフ
(72)【発明者】
【氏名】エリン モロニー
【テーマコード(参考)】
3K107
4J039
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA03
4J039BA07
4J039BC36
4J039BE12
4J039GA34
5F251AA11
5F251GA03
5F251XA32
(57)【要約】
ペロブスカイトインクを安定化させる方法であって、1種類以上の溶媒の使用によりペロブスカイトインクを調製するステップと、及びアミン-水プロトン交換を阻害するためにペロブスカイトインク中のアミン基に対して相互作用して硫黄または硫黄ベースの化合物をペロブスカイトインクに添加するステップと、を備える方法。ペロブスカイトインクであって、「ABX3」組成を有するペロブスカイト構造を形成するために薄膜として結晶化したときに、「A」はメチルアンモニウム(MA+)及びホルムアミジニウム(FA+)の1種以上である1価のカチオンであり、「B」は2価のカチオンであり、また「X」はF-、I-、Br-及びCl-の1種以上であるハロゲンである、1つ以上溶媒に溶解した前駆体塩と、並びにアミン-水プロトン交換を阻害するために、ペロブスカイトインク中のアミン基に対して相互作用する、硫黄及び硫黄ベースの化合物より成る群から選択された添加剤と、を備える、ペロブスカイトインク。
【選択図】
図33
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイトインクを安定化させる方法であって、
N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アルキル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジアルキルホルムアミド、γ-ブチロラクトン(GBL)、2-メチルピラジン(2-MB)、1-ペンタノール(1-P)、2-メトキシエタノール(2-ME)及びN,N’-ジメチルプロピレン尿素(DMPU)から選択される1種類以上の溶媒を使用するペロブスカイトインクを準備するステップと、及び、
前記ペロブスカイトインクに、アミン-水プロトン交換を阻害するために前記ペロブスカイトインク中のアミン基に対して相互作用する硫黄又は硫黄ベースの化合物を添加するステップと、
を備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記硫黄又は前記硫黄ベースの化合物は元素状硫黄である、方法。
【請求項3】
請求項1及び2に記載の方法において、1つ以上の溶媒はNMP及びDMFの混合物を含む、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、NMP対DMFの体積比が5:95~50:50の範囲である、方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法において、NMP溶媒対DMF溶媒の体積比が30~70である、方法。
【請求項6】
ペロブスカイトインクであって、
「ABX3」組成を有するペロブスカイト構造を形成するために薄膜として結晶化したときに、「A」はメチルアンモニウム(MA+)及びホルムアミジニウム(FA+)の1種以上である1価のカチオンであり、「B」は2価のカチオンであり、また「X」はF-、I-、Br-及びCl-の1種以上であるハロゲンである、1種類以上の溶媒に溶解した前駆体塩と、並びに
アミン-水プロトン交換を阻害するために、ペロブスカイトインク中のアミン基に対して相互作用する、硫黄及び硫黄ベースの化合物より成る群から選択された添加剤と、
を備え、
1種類以上の前記溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アルキル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジアルキルホルムアミド、γ-ブチロラクトン(GBL)、2-メチルピラジン(2-MB)、1-ペンタノール(1-P)、2-メトキシエタノール(2-P)、及びN,N’-ジメチルプロピレン尿素(DMPU)より成る群から選択される、
ペロブスカイトインク
【請求項7】
請求項6に記載のペロブスカイトインクにおいて、「B」は、Pb2+、Sn2+及びBi2+のうちの1つ以上から選択される2価のカチオンである、ペロブスカイトインク。
【請求項8】
請求項6に記載のペロブスカイトインクにおいて、「B」は、Pb2+、Sn2+及びBi2+のうちの1つ以上から選択される2価のカチオンである、ペロブスカイトインク。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか一項に記載のペロブスカイトインクにおいて、「A」、前記「B」及び前記「X」は、ペロブスカイト前駆体塩を形成するために1:1:3のモル比である、ペロブスカイトインク。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一項に記載のペロブスカイトインクにおいて、前記添加剤の濃度は0.0001M~1Mである、ペロブスカイトインク。
【請求項11】
請求項6~9のいずれか一項に記載のペロブスカイトインクであって、0.001Mの硫黄を含む、ペロブスカイトインク。
【請求項12】
請求項6~11のいずれか一項に記載のペロブスカイトインクにおいて、「A」は、メチルアンモニウム(MA+)及びルムアミジニウム(FA+)の混合物である、ペロブスカイトインク。
【請求項13】
請求項12に記載のペロブスカイトインクにおいて、MA+とFA+のモル比は1:19~1:1の範囲である、ペロブスカイトインク。
【請求項14】
請求項12に記載のペロブスカイトインクにおいて、FA+に対するMA+のモル比は1~3である、ペロブスカイトインク。
【請求項15】
請求項6~14のいずれか一項に記載のペロブスカイトインクにおいて、1種類以上の前記溶媒の重量パーセント比は、ペロブスカイト薄膜の形成に必要なペロブスカイトインクの最終濃度を達成するのに必要な10~30%の範囲である、ペロブスカイトインク。
【請求項16】
請求項6~15のいずれか一項に記載のペロブスカイトインクにおいて、前記溶媒はNMP及びDMFの混合物を含む、ペロブスカイトインク。
【請求項17】
請求項16に記載のペロブスカイトインクにおいて、NFP対DMFの体積比は5:95~50:50の範囲である、ペロブスカイトインク。
【請求項18】
請求項16に記載のペロブスカイトインクにおいて、NMP溶媒対DMF溶媒の体積比は30~70である、ペロブスカイトインク。
【請求項19】
請求項7に記載のペロブスカイトインクにおいて、2価のカチオン「B」は、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Fe、Cd、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Hg、Sn、Ge、Ga、Pb、In、Tl、Sb、Bi、Ti、Zn、Cd、Hg、及びZrより成る群から選択される1つ以上の金属を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ペロブスカイト太陽電池の製造などの用途に使用できるようにペロブスカイトインクを安定化させる方法、及び、その方法によるペロブスカイトインクの配合物を記載する。
【背景技術】
【0002】
ペロブスカイトインクは、太陽電池、ディスプレイ、センサを含む様々な分野で使用できるが、これらに限定されるものではない。残念ながら、従来のペロブスカイトインクは不安定である。 この問題及び解決策を、太陽電池の文脈で説明する。
【0003】
ペロブスカイト太陽電池(PSCs:perovskite solar cells)の利点は、ペロブスカイトインクから溶液処理可能な方法で太陽光吸収層をコスト効率よく簡単に成膜できることである。インクは溶媒に溶解した前駆体塩を含み、薄膜として成膜され、結晶化して「ABX3」組成のペロブスカイト構造を形成する。「A」は一価のカチオン(メチルアンモニウム(MA+)、ホルムアミジニウム(FA+)またはCs+)、「B」は二価のカチオン(Pb2+またはSn2+)、及び「X」はハロゲン(I-、Br-またはCl-)である。小面積のPSCで実証された高効率を考えると、商業的に実現可能な、大面積で安定した高効率デバイスの製造に多大な努力が払われている。残された障害の1つは、従来のペロブスカイトインクの不安定性であり、特に大気中では顕著であり、PSCの性能はインクの経時変化に左右される。
【0004】
ペロブスカイトインクの経時変化では、I-からI210への有害な酸化と、MA+、FA+、及び溶媒を含む有機成分の反応とが劣化の主な要因である。不活性雰囲気外の大気中で処理すると、インク中の水分含量が増加し、分解が加速される。場合によっては、これは、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF:dimethylformamide)溶媒が加水分解してジメチルアミンとギ酸とが生成されるためであるが、しかし、ジメチルスルホキシド(DMSO:dimethyl sulfoxide)とDMFとの共溶媒中にFA+又はMA+/FA+を含むペロブスカイトインクの分解は、DMFの加水分解を伴わないが、水によっても促進される。ペロブスカイトインクに対する湿度の悪影響は、PSC製造の規模を拡大する上で大きな問題であり、すなわち、安定したインクを開発する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
ペロブスカイトインクを安定化させる方法が提供される。この方法は、ペロブスカイトインク中のアミン基と相互作用してアミン-水プロトン交換を阻害することができる添加剤をペロブスカイトインクに添加することを含む。添加剤が元素状硫黄である場合に有益な結果が得られている。
【0006】
使用できる溶媒はいくつかあり、N-メチル-2-ピロリドン(NMP:N-methyl-2-pyrrolidone)、アルキル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO:dimethylsulfoxide)、ジアルキルホルムアミド、γ-ブチロラクトン(GBL:γ-butyrolactone)、2-メチルピラジン(2-MB:methylpyrazine)、1-ペンタノール(1-P:pentanol)、2-メトキシエタノール(2-ME:methoxyethanol)およびN,N´-ジメチルプロピレン尿素(DMPU:Dimethylpropyleneurea)より成る群から選択される1つ以上の溶媒を含むがこれらに限定されない。ペロブスカイト薄膜の形成に必要なペロブスカイトインクの最終濃度を達成するために、選択された1つまたは組み合わせの溶媒の重量パーセント比は、10~30%の範囲とすることができる。発明者らは、NMP及びDMF(「MC-NMP」と略す)中の混合カチオン(3FA+:1MA+)を含むスケーラブルなペロブスカイトインクが、数時間でMAがFA+と反応することで分解する、すなわち、水がMA+とMAとのプロトン交換を加速することでMA+の反応性を高める、ということを決定した。しかし、元素状硫黄(S8)の添加は、硫黄-アミン相互作用を介してこのプロトン交換プロセスを遅らせ、MA+の反応性を低下させる。
【0007】
元素状硫黄に加えて、L-α-ホスファチジルコリンなどの他の添加剤を使用してもよい。
【0008】
NMPとDMFの溶媒比が30対70のとき、最高の性能が得られる。
【0009】
ペロブスカイトインクは、インクの安定化のために、好ましくは硫黄より成る群から選択される1つ以上の添加剤を含み、硫黄をベースとする化合物を添加するのが好ましい。インクを安定させる他の添加剤の例としては、ホウ酸トリエチル、18-クラウン-6、ITIC-Th、及びフェニルホウ酸などが挙げられる。添加剤は、約0.001M~約0.1Mの濃度で添加してもよい。硫黄安定化MC-NMPインク(「MC-NMP-S8」と略す)は、大気中、室温で最低3ヶ月のエージングにおいて、有機成分の分解が最小であることを示す。
【0010】
1ヶ月以上エージングをしたMC-NMP-S8インクから作製したPSCは、新鮮なMC-NMPインクから作製したPSCと同等の性能を示し、ブレードコーティングによる大面積PSC作製にMC-NMP-S8インクが使用可能であることを実証した。
【0011】
MC-NMPインクの分解は、-10℃~+85℃の温度範囲で最小の分解を示した。
【図面の簡単な説明】
【0012】
これらの特徴およびその他の特徴は、添付図面を参照した以下の説明からより明らかになり、図面は例示のみを目的としたものであり、いかなる意味においても限定することを意図しない。
【
図1】
図1Aは、MC-NMPインクを0時間及び28時間エージングしたフィルムの写真である。
図1Bは、ジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)中で0時間及び28時間エージングしたMC-NMPインクのXRDスペクトルである。
図1Cは、ジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)中で0時間及び28時間エージングしたMC-NMPインクのH-NMRスペクトルである。
図1Dは、MAのFA+及びMFA+に対する反応について提案するメカニズムを開示する式である。
図1Eは、MA+ CH3共鳴から計算した、新鮮なMC-NMPインク(約20~30%の相対湿度(RH:relative humidity))におけるMA+に対する、約20~30%のRH及び約40%のRHでのエージング後に残存するMA+の割合を開示するグラフ図である。約20~30%のRH及び約40%のRHでのMA+の半減期は、それぞれ約14時間及び9時間である。
【
図2】
図2Aは、アミン-水プロトン交換を示し、1H NMRのH2O共鳴は、MA+及び/又はFA+を含む溶液ではブロードであり(挿入図)、MA+又はFA+を含まない溶液のスペクトルでは狭い(黒いトレース)ことを示すグラフ図である。
図2Bは、アミン-水プロトン交換プロセス、すなわち、プロトンがアルキルアンモニウムから水に移動し、そして、水からアルキルアミンに移動するグラフ図を示す。
【
図3】
図3は、0日及び124日間エージングしたMC-NMP-S8インクから作製した安定したフィルムの写真である。
図3Bは、0~124日の間の日数エージングしたMC-NMP-S8インクから作製したフィルムのXRDグラフ図(正規化強度)である。
図3Cは、0日及び124日間エージングした後のDMSO-d6中のMC-NMP-S8インクの1H NMRスペクトルのグラフ図である。
図3Dは、MA+ CH3共鳴の積分から計算された、インクのエージング時間の関数としての初期MA+残存率のグラフ図である。
【
図4】
図4Aは、6時間のエージング前及び後の、MC-NMPインク中のアミンとS8添加剤との相互作用のグラフ図であり、インク及びそれに対応するN-HとH2O 1H NMRとの共鳴の出現を表す画像である。
図4Bは、N‐H共鳴の化学シフトの変化をインクのエージング時間の関数としてあらわしたグラフ図である。
図4Cは、エージングしたMC-NMPインク(下段)の分解とは対照的に、エージングしたMC-NMP-S8インク(上段)中のアミン‐硫黄錯体の式を開示する。
【
図5】
図5Aは、大気中で5日間エージングしたMC-NMP-S8インクをスピンコートすることで作製したペロブスカイト太陽電池(PSC)の電流密度-電圧(J-V)曲線のグラフ図であり、太陽電池パラメータは逆スキャンで示した。
図5Bは、開口面積0.4cm2における電力変換効率(PCE)を、PSCの作製(スピンコーティングによる)に使用したインクのエージング時間の関数として示したグラフ図である(注:非ペロブスカイトフィルムは、
図1に示すように、エージングしたMC-NMPから得られた)。
図5Cは、新鮮なMC-NMP-S8インクをブレードコーティングして作製したPSCのJ-V曲線のグラフ図であり、太陽電池パラメータは逆スキャンで示されている。
図5Dは、新鮮なMC-NMP-S8インクをブレードコーティングして作製したデバイスの測定における、開口面積の関数としたPCEのグラフ図である。
【
図6】DMFに対して異なる重量比のNMPを含有するMC-NMPインクから作製され、150℃で1分、3分、又は5分間アニールされたフィルムの画像である。
【
図8】約20~30%のRHで0、1、2日間エージングしたMC-NMPインクから作製されたフィルムのXRDを示す(
図1Bに示されるRH40%でエージングされたMC-NMPのフィルムのXRDである)。
【
図9】新鮮なMC-NMPインクから作られたフィルムを大気中で8日間エージングした後のXRDである。XRD分析前に、フィルムは部分的に黒から黄色に変化していた。
【
図10】新鮮なMC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図11】約20~30%のRHで24時間エージングしたMC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図12】約20~30%のRHで5日間(121時間)エージングしたMC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図13】約40%RHで6時間エージングしたMC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図14】約40%のRHで28時間エージングしたMC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図15】PbI2、PbBr2、NMP及びDMFの溶液中のH2O中16%ジメチルアミンの1H NMRを示す。
【
図16】PbI2、PbBr2、NMP及びDMF中のN-メチルホルムアミドの1H NMRを示す。
【
図17】PbI2、PbBr2、NMP及びDMFの1H NMRを示す。
【
図19】DMF中のMABrの1H NMRを示す。
【
図20】DMF中のMAClの1H NMRを示す。
【
図21】0日及び1日エージングした、0.001MのNH4Clの添加剤を含有する、MC-NMPインクから作製されたフィルムのXRDを示す。
【
図22】84日間エージングした、0.001MのNH4Clの添加剤を含有する、MC-NMPの1H NMRインクを示す。
【
図23】0日及び1日エージングした、0.001MのCH3COONH4の添加剤を有するMC-NMPインクをMC-NMPインクから作製されたフィルムのXRDを示す。
【
図24】84日間エージングした、0.001MのCH3COONH4の添加剤を含有する、MC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図25】0日及び1日エージングした、0.001Mのジベンゾ-18-クラウン-6を添加した、MC-NMPインクから作製されたフィルムのXRDを示す。
【
図26】1日エージングした、0.001Mのジベンゾ-18-クラウン-6を含有する、MC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図27】新鮮なMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図28】約20%のRHで1日エージングしたMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図29】約40%のRHで6時間エージングしたMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図30】約20~30%のRHで31日間エージングしたMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図31】約20~55%のRHで124日間エージングしたMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図32】1MのH2Oを含有する新鮮なMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図33】1日エージングした、1MのH2Oを含有するMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図34】25日間エージングした、1MのH2Oを含有するMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図35】エージングしたMC-NMP-S8から作製されたフィルムのXRDの実際ピーク強度を示す(正規化したピーク強度は
図3に示す)。
【
図36】124日間エージングした、MC-NMP-S8から作製されたフィルムのXRDを示す。
【
図37】新鮮なMC-NMPインクをスピンコートして作製したPSCのJ-V曲線であり、太陽電池パラメータは逆スキャンで示されている。
【
図38】3通りのエージングを行ったMC-NMP-S8インクから作製された新鮮なフィルムの吸収度を示す。
【
図39】3通りのエージングを行ったMC-NMP-S8インクから作製された新鮮なフィルムPLを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、ペロブスカイトインクを安定化させる方法について、
図1~
図5Dを参照して説明する。すべてのステップが完全に理解されるように、補足の表(表S1~表S3)とともに、補足の図(
図6~
図39)もまたサポートとして提示する。
【0014】
[ペロブスカイトインクの分解の原因に関する研究]
ペロブスカイトインクの分解(劣化)の問題に取りかかる前に、まず劣化を引き起こすメカニズムを理解する必要があった。
【0015】
MA+、FA+、及び溶媒が関与するインクの分解メカニズムとして提案されているのは、反応性のメチルアミン(MA)又はホルムアミジン(FA)を生成するためのMA+又はFA+の脱プロトン化から始まる。硫黄、ホウ酸トリエチル、又はフェニルホウ酸で脱プロトン化を抑制すると、DMSO/DMFインクの安定性が著しく改善されるが、水分安定性を付与するために必要な添加剤の特性は、まだ調査されていない。
【0016】
さらに、分解及び安定化の研究はこれまでDMSOとDMFとの共溶媒を含むペロブスカイトインクにもっぱら焦点を当ててきたが、この組成は、MA+ベースのペロブスカイトのラボスケールのスピンコーティングに最適化されたものであり、スピンコーティングと同時に余分なインク溶媒を抗溶媒滴下で除去する方法では、均一な大面積ペロブスカイトフィルムを作製することはできない。PSCをスケーラブル(拡張可能)に製造するためには、ブレード、スロットダイ、及びスプレーコーティングなどの成膜方法が非常に望ましい。余分なインク溶媒の迅速な除去によって高品質のペロブスカイトフィルムが形成される、その後のペロブスカイト処理ウィンドウは、再現性のある高性能PSCを作るために可能な限り長くする必要がある。共溶媒としてDMFを使用するが、DMSOの代わりにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を使用すると、処理ウィンドウが数秒から数分以上に大幅に延長される。さらに、NMPとFAIの間の相互作用は、ウェット前駆体膜におけるDMSOとFAIの間の相互作用よりも強いため、記録的な小面積デバイスで使用されているFAが支配的なペロブスカイト組成の共溶媒としてNMPを使用すると、膜質が向上する。FA+ベースのNMP/DMFインクのこれらの特性は、スケーラブルな成膜方法による高性能PSCの製造に利用されることに繋がっている。
【0017】
PSCの生産が研究所から産業界へと移行するにつれ、インクの分解を促進する水の役割、及び、これらの反応への水の関与を防ぐ方法についての理解が必要となる。特に、分解メカニズムへの任意の潜在的な影響を考慮するため、スケーラブルな堆積に適合するペロブスカイトインク組成で分解プロセスを調査すべきである。
【0018】
ここでは、NMPとDMF中の有機カチオンの混合物(3FA+:1MA+)を含むスケーラブルなペロブスカイトインク(「MC‐NMP」と略す)は、数時間以内にFA+とMAとの反応によって分解すること、水はMA+とMAとの間のプロトン交換を促進することによってMA+の反応性を高めること、及び、元素状硫黄(S8)の添加は、硫黄-アミン反応によってこのプロトン交換プロセスを遅らせ、MA+の反応性を低下させることを、1H NMR分光法を用いて示す。硫黄安定化MC-NMPインク(「MC-NMP-S8」と略す)は、大気中、室温で3ヶ月間エージングしても、有機成分の分解は最小限である。1か月以上エージングしたMC-NMP-S8インクから作製したPSCは、新鮮なMC-NMPインクから作られたPSCと同等の性能を示したことを報告し、MC-NMP-S8インクを用いたブレードコーティングによる大面積PSCの作製を実証した。
【0019】
新鮮なMC-NMPインクから作られたフィルムは、特徴的なX線回折(XRD:X-ray diffraction)ピークによって示されるように、ペロブスカイトの形成によりアニールすると黒くなった。同じインクを1日エージングすると、11.7°にXRDピークを有する黄色の非ペロブスカイトフィルムが形成された(
図1A、B)。 デルタ(2H)相は11.8°に特徴的なピークを有するが(
図9)、11.7°のピークは加熱するとα相に転化するため、デルタ(δ)相のピークではなかった。11.7°のピークは、これまでの報告と一致し、エージングしたインクからの有機分解生成物が取り込まれた結果であると考えられる。どちらのフィルムも若干のPbI2を含んでおり、それは12.7°の低強度XRDピークによって証明される。さらに、新鮮なインクからのフィルムは、相分離によって開始された「6H」ポリタイプの形成によるピークを12.2°に有するのに対し、エージングしたインクからのフィルムは、「4H」ポリタイプによるピークを11.5°と12.9°とに有する。相分離によって形成されるポリタイプは、フィルム中のFA+とMA+との比率に依存するため、異なるポリタイプが観察されたことは、エージングによるMC-NMPの有機成分の組成変化を示している。
【0020】
発明者らは、MC-NMP分解における有機成分の正確な役割を1H NMR分光法で調べた。MA+ CH3共鳴(2.37ppm)及びFA+ CH共鳴(7.87ppm)のピークは、経時的に強度が減少し、およそ3:1の比率で、MA+及びFA+の濃度が等モル減少していることを示す。MA+とFA+の消費に伴って、2.80ppm、2.96ppm、及び7.96ppmに新たな共鳴が現れた(
図1C)。2.80ppm及び7.96ppmのシグナルは、それぞれN-メチルホルムアミジニウム異性体(「MFA+」)のCH3及びCHプロトンからピーク面積比3:1で現れた。この2.96ppmの共鳴は、N,N-ジメチルホルムアミジニウム異性体(「DMFA+」)のCH3基によるものである。エージングしたMC-NMPインクの1H NMRスペクトルでは、MA+又はFA+を含む単一有機カチオンインクの分解に起因する、ジメチルアミン(2.54ppm、
図15)、N-メチルホルムアミド(2.56ppm、
図16)、又は、s-トリアジン(9.3ppm)からの共鳴は観測されなかった。したがって、これらの反応経路はMA+及びFA+の混合インクの分解には関与していない。DMF加水分解の生成物であるジメチルアミンが存在しないこともまた、この反応がMC-NMPインクの分解に寄与していなかったことを示している。
【0021】
図1。(A)大気中におけるMC-NMPインクの分解。相対温度(RH:relative humidity)約40%で各々0時間及び28時間エージングしたMC-NMPインクから作製したフィルムの(A)画像(低RHでエージングしたインクからのフィルムのXRDは
図8参照)と、及び(B)XRD。(C)ジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)中で、0時間と28時間エージングしたMC-NMPインクの簡略化した1H NMRスペクトルで、主な共鳴のみを示す(溶媒のピークを含む全スペクトルは
図10及び14参照)。(D)MAとFA+及びMFA+との反応に関する提案されたメカニズム。(E)MA+ CH3共鳴から計算した、新鮮なMC-NMPインクのMA+に対する、約20~30%のRH及び約40%のRHにおけるエージング後に残存するMA+の割合。
【0022】
ほとんどのMA+が消費された後、MFA+及びDMFA+のCH3基からの共鳴は9:1のピーク面積比を示し、MFA+とDMFA+とのモル比が9:1であることを示した。DMSO/DMF共溶媒中でMA+/FA+インクをエージングしても、MFA+とDMFA+とが同程度の比率で形成されたことから、DMSOの代わりにNMPを使用しても分解メカニズムに影響がないことが示された。これらの分解生成物の形成は、MFA+とアンモニアとを生成するためのFA+のアミノ分解をもたらす中性MAによって開始され、DMFA+とアンモニアとを生成するためのMAとMFA+との間の2回目のアミノ分解反応に続く、と考えられている(
図1D)。MA及びFAは、どちらもこれらの反応に関与する可能性があるが、それぞれの酸塩基平衡(式1、2)において共役塩基として常に低濃度でペロブスカイトインク中に存在する。新鮮なMC-NMPインクには0.38MのMA+と1.2MのFA+とが含まれており、DMSO、NMP、及びDMFのような極性非プロトン性溶媒中のpKa値と強い相関があり、大きさも類似しているこれらのカチオンの水性pKa値(式1、2)に基づいて、MC‐NMPインク中のMAとFAとのおおよその初期濃度は、それぞれ3×10-6Mと2×10-6Mである。
【化1】
【0023】
発明者らは、湿度が高くなるとインクの分解が著しく促進されることを発見した、すなわち、MA+の半減期は約20~30%の相対湿度(RH)で約14時間であるのに対し、約40%のRHでは約9時間である(
図1E)。インク溶媒が非常に吸湿性であることを考慮すると、(湿度の高い大気からの)溶存水の濃度が高いほど分解反応が促進されることは明らかである。水はMFA+とDMFA+の生成における反応物ではなく(
図1D)、いかなる加水分解生成物も観察されなかった、したがって、水がMA+とFA+との反応を促進する間接的な役割を果たしていると考えられる。
【0024】
図2。アミン‐水プロトン交換。(A)1H NMRのH2O共鳴は、MA+及び/又はFA+を含む溶液ではブロードであり(挿入図)、MA+又はFA+を含まない溶液のスペクトルでは狭い(黒いトレース)。(B)アミン-水プロトン交換プロセス:プロトンがアルキルアンモニウムから水へ、水からアルキルアミンへと移動する。このプロセスは1H NMRの水共鳴をブロードにする。
【0025】
インクの分解における水の役割を調べるため、発明者らは、水を含む溶液の1H NMRスペクトルをMA+及びFA+の有無で比較した。MC-NMPインク、MABr及びMACl溶液の1H NMRスペクトルでは、水の共鳴はブロードであり、それぞれの半値全幅(FWHM:full-width at half maximum)は約50Hz、FAI溶液では約20Hzであった(
図17~19)。一方、MA+及びFA+を除くMC-NMPインクの全成分を含む溶液中の水プロトンは、非常に狭い、約1Hzの共鳴を生じた(
図2A、20)。ブロードなピークは、NMR信号の取得中に化学的な交換を経験するプロトンに観察され、すなわち、交換するプロトン集団の共鳴のFWHMは、その交換速度に直接関係する。したがって、MA+及びFA+の存在下での水の共鳴を拡げることは、水のプロトン交換速度の増加を示す。これは、水とMA+及びFA+のアミノ基との間のプロトンの移動に起因すると考えられる。
【0026】
MA+及びFA+の酸塩基平衡では、プロトン型とその共役塩基とが相互変換している。水溶液中では、このプロセスの主なメカニズムには水が関与しており(
図2B)、プロトン化された化学種とその共役塩基との間における直接的なプロトン移動による相互変換の寄与はそれほど大きくなく、速度も遅い。MC-NMPインクにおける水とN-Hプロトンとの交換は、水の関与を示し、高い含水率は相互変換の速度を増加させることを示唆している。これはMA+及びFA+のカチオンが、その後アミノリシス反応を起こすMAとFAとに急速に変換されるため、インクの分解速度が加速されることにつながる。
【0027】
[インクの安定化]
インクを安定させるためには、アミン-水プロトン交換を阻害することによって、弱酸とその共役塩基との相互変換速度を遅くする必要がある。交換速度の低下は、1H NMRの水のピークが狭くなることで観察でき、すなわち、水のピークはベースラインと容易に区別できるようになり、プロトン交換がさらに遅くなると、水のピークはアミンを含まない溶液と同じように見えるまで狭くなる(
図2A)。強酸性溶液では、アミン-水プロトン交換の速度は遅くなり、酸解離平衡は、より低濃度な反応性のMA及びFAが形成されるようにシフトするが、酸は、酸触媒を用いたDMF加水分解などの代替インク分解ルートにつながる(
図21~26)。そこで、発明者らは、アミン基と相互作用しうる中性添加剤について検討した。アミンのプロトン交換速度は、アルキル置換の増加に伴って減少することから、アミン基の立体障害が安定性向上に有効である可能性が示唆された。
【0028】
図3。S8添加剤によるMC-NMPインクの安定化。0日及び124日間エージングしたMC-NMP-S8インクから作製した安定したフィルムの(A)写真、及び、(B)XRDである。(C)0日及び124日間エージング(18~21℃で15~50%のRH)した後のDMSO-d6中のMC-NMP-S8インクの簡略化した1H NMRスペクトルであり、主な共鳴のみ示す(溶媒のピークを含む全スペクトルは
図29及び
図33を参照)。(D)MA+ CH3共鳴の積分から計算された、インクのエージング時間の関数としての初期MA+残存率の割合である(
図29~33)。
【0029】
DMSO/DMF共溶媒中のFA+及びMA+を含むインクに元素状硫黄(S8)を添加すると、硫黄-メチルアミン反応により安定性が向上することが示されているが、正確な安定化メカニズムについては、まだ調査中である。MC-NMPインク(「MC-NMP-S8」)に0.001MのS8を添加すると、非常に安定なインクが得られた、すなわち、124日間エージングしたMC-NMP-S8から作製したフィルムは、ペロブスカイト相のみを形成した(
図3A、B)。エージングしたMC-NMP‐S8インクの1H NMRスペクトルでは、MA+(2.37ppm)とFA+(7.87ppm)との共鳴の積分値が3.5ヶ月にわたってわずかに減少した(
図3C、D)。MC‐NMP‐S8中のMA+含有量の最小変化を外挿すると、MA+の半減期は約6,300時間であることがわかる(
図3D)。硫黄が水-アミンのプロトン交換を遅らせたことは、エージング開始から1日以内に1H NMRの水共鳴が狭くなったことで証明された(
図4A)。水-アミンのプロトン交換を遅らせることで、酸/塩基の相互変換を抑制し、高安定性インクを実現した。
【0030】
プロトン交換を阻害するには、硫黄が、水、アミン基、又はその両方と相互作用しているに違いない。硫黄-水の相互作用の役割を調べるため、1Mの水を用いてMC-NMP-S8インクを調製した。原子状硫黄(S)よりも100倍高い水濃度にもかかわらず、水-アミンのプロトン交換は依然として阻害され、インク中のMA+及びFA+は少なくとも25日間安定した(
図34~36)。このインクの安定性と硫黄-水の相互作用の弱さとを考慮して、発明者らは、硫黄-水の相互作用は水-アミンのプロトン交換の阻害には関与せず、したがってインクの安定化には寄与しないと結論づけた。
【0031】
発明者らはまた、MC-NMPのオレンジ色はエージング開始から数日間変化しないが、MC-NMP-S8¬は1日程度エージングするとオレンジ色から黄色に変化することに気づいた(
図4A)。この色の変化は、脂肪族第1級アミン溶液にS8を室温で溶解させると色の変化を引き起こすことが示されている、開鎖ポリスルフィドアニオン及びフリーラジカルの形成を示唆している。これらのポリスルフィド種を形成するためのS8¬環の開環は、単一のN-S結合を有するN-ポリチオアミン塩(式3)又は2つのN-S結合を有するN,N’-ポリチオビスアミン(式4)を形成する、S8環上のアミンの求核攻撃から始まる。後続するS-S結合の切断により、ポリスルフィドイオン及びラジカル、並びに短いポリスルフィド鎖を有するN-ポリチオアミンが生成する。反応4で生成した弱酸性のH2S(pKa=7)はアミンをプロトン化することができ、生成したアルキルアンモニウムカチオンとポリスルフィドアニオンが「アルキルアンモニウムポリスルフィド」としてイオン相互作用することにつながる(式5)。
【化2】
【0032】
図4。MC-NMPインク中のS8添加剤とアミンとの相互作用。(A)6時間エージングする前と後のMC-NMP及びMC-NMP-S8インクの、インクの画像と、それに対応するN-H及びH2Oの1H NMR共鳴の出現。(B)インクのエージング時間の関数としてのN-H共鳴の化学シフトの変化。(C)エージングしたMC-NMP-S8インク(上)のアミン-硫黄複合体と、対照的に、エージングしたMC-NMPインクの劣化(下)。
【0033】
MC-NMP-S8インクの色の変化は、1H NMRスペクトルのN-H共鳴のシフト及びブロード化に相関しており、ポリスルフィドが形成されると、N-Hプロトンの環境に変化があることを示している。新鮮なオレンジ色のMC-NMP-S8インクでは、N-HピークはMC-NMPと同様に8.57ppmで、FWHMは25Hzであり、1日エージングした黄色のMC-NMP-S8では、N-H共鳴は8.71ppmにシフトし、170Hzに著しくブロード化したが、これはS8の添加でのみ観察された(
図4A、B)。以前、脂肪族1級アミンのN-H化学シフトとS8の濃度との間に直接的な関係があることが示されたように、N-Hプロトンのピークのより高い化学シフトへの移動は、N-S含有種の形成による可能性が最も高い。新しいピークの出現とは対照的に、N-H共鳴のシフトとブロード化は、アミン-硫黄錯体がアミンと交換していることを示している。これらのN-S含有種は、N-S結合の形成が可逆的プロセスであることから、N-ポリチオアミン及びN,N’-ポリチオビスアミン(式3、4)、又はポリスルフィドが不安定であり、アルキルアンモニウムポリスルフィドとアミンとの迅速な交換が可能であることから、アルキルアンモニウムポリスルフィド(式5)である可能性がある(
図4C)。硫黄とMA及びFAのアミン基との反応は、それらを安定化させ、MA/MA+及びFA/FA+の水加速相互変換を阻害し、MC-NMPインクを分解するアミノリシス反応に対するMA+及びFA+の反応性を低下させる。
【0034】
[太陽電池]
ITO/SnO2/(FAPbI3)0.95(MAPbBr3)0.05/スピロ-OMeTAD/金(Au)構造のPSCを作製した。新鮮なMC-NMPは、平均約16%の効率、-21mA/cm2のJsc、1.10VのVoc、及び68%のFFのPSCを生成した(表S1、
図37)。1日エージングしたMC‐NMPは、PCSの作製に使用できない黄色の非ペロブスカイト膜を形成した(
図1)。一方、38日間エージングしたMC-NMP-S8インクで作製したデバイスは、一貫して平均約14%の効率、-20mA/cm2のJsc、1.05VのVoc、64%のFFを示した(
図5A、B;表S2)。
【0035】
図5。PSC。(A)MC-NMP-S8インクをスピンコートし、大気中で5日間エージングしたPSCの電流密度-電圧(J-V)曲線で、太陽電池パラメータは逆スキャンで示されている。(B)PSCの作製(スピンコーティングによる)に使用したインクのエージング時間の関数とした、開口面積0.4cm2の電力変換効率(PCE:power conversion efficiency)(注:非ペロブスカイトフィルムは、
図1に示すように、エージングしたMC-NMPから得られた)。(C)新鮮なMC-NMP‐S8インクをブレードコーティングして作製したPSCのJ-V曲線であり、太陽電池パラメータは逆スキャンで示されている。(D)新鮮なMC-NMP-S8インクをブレードコーティングして作製したデバイスの測定における、開口面積の関数としたPCE(表3)。
【0036】
MC-NMP-S8をブレードコーティングして作製したPSCは、スピンコーティングで作製したデバイスと同等の効率を示し(
図5C;表S3)、太陽電池のスケーラブルな作製にインクが適合することを示している。ブレードコーティングを施したデバイスでは、開口面積の増加に伴い、効率の低下(主にフィルファクタの低下による)が見られた(
図5D)。透明電極(ITOなど)のシート抵抗に由来する直列抵抗(Rs)は、開口面積とともにほぼ直線的に増加するため、このようなアップスケールによる効率低下のよく知られた傾向は、あらゆるタイプの太陽電池において避けられない。電極の導電率と吸収体の厚さとをさらに最適化すれば、フィルファクタと光電流(同様のペロブスカイト組成ではJsc値が25mA/cm2に達し得る)とが向上し、したがって、スケーラブルなPSCの全体効率が向上するはずである。
【0037】
[材料]
酸化スズ(IV)(H2O中15%、Alfa Aesar社製)。ヨウ化ホルムアミジニウム(FAI:formamidinium iodide)(>99.99%、Greatcell Solar社製)、ヨウ化鉛(II)(99.99%、TCI社製)、臭化メチルアンモニウム(MABr:methylammonium bromide)(>99.99%、Greatcell Solar社製)、臭化鉛(II)(≧98%、Sigma-Aldrich社製)、塩化メチルアンモニウム(MACl:methylammonium chloride)(>99%、Greatcell Solar社製)、1-メチル-2-ピロリジノン(NMP)(≧99.0%、Sigma-Aldrich社製)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)(無水、99.8%、Sigma-Aldrich社製)、硫黄(昇華、BDH)、L-α-ホスファチジルコリン(卵黄、XVI-E型、≧99%(TLC)、凍結乾燥粉末、Sigma-Aldrich社製)、ヨウ化フェネチルアンモニウム(PEAI:phenethylammonium iodide)(98%、Sigma-Aldrich社製)。2,2’,7,7’-テトラキス[N,N-ジ(4-メトキシフェニル)アミノ]-9,9’-スピロ-ビフルオレン(スピロ-OMeTAD)(Xi'an Polymer Light Technology Corp.社製)、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドリチウム塩(Li-TFSI)(99.95%、Sigma-Aldrich社製)、4-tert-ブチルピリジン(tBP:tert-butylpyridine)(96%、Sigma-Aldrich社製)、FK 209 Co(III)TFSI塩(Co-TFSI)(Sigma-Aldrich社製)。ジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)(99.9原子%D、Sigma-Aldrich社製)。
【0038】
[計測機器]
XRD測定は、PANalytical(商標) EmpyreanシステムでCu(Kα、1.5406Å)線源を用いて行った。1H NMRスペクトルは、化学シフトは残留DMSO-d5シグナルに校正したBruker AVANCETM(商標)-III 300MHzスペクトロメーターで取得した。ブレードコーティングはZehntner Proceq ZAA 2300 Automatic Film Applicatorで行い、光起電力パラメータはNewport Oriel sol-3A(クラスAAA)ソーラーシミュレータで測定した。
【0039】
[ペロブスカイトインク]
すべてのインクは、NMPとDMFの重量比30:70で、1.23M FA
+、0.382M MA
+、1.29M Pb
2+、3.69M I
-、0.186M Br
-、及び0.32M Cl
-を含む(溶媒組成の最適化を
図6及び
図7に示す)。硫黄含有インクは、S
8のストック溶液を作製し、これを用いてインク中のS
8の最終濃度を0.001Mとなるように準備した。0.001MのS
8に加え、ブレードコーティングに使用したインクにはまた、0.206mg/mLのL‐α‐ホスファチジルコリンも含まれている。すべての
1H NMRスペクトルを取得するため、分析直前に100μLのインクを500μLのDMSO‐d6と混合した。
1H NMRシグナルは、2.49ppmの残留DMSO-d5シグナル(1.00に較正)に対して積分した。SciPyライブラリ(optimizeおよびstatsモジュール)を使用して計算した、NMRデータ(
図1E、3D、4B)の指数回帰分析および線形回帰分析の式は以下のとおりである:
図1E
y=100e
-0.05x+0.2(20~30%RH)
y=100e
-0.08x―1(40%RH)
図3D
y=―0.2x+93
図4B
y=―0.2e
―0.09x+9(MC-NMP-S
8)
y=0.2e
―0.04x+8(MC-NMP)
【0040】
[太陽電池作製]
インジウム・スズ酸化物パターン化ガラス基板を、余剰水溶液、水、アセトン、及びイソプロパノール(IPA:isopropanol)の各溶液中で15間超音波処理した後、UV/O
3処理を30分間行って洗浄した。電子輸送層は、H
2O対H
2O中15%のSnO
2の体積比が6:1で含む溶液から作製し、この溶液は、成膜前に、100μLを3000rpmで30秒間(2回)スピンコートして超音波処理した。150℃で30分間アニールする前に、水を用いて基板の端からSnO
2溶液を拭き取った。UV/O
3処理をさらに30分行った後、スピンコート(75μLインク、4000rpm、25秒)またはブレードコート(20μlインク、ギャップ高さ120μm、7mm/s)によりペロブスカイトインク(0.22μmのPTFEでろ過)を成膜し、続いてジエチルエーテル浴中で1分間、そして150℃で3分間アニールした。ブレードコーティングで成膜したペロブスカイト層の界面修飾は、IPAに1mg/mLのPEAIを溶かした溶液に1分間浸漬し、その後IPAで5~10秒間フィルムを洗浄し、100℃で1分間アニールすることで行った。ホール輸送層は、クロロベンゼン中の0.07Mのスピロ-OMeTAD、アセトニトリル中の1.88MのLi-TFSI、アセトニトリル中の0.25MのCo-TFSI、及びtBPを体積比110:2.3:3.9で含む混合溶液(0.22μmのPTFEでろ過)を、30秒間2000rpmで70μLダイナミックスピンコーティングすることで作製した。ペロブスカイト層とHTLとは、HTL上に金を熱蒸着する前に、2-エトキシエタノールで基板端から拭き取った。XRD分析用のサンプルは、洗浄したITO-ガラス基板から作製し、上記のようにスピンコーティングによってSnO
2層及びペロブスカイト層を堆積させた。すべてのインク及びフィルムの作製及び保管は、大気中、室温(18~22℃)で行った。
【表1】
[表S1] 新鮮なMC‐NMPインクをスピンコートして作製した太陽電池の光電変換パラメータ。値は開口面積0.3996cm
2の35画素の平均値であり、乾燥剤を入れた箱の中で3日間デバイスをエージングした後に測定した。
図5Bは、逆スキャンのデータを含む。
【表2】
[表S2] エージングしたMC‐NMP‐S8インクをスピンコートして作製した太陽電池の光電変換パラメータであり、各デバイスのセットについて順方向スキャン及び逆方向スキャンのデータを示す。開口面積0.3996cm
2のデバイスは、乾燥剤を入れた箱の中で6~7日間エージングした後、測定した。
図5Aには5日間エージングしたインクのデータが含まれ、
図5Bには逆スキャンのデータが含まれる。
【表3】
[表S3] 新鮮なMC‐NMP‐S8インクをブレードコーティングして作製した太陽電池の光起電力パラメータであり、各デバイスのセットについて、順方向スキャンと逆方向スキャンのデータを示す。デバイスは作製したその日に測定した。
図5Dの逆方向スキャンPCE対開口面積の線形回帰の式は、y=-3.8x+18.3である。
【0041】
さらに理解を深めるには、補足の
図6~
図39、並びに補足の表S1、表S2、及び表S3をご覧いただきたい。
【0042】
図3Bは、0~124日の間の日数エージングしたMC-NMP-S8インクから作製したフィルムのXRDを示す(正規化した強度‐実際の強度は
図27~28を参照)。
図3C。0日及び134日間エージング(18~21℃、15~50%RH)後のDMSO-d6中のMC-NMP-S8インクの簡略化した1H NMRスペクトル(溶媒のピークを含む、全体のスペクトルは
図29及び
図33を参照)。(
図3D)MA+ CH3共鳴(
図29~
図33)の積分から計算した、インクのエージング時間の関数としての初期MA+の残存率。
【0043】
硫黄がプロトン交換を阻害するには、水、アミン基、又はその両方と相互作用していなければならない。硫黄-水の相互作用の役割を調べるため、1Mの水を用いてMC-NMP-S8インクを調製した。原子状硫黄(S)よりも100倍高い水濃度にもかかわらず、水-アミンのプロトン交換は依然として阻害され、インク中のMA+及びFA+は少なくとも25日間安定化した(
図34~
図36)。このインクの安定性と硫黄-水相互作用の弱さとを考慮すると、硫黄-水相互作用は水-アミンのプロトン交換の阻害には関与せず、したがってインクの安定化には寄与しないと結論した。
【0044】
図8及び
図9は、無添加(硫黄)のペロブスカイトの湿度存在下での分解を示す。
図21~
図26:添加剤を使用したインクの安定化。
【0045】
強酸性溶液では、アミン-水プロトン交換速度が遅くなり、反応性のMAとFAとが低濃度で生成するように酸解離平衡がシフトするが、酸は、酸触媒を用いたDMF加水分解などの代替インク分解ルートにつながる(
図21~
図26)。そこで、発明者らは、アミン基と相互作用しうる中性添加剤について検討した。アミン基のプロトン交換速度は、アルキル置換の増加に伴って減少することから、アミン基の立体障害が安定性向上に有効である可能性が示唆された。
【0046】
図10~
図14は、硫黄などの添加剤を加えなかった場合の、アミン-水プロトン交換反応によるペロブスカイト膜の劣化を示している。
図3Bは、0~124日の間の日数エージングしたMC-NMP-S8インクから作製したフィルムのXRDを示す(正規化強度-実際の強度については
図27~
図28を参照)。
【0047】
図3C。DMSO-d6中のMC-NMP-S8インクの、0日及び124日エージング後(18~21℃、15~50%RH)の簡略化した1H NMRスペクトルで主要な共鳴のみを示す(溶媒ピークを含む完全なスペクトルについては
図29及び
図33を参照)。(
図3D)MA+ CH3共鳴(
図29~
図33)の積分から計算した、インクのエージング時間の関数としての初期MA+の残存率。硫黄は水、アミン基、またはその両方と相互作用して、プロトン交換を阻害していなければならない。硫黄-水の相互作用の役割を調べるため、1Mの水を用いてMC-NMP-S8インクを調製した。原子状硫黄(S)よりも100倍高い水濃度にもかかわらず、水-アミンのプロトン交換は依然として阻害され、インク中のMA+及びFA+は少なくとも25日間安定化した(
図34~
図36)。このインクの安定性と硫黄-水相互作用の弱さとを考慮すると、硫黄-水相互作用は水-アミンのプロトン交換の阻害には関与せず、したがってインクの安定化には寄与しないと結論した。
【0048】
図15及び
図16は、MA+及びFa+を混合したインクの分解経路が他のインクと異なることを示している。エージングしたMC-MPインクの1H NMRスペクトルでは、MA+又はFA+を含む単一有機カチオンインクの分解から生じるであろう、ジメチルアミン(2.54ppm、
図15)、N-メチルホルムアミド(2.56ppm、
図16)、s-トリアジン(9.3ppm)からの共鳴は観測されなかった14。11、14。したがって、これらの反応経路はMA+及びFA+の混合インクの分解には関与しない。
【0049】
図17、
図18、
図19:MA+及びFA+を含む水容器と含まない水溶液の、インク分解における水の役割。
図20:一方、MA+及びFA+を除くMC-NMPインクの全成分を含む溶液中の水プロトンは、約1Hzの非常に狭い共鳴を生じた(
図2A、20)。ブロードなピークは、NMR信号の取得中に化学交換を受けるプロトンに観察され、交換するプロトン集団の共鳴のFWHMは、その交換速度に直接関係する。
【0050】
要約すると、ペロブスカイト太陽電池の商業化を阻む大きな障害は、スケーラブルなプロセスで太陽電池を製造する際に従来使用されてきたペロブスカイトインクの劣化であり、というのもペロブスカイトインク中の有機カチオンの分解は、大気中では数時間以内に観察される。発明者らは、水が迅速なプロトン移動過程を促進することによって、そして、元素状硫黄のような、アミン基と相互作用してアミン-水プロトン交換を阻害することができる低濃度の添加剤によって、MAによるFA+のアミノリシスを促進し、インクを数か月間安定させるという証拠を提供する。これらの発見は、インクの劣化における水の役割のメカニズム的理解を提供し、ペロブスカイトインクの不安定性を克服する手段を提供し、ペロブスカイト太陽電池の商業化への道を開くものである。
【0051】
ペロブスカイト太陽電池の工業的製造には、大気処理が望ましい。ここでは、太陽電池製造のスケールアップのための前提条件を満たす共溶媒組成である、N-メチル-2-ピロリドンとN,N-ジメチルホルムアミド中のメチルアンモニウムとホルムアミジニウムを含むペロブスカイトインクは、大気中で半減期が9時間しかないことを示す。1H NMR分光分析から、インクに含まれる水がメチルアンモニウム-メチルアミンのプロトン交換を促進し、メチルアミンによるホルムアミジニウムのアミノリシスを促進することを見出した。元素状硫黄の添加により、硫黄-アミン反応によるこのプロトン交換プロセスが阻害され、半減期6,300時間の安定したペロブスカイトインクが得られた。1日エージングした対照インクは、太陽電池製造用のペロブスカイト膜を形成しないが、硫黄で安定化させたインクは、1ヶ月以上エージングすることで再現性よく>15%の効率を有するデバイスを作製することができる。安定化したインクは、ペロブスカイト太陽電池製造のスケールアップに適しており、ブレードコーティングされたデバイスの効率は17%に達する。
【0052】
ペロブスカイトインクを安定化させる方法であって、ペロブスカイトインク中のアミン基と相互作用してアミン‐水のプロトン交換を阻害することができる添加剤をペロブスカイトインクに添加することを含む方法が提供される。いくつかの実施形態では、添加剤は元素状硫黄である。
【0053】
溶媒に溶解した前駆体塩を含むペロブスカイトインク製剤であって、このインク製剤は薄膜として成膜され、結晶化して「ABX3」組成のペロブスカイト構造を形成するペロブスカイトインク製剤が提供され、すなわち、「A」は、メチルアンモニウム(MA+)、ホルムアミジニウム(FA+)又はセシウム(Cs+)のような1価のカチオンであり、「B」は、2価のカチオン(Pb2+又はSn2+)であり、そして「X」は、ハロゲン(F-、I-、Br-又はCl-)であり、そしてここで、添加剤は、ペロブスカイトインク中のアミン基と相互作用して、アミン-水プロトン交換を阻害する。インクは、さらに、後にペロブスカイトの薄膜を形成するペロブスカイト前駆体塩を形成するために、1:1:3のモル比で添加されるグループA、グループBからの塩の1つまたは複数の組み合わせを含んでもよい。
【0054】
ペロブスカイトインクが、硫黄または硫黄系化合物より成る群から選択される1種以上の添加剤を含むペロブスカイトインク製剤は、インクの安定化のために添加してもよい。インクを安定化させる他の添加剤の例としては、ホウ酸トリエチル、18-クラウン-6、ITIC-Th、L-α-ホスファチジルコリン、フェニルホウ酸などがあげられ、添加剤は約0.001M~約0.1Mの濃度で添加される。添加剤含有インクは、添加剤モル比が10-4M~1Mの間の値をとり得る。いくつかの実施形態では、ペロブスカイトインク製剤は0.001Mの硫黄を含むことができる。
【0055】
ペロブスカイトインク製剤中の「A」は、メチルアンモニウム(MA+)とホルムアミジニウム(FA+)との混合物であってもよい。MA+対FA+の比は、1:19~1:1の間で変化してもよい。MA+対FA+の比は、1対3であってもよい。
【0056】
ペロブスカイトインク前駆体は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アルキル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジアルキルホルムアミド、γ-ブチロラクトン(GBL)、2-メチルピラジン(2-MB)、1-ペンタノール(1-P)、2-メトキシエタノール(2-ME)及びN,N’-ジメチルプロピレン尿素(DMPU)より成る群から選択される、1つ以上の溶媒を含んでもよい。ペロブスカイト薄膜の形成に必要なペロブスカイトインクの最終濃度を達成するために、選択された1つ又は組み合わせの溶媒の重量パーセント比は、10~30%の範囲とすることができる。
【0057】
ペロブスカイトインク形成における溶媒は、NMPとDMFとの混合物であってもよい。NMPとDMFの比率は、5:95~50:50の間で変化し得る。NMPとDMF溶媒の比率は30~70である。
【0058】
いくつかの実施形態において、ペロブスカイトインク製剤中の「B」は、be、Mg、Ca、Sr、Ba、Fe、Cd、Co、Ni、Cu、Ag、Au、Hg、Sn、Ge、Ga、Pb、In、Tl、Sb、Bi、Ti、Zn、Cd、Hg、Zrの群からの1つ以上の金属を含む2価のカチオンであってもよい。
【0059】
本特許文献において、「備える/含む(comprising)」という単語は、その単語の後に続く項目が含まれるが、特に言及されていない項目が除外されないことを意味する非限定的な意味で使用されている。不定冠詞「a」による要素への言及は、文脈上明らかに要素が1つだけであることが要求されない限り、その要素が2つ以上存在する可能性を排除するものではない。
【0060】
特許請求の範囲は、例として記載された図示の実施形態によって限定されるべきではなく、明細書全体を考慮した特許請求の範囲の趣旨に沿った最も広い解釈が与えられるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定なペロブスカイトインクを合成する方法であって、
ペロブスカイトインクを準備するために、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を含む溶媒中で、メチルアンモニウム及びホルムアミジニウムを混合するステップと、
ペロブスカイトインクに元素状硫黄を添加することで、安定なペロブスカイトインクを合成するステップと、
を備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記溶媒はNMP及びDMFを含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、NMP対DMPの重量比は30~70である、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、さらに、ペロブスカイトインクにL-α-ホスファチジルコリンを添加するステップを備える、方法。
【請求項5】
ブレードコーティングに使用するペロブスカイトインクであって、
1種類以上の溶媒に溶解している前駆体塩であって、「ABX3」組成を有するペロブスカイト構造を形成するために薄膜として結晶化したとき、
「A」はメチルアンモニウム(MA+)とホルムアミジニウム(FA+)との混合物であり、
「B」は2価のカチオンであり、また、
「X」はF-、I-、Br-及びCl-のうちの1つ以上のハロゲンである、
該前駆体塩と、
元素状硫黄と、並びに
NFP及びDMFを含む溶媒と、
を備える、ペロブスカイトインク。
【請求項6】
請求項5に記載のペロブスカイトインクにおいて、MA+対FA+のモル比は~3である、ペロブスカイトインク。
【請求項7】
請求項6に記載のペロブスカイトインクにおいて、前記溶媒はNMP及びDMFを含む、ペロブスカイトインク。
【請求項8】
請求項7に記載のペロブスカイトインクにおいて、NMP対DMFの重量比は30~70である、ペロブスカイトインク。
【請求項9】
請求項8に記載のペロブスカイトインクであって、さらに、L-α-ホスファチジルコリンを添加するステップを備える、ペロブスカイトインク。
【請求項10】
ペロブスカイトインク太陽電池を合成する方法であって、
ガラス基板を選択するステップと、
前記ガラス基板の上に電子輸送層を形成するステップと、
ペロブスカイト層を設けるためにメチルアンモニウム、ホルムアミジニウム、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)および元素状硫黄を含むペロブスカイトインクで前記電子輸送層ブレードコーティングするステップと、並びに
前記ペロブスカイト層の上にホール輸送層を堆積するステップと、
を備える、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記方法はスケーラブルな方法である、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記溶媒はNMP及びDMFを含む、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記ペロブスカイトインクはさらにL-α-ホスファチジルコリンを含む、方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0004】
ペロブスカイトインクの経時変化では、I-からI
2
への有害な酸化と、MA+、FA+、及び溶媒を含む有機成分の反応とが劣化の主な要因である。不活性雰囲気外の大気中で処理すると、インク中の水分含量が増加し、分解が加速される。場合によっては、これは、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF:dimethylformamide)溶媒が加水分解してジメチルアミンとギ酸とが生成されるためであるが、しかし、ジメチルスルホキシド(DMSO:dimethyl sulfoxide)とDMFとの共溶媒中にFA+又はMA+/FA+を含むペロブスカイトインクの分解は、DMFの加水分解を伴わないが、水によっても促進される。ペロブスカイトインクに対する湿度の悪影響は、PSC製造の規模を拡大する上で大きな問題であり、すなわち、安定したインクを開発する必要がある。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
【
図1】
図1Aは、MC-NMPインクを0時間及び28時間エージングしたフィルムの写真である。
図1Bは、ジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)中で0時間及び28時間エージングしたMC-NMPインクのXRDスペクトルである。
図1Cは、ジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)中で0時間及び28時間エージングしたMC-NMPインクのH-NMRスペクトルである。
図1Dは、MAのFA+及びMFA+に対する反応について提案するメカニズムを開示する式である。
図1Eは、MA+ CH3共鳴から計算した、新鮮なMC-NMPインク(約20~30%の相対湿度(RH:relative humidity))におけるMA+に対する、約20~30%のRH及び約40%のRHでのエージング後に残存するMA+の割合を開示するグラフ図である。約20~30%のRH及び約40%のRHでのMA+の半減期は、それぞれ約14時間及び9時間である。
【
図2】
図2Aは、アミン-水プロトン交換を示し、1H NMRのH2O共鳴は、MA+及び/又はFA+を含む溶液ではブロードであり(挿入図)、MA+又はFA+を含まない溶液のスペクトルでは狭い(黒いトレース)ことを示すグラフ図である。
図2Bは、アミン-水プロトン交換プロセス、すなわち、プロトンがアルキルアンモニウムから水に移動し、そして、水からアルキルアミンに移動するグラフ図を示す。
【
図3】0日及び124日間エージングしたMC-NMP-S8インクから作製した安定したフィルムの写真である。
図3Bは、0~124日の間の日数エージングしたMC-NMP-S8インクから作製したフィルムのXRDグラフ図(正規化強度)である。
図3Cは、0日及び124日間エージングした後のDMSO-d6中のMC-NMP-S8インクの1H NMRスペクトルのグラフ図である。
図3Dは、MA+ CH3共鳴の積分から計算された、インクのエージング時間の関数としての初期MA+残存率のグラフ図である。
【
図4】
図4Aは、6時間のエージング前及び後の、MC-NMPインク中のアミンとS8添加剤との相互作用のグラフ図であり、インク及びそれに対応するN-HとH2O 1H NMRとの共鳴の出現を表す画像である。
図4Bは、N‐H共鳴の化学シフトの変化をインクのエージング時間の関数としてあらわしたグラフ図である。
図4Cは、エージングしたMC-NMPインク(下段)の分解とは対照的に、エージングしたMC-NMP-S8インク(上段)中のアミン‐硫黄錯体の式を開示する。
【
図5】
図5Aは、大気中で5日間エージングしたMC-NMP-S8インクをスピンコートすることで作製したペロブスカイト太陽電池(PSC)の電流密度-電圧(J-V)曲線のグラフ図であり、太陽電池パラメータは逆スキャンで示した。
図5Bは、開口面積0.4cm2における電力変換効率(PCE)を、PSCの作製(スピンコーティングによる)に使用したインクのエージング時間の関数として示したグラフ図である(注:非ペロブスカイトフィルムは、
図1に示すように、エージングしたMC-NMPから得られた)。
図5Cは、新鮮なMC-NMP-S8インクをブレードコーティングして作製したPSCのJ-V曲線のグラフ図であり、太陽電池パラメータは逆スキャンで示されている。
図5Dは、新鮮なMC-NMP-S8インクをブレードコーティングして作製したデバイスの測定における、開口面積の関数としたPCEのグラフ図である。
【
図6】DMFに対して異なる重量比のNMPを含有するMC-NMPインクから作製され、150℃で1分、3分、又は5分間アニールされたフィルムの画像である。
【
図8】約20~30%のRHで0、1、2日間エージングしたMC-NMPインクから作製されたフィルムのXRDを示す(
図1Bに示されるRH40%でエージングされたMC-NMPのフィルムのXRDである)。
【
図9】新鮮なMC-NMPインクから作られたフィルムを大気中で8日間エージングした後のXRDである。XRD分析前に、フィルムは部分的に黒から黄色に変化していた。
【
図10】新鮮なMC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図11】約20~30%のRHで24時間エージングしたMC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図12】約20~30%のRHで5日間(121時間)エージングしたMC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図13】約40%RHで6時間エージングしたMC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図14】約40%のRHで28時間エージングしたMC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図15】PbI2、PbBr2、NMP及びDMFの溶液中のH2O中16%ジメチルアミンの1H NMRを示す。
【
図16】PbI2、PbBr2、NMP及びDMF中のN-メチルホルムアミドの1H NMRを示す。
【
図17】PbI2、PbBr2、NMP及びDMFの1H NMRを示す。
【
図19】DMF中のMABrの1H NMRを示す。
【
図20】DMF中のMAClの1H NMRを示す。
【
図21】0日及び1日エージングした、0.001MのNH4Clの添加剤を含有する、MC-NMPインクから作製されたフィルムのXRDを示す。
【
図22】84日間エージングした、0.001MのNH4Clの添加剤を含有する、MC-NMPの1H NMRインクを示す。
【
図23】0日及び1日エージングした、0.001MのCH3COONH4の添加剤を有するMC-NMPインクをMC-NMPインクから作製されたフィルムのXRDを示す。
【
図24】84日間エージングした、0.001MのCH3COONH4の添加剤を含有する、MC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図25】0日及び1日エージングした、0.001Mのジベンゾ-18-クラウン-6を添加した、MC-NMPインクから作製されたフィルムのXRDを示す。
【
図26】1日エージングした、0.001Mのジベンゾ-18-クラウン-6を含有する、MC-NMPインクの1H NMRを示す。
【
図27】新鮮なMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図28】約20%のRHで1日エージングしたMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図29】約40%のRHで6時間エージングしたMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図30】約20~30%のRHで31日間エージングしたMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図31】約20~55%のRHで124日間エージングしたMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図32】1MのH2Oを含有する新鮮なMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図33】1日エージングした、1MのH2Oを含有するMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図34】25日間エージングした、1MのH2Oを含有するMC-NMP-S8インクの1H NMRを示す。
【
図35】エージングしたMC‐NMP‐S8から作製されたフィルムのXRDの実際
のピーク強度を示す(正規化したピーク強度は
図3Bに示す)。
【
図36】124日間エージングした、MC-NMP-S8から作製されたフィルムのXRDを示す。
【
図37】新鮮なMC-NMPインクをスピンコートして作製したPSCのJ-V曲線であり、太陽電池パラメータは逆スキャンで示されている。
【
図38】3通りのエージングを行ったMC-NMP-S8インクから作製された新鮮なフィルムの吸収度を示す。
【
図39】3通りのエージングを行ったMC-NMP-S8インクから作製された新鮮なフィルムPLを示す。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
次に、ペロブスカイトインクを安定化させる方法について、
図1~
図5Dを参照して説明する。すべてのステップが完全に理解されるように
、表(表S1~表S3)とともに
、図(
図6~
図39)もまたサポートとして提示する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0041
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0041】
さらに理解を深めるには
、図6~
図39、並び
に表S1、表S2、及び表S3をご覧いただきたい。
【国際調査報告】