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特表2024-534402全固体電池用正極、及びこれを含む全固体電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】全固体電池用正極、及びこれを含む全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20240912BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/62 Z
H01M4/525
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/38 Z
H01M4/40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516670
(86)(22)【出願日】2023-03-31
(85)【翻訳文提出日】2024-03-14
(86)【国際出願番号】 KR2023004408
(87)【国際公開番号】W WO2023191598
(87)【国際公開日】2023-10-05
(31)【優先権主張番号】10-2022-0040830
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】503257778
【氏名又は名称】コリア エレクトロニクス テクノロジ インスティチュート
【住所又は居所原語表記】25,Saenari-ro,Bundang-gu,Seongnam-si,Gyeonggi-do 13509 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】デ-ジン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ヘ-ジン・ハ
(72)【発明者】
【氏名】ヒュン-スン・キム
(72)【発明者】
【氏名】コン-ホ・パク
(72)【発明者】
【氏名】ジ-サン・ユ
(72)【発明者】
【氏名】ウ-スク・チョ
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL16
5H029AL18
5H029AM12
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050CB29
5H050DA02
5H050DA13
5H050EA01
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
本発明による全固体電池用正極は、正極活物質の表面に結合している残留リチウムによって固体電解質と活物質との界面で発生する抵抗が低減される。これによって、前記正極活物質を含む全固体電池は可逆容量が向上し、電池の内部抵抗(過電圧)が低減されるという効果がある。また、正極活物質の製造時に残留リチウムを除去するための水洗工程を省略でき、残留リチウムを活物質の表面に結合させるための別途の工程が必要でないため、正極活物質の製造時に工程コストを低減することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質及び固体電解質を含み、
前記正極活物質は、残留リチウムの含有量が2,000ppmを超えるリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムを除いた金属成分のうち、ニッケル(Ni)が原子分率を基準として70%以上のニッケルリッチリチウム遷移金属複合酸化物であり、
前記残留リチウムは、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)及び硝酸リチウム(LiNO)のうちの1種以上を含む、全固体電池用正極。
【請求項2】
前記固体電解質は、硫化物系固体電解質を含む、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項3】
前記ニッケルリッチリチウム遷移金属複合酸化物は、正極活物質の総重量に対して80wt%以上含まれる、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、下記化学式1で表される化合物のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の全固体電池用正極:
[化学式1]
Li1+a(NiCoMn 1-a2-b
上記化学式1において、-0.1≦a≦0.3であり、x+y+z+wが1の範囲で0.7≦x<1.0であり、y及びZは、それぞれ独立して0以上0.3以下であり、0≦w≦0.1であり、0≦b≦0.05であり、Mは、Al、Mg、Ge、Mo、Nb、Si、Ti、Zr、Cr、W、V及びFeからなる群より選択された1種以上を含み、Mは、ホウ素(B)、リン(P)及びフッ素(F)からなる群より選択された1種以上を含む。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、LiNi0.7Co0.15Mn0.15、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.88Co0.1Al0.02、LiNi0.84Co0.15Al0.01及びLiNi0.8Co0.1Mn0.1から構成されたグループより1種以上を含む、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項6】
前記硫化物系固体電解質は、固体電解質の総重量に対して70wt%以上含まれる、請求項2に記載の全固体電池用正極。
【請求項7】
前記正極活物質は、残留リチウムが2,000ppmを超えるニッケルリッチリチウム遷移金属複合酸化物が正極活物質100wt%に対して70wt%以上であり、前記固体電解質は、固体電解質100wt%に対して硫化物系固体電解質が70wt%以上である、請求項1に記載の全固体電池用正極。
【請求項8】
正極、負極及び前記正極と負極との間に固体電解質膜が介在した全固体電池であって、前記正極は、請求項1から7のいずれか一項に記載の全固体電池用正極である、全固体電池。
【請求項9】
前記負極は、リチウム金属及びリチウム合金からなる群より選択された1種以上を含み、前記リチウム合金はリチウムインジウム合金を含む、請求項8に記載の全固体電池。
【請求項10】
前記固体電解質膜は、硫化物系固体電解質を含む、請求項9に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルリッチ(Nickel rich)リチウム遷移金属複合酸化物及び硫化物系固体電解質に基づく全固体電池用正極に関する。さらに詳しくは、正極活物質/固体電解質の界面抵抗を低減することで電気化学的特性が向上した全固体電池に関する。
【0002】
本出願は、2022年3月31日付け出願の韓国特許出願第10-2022-0040830号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン二次電池は、ITモバイル機器をはじめとする携帯機器の電源として幅広く用いられており、最近では、小型電池から中大型電池に市場が本格的に成長している。特に、自動車用電池としての使用が急激に増加している傾向にある。リチウムイオン二次電池が電気自動車の電源として用いられるためには、高いエネルギー密度と高出力特性が要求され、特に安全性の確保が重要とされている。
【0004】
従来のリチウムイオン二次電池は、液状の非水系有機電解質を用いており、これは発火と爆発の危険性を有している。実際にこれを適用した製品の爆発事故が継続的に発生しているため、このような問題を解決することが急務となっている。
【0005】
全固体電池は、このような有機電解質を固体電解質に置き換えたもので、電極及び電解質など電池の構成要素がすべて固体からなる電池である。このような全固体電池は、液体電解質に比べ固体電解質の高い安全性により、発火及び爆発の危険性を根本的に防止することができる。
【0006】
全固体電池用固体電解質材料としては、ゲル型高分子系固体電解質、硫化物系固体電解質及び酸化物系固体電解質などがある。これらのうちでも硫化物系固体電解質は、10-3S/cm以上の高いリチウムイオン伝導度を示し、硫化物粒子(粉末)の柔らかい機械的特性による円滑な界面接触の形成により、シート化及び大面積化に有利で高エネルギー密度を有する全固体電池の製造に適している。
【0007】
一方、このような硫化物系固体電解質を適用した全固体電池の場合、正極活物質と硫化物系固体電解質との界面で発生する高い界面抵抗によって容量が適切に発現しないという問題がある。このような高い界面抵抗の主な原因としては、1)正極活物質と固体電解質の電位差で固体電解質の界面のリチウム欠乏層が形成される空間電荷層現象、2)正極活物質と固体電解質との界面における化学的反応による界面不純物層の形成などが挙げられている。特許文献1によると、このような問題を解決するための方法として、正極活物質及び固体電解質との界面にリチウム金属酸化物(LiMe)のバッファ層を導入して界面抵抗を低減することで、電池特性を改善する効果を示している。しかし、前記リチウム金属酸化物層は、正極活物質がリチウムコバルト酸化物の場合には効果的であるが、ニッケルリッチ(Ni-rich)正極活物質の場合にはバッファ層の有無による界面抵抗効果にほとんど差がない。したがって、ニッケルリッチ(Ni-rich)正極活物質と固体電解質との界面抵抗を抑制するための新規技術の開発が要求されているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国特許出願第10-2018-0081309号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】N.Ohta、K.Takada、I.Sakaguchi、L.Zhang、R.Ma、K.Fukuda、M.Osada&T.Sasaki、Electrochemistry Communication 9(2007)1486-1490
【非特許文献2】N.Ohta、K.Takada、L.Zhang、R.Ma、M.Osada&T.Sasaki、Advanced Material 18(2006)2226-2229
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、固体電解質と正極活物質との界面間で発生する界面抵抗が低減された全固体電池用正極を提供することを目的とする。本発明の他の目的は、前記正極を含む全固体電池を提供することである。本発明の他の目的及び利点は特許請求の範囲に記載された手段又は方法及びこれらの組み合わせによって実現可能であることを容易に理解できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様は、全固体電池用正極であり、前記正極は、正極活物質及び固体電解質を含み、前記正極活物質は、残留リチウムの含有量が2,000ppmを超えるリチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムを除いた金属成分のうち、ニッケル(Ni)が原子分率を基準として70%以上のニッケルリッチリチウム遷移金属複合酸化物であり、前記残留リチウムは、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)及び硝酸リチウム(LiNO)のうちの1種以上を含む。
【0012】
本発明の第2態様は、前記第1態様において、前記固体電解質は、硫化物系固体電解質を含む。
【0013】
本発明の第3態様は、前記第1又は第2態様において、前記ニッケルリッチリチウム遷移金属複合酸化物は、正極活物質の総重量に対して80wt%以上含まれる。
【0014】
本発明の第4態様は、上記第1から第3態様のいずれかにおいて、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、下記化学式1で表される化合物のうちの1つ以上を含む。
【0015】
[化学式1]
Li1+a(NiCoMn 1-a2-b
上記化学式1において、-0.1≦a≦0.3であり、x+y+z+wが1の範囲で0.7≦x<1.0であり、y及びZは、それぞれ独立して0以上0.3以下であり、0≦w≦0.1であり、0≦b≦0.05であり、Mは、Al、Mg、Ge、Mo、Nb、Si、Ti、Zr、Cr、W、V及びFeからなる群より選択された1種以上を含み、Mは、ホウ素(B)、リン(P)及びフッ素(F)からなる群より選択された1種以上を含む。
【0016】
本発明の第5態様は、上記第1から第4態様のいずれかにおいて、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、LiNi0.7Co0.15Mn0.15、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.88Co0.1Al0.02、LiNi0.84Co0.15Al0.01及びLiNi0.8Co0.1Mn0.1から構成されたグループより1種以上を含む。
【0017】
本発明の第6態様は、前記第2態様又は第5態様のいずれかにおいて、前記硫化物系固体電解質は、固体電解質の総重量に対して70wt%以上含まれる。
【0018】
本発明の第7態様は、上記第1から第6態様のいずれかにおいて、前記正極活物質は、残留リチウムが2,000ppmを超えるニッケルリッチリチウム遷移金属複合酸化物が正極活物質100wt%に対して70wt%以上であり、前記固体電解質は、固体電解質100wt%に対して硫化物系固体電解質が70wt%以上である。
【0019】
本発明の第8態様は、全固体電池に関し、前記全固体電池は、正極、負極及び前記正極と負極との間に固体電解質膜が介在したものであり、前記正極は、第1から第7態様のいずれかによるものである。
【0020】
本発明の第9態様は、上記第8態様において、前記負極は、リチウム金属及びリチウム合金からなる群より選択された1種以上を含み、前記リチウム合金は、リチウムインジウム合金を含む。
【0021】
本発明の第10態様は、上記第8態様又は第9態様において、前記固体電解質膜は、硫化物系固体電解質を含む。
【発明の効果】
【0022】
本発明による全固体電池用正極は、正極活物質の表面に結合している残留リチウムによって、固体電解質と活物質との界面で発生する抵抗が低減される。これによって、前記正極活物質を含む全固体電池の可逆容量が向上し、電池の内部抵抗(過電圧)が低減されるという効果がある。
【0023】
また、正極活物質の製造時に残留リチウムを除去するための水洗工程を省略でき、残留リチウムを活物質の表面に結合させるための別途の工程が必要でないため、正極活物質の製造時に工程コストを低減することができる。
【0024】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本願発明の一実施形態による全固体電池を要素ごとに区分して示す分解図。
図2A】実施例1で準備された正極活物質のSEM画像。
図2B】比較例で準備された正極活物質のSEM画像。
図3A】比較例と実施例1で製造された正極活物質を適用した全固体電池の0.05Cでの初期充放電曲線を示すグラフ。
図3B】実施例1と実施例3の正極活物質を適用した全固体電池の0.05Cでの初期充放電曲線を示すグラフ。
図4A】比較例と実施例1の初期充電状態における全固体電池のインピーダンス抵抗を示すグラフ。
図4B】比較例と実施例1の初期充電状態における全固体電池のインピーダンス抵抗を示すグラフ。
図5】比較例と実施例1で製造された正極活物質を適用した全固体電池のCレート(C-rate)による放電容量を示すグラフ。
図6】比較例と実施例1の正極活物質を適用した全固体電池を初期充放電の後に電池を解体して電極を回収した後、正極のXPS(X線光電子分光法)を測定及び分析した結果を示すグラフ。
図7】比較例と実施例2で製造された正極活物質を適用した全固体電池の0.05Cでの初期充放電曲線を示すグラフ。
図8】初期充電状態における全固体電池のインピーダンス抵抗を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について詳しく説明する。しかし、本発明は下記内容によってのみ限定されるものではなく、必要に応じて各構成要素を多様に変形するか選択的に混用することができる。よって、本発明の思想及び技術範囲に含まれるすべての変更、均等物及び代替物を含むものと理解されたい。
【0027】
本願明細書全体にわたって、ある部分がある構成要素を[含む]というとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0028】
また、本願明細書全体にわたって使用される用語[約]、[実質的に]などは、言及された意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるとき、その数値又はその数値に近接する意味として使用され、本願の理解のために正確かつ絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0029】
本願明細書全体にわたって、[A及び/又はB]の記載は[A又はB、或いはこれらの両方]を意味する。
【0030】
本明細書で使用された「粒径(D50)」は、粒径に応じる粒子数の累積分布の50%地点における粒径を意味し、前記粒径は、レーザー回折法(laser diffraction method)を用いて測定されたものであり得る。具体的に、測定対象の粉末を分散媒中に分散させた後、市販のレーザー回折粒度測定装置(例えば、Microtrac S3500)に導入し、粒子がレーザービームを通過する際の粒子径による回折パターンの差を測定して粒度分布を算出する。測定装置における粒径に応じる粒子数の累積分布の50%になる地点での粒子径を算出することで、D50粒径を算出することができる。
【0031】
本発明の第1態様は、リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として含む全固体電池用正極に関する。
【0032】
本発明において、前記正極は、正極活物質及び固体電解質を含む。本発明の一実施形態において、前記正極は、集電体、及び前記集電体の一側表面又は両側表面に配置された正極活物質層を含むことができる。前記正極活物質層は、正極活物質及び固体電解質が含まれた混合物が層状構造に集積され形成された形状を有することができる。本発明の一実施形態において、前記正極活物質は、正極活物質層100重量%に対して60wt%以上含まれ得る。一方、前記固体電解質は、正極活物質層100重量%に対して40wt%以上含まれ得る。本発明の具体的な一実施形態において、前記正極活物質と前記固体電解質は、重量比を基準として60:40から99.99:0.01の割合で含まれ得る。
【0033】
本発明において、前記正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を含み、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムを除いた金属成分のうち、ニッケル(Ni)が原子分率を基準として70モル%以上含まれたニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物を含む。前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物は、ニッケル以外に、Mn、Co、Al及びMgのうちから選択された1種又は2種以上を含むことができる。また、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物は、残留リチウムの含有量が2,000ppmを超えることを構成的特徴とする。
【0034】
本発明の一実施形態において、前記正極活物質は、残留リチウムが2,000ppmを超えるニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物が、正極活物質100重量%に対して50wt%以上、70wt%以上又は80wt%以上含まれ得る。例えば、前記正極活物質は、残留リチウムが2,000ppmを超えるニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物のみからなり得る。
【0035】
本発明の一実施形態において、前記正極活物質は、正極活物質の総重量を基準として、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物を80wt%以上含むことができる。
【0036】
本発明の一実施形態において、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物は、下記化学式1で表される化合物のうちの1種以上を含むことができる。
【0037】
[化学式1]
Li1+a(NiCoMn 1-a2-b
【0038】
上記化学式1において、-0.1≦a≦0.3であり、x+y+z+wが1の範囲で0.7≦x<1.0であり、y及びZは、それぞれ独立して0以上0.3以下であり、0≦w≦0.1であり、0≦b≦0.05であり、Mは、Al、Mg、Ge、Mo、Nb、Si、Ti、Zr、Cr、W、V及びFeからなる群より選択された1種以上を含み、Mは、リン(P)及びフッ素(F)、ホウ素(B)からなる群より選択された1種以上を含む。前記Mは、好ましくは、Alを含むことができる。一方、本発明の具体的な実施形態において、上記化学式1で表される化合物は、前記a及びbが0であるもののうちから選択される1種以上を含むことができる。
【0039】
本発明において、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムを除いた金属元素の総量を基準としてニッケルの含有量(原子分率)が70モル%以上である。本願発明のリチウム遷移金属複合酸化物でニッケルの原子分率が上記範囲を満たすと、リチウム複合金属酸化物の容量特性を損なうことなく、電池の高容量化及び高エネルギー密度化の実施が可能である。
【0040】
本発明の一実施形態において、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、LiNi0.7Co0.15Mn0.15、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.88Co0.1Al0.02及びLiNi0.84Co0.15Al0.01からなる群より選択された1種以上を含むことができる。
【0041】
本願発明において、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物は、残留リチウムの含有量が2,000ppmを超えるものである。本願発明の一実施形態において、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物で、残留リチウムは5,000ppm以上であり得る。
【0042】
通常、正極活物質層は、正極活物質など電極材料を溶媒に分散させて正極スラリーを製造した後、これを集電体にコーティングする方式で製造される。前記残留リチウムは、正極製造工程において正極スラリーのゲル化を引き起こし、電極製造を困難にするという問題がある。また、非水系電解液を電解質として用いる電池において、前記残留リチウムは、電解液との副反応によりガスを発生するか、電池の電気化学的性能を低下させる原因となっている。そこで、従来は、ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物を製造する際に、このような残留リチウムを除去するための水洗工程が導入されていた。
【0043】
しかし、本発明の発明者らは、固体電解質を用いる全固体電池において、特に硫化物系固体電解質材料を電解質材料として用いる場合、正極活物質の表面に存在する残留リチウムが正極活物質/固体電解質の界面における抵抗の形成を抑制する役割をするという点に着目した。
【0044】
そこで、本発明は、所定範囲以上の残留リチウムを含む正極活物質と硫化物系固体電解質とを含む全固体電池用正極を提案するに至った。
【0045】
前記残留リチウムは、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)及び硝酸リチウム(LiNO)のうちの1種以上を含むことができ、例えば、前記残留リチウムは、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)のうちから選択された1種以上を含むことができる。
【0046】
通常、ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物は、構成成分である各金属に対する金属水酸化物とリチウム源を混合した後に得られた混合物を高温で焼成する方法により得られる。このとき、前記リチウム源としては、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)及び硝酸リチウム(LiNO)のうちの1種以上のリチウム化合物を含むことができる。ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物の製造時に、高温焼成過程でNi酸化数の形成と揮発したリチウムの量を補うために、このようなリチウム化合物が過剰に投入され、その結果、製造されたニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物は、前記リチウム化合物から遊離した副産物である残留リチウムを含む。このように、前記残留リチウムは、ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物の製造時にリチウム源として投入された化合物に由来する製造反応副産物及び/又は未反応生成物であり得る。本願発明の他の一実施形態によると、前記残留リチウムは、ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物を製造した後、製造産物を大気雰囲気中で常温に所定時間放置することでさらに生成され得る。例えば、本発明によるニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物は、大気に露出したときに大気中の二酸化炭素(CO)と反応してLiCOを形成することができる。本発明の一実施形態において、残留リチウムの含有量を高めるために製造された正極活物質を大気中に放置しておくことができる。例えば、前記正極活物質を約25℃の常温の大気中で1日から2カ月以下の期間、又は1日から5週間以下の期間放置しておくことができる。当業者は、前記正極活物質を大気中に放置する際に、温度及び時間などを適切に調節することができ、その具体的な範囲は本発明で限定しない。
【0047】
一方、本願発明において、前記残留リチウムの全部又は少なくとも一部が前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に結合していることがある。本発明の一実施形態によると、前記残留リチウムは、Ni-richリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面の全部又は少なくとも一部を被覆する被覆層(コーティング層)の形態で導入されたものであり得る。以下に添付の図2Aを参照すると、ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物粒子表面に残留リチウムによる被覆層が形成されたことが確認される。一方、本発明の一実施形態において、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物など正極活物質粒子は、一次粒子の形態を有することができ、これと共に又はこれとは独立して複数の前記一次粒子凝集した二次粒子を含むことができる。前記正極活物質粒子が二次粒子の形態を有する場合には、一次粒子の表面に残留リチウムが結合していることがあり、その結果、二次粒子の内部にもどの程度の残留リチウムが存在することができ、また、前記二次粒子の表面も前記残留リチウムで表面の全部又は一部が被覆された形態を有する。上記結合は、化学的結合及び物理的結合の少なくともいずれか一方であり得る。例えば、前記残留リチウムは、ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面にイオン結合、及び/又はファンデルワールス結合及び/又は水素結合の方法で表面に結合し得る。
【0048】
本発明の一実施形態において、前記残留リチウムの含有量(ppm)は、例えば電位差法を用いた酸化還元滴定によって測定することができる。上記方法は、例えば正極活物質が所定量分散した水分散溶液を準備し、HCl水溶液など滴定溶液を用いてpH及び電圧変化を測定し、滴定溶液の体積変化に対する電圧の変化値(dE/dV[mV/mL])が最大値となる区間の完了点(End point)を確認する方法で行うことができる。
【0049】
一方、本発明の具体的な一実施形態において、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物において、前記水分散溶液のpHが10以上であることが望ましい。例えば、前記pHは、前記水分散溶液に0.1NのHCl滴定溶液を用いて測定されたものであり得る。
【0050】
本発明の一実施形態において、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物粒子は、粒径(D50)が0.3μmから10μmであり得る。しかし、これに限定されるものではない。
【0051】
一方、本発明の一実施形態において、前記正極活物質は、前記ニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物以外に、必要に応じて、他の正極活物質をさらに含むことができる。このように加えることができる正極活物質としては、二次電池分野で正極材料として用いられるものであれば特に限定されず、その非限定的な例としては、Li1+xMn2-x(ここで、xは0~0.33である)、LiMnO、LiMnなどのリチウムマンガン酸化物と、リチウム銅酸化物(LiCuO)と、LiV、LiV、V、Cuなどのバナジウム酸化物と、LiNi1-x(ここで、Mは、Co、Mn、Fe、Cr、Zn、Al、Mg及びTaのうちから選択された1種以上であり、xは0.7未満)であるリチウムニッケル複合酸化物と、LiMn2-x(ここで、M=Co、Ni、Fe、Cr、Zn又はTaであり、x=0.01~0.1である)又はLiMnMO(ここで、M=Fe、Co、Ni、Cu又はZnである)で表されるリチウムマンガン複合酸化物と、LiNiMn2-xで表されるスピンネル構造のリチウムマンガン複合酸化物(xは0.7未満)と、化学式のLiの一部がアルカリ土金属イオンで置換されたLiMnと、ジスルフィド化合物と、Fe(MoOが挙げられ、これらのうちから選択された1種又は2種以上を含むことができる。
【0052】
本発明において、前記固体電解質は、高分子系固体電解質及び/又は無機系固体電解質を含むことができ、好ましくは無機系固体電解質、さらに好ましくは硫化物系固体電解質を含む。本発明の一実施形態において、前記正極は、固体電解質として硫化物系固体電解質を含み、前記硫化物系固体電解質は、固体電解質の総重量に対して70wt%以上、又は80wt%以上であり得る。
【0053】
硫化物系固体電解質は10-3S/cm以上の高いリチウムイオン伝導度を示し、硫化物粒子(粉末)の柔らかい機械的特性による円滑な界面接触の形成により、シート化及び大面積化に有利で高エネルギー密度を有する全固体電池の製造に適している。上述したように、硫化物系固体電解質は、正極活物質との界面で発生する高い界面抵抗によって容量が適切に発現しないという問題があったが、残留リチウムの含有量が高い正極活物質と組み合わせられることで、界面抵抗特性を改善することができる。
【0054】
前記硫化物系固体電解質は、電解質成分のうちの硫黄原子を含むものであり、具体的な成分に特に限定されず、結晶性固体電解質、非結晶性固体電解質(ガラス質固体電解質)、ガラスセラミック固体電解質のうち1つ以上を含むことができる。前記硫化物系固体電解質の具体的な例としては、硫黄とリンを含むLPS型硫化物、LiPSMe(Meは、Cl、Br又はIであり、x、y、zはそれぞれ0超過)、Li4-xGe1-x(xは0.1から2、詳しくは、xは3/4、2/3)、Li10±1MP12(M=Ge、Si、Sn、Al、X=S、Se)、Li3.833Sn0.833As0.166、LiSnS、Li3.25Ge0.250.75、LiS-P、B-LiS、xLiS-(100-x)P(xは70から80)、LiS-SiS-LiN、LiS-P-LiI、LiS-SiS-LiI、LiS-B-LiI、Li7-xPS6-xCl(0≦x≦2)、Li3.25Ge0.250.75などが挙げられる。具体的には、LiPSCl、LiPSBr及びLiPSIのうちから選択された1つ以上を含むアルジロダイト型を含むことができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0055】
一方、前記固体電解質は、必要に応じて酸化物系固体電解質及び/又は高分子系固体電解質をさらに含むことができる。前記酸化物系固体電解質は、LLTO系化合物(La、Li)TiO)、LiLaCaTa12、LiLaANb12(A=Ca、Sr)、LiNdTeSbO12、LiBO2.50.5、LiSiAlO、LAGP系化合物(Li1+xAlGe2-x(PO、ここで0≦x≦1)、LiO-Al-TiO-PのようなLATP系化合物(Li1+xAlTi2-x(PO、ここで0≦x≦1)、Li1+xTi2-xAlSi(PO3-y(ここで、0≦x≦1、0≦y≦1)、LiAlZr2-x(PO(ここで、0≦x≦1)、LiTiZr2-x(PO(ここで、0≦x≦1)、LiN、LISICON、LIPON系化合物(Li3+yPO4-x、ここで0≦x≦1、0≦y≦1)、ペロブスカイト系化合物((La、Li)TiO)、LiTi(POのようなナシコン系化合物、構成成分としてリチウム、ランタン、ジルコニウム及び酸素を含むLLZO系化合物などが挙げられ、これらのうちの1種以上を含むことができる。
【0056】
前記高分子系固体電解質は、高分子樹脂とリチウム塩を含むものであり、溶媒化したリチウム塩と高分子樹脂の混合物の形態を有する固体高分子電解質であるか、又は有機溶媒とリチウム塩を含有した有機電解液を高分子樹脂に含有させた高分子ゲル電解質であり得る。
【0057】
一方、前記正極は、導電材をさらに含むことができる。前記導電材は、当該電池に化学的変化を引き起こすことなく導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛と、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラックと、VGCF(Vapor grown carbon fiber)のような炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維と、フッ素カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末と、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカーと、酸化チタンなどの導電性金属酸化物と、ポリフェニレン誘導体などの導電性材料から選択された1種又は2種以上の混合物を含むことができる。
【0058】
一方、本発明の第2態様は、上述した構成的特徴を有する本願発明による正極を含む全固体電池に関する。前記全固体電池は、正極、負極及び前記正極と負極との間に介在される固体電解質膜を含む。
【0059】
前記負極は、負極活物質及び固体電解質を含むことができ、必要に応じて導電材をさらに含むことができる。前記負極は、このような電極材料を含む負極活物質層を含む。前記負極は、集電体を含み、前記集電体の一側表面又は正極表面に上述したように負極活物質層が積層されている構造を有することができる。
【0060】
前記負極活物質は、リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用可能な物質であればいずれも用いることができる。例えば、前記負極活物質は、難黒鉛化炭素、黒鉛系炭素などの炭素と、LiFe(0≦x≦1)、LiWO(0≦x≦1)、SnMe1-xMe’(Me:Mn、Fe、Pb、Geと、Me’:Al、B、P、Si、周期表の1族、2族、3族元素、ハロゲン;0<x≦1;1≦y≦3;1≦z≦8)などの金属複合酸化物と、リチウム金属と、リチウム合金と、リチウム-インジウム合金と、ケイ素系合金と、錫系合金と、インジウムと、インジウム系合金と、SnO、SnO、PbO、PbO、Pb、Pb、Sb、Sb、Sb、GeO、GeO、Bi、Bi、及びBiなどの金属酸化物と、ポリアセンチレンなどの導電性高分子と、Li-Co-Ni系材料と、チタン酸化物と、リチウムチタン酸化物となどから選択された1種又は2種以上を用いることができる。
【0061】
負極成分のうちの導電材及び固体電解質に対する内容は、正極に対する内容を参照することができる。
【0062】
前記固体電解質層は、イオン伝導性物質を含むものであり、このようなイオン伝導性物質としては、高分子系固体電解質及び/又は無機系固体電解質成分が含まれ、全固体電池用固体電解質として用いられるものであれば制限なく使用可能である。本発明において、前記固体電解質層に含まれるイオン伝導性物質としては、上述した高分子系固体電解質及び無機系固体電解質に対する内容を参照することができる。
【0063】
また、本発明は、前記二次電池を単位電池として含む電池モジュール、前記電池モジュールを含む電池パック、及び前記電池パックを電源として含むデバイスを提供する。
【0064】
このとき、前記デバイスの具体的な例としては、電池的モータによって動力を受けて動くパワーツール(power tool)と、電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)などを含む電気自動車と、電気自転車(E-bike)、電気スクーター(E-scooter)を含む電気二輪車と、電気ゴルフカート(electric golf cart)と、電力貯蔵用システムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳述するが、下記の実施形態は本発明を例示するためのものであり、本発明の範疇がこれらに限定されるものではない。
【0066】
[実施例]
実施例1)
ニッケル塩、コバルト塩、マンガン塩を70:10:20の割合で混合し、錯化剤を添加して共沈法でニッケル-コバルト-マンガン複合水酸化物を製造した。これにリチウム化合物としてLiOHを混合した後、約850℃の条件で熱処理してニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物(LiNi0.7Co0.1Mn0.2)を得た。得られたニッケルリッチ(Ni-rich)リチウム遷移金属複合酸化物において、残留リチウムは約5000ppmであり、前記残留リチウムはLiOH及びLiCOであることが確認された。
【0067】
比較例)
実施例1で得られた複合酸化物を水洗処理し、LiOH、LiCOから構成された表面残留リチウムの含有量を2,000ppmに低減した正極活物質を製造した。
【0068】
実施例2)
比較例の正極活物質を常温(約25℃)の大気中に7日間放置し、LiOH、LiCOから構成された残留リチウムの生成を誘導し、表面リチウム化合物の含有量が4,500ppmである正極活物質を製造した。
【0069】
実施例3)
実施例1で得られた複合酸化物を常温(約25℃)の大気中に5週間放置し、LiOH、LiCOから構成された残留リチウムの生成を誘導し、表面リチウム化合物の含有量が13,200ppmである正極活物質を製造した。
【0070】
(残留リチウムの測定)
電位差法を用いた酸化還元滴定によって残留リチウムの濃度(ppm)を確認した。各実施例及び比較例で得られた正極活物質0.1gを蒸留水に投入し、10分間攪拌して溶液試料を製造した。その後、前記溶液試料に0.1NのHCl溶液を少量ずつ添加して滴定し、pH及び電圧変化を測定して表面の残留リチウムの量を測定した。前記HClの体積変化に対する電圧の変化値(dE/dV[mV/mL])が最大値となる区間の完了点(End point)が全部で2つ現れると滴定を完了した。この後、以下の計算式を適用して滴定された含有量を決定し、その結果を下記[表1]にまとめて示した。以下の計算式において、EPは最初の完了点(End point)、EPは二番目で現れた完了点(end point)を意味する。また、上記攪拌の結果物として得られた溶液の試料のpHを測定した。
【0071】
[計算式]
【数1】
【0072】
【表1】
【0073】
[全固体電池の製造及び電気化学的特性の評価]
全固体電池の製造には、上記比較例及び実施例の正極活物質を用い、固体電解質はLiPSCl、負極はLi-In、導電材はSuper Cを用いた。10mmモールドタイプの圧力セルを用いて全固体電池を構成した。まず、固体電解質100mgを250MPaの圧力で圧縮して固体電解質層を形成した。正極は、正極活物質/固体電解質/スーパーCが70:30:3の重量比で混合された正極複合体を用い、Alメッシュと箔を集電体として用いた。相対電極としては、リチウムとインジウム合金をCuメッシュとCu箔をともに積層して投入した。電極をすべて投入した後、最終的に440MPaの圧力で加圧した後にセルを組み立てた。本研究に用いた電気化学セルの構造及び電極構成は図1のようである。
【0074】
図2A及び図2Bは、それぞれ実施例1と比較例で準備された正極活物質のSEM画像である。正極活物質の実施例1の表面に残留リチウムに起因する表面副産物を確認できる。これに対し、残留リチウムを除去するために水洗処理した比較例の表面は、相対的にきれいな表面を露出していることが確認された。
【0075】
図3Aは、比較例と実施例1で製造された正極活物質を適用した全固体電池の0.05Cでの初期充放電曲線を示す。比較例に比べて実施例1の方が高い充放電容量を示すことを確認した。これは、実施例1の正極を含む電池において充放電時に過電圧が改善されていることを確認でき、これは正極の抵抗が改善されることに起因するものと理解することができる。
【0076】
図3Bは、残留リチウム含有量による充放電特性を比較するためのものであり、残留リチウムの含有量が異なる実施例1と実施例3の正極活物質を適用した全固体電池の0.05Cでの初期充放電曲線を示す。実施例1と実施例3が類似の充放電容量を示すことを確認できる。したがって、残留リチウムの含有量が2,000ppmを超える場合、正極の抵抗改善に効果があることを確認した。
【0077】
図4A及び図4Bは、それぞれ比較例と実施例1の初期充電状態における全固体電池のインピーダンス抵抗を示す。実際電池の抵抗を確認するために、ACインピーダンス(impedance)法を用いて電池の抵抗を測定した。充電状態におけるインピーダンス測定を行い、比較例の全体インピーダンス抵抗は5,000ohmであることに対して、実施例1の抵抗は480ohmに顕著に減少したことが確認された。よって、表面に残留リチウムが相当量存在する正極活物質が界面抵抗の低減に効果があることを確認し、これに起因して充放電容量が改善されたものであることが確認された。
【0078】
図5は、比較例と実施例1で製造された正極活物質を適用した全固体電池のCレート(C-rate)による放電容量を示す。比較例に比べて実施例1は、全C-rate領域で顕著に高い放電容量を発現することを確認できる。これは、上記のインピーダンス結果から確認したように、界面抵抗が顕著に改善されCレート特性が改善される効果である。
【0079】
図6は、比較例と実施例1の正極活物質を適用した全固体電池を初期充放電した後に電池を解体して電極を回収した後、正極のXPSを測定及び分析した結果である。比較例の場合、531eV領域でP-O結合に起因するピークの強度が高く現れ、これは正極活物質と固体電解質との副反応によるリン酸化物を形成したものに起因する。これに反して、実施例1は、当該領域におけるピークがほとんど現れず、これは正極表面に存在する残留リチウムが正極活物質と固体電解質との副反応を抑制する効果があることを意味する。したがって、本発明で提案する正極活物質の表面の残留リチウムは、正極活物質と固体電解質との副反応を抑制し、界面抵抗の低減に優れた効果があることを確認した。
【0080】
本発明の効果を検証するために、比較例と実施例2との比較評価を行った。図7は、比較例と実施例2で製造された正極活物質を適用した全固体電池の0.05Cでの初期充放電曲線を示す。比較例に比べて、実施例2は過電圧が改善され、充放電容量が一部回復することを確認した。これは、実施例2の正極活物質の表面に残留リチウムが再生成されることで、界面抵抗の低減に有利な正極活物質の表面が形成されていることが分かる。
【0081】
図8は、初期充電状態における全固体電池のインピーダンス抵抗を示す。実際電池の抵抗を確認するために、ACインピーダンス(impedance)法を用いて電池の抵抗を測定した。充電状態におけるインピーダンス測定を行い、比較例の全体インピーダンス抵抗は5000ohmであることに比べ、実施例2の抵抗は3200ohmでインピーダンス抵抗が低減することが確認された。したがって、表面に再生成された残留リチウムが正極活物質が界面抵抗低減に有効であることを確認し、これに起因して充放電容量が改善したものであることを確認できる。したがって、実施例2の容量回復は、これによる効果として、全固体電池における残留リチウムが正極活物質の性能改善に寄与する効果を確認した。
【0082】
以上、本発明の実施形態及び図面を参照して説明したが、本発明が属した分野における通常の知識を有する者でれば、前記内容に基づいて本発明の範疇内で様々な応用及び変形を行うことが可能であろう。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
【図
図6
【図
図7
図8
【国際調査報告】