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特表2024-534532鉄で汚染されたプロセス流から有価金属元素を回収するリサイクル方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】鉄で汚染されたプロセス流から有価金属元素を回収するリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20240912BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20240912BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20240912BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B3/08
C22B3/10
C22B3/24
C22B7/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024517537
(86)(22)【出願日】2022-07-06
(85)【翻訳文提出日】2024-04-15
(86)【国際出願番号】 GB2022051726
(87)【国際公開番号】W WO2023041890
(87)【国際公開日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】2113378.0
(32)【優先日】2021-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523139652
【氏名又は名称】ゲリオン・テクノロジーズ・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アダム・ウィリアム・ディーコン
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・マリン・フロリード
(72)【発明者】
【氏名】ジュリア・ヴァレーホ・ナバレト
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル・トローバ
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA10
4K001AA19
4K001AA41
4K001BA22
4K001DB03
4K001DB04
4K001DB35
4K001DB36
(57)【要約】
1つ以上の有価金属元素を含む原料から1つ以上の有価金属元素をリサイクルする方法であって、方法は、原料又はその誘導体を酸浸出することによって酸性水性リサイクル供給物を形成することであって、酸性水性リサイクル供給物は、溶液中に1つ以上の有価金属元素及び鉄を含む、形成することと、酸性水性リサイクル供給物を、鉄を吸着する固相抽出剤材料と接触させることであって、1つ以上の有価金属元素が溶液中に残存する、接触させることと、溶媒抽出プロセス、固相抽出プロセス、電気化学的抽出プロセス及び沈殿プロセスから選択される1つ以上のさらなるプロセスステップを介して、酸性水性リサイクル供給物から1つ以上の有価金属元素を回収することと、固相抽出剤材料を、鉄と錯体を形成する有機キレート分子の溶液を含むストリッピング剤と接触させることによって、固相抽出剤材料から鉄を回収することと、を含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の有価金属元素を、前記1つ以上の有価金属元素を含む原料からリサイクルする方法であって、前記方法は、
前記原料又はその誘導体を酸浸出することによって酸性水性リサイクル供給物を形成することであって、前記酸性水性リサイクル供給物は、溶液中に前記1つ以上の有価金属元素及び鉄を含む、形成することと、
前記酸性水性リサイクル供給物を、前記鉄を吸着する固相抽出剤材料と接触させることであって、前記1つ以上の有価金属元素が溶液中に残存する、接触させることと、
溶媒抽出プロセス、固相抽出プロセス、電気化学的抽出プロセス及び沈殿プロセスから選択される1つ以上のさらなるプロセスステップを介して、前記酸性水性リサイクル供給物から前記1つ以上の有価金属元素を回収することと、
前記固相抽出剤材料を、前記鉄と錯体を形成する有機キレート分子の溶液を含むストリッピング剤と接触させることによって、前記固相抽出剤材料から前記鉄を回収することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記固相抽出剤材料は、官能化シリカ又は官能化ポリマーの材料を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固相抽出剤材料は、アミノホスホン酸基、アミノホスフィン酸基、又はスルホン酸基及びホスホン酸基を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記固相抽出剤材料は、アミノメチルホスホン酸(AMPA)基及び/又はアミノメチルホスフィン酸基を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ストリッピング剤の前記有機キレート分子は水に可溶であり、前記ストリッピング剤として前記有機キレート分子の水溶液を形成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ストリッピング剤のpHは、7.5、7.0又は6.8以下、4.0、5.0又は5.5以上である、及び/又は前述の上限及び下限のいずれかによって定義される範囲内である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記有機キレート分子は、鉄種をキレート化するために-COO基、-COH基、及び/又は-NH基を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記有機キレート分子は、アミノ酢酸官能基及び/又はカルボン酸官能基を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記有機キレート分子は、EDTA、シュウ酸塩、フタル酸、アスコルビン酸、クエン酸、又はそれらの誘導体のうちの1つ以上を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記有機キレート分子はEDTAを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記有機キレート分子はEDTAの塩を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記塩は、EDTAのナトリウム塩、EDTAのカリウム塩、及びEDTAのアンモニウム塩からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記塩はEDTAのアンモニウム塩である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記原料は鉄を含み、前記酸性水性リサイクル供給物中の前記鉄の少なくとも一部は、前記酸浸出ステップ中に前記原料から浸出される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記酸性水性リサイクル供給物中の前記鉄の少なくとも一部は、前記酸性水性リサイクル供給物を形成するために利用される1つ以上のプロセス流体中の鉄不純物によるものか、又は処理設備からの前記酸性水性リサイクル供給物の汚染によるものである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記原料又はその誘導体を酸浸出することによって前記酸性水性リサイクル供給物を形成した後、前記酸性水性リサイクル供給物は、前記酸性水性リサイクル供給物を、前記鉄を吸着する前記固相抽出剤材料と接触させる前の1つ以上の中間処理ステップに供され、前記1つ以上の中間処理ステップは、溶媒抽出プロセス、固相抽出プロセス、電気化学的抽出プロセス及び沈殿プロセスから選択される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ストリッピング剤を使用して前記固相抽出剤材料から前記鉄を回収して有機キレート分子と鉄との錯体を形成した後、前記錯体を酸で処理して前記錯体を分割し、
次に、前記有機キレート分子は、前記固相抽出剤材料と接触する前記ストリッピング剤中で再利用するためにリサイクルされる、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記原料は電池材料であり、任意選択で電池カソード材料であり、又は
前記原料は、1つ以上の白金族金属を含む材料であり、任意選択で触媒材料である、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記原料は、Ni及びCoの一方又は両方を含み、
前記Ni及びCoの一方又は両方は、前記酸性水性リサイクル供給物に溶解され、
前記Ni及びCoの一方又は両方は、前記鉄が前記酸性水性リサイクル供給物から抽出された後、前記酸性水性リサイクル供給物から抽出される、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
入力流として、鉄不純物を含む酸性水性供給物を使用する金属加工方法であって、
前記酸性水性供給物を、前記鉄を吸着する固相抽出剤材料と接触させることと、
前記固相抽出剤材料を、前記鉄と錯体を形成する有機キレート分子の溶液を含むストリッピング剤と接触させることによって前記固相抽出剤材料を回収することであって、前記ストリッピング剤は、前記吸着された鉄を前記固相抽出剤材料から除去する、回収することと、
前記回収された固相抽出剤材料を再利用して、さらなる酸性水性供給物から鉄を除去することと、
前記鉄を除去した後、前記ストリッピング剤を再利用して、前記固相抽出剤材料をさらに回収することと、
金属溶解プロセス、金属精製プロセス、及び/又は金属リサイクルプロセスにおいて鉄が除去された、得られた酸性水性供給物を使用することと、
を含む、金属加工方法。
【請求項21】
前記酸性水性供給物は硫酸又は塩酸供給物である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記固相抽出剤材料は、請求項2~4のいずれか一項に定義された通りである、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
前記ストリッピング剤は、請求項5~13のいずれか一項に定義された通りである、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄で汚染されたプロセス流から有価金属元素をリサイクルする方法に関する。そのようなプロセス流には、電池材料リサイクル流、特に電池カソードリサイクル流が含まれる。そのようなプロセス流には、触媒材料リサイクル流も含まれる。この方法は、プロセス流が鉄汚染も含む場合に、回収されることが望まれる有価金属元素を含む他のプロセス流にも適用されてもよい。本明細書の文脈において、有価金属元素とは、リサイクルされることが望ましい金属元素を意味する。これらには、白金族金属(PGM)などの貴金属のほか、コバルトやニッケルなどのますます需要が高まっている卑金属も含まれる。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は現在、現代社会のいたるところに普及しており、携帯電話やラップトップコンピュータなどの小型のポータブル機器だけでなく、電気自動車にも使用されることが増えている。
【0003】
リチウムイオン電池は一般に、充放電サイクル中にリチウムイオンが流れる電解質によってカソードから分離されたグラファイトアノードを含む。リチウムイオン電池のカソードは、リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物又はリチウムマンガン酸化物などのリチウム遷移金属酸化物を含み得る。
【0004】
リチウムイオン及びその他の最新の充電式電池は、将来にむけて、有望な低炭素エネルギー源を提供するが、懸念の1つは、それらの製造に必要なリチウム、ニッケル、コバルト及び/又はマンガンなどの金属が、入手可能性が限られており、天然資源からの抽出が難しいため、高価格で取引されることがよくあることである。従って、電池製造の原材料として使用され得る材料を提供するために、電池のカソード内に存在する金属など、電池内に存在する金属をリサイクル又は精製する方法が必要である。
【0005】
電池材料のリサイクルプロセス中に、十分な純度で抽出できれば新しい電池材料の製造に使用され得るコバルトやニッケルなどの有価金属元素を含む流出液が生成される。そのような流出液は、有価金属と不要な不純物の混合物である、いわゆる「黒い塊」を含む廃電池材料から浸出することによって生成されてもよい。従って、そのような溶液には、鉄などの他のあまり望ましくないか又は不要な金属元素又は不純物が含まれる。溶液は、金属元素の混合物を含み得、多くの場合、これらの金属元素を1つだけ、又は限られた数だけ抽出することが望ましい。
【0006】
溶媒抽出(液液抽出、LLEとも呼ばれる)は、電池リサイクルプロセスから得られた溶液中に存在する金属元素を抽出、分離及び精製するために使用される1つの方法である。溶媒抽出には、抽出される金属を含む水相を、溶媒抽出剤を含む有機相と接触させることが含まれる。抽出後、目的の金属を含む相は「抽出物」として知られ、残留不純物を含む相は「ラフィネート」として知られる。多くの場合、溶液から金属を選択的に抽出するには、異なる溶媒抽出剤を用いて複数の別々の抽出ステップを実行する必要がある。これは高価で複雑な手順であり、抽出ステップを簡略化し、及び/又は抽出プロセスによって達成される有価生成物金属の収率及び/又は純度を向上させるために、不要な不純物を除去することが望ましい。
【0007】
固相抽出(SPE)は、電池リサイクルプロセスから得られた溶液中に存在する金属元素を抽出、分離及び精製するために使用される別の方法である。固相抽出には、抽出される金属を含むプロセス流を固相抽出剤材料(通常、固体担体上に固定化された1つ以上の官能基を含む)と接触させて、1つ以上の金属種を選択的に除去することが含まれる。固相抽出剤材料は、水相が流れるビーズ、顆粒、又は粉末などの粒子形態で提供されてもよい。粒子材料は、例えば、水相が流れるカラムに充填されてもよい。あるいは、固相抽出剤材料は、水相が流れる細孔又はチャンネルを有するモノリシック構造の形態であってもよい。固相媒体の性質、溶液中の金属種の性質、及び固相媒体に接触する溶媒/溶離液の性質に応じて、金属種は、金属種の分離及び精製を行うために、選択的に固相媒体上に吸着し、その後、ストリッピング剤を用いて固相媒体から脱着することができる。そのようなアプローチに伴う問題の1つは、目標有価金属に含まれる1つ以上の汚染物質を吸着及び脱着することなく、目的の目標有価金属を選択的に吸着及び脱着することが困難であり得ることである。そのようなアプローチに伴う別の問題は、ある特定の金属種が固相媒体に強く結合でき、その後、固相媒体から除去/脱離することが困難であることである。そのような場合、金属種は、固相媒体の表面に蓄積し、固体媒体は、汚染されると言われ、交換を必要とする。さらに別の問題は、複数回のローディング及び溶出サイクルにわたる固相媒体の分解である。
【0008】
鉄不純物を含む電池材料リサイクル流からCoやNiなどの有価金属をリサイクルする必要性に加えて、有価金属元素及び鉄不純物、例えば、使用済みの触媒材料(例えば、PGMベースの触媒)や高価な金属元素を含む他の機能性材料に由来するものを含む他の一連のプロセス流から有価金属を抽出してリサイクルすることがますます求められている。
【発明の概要】
【0009】
本明細書は、有価金属元素及び鉄不純物を含むプロセス流から鉄を選択的に除去するために固相抽出法を使用することを提案する。これに関して、ある特定の市販の固相抽出剤材料が鉄に対して親和性を有することが知られている。例えば、アミノメチルホスホン酸(AMPA)は、鉄を吸着する市販のキレート樹脂である。しかし、第二鉄イオンは、そのように固相抽出剤によって非常に強く吸着され、材料を汚染することになる。実際、AMPA樹脂用(例えば、Lewatit TP-260)の製品安全データシートは、樹脂の汚染を引き起こすため、樹脂が使用される流れでの鉄を回避することを規定する。従って、従来技術の方法論は、樹脂の汚染を回避するために、鉄の非存在下で卑金属(BM)を分離するためのキレート配位子としてAMPA樹脂などの固相抽出媒体を使用する。
【0010】
以上のことを考慮すると、鉄を強く吸着するそのような固相抽出剤材料から鉄をどのように溶出させるかが問題となる。これに関して、AMPAなどの固相抽出剤からの鉄の溶出は、ストリッピング剤として塩酸及び/又は硫酸を用いて試験されている。しかし、溶出には高濃度の酸が必要であり、経済的に非実用的である。また、濃酸の使用には、濃酸と適合するためにプロセス装置の構築に高価な材料が必要である。なお、溶出プロセスは非効率的であり、濃無機酸を使用した場合でも、固体媒体に大量の鉄が付着したままになる可能性がある。
【0011】
そのため、濃無機酸で溶出することによって、AMPA樹脂などの固相抽出剤から鉄を除去できることが見出されたが、このアプローチは、大規模な工業プロセスには実用的ではない。
【0012】
対照的に、本明細書によれば、固相抽出剤材料を、鉄と錯体を形成する有機キレート分子の溶液を含むストリッピング剤に接触させることで固相抽出剤から鉄を効率的に除去できることが判明した。そのため、鉄を選択的に固相媒体上に選択的に吸着し、その後、濃無機酸を使用することなく媒体から脱着できるように、固相抽出剤材料と、有機キレート分子の溶液を含むストリッピング剤との組み合わせを選択することが有利であることが判明した。固相媒体とストリッピング剤のそのような組み合わせの例は、アミノメチルホスホン酸(AMPA)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。これに関して、EDTAの水溶液を使用してAMPA固相媒体から鉄を効率的に除去することができ、固相媒体をリサイクル可能にすることが判明した。EDTAは、水に溶ける無毒の有機分子である。そのため、プロセス装置用の構成材料は、標準的な水性処理流と同じにすることができ、EDTAの価格は比較的安価である。従って、この溶出プロセスにより、様々なプロセス流から鉄を除去できるようになり、価値のある金属の回収をより容易かつ安価にする。
【0013】
従って、本明細書は、1つ以上の有価金属元素を含む原料から1つ以上の有価金属元素をリサイクルする方法を提供し、方法は、
原料又はその誘導体を酸浸出することによって酸性水性リサイクル供給物を形成することであって、酸性水性リサイクル供給物は、溶液中に1つ以上の有価金属元素及び鉄を含む、形成することと、
酸性水性リサイクル供給物を、鉄を吸着する固相抽出剤材料と接触させることであって、1つ以上の有価金属元素が溶液中に残存する、接触させることと、
溶媒抽出プロセス、固相抽出プロセス、電気化学的抽出プロセス及び沈殿プロセスから選択される1つ以上のさらなるプロセスステップを介して、酸性水性リサイクル供給物から1つ以上の有価金属元素を回収することと、
固相抽出剤材料を、鉄と錯体を形成する有機キレート分子の溶液を含むストリッピング剤と接触させることによって、固相抽出剤材料から鉄を回収することと、を含む。
【0014】
固相抽出剤材料は、鉄に対する親和性を有するキレート配位子で官能化された固体基材を含む。例えば、固相抽出剤材料は、固相媒体上に鉄を吸着するためのアミノメチルホスホン酸(AMPA)基などのアミノホスホン酸基を含んでもよい。代替的に、又は追加的に、固相抽出剤材料はアミノホスフィン基を含んでもよい。代替的に、又は追加的に、固相抽出剤材料はスルホン酸基及びホスホン酸基を含んでもよい。
【0015】
固体基材は、シリカ、又はポリスチレンもしくはポリーグリシジルメタクリレート(ポリーGMA)などのポリマーを含んでもよい。シリカベースの固相抽出剤材料が、この鉄抽出用途においてより優れた性能を発揮できることが見出された。
【0016】
ストリッピング剤は、鉄と錯体を形成する有機キレート分子を含む。有機キレート分子は、水に可溶であり、水溶液を形成することが好ましい。有機キレート分子は、アミノ酢酸官能基及び/又はカルボン酸官能基を含んでもよい。有機キレート分子は、EDTA、シュウ酸塩、フタル酸、アスコルビン酸、クエン酸、又はそれらの誘導体のうちの1つ以上を含んでもよい。有機キレート分子は、鉄種をキレート化するために、-COO基、-COH基、及び/又は-NH基を含んでもよい。例えば、有機キレート分子は、アミノ基と酸基の両方を含んでもよく、アミノ基と酸基の両方が鉄種をキレート化するように機能する。
【0017】
好ましくは、有機キレート分子は、EDTA、例えばEDTAの塩を含む。そのようなEDTA塩は、EDTAのナトリウム塩(例えば、NaEDTA)、EDTAのカリウム塩、及びEDTAのアンモニウム塩からなる群から選択されてもよい。ある特定の方法において、キレート分子のアンモニウム塩は、他の塩よりも高い溶解度を有し、例えば、ある特定のナトリウム塩を用いて生じ得る、例えば硫酸ナトリウムの望ましくない沈殿を回避するので好ましい。
【0018】
有機キレート分子の溶液は、固相抽出剤材料上に吸着された鉄のモル量以上の有機キレート分子のモル濃度を有してもよい。有利には、すべてのFeが固相抽出剤材料から除去されることを保証するために、過剰の有機キレート分子が提供される。従って、1:1のモル比でFeとキレート化する分子について、nが固相抽出剤材料に吸着されたFeのモル数である場合、ストリッピング溶液中の有機キレート分子のモル数は、有利にはnよりも大きい。しかし、より一般的には、キレート分子が異なればFeとの反応の化学量論も異なるため、有機キレート分子とFeの間の反応の化学量論を考慮する必要がある。そのため、キレート反応Fe+xL->FeLxを有するキレート分子Lの場合、キレート分子のモル数は、過剰なキレート分子が固相抽出剤材料からFeを除去するために提供されることを保証するために、Feのモル数のx倍を超える必要がある。例えば、EDTAの場合はx=1であり、クエン酸の場合はx=2であり、シュウ酸塩の場合はx=3である。
【0019】
さらに、ストリッピング剤のpHが塩基性(例えば、pH>7、>7.5、又は>8)である場合、固相抽出剤材料、特にシリカベースの材料が分解され得ることが判明した。そのため、ストリッピング剤のpHは、7.5、7.0、又は6.8以下であることが好ましい。なお、pHが低すぎると、有機キレート分子は、プロトン化して沈殿し得る。これは、例えばストリッピング剤の水溶液のpHが4未満の場合に発生する可能性があるが、特定のpH限界はキレート分子のpKaに依存する。そのため、ストリッピング剤の好ましいpH範囲は、固相抽出剤材料を分解するほど溶液が塩基性すぎないことを保証しながら、有機キレート分子が溶液中に留まることを保証する。EDTAなどの、ある特定のキレート分子については、固相抽出剤材料の分解及びストリッピング剤中の沈殿反応の両方を回避するために、ストリッピング剤溶液の適切な操作pHは、4~7、有利には5.5~6.8と定義されてもよい。例えば、ストリッピング剤のpHは、7.5、7.0又は6.8以下、4.0、5.0又は5.5以上、及び/又は前述の上限及び下限のいずれかによって定義される範囲内であってもよい。しかしながら、ストリッピング剤の溶媒が水性溶媒と有機溶媒の混合物であると、有機キレート分子が有機:水性溶媒に可溶なままであるため、沈殿を回避できることにも注意されたい。そのため、そのような混合溶媒がストリッピング剤として使用されると、比較的低いpHでも沈殿を回避することができる。
【0020】
酸性水性リサイクル供給物内の鉄汚染は、原料に由来する可能性がある。即ち、原料は鉄を含んでもよく、酸性水性リサイクル供給物中の鉄の少なくとも一部は、酸浸出ステップ中に原料から浸出される。追加的には、又は代替的には、酸性水性リサイクル供給物中の鉄の少なくとも一部は、酸性水性リサイクル供給物を形成するために利用される1つ以上のプロセス流体/試薬中の鉄不純物によるものか、又は処理設備からの酸性水性リサイクル供給物の汚染によるものである可能性がある。本方法は、酸性水性リサイクル供給物中の鉄がFe(III)酸化状態にある場合に特に有用であり、この状態は、スルホン化ホスホン酸基及びアミノホスホン酸基を含むものなどの固相抽出剤材料に悪影響を及ぼす(即ち、汚染する)という点で特に問題があることが見出されている。本方法は、Fe(III)が供給物溶液中に存在する場合に固相抽出剤材料を回収する手段を提供する。
【0021】
鉄を除去するための固相抽出ステップは、酸浸出ステップの直後に実行する必要はないことにも注意されたい。例えば、原料又はその誘導体を酸浸出することによって酸性水性リサイクル供給物を形成した後、酸性水性リサイクル供給物は、酸性水性リサイクル供給物を、鉄を吸着する固相抽出剤材料と接触させる前に1つ以上の中間処理ステップに供することができ、1つ以上の中間処理ステップは、例えば、溶媒抽出プロセス、固相抽出プロセス、電気化学的抽出プロセス及び沈殿プロセスから選択される。しかし、鉄不純物は、鉄が干渉するいかなる抽出ステップの前にも抽出する必要がある。例えば、鉄は、Co及びNiの選択的抽出剤のほとんどと有害に相互作用することが見出されている。従って、Co及び/又はNiの抽出を行う前に鉄を除去することが望ましい。即ち、原料にはNi及び/又はCoが含まれる場合、Ni及び/又はCoは、酸性水性リサイクル供給物に溶解され、Ni及び/又はCoは、鉄が本明細書に記載の方法論を使用して酸性水性リサイクル供給物から抽出された後にのみ、酸性水性リサイクル供給物から抽出される。
【0022】
なお、ストリッピング剤を使用して固相抽出剤材料から鉄を回収して有機キレート分子と鉄との錯体を形成した後、錯体を酸で処理して錯体を分割し、キレート分子を沈殿させることができることが判明した。次いで、有機キレート分子を(例えば濾過によって)分離し、固相抽出剤材料と接触するストリッピング剤中で再利用するためにリサイクルすることができる。このストリッピング剤のリサイクルは、コストを削減し、プロセス効率を向上させ、環境への影響を軽減するのに、特に特定のストリッピング剤の使用に何らかの環境上の懸念がある場合に有利である。
【0023】
上述のリサイクルプロセスに供することができる原料は、電気機器又は触媒コンバーターなどの商業製品で使用されるもの、又は工業化学製造プロセスなどの商業プロセスで使用されるものなどの機能性材料を含む。原料は、電池材料、任意選択でリチウムイオン電池カソード材料などの電池カソード材料であってもよい。この場合、電池廃棄材料は、元の機能電池材料に由来し、通常、上述のプロセスにおける最初の酸浸出ステップに供されるいわゆる「黒い塊」の形態である。あるいは、機能性材料は、触媒材料、又は典型的には1つ以上の有価金属(例えば、1つ以上の白金族金属)を含む他の材料であってもよい。そのような材料の需要はますます高まっており、そのような機能性材料を再利用のためにリサイクルできるようにする必要性がますます高まっている。
【0024】
リサイクルされる材料は、例えば、多くのリチウムイオン電池カソード材料の場合のように、Ni、Co、Mn及びLiのうちの1つ以上を含んでもよい。この場合、前述したように、鉄がCo及びNiの選択的抽出剤のほとんどと相互作用する重要な不純物の1つであるため、リサイクル可能な固体媒体を使用して鉄を除去すると、価値のある金属の回収に役立つ。従って、Co及び/又はNiなどの1つ以上の他の金属が精製される前に、鉄を除去することが望ましい。
【0025】
この方法を利用できる他の例として、白金族金属(PGM)精製プロセス流及び/又はニッケル含有プロセス流が挙げられる。これに関して、AMPAなどの固相抽出媒体は、PGMやNiよりもFeに対して選択的であることが見出された。そのため、この方法は、そのようなプロセス流からFeを除去するために適用することができる。その後、従来技術を、PGMを抽出し、清浄なNiプロセス流を残し、PGMに加えて価値のある卑金属としてのニッケルの回収を可能にするために使用することができる。
【0026】
上述のプロセスは、原料から1つ以上の有価金属元素をリサイクルする方法に関し、ほうほうは、原料又はその誘導体を酸浸出することによって酸性水性リサイクル供給物を形成することを含む。そのような場合、そのような酸浸出液は、鉄不純物を含む可能性があり、浸出液をさらに処理する前にそのような鉄不純物を酸浸出液から除去することが望ましいことが認識されている。しかし、様々な金属加工方法は、入力流として酸性水性供給物を使用しており、そのような酸性水性供給物は、浸出プロセスから得られたものでなくても鉄汚染されやすい可能性があることも認識されている。例えば、特定のグレードの硫酸又はHClは、ppmレベルの鉄をみ得、このレベルの鉄不純物は、そのような酸性試薬を使用する場合、金属加工ステップ/精製ステップ/抽出ステップに悪影響を与える可能性がある。そのため、ある特定の金属加工方法のための入力流として使用される場合、そのような酸性試薬から鉄不純物を低減/除去することは有利であろう。
【0027】
従って、本明細書の別の態様によれば、鉄不純物を含む酸性水性供給物(例えば、硫酸又は塩酸)を入力流として使用する金属加工方法が提供され、方法は、
酸性水性供給物を、酸性水性供給物中の鉄を吸着する固相抽出剤材料と接触させることと、
固相抽出剤材料を、鉄と錯体を形成する有機キレート分子の溶液を含むストリッピング剤と接触させることによって固相抽出剤材料を回収することであって、ストリッピング剤は、吸着された鉄を固相抽出剤材料から除去する、回収することと、
回収された固相抽出剤材料を再利用して、さらなる酸性水性供給物から鉄を除去することと、
鉄を除去した後、ストリッピング剤を再利用して、固相抽出剤材料をさらに回収することと、
金属溶解プロセス、金属精製プロセス、金属抽出プロセス及び/又は金属リサイクルプロセスにおいて鉄が除去された、得られた酸性水性供給物を使用することと、を含む。
【0028】
本明細書のこの態様の任意の特徴(例えば、好ましい固相抽出剤材料、ストリッピング剤、及びpHなどのローディング及び除去プロセス条件)は、前述の態様に関連して説明したものと同じであり、簡潔にするためにここでは繰り返さないことが理解されよう。
【0029】
本発明をよりよく理解し、それがどのように実施されるかを示すために、本発明のある特定の実施形態が、以下で説明する添付の図面を参照しながら、単なる例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】電池材料リサイクルプロセスの例を示す。
図2】電池材料リサイクルプロセスの別の例を示す。
図3】リサイクルされる有価金属を含むプロセス流からのFeの除去について評価された3つの異なる固相抽出剤の概略図を示す。
図4】固相抽出剤を製造するための2ステップ官能化の概略図を示す。
図5】固相抽出剤を形成するために評価された4つの官能基の概略図を示す。
図6】様々な金属不純物を含む6MのHCl中のPGM合成供給物の固相抽出剤を使用したFeの取り込み結果を示す。
図7】シリカベースの固相抽出剤とポリマーベースの固相抽出剤を使用した、Feの破過曲線の比較を示す。
図8】複数回のローディング及び溶出サイクルを受けた固相抽出剤のFeローディングを重量%(左)及びppm(右)で示す。
図9】固相抽出剤からのFeの溶出プロファイルを示す。
図10】卑金属がカラム内のNH カチオンと相互作用する結果として見られるアーチファクト(図10において丸で囲まれる)を示す、様々な金属の破過曲線を示す。
図11】HCl供給物を使用した固相抽出剤からのFeの除去を試験するために使用されたいくつかの異なるキレート剤の概略図を示す。
図12】異なるキレート剤及び異なる酸溶液を使用して溶出したFeの割合(%)を示す。
図13】硫酸供給物からのFeの除去をテストするために使用されたいくつかの異なるキレート剤の概略図を示す。
図14】バッチ実験における2つの異なる固相抽出剤媒体について異なるキレート剤を使用して溶出されたFeの割合(%)を示す。
図15】流動実験における硫酸供給物からのFeの除去をテストするために使用されるいくつかの異なるキレート剤の概略図を示す。
図16】ストリッピング剤の塩基性溶液が利用される場合、シリカベースの固相抽出剤のFeローディングが複数回のローディング及び溶出サイクルにわたって減少することを示す。
図17】ストリッピング剤の塩基性溶液が利用される場合、シリカベースの固相抽出剤のFeローディングが複数回のローディング及び溶出サイクルにわたって減少することを示す。
図18】シリカベースの固相抽出剤がストリッピング剤の塩基性溶液によって分解されることを示す、Si、P及びFeのローディング中(左)/溶出(右)中のICP分析を示す。
図19】塩基の存在下でのシリカの分解の概略図を示す。
図20】アミノホスフィン基を含む2つの抽出剤材料を用いた、及びアミノホスフィン基を含む3つの抽出剤材料に対する、Fe(II)溶液及びFe(III)溶液からのFeローディング結果を示す。
図21】鉄を抽出するための固相抽出剤材料の官能基として使用できる別の官能基の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
概要セクションで説明したように、本明細書は、1つ以上の有価金属元素を含む原料から1つ以上の有価金属元素をリサイクルする方法を提供する。この方法は、鉄がリサイクルプロセス流に不純物として存在する場合に適用される。この方法は、PGMなどの有価金属及びNi及び/又はCoなどの価値のある卑金属を含む様々な機能性材料のリサイクルに適用されてもよいが、特にリチウムイオン電池カソード材料のリサイクルに有用である。
【0032】
これに関して、図1は、電池材料リサイクルプロセスの例を示す。出発材料は、カソードスクラップ、又はいわゆる「黒い塊」であり、通常、Li、Ni、Co、Mn並びにCu及びFeを含有する不純物を含む。材料は、溶液中に構成金属種を含む酸性水性リサイクル供給物を得るために、酸溶解又は浸出ステップに供される。酸性水性リサイクル供給物には、その後の抽出ステップを妨げ得るFeなどの不純物も含まれる。そのため、酸性水性リサイクル供給物をさらに処理する前に、そのような不純物を選択的に除去することが望ましい。次に、有機溶媒抽出ステップを、(有機相中の)Co及びNiをMn及びLiから分離するために適用することができる。酸スクラブは、Co及びNiをCo及びNi水溶液に除去する前に全ての残留不純物を除去するために有機相にさらに適用することができる。有機相は、Co及びNiのさらなる抽出における使用のために再生及びリサイクルすることができる。図1の方法により、カソードの黒い塊材料からCo及びNiを分離することを可能にする。しかし、LiとMnを相互に分離するには、さらなるプロセスステップが必要である。
【0033】
図2は、電池材料リサイクルプロセスの別の例を示す。この場合も、出発材料はカソードスクラップ、又はいわゆる「黒い塊」であり、通常、Li、Ni、Co、Mn並びにCu及びFeを含有する不純物を含む。しかし、この例において、リチウムは、Liを溶解するが他の金属種を溶解しない適切な溶媒(例えば、ギ酸などの有機酸)で処理することによって最初に除去される。残りの材料は、溶液中に残りの構成金属種を含む酸性水性リサイクル供給物を得るために、酸溶解又は浸出ステップに供される。この場合も、酸性水性リサイクル供給物には、その後の抽出ステップを妨げ得るFeなどの不純物も含まれる。そのため、酸性水性リサイクル供給物をさらに処理する前に、そのような不純物を選択的に除去することが望ましい。次に、有機溶媒抽出ステップは、(有機相中の)Co及びNiをMnから分離するために適用することができる。酸スクラブは、Co及びNiをCo及びNi水溶液に除去する前に全ての残留不純物を除去するために有機相にさらに適用することができる。有機相は、Co及びNiのさらなる抽出における使用のために再生及びリサイクルすることができる。図2の方法は、Li、Mn、Co及びNiの効率的な4方向分離を達成することを可能にするという点で有利である。
【0034】
Feの除去は、干渉や汚染を避けるために、Co/Ni溶媒抽出の前に図1及び図2のフローシートに含める必要がある重要なステップであることが見出されている。本明細書によれば、Co及びNiの抽出に先立つ酸性水性リサイクル供給物からのFeの除去は、酸性水性リサイクル供給物を、鉄を選択的に吸着する固相抽出剤材料と接触させ、1つ以上の有価金属元素が溶液中に残存することと、固相抽出剤材料を、鉄と錯体を形成する有機キレート分子の溶液を含むストリッピング剤と接触させることによって固相抽出剤材料から鉄を回収することとによって達成される。
【0035】
固相抽出剤材料は、Feの取り込みに対して選択的な官能基に結合した固体基質材料を含む。固体基質材料は、シリカ、又はポリスチレン又はポリーグリシジルメタクリレート(ポリーGMA)などのポリマーであってもよい。官能基は、Feの取り込みに対する選択的配位子であることが証明されている、アミノメチルホスホン酸(AMPA)基などのアミノホスホン酸官能基であってもよい。代替的には、又は追加的には、官能基は、アミノメチルホスフィン酸基などのアミノホスフィン酸基を含んでもよい。代替的には、又は追加的には、官能基は、スルホン酸基及びホスホン酸基を含んでもよい。
【0036】
市販及び社内の様々な固相媒体の性能は、最適なローディング、除去、選択性、及びいくつかのローディング及び溶出/除去サイクル後の安定性について検討されている。Feの除去について評価された3つの異なる固相媒体の例が、図3に概略的に示される。図3に示す3つの例のうち、官能化シリカ材料DAVISIL(商標)-EDA-AMPAは、他のシリカベースの材料よりも良好な安定性、及びポリマーベースの材料(例えば、ポリスチレンやポリーGMAベースの材料)よりも速い反応速度を示すことが見出されている。
【0037】
固相抽出媒体の合成
AMPA官能基によるシリカの官能基化の合成手順が図4に示される。第1ステップにおいて、シリカ及びシリカ1グラム当たり3mmolのアミノシランを溶媒(トルエン)と共に3つ口丸底フラスコに入れる。混合物を継続的に撹拌しながら一晩90℃に加熱する。反応が終了したら、生成物を真空下で濾過し、水で洗浄する。生成物をさらに精製する必要がある場合、アセトンを溶媒として使用したソックスレー抽出によって達成することができる。
【0038】
第2ステップにおいて、第1ステップからの官能化シリカを3つ口丸底フラスコに入れる。次に、HPO(12mmol/gのシリカ)を脱イオンHO/濃HCl(比率2:1)の混合物に溶解し連続的に撹拌しながら(シリカの破壊を避けるために低い回転数を維持)で丸底フラスコに導入する。続いて、反応混合物を60℃に加熱する。温度が安定したら、ホルムアルデヒド(12mmol/gのシリカ)を反応混合物に滴下し、溶液を一晩加熱還流する。反応が終了したら、生成物を放冷し、ワットマン濾過装置で濾過し、溶液がきれいになるまでMeOH/水で数回洗浄した後、真空オーブンで乾燥する。
【0039】
図4は、シリカを使用したEDA-AMPAの合成の概略反応を示すが、他のアミノ基も合成し、続いてリン酸官能化し、それらのFe除去能力を評価した。図5は、AP、EDA、DETA及びTRENとして示される異なるアミノ基の様々な例を示す。EDAは、それぞれのアミンがより安価であり、Feに対してより高い容量を示すため、最良の候補として選択された。それにもかかわらず、AP、DETA及びTRENも効果的に機能する。
【0040】
鉄の取り込み及び溶出実験
市販材料Lewatit TP 260を使用した不純物を含むPGM合成供給物からの鉄の取り込み
動的試験が、固体媒体の選択性を評価するために、不純物を含むPGMの6MのHCl浸出液を含む合成供給物を用いて行われた。この試験は、1.44gのLewatit TP260を使用して0.94mL min-1で5時間行われ、6BV h-1を収集した。ベッドボリューム(BV)は、カラム内の材料(固体及び液体の両方)の総体積であり、カラム内の所定量の吸着剤を湿潤させるために必要な溶媒の最小体積に関連する。
【0041】
Lewatit TP 260及び合成PGM供給物を使用したカラム実験の結果が図6に示される。固体媒体は、PGMよりもFeに対する選択性を示す。最初のBVには少量のPtのみが吸着される。しかし、Feが吸着され始めると、固体媒体上に何も残らなくなるまでPtを置換する。一方、残りの金属(Cu、Ni、Pb、Pd、Rh及びZn)は吸着されず、溶液中のそれらの濃度はプロセス全体を通じて一定のままである。
【0042】
Feの破過曲線は非常に広く、これは、Feが完全に除去された供給物のBVの数は限られていることを意味する。これは、ポリマーの疎水性によって説明され、実験の流速を低下させることによって対処することができる。実験点間の変動は、機器の誤差であり、約5%である。
【0043】
そのため、固相媒体の選択性は、様々な金属種/不純物にわたってFeについて確認されている。
【0044】
シリカベースの媒体とポリマーベースの媒体の比較
2つの合成媒体をFeの除去について試験した。図7は、官能基が同じであるが、ベース媒体が異なる2つの媒体の破過曲線を比較し、DAVISIL(登録商標)-EDA-AMPAはシリカベース媒体を有するのに対し、Macro-Prep(登録商標)-EDA-AMPAはポリーGMAベース媒体を有する。この実験において、カラムにFeをローディングし、金属取り込みプロファイルをBVに関して記録する。図7は、Macro-Prepベースの媒体が1g L-1のFeの供給濃度で10BV後に破過負荷に達することを示す。対照的に、DAVISIL(登録商標)シリカベースの媒体は、2g L-1のFe の供給濃度で18BVまで破過に達しない。破過前のBVが大きいほど、他の金属がカラムを通過する窓が大きくなる。
【0045】
これにより、シリカベースの固相抽出媒体は、ポリマーベースの固相抽出媒体と比較して向上した性能を示すことが示される。
【0046】
DAVISIL(登録商標)-EDA-AMPAを使用した合成電池材料供給物からのFeの取り込み及び溶出
2.57g(乾燥含量98%)のDAVISIL(登録商標)-EDA-AMPAを長さ6cmのカラムに充填した。材料を、1(v/v)%HSO溶液を使用した湿式法によってローディングした。実験の各サイクルにおいて、1(v/v)%HSO中の約2.3g L-1のFeの合成供給物を流速9.4mL/10分でカラムに1.5時間通過させ、固体媒体をFeで飽和させた。ローディングサイクルが完了したら、カラム内に残っている供給物の最後の部分を洗い流し、細孔内の遊離SO 2-アニオンの量を減少させるために、6BVのHOを通した。これは、NaEDTA又は(NHEDTA溶液がカラムを通過するときに沈殿の問題が発生し、NaSO又は(NHSO(HOに対する溶解度がそれぞれ20g/100ml又は71g/100mL)が形成されるためである。
【0047】
以下の表は、Fe除去のためのローディング/溶出サイクルで使用された標準手順をまとめたものである。


【表1】
【0048】
以下の表は、実験で使用された供給物中に存在した各金属の濃度及び質量をまとめたものである。
【表2】
【0049】
図8は、実験のすべてのサイクルについてFeローディングを重量%(左)及びppm(右)で示す。図8に見られるように、Feのローディングは7サイクルにわたって一定であり、すべてのサイクルで5BVの溶液にFeが除去されている(ICP-OESで定量すると1ppm未満)。6番目のBVは、サイクルに応じて15~40ppmの範囲でFeを含有する。これは、DAVISIL(登録商標)ーEDAーAMPAの容量値60mg/gに相当する。
【0050】
Feの溶出は、6つのBVについて0.2Mの(NHEDTA溶液を使用して検討された。(NHEDTAの6つのBVを、3つの各セットの間に水の2つのBVを有する2つのサイクルに分けた。図9は、0.2Mの(NHEDTA溶液を使用したFeの溶出プロファイル(3サイクル目)を示す。図9のグラフのボックスは、溶出の第2のセットを示す。中間の洗浄は、速度効果又はpHの変化に関連し得るFeの溶出に役立ち得ることが観察された。溶出プロセスが完了したら、カラムを再生し、次のサイクルを開始した。すべてのサイクルについて、同じ溶出パターンが見出された。
【0051】
(NHEDTAを使用したFeの溶出及び次のサイクルの開始の後、カラム内に薄い色の層が観察された。層は、溶媒がカラムを通過するにつれて流れ、数BV後にカラムを通過する。このアーチファクトは、最初のサイクルを除くすべてのサイクルで見られ、理論に束縛されるものではないが、卑金属(Cu、Co、Ni、Mn及びZn)ならびにMg及びLiと、溶出後にカラム中に残されたNH カチオンとの相互作用によって引き起こされると考えられる。物質収支は、金属が短期間保持されることを示す。しかし、金属はカラム内に残らず、カラムに流入したすべての金属も、Feを除いてローディング後に排出された。
【0052】
図10は、卑金属がカラム内のNH カチオンと相互作用する結果として見られるアーチファクト(図10において丸で囲まれる)を示す2回目のローディングの破過曲線を示す。各サイクルの物質収支は、溶出した金属の合計を各サイクルにわたって汲み上げられた金属の合計で割ったものを考慮して計算された。結果を以下の表に示す。以下に見られるように、数値が100%にほとんど到達せず、ICP-OES分析を再評価する必要があり、内部標準の使用は、ある金属と別の金属の干渉の影響によって生じる小さなシフトを補正するために必要であることを意味する。
【0053】
【表3】
溶出試料の1つの希釈に問題が発生し、機器はFeを50ppmしか報告しなかったが、このサイクルの値が低いことを説明する。
【0054】
異なるストリッピング剤
他のストリッピング剤を、バッチ除去実験を使用して評価した。図11は、Feの除去を試験するために使用されるいくつかの異なるキレート剤の概略図を示す。図12は、異なるキレート剤及び異なる酸溶液を使用して溶出したFeの割合(%)を示す。図12に示す結果は、異なるストリッピング剤を使用して溶出したFeの割合(%)である。これらの実験は、FeがFeCl の形態であり、カラム内で強く結合しているHCl酸供給物を使用して行われたことに留意することが重要である。これらの状況下で、EDTAが、最良の結果を示す。しかし、HSOからの供給物において、以下で説明するように異なる結果が得られる可能性がある。
【0055】
1%HSOでの供給物からの除去実験
図13は、硫酸供給物からのFeの除去を試験するために使用されたいくつかの異なるキレート剤の概略図を示す。試験したキレート剤には、グリシン、サッカリン、アスパラギン酸及びクエン酸、ならびにEDTAなど、キレート化する能力を有する天然成分及び/又はアミノ酸の誘導体が含まれていた。
【0056】
バッチ実験を実施し、そこでは、硫酸供給物からのFeを含む0.4gのローディング材料を一連の試験管に入れ、25mlの異なるキレート剤溶液を各管に加え、ローディング材料を2時間接触させた。その後、一部の溶液において色の変化が見られ、溶液中にFeが存在することが示された。ICP-OES分析により、クエン酸及びEDTAによってFeが有意に溶出されたことが裏付けられた。図14に見られるように、最大溶出率は約45%である。約45%はバッチ実験にとって許容可能な値であり、正しい濃度の新鮮な溶液が数BVにわたってカラムを通過する流動実験においてより最適化された結果が得られる。
【0057】
流動実験
EDTAは、両方のタイプの供給物(HCl及びHSO)においてストリッピング剤として最良の性能を示すため、異なるアミノ酢酸キレート配位子及びクエン酸を評価するために流動実験を実施した。試験した様々なキレート剤を図15に示す。実験は、カラム実験として行われ、そこでは、同じストリッピング剤が2回のローディング-溶出サイクルで使用され、その後変更され、最後に使用されたストリッピング剤はEDTAであった。
【0058】
試料のICP-OES分析により、すべてのキレート配位子がFeを良好に溶出できることが示された(以下の表を参照)。NTAは、おそらくその配位子が4座であり、Feが八面体環境にあることを好むため、最も有効でない配位子であった。EDTAで達成された100%を超える値は、EDTAがカラム内に保持されたFeを溶出でき、他の配位子が溶出できなかったことを示す。
【表4】
【0059】
EDTAのリサイクル性
評価したすべての条件において、EDTAが最良のストリッピング剤であった。そのため、除去プロセスの後にEDTAを再循環させるための専用の経路が開発された。NHFeEDTA錯体が溶液になったら、数滴の酸(この場合、HSOを使用したが、他の無機酸も利用できる)を加え、配位子は、直ちにプロトン化して鉄錯体を破壊し、水に不溶性である、プロトン化されたキレート配位子(HEDTA)の沈殿を引き起こす。Fe(SOの溶液及び固体のプロトン化されたキレート配位子は、濾過によって分離することができ、キレート配位子は、リサイクルすることができる。
【0060】
操作窓
カラム実験は、供給物中の異なる濃度の酸を用いて行われ、性能の損失は観察されなかった。しかし、シリカの溶解を回避するために、溶出液のpHを7未満に保つ必要があることに注意することが重要である。実験は、pH>7がシリカの溶解及び固体の存在による背圧の問題を引き起こすことを証明した。
【0061】
塩基性溶出液を使用したシリカベースの固体抽出剤の分解
2.38g(乾燥含量98%)のDAVISIL(登録商標)-EDA-AMPAを用いて、4回のローディング-除去サイクルの実験を実行し、固相抽出剤は、1%HSO溶液を用いて湿式法によってローディングされた。実験の各サイクルにおいて、合成供給物をカラムに5時間通して、固体媒体をFeで飽和させた。固体媒体を3BVのHOで洗浄し、カラム内に残っている供給物の最後の部分を洗い流し、その後、0.5MのNaEDTA溶液を12BVで使用してFeの溶出を調べた。溶出プロセスが終了したら、3BVの1%HSOを使用してカラムを再生した後、次のサイクルを開始した。以下の表は、各ローディングサイクルで使用された金属の濃度及び質量を示す。
【表5】
【0062】
図16は、4サイクルにわたるローディングの結果を示す。1サイクル目において、固体媒体は、高い容量と、最初の18BVにFeが除去される清浄な破過曲線を示す。しかし、2サイクル目において、シリカは容量を失い、10BVのみにFeの除去が達成され、その後、3サイクル目及び4サイクル目において、固体媒体は、2つの余分なBVの容量を失う。
【0063】
前述の実験中に媒体の容量が失われていたことを確認するために、各サイクルのFeローディングは、4サイクルの金属ローディングを重量%で示す図17に示される。図17に観察できるように、固体媒体は、サイクルごとに容量を失っており、シリカの分解/溶解に起因する可能性がある。何が起こっているのかをよりよく理解するために、Si及びPのICP-OES分析が4サイクル中に行われた。Si及びPの標準は利用できないため、強度のみに従った。
【0064】
図18は、Si、P及びFeについてのローディング(左)/溶出(右)プロセス中の強度のICP-OES分析を示す。分析は、Fe、Si及びPの関係を示す。左側には、ローディングプロセスが示される。このグラフにおいて、Feで媒体を飽和させるまで、Si及びPがカラムから出る。次に、右側に示される溶出プロセスにおいて、最初のBVにFeが出てくる。重要なことに、その期間中にSiもPも溶出されず、Feとの錯体形成によって官能基を分解から保護することを示唆する。しかし、Fe溶出が完了すると、他の2つの元素がカラムから脱離し始め、官能基がシリカと共にシリカ担体から切断されていることを示す。
【0065】
この分解モードは塩基性pHでのみ発生する。塩基の存在下でのシリカの分解の概略図を図19に示す。この結果は、NaEDTA溶液のpHがシリカには適切ではなかったことを示唆する。市販のNaEDTAの溶液を測定したところ、意図したpH7ではなく、pH11.5であることが証明された。シリカは、アルカリ溶液と接触すると急速に分解することが知られており、固体媒体の分解が観察されたことを説明する。従って、ストリッピング剤のpHは、pH7以下になることを保証するために調整する必要がある。
【0066】
固相抽出剤用の他の官能基
前述の実験は、アミノメチルホスホン酸(AMPA)基を含む固相抽出剤材料を用いて行われた。鉄に対する親和性を有する他の固相抽出剤材料を使用することも可能である。例えば、アミノホスフィン基を含む固相抽出剤材料を利用することができる。アミノホスフィン官能基は、アミノホスホン材料に類似しているが、より低い酸化状態でリン原子を有し、ホスホン酸の場合はP(V)であり、ホスフィン酸の場合はP(III)である。後者は、Fe(III)と比較して、Fe(II)に対してより高い親和性を示し得る。これに関して、バッチでの一連の単純な一点吸着試験を実行し、0.1gの各捕捉剤を新たに調製した15mLのFe(II)溶液と30分間混合してFe(III)への酸化を最小限に抑え、比較目的でFe(III)溶液と混合した(500mg L-1、pH2.0)。図20は、アミノホスフィン基を含む2つの抽出剤材料を用いた、及びアミノホスフィン基を含む3つの抽出剤材料に対する、Fe(II)溶液及びFe(III)溶液からのFeローディング結果を示す。Fe(II)に最適な材料は、アミノホスフィン酸変異体QS-TAPiであった。Fe(III)を抽出するのに最適な材料は、アミノホスホン酸変異体QS-TAPであった。
【0067】
図21は、鉄を抽出するための固相抽出剤材料の官能基として使用できるさらに別の官能基の概略図を示す。この材料は、Fe(III)を吸着することで知られるスルホン酸基及びホスホン酸基を有するポリマーである。そのような機能性材料は、Feを取り込むために使用されてもよく、その後、本明細書に記載のストリッピング剤による溶出によって回収されてもよい。
【0068】
本発明は、特定の実施例を参照して特に図示及び説明されたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更がなされ得ることが当業者に理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17
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【国際調査報告】