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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】新規転写因子
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/47 20060101AFI20240912BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240912BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20240912BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20240912BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C07K14/47 ZNA
C07K19/00
C12N9/22
C12N15/12
C12N15/55
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/63 P
C12N15/85 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
A61K48/00
A61P25/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516730
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 IB2022058691
(87)【国際公開番号】W WO2023042104
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】63/245,084
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】ファーガソン,ケイス エヴァレット
(72)【発明者】
【氏名】フロマートカ,ステファニー ヴィアニ
(72)【発明者】
【氏名】タオ,シュ イー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA91
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA012
4C084ZB212
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZB21
4H045AA10
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA11
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、目的の遺伝子を標的とするDNA結合ドメインに融合することにより、目的の遺伝子の発現を調節するための新規転写因子に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA結合ドメイン及び少なくとも3つの転写活性化ドメイン(TAD)を含む転写因子であって、前記TADは、同じであるか又は異なり得る、転写因子。
【請求項2】
前記TADは、i)少なくとも1つの酸性TAD及び少なくとも1つのQに富むTAD、又はii)少なくとも1つの酸性TAD及び少なくとも1つのPに富むTADを含む、請求項1に記載の転写因子。
【請求項3】
前記酸性TADは、VP16、VP64、VP7、ATF6、TFE3、ATF6-11又はそれらのフラグメントから選択されるTADの1つ以上のコピーを含む、請求項2に記載の転写因子。
【請求項4】
前記Qに富むTADは、Oct2-Q、SP1-Q1又はそれらのフラグメントから選択されるTADの1つ以上のコピーを含む、請求項2に記載の転写因子。
【請求項5】
前記Pに富むTADは、TFAP2-P、Oct2-P又はそれらのフラグメントから選択されるTADの1つ以上のコピーを含む、請求項2に記載の転写因子。
【請求項6】
前記TADは、全長VP64、VP16の1つ又は複数のリピート、全長又は部分p65、全長RTA、全長VP7、全長又は部分TEF3、全長又は部分ATF6-11、全長又は部分ATF6酸性、全長又は部分SP1富Q、全長又は部分Oct2富Q、全長又は部分Oct2富P、全長又は部分TFAP2富P、VP64の活性フラグメント、p65の転写活性フラグメント、RTAの転写活性フラグメント、VP7の活性フラグメント、TEF3の活性フラグメント、ATF6-11の活性フラグメント、ATF6酸性の活性フラグメント、SP1富Qの活性フラグメント、Oct2富Qの活性フラグメント、Oct2富Pの活性フラグメント、TFAP2富Pの活性フラグメント及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の転写因子。
【請求項7】
前記TADの合計長は、2000aa未満、1500aa未満、1000aa未満、750aa未満、500aa未満、300aa未満、250aa未満、200aa未満又は150aa未満の長さである、請求項1~6のいずれか一項に記載の転写因子。
【請求項8】
配列番号1~28のいずれかに対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列又は配列番号1~28と少なくとも80%、85%、90%、好ましくは95%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1に記載の転写因子。
【請求項9】
配列番号1~18のいずれか1つを有する配列又はそれに対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1に記載の転写因子。
【請求項10】
前記転写因子をコードする核酸配列は、配列番号30~47の配列又はそれに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1に記載の転写因子。
【請求項11】
前記DNA結合ドメインは、リンカーを用いて又は用いることなく、請求項1~10のいずれか一項に記載の転写因子に連結される、請求項1に記載の転写因子。
【請求項12】
前記DNA結合ドメインは、前記転写因子のN末端に直接又はリンカーを介して連結される、請求項11に記載の転写因子。
【請求項13】
前記DNA結合ドメインは、前記転写因子のC末端に直接又はリンカーを介して連結される、請求項11に記載の転写因子。
【請求項14】
前記DNA結合ドメインは、目的の遺伝子のゲノム領域に結合する、請求項1~13のいずれか一項に記載の転写因子。
【請求項15】
前記DNA結合ドメインは、gRNA/Cas複合体、転写アクチベーター様(TAL)エフェクター又はジンクフィンガータンパク質である、請求項14に記載の転写因子。
【請求項16】
前記gRNA/Cas複合体は、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9、C.ジェジュニ(C.jejune)Cas9、S.アウレウス(S.aureus)Cas9又はデルタプロテオバクテリア綱(Deltaproteobacteria)(Dpb)CasXであるか又はそれに由来するCas分子を含む、請求項15に記載の転写因子。
【請求項17】
前記Cas分子は、1つ以上の活性を欠如し、任意選択により、前記1つ以上の活性は、切断活性である、請求項16に記載の転写因子。
【請求項18】
前記Cas分子は、4,000ヌクレオチド未満を含む核酸分子によってコードされ、任意選択により、前記Cas分子は、3,500ヌクレオチド未満又は2,500ヌクレオチド未満を含む核酸分子によってコードされる、請求項16又は17に記載の転写因子。
【請求項19】
前記Cas分子は、S.アウレウス(S.aureus)Cas9であるか又はそれに由来する、請求項16~18のいずれか一項に記載の転写因子。
【請求項20】
前記Cas分子は、野生型Cas分子配列と比較して1つ以上のアミノ酸の欠失を含む、請求項19に記載の転写因子。
【請求項21】
前記DNA結合ドメインは、ジンクフィンガータンパク質である、請求項15に記載の転写因子。
【請求項22】
前記DNA結合ドメインは、前記目的の遺伝子のプロモーター領域に結合する、請求項21に記載の転写因子。
【請求項23】
前記DNA結合ドメインは、前記目的の遺伝子の前記プロモーター領域の6、9、12、15、18、21又は24bp配列に結合するジンクフィンガータンパク質である、請求項22に記載の転写因子。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の転写因子の1つ以上の成分、任意選択により前記成分の全てをコードする核酸分子。
【請求項25】
請求項24に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項26】
前記DNA結合ドメインをコードする核酸配列に作動可能に連結された第1のプロモーターを含む、請求項25に記載のベクター。
【請求項27】
ヒト細胞で転写を駆動するプロモーターを含む、請求項26に記載のベクター。
【請求項28】
前記第1のプロモーターは、ニューロンで作動可能である、請求項26又は27に記載のベクター。
【請求項29】
前記ニューロンは、GABA作動性ニューロン若しくは抑制性ニューロン又は抑制性介在ニューロンである、請求項28に記載のベクター。
【請求項30】
前記ニューロンは、パルブアルブミン陽性GABA作動性ニューロン、又はソマトスタチン陽性GABA作動性ニューロン、又は血管作動性腸管ペプチド陽性GABA作動性ニューロンである、請求項29に記載のベクター。
【請求項31】
a.ポリA配列;
b.イントロン配列;又は
c.エンハンサー配列
の1つ以上をさらに含む、請求項25~30のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項32】
前記転写因子の産生及び/又は分解を制御する調節エレメントをさらに含む、請求項25~31のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項33】
前記調節エレメントは、前記転写因子に連結されたミニ遺伝子であり、前記ミニ遺伝子は、スプライス調節剤結合配列を含み、スプライス調節剤の存在下において、前記ミニ遺伝子は、前記転写因子の増加又は減少した発現をもたらすスプライシングを受ける、請求項32に記載のベクター。
【請求項34】
前記調節エレメントは、脱安定化ドメインであり、前記脱安定化ドメインに特異的に結合する小分子の存在下において、前記転写因子の発現は、減少する、請求項32に記載のベクター。
【請求項35】
アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター若しくはレンチウイルスベクター又はアデノウイルスベクター若しくは単純ヘルペスウイルスベクターである、請求項25~34のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項36】
AAVベクターである、請求項35に記載のベクター。
【請求項37】
AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9又はAAV.rh10ベクターである、請求項36に記載のベクター。
【請求項38】
請求項25~37のいずれか一項に記載のベクターを含む細胞。
【請求項39】
対象における導入遺伝子の選択的発現の方法であって、前記対象に、請求項25~37のいずれか一項に記載のウイルスベクターを投与することを含む方法。
【請求項40】
目的の遺伝子の変異に関連する疾患を処置する方法であって、それを必要とする対象に、請求項25~38のいずれか一項に記載のウイルスベクターを投与することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的の遺伝子を標的とするDNA結合ドメインに融合することにより、目的の遺伝子の発現を調節するための新規転写因子に関する。
【背景技術】
【0002】
1つ以上の遺伝子又は遺伝子産物の転写又は活性の低減をもたらすゲノム変更は、多様な哺乳動物疾患の原因因子である。そのようなゲノム変更の1つは、ハプロ不全である。ハプロ不全では、遺伝子の1つの機能性コピーのみが存在するにすぎず、その単一コピーは、野生型表現型を産生するのに十分な遺伝子産物を産生しない。別の疾患型は、遺伝子産物が、活性の排除ではなく、活性の低減を呈するように遺伝子産物を変更する遺伝子の一方又は両方のコピーのゲノム変化によって引き起こされる。さらに別の疾患型では、ゲノム変更は、野生型表現型を産生する遺伝子産物の存在量が不十分となるように遺伝子の一方若しくは両方のコピーの転写を低減するか又は転写物の安定性を低減する。
【0003】
転写又は活性が低減される1つ以上の遺伝子の量又は活性を増加させることにより、そのような疾患を処置する多くのアプローチが試みられている。そのようなアプローチの1つは、機能性タンパク質を産生するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる患者への標的遺伝子の野生型コピーの送達である。アデノ随伴ウイルス(AAV)は、ヒト及びいくつかの他の霊長動物種に感染する小さい複製欠損非エンベロープウイルスである。AAVがヒト疾患の原因になるか又は軽度免疫応答を誘発するかは、知られておらず、AAVベクターは、宿主細胞ゲノム中に組み込むことなく分裂及び休眠細胞の両方に感染可能であるなど、AAVのいくつかの特性により、このウイルスは、遺伝子療法による治療用タンパク質の送達のための魅力的媒体になっている。しかしながら、AAV遺伝子療法ベクターは、実際にはいくつかの欠点を有する。特に、AAVベクターのクローニング能力は、ウイルスDNAのパッケージング能力の結果として限定される。野生型AAVの一本鎖DNAゲノムは、およそ4.7キロベース(kb)である。実用上、約5.0kbまでのAAVゲノムは、完全に、すなわち全長がAAVウイルス粒子中にパージングされると見られている。AAVベクター中の核酸ゲノムは、およそ145塩基の2つのAAV逆位末端反復(ITR)を有しなければならないという要件により、AAVベクターのDNAパッケージング能力は、タンパク質コーディング配列が最大でおよそ4.4kbであるようなものである。
【0004】
このサイズ制限に起因して、大きい治療用遺伝子、例えば約4.4kbの長さを超えるものは、AAVベクターでの使用に一般に好適ではない。AAVのサイズ制限を克服するための一アプローチは、標的遺伝子自体を送達する代わりに標的遺伝子のプロモーター領域を標的とする転写因子を送達することにより遺伝子の標的遺伝子転写を増加させることである。したがって、AAVベクターにより送達するのに適切な且つ疾患又は障害の影響を逆転させる助けとなるようにいずれかの内因性遺伝子の発現を調節可能である、特にサイズが小さい且つ活性が強い改善された転写因子、特に免疫原性の低減、オフターゲットの影響の低減、標的遺伝子に対する特異性の増加及び/又は治療効能の増加をもたらす療法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
一態様では、DNA結合ドメイン及び少なくとも3つの転写活性化ドメイン(TAD)を含む転写因子であって、TADは、同じであるか又は異なり得る、転写因子が本明細書で提供される。
【0006】
いくつかの実施形態では、TADは、i)少なくとも1つの酸性TAD及び少なくとも1つのQに富むTAD、又はii)少なくとも1つの酸性TAD及び少なくとも1つのPに富むTADを含む。いくつかの実施形態では、酸性TADは、VP16、VP64、VP7、ATF6、TFE3、ATF6-11又はそれらのフラグメントから選択されるTADの1つ以上のコピーを含む。いくつかの実施形態では、Qに富むTADは、Oct2-Q、SP1-Q1又はそれらのフラグメントから選択されるTADの1つ以上のコピーを含む。いくつかの実施形態では、Pに富むTADは、TFAP2-P、Oct2-P又はそれらのフラグメントから選択されるTADの1つ以上のコピーを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、TADは、全長VP64、VP16の1つ又は複数のリピート、全長又は部分p65、全長RTA、全長VP7、全長又は部分TEF3、全長又は部分ATF6-11、全長又は部分ATF6酸性、全長又は部分SP1富Q、全長又は部分Oct2富Q、全長又は部分Oct2富P、全長又は部分TFAP2富P、VP64の活性フラグメント、p65の転写活性フラグメント、RTAの転写活性フラグメント、VP7の活性フラグメント、TEF3の活性フラグメント、ATF6-11の活性フラグメント、ATF6酸性の活性フラグメント、SP1富Qの活性フラグメント、Oct2富Qの活性フラグメント、Oct2富Pの活性フラグメント、TFAP2富Pの活性フラグメント及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0008】
いくつかの実施形態では、TADの合計長は、2000aa未満、1500aa未満、1000aa未満、750aa未満、500aa未満、300aa未満、250aa未満、200aa未満又は150aa未満の長さである。
【0009】
いくつかの実施形態では、転写因子は、配列番号1~28の配列又はそれに対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有する配列を含む。特定の実施形態では、転写因子は、配列番号1~18のいずれか1つを有する配列又はそれに対して少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の配列同一性を有する配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、転写因子をコードする核酸配列は、配列番号30~47の配列又はそれに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、DNA結合ドメインは、リンカーを用いて又は用いることなく、転写因子のいずれか1つの転写因子に連結される。特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、転写因子のN末端に直接又はリンカーを介して連結される。特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、転写因子のC末端に直接又はリンカーを介して連結される。特定の実施形態では、リンカーは、GGSGGGSG(配列番号59)又はGGSGGGSGGGSGGGSG(配列番号60)を含むか又はそれからなる。
【0012】
いくつかの実施形態では、DNA結合ドメインは、目的の遺伝子のゲノム領域に結合する。特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、gRNA/Cas複合体、転写アクチベーター様(TAL)エフェクター又はジンクフィンガータンパク質である。特定の実施形態では、gRNA/Cas複合体中のCas分子は、S.ピオゲネス(S.pyogenes)Cas9、C.ジェジュニ(C.jejune)Cas9、S.アウレウス(S.aureus)Cas9又はデルタプロテオバクテリア綱(Deltaproteobacteria)(Dpb)CasXであるか又はそれらに由来する。
【0013】
いくつかの実施形態では、Cas分子は、1つ以上の活性を欠如し、任意選択により、その1つ以上の活性は、切断活性である。
【0014】
いくつかの実施形態では、Cas分子は、4,000ヌクレオチド未満を含む核酸分子によってコードされ、任意選択により、Cas分子は、3,500ヌクレオチド未満又は2,500ヌクレオチド未満を含む核酸分子によってコードされる。特定の実施形態では、Cas分子は、S.アウレウス(S.aureus)Cas9であるか又はそれに由来する。
【0015】
いくつかの実施形態では、Cas分子は、野生型Cas分子配列と比較して1つ以上のアミノ酸の欠失を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、DNA結合ドメインは、ジンクフィンガータンパク質である。いくつかの実施形態では、ジンクフィンガータンパク質は、6~9つのジンクフィンガードメインを含む。いくつかの実施形態では、ジンクフィンガータンパク質は、目的の遺伝子のプロモーター領域に結合する。特定の実施形態では、ジンクフィンガータンパク質は、目的の遺伝子のプロモーター領域の6、9、12、15、18、21、24又は27bp配列に結合する。
【0017】
いくつかの実施形態では、ジンクフィンガータンパク質は、配列番号61、配列番号70、配列番号71又は配列番号73に対して少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%の同一性を有する配列を含む。
【0018】
別の態様では、本出願は、上記の実施形態のいずれか1つに記載の転写因子の1つ以上の成分、任意選択により成分の全てをコードする核酸分子を提供する。
【0019】
別の態様では、本出願は、核酸分子を含むベクターを提供する。いくつかの実施形態では、ベクターは、DNA結合ドメインをコードする核酸配列に作動可能に連結された第1のプロモーターを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、ベクターは、ヒト細胞で転写を駆動するプロモーターを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、第1のプロモーターは、ニューロンで作動可能である。特定の実施形態では、ニューロンは、GABA作動性ニューロン若しくは抑制性ニューロン又は抑制性介在ニューロンである。特定の実施形態では、ニューロンは、パルブアルブミン陽性GABA作動性ニューロン、又はソマトスタチン陽性GABA作動性ニューロン、又は血管作動性腸管ペプチド陽性GABA作動性ニューロンである。
【0022】
いくつかの実施形態では、ベクターは、a.ポリA配列;b.イントロン配列;又はc.エンハンサー配列の1つ以上をさらに含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、ベクターは、転写因子の産生及び/又は分解を制御する調節エレメントをさらに含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、調節エレメントは、転写因子に連結されたミニ遺伝子であり、ミニ遺伝子は、スプライス調節剤結合配列を含み、スプライス調節剤の存在下において、前記ミニ遺伝子は、転写因子の増加又は減少した発現をもたらすスプライシングを受ける。
【0025】
いくつかの実施形態では、調節エレメントは、脱安定化ドメインであり、脱安定化ドメインに特異的に結合する小分子の存在下において、転写因子の発現は、減少する。
【0026】
いくつかの実施形態では、ベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター若しくはレンチウイルスベクター又はアデノウイルスベクター若しくは単純ヘルペスウイルスベクターである。
【0027】
特定の実施形態では、ベクターは、AAVベクターである。特定の実施形態では、ベクターは、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9又はAAV.rh10ベクターである。
【0028】
別の態様では、本出願は、上記の実施形態のいずれか1つに記載のベクターを含む細胞を提供する。
【0029】
別の態様では、本出願は、対象における導入遺伝子の選択的発現の方法であって、対象に、上記の実施形態のいずれかに記載のウイルスベクターを投与することを含む方法を提供する。
【0030】
別の態様では、本出願は、目的の遺伝子の変異に関連する疾患を処置する方法であって、それを必要とする対象に、上記の実施形態のいずれかに記載のウイルスベクターを投与することを含む方法を提供する。
【0031】
参照による組み込み
本明細書で言及される刊行物、特許及び特許出願の全ては、あたかも個々の刊行物、特許又は特許出願が、参照により組み込まれることを具体的且つ個別に明示されたのと同程度に参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】TREプロモーターの活性化に関して、VPR3と比較したTAD1、TAD2+(3つの核局在化シグナル(NLS)配列を有するTAD2)、TAD2-(2つのNLS配列を有するTAD2)及びTAD3の活性を示す。TADは、ミニSa-Cas9に連結された場合、TRE含有プロモーターを活性化する。TRE配列を標的とするsgRNAを担持したプラスミド、ミニSa-dCas9-アクチベーター、TREプロモーター-ルシフェラーゼ及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。コントロールガイドRNAサンプルからの変化倍率を計算することにより、Sa-dCas9-アクチベーターによりトリガーされた相対プロモーター活性を決定した。1×TREプロモーターは、1つのTRE部位を含有し;3×TREプロモーターは、TRE部位の3リピートを担持する。VPR3(Ma et al.2018)も同様にミニSa-Cas9に連結し、陽性転写活性化因子コントロールとして使用した。TREを標的とするsgRNAの配列は、配列番号64に列挙される。
図2】マウスSCN1Aプロモーターの活性化に関して、VPR3と比較したTAD1~TAD7の活性を示す。ミニSa-dCas9-アクチベーター(TAD1~TAD7)、マウスscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、マウスscn1aプロモーターを標的とするgRNA及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。各ミニSa-dCas9-アクチベーターを20、6.7及び2.2ng/ウェルでトランスフェクトしたところ、結果は、用量依存性効果を示した。sgRNA3の配列は、配列番号65に対応する。
図3】マウスSCN1Aプロモーターの活性化に関して、VPR3と比較したTAD7~TAD10の活性を示す。ミニSa-dCas9-アクチベーター(TAD7~TAD10)、マウスscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、マウスscn1aプロモーターを標的とするgRNA及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。各ミニSa-dCas9-アクチベーターを20、6.7及び2.2ng/ウェルでトランスフェクトしたところ、活性ガイドRNAのsgRNA3と共にコトランスフェクトしたとき、結果は、用量依存性活性化を示した。ミニSa-dCas9を非活性ガイドRNAのsgRNA11と共にコトランスフェクトしたとき、プロモーターは、活性化されなかった。sgRNA3及びsgRNA11の配列は、それぞれ配列番号65、配列番号66に対応する。
図4】sgRNAと対合した場合について、TREプロモーター及びSCN1aプロモーターの活性化に関してVPRと比較したTAD2及びTAD9の活性を示す。ユビキチンCプロモーターにより駆動されるミニSa-dCas9-TADは、活性sgRNAと対合したとき、マウスscn1aプロモーター及びTRE含有プロモーターを活性化する。様々な量のミニSa-dCas9-アクチベーター(TAD2、TAD9及びVPR)、マウスscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ又はTRE含有プロモーター、それぞれTRE含有プロモーターのためのTRE sgRNA;mSCN1AプロモーターのためのsgRNA3及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。
図5】マウスSCN1A及びヒトSCN1Aプロモーターの活性化に関して、VP64及びフルVPRと比較したTAD9、TAD11、TAD14、TAD16の活性を示す。ミニSa-dCas9-アクチベーター、マウスscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ又はヒトscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、scn1aプロモーターを標的とするgRNA及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。新たに作成された転写活性化ドメイン(TAD9、TAD11、TAD14及びTAD16)は、VPR(Chavez et al.2015)と同等以上の活性及びVP64よりも強い活性を有する。
図6】TRE及びヒトSCN1Aプロモーターの活性化に関して、VP64及びフルVPRと比較したTAD9、TAD11、TAD12、TAD13、TAD14、TAD15の活性を示す。ミニSa-dCas9-アクチベーター、TRE含有プロモーター又はヒトscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、scn1aプロモーターを標的とするgRNA及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。新たに作成された転写活性化ドメインは、VPR(Chavez et al.2015)と同等以上の活性を有すると共に、VP64よりも強い活性を有する。
図7】異なる活性sgRNAを用いたマウスSCN1Aプロモーターの活性化において、VP64及びフルVPRと比較したTAD9、TAD11、TAD12、TAD13、TAD14、TAD15の活性を示す。ミニSa-dCas9-アクチベーター、マウスscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、マウスscn1aプロモーターを標的とするsgRNA及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。sgRNA42の配列は、配列番号67に対応する。
図8】U2OS細胞株でのTREレポーター遺伝子の活性化に関して、VP64と比較したTAD8a、TAD9及びTAD15の活性を示す。ミニSa-dCas9-アクチベーター、TRE含有プロモーター又はヒトscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、TREを標的とするgRNA配列及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをU2OS細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。TAD8a、TAD9及びTAD15は、VP64よりも高い活性を示すと共に、TAD15は、全ての中で最も高い活性を示す。
図9】遺伝子転写を増強するためにジンクフィンガータンパク質に連結されたTAD15の活性を示す。6CAGリピートを標的とするジンクフィンガータンパク質ZFP-C(配列番号70、「6CAGリピート」は、配列番号93として開示される)及びヒトerb2遺伝子プロモーターを標的とするジンクフィンガータンパク質E2C(配列番号71)をTAD15に連結した。2つのE2Cエレメント(E2C 2×)を担持するレポーター又は8CAGリピート(CAG24)(配列番号94)を担持するレポーターと共に各転写アクチベーターをコトランスフェクトすると共に、GPK-ウミシイタケルシフェラーゼをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。転写因子は、プロモーターを特異的に活性化した。すなわち、E2C-TAD15は、E2Cエレメント含有プロモーターのみを活性化し;ZFP-C-TAD15は、CAGリピート含有プロモーターのみを活性化した。
図10】内因性遺伝子プロモーターの活性化に関してTAD15の活性を示す。ジンクフィンガータンパク質E2C(配列番号71)は、ヒトerb2遺伝子プロモーター中のエレメントを認識する(Beerli et al 1998)。Erb2は、レセプタータンパク質Her2をコードする。E2C-TAD15をHEK293T細胞にトランスフェクトした。E2C-TAD15上にタグ付けされたヘマグルチニン(HA)の染色により、トランスフェクト細胞を同定した。細胞表面上のHer2の免疫染色により、Her2発現レベルを定量した。E2C-TAD15(HA陽性)を有する細胞は、非トランスフェクト細胞(HA陰性)と比較して3倍超のHer2レベルを示した。
図11】マウスGABA作動性ニューロン中の内因性ニューロン遺伝子の活性化におけるTAD15の活性を示す。TAD13、TAD14及びTAD15に、それぞれSCN1Aプロモーターを標的とするジンクフィンガータンパク質Nav-ZF2(配列番号61)を連結した。それらをレンチウイルス中にパージングして培養ニューロンに感染させるために使用し、70~90%形質導入率を達成した。4日後、細胞を溶解してRNAを採取した。qRT-PCRにより、SCN1A及びMAP2転写物を分析した。転写アクチベーターによるSCN1A転写物の増加は、ウイルスなしの細胞での規格化SCN1A mRNAレベルに対する規格化SCN1A mRNAレベルの倍率により測定される。
図12】原寸通りではないが、各TAD分子中の活性化ドメインの配置を示す概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義
本発明がより容易に理解され得るように、特定の用語は、詳細な説明全体を通して定義される。特に定義がない限り、本明細書で用いられる科学技術用語は、全て本発明が関連する技術分野の当業者が通常理解するものと同一の意味を有する。
【0034】
特に明記されない限り、本明細書で用いられる以下の用語及び語句は、以下の意味を有することが意図される。
【0035】
本明細書で使用される場合、「哺乳動物」は、ヒト、飼育動物、農場動物、伴侶動物などを含めて、哺乳動物として分類されるいずれの動物も含むが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用される場合、「対象」又は「患者」という用語は、霊長動物、ウサギ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒツジ及びウシを含めて、ヒト及び非ヒト哺乳動物を指すが、これらに限定されない。好ましくは、対象又は患者はヒトである。
【0037】
「1つの(a)」、「1つの(an)」又は「その」という用語は、冠詞の文法上の目的語の1つ又は2つ以上を指す。この用語は、「1つ」、「1つ以上」、「少なくとも1つ」又は「1つ又は2つ以上」を指し得る。例として、「要素」は、1つの要素又は2つ以上の要素を意味する。「又は」という用語は、特に明記されない限り、「及び/又は」を指す。「含む」又は「含有する」という用語は、限定ではない。
【0038】
測定可能値、例えば量、時間的持続などが参照されたときの「約」という用語は、具体的に示された値から±20%、又はいくつかの事例では±10%、又はいくつかの事例では±5%、又はいくつかの事例で±1%、又はいくつかの事例では±0.1%の変動を包含することを意味するが、そのような変動は本開示の方法を実施するのに適切であるものとする。
【0039】
「保存的配列改変」という用語は、アミノ酸配列を含有するCas9分子の結合特性に有意な影響又は変更を与えないアミノ酸改変を指す。そのような保存的改変は、アミノ酸置換、付加及び欠失を含む。改変は、部位指向変異誘発及びPCR媒介変異誘発などの当技術分野で公知の標準的技術により、本明細書に記載のCas9分子又はフラグメントに導入可能である。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が類似側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられるものである。類似側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ-分岐状側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。そのため、Cas9分子内の1つ以上のアミノ酸残基は、同一側鎖ファミリーからの他のアミノ酸残基で置換え可能であると共に、変更されたCas9分子は、本明細書に記載の機能性アッセイを用いて試験可能である。同様に、「保存的配列改変」は、本明細書に記載の転写因子の結合特性に有意な影響又は変更を与えないアミノ酸改変を指す。
【0040】
「コードする」という用語は、ヌクレオチド(例えば、rRNA、tRNA及びmRNA)の定義配列又はアミノ酸の定義配列のいずれか及びそれから生じる生物学的性質を有する他のポリマー及びマクロ分子の生物学的プロセスでの合成のためのテンプレートとしての役割を果たす、遺伝子、cDNA、mRNAなどのポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特異的配列の固有の性質を指す。そのため、遺伝子、cDNA又はRNAは、その遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳が細胞又は他の生物学的系でタンパク質を産生するならば、タンパク質をコードする。遺伝子又はcDNAの転写のためのテンプレートとして使用される、ヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であると共に配列表で通常提供されるコーディング鎖及び非コーディング鎖は、両方ともその遺伝子又はcDNAのタンパク質又は他の産物をコードすると呼ばれ得る。
【0041】
特に明記されない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いに縮重バージョンである且つ同一アミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を含む。タンパク質又はRNAをコードするヌクレオチド配列という語句は、タンパク質をコードするヌクレオチド配列がいくつかのバージョンでイントロンを含有し得る範囲内でイントロンも含み得る。
【0042】
「有効量」又は「治療有効量」という用語は、本明細書では互換可能に使用され、特定の生物学的結果を達成するのに有効な、本明細書に記載の化合物、製剤、材料又は組成物の量を指す。
【0043】
「内因性」という用語は、生物、細胞、組織又は系の内に由来する又はそれらの内で産生されるいずれかの物質を指す。
【0044】
「外因性」という用語は、生物、細胞、組織又は系の外から導入される又はそれらの外で産生されるいずれかの物質を指す。
【0045】
「発現」という用語は、核酸配列又はポリヌクレオチドがDNAテンプレートから(例えば、mRNA又は他のRNA転写物に)転写されるプロセス及び/又は転写されたmRNAがペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に後続的に翻訳されるプロセスを指す。転写物及びコードポリペプチドは、総称して「遺伝子産物」と呼ばれ得る。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現は、真核細胞でのmRNAのスプライシングを含み得る。
【0046】
「トランスファーベクター」という用語は、単離された核酸を含む及び単離された核酸を細胞内に送達するために使用可能である物質の組成物を指す。限定されるものではないが、線状ポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性化合物に会合したポリヌクレオチド、プラスミド及びウイルスをはじめとする多くのベクターが当技術分野で公知である。そのため、「トランスファーベクター」という用語は、自律複製プラスミド又はウイルスを含む。この用語は、細胞中への核酸の移入を促進する非プラスミド及び非ウイルス化合物、例えばポリリシン化合物、リポソームなどをさらに含むものとも解釈されるべきである。ウイルストランスファーベクターの例には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0047】
「発現ベクター」という用語は、発現されるヌクレオチド配列に作動的に連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用性エレメントを含み;発現のための他のエレメントは、宿主細胞により又はインビトロ発現系中に供給可能である。発現ベクターは、組換えポリヌクレオチドが組み込まれたコスミド、プラスミド(例えば、ネイキッドであるか又はリポソーム中に含有される)及びウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)を含めて、当技術分野で公知の全てのものを含む。
【0048】
「相同」、「相同性」又は「同一性」という用語は、2つのポリマー分子間、例えば2つのDNA分子若しくは2つのRNA分子などの2つの核酸分子間又は2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列同一性を指す。2つの分子の両方のサブユニット位置が同一モノマーサブユニットにより占領されているとき;例えば、2つのDNA分子の各々の位置がアデニンにより占領されている場合、それらはその位置で相同又は同一である。2つの配列間の相同性は、適合又は相同位置の数の直接関数であり;例えば、2つの配列中の位置の半分(例えば、10サブユニット長のポリマー中の5つの位置)が相同である場合、2つの配列は50%相同であり、位置の90%(例えば、10のうちの9つ)が適合又は相同である場合、2つの配列は90%相同である。
【0049】
「単離された」という用語は、天然状態から変更又は除去されたことを意味する。例えば、生存動物中に天然に存在する核酸又はペプチドは「単離された」ものではないが、その天然状態の共存物質から部分的又は完全に分離された同一の核酸又はペプチドは「単離された」ものである。単離された核酸又はタンパク質は、実質的に精製された形態で存在可能であるか、又は非ネイティブ環境、例えば宿主細胞中に存在可能である。
【0050】
「作動可能に連結された」又は「転写制御」という用語は、調節配列と異種核酸配列との機能的連結が後者の発現をもたらすことを指す。例えば、第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係に配置されたとき、第1の核酸配列は、第2の核酸配列に作動可能に連結されている。例として、プロモーターがコーディング配列の転写又は発現に影響を及ぼす場合、プロモーターは、コーディング配列に作動可能に連結されている。プロモーター又は調節配列は、シス作用性エレメント又はトランス作用性エレメントであり得る。作動可能に連結されたDNA配列は、互いに連続であり得ると共に、例えば2つのタンパク質コーディング領域を接合する必要がある場合、同一リーディングフレームである。
【0051】
「核酸」又は「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖又は二本鎖の形態のいずれかのデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)及びそれらのポリマーを指す。特に限定されない限り、この用語は、参照核酸と類似の結合を有する及び天然に存在するヌクレオチドと同様に代謝される天然ヌクレオチドの既知のアナログを含有する核酸を包含する。特に指示がない限り、特定核酸配列は、その保存的改変変異体(例えば、縮重コドン置換)、アレル、オルソログ、SNP及び相補的配列並びに明示的に示された配列も黙示的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(又は全ての)コドンの第3の位置が混合塩基残基及び/又はデオキシイノシン残基で置換された配列を発生させることにより達成され得る(Batzer et al.,Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsuka et al.,J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985);及びRossolini et al.,Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。
【0052】
「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、互換可能に使用されると共に、ペプチド結合により共有結合で連結されたアミノ酸残基で構成される化合物を指す。タンパク質又はペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、タンパク質又はペプチドの配列を構成し得るアミノ酸の最大数には限定が課されない。ポリペプチドは、ペプチド結合により互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含むいずれかのペプチド又はタンパク質を含む。本明細書で使用される場合、この用語は、例えば、ペプチド、オリゴペプチド及びオリゴマーとも当技術分野で通常呼ばれる短鎖と、タンパク質と当技術分野で一般に呼ばれ、多くのタイプが存在するより長い鎖と、の両方を指す。「ポリペプチド」は、とりわけ、例えば生物学的活性フラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドの変異体、改変ポリペプチド、誘導体、アナログ、融合タンパク質を含む。ポリペプチドは、天然ペプチド、組換えペプチド又はそれらの組み合わせを含む。
【0053】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」又は「プロモーター配列」という用語は、例えばRNAポリメラーゼの結合を介した、例えば下流(3’方向)のコーディング又は非コーディング配列の、作動可能に連結されたコーディング又は非コーディング配列の転写を促進することができる(例えば、検出可能なレベルの転写を引き起こすことができ、且つ/又はプロモーターの非存在下で提供されるレベルを超えて検出可能なレベルの転写を増加させることができる)DNA調節配列である。いくつかの実施形態では、プロモーター配列は、その3’末端で転写開始部位によって結合され、上流(5’方向)に伸びて、バックグラウンドを超えて検出可能なレベルで転写を開始するための最小数の塩基又はエレメントを含む。いくつかの実施形態では、プロモーター配列は、転写開始部位並びにRNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合ドメインを含み得る。転写を開始するのに十分な配列に加えて、プロモーターは、転写の調節に関与する他の調節エレメントの配列(例えば、エンハンサー、コザック配列及びイントロン)も含み得る。誘導性プロモーター及び構成的プロモーターを含む様々なプロモーターを使用して、本明細書に開示されるベクターを駆動し得る。いくつかの実施形態、例えば本明細書に開示されるウイルスベクターにおいて使用され得る当技術分野で公知のプロモーターの例には、CMVプロモーター、CBAプロモーター、smCBAプロモーター及び免疫グロブリン遺伝子、SV40又は他の組織特異的遺伝子に由来するプロモーター(例えば、RLBP1、RPE、VMD2)が含まれる。さらに、既知の調節エレメントを混合及び適合させることによって機能的プロモーターを作製するための標準的な技術が当技術分野で公知である。プロモーターのフラグメント、例えばバックグラウンドを超えて検出可能なレベルで転写を開始するために少なくとも最小数の塩基又はエレメントを保持するものも使用され得る。
【0054】
いくつかの実施形態では、プロモーターは、構成的に活性なプロモーター(すなわち任意の細胞型において且つ/又は任意の条件下で構成的に発現を駆動するプロモーター)であり得る。他の実施形態では、プロモーターは、特定の組織に関連して、例えばニューロン、心臓細胞などにおいて構成的に活性なプロモーターであり得る。他の実施形態では、プロモーターは、誘導性プロモーター(すなわちその活性が外部刺激、例えば特定の温度、化合物又はタンパク質の存在によって制御されるプロモーター)であり得る。いくつかの実施形態では、プロモーターは、プロモーターが見出される物理的状況に応じて、活性を駆動する又はしないことができる、空間的に制限されたプロモーターであり得る。空間的に制限されたプロモーターの非限定的な例には、組織特異的プロモーター、細胞型特異的プロモーターなどが含まれる。いくつかの実施形態では、プロモーターは、プロモーターが見出される時間的状況に応じて発現を駆動する、時間的に制限されたプロモーターであり得る。例えば、時間的に制限されたプロモーターは、胚発生の特定の段階又は生物学的プロセスの特定の段階でのみ発現を駆動し得る。時間的に制限されたプロモーターの非限定的な例には、マウスの毛包サイクルプロモーターが含まれる。
【0055】
いくつかの実施形態では、プロモーターは、多細胞生物において、プロモーターが特定の細胞のサブセットにおいてのみ発現を駆動するように、組織特異的である。例えば、組織特異的プロモーターには、ニューロン特異的プロモーター、脂肪細胞特異的プロモーター、心筋細胞特異的プロモーター、平滑筋特異的プロモーター、光受容体特異的プロモーターなどが含まれるが、これらに限定されない。ニューロン特異的プロモーターは、例えば、末梢で、中枢神経系(CNS)に直接投与される場合又はインビトロ、エクスビボ若しくはインビボを含み神経細胞に送達される場合、非神経細胞での発現と比較して、ニューロンにおいて作動可能に連結された異種核酸、例えば目的のタンパク質又はペプチド又はshRNAをコードするものの発現を優先的に駆動又は調節するプロモーターを指す。本明細書で使用される場合、「処置する」、「処置」及び「処置すること」という用語は、発作障害の進行、重症度及び/若しくは持続期間の部分的若しくは完全な低減若しくは回復又は1つ以上の療法の施行の結果として生じる発作障害の1つ以上の症状(好ましくは1つ以上の見分け可能な症状)の回復を指す。
【0056】
本明細書で互換可能に使用される「DNA調節配列」、「制御エレメント」及び「調節エレメント」という用語は、非コード配列(例えば、短いヘアピンRNA)又はコード配列(例えば、PGRN)の転写を提供及び/又は調節し、且つ/又はコードされたポリペプチドの翻訳を調節する、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーター、タンパク質分解シグナルなどの転写及び翻訳制御配列を指す。
【0057】
具体的な実施形態では、「処置する」、「処置」及び「処置すること」という用語は、発作障害の少なくとも1つの測定可能な物理的パラメーター及び患者により必ずしも見分け可能とは限らないパラメーターの回復を指す。他の実施形態では、「処置する」、「処置」及び「処置すること」という用語は、発作障害の進行の阻害、例えば生理学的に、物理的パラメーターの安定化などにより又は両方により見分け可能な症状の安定化を指す。
【0058】
本明細書で用いられる「治療」は、処置を意味する。治療効果は、疾患状態又は症状の部分的又は完全な低減、抑制、寛解又は根絶により得られる。
【0059】
「トランスフェクト」又は「形質転換」又は「形質導入」という用語は、外因性核酸が宿主細胞に移入又は導入されるプロセスを指す。「トランスフェクト」又は「形質転換」又は「形質導入」細胞は、外因性核酸でトランスフェクト、形質転換又は形質導入されたものである。細胞は、初代対象細胞及びその子孫を含む。
【0060】
「特異的に結合する」という用語は、サンプル中に存在する他の分子よりも優先的に結合パートナー(例えば、タンパク質又は核酸)を認識してそれに結合する分子を指す。
【0061】
範囲:本開示全体を通して、様々な態様は、範囲フォーマットで提示可能である。範囲フォーマットでの記載は、単に便宜上及び簡潔さを期したものにすぎないことが理解されるべきであり、本開示の範囲に対するインフレキシブルな限定として解釈されるべきではない。そのため、範囲の記載は、その範囲内の可能なサブ範囲及び個別数値を全て具体的に開示したものとみなされるべきである。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などのサブ範囲並びにその範囲内の個別数、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3及び6を具体的に開示したものとみなされるべきである。別の例として、95~99%の同一性などの範囲は、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有するものを含むと共に、96~99%、96~98%、96~97%、97~99%、97~98%及び98~99%の同一性などのサブ範囲を含む。このことは、範囲の幅にかかわらず当てはまる。全ての具体的に示された範囲は、特に明記されない限り、端点も含む。
【0062】
「遺伝子編集系」又は「ゲノム編集系」という用語は、少なくともヌクレアーゼ(又はヌクレアーゼドメイン)並びにヌクレアーゼ(又はヌクレアーゼドメイン)により標的配列で核酸の改変(例えば、一本鎖切断又は二本鎖切断)を指令及び実施するのに必要且つ十分なプログラマブルヌクレオチド結合ドメインを含む1つ以上の分子の系を指す。実施形態では、遺伝子編集系はCRISPR系である。実施形態では、遺伝子編集系はジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)系である。実施形態では、遺伝子編集系はTALEN系である。実施形態では、遺伝子編集系はメガヌクレアーゼ系である。実施形態では、遺伝子編集系は、第1の標的、すなわちSCN1Aの発現を改変する。実施形態では、遺伝子編集系は、本明細書に記載のテンプレート核酸をさらに含む。実施形態では、遺伝子編集系の1つ以上の成分は、前記1つ又は複数の成分をコードする核酸として細胞に導入され得る。理論に拘束されるものではないが、前記1つ又は複数の成分が発現されると、例えば細胞に遺伝子編集系が構成される。
【0063】
「配列特異的転写調節系」という用語は、少なくともDNA配列に特異的に結合する成分及び転写を調節する、例えば増加又は減少させる能力のある成分を含む1つ以上の分子の系を指す。例示的な系では、配列特異的転写調節系はゲノム編集系に由来し、例えばゲノム編集系の1つ以上の活性、例えば1つ以上のヌクレアーゼ活性は変更(例えば、消失)される。例示的な配列特異的転写調節系では、DNA配列に特異的に結合する成分はジンクフィンガー分子である。例示的な配列特異的転写調節系では、DNA配列に特異的に結合する成分はTALEN分子である。例示的な配列特異的転写調節系では、DNA配列に特異的に結合する成分はメガヌクレアーゼである。しかしながら、配列特異的分子の標的配列に結合するように操作可能ないずれの分子も、DNA配列に特異的に結合する成分として有用であることは、わかるであろう。
【0064】
「CRISPR系」、「Cas系」又は「CRISPR/Cas系」という用語は、RNA誘導ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子(又はそのような分子に由来する分子)及びガイドRNA分子を含み、一緒になってRNA誘導ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子による標的配列での核酸の改変を指令及び実施するのに必要且つ十分である分子セットを指す。一実施形態では、CRISPR系は、ガイドRNA分子及びCasタンパク質、例えばCas9タンパク質を含む。Cas9又は改変Cas9分子を含むそのような系は、本明細書では「Cas9系」又は「CRISPR/Cas9系」と呼ばれる。一例では、ガイドRNA分子及びCas分子は、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成するように複合体化され得る。いくつかの例では、エフェクター分子は、野生型分子の1つ以上の活性、例えば1つ以上のヌクレアーゼ活性などを変更するように改変され得る。
【0065】
「ガイドRNA」、「ガイドRNA分子」、「gRNA分子」又は「gRNA」という用語は、互換可能に使用され、標的配列へのRNA誘導ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子の特異的方向付けを(典型的にはgRNA分子との複合体で)促進する核酸分子セットを指す。以下でより十分に説明されるように、gRNA分子はいくつかのドメインを有し得る。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、標的化ドメインを含むと共に、Cas9などのCas分子又はCpf1などの別のRNA誘導エンドヌクレアーゼと相互作用する。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、crRNAドメイン(標的化ドメインを含む)及びtracr、例えばCas9などのCas分子と相互作用するためのものを含む。いくつかの実施形態では、ヌクレアーゼ結合の指令は、DNAへのgRNAの一部分のハイブリダイゼーションを介して(例えば、gRNA標的化ドメインを介して)及びRNA誘導ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子へのgRNAの一部分の結合により(例えば、少なくともgRNA tracrを介して)達成される。実施形態では、crRNA及びtracrは、本明細書では「シングルガイドRNA」、「sgRNA」又は「単一分子DNA標的化RNA」などと呼ばれる単一連続ポリヌクレオチド分子上に提供される。他の実施形態では、crRNA及びtracrは、通常はハイブリダイゼーションを介してそれ自体で会合する能力のある、本明細書では「デュアルガイドRNA」、「dgRNA」、「ダブル分子DNA標的化RNA」などと呼ばれる別々のポリヌクレオチド分子上に提供される。dgRNAのいくつかの実施形態では、crRNA及びtracrは、非ヌクレオチド化学リンカーにより連結される。
【0066】
gRNAと関連して本明細書で用いられる「標的化ドメイン」という用語は、標的配列、例えば細胞の核酸内の標的配列を認識する、例えばそれに相補的であるgRNA分子の部分である。
【0067】
gRNA分子と関連して本明細書で用いられる「crRNA」という用語は、標的化ドメインを含むgRNAの一部分である。実施形態では、crRNAは、tracrと相互作用してフラグポール領域を形成する領域を含む。いくつかの実施形態では、crRNAは、tracrRNAなしでCasタンパク質(例えば、Cpf1)などのRNA誘導エンドヌクレアーゼと直接相互作用可能である。
【0068】
「標的配列」という用語は、gRNA標的化ドメインに相補的な、例えば完全に相補的な核酸配列を指し、且つ配列特異的転写調節系のDNA結合成分により認識(例えば、結合)される核酸配列、例えばジンクフィンガーモチーフにより認識される配列又はTALEN若しくはホーミングエンドヌクレアーゼにより認識される配列も指す。実施形態では、標的配列はゲノムDNA上に配設される。一実施形態では、特にRNA誘導エンドヌクレアーゼ系を含む実施形態では、標的配列は、ヌクレアーゼ活性又は他のエフェクター活性を有するタンパク質により認識されるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列(DNAの同一鎖上又は相補鎖上のいずれか)、例えばCas9により認識されるPAM配列に隣接する。PAMの配列及び長さは、使用されるCas9タンパク質に依存し得る。PAM配列の非限定的な例には、5’-NGG-3、5’-NGGNG-3’、5’-NG-3’、5’-NAAAAN-3’、5’-NNAAAAW-3’、5’-NNNNACA-3’、5’-GNNNCNNA-3’、5’-NNGRRT-3’、5’-NNGRRN-3’及び5’-NNNNGATT-3’(式中、Nはいずれかのヌクレオチドを表し、RはA又はGを表し、且つWはA又はTを表す)が含まれる。
【0069】
実施形態では、標的配列は、SCN1Aのエクソン配列内にある。他の実施形態では、標的配列は、SCN1Aのイントロン配列内にある。さらに他の実施形態では、標的配列は、SCN1A遺伝子に隣接する核酸領域にある。そのほかのさらなる実施形態では、標的配列は、SCN1Aのイントロン配列、SCN1Aのエクソン配列及びSCN1Aに隣接する核酸領域の1つ以上にオーバーラップする。
【0070】
gRNA分子と関連して本明細書で用いられる「フラグポール」という用語は、crRNA及びtracrが互いに結合又はハイブリダイズするgRNAの部分を指す。
【0071】
gRNA分子と関連して本明細書で用いられる「tracr」又は「tracrRNA」という用語は、ヌクレアーゼ分子又は他のエフェクター分子に結合するgRNAの部分を指す。実施形態では、tracrは、Cas9に特異的に結合する核酸配列を含む。実施形態では、tracrは、フラグポールの一部を形成する核酸配列を含む。
【0072】
「Cas」という用語は、ガイドRNA分子と一緒になって標的配列での核酸の改変を指令及び実施するのに必要且つ十分なCRISPR系のRNA誘導ヌクレアーゼを指す。非限定的な一例は、II型CRISPR系からのCas分子、例えばCas9分子である。他の非限定的な一例は、V型CRISPR系からのCas分子、例えばCpf1分子である。
【0073】
「Cas9」及び「Cas9分子」という用語は、DNA切断に関与する細菌II型CRISPR/Cas系からの酵素を指す。実施形態では、Cas9は、野生型タンパク質、変異体タンパク質(非触媒タンパク質を含む)及びそれらの機能的フラグメントも含む。Cas9配列の非限定的な例は、当技術分野で公知であり、本明細書に提供される。いくつかの実施形態では、Cas9は、いずれかのCas9配列、例えば当技術分野で公知の若しくは本明細書に開示される野生型、変異体、非触媒若しくは機能的フラグメントに対して少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の相同性を含むか;いずれかのCas9配列と比較したときにアミノ酸残基の1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%若しくは40%以下が異なるか;いずれかのCas9配列に対して少なくとも1、2、5、10若しくは20アミノ酸が異なるが、100、80、70、60、50、40若しくは30アミノ酸を超えないか;又はいずれかのCas9配列と同一である、Cas9配列を指す。好ましい一実施形態では、Cas9分子は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)から得られる。別の実施形態では、Cas9分子は、検出可能なヌクレアーゼ活性を有しない変異体タンパク質である。さらに別の実施形態では、Cas9分子は、転写アクチベーターに融合された変異体タンパク質である。
【0074】
「Cpf1」及び「Cpf1分子」という用語は、DNA切断に関与する細菌V型CRISPR/Cas系からの酵素を指す。実施形態では、Cpf1は、野生型タンパク質、変異体タンパク質(非触媒タンパク質を含む)及びそれらの機能的フラグメントも含む。Cpf1配列の非限定的な例は、当技術分野で公知である。いくつかの実施形態では、Cpf1は、いずれかのCpf1配列、例えば当技術分野で公知の野生型、変異体、非触媒若しくはそれらの機能的フラグメントに対して少なくとも約60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の相同性を含むか;いずれかのCpf1と比較したときにアミノ酸残基の1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%若しくは40%以下が異なるか;いずれかのCpf1に対して少なくとも1、2、5、10若しくは20アミノ酸が異なるが、100、80、70、60、50、40若しくは30アミノ酸を超えないか;又はいずれかのCpf1配列と同一である、Cpf1配列を指す。他のCasタンパク質(例えば、Cas9)と異なり、Cpf1は、活性に関してtracrRNAを必要とせず、crRNAポリヌクレオチドのみでゲノム標的配列に結合してそれを切断することが可能である。したがって、標的配列を編集するためにCpf1を利用するいくつかの実施形態では、gRNAはtracrRNA部分を欠如し得る。核酸と関連して使用される「相補的」という用語は、塩基の対合、AとT又はU及びGとCを指す。相補的という用語は完全に相補的である、すなわち全参照配列にわたりA:T又はU対及びG:C対を形成する核酸分子並びに少なくとも約80%、85%、90%、95%又は99%相補的な分子も指し得る。
【0075】
「遺伝子」又は「遺伝子配列」という用語は、遺伝的配列、例えば核酸配列を指すものとみなされる。「遺伝子」という用語は、完全遺伝子配列又は部分遺伝子配列を包含することが意図される。「遺伝子」という用語は、タンパク質若しくはポリペプチドコードする配列又はタンパク質若しくはポリペプチドをコードしない配列、例えば調節配列、リーダー配列、シグナル配列、イントロン又は他の非タンパク質コーディング配列を指す。
【0076】
「イントロン」という用語は、前記遺伝子から発現されるタンパク質に対して非コーディングの遺伝子内核酸配列を指す。イントロン配列は、DNAからRNAに転写され得るが、タンパク質が発現される前に除去され得る。
【0077】
「エクソン」という用語は、前記遺伝子から発現されるタンパク質をコードする遺伝子内核酸配列を指す。
【0078】
遺伝子編集系又は配列特異的転写調節系又はgRNA分子と関連して使用されるときの「イントロン-エクソン接合部」という用語は、エクソンのヌクレオチド及びイントロンのヌクレオチドを含む配列を指す。例示的な実施形態では、イントロン-エクソン接合部はgRNAの標的配列であり、イントロン-エクソン接合部標的配列に相補的な標的化ドメインを含むgRNAを含むCRISPR系により認識されたとき、前記CRISPR系は、イントロンの2つのヌクレオチド間の標的配列又はその近くを改変する。他の例示的実施形態では、イントロン-エクソン接合部はgRNAの標的配列であり、イントロン-エクソン接合部標的配列に相補的な標的化ドメインを含むgRNAを含むCRISPR系により認識されたとき、前記CRISPR系は、エクソンの2つのヌクレオチド間の標的配列又はその近くを改変する。他の例示的実施形態では、イントロン-エクソン接合部はgRNAの標的配列であり、イントロン-エクソン接合部標的配列に相補的な標的化ドメインを含むgRNAを含むCRISPR系により認識されたとき、前記CRISPR系は、エクソンのヌクレオチド及びイントロンのヌクレオチド間の標的配列又はその近くを改変する。
【0079】
「AAV」という用語は、アデノ随伴ウイルスに対する略号であり、ウイルス自体又はその誘導体を意味するように使用され得る。この用語は、全ての血清型、サブタイプ、天然に存在する形態及び組換え形態の両方を包含するが、他に要求される場合を除く。「rAAV」という略号は、組換えAAVベクター(又は「rAAVベクター」)とも呼ばれる組換えアデノ随伴ウイルスを指す。「AAV」という用語は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、rhlO及びそれらのハイブリッド、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長動物AAV、非霊長動物AAV並びにヒツジAAVを含む。AAVの様々な血清型のゲノム配列並びにネイティブ末端反復(TR)、Repタンパク質及びキャプシドサブユニットの配列は、当技術分野で公知である。そのような配列は、文献又はGenBankなどのパブリックデータベースに見出され得る。本明細書で用いられる「rAAVベクター」は、AAV起源でないポリヌクレオチド配列(すなわちAAVに対して異種のポリヌクレオチド)、典型的には細胞の遺伝的形質転換の目的の配列を含むAAVベクターを指す。一般的には、異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1つ、一般に2つのAAV逆位末端反復配列(ITR)により隣接される。rAAVベクターは、一本鎖(ssAAV)又は自己相補的(scAAV)のいずれかであり得る。「AAVウイルス」又は「AAVウイルス粒子」は、少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質及びキャプシド被包ポリヌクレオチドrAAVベクターで構成されるウイルス粒子を指す。粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子などの野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、それは、典型的には、「rAAVベクター粒子」又は単に「rAAV粒子」と呼ばれる。そのため、そのようなベクターがrAAV粒子内に含有されるため、rAAV粒子の産生は、必然的にrAAVベクターの産生を含む。
【0080】
本明細書で使用される場合、「処置する」、「処置」、「療法」などという用語は、疾患若しくは障害の進行の緩和、遅延若しくは緩徐化、疾患若しくは障害の予防、減衰、疾患若しくは障害の影響若しくは症状の低減、疾患若しくは障害の発症の防止、疾患若しくは障害の阻害又は疾患若しくは障害の発症の回復を指す。本開示の方法は、いずれかの哺乳動物で使用され得る。例示的な哺乳動物には、ラット、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ及びより好ましくはヒトが含まれるが、これらに限定されない。治療利益には、処置される基礎障害の根絶又は回復が含まれる。治療利益は、基礎障害に関連する生理学的症状の1つ以上の根絶又は回復の結果として、対象が依然として基礎障害を患っているおそれがあっても対象で改善が観測されることによっても達成される。いくつかの場合、疾患の診断が行われていないおそれがあっても、予防利益のために、治療剤は、特定の疾患を発症するリスクのある対象又は疾患の生理学的症状の1つ以上を報告する対象に投与され得る。本開示の方法は、いずれかの哺乳動物で使用され得る。いくつかの場合、処置は、症状の減少又は停止(例えば、発作の頻度、持続期間及び/又は重症度の低減)をもたらし得る。予防効果には、疾患若しくは病態の出現の遅延若しくは排除、疾患若しくは病態の症状の発症の遅延若しくは排除、疾患若しくは病態の進行の緩徐化、停止若しくは逆転又はそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0081】
ヌクレオチド配列又はペプチド配列の「フラグメント」は、参照配列又は「全長」配列よりも短い配列を意味する。
【0082】
分子の「変異体」は、そのような配列のアレル変異、すなわち全分子又はそのフラグメントのいずれかに対して構造及び生物学的活性が実質的に類似した配列を指す。
【0083】
DNA又はタンパク質配列の「機能的フラグメント」は、全長DNA又はタンパク質配列の生物学的活性に実質的に類似した生物学的活性(機能又は構造のいずれか)を保持するフラグメントを指す。DNA配列の生物学的活性は、全長配列に帰属される既知の方式で発現に影響を及ぼすその能力であり得る。
【0084】
「インビボ」という用語は、対象の身体内で起こるイベントを指す。
【0085】
「インビトロ」という用語は、対象の身体外で起こるイベントを指す。例えば、インビトロアッセイは、対象外で行われるいずれかのアッセイを包含する。インビトロアッセイは、生細胞又は死細胞が採用される細胞ベースアッセイを包含する。インビトロアッセイは、インタクト細胞が採用されない細胞フリーアッセイを包含する。
【0086】
一般的には、互換可能に使用可能な「配列同一性」又は「配列相同性」は、2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列のそれぞれの厳密ヌクレオチド対ヌクレオチド又はアミノ酸対アミノ酸対応を指す。典型的には、配列同一性を決定するための技術は、2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列を比較してそれらのパーセント同一性決定することを含む。同一性を評価する目的などでの配列比較は、限定されるものではないが、ニードルマン・ブンシュアルゴリズム(例えば、任意選択によりデフォルト設定を用いてwww.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/で利用可能なEMBOSS Needleアライナーを参照されたい)、BLASTアルゴリズム(例えば、任意選択によりデフォルト設定を用いてblast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiで利用可能なBLASTアライメントツールを参照されたい)及びスミス・ウォーターマンアルゴリズム(例えば、任意選択によりデフォルト設定を用いてwww.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_water/で利用可能なEMBOSS Waterアライナーを参照されたい)をはじめとする任意の適切なアライメントアルゴリズムにより実施され得る。最適アライメントは、デフォルトパラメーターを含めて、選ばれたアルゴリズムの任意の適切なパラメーターを用いて評価され得る。2つの配列間の「パーセント相同性」とも呼ばれる「パーセント同一性」は、2つの最適にアラインされた配列間の厳密適合の数を参照配列の長さで除算し100を乗算して計算され得る。パーセント同一性は、例えば、国立衛生研究所(National Institutes of Health)から入手可能なバージョン2.2.9を含む最新BLASTコンピュータープログラムを用いて配列情報を比較することによっても決定され得る。BLASTプログラムは、Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad Sci.USA 87:2264-2268(1990)のアライメント方法に基づき、Altschul,et ah,J.Mol.Biol.215:403-410(1990);Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-5877(1993);及びAltschul et ah,Nucleic Acids Res.25:3389-3402(1997)で考察される通りである。簡潔に述べると、BLASTプログラムは、同一アライン記号(すなわちヌクレオチド又はアミノ酸)の数を2つの配列の短い方の記号の合計数で除算して同一性を定義する。プログラムは、比較される配列の全長にわたりパーセント同一性を決定するために使用され得る。デフォルトパラメーターは、例えばblastpプログラムを用いて、ショートクエリー配列での検索を最適化するために提供される。プログラムは、Wootton and Federhen,Computers and Chemistry 17:149-163(1993)のSEGプログラムにより決定されるクエリー配列のセグメントをマスキングして除外するためにSEGフィルターの使用も許容する。高い配列同一性は、一般におよそ80%~100%の配列同一性の範囲及びそれらの間に整数値を含む。[0103]本明細書で使用される場合、タンパク質に関連する「操作」は、限定されるものではないが、天然に存在するタンパク質に由来するタンパク質又は特定の性質を有するように天然に存在するタンパク質が改変若しくは再プログラムされたものを含めて天然に存在しないタンパク質を意味する。
【0087】
本明細書で使用される場合、「合成」及び」人工」は、天然に存在するヒトタンパク質に対して低い配列同一性(例えば、50%未満の配列同一性)を有するタンパク質又はそのドメインを意味するように互換可能に使用される。
【0088】
本明細書で使用される場合、「転写因子」又は「TF」は、特異的標的結合部位に結合するように及び/又は改変若しくは置換え転写エフェクタードメインを含むように改変又は再プログラムされたDNA結合タンパク質又は天然に存在しない転写調節剤と呼ばれる。
【0089】
本明細書で使用される場合、「DNA結合ドメイン」は、DNA結合タンパク質の一部として個別に又は総称して、Cas分子、転写アクチベーター様(TAL)エフェクター、ジンクフィンガータンパク質、塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)モチーフなどの1つ以上のDNA結合モチーフを指すために使用可能である。
【0090】
「転写活性化ドメイン」、「転写性活性化ドメイン」、「トランス活性化ドメイン」、「トランス活性化性ドメイン」及び「TAD」という用語は、本明細書では互換可能に使用され、DNA結合ドメインと連携して、直接又はコアクチベーターとして知られる他のタンパク質を介してのいずれかで転写性機構(例えば、一般的転写因子及び/又はRNAポリメラーゼ)に接触させることによりプロモーターからの転写を活性化可能なタンパク質のドメインを指す。「Qに富むTAD」は、富グルタミントランス活性化ドメインを意味する。「Pに富むTAD」は、富プロリントランス活性化ドメインを意味する。「酸性TAD」は、酸性アミノ酸に富んだトランス活性化ドメインを意味する。
【0091】
転写因子
転写因子(TF)は、ゲノムの特異的配列に結合して遺伝子の発現を制御するタンパク質である。本開示は、DNA結合ドメイン(DBD)及び少なくとも3つの転写性活性化ドメイン(TAD)を含む新規操作転写因子を提供する。いくつかの実施形態では、TADは同一であり得る。いくつかの実施形態では、TADは異なり得る。
【0092】
様々なタンパク質内に見出される転写性活性化ドメインは、類似の構造上の特徴に基づいてカテゴリーに分類されてきた。本出願で使用可能な転写活性化ドメインのタイプには、酸性転写活性化ドメイン、富プロリン(富P)転写活性化ドメイン及び富グルタミン(富Q)転写活性化ドメイン並びに/又はそれらのフラグメントが含まれる。酸性転写性活性化ドメインの例には、VP16、VP64、VP7、ATF6、TFE3、ATF6-11又はそれらのフラグメントが含まれる。富プロリン活性化ドメインの例には、TFAP2-P、Oct2-P又はそれらのフラグメントが含まれる。富グルタミン活性化ドメインの例には、アミノ酸残基Oct2-Q、SP1-Q1又はそれらのフラグメントが含まれる。以上に記載の領域の各々のアミノ酸配列は、本出願の表1に開示される。
【0093】
特定の実施形態では、TADは、i)少なくとも1つの酸性TAD及び少なくとも1つのQに富むTAD、又はii)少なくとも1つの酸性TAD及び少なくとも1つのPに富むTADを含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、酸性TADは、VP16、VP64、VP7、ATF6、TFE3、ATF6-11又はそれらのフラグメントから選択されるTADの1つ以上のコピーを含む。いくつかの実施形態では、Qに富むTADは、Oct2-Q、SP1-Q1又はそれらのフラグメントから選択されるTADの1つ以上のコピーを含む。いくつかの実施形態では、Pに富むTADは、TFAP2-P、Oct2-P又はそれらのフラグメントから選択されるTADの1つ以上のコピーを含む。
【0095】
いくつかの実施形態では、TADは、全長VP64、VP16の1つ又は複数のリピート、全長又は部分p65、全長RTA、全長VP7、全長又は部分TEF3、全長又は部分ATF6-11、全長又は部分ATF6酸性、全長又は部分SP1富Q、全長又は部分Oct2富Q、全長又は部分Oct2富P、全長又は部分TFAP2富P、VP64の活性フラグメント、p65の転写活性フラグメント、RTAの転写活性フラグメント、VP7の活性フラグメント、TEF3の活性フラグメント、ATF6-11の活性フラグメント、ATF6酸性の活性フラグメント、SP1富Qの活性フラグメント、Oct2富Qの活性フラグメント、Oct2富Pの活性フラグメント、TFAP2富Pの活性フラグメント及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0096】
いくつかの実施形態では、少なくとも3つのTADの合計長は、2000aa未満、1500aa未満、1000aa未満、750aa未満、500aa未満、300aa未満、250aa未満、200aa未満又は150aa未満である。
【0097】
いくつかの実施形態では、転写因子は、配列番号1~28の配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。特定の実施形態では、転写因子は、配列番号1~18のいずれか1つを有する配列を含む。
【0098】
いくつかの実施形態では、転写因子をコードする核酸配列は、配列番号30~47の配列又はそれに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、DNA結合ドメインは、リンカーを用いて又は用いることなく、転写因子のいずれか1つの転写因子に連結される。特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、転写因子のN末端に直接又はリンカーを介して連結される。特定の実施形態では、DNA結合ドメインは、転写因子のC末端に直接又はリンカーを介して連結される。
【0100】
いくつかの実施形態では、リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、50、60、70、75、80、90若しくは100アミノ酸又は1~5、1~10、1~20、1~30、1~40、1~50、1~75、1~100、5~10、5~20、5~30、5~40、5~50、5~75、5~100、10-20、10~30、10~40、10~50、10~75、10~100、20~30、20~40、20~50、20~75若しくは20~100アミノ酸を有する。
【0101】
適切なリンカーは、フレキシブル、切断、非切断、親水性及び/又は疎水性であり得る。特定の実施形態では、リンカーは、複数のグリシン及び/又はセリン残基を含む。グリシン/セリンペプチドリンカーの例としては、[GS]n、[GGGS]n(配列番号74)、[GGGGS]n(配列番号75)、[GGSG]n(配列番号76)(式中、nは、1以上の整数である)が挙げられる。特定の実施形態では、リンカーは、GGSGGGSG(配列番号59)又はGGSGGGSGGGSGGGSG(配列番号60)を含むか又はそれからなる。
【0102】
以下の表1は、転写活性化ドメインの配列を提供する。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【0107】
【表5】
【0108】
【表6】
【0109】
【表7】
【0110】
【表8】
【0111】
【表9】
【0112】
【表10】
【0113】
【表11】
【0114】
【表12】
【0115】
【表13】
【0116】
【表14】
【0117】
【表15】
【0118】
【表16】
【0119】
【表17】
【0120】
【表18】
【0121】
【表19】
【0122】
DNA結合ドメイン(DBD)
本明細書に提供される転写因子は、目的の標的部位(例えば、本明細書に提供される転写因子が結合したときに標的遺伝子のアップレギュレーションをもたらす標的部位)に結合する任意の適切なDBDを含む。
【0123】
TALEN
いくつかの実施形態では、DBDはTALENであり得る。TALENは、TALエフェクターDNA結合ドメインをDNA切断ドメインに融合させることにより人工的に産生される。転写アクチベーター様効果(TALE)は、いずれかの所望のDNA配列に結合するように操作可能である。次いで、これらを細胞に導入可能であり、そこでそれらをゲノム編集に使用可能である。Boch,Nature Biotech.29:135-6(2011);及びBoch et al.Science 326:1509-12(2009);Moscou et al.Science 326:3501(2009)。
【0124】
TALEは、キサントモナス属(Xanthomonas)細菌により分泌されるタンパク質である。DNA結合ドメインは、繰返し高度保存33~34アミノ酸配列を含有するが、12番目及び13番目のアミノ酸は例外である。これらの2つの位置は高度に可変であり、特異的ヌクレオチド認識との強い相関を示す。そのため、それらは所望のDNA配列に結合するように操作可能である。
【0125】
本明細書に記載の配列に特異的なTALEは、モジュラー成分を用いた様々なスキームを含めて、当技術分野で公知のいずれかの方法を用いて構築可能である。Zhang et al.Nature Biotech.29:149-53(2011);Geibler et al.PLoS ONE 6:e19509(2011);米国特許第8,420,782号明細書;米国特許第8,470,973号明細書(それらの内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0126】
CRISPR遺伝子編集系
いくつかの実施形態では、DBDはgRNA/Cas複合体であり得る。
【0127】
以下でより十分に記載されるように、gRNA分子はいくつかのドメインを有し得る。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、標的化ドメインを含むと共にCas9などのCas分子と相互作用する。いくつかの実施形態では、gRNA分子は、crRNAドメイン(標的化ドメインを含む)及びtracrを含む。実施形態では、crRNA及びtracrは、単一連続ポリヌクレオチド分子上に提供される。他の実施形態では、crRNA及びtracrは、非共有結合ハイブリダイゼーションなどを介してそれ自体で会合する能力のある別々のポリヌクレオチド分子上に提供される。CRISPR系の成分として使用されるgRNA分子は、標的部位又はその近くのDNAを改変する(例えば、配列を改変する)のに有用である。そのような改変は、例えば、標的部位を含む遺伝子の機能性産物の発現の低減又は排除をもたらす挿入及び又は欠失を含む。そのような改変は、例えば、Cas9分子がヌクレアーゼ活性を欠如するが1つ以上の転写因子に融合された場合、標的部位を含む遺伝子の機能性産物の発現のアップレギュレーションも含み得る。いくつかの実施形態では、標的部位を含む遺伝子の機能性産物の発現をアップレギュレーションするために、別々のgRNA分子及びCRISPR系が使用される。これらの使用などは、以下でより十分に記載される。
【0128】
一実施形態では、単分子状又はsgRNAは、好ましくは5’→3’方向に:crRNA(標的配列に相補的な標的化ドメイン及びフラグポールの一部を形成する領域(すなわちcrRNAフラグポール領域)を含む);任意選択によりループ;及びtracr(crRNAフラグポール領域に相補的なドメイン及びヌクレアーゼ分子又は他のエフェクター分子、例えばCas9分子などのCas分子に追加的に結合するドメインを含む)を含み、以下のフォーマット(5’→3’方向に):
[標的化ドメイン]-[crRNAフラグポール領域]-[任意の第1のフラグポール延長]-[任意のループ]-[任意の第1のtracr延長]-[tracrフラグポール領域]-[tracrヌクレアーゼ結合ドメイン]
をとり得る。実施形態では、tracrヌクレアーゼ結合ドメインは、Cas9タンパク質などのCasタンパク質に結合する。
【0129】
一実施形態では、二分子状又はdgRNAは、2つのポリヌクレオチド;第1に好ましくは5’→3’方向に:crRNA(標的配列に相補的な標的化ドメイン及びフラグポールの一部を形成する領域を含有する);及び第2に好ましくは5’→3’方向に:tracr(crRNAフラグポール領域に相補的なドメイン及びヌクレアーゼ分子又は他のエフェクター分子、例えばCas9分子などのCas分子に追加的に結合するドメインを含有する)を含み、以下のフォーマット(5’→3’方向に):
ポリヌクレオチド1(crRNA):[標的化ドメイン]-[crRNAフラグポール領域]-[任意の第1のフラグポール延長]-[任意の第2のフラグポール延長]
ポリヌクレオチド2(tracr):[任意の第1のtracr延長]-[tracrフラグポール領域]-[tracrヌクレアーゼ結合ドメイン]
をとり得る。
【0130】
実施形態では、dgRNAは、例えば、He et al.,ChemBioChem 17:1809-1812(2016)に記載のように、非ヌクレオチドリンカーにより共有結合で連結された2つのポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、化学反応は、例えば、銅(I)触媒アルキン-アジド環化付加(CuAAC)反応を用いて(He et al.,ChemBioChem 17:1809-1812(2016)を参照されたい)又は歪み促進アジド-アルキン環化付加(SPAAC)を介して(米国特許出願公開第2016/0215275A1号明細書を参照されたい)(いずれもその全体が参照により本明細書に組み込まれる)、2つのポリヌクレオチドを連結するために使用される。別の実施形態では、2つのポリヌクレオチドは、例えば、チオール及びマレイミド官能基間の反応により又は他の官能基間の反応により(例えば、米国特許出願公開第2016/0215275A1号明細書を参照されたい)発生可能なチオ-エーテルリンカーを介して共有結合で連結される。さらに他の実施形態では、非ヌクレオチドリンカーは、カルバメート、エーテル、エステル、アミド、イミン、アミジン、アミノトリジン、ヒドロゾン、ジスルフィド、チオエステル、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、スルホンアミド、スルホネート、スルホン、スルホキシド、ウレア、チオウレア、ヒドラジド、オキシム、光不安定性連結或いはC-C結合形成基、例えばディールズ・アルダー環化付加対及び/若しくは閉環メタセシス対並びに/又はマイケル反応対(国際公開第2016/18745A1号パンフレット(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい)を含むことが可能である。
【0131】
いくつかの態様では、フラグポール、例えばcrRNAフラグポール領域は、5’→3’方向に:AGUACUCUGを含む。
【0132】
いくつかの態様では、ループは、5’→3’方向に:GAAAを含む。
【0133】
いくつかの態様では、tracrは、5’→3’方向に:AGUACUCUGGAAACAGAAUCUACUCUAACAAGGCAAAAUGCCGUGUUUAUCUCGUCAACUUGUUGGCGAGAUUUUU(配列番号79)を含む。
【0134】
いくつかの態様では、gRNAは、3’末端に追加のU核酸も含み得る。例えば、gRNAは、3’末端に追加の1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10U核酸を含み得る。一実施形態では、gRNAは、3’末端に追加の4~5U核酸を含む。dgRNAの場合、dgRNAのポリヌクレオチドの1つ以上(例えば、標的化ドメインを含むポリヌクレオチド及びtracrを含むポリヌクレオチド)は、3’末端に追加のU核酸を含み得る。例えば、dgRNAの場合、dgRNAのポリヌクレオチドの1つ以上(例えば、標的化ドメインを含むポリヌクレオチド及びtracrを含むポリヌクレオチド)は、3’末端に追加の1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10U核酸を含み得る。一実施形態では、dgRNAの場合、dgRNAのポリヌクレオチドの1つ以上(例えば、標的化ドメインを含むポリヌクレオチド及びtracrを含むポリヌクレオチド)は、3’末端に追加の4~5U核酸を含む。dgRNAの一実施形態では、tracrを含むポリヌクレオチドのみが追加のU核酸、例えば4~5U核酸を含む。dgRNAの一実施形態では、標的化ドメインを含むポリヌクレオチドのみが追加のU核酸を含む。dgRNAの一実施形態では、標的化ドメインを含むポリヌクレオチド及びtracrを含むポリヌクレオチドは、両方とも追加のU核酸、例えば4~5U核酸を含む。
【0135】
いくつかの態様では、gRNAは、3’末端に追加のA核酸も含み得る。例えば、gRNAは、3’末端に追加の1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10A核酸を含み得る。一実施形態では、gRNAは、3’末端に追加の4A核酸を含む。dgRNAの場合、dgRNAのポリヌクレオチドの1つ以上(例えば、標的化ドメインを含むポリヌクレオチド及びtracrを含むポリヌクレオチド)は、3’末端に追加のA核酸を含み得る。例えば、dgRNAの場合、dgRNAのポリヌクレオチドの1つ以上(例えば、標的化ドメインを含むポリヌクレオチド及びtracrを含むポリヌクレオチド)は、3’末端に追加の1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10A核酸を含み得る。一実施形態では、dgRNAの場合、dgRNAのポリヌクレオチドの1つ以上(例えば、標的化ドメインを含むポリヌクレオチド及びtracrを含むポリヌクレオチド)は、3’末端に追加の4A核酸を含む。dgRNAの一実施形態では、tracrを含むポリヌクレオチドのみが追加のA核酸、例えば4A核酸を含む。dgRNAの一実施形態では、標的化ドメインを含むポリヌクレオチドのみが追加のA核酸を含む。dgRNAの一実施形態では、標的化ドメインを含むポリヌクレオチド及びtracrを含むポリヌクレオチドは、両方とも追加のU核酸、例えば4A核酸を含む。
【0136】
実施形態では、gRNA分子のポリヌクレオチドの1つ以上は、5’末端にキャップを含み得る。
【0137】
一実施形態では、単分子状又はsgRNAは、好ましくは5’→3’方向に:crRNA(標的配列に相補的な標的化ドメイン;crRNAフラグポール領域;第1のフラグポール延長);ループ;第1のtracr延長(第1のフラグポール延長の少なくとも一部分に相補的なドメインを含有する);及びtracr(crRNAフラグポール領域に相補的なドメイン及びCas9分子に追加的に結合するドメインを含有する)を含む。いくつかの態様では、標的化ドメインは、本明細書に記載の標的化ドメイン配列を含むか、又は標的化ドメイン配列の17、18、19、20(好ましくは20)連続ヌクレオチド、例えば標的化ドメイン配列の3’側の17、18、19若しくは20(好ましくは20)連続ヌクレオチドを含む若しくはそれからなる標的化ドメインを含む。実施形態では、標的化ドメイン配列の17、18、19、20(好ましくは20)連続ヌクレオチドは、標的化ドメイン配列の3’側の17、18、19、20(好ましくは20)連続ヌクレオチドである。実施形態では、標的化ドメイン配列の17、18、19、20(好ましくは20)連続ヌクレオチドは、標的化ドメイン配列の5’側の17、18、19、20(好ましくは20)連続ヌクレオチドである。
【0138】
第1のフラグポール延長及び/又は第1のtracr延長を含む態様では、フラグポール、ループ及びtracr配列は、以上に記載の通りであり得る。一般的には、いずれの第1のフラグポール延長及び第1のtracr延長も、それらが相補的である限り、採用され得る。実施形態では、第1のフラグポール延長及び第1のtracr延長は、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれを超える相補的ヌクレオチドからなる。
【0139】
いくつかの態様では、第1のフラグポール延長は、5’→3’方向に:UGCUGを含む。いくつかの態様では、第1のフラグポール延長は、配列番号80からなる。
【0140】
いくつかの態様では、第1のtracr延長は、5’→3’方向に:CAGCAを含む。いくつかの態様では、第1のtracr延長は、配列番号81からなる。
【0141】
一実施形態では、dgRNAは2つの核酸分子を含む。いくつかの態様では、dgRNAは、好ましくは5’→3’方向に:標的配列に相補的な標的化ドメイン;crRNAフラグポール領域;任意選択により第1のフラグポール延長;及び任意選択により第2のフラグポール延長を含有する第1の核酸;並びに好ましくは5’→3’方向に:任意選択により第1のtracr延長;及びtracr(crRNAフラグポール領域に相補的なドメイン及びCas9などのCas分子に追加的に結合するドメインを含有する)を含む第2の核酸(本明細書ではtracrとも呼ばれ得ると共に、少なくともCas9分子などのCas分子に結合するドメインを含む)を含む。第2の核酸は、3’末端(例えば、tracrの3’側)に追加のU核酸を追加的に含み得る。例えば、tracrは、3’末端(例えば、tracrの3’側)に追加の1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10U核酸を含み得る。第2の核酸は、追加的又は代替的に3’末端(例えば、tracrの3’側)に追加のA核酸を含み得る。例えば、tracrは、3’末端(例えば、tracrの3’側)に追加の1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10A核酸を含み得る。
【0142】
dgRNAが関与する態様では、crRNAフラグポール領域、任意の第1のフラグポール延長、任意の第1のtracr延長及びtracr配列は、以上に記載の通りであり得る。
【0143】
いくつかの態様では、任意の第2のフラグポール延長は、5’→3’方向に:UUUUGを含む。実施形態では、gRNA分子の3’側の1、2、3、4若しくは5ヌクレオチド、5’側の1、2、3、4若しくは5ヌクレオチド又は3’側及び5’側の両方の1、2、3、4若しくは5ヌクレオチド(及びdgRNA分子の場合、標的化ドメインを構成するポリヌクレオチド及び/又はtracrを構成するポリヌクレオチド)は、以下でより十分に記載されるように改変核酸である。
【0144】
ドメインについては以下で簡潔に考察される。
【0145】
標的化ドメインの選択に関するガイダンスは、例えば、Fu Y el al.NAT BIOTECHNOL (doi:10.1038/nbt.2808)(2014)and Sternberg SH el al.NATURE(doi:10.1038/naturel3011)(2014)に見出され得る。
【0146】
標的化ドメインは、標的核酸上の標的配列に対して相補的な、例えば少なくとも80、85、90、95若しくは99%相補的であるか又は例えば完全に相補的なヌクレオチド配列を含む。標的化ドメインは、RNA分子の一部であり、したがって塩基ウラシル(U)を含むであろうが、gRNA分子をコードするいずれかのDNAは、塩基チミン(T)を含むであろう。理論に拘束されることを望むものではないが、標的配列との標的化ドメインの相補性は、標的核酸とのgRNA分子/Cas9分子複合体の相互作用の特異性に寄与すると考えられる。標的化ドメイン及び標的配列対では、標的化ドメイン中のウラシル塩基は、標的配列中のアデニン塩基に対合するものと理解される。
【0147】
一実施形態では、標的化ドメインは、5~50、例えば10~40、例えば10~30、例えば15~30、例えば15~25ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24又は25ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは16ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは17ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは18ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは19ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは20ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは21ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは22ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは23ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは24ヌクレオチド長である。一実施形態では、標的化ドメインは25ヌクレオチド長である。実施形態では、前述の16、17、18、19又は20ヌクレオチドは、表2に記載の標的化ドメインからの5’側の16、17、18、19又は20ヌクレオチドを含む。実施形態では、前述の16、17、18、19又は20ヌクレオチドは、標的化ドメインからの3’側の16、17、18、19又は20ヌクレオチドを含む。実施形態では、前述の16、17、18、19又は20ヌクレオチドは、標的化ドメインからの3’側の16、17、18、19又は20ヌクレオチドからなる。
【0148】
いくつかの実施形態では、gRNA/Cas複合体中のCas分子は、クラス1Casヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cas分子は、クラス2Casヌクレアーゼである。例えば、Makarova et al.Nat Rev Microbiol,13(11):722-36(2015);Shmakov et al.Molecular Cell,60:385-397(2015)を参照されたい。クラス2Cas分子は、単一タンパク質のエンドヌクレアーゼであり得る。いくつかの実施形態では、クラス2Cas分子は、II、V又はVI型CRISPR/Cas系からのものであり、単一タンパク質エンドヌクレアーゼであり得る。クラス2Cas分子の非限定的な例としては、Cas9、Cpf1、C2c1、C2c2及びC2c3タンパク質が挙げられる。例えば、Yang et al.Cell,167(7):1814-28(2016);Zetsche et al.Cell,163:1-13(2015)を参照されたい。いくつかの実施形態では、Cas分子は、S.アウレウス(S.aureus)Cas9分子である。
【0149】
いくつかの実施形態では、Cas分子は、Cas9分子又はそのフラグメント又は変異体、例えば非触媒変異体である。本明細書に記載の方法及び組成物では、様々な種のCas9分子を使用可能である。S.アウレウス(S.aureus)Cas9分子は、本明細書の開示の多くの主題であるが、本明細書に列挙される他の種のCas9タンパク質に由来する又はそれに基づくCas9分子も同様に使用可能である。言い換えると、本明細書に記載の系、方法及び組成物では、他のCas9分子、例えばS.サーモフィルス(S.thermophilus)、スタフィロコッカス・ピロゲネス(Staphylococcus pyrogenes)及び/又はナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)Cas9分子が使用され得る。
【0150】
いくつかの実施形態では、Cas9分子は、非特異的DNA接触を低減するように設計された変更を保持する高忠実度変異体である。例えば、Kleinstiver et al.Nature 529(7587):490-95(2016);Slaymaker et al.Science,351(6268):84-88(2016);Tsai et al.Nat.Biotech.32:569-577(2014)を参照されたい。いくつかの実施形態では、高忠実度Cas9は、野生型Cas9に匹敵するオンターゲット活性を保持する。いくつかの実施形態では、高忠実度Cas9は、例えば、ゲノムワイド切断キャプチャー及び標的化配列決定法により測定したとき、野生型Cas9と比較してオフターゲット活性を少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%又は99%低減する。いくつかの実施形態では、高忠実度Cas9は、ゲノムワイド切断キャプチャー及び標的化配列決定法により測定したとき、オフターゲット活性を検出不能にする。いくつかの実施形態では、高忠実度Cas9は、ストレプトコッカス・アウレウス(Streptococcus aureus)Cas9である。
【0151】
追加のCas9種には、アシドボラックス・アベネ(Acidovorax avenae)、アクチノバチルス・プルロニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumoniae)、アクチノバチルス・スクシノゲネス(Actinobacillus succinogenes)、アクチノバチルス・スイス(Actinobacillus suis)、アクチノマイセス属(Actinomyces)種、アリシクリフィルス・デニトリフィカンス(cycliphilus denitrificans)、アミノモナス・パウシボランス(Aminomonas paucivorans)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・スミシイ(Bacillus smithii)、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)、バクテロイデス属(Bacteroides)種、ブラストピレルラ・マリナ(Blastopirellula marina)、ブラディリゾビウム属(Bradyrhiz’obium)種、ブレビバチルス・ラテロスポラス(Brevibacillus latemsporus)、カンピロバクター・コリ(Campylobacter coli)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、カンピロバクター・ラリ(Campylobacter lad)、カンジダツス・プニセイスピリルム(Candidatus Puniceispirillum)、クロストリジウム・セルロリチカム(Clostridiu cellulolyticum)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、コリネバクテリウム・アクコレンス(Corynebacterium accolens)、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)、コリネバクテリウム・マトルコチイ(Corynebacterium matruchotii)、ディノロセオバクター・シバエ(Dinoroseobacter sliibae)、ユウバクテリウム・ドリクム(Eubacterium dolichum)、ガンマプロテオバクテリア綱(gamma proteobacterium)、グルコンアセトバクター・ジアゾトロフィクス(Gluconacetobacter diazotrophicus)、ヘモフィルス・パラインフルエンゼ(Haemophilus parainfluenzae)、ヘモフィルス・スプトラム(Haemophilus sputorum)、ヘリコバクター・カナデンシス(Helicobacter canadensis)、ヘリコバクター・シネディ(Helicobacter cinaedi)、ヘリコバクター・ムステラエ(Helicobacter mustelae)、イリオバクター・ポリトロパス(Ilyobacler polytropus)、キンゲラ・キンガエ(Kingella kingae)、ラクトバチルス・クリスパータス(Lactobacillus crispatus)、リステリア・イバノビイ(Listeria ivanovii)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、リステリア科(Listeriaceae)細菌、メチロシスチス科(Methylocystis)種、メチロシナス・トリコスポリウム(Methylosinus trichosporium)、モビルンカス・ムリエリス(Mobiluncus mulieris)、ナイセリア・バシリフォルミス(Neisseria bacilliformis)、ナイセリア・シネレア(Neisseria cinerea)、ナイセリア・フラベッセンス(Neisseria flavescens)、ナイセリア・ラクタミカ(Neisseria lactamica)、ナイセリア属(Neisseria)種、ナイセリア・ワズワーシイ(Neisseria wadsworthii)、ニトロソモナス属(Nitrosomonas)種及びパルビバクラム・ラバメンチボランス(Parvibaculum lavamentivorans)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、ファスコラークトバクテリウム・スクシナテュテンス(Phascolarctobacterium succinatutens)、ラルストニア・シジジイ(Ralstonia syzygii)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、ロドブラム属(Rhodovulum)種、シモンシエラ・ムエレリ(Simonsiella muelleri)、スフィンゴモナス属(Sphingomonas)種、スポロラクトバチルス・ビネア(Sporolactobacillus vineae)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)種、サブドリグラヌルム属(Subdoligranulum)種、チストレラ・モビリス(Tislrella mobilis)、トレポネーマ属(Treponema)種又はベルミネフロバクター・エイセニア(Verminephrobacter eiseniae)が含まれる。
【0152】
Cas9分子は、その用語が本明細書で使用される場合、gRNA分子(例えば、tracrのドメインの配列)と相互作用可能であると共に、gRNA分子と協奏的に、標的配列及びPAM配列を含む部位に局在化する(例えば、それを標的とする又はそれにホーミングする)分子を意味する。
【0153】
一実施形態では、標的核酸と相互作用する活性Cas9分子の能力は、PAM配列依存性である。PAM配列は、標的核酸中の配列である。異なる細菌種からの活性Cas9分子は、異なる配列モチーフ(例えば、PAM配列)を認識可能である。一実施形態では、S.アウレウス(S.aureus)のCas9分子は、配列モチーフNGRR(R=A又はG)を認識すると共に、その配列から上流に1~10、例えば3~5塩基対の標的核酸配列の切断を指令する。例えば、Ran F.et al.,NATURE 520:186-191(2015)を参照されたい。PAM配列を認識するCas9分子の能力は、例えば、Jinek et al,SCIENCE 337:816(2012)に記載の形質転換アッセイを用いて決定可能である。いくつかのCas9分子は、gRNA分子と相互作用すると共にgRNA分子と連携してコア標的ドメインにホーミングする(例えば、それを標的とする又はそれに局在化する)能力を有するが、標的核酸を切断する能力がないか又は効率的速度で切断する能力がない。切断活性を有しないか又は実質的に有しないCas9分子は、本明細書では、非活性Cas9(酵素的非活性Cas9)、デッドCas9又はdCas9分子と呼ばれることがある。例えば、非活性Cas9分子は、切断活性を欠如し得るか、又は本明細書に記載のアッセイにより測定したとき、参照Cas9分子よりも実質的に低い、例えばその20、10、51若しくは0.1%未満の切断活性を有し得る。
【0154】
本明細書に提供される方法で使用され得る例示的な天然に存在するCas9分子は、Chylinski et al.,RNA Biology 10(5):727-737(2013)に記載されている。そのようなCas9分子としては、クラスター1細菌科、クラスター2細菌科、クラスター3細菌科、クラスター4細菌科、クラスター5細菌科、クラスター6細菌科、クラスター7細菌科、クラスター8細菌科、クラスター9細菌科、クラスター10細菌科、クラスター11細菌科、クラスター12細菌科、クラスター13細菌科、クラスター14細菌科、クラスター1細菌科、クラスター16細菌科、クラスター17細菌科、クラスター18細菌科、クラスター19細菌科、クラスター20細菌科、クラスター21細菌科、クラスター22細菌科、クラスター23細菌科、クラスター24細菌科、クラスター25細菌科、クラスター26細菌科、クラスター27細菌科、クラスター28細菌科、クラスター29細菌科、クラスター30細菌科、クラスター31細菌科、クラスター32細菌科、クラスター33細菌科、クラスター34細菌科、クラスター35細菌科、クラスター36細菌科、クラスター37細菌科、クラスター38細菌科、クラスター39細菌科、クラスター40細菌科、クラスター41細菌科、クラスター42細菌科、クラスター43細菌科、クラスター44細菌科、クラスター45細菌科、クラスター46細菌科、クラスター47細菌科、クラスター48細菌科、クラスター49細菌科、クラスター50細菌科、クラスター51細菌科、クラスター52細菌科、クラスター53細菌科、クラスター54細菌科、クラスター55細菌科、クラスター56細菌科、クラスター57細菌科、クラスター58細菌科、クラスター59細菌科、クラスター60細菌科、クラスター61細菌科、クラスター62細菌科、クラスター63細菌科、クラスター64細菌科、クラスター65細菌科、クラスター66細菌科、クラスター67細菌科、クラスター68細菌科、クラスター69細菌科、クラスター70細菌科、クラスター71細菌科、クラスター72細菌科、クラスター73細菌科、クラスター74細菌科、クラスター75細菌科、クラスター76細菌科、クラスター77細菌科又はクラスター78細菌科のCas9分子が挙げられる。
【0155】
例示的な天然に存在するCas9分子としては、クラスター1細菌科のCas9分子が挙げられる。例としては、S.ピオゲネス(S.pyogenes)(例えば、株SF370、MGAS10270、MGAS10750、MGAS2096、MGAS315、MGAS5005、MGAS6180、MGAS9429、NZ131及びSSI-1)、S.サーモフィルス(S.thermophilus)(例えば、株LMD-9)、S.シュードポルシナス(S.pseudoporcinus)(例えば、株SPIN20026)、S.ミュータンス(mutans)(例えば、株UA159、NN2025)、S.マカケ(S.macacae)(例えば、株NCTC11558)、S.ガロリリカス(S.gallolylicus)(例えば、株UCN34、ATCC BAA-2069)、S.エキネス(S.equines)(例えば、株ATCC9812、MGCS124)、S.ディスガラクティエ(S.dysdalactiae)(例えば、株GGS124)、S.ボビス(S.bovis)(例えば、株ATCC700338)、S.アンギノサス(anginosus)(例えば、株F0211)、S.アガラクティア(agalactia)(例えば、株NEM316、A909)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)(例えば、株F6854)、リステリア・イノキュア(Listeria innocua)(例えば、株Clip11262)、エンテロコッカス・イタリカス(Enterococcus italicus)(例えば、株DSM15952)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)(例えば、株1,231、408)、C.ジェジュニ(C.jejune)又はデルタプロテオバクテリア綱(Deltaproteobacteria)(Dbp)のCas9分子が挙げられる。追加の例示的なCas9分子は、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)のCas9分子(Hou et al.PNAS Early Edition 1-6(2013))及びS.アウレウス(S.aureus)Cas9分子である。
【0156】
一実施形態では、Cas9分子、例えば非活性Cas9分子は、本明細書に記載のいずれかのCas9分子配列又は天然に存在するCas9分子配列、例えば本明細書に列挙されるか又はChylinski et al.,RNA Biology 10:5(2013)若しくはHou et al.PNAS Early Edition 1-6(2013)に記載される種からのCas9分子に対して60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性を有するか;前記Cas9配列と比較したときにアミノ酸残基の1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%又は40%以下が異なるか;前記Cas9配列に対して少なくとも1、2、5、10又は20アミノ酸が異なるが、100、80、70、60、50、40又は30アミノ酸を超えないか;或いは前記Cas9配列と同一である、アミノ酸配列を含む。
【0157】
一実施形態では、Cas9分子は、S.アウレウス(S.aureus)Cas9に対して60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%若しくは99%の相同性を有するか;S.アウレウス(S.aureus)Cas9配列と比較したときにアミノ酸残基の1%、2%、5%、10%、15%、20%、30%若しくは40%以下が異なるか;S.アウレウス(S.aureus)Cas9配列に対して少なくとも1、2、5、10若しくは20アミノ酸が異なるが、100、80、70、60、50、40若しくは30アミノ酸を超えないか;又はS.アウレウス(S.aureus)Cas9と同一である、アミノ酸配列を含む。
【0158】
様々なタイプのCas分子を本明細書で使用可能である。いくつかの実施形態では、II型Cas系のCas分子が使用される。他の実施形態では、他のCas系のCas分子が使用される。例えば、I型又はIII型Cas分子を使用し得る。例示的なCas分子(及びCas系)は、例えば、Haft et al.,PLoS COMPUTATIONAL BIOLOGY 1(6):e60(2005)及びMakarova et al.,NATURE REVIEW MICROBIOLOGY 9:467-477(2011)(両方の参照文献の内容はその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0159】
変更Cas9分子
天然に存在するCas9分子は、ニッカーゼ活性、ヌクレアーゼ活性(例えば、エンドヌクレアーゼ及び/又はエキソヌクレアーゼ活性);ヘリカーゼ活性;gRNA分子に機能的に会合する能力;及び核酸上の部位を標的とする(又はそれに局在化する)能力(例えば、PAM認識及び特異性)をはじめとするいくつかの性質を有し得る。一実施形態では、本明細書に開示される方法で使用されるCas9分子は、これらの性質の全て又はサブセットを含み得る。典型的実施形態では、Cas9分子は、gRNA分子と相互作用してgRNA分子と協奏的に核酸中の部位に局在化する能力を有する。他の活性、例えばPAM特異性、切断活性又はヘリカーゼ活性は、Cas9分子によってより広範に変動可能である。
【0160】
所望の性質を有するCas9分子は、いくつかの方法において、例えば天然に存在するCas9分子などの親Cas9の変更により、所望の性質を有する変更Cas9分子を提供するように作製可能である。例えば、親Cas9分子に1つ以上の変異又は差異を導入可能である。そのような変異及び差異は、置換(例えば、保存的置換又は非必須アミノ酸の置換);挿入;又は欠失を含み得る。一実施形態では、Cas9分子は、参照Cas9分子の1つ以上の活性を保持又は増強しつつ、参照Cas9分子と比べて1つ以上の変異又は差異、例えば少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、30、300、40又は50変異を含み得るが、200、100又は80変異を超えない。例えば、一実施形態では、Cas分子は、野生型Cas分子配列と比較して1つ以上のアミノ酸の欠失を含む。
【0161】
一実施形態では、1つ又は複数の変異は、核酸の片側を標的とする(又はそれに局在化する)Cas9活性(例えば、PAM認識及び特異性)に実質的な影響を及ぼさない。一実施形態では、1つ又は複数の変異は、Cas9活性、例えばニッカーゼ活性、ヌクレアーゼ活性及びヘリカーゼ活性のCas9活性に実質的な影響を及ぼす。
【0162】
特定配列か否かにかかわらず、例えば、置換は、1つ以上の活性、例えば標的化活性、切断活性などに影響を及ぼし得ると共に、例えば変異が保存的であるかを評価することにより又は以上に記載の方法により評価又は予測可能である。一実施形態では、Cas9分子と関連して使用される「非必須」アミノ酸残基は、Cas9活性(例えば、標的化能力)を消失させることなく又はより好ましくは実質的に変更することなく、Cas9分子、例えば天然に存在するCas9分子、例えば活性Cas9分子の野生型配列から変更可能な残基であるが、一方、「必須」アミノ酸残基を変化させると、活性(例えば、標的化能力)の実質的損失をもたらす。
【0163】
PAM認識が変更されたCas9分子
天然に存在するCas9分子は、特異的PAM配列、例えばS.ピオゲネス(S.pyogenes)、S.サーモフィルス(S.thermophilus)、S.ミュータンス(mutans)、S.アウレウス(S.aureus)及びN.メニンギティディス(N.meningitidis)に対して以上に記載したPAM認識配列を認識し得る。
【0164】
一実施形態では、Cas9分子は、天然に存在するCas9分子と同一のPAM特異性を有する。他の実施形態では、Cas9分子は、天然に存在するCas9分子に関連しないPAM特異性又は最も近い配列相同性を有する天然に存在するCas9分子に関連しないPAM特異性を有する。例えば、天然に存在するCas9分子は、例えば、PAM認識を変更するように、例えばCas9分子が認識するPAM配列を変更することによりオフターゲット部位を減少させるように及び/又は特異性を改善するように;又はPAM認識要件を排除するように、変更可能である。一実施形態では、Cas9分子は、例えば、PAM認識配列の長さを増加させることにより及び/又は高い同一性レベルにCas9特異性を改善することによりオフターゲット部位を減少させて特異性を増加させるように、変更可能である。一実施形態では、PAM認識配列の長さは、少なくとも4、5、6、7、8、9、10又は15アミノ酸長である。異なるPAM配列を認識する及び/又はオフターゲット活性を低減させたCas9分子は、指向進化を用いて発生可能である。Cas9分子の指向進化に使用可能な例示的な方法及び系は、例えば、Esvelt el al,Nature 472(7344):499-503(2011)に記載されている。候補Cas9分子は、例えば、本明細書に記載の方法により評価可能である。
【0165】
非切断Cas9分子
一実施形態では、Cas9分子は、天然に存在するCas9分子と異なる、例えば最も近い相同性を有する天然に存在するCas9分子と異なる切断を含む。例えば、Cas9分子は、S.アウレウス(S.aureus)のCas9分子などの天然に存在するCas9分子と次の点で異なり得る。すなわち、例えば、天然に存在するCas9分子(例えば、S.アウレウス(S.aureus)のCas9分子)と比較して二本鎖の破断切断(エンドヌクレアーゼ及び/若しくはエキソヌクレアーゼ活性)を調節する能力、例えば減少させること;例えば、天然に存在するCas9分子(例えば、S.アウレウス(S.aureus)のCas9分子)と比較して核酸の一本鎖、例えば核酸分子の非相補的鎖若しくは核酸分子の相補的鎖の切断(ニッカーゼ活性)を調節する能力、例えば減少させること;又は核酸分子、例えば二本鎖若しくは一本鎖核酸分子を切断する能力を排除可能であること。
【0166】
非切断非活性Cas9分子
一実施形態では、変更Cas9分子は、核酸分子(二本鎖又は一本鎖核酸分子のいずれか)を切断しないか、又は有意により低い効率、例えば本明細書に記載のアッセイにより測定したとき、参照Cas9分子の切断活性の20、10、5、1又は0.1%未満で核酸分子を切断する、非活性Cas9分子である。参照Cas9分子は、天然に存在する非改変Cas9分子、例えばS.ピオゲネス(S.pyogenes)、S.サーモフィルス(S.thermophilus)、S.アウレウス(S.aureus)又はN.メニンギティディス(N.meningitidis)のCas9分子などの天然に存在するCas9分子であり得る。一実施形態では、参照Cas9分子は、最も近い配列同一性又は相同性を有する天然に存在するCas9分子である。一実施形態では、非活性Cas9分子は、N末端RuvC様ドメインに関連する実質的切断活性及びHNH様ドメインに関連する切断活性を欠如する。一実施形態では、Cas9分子はdCas9である。例えば、Tsai et al.Nat.Biotech.32:569-577(2014)を参照されたい。
【0167】
触媒的非活性Cas9分子は、転写アクチベーターに融合され得る。非活性Cas9融合タンパク質は、gRNAと複合体化してgRNAの標的化ドメインにより具体的に示されるDNA配列に局在化するが、活性Cas9と異なり、それは、標的DNAを切断しようとしない。非活性Cas9への転写性活性化ドメインなどのエフェクタードメインの融合は、gRNAにより具体的に示されるいずれかのDNA部位へのエフェクターのリクルートメントを可能にする。遺伝子のプロモーター領域へのCas9融合タンパク質の部位特異的標的化は、プロモーター領域へのポリメラーゼ結合を誘発し得るか又はそれに影響を及ぼし得る。例えば、転写因子(例えば、転写アクチベーター)及び/又は転写エンハンサーとのCas9融合は、核酸への結合で転写活性化を増加させる。本発明の一実施形態では、転写性アクチベーター又はそのドメインは、1,650ヌクレオチド未満を含む核酸分子によってコードされる。本発明の別の実施形態では、転写リプレッサー又はそのドメインは、1,650ヌクレオチド未満を含む核酸分子によってコードされる。
【0168】
以下の表2は、SCN1Aに対するgRNAの配列を提供する。
【0169】
【表20】
【0170】
ジンクフィンガータンパク質
いくつかの実施形態では、DBDはジンクフィンガータンパク質である。ジンクフィンガータンパク質は、「ジンクフィンガードメイン」及び「ジンクフィンガーモチーフ」と互換可能に使用可能である。ジンクフィンガーは、フォールドを安定化させるための1つ以上の亜鉛イオン(Zn2+)の配位により特徴付けられる小タンパク質構造モチーフである。ジンクフィンガー(Znf)ドメインは、DNA標的部位にタンデム接触する複数の指状突出を含有する相対的に小さいタンパク質モチーフである。ジンクフィンガーモチーフのモジュラー性は、高度の親和性及び特異性で結合されるDNA配列の多数の組み合わせを可能にするため、特異的DNA配列を標的としてそれに結合可能なタンパク質を操作するのに理想的に適している。多くの操作ジンクフィンガーアレイは、マウス転写因子Zif268のジンクフィンガードメインに基づく。Zif268は、高親和性で9bp配列に集団で結合する3つの個別ジンクフィンガーモチーフを有する。多様なジンクフィンガータンパク質が同定されており、本明細書にさらに記載される構造に基づいて様々なタイプに特徴付けられる。いずれのそのようなジンクフィンガータンパク質も本明細書に記載のDBDと関連して有用である。
【0171】
ジンクフィンガータンパク質を設計するための様々な方法を利用可能である。例えば、対象標的DNA配列に結合するようにジンクフィンガータンパク質を設計するための方法は記載されており、例えばLiu Q,et ah,Design of polydactyl zinc-finger proteins for unique addressing within complex genomes,Proc Natl Acad Sci USA.94(11):5525-30(1997);Wright DA et ah,Standardized reagents and protocols for engineering zinc finger nucleases by modular assembly,Nat Protoc.Nat Protoc.2006;1(3):1637-52;及びCA Gersbach and T Gaj,Synthetic Zinc Finger Proteins:The Advent of Targeted Gene Regulation and Genome Modification Technologies,Am Chem Soc 47:2309-2318(2014)を参照されたい。さらに、目的のDNA標的配列に結合するようにジンクフィンガータンパク質を設計するための様々なウェブベースツールが一般公開されており、例えばワールドワイドウェブ上のomictools.com/zfns-categoryで利用可能なOmicXからのZinc Finger Nuclease Design Software Tools and Genome Engineering Data Analysisウェブサイト;及びワールドワイドウェブ上のscripps.edu/barbas/zfdesign/zfdesignhome.phpで利用可能なScrippsからのZinc Finger Tools設計ウェブサイトを参照されたい。さらに、目的のDNA標的配列に結合するようにジンクフィンガータンパク質を設計するための様々な市販サービスが利用可能であり、例えばCreative Biolabsにより提供される市販サービス又はキット(creative-biolabs.com/Design-and-Synthesis-of-Artificial-Zinc-Finger-Proteins.htmlのワールドワイドウェブ)、Addgeneから入手可能なZinc Finger Consortium Modular Assembly Kit(world wide web at addgene.org/kits/zfc-modular-assembly/)又はSigma AldrichからのCompoZr Custom ZFN Service(sigmaaldrich.com/life-science/zinc-fmger-nuclease-technology/custom-zfn.htmlのワールドワイドウェブ)を参照されたい。
【0172】
特定の実施形態では、本明細書に提供される転写因子は、1つ以上のジンクフィンガーを含むDBDを含むか又はジンクフィンガータンパク質のDBDに由来する。いくつかの場合、DBDは、複数のジンクフィンガーを含み、各ジンクフィンガーは、そのN末端若しくはC末端のいずれかで又は両方でアミノ酸リンカーを介して別のジンクフィンガー又は別のドメインに連結される。いくつかの場合、本明細書に提供されるDBDは、複数のジンクフィンガー構造若しくはモチーフ又は表3に記載の配列番号70~73及び61の1つ以上を有する複数のジンクフィンガー或いはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0173】
特定の実施形態では、DBDは、X-[ZF-X]n及び/又は[X-ZF]n-X(式中、ZFは、ジンクフィンガードメインであり、Xは、1~50アミノ酸を含むアミノ酸リンカーであり、且つnは、1~15、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14若しくは15の整数であり、各ZFは、独立して、同一配列又はDBD中の他のZF配列と異なる配列を有することが可能であり、且つ各リンカーXは、独立して、同一配列又はDBD中の他のXの配列と異なる配列を有することが可能である)を含む。各ジンクフィンガーは、別の配列、ジンクフィンガー又はそのC末端、N末端若しくは両末端のドメインに連結可能である。DBDでは、各リンカーXは、配列、長さ及び/若しくは性質(例えば、フレキシビリティー若しくは電荷)が同一であり得るか、又は配列、長さ及び/若しくは性質が異なり得る。いくつかの場合、2つ以上のリンカーは、同等であり得るが、他のリンカーは、異なる。例示的な実施形態では、リンカーは、1つ以上の天然に存在するジンクフィンガータンパク質に見出されるジンクフィンガーを接続する配列に由来し得るか又はそれから得られ得る。他の実施形態では、適切なリンカー配列は、例えば、5アミノ酸長以上のリンカーを含む。6アミノ酸長以上の例示的なリンカー配列については、米国特許第6,479,626号明細書;同第6,903,185号明細書;及び同第7,153,949号明細書(その各々はその全体が本明細書に組み込まれる)も参照されたい。本明細書に提供されるDBDタンパク質は、タンパク質の個別ジンクフィンガー間に適切なリンカーの任意の組み合わせを含み得る。本明細書に記載されるDBDタンパク質は、タンパク質の個別ジンクフィンガー間に適切なリンカーの任意の組み合わせを含み得る。
【0174】
特定の実施形態では、本明細書に提供される転写因子は、1つ以上の古典的ジンクフィンガーを含むDBDを含む。古典的C2H2ジンクフィンガーは、亜鉛イオンにより配位されて一方の鎖に2つのシステイン及び他方の鎖に2つのヒスチジン残基を有する。古典的ジンクフィンガードメインは、2つのβシート及び1つのαヘリックスを有し、αヘリックスは、DNA分子と相互作用すると共に、標的部位に結合するDBDの基礎を形成し、「認識ヘリックス」といわれ得る。例示的な実施形態では、ジンクフィンガーの認識ヘリックスは、位置1、2、3又は6に少なくとも1つのアミノ酸置換を含むことによりジンクフィンガードメインの結合特異性を変化させる。他の実施形態では、本明細書に提供されるDBDは、1つ以上の非古典的ジンクフィンガー、例えばC2-H2、C2-CH及びC2-C2を含む。
【0175】
別の実施形態では、本明細書に提供される転写因子は、次の構造:LEPGEKP-[YKCPECGKSFSXHQRTHTGEKP]n-YKCPECGKSFSXHQRTH-TGKKTS(式中、「LEPGEKPYKCPECGKSFS」は、配列番号91として開示され、「HQRTHTGEKPYKCPECGKSFS」は、配列番号92として開示され、「HQRTHTGKKTS」は、配列番号83として開示され、且つnは、1~15、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15の整数であり、各Xは、独立して、標的配列の3bpに結合する能力のある認識配列(例えば、認識ヘリックス)である)を有するジンクフィンガーモチーフを含むDBDを含む。例示的な実施形態では、nは、3、6又は9である。特に好ましい実施形態では、nは6である。様々な実施形態では、各Xは、独立して、同一アミノ酸配列又はDBD中の他のXの配列と比較して異なるアミノ酸配列を有し得る。例示的な実施形態では、各Xは、ワールドワイドウェブ上のscripps.edu/barbas/zfdesign/zfdesignhome.phpに位置するScrippsからのZinger Finger Design Toolを用いて目的の標的結合部位の3bpと相互作用するように設計された7アミノ酸を含む配列である。
【0176】
DBD内の各ジンクフィンガーは3bpを認識するため、DBDに含まれるジンクフィンガーの数は、DBDにより認識される結合部位の長さを知らせ、例えば、1ジンクフィンガーを有するDBDは、3bpを有する標的結合部位を認識し、2ジンクフィンガーを有するDBDは、6bpを有する標的結合部位を認識し、3ジンクフィンガーを有するDBDは、9bpを有する標的結合部位を認識し、4ジンクフィンガーを有するDBDは、12bpを有する標的結合部位を認識し、5ジンクフィンガーを有するDBDは、15bpを有する標的結合部位を認識し、6ジンクフィンガーを有するDBDは、18bpを有する標的結合部位を認識し、9ジンクフィンガーを有するDBDは、27bpを有する標的結合部位を認識するなどである。一般的には、より長い標的結合部位を認識するDBDは、より大きい結合特異性(例えば、より少ないオフターゲット又は非特異的結合)を呈するであろう。
【0177】
他の実施形態では、本明細書に提供される転写因子は、DBDの結合特異性を変化させるように(例えば、DBDにより認識される標的部位を変化させるように)ジンクフィンガードメインの認識ヘリックスの1つ以上で1つ以上のアミノ酸置換を行うことにより天然に存在するジンクフィンガータンパク質に由来するDBDを含む。本明細書に提供されるDBDは、いずれかの天然に存在するジンクフィンガータンパク質に由来し得る。
【0178】
様々な実施形態では、そのようなDBDは、いずれかの種、例えばマウス、ラット、ヒトなどのジンクフィンガータンパク質に由来し得る。例示的な実施形態では、本明細書に提供されるDBDは、ヒトジンクフィンガータンパク質に由来する。特定の実施形態では、本明細書に提供されるDBDは、表9に列挙される天然に存在するタンパク質に由来する。例示的な実施形態では、本明細書に提供されるDBDタンパク質は、ヒトEGRジンクフィンガータンパク質、例えばEGR1、EGR2、EGR3又はEGR4に由来する。
【0179】
特定の実施形態では、SCN1Aをアップレギュレーションする本明細書に提供される転写因子は、天然に存在するタンパク質のDBD内の1つ以上のジンクフィンガーを反復することによりDBDタンパク質中のジンクフィンガードメインの数を増加させるようにDBDを改変することにより天然に存在するタンパク質に由来するDBDを含む。特定の実施形態では、そのような改変は、天然に存在するタンパク質のDBD内のジンクフィンガーのデュプリケーション、トリプリケーション、クアドラプリケーション又はさらなるマルチプリケーションを含む。いくつかの場合、ヒトタンパク質のDBDからの1つのジンクフィンガーが多重化され、例えば同一ジンクフィンガーモチーフの2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又はそれを超えるコピーが転写因子中のDBDで反復される。いくつかの場合、天然に存在するタンパク質のDBDからのジンクフィンガーのセットが多重化される。例えば、天然に存在するタンパク質のDBDからの3ジンクフィンガーのセットがデュプリケートされて6ジンクフィンガーのDBDを有する転写因子を生成し、トリプリケートされて9ジンクフィンガーの転写因子のDBDを生成するか、又はクアドラプリケートされて12ジンクフィンガーの転写因子のDBDを生成するなどである。いくつかの場合、天然に存在するタンパク質のDBDからのジンクフィンガーのセットが、部分複製されてより多数のジンクフィンガーを有する転写因子のDBDを形成する。例えば、ジンクフィンガーが天然に存在するタンパク質からの第1のジンクフィンガーの1コピー、第2のジンクフィンガーの1コピー及び第3のジンクフィンガーの2コピー、合計で4ジンクフィンガーを転写因子のDBD中に提示する場合、転写因子のDBDは4ジンクフィンガーを含む。次いで、そのようなDBDは、DBDの結合特異性を変化させるように(例えば、DBDにより認識される標的部位を変化させるように)ジンクフィンガードメインの認識ヘリックスの1つ以上で1つ以上のアミノ酸置換を行うことによりさらに改変される。例示的な実施形態では、DBDは、天然に存在するヒトタンパク質、例えばヒトEGRジンクフィンガータンパク質、例えばEGR1、EGR2、EGR3又はEGR4に由来する。
【0180】
ヒトEGR1及びEGR3は、3フィンガーのC2H2ジンクフィンガーDBDにより特徴付けられる。ジンクフィンガーに対する一般的結合規則は、3フィンガー全てが、標的結合部位配列の特異性又は認識を決定するために各ジンクフィンガーのアルファヘリックス中の同一アミノ酸を用いて、類似ジオメトリーでその同族のDNA配列と相互作用すると規定している。そのような結合規則は、EGR1又はEGR3のDBDを改変して所望の標的結合部位を認識するDBDを操作することを許容する。いくつかの場合、EGR1又はEGR3のジンクフィンガーモチーフ中の7アミノ酸DNA認識ヘリックスは、公開されたジンクフィンガー設計規則に従って改変される。特定の実施形態では、EGR1又はEGR3の3フィンガーDBDの各ジンクフィンガーは、例えば、1つ以上の認識ヘリックスの配列を変更することにより及び/又はDBDのジンクフィンガーの数を増加させることにより、改変される。特定の実施形態では、EGR1又はEGR3は、所望の標的部位の少なくとも9、12、15、18、21、24、27、30、33、36又はそれを超える塩基対の標的結合部位を認識するように再プログラムされる。特定の実施形態では、ERG1又はEGR3に由来するそのようなDBDは、少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又はそれを超えるジンクフィンガーを含む。例示的な実施形態では、DBD中のジンクフィンガーの1つ以上は、認識ヘリックスの位置1、2、3又は6に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0181】
以下の表3は、実施例で使用される例示的ジンクフィンガータンパク質のアミノ酸配列を提供する。
【0182】
【表21】
【0183】
以下の表4は、転写因子で使用される他の配列を提供する。
【0184】
【表22】
【0185】
【表23】
【0186】
【表24】
【0187】
【表25】
【0188】
【表26】
【0189】
【表27】
【0190】
目的の遺伝子のアップレギュレーション
本明細書に提供される転写因子は、目的の遺伝子のアップレギュレーションをもたらすいずれかの標的部位(例えば、目的の遺伝子のプロモーター領域)を認識するように設計可能である。例示的な実施形態では、DBDは、転写因子が結合したときに目的の内因性遺伝子のゲノム位置を認識してその発現をアップレギュレーションするように設計される。本明細書に提供される転写因子が結合したときに目的の内因性遺伝子の発現を調節する能力のある結合部位は、目的の遺伝子の遺伝子発現のモジュレーションをもたらすゲノム中のいずれかの位置に位置し得る。様々な実施形態では、結合部位は、目的の遺伝子と異なる染色体上、目的の遺伝子と同一の染色体上、目的の遺伝子の転写開始部位(TSS)の上流、目的の遺伝子のTSSの下流、目的の遺伝子のTSSの近位、目的の遺伝子の遠位、目的の遺伝子のコーディング領域内、目的の遺伝子のイントロン内、目的の遺伝子のポリAテールの下流、目的の遺伝子を調節するプロモーター配列内又は目的の遺伝子を調節するエンハンサー配列内に位置し得る。
【0191】
DBDは、例えば、オフターゲット結合を最小限に抑えるか又は生じさせることなく、DBDによる標的結合部位配列の特異的認識を提供する限りいずれの長さの標的結合部位にも結合するように設計され得る。特定の実施形態では、標的結合部位は、トランス作用因子が結合したとき、全ての他の遺伝子と比較して少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、75倍、100倍、150倍、200倍、250倍、500倍又はそれを超えるレベルで目的の遺伝子の発現を調節し得る。特定の実施形態では、標的結合部位は、トランス作用因子が結合したとき、40最近接遺伝子(例えば、染色体上の目的の遺伝子のコーディング配列の上流又は下流のいずれかの最も近くに位置する40遺伝子)と比較して少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、75倍、100倍、150倍、200倍、250倍、500倍又はそれを超えるレベルで目的の遺伝子の発現を調節し得る。特定の実施形態では、標的結合部位は、少なくとも5bp、10bp、15bp、20bp、25bp、30bp、35bp、40bp、45bp若しくは50bp又はそれを超え得る。結合部位の特異的長さは、転写因子中のDBDのタイプにより特徴付けられるであろう。一般的には、結合部位の長さが長くなるほど、結合の特異性及び遺伝子発現のモジュレーションは大きくなる(例えば、結合部位の長さが長くなるほど、オフターゲットの影響は少なくなる)。特定の実施形態では、より長い標的結合部位を認識するDBDを有する転写因子は、より短い標的部位に結合するDBDを有する転写因子で観測されるオフターゲットの影響と比べて、非特異的結合に関連するオフターゲットの影響はより少なくなる(例えば、オフターゲット遺伝子又は目的の遺伝子以外の遺伝子の発現のモジュレーションなど)。いくつかの場合、オフターゲット結合の低減は、より短い標的結合部位を認識するDBDを有する同等の転写因子と比較して少なくとも1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9又は10倍になる。
【0192】
特定の実施形態では、本明細書に提供されるDBDは、結合親和性を増加させてより長期間にわたり標的結合部位に結合するように改変可能であり、その結果、DBDにコンジュゲートされたTADは、目的の内因性遺伝子の発現レベルにより大きい影響を発揮するように、より多くの転写因子をリクルートでき、且つ/又はそのような転写因子をより長期間にわたりリクルートできる。特定の実施形態では、DBDは、所望の標的部位へのその特異的結合(又はオンターゲット結合)を増加させるように改変され得、且つ/又はその非特異的若しくはオフターゲット結合を減少させるように改変され得る。
【0193】
様々な実施形態では、DBD又は転写因子と標的結合部位との結合は、様々な方法を用いて決定され得る。特定の実施形態では、DBD又は転写因子と標的結合部位との特異的結合は、移動度シフトアッセイ、DNase保護アッセイ又はタンパク質-DNA結合のアッセイのための当技術分野で公知のいずれかの他のインビトロ法を用いて決定され得る。他の実施形態では、転写因子と標的結合部位との特異的結合は、機能性アッセイを用いて、例えば標的結合部位に転写因子が結合したとき、目的の遺伝子の発現(RNA又はタンパク質)を測定することにより決定され得る。例えば、標的結合部位は、細胞に含有されたベクター上のレポーター遺伝子(例えば、eGFPなど)若しくは目的の遺伝子の上流に位置し得るか、又は細胞が転写因子を発現する場合、細胞のゲノムに組み込まれ得る。代替的に、転写因子を発現するベクターは、目的の遺伝子を天然で含有する細胞型に導入され得る。コントロール(例えば、転写因子なし又は異なる標的部位を認識する転写因子)と比較して転写因子の存在下でレポーター遺伝子(又は目的の遺伝子)の発現レベルが大きくなることは、転写因子のDBDが標的部位に結合することを示唆する。同様に、適切なインビトロ(例えば、非細胞ベース)転写及び翻訳系も使用され得る。特定の実施形態では、標的部位に結合する転写因子は、コントロール(例えば、転写因子なし又は異なる標的部位を認識する転写因子)と比較してレポーター遺伝子又は目的の遺伝子の発現を少なくとも2倍、3倍、5倍、10倍、15倍、20倍、30倍、50倍、75倍、100倍、150倍又はそれを超えるものにし得る。
【0194】
特定の実施形態では、目的の遺伝子をアップレギュレーションする本明細書に開示される転写因子は、少なくとも9bp、12bp、15bp、18bp、21bp、24bp、27bp、30bp、33bp若しくは36bpのサイズ;9bp、12bp、15bp、18bp、21bp、24bp、27bp若しくは30bp超;又は9~33bp、9~30bp、9~27bp、9~24bp、9~21bp、9~18bp、9~15bp、9~12bp、12~33bp、12~30bp、12~27bp、12~24bp、12~21bp、12~18bp、12~15bp、15~33bp、15~30bp、15~27bp、15~24bp、15~21bp、15~18bp、18~33bp、18~30bp、18~27bp、18~24bp、18~21bp、21~33bp、21~30bp、21~27bp、21~24bp、24~33bp、24~30bp、24~27bp、27~33bp、27~30bp若しくは30~33bpである標的結合部位を認識する。例示的な実施形態では、目的の遺伝子をアップレギュレーションする本明細書に開示される転写因子は、18~27bp、18bp又は27bpである標的結合部位を認識する。
【0195】
特定の実施形態では、目的の遺伝子をアップレギュレーションする本明細書に開示される転写因子は、2番染色体上に位置する標的結合部位を認識する。特定の実施形態では、目的の遺伝子をアップレギュレーションする本明細書に開示される転写因子は、染色体上の目的の遺伝子AのTSSの上流又は下流110kb、100kb、90kb、80kb、70kb、60kb、50kb、40kb、30kb、20kb、10kb、5kb、4kb、3kb、2kb又は1kb内に位置する標的結合部位を認識する。
【0196】
目的の遺伝子は、ゲノム交替が1つ以上の遺伝子の転写若しくは活性の低減をもたらす又は遺伝子産物が哺乳動物疾患の原因因子であるいずれかの遺伝子であり得る。例えば、ゲノム変更は、遺伝子の1つの機能性コピーのみが存在し、その単一コピーが野生型表現型を産生するのに十分な遺伝子産物を産生しないハプロ不全であり得る。他の疾患は、活性の低減を呈するが排除を呈しないように遺伝子産物を変更する遺伝子の一方又は両方のコピーのゲノム変更によって引き起こされる。そのほか他の疾患では、ゲノム変更は、野生型表現型を産生するのに不十分な遺伝子産物が存在するように遺伝子の一方若しくは両方の転写を低減するか又は転写物安定性を低減する。
【0197】
いくつかの実施形態では、目的の遺伝子の発現の増加は、導入遺伝子配列のRNA転写物の数の増加により測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、PCRにより測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、RT-PCRにより測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、qPCRにより測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、qRT-PCRにより測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、配列決定により測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、ノーザンブロット分析により測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、単一分子蛍光in-situハイブリダイゼーション(FISH)により測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、導入遺伝子によってコードされるタンパク質の産生量の増加により測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)により測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加はウエスタンブロット分析により測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、免疫染色により測定される。いくつかの実施形態では、導入遺伝子配列の発現の増加は、以上に列挙された方法の2つ以上により測定される。
【0198】
プロモーター
動物又はヒトの体の全ての細胞は、同じDNAを含有するが、異なる組織の異なる細胞は、一方では共通の遺伝子のセットを発現し、他方では組織のタイプ及び発達の段階に応じて変化する遺伝子のセットを発現する。理論に拘束されるものではないが、イントロンを含まない任意のプロモーターを、本明細書に記載の様々な態様及び実施形態(例えば、核酸分子)で使用することができる。本明細書に記載の様々な態様及び実施形態で使用可能な例示的なプロモーターには、限定されるものではないが、GABA作動性ニューロンで作動可能なプロモーター、抑制性ニューロンで作動可能なプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、CAGプロモーター、SV40プロモーター、JeTプロモーター、PGKプロモーター及びニワトリベータ-アクチンプロモーター(CBA)プロモーターが含まれる。実施形態では、プロモーターは、複数の細胞型において活性である。他の実施形態では、プロモーターは、1つの細胞型(例えば、細胞特異的)又は例えば中枢神経組織(例えば、脳組織)などの1つの組織の細胞型(例えば、組織特異的)において活性である。実施形態では、プロモーターはニューロン特異的である。本明細書に記載の様々な態様及び実施形態で使用できるニューロン特異的プロモーターの例には、作動可能に連結されたミニ遺伝子及び導入遺伝子の発現を駆動するためにベクター及び他の核酸で使用される単離又は合成ニューロン特異的プロモーター及びその機能的フラグメント、例えばニューロン特異的エノラーゼ(NSE)に由来するプロモーター(例えば、EMBL HSENO2、X51956を参照されたい);芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)プロモーター;ニューロフィラメントプロモーター(例えば、GenBank HUMNFL、L04147を参照されたい);シナプシンプロモーター(例えば、GenBank HUMSYNIB、M55301を参照されたい);thy-1プロモーター(例えば、Chen et al.,(1987)Cell,51:7-19;Llewellyn et al.(2010)Nat.Med.,16(10):1161-1166を参照されたい);セロトニン受容体プロモーター(例えば、GenBank S62283を参照されたい);チロシンヒドロキシラーゼプロモーター(TH)(例えば、Oh et al.,(2009)Gene Ther.,16:437;Sasaoka et al.,(1992)Mol.Brain Res.,16:274;Boundy et al.,(1998)J.Neurosci.,18:9989;及びKaneda et al.,(1991)Neuron,6:583-594を参照されたい);GnRHプロモーター(例えば、Radovick et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88:3402-3406を参照されたい);L7プロモーター(例えば、Oberdick et al.,(1990)Science,248:223-226を参照されたい);DNMTプロモーター(例えば、Bartge et al.,(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:3648-3652を参照されたい);エンケファリンプロモーター(例えば、Comb et al.,(1988)EMBO J.,17:3793-3805を参照されたい);ミエリン塩基性タンパク質(MBP)プロモーター;Ca2+-カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII-アルファ(CamKIM)プロモーター(例えば、Mayford et al.,(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:13250;及びCasanova et al.,(2001)Genesis,31:37を参照されたい);CMVエンハンサー/血小板由来成長因子-pプロモーター(例えば、Liu et al.,(2004)Gene Ther.,11:52-60を参照されたい);などが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、最小ヒトシナプシン1プロモーター(SYN)の一部又は全部が使用される。Kugler et al.,(2003)Gene Ther.,10(4):337-47;Thiel et al,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88(8)3431-5;Castle et al.,(2016)Methods Mol.Biol.,1382:133-49;McLean et al.,(2014)Neurosci.Lett.,576:73-78;Kugler et al.,(2003)Virology,311(1):89-95。
【0199】
いくつかの実施形態では、組織又は細胞特異的プロモーターは、非神経細胞におけるものと比較して、神経細胞又は組織において、作動可能に連結されたミニ遺伝子及び/又は導入遺伝子のより高い発現を提供するように構成される。いくつかの実施形態では、神経特異的プロモーターは、非神経細胞におけるものと比較して、神経において、作動可能に連結されたミニ遺伝子及び/又は導入遺伝子のより高い発現を提供するように構成される。神経細胞又は組織の例には、ニューロン及びシュワン細胞、グリア細胞、星状細胞などを含むものが含まれる。非神経細胞の例には、肝細胞、心筋細胞、赤血球、上皮細胞などが含まれるが、これらに限定されない。作動可能に連結されたミニ遺伝子及び/又は導入遺伝子のより高いレベルの発現は、ミニ遺伝子及び/又は導入遺伝子の転写から産生されるRNA転写物の数の増加を含み得る。いくつかの実施形態では、産生されたRNA転写物の数は、PCRによって測定され得る。いくつかの他の実施形態では、産生されたRNA転写物の数は、RT-PCR、例えばqPCRによって測定され得る。いくつかの実施形態では、産生されたRNA転写物の数は、配列決定によって測定され得る。いくつかの実施形態では、産生されたRNA転写物の数は、単一分子蛍光インサイチューハイブリダイゼーション(FISH)によって測定され得る。いくつかの実施形態では、産生されたRNA転写物の数は、ノーザンブロット分析によって測定され得る。ミニ遺伝子及び/又は導入遺伝子が目的のタンパク質をコードする場合、作動可能に連結されたミニ遺伝子及び/又は導入遺伝子のより高いレベルの発現は、代替的又は追加的に、産生されるタンパク質の量の増加を含み得る。いくつかの実施形態では、産生されたタンパク質の量は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって測定され得る。いくつかの実施形態では、産生されたタンパク質の量は、ウエスタンブロット分析によって測定され得る。いくつかの実施形態では、産生されたタンパク質の量は、免疫染色によって測定され得る。いくつかの実施形態では、産生されたタンパク質の量は、時間分解フェルスター共鳴エネルギー転移(TR-FRET)によって測定され得る。いくつかの実施形態では、産生されるタンパク質の量は、免疫組織化学(IHC)によって測定され得る。いくつかの実施形態では、発現のレベルは、これらの又は他の方法のうちの複数によって測定される。
【0200】
ポリAシグナル配列
様々な実施形態では、本明細書に開示される核酸、ベクター及び他の組成物は、1つ以上のポリアデニル化(ポリA)シグナル配列を含み得る。ポリアデニル化シグナル配列は、補助配列エレメントが隣接する中央配列(例えば、AAUAAA)を含み得る。理論よって拘束されるものではないが、配列は、転写物の末端をシグナルし、ポリアデニレートポリメラーゼによってホモポリマーA配列が3’末端に付加される部位として機能し得る。
【0201】
SV40ポリA、ヒト成長ホルモン(HGH)ポリA、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリA、ベータグロビンポリA、アルファグロビンポリA、オボアルブミンポリA、カッパ軽鎖ポリA及び合成ポリAを含むが、これらに限定されない、当技術分野で公知のポリアデニル化シグナル配列が企図される。ポリAシグナル配列は、本明細書に開示される核酸及び他の組成物において使用され得る。
【0202】
転写後調節エレメント
様々な実施形態では、本明細書に開示される核酸、導入遺伝子及び他の組成物は、1つ以上の転写後調節エレメント(PRE)、例えば導入遺伝子の発現を増強又は他の方法で改善することができるものを含み得る。理論に拘束されるものではないが、PREはmRNAの安定性及び3’末端形成を可能にすることによって発現を増強し得、且つ/又はスプライシングされていないmRNAの核細胞質への輸送を促進し得る。PREは、RNA結合タンパク質(RBP)又はマイクロRNAの結合部位も含み得る。
【0203】
例示的なPREには、B型肝炎ウイルス(HPRE)、コウモリウイルス(BPRE)、ジリスウイルス(GSPRE)、ホッキョクリスウイルス(ASPRE)、アヒルウイルス(DPRE)、チンパンジーウイルス(CPRE)、ウーリーモンキーウイルス(WMPRE)又はウッドチャックウイルス(WPRE)からのPREが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、核酸又は導入遺伝子は、PREを含む。特定の実施形態では、PREは、HPREを含む。いくつかの実施形態では、合成PREが使用される。
【0204】
ウイルスベクター
本明細書で論じられる核酸(例えば、ミニ遺伝子、導入遺伝子、プロモーター、PRE及びポリAなどの他の核酸成分並びにそれらの組み合わせ)を含むベクターも本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、ベクターは、導入遺伝子を標的細胞に送達するために、且つ/又は標的細胞におけるその導入遺伝子の発現を増加させるために役立ち得る。様々な実施形態では、ベクターは、スプライス調節剤と組み合わせた使用により、タンパク質、抗体又は機能的結合フラグメント、酵素など、及び/又は核酸、例えばCRISPRなどで使用するためのshRNA、siRNA、gRNAなどの発現を調節するために使用され得る。
【0205】
例として、ベクターは、目的の遺伝子の発現を増加させる本明細書に記載の転写因子を含み得る。ベクターは、遺伝情報を別の細胞に転送するのに役立ち得る。ベクターは、例えば、クローニングベクター又はプラスミドとして、クローニングに使用され得る。ベクターは、例えば、ヒト神経細胞における、細胞感染などの他の目的のために、発現、例えば治療用タンパク質及び/又はRNA発現を駆動するようにも特異的に設計され得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される核酸を含むベクターが企図される。ベクターは、DNAベクター、環状ベクター又はプラスミドであり得る。いくつかの実施形態では、ベクターは二本鎖である。他の実施形態では、ベクターは一本鎖である。
【0206】
いくつかの実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ベクターは、導入遺伝子配列を神経細胞又は組織に送達するために使用されるウイルスベクターである。ベクターに使用されるウイルスの例には、レトロウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス及び他のハイブリッドウイルスが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、キメラAAVベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、DNAウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、バキュロウイルスベクター又はそれらの任意の変異体若しくは誘導体である。
【0207】
理論に拘束されるものではないが、本明細書に開示されるウイルスベクターは、それらが感染する宿主細胞にそれらのゲノムを挿入して、その核酸配列を宿主に送達し得る。挿入されたウイルスゲノムは、エピソームであるか、又はランダムであるか又は標的化され得る部位で宿主細胞の染色体に組み込まれ得る。一実施形態では、ベクターは、導入遺伝子配列を細胞に送達するために使用されるウイルスベクターである。ベクターに使用されるウイルスの例には、レトロウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス及び他のハイブリッドウイルスが含まれるが、これらに限定されない。Warnock et al.,(2011)Methods Mol.Biol.,737:1-25。レンチウイルスは、有意な量のウイルスDNAを宿主細胞に組み込むことができるレトロウイルスの属であり、遺伝子送達の効率的な方法となる。一方、アデノウイルスは、宿主細胞の染色体に組み込まれていない遺伝物質を導入するため、宿主細胞を破壊するリスクが減少する。いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、キメラAAVベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、DNAウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、バキュロウイルスベクター又はそれらの任意の変異体若しくは誘導体である。
【0208】
いくつかの実施形態では、導入遺伝子を含むベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)であるか又はそれに由来する。いくつかの実施形態では、ベクターは、組換えアデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)である。rAAVゲノムは、転写因子をコードする配列に隣接する1つ以上のAAV ITRを含み得る。実施形態では、ベクターは、本明細書に開示されるものなどの他の転写制御エレメント、例えば導入遺伝子配列の発現を駆動するために標的細胞において機能的であるプロモーター、エンハンサー、PRE及び/又はポリA配列をさらに含む。導入遺伝子配列は、哺乳動物細胞で発現される場合にRNA転写物のプロセシングを容易にするイントロン配列も含み得る。
【0209】
様々な実施形態では、AAVベクター、例えばrAAVベクターは、自己相補的AAVベクター(scAAV)である。本明細書で使用される場合、「自己相補的」とは、コード領域が、例えば、1つ以上の末端逆位反復(ITR)において、分子内二本鎖テンプレートを形成するように設計されていることを意味する。理論に拘束されるものではないが、典型的なAAVゲノムは一本鎖DNAテンプレートであるため、AAVゲノムの律速段階には第2鎖合成が関与することが多い。Ferrari et al,(1996)J.Virology,70(5):3227-34;Fisher et al,(1996)J.Virology,70(1):520-32。しかし、scAAVゲノムの場合、感染すると、scAAVの2つの相補的な半分が会合して、第2の鎖の細胞媒介性合成を待つのではなく複製及び転写の準備ができている1つの二本鎖DNA(dsDNA)単位を形成し得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるrAAVベクターは、scAAVベクターであり、より速い且つ/又は増加した発現を提供する。
【0210】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるrAAVベクターは、1つ以上(例えば、全て)のAAV rep及び/又はcap遺伝子を欠如している。AAVベクターは、任意の適切なAAV血清型からの核酸配列(例えば、DNA)を(例えば、そのITRに)含み得る。適切なAAV血清型には、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAVrh8、AAVrh10、AAV.Anc80、AAV.Anc80L65、AAV-DJ及びAAV-DJ/8、AAVrh37、AAV-DJ、AAV-DJ/8、AAV-PHP.B、AAV-PHP.B2、AAV-PHP.B3、AAV-PHP.A、AAV-PHP.eB及びAAV-PHP.Sが含まれるが、これらに限定されない。例えば、AAVベクター、例えばscAAVベクターは、AAV2からの核酸配列、例えばAAV2からのITR配列を含み得る。AAVベクター、例えばscAAVベクターは、複数の血清型からの核酸も含み得る。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は、当技術分野で公知である。例えば、AAV1の全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_002077で提供され;AAV2の全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC 001401及びSrivastava et al.,Virol.,45:555-564{1983)で提供され;AAV3の全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_1829で提供され;AAV4の全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_001829で提供され;AAV5ゲノムはGenBankアクセッション番号AF085716で提供され;AAV-6の全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_001862で提供され;AAV7及びAAV8ゲノムの少なくとも一部は、それぞれGenBankアクセッション番号AX753246及びAX753249で提供され;AAV9ゲノムはGao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)で提供され;AAV10ゲノムはWilliams,(2006)Mol.Ther.,13(1):67-76で提供され;AAV11ゲノムはMori et al.,(2004)Virology,330(2):375-383で提供される。
【0211】
いくつかの実施形態では、機能的末端逆位反復(ITR)配列は、例えば、AAVビリオンのレスキュー、複製及びパッケージングをサポートするために使用され得る。したがって、本明細書に開示されるAAVベクターは、シスでウイルスの複製及びパッケージング(例えば、機能的ITR)を提供する配列を含み得る。ITRは、野生型ヌクレオチド配列であり得るが、そうである必要はなく、配列が機能的レスキュー、複製及びパッケージングを提供する限り、例えばヌクレオチドの挿入、欠失又は置換によって変更され得る。ITRは、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10及びAAV-11を含むが、これらに限定されない、組換えウイルスが誘導され得る任意のAAV血清型からのものであり得る。AAV血清型のゲノムのヌクレオチド配列は、当技術分野で公知である。例えば、AAV-1の全ゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_002077で提供され;AAV-2の全ゲノムは、GenBankアクセッション番号NC 001401及びSrivastava et al.,Virol.,45:555-564{1983)で提供され;AAV-3の全ゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_1829で提供され;AAV-4の全ゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_001829で提供され;AAV-5ゲノムは、GenBankアクセッション番号AF085716で提供され;AAV-6の全ゲノムは、GenBankアクセッション番号NC_001862で提供され;AAV-7及びAAV-8ゲノムの少なくとも一部は、それぞれGenBankアクセッション番号AX753246及びAX753249で提供され;AAV-9ゲノムは、Gao et al.,(2004)J.Virol.,78:6381-6388で提供され;AAV-10ゲノムは、Williams,(2006)Mol.Ther.,13(1):67-76で提供され;AAV-11ゲノムは、Mori et al.,(2004)Virology,330(2):375-383で提供される。一実施形態では、ベクターは、AAV-2由来のITRを有するAAV-9ベクターである。
【0212】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるrAAVベクターは、1つ以上のITR、例えば2つのITRを含み、1つは導入遺伝子(例えば、hPGRNをコードする)及び/又は上で論じた他の核酸エレメントの上流にあり、もう1つは下流にある。いくつかの実施形態では、例えばscAAVベクターにおいて、本明細書に開示される核酸は、プロモーター、ミニ遺伝子、導入遺伝子、転写後調節エレメント及び/又はポリAに対して5’に配置された第1のITR及び3’に配置された第2のITRを含み、例えば、ITRは、独立して、もう1つのエレメントの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、50、100、150、200、250ヌクレオチド5’及び/又は3’側にある。ITR配列は、野生型であり得るか、又は例えばそれが野生型ITRの1つ以上の機能を保持する限り、1つ以上の変異を含み得る。いくつかの実施形態では、野生型ITRは、末端分解部位の欠失を含むように改変され得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるscAAVは、2つのITR配列を含み得、ここで、両方は、野生型、変異体又は改変されたAAV ITR配列である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのITR配列は、野生型、変異体又は改変されたAAV ITR配列である。いくつかの実施形態では、2つのITR配列の両方は、野生型、変異体又は改変されたAAV ITR配列である。いくつかの実施形態では、「左」又は5’-ITRは、自己相補的ゲノムの産生を可能にする改変されたAAV ITR配列であり、「右」又は3’-ITRは、野生型AAV ITR配列である。いくつかの実施形態では、「右」又は3’-ITRは、自己相補的ゲノムの産生を可能にする改変されたAAV ITR配列であり、「左」又は5’-ITRは、野生型AAV ITR配列である。いくつかの実施形態では、ITR配列は、野生型、変異体又は改変されたAAV2 ITR配列である。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのITR配列は、野生型、変異体又は改変されたAAV2 ITR配列である。いくつかの実施形態では、2つのITR配列の両方は、野生型、変異体又は改変されたAAV2 ITR配列である。いくつかの実施形態では、「左」又は5’-ITRは、自己相補的ゲノムの産生を可能にする改変されたAAV2 ITR配列であり、「右」又は3’-ITRは、野生型AAV2 ITR配列である。いくつかの実施形態では、「右」又は3’-ITRは、自己相補的ゲノムの産生を可能にする改変されたAAV2 ITR配列であり、「左」又は5’-ITRは、野生型AAV2 ITR配列である。1つ以上のITRに使用され得る例示的な配列を本明細書に記載する。国際公開第2019/094253号パンフレット(国際出願PCT/US2018/058744号明細書)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に提供されるAAV ITRの実施形態も、本明細書に開示されるいずれかのAAV ITRに使用され得る。
【0213】
いくつかの実施形態では、ベクターはrAAVである。いくつかの実施形態では、rAAVベクターは、1つ以上の(例えば、全ての)AAV rep及び/又はcap遺伝子を欠如している。AAVベクターは、任意の適切なAAV血清型からの核酸配列(例えば、DNA)を(例えば、そのITRに)含み得る。適切なAAV血清型には、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10及びAAV-11が含まれるが、これらに限定されない。例えば、AAVベクター、例えばscAAVベクターは、AAV-2からの核酸配列、例えばAAV-2からのITR配列を含み得る。AAVベクター、例えばscAAVベクターは、複数の血清型からの核酸も含み得る。GenBankアクセッション番号NC 001401及びSrivastava et al.,Virol.,45:555-564{1983);GenBankアクセッション番号NC_1829;GenBankアクセッション番号NC_001829;GenBankアクセッション番号AF085716;GenBankアクセッション番号NC_001862;GenBankアクセッション番号AX753246及びAX753249;Gao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004);Williams,(2006)Mol.Ther.,13(1):67-76;及びMori et al.,(2004)Virology,330(2):375-383。
【0214】
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターにおける機能的末端逆位反復(ITR)配列は、例えば、AAVビリオンのレスキュー、複製及びパッケージングをサポートするために使用され得る。したがって、本明細書に開示されるAAVベクターは、シスでウイルスの複製及びパッケージング(例えば、機能的ITR)を提供する配列を含み得る。ITRは、野生型ヌクレオチド配列である必要はなく、配列が機能的レスキュー、複製及びパッケージングを提供する限り、例えばヌクレオチドの挿入、欠失又は置換によって変更され得る。ITRは、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10及びAAV-11を含むが、これらに限定されない、組換えウイルスが誘導され得る任意のAAV血清型からのものであり得る。GenBankアクセッション番号NC_002077;GenBankアクセッション番号NC 001401及びSrivastava et al.,Virol.,45:555-564{1983);GenBankアクセッション番号NC_1829;GenBankアクセッション番号NC_001829;GenBankアクセッション番号AF085716;GenBankアクセッション番号NC_001862;それぞれGenBankアクセッション番号AX753246及びAX753249;Gao et al.,(2004)J.Virol.,78:6381-6388;Williams,(2006)Mol.Ther.,13(1):67-76;及びMori et al.,(2004)Virology,330(2):375-383。一実施形態では、ベクターは、AAV-2由来のITRを有するAAV-9ベクターである。
【0215】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるベクター又は核酸配列は、クローニングベクター又は発現ベクターを形成する。そのような実施形態では、ベクターは、ベクターの複製又は維持を容易にする他の成分を含み得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、クローン選択のための選択マーカーをさらに含む。いくつかの実施形態では、ベクター中の選択マーカーは、原核生物又は真核生物の抗生物質耐性遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、ベクター中の選択マーカーは、カナマイシン耐性遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、ベクター中の選択マーカーは、アンピシリン耐性遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、ベクターは、ピューロマイシン耐性遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態では、ベクター中の選択マーカーは、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含む。
【0216】
組換えウイルス
様々な実施形態では、本明細書で論じられる核酸及びベクターは、組換えウイルス粒子などの1つ以上のウイルス粒子中に存在し得る。組換えウイルスは、組換え手段によって生成されたウイルスである。様々な異なるウイルスタイプ、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、AAV、マウス白血病ウイルスなどが使用され得る。理論に拘束されるものではないが、レンチウイルスなどのレトロウイルスから送達されるベクターは、それらが導入遺伝子の長期の安定した組み込み及び娘細胞への伝播を可能にするため、長期遺伝子導入を提供し得、また低い免疫原性を提供し得る。他の適切なレトロウイルスには、ガンマレトロウイルスが含まれる。例示的なガンマレトロウイルスベクターは、マウス白血病ウイルス(MLV)、脾限局巣形成ウイルス(SFFV)及び骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)並びにそれら由来のベクターを含む。他のガンマレトロウイルスベクターは、例えば、Tobias Maetzig et al.,“Gammaretroviral Vectors:Biology,Technology and Application”Viruses.2011 Jun;3(6):677-713に記載される。いくつかの実施形態では、ウイルスは、本明細書に開示される核酸又はベクターを含む組換えアデノウイルスである。いくつかの実施形態では、ウイルスは、本明細書に開示される核酸又はベクターを含む組換えAAVである。
【0217】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される核酸又はベクターは、組換えウイルスの製造における使用のためのものである。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される核酸又はベクターは、rAAVの製造における使用のためのものである。したがって、様々な実施形態では、ウイルス組成物(ビリオンとも呼ばれる)、例えば上記で開示されるウイルスベクター又は核酸を含むrAAVウイルス組成物も本明細書で開示される。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、アデノ随伴ウイルス(AAV)又はその任意の変異体若しくは誘導体である。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、キメラAAV又はその任意の変異体若しくは誘導体である。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、アデノウイルス又はその任意の変異体若しくは誘導体である。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、レトロウイルス又はその任意の変異体若しくは誘導体である。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、レンチウイルス又はその任意の変異体若しくは誘導体である。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、DNAウイルス又はその任意の変異体若しくは誘導体である。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、単純ヘルペスウイルス又はその任意の変異体若しくは誘導体である。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、バキュロウイルス又はその任意の変異体若しくは誘導体である。
【0218】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAVは、1つ以上のAAVキャプシドタンパク質を含み得る。AAVキャプシドタンパク質は、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAVrh8、AAVfh10、AAV-DJ、AAV-DJ/8、AAV-PHP.B、AAV-PHP.B2、AAV-PHP.B3、AAV-PHP.A、AAV-PHP.eB及びAAV-PHP.Sを含むが、これらに限定されない、組換えウイルスが誘導され得る任意のAAV血清型からのものであり得る。いくつかの実施形態では、AAV中の1つ以上のキャプシドタンパク質は、AAV-9からのものである。理論に拘束されるものではないが、典型的にはAAVにおいて、3つのキャプシドタンパク質、VP1、VP2及びVP3が多量体化してキャプシドを形成する。キャプシドタンパク質のポリペプチド配列は当技術分野で公知であり、またAAVのゲノムに由来し得る。これらは、本明細書に開示されるAAVウイルス組成物における例示的なキャプシドとして使用することができる。例えば、AAV-1の全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_002077で提供され;AAV-2の全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC 001401及びSrivastava et al.,Virol.,45:555-564{1983)で提供され;AAV-3の全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_1829で提供され;AAV-4の全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_001829で提供され;AAV-5ゲノムはGenBankアクセッション番号AF085716で提供され;AAV-6の全ゲノムはGenBankアクセッション番号NC_001862で提供され;AAV-7及びAAV-8ゲノムの少なくとも一部は、それぞれGenBankアクセッション番号AX753246及びAX753249で提供され;AAV-9ゲノムはGao et al.,J.Virol.,78:6381-6388(2004)で提供され;AAV-10ゲノムはWilliams,(2006)Mol.Ther.,13(1):67-76で提供され;AAV-11ゲノムはMori et al.,(2004)Virology,330(2):375-383で提供される。キャプシドタンパク質AAV-PHP.B、AAV-PHP.B2、AAV-PHP.B3、AAV-PHP.A、AAV-PHP.eB又はAAV-PHP.Sは、Deverman et al.,(2016)Nat.Biotech.,34:204-209及びChan et al.,(2017)Nat.Neurosci.,20:1172-1179に提供される。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、1つ以上のAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10及びAAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAV-DJ、AAV-DJ/8、AAV-PHP.B、AAV-PHP.B2、AAV-PHP.B3、AAV-PHP.A、AAV-PHP.eB若しくはAAV-PHP.Sキャプシド血清型又はその機能的変異体を含むAAVである。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、複数のAAV血清型からのキャプシドの組み合わせを含むAAVである。
【0219】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAV組成物は、ウイルスDNA複製(rep)、キャプシド形成/パッケージング及び宿主細胞染色体組み込みを指示する1つ以上のシス作用性配列を含み、ITR内に含まれる。いくつかの実施形態では、これらの配列の1つ以上は、シスではなくトランスで、例えば宿主細胞でのウイルス製造プロセス中に別個のプラスミド上にも存在し得る。典型的には、3つのAAVプロモーター(その相対的マップ位置でp5、p19及びp40と名付けられている)は、野生型ウイルスのrep及びcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。いくつかの実施形態では、これらのプロモーター及び/又はオープンリーディングフレームの1つ以上は、本明細書に開示されるAAVベクター及び/又はAAVビリオンにおいてシスで存在するか、又はAAVウイルス製造プロセス中、例えばウイルスを産生する宿主細胞において、別個のプラスミド上に存在する。2つのrepプロモーター(p5及びp19)は、単一のAAVイントロン(ヌクレオチド2107及び2227)の特異的スプライシングと相まって、rep遺伝子から4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52及びrep40)の産生を生じ得る。repタンパク質は、ウイルスゲノムの複製に最終的に関与する複数の酵素特性を有する。cap遺伝子は、典型的には、p40プロモーターから発現され、3つのキャプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3をコードする。選択的スプライシング及び非コンセンサス翻訳開始部位は、3つの関連するキャプシドタンパク質の産生に関与している。単一のコンセンサスポリアデニル化部位は、AAVゲノムのマップ位置95に存在する。AAVのライフサイクル及び遺伝学は、Muzyczka,(1992)Curr.Topics Microbiol.Imm.,158:97-129で概説されている。
【0220】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示されるAAVで使用されるAAVキャプシドタンパク質VP1、VP2、VP3は、以下の配列によってコードされるか又はそれを含む。
VP1核酸(配列番号84):
【化1】

VP2核酸(配列番号85):
【化2】

VP3核酸(配列番号86):
【化3】

VP1タンパク質(配列番号87):
【化4】

VP2タンパク質(配列番号88):
【化5】

VP3タンパク質(配列番号89):
【化6】
【0221】
一実施形態では、組換えウイルスは、AAV9キャプシド血清型又はその任意の変異体若しくは誘導体を含むAAVである。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、AAV9キャプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3を含む。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、scAAVである。
【0222】
様々な実施形態では、本開示の標的細胞は、任意の哺乳動物細胞型であり得る。本開示のいくつかの態様では、核酸及びベクターは、神経組織又は体液又は細胞における発現を調節する。いくつかの実施形態では、神経組織は脳である。いくつかの実施形態では、神経組織は脳の前頭葉である。いくつかの実施形態では、神経組織は脳の側頭葉である。いくつかの実施形態では、神経組織は中枢神経系である。いくつかの実施形態では、神経組織は脊髄である。いくつかの実施形態では、神経細胞はヒト神経細胞である。いくつかの実施形態では、神経細胞はニューロンである。いくつかの実施形態では、神経細胞は星状細胞である。いくつかの実施形態では、神経液は脳脊髄液である。いくつかの実施形態では、非神経組織は肝臓である。いくつかの実施形態では、非神経体液は血漿である。いくつかの実施形態では、非神経細胞は肝細胞である。いくつかの実施形態では、非神経細胞は星状脂肪蓄積細胞である。いくつかの実施形態では、非神経細胞はクッパー細胞である。いくつかの実施形態では、非神経細胞は、肝臓内皮細胞である。いくつかの実施形態では、非神経体液は血漿である。いくつかの実施形態では、非神経体液は血清である。いくつかの実施形態では、非神経体液は血液である。
【0223】
組換えウイルスの産生方法
様々な実施形態では、ニューロン特異的プロモーターを含む組換えウイルスを産生する方法も本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、核酸配列、例えばAAV又は他のウイルスゲノムをコードするプラスミドは、組換えウイルスを産生するために使用される。いくつかの実施形態では、AAV rep遺伝子及び/又はAAV cap遺伝子を含む核酸配列、例えばプラスミドもAAV又は他のウイルスを調製する際に使用される。アデノウイルスヘルパー機能遺伝子を含む核酸配列、例えばプラスミドも本明細書に開示される。いくつかの実施形態では、AAV rep、AAV cap及び/又はアデノウイルスヘルパー遺伝子をコードする核酸は、同じ構造、例えば単一のプラスミドに存在し得るか、又はそれらは、別個の構造に存在し得る。いくつかの実施形態では、1つ以上のプラスミドは、AAVベクターをコードする核酸と共にコンピテント細胞にコトランスフェクトされ、細胞は、組換えウイルスを産生するために培養される。場合により、AAVウイルスゲノム並びにAAV rep及び/又はcap遺伝子をコードするプラスミドは、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠失アデノウイルス又はヘルペスウイルス)による感染が許容される細胞に導入される。いくつかの実施形態では、rAAVゲノムは、トランスフェクション後、細胞内でAAVキャプシドタンパク質を有する感染性ウイルス粒子へと構築される。パッケージングされるAAVゲノム、rep及びcap遺伝子並びにヘルパーウイルス機能が細胞に提供される、rAAV粒子を産生するための技術は、当技術分野で公知であり、例えばエレクトロポレーションを含み得る。いくつかの実施形態では、rAAVの産生は、単一の細胞(本明細書ではパッケージング細胞として示される)内に存在する以下の成分を含む:rAAVベクター、rAAVベクターとは別の(すなわちその中にない)AAV rep及びcap遺伝子並びにヘルパーウイルス機能。疑似型化されたrAAVの生成は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際公開第01/83692号パンフレットに開示されている。様々な実施形態では、AAVキャプシドタンパク質は、組換えベクターの送達を増強するように改変され得る。キャプシドタンパク質の改変は、当技術分野で一般的に知られている。例えば、米国特許出願公開第2005/0053922号明細書及び米国特許出願公開第2009/0202490号明細書(これらの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0224】
様々な実施形態では、ウイルスベクター産生の一般原理を利用して、本明細書に開示されるベクター及びウイルス、例えばrAAVを産生し得る。Carter,(1992)Curr.Opinions Biotech.,1533-539;Muzyczka,(1992)Curr.Topics Microbial.Immunol.,158:97-129。様々なアプローチがRatschin et al.,(1984)Mol.Cell.Biol.,4:2072;Hennonat et al.,(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466;Tratschin et al.,(1985)Mol.Cell.Biol.,5:3251;McLaughlin et al.,(1988)J.Virol.,62:1963;Lebkowski et al.,(1988)Mol.Cell.Biol.,7:349;Samulski et al.(1989)J.Virol.,63:3822-3828;米国特許第5,173,414号明細書;国際公開第95/13365号パンフレット及び対応する米国特許第5,658,776号明細書;国際公開第95/13392号パンフレット;国際公開第96/17947号パンフレット;PCT/US98/18600号明細書;国際公開第97/09441号パンフレット(PCT/US96/14423号明細書);国際公開第97/08298号パンフレット(PCT/US96/13872号明細書);国際公開第97/21825号パンフレット(PCT/US96/20777号明細書);国際公開第97/06243号パンフレット(PCT/FR96/01064号明細書);国際公開第99/11764号パンフレット;Perrin et al.,(1995)Vaccine,13:1244-1250;Paul et al.,(1993)Hum.Gene Ther.,4:609-615;Clark et al.(1996)Gene Therapy,3:1124-1132;米国特許第5,786,211号明細書;米国特許第5,871,982号明細書;及び米国特許第6,258,595号明細書に開示される。前述の文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、特に、rAAV産生に関連する文献のセクションが重視される。
【0225】
パッケージング細胞を産生する例示的な方法は、AAV粒子の産生に必要な全ての成分を安定して発現する細胞株を作製することである。例えば、AAV rep及びcap遺伝子を欠如するrAAVベクターをコードするプラスミド(又は複数のプラスミド)、rAAVベクターとは別個のAAV rep及びcap遺伝子及びネオマイシン耐性遺伝子などの選択マーカーが、細胞のゲノムに組み込まれる。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulski et al.,(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含む合成リンカーの追加(Laughlin et al.,(1983)Gene,23:65-73)又は直接の平滑末端ライゲーションによるもの(Senapathy et al.,(1984)J.Biol.Chem.,259:4661-4666)などの手順によって細菌プラスミドに導入されている。次に、パッケージング細胞株を、アデノウイルスなどのヘルパーウイルス及び/又はヘルパーウイルスをコードするプラスミドに感染させる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模産生に適していることである。適切な方法の他の例は、プラスミドではなくアデノウイルス又はバキュロウイルスを使用して、rAAVベクター及び/又はrep及びcap遺伝子をパッケージング細胞に導入する。
【0226】
いくつかの実施形態では、組換えウイルスを産生する方法は、パッケージ化される核酸を提供することを含む。いくつかの実施形態では、核酸はプラスミドである。他の実施形態では、核酸は、第1のAAV末端反復と第2のAAV末端反復との間に挿入された導入遺伝子配列を含む。いくつかの実施形態では、導入遺伝子は、ヒトプログラニュリン(hPGRN)をコードする。いくつかの実施形態では、組換えウイルスを産生する方法は、1つ以上の追加の核酸を提供することを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のさらなる核酸は、AAV rep遺伝子及び/又はAAV cap遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の追加の核酸は、AAV血清型1、AAV血清型2、AAV血清型3、AAV血清型4、AAV血清型5、AAV血清型6、AAV血清型7、AAV血清型8又はAAV血清型9に由来するAAV rep遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の追加の核酸は、AAV血清型1、AAV血清型2、AAV血清型3、AAV血清型4、AAV血清型5、AAV血清型6、AAV血清型7、AAV血清型8又はAAV血清型9に由来するAAV cap遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の追加の核酸は、1つ以上のアデノウイルスヘルパー機能遺伝子を含む。
【0227】
いくつかの実施形態では、核酸は、コンピテント細胞又はパッケージング細胞にコトランスフェクトされる。コトランスフェクションの方法は当技術分野で公知であり、リポフェクタミン、エレクトロポレーション及びポリエチレンイミンによるトランスフェクションが含まれるが、これらに限定されない。コンピテント細胞又はパッケージング細胞は、浮遊細胞又は付着細胞で培養された非付着細胞であり得る。一実施形態では、HeLa細胞、HEK293細胞及びPerC.6細胞(同族の293株)などの任意の適切なパッケージング細胞株が使用され得る。一実施形態では、パッケージング細胞はヒト細胞である。一実施形態では、パッケージング細胞はHEK293細胞である。一実施形態では、パッケージング細胞は昆虫細胞である。一実施形態では、パッケージング細胞はSf9細胞である。いくつかの実施形態では、方法は、トランスフェクトされた細胞を培養して組換えウイルスを産生することを含む。いくつかの実施形態では、方法は、組換えウイルスを回収することを含む。組換えウイルスを回収する方法には、例えば、米国特許第6,143,548号明細書及び米国特許第9,408,904号明細書に開示される方法が含まれる。いくつかの実施形態では、組換えウイルスは、細胞培養培地に分泌され、培地から精製される。いくつかの実施形態では、パッケージング細胞は溶解され、内容物は組換えウイルスを回収するために精製される。いくつかの実施形態では、ウイルスは、ろ過又は遠心分離によってパッケージング細胞から回収される。いくつかの実施形態では、ウイルスは、クロマトグラフィーによってパッケージング細胞から回収される。
【0228】
様々な実施形態では、本明細書に開示される核酸を含む細胞、本明細書に開示されるベクターを含む細胞又は本明細書に開示されるウイルスを含む細胞が本明細書に開示される。本明細書に開示される核酸を含む細胞、本明細書に開示されるベクターを含む細胞又は本明細書に開示されるウイルスを含む細胞は、ヒト細胞であり得る。本明細書に開示される核酸を含む細胞、本明細書に開示されるベクターを含む細胞又は本明細書に開示されるウイルスを含む細胞は、昆虫細胞でもあり得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される核酸を含む細胞、本明細書に開示されるベクターを含む細胞又は本明細書に開示されるウイルスを含む細胞は、HEK293細胞である。いくつかの他の実施形態では、本明細書に開示される核酸を含む細胞、本明細書に開示されるベクターを含む細胞又は本明細書に開示されるウイルスを含む細胞は、Sf9細胞である。
【0229】
いくつかの実施形態では、組換えウイルスを産生する方法は、昆虫細胞をトランスフェクトすることを含む。いくつかの実施形態では、方法は、本明細書に開示されるような核酸を含むバキュロウイルスで昆虫細胞をトランスフェクトすることを含む。いくつかの実施形態では、方法は、第1のAAV末端反復と第2のAAV末端反復との間に挿入された導入遺伝子配列を含む核酸を含むバキュロウイルスで昆虫細胞をトランスフェクトすることを含む。いくつかの実施形態では、方法は、1つ以上のさらなる核酸を含むバキュロウイルスで昆虫細胞をトランスフェクトすることを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のさらなる核酸は、AAV rep遺伝子及び/又はAAV cap遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の追加の核酸は、AAV血清型1、AAV血清型2、AAV血清型3、AAV血清型4、AAV血清型5、AAV血清型6、AAV血清型7、AAV血清型8又はAAV血清型9に由来するAAV rep遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の追加の核酸は、AAV血清型1、AAV血清型2、AAV血清型3、AAV血清型4、AAV血清型5、AAV血清型6、AAV血清型7、AAV血清型8又はAAV血清型9.cに由来するAAV cap遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の追加の核酸は、1つ以上のアデノウイルスヘルパー機能遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、昆虫細胞は、組換えウイルスを産生するのに適した条件下で培養される。いくつかの実施形態では、ウイルスは、昆虫細胞から回収される。いくつかの実施形態では、ウイルスは、ろ過又は遠心分離によって昆虫細胞から回収される。いくつかの実施形態では、ウイルスは、クロマトグラフィーによって昆虫細胞から回収される。
【0230】
医薬組成物
様々な実施形態では、医薬組成物が開示される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、本明細書に開示される1つ以上の核酸、ベクター及び/又はウイルスを含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、薬学的に許容される担体を含む。
【0231】
本開示による核酸、ベクター及び/又は組換えウイルス(例えば、ウイルス粒子)は、薬学的に有用な組成物を調製するために製剤化することができる。例示的な製剤には、例えば、参照によりその全体が組み込まれる米国特許第9,051,542号明細書及び米国特許第6,703,237号明細書に開示されているものが含まれる。本開示の組成物は、哺乳動物対象、例えばヒトへの投与のために製剤化することができる。いくつかの実施形態では、送達系は、筋肉内、皮内、粘膜、皮下、静脈内、髄腔内、注射可能なデポ型デバイス又は局所投与のために製剤化され得る。
【0232】
いくつかの実施形態では、送達系が溶液又は懸濁液として製剤化される場合、送達系は、許容される担体、例えば水性担体中にある。様々な水性担体、例えば水、緩衝水、0.8%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸などが使用され得る。これらの組成物は、滅菌及び/又は滅菌濾過され得る。得られた水溶液は、そのまま使用するためにパッケージ化され得るか又は凍結乾燥され得る。いくつかの実施形態では、凍結乾燥調製物は、投与前に滅菌溶液と組み合わされる。
【0233】
いくつかの実施形態では、組成物、例えば医薬組成物は、pH調整剤及び緩衝剤、張性調整剤、湿潤剤など、例えば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン等など、生理的条件に近似させるための薬学的に許容される補助物質を含み得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物は保存剤を含む。他のいくつかの実施形態では、医薬組成物は保存剤を含まない。
【0234】
使用方法及び処置
理論に拘束されるものではないが、本明細書に記載の核酸及び他の実施形態は、分子(例えば、目的の遺伝子)を条件付きで発現する方法で使用され、前記方法は、発現系、例えば本明細書に記載の核酸分子、本明細書に記載のベクターを含む細胞を、それを必要とする対象に投与することを含み、a)前記目的の遺伝子の発現は、そのような処置を受けない対象における前記目的の遺伝子の発現レベルと比べて例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、50又は100倍に増加する。
【0235】
一実施形態では、「処置する」という用語は、本明細書に開示される核酸、ベクター、組換えウイルス又は医薬組成物を含む組成物の有効用量又は有効複数用量を、それを必要とする動物(ヒトを含む)に投与するステップを含む。障害/疾患の発症前に用量が投与される場合、投与は予防的である。障害/疾患の発症後に用量が投与される場合、投与は治療的である。実施形態では、有効用量は、処置中の障害/疾患状態に関連する少なくとも1つの症状を検出可能に緩和(排除又は軽減)し、障害/疾患状態への進行を遅延させるか又は予防し、障害/疾患状態の進行を遅延させるか又は予防し、疾患の程度を軽減し、疾患の寛解(部分又は完全)をもたらし、且つ/又は生存期間を延長する用量である。この用語は、完全な処置(すなわち治癒)及び/又は予防を包含するが、それらを必要としない。いくつかの実施形態では、有効用量は、本明細書に開示されるウイルス1ミリリットル当たり1×1010~1×1015のベクターゲノム(vg/ml)を含む。いくつかの実施形態では、有効用量は、本明細書に開示されるウイルス1ミリリットル当たり1×10~1×1010のプラーク形成単位(pfu/ml)を含む。いくつかの実施形態では、有効用量は、本明細書に開示されるウイルス1ミリリットル当たり1×10~1×10の形質導入単位(TU/ml)を含む。処置のために企図される病状の例は、本明細書に記載されている。
【0236】
いくつかの実施形態では、処置される疾患は目的の遺伝子の変異によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、目的の遺伝子の変異は欠失変異である。いくつかの実施形態では、目的の遺伝子の変異はヌル変異である。いくつかの実施形態では、目的の遺伝子の変異はインデルである。いくつかの実施形態では、目的の遺伝子の変異は機能喪失変異である。いくつかの実施形態では、目的の遺伝子の変異はノックアウト変異である。いくつかの実施形態では、目的の遺伝子の変異はタンパク質の発現及び/又は機能の損失をもたらす。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される核酸、ベクター及び/又はウイルスによる処置を必要とする患者は、投与前に変異についてスクリーニングすることによって同定される。いくつかの実施形態では、スクリーニングは、対象から細胞又は組織のサンプルを取得し、サンプル中の1つ以上の遺伝子座を配列決定又は遺伝子型決定して、変異の存在を確認することを含む。いくつかの実施形態では、スクリーニングは、唾液、血液及び/又は皮膚細胞などの(ただし、これらに限定されない)サンプルからの遺伝物質に対して実施される。
【0237】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される核酸、ベクター、組換えウイルス又は医薬組成物は、それを必要とする対象を処置するための薬剤の製造において使用される。実施形態では、対象は、目的の遺伝子の1つ以上の変異によって引き起こされる障害に罹患している。
【0238】
様々な実施形態では、本明細書に開示される核酸、ベクター、組換えウイルス又は医薬組成物は、それを必要とする対象に、静脈内投与、直接脳投与(例えば、髄腔内、脳内及び/又は脳室内投与)、鼻腔内投与、耳内投与若しくは眼内経路投与又はそれらの任意の組み合わせによって送達され得る。いくつかの実施形態では、核酸、ベクター、組換えウイルス又は医薬組成物は、髄腔内投与によって送達される。いくつかの実施形態では、核酸、ベクター、組換えウイルス又は医薬組成物は、脳内又は脳室内投与経路によって送達される。いくつかの実施形態では、投与された核酸、ベクター、組換えウイルス又は医薬組成物は、最終的に、直接又は別の組織若しくは体液(例えば、血液)への投与後の移動により、脳、脊髄、末梢神経系及び/又はCNSに送達される。
【0239】
理論に拘束されるものではないが、いくつかの実施形態では、本明細書に開示される方法は、ポリペプチドをコードする遺伝子に、非機能性ポリペプチドを生じる変異を保有する細胞をレスキューし得る。いくつかの実施形態では、分子、例えばタンパク質又はリボ核酸(例えば、siRNA)を発現する方法は、本明細書に開示される核酸、ウイルスベクター、ウイルス又は医薬組成物を細胞に送達することを含む。いくつかの実施形態では、細胞は神経細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態では、細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態では、神経細胞はニューロンである。いくつかの実施形態では、送達はインビトロで行われる。いくつかの実施形態では、送達はエクスビボで行われる。いくつかの実施形態では、送達は、全身投与による。いくつかの実施形態では、送達は局所的である。いくつかの実施形態では、送達は、標的組織への直接適用によるものである。いくつかの実施形態では、標的組織は脳である。いくつかの実施形態では、送達は、脳への注射による。いくつかの実施形態では、送達は、髄腔内投与による。理論に拘束されるものではないが、本明細書に開示される方法は、リポフスチン沈着、星状細胞及びミクログリアの活性化及び/又は目的の遺伝子に変異を有するヒト又はマウスの脳における炎症を低減し、したがってそれを必要とする対象に潜在的な利益を提供し得る。
【0240】
様々な実施形態では、本明細書に開示される核酸、ベクター、ウイルス及び医薬組成物は、障害を処置するために使用され得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される核酸、ベクター、ウイルス及び/又は医薬組成物は、障害を処置するための医薬剤の製造で使用され得る。いくつかの実施形態では、障害は、目的の遺伝子の1つ以上の変異によって引き起こされる。
【0241】
本明細書には、本明細書に記載の核酸分子、本明細書に記載のベクター、本明細書に記載の組換えウイルス、本明細書に記載の細胞又は本明細書に記載の医薬組成物を含むキットも提供される。
【0242】
本開示の1つ以上の実施形態の詳細は、付随する上記の説明に示されている。本明細書に記載のものと類似の又は均等な方法及び材料のいずれも本開示の実施又は試験に使用可能であるが、好ましい方法及び材料を次に記載する。本開示の他の特徴、目的及び利点は、説明及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。本明細書及び添付の特許請求の範囲では、単数形は、特に文脈上明確な規定がない限り、複数形の参照を含む。特に、定義がない限り、本明細書で用いられる科学技術用語は、全て本開示が属する技術分野の当業者により通常理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に引用された特許及び刊行物の全ては、特に指示がない限り、適用可能な場合には参照により組み込まれる。以下の実施例は、本開示の好ましい実施形態をより詳細に例示するために提示される。これらの実施例は、添付の特許請求の範囲により規定される開示された主題の範囲を決して限定するものと解釈すべきではない。
【実施例
【0243】
実施例1:TREレポーター
TREレポーター構築物の全ては、hPGKプロモーター及びTet-On 3Gコーディング領域を除去し、TRE3Gsプロモーターの下流のマルチクローニング部位にホタルルシフェラーゼコーディング配列を挿入し、次いで、複数のテトラサイクリン応答エレメント(TRE)を欠失させ、リピートを7から3、2及び1に低減し、それぞれ3×TRE、2×TRE及び1×TREレポーターを発生させることにより、pLVX-TetOne-Puro(TaKaRa)から改変された。
【0244】
実施例2:ヒト及びマウスSCN1Aレポーター
ヒトSCN1Aプロモーターレポーターでは、GRCh38/hg38chr2:166127806-166130720(-鎖)に相関するヒトscn1a遺伝子の2673塩基対(bp)プロモーター+242bpエクソン配列のフラグメントをヒトゲノムDNAからPCR増幅し、ホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子の上流にクローニングした。マウスSCN1Aプロモーターレポーターでは、マウスscn1a遺伝子の3064bpのプロモーター及び256bpエクソン配列を含む配列をC57BL/6マウス系統のゲノムDNAからPCRにより増幅した。配列は、マウスゲノム参照配列GRCm38/mm10chr2:66409862-66413181(-鎖)に相関し、ベクター中のホタルルシフェラーゼレポーター遺伝子の直接上流にクローニングされた。
【0245】
実施例3:規格化用レポーター構築物
別々の構築物中のhGPKプロモーターの下流にウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子を直接クローニングした。全ての一過性トランスフェクションレポーターアッセイでホタルルシフェラーゼ活性を規格化するためにウミシイタケルシフェラーゼを使用した。
【0246】
実施例4:Cas9アクチベーター構築物
ミニヌクレアーゼデッドスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)Cas9(ミニSa-dCas9)(Ma et al.2018)を合成し、哺乳動物発現ベクター中の伸長因子1αプロモーター(EF1a)プロモーターの直接下流にクローニングした。いくつかの場合、それをベクター中にクローニングし、哺乳動物ユビキチンC(UbC)プロモーターにより駆動した。VP64、p65及びRta(VPR)並びにVPR3を含む転写活性化ドメイン(TAD)(Chavez et al.2015,Ma et al.2018)コーディング配列をCas9遺伝子の3’末端に連結した。ヒトインフルエンザヘマグルチニン(HA)タグ配列をTAD配列にインフレームで連結した。3つの核局在化配列(NLS)をSa-dCas9のN末端、Cas9及びTAD間並びにTAD及びHAタグ間に配置した。
【0247】
実施例5:sgRNA構築物
sgRNAの設計では、転写開始部位後の配列を含めて、TREプロモーター内のSa-Cas9プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)部位NNGRRT(RはG又はAのいずれかであり得る)、ヒト又はマウスscn1a近位プロモーター領域を決定することにより、潜在的Sa-Cas9結合部位をin silicoで同定した。SaCas9トランス活性化性crisprRNA(tracrRNA)を含有するベクター中に各PAMの5’側20ヌクレオチドをクローニングした。(Ma et al.2018)全てのgRNA-tracrRNAをU6プロモーターにより駆動した。
【0248】
実施例6:ジンクフィンガータンパク質アクチベーター構築物
Sa-dCas9-TAD15中のSa-dCas9コーディング配列をジンクフィンガータンパク質コーディング配列に置き換えた。E2C-TAD15では、erb2/Her2プロモーター領域のE2C部位に結合するジンクフィンガータンパク質のヒト化コーディング配列を刊行物(Beerli et al.PNAS 1998)に従って合成し、TAD15配列の5’末端に連結した。ZFP-C-TAD15では、ZFP-C(Zeitler et al.2019)のヒト化コーディング配列を合成し、TAD15配列の5’末端に連結した。(Beerli,PNAS 1998,Segal et al.PNAS 1999)に従って、SCN1A遺伝子を標的とする配列5’-GGC-GAG-GAT-GAA-GCC-GAG-3’(配列番号90)のジンクフィンガータンパク質Nav-ZF2をSp1Cジンクフィンガーフレームワークに構築し、TAD13、TAD14及びTAD15配列の5’末端にそれぞれ連結した。1つの核局在化配列(NLS)をジンクフィンガータンパク質のN末端に、他の1つをTAD及びHAタグ間に配置した。
【0249】
実施例7:細胞及び細胞トランスフェクション
10%熱不活化ウシ胎仔血清、1×GlutaMAX(Life Technologies,35050061)及び1×ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies,10378016)が補充された100μlのDMEM(Life Technologies,11965092)中25,000細胞/ウェルでポリ-D-リシン被覆96ウェル黒色透明底プレートにHEK293T細胞を37℃、5%CO2でプリンティングした。翌日、製造元の説明書に従ってリポフェクタミン3000(Life Technologies、L300015)を用いて培養物をトランスフェクトした。1トランスフェクションサンプル当たりの各プラスミドの量は次の通りあった。すなわち、20ngのミニSad-Cas9-VPR、60ngのsgRNAプラスミド、25ngのSCN1Aプロモーターレポータープラスミド及び0.6ngのhGPK-ウミシイタケルシフェラーゼプラスミド。2日後、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0250】
実施例8:ルシフェラーゼ活性の記録
トランスフェクションの2日後、培養培地を除去し、50ulフレッシュDMEM完全培地を各ウェルに添加した。DualGloルシフェラーゼアッセイ系(Promega,E2920)を用いて製造元の説明書に従ってルシフェラーゼ活性を測定した。簡潔に述べると、50ulのホタルルシフェラーゼ基質を各ウェルに添加し、サンプルを混合した。室温で10分後、Envision(Perkin Elmer)を用いてホタルルシフェラーゼ活性を記録した。続いて、50ulのウミシイタケルシフェラーゼ基質を各ウェルに添加し、混合した。室温で10分後、Envision(Perkin Elmer)でウミシイタケルシフェラーゼ活性を記録した。
【0251】
実施例9:レンチウイルスジンクフィンガータンパク質アクチベーターのパッケージング
10ml培養培地を用いて4,000,000細胞/ディッシュで293T細胞をポリ-D-リシン被覆10cmディッシュにプレーティングした。1日後、リポフェクタミン3000(Life Technologies,L300015)を用いて、ジンクフィンガータンパク質トランスアクチベーターを担持したレンチウイルスベクター及びヘルパープラスミド(pMD2.G、psPAX2)を培養物にトランスフェクトした。46時間後、培地を採取し、10,000×gで5分間の遠心分離により培地から細胞デブリを除去した。49,000×gで90分間の超遠心分離により上清中のウイルスを濃縮した。ペレットをNeurobasal Plus培地(Thermo Fisher Scientific,A3582901)中に再懸濁し、アリコートにし、使用まで-80℃でフリーズした。
【0252】
実施例10:マウスGABA作動性ニューロン培養及びニューロン遺伝子活性化
胎生13日目のマウスの内側神経節隆起(MGE)からGABA作動性ニューロンを解剖した。製造元のプロトコルに従ってパパイン解離系(Worthington Biochemical Corporation)を用いてMGEを単一細胞懸濁液中に解離させ、ポリ-D-リシンで被覆された96ウェルプレート上のグリアサポート層にNeurobasal Plus培地中15,000ニューロン/ウェルで細胞をプレーティングした。インビトロで2又は3日目(DIV)、4時間にわたりニューロン培養物にレンチウイルスを感染させた。70~90%感染効率を達成するように各ウイルス用量を選んだ。感染後、プレーンNeurobasal培地(Thermo Fisher Scientific)中で培養物を3回洗浄し、次いで、馴化培地/フレッシュ培地(50/50)をプレートに戻し、記載のように培養物を維持した。DIV7で、細胞を溶解し、RNAを採取した。qRT-PCRにより、SCN1A及びMAP2転写物を分析した。各サンプル中のSCN1Aレベルを同一サンプルのMAP2レベルに対して規格化した。転写アクチベーターによるSCN1A転写物の増加は、ウイルスなしの細胞での規格化SCN1A mRNAレベルに対する規格化SCN1A mRNAレベルの倍率により測定される。
【0253】
実施例11.TREプロモーターの活性化のための転写因子
TAD1、TAD2+(3つの核局在化シグナル(NLS)配列を有するTAD2)、TAD2-(2つのNLS配列を有するTAD2)及びTAD3は、ミニSa-Cas9に連結された場合、TRE含有プロモーターを活性化する。TRE配列を標的とするsgRNAを担持したプラスミド、ミニSa-dCas9-アクチベーター、TREプロモーター-ルシフェラーゼ及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。コントロールガイドRNAサンプルからの変化倍率を計算することにより、Sa-dCas9アクチベーターによりトリガーされた相対プロモーター活性を決定した。1×TREプロモーターは1つのTRE部位を含有し;3×TREプロモーターはTRE部位の3リピートを担持する。VPR3(Ma et al.2018)も同様にミニSa-Cas9に連結し、陽性転写活性化因子コントロールとして使用した。TREを標的とするsgRNAの配列は、配列番号64に列挙される。
【0254】
図1に示されるように、TAD1、TAD2+、TAD2-は、TREプロモーターを活性化する際、VPR3と比較して高い活性を示す。
【0255】
実施例12.SCN1Aプロモーターの活性化のための転写因子
ミニSa-dCas9-アクチベーター(TAD1~TAD7)、マウスscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、マウスscn1aプロモーターを標的とするgRNA及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。各ミニSa-dCas9-アクチベーターを20、6.7及び2.2ng/ウェルでトランスフェクトしたところ、結果は、用量依存性効果を示した。sgRNA3の配列は、配列番号65に対応する。結果は図2に示される。
【0256】
ミニSa-dCas9-アクチベーター(TAD7~TAD10)、マウスscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、マウスscn1aプロモーターを標的とするgRNA及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。各ミニSa-dCas9-アクチベーターを20、6.7及び2.2ng/ウェルでトランスフェクトしたところ、活性ガイドRNAのsgRNA3と共にコトランスフェクトしたとき、結果は、用量依存性活性化を示した。ミニSa-dCas9を非活性ガイドRNAのsgRNA11と共にコトランスフェクトしたとき、プロモーターは、活性化されなかった。sgRNA3及びsgRNA11の配列は、それぞれ配列番号65、配列番号66に対応する。結果は図3に示される。
【0257】
実施例13.sgRNAと対合したときのSCN1Aプロモーターの活性化のための転写因子
ユビキチンCプロモーターにより駆動されるミニSa-dCas9-TADは、活性sgRNAと対合したとき、マウスscn1aプロモーター及びTRE含有プロモーターを活性化する。様々な量のミニSa-dCas9-アクチベーター(TAD2、TAD9及びVPR)、マウスscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ又はTRE含有プロモーター、それぞれTRE含有プロモーターのためのTRE sgRNA;mSCN1AプロモーターのためのsgRNA3及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。
【0258】
ミニSa-dCas9-アクチベーター、マウスscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ又はヒトscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、scn1aプロモーターを標的とするgRNA及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。新たに作成された転写活性化ドメイン(TAD9、TAD11、TAD14及びTAD16)は、VPR(Chavez et al.2015)と同等以上の活性及びVP64よりも強い活性を有する。結果は図5により示される。
【0259】
ミニSa-dCas9-アクチベーター、TRE含有プロモーター又はヒトscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、scn1aプロモーターを標的とするgRNA及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。新たに作成された転写活性化ドメインは、VPR(Chavez et al.2015)と同等以上の活性を有すると共に、VP64よりも強い活性を有する。図6は、TRE及びヒトSCN1Aプロモーターの活性化に関して、VP64及びフルVPRと比較したTAD9、TAD11、TAD12、TAD13、TAD14、TAD15の活性を示す。
【0260】
ミニSa-dCas9-アクチベーター、マウスscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、マウスscn1aプロモーターを標的とするsgRNA及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。sgRNA42の配列は、配列番号67に対応する。図7は、異なる活性sgRNAを用いたマウスSCN1Aプロモーターの活性化において、VP64及びフルVPRと比較したTAD9、TAD11、TAD12、TAD13、TAD14、TAD15の活性を示す。
【0261】
実施例14.U2OS細胞株でのTREレポーター遺伝子の活性化のための転写因子
ミニSa-dCas9-アクチベーター、TRE含有プロモーター又はヒトscn1aプロモーター-ルシフェラーゼ、TREを標的とするgRNA配列及びGPK-ウミシイタケルシフェラーゼのプラスミドをU2OS細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。図8に示されるように、TAD8a、TAD9及びTAD15は、VP64よりも高い活性を示すと共に、TAD15は、全ての中で最も高い活性を示す。
【0262】
実施例15.ジンクフィンガータンパク質を含有する転写因子の活性
6CAGリピートを標的とするジンクフィンガータンパク質ZFP-C(配列番号70、「6CAGリピート」は、配列番号93として開示される)及びヒトerb2遺伝子プロモーターを標的とするジンクフィンガータンパク質E2C(配列番号71)をTAD15に連結した。2つのE2Cエレメント(E2C 2×)を担持するレポーター又は8CAGリピート(CAG24)(配列番号94)を担持するレポーターと共に各転写アクチベーターをコトランスフェクトすると共に、GPK-ウミシイタケルシフェラーゼをHEK293T細胞にトランスフェクトした。2日後、ルシフェラーゼ活性を読み取った。ウミシイタケルシフェラーゼ活性でホタルルシフェラーゼ活性を規格化することにより、プロモーター活性を計算した。転写因子は、プロモーターを特異的に活性化した。すなわち、E2C-TAD15は、E2Cエレメント含有プロモーターのみを活性化し;ZFP-C-TAD15は、CAGリピート含有プロモーターのみを活性化した。図9は、遺伝子転写を増強するためにジンクフィンガータンパク質に連結されたTAD15の活性を示す。
【0263】
ジンクフィンガータンパク質E2C(配列番号71)は、ヒトerb2遺伝子プロモーター中のエレメントを認識する(Beerli et al 1998)。Erb2は、レセプタータンパク質Her2をコードする。E2C-TAD15をHEK293T細胞にトランスフェクトした。E2C-TAD15上にタグ付けされたヘマグルチニン(HA)の染色により、トランスフェクト細胞を同定した。細胞表面上のHer2の免疫染色により、Her2発現レベルを定量した。E2C-TAD15(HA陽性)を有する細胞は、非トランスフェクト細胞(HA陰性)と比較して3倍超のHer2レベルを示した。結果は、図10に示される。
【0264】
TAD13、TAD14及びTAD15に、それぞれSCN1Aプロモーターを標的とするジンクフィンガータンパク質Nav-ZF2(配列番号61)を連結した。それらをレンチウイルス中にパージングして培養ニューロンに感染させるために使用し、70~90%形質導入率を達成した。4日後、細胞を溶解してRNAを採取した。qRT-PCRにより、SCN1A及びMAP2転写物を分析した。転写アクチベーターによるSCN1A転写物の増加は、ウイルスなしの細胞での規格化SCN1A mRNAレベルに対する規格化SCN1A mRNAレベルの倍率により測定される。マウスGABA作動性ニューロンにおける内因性ニューロン遺伝子の活性化でのTAD15の活性は、図11に示される。
【0265】
本明細書に記載の実施例及び態様は、単に例示を目的としたものにすぎず、それらに照らして様々な修正形態又は変更形態が当業者に示唆され、本出願の趣旨及び範囲並びに添付の特許請求の範囲に含まれるものと理解される。
【0266】
さらに、本発明の特徴又は態様がマーカッシュグループにより記載される場合、本発明がマーカッシュグループのいずれかの個別のメンバー又はメンバーのサブグループによっても記載されることは、当業者であればわかるであろう。
【0267】
本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参照文献は、各々が参照により個別に組み込まれたのと同程度にその全体が参照により明示的に組み込まれる(又は文脈から決定される通りである)。矛盾を生じた場合、定義を含む本明細書が優先されるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
図12
【配列表】
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【国際調査報告】