(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】自動スプレーディスペンサ
(51)【国際特許分類】
A61L 9/00 20060101AFI20240912BHJP
A61L 9/14 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61L9/00 Z
A61L9/14
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517504
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 US2021050790
(87)【国際公開番号】W WO2023043449
(87)【国際公開日】2023-03-23
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524104044
【氏名又は名称】ステーション・10・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ロバート・シー・ダンヴィル
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ジー・プシイェムスキー
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180BB02
4C180BB06
4C180BB09
4C180CB01
4C180GG07
4C180HH05
4C180KK01
4C180LL06
(57)【要約】
本発明は自動臭気処理スプレーディスペンサに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.周囲環境における少なくとも1つの標的臭気原因物質の存在を検出するためかつ各センサ手段の応答を電気出力信号に変換するための少なくとも1つのセンサ手段であって、前記センサの電気的応答は前記少なくとも1つの標的臭気原因物質の存在の変化に従って変化する、少なくとも1つのセンサ手段と、
b.各電気的応答性センサ手段の前記電気的応答を反映するデータポイントを周期的に収集するために前記センサ手段に動作可能に接続されたプロセッサ手段であって、
c.各電気的応答性センサ手段からの複数の連続するデータポイントが、線形最小二乗回帰によってこれを通る線の傾きを周期的に推定するように、そしてすべての電気的応答性センサ手段の推定された傾きを一緒に加算するように処理される、プロセッサ手段と、
d.臭気軽減流体をスプレーするためのスプレー手段であって、前記スプレー手段は、前記プロセッサ手段に動作可能に接続され、
e.すべてのセンサ手段の前記加算された傾きが閾値レベルを超えると、前記スプレー手段が臭気軽減流体をスプレーする、スプレー手段と、
を含む装置。
【請求項2】
複数のセンサ手段を含み、各センサ手段は異なる標的臭気ガスを感知する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
各電気的応答性センサ手段からの少なくとも3つの連続するデータポイントがステップ(c)で処理される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
各電気的応答性センサ手段からの少なくとも10の連続するデータポイントがステップ(c)で処理される、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
各電気的応答性センサ手段からの少なくとも20の連続するデータポイントがステップ(c)で処理される、請求項2に記載の装置。
【請求項6】
それぞれの前記傾きは、一緒に加算される前に重み付けされる、請求項2に記載の装置。
【請求項7】
それぞれの前記傾きは、一緒に加算される前に重み付けされる、請求項5に記載の装置。
【請求項8】
それぞれの前記傾きは、勾配降下法によって決定される重み係数を使用して一緒に加算される前に重み付けされる、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
それぞれの前記傾きは、勾配降下法によって決定される重み係数を使用して一緒に加算される前に重み付けされる、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
第1のセンサ手段が硫化物標的ガスを標的とし、第2のセンサ手段が、硫化物標的ガスを除く全有機揮発性物質を感知する、請求項2に記載の装置。
【請求項11】
第1のセンサ手段が硫化物標的ガスを標的とし、第2のセンサ手段が、硫化物標的ガスを除く全有機揮発性物質を感知する、請求項5に記載の装置。
【請求項12】
第3のセンサ手段が、硫化物標的ガスを除くアンモニア標的ガスを感知し、前記第2のセンサ手段は、硫化物標的ガスおよびアンモニア標的ガスを除く全有機揮発性物質を感知する、請求項10に記載の装置。
【請求項13】
第3のセンサ手段が、硫化物標的ガスを除くアンモニア標的ガスを感知し、前記第2のセンサ手段は、硫化物標的ガスおよびアンモニア標的ガスを除く全有機揮発性物質を感知する、請求項11に記載の装置。
【請求項14】
第1のセンサ手段が、硫化物標的ガス、および芳香ガスを除く他のガスを標的とし、第2のセンサ手段が、硫化物標的ガスを除く全有機揮発性物質を感知する、請求項2に記載の装置。
【請求項15】
第1のセンサ手段が、硫化物標的ガス、および芳香ガスを除く他のガスを標的とし、第2のセンサ手段が、硫化物標的ガスを除く全有機揮発性物質を感知する、請求項5に記載の装置。
【請求項16】
第3のセンサ手段が、アンモニア標的ガス、ならびに硫化物標的ガスおよび芳香ガスを除く他のガスを感知し、前記第2のセンサ手段は、硫化物標的ガスおよびアンモニア標的ガスを除く全有機揮発性物質を感知する、請求項14に記載の装置。
【請求項17】
第3のセンサ手段が、アンモニア標的ガス、ならびに硫化物標的ガスおよび芳香ガスを除く他のガスを感知し、前記第2のセンサ手段は、硫化物標的ガスおよびアンモニア標的ガスを除く全有機揮発性物質を感知する、請求項15に記載の装置。
【請求項18】
各電気的応答性センサ手段からの前記データポイントは、移動線形最小二乗回帰によってこれを通る線の傾きを周期的に推定するように処理される、請求項2に記載の装置。
【請求項19】
各電気的応答性センサ手段からの前記データポイントは、移動線形最小二乗回帰によってこれを通る線の傾きを周期的に推定するように処理される、請求項6に記載の装置。
【請求項20】
a.少なくとも1つの臭気原因物質の存在を検出してこれに応答するために少なくとも1つのセンサ手段を周囲環境に曝すステップと、
b.各センサ手段の応答を周期的電気出力信号に周期的に変換するステップと、
c.各周期的電気出力信号を制御手段に送信するステップであって、複数の周期的電気出力信号を使用して線形最小二乗回帰によって前記周期的電気出力信号間の傾きを計算する、ステップと、
d.前記傾きを加算するステップと、
e.すべてのセンサ手段の加算された傾きが閾値レベルを超えると、臭気処理剤の前記周囲環境への放出を作動させるステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動臭気処理スプレーディスペンサに関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書で参照されるすべての特許、特許出願および他の刊行物を、参照によりその全体を具体的に本明細書に組み込む。
【0003】
家庭、乗り物、職場などのようなさまざまな閉鎖環境で時折見られる多くの既知の臭気原因物質がある。非限定的な例として、このような既知の臭気原因物質は、1,3-ジメチルベンゼン、1-ブテン、1-ペンテン、1-プロパンチオール、2,2-ジメチルブタン、2,4-ジメチルペンタン、5,11,14,17-ヘキサオキサオクタデカン、2,5,11,14-ペンタオキサヘキサデカン-16-オール、2,5,11,14-ペンタオキサペンタデカン、2,5-ジメチルフラン、2,5-ジメチルヘキサン、2-ブタノン(メチルエチルケトン)、2-ブテン-1-チオール(クロチル)、2-フランカルボキシアルデヒド、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、2-メチル-1-プロパンチオール、2-メチル-1-プロペン、2-メチル-2-ブテン、2-メチルブタナール、2-メチルフラン、2-メチルヘキサン、2-メチルペンタン、2-メチルプロパナール、2-ペンテン、2-プロペニルプロピルジスルフィド、3-ブテン-1-チオール、3-エチレンピリジン、3-メチル-1-ブタンチオール、3-メチル-2-ペンテン、3-メチルブタナール、3-メチルシクロペンテン、3-メチレンペンタン、3-メチルヘプタン、3-メチルペンタン、3-メチルピリジン、アセトアルデヒド、アセトン、アリルメチルジスルフィド、アリルメチルスルフィド(アリルメルカプタン)、アンモニア、ベンゼン、シス-1,3-ジメチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペンテン、ジアリルジスルフィド、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、エタノール、エチルベンゼン、エチレンオキシド、ヘキサナール、硫化水素、イソブタン、メタンチオール、メチルメルカプタン、メチルチイラン(メチルエチルスルフィド)、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、n-ヘプタン、n-ヘキサン、n-オクタン、ノナナール、ペンタナール、プロパナール、p-キシレン、ピリジン、ピロール、スチレン、トルエン、2,5,11,14,17-ヘキサオキサオクタデカン、2,5,11,14-ペンタオキサヘキサデカン-16-オール、2-プロペニルプロピルジスルフィドアセトン、およびアリルメチルジスルフィドを含む。
【0004】
さまざまなバスルーム環境で時折見られる既知の臭気原因物質がある。非限定的な例として、このような既知の臭気原因物質は、プロパン酸、ブタン酸およびペンタン酸のような短鎖脂肪酸、硫化水素、硫化ジメチル、二硫化ジメチル、三硫化ジメチルおよびメタンチオールのような有機および無機硫黄含有分子、スカトールおよびインドールのようなベンゾピロール揮発性物質、アンモニアおよびトリメチルアミンのような有機および無機窒素含有分子を含む。
【0005】
環境中の臭気原因物質からの不快な臭気に関連する問題を軽減または改善するための既知の装置および方法がある。たとえば、特許文献1はトイレ用芳香剤と、便器内または便器上で製剤を時間オフセット放出するための方法と、を開示している。この文献によれば、「したがって、本発明の目的は、便器内または便器上で最適化された洗浄性能および/または芳香作用を提供する方法および装置を提供することである」。この装置は、電源、制御ユニット、センサユニット、第1の製剤を収容する第1の容器、および第2の組成物を収容する少なくとも1つの第2の容器を含み、電源、制御ユニット、第1の容器および少なくとも第2の容器は、少なくとも2つの連続する時点t
1およびt
2において少なくとも2つの異なる活性物質製剤が放出されるように、ポンプおよび/または放出要素と相互作用し、少なくとも1つの活性物質製剤が便器の内部に少なくとも放出される。制御ユニットは、好ましくは分配プログラムが格納されているプログラム可能なマイクロプロセッサを含むことができる。[0064]製剤の放出を制御するための基本的な制御アルゴリズムが、たとえば、
図6~
図8に示されている。たとえば、
図6に示されているように、センサ信号が制御ユニットで受信され、受信信号は、制御ユニット内に格納されている閾値と比較される。[0156]受信信号が格納されている閾値を超えていれば、製剤が分配される。特許文献2は、周囲環境における化合物の濃度を標的とするように構成された浮遊物質検出器を含む臭気検出/軽減装置を開示している。芳香剤および臭気軽減化学物質は、芯を使用して環境中に分配される。第4欄第49行~第56行に記載されているように:
浮遊汚染物質のための特定化学物質用または特定臭気用センサを使用する装置がすでに開示されてきた。しかしながら、このような装置の費用ならびにこれらの感度および精度または実際にはこれらの特異性が不利であることが認識されてきた。
したがって、この問題に対処するため、臭気、芳香などとして感知される、空気中の化学汚染物質の濃度の変化を検出する非特異的センサが、空気処理剤のためのディスペンサと使用するのに費用効果的なセンサであることが認識されてきた。
第7欄第30行~第31行には次のように記載されている:
上述した分配装置の利点は非特異的センサの使用からもたらされる。
【0006】
制御手段は、「バックグラウンド」の所定数の浮遊物質レベルの平均を計算し、「現在の」浮遊物質レベルを計算し、現在の浮遊物質レベルがバックグラウンド浮遊物質レベルを所定の量より多く超えているときに少なくとも1つの空気処理剤を分配するために設けられている(第3欄第47行~第56行)。「好ましくは、バックグラウンド浮遊物質レベルおよび現在の浮遊物質レベルは、好ましくは少なくとも5秒、より好ましくは少なくとも10秒、より好ましくは少なくとも20秒、時間的にオフセットされる」(第4欄第1行~第4行)。「制御手段は、一方の他方からの減算によって、および/または一方の他方に対する比によって、バックグラウンドレベルからの現在の浮遊物質レベルの偏差を計算するように動作可能とすることができる」(第1欄第45行~第49行)。特許文献3も、周囲環境における化合物の濃度を標的とするように構成された浮遊物質検出器を含む臭気検出/軽減装置を開示している。この公報によれば、浮遊物質検出器は、標的浮遊物質の閾値レベルまたは濃度を検出する手段を含み、浮遊物質が検出されると空気処理剤が排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許出願公開第2010/0205731号明細書
【特許文献2】米国特許第9132205号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第20060210421号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第20060223738号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、標的臭気原因浮遊物質を検出し、これに応答して臭気軽減スプレーを分配するための装置および方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態によれば、装置が、
a.周囲環境における少なくとも1つの標的臭気原因物質の存在を検出するためかつ各センサ手段の応答を電気出力信号に変換するための少なくとも1つのセンサ手段であって、センサの電気的応答は少なくとも1つの標的臭気原因物質の存在の変化に従って変化する、少なくとも1つのセンサ手段と、
b.各電気的応答性センサ手段の電気的応答を反映するデータポイントを周期的に収集するためにセンサ手段に動作可能に接続されたプロセッサ手段であって、
c.各電気的応答性センサ手段からの複数の連続するデータポイントが、線形最小二乗回帰によってこれを通る線の傾きを周期的に推定するように、そしてすべての電気的応答性センサ手段の推定された傾きを一緒に加算するように処理される、プロセッサ手段と、
d.臭気軽減流体をスプレーするためのスプレー手段であって、スプレー手段は、プロセッサ手段に動作可能に接続され、
e.すべてのセンサ手段の加算された傾きが閾値レベルを超えると、スプレー手段が臭気軽減流体をスプレーする、スプレー手段と、
を含む。
【0010】
別の一実施形態によれば、方法が、
a.少なくとも1つの臭気原因物質の存在を検出してこれに応答するために少なくとも1つのセンサ手段を周囲環境に曝すステップと、
b.各センサ手段の応答を周期的電気出力信号に周期的に変換するステップと、
c.各周期的電気出力信号を制御手段に送信するステップであって、複数の周期的電気出力信号を使用して線形最小二乗回帰によって周期的電気出力信号間の傾きを計算する、ステップと、
d.これらの傾きを加算するステップと、
e.すべてのセンサ手段の加算された傾きが閾値レベルを超えると、臭気処理剤の周囲環境への放出を作動させるステップと、
を含む。
【0011】
先行技術の文脈において、本発明による線形最小二乗回帰の使用は、これらの装置の精度および動作を改善すると考えられる。
【0012】
加えて、安価で非特異的な臭気センサ手段の使用が望ましいことがあるが、その精度は同じセンサの群内で大きく異なる可能性がある。したがって、多くの装置でこのような非特異的なセンサ手段を使用すると、不一致を補償するために各装置の較正が必要となるはずである。本発明による線形最小二乗回帰の使用はこのような反復的な較正の必要性を排除することができる。最初のセンサ手段が一度装置内で較正されると、後続の装置内での同じセンサの後続の使用を較正する必要がないはずである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明による臭気検出装置の非限定的な一例を示す概略図である。
【
図2】3つのセンサ手段のそれぞれからの生データポイントの集合の例示的なグラフである。
【
図3】20のデータポイントにわたって連続的に実行された3つのセンサ手段のデータのそれぞれについての線形最小二乗回帰の例示的なグラフである。
【
図4】その関連する傾きがラベル付けされた時間t
0とt
1との間の線形最小二乗回帰直線の拡大図である。
【
図5】以下に説明するアルゴリズムのステップを示すフローチャートである。
【
図6】どのように勾配降下法を使用してコスト関数における誤差を低減するかの視覚的表現である。これは、高誤差の領域から誤差が最小化される極小値までの道を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次の詳細な説明において、本明細書の一部を形成する添付の図面を参照する。詳細な説明、図面、および請求項に記載される例示的な実施形態は、限定することを意味するものではない。本明細書に提示される主題の精神または範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用することができ、他の変更を行うことができる。
【0015】
本明細書で、上でも下でも、引用されるすべての刊行物、特許および特許出願はここで、各個々の刊行物、特許または特許出願が参照により本明細書に組み込まれることが具体的かつ個別に示されたのと同じ程度で、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらに、量、濃度、または他の値またはパラメータが、範囲、好ましい範囲、または上方の好ましい値および下方の好ましい値のリストのいずれかとして与えられるとき、これは、範囲が別個に開示されているかどうかに関係なく、任意の上方の範囲の限界または好ましい値と任意の下方の範囲の限界または好ましい値の任意の対から形成されるすべての範囲、ならびに、特定の範囲内で形成される任意の範囲を具体的に開示するものとして理解されるべきである。数値の範囲が本明細書に記載されている場合、特に明記されていない限り、その範囲は、その端点、および範囲内のすべての整数および分数を含むように意図されている。たとえば、1~5という記載は、1および5を含むこれらの間のすべての整数ならびに1と5との間のすべての分数および小数、たとえば、1、1.1、1.2、1.3などを含むように意図されている。さらに、特定の数のリストが提供されるとき、特に明記されていない限り、これは、上限と下限との間のこれらを含む任意の範囲を含むように意図されている。たとえば、1、2、3、4、5、および6のような数のリストは、2~5の範囲を含むように意図されている。具体的な範囲を定義するときに記載された具体的な値に本発明の範囲が限定されることは意図されていない。同様に、1つの数に関する少なくとも、または、最高でという記載は、当該数ならびに当該数より大きいすべての整数、分数および小数を、または当該数までのすべての整数、分数および小数を含むように意図されている。たとえば、「少なくとも5」は、5ならびに5の上方のすべての分数および小数、たとえば、5.1、5.2、5.3などを含むように意図されている。
【0016】
本明細書および添付の請求項で使用されるとき、単数形「a」、「an」および「the」は、内容が明確にそうでないことを指示していない限り、複数の参照対象を含むことが留意される。本明細書で特に明記されていない限り、すべての量は体積に基づく。
【0017】
一実施形態によれば、装置が、
a.周囲環境における少なくとも1つの標的臭気原因物質の存在を検出するためかつ各センサ手段の応答を電気出力信号に変換するための少なくとも1つのセンサ手段であって、センサの電気的応答は少なくとも1つの標的臭気原因物質の存在の変化に従って変化する、少なくとも1つのセンサ手段と、
b.各電気的応答性センサ手段の電気的応答を反映するデータポイントを周期的に収集するためにセンサ手段に動作可能に接続されたプロセッサ手段であって、
c.各電気的応答性センサ手段からの複数の連続するデータポイントが、線形最小二乗回帰によってこれを通る線の傾きを周期的に推定するように、そしてすべての電気的応答性センサ手段の推定された傾きを一緒に加算するように処理される、プロセッサ手段と、
d.臭気軽減流体をスプレーするためのスプレー手段であって、スプレー手段は、プロセッサ手段に動作可能に接続され、
e.すべてのセンサ手段の加算された傾きが閾値レベルを超えると、スプレー手段が臭気軽減流体をスプレーする、スプレー手段と、
を含む。
【0018】
図面の
図1を参照すると、1は全般的に、空気入口3および空気出口4を有する外側ハウジング2で構成される例示的な臭気検出装置の概略図を指す。この装置は、家における部屋(バスルームのような)、乗り物、またはたとえば公衆バスルームにおける不快な臭気を処理することが望ましい他のあらゆる場所のような周囲環境に設置される。例示の目的で
図1に示すように、3つのセンサ手段6、7、および8がハウジング2内に設けられている。それぞれが特定の標的臭気ガスに特異的である、より少ないセンサ手段を使用することが可能であり、たとえば、センサ手段6をアンモニアのみの検出に、センサ手段7を硫化水素の検出に特異的とすることもできる。少なくとも1つのセンサ手段が可能であるが、
図1に示すように、3つのセンサ手段が示されている。複数のセンサ手段を使用するとき、検出される標的臭気ガスのいくらかの重複があり得る。好ましくは、各センサ手段は、他のものが検出しない少なくとも1つの標的臭気ガスを検出する。非限定的な例示的な一例として、センサ手段6は、アンモニアおよび場合によっては硫化水素を除く他のガスを検出することができ、センサ手段7は、硫化水素および場合によってはアンモニアを除く他のガスを検出することができ、そしてセンサ手段8は揮発性有機物を検出することができるが、アンモニアまたは硫化水素を検出しない。このような「非特異的」構成により、より安い非特異的センサ手段の使用が可能になる。
【0019】
標的臭気ガスを検出することができる任意の既知の臭気ガスセンサ手段が使用に適している。非限定的な例示的な例として、金属酸化物半導体型ガスセンサがよく知られており、一般的に使用されている。標的臭気ガスの濃度に基づいて、ガスセンサ手段は、センサの内側の材料の抵抗を変化させることによって対応する電位差を生成し、この電位差を出力電圧として測定することができる。この電圧値に基づいてガスの種類および相対濃度を推定することができる。知られているように、ガスセンサ手段は通常、ガス感知層、ヒータコイル、電極線、セラミックおよび電極からなる。
【0020】
ガス感知層は通常、特定の標的ガスを通過させることのみを可能にする膜であり、この膜は濃度が増加するにつれて導電率が増加する。この層は、環境内の標的ガスの濃度の変化に基づいてその抵抗を変化させる。半伝導金属酸化物(MOX)センサは、空気中に存在する微量の反応性ガスに対して強い感度を示し得ることが知られている。MOXセンサとして使用される既知の酸化物の中には二酸化スズ(SnO2)がある。SnO2センサは、Ptのような触媒添加剤を使用することによって選択性および感度の点で強化することができる。SnO2は過剰な電子(ドナー元素)を有する。センサによって誘発される抵抗変化は、吸収された酸素が標的ガスと反応した結果としての表面電子の損失または利得によって引き起こされる。したがって標的ガスが検出されるたびに層の抵抗が変化し、この層を流れる電流が変動し、これがガスの濃度の変化を表す。
【0021】
加熱された半伝導MOXは、空気中に存在する微量の反応性ガスに対して強い感度を示すことが知られている。ヒータコイルの目的は、感知素子の感度および効率が増加するように感知素子を加熱することである。これは、たとえば、溶けることなく加熱された状態に留まることができるように高い融点を有するニッケルクロムまたはタンタル/白金で作製することができる。電極線はセンサからの出力電流を運ぶ。その高い導体効率のため、白金ワイヤを使用することが通常である。ヒータコイルとガス感知層との間にセラミックを配置してガス感知層の加熱を維持する。セラミックは通常、酸化アルミニウムで作製されている。電極は、センサから端子への出力電流の流れを提供する感知層と電極線との間の接合部である。非限定的な例として、電極は任意の良好な導体材料、たとえば、金で作製することができるが、これは、この材料が優れた導体であるためである。
【0022】
図1における番号5は、入口3から、センサ手段を横切って出口4を通して外へ、装置を通して空気を移動させるためのファン手段を指す。ハウジング内のファン手段の場所は、ファン手段がセンサ手段を横切る空気の上記の流れを提供し、スプレー手段20からのスプレーの効果的な流れを妨げない限り、重要ではない。ファン手段5は連続的に動作することができ、または断続的に動作するようにプログラムすることができる。
【0023】
標的臭気ガスを処理するための臭気軽減流体19を収容するために容器手段12が設けられている。容器手段12はキャニスタまたはボトルのような任意の適切な容器とすることができる。軽減流体はポンピング可能な液体または加圧された液体と気体との混合物のような任意の使用可能な形態をとることができる。臭気軽減流体は、たとえば、液体のポンピングまたは加圧された液体と気体との混合物のバルブ解放によって、ノズル手段18から出口17を介してエアロゾルとして分配することができる。
【0024】
機械アーム11を移動させるために既知の駆動手段10が設けられている。駆動手段10は、たとえば、機械アーム11に所望の動きを与えるように設計されたサーボモータとすることができる。非限定的な例として、容器手段12がポンピング可能な液体を収容する場合、駆動手段は機械アームを規則的な頻度で上下に移動させてノズル手段18にポンピング運動を与える。容器手段が加圧された液体と気体との混合物を収容する場合、駆動手段は機械アーム11を所望の期間下に移動させてエアロゾルを分配し、次いでノズル手段18から離れるように上方に移動される。装置がすべてのセンサ手段の加算された傾きの閾値レベルを検出しなくなるまで、スプレー手段は臭気軽減流体をスプレーし続けることができる。あるいは、装置は、すべてのセンサ手段の加算された傾きの閾値レベルを検出すると、あらかじめ設定された時間、臭気軽減流体をスプレーするようにプログラムすることができる。
【0025】
参照番号13は全般的に、たとえば、交換可能または再充電可能なバッテリ、太陽電池、またはコンセントによって提供される直接電気の形態をとることができる既知の電源を指す。電源13は、図示のように、14でファン手段5に、15で制御ユニット9に、16で駆動手段10に、そして21でセンサ手段6、7、および8に、エネルギーが要求されるすべての構成要素にエネルギーを提供する。
【0026】
従来のマイクロコントローラのような制御手段9が設けられ、制御手段9は、内部メモリに格納されたプログラムを実行するためのマイクロプロセッサのようなプロセッサ手段を含む。メモリは、臭気センサおよび軽減動作に要求されるデータのための格納場所も提供する。制御手段9は、外部構成要素とインターフェースするための入力/出力回路を有する。プログラム可能手段の代替として、臭気センサおよび軽減装置の動作を制御するための論理回路を有するカスタム集積回路によって制御回路を実装することができる。
【0027】
別の一態様によれば、複数のセンサ手段が設けられ、各センサ手段は異なる標的ガスを検出する(異なる標的ガスに応答する)。さらなる一態様によれば、第1のセンサ手段が、硫化物標的ガス、および芳香ガスを除く他のガスを標的とし、第2のセンサ手段が、硫化物標的ガスを除く全有機揮発性物質を感知する。さらに別の一態様によれば、第1のセンサ手段が、硫化物標的ガス、ならびに芳香ガスおよびアンモニアを除く他のガスを標的とし、第2のセンサ手段が、硫化物標的ガスおよびアンモニア標的ガスを除く全有機揮発性物質を感知し、第3のセンサ手段が、アンモニア標的ガス、ならびに硫化物標的ガスおよび芳香ガスを除く他のガスを感知する。
【0028】
芳香剤(ガス)は、環境に心地よい香りを加えることで知られている。芳香剤の非限定的な例示的な例、たとえば特許文献4に例示されているものは、エステル、エーテル、アルデヒド、ケトン、アルコールおよび炭化水素タイプの合成製品である。エステルタイプの臭気化合物は、たとえば、酢酸ベンジル、イソ酪酸フェノキシエチル、酢酸p-tert-ブチルシクロヘキシル、酢酸リナリル、酢酸ジメチルベンジルカルビニル、酢酸フェニルエチル、安息香酸リナリル、ギ酸ベンジル、メチルフェニルグリシン酸エチル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、プロピオン酸スチラリルおよびサリチル酸ベンジルである。エーテルは、たとえば、ベンジルエチルエーテルを含み、アルデヒドは、たとえば、8~18個の炭素原子を有する直鎖アルカナール、シトラール、シトロネラール、シトロネリルオキシアセトアルデヒド、シクラメンアルデヒド、ヒドロキシシトロネラール、リリアルおよびブルジョナールを含み、ケトンは、たとえば、イオノン、a-イソメチルイオノンおよびメチルセドリルケトンを含み、アルコールは、アネトール、シトロネロール、オイゲノール、ゲラニオール、リナロール、フェニルエチルアルコールおよびテルピネオールを含み、炭化水素は主にリモネンおよびピネンのようなテルペンを含む。心地よい芳香ノートを一緒に生み出す芳香剤の混合物も使用することができる。このような芳香油はまた、植物源、たとえば松油、柑橘類油、ジャスミン油、パチョリ油、ローズ油またはイランイラン油から得られるような天然臭気混合物を含むことができる。同様のものは、マスカテル、セージ油、カモミール油、クローブ油、バーム油、ミント油、シナモン葉油、ライム花油、ジュニパーベリー油、ベチバー油、オリバナム油、ガルバナム油およびラブダナム油、ならびにオレンジ花油、ネロリ油、オレンジピール油およびサンダルウッド油である。
【0029】
さらなる一態様によれば、本発明による装置は、既知の通信、たとえばWiFi(登録商標)、Zigbee(登録商標)、ブルートゥース(登録商標)などのようなIEEE規格を介して他の装置と通信することができる無線ローカルエリアネットワークモジュールを含むことができる。例として、通信プロトコルは、Zigbee、MiFi、MiWi、DMX、ANT、Z-Wave、Insteon、JenNet-IP、Χ10、メッシュネットワーク、可視光、超音波、赤外線、および低電力ワイヤレスパーソナルエリアネットワーク上のIPv6のようなIPバージョン6(IPv6)の1つまたは複数を含み得る。これらの装置は、押しボタンによって直接、またはネットワークもしくは遠隔制御装置、たとえば、携帯電話もしくはコンピュータからの信号によって動作させることもできる。
【0030】
すでに述べたように、複数のデータポイントが各センサ手段によって処理される。たとえば、少なくとも3、または少なくとも5、または少なくとも10、少なくとも15または少なくとも20のデータポイントを各センサ手段によって処理することができる。また、すでに述べたように、プロセッサ手段は、各電気的応答性センサ手段の電気的応答を反映するデータポイントを周期的に収集および処理するためにセンサ手段に動作可能に接続されている。データポイントを収集するための任意の期間(t0、t1)を使用することができる。たとえば、少なくとも1秒ごと(ここでt1=1)、または少なくとも3秒ごと(ここでt1=3)、または少なくとも5秒ごと(ここでt1=5)、または少なくとも10秒ごと(ここでt1=10)に、データポイントを収集することができる。
【0031】
アルゴリズム
一態様によれば、アルゴリズムは、線形最小二乗回帰、任意選択のデータコンディショニング、任意選択のデータ正規化、およびデータ重み付けを利用する。アルゴリズムの目的は、臭気軽減流体をいつスプレーするかを決定することである。目標は、悪臭が存在するときに製品をスプレーし、逆に、臭気が存在しないときに製品をスプレーしないことである。したがって、スプレーしている(悪臭が存在する)、またはスプレーしていない(臭気が存在しない)、という2つの機械状態がある。2つのみの状態を備えた変数はブール値と呼ばれ、真(1)および偽(0)の2つの可能な変数を有する。ここから真は1として言及し、偽は0として言及する。アルゴリズムの目標は、センサデータを受信し、センサデータを解釈し、そして「0」(スプレーしない)または「1」(スプレーする)のいずれかを返すことである。正しくプログラムされれば、システムは、悪臭が存在しないときは0を返し、悪臭が存在するときは1を返すはずである。
【0032】
線形最小二乗回帰
上記のように、一態様によれば、各電気的応答性センサ手段からの複数の連続するデータポイントが、線形最小二乗回帰によってこれを通る線の傾きを周期的に推定するように処理される。
【0033】
収集されて2次元グラフ上にプロットされたデータは通常直線上にないため、線形最小二乗回帰を利用してデータを通る直線を推定する。
【0034】
与えられたデータから直線を推定するには次の式を使用する。
y = mx + b (1)
ここでmは傾き、bはy切片である。線形最小二乗回帰を実行するという目的のため、
【数1】
ここでx
aveはx値の平均を示し、y
aveはy値の平均を示す。次いで、式(1)においてy
aveおよびx
aveに対応する値を代入することによってbを解くことができる。
【0035】
次は、2秒間隔で測定された仮説的処理済みデータポイントに線形最小二乗回帰を適用した例示である。
【0036】
【0037】
式(2)によると
【数2】
式(1)に従ってbを解くと、
b = y
ave - mx
ave
b = 19.75 - 2.25(4) = 10.75
となり、yは次のように決定される。
y = mx
ave + b
【0038】
したがって、
y = 2.25xave + 10.75
【0039】
次に、t
0(x=0)で開始して、1秒の増分を式(3)に加える。
【表2】
【0040】
時間対回帰直線データおよび生データを同じグラフ上にプロットする。
【数3】
【0041】
しかしながら、一態様によれば、センサ間にばらつきがあり、それぞれを較正しようとしないことが好ましいため、y切片bは式から除去される。
【0042】
一態様によれば、線形最小二乗回帰は、指定された時間セグメントにわたって収集された各センサ手段からのデータのセットに連続的に適用され、すなわち、「移動線形最小二乗回帰」である。移動線形最小二乗回帰はデータ処理方法の時間分解能を指す。移動平均と同様に、所定のデータのセットからなるウィンドウは、所与のセンサ手段によって収集された最新の値を含む。新たなデータ値がセンサ手段によってプロセッサに提供されると、ウィンドウ内に格納されているデータがシフトし、ウィンドウ内の最も古い値が破棄され、最新の値が格納される。この方法によって、各時間サイクルで、または新たなセンサ値を受信したとき、線形回帰直線を新たなデータのセットに適合させることができる。
【0043】
任意選択のデータコンディショニング
別の一態様によれば、データは任意選択でデータコンディショニングを受ける。所与の標的臭気センサ手段が、そのセンサ手段の設計によって決定される範囲に関するデータを記録する。たとえば、この範囲は電圧ベースまたはカウントベースにすることができる。例として、電圧ベースのセンサ手段は0ボルトと5ボルトとの間の電圧を返すことができ、カウントベースのセンサ手段は、百万分率(ppm)または十億分率(ppb)の単位で浮遊微粒子の測定値を返すことができる。したがって、データ範囲が異なると、同じグラフ上にデータをプロットすることが困難になる可能性がある。単位が異なるこのようなセンサ手段の比較を可能にするため、複数のセンサ手段から得られたデータをスケールすることが必要になることがある。例示として、本明細書で使用されるデータコンディショニングは単位ベースの正規化に従って所与のセンサについての値の範囲を所望の範囲、たとえば、[0,1]にする。次の式は、データのセットをコンディショニングするための単位ベースのアプローチを詳説する。
【数4】
ここでx
minおよびx
maxは各センサに固有であり、x’はコンディショニングされたデータである。
【0044】
次は、xの代わりにyを測定値として使用して2秒間隔で測定された仮説的処理済みデータポイントにデータコンディショニングを適用した例示である。
【0045】
【0046】
この例において式(3)におけるx値にyを代入する。
ymax = 27
ymin = 14
【0047】
【0048】
さらなる一態様によれば、傾きは任意選択で正規化される。式(2)に従って計算された傾きは、非限定的な例示的な例として、次の式を使用して範囲[-1,1]に正規化することができる。
【数5】
ここでm
min = -m
maxである。したがって、式(5)は次のように簡略化することができる。
【数6】
ここでm
maxは線形回帰分析の時間分解能および最大センサ手段値の関数である。前述したように、各回帰直線は[t
0,t
1]にわたって計算され、最大センサ手段値は、上で説明したような単位ベースのコンディショニングの後1に正確に等しくなる。したがって、m
maxは次のように定義することができる。
【数7】
代入によって次のような正規化された傾きが得られる。
m’ = m(t
1 - t
0) (7)
【0049】
臭気判定
別の一態様によれば、それぞれの傾きは一緒に加算される前に重み付けされる。上のように決定された傾きは、重み付け定数を使用して重み付けされ、標的臭気原因物質が悪臭の感覚を引き起こす可能性が高いほど十分に存在する確率に相関する値を返すために使用され、次のように決定することができる。
β
1m
1 +β
2m
2 + …β
pm
p = x (8)
ここでpは使用されているセンサ手段の数であり、β
pは、各センサ手段に関連付けられた所定の重み付け定数である。xの値を次いで使用して、次に従ってスプレー手段を作動させるべきかどうかを指示するブール値を与える。
【数8】
1以下の値はスプレー手段を作動させるべきではないことを指示する一方、1より大きい値はスプレー手段を作動させるべきであることを指示する。
【0050】
センサ手段の重み付け定数の決定
悪臭の存在を最も正確に予測する関数が見つかるまで、βの異なる値がデータセットに使用される。各β値は、式(9)の誤差が最小化されるように設定される。最初に、式(9)は、複数のセンサ手段からのデータのセットが与えられると、臭気が存在するか否かに関する「推測」を返す。式(9)が正確な応答を返すか否かは、式(9)の結果を「グランドトゥルースデータセット」に対して比較することによって判定することができる。本明細書で使用されるとき、「グランドトゥルースデータセット」は、式(9)が返すように設計されている正しい値として定義される。この文脈において、グランドトゥルースデータセットは、臭気感知装置が配置されている環境に悪臭が存在するか否かに関する人間による定性的評価からなる。この「グランドトゥルースデータセット」は、同じ時間枠中に収集されたセンサデータと対になってラベル付きトレーニングデータセットを作成する。
【0051】
このトレーニングデータを使用して、式(9)の誤差を最小化するβ値のセットが求められる。これらのβ値は、勾配降下法、この例において複数の変数のための勾配降下法という既知のアルゴリズムツールを使用して求められる。このプロセスにより推論関数が生成されることになり、これを次いで見えないデータに適用して可能な限り正確な応答を生成することができる。このプロセスは教師あり機械学習として知られており、推論関数のための基礎として機能する。
【0052】
勾配降下法
勾配降下法は、モデルのトレーニングに使用される既知の反復最適化アルゴリズムである。簡単に言うと、勾配降下法は、コスト関数(予測誤差)を最小化するパラメータを見つける。勾配降下法は、コスト関数を最小化するパラメータ値のセットに向かって、勾配の逆方向にステップをとりながら反復的に移動することによってこれを行う。
【0053】
コスト関数は、アルゴリズムが推論関数の精度を判定する方法である。この用途におけるコスト関数は、二項分類の品質の尺度として機械学習で一般的に使用されるマシューズ相関係数(MCC)についての式である。この用途において臭気が存在するか否かの判定は二項システムとみなすことができる。マシューズ相関係数は-1と+1との間の値を返す。+1の値は完全な予測を表し、0は偶然を表し、そして-1は予測と観測との間の完全な不一致を表す。この用途において、コスト関数を最小化することは、+1にできるだけ近いMCC値を取得することに相当する。
【0054】
【0055】
ここでTPはトレーニングデータセットにわたる真陽性の総数、TNはトレーニングデータセットにわたる真陰性の総数、FPはトレーニングデータセットにわたる偽陽性の総数、そしてFNは、トレーニングデータセットにわたる偽陰性の総数である。真陽性は、観測値も陽性であるときの予測陽性値として定義される。真陰性は、観測値も陰性であるときの予測陰性値として定義される。偽陽性は、観測値が陰性であるときの予測陽性値として定義される。偽陰性は、観測値が陽性であるときの予測陰性値として定義される。
【0056】
式(10)を使用してトレーニングデータのセットにわたる推論関数の精度を判定することができる。推論関数の精度を知ることは、勾配降下法として知られるプロセスにおける誤差を最小化することを可能にする。
【0057】
勾配降下プロセスを開始する前に、初期ベータ値のセットが選択される。勾配降下プロセスによってこれらの値がより正確なものに調整されることになるため、各ベータの初期値は重要ではない。非限定的な例として、初期ベータ値は[-20,20]の範囲における何らかの値とすることができる。次のステップは、学習率係数を定義することである。学習率は、降下プロセス中にベータ値がどのくらい速く変化することになるかを指定する。通常、学習率が高いと精度が犠牲になって計算効率が良好になる一方、学習率が低いと計算効率が犠牲になって精度が高くなる。非限定的な例として、[0.0001,1]の範囲における学習率のプロセスが選択される。
【0058】
勾配降下プロセスを開始するため、推論関数で選択されたベータ値の初期セットを使用してトレーニングデータの所与のセットについてのMCC値を計算する。次に、元のベータ値+/-学習率係数のすべての異なる組み合わせからなる新たなベータ値の配列が作成される。たとえば、ベータ値が3つあり、それぞれが1に等しく、学習率が0.1であれば、配列は次の表に示す結果になる。
【表5】
上の表は、元のベータ値、元のベータ値プラス学習率係数、または元のベータ値マイナス学習率係数のいずれかのすべての組み合わせからなる。この表におけるベータ係数の各行を次いで推論関数とともに使用してトレーニングデータセットにわたるMCC値を計算する。これにより、上の値配列表と同様に、以下に示す各行についてのMCC値が得られる。
【表6】
上の表において(1,1,1)の初期ベータ値に関連するMCC値が0.10であることがわかる。目標はできるだけ1に近いMCC値を取得することであるため、最大の正の勾配の方向は、1に最も近いベータ値のセットになる。これは上の表の場合、0.70のMCC値を生成するベータ値の最後の行である。
【0059】
上で詳説したプロセスを次に(1.1,1.1,1.1)の初期ベータ値で繰り返し、終了条件が満たされるまで繰り返す。新たに決定されたMCC値が以前に決定されたMCC値にほぼ正確に等しければ(たとえば関数が無限にループすることを防止するために10=3のオーダーで)、終了条件が満たされる。考え方としては、1回の反復から次までのMCC値の変化がイプシロン未満であれば、勾配降下プロセスで極大値にかなり近い値が見つかり、したがって勾配降下プロセスを終了することができるということである。このプロセスを反復的に実行する結果、所与のトレーニングデータセットにわたって達成することができる最高のMCC値(+1に最も近い)を表す新たなベータ値が得られることになる。これらのベータ値を次いで使用して推論関数を完成させる。
【0060】
図6は、どのように勾配降下法を使用してコスト関数における誤差を低減するかの良好な視覚的表現である。これは、高誤差の領域から誤差が最小化される極小値までの道を示す。
【0061】
例
次の例は、本発明のいくつかの態様を説明するために提供されており、その範囲を限定するように意図されていない。
【0062】
複数の変数のための勾配降下法は、非限定的な例として、以下に実質的に再現されるhttp://mlwiki.org/index.php/Gradient_Descentで示されているように、よく知られた数学的アプローチである。
【0063】
勾配降下法
コスト関数JJがあり、これを最小化したいとする。
・2つのパラメータθ0およびθ1を取るとする。
・したがって最小化したいJ(θ0,θ1)がある。
【0064】
考え
・何らかの(θ0,θ1)、たとえば(0,0)で始める。
・最終的に最小値になるまで(θ0,θ1)を変更してJ(θ0,θ1)を減らし続ける。
【0065】
疑似コードにおいて
・収束するまで繰り返す。
○j=0およびj=1では
【数10】
αは学習率であり、とるステップのサイズを指定する値である。
【0066】
同時アップデート
(θ
0,θ
1)のための更新は同時であらねばならないことに留意されたい。すなわち
【数11】
【数12】
・θ
0 =τ
0
・θ
1 =τ
1
【0067】
ご覧のとおり、θ0を使用してθ1についての新たな値を計算し、したがってθ0についての新たな値を計算する前にこれを更新することはできない。
【0068】
これを同時アップデートという。
【0069】
直感
どのようにこれが働くかを見てみる。
・1つのみの変数θ
1および
【数13】
があれば、
【数14】
偏導関数を見てみる。
【数15】
導関数が正であれば
【数16】
・左に移動する。
θ
1 =θ
1 -β
導関数が負であれば
【数17】
・右に移動する。
θ
1 =θ
1 +β
【0070】
2つの変数ではコスト関数は次のようになるであろう。
【数18】
学習率
・αが小さすぎるとき、非常に小さなステップをとっており、遅すぎる。
・αが大きすぎるとき、大きすぎるステップをとっており、最小値を逃す可能性がある。
・この場合、収束しないだけでなく、発散する可能性さえある。
【0071】
最小値に近づく
・極小値に近づくにつれて、これはますます小さくなるステップをとる。
・θ1が極小値にあれば、β = 0となり、θ1は変化しない。
【0072】
凸関数
極小値で終わりたくなければ、コスト関数Jは凸であらねばならない。
【0073】
一変量線形回帰
・サイズmの所与の入力データセット{x(i),y(i)}
・仮説h(x) =θ0 +θ1xがある。
・h(x)が入力データのセットに最も近くなるようにθ0およびθ1をどのように選択するか。
【0074】
コスト関数を最小化する必要がある。
【数19】
・これは二乗誤差コスト関数である。
【0075】
式を簡略化してみる。
【数20】
次に導関数を計算すると次のようになる。
・θ
0では
【数21】
・θ
1では
【数22】
【0076】
したがって回帰ではアルゴリズムは次のようになる。
・収束するまで繰り返す
【数23】
【数24】
・(同時に更新)
【0077】
二乗誤差コスト関数は凸であり、したがって常に大域的最小値に収束する。
【0078】
多変量線形回帰のための勾配降下法
多変量線形回帰では
【数25】
および
【数26】
があり、
・n - 特徴の数
・m - トレーニング例の数
・そしてすべてのi(傾き)についてx
0
(i)=1
【0079】
したがってコスト関数は次の形式をとる。
【数27】
【0080】
アルゴリズム:
・繰り返す
○すべてのiについて同時に
【数28】
または、導関数を計算したら、
・繰り返す
○すべてのiについて同時に
【数29】
【0081】
実際の勾配降下法
特微量スケーリング
特微量スケーリングを使用してGDがより速く収束することを助ける
学習率
・どのようにαを選択するか。
・勾配降下法が適切に働けば、コスト関数は各反復後に減少するはずである。
・1回の反復でJが∈=10-3未満減少すれば、収束を宣言する。
・代わりにJが増加していれば、αを小さくする必要がある。
αを選択する。
・しかし小さすぎるαを選択しない。収束に時間がかかりすぎる。
・αを選択してみる。
...,0.001,0.01,0.1...または3倍に増やす。
・そして何が受け入れ可能であるかを見る。
【0082】
図2は、毎秒記録される生のセンサ手段データの記録を示している。強調表示された(グレー)領域は、周囲環境(この例において住宅のバスルーム)にいつ負の臭気が存在するか(主観的な「におい」テストによって)を示す。目標は、環境内にいつ負の臭気が存在するかをアルゴリズムに正確に決定させることである。次のような3つのセンサ手段を使用した。
AdafruitからのCCS8811 Air Quality Sensor
アンモニア用SainSmart MQ135 Sensor
SainSmart MQ136 Hydrogen Sulfide Sensor
【0083】
図3は、トレーニングデータセットの例示的な一例である。すでに述べたように、
図3は、
図2の生データについて3つのセンサ手段のそれぞれについて20のデータポイントにわたって連続的に実行された線形回帰を示す。図示のように、この結果、常に3つの異なるデータポイント、つまり各回帰直線の傾きが得られる。各センサ手段についてのデータポイントの数は、たとえば約5から約500まで変化し得る。図示のように、データポイントは毎秒収集されるが、たとえば、約0.1と約10秒との間で変化し得る。このデータセットをトレーニングデータとして指定するものは、ラベルが付いているという事実である。すなわち入力(センサ手段の値)の各セットについて、指定された出力(臭気が存在するかどうか)がある。
図3において人間によって臭気が検知された領域がグレーで強調表示されている。
【0084】
図4は、
図3からランダムに選択されたセグメント(t
0~t
1)の拡大図を示し、線形最小二乗回帰によって決定されたような各センサ手段の傾きが示されている。したがって、センサ手段MQ135についての傾き(m
1)は1.15(M1)であると決定され、センサ手段MQ136についての傾き(m
2)は1.10(M2)であると決定され、そしてセンサ手段CCS8811についての傾き(m
3)は5.35(M3)であると決定された。
【0085】
傾きのそれぞれは次いで、上の式(9)を使用して推論関数に入力される。教師あり機械学習プロセスにより、新たな例のマッピングに次いで使用される推論関数が生成される。3つのセンサ手段では、式(8)に従って、推論関数は次のようになる。
β
1m
1 +β
2m
2 +β
3m
3 = x、(11)
ここでβは、それぞれの傾きに重みを付けるための重み係数である。
図4に示す傾きをこの式に代入すると、
β
11.15 +β
21.10 +β
35.35 = x (12)
となり、式(9)によるブール関数は次のようになる。
【数30】
【0086】
推論関数によりxについての値が生成され、これが次いでブール関数に入力される。スプレーを誘発するまたは誘発しないx値はランダムに選択することができる。たとえば、値が1以下であれば、関数は0(スプレーしない)を返し、xについての値が1より大きければ、関数は1(スプレーする)を返す。
【0087】
再び
図3を参照すると、3つのセンサ読み取り値の傾きが既知であり、これらのすべてが、強調表示されている、その臭気感知ゾーンにある。X>1のブール関数結果を与えるβ
1)β
2およびβ
3の値が求められる。これらの値についての推測で始めて、多変量多重降下法を使用して改良すると、X>1である、正しいブール関数を与える値が見つかる。強調表示された領域(臭気が感知される)内およびその外側(臭気が感知されない)の両方に入る既知の傾きでこのプロセスを複数回実行すると、勾配降下法を使用してセンサからの新たな読み取り値をマッピングするための推論関数が導出される。
【符号の説明】
【0088】
1 臭気検出装置
2 外側ハウジング
3 空気入口
4 空気出口
5 ファン手段
6 センサ手段
7 センサ手段
8 センサ手段
9 制御手段
10 駆動手段
11 機械アーム
12 容器手段
13 電源
17 出口
18 ノズル手段
19 臭気軽減流体
20 スプレー手段
【国際調査報告】