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特表2024-534404ヒト細胞を再プログラミングする方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ヒト細胞を再プログラミングする方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240912BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20240912BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240912BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240912BHJP
   A01K 67/0275 20240101ALI20240912BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240912BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240912BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 8/97 20170101ALI20240912BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20240912BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/074
C12Q1/686 Z
C07K14/47
C12N15/12
A01K67/0275
C12N5/071
C12Q1/02
A61K35/12
A61K38/02
A61P43/00 105
A61P17/00
A61P3/00
A61K8/97
A61K8/64
A61Q19/00
A61K31/7088
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516675
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(85)【翻訳文提出日】2024-03-14
(86)【国際出願番号】 IL2022050631
(87)【国際公開番号】W WO2022264132
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】63/210,030
(32)【優先日】2021-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598025706
【氏名又は名称】イッスム・リサーチ・デベロプメント・カムパニー・オブ・ザ・ヘブリュー・ユニバシティー・オブ・エルサレム リミテッド
【住所又は居所原語表記】Hi Tech Park, The Edmond J. Safra Campus, The Hebrew University of Jerusalem, Givat Ram, P.O.Box 39135, 9139002 Jerusalem, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨッシ・ブガニム
(72)【発明者】
【氏名】モリヤ・ナーマ・シャチャム
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C083
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ79
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR48
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR77
4B063QR80
4B063QS25
4B063QS36
4B063QS38
4B063QX01
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065BD50
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C083AD411
4C083AD601
4C083BB51
4C083CC03
4C084AA02
4C084AA13
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA89
4C084ZB21
4C084ZC21
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZB21
4C086ZC21
4C087AA01
4C087BB65
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB21
4C087ZC21
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
ヒト細胞から人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)を生成する方法が提供される。したがって、細胞からのiTSCの生成を可能にする条件下で、ヒト細胞内で外因性GATA3及びOCT4転写因子を発現する工程を含む方法が提供される。ヒト細胞を若返りさせ及び/又は脱分化する方法も提供される。核酸構築物、タンパク質製剤、単離されたヒト細胞、ヒトiTSC、若返りした細胞、及び脱分化した細胞も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト細胞から人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)を生成する方法であって、前記細胞からのiTSCの生成を可能にする条件下で、細胞内で外因性GATA3及びOCT4転写因子を発現し、それにより、細胞からiTSCを生成する工程を含む方法。
【請求項2】
ヒト細胞から人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)を生成する方法であって、前記細胞からのiTSCの生成を可能にする条件下で、細胞内で外因性GATA3、OCT4、及びKLF転写因子を発現し、それにより、細胞からiTSCを生成する工程を含む方法。
【請求項3】
ヒト細胞を若返りさせ及び/又は脱分化する方法であって、前記細胞の若返り及び/又は脱分化を可能にする条件下で、細胞内で外因性GATA3及びOCT4転写因子を発現し、それにより、若返りした細胞及び/又は脱分化した細胞を生成する工程を含む方法。
【請求項4】
ヒト細胞を若返りさせ及び/又は脱分化する方法であって、前記細胞の若返り及び/又は脱分化を可能にする条件下で、細胞内で外因性GATA3、OCT4、及びKLF転写因子を発現し、それにより、若返りした細胞及び/又は脱分化した細胞を生成する工程を含む方法。
【請求項5】
前記発現する工程が過渡的に発現する工程を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞内で外因性c-MYC転写因子を発現する工程を更に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞内で外因性KLF4転写因子を発現する工程を更に含む、請求項1、3、及び5から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞内で外因性KLF転写因子を発現する工程を更に含む、請求項1、3及び5から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記条件は、発現する工程が、前記外因性転写因子の前記細胞内への導入後、少なくとも14日間である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
上記条件は、発現する工程が、前記外因性転写因子の前記細胞内への導入後、30日を超えない、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
上記条件は、発現する工程が、前記外因性転写因子の前記細胞内への導入後、少なくとも1日間である、請求項3から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
上記条件は、発現する工程が、前記外因性転写因子の前記細胞内への導入後、25日間未満である、請求項3から8及び11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記iTSCが、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーのうち少なくとも1つによって決定した場合、前記外因性転写因子を発現しない、請求項1から2及び5から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記若返りした細胞及び/又は脱分化した細胞が、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーのうち少なくとも1つによって決定した場合、前記外因性転写因子を発現しない、請求項3から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記発現する工程が、前記転写因子をコードするポリヌクレオチドを前記細胞内に導入する工程を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ポリヌクレオチドがRNAである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
非iTSCから前記iTSCを単離する工程を含む、請求項1から2及び5から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
若返りしていない細胞から前記若返りした細胞を単離する工程を含む、請求項3から4及び5から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
脱分化していない細胞から前記脱分化した細胞を単離する工程を含む、請求項3から4及び5から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
GATA3及びOCT4転写因子をコードする核酸配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む核酸構築物又はシステム。
【請求項21】
GATA3、OCT4、及びKLF転写因子をコードする核酸配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む核酸構築物又はシステム。
【請求項22】
前記少なくとも1つのポリヌクレオチドが、c-MYC転写因子をコードする核酸配列を更に含む、請求項20から21のいずれか一項に記載の核酸構築物又はシステム。
【請求項23】
前記少なくとも1つのポリヌクレオチドが、KLF4転写因子をコードする核酸配列を更に含む、請求項20及び22のいずれか一項に記載の核酸構築物又はシステム。
【請求項24】
前記少なくとも1つのポリヌクレオチドが、KLF転写因子をコードする核酸配列を更に含む、請求項20及び22のいずれか一項に記載の核酸構築物又はシステム。
【請求項25】
前記少なくとも1つのポリヌクレオチドがRNAである、請求項20から24のいずれか一項に記載の核酸構築物又はシステム。
【請求項26】
GATA3及びOCT4転写因子ポリペプチドを少なくとも20%の純度レベルで含むタンパク質製剤。
【請求項27】
GATA3、OCT4、及びKLF転写因子ポリペプチドを少なくとも20%の純度レベルで含むタンパク質製剤。
【請求項28】
c-MYC転写因子ポリペプチドを更に含む、請求項26に記載のタンパク質製剤。
【請求項29】
KLF4転写因子ポリペプチドを更に含む、請求項26及び28のいずれか一項に記載のタンパク質製剤。
【請求項30】
KLF転写因子ポリペプチドを更に含む、請求項26及び28のいずれか一項に記載のタンパク質製剤。
【請求項31】
外因性のGATA3及びOCT4転写因子を発現する単離されたヒト細胞。
【請求項32】
外因性のGATA3、OCT4、及びKLF転写因子を発現する単離されたヒト細胞。
【請求項33】
外因性c-MYC転写因子を更に発現する、請求項31から32のいずれか一項に記載の単離された細胞。
【請求項34】
外因性KLF4転写因子を更に発現する、請求項31及び33のいずれか一項に記載の単離された細胞。
【請求項35】
外因性KLF転写因子を更に発現する、請求項31及び33のいずれか一項に記載の単離された細胞。
【請求項36】
前記細胞が体細胞である、請求項1から19又は31から35のいずれか一項に記載の方法又は単離された細胞。
【請求項37】
前記細胞が、角化細胞、造血細胞、網膜細胞、線維芽細胞、肝細胞、心細胞、腎細胞、膵細胞、及びニューロンからなる群から選択される、請求項36に記載の方法又は単離された細胞。
【請求項38】
前記細胞が造血細胞又は間充織幹細胞である、請求項36に記載の方法又は単離された細胞。
【請求項39】
請求項1から2、5から10、13、15から17、及び36から38のいずれか一項に記載の方法に従って得られる単離された人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)。
【請求項40】
請求項3から10、14から16、18から19、及び36から38のいずれか一項に記載の方法に従って得られる単離された若返りした及び/又は脱分化した細胞。
【請求項41】
細胞の単離された集団であって、前記細胞の少なくとも80%が請求項39に記載のiTSCである、集団。
【請求項42】
細胞の単離された集団であって、前記細胞の少なくとも80%が請求項40に記載の若返りした及び/又は脱分化した細胞である、集団。
【請求項43】
細胞の単離された集団であって、前記細胞の少なくとも80%が請求項31から38のいずれか一項に記載の細胞である、集団。
【請求項44】
請求項39及び41のいずれか一項に記載のiTSC、請求項20から25のいずれか一項に記載の構築物若しくはシステム、又は請求項26から30のいずれか一項に記載のタンパク質製剤を含む、単離された会合体、オルガノイド、胎盤、発生中の胚、又は合成胚。
【請求項45】
請求項39及び41のいずれか一項に記載のiTSC、請求項20から25のいずれか一項に記載の構築物若しくはシステム、又は請求項26から30のいずれか一項に記載のタンパク質製剤を胎盤、発生中の胚、又は合成胚に導入する工程を含む、胎盤、発生中の胚、又は合成胚を強化する方法。
【請求項46】
トロホブラスト細胞を含む会合体又はオルガノイドを生成する方法であって、請求項39及び41のいずれか一項に記載のiTSC、請求項20から25のいずれか一項に記載の構築物若しくはシステム、又は請求項26から30のいずれか一項に記載のタンパク質製剤をスカフォールド又はマトリックスに導入する工程を含む方法。
【請求項47】
それを必要とする対象におけるトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に関連する障害を処置及び/又は防止する方法であって、治療有効量の請求項39及び41のいずれか一項に記載のiTSC又は細胞の集団、請求項20から25のいずれか一項に記載の構築物若しくはシステム、又は請求項26から30のいずれか一項に記載のタンパク質製剤を対象に投与し、それにより、対象におけるトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に関連する障害を処置及び/又は防止する工程を含む方法。
【請求項48】
それを必要とする対象における加齢に関連する疾患を処置及び/又は防止する方法であって、治療有効量の請求項40及び42のいずれか一項に記載の細胞若しくは細胞の集団、請求項20から25のいずれか一項に記載の構築物若しくはシステム、又は請求項26から30のいずれか一項に記載のタンパク質製剤を対象に投与し、それにより、対象における疾患を処置及び/又は防止する工程を含む方法。
【請求項49】
それを必要とする対象における化粧ケアを実施する方法であって、治療有効量の請求項20から25のいずれか一項に記載の構築物若しくはシステム、又は請求項26から30のいずれか一項に記載のタンパク質製剤を対象の皮膚に塗布し、それにより、化粧ケアを実施する工程を含む方法。
【請求項50】
前記KLF転写因子がKLF4、KLF5、KLF6、及びKLF15からなる群から選択される、請求項2、4から6、8から19、21から25、27から28、30、32から33、35から40、及び41から49のいずれか一項に記載の方法、核酸構築物若しくはシステム、タンパク質製剤、単離された細胞、細胞の単離された集団若しくは会合体、オルガノイド、胎盤、発生中の胚、又は合成胚。
【請求項51】
前記KLF転写因子がKLF4及びKLF5からなる群から選択される、請求項2、4から6、8から19、21から25、27から28、30、32から33、35から40、及び41から49のいずれか一項に記載の方法、核酸構築物若しくはシステム、タンパク質製剤、単離された細胞、細胞の単離された集団若しくは会合体、オルガノイド、胎盤、発生中の胚、又は合成胚。
【請求項52】
前記KLF転写因子が少なくとも2つの区別できるKLF転写因子を含む、請求項2、4から6、8から19、21から25、27から28、30、32から33、35から40、及び41から51のいずれか一項に記載の方法、核酸構築物若しくはシステム、タンパク質製剤、単離された細胞、細胞の単離された集団若しくは会合体、オルガノイド、胎盤、発生中の胚、又は合成胚。
【請求項53】
前記KLF転写因子が少なくともKLF4及びKLF5を含む、請求項2、4から6、8から19、21から25、27から28、30、32から33、35から40、及び41から52のいずれか一項に記載の方法、核酸構築物若しくはシステム、タンパク質製剤、単離された細胞、細胞の単離された集団若しくは会合体、オルガノイド、胎盤、発生中の胚、又は合成胚。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年6月13日出願の米国特許出願第63/210,030号の優先権の恩恵を主張する。該出願の内容は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
2022年6月9日に作成し、本出願の提出と同時に提出した、114,688バイトを含み、92637SequenceListing.txtと題するASCIIファイルは、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
本発明の分野及び背景
本発明は、その一部の実施形態において、ヒト細胞を再プログラミングする方法に関し、より詳細には、しかしそれだけに限らないが、ヒト細胞を人工トロホブラスト幹細胞(induced trophoblast stem cell)(iTSC)又は若返り細胞に再プログラミングする方法に関する。
【0004】
再生医学は、細胞の移植を通じて、失われた又は損傷を受けた人体中の細胞、組織、又は臓器を置き換えることを目的とする、新たな拡大しつつある分野である。胚性幹細胞(ESC)は、長期の成長や自己更新が可能で、胎児の身体のあらゆる細胞、組織、及び臓器を生じることができる多能性細胞である。即ち、ESCは分化した多様な細胞型の源として細胞療法のための大きな可能性を有している。そのような可能性を実現するための僅かな主要な障害は、奇形腫形成のリスク、レシピエントによるESC由来細胞の同種免疫拒絶、及び倫理的な問題である。人工多能性幹細胞(iPSC)の発見及び直接変換のアプローチによって、これらの課題を解決する魅力的な進路が開かれた。
【0005】
主要制御因子は、細胞の同一性を決定する最も有力な転写因子である。それぞれの細胞型は主要制御因子の特定の組合せを発現し、これらが一緒に細胞の遺伝子発現プログラムを調節する。主要制御因子とともに、細胞中におけるそれらの発現が安定な細胞状態を維持するために重要である数千の転写因子、共因子、及びクロマチン修飾因子が存在する。それぞれの細胞型のトランスクリプトームはこれらの因子によって厳しく制御されており、それにより、細胞はその機能を適正に実行することが可能になる。細胞の同一性の調節において主要制御因子がいかに強力であるかを実証した最初の報告は1980年代であり、このときDavisらが、線維芽細胞におけるMyoDの異所性発現によって線維芽細胞を筋細胞様の細胞に変換することができることを示した[Davisら、Cell(1987)51、987~1000頁]。ほぼ20年後に、Xieらは、C/EBPα/βの強制的発現によって、分化したB細胞をマクロファージ様の細胞に変換できることを実証した[Xieら、Cell(2004)117、663~676頁]。これら2つの研究は、細胞の同一性と細胞の可塑性とのバランスがいかに脆弱で微妙なものであるかを実証し、また主要制御因子が過発現された場合に細胞の運命を左右し得ることを示唆している。
【0006】
2006年に、2名の日本人科学者、Takahashi及びYamanakaが、4つの転写因子、即ち、Oct4、Sox2、Klf4、及びMyc(OSKM)の導入によって線維芽細胞を機能性胚性幹細胞様の細胞(人工多能性幹細胞(iPSC)とも命名された)に再プログラミングすることができることを示したときに、細胞の可塑性について我々が考えるために用いる方法が変革された[Takahashi, K.及びYamanaka, S.、Cell(2006)126、663~676頁]。僅か4つの因子が細胞のエピゲノムをリセットするために十分であるとの発想は、主要制御因子の特定のサブセットを用い、多能性の状態を回避することによって、様々な成体細胞を個体発生的に異なるリニエージに由来する他の体細胞型に変換するために科学者が試みてきた新たな進路を開くものであった。このアプローチを用いて、造血細胞、様々なニューロン細胞、心筋細胞、肝細胞、胚性セルトリ細胞、内皮細胞、及びRPE等の細胞型のいくつかのサブセットが、様々な体細胞から変換された。
【0007】
哺乳動物においては、胎盤の特化した細胞型が、妊娠中に胎児と母体の間の生理学的な交換を媒介する。これらの分化した細胞の先駆体がトロホブラスト幹細胞(TSC)である。着床前の胚において、トロホブラスト細胞は、多能性内部細胞塊とは区別でき、胚盤胞の最外層を形成する最初の分化細胞である[Roberts, R. M.及びFisher, S. J.、Biology of reproduction(2011)84、412~421頁]。トロホブラスト細胞のリニエージは、胎盤の主要な構造的及び機能的な成分の最も基本的な細胞型の源である。したがって、ヒトの全ての妊娠の3分の1が胎盤関連の障害によって影響されるように、TSCは多大な生医学的関連性を有している[Jamesら、Placenta(2014)35、77~84頁]。
【0008】
マウスにおいては、TSCは、胚盤胞極性栄養外胚葉(TE)又は着床後に極性TEに起源する胚体外外胚葉(ExE)の増殖から単離し培養することができる[例えば、Latos及びHemberger、(2014)Placenta. 35 Suppl: S81~5頁]。ヒトのTSC(hTSC)をインビトロで単離し増殖させる全ての試みは、長い間、失敗してきた。極めて最近、hTSCの培養が初めて成功した[Okaeら、Cell stem cell (2018)22、50~63頁 e56]。これらのhTSCは、分化に続いて全ての主要なトロホブラスト細胞型を生じ、初代胎盤細胞と同様の転写的及び後成的なシグネチャーを呈し、NOD/SCIDマウスに注射したときにトロホブラスト細胞の病変を生じ、完全に機能的なhTSCであることを示唆している(Okaeら、2018)。
【0009】
胚性幹細胞(ESC)及び体細胞、例えば線維芽細胞からの人工TSC様細胞(iTSC)の生成は、以前記載されている(Cambuliら、2014; Kuckenbergら、2010; Luら、2008; Ngら、2008; Nishiokaら、2009; Niwaら、2000; Niwaら、2005; Ralstonら、2010;及び15-17)。しかし、全てのモデルにおいて、リニエージの変換は不完全なままであり、安定な真のTSC表現型を付与することはできなかった。最近、マウスの4つの主要な栄養外胚葉(TE)遺伝子、即ちGATA3、Eomes、Tfap2c、及びMyc(GETM)の過渡的な異所性発現により、線維芽細胞が安定で完全に機能的なマウス人工トロホブラスト幹細胞(miTSC)に再プログラミングされることが示された[Benchetritら、Cell stem cell (2015)17、543~556頁]。
【0010】
さらなる背景技術としては次のものが含まれる。
米国特許第7642091号;
米国特許第6630349号;
米国特許出願公開第20050191742号;
国際出願公開第WO 2006052646号;
カナダ特許出願公開第CA 2588088号;
国際出願公開第WO2016/005985号;及び
Fogartyら、Nature(2017)550(7674): 67~73頁。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7642091号
【特許文献2】米国特許第6630349号
【特許文献3】米国特許出願公開第20050191742号
【特許文献4】国際出願公開第WO 2006052646号
【特許文献5】カナダ特許出願公開第CA 2588088号
【特許文献6】国際出願公開第WO2016/005985号
【特許文献7】国際出願公開第WO 2013049389号
【特許文献8】米国特許第8557972号
【特許文献9】国際特許出願第WO 2014085593号
【特許文献10】国際特許出願第WO 2009071334号
【特許文献11】国際特許出願第WO 2011146121号
【特許文献12】米国特許第8771945号
【特許文献13】米国特許第8586526号
【特許文献14】米国特許第6774279号
【特許文献15】米国特許出願公開第20030232410号
【特許文献16】米国特許出願公開第20050026157号
【特許文献17】米国特許出願公開第20060014264号
【特許文献18】米国特許第5,464,764号
【特許文献19】米国特許第5,487,992号
【特許文献20】米国特許第4,666,828号
【特許文献21】米国特許第4,683,202号
【特許文献22】米国特許第4,801,531号
【特許文献23】米国特許第5,192,659号
【特許文献24】米国特許第5,272,057号
【特許文献25】米国特許第3,791,932号
【特許文献26】米国特許第3,839,153号
【特許文献27】米国特許第3,850,752号
【特許文献28】米国特許第3,850,578号
【特許文献29】米国特許第3,853,987号
【特許文献30】米国特許第3,867,517号
【特許文献31】米国特許第3,879,262号
【特許文献32】米国特許第3,901,654号
【特許文献33】米国特許第3,935,074号
【特許文献34】米国特許第3,984,533号
【特許文献35】米国特許第3,996,345号
【特許文献36】米国特許第4,034,074号
【特許文献37】米国特許第4,098,876号
【特許文献38】米国特許第4,879,219号
【特許文献39】米国特許第5,011,771号
【特許文献40】米国特許第5,281,521号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Davisら、Cell(1987)51、987~1000頁
【非特許文献2】Xieら、Cell(2004)117、663~676頁
【非特許文献3】Takahashi, K.及びYamanaka, S.、Cell(2006)126、663~676頁
【非特許文献4】Roberts, R. M.及びFisher, S. J.、Biology of reproduction(2011)84、412~421頁
【非特許文献5】Jamesら、Placenta(2014)35、77~84頁
【非特許文献6】Latos及びHemberger、(2014)Placenta. 35 Suppl: S81~5頁
【非特許文献7】Okaeら、Cell stem cell(2018)22、50~63頁 e56
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【非特許文献17】「Molecular Cloning: A laboratory Manual」Sambrookら(1989)
【非特許文献18】「Current Protocols in Molecular Biology」I~III巻、Ausubel, R. M.編(1994)
【非特許文献19】Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons、Baltimore、Maryland(1989)
【非特許文献20】Perbal、「A Practical Guide to Molecular Cloning」、John Wiley & Sons、New York(1988)
【非特許文献21】「Oligonucleotide Synthesis」Gait, M. J.編(1984)
【非特許文献22】Quantitative Drug Design、C.A. Ramsden Gd.、17.2章、F. Choplin Pergamon Press(1992)
【非特許文献23】Fukushige, S.及びIkeda, J. E.: Trapping of mammalian promoters by Cre-lox site-specific recombination. DNA Res 3(1996)73~50頁
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【非特許文献27】Sambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Springs Harbor Laboratory、New York(1989、1992)
【非特許文献28】Changら、Somatic Gene Therapy、CRC Press、Ann Arbor、Mich.(1995)
【非特許文献29】Vegaら、Gene Targeting、CRC Press、Ann Arbor Mich.(1995)
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【非特許文献34】Ausubelら編、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates,(1989)
【非特許文献35】L Theodoreら [The Journal of Neuroscience,(1995)15(11): 7158~7167頁]
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【非特許文献38】Thomson JAら、(1998). Science 282: 1145~7頁
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【非特許文献41】Gafni Oら、Nature. 2013 Dec 12;504(7479):282~6頁
【非特許文献42】Manipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual、第4版、Richard Behringer; Marina Gertsenstein; Kristina Vintersten Nagy; Andras Nagy
【非特許文献43】Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.、Easton、PA
【非特許文献44】Finglら、1975、「The Pharmacological Basis of Therapeutics」、第1章、1頁
【非特許文献45】Watsonら、「Recombinant DNA」、Scientific American Books、New York;
【非特許文献46】Birrenら(編)「Genome Analysis: A Laboratory Manual Series」、1~4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York(1998)
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【非特許文献48】Freshney, Wiley-Liss, N. Y.(1994)による「Culture of Animal Cells - A Manual of Basic Technique」、第3版
【非特許文献49】「Current Protocols in Immunology」I~III巻、Coligan J. E.編(1994)
【非特許文献50】Stitesら(編)、「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、Norwalk、CT(1994)
【非特許文献51】Mishell及びShiigi(編)、「Selected Methods in Cellular Immunology」、W. H. Freeman and Co.、New York(1980)
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【非特許文献54】「Transcription and Translation」Hames, B. D.,及びHiggins S. J.編(1984)
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【非特許文献58】「Methods in Enzymology」1~317巻、Academic Press
【非特許文献59】「PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、San Diego、CA(1990)
【非特許文献60】Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual」CSHL Press(1996)
【非特許文献61】Boyleら、Genome Biol. 2012 Oct 3;13(10):R92頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、ヒト細胞から人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)を生成する方法が提供され、本方法は、細胞からのiTSCの生成を可能にする条件下で、細胞内で外因性GATA3及びOCT4転写因子を発現し、それにより、細胞からiTSCを生成する工程を含む。
【0014】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、ヒト細胞から人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)を生成する方法が提供され、本方法は、細胞からのiTSCの生成を可能にする条件下で、細胞内で外因性GATA3、OCT4、及びKLF転写因子を発現し、それにより、細胞からiTSCを生成する工程を含む。
【0015】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、ヒト細胞を若返りさせ及び/又は脱分化する方法が提供され、本方法は、細胞の若返り及び/又は脱分化を可能にする条件下で、細胞内で外因性GATA3及びOCT4転写因子を発現し、それにより、若返りした細胞及び/又は脱分化した細胞を生成する工程を含む。
【0016】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、ヒト細胞を若返りさせ及び/又は脱分化する方法が提供され、本方法は、細胞の若返り及び/又は脱分化を可能にする条件下で、細胞内で外因性GATA3、OCT4、及びKLF転写因子を発現し、それにより、若返りした細胞及び/又は脱分化した細胞を生成する工程を含む。
【0017】
本発明の一部の実施形態によれば、発現する工程は、過渡的に発現する工程を含む。
【0018】
本発明の一部の実施形態によれば、本方法は、細胞内で外因性c-MYC転写因子を発現する工程を更に含む。
【0019】
本発明の一部の実施形態によれば、本方法は、細胞内で外因性KLF4転写因子を発現する工程を更に含む。
【0020】
本発明の一部の実施形態によれば、本方法は、細胞内で外因性KLF転写因子を発現する工程を更に含む。
【0021】
本発明の一部の実施形態によれば、上記条件は、発現する工程が外因性転写因子の細胞内への導入後、少なくとも14日間であるようなものである。
【0022】
本発明の一部の実施形態によれば、上記条件は、発現する工程が外因性転写因子の細胞内への導入後、30日を超えないようなものである。
【0023】
本発明の一部の実施形態によれば、上記条件は、発現する工程が外因性転写因子の細胞内への導入後、少なくとも1日間であるようなものである。
【0024】
本発明の一部の実施形態によれば、上記条件は、発現する工程が外因性転写因子の細胞内への導入後、25日間未満であるようなものである。
【0025】
本発明の一部の実施形態によれば、iTSCは、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーのうち少なくとも1つによって決定した場合、外因性転写因子を発現しない。
【0026】
本発明の一部の実施形態によれば、若返りした細胞及び/又は脱分化した細胞は、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーのうち少なくとも1つによって決定した場合、外因性転写因子を発現しない。
【0027】
本発明の一部の実施形態によれば、発現する工程は、転写因子をコードするポリヌクレオチドを細胞内に導入する工程を含む。
【0028】
本発明の一部の実施形態によれば、ポリヌクレオチドはDNAである。
【0029】
本発明の一部の実施形態によれば、ポリヌクレオチドはRNAである。
【0030】
本発明の一部の実施形態によれば、本方法は、非iTSCからiTSCを単離する工程を含む。
【0031】
本発明の一部の実施形態によれば、本方法は、iTSCの生成をアッセイする工程を含む。
【0032】
本発明の一部の実施形態によれば、本方法は、若返りしていない細胞から若返りした細胞を単離する工程を含む。
【0033】
本発明の一部の実施形態によれば、本方法は、若返りをアッセイする工程を含む。
【0034】
本発明の一部の実施形態によれば、本方法は、脱分化していない細胞から脱分化した細胞を単離する工程を含む。
【0035】
本発明の一部の実施形態によれば、本方法は、脱分化をアッセイする工程を含む。
【0036】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、GATA3及びOCT4転写因子をコードする核酸配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む核酸構築物又はシステムが提供される。
【0037】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、GATA3、OCT4、及びKLF転写因子をコードする核酸配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む核酸構築物又はシステムが提供される。
【0038】
本発明の一部の実施形態によれば、少なくとも1つのポリヌクレオチドは、c-MYC転写因子をコードする核酸配列を更に含む。
【0039】
本発明の一部の実施形態によれば、少なくとも1つのポリヌクレオチドは、KLF4転写因子をコードする核酸配列を更に含む。
【0040】
本発明の一部の実施形態によれば、少なくとも1つのポリヌクレオチドは、KLF転写因子をコードする核酸配列を更に含む。
【0041】
本発明の一部の実施形態によれば、少なくとも1つのポリヌクレオチドはRNAである。
【0042】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、GATA3及びOCT4転写因子ポリペプチドを少なくとも20%の純度レベルで含むタンパク質製剤が提供される。
【0043】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、GATA3、OCT4、及びKLF転写因子ポリペプチドを少なくとも20%の純度レベルで含むタンパク質製剤が提供される。
【0044】
本発明の一部の実施形態によれば、タンパク質製剤はc-MYC転写因子ポリペプチドを更に含む。
【0045】
本発明の一部の実施形態によれば、タンパク質製剤はKLF4転写因子ポリペプチドを更に含む。
【0046】
本発明の一部の実施形態によれば、タンパク質製剤はKLF転写因子ポリペプチドを更に含む。
【0047】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、外因性のGATA3及びOCT4転写因子を発現する単離されたヒト細胞が提供される。
【0048】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、外因性のGATA3、OCT4、及びKLF転写因子を発現する単離されたヒト細胞が提供される。
【0049】
本発明の一部の実施形態によれば、単離された細胞は外因性c-MYC転写因子を更に発現する。
【0050】
本発明の一部の実施形態によれば、単離された細胞は外因性KLF4転写因子を更に発現する。
【0051】
本発明の一部の実施形態によれば、単離された細胞は外因性KLF転写因子を更に発現する。
【0052】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は、転写因子をコードするDNA分子を含む。
【0053】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は、転写因子をコードするRNA分子を含む。
【0054】
本発明の一部の実施形態によれば、RNAは改変されたRNAである。
【0055】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は転写因子のタンパク質分子を含む。
【0056】
本発明の一部の実施形態によれば、発現する工程は転写因子の天然の遺伝子の天然の位置及び/又は発現レベルにない。
【0057】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は体細胞である。
【0058】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は線維芽細胞である。
【0059】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は、角化細胞、造血細胞、網膜細胞、線維芽細胞、肝細胞、心細胞、腎細胞、膵細胞、及びニューロンからなる群から選択される。
【0060】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は造血細胞又は間充織幹細胞である。
【0061】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本方法に従って得られる単離された人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)が提供される。
【0062】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本方法に従って得られる単離された若返りした及び/又は脱分化した細胞が提供される。
【0063】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、ゲノムの中に一体化されたGATA3及びOCT4転写因子の異所性DNAを含む単離されたヒト人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)が提供される。
【0064】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、ゲノムの中に一体化されたGATA3、OCT4、及びKLF転写因子の異所性DNAを含む単離されたヒト人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)が提供される。
【0065】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は、ゲノムの中に一体化されたc-MYC転写因子の異所性DNAを更に含む。
【0066】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は、ゲノムの中に一体化されたKLF4転写因子の異所性DNAを更に含む。
【0067】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞は、ゲノムの中に一体化されたKLF転写因子の異所性DNAを更に含む。
【0068】
本発明の一部の実施形態によれば、単離されたiTSCは、トロホブラスト幹細胞の分化レベルを培養中、少なくとも20継代の間、維持する。
【0069】
本発明の一部の実施形態によれば、iTSCは、
(i)TSCの形態;
(ii)免疫細胞化学及び/又はPCRアッセイによって決定されるTSCマーカー;
(iii)免疫細胞化学及び/又はPCRアッセイによって決定される線維芽細胞特異的マーカーの非存在;
(iv)RNAシーケンシングアッセイによって決定される、胚盤胞由来のTSCと同様のトランスクリプトーム;
(v)染色体マイクロアレイ解析によって決定される、胚盤胞由来のTSCと同様のゲノム安定性;
(vi)重硫酸塩アッセイによって決定される、胚盤胞由来のTSCと同様のメチル化パターン;
(vii)形態、フローサイトメトリー、及び/又はPCRアッセイによって決定される、未分化状態を支持する因子を含まない培地中又は方向付けられた分化を促す培地中における培養の後のインビトロ分化;
(viii)形態、免疫細胞化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、及び/又はPCRアッセイによって決定される、栄養外胚葉リニエージの派生体へのインビトロ及び/又はインビボの分化;
(ix)形態、免疫細胞化学、免疫細胞化学、及び/又はPCRアッセイによって決定される、三次元オルガノイド培養を形成する能力;
(x)組織学的評価によって決定される、トロホブラスト細胞病変のインビボ形成;
(xi)(i)~(x)のアッセイのうち少なくとも1つによって決定される、培養中の少なくとも20継代についての分化レベルの不変
の少なくとも1つによって特徴付けられる。
【0070】
本発明の一部の実施形態によれば、メチル化パターンは、体細胞及び/又はESC細胞と比較した、ELF5プロモーター領域の低メチル化、及び/又はNanogプロモーターの高メチル化を含む。
【0071】
本発明の一部の実施形態によれば、若返りした細胞は、
(i)本方法に供されなかった同じ型及び発生段階の細胞の形態;
(ii)免疫染色、ウェスタンブロット、及び/又はPCRアッセイによって決定される、本方法に供されなかった同じ型及び発生段階の細胞のマーカー;
(iii)RNAシーケンシングアッセイによって決定される遺伝子を例外として、本方法に供されなかった同じ型及び発生段階の細胞と同様の、年齢に関連する遺伝子を例外とするトランスクリプトーム;
(iv)重硫酸塩アッセイによって決定される、本方法に供されなかった同じ型及び発生段階の細胞とは区別できるメチル化パターン
のうち少なくとも1つによって特徴付けられる。
【0072】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、単離された細胞及び培養培地を含む細胞培養物が提供される。
【0073】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、単離された細胞及び培養培地を含む細胞培養物が提供される。
【0074】
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は、ヒトTSCの培養を支持することが示された成分の組成物を含む。
【0075】
本発明の一部の実施形態によれば、単離された細胞は細胞株である。
【0076】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、単離された細胞の細胞株が提供される。
【0077】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、細胞の少なくとも80%がiTSCである、細胞の単離された集団が提供される。
【0078】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、細胞の少なくとも80%が若返りした及び/又は脱分化した細胞である、細胞の単離された集団が提供される。
【0079】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、細胞の少なくとも80%が本明細書で開示する細胞である、細胞の単離された集団が提供される。
【0080】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、iTSC又は細胞の集団及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物が提供される。
【0081】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、構築物若しくはシステム又はタンパク質製剤及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物が提供される。
【0082】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、構築物若しくはシステム又はタンパク質製剤及び化粧用の担体又は希釈剤を含む化粧用組成物が提供される。
【0083】
本発明の一部の実施形態によれば、化粧品は、クリーム、顔マスク、スクラブ、石鹸、洗浄液、又はゲルとして処方される。
【0084】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、iTSC、構築物若しくはシステム、又はタンパク質製剤を含む、単離された会合体、オルガノイド、胎盤、発生中の胚又は合成胚が提供される。
【0085】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、iTSC、構築物若しくはシステム、又はタンパク質製剤を胎盤、発生中の胚、又は合成胚に導入する工程を含む、胎盤、発生中の胚、又は合成胚を強化する方法が提供される。
【0086】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、トロホブラスト細胞を含む会合体又はオルガノイドを生成する方法が提供され、本方法は、iTSC、構築物若しくはシステム、又はタンパク質製剤をスカフォールド又はマトリックスに導入する工程を含む。
【0087】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、それを必要とする対象におけるトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に関連する障害を処置及び/又は防止する方法が提供され、本方法は、治療有効量のiTSC若しくは細胞の集団、医薬組成物、構築物若しくはシステム、又はタンパク質製剤を対象に投与し、それにより、対象におけるトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に関連する障害を処置及び/又は防止する工程を含む。
【0088】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、それを必要とする対象における加齢に関連する疾患を処置及び/又は防止する方法が提供され、本方法は、治療有効量の細胞若しくは細胞の集団、医薬組成物、構築物若しくはシステム、又はタンパク質製剤を対象に投与し、それにより、対象における疾患を処置及び/又は防止する工程を含む。
【0089】
本発明の一部の実施形態によれば、疾患は視覚関連疾患である。
【0090】
本発明の一部の実施形態によれば、疾患は、緑内障、白内障、高度近視、網膜色素変性症、錐体ジストロフィー、錐体杆体ジストロフィー、アッシャー症候群、スタルガルト病、バルデ・ビードル症候群、ベスト病、及び遺伝性黄斑変性からなる群から選択される。
【0091】
本発明の一部の実施形態によれば、疾患は、骨髄異形成症候群(MDS)、がん、移植片拒絶、グラフト対宿主疾患(GVHD)、感染性疾患、サイトカインストーム、放射線障害、神経変性疾患、及び創傷からなる群から選択される。
【0092】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、それを必要とする対象における化粧ケアを実施する方法が提供され、本方法は、治療有効量の構築物若しくはシステム、タンパク質製剤、又は化粧法組成物を対象の皮膚に塗布し、それにより、化粧ケアを実施する工程を含む。
【0093】
本発明の一部の実施形態によれば、KLF転写因子はKLF4、KLF5、KLF6、及びKLF15からなる群から選択される。
【0094】
本発明の一部の実施形態によれば、KLF転写因子はKLF4及びKLF5からなる群から選択される。
【0095】
本発明の一部の実施形態によれば、KLF転写因子は少なくとも2つの区別できるKLF転写因子を含む。
【0096】
本発明の一部の実施形態によれば、KLF転写因子は少なくともKLF4及びKLF5を含む。
【0097】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、トロホブラスト細胞の発生及び/又は活性を調節することができる薬剤を特定する方法が提供され、本方法は、
(i)単離されたiTSC又は細胞の集団、会合体、オルガノイド、又は胎盤を候補薬剤と接触させる工程;及び
(ii)薬剤との接触の後で、単離されたiTSC、細胞の集団、会合体、オルガノイド、又は胎盤の発生及び/又は活性を、薬剤がない場合の単離されたiTSC、細胞の集団、会合体、オルガノイド、又は胎盤の発生及び/又は活性と比較する工程
を含み、
薬剤がない場合の単離されたiTSC、細胞の集団、会合体、オルガノイド、又は胎盤の発生及び/又は活性と比較して所定のレベルを超える単離されたiTSC、細胞の集団、会合体、オルガノイド、又は胎盤の発生及び/又は活性に対する薬剤の効果は、その薬物がトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性を調節することを示す。
【0098】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、トロホブラスト細胞によって産生される化合物を得る方法が提供され、本方法は、単離されたiTSC、細胞の集団、又は細胞培養物を培養し、細胞によって分泌される化合物を培養培地から単離し、それにより、トロホブラスト細胞によって産生される化合物を得る工程を含む。
【0099】
他に定義しない限り、本明細書において使用する全ての技術用語及び/又は科学用語は、本発明が関係する技術における当業者によって共通に理解される同じ意味を有する。本発明の実施形態の実施又は試験において本明細書に記載した方法及び材料と同様又は等価の方法及び材料を使用することができるが、例示的な方法及び/又は材料を以下に記載する。不一致が生じた場合には、定義を含む特許明細書が優先する。更に、材料、方法、及び実施例は説明のためのみであって、必ずしも限定することを意図していない。
【0100】
本発明の一部の実施形態を、添付した図面を参照して、例としてのみ、ここに記載する。ここで図面を詳細に参照して、呈示した詳細は例としてであって、本発明の実施形態の説明的議論を目的としていることを強調する。これに関して、図面とともに説明を取り上げることによって、本発明の実施形態をいかに実施するかが当業者には明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1図1A ~Eは、ヒト線維芽細胞がGATA3、OCT4、KLF4、及びMYC(GOKM)の異所性発現によってトロホブラスト幹細胞様細胞に変換されることを実証する図である。(A)ヒト包皮線維芽細胞(HFF、KEN又はPCS201)をヒト人工トロホブラスト幹細胞(hiTSC)に再プログラミングするプロトコルの図式的表現。M2rtTA含有HFF(7~14継代)を、指示した転写因子をコードするレンチウイルスベクターに感染させた。感染したHFFをドキシサイクリン(dox)に28日間、曝露し、一方、スキームに図示したように、関連する培地を交換した。dox中止後7~10日で、安定な上皮コロニーを採取し、フィーダー含有プレートに播種した。完全に安定化するまで、コロニーを継代した。(B)ヒト胚盤胞由来の2つのTSC株、即ちhbdTSC#2及びhbdTSC#9、並びに代表的な4つのhiTSCコロニー、即ちKEN起源のhiTSC#1及びhiTSC34、又はPCS201起源のhiTSC#11及びhiTSC#12のHFF株の明視野像。(C-D)4つのhiTSCコロニー、2つのhbdTSC株、2つのHFF株、hESC、及びiPSCにおけるTSC特異的なTFAP2C、TP63、KRT7、及び内因性のGATA3(C)、並びに間葉特異的な遺伝子、THY1、ZEB1、VIM、及びACTA2(D)についてのmRNAレベルのqPCR解析。結果は最大発現試料に対する相対値として示し、ハウスキーピング対照遺伝子GAPDHのmRNAレベルに対して正規化した。バーは技術的重複の間の標準偏差を示す。独立した3回の実験からの典型的な実験を示す。(E)TSCマーカーであるGATA2、GATA3、KRT7、上皮マーカーであるKRT18及びCDH1、並びに間葉マーカーであるVIMについての、PFA固定したhbdTSC株であるhbdTSC#9及び代表的なhiTSCクローンであるhiTSC#1の免疫蛍光染色。実験は2つのhbdTSC株及び2つのhiTSC株について繰り返し、同様の結果が得られた。
図2図2A~Cは、hiTSC及びhbdTSCが極めて類似したトランスクリプトームを有していることを示すRNAseq解析の結果を示す図である。(A-C)HFF、hESC、hiPSC、2つのhbdTSC株、即ちhbdTSC#2及びhbdTSC#9、並びに3つのhiTSCクローン、即ちhiTSC#1、hiTSC#4、及びhiTSC#7の2回の生物学的重複の全トランスクリプトームのRNA-seqデータに基づく比較を表現するプロット。hbdTSCとhiTSCとの間の転写類似性並びに多能性幹細胞(PSC)及びHFFからのそれらの距離を示す、バルクRNAの主成分解析(PCA)プロット(A)、相関ヒートマップ(B)、及び散布図(C)。(B)における階層的クラスタリングは、log2-CPM表現データ値のスペアマン相関係数を用いて生成した。hiTSC株はhbdTSC株が互いにクラスター形成するよりもhbdTSCに近接してクラスターを形成することに留意されたい。hbdTSC#9と、hESC、HFF、hbdTSC#2、及び3つのhiTSCコロニーとの、広範囲の遺伝子発現プロファイルのペアワイズ散布図の比較(C)は、hbdTSCの異なるコロニーの間、及びhbdTSCとhiTSCの異なるコロニーの間のみで、高い相関を示している。ESC(NANOG、OCT4)、線維芽細胞(VIM、ZEB1)、及びhTSC(GATA3、TP63、TEAD4、TFAP2C)において発現される代表的な遺伝子を示す。
図3図3A~Dは、hiTSCのメチル化におけるトロホブラスト細胞に特異的な変化を実証するRRBS解析を示す図である。RRBSによって評価したHFF、hESC、2つのhbdTSC株、即ちhbdTSC#2及びhbdTSC#9、並びに4つのhiTSCクローン、即ちhiTSC#1、hiTSC#2、hiTSC#4、及びhiTSC#11の3つの生物学的重複のメチル化解析。100bpのタイルに基づき、シーケンシング深さをタイルあたり少なくとも10リードとして、CpGメチル化率の解析を計算した。(A、左)HFFにおいて低メチル化され、hbdTSCにおいて高メチル化された100bpの、メチル化が異なる4676個の領域(DMR)を示すヒートマップ。メチル化の差異は50%を超える。hiTSCは、hbdTSCと同様の実質的に全てのメチル化パターンの取得に成功したことが示されている。(A、右)それぞれの生物学的試料についての平均メチル化を示すボックスプロット。(B、左)HFFにおいて高メチル化され、hdTSCにおいて低メチル化された100bpの、24205個のDMRを示すヒートマップ。メチル化の差異は50%を超える。hiTSCは、hbdTSCと同様の大多数のメチル化パターンの取得に成功したことが示されている。(B、右)それぞれの生物学的試料についての平均メチル化を示すボックスプロット。(C)ELF5遺伝子座においてRRBSによって評価した、種々のタイルのメチル化レベルのゲノムブラウザキャプチャー。ELF5遺伝子の上流のトロホブラスト細胞特異的な低メチル化に留意されたい。(D)NANOG遺伝子座においてRRBSによって評価した、種々のタイルのメチル化レベルのゲノムブラウザキャプチャー。hbdTSC及びhiTSC試料と比較したNANOG遺伝子の上流のPSC特異的な低メチル化に留意されたい。黒四角は1000bpのタイルを示す。
図4図4A~Eは、hiTSCが多核化ST細胞に分化することを実証する図である。(A)10%のFBSを添加したDMEMからなる分化用基本培地(BDM)に変更した後、0日、4日、及び8日におけるヨウ化プロピジウム(PI)核染色細胞のフローサイトメトリー解析。自発的分化及び多核化合胞体の形成を示す。実験は2つのhbdTSC株及び2つのhiTSC株を用いて繰り返し、同様の結果が得られた。(B)TSCの合胞体トロホブラスト細胞(STM)への方向付けられた分化のための、培地中、6日後のhbdTSC#2及びhiTSC#4の明視野像(Okaeら、2018)。(C)STM中、0日、2日、及び6日における指示した試料についてのST特異的なマーカー、即ちCSH1、GCM1、SDC1、及びCGBの相対的mRNAレベルのqPCR解析。結果はそれぞれのコロニーの最大発現日に対する倍数変化として提示し、ハウスキーピング対照遺伝子GAPDHに対して正規化した。(D及びE)ST分化の6日後のPFA固定した未分化のhbdTSC#2及びhiTSC#4並びにそれらのST派生体の免疫蛍光染色。細胞は、DAPI(青)、上皮特異的タンパク質CDH1(緑)、及び汎トロホブラスト細胞マーカーKRT7(赤、D)、並びにST特異的マーカーとしてのCSH1及びSDC1(緑)(E)について染色した。白色矢印は未分化TSCにおける自発的ST分化領域を示し、黄色矢印はST分化プレートにおいてCDH1陽性である未分化の細胞を示す。
図5図5A~Cは、hiTSCがHLA-G陽性EVT細胞に分化することを実証する図である。(A)方向付けられた分化の6日後のhbdTSC#2、hiTSC#4、及びhiTSC#2、並びにそれらのEVT派生体の明視野像。(B)絨毛外トロホブラスト細胞への方向付けられた分化の0日、6日、及び14日におけるEVT特異的マーカー、即ちHLA-G、MMP2、ITGA5、及びITGA1の相対的mRNAレベルのqPCR解析。結果はそれぞれのコロニーの最大発現日に対する倍数変化として提示し、ハウスキーピング対照遺伝子GAPDHに対して正規化した。(C)EVT分化の14日後のPFA固定した未分化のhbdTSC#2及びhiTSC#4、並びにそれらのEVT派生体の免疫蛍光染色。細胞は、DAPI(青)、上皮特異的タンパク質EPCAM(緑)、及びEVT特異的マーカーHLA-G(赤)について染色した。
図6図6A~Cは、NOD-SCIDマウスに移植したhiTSCがトロホブラスト細胞病変を形成することを実証する図である。hiTSCは、三次元オルガノイド培養物を確立するために用いることができる。(A、左)4×106細胞のhbdTSC#2又はhiTSC#3株を皮下注射した後にNOD-SCIDマウスから抽出した病変。病変は、注射の9日後に採取した。(A、右)NOD-SCIDマウスから抽出したトロホブラスト細胞病変の染色切片。ヘマトキシリン及びエオシンによる染色、並びにヘマトキシリンカウンター染色を伴うKRT7免疫組織化学染色を示す。(B、左)hCGの存在を検出する市販の妊娠検査。全てのhTSCの培地で陽性であるが、HFF及びPSCにおいては陰性の結果を示す。(B、右)トロホブラスト細胞特異的なホルモンhCGのベータサブユニットをコードするCGB遺伝子のmRNAレベルのqPCR解析。結果は最大発現試料に対する倍数変化として提示し、ハウスキーピング対照遺伝子GAPDHに対して正規化した。(C、左)オルガノイド形成プロトコルの1日及び10日におけるhbdTSC#2及びhiTSC#4の明視野像。(C、右)DAPI、汎トロホブラスト細胞マーカーKRT7、及び増殖細胞マーカーKi-67の免疫蛍光染色の後の、形成されたオルガノイドのスピニングディスク共焦点イメージング。白色矢印は、KRT7陽性であるがKI-67陰性である分化の区域を示す。
図7図7A~Gは、GOKMの強制発現によって再プログラミングされたhiTSCがMETを受け、トロホブラスト細胞マーカーを発現することを実証する図である。(A)図示したhiTSCコロニー及び対照のHFF(KEN)、HFF(PCS)、及びhbdTSC#2における指示したトランスジーンのqPCR解析。トランスジーンの一体化は、トランスジーンの最後のエクソンのためのフォワードプライマーと、FUW-tetOプラスミドの配列と一致するリバースプライマーの設計によって評価した(Table 1(表1)参照)。結果は、最大試料に対して示し、GAPDH遺伝子のイントロン領域に対して正規化した。バーは、2つの重複の間の標準偏差を示す。(B)dox曝露の3日後の、感染したHFFにおける指示したトランスジーンのmRNAレベルのqPCR解析。3回の独立した感染を未感染HFFと比較して示す。(C)トロホブラスト細胞マーカーGATA2及びTFAP2AのmRNAレベルのqPCR解析。TFAP2A及びある程度のGATA2が線維芽細胞で発現されることに留意されたい。(D)ハウスキーピング対照遺伝子GAPDHに対して正規化したHLAクラスI遺伝子HLA-AのmRNAレベルのqPCR解析。結果は、最大試料を1と設定した場合の倍数変化として提示する。(E)指示したhiTSCコロニー及び対照のHFF(KEN)、HFF(PCS)、ESC、及びiPSC#1における上皮マーカーKRT18、CDH1、OCLN、及びEPCAMのmRNAレベルのqPCR解析。結果はそれぞれの遺伝子についての最大発現試料に対して示し、GAPDH遺伝子のmRNAに対して正規化する。バーは典型的な実験における技術的重複の間の標準偏差を示す。(F、上)PFA固定したhbdTSC#9、hiTSC#1、及びHFF対照におけるDAPI及びTSC特異的マーカーTEAP2Cについての免疫蛍光染色。(F、下)PFA固定したHFFにおけるDAPI、GATA3、KRT7、KRT18、CDH1、及びVIMについての免疫蛍光染色。(G)指示したhiTSCコロニー、hbdTSC#2、及びHFFにおける、よく特徴解析されたW6/32抗体を用いる古典的HLAクラスIタンパク質発現(HLA-A/B/C)のフローサイトメトリー解析を示すヒストグラム。HFF及びhbdTSC#2は、非特異的染色のための対照のためのみに二次抗体によって染色した。
図8図8A~Cは、hiTSC及びhbdTSCが、胎盤発生に関連する遺伝子オントロジータームが富化されたトランスクリプトームを有することを示すRNA-seq解析を示す図である。(A及びB)hTSC(hbdTSC又はhiTSC)とhESC及びHFFの間の遺伝子発現の相違により、ヒト遺伝子アトラスによる胎盤及び胚胎盤の形態形成及び発生に関連する遺伝子オントロジータームの顕著な富化が明らかになった。(C)(B)における遺伝子オントロジータームと遺伝子発現の相違との間の関連を示すネットワーク解析。
図9】hiTSCとhbdTSCの核型解析を示す図である。2つのhbdTSC株、即ちhbdTSC#2及びhbdTSC#9、並びに4つのhiTSCクローン、即ちhiTSC#1、hiTSC#2、hiTSC#4、及びhiTSC#11を、Affymetrix CytoScan 750Kアレイを用いる核型解析に供した。hbdTSC株の50%及びhiTSC株の50%は元のままの核型を有している。コロニーの他の50%は、細胞の小さな分画において殆ど異常を示さなかった。特定の異常及び関連する細胞の影響された分画を、それぞれのプロットの下に記している。
図10図10A~Fは、hiTSCがST様細胞及びEVT様細胞に分化することを示す図である。(A)BDMにおける5日間にわたるSTマーカー、即ちERVFRD-1、CSH1、SDC1、CGB、及びPSG1、並びにEVTマーカー、即ちNOTCH1、HLA-G、及びMMP2の相対的mRNAレベルのqPCR解析。結果は、それぞれのコロニーの最大発現日に対する倍数変化として提示し、ハウスキーピング対照遺伝子GAPDHに対して正規化した。バーは、典型的な実験における技術的重複の間の標準偏差を示す。(B)hiTSC#1においてBDMに変更した後、0日、4日、及び8日におけるヨウ化プロピジウム(PI)核染色細胞のフローサイトメトリー解析。自発的分化及び多核化合胞体の形成を示している。(C)TSCの合胞体トロホブラスト細胞(STM)への方向付けられた分化のための培地中、6日後のhiTSC#2の明視野像。(D)STM中、0日、2日、及び6日におけるSTマーカー遺伝子、PSG1、CHSY1、及びERVFRD-1の相対的mRNAレベルのqPCR解析。結果は、それぞれのコロニーの最大発現日に対する倍数変化として提示し、GAPDH遺伝子のmRNAに対して正規化した。(E)STM中、ST分化の6日後の、PFA固定した未分化のhiTSC#2細胞におけるDAPI、上皮特異的タンパク質CDH1、及び汎トロホブラスト細胞マーカーKRT7についての免疫蛍光染色。(F)STM中における分化の6日後のhiTSC#2起源のPFA固定したST細胞における明視野像及びSTマーカーCSH1及びSDC1についての免疫蛍光染色。
図11】NOD-SCIDマウスに移植したhiTSCがトロホブラスト細胞病変を形成することを実証する図である。(左)hiTSC細胞の皮下注射後のNOD-SCIDマウスから抽出した病変。それぞれの病変について、およそ4×106個をNOD-SCIDマウスに皮下注射した。注射の9日後に病変を採取した。(右)NOD-SCIDマウスから抽出したトロホブラスト細胞病変の染色切片。ヘマトキシリン及びエオシン染色(中央)、ヘマトキシリンカウンター染色を伴うKRT7免疫組織化学染色(右)。
図12】GATA3、OCT4、KLF4、KLF5、及びMYCの異所性発現がヒト線維芽細胞をトロホブラスト幹細胞様細胞に変換することを実証する図である。老化した線維芽細胞にGATA3、OCT4、KLF4、KLF5、及びMYCを形質導入して28日間、再プログラミングし、続いて10日間、dox除去を行なった。親の線維芽細胞(左)及び再プログラミングのプロセスに続いて出現した種々のhiTSCコロニー(右)の形態を実証する代表的な画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0102】
本発明は、その一部の実施形態において、ヒト細胞を再プログラミングする方法に関し、より詳細には、それだけに限らないが、ヒト細胞を人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)又は若返り細胞に再プログラミングする方法に関する。
【0103】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は必ずしも以下の記述で説明され又は実施例によって例示される詳細にその応用が限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態又は種々の方法で実施又は実行することができる。
【0104】
再生医学は、細胞の移植を通じて、失われた又は損傷を受けた人体中の細胞、組織、又は臓器を置き換えることを目的とする、新たな拡大しつつある分野である。誘起された幹細胞の生成及び直接変換のアプローチは、再生医学及び疾患のモデリングのための細胞の貴重な資源を提供する。ここで、直接変換のアプローチは、体細胞の脱分化と幹細胞の再プログラミングの両方を指す。哺乳動物においては、胎盤の特化した細胞型が、妊娠中に胎児と母体の間の生理学的な交換を媒介する。これらの分化した細胞の先駆体がトロホブラスト幹細胞(TSC)であり、したがってTSCは多大な生医学的関連性を有している。
【0105】
本発明の実施形態を実行に移す間に、本発明者らは、ヒト細胞におけるTSCの主要規制因子の過渡的な異所性発現が、そのトランスクリプトーム、メチローム、及び機能において内因性TSCと類似した安定かつトランスジーン非依存的なiTSCの形成をもたらすことを発見した。
【0106】
これ以降及び以下の実施例の部で説明するように、本発明者らは、ヒト線維芽細胞におけるGATA3及びOCT4を含む因子の過渡的な異所性発現が、安定かつトランスジーン非依存的な人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)の形成をもたらす再プログラミングプロセスを開始することを示した(実施例1及び7、図1A図1E図7A図7G、及び図12)。誘起されたTSCは、外因性因子に依存せずに多数の継代(20継代を超える)にわたって培養でき、その形態、ゲノム一体性、TSC特異的マーカーの発現、ESC特異的及び線維芽細胞特異的なマーカーの非発現、並びにトランスクリプトーム及びメチル化の状態において、胚盤胞由来のTSCと類似している(実施例2、図2A図2C図3A図3D図8A図8C、及び図9)。本発明者らは、生成したiTSCが合胞体トロホブラスト細胞(ST)及び絨毛外トロホブラスト細胞(EVT)に分化して、NOD/SCIDマウスにおいてトロホブラスト細胞病変を形成でき、マトリゲルにおいて機能性オルガノイドを形成できることを更に実証し(実施例3~5、図4A図6C、及び図10A図11)、iTSCがTSCの全ての特質を獲得することを示唆している。
【0107】
したがって、特定の実施形態は、ヒト体細胞からのiTSCの生成のため及び例えば再生医学、疾患のモデリング、薬物のスクリーニング、及び胎盤の増強におけるそれらのさらなる使用のために、GATA3、OCT4、並びに任意選択でKLF4、KLF5、及び/又はc-MYCを使用することを示唆している。更に、これは、親細胞を再プログラミングするために用いられる外因性転写因子(即ち、GATA3、OCT4、KLF4、及びc-MYC)を発現せずに、長期にわたって(20継代を超えて)培養中にその分化レベルを維持する単離されたヒトiTSCが生成された最初である。
【0108】
即ち、本発明の一態様によれば、ゲノムの中に一体化されたGATA3及びOCT4転写因子の異所性DNAを含む単離されたヒト人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)が提供される。
【0109】
特定の実施形態によれば、単離されたiTSCは、ゲノムの中に一体化されたc-MYC転写因子の異所性DNAを含む。
【0110】
特定の実施形態によれば、単離されたiTSCは、ゲノムの中に一体化されたKLF転写因子の異所性DNAを含む。
【0111】
特定の実施形態によれば、単離されたiTSCは、ゲノムの中に一体化されたKLF4転写因子の異所性DNAを含む。
【0112】
特定の実施形態によれば、単離されたiTSCは、ゲノムの中に一体化されたKLF5転写因子の異所性DNAを含む。
【0113】
特定の実施形態によれば、単離されたiTSCは、ゲノムの中に一体化されたKLF4及びKLF5転写因子の少なくとも1つの異所性DNAを含む。特定の実施形態によれば、単離されたiTSCは、ゲノムの中に一体化されたKLF4及びKLF5転写因子の異所性DNAを含む。
【0114】
本明細書で用いる場合、用語「単離された」は、天然の環境から、例えば哺乳動物(例えばヒト)の胚若しくは哺乳動物(例えばヒト)の体から、又は培養中の他の細胞から、少なくとも部分的に分離されたことを意味する。
【0115】
特定の実施形態によれば、単離は、純粋の集団、例えば80%超、85%超、90%超、95%超、又は100%のiTSC、若返りした細胞、又は脱分化した細胞が産生されるように行なってよい。
【0116】
本明細書で用いる場合、用語「人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)」は、細胞の脱分化又は細胞の再プログラミングによって得られた細胞を意味する。このようにして産生されたiTSCは多能性を獲得し、この場合にはトロホブラスト細胞リニエージに分化することができる。特定の実施形態によれば、そのような細胞は分化した細胞(例えば線維芽細胞等の体細胞)から得られ、細胞がトロホブラスト幹細胞(TSC)の特徴を獲得するように再プログラミングする遺伝子操作による脱分化を受ける。特定の実施形態によれば、iTSCは、胎盤組織中で3つの型のトロホブラストリニエージ細胞、即ち絨毛性細胞栄養芽層(villous cytotrophoblast)、合胞体栄養芽層(syncytiotrophoblast)、及び絨毛外栄養芽層(extravillous trophoblast)に分化することができる。絨毛性細胞栄養芽層は、分化し、増殖し、子宮壁に侵入して絨毛を形成する特化された胎盤上皮細胞である。細胞栄養芽層は固着絨毛に存在し、融合して合胞体栄養芽層を形成するか、又は絨毛外栄養芽層の柱状の構造を形成することができる(Cohen S.ら、2003. J. Pathol. 200: 47~52頁)。
【0117】
特定の実施形態によれば、iTSCはヒト細胞である。
【0118】
iTSCは、以下に更に述べるように、典型的には、例えば形態、特定のマーカーの発現、トランスクリプトーム、メチル化のパターン、及び機能において、哺乳動物の胚の胎盤から誘導されるTSCと類似している。
【0119】
特定の実施形態によれば、iTSCは、
(i)例えば顕微鏡評価(明視野又はH&E染色、電子顕微鏡による)によるTSCの形態(特定の実施形態によれば、TSCの形態は高いエッジを有する平坦で密なコロニーによって特徴付けられる)。
(ii)免疫細胞化学及び/又はPCRアッセイによって決定されるTSCマーカー;
(iii)免疫細胞化学及び/又はPCRアッセイによって決定される線維芽細胞特異的マーカーの非存在;
(iv)RNAシーケンシングアッセイによって決定される、胚盤胞由来のTSCと同様のトランスクリプトーム;
(v)染色体マイクロアレイ解析によって決定される、胚盤胞由来のTSCと同様のゲノム安定性;
(vi)重硫酸塩アッセイによって決定される、胚盤胞由来のTSCと同様のメチル化パターン;
(vii)形態、フローサイトメトリー、及び/又はPCRアッセイによって決定される、未分化状態を支持する因子を含まない培地中(例えば10%のFBSを含むDMEM培地中で培養する場合)又は方向付けられた分化を促す培地中(例えば、Okaeら、Cell Stem Cell. 2018 Jan 4;22(1):50~63頁、又はHaiderら、Stem Cell Reports. 2018 Aug 14;11(2):537~551。これらの内容は参照により完全に本明細書に組み込まれる)における培養の後のインビトロ分化;
(viii)形態、免疫細胞化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、及び/又はPCRアッセイによって決定される、栄養外胚葉リニエージの派生体へのインビトロ及び/又はインビボの分化;
(ix)形態、免疫細胞化学、免疫細胞化学、及び/又はPCRアッセイによって決定される、三次元オルガノイド培養を形成する能力(例えば、Haiderら、Stem Cell Reports. 2018 Aug 14;11(2):537~551頁等に記載されている。その内容は参照により本明細書に完全に組み込まれる);
(x)組織学的評価によって決定される、トロホブラスト細胞病変のインビボ形成(例えばNOD/SCIDマウスにおける);
(xi)(i)~(x)のアッセイのうち少なくとも1つによって決定される、培養中の少なくとも20継代についての分化レベルの不変
の少なくとも1つによって特徴付けられる。
【0120】
特定の実施形態によれば、TSCマーカーは、KRT7、GATA2、GATA3、TFAP2A、TFAP2C、TP63からなる群から選択される。
【0121】
特定の実施形態によれば、ESC特異的なマーカーは、NANOG、OCT4、SOX2からなる群から選択される。
【0122】
特定の実施形態によれば、間葉マーカーは、THY1、ZEB1、VIM、ACTA2からなる群から選択される。
【0123】
特定の実施形態によれば、メチル化パターンは、再プログラミングされていない親細胞及び/又はESC細胞と比較した、ELF5プロモーター区域の低メチル化及び/又はNanogプロモーターの高メチル化を含む。
【0124】
特定の実施形態によれば、iTSCは、免疫細胞化学及び/又はPCRアッセイによって決定される、胚性幹細胞(ESC)特異的マーカー(例えばNANOG、OCT4、及びSOX2)の非存在によって特徴付けられる。
【0125】
特定の実施形態によれば、iTSCは、培養中、少なくとも20継代、少なくとも30継代、少なくとも50継代にわたって、TSCの分化レベルを維持する。
【0126】
特定の実施形態によれば、iTSCは、少なくとも20継代にわたって、TSCのその分化レベルを維持する。
【0127】
他の特定の実施形態によれば、iTSCは、例えばPCRアッセイによって決定した場合、外因性転写因子の発現なしに、TSCの分化レベルを維持する。
【0128】
特定の実施形態によれば、iTSCは、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーによって決定した場合、外因性転写因子を発現しない。
【0129】
特定の実施形態によれば、iTSCは、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーによって決定した場合、外因性のGATA3、OCT4、KLF、及びc-MYC転写因子を発現しない。
【0130】
特定の実施形態によれば、iTSCは、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーによって決定した場合、外因性のGATA3、OCT4、KLF4、及びc-MYC転写因子を発現しない。
【0131】
特定の実施形態によれば、iTSCは、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーによって決定した場合、外因性のGATA3、OCT4、KLF4、KLF5、及びc-MYC転写因子を発現しない。
【0132】
特定の実施形態によれば、iTSCは、転写因子の天然の遺伝子の天然の位置(即ち遺伝子座)及び/又は発現レベル(例えばコピー数及び/又は細胞の局在)にない外因性転写因子を発現する。
【0133】
特定の実施形態によれば、iTSCは、細胞のゲノム中に一体化されているが、その天然の位置(即ち遺伝子座)及び/又はコピー数にない外因性転写因子の異所性DNAを含む。
【0134】
特定の実施形態によれば、転写因子は、GATA3、OCT4、KLF、及びc-MYCからなる群から選択される。
【0135】
特定の実施形態によれば、転写因子は、GATA3、OCT4、KLF4、及びc-MYCからなる群から選択される。
【0136】
特定の実施形態によれば、転写因子は、GATA3、OCT4、KLF4、KLF5、及びc-MYCからなる群から選択される。
【0137】
記載したように、本発明者らは、ヒトiTSCを生成する新規な方法を開発した。
【0138】
即ち、本発明のさらなる又は代替の態様によれば、ヒト細胞から人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)を生成する方法が提供され、本方法は、前記細胞からのiTSCの生成を可能にする条件下で、細胞内で外因性GATA3及びOCT4転写因子を発現し、それにより、細胞からiTSCを生成する工程を含む。
【0139】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性c-MYC転写因子を発現する工程を更に含む。
【0140】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性KLF転写因子を発現する工程を更に含む。
【0141】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性KLF4転写因子を発現する工程を更に含む。
【0142】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性KLF5転写因子を発現する工程を更に含む。
【0143】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性KLF4及びKLF5転写因子の少なくとも1つを発現する工程を更に含む。
【0144】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性KLF4及びKLF5転写因子を発現する工程を更に含む。
【0145】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本明細書で開示する方法によって得られる単離されたヒト人工トロホブラスト幹細胞(iTSC)が提供される。
【0146】
更に、本明細書で開示したTSCの主要制御因子の発現が体細胞の多能性細胞への再プログラミングを誘起したので、特定の実施形態は、細胞の脱分化のためにGATA3、OCT4、及び任意選択でKLF(例えばKLF4、KLF5、KLF6、KLF15)及び/又はc-MYCを用いることを示唆している。
【0147】
更に、DNAのメチル化等の後成的な変化が、認知の低下及び心血管系障害等の加齢関連疾患の主因として提案されてきた。本明細書で開示したTSCの主要制御因子の発現が体細胞の多能性細胞への再プログラミングを誘起した一方、DNAのメチル化に影響し、それにより、後成的なクロックを逆転させるので、特定の実施形態は、高齢の細胞を若返りさせるためにGATA3、OCT4、及び任意選択でKLF(例えばKLF4、KLF5、KLF6、KLF15)及び/又はc-MYCを用いることを示唆している。
【0148】
即ち、本発明のさらなる又は代替の態様によれば、ヒト細胞を若返り及び/又は脱分化させる方法が提供され、本方法は、前記細胞の若返り及び/又は脱分化を可能にする条件下で、細胞内で外因性GATA3及びOCT4転写因子を発現し、それにより、若返りした細胞及び/又は脱分化した細胞を生成する工程を含む。
【0149】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性c-MYC転写因子を発現する工程を更に含む。
【0150】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性KLF転写因子を発現する工程を更に含む。
【0151】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性KLF4転写因子を発現する工程を更に含む。
【0152】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性KLF5転写因子を発現する工程を更に含む。
【0153】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性KLF4及びKLF5転写因子の少なくとも1つを発現する工程を更に含む。
【0154】
特定の実施形態によれば、本方法は、前記細胞内で外因性KLF4及びKLF5転写因子を発現する工程を更に含む。
【0155】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本明細書で開示した方法によって得られる単離されたヒトの若返りした及び/又は脱分化された細胞が提供される。
【0156】
本明細書で用いる場合、用語「脱分化された細胞」は、特化の程度が低く、同じリニエージの中のより早期の発生段階に戻るような細胞の脱分化又は再プログラミングによって得られた細胞を意味する。脱分化を決定する方法は当技術で公知であり、以下に更に述べる。これらの方法には、それだけに限らないが、形態学的評価、マーカーの発現、それが誘導された細胞(即ち、本方法に供していない同じ型の細胞)と比較したインビトロ及び/又はインビボの分化が含まれる。
【0157】
本明細書で用いる場合、用語「高齢の細胞」は、成体の生命体、例えば少なくとも20歳のヒト対象から誘導された細胞を意味する。
【0158】
本明細書で用いる場合、用語「若返りした細胞」は、それが誘導された細胞と同じリニエージ及び分化/発生の状態にあるが、より若い年齢の特徴を有する細胞を意味し、これは例えば後成的シグネチャーによって決定され得る。
【0159】
特定の実施形態によれば、若返りした細胞は、それが誘導された細胞と比較して、改善された機能を有する。
【0160】
特定の実施形態によれば、若返りした細胞は、
(i)前記方法に供されなかった同じ型及び発生段階の細胞の形態;
(ii)免疫染色、ウェスタンブロット、及び/又はPCRアッセイによって決定される、前記方法に供されなかった同じ型及び発生段階の細胞のマーカー;
(iii)RNAシーケンシングアッセイによって決定される遺伝子を例外として、前記方法に供されなかった同じ型及び発生段階の細胞と同様の、年齢に関連する遺伝子を例外とするトランスクリプトーム;
(iv)重硫酸塩アッセイによって決定される、前記方法に供されなかった同じ型及び発生段階の細胞とは区別できるメチル化パターン
のうち少なくとも1つによって特徴付けられる。
【0161】
特定の実施形態によれば、若返りした又は脱分化した細胞は、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーによって決定した場合、外因性転写因子を発現しない。
【0162】
特定の実施形態によれば、若返りした又は脱分化した細胞は、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーによって決定した場合、外因性GATA3、OCT4、KLF、及びc-MYC転写因子を発現しない。
【0163】
特定の実施形態によれば、若返りした又は脱分化した細胞は、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーによって決定した場合、外因性GATA3、OCT4、KLF4、及びc-MYC転写因子を発現しない。
【0164】
特定の実施形態によれば、若返りした又は脱分化した細胞は、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーによって決定した場合、外因性GATA3、OCT4、KLF4、KLF5、及びc-MYC転写因子を発現しない。
【0165】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本明細書で開示した方法によって得られる単離されたヒトの若返りした細胞が提供される。
【0166】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本明細書で開示した方法によって得られる単離されたヒトの脱分化した細胞が提供される。
【0167】
本明細書で用いる場合、用語「細胞」は、成体細胞、胎児細胞、体細胞、及び幹細胞を含む、生命体から誘導された任意の細胞を意味する。
【0168】
特定の実施形態によれば、細胞は高齢の細胞である。
【0169】
特定の実施形態によれば、細胞は幹細胞である。
【0170】
本明細書で用いる場合、語句「幹細胞」は、最終的に分化していない、即ち、より特定の、特化された機能を有する他の細胞型(例えば完全に分化した細胞)に分化することができる細胞を意味する。この用語は、胚性幹細胞、胎児幹細胞、成体幹細胞、又は拘束された/前駆細胞を包含する。
【0171】
特定の実施形態によれば、細胞は体細胞である。
【0172】
本明細書で用いる場合、語句「体細胞」は、最終的に分化した細胞を意味する。体細胞の非限定的な例には、線維芽細胞、血液細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、軟骨細胞、筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、角化細胞、神経細胞、網膜細胞、表皮細胞、上皮細胞(例えば口腔から単離された)、又は胎盤から単離された細胞が含まれる。
【0173】
特定の実施形態によれば、体細胞は、線維芽細胞、血液細胞、角化細胞、上皮細胞、例えば口腔から単離された細胞、又は胎盤から単離された細胞からなる群から選択される。
【0174】
特定の実施形態によれば、体細胞は線維芽細胞である。
【0175】
特定の実施形態によれば、細胞は、角化細胞、造血細胞、網膜細胞(例えばPE、光受容体)、線維芽細胞、肝細胞、心細胞、腎細胞、膵細胞(例えばアルファ、ベータ)、及びニューロンからなる群から選択される。
【0176】
特定の実施形態によれば、細胞は造血細胞又は間葉幹細胞である。特定の実施形態によれば、細胞はヒト細胞である。
【0177】
特定の実施形態によれば、細胞は細胞の均質な集団に含まれ、例えば集団の中の細胞の少なくとも約80%はiTSC、若返りした細胞、又は脱分化した細胞である。
【0178】
即ち、本発明の一態様によれば、細胞の単離された集団が提供され、細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%は、本明細書で開示したiTSCである。
【0179】
他の特定の実施形態によれば、細胞は細胞の不均質な集団、即ち2つ以上の細胞型を含む集団に含まれ、例えばその中で少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%はiTSCである。
【0180】
本発明のさらなる又は代替の態様によれば、細胞の単離された集団が提供され、細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%は、本明細書で開示した若返りした細胞である。
【0181】
他の特定の実施形態によれば、細胞は、細胞の不均質な集団、即ち2つ以上の細胞型を含む集団に含まれ、例えばその中で少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%は若返りした細胞である。
【0182】
本発明のさらなる又は代替の態様によれば、細胞の単離された集団が提供され、細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%は、本明細書で開示した脱分化した細胞である。
【0183】
他の特定の実施形態によれば、細胞は、細胞の不均質な集団、即ち2つ以上の細胞型を含む集団に含まれ、例えばその中で少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%は脱分化した細胞である。
【0184】
述べたように、外因性転写因子は細胞内で発現される。
【0185】
本明細書で用いる場合、用語「転写因子」は、遺伝子の転写を制御する細胞性因子を意味する。特定の実施形態によれば、転写因子は、特定の転写因子に特異的な特定の核酸配列(即ち結合部位)に結合する能力を有するポリペプチドである。転写因子の非限定的な例には、GATA3、OCT4、KLF(例えばKLF4、KLF5、KLF6、KLF15)、及びc-MYCが含まれる。
【0186】
本明細書で用いる場合、用語「GATA3」は、GATA結合タンパク質3及びHDRSとしても知られており、GATA3遺伝子のポリヌクレオチド及び発現産物、例えばポリペプチドを意味する。特定の実施形態によれば、GATA3は、例えば以下のGeneBank Numbers NP_001002295及びNM_001002295(配列番号1~2)で提供されるようなヒトGATA3を意味する。GATA3の機能的発現産物は、任意選択で本明細書に記載した他の因子とともに、iTSCの生成を支持することができる。
【0187】
本明細書で用いる場合、用語「OCT4(オクタマー結合転写因子4)」は、POU5F1としても知られており、POU5F1遺伝子のポリヌクレオチド及び発現産物、例えばポリペプチドを意味する。特定の実施形態によれば、OCT4は、以下のGeneBank Numbers NP_001167002、NP_001272915、NP_001272916、NP_002692、NP_976034、NM_203289、NM_001173531、NM_001285986、NM_001285987、及びNM_002701(配列番号3~12)で提供されるようなヒトOCT4を意味する。OCT4の機能的発現産物は、任意選択で本明細書に記載した他の因子とともに、iTSCの生成を支持することができる。
【0188】
本明細書で用いる場合、用語「KLF」は、転写因子のKruppel様ファミリーのいずれか1つのポリヌクレオチド及び発現産物、例えばポリペプチドを意味し、これらは遺伝子発現を制御するC2H2ジンクフィンガーDNA結合タンパク質の組である。特定の実施形態によれば、KLFはヒトKLFを意味する。KLFの機能的発現産物は、任意選択で本明細書に記載した他の因子とともに、iTSCの生成を支持することができる。KLF転写因子の非限定的な例には、KLF1、KLF2、KLF3、KLF4、KLF5、KLF6、KLF7、KLF8、KLF9、KLF10、KLF11、KLF12、KLF13、KLT14、KLF15、KLF16、KLF17が含まれる。
【0189】
特定の実施形態によれば、KLF転写因子は、KLF転写因子の少なくとも1つを含む。
【0190】
特定の実施形態によれば、KLF転写因子は、KLF4、KLF5、KLF6、及びKLF15からなる群から選択される。
【0191】
特定の実施形態によれば、KLF転写因子は、KLF4及びKLF5からなる群から選択される。
【0192】
特定の実施形態によれば、KLF転写因子の少なくとも1つは、少なくとも2つの区別できるKLF転写因子を含む。
【0193】
特定の実施形態によれば、KLF転写因子はKLF4とKLF5の両方を含む。
【0194】
特定の実施形態によれば、KLF転写因子はKLF4を含む。
【0195】
本明細書で用いる場合、用語「KLF4(Kruppel様ファクター4)」は、GKLF及びEZFとしても知られており、KLF4遺伝子のポリヌクレオチド及び発現産物、例えばポリペプチドを意味する。特定の実施形態によれば、KLF4は、例えば以下のGeneBank Numbers NP_004226及びNM_004235(配列番号13~14)で提供されるようなヒトKLF4を意味する。KLF4の機能的発現産物は、任意選択で本明細書に記載した他の因子とともに、iTSCの生成を支持することができる。
【0196】
特定の実施形態によれば、KLF転写因子はKLF5を含む。
【0197】
本明細書で用いる場合、用語「KLF5(Kruppel様ファクター5)」は、BTEB2、CKLF、及びIKLFとしても知られており、KLF5遺伝子のポリヌクレオチド及び発現産物、例えばポリペプチドを意味する。特定の実施形態によれば、KLF5は、例えば以下のGeneBank Numbers NP_001273747、NP_001721、NM_001730、及びNM_001286818(配列番号81~84)で提供されるようなヒトKLF5を意味する。KLF5の機能的発現産物は、任意選択で本明細書に記載した他の因子とともに、iTSCの生成を支持することができる。
【0198】
特定の実施形態によれば、KLF転写因子はKLF6を含む。
【0199】
本明細書で用いる場合、用語「KLF6(Kruppel様ファクター6)」は、BCD1、CBA1、COPEB、PAC1、ST12、及びZF9としても知られており、KLF6遺伝子のポリヌクレオチド及び発現産物、例えばポリペプチドを意味する。特定の実施形態によれば、KLF6は、例えば以下のGeneBank Numbers NP_001153596、NP_001153597、NP_001291、NM_001008490、NM_001160124、NM_001160125、及びNM_001300(配列番号85~91)で提供されるようなヒトKLF6を意味する。KLF6の機能的発現産物は、任意選択で本明細書に記載した他の因子とともに、iTSCの生成を支持することができる。
【0200】
特定の実施形態によれば、KLF転写因子はKLF15を含む。
【0201】
本明細書で用いる場合、用語「KLF15(Kruppel様ファクター615)」は、KLF15遺伝子のポリヌクレオチド及び発現産物、例えばポリペプチドを意味する。特定の実施形態によれば、KLF15は、例えば以下のGeneBank Numbers NP_054798、NM_014079(配列番号92~93)で提供されるようなヒトKLF15を意味する。KLF15の機能的発現産物は、任意選択で本明細書に記載した他の因子とともに、iTSCの生成を支持することができる。
【0202】
本明細書で用いる場合、用語「c-MYC」は、V-Myc鳥類骨髄球腫症ウイルス性オンコジーンホモログ、クラスE塩基性ヘリックスループヘリックスタンパク質39、転写因子P64、BHLHe39、MRTL、及びMYCCとしても知られており、MYC遺伝子のポリヌクレオチド及び発現産物、例えばポリペプチドを意味する。特定の実施形態によれば、c-MYCは、例えば以下のGeneBank Numbers NP_002458及びNM_002467(配列番号15~16)で提供されるようなヒトc-MYCを意味する。c-MYCの機能的発現産物は、任意選択で本明細書に記載した他の因子とともに、iTSCの生成を支持することができる。
【0203】
用語「GATA3」、「OCT4」、「KLF4」、「KLF」、及び「c-MYC」は、所望の活性(即ち、細胞をiTSCに脱分化又は再プログラミングする)を呈する機能的GATA3、OCT4、KLF(例えばKLF4、KLF5、KLF6、KLF15)及びc-MYCホモログも意味する。そのようなホモログは、例えばそれぞれ配列番号1、3~7、13、81~93、及び15のポリペプチドと少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一若しくは相同、又はこれをコードするポリヌクレオチドと80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一であってよい(以後更に述べるように)。
【0204】
ホモログは、それが活性を保持する限り、オルソログ、欠失、挿入、又はアミノ酸置換を含む置換バリアントを意味し得る。
【0205】
配列同一性又はホモロジーは、Blast、ClustalW、及びMUSCLE等の任意のタンパク質又は核酸の配列アラインメントアルゴリズムを用いて決定することができる。
【0206】
本発明の特定の実施形態は、少なくともGATA3及びOCT4並びに任意選択でc-MYC及び/又はKLF転写因子を発現することを意図している。
【0207】
本発明の特定の実施形態は、少なくともGATA3及びOCT4並びに任意選択でc-MYC、KLF4、及び/又はKLF5転写因子を発現することを意図している。
【0208】
本発明の特定の実施形態は、少なくともGATA3及びOCT4並びに任意選択でc-MYC及び/又はKLF4転写因子を発現することを意図している。
【0209】
特定の実施形態によれば、転写因子の2つ、3つ、又は全ては、細胞内で外生的に発現される。例えばGATA3+OCT4、GATA3+OCT4+c-MYC、GATA3+OCT4+KLF(例えばGATA3+OCT4+KLF4、GATA3+OCT4+KLF5、GATA3+OCT4+KLF4+KLF5)、GATA3+OCT4+c-MYC+KLF(例えばGATA3+OCT4+c-MYC+KLF4、GATA3+OCT4+c-MYC+KLF5、GATA3+OCT4+c-MYC+KLF4+KLF5)。
【0210】
特定の実施形態によれば、転写因子の全ては、細胞内で外生的に発現される。即ち、GATA3+OCT4+c-MYC+KLF(例えばGATA3+OCT4+c-MYC+KLF4+KLF5)。
【0211】
本明細書で用いる場合、用語「発現すること」又は「発現」は、RNA及び/又はタンパク質のレベルにおける遺伝子発現を意味する。この用語は、DNA若しくはRNAを発現することによって遺伝子発現を上方制御すること、又はタンパク質の細胞への直接投与によってタンパク質のレベルを上方制御することも意味する。
【0212】
本明細書で用いる場合、用語「外因性」は、天然には細胞内で発現されない、又は細胞内におけるその過発現が望ましい、異種のポリヌクレオチド又はポリペプチドを意味する。外因性のポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドは、安定な又は過渡的な様式で細胞内に導入してよい。ポリヌクレオチドの場合には、導入はリボ核酸(RNA)分子及び/又はポリペプチド分子の産生をもたらす。特定の実施形態によれば、発現することは、過渡的に発現することを含む。外因性のポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドは、それぞれ細胞の内因性の核酸配列及び/又は内因性のアミノ酸配列と同一又は部分的に相同である核酸配列及び/又はアミノ酸配列を含み得ることに注目されたい。外因性の核酸配列及び/又はアミノ酸配列を発現する方法は当技術で既知であり、例えば以下の実施例の部の材料及び方法、並びにMansourら、2012; Warrenら、2010、及びHongyan Zhouら、Cell Stem Cell(2009)4(6): 581頁; Rabinovich及びWeissman(2013)Methods Mol Biol. 969:3~28頁;国際出願公開第WO 2013049389号、及び米国特許第8557972号に記載されたものが含まれる。これらは参照により全体として完全に本明細書に組み込まれる。
【0213】
発現ベクターの調製及びそれらの細胞への投与の様式についてのさらなる記述を以下に提供する。
【0214】
特定の実施形態によれば、発現する工程は、転写因子の天然の遺伝子の天然の位置(即ち遺伝子座)及び/又は発現レベル(例えばコピー数及び/又は細胞の局在)にはない。
【0215】
他の特定の実施形態によれば、発現する工程は、ゲノム内の転写因子の天然の遺伝子の天然の位置及び/又はコピー数にはない。
【0216】
その代わりに又は更に、転写因子の外因性発現は、これらの遺伝子の内因性遺伝子座の活性化によって促進され、それにより、転写因子は細胞中で過発現される。内因性遺伝子を活性化及び過発現する方法は当技術で周知であり[例えばMenke D. Genesis(2013)51: - 618頁; Capecchi、Science(1989)244:1288~1292頁; Santiagoら、Proc Natl Acad Sci USA(2008)105:5809~5814頁; 国際特許出願第WO 2014085593号、第WO 2009071334号、及び第WO 2011146121号;米国特許第8771945号、第8586526号、第6774279号、及び米国特許出願公開第20030232410号、第20050026157号、第US20060014264号を参照されたい。これらの内容は参照により全体として組み込まれる]、それだけに限らないが、標的相同組換え(例えば「ヒットエンドラン」、「二重置換え」)、部位特異的リコンビナーゼ(例えばCreリコンビナーゼ及びFlpリコンビナーゼ)、PBトランスポザーゼ(例えばSleeping Beauty、piggyBac、Tol2、又はFrog Prince)、操作されたヌクレアーゼによるゲノム編集(例えばメガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、及びCRISPR/Casシステム)、及び組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)プラットフォームを用いるゲノム編集(rAAV)、並びに小分子が含まれる。目的の遺伝子に核酸の変更を導入するための薬剤は、公衆利用可能な源を用いて設計するか、Transposagen社、Addgene社、及びSangamo Biosciences社から市販で入手することができる。
【0217】
用語「内因性」は、本明細書で用いる場合、細胞内に存在し及び/又は天然に発現されるポリヌクレオチド又はポリペプチドを意味する。
【0218】
外因性のポリヌクレオチド及び/又はポリペプチド(例えば転写因子)を発現する細胞を、外因性のポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドを発現しない細胞から区別することは、例えば細胞中のRNA及び/又はタンパク質分子のレベル及び/又は分布、細胞のゲノム中のDNAの一体化の位置、及び/又は遺伝子コピー数の数を決定することによって達成することができる。細胞中の外因性のポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドの存在を決定する方法は当技術で周知であり、例えばPCR、DNA及びRNAのシーケンシング、サザンブロット、ウェスタンブロット、免疫沈降法、免疫細胞化学、フローサイトメトリー、及びイメージングが含まれる。
【0219】
本明細書で用いる場合、用語「ポリヌクレオチド」は、RNA配列(例えばmRNA)、相補的ポリヌクレオチド配列(cDNA)、ゲノムポリヌクレオチド配列(例えば染色体から単離された配列)、複合ポリヌクレオチド配列(例えば上記の組合せ)、又はそれらの模倣体若しくはアナログの形態の一本鎖又は二本鎖の核酸配列を意味する。この用語は、天然に存在する核酸分子(例えばRNA又はDNA)に由来するポリヌクレオチド及び/又はオリゴヌクレオチド、天然に存在する塩基、糖、及び共有結合のヌクレオシド間リンケージ(例えば骨格)からなる合成のポリヌクレオチド及び/又はオリゴヌクレオチド分子、並びに天然に存在しない部分を有し、それぞれの天然に存在する部分と同様に機能する、合成のポリヌクレオチド及び/又はオリゴヌクレオチドを含む。
【0220】
特定の実施形態によれば、ポリヌクレオチドは改変されたポリヌクレオチド、例えば改変されたRNAである。
【0221】
そのような改変されたポリヌクレオチドは、骨格、ヌクレオシド間リンケージ、又は塩基のいずれかに改変を含んでよい。改変されたポリヌクレオチドは、天然に改変されたヌクレオチド又は合成のヌクレオシドアナログを含んでよい。改変されたポリヌクレオチドは、増強された細胞取り込み、核酸標的への増強された親和性、ヌクレアーゼの存在下における増大した安定性、及び低下した免疫原性等の望ましい特性のために、特定の実施形態によれば天然の形態より好ましい。
【0222】
そのような改変には、それだけに限らないが、5-メトキシウリジン、プソイドウリジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、2'-O-メチル、2'-O-メチル 3'ホスホロチオエート、2'-O-メチル 3'チオホスホノアセテート、ロックされた核酸(LNA)が含まれる。
【0223】
mRNAを安定化させる方法は当技術で既知であり、mRNA転写物の3'端に見出されるポリアデニンテイルの長さの調節が含まれる。その代わりに又は更に、分子の5'端に見出されるRNAキャップを改変することができる。哺乳動物細胞に典型的な天然に存在するキャップ構造はインビトロで合成されるRNAに不適正に組み込まれる傾向があり、これらの有効性が低くなっている。合成の「アンチリバースキャップアナログ」(例えばThermo Fisher Scientific社から市販されている)は、この組込み過誤を防止することができ、それにより、改善された翻訳効率を有するより安定なRNAが得られる。免疫原性を低下させるため、特定のヌクレオチドの置換を5-メチルシトシン又はプソイドウリジン等の化学的に改変された代替物と交換することができる。そのような置換によって免疫応答を沈黙させる一方、mRNAの安定性及び翻訳の効率を増強することもできる。その他の例示的な化学改変ヌクレオチドについては本明細書で上に記述している。
【0224】
その代わりに又は更に、mRNAは、脂質細胞膜との融合を強化するために、脂質系の粒子にカプセル化してよい。
【0225】
特定の実施形態によれば、ポリヌクレオチドは単離されたポリヌクレオチドである。
【0226】
本発明の一部の実施形態の教示に従って設計されたポリヌクレオチドは、酵素的合成又は固相合成等の当技術で既知の任意のポリヌクレオチド合成法に従って生成することができる。固相合成を実行するための装置及び薬剤は、例えばApplied Biosystems社から市販で入手できる。そのような合成のための他の任意の手段も採用してよい。ポリヌクレオチドの実際の合成は当業者の能力に十分含まれており、例えば「Molecular Cloning: A laboratory Manual」Sambrookら(1989);「Current Protocols in Molecular Biology」Volumes I-III Ausubel, R. M.編(1994); Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons, Baltimore, Maryland(1989); Perbal、「A Practical Guide to Molecular Cloning」、John Wiley & Sons、New York(1988)、及び「Oligonucleotide Synthesis」Gait, M. J.編(1984)に詳細が述べられているように、確立された方法論に従って、固相化学、例えばシアノエチルホスホルアミダイト及びそれに続く脱保護、脱塩、及び例えば自動化されたトリチルオン法又はHPLCによる精製を利用して、達成することができる。
【0227】
用語「ポリペプチド」又は「タンパク質」は、本明細書で用いる場合、天然のペプチド(分解産物、合成的に合成されたペプチド、又は組換えペプチドのいずれか)及びペプチド模倣体(典型的には合成的に合成されたペプチド)、並びに例えばペプチドを体内でより安定にし、又は細胞内への浸透をより可能にする改変を有してもよいペプチドアナログであるペプトイド及びセミペプトイドを包含する。そのような改変には、それだけに限らないが、N末端の改変、C末端の改変、ペプチド結合の改変、骨格の改変、及び残基の改変が含まれる。ペプチド模倣化合物を調製する方法は当技術で周知であり、例えばQuantitative Drug Design、C.A. Ramsden Gd.、17.2章、F. Choplin Pergamon Press(1992)で特定されている。この文献は、本明細書で完全に説明されたかのように参照により組み込まれる。
【0228】
ペプチドの中のペプチド結合(-CO-NH-)は、例えばN-メチル化アミド結合(-N(CH3)-CO-)、エステル結合(-C(=O)-O-)、ケトメチレン結合(-CO-CH2-)、スルフィニルメチレン結合(-S(=O)-CH2-)、α-アザ結合(-NH-N(R)-CO-)(ここでRは任意のアルキル(例えばメチル)である)、アミン結合(-CH2-NH-)、スルフィド結合(-CH2-S-)、エチレン結合(-CH2-CH2-)、ヒドロキシエチレン結合(-CH(OH)-CH2-)、チオアミド結合(-CS-NH-)、オレフィン二重結合(-CH=CH-)、フッ素化オレフィン二重結合(-CF=CH-)、レトロアミド結合(-NH-CO-)、ペプチド誘導体(-N(R)-CH2-CO-)(ここでRは炭素原子上に天然に存在する「正常な」側鎖である)によって置換されていてもよい。
【0229】
これらの改変は、ポリペプチド鎖に沿う結合のいずれで起こってもよく、いくつか(2~3)の結合で同時に起こってもよい。
【0230】
天然の芳香族アミノ酸、Trp、Tyr、及びPheは、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸(Tic)、ナフチルアラニン、Pheの環メチル化誘導体、Pheのハロゲン化誘導体、又はO-methyl-Tyr等の非天然の芳香族アミノ酸によって置換されていてもよい。
【0231】
本発明の一部の実施形態のポリペプチドは、1つ若しくは複数の改変されたアミノ酸又は1つ若しくは複数の非アミノ酸モノマー(例えば脂肪酸、複合炭水化物、その他)を含んでもよい。
【0232】
用語「アミノ酸」は、天然に存在する20種のアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、ホスホセリン、及びホスホスレオニンを含むインビボで翻訳後に改変されることが多いアミノ酸、並びに2-アミノアジピン酸、ヒドロキシリジン、イソデスモシン、ノルバリン、ノルロイシン、及びオルニチンを含むがこれらに限らないその他の非通常のアミノ酸を含むと理解される。更に、用語「アミノ酸」は、D-及びL-アミノ酸の両方を含む。
【0233】
本発明の一部の実施形態のポリペプチドは、例えば組換えDNA手法又は固相ペプチド合成を含むがこれらに限らない、ペプチド合成の当業者には既知の任意の手法によって合成してよい。
【0234】
以下は、細胞内で目的のポリペプチド[例えば上記及び下記のタンパク質、例えばGATA3、OCT4、KLF(例えばKLF4、KLF5、KLF6、FKL15)及びc-MYCのいずれか]を発現するために用いることができる発現ベクター及びこれを細胞内に投与する様式の非限定的な説明である。
【0235】
特定の実施形態によれば、発現する工程は、目的のポリペプチド(例えば転写因子)をコードするポリヌクレオチドを細胞内に導入する工程を含む。
【0236】
特定の実施形態によれば、ポリヌクレオチドはDNAである。
【0237】
特定の実施形態によれば、ポリヌクレオチドはRNAである。典型的には、細胞に導入されるmRNAは細胞質のみに存在し、ゲノムの動揺を惹起せず、本質的に一過性である。mRNAの発現が後成的に細胞を変化させない限り、一過性のトランスフェクションはmRNA及び関連するタンパク質が細胞内に持続している時間に限定され、関連するタンパク質の分解の後では継続しない。
【0238】
哺乳動物細胞内で外因性タンパク質を発現するため、目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、好ましくは哺乳動物細胞での発現に適した核酸構築物にライゲートされる。
【0239】
本発明の教示は、ポリヌクレオチドが、目的のポリペプチドが複数の構築物から発現される核酸構築物システムの一部であることを更に意図している。
【0240】
遺伝子の過発現又は排除が、ノックイン及び/又はノックアウト構築物を用いて達成できることが認識されよう[例えば、Fukushige, S.及びIkeda, J. E.: Trapping of mammalian promoters by Cre-lox site-specific recombination. DNA Res 3(1996)73~50頁; Bedell, M. A.、Jerkins, N. A.及びCopeland, N. G.: Mouse models of human disease. Part I: Techniques and resources for genetic analysis in mice. Genes and Development 11(1997)1~11頁; Bermingham, J. J.、Scherer, S. S.、O'Connell, S.、Arroyo, E.、Kalla, K. A.、Powell, F. L.及びRosenfeld, M. G.: Tst-1/Oct-6/SCIP regulates a unique step in peripheral myelination and is required for normal respiration. Genes Dev 10(1996)1751~62頁を参照されたい]。
【0241】
即ち、本発明の一態様によれば、GATA3及びOCT4転写因子をコードする核酸配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む核酸構築物又はシステムが提供される。
【0242】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのポリヌクレオチドは、c-MYC転写因子をコードする核酸配列を更に含む。
【0243】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのポリヌクレオチドは、KLF転写因子をコードする核酸配列を更に含む。
【0244】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのポリヌクレオチドは、KLF4転写因子をコードする核酸配列を更に含む。
【0245】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのポリヌクレオチドは、KLF5転写因子をコードする核酸配列を更に含む。
【0246】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのポリヌクレオチドは、KLF4及びKLF5転写因子の少なくとも1つをコードする核酸配列を更に含む。
【0247】
特定の実施形態によれば、少なくとも1つのポリヌクレオチドは、KLF4及びKLF5転写因子をコードする核酸配列を更に含む。
【0248】
特定の実施形態によれば、転写因子の2つ、3つ、又は全ては、ポリヌクレオチド、例えばGATA3+OCT4; GATA3+OCT4+c-MYC、GATA3+OCT4+KLF(例えばGATA3+OCT4+KLF4、GATA3+OCT4+KLF5、GATA3+OCT4+KLF4+KLF5)、又はGATA3+OCT4+c-MYC+KLF(例えばGATA3+OCT4+c-MYC+KLF4、GATA3+OCT4+c-MYC+KLF5 GATA3+OCT4+c-MYC+KLF4+KLF5)によってコードされる。
【0249】
特定の実施形態によれば、核酸構築物又はシステムは、GATA3、OCT4、c-MYC、及びKLFをコードする核酸配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。
【0250】
特定の実施形態によれば、核酸構築物又はシステムは、GATA3、OCT4、c-MYC、及びKLF4をコードする核酸配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。
【0251】
特定の実施形態によれば、核酸構築物又はシステムは、GATA3、OCT4、c-MYC、KLF4、及びKLF5をコードする核酸配列を含む少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む。
【0252】
即ち、特定の実施形態によれば、核酸構築物システムはそれぞれの転写因子のための個別の核酸構築物を含む。
【0253】
他の特定の実施形態によれば、単一の構築物はいくつかの転写因子を含む。
【0254】
そのような核酸構築物又はシステムは、核酸配列の発現を指令するための少なくとも1つのシス作用性制御エレメントを含む。シス作用性制御配列は、ヌクレオチド配列の構成的発現を指令する配列、並びに特定の条件下のみにおいてヌクレオチド配列の誘導性発現を指令する配列を含む。即ち、例えば構成的又は誘導性の様式で細胞内のポリヌクレオチド配列の転写を指令するためのプロモーター配列が核酸構築物の中に含まれる。mRNAの場合には、RNA源からの遺伝子発現が転写を必要としないので、プロモーター配列又はさらなる配列が以下に記載する転写に含まれる必要はない。
【0255】
本発明の一部の実施形態の核酸構築物又はシステム(本明細書で「発現ベクター」とも称する)は、このベクターを原核生物、真核生物、又は好ましくはその両方における複製及び一体化に適したベクター(例えばシャトルベクター)にするさらなる配列を含む。更に、典型的なクローニングベクターは、転写及び/又は翻訳開始配列、転写及び/又は翻訳ターミネーター、並びにポリアデニル化シグナルを含んでもよい。例として、そのような構築物は、典型的には5' LTR、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、第2鎖DNA合成の開始点、及び3' LTR、又はそれらの一部を含む。
【0256】
真核生物プロモーターは、典型的には2つの型の認識配列、即ちTATAボックス及び上流のプロモーターエレメントを含む。TATAボックスは転写開始部位の25~30塩基対だけ上流に位置しており、RNA合成を開始するようにRNAポリメラーゼに指令することに関与していると考えられる。他の上流プロモーターエレメントは、転写が開始される速度を決定する。
【0257】
エンハンサーエレメントは、連結された同種又は異種のプロモーターから1,000倍までに転写を刺激することができる。エンハンサーは、転写開始部位から下流又は上流に設けられた場合に活性である。ウイルスから誘導された多くのエンハンサーエレメントは幅広い宿主範囲を有しており、種々の組織において活性である。例えば、SV40早期遺伝子エンハンサーは多くの細胞型に対して適している。本発明の一部の実施形態に適したその他のエンハンサー/プロモーターの組合せには、ポリオーマウイルス、ヒト若しくはマウスのサイトメガロウイルス(CMV)、マウス白血病ウイルス、マウス若しくはラウス肉腫ウイルス、及びHIV等の種々のレトロウイルス由来の長い末端反復から誘導されたものが含まれる。Enhancers and Eukaryotic Expression、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、N.Y. 1983を参照されたい。これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0258】
発現ベクターの構築において、プロモーターは好ましくはその天然の設定における転写開始部位からの距離とほぼ同じ異種転写開始部位からの距離に位置される。しかし、当技術で知られているように、この距離におけるある程度の変動は、プロモーター機能を喪失せずに対応することができる。
【0259】
mRNA翻訳の効率を増大させるために、ポリアデニル化配列を発現ベクターに付加することもできる。正確で効率的なポリアデニル化のためには、2つの区別できる配列エレメント、即ち、ポリアデニル化部位から下流に位置するGU又はUに富んだ配列、及び11~30ヌクレオチド上流に位置する6個のヌクレオチド、AAUAAAの高度に保存された配列が必要である。本発明の一部の実施形態に適した終止及びポリアデニル化のシグナルには、SV40から誘導されたものが含まれる。
【0260】
既述のエレメントに加えて、本発明の一部の実施形態の発現ベクターは、典型的にはクローニングされた核酸の発現のレベルを増大させ、又は組換えDNAを担持する細胞の同定を容易にすることを意図したその他の特化されたエレメントを含んでよい。例えば、いくつかの動物ウイルスは、許容状態の細胞型においてウイルスゲノムの染色体外複製を促進するDNA配列を含む。これらのウイルスレプリコンを担持したプラスミドは、プラスミドに担持された又は宿主細胞のゲノムとともにある遺伝子によって適切な因子が提供される限り、エピソームとして複製される。
【0261】
ベクターは、真核生物のレプリコンを含んでもよく、含まなくてもよい。真核生物のレプリコンが存在する場合には、ベクターは適切な選択可能なマーカーを用いて真核細胞中で増幅することができる。ベクターが真核生物のレプリコンを含まない場合には、エピソーマル増幅は可能ではない。その代わりに、操作された細胞のゲノムの中に組換えDNAが一体化し、ここでプロモーターが所望の核酸の発現を指令する。
【0262】
本発明の一部の実施形態の発現ベクターは、例えば、内部リボソーム進入部位(IRES)及びプロモーター-キメラポリペプチドのゲノム一体化のための配列等の、単一mRNA由来のいくつかのタンパク質の翻訳を可能にするさらなるポリヌクレオチド配列を更に含み得る。
【0263】
発現ベクターに含まれる個別のエレメントが種々の構成で配置できることは認識されよう。例えば、エンハンサーエレメント、プロモーター、その他、及び目的のタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列さえも、「ヘッドツーテイル」構成で配置でき、逆転した相補体、又は逆平行鎖として相補的な構成で存在できる。そのような種々の構成は発現ベクターの非コーディングエレメントで起こる可能性が高いが、発現ベクターの中のコーディング配列の代替の構成も想定される。
【0264】
挿入されたコーディング配列の転写及び翻訳のための必要な要素を含むことの他に、本発明の一部の実施形態の発現構築物は、発現したペプチドの安定性、生産性、精製、収率、又は毒性を増大するために操作された配列を含んでもよい。
【0265】
特定の実施形態によれば、発現構築物は、細胞中のイメージングのための標識、例えば蛍光標識を含む。
【0266】
哺乳動物の発現ベクターの例には、それだけに限らないが、Invitrogen社から入手可能なpcDNA3、pcDNA3.1(+/-)、pGL3、pZeoSV2(+/-)、pSecTag2、pDisplay、pEF/myc/cyto、pCMV/myc/cyto、pCR3.1、pSinRep5、DH26S、DHBB、pNMT1、pNMT41、pNMT81、Promega社から入手可能なpCI、Strategene社から入手可能なpMbac、pPbac、pBK-RSV、及びpBK-CMV、Clontech社から入手可能なpTRES、並びにそれらの誘導体が含まれる。
【0267】
レトロウイルス等の真核生物ウイルス由来の制御エレメントを含む発現ベクターを用いることもできる。SV40ベクターには、pSVT7及びpMT2が含まれる。ウシパピローマウイルスから誘導されたベクターにはpBV-1MTHAが含まれ、エプスタインバーウイルスから誘導されたベクターにはpHEBO及びp2O5が含まれる。その他の例示的なベクターには、pMSG、pAV009/A+、pMTO10/A+、pMAMneo-5、バキュロウイルスpDSVE、及びSV-40早期プロモーター、SV-40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、又は真核生物細胞中での発現に有効であることが示された他のプロモーターの指令の下にタンパク質の発現を可能にする他の任意のベクターが含まれる。
【0268】
上記のように、ウイルスは多くの場合に宿主の防衛機構を回避するように進化した、極めて特化された感染源である。典型的には、ウイルスは特定の細胞型に感染し、増殖する。ウイルスベクターの標的特異性は、所定の細胞型を特異的に標的とし、それにより、感染した細胞に組換え遺伝子を導入するように、その天然の特異性を利用している。即ち、本発明の一部の実施形態で用いられるベクターの型は、形質転換される細胞型によることになる。形質転換される細胞型によって好適なベクターを選択する能力は当業者の能力の範囲内に十分あり、したがって選択のための考慮に関する一般的な記述はここでは提供しない。
【0269】
本発明の一部の実施形態のポリヌクレオチド又はポリペプチドを細胞に導入するために、種々の方法を用いることができる。そのような方法は一般にSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Springs Harbor Laboratory、New York(1989、1992);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons、Baltimore、Md.(1989);Changら、Somatic Gene Therapy、CRC Press、Ann Arbor、Mich.(1995);Vegaら、Gene Targeting、CRC Press、Ann Arbor Mich.(1995);Vectors: A Survey of Molecular Cloning Vectors and Their Uses、Butterworths、Boston Mass.(1988)、及びGilboaら、[Biotechniques 4(6): 504~512頁、1986]に記載されており、例えば、安定な又は過渡的なトランスフェクション、リポフェクション、電気穿孔、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、及び組換えウイルスベクターによる感染を含む。更に、陽性-陰性選択法については米国特許第5,464,764号及び第5,487,992号を参照されたい。現在のところ好ましいインビボ核酸移送手法には、ウイルス又は非ウイルス構築物、例えばアデノウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスIウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)、及び脂質系システムによるトランスフェクションが含まれる。
【0270】
裸のDNA若しくはRNA、細胞浸透性ペプチド、又はウイルス若しくは非ウイルスベクター(例えば、それだけに限らないが、リポソーム、ナノ粒子、哺乳動物ベクター、その他)は、当技術で知られているように、ポリヌクレオチド又はポリペプチドの送達において送達ビヒクルとして利用してよい。本発明の特定の実施形態によれば、用いられる送達システムは生体親和性で非毒性である。
【0271】
以下は、外因性のポリヌクレオチド又はポリペプチドの細胞への浸透を増大させるために適した例示的な実施形態である。
【0272】
1つの例示的な実施形態によれば、裸のDNA又はRNA [例えば裸のプラスミドDNA(pDNA)]は非ウイルスベクターであり、これは細菌中で産生し、標準的な組換えDNA手法を用いて操作することができる。これはそれ自体に対する抗体応答を誘起せず(即ち、抗DNA抗体又は抗RNA抗体が生成されない)、染色体の一体化がなくても長期の遺伝子発現を可能にする。裸のDNA又はRNAは多くの手段、例えば、それだけに限らないが、血管内又は電気穿孔の手法[Wolff JA, Budker V、2005、Adv. Genet. 54: 3~20頁]又はジェット注射[Walther W,ら、2004、Mol. Biotechnol. 28: 121~8頁]によって導入することができる。
【0273】
別の例示的な実施形態によれば、上に更に記載したように、哺乳動物ベクターが用いられる。
【0274】
特定の実施形態によれば、ポリヌクレオチドはウイルスベクターに含まれる。ウイルス感染による核酸の導入は、ウイルスの感染性によって高いトランスフェクション効率が得られるので、リポフェクション及び電気穿孔等の他の方法に対していくつかの利点を提供する。ウイルスベクターは、DNA系ゲノムを有するウイルス又はRNA系ゲノムを有するウイルス(即ち、ポジティブ一本鎖及びネガティブ一本鎖のRNAウイルス)であってよい。ウイルスベクターの例には、それだけに限らないが、レンチウイルス、アデノウイルス、及びレトロウイルスが含まれる。
【0275】
レトロウイルス構築物等のウイルス構築物は、少なくとも1つの転写プロモーター/エンハンサー若しくは遺伝子座定義エレメント、又は代替スプライシング、核RNAエクスポート、若しくはメッセンジャーの翻訳後改変等の他の手段によって遺伝子発現を制御する他のエレメントを含む。そのようなベクター構築物は、パッケージングシグナル、長いターミナルリピート(LTR)、又はそれらの部分、並びに、それが既にウイルス構築物の中に存在していない限り、用いるウイルスに対して適切なポジティブ及びネガティブの鎖プライマー結合部位も含む。組換えレトロウイルスを産生するため及びそのようなウイルスをインビトロ又はインビボで細胞に感染させるためのプロトコルは、例えばAusubelら編、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates,(1989)に見出すことができる。他の好適な発現ベクターは、アデノウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスIウイルス、又はアデノ随伴ウイルス(AAV)であってよい。
【0276】
発現を特定の細胞型に限定する制御エレメントも含むことができる。そのような特徴には、例えば所望の細胞型に特異的なプロモーター及び制御エレメントが含まれる。
【0277】
特定の実施形態によれば、発現する工程は目的のポリペプチド(例えば転写因子)を細胞に導入する工程を含む。
【0278】
即ち、本発明の一態様によれば、GATA3及びOCT4転写因子ポリペプチドを含むタンパク質製剤が提供される。
【0279】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤はc-MYC転写因子ポリペプチドを更に含む。
【0280】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤はKLF転写因子ポリペプチドを更に含む。
【0281】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤はKLF4転写因子ポリペプチドを更に含む。
【0282】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤はKLF5転写因子ポリペプチドを更に含む。
【0283】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤はKLF4及びKLF5転写因子ポリペプチドの少なくとも1つを更に含む。
【0284】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤はKLF4及びKLF5転写因子ポリペプチドを更に含む。
【0285】
特定の実施形態によれば、転写因子の2つ、3つ、又は全てはタンパク質製剤、例えばGATA3+OCT4; GATA3+OCT4+c-MYC、GATA3+OCT4+KLF(例えばGATA3+OCT4+KLF4、GATA3+OCT4+KLF5、GATA3+OCT4+KLF4+KLF5)又はGATA3+OCT4+c-MYC+KLF(例えばGATA3+OCT4+c-MYC+KLF4、GATA3+OCT4+c-MYC+KLF5、GATA3+OCT4+c-MYC+KLF4+KLF5)に含まれる。
【0286】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤はGATA3、OCT4、c-MYC、及びKLF4ポリペプチドを含む。
【0287】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤はGATA3、OCT4、c-MYC、KLF4、及びKLF5ポリペプチドを含む。
【0288】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤は、転写因子のそれぞれを、残留レベルを超える(例えば0.1%を超える)レベルで含む。
【0289】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤は、転写因子のそれぞれを、少なくとも10%の純度のレベルで含む。
【0290】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤はGATA3及びOCT4を少なくとも20%の純度のレベルで含む。
【0291】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤は、製剤中に含まれる転写因子の全てを、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の純度のレベルで含む。
【0292】
特定の実施形態によれば、タンパク質製剤は、製剤中に含まれる転写因子ポリペプチドの全てを、少なくとも90%の純度のレベルで含む。
【0293】
即ち、特定の実施形態によれば、タンパク質製剤中のポリペプチドのそれぞれは個別の処方で提供される。
【0294】
他の特定の実施形態によれば、タンパク質製剤中のポリペプチドは共処方で提供される。
【0295】
特定の実施形態によれば、ポリペプチドは、以下に更に述べるように、ポリペプチドの細胞内送達を増強する細胞浸透に適した処方で提供される。
【0296】
細胞浸透性ペプチド(CPP)は、殆どいずれの細胞の内部にもアクセスできる能力を有する短いペプチド(40アミノ酸以下)である。これらは高度にカチオン性で、通常、アルギニン及びリジンアミノ酸に富んでいる。これらは、タンパク質、オリゴヌクレオチド、及び更には200nmのリポソーム等の共有結合及び非共有結合でコンジュゲートした多種の積み荷を細胞内に運搬する優れた特性を有している。したがって、さらなる例示的な実施形態によれば、CPPを用いてポリヌクレオチド又はポリペプチドを細胞の内部に輸送することができる。
【0297】
TAT(HIV-1由来の転写アクチベーター)、pAntp(ペネトラチンとも命名された、ドロソフィラ・アンテナペディア(Drosophila antennapedia)のホメオドメイン転写因子)、及びVP22(単純ヘルペスウイルス由来)は、非毒性かつ効率的に細胞に進入することができ、本発明の一部の実施形態での使用に適していると思われるCPPの例である。CPP-積み荷のコンジュゲートを産生するプロトコル及びこのコンジュゲートを細胞に感染させるプロトコルは、例えばL Theodoreら [The Journal of Neuroscience,(1995)15(11): 7158~7167頁]、Fawell S,ら [Proc Natl Acad Sci USA,(1994)91:664~668]、及びJing Bianら [Circulation Research.(2007)100: 1626~1633頁]で見出すことができる。
【0298】
本発明の一部の実施形態の細胞で発現される外因性のポリヌクレオチド及び/又はポリペプチドの発現レベル及び/又は活性レベルは、当技術で既知の方法、例えばこれだけに限らないが、ノーザンブロット解析、PCR解析、ウェスタンブロット解析、免疫組織化学、及び蛍光活性化細胞分別(FACS)を用いて決定することができる。
【0299】
「前記細胞からのiTSCの生成を可能にする条件」は、細胞の脱分化/再プログラミング及び少なくとも20継代にわたるTSC表現型の維持に影響する培養条件を意味する。そのような条件の非限定的な例には、培養時間、培地組成、酸素濃度、小分子、サイトカイン、及び外因性転写因子の発現が含まれる。
【0300】
「細胞の若返りを可能にする条件」は、細胞のリニエージ及び分化状態に影響することなく、細胞の若返りに影響する培養条件を意味する。そのような条件の非限定的な例には、培養時間、培地組成、酸素濃度、小分子、サイトカイン、及び外因性転写因子の発現が含まれる。「細胞の脱分化を可能にする条件」は、細胞のリニエージに影響することなく、細胞の脱分化に影響する培養条件を意味する。これらの条件には、培養時間、培地組成、酸素濃度、小分子、サイトカイン、及び外因性転写因子の発現が含まれる。
【0301】
特定の実施形態によれば、条件は発現が過渡的であるようなものである。
【0302】
即ち、特定の実施形態によれば、iTSC、若返りした細胞、又は脱分化した細胞は、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーによって決定した場合、外因性転写因子を発現しない。
【0303】
特定の実施形態によれば、iTSC、若返りした細胞、又は脱分化した細胞は、PCR、ウェスタンブロット、及び/又はフローサイトメトリーによって決定した場合、外因性転写因子を含まない。
【0304】
特定の実施形態によれば、条件は、外因性転写因子の細胞への導入の後、発現が少なくとも14日、少なくとも15日、少なくとも20日、少なくとも25日にわたるようなものである。
【0305】
特定の実施形態によれば、条件は、外因性転写因子の細胞への導入の後、発現が少なくとも14日にわたるようなものである。
【0306】
特定の実施形態によれば、条件は、外因性転写因子の細胞への導入の後、発現が28日を超えず、30日を超えず、又は40日を超えないようなものである。
【0307】
特定の実施形態によれば、条件は、外因性転写因子の細胞への導入の後、発現が28日を超えないようなものである。
【0308】
特定の実施形態によれば、条件は、外因性転写因子の細胞への導入の後、発現が30日を超えないようなものである。
【0309】
特定の実施形態によれば、条件は、外因性転写因子の細胞への導入の後、発現が14~28日にわたるようなものである。
【0310】
特定の実施形態によれば、条件は、外因性転写因子の細胞への導入の後、発現が少なくとも1日、少なくとも3日、少なくとも6日、少なくとも9日、少なくとも12日、又は少なくとも18日にわたるようなものである。
【0311】
特定の実施形態によれば、条件は、外因性転写因子の細胞への導入の後、発現が30日を超えず、25日を超えず、20日を超えず、15日を超えないようなものである。
【0312】
特定の実施形態によれば、条件は、外因性転写因子の細胞への導入の後、発現が14日未満にわたるようなものである。
【0313】
特定の実施形態によれば、条件は、再プログラミングが卵子、胚、胚性幹細胞(ESC)、又はiPSCの非存在下で実施されるようなものである。即ち、これらの成分のいずれも培養系から欠けている。
【0314】
特定の実施形態によれば、条件は、低酸素濃度、例えば2~10%の酸素、例えば約5%の酸素を含む。
【0315】
特定の実施形態によれば、条件は、EGF、CHIR99021、A83-01、SB431542、Y27632、及び/又はVPA若しくはTSAを含む培養培地を含む。
【0316】
特定の実施形態によれば、条件は、以下に更に述べるように、2-メルカプトエタノール、FBS、ペニシリン-ストレプトマイシン、BSA、ITS補助剤、L-アスコルビン酸、EGF、CHIR99021、A83-01、SB431542、VPA又はTSA、及びY27632を含むDMEM/F12培養培地を含む。
【0317】
特定の実施形態によれば、本方法は、iTSC、若返りした細胞、又は脱分化した細胞を単離する工程を含む。
【0318】
細胞を単離する方法は当技術で周知であり、機械的及びマーカーに基づく手法が含まれる。単離する手法の非限定的な例には、蛍光活性化細胞選別(FACS)による細胞の細胞選別、磁気標識した抗体及び磁気分離カラム(例えばMACS、Miltenyi社)を用いる磁気分離、並びに顕微鏡下における手作業による採取が含まれる。
【0319】
特定の実施形態によれば、細胞の単離は、双眼/顕微鏡下でiTSCコロニーを採取し、続いてトリプシン処理及びフィーダー細胞を含むプレートで培養することによって達成される。
【0320】
特定の実施形態によれば、単離のプロセスによって、少なくとも約10%、少なくとも約12%、少なくとも約14%、少なくとも約16%、少なくとも約18%、少なくとも約20%、少なくとも約22%、少なくとも約24%、少なくとも約26%、少なくとも約28%、少なくとも約30%、少なくとも約32%、少なくとも約34%、少なくとも約36%、少なくとも約38%、少なくとも約40%、少なくとも約42%、少なくとも約44%、少なくとも約46%、少なくとも約48%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、例えば100%の、本発明の一部の実施形態のiTSC、若返りした細胞、又は脱分化した細胞を含む集団が得られる。
【0321】
特定の実施形態によれば、本方法はエクスビボ又はインビトロで達成される。
【0322】
本明細書で開示した細胞(iTSC、若返りした細胞、脱分化した細胞)は、本明細書で開示した転写因子を細胞中で発現することによって生成されるので、本発明の別の態様によれば、外因性GATA3及びOCT4転写因子を発現する単離されたヒト細胞が提供される。
【0323】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は外因性c-MYC転写因子を更に発現する。
【0324】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は外因性KLF転写因子を更に発現する。
【0325】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は外因性KLF4転写因子を更に発現する。
【0326】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は外因性KLF5転写因子を更に発現する。
【0327】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は外因性のKLF4及びKLF5転写因子の少なくとも1つを更に発現する。
【0328】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は外因性のKLF4及びKLF5転写因子を更に発現する。
【0329】
特定の実施形態によれば、細胞は細胞の均質な集団に含まれ、したがって、本発明の一態様によれば、細胞の単離された集団が提供され、細胞の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%は本明細書で開示した細胞である。
【0330】
他の特定の実施形態によれば、細胞は細胞の不均質な集団に含まれ、即ち、2つ以上の細胞型を含む集団中、例えばその中で少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%は本明細書で開示した細胞である。
【0331】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は、本明細書で開示した転写因子の2つ、3つ、又は全て、例えばGATA3+OCT4; GATA3+OCT4+c-MYC、GATA3+OCT4+KLF4(例えばGATA3+OCT4+KLF4、GATA3+OCT4+KLF5、GATA3+OCT4+KLF4+KLF5)、GATA3+OCT4+c-MYC+KLF(例えばGATA3+OCT4+c-MYC+KLF4、GATA3+OCT4+c-MYC+KLF5、GATA3+OCT4+c-MYC+KLF4+KLF5)を発現する。
【0332】
特定の実施形態によれば、単離された細胞はGATA3、OCT4、c-MYC、及びKLF4を発現する。
【0333】
特定の実施形態によれば、単離された細胞はGATA3、OCT4、c-MYC、KLF4、及びKLF5を発現する。
【0334】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は、本明細書で開示した転写因子をコードするDNA分子を発現する。外因性DNA分子の存在を評価する方法は当技術で既知であり、それだけに限らないが、DNAシーケンシング、サザンブロット、FISH、及びPCRが含まれる。
【0335】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は、本明細書で開示した転写因子をコードするRNA分子を含む。外因性RNAの存在を評価する方法は当技術で既知であり、それだけに限らないが、RNAシーケンシング、ノーザンブロット、及びPCRが含まれる。
【0336】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は、本明細書で開示した転写因子のタンパク質分子を含む。外因性タンパク質分子の存在を評価する方法は当技術で既知であり、それだけに限らないが、ウェスタンブロット、免疫沈降法、免疫細胞化学、及びフローサイトメトリーが含まれる。
【0337】
特定の実施形態によれば、単離された細胞は体細胞から脱分化される。そのような細胞は、時には元のマーカー、即ち源の体細胞のマーカーをまだ含んでいることがある。
【0338】
特定の実施形態によれば、いったん得られれば、細胞は培地中で培養され、逐次継代される。
【0339】
即ち、本発明の一態様によれば、本発明の一部の実施形態の単離された細胞及び培養培地を含む細胞培養物が提供される。
【0340】
本発明の一態様によれば、単離されたiTSC及び培養培地を含む細胞培養物が提供される。
【0341】
本発明の一態様によれば、単離された若返りした細胞及び培養培地を含む細胞培養物が提供される。
【0342】
本発明の一態様によれば、単離された脱分化された細胞及び培養培地を含む細胞培養物が提供される。
【0343】
特定の実施形態によれば、培養物はフィーダー細胞層、例えばそれだけに限らないが、マウス胚フィーダー(MEF)細胞、ヒト胚線維芽細胞、又は成体卵管上皮細胞、及びヒト包皮フィーダー層を含む。典型的には、フィーダー細胞層は幹細胞の増殖に必要な因子を分泌し、同時に幹細胞の分化を阻害する。
【0344】
一部の実施形態の細胞培養は、細胞が長期(例えば少なくとも20継代、例えば少なくとも30、40、50、60、70、80、90、100継代、又はそれ以上)にわたって継代される一方、細胞の分化レベル(即ち、細胞のTSC未分化状態)を維持する培養条件下で、インビトロで維持することができる。
【0345】
細胞(例えばiTSC)を培養する工程は、培養培地を24~72時間ごとに「新鮮な」培地(同一組成の)で置き換えてそれぞれの培養皿(例えばプレート)を週日の1~3回ごとに継代する工程を含むことに留意されたい。即ち、培養中の細胞が約60~90%コンフルエンスに達すれば、上清を廃棄し、培養皿を洗浄し[例えばリン酸塩緩衝食塩液(PBS)で]、例えば単一細胞又は細胞塊が相互に分離されるまで、例えばトリプシン処理(0.25%若しくは0.05%のTrysin + EDTA 又はTrypLE(登録商標)Select Enzyme Gibco社)を用いて、細胞を培養皿からの酵素的解離に供する。
【0346】
一部の実施形態の培養条件により、転写因子のさらなる外因性発現を必要とせずに、iTSCをその未分化の状態に維持することができることに留意されたい。
【0347】
特定の実施形態によれば、本方法は、iTSC、若返り、又は脱分化の生成をアッセイする工程を含む。
【0348】
iTSCを評価するために用いることができるアッセイの非限定的な例は、上記及び下記並びに以下の実施例の部に詳細に記載している。
【0349】
特定の実施形態によれば、培養工程の間に、細胞はその分化状態について更にモニターされる。細胞の分化又は脱分化は、細胞の形態を評価することによって、又は細胞若しくは組織に特異的なマーカーを検討することによって、決定することができ、これらは分化の指標であることが知られている。例えば、未分化のヒトiTSCは、TSC特異的マーカーであるKRT7、GATA2、GATA3、TFAP2A、TFAP2C、TP63を発現し得る。対照的に、分化した細胞はその他の特異的マーカーを発現し、例えば線維芽細胞特異的マーカーにはTHY1、ZEB1、VIM、ACTA2が含まれ、心筋細胞特異的なマーカーにはトロポニン2が含まれる。
【0350】
組織/細胞特異的マーカーは、当技術で周知の免疫学的手法を用いて検出することができる[Thomson JAら、(1998). Science 282: 1145~7頁]。例には、これだけに限らないが、膜結合マーカー及びまた細胞内マーカーのためのフローサイトメトリー、細胞外及び細胞内のマーカーのための免疫組織化学、並びに分泌された分子マーカーのための酵素免疫アッセイが含まれる。
【0351】
特定の遺伝子の発現レベルをモニターするための有用な方法は当技術で周知であり、RT-PCR、半定量的RT-PCR、ノーザンブロット、RNAインサイチュハイブリダイゼーション、ウェスタンブロット解析、及び免疫組織化学が含まれる。
【0352】
未分化の又は脱分化した状態の決定は、インビトロとインビボの両方において細胞の分化ポテンシャルを評価することによっても達成することができる。
【0353】
例えば、iTSCの未分化状態の決定は、例えばそれだけに限らないが、特定した分化培養培地中での細胞の増殖、及び栄養芽出血病変の形成、胚盤胞の胚外領域への局在化、又は発生中の胚の胎盤への局在化等の、当技術で周知の方法によってインビトロ及びインビボの両方で分化ポテンシャルを評価することによって達成することができる。
【0354】
分化状態をモニターする工程に加えて、当技術で周知の方法によって細胞をゲノム安定性、トランスクリプトーム、及び/又はメチル化パターンについてモニターし、対応する種と比較することが多い。
【0355】
若返りを評価するために用いることができるアッセイの非限定的な例は、上記及び下記に詳細に記載している。
【0356】
例えば、細胞の同一性は、形態、免疫組織化学、トランスクリプトーム解析(RNA-seq)等によって評価され、一方、若返りは、例えば亜硫酸水素塩シーケンシングを用いるDNAメチル化クロック、テロメア長さ、ヒストンマーク、ミトコンドリア活性、遺伝子発現、及び機能性アッセイによって評価される。
【0357】
若返りした細胞の機能も評価してよい。本明細書で開示した若返り態様に関連して達成することができる機能性アッセイの非限定的な例には、MitoSOX試薬及び/又はSeahorse XF アナライザーを用いるミトコンドリア活性;γH2A.X フォーカスの基数の定量及びDNA損傷のバイオマーカーであるATM、53BP1、RAD51についての染色を用いるDNA損傷応答;及び/又はβ-gal染色による老化が含まれる。若返りした間葉細胞は、IncuCyte(登録商標)S3及びトランスウェルによる遊走を用いる創傷治癒アッセイによって更に評価してよい。若返りしたMSCは、細胞を末梢血単核細胞(PBMC)と共培養し、その増殖速度を検討することによって、免疫抑制の改善について更に評価してよい。CD34+幹細胞に関して、臍帯血は約50%のB細胞及び20%の脊髄細胞を含む一方、成体血は50%を超える脊髄細胞及び約10~15%のB細胞を含む。したがって、CD34+細胞の細胞若返りを実証する1つの方法は、約10%のB細胞を示すはずの対照細胞とは反対に、若返りの後で20%を超えるB細胞を得ることである。更に又はその代わりに、CD5-細胞である「成体」B2細胞とは対照的に、最も若い(胎児肝)HSCに最も限定されるB1細胞の生成の可能性を探索するために、CD5+細胞の存在が評価される。若返りしたCD34+細胞の機能性は、NSGマウスへの移植によって、インビボで更に評価してよい。更に、若返りした細胞の腫瘍原性の可能性は、NOD/SCIDマウスへの皮下移植によって評価してよい。
【0358】
本明細書で用いる場合、語句「培養培地」は、細胞の成長を支持するために用いられる固体又は液体の物質を意味する。特定の実施形態によれば、培養培地は液体培地である。
【0359】
特定の実施形態によれば、培養培地は、本明細書で更に述べるように、ヒトTSCの培養を支持することが示されている成分の組成物を含む。
【0360】
特定の実施形態によれば、培養培地はiTSCをその分化状態(即ち、未分化状態)に維持することができる。
【0361】
特定の実施形態によれば、培養培地はiTSCをその分化レベルに少なくとも20継代、例えば少なくとも約30、40、50、60、70、80、90、100継代又はそれ以上、維持することができる。
【0362】
特定の実施形態によれば、培養培地はiTSCをその分化レベルに少なくとも20継代、維持することができる。
【0363】
本発明の一部の実施形態によって用いられる培養培地は、その全てが細胞の増殖に必要であり、幹細胞を未分化状態に維持することができる、塩、栄養素、ミネラル、ビタミン、アミノ酸、核酸、タンパク質、例えばサイトカイン、成長因子、及びホルモン等の物質の組合せを含む水系培地であってよい。例えば、培養培地は、これ以降更に述べる必要な添加物が補充された、RPMI(Gibco-Invitrogen Corporation社の製品、Grand Island、NY、USA)、Ko-DMEM(Gibco-Invitrogen Corporation社の製品、Grand Island、NY、USA)、DMEM/F12(Gibco-Invitrogen Corporation社の製品、Grand Island、NY、USA)、又はDMEM/F12(Biological Industries社、Biet Haemek、Israel)等の合成の組織培養培地であってよい。好ましくは、培養培地に含まれる全ての成分は実質的に純粋であり、組織培養グレードである。
【0364】
特定の実施形態によれば、培養培地はDMEM/F12である。
【0365】
本発明の一部の実施形態の培養培地で用いられるタンパク質性因子のいずれも、組換え発現又は生化学的合成が可能であることが理解されよう。更に、天然に存在するタンパク質性因子は、当技術で周知の方法を用いて生物学的試料から(例えばヒト血清、細胞培養から)精製することができる。
【0366】
特定の実施形態によれば、培養培地は、馴化された培地を含む。馴化された培地は、ある培養期間の後で存在する単層の細胞培養(即ちフィーダー細胞)の成長培地である。馴化された培地は、培養物中の単層細胞によって分泌された成長因子及びサイトカインを含む。
【0367】
特定の実施形態によれば、培養培地は馴化された培地を欠いている。
【0368】
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は血清を欠き、例えばいずれの動物血清をも欠いている。
【0369】
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地はいずれの動物夾雑物、即ち動物細胞、体液、又は病原体(例えば動物細胞に感染するウイルス)をも欠いており、例えば異物を含まない。
【0370】
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地はヒト由来の血清を欠いている。
【0371】
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は、例えばそれだけに限らないが、KNOCKOUT(商標)Serum Replacement(Gibco-Invitrogen Corporation社、Grand Island、NY USA)、ALBUMAX(登録商標)II(Gibco(登録商標); Life Technologies - Invitrogen社、カタログNo. 11021-029;細胞培養用の脂質に富んだウシ血清アルブミン)、又は化学的に定義された脂質濃縮物(Gibco(登録商標); Invitrogen、Life Technologies - Invitrogen社、カタログNo. 11905-031)等の血清代用品を更に含む。
【0372】
特定の実施形態によれば、培養培地は血清代用品を欠いている。
【0373】
本発明の一部の実施形態によれば、培養培地は抗生剤(例えばPEN-STREP)、L-グルタミン、NEAA(非必須アミノ酸)を更に含み得る。
【0374】
特定の実施形態によれば、培地は2-メルカプトエタノール、FBS、ペニシリン-ストレプトマイシン、BSA、ITS補助剤、L-アスコルビン酸、EGF、CHIR99021、A83-01、SB431542、及び/又は若しくはVPA又はTSA及びY27632を含む。
【0375】
特定の実施形態によれば、培地は、Okaeら、Cell Stem Cell.(2018)Jan 4;22(1):50~63頁に記載されているように、0.1mMの2-メルカプトエタノール、0.2%のFBS、0.5%のペニシリン-ストレプトマイシン、0.3%のBSA、1%のITS補助剤、1.5μg/mlのL-アスパラギン酸、50ng/mlのEGF、2μMのCHIR99021、0.5μMのA83-01、1μMのSB431542、0.8mMのVPA又は10nMのTSA、及び5μMのY27632を含む。
【0376】
初代培養に加えて、本明細書で開示した単離された細胞、iTSC、若返りした細胞、及び/又は脱分化した細胞を用いて細胞株、iTSC株、若返りした細胞株、又は脱分化した細胞株を生成することができ、これらは培養中に無限定の増殖をすることができる。
【0377】
本発明の一部の実施形態の細胞株は、例えば細胞中でテロメラーゼ遺伝子を発現すること(Wei, W.ら、2003. Mol Cell Biol. 23: 2859~2870頁)又は細胞をNIH 3T3 hph-HOX11レトロウイルス産生細胞と共培養すること(Hawley, R.G.ら、1994. Oncogene 9: 1~12頁)を含む当技術で既知の方法によって、単離された細胞、iTSC、若返りした細胞、及び/又は脱分化した細胞を不死化することによって産生することができる。
【0378】
本発明の一部の実施形態の一態様によれば、本発明の一部の実施形態のiTSC又は脱分化した細胞を分化条件に供し、それにより、分化した細胞を生成する工程を含む、分化した細胞を生成する方法が提供される。iTSCを特定の細胞型に分化させる方法は当技術で既知であり、本発明は、例えばOkaeら、Cell Stem Cell. 2018 Jan 4;22(1):50~63頁及びHaiderら、Stem Cell Reports. 2018 Aug 14;11(2):537~551頁に開示されたような全てのそのような方法を意図している。これらの文献の内容は参照により本明細書に完全に組み込まれ、未分化状態を支持する因子を欠く培地中で細胞を培養する工程、例えば10%のFBSを含むDMEM培地中又は指令された分化を促す培地中で培養する場合を含む。本方法は、細胞の遺伝子改変及び/又は分化因子を含む培地中での細胞培養を含んでよい。再分化する段階は、完全に分化した細胞又は特定のリニエージに沿って部分的に分化した細胞の生成をもたらし得ることが認識されよう。
【0379】
本発明の特定の実施形態によれば、本発明の一部の実施形態のiTSCを用いて、リニエージ特異的な細胞を単離することができる。
【0380】
本明細書で用いる場合、語句「単離されたリニエージ特異的細胞」は、培養物中の細胞の混合された集団の、主として特定のリニエージ表現型に関連する少なくとも1つの特徴を呈する細胞による富化を意味する。即ち、例えばiTSCはトロホブラスト細胞リニエージのいずれにも分化することができる。リニエージ特異的細胞は、当技術で周知の方法によって、増殖した未分化のiTSCを、特定の細胞リニエージの分化に適した培養条件に直接誘起することによって得ることができる。単離されたリニエージ特異的細胞の分化及び増殖に適した培養条件は種々の組織培養培地、生長因子、抗生剤、アミノ酸、その他を含むこと、並びに特定の細胞型及び/又は細胞リニエージを増殖させ分化させるためにどの条件を適用すべきかを決定することは、当業者の能力の範囲内であることが理解されよう。
【0381】
本発明は、その一部の実施形態によれば、当技術で既知の任意の分化プロトコルを用いて本明細書で開示したiTSCから生成される細胞、組織、及び臓器を使用することを意図している。
【0382】
本明細書で開示した単離された細胞及び構築物は、例えば疾患のモデリング、薬物のスクリーニング、及び患者特異的な細胞に基づく治療のために更に用いてよい。
【0383】
即ち、本発明の一態様によれば、本明細書で開示したiTSC、構築物、又はタンパク質製剤を含む単離された会合体、オルガノイド、胎盤、発生中の胚、及び合成胚が提供される。
【0384】
本発明の別の態様によれば、本明細書で開示したiTSC、構築物、又はタンパク質製剤を胎盤、発生中の胚、又は合成胚に導入する工程を含む、胎盤、発生中の胚、又は合成胚を強化する方法が提供される。
【0385】
本明細書で用いる場合、用語「発生中の胚」は発生の任意の段階にある胚を意味し、4細胞期、8細胞期、16細胞期にある胚、早期桑実胚、後期桑実胚、早期胚盤胞、及び/又は後期胚盤胞を含む。
【0386】
動物の発生中の胚の胎盤にインビトロ又はインビボで細胞を投与する方法は当技術で、例えばそのそれぞれが参照により本明細書に完全に組み込まれるGafni Oら、Nature. 2013 Dec 12;504(7479):282~6頁;及びManipulating the Mouse Embryo: A Laboratory Manual、第4版、Richard Behringer; Marina Gertsenstein; Kristina Vintersten Nagy; Andras Nagyによって周知であり、以下の実施例の部の材料及び方法でも開示している。
【0387】
本発明の一部の実施形態によれば、細胞への導入は、直接注射又は発生中の宿主の胎盤若しくは胚との会合によってインビトロ又はエクスビボで実施される。
【0388】
本発明の別の態様によれば、トロホブラスト細胞を含む会合体又はオルガノイドを生成する方法が提供され、本方法は、本明細書で開示したiTSC、構築物、又はタンパク質製剤をスカフォールド又はマトリックスに導入する工程を含む。
【0389】
iTSC及びiTSC由来の細胞製剤並びにキメラ胎盤は、トロホブラスト細胞の発生及び/若しくは活性に関連する障害のためのモデル系を調製するため、トロホブラスト細胞の分化及び/若しくは活性において発現されるか、又はそのために必須の遺伝子をスクリーニングするため、トロホブラスト細胞の分化及び/又は活性をもたらす薬剤若しくは条件(例えば培養条件又は操作)をスクリーニングするため、トロホブラスト細胞に特異的な成長因子及びホルモンを産生するため、並びにトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に関連する障害の細胞療法として、用いることができる。
【0390】
したがって、細胞製剤及びキメラ胎盤は、トロホブラスト細胞の発生又は活性、例えば浸潤又は増殖を調節する可能性のある薬剤をスクリーニングするために用いてよい。
【0391】
即ち、本発明の一態様によれば、トロホブラスト細胞の発生及び/又は活性を調節することができる薬剤を特定する方法が提供され、本方法は、
(i)本明細書で開示した単離されたiTSC、iTSCを含む細胞の集団、会合体、オルガノイド、又は胎盤を候補薬剤と接触させる工程、及び
(ii)前記薬剤との前記接触の後で、単離されたiTSC、細胞の集団、会合体、オルガノイド、又は胎盤の発生及び/又は活性を、前記薬剤がない場合の前記単離されたiTSC、細胞の集団、会合体、オルガノイド、又は胎盤の発生及び/又は活性と比較する工程
を含み、
前記薬剤がない場合の前記単離されたiTSC、細胞の集団、会合体、オルガノイド、又は胎盤の前記発生及び/又は活性と比較して所定のレベルを超える前記単離されたiTSC、細胞の集団、会合体、オルガノイド、又は胎盤の前記発生及び/又は活性に対する前記薬剤の効果は、前記薬物がトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性を調節することを示す。
【0392】
本明細書で用いる場合、用語「調節すること」は、阻害すること又は促進することによって、トロホブラスト細胞の発生及び/又は活性を変化させることを意味する。
【0393】
特定の実施形態によれば、調節することは、発生及び/又は活性を阻害することである。
【0394】
特定の実施形態によれば、調節することは、発生及び/又は活性を促進することである。
【0395】
同じ培養条件について、トロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に対する候補薬剤の効果は一般に、同じ種であるが候補薬剤に接触していない又は対照とも称されるビヒクル対照と接触した細胞における発生及び/又は活性と比較して表される。
【0396】
本明細書で用いる場合、語句「所定の閾値を超える効果」は、化合物と接触する前の発現のレベルに対して、所定の閾値より例えば約10%高い、例えば約20%より高い、例えば約30%より高い、例えば約40%より高い、例えば約50%より高い、例えば約60%より高い、約70%より高い、約80%より高い、約90%より高い、約2倍より高い、約3倍%より高い、約4倍より高い、約5倍より高い、約6倍より高い、約7倍より高い、約8倍%より高い、約9倍より高い、約20倍より高い、約50倍より高い、約100倍より高い、約200倍より高い、約350倍より高い、約500倍より高い、約1000倍より高い、若しくはそれ以上の、化合物との接触の後のトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性の変化を意味する。
【0397】
特定の実施形態によれば、候補薬剤は、それだけに限らないが、化学物質、小分子、ポリペプチド、及びポリヌクレオチドを含む任意の化合物でよい。
【0398】
細胞製剤、会合体、オルガノイド、及び胎盤を用いて、トロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に重要な遺伝子及び物質を特定することもできる。単離されたiTSCは、細胞中の遺伝子に変異を導入するか、又は細胞中にトランスジーンを導入することによって、改変することもできる。
【0399】
特定の実施形態によれば、選択された薬剤を更に用いて、以下に述べる状態等のトロホブラスト細胞の発生又は活性の制御を必要とする種々の状態を処置することができる。
【0400】
再発性流産及び胎児発育不全(FGR)は胎盤の機能不全に関連しており、身体障害及び重篤な場合には死の原因となる。移植された細胞は未発生の/損傷を受けた胎盤を支持することによって、これらの胎児のいくらかを救援できる可能性があるので、無傷かつ健常なTSCの細胞移植は臨床において大きく期待されている。
【0401】
即ち、本発明の別の態様によれば、それを必要とする対象におけるトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に関連する障害を処置及び/又は防止する方法が提供され、本方法は、本明細書で開示した治療有効量のiTSC、構築物、又はタンパク質製剤を対象に投与し、それにより、対象におけるトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に関連する障害を処置及び/又は防止する工程を含む。
【0402】
本発明のさらなる又は代替の態様によれば、それを必要とする対象におけるトロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に関連する障害の処置及び/又は防止における使用のための、本明細書で開示したiTSC、構築物、又はタンパク質製剤が提供される。
【0403】
本発明のこの態様は、トロホブラスト細胞の発生及び/又は活性に関連する障害を処置することを意図している。機能不全のトロホブラスト細胞は、一方では母体に影響し、他方では胎児に影響することがある。したがって両方の条件が意図される。そのような障害の非限定的な例には、再発性流産、子癇前症、胎児発育不全(FGR)、胞状奇胎、及び絨毛腫が含まれる。
【0404】
用語「処置すること」又は「処置」は、病変(例えば再発性流産)の進行を阻害若しくは阻止すること、及び/又は病変の低減、寛解、若しくは退行を惹起することを意味する。当業者であれば、種々の方法論及びアッセイを用いて病変の進行を評価でき、同様に種々の方法論及びアッセイを用いて病変の低減、寛解、若しくは退行を評価できることが理解されよう。
【0405】
本明細書で用いる場合、用語「防止すること」は、疾患のリスクがある可能性があるが、まだ疾患を有していると診断されていない対象において疾患(又は病変)が発生することを防ぐことを意味する。
【0406】
本明細書で用いる場合、語句「それを必要とする対象」は、病変を有すると診断された哺乳動物対象(例えばヒト)を意味する。特定の実施形態では、この用語は、病変が進行するリスクにある個体を包含する。獣医用途も意図されている。対象は、新生児、幼児、未成年者、青年、成人、及び高齢成人を含む任意の性又は任意の年齢であってよい。特定の実施形態によれば、対象は女性である。
【0407】
特定の実施形態によれば、対象は少なくとも20歳である。
【0408】
特定の実施形態によれば、対象は少なくとも40歳である。
【0409】
特定の実施形態によれば、対象は少なくとも50歳である。
【0410】
特定の実施形態によれば、対象は少なくとも60歳である。
【0411】
特定の実施形態によれば、対象は少なくとも70歳である。
【0412】
トロホブラスト細胞はいくつかの分泌性の成長因子及びホルモンを産生するので、本発明の別の態様によれば、トロホブラスト細胞によって産生される化合物を得る方法が提供され、本方法は、本明細書で開示した単離されたiTSC、iTSCを含む細胞の集団、又はiTSC細胞培養物を培養し、細胞によって分泌された化合物を培養培地から単離し、それにより、トロホブラスト細胞によって産生された化合物を得る工程を含む。
【0413】
特定の実施形態によれば、化合物は、例えばヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を含むがそれに限らない、成長因子又はホルモンである。
【0414】
本発明のさらなる又は代替の態様によれば、それを必要とする対象における老化に関連する疾患を処置及び/又は防止する方法が提供され、本方法は、本明細書で開示した治療有効量の若返りした細胞、脱分化した細胞、構築物、又はタンパク質製剤を対象に投与し、それにより、対象における疾患を処置及び/又は防止する工程を含む。
【0415】
本発明のさらなる又は代替の態様によれば、それを必要とする対象における老化に関連する疾患の処置及び/又は防止における使用のための、本明細書で開示した若返りした細胞、脱分化した細胞、構築物、又はタンパク質製剤が提供される。
【0416】
本発明のこの態様は、老化に関連する疾患を処置することを意図している。そのような疾患の非限定的な例には、緑内障、白内障、高度近視、網膜色素変性症、錐体ジストロフィー、錐体杆体ジストロフィー、アッシャー症候群、スタルガルト病、バルデ・ビードル症候群、ベスト病、遺伝性黄斑変性、骨髄異形成症候群(MDS)、がん、移植片拒絶、グラフト対宿主疾患(GVHD)、感染性疾患、サイトカインストーム、放射線障害、神経変性疾患、及び創傷が含まれる。
【0417】
特定の実施形態によれば、老化に関連する疾患は、老化の増大に起因する。
【0418】
特定の実施形態によれば、疾患は視力に関連する疾患である。
【0419】
特定の実施形態によれば、疾患は、緑内障、白内障、高度近視、網膜色素変性症、錐体ジストロフィー、錐体杆体ジストロフィー、アッシャー症候群、スタルガルト病、バルデ・ビードル症候群、ベスト病、遺伝性黄斑変性からなる群から選択される。
【0420】
特定の実施形態によれば、疾患は、骨髄異形成症候群(MDS)、がん、移植片拒絶、グラフト対宿主疾患(GVHD)、感染性疾患、サイトカインストーム、放射線障害、神経変性疾患、及び創傷からなる群から選択される。
【0421】
本明細書で開示した構築物及びタンパク質製剤は細胞の若返り及び脱分化を誘起するので、本発明者らは、その別の用途が抗老化剤として、例えば皮膚の若返りのための化粧用組成物にあることを意図している。
【0422】
即ち、本発明のさらなる又は代替の態様によれば、それを必要とする対象における化粧ケアを実施する方法が提供され、本方法は、本明細書で開示した治療有効量の構築物又はタンパク質製剤を対象の皮膚に塗布し、それにより化粧ケアを実施する工程を含む。
【0423】
本明細書で開示した細胞、構築物、及びタンパク質製剤は、それ自体で対象に移植してもよく、又は特定の用途を意図した組成物の中に処方してもよい。同様に、本明細書で開示した構築物及びタンパク質製剤は、それ自体で対象に投与してもよく、特定の用途を意図した組成物の中に処方してもよい。
【0424】
疾患の処置のため、本明細書で開示した細胞、構築物、又はタンパク質製剤は、それらが好適な担体又は賦形剤と混合される医薬組成物の中に処方してよい。
【0425】
本明細書で用いる場合、「医薬組成物」は、本明細書に記載した活性成分の1つ又は複数と、生理学的に好適な担体及び賦形剤等の他の化学成分との製剤を意味する。医薬組成物の目的は、生命体への化合物の投与を容易にすることである。
【0426】
本明細書で、用語「活性成分」は、生物学的効果に関与していると認められる、本明細書で開示した細胞(例えばiTSC、若返りした細胞、脱分化した細胞)、構築物、又はタンパク質製剤を意味する。
【0427】
これ以降、語句「生理学的に許容される担体」及び「薬学的に許容される担体」は、相互交換可能に使用され、生命体に顕著な刺激を惹起せず、投与された化合物の生物学的な活性及び特性を無効にしない担体又は希釈剤を意味する。本明細書で、用語「賦形剤」は、活性成分の投与を更に容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を意味する。賦形剤の例には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖及び型のデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、及びポリエチレングリコールが限定なく含まれる。
【0428】
薬物の処方及び投与のための手法は、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、Easton、PA」の最新版で見出すことができ、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0429】
本発明の一部の実施形態の医薬組成物は、当技術で周知のプロセスによって、例えば従来の混合、溶解、顆粒化、糖衣錠製造、水簸、乳化、カプセル化、封入、又は凍結乾燥のプロセスによって、製造することができる。
【0430】
即ち、本発明の一部の実施形態に従う使用のための医薬組成物は、製剤中への活性成分の処理を容易にし、薬学的に用いることができる、賦形剤及び補助剤を含む1つ又は複数の生理学的に許容される担体を用いて従来の様式で処方してよい。適正な処方は、選択した投与経路に依存する。
【0431】
注射のため、医薬組成物の活性成分は、水性溶液中、好ましくはハンク液、リンゲル液、又は生理学的塩緩衝液等の生理学的に適合する緩衝液中で処方してよい。
【0432】
好適な投与経路には、例えば経口、経直腸、経粘膜、特に経鼻、経腸、又は経筋肉、皮下、及び髄内注射、並びに髄腔内、直接心室内、例えば右心室又は左心室への、総冠動脈への、心臓内を含む非経口送達、静脈内、腹腔内、鼻内、又は眼内の注射が含まれる。
【0433】
特定の実施形態によれば、医薬組成物は、例えば患者の組織領域内への医薬組成物の直接の注射によって、全身的よりは局所的に、投与される。
【0434】
本明細書に記載した医薬組成物は、非経口投与のために、例えばボーラス注射又は連続注入によって処方してよい。注射のための処方は、単位用量形態で、例えば任意選択で添加される防腐剤とともにアンプル中又は多用量容器中で提示してよい。組成物は、油性又は水性のビヒクル中の懸濁液、溶液、又はエマルジョンであってよく、懸濁剤、安定剤、及び/又は分散剤等の製剤用薬剤を含んでもよい。
【0435】
非経口投与のための医薬組成物は、活性製剤の水性溶液を水溶性の形態で含む。更に、活性成分の懸濁液は、適切な油系又は水系の注射用懸濁液として調製してよい。好適な親油性の溶媒又はビヒクルには、ゴマ油等の脂肪油、又はオレイン酸エチル等の合成脂肪酸エステル、トリグリセリド、又はリポソームが含まれる。水性注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、又はデキストラン等の、懸濁液の粘度を増加させる物質を含んでよい。任意選択で、懸濁液は、活性成分の溶解性を増大させて高濃度の溶液の調製を可能にする好適な安定剤又は薬剤を含んでもよい。
【0436】
本発明に関連する使用のための好適な医薬組成物は、活性成分が意図した目的を達成するために有効な量で含まれる組成物を含む。より具体的には、治療有効量は、障害(例えば再発性流産)の症状を防止、軽減、又は改善するため又は処置される対象の生存を延長するために効果的な活性成分(例えばiTSC)の量を意味する。
【0437】
治療有効量の決定は、特に本明細書で提供する詳細な開示に照らせば、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0438】
本発明の方法において用いられるいずれの製剤についても、治療に有効な量又は用量は、所望の濃度又は力価を達成するための動物モデルから推定することができる。そのような情報を用いて、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。
【0439】
本明細書に記載した活性成分の毒性及び治療有効性は、実験動物における標準的な薬学的手順によって決定することができる。これらの動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用のための投薬量の範囲の処方において用いることができる。投薬量は、採用した投薬形態及び利用する投与経路によって変動し得る。的確な処方、投与経路、及び投薬量は、患者の状態を鑑みて個別の臨床医によって選択することができる(例えばFinglら、1975、「The Pharmacological Basis of Therapeutics」、第1章、1頁を参照されたい)。
【0440】
投薬量及び間隔は、生物学的効果を誘起又は抑制するために十分な活性成分のレベル(最小有効濃度、MEC)を提供するために個別に調節してよい。MECはそれぞれの製剤について変動するが、インビトロのデータから推定することができる。MECを達成するために必要な投薬量は、個別の特徴及び投与経路に依存する。検出アッセイを用いて、Cペプチド及び/又はインスリンの血漿中濃度を決定することができる。
【0441】
投与すべき組成物の量は、もちろん、処置される対象、苦痛の重症度、投与の様式、処方臨床医の判断等に依存する。
【0442】
本発明の組成物は、所望であれば、活性成分を含む1つ又は複数の単位投薬量形態を含む、FDA承認キット等のパック又はディスペンサーデバイスで提示してよい。パックは、例えばブリスターパック等の金属又はプラスチックの箔を含んでよい。パック又はディスペンサーデバイスは、シリンジでもよい。シリンジには細胞を予め充填してもよい。パック又はディスペンサーデバイスには、投与のための説明書が付属していてもよい。パック又はディスペンサーは、医薬の製造、使用、又は販売を規制する政府機関によって規定された形態で容器に付随する注意書を収容していてもよく、この注意書は組成物の形態又はヒト若しくは獣医の投与の政府機関による承認を反映している。そのような注意書は、例えば処方薬又は承認された製品の添付文書についての米国食品医薬品局によって承認されたラベルであってよい。上で更に詳細を記載したように、適合する医薬担体の中で処方された本発明の製剤を含む組成物を調製し、適切な容器に入れ、指示された条件での処置のためにラベルしてよい。
【0443】
化粧品のため、本明細書で開示した構築物又はタンパク質製剤は化粧用組成物中に処方してよく、これらは、好適な、例えば皮膚科学的に許容され外部局所適用に適した担体又は賦形剤とともに混合される。
【0444】
特定の実施形態によれば、化粧用組成物は、クリーム、顔マスク、スクラブ、石鹸、洗浄液、又はゲルとして処方される。
【0445】
本発明の一部の実施形態による化粧用組成物は、増粘剤、防腐剤、香料、着色剤、化学的若しくは鉱物製のフィルター、保湿剤、温泉水、その他から選択される、当業者には既知の少なくとも1つの医薬アジュバントを更に含んでもよい。
【0446】
組成物は、皮脂調整剤、抗菌剤、抗真菌剤、角質溶解剤、角質調整剤、アストリンゼント、抗炎症/抗刺激剤、抗酸化剤/フリーラジカルスカベンジャー、瘢痕剤、抗老化剤、及び/又は保湿剤から選択される少なくとも1つの薬剤を含んでもよい。
【0447】
用語「皮脂調整剤」は、例えば5-α-リダクターゼ阻害剤、とりわけLaboratoires Expanscience社が販売している活性剤、5-α-Avocuta(登録商標)を意味する。亜鉛及びそのグルコネート塩、サリチレート及びピログルタミン酸も、皮脂抑制活性を有している。適用の12週後に皮脂分泌速度を顕著に低減させるスピロノラクトン、抗アンドロゲン及びアルドステロンアンタゴニストについても言及する。例えばペポカボチャの種子、カボチャ種油、並びにヤシキャベツから抽出されたその他の分子も、5-α-リダクターゼの転写及び活性を阻害することによって、皮脂の産生を制限する。皮脂の質に作用する脂質起源のその他の皮脂調整薬剤、例えばリノール酸にも興味がある。
【0448】
用語「抗菌剤」及び「抗真菌剤」は、アクネ菌(P. acnes)等のある種の細菌又はある種の真菌(癜風菌(Malassezia furfur))等の病原性微生物の成長を制限し又はこれらを殺滅する分子を意味する。最も伝統的なものは、化粧品又は栄養補助食品において一般に用いられる防腐剤、抗菌活性を有する分子(疑似防腐剤)、例えばカプリル酸誘導体(カプリロイルグリシン、グリセリルカプリレート、その他)、例えばヘキサンジオール及びレブリン酸ナトリウム、亜鉛及び銅の誘導体(グルコネート及びPCA)、フィトスフィンゴシン及びその誘導体、過酸化ベンゾイル、ピロクトンオラミン、ジンクピリチオン、硫化セレン、エコナゾール、ケトコナゾール、又はエリスロマイシン及びクリンダマイシン等の局所抗生剤である。
【0449】
用語「角質調整剤」及び「角質溶解剤」は、表皮の角質層の死細胞の除去を規制又は補助する薬剤を意味する。最も一般に用いられる角質調整剤/角質溶解剤には、果実のアルファヒドロキシ酸(AHA)(クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、乳酸、その他)、AHAエステル、AHAと他の分子との組合せ、例えばリンゴ酸とアーモンドタンパク質との組合せ(Keratolite(登録商標))、グリコール酸若しくは乳酸とアルギニンとの組合せ、又はヒドロキシ酸と脂質分子との組合せ、例えばLHA(登録商標)(リポ-ヒドロキシ酸)、両性ヒドロキシ酸複合体(AHCare)、ヤナギの樹皮(サリックス・アルバ(Salix alba)樹皮抽出物)、アゼライン酸並びにその塩及びエステル、サリチル酸及びその誘導体、例えばカプリロイルサリチル酸、又は他の分子との組合せ、例えばサリチル酸と多糖(ベータヒドロキシ酸又はBHA)との組合せ、タザロテン、アダパレン、並びにレチノイドファミリーの分子、例えばトレチノイン、レチンアルデヒド、イソトレチノイン、及びレチノールが含まれる。
【0450】
用語「アストリンゼント」は、毛穴の引き締めを助ける薬剤を意味し、最も一般的に用いられているものはポリフェノール、亜鉛誘導体、及びマンサクである。
【0451】
用語「抗炎症/抗刺激」は、サイトカイン又はアラキドン酸代謝メディエーターによって惹き起こされる炎症反応を抑え、鎮静及び抗刺激の特性を有する薬剤を意味する。最も伝統的なものは、グリシルレチン酸(リコリス誘導体)並びにその塩及びエステル、アルファ-ビサボロール、イチョウ(Ginkgo biloba)、キンセンカ、リポ酸、ベータ-カロテン、ビタミンB3(ナイアシンアミド、ニコチンアミド)、ビタミンE、ビタミンC、ビタミンB12、フラボノイド(緑茶、ケルセチン、その他)、リコペン若しくはルテイン、アボカド糖、アボカド油留出物、アラビノガラクタン、ルピンペプチド、ルピン全抽出物、キノアペプチド抽出物、シクロセラミド(登録商標)(オキサゾリン誘導体)、カルノシン等の抗糖化剤、N-アセチルシステイン、例えばゲニステイン/ゲニスチン、ダイゼイン/ダイジン等のイソフラボン、湧水若しくは温泉水(オーダベンヌ、オードラロシュポセ、オードサンジェルベ、オーデュリアージュ、オードガマルド)、クコ抽出物(Lycium barbarum)、植物アミノ酸ペプチド又は複合体、局所的ダプソン、又は抗炎症薬物である。
【0452】
用語「抗酸化剤」は、他の化学物質の酸化を減少又は防止する分子を意味する。組み合わせて用いられる抗酸化剤/フリーラジカルスカベンジャーは、有利には、チオール及びフェノール、リコリス誘導体、例えばグリシルレチン酸並びにその塩及びエステル、アルファ-ビサボロール、イチョウ(Ginkgo biloba)抽出物、キンセンカ抽出物、シクロセラミド(登録商標)(オキサゾリン誘導体)、アボカドペプチド、銅、亜鉛、及びセレン等の微量元素、リポ酸、ビタミンB12、ビタミンB3(ナイアシンアミド、ニコチンアミド)、ビタミンC、ビタミンE、補酵素Q10、クリル、グルタチオン、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、リコペン若しくはルテイン、ベータ-カロテン、ポリフェノールのファミリー、例えばタンニン、フェノール酸、アントシアニン、フラボノイド、例えば緑茶、レッドベリー、ココア、ブドウ、トケイソウ(Passiflora incarnata)、若しくは柑橘類の抽出物、又はイソフラボン、例えばゲニステイン/ゲニスチン、及びダイゼイン/ダイジンからなる群かから選択される。抗酸化剤の群には、カルノシン等の抗糖化剤又はある種のペプチド、N-アセチルシステイン、並びにスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、チオレドキシンレダクターゼ、及びそれらのアゴニスト等の抗酸化剤又はフリーラジカルスカベンジング酵素が更に含まれる。
【0453】
組み合わせて用いられ、瘢痕を形成してバリア機能を修復する薬剤としては、有利には、ビタミンA、パンテノール(ビタミンB5)、アボカドフラン(登録商標)、アボカド糖、ルペオール、マカペプチド抽出物、キノアペプチド抽出物、アラビノガラクタン、酸化亜鉛、マグネシウム、ケイ素、マデカシン酸若しくはアシアチン酸、デキストランサルフェート、補酵素Q10、グルコサミン及びその誘導体、コンドロイチン硫酸、及び全体としてグリコサミノグリカン(GAG)、デキストランサルフェート、セラミド、コレステロール、スクアラン、リン脂質、発酵した若しくは発酵しない大豆ペプチド、植物ペプチド、藻類の抽出物若しくはシダ類の抽出物等の、海産、植物、若しくは生物工学による多糖類、微量元素、最初にオークの瘤から発見された、ギャリックと称される没食子酸から誘導されるタンニン又は加水分解性タンニン等のタンニンに富む植物の抽出物、並びにそのモデルがカテキュー(Acacia catechu)によって提供されるフラバン単位の重合に起因するカテキンタンニンがある。用いられる微量元素は、有利には、銅、マグネシウム、マンガン、クロム、セレン、ケイ素、亜鉛、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0454】
本明細書で開示する構築物及びタンパク質製剤との組み合わせで作用することができる抗老化剤としては、抗酸化剤、特にビタミンC、ビタミンA、レチノール、レチナール、任意の分子量のヒアルロン酸、アボカドフラン(登録商標)、ルピンペプチド、及びマカペプチド抽出物がある。
【0455】
最も一般的に用いられる保湿剤/軟化剤としては、グリセリン又はその誘導体、尿素、ピロリドンカルボン酸及びその誘導体、任意の分子量のヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、並びに海産、植物、若しくは生物工学起源の他の任意の多糖類、例えばキサンタムガム、フコゲル(登録商標)、ある種の脂肪酸、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、単飽和及び多飽和のオメガ-3、-6、-7、及び-9の脂肪酸(リノール酸、パルミトレイン酸、その他)、ヒマワリ油留出物、アボカドペプチド、並びにクプアスバターがある、
【0456】
本明細書で用いる場合、用語「約」は±10%を意味する。
【0457】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「含む(having)」及びそれらの活用形は、「含むがそれらに限らない」を意味する。
【0458】
用語「からなる」は、「を含み、それらに限られる」を意味する。
【0459】
用語「本質的に~からなる」は、組成物、方法、又は構造が、さらなる成分、工程、及び/又は部分を含んでよいが、これは、さらなる成分、工程、及び/又は部分が特許を請求する組成物、方法、又は構造の基本的かつ新規な特徴を実質的に変更しない場合のみであることを意味する。
【0460】
本明細書で用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈が他を明白に指示しない限り、複数の参照を含む。例えば、用語「1つの化合物」又は「少なくとも1つの化合物」は、それらの混合物を含む複数の化合物を含み得る。
【0461】
本出願を通して、本発明の種々の実施形態は範囲の書式で提示される。範囲の書式における記述は単に便利さ及び簡潔さのためであって、本発明の範囲を柔軟性なく限定するものと解釈すべきでないことを理解されたい。したがって、範囲の記述は、可能な小範囲の全て、並びにその範囲内の個別の数値を具体的に開示したものと考えるべきである。例えば、1から6まで等の範囲の記述は、1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6等の小範囲、並びにその範囲内の個別の数、例えば1、2、3、4、5、及び6を具体的に開示したものと考えるべきである。これは範囲の幅に関係なく適用される。
【0462】
本明細書で数値範囲が示される場合は常に、いずれの引用した数値(分数又は整数)も指示した範囲内に含まれることを意味する。語句「第1の指示数と第2の指示数の『間』の範囲(の)」及び「第1の指示数『から』第2の指示数『まで』の範囲(の)」は本明細書で相互交換可能に用いられ、第1及び第2の指示された数及びその間の全ての分数及び整数を含むことを意味している。
【0463】
本明細書で用いる場合、用語「方法」は、化学、薬理学、生物学、生化学、及び医学の技術の実施者には既知の、又は既知の様式、手段、手法、及び手順から容易に開発される様式、手段、手法、及び手順を含むがこれらに限らない所与の任務を達成するための様式、手段、手法、及び手順を意味する。
【0464】
特定の配列リストに言及する場合、そのような参照は、変動の頻度が50ヌクレオチド中1未満、或いは100ヌクレオチド中1未満、或いは200ヌクレオチド中1未満、或いは500ヌクレオチド中1未満、或いは1000ヌクレオチド中1未満、或いは5,000ヌクレオチド中1未満、或いは10,000ヌクレオチド中1未満であることを前提として、例えばシーケンシングの過誤、クローニングの過誤、又は塩基の置換、塩基の欠失、若しくは塩基の付加をもたらすその他の変更に起因する軽微な配列の変動を含む、その相補配列に実質的に対応する配列も包含することを理解されたい。
【0465】
明確にするために別の実施形態の文脈で記載した本発明のある種の特徴はまた、単一の実施形態において組み合わせて提供されることが認識される。逆に、簡潔にするために単一の実施形態の文脈で記載した本発明の種々の特徴はまた、個別に、又は任意の好適な副組合せで、又は本発明の他の任意の記載した実施形態において好適なように、提供される。種々の実施形態の文脈で記載したある種の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしには実施不能でない限り、それらの実施形態の必須の要素であるとみなすべきではない。
【0466】
上で説明し、以下の請求項の部で特許請求する本発明の種々の実施形態及び態様は、以下の実施例において実験的に裏付けられる。
【実施例
【0467】
ここで以下の実施例を参照する。これらの実施例は、上の記載とともに、本発明のいくつかの実施形態を非限定的に説明する。
【0468】
一般に、本明細書で用いた命名法及び本発明で利用した実験手順は、分子的、生化学的、微生物学的、及び組換えDNAの手法を含む。そのような手法は文献で十分に説明されている。例えば、「Molecular Cloning: A laboratory Manual」Sambrookら(1989);「Current Protocols in Molecular Biology」I~III巻、Ausubel, R. M.編(1994); Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons、Baltimore、Maryland(1989); Perbal、「A Practical Guide to Molecular Cloning」、John Wiley & Sons、New York(1988); Watsonら、「Recombinant DNA」、Scientific American Books、New York; Birrenら(編)「Genome Analysis: A Laboratory Manual Series」、1~4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York(1998);米国特許第4,666,828号;第4,683,202号;第4,801,531号;第5,192,659号、及び第5,272,057号で説明される方法論;「Cell Biology: A Laboratory Handbook」、I~III巻、Cellis、J. E.編(1994); Freshney、Wiley-Liss、N. Y.(1994)による「Culture of Animal Cells - A Manual of Basic Technique」、第3版;「Current Protocols in Immunology」I~III巻、Coligan J. E.編(1994); Stitesら(編)、「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、Norwalk、CT(1994); Mishell及びShiigi(編)、「Selected Methods in Cellular Immunology」、W. H. Freeman and Co.、New York(1980)を参照されたい。入手可能な免疫アッセイは、特許及び科学文献に広範囲に記載されている。例えば米国特許第3,791,932号;第3,839,153号;第3,850,752号;第3,850,578号;第3,853,987号;第3,867,517号;第3,879,262号;第3,901,654号;第3,935,074号;第3,984,533号;第3,996,345号;第4,034,074号;第4,098,876号;第4,879,219号;第5,011,771号及び第5,281,521号;「Oligonucleotide Synthesis」Gait, M. J.編(1984);「Nucleic Acid Hybridization」Hames, B. D.、及びHiggins S. J.編(1985);「Transcription and Translation」Hames, B. D.、及びHiggins S. J.編(1984);「Animal Cell Culture」Freshney, R. I.編(1986);「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press,(1986);「A Practical Guide to Molecular Cloning」Perbal, B.,(1984)及び「Methods in Enzymology」1~317巻、Academic Press;「PCR Protocols: A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、San Diego、CA(1990); Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization - A Laboratory Course Manual」CSHL Press(1996)を参照されたい。これらの全ては、本明細書で完全に説明されているかのように、参照により組み込まれる。その他の一般的な参考文献は、本書類を通して提供されている。その中の手順は当技術において周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。その中に含まれる全ての情報は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0469】
材料及び方法
ヒト胚盤胞からのヒトトロホブラスト幹細胞の誘導- ヒト胚盤胞由来のTSC(hbdTSC)対照株を生成するため、Okaeら[Cell stem cell(2018)22、50~63頁 e56]に記載されているように、ヒト胚盤胞をマイトマイシンC処理したMEFフィーダーに播種し、ヒトTSC培地中で培養した。胚盤胞の増殖の後で、細胞をトリプシン処理し、新たなマイトマイシンC処理マウス胚線維芽細胞(MEF)フィーダープレートに移した。安定な増殖性hbdTSCが出現するまで、細胞を数回継代した。
【0470】
分子クローニング並びにhiTSC及びhiPSCの再プログラミング- 特異的プライマー(以下のTable 1(表1)のプライマーリストを参照)による逆転写によって得られたそれぞれの因子のオープンリーディングフレームをpMINIベクター(NEB)にクローニングすることによってdox誘起性因子を生成し、次いでEcoRI又はMfeIによって制限処理し、FUW-TetO発現ベクターに挿入した。転写因子の過渡的発現のためにレンチウイルスベクターのdox依存性システムを利用した。TWISTによってKLF5コーディング配列を合成し、EcoRIによってFUW-TetOにサブクローニングした。感染のため、種々の再プログラミング因子及び比(hiTSCの再プログラミングについてはGOKM 2:3:3:2又は1:1:1:0.3、GOK4K5M(1:1:1:1:0.3)、hiPSCの再プログラミングについてはOKSM STEMCCAカセット)を含む複製不能なレンチウイルスをレンチウイルスパッケージングミックス(7.5μgのpsPAX2及び2.5μgのpDGM.2)とともに293T細胞にパッケージングし、トランスフェクションの48、60、72、及び84時間後に採取した。上清を0.45μmのフィルターで濾過し、8μg/mlのポリブレンを添加し、次いでヒト包皮線維芽細胞(HFF)に感染させるために用いた。4回目の感染の12時間後に、培地を10% FBS含有新鮮DMEMに置き換えた。hiTSCの再プログラミングのため、6時間後に2μg/mlのドキシサイクリンを培地に加えた。hiTSCの再プログラミングのため、10% FBS添加DMEMからなる基本的再プログラミング培地(BRM)を1日おきに14日、交換し、続いてOkaeら、2018に記載されているように50%のBRMと50%のhTSC培地からなる培地中で7日、続いてOkaeら、2018に記載されているようにhTSC培地中で7日、培養し、その後でdoxを除去した。dox除去の7~10日後、プレートを初代hiTSCコロニーについてスクリーニングした。それぞれのコロニーを単離し、TrypLE(Gibco社)によってトリプシン処理し、6ウェルプレートの個別のウェルのフィーダー細胞上に播種した。安定な増殖性hiTSCコロニーが出現するまで、細胞を数回継代した。
【0471】
mRNAの発現のための定量的PCR(qPCR)及びトランスジーンのゲノム一体化の解析- qPCRを用いるmRNA発現の解析のため、Macherey-Nagelキット(Ornat社)を用いて全RNAを単離した。iScript cDNA合成キット(Bio-Rad社)を用いて500~2000ngの全RNAを逆転写した。定量的PCR解析は、SYBR green Fast qPCR Mix(Applied Biosystems社)により、StepOnePlus(Applied Biosystems社)における逆転写反応の1/100を用いて二重測定で実施した。異なる遺伝子のために特異的プライマーを設計した(以下のTable 1(表1)を参照)。全ての定量的リアルタイムPCR実験はGAPDHの発現に対して正規化し、2回の二重測定の平均±標準偏差として表した。
【0472】
qPCRを用いるゲノムDNAへのトランスジーンの一体化の解析のため、トリプシン処理した細胞ペレットを、100mMのトリス(pH8.0)、5mMのEDTA、0.2%のSDS、及び200mMのNaClを含む溶解緩衝液中で一夜、400μg/mlのプロテイナーゼK(Axxora社)と37℃で1時間、インキュベートし、続いて55℃で1時間インキュベートすることによって、ゲノムDNAを単離した。続いてゲノムDNAをイソプロパノールで沈殿させ、70%エタノールで洗浄し、超純水(BI)中に再懸濁させた。クローニングした遺伝子の最後のエクソンの終端のためのフォワードプライマーを、クローニングした遺伝子の直近の下流の領域におけるFUWベクターのためのリバースプライマーと併せて用いた(以下のTable 1(表1)を参照)。結果はGAPDH遺伝子のイントロン領域に対して正規化し、2回の二重測定の平均±標準偏差として表した。
【0473】
PFA固定した細胞の免疫染色及びフローサイトメトリー- 細胞を4%のパラホルムアルデヒド(PBS中)で20分固定し、PBSで3回すすぎ、0.1%のトリトンX-100及び5%のFBSを含むPBSで1時間ブロックした。細胞を一次抗体(1:200)と4℃で一夜インキュベートした。用いた抗体は、0.1%のトリトンX-100及び1%のFBSを含むPBSで希釈した抗KRT7(Abcam社、ab215855)、抗GATA3(Abcam社、ab106625)、抗GATA2(Abcam社、ab173817)、抗TFAP2C(Santa Cruz Biotechnologies社、sc-8977)、抗KRT18(Santa Cruz Biotechnologies社、sc-51582)、抗E-カドヘリン(Santa Cruz Biotechnologies社、sc-7870)、抗ビメンチン(Cell Signaling Technology社、#5741)、抗EpCAM(Abcam社、ab71916)、抗SDC1(Abcam社、ab128936)、抗CSH1(Abcam社、ab15554)、抗HLA-G(Abcam社、ab52455)であった。翌日、細胞を3回洗浄し、0.1%のトリトンX-100及び1%のFBSを含むPBS中の関連する(Alexa社)二次抗体(1:500希釈)とともに1時間インキュベートした。インキュベーションの終了の10分前にDAPIを加えた。陰性対照は、一次抗体なしの二次抗体とのインキュベーションを含んでいた。
【0474】
HLAクラスI発現のフローサイトメトリー解析のため、細胞をトリプシン処理し、PBS中に0.5%のウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma Aldrich社)を含むインキュベーション緩衝液中で10分ブロックした。続いて細胞を遠心分離し、抗HLAクラスI(Abcam社、ab22432)(1:100)とともにインキュベーション緩衝液中で1時間再懸濁した。次いで細胞をインキュベーション緩衝液で洗浄し、関連する(Alexa社)二次抗体とともに30分インキュベートし、その後で細胞を洗浄し、インキュベーション緩衝液中に再懸濁し、FACS(Beckman Coulter社)によって解析した。結果はKaluza社のソフトウェアを用いて解析した。それぞれの試料は、陰性対照として二次抗体のみともインキュベートした。
【0475】
市販の妊娠検査薬を用いるhCGの検出- 細胞の培地中に存在するhCGの検出のため、市販の迅速妊娠検査薬(「Uni Test」、Core Technologies社)を用いた。60~80%(iPSCについては40~50%)のコンフルエンスに達するまで、それぞれの細胞の株を2mlの適切な培地とともに6ウェルプレートのウェルに播種し、24時間後に0.5mlを採取した。GOKMを感染させていないHFFは、25mlの培地とともに15cmのプレートに播種した。72時間後に70%のコンフルエンスで、これから0.5mlを採取した。
【0476】
RNA及びRRBSのライブラリー並びにシーケンシング- RNAseqのため、Qiagen社のRNeasyキットを用いて全RNAを単離した。SENSE mRNA-seqライブラリープレップキットV2(Lexogen社)を用いてmRNAライブラリーを調製し、プールしたライブラリーをIllumina社 NextSeq 500プラットフォーム上でシーケンシングして、75-bpのシングルエンドリードを生成した。RRBSのため、試料からDNAを単離し、300μg/mLのプロテイナーゼK(Roche社)を添加した溶解緩衝液(25mM、pH 8のトリス-HCl、2mMのEDTA、0.2%のSDS、200mMのNaCl)中でインキュベートし、続いてフェノール:クロロホルムで抽出し、エタノールで沈殿させた。MEFフィーダー細胞の存在を除去するため、hiTSCコロニー及びhbdTSCコロニーをマトリゲル上で2回継代した。RRBSライブラリーは、Boyleら、Genome Biol. 2012 Oct 3;13(10):R92頁に記載されているように調製した。試料はHiSeq 2500(Illumina社)上で処理した。
【0477】
RNA-seq及びRRBSの解析- RNA-seqの結果の解析のため、内製のPerlスクリプトを用いて生のリード(fastqファイル)をクオリティトリムし、cutadapt(バージョン1.12)を用いてアダプターを除去した。処理したfastqファイルを、TopHat(v2.1.1)を用いてヒトトランスクリプトーム及びゲノムにマッピングした。ゲノムのバージョンはGRCh38、Ensemblからのアノテーションはリリース89であった。定量はhtseq-カウント(バージョン0.6.1)を用いて行なった。全ての試料にわたってカウントの合計が10未満の遺伝子は除外し、25596遺伝子を残した。正規化はDESeq2パッケージ(バージョン1.16.1)で行なった。
【0478】
RRBSの結果の解析のため、BSMAP V 2.9を用いてペアードエンドリードをヒトゲノム(hg19)に整列させ、Trim Galoreを用いてアダプター及び低品質の配列をトリムした。少なくとも10リードのシーケンシング深さを有するCpGのメチル化比を、100bpのタイルに基づいて計算した。
【0479】
hiTSCの分化及びPIによる染色- 2つのhbdTSC及び2つのhiTSC株をhTSC培地中で、マトリゲルコートした6ウェルプレートに播種し、70%のコンフルエンシーに到達させた。続いて培地を、1%のL-グルタミン溶液(BI)及び抗生剤(BDM)を添加した10%FBS添加DMEMの基本的分化培地に交換した。遺伝子発現の解析のため、6つの同一のウェルから0日目及び5日間毎日、細胞を収穫した。
【0480】
STへの方向付けられた分化のため、Okaeら、Cell Stem Cell. 2018 Jan 4;22(1):50~63頁に記載されているように、ほぼ4×105個の細胞を、0.1mMの2-メルカプトエタノール、0.5%のペニシリン-ストレプトマイシン、0.3%のBSA、1%のITS添加剤、2.5μMのY27632、2μMのホルスコリン、及び4%のKSRを添加したDMEM/F12からなる培地中、周囲酸素条件下、1:30の濃度で、マトリゲルコート6ウェルプレートに播種した。上記のqPCRを用いるmRNA発現の解析のため、2日目及び6日目に細胞を採取した。細胞はまた、プレートあたりほぼ105個の密度で12ウェルプレートに播種し、同様に培養して、上記の免疫染色のために4%のPFAで固定した。
【0481】
EVTへの方向付けられた分化のため、Okaeら、Cell Stem Cell. 2018 Jan 4;22(1):50~63頁に記載されているように、ほぼ4×105個の細胞を、0.1mMの2-メルカプトエタノール、0.5%のペニシリン-ストレプトマイシン、0.3%のBSA、1%のITS添加剤、100ng/mlのNRG1、7.5μMのA83-01、2.5μMのY27632、及び4%のノックアウト血清代替物を添加したDMEM/F12培地中、5%酸素、1:100の濃度で、マトリゲルコート6ウェルプレートに播種した。マトリゲルは最終濃度2%になるように加えた。3日目に培地をNRG1を含まないEVT培地に置き換え、マトリゲルを最終濃度0.5%になるように加えた。6日目にqPCRを用いるmRNA発現の解析のために細胞を採取するか、又はNRG1及びKSRを含まないEVT培地中に懸濁し、Okae et al. Cell Stem Cell. 2018 Jan 4;22(1):50~63頁に記載されているのと同様に、14日目に細胞を採取するまで、マトリゲルを最終濃度0.5%になるように加えた。細胞はまた、プレートあたりほぼ105個の密度で12ウェルプレートに播種し、同様に培養して、上記の免疫染色のために4%のPFAで固定した。
【0482】
方向付けられた分化を3回繰り返し、同様の結果が得られた。
【0483】
PIによる染色のため、2つのhbdTSC及び2つのhiTSC株由来の1×106個の細胞を、hTSC培地中でマトリゲルコート10cmプレートに播種した。2~4日後に培地をBDMに置き換えた。PI染色のため、0日、4日、8日目に細胞をエタノールで固定し、-20℃で保存した。染色の日に全ての試料をPBSで洗浄し、50μg/mlのRNAse A(Sigma-Aldrich社)及び50μg/mlのPI(BD社)を含む染色混合物中で再懸濁した。30分のインキュベーションの後、細胞をFACS(Beckman Coulter社)によって解析した。結果はKaluzaソフトウェアを用いて解析した。
【0484】
bdTSC及びhiTSCによるトロホブラスト細胞オルガノイドの形成- Haiderら、Stem Cell Reports. 2018 Aug 14;11(2):537~551頁に記載されているのと同様に、10mMのHEPES、1×B27、1×N2、 mMのL-グルタミン、100ng/mLのR-スポンジン、1μMのA83-01、100ng/mLの組換えヒト表皮成長因子(rhEGF)、50ng/mLの組換えマウス肝細胞成長因子(rmHGF)、2.5μMのプロスタグランジンE2、3μMのCHIR99021、及び100ng/mLのNogginを添加したDMEM/F12からなるトロホブラスト細胞オルガノイド培地(TOM)中にbdTSC及びhiTSCを懸濁した。成長因子を低減したマトリゲル(GFR-M)を、最終濃度60%に達するように加えた。104~105のbdTSC/hiTSCを含む溶液(40μL)を24ウェルプレートの中央に加えた。37℃で2分の後、固化しているGFR-M形成ドーム中での細胞の均等な拡散を確実にするために、プレートを上下逆転させた。15分後に、プレートを再び逆転し、500μLの予め加温したTOMをドームに注意深く重層した。細胞を5%酸素中で10~19日培養し、次いで免疫染色に供した。
【0485】
bdTSC及びhiTSCトロホブラスト細胞オルガノイドの免疫染色- オルガノイドを含むマトリゲルドームを4%のPFA中で一夜固定した。続いて、ドームをPBSで15分、2回洗浄した。ドームを、PBS中3%のウシ血清アルブミン(BSA)、5%のウシ胎児血清(FBS)、0.1%のトリトンX-100を含むブロッキング液中に4℃で一夜浸漬した。次いで組織を、1%のBSA及び0.1%のトリトンX-100を含むPBS中に希釈した抗Ki67(1:200、Abcam社、ab15580)及び抗KRT7(1:200、Abcam社、ab215855)を含む一次抗体と、揺動プレート上、4℃で2晩インキュベートした。続いてプレートを室温に移し、更に少なくとも2時間、揺動を続け、0.1%のトリトンX-100を含むPBS中で、緩衝液を少なくとも5回交換して、一夜洗浄した。翌日、ドームを、1%のBSA及び0.1%のトリトンX-100中に希釈した関連する(Alexa社)二次抗体(1:200)を含む二次抗体溶液中、揺動プレート上、4℃で一夜インキュベートした。ドームを、0.1%のトリトンX-100を含むPBSで、緩衝液を少なくとも5回交換して、再び一夜洗浄した。最後に、ドームをDAPIとともに1時間インキュベートし、イメージングするまでPBS中、4℃で保存した。イメージングは、Nikon社のEclipse Ti2 CSU-W1、Yokogawa社の共焦点スキャンニングユニット、Andor社のZyla sCMOSカメラ、及びNikon社のPlan Apo VC 20X NA 0.75レンズを備えたスピニングディスク共焦点顕微鏡を用いて実施した。最大強度投射イメージは、NIS-Elements顕微鏡イメージングソフトウェアを用いて創成した。
【0486】
NOD-SCIDマウスへのhiTSCの移植及び免疫組織化学(IHC)- それぞれの病変について、ほぼ4×106をTrypLEによってトリプシン処理し、PBSで2回洗浄し、マトリゲルとPBSの1:2混合物150μl中に再懸濁し、NOD-SCIDマウスに皮下注射した。注射の9日後に病変を採取し、切開し、4%のパラホルムアルデヒド中に一夜固定し、パラフィン包埋し、切断してスライドにマウントした。いくつかのスライドはH&Eで染色した一方、他はIHC染色に供した。IHCのため、スライドをキシレンで脱パラフィンし、減少するエタノール勾配で再水和した。クエン酸ナトリウム緩衝液中で抗原を回収し、スライドを110~120℃で3分加熱した。3%の過酸化水素中で短時間インキュベートした後、切片を一次抗体抗KRT7(1:1000)(Abcam社、ab215855)とともにCAS-block(Invitrogen社)中で一夜インキュベートした。続いて切片を適切なHRPコンジュゲート化二次抗体(Vector Laboratories社)と30分インキュベートし、DABペルオキシダーゼ基質キット(Vector Laboratories社)を用いて免疫組織化学を実施した。スライドはヘマトキシリンで軽くカウンター染色した。
【0487】
【表1A】
【0488】
【表1B】
【0489】
(実施例1)
GATA3、OCT4、KLF4、及びc-MYCの異所性発現による線維芽細胞からのヒト人工トロホブラスト幹細胞様細胞(hiTSC)の生成
線維芽細胞をヒト人工トロホブラスト幹細胞(hiTSC)に再プログラミングするため、7つの遺伝子、即ちGATA3、TFAP2C、ESRRB、OCT4、KLF4、SOX2、及びMYCをドキシサイクリン(dox)誘起性レンチウイルスベクターにクローニングし、ヒト包皮線維芽細胞(HHF)に感染させるために用いた。細胞は低酸素条件に保持し、基本的再プログラミング培地(DMEM + 10% FBS)中でdoxと2週間処理し、培地を徐々にhTSC培地((Okaeら、2018)、図1A)に置き換えた。4週間の再プログラミングの後、誘起された細胞からdoxを除去し、7~10日間、安定化させ、その後に個別の上皮様コロニーを増殖及び解析のための別々のプレートに手作業で移した。トランスジーン一体化解析から、試験した全てのコロニーの中で、一体化したトランスジーンはGATA3、OCT4、KLF4、及びMYC(本明細書で「GOKM」と称する)だけであることが明らかになった(図7A)。まさに、2つの初代HFF株、即ちKEN及びPCS201にGOKM因子(図7B)を感染させることによって、継代後にmTSC及びヒト胚盤胞由来TSC(hbdTSC)の形態と顕著に類似した形態を呈する安定でdox非依存性の上皮様コロニーが産生された(図1B)。再プログラミングの有効性は感染効率に応じて0.000002~0.00005%の範囲であり、播種した2×106個のHHFから約5~100コロニーが得られた。
【0490】
得られたコロニーの同一性を評価するため、hTSCマーカーの発現を評価した。定量的PCR(qPCR)により、hbdTSCと同程度の様式での、GATA2、TFAP2A、TFAP2C、KRT7、及びTP63等の既知のトロホブラスト細胞マーカーの活性な転写並びにGATA3の内因性発現が明らかになった(図1C及び図7C)。更に、HLAクラスI遺伝子HLA-Aの発現は、全てのhiTSC及びhbdTSC株からは存在しなかった(図7D)。予想されたように、得られたhiTSCコロニーは間葉マーカーの顕著な下方制御及び上皮マーカーの上方制御を示し、間葉から上皮への遷移(MET)が成功したことを示した(図1D及び図7E)。注目すべきことに、マウスの場合(Benchetritら、2015)と同様に、上皮マーカーKRT18は、多能性起源のヒト上皮細胞(即ちESC及びiPSC)と、栄養外胚葉起源の上皮細胞(即ちhbdTSC及びhiTSC)とを区別していた。hTSCマーカー、即ちGATA3、GATA2、TFAP2C、及びKRT7、上皮マーカー、即ちCDH1及びKRT18の発現、並びに間葉マーカーVIM及び古典的HLAクラスIタンパク質(HLA-ABC)の非存在は、タンパク質レベルでも立証された(図1E及び図7F図7G)。
【0491】
併せると、これらのデータは、過渡的なGOKMの発現によって、ヒト線維芽細胞が、その形態及びTSCマーカーの発現においてhbdTSCと類似した、安定でdox非依存性の上皮コロニーになるよう強制されることを示唆している。
【0492】
(実施例2)
生成したhiTSCの特徴解析
hiTSCのトランスクリプトームはhbdTSCのトランスクリプトームに極めて類似している。
体細胞の変換の間の広範囲の核再プログラミングは、標的細胞の新たに確立された内因性回路の活性化をもたらすことになる(Buganimら、2013; Sebban及びBuganim、2016)。内因性回路の不完全な活性化は、いくつかの直接変換モデルで見られるように、部分的に類似したトランスクリプトームをもたらす(Sebban及びBuganim、2016)。hiTSCがTSCの内因性回路を活性化するか否かを評価するため、本明細書でhiTSC#1、hiTSC#4、及びhiTSC#7と称する3つのhiTSCクローンをRNA-シーケンシング(RNA-seq)解析に供した。本明細書でhbdTSC#2及びhbdTSC#9と称する2つのhbdTSC株、親のHFF及びhESC/hiPSC株を、それぞれ陽性及び陰性の対照として用いた。特に、主成分解析(図2A)及び階層的相関性ヒートマップ(図2B)によって示されるように、種々のhiTSCクローンはhbdTSC株とともにクラスターを形成し、HFF及びhESC/hiPSC対照からは遥かに遠かった。注目すべきことに、2つのhbdTSC株は、相互よりもhiTSCクローンに近くクラスターを形成した(即ち、hbdTSC#2はhiTSC#4とクラスターを形成し、hbdTSC#9はhiTSC#7とクラスターを形成した)(図2B)。散布図解析は、hbdTSCとhiTSCとの間でR2が0.9を超える極めて類似したトランスクリプトームを示し、TP63及びGATA3等の重要なhTSC遺伝子は全てのTSC試料で高度に発現されたが、hESC又はHFFの陰性対照では発現されなかった(図2C)。更に、hTSC(hbdTSC又はhiTSC)とhESC及びHFFとの間の遺伝子発現の相違により、ヒト遺伝子アトラスによる胎盤及び胚胎盤の形態形成及び発生に関連する遺伝子オントロジータームの顕著な富化が明らかになった(図8A図8C)。
【0493】
併せると、これらのデータは、誘起されたhTSCのトランスクリプトームが、胚盤胞由来のhTSCのトランスクリプトームと極めて類似していることを示唆している。
【0494】
hiTSCのメチローム及びゲノム一体性はhbdTSCのそれと同程度である。
hiTSCの遺伝子発現プロファイルはhbdTSCのそれと極めて類似しているが、本発明者らは、hiTSCの後成的な状況もhbdTSCのそれと類似しているか否かを検討した。OSKMによるiPSCへの再プログラミングの後期の間に改変されることが示された後成的なマークの1つはDNAのメチル化である(Apostolou及びHochedlinger、2013)。hiTSCのDNAのメチル化の状況がhbdTSCのそれと等価であるか否かを試験するため、本明細書でhiTSC#1、hiTSC#2、hiTSC#4、及びhiTSC#11と称する4つのhiTSCクローンを還元表現重亜硫酸塩シーケンシング(RRBS)解析に供した。2つのhbdTSC株、即ちhbdTSC#2及びhbdTSC#9、親のHFF及びhESC株を、それぞれ陽性及び陰性の対照として用いた。メチル化解析によって、メチル化が異なる28,881の領域(DMR)が明らかになった一方、そのうち4676がHFFで低メチル化、2つのhbdTSC株で高メチル化され、24205のDMRがHFFで高メチル化、2つのhbdTSC株で低メチル化された。特に、4つのhiTSCクローンのメチル化の状況の解析により、4676のDMRが4つのhiTSCクローンの全てで強固なde novoメチル化を受けた(図3A)一方、24205のDMRは異なるコロニーの間でいくらかの変動を示し、いくらかの領域は部分的にメチル化されたままであった(図3B)ことが明らかになった。併せると、これらの結果は、hiTSCの再プログラミングにおいて脱メチル化はあまり厳密ではないことを示唆している。重要なことに、hiTSCクローンの全体のメチル化の状況はhbdTSCと緊密にクラスターを形成しており、de novoメチル化された及び脱メチル化されたDMRの両方の場合においてESC及びHFF対照から遥かに遠かった。
【0495】
マウスESCのTSCの運命へのトランス分化の間に、いくつかのゲートキーパーはメチル化されたままで、TS様細胞のみを産生することが示唆された(Cambuliら、2014)。これらのゲートキーパーの1つがElf5である。したがって、本発明者らは、ELF5遺伝子座がhiTSCにおいて低メチル化を受けるか否かを検討した。RRBSデータの解析により、ELF5遺伝子座において2つのDMRが示され、近位側のDMR(TSSから10kb、四角でマークしている)がhbdTSCと全てのhiTSCの両方において類似した低メチル化のパターンを示した(図3C)。同様に、多能性特異的な遺伝子座NANOGで見出された唯一のDMR(四角でマークしている)は、ESCにおいて完全に、HFFにおいてそれより少なく低メチル化されたが、hbdTSCとhiTSCの両方においては同様にメチル化された(図3D)。興味あることに、隣接する遺伝子座、NANOGNBに位置する別のDMRは、HFF及びESCのメチル化パターンとは対照的に、全てのhbdTSC及びhiTSCにおいて同程度の低メチル化パターンを示した(図3D)。併せると、これらのデータは、DNAのメチル化が主として、安定なhiTSCにおけるhTSCの状態に組み換えられることを示唆している。
【0496】
次に、本発明者らは、hiTSCの再プログラミングプロセス又は長期間の培養がゲノム異常を起こしやすいか否かを検討した。この目的のため、2つのhbdTSC株(hbdTSC#2及びhbdTSC#9)及び4つのhiTSCクローンを、Affymetrix CytoScan 750Kアレイを用いる高感度の核型分析測定に供した。詳細な解析によって、両方の起源(即ちhbdTSC又はhiTSC)からの全コロニーの50%が元のままの核型を有していることが明らかになった。コロニーの残りの50%は細胞の小分画において殆ど異常を呈さなかった(図9)。これらの結果は、元のままの核型を有するhiTSCコロニーを単離して培養中で増殖させることができ、再プログラミングプロセスがゲノムの不安定性を助長しないことを示している。
【0497】
(実施例3)
生成したhiTSCはインビトロで全てのトロホブラスト細胞型に分化する。
天然の胎盤幹細胞と同様に、hbdTSCは、多核化された合胞体トロホブラスト細胞(ST)及び絨毛外トロホブラスト細胞(EVT)に分化することができる(Okaeら、2018)。したがって、本発明者らは、hiTSCがST及びEVTに分化する同様の可能性を保持しているか否かを検討した。最初にhTSC培養培地をDMEM + 10% FBSに置き換え、細胞を自発的に分化させた。マウスの場合と同様に、EVTに特異的なマーカー(例えばHLA-G、MMP2、及びNOTCH1)及びSTに特異的なマーカー(例えばERVFRD-1、PSG1、SDC1、CGB、及びCSH1)についてのqPCR、並びに多核化細胞の存在についてのPI染色及びそれに続くフローサイトメトリーによって評価して、細胞から幹細胞性シグナルを除去することは、ST及びEVTへの自発的分化を誘起するために十分であった(図4A及び図10A図10B)。
【0498】
しかし、DMEM + 10% FBS培地はトロホブラスト細胞を増殖させるためには最適ではなく、細胞はDMEM + 10% FBS培地中で数日後に死滅してプレートから剥がれる傾向がある。したがって、Okaeらのプロトコル(Okaeら、2018)を用いてST及びEVTへの直接分化を行なった(図4B及び図10C)。最初にhbdTSC及びhiTSCをSTに分化した一方、分化の2日及び6日後に試料を採取した。ERVFRD-1、CSH1、PSG1、及びGCM1等のSTマーカーについてのqPCR解析は、hbdTSCの場合と等価のSTマーカーの強固な誘起を示した(図4C及び図10D)。注目すべきことに、プロセスの初期に融合事象を調整するERVFRD-1は分化の2日後に上方制御されたが、6日目に細胞がいったん融合を完了すれば正常レベルに戻った。汎トロホブラスト細胞、KRT7、上皮マーカーCDH1及びDAPIについての免疫染色は、hbdTSCとhiTSCの両方において分化の6日後に大きな多核化細胞の明瞭な形成を示した。予想されたように、未分化のhiTSCはCDH1についての染色で陽性であったが、多核化STはこれに対して陰性であった。SDC1陽性の三次元ST構造も両方の細胞型で観察された(図4D図4E及び図10E図10F)。これらのデータは、hiTSCがhbdTSCと同様にSTに分化する能力を保持していることを示している。
【0499】
次に、hbdTSC及びhiTSCのEVTへの分化(Okaeら、2018)を方向付けた。播種及びプレートへの細胞の付着に続いて、細胞の会合体がプレート中で形成された(図5A)。6日間の分化の後、紡錘形様の細胞が会合体から遊走し始めた。重要なEVT遺伝子(例えばHLA-G及びMMP2)についてのqPCR解析(図5B)及び免疫染色(図5C)により、細胞の本性がEVTであると立証された。併せると、これらの結果は、hiTSCがhbdTSCと同様に胎盤の種々の細胞型に分化する可能性を保持していることを示唆している。
【0500】
(実施例4)
生成したhiTSCはインビボで増殖し、分化する。
hbdTSCを非肥満糖尿病(NOD)-重症複合型免疫不全(SCID)マウスに皮下注射すると、細胞はKRT7陽性トロホブラスト細胞病変を形成するが、血管形成を殆ど伴わない(Okaeら、2018)。hiTSCがKRT7陽性トロホブラスト細胞病変を形成することができるか否かを検討するため、2つのhiTSCクローン(hiTSC#1及びhiTSC#3)及び1つのhbdTSC対照株(hbdTSC#2)由来のほぼ4×106個の細胞をNOD/SCIDマウスに皮下注射した。9日後にほぼ5mmのサイズの病変が形成されており、これを抽出した(図6A図11)。免疫組織化学染色により、以前に公開された知見(Okaeら、2018)と同様に、トロホブラスト細胞の形態を有するKRT7陽性の細胞の区域が示された。市販の妊娠検査薬を用いて、培養培地中でhCGの分泌が立証された(図6B)。
【0501】
(実施例5)
生成したhiTSCはトロホブラスト細胞オルガノイドを形成する。
最近、2つのトロホブラスト細胞オルガノイド系が開発され、記述されている(Haiderら、2018; Turcoら、2018)。これらの研究により、妊娠第1期の絨毛CTB細胞の、増殖する幹細胞と分化した細胞の両方を含む三次元構造を形成する能力が実証された。2つの系の綿密な検討により、ヒト胎盤の早期の発生プログラムの多くの特徴がこれらのオルガノイドにも存在していることが明らかになった。したがって、本発明者らは、hiTSCが同じ可能性を保持し、トロホブラスト細胞オルガノイドを形成するか否かを検討した。bdTSC#2及びhiTSC#4をトリプシン処理し、マトリゲルの液滴の内部に播種し、放置して10日間増殖させた。絨毛CTBについて示されたように、hbdTSCとhiTSCの両方は、数日の培養の間で三次元構造を形成することができた。重要な遺伝子についての免疫染色により、オルガノイドが増殖する幹細胞と分化した細胞の両方からなることが明らかになった(図6C)。併せると、これらのデータは、hiTSCがそのhbdTSC及び絨毛CTBにおける相当物と同様の機能性オルガノイドを形成できることを実証している。
【0502】
(実施例6)
GATA3、OCT4、KLF4/KLF5、及びc-MYCの異所性発現によるヒト細胞の若返り
本実施例は、若返りのためのプロトコルの非限定的な例を提供する。即ち、GATA3、OCT4、KLF4とKLF5の少なくとも1つ、及び任意選択でc-MYCを、ヒト対象、例えば骨髄異形成症候群(MDS)に罹患した患者から得たCD34+細胞にmRNA分子として導入する。続いて細胞を1~3週間培養し、その後成的な年齢及び機能を検討する。その後、若返りした細胞を同じ患者に移植して戻す。
【0503】
(実施例7)
GATA3、OCT4、KLF4、KLF5、及びc-MYCの異所性発現による線維芽細胞からのhiTSCの生成
遺伝子KLF5は、例えばGATA3、OCT4、KLF4、及びc-MYCと組み合わせた場合の、hiTSCへの再プログラミングプロセスのための強力なブースターとしても同定された。興味あることに、KLF5は、hTSCへの再プログラミングを容易にしただけではなく、老化した線維芽細胞(PromoCell社から入手、Cat no: C-12302)をhiTSCに再プログラミングすることを可能にした(図12)。
【0504】
本発明はその特定の実施形態と併せて記述しているが、当業者には多くの代替、改変、及び変形が明白になることは明らかである。したがって、添付した特許請求の範囲の精神及び広い範囲の中に含まれる全ての代替、改変、及び変形を包含することが意図されている。
【0505】
本明細書中で言及した全ての出版物、特許、及び特許出願は、個別の出版物、特許、又は特許出願が言及された際に参照により本明細書に組み込まれると具体的かつ個別に注記されたかのように、参照により全体として本明細書に組み込まれることが本出願人の意図である。更に、本出願におけるいずれの参考文献の引用又は特定も、これらの参考文献が本発明の先行技術として利用可能であることの承認として解釈すべきではない。セクションの見出しとして用いられる程度に、これらは必ずしも限定的であると解釈すべきではない。更に、本出願のいずれの優先権書類も、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0506】
[参考文献]
図1
図2A
図2B
図2C
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8-1】
図8-2】
図9
図10-1】
図10-2】
図10-3】
図11
図12
【配列表】
2024534404000001.app
【国際調査報告】