(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】過給される内燃エンジンにおける過給圧を制御する補償制御器
(51)【国際特許分類】
F02B 37/18 20060101AFI20240912BHJP
F02B 37/00 20060101ALI20240912BHJP
F02B 37/24 20060101ALI20240912BHJP
F02B 33/34 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
F02B37/18 B
F02B37/00 500B
F02B37/18 A
F02B37/24
F02B33/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579507
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 EP2022073433
(87)【国際公開番号】W WO2023052003
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】102021125259.8
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(74)【代理人】
【識別番号】100191938
【氏名又は名称】高原 昭典
(72)【発明者】
【氏名】パセンブルナー・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ベルントル・ゲオルク
【テーマコード(参考)】
3G005
【Fターム(参考)】
3G005EA15
3G005EA23
3G005EA25
3G005FA02
3G005GA02
3G005GA04
3G005GB17
3G005GB25
3G005GE01
(57)【要約】
【課題】1つのアクチュエータから他のアクチュエータへの切換時のネガティブな作用が回避されるように、過給圧を制御する制御器を改善する。
【解決手段】内燃エンジンにおいて過給圧を制御する電子制御ユニット4用の補償制御器において、過給される内燃エンジンが、システムゲインが異なる少なくとも2つのアクチュエータVGT,RK;1,2と、一方では少なくとも1つの制御器パラメータが所定の移行範囲において平滑化され、他方では、第1のシステムゲインを有する第1のアクチュエータ1から第1のシステムゲインとは異なる第2のシステムゲインを有する第2のアクチュエータ2へ制御が移行するときに、積分割合がシステムゲインの比率又は差異に対応する補正値をもって移行されるように構成された補正モジュール5とを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムゲイン(k_T,k_B)が異なる少なくとも2つのアクチュエータ(VGT,RK;1,2)と、一方では少なくとも1つの制御器パラメータが所定の移行範囲(B)において平滑化され、他方では、第1のシステムゲイン(k_T)を有する第1のアクチュエータ(1)から第1のシステムゲインとは異なる第2のシステムゲイン(k_B)を有する第2のアクチュエータ(2)へ制御が移行するときに、積分割合がシステムゲインの比率又は差異に対応する補正値をもって移行されるように構成された補正モジュール(5)とを有する過給される内燃エンジン(D)において過給圧を制御する電子制御ユニット(4)用の補償制御器。
【請求項2】
制御器パラメータの平滑化が所定の移行範囲(B)において行われること、及び第1のアクチュエータ(1,VTG)が完全に開放されている場合に制御が第1のアクチュエータ(1)から第2のアクチュエータ(2)へ引き渡される初期化時点(t0)において、積分割合の補正が行われることを特徴とする請求項1に記載の補償制御器。
【請求項3】
補正値が、第2のアクチュエータ(2)のシステムゲインに比例する値(k_B)に対する第1のアクチュエータ(1)のシステムゲインに比例する値(k_T)の比率によって形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の補償制御器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つのアクチュエータを有する過給される内燃エンジンにおける過給圧を制御する電子制御ユニット用の補償制御器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
少なくとも2つのアクチュエータを有する過給される内燃エンジンにおける過給圧を制御する様々な制御器が既に知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、例えば過給圧の低下、これに伴う牽引力変動及び運転者にとって感じ取れるショックのような、1つのアクチュエータから他のアクチュエータへの切換時のネガティブな作用が回避されるように、過給圧を制御する制御器を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
当該課題は、請求項1の特徴によって解決される。本発明の有利な発展形態は、従属請求項の対象である。
【0005】
本発明は、システムゲインあるいは伝達特性(応答特性)が異なる少なくとも2つのアクチュエータを有する過給される内燃エンジンにおける過給圧を制御する電子制御ユニット用の補償制御器に関するものである。
【0006】
このとき、制御ユニットは、少なくとも1つの制御器パラメータが所定の移行範囲において平滑化され、積分(統合)された割合(例えばPI制御器又はPID制御器のI割合)が所定の移行範囲においてシステムゲインの比率又は差異に対応する補正値をもって引き渡されるように補正モジュールを備えている。
【0007】
好ましくは、制御器パラメータの平滑化が所定の移行範囲において行われ、第1のアクチュエータが完全に開放されている場合に制御が第1のアクチュエータから第2のアクチュエータへ引き渡される初期化時点において、積分割合の補正が行われる。
【0008】
したがって、移行範囲は、第1のシステムゲインを有する第1のアクチュエータが(第1のアクチュエータの完全な開放位置に到達した後)第1のシステムゲインとは異なる第2のシステムゲインを有する第2のアクチュエータへ制御が移行される初期化時点において始まる。
【0009】
本発明は以下の考察を基礎とする:
【0010】
多くの技術的なシステムでは、目標量を達成するために複数のアクチュエータが用いられる。例えば、これは、運転者意思に対応するために、車両において複数の駆動ユニットが同時に用いられる場合である。
【0011】
別の例は、ここでは特に多段過給を伴う態様における過給される内燃エンジンの過給圧制御において見られる。一方では、2つの異なるアクチュエータ、すなわち可変に調整可能なタービン幾何形状(短くVTGとも呼ばれる)を有する排ガスターボチャージャ及びバイパスフラップ弁(排ガス制御フラップ弁、短くRKとも呼ばれる)が高圧段(HD)において用いられる態様が存在する。他方では、固定されたHD段を有するトポロジーにおいては、低圧段(ND)を直接取り入れることが可能である。
【0012】
そして、目標量(例えば目標過給圧)は、複数のアクチュエータを操作する1つの共通の制御部によって調整される。しばしば、1つのアクチュエータを除いて全てのアクチュエータが制御され、制御は、1つのみのアクチュエータによって実行される。実際の制御が目標量の達成のために1つの(任意の)アクチュエータから他のアクチュエータへ変更される状況が問題である。
【0013】
モデルに基づく制御が用いられるか、又はデータ及び経験に基づく制御が用いられるかにかかわらず、モデルエラー、障害、経時によるシステムの変更などを補償するために、補償制御部を補完する必要がある。多くのケースでは、当該補償制御部は、単純なPI制御器又はPID制御器である。
【0014】
異なるアクチュエータを用いる場合に大きく異なるシステムゲインは制御技術的な視点において問題である。しかし、最大のパフォーマンスを達成するために、補償制御器はできる限りアグレッシブに設定される。異なるアクチュエータに対しては補償制御の異なるパラメータ化が用いられ、これにより、1つのアクチュエータから他のアクチュエータへの移行時に、補償制御器の出力の跳躍的な変化が生じることとなる。最悪のケースでは、制御が少なくとも一時的に第1のアクチュエータにおいて行われ、つづいて、制御が再び第2のアクチュエータにおいて行われる。
【0015】
従来技術によれば、第1のアクチュエータにおいて「学習」された補償制御器における積分割合(例えばPI制御器のI割合)は、他のアクチュエータへ伝達され、そこでは、特にアクチュエータがその伝達特性について異なるシステムゲインにより強く変化する場合に、過補償又は不足補償につながる。また、事情によっては、積分割合が他のアクチュエータについての補償制御器のパラメータ化をもって「正しく学習」されるまで非常に長い時間がかかる。当該時間の間には制御目標は達成されない。
【0016】
上述の両問題は、本発明により、基本的には以下のように解決される:
【0017】
補償制御のパラメータ化は、1つのアクチュエータから他のアクチュエータへの移行の前、後又は前及び後に、特に所定の移行範囲において平滑化されるため、補償制御器の出力の跳躍的な変化がもはや生じない。補償制御器の積分割合は分割されるため、一方では、他のアクチュエータへの移行が維持され、他方では、残りの積分割合が異なるゲインで調整され、あるいはゼロへ設定される。
【0018】
換言すれば、補正値の跳躍的な変化を回避するために、制御器を備えた電子制御ユニットでは、少なくとも1つの制御器パラメータが所定の移行範囲において平滑化される。また、より小さいシステムゲインを有する第1のアクチュエータ(例えばHD段におけるVTG)からより大きなシステムゲインを有するアクチュエータ(例えばHD段におけるバイパス制御フラップ弁)へ制御が受け渡されるべき場合には、I割合は、(異なる)システムゲインの比率によって補正される。当該補正値は、例えば、経験的(実験的)に検出され制御ユニットにメモリされ得る特性線あるいはテーブル(表)から取り出されることが可能である。しかし、特性線あるいはテーブルは、ファクタの形態で制御ユニットに存在してもよい。
【0019】
したがって、本発明によれば、制御ユニットは、特に、適当なソフトウェアプログラミングによる、制御器パラメータの適合のための補正モジュールを有する補償制御器と、1つのアクチュエータから他のアクチュエータへの制御の移行する場合のシステムゲインの差異への積分割合の引渡し時の調整とを含んでいる。
【0020】
本発明は、特に有利には、第1のケースにおいて、過給される双ターボチャージャ-内燃エンジン(例えばディーゼルエンジン)におけるHD段におけるVTGから制御フラップ弁(HD段におけるバイパスフラップ弁)へ、及びその逆への制御の引渡し時に用いられることが可能である。さらに、本発明は、第2のケースにおいて、固定されたHD段を有する過給される内燃エンジンの場合に、過給のひきつづき二段式の動作において、HD段における制御フラップ弁からND段におけるVTGへ、及びその逆への制御の引渡し時にも用いられることが可能である。
【0021】
図面に基づき、第1のケースの例において本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】二重に過給される内燃エンジンの構成要素の部分図である。
【
図2】本発明による補正モジュールを有する制御ユニットの拡大図である。
【
図3】補正値算出によってシステムゲインの差異を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1には、高圧通路HD段における(第1のアクチュエータ1を含む)第1のターボチャージャ及び(第2のアクチュエータ2を含む)排ガスバイパス制御フラップ弁と、低圧通路ND段における第2のターボチャージャ3とを有する内燃エンジンについての例としての二重に過給(チャージ)されるディーゼルエンジンDの本質的な構成要素の部分図が示されている。少なくとも高圧通路におけるターボチャージャは、可変に調整可能なタービン幾何形状(VTGアクチュエータ1)を備えている。制御フラップ弁は、可変に調整可能な弁(RKアクチュエータ2)を備えている。さらに、内燃エンジンDは、入口側において、高圧過給(チャージ)圧p_HD_istを検出する圧力センサP1を備え、オプションで、予備圧縮p_NDを検出する圧力センサP2を備えている。
【0024】
以下では、上述のように、HD段におけるVTG、すなわち第1の(VTG)アクチュエータ1から制御フラップ弁、すなわち第2の(RK)アクチュエータ2への制御の引渡し時の第1のケースについて本発明を説明する。
【0025】
内燃エンジンD及び特に過給圧は、電子制御ユニット4によって制御される。例えば、実際の高圧過給圧p_HD_istは、電子制御ユニット4の入力信号である。電子制御ユニット4では、目標高圧過給圧p_HD_sollも、制御器、例えば補償のためのPI制御器で補完されるモデルに基づく過給圧制御器の目標量(基準量)として設定される。
【0026】
図2には、制御ユニット4が更にいくらか詳細に図示されている。制御ユニット4は、制御器、特に補正モジュール5を有する本発明による補償制御器を含んでいる。制御ユニット4の例示的な出力信号は、第1のアクチュエータ1(VTG)及び第2のアクチュエータ2(RK)に対する制御(作動)信号である。
【0027】
補正モジュール5の構成(特にプログラミング)を
図3に関連して詳細に説明する。VTGアクチュエータ1及びRKアクチュエータ2は、異なるシステムゲインを有している。これは、
図3に例示的かつ概略的に図示されている:
【0028】
図3では、第1のアクチュエータ1及び第2のアクチュエータ2の各調整位置r_T及びr_B(0~100%)に依存してそれぞれ許容される面積Aの依存性に基づいて、第1のアクチュエータ1の比較的緩慢な伝達特性が上側に図示され、第2のアクチュエータ2の比較的迅速な伝達特性が下側に図示されている。
【0029】
図3に基づき、平滑化されるべき制御器パラメータ及びI割合の補正が見て取れる。
【0030】
制御器パラメータの平滑化は所定の移行範囲Bにおいて行われ、r_t=0%(すなわちVTGが完全に開放されている場合)が達成された後に制御が第1のアクチュエータ1から第2のアクチュエータ2へ引き渡される初期化時点t0においてI割合の補正が行われる。
【0031】
ここでは例えば1.3cm2である変化されるべき面積割合ΔAについては第1のアクチュエータ1によって40%の位置変化Δr_Tが必要であり、第2のアクチュエータ2によって8.2%の位置変化Δr_Bだけが必要である。システムゲイン(ΔA/Δr_TあるいはΔA/Δr_Bによるゲインファクタ)における当該差異は、ゲインファクタk_Tとk_Bの比率算出によって表され、第2のアクチュエータ2のI割合i_Bへの第1のアクチュエータ1のI割合i_Tについての補正値として定義されている。したがって、補正モジュール5では、オンされるべき第2のアクチュエータ2の制御に対する平滑化されたI割合についての規則が得られる:
i_B=i_T*k_T/k_B
【0032】
図4には、移行範囲を図示するタイムチャートが示されている。
【0033】
「第2のアクチュエータ制御」への制御器引渡し時のI割合移行についての最終的な計算例:
【0034】
i_T=10%の第1のアクチュエータ1についてのI割合が仮定される。これに基づき、
図3において仮定された数値に関連して行われる:
HD段における誤差の割り当てとして、i_B(初期値)=i_T*k_T/k_B=2.03%。
【0035】
本発明は、例えば、ND段における圧力制御にも同様に応用可能である。
【国際調査報告】