(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】新規タンパク質及びそれを含む癌の予防または治療用の薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240912BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240912BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240912BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240912BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240912BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240912BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20240912BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20240912BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240912BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20240912BHJP
A61K 31/196 20060101ALI20240912BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20240912BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20240912BHJP
A61K 31/4545 20060101ALI20240912BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20240912BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20240912BHJP
C07H 19/073 20060101ALN20240912BHJP
C07D 487/14 20060101ALN20240912BHJP
C07D 475/08 20060101ALN20240912BHJP
C07D 233/90 20060101ALN20240912BHJP
C07D 235/16 20060101ALN20240912BHJP
C07D 401/14 20060101ALN20240912BHJP
C07D 215/233 20060101ALN20240912BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K14/47
C07K7/06
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/11 Z
A61K47/65
A61K47/64
A61P35/00
A61P35/02
A61K31/7068
A61K31/407
A61K31/519
A61K31/198
A61K31/196
A61K31/4164
A61K31/4184
A61K31/4545
A61K38/08
A61K31/47
C07H19/073
C07D487/14
C07D475/08
C07D233/90
C07D235/16
C07D401/14
C07D215/233
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516966
(86)(22)【出願日】2022-09-19
(85)【翻訳文提出日】2024-03-15
(86)【国際出願番号】 KR2022013967
(87)【国際公開番号】W WO2023043291
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0125051
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519367980
【氏名又は名称】セレメディー カンパニー,リミテッド
【住所又は居所原語表記】H4301, 4th Floor, Bundang Seoul National Univ. Hospital HIP, 172 Dolma-ro, Bundang-gu, Seongnam-si, Gyeonggi-do 13605 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】リ, ジェ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ムン, オク ジョン
【テーマコード(参考)】
4C057
4C076
4C084
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C057BB02
4C057CC03
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4C057LL17
4C057LL19
4C076AA95
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(57)【要約】
本発明は、外表面に癌標的ペプチド、癌細胞内で切断されるペプチドが融合されたフェリチンタンパク質に関するものであり、癌細胞内で特異的に抗癌剤を放出して標的治療を可能にすることにより優れた抗癌効能を有し、正常細胞に対する毒性を効果的に軽減して抗癌治療の副作用を最小限に抑えることができる。
【選択図】
図7b1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面に癌標的ペプチド、癌細胞内で切断されるペプチドが融合されている、フェリチンタンパク質。
【請求項2】
前記癌細胞内で切断される前記ペプチドは、配列番号1の配列からなるペプチドである、請求項1に記載のフェリチンタンパク質。
【請求項3】
前記切断されて離脱する部分に結合した、抗癌剤の結合のためのペプチドがさらに融合されている、請求項1に記載のフェリチンタンパク質。
【請求項4】
前記抗癌剤の結合のための前記ペプチドは、アミノ酸配列DEを含むペプチドである、請求項3に記載のフェリチンタンパク質。
【請求項5】
前記抗癌剤の結合のための前記ペプチドは、アミノ酸配列DEが2~10回繰り返されるオリゴペプチドである、請求項4に記載のフェリチンタンパク質。
【請求項6】
前記癌標的ペプチドは、配列番号2の配列を含む、請求項1に記載のフェリチンタンパク質。
【請求項7】
前記フェリチンは、ヒトフェリチン重鎖である、請求項1に記載のフェリチンタンパク質。
【請求項8】
前記癌標的ペプチドおよび前記癌細胞内で切断される前記ペプチドは、互いに独立してフェリチン単量体のN末端またはC末端に融合されている、請求項1に記載のフェリチンタンパク質。
【請求項9】
前記フェリチンの単量体24個が自己集合してなる球状のタンパク質である、請求項1に記載のフェリチンタンパク質。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載のフェリチンタンパク質と、前記癌細胞内で切断される前記ペプチドにおける切断されて離脱する部分に連結された抗癌剤とを含む、癌の予防または治療用の薬学的組成物。
【請求項11】
前記抗癌剤は、抗癌剤の結合のためのペプチドを介して前記切断されて離脱する前記部分に連結される、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項12】
前記抗癌剤は、抗癌活性を有する化合物である、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項13】
前記抗癌剤は、ゲムシタビン(gemcitabine)、マイトマイシンC(mitomycin C)、ドキソルビシン(doxorubicin)、メトトレキサート(methotrexate)、ブレオマイシン(bleomycin)、メルファラン(melphalan)、クロラムブシル(chlorambucil)、ダカルバジン(dacarbazine)、シタラビン(cytarabine)、フルダラビン(fludarabine)、ペメトレキセド(pemetrexed)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、イダルビシン(idarubicin)、クラドリビン(cladribine)、ヒドロキシカルバミド(hydroxycarbamide)、チオグアニン(thioguanine)、ベンダムスチン(bendamustine)、テモゾロミド(temozolomide)、アザシチジン(azacitidine)、クロファラビン(clofarabine)、デシタビン(decitabine)、ネララビン(nelarabine)、プララトレキサート(pralatrexate)、エピルビシン(epirubicin)、エリブリン(eribulin)、ベキサロテン(bexarotene)、ブセレリン(buserelin)、クリゾチニブ(crizotinib)、ダブラフェニブ(dabrafenib)、デガレリクス(degarelix)、ゴセレリン(goserelin)、イブルチニブ(ibrutinib)、ランレオチド(lanreotide)、レンバチニブ(lenvatinib)、リュープロレリン(leuprorelin)、ミファムルチド(mifamurtide)、ニラパリブ(niraparib)、パゾパニブ(pazopanib)、ラルティトレキシド(raltitrexed)からなる群より選択される、請求項10に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
前記癌は、脳癌、頭頸部癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、白血病、肺癌、肝癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、血管腫瘍、扁平細胞癌種、腺癌種、小細胞癌種、黒色腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、甲状腺癌、日光角化症、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、腺様嚢胞癌、腺腫、腺扁平上皮癌腫、肛門管癌、肛門癌、肛門直腸癌、星細胞腫、バルトリン腺癌、基底細胞癌腫、胆汁癌、骨癌、骨髄癌、気管支癌、気管支腺癌腫、カルチノイド、胆管癌腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、淡明細胞癌腫、結合組織癌、嚢腺腫、消化器系癌、十二指腸癌、内分泌系癌、内胚葉洞腫瘍、子宮内膜増殖症、子宮内膜様腺癌、内皮細胞癌、上衣腫、上皮細胞癌、眼窩癌、局所性結節性過形成、胆嚢癌、幽門洞癌、胃基底部癌、ガストリノーマ、膠芽腫、グルカゴノーマ、心臓癌、血管芽細胞腫、血管内皮腫、血管腫、肝腺腫、肝腺腫症、肝胆道癌、肝細胞癌腫、ホジキン病、回腸癌、インスリノーマ、上皮内新生物、上皮内扁平細胞新生物、肝内胆道癌、浸潤性扁平細胞癌腫、空腸癌、関節癌、骨盤癌、巨細胞癌腫、大腸癌、リンパ腫、悪性中皮腫、髄芽腫、髄質上皮腫、脳膜癌、中皮癌、転移性癌腫、口腔癌、粘表皮癌、多発性骨髄腫、筋肉癌、鼻腔癌、神経系癌、非上皮皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、燕麦細胞癌、乏突起膠腫、口腔癌、骨肉腫、漿液性乳頭状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、下垂体腫瘍、形質細胞性腫瘍、偽肉腫、肺芽腫、直腸癌、腎細胞癌腫、呼吸器系癌、網膜芽細胞腫、漿液性癌、副鼻腔癌、皮膚癌、小細胞癌、小腸癌、平滑筋肉腫、軟部組織癌、ソマトスタチノーマ、脊椎癌、扁平細胞癌、線条筋肉癌、中皮細胞下層癌、T細胞白血病、舌癌、尿管癌、尿道癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、VIPoma、外陰部癌、高分化癌、およびウィルムス腫瘍からなる群より選択される、請求項10に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規タンパク質及びそれを含む癌の予防または治療用の薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗癌化学療法は、抗癌剤を用いた任意の全身的な治療方法であり、手術、放射線療法とともに癌の3大治療法の一つである。体に流入した化学療法抗癌剤は、血管に乗って全身を循環しながら癌細胞の増殖を阻害するか又は殺す役割を果たす。従来の抗癌剤は細胞毒性抗癌剤であり、急速に分裂して増殖する細胞を攻撃して分裂を遮断することにより癌細胞の死滅を誘導する。
【0003】
化学療法抗癌剤は、現在も全般的な癌治療に広く使用されており、その種類も非常に豊富である。しかし、抗癌化学療法の治療期間及び回数は、癌の種類、抗癌剤の種類、治療に対する反応、副作用の程度によって異なる。一般的に、抗癌剤は細胞毒性薬物であるため、細胞内に一般的に存在するDNAや微小管に作用する。そのため、癌細胞に対してある程度の治療効果を示すが、正常細胞にも悪影響を及ぼすため、平均2~3週間の休息期間を設けて正常細胞の回復を待たなければならないほど副作用がひどいのが一般的である。
【0004】
本発明では、従来の化学療法抗癌剤の癌治療効果を最大化するために、癌細胞で過剰発現される上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とするペプチドを、ナノ粒子であるヒトフェリチン(human ferritin)重鎖表面に遺伝子工学的に表出させることによって癌標的能を持たせると同時に、癌特異的に過剰発現される特定の酵素によって切断できるペプチドを共に表出させることによって癌特異的な薬物放出を誘導し、それにより、正常細胞に対する毒性を効果的に軽減させて副作用を最小限に抑えるタンパク質ナノ粒子を開発した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、癌細胞を特異的に標的化し、選択的な薬物放出機能を有するタンパク質ナノ粒子を化学療法抗癌薬物と結合することにより、特異的に癌細胞の死滅を誘導すると同時に、正常細胞に対する細胞毒性を軽減し、従来の化学治療抗癌剤の副作用を最小限に抑えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.外表面に癌標的ペプチドおよび癌細胞内で切断されるペプチドが融合されている、フェリチンタンパク質。
【0007】
2.前記項目1において、前記癌細胞内で切断される前記ペプチドは、配列番号1の配列からなるペプチドである、フェリチンタンパク質。
【0008】
3.前記項目1において、前記切断されて離脱する部分に結合した、抗癌剤の結合のためのペプチドがさらに融合されている、フェリチンタンパク質。
【0009】
4.前記項目3において、前記抗癌剤の結合のための前記ペプチドは、アミノ酸配列DEを含むペプチドである、フェリチンタンパク質。
【0010】
5.前記項目4において、前記抗癌剤の結合のための前記ペプチドは、アミノ酸配列DEが2~10回繰り返されるオリゴペプチドである、フェリチンタンパク質。
【0011】
6.前記項目1において、前記癌標的ペプチドは、配列番号2の配列を含む、フェリチンタンパク質。
【0012】
7.前記項目1において、前記フェリチンは、ヒトフェリチン重鎖である、フェリチンタンパク質。
【0013】
8.前記項目1において、前記癌標的ペプチドおよび前記癌細胞内で切断される前記ペプチドは、互いに独立してフェリチン単量体のN末端またはC末端に融合されている、フェリチンタンパク質。
【0014】
9.前記項目1において、前記フェリチンの単量体24個が自己集合してなる球状のフェリチンタンパク質。
【0015】
10.前記項目1~9のいずれかに記載のフェリチンタンパク質と、前記癌細胞内で切断される前記ペプチドにおける切断されて離脱する部分に連結された抗癌剤とを含む、癌の予防または治療用の薬学的組成物。
【0016】
11.前記項目10において、前記抗癌剤は、抗癌剤の結合のためのペプチドに結合し、前記切断されて離脱する前記部分に連結される、薬学的組成物。
【0017】
12.前記項目10において、前記抗癌剤は、抗癌活性を有する化合物である、薬学的組成物。
【0018】
13.前記項目10において、前記抗癌剤は、ゲムシタビン(gemcitabine)、マイトマイシンC(mitomycin C)、ドキソルビシン(doxorubicin)、メトトレキサート(methotrexate)、ブレオマイシン(bleomycin)、メルファラン(melphalan)、クロラムブシル(chlorambucil)、ダカルバジン(dacarbazine)、シタラビン(cytarabine)、フルダラビン(fludarabine)、ペメトレキセド(pemetrexed)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、イダルビシン(idarubicin)、クラドリビン(cladribine)、ヒドロキシカルバミド(hydroxycarbamide)、チオグアニン(thioguanine)、ベンダムスチン(bendamustine)、テモゾロミド(temozolomide)、アザシチジン(azacitidine)、クロファラビン(clofarabine)、デシタビン(decitabine)、ネララビン(nelarabine)、プララトレキサート(pralatrexate)、エピルビシン(epirubicin)、エリブリン(eribulin)、ベキサロテン(bexarotene)、ブセレリン(buserelin)、クリゾチニブ(crizotinib)、ダブラフェニブ(dabrafenib)、デガレリクス(degarelix)、ゴセレリン(goserelin)、イブルチニブ(ibrutinib)、ランレオチド(lanreotide)、レンバチニブ(lenvatinib)、リュープロレリン(leuprorelin)、ミファムルチド(mifamurtide)、ニラパリブ(niraparib)、パゾパニブ(pazopanib)、ラルティトレキシド(raltitrexed)からなる群より選択される、薬学的組成物。
【0019】
14.前記項目10において、前記癌は、脳癌、頭頸部癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、白血病、肺癌、肝癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、血管腫瘍、扁平細胞癌種、腺癌種、小細胞癌種、黒色腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、甲状腺癌、日光角化症、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、腺様嚢胞癌、腺腫、腺扁平上皮癌腫、肛門管癌、肛門癌、肛門直腸癌、星細胞腫、バルトリン腺癌、基底細胞癌腫、胆汁癌、骨癌、骨髄癌、気管支癌、気管支腺癌腫、カルチノイド、胆管癌腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、淡明細胞癌腫、結合組織癌、嚢腺腫、消化器系癌、十二指腸癌、内分泌系癌、内胚葉洞腫瘍、子宮内膜増殖症、子宮内膜様腺癌、内皮細胞癌、上衣腫、上皮細胞癌、眼窩癌、局所性結節性過形成、胆嚢癌、幽門洞癌、胃基底部癌、ガストリノーマ、膠芽腫、グルカゴノーマ、心臓癌、血管芽細胞腫、血管内皮腫、血管腫、肝腺腫、肝腺腫症、肝胆道癌、肝細胞癌腫、ホジキン病、回腸癌、インスリノーマ、上皮内新生物、上皮内扁平細胞新生物、肝内胆道癌、浸潤性扁平細胞癌腫、空腸癌、関節癌、骨盤癌、巨細胞癌腫、大腸癌、リンパ腫、悪性中皮腫、髄芽腫、髄質上皮腫、脳膜癌、中皮癌、転移性癌腫、口腔癌、粘表皮癌、多発性骨髄腫、筋肉癌、鼻腔癌、神経系癌、非上皮皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、燕麦細胞癌、乏突起膠腫、口腔癌、骨肉腫、漿液性乳頭状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、下垂体腫瘍、形質細胞性腫瘍、偽肉腫、肺芽腫、直腸癌、腎細胞癌腫、呼吸器系癌、網膜芽細胞腫、漿液性癌、副鼻腔癌、皮膚癌、小細胞癌、小腸癌、平滑筋肉腫、軟部組織癌、ソマトスタチノーマ、脊椎癌、扁平細胞癌、線条筋肉癌、中皮細胞下層癌、T細胞白血病、舌癌、尿管癌、尿道癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、VIPoma、外陰部癌、高分化癌、およびウィルムス腫瘍からなる群より選択される、薬学的組成物。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、癌標的能および癌特異的な薬物放出機能を有するタンパク質ナノ粒子と化学療法抗癌薬物を結合して特異的に薬物を放出することで抗癌効果を高め、正常細胞に対する毒性を効果的に軽減して副作用を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、タンパク質ナノ粒子huHF(+)、および前記huHF(+)においてカテプシンE切断誘導ペプチドがないタンパク質ナノ粒子huHF(-)、前記huHF(+)において癌標的ペプチドであるGE11がないタンパク質ナノ粒子huHF(+/-)の発現用ベクターを示す。
【
図2a1】
図2a1は、タンパク質ナノ粒子huHF(+)とその抗癌薬物の結合体の透過電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【
図2a2】
図2a2は、タンパク質ナノ粒子huHF(+)とその抗癌薬物の結合体のサイズおよびモデルを示す。
【
図2b1】
図2b1は、タンパク質ナノ粒子huHF(-)とその抗癌薬物の結合体の透過電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【
図2b2】
図2b2は、タンパク質ナノ粒子huHF(-)とその抗癌薬物の結合体のサイズおよびモデルを示す。
【
図2c1】
図2c1は、タンパク質ナノ粒子huHF(+/-)とその抗癌薬物の結合体の透過電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【
図2c2】
図2c2は、タンパク質ナノ粒子huHF(+/-)とその抗癌薬物の結合体のサイズおよびモデルを示す。
【
図3a】
図3aは、カテプシンEによるタンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌物質結合体の選択的薬物放出機能の検証結果を示す。
【
図3b】
図3bは、LPM(lysosomal protease mixture)によるタンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌物質結合体の選択的薬物放出機能の検証結果を示す。
【
図4a】
図4aは、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞毒性の検証結果を示すものであり、各細胞における抗癌薬物の毒性軽減程度を示す。
【
図4b】
図4bは、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞毒性の検証結果を示すものであり、各細胞における抗癌薬物の毒性軽減程度を示す。
【
図4c】
図4cは、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞毒性の検証結果を示すものであり、各細胞における抗癌薬物の毒性軽減程度を示す。
【
図5a1】
図5a1は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がゲムシタビン(GEM)である場合を示す。
【
図5a2】
図5a2は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がゲムシタビン(GEM)である場合を示す。
【
図5a3】
図5a3は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がゲムシタビン(GEM)である場合を示す。
【
図5a4】
図5a4は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がゲムシタビン(GEM)である場合を示す。
【
図5b1】
図5b1は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がマイトマイシンC(MMC)である場合を示す。
【
図5b2】
図5b2は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がマイトマイシンC(MMC)である場合を示す。
【
図5b3】
図5b3は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がマイトマイシンC(MMC)である場合を示す。
【
図5b4】
図5b4は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がマイトマイシンC(MMC)である場合を示す。
【
図5c1】
図5c1は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がドキソルビシン(DOX)である場合を示す。
【
図5c2】
図5c2は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がドキソルビシン(DOX)である場合を示す。
【
図5c3】
図5c3は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がドキソルビシン(DOX)である場合を示す。
【
図5c4】
図5c4は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の細胞内選択的薬物放出を示すものであり、抗癌剤がドキソルビシン(DOX)である場合を示す。
【
図6a1】
図6a1は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の一定時間における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6a2】
図6a2は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の一定時間における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6a3】
図6a3は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の一定時間における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6a4】
図6a4は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の一定時間における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6a5】
図6a5は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の一定時間における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6a6】
図6a6は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の一定時間における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6b1】
図6b1は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の肝臓、肺、腎臓、脾臓、心臓および癌における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6b2】
図6b2は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の肝臓、肺、腎臓、脾臓、心臓および癌における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6b3】
図6b3は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の肝臓、肺、腎臓、脾臓、心臓および癌における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6b4】
図6b4は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の肝臓、肺、腎臓、脾臓、心臓および癌における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6b5】
図6b5は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の肝臓、肺、腎臓、脾臓、心臓および癌における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6b6】
図6b6は、PBS、huHF(+)、huHF(+/-)、抗癌薬物、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を注入した後の肝臓、肺、腎臓、脾臓、心臓および癌における近赤外線(NIR)画像解析を示す。
【
図6c】
図6cは、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の肝毒性を検証するために行ったAST活性アッセイの結果を示す。
【
図7a1】
図7a1は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の癌特異的な抗癌効果を検証するための実験模式図を示す。
【
図7a2】
図7a2は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の癌特異的な抗癌効果を検証するための実験結果としての癌の大きさを示す。
【
図7a3】
図7a3は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の癌特異的な抗癌効果を検証するための実験結果としての癌の大きさを示す。
【
図7a4】
図7a4は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の癌特異的な抗癌効果を検証するための実験結果としての癌の大きさを示す。
【
図7a5】
図7a5は、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体の癌特異的な抗癌効果を検証するための実験結果としての癌の大きさを示す。
【
図7b1】
図7b1は、臓器組織の分析による毒性検証結果であり、各組織の光学顕微鏡画像を示す。
【
図7b2】
図7b2は、臓器組織の分析による毒性検証結果であり、各組織の光学顕微鏡画像を示す。
【
図7b3】
図7b3は、臓器組織の分析による毒性検証結果であり、各組織の光学顕微鏡画像を示す。
【
図8a】
図8aは、一実施形態による本発明の癌細胞特異的な抗癌剤の活性化の概略図を示す。
【
図8b】
図8bは、一実施形態による本発明の癌細胞特異的な抗癌剤の活性化の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0023】
本発明は、外表面に癌標的ペプチドおよび癌細胞内で切断されるペプチドが融合されたフェリチンタンパク質に関するものである。
【0024】
フェリチン(Ferritin)は、その由来を限定せず、ヒトを含む様々な動物または微生物由来のフェリチンであってもよい。
【0025】
ヒトフェリチンは、重鎖(heavy chain、21kDa)と軽鎖(light chain、19kDa)で構成され、前記フェリチンを成している単量体の自己集合能によって球状のナノ粒子を形成する特性を示す。フェリチンは、24個の単量体が集まって球状の立体構造を有する自己集合体を形成することができる。
【0026】
ヒトフェリチンの場合は、外径が約12nm、内径が約8nmである。フェリチン単量体の構造は、5つのαヘリックス構造、すなわちAヘリックス、Bヘリックス、Cヘリックス、DヘリックスおよびEヘリックスが順次連結された形態であり、ループ(loop)と呼ばれる各々のαヘリックス構造のポリペプチドを連結する非定型ポリペプチド部分を含む。
【0027】
ループは、フェリチンにペプチドまたは小さいタンパク質抗原などが挿入されても構造的に壊れない領域(region)である。ここにペプチドを、クローニングを用いて融合することにより、フェリチンの単量体にペプチドが位置するペプチド-フェリチン融合タンパク質単量体を製造することができる。AヘリックスとBヘリックスを連結するループをABループ、BヘリックスとCヘリックスを連結するループをBCループ、CヘリックスとDヘリックスを連結するループをCDループ、DヘリックスとEヘリックスを連結するループをDEループとする。
【0028】
フェリチンの情報はNCBIに公知になっている(GenBank Accession No.NM_000146、NM_002032など)。
【0029】
フェリチンはフェリチン重鎖であってもよく、具体的にはヒトフェリチン重鎖であってもよい。ヒトフェリチン重鎖は、ヒトに由来する配列番号3のアミノ酸配列で示されるタンパク質であってもよい。本明細書で前記フェリチンは「ヒトフェリチン重鎖」または「huHF」と混用して用いられる。
【0030】
フェリチンは、その単量体のいくつかが自己集合して、組織的な構造またはパターンを形成する。本発明のフェリチンタンパク質はナノスケールのタンパク質であり得る。例えば、フェリチン単量体24個が自己集合してフェリチンタンパク質を形成することができる。
【0031】
本発明のフェリチンタンパク質は球状であってもよい。球状の場合、例えばその粒径は8~50nmであってもよい。より具体的には、8nm~50nm、8nm~45nm、8nm~40nm、8nm~35nm、8nm~30nm、8nm~25nm、8nm~20nm、8nm~15nmであってもよい。
【0032】
本発明のフェリチンタンパク質は、外表面に癌標的ペプチド、癌細胞内で切断されるペプチドが融合されたものである。
【0033】
その融合位置は、フェリチン単量体の自己集合を阻害しない位置であり、フェリチン単量体の表面に露出できれば特に限定されない。例えば、隣接するαヘリックスの間、N末端、C末端、ABループ、BCループ、CDループ、DEループ、N末端とAヘリックスの間、EヘリックスとC末端の間、ヘリックスの内部などに融合することができる。
【0034】
フェリチン単量体の前記各構成部分には内部に落ち込んでいる部分も存在するが、ペプチドの結合によって当該部分が外部に突出し、ペプチドを外部に露出させることができる。
【0035】
具体的には、ペプチドは、隣接するαヘリックスの間の少なくとも1つに融合することができる。また、具体的には、ペプチドは、フェリチン単量体のN末端またはC末端に融合することができる。また、具体的には、ペプチドは、フェリチン単量体のN末端とAヘリックスの間、またはEヘリックスとC末端の間に融合することができる。また、具体的には、ペプチドは、フェリチン単量体の各ヘリックスの少なくとも1つの内部に融合することができる。
【0036】
「癌標的ペプチド」は、生体内および試験管内の両方で癌細胞または癌組織に特異的に結合できるペプチドを総称し、これにより、本発明のタンパク質を癌部位に誘導して癌治療を可能にする。
【0037】
治療の対象となる癌の細胞または組織に特異的に結合できるペプチドは、通常の技術者によって適宜選択することができる。例えば、前記癌標的ペプチドは、標的癌細胞で過剰発現される受容体との結合を誘導するペプチドであってもよい。
【0038】
一実施形態によれば、前記癌標的ペプチドは配列番号2の配列を含むことにより、癌細胞で過剰発現される上皮成長因子受容体(EGFR)と結合して癌を標的化することができる。
【0039】
前記癌標的ペプチドは、フェリチンタンパク質の外表面に露出できれば、フェリチン単量体のどこに融合されてもよい。前記癌標的ペプチドは、フェリチン単量体の自己集合を阻害しない位置に融合される。
【0040】
「癌細胞内で切断されるペプチド」は、癌細胞内で切断され得る切断部位を含むペプチドを総称し、これにより、癌細胞で特異的に治療効果を実現させる。
【0041】
癌細胞特異的に切断できるペプチドであれば、その切断方法は制限されず、通常の技術者によって前記ペプチドを適宜選択することができる。例えば、癌細胞内で切断されるペプチドは、癌細胞内で特異的に過剰発現される酵素によって切断されるペプチドであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0042】
一実施形態によれば、癌細胞内で切断されるペプチドは、癌細胞で過剰発現される酵素であるカテプシンE(CTSE)によって癌細胞内で切断されるペプチドであってもよい。
【0043】
例えば、癌細胞内で切断されるペプチドは、配列番号1の配列からなるペプチドであってもよい。
【0044】
また、本発明のフェリチンタンパク質は、抗癌剤の結合のためのペプチドがさらに融合されていてもよい。
【0045】
「抗癌剤の結合のためのペプチド」は、抗癌剤を本発明のフェリチンタンパク質に結合するために用いるペプチドを総称し、前記癌細胞内で切断されて離脱する部分に結合される。具体的には、抗癌剤の結合のためのペプチドは、癌細胞内で切断されるペプチドにおいて、癌細胞内で切断されて離脱する部分に結合される。
【0046】
前記抗癌剤との結合は、イオン結合、共有結合、配位結合、水素結合、静電気的な引力、ファンデルワールス力、疎水性結合などによるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、共有結合であってもよい。
【0047】
通常の技術者によって治療目的に合う抗癌剤が選択されると、前記抗癌剤と結合可能なペプチドを適宜選択してフェリチンタンパク質に融合することができる。例えば、抗癌剤の結合のためのペプチドは、選択された抗癌剤と結合可能な官能基を有するペプチドであってもよい。
【0048】
具体的には、例えば、アミノ基を有する抗癌剤を治療に使用しようとする場合、前記選択された抗癌剤の結合のためのペプチドは、複数のカルボキシ基を有し、抗癌剤と結合することができる。前記結合は、EDC-NHS結合反応(EDC(1-ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimide)-NHS(N-hydroxysuccinimide))であってもよい。
【0049】
その他にも、抗癌剤と前記ペプチドが互いにカップリング可能な官能基を有すれば結合できるので、その組み合わせに合うペプチドを使用することができ、ペプチドがそのような官能基を有するように改質して使用することもでき、もちろん抗癌剤がそのような官能基を有するように改質して使用することも可能である。
【0050】
抗癌剤の結合のためのペプチドは、アミノ酸配列DEを含むペプチドであってもよい。
【0051】
抗癌剤の結合のためのペプチドは、多数の抗癌剤の結合のためにアミノ酸配列DEが複数回繰り返されるものであってもよい。例えば、2~10回、2~8回、2~6回、2~5回、2~4回繰り返されてもよい。多数の抗癌剤を結合する観点から、前記配列は2~4回繰り返されてもよい。
【0052】
「抗癌剤」は、癌のような過増殖性疾患の治療または予防に使用される治療薬を指すものであり、化学療法剤を含む。
【0053】
抗癌剤は、癌細胞内で切断されるペプチドにおける切断されて離脱する部分に直接連結されてもよく、抗癌剤の結合のためのペプチドを介して前記切断されて離脱する部分に連結されてもよい。前記連結方法は、前述のように、イオン結合、共有結合などのように多様である。
【0054】
抗癌剤は抗癌活性を有する化合物であってもよい。
【0055】
例えば、抗癌剤は、ゲムシタビン(gemcitabine)、マイトマイシンC(mitomycin C)、ドキソルビシン(doxorubicin)、メトトレキサート(methotrexate)、ブレオマイシン(bleomycin)、メルファラン(melphalan)、クロラムブシル(chlorambucil)、ダカルバジン(dacarbazine)、シタラビン(cytarabine)、フルダラビン(fludarabine)、ペメトレキセド(pemetrexed)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、イダルビシン(idarubicin)、クラドリビン(cladribine)、ヒドロキシカルバミド(hydroxycarbamide)、チオグアニン(thioguanine)、ベンダムスチン(bendamustine)、テモゾロミド(temozolomide)、アザシチジン(azacitidine)、クロファラビン(clofarabine)、デシタビン(decitabine)、ネララビン(nelarabine)、プララトレキサート(pralatrexate)、エピルビシン(epirubicin)、エリブリン(eribulin)、ベキサロテン(bexarotene)、ブセレリン(buserelin)、クリゾチニブ(crizotinib)、ダブラフェニブ(dabrafenib)、デガレリクス(degarelix)、ゴセレリン(goserelin)、イブルチニブ(ibrutinib)、ランレオチド(lanreotide)、レンバチニブ(lenvatinib)、リュープロレリン(leuprorelin)、ミファムルチド(mifamurtide)、ニラパリブ(niraparib)、パゾパニブ(pazopanib)、ラルティトレキシド(raltitrexed)からなる群より選択できるが、これらに限定されない。
【0056】
本発明のペプチドは、さらにリンカーを含むことができる。
【0057】
リンカーは、例えばグリシンを含むものであってもよい。具体的には、G3SG3TG3SG3であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0058】
例えば、癌細胞内で切断されるペプチドが、リンカーを介してフェリチンに融合されたものであってもよい。その場合、当該ペプチドが外部に露出して癌細胞内で切断されやすくなり、抗癌剤と、抗癌剤を結合するためのペプチドとの結合効率を高めることができる。
【0059】
また、本発明において、前記癌標的ペプチドおよび癌細胞内で切断されるペプチドは、互いに独立してフェリチン単量体のN末端またはC末端に融合することができる。例えば、フェリチン単量体のN末端に癌標的ペプチドを導入する場合、フェリチン単量体のC末端には癌細胞内で切断されるペプチドを導入することができる。例えば、フェリチン単量体のN末端に癌細胞内で切断されるペプチドを導入する場合、フェリチン単量体のC末端に癌標的ペプチドを導入することができる。例えば、リンカー等を追加に含む場合、フェリチン単量体のN末端に癌標的ペプチドを導入し、単量体のC末端と癌細胞内で切断されるペプチドとの間にリンカー等を追加に含むか、またはフェリチン単量体のN末端と癌細胞内で切断されるペプチドとの間にリンカーなどを追加に含み、単量体のC末端に癌標的ペプチドを導入することができる。
【0060】
本発明でフェリチンは、その単量体のいくつかが自己集合して、組織的な構造またはパターンを形成することができる。本発明のフェリチンタンパク質はナノスケールの粒子である。例えば、前記フェリチン単量体24個が自己集合してなる球状のフェリチンタンパク質を形成することができる。
【0061】
また、本発明は、前記フェリチンタンパク質を含む、癌の予防または治療用の薬学的組成物を提供する。
【0062】
本発明の組成物は、前記フェリチンタンパク質および前記癌細胞内で切断されるペプチドにおける切断されて離脱する部分に連結された抗癌剤を含むことができる。前記フェリチンタンパク質に関する説明は、すべて本発明の薬学組成物の有効成分としてのフェリチンタンパク質にそのまま適用される。また、「抗癌剤」は、癌のような過増殖性疾患の治療または予防に使用される治療剤を指すものであり、前述の通りである。
【0063】
本発明の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。本発明で用語「薬学的に許容可能な担体」とは、生物体を非常に刺激せず、投与成分の生物学的活性および特性を阻害しない担体または希釈剤を指す。本発明における「薬学的に許容可能な担体」としては、生理食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝生理食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれらの成分の1成分又は1成分以上を混合して使用することができる。必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液および静菌剤などの他の通常の添加剤を添加して、組織または臓器に注入するのに適した注射剤の形で製剤化することができる。また、等張性滅菌溶液、または場合によって滅菌水や生理食塩水を添加して注射可能な溶液となり得る乾燥剤(特に凍結乾燥剤)に製剤化することもできる。さらに、標的器官に特異的に作用できるように、標的器官特異的な抗体または他のリガンドを前記担体と結合して使用することができる。
【0064】
また、本発明の組成物は、充填剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤または滑沢剤をさらに含むことができる。さらに、本発明の組成物は、哺乳動物に投与された後に活性成分の迅速、持続または遅延放出を提供できるように当業界で公知の方法を使用して製剤化することができる。
【0065】
一実施形態によれば、前記薬学組成物は注射製剤であってもよく、静脈内投与されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0066】
本発明で用語「有効量」とは、目的とする治療すべき特定の疾患の発症または進行を遅らせるか、または完全に増進するのに必要な量を意味する。
【0067】
本発明において、組成物は薬学的有効量で投与することができる。前記薬学組成物の適切な1日総使用量は、適切な医学的判断の範囲内で治療医によって決定され得ることは当業者にとって自明なことである。
【0068】
本発明の目的のために、特定の患者に対する具体的な薬学的有効量は、達成しようとする反応の種類および程度、場合によっては他の製剤が使用されるかどうかを含む具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食物、投与時間、投与経路、組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と併用または同時使用される薬物を含む様々な因子および医薬分野でよく知られている類似因子によって異なるように適用することが好ましい。
【0069】
本発明で用語「投与」とは、いかなる適切な方法で患者に本発明の組成物を導入することを意味する。本発明の組成物の投与経路は、目的の組織に到達できる限り、経口または非経口の様々な経路を介して投与することができる。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、または直腸内投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
本発明において、前記薬学組成物は、必要に応じて薬物の製造、使用および販売を管轄する行政機関によって指定された方式での、容器に付帯する注意書きを添付してもよい。前記注意書きは、組成物の形またはヒトもしくは獣医的な投与に関する私益機関による認可を示し、例えば処方薬に関する米国食品医薬品局により認可された表示でもよい。
【0071】
本発明に含まれ得る抗癌剤は、前述の通りである。
【0072】
抗癌剤を含む本発明のタンパク質が癌細胞内で特異的に放出されることにより、正常細胞に対する細胞毒性を軽減しながら癌細胞を死滅できるため、標的治療が可能である。
【0073】
具体例を挙げて説明すると、
図8に示すように、本発明の組成物を投与した癌細胞および正常細胞における抗癌活性は顕著に異なる。ヒトフェリチン重鎖(huHF)の表面には、癌標的ペプチド、癌細胞内で切断されるペプチド、抗癌剤の結合のためのペプチドを融合できる。例えば、前記「癌標的ペプチド」は、癌細胞で過剰発現される上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とするペプチドとし、前記「癌細胞内で切断されるペプチド」は、癌細胞で過剰発現される酵素であるカテプシンE(CTSE)によって切断されるペプチド(例えば、配列番号1の配列からなるペプチド)とし、そして前記切断されて離脱する部分に結合する、「抗癌剤の結合のためのペプチド」は、アミノ酸配列DEが3回繰り返されるオリゴペプチドとして融合することができる。以下では、前記ペプチドが融合されたフェリチンタンパク質が抗癌剤と結合したものを「huHF(+)-抗癌剤結合体」という。
【0074】
癌細胞の場合、癌細胞で過剰発現される上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とする癌標的ペプチドにより、huHF(+)-抗癌剤結合体が癌細胞に運ばれ、癌細胞エンドサイトーシス(endocytosis)の後、癌細胞で過剰発現される酵素であるカテプシンE(CTSE)によってペプチドが切断される。前記切断されて離脱する部分に結合した抗癌剤が、huHF(+)-抗癌剤結合体から放出されて活性化し、放出された抗癌剤は、最終的に核に運ばれて抗癌活性(染色体DNA損傷及び/又はDNA複製干渉)を示すことができる。
【0075】
これに対し、正常細胞の場合、エンドサイトーシス(endocytosis)が稀に起こり得るが、正常細胞ではカテプシンE(CTSE)活性がないため、それによるペプチド切断が起こらない。結局、抗癌剤は放出されず不活性のまま残っており、核に運ばれず、抗癌活性を示さない。
【0076】
したがって、本発明の薬学的組成物は、癌の治療または予防に使用することができる。
【0077】
前記癌は、例えば、脳癌、頭頸部癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、白血病、肺癌、肝癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、血管腫瘍、扁平細胞癌種、腺癌種、小細胞癌種、黒色腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、甲状腺癌、日光角化症、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、腺様嚢胞癌、腺腫、腺扁平上皮癌腫、肛門管癌、肛門癌、肛門直腸癌、星細胞腫、バルトリン腺癌、基底細胞癌腫、胆汁癌、骨癌、骨髄癌、気管支癌、気管支腺癌腫、カルチノイド、胆管癌腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、淡明細胞癌腫、結合組織癌、嚢腺腫、消化器系癌、十二指腸癌、内分泌系癌、内胚葉洞腫瘍、子宮内膜増殖症、子宮内膜様腺癌、内皮細胞癌、上衣腫、上皮細胞癌、眼窩癌、局所性結節性過形成、胆嚢癌、幽門洞癌、胃基底部癌、ガストリノーマ、膠芽腫、グルカゴノーマ、心臓癌、血管芽細胞腫、血管内皮腫、血管腫、肝腺腫、肝腺腫症、肝胆道癌、肝細胞癌腫、ホジキン病、回腸癌、インスリノーマ、上皮内新生物、上皮内扁平細胞新生物、肝内胆道癌、浸潤性扁平細胞癌腫、空腸癌、関節癌、骨盤癌、巨細胞癌腫、大腸癌、リンパ腫、悪性中皮腫、髄芽腫、髄質上皮腫、脳膜癌、中皮癌、転移性癌腫、口腔癌、粘表皮癌、多発性骨髄腫、筋肉癌、鼻腔癌、神経系癌、非上皮皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、燕麦細胞癌、乏突起膠腫、口腔癌、骨肉腫、漿液性乳頭状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、下垂体腫瘍、形質細胞性腫瘍、偽肉腫、肺芽腫、直腸癌、腎細胞癌腫、呼吸器系癌、網膜芽細胞腫、漿液性癌、副鼻腔癌、皮膚癌、小細胞癌、小腸癌、平滑筋肉腫、軟部組織癌、ソマトスタチノーマ、脊椎癌、扁平細胞癌、線条筋肉癌、中皮細胞下層癌、T細胞白血病、舌癌、尿管癌、尿道癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、VIPoma、外陰部癌、高分化癌、およびウィルムス腫瘍からなる群より選択できるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0079】
実施例
1.ヒトフェリチン由来のナノ粒子を生合成するための発現ベクターの製造
下記表1に示すベクター模式図に基づいて、PCRにより、ヒトフェリチン由来のタンパク質にGE11、カテプシンE切断誘導ペプチド、化学療法抗癌剤の結合誘導ペプチドが融合発現されたhuHF(+)と、対照群として、前述のhuHF(+)においてカテプシンE切断誘導ペプチドがないhuHF(-)、および前述のhuHF(+)においてGE11がないhuHF(+/-)を製造した。製造したすべてのプラスミド発現ベクターは、アガロースゲルで精製した後、完全なDNAシーケンスによって配列確認を行った。
【0080】
このようにして製造したPCR産物をpT7-7発現用ベクターに順次挿入し、それぞれのタンパク質ナノ粒子を発現できる発現ベクターを構成した。
【0081】
各タンパク質ナノ粒子の発現用ベクターは、pT7-huHF(+)、pT7-huHF(-)、pT7-huHF(+/-)で行った(
図1)。
各ナノ粒子別発現ベクターの構成
【0082】
【0083】
2.候補タンパク質ナノ粒子の生合成および精製
大腸菌株BL21(DE3)[F-ompThsdSB(rB-mB-)]を前記製造された発現ベクターでそれぞれ形質転換し、アンピシリン耐性形質転換体を選択した。形質転換した大腸菌を、50mLのルリアベルターニ(Luria-Bertani、LB)培地(100mgのL-1アンピシリンを含有)を含有するフラスコ(250mL 三角フラスコ(Erlenmeyer flasks)、37℃、150rpm)で培養した。培地の濁度(O.D600)が約0.4~0.5に達したとき、IPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranosid)(1.0mM)を添加して組換え遺伝子の発現を誘導した。20℃で16~18時間培養した後、培養した大腸菌を4,500rpmで10分間遠心分離して菌体沈殿物を回収した後、5mlの破砕溶液(10mM Tris-HCl緩衝液、pH7.5、10mM EDTA)に懸濁して、超音波破砕機(Branson Ultrasonics Corp.,Danbury、CT、USA)を用いて破砕した。破砕後、13,000rpmで10分間遠心分離した後、上清と不溶性凝集体を分離した。分離した上清を、まず組換えタンパク質に融合発現されたヒスチジンとニッケルの結合を用いたNi2+-NTAアフィニティークロマトグラフィーを行った後、組換えタンパク質を濃縮し、バッファー交換を行うことにより、精製された組換えタンパク質を得た。各段階の詳細は以下の通りである。
【0084】
1)Ni2+-NTAアフィニティークロマトグラフィー
組換えタンパク質を精製するために、前述の方法と同様にして培養した大腸菌を回収し、その細胞ペレットを5mLの破砕溶液(50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール、0.2mM CuSO4、pH8.0)に再浮遊し、超音波破砕機を用いて細胞を破砕した。破砕した細胞液を13,000rpmで10分間遠心分離してその上清のみを分離した後、各組換えタンパク質をNi2+-NTAカラム(Quiagen,Hilden,Germany)を用いてそれぞれ分離した(洗浄バッファー:50mM NaH2PO4、300mM NaCl、10mMイミダゾール、pH8.0/溶出バッファー:50mM NaH2PO4、300mM NaCl、250mMイミダゾール、pH8.0)。
【0085】
2)濃縮及びバッファー交換
Ni2+-NTAアフィニティークロマトグラフィーを経て溶出された2mLの組換えタンパク質を、超遠心ろ過器(ultracentrifugal filter、Amicon Ultra 100K、Millipore、Billerica、MA)に入れて、カラムの上に1mlの溶液が残るまで5,000rpmで遠心分離を行った。その後、PBSバッファー(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na2HPO4、1.8mM KH2PO4、pH7.4)でバッファー交換を行った。
【0086】
3.製造されたタンパク質ナノ粒子と化学療法抗癌剤との結合形成及び構造の分析
前記の手順を経た後、精製された組換えタンパク質ナノ粒子と、ゲムシタビン(GEM)、マイトマイシンC(MMC)、ドキソルビシン(DOX)のようなアミン基を含有する化学療法抗癌剤との結合を形成するために、EDC(1-ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimide)-NHS(N-hydroxysuccinimide)反応を行った。EDC-NHS反応バッファーは、2-[morpholino]ethanesulfonic acid(0.1M、pH6.0)バッファーの1mlに、0.4mgのEDCと1.1mgのSulfo-NHSを加えて準備し、組換えタンパク質ナノ粒子1ml当たり22μLのEDC-NHS反応バッファーを添加して常温で15分間待った後、化学療法抗癌剤のGEM、MMC、DOXをそれぞれ288:1、720:1、144:1のモル比(化学療法抗癌剤のモル濃度:組換えタンパク質ナノ粒子のモル濃度)で常温において2時間反応させた。その後、結合せずに残っている化学療法抗癌剤を除去するために、超遠心ろ過器(Amicon Ultra 100K、Millipore、Billerica、MA)に入れ、PBSバッファー(137mM NaCl、2.7mM KCl、10mM Na
2HPO
4、1.8mM KH
2PO
4、pH7.4)でバッファー交換を行った。精製された組換えタンパク質ナノ粒子と、前記の手順を経た組換えタンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌剤結合体の構造を分析するために透過電子顕微鏡(TEM)で撮影した。自然乾燥サンプルを含む電子顕微鏡グリッドを2%(w/v)水性ウラニルアセテート溶液と共に室温で1時間インキュベートして、タンパク質ナノ粒子の染色画像を得た。200kVで動作するTecnai 20(FEI、Hillsboro、Oreon、U.S.A.)電子顕微鏡を用いて観察したところ、タンパク質ナノ粒子とタンパク質ナノ粒子-抗癌剤結合体ともに球状のナノ粒子が形成された。追加にDLS(dynamic light scattering)を分析した結果、huHF(+)は12.32±2.88nm、huHF(+)-GEMは12.48±2.37nm、huHF(+)-MMCは12.67±2.80nm、huHF(+)-DOXは12.78±2.27nm、huHF(-)は12.09±2.05nm、huHF(-)-GEMは12.36±1.62nm、huHF(-)-MMCは12.56±1.03nm、huHF(-)-DOXは12.70±1.98nm、huHF(+/-)は12.14±2.74nm、huHF(+/-)-GEMは12.40±2.45nm、huHF(+/-)-MMCは12.34±1.87nm、huHF(+/-)-DOXは12.69±2.70nmの大きさを有する球状のナノ粒子を形成することを確認した(
図2a、
図2b及び
図2c)。
【0087】
4.タンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌物質結合体の選択的薬物放出機能の検証
組換えタンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌物質結合体がカテプシンEによって切断されて選択的に薬物を放出できるかどうかを検証するために、自然に蛍光を発するドキソルビシンを用いて実験を行った。前記の手順で述べたように、組換えタンパク質とドキソルビシンとを結合し、それをカテプシンE酵素(10U/ml)の最適条件である40℃、pH5.0でタンパク質ナノ粒子-抗癌物質結合体を時間別に反応させた。その後、反応が進行したタンパク質ナノ粒子-抗癌物質結合体を、12%トリス-グリシンプレキャストゲル(Tris-glycine precast gel、Invitrogen、California、U.S.A.)を用いてネイティブ-PAGEを行った。ゲルをクマシーブルー染色溶液で染色して同量のタンパク質ナノ粒子が使用されたことを証明し、3時間以降からはカテプシンEによる切断が効果的に発生して結合体から抗癌物質が結合されていた部分が切り抜かれたことを視覚的に観察した。ドキソルビシンに対して、UVにより吸光度を測定し、強度をグラフで示した(
図3a)。
【0088】
カテプシンEではなく、リソソームに分布することが知られている様々な酵素カテプシンB、D、L、H、PrCP(Prolylcarboxypeptidase)の混合物であるLPM(lysosomal protease mixture)を前述の方法と同様にして実験した結果、特異的にペプチドが切断されず、選択的薬物放出が起こらなかったことを確認した(
図3b)。
【0089】
5.タンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌物質結合体の細胞毒性の検証
タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体は、前記の手順で述べたように選択的薬物放出によって正常細胞に毒性がないことを確認するために、様々な正常細胞においてセルカウンティングキット(cell counting Kit、CCK)アッセイを行った。正常肺細胞であるWI-38、IMR-90と、正常結腸細胞であるCCD-18coを1x10
4cells/wellで96ウェルマイクロプレートにおいて36時間成長させた後、抗癌薬物のみを添加した場合と、タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体を添加した場合とを比較して、500μMから2000μMまで濃度を漸次高めて、細胞活性が50%に達する薬物の濃度IC
50を求めて、タンパク質ナノ粒子と結合体を形成した場合に効果的に毒性が軽減したことが分かった。抗癌薬物の毒性軽減程度(drug toxicity reduction、DTR)を求めた結果、WI-38細胞におけるGEM、MMC、DOXのDTRは、それぞれ3162、56234、263であり、IMR-90細胞におけるGEM、MMC、DOXのDTRは、それぞれ7244、31623、316であり、CCD-18co細胞におけるGEM、MMC、DOXのDTRは、それぞれ8913、95499、91であった(
図4)。
【0090】
6.癌細胞、正常細胞内でのタンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌物質結合体の選択的薬物放出の観察
タンパク質ナノ粒子-抗癌薬物結合体が、細胞内で選択的薬物放出を効果的に起こすかどうかを観察するために、自然蛍光物質であるドキソルビシン(
図5c)をタンパク質ナノ粒子に結合して、huHF(+)-DOXに対して癌細胞PANC-1および正常細胞WI-38、IMR-90、CCD-18coにおいて経時による薬物放出を観察した。また、ゲムシタビン(
図5a)とマイトマイシンC(
図5b)には蛍光物質を付着して、huHF(+)-GEM、huHF(+)-MMCの経時による薬物放出を観察した。その結果、癌細胞では特異的に薬物が放出されて細胞の核内に入り込む一方、全ての正常細胞では薬物が放出されなかったことを確認した。さらに、実施例5と同様の方法でCCKアッセイを行ったところ、タンパク質ナノ粒子結合体が導入された場合には、抗癌薬物のみを添加した場合と比較して、癌細胞に対する細胞毒性が増加することを観察した。これに対し、タンパク質ナノ粒子結合体が導入された場合には、正常細胞に対する細胞毒性が発生しなかったことを証明した。
【0091】
7.タンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌物質結合体のNIR画像解析および肝毒性の検証
実施例6と同様に、ナノ粒子の表面に自然に蛍光を発するDOXを結合させ、蛍光物質を付着したGEM、MMCをそれぞれタンパク質ナノ粒子に結合した。その後、作製した物質の蛍光度を一定に合わせた後、生後5週齢のヌードマウスに注入し、実際にそれぞれのhuHF(+)-GEM、huHF(+)-MMC、huHF(+)-DOX結合体が癌を標的とすることができることを証明し、癌で24時間残留することによって癌標的効率が効果的に増加することを観察した。これに対し、癌標的ペプチドGE11が除去されたhuHF(+/-)-GEM、huHF(+/-)-MMC、huHF(+/-)-DOXでは、癌標的効率が大幅に低下することを観察した(
図6a及び
図6b)。
【0092】
タンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌物質結合体は癌にターゲティングされるが、同時に肝臓にも多く移動することになる。AST(aspartate aminotransferase)は主に肝臓に存在し、健康な人の場合は血液のAST濃度が低い方である。肝臓に毒性が発生すると、肝臓は正常機能ができず、多くのASTが血流に放出される。
【0093】
タンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌物質結合体と抗癌薬物、PBSバッファーのみをそれぞれヌードマウスに投与し、24時間後にヌードマウスから血液を採取して肝毒性の程度を測定するAST活性アッセイを行った。その結果、タンパク質ナノ粒子に結合した抗癌剤を投与した場合は、抗癌剤のみを投与した場合と比較して、ASTの活性が顕著に減少したことを観察した(
図6c)。これにより、タンパク質ナノ粒子-抗癌物質結合体は肝臓にもターゲティングされるが毒性を誘発しないことを証明した。
【0094】
8.タンパク質ナノ粒子-化学療法抗癌物質結合体の癌特異的な抗癌効果および臓器組織分析による毒性の検証
実施例7から、実際にhuHF(+)-GEM、huHF(+)-MMC、huHF(+)-DOXのような化学療法抗癌剤は、タンパク質ナノ粒子と結合すると、癌に効果的にターゲティングされて癌に長時間残留することが証明された。このことから、これらを生体内注入した場合、癌を特異的に標的化するため、優れた抗癌効果を示すことを予想し、3日間隔でヌードマウスに静脈注射した後、バッファー、タンパク質ナノ粒子、抗癌剤のみを注射した場合と比較して、癌のサイズ減少程度を生体内(in vivo)実験により検証した。3日ごとに注射する物質は、タンパク質粒子の濃度と抗癌薬物の濃度をすべて等しくした。癌の体積を42日間測定したところ、抗癌剤のみを投与した場合と比較して、タンパク質ナノ粒子と結合して注射した場合に効果的に癌の増殖が阻害された。また、42日後、各実験群の癌を摘出してそのサイズを測定した結果、タンパク質ナノ粒子を導入して抗癌物質を送達した場合に、いずれも優れた抗癌効果を示した(
図7a)。
【0095】
実施例4及び実施例6から分かるように、タンパク質ナノ粒子huHF(+)は、カテプシンEによって選択的薬物放出を誘導するペプチドを表面に表出しているので、正常細胞に対する毒性がないことを予想し、WI-38、IMR-90、CCD-18coの細胞株から正常細胞に対する毒性が顕著に軽減されたことを証明した。このような結果に基づいて、42日間静脈注射を行った後、各実験群の肝臓、肺、腎臓、脾臓、心臓および癌を摘出し、H&E(hematoxylin&eosin)染色を行い、各組織を光学顕微鏡により比較した(
図7b)。その結果、抗癌物質のみを投与した場合には、散発的にすべての臓器と癌に毒性があることを観察した。これに対し、タンパク質ナノ粒子-抗癌物質結合体を投与した場合には、癌特異的に毒性が発生したが、他の臓器では毒性による組織損傷が見られなかった。
【配列表】
【国際調査報告】