(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】メタボロミクス解析
(51)【国際特許分類】
C12P 7/24 20060101AFI20240912BHJP
C12P 7/42 20060101ALI20240912BHJP
C12P 7/56 20060101ALI20240912BHJP
C12P 7/52 20060101ALI20240912BHJP
C12P 7/40 20060101ALI20240912BHJP
C12P 7/54 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C12P7/24
C12P7/42
C12P7/56
C12P7/52
C12P7/40
C12P7/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516594
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 US2022043652
(87)【国際公開番号】W WO2023043916
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ライ, ツーチュアン
(72)【発明者】
【氏名】ミサギ, シャーラム
(72)【発明者】
【氏名】サンガラジュ, デワカール
(72)【発明者】
【氏名】タン, タンミン
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AC31
4B064AD01
4B064AD03
4B064AD04
4B064AD06
4B064AD31
4B064AD33
4B064AD51
4B064AD52
4B064AE05
4B064AE06
4B064AE07
4B064AE17
4B064AE34
4B064CA01
(57)【要約】
サンプル中の複数の代謝産物の濃度を定量するための方法が本明細書で提供される。サンプル中の複数の代謝産物を相対的に定量するための方法、細胞培養の経過をモニタリングするための方法、および細胞培養を最適化するための方法も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の複数の代謝産物の濃度を定量するための方法であって、各代謝産物が少なくとも1つのカルボニル基を含み、前記方法が、
(a)前記サンプルの複数の分析物のそれぞれに対応する既知量の内部標準(場合により、安定同位体標識類似体)を添加すること;
(b)前記サンプルを、カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬と接触させ、それにより、各代謝産物の前記カルボニル基を前記マスキング基で誘導体化し、誘導体化されたサンプルを供給すること;
(c)前記誘導体化されたサンプルをクロマトグラフィー分離およびフルスキャン精密高分解能質量分析に供すること;ならびに
(d)前記代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルに基づいて前記複数の代謝産物のそれぞれの量を定量すること
を含み、
前記定量することが、前記複数の代謝産物のうちの1つに対応する既知量の安定同位体標識類似体について得られたシグナルを使用して外部較正を正規化した後に、前記複数の代謝産物のうちの前記代謝産物について得られた前記モノアイソトピックシグナルを前記複数の代謝産物のうちの前記1つの代謝産物についての前記外部較正と比較することを含み;
最も豊富な陽イオンアイソトポログが、前記代謝産物についての外部検量線の上限値以上のシグナルを有しない限り、前記代謝産物について得られた前記モノアイソトピックシグナルは、前記最も豊富な陽イオンアイソトポログに対応し、この場合、前記代謝産物について得られた前記モノアイソトピックシグナルが、前記代謝産物のあまり豊富でない陽イオンアイソトポログに対応する、方法。
【請求項2】
前記サンプルが細胞培養物のサンプルであり、場合により、前記サンプルが細胞培養培地および/または細胞溶解物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞培養物が、動物細胞培養物(哺乳動物細胞培養物もしくは昆虫細胞培養物など)、または真菌細胞培養物(酵母細胞培養物など)、または原核細胞培養物(例えば大腸菌)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞培養物が、CHO細胞培養物、場合により、CHO K1細胞培養物、CHO K1SV細胞培養物、DG44細胞培養物、DUKXB-11細胞培養物、CHOK1S細胞培養物もしくはCHO K1M細胞培養物、または標的化組込み操作-CHOもしくはCHO誘導体細胞培養物、またはそれらの誘導体である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記サンプルを得るための前記細胞培養物のオンラインサンプリングをさらに含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記定量することが、前記細胞培養物のオンラインサンプリングの約4時間以内に完了する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記定量することが、前記細胞培養物のオンラインサンプリングの約2時間以内に完了する、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
各内部標準が、前記複数の分析物のうちの1つの最も豊富なアイソトポログよりも少なくとも2称質量単位多いアイソトポログに対応する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
各内部標準が、二重、三重、または四重の同位体標識を有する前記複数の代謝産物のうちの1つのアイソトポログを含み、各同位体標識が、重水素、炭素-13(
13C)、または窒素-15(
15N)から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記複数の代謝産物のうちの1つ以上が阻害性代謝産物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の代謝産物が、1つ以上のアミノ酸由来代謝産物を含むか、または1つ以上のアミノ酸由来代謝産物からなる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記複数の代謝産物が、ギ酸、酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、α-ケトイソ吉草酸、α-ケトイソカプロン酸、インドール-3-酢酸、インドール-3-乳酸、インドール-3-プロピオン酸、フェニル酢酸、フェニル乳酸、フェニルピルビン酸、4-ヒドロキシフェニル酢酸、4-ヒドロキシフェニル乳酸、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、トリプトファン、マレート、フマレート、サクシネート、α-ケトグルタル酸のうちの1つ以上を含むか、またはそれらからなる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の代謝産物が、ギ酸、酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、α-ケトイソ吉草酸、α-ケトイソカプロン酸、インドール-3-酢酸、インドール-3-乳酸、インドール-3-プロピオン酸、フェニル酢酸、フェニル乳酸、フェニルピルビン酸、4-ヒドロキシフェニル酢酸、4-ヒドロキシフェニル乳酸、および4-ヒドロキシフェニルピルビン酸のうちの1つ以上を含むか、またはそれらからなる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記複数の代謝産物のそれぞれに対応する前記内部標準が、
酪酸が前記代謝産物である場合、酪酸-D2であり;
イソ酪酸および/またはギ酸が前記代謝産物である場合、イソ酪酸-D3であり;
イソ吉草酸および/または2-メチル酪酸が前記代謝産物である場合、イソ吉草酸-D2であり;
カプロン酸が前記代謝産物である場合、カプロン酸-D2であり;
2-ヒドロキシ酪酸および/または3-ヒドロキシ酪酸、および/または2-ヒドロキシイソ吉草酸および/または2-ヒドロキシイソカプロン酸が前記代謝産物である場合、3-ヒドロキシ酪酸-D4であり;
α-ケトイソ吉草酸および/またはα-ケトイソカプロン酸が前記代謝産物である場合、α-ケトイソカプロン酸-D3であり;
インドール-3-酢酸および/またはインドール-3-乳酸および/またはインドール-3-プロピオン酸が前記代謝産物である場合、インドール-3-酢酸-D2であり;
フェニル酢酸および/またはフェニル乳酸および/またはフェニルピルビン酸が前記代謝産物である場合、フェニル乳酸-D3であり;
4-ヒドロキシフェニル酢酸および/または4-ヒドロキシフェニル乳酸および/または4-ヒドロキシフェニルピルビン酸が前記代謝産物である場合、4-ヒドロキシフェニル乳酸-D3である、
請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
接触させる工程(b)が、各代謝産物の前記カルボニル基を活性化し、それにより、前記カルボニル反応性基との反応のために各代謝産物上に活性化カルボニル基を供給することをさらに含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
各代謝産物の前記カルボニル基を活性化することが、前記サンプルをN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド(EDC)またはその塩、例えばEDC塩酸塩と接触させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記カルボニル反応性基および前記マスキング基を含む前記試薬の前記カルボニル反応性基が、アミンを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記カルボニル反応性基および前記マスキング基を含む前記試薬の前記マスキング基が、脂肪族基および/または芳香族基を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記カルボニル反応性基および前記マスキング基を含む前記試薬が、O-ベンジルヒドロキシルアミン(O-BHA)またはその塩、例えばO-BHA塩酸塩である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記クロマトグラフィー分離が、逆相液体クロマトグラフィーまたは親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)を含み、場合により前記クロマトグラフィー分離が逆相液体クロマトグラフィーを含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記逆相液体クロマトグラフィーが、C18カラムからの勾配溶出を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記質量分析が、前記クロマトグラフィー分離からの溶出液を質量分析計のイオン源に導入して分析種分子の陽イオンを生成し、精密高分解能質量分析計でフルスキャン質量スペクトルを実行および取得することを含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記陽イオンが、プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、またはアンモニウムイオンから選択される陽イオンを含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記陽イオンがプロトン化分子である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記フルスキャン精密高分解能質量分析が、少なくとも約50m/z~約800m/z以下の質量電荷比をスキャンすることを含み、
場合により、前記フルスキャン精密高分解能質量分析が、約100~約500m/zの質量電荷比をスキャンすることを含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記質量分析の質量精度が20ppm以上であり、場合により、前記質量分析の質量精度が約5ppmである、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記質量分析の分解能が少なくとも35,000であり、場合により、前記質量分析の分解能が約70,000である、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記複数の代謝産物のそれぞれの前記濃度を定量するためのダイナミックレンジが、少なくとも2.5桁の大きさである、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記複数の代謝産物のそれぞれの前記濃度を定量するためのダイナミックレンジが、少なくとも3桁の大きさである、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
サンプル中の複数の代謝産物を相対的に定量するための方法であって、各代謝産物が少なくとも1つのカルボニル基を含み、前記方法が、
前記サンプルを、カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬と接触させ、それにより、各代謝産物の前記カルボニル基を前記マスキング基で誘導体化し、誘導体化されたサンプルを供給すること;
前記誘導体化されたサンプルをクロマトグラフィー分離およびフルスキャン精密高分解能質量分析に供すること;ならびに
前記代謝産物のそれぞれについて得られたモノアイソトピックシグナルに基づいて前記複数の代謝産物のそれぞれの量を定量すること
を含み;
前記定量することが、前記複数の代謝産物のうちのそれぞれの前記代謝産物について得られた前記モノアイソトピックシグナルシグナルを、前記複数の代謝産物のうちのそれぞれの他の前記代謝産物について得られた前記モノアイソトピックシグナルと比較し、それによって相対定量を得ることを含み、
最も豊富な陽イオンアイソトポログが、前記代謝産物についての定量の上限値以上のシグナルを有しない限り、前記代謝産物のそれぞれの代謝産物について得られた前記モノアイソトピックシグナルは、前記最も豊富な陽イオンアイソトポログに対応し、この場合、前記代謝産物について得られた前記モノアイソトピックシグナルが、前記代謝産物のあまり豊富でない陽イオンアイソトポログに対応する、方法。
【請求項31】
細胞培養の経過をモニタリングする方法であって、
(a)第1の時点で請求項1~30のいずれか一項に記載の方法を実施することであって、前記サンプルが細胞培養物のサンプルである、第1の時点で請求項1~30のいずれか一項に記載の方法を実施すること;
(b)第2の時点で請求項1~30のいずれか一項に記載の方法を繰り返すこと;および
(c)場合により、1つ以上の後続の時点で請求項1~30のいずれか一項に記載の方法を繰り返すこと
を含み、
前記モニタリングすることが、前記複数の時点のそれぞれの間で複数の代謝産物のそれぞれのレベルを比較することを含む、方法。
【請求項32】
前記モニタリングすることが、場合により、代謝産物レベルと細胞培養特性との間の相関を決定するために、前記複数の代謝産物のそれぞれのレベルの多変量統計解析をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞培養特性が、細胞増殖、細胞生存率、製品力価、製品品質、生産性などから選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
細胞培養を最適化する方法であって、
(a)第1の時点で請求項1~30のいずれか一項に記載の方法を実施することであって、前記サンプルが細胞培養物のサンプルである、第1の時点で請求項1~30のいずれか一項に記載の方法を実施すること;
(b)第2の時点で請求項1~30のいずれか一項に記載の方法を繰り返すこと;および
(c)場合により、1つ以上の後続の時点で請求項1~30のいずれか一項に記載の方法を繰り返すこと
を含み、
前記第1の時点および第2の時点または後続の時点との間の複数の代謝産物のうちの少なくとも1つの濃度の変化に応答して、細胞培養条件を調整することを含む、方法。
【請求項35】
前記濃度の変化が、前記第1の時点と第2の時点または後続の時点との間の前記複数の代謝産物のうちの少なくとも1つの濃度の増加を含み、場合により、前記複数の代謝産物のうちの前記少なくとも1つが阻害剤である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞培養条件が、灌流速度、温度、pH、溶存酸素(dO
2)、細胞培養持続時間、および1つ以上の細胞培養成分のレベルから選択される、請求項34または請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記細胞培養条件が灌流速度である、請求項34~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞培養条件が温度である、請求項34~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記細胞培養条件がpHである、請求項34~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記細胞培養条件がdO
2である、請求項34~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞培養条件が細胞培養持続期間であり、場合により、前記細胞培養条件を調節することが前記細胞培養を停止することを含む、請求項34~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞培養条件が、1つ以上の細胞培養成分のレベルであるか、またはそれを含み、場合により、前記1つ以上の細胞培養成分が、アミノ酸、ビタミン、無機塩、糖、緩衝塩および脂質から選択される、請求項34~41のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月15日に出願された米国仮出願第63/244609号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
本発明は、サンプル中の複数の代謝産物の濃度を定量するための方法に関する。サンプル中の複数の代謝産物を相対的に定量するための方法、細胞培養の経過をモニタリングするための方法、および細胞培養を最適化するための方法も提供される。
【0003】
フェドバッチ培養は、組換えタンパク質製造のための力価および体積生産性を最大化するために、バイオテクノロジーおよび生物工学の分野で一般的に使用される細胞培養様式である。フェドバッチ培養の生産プロセスにおいて、グルコースおよびアミノ酸は、化学的に定義された生産培地における主要な栄養源である。細胞は、典型的には、エネルギー代謝および組換えタンパク質産生のためにかなりの程度までそれらの栄養素を消費する。しかしながら、フェドバッチ培養により、有毒な代謝廃棄物の生成および付着がもたらされる(R.P.NolanおよびK.Lee,Metabolic engineering,2011,13,108-124)。乳酸塩およびアンモニアは、細胞のフェドバッチ培養物中に蓄積することが知られている、主にグルコース代謝からの2種の代謝副産物である。これらの2種の周知の代謝廃棄物は、哺乳動物細胞株の増殖、ならびにタンパク質生物製剤の生産性およびグリコシル化パターンに悪影響を及ぼす。より最近では、細胞培養コミュニティは、乳酸塩およびアンモニアを超えるより多くの代謝副産物の理解に投資してきた。いくつかの研究グループにより、フェドバッチ培養物中のCHO細胞がアミノ酸代謝から様々な代謝中間体(例えば、イソ酪酸およびイソ吉草酸)を産生すること(S.Pereira,H.F.KildegaardおよびM.R.Andersen,Biotechnology journal,2018,13,1700499)、およびこれらの副産物が細胞増殖および抗体薬物生産性を累積濃度で様々な程度まで阻害すること(N.Carinhas,T.M.Duarte,L.C.Barreiro,M.J.Carrondo,P.M.AlvesおよびA.P.Teixeira,Biotechnology and bioengineering,2013,110,3244-3257;B.C.Mulukutla,J.Kale,T.Kalomeris,M.JacobsおよびG.W.Hiller,Biotechnology and bioengineering,2017,114,1779-1790;B.C.Mulukutla,J.Mitchell,P.Geoffroy,C.Harrington,M.Krishnan,T.Kalomeris,C.Morris,L.Zhang,P.PegmanおよびG.W.Hiller,Metabolic engineering,2019,54,54-68)が示された。
【0004】
ゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、およびメタボロミクス解析などの最新のオミクス技術を使用して、細胞フェドバッチ培養物中の新規阻害性代謝産物の同定および調節に多大な研究努力が注がれてきた。本質的に、細胞代謝は、成長環境の著しい変化を引き起こし、生産性および製品品質にさらに影響を及ぼす主な推進要因である。発現した遺伝子転写物および酵素タンパク質の包括的プロファイリングのためにプロテオミクスを補完したトランスクリプトミクスにより、細胞培養バイオプロセスにおける代謝ホメオスタシスに対する理解が深まった(P.Datta,R.J.LinhardtおよびS.T.Sharfstein,Biotechnology and bioengineering,2013,110,1255-1271;H.F.Kildegaard,D.Baycin-Hizal,N.E.LewisおよびM.J.Betenbaugh,Current opinion in biotechnology,2013,24,1102-1107)。広範なオミクス技術の中で、現代のメタボロミクス分析により、成長阻害および生産性制限と密接に関連する重要な代謝産物および代謝経路を直接同定することが可能になった(W.P.Chong,F.N.Yusufi,D.Y.Lee,S.G.Reddy,N.S.Wong,C.K.Heng,M.G.YapおよびY.S.Ho,Journal of biotechnology,2011,151,218-224;S.Selvarasu,Y.S.Ho,W.P.Chong,N.S.Wong,F.N.Yusufi,Y.Y.Lee,M.G.YapおよびD.Y.Lee,Biotechnology and bioengineering,2012,109,1415-1429)。産生培地中の阻害性代謝産物の定量的モニタリングにより、細胞表現型の能動的な追跡および解読、ならびに細胞生存率の潜在的予測指標としての作用に寄与され得る(N.Alden,R.Raju,K.McElearney,J.Lambropoulos,R.Kshirsagar,A.GilbertおよびK.Lee,Metabolites,2020,10,199)。
【0005】
阻害機構の発見および制御は、抗体産生プロセス中の細胞培養性能の改善に有用であり得るので、細胞フェドバッチ培養物中の増殖阻害関連代謝産物のより信頼性が高く、頑強で迅速な定量化のための標的化されたハイスループット分析方法を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0006】
開示の簡単な概要
本発明によれば、複数の代謝産物の濃度を定量するための方法が提供される。そのような方法は、相対的な定量化または絶対的な定量化を含み得る。例えば、種々の時点における複数の代謝産物のレベルを測定し、比較することによって、細胞培養の経過をモニタリングする方法、ならびに、例えば、少なくとも1つの代謝産物の濃度の変化に応答して細胞培養条件を調整することによって、細胞培養を最適化する方法も提供される。
【0007】
本発明の第1の態様は、サンプル中の複数の代謝産物の濃度を定量するための方法であって、各代謝産物が少なくとも1つのカルボニル基を含み、この方法が、
(a)サンプルの複数の分析物のそれぞれに対応する既知量の内部標準(場合により、安定同位体標識類似体)を添加すること;
(b)サンプルを、カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬と接触させ、それにより、各代謝産物のカルボニル基をマスキング基で誘導体化し、誘導体化されたサンプルを供給すること;
(c)誘導体化されたサンプルをクロマトグラフィー分離およびフルスキャン精密高分解能質量分析に供すること;ならびに
(d)代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルに基づいて複数の代謝産物のそれぞれの量を定量すること
を含み、
定量することが、複数の代謝産物のうちの1つの代謝産物に対応する既知量の安定同位体標識類似体について得られたシグナルを使用して外部較正を正規化した後に、複数の代謝産物のうちのそれぞれの代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルを複数の代謝産物のうちの1つの代謝産物についての外部較正と比較することを含み;最も豊富な陽イオンアイソトポログが、代謝産物についての外部較正の上限値以上のシグナルを有しない限り、代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルは、最も豊富な陽イオンアイソトポログに対応し、この場合、代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルが、代謝産物のあまり豊富でない陽イオンアイソトポログに対応する、方法を提供する。
【0008】
本発明の第2の態様は、サンプル中の複数の代謝産物を相対的に定量するための方法であって、各代謝産物が少なくとも1つのカルボニル基を含み、この方法が、
(a)サンプルを、カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬と接触させ、それにより、各代謝産物のカルボニル基をマスキング基で誘導体化し、誘導体化されたサンプルを供給すること;
(b)誘導体化されたサンプルをクロマトグラフィー分離およびフルスキャン精密高分解能質量分析に供すること;ならびに
(c)それぞれの代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルに基づいて複数の代謝産物のそれぞれの量を定量すること
を含み;
定量することが、複数の代謝産物のうちのそれぞれの代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルシグナルを、複数の代謝産物のうちのそれぞれの他の代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルと比較し、それによって相対定量を得ることを含み、最も豊富な陽イオンアイソトポログが、代謝産物についての定量の上限値以上のシグナルを有しない限り、代謝産物のそれぞれの代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルは、最も豊富な陽イオンアイソトポログに対応し、この場合、代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルが、代謝産物のあまり豊富でない陽イオンアイソトポログに対応する、方法を提供する。
【0009】
本発明の第3の態様は、細胞培養の経過をモニタリングする方法であって、
(a)第1の時点で第1の態様または第2の態様の方法を実施することであって、サンプルが細胞培養物のサンプルである、第1の態様または第2の態様の方法を実施すること;
(b)第2の時点で第1の態様または第2の態様の方法を繰り返すこと;および
(c)場合により、1つ以上の後続の時点で第1の態様または第2の態様の方法を繰り返すこと
を含み、
モニタリングすることが、複数の時点のそれぞれの間で複数の代謝産物のそれぞれのレベルを比較することを含む、方法を提供する。
【0010】
本発明の第4の態様は、細胞培養物を最適化する方法であって、
(a)第1の時点で第1の態様または第2の態様の方法を実施することであって、サンプルが細胞培養物のサンプルである、第1の時点で第1の態様または第2の態様の方法を実施すること;
(b)第2の時点で第1の態様または第2の態様の一方の方法を繰り返すこと;ならびに
(c)場合により、1つ以上の後続の時点において第1または第2の態様の一方の方法を繰り返すこと
を含み、
第1の時点および第2の時点または後続の時点との間の複数の代謝産物のうちの少なくとも1つの濃度の変化に応答して、細胞培養条件を調整することを含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施態様をさらに説明する。
【
図1】
図1は、サンプル中の複数の代謝産物の濃度を定量するための一般化された方法における工程を示す。
図1は、サンプリング工程1、抽出工程2、誘導体化工程3、クロマトグラフィー分析工程4、およびデータ分析工程5を含む。
【
図2】
図2は、細胞培養を最適化する方法の概略図である。
【
図3】
図3は、最初に培養して接種菌株のN-1段階に接種し、続いて様々な阻害剤レベルにおいて種々の群(表3に定義されるC1~C7)を有する産生(N)容器に移したCHO細胞の結果を示す。A)N-1段階での細胞増殖および生存率。B)接種菌株のN-1段階での高レベルの阻害性代謝産物は、産生(N)段階でのより低い細胞増殖速度と相関していた。C)短期間(3日間)の産生培養物からの力価データは、全ての異なるN-1段階に由来する細胞が産生培養の初期段階において抗体発現が可能であり、増殖阻害代謝産物の蓄積がこれらの細胞における抗体発現を妨げないことを示す。D)N-1段階でのイソ吉草酸塩の蓄積は、培養4日後に報告された阻害レベル*を上回っている。E)生成N段階でのイソ吉草酸塩の蓄積。F)N-1段階でのギ酸塩の蓄積は、培養3日後に報告された阻害レベル*を上回る。G)生成N段階でのギ酸塩の蓄積。B.C.Mulukutla,J.Kale,T.Kalomeris,M.JacobsおよびG.W.Hiller,Biotechnology and bioengineering,2017,114,1779-1790に報告されているように。
【
図4】
図4は、カルボニル(例えば、カルボキシルまたはケトン)含有化合物が、EDC活性化およびO-BHA誘導体化によって修飾され、アミド(カルボキシルの場合)およびオキシム(ケトンの場合)を生成する、本発明の方法で使用される例示的な誘導体化工程を示す。
【
図5】
図5は、CHO細胞フェドバッチ培養物における標的代謝産物の特徴的なLC-HRMSクロマトグラムを示す。抽出されたイオンクロマトグラムは、5ppmの質量精度でプロトン化標的イオンを使用して生成された。LC-HRMSの*表記のピークは、分析物に干渉しないマトリックス中の異性体イオンを示す。
【
図6】
図6は、mAb産生プロセスにおける増殖阻害に関連する代謝変化の統計学的有意性および全体像を説明するための一元配置ANOVA(A)およびヒートマップ(B)を示す。メタボロミクスサンプルを、4つの独立したバイオリアクター(ヒートマップにおける生物学的複製物)から、それぞれCHO細胞増殖期、静止期および死滅期を表すように、1日目、6日目および11日目に取得した。有意性閾値をp<0.05として設定し、値を全ての標的分析物について-Log10(p)形式として表した。ANOVAプロットに標識された代謝産物の略語は、ヒートマップに完全な化合物名で説明されている。
【
図7】
図7は、抗体産生プロセス中のCHO細胞フェドバッチ培養物中の21種の標的代謝産物の濃度を示す散布箱ひげ図を示す。メタボロミクスサンプルを、4つの独立したバイオリアクター(箱ひげ図における生物学的複製物)から、それぞれCHO細胞増殖期、静止期および死滅期を表すように、1日目、6日目および11日目に取得した。色表記および統計学的有意性記号の意味、ならびに細胞生存率情報を図の右側に示す。
【
図8】
図8は、mAb産生プロセスにおける細胞段階を特徴付けるための多変量統計分析-PCAおよびPLS-DAを示す。A:主成分分析(PCA)は、産生細胞培養サンプルが十分に分類されていることを明確に示した。B:部分最小二乗判別分析(PLS-DA)は、VIP(投影における変数の重要性)までのスコア順位付けにより、細胞段階を区別する上位10の代謝特徴をもたらした。
【
図9】
図9は、CHO細胞フェドバッチ培養物における目的の例示的代謝産物のアミノ酸代謝源を示す。標的分析物の隣に標識されたTop値は、PLS-DA分析におけるそれらのVIPスコアランキング番号を意味する。代謝多段階反応機構は、KEGG(https://www.genome.jp/kegg/pathway.html)生物学的経路データベースに詳述されている。
【
図10】
図10は、代謝産物のギ酸、酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、インドール-3-酢酸、インドール-3-乳酸、フェニル酢酸、フェニル乳酸、4-ヒドロキシフェニル酢酸および4-ヒドロキシフェニル乳酸についての2日目から7日目までの相対濃度の傾向を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本明細書で使用される略語は、化学および生物学の技術分野における一般的な意味を有する。
【0013】
本明細書および特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」および「含む、含有する(contain)」という用語ならびにそれらの変形例は、「含むが限定されない」ことを意味し、それらは、他の部分、添加物、成分、整数、または工程を排除することを意図しない(および排除しない)。本明細書および特許請求の範囲を通じて、文脈が別途必要としない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、明細書は、文脈が別途必要としない限り、単一性だけでなく複数性も考慮していると理解されるべきである。
【0014】
本発明の特定の態様、実施態様または実施例に関連して記載される特徴、整数、特性、化合物、化学的部分または基は、両立しない場合を除き、本明細書に記載される任意の他の態様、実施態様または実施例に適用可能であると理解されるべきである。本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示された特徴の全て、および/またはそのように開示された任意の方法もしくはプロセスの工程の全ては、そのような特徴および/または工程の少なくとも一部が相互に排他的である組み合わせを除き、任意の組み合わせで組み合わせ得る。本発明は、前述のいずれの実施形態の詳細にも限定されない。本発明は、本明細書(任意の添付の特許請求の範囲、要約および図面を含む)に開示された特徴の任意の新規なものもしくは任意の新規な組み合わせ、またはそのように開示された任意の方法もしくはプロセスの工程の任意の新規なものもしくは任意の新規な組み合わせに及ぶ。
【0015】
読者の注意は、本出願に関連して本明細書と同時にまたは本明細書より前に提出され、本明細書とともに公衆の閲覧に開放されている全ての論文および文書に向けられており、そのような全ての論文および文書の内容は参照により本明細書に援用される。
【0016】
疑義を避けるために、「背景技術」という見出しの下、本明細書で前に開示された情報は、本発明に関連し、本発明の開示の一部として読まれるべきであるとここに述べる。
【0017】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によりその全体が援用される。矛盾する場合は、定義をも含む本明細書が優先する。
【0018】
定義
以下の用語および方法の説明は、本開示をよりよく説明し、本開示の実施において当業者を導くために提供される。
【0019】
「約(about)」または「およそ(approximately)」という用語は、特に明記しない限り、当業者によって決定される特定の値の許容可能な誤差範囲内を意味し、値がどのように測定または決定されるか、すなわち、測定システムの制限に部分的に依存する。例えば、「約(about)」は、当該技術分野における慣例に従って、3以内または3を超える標準偏差を意味し得る。あるいは、「約」は、与えられた値の最大20%、好ましくは最大10%、より好ましくは最大5%、およびより好ましくはさらに最大1%の範囲を意味し得る。あるいは、特に、生物学的システムまたはプロセスに関して、この用語は、値の1桁以内、好ましくは5倍以内、およびより好ましくは2倍以内を意味し得る。
【0020】
「オンライン」という用語は、特に明記しない限り、サンプルのサンプリングおよび分析が自動化された方法を指す。その用語はまた、そのような方法を実行するように適合された装置を指す。例えば、オンライン方法では、液体が自動的にサンプリングされ、分析器に流体連通して提供され得る。そのようなオンラインシステムは、例えば、サンプリングと分析器との間の流体経路にオートサンプラー、バルブ、ループ、カートリッジおよび/またはカラムを使用し得る。オンライン方法を実行するように適合された装置は、オンライン方法を実行するようにプログラムされたコントローラを備え得る。「オフライン」方法は、サンプリング工程が分析器と流体連通して設けられていないという点でオンライン法とは異なる。例えば、オフライン法では、サンプルを取得し、次いで手動でオートサンプラーに入れることが可能であり、またはサンプルを取得し、次いで手動で(例えば注射または注入によって)分析器に導入し得る。
【0021】
「液体クロマトグラフィー」(LC)という用語は、特に明記しない限り、目的の分子またはイオンが固定相と移動液相との間の微分分配によって分離される分離技術を指す。LCという用語は、文脈上別段の必要がない限り、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)、親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)、逆相液体クロマトグラフィー(例えば、C18、C8またはフェニル-ヘキシルカラムを使用する)などを含む。
【0022】
「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は互換的に使用し得、一般に、ペプチジル結合によって連結された約10個を超える共有結合アミノ酸を有するペプチドおよびタンパク質を指す。タンパク質という用語は、精製された天然産物、または組換え技術もしくは合成技術を使用して部分的もしくは全体的に生成され得る産物を包含する。ペプチドおよびタンパク質という用語は、二量体もしくは他の多量体、融合タンパク質、タンパク質バリアント、またはそれらの誘導体などのタンパク質の凝集体を指し得る。この用語には、タンパク質の修飾、例えば、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、ペグ化、ユビキチン化などによって修飾されたタンパク質も含まれる。タンパク質は、核酸コドンによってコードされていないアミノ酸を含み得る。タンパク質は、より高いレベルの三次および/または四次構造を生成するのに十分な長さのアミノ酸配列を有し得る。本明細書における典型的なタンパク質は、少なくとも約15~20kD、好ましくは少なくとも約20kDの分子量を有し得る。本明細書の定義に包含されるタンパク質の例には、全ての哺乳動物タンパク質、特に治療用タンパク質および診断用タンパク質、例えば治療用抗体および診断用抗体、ならびに1以上の鎖間ジスルフィド結合および/または鎖内ジスルフィド結合を含む多重鎖ポリペプチドを含めた、1以上のジスルフィド結合を含むタンパク質が一般に含まれる。
【0023】
本明細書で使用される場合、「カルボニル」という用語は、カルボン酸、ケトンおよびアルデヒドへの言及を含む。カルボニルは、カルボン酸またはケトンを指し得る。カルボニルは、カルボン酸を指し得る。カルボニルはケトンを指し得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、「細胞」という用語は、真核細胞への言及を含む。文脈が別途必要としない限り、細胞への言及は、複数(の細胞)への言及を含み得る。真核細胞は、動物細胞(例えば哺乳動物細胞)または真菌細胞(例えば酵母細胞)であり得る。真核細胞は、哺乳動物細胞、例えば、ハイブリドーマ、CHO細胞、COS細胞、VERO細胞、HeLa細胞、HEK 293細胞、PER-C6細胞、K562細胞、MOLT-4細胞、Ml細胞、NS-1細胞、COS-7細胞、MDBK細胞、MDCK細胞、MRC-5細胞、WI-38細胞、WEHI細胞、SP2/0細胞、BHK細胞(BHK-21細胞を含む)、およびそれらの誘導体であり得る。CHO細胞は、例えば、CHO K1細胞、CHO K1SV細胞、DG44細胞、DUKXB-11細胞、CHOK1S細胞、もしくはCHO K1M細胞、またはそれらの誘導体であり得る。当該細胞の誘導体は、目的の遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019126634号のように)の標的化インテグレーションのために操作されたCHO細胞を含む、当該細胞からの自然進化および/または遺伝子工学によって誘導された細胞を表し得る。好ましい細胞はタンパク質発現に適している。
【0025】
本明細書で使用される場合、「細胞株」という用語は、繰り返し増殖し得る真核細胞の培養物への言及を含む。細胞株の真核細胞は、本明細書で定義されるような任意の細胞から選択され得る。
【0026】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」および「宿主細胞培養物」という用語は、本明細書で互換的に使用され、中に外因性の核酸が導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)を指す。宿主細胞には、「形質転換体」および「形質転換細胞」が含まれ、これらは、継代数によらず、一次形質転換細胞およびそれに由来する子孫を含む。子孫は、親細胞の核酸含有量と完全に同一である必要はないが、変異を含み得る。本明細書では、最初に形質転換された細胞においてスクリーニングまたは選択されたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体の子孫が、含まれる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「哺乳動物宿主細胞」または「哺乳動物細胞」という用語は、適切な栄養素および成長因子を含有する培地内の、単一層培養物または懸濁培養物のいずれかに置いたときに、増殖および生残可能な哺乳動物に由来する細胞および細胞株を指す。特定の細胞株に必要な増殖因子は、例えばMammalian Cell Culture(Mather,J.P.ed.,Plenum Press,N.Y.[1984])、およびBarnesおよびSato,(1980)Cell,22:649)に記載されているように、過度な実験をすることなく、実験により速やかに決定される。典型的には、細胞は、目的の、多量の特定のタンパク質、例えば、糖タンパク質を、培地中に発現させて分泌させ得る。適切な哺乳動物宿主細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(UrlaubおよびChasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216 1980);dp12.CHO細胞(1989年3月15日に公開されたEP307,247);CHO-K1(ATCC,CCL-61);SV40により形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7,ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎臓株(293細胞、または懸濁培養での増殖のためにサブクローニングされた293細胞、Grahamら,J.Gen Virol.,36:59 1977);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK,ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4,Mather,Biol.Reprod.,23:243-251 1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA,ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A,ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2,HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562,ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら,Annals N.Y.Acad.Sci.,383:44-68 1982);MRC5細胞;FS4細胞;ならびにヒト肝癌株(Hep G2)が挙げられる。哺乳動物細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO,UrlaubおよびChasin,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216 1980);dp12.CHO細胞(1989年3月15日に公開されたEP 307,247);またはCHO K 1、CHO K1SV、DG44、DUKXB-11細胞培養物、CHOK1S細胞培養物、CHOK1Mあ挙げられるがこれらに限定されない他のCHO細胞誘導体が挙げられる。哺乳動物細胞はまた、目的の任意の遺伝子(例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019126634号のように)の標的化組み込みのために操作されたCHOまたはCHO細胞誘導体を含み得る。
【0028】
本明細書で使用される「細胞培地」という用語は、細胞を培養するための栄養液を指す。「細胞培養供給物」および「細胞培養添加物」は、培地性能を改善するために細胞培地に添加され得る栄養補充物を表す。例えば、細胞培養供給物および/または細胞培養添加物は、細胞のバッチ培養中に細胞培地に添加され得る。細胞培地は、化学的に定義されていてもよく、または定義されていない成分を含んでいてもよい。例えば哺乳動物細胞用の、細胞培地は、典型的には、以下のカテゴリーの1つ以上に由来する少なくとも1つの成分を含む:
1)通常、グルコース等の炭水化物の形態でのエネルギー供給源;
2)全ての必須アミノ酸、および通常、20個のアミノ酸+システインの、塩基性のまとまり;
3)低濃度で必要とされるビタミンおよび/または他の有機化合物;
4)遊離脂肪酸;および
5)微量元素(微量元素は、非常に低濃度、通常マイクロモル範囲で典型的には必要とされる、無機化合物または天然に存在する元素として定義される)。
細胞培地および類似の栄養液は任意に、以下のカテゴリーのいずれかに由来する1つ以上の成分が補充され得る:
1)例えばインスリン、トランスフェリン、および上皮成長因子等の、ホルモンおよび他の成長因子;
2)例えばカルシウム、マグネシウム、およびホスフェート等の、塩類および緩衝液;
3)例えばアデノシン、チミジン、およびヒポキサンチン等の、ヌクレオシドおよび塩基;ならびに
4)タンパク質および組織加水分解物。
【0029】
「培養すること」という用語は、細胞を、細胞の生存および/または成長および/または増殖に好適な条件下で、細胞培地と接触させることを指す。「細胞培養物」は、細胞培養培地と接触している1つ以上の細胞を指す。
【0030】
「バッチ培養物」という用語は、培養プロセスの開始時に、細胞培養のための全ての成分(細胞および全ての培養栄養素を含む)が培養バイオリアクターに供給されている培養物を指す。
【0031】
本明細書で使用される場合、「フェドバッチ細胞培養物」という用語は、細胞および培地が培養バイオリアクターに最初に供給され、追加の培養栄養素が、培養終了前の定期的な細胞および/または生成物の採取の有無にかかわらず、培養プロセス中に培養物に継続して、または個別に増加して、供給されるバッチ培養物を指す。
【0032】
連続培養物と呼ばれることがある「還流培養物」という用語は、細胞が、例えば、濾過、封入、マイクロ担体へのアンカリングなどにより培養物中に保持され、培地が連続して、段階的に、または断続的に(またはこれらの任意の組み合わせで)導入され、培養バイオリアクターから取り除かれる培養物である。
【0033】
「細胞溶解物」という用語は、溶解された細胞の内容物を含む流体を指す。細胞は、任意の公知のプロセス、例えば化学的、音響的または機械的溶解を用いて溶解され得る。好ましくは、細胞は、細胞が細胞培養培地から分離された後に溶解される。
【0034】
「発現」または「発現する」という用語は、本明細書において、宿主細胞内で生じる転写および翻訳を意味するように用いられる。宿主細胞内での産生遺伝子の発現度合いは、細胞内に存在する、対応するmRNAの量、または、細胞により産生される産生遺伝子によりコードされるタンパク質の量のいずれかに基づいて測定し得る。例えば、産生遺伝子から転写されるmRNAは、ノーザンハイブリダイゼーションにより定量化され得る。Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,pp.7.3-7.57(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)。産生遺伝子によりコードされるタンパク質は、タンパク質の生物活性をアッセイすること、またはそのような活性とは無関係な、タンパク質と反応可能な抗体を使用するウエスタンブロットもしくはラジオイムノアッセイなどのアッセイを用いることのいずれかにより定量化し得る。Sambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,pp.18.1-18.88(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)。発現したタンパク質のPTMは、本明細書に開示される方法を使用して評価し得る。
【0035】
タンパク質産物に関して本明細書で使用される「産物の品質」という用語は、タンパク質産物の翻訳後修飾を指す。必要な製品品質のタンパク質製品は、所望のレベルの翻訳後修飾を有する。関連する翻訳後修飾としては、ラマン分光法、クロマトグラフィーまたは質量分析などの従来の方法によって測定し得るグリコシル化、チャージバリアント、または他の翻訳後修飾(例えば、酸化、アセチル化、アミノ酸の誤組み込みなど)が挙げられる。
【0036】
「安定同位体標識類似体」という用語は、化学系および生化学系をモデル化するために使用されるトレーサとして作用し得る種を生成するために、分子上の1つ以上の原子が対応する安定同位体で置換されている化学種を指す。例としては、1Hを2H(すなわち、重水素)に置換すること、12Cを13Cに置換すること、または14Nを15Nに置換することが挙げられる。
【0037】
検量線に関して本明細書で使用される「正規化」という用語は、対応する内部標準について得られた信号を考慮して調整された、分析物濃度と分析物のピーク面積比との間の線形回帰モデルを使用して曲線を計算するプロセスを指す。
【0038】
本明細書で使用される場合、「アイソトポログ」という用語は、分子またはイオンの少なくとも1つの原子が異なる数の中性子を有するという点で互いに異なる分子またはイオンを指す。例えば、1つ以上の1Hは、1つ以上の2Hで置換されてもよく;1つ以上の12Cは1つ以上の13Cで置換されてもよく、または1つ以上の14Nは1つ以上の15Nで置換されてもよい。
【0039】
「陽イオンアイソトポログ」という用語は、文脈がそうでないことを要求しない限り、陽イオンを提供するために陽イオンと会合するアイソトポログ分子を意味する。陽イオンは、例えば、プロトン(H+)、Na+、K+、NH4
+であってもよい。陽イオンアイソトポログは、プロトン化分子であってもよい。
【0040】
代謝産物について得られるモノアイソトピックシグナルの文脈において本明細書で使用される「プロトン化分子」という用語は、反応に従ってイオンから引き抜かれたプロトンと分子との相互作用によって形成されるイオンを指す。M+XH+→MH++X。記号[M+H]+はまた、プロトン化分子を表すために使用され得る。
【0041】
「阻害性代謝産物」という用語は、代謝産物の濃度が増加するにつれて細胞培養物中の細胞の増殖の阻害を引き起こす細胞代謝によって産生される化合物を指す。
【0042】
本明細書で使用される場合、「相対定量」という用語は、サンプルへの内部標準の添加を含まない、サンプル中の複数の代謝産物の濃度を定量する方法の実施形態を指す。相対定量においては、代謝産物のそれぞれについて得られたモノアイソトープシグナルを、少なくとも1つの他の代謝産物について得られたモノアイソトープシグナルと比較して相対濃度を生成し、それによって内部標準の必要性が回避される。
【0043】
本明細書で使用される場合「定量の上限」は、要求される精度および精度で決定し得る較正における最高濃度を指す。要求精度は理論値の20%未満であり、15%以下であればよい。あるいは、定量の上限は、検量線における最高濃度に対応し得る。
【0044】
複数の代謝産物の濃度を定量する方法
サンプル中の複数の代謝産物を定量するための方法が本明細書で提供される。これらの方法は、様々な利点を提供する。例えば、本方法により、代謝産物レベルの迅速な決定が可能になる。これにより、細胞培養物中の代謝産物レベルのほぼリアルタイム(例えば2時間以内)の決定が可能になり、代謝産物レベルに応じた細胞培養条件の適時の調整が可能になる。これは、細胞培養条件の最適化に役立ち、生成物の量および/または品質の最大化に役立ち得る。例えば、生産性および/または力価が改善され得る。さらに、本発明の方法は、細胞増殖、タンパク質グリコシル化、治療薬生産、および代謝廃棄物蓄積の間のバランスを達成することを補助し、それによってCHO細胞フェドバッチ戦略の生産プロセスが改善される。
【0045】
サンプル中の複数の代謝産物を定量するためのこれらの方法は、典型的には、
図1に記載の一般的なアプローチに従う。
図1は、サンプリング工程1、抽出工程2、誘導体化工程3、クロマトグラフィー分析工程4、およびデータ分析工程5を含む。第1の工程であるサンプリング工程1は、バイオリアクター内で実施し得る。サンプリング工程1はまた、サンプル液からの細胞培養培地の分離を含み得る。第2の工程である抽出工程2は、分離された細胞培養物からの代謝産物の抽出を含む。第3の工程である誘導体化工程3は、抽出された各代謝産物を、反応基およびマスキング基を含む試薬と反応させ、それにより誘導体化代謝産物サンプルを提供することを含む。誘導体化工程3は、誘導体化反応を実施した後に代謝産物サンプルを洗浄および乾燥することをさらに含んでもよい。第4の工程であるクロマトグラフィー分析4は、クロマトグラフィー法、続いて質量分析法における複数の代謝産物の分離を含む。クロマトグラフィー分析4は、LC-MS(例えば、LC-HRMS)による分析を含み得る。第5の工程であるデータ分析5は、各代謝産物について得られたモノアイソトープシグナルに基づいて各代謝産物の量を定量することを含む。データ分析は、各モノアイソトピック信号を外部検量線と比較することを含み得る。あるいは、データ分析は、各モノアイソトピックシグナルを別の代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルと比較することを含み得る。
【0046】
データ分析が各モノアイソトピックシグナルを外部検量線と比較することを含む場合、各検量線は、任意の適切な数の較正点を含み得る。例えば、外部検量線は、少なくとも2または3点、例えば少なくとも4、5、6、7、8、9または10点の較正点を含み得る。例えば、検量線は、10個の較正点を含み得る。
【0047】
実施形態は、サンプル中の複数の代謝産物の濃度を定量するための方法であって、各代謝産物が少なくとも1つのカルボニル基を含み、この方法は、(a)サンプルの複数の分析物のそれぞれに対応する既知量の内部標準(場合により、安定同位体標識類似体)を添加すること;(b)サンプルを、カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬と接触させ、それにより、各代謝産物のカルボニル基をマスキング基で誘導体化し、誘導体化されたサンプルを供給すること;(c)誘導体化されたサンプルをクロマトグラフィー分離およびフルスキャン精密高分解能質量分析に供すること;ならびに(d)代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルに基づいて複数の代謝産物のそれぞれの量を定量することを含み、定量することが、複数の代謝産物のうちの1つの代謝産物に対応する既知量の安定同位体標識類似体について得られたシグナルを使用して外部較正を正規化した後に、複数の代謝産物のうちのそれぞれの代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルを複数の代謝産物のうちの1つの代謝産物についての外部較正と比較することを含み;最も豊富な陽イオンアイソトポログが、代謝産物についての外部較正の上限値以上のシグナルを有しない限り、代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルは、最も豊富な陽イオンアイソトポログに対応し、この場合、代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルが、代謝産物のあまり豊富でない陽イオンアイソトポログに対応する、方法を提供する。
【0048】
少なくとも1つのカルボニル基は、カルボン酸、ケトンおよびアルデヒドから選択され得る。少なくとも1つのカルボニル基は、カルボン酸またはケトンであり得る。少なくとも1つのカルボニル基は、カルボン酸であり得る。少なくとも1つのカルボニル基はケトンであり得る。
【0049】
カルボニル反応性基は、カルボキシル酸反応性基、ケトン反応性基およびアルデヒド反応性基から選択され得る。カルボニル反応性基は、カルボン酸反応性基であってもよく、ケトン反応性基であってもよい。カルボニル反応性基は、カルボン酸反応性基であってもよい。カルボニル反応性基は、ケトン反応性基であってもよい。
【0050】
好ましくは、少なくとも1つのカルボニル基はカルボン酸であり、カルボニル反応性基はカルボン酸反応性基である。あるいは、少なくとも1つのカルボニル基はケトンであり、カルボニル反応性基はケトン反応性基である。
【0051】
サンプルは、細胞培養物のサンプルであり得る。例えば、サンプルは細胞培養培地であってもよく、および/またはサンプルは細胞溶解物の細胞培養培地であってもよい。複数の実施形態では、サンプルは細胞培養培地である。細胞培養物は、動物細胞培養物、例えば哺乳動物細胞培養物または昆虫細胞培養物であり得る。あるいは、細胞培養物は、真菌細胞培養物、例えば酵母細胞培養物であり得る。細胞培養物は、原核細胞培養物、例えば大腸菌細胞培養物であり得る。
【0052】
細胞培養物は、ハイブリドーマ培養物、CHO細胞培養物、COS細胞培養物、VERO細胞培養物、HeLa細胞培養物、HEK293細胞培養物、PER-C6細胞培養物、K562細胞培養物、MOLT-4細胞培養物、Ml細胞培養物、NS-1細胞培養物、COS-7細胞培養物、MDBK細胞培養物、MDCK細胞培養物、MRC-5細胞培養物、WI-38細胞培養物、WEHI細胞培養物、SP2/0細胞培養物、またはBHK細胞培養物(BHK-21細胞を含む)、またはそれらの任意の誘導体であり得る。
【0053】
細胞培養物はCHO細胞培養物であり得る。複数の実施形態では、CHO細胞培養物は、CHO K1細胞培養物、CHO K1SV細胞培養物、DG44細胞培養物、DUKXB-11細胞培養物、CHOK1S細胞培養物、もしくはCHO K1M細胞培養物、またはそれらの誘導体である。CHO細胞培養物の誘導体は、CHO K1、CHO K1SV、DG44、DUKXB-11、CHOK1S、または細胞からの目的の遺伝子の標的化インテグレーションのために操作された任意のCHO細胞もしくはCHO誘導体細胞(例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019126634号のように)を含み得る。
【0054】
この方法は、サンプルを得るための細胞培養物のオンラインサンプリングをさらに含み得る。オンラインサンプリングは、本開示および本発明の方法における使用のために当業者によって適合され得る市販のオンラインサンプリングシステムの使用を含み得る。例示的なオンラインサンプリングシステムとしては、FlownamicsからのSegFlow、Lonza/Bend ResearchからのMAST、およびSecure CellからのNumeraが挙げられる。オンラインサンプリングは、細胞培養物から一定量の溶液(例えば、約1mL~約20mLの体積)を圧送することを含み得る。方法が細胞培養物のオンラインサンプリングを含む場合、当該定量化は、細胞培養物のオンラインサンプリングの約8時間以内、約6時間以内、約4時間以内、約2時間以内、または約1時間以内に完了し得る。複数の実施形態では、当該定量化は、細胞培養物のオンラインサンプリングの約4時間以内に完了する。複数の実施形態では、当該定量化は、細胞培養物のオンラインサンプリングの約2時間以内に完了する。例示的なタイムスケールを
図2に示す。例えば、
図2に示すように、本発明の第1の態様による方法の工程(a)および(b)は、約30~約40分以内に完了し得、本発明の第1の態様による方法の工程(c)および(d)は、約20~約40分以内に完了し得る。
【0055】
内部標準は、複数の分析物のうちの1つの最も豊富なアイソトポログよりも少なくとも2公称質量単位多いアイソトポログに対応する。例えば、アイソトポログは、複数の分析物のうちの1つの最も豊富なアイソトポログよりも2、3、4、5または6公称質量単位多いものであり得る。好ましくは、アイソトポログは、複数の分析物のうちの1つの最も豊富なアイソトポログよりも2、3または4公称質量単位多い。
【0056】
各内部標準は、二重、三重、四重、五重、または六重の同位体標識を有する複数の代謝産物のうちの1つのアイソトポログを含み得、場合により、各同位体標識は、重水素、炭素-13(13C)、または窒素-15(15N)から選択される。好ましくは、各内部標準は、二重、三重または四重の同位体標識を有する複数の代謝産物のうちの1つのアイソトポログを含み得、場合により、各同位体標識は、重水素、炭素-13(13C)または窒素-15(15N)から選択される。
【0057】
各内部標準は、複数の分析物のうちの1つの二重、三重、四重、五重または六重重水素化アイソトポログに対応し得る。好ましくは、各内部標準は、複数の分析物のうちの1つの二重、三重または四重重水素化アイソトポログに対応する。
【0058】
複数の代謝産物の1つ以上は、阻害性代謝産物であり得る。複数の代謝産物は、1つ以上のアミノ酸由来代謝産物を含むか、または1つ以上のアミノ酸由来代謝産物からなる。
【0059】
複数の実施形態では、複数の代謝産物は、ギ酸、酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、α-ケトイソ吉草酸、α-ケトイソカプロン酸、インドール-3-酢酸、インドール-3-乳酸、インドール-3-プロピオン酸、フェニル酢酸、フェニル乳酸、フェニルピルビン酸、4-ヒドロキシフェニル酢酸、4-ヒドロキシフェニル乳酸、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、トリプトファン、マレート、フマレート、サクシネート、α-ケトグルタル酸のうちの1つ以上を含むか、またはそれらからなる。
【0060】
複数の実施形態では、複数の代謝産物が、ギ酸、酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、α-ケトイソ吉草酸、α-ケトイソカプロン酸、インドール-3-酢酸、インドール-3-乳酸、インドール-3-プロピオン酸、フェニル酢酸、フェニル乳酸、フェニルピルビン酸、4-ヒドロキシフェニル酢酸、4-ヒドロキシフェニル乳酸、および4-ヒドロキシフェニルピルビン酸のうちの1つ以上を含むか、またはそれらからなる。
【0061】
複数の実施形態では、複数の代謝産物のそれぞれに対応する内部標準は、酪酸が代謝産物である場合、酪酸-D2であり;イソ酪酸および/またはギ酸が代謝産物である場合、イソ酪酸-D3であり;イソ吉草酸および/または2-メチル酪酸が代謝産物である場合、イソ吉草酸-D2であり;カプロン酸が代謝産物である場合、カプロン酸-D2であり;2-ヒドロキシ酪酸、および/または3-ヒドロキシ酪酸、および/または2-ヒドロキシイソ吉草酸、および/または2-ヒドロキシイソカプロン酸が代謝産物である場合、3-ヒドロキシ酪酸-D4であり;α-ケトイソ吉草酸および/またはα-ケトイソカプロン酸が代謝産物である場合、α-ケトイソカプロン酸-D3であり;インドール-3-酢酸、および/またはインドール-3-乳酸、および/またはインドール-3-プロピオン酸が代謝産物である場合、インドール-3-酢酸-D2であり;フェニル酢酸、および/またはフェニル乳酸、および/またはフェニルピルビン酸が代謝産物である場合、フェニル乳酸-D3であり;4-ヒドロキシフェニル酢酸および/または4-ヒドロキシフェニル乳酸および/または4-ヒドロキシフェニルピルビン酸が代謝産物である場合、4-ヒドロキシフェニル乳酸-D3である。
【0062】
工程(b)は、カルボニル(例えば、カルボキシル)反応性基およびマスキング基を含む試薬でカルボニル基を誘導体化することを含む。当業者が認識するように、そのような誘導体化を提供するために使用し得る種々の試薬および反応化学があり、任意の適切な試薬を使用し得る。適切な試薬は、質量分析検出に適したマスキング基を含み得る。カルボン酸のいくつかの例示的な誘導体化試薬を表1に示す。表2は、ガスクロマトグラフィー(GC)クロマトグラフィー分離の前に使用され得るカルボン酸の他の例示的な誘導体化試薬を示す。
【0063】
【0064】
【0065】
接触させる工程(b)は、各代謝産物のカルボニル基を活性化し、それにより、カルボニルまたはカルボニル反応性基との反応のために各代謝産物上に活性化カルボニル基を供給することをさらに含み得る。各代謝産物のカルボニル基を活性化することは、サンプルをN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド(EDC)またはその塩、例えばEDC塩酸塩と接触させることを含み得る。
【0066】
カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬のカルボニル反応性基は、アミンを含む。カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬のマスキング基が、脂肪族基および/または芳香族基を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。例えば、カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬は、O-ベンジルヒドロキシルアミン(O-BHA)またはその塩、例えばO-BHA塩酸塩であり得る。
【0067】
クロマトグラフィー分離は、逆相液体クロマトグラフィー、親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)、またはガスクロマトグラフィー(GC)を含み得る。クロマトグラフィー分離は、逆相液体クロマトグラフィーまたは親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)を含み得る。複数の実施形態では、クロマトグラフィー分離は、逆相液体クロマトグラフィーを含む。逆相液体クロマトグラフィーは、C18、C8またはフェニル-ヘキシルカラム、好ましくはC18カラムからの勾配溶出を含み得る。クロマトグラフィー分離はHILICを含み得る。クロマトグラフィー分離はGCを含み得る。
【0068】
質量分析は、クロマトグラフィー分離からの溶出液を質量分析計のイオン源に導入して分析種分子の陽イオンを生成し、精密高分解能質量分析計でフルスキャン質量スペクトルを実行および取得することを含み得る。
【0069】
分析種分子の陽イオンは、プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、またはアンモニウムイオン;例えば、プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、またはアンモニウムイオンを含み得る。複数の実施形態では、陽イオンはプロトン化分子である。
【0070】
細胞培養培地および/または細胞溶解物を含む液体サンプルと適合する任意の質量分析計を、本発明の例示的な方法で使用し得る。質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、または大気圧光イオン化(APPI)などの大気圧イオン化源を備えてもよく、例えば、イオン化源はESIであってもよい。クロマトグラフィー分離がGCを含む場合、ガスサンプルに適合する任意の質量分析計を本方法において使用し得る。例えば、イオン化源はEI、CIなどであってもよい。
【0071】
質量分析計は、Orbitrap、四重極イオントラップ、線形イオントラップ、飛行時間型、四重極、三重四重極、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)、またはそれらの組み合わせ(例えば、Orbitrap、飛行時間型分析器、またはFTICR分析器と組み合わされた四重極および/またはイオントラップなど)を含む分析器を含み得る。質量分析計は、高分解能かつ高質量精度の質量分析装置であってもよい。例えば、質量分析計は、OrbitrapまたはFTICR質量分析計を備えていてもよく、例えば、質量分析計はOrbitrap質量分析計を備えていてもよい。例えば、質量分析計は、Q-Extractive Orbitrap質量分析計であってもよい。
【0072】
フルスキャン精密高分解能質量分析は、少なくとも約50m/z~約800m/z以下の質量電荷比をスキャンすることを含む。複数の実施形態では、フルスキャン精密高分解能質量分析は、約80~約600m/zの質量電荷比をスキャンすることを含む。複数の実施形態では、フルスキャン精密高分解能質量分析は、約100~約500m/zの質量電荷比をスキャンすることを含む。
【0073】
質量分析の質量精度は、20ppm以上であってもよく、10ppm以上であってもよく、または5ppm以上であってもよい。複数の実施形態では、質量分析の質量精度は約5ppmである。
【0074】
質量分析の分解能は、少なくとも35,000、少なくとも70,000、または少なくとも140,000であり得る。複数の実施形態では、質量分析の分解能は、約70,000である。分解能は、ピークの最大高さの半分の全幅(FWHM)の定義を使用したm/Δmに基づく場合があり、mはイオンの質量であり、Δmはピークの高さの半分のピークの幅である。
【0075】
複数の代謝産物のそれぞれの濃度を定量するためのダイナミックレンジは、少なくとも2.5桁の大きさ、少なくとも3桁の大きさ、または少なくとも3.5桁の大きさであり得る。複数の実施形態では、複数の代謝産物のそれぞれの濃度は、少なくとも3桁である。
【0076】
複数の代謝産物の相対的定量方法
サンプル中の複数の代謝産物を相対的に定量するための方法が本明細書で提供される。これらの方法は、複数の代謝産物の濃度の絶対的定量の上記の方法について論じたのと同じ利点を提供する。例えば、本方法により、代謝産物レベルの迅速な決定が可能になる。これにより、細胞培養物中の代謝産物レベルのほぼリアルタイム(例えば2時間以内)の決定が可能になり、代謝産物レベルに応じた細胞培養条件の適時の調整が可能になる。これは、細胞培養条件の最適化に役立ち、生成物の量および/または品質の最大化に役立ち得る。例えば、生産性および/または力価が改善され得る。さらに、相対的定量化の方法は、細胞培養サンプル中の内部標準の存在を含まない。これは、本方法を実施する前にサンプル中のどの代謝産物が所望の阻害効果を有するかが知られていない場合に特に有利である。さらに、代謝産物サンプル中の成分の数が減少すると、サンプルの精製が簡単になる。
【0077】
相対的な定量化は、例えば、特定の代謝産物の相対濃度が培養物の増殖および性能とよく相関する場合に特に有用であり得る。そのようなデータは、適切なアルゴリズムおよび機械学習の使用とともに、例えば生産のN-1およびN段階中の培養増殖および挙動を予測するために使用され得る。
【0078】
実施形態は、サンプル中の複数の代謝産物を相対的に定量するための方法であって、各代謝産物が少なくとも1つのカルボニル基を含み、この方法は、(a)サンプルを、カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬と接触させ、それにより、各代謝産物のカルボニル基をマスキング基で誘導体化し、誘導体化されたサンプルを供給すること;(b)誘導体化されたサンプルをクロマトグラフィー分離およびフルスキャン精密高分解能質量分析に供すること;ならびに(c)代謝産物のそれぞれについて得られたモノアイソトピックシグナルに基づいて複数の代謝産物のそれぞれの量を定量することを含み;定量することが、複数の代謝産物のうちのそれぞれの代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルシグナルを、複数の代謝産物のうちのそれぞれの他の代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルと比較し、それによって相対定量を得ることを含み、最も豊富な陽イオンアイソトポログが、代謝産物についての定量の上限値以上のシグナルを有しない限り、代謝産物のそれぞれの代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルは、最も豊富な陽イオン同位体に対応し、この場合、代謝産物について得られたモノアイソトピックシグナルが、代謝産物のあまり豊富でない陽イオンアイソトポログに対応する、方法を提供する。
【0079】
少なくとも1つのカルボニル基は、カルボン酸、ケトンおよびアルデヒドから選択され得る。少なくとも1つのカルボニル基は、カルボン酸またはケトンであり得る。少なくとも1つのカルボニル基は、カルボン酸であり得る。少なくとも1つのカルボニル基はケトンであり得る。
【0080】
カルボニル反応性基は、カルボキシル酸反応性基、ケトン反応性基およびアルデヒド反応性基から選択され得る。カルボニル反応性基は、カルボン酸反応性基であってもよく、ケトン反応性基であってもよい。カルボニル反応性基は、カルボン酸反応性基であってもよい。カルボニル反応性基は、ケトン反応性基であってもよい。
【0081】
好ましくは、少なくとも1つのカルボニル基はカルボン酸であり、カルボニル反応性基はカルボン酸反応性基である。あるいは、少なくとも1つのカルボニル基はケトンであり、カルボニル反応性基はケトン反応性基である。
【0082】
サンプルは、細胞培養物のサンプルであり得る。例えば、サンプルは細胞培養培地であってもよく、および/またはサンプルは細胞溶解物の細胞培養培地であってもよい。複数の実施形態では、サンプルは細胞培養培地である。細胞培養物は、動物細胞培養物、例えば哺乳動物細胞培養物または昆虫細胞培養物であり得る。あるいは、細胞培養物は、真菌細胞培養物、例えば酵母細胞培養物であり得る。
【0083】
細胞培養物は、ハイブリドーマ培養物、CHO細胞培養物、COS細胞培養物、VERO細胞培養物、HeLa細胞培養物、HEK293細胞培養物、PER-C6細胞培養物、K562細胞培養物、MOLT-4細胞培養物、Ml細胞培養物、NS-1細胞培養物、COS-7細胞培養物、MDBK細胞培養物、MDCK細胞培養物、MRC-5細胞培養物、WI-38細胞培養物、WEHI細胞培養物、SP2/0細胞培養物、またはBHK細胞培養物(BHK-21細胞を含む)、またはそれらの任意の誘導体であり得る。
【0084】
細胞培養物はCHO細胞培養物であり得る。複数の実施形態では、CHO細胞培養物は、CHO K1細胞培養物、CHO K1SV細胞培養物、DG44細胞培養物、DUKXB-11細胞培養物、CHOK1S細胞培養物、もしくはCHO K1M細胞培養物、またはそれらの誘導体である。CHO細胞培養物の誘導体は、CHO K1、CHO K1SV、DG44、DUKXB-11、CHOK1S、または細胞からの目的の遺伝子の標的化インテグレーションのために操作された任意のCHO細胞もしくはCHO誘導体細胞(例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2019126634号のように)を含み得る。
【0085】
この方法は、サンプルを得るための細胞培養物のオンラインサンプリングをさらに含み得る。オンラインサンプリングは、本開示および本発明の方法における使用のために当業者によって適合され得る市販のオンラインサンプリングシステムの使用を含み得る。例示的なオンラインサンプリングシステムとしては、FlownamicsからのSegFlow、Lonza/Bend ResearchからのMAST、およびSecure CellからのNumeraが挙げられる。オンラインサンプリングは、細胞培養物から一定量の溶液(例えば、約1mL~約20mLの体積)を圧送することを含み得る。方法が細胞培養物のオンラインサンプリングを含む場合、当該定量化は、細胞培養物のオンラインサンプリングの約8時間以内、約6時間以内、約4時間以内、約2時間以内、または約1時間以内に完了し得る。複数の実施形態では、当該定量化は、細胞培養物のオンラインサンプリングの約4時間以内に完了する。複数の実施形態では、当該定量化は、細胞培養物のオンラインサンプリングの約2時間以内に完了する。数時間以内に複数の代謝産物の定量化を提供する能力は、利点を提供し、例えば、それは、任意の代謝産物が望ましくないレベルに達する前に、当業者が細胞培養中の状態を停止および/または最適化することを可能にする。
【0086】
1つ以上の複数の代謝産物は、阻害性代謝産物であり得る。複数の代謝産物は、1つ以上のアミノ酸由来代謝産物を含むか、または1つ以上のアミノ酸由来代謝産物からなる。
【0087】
複数の実施形態では、複数の代謝産物は、ギ酸、酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、α-ケトイソ吉草酸、α-ケトイソカプロン酸、インドール-3-酢酸、インドール-3-乳酸、インドール-3-プロピオン酸、フェニル酢酸、フェニル乳酸、フェニルピルビン酸、4-ヒドロキシフェニル酢酸、4-ヒドロキシフェニル乳酸、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、アスパラギン酸、トリプトファン、マレート、フマレート、サクシネート、α-ケトグルタル酸のうちの1つ以上を含むか、またはそれらからなる。
【0088】
複数の実施形態では、複数の代謝産物が、ギ酸、酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、α-ケトイソ吉草酸、α-ケトイソカプロン酸、インドール-3-酢酸、インドール-3-乳酸、インドール-3-プロピオン酸、フェニル酢酸、フェニル乳酸、フェニルピルビン酸、4-ヒドロキシフェニル酢酸、4-ヒドロキシフェニル乳酸、および4-ヒドロキシフェニルピルビン酸のうちの1つ以上を含むか、またはそれらからなる。
【0089】
工程(b)は、カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬でカルボニル基を誘導体化することを含む。当業者が認識するように、そのような誘導体化を提供するために使用し得る種々の試薬および反応化学があり、任意の適切な試薬を使用し得る。適切な試薬は、質量分析検出に適したマスキング基を含み得る。カルボン酸のいくつかの例示的な誘導体化試薬を上記の表1に示す。上記の表2は、ガスクロマトグラフィー(GC)クロマトグラフィー分離の前に使用され得るカルボン酸の他の例示的な誘導体化試薬を示す。
【0090】
接触させる工程(b)は、各代謝産物のカルボニル基を活性化し、それにより、カルボニル反応性基との反応のために各代謝産物上に活性化カルボニル基を供給することをさらに含み得る。各代謝産物のカルボニル基を活性化することが、サンプルをN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド(EDC)またはその塩、例えばEDC塩酸塩と接触させることを含み得る。
【0091】
カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬のカルボニル反応性基は、アミンを含む。カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬のマスキング基が、脂肪族基および/または芳香族基を含む、請求項のいずれか一項に記載の方法。例えば、カルボニル反応性基およびマスキング基を含む試薬は、O-ベンジルヒドロキシルアミン(O-BHA)またはその塩、例えばO-BHA塩酸塩であり得る。
【0092】
クロマトグラフィー分離は、逆相液体クロマトグラフィー、親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)、またはガスクロマトグラフィー(GC)を含み得る。クロマトグラフィー分離は、逆相液体クロマトグラフィーまたは親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)を含み得る。複数の実施形態では、クロマトグラフィー分離は、逆相液体クロマトグラフィーを含む。逆相液体クロマトグラフィーは、C18、C8またはフェニル-ヘキシルカラム、好ましくはC18カラムからの勾配溶出を含み得る。クロマトグラフィー分離はHILICを含み得る。クロマトグラフィー分離はGCを含み得る。質量分析は、クロマトグラフィー分離からの溶出液を質量分析計のイオン源に導入して分析種分子の陽イオンを生成し、精密高分解能質量分析計でフルスキャン質量スペクトルを実行および取得することを含み得る。
【0093】
分析種分子の陽イオンは、プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、またはアンモニウムイオン;例えば、プロトン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、またはアンモニウムイオンを含み得る。複数の実施形態では、陽イオンはプロトン化分子である。
【0094】
本発明の方法では、細胞培養培地および/または細胞溶解物を含む液体サンプルと適合する任意の質量分析計を使用し得る。質量分析計は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)、大気圧化学イオン化(APCI)、または大気圧光イオン化(APPI)などの大気圧イオン化源を備えてもよく、例えば、イオン化源はESIであってもよい。クロマトグラフィー分離がGCを含む場合、ガスサンプルと適合する任意の質量分析計を本方法で使用し得る。例えば、イオン化源は、EI、CIなどであってもよい。
【0095】
質量分析計は、Orbitrap、四重極イオントラップ、線形イオントラップ、飛行時間型、四重極、三重四重極、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)、またはそれらの組み合わせ(例えば、Orbitrap、飛行時間型分析器、またはFTICR分析器と組み合わされた四重極および/またはイオントラップなど)を含む分析器を含み得る。質量分析計は、高分解能かつ高質量精度の質量分析装置であってもよい。例えば、質量分析計は、OrbitrapまたはFTICR質量分析計を備えていてもよく、例えば、質量分析計はOrbitrap質量分析計を備えていてもよい。例えば、質量分析計は、Q-Extractive Orbitrap質量分析計であってもよい。
【0096】
フルスキャン精密高分解能質量分析は、少なくとも約50~約800m/z以下の質量電荷比をスキャンすることを含む場合があり、複数の実施形態では、フルスキャン精密高分解能質量分析は、約80~約600m/zの質量電荷比をスキャンすることを含む。複数の実施形態では、フルスキャン精密高分解能質量分析は、約100~約500m/zの質量電荷比をスキャンすることを含む。
【0097】
質量分析の質量精度は、20ppm以上であってもよく、10ppm以上であってもよく、または5ppm以上であってもよい。複数の実施形態では、質量分析の質量精度は約5ppmである。
【0098】
質量分析の分解能は、少なくとも35,000、少なくとも70,000、または少なくとも140,000であり得る。複数の実施形態では、質量分析の分解能は、約70,000である。分解能は、ピークの最大高さの半分の全幅(FWHM)の定義を使用したm/Δmに基づく場合があり、mはイオンの質量であり、Δmはピークの高さの半分のピークの幅である。
【0099】
複数の代謝産物のそれぞれの濃度を定量するためのダイナミックレンジは、少なくとも2.5桁の大きさ、少なくとも3桁の大きさ、または少なくとも3.5桁の大きさであり得る。複数の実施形態では、複数の代謝産物のそれぞれの濃度は、少なくとも3桁である。
【0100】
細胞培養の経過をモニタリングする方法
一実施形態は、細胞培養の経過をモニタリングする方法であって、
(a)第1の時点で第1または第2の態様の方法を実施することであって、サンプルが細胞培養物のサンプルである、第1の時点で第1または第2の態様の方法を実施すること;
(b)第2の時点で第1または第2の態様の方法を繰り返すこと;および
(c)場合により、1つ以上の後続の時点で第1または第2の態様の方法を繰り返すこと
を含み、
モニタリングすることが、複数の時点のそれぞれの間で複数の代謝産物のそれぞれのレベルを比較することを含む、方法を提供する。
【0101】
モニタリングすることは、例えば代謝産物レベルと細胞培養特性との間の相関を決定するために、複数の代謝産物のそれぞれのレベルの多変量統計分析をさらに含み得る。
【0102】
細胞培養特性は、細胞増殖、細胞生存率、製品力価、製品品質、生産性などから選択され得る。
【0103】
細胞培養を最適化する方法
一実施形態は、細胞培養を最適化する方法であって、複数の時点でサンプル中の複数の代謝産物の濃度を定量する方法を実施することと、およびより早い時点と比較してより遅い時点で特徴付けられた複数の代謝産物の少なくとも1つの濃度の変化に応答して、細胞培養条件を調整することとを含む方法を提供する。
【0104】
いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、阻害性代謝産物が特定のレベルを超えると、細胞培養物がリフレッシュされた後でさえ、阻害効果が少なくとも一定期間持続し得ることを特定した。したがって、本開示の細胞培養を最適化する方法は、本方法によって提供される複数の代謝産物の迅速な分析が、適時に行われるべき行動(例えば、阻害性代謝産物レベルを低下させるための灌流または希釈)の最適化を可能にするので、利点をもたらす。
【0105】
細胞培養物は、例えば、バッチ培養物、フェドバッチ培養物、または灌流培養物であり得る。細胞培養の課程で2つ以上の時点で本方法を実施すること(または以前のまたは並行する細胞培養からの結果と比較すること)により、モニタリングされたサンプル属性が、仕様の範囲内であるかどうか、またはそれらがトレンドであるか、仕様の範囲外であるかどうかが明らかになる。サンプル属性がトレンドまたは仕様の範囲外である場合、細胞培養条件は、属性を仕様設定値に戻すように調整される。あるいは、細胞培養は、帰属が仕様の設定点から遠ざかる傾向にあるが依然として仕様範囲内にある場合に、工程を停止し、モニタリングされたサンプルを単離することによって最適化し得る。
【0106】
細胞培養を最適化するそのような方法では、サンプル属性を高精度で測定する能力が重要であり、本明細書に記載の方法によって提供される。さらに、測定のタイムスケールが迅速であると(潜在的に2時間ごと)は、目的の属性に対する比較的厳しい制御を可能にし得るので有利である。
【0107】
濃度の変化は、第1の時点と第2の時点または後続の時点との間の複数の代謝産物のうちの少なくとも1つの濃度の増加を含み得る。複数の代謝産物の少なくとも1つは阻害剤であり得る。
【0108】
細胞培養条件は、灌流速度、温度、pH、溶存酸素(dO2)、細胞培養持続時間、ならびにアミノ酸、ビタミン、無機塩、糖(例えば、グルコース)、緩衝塩および脂質などの1つ以上の細胞培養成分のレベルから選択され得る。細胞培養条件は、灌流速度であってもよく、または灌流速度を含んでもよい。細胞培養条件は、温度であってもよく、または温度を含んでもよい。細胞培養条件は、pHであってもよく、またはpHを含んでもよい。細胞培養条件は、dO2であってもよく、またはdO2を含んでもよい。細胞培養条件は、細胞培養持続期間であってもよく、または細胞培養持続期間を含んでもよく、例えば、細胞培養条件を調整することは、細胞培養を停止することを含む。細胞培養条件は、1つ以上の細胞培養成分、例えば、成長または生産性を改善するためのアミノ酸、ビタミン、無機塩、糖(例えば、グルコース)、緩衝塩、脂質、微量元素、および小分子、例えば、アミノ酸、ビタミン、無機塩、糖(例えば、グルコース)、緩衝塩および脂質のうちの1つ以上のレベルであり得るか、またはそれらを含み得る。
【実施例】
【0109】
本開示は、以下の実施例を参照することによってより完全に理解されることになる。しかし、これらは、本開示の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に記載の実施例および実施形態が、例示を目的とするものに過ぎないこと、ならびにそれを考慮に入れた様々な改変または変更が当業者に提案され、本出願の趣旨および範囲内ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれるべきであることを理解されたい。
【0110】
材料および方法
以下の試薬および真正の標準化合物を指定された供給業者から入手した:水、メタノールおよびアセトニトリルは、LC-MSグレードとしてFisher Scientific(米国マサチューセッツ州ウォルサム)に発注し;ジクロロメタン(DCM)、O-ベンジルヒドロキシルアミン塩酸塩(O-BHA)およびN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)はSigma Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)に発注し;ギ酸、酪酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、アルファ-ケトイソ吉草酸、アルファ-ケトイソカプロン酸、インドール-3-酢酸、インドール-3-乳酸、インドール-3-プロピオン酸、フェニル酢酸、フェニル乳酸、フェニルピルビン酸、4-ヒドロキシフェニル酢酸、4-ヒドロキシフェニル乳酸、および4-ヒドロキシフェニルピルビン酸はSigma Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)より購入し;酪酸-D2、イソ酪酸-D3、イソ吉草酸-D2、およびカプロン酸-D2は、CDN Isotopes(Point-Claire、QC、カナダ)から入手し;3-ヒドロキシ酪酸-D4およびフェニル乳酸-D3は、Toronto Research Chemicals(トロント、オンタリオ州、カナダ)から入手し;アルファ-ケトイソカプロン酸-D3は、Cambridge Isotope Laboratories(米国マサチューセッツ州、トゥックベリー)から入手し;インドール-3-酢酸-D2は、Sigma Aldrich(米国ミズーリ州セントルイス)から入手し;4-ヒドロキシフェニル乳酸-D3は、Medical Isotopes(米国ニューハンプシャー州ペラム)から入手した。
【0111】
本発明の例示的な方法を
図2に示す。以下の実施例1、2および3は、この方法をさらに詳細に説明する。
【0112】
実施例1:細胞培養
高播種密度フェドバッチ生産培養を、独自の化学的に定義された生産培地を含む振盪フラスコ中で実施した。生物工学的生産、例えば抗体などのタンパク質生産物の使用を意図した細胞では、複数段階のバイオリアクターを介して培養し得る。そのような培養プロセスでは、N段階のバイオリアクターは生産バイオリアクターを指し、N-1段階はN段階のバイオリアクターの直前の接種トレイン内のバイオリアクターを指す(N-1は「Nマイナス1」と読み、N培養物をセットアップするために使用されるN段階の前のCHO培養を指すことに留意されたい)。
【0113】
N-1接種株については、細胞を0日目に2×10
6細胞/mlで播種し、4日目に供給培地およびグルコースを添加して7日間維持した。N-1培養の2日目、4日目および7日目に、接種株細胞を、完全または部分的な培地交換(1:1または3:1の新鮮培地対使用済み培地比)のいずれかによって産生培養物に播種して、完全または部分的に灌流された培養物を潜在的に模倣し、0日目に3×10
7細胞/mLの出発細胞密度で産生培養を設定した。短い3日間の産生工程は、N-1培養から得られた細胞増殖に対する阻害性分子の効果を説明するために設定され、この場合、細胞は、時間の経過とともに、ますます高濃度の蓄積した阻害性分子にさらされた。強化された振盪フラスコ製造プロセスは、バイオリアクターにおける強化されたNプロセスを模倣し、一方、製造培養をセットアップするために使用される完全または部分的な培地交換は、N-1における異なる灌流速度を模倣するために使用された。この結果も
図3に示されている。
【0114】
サンプル収集のために、細胞培養サンプルを目的の時点で取得した。回収したサンプルを遠心分離して、細胞ペレットおよび上清を分離した。CHO細胞フェドバッチ培養上清を清浄なチューブに移し、さらなるメタボロミクス分析に供した。目的の代謝産物を、安定な同位体標識内部標準混合物を含有する冷アセトニトリルを使用してフェドバッチ培養サンプルから抽出し、次いで、10μLの0.3MのO-BHA(MeOH中)および10μLの0.3M EDC(MeOH中)を用いて800RPMおよび25℃で10分間誘導体化した。その後、50μLの水および400μLのジクロロメタンを添加して液-液相分離を実施した。サンプルを混合し、再度遠心分離した。誘導体化化合物を含有する有機層アリコートを移し、乾燥させ、100μLの水中で再構成し、さらなるLC-HRMS分析に供した。CHO細胞フェドバッチ培養物中の増殖阻害関連代謝産物の標的定量化のためのメタボロミクスデータを取得し、分析して絶対濃度の結果を得た。
【0115】
CHO細胞N-1接種培養物を使用して、種々の日に産生培養を設定した(表3)。新鮮な培地を使用して、使用済みのN-1培地を示した比率で置換または希釈した。この一連の希釈培地は、灌流プロセスから得られる可能性のある結果を表す。
【表3】
【0116】
実施例2:サンプリング、抽出および誘導体化
サンプル収集
各バイオリアクターから、目的の時点で10mLの細胞培養サンプルを取得した。回収したサンプルを遠心分離して、細胞ペレットおよび上清を分離した。CHO細胞フェドバッチ培養上清(および関心があれば細胞ペレット)を清浄なチューブに移し、さらなるメタボロミクス分析に供した。
【0117】
代謝産物の抽出
細胞培養上清の代謝産物の抽出(サンプルサイズ-25μLの培地アリコート)のために、100μLの安定同位体標識内部標準混合物(IS作業溶液)を含有する冷アセトニトリルを各サンプルに添加した。サンプルをボルテックスし、4000RPMで5分間遠心分離した。次いで、80μLのサンプル上清をさらなる誘導体化のために清浄なチューブに移した。
【0118】
細胞ペレット(細胞内関心物)(サンプルサイズ-1,000,000細胞)の代謝産物の抽出のために、安定な同位体標識内部標準混合物(IS作業溶液)を含有する冷アセトニトリル250μLを各サンプルに添加した。サンプルを-80冷凍庫で15分間インキュベートし、ボルテックスし、遠心分離した。次いで、80μLのサンプル上清をさらなる誘導体化のために清浄なチューブに移した。
【0119】
化合物の誘導体化
化合物の誘導体化のために、80μLのサンプル上清を10μLの0.3M O-BHA(MeOH中)および10μLの0.3M EDC(MeOH中)と、800RPMおよび25℃で10分間混合した。その後、水50μLおよびジクロロメタン400μLを添加して液-液相分離を実施した。サンプルを混合し、再度遠心分離した。目的の誘導体化代謝産物を含有する有機層アリコートを移し、乾燥させ、100μLの水中で再構成し、さらなるLC-HRMS分析に供した。
【0120】
例示的な誘導体化工程を
図4に示し、カルボキシル基またはケトン基を25℃でEDCを用いて活性化し、それぞれアミドまたはオキシムの形成をもたらすO-BHA誘導体化に供する。サンプル調製手順においてこの誘導体化工程を実施することにより、標的分析物のクロマトグラフィー挙動およびイオン化効率が向上し、したがって選択性および感度の改善に寄与した。
【0121】
実施例3:クロマトグラフィー分離および分析
LC-HRMS分析
CHO細胞フェドバッチ培養中の増殖阻害関連代謝産物の標的化定量のためのメタボロミクスデータを、液体クロマトグラフィー-高分解能質量分析(LC-HRMS)アプローチを使用して取得した。データ収集は、Thermo Q Exactive Plus Hybrid Quadrupole-Orbitrap質量分析計(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)と組み合わせたShimadzu Nexera HPLCシリーズシステム(日本国京都市島津)で達成した。2μLの注入量を、陽イオンモードでの加熱エレクトロスプレーイオン化(HESI)条件下でのサンプル分析に使用した。Phenomenex Luna Omega C18カラム(100mm×2.1mm×1.6μm、100Å、米国カリフォルニア州トーランスのPhenomenex)を適用して、0.1%ギ酸を含有する水の移動相Aおよびメタノールのみの移動相Bで分析物をクロマトグラフィー分離した。カラム温度を45℃に維持した。合計運転時間は10.8分であり、流速は0.5mL/分であった。LC勾配は0分、10%B;0.5分、10%B;5分、55%B;7.5分、65%B;8分、85%B;9.5分、85%B;9.8分、10%B;10.8分、10%Bであった。高分解能Q Exactive Plus質量分析計は、以下の機器パラメータで操作した:シースガス流量、52ユニット;スイープガス流量、3ユニット;補助ガス流量、14ユニット;補助ガス温度、438℃;キャピラリー温度、269℃;SレンズのRFレベル、40ユニット;スプレー電圧、3500V;スキャンモード、フルMSスキャン;スキャン範囲、100~800m/z;MS分解能、70,000;AGC(自動利得制御)目標:3xE6;最大IT(注入時間):200ms。
【0122】
図5に示すように、目的の全ての代謝産物は、クロマトグラフィー分離または質量スペクトル分解能のいずれかに基づいて十分に分布していた。例えば、酪酸およびイソ酪酸、2-ヒドロキシ酪酸および3-ヒドロキシ酪酸などの異性体イオン対は、種々の保持時間(
図5、上側のLC-MSクロマトグラム)で効果的に分離された。一方、4-ヒドロキシフェニル酢酸および4-ヒドロキシフェニル乳酸のような密接に溶出する化合物は、正確な質量測定によって完全に分離された(
図5、下側のLC-MSクロマトグラム)。これにより、本発明の方法を使用して達成される広範囲の代謝産物スクリーニング、ならびに代謝産物定量の妥当性および信頼性が実証される。
【0123】
データ分析
データ収集ソフトウェアXcaliburバージョン4.2(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)およびデータ処理ソフトウェアTraceFinderバージョン4.1(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)を、LC-HRMSベースの目標定量化に適用した。TraceFinderでは、化合物同定のために、21種全てのCHO細胞増殖阻害関連代謝産物およびそれらの保持時間、誘導体化化学式、ならびに正確な質量標的イオンを含む9種の安定同位体標識内部標準(IS)の小分子化合物データベースが構築された。次いで、最も近いRT戦略および5ppmの質量精度を有する高分解能標的イオンを使用して、ピーク検出およびピーク積分を達成した。さらなる検量線および定量結果を、分析物濃度と、対応するISに対するピーク面積比との間の線形回帰モデルを使用して計算した。全ての分析物に、それらのクロマトグラフィーまたは構造的類似性に基づいて特定の内部標準を割り当てた。同位体分析アプローチによる定量結果については、対応する内部標準に対する分析物のM+1イオン面積を通じて応答比を得た。次に、天然に存在するM+1同位体の濃度を、元のMイオンの検量線と比較したその応答比によって決定した。分析物の最終濃度は、M+1同位体の濃度をM+1/Mの理論的同位体比で割ったものを使用して導出した。この一連の計算処理には、Microsoft Excelソフトウェアを利用した。
【0124】
対応する正確な質量標的イオン、曲線勾配および係数R2値を含む、Mイオンベースの定量およびM+1イオンベースの定量の両方の例示的な検量線情報を表4に示す。全ての分析物の各較正標準の濃度値を表5に詳細に示す。
【0125】
マトリックス一致検量線の線形性は、分析物濃度と、対応する内部標準に対する分析物のピーク面積比との間の線形回帰モデルの決定係数(R2)値によって表された。プロトン化M標的イオンによる定量のための検量線を、10種の較正標準(STD1~STD10)を用いて算出した;プロトン化M+1標的イオンによる定量のための検量線は、STD1およびSTD2における天然に存在する同位体の超低強度に起因して8つの較正標準(STD3~STD10)を使用して計算した。マトリックス一致検量線の線形性は、Mイオンベースの回帰曲線については全てのR2値は0.99を超え、M+1イオンベースの回帰曲線については0.98を超えることで、十分に検証された。
【0126】
アッセイの感度を、許容可能な精度および精密度で定量し得た各標的代謝産物の最小濃度(LLOQ)を決定することによって特徴付けた。精度閾値を±15%として設定し、LLOQの±20%を除いて、検量線の全ての標準レベルについて、絶対百分率で85%~115%を示した。正規Mイオン定量に基づく標的分析物のLLOQおよびULOQ濃度を表4に示す。2桁(100X)にわたる広範囲の線形ダイナミックレンジは、30~90ng/mLのLLOQおよび3000~9000ng/mLのULOQで達成された。1344ng/mLのLLOQおよび80000ng/mLのULOQの例外値を、サンプル処理における干渉のためにギ酸に適用した。
【表4】
【表5】
【0127】
定量化の統計的有意性。3つの群比較を含む製造プロセス全体に関連する統計的有意性を
図6Bに示して、一方向ANOVA(分散分析)によって計算されたp値を要約する。代謝変動の全体的な標的視野を
図6Bに可視化して、ヒートマップ分析によって生成された相対的な倍率変化を示す。手短に言えば、合計21の標的分析物の20の代謝産物が、mAb産生プロセスにおける3つの細胞段階を比較した場合、1.9×E-4~9.2×E-12の範囲のp値で統計学的に有意な(p<0.05)差を示した。興味深いことに、有意に変化した代謝産物の80%は、1日目の増殖期から6日目の静止期まで、および11日目の細胞死期までの連続的な増加を示した。イソ吉草酸は、1mM(102μg/mL)以上の濃度で細胞増殖に悪影響を及ぼすと考えられる。この試験における標的化メタボロミクスデータは、イソ吉草酸のレベルがCHO細胞フェドバッチバイオプロセスの生産中間から後期生産段階中に既に2~3mMに達し、イソ吉草酸のレベルが望ましくないレベルに達したことを実証した。本発明者らはまた、本方法が、イソ酪酸および2-メチル酪酸などの他の阻害性代謝産物の迅速かつ同時の定量化にも使用され得ることを実証した。さらに、同じ実験で、本発明者らはまた、いくつかの新しい増殖阻害関連代謝産物を提案し、細胞生存率と明らかに負の相関を示す2-ヒドロキシイソ吉草酸および2-ヒドロキシイソカプロン酸を含む、産生細胞培養物中のそれらの代謝応答を初めて定量的に調査したが(
図7)、アルファ-ケトイソ吉草酸およびアルファ-ケトイソカプロン酸は、特に静止期から死期にかけて細胞活性に対して非常に類似した傾向を示す(
図7)。
図6を通して実証されるように、本方法は、広範囲の代謝産物変化の包括的な例示を提供し得、細胞段階および代謝挙動を区別するための包括的な視点を提供し得る。
【0128】
PCA/PLS-DAによる多変量解析。本発明者らは、主成分分析(PCA)および部分最小二乗判別分析(PLS-DA)を含む多変量統計分析をさらに行った。本質的に、多変量PCA(教師なしアプローチ)およびPLS-DA(教師ありアプローチ)は、包括的メタデータにおける固有の分類および特徴選択を解明するための、複雑なデータセットの次元縮小のための直交投影技術である。
図8Aに示すように、4つの個々のバイオリアクターからのCHO細胞フェドバッチ培養サンプルのコンパクトなクラスター化により、種々の時点間の明確な群分離と組み合わせて、生産細胞培養サンプルがPCA分析により細胞段階によって十分に区別されることが示された。データ構造および質を調査したところ、分析的または生物学的異常値をデータセットから除外する必要がなかったことが示唆された。予想されるように、mAb産生プロセスにおける独立したバイオリアクターからのCHO細胞フェドバッチ培養物は、初期増殖期(
図8A、赤色クラスタ)の1日目にはより一貫していたが、最終死亡期(
図8A、青色クラスタ)の11日目には、細胞生存率のためにわずかな分化が起こり、この段階では種々の速度で減少していた(
図7)。さらに、
図8Bに示すように、PLS-DA分析に基づいて、分類モデルに寄与する上位10個の代謝産物の特徴が選択された。各代謝産物のVIP(投影における変数の重要性)スコアを、元の変数と統合PLS-DA成分との間の二乗相関の加重和として計算し、各代謝産物の特徴の識別力についての定量的評価を提供した。次に、PLS-DA分析における上位VIPスコアを有する増殖阻害関連代謝産物のアミノ酸代謝源を、それらの化学構造とともに
図9に示す。驚くべきことに、上位5つの代謝産物の特徴は全て、バリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む分岐鎖アミノ酸(BCAA)から産生された。より重要なことに、1位としてランク付けされたイソ吉草酸、2位としてランク付けされた2-ヒドロキシイソカプロン酸、および5位としてランク付けされたアルファ-ケトイソカプロン酸は、ロイシン異化から特異的に生成された。一方、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン経路に由来する芳香族乳酸は、芳香族酢酸および芳香族ピルビン酸などの他の関連する小分子副生成物よりも重要であり、著しく強いようであった。CHO細胞フェドバッチ培養物中のこれらの増殖阻害関連代謝産物の理解および制御には多大な努力がなされており、絶対定量化および多変量統計解析による本発明者らの標的メタボロミクスプラットフォームは、このプロセスを能動的に追跡および進行するための強力なツールであることが証明された。
【0129】
実施例4:相対定量
細胞培養
高播種密度フェドバッチ生産培養を、独自の化学的に定義された生産培地を含む振盪フラスコ中で実施した。N-1接種株の場合、細胞を0日目に2×106細胞/mlで播種し、4日目に供給培地およびグルコースを添加して7日間維持した。N-1培養の2日目、4日目および7日目に、接種株細胞を、完全または部分的な培地交換(1:1または3:1の新鮮培地対使用済み培地比)のいずれかによって産生培養物に播種して、完全または部分的に灌流された培養物を潜在的に模倣し、0日目に3×107細胞/mLの出発細胞密度で産生培養を設定した。短い3日間の産生工程は、N-1培養から得られた細胞増殖に対する阻害性分子の効果を説明するために設定され、この場合、細胞は、時間の経過とともに、ますます高濃度の蓄積した阻害性分子にさらされた。強化された振盪フラスコ製造プロセスは、バイオリアクターにおける強化されたNプロセスを模倣し、一方、製造培養をセットアップするために使用される完全または部分的な培地交換は、N-1における異なる灌流速度を模倣するために使用された。
【0130】
サンプル収集
サンプル収集のために、細胞培養サンプルを目的の時点で取得した。回収したサンプルを遠心分離して、細胞ペレットおよび上清を分離した。CHO細胞フェドバッチ培養上清を清浄なチューブに移し、さらなるメタボロミクス分析に供した。
【0131】
代謝産物の抽出および誘導体化
目的の代謝産物を、冷アセトニトリルを用いてフェドバッチ培養サンプルから抽出し、次いで、10uLの0.3M O-BHA(MeOH中)および10uLの0.3M EDC(MeOH中)を用いて800RPMおよび25℃で10分間誘導体化した。その後、50uLの水および400uLのジクロロメタンを添加して液-液相分離を実施した。サンプルを混合し、再度遠心分離した。誘導体化化合物を含有する有機層アリコートを移し、乾燥させ、100uLの水中で再構成し、さらなるLC-HRMS分析に供した。
【0132】
LC-HRMS分析
LC-HRMS実験は、実施例3に記載された設定を使用して行った。データ分析のために、各標的分析物のLC-HRMSピーク面積を、阻害性代謝産物モニタリングのスループットを高めるための相対定量として得た。初期時点(例えば、この実施例のN-1段階における2日目)のLC-HRMSピーク面積をベースラインとして利用して、細胞培養バイオプロセス中の阻害性代謝産物の蓄積を評価し得る。
【0133】
複数の代謝産物の相対的定量の結果を表6に示す。
図10は、代謝産物のそれぞれについての傾向を示す、このデータのプロットを示す。代謝産物の相対的な定量化を提供することに加えて、1つ以上の細胞培養成分の相対的な定量化を同時に提供することも可能である。これにより、さらなる相対定量化が可能になる。そのような相対分析は、細胞培養物の進行をモニタリングするかまたは細胞培養物を最適化する場合に有用であり得る。
【表6】
【国際調査報告】