(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】発光層用インク組成物及びこれを用いた電界発光素子
(51)【国際特許分類】
H10K 71/15 20230101AFI20240912BHJP
H10K 50/115 20230101ALI20240912BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20240912BHJP
H10K 71/13 20230101ALI20240912BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20240912BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20240912BHJP
H10K 50/17 20230101ALI20240912BHJP
【FI】
H10K71/15
H10K50/115
H05B33/14 Z
H10K71/13
H10K50/15
H10K50/16
H10K50/17
H10K50/17 171
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516861
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 KR2022013056
(87)【国際公開番号】W WO2023043096
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0124890
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519350498
【氏名又は名称】ハンソル ケミカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HANSOL CHEMICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】7-8F, 513, Teheran-ro, Gangnam-gu, Seoul 06169, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】キム・ソマン
(72)【発明者】
【氏名】ノ・ジェホン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ドヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム・ギョンナム
(72)【発明者】
【氏名】ハ・ソンミン
(72)【発明者】
【氏名】ナム・チュンレ
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA06
3K107AA07
3K107BB01
3K107CC02
3K107CC04
3K107CC33
3K107CC45
3K107DD57
3K107DD70
3K107FF03
3K107FF09
3K107FF13
3K107FF14
3K107GG08
(57)【要約】
本発明は、インクジェット印刷方式に適用可能な電界発光用の発光層用インク組成物、及び当該組成物から形成される発光層を備える発光素子を提供する。本発明では、量子ドット溶液に分散剤を少量混合してインク化することにより、インクジェット印刷方式による発光層の形成を可能にし、また、分散剤の添加によるコーヒーリング現象の改善が可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ドット、
(メタ)アクリル系分散剤、及び
溶媒、を含み、
前記アクリル系分散剤は、前記溶媒100体積%に対して、30体積%以下の範囲で含まれる、発光層用インク組成物。
【請求項2】
前記溶媒は、0.001mmHg以上の蒸気圧を有する、請求項1に記載の発光層用インク組成物。
【請求項3】
前記溶媒は、蒸気圧が異なる少なくとも2種以上の溶媒を含む、請求項1に記載の発光層用インク組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系分散剤は、ジ(メタ)アクリル系化合物である、請求項1に記載の発光層用インク組成物。
【請求項5】
前記量子ドットは、当該発光層用インク組成物の総重量に対して、1~30重量%の範囲で含まれる、請求項1に記載の発光層用インク組成物。
【請求項6】
前記量子ドットは、赤色発光量子ドット、緑色発光量子ドット、及び青色発光量子ドットのうちの少なくとも1つ以上を含む、請求項1に記載の発光層用インク組成物。
【請求項7】
前記発光層用インク組成物は、
20℃での粘度が1.0~5.0cpsであり、
20℃での蒸気圧が0.1~10mmHgであり、
接触角が10~30°であり、
固形分の含有量が30重量%以下である、請求項1に記載の発光層用インク組成物。
【請求項8】
ジェッティング後に形成されたインクパターンは、揮発性成分の除去によって、10体積%以下の溶媒及び分散剤を含む、請求項1に記載の発光層用インク組成物。
【請求項9】
ジェッティング後のインクパターンの高さ(H
1)は500~2,000nmであり、
乾燥後の印刷パターンの高さ(H
F)は5~60nmである、請求項1に記載の発光層用インク組成物。
【請求項10】
第1の電極、
前記第1の電極と対向して配置される第2の電極、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置され、請求項1~9のうちのいずれか1項に記載の発光層用インク組成物から形成される発光層、
前記第1の電極と前記発光層との間に配置される正孔輸送層、及び
前記発光層と前記第2の電極との間に配置される電子輸送層、
を含む、発光素子。
【請求項11】
前記発光層は、インクジェット印刷によって形成される、請求項10に記載の発光素子。
【請求項12】
正孔注入層及び電子注入層のうちの少なくとも1つをさらに含む、請求項10に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷方式に適用可能な電界発光素子用の発光層用インク組成物、及び当該組成物から形成される発光層を備える発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
量子ドット材料を電子素子に利用するためには、電子素子の内部に量子ドットパターンを形成する技術が必要となる。量子ドットパターンを形成する最も一般的な方法としては、真空蒸着法によって、量子ドットを基板上に直接パターン形成する方法がある。しかし、量子ドット材料は、発光有機分子とは異なり、質量が重いため真空蒸着しにくく、また熱と水分に弱いという問題があり、自発光型OLEDのような蒸着方式を行うことができないという不都合がある。
【0003】
上述した問題点を解決するため、まるで判子を押すように量子ドット材料を基板に転写する方法、インクジェットプリンタと同様な原理で印刷する方法などが提示されている。上記転写法は、判子のサイズを大きくするのに限界があり、大面積の基板に適用することが困難であるという問題がある。そのため、量子ドット材料のインク化を通じた、インクジェット印刷方式による量子ドット発光素子(QLED)に関する研究が盛んに行われている。
【0004】
近年、インクジェット印刷方式による量子ドット溶液が多く研究されているが、インクジェット法用の発光層(Emission layer、EML)に関する研究が相対的に少ないため、現状としては、特に均一な発光層を形成するためにはインクジェット印刷が可能な発光層(EML)の組成に関する研究が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような問題点を解決するために案出されたものであり、本発明の目的は、量子ドットと溶媒が含まれた量子ドット溶液に少量の分散剤を添加してインク化することにより、インクジェット印刷による発光層の形成が可能となり、また、分散剤の添加によるコーヒーリング現象が改善されることで均一な成膜が可能となる、発光層用インク組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記のようなインク組成物を用いて、インクジェット印刷法により形成された発光層を備える発光素子を提供することにある。
本発明のまた他の目的及び利点については、後述する発明の詳細な説明及び請求範囲によって、より明確に説明されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した技術的課題を解決するため、本発明は、量子ドット、アクリル系分散剤、及び、溶媒、を含み、上記(メタ)アクリル系分散剤は、上記溶媒100体積%に対して、30体積%以下の範囲で含まれる発光層用インク組成物を提供する。
【0007】
本発明の一実施形態では、上記溶媒は、0.001mmHg以上の蒸気圧を有することができる。
本発明の一実施形態では、上記溶媒は、蒸気圧が異なる少なくとも2種以上の溶媒を含むことができる。
【0008】
本発明の一実施形態では、上記アクリル系分散剤は、ジ(メタ)アクリル系化合物であり得る。
本発明の一実施形態では、上記量子ドットは、当該組成物の総重量に対して、1~30重量%の範囲で含まれている。
【0009】
本発明の一実施形態では、上記量子ドットは、赤色発光量子ドット、緑色発光量子ドット、及び青色発光量子ドットのうちの少なくとも1つ以上を含むことができる。
【0010】
本発明の一実施形態では、上記組成物は、20℃での粘度が1.0~5.0cpsであり、20℃での蒸気圧が0.1~10mmHgであり、接触角が10~30°であり、固形分の含有量が30重量%以下であり得る。
【0011】
本発明の一実施形態では、ジェッティングの後に形成される印刷パターンは、揮発性成分の除去によって、10体積%以下の溶媒及び分散剤を含むことができる。
【0012】
本発明の一実施形態では、ジェッティング後の印刷パターンの高さ(H1)は500~2,000nmであり、乾燥後の印刷パターンの高さ(HF)は5~60nmであり得る。
【0013】
また、本発明は、第1の電極、上記第1の電極と対向して配置される第2の電極、上記第1の電極と上記第2の電極との間に配置され、上述した発光層用インク組成物から形成される発光層、上記第1の電極と上記発光層との間に配置される正孔輸送層、及び、上記発光層と上記第2の電極との間に配置される電子輸送層、を含む発光素子を提供する。
【0014】
本発明の一実施形態では、上記発光層は、インクジェット印刷法により形成されるものであり得る。
本発明の一実施形態では、上記発光素子は、正孔注入層及び電子注入層のうちの少なくとも1つをさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、量子ドットおよび溶媒が含有された量子ドット溶液に少量の分散剤を混合してインク化することにより、インクジェット法による均一な吐出が容易に得られるとともに、吐出されたインクによる発光層の均一な成膜が可能となる電界発光素子用の発光層用インク組成物を提供することができる。
【0016】
これにより、本発明の発光層用インク組成物は、インクジェット印刷工程によって、発光素子、具体的には、自発光型ディスプレイの作製に有用であるだけでなく、簡単かつ安価なインクジェット工程を利用することで商用化及び大型化により有利となる効果が得られる。
本発明による効果は、上述した内容によって制限されず、より多様な効果が本明細書内に含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例1で製造された発光層用インク組成物のイメージ図である。
【
図2】実施例1で製造された発光層用インク組成物を用いた吐出インクのイメージ図である。
【
図3】比較例1で製造された発光層用インク組成物を用いた吐出インクのイメージ図である。
【
図4】比較例2で製造された発光層用インク組成物を用いた吐出インクのイメージ図である。
【
図5】実施例1で製造された赤色発光層用インク組成物のジェッティング(jetting)直後のパターン厚さを評価したイメージ図である。
【
図6】実施例1において発光層用インク組成物のジェッティング(jetting)直後のR、G、B別のパターンを分析したイメージ図である。
【
図7】比較例2において発光層用インク組成物のジェッティング(jetting)直後のR、G、B別のパターンを分析したイメージ図である。
【
図9】実施例1及び比較例2の発光層用インク組成物を用いて製作された赤色発光素子の電流密度特性を示すグラフである。
【
図10】実施例1及び比較例2の発光層用インク組成物を用いて製作された赤色発光素子の発光効率特性を示すグラフである。
【
図11】実施例1及び比較例2の発光層用インク組成物を用いて製作された赤色発光素子の量子効率特性を示すグラフである。
【
図12】実施例1及び比較例2の発光層用インク組成物を用いて製作された緑色発光素子の電流密度特性を示すグラフである。
【
図13】実施例1及び比較例2の発光層用インク組成物を用いて製作された緑色発光素子の発光効率特性を示すグラフである。
【
図14】実施例1及び比較例2の発光層用インク組成物を用いて製作された緑色発光素子の量子効率特性を示すグラフである。
【
図15】実施例1及び比較例2の発光層用インク組成物を用いて製作された青色発光素子の電流密度特性を示すグラフである。
【
図16】実施例1及び比較例2の発光層用インク組成物を用いて製作された青色発光素子の発光効率特性を示すグラフである。
【
図17】実施例1及び比較例2の発光層用インク組成物を用いて製作された青色発光素子の量子効率特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳述する。
本明細書中に使用される全ての用語(技術及び科学用語を含む)は、特に断りのない限り、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者に一般に理解される意味を有する。また、一般的に使用される辞書に定義されている用語は、特に定義されない限り、理想的又は過度に解釈されない。
また、本明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とは、特記のない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに含む可能性を内包する開放型用語(open-ended terms)と理解されるべきである。また、本明細書の全体において、「上に」又は「上方に」とは、対象部分の上又は下に位置する場合のみならず、その中間に他の部分が存在する場合も含むことを意味し、必ずしも重力方向を基準にして上に位置することを意味するのではない。
【0019】
また、本明細書中において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及びメタクリロイルを意味する。
【0020】
また、本明細書中において、「単量体」と「モノマー」とは同じ意味である。本発明において、単量体は、オリゴマー及びポリマーとは区別され、重量平均分子量が1,000以下の化合物をいう。
【0021】
本発明は、インクジェット印刷方式による吐出及び均一な成膜が可能であるとともに、素子の特性を実現できる電界発光素子用の発光層用インク組成物を提供しようとする。
このため、本発明では、赤色、緑色及び/又は青色量子ドットが分散されている溶媒に少量の分散剤を添加及び混合することにより、インクジェットの吐出時においてコーヒーリング効果(Coffee Ring Effect、CRF)が有意に改善し、膜の均一性を確保することができる。即ち、従来のインク組成物では、コーヒーリング現象の原因である、溶媒の蒸発時に液滴の縁線が動かない現象が発生していた。これに対し、所定の分散剤が添加された本発明のインク組成物では、蒸発が進行しながら液滴の縁線が中心方向に少しずつ規則的に縮径されることでコーヒーリング現象を改善することができる。
【0022】
また、本発明では、インクジェット装置における適正な粘度及び蒸気圧(vapor pressure)を考慮して吐出可能な溶媒を選定し、これをインク組成物の溶媒として使用することでインクジェット印刷による発光層の形成が可能となる。また、上記溶媒が素子の一般的な作製条件下で容易に揮発及び除去されるので、量子ドットから構成される高品質の発光層を確保することができる。
【0023】
これにより、本発明では、インクジェット印刷工程による発光層、及びこれを備える自発光型ディスプレイ、具体的には、量子ドットQLEDを提供することができる。
【0024】
<発光層用インク組成物>
本発明の一実施形態に係る発光層用インク組成物は、一般的なインクジェット印刷により吐出され、均一な膜質の電界素子用発光層(EML)を形成することができる量子ドットインク組成物である。このようなインク組成物は、樹脂、無機粒子、散乱剤、及び/又は追加の分散剤などを含んでおらず、最終の発光層が量子ドットで構成されるという点で、従来のインク組成物とは区別される。
【0025】
一実施形態では、上記組成物は、量子ドット、アクリル系分散剤、及び溶媒を含み、上記分散剤が所定の含有量で含まれるように制御されている。必要に応じて、さらに当該分野における通常の添加剤を少なくとも1種以上含んでもよい。
【0026】
以下、上記発光層用インク組成物の組成について詳述する。
【0027】
量子ドット
本発明に係る発光層用インク組成物は、当該分野で周知の通常の量子ドットを制限なく使用することができる。
【0028】
量子ドット(Quantum Dots、QD)は、ナノサイズの半導体物質を意味することもできる。原子が分子を形成し、分子は少数の分子が集まった分子集合体であるクラスターを構成してナノ粒子を形成することになるが、このようなナノ粒子が半導体特性を示している時は量子ドットと指称される。上記量子ドットは、外部からエネルギーを受けて浮き状態になると、上記量子ドット自体が該当するエネルギーバンドギャップによるエネルギーを放出することになる。
【0029】
このような量子ドットは、均質な(homogeneous)単層構造、コア-シェル(core-shell)型又はグラジエント(gradient)構造などのような多層構造、又は、これらの混合構造であり得る。シェルが複数層である場合、各層は、互いに異なる成分、例えば、(準)金属酸化物を含有してもよい。
【0030】
量子ドット(QD)は、II-VI族化合物、III-V族化合物、IV-VI族化合物、IV族元素、IV族化合物、及びこれらの組み合わせから自由に選択可能である。量子ドットがコア-シェル型である場合、コア(core)と、少なくとも1層以上のシェル(shell)成分とは、それぞれ後述のII-VI族化合物、III-V族化合物、IV-VI族化合物、IV族元素、IV族化合物、及びこれらの組み合わせから選択され、より具体的には、下記で例示する成分から自由に構成することができる。
【0031】
一例において、II-VI族化合物としては、CdO、CdS、CdSe、CdTe、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、HgS、HgSe、HgTe、MgSe、MgS、及びこれらの混合物からなる群から選択される二元素化合物、CdSeS、CdSeTe、CdSTe、ZnSeS、ZnSeTe、ZnSTe、HgSeS、HgSeTe、HgSTe、CdZnS、CdZnSe、CdZnTe、CdHgS、CdHgSe、CdHgTe、HgZnS、HgZnSe、HgZnTe、MgZnSe、MgZnS、及びこれらの混合物からなる群から選択される三元素化合物、並びに、CdZnSeS、CdZnSeTe、CdZnSTe、CdHgSeS、CdHgSeTe、CdHgSTe、HgZnSeS、HgZnSeTe、HgZnSTe、及びこれらの混合物からなる群から選択される四元素化合物からなる群から選択されてもよい。
【0032】
他の一例において、III-V族化合物としては、GaN、GaP、GaAs、GaSb、AlN、AlP、AlAs、AlSb、InN、InP、InAs、InSb、及びこれらの混合物からなる群から選択される二元素化合物、GaNP、GaNAs、GaNSb、GaPAs、GaPSb、AlNP、AlNAs、AlNSb、AlPAs、AlPSb、InNP、InNAs、InNSb、InPAs、InPSb、及びこれらの混合物からなる群から選択される三元素化合物、並びに、GaAlNP、GaAlNAs、GaAlNSb、GaAlPAs、GaAlPSb、GaInNP、GaInNAs、GaInNSb、GaInPAs、GaInPSb、InAlNP、InAlNAs、InAlNSb、InAlPAs、InAlPSb、及びこれらの混合物からなる群から選択される四元素化合物からなる群から選択されてもよい。
【0033】
他の一例において、IV-VI族化合物としては、SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe、及びこれらの混合物からなる群から選択される二元素化合物、SnSeS、SnSeTe、SnSTe、PbSeS、PbSeTe、PbSTe、SnPbS、SnPbSe、SnPbTe、及びこれらの混合物からなる群から選択される三元素化合物、並びに、SnPbSSe、SnPbSeTe、SnPbSTe、及びこれらの混合物からなる群から選択される四元素化合物からなる群から選択されてもよい。
【0034】
他の一例において、IV族元素としては、Si、Ge、及びこれらの混合物からなる群から選択されてもよい。また、IV族化合物としては、SiC、SiGe、及びこれらの混合物からなる群から選択される二元素化合物であってよい。
【0035】
上述のような二元素化合物、三元素化合物、又は四元素化合物は、均一な濃度で粒子中に存在し、又は濃度が部分的に異なる状態になって同一の粒子中に存在してもよい。また、一つの量子ドットが他の量子ドットを包み込んだコア-シェル型の構造を有してもよい。コアとシェルとの界面は、シェルに存在する元素の濃度が中心に行くほど低くなる濃度勾配(グラディエント)を有してもよい。
【0036】
上記量子ドットは、表面の一部が有機配位子で置換されたものであってもよい。このような有機配位子は、上記量子ドットの表面に結合されて量子ドットを安定化させる役割を果たすことができる。使用可能な有機配位子としては、例えば、C5~C20のアルキルカルボン酸、アルケニルカルボン酸、又はアルキニルカルボン酸、ピリジン(pyridine)、メルカプトアルコール(mercaptoalcohol)、チオール(thiol)、ホスフィン(phosphine)、ホスフィン酸化物(phosphine oxide)、第一級アミン(primary amine)、第二級アミン(secondary amine)、又はこれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに制限されない。本発明において、量子ドットの表面の一部を有機配位子で置換する方法としては、特に制限されず、当該分野における常法により行うことができる。
【0037】
量子ドットの形状としては、当該分野で一般的な形状であれば、特に制限されない。例えば、球状、棒(rod)状、ピラミッド状、ディスク(disc)状、マルチアーム(multi-arm)状、又は立方体(cubic)状のナノ粒子、ナノチューブ、ナノワイヤ、ナノファイバー、板状ナノ粒子などの形態を有するものを使用することができる。
【0038】
また、量子ドットの大きさは、特に制限されず、当該分野で公知の通常の範囲内で適宜調節することができる。一例として、量子ドットの平均粒径(D50)は、1~20nmであり、具体的には、2~15nmであり得る。このように量子ドットの粒径が約1~20nmの範囲で制御される場合は、希望する色の光を放出することができる。例えば、CdSeを含有する量子ドットのコアの粒径が約2.5~3nmである場合は、約500~550nm波長の光を放出することができ、また、CdSeを含有する量子ドットのコアの粒径が約3.5~4nmである場合は、約580~650nm波長の光を放出することができる。具体的には、本発明では、365nm波長を吸収した時、370~440nmの範囲で発光する量子ドット(QD)を使用することができる。例えば、青色発光量子ドット(QD)としては、Cd系II-VI族QD(例えば、CdZnS、CdZnSSe、CdZnSe、CdS、CdSe)、非Cd系II-VI族QD(例えば、ZnSe、ZnTe、ZnS、HgS)、又は非Cd系III-V族QD(例えば、InP、InGaP、InZnP、GaN、GaAs、GaP)を使用することができる。
【0039】
また、量子ドットは、約45nm以下、好ましくは、約40nm以下、より好ましくは、約30nm以下の発光波長スペクトルの半値幅(full width of half maximum、FWHM)を有し、この範囲で色純度や色再現性を向上させることができる。また、このような量子ドットを介して発光される光は、全方向に放出されるので、光視野角が向上される。
【0040】
本発明では、当該分野で公知の通常の赤色発光量子ドット、緑色発光量子ドット、及び青色発光量子ドットのうちの少なくとも一つ以上を含むことができ、具体的には、これらの全てを含んでいてもよい。
【0041】
上記量子ドットの含有量は、当該分野で公知の範囲内で適宜調節することができ、特に制限されない。一例として、量子ドットは、当該発光層用インク組成物の総重量(例えば、100重量%)に対して、30重量%以下の範囲で含まれており、具体的には、1~30重量%、より具体的には、2~15重量%であり得る。
【0042】
分散剤
本発明に係る発光層用インク組成物は、分散剤を含んでいる。
上記分散剤としては、上述した量子ドット及び/又は他の成分を均一に分散させ得るものであれば、特に限定されない。一例として、(メタ)アクリル系モノマーを使用することができ、具体的には、1分子中に(メタ)アクリレート官能基が2つ含まれたジ(メタ)アクリル系モノマーを使用することが好ましい。
【0043】
一般に、インクの効果的なジェッティング特性を決定する重要な要因としては、下記[数学式1]による溶液の粘度(μ)、密度(ρ)、表面張力(σ)、及びノズルの直径(L)が挙げられる。このような変数は、オーネゾルゲ(Ohnesorge)数の逆数であるZ値(Z-1)で表現されるが、これにより、液体の物性による吐出液滴の挙動を数値的に予測することができる。
【0044】
[数学式1]
例えば、分散剤を含まないインクジェット溶液の粘度が2cps、密度が0.95g/ml、表面張力が36mN/m、ノズル直径が21.5μmである場合は、Z値(Z
-1)は、約13.5程度の数値を示すことになる。このとき、粘度が約8~9cps程度の分散剤を含むものであれば、既存のインクジェット溶液の粘度(例えば、2cps)に対して2.8~3.5cps程度に増加し、これにより、インクジェット溶液のZ値(Z
-1)は、10以下と減少することになる(例えば、密度が0.96g/ml、表面張力が38mN/m、ノズル直径が同一である)。なお、使用される分散剤の粘度値が大きすぎると、Z値(Z
-1)がかえって低くなり、インクが吐出されにくくなることがある。
【0045】
本発明では、上記Z値(Z-1)を考慮してアクリル系モノマーを分散剤として採用しており、このようなアクリル系モノマー分散剤は、粘度特性の面で現在適用中のインクジェット溶媒の組成に最適である。また、アクリル系モノマー分散剤の表面張力特性は、既存のインクジェット溶媒に比べて相対的に高い反面、上記[数学式1]のように表面張力(σ)が適用された分母の数値変化がそれほど大きくない。このように、本発明では、アクリル系モノマー分散剤を採用し、その使用量を所定の範囲に調節することにより、安定した液滴を形成することができ、それによるパターン形状の改善効果が同時に得られる。
【0046】
使用可能なアクリル系モノマーの分散剤としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリオレフィングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリルオキシプロパン、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ブチルエチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレートなど、及び芳香環を有するジ(メタ)アクリレート、例えば、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレートなどが挙げられるが、これらに制限されない。上述した成分は、単独で使用、又は2種以上混合して使用してもよい。
【0047】
一実施形態として、上記分散剤は、重量平均分子量(Mw)が70g/mol以上であり、より具体的には150~1,200g/molであり、粘度が2~10cps(25℃基準)であり得る。
【0048】
本発明において、分散剤の含有量は、当該分野で公知の範囲内で適宜調節することができ、特に制限されない。一例として、分散剤は、後述する溶媒100体積%に対して、30体積%以下であり、具体的には、5~30体積%であり得る。また、分散剤の含有量は、体積比で示すことができるが、一例として、量子ドットが溶解したインクと分散剤との含有比率は、1:10~100体積比で混合してもよい。一実施形態では、量子ドットが溶解したインク1mlに、分散剤を1~10μl添加することができる。
【0049】
他の一例としては、分散剤は、量子ドットと溶媒が含有された量子ドット溶液100重量%に対して、0.1~10重量%以下含まれており、具体的には、0.1~4重量%であり得る。分散剤の含有量が上述の範囲内である場合、各成分がよく混和し、優れた作業性及び工程性が得られ、コーヒーリング現象が改善され、均一な成膜が可能となる。また、アクリル系モノマー分散剤を含まない対照群に比べて、発光層の表面の粗さが改善されている。
【0050】
溶媒
本発明に係る発光層用インク組成物は、当該分野で公知の通常の溶媒を制限なく含むことができるが、蒸気圧が0.001mmHg以上となるように溶媒の組成を構成することを特徴とする。
【0051】
即ち、自発光型電界発光素子は、電極を通じて外部から注入された電子と正孔とが発光層(EML)で出会い、量子ドットが有する特定波長の光を発光することになる。このような発光層中に誘電特性を有する物質が多数存在する場合は、電子および正孔の輸送が妨害され、素子が正常に駆動しにくくなる。
【0052】
それで、本発明では、発光層用インク組成物に含まれる溶媒及び/又は分散媒が、素子の一般的な作製条件下でほとんど揮発し、最終の発光層には、量子ドット以外のその他の物質が残存しないようにする。揮発性向上のために単独で溶媒を使用する場合は、0.001mmHg以上の蒸気圧を有する溶媒を採用し、又は蒸気圧が相対的に低い溶媒と、蒸気圧が相対的に高い溶媒とを所定の比率で混用することで、上述した蒸気圧の数値範囲を満たすように調節することが好ましい。
【0053】
本発明の発光層用インク組成物は、上述した蒸気圧特性を満たすものであれば、上記組成物を構成する溶媒の具体成分及び/又はその含有量、組成などが特に制限されない。
使用可能な溶媒としては、例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、スチレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン,シクロヘキサノン,ヘキサデカンなどが挙げられるが、これらに制限されない。上述した成分は、単独で使用、又は2種以上を混用してもよい。
【0054】
本発明において、溶媒の含有量は、特に制限されず、当該分野で公知の範囲内で適宜調節することができる。一例として、当該発光層用インク組成物100重量部を満足させる残部であり、具体的には、70~95重量部であり得る。
【0055】
上述した成分の他に、本発明の発光層用インク組成物は、発明の効果を阻害しない範囲内で、当該分野で公知の少なくとも1種の添加剤をさらに含んでもよい。
本発明に係る発光層用インク組成物は、量子ドット(QD)、アクリル系分散剤、蒸気圧が調節された少なくとも1種の溶媒、を含み、必要に応じて配合されるその他の添加剤を、当該分野で周知の常法によって混合及び撹拌して製造することができる。
【0056】
なお、混合方法は、特に制限されず、一例として、当該分野で公知の通常のホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、三本ロールなどの混合機を使用することができる。
【0057】
上記のように製造された本発明の発光層用インク組成物は、当該組成物の総重量に対して、量子ドット1~30重量部、アクリル系分散剤0.1~10重量部、及び、残部の溶媒を含むことができ、より具体的には、量子ドット2~15重量部、アクリル系分散剤0.1~4重量部、及び、残部の溶媒を含んで構成することができる。しかし、これに制限されない。
【0058】
一方、インクジェット装置の吐出条件は、大きく粘度と蒸気圧とに分けられる。粘度が高すぎたり低すぎたりすると、均一な膜が得られなくなり、また、蒸気圧によって吐出程度が決定される。本発明では、インクジェット吐出に適した粘度と蒸気圧を考慮して溶媒を採用し、その含有量を制御して発光層用インク組成物を構成する。このような本発明の発光層用インク組成物は、粘度、蒸気圧、接触角などの諸特性が最適化されることで優れた作業性と工程性を得ることができ、特に、インクジェットの吐出性、吐出されたインクの形状、最終的に形成されたパターン形状の面で全て均一性と安定性が確保され、インクジェット印刷方式に有用な素子特性を実現することができる。
【0059】
一実施形態として、上記組成物は、20℃での粘度が1.0~5.0cpsであり、20℃での蒸気圧が0.1~10mmHgであり、接触角が10~30°であり、固形分の含有量が30重量%以下であり得る。より具体的には、20℃での粘度が2.0~4.0cpsであり、20℃での蒸気圧が1.0~5.0mmHgであり、接触角が15~25°であり、固形分の含有量が5~30重量%であり得る。
【0060】
他の一実施形態として、上記[数学式1]により算出されたインクジェット組成物のオーネゾルゲ数の逆数であるZ値(Z-1)は、1~10であり得る。上記Z値によって、吐出可否、吐出液滴の形状などを予測することができる。
【0061】
さらに、所定の蒸気圧を有する溶媒を含む本発明の発光層用インク組成物は、ジェッティング(jetting)直後は、溶媒が含まれているため、パターンの高さが相対的に高い反面、所定の時間が経過すると、別途の乾燥工程を経ることなく乾燥によって溶媒が揮発及び除去されることで、量子ドットからなる均一かつ薄い高品質の発光層が形成される。
【0062】
他の一実施形態として、上記組成物のジェッティング後に形成されたインクパターン(例えば、発光層)は、揮発性成分の除去によって、10体積%以下の溶媒及び分散剤を含むことができる。
他の一実施形態として、ジェッティング後に形成されたインクパターン(例えば、発光層)の高さ(H1)は500~2,000nmであり、乾燥後の印刷パターンの高さ(HF)は5~60nmであり得る。
【0063】
<発光素子>
本発明の一実施例に係る発光素子は、上述した発光層用インク組成物から形成された発光層を備える。
【0064】
一実施形態として、上記発光素子は、第1の電極、上記第1の電極と対向して配置される第2の電極、上記第1の電極と上記第2の電極との間に配置され、上記発光層用インク組成物から形成される発光層、上記第1の電極と上記発光層との間に配置される正孔輸送層、及び、上記発光層と上記第2の電極との間に配置される電子輸送層を含む。必要に応じて、上記発光素子は、正孔注入層及び電子注入層のうちの少なくとも1つをさらに含んでもよい。
【0065】
以下、本発明について、量子ドット発光素子(Quantum dot Light Emitting Device)を例にして説明するが、これに制限されず、発光素子は、有機発光素子などの種々の発光素子に適用してもよい。
【0066】
第1の電極は、基板上に配置される。このような基板としては、透明でかつ表面が平らなガラス基板、又は透明プラスチック基板であり得る。基板は、汚染物質の除去のために、イソプロピルアルコール、アセトン、メタノールなどの溶媒で超音波洗浄を行い、またUVオゾン処理を行った後、使用することができる。
【0067】
第1の電極は、陽極として機能することができる。一例として、陽極は、金属からなり、各透明/不透明の条件に合致する金属酸化物、又はその他の非酸化物の無機物で形成されてもよい。ボトム発光のために、第1の電極は、透明なITO、IZO、ITZO、AZOのような透明導電性金属で形成されてもよい。
【0068】
正孔注入層と正孔輸送層は、第1の電極上に位置している。このような正孔注入層と正孔輸送層は、第1の電極からの正孔注入を容易にし、また、発光層に正孔を受け渡す役割をする。正孔輸送層は、有機物又は無機物の適用が可能であり、有機物の場合は、CBP(4,4’-N,N’-ジカルバゾール-ビフェニル)、α-NPD(N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(1=ナフチル)-1,1’-ビフェニル-4,4”-ジアミン)、TCTA(4,4’,4”-トリス(N-カルバゾリル)-トリフェニルアミン)、TFB、又はDNTPD(N,N’-ジ(4-(N,N’-ジフェニル-アミノ)フェニル)-N,N’-ジフェニルベンジジン)からなり、無機物の場合は、NiO、又はMoO3の酸化物からで形成されてもよい。一例として、正孔注入層は、ポリ(エチレンジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)であってもよい。また、正孔輸送層は、TFBやポリ(9-ビニルカルバゾール)(PVK)などであってもよい。
【0069】
発光層は、正孔輸送層上に位置し、量子ドットが発光層に提供されることになる。一例として、発光層は、上述した発光層用インク組成物を、インクジェット印刷を行った後、溶媒を揮発させて形成することができる。
【0070】
電子輸送層は、第2の電極からの電子注入を容易にし、発光層に電子を伝送する役割をする。このような電子輸送層は、当該分野で公知の通常の電子輸送物質を制限なく使用することができ、一例として、ZnO又はZnOのバンドギャップを増加させ得る金属が合金化されたZn含有金属酸化物ナノ粒子などを含んで構成することができる。一例として、電子輸送層は、溶媒に金属酸化物を分散させた分散液をコーティングする溶液工程で発光層上にコーティングした後、上記溶媒を揮発させて形成することができる。上記コーティング方法としては、例えば、ドロップキャスティング(drop casting)法、スピンコーティング(spin coating)法、ディップコーティング(dip coating)法、スプレーコーティング(spray coating)法、フローコーティング(flow coating)法、スクリーン印刷(screen printing)法、又はインクジェット印刷法などを、単独で使用、又は組み合わせて使用してもよい。本発明の電子輸送層は、電子注入層の役割を兼ねる単一層構造で提供されるか、あるいは別個に電子注入層を積層構造で形成してもよい。
【0071】
第2の電極は、電子注入/輸送層上に位置し、陰極として提供されることになる。第2の電極は、金属からなり、各透明/不透明の条件に合致する金属酸化物、又はその他の非酸化物の無機物で形成されてもよい。特に、第2の電極としては、発光層のLUMO準位で電子の注入が容易に行われるように低い仕事関数を有し、内部反射率に優れた金属類の電極を使用することができ、具体的には、電子注入が容易に行われるように仕事関数の小さい金属、即ち、I、Ca、Ba、Ca/Al、LiF/Ca、LiF/Al、BaF2/Al、BaF2/Ca/Al、Al、Mg、Ag:Mg合金などを使用してもよい。
【0072】
以上、本実施形態に係る発光素子が量子ドット発光素子である場合について説明した。しかし、上記とは異なり、発光素子は、種々の発光素子であり得る。一例として、発光素子は、有機発光素子であってもよい。また、本実施例では、電子注入/輸送層が単一の物質からなるものとして説明しているが、これとは異なり、電子注入層と電子輸送層とが別々に提供されてもよい。
以下、本発明について実施例を挙げて詳述する。但し、後述の実施例は、本発明の例示に過ぎないものであり、本発明は、これらの実施例によって限定されない。
【実施例】
【0073】
[実施例1]インクジェット印刷用の発光層用インク組成物の製造
量子ドットとしては、トルエンにコロイド状に分散されている量子ドット溶液を使用した。赤色量子ドットは、リン化インジウム(InP)/セレン化亜鉛(ZnSe)で構成されたコア-シェル構造の量子ドットを使用し、緑色は、リン化インジウム(InP)/硫化亜鉛(ZnS)を使用した。また、青色量子ドットは、テルル化セレニウム亜鉛(ZnSeTe)/セレン化亜鉛(ZnSe)/硫化亜鉛(ZnS)で構成されたコア-複数のシェル構造を使用した。上記赤色、緑色、及び青色量子ドットの配位子は、オレイン酸(Oleic acid)で構成されている。
【0074】
上記赤色、緑色、及び青色量子ドットが分散している溶液をそれぞれ遠心分離して量子ドットを得た後、シクロヘキシルベンゼン(蒸気圧:1mmHg)と、シクロヘキサノン(蒸気圧:3mmHg)とが8:2体積比で構成された溶媒に、上記量子ドットを分散させた。このとき、赤色量子ドットの濃度が45mg/ml、緑色は80mg/ml、青色は35mg/mlであった。分散された各量子ドット溶液に、アクリル系分散剤(ジエチレングリコールジメタクリレート)2重量%を添加し、インクジェット印刷可能な発光層用インク組成物を製造した。
【0075】
上記のようにアクリル系分散剤が混合された実施例1の発光層用インク組成物のイメージは、添付の
図1に示した通りである。なお、上記[数学式1]により算出されたオーネゾルゲ数の逆数であるZ値(Z
-1)は、8.75であった。
【0076】
[比較例1]インクジェット印刷用の発光層用インク組成物の製造
赤色、緑色、及び青色量子ドットを形成した後、シクロヘキシルベンゼンとシクロヘキサノンとの混合溶媒の代わりに、オクタン溶媒(蒸気圧:11mmHg)に18mg/mlで分散させた以外は、上記実施例1と同様にして比較例1のインクジェット印刷用の発光層用インク組成物を製造した。このとき、[数学式1]により算出されたオーネゾルゲ数の逆数であるZ値(Z-1)は、35.49であった(密度が0.703g/ml、表面張力が21.61mN/m、ノズル直径は同一であり、粘度が0.509cps)。製造されたインクは、実施例1と同様にしてジェッティング(jetting)及びパターンの評価を行った。
【0077】
[比較例2]インクジェット印刷用の発光層用インク組成物の製造
アクリル系分散剤を使用しない以外は、上記実施例1と同様にして比較例2のインクジェット印刷用の発光層用インク組成物を製造した。このとき、[数学式1]により算出されたオーネゾルゲ数の逆数であるZ値(Z-1)は、13.55であった。製造されたインクは、実施例1と同様にしてジェッティング(jetting)及びパターンの評価を行った。
【0078】
[実験例1]インクジェット吐出及び形状の評価
実施例1及び比較例1~2で製造された発光層用インク組成物を用いて、下記の方法に従ってインクジェット印刷時の吐出及び形状をそれぞれ分析し、その結果を下記表1及び
図2~7に示す。
【0079】
(1)ジェッティング性能の評価
得られた各インクジェット印刷用の発光層用インク組成物をそれぞれカートリッジヘッド(Fujifilm Dimatix 10pL、DMC-11610)に充填した後、インクジェット印刷装置(Omnjet200)を用いて1dropパターン形態で吐出し、インクジェット印刷の実行可否を評価した。
【0080】
(2)インクジェット印刷用の量子ドットパターンの分析
基板上に形成される量子ドットパターンを分析するため、Full Auto非接触3次元表面性状測定機(NV9000、分解能:0.06nm)を使用した。このとき、コーヒーリング効果(CRF)の程度を定量化するため、下記[数学式2]を導入し、その結果を下記表1に示す。
【0081】
[数学式2]
(式中、H
Maxは、パターンの最も厚い厚さを、H
Minは、パターンの最も薄い厚さを示し、CRF値とは、コーヒーリング効果の程度を意味する。すなわち、CRF=1は、コーヒーリングが完全に除去されたことを示す。)
【0082】
【0083】
上記表1に示されるように、比較例1では、インクジェット法による吐出及びパターンの形成自体が不可能であり、比較例2では、実施例1に比べて相対的に特性が低くなっている。これに対し、分散剤が含まれた本発明の発光層用インク組成物は、一般的なインクジェット印刷装置から容易に吐出されるとともに、吐出されたインク及び基板に形成されたインクの形状が1に近い、均一である特性を示しているので、インクジェット印刷法に有用であることが確認された(
図2~7参照)。
【0084】
一方、オーネゾルゲ数のZ値(Z
-1)によって、インクの吐出可否や吐出液滴の形状特性などが予想できる。
図2~4に示されるように、比較例1では、非常に高いZ値(35.49)を有し、主な液滴に加えて他の液滴を伴う問題があり、比較例2では、吐出の初期に液滴が追加形成され、最終的に得られるパターン化した液滴の形態が不均一になっている。
【0085】
これに対し、実施例1では、安定した液滴を形成できるZ値(8.75)を有し、吐出されるインクが液滴の尾部や追加液滴の形成を生じることなく安定的に吐出されることがわかる。これにより、インク組成物のZ値によって、液滴の吐出特性をジェッティング前に数値的に予測することもできる。
【0086】
[実験例2]インクの揮発程度及びパターン高さの評価
実施例1及び比較例1~2で製造された発光層用インク組成物を用いて、インクジェット印刷時のインクの揮発程度、及び形成されたパターンの高さを以下のように評価し、その結果を下記表2に示す。
【0087】
具体的には、各発光層用インク組成物を用いて基板上にジェッティングを行った直後のパターンの高さ(H1)と、25℃で60分間乾燥した後のパターンの高さ(HF)とをそれぞれ測定し、量子ドットのインクに使用される溶媒及び分散剤の揮発の程度を確認した。
【0088】
【0089】
上記表2に示されるように、比較例1では、インクジェット法によるパターンの形成自体が不可能であり、比較例2で形成されたパターンの高さは、相対的に高くなる傾向にあった。これに対し、分散剤が含有された本発明の発光層用インク組成物は、ジェッティング後及び乾燥後に形成されたパターンの高さが全て均一であり、相対的に低くかつ薄くなり、均一な発光層の成膜が可能であることを確認された。
【0090】
[実験例3]インクジェット印刷用の量子ドット電界発光素子の評価
実施例1及び比較例1~2で製造された発光層用インク組成物を用いて電界発光素子を製作した後、その物性の評価を行った。
【0091】
具体的には、酸化インジウムスズ(ITO)基板をイソプロピルアルコールとアセトンとでそれぞれ15分間洗浄した後、60℃のオーブン中で30分間乾燥させた。乾燥の完了した基板を、20分間、UVオゾン処理を行った後、PEDOT:PSSをスピンコートして正孔注入層(HIL)を形成した。このとき、スピンコートの条件は、4,500rpm/60秒、熱処理の条件は、150℃/20分であった。
【0092】
次に、窒素ガス(N2)雰囲気下、6mg/mlでクロロベンゼンに溶解されたPoly-TPD材料を、4,500rpm/30秒の条件で膜を形成し、150℃/30分間、熱処理して、正孔輸送層(HTL)を形成した。
【0093】
その後、正孔輸送層(HTL)上に、実施例1及び比較例1~2で製造された各インク組成物を、インクジェット印刷して発光層(EML)を形成した。
次に、酸化亜鉛ナノ粒子をエタノール溶媒に分散させ、1,500rpm/30秒でスピンコートして電子輸送層(ETL)を形成した後、真空蒸着法により電極を形成し、
図6に示される電界発光素子の製造を完了した。
【0094】
上述のような方法により製造された実施例1及び比較例2の発光素子について、IVL測定装置を用いて素子の効率を評価し、その結果を下記表3及び
図9~17にそれぞれ示す。
【0095】
【0096】
上記表3に示されるように、比較例1の発光素子は、素子の駆動自体が不可能であり、比較例2の発光素子は、実施例1に比べて素子性能が低くなっている。これに対し、本発明の発光層用インク組成物を用いて形成された発光層を備える実施例1の発光素子は、R、G、B別に高い輝度、優れた発光効率と外部量子効率(External Quantum Efficiency、EQE)とを同時に有することが確認された(
図9~17参照)。
【国際調査報告】