(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】多組織オルガノイド産物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20240912BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240912BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20240912BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240912BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240912BHJP
A61P 19/04 20060101ALI20240912BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 19/06 20060101ALI20240912BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20240912BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240912BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240912BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240912BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20240912BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240912BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240912BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240912BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20240912BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20240912BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/10
C12N5/0735
A61L27/38 300
A61P19/02
A61P19/04
A61P29/00 101
A61P19/06
A61P19/08
A61P35/00
A61P37/02
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P21/00
A61P25/02
A61P43/00 111
A61P25/14
A61P9/10
A61K35/545
A61K35/32
A61K35/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516869
(86)(22)【出願日】2022-09-16
(85)【翻訳文提出日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 US2022043839
(87)【国際公開番号】W WO2023044032
(87)【国際公開日】2023-03-23
(32)【優先日】2021-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100225598
【氏名又は名称】桐島 拓也
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー ディー.オブライエン
(72)【発明者】
【氏名】ベス リンドボーグ
(72)【発明者】
【氏名】アマンダ ベゴー
(72)【発明者】
【氏名】イー ウェン チャイ
(72)【発明者】
【氏名】リー マンシ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065BB01
4B065BB18
4B065BB19
4B065BB20
4B065CA44
4C081AB02
4C081AB05
4C081AB18
4C081BA12
4C081CD34
4C081EA02
4C081EA12
4C087AA01
4C087AA02
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4C087BB45
4C087BB46
4C087BB65
4C087CA04
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4C087ZA01
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4C087ZA16
4C087ZA22
4C087ZA36
4C087ZA94
4C087ZA96
4C087ZB05
4C087ZB15
4C087ZB26
4C087ZC31
4C087ZC41
(57)【要約】
多組織オルガノイドを作製する方法は、一般に、多能性幹細胞(PSC)を得ること、及び収穫したPSCを培養容器内で懸濁培養することによって多組織オルガノイドの成長を誘導することを含む。多組織オルガノイドを作製する別の方法は、一般に、ヒアルロン酸を含む細胞培養培地に多能性幹細胞を導入すること、3次元マトリックスを含まない細胞培養装置に多能性幹細胞を移すこと、多能性幹細胞を細胞培養装置内で少なくとも1週間培養すること、及び軟骨、骨、線維性結合組織、脳組織、若しくは上皮組織、又はそれらの組み合わせを含む多組織オルガノイドを作製することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多組織オルガノイド(MTO)を作製する方法であって、
多能性幹細胞(PSC)を得ること、
及び収穫した前記PSCを培養容器内で懸濁培養することによって多組織オルガノイドの成長を誘導することを含む、方法。
【請求項2】
多組織オルガノイド(MTO)を作製する方法であって、
ヒアルロン酸を含む細胞培養培地に多能性幹細胞を導入すること、
3次元マトリックスを含まない細胞培養装置に前記多能性幹細胞を移すこと、
前記多能性幹細胞を前記細胞培養装置内で少なくとも1週間培養すること、
及び軟骨、骨、線維性結合組織、脳組織、若しくは上皮組織、又はそれらの組み合わせを含む多組織オルガノイドを作製することを含む、方法。
【請求項3】
前記細胞培養培地が、ヒアルロン酸、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)、増殖分化因子5(GDF-5)、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、セレンナトリウム、インスリン、NaHCO
3、トランスフェリン、TGFβ1、NODAL、又は骨形成タンパク質2(BMP-2)のうちの1つ以上を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞培養装置が、第2の細胞培養培地を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞培養装置内で前記細胞を培養することが、室温で前記細胞を培養することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞培養装置内で前記細胞を培養することが、前記細胞を37℃で培養することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記PSCをバイオリアクター中でインキュベートする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記オルガノイドが、軟骨、骨、線維性結合組織、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記軟骨が、硝子軟骨を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記オルガノイドが、神経細胞又は神経組織を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記オルガノイドを単離することを更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記オルガノイドの前記細胞を脱凝集させて、個別化された細胞の集団を生成することを更に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
個別化された細胞の前記集団からの細胞を培養することを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が軟骨細胞を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記オルガノイドから軟骨細胞を単離することを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
軟骨細胞凝集体を形成することを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
超低接着表面若しくは軟骨形成培地中、又はその両方で前記軟骨細胞を培養することを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記軟骨細胞をバイオリアクター中で培養することを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記オルガノイドが、
トランスフォーミング増殖因子β1(TGFβ1)を発現する細胞;
線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を発現する細胞;
骨形態形成タンパク質2(BMP2)を発現する細胞;
骨形態形成タンパク質6(BMP6)を発現する細胞;
増殖分化因子5(GDF5)を発現する細胞;
分泌型frizzled関連タンパク質1(SFRP1)を発現する細胞;
インヒビンサブユニットβA(INHβA)を発現する細胞;
トランスフォーミング増殖因子β3(TGFβ3)を発現する細胞;
インスリン様増殖因子2(IGF2)を発現する細胞;
白血病抑制因子(LIF)を発現する細胞;
骨形態形成タンパク質4(BMP4)を発現する細胞;
BMP内皮細胞前駆体由来調節因子(BMPER)を発現する細胞;
左右決定因子1(LEFTY1)を発現する細胞;又は
これらの組み合わせを含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記多能性幹細胞が人工多能性幹細胞(iPSC)である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記培養容器又は細胞培養装置に生体模倣コーティングがない、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
関節軟骨の変性を含む病気を有するか、又は有するリスクがある被験体を治療する方法であって、前記病気の少なくとも1つの症状又は臨床的徴候を改善するのに有効な量の軟骨形成MTO由来物質を含む組成物を前記被験体に投与することを含む、方法。
【請求項23】
前記MTO由来物質が、軟骨細胞、軟骨球、又はその両方を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記軟骨形成MTO由来物質が、硝子軟骨の再生を促進する、II型コラーゲンの産生を促進する、骨棘の存在を減少させる、関節痛を低減する、関節炎症を低減する、又は前述の2つ以上の任意の組み合わせに有効な量で投与される、請求項22又は請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記病気が、変形性関節症、軟骨損傷、椎間板疾患、関節リウマチ、ヘモクロマトーシス、乾癬性関節炎、痛風、軸性脊椎関節炎、又は若年性関節炎、Saldino型軟骨無発生症、軟骨低発生症、致死性扁平椎異形成症、Torrance型先天性脊椎骨端異形成症、Kniest骨異形成症、中足骨短縮を伴うSED、Czech異形成症、脊椎末梢異形成症、脊椎骨端骨幹端異形成症(SEMD)、Strudwick型、Stickler症候群1型、早発性関節症を伴う軽症SED、離断性骨軟骨炎、再発性多発軟骨炎、軟骨石灰化症、骨軟骨腫、内軟骨腫、骨膜性軟骨腫、多発性軟骨腫症、内軟骨腫症、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、痛風、全身性エリテマトーデス、血清反応陰性脊椎関節炎、又は顎関節症である、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
神経細胞又は神経組織の変性を含む病気を有するか、又は有するリスクがある被験体を治療する方法であって、前記病気の少なくとも1つの症状又は臨床的徴候を改善するのに有効な量の神経細胞MTO由来物質を含む組成物を前記被験体に投与することを含む、方法。
【請求項27】
前記神経細胞MTO由来物質が、前記被験体における神経ロゼットの形成を促進する、前記被験体における神経前駆細胞の形成を促進する、前記被験体におけるドーパミン作動性神経細胞を増加させる、前記被験体における成熟アストロサイトを増加させる、前記被験体におけるオリゴデンドロサイトを増加させる、前記被験体における大脳皮質形成のマーカーを増加させる、前記被験体の脳組織内における移植細胞の生着を促進する、前記被験体の脳組織内における移植細胞の移動を増加させる、神経障害の症状若しくは臨床的徴候の重症度及び/若しくは程度を低減させる、又は前述のいずれか2つ以上に有効な量で投与される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記病気が、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調症、ハンチントン病、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、又は脳卒中である、請求項26又は請求項27に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月16日に出願された米国仮特許出願第63/244,991号の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0002】
本開示は、一態様において、多組織オルガノイド(MTO)を作製する方法を記載する。一般に、本方法は、多能性幹細胞(PSC)を得ること、及び収穫したPSCを培養容器内で懸濁培養することによって多組織オルガノイドの成長を誘導することを含む。
【0003】
別の態様において、本開示は、多組織オルガノイド(MTO)を作製する代替方法を記載する。一般に、本方法は、ヒアルロン酸を含む細胞培養培地に多能性幹細胞を導入すること、3次元マトリックスを含まない細胞培養装置に多能性幹細胞を移すこと、多能性幹細胞を細胞培養装置内で少なくとも1週間培養すること、及び軟骨、骨、線維性結合組織、脳組織、若しくは上皮組織、又はそれらの組み合わせを含む多組織オルガノイドを作製することを含む。
【0004】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、細胞培養培地は、ヒアルロン酸、線維芽細胞増殖因子、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)、増殖分化因子5(GDF-5)、DMEM/F12、L-アスコルビン酸-2-リン酸マグネシウム、セレンナトリウム、インスリン、NaHCO3、トランスフェリン、TGFβ1、NODAL、又は骨形成タンパク質2(BMP-2)のうちの少なくとも1つを含む。
【0005】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、細胞培養装置は、第2の細胞培養培地を含む。
【0006】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、細胞培養装置内で細胞を培養することは、室温で細胞を培養することを含む。
【0007】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、細胞培養装置内で細胞を培養することは、37℃で細胞を培養することを含む。
【0008】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、PSCをバイオリアクター中でインキュベートする。
【0009】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、オルガノイドは軟骨、骨、線維性結合組織、又はそれらの組み合わせを含む。
【0010】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、オルガノイドは神経細胞又は神経組織を含む。
【0011】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、本方法は、オルガノイドを単離することを更に含む。
【0012】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、本方法は、オルガノイドの細胞を脱凝集させて、個別化された細胞の集団を生成することを更に含む。これらの実施形態のうちの1つ以上において、脱凝集した細胞は軟骨細胞を含む。いずれかの方法におけるこれらの実施形態のうちの1つ以上において、本方法は、軟骨細胞に軟骨球(chondrosphere)を形成させることを更に含む。
【0013】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、オルガノイドは、トランスフォーミング増殖因子β1(TGFβ1)を発現する細胞;線維芽細胞増殖因子2(FGF2)を発現する細胞;骨形態形成タンパク質2(BMP2)を発現する細胞;骨形態形成タンパク質6(BMP6)を発現する細胞;増殖分化因子5(GDF5)を発現する細胞;分泌型frizzled関連タンパク質1(SFRP1)を発現する細胞;インヒビンサブユニットβA(INHβA)を発現する細胞;トランスフォーミング増殖因子β3(TGFβ3)を発現する細胞;インスリン様増殖因子2(IGF2)を発現する細胞;白血病抑制因子(LIF)を発現する細胞;骨形態形成タンパク質4(BMP4)を発現する細胞;BMP内皮細胞前駆体由来調節因子(BMPER)を発現する細胞;左右決定因子1(LEFTY1)を発現する細胞;又はこれらの組み合わせを含む。
【0014】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞(iPSC)である。
【0015】
いずれかの方法の1つ以上の実施形態において、培養容器又は細胞培養装置には、生体模倣コーティングがない。
【0016】
別の態様において、本開示は、関節軟骨の変性を含む病気を有するか、又は有するリスクがある被験体を治療する方法を記載する。一般に、本方法は、病気の少なくとも1つの症状又は臨床的徴候を改善するのに有効な量の軟骨形成MTO由来物質を含む組成物を被験体に投与することを含む。
【0017】
1つ以上の実施形態において、MTO由来物質は、軟骨細胞、軟骨球、又はその両方を含む。
【0018】
1つ以上の実施形態において、軟骨形成MTO由来物質は、硝子軟骨の再生を促進する、II型コラーゲンの産生を促進する、骨棘の存在を減少させる、関節痛を低減する、関節炎症を低減する、又は前述の2つ以上の任意の組み合わせに有効な量で投与される。
【0019】
1つ以上の実施形態において、病気は、変形性関節症、軟骨損傷、椎間板疾患、関節リウマチ、ヘモクロマトーシス、乾癬性関節炎、痛風、軸性脊椎関節炎、又は若年性関節炎、Saldino型軟骨無発生症、軟骨低発生症、致死性扁平椎異形成症、Torrance型先天性脊椎骨端異形成症、Kniest骨異形成症、中足骨短縮を伴うSED、Czech異形成症、脊椎末梢異形成症、脊椎骨端骨幹端異形成症(SEMD)、Strudwick型、Stickler症候群1型、早発性関節症を伴う軽症SED、離断性骨軟骨炎、再発性多発軟骨炎、軟骨石灰化症、骨軟骨腫、内軟骨腫、骨膜性軟骨腫、多発性軟骨腫症、内軟骨腫症、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、痛風、全身性エリテマトーデス、血清反応陰性脊椎関節炎、又は顎関節症である。
【0020】
別の態様において、本開示は、神経細胞又は神経組織の変性を含む病気を有するか、又は有するリスクがある被験体を治療する方法を記載する。一般に、本方法は、病気の少なくとも1つの症状又は臨床的徴候を改善するのに有効な量の神経細胞MTO由来物質を含む組成物を被験体に投与することを含む。
【0021】
1つ以上の実施形態において、神経細胞MTO由来物質は、被験体における神経ロゼットの形成を促進する、被験体における神経前駆細胞の形成を促進する、被験体におけるドーパミン作動性神経細胞を増加させる、被験体における成熟アストロサイトを増加させる、被験体におけるオリゴデンドロサイトを増加させる、被験体における大脳皮質形成のマーカーを増加させる、被験体の脳組織内における移植細胞の生着を促進する、被験体の脳組織内における移植細胞の移動を増加させる、神経障害の症状若しくは臨床的徴候の重症度及び/若しくは程度を低減させる、又は前述のいずれか2つ以上に有効な量で投与される。
【0022】
1つ以上の実施形態において、病気は、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調症、ハンチントン病、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、又は脳卒中である。
【0023】
上記の概要は、本発明の開示された各実施形態又は全ての実施態様を説明することを意図していない。以下の説明は、例示的な実施形態をより詳細に例示する。本出願全体のいくつかの箇所において、実施例のリストを通してガイダンスが提供され、これらの実施例は様々な組み合わせで使用することができる。各実施例において、列挙されたリストは代表的な群としてのみ機能し、排他的なリストとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】多組織オルガノイド(MTO)における硝子軟骨形成の組織学的特性評価。8週目及び30週目の1024人工多能性幹細胞(iPSC)株由来多組織オルガノイド(MTO)、及び11週目の9-1 iPSC細胞株由来MTOの組織構造(Lindborg et al.,Stem Cells Transl Med 5(7):970-979(2016))。(A)8週目の1024 iPSC細胞株由来多組織オルガノイド(MTO)は、初期軟骨マトリックスの拡散したアルシアンブルー染色(青色)、細胞及びマトリックス中のアグリカン(ACAN、褐色)の拡散した標識、並びに成熟軟骨の中心領域における軟骨マトリックス中のII型コラーゲン標識(COL2A1、褐色)を有する発達中の軟骨結節(cartilage nodule)を示している。サイズバー=200μm。(B)11週目の9-1 iPSC細胞株由来MTOは、軟骨細胞を分離するアルシアンブルー陽性軟骨マトリックスの増加、II型コラーゲンの中程度の拡散した染色及び拡散したアグリカン標識を有する成熟軟骨を示している。サイズバー=50μm。(C)培養30週間後の1024 iPSC細胞株由来MTOは、軟骨細胞が、拡散したアルシアンブルー及びII型コラーゲン染色、並びに細胞周囲アグリカン染色を伴う豊富なマトリックスによって取り囲まれている、硝子軟骨形態への更なる成熟を示している。サイズバー=50μm。(D)(C)に示される30週目の1024 iPSC細胞株由来MTOの低倍率における図であり、一部の軟骨結節が大きなサイズに達していることを示す。H&Eパネルの測定バー=4363μm(4.363mm)。サイズバー=1000μm。(E)8週目及び11週目のMTOにおけるアグリカン面積割合(パーセンテージ)を使用した、1024 iPSC細胞株由来MTOの組織切片に対する組織形態計測(
**はp=0.002)。
【0025】
【
図2A】MTOにおける軟骨発達は、優先された骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路及び増加した中胚葉遺伝子発現に関連している。(A)8週目、11週目、15週目におけるMTOグローバルトランスクリプトームの主成分分析(PCA)。(B)8週目と15週目との間で発現が異なる軟骨マーカー遺伝子を示す遺伝子発現差解析。(C)8週目と15週目との間で有意に(differentially)減少した遺伝子のオントロジーエンリッチメント。
【
図2B】MTOにおける軟骨発達は、優先された骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路及び増加した中胚葉遺伝子発現に関連している。(A)8週目、11週目、15週目におけるMTOグローバルトランスクリプトームの主成分分析(PCA)。(B)8週目と15週目との間で発現が異なる軟骨マーカー遺伝子を示す遺伝子発現差解析。(C)8週目と15週目との間で有意に(differentially)減少した遺伝子のオントロジーエンリッチメント。
【
図2C】MTOにおける軟骨発達は、優先された骨形態形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路及び増加した中胚葉遺伝子発現に関連している。(A)8週目、11週目、15週目におけるMTOグローバルトランスクリプトームの主成分分析(PCA)。(B)8週目と15週目との間で発現が異なる軟骨マーカー遺伝子を示す遺伝子発現差解析。(C)8週目と15週目との間で有意に(differentially)減少した遺伝子のオントロジーエンリッチメント。
【0026】
【
図3A】MTOにおける軟骨発達は、優先されたBMPシグナル伝達経路及び中胚葉遺伝子発現の増加に関連している。(A)8週目と15週目との間で有意に増加した遺伝子のオントロジーエンリッチメント。(B)8週目と15週目との間の、グループ化された遺伝子の全体的発現の比較及び統計的結果を示す表。発現遺伝子数/GO用語に関連する遺伝子数(biomaRt v2.46.3で検索);8週目と15週目との間で正規化及び対数変換した転写産物数を比較した片側Wilcoxon検定。
*はp値<0.05、
**はp値<0.01、
***はp値<0.001、
****はp値<0.0001。
【
図3B】MTOにおける軟骨発達は、優先されたBMPシグナル伝達経路及び中胚葉遺伝子発現の増加に関連している。(A)8週目と15週目との間で有意に増加した遺伝子のオントロジーエンリッチメント。(B)8週目と15週目との間の、グループ化された遺伝子の全体的発現の比較及び統計的結果を示す表。発現遺伝子数/GO用語に関連する遺伝子数(biomaRt v2.46.3で検索);8週目と15週目との間で正規化及び対数変換した転写産物数を比較した片側Wilcoxon検定。
*はp値<0.05、
**はp値<0.01、
***はp値<0.001、
****はp値<0.0001。
【0027】
【
図4】MTOにおける軟骨発達は、優先されたBMPシグナル伝達経路及び中胚葉遺伝子発現の増加に関連している。8週目、11週目、15週目のMTOにおける、In vitroでの軟骨発生誘導によく使われる分子をコードする遺伝子の発現。
【0028】
【
図5】所見及び関連経路の図式的要約(灰色でないもの)。
【0029】
【
図6】MTOにおける軟骨発達は、別個のWnt及びTGF-β/BMPシグナル伝達に関連している。125遺伝子を選択し(FDR<0.05)、8週目、11週目、15週目におけるスケーリングされた経時的発現をプロットし、8週目と15週目の遺伝子発現を比較した。
****はp<0.0001。(左);遺伝子を、発現の減少(左上)及び発現の増加(左下)によって配置した。発現が減少した遺伝子によって発現されるタンパク質産生の機能的会合ネットワーク(右上)。発現が増加した遺伝子によって発現されるタンパク質産生の機能的会合ネットワーク(右下)。
【0030】
【
図7A】MTOにおける転写シグネチャーは、ヒト下肢軟骨細胞と同等である。(A)MTO及びヒト下肢軟骨細胞における325個の軟骨細胞特異的遺伝子の主成分分析(PCA)。(B)MTO及びヒト下肢軟骨細胞における325個の軟骨細胞特異的遺伝子のピアソン相関プロット。
【
図7B】MTOにおける転写シグネチャーは、ヒト下肢軟骨細胞と同等である。(A)MTO及びヒト下肢軟骨細胞における325個の軟骨細胞特異的遺伝子の主成分分析(PCA)。(B)MTO及びヒト下肢軟骨細胞における325個の軟骨細胞特異的遺伝子のピアソン相関プロット。
【0031】
【
図8-1】MTOにおける転写シグネチャーは、ヒト下肢軟骨細胞と同等である。MTO及びヒト下肢軟骨細胞におけるマーカー転写産物(COL2A1、COL9A1、COL6A2、COL11A1、COL10A1、MMP13、ACAN、CD44、PGR4)の代表的な比較。MTOは多組織オルガノイド;GPCは成長板軟骨細胞。
【
図8-2】MTOにおける転写シグネチャーは、ヒト下肢軟骨細胞と同等である。MTO及びヒト下肢軟骨細胞におけるマーカー転写産物(COL2A1、COL9A1、COL6A2、COL11A1、COL10A1、MMP13、ACAN、CD44、PGR4)の代表的な比較。MTOは多組織オルガノイド;GPCは成長板軟骨細胞。
【
図8-3】MTOにおける転写シグネチャーは、ヒト下肢軟骨細胞と同等である。MTO及びヒト下肢軟骨細胞におけるマーカー転写産物(COL2A1、COL9A1、COL6A2、COL11A1、COL10A1、MMP13、ACAN、CD44、PGR4)の代表的な比較。MTOは多組織オルガノイド;GPCは成長板軟骨細胞。
【0032】
【
図9】変形性関節症のラットモデル。オルガノイド由来軟骨細胞で治療した膝関節及び無治療の膝関節のヘマトキシリン・エオジン染色。上画像(無治療対照)及び下画像(ハイドロゲルなしで調製した軟骨形成オルガノイドで治療)を、Osteoarthritis Research Society International(OARSI)の方法に従い、0~12の尺度を用いて採点した。12は重度の変形性関節症を示す。
【0033】
【
図10】変形性関節症のラットモデルにおける軟骨細胞生着。ヒトKu80に特異的な抗体(矢印)により、治療したラット変形性関節症モデルにおけるヒトオルガノイド由来軟骨細胞の生着が確認される。対照関節ではKu80の染色は見られなかった。
【0034】
【
図11】軟骨損傷修復のヤギモデル。2匹のヤギの膝(後膝)関節の軟骨の非荷重部に、直径8mmの全層性損傷によって軟骨損傷を外科的に誘導した。手術時に、病変を以下のように治療した。ヤギ#1(雄)において、治療側にはフィブリングルー(TISSEEL、Baxter International Inc.,Deerfield,IL)に包埋された、MTO由来軟骨球に由来する単細胞軟骨細胞産物を投与し、対照側にはフィブリングルーのみを投与した。ヤギ#2(雌)において、治療側にはフィブリングルーに包埋されたMTO由来軟骨球を投与し、対照側にはフィブリングルーのみを投与した。手術の12週間後、ヤギを屠殺し、膝を肉眼病理学的に検査した後、中性緩衝ホルマリン(NBF)で固定し、病理組織検査に供した。肉眼病理学(左)並びにヘマトキシリン・エオジン染色(右)は、対照関節と比較して、治療された病変における増殖の増加を示している。これらの結果は、治療した病変における顕著な新軟骨形成、及び対照病変における最小限の再生、又は再生がないことを示している。
【0035】
【
図12】2匹のヤギの膝(後膝)関節の軟骨の非荷重部に、直径8mmの全層性損傷によって軟骨損傷を外科的に誘導した。手術時に、病変を以下のように治療した。ヤギ#1(雄)において、治療側にはフィブリングルー(TISSEEL、Baxter International Inc.,Deerfield,IL)に包埋された、MTO由来軟骨球に由来する単細胞軟骨細胞産物を投与し、対照側にはフィブリングルーのみを投与した。ヤギ#2(雌)において、治療側にはフィブリングルーに包埋されたMTO由来軟骨球を投与し、対照側にはフィブリングルーのみを投与した。手術の12週間後、ヤギを屠殺し、膝を肉眼病理学的に検査した後、中性緩衝ホルマリン(NBF)で固定し、病理組織検査に供した。アルシアンブルー染色組織(上パネル-青色)は、軟骨に典型的なプロテオグリカン/ヒアルロン酸成分を示している。II型コラーゲン免疫組織化学(下パネル-褐色)でも、両被験体の治療関節の再生関節軟骨には、特異的な軟骨マーカータンパク質であるII型コラーゲンの顕著な量が認められる。これらの結果は、治療した病変における顕著な新軟骨形成、及び対照病変における最小限の再生、又は再生がないことを示している。
【0036】
【
図13】左上パネルに神経ロゼット(矢印)、中上パネルに神経管様構造(矢印)、右上パネルに組織化神経上皮領域(星印)を示す2週目のMTOの組織構造。下パネルは、神経マーカーβ-3チューブリンによるMTOの広範な標識を示す。
【0037】
【
図14】2週目のMTOの免疫蛍光染色。神経ロゼット(矢印)は、ロゼット中に存在する神経前駆細胞/幹細胞と一致する、SOX 1/ネスチン及びSOX 2/ネスチンの二重免疫蛍光標識を有する細胞を示す。
【0038】
【
図15】2週目のMTOの免疫組織化学。免疫組織化学染色は、ベータ-3チューブリン(β-3チューブリン)、Sox2、ネスチン、Nurr1、及びPax6を含むいくつかの神経マーカー(褐色染色部位)の発現を示している。ドーパミン作動性神経細胞のマーカーであるチロシンヒドロキシラーゼも示されている(矢印)。パーキンソン病の顕著な病変は、黒質におけるドーパミン作動性神経細胞の喪失である。
【0039】
【
図16】2週目のMTOの免疫組織化学。Olig2の免疫組織化学染色。Olig2は、オリゴデンドロサイト及び運動神経細胞前駆体(褐色染色)のマーカーであり、2週目のMTOの神経上皮領域に存在する。
【0040】
【
図17】4週目のMTOの免疫蛍光染色。Tbr1、ダブルコルチン、及びリーリンを含む大脳皮質形成の3つのマーカーを示す免疫蛍光染色(緑色)。細胞核はTo-Pro-3で青色に染色された。
【0041】
【
図18】6週目以降におけるMTOの組織切片の免疫組織化学。免疫組織化学によって染色されたMTOの組織切片は、神経細胞及びグリア細胞の更なる成熟を示し、これは、アストロサイトを示すGFAP(赤色)、神経細胞を示すMAP2(褐色)、及びオリゴデンドロサイトを示すMBP(褐色)の発現からも明らかである。
【0042】
【
図19】6週齢のヒトMTO由来細胞の生着部位が、術後8週目に2匹のラットにおいて、STEM121免疫組織化学染色で示されている。褐色染色部位は、STEM121の陽性染色を示し、ヒト細胞の存在を示している。高倍率画像(右パネル)では、STEM121陽性細胞の細い突起がラットの脳の隣接領域に伸びているのが見られ、神経の生着と一致している。
【0043】
【
図20】6週齢のヒトMTO由来細胞の生着部位が、術後8週目に2匹のラットにおいて、STEM121免疫組織化学染色(褐色染色部位はSTEM121の陽性染色を示す)で示されている。染色は細胞が注射された脳の対側にも存在し、脳内の移植細胞の広範な移動を示している。
【0044】
【
図21】6週齢のヒトMTO由来細胞産物を移植した術後8週目のラット脳(線条体)。(A)ミエリン塩基性タンパク質(MBP)(緑色)及びSTEM121(赤色)の共局在は、生着したヒトオリゴデンドロサイトを示す。(B)微小管関連タンパク質2(MAP2)(緑色)及びSTEM121(赤色)の共局在は、ヒト神経細胞の生着を示す。
【0045】
【
図22】アンフェタミン誘発回転(1分当たりの回転数)によって測定された6週齢のヒトMTO由来神経細胞の治療効果。パーキンソニズムを誘導したヌードラットにおいて、6週齢のMTO由来細胞300,000個を線条体に注射して治療した。ベースライン評価をMTO細胞治療の前に行い、術後2、4、6、及び8週目に評価した。多い回転数/min(>10)はパーキンソニズムを示す。B2は、正常対照(非パーキンソン)ラットである。ラットB4、B7、B8、及びB11において、研究の過程にわたって、治療効果(回転数の減少)を見ることができる(ラット11は2週間後、細胞産物とは無関係の感染症で死亡)。
【0046】
【
図23】3Dマトリックスを使用せずに生成したiPSC株1024由来MTOを16週目に収穫し、アストロサイトのマーカーとしてGFAPを免疫組織化学的に染色した。赤褐色の染色細胞は陽性染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本開示は、iPSC由来多組織オルガノイド(MTO)を成長させる新規な方法であって、MTOによる治療物質の自発的産生をもたらす、方法を記載する。治療物質としては、硝子軟骨を産生する軟骨細胞、軟骨球、及び神経組織が挙げられるが、これらに限定されない。
【0048】
オルガノイドは、幹細胞の自己組織化能を実現する3次元(3D)培養物である。トランスクリプトーム解析から、オルガノイドは、脳、網膜、腎臓、腸上皮、絨毛芽細胞など、ヒト臓器の様々な初期発達プロセスを再現できることが示されている。最も高いレベルの軟骨組織形成は、胎児の発達及び生後初期に起こるので、3Dオルガノイド系は、独自に、in vitroでの軟骨発生とそれに関連した細胞外マトリックスの組織化を行うことができる。オルガノイド由来硝子軟骨及び軟骨細胞をヒトに臨床応用するには、生体異物を含まない、無血清培養プロトコルが必要である。将来、オルガノイド工学による軟骨産生を容易にするためには、オルガノイドにおける軟骨産生に関連する主要な中胚葉形成経路の解明が必要である。
【0049】
例示的な治療の使用領域
変形性関節症
MTO由来物質の臨床的有用性が期待される領域の1つは、変形性関節症の治療である。変形性関節症の正確な発症機序は不明なままである。変形性関節症は、最初は、生体力学的因子によって引き起こされる、避けられない受動的な加齢関連疾患であると考えられていた。現在、変形性関節症は、関節組織の破壊と修復との間に不均衡を生じさせる炎症因子、力学的因子、及び代謝因子が関与し、その結果、関節表面が、滑膜関節を通して力学的負荷を吸収及び分散することができなくなる動的かつ多面的なプロセスとして広く受け入れられている。変形性関節症は、滑膜の膨張及び炎症、薄く粗い関節軟骨、並びに/又は関節縁及び軟骨の下の反応性骨過形成によって臨床的に顕在化する。X線写真では、関節裂隙狭小化(JSN)、骨増殖症、軟骨下硬化症、嚢胞形成、及び/又は骨格輪郭の異常も見ることができる。変形性関節症は軟骨又は軟骨下骨に限定されない。むしろ、変形性関節症は、脂肪及び滑膜組織、並びに関節を取り囲む靭帯、腱、及び筋肉を含む骨軟骨複合体の組織間の相互作用から生じる。しかしながら、変形性関節症を制御又は回復させることが示されている、変形性関節症の疾患修飾薬はない。
【0050】
iPSC由来MTOは、軟骨を修復及び復元し、炎症を低減し、並びに/又は関節置換の必要性を有意に遅延若しくは低減する、変形性関節症のための疾患修飾療法の可能性をもたらす。
【0051】
軟骨損傷修復
MTO由来物質の臨床的有用性が期待される別の領域は、軟骨損傷の修復である。関節軟骨に関わる軟骨断裂及び骨軟骨欠損は、関節置換につながることがある一般的な損傷である。損傷した関節軟骨の自己再生能力は限られており、症候性軟骨病変に対する治療法は限られている。外科的修復方法(例えば、骨軟骨自家/同種移植及びマイクロフラクチャーによる骨髄刺激)は全て、適切な移植片の不足、及び/又は線維軟骨ではなく硝子軟骨から構成される修復組織が得られないことを含む制限を有する。外科的修復方法の制限を回避するために、関節軟骨損傷を治療するための細胞ベースの方法が探求されてきた。第1世代及び第2世代の自家培養軟骨細胞移植術は、良好な患者転帰をもたらしたが、in vitro拡大のための自家培養軟骨細胞の外科的収穫に関連する罹患率及び費用には、軟骨細胞移植法の広範な臨床使用に対する制限が残されている。
【0052】
自家培養軟骨細胞の外科的収穫に関連する制限を回避するために、ヒト幹細胞からのin vitro軟骨発生及び硝子軟骨産生が探究されてきた。
【0053】
神経変性障害
MTO由来物質の臨床的有用性の更に別の領域は、例えば、パーキンソン病などの慢性及び/又は進行性神経障害の治療である。罹患者は、典型的には、手の震え、硬直、動作の緩慢さ、姿勢の不安定さを有する。疾患が進行するにつれて、臨床的徴候は悪化し、加速歩行(歩行時の早足及び前屈姿勢)、発話困難(不明瞭な発話)、嚥下困難、仮面様顔貌、及び認知低下が含まれる。患者は最終的に寝たきりになり、体を動かしたり自分の世話をしたりすることができなくなり、高額な入院治療費及び介護施設費用がかかる。現在利用可能なパーキンソン病の治療法(薬物療法及び脳深部刺激療法)は、化学物質の前駆体を供給するか、ドーパミンを産生する中脳細胞に直接反応する脳領域を刺激することによって、ドーパミン(DA)の喪失を補おうとするものである。残念ながら、これらの治療法は主に対症療法であって、最終的には効力を失い、重大な副作用を伴う可能性があり、疾患の進行を防ぐことはできない。
【0054】
多組織オルガノイドの調製及び特性決定
人工多能性幹細胞(iPSC)は、軟骨細胞に分化する可能性を有する。しかしながら、iPSC由来軟骨細胞の臨床応用にはまだいくつかの課題がある。iPSC由来軟骨細胞を生成するための一般的なアプローチは、iPSC由来中胚葉細胞を単層培養してから3次元細胞培養に移す、2D-3D逐次培養を使用することであった。このプロセスに3次元培養を導入することで、生成される軟骨の質が向上する。とはいえ、これらの既存の段階的プロトコルは手間がかかり、ウシ胎児血清(FBS)の使用を伴い、胚発生における中胚葉特異化のための誘導及び抑制シグナルの操作を伴う。更に、懸濁細胞培養やペレット細胞培養における軟骨細胞の長期的な維持及びその結果については、まだ解明されていない。
【0055】
オルガノイド由来軟骨形成物質
in vitro軟骨産生におけるMTOの分子経路をより深く理解するために、MTO誘導の8週間後、11週間後、及び/又は15週間後にRNA-seqを行った。RNA-seqデータを、異なるライフステージのヒト軟骨細胞から得られた既存のRNA-seqデータと比較した結果、15週目のMTOにおける関連遺伝子発現は、ヒト胎児下肢組織と強い相関があることが示された。
【0056】
化学的に規定されたゼノフリー培養
一態様において、本開示は、ゼノフリー及びフィーダーフリーのプロトコルで培養したhiPSC由来MTOからヒト硝子軟骨が自然発生することを記載している。本明細書で使用される場合、「ゼノフリー」という用語は、iPSCと同じ種に由来する成分のみを含むように設計された培養系を指す。したがって、ヒト硝子軟骨が、ヒト成分のみを含むゼノフリー系においてヒトiPSC(hiPSC)由来MTOによって産生される例示的な実施形態との関連で本明細書に記載されているが、他の種に由来するiPSCの使用に基づくゼノフリー系は、iPSCが得られた種に由来する成分のみを有することに限定される。本明細書で使用される場合、「フィーダーフリー」という用語は、典型的には線維芽細胞であるフィーダー細胞を使用しない培養系を指す。
【0057】
従来の方法における制限の克服
上述のように、化学的に規定されたハイドロゲル材料(CELL-MATE3D、BRTI Life Sciences,Two Harbors,MN)及び培養培地(E8)を使用してヒト多能性幹細胞から大脳オルガノイド(CO)を生成する方法、並びに該オルガノイドの特性評価は、以前に報告されている(Lindborg et al.,Stem Cells Transl Med 5(7):970-979(2016);米国特許出願公開第2020/0248139(A1)号)。これらのオルガノイドの培養期間は、オルガノイドが直径2~3mmに達したときの、おそらく低酸素症に起因するオルガノイドの中心壊死のために制限されていた。
【0058】
この制限に対処するために、本開示は、ガス透過性底部を有し、それによって培養培地界面の上部だけでなく底部からも酸素拡散を可能にするバイオリアクターシステム(G-REX 100,Wilson Wolf,New Brighton,MN)を使用する方法を記載する。E8培地のみの連続使用と共にこのシステムを使用して、オルガノイドを数ヶ月間(例えば、30週まで)ルーチン的に培養することができる。本明細書に記載される方法は、CELL-MATE3D(BRTI Life Sciences,Two Harbors,MN)のキトサン成分の使用をなくすことによって、以前に報告された方法を更に改変したものである。オルガノイドの大脳表現型は依然として顕著であったが、軟骨様組織が発生した。MTOの中心に形成された軟骨は、その明瞭な形態及び特徴的な組織化学的・免疫組織化学的特徴から、組織学的に容易に認識可能であった。軟骨の主な種類(関節軟骨、肥大軟骨、弾性軟骨、線維軟骨)は、その細胞外マトリックス(ECM)の構造及び組成によって区別することができる。例えば、関節軟骨は、線維形態(線維軟骨)ではなく硝子様形態を有し、主にII型コラーゲンを含有し、I型コラーゲン(線維軟骨)又はX型コラーゲン(肥大軟骨)をほとんど又は全く含有せず、弾性線維を含有しない。8週目までに、H&E染色切片における、特徴的な、豊富で均質な淡色の好塩基性細胞外マトリックス(ECM)の発達(
図1A)、及び軟骨ECMに典型的なプロテオグリカン/ヒアルロン酸成分の顕著なアルシアンブルー染色(
図1B)によって示されるように、MTOにおいて硝子軟骨が明らかに識別可能になった。MTO軟骨の免疫組織化学は、軟骨が成熟するにつれてII型コラーゲンの量が経時的に増加することを示し、全ての時点でアグリカンの広範な発現を示した(
図1C、
図1D)。VI型コラーゲンもまたMTO軟骨で広範囲に発現していたが、I型コラーゲンはMTO軟骨の周辺部におけるいくつかの部位で発現を示し、X型コラーゲンは全体的に、バックグラウンドを超える免疫反応性を示さなかった。硝子軟骨の表現型は、8週目から30週目まで安定して維持され、サイズが顕著に成長した(
図1A~
図1D)。これを更に評価するために、MTOの発達中及び成熟した軟骨組成の全体的な指標としてアグリカン面積割合を使用して、MTO組織切片に対して組織形態計測を行った。8週目(n=7生物学的反復)のアグリカン面積割合は17.7%(±7.2)であり、11週目(n=5)では57.8(±15.1)であり、対応のないt検定は有意差(p=0.0001)を示した(
図1E)。
【0059】
グローバルトランスクリプトームから、MTOにおける中胚葉形成シグネチャーが明らかになった。
MTOにおける軟骨の表現型発達の根底にあるトランスクリプトームの変化を理解するために、組織学的解析でMTO軟骨の出現、拡大、成熟が示された期間をカバーする8週目、11週目、15週目の1024由来MTOのバルクRNA-seqを行った。MTOグローバルRNA発現データの主成分分析(PCA)により、採取時期に対応する明確なクラスタリングが示された(
図2A)。発現変動遺伝子の発現差解析及び遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメントを、3つ全ての比較について行った。MTO軟骨ではCOL2A1含量が増加したが(
図1C)、バルクRNA-seqではCOL2A1発現が減少した。これはおそらくMTOが多組織であるためである。しかしながら、ACAN、CD44、COMP、PRG4及びSNAI1などの他の軟骨マーカーは、実験の時間経過にわたって著しく増加した発現を示した(
図2B)。I/X型コラーゲンの転写レベルは増加したが、別の肥大マーカーであるIHHの発現は減少した(
図2B)。加えて、I型コラーゲンは最も豊富なコラーゲンであり、その発現は軟骨に限定されない。したがって、MTOにおけるI型コラーゲンの転写レベルの増加は、必ずしもMTO軟骨の組成におけるI型コラーゲンの増加を反映しているわけではない。興味深いことに、シナプス形成、軸索形成などの神経プロセスの一貫した下向き調節、及び中胚葉プロセス、例えば細胞外マトリックス形成、結合組織発達、軟骨発達の上向き調節が観察された(
図2C、
図3A)。
【0060】
骨形成タンパク質(BMP)と線維芽細胞増殖因子(FGF)シグナル伝達との相互作用は、神経誘導及び中胚葉パターン形成、軟骨細胞分化及び増殖、並びに胚発生中の軟骨内骨化を含むがこれらに限定されないプロセスにおいて、高度に保存された役割を果たす。8週目から15週目にかけて観察される軟骨産生が徐々に増加することから、ヒトMTOで観察された神経から中胚葉への全体的な移行は、BMP経路とFGF経路との間の動態が著しく変化することと関連している可能性があることが示唆される。詳細には、BMPシグナル伝達経路における成分の発現の増加、BMPアンタゴニストのレベルの低下若しくは未変化、及び/又はFGFシグナル伝達のレベルの低下若しくは定常を伴うBMP経路が優先された可能性がある。中胚葉発生プロセスにおける経路は相互に絡み合っており、様々な組織で発現しているため、1つの経路で発現している数個の遺伝子だけを同定して調べると、MTOのバルクシークエンスにおいて偏りが生じる可能性がある。そこで、過去の刊行物やGO用語に基づいて遺伝子の発現を網羅的に調べ、グループ化した遺伝子の全体的な発現を8週目及び15週目で比較した。BMP(p=0.0041)及びその細胞内シグナル伝達物質であるSMAD(p=0.00098)の全体的な発現が有意に増加した(
図3B)。BMPアンタゴニストの全体的な発現は変化しなかった(p=0.6)(
図3B)。FGFシグナル伝達経路に関しては、神経FGFの発現を調べたところ、有意な変化はなかったものの(p=0.29)、先に述べた他の転写産物と比較して低いレベルで発現していた(
図3B)。更に、FGFR経路の他の成分の動的発現を調べたところ、FGFRシグナル伝達経路の負の調節(GO:0040037)が有意に増加し(p=0.02)、FGFRシグナル伝達経路の正の調節(GO:0045743)に関与する遺伝子の発現が、統計学的に有意ではないものの(p=0.097)減少していたことが明らかになった(
図3B)。これは、神経FGF及びその下流経路が抑制されたことを示唆しており、観察された神経成分の組織学的減少と一致している。最後に、中胚葉形成に関与する遺伝子(GO:0001707)の発現動態を調べたところ、この生物学的プロセスに関与する遺伝子の発現が有意に増加(p<0.0001)していることが明らかになった(
図3B)。
【0061】
E8培地以外に化学物質を添加することなく、MTOにより自発的に軟骨産生の表現型が優先されたことから、MTOは、軟骨発生を誘導するために使用される分化因子の発現を本質的に増加させる可能性がある。BMP2、BMP6、FGF2、及びTGFB1の発現は、MTOでは8週目から15週目にかけて自発的に有意に増加した(
図4)。更に、TGFB3、INHBA、BMPER、BMP4、LIF、IGF2、LEFTY1、SFRP1、及びCER1を含む、調査した他のプロトコルでその産物が軟骨分化に用いられている他の遺伝子の発現もあった。CER1を除く全ての発現パターンが増加した(
図4)。このことは、MTOにおける自発的な軟骨発生の根底にある分子機構が、hiPSC誘導軟骨分化で観察されるものと類似している可能性を示している。
【0062】
全体として、hiPSC由来MTOのグローバルトランスクリプトームは、BMPシグナル伝達及び中胚葉発生における遺伝子発現の増加と、神経FGFシグナル伝達における遺伝子発現の減少が、8週目から15週目までのMTOにおける軟骨産生の増加と関連していたことを示した(
図5)。
【0063】
MTOにおける関節軟骨発達の増加に関連する別個のシグナル伝達経路
軟骨形成及び骨形成の両方の確立は、軟骨発生の結果である。軟骨発生は、哺乳類の骨格系の胎児期における発達において重要な役割を果たしている。軟骨細胞の肥大及び軟骨マトリックスの劣化は、長骨の形成及び成長をもたらす軟骨内骨化に先行する。軟骨形成及び骨形成は一体的であるため、軟骨発生及び骨化の遺伝子発現は大きく重複している。先に述べたように、MTOにおけるIHHとCOL10A1の相反する発現と同様に、いくつかの軟骨マーカー遺伝子の増加が観察された(
図1)。しかし、軟骨マトリックスの劣化、石灰化、骨化は30週になっても観察されなかった。したがって、軟骨発達に関与する遺伝子の経時的発現パターンを調査して、軟骨細胞の長期維持に寄与し得るシグナル伝達経路を同定することができるかどうかを決定した。これを達成するために、まず軟骨発達における正の調節因子と負の調節因子の両方を含むGO用語「軟骨発達」(GO:0051216)での遺伝子発現を調べた。biomaRtで検索された194遺伝子のうち125遺伝子(FDR<0.05)の発現パターンを可視化したところ、発現が減少した42遺伝子と発現が増加した83遺伝子に明確に分かれた(
図6)。加えて、42遺伝子の減少にもかかわらず、全体の遺伝子発現レベルは軟骨発達に伴って有意に増加し(p<0.0001)、MTOにおける軟骨の拡大と一致した(
図3、左パネル)。
【0064】
次いで、STRINGを使用して、記載された遺伝子によって発現されるタンパク質からなる2つの機能的会合ネットワークを構築して、選択された、発現が増加した遺伝子と減少した遺伝子の遺伝子産物の明確な相互作用を同定した。転写因子と増殖因子が、両ネットワークで最も関連性の高い分子であった。Wntシグナル伝達分子は、減少した遺伝子産物についてのネットワーククラスター形成において、最も顕著なローカルネットワーククラスターを構成していた(
図6、右上のパネル;(表1))。
【0065】
【0066】
Wntシグナル伝達カスケードは、軟骨発生及び骨化の発達及び恒常性において重要な役割を有する。一般に、古典的Wntカスケード(ネットワークで注目されるROR2及びSFRP2を含む)は、軟骨発生の初期段階を抑制する。WNT7Aの過剰発現は、ニワトリ肢モデルにおいて初期の軟骨発生を阻害した。軟骨内骨化において、Wntシグナル伝達経路は軟骨細胞の肥大を促進する。SFRP2、WNT01B、及びWNT7Bは、骨化の既知の正の調節因子である。加えて、いくつかの、骨化の非Wntである正の調節因子も下向き調節された。上向き調節されたメンバーの中で、TGF-β/BMPシグナル伝達経路を中心としたクラスター形成が見られた(
図6、右下パネル)。また、古典的Wntシグナル伝達経路の下向き調節の増加という独特のシグネチャーが観察され、発現が減少した遺伝子のタンパク質産物によって形成される会合ネットワークと一致した。先のネットワークとは対照的に、骨化のいくつかの負の調節因子は、TGF-β/BMPシグナル伝達経路とほとんど重複していなかった(
図6、右下パネル)。要約すると、軟骨発生を促進するTGF-β/BMP経路の継続的な増加、及び成熟軟骨細胞における軟骨細胞の肥大と骨化を抑制するWntシグナル伝達カスケードの下向き調節により、8週目から15週目まで、MTOの軟骨は、安定的に成長していたと考えられる。
【0067】
加えて、遺伝子選択のバイアスを軽減するために、biomaRTによってGOから検索されたGO用語遺伝子リストを用いて、目的の生物学的プロセスにおける遺伝子の発現も上記のように比較した(表2)。
【0068】
【表2】
1発現遺伝子数/GO用語に関連する遺伝子数(biomaRt v2.46.3で検索)
28週目と15週目との間で正規化及び対数変換した転写産物数を比較した片側Wilcoxon検定
3*はp値<0.05;
**はp値<0.01。
【0069】
ここでもまた、軟骨発達の正の調節(GO:0061036)、軟骨芽細胞の分化(GO:0060591)、軟骨形態形成(GO:0060536)を含む、軟骨の成熟促進に関連するGO用語の遺伝子は有意に発現の増加を示したが(表2)、成長板軟骨発達遺伝子セット(GO:0003417)は有意に増加しなかった(p=0.058)。更に、軟骨細胞成熟の負の調節及び軟骨内骨化の促進に関連する遺伝子の発現は、有意な変化を示さなかった(表2)。成長板軟骨発達(GO:0003417)マーカー遺伝子の発現は中程度にしか増加しなかった(p=0.058)ので、MTOによって産生された硝子軟骨の成長は、関節軟骨遺伝子マーカーの発現増加とより密接に関連しているが、その他とは関連していない可能性がある。実際、関節軟骨マーカー遺伝子の発現の有意な増加(GO:0061975;p=0.031)が観察されたが、気管支や気管軟骨発達(GO:0060532;GO:0060534)は観察されなかった。
【0070】
要約すると、8週目から15週目までのMTOで発現が減少した遺伝子のタンパク質産物は、骨化を促進するWntシグナル伝達経路の成分の周辺にクラスター化され、発現が増加した遺伝子のタンパク質産物は、TGF-β/BMPシグナル伝達経路の周辺に顕著なネットワークを形成していた。更に、観察された分子シグナル伝達クラスターは、関節軟骨発達の遺伝子発現における独特な増加と関連していた。
【0071】
MTO軟骨細胞と、ヒトのライフステージを横断する下肢軟骨細胞との間のトランスクリプトーム比較
MTOのRNA-seqでは関節軟骨発達における独特な増加が明らかになったことから、ヒト成長板軟骨細胞に特異的な遺伝子の発現において、MTO軟骨細胞とヒト成長板軟骨細胞及び/又は関節軟骨細胞との間で強い相関関係がある可能性がある。ヒト胚肢芽(6週目;Li et al.,BMC Genomics 18(1):983(2017))、成長板軟骨細胞(14週目、15週目、16週目、及び18週目;Li et al.,BMC Genomics 18(1):983(2017))、膝軟骨細胞(17週目、青年(Hicks et al.,Nat Cell Biol 20:46-57(2018))、及び成人(Ferguson et al.,Nat Commun 9(1):3634(2018)))、肋軟骨細胞(約70歳の成人)から収集した既存のRNA-Seqデータを再処理した。軟骨細胞で特異的に発現することが知られている325遺伝子を検証し、これらの遺伝子に対して主成分分析(PCA)を行った。遺伝子発現は特定の研究ではなく、ライフステージによってクラスター化されたため、異なる研究の影響は最小限である(
図7A)。詳細には、胎児組織(成長板と膝軟骨細胞)は一緒にクラスター化し、一方、青年、成人、70歳の軟骨組織(膝軟骨細胞と肋軟骨細胞)は、総称してpost-in utero組織と呼ばれ、互いに近接して位置していた(
図7A)。15週目のMTOは、6週目のヒト肢芽軟骨組織に最も類似していた(
図7A)。次いで、ピアソン相関係数を使用して、PCA分析に含まれる全てのサンプルと遺伝子との相関を調べた。全てのMTOが、全てのライフステージからのヒト軟骨細胞及び軟骨組織と60%超の相関を示したが、15週目のMTOは、6週目のヒト肢芽、14週目の胎児成長板軟骨細胞、及び15週目の胎児成長板軟骨細胞と更に強い相関(76%超)を示した(
図7B)。更に、MTOは、先に記載された目的の遺伝子について、胎児軟骨細胞との平均で、post-in utero膝軟骨細胞よりも有意に高い(p<0.0001;95% CI[0.053,+∞])相関を示した。MTOと胎児組織との平均相関は71%であったのに対して、post-in utero組織との平均相関は65%であった。
【0072】
既知のコラーゲン遺伝子(COL2A1、COL9A1、COL6A2、COL11A1、COL10A1)、肥大マーカー(COL10A1、MMP13)、及び軟骨細胞の分泌機能を反映するいくつかの成分(ACAN、CD44、PGR4)の発現を、ヒト下肢軟骨細胞及び軟骨と比較して、MTOで更に調べた(
図8)。ECMを構成する成分の転写産物は、全体的にpost-in utero下肢軟骨細胞よりin utero下肢軟骨細胞の方が豊富であったが、分泌性分子の転写産物はより多様な傾向を示した。2型/9型コラーゲンをコードする遺伝子(COL2A1,COL9A1)の発現は、15週目のMTOでは低かったが、8週目のMTO及び11週目のMTOからの発現は、検査したヒト組織で規定された範囲に収まった。軟骨の非肥大領域を構成する他の主要なコラーゲン成分(COL6A2及びCOL11A1)並びに肥大マーカー(COL10A1、MMP13)の発現において、MTOとヒト下肢軟骨組織との間に顕著な差はなかった。異なる時点で採取されたMTOのうち、ヒト組織の発現範囲に含まれてはいるが、15週目のMTOはコラーゲン含量がわずかに低く、肥大遺伝子発現が高かった。分泌性分子の転写産物に関しては、15週目のMTOは、ACANが低いこと以外はヒト組織と同様の発現(PGR4、CD44)を示した。PRG4は、関節軟骨の表面に位置する軟骨細胞や滑膜表層細胞層の一部で合成される大きなプロテオグリカンをコードする遺伝子であるが、この遺伝子が正常に発現していることは、MTOの軟骨細胞が自発的にとる関節発達の軌跡を更に裏付けるものである。要するに、ヒト成長板軟骨細胞に特異的に発現する遺伝子の転写レベルは、15週目のMTOとヒト下肢軟骨組織との間で強い相関があった。
【0073】
軟骨再生治療及びex vivo変形性関節症モデリングのための軟骨細胞を提供するためには、in vitroでの軟骨発生及び硝子軟骨産生が必要である。hiPSCベースのin vitro軟骨発生における最近の進歩にもかかわらず、治療目的で軟骨細胞を生成するための単純かつスケーラブルなプロトコルを開発すること、及び長期培養における動的細胞挙動を理解することは、まだ達成されていない。
【0074】
変形性関節症及び変性軟骨病のためのiPSC由来MTO
本開示は、ゼノフリー及びフィーダーフリー培養で増殖させたhiPSC由来MTOにおける硝子軟骨の自然発生及びロバストな成長について記載する。この培養では、E8培養培地に存在するもの以外の増殖因子又は分化因子を添加する必要がないため、このプロトコルは臨床的適正製造基準(cGMP)に適合している。更に、プロセスが技術的に比較的単純であるため、ロボットによる細胞培養及び大規模製造にも適している。MTOの表現型移行中のトランスクリプトーム変化を特性決定し、解析することにより、本発明者らは、迅速な軟骨産生を目指す将来のオルガノイド及び関連組織工学が発展するためのメカニズム的基礎を提供する。
【0075】
本明細書では、MTOを生成するために使用するiPSCがヒトiPSC(hiPSCs)である例示的な実施形態の文脈で説明するが、本明細書に記載される方法は、例えば、MTOが非ヒト種に由来する軟骨物質を産生することが望まれる場合には、他の種に由来するiPSCの使用を含むことができる。
【0076】
一般に、本明細書に記載される方法は、3Dハイドロゲルマトリックス自体を使用するのではなく、ハイドロゲルベースの3D細胞培養マトリックスからの水和液を含む培養培地中でiPSCを培養することを含む。水和液を含む培地中でiPSCを培養することは、iPSCがオルガノイドを形成するよう誘導するのに十分である。一般に、ハイドロゲルベースの3D細胞培養マトリックスの水和液は、ヒアルロン酸溶液であり、0.1%~1.5%の濃度範囲のヒアルロン酸を含む。しかしながら、1つ以上の実施形態において、iPSCは、ヒアルロン酸の有無にかかわらず、生理的溶液(例えば、通常の生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ハンクス平衡塩溶液、DMEM、E8)中で培養することができる。
【0077】
特定の理論に束縛されることを望むものではないが、3Dマトリックスがないこと、及び/又は培養の細胞密度に起因して培養iPSC間で起こる細胞シグナル伝達を含むがこれらに限定されない要因により、iPSCは、培養中にMTOを生成する可能性がある。任意の特定の培養培地成分ではなく、これらの因子が、MTOの生成を促進し得る。
【0078】
本明細書に記載される方法によって産生されたオルガノイド中の軟骨は、胎児の発達中に存在する軟骨に典型的な硝子軟骨に類似している。更に、MTOによって産生された硝子軟骨は、II型コラーゲン、IX型コラーゲン及びアグリカン含量を含む多くの点で、関節硝子軟骨に類似している。例えば、ECM中のアグリカン含量が高いほど、軟骨が圧縮に耐える能力が高くなる。したがって、MTOによって産生された軟骨は、圧縮及び剪断の反復力に対する耐性を含むがこれらに限定されない、関節軟骨に類似した生体力学的特性を有する。したがって、MTOで産生された軟骨は、軟骨断裂、骨軟骨欠損、変形性関節症などを含むがこれらに限定されない、関節軟骨の変性を伴う病気の治療に有用である。
【0079】
図9は、ラットモデルで変形性関節症を治療した組織学的データを示す。上画像(無治療対照)及び下画像(3Dマトリックスなしで調製した軟骨形成オルガノイド由来細胞で治療)を、Osteoarthritis Research Society International(OARSI)の方法に従い、0~12の尺度を用いて採点した。12は重度の変形性関節症を示す。採点方法は、軟骨の厚さ、関節腔の厚さ、骨棘の有無などを考慮する。採点は盲検で行われた。OARSIスコアが11であった上画像は、軟骨の喪失及び骨棘の存在を示している。OARSIスコアが4であった下画像は、軟骨びらんが軽度で軟骨が存在し、骨棘がないことを示している。
図10は、Ku80の免疫組織化学染色を示し、ヒトオルガノイド由来軟骨細胞がラットモデルの治療膝に生着したことを示している。
【0080】
軟骨球
軟骨球は、MTOから解離した軟骨細胞から自発的に形成される構造体である。軟骨細胞は、MTOを物理的に単細胞に解離し、次いで、解離した軟骨細胞が治療活性を有する軟骨細胞の球、すなわち軟骨球を自発的に形成する条件下において、バイオリアクター中で培養することにより得ることができる。解離された細胞は、バイオリアクターに導入される前に軟骨細胞が凝集しないように、超低接着表面で培養されてもよく、そのように培養されなくてもよい。
【0081】
図11及び
図12は、ヤギ大腿脛骨関節で外科的に誘導した関節軟骨損傷ヤギモデルにおいて、ヒトオルガノイド由来軟骨球が損傷軟骨を修復することを示している。それぞれのヤギにおいて、両大腿脛骨関節の関節軟骨に直径8mmの全層性欠損を形成した。ヤギ#1(雄)において、治療側にはフィブリングルー(TISSEEL、Baxter International Inc.,Deerfield,IL)に包埋された、MTO由来軟骨球に由来する単細胞軟骨細胞産物を投与し、対照側にはフィブリングルーのみを投与した。ヤギ#2(雌)において、治療側にはフィブリングルーに包埋されたMTO由来軟骨球を投与し、対照側にはフィブリングルーのみを投与した。手術の12週間後には、両方のヤギ被験体における治療関節に顕著な関節軟骨の再生が見られ、これは、軟骨に典型的なプロテオグリカン/ヒアルロン酸成分を示すアルシアンブルー染色組織の量が多いことからも明らかである(
図12)。MTO軟骨の免疫組織化学でも、両被験体の治療関節の再生関節軟骨には、特異的な軟骨マーカータンパク質であるII型コラーゲンの顕著な量が認められた(
図12)。
【0082】
軟骨形成産物及び方法
したがって、本開示は、ヒトiPSCから生成されたオルガノイドに由来する軟骨細胞及び/又は軟骨球から本物の硝子軟骨を生成するためのスケーラブルかつcGMPに適合する方法を記載する。軟骨細胞は、軟骨細胞表現型を維持し、コラーゲン及び抗炎症因子を分泌し、損傷した関節に生着し、動物モデルにおける軟骨損傷の修復を促進する(
図9~
図12)。本明細書に記載される方法は、例えば変形性関節症であるがこれに限定されない病気を治療するための治療用軟骨細胞の大容量供給をもたらすようにスケールアップすることができる。したがって、オルガノイド由来軟骨細胞は、患者細胞を収穫するための手術、又は初代細胞の増殖を必要としない既製の軟骨細胞療法を提供することによって、現在の細胞ベースの手順の欠点を克服することができる。更に、本明細書に記載される方法では、線維芽細胞ではない、均一で高品質の軟骨細胞が産生される。最後に、本明細書に記載される方法は、化学的に規定された材料を使用しており、cGMP製造及びロボットによるスケールアップに容易に適応可能である。
【0083】
iPSCは、入手が容易で再現性のある多能性細胞の供給源であり、in vitro及びin vivoの両方で、純粋な軟骨を生成する軟骨細胞に分化することができる。初期の研究において、オルガノイド由来軟骨細胞の免疫拒絶は示されていない。iPSC由来軟骨細胞を生成するための従来のアプローチは、該細胞の生成の複雑さ及び高コスト、並びにこれらの製造プロセスで使用される異種生物学的薬剤に関連する大きなばらつきのために、変形性関節症への治療応用のための研究は限られていた。これらの欠点を解消するために、本明細書に記載されるアプローチでは、生体異物又は自家ドナー細胞を使用することなく、iPSCから生成されたオルガノイドから軟骨細胞をバルクで生成する。
【0084】
筋骨格系の病気におけるiPSC由来ヒト軟骨細胞の治療可能性
ヒト軟骨細胞の関節内注射は、変形性関節症の治療において論理的な治療アプローチであるが、軟骨細胞が容易に入手できないため、実用化には至っていない。間葉系幹細胞/間質細胞を使用する他の細胞ベースのアプローチは、短期的な効果をもたらし得るが、生着や長期的な修復には至っていない。軟骨細胞は、関節炎症を低減し得る強力な抗炎症能を有する。軟骨細胞は軟骨の損傷部位に生着し、長期的な修復及び臨床的改善をもたらし、膝又は股関節置換を遅らせたり、置換の必要性をなくしたりする可能性がある。iPSCから生成されたオルガノイド由来軟骨細胞は、変形性関節症関節の炎症環境に対して耐性があり、初代成体軟骨細胞よりも良好な増殖能を有する幼若軟骨細胞に非常に類似している。したがって、幼若軟骨細胞は生存及び生着が促進され、長期有効性が期待できる。重要なことは、軟骨の同種移植は忍容性が高いことが知られており、既製のものを使用できる可能性があることである。本明細書に記載されるオルガノイド由来軟骨細胞は、幼若軟骨細胞の望ましい資質を全て備えており、整形外科及び外科の治療薬としての並外れた可能性が強調される。
【0085】
軟骨を産生するためのオルガノイドを生成する方法
3Dハイドロゲルマトリックス中でiPSCを培養することを含む、軟骨を産生するためのオルガノイドを生成し使用する方法は、例えば、国際公開番号WO 2020/132055 A1及びLindborg et al.,Stem Cells Transl Med 5(7):970-979(2016)に記載されている。それらの方法では、3Dハイドロゲルマトリックス中で細胞を培養することにより、iPSC由来多組織オルガノイド(MTO)の成長が促進される。これらのオルガノイドは主に脳組織を含有していたが、胚発生における中胚葉特異化のための誘導及び抑制シグナルを制御することによって、より多量の硝子軟骨を産生するように操作することができた。
【0086】
対照的に、本明細書で述べる方法は、3Dハイドロゲルマトリックスを使用せず、培養条件を操作して発達経路を中胚葉特異的な方向へ変更することなく、ヒトiPSC由来多組織オルガノイド(MTO)において自発的に硝子軟骨を成長させることを伴う。むしろ、3Dハイドロゲル細胞培養マトリックスがなくても、標準的な細胞培養培地(例えばE8培地)のみを使用して、自発的に硝子軟骨が形成される。本明細書に記載される方法は、培養条件において中胚葉組織の発達に誘導するために3Dハイドロゲルマトリックスの使用又は血清ベースの因子を使用する必要がないので、臨床適用のためにより手間がかからず、より容易にスケールアップされる。したがって、多組織オルガノイド(MTO)をバイオリアクター内で成長させることができ、MTOに含有される硝子軟骨を単離することができる。単離された硝子軟骨は、脱凝集して個別化された細胞(例えば、軟骨細胞)となってもよく、該細胞は、次いで、軟骨細胞凝集体を形成するために使用されてもよく、又は軟骨形成培地中で(例えば、超低接着表面で)培養されてもよい。
【0087】
軟骨を産生するオルガノイドの特性評価
MTO中の軟骨を組織学的に及びトランスクリプトーム解析によって同定した。本明細書に記載される方法を使用してin vitroで成長させたオルガノイドは、ヒト胎児下肢組織に類似した遺伝子発現プロファイルを有する軟骨細胞を含む。例えば、RNA-seqデータは、MTO誘導の8週間後、11週間後、及び/又は15週間後に、オルガノイドが、特定の遺伝子の発現が増加した軟骨細胞を含有することを示す。発現の増加を示す例示的な遺伝子としては、骨形態形成タンパク質(BMP)及びその細胞内シグナル伝達因子(SMAD)、並びに軟骨発生を誘導する分化因子が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、発現が増加する例示的な遺伝子としては、トランスフォーミング増殖因子β1(TGFβ1)、線維芽細胞増殖因子2(FGF2)、骨形態形成タンパク質2(BMP2)、骨形態形成タンパク質6(BMP6)、増殖分化因子5(GDF5)、分泌型frizzled関連タンパク質1(SFRP1)、インヒビンサブユニットβA(INHβA)、トランスフォーミング増殖因子β3(TGFβ3)、インスリン様増殖因子2(IGF2)、白血病抑制因子(LIF)、骨形態形成タンパク質4(BMP4)、BMP内皮細胞前駆体由来調節因子(BMPER)、左右決定因子1(LEFTY1)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載される方法の任意の実施形態を使用して生成されたオルガノイド、オルガノイドの細胞、オルガノイドの組織、オルガノイド由来軟骨細胞、又はオルガノイド由来軟骨細胞凝集体について記載する。
【0089】
別の態様において、本開示は、本明細書に記載される方法の任意の実施形態を使用して成長させた多組織オルガノイドを使用して生成された軟骨について記載する。場合によっては、軟骨は硝子軟骨又は関節軟骨であり得る。
【0090】
更に別の態様において、本明細書に記載されるトランスクリプトーム解析は、軟骨形成経路の発生動態によって、多組織オルガノイド(MTO)が疾患モデリング及び薬剤試験のためのヒト特異的モデルとして機能し得ることを示している。
【0091】
要約すると、本開示の一態様は、胎児肢芽及び成長板軟骨細胞に類似している中胚葉由来関節軟骨組織の自然発生をもたらす、iPSC由来MTOの長期培養について記載する。本明細書に記載されるプロセスは、比較的単純で、生体異物を含まず、フィーダーフリーである培養プロトコルを用いて自己組織化されるため、製造がcGMP製造に容易に適合し、スケールアップされた商業的製造に適したものである。
【0092】
神経MTO産物、方法、及び期待される治療効果
別の態様において、本開示は、例えばパーキンソン病などの神経障害を治療するためのヒト中脳オルガノイド(MBO)由来細胞療法について記載する。パーキンソン病は、運動に最も顕著に影響を及ぼす慢性進行性神経障害である。現在利用可能なパーキンソン病の治療法(薬物療法及び脳深部刺激療法)は、化学物質の前駆体を供給するか、ドーパミンを産生する中脳細胞に直接反応する脳領域を刺激することによって、ドーパミンの喪失を補おうとするものである。残念ながら、これらの治療法は主に対症療法であって、最終的には効力を失い、重大な副作用をもたらす可能性があり、及び/又は進行を防ぐことはできない。
【0093】
神経疾患に対するオルガノイド由来細胞ベースの治療法
オルガノイドはまた、神経疾患のための細胞治療薬の供給源を提供することができる。中脳オルガノイド(MBO)の使用には、これまでに開発された神経細胞産生方法と比べて、商業生産への使用が推奨されるいくつかの利点がある。本方法は技術的に単純であり、動物由来製品を使用せず、比較的低コストで大量のオルガノイドを産生するようにスケーラブルであり、時間特異的又は投与量特異的に増殖因子を含む必要がなく、GMP製造プロトコルに適合する。
【0094】
したがって、一態様において、本開示は、パーキンソン病などの神経障害を治療するための細胞ベースの再生及び/又は回復細胞療法に使用することができる細胞を生成するためのオルガノイドの使用について記載する。この治療法は、このパーキンソン病の経過で失われたドーパミン作動性神経細胞及び支持細胞を回復させ、更なる疾患進行を遅らせるか停止させ、及び/又は患者の運動能力を回復させる可能性がある。本明細書中に記載される細胞治療アプローチは、神経障害を有する被験体に、より高い生活の質をもたらすと同時に、全体的な治療費を削減することができる。
【0095】
ヒト中脳オルガノイド(MBO)は、ヒトiPS細胞を誘導してMBOを形成させることを伴い、これは、神経細胞及び神経組織の商業生産にMBOを使用することを示唆する、これまでに開発された神経細胞産生方法と比べて、いくつかの利点を提供する。本方法は技術的に単純であり、動物由来製品を使用せず、比較的低コストで大量のオルガノイドを産生するようにスケーラブルであり、時間特異的及び/又は投与量特異的に増殖因子を含む必要がなく、GMP製造プロトコルに適合する。
【0096】
本明細書では、MTOを生成するために使用するiPSCがヒトiPSC(hiPSCs)である例示的な実施形態の文脈で説明するが、本明細書に記載される方法は、例えば、MTOが非ヒト種に由来する神経物質を産生することが望まれる場合には、他の種に由来するiPSCの使用を含むことができる。
【0097】
本明細書に記載される再生及び/又は回復細胞療法は、神経変性疾患の過程で失われたドーパミン作動性神経細胞及び支持細胞を回復させ、更なる疾患進行を遅らせるか、あるいは停止させ、患者の運動能力を回復させる可能性がある。この細胞治療アプローチは、神経変性障害を有する患者により高い生活の質をもたらすと同時に、全体的な治療費の削減が期待できる。
【0098】
本明細書に記載される脳オルガノイド生成プロセスは、ロバストで一貫性がある。オルガノイドのRNA-seq遺伝子発現(2系統)及び免疫組織化学的分析(6系統)により、中脳分化についての複数のマーカーが示された。初期データは、MTO由来細胞産物がパーキンソン病の新規治療薬となる可能性があることを示唆している。前臨床データでは、神経ロゼット、神経管様構造、及び神経前駆細胞(Sox1又はSox2とネスチンで二重標識された細胞)が早い時点で形成されること(
図13;
図14);2つの異なるiPS細胞株(CS1及びR76、
図15)に由来するMTOにドーパミン作動性神経細胞(チロシンヒドロキシラーゼ陽性神経細胞)が存在すること;オリゴデンドロサイト前駆細胞が存在すること(olig 2陽性細胞、
図16);大脳皮質形成マーカー(T-brain 1、ダブルコルチン及びリーリン、
図17);成熟アストロサイト(グリア線維酸性タンパク質、GFAP)、神経細胞(微小管関連タンパク質2、MAP2)、オリゴデンドロサイト(ミエリン塩基性タンパク質、MBP)が6週目を超えて存在すること(
図18);ラットの脳における線条体領域に移植された、6週目のMTO由来細胞300,000個の注射による生着(STEM121の免疫組織化学的染色、ヒト細胞に特異的)(2例示す)は、移植後8週目において、周囲の脳への伸展と対側線条体への広範な移動を伴い(
図19;
図20)、ヒトオリゴデンドロサイト(MBP/STEM121二重染色)及びヒト神経細胞(MAP2/STEM121二重標識)の生着が認められたこと(
図21);並びにラットにおける治療効果、例えば、化学的に誘導された片側パーキンソニズムを有するラット(
図19、
図20、及び
図21と同様)における治療効果(例えば、回転の減少)(パーキンソン病のラットモデル、
図22)、が示された。
【0099】
組成物及び治療法
一旦単離すると、MTO由来物質(軟骨形成細胞、軟骨球、又は神経細胞のいずれであっても)は、被験体に投与するための薬学的組成物に含めることができる。したがって、本開示は、MTO由来物質を含む医薬組成物について記載する。本開示はまた、MTO由来物質で治療可能な病気を有するか、又は有するリスクがある被験体を治療する方法を記載する。
【0100】
被験体は、ヒト又は非ヒト動物、例えば、家畜動物、作業動物、実験動物、又はコンパニオンアニマルであり得る。例示的な非ヒト動物被験体としては、ヒト科(例えば、チンパンジー、ゴリラ、又はオランウータンを含む)、ウシ科(例えば、ウシを含む)、ヤギ科(例えば、ヤギを含む)、ヒツジ科(例えば、ヒツジを含む)、ブタ科(例えば、ブタを含む)、ウマ科(例えばウマを含む)、シカ科のメンバー(例えばシカ、エルク、ムース、カリブー、トナカイを含む)、バイソン科のメンバー(例えばバイソンを含む)、ネコ科(例えば家畜化されたネコ、トラ、ライオンなどを含む)、イヌ科(例えば、家畜化されたイヌ、オオカミなどを含む)、鳥類(例えば、七面鳥、ニワトリ、アヒル、ガチョウなどを含む)、げっ歯類(例えば、マウス、ラットなどを含む)、ウサギ科のメンバー(例えば、ウサギ又はノウサギを含む)、イタチ科のメンバー(例えば、フェレットを含む)、又はコウモリ目のメンバー(例えば、コウモリを含む)である動物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
本明細書に記載されるMTO由来物質は、薬学的に許容される担体と共に製剤化されてもよい。本明細書で使用される場合、「担体」には、任意の溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング剤、希釈剤、抗菌剤、及び/又は抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、緩衝液、担体溶液、懸濁液、コロイドなどが含まれる。薬学的活性物質に対するこのような媒体及び/又は薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。任意の従来の媒体又は薬剤がMTO由来物質と不適合である場合を除いて、治療組成物における該媒体又は薬剤の使用が企図される。1つ以上の実施形態では、補助活性成分も組成物に組み込むことができる。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」とは、生物学的又は他の点で望ましくない物質ではなく、すなわち、その物質は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなく、又は該物質が含有される医薬組成物の他の成分のいずれとも有害な様式で相互作用することなく、MTO由来物質と共に個体に投与され得る物質を指す。
【0102】
したがって、MTO由来物質は、製剤化して医薬組成物とすることができる。医薬組成物は、好ましい投与経路に適合した様々な形態で製剤化することができる。したがって、組成物は、例えば、経口、非経口(例えば、皮内、経皮、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内など)、又は局所(例えば、鼻腔内、肺内、乳房内、膣内、子宮内、皮内、経皮、直腸内など)を含む既知の経路を介して投与することができる。医薬組成物は、例えば、鼻粘膜又は気道粘膜への投与によって(例えば、スプレー又はエアロゾルによって)、粘膜表面に投与することができる。組成物は、持続放出又は遅延放出を介して投与することもできる。
【0103】
したがって、MTO由来物質を含む医薬組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、スプレー、エアロゾル、又は混合物の任意の形態を含むがこれらに限定されない、任意の適切な形態で提供され得る。組成物は、任意の薬学的に許容される賦形剤、担体、又はビヒクルを含む製剤で送達され得る。例えば、製剤は、例えばクリーム、軟膏、エアロゾル製剤、非エアロゾルスプレー、ゲル、ローションなどの、従来の局所剤形で送達され得る。製剤は、アジュバント、皮膚浸透促進剤、着色剤、芳香剤、香料、保湿剤、増粘剤などを含むがこれらに限定されない、1つ以上の添加剤を更に含んでもよい。
【0104】
製剤は、単位剤形で簡便に提供されてもよく、薬学分野で周知の方法によって調製されてもよい。薬学的に許容される担体を含む組成物を調製する方法は、MTO由来物質を、1つ以上の副成分を構成する担体と結合させる工程を含む。一般に、製剤は、活性化合物を、液体担体、微粉化された固体担体、又はその両方と均一に、及び/又は密接に結合させ、次いで、必要に応じて、生成物を所望の製剤に成形することによって調製することができる。
【0105】
投与されるMTO由来物質の量は、被験体の体重、健康状態、及び/若しくは年齢、並びに/又は投与経路を含むがこれらに限定されない様々な要因によって変動し得る。したがって、所与の単位剤形に含まれるMTO由来物質の絶対数は、広範囲に変動する可能性があり、被験体の種、年齢、体重、及び健康状態、並びに/又は投与方法などの要因に依存する。したがって、全ての可能な用途に有効なMTO由来物質の量を構成する量を一般的に記載することは現実的ではない。しかしながら、当業者は、そのような要因を十分に考慮して適切な量を容易に決定することができる。
【0106】
1つ以上の実施形態において、本方法は、例えば、約10,000個の細胞~約100兆個の細胞の投与量を被験体に提供するのに十分なMTO由来物質を投与することを含み得るが、1つ以上の実施形態において、本方法は、この範囲外の投与量でMTO由来物質を投与することによって実施されてもよい。軟骨球に関連して、投与量中の「細胞」数という用語は、軟骨球の数ではなく、軟骨球を形成する個々の軟骨細胞の数を指す。
【0107】
1つ以上の実施形態において、本方法は、例えば、少なくとも10,000個の細胞、少なくとも50,000個の細胞、少なくとも100,000個の細胞、少なくとも200,000個の細胞、少なくとも300,000個の細胞、少なくとも400,000個の細胞、少なくとも500,000個の細胞、少なくとも100万個の細胞、少なくとも200万個の細胞、少なくとも1,000万個の細胞、少なくとも2,000万個の細胞、少なくとも5,000万個の細胞、少なくとも1億個の細胞、少なくとも5億個の細胞、少なくとも10億個の細胞、少なくとも50億個の細胞、少なくとも100億個の細胞、少なくとも500億個の細胞、又は少なくとも1,000億個の細胞の最小投与量をもたらすのに十分なMTO由来物質を投与することを含み得る。
【0108】
1つ以上の実施形態において、本方法は、例えば、100兆個以下の細胞、50兆個以下の細胞、10兆個以下の細胞、1兆個以下の細胞、5,000億個以下の細胞、1,000億個以下の細胞、500億個以下の細胞、100億個以下の細胞、10億個以下の細胞、又は500,000個以下の細胞の最大投与量をもたらすのに十分なMTO由来物質を投与することを含み得る。細胞が存在しないのではなく、基準量までの量で存在する場合、細胞は、基準量「以下」の量で存在すると言われる。
【0109】
1つ以上の実施形態において、本方法は、上で特定された任意の最小投与量と、選択された最小投与量よりも大きい、上で特定された任意の最大投与量とによって規定される終点を有する範囲によって特徴付けられる投与量をもたらすのに十分なMTO由来物質を投与することを含み得る。したがって、1つ以上の実施形態において、本方法は、例えば、100,000個の細胞~500,000個の細胞、300,000個の細胞~10億個の細胞、10億個の細胞~1兆個の細胞、100万個の細胞~10兆個の細胞、1億個の細胞~5000億個の細胞、500億個の細胞~10兆個の細胞などの投与量をもたらすのに十分なMTO由来物質を投与することを含み得る。
【0110】
特定の実施形態において、本方法は、上に列挙された任意の最小投与量又は任意の最大投与量に等しい投与量をもたらすのに十分なMTO由来物質を投与することを含み得る。したがって、例えば、本方法は、300,000個の細胞、500,000個の細胞、100万個の細胞、10億個の細胞、100億個の細胞、500億個の細胞、1000億個の細胞、1兆個の細胞などの投与量をもたらすのに十分なMTO由来物質を投与することを含み得る。
【0111】
1回投与量は、全て一度に投与されてもよく、所定期間連続的に投与してもよく、複数回の個別の投与に分けて投与されてもよい。複数回に分けて投与する場合、各投与量は同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、1日当たり1000億個の細胞の投与量は、1000億個の細胞の単回投与として、24時間にわたって連続的に、2回以上の同量の投与(例えば、500億個の細胞を2回投与)として、又は2回以上の同量でない投与(例えば、750億個の細胞を1回目に投与した後、250億個の細胞を2回目に投与)として投与することができる。1回投与量を送達するため複数回投与が行われる場合、投与の間隔は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0112】
1つ以上の実施形態において、MTO由来物質は、例えば、週に1回投与量~複数回投与量投与されてもよいが、1つ以上の実施形態において、本方法は、この範囲外の頻度でMTO由来物質の投与量を投与することを含む治療過程を含み得る。治療過程が特定の期間内に複数回投与量を投与することを含む場合、各投与量は同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、治療過程は、初回投与量の負荷投与量、続いて負荷投与量よりも低い維持投与量を含み得る。また、特定の期間内に複数回投与が行われる場合、投与の間隔は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0113】
1つ以上の実施形態において、MTO由来物質は、週に1回の投与から1回限りの投与まで投与することができるが、1つ以上の実施形態において、この範囲外の頻度でMTO由来物質を投与することによって本方法を実施してもよい。
【0114】
したがって、1つ以上の実施形態において、MTO由来物質は、少なくとも週に1回、少なくとも月に1回、少なくとも年に1回、少なくとも2年に1回、少なくとも3年に1回、少なくとも5年に1回、少なくとも10年に1回、又は1回限りの投与として、最小頻度で投与することができる。
【0115】
1つ以上の実施形態において、MTO由来物質は、5年に1回以下、3年に1回以下、2年に1回以下、年に1回以下、月に1回以下、又は週に1回以下の、最大頻度で投与することができる。
【0116】
1つ以上の実施形態において、MTO由来物質は、上で特定された任意の最小頻度と、選択された最小頻度よりも頻度の高い、上で特定された任意の最大頻度とによって規定される終点を有する範囲によって特徴付けられる頻度で投与することができる。例えば、1つ以上の実施形態において、MTO由来物質は、1回限りの投与から週に1回、3年に1回から週に1回、5年に1回から月に1回などの頻度で投与されてもよい。
【0117】
特定の実施形態において、MTO由来物質は、上に列挙された任意の最小頻度又は任意の最大頻度に等しい頻度で投与することができる。したがって、例えば、MTO由来物質は、1回限りの投与として、又は3年に1回、5年に1回などの頻度で投与することができる。
【0118】
1つ以上の実施形態において、治療過程は、単回投与から被験体の残りの寿命までの継続期間を有し得る。したがって、1つ以上の実施形態において、MTO由来物質による治療過程は、1回限りの投与、少なくとも6ヶ月、少なくとも1年、少なくとも3年、少なくとも5年、又は完全に回復するまでの、最小期間を有することができる。
【0119】
1つ以上の実施形態において、MTO由来物質による治療過程は、被験体の残りの寿命、10年以下、5年以下、3年以下、1年以下、6ヶ月以下、又は3ヶ月以下の、最大期間を有することができる。
【0120】
1つ以上の実施形態において、治療過程の継続期間は、上で特定された任意の最小期間と、選択された最小期間よりも長い、上で特定された任意の最大期間によって規定される終点を有する範囲によって特徴付けることができる。例えば、1つ以上の実施形態において、治療過程の継続期間は、1回限りの投与から被験体の残りの寿命まで、6ヶ月~5年、3ヶ月~3年などであり得る。
【0121】
特定の実施形態において、治療過程の継続期間は、上に列挙した任意の最小継続期間又は任意の最大継続期間に等しくてもよい。したがって、例えば、治療過程の継続期間は、1回限りの投与、6ヶ月、3年、完全に回復するまで、又は被験体の残りの寿命の間であり得る。
【0122】
上記の医薬組成物は、MTO由来物質を使用して治療可能な病気を治療するために使用することができる。病気の治療は、予防的であってもよく、あるいは、被験体が病気の1つ以上の症状又は臨床的徴候を示した後に開始されてもよい。本明細書で使用される場合、「症状」という用語は、疾患又は患者の容態の、任意の主観的証拠を指す。本明細書で使用される場合、「徴候」又は「臨床的徴候」という用語は、患者以外の者が認めることができる、特定の病気に関する客観的な物理的所見を指す。
【0123】
予防的治療(例えば、感染が不顕性のままである間など、被験体が病気の症状又は臨床的徴候を発現する前に開始される治療)は、本明細書では、病気を有する「リスクがある」被験体の治療と称される。本明細書で使用される場合、「リスクがある」という用語は、記載されたリスクを実際に有する場合、又は有していない場合がある被験体を指す。したがって、例えば、病気を有する「リスクがある」被験体とは、例えば、遺伝的素因、家系、年齢、性別、地理的位置、生活様式、又は病歴など、その病気に関連する1つ以上のリスク因子を有する被験体である。症状が消失した後も、例えば再発を予防又は遅延させるために、治療を継続してもよい。
【0124】
したがって、組成物は、被験体が最初に病気の症状又は臨床的徴候を示す前、その間、又は後に投与することができる。被験体が、病気に関連する症状又は臨床的徴候を最初に示す前に開始される治療は、組成物が投与されない被験体と比較して、被験体が病気の臨床的証拠を経験する可能性を低減し、病気の症状及び/又は臨床的徴候の重症度を低減し、及び/又は病気から完全に回復する結果をもたらし得る。被験体が、病気に関連する症状又は臨床的徴候を最初に示した後に開始される治療は、組成物が投与されない被験体と比較して、病気の症状及び/又は臨床的徴候の重症度を低減し、及び/又は病気から完全に回復する結果をもたらし得る。
【0125】
したがって、本方法は、有効量のMTO由来物質を、MTO由来物質を使用して治療可能な病気を有するか、又は有するリスクがある被験体に投与することを含む。本態様において、「有効量」は、病気に関連する症状又は臨床的徴候を任意の程度まで低減する、進行を防ぐ、寛解させる、又は回復させるのに有効な量である。
【0126】
病気
本明細書に記載される方法及びMTO由来産物は、MTO由来物質を使用して治療可能な任意の病気を治療するために使用することができる。1つ以上の実施形態において、病気は、軟骨形成MTO由来物質(例えば、軟骨細胞及び/又は軟骨球)を使用して治療可能な病気であり得る。したがって、本明細書中に記載される方法及びMTO由来物質は、関節軟骨の変性を伴う任意の病気の治療に有効であり得る。したがって、例示的な病気としては、任意の関節(例えば、指、手首、肘、肩、股関節、膝、足首、足指、顎関節などを含む)の変形性関節症、軟骨損傷、椎間板疾患、関節リウマチ、ヘモクロマトーシス、乾癬性関節炎、痛風、軸性脊椎関節炎、若年性特発性関節炎、Saldino型軟骨無発生症、軟骨低発生症、致死性扁平椎異形成症、Torrance型先天性脊椎骨端異形成症、Kniest骨異形成症、中足骨短縮を伴うSED、Czech異形成症、脊椎末梢異形成症、脊椎骨端骨幹端異形成症(SEMD)、Strudwick型、Stickler症候群1型、早発性関節症を伴う軽症SED、離断性骨軟骨炎、再発性多発軟骨炎、軟骨石灰化症、骨軟骨腫、内軟骨腫、骨膜性軟骨腫、多発性軟骨腫症、内軟骨腫症、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液線維腫、全身性エリテマトーデス、血清反応陰性脊椎関節炎、又は顎関節症などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
軟骨形成MTO由来物質は、例えば、硝子軟骨の再生を促進する、II型コラーゲンの産生を促進する、骨棘の存在を減少させる、関節軟骨の変性を伴う障害の症状若しくは臨床的徴候の重症度及び/若しくは程度を低減させる(例えば、炎症を減少させる、疼痛を減少させる、腫脹を減少させる)、又は前述の2つ以上の任意の組み合わせに有効な量で被験体に投与され得る。
【0128】
1つ以上の実施形態において、病気は、神経細胞MTO由来物質を使用して治療可能な病気であり得る。したがって、本明細書中に記載される方法及びMTO由来物質は、神経細胞又は組織の変性を伴う任意の病気の治療に有効であり得る。したがって、例示的な病気としては、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、フリードライヒ運動失調症、ハンチントン病、レビー小体病、脊髄性筋萎縮症、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、又は脳卒中が挙げられるが、これらに限定されない。
【0129】
神経細胞MTO由来物質は、例えば、被験体における神経ロゼットの形成を促進する、被験体における神経前駆細胞の形成を促進する、被験体におけるドーパミン作動性神経細胞を増加させる、被験体における成熟アストロサイトを増加させる、被験体におけるオリゴデンドロサイトを増加させる、被験体における大脳皮質形成のマーカーを増加させる、被験体の脳組織内における移植細胞の生着を促進する、被験体の脳組織内における移植細胞の移動を増加させる、神経障害の症状若しくは臨床的徴候の重症度及び/若しくは程度を低減させる、又は前述のいずれか2つ以上に有効な量で被験体に投与され得る。
【0130】
前述の説明及び以下の特許請求の範囲において、「及び/又は」という用語は、列挙された要素の1つ若しくは全て、又は列挙された要素のうちのいずれか2つ以上の組み合わせを意味する。「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」という用語及びそれらの変形は、オープンエンドとして解釈されるべきである。すなわち、追加の要素又は工程は任意選択であり、存在してもしなくてもよい。別段の指定がない限り、「a」、「an」、「the」、及び「少なくとも1つ」は互換的に使用され、1つ又は2つ以上を意味する。端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0131】
前述の説明において、特定の実施形態は、明確にするために単離して説明されることがある。本明細書全体を通して、「一実施形態」、「実施形態」、「特定の実施形態」、又は「1つ以上の実施形態」などへの言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構成、組成、又は特性が、本開示の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な箇所でこのような語句が現れることは、必ずしも本開示の同じ実施形態を指すものではない。更に、特定の特徴、構成、組成、又は特性は、1つ以上の実施形態において任意の好適な様式で組み合わせることができる。更に、特定の特徴、構成、組成、又は特性は、1つ以上の実施形態において任意の好適な様式で組み合わせることができる。したがって、一実施形態の文脈で説明される特徴は、特徴が必然的に相互排他的である場合を除いて、異なる実施形態の文脈で説明される特徴と組み合わせることができる。
【0132】
個別の工程を含む、本明細書に開示される任意の方法について、工程は、任意の実現可能な順序で実施することができる。また、必要に応じて、2つ以上の工程の任意の組み合わせを同時に実施してもよい。
【0133】
本明細書で使用される場合、「好ましい」及び「好ましくは」という用語は、特定の状況で特定の利益をもたらすことができる本発明の実施形態を指す。しかしながら、他の実施形態も、同じ又は他の状況において好ましい場合がある。更に、1つ以上の好ましい実施形態の記載は、他の実施形態が有用でないことを暗示するものではなく、本発明の範囲から他の実施形態を除外することを意図するものではない。
【0134】
本発明は、以下の実施例によって説明される。特定の実施例、物質、量、及び手順は、本明細書に記載される本発明の範囲及び精神に従って広く解釈されるべきであることを理解されたい。
【実施例】
【0135】
実施例1
hiPSC由来多組織オルガノイド(MTO)の生成
1024(ATCC-BYS0110,Cat.#ACS-1024)及び9-1(Lindborg et al.,2016,Stem Cells Transl Med 5(7):970-979;Ye et al.,2013,PLoS ONE 8(1):e53764)と呼ばれる人工多能性幹細胞(iPSC)株を、ESSENTIAL 8培地(E8、Fujifilm Cellular Dynamics,Inc.,Madison,WI)中ビトロネクチン(VTN-N、Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)で培養して増殖させた。クエン酸ナトリウム緩衝液を使用してiPSCを収穫し、短時間遠心分離し、Cell-Mate3D μGel 40 Kit(BRTI Life Sciences,Two Harbors,MN)からの水和液40μLに再懸濁することでMTO誘導を開始した。次いで、該懸濁液を、E8培地5mLを含有する6ウェル超低接着プレート(COSTAR Ultra-Low Attachment Microplates,Corning Life Sciences,Corning,NY)の1つのウェルに移し、24時間インキュベートした。次いで、細胞及び培養培地を、E8培地25mLが入ったG-Rex 100バイオリアクター(Wilson Wolf,New Brighton,MN)に移し、5%CO2中、37℃でインキュベートした。MTO培養の全期間にわたって、1%抗生物質-抗真菌剤を含有するE8培地(Gibco、Thermo Fisher Scientific Inc.,Waltham,MA)を、3~4日ごとに交換した。
【0136】
組織構造及び免疫組織化学
両細胞株に由来するMTOを、8週目及び11週目(両細胞株)並びに30週目(1024のみ)に収穫し、10%中性緩衝ホルマリン溶液に入れ、室温で3.5時間固定した。固定後、サンプルを70%エタノール溶液に移し、その後、ルーチン的なパラフィン包埋のために処理した。次いで、サンプルを4mm厚の切片に切り出し、脱パラフィンし、再水和し、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)並びにアルシアンブルーでルーチン的に染色した。免疫組織化学的染色のために、4mmの切片を切り出し、脱パラフィンし、再水和し、続いて3%過酸化水素と共にインキュベートして内因性ペルオキシダーゼ活性を抑え、無血清タンパク質ブロッキング剤(DAKO,Glostrup,Denmark)で15分間処理した。次いで、切片を適切な抗原賦活化方法(必要な場合)に供し、一次抗体と共に室温で60分間インキュベートした。EnVision FLEX DAB+ 基質/発色剤システム(Cat.# GV825、Agilent-Dako,Santa Clara,CA)を使用して発色させた。染色した切片をOlympus BH-2顕微鏡(Olympus America,Center Valley,PA)で検査し、SPOT Insight 4メガサンプルデジタルカメラ及びSPOT Advancedソフトウェア(Diagnostic Instruments Inc.,Sterling Heights,MI)でイメージングした。
【0137】
形態計測
8週目(n=7)及び11週目(n=5)のMTO生物学的反復のアグリカン免疫組織化学染色組織切片について、Nikon DXM1200高解像度デジタルカメラを装備したNikon Eclipse E-800M明視野/蛍光/暗視野顕微鏡を使用して、アグリカン染色面積割合(染色面積/組織総面積)を解析した。組織形態計測のための画像は、ImageJ2/Fijiソフトウェア(National Institutes of Health、オープンソース)を使用して解析した。値は面積割合(%)±標準偏差として報告される。
【0138】
MTOのRNA-seq及びデータ生成
【0139】
MTOをRLT緩衝液(Qiagen、Hilden,Germany)中に溶解し、RNeasy Plusミニキット(Qiagen、Hilden,Germany)を製造業者の指示に従って使用して、細胞溶解物からRNAを単離した。次いで、抽出されたRNAをRiboGreen RNAアッセイ(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)によって定量化し、品質/サイズをAgilent BioAnalyzer(Agilent Technologies,Santa Clara,CA)によって解析した。2×50bpのFastQペアエンドリードを6サンプル分(n=サンプル当たり平均6,240万)、任意の「-q」オプションで有効化されたTrimmomatic(v0.33)を使用してトリミングした。3’末端から3bpのスライディングウィンドウトリミングで、最小Q30が必要。各サンプルの生配列データの品質管理はFastQCで行った。ヒトゲノム(GRCh38)をリファレンスとして使用し、Hisat2(v2.1.0)を用いてリードマッピングを行った。遺伝子定量は、生リード数についてFeature Countsを用いて行った。既存のRNA-seqデータを、同じパイプラインを使用して処理した。
【0140】
RNA-seqデータ解析
生リード数(CPM)を、R(v4.0.5)中のDESeq2パッケージ(v1.30.1)による発現変動遺伝子(DGE)解析のための入力として使用した(Love et al.,Genome Biol.15:550(2014))。Benjamini-Hochberg補正を使用してp値を調整した(p-adj)。有意項は、0.05のカットオフ(FDR補正p<0.05)及び最小2倍のfold change絶対値を用いて決定した。TopGoパッケージ(v2.42.0;Alexa,A.and Rahnenfuhrer,J.,topGO:Enrichment Analysis for Gene Ontology(2021))を使用して、先に記載されたように、DGE結果のオントロジーエンリッチメントを行った(Carbon et al.,Nucleic Acids Res.49:D325-D334(2021)。エンリッチメント結果を、ClusterProfiler(v3.18.1;Yu et al.,OMICS 16:284-287(2012))を用いて可視化した。p値(Benjamini-Hochberg補正を適用した後)及びq値のカットオフは、それぞれ0.05及び1であった。発現FDR<0.05及び±2より大きい又は小さいlog2 fold changeを有する遺伝子を選択し、STRING(v11)にアップロードして、推定遺伝子産物の機能的タンパク質会合ネットワークに使用した。先に記載されたように、ユークリッド距離を使用して、遺伝子産物をクラスター化した(Szklarczyk et al.,Nucleic Acids Res 47:D607-D613(2019))。先に記載されたように、ローカルネットワーククラスターを、STRING解析からダウンロードした(Szklarczyk et al.,Nucleic Acids Res 47:D607-D613(2019))。
【0141】
【0142】
追加統計情報
対応のないt検定を使用して、MTO組織切片の組織形態計測値を比較した。p値が報告された(α=0.05)。MTOについての2反復の生物学的複反復をRNA-Seqに使用した。可視化及び統計的検定に使用した全ての遺伝子発現データを、最初に正規化し、先に記載されたように、DESeq2のrlog()及びassay()を使用して変換した(Love et al.,Genome Biol.15:550(2014))。片側Wilcoxon符号順位検定を使用して、グループ化された遺伝子の発現変化に関する統計的結果を得た。p値が報告された(α=0.05)。片側ペアワイズt検定を使用して、単一遺伝子の発現を比較した。p値が報告された(α=0.05)。該当する場合、信頼区間が報告された。
【0143】
実施例2
実施例1に記載されるように、ヒトiPSCをオルガノイド形成に誘導したが、Cell-Mate3D μGel 40 Kit(BRTI Life Sciences,Two Harbors,MN)からの水和液の代わりに緩衝ヒアルロン酸(HA)溶液を使用した。低接着プレートでの培養後、iPSCをG-Rex 100バイオリアクターフラスコ((Wilson Wolf,New Brighton,MN)中のE8培地に移した。次いで、得られたヒアルロン酸生成MTOを、G-REX 100バイオリアクターフラスコ(GREX、Wilson Wolf Inc.,New Brighton,MN)中のE8培地で12週間又は30週間、長期細胞培養で維持した。
【0144】
得られた多組織オルガノイド(MTO)には軟骨/軟骨細胞が存在した。ヒアルロン酸生成MTOでは、12週間後に発達中の硝子軟骨が明らかに見られた。30週間後、豊富なマトリックスに囲まれた軟骨細胞を有する成熟硝子軟骨形態が観察され、アグリカン及びII型コラーゲンの免疫組織化学的(IHC)染色は硝子軟骨と一致した。
【0145】
実施例3
投入iPSCを緩衝ヒアルロン酸溶液に再懸濁し、G-REX 100バイオリアクターに直接移して培養した以外は、実施例2と同じである。本方法により、神経組織及び軟骨組織が得られる。
図23。
【0146】
実施例4
変形性関節症のラットモデル
治療関節には、手術時、及び手術の3週間後に再度、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)中2M軟骨球由来細胞(SARCart細胞、Sarcio,Inc.,Minneapolis,MN)を投与した。対照関節にはHBSSのみを投与した。変形性関節症の病変は、医師により盲検で0(正常)~12(重度)に採点された。
図9は、6匹の動物のうちの1匹における、治療膝関節及び無治療膝関節の代表的なヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色を示す。無治療膝では、無治療対照関節において中程度から重度の変形性関節症(スコア5~12)、治療関節では無疾患から軽度の変形性関節症(スコア0~4)が示され、オルガノイド由来軟骨細胞の顕著な治療効果が示された。
図10のヒトKu80に特異的な抗体(矢印)により、治療したラット変形性関節症モデルにおけるヒトSARCart細胞の生着が確認される。対照関節ではKu80の染色は見られなかった。
【0147】
実施例5
軟骨損傷修復のヤギモデル
図12及び
図13。2匹のヤギの膝(後膝)関節における関節軟骨の非荷重部に、直径8mmの全層性損傷によって軟骨損傷を外科的に誘導した。手術時に、病変を以下のように治療した。ヤギ#1(雄)において、治療側にはフィブリングルー(TISSEEL、Baxter International Inc.,Deerfield,IL)に包埋された、MTO由来軟骨球に由来する単細胞軟骨細胞産物を投与し、対照側にはフィブリングルーのみを投与した。ヤギ#2(雌)において、治療側にはフィブリングルーに包埋されたMTO由来軟骨球を投与し、対照側にはフィブリングルーのみを投与した。手術の12週間後、ヤギを屠殺し、膝を肉眼病理学的に検査した後、中性緩衝ホルマリン(NBF)で固定し、病理組織検査に供した。組織構造から、治療した病変における顕著な新軟骨形成、及び対照病変における最小限の再生、又は再生がないことが示された。
【0148】
実施例6
軟骨球の生成
実施例1又は実施例2に記載されるようにオルガノイドを生成した。オルガノイドをバイオリアクターから収穫し、50mLコニカルチューブに移し、200×gで5分間遠心分離した。上清を除去し、ペレットを、DNase 1 500μg(Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)を含むTRYPLE EXPRESS酵素5mL(Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)に再懸濁した。オルガノイドを37℃で5分間インキュベートした後、5mL血清ピペットで機械的に解離させた。解離した細胞を、100μmセルストレーナー(BD Falcon,Franklin Lakes,NJ)を使用して濾過し、フィルタ上に集められたオルガノイドを、DNase 1 500μg(Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)を含むDMEM/F12中0.15%コラゲナーゼII型5mL(Stem Cell Technologies,Inc.,Vancouver,British Columbia,Canada)が入った50mLコニカルチューブに移した。
【0149】
オルガノイドを37℃で5分間再インキュベートし、5mL血清ピペットを使用して2回目の機械的解離に供した。混合物を100μmセルストレーナーで濾過し、フィルタをDMEM/F12 5mLで洗浄した。フィルタ上に集められたオルガノイドを、DNase 1 500μg(Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)を含むDMEM/F12中0.15%コラゲナーゼ5mL(Stem Cell Technologies,Inc.,Vancouver,British Columbia,Canada)が入った新しい50mLコニカルチューブに移した。
【0150】
オルガノイドを37℃で5分間再インキュベートし、次いでp1000ピペットを使用して機械的解離に供した。解離したオルガノイドを100μmセルストレーナーで濾過し、フィルタをDMEM/F12 15mLで洗浄し、フロースルーを回収した。
【0151】
フロースルーからの細胞を計数し、次いで、200×gで5分間遠心分離して、上清を除去した。この時点で、オルガノイドは完全に単細胞に解離し、単細胞のまま使用することも、軟骨球を形成するためにE8培地で再培養することもできる。
【0152】
軟骨球を形成するために、解離したオルガノイド細胞ペレットをE8培地35mL((Fujifilm Cellular Dynamics,Inc.,Madison,WI)を含むG-Rex 100バイオリアクター(Wilson Wolf,New Brighton,MN)に移し、培地を週に2回交換しながら37℃で約2週間インキュベートした。軟骨球を50mLコニカルチューブに集め、200×gで5分間遠心分離した。上清を除去し、ペレットをDNase 1 100μg(Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)を含むTRYPLE EXPRESS酵素1mL(Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)に懸濁させ、次いで37℃で5分間インキュベートした。
【0153】
p1000ピペットを用いて軟骨球を5回手動で解離させ、次いで100μmセルストレーナーで濾過した。次いで、セルストレーナーをDMEM/F12の少なくとも9mLで洗浄した。
軟骨球がフィルタ上に残っている場合、軟骨球を回収し、DNase 1 100μg(Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)を含むTRYPLE EXPRESS酵素1mL(Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)が入った新しい50mLコニカルチューブに移し、次いで37℃で5分間インキュベートした。p1000ピペットを用いて軟骨球を5回手動で解離させ、次いで100μmセルストレーナーで濾過した。次いで、セルストレーナーをDMEM/F12の少なくとも9mLで洗浄した。
【0154】
濾過した細胞を計数し、氷上でインキュベートした。細胞を200×gで5分間遠心分離した。上清を除去し、ペレットをE8培地に再懸濁し、試験パラメータ及び動物当たりの予定投与量(intended dose)に応じて複数のチューブに分注した。動物への注射のため、軟骨球を氷冷ハンクス平衡塩溶液(HBSS)で1回洗浄し、200×gで5分間遠心分離した後、HBSSに再懸濁した。ラットに、HBSS 50μLに懸濁した2M細胞を関節内注射によって投与した。
図9及び
図10。
【0155】
実施例7
iPSCをPBS 17.5mLで3回洗浄し、次いで、洗浄したiPSCが入ったフラスコに継代溶液/クエン酸緩衝液17.5mLを添加することによって、神経細胞MTO由来物質を生成した。培養を5分間、又は細胞がリフトオフし始めるまで観察し、リフトオフした時点で継代溶液/クエン酸緩衝液を吸引した。次いで、細胞をDMEM/F12 10mL(Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)で洗浄し、50mLコニカルチューブに回収した(総容量は30mLとなる)。細胞を150×g/1200 RPMで5分間遠心分離した。上清を吸引し、細胞ペレットをCELL-MATE3D水和液250μl(BRTI Life Sciences,Two Harbors,MN)に再懸濁し、製造業者のプロトコルに従ってボルテックスで混合した。CELL-MATE3Dマトリックスを漏斗装置に移し、製造業者のプロトコルに従って2700RPMまで遠心分離した。
【0156】
細胞が入ったCELLMATE3Dマトリックスの小片(10μl~30μl)を、メスを使用して切り出し、ESSENTIAL 8培地50mL(Thermo Fisher Scientific,Inc.,Waltham,MA)が入ったG-REX 100細胞培養装置(Wilson Wolf Corporation,St.Paul,MN)に添加した。G-REX 100細胞培養装置において、培養培地を3~4日ごとに交換しながら、37℃(5%CO
2、20%O
2)で14~28日間、細胞をインキュベートした。得られたオルガノイドの特徴を
図13~
図17に示す。
【0157】
実施例8
20M iPSCを、製造業者の指示に従ってCell-Mate3Dマイクロゲルに包埋し、E8培地中で培養することによってMTO由来神経組織を調製した。G-REX 100細胞培養装置(Wilson Wolf Corporation,St.Paul,MN)において、37℃(5%CO
2、20%O
2)で8.5~14週間、細胞をインキュベートした(
図18)。
【0158】
実施例9
実施例8に記載されるように調製したMTO由来神経組織を、本実施例で使用した。
【0159】
動物
成体雌ヌードラット(rnu/rnu;210g±20g;n=5)をTaconic biosciences(Rensselaer,NY)から購入して、誘導された片側パーキンソニズムの治療のために、6週目のオルガノイド由来細胞を移植した。
【0160】
6-OHDAによる片側パーキンソニズムの誘導
ラットを気化イソフルラン(Piramal Healthcare,Mumbai,India)で麻酔し、定位固定手術フレーム(David Kopf Instruments,Inc.,Tujunga,CA)に入れた。ラットの頭部を剃毛し、ヨード液で処理し、眼用ゲルを眼に塗布した(VETERICYN PLUS,Innovacyn,Inc.,Rialto,CA)。頭皮に沿って単一の正中切開を行い、皮膚を後退させてブレグマを露出させた。10μl Hamiltonシリンジ(Hamilton Co.,Reno,NV)に、0.9%NaCl中1mg/mLアスコルビン酸溶液(Hospira,Inc.,Lake Forest,IL)に懸濁させた3μg/μl 6-ヒドロキシドーパミン塩酸塩(6-OHDA;Millipore-Sigma;St.Louis,MO)を充填した。右半球における注射部位の上の頭蓋に小さな穿頭孔を開けた(ブレグマから:後方4.4mm、側方1.2mm)。針を軟膜の7.6mm腹側の脳にゆっくりと挿入し、6-OHDA溶液2.2μlを0.5μl/minの速度で注入した。注入後、針は2分間その場に留置され、その後ゆっくりと引き抜かれた。次いで、右半球における第2の注射部位の上の頭蓋に第2の穿頭孔を開けた(ブレグマから:後方4.0mm、側方1.4mm)。針を軟膜の7.8mm腹側の脳にゆっくりと挿入し、6-OHDA溶液1.8μlを0.5μl/minの速度で注入した。注射終了後、針は2分間その場に留置され、その後ゆっくりと引き抜かれた。切開部位を洗浄し、創傷ステープラー(AUTOCLIP、Fine Science Tools,Foster City,CA)を使用して閉じた。ラットはその後、完全に回復する(fully sternal)まで、加温した回復ケージに入れた。手術時にブプレノルフィン-SR(1mg/kg;ZooPharm,Windsor,CO)を皮下投与した。
【0161】
回転解析による治療反応のin vivo評価
6-OHDA病変の10日後及び28日後、並びにオルガノイド移植後2週間ごとに、ラットの回転の偏りを試験した。ラットを、天井に取り付けられたビデオカメラの下にある透明なプラスチック製の円筒(直径38cm×高さ34.5cm)に入れた。最初の10分間の馴化期間の後、0.9%NaClを腹腔内注射して、20分間記録した。次いで、ラットに0.9%NaCl中5mg/kgのD-アンフェタミン(Millipore-Sigma,Burlington,MA)を腹腔内注射して、40分間記録した。記録は、Fijiイメージングソフトウェア(Schindelin et al.,2012,Nature Methods 9:676-682)を使用し、University of Minnesota Imaging Centerのスタッフが作成したコードを使用して解析した。自動計数は、目視計数によって動物のサブセットにおいて確認された。各動物について、時計回りと反時計回りの回転数を計数し、1分当たりの平均回転数として算出した。平均D-アンフェタミン回転スコアが1分間に時計回り7回転の動物を、移植試験に組み入れた。移植後の全ての回転スコアは、ベースライン(病変後28日)に対する回転のパーセンテージとして報告されている。
【0162】
移植用オルガノイドの調製
移植前に、中脳オルガノイドを単一細胞懸濁液に解離させた。簡潔には、オルガノイドをPBS中ですすぎ、次いで37℃において0.05%トリプシン-EDTA 2mL(Life Technologies,Inc.,Carlsbad,CA)で2分間処理した。DNase1 200μg(Millipore-Sigma,Burlington,MA)を添加したTrypsin-EDTA 2mLを更に加え、p1000ピペットを使用して機械的に解離させた。次いで、オルガノイドを37℃で5分間インキュベートした後、細胞を再び機械的に解離させ、冷ハンクス平衡塩溶液を添加して最終体積を10mLにした。細胞を4℃において5分間、250×gで遠心分離した。得られた上清を除去し、細胞ペレットを冷HBSS 10mLに再懸濁し、70μmナイロン製セルストレーナー(BD Biosciences,San Jose,CA)に通した。細胞を2回目の遠心分離にかけ、得られたペレットを冷HBSS 1mLに再懸濁し、細胞計算盤を用いて計数した。細胞を3回目の遠心分離にかけ、冷HBSS 1μl当たりおよそ5×104細胞の濃度で再懸濁した。最終細胞溶液を計数し、トリパンブルー排除法を用いて生存率を評価した。最終細胞数を、1μl当たりの生存細胞総数として計算した。
【0163】
移植
ラットの頭部を剃毛し、ベタジンで処理した。頭皮に沿って単一の正中切開を行い、皮膚を後退させてブレグマを露出させた。10μl Hamiltonシリンジ(Hamilton Co.,Reno,NV)に細胞溶液を充填した。右半球における注射部位の上の頭蓋に小さな穿頭孔を開けた(ブレグマから:前方1.0mm、側方3.0mm)。針を軟膜の6.5mm腹側の脳にゆっくりと挿入し、1×105個の生存細胞を0.5μl/minの速度で注入した。注入後、針は1分間その場に留置された。軟膜の5.5mm及び4.5mm腹側に注射を繰り返して、各部位に1×105個の細胞を注入し、合計3×105個の生存細胞を注入した。最後の注射終了後、針は3分間その場に留置され、その後ゆっくりと引き抜かれた。開部位を洗浄し、創傷ステープラー(AUTOCLIP、Fine Science Tools,Foster City,CA)を使用して閉じた。
【0164】
組織採取
移植後8週目に、気化イソフルランを用いてラットを深く麻酔した。ラットに、氷冷PBS、続いて氷冷4%パラホルムアルデヒド固定液で経心的灌流を行った。脳を取り出し、4℃で一晩固定液に浸した。固定された組織を、パラフィン包埋のためにルーチン的に処理し、4μm厚の切片に切り出し、脱パラフィン、再水和し、ヘマトキシリン・エオジンで染色し、ヒト細胞を実証するためにSTEM121抗原を免疫組織化学的に染色した。
【0165】
全ての特許、特許出願、及び刊行物、並びに電子的に入手可能な資料(例えば、GenBank及びRefSeqにおける塩基配列登録、例えば、SwissProt、PIR、PRF、PDBにおけるアミノ酸配列登録、並びにGenBank及びRefSeqにおける注釈付きコード領域からの翻訳を含む)の完全な開示は、本明細書において引用される場合、参照によりその全体が組み込まれる。本出願の開示と、参照により本明細書に組み込まれる任意の文書における開示との間に何らかの不一致が存在する場合、本出願の開示が優先されるものとする。前述の詳細な説明及び実施例は、理解を明確にするためにのみ与えられている。それらの説明及び実施例から不必要な限定が理解されるべきではない。本発明は、示され、説明された正確な詳細に限定されるものではなく、当業者にとって明らかな変形形態は、特許請求の範囲によって規定される本発明に含まれる。
【0166】
別段の指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用される成分の量、分子量などを表す全ての数値は、全ての場合において、「約」という用語によって修飾されるものとして理解されるべきである。したがって、特に反対の指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、特許請求の範囲に対する均等論を限定する試みとしてではなく、各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数を考慮して、通常の四捨五入技術を適用して解釈されるべきである。
【0167】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータは近似値であるにもかかわらず、特定の実施例において示される数値は、可能な限り正確に報告されている。しかしながら、全ての数値は、それぞれの試験測定において見られる標準偏差から必然的に生じる範囲を本質的に含む。
全ての見出しは、読者の便宜のためのものであり、特に断りのない限り、見出しに続く本文の意味を限定するために使用されるべきではない。
【国際調査報告】