(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ガスポンプを動作させる装置及び方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/13 20230101AFI20240912BHJP
【FI】
H10N10/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024515569
(86)(22)【出願日】2022-09-09
(85)【翻訳文提出日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 US2022043069
(87)【国際公開番号】W WO2023039173
(87)【国際公開日】2023-03-16
(32)【優先日】2021-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524090323
【氏名又は名称】トーラミックス インク
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ エフ ギメルシーイン
(72)【発明者】
【氏名】ユージーン モスコヴェッツ
(72)【発明者】
【氏名】ピオトル エー ガーバス
(57)【要約】
ガス流、ガス圧縮及びガス希薄化を生成するナノガスポンプが開示される。ナノガスポンプは、数桁まで異なる圧力差を与え、数ミリトールから数気圧までの広範囲の圧力にわたって毎分数ナノリットルから数リットルまでのポンピング速度で動作する。ナノガスポンプは、可動部分を要さず、ガス流の方向に局所ガスの平均自由行程にわたって100ミリケルビン超の急峻な温度勾配を用いてガス流を生成する。温度勾配は、導電相互接続部とともにPNP、NPN、PP、NN熱電セグメントの構成を通じて生成され、仕事を行っているガスに対して大部分が制限される。ナノスケールの熱電ヒートポンプの効率を著しく低下させる接触抵抗が、熱電セグメント及び電気的接続部をオーバーラップさせることによって緩和される。幾つかの例示的実施形態が、線形(直線)及び非線形(曲折)ガス流路に基づいて記載される。種々の段構成も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスに急峻な温度勾配を発生させる装置であって、
急峻な温度勾配をガスにインプリントする目的でガスと流通する第2の熱電材料と、
前記第2の熱電材料に対して相補的であり、該第2の熱電材料と直接接触し、ヒートシンク及び導電体と直接接触する第1の熱電材料と、
前記第2の熱電材料に対して相補的であり、該第2の熱電材料と直接接触し、ヒートシンク及び導電体と直接接触する第3の熱電材料であって、前記導電体は電流を前記第1の熱電材料から前記第3の熱電材料に供給するように構成された、第3の熱電材料と、
を備える装置。
【請求項2】
前記急峻な温度勾配は、平均自由行程当たり100mKより大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の熱電材料及び前記第3の熱電材料はp型であり、前記第2の熱電材料はn型である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第1の熱電材料及び前記第3の熱電材料はn型であり、前記第2の熱電材料はp型である、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の熱電材料及び前記第3の熱電材料は同型であり、前記第2の熱電材料が25nmよりも薄い導電体に置換された、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第1の熱電材料及び/又は前記第3の熱電材料は、電熱導体である、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記第2の熱電材料が、前記第1の熱電材料及び前記第2の熱電材料並びに熱絶縁体のみに接続された、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記第1の熱電材料及び前記第2の熱電材料並びに/又は前記第2の熱電材料及び前記第3の熱電材料が、導電体によって接続された、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記熱電材料との接触が、接続の接触抵抗を低下させるようにオーバーラップする、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記第1の熱電材料及び/又は前記第3の熱電材料は、導電体であり、共有ヒートシンクに接続されている、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記ヒートシンクは、導電体である、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記熱電材料は、コーティングを有する、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記急峻な温度勾配は、熱拡散を用いて該温度勾配の方向にガスをポンピングするのに使用される、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
前記第2の熱電材料は、ガスの2つの分離した容積部の間に開口部を形成する、請求項12に記載の装置。
【請求項15】
所望の流量又は圧縮比を与えるように所定の構成で並列及び/又は直列に流体接続された複数の請求項1に記載の装置をさらに備える請求項12に記載の装置。
【請求項16】
ガスの急峻な温度勾配を隔離する方法であって、
一次温度勾配を隣接するガスに第2の熱電材料でインプリントするステップと、
前記第2の熱電材料に対して相補的であり、該第2の熱電材料と直接接触し、ヒートシンク及び導電体と直接接触する第1の熱電材料を構成して、電流を供給して前記ヒートシンクから前記第2の熱電材料に温度勾配を発生させるステップと、
前記第2の熱電材料に対して相補的であり、該第2の熱電材料と直接接触し、ヒートシンク及び導電体と直接接触する第3の熱電材料を構成して、電流を供給して前記ヒートシンクから前記第2の熱電材料に温度勾配を発生させるステップと、
を備える方法。
【請求項17】
供給される前記電流が双方向のものであることにより、前記温度勾配の方向を変更する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
供給される前記電流が連続的なものである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
供給される前記電流がパルス状である、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス流、ガス希薄化、ガス圧縮を与え、指定された圧力又は圧力差を維持することを目的としたマイクロポンプ並びにそれを使用及び製造する方法の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス流の動的制御は、広範な用途について望まれている。これは、ガスのフローが推進システム、ガス分析器及びマスフローコントローラにあるような直接的なメカニズム並びにマイクロポンプなどの空圧的に駆動されるシステム及びラボオンチップにあるような間接的なメカニズムである用途を含む。
【0003】
大規模なガス流の動的制御は確立された分野であり、主な技術はロータリーベーンポンプ、スクリューポンプ、スクロールポンプ、ターボファンポンプ、ターボ分子ポンプ、拡散ポンプ及びクライオポンプである。そのようなポンプは、推進、真空及びHVACシステムの場合のように直接使用され、又は空圧工具、空圧アクチュエータ、マイクロフルイディクス、ナノフルイディクス及びマスフローコントローラなどにおいてガスが別個の容積部で圧縮若しくは希薄化され、その後にバルブを用いて導入される場合には間接的に使用される。
【0004】
毎分立方ナノメートルから立方センチメートルの範囲の小規模なガス流の動的制御は、立方ナノメートルから立方ミリメートルの範囲の体積において、医療分野、薬学分野及びマイクロ推進分野(例えば、電子制御される薬剤送達パッチ、ラボオンチップ及びマイクロドローン)によって要求される比較的新しい技術である。それは、ガス流の動的制御を可能とする種々のシステムの微細化を必要とし、小実装面積及び低価格で、低電力、高精度であることを要求する。このような課題は種々のコンセプト及び発明を通じて過去20年間にわたって部分的に対処されているものの、効率及び適用性は大きく異なる。これらの発明の多くは、非特許文献1によって与えられる詳細な例に従うと、以下の4個のカテゴリに分けられ得る。
【0005】
第1のカテゴリのマイクロスケールガスポンプは、ベーン、スクロール、ルート、クロー、スクリュー、ダイアフラム、メンブレン又はピストンによって駆動される容積式ポンプのものである。動作の主な原理は、ダイアフラム、メンブレン又はピストンの連続的変位を通じた変位体積の圧縮及び膨張である。メンブレン動作の周波数及び振幅は、ポンプの性能を決定する。これらのポンプは、真空用途のために容積部を減圧し、分析のためにガスを注入し、流体の変位のために容積部を加圧し、又は機械システムの空圧制御を行うために直接使用されることが多い。このようなデバイスの初期のバージョンの1つが、特許文献1(Roland Zengerle及びAxel Richter、「micro-miniaturized,electrostatically driven diaphragm micropump」)によって記載されている。幾つか市販のマイクロ変位ポンプが、TCS Micropumps Ltd、Binaca Pumps、高砂電気工業及びその他などの種々の製造業者から入手可能である。
【0006】
第2のカテゴリのマイクロスケールガスポンプは、蒸気ジェット、拡散、分子抗力、再生抗力又はターボ分子などの動的ポンプのものである。それらの大型の類似物であるターボ分子ポンプと同様に、これらのポンプは、急速に移動する固体面との衝突の反復によってガス分子を駆動する。高速スピンローターがガス分子をポンプの入口から排気口に押し出すことで、圧力差を発生させ、このようなポンプは少なくとも一桁の圧力差を発生させることができ、ポンプ運転面積の平方センチメートル当たりの性能は100mL/minを超え得る。ロータリーポンプは、精密な微細加工を用いることが必要なだけでなく、概ね半径の3乗に比例する性能低下のために、大幅な小型化が難しい。小型化ロータリーポンプの例は、Honeywell Corporationによって開発されたものであり、直径25mm、厚さ2.5mmのプレートに押し込められた約2000枚の羽根からなる。Wei Yang及びRuofu Xiaoは、それを非特許文献2においてより詳細に記載している。
【0007】
第3のカテゴリのマイクロスケールガスポンプは、クライオポンプ、ゲッター、スパッタイオン、オービトロンイオン及び他のイオン化ポンプなどの捕捉ポンプのものである。これらのポンプは、ガス分子をイオン化することによって、その後、電界を用いてイオンをそれらが捕捉される表面に向けて加速し、それによりイオンを排気容積部から除去することによって動作する。このようなマイクロポンプは、依然としてそれらの初期開発段階にある。例示は、非特許文献3及び非特許文献4を含む。
【0008】
第4のカテゴリのマイクロスケールガスポンプは、移動する構成要素を含まずかつ移動する補助流体又はガス種を含まない熱拡散ポンプである。そのメカニズムを、熱蒸散、分子蒸散及び熱クリープともいう。当初、この現象は、小さな孔及び長いチャネルを通じたガスの噴出に関連付けられ、非特許文献5によって、ガスの平均自由行程よりも小さな細孔径の多孔質材料によって接続された2つのチャンバ間のガスの移動として説明されていた。最近になって、蒸散は、熱拡散の観点で、すなわち、当該ガスにおける圧力差なしに温度差のみによって開始されるガスに対する熱的力の存在の観点で理解されるようにもなった。物理学者James Clerk Maxwellによって最初に理論的に説明され、物理学者Osborne Reynoldsによって熱蒸散と当初呼ばれていた第2のメカニズムである熱クリープは、壁に沿う温度勾配によって開始されるガスの移動の現象であり、ガスは低温側から高温側に向かう方向にクリープを起こす。
【0009】
蒸散及び熱クリープ現象の発見は、クヌッセン圧縮機の理論的開発及び実用的実施をもたらした。クヌッセン圧縮機は、Martin Knudsenによって百年以上前に草案され、非特許文献6に記載されるデバイスである。Martin Knudsenは、段階式コンプレッサーを製造するために、キャピラリーの差動的加熱及び冷却を研究した。そして、さらに後に、これがG.Pham-Van-Diep、P.Keeley、E.P.Muntz、D.P.Weaver(非特許文献7)によってマイクロスケールに応用された。E.P.Muntzは、複数段のカスケードを利用することによって大きな圧力変化を発生させることができる微小電気機械式分子蒸散クヌッセン圧縮機を概説した。各段は、キャピラリー及びコネクタ部分から構成される。キャピラリーにわたる温度上昇は、熱蒸散によって駆動される圧力上昇をもたらす。キャピラリー部分にコネクタ部分が続き、そこでは圧力は略一定となり、一方で温度はその段に入る当初の値に向かって低下する。製造の詳細は、特許文献2(S.E.Vargo、E.P.Muntz及びG.R.Shiflett、「Thermal transpiration pump」)に記載されている。その後、ミシガン大学のY.B.Gianchandani及びS.P.McNamaraによってそのコンセプトにいくつかの修正がなされ、それが特許文献3(「Packaged micromachined device such as a vacuum micropump,device having a micromachined sealed electrical interconnect and device having a suspended micromachined bonding pad」)に記載される。Y.B.Gianchandani及びN.Guptaはまた、特許文献4(「System and method for providing a thermal transpiration gas pump using a nanoporous ceramic material」)を開示した。後者の特許において、ゼオライトなどの多孔質セラミック材料で作製されてガス分子のフローを自由分子又は遷移流領域に制限するマイクロポンプが提案された。多段マイクロポンプの代替の設計が、Y.Y.Kloss、F.G.Cheremisin及びD.V.Martynovによって提案され、特許文献5(「gas micropump」)に記載されている。Kloss他の特許は、連続して接続された小径及び大径の少なくとも2つの交互の段の配管を有する連続筒状分離配管を含む構成を開示した。配管の一端は高温ゾーンを構成し、他端は低温ゾーンを構成する。このような配管では、大径の直線配管と小径のU字形状湾曲配管とが交互となる。熱蒸散マイクロポンプのための他の構成が、R.Bernard及びH.Kambaraによって特許文献6(「Pumping apparatus using thermal transpiration micropumps」)において提案されている。ここで、各マイクロポンプは、小断面の入口チャネルに接続された入口及び出口チャネルに接続された出口を有する少なくとも1つのキャビティを構成する。それは、キャビティに隣接する入口チャネルの部分を加熱するためのヒータ要素も含み、複数のそのようなマイクロポンプが直列接続されている。他のマイクロ電気機械ポンプが、J.W.Lantz及びH.L.Stalfordによって特許文献7(「Microelectromechanical pump utilizing porous silicon」)に記載されている。その設計は、入口チャンバと出口チャンバの間に挟まれた多孔質シリコン領域を含む。多孔質シリコン領域はシリコン基板内に形成され、入口チャンバと出口チャンバの間に延在する細孔を含み、各細孔はポンピングされているガスの概ね平均自由行程以下の断面寸法を有する。電力要件を軽減する微細加工されたポンプのコアとして混合セルロース-エステル膜を使用した他の機械加工された熱拡散ポンプが、ネバダ州ラスベガスでの2017 IEEE30th international conference on MEMSにおいて、ミシガン大学のQ.Cheng、Y.Qin及びY.B.Gianchandaniによって提示された(非特許文献8参照)。他のマイクロ熱拡散ポンプが提案及び実証されたが、2022年時点において市場に熱拡散ポンプはない。
【0010】
熱拡散ポンプを製品化することに対する2つの主な課題は、電力要件及び製造の複雑さである。2009年において、D.Copic及びS.McNamaraは、非特許文献9において、第一原理から、乾燥空気における熱拡散熱機関動作の最大効率を28.36%として導出した。しかし、Q.Cheng他によるミシガン大学の最新の研究によっては、2ワット(W)を用いる880パスカル(Pa)の最大遮断圧力において、0.82標準立方センチメートル(sccm)の最大気流しか生成されなかった。遮断圧力は、ガス流量に対して線形であるので、最大効率は2Wにおいて0.41sccm及び440Paであると求められる。
【数1】
2Wにおいて、高温側温度は65.7℃であり、低温側温度は42.5℃であり、温度差は23.2ケルビン(K)であり、それらの温度での最大カルノー熱機関効率は約6.8%である。
【数2】
したがって、熱拡散熱機関の効率を動作温度における最大カルノー熱機関効率と比較する場合、我々は、熱拡散熱機関効率を、動作温度における最大カルノー熱機関効率の割合として比較できる。この場合、それは約0.002%である。これは、熱電ヒートポンプを用いて温度勾配を発生させる場合に往復効率は広範囲の動作温度差に対して比較的平坦に留まるため、有用なメトリックであり、異なる温度勾配で動作する種々の熱拡散熱機関を比較する定量的メトリックを与える。
【0011】
第2の主な課題は、熱拡散マイクロポンプの生産の拡縮である。これは、市販のシステムの利用可能性及び商業的に実行可能なコストで精密なナノ構造を生成することができるプロセスに大きく起因する。主な原因は、市販されていない非標準の材料の使用である。シリコン系ナノ技術を開発するのに1兆ドル以上が費やされ、それは現在我々の生活に浸透している。新規の材料にはこのような贅沢なスケールはなく、したがって、魅力的かつ競争力のある価格のナノポンプを生成するには設備投資と研究開発へのより大きな投資が必要となる。例示的実施形態では、我々は、シリコンゲルマニウム及びシリコン系熱電材料を用いてこの課題に対処する。なお、熱電材料の例示的選択はナノガスポンプを製造する熱電材料の選択を制限するものではないことが理解されるべきである。
【0012】
したがって、まとめると、小容積部での動的な圧力制御は広範な用途での活発な研究分野であり、最も有望な技術の1つは熱拡散ガスポンプであり、それはこれまで効率の低さ及び製造の複雑さによって制限されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5529465号明細書
【特許文献2】米国特許第6533554号明細書
【特許文献3】米国特許第7367781号明細書
【特許文献4】米国特許第8235675号明細書
【特許文献5】米国特許第9695807号明細書
【特許文献6】米国特許第7572110号明細書
【特許文献7】米国特許第7980828号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】E.Philip Muntz及びStephen E.Vargo、the chapter on Microscale Gas Pumps、The MEMs Handbook by CRC、2002、https://worldcat.org/title/925742962
【非特許文献2】Wei Yang及びRuofu Xiao「Multi-objective optimization design of a pump-turbine impeller based on an inverse design using a combination optimization strategy」、the journal of fluids engineering、2014、https://doi.org/10.1115/1.4025454
【非特許文献3】D.Jang、「Carbon nanotube-based field ionization vacuum」、M.Eng Thesis、MIT、2012、http://hdl.handle.net/1721.1/77022
【非特許文献4】V.Jayanty、「Miniaturized electron-impact-ionization pumps using double-gated isolated vertically aligned carbon nanotube arrays」、M.S.Thesis、MIT、2012、http://hdl.handle.net/1721.1/75659
【非特許文献5】E.H.Kennard、Kinetic Theory of Gases、McGraw Hill、1938、https://worldcat.org/en/title/537197
【非特許文献6】Martin Knudsen、「Eine Revision der Gleichgewichtsbedingung der Gase Thermische Molekularstromungund(oにウムラウト)」、1910、the annalen der physick、https://doi.org/10.1002/andp.19093360110
【非特許文献7】G.Pham-Van-Diep、P.Keeley、E.P.Muntz、D.P.Weaver、「A Micromechanical Knudsen Compressor」、Rarefied Gas Dynamics、1995 by Oxford University Press、https://www.worldcat.org/title/60281623
【非特許文献8】Q.Cheng、Y.Qin及びY.B.Gianchandani、「A bidirectional Knudsen pump with superior thermal management for micro-gas chromatography applications」、https://doi.org/10.1109/MEMSYS.2017.7863367
【非特許文献9】D.Copic及びS.McNamara、「Efficiency derivation for the Knudsen pump with and without thermal losses」、JVST 2008、https://doi.org/10.1116/1.3114444
【発明の概要】
【0015】
ここに開示される例示的実施形態は、上述した従来提案された熱拡散熱機関設計の低い効率及び量産の課題を改善し得る。これらの設計の主な障壁は、加熱チャンバと非加熱チャンバを接続するガス通路のための狭いチューブ又はチャネルを含むことである。そのようなチャネルは、チャンバを分離する多孔質材料において、微細加工されたものであっても又は本来的に存在するものであっても、圧力差をもたらしつつも、大きく質量流量を低減させるとともに製造の複雑さを増長してしまう。
【0016】
本開示の少なくとも1つの例示的実施形態を詳細に説明する前に、本開示は、本出願において、以降の説明に記載され又は図面に示される構成要素の構成の詳細及びその配置に限定されないことが理解されるべきである。本発明は、他の実施形態とすることもでき、種々の態様で実施及び実行可能である。また、ここで採用される表現及び用語は説明を目的とするものであり、限定とみなされるべきではないことが理解されるべきである。
【0017】
開示される技術の例示的実施形態の主な課題は、従来技術のデバイスの欠点を克服するガス流及びガス圧縮性能に供するために、熱拡散熱機関に統合される熱電ヒートポンプの効果的な設計である。一態様は、長く狭いコネクタチューブを熱電材料に置換することであり、その熱電材料は、仕事をしていない熱機関の部分における温度勾配によってもたらされる損失を最小化するとともに、構造的及び製造性の目的のために臨界的であっても熱損失を大幅に増加させるポンピングチャネルの側壁に必要な材料を減少させつつ、所望のガス流の概ねの方向に熱勾配を発生させるものである。
【0018】
ガス流及びガス圧縮を発生させる方法及び装置の例示的実施形態が、ここに開示される。例示的実施形態では、装置は、少なくとも2つの容積部と、ガスを流通させるための、容積部を分離する面における少なくとも1つの開口部と、2つの容積部の間の少なくとも1つの熱電セグメント及びその熱電セグメントに通信可能に接続されかつ電流を供給するように構成されたデバイスと、を備える。熱電素子に供給される電流は、2つの容積部を接続する開口部にわたって熱勾配を確立する。そして熱勾配は、温度勾配の概ねの方向に沿って一方の容積部から開口部を通じて次の容積部へのガスのフローをもたらす。熱電素子は、局所ガスの平均自由行程当たり少なくとも100ミリケルビン(mK)の熱勾配を与えるように構成される。装置の最も実用的な実施形態の共通の特徴は、2つの容積部の間の開口部の長さが100局所平均自由行程未満であることであり、距離を短くすることで、製造の複雑さ並びに電気的接触抵抗などの寄生特性及び近接場放射に対する感度を犠牲にして流量が高まる。理想的には、開口部の2つの高温端と低温端の間の目標距離は、性能要件に基づいて最適化される。「Quakeバルブ」での場合など、直径1mmのバルブを空圧的に駆動して標準温度及び圧力環境において流体のフローを制限又は許容するナノガスポンプの例示的実施形態では、開口部の長さは5ミクロン(μm)未満、側壁は50ナノメートル(nm)未満、直径は1μm未満である。
【0019】
熱電又はペルチェ素子の動作は、ここではゼーベック効果の逆転現象に基づく。ゼーベック効果では、異なるゼーベック係数の2つの材料を接続する接合部を通じて流れる電流が、接合部における電流に比例するフォノンを放出又は吸収して当該2つの材料の化学ポテンシャルの差を均衡させる。したがって、ポンピングされる周囲ガスにおいて化学的に安定な異なる化学ポテンシャルの導電性又は半導電性材料の多数の対が、本開示に係る熱電素子を構築するのに使用され得る。ナノガスポンプを規模縮小する場合、電気的接触抵抗が、非効率性の主な原因の1つとなる。したがって、材料対の熱電効率が他の材料選択肢よりも低い場合であっても、ナノスケールにおいて電気的接触抵抗を最小化するように開発された材料及びプロセスが有利である。量産のために最適化された材料対の例は、p型シリコン、n型シリコン及びp型シリコンゲルマニウム、n型シリコンゲルマニウムを含む。
【0020】
他の実施形態では、装置は流体接続された一連の容積部を含み、開口部が隣接チャンバ間のガスのための通路として作用する。ここに開示するさらに他の実施形態では、並列に動作する連続体のアレイが記載される。本開示の他の課題及び有利な効果が読者に明らかとなり、これらの課題及び有利な効果は本開示の範囲内であるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】
図1Aは、ガスの圧力差を発生及び最大化させる例示的装置を示す。
【
図1B】
図1Bは、ガス流速を発生及び最大化させる例示的装置を示す。
【
図2A】
図2Aは、p型及びn型熱電素子を用いてガス流及び/又はガス圧力差を発生させるようにガスに温度勾配を発生させる装置の例示的部分の断面図を示す。
【
図2B】
図2Bは、p型及びn型熱電素子を用いてガス流及び/又はガス圧力差を発生させるようにガスに温度勾配を発生させる装置の例示的部分の上面図を示す。
【
図3A】
図3Aは、熱電素子の相補的なp型-n型-p型又はn型-p型-n型の構成を用いてガス流及び/又はガス圧力差を発生させるようにガスに温度勾配を発生させる装置の最適化された例示的部分の断面図を示す。
【
図3B】
図3Bは、熱電素子の相補的なp型-n型-p型又はn型-p型-n型の構成を用いてガス流及び/又はガス圧力差を発生させるようにガスに温度勾配を発生させる装置の最適化された例示的部分の上面図を示す。
【
図3C】
図3Cは、熱電素子の相補的なp型-n型-p型又はn型-p型-n型の構成を用いてガス流及び/又はガス圧力差を発生させるようにガスに温度勾配を発生させる装置の最適化された例示的部分の上面図を示す。
【
図3D】
図3Dは、例示的装置のモノリシック製造のためにさらに最適化された、
図3A及び
図3Bで紹介した例示的部分の断面図を示す。
【
図3E】
図3Eは、例示的装置の熱効率及びモノリシック製造のためにさらに最適化された、
図3A及び
図3Bで紹介した例示的部分の断面図を示す。
【
図3F】
図3Fは、例示的装置の熱効率及びモノリシック製造のためにさらに最適化された、
図3A及び
図3Bで紹介した例示的部分の上面図を示す。
【
図3G】
図3Gは、熱電素子のp型-金属-p型又はn型-金属-n型構成を用いて例示的装置の製造のためにさらに最適化された、
図3A及び
図3Bで紹介した例示的部分の断面図を示す。
【
図5A】
図5Aは、熱電素子の相補型構成を用いて直線フローを生成する例示的装置において直列に配置された例示的部分の構成のフロー軸に沿う断面図を示す。
【
図5B】
図5Bは、熱電素子の相補型構成を用いて直線フローを生成する例示的装置において直列に配置された例示的部分の構成のフロー軸に垂直な断面図を示す。
【
図5C】
図5Cは、熱電素子の相補型構成を用いて直線フローを生成する例示的装置において直列に配置された例示的部分の構成の上方からの断面図を示す。
【
図5D】
図5Dは、絶縁上蓋によって製造のためにさらに最適化された、
図5Aで最初に紹介した例示的装置のフロー軸に沿う断面図を示す。
【
図5E】
図5Eは、熱電素子の相補型構成を用いて平坦化上蓋によって製造のためにさらに最適化された、
図5Aで最初に紹介した例示的装置のフロー軸に沿う断面図を示す。
【
図6A】
図6Aは、
図3Eで最初に紹介し、熱電素子の相補型構成を用いて曲折フローを生成する例示的装置において直列に配置された例示的部分の構成のフロー軸に沿う断面図を示す。
【
図6B】
図6Bは、
図6Aで最初に紹介し、製造プロセス中に犠牲材料の除去を最適化するように上部容積部及び下部容積部を接続することによって製造のためにさらに最適化された例示的装置のフロー軸に沿う断面図を示す。
【
図7A】
図7Aは、
図7B及び
図7Cで紹介した例示的装置を通じてガスのフローがとる経路を示す。この例示的装置は、長い一連のガスナノポンプの実装面積を最小化する方法を導入する。
【
図7D】
図7Dは、中心ナノガスポンプを通じて圧縮空気を生成するためにさらに最適化された、
図7Cで最初に紹介した例示的装置の上方からの断面図を示す。
【
図7E】
図7Eは、中心ナノガスポンプを通じて減圧するためにさらに最適化された、
図7Cで最初に紹介した例示的装置の上方からの断面図を示す。
【
図8A】
図8Aは、外部空圧システムの補助なしに空圧的に二次流体のフローを制御するように例示的装置における空圧バルブにさらに集積された、
図6Aで最初に紹介した例示的装置の断面図を示す。
【
図8B】
図8Bは、
図8Aで最初に紹介した例示的装置の二次流体のフロー軸に垂直な断面図を示す。
【
図8C】
図8Cは、
図8Cで最初に紹介した例示的装置の二次流体のフロー軸に沿う上方からの断面図を示す。
【
図8D】
図8Dは
図8Aで最初に紹介した例示的装置の断面図を示し、ナノガスポンプが空圧チャンバを加圧して二次流体のフローが制限されていることを示す図である。
【
図8E】
図8Eは
図8Aで最初に紹介した例示的装置の断面図を示し、ナノガスポンプが空圧チャンバ内のガスを部分的に排気してメンブレンに二次チャンバの容積部を押し下げて増加させることを示す図である。
【
図9A】
図9Aは、
図8Aで最初に紹介し、二次流体をぜん動的に移動させるように例示的装置において直列接続され、直線フローのために構成された3個の例示的装置の断面図を示す。
【
図9B】
図9Bは、
図9Aで最初に紹介した例示的装置によって一連の動作の断面図を示し、固定体積の二次流体が装置を通じてポンピングされることを示す図である。
【
図9C】
図9Cは、
図9Aで最初に紹介した例示的装置の断面図を示し、入口及び出口が曲折フローのために構成されることを示す図である。
【
図9D】
図9Dは、さらに複数の入口に対して構成された、
図9Cで紹介した例示的装置の断面図を示す。
【
図9E】
図9Eは、さらに複数のポンピングチャンバによって構成された、
図9Cで紹介した例示的装置の断面図を示す。
【
図9F】
図9Fは、さらに複数の出口によって構成された、
図9Cで紹介した例示的装置の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本方法、装置及びシステムを例示的実施形態としてここに説明する。後続の特許請求の範囲によって規定される本発明は、その例示的実施形態に限定されない。本開示の1以上の例示的実施形態の詳細を添付図面及び以下の説明において説明する。他の特徴、課題及び有利な効果は、その説明及び図面並びに特許請求の範囲から明らかとなる。
【0023】
ガスを移動させ、圧力を制御し、力を生成し、質量によって分子を分離する目的のために過渡的な自由分子領域においてガスに温度勾配を発生させる目的のために可動部品のない装置が、ここに開示される。ガス流を発生させ、密閉容積部におけるガスを圧縮し、部分的に排気し、マイクロ流体システムにおけるように機械的動作に空圧的に影響を与え、飛行体を移動させる力を発生させるための例示的実施形態が、さらに開示される。
【0024】
熱拡散、熱蒸散、熱クリープ及び放射力を含むこの現象の種々の態様を説明するのに、様々な用語が使用されてきた。混乱を避けるために、我々は、これらの現象を熱拡散というものとする。歴史的背景について、温度勾配の存在下での狭いチャネルにおけるガスの移動を実証するのにクヌッセンポンプが用いられてきた。適切な長さ規模における温度勾配の存在下でベーンにかかる力を実証するためにクルックス放射計が用いられてきた。熱拡散は、ウラン235を分離するのに使用される当初の方法の1つであった。今日でも、それは、研究目的のために希ガスの同位体及び他の軽い同位体を分離するための実用的なプロセスである。
【0025】
温度勾配は、熱電材料の新規な構成を用いて第1の容積部[105]を第2の容積部[106]から分離するメンブレン[100]の容積部において生成される。この温度勾配は、局所ガスの平均自由行程当たり少なくとも100ミリケルビン(mK)である。これは、ガス分子の熱拡散を通じて低温側から高温側にフローを誘発させる。効率目的のために圧力生成領域で動作する場合、メンブレン[100]における開口部の径、及び第1の容積部[105]を第2の容積部[106]から分離するメンブレン[100]の厚さは、メンブレン内部の及びガスのフローに垂直な温度勾配が最小化されることを保証するように最適化され得る。コスト、製造時間、複雑さ及び熱電ヒートポンプ効率を含む製造の複雑さなどの実用上のトレードオフが、適用要件に基づいて最適化され得る。
【0026】
例示的実施形態では、広範囲の性能が達成可能である。充分な適正に構成された直列段があれば、密閉容積部におけるガスを数ミリトールまで排気し、又は複数の気圧に加圧することができる。充分な並列段があれば、ガス流量を毎分数ナノリットルから毎分数リットルの範囲とすることができる。直線フロー、曲折フロー及びそれらの組合せを含む幾つかの多段設計が可能である。
【0027】
ここに記載される例示的実施形態は、熱拡散に基づく現在のポンプ技術での本来的問題、特に、現在の技術で達成可能な質量流量及び圧力差に対する実用上の限界をさらにもたらす大型で低効率という問題を軽減することを目的とする。主な障壁は、長く狭いチャネルの使用を必要とする製造及び材料の制約であり、そのようなチャネルは質量流量又はヒートポンプの構造的安定性に必要な厚い熱電側壁[203]、[206]を大きく減少させ、それは熱損失を増加させて効率の低下をもたらす。
【0028】
ここに記載される例示的実施形態は、そのような障壁を新規な相補型熱電材料の使用を通じて回避する。その相補型熱電材料は、構造的安定性を維持しつつ、第1の容積部[105]と第2の容積部[106]とを分離するメンブレン[100]における開口部において非常に薄い熱電性又は導電性の側壁の使用を可能とする。これにより、シリコンゲルマニウムなどの材料における低い接触抵抗をもたらす市販の材料及びプロセスの使用が可能となる。
【0029】
おそらく、熱電ヒートポンプ[
図2A]の高温面(T
hot)と低温面(T
cold)の間の距離(h)を減少させる際の過小評価されている課題の1つは、接触抵抗(R
c)の課題である。最大温度降下(V
MAX)における熱電素子[203、206]の電圧は、ゼーベック電圧(α)と高温面温度(T
hot)の積であり、したがって、同じ材料を用いる場合の理想的な熱電ヒートポンプにおける同じ冷却性能(Q
c)及び加熱性能(Q
h)に対する電流(I)は、同じとなり得る。
【数3】
熱電素子の高温端(T
hot)と低温端(T
cold)の間の距離(h)を減少させると、抵抗値(R)が同じ率で減少し、したがって、同じ電圧を得るのに必要な電流(I)が反比例して増加する。ここで、冷却(Q
c)及び加熱(Q
h)に対する同じ熱伝達性能に対して、熱電素子の面積(A)は同じ率で減少する。結果は、熱電素子の高さ(h)にかかわらず、同じ冷却(Q
c)性能及び加熱(Q
h)性能において同じ電流(I)となる。接触抵抗率(r
c)は抵抗値×面積の単位(Ω・cm
2)であるので、熱電素子の厚さ(h)を業界標準の1mmから1000分の1の1μmに減少させ、対応する面積(A)を同じ率で減少させることは、同じ率での接触抵抗(R
c)による更なる損失をもたらし、これは熱電ヒートポンプの効率を大きく低減し得る。したがって、いずれかの例示的実施形態を実施するために低減する場合、それは、内在的な接触抵抗率(r
c)を最小化させ、接触面積(A
c)を増加させることが必要となり得る。例示的実施形態は、接触面積(A
c)を増加させることによって接触抵抗を低下させるための幾つかのメカニズムを教示する。内在的な接触抵抗率(r
c)を低下させる方法は、半導体接触抵抗率を低下させる当業者には既に周知である。接触抵抗の適正な管理によって、高温面と低温面の間の距離を減少させることがさらに可能となり、これにより、熱勾配が増加し、ナノガスポンプの質量流量性能が増加する。
【0030】
理想的には、温度勾配は、仕事をしているガスに対して隔離される。しかし、理想的な幾何形状の製造の複雑さ、経済性及び他の要因は、トレードオフを必要とすることが多い。異なる温度に保持され及び/又は電流に垂直な余剰面積の熱電素子によって駆動される大きなプレートは、以下に記載されるものなどの熱電ヒートポンプを使用できる他の熱拡散ガスポンプの場合のように、開示したような態様で実施するために縮小される場合に不要な加熱及び冷却をもたらしてしまう。
・米国特許第9845796号、Jason Sanchez,Piotr Garbuz及びAndrew Zonenberg、「Nanomolecular solid state electrodynamic thruster」
・米国特許第9243624号、Shamus McNamara及びKunal Pharas、「Thermally driven Knudsen pump」
・米国特許出願第11/302818号、 C.H.Ho,S.Y.Chen,H.H Hsu,J.T.Yang及びC.Chen、「Composite plate device for thermal transpiration micropump」
・米国特許第7572110号、Roland Bernard及びHisanori Kambara、「Pumping apparatus using thermal transpiration micropumps」
・米国特許出願第11/068470号、Marco Scandurra、「Radiometric propulsion system」
【0031】
ガスが流通する開口部に近接するプレートのエッジのみが、異なる温度に保持されるべきである。なお、用語「隣接する」及び「近接する」は以降にも使用されるが、熱電素子は必ずしも周囲ガスに曝露される必要はなく、好ましくは、酸化シリコン、酸化ハフニウム、パリレン又は同等物などの低い熱伝導率を有する保護材料の薄いコーティングを有することで、ポンピングされるガスでの反応性成分によって引き起こされる腐食から保護し、露出した導電体を電気的に隔離することによって迷走電流を低減してもよい。例示的実施形態は、新規な相補型構成の熱電材料を用いてガスの無用な加熱及び冷却をどのように最小化するのかを教示する。
【0032】
[動作の原理]
ガスは、ガスに作用する力が大きなスケールで作用する場合には流体のように挙動する。ガスに作用する力がガスの平均自由行程のオーダーのスケールで作用する場合、ガスはもはや流体として微視的レベルでは扱われるべきではなく、固有の挙動を示す個々の粒子として微視的レベルで扱われるべきである。ガスの平均自由行程(λ)は、(n)を数密度、(d)を分子径として、剛体球モデルを用いて近似され得る。ガスの数密度(n)は、周囲圧力(P)に対するボルツマン定数(k
B)×周囲温度(T)の比として計算可能である。
【数4】
【0033】
標準大気条件では、分子平均自由行程は約67nmであり、数ミクロン未満の特徴的スケールのフローはいずれも微視的レベルにおいて扱われる必要がある。これらのスケールにおいて出現する最も有用な挙動の1つは、
図1Aに示すように、2つの容積部が異なる温度で保持される場合の圧力の差である。ここで、我々は、高温容積部(105)と低温容積部(106)とを分離するメンブレン(100)を有する。高温壁(103)は高温容積部(105)を密閉し、低温壁(104)は低温容積部(106)を密閉する。メンブレン(100)は、高温面(101)及び低温面(102)をさらに有する。
【0034】
高温面から低温面への分子流束(φ
h)が低温面から高温面への分子流束(φ
c)に等しい場合に平衡が達成される。なお、(A
α)はメンブレン(100)における開口部の総面積である。バルク速度の不存在下での分子流束(φ)は、数密度(n)とガスの平均熱速度
【数5】
の積に比例する。ガスの平均熱速度
【数6】
は、温度(T)と分子の分子質量(m)との比の平方根に比例する。
【数7】
【0035】
古典的には、平衡の過程において、ガスは隣接ガス領域間の圧力差を減少させる傾向にあるが、平均自由行程(λ)にわたる温度差の存在下では、圧力差はゼロとはならない。これは、数密度(n)は(T)に比例するが、速度は(T)の平方根に比例するためである。したがって、高温容積部(105)と低温容積部(106)とが異なる温度で保持される場合には、高温容積部の圧力(P
h)と低温容積部の圧力(P
c)との最大比は、高温容積部の温度(T
h)と低温容積部の温度(T
c)との比の平方根に比例することになる。重要な注記として、メンブレン(100)は、メンブレンの高温面(101)を通過する粒子が高温面の温度(T
h)で通過し、メンブレンの低温面(102)を通過する粒子が低温面の温度(T
c)で通過するような理想的なメンブレンである。
【数8】
【0036】
第1の容積部(109)及び第2の容積部(110)が密閉されていない場合には(
図1B)、圧力勾配は最大には到達せず、メンブレンの低温面(102)からメンブレンの高温面(101)へのフローが存在することになる。熱拡散による流量は、概ね高温面(101)と低温面(102)の間の確立された圧力差及び平均自由行程(λ)にわたる温度差の関数となる。
【0037】
この現象は、X.Wang,T.Su,W.Zhang,Z.Zhang及びS.Zhang、「Knudsen pumps:a review」、2020年、Nature,https://doi.org/10.1038/s41378-020-0135-5、並びにA.Ketsdever,N.Gimelshein,S.Gimelshein及びN.Selden、「Radiometric Phenomena:From the 19th to the 21st Century」、2012年、Vacuum,https://doi.org/10.1016/j.vacuum.2012.02.006に詳細に説明されている。
【0038】
短い距離にわたって大きな温度勾配を効率的に確立及び維持するには、
図2A及び
図2Bに示すように、熱電ヒートポンプの適用が必要となる。この例示的実施形態では、基板(200)が環境と流通し、余剰の熱を熱電ヒートポンプから抽出するヒートシンクとして作用する。ヒートポンプは、p型熱電素子(203)及びn型熱電素子(206)からなる。第1の相互接続部(201)、第2の相互接続部(202)及び第3の相互接続部(210)は2つの熱電素子(203、206)及び電源(250)を有する回路を形成し、電源(250)はマイクロコントローラ(251)を含んでいてもよく、民生用、医療用、及び産業用電子機器を設計する当業者には周知のソフトウェア、暗号化、ストレージ、メモリ、有線又は無線ネットワーク接続、センサ、スイッチ、ソフトウェア、電源、バッテリ、ヒューマンマシンインターフェース、パッケージ及び他の構成要素を含み得る。以下において、電源(250)及び関連する任意選択的な構成要素(251)を電源という。
【0039】
電源(250)が第1の相互接続部(201)に適宜の正電圧を印加し、第3の相互接続部(210)を通じて回路を閉じると、熱がp型熱電素子の下部(205)からp型熱電素子の上部(204)にポンピングし始める。この熱フローの方向は、n型熱電素子(206)については反転される。これにより、基板(200)の温度が低下し、第2の相互接続部(202)の温度が上昇する。これにより、開口部の下部(208)から開口部の上部(207)へのガスのフローが生じる。電流が反転されると、熱は第2の相互接続部(202)から基板(200)にポンピングされ、ガスのフローを反転させ、それにより、ガスは開口部の下部(208)から開口部の上部(207)に流れている。交互のp型熱電素子(203)及びn型熱電素子(206)を用いると、熱を基板(200)にポンピングする場合よりも熱を基板(200)からポンピングする場合の方が大きな温度差を形成することになる。基板(200)と第2の相互接続部(202)の間に温度差がある場合、熱はp型熱電素子(203)、n型熱電素子(206)及び基板(200)を第2の相互接続部(202)から分離する絶縁体(209)を通じて、自然に低温側から高温側に流れる。したがって、低い熱伝導率の材料が選択されるべきであり、その材料はパリレン、ポリイミド及びその他などのポリマー、酸化シリコン、酸化ハフニウム及びその他などの酸化物、エアロゲル、空気、真空並びに他の低い熱伝導性の材料並びに/又はそれらの組合せを含み得る。
【0040】
熱電ヒートポンプの効率は、熱電材料(203、206)の性能指数(ZT)によって制限される。性能指数(ZT)は、熱電材料の温度(T)、ゼーベック係数(α)、電気抵抗率(ρ)及び熱伝導率(κ)の関数である。熱電材料は、テルル化ビスマス、テルル化アンチモン、シリコンゲルマニウム、シリコン、ビスマスマグネシウム、グラフェン、ナノチューブ、及び室温時の性能の係数(ZT)が0.01以上の他の熱電材料から作製可能である。この性能指数(ZT)は、理想カルノーヒートポンプの性能係数(COP
MAX.Heating)の効率比率(ε
Carnot.HP)によっても概ね表現され得る。
【数9】
【0041】
テルル化ビスマスタイプの材料について、性能指数が約1であり、高温面(204)が25℃、低温面(205)が20℃であれば、最大性能係数(COPMAX.TE)は約14となる。これにより、抵抗性ヒータよりも高い効率及び大きな設計自由度のナノガスポンプが提供可能となる。適正な設計は、熱電ヒートポンプの性能を要求ガス熱流束に一致させ、効率を最大化しつつ所望の性能を達成するように基板のコスト、製造性及び最大温度に対する適宜のトレードオフを行うことを含む。適宜の電圧とは、熱電ヒートポンプが設計される電圧範囲、及び要求性能を達成するのに必要な電圧のことをいう。またさらに、熱電ヒートポンプの適正な設計及び動作は、熱電ヒートポンプ及び半導体製造の当業者には周知である。
【0042】
図2A及び
図2Bに示すような熱電ヒートポンプの例示的実施形態では、幾つかの大きな課題が生じる。これらは、熱電ヒートポンプによって生成される基板(200)を通じた余剰の熱の抽出を含む。この余剰な熱は、電気的相互接続部、熱電材料及び電気的接触抵抗を通じた抵抗性損失によって生成される。基板が除去できる余剰な熱の量は、その厚さ及びその熱特性に応じる。ナノガスポンプの性能は高温面と低温面の間の距離の短さに応じるので、基板が厚くなると、同じ温度勾配に対する流速及び/又は効率は低下する。基板はそのような損失を低減するように製造可能であり、それは製造のコスト及び複雑さを増大させる。次に、p型熱電セグメント(203)及びn型熱電セグメント(206)の側壁の厚さは、重要な構造的支持を電気的な第2の相互接続部(202)に与える。通常、ナノガスポンプに対して完全に整合された熱電ヒートポンプの理想的な側壁の厚さは、0.5~20nmであり、開口部について選択される動作圧及び幾何形状に応じて100nmともなることもある。これにより、第2の相互接続部(202)の構造的安定性が低下し、上部(204)及び下部(205)の界面における接触抵抗が増加する。次に、耐障害性電気分布の存在下であっても、熱電側壁の損傷は、高圧側の容積部から低圧側の容積部への阻害されないフローを与えるのでナノガスポンプのポンピング効率を低下させ、ナノガスポンプがバイパスされる場合には、ナノガスポンプの開口部がガスのフローを低減する。次に、このナノガスポンプは、基板の下部(208)から第2の相互接続部の上部(207)への好適なガスポンピング方向を有する。なぜなら、熱を基板(200)にポンピングして上部相互接続部(202)を冷却する場合よりも、熱を基板(200)からポンピングして第2の相互接続部(202)を加熱する場合に大きな温度差が確立されるためである。
【0043】
[例示的実施形態:PNPナノガスポンプ]
図3A及び
図3Bに示すような提案される装置の例示的実施形態は、通常は、前出の
図2A及び
図2Bに示すような交互の熱電素子によって設計されるヒートポンプを利用する熱拡散ガスポンプに関連する性能限界を緩和する。ここで、ナノガスポンプの開口部(306、307)は、基板(300)の中央に構成される。第1の電気的相互接続部(301)は、第1のp型熱電材料(302)上に積層される。これには幾つかの有利な効果があり、第1の有利な効果は第1の相互接続部(301)から第1のp型熱電材料(302)までの接触抵抗の劇的な低下であり、第2の有利な効果は第1の相互接続部(301)の電気抵抗の低下であり、第3の有利な効果は第1のp型熱電材料(302)と基板(300)の間の界面熱抵抗の劇的な低下である。基板は、ナノガスポンプの開口部を形成するn型熱電材料(303)を収容する低い熱伝導率の材料(308)の領域を有する。n型熱電材料(303)は、第1のp型熱電材料(302)及び第2のp型熱電材料(304)に接続される。第2の電気的相互接続部(305)は、第2のn型熱電材料(304)の下方に積層されている。電源(350)は、第1の電気的相互接続部(301)と第2の電気的相互接続部(305)の間の回路を完結する。
【0044】
適宜の正電圧を第1の電気的相互接続部(301)に印加することで、熱を基板(300)及び第1の電気的相互接続部(301)から、第1のp型熱電材料(302)とn型熱電材料(303)の間の界面にポンピングすることになる。次に、n型熱電材料(303)は、さらに熱を第2のp型熱電材料(304)との界面から第1の熱電材料(302)との界面にポンピングする。最後に、第2のp型熱電材料(304)は、熱をn型熱電材料(303)との界面からポンピングし、第2の熱電材料と第2の電気的相互接続部(305)の間の界面及び基板(300)にポンピングする。これは、適正に設計及び構成されると、第1の電気的相互接続部(301)での適宜の正電圧で動作する場合、温度が第1のp型熱電材料(302)とn型熱電材料(303)の間の界面において最大化され、第2のp型熱電材料(304)とn型熱電材料(303)の間の界面において最小化される熱プロファイルを発生させる。これにより、開口部の下部(307)から開口部の上部(306)へのガスのフローが発生する。開口部の上部(306)と開口部の下部(307)との間の温度勾配は、開口部の下部(307)が基板(300)よりも高温となるという犠牲を払って、第1の電気的相互接続部(301)でのより高い正電圧において、さらに最大化可能である。これは、特定の場合では効率を低下させ得るが、より高いガス流量及びより高い圧力差の形態で更なる性能を提供することができる。多数の複雑なシステムと同様に、設計及び動作パラメータを最適化するのにロバストなマルチフィジックスシミュレーションが有用である。第1の電気的相互接続部(301)で電圧を反転することで、n型熱電材料(303)での温度勾配が反転し、ガスのフローが反転し、それにより、ガスが開口部の上部(306)から開口部の下部(307)にポンピングされる。例示的実施形態の上部及び下部半分が対称である場合、これはガスの両方向へのより対称なフローを与える。フローの方向を最適化することが望まれる場合、開口部(306、307)の径の相違、p型熱電材料(302、304)の厚さ及び他の特性に対する最適化によって、主にナノガスポンプが使用されて作動容積部を加圧又は排気する場合などに、所望の方向へのフローを向上することができる。
【0045】
図3A及び
図3Bに示す提案される装置の例示的実施形態は、
図3Cに示すような矩形開口部(311)によっても構成され得る。またさらに、電気的相互接続部(301)及び(305)の配置は、
図3Dに示すように基板(300)に堆積され得る。これにより、非常に薄いn型熱電材料(303)が、少ない後処理で化学気相堆積法(CVD)又は原子層堆積法(ALD)を用いて等角的に堆積可能となる。これにより、性能が低下し得るが、特定の設計については製造が大幅に簡素化し得る。さらに、p及びn型熱電材料の適正なドーピング調整によって、寄生性能の低下を低減することができる。またさらに、電気絶縁性の界面(314)及び(315)が、開口部(306)をエッチングしてn型熱電材料(303)を堆積させる前に、p型熱電材料(302)及び(304)に堆積され得る。
【0046】
またさらに、n型熱電材料(303)の側壁の最適な厚さは、
図3E及び
図3Fに示すような二次開口部(309)を用いてガスに対して行われる仕事を増加させることによって増加可能である。二次開口部の上部(309)と二次開口部の下部(310)との間の温度差を維持するために、一次開口部の上部(306)と一次開口部の下部(307)との間の温度差と同様に、他の金属相互接続部(312)及び(313)がp型熱電材料に配置されてもよい。これは、
図2A及び
図2Bにおける第2の相互接続部(202)と同様の目的を果たす。
【0047】
またさらに、一次開口部の側壁を構成するn型熱電材料(303)は、
図3Gに示すような薄い金属相互接続部(310)に置換されてもよい。これは、相補型熱電材料が準備されず、治癒不能な欠点を有し又は必要な側壁厚で堆積可能でない場合に、有利となり得る。治癒不能な欠点は、更なる温度変動、プロセスガス、構造上の検討、好ましくない結晶化及びその他の欠点などのプロセス不適合を含み得る。この方法はさらに、相補型CVD熱電層が利用可能ではない第1の熱電層(302)及び第2の熱電層(304)並びに白金などのALD金属層のためのPVDプロセスの使用を可能とする。
【0048】
例示的実施形態の相互接続部、p型、n型、p型、相互接続部の順序は、連続性のみを目的とするものである。以下を含む多数の異なる構成がある。
・相互接続部、p型、n型、p型、相互接続部
・相互接続部、p型、金属、n型、金属、p型、相互接続部
・相互接続部、n型、p型、n型、相互接続部
・相互接続部、n型、金属、p型、金属、n型、相互接続部
・相互接続部、n型、金属、n型、相互接続部
・相互接続部、p型、金属、p型、相互接続部
・相互接続部、p型、n型、金属、相互接続部
・相互接続部、n型、p型、金属、相互接続部
・相互接続部、金属、p型、金属、相互接続部
・相互接続部、金属、n型、金属、相互接続部
これは網羅的な列挙ではなく、フローの方向に大きな温度勾配を有し、反対の温度勾配を有する熱電材料を通じて又は金属相互接続部を通じて基板と熱流通する一次温度勾配の両端を有する開口部を生成するのに他の構成も可能である。
【0049】
[例示的構成:直線フロー及び曲折フロー]
またさらに、
図3A及び
図3Bに開示される例示的実施形態は、
図4Aにおける例示的実施形態によって図示されるガスの直線フローのために直列にも構成され得る。電気的相互接続層(402)は、第1のp型熱電材料(403)の上方に構成される。電気絶縁性でかつ熱伝導性の層(401)が、第1のp型熱電材料(403)の下方でかつ第2のp型熱電層(405)の上方となるように構成される。n型熱電材料(404)は、第1のp型熱電材料(403)及び第2のp型熱電材料(405)を接続する。熱伝導性の低い領域(408)が、寄生熱流束を低減しかつn型熱電材料(404)によって形成される開口部の上部開口(406)と下部開口(407)の間の温度勾配を最大化するように、活性熱電層(403、404、405)に覆われて構成され得る。そして、第2の電気的相互接続部(406)が、第2のp型熱電材料(405)を第3の熱電材料(410)に接続する。より厚い熱伝導層(400)が、第1のナノガスポンプ(402~408)を第2のナノガスポンプ(410~416)から分離する。この熱伝導層(400)は、直線フロー構成においては導電性であってもよい。第2の電気絶縁性でかつ熱伝導性の層(409)が、第3のp型熱電材料(410)の下方でかつ第4のp型熱電材料(412)の上方に構成される。熱伝導性の低い領域(416)が、寄生熱流束を低減しかつn型熱電材料(411)によって形成される開口部の上部開口(414)と下部開口(415)の間の温度勾配を最大化するように、活性熱電ヒートポンプ(410、411、412)に覆われて構成され得る。電源が、第1の電気的相互接続部(402)と第3の電気的相互接続部(413)の間の回路を完結する。正電圧を第1の相互接続部(402)に印加することで、ガスの熱拡散の条件を発生させることになり、それにより、ガスが第1の下部開口部(407)から第1の上部開口部(406)に流れ、ガスが第2の下部開口部(415)から第2の上部開口部(414)に流れて2つのナノガスポンプを分離する容積部(417)に流入する。第1の上部開口部(406)の上方のフローが制限され又は終端された場合には、2つのナノガスポンプを分離する容積部(417)内の圧力は、第2の下部開口部(415)の下方の容積部の圧力以上となる。
【0050】
図4Aにおける例示的実施形態は、第2及び第3のp型熱電材料(419)が
図4Bに示すように接続されるようにも構成され得る。第2の相互接続部(421)は、温度差が望ましくない領域における第2及び第3のp型熱電材料(419)に構成される。電流が最も電気抵抗の低い経路に流れるため、電流の大部分は、中央のp型熱電材料(419)と第2の相互接続部(421)との間の界面(420)に流れることになる。この例示的実施形態は、より導電性の高い材料を熱電材料上に配置することによって熱電材料のある部分がバイパス可能であることを実証するものである。これは当該デバイスの製造を簡素化し得るだけでなく、熱電材料と電気的相互接続部の間の接触抵抗を低下させるものでもある。
【0051】
直線フローの他の例示的実施形態を
図5A、
図5B及び
図5Cに示す。
図5Aには断面(526)を示し、
図5Bには断面(524)を示し、
図5Cには断面(525)を示す。第1の相互接続部(501)は、第1のp型熱電セグメント(502)に接続され、次に第1のn型熱電セグメント(503)、次に第2のp型熱電セグメント(504)、次に第2の電気的相互接続部(505)、次に再度第2のp型熱電セグメント(504)、次に第2のn型熱電セグメント(506)、次に第3のp型熱電セグメント(507)、次に第3の電気的相互接続部(508)、次に再度第3のp型熱電セグメント(507)、次に第3のn型熱電セグメント(509)、次に第4のp型熱電セグメント(510)、次に第4の電気的相互接続部(511)に接続され、次に電源(550)を通じて第1の電気的相互接続部(501)で回路を完結する。適宜の正電圧が第1の電気的相互接続部(501)に印加されると、温度勾配が熱電セグメント(523)の表面で確立される。なお、淡色が高温側であり、濃色が低温側である。これにより、第4の容積部(522)から第3の開口部(520)を通じて第3の容積部(519)に、次に第2の開口部(517)を通じて第2の容積部(516)に、次に第1の開口部(514)を通じて第1の容積部(513)に流入するガスのフローが発生する。第1の容積部(513)又は第4の容積部(522)から流出するフローが制限される場合には、圧力は第1の容積部(513)で最大となり、第4の容積部(522)で最小となる。負電圧が第1の電気的相互接続部(501)に印加される場合には、ガスのフロー及び結果として得られる圧力差は反転する。
【0052】
またさらに、ナノガスポンプ装置の直線フローの実施形態の製造を簡素化するために、ポンプの上側半分は、
図5Dに示すような電気的及び熱的に絶縁性の材料(527)に置換可能であり、流速の低下による損失を低減するのに開口部の高さ(528、529、530)を減少させることが必要となり得る。この実施形態は、効率及び性能を低下させるが、ナノガスポンプの製造の複雑さも減少させる。
【0053】
さらに、ナノガスポンプの上部分を除去する代わりに、上部は平坦化されてもよく、したがって、上部相互接続部(501、505、508、511)、p型熱電セグメント(502、504、507、510)及びn型熱電セグメント(503、506、509)を
図5Eに示すように構成することによって性能及び効率を大きく犠牲にすることなくプロセスの複雑さを減少させることができる。電気的相互接続部と熱電セグメントの間の電気的界面及び熱電セグメント同士の電気的界面は、大きなオーバーラップによって示されている。オーバーラップは、所望の接触抵抗及び利用可能な製造能力によって制限され得る。
【0054】
図3A及び
図3Bに開示する実施形態の例は、
図6Aに示す他の例示的実施形態によってガスの曲折フローのために直列にも構成され得る。ここで、第1の電気的相互接続部(601)は第1のp型熱電セグメント(603)の上部に積層され、それが第1のn型熱電セグメント(603)に接続され、次に第2のp型熱電セグメント(604)、次に第2の電気的相互接続部(605)、次に再度第2のp型熱電セグメント(604)、次に第2のn型熱電セグメント(606)、次に第3のp型熱電セグメント(607)、次に第3の電気的相互接続部(608)、次に再度第3のp型熱電セグメント(607)、次に第3のn型熱電セグメント(609)、次に第4のp型熱電セグメント(610)、次に第4の電気的相互接続部(611)、次に再度第4のp型熱電セグメント(610)、次に第4のn型熱電セグメント(612)、次に第5のp型熱電セグメント(613)、次に第5の電気的相互接続部(614)に接続され、次に電源(650)を通じて第1の電気的相互接続部(601)で回路を完結する。正電圧が第1の電気的相互接続部(601)に印加されると、交互の温度勾配が直列的なナノポンプの間に確立される。これにより、第5の容積部(624)から、第4のナノポンプ(610~614)の開口部(619)を通じて第4の容積部(623)に流入し、次に第3のナノポンプ(607~611)の開口部(618)を通じて第3の容積部(622)に流入し、次に第2のナノポンプ(604~608)の開口部(617)を通じて第2の容積部(621)に流入し、第1のナノポンプ(601~605)の開口部(616)を通じて第1の容積部(620)に流入するフローが発生する。ナノポンプは、効率を向上するように能動的熱勾配を有する領域に絶縁体(615)を含んでいてもよい。熱伝導性でかつ電気絶縁性の材料(600)は、入口及び出口を設けて各内側容積部(620~624)を密閉し、ナノガスポンプの開口部(616~619)によって接続される。材料の熱伝導率の必要量は、用途及び必要な性能に応じる。導電性材料が、電気的相互接続部及び熱電セグメント(601~614)から適正に絶縁される場合に使用されてもよい。この材料は、複数の材料で作製されてもよく、一部の実施形態では、動作電力が充分に低く又は余剰の熱を除去する他の方法が充分である場合には低い熱伝導率の材料で作製されてもよい。ナノガスポンプの製造において、半導体製造の当業者には、第1(601)、第3(608)及び第5(614)の電気的相互接続部が、導電性材料の単一積層を堆積しかつ電気的接続を適正に隔離するようにそれをパターニングすることを通じて作製可能であることが分かるはずである。同じことが、第1(602)、第3(607)及び第5(613)のp型熱電セグメント、第2(604)及び第4(610)のp型熱電セグメント、並びに第2(605)及び第4(611)の導電性材料に当てはまる。
【0055】
一般に、製造方法には、その後に高選択的エッチングプロセスで除去される犠牲材料の堆積が必要である。例示は、二フッ化キセノン(XeF
2)で除去されるポリシリコン(poly-Si)堆積、及びフッ化水素(HF)で除去される二酸化シリコン(SiO
2)堆積を含む。蒸気相ガスを用いる場合であっても、プロセス時間を短縮し、非犠牲材料の無用なエッチングを最小化するために充分なアクセスが望まれる。
図6Aにおける例示的装置は、
図6Bに示すようにも構成されてアクセス孔(644)を主チャネル(635~643)内に含んでもよい。ナノガスポンプ(626~630、630~634)の絶縁材料(645)は犠牲材料で作製される場合、
図3E及び
図3Fに開示される方法に加えて、第1の熱電セグメント(627)、第2のセグメント(628)又は第3の熱電セグメント(629)は、エッチング剤が犠牲材料(絶縁材料)(645)にアクセスするためのアクセス孔(646)を有して構成されてもよい。加圧ガスが隣接容積部内に漏出して戻るのを防止するために、ナノガスポンプ内のアクセス孔(646)がナノガスポンプの1層のみに作製されもよい。これは、第1の熱電材料(627、631)及び第3の熱電材料(629、633)におけるアクセス孔(646)が、第2の材料(628、632)に沿う温度勾配よりも低い温度勾配を有することになるためである。第2の材料(628、632)に近接するアクセス孔(646)は、温度勾配が高くなるにつれて加圧ガスを漏出させにくくなるが、これは製造の複雑さ及び電気抵抗の増加によって制限される。
【0056】
エッチング剤が下側の容積部(635、639、643)にアクセスするために、
図6Bに示すように、ナノガスポンプ段を除去して、下側の容積部へのアクセスを容易化すると有利となり得る。他の方法は、充分なナノガスポンプ開口部(638、642)の領域、側部アクセス口、ナノガスポンプを含むメンブレンへの容積部の直接の集積、及びその他の方法を含む。
図6Bに示す例示的実施形態では、第1の電気的相互接続部(626)が第1のp型熱電セグメント(627)に接続され、それが第1のn型熱電セグメント(628)、次に第2のp型熱電セグメント(629)、次に第2の電気的相互接続部(630)、次に第3のp型熱電セグメント(631)、次に第2のn型熱電セグメント(632)、次に第4のp型熱電セグメント(633)、次に第3の電気的相互接続部(634)に接続され、次に電源(650)を通じて第1の相互接続部(626)で回路を完結する。正電圧が第1の電気的相互接続部(626)に印加されると、同じ方向の温度勾配が直列的なナノガスポンプの間に確立される。これにより、第7の容積部(643)から、第2のナノガスポンプ(630~634)の開口部(642)を通じて第6の容積部(641)に、次に、ナノガスポンプを排除して第4の容積部(639)を接続することによって発生した第5の容積部(640)に、次に第1のナノガスポンプ(626~630)の開口部(638)を通じて第3の容積部(637)に、次に、ナノガスポンプを排除して第1の容積部(635)を接続することによって発生した第2の容積部(636)に流入するガスのフローが発生する。ナノガスポンプ(626~634)を分離する内側容積部(635~643)をカプセル化する材料(625)は、最初に犠牲材料となり、その後にアクセス孔(644)を通じて除去される。その後、アクセス孔は、酸化シリコン(SiO
2)、タングステン(W)若しくは他の材料及び/又はプロセスの物理的気相堆積法(PVD)などの他のプロセスによって封止される。酸素又は他の電気絶縁性材料の原子層堆積法(ALD)が、アクセス孔(644)を封止するとともにナノガスポンプ(626~634)の表面を保護するためにさらに採用されてもよい。
【0057】
[例示的構成:段構成]
前出の
図3A~
図3Bに示す例示的装置の例示的構成を
図7A、
図7B及び
図7Cに示す。
図7Aは外部容積部(700)から中央容積部(750)への例示的流路を示し、
図7Bは下方から上方に見た断面図を示し、基板(751)が前出の
図6Aに示すような密閉容積部を形成する。
図7Cは上方から下方に見た断面図を示し、基板(751)が前出の
図6Aに示すような密閉容積部を形成する。フローは、開放外部容積部(700)から、第1のナノガスポンプ(701)を通じて上部容積部(702)、第2のナノガスポンプ(703)へと、最後のナノガスポンプ(749)を通じて中央の開放容積部(750)に進むまで順に進む。通常、1つの開放容積部当たり複数のナノガスポンプ、並びにナノガスポンプの構成を電源に接続するのに適した方法及び位置において終端する電気的相互接続部の耐障害性分布がある。
【0058】
開口部の数及び/又は段当たりの開口部面積の増減に加えて、予想圧力勾配が既知である場合には性能を向上するのに開口部の径が変更されてもよい。ガスの平均自由行程はガスの圧力に大きく依存し、したがって、
図7Dに示すようにナノガスポンプ構成の外部から中心にガスを加圧する用途の場合には、ナノガスポンプの開口部の径は、さらに開示するような最適化法によって決定されるように、順に減少し得る(760~768)。
【0059】
図7Eに示すようにナノガスポンプの構成の中心からガスを排気する用途の場合には、ナノガスポンプの開口部の径は、さらに開示するような最適化法によって決定されるように、順に増加し得る(770~778)。
【0060】
[例示的用途:集積マイクロ流体バルブ及びポンプ]
ナノガスポンプの構成は、空圧装置を作動すること、質量流量制御、環境的制御、より軽い分子を分離及び階層化することの目的のために、又はさらにはマイクロドローンを上昇及び並進させるために、ガスを圧縮するのに使用され得る。
【0061】
ナノガスポンプの構成は、空圧装置を作動すること、質量流量制御、環境的制御、より重い分子を分離及び階層化することの目的のために、又はさらには質量分析計などの分析機器のために真空を発生させることのために、ガスを希薄化するのに使用され得る。
【0062】
集積空圧バルブについての例示的用途を
図8A、
図8B及び
図8Cに示す。(800)はメンブレン(806、810)を空圧的に作動させるためのナノガスポンプ(801)及び制御容積部(802)の構成を収容する下部基板であり、開口部径よりも小さな粒子をフィルタ除去することができるガスフィルタ(805)がナノガスポンプ(801)の構成の一端を保護し、ナノガスポンプの構成の他端は制御容積部(802)に対して開放されかつ密閉される。
【0063】
図8Aは断面(811)を示し、
図8Bは断面(812)を示し、
図8Cは断面(813)を示す。これらの断面は、口語的には「Quakeバルブ」として知られる通常は空圧的に駆動されるマイクロ流体バルブを示す。流体チャネル(808、809)は、上部基板(807)に形成され、メンブレン(806、810)及び下部基板(800)に融合される。旧来的には、流体チャネル(808、809)内の二次流体のフローを阻害又は促進するのに圧縮又は希薄化空気が制御キャビティ(802)に導入される。メンブレン(810)は、制御容積部(802)を加圧するように操作された場合、
図8Dに示すように、シール(814)を流体チャネル(808、809)の上部に形成する。メンブレン(810)は、制御容積部(802)を希薄化するように操作する場合、
図8Eに示すように、流体を膨張した容積部(815)に引き込む。
【0064】
図8A~
図8Eに最初に示した集積空圧バルブの例示的実施形態が
図9Aの例示的実施形態に示すように接続される場合、より複雑な動作が実行可能となる。
図9Aにおいて、制御容積部(904)を有する第1の集積空圧バルブ(901)が制御容積部(905)を有する第2の集積空圧バルブ(902)に接続され、それが制御容積部(906)を有する第3の集積空圧バルブ(903)に接続され、単一の流体チャネル(910~913)を共有する。
【0065】
図9Bに示すように、3個のバルブ全てが作動されると(915)、全てのフローが停止する。(916)に示すように第1の制御容積部(904)を希薄化することによって、流体は入口(910)から第1のバルブ(901)に引き込まれる。次に(917)に示すように第2の制御容積部(905)を希薄化することによって、流体は入口(910)から第2のバルブ(902)にさらに引き込まれる。次に(918)に示すように第1の制御容積部(904)を加圧し、(919)に示すように第3の制御容積部(906)を希薄化することによって、流体は、出口(913)と流通することになる。次に(920)に示すように第2の制御容積部(905)を加圧することによって、流体は、第2のバルブ(902)から出口(913)に押し出されることになる。次に(921)に示すように第3の制御容積部(906)を加圧することによって、流体は第3のバルブ(903)から出口に押し出されることになる。この順序を繰り返すと、単一の既知量の流体が、流体チャネルの入口から出口に進む。順序を反転すると、単一の既知量の流体が、流体チャネルの出口(913)から入口(910)に進む。
【0066】
流体チャネルの構成は、
図9Cに示すようにも構成され得る。ここで、入口(925)が、第1の基板の上部にある。主ポンピングバルブ(927)が中央にあり、出口バルブ(929)が端部にある。
図9Cの構成は
図9Dに示すように構成されてもよく、第2の入口(926)があり、これは薬剤を患者にポンピングするための構成の場合に有利となり得る。
図9Cの構成は
図9Eに示すように構成されてもよく、第2のポンピングバルブ(928)があり、これは第1のポンピングバルブ(927)が第2のポンピングバルブ(928)とは大きく異なる容積部を移動させる場合、又は流体を移動させるのにさらに高い圧力が必要な場合に有利となり得る。
図9Cの構成は
図9Fに示すように構成されてもよく、第2の出口バルブ(930)があり、これは流体をマイクロ流体回路内で分散させる場合に有利となり得る。
図9Cの構成は、任意数の入口、ポンピングバルブ及び出口についても構成され得る。
【0067】
[製造]
図3Dの例示的装置を製造する例示的方法を
図10に示す。我々は(1001)で示すような1μmの厚さの薄い基板を用いて開始し得る。窒化シリコンの100nmの層を、後続のプロセス工程のためのエッチングストップとして成長させてもよい。基板は、シリコン・オン・インシュレーター・ウェハの一部であってもよい。(1002)に示すように、活性領域を画定する開口部がパターニング及びエッチングされ、それは直径3μmとなり得る。(1003)に示すように、酸化シリコンを基板上に成長させ、基板が平坦化され、窒化シリコン層上で停止される。ハンドルの開口を、上部シリコンメンブレンを露出させるようにパターニング及びエッチングする。(1004)に示すように、六フッ化タングステンからの100nmのタングステンを化学気相成長チャンバ内で成長させ、その後に3μmの直径でパターニング及びエッチングする。(1005)に示すように、室温でZTを最大化する最適なキャリア濃度の250nmのp型シリコンゲルマニウム材料を化学気相成長炉内で基板上に成長させ、続いて原子層堆積法によって10nmの酸化アルミニウムを成長させる。(1006)に示すように、250nmの開口部を、メンブレンを通じてパターニング及びエッチングする。それに続いて(1007)に示すように、室温でZTを最大化する最適なキャリア濃度の25nmのn型シリコンゲルマニウム材料を化学気相成長炉内で基板上に成長させる。埋め込まれた酸化物までメンブレンの上部に100nmのアクセス孔をパターニング及びエッチングしてもよく、その後にp型熱電材料の上部及び下部を分離する際に酸化物層を除去するのに蒸気HFが使用可能である。その後、電源が、10mVをメンブレンの下部から上部に印加し得る。電圧は、メンブレンのエッジの温度が90℃になるまで増加させられてもよい。
【0068】
シリコンゲルマニウムのための最適なキャリア濃度は、化学量論に応じて、通常は立方センチメートル当たり約1020である。N.M.Ravindra,B.Jariwala,A.Banobre及びA.Maskeは、「Thermoelectric properties of silicon germanium alloys」、chapter 4、SpringerBriefs in Materials,https://doi.org/10.1007/978-3-319-96341-9_4を記載する。それは良好な開始点であり、シリコンゲルマニウムを扱う各商業施設はp型シリコンゲルマニウムトランジスタ及びn型シリコンゲルマニウムトランジスタに対して彼ら自身のレシピを有し、ドーピングは一般に熱電用途に対して立方センチメートル当たり2桁増加させる必要がある。したがって、適切なDOEは、室温におけるピークZTに対応するドーピングレベルを求めるように実行される必要がある。
【0069】
[構成、装置最適化方法]
発明されたデバイスの幾何形状は、数値及び/又は解析手段を用いて調整及び微調整可能であり、通常は最適化の主題となる。最適化は反復して進められることになり、以下のアルゴリズムで表現可能である。
モデル進化アルゴリズム
Set C # モデル制約
Set P # 検索パラメータのセット
Set M # 実施形態の初期近似値
Do While 性能基準Kが満たされない
Do While 数値解精度Aに達しない
Cを用いて運動ガスソルバーを実行する
Cを用いて固体熱電及び熱伝導ソルバーを実行する
気体-固体解Sを統合する
End Do
S及びPを用いてMを更新する
End Do
【0070】
最適化は、電気的及び構造的構成要素の寸法、熱電材料、ガス圧縮チャンバ、マウントの角度、連続段の間の距離、直列及び並列の段数、開口部サイズ、材料などの主要な幾何形状及びフローパラメータPに基づくべきである。それは、好適な動作圧、ガス種、入力電力、材料及びプロセスのコストなどの制約Cのセットによって結合され得る。最適化プロセスは、所望の質量流量及び圧縮比などの最適化終了基準Kを用いてもよい。先述したように、質量流量と圧力勾配とは相互に対して逆となる。デバイスを通じた質量流量が高いほど、圧力勾配は低くなり、その逆に、圧力勾配が高いほど、質量流量は低くなる。したがって、システム設計を最適化するために、最小許容可能な圧力差及び質量流量の双方が必要となり得る。最適化は、装置モデルMの初期近似値で開始すべきであり、それは上記に示した単一段及び多段実施形態の例となり得る。その後、メインループが、基準Kを満足する最適構成Mが求められるまで実行される。そのループでは、モデルMは、検索パラメータP及び性能評価解ブロックからの出力を用いて調整される。後者は、何らかの規定数値精度に達するまで実行する「do」ループとして表されてもよく、装置内部のガス流及びデバイスの固体ブロック内部の熱流についてのスタンドアローン又はユニファイドソルバーを含み得る。これらのソルバーステップに対して単純な分析推定が可能である一方で、数値解の最も高い精度は、運動ガスソルバー及び熱伝導についての有限要素ソルバーの有限体積、対流及び輻射などの熱伝達メカニズムも含み得る電気的及び熱電的な等式などによって与えられることになる。計算最適化プロセスは、実験的手段によって支援及び修正されてもよい。
【0071】
例示の最適化ループは、以下の通りである。ラボオンチップデバイスのためのマイクロチャネルの流体操作などの用途が、3次元の各々で1mm未満であり、1mW以下の電力を消費し、20キロパスカル(kPa)の圧力降下を生成するポンプを必要とするものとする。そして、
図6Aに示すポンプ幾何形状から開始して、長さが200μmであると仮定することができる。その幾何形状は、所与の電圧に対して想定され得る熱電素子にわたる温度差の範囲を決定するようにCOMSOLなどの市販マルチフィジックスソルバーにおいてモデル化され得る。そして、気体力学シミュレーションが、単一段にわたる推定圧力降下を設定し、予想される気体-表面熱流束についてのフィードバックをCOMSOLに与える動力学アプローチを用いて実行され得る。COMSOLの結果は、その情報によって補正され、最終推定が単一段の質量流量、電力及び圧力降下に対して行われ得る。その後、多段幾何形状の特性が分析的に計算可能となり、又はより高い精度が必要な場合には、それがCOMSOLにおいて再構築可能であり、そこにおけるガス流が再度モデル化されてもよい。最後に、性能基準を満たす解が存在する場合、設計者は要求仕様ウィンドウに合うデバイスの幾何形状及び特性を得ることになる。
【0072】
[特定の例についての装置性能推定]
直接シミュレーションモンテカルロ(DSMC)及び楕円体統計Bhatnagar-Gross-Krook(ES-BGK)動力学法を用いて行われた数値解析によって、発明者らは、特定の幾何形状及びフローパラメータに対する開示の曲折フロー及び直線フローの設計の主要な性能パラメータを取得することができ、それらは、低温面と高温面の間の温度差が50Kの1μm幅の熱電素子、1μm幅の開口部、3μmの高さ及び長さのガスチャンバ、及び準2次元構成であった。連続3段の上記曲折フロー及び直線フローの実施形態によって発生した圧力差ΔPを表1に示す。表から分かるように、圧力が30倍変化する間にΔPはそのピークから2.5倍以内となるため、変動ガス圧による性能劣化は概ね比較的弱い。0.3atmにおいて装置を通過するガスの平均流速U
fは、曲折フローについて2.7m/sであり、直線フロー設計について3.6m/sであった。
【表1】
【0073】
多段デバイスは、連続25段までについても数値的に試験した。ΔP及びUfに基づく性能劣化は、約0.5%の数値誤差バー以内であった。400段の装置について予想される質量流量劣化は5%未満である。圧力差及び流速は、熱電素子の低温端と高温端の間の5K~50Kまで変動する温度勾配に対して線形に変化することが分かった。これらの推定によって、気体力学入力に基づく最大性能評価が可能となる(完全な性能評価は、DSMC及びES-BGKなどの動力学シミュレーションから得られる気体-表面熱流束とともに固体内部の熱伝達の解も含むべきである)。
【0074】
上記1mm×1mm×1mmのデバイスに対して行われた性能評価は、100mWの入力電力に対して、最大体積流量は1.2の最大圧縮比において毎分約2mLであることを示した。固定の入力電力について、所望の圧縮比の増加又は減少は、体積流量の比例的減少又は増加によって達成される。圧縮比及び質量流量は入力電力に直接比例し、デバイスの実際のポンピング容量は、デバイスの体積に吸収可能でありかつ環境に放散可能な最大電力によって主に制限される。
【0075】
本開示を好適な実施形態の観点で説明したが、明示的に記載されたもの以外にも、均等物、代替例及び変形例が可能であり、後続の特許請求の範囲の範囲内であることが認識される。
【国際調査報告】