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特表2024-534425インスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元での使用のための生物活性分子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】インスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元での使用のための生物活性分子
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240912BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 31/568 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P3/04
A61P3/10
A61K31/568
A61P3/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024516819
(86)(22)【出願日】2022-09-14
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 IB2022000517
(87)【国際公開番号】W WO2023041980
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】PCT/FR2021/051573
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524099131
【氏名又は名称】パルテック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シャルル-アンリ・マルベール
(72)【発明者】
【氏名】モーリス・レジナルド・アローシュ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084MA66
4C084MA67
4C084NA10
4C084NA14
4C084ZA701
4C084ZC351
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA09
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA66
4C086MA67
4C086NA10
4C086NA14
4C086ZA70
4C086ZC35
(57)【要約】
本発明は、門脈の門脈周囲領域への局所投与によるインスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元における使用のための、GLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
門脈の門脈周囲領域への局所投与によるインスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元における使用のための、GLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項2】
投与が、経胃経路、経大静脈経路を介するか、又は直接的な腹腔鏡アクセスにより、好ましくは経胃経路を介する、請求項1に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項3】
門脈の門脈周囲領域への投与が、少なくとも部分的に門脈の壁中、且つ/又は門脈周囲の結合組織中である、請求項1に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項4】
前記生物活性分子がステロイド、好ましくはジヒドロテストステロンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項5】
前記生物活性分子が、前記分子のED50よりも少なくとも約10倍低い用量で、好ましくは前記分子のED50よりも約100倍低い用量で、より好ましくは前記分子のED50よりも約10倍低い~約100倍低い用量で、更により好ましくは前記分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項6】
前記生物活性分子が、ジヒドロテストステロンに関して100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量で、より好ましくは約100μg/24h~約1000μg/24hである用量で、更により好ましくは100μg/24h~1000μg/24hである用量で投与される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項7】
前記生物活性分子が、24hの時間当たり1mLと等しいか又はそれよりも低い体積で投与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項8】
前記生物活性分子が、肥満であるか、2型糖尿病を有するか、メタボリックシンドロームを有するか、門脈圧亢進、前糖尿病、又はそれらの2種以上のいずれかの組み合わせを有する被験体に投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項9】
GLP-1rが被験体の門脈周囲領域において検出される、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項10】
健康被験体におけるGLP-1rの密度と比較した場合に被験体の門脈周囲領域におけるGLP-1rの密度の低減が検出される、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項11】
GLP-1rの存在及び/又は密度の低減が、好ましくは放射線不透過マーカー造影コンピュータ断層撮影(CT)と組み合わせた、GLP-1r陽電子放出リガンドを用いる陽電子放射断層撮影(PET)を介して決定される、請求項9又は10に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項12】
前記生物活性分子が、有効量の前記生物活性分子を含む門脈中のデバイスを用いて投与される、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項13】
インスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元における使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子であって、前記生物活性分子が、前記生物活性分子のED50よりも少なくとも約10倍低く、好ましくは前記生物活性分子のED50よりも約100倍低い用量で、より好ましくは前記分子のED50よりも約10倍低い~約100倍低い用量で、更により好ましくは前記分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で、好ましくは門脈周囲領域中に投与される、使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項14】
前記生物活性分子が、ジヒドロテストステロンに関して100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量で、より好ましくは約100μg/24h~約1000μg/24hである用量で、更により好ましくは100μg/24h~1000μg/24hである用量で、好ましくは門脈周囲領域中に投与される、インスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元における請求項13に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項15】
以下の工程:
a. GLP-1rの発現をアップレギュレーションする少なくとも1種の生物活性分子を提供する工程、及び
b. 門脈の門脈周囲領域へと前記少なくとも1種の生物活性分子を局所投与する工程
を含む、それを必要とする被験体においてインスリン抵抗性を治療し且つ/又はグルコース恒常性を復元する方法。
【請求項16】
前記生物活性分子が、少なくとも部分的に門脈の壁中、且つ/又は門脈周囲の結合組織中に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記門脈周囲領域が、経胃経路、経大静脈経路を介するか、又は直接的な腹腔鏡アクセスにより、好ましくは経胃経路を介して、工程b)においてアクセスされる、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記生物活性分子が、前記分子のED50よりも少なくとも約10倍低く、好ましくは前記生物活性分子のED50よりも約100倍低い用量で、より好ましくは前記分子のED50よりも約10倍低い~約100倍低い用量で、更により好ましくは前記分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で投与される、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
ステロイドがアンドロゲン、好ましくはジヒドロテストステロンである、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記生物活性分子がジヒドロテストステロンであり、且つジヒドロテストステロンに関して100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量で、より好ましくは約100μg/24h~約1000μg/24hである用量で、更により好ましくは100μg/24h~1000μg/24hである用量で投与される、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記生物活性分子が、24hの時間当たり1mLと等しいか又はそれよりも低い体積で投与される、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記被験体が、肥満であるか、2型糖尿病を有するか、メタボリックシンドロームを有するか、門脈圧亢進、前糖尿病、又はそれらの2種以上のいずれかの組み合わせを有する、請求項15から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
GLP-1rが、工程a)に先立って前記被験体の門脈周囲領域において検出される、請求項15から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
健康被験体におけるGLP-1rの密度と比較した場合の前記被験体の門脈周囲領域におけるGLP-1rの密度の低減が、工程a)に先立って検出される、請求項15から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
GLP-1rの存在及び/又は密度の低減が、好ましくは放射線不透過マーカー造影コンピュータ断層撮影(CT)と組み合わせた、GLP-1r陽電子放出リガンドを用いる陽電子放射断層撮影(PET)を介して決定される、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
以下の工程:
a. GLP-1rの発現をアップレギュレーションする少なくとも1種の生物活性分子を提供する工程、及び
b. 門脈の門脈周囲領域へと前記少なくとも1種の生物活性分子を投与する工程
を含む、それを必要とする被験体においてインスリン抵抗性を治療し且つ/又はグルコース恒常性を復元する方法であって、
前記生物活性分子が、前記生物活性分子のED50よりも少なくとも約10倍低く、好ましくは前記生物活性分子のED50よりも約100倍低い用量で、より好ましくは前記分子のED50よりも約10倍低い~約100倍低い用量で、更により好ましくは前記分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で投与される、方法。
【請求項27】
前記少なくとも1種の生物活性分子が、ジヒドロテストステロンに関して100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量で、より好ましくは約100μg/24h~約1000μg/24hである用量で、更により好ましくは100μg/24h~1000μg/24hである用量で投与される、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の門脈領域(すなわち、門脈センサー)から生じるグルコース到着シグナルの回復に関する。治療目標は、門脈系における食後グルコース到着に関連付けられる迷走神経及び非迷走神経求心性シグナルを復元することである。より詳細には、本発明は、生物活性分子並びにインスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元でのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血漿グルコース恒常性の維持は、脳、門脈、及び腸に位置するグルコース感知メカニズムの統合に依存する(Soty等、2017)。門脈グルコースセンサーがグルコース恒常性において極めて重要な役割を果たし(Berthoud、2004)、(Mithieux、2020)、且つ門脈センサーからの迷走神経を媒介する情報が、食後状態中をはじめとする門脈高血糖に対する調節性応答を担う(Balkan & Li、2000)、(Vahl等、2007)という有力な証拠がある。グルカゴン様ペプチド-1受容体(GLP-1r)は、門脈グルコース感知に決定的に関連付けられる(Nishizawa等、2013)。特に、GLP-1rは、門脈壁中の迷走神経求心路により発現され(Berthoud & Neuhuber、2000)、GLP-1輸液が、門脈グルコースがインスリン応答を刺激するために必要であり(Balkan & Li、2000)、門脈へのグルコースとGLP-1rアンタゴニストとの混注は、グルコースクリアランスを阻害し、且つ血糖を一時的に上昇させ(Burcelin等、2001)、迷走神経GLP-1rノックダウンは、食後インスリン放出を鈍らせ、且つ血糖を上昇させる(Krieger等、2016)。総合すると、これらの研究の結果は、GLP-1r系の欠陥の結果としての、門脈迷走神経センサーが高血糖を検出する能力の障害が、インスリン抵抗性肥満と関連付けられることを示唆する。
【0003】
逆に、いくつかの系統の証拠が、インスリン抵抗性の個体においてGLP-1系が障害されること、及びGLP-1抵抗性が前糖尿病の病態生理に対して重要であり得ることを示す(Muller等、2019)。新規陽電子放出プローブによるPETイメージング及び画像に基づく腹部ナビゲーションに連結した単一細胞電気生理法を用いて、肥満インスリン抵抗性動物においては、門脈迷走神経グルコースセンサーの機能が障害され、それにより、食餌の後に起こる可能性があるグルコース濃度内の門脈グルコースが検出されないことが実証されている(Malbert等、2020b)。痩せ型ではなく、肥満インスリン抵抗性動物におけるグルコースに対する迷走神経求心路のこの感受性のなさは、特に、肝門と左胃静脈との間での低減した門脈GLP-1r密度の結果であり、この特徴は、痩せ型動物のみにおけるGLP-1rの薬理学的阻害による迷走神経求心路に対するグルコースの作用の抑制により更に実証される(Malbert等、2020b)。
【0004】
肥満におけるインスリン抵抗性により誘導される門脈に沿ったGLP-1rの分布での変化は重要であり、痩せ型動物でのより大きな密度とは対照的に、肥満においては肝門(porta hepatic)と左胃静脈との間で受容体のより低い密度が見られる(Malbert、2021b)。この解剖学的-機能的配置の考えられる結果は、インスリン抵抗性肥満においてはグルコースがあまり検出されないであろうということである。これは、胃からのみならず、胃静脈と同じレベルで分岐する上膵十二指腸静脈からの静脈血も含むであろう。末梢グルコースセンサーは生理学的機能を制御し、脱調節される場合には肥満及び糖尿病の病因に重要なメカニズムを惹起するので、末梢グルコースセンサーの脱調節は、肥満及び2型糖尿病において重要であり得る。このカスケードは、現在、前臨床モデルにおいて実証されている(Malbert等、2020b)。
【0005】
2型糖尿病(T2D)及び肥満は、世界的な健康上の主な課題であり、且つ様々な他の疾患(例えば、心血管疾患、閉塞性睡眠時無呼吸症、脳卒中、末梢動脈疾患、細小血管合併症、及び変形性関節症)に関連付けられる。2021年には、全世界で2億4600万人が糖尿病を有し、3億8千万人が2025年までに糖尿病を有するであろうと推定される。T2Dが生活習慣の変化によって管理することができない場合、経口摂取又は皮下注入することができる、メトホルミン、及び/又はGLP-1rアゴニストを用いて一般的に治療される。しかしながら、T2Dを有する患者の集団は不均一であるので、全員がそのような治療に対して応答するわけではない。加えて、これらの治療は、吐き気、嘔吐、及び下痢等の望ましくない副作用を伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、T2D並びにインスリン抵抗性及び肥満をはじめとする関連する疾患の追加の治療に対する必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、門脈の門脈周囲領域への生物活性分子の局所投与を含む、インスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元での使用のための、GLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子に関する。実際に、本発明者等は、そのような投与が、肥満インスリン抵抗性患者において門脈グルコースセンサーを復元することを見出した。門脈グルコースセンサーの復元は、特に、GLP-1rの発現を薬理学的に強化することにより、達成される。局所投与により、投与量が有利に低減される。生物活性分子に伴う副作用もまた、有利に低減される。実際に、胃腸GLP-1受容体が、GLP-1アゴニストの有害副作用を媒介することが疑われる(Jones等、2020)。
【0008】
当該生物活性分子の投与は、経胃経路、経大静脈経路を介するか、又は直接的な腹腔鏡アクセスにより、好ましくは、自然孔外科的アクセス(NOS)として行うことができるので、経胃経路を介する。好ましくは、門脈の門脈周囲領域への投与は、少なくとも部分的には門脈の壁中、且つ/又は門脈周囲の結合組織中である。
【0009】
好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、ステロイドである。好ましくは、ステロイドは、アンドロゲンであり、より好ましくはジヒドロテストステロン(DHT)である。
【0010】
好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、特に門脈周囲領域に投与される場合、分子のED50よりも少なくとも約10倍低く、より好ましくは、特に門脈周囲領域に投与される場合、分子のED50よりも約100倍低い用量で投与される。より好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、特に門脈周囲領域に投与される場合、分子のED50よりも約10倍低い~約100倍低い用量で投与される。
【0011】
更により好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、特に門脈周囲領域に投与される場合、分子のED50よりも少なくとも10倍低く、より好ましくは、特に門脈周囲領域に投与される場合、分子のED50よりも100倍低い用量で投与される。また更により好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、特に門脈周囲領域に投与される場合、分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で投与される。
【0012】
好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、ジヒドロテストステロンに関して100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量、より好ましくは約100μg/24h~約1000μg/24hである用量で、好ましくは門脈周囲領域に投与される。更により好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、100μg/24h~1000μg/24hである用量で、好ましくは門脈周囲領域に投与される。
【0013】
好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、24hの時間当たり1mLと等しいか又はそれよりも低い体積で投与される。
【0014】
好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、肥満であるか、2型糖尿病を有するか、メタボリックシンドロームを有するか、門脈圧亢進、前糖尿病、又はそれらの2種以上のいずれかの組み合わせを有する被験体に投与される。
【0015】
好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、門脈周囲領域において残留GLP-1r活性を発現する被験体に投与される。言い換えれば、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、好ましくは、門脈周囲領域におけるGLP-1rの密度が低減している被験体に投与される。
【0016】
好ましくは、GLP-1rの密度の低減は、そのうちの1種が、好ましくはコンピュータ断層撮影(CT)を用いる更なる解剖学的局在化のためのIV投与された放射線不透過化合物と組み合わせた、GLP-1r陽電子放出リガンドを用いる陽電子放射断層撮影(PET)であり得る、分子イメージング法を介して確認される。門脈領域のハイブリッドイメージングの範囲内に入る両方の方法が、GLP-1r発現が低減している正確な3D体積を強調するために領域の適切な区分けを算出するために好適である。
【0017】
好ましくは、有効量の本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、門脈周囲領域中又は門脈壁中のデバイスを用いて投与される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を詳細に説明する前に、本発明は、詳細に例示される態様に限定されず、且つ、当然変更し得ることが理解されるべきである。本明細書中で用いられる用語は、本発明の特定の実施形態を記載する目的のみのためのものであり、且つ限定的であると意図されないこともまた理解されるべきである。本明細書中で引用される全ての刊行物、特許、及び特許出願は、上記又は下記のいずれかにかかわらず、それらの全体で参照により本明細書中に組み入れられる。更に、本発明の実施は、別途示されない限り、当業者の技能の範囲内であるタンパク質化学、分子生物学、及び薬理学の慣用の技術を利用する。
【0019】
下記の特許請求の範囲において及び先行する説明において、単語「含む」(comprise、comprises)、「含むこと」、及び他の変形は、包含的な意味で、すなわち、明記される特徴の存在を特定するが、明白な言葉又は必然的な含意に起因して文脈がそうでないことを要求する場合を除いて、本発明の様々な実施形態における更なる特徴の存在又は追加を除外しないために用いられる。更に、用語「a」、「an」及び「the」は、本明細書中で用いる場合、本出願の内容がそうでないことを明らかに指示しない限り、複数形を含む。例として、したがって、「生物活性分子」は、2種以上の生物活性分子も含む。
【0020】
第1の態様に従えば、本発明は、門脈の門脈周囲領域への生物活性分子の局所投与による、インスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元での使用のための、GLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子に関する。
【0021】
用語「GLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子」とは、本明細書中で用いる場合、門脈グルコース感知と関連付けられるGLP-1受容体の密度の増加を直接的又は間接的に引き起こすいずれかの分子を意味する。肝門脈の血管壁又はその近傍でのGLP-1rの発現は著しく増加する。特に、GLP-1rの発現、したがって密度は、GLP-1rをコードするGLP-1R遺伝子の転写若しくは翻訳制御を変化させることにより、又は特に内在化プロセス中の受容体自体の輸送での変化により、増加させることができる。GLP-1rの増加した発現は、有利なことに、門脈グルコースに対する門脈グルコースセンサーの感度を、少なくとも部分的に、好ましくは完全に復元する。実際には、GLP-1rにより媒介されるグルコース感知は、インスリン抵抗性状態では著しく損なわれる。一部の場合には、前記生物活性分子はまた、GLP-1rの活性も増加させることができる。
【0022】
好ましくは、GLP-1rの発現は、被験体において観察される当初レベルと比較して少なくとも10%まで増加し、好ましくは、少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%の増加、又は被験体において観察される当初レベルと比較して100%でさえある。好ましくは、GLP-1rの発現は、少なくとも2倍、3倍、又は4倍、5倍、又はそれ以上増加する。好ましくは、GLP-1rの発現は、健康被験体(すなわち、グルコース恒常性を有し、且つ/又はインスリン抵抗性を示さない被験体)のものと同様の又は同じレベルまで増加する。
【0023】
用語「インスリン抵抗性」とは、本明細書中で用いる場合、被験体の組織中でのインスリンの作用に対する生物学的応答が減弱している被験体の病的状態を意味する。言い換えれば、インスリン抵抗性は、循環インスリンが正常未満の生物学的応答を生じる状態である。非限定的な例として、インスリン抵抗性は、標的組織、例えば、肝臓、(骨格)筋肉及び/若しくは脂肪組織中のインスリン受容体の減少した量から、又はそのような標的組織の細胞におけるインスリンシグナル伝達経路での欠陥から生じ得る。インスリン抵抗性は、グルコース代謝異常及び膵臓によるインスリンの代償的過剰分泌をもたらし得る。したがって、用語「インスリン抵抗性」は、本明細書中で用いる場合、限定するものではないが、空腹時血糖値の測定、経口的又は経静脈的ブドウ糖負荷試験、空腹時インスリンレベルの測定、及び正常血糖グルコースクランプ検査をはじめとする、当技術分野で公知の多数の方法のうちのいずれかにより行われるインスリン抵抗性の通常の診断を包含することも意図される。空腹時血糖異常(IFG)、耐糖能異常(IGT)及び/又は空腹時高インスリン血症は、インスリン抵抗性に対する診断マーカーとして機能し得る。IFG及びIGTは、多くの場合に前糖尿病と称される。空腹時血糖異常(IFG)は、空腹時血漿グルコース検査の8時間後でのグルコース濃度が110~125mg/dL(すなわち、6.1~6.9mmol/L)である場合に発生する。耐糖能異常(IGT)は、経口的ブドウ糖負荷試験の2時間後でのグルコース濃度が140~199mg/dL(すなわち、7.8~11.0mmol/L)である場合に発生する。
【0024】
一般的にインスリン抵抗性が存在するか、且つ/又はインスリン抵抗性が疾患の病因に寄与する因子であるか、若しくはそうであると疑われる疾患又は疾患状態としては、インスリン抵抗性(インスリン分泌が保存されている場合の前糖尿病状態)、2型糖尿病、メタボリックシンドローム、家族性複合型高脂血症(FCHL)、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、家族性高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、脂質異常症、肝脂肪症、肥満、原発性糖尿病(DM)、高血圧、心不全、アテローム性動脈硬化、心血管疾患、脂肪異栄養症(遺伝性又は後天性、例えば、HAART=高活性抗レトロウイルス療法)、脂肪肝、炎症、及びクッシング症候群が挙げられる。
【0025】
用語「グルコース恒常性」とは、本明細書中で用いる場合、健康被験体のレベルで血中グルコースを維持することを助ける、被験体におけるインスリン及びグルカゴンの平衡を促すことを意味する。より詳細には、グルコース恒常性とは、食後グルコース恒常性を意味し、言い換えれば、平衡を保ち、且つ、それぞれ高血糖又は低血糖に関連付けられる極めて高いか又は極めて低いグルコースレベルに到達しない血糖値を意味する。典型的には、ヒトにおけるグルコース恒常性とは、食前の70~130mg/dL及び食後の180mg/dL以下の範囲内の血糖値を意味する。非糖尿病被験体では、食後グルコースは、通常は140mg/dLを超えず、且つ典型的には100mg/dL付近で維持される。対照的に、「グルコース恒常性異常」とは、被験体が血液中のグルコースの正常レベルを維持できない、一時的又は永続的状態を意味する。
【0026】
「局所投与」とは、本明細書中で用いる場合、脈管系、リンパ系、気道系又は消化器系を介するその意図される標的部位への生物活性分子の輸送に依存しない送達を意味する。例えば、生物活性分子は、分子自体の注入若しくは埋め込みによるか、又は分子が入れられたデバイスの注入若しくは埋め込みにより、送達することができる。一部の場合には、局所投与は、生物活性分子が意図される標的部位へと拡散するように、標的部位の近傍で行われる。本発明の文脈において、生物活性分子は、門脈の門脈周囲領域に局所投与される。「門脈の門脈周囲領域」とは、門脈グルコースセンサーを含む門脈の領域を意味する。門脈周囲領域は、特に、肝門(porta hepatic)と左胃静脈との間の領域を含む。これは、門脈自体(すなわち、門脈の内腔及び壁)並びに門脈周囲の組織を含む。門脈の門脈周囲領域は、特に、膵臓又は腸組織を含まない。実際には、GLP-1rはこれらの組織でもまた発現されるが、生物活性剤はそれらを標的としない。門脈周囲領域の特異的標的化は、有利には、例えば、これらの組織への分子の投与に伴う場合がある、生物活性分子の副作用を低減させる。門脈周囲領域は、GLP-1r陽電子放出リガンドを用いる陽電子放射断層撮影(PET)等のイメージングにより特定することができる。非限定的な例として、GLP-1r陽電子放出リガンドは、68Ga、18F、又は64Cu放射性核種を用いて標識されたエキセンジン4等のGLP-1rアゴニストを含む。好ましくは、リガンドは、DOTA、テトラアザシクロドデカン四酢酸又はDTPA、ジエチレントリアミン五酢酸、又はDO3A、好ましくはDO3A等のキレート剤を含む。好ましくは、GLP-1r陽電子放出リガンドは、[68Ga]Ga-DO3A-VS-Cys40-エキセンジン-4(VSはビニルスルホンである;例えば、Velkiyan等、2017を参照されたい)又は18F-TTCO-Cys40-エキセンジン-4(例えば、Wu等、2013を参照されたい)、より好ましくは[68Ga]Ga-DO3A-VS-Cys40-エキセンジン-4である。一部の場合には、PETにより取得されるGLP-1r画像は、放射線不透過マーカー造影コンピュータ断層撮影(CT)を更に伴う。GLP-1r陽電子放出リガンドは、IV注入により投与される。
【0027】
好ましくは、門脈の門脈周囲領域への局所投与は、経胃経路、経大静脈経路を介するか、又は直接的な腹腔鏡アクセスによる。経胃経路とは、患者の胃壁を通った門脈周囲領域の到達を意味する。経大静脈経路とは、上大静脈又は下大静脈を介する門脈周囲領域の到達を意味する。「直接的な腹腔鏡アクセス」又は「腹腔鏡アクセス」とは、本明細書中で用いる場合、腹腔鏡による腹腔を介する到達を意味する。一態様では、分子は、門脈の内部(すなわち、内腔)へと投与され、且つ、したがって、外向きに拡散する。別の態様では、分子は、門脈周囲の組織へと投与され、且つ、したがって、特に内向きに拡散する。また別の態様では、分子は、少なくとも部分的に、好ましくは主に又は完全にでも、門脈壁中に投与される。好ましくは、生物活性分子は、少なくとも部分的に、門脈の壁中及び/又は門脈周囲の組織中に投与される。
【0028】
好ましくは、GLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子は、ステロイド、及び上記の領域内でGLP-1rをアップレギュレーションすることが可能ないずれかの他の好適な薬剤である。好ましくは、生物活性分子は、インビトロにおいて又はインビボモデルにおいてGLP-1rアップレギュレーション特性を示す。これらのモデルとしては、膵臓細胞、メサンギウム細胞(mesangiome cell)、CHO-K1、MIN6B1上でのGLP-1rの発現が挙げられるが、GLP-1rを発現する限り、他の細胞タイプが等しく好適である。ジヒドロテストステロンのGLP-1rに対する活性を含む研究において用いることができるモデルの例は、Kim, D.-i.等、(2015)、Zhou等、(2001)、Pan等、(2009)、Jones等、(2018)、Gumuslu等、(2018)、Marzook等、(2021)、Zhu等、(2019)に報告されている。「ステロイド」とは、本明細書中で用いる場合、その化学的核中にシクロペンタ[a]フェナントレン環系を含む有機化合物を意味する。GLP-1rをアップレギュレーションするステロイドは、好ましくは、アンドロゲンの中から選択される。アンドロゲンとしては、特に、プラステロン(plasterone)、スタノロン(stanlorone)、テストステロンプロピオン酸エステル、テストステロンエナント酸エステル、チオメテロン(thiometherone)、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)、アンドロステンジオン、アンドロステンジオン、アンドロステンジオン、及びジヒドロテストステロン(DHT)が挙げられる。好ましくは、アンドロゲンは、DHT又はその機能的バリアントである。実際には、アンドロゲンステロイドがGLP-1rを調節できることが特に確立されている(Zhu等、2019)。理論により限定されることなく、GLP1R遺伝子プロモーター領域はその受容体(アンドロゲン受容体Ar)に結合している場合にDHTにより結合され得るArモチーフを含むので、DHTは、特にGLP1R遺伝子の転写を変化させることができる。インスリン感受性に対するテストステロンの有効性は、ヒトにおいて取得されたが、約10倍多い用量を用いた近年のデータと合致する(Dandona等、2021)。更に、グルコース代謝における報告された改善が、例えば、アンドロゲン遮断療法後の男性において実証されてきたが(Grossmann等、2013)、本発明者等は、動物の性別にかかわらず、本発明者等の治療アプローチの同一の有効性を観察した。最後に、前糖尿病は、男性において肥満及びメタボリックシンドロームとは無関係にテストステロン欠乏症の上昇したリスクに関連付けられる(Ho等、2013)。糖尿病に対するアンドロゲンの作用の複雑さは未だ議論の対象であるが、グルコース代謝に向かうアンドロゲンの作用は、関連する遺伝子の転写をアップレギュレーション又はダウンレギュレーションするために、細胞核中のリガンド-受容体複合体の移動後のそれらの古典的経路を含まないことが明らかになった(Kovacs等、1984)。実際には、Navarro及び同僚は、アンドロゲン及びその受容体が、雄性マウス及びヒト膵島中の細胞質において、GLP-1R経路の活性化に依存してインスリン分泌を刺激することができることを見出した(Navarro等、2016)。
【0029】
「機能的バリアント」とは、本明細書中で用いる場合、生物活性分子とは構造的に異なるが、当該分子の必須の機能的特徴のうちの全てを保持する(すなわち、同じ様式でGLP-1rの発現を誘導する)タンパク質を意味する。バリアントは、特に、天然に存在するか又は天然に存在しないバリアントであり得る。
【0030】
好ましくは、生物活性分子は、分子のED50よりも少なくとも約10倍低い用量で、より好ましくは分子のED50よりも約100倍低い用量で、好ましくは門脈周囲領域中に投与される。より好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、分子のED50よりも約10倍低い~約100倍低い用量で、好ましくは門脈周囲領域中に投与される。更により好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、分子のED50よりも少なくとも10倍低く、より好ましくは分子のED50よりも100倍低い用量で、好ましくは門脈周囲領域中に投与される。また更により好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、門脈周囲領域中に投与される場合、分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で、好ましくは門脈周囲領域中に投与される。
【0031】
本明細書中で、例えば、「約xである用量」又は「約xx~約xxx」等の表現中で用いられる用語「約」は、必要な場合、薬物投与量の通常の不確実性に関して解釈することができ、特に、x、xx又はxxxの上下15%、好ましくはx、xx又はxxxの上下10%、より好ましくはx、xx又はxxxの上下5%である用量を意味すると解釈することができる。
【0032】
分子の「ED50」とは、本明細書中で用いる場合、特定の医療用途のためにそれを摂取する被験体のうちの50%において治療応答又は所望の作用を生じる生物活性分子の中央値有効用量50を意味する。DHTに関して本明細書中で用いる場合のED50は、筋肉タンパク質合成におけるその作用のED50に対応する。DHTのED50は、したがって、毎日20mg(皮膚に塗布されるゲル剤の剤型で)である。代替的に、男性ヒトにおける性腺機能低下症により誘導されるT2Dでの糖尿病の寛解は、正確には、12週間にわたって1000mgのDHT、例えば、11mg/24hを送達する皮下インプラントを用いて達成された(Haider等、2020)、(Dandona等、2021)。したがって、好ましくは、生物活性分子はジヒドロテストステロンであり、且つ、100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量で、好ましくは門脈周囲領域中に投与される。より好ましくは、ジヒドロテストステロンは、約100μg/24h~約1000μg/24hの用量で、好ましくは門脈周囲領域中に投与される。更により好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、100μg/24h~1000μg/24hの用量で、好ましくは門脈周囲領域中に投与される。
【0033】
好ましくは、生物活性分子は、24hの時間当たり1mLと等しいか又はそれよりも低い体積で投与される。実際には、門脈センサーを飲み込む解剖学的組織の体積もまた輸液速度に影響し、輸液速度は、隣接する腹部臓器への顕著な漏出を伴わずに24H当たり1mLを超えることができない(Solass等、2016)。好ましくは、生物活性分子は、灌流により投与される。一態様では、生物活性分子は、有効量の生物活性分子を含む、門脈中のデバイスを用いて投与される。
【0034】
好ましくは、生物活性分子は、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を更に含む組成物中で投与される。用語「薬学的に許容される賦形剤」とは、本明細書中で用いる場合、生物活性分子と適合性であり、患者において望ましくない副作用を生じず、且つ一般的に非毒性であると考えられる成分、又は成分の組み合わせを意味する。薬学的に許容される賦形剤は、最も一般的には、生物活性分子の投与の促進、製品の保存寿命若しくは有効性の増加、又は生物活性分子の溶解度及び/若しくは安定性の改善に関係する。薬学的に許容される賦形剤又は担体は先行技術において周知であり、且つ組成物の所望のガレノス製剤に基づいて、当業者により容易に適応させることができる。ガレノス製剤及び局所投与の方法(すなわち、経胃、経大静脈、及び腹腔鏡アクセスの中で選択される)、並びに投与量は、必要な場合、その全身健康状態、年齢、体重、治療等に対する忍容性をはじめとする患者治療を適応させるための広く受け入れられている基準に基づいて、更に決定することができる。
【0035】
例えば、経胃経路に関して、賦形剤は、有利には、投与の場所での生物活性分子の滞留時間を増加させ、且つ門脈周囲区域からの考えられる血管性移動を制限するために設計される。
【0036】
更に例えば、経大静脈経路に関して、賦形剤は、有利には、門脈周囲区域において生物活性分子を緩やかに、好ましくは数ヵ月間にわたって放出するように、合成マトリックス中に組み込むために設計される。
【0037】
別の例として、腹腔鏡アクセスに関して、本発明の組成物中に含められる1つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤は、1つ又は複数の緩衝剤、懸濁化剤、可溶化剤、希釈剤、溶媒、保存料、等張性調整剤、ビヒクル、及び安定化剤を更に含むことができる。好ましくは、薬学的に許容される賦形剤は、少なくとも1種の等張性調整剤、より好ましくは等張性濃度での塩化ナトリウムを含む。ビヒクルが存在する場合、当該ビヒクルは、好ましくは水である。
【0038】
好ましくは、生物活性分子は、インスリン抵抗性及び/又は異常なグルコース恒常性を有する被験体に投与される。被験体は、特に、インスリン抵抗性に関連付けられる上記のいずれかの疾患又は疾患状態を有することができる。好ましくは、生物活性分子は、肥満であるか、2型糖尿病を有するか、メタボリックシンドロームを有するか、門脈圧亢進を有するか、又はそれらの2種以上のいずれかの組み合わせを有する被験体に投与される。より好ましくは、生物活性分子は、インスリン抵抗性を有する肥満である被験体に投与される。今日では肥満及びインスリン抵抗性はほとんど常に関連付けられることが医学分野では明らかであるが、本発明に従って用いる場合の生物活性分子は、両方の臨床的特徴、すなわち、体重、体脂肪量分配等、並びにインスリン感受性等のグルコース代謝パラメータに対して有効であることが示されている。
【0039】
用語「肥満」は、本明細書中で用いる場合、異常な体重及び体重増加の全ての形態を含み、WHOに従えば、体重超過とはBMI 25~30kg/m2を意味し;肥満とは30~35kg/m2の範囲内のBMIを意味し、且つ病的肥満とは35kg/m2超のBMIを意味するという区別を伴う。
【0040】
「2型糖尿病」とは、インスリン抵抗性により特徴付けられる、慢性の生涯にわたる(すなわち、数年間又は数十年間にわたって進行する)疾患を意味する。典型的には、2型糖尿病は、米国糖尿病協会に従えば、被験体の空腹時血糖濃度が、二度にわたって126mg/dL(6.4mmol/L)超である場合に診断される。
【0041】
「メタボリックシンドローム」とは、本明細書中で用いる場合、特に、インスリン抵抗性、肥満、高い血清低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールレベル、低い血清高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールレベル、高い血清トリグリセリドレベル、及び高い血圧(高血圧)を含む、被験体において同時発生する傾向がある異常のクラスターを意味する。NIHの全米コレステロール教育プログラムに従えば、メタボリックシンドロームの診断は、以下の異常のうちのいずれか3つの存在下で行われる:男性に関して102cm超及び女性に関して89cm超の腹囲として定義される体幹肥満、トリグリセリドの高い血清レベル、すなわち、150mg/dL以上;HDLコレステロールの低い血清レベル、すなわち、男性に関して40mg/dL未満及び女性に関して50mg/dL未満;高血圧、すなわち、130/85mmHg以上;空腹時グルコース異常、すなわち、110mg/dL以上。これらの異常のうちの少なくとも一部がインスリン抵抗性を補償する試みから生じ得ることが提案されている。
【0042】
「門脈圧亢進」とは、本明細書中で用いる場合、門脈及びその分枝における比較的高い圧力を意味する。これは、一般的には、少なくとも5mmHgの門脈圧勾配(門脈と肝静脈との間での圧力の差異)として規定される。この勾配が門脈圧亢進を規定するが、10mmHg以上の勾配が臨床的に顕著な門脈圧亢進を規定することに注記すべきである。好ましくは、被験体は、少なくとも5mmHgの、6~10mmHgの、又は少なくとも10mmHgの門脈圧亢進を有する。
【0043】
用語「被験体」及び「患者」は、本明細書中で相互に交換可能に用いられ、且つ、限定するものではないが、ヒトをはじめとする哺乳動物を意味する。ヒト被験体は、いずれかの年齢の成人又は小児であり得る。用語「成人」とは、より詳細には、少なくとも18歳の個体を意味する。「正常」又は「健康」被験体とは、特定の表現型、例えば、インスリン抵抗性表現型又は本明細書中に記載される疾患(例えば、2型糖尿病、肥満)を有しない被験体を意味する。
【0044】
GLP-1rは、好ましくは、被験体の門脈周囲領域において検出される。実際には、検出可能なGLP-1rの存在は、被験体が、GLP-1rを発現することが可能なままであることを示す。好ましくは、被験体の門脈周囲領域において検出されるGLP-1rの密度は、健康被験体で検出される密度よりも低い。言い換えれば、被験体の門脈周囲領域におけるGLP-1rの密度は、健康被験体でのGLP-1rの密度と比較した場合に低減される。実際には、被験体でのGLP-1rの低減した密度は、当該被験体におけるGLP-1r発現の異常な低レベルを示す。そのような被験体は、したがって、それによりGLP-1rの発現が増加し、それによって次に被験体の門脈周囲領域におけるGLP-1rの密度を増加させる可能性があり得る治療が必要である。
【0045】
好ましくは、GLP-1rの存在及び/又は密度の低減は、本明細書中に記載される通りのGLP-1r陽電子放出リガンドを用いる陽電子放射断層撮影(PET)を介して確認される。好ましくは、PETは、放射線不透過マーカー造影コンピュータ断層撮影(CT)と組み合わせて行われる。好ましくは、PET画像と併せたCTは、より低いGLP-1r発現を有する領域の適切な区分けを算出するために好適である。
【0046】
本発明は、
a) GLP-1rの発現をアップレギュレーションする少なくとも1種の生物活性分子を提供する工程、及び
b) 門脈の門脈周囲領域へと前記少なくとも1種の生物活性分子を局所投与する工程
を含む、それを必要とする被験体においてインスリン抵抗性を治療し且つ/又はグルコース恒常性を復元する方法に更に関する。
【0047】
本発明は、
a) GLP-1rの発現をアップレギュレーションする少なくとも1種の生物活性分子を提供する工程、及び
b) 門脈の門脈周囲領域へと前記少なくとも1種の生物活性分子を投与する工程
を含む、それを必要とする被験体においてインスリン抵抗性を治療し且つ/又はグルコース恒常性を復元する方法であって、
生物活性分子が、前記生物活性分子のED50よりも少なくとも約10倍低い用量で、好ましくは分子のED50よりも約100倍低い用量で、より好ましくは分子のED50よりも約10倍低い~約100倍低い用量で投与される方法に更に関する。更により好ましくは、生物活性分子は、前記生物活性分子のED50よりも少なくとも10倍低い用量で、好ましくは分子のED50よりも100倍低い用量で、またより好ましくは分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で投与される。
【0048】
好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、ジヒドロテストステロンに関して、100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量で、より好ましくは、約100μg/24h~約1000μg/24hの用量で投与される。更により好ましくは、本明細書中に提供される使用のための生物活性分子は、100μg/24h~1000μg/24hの用量で投与される。
【0049】
上記の方法は、好ましくは、肥満に罹患した患者においてインスリン抵抗性を治療するためのものである。
【0050】
上記の方法は、本明細書中に記載される通り(例えば、生物活性分子、局所投与の様式、及び治療される状態に関する通り)の全ての態様を含む。門脈の門脈周囲領域は、特に、GLP-1rを含むグルコース門脈センサーに近接している。用語「治療」とは、それにより、インスリン抵抗性の1つ又は複数の症状が改善されるか若しくは完全に除去され、且つ/又は、本明細書中に記載される通りにグルコース恒常性が復元されるプロセスを意味する。
【0051】
治療成功は、例えば、GLP-1r像(単独で又は、排他的でなく、正常血糖クランプ試験からのM値等の追加の血漿に基づく測定に対する補完として行われる)、患者のHbA1cの測定をはじめとする、多様な方法により決定することができる。治療有効性の比較的早い兆候を与え得るので、GLP-1r像が好ましい。したがって、本明細書中に提供される方法は、より好ましくはGLP-1r像又は被験体のHbA1cの測定による、より好ましくはGLP-1r像による、またより好ましくは、本明細書中に提供される通り、PET及び、任意によりCTによる、治療有効性を決定する更なる工程c)を好ましくは含む。
【0052】
本発明は、被験体においてインスリン抵抗性を治療し且つ/又はグルコース恒常性を復元するための医薬の製造のための、本明細書中に記載される実施形態のうちのいずれかに従う少なくとも1種の生物活性分子の使用に更に関し、このとき、少なくとも1種の生物活性分子は、門脈の門脈周囲領域に局所投与される。
【0053】
本発明は、被験体におけるインスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元での、本明細書中に記載される実施形態のうちのいずれかに従う少なくとも1種の生物活性分子の使用に更に関し、このとき、少なくとも1種の生物活性分子は、門脈の門脈周囲領域に局所投与される。好ましくは、そのような使用は、肥満に罹患した患者におけるインスリン抵抗性を治療するためのものである(if)。
【0054】
更なる態様に従えば、本発明は、本明細書中に提供される通りの生物活性分子、及び、任意により、局所投与を介して被験体に本明細書中に記載される分子を提供又は投与するための説明書を含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】門脈グルコースセンサー及び全身性グルコース恒常性に関する迷走神経求心路とのその関連を示す図である。門脈グルコース(1)センサーは、門脈近傍又は門脈内でのGLP-1rの密度を通して特定可能である。これは肝臓(2)の入口に位置し、胃十二指腸構造(3)により部分的に隠される。門脈グルコースセンサーから生じる情報は、迷走神経求心路(5)を介して背側迷走神経複合体(4)に送達される。右横挿入図は、門脈グルコースセンサーレベルでの門脈構造(6)の拡大図に対応し、グラフは、定量的結合能力単位(7)への変換後での腹部領域の分子イメージングから取得されたGLP1rの密度を表す。膵十二指腸静脈と併せた胃静脈が(8)として示され、一方で、脾静脈は(9)として示される。(10)として示される結合能力ヒストグラムは、痩せ型個体において見出される典型的な分布を描写し、(11)として示されるものは、インスリン抵抗性肥満の影響を示した(Distance:距離)。
図2】患者におけるいずれかの追加の病理の存在に特に依存し得る、3種類の標的化解が提案される。最も侵襲性が低いので、経胃アクセスが特に好ましい。選択された標的化解とは無関係に、生物活性分子の送達に対して数種類の選択肢が利用可能である(1)。門脈壁に対するGLP-1rの位置に起因して、門脈自体の内側又は外側のいずれかからGLP-1rをアップレギュレーションするために特化した生物活性分子を投与することが可能である。生物活性分子は、液体賦形剤によるか、又は延長持続送達のための部位特異的送達賦形剤の助力による更に複雑な剤型中で投与することができる。最後に、手順の有効性を、2型糖尿病の古典的マーカーの顕著な改善を待つ必要なく、療法の持続期間に並行して評価することができる。
図3】内視鏡及び可動プローブの助力による経胃経路を用いる門脈グルコースセンサーにアクセスするための考えられる経路の実際の三次元表示を示す図である。臓器及び血管の三次元形状は、実際の造影CT検査の区分けから算出される。胃及び十二指腸壁は、仮想の内視鏡の可視化を可能にするために、部分的に透明にしてある。これは、門脈センサーへの経胃アクセスに対する第1工程を表す。
図4】門脈センサーアクセスの経胃経路のための代替的アクセス点を示す図である。内視鏡専門医にとって労力が少ない場合があるので、この経路が有利である。超音波内視鏡が、カテーテル誘導に対して利用可能である。A-下行大動脈、B-後大静脈、C-腸間膜動脈、D-門脈。
図5】インスリン抵抗性の前臨床モデルに対する実験プロトコールを示す図である。
図6】対照と比較したDHT輸液又は埋め込み後の動物の体重の進展を示す図である。
図7】CT分析から測定される、対照(円形)と比較したDHT埋め込み(正方形)後の動物における身体組成を示す図である。
図8】DHT埋め込み又はDHT輸液後の動物における毎日の食物摂取を示す図である-各点は群中の全ての動物の平均に対応する。
図9】偽埋め込みと比較した外科手術1ヵ月間後でのDHTインプラント挿入後のGLP-1rの増加した発現の例を示す図である。
図10】DHTインプラント又はDHT継続的輸液の1ヵ月間後の門脈に沿ったGLP-1rの分布体積での変化を示す図である。各グラフは、外科手術前(円形)及び後(正方形)での同じ動物を表す。
【実施例
【0056】
1.患者選択及び生物活性分子
患者選択:検出可能なGLP-1r発現を有しない患者よりも積極的に応答する可能性がより高いので、門脈上に残留GLP-1rを有する患者が好ましく選択される。同様に、GLP-1r発現は治療前には正常であると考えることができるので、健康被験体のものと同等のレベルでの門脈上のGLP-1r発現を有する患者は、治療に対して積極的に応答する可能性が低い場合がある。
【0057】
正常個体では門脈は容易に特定することができるであろうが、構造の境界を位置付けることはより困難である。したがって、第1工程は、注入CTに基づくGLP-1r画像の区分けであり得るであろう。しかしながら、未加工PET画像の減衰補正に対する要件を理由として、放射線不透過剤注入を伴わない事前のCTが、PETイメージング自体の前又は後のいずれかに行われる。この未注入CTは、従来行われる通りのPET画像再構成の間での伝送エラー除去のためのみに用いられる。
【0058】
生物活性分子ジヒドロテストステロン(DHT):テストステロン分泌の拍動性と循環GLP-1との間の相互作用の実証は近年であるが(Izzi-Engbeaya等、2020)、GLP-1受容体の密度がアンドロゲンにより調節されることが、C57BL/6マウス及びdb/dbマウスにおけるインビボ実験に基づいて現在確立されている(Zhu等、2019)。提案される作用機序は、DHT/Arモチーフの部分的な同一性及びGLP1r遺伝子の部分的な同一性に基づく。つまり、細胞外DHTは細胞質へと拡散し、続いてその受容体(アンドロゲン受容体Ar)に結合し、この受容体が、続いて核レベルへのDHT/Arの移動を誘導することができる。核中のDHT/Arは、GLP1r遺伝子のプロモーター領域上に存在するArモチーフに結合し、その転写を増加させる。
【0059】
2.生物活性分子の投与を伴うイメージング
GLP-1r依存的門脈センサーのイメージングは、例えば、[68Ga]Ga-DO3A-VS-Cys40-エキセンジン-4等の陽電子放出リガンドの投与後のGLP-1受容体(GLP-1r)の陽電子放射断層撮影(PET)イメージングを主に用いて行われる。患者の状態に応じて、GLP-1r画像に、より低いGLP-1r発現を有する領域の適切な区分けを算出するために好適な、放射線不透過マーカー造影コンピュータ断層撮影(CT)を伴うことができる。
【0060】
2.1 放射性リガンド合成及び品質管理
[68Ga]Ga-DO3A-VS-Cys40-エキセンジン-4に対する合成及び品質管理手順が、例として本明細書中に提供される。68Gaを用いる標識化において、低質量に対する要件は、適切に除去されない場合には脾臓及び肝臓における取り込みとして見られる場合がある68Gaコロイドの形成を導き得る(Brom等、2016)。つまり、下記の通りの特異的品質管理手順が用いられる。放射性標識リガンドの合成は、例えば、以下の手順を用いて行われる。68Gaは、合成プロセスの一部分として、0.6M HCLによるジェネレータの自動溶出により、毎日生成される。[68Ga]Ga-DO3A-VS-Cys40-エキセンジン-4の生産は、反応器に挿入された2.5mL Hepesバッファー中に溶解された47μg以下のDO3A-VS-Cys40-エキセンジン-4コールド分子を含む68Gaペプチド合成カセットを用いて達成される。汎用ペプチド合成機配列は、反応器の温度(90℃未満)及び加熱継続時間(10~15分間)に関して調整するために改変される。
【0061】
注入に先立って、放射線流検出器と直列の逆相C18カラム及び220nmでのUV検出器を含む高速クロマトグラフィーを用いて、溶液中の受容体リガンドに会合しなかった68Gaの量及び68Gaにより標識されたエキセンジン-4の濃度に関して、最終化合物をチェックする。勾配条件は、以下の通りである:220nmでのUV検出を伴う、溶媒A 10mMトリフルオロ酢酸;溶媒B 70%アセトニトリル、30% H2O、及び10mMトリフルオロ酢酸;勾配溶出は、35%Bで0~2分間、35%~100%Bで2~9分間、及び100%溶媒Bで9~12分間にわたって行われ;且つ流速は2.0mL/分である。この文脈において、標識化Ga-DO3A-VS-Cys40-エキセンジン-4は、約5.1分間の保持時間で溶出される。他の逆相カラム及び異なる勾配値(しかし主に水/アセトニトリルを用いる)を含む代替的な勾配/分析方法を行うことができるであろう。
【0062】
2.2 イメージング取得及び一次的加工
肝門及び腹部大動脈を含む視野を有する腹部画像を、好ましくは動的PETモードで取得し、腹部大動脈は、Malbert等(2020b)に従って即時構築された動脈静脈ループにおける血液循環の直接的放射線測定から取得される動脈入力関数の非存在下での動脈入力関数の構築に対して用いることができるであろう。例えば、動的フレームシーケンスは、60分間(30フレーム;12×10秒間、6×30秒間、5×20秒間、5×300秒間、又は2×600秒間)であり得るであろう。動的シーケンスは、スキャナー製造業者により必要とされる通りのイメージングパラメータを用いて放射性標識注入の直前又は直後に取得されるCT画像を用いて、減衰に関して補正される。PETイメージングの完了時、第2の同時登録されたCTイメージングシーケンスを、放射線不透過注入溶液の注入後に取得することができる。イメージング及び注入に関するパラメータは、肝臓初回通過イメージングに関して従来達成されたものと同様である。
【0063】
連続的静脈サンプル採取を、画像取得と共に行うことができる。採血は20分間毎に行うことができるが、信頼できる動脈入力関数は、60分間の画像取得中に最小で4~5サンプルを必要とする。血漿の放射活性は、各血液サンプルの遠心分離後に算出される。放射性標識化合物が、約0.2MBq/Kg IVで迅速に投与される。
【0064】
合成動脈関数は、好ましくは、Malbert等(2020b)に従って即時構築された動脈静脈ループにおける動脈血循環の放射活性を用いて、各個体に関して算出される。しかしながら、この方法は、相対的に侵襲的であり、且つ動脈カテーテルの挿入を必要とするので、動脈入力関数は、腹部大動脈を中心とした対象体積内で測定される放射活性の変化を用いて、概算することができるであろう。対応する血漿質量の放射活性が、個別の血液サンプルに関して取得される全血-血漿比を用いて算出される。測定されるデータは、単調関数を達成するために、3指数曲線に対して、好ましくは反復アルゴリズムを用いてフィッティングされる。代替的に、単一静脈サンプルのみを放射性標識の注入後に取得し、大動脈放射活性を、Zanotti-Fregonara等、2011に従って、数名の個体の平均として構築される集団に基づく鋳型に対してフィッティングすることができる。
【0065】
3. 門脈の門脈周囲領域への生物活性分子の局所投与の方法
門脈の門脈周囲領域への局所投与は、数種類の投与経路により、より好ましくは経胃経路、経大静脈経路を介して、又は直接的な腹腔鏡アクセスにより、行うことができる。
【0066】
3.1 経胃経路
過剰な患者又は医師の負担-本明細書中に提供される本発明の適用のための強制的な拘束を伴わずに再現可能であるので、門脈標的に対する経胃アクセスが、対象となる第1経路である。
【0067】
門脈外壁に対するアクセスは、カテーテルを装着した内視鏡を用いて達成される、胃壁の極めて小さな開口を介して達成される。そのような手順に対して好適な内視鏡は、従来の多チャンネル胃カメラ又は門脈の強化された可視化のための超音波内視鏡のいずれかであり得る。非限定的な例として、数箇所のアクセス点が門脈の標的領域に到達するために好適であり、且つ図4に図示される。生物活性分子の注入のための第1の位置は門脈周囲区域であるが、門脈内膜内から治療用分子を注入するために設計されたデバイスを、同じ経路を介して、且つ門脈穿孔後に挿入することもまた可能である。
【0068】
カテーテル標的化実施形態において記載される通りに行われ且つ加工されたCTイメージングは、polaris vicra赤外線カメラ(NDI社、Canada)等の光学追跡、標的化カテーテル上に貼り付けられた磁性送受信機に対する必須の電子インターフェース及び超音波検査装置により生成される2D画像を捉えるための溶液と組み合わせられたauroraアンテナ(NDI社)等の磁性追跡のための適切なインターフェースを含む追跡コンピュータに対してアップロードされる。CT画像に登録された門脈センサーのCT/PETモデルもまた、標的化コンピュータにアップロードされる。患者身体上でも特定される基準マーカーのCT表示を両方ともコンピュータスクリーン上でポイントすることにより空間的に参照されたら、プローブ及びアンテナの両方に関して組み込み型モデルを用いてリアルタイムで、コンピュータは、全ての光学ベースのツール、すなわち、超音波検査プローブ及び磁性アンテナ追跡システムの位置を追跡することができる。同様に、3DライブCT投影上に重ね合わせたカテーテルの先端の正確な位置を伴うライブ超音波画像を表示することができる。
【0069】
手順は、当初は、上記に示される通りの同時登録工程及びそれに続く予定された胃内挿入点に向かう内視鏡の挿入を含む。内視鏡の操縦能力を用いて、CT画像及び標的モデルに基づいて3Dで系を可視化しながら、後退した針を有するカテーテルの先端を胃粘膜上に当てる。定位置に着いたら、針を伸ばし、カテーテルの可動部分が胃壁を通して挿入される。漿膜境界を通った直後、針を再び後退させ、解剖学的構造に近接した更なる損傷を回避する。先端が門脈センサーのすぐ近くに置かれるように、超音波検査プローブが、内側カテーテルの追加の前進中に門脈系の正確なオンライン可視化のために用いられる。カテーテル先端の操縦能力は、この位置決めのため、及び可能な限り多くの門脈センサーがそれに近接するように治療用分子の適用を最適化するために設計される。手順の完了は、内側カテーテルの後退、その後の外側カテーテルの除去、並びに大きな胃壁開口部の非存在及び患者からの内視鏡の引き抜きの確認を含む。
【0070】
3.2 経大静脈経路
門脈センサーはまた、上大静脈又は下大静脈のいずれかを介してもアクセス可能である。門脈センサーの外側部分及び内側部分の両方にこの方法を用いてアクセスすることができるが、門脈狭窄又は門脈圧亢進を軽減するために用いられる通常の手順の一部分として組み込むことができるので、血管内医療デバイスを介する内側送達が好ましい。
【0071】
門脈ステントは、特に、以下の2種類の手順のうちのいずれかにより埋め込むことができる:肝臓内門脈の超音波検査誘導経皮経肝穿刺及び回結腸静脈を介する挿入。いずれかの経路によるステントの留置は、より広い文脈で既に公表されている(Intagliata、Caldwell、& Tripodi、2019)、(Kato等、2017)。
【0072】
3.3 腹腔鏡アクセス
直接的な門脈周囲腔アクセスは、アクセス可能性又は他の干渉性病理が生物活性分子の送達のための内視鏡又は放射線誘導手順を妨げる患者に対して、腹腔鏡(この経路はまた、「腹腔鏡アクセス」とも本明細書中で称される)により行うことができる。例えば、大量出血の可能性をもたらす重要な凝固障害を伴う病理を有する患者は、特に、腹腔鏡アクセスを受けるべきである。
【0073】
門脈センサーの位置は、Malbert、2021aに記載されたものと類似の必須の3D光学ローカライザーを含む少なくとも1種の腹腔鏡可能ツールを用いて、正確に示すことができる。有資格の外科医は、追加の電磁的追跡及び関連する超音波可視化を必要としない可能性が高い。
【0074】
具体的には、門脈周囲腔は、好ましくは、排他的ではないが、超音波メスを用いて為される腹膜筋膜の小切開後に門脈センサーに近接してアクセスされる。門脈の外層にアクセスするための組織の鈍化切開後、カテーテルを門脈に沿って挿入することができ、腹膜筋膜が外科的縫合を用いて閉じられる。カテーテルはまた、腹膜の小腔へのその入口からある程度の距離で固定される。代替的に、適切な剤型での生物活性分子を、門脈に沿って、カテーテルの「代わりに」(en lieu)、配置することができる。カテーテルを用いる実施形態では、その自由端が皮膚下に入れられ、生物活性分子を投薬することができる、皮膚を通した無菌アクセスに対して好適なデバイスに連結される。
【0075】
4.治療有効性の検証
門脈GLP-1r復元療法の成功を評価するためにGLP-1r像を用いることができ、この手順は反復可能である。この画像セットは、単独で、又は、排他的ではなく、正常血糖クランプ試験からのM値(Benesch等、2015)、IVGTTからの動的インスリン感受性(Pillonetto等、2010)若しくはHbA1c等の追加の血漿に基づく測定に対する補完として、用いることができるであろう。GLP-1r画像は、例えば、生物活性分子の局所投与直前に行われるGLP-1r PETに対する参照と比較した場合に、HbA1cとは異なり、療法の有効性の早期指標として用いられる可能性がある。この検証は、患者の生涯全体を通して何度も行われる可能性がある。したがって、これは、可能な限り侵襲性が低く、且つ、画像品質に対して有害である場合でさえ、最小限の放射性化合物を用いるように設計される。特に、イメージングセッションの最も照射を受ける部分であるCTスキャンは省略することができ、元来の注入前のCTスキャンを、実際のPET及び元来のCT画像の両方において特定可能である共参照としての肝臓質量を用いる適切な登録後に用いることができる。
【0076】
5. インスリン抵抗性の前臨床モデルに対する方法の有効性
以下の項目を評価するために、実験プロトコールを設計した:
- ED50投与量で投与されるジヒドロテストステロン(DHT)が門脈周囲区域のレベルでGLP-1r発現を強化する能力
- ED50投与量の1/100で投与されるDHTが門脈周囲区域のレベルでGLP-1r発現を強化する能力
- ED50投与量で投与されるDHTが未処置肥満動物と比較してインスリン感受性を改善する能力
- 1/100 ED50投与量で投与されるDHTが未処置肥満動物と比較してインスリン感受性を改善する能力
- 未処置肥満動物と比較して1/100 ED50投与量で投与されるDHTにより誘導されるグルコース代謝パラメータにおける変化
- 未処置肥満動物と比較してED50及び1/100 ED50投与量のいずれかで投与されるDHTにより誘導される食物摂取及び体重における変化。
【0077】
5.1 動物及び実験プロトコール
5歳であり、既に公表されたデータ(Malbert等、2017b)に従って3~4ヵ月間の高脂肪高ショ糖食過剰摂取後にインスリン抵抗性にさせられた15頭の小型ブタ(INRAE、UEPR、Saint-Gilles、France)に対して、方法を評価した。食餌は1kgの飼料当たり4024kcalを供給し、動物が推奨カロリー摂取(288kcal/kg BW0.75)の最大150%を食べることができるように、1日2回与えられた。
【0078】
肥満及びインスリン抵抗性となったら、動物を同サイズ(n=5動物)の3群へと分配した。1つの群は対照として機能し、[68Ga]Ga-DO3A-VS-Cys40-エキセンジン-4を用いる当初のGLP-1r PETイメージングシーケンスを含む疑似埋め込み手順にのみ供した。第2の群には、3.3に記載された手順に従って、最小GLP-1r発現領域に近接した門脈センサーにその先端を配置したシリコンカテーテル(2mm OD)を、腹腔鏡手順中に埋め込んだ。カテーテルの末端部分は、門脈周囲区域に入るために90°で曲げられた。埋め込みに先立って、シリコンゴムに貼り付けられたdacron外科用メッシュ(Biomesh P1、Cousin Bioserv社、Paris)を用いて、カテーテルを門脈周囲の腔の入口に固定した。埋め込みの最中に、外科用接着剤ディスペンサー(Glubran 2及びGlutack、Cousin Bioserv社、Paris)を用いて、外科用メッシュを門脈の外層に張り付けた。カテーテルの反対側の先端を動物の肩の間から出し、エラストマーポンプに連結した。ポンプ(Easypump、II、BBraun社)は滅菌水/DMSO(100:5 V/V)中のジヒドロテストステロン(Sigma社、Paris)の溶液のうちの1時間当たり2mLを送達し、それにより、10mgのジヒドロテストステロンを毎日輸液した。活性分子の量は、体重(BW)とは無関係であった。ポンプは、肥満ユカタン系ミニブタ(Lomir社、Canada)に対してサイズを調整し、実験の継続期間にわたって動物により装着されたジャケットの側面ポケットに入れた。第3の群には、動物の体重とは無関係に1日100μgのジヒドロテストステロン(Belma Technologies社、Belgium)を送達するインプラントを、腹腔鏡手順中に埋め込んだ。インプラントは門脈周囲区域中に挿入し、挿入のために腸間膜層に開けられた挿入孔は、上記と同様の手順を用いて腸間膜(meso)上に直接貼り付けた外科用メッシュのパッチにより閉じた。腹腔鏡のために用いた麻酔及び外科的アプローチは、Malbert等により既に記載されたものと同様であった(Malbert等、2017b)。
【0079】
プロトコールは図5に記載され、2つの期間からなった:肥満インスリン抵抗性状態が達成される間の期間、及びそれに続く1ヵ月間の外科手術後期間であって、その間に上記の送達方法に従ってDHTがゆっくりと放出される。対照及びインプラント単独群に関して、実験期間はまた、グルコース代謝に対する持続的作用を達成するための方法の能力を評価するために、更に1ヵ月間延長された。この延長期間は、倫理的制限に起因して、カテーテル埋め込み動物に対しては実現可能でなかった。1週間の回復期間が、最初のPET GLP-1rスキャン後及び外科手術後にプロトコール中に挿入される。これらの期間中に取得されるデータは、更なる解析からは破棄した。
【0080】
5.2 測定
第1のPETイメージングセッションの3週間前に、実験群にかかわらず、動物を実験施設に移し、給餌挙動をモニタリングしながら1日2回の食餌を自動的に供給することを可能にするロボット給餌を含む2.5m2の檻の中で個別に飼育した(Malbert、2021)。給餌機により記録されたデータの解析は、Malbert等に記載されたものと同様である(Malbert等、2017a)。
【0081】
実験期間全体の間、空腹条件(例えば、朝の食餌前)で動物の体重を週1回測定した。処置に無関係の給餌挙動の変化を回避するために、毎日供給される食餌の量は、体重の将来の変化にかかわらずに、実験期間の開始時に固定した。
【0082】
門脈に沿った、及び腹部臓器内のGLP-1rの分布を、実施例の上記セクション3に従って、25~40MBq[68Ga]Ga-DO3A-VS-Cys40-エキセンジン-4の投与後の最初のPETスキャン中に取得した。低GLP-1r発現の門脈領域を特定し、腹腔鏡アクセスに関連した上記セクション3.3に従う、カテーテル先端又はDHTインプラントのいずれかの挿入のために用いた。麻酔及びイメージングのための全体的手順は、Malbert等により記載されたものと同様である(Malbert等、2020b)。同じPETスキャン手順を、外科的手順の1ヵ月間後に反復し、群間及び同じ群の被験体内でGLP-1r分布の変化の比較を可能にした。同じイメージング中、手順の一部分として、CTに基づく減衰もまた、Val-Laillet等に従って、体脂肪、内臓脂肪及び筋肉比率の算出のために用いた(Val-Laillet等、2010)。更に、肝臓中に存在する脂肪の量を、肝臓-脾臓比法を用いて推定した(Kodama等、2007)。更に、同じ麻酔中、血糖測定、血中インスリン、並びに高解像度オシロメトリーを用いる血圧及び関連するパラメータの評価のために、血液サンプルを採取した(Egner、2015)。
【0083】
18フルオロデオキシグルコース(FDG)PETイメージング及びMalbert等に従う正常血糖クランプ(Malbert等、2017b)を用いて、全身及び局所レベルでグルコース代謝を測定した。簡潔には、グルコースの局所代謝速度(MRglu)を、PET動的画像を用いるPatlakモデル不使用定量的評価及び外部から測定したFDGの動脈入力画分を用いて算出した。測定は、PModソフトウェアを用いて達成した。これらの計算に関して、ランプ定数の値は、脳について0.45であり(Poulsen等、1997);肝臓について1であり(Iozzo等、2007);横紋筋について1.2であり(Peltoniemi等、2000);心臓及び膵臓について1であり、且つ腸について1.15であった。空腹条件での内因性グルコース産生は、Iozzo等に従うFDG注入(Iozzo等、2006)後の動脈血内でのFDG濃度の無限での外挿により取得した。動物がMalbert等(Malbert等、2020a)に従って既に麻酔されている間に、グルコース酸化速度を、FDG又は放射性エキセナチド注入前に取得した間接熱量測定を用いて取得した。
【0084】
インスリン感受性は、以下の式に従って、正常血糖高インスリンクランプのプラトー中に取得した:
【0085】
【数1】
【0086】
IS - インスリン感受性(dL/Kg.分/μU/mL*1E-3)
GIRss - クランププラトーでのグルコース輸液速度(mg/kg.分)
Gss - クランププラトーでの血漿血糖(mg/dL)
ΔIss - 基底血中インスリンとクランププラトーでの血中インスリンとの間の差異(μU/mL)
【0087】
5.3 結果
5.3.1 表現型パラメータ
対照群、DHT輸液群及びDHTインプラント群でのミニブタの表現型特徴の進展を、埋め込み手術後の最初の30日間に関してTable 1(表1)に提示した。
【0088】
【表1】
【0089】
対照群と比較した体重の進展を、図6に描写した。簡潔には、DHT輸液及びDHTインプラントは、体重を顕著に低減させるために等しく有効であり、この低減の時間的な進展は、処置群間で同様であり、手順の開始の約40日間後での体重の安定化を伴った。実験の制約に起因して、DHT輸液群に関する体重の進展は、最初の30日間の後には分からないことに注意されたい。
【0090】
体重の低減は主に、より体重に関連しない場合もある脂肪の低減の結果であった。この差異は、埋め込みの60日間後に有意になった(図7を参照されたい)。全ての処置群に関して、腹部脂肪は有意に低減したが、骨格筋の量は、インプラント群についてDHT埋め込みの60日間後に特に増加する。更に、肝臓-脾臓比における有意な増加により示される通り、肝臓内脂肪の量もまた、処置群において低減する。この増加は、処置の60日間後に更により明らかであることに注意されたい(図7を参照されたい)。
【0091】
1日摂取量は、DHT輸液群及びインプラント群で顕著に低減した。この低減は、回復期の完了直後に観察され、実験期間全体の間、同じ比較的低いレベルで維持された(DHTインプラント及び輸液群における典型的な例に関して、図8を参照されたい)。食物摂取レベルの減少は主に、朝の食餌は変更しないままでの、午後の食餌の低減されたサイズの結果であった。摂取の行動パターンは変化しなかった。非摂取時間の持続時間及び摂取速度は群間で同様であったが、午後の食餌の終了時はより早い時点に設定され、このことが、最終的に、より少ない食餌消費をもたらした。
【0092】
平均血圧は、偽外科手術群と比較して、DHTインプラント群では顕著に低減したが、DHT輸液群では顕著に低減しなかった。近接した特徴はまた、心拍数に関しても見出され、DHTインプラント群のみに関して顕著な低減を伴う。収縮期血圧は処置によって変化しないままであり、これは外科手術の60日間後でのDHTインプラント群に関しても当てはまった(それぞれ、DHTインプラント群vs対照群に関して56±2.4 vs 54±4.2、p>0.05)。
【0093】
5.3.2. GLP-1r発現
門脈GLP-1rの結合能/分布の体積は、対照と比較して、DHT輸液群及びインプラント群において2倍を超えた(それぞれ、DHT輸液群、DHTインプラント群及び対照群に関して、Vt - 3.7±0.13;5.2±0.15及び1.1±0.05mL/ccm、両方のDHT群が対照と比較してp<0.01を伴う)。例えば、DHT埋め込み後(外科手術の1ヵ月間後)でのGLP-1r発現の検出が、図9に図示される。この増加は、門脈の腸間膜枝まで下がる肝門(porta hepaticus)から見出された。しかしながら、GLP-1rの発現増加は、カテーテル又はインプラント(例えば、20~50mm)のいずれかの挿入点から実質的に下向きであった。Vtでの全体的な増加は、処置群間で異なり;インプラント群はインプラント位置での明確に定められるピークを示すが、パターンは、DHT輸液群について門脈に沿って着実に増加している。そのようなパターンは、カテーテル先端自体の距離での門脈周囲腔におけるDHTのある程度の拡散を示唆する(図10を参照されたい)。
【0094】
顕著なGLP-1r結合性が、門脈周囲区域とは別に、腹腔において測定された。この非門脈結合性は、もっぱら膵臓GLP-1r発現を反映し、これはDHTインプラントでは若干増加したが、DHT輸液群では増加しなかった(それぞれ、DHTインプラント群、DHT輸液群及び対照群に関して、5.7±0.48;4.8±0.41及び4.6±0.61、DHTインプラント群と対照群との間でp<0.05、DHT輸液群と対照群との間でns)。糖尿病ブタでは低減した膵臓GLP-1r発現が見られるので(Malbert等、2020a)、この観察は重要である。このデータは、発現異常がDHTインプラントにより逆転することを実証し、T2Dヒトにおける同様の低減された発現を支持する(Eriksson等、2022)。
【0095】
5.3.3.グルコース代謝
対照群、DHT輸液群及びDHTインプラント群中のミニブタにおける埋め込み手術の30日間後に取得されたグルコース代謝の重要なパラメータを、table 2(表2)に提示した。
【0096】
【表2】
【0097】
重要なことに、空腹時血糖は、対照と比較してDHT処置動物では顕著に低かった。低減された血漿グルコースはまた、低減された循環インスリンにも関連付けられ、対照群で測定された血中インスリンの1/3であった。代表的な基準、例えば、正常血糖高インスリンクランプによる全身インスリン感受性の測定は、対照と比較して、DHT群のいずれかにかかわらない3分の1の顕著な増加を実証した。この増加したインスリン感受性は、それ以外は同一であるが痩せ型である小型ブタにおいて観察されるものと同等であった(Malbert等、2017b)。
【0098】
間接熱量測定は、対照と比較して、DHTインプラント群のみに関して、基礎代謝率における小さいが有意な増加を示す。基礎代謝率の変化は除脂肪量における変化と並行するので、この増加は、DHTインプラント群で見られるがDHT輸液群では見られない比較的大きな筋肉%の結果である可能性がある(Jequier、 1989)。グルコース酸化における有意な変化は観察されず、安定性は、測定の条件-グルコース負荷後ではなく空腹時-を反映し得た(Felber等、1981)。
【0099】
空腹条件での局所グルコース取り込みを、table 3(表3)において、埋め込み手術の2ヵ月間後に対照群及びDHTインプラント群のみに関して提示した。
【0100】
【表3】
【0101】
痩せ型及び肥満のインスリン抵抗性被験体を比較するヒト(Iozzo、2015)又は動物(Malbert、2021)において既に公表されたデータに従えば、グルコース代謝を制御する全ての主要臓器が、DHTインプラント後にグルコース取り込みでの顕著な増加を示した。グルコース取り込みの増加は、対照と比較して30~50%超の範囲である、肥満手術後のヒトにおいて提示される通りの有益な作用と合致する(Dadson等、2016)。腸グルコース代謝において有意差は測定されなかった。そのような群間での差異の非存在は、肥満個体と痩せ型個体とで観察される、空腹条件のみでの同じ作用の欠如と合致する(Makinen等、2015)。最後に、脳グルコース取り込みは、対照と比較してDHTインプラント群に関する取り込みにおける大きく顕著な減少を伴う反対の挙動を示した。ここでまた、この挙動は、ヒトにおけるインスリン抵抗性に関連付けられる強化された脳グルコース取り込みを連想させ(Rebelos等、2021)、このことは、インスリン感受性の復元が、脳グルコース取り込みから生じる可能性があることを意味する。したがって、調査下にある臓器とは無関係に、グルコース取り込みパラメータにおいてDHTインプラントにより誘導される変化は、グルコース代謝の改善及びインスリン感受性の復元と等しく合致する。
【0102】
空腹時内因性グルコース産生は、対照と比較してDHTインプラント群において約半分であった。この進展は、より激しいが、肥満手術後の肥満ヒトにおいて観察されるものと同様である(Camastra等、2011)。
【0103】
参考文献
【符号の説明】
【0104】
1 門脈グルコースセンサー
2 肝臓
3 胃十二指腸構造
4 背側迷走神経複合体
5 迷走神経求心路
6 門脈構造
7 定量的結合能力単位
8 膵十二指腸静脈と併せた胃静脈
9 脾静脈
10 結合能力ヒストグラム
11 インスリン抵抗性肥満の影響
1 生物活性分子の送達に対する選択肢
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-06-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
門脈の門脈周囲領域への局所投与によるインスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元における使用のための、GLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項2】
投与が、経胃経路、経大静脈経路を介するか、又は直接的な腹腔鏡アクセスにより、好ましくは経胃経路を介する、請求項1に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項3】
門脈の門脈周囲領域への投与が、少なくとも部分的に門脈の壁中、且つ/又は門脈周囲の結合組織中である、請求項1に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項4】
前記生物活性分子がステロイド、好ましくはジヒドロテストステロンである、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項5】
前記生物活性分子が、前記分子のED50よりも少なくとも約10倍低い用量で、好ましくは前記分子のED50よりも約100倍低い用量で、より好ましくは前記分子のED50よりも約10倍低い~約100倍低い用量で、更により好ましくは前記分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で投与される、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項6】
前記生物活性分子が、ジヒドロテストステロンに関して100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量で、より好ましくは約100μg/24h~約1000μg/24hである用量で、更により好ましくは100μg/24h~1000μg/24hである用量で投与される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項7】
前記生物活性分子が、24hの時間当たり1mLと等しいか又はそれよりも低い体積で投与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項8】
前記生物活性分子が、肥満であるか、2型糖尿病を有するか、メタボリックシンドロームを有するか、門脈圧亢進、前糖尿病、又はそれらの2種以上のいずれかの組み合わせを有する被験体に投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項9】
GLP-1rが被験体の門脈周囲領域において検出される、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項10】
健康被験体におけるGLP-1rの密度と比較した場合に被験体の門脈周囲領域におけるGLP-1rの密度の低減が検出される、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項11】
GLP-1rの存在及び/又は密度の低減が、好ましくは放射線不透過マーカー造影コンピュータ断層撮影(CT)と組み合わせた、GLP-1r陽電子放出リガンドを用いる陽電子放射断層撮影(PET)を介して決定される、請求項9又は10に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項12】
前記生物活性分子が、有効量の前記生物活性分子を含む門脈中のデバイスを用いて投与される、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項13】
インスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元における使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子であって、前記生物活性分子が、前記生物活性分子のED50よりも少なくとも約10倍低く、好ましくは前記分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で、門脈周囲領域中に投与される、使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項14】
前記生物活性分子が、ジヒドロテストステロンに関して100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量で、好ましくは約100μg/24h~約1000μg/24hである用量で、より好ましくは100μg/24h~1000μg/24hである用量で、門脈周囲領域中に投与される、インスリン抵抗性の治療及び/又はグルコース恒常性の復元における請求項13に記載の使用のためのGLP-1rをアップレギュレーションする生物活性分子。
【請求項15】
以下の工程:
a. GLP-1rの発現をアップレギュレーションする少なくとも1種の生物活性分子を提供する工程、及び
b. 門脈の門脈周囲領域へと前記少なくとも1種の生物活性分子を局所投与する工程
を含む、それを必要とする被験体においてインスリン抵抗性を治療し且つ/又はグルコース恒常性を復元する方法。
【請求項16】
前記生物活性分子が、少なくとも部分的に門脈の壁中、且つ/又は門脈周囲の結合組織中に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記門脈周囲領域が、経胃経路、経大静脈経路を介するか、又は直接的な腹腔鏡アクセスにより、好ましくは経胃経路を介して、工程b)においてアクセスされる、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記生物活性分子が、前記分子のED50よりも少なくとも約10倍低く、好ましくは前記生物活性分子のED50よりも約100倍低い用量で、より好ましくは前記分子のED50よりも約10倍低い~約100倍低い用量で、更により好ましくは前記分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で投与される、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記生物活性分子がステロイドであり、前記ステロイドは、好ましくはアンドロゲン、より好ましくはジヒドロテストステロンである、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記生物活性分子がジヒドロテストステロンであり、且つジヒドロテストステロンに関して100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量で、より好ましくは約100μg/24h~約1000μg/24hである用量で、更により好ましくは100μg/24h~1000μg/24hである用量で投与される、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記生物活性分子が、24hの時間当たり1mLと等しいか又はそれよりも低い体積で投与される、請求項15から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記被験体が、肥満であるか、2型糖尿病を有するか、メタボリックシンドロームを有するか、門脈圧亢進、前糖尿病、又はそれらの2種以上のいずれかの組み合わせを有する、請求項15から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
GLP-1rが、工程a)に先立って前記被験体の門脈周囲領域において検出される、請求項15から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
健康被験体におけるGLP-1rの密度と比較した場合の前記被験体の門脈周囲領域におけるGLP-1rの密度の低減が、工程a)に先立って検出される、請求項15から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
GLP-1rの存在及び/又は密度の低減が、好ましくは放射線不透過マーカー造影コンピュータ断層撮影(CT)と組み合わせた、GLP-1r陽電子放出リガンドを用いる陽電子放射断層撮影(PET)を介して決定される、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
以下の工程:
a. GLP-1rの発現をアップレギュレーションする少なくとも1種の生物活性分子を提供する工程、及び
b. 門脈の門脈周囲領域へと前記少なくとも1種の生物活性分子を投与する工程
を含む、それを必要とする被験体においてインスリン抵抗性を治療し且つ/又はグルコース恒常性を復元する方法であって、
前記生物活性分子が、前記生物活性分子のED50よりも少なくとも約10倍低く、好ましくは前記分子のED50よりも10倍低い~100倍低い用量で投与される、方法。
【請求項27】
前記少なくとも1種の生物活性分子が、ジヒドロテストステロンに関して100μg/24hと等しいか又はそれよりも高い用量で、より好ましくは約100μg/24h~約1000μg/24hである用量で、更により好ましくは100μg/24h~1000μg/24hである用量で投与される、請求項26に記載の方法。
【国際調査報告】