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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】リチウム硫黄セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20240912BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240912BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20240912BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M4/136
H01M4/36 E
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/1397
H01M10/058
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517527
(86)(22)【出願日】2022-09-20
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 EP2022076077
(87)【国際公開番号】W WO2023041799
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】2113364.0
(32)【優先日】2021-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マニッシュ・チョワラ
(72)【発明者】
【氏名】ジュアンナン・リ
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ04
5H029AJ05
5H029AK05
5H029AL02
5H029AL12
5H029CJ12
5H029HJ08
5H029HJ19
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA09
5H050BA16
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB12
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050GA12
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA08
5H050HA19
(57)【要約】
本発明は、リチウム硫黄セル、リチウム硫黄セルを作製する方法、及びリチウム硫黄セルを備える電池に関する。リチウム硫黄セルは、式(I):LiMX(式中、aは0.0~2.0であり、XはS、Se及びTeから選択され、MはTi、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Tc、Re、Pd又はPt等の遷移金属である)の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層を含む膜を備える作用電極を備える。リチウム硫黄セルを作製する方法は、遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離して、式(I)の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを提供する工程と、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層と硫黄又は(多)硫化リチウムとを含む膜を備える作用電極を組み立てる工程と、作用電極、対電極及び電解質を備えるリチウム硫黄セルを組み立てる工程とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用電極、対電極及び電解質を備えるリチウム硫黄セルであって、作用電極が、
式(I):
LiMX (I)
(式中、
aは0~2.0であり、
XはS、Se及びTeから選択され、
Mは遷移金属である)
の金属相遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)の積層層と、
硫黄又は(多)硫化リチウムと
を含む膜を備える、リチウム硫黄セル。
【請求項2】
TMDが、2次元TMDであり、任意選択で、作用電極が、TMDの積層ナノ層又は単層を備える、請求項1に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項3】
TMDが剥離TMDである、請求項1又は2に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項4】
TMDが、プレリチオ化TMD、例えば、aが0.1~2.0、好ましくは0.5~1.0、より好ましくは0.6~0.8であるものである、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項5】
aが0である、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項6】
XがSである、請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項7】
MがV、Nb、Mo及びWから選択され、好ましくはMがMo又はNbである、請求項1から6のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項8】
LiMXの硫黄に対する質量比が1:2~1:3である、請求項1から7のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項9】
作用電極が、
(a)1質量%以下の量の導電性炭素、及び/又は
(b)1質量%以下の量のバインダー
を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項10】
リチウム硫黄セルを作製する方法であって、
(a)遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)を剥離して、式(I):
LiMX (I)
(式中、
aは0~2.0であり、
XはS、Se及びTeから選択され、
Mは遷移金属である)
の金属相TMDを提供する工程と、
(b)金属相TMDの積層層と硫黄又は(多)硫化リチウムとを含む膜を備える作用電極を組み立てる工程と、
(c)作用電極、対電極及び電解質を備えるリチウム硫黄セルを組み立てる工程と
を含む、方法。
【請求項11】
工程(a)が、TMDを化学的に剥離すること、例えば、有機リチウム化合物、好ましくはブチルリチウム化合物でTMDを処理することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)が、遷移金属ダイカルコゲナイドと硫黄との複合材料を形成することを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
工程(b)が、遷移金属ダイカルコゲナイドを粉末硫黄の等の硫黄と共沈させることを含む、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(b)において、LiMXの硫黄に対する質量比が1:2~1:3である、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
aが0.5~1.0、好ましくは0.6~0.8である、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
i)XがSであり;及び/又は
ii)MがV、Nb、Mo及びWから選択され、好ましくは、MがMoである、
請求項10から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項10から16のいずれか一項に記載の方法によって得られる、又は得ることができる、リチウム硫黄セル。
【請求項18】
80%以上の硫黄利用率を有する、請求項1から9及び17のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項19】
200サイクルで80%以上の容量維持率を有する、請求項1から9及び17から18のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項20】
作用電極の面積硫黄担持量が6~10mgcm-2である、請求項1から9及び17から19のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項21】
セルの重量エネルギー密度が350Whkg-1以上である、請求項1から9及び17から20のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項22】
セルの体積エネルギー密度が650WhL-1以上である、請求項1から9及び17から21のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル。
【請求項23】
請求項1から9及び17から22のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セルを1つ又は複数備える、リチウム硫黄電池。
【請求項24】
請求項1から9及び17から22のいずれか一項に記載のリチウム硫黄セル、又は請求項23に記載のリチウム硫黄電池を充電及び/又は放電する方法。
【請求項25】
リチウム硫黄セルの作用電極における導電性基材としての、式(I):
LiMX (I)
(式中、
aは0~2.0であり、
XはS、Se及びTeから選択され、
Mは遷移金属である)
の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2021年9月20日(20.09.2021)に出願されたGB2113364.0の優先権及びその利益を主張するものであり、その内容は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、リチウム硫黄セル、リチウム硫黄セルを作製する方法、及びリチウム硫黄セルを備える電池に関する。
【背景技術】
【0003】
ネットゼロ炭素排出への移行には、電子デバイスの性能の大きな変化が必要である。リチウムイオン電池の基本的な限界を克服する新しい化学物質に基づく電池は、より高性能な電子デバイスへの移行を可能にする上で重要な役割を果たす。
【0004】
リチウム硫黄(Li-S)電池は、高エネルギー密度、低材料コスト、及び優れた安全性をもたらす可能性がある。Li-S電池は、SとLiSとの間の変換反応に基づいており、従来のリチウムイオン電池で使用されている挿入酸化物カソード及びグラファイトアノードの限界を克服することができる。しかし、カソードにおける硫黄利用率の低さ、反応速度の遅さ、自己放電、容量維持率の低さ、寿命の短さといった基本的な課題が、Li-S電池の開発を妨げてきた。
【0005】
公知のLi-S電池は、硫黄カソード及びリチウム金属アノードを使用している。硫黄は電気絶縁性であるため、より導電性の高いホスト(典型的には炭素、改質炭素質材料、又は機能性高分子材料)に担持させる必要があることを意味する。硫黄-炭素カソードを結合させるために、多くの場合バインダーが必要である。しかし、硫黄に対する炭素及びバインダー「足場」の比率が高いと、全体的なエネルギー密度が低下する。これは、カソードに追加の不活性成分が存在し、硫黄に対する電解質の比率が高くなるためである。
【0006】
炭素は、多くの場合疎水性であり、電解質による濡れ性が悪い。これは、電解質とカソードとの間のイオン拡散を妨げ、容量とレート特性(rate capability)の両方を低下させる。
【0007】
更に、硫黄と炭素との相互作用が弱いと、電解質中への溶解によって硫黄が失われることがある。式Li(2≦x≦8)を有する多硫化リチウム(LiPS)は、電解質に容易に溶解し、アノードに向かって拡散する。この効果はLi及びLiにおいて特に顕著である。この「多硫化物シャトル」効果により、自己放電が起こり、容量維持率が低下し、電池寿命が短くなる。
【0008】
典型的には、Li-Sカソードには、導電性フレームワーク上に分散した非導電性電極触媒も含まれることがある。これにより、固体-固体界面の電荷移動抵抗が内部で生じ、活性側に到達する電子の数が減少する。
【0009】
従来の硫黄カソードにおける別の問題は、放電時の体積膨張である。SとLiSとの間の変換は、80%近い体積膨張をもたらし得る。この膨張による機械的応力が電極の破断を引き起こし、電極の一部を損傷させ、カソードの導電性及び電池容量を低下させることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】CN108232164
【特許文献2】CN108649194
【特許文献3】CN111293293
【特許文献4】KR1020200025409
【特許文献5】US2019/0165365
【特許文献6】WO2018/226158
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Bediako et al. Nature, 2018, Vol.558, pp.425-429.
【非特許文献2】Chen et al., Nano Lett., 2017, Vol.17, pp.3061-3067.
【非特許文献3】Chhowalla et al., Nature Chemistry, 2013, Vol.5, pp.263-275.
【非特許文献4】Chhowalla et al., Chem. Soc. Rev., 2015, Vol.44, 2702-2712.
【非特許文献5】Li et al., Nat. Commun., 2018, Vol 9, No.4509.
【非特許文献6】Luo et al., “ACS Energy Lett., 2020, Vol.5, pp.1177-1185.
【非特許文献7】Mao et al., Nat. Commun. 2017, Vol.8, No.14628.
【非特許文献8】Ogihara et al., J. Electrochem. Soc., 2012, Vol.159, pp.A1034-A1039.
【非特許文献9】Pang et al., Adv. Energy Mater. 2017, Vol.7, No.1601630.
【非特許文献10】Shi et al., Energy Environ. Sci., 2020, Vol.13, pp.3620-3632.
【非特許文献11】Wang et al., Energy Storage Mater., 2019, Vol.18, pp.414-422.
【非特許文献12】Xue et al., Nat .Energy, 2019, Vol.4, pp.374-382.
【非特許文献13】Zhao et al., “Nat. Nanotechnol., 2021, Vol.16, pp.166-173.
【非特許文献14】Zhang et al., Angew. Chemie - Int. Ed., 2018, Vol.57, pp.16732-16736.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、エネルギー密度、反応速度、自己放電に対する耐性、容量維持率、及び寿命が改善されたLi-S電池が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、一般に、式(I):
LiMX (I)
(式中、aは0.0~2.0であり、XはS、Se及びTeから選択され、Mは遷移金属である)
の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを含む作用電極を有するリチウム硫黄セル(Li-S)を提供する。
【0014】
したがって、本発明の第1の態様において、作用電極、対電極及び電解質を備えるリチウム硫黄セルであって、作用電極が、
式(I):
LiMX (I)
(式中、
aは0~2.0であり、
XはS、Se及びTeから選択され、
Mは遷移金属である)
の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層と、
硫黄又は(多)硫化リチウムと
を含む膜を備える、リチウム硫黄セルが提供される。
【0015】
本発明者らは、第1の態様のLi-S電池が優れた電気化学的特性を有することを見出した。金属相遷移金属ダイカルコゲナイド電極材料は、導電性基材及び電極触媒として同時に機能する。このため、導電性フレームワーク上に分散した非導電性電極触媒を含む典型的なLi-S電極とは対照的に、第1の態様の電池に使用される電極材料は、固体-固体界面を有しない単一材料である。これにより、電極触媒活性部位への電子輸送が容易になり、硫黄還元反応(SRR)を効率的に進行させることができる。
【0016】
更に、第1の態様のLi-S電池は、有利に高い重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度も有する。金属相遷移金属ダイカルコゲナイド電極は、電極内の硫黄を固定するためのバインダーを必要としない。理論に束縛されることを望むものではないが、硫黄は層状遷移金属ダイカルコゲナイドのナノシート間に確実に付着し、この部位への高い親和性によりバインダーの必要性がなくなる。また、本発明の金属相遷移金属ダイカルコゲナイド電極の自立性及び良好な導電性は、集電体なしでカソードを使用することができることを意味する。これにより、電池のエネルギー密度も向上する。
【0017】
更に、第1の態様のLi-S電池は、公知の硫黄カソードと比較して、電極材料の破断が起きにくい。SとLiSとの間の体積膨張は、層状材料によって吸収される。したがって、電極は電極材料の割れ及び損傷の影響を受けにくい。これは、電池がより安定し、容量維持率が改善され、サイクル寿命が長くなることを意味する。
【0018】
好ましくは、リチオ化金属相遷移金属ダイカルコゲナイドが使用される。したがって、本発明の第2の態様において、作用電極、対電極及び電解質を備えるリチウム硫黄セルであって、作用電極が、
式(I):
LiMX (I)
(式中、
aは0.1~2.0であり、
XはS、Se及びTeから選択され、
Mは遷移金属である)
のリチオ化金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層と、
硫黄又は(多)硫化リチウムと
を含む膜を備える、リチウム硫黄セルが提供される。
【0019】
好ましくは、金属相ニオブ又は二硫化モリブデンが使用される。したがって、本発明の別の態様において、作用電極、対電極及び電解質を備えるリチウム硫黄セルであって、作用電極が、
式(I):
LiMX (I)
(式中、
aは0~2.0であり、
XはSであり、
MはNb又はMoである)
の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層と、
硫黄又は(多)硫化リチウムと
を含む膜を備える、リチウム硫黄セルが提供される。
【0020】
一部の実施形態において、aは0.1~2.0である。好ましくは、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層は、あらかじめリチオ化されている。好ましくは、作用電極は、5質量%以下、例えば1質量%以下の量の導電性炭素を含む。
【0021】
本発明者らは、驚くべきことに、第2の態様のLi-S電池が、更に改善された電気化学的特性、及び改善された硫黄利用率を有することを見出した。実施例で示されたLi-S電池は、85%超の硫黄利用率を有する。その結果、本発明のLi-S電池は、有利に高い面積容量と、繰り返しサイクル後の優れた容量維持率を有する。
【0022】
理論に束縛されることを望むものではないが、これは、作用電極材料によってもたらされる多硫化リチウムの吸着性の改善、Liイオン拡散性の向上、電気化学反応速度の加速、及び多硫化物変換のための優れた電極触媒活性によるものであると考えられる。
【0023】
リチオ化金属相遷移金属ダイカルコゲナイド電極材料は、改善された電極触媒活性を示す。理論に束縛されることを望むものではないが、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの層間にインターカレーションされたリチウムが、該材料を通るLiイオンの拡散を促進し、その結果、Liイオン拡散性が向上したと考えられる。
【0024】
リチオ化金属相遷移金属ダイカルコゲナイド電極材料は、非リチオ化材料の優れた導電特性を保持しており、電極に追加の導電性成分やバインダーを使用する必要がない。自立型であることは、集電体なしで電極を使用することができることを意味する。更に、電極材料に高濃度の硫黄を付着させることができるため、硫黄に対する「足場」の比率が更に低下する。したがって、優れた重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度が得られる。
【0025】
更に、第2の態様のLi-S電池に使用される作用電極は、電極表面の電解質濡れ性が改善されている。理論に束縛されることを望むものではないが、電極材料がより親液性であることは、(例えば、疎水性である比較的非極性の炭素と比較して)その極性に起因し得ると考えられる。親液性であることで、電極-電解質間のイオン拡散が改善されるため、電極の電極-電解質界面抵抗が低くなるという利点があると考えられている。この結果、有利なことに、Li-S電池の高いレート特性及び高い反応速度が得られる。
【0026】
電解質濡れ性が改善されることによる更なる利点は、電池内で使用する電解質の体積を小さくすることができることである。これは電池の質量を減らし、エネルギー密度を向上させる。更に、電解質の体積が小さくなることで、Li成分の電解質への溶解傾向が低下し、「多硫化物シャトル」が減少する。
【0027】
この点でも、第2の態様のLi-S電池に使用される作用電極は、硫黄及びLi成分の保持に優れている。特に、電解質溶解性の高いLi成分(2≦x≦8、特にLi及びLi)は、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドに対して高い親和性を有する。理論に束縛されることを望むものではないが、層状遷移金属ダイカルコゲナイドには硫黄空孔があり、硫黄固定化のための結合部位として機能し得ると考えられる。これにより、Li成分の電解質への溶解傾向が低下し、Li成分が電解質中を輸送されてアノードに不可逆的に析出する「多硫化物シャトル」が減少すると考えられる。これは、公知のLi-S電池の望ましくない自己放電や容量維持特性の低さが緩和されることを意味する。また、公知のLiS電池と比較して電池寿命が改善される。
【0028】
更に、Liイオンは遷移金属ダイカルコゲナイドとの強い結合力を持ち、これは電解質中へのLiPSの溶解を最小限に抑えるのに有利である。
【0029】
リチオ化金属相遷移金属ダイカルコゲナイドは、非リチオ化材料の層状構造を保持している。したがって、SとLiSとの間の体積膨張が層状材料によって吸収されるため、第2の態様のLi-S電池は、公知の硫黄カソードと比較して、電極材料の破断が起きにくい。これは、電池がより安定し、容量維持率が改善され、サイクル寿命が長くなることを意味する。
【0030】
これらの利点により、本発明は、Li-S電池の性能を向上させるのに他に類を見ないほど適しており、実社会で実現可能なLi-S電池を提供することができる。
【0031】
本発明の第3の態様において、リチウム硫黄セルを作製する方法であって、
(a)遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離して、式(I):
LiMX (I)
(式中、
aは0~2.0であり、
XはS、Se及びTeから選択され、
Mは遷移金属である)
の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを提供する工程と、
(b)金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層と硫黄又は(多)硫化リチウムとを含む膜を備える作用電極を組み立てる工程と、
(c)作用電極、対電極、及び電解質を備えるリチウム硫黄セルを組み立てる工程と
を含む、方法が提供される。
【0032】
本発明の第4の態様において、第3の態様の方法によって得られる、又は得ることができるリチウム硫黄セルが提供される。
【0033】
作用電極にリチオ化層状遷移金属ダイカルコゲナイドを使用することにより、硫黄利用率が改善されたリチウム硫黄セルが得られる。この作用電極は、電解質濡れ性の向上、多硫化リチウムの吸着の改善、硫黄の優れた保持、Liイオン拡散性の向上、電気化学反応速度の加速、及び多硫化物変換のための優れた電極触媒活性を示す。層状電極材料は体積膨張に耐えるため、破断が起きにくい。その結果、Li-S電池は、有利に高い面積容量と、繰り返しサイクル後の優れた容量維持率を有する。
【0034】
本発明の第5の態様において、第1、第2又は第4の態様のうちの1つ又は複数によるリチウム硫黄セルを備えるリチウム硫黄電池が提供される。
【0035】
本発明の第6の態様において、第1、第2又は第4の態様のリチウム硫黄セルの充電及び/又は放電方法が提供される。
【0036】
本発明の第7の態様において、リチウム硫黄セルの作用電極における導電性基材としての、式(I):
LiMX (I)
(式中、
aは0~2.0であり、
XはS、Se又はTeであり、
Mは遷移金属である)
の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの使用が提供される。
【0037】
リチウム硫黄セルの作用電極において、導電性基材として式(I)のリチオ化金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを使用することにより、導電性炭素を使用する必要がなくなる。これにより、本発明のLi-Sの重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度が改善される。更に、単一材料の使用は、電極内の固体-固体界面が少なく、電極触媒活性部位への電子輸送を促進し、SRRを効率的に進行させることができることを意味する。
【0038】
本発明の、これら及び他の態様及び実施形態について、以下に更に詳細に説明する。
【0039】
以下に示す図を参照して本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1aは、自立型LiMoS膜の写真を示す図である。図1bは、積層ナノシートの層状構造を示すLiMoS膜の、走査電子顕微鏡による断面画像を示す図である(スケールバーは1μm)。図1c及び図1dは、LiMoS(上)及び元の状態の2H MoS粉末(下)のX線回折パターン(c)及びラマンスペクトル(d)を比較して示す図である。図1eは、Mo 3dの高分解能XPSスペクトルを示す図である。LiMoSの2H相(約233eVと229eVのピーク)と比較して、金属1T相(約232eVと228eVのピーク)の濃度が約85%であることを示している。
図2図2aは、電流密度0.1Cでのガルバノスタット充放電曲線を示すグラフである。2.4V(LiからLi)及び2.1V(LiからLi/LiS)で典型的な放電プラトーが見られる。2H MoS(左)、2H MoS/C(中央左)、1T MoS(中央右)、LiMoS(右)。図2bは、異なる電流密度における比容量を示すグラフである。0.1C、0.2C、0.5C、1C、2Cでサイクルさせた場合の、異なるカソード2H MoS(下)、2H MoS/C(下から2つ目)、1T MoS(上から2つ目)、LiMoS(上)のレート特性を示している。図2cは、LiMoSカソード及び参照カソードにおける体積比容量及び硫黄担持量の比較を示すグラフである。破線は、表示される通りの3つの異なる重量比容量を表す。図2dは、電流密度1Cにおける異なるカソードのサイクル安定性を示すグラフである。2H MoS(下)、2H MoS/C(下から2つ目)、1T MoS(上から2つ目)と比較して、500サイクルでのLiMoSカソードの容量維持率が約91%であることを示している。
図3図3aは、LiPS吸着試験のために異なるMoSホストに曝露した後のLi溶液の写真及びUV-visスペクトルを示す図である。Li(上線;左写真)、2H MoS(中央上線;中央左写真)、2H MoS/C(中央線;中央写真)、1T MoS(中央下線;中央右写真)及びLiMoS(下線;右写真)。写真から、LiMoSにおける上澄み液は透明であり、LiPSの優れた吸着が示唆される。UV-visスペクトルを見ると、LiMoSホストに曝露したLi溶液の吸光度が最も低く、LiPSの優れた吸着が示唆される。図3b及び図3cは、LiMoSカソードのさまざまな掃引速度におけるサイクリックボルタンメトリー曲線を示すグラフである。2つのカソードピーク及び1つのアノードピーク(b)と、DLi値を導出するために使用したピーク電流対掃引速度の平方根の対応するRandles-Sevcikプロット(c)を示している。図3dは、室温、2.1Vにおけるナイキストプロットを示すグラフと、電気化学インピーダンス分光プロファイルのフィッティングに使用した等価回路(挿入図)を示す図である。図3eは、さまざまな電圧におけるLiMoSカソードのアレニウスプロットを示すグラフである。多硫化物変換反応速度について記載するために電荷移動抵抗の逆数が使用されている。図3fは、さまざまな電圧におけるさまざまなMoSカソード(2H MoS(上)、2H MoS/C(上から2つ目)、1T MoS(下から2つ目)、LiMoS(下))の活性化エネルギーを示すグラフである。各多硫化物変換工程に必要なエネルギーによる反応速度を明らかにしている。ピークは2.4Vと2.1Vに存在する。
図4図4a及び図4bは、Li変換における、スイープ速度20mVs-1でのリニアスイープボルタンメトリー(LSV)曲線(a)と、対応するターフェルプロット(b)を示すグラフである。左の図4aの線順:2H MoS(上)、2H MoS/C(中央上)、1T MoS(中央下)、LiMoS(下)。図4cは、スイープ速度20mVs-1、回転速度400rpm(左上)、625rpm(左の中央上)、900rpm(左の中央下)、1600rpm(左下)におけるLiMoSホストのLSV曲線を示すグラフである。図4dは、Koutecky-Levich式に従って、異なる回転速度のLSV曲線から導出した、Li変換プロセス中の異なるMoSホストの電子移動数を示すグラフである。
図5図5aは、LiMoSカソードの面積硫黄担持量を増加させることで、面積容量を変化させたときの比容量維持率を示すグラフである。最適な担持量は7.5mgcm-2であることが判明した。図5bは、異なるタイプの材料を使用して製造された報告済みのLi-S電池(三角形の記号)及びLIB(四角形の記号)との、異なる電流密度における面積容量の比較を示すグラフである。図5cは、LiMoSベースのAhレベルパウチセルと、Mo/C、有機金属フレームワーク/カーボンナノチューブ(MOF/CNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、グラフィティックカーボンナイトライド/グラフェン(g-C3N4/G)カソードの参照Li-S電池(三角記号);Oxis Energy社及びSion Power社による参照Li-S電池(三角記号);LiFePO(LFP)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2(NCM622)、LiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)のカソードの参照LIB(四角記号)(それぞれBYD社、CATL社、LG社、パナソニック社製);及びその他の参照エネルギー貯蔵技術(影付き楕円)の重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度の比較を示すグラフである。提示されたエネルギー密度の値は全て、電極材料のみではなく、デバイス全体の構成に基づいて計算されている。図5dは、製造されたLiMoSベースのLi-Sパウチセルの写真(挿入図)と、電流密度2mAcmにおけるサイクル安定性を示すグラフを示す図である。
図6図6aは、LiMoSのLi 1sの高分解能XPSスペクトルを示す図である。図6bは、リチウム箔と対比した裸のLiMoS膜セルにおける電気化学的リチウム抽出測定を示すグラフである。LiMoS試料中のリチウム含有量は約0.7(遷移金属あたり)である。
図7】LiMoSカソードの熱重量分析を示すグラフである。試料の硫黄含有量は71.6質量%である。
図8】LiMoSカソードの断面SEM画像を示す図である。(スケールバーは5μm)
図9】(a)LiMoS及び(b)2H MoSの電解質濡れ性を示す図である。LiMoSは、2H MoSよりも親液性が高い。
図10図10aは、LiMoSベースのパウチセルの構成を示す概略図である。Li-Sパウチセルの各構成要素を、対応する厚さとともに示す概略図である。図10bは、LiMoSベースのパウチセルの構成を示す概略図である。層ごとに積層されたLiMoSカソードとリチウム箔アノード(各電極6層)とを備えるAhレベルパウチセルコアの構成を示す図である。図10cは、LiMoSベースのパウチセルの構成を示す概略図である。2Ahを超える総容量を供給するためのセルコアの構成を示す図である。図10dは、LiMoSベースのパウチセルの構成を示す概略図である。実際のAhレベルパウチセルと、計画されるAhレベルパウチセルの重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度の比較を示すグラフである。最適化後、両エネルギー密度とも約30%向上している(E=520Whkg-1及びE体積=940Whl-1)。
図11】化学気相輸送法により作製した金属相3R-NbSのX線回折パターンを示す図である。
図12】電流密度0.1Cでのガルバノスタット充放電曲線を示すグラフである。2.4V(LiからLi)及び2.1V(LiからLi/LiS)で典型的な放電プラトーが見られる。示される曲線は、1T MoS(点線、右上の左線)、3R NbS(破線、右上の中央線)、及びLiMoS(実線、右上の右線)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、一般に、
LiMX (I)
(式中、aは0~2.0であり、XはS、Se及びTeから選択され、Mは遷移金属である)
の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを含む作用電極を有するリチウム硫黄(Li-S)セルを提供する。
【0042】
遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD)は、遷移金属(例えば、Ti、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Tc、Re、Pd又はPt)とカルコゲン(硫黄、セレン又はテルル)との化合物である。TMDは、典型的には、式MX(Mは遷移金属、Xはカルコゲン)を有する。これらの材料では、遷移金属はカルコゲンの層間に挟まれ、X-M-Xスタック又はシートを形成する。したがって、TMDは「層状材料」の一例である。層状材料は異方性が大きく、2次元(2D)シートのスタックとしてバルクで存在し、それらが一緒になって3次元(3D)結晶を形成することもある。面内(すなわち層又はシート内)の結合は、典型的には強い化学結合を含むが、層そのものはファンデルワールス力等の弱い力で保持されているため、剥離して個々のナノシートや単層を形成することができる。
【0043】
CN111293293には、二硫化モリブデン、カーボンナノチューブ-硫黄の、Li-Sセル用複合カソードが記載されている。MoSは金属相ではなく、半導体2H相であり、導電性を補助するためにカーボンナノチューブが含まれている。CN111293293には、リチオ化TMDや剥離TMDが記載されていない。
【0044】
KR1020200025409には、LiSセルのカソードとしての炭素ナノ構造-MoS複合材料が記載されている。炭素ナノ構造はMoSで被覆されている。MosSは金属相ではなく、半導体2H相である。電極は、半導体MoSに導電性を与えるために炭素ナノ構造を含む。カソードは、MoSを600℃でアニールすることによって作製される。この温度において、金属相MoSは全て半導体2H相MoSに変化する。KR1020200025409には、MoSの積層層は記載されておらず、リチオ化TMD又は剥離TMDについても言及されていない。
【0045】
CN108232164には、カーボンナノチューブに担持されたMo、W、Cr、Fe、Co、Ni硫化物等の多硫化リチウムホストが記載されている。遷移金属硫化物は、金属相ではなく、半導体相である。遷移金属硫化物は、導電性を補助するためにカーボンナノチューブ担体上に設けられている。CN108232164には、TMDの積層層又はリチオ化TMDは記載されていない。
【0046】
CN108649194は、Li-S電池用の還元型酸化グラフェン担持MoSカソードに関する。この材料は「ナノシートエアロゲル」と説明されている。MoSは、酸化グラフェンのラメラの中央に分散していると報告されている。MoS材料は半導体相であり、酸化グラフェンはMoSの電気伝導性を補助する。CN108649194には、金属相TMDは記載されておらず、リチオ化TMD又は剥離TMDについても言及されていない。
【0047】
WO2018/226158には、LiSカソード用のMoS被覆硫黄粒子が記載されている。MoSは有機リチウムで処理され、硫黄粒子に積層される。MoSは、Li-Sセル用電極に形成されるとき、半導体2H相である。金属MoSは、WO2018/226158に記載された剥離の間に形成されない。有機リチウムは、MoSと比較してモル比が低すぎ、処理は、金属相MoSを形成するには短時間すぎる。WO2018/226158に記載されている電極は、1.5mg/cmという比較的少ない活物質担持量によって証明されるように、高い割合の導電性炭素繊維を含む。炭素繊維は、半電体MoS相に導電性を与えるために必要である。
【0048】
US2019/0165365は、リチウムイオン用インターカレーション化合物を含む、リチウム又はナトリウムイオン電池用アノード材料に関する。Li-Sセルは記載されていない。硫黄(suflur)又は多硫化リチウムのためのインターカレーション化合物は記載されていない。
【0049】
作用電極
本発明のLi-Sセルは、作用電極を備える。作用電極は、例えば放電工程の間、正極(positive electrode) (カソード)又は負極(negative electrode)(アノード)であり得る。典型的には、作用電極は正極(カソード)である。
【0050】
作用電極は、式(I):
LiMX (I)の(リチオ化)遷移金属ダイカルコゲナイドを含む。
【0051】
式(I)中の族Mは遷移金属である。遷移金属Mは、Ti、Hf、Zr、V、Nb、Ta、Mo、W、Tc、Re、Pd及びPtから選択することができる。
【0052】
好ましくは、遷移金属Mは、V、Nb、Ta、Mo及びWから選択される。より好ましくは、遷移金属Mは、V、Nb、Mo及びWから選択される。更に好ましくは、遷移金属はNb又はMoから選択される。最も好ましくは、遷移金属MはMoである。
【0053】
実施例は、作用電極がリチオ化二硫化モリブデン(LiMoS)を含むLi-Sセルが、優れた硫黄利用率、優れた容量維持率、及び長いサイクル寿命を有することを示している。本発明者らは、電気触媒的水素発生、リチウムイオン電池、スーパーキャパシタ等の関連システムで実証されている電気化学的特性と類似していることに基づいて、追加的なリチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドがLi-Sセルにおいて良好に機能することを期待している(Chhowalla et al, 2013)。
【0054】
遷移金属ダイカルコゲナイドは金属相である。
【0055】
金属相は、電子軌道帯(electron orbital band)にフェルミ準位(E)を有する相である。これは、最高被占電子軌道が部分的に埋まっている場合に起こり得る。これは、Eが2つの軌道帯間のエネルギーギャップ内にある半導体相とは対照的である。これは、最高被占電子軌道が完全に埋まり、最高被占軌道と最低非被占軌道との間にエネルギーギャップがある場合に起こり得る。金属相材料は絶対零度(0K)において導体であるが、半導体は絶対零度において絶縁体である。
【0056】
金属相において、LiイオンはMoS等の遷移金属ダイカルコゲナイドの金属相と強い結合力を持つため、電解質中へのLiPSの溶解を最小限に抑えるのに有利である。
【0057】
金属相は導電性も高いため、作用電極に導電性炭素等の追加の導電性添加剤を使用する必要性が緩和される。
【0058】
遷移金属ダイカルコゲナイドは、金属相を有する任意の構造(多形)を有してもよい。遷移金属ダイカルコゲナイドは、1T多形、2H多形、又は3R多形の金属相であってもよい。ここで、文字はそれぞれ三方晶、六方晶、菱面体晶を表し、数字は単位胞内のX-M-X単位の数を表す。例えば、MoS及びWSの1T多形は金属性であり、NbSの2H多形及び3R多形はどちらも金属性である。
【0059】
特に好ましい実施形態において、遷移金属ダイカルコゲナイドは金属1T相である。LiイオンはMoSの1T相と強い結合力を持ち、これは電解質中のLiPSの溶解を最小限に抑えるのに有利である(Bediako et al, 2018)。
【0060】
更に好ましい実施形態において、遷移金属ダイカルコゲナイドは金属3R相である。例えば、遷移金属ダイカルコゲナイドは、金属3R相のNbSであってもよい。
【0061】
作用電極は、他の相のリチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドを含んでもよい。好ましくは、金属相リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドの割合は60%~100%である。より好ましくは、金属相リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドの割合は70%~95%、更に好ましくは80%~90%である。
【0062】
作用電極は、他の相のリチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドを含んでもよい。好ましくは、1T相リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドの割合は60%~100%である。より好ましくは、1T相リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドの割合は70%~95%、更に好ましくは80%~90%である。
【0063】
遷移金属ダイカルコゲナイドの相は公知のものであってもよく、X線光電子分光法(XPS)等の標準的な技術を使用して決定してもよい。
【0064】
本発明の作用電極は、遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層を備える。
【0065】
したがって、遷移金属ダイカルコゲナイドは、好ましくは層状材料である。層状材料では、遷移金属はカルコゲンの層間に挟まれ、X-M-Xスタック又はシートを形成する。層状材料では、面内(すなわち層又はシート内)の結合は、典型的には強い化学結合を含むが、層そのものはファンデルワールス力等の弱い力で保持されている。
【0066】
好ましくは、遷移金属ダイカルコゲナイドは2次元(2D)材料である。したがって、作用電極は遷移金属ダイカルコゲナイドのナノシート又は単層を備える。
【0067】
個々のナノシートは、μm2オーダーの(幾何学的な)表面積を有することができるが、典型的には約1ナノメートルの厚さを有する。一部の実施形態において、ナノシートの厚さは約0.7nmである。
【0068】
遷移金属ダイカルコゲナイドの個々のナノシート又はフレークは、膜を形成するために再積層することができる。したがって、遷移金属ダイカルコゲナイドは、好ましくは、剥離された遷移金属ダイカルコゲナイドの再積層フレーク等の、再積層遷移金属ダイカルコゲナイドを含む。
【0069】
ナノシートの再積層膜は、mm2オーダーの表面積を有してもよく、典型的には1~100μmの厚さを有する。典型的には、再積層膜は10層以上、好ましくは20層以上、より好ましくは50層以上、更に好ましくは100層以上の層を含む。
【0070】
2D遷移金属二硫化物は、剥離によって作製することができる。したがって、遷移金属ダイカルコゲナイドは、好ましくは、剥離遷移金属ダイカルコゲナイド、例えば、遷移金属ダイカルコゲナイドの剥離したフレーク、ナノシート又は単層である。
【0071】
作用電極は、遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層を含む膜を備える。したがって、膜は層状(又は積層)構造を有する。層状作用電極は、バルク金属TMD結晶と比較して、SとLiSとの間の変換に起因するような体積膨張に耐えることができるため、サイクル安定性が改善され、破断が起きにくい。
【0072】
各層(例えば、各ナノシート、単層又はフレーク)の配向は、典型的には、膜の配向に平行である。(すなわち、各層の法線ベクトルは、膜の法線ベクトルと数度以内、例えば10°以内又は5°以内で整列している。)
【0073】
以下に詳述するように、膜は、剥離金属相遷移金属ダイカルコゲナイド、例えば個々の遷移金属二硫化物ナノシート、単層又はフレークを再積層することによって作製することができる。
【0074】
膜厚は硫黄担持量に依存し得る(下記参照)。典型的には、膜厚は1~100μmである。好ましくは、膜厚は2~10μm、より好ましくは2~5μm、更に好ましくは2~3μmである。
【0075】
式(I)中の値aは、リチオ化率と称することがある。リチオ化率aは0以上である。リチオ化率の上限は特に限定されない。典型的には、リチオ化率の上限は2.0程度である。
【0076】
一部の実施形態において、リチオ化率は0.05以下、例えば0である。このような場合、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドは、例えばセルを構築するときにはリチオ化されていない。
【0077】
好ましくは、遷移金属ダイカルコゲナイドはリチオ化されている(リチウムを含む)。遷移金属ダイカルコゲナイドのリチオ化により、電極材料内でのLiイオンの拡散速度が向上する。
【0078】
以下に詳述するように、リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドは、材料の層状構造を保持することができる。したがって、リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドは2次元(2D)材料であり、作用電極はリチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドのナノシート又は単層を備える。典型的には、リチオ化材料は、シート間にリチウムイオン(Li)を含有する遷移金属二硫化物(X-M-X)の個々のスタック又はシートとして存在する。
【0079】
リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドは、典型的には、(多)硫化リチウムに由来しないリチウムイオンを含む。このような場合、リチオ化は、作用電極中に多硫化リチウムが含まれることとは異なる。言い換えれば、リチウムイオンは多硫化リチウムに由来しない。
【0080】
したがって、リチオ化率aは、典型的には0.1~2.0である。好ましくは、リチオ化率は0.1~1.5、より好ましくは0.3~1.2、更に好ましくは0.5~0.9、最も好ましくは0.6~0.8である。実施例において、リチオ化率は約0.7である。
【0081】
好ましくは、リチオ化は、Li-Sセル形成前に起こる。したがって、作用電極は「プレリチオ化」電極と説明されることがある。このような場合、作用電極は、式(I)のプレリチオ化金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層を備える。このような場合、リチオ化は、硫黄又は(多)硫化リチウムが作用電極に添加される前(例えば、Li-Sセルの動作前)に起こる。言い換えれば、リチウムイオンは多硫化リチウムに由来しない。多硫化リチウムは、Li-Sセルの最初のサイクル中にのみ導入することができる。
【0082】
リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドは、化学的又は電気化学的リチオ化によって作製することができる。好ましくは、リチオ化遷移金属二硫化物は、化学的リチオ化によって作製される。したがって、遷移金属二硫化物は、好ましくは、「化学的リチオ化」遷移金属ダイカルコゲナイドである。
【0083】
リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドは、上述したように、好ましくは層状材料である。リチウムイオンは、遷移金属ダイカルコゲナイドの層間に挿入(インターカレーション)される。したがって、該材料は、リチウムがインターカレーションされた遷移金属ダイカルコゲナイドである。
【0084】
本発明の作用電極は、硫黄(S)又は(多)硫化リチウムを含む。(多)硫化リチウムの例としては、LiS、Li、Li、Li、Liが挙げられる。
【0085】
作用電極中の硫黄の量は、(リチオ化)遷移金属ダイカルコゲナイドの硫黄に対する質量比を使用して規定することができる。典型的には、多硫化リチウムの硫黄成分を含む硫黄の総質量を使用して、硫黄の質量比を計算する。
【0086】
好ましくは、LiMXの硫黄に対する質量比は1:2~1:3である。より好ましくは、LiMXの硫黄に対する質量比は約1:2.5である。
【0087】
或いは、作用電極中の硫黄の量は、作用電極中の硫黄と活物質(リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイド)の総質量に対する硫黄の質量%を使用して規定することもできる。これは硫黄分率(sulfur fraction)として知られている場合がある。典型的には、硫黄分率は20質量%~90質量%である。好ましくは、硫黄分率は40質量%~85質量%、より好ましくは50質量%~80質量%、更に好ましくは60質量%~75質量%、最も好ましくは70質量%~75質量%である。
【0088】
作用電極中の硫黄の量は、面積硫黄担持量を使用して規定することもできる。すなわち、作用電極における単位面積当たりの硫黄の質量である。典型的には、面積硫黄担持量は1mgcm-2~10mgcm-2である。好ましくは、面積硫黄担持量は2mgcm-2~9mgcm-2、より好ましくは3mgcm-2~8mgcm-2、更に好ましくは6mgcm-2~8mgcm-2、最も好ましくは7mgcm-2~8mgcm-2である。
【0089】
硫黄成分の形態は、硫黄単体(elemental sulfur)であれ(多)硫化リチウムであれ、電気化学セルの充放電中に変化する。充電状態(放電前)では、硫黄成分は硫黄単体(S)の形態である。放電時には、硫黄成分は(多)硫化リチウムに変化する。
【0090】
硫黄成分は、硫黄単体であれ(多)硫化リチウムであれ、典型的には、遷移金属ダイカルコゲナイドの再積層ナノシート間に位置する。
【0091】
典型的には、Li-Sセルは充電状態で製造される。したがって、作用電極は硫黄単体(S)を含む。典型的には、作用電極は金属相遷移金属ダイカルコゲナイドと硫黄単体との複合材料を含む。
【0092】
金属相遷移金属ダイカルコゲナイドは、典型的には導電体である。したがって、作用電極は、導電性炭素成分等の追加の導電性成分を含有する必要はない。典型的な導電性炭素成分としては、カーボンブラック、グラファイト、ナノ粒子炭素粉末、炭素繊維、カーボンナノチューブが挙げられる。具体例としては、ケッチェンブラックやスーパーPカーボンが挙げられる。更なる例としては、還元型酸化グラフェンが挙げられる。
【0093】
Li-Sセル用の公知の作用電極(例えば、半導体相遷移金属ダイカルコゲナイドを使用したもの)は、かなりの量の導電性添加剤(例えば、導電性炭素)を含む。これらの公知の電極は、導電性炭素を10%以上、20%以上、30%以上、例えば30~40%の量で含むことがある。導電性添加剤の量が10%以下、5%以下、1%以下の場合、半導体相TMDを使用した電極は十分な導電性を持たない。
【0094】
作用電極は、10質量%以下、例えば5質量%以下の量の導電性炭素を含んでもよい。
【0095】
典型的には、作用電極は3質量%以下の量の導電性炭素を含む。好ましくは、作用電極は2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下の量の導電性炭素を含む。最も好ましくは、作用電極は導電性炭素を実質的に含まない。
【0096】
リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドは、典型的には、自立膜等の自立材料である。すなわち、リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドは、支持材料に依存したり、支持材料に結合されたりする必要がない。したがって、作用電極は追加のバインダー成分を含有する必要がない。典型的なバインダー成分としては、PVDF、PTFE、CMC、PAA、PMMA、PEO、SBR及びこれらのコポリマーが挙げられる。
【0097】
典型的には、作用電極は3質量%以下の量のバインダーを含む。好ましくは、作用電極は2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.5質量%以下の量のバインダーを含む。最も好ましくは、作用電極はバインダーを実質的に含まない。
【0098】
本発明のLi-Sセルにおける作用電極は、式(I)の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを含む。作用電極は、式(I)の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドから実質的になっていてもよい。
【0099】
作用電極は集電基材を備えてもよい。任意の好適な集電基材を使用することができる。好適な集電基材の例としては、アルミニウム板又は箔が挙げられる。式(I)のリチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドは、集電基材の表面に配置されてもよい。
【0100】
特に好ましい実施形態において、作用電極、対電極及び電解質を備えるリチウム硫黄セルであって、作用電極が、
式(IA):
NbS(IA)
の金属相二硫化ニオブの積層層と
硫黄又は(多)硫化リチウムと
を含む膜を備える、リチウム硫黄セルが提供される。
【0101】
一部の実施形態において、NbSは金属3R相である。
【0102】
別の特に好ましい実施形態において、作用電極、対電極及び電解質を備えるリチウム硫黄セルであって、作用電極が、
式(IB):LiMoS (IB)
(式中、aは0.5~0.9、例えば0.6~0.8である)
のリチオ化金属相二硫化モリブデンの積層層と、
硫黄又は(多)硫化リチウムと
を含む膜を備える、リチウム硫黄セルが提供される。
【0103】
金属相遷移金属ダイカルコゲナイドは、任意の好適な方法によって作製することができる。一部の実施形態において、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドは、本明細書に記載される作製方法によって作製される。一部の実施形態において、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドは、化学気相輸送法、電気化学処理法、電子ビーム照射法、又は圧力印加法等の公知の方法によって作製される(Chhowalla et al., 2015)。
【0104】
リチウム硫黄セル
本発明のLi-Sセルは、対電極及び電解質を備える。Li-Sセルはまた、セパレータを含んでもよい。Li-Sセルは、典型的には、外部デバイス又は外部電源に接続するための端子を備える。
【0105】
典型的には、対電極は負極である。任意の好適なアノード活物質を含む負極を使用することができる。好適なアノード活物質の例としては、リチウム金属又はリチウム合金が挙げられる。リチウム合金としては、リチウムとMg、Zn、Sn、Sb、Si又はAlとの合金、例えばLi-Sn及びLi-SnOを挙げることができる。好ましくは、対電極はリチウム金属を含む。
【0106】
対電極は集電基材を備えてもよい。任意の好適な集電基材を使用することができる。好適な集電基材の例としては、銅板又は箔が挙げられる。アノード活物質は、集電基材の表面に配置されてもよい。
【0107】
対電極は、集電表面への活物質の接着性を改善するためのバインダーを含んでもよい。典型的なバインダーの例は、PVDF、PTFE、CMC、PAA、PMMA、PEO、SBR、及びそれらのコポリマーである。
【0108】
典型的には、電気化学セルの電解質は、リチウムイオンを可溶化するのに適している。典型的には、充放電したセルの電解質はリチウムイオンを含有する。
【0109】
典型的には、電解質はリチウム塩、例えばLiTFSI、(ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドリチウム塩、LiPF、LiBF、LiClO、LiNO、LiTF(リチウムトリフレート)及びリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)を含む。好ましくは、電解質は、LiTFSI、LiClO、LiTF、LiBOB等の、エーテル溶媒への溶解性が良好なリチウム塩を含む。
【0110】
電解質は、周囲温度、例えば25℃で液体であるような液体電解質であってもよい。
【0111】
好ましくは、電解質は非水電解質である。電解質は、極性非プロトン性溶媒を含んでもよい。電解質は、有機溶媒を含んでもよい。リチウムイオンを溶解する溶媒は当該技術分野において周知である。
【0112】
好ましくは、溶媒は、硫黄及び多硫化リチウムの溶解性が低い溶媒である。
【0113】
好ましくは、溶媒はエーテル溶媒である。多硫化リチウムはエーテル溶媒に難溶性である。好適なエーテル溶媒としては、非環式エーテル、環式エーテル、及びポリエーテルが挙げられる。
【0114】
好適な非環式エーテルの例としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、1,2-ジメトキシプロパン、1,3-ジメトキシプロパンが挙げられる。
【0115】
好適な環式エーテルの例としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、トリオキサンが挙げられる。
【0116】
好適なポリエーテルの例としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)、より高級なグライム、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ブチレングリコールエーテルが挙げられる。
【0117】
電気化学セルはまた、負極と正極との間に配置された固体多孔質膜を含んでもよい。固体多孔質膜は、セパレータとして知られているものであってもよい。固体多孔質膜は、部分的又は完全に液体電解質に置き換えてもよい。固体多孔質膜は、ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、若しくはそれらのコポリマー)、又は無機材料、例えば、遷移金属酸化物(例えば、チタニア、ジルコニア、イットリア、ハフニア、若しくはニオブ)、又は主族金属酸化物、例えばガラス繊維の形態であり得る酸化ケイ素を含んでもよい。
【0118】
好ましくは、固体多孔質膜はポリプロピレンを含む。
【0119】
固体非多孔質膜は、リチウムイオン導電体を含んでもよい。例えば、LLZO(ガーネット型)、LSPO(LISICON型)、LGPS(thio-LISICON型)、LATP/LAGP(NASICON型)、LLTO(ペロブスカイト型)、及びリン化物/硫化物系ガラスセラミックスが挙げられる。
【0120】
製造方法
本発明はまた、リチウム硫黄セルを作製する方法を提供する。本方法は、式(I):
LiMX (I)
(式中、a、X及びMは上記で定義したものであり、同じ優先順位が適用される)
の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを提供する工程を含んでもよい。
【0121】
任意の供給源からの金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを使用することができる。金属相遷移金属ダイカルコゲナイドは、非金属遷移金属ダイカルコゲナイドをリチオ化することによって作製することができる。金属への相転移は、典型的には、リチオ化を伴う。その後、リチウムイオンは除去されてもよく(下記参照)、材料は金属相を維持する。化学的又は電気化学的リチオ化方法を使用することができる。
【0122】
遷移金属ダイカルコゲナイドは、遷移金属ダイカルコゲナイドのナノシート、単層、フレークのような2次元遷移金属ダイカルコゲナイドであってもよい。2D遷移金属二硫化物は、剥離によって作製することができる。
【0123】
典型的には、本方法は、遷移金属ダイカルコゲナイドを剥離して、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを提供する工程を含む。これは、剥離工程、工程(a)と呼ばれることがある。
【0124】
遷移金属ダイカルコゲナイドは、典型的には式(II):
(II)
(式中、XはS、Se及びTeから選択され、Mは遷移金属である)
を有する。
【0125】
遷移金属Mは、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Tc、Re、Pd及びPtから選択することができる。好ましくは、遷移金属Mは、V、Nb、Ta、Mo及びWから選択される。より好ましくは、遷移金属MはMoである。
【0126】
カルコゲンXは、S、Se及びTeから選択される。好ましくは、カルコゲンXはSである。
【0127】
上述のように、遷移金属ダイカルコゲナイドは層状材料である。層状材料では、面内(すなわち層又はシート内)の結合は、典型的には強い化学結合を含むが、層そのものはファンデルワールス力等の弱い力で保持されている。したがって、剥離は、材料の個々のナノシート又は単層を作製するための迅速且つ効率的な手段である。
【0128】
したがって、剥離工程は、遷移金属ダイカルコゲナイドのフレーク、ナノシート又は単層をもたらす。フレーク、ナノシート又は単層は2次元材料である。フレーク、ナノシート、又は単層は、「剥離された」材料(すなわち、剥離遷移金属ダイカルコゲナイド)とも呼ばれることがある。
【0129】
好ましくは、剥離工程は、遷移金属ダイカルコゲナイドを化学的に剥離すること、例えば、遷移金属ダイカルコゲナイドをリチウムイオンで剥離することを含む。
【0130】
更に、剥離工程は、任意の好適な金属イオンを使用して化学的に剥離することを含んでもよい。好適な金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の第1族金属イオンが挙げられる。好ましくは、金属イオンはリチウムイオンである。
【0131】
化学的剥離工程は、金属相リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドをもたらす。これにより、後の相転移工程が必要なくなる。剥離工程は、1T、2H又は3R多形の遷移金属ダイカルコゲナイドをもたらすことができる。好ましい実施形態において、剥離工程は、金属1T相遷移金属ダイカルコゲナイドをもたらす。
【0132】
好ましくは、剥離工程は、遷移金属ダイカルコゲナイドを有機リチウム化合物で処理することを含む。好適な有機リチウム化合物としては、アルキルリチウム化合物及びアリールリチウム化合物が挙げられる。好適な有機リチウム化合物の具体例としては、ブチルリチウム(例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、iso-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム)及びフェニルリチウムが挙げられる。好ましくは、n-ブチルリチウムが使用される。
【0133】
更に、剥離工程は、遷移金属ダイカルコゲナイドを、第1族金属イオン源等の任意の好適な金属イオン源で処理することを含んでもよい。好適な金属イオン源としては、有機金属化合物、金属ボラン化合物、グリニャール試薬又は金属-金属合金が挙げられる。好適な有機金属化合物としては、アルキル金属化合物及びアリール金属化合物が挙げられる。好適な有機金属化合物の具体例としては、ブチルリチウム(例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、iso-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム)及びフェニルリチウムが挙げられる。好ましくは、n-ブチルリチウムが使用される。好適な金属ボラン化合物としては、NaBH及びLiBH、好ましくはLiBHが挙げられる。好適なグリニャール試薬としては、アルキルグネシウムクロリド又はアリールマグネシウムクロリド化合物及びアルキルマグネシウムブロミド又はアリールマグネシウムブロミド化合物が挙げられる。好適な金属-金属合金としては、ナトリウム-カリウム合金が挙げられる。
【0134】
典型的には、剥離工程における金属イオン源の遷移金属ダイカルコゲナイドに対するモル比は、1:1~5:1である。好ましくは、剥離工程における金属イオン源の遷移金属ダイカルコゲナイドに対するモル比は、1:1~4:1、より好ましくは1:2~1:3である。典型的には、剥離工程における金属イオン源の遷移金属ダイカルコゲナイドに対するモル比は、1:1以上である。好ましくは、剥離工程における金属イオン源の遷移金属ダイカルコゲナイドに対するモル比は、1:2以上、より好ましくは1:3以上である。
【0135】
典型的には、剥離工程における有機リチウム試薬の遷移金属ダイカルコゲナイドに対するモル比は、1:1~5:1である。好ましくは、剥離工程における有機リチウム試薬の遷移金属ダイカルコゲナイドに対するモル比は、1:1~4:1、より好ましくは1:2~1:3である。典型的には、剥離工程における有機リチウム試薬の遷移金属ダイカルコゲナイドに対するモル比は、1:1以上である。好ましくは、剥離工程における有機リチウム試薬の遷移金属ダイカルコゲナイドに対するモル比は、1:2以上、より好ましくは1:3以上である。
【0136】
典型的には、金属イオン源(例えば、有機リチウム試薬)の濃度は、遷移金属ダイカルコゲナイドと比較して過剰に存在するような濃度である。言い換えれば、遷移金属ダイカルコゲナイドは金属イオン源(例えば、有機リチウム試薬)に関して飽和状態である。好ましくは、金属イオン源(例えば、有機リチウム試薬)の濃度は1M以上、より好ましくは1.5M以上、更に好ましくは2M以上である。一部の実施形態において、濃度は1M~3M、好ましくは1.5M~2.5Mであり得る。
【0137】
典型的には、剥離工程は溶媒中で行われる。典型的には、有機溶媒が使用される。最も一般的には、非極性有機溶媒が使用される。好ましくは、炭化水素溶媒が使用される。
【0138】
炭化水素溶媒は、脂肪族炭化水素溶媒であってもよく、芳香族炭化水素溶媒であってもよい。
【0139】
好適な脂肪族炭化水素溶媒の例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン及びオクタン等の直鎖アルカン;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン及びシクロオクタン等のシクロアルカン;並びにケロシン及び石油エーテル等の石油留分が挙げられる。これらの溶媒の混合物を使用してもよい。
【0140】
好適な芳香族炭化水素系溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレンが挙げられる。
【0141】
好ましくは、有機溶媒は脂肪族炭化水素溶媒であり、より好ましくは、有機溶媒はヘキサンである。
【0142】
剥離工程は、周囲温度(約20℃)で行われてもよい。或いは、剥離工程は高温(周囲温度より高い、約20℃超)で行われてもよい。剥離工程中に熱を供給する方法は公知であり、例えば、外部加熱ジャケットを有する反応容器を使用することが挙げられる。
【0143】
典型的には、剥離工程は、遷移金属ダイカルコゲナイドを還流で加熱することを含む。すなわち、溶媒の沸点で行う。
【0144】
剥離工程は、所望の量のリチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドが形成されるのに十分な時間行うことができる。典型的には、剥離工程は、実質的に全ての遷移金属ダイカルコゲナイドが消費されるまで行われる。
【0145】
典型的には、剥離工程は、遷移金属ダイカルコゲナイドを有機リチウム化合物で12時間~72時間処理することを含む。好ましくは、剥離工程は、遷移金属ダイカルコゲナイドを24時間~72時間、より好ましくは48時間~72時間剥離することを含む。
【0146】
典型的には、剥離工程は、遷移金属ダイカルコゲナイドを有機リチウム化合物で6時間以上、8時間以上、10時間以上、12時間以上処理することを含む。好ましくは、剥離工程は、遷移金属ダイカルコゲナイドを24時間以上、より好ましくは36時間以上、更に好ましくは48時間以上剥離することを含む。
【0147】
好ましくは、金属相TMDをもたらす条件下で剥離を行う。例えば、剥離は、金属相TMDをもたらすのに十分な時間及び/又は十分なモル比で、TMDを有機リチウム化合物で処理することによって行われる。金属相TMDの存在は、X線回折、ラマン分光法又はXPS等の任意の好適な分析法によって確認することができる。例えば、金属1T相LiMoSのXPSは、約232eVと228eVにピークがあるのに対し、半導体2H相は約233eVと229eVにピークがある。
【0148】
リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドは、例えば濾過によって回収することができる。濾過の方法は公知である。
【0149】
残存する有機リチウム試薬や有機残渣を確実に除去するために、リチオ化遷移金属二硫化物を洗浄してもよい。例えば、リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドを有機溶媒、典型的には非極性溶媒で洗浄してもよい。好ましくは、リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドは、ヘキサン等の炭化水素溶媒で洗浄される。
【0150】
上述したように、リチオ化金属相遷移金属ダイカルコゲナイドから、該材料を金属相に維持したまま、リチウムイオンを除去することができる。リチウムイオンの除去は、リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドを水性溶媒で洗浄することにより達成することができる。したがって、剥離工程は、任意選択で、リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドを水又は水性溶媒で洗浄することを含んでもよい。リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドを水で洗浄することにより、材料のリチオ化率を0.05以下、例えば0に下げることができる。
【0151】
超音波処理により、リチウムイオンの除去が改善される。したがって、水性洗浄工程は、リチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドを水又は水性溶媒中で超音波処理することを含んでもよい。超音波処理工程は、実質的に全てのリチウムイオンが遷移金属ダイカルコゲナイドから除去されるまで行われる。典型的には、超音波処理工程は、15分~4時間、例えば30分~2時間、例えば約1時間行われる。
【0152】
(非リチオ化)金属相遷移金属ダイカルコゲナイドは、例えば濾過又は遠心分離によって回収することができる。
【0153】
本方法は、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの積層層と硫黄又は(多)硫化リチウムとを含む膜を備える作用電極を組み立てる工程を含む。この工程は、再積層工程、工程(b)と呼ばれることがある。
【0154】
再積層工程は、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドのフレーク、単層、又はナノシートを含む懸濁液を濾過することを含んでもよい。
【0155】
再積層工程はまた、作用電極に硫化物又は多硫化リチウム塩を担持させることを含む。
【0156】
金属相遷移金属ダイカルコゲナイドに硫黄成分を担持させるために、任意の好適な方法を使用することができる。しかし、好ましくは、高温アニールや溶融拡散プロセスは避ける。高温アニールや溶融拡散プロセスは、1T相からあまり望ましくない2H相への部分的な相転移を引き起こすことがある。
【0157】
担持は、共沈又は溶媒ベースの担持によって行われる。
【0158】
共沈法では、遷移金属ダイカルコゲナイド及び硫黄単体(S)、例えば粉末硫黄の懸濁液を調製し、混合する。この懸濁液は、剥離工程で得られた材料を好適な溶媒に懸濁させることによって調製することができる。
【0159】
好ましくは、懸濁液中のLiMXの硫黄に対する質量比は1:2~1:3である。より好ましくは、LiMXの硫黄に対する質量比は約1:2.5である。
【0160】
典型的には、懸濁液は有機溶媒で調製される。好適な溶媒としては、二硫化炭素が挙げられる。
【0161】
典型的には、懸濁液は硫黄及び金属相遷移金属ダイカルコゲナイドが確実に懸濁液全体に均一に分布するように混合される。好適な分散方法としては、超音波処理が挙げられる。
【0162】
懸濁液を濾過して、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドと硫黄単体との複合材料を作製する。この複合材料を濾材から取り外し、作用電極に使用することができる。或いは、懸濁液を多孔質導電性材料で濾過してもよい。多孔質導電性材料は、次いで作用電極の集電体として使用されてもよい。
【0163】
或いは、溶媒ベースの担持手法を使用することもできる。このような場合、(多)硫化リチウム溶液を、積層された層状金属相遷移金属ダイカルコゲナイド、例えば金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの膜に塗布することができる。
【0164】
好適な(多)硫化リチウムとしては、Li、Li及びLiが挙げられる。(多)硫化リチウムは、市販品を購入してもよい。或いは、硫化リチウム(LiS)と硫黄とを適切なモル量で反応させることによって(多)硫化リチウムを調製することもできる。
【0165】
好適な溶媒としては、上記の電解質溶媒が挙げられる。
【0166】
好ましくは、担持は、金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを硫黄と共沈させることを含む。
【0167】
本方法は、作用電極、対電極、及び電解質を備えるリチウム硫黄セルを組み立てる工程を含む。
【0168】
組み立て工程は、典型的には、酸素のない状態(例えば、含有される酸素が10ppm未満の雰囲気)で行われる。組み立て工程は、典型的には、水のない状態(例えば、含有される水蒸気が10ppm未満の雰囲気)で行われる。
【0169】
好ましくは、組み立て工程は、典型的には、不活性雰囲気、例えば、窒素又はアルゴン雰囲気において行われる。
【0170】
任意の好適なリチウム硫黄セルの形状を使用することができる。好適な形状としては、コインセル及びパウチセルが挙げられる。
【0171】
本発明はまた、上記の製造方法によって得られる、又は得ることができるリチウム硫黄セルを提供する。
【0172】
上記のリチウム硫黄セル、及び上記の製造方法によって得られる、又は得ることができるリチウム硫黄セルは、優れた電気化学的特性を有する。
【0173】
本発明のリチウム硫黄セルは、優れた硫黄利用率を有する。硫黄利用率は、作用電極における硫黄の完全利用に対して計算される。このような電極は、硫黄1グラム当たり1675mAhの電荷を生成する。つまり、利用率100%は、セルにおける硫黄の重量比容量1675mAhg-1に相当する。
【0174】
典型的には、本発明のリチウム硫黄セルの硫黄利用率は80%以上である。好ましくは、本発明のリチウム硫黄セルの硫黄利用率は82%以上、より好ましくは83%以上である。
【0175】
本発明のリチウム硫黄セルは、優れた容量維持率を有する。典型的には、本発明のリチウム硫黄セルは、200サイクルで80%以上の容量維持率を有する。好ましくは、本発明のリチウム硫黄セルは、200サイクルでの容量維持率が82%以上、より好ましくは83%以上である。
【0176】
本発明のリチウム硫黄セルは、優れた重量エネルギー密度を有する。典型的には、本発明のリチウム硫黄セルは、350Whkg-1以上の重量エネルギー密度を有する。好ましくは、本発明のリチウム硫黄セルは、380Whkg-1以上、より好ましくは400Whkg-1以上の重量エネルギー密度を有する。
【0177】
本発明のリチウム硫黄セルは、優れた体積エネルギー密度を有する。典型的には、本発明のリチウム硫黄セルは、600WhL-1以上の体積エネルギー密度を有する。好ましくは、本発明のリチウム硫黄セルは、650WhL-1以上、より好ましくは700WhL-1以上の体積エネルギー密度を有する。
【0178】
充放電方法
本発明はまた、本発明のリチウム硫黄セルを充電及び/又は放電する方法を提供する。
【0179】
本方法は、2.8V~1.7Vの電圧範囲でリチウム硫黄セルを充電及び/又は放電する工程を含む。
【0180】
本方法は、電気化学セルの充電及び放電、又は放電及び充電のサイクルを含んでもよい。このサイクルは複数回繰り返されてもよい。したがって、充電及び/又は放電する方法は、2サイクル以上、5サイクル以上、10サイクル以上、20サイクル以上、又は50サイクル以上を含む。
【0181】
本発明の電気化学セルは、長期サイクルでの容量維持率の向上を示す。実施例では、パウチセルは200サイクル後に85.2%の容量維持率を示し、これは1サイクル当たり0.074%の容量減少に相当する。したがって、充電及び/又は放電する方法は、好ましくは100サイクル以上、より好ましくは150サイクル以上、更に好ましくは200サイクル以上、最も好ましくは250サイクル以上を含む。
【0182】
電池
本発明はまた、1つ以上の本発明のリチウム硫黄セルを備える電池を提供する。
【0183】
セルが複数ある場合、これらのセルは直列又は並列に設けることができる。
【0184】
本発明の電池は、自動車、原付、トラック等の路上走行車両に搭載することができる。或いは、本発明の電池は、電車や路面電車等の鉄道車両に搭載することもできる。また、本発明の電池は、電動自転車(e-bike)、ドローン、電気飛行機、電気ボート又はハイブリッドボートに搭載することもできる。同様に、本発明の電池は、電動ドリルや電動ノコギリ等の電動工具、芝刈り機や草刈り機等の園芸工具、歯ブラシやヘアドライヤー等の家電製品にも搭載することができる。
【0185】
本発明の電池は、回生ブレーキシステムに搭載することもできる。
【0186】
本発明の電池は、携帯電話、ノートパソコン、タブレット等の携帯電子デバイスに搭載することができる。
【0187】
本発明の電池は、電力網管理システムに搭載することができる。
【0188】
使用
本発明はまた、リチウム硫黄セルの作用電極における導電性基材としての、式(I):
LiMX (I)
(式中、
aは0.1~1.0であり、
XはS、Se及びTeから選択され、
Mは遷移金属である)
の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの使用を提供する。
【0189】
特に、本発明は、リチウム硫黄セルの作用電極における導電性基材としての、式(I)の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドの使用を提供する。
【0190】
式(I)の金属相遷移金属ダイカルコゲナイドを、リチウム硫黄セルの作用電極の導電性基材として使用することにより、導電性炭素等の追加の導電性成分を使用する必要がなくなる。これにより、本発明のLi-Sセルの重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度が改善される。更に、単一材料の使用は、電極内の固体-固体界面が少なく、電極触媒活性部位への電子輸送を促進し、SRRを効率的に進行させることができることを意味する。
【0191】
a、X、M、及びリチオ化遷移金属ダイカルコゲナイドの形態及び構造に関する優先順位は、上記の通りである。
【0192】
定義
本明細書に記載されている電圧値は、当該技術分野において一般的であるように、Li/Liに準拠している。
【0193】
重量比容量は、電極中の活性硫黄の質量に基づいて見積もられる。
【0194】
硫黄利用率は、実際の重量比容量の、硫黄の理論重量比容量に対する比率に基づいて見積もられる。この目的のため、硫黄の理論重量比容量は1675mAhg-1である。
【0195】
体積比容量は、重量比容量に作用電極中の硫黄充填密度を乗じた大きさに基づいて計算される。
【0196】
重量エネルギー密度は、リチウム硫黄セルの単位質量あたりのエネルギーに基づいて見積もられる。
【0197】
体積エネルギー密度は、リチウム硫黄セルの単位体積あたりのエネルギーに基づいて見積もられる。
【0198】
容量維持率は、元のセルの容量の、規定数の充放電サイクル後におけるセルの容量に対する比率として見積もられる。
【0199】
その他の優先順位
本明細書において、上述した実施形態の互換性のある各組み合わせは、あたかも各組み合わせが個別に明示的に記載されているかのように、明示的に開示される。
【0200】
本発明のさまざまな更なる態様及び実施形態は、本開示に照らして、当業者には明らかであろう。
【0201】
本明細書で使用される「及び/又は」は、2つの規定された特徴又は構成要素の各々について、他方がある場合/ない場合が詳細に開示されているものと解釈される。例えば、「A及び/又はB」は、(i)A、(ii)B、(iii)A及びBのそれぞれの詳細な開示と解釈され、あたかもそれぞれが本明細書に個別に記載されているかのように解釈される。
【0202】
文脈から別段の影響がない限り、上記に記載された特徴の説明及び定義は、本発明の任意の特定の態様又は実施形態に限定されるものではなく、記載された全ての態様及び実施形態に等しく適用される。
【実施例
【0203】
次いで、本発明の特定の態様及び実施形態を、例として、上述した図を参照して説明する。
【0204】
遷移金属化合物の調製
1.1-LiMoSの調製
バルクMoS粉末(2H MoS)に有機リチウム試薬をインターカレーションすることにより、LiMoSを調製した。バルクMoS粉末(0.3g;Alfa Aesar社)をアルゴン下でヘキサン(15ml;Sigma-Aldrich社)に浸漬し、次いでn-ブチリチウム溶液(2.5Mヘキサン溶液、2mL;Sigma-Aldrich社)を混合物に添加し、2日間還流させた。冷却後、生成物をヘキサン(3×50mL)で洗浄し、残存する有機リチウム試薬及び有機残渣を除去した。次いで、得られたLiMoS粉末を乾燥させ、酸化を避けるため不活性雰囲気で保存した。
【0205】
1.2-1T MoSの調製
LiMoS粉末(調製実施例1.1)を脱イオン水(1mgmL-1)中で30分間超音波処理した後、10,000rpmで遠心分離してリチウムカチオンを除去することにより、1T MoSを調製した。
【0206】
1.3-2H MoS/Cの調製
2H MoS(Alfa Aesar社)をスーパーPカーボン(MTI社)と質量比9:1でボールミル処理することにより、2H MoS/Cを調製した。
【0207】
遷移金属化合物の追加の調製
1.4-3R NbSの調製
化学気相輸送法によって3R NbSを調製した。高純度Nb(純度99.99%)及びS(純度99.99%)を、Nb:Sのモル比1:2で含有する石英管を10-6Torrで排気し、密封した。次いで、密封した石英管を管状炉に挿入した。管状炉を、昇温速度3℃min-1で900℃まで加熱した。900℃での反応時間は18時間で、炉はその後自然冷却された。石英管から金属3R NbS結晶を回収した。
【0208】
硫黄複合材料の調製
2.1-LiMoS/Sの調製
LiMoSの硫黄複合材料(LiMoS/S)を共沈法で調製した。LiMoS粉末(20mg)及び硫黄華粉末(50mg;Alfa Aesar社)を二硫化炭素溶液(5.0Mヘキサン溶液、20ml;Sigma-Aldrich社)に超音波処理で分散させた。この分散液をアノード酸化アルミニウム膜(孔径0.02μm;Whatman社)で濾過した後、真空下室温で乾燥させ、LiMoS/Sを共沈させた。
【0209】
膜厚に比例する面積硫黄担持量は、同じ濃度である分散液の量を変えて調整した。
【0210】
体積硫黄担持量は、面積硫黄担持量及び対応する膜厚に基づいて計算した。
【0211】
最終調製におけるLiMoSと硫黄華との質量比は1:2.5(硫黄分率=71.4質量%)であった。
【0212】
2.2-1T MoS/Sの調製
1T MoSの硫黄複合材料(1T MoS/S)を共沈法で調製した。1T MoS/Sは、調製実施例2.1に記載したのと同様の手順で調製したが、分散にはエタノール溶媒を使用した。
【0213】
2.3-2H MoS/Sの調製
2H MoSの硫黄複合材料(2H MoS/S)を溶融拡散法で調製した。2H MoS(100mg)を硫黄華(250mg)とボールミル処理し、微粉末を得ることにより、2H MoS/Sを調製した。次いで、混合物をアルゴン下でテフロン(登録商標)ライニングオートクレーブに密封し、155℃で12時間維持した。室温まで自然冷却するプロセスの後、2H MoS/Sを回収した。
【0214】
2.4-2H MoS/C/Sの調製
2H MoS/Cの硫黄複合材料(2H MoS/C/S)を溶融拡散法で調製した。2H MoS/C(100mg)を硫黄華(250mg)とボールミル処理し、微粉末を得ることにより、2H MoS/C/Sを調製した。次いで、混合物をアルゴン下でテフロン(登録商標)ライニングオートクレーブに密封し、155℃で12時間維持した。室温まで自然冷却するプロセスの後、2H MoS/C/Sを回収した。
【0215】
硫黄複合材料の追加調製
2.5-3R NbS/Sの調製
3R NbSの硫黄複合材料(3R NbS/S)を溶融拡散法で調製した。3R NbS(100mg)を硫黄華(250mg)とボールミル処理し、微粉末を得ることにより、3R NbS/Sを調製した。次いで、混合物をアルゴン下でテフロン(登録商標)ライニングオートクレーブに密封し、155℃で12時間維持した。室温まで自然冷却するプロセスの後、3R NbS/Sを回収した。
【0216】
電解質、LiPS溶液、Li溶液の調製
1,3-ジオキソランと1,2-ジメトキシエタン(体積比1:1;Sigma-Aldrich社)の溶媒に、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(1.0M;Sigma-Aldrich社)及び硝酸リチウム(0.2M;Sigma-Aldrich社)を溶解させることにより、電解質を調製した。
【0217】
電解質中で硫化リチウム(LiS)と硫黄とを化学量論的割合で反応させることにより、LiPS溶液を調製した。
【0218】
電解質(1mL)にLiS粉末(1mmol;Sigma-Aldrich社)及び硫黄華(3mmol)を添加し、アルゴン充填グローブボックス内において50℃で一晩激しく撹拌することにより、Li溶液(1.0M)を調製した。
【0219】
コインセル及びパウチセルの作製
コインセル(CR2032)を使用して、MoSベースのカソードの電気化学的性能を評価した。アルゴン充填グローブボックス内において、調製実施例2.1~2.5で調製した硫黄複合材料(LiMoS/S、1T MoS/S、2H MoS/S、2H MoS/C/S、又は3R NbS/S)で作られたカソード、リチウム箔アノード、Celgardセパレータ、及び電解質(E/S比=12μlmg-1)を用いてコインセルを組み立てた。これらをTable 1(表1)-コインセルに示す。
【0220】
(LiMoS/S、1T MoS/S及び3R NbS/S)をカソードとして直接使用したのに対し、2H MoS/S及び2H MoS/C/Sカソードは、スラリー(2H MoS/S又は2H MoS/C/S 90質量%及びポリフッ化ビニリデンバインダー10質量%;MTI社)を形成することにより準備し、コーティングプロセスを実施して、対応するカソードを製造した。
【0221】
特に断りのない限り、コインセルに使用した全てのカソードの硫黄担持量は5mgとした。
【0222】
【表1】
【0223】
パウチセル(寸法6cm×4.5cm)を使用して、LiMoSベースのLi-S電池のデバイス性能を評価した。乾燥した室内において、調製実施例2.1で調製した硫黄複合材料(LiMoS/S)で作られたカソードをAl集電体(MTI社)上に、リチウム箔アノードをCu集電体(MTI社)上に、CelgardセパレータをAlラミネートフィルム(MTI社)に組み立てることによってパウチセルを組み立て、次いで電解質(E/S比=2.4μLmg-1)を注入し、最後にアルゴン充填グローブボックス内に封入した。Alタブ及びNiタブ(MTI社)をそれぞれカソード及びアノードと溶接し、外部接続用に導入した。
【0224】
Ahレベルパウチセルは、パウチセルと同様に、セルコアにカソード及びアノードを一層ごとに交互に積層して組み立てた。セルコアに複合材料1.1(LiMoS)カソード及びリチウム箔アノードを一層ずつ交互に(各電極6層)積層した構成を図10bに示す。総容量2Ah超(各電極10層を含む)を供給するパウチセルコアを図10cに示す。
【0225】
比較用パウチセルは、Table 2(表2)-比較用パウチセルに記載される、以下の参考文献に記載された方法に従って作製される。
【0226】
【表2】
【0227】
材料の特性評価
材料のモルフォロジー及び構造情報は、SEM(FEI社、Magellan400)、XRD(Bruker社、D8 Advance粉末X線回折装置、CuKα線使用)、ラマン分光法(Renishaw社、InVia、514nmレーザービーム使用)、及びX線光電子分光法(XPS)(Thermo Fisher Scientific社、AlKα線源使用)により評価した。
【0228】
硫黄含有量は、アルゴン雰囲気での熱重量分析(Setaram Setsys Evolution 18)により測定した。
【0229】
異なる材料(10mg)をLi溶液(10mM、5mL)に室温で一晩浸漬することにより、LiPS吸着を行った。対照として、同じLi溶液を、ブランクのガラスバイアルにも充填した。LiPS吸着試験後の溶液をUVvis分光法(Agilent社、Cary 7000 Universal measurement spectrophotometer)で調べた。LiPSの接触角は、アルゴン充填グローブボックス内で、光学式接触角計(FTA1000)を使用して、滴下法(液滴:Li溶液5μL)で測定した。
【0230】
電気化学的特性評価
電気化学ワークステーション(ModuLab XMECS)と回転ディスク電極(RDE)システム(AMETEK Scientific Instruments社、636A Rotating Ring-Disk Electrode)とを連結し、アルゴン充填グローブボックス内で電気触媒試験を行った。
【0231】
作用電極の作製のため、MoS試料(1mg)をエタノール(480μL)及び5質量% Nafion溶液(20μL;Sigma-Aldrich社)中で30分間超音波処理し、触媒インク(2mgmL-1)を生成した。次いで、該インク(10μL)をRDEのガラス状炭素チップ(0.2cm)に滴下し、60℃で乾燥させた後、グローブボックスに移した。
【0232】
電気化学測定は2電極構成で行った。RDE(0.1mgcm-2)に装着したMoS試料を作用電極として使用し、リチウム箔(MTI社)をLi溶液(8mM)中の対電極及び参照電極の両方として使用した。
【0233】
サイクリックボルタンメトリー(CV)は、作用電極を活性化するために、3.2V~3.0Vの非ファラデー電圧範囲において、10mVs-1の速度で50サイクル掃引した。次いで、硫黄還元反応(SRR)活性を、2.3V~1.5Vの電圧範囲において20mVs-1の速度で、0~1600rpmのさまざまな回転速度においてリニアスイープボルタンメトリー(LSV)で掃引することにより測定した。SRRプロセスにおける電子移動数は、LSV曲線に基づいて、Koutecky-Levich式:1/J=1/J+1/J=1/Bω1/2+1/J(式中、J、J、Jはそれぞれ、測定電流密度、拡散限界電流密度、速度限界(kinetic-limited)電流密度であり、ωはRDEの角速度であり、Bは以下で定義され得るLevich係数である:B=0.62nFCD2/3-1/6(式中、nは電子移動数、Fはファラデー定数、Cは電解質中の反応物濃度、Dは反応物の拡散係数、vは電解質の動粘度である))を使用して計算した。本方法は、Bard, A. J. & Faulkner, L. R. Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications (Wiley, 2001)にも記載されている。
【0234】
LiPSを含まないブランク電解質でもLSVを実施し、SRRプロセスの寄与を分離するためのバックグラウンド曲線として使用した。
【0235】
コインセルの電気化学測定は、バッテリーサイクラー(Biologic MPG-2)で行った。
【0236】
ガルバノスタット充放電(GCD)試験を、2.8V~1.7Vの電圧範囲において、さまざまなCレート(1C=1672mAhg-1)で行った。サイクル安定性は、1Cレートでの連続GCDサイクル中に記録した。
【0237】
サイクリックボルタンメトリー(CV)曲線は、さまざまな掃引速度で収集され、ピーク電流は、Randles-Sevcik式:i=(2.69×10)n3/2ADLi 1/2Li1/2(式中、iPはピーク電流、nは電荷移動数、Aは活性電極の幾何学的面積、DLiはLiイオン拡散係数、CLiは電極中のリチウムイオン濃度、vは掃引速度である)に従ってリチウム拡散係数(DLi)の計算に使用された。本方法は、Bard, A. J. & Faulkner, L. R. Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications (Wiley, 2001)にも記載されている。
【0238】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)は、100kHz~10mHzの周波数範囲で、振幅10mVの正弦波信号を印加し、開回路及び比電圧で測定した。EIS測定中の温度制御のため、オーブン及び冷蔵庫がバッテリーサイクラーと連結された。さまざまなLiPS変換工程の活性化エネルギーは、EISプロファイルから得られた電荷移動抵抗(Rct)を使用して、アレニウスの式に従って計算された。ナイキストプロットからフィッティングされた電荷移動抵抗の逆数(1/Rct)は、アレニウスの式:k=Ae-E/RT(式中、kは速度定数、Tは絶対温度、Aは頻度因子、Eは反応の活性化エネルギー、Rは普遍気体定数である)に従って、各SRR工程の活性化エネルギーを計算するための速度定数を表すために使用された。本方法は、Ogihara et al., 2012にも記載されている。
【0239】
パウチセルの電気化学測定は、コインセルと同様に、放電深度100%で行った。Ahレベルパウチセルのエネルギー密度は、以下の式:E体積=(C面積×V)/ΣTi、E=(C面積×V)/Σ(m面積)i(式中、E体積及びEはそれぞれ体積エネルギー密度及び重量エネルギー密度であり、C面積は面積容量であり、Vは公称セル電圧(2.1V)であり、T及びm面積は、カソード、アノード、集電体(ρAl=2.7gcm-3、ρCu=8.96gcm-3)、セパレータ(ρ=0.95gcm-3)、電解質(ρ=1.0gcm-3)を含むセル構成要素の厚さ及び面積担持質量(areal mass loading)である)で計算した。電解質の厚さはE体積の計算において考慮されていない。図5b及び図5c、Table 7(表7)-パウチセルC面積及びTable 8(表8)-パウチセルサイクル寿命に示す比較例1~10のC面積、E体積及びEの値は、参考文献から収集されたか、報告された数値に基づいて同じ方法で計算された。
【0240】
結果及び考察
上記の方法のセクションに記載されているようにLiMoS膜を調製した。
【0241】
(実施例1A)
LiMoSのモルフォロジー及び特性
LiMoS膜の機械的特性を調べた。
【0242】
LiMoS膜は、図1aに示すように、かなりの機械的柔軟性及び強度を示した。
【0243】
図1bに示す典型的な膜(1mgcm-2、約2.4μm)の断面走査電子顕微鏡(SEM)画像は、ナノシートが密に積層したコンパクトな層状構造を示している。
【0244】
図1cに示すX線回折(XRD)パターンでは、約7.8°に新たなピークが観察され、これはリチオ化に起因する(001)面に対応する。また、2H MoSと比較して、LiMoSでは(002)ピークがより高い角度にシフトしており、ナノシート間の層間距離が小さくなっていることが示唆される。理論に束縛されることを望むものではないが、これは負に帯電した1T相MoSナノシートが、インターカレーションされたLiカチオンに引き寄せられるという事実のためであると考えられる。
【0245】
図1dに示すLiMoSのラマンスペクトルには、MoSの通常のA1gとE 2gのピークに加えて、金属1T相に特徴的なJ、J、Jのピークが示されている。
【0246】
図1eに示すように、XXPSを使用して、リチオ化試料中の1T相濃度は約85%であることが判明した。これは、1T相を約70%含有する非リチオ化1T MoSより高い。
【0247】
裸のLiMoS膜と対比したリチウム箔のセルにおける電気化学的リチウム抽出測定により、LiMoS中のリチウム含有量は約0.7であることが判明した(図6b参照)。この含量は、まず既知の過剰量の希釈HClをLiMoSに添加し、次いで、標準NaOHで上澄みを滴定して正確な過剰量を決定する逆滴定法によって、更に確認された。
【0248】
LiMoS/S複合材料の熱重量分析は、71.6質量%の硫黄含有量を示している。これは、LiMoSと硫黄華の添加量の質量比が1:2.5であることと一致する(図7参照)。
【0249】
カソード表面の電解質濡れ性について、LiMoS/Sは図9aに、2H MoS/Sは図9bに示す。LiMoS/Sにおける電解質の接触角は14°であるのに対し、2H MoS/Sでは65°である。LiMoS/Sでは、カソード表面の電解質濡れ性が改善されている。LiMoSが2H MoSよりも親液性であるのは、その極性に起因する可能性があり、これはLi-S電池カソードの電極-電解質界面抵抗を低減するのに有利である。
【0250】
(追加実施例1B)
3R-NbSの特性評価
調製1.4で調製した3R-NbSを、X線回折(XRD)で特性評価した。図11に示すXRDパターンから、NbS材料が金属3R相であることが確認される。特に、約14.8、30.1、45.7、62.5、80.6のピークは、3R-NbSの単結晶XRD回折の文献における値(例えば、www.hqgraphene.com/3R-NbS2.php参照)に対応する。
【0251】
金属NbSは、金属相NbSの積層層を含む。層又はシートは積層され、シート間にはファンデルワールス力が働いている。理論に束縛されるものではないが、この比較的弱い層間の力により、金属相NbSの層間におけるインターカレーションが容易になると考えられる。
【0252】
(実施例2)
Li-SコインセルにおけるLiMoSカソードの電気化学的特性評価
MoSベース及びNbSベースのカソードを硫黄複合材料(LiMoS/S、MoS/S、NbS/S)として作製し(硫黄70質量%超)、方法セクションに記載されているように組み立てて、リチウム金属アノードを備えるLi-Sコインセルにした。コインセルは、12μLmg-1という高いE/S比、過剰のリチウム、比較的少ない活物質量(面積硫黄担持量2.5mgcm-2、合計5mg)を使用した。
【0253】
LiMoS/S、1T MoS/S、3R-NbS/S、及びその他の参照2H-MoS/S及び2H MoS/C/Sカソードのガルバノスタット充放電(GCD)曲線は、図2a及び図12に示すように、それぞれ2.4V(LiからLi)及び2.1V(LiからLi/LiS)で2つの特徴的な放電プラトーを有する典型的なLi-S電池挙動を示す。
【0254】
コインセルの比容量を0.1Cで測定した(Table 3(表3)-コインセルの比容量を参照)。
【0255】
【表3】
【0256】
LiMoS/Sカソードは、0.1Cで1425mAhg-1の比容量を示した。該比容量は、2H MoS(364mAhg-1)及び2H MoS/C(728mAhg-1)から作られたカソードよりもはるかに高い。1T MoSカソードは、0.1Cで1179mAhg-1の比容量を示したが、この値も、2H MoS及び2H MoS/Cから作られたカソードよりもかなり高い。3R-NbS/Sカソードは1390mAhg-1の比容量を示したが、これは参照2H MoSカソードよりも高く、また1T MoSカソードよりもわずかに高い(図12参照)。LiMoS/Sカソードは、0.1CでNbSカソードよりも高い比容量を示した。
【0257】
とりわけ、この容量は、LiMoS/Sカソードの硫黄利用率が85.2%であることを示している(硫黄利用率100%の理論容量は1672mAhg-1)。更に、これらのカソード中、LiMoSが同一条件下で最も小さい分極電圧ギャップを示したことから、充放電過程におけるアノード/カソード反応が早いことが示唆された。これは、電極触媒活性の改善によるものと考えられる。
【0258】
更に、3R-NbS/S電極の比容量は、約83%の硫黄利用率を示している。NbSカソードも良好な分極電圧ギャップを示した。
【0259】
LiMoSカソードは、レート特性が改善され、1Cで67%の容量維持率を示している(図2bに示す)が、これはまた、Liイオン拡散性及び反応速度の改善を示唆する。
【0260】
LiMoSカソードの体積容量及び硫黄担持量を、図2cに示すように、異なる参照カソードと比較した(電気化学特性評価セクションに記載)。図2cに示す参照カソードによる体積硫黄担持量の値は、そのような参照から収集されたか、実施例のセクションに記載したのと同じ方法を使用して計算された。ここで報告されたLiMoSカソードは、667gL-1の体積硫黄担持量を有し、最も高い値を示している。したがって、このカソードは950AhL-1の体積容量を供給することが可能である。
【0261】
電解質の添加量を減らし、硫黄をコンパクトに閉じ込めることで、シャトル効果による容量低下の原因となり得る多硫化リチウム(LiPS)の溶解を最小限に抑えられると考えられる。LiMoS/Sカソード、1T MoS、及び比較用カソードについて、1C、500サイクルでの容量維持率を測定した(図2d参照)。LiMoSカソードの容量維持率は91%であった。これは、1T MoSの70%、2H MoS/Cの47%、2H MoSカソードの22%よりも高い容量維持率である。
【0262】
理論に束縛されることを望むものではないが、LiMoSの性能改善は、LiPSの吸着性の向上、Liイオン拡散性の向上、電気化学反応速度の加速によるものと考えられる。これらは高い電極触媒活性につながり、LiMoSカソードを備えるLi-S電池の高い容量とサイクル安定性をもたらす。また、電解質の添加量を減らし、硫黄をコンパクトに閉じ込めることで、シャトル効果による容量低下の原因となり得る多硫化リチウム(LiPS)の溶解を最小限に抑えられると考えられる。
【0263】
(実施例3)
LiMoSカソードの多硫化リチウム(LiPS)吸着、Liイオン拡散性及び電気化学反応速度
Li溶液を使用した異なるMoSホストに対する多硫化物吸着測定を行った。図3aの写真からわかるように、LiMoSホストにはLiのほとんどが吸着し、他のホストと比較して透明な溶液が得られた。このLiMoSホストの、LiPSに対する高い親和性は、紫外可視(UVvis)分光法によって定量的に確認された(図3a)。
【0264】
Li生成物の効率的な吸着は、変換プロセスを促進する(容量を増加させる)だけでなく、シャトル効果を最小限に抑える(サイクル安定性を向上させる)ためにも重要である。これは、Li-S電池全体の反応(S+16e+16Li⇔8LiS)において、移動する16個の電子のうち、12個の電子がLiからLiSへの変換(2Li+12e+12Li⇔8LiS経由;同量の硫黄で釣り合う)に由来するためと考えられる。つまり、容量の75%はLiから最終的なLiSへの変換による。これはまた、約2.1Vにおける最大の放電プラトー(図2a参照)にも対応し、通常、放電進行に最も長い時間がかかる。Liが他のLi-S種よりも電解質に曝露される時間が長いということは、Liが溶解してシャトルする確率が高いことを意味する。
【0265】
Liイオン拡散係数(DLi)は、サイクリックボルタンメトリー(CV)の結果から、(方法セクションで説明したように)Randles-Sevcik方程式を使用して計算した。CV曲線は2つのカソードピーク及び1つのアノードピークを示し(図3b)、これは図2aのGCD曲線で観察された2つの放電プラトー及び1つの充電プラトーに対応する。
【0266】
さまざまな掃引速度におけるピーク電流を使用して、異なるカソードのDLiを抽出した(図3c)。LiMoSカソードのDLiは5.1×10-8cm-1であり、1T MoSカソード(3.0×10-8cm-1)より71%高いことが判明した。
【0267】
理論に束縛されることを望むものではないが、これは金属MoSナノシート間にインターカレーションされたLiが、該材料を通るLiイオンの拡散を促進するためと考えられる。LiMoSカソードのDLiは、金属1T相の結果として、2H MoS/C(4.9×10-9cm・s-1)よりも1桁以上高い。DLiの差は、(図2bに示す)MoSベースのカソードで観察されたレート特性の差の説明となる。
【0268】
LiMoSカソードのLiイオン拡散性は、図3dのナイキストプロットに示されるように、電気化学インピーダンス分光法(EIS)プロファイルによっても測定された。低周波数領域での大きい傾きは、イオン拡散挙動の向上を示唆している。図3dは、EISプロファイルのフィッティングに使用した等価回路を示している。回路の抵抗素子は以下の通り:Rは、材料と集電体との界面接触抵抗、電解質のオーム抵抗、集電体の固有抵抗を含む複合内部抵抗;R硫黄は、電極表面への不溶性LiPSの析出に起因する硫黄析出抵抗;Rctは、電気化学反応の抵抗を表す電荷移動抵抗である。
【0269】
電気化学反応の速度を明らかにするため、EISを使用して、異なるカソードで各多硫化物変換工程に必要な活性化エネルギー(E)を調べた。測定は、重要な反応が起こる電圧と、異なる温度で行った。2.1V(Li変換の重要な工程が起こる)におけるナイキストプロットを図3dに示す。この曲線を等価回路にフィッティングすると、LiMoSカソードが最も低い内部抵抗(R)及び電荷移動抵抗(Rct)を持つことがわかる。次いで、アレニウスの式を用いて、Eを求めた(図3e)。アレニウスの式では、電荷移動抵抗の逆数(1/Rct)が硫黄還元反応(SRR)速度を表すために使用される。該反応は電荷移動を伴って進行するためである。異なる電圧におけるE値を図3fにまとめた。
【0270】
各カソードとも、2.4V及び2.1VでのE値は、隣接する電圧よりも高い。LiからLi/LiSへの変換プロセスに対応する、2.1Vでの反応は、全電圧の中で最も高いEを示し、これがLi-S電池反応全体の律速段階であることを示している。異なるカソードのうち、LiMoSは各多硫化物変換工程で明らかに最も低いEを示している。例えば、2.1Vにおいて、LiMoSカソードのEは、1T MoS及び2H MoSよりもそれぞれ約34%及び約70%低い。
【0271】
これは、LiMoSカソードのLiイオン拡散性及び反応速度の向上とともに、LiPS吸着が改善されたことを示している。
【0272】
(実施例4)
回転ディスク電極(RDE)システムを使用した、LiMoSカソードのLi溶液中における電極触媒硫黄還元反応(SRR)試験
リニアスイープボルタンメトリー(LSV)により、Li変換のSRR特性を調べた。立ち上がり電位を、Table 4(表4)-LSVで測定したカソード材料の立ち上がり電位、及び図4aに示す。
【0273】
【表4】
【0274】
図4aのLSV曲線から、LiMoSの立ち上がり電位は2.12Vであり、1T MoS(2.03V)、2H MoS/C(1.95V)、2H MoS(1.91V)の立ち上がり電位よりもかなり高いことがわかる。すなわち、LiMoSの過電圧が最も低く、SRRの電極触媒活性が最も高いことを示している。これは、より高い半波電位及びより大きな拡散限界電流密度(JD)によっても示される。
【0275】
LSVプロファイルから得られたターフェル勾配を記録し、図4bに示した。ターフェル勾配の傾きを、Table 5(表5)-LSVで測定したターフェル勾配の傾きに示す。
【0276】
【表5】
【0277】
ターフェル勾配の傾きは、電流密度を1桁増加させるのに必要な電位という形で、電極触媒の反応速度及び活性を示す。LiMoSは、1T MoS(168mVdec-1)、2H MoS/C(195mVdec-1)、2H MoS(227mVdec-1)よりも大幅に小さいターフェル勾配(66mVdec-1)を示し、より高い電極触媒活性及び反応速度を示している。これは、上述した低いEと一致する。
【0278】
図4aのLSV曲線から、LiMoSのJD値が他の参照MoSホストよりも高いことがわかる。異なる材料の等しい担持質量が測定に使用されたことを考慮すると、LiMoSの電流が大きいことは、SRRプロセスにおいてより多くの電子が移動したことを示している。
【0279】
LSV測定は、異なる回転速度で行った(図4cに示す)。これは、拡散限界電流密度がRDEの角速度とともに増加することを示している。
【0280】
得られたJDは、(上記の方法セクションで説明したように)Koutecky-Levich式に従って電子移動数を計算するために使用される。異なるMoSホストの電子移動数を、図4d及びTable 6(表6)-異なるカソードの電子移動数に示す。
【0281】
【表6】
【0282】
LiMoSの電子移動数は約10.6であり、1T MoS(8.7)、2H MoS/C(5.5)、2H MoS(2.8)よりも大きく、LiからLiSへの変換を促進するLiMoSの電極触媒活性が高いことを示唆している。LiからLiSへの完全変換には合計12個の電子が移動するため、この電子移動数10.6は変換率88.3%に相当する。これは、コインセルから得られた硫黄利用率85.1%(上述)とよく一致する。
【0283】
このことは、LiMoSが、SRRに対する優れた電極触媒活性、Liイオン拡散性の向上、反応速度の加速、シャトル効果を緩和するLiPS吸着の改善を示すことを示している。これらの特質は全て、LiMoSカソードの容量、レート特性、サイクル安定性を向上させる。
【0284】
(実施例5)
LiMoSベースのLi-Sパウチセルの性能
(方法セクションに記載されているように)あらかじめ最適化したE/S比2.4μLmg-1を使用し、LiMoSカソード及びリチウム金属アノードを用いてパウチセルを製造した。比較用パウチセルPC1~PC10を、方法セクションに記載された参考文献に従って作製した。
【0285】
エネルギー貯蔵デバイス(例えば、パウチセルレベルLi-S電池及びLIB)では、面積容量(C面積)が性能の重要な指標となる。Li-S電池でC面積を増加させる最も簡単な方法は、面積硫黄担持量を増加させることである。しかし、担持量の増加は通常、厚い電極を横切るイオン拡散の鈍化を伴うため、比容量が低下し、結果としてC面積も低下する。
【0286】
実施例のパウチセルでは、図5aから、硫黄担持量7.5mgcm-2(カソード中の硫黄分率は71.4質量%で一定)でC面積が最適化され、8.21mAhcm-2のC面積が得られたことがわかる。図5b及びTable 7(表7)-パウチセルC面積に示されるように、8mAhcm-2を超えるC面積は、公知のLi-Sパウチセルと比較して優れており、市販のLIBのベンチマーク値である3mAhcm-2も超えている。図5bに示すように、LiMoSベースのパウチセルは、5mAcm-2の高電流密度でも4mAhcm-2超を維持し、優れたレート特性を示している。これは、1時間以内に完了する急速充電プロセスに相当する。
【0287】
【表7】
【0288】
公知のLi-S電池の容量は、総容量1Ah未満と低いことが多い。これは、実用的な電源に必要な容量よりも低い。例えば、ほとんどの市販の電池は1~2Ah又はそれ以上の容量レベルで動作する。したがって、1Ahを超えるレベルで動作する電池のエネルギー密度を比較する方が有意義である。
【0289】
実施例のAhレベルLi-Sパウチセル(上記の方法セクションに記載)の総容量は1.33Ahである。この容量は、工業的製造技術及び最適化された構成を用いることにより、2Ah超まで増加するように計画される。例えば、カソードを10層積層することで、(図10cに示すように)2.2Ahの総容量を達成することができる。
【0290】
Ahレベルパウチセルについてエネルギー密度を測定し、公知のLIB、Li-S電池、鉛蓄電池と比較した結果を図5cに示す。LiMoSベースのパウチセルは、402Whkg-1の高い重量エネルギー密度と721WhL-1の体積エネルギー密度をもたらす。これらのエネルギー密度はLi-Sパウチセルとしては優れており、Oxis Energy社及びSion Power社のLi-S電池、LiFePO(LFP、BYD社製)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811、CATL製)、LiNi0.6Co0.2Mn0.2(NCM622、LG社製)、LiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA、パナソニック社製)のLIBを含む市販のLi-S及びLIB系と比較して優れている。
【0291】
重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度は、工業的製造技術と最適化された構成によって達成可能な、計画される2Ahを超えるレベルのパウチセルについて計算された(図10d参照)。これは、最適化後、重量エネルギー密度及び体積エネルギー密度が約30%向上すると予想されることを示している(E=520Whkg-1、E体積=940WhL-1)。
【0292】
パウチセルのサイクル寿命が測定された。パウチセルは200サイクル後に85.2%の容量維持率を示し、これは1サイクル当たり0.074%の容量減少に相当する。Table 8(表8)-パウチセルのサイクル寿命に示すように、このサイクル安定性は、公知のLi-S電池と比較して優れている。このサイクル安定性は、200回の完全な充電サイクルで元の容量の約80%を保持するように設計されている市販のLIBと比較しても優れている。LiMoSベースのLi-Sパウチセルにおけるこれらの結果は、エネルギー貯蔵デバイスとしての多くの利点を実証している。
【0293】
【表8】
【0294】
参考文献
本発明及び本発明が関連する最先端技術をより完全に説明し、開示するために、上記で多くの刊行物を引用した。これらの参考文献の完全な引用を上記に示す。これらの各参考文献は、全体が本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9a
図9b
図10
図11
図12
【国際調査報告】