(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】音響力を用いた細胞および微小粒子などのオブジェクトの集合体の構造形成
(51)【国際特許分類】
C12N 5/07 20100101AFI20240912BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240912BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C12N5/07
C12M1/00 A
C12M1/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515323
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2022076869
(87)【国際公開番号】W WO2023052370
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514255523
【氏名又は名称】サントレ ナティオナル ド ラ ルシェルシェ シアンティフィク
(71)【出願人】
【識別番号】524085651
【氏名又は名称】エコール・シュペリュール・ドゥ・フィシック・エ・ドゥ・シミー・アンデュストリエル・ドゥ・ラ・ヴィル・ドゥ・パリ
(71)【出願人】
【識別番号】524086832
【氏名又は名称】アンスティテュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシェ・メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュピュイ,クロエ
(72)【発明者】
【氏名】エデ,ジャン‐リュック
(72)【発明者】
【氏名】ピラン,ジャン‐ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】オヨ,モーリシオ
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC10
4B029GB01
4B065AA90X
4B065AC12
4B065BC46
4B065BD08
4B065BD50
(57)【要約】
この発明は、細胞(6)やハイドロゲルまたは圧縮可能な材料の粒子(7)などの様々な物体を、流体(5)中に懸濁させ、人間の臓器組織に類似した層状構造を形成するための移動技術に関する。定在音波(4)が流体(5)を通じて伝播し、細胞(6)を圧力ノード上に、粒子を圧力アンチノード上に配置する。その結果、細胞(6)は流体(5)に対して正の音響コントラストを持ち、一方、粒子(7)は流体(5)に対して負の音響コントラストを持つ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オブジェクト(6、7)の集合体を構造形成する方法であって、
流体(5)と前記流体(5)中に懸濁した前記オブジェクト(6、7)をキャビティ(1)内に配置する工程、および
前記キャビティ(1)内で定常音響波(4)を発生させて、前記キャビティ(1)内で前記オブジェクト(6、7)を移動させる音響放射力を発生させる工程、を含み、
前記オブジェクト(6、7)が、
前記流体(5)に対して正の音響コントラストを有する第一のオブジェクト(6)および
前記流体(5)に対して負の音響コントラストを有する第二のオブジェクト(7)を含み、かつ、
前記定常音響波(4)が、このように移動した前記オブジェクト(6、7)を音響浮揚の状態に保つように維持されることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記キャビティ(1)内で発生する前記定常音響波(4)の波長が、前記定常音響波(4)の伝播方向(A1)に沿った前記キャビティ(1)の寸法(B1)の2倍未満であり、好ましくはこの寸法(B1)以下である方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法であって、前記音響放射力の前記作用下で前記オブジェクト(6、7)を配置した後に、前記第一のオブジェクト(6)を支持することができるマトリックス(20)を形成するために、物質を前記キャビティ(1)に導入する工程を含む方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記物質がハイドロゲルプレポリマーを含む方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の方法であって、前記マトリックス(20)が多孔性である方法。
【請求項6】
請求項3から請求項5のいずれか一項に記載の方法であって、前記物質が光重合性材料を含み、前記方法が、前記物質を前記キャビティ(1)に導入した後に、前記物質を光刺激して重合させる工程を含む方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の方法であって、前記音響放射力の前記作用下で前記オブジェクト(6、7)を配置した後に、前記オブジェクト(6、7)をインキュベートする工程を含む方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の方法であって、前記音響放射力の前記作用下で前記オブジェクト(6、7)を配置した後に、前記第二のオブジェクト(7)を加熱して溶かす工程を含む方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の方法であって、前記音響放射力の前記作用下で前記オブジェクト(6、7)を配置した後に、前記第一のオブジェクト(6)をカプセル化する工程を含み、この工程が、前記流体(5)に対して正の音響コントラストを有する第三のオブジェクトを前記キャビティ(1)に導入することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野、特に細胞集合体の構造形成、例えば生体組織の再構築またはモデル化を目的とする分野に関する。
特に本発明は、これには制限はされないが、細胞療法、薬理学的モデリング、農業食品(例えば肉、微細藻類もしくは植物の培養)または宇宙航空、特に微小重力状態下の細胞培養の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
チップ上の臓器およびオルガノイドの再構築とモデル化の研究の文脈において、細胞集合体の構造形成を目的とする実験的アプローチの数が増大している。
【0003】
この目的のために最も一般的に使用される技術としては、微小流体デバイス内の細胞の操作と、積層造形による組織の形成が挙げられる。
【0004】
次の論文で説明されている別のよく知られた技術は、音響浮揚を用いた細胞の構造形成である:Bouyer et al.A bio-Acoustic Levitational(BAL)Assembly Method for Engineering of Multilayered,3D Brain-Like Constructs,Using Human Embryonic Stem Cell Derived Neuro-Progenitors,Adv.Mater.2016,28,161-167.この技術は、異なる層の細胞間の結合を確立する目的で、層状の細胞を構造化することを可能とするが、そのような結合の進行を満足に制御することはできない。
【0005】
一般的に、この分野の既知の技術は複雑で高価であり、細胞の構造化と培養には長い期間が必要な場合があり、in vitroで実施した場合、多数の細胞が死滅する可能性がある。
【発明の概要】
【0006】
上記の問題を克服するために、本発明は、オブジェクトの集合体を構造形成する方法を提供する。この方法は、以下の工程を含む。
‐ 流体と該流体中に懸濁した前記オブジェクトをキャビティ内に配置する工程;および
‐ キャビティ内で定常音響波を発生させて、キャビティ内でオブジェクトを移動させる音響放射力を発生させる工程。
前記オブジェクトは、以下を含む。
・ 流体に対して正の音響コントラストを有する第一のオブジェクト、および
・ 流体に対して負の音響コントラストを有する第二のオブジェクト。
【0007】
キャビティ内で定常音響波を伝播させることにより、伝播方向に沿って、流体の圧力がゼロの場所である1つ以上のノード(波節)、およびこの圧力が最大の場所である1つ以上のアンチノード(波腹)をキャビティ内に形成することが可能となる。
【0008】
第一のオブジェクトは流体に対して正の音響コントラスト、すなわち正の密度-圧縮率因子を有するため、音響放射力によって圧力ノードに向かって輸送される。一方、第二のオブジェクトは負の音響コントラスト(または密度-圧縮率因子)を有し、音響放射力によって圧力アンチノードに向かって輸送される。
【0009】
したがって、本発明は、キャビティ内に、伝播方向に沿って連続する層または箔として、第一のオブジェクトの1つ以上の集合体と、第二のオブジェクトの1つ以上の集合体を非常に迅速に(通常は数秒で)、特に実施が簡単で安価な機器を使用して形成することを可能とする。
【0010】
このような層状構造は、通常、細胞外マトリックスの層によって分離された細胞層を含むヒトの臓器組織の構造に似ている。例えば、上皮、特に心臓、肺、または内皮の上皮は、分化したまたは未分化の層を含む場合がある。それは多くの場合、タンパク質の性質を持つ基底膜(例えば上皮細胞または筋細胞)上に存在する。別の例として、血液脳障壁または脳実質は、通常、相互に接続されたニューロンの層を含む。
【0011】
さらに、本発明は、定常音響波の作用下で音響浮揚によりこのように構造化されたすべてのオブジェクトを維持することを可能とする。この定常音響波の発生は、例えば数時間または数日といった必要な期間にわたって維持することができ、これにより、オブジェクトが生きている場合、特にそれらが生体細胞によって形成されている場合、オブジェクト間の相互作用を促進する。
【0012】
したがって、本発明は、選択された多孔性の1つ以上の層を形成する第二のオブジェクトを選択することにより透過性を制御し、そしてその結果として第一のオブジェクトを形成する細胞層間の結合と相互作用の進行を制御することにより音響浮揚による細胞培養を行うことを可能とする。
【0013】
この革新的なアプローチにより、オブジェクトと壁または表面との接触を制限することができ、これによりその機械的および機能的完全性を保持することができる。
【0014】
本明細書において、「オブジェクト」とは、キャビティ内で発生する音響波の長さに比べて好ましくは小さいサイズの生きた要素または無生物要素を指す。
【0015】
非限定的な例として、オブジェクトは通常は微小サイズであり、例えば1μmから100μmまたは数百μmの間である。
【0016】
したがって、好ましい非限定的な実施形態において、前記第一のオブジェクトは、例えば真核生物型または原核生物型の生体細胞などの生きた要素である。
【0017】
前記第二のオブジェクトは、例えば、コラーゲン、ゼラチンまたはフィブリンおよび細胞外マトリックスタンパク質をベースにしたハイドロゲルを含む粒子などの無生物要素であってもよい。非制限的な代替例として、第二のオブジェクトは、例えばポリジメチルシロキサンなどの圧縮性エラストマーを含むことができる。
【0018】
しかし、本発明は、上記の範囲外の異なるサイズのオブジェクトを用いて実施することができる。
【0019】
したがって、オブジェクトまたはその一部は、例えば細菌またはウイルスによって形成される1μm未満のサイズおよび/または数百μmのサイズであってもよい。
【0020】
オブジェクト、特に第一のオブジェクトまたはその一部は、多細胞要素または人工的に形成されたオブジェクトまたは臓器から取り出されたオブジェクトであってもよい。
【0021】
オブジェクトが懸濁している流体は、期待される用途に応じて、好ましくは、水を含むか、または培養液を形成する液体であってもよい。
【0022】
したがって、本発明は、研究目的または細胞療法の一部として、人工組織を再構成するための簡便な解決策を提供する。
【0023】
本発明はまた、特にオブジェクトの空間内での配置と、必要に応じて細胞間相互作用の進行を制御するという点で特に正確な解決策を提供する。
【0024】
この技術の簡便さと精度は、特に制御パラメータの数が限られていること、すなわち流体とオブジェクトのそれぞれの密度と音波伝播速度、および音響波の速度と周波数によるものである。
【0025】
当然に、上記の原理に基づいて多くの代替形態を実施できることができる。
例えば、第一および第二のオブジェクトが配置された後に、流体に他のオブジェクトを注入することができる。これにより、例えば追加または補足的な集合体を形成することができる。
【0026】
特定の実施形態では、キャビティ内で発生する定常音響波の波長は、定常音響波の伝播方向に沿ったキャビティの寸法の2倍未満である。
好ましくは、この波長はこの寸法以下である。
【0027】
定常音響波は、少なくとも1つのアンチノードと、少なくとも1つまたは2つのノードを有することが好ましい。
好ましい代替実施形態の範囲内では、これにより、第二のオブジェクトの層によって分離された2つの第一のオブジェクトの層を形成することが可能となる。
特にこのような代替形態の文脈では、ハイドロゲルまたは圧縮性エラストマーを用いて第二のオブジェクトを形成することにより多孔性の中間層を構成することが可能となり、第一のオブジェクトが生物細胞を含む場合、この中間層の両側に延びる第一のオブジェクトの層間の相互作用の進行を可能にすることができる。
【0028】
本発明により、音響浮揚を用いて細胞培養を行うだけでなく、代替的または追加的に、マトリックスを用いてオブジェクトを適切な位置に保持することにより、このようなプロセスを開始または継続することが可能となる。
特に、当該方法は、音響放射力の作用下でオブジェクトを配置した後に、第一のオブジェクトを支持することができるマトリックスを形成するために、物質をキャビティに導入する工程を含むことができる。
この物質は、流体によって構成される媒体の相変化を促進する生体適合性のある活性物質であることが好ましい。
この物質は、ハイドロゲルプレポリマーまたはゲル形態のマトリックスを形成することができる他の要素を含むことができる。
この物質は、触媒および/または光開始剤を含むことができる。
【0029】
ゲル形態のマトリックスは弾性的に変形可能でありながら、オブジェクトを空間内で適切な位置に的確に保持することができる。
さらにマトリックスは、ゲル状であっても他の形態であっても、多孔性であることが好ましい。
マトリックスの多孔性により、マトリックスは透過性および灌流性になり、細胞結合の進行を可能にする。
【0030】
一つの代替実施形態では、前記物質は光重合性材料を含み、当該方法は、物質をキャビティに導入した後に、物質を光刺激して重合させる工程を含む。
したがって、本発明により、オブジェクト(特に第一のオブジェクト)の構造化された集合体の支持マトリックスを形成することが可能となる。
【0031】
上記の様々な代替形態の範囲内で、当該方法は、音響放射力の作用下でオブジェクトを配置した後、そのオブジェクトをインキュベートする工程を含むことができる。
例えば、この目的のために、キャビティとその内容物をインキュベータ内に配置することができる。
インキュベーションは、細胞層の分化、自己組織化、および成熟を促進する。
【0032】
一つの実施形態では、当該方法は、音響放射力の作用下でオブジェクトを配置した後に、第二のオブジェクトを加熱して溶かす工程を含む。
加熱工程は、レーザーシートを使用して行うことができる。
上述の支持マトリックスが用いられる場合、このような加熱工程は、マトリックスが形成される前に行われることが好ましい。
【0033】
一つの実施形態では、当該方法は、音響放射力の作用下でオブジェクトを配置した後に、第一のオブジェクトをカプセル化する工程を含む。
好ましくは、このカプセル化工程は、流体に対して正の音響コントラストを有する第三のオブジェクトをキャビティに導入することを含む。
したがって、第三のオブジェクトは、その中に位置する第一のオブジェクトを囲む保護シェルを形成するために、音響放射力によって圧力ノードに向かって輸送することができる。
【0034】
例えば、第三のオブジェクトは、ハイドロゲルビーズまたは多孔性の保護シェルを形成するための他の材料を含むことができる。
カプセル化工程は、支持マトリックスが用いられない場合に好ましく、しかし必ずしも必要ではなく実施される。
【0035】
本発明はまた、本明細書で説明した原理を使用して、例えば作製された培養物またはプロト培養物(proto-culture)をin vivoで注入することにより、細胞療法の目的で実施することができる。
【0036】
本発明のさらなる利点と特性は、以下の詳細で非制限的な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
以下の詳細な説明は、下記添付図面を参照する:
【0038】
【
図1】
図1は、キャビティと、キャビティ内で定常音響波を発生させる能力を有するトランスデューサを含む装置の概略図である。キャビティは、音響波の影響を受ける前にキャビティ内に比較的均一に分布している流体と懸濁物を含む。
【
図2】
図2は、
図1の装置の概略図である。オブジェクトは音響波によって発生した音響放射力によって移動し、この波のノードまたはアンチノードにそれぞれ整列する。
【
図3】
図3は、細胞層間の拡散の現象を示す概略図である。
【
図4】
図4は、細胞伸長の進行の現象を示す概略図である。
【
図5】
図5は、細胞の移動の現象を示す概略図である。
【
図6】
図6は、
図2の装置の概略図である。オブジェクトはゲルマトリックスによって
図2の配置に保持される。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1および
図2は、本発明を実施するための装置を示している。
この装置は、一方で、例えば、流体および/または液体もしくはゲルの形態の様々な物質を含むことができるキャビティ1を形成する容器を含む。
【0040】
一般的に、キャビティ1は、この例では垂直方向に相当する方向A1に沿って延在する。キャビティ1は、方向A1に沿った寸法B1を有し、この例では、これはキャビティ1の高さに相当する。
キャビティ1は全体的に円筒形である。当然に、キャビティ1は他の幾何学的形状を有することができ、例えば、矩形の断面を有することができる。
【0041】
他方、
図1および
図2の装置は、音響波発生システムを含む。
この例では、このシステムは、方向A1に沿ったキャビティ1の第一の端(この場合はキャビティ1の垂直下方)に配置された圧電トランスデューサ2と、方向A1に沿ったキャビティ1の第二の端(この場合はキャビティ1の垂直上方)を区画する音響反射器3を含む。
【0042】
このシステムは、方向A1に相当する伝播方向に沿ってキャビティ1内で定常音響波4を発生させ、それを含む流体内で伝播できるように構成されている。
このように発生した定常波4は、キャビティ1の共振周波数と同じ周波数を有することができ、結果的に共振器を形成する。
あるいは、この定常波4は、キャビティ1の共振周波数とは異なる周波数を有することができる。
いずれの場合でも、当該システムは、方向A1に沿って少なくとも1つの圧力ノードと少なくとも1つの圧力アンチノードを形成するために、特にキャビティ1の高さB1の2倍以下の波長λを有する波4を発生できるように構成されている。
この例では、トランスデューサ2は、超音波源を備えた広帯域トランスデューサである。
このようなトランスデューサ2は、波4の周波数を変化させることにより、方向A1に沿った波4の1つ以上のノードの位置および/または波4の異なるノード間の距離を変更することを可能にする。
【0043】
本発明の範囲内では、上述の装置または任意の類似の装置は、波4の1つ以上のパラメータ、特にその周波数によって決定される空間的構成で、キャビティ1内に、小さな、通常はマイクロサイズのオブジェクトを配置するために実施される。
実際、キャビティ1は、流体5と、この流体5中に懸濁したオブジェクト6および7で満たされる。
【0044】
この非制限的な例では、オブジェクト6は生体細胞であり、流体5はこれらの細胞6のための培養液を形成し、オブジェクト7はポリジメチルシロキサンビーズである。
目安として、オブジェクト6および7のそれぞれは1μmから100μmの間のサイズであり、キャビティ1の高さB1は数センチメートルである。
この例では、オブジェクト6のそれぞれは、流体5の密度ρfよりも大きい密度ρo1を有する。反対に、オブジェクト7のそれぞれは、流体5の密度ρfよりも小さい密度ρo1を有する。
【0045】
オブジェクト6はまた、これらのオブジェクト6中の音響波の伝播速度co1が流体5中のこの音響波の伝播速度cfよりも大きくなるように選ばれる。反対に、オブジェクト7は、これらのオブジェクト7中の音響波の伝播速度co2が流体5中のこの音響波の伝播速度cfよりも小さくなるように選ばれる。
【0046】
流体5をキャビティ1に配置し、流体5中に懸濁したオブジェクト6および7を配置した後、
図1に示すように、トランスデューサ2が作動してキャビティ1内に定常音響波4を発生させる。
【0047】
この波4の発生により、オブジェクト6および7に作用する音響放射力を発生させることが可能となる。
この音響放射力FRAは、特にK.YosiokaとY.Kawasimaによってそれ自体知られている以下のモデルに従って説明できる。
【0048】
【数1】
式中、v
0は波4の速度、kは波の数、F
yは密度-圧縮率因子、zは方向A1に沿った(すなわち波4の伝播方向に沿った)検討されているオブジェクト6またはオブジェクト7の位置である。
【0049】
密度-圧縮率因子Fyは次の通り定義できる。
【0050】
【数2】
式中、ρ
oxは検討されているオブジェクト6またはオブジェクト7のそれぞれの密度ρ
o1またはρ
o2であり、c
oxは検討されているオブジェクト6内またはオブジェクト7内のそれぞれの波4の伝播速度c
o1またはc
o2である。
【0051】
流体5に対するオブジェクト6および7のそれぞれの密度と音響波の伝播速度を考慮すると、オブジェクト6は正の密度-圧縮率因子または音響コントラストを有し、一方、オブジェクト7は負の密度-圧縮率因子または音響コントラストを有する。
【0052】
図1および
図2の例では、波4はキャビティ1の高さB1と等しい波長λを有し、それぞれ方向A1に沿って、座標C1の第一のノード、座標C2のアンチノード、および座標C3の第二のノードを形成する。
【0053】
流体5とオブジェクト6およびオブジェクト7の前述のそれぞれの特性を考慮すると、オブジェクト6およびオブジェクト7がキャビティ1全体に比較的均一に分布している
図1の配置から出発して、波4によって発生した音響放射力によって、オブジェクト6は波4のノードに向かって移動し、オブジェクト7は波4のアンチノードに向かって移動し、これにより、
図2に示される配置が実現する。
したがって本発明は、オブジェクト6およびオブジェクト7を方向A1に沿って間隔をあけた層として空間的に構造化し、波4の作用下で音響浮揚によりこのように配置したままにすることができる。
【0054】
この例では、オブジェクト7は中間層を形成し、キャビティ1の半分の高さに位置している。一方、オブジェクト6は、中間層の両側に広がる二つの層を形成する。
オブジェクト7がポリジメチルシロキサンビーズであるため、それが層として集合または滞留することで、キャビティ1の壁と接触することなく、細胞層6の間で相互作用を進行させる多孔性バリアを構成することができる。
したがって、本発明により、音響浮揚による細胞培養を行うことができる。
【0055】
また本発明により、細胞層6の間の相互作用を制御することも可能となる。なせなら、特に、オブジェクト7の様々な材料、形状およびサイズを選択することが可能であり、これらのパラメータは、音響放射力の作用下で、それらが構成するバリアの多孔性に直接影響を及ぼすからである。
したがって、例えば、溶質または細胞分泌物10(
図3)の拡散、ニューロン軸索型の細胞伸長11(
図4)の進行、または細胞6(
図5)の移動を誘発したり可能にしたりすることができる。
【0056】
一つの代替実施形態では、オブジェクト7は、下記のように音響放射力の作用下で配置した後、例えばレーザーシートを使用した局所加熱により溶融するハイドロゲル粒子を含む。
これにより、2層の細胞層6の間に挟まれた連続したハイドロゲル層を構成することが可能となる。
【0057】
本発明により、上述のようにオブジェクト6およびオブジェクト7を配置した後にキャビティ1内に支持マトリックスを作製することにより、細胞培養を開始するか、または細胞培養を続けることも可能となる。
これを行うために、オブジェクト6およびオブジェクト7が
図2の配置または類似の配置に置かれた後、ハイドロゲルプレポリマーをベースにした物質をキャビティ1に導入することができる。
このような物質により、オブジェクト6およびオブジェクト7の層を支持することができるゲルとしての多孔性マトリックス20を構成することができる(
図6)。
【0058】
一つの実施形態では、この物質はまた、キャビティ1に導入した後に光刺激を受けてマトリックスの重合を引き起こす光重合性材料を含む。
その後、音響波4を遮断して、例えば容器をインキュベータ内に配置することにより、このようなマトリックス内で細胞培養を行うことができる。
【0059】
一つの代替実施形態では、
図2の配置から開始して、正の音響コントラストのハイドロゲルビーズなどの他のオブジェクト(図示せず)をキャビティ1に導入する。
波4によって生じる音響放射力の作用下で、これらのビーズまたは他の正の音響コントラストを有する任意のオブジェクトは、圧力ノードに向かって移動し、オブジェクト6によって形成された層を包み込む。
したがって、例えばin vivoでの細胞治療用途のために、それを形成するオブジェクトの特性によって制御される多孔性のシェルを使用して、オブジェクト6の層をカプセル化することが可能である。
【0060】
以上の非制限的な説明から明らかなように、本発明により、細胞層間の相互作用を制御することが可能な様々なオブジェクトによって分離された異なる細胞層を含む複雑なアーキテクチャを再構築し、刺激することができる。これは、特に実施が簡単な方法と装置を使用して行うことができる。
【国際調査報告】