(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)の結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20240912BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240912BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240912BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240912BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240912BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N5/0783
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024517550
(86)(22)【出願日】2022-09-20
(85)【翻訳文提出日】2024-05-17
(86)【国際出願番号】 GB2022052368
(87)【国際公開番号】W WO2023047089
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515202863
【氏名又は名称】オスロ ユニヴェルジテットサイケフス ホーエフ
(71)【出願人】
【識別番号】510179537
【氏名又は名称】ウニヴァーシテテット イ オスロ
【住所又は居所原語表記】P.O. Box 1072,Blindern,0316 Oslo Norway
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】オルヴェウス、ヨハンナ
(72)【発明者】
【氏名】アリ、ムハンマド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087DA31
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列ALYDKTKRI(ペプチドT1)又はヒト末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)に由来する配列番号15に記載のアミノ酸配列ALYDKTKRIFL(ペプチドT3)を有するペプチドを提示するヒト白血球抗原(HLA)複合体A2型に特異的に結合することができる結合タンパク質を提供する。結合タンパク質は、ペプチドを認識するTCRに由来するそれぞれ3つの相補性決定領域(CDR)を含有するα鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有する。結合タンパク質及びそれらを発現する細胞は、癌治療において使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号15に記載のアミノ酸配列ALYDKTKRIFLを有するペプチドを提示するヒト白血球抗原(HLA)複合体A2型に特異的に結合することができる結合タンパク質であって、
前記タンパク質がα鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有し、
ここで、前記α鎖可変ドメインが、それぞれ、配列番号16、17及び18に記載のアミノ酸配列を含有する3つの相補性決定領域(CDR):CDR1、CDR2及びCDR3を含有し、
β鎖可変ドメインが、それぞれ、配列番号19、20及び21に記載のアミノ酸配列を含有する3つのCDR:CDR1、CDR2及びCDR3を含有する、
結合タンパク質。
【請求項2】
前記α鎖可変ドメインが、配列番号22に記載のアミノ酸配列又はそれに対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し、且つ、
前記β鎖可変ドメインが、配列番号23に記載のアミノ酸配列又はそれに対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する、
請求項1に記載の結合タンパク質。
【請求項3】
配列番号1に記載のアミノ酸配列ALYDKTKRIを有するペプチドを提示するヒト白血球抗原(HLA)複合体A2型に特異的に結合することができる結合タンパク質であって、
ここで、前記タンパク質が、α鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有し、
ここで、前記α鎖可変ドメインが、それぞれ、配列番号2、3及び4に記載のアミノ酸配列を含有する3つの相補性決定領域(CDR):CDR1、CDR2及びCDR3を含有し、
前記β鎖可変ドメインが、それぞれ、配列番号5、6及び7に記載のアミノ酸配列を含有する3つのCDR:CDR1、CDR2及びCDR3を含有する、
結合タンパク質。
【請求項4】
前記α鎖可変ドメインが、配列番号8に記載のアミノ酸配列又はそれに対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し、且つ、
前記β鎖可変ドメインが、配列番号9に記載のアミノ酸配列又はそれに対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する、
請求項3に記載の結合タンパク質。
【請求項5】
前記結合タンパク質が、前記α鎖可変ドメインを含有する第1の鎖と前記β鎖可変ドメインを含有する第2の鎖とを含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の結合タンパク質。
【請求項6】
前記第1の鎖が更に細胞外α鎖定常ドメインを含有し、且つ、前記第2の鎖が更に細胞外β鎖定常ドメインを含有する、請求項5に記載の結合タンパク質。
【請求項7】
前記細胞外α鎖定常ドメインが、配列番号10に記載のアミノ酸配列又はそれに対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し、且つ、
前記細胞外β鎖定常ドメインが、配列番号11に記載のアミノ酸配列又はそれに対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する、
請求項6に記載の結合タンパク質。
【請求項8】
前記第1の鎖及び/又は前記第2の鎖が、更に、膜貫通ドメインを含有する、請求項6又は7に記載の結合タンパク質。
【請求項9】
前記第1の鎖及び/又は前記第2の鎖が、更に、細胞質ドメインを含有する、請求項8に記載の結合タンパク質。
【請求項10】
(a)前記第1の鎖が、配列番号24に記載のアミノ酸配列を含有するα鎖であり、且つ、前記第2の鎖が、配列番号25に記載のアミノ酸配列を含有するβ鎖であるか、又は
(b)前記第1の鎖が、配列番号12に記載のアミノ酸配列を含有するα鎖であり、且つ、前記第2の鎖が、配列番号13に記載のアミノ酸配列を含有するβ鎖である、
請求項5~9のいずれか1項に記載の前記結合タンパク質
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に定義された結合タンパク質をコードする組換え核酸分子。
【請求項12】
前記核酸分子が、cDNA分子を含有する、請求項11に記載の組換え核酸分子。
【請求項13】
前記核酸分子が、第2の鎖に連結された第1の鎖を含有するポリペプチドをコードし、ここで、好ましくは、前記第1の鎖が自己スプライシングリンカーによって前記第2の鎖に連結されている、請求項11又は12に記載の組換え核酸分子。
【請求項14】
前記自己スプライシングリンカーが、配列番号26に記載のアミノ酸配列又はそれに対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する2Aペプチドである、請求項13に記載の組換え核酸分子。
【請求項15】
請求項11~14のいずれか1項に記載の組換え核酸分子を含有するベクター。
【請求項16】
結合タンパク質の第1の鎖をコードする第1の核酸分子と結合タンパク質の第2の鎖をコードする第2の核酸分子とを含有するキットであって、
(i)前記第1の鎖及び前記第2の鎖が、それぞれ、請求項1又は2に定義されるα鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含有するか、又は
(ii)前記第1の鎖及び前記第2の鎖が、それぞれ、請求項3又は4に定義されるα鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含有する、
キット。
【請求項17】
請求項11~14のいずれか1項に定義された組換え核酸分子、請求項15に定義されたベクター、又は請求項16に定義された組換え核酸分子の対を含み、その細胞膜に請求項1~10のいずれか1項に記載の結合タンパク質を発現する、細胞。
【請求項18】
前記細胞が、免疫エフェクター細胞又はその前駆体である、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
前記細胞がT細胞若しくはナチュラルキラー細胞又はその前駆体であるか、或いは前記細胞が幹細胞である、請求項17又は請求項18に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項20】
前記細胞が、Tヘルパー細胞又は細胞傷害性T細胞である、請求項19に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項21】
請求項17~20のいずれか1項に定義された細胞を含有する医薬組成物。
【請求項22】
治療に使用するための、請求項17~20のいずれか1項に定義された細胞又は請求項21に定義された医薬組成物。
【請求項23】
癌の処置における使用のための、請求項17~20のいずれか1項に定義された細胞又は請求項21に定義された医薬組成物であって、ここで、前記癌が末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を発現するものである、医薬組成物。
【請求項24】
前記癌が、急性リンパ芽球性白血病、好ましくはT細胞起源又はB細胞起源の急性リンパ芽球性白血病、である、請求項23に記載の使用のための細胞。
【請求項25】
末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)特異的細胞を生成する方法であって、請求項11~14のいずれか1項に定義された組換え核酸分子、請求項15に定義されたベクター、又は請求項16に定義された組換え核酸分子の対を、細胞に導入することを含有する、方法。
【請求項26】
前記細胞が、T細胞若しくはNK細胞又はその前駆体であり、ここで、好ましくは、前記T細胞がTヘルパー細胞又は細胞傷害性T細胞である、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、T細胞受容体(TCR)由来の配列に基づく結合タンパク質に関する。結合タンパク質は、ヒト白血球抗原A2(HLA-A2又はHLA-A*02)を含有する主要組織適合性複合体(MHC)クラスIに関連して、ヒト末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)の断片を認識する。本明細書中に開示される結合タンパク質及びそれらを発現する細胞は、癌治療において使用することができる。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体(CAR)を発現する自己リンパ球に基づく癌治療はよく知られている。腫瘍関連抗原を標的とする種々のCARが、過去10年間に開示されている。しかしながら、従来のCARの主な欠点は、細胞表面タンパク質のみを標的とするそれらの能力である。
【0003】
急性リンパ芽球性白血病(ALL)は、新しい治療法が緊急に必要とされている血液癌である。B細胞ALL(B-ALL)では、CAR T細胞療法によるB細胞特異的抗原CD19のターゲティングは、しばしば完全寛解を誘導する。しかしながら、B ALL患者の約40~50%が抗CD19 CAR-T細胞療法後に再発する(非特許文献1、非特許文献2)が、癌からのCD19の喪失が原因であることが最も多い。(非特許文献3)。更に、CD19は腫瘍特異的抗原ではないので、正常B細胞及び悪性B細胞が、抗CD19 CAR-T細胞療法によって同様に殺される。B細胞無形成症は比較的寛容性が良好であるが、生涯に亘る免疫グロブリン補充を必要とし、持続性CD19特異性CAR-T細胞の長期的な効果は不明である。従って、同種造血幹細胞移植に伴う毒性を伴わずに、正常なBリンパ球産生を維持する治療が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0290897号
【特許文献2】国際公開第91/18019号(Squibb & Sons、Dana Farber Cancer Institute)
【特許文献3】国際公開第96/18105号(Harvard)
【特許文献4】国際公開第2000/031239号(Yeda R&D)
【特許文献5】国際公開第2019/166463号
【特許文献6】国際公開第2004/054512号
【特許文献7】国際公開第2016/116601号
【特許文献8】国際公開第2018/129199号
【特許文献9】国際公開第2014/037422号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Maudeら、New England Journal of Medicine 378:439-448(2018)
【非特許文献2】S.A.Gruppら、Blood 132、895-895(2018)
【非特許文献3】Shah及びFry、Nature Reviews Clinical Oncology 16:372-385(2019)
【非特許文献4】Sellarら、British Journal of Haematology 181:515-522(2018)
【非特許文献5】Komoriら、Science 261:1171-1175(1993)
【非特許文献6】Drexlerら、Acta Haematologia 75:12-17(1986)
【非特許文献7】Pellinら、Nature Communications10:2395(2019)
【非特許文献8】Liら、Journal of Experimental Medicine 178:951-960(1993)
【非特許文献9】Boulter、J.M.ら(Protein Eng.Des.Sel.16(9):707-711(2003)
【非特許文献10】Cohenら(Cancer Research 67(8):3898~903(2007)
【非特許文献11】Walsengら、PLoS ONE 10(4):e0119559(2015)
【非特許文献12】Walsengら、Scientific Reports 7:Article 10713(2017)
【非特許文献13】Busch及びSassone-Corsi、Trends in Genetics 6:36-40(1990)
【非特許文献14】Lewisら、2015、J Neurosci Methods 256:22-29
【非特許文献15】Wangら、2015(Scientific Reports 5:Article No.16273)
【非特許文献16】Wiglerら、Cell 11(1):223-232(1977)
【非特許文献17】Mullenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.89:33-37(1992)
【非特許文献18】Waelchliら、PLoS ONE 6(11):e27930(2011)
【非特許文献19】Saeboee-Larssenら、J.Immunol.Methods 259:191-203(2002),191-203(2002)
【非特許文献20】Rice,P.ら、Trends Genet.16、(6)pp276-277(2000)
【非特許文献21】Sievers F.ら、Mol.Syst.Biol.7:539(2011)
【非特許文献22】Edgar,R.C.、Nucleic Acids Res.32(5):1792-1797(2004)
【非特許文献23】Beckerら、Cancer Immunology、Immunotherapy 65:477-484(2016)
【非特許文献24】Spanholtzら、PLoS ONE 6(6):e20740(2011)
【非特許文献25】Tosatoら、Current Protocols in Immunology Chapter 7,Unit 7 22(2007)
【非特許文献26】Aliら、Nature Protocols 14:1926-1943(2019)
【非特許文献27】Scheperら、Nature Medicine 25:89-94(2019)
【非特許文献28】Stronenら、Science 352:1337-1341(2016)
【非特許文献29】Linnemannら、Nature Medicine 19:1534-1541(2013)
【非特許文献30】Brochetら、Nucleic Acids Research 36:W503-508(2008)
【非特許文献31】Kumariら、PNAS 111:403-408(2014)
【非特許文献32】Rapoportら、Nature Medicine 21:914-921(2015)
【非特許文献33】Johnsonら、J. Immunol.177,6548-6559(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多数のT細胞特異的マーカーがあるにも拘わらず、全てのT-ALLサブタイプに亘って効率的に悪性細胞を標的とし、同時に成熟した健常なT細胞を残すT細胞ALL(T-ALL)に対しては、CAR療法は承認されていない。健康なT細胞の枯渇は、極端に毒性であるか又は生命と両立し得ないので、これを達成することは極めて重要である。更に、T-ALLでは腫瘍特異的標的は同定されておらず、臨床試験で有効性が証明されている免疫療法もない。化学療法が失敗した場合(15~20%)、T-ALLは予後不良であり、全生存率は25%未満である。
【0007】
本発明者らは、B-ALL及びT-ALLにおける免疫療法のための標的として、細胞内酵素末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を同定した。TdTの機能は、T細胞受容体(TCR)及びB細胞受容体遺伝子の組換えの際に、N-ヌクレオチドをV-D-J結合に付加することであり(非特許文献5)、従って、TdTの発現は、B及びT細胞系列に限定される。TdTは、B及びT細胞由来のALL及びリンパ芽球性リンパ腫の80~94%で過剰発現しているが(非特許文献6)、造血幹細胞では発現していない(非特許文献7)ため、赤血球及び血小板産生を含有する骨髄造血はTdTのターゲティングの影響を受けないはずであり、TdTは分化中に下方制御される(非特許文献8)ため、正常な成熟B及びT細胞は温存すべきである。本発明者らは、ALL療法に使用することができるTdT由来ペプチドを認識するTCRを作製した。TdTは、癌免疫療法の潜在的な標的として既に同定されているが、TdTを標的とする現在の治療法は知られていない。
【0008】
ここで提供されたTCRは、ALLにおける癌性T細胞及びB細胞を標的とするが、健常なT細胞及びB細胞のごく僅かなサブセットのみを標的とする。このように、本明細書で提供されるTCRは、大多数のT-ALLサブタイプの治療のための最初の免疫療法及び生涯に亘る免疫障害を引き起こさない、B-ALLのための改良された免疫療法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、配列番号1又は配列番号15に記載のTdT-ペプチドを提示するヒト白血球抗原複合体クラスIに特異的に結合することができる結合タンパク質を提供する。このような結合タンパク質(又はそれらを発現する細胞)は、TdT、特にALL、を発現する癌細胞を標的化するために使用することができる。実施例において実証されるように、特許請求される結合タンパク質は、生理学的条件下で、配列番号1に記載のTdT-ペプチド又は配列番号15に記載のTdT-ペプチドのいずれかを提示するHLA-A*02:01に対して優れた特異性を有する。特に、HLA-A*02:01は、ALLに罹患しているヨーロッパ、中東又は北アフリカ系の先祖を持つ患者の大部分によって発現される。従って、T-ALL及びB-ALLに対する新規な治療法が提供されており、これは化学療法抵抗性患者に特に有益であると考えられる。
【0010】
従って、本明細書において、第1の局面では、配列番号15に記載のアミノ酸配列ALYDKTKRIFLを有するペプチドを提示するヒト白血球抗原(HLA)複合体A2型に特異的に結合することができる結合タンパク質であって;
前記結合タンパク質がα鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有し;
前記α鎖可変ドメインが、それぞれ、配列番号16、17及び18に記載のアミノ酸配列を含有する3つの相補性決定領域(CDR:CDR1、CDR2及びCDR3)を含有し、
前記β鎖可変ドメインが、それぞれ、配列番号19、20及び21に記載のアミノ酸配列を含有する3つの相補性決定領域(CDR:CDR1、CDR2及びCDR3)を含有する、
結合タンパク質
が、提供される;
【0011】
本明細書において、第2の局面では、配列番号1に記載のアミノ酸配列ALYDKTKRIを有するペプチドを提示するヒト白血球抗原(HLA)複合体A2型に特異的に結合することができる結合タンパク質であって;
前記結合タンパク質が、α鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有し;
前記α鎖可変ドメインが、それぞれ、配列番号2、3及び4に記載のアミノ酸配列を含有する3つの相補性決定領域(CDR:CDR1、CDR2及びCDR3)を含有し、
前記β鎖可変ドメインが、それぞれ、配列番号5、6及び7に記載のアミノ酸配列を含有する3つの相補性決定領域(CDR:CDR1、CDR2及びCDR3)を含有する、
結合タンパク質
が、提供される。
【0012】
第3の局面では、本明細書で提供される結合タンパク質をコードする組換え核酸分子が提供される。
【0013】
第4の局面では、本明細書で提供される組換え核酸分子を含有するベクターが提供される。
【0014】
第5の局面は、結合タンパク質の第1の鎖をコードする第1の組換え核酸分子と、結合タンパク質の第2の鎖をコードする第2の組換え核酸分子とを含有するキットであって、
(i)前記第1の鎖が、本開示の前記第1の局面のα鎖可変ドメインを含有し、前記第2の鎖が、前記第1の局面のβ鎖可変ドメインを含有するか;又は
(ii)前記第1の鎖が、本開示の前記第2の局面のα鎖可変ドメインを含有し、前記第2の鎖が、前記第2の局面のβ鎖可変ドメインを含有する、
キット
を、提供する。
【0015】
第6の局面は、本明細書で提供される組換え核酸分子、本明細書で提供されるベクター、又は本明細書で提供されるキットに含まれる組換え核酸分子の対を含み、本明細書で提供される結合タンパク質をその細胞膜で発現する免疫エフェクター細胞を提供する。
【0016】
第7の局面は、本明細書で提供される免疫エフェクター細胞を含有する医薬組成物を提供する。
【0017】
第8の局面は、治療に使用するための、本明細書で提供される免疫エフェクター細胞又は本明細書で提供される医薬組成物を提供する。
【0018】
第9の局面は、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を発現する癌の処置において使用するための、本明細書で提供される免疫エフェクター細胞又は本明細書で提供される医薬組成物を提供する。
【0019】
同様に、被験者の末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を発現する癌を治療する方法であって、本明細書で提供される免疫エフェクター細胞又は本明細書で提供される医薬組成物を被験者に投与することを含有する方法が提供される。
【0020】
また、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を発現する癌の処置のための医薬の製造における本明細書で提供される免疫エフェクター細胞の使用も提供される。
【0021】
本明細書の開示に従って治療される癌は、限定されるわけではないが、特に急性リンパ芽球性白血病(ALL)、例えばB細胞急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)又はT細胞急性リンパ芽球性白血病(T-ALL)、であり得る。
【0022】
第10の局面では、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)特異的免疫エフェクター細胞を生成する方法であって、本明細書で提供される組換え核酸分子、本明細書で提供されるベクター、又は本明細書で提供されるキットに含まれる組換え核酸分子の対を、前記免疫エフェクター細胞に導入することを含有する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1:種々のTCR構築物の模式図
図1Aは、α鎖及びβ鎖を含有する全長TCRを示す。両鎖は、3つのCDR(より明色の長方形)を有する可変ドメイン、細胞外定常ドメイン、膜貫通ドメイン及び短い細胞質ドメインを含有する。
図1Bは、3つのCDR(より明色の長方形)を有するα鎖可変ドメイン及び3つのCDR(より明色の長方形)を有するβ鎖可変ドメインを含有する最小結合単位を示す。
図1Cは、3つのCDR(より明色の長方形)を有するα鎖可変ドメイン及び3つのCDR(より明色の長方形)を有するβ鎖可変ドメインを含有する結合単位(本明細書ではTCR-scFvと呼ぶ)を示し、ここで、β鎖可変ドメインは、ペプチドリンカーを介してα鎖可変ドメインに接続されている。
図1Dは、結合単位、細胞外定常ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質シグナルドメインを含有する受容体(本明細書ではキメラTCRと呼ぶ)を示す。
図1Eは、α鎖及びβ鎖を含有する切断型TCR(本明細書では可溶性TCRと呼ぶ。)を示し、この受容体は、結合単位、細胞外定常ドメイン及び2つのシステイン架橋を含有する。
図1Fは、
図1Eからの構造を含有する受容体(本明細書では、TCR-CARと呼ぶ。)を示し、ここでは、鎖の1つは、更に、膜貫通ドメイン及び細胞質シグナルドメインを含有する。
【
図2】
図2-TdT反応性TCRはHLA-A2に限定される。
図2Aは、ペプチドパルスT2リンパ芽球細胞との共インキュベーションに続くT1及びT3細胞の活性化を示す。EC
50=最大有効濃度の2分の1。データは、3つの独立した実験からプールされ、ここで、各円は、個々の実験からの3つの技術的反復の平均を表す。エラーバーは、SDを示す。
図2Bは、1つのHLA-A2
pos及び1つのHLA-A2
neg供与体に由来するEBV-LCLとの共培養後のCD8
+T1及びT3細胞に対するCD137上方制御を示す。細胞株を、指示された濃度のペプチド-1(T1)又はペプチド-3(T3)でパルスするか、又は全長TdTをコードするmRNAでエレクトロポレーションした。データポイントは、実施された2つを代表する1つの実験における3つの技術的反復を表す。
図2Cは、TdTペプチド(2×10
-7M)をロードした又はロードしなかった、表示されたHLA-A2及びTdT発現を有する種々の細胞株との共培養後のT1及びT3細胞の活性化を示す。接尾辞+A2は、HLA-A
*02:01で形質導入された細胞株を示す。結果は、異なるT細胞ドナーを用いて実施された2又は3の実験を代表する1つの実験からのものであり、データ点は技術的反復(2~3)を表わし、エラーバーは範囲を示す。
【
図3】
図3:TdT反応性TCRはオフターゲット反応性を示さない。
図3Aは、ミモトープライブラリーからのペプチド(ペプチド濃度:2×10
-7M)でパルスしたEBV-LCLと共インキュベートしたT1細胞(上)及びT3細胞(下)の培養上清中のIFN-γ濃度のヒートマップを示す。行/列の交点は、所与の位置で置換されたアミノ酸を示し、白丸は野生型ペプチド中のアミノ酸を示す。陽性反応のIFN-γ濃度範囲は、500~31254pg/mLであった。条件ごとに1回繰り返す。
図3B~Cは、表示されたペプチドを負荷した標的細胞との共培養後のT1(B)及びT3(C)細胞によるIFN-γ産生を示す。TdTタンパク質配列中の野生型ペプチド-1及び3の上流又は下流のアミノ酸を含有する9量体及び11量体ペプチドを含めた。更に、ペプチド-1及び-3の一部又は全部を含有する8~12アミノ酸長のペプチドを含めた。条件ごとに1回繰り返す。
【
図4】
図4:T1及びT3細胞は、TdT
pos HLA-A2
pos白血病細胞系列によって活性化され、効果的に白血病細胞系列を死滅させる
図4Aは、T1及びT3細胞(1:1のE:T比率)との48時間の共培養後の生育可能なTdT
pos HLA-A2
pos NALM-6及びBV173細胞を、フローサイトメトリーによって定量化された、モック形質導入T細胞処理後の対応する数の百分率で示す。データポイントは、実施された3つの実験を代表する1つの実験における技術的反復を表す。
図4Bは、モック、T1及びT3細胞と48時間共培養したBV173細胞のフローサイトメトリープロットを示す。挿入されている数は、生存腫瘍細胞ゲート内の事象カウントを表示する。
【
図5-1】
図5:T1及びT3細胞は、BV173及びNALM-6動物モデルにおいて、インビトロ及びインビボで白血病細胞を効率的に死滅させる
図5A~B及びD~Eは、(NY-ESO-1に反応性の)1G4、T1又はT3を形質導入したヒトT細胞で処理した1日前、21日後(BV173、A-B)又は14日後(NALM-6、D-E)の白血病担癌マウスの生物発光イメージングを示す。未処理マウスを対照として含めた。
【
図5-2】
図5C及び5Fは、未処理(n=10(BV173)若しくはn=11(NALM-6))、又は1G4(n=7(BV173)若しくはn=9(NALM-6))、T1(n=8(BV173))若しくはT3(n=9(BV173)若しくはn=11(NALM-6))細胞で処理した白血病担癌マウスの生存分析を示す。
図5B及びC並びに
図5E及びFに示されるデータは、2つの独立した実験からプールされる。
図5B及びEの箱ひげ図では、四分位範囲(25~75パーセンタイル)が示されており、中央の棒がその中央値を示し、ひげがその範囲を示している。ドットは個々のマウスからのデータを表す。P=有意でない(ns)、
**P<0.01、
****P<0.0001、通常の一元配置分散分析により算出、テューキーの事後検定との多重比較で補正。生存分析(
図5C及びF)は、両側ログランク (マンテル-コックス)検定、
****P<0.0001によって行なった。
【
図5-3】
図5Gは、60日目(M1-M5)のT3処理マウスにおける骨髄腫瘍量を屠殺時(21日目)の1G4処理マウス又は未処理マウスとの比較で示すフローサイトメトリープロットである。白血病陽性の閾値は、生細胞の0.01%以上のGFP+細胞として設定された。
【
図6】
図6:T1細胞及びT3細胞は、成熟B及びTリンパ球並びに非系統の拘束性(committed)造血前駆細胞を温存しながら原発性(primary)癌細胞を枯渇させる
図6Aは、生存HLA-A2
pos,TdT
pos B-ALL腫瘍細胞(CD19
+CD10
+事象,左パネル)及びT-ALL腫瘍細胞(CD5
+CD7
+CD99
+及び表面CD
3-CD
4-事象、右パネル)、正常B細胞(CD19
+CD10
-)、正常T細胞(CD3
+及びCD8
+又はCD4
+)及びCD34
+lin
-前駆細胞を、モック-、T1-又はT3-形質導入されたTセル(E:T比=1:1)と72時間共培養した後の、フローサイトメトリーによって定量化されたものとして示す代表的なt分布確率的近傍埋め込み(t-SNE)プロットである。TCR形質導入細胞は、CTV陽性事象として分析から除外した。
図6Bは、6Aに記載されたようにアッセイされた、HLA-A2
pos,TdT
posB-ALL又はT-ALLを有する12人の患者からの診断試料を示す。各ドットは、T1(緑)又はT3(紫色)細胞との共培養後の、生存腫瘍細胞、正常B細胞又はT細胞の数を、モック形質導入T細胞で処理した培養物中の対応する数に対する百分率で表す。データ点は3回又は4回の技術的反復を表わし、エラーバーは範囲を示す。示されたデータは、各患者試料について実施された少なくとも2つの実験を代表する1つの実験からのものである。
【
図7】
図7:T1又はT3を形質導入した患者由来CD
8+T細胞は、自己由来のB-ALL細胞を効率的に死滅させる
図7Aは、T1、T3又はモックで形質導入された自己由来T細胞との72時間の共培養後のB-ALL患者由来の末梢血診断試料のt-SNEプロットを示す。挿入された数は、モック細胞、T1細胞及びT3細胞との共培養後の、示された細胞集団の絶対事象数を示す。
図7Bは、フローサイトメトリーに基づく細胞毒性アッセイを72時間実施した後の、悪性細胞、正常なB、T及びCD34+lin
-前駆細胞の定量化を示す。データポイントは、実施された2つのうちの1つの代表的な実験からの技術的反復(3~4)を表わし、エラーバーは範囲を示す。
【
図8-1】
図8:T3細胞は、インビボで健康な造血を温存しながら、原発性B-ALL細胞を効率的に排除する
図8A~8C中、未処理 n=5、DMF5処理 n=8、T3処理 n=8。図は、2つの実験からのプールされたデータを示す。
【
図8-2】
図8Aは、原発性ヒトB-ALL細胞を移植したT3処理(上)-及びDMF5処理(下)-NSGマウスの骨髄(BM)からの生存単核細胞(MNC)の代表的なFACSプロットを示す。
図8Bは、ベースラインにおいて及びT細胞注入後11日目に、ヒトT細胞について調整されたBM中の白血病細胞(hCD45
+CD19
+CD10
+)の割合を示す。
図8Cは、BMに存在する白血病細胞の数を示す。
図8Dは、BM中のMNCの数を示す。データを2つの独立した実験からプールし、未処理、DMF5処理及びT3処理マウスの処理11日後の末端分析における平均±SEMとして提示する。集団は、
図8Aに示すゲート戦略に従ってフローサイトメトリーによって同定した。Dunnの多重比較試験によるKruskal-Wallis ANOVAは、統計解析のためにGraphPad Prismソフトウェアを用いて実施された(
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
TdTの発現プロフィールは上に記載されている。詳細に述べるように、正常な造血の際には、B細胞系列とT細胞系列は、ともに、一過性にTdTを発現するが、成熟したB細胞及びT細胞並びにCD34+造血幹細胞はTdTの発現を欠く。これにより、造血幹細胞及び成熟リンパ球を温存しながら、癌性TdT発現細胞をターゲットとすることが可能となる。従って、TdTを標的とした治療が成功すれば、患者には健常なB細胞及びT細胞コンパートメントが残され、適応免疫応答が維持されることになる。上で詳述したように、TdTは、ほとんどのALLで過剰発現される。TdTは細胞内に局在するので、抗体からの標的化単位を利用する従来のCARによって標的化することはできない。しかしながら、本明細書で提供されるTCR及びTCR由来結合タンパク質は、MHCクラスI分子によって提示される場合、TdT由来ペプチドを認識し、従って、TdT発現細胞を標的化することができる。
【0025】
本明細書で提供される結合タンパク質は、本明細書でT1 TCR及びT3 TCRと呼ぶTCRに由来する。T1 TCR及びT3 TCRは、いずれもαβ TCR、即ち、α鎖及びβ鎖を含有するヘテロ二量体である。αβTCRの一般的な構造は、当技術分野において周知であり、
図1Aに概略的に表わされている。結合タンパク質は、古典的、又は「天然の(native)」、全長2鎖表面受容体形式(例えば、αβ形式)、又は単鎖抗原結合単位を有する形式を始めとする種々の形式で、又は可溶性分子などとして、提供することができる。
【0026】
周知のように、α及びβ鎖の可変ドメインは、それぞれ、CDR1、CDR2及びCDR3と番号付け(N末端から開始する)された3つの相補性決定領域(CDR)を含有する。それは、標的エピトープ/MHC複合体と直接相互作用し、従ってTCRの特異性を決定するCDRであり、TCR特異性を決定する際の最も重要なCDR3を有するCDRである。CDRは、それらの空間配置が標的結合に適切であるように、CDRのための足場を形成するフレームワーク配列によって分離され、これと隣接している。
【0027】
T3 TCRは、HLA-A2を含有するクラスI MHCによって提示される場合、配列番号15に記載のアミノ酸配列ALYDKTKRIFLを有するペプチドを認識する。配列番号15は、ヒトTdTのアミノ酸(UniProtエントリーP04053、配列番号27)475~485に対応する。T3 TCRのα鎖は、CDR1(VαCDR1と呼ぶことができる)が配列番号16に示すアミノ酸配列TSINNを有し、VαCDR2が配列番号17に示すアミノ酸配列IRSNEREを有し、そして、VαCDR3が配列番号18に示すアミノ酸配列CATDAGAYSGGGADGLTFを有する、可変領域を含有する。T3 TCRのβ鎖は、CDR1(VβCDR1と呼ぶことができる)が配列番号19に示すアミノ酸配列MNHEYを有し、VβCDR2が配列番号20に示すアミノ酸配列SMNVEVを有し、VβCDR3が配列番号21に示すアミノ酸配列CASSLSSSYNEQFFを有する可変領域を含有する。
【0028】
T1 TCRは、HLA-A2を含有するクラスI MHCによって提示される場合、配列番号1に記載のアミノ酸配列ALYDKTKRIを有するペプチドを認識する。配列番号1は、ヒトTdTのアミノ酸475~483に対応する。T1 TCRのα鎖は、VαCDR1が配列番号2に記載のアミノ酸配列VSGLRGを有し、VαCDR2が配列番号3に記載のアミノ酸配列LYSAGEEを有し、そして、VαCDR3が配列番号4に記載のアミノ酸配列CAVQASSNSGYALNFを有する、可変領域を含有する。T1 TCRのβ鎖は、VβCDR1が配列番号5に記載のアミノ酸配列SQVTMを有し、VβCDR2が配列番号6に記載のアミノ酸配列ANQGSEAを有し、そして、VβCDR3が配列番号7に記載のアミノ酸配列CSVEPGYADTQYFを有する、可変領域を含有する。
【0029】
従って、本開示の第1の局面は、T3 TCRに基づく、上記の結合タンパク質を提供する。
【0030】
T3 TCRのα鎖及びβ鎖は、それぞれ、配列番号22及び配列番号23に記載のアミノ酸配列を含有する可変ドメインを有する。特定の実施形態において、T3 TCRに基づく結合タンパク質は、配列番号22に記載のアミノ酸配列若しくはそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するか又はそれからなるα鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有する。別の実施形態において、T3 TCRに基づく結合タンパク質は、配列番号23に記載のアミノ酸配列若しくはそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するか又はそれからなるβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有する。特定の実施形態では、T3 TCRに基づく結合タンパク質は、配列番号22に記載のアミノ酸配列若しくはそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するか又はそれからなるアミノ酸配列を含有するα鎖可変ドメイン;及び配列番号23に記載のアミノ酸配列若しくはそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するか又はそれからなるβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有する。
【0031】
結合タンパク質が配列番号22の変異体(即ち、配列番号22に対して90%以上であるが100%未満の配列同一性を有するアミノ酸配列)を含有するα鎖可変ドメインを含有する場合、VαCDR配列は、それにもかかわらず、上記で定義されるとおりである(即ち、VαCDR1、VαCDR2及びVαCDR3は、それぞれ、配列番号16、17及び18に記載のアミノ酸配列を含有するか又はそれらからなる)。従って、任意の配列改変は、可変ドメインのフレームワーク領域内でなされる。結合タンパク質が配列番号23の変異体(即ち、配列番号23に対して90%以上であるが100%未満の配列同一性を有するアミノ酸配列)を含有するβ鎖可変ドメインを含有する場合、VβCDR配列は、それにもかかわらず、上記で定義されるとおりである(即ち、VβCDR1、VβCDR2及びVβCDR3は、それぞれ、配列番号19、20及び21に記載のアミノ酸配列を含有するか又はそれらからなる)。従って、任意の配列改変は、可変ドメインのフレームワーク領域内でなされる。
【0032】
本開示の第2の局面は、T1 TCRに基づく上記の結合タンパク質を提供する。
【0033】
T1 TCRのα鎖及びβ鎖は、それぞれ、配列番号8及び配列番号9に記載のアミノ酸配列を含有する可変ドメインを有する。特定の実施形態において、T1 TCRに基づく結合タンパク質は、配列番号8に記載のアミノ酸配列若しくはそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するか又はそれからなるα鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有する。別の実施形態において、T1 TCRに基づく結合タンパク質は、配列番号9に記載のアミノ酸配列若しくはそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するか又はそれからなるβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有する。特定の実施形態では、T1 TCRに基づく結合タンパク質は、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含有するか若しくはそれからなるアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するα鎖可変ドメイン;及び配列番号9に記載のアミノ酸配列を含有するか若しくはそれからなるアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有する。
【0034】
結合タンパク質が配列番号8の変異体(即ち、配列番号8に対して90%以上であるが100%未満の配列同一性を有するアミノ酸配列)を含有するα鎖可変ドメインを含有する場合、VαCDR配列は、それにもかかわらず、上記で定義されるとおりである(即ち、VαCDR1、VαCDR2及びVαCDR3は、それぞれ、配列番号2、3及び4に記載のアミノ酸配列を含有するか又はそれらからなる)。従って、任意の配列改変は、可変ドメインのフレームワーク領域内でなされる。結合タンパク質が配列番号9の変異体(即ち、配列番号9に対して90%以上であるが100%未満の配列同一性を有するアミノ酸配列)を含有するβ鎖可変ドメインを含有する場合、VβCDR配列は、それにもかかわらず、上記で定義されるとおりである(即ち、VβCDR1、VβCDR2及びVβCDR3は、それぞれ、配列番号5、6及び7に記載のアミノ酸配列を含有するか又はそれらからなる)。従って、任意の配列改変は、可変ドメインのフレームワーク領域内でなされる。
【0035】
本明細書で定義される「結合タンパク質」は、標的分子に結合する(又は標的分子を認識する)タンパク質である。本明細書で提供される結合タンパク質は、上記のように、ヒトTdTに由来するペプチドを含有するMHC-I分子に特異的に結合することができる。「特異的結合」とは、結合タンパク質がそれらの特定の分子パートナーに特異的に結合することを意味する(T3 TCRに由来する結合タンパク質の分子パートナーは、配列番号15のTdTペプチドを提示するHLA-A2分子であり;T1 TCRに由来する結合タンパク質の分子パートナーは、配列番号1のTdTペプチドを提示するHLA-A2分子である)。標的への特異的結合は、オフターゲット又は非特異的結合と区別することができる。例えば、結合タンパク質は、他の分子(又は少なくともほとんどの他の分子)に結合するよりも高い親和性で、それらの分子パートナーに結合する。標的への結合タンパク質の結合は、当技術分野で公知の任意の適切な方法、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)、によって測定することができる。
【0036】
特に、結合タンパク質は、TdT以外のタンパク質に由来するペプチドを含有するMHC-ペプチド複合体に結合するよりも高い親和性で(上記で定義されたような)それらの分子パートナーに結合する。結合タンパク質は、非同族MHC-ペプチド複合体、特にTdT以外のタンパク質に由来するペプチドを含有するMHC-ペプチド複合体、への最小限の結合を示すか又は全く結合を示さない。本明細書で提供される結合タンパク質は、生理学的条件下で、即ち、宿主動物の体内、特にヒトの体内、に見出される条件下で、それらの分子パートナーに特異的に結合し得る。特に、結合タンパク質は、ヒト腫瘍内に見出される条件において、それらの分子パートナーに特異的に結合し得る。
【0037】
上で詳述したように、T3 TCRは、HLA-A2と配列番号15のペプチドとを含有するMHC-I複合体に特異的に結合し、T1 TCRは、HLA-A2と配列番号1のペプチドとを含有するMHC-I複合体に特異的に結合する。特に、配列番号1及び配列番号15のペプチドは非常に類似しているが(上記で詳述したように、両ペプチドは、配列番号15のC末端における2つのアミノ酸伸長だけが異なる)、以下の実施例に示されるように、T3及びT1 TCRは、それらのそれぞれの結合パートナーとの交差反応性を示さない。
【0038】
上記で詳述したように、本明細書で提供される結合タンパク質は、α鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位を含有する。本明細書で定義される「α鎖可変ドメイン」は、TCR(特にヒトTCR)のα鎖由来の可変ドメイン、又はそれに基づくポリペプチドである。同様に、本明細書で定義される「β鎖可変ドメイン」は、TCR(特にヒトTCR)のβ鎖由来の可変ドメイン、又はそれに基づくポリペプチドである。TCRのα又はβ鎖の可変ドメインに基づくポリペプチドは、例えば、天然可変ドメインに対する配列改変を含有する可変ドメインの変異体を包含する。
【0039】
本明細書で言及する「抗原結合単位」は、単に、α鎖及びβ鎖可変ドメインから形成され、標的MHCペプチド複合体に結合する結合タンパク質のドメインである。
【0040】
従って、本開示の最小結合タンパク質は、
図1Bに示されるようなα鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含有する抗原結合単位である。
【0041】
α鎖可変ドメインは、
図1C及び
図1Dに示されるように、例えばペプチドリンカーによって、β鎖可変ドメインに共有結合して抗原結合単位を形成し得る。そのような抗原結合単位及びそれらを含有するタンパク質は、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に開示されている。適切なペプチドリンカーは、例えば、1、2、3若しくは4個のアミノ酸、5、10若しくは15個のアミノ酸、又は都合のよい1~20の範囲の他の中間数のアミノ酸を含有し得る。ペプチドリンカーは、グリシン及び/又はセリンなどの、任意の一般的に好都合なアミノ酸残基から形成され得る。適切なリンカーの一例は、Gly4Serである。このようなリンカーの多量体、例えば、二量体、三量体、四量体又は五量体、例えば、(Gly
4Ser)
2、(Gly
4Ser)
3、(Gly
4Ser)
4又は(Gly
4Ser)
5、を使用することができる。ペプチドリンカーは、α鎖可変ドメインのC末端をβ鎖可変ドメインのN末端に、又はα鎖可変ドメインのN末端をβ鎖可変ドメインのC末端に連結し得る。
【0042】
(上記のように)ポリペプチドリンカーによってβ鎖可変ドメインに連結されたα鎖可変ドメインから構成される結合タンパク質は、本明細書では(抗体の可変ドメインに由来する標準scFvと同様に)TCR-scFvと呼ぶ。TCR-scFvは最小可溶性TCR種であり、
図1Cに概略的に示されている。一実施形態では、結合タンパク質はTCR-scFvである。TCR-scFvの使用は、以下で更に議論される。
【0043】
別の実施形態では、本明細書で提供される結合タンパク質は、α鎖可変ドメインを含有する第1の鎖とβ鎖可変ドメインを含有する第2の鎖とを含有する。即ち、α鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインは、(互いに会合して結合タンパク質を形成する)別個のポリペプチド鎖内に位置し得る。従って、第1及び第2の鎖は、古典的な全長αβ TCRのα及びβ鎖に対応するが、全長α又はβ鎖中に天然に存在する全てのドメインを含有する必要はない。一実施形態では、第1及び第2の鎖は、それぞれα又はβ鎖の全てのドメイン、即ち、可変ドメイン、定常ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメイン(エンドドメイン)を含有し得る。他の実施形態において、第1及び第2の鎖は、可変ドメイン及び定常ドメインを含有し得る。換言すれば、第1の鎖は、α鎖可変ドメイン及びα鎖定常ドメインを含有し得る。第2の鎖は、β鎖可変ドメイン及びβ鎖定常ドメインを含有し得る。更に他の実施形態において、鎖は、更に、膜貫通ドメイン、又は膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含有し得る。従って、第1及び第2の鎖は、それぞれ、全長又は切断されたα及びβ鎖に対応し得るか又はそれを表わし得る(又は実際に、全長又は切断されたα及びβ鎖、と呼ばれ得る)。「全長」とは、鎖がα又はβ鎖の全てのドメインを含有することを意味する。換言すれば、全長鎖は、可変ドメイン、定常ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含有する。膜貫通ドメイン又は細胞質ドメインは、適宜、α又はβ鎖から得てもよいし、それらに由来するものであってもよいが、或いは、任意の他のタンパク質から得てもよいし、それに由来するものであってもよい。従って、全長α又はβ鎖は、天然又は合成若しくは改変タンパク質であり得る。「切断された」とは、その鎖が、定常ドメイン、膜貫通ドメイン又は細胞質ドメインのいずれか1つ以上の全て又は一部を欠いていてもよいことを意味する。従って、本開示に従う全長の又は切断されたα又はβ鎖において、可変及び定常ドメインは、TCR α又はβ鎖ドメインであり得るが、膜貫通及び細胞質ドメインは、TCR α又はβ鎖から得られ又はこれらに由来するものに限定されない。本明細書で広く使用される用語「第1の鎖」は、少なくともα鎖から得られるか又はそれに由来する可変ドメインを含有するポリペプチド鎖を意味し、本明細書で広く使用される用語「第2の鎖」は、少なくともβ鎖から得られるか又はそれに由来する可変ドメインを含有するポリペプチド鎖を意味する。従って、第1の鎖は「αに基づく鎖」とみなすことができ、第2の鎖は「βに基づく鎖」とみなすことができる。
【0044】
それにもかかわらず、一実施形態では、個々のポリペプチド鎖は、(例えば、システイン残基の側鎖間に形成される1つ以上のジスルフィド結合によって)共有結合されてもよい。例えば、天然αβTCRの細胞外定常ドメインは、ヘテロ二量体を安定化すると考えられている鎖間ジスルフィド架橋を形成することが知られている。鎖間ジスルフィド架橋は、定常ドメイン(C)を接続する実線の垂直なバーとして
図1Aに示されている。
【0045】
従って、上記のように、第1の鎖(即ち、全長又は切断α鎖)及び/又は第2の鎖(即ち、全長又は切断β鎖)は、細胞外定常ドメインを含有し得る。理論に拘束されるわけではないが、α鎖定常ドメインとβ鎖定常ドメインとの間の相互作用は、抗原結合単位を安定化し得る。一実施形態では、第1の鎖は、(可変ドメインに対してC末端に、例えば、定常ドメインのN末端アミノ酸がペプチド結合によって可変ドメインのC末端アミノ酸に結合するように直接C末端に、位置する)細胞外α鎖定常ドメインを含有する。別の実施形態において、第2の鎖は、(可変ドメインに対してC末端に、例えば、可変ドメインに対して直接C末端に、位置する)細胞外β鎖定常ドメインを含有する。一実施形態では、第1の鎖及び第2の鎖の両方が細胞外定常ドメインを含有する。
【0046】
任意の適切な細胞外定常ドメインを使用することができる。定常ドメインは、ヒトTCR定常ドメインであってもよく、又は別の動物由来のTCR定常ドメインであってもよく、例えば定常ドメインはマウス定常ドメインであってもよい。或いは、定常ドメインは、合成定常ドメイン、又は合成タンパク質に由来する定常ドメインであり得る。第1及び第2の鎖が両方とも定常ドメインを含有する場合、両定常ドメインは、同じ種又は異なる種由来であり得る。ヒトα鎖及びβ鎖1型及び2型の細胞外定常ドメイン配列は、それぞれ配列番号28~30に記載されている。一実施形態では、細胞外α鎖定常ドメインは、配列番号28に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し、及び/又は、細胞外β鎖定常ドメインは、配列番号29若しくは配列番号30に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する。
【0047】
マウスα鎖及びβ鎖1型及び2型の細胞外定常ドメイン配列は、それぞれ配列番号31~33に記載される。特定の実施形態では、細胞外α鎖定常ドメインは、配列番号31に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し、及び/又は、細胞外β鎖定常ドメインは、配列番号32若しくは配列番号33に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する。
【0048】
また、挿入によって、又は各鎖上の適切なアミノ酸残基をシステイン残基で置換することによって、追加のシステイン架橋を導入することができることが知られている。
図1E及び1Fは、追加のシステイン架橋(定常ドメイン(C)を接続する実線垂直バーとして示されている)を有する結合タンパク質を示す。追加のシステイン残基は、導入された残基間のジスルフィド結合の形成が、例えば、非特許文献9によって開示されているように、可変領域が正しく配置され互いに向き合う機能的複合体の形成をもたらすような位置に導入されるべきである。
【0049】
システイン残基の導入のためのヒトTCR鎖定常領域における公知の適切な位置は、非特許文献10及び特許文献4に開示されている。配列番号28のヒトTCR α鎖定常領域において、追加のシステイン残基は、49位のトレオニン残基をシステイン残基へ置換することによって導入することができる。このThr49Cys置換によって得られた改変ヒトα鎖細胞外定常ドメインは、配列番号34に記載のアミノ酸配列を有する。配列番号29のヒトTCR β鎖1型定常領域又は配列番号30の2型定常領域において、追加のシステイン残基は、57位のセリン残基のシステイン残基への置換によって導入することができる。これらのSer57Cys置換によって得られた改変ヒトβ鎖細胞外定常ドメインは、それぞれ配列番号35及び36に記載のアミノ酸配列を有する。従って、一実施形態では、第1の鎖は、配列番号34に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞外α鎖定常ドメインを含有し、第2の鎖は、配列番号35若しくは36に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞外β鎖定常ドメインを含有する。
【0050】
上記で詳述したように、配列番号34~36の細胞外定常ドメインは、2つの鎖間ジスルフィド結合を形成するために改変されている。従って、本明細書で提供される結合タンパク質が、細胞外定常ドメインとしてこれらの配列のいずれか1つの変異体(即ち、配列番号34~36のいずれか1つに対して90%以上であるが100%未満の配列同一性を有するアミノ酸配列)を含有する場合、ジスルフィド結合形成に関与するシステイン残基は保持され得る(即ち、置換又は欠失されない)。配列番号34のα鎖細胞外ドメインにおいて、ジスルフィド結合形成に関与するシステイン残基は、Cys49及びCys96である。配列番号35及び36のβ鎖細胞外ドメインにおいて、ジスルフィド結合形成に関与するシステイン残基は、Cys57及びCys131である。
【0051】
マウスTCR鎖細胞外定常ドメインにおいて、ヒトTCR定常ドメインにおける上記の位置と等価な位置は、追加のシステイン残基の導入に適している。従って、配列番号31のマウスTCR α鎖定常領域において、追加のシステイン残基は、49位のトレオニン残基のシステイン残基への置換によって導入することができる。このThr49Cys置換によって得られた改変マウスα鎖細胞外定常ドメインは、配列番号10に記載のアミノ酸配列を有する。マウスTCR β鎖において、配列番号32の1型定常領域又は配列番号33の2型定常領域において、追加のシステイン残基は、57位のセリン残基のシステイン残基への置換によって導入することができる。これらのSer57Cys置換によって得られた改変マウスβ鎖細胞外定常ドメインは、それぞれ配列番号37及び11に記載のアミノ酸配列を有する。従って、特定の実施形態では、第1の鎖は、配列番号10に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞外α鎖定常ドメインを含有し、第2の鎖は、配列番号11若しくは37に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞外β鎖定常ドメインを含有する。
【0052】
上記の改変されたヒト配列に関しては、配列番号10、11及び37のいずれか1つの変異体(即ち、配列番号10、11又は37のいずれか1つに対して90%以上であるが100%未満の配列同一性を有するアミノ酸配列)において、ジスルフィド結合形成に関与するシステイン残基が保持され得る(即ち、置換又は欠失されない)。配列番号10のα鎖細胞外ドメインにおいて、ジスルフィド結合形成に関与するシステイン残基は、Cys49及びCys92である。配列番号35及び36のβ鎖細胞外ドメインにおいて、ジスルフィド結合形成に関与するシステイン残基は、Cys57及びCys127である。
【0053】
T1及びT3 TCRにおいて、α鎖は、配列番号10に記載のアミノ酸配列を含有する細胞外α鎖定常ドメインを含有し、β鎖は、配列番号11に記載のアミノ酸配列を含有する細胞外β鎖定常ドメインを含有する。従って、特定の実施形態では、結合タンパク質は、配列番号10に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するか或いはそれからなる細胞外α鎖定常ドメインを含有する第1の鎖;及び配列番号11に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するか或いはそれからなる細胞外β鎖定常ドメインを含有する第2の鎖を含有する。
【0054】
本明細書で提供されるような、それぞれ可変ドメイン及び細胞外ドメインを含有する第1の鎖及び第2の鎖を含有する、結合タンパク質は、
図1Eに示され、非特許文献11及び非特許文献12に既に開示されているように、可溶性TCR(即ち、膜に埋め込まれていない)であり得る。本明細書で使用される「可溶性TCR」という用語は、別個の第1及び第2の鎖を含有するが、膜結合性ではないTCR分子を意味する。言い換えれば、可溶性TCRはTMドメイン又は細胞質ドメインを含まない。可溶性TCRは、特に、各々が細胞外ドメインのみからなる第1及び第2の鎖を含有し得る。
【0055】
第1及び第2の鎖が連結されることは、可溶性TCRの必須の局面である。もしそれらが連結されていなければ、鎖は溶液中で拡散して離れ、TCRは、もし機能したとしても、それは微々たるものであろう。鎖は、共有結合で又は共有結合に依らずに連結することができる。切断されたα及びβ鎖を共有結合で連結させることができる1つの方法は、上記のように、システイン残基間の1つ以上のジスルフィド結合によるものである。可溶性TCRの切断されたα及びβ鎖を連結することができる別の方法は、共有結合に依らない相互作用によるものである。一実施形態では、ロイシンジッパーを用いて、鎖を共有結合に依らずに連結させる。この実施形態において、切断されたα鎖及びβ鎖の両方が、それらの細胞外定常ドメインのC末端にロイシンジッパードメインを含有する。ロイシンジッパー及びそれらの配列は、当技術分野で周知であり、例えば、非特許文献13に概説されている。共有結合及び共有結合に依らない相互作用の組合せも、可溶性TCRの切断されたα及びβ鎖を連結するために使用することができる。
【0056】
可溶性TCR(及びscFv-TCR、これもまた可溶性であるが、本明細書で使用される「可溶性TCR」の定義には該当しない)の使用は、以下に更に記述される。可溶性TCR及びscFv-TCRは、アフィニティータグでコード化することができ、これは、その合成後の可溶性TCR又はscFv-TCRの精製において使用することができる。可溶性TCRの場合、一実施形態では、ただ1つの鎖(即ち、切断されたα又はβ鎖)のみが、アフィニティータグと共に生成される。アフィニティータグは、切断されたα又はβ鎖のいずれかの末端、例えばC末端、に位置することができる。アフィニティータグは、当業者に公知の任意の適切なタグ、例えば、FLAG-タグ、His-タグ、HA-タグ、Strep-タグ、S-タグ、Myc-タグ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)など、であってよい。
【0057】
リンカー及び/又はプロテアーゼ開裂部位は、結合タンパク質配列とアフィニティータグとの間に位置することができる。プロテアーゼ開裂部位を含めることにより、精製後に結合タンパク質からアフィニティータグを除去することができる。適切なプロテアーゼ開裂部位は、当業者に周知であり、トロンビン、第Xa因子、エンテロキナーゼ、ヒトライノウイルス(HRV)3C及びタバコエッチ病ウイルス(TEV)切断部位を包含する。
【0058】
第1の鎖及び/又は第2の鎖は、更に、膜貫通ドメインを含有し得る。第1又は第2の鎖では、膜貫通ドメインは細胞外定常ドメインのC末端に位置する。
【0059】
任意の適切な膜貫通ドメインを使用することができる。特定の実施形態において、膜貫通ドメインはTCR鎖の膜貫通ドメインである。即ち、第1の鎖が膜貫通ドメインを含有する場合、それはTCR α鎖の膜貫通ドメインであってもよく;第2の鎖が膜貫通ドメインを含有する場合、それはTCR β鎖の膜貫通ドメインであってもよい。一実施形態では、膜貫通ドメインは、ヒトTCR鎖の膜貫通ドメインである。別の実施形態において、膜貫通ドメインは、マウスTCR鎖の膜貫通ドメインである。一実施形態では、第1及び第2の鎖の両方がTCR鎖膜貫通ドメインを含有する場合、TCR膜貫通ドメインは両方とも同じ種に由来する。
【0060】
ヒトTCR α鎖膜貫通ドメインは、配列番号38に記載のアミノ酸配列を有し、従って、一実施形態では、第1の鎖は、配列番号38に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する膜貫通ドメインを含有する。マウスα鎖膜貫通ドメインは、配列番号44に記載のアミノ酸配列を有し、従って、別の実施形態では、第1の鎖は、配列番号44に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する膜貫通ドメインを含有する。
【0061】
ヒト及びマウスTCR β鎖1型及び2型の膜貫通ドメインは、すべて、配列番号39に記載のアミノ酸配列を有する。従って、特定の実施形態では、第2の鎖は、配列番号39に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する膜貫通ドメインを含有する。
【0062】
実施例において開示されるT1及びT3 TCRは、両方とも、配列番号44の膜貫通ドメインを有するα鎖及び配列番号39の膜貫通ドメインを有するβ鎖を有する。従って、特定の実施形態では、第1及び第2の鎖は、両方とも、膜貫通ドメインを含有し、結合タンパク質の第1の鎖の膜貫通ドメインは、配列番号44に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し、結合タンパク質の第2の鎖の膜貫通ドメインは、配列番号39に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する。
【0063】
或いは、そして、以下で更に議論するように、膜貫通ドメインは、任意の他の膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインに基づくか又はそれに由来してもよい。典型的には、膜貫通ドメインは、CD8α、CD28、CD4、CD3ζ、CD45、CD9、CD16、CD22、CD33、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137又はCD154からの、例えばこれらのタンパク質のいずれか1つのヒトバージョンからの、膜貫通ドメインであってもよく又はこれから誘導されてもよい。1つの実施形態において、膜貫通ドメインは、CD8α、CD28、CD4又はCD3ζからの、例えば、ヒトCD28、CD4又はCD3ζからの、膜貫通ドメインであってもよく又はこれから誘導されてもよい。
【0064】
一実施形態では、膜貫通ドメインは、配列番号40のアミノ酸配列を有するヒトCD28の膜貫通ドメインである。即ち、膜貫通ドメインは、配列番号40に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し得る。
【0065】
第1の鎖及び/又は第2の鎖は、更に、細胞質ドメインを含有し得る。当技術分野において公知であるように、天然TCRにおいて、α鎖及びβ鎖は、C末端に位置する短い細胞質ドメインを含有する。任意の適切な細胞質ドメインを使用することができる。1つの実施形態において、細胞質ドメインは、TCR鎖の細胞質ドメインである。即ち、第1の鎖が細胞質ドメインを含有するα鎖である場合、それはTCR α鎖の細胞質ドメインであってもよく、第2の鎖が細胞質ドメインを含有するβ鎖である場合、それはTCR β鎖の細胞質ドメインであってもよい。
【0066】
1つの実施形態において、細胞質ドメインは、ヒトTCR鎖の細胞質ドメインである。別の実施形態において、細胞質ドメインは、マウスTCR鎖の細胞質ドメインである。第1鎖及び第2鎖の両方がTCR鎖細胞質ドメインを含有する場合、TCR細胞質ドメインは、両方とも同じ種に由来することができる。
【0067】
ヒト及びマウスTCR α鎖細胞質ドメインは、配列番号41に記載のアミノ酸配列を有し、従って、一実施形態では、第1の鎖は、配列番号41に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞質ドメインを含有するα鎖である。ヒトTCR β鎖1型細胞質ドメインは、配列番号42に記載のアミノ酸配列を有し、ヒトTCR β鎖2型細胞質ドメインは、配列番号43に記載のアミノ酸配列を有する。従って、1つの実施形態において、第2の鎖は、配列番号42若しくは配列番号43に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞質ドメインを含有するβ鎖である。
【0068】
マウスTCR β鎖1型細胞質ドメインは、配列番号46に記載のアミノ酸配列を有し、マウスTCR β鎖2型細胞質ドメインは、配列番号47に記載のアミノ酸配列を有する。従って、一実施形態では、第2の鎖は、配列番号46又は配列番号47に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞質ドメインを含有するβ鎖である。
【0069】
T1及びT3 TCRは、両方とも、配列番号41の細胞質ドメインを有するα鎖及び配列番号47の細胞質ドメインを有するβ鎖を有する。特定の実施形態では、第1の鎖及び第2の鎖は、両方とも、細胞質ドメインを含有し(即ち、それらは全長α鎖及びβ鎖である)、α鎖の細胞質ドメインは、配列番号41に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し、β鎖の細胞質ドメインは、配列番号47に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する。
【0070】
別の実施形態では、第1鎖及び/又は第2鎖(一般に、第1鎖又は第2鎖のいずれか)は、細胞内シグナル伝達ドメインを含有する細胞質ドメインを含有する。用語「細胞内シグナル伝達ドメイン」とは、本明細書では、標的抗原-MHC複合体への有効な受容体結合のメッセージを、その受容体を発現する免疫エフェクター細胞の内部に変換し、エフェクター細胞機能、例えば、活性化、サイトカイン産生、増殖及び/又は結合した標的細胞への細胞傷害性因子の放出を始めとする細胞傷害活性、又はその標的への受容体の結合によって誘発されるその他の細胞応答、を誘導することに関与する結合タンパク質鎖のドメインを意味する。
【0071】
使用することができる細胞内シグナル伝達ドメインの例には、CD3ζ、FcRy、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dに由来するものが包含される。幾つかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ又はFcRγ、例えば、ヒトCD3ζ又はFcRγに由来する。一実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号48に記載のアミノ酸配列又は配列番号48に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するヒトCD3ζドメインである。
【0072】
更に、受容体を発現する免疫エフェクター細胞の完全な活性化を可能にするか又は増大させるために、細胞質ドメインは、更に、(細胞内シグナル伝達ドメインに加えて)共刺激ドメインを含有し得る。従って、細胞内シグナル伝達ドメインは、抗原依存的な一次活性化を開始することができ(即ち、一次細胞質シグナル伝達配列であり得る。)、共刺激ドメインは、抗原非依存的に作用して二次又は共刺激シグナルを提供する(即ち、二次細胞質シグナル伝達配列であり得る)。
【0073】
用語「共刺激シグナルドメイン」又は「共刺激ドメイン」は、共刺激分子の細胞内ドメインを含有する細胞質ドメインの部分を指す。共刺激分子は、抗原受容体又はFc受容体以外の細胞表面分子であり、抗原に結合すると免疫エフェクター細胞(例えば、T細胞)の効率的な活性化及び機能に必要な第2のシグナルを提供する。本明細書で使用することができる共刺激ドメインの例としては、CD27、CD28、4-IBB(CD137)、OX40(CD134)、CD30、CD40、PD-1、ICOS(CD278)、LFA-1、CD2、CD7、LIGHT、NKD2C及びB7-H2の細胞内ドメイン、例えば、これらのヒトバージョンが挙げられる。共刺激ドメインは、単独で又は組み合わせて使用することができる(即ち、1つ以上の共刺激ドメインが含まれ得る)。1つ以上の共刺激シグナル伝達ドメインを含有することにより、本明細書で提供される受容体を発現する免疫エフェクター細胞の効力及び拡大を増強し得る。一実施形態では、共刺激ドメインは、配列番号49のアミノ酸配列又は配列番号49に対して少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するヒトCD28の細胞内ドメインであってもよく又はこれを含んでいてもよい。
【0074】
本明細書中の実施例は、α鎖及びβ鎖を含有する全長T1及びT3 TCRの機能性を実証する(用語「全長TCR」は、本明細書で用語「TCR」と交換可能である)。HLA-A*02:01に関連してリンパ系特異的酵素末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)由来のペプチドを標的とするこれらのTCRを発現するように改変されたT細胞は、インビトロ及び播種性ALLのマウスモデルの両方において、T細胞及びB細胞由来の原発性急性リンパ芽球性白血病(ALL)細胞を特異的に排除することが実証されている。対照的に、TdT発現を欠く、正常な、成熟T及びB細胞レパートリー並びに非系統拘束性造血前駆細胞は温存される。実施例に記載されたTCR反応性の広範なマッピングでは、ヒトプロテオーム中の任意の天然に存在するペプチドとの交差反応性は確認されず、非常に高いペプチド特異性を示した。
【0075】
上記及び実施例において記載したように、T1及びT3 TCRは、ヒトTCR可変ドメイン並びにマウスTCR細胞外定常ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含有する。従って、特定の実施形態では、本明細書で提供される結合タンパク質は、
図1Aに例示されるような構造を有するTCRである。この実施形態では、TCRは、従って、α鎖及びβ鎖を含み、α鎖は、TCR α鎖可変ドメイン、TCR α鎖細胞外定常ドメイン、TCR α鎖膜貫通ドメイン及びTCR α鎖細胞質ドメインを含有し、β鎖は、TCR β鎖可変ドメイン、TCR β鎖細胞外定常ドメイン、TCR β鎖膜貫通ドメイン及びTCR β鎖細胞質ドメインを含有する。
【0076】
種々のドメインは、上記の配列を有し得る。特に、TCRは、α鎖及びβ鎖を含有することができ、その各々は、ヒト可変ドメイン及びマウス細胞外定常ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含有する。
【0077】
特定の実施形態では、TCRは、
(i)N末端からC末端まで、配列番号22に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する可変ドメイン;配列番号10に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞外定常ドメイン;配列番号44に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する膜貫通ドメイン;及び配列番号41に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞質ドメインを含有するα鎖、並びに、
(ii)N末端からC末端まで、配列番号23に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する可変ドメイン;配列番号11に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞外定常ドメイン;配列番号39に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する膜貫通ドメイン;及び配列番号47に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞質ドメインを含有するβ鎖、
を含有するT3 TCRである。
【0078】
全長成熟T3 TCR α鎖は、配列番号24に記載のアミノ酸配列を有する。従って、一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号24に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するα鎖を含有する。全長成熟T3 TCR β鎖は、配列番号25に記載のアミノ酸配列を有する。従って、一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号25に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するβ鎖を含有する。
【0079】
特定の実施形態において、本明細書で提供されるTCRは、
(i)配列番号24に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するα鎖;及び
(ii)配列番号25に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するβ鎖、
を含有するT3 TCRである。
【0080】
別の特定の実施形態では、TCRは、
(i)N末端からC末端まで、配列番号8に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するα鎖を含有する可変ドメイン;配列番号10に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞外定常ドメイン;配列番号44に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する膜貫通ドメイン;及び配列番号41に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞質ドメインを含有するα鎖;及び
(ii)N末端からC末端まで、配列番号9に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する可変ドメイン;配列番号11に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞外定常ドメイン;配列番号39に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する膜貫通ドメイン;及び配列番号47に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する細胞質ドメインを含有するβ鎖、
を、含有するT1 TCRである。
【0081】
全長成熟T1 TCR α鎖は、配列番号12に記載のアミノ酸配列を有する。従って、一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号12に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するα鎖を含有する。全長成熟T1 TCR β鎖は、配列番号13に記載のアミノ酸配列を有する。従って、一実施形態では、結合タンパク質は、配列番号13に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するβ鎖を含有する。
【0082】
特定の実施形態において、本明細書で提供されるTCRは、
(i)配列番号12に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するα鎖;及び
(ii)配列番号13に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するβ鎖、
を含有するT1 TCRである。
【0083】
上記のように、本明細書で提供される結合タンパク質の細胞質ドメインは、TCR細胞質ドメインではなく、細胞内シグナル伝達ドメイン(及び所望により共刺激ドメイン)を含有し得る。このような代替細胞質ドメインは、キメラ受容体において使用することができる。
【0084】
例示的なキメラ受容体はキメラTCRであり、その基本構造を
図1Dに示す。キメラTCRは、特許文献3及び特許文献4に既に記載されている。キメラTCRは、(N末端からC末端まで)単鎖TCR可変領域(scFv-TCR)、細胞外定常ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含有する単一のポリペプチド鎖を含有する。
【0085】
本明細書で提供されるキメラTCRにおいて、scFv-TCRは、上記のとおりである。細胞外定常ドメインは、α鎖の定常ドメイン又はβ鎖の定常ドメインであり得る。上記のように、TCR α鎖又はβ鎖の任意の適切な細胞外定常ドメイン、例えば、TCR α鎖又はβ鎖のヒト又はマウス細胞外定常ドメイン、を使用することができる。キメラTCRは、TCR鎖の単一の細胞外定常ドメインのみを含有する。本明細書において提供されるキメラTCRは、任意の適切な膜貫通ドメイン、例えば、上記のもの、を含有し得る。キメラTCRの膜貫通ドメインは、上記のようにTCR鎖の膜貫通ドメインであってもよく、又は上記のように非TCRタンパク質の膜貫通ドメインであってもよい。細胞質ドメインは、上記のように、細胞内シグナル伝達ドメインを含有する。細胞質ドメインは、上記のように、更に、共刺激ドメインを含有し得る。
【0086】
キメラTCRとの関連では、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインが一緒になって「シグナル伝達尾部」を構成する。細胞内シグナル伝達ドメインと共刺激ドメインの両方を含有するシグナル伝達尾部において、細胞内シグナル伝達ドメインと共刺激ドメインは、膜貫通ドメインのC末端と直列に任意の順序で連結され得る。1つの実施形態において、シグナル伝達尾部は、以下の順序で、N末端からC末端まで、CD28膜貫通ドメイン、CD28細胞内ドメイン及びCD3ζ細胞内ドメインを含有する。
【0087】
別の例示的なキメラ受容体は、TCR-CARであり、その基本構造を
図1Fに示す。TCR-CARは、非特許文献12に最初に記載された。TCR-CARは、標準CARと同じ理論的根拠に基づくが、標準CARのscFvは、(上記のように)可溶性TCRで置換される。これにより、CARの機能的可能性を有するがTCRの基質幅を有する構築物が提供される(即ち、それらは、細胞タンパク質分解から生じる任意のペプチドに対して向けられ得る)。
【0088】
従って、TCR-CARは、上記のように可溶性TCRを含有するが、可溶性タンパク質ではなく、可溶性TCR構築物の1つの鎖は、キメラTCRに関連して、上記のように、シグナル伝達尾部を含有する。シグナル伝達尾部は、第1の(即ち、切断されたα-)鎖又は第2の(即ち、切断されたβ-)鎖のいずれかのC-末端(細胞外定常ドメインに対するC-末端)に位置していてもよい。
【0089】
本明細書で提供される可溶性結合タンパク質(即ち、上記のように、膜貫通ドメインを欠く結合タンパク質、例えばTCR-scFv及び可溶性TCR)は、原核生物(例えば、細菌)細胞又は真核生物(例えば、酵母、真菌、昆虫又は哺乳動物)細胞を使用する細胞発現系などのタンパク質発現系を使用して合成することができる。代替的なタンパク質発現系は無細胞インビトロ発現系であり、この系では結合タンパク質をコードするDNA配列がmRNAに転写され、mRNAはインビトロでタンパク質に翻訳される。無細胞発現系キットは広く入手可能であり、例えば、Thermo Fisher Scientific社(米国)から購入することができる。或いは、結合タンパク質は、非生物学的系において、例えば液相又は固相合成によって、化学的に合成することができる。
【0090】
合成後、当技術分野で公知の技術を用いて、特異的結合分子を単離及び精製する。例えば、結合タンパク質は、宿主真核細胞を使用して産生することができる。結合タンパク質は、(以下に論じるように)それをエクスポートに導くリーダー配列を含有するように発現され得る。この場合、結合タンパク質は、生産細胞から培養培地にエクスポートされる。次いで、培養培地は、例えば遠心分離によって、生産細胞から分離される。次いで、結合タンパク質は、例えば(もし、結合タンパク質が上述のようなアフィニティータグを含有するならば)アフィニティークロマトグラフィーによって、精製することができる。プロテアーゼ開裂部位がタグと成熟結合タンパク質との間に存在する場合、タグは、結合タンパク質の精製後に、適切なプロテアーゼを使用して切断することができる。
【0091】
本明細書で提供される可溶性結合タンパク質(即ち、膜貫通ドメインを欠く結合タンパク質、例えばTCR-scFv及び可溶性TCR)は、治療薬若しくは診断薬或いは治療薬若しくは診断薬を含有するか又は含む担体に連結又は結合することができる。治療薬は、治療に使用される薬剤である。治療とは、疾患の処置又は予防を意味する。治療薬は、腫瘍性条件、特に癌、の処置において有用な薬剤であり得る。
【0092】
治療薬は、薬物分子、例えば標的細胞を死滅させるための毒素、であり得る。適切な毒素は、単独ではヒト細胞に侵入したり、これを殺したり、又はその他の方法で破壊したりすることもできないが、結合分子を介してヒト細胞に取り込まれると、その毒性効果を発揮することができる毒素である。従って、このような毒素は、毒素を保有する可溶性結合タンパク質(毒素を保有する可溶性TCRなど)によって結合された細胞によってのみ取り込まれ、その細胞にその標的効果を及ぼし、その細胞に可溶性結合タンパク質が取り込まれる。
【0093】
適切な毒素には、標的ドメインを欠くペプチド毒素が含まれる。例えば、それは、もともと標的ドメインを欠くペプチド毒素であってもよく、又は、それは、そのもともとの形態を改変してその標的ドメインを除去したペプチド毒素であってもよい。このような毒素の例としては、サポリン及びゲロニンが挙げられ、これらは、例えばリシンと同じファミリーのリボソーム不活性化タンパク質(RIP)であるが、細胞の原形質膜を通過することができない。同様に、細菌細胞毒素の酵素ドメイン、例えば、ジフテリア毒素、シュードモナス外毒素A又はクロストリジウム細胞毒素、例えば、クロストリジウム・ソルデリイのTcsL、の酵素ドメインのような病原体の細胞毒素の酵素ドメイン(即ち、触媒ドメイン)を使用してもよい。
【0094】
可溶性結合タンパク質は、そのC末端に位置する毒素を有する融合タンパク質としてコードすることができる(可溶性TCRの場合、毒素は、切断されたα鎖又はβ鎖のいずれかのC末端に位置し得る)。或いは、毒素は、当技術分野で公知の任意の適切な方法を使用して(例えば、ビオチン/ストレプトアビジンシステムを使用して)、可溶性結合タンパク質に結合することができる。
【0095】
治療薬は、必要に応じて、他の有用な治療薬、例えば、化学療法薬、又は他の抗癌剤、又は抗ウイルス剤などであってもよい。
【0096】
診断薬は、診断目的に有用な薬剤である。そのような薬剤は、例えば、トレーサー又は標識、即ち、その人体の通過を追跡するために検出できる薬剤であってよい。トレーサー又は標識は、スキャン、例えばPETスキャン又はCTスキャン、によって検出することができる。放射性標識を始めとする多くのトレーサー及び標識が当技術分野で公知である。一般的な放射性同位体11C、13N、15O、18F、99Tc、123I及び125Iを始めとする任意の適切なトレーサー又は標識を使用することができる。診断薬は、当技術分野で公知の任意の適当な標識群、例えば放射性標識付きビオチン、を使用して、可溶性結合タンパク(例えば、可溶性TCR)に結合することができる。
【0097】
治療薬に結合した可溶性結合タンパク質(例えば、可溶性TCR)は、治療において使用することができる。診断薬に結合された可溶性TCR又は診断薬を含有する担体は、インビボ診断方法において使用することができる。
【0098】
本明細書で提供される不溶性結合タンパク質(即ち、膜貫通ドメインを含有する結合タンパク質、例えばTCRなど)は、結合タンパク質を発現する細胞との関連において提供される。このような細胞は、特に、以下に記載されるように、その中で結合タンパク質の機能的発現が達成される免疫エフェクター細胞であってよい。
【0099】
本明細書で提供される結合タンパク質及び/又は抗原結合単位をコードする組換え核酸分子も、また、本明細書で提供される。本明細書で提供される核酸分子は、単離された核酸分子であってよく、DNA若しくはRNA又はDNA若しくはRNAの化学誘導体を含有していてよい。「核酸分子」という用語は、具体的には、DNA及びRNAの一本鎖及び二本鎖形態を包含する。核酸(例えばDNA又はRNA)は、環状又は線状であり得る。「組換え」核酸分子は、組換え技術、例えば分子クローニング、を用いて合成された核酸分子である。
【0100】
本明細書で提供される組換え核酸分子は、本明細書で提供される結合タンパク質をコードする。上で詳述したように、結合タンパク質は、2つのポリペプチド鎖(特に、第1の鎖(即ち、全長の又は切断されたα鎖)及び第2の鎖(即ち、全長の又は切断されたβ鎖))を含有し得る。2つのポリペプチド鎖を含有する結合タンパク質をコードする組換え核酸分子は、2つの鎖の両方をコードする(即ち、第1の鎖及び第2の鎖は、両方とも、同じ組換え核酸分子によってコードされる)。この場合、2つの鎖は、2つの別々の遺伝子としてコードされてよく、それぞれは、2つの鎖が別々に発現されるように、それ自体のプロモーターの制御下にある。或いは、以下で更に議論されるように、2つの鎖は、単一の遺伝子によって、単一のポリペプチド内にコードされてよい。
【0101】
本明細書の特定の一実施形態では、組換え核酸分子はcDNA分子を含有する。特に、結合タンパク質又はその鎖は、cDNAによってコードされてよい。「cDNA」とは、本明細書で使用される場合、その真の及び元々の意味でのDNA(即ち、mRNAの逆転写によって合成されたDNA)、元のcDNAから増幅されたDNA、及びcDNAと等価であるDNAを意味する。cDNAと等価なDNAとは、本明細書で提供される結合タンパク質(又はその第1鎖又は第2鎖)をコードし且つイントロンを欠き、その結果、かつmRNAの逆転写によって得られるタンパク質コード配列に類似するDNAである。本明細書の特定の一実施形態では、本明細書で提供される結合タンパク質をコードする核酸分子は、コドン最適化される。特に、結合タンパク質は、コドン最適化cDNA配列によってコードされてもよい。
【0102】
本明細書で定義されるヌクレオチド配列を構築するための方法は、当技術分野で周知であり、例えば、従来のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技術を包含する。
【0103】
核酸分子の単離のための方法もまた、当技術分野で周知である。例えば、DNAは、適切なキットを使用して単離することができる。プラスミドDNAは、製造業者の指示に従って、Miniprep又はMaxiprepキットを使用して細菌から単離することができる。そのようなキットは、例えばQiagen社(ドイツ)から入手可能である。ゲノムDNAは、例えば、QIAamp DNA Mini Kit(Qiagen社)又はDNeasyキット(Qiagen社)を用いて、製造業者の指示に従って、真核細胞又は原核細胞から抽出することができる。或いは、フェノール-クロロホルム抽出の従来の方法を使用して、目的の細胞からDNAを単離することができる。RNAは、キット(例えば、RNeasy ミニキット、Qiagen社)を使用して、又はDNase処理と組み合わせたフェノール-クロロホルム抽出の伝統的な方法によって細胞から抽出することができる。cDNAは、例えば、SuperScript First Strand Synthesis System(Thermo Fisher Scientific社、米国)などのキットを使用して、RNAの逆転写によって生成することができる。
【0104】
本明細書で提供される組換え核酸分子は、異種核酸配列に連結された組換え核酸分子を含有する組換え構築物内に提供することができる。本明細書において、「異種」とは、本明細書に記載の核酸分子に天然には連結されない、即ち、自然界では、本明細書に記載の核酸分子に連結されない核酸配列を意味する。構築物に関して本明細書で使用される「連結された」という用語は、単に、核酸分子が異種核酸配列に直接結合されていることを意味する。一実施形態では、組換え構築物において、本明細書で提供される核酸分子は、異種発現制御配列に作動可能に連結される。
【0105】
「発現制御配列」という用語は、コード配列の上流、コード配列内又はコード配列の下流に位置し、関連するコード配列の転写、RNAプロセシング若しくは安定性、又は翻訳に影響を及ぼす(即ち、コードされる特異的結合分子の発現の任意の局面に影響を及ぼす)ヌクレオチド配列を指す。発現制御配列には、プロモーター、TATAボックス又はB認識エレメントなどのプロモーターエレメント、オペレーター、エンハンサー、翻訳リーダー配列、ターミネーター配列などが含まれる。
【0106】
構築物において、核酸分子は、1つ以上の異種発現制御配列に作動可能に連結することができる。核酸分子は、典型的には、少なくともプロモーターに作動可能に連結される。適当なプロモーター配列には、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばヒトCMV(HCMV)プロモーター、PGKプロモーター、EF1aプロモーター、構成的シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、HIV LTRプロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、EBV前初期プロモーター及びラウス肉腫ウイルスプロモーターが包含される。これらに限定されないが、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター及びクレアチンキナーゼプロモーターを始めとするヒト遺伝子プロモーターも、また、使用することができる。或る実施形態において、誘導性プロモーターを使用することができる。これらは、核酸分子の発現をオン又はオフにすることができる分子スイッチを提供する。誘導性プロモーターの例としては、メタロチオニンプロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター又はテトラサイクリンプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
「作動可能に連結された」という用語は、一方の機能が他方によって影響されるように、単一の核酸断片上に2つ以上の核酸分子が会合していることを指す。例えば、プロモーターは、それがそのコード配列の発現に影響を及ぼすことができる(即ち、コード配列がそのプロモーターの転写制御下にある)場合、コード配列に作動可能に連結される。
【0108】
上記で詳述したように、本明細書で提供される組換え核酸分子は、本明細書で提供される結合タンパク質をコードする。結合タンパク質が2つのポリペプチド鎖(即ち、全長又は切断されたα鎖及び全長又は切断されたβ鎖)を含有する場合、例えば、結合タンパク質がTCRである場合、両方のポリペプチド鎖は、同じ核酸分子によってコードされる。この場合、第1及び第2の鎖の等モル発現は、例えばリンカーによって第2の鎖に連結された第1の鎖を含有する単一のポリペプチドとして結合タンパク質をコードすることによって達成することができる(即ち、結合タンパク質は、第1及び第2の鎖がリンカーによって分離されている単一のポリペプチド鎖としてコードすることができる)。リンカーは、任意の適切なアミノ酸配列を有し得る。適切なリンカーは、当技術分野において公知である。リンカーは、任意の適切な長さのものであり得る。例えば、それは、1~30アミノ酸長、例えば、1~25又は1~20アミノ酸長であり得る。リンカーは、開裂可能であり得、それにより、第1及び第2のポリペプチドの分離を可能にする。もし第1及び第2のポリペプチドが分離できないと、2つの鎖は、第1及び第2の鎖の可変領域からの抗原結合部位の形成に必要とされる正しい立体配座を採用することができない場合がある。当業者は、適切なリンカーを選択することができる。リンカーは、リンカーの特異的な翻訳後開裂、従って第1及び第2のポリペプチドの分離、を可能にするために、プロテアーゼ開裂部位を含有し得る。適切なプロテアーゼ開裂部位は、当業者に周知であり、トロンビン、第Xa因子、エンテロキナーゼ、ヒトライノウイルス(HRV)3C及びタバコエッチウイルス(TEV)切断部位を包含する。
【0109】
特定の実施形態では、リンカーは自己スプライシングである。自己スプライシングリンカーは、それ自体の開裂を触媒することができ、従って、活性開裂ステップを必要とせずに第1及び第2のポリペプチドを分離する。自己スプライシング反応を起こすために、刺激や誘導は必要ない。開裂反応は、単一鎖特異的結合分子からリンカーを完全に切除し得る。或いは、リンカー又はリンカーの一部は、生じた別個のポリペプチド鎖の一方又は両方に付着したままであり得る。リンカーによって触媒される自己スプライシング反応は、翻訳後に起こり得る(即ち、自己触媒的タンパク質分解反応であり得る)か、又はそれは、同時翻訳的に起こり得る。同時翻訳スプライシングは、リンカー内での又はリンカーとそのいずれかの側のポリペプチド鎖の1つとの間のペプチド結合の形成を防止することによって起こり得る。
【0110】
自己スプライシングリンカーは、リボソームスキッピング配列を利用し得る。このようなリボソームスキッピング配列は当業者に周知である。適切な自己スプライシングリンカーは、ピコルナウイルス自己開裂2Aペプチドに由来するものである。2Aペプチドは約20~25アミノ酸長であり、保存された配列モチーフAsp-Val/Ile-Glu-X-Asn-Pro-GlyPro(配列番号:50)で終わる。2Aペプチドは、リンカー内の最終位置に保存されたグリシン残基とC末端プロリン残基との間のペプチド結合の形成を防止することによって、同時翻訳自己スプライシングを受け、その結果、効果的にこれら2つのアミノ酸間のタンパク質の開裂をもたらす。開裂後、2Aペプチド(C末端プロリンを除く)は、上流タンパク質のC末端に結合したままであり、最終プロリン残基は、下流タンパク質のN末端に結合したままである。2Aペプチドは、非特許文献14に記載されている。
【0111】
本明細書の実施例は、配列番号26のブタテシコウイルス由来2A配列によって分離されたα鎖及びβ鎖をコードするベクターからのTCRの発現を実証する。従って、本明細書で提供される核酸分子は、本明細書で提供される結合タンパク質をコードすることができ、ここで、結合タンパク質は、自己スプライシング2Aペプチドによって第2の鎖(例えば、β鎖)に連結された第1の鎖(例えば、α鎖)を含有する単一のポリペプチドの形態でコードされる。2Aペプチドリンカーは、自己スプライシング活性を有するように、任意の適切な配列を有し得る。いくつかの2Aペプチド配列が知られており(例えば、非特許文献15及び特許文献4に開示された2A配列)、そのいずれも、本開示に従って使用することができる。リンカーがそのC末端に配列番号50の2Aペプチドモチーフを含有する限り、本質的に任意の配列を使用することができる。一実施形態では、自己スプライシングリンカーは、配列番号26に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも50%、60%、70%、80%、90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する2Aペプチドである。
【0112】
本明細書で提供される結合タンパク質(又は、関連する場合、結合タンパク質の第1の鎖及び第2の鎖)は、N末端リーダー配列でコードすることができる。このようなリーダー配列は、エクスポート(可溶性結合タンパク質の場合)又は膜への挿入(膜貫通ドメインを含有する結合タンパク質の場合)のいずれかのために、結合タンパク質(又はその鎖)を細胞膜に導くと考えられ、タンパク質のエクスポート又は膜へのその挿入の際に、トリミングされて、成熟タンパク質を生じる。例示的なα鎖N末端リーダー配列は、配列番号51に記載のアミノ酸配列を有し、例示的なβ鎖N末端リーダー配列は、配列番号52及び配列番号53(これらのリーダー配列は、以下の実施例において使用される)に記載のアミノ酸配列を有する。具体的には、配列番号52は、T1 TCR β鎖のリーダー配列として使用され、配列番号53は、T3 TCR β鎖のリーダー配列として使用される。任意の適切なリーダー配列が、本開示に従って使用され得るが、一実施形態では、第1鎖(例えばα鎖)は、配列番号51に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するリーダー配列でコードされ;第2鎖(例えばβ鎖)は、配列番号52若しくは配列番号53に記載のアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有するリーダー配列でコードされる。
【0113】
1つの実施形態において、T1 TCRベースの結合タンパク質は、配列番号51のリーダー配列又はそれに対して90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する第1の鎖(例えばα鎖);及び配列番号52のリーダー配列又はそれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する第2の鎖(例えばβ鎖)を含有し得る。別の実施形態において、T3 TCRに基づく結合タンパク質は、配列番号51のリーダー配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する第1の鎖(例えばα鎖);及び配列番号53のリーダー配列又はそれに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する第2の(例えばβ鎖)を含有し得る。結合タンパク質が単一のポリペプチド鎖のみを含有する場合、任意のリーダー配列、例えば、TCR α鎖又はTCR β鎖からのリーダー配列、を使用することができる。例えば、リーダー配列は、配列番号51、52又は53に記載のアミノ酸配列又はそれらに対して少なくとも90%若しくは95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有し得る。
【0114】
T3 TCR鎖を含有する例示的な単一ポリペプチドは、配列番号45に記載のアミノ酸配列を有する。このポリペプチド構築物は、N末端からC末端まで、配列番号53のN末端リーダーを有する配列番号25のβ鎖、配列番号26の2Aペプチドリンカー及び配列番号51のN末端リーダーを有する配列番号24のα鎖を含有する。T1 TCR鎖を含有する例示的な単一ポリペプチドは、配列番号14に記載のアミノ酸配列を有する。このポリペプチド構築物は、N末端からC末端まで、配列番号52のN末端リーダーを有する配列番号13のβ鎖、配列番号26の2Aペプチドリンカー及び配列番号51のN末端リーダーを有する配列番号12のα鎖を含有する。T3単鎖TCRポリペプチドをコードするDNA配列は、配列番号55に示され、T1単鎖TCRポリペプチドをコードするDNA配列は、配列番号54に示されている。
【0115】
本明細書で提供される組換え核酸分子又は構築物は、ベクター内に提供することができる。本明細書で使用される「ベクター」という用語は、本明細書で提供される核酸分子又は構築物を導入することができる(例えば、共有結合的に挿入することができる)媒介物を指し、そこから、核酸分子によってコードされる特異的結合分子が発現され及び/又は核酸分子/構築物がクローン化され得る。従って、ベクターは、クローニングベクター又は発現ベクターであり得る。
【0116】
ベクターの例としては、プラスミド、自律複製配列及び転移因子が挙げられる。更なる例示的ベクターには、ファージミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)又はP1由来人工染色体(PAC)などの人工染色体、ラムダファージ又はM13ファージなどのバクテリオファージ、及びヒトウイルス(即ちウイルスベクター)などの動物ウイルスが含まれるが、これらに限定されるものではない。ベクターとして有用な動物ウイルスのカテゴリーの例としては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス及びパポバウイルス(例えばSV40)が挙げられるが、これらに限定されない。発現ベクターの例は、哺乳動物細胞における発現のためのpCl-neoベクター(Promega)及び哺乳動物細胞におけるレンチウイルス媒介遺伝子導入及び発現のためのpLenti4/V5-DEST(商標)及びpLenti6/V5-DEST(商標)である。
【0117】
ベクターは、細菌又は原核生物ベクター(即ち、細菌又は原核生物細胞における、例えばクローニング又は発現に使用するためのベクター)又は真核生物ベクター(即ち、哺乳類細胞における使用のためのベクター)、例えば哺乳類ベクター、であってもよい。本明細書で提供される核酸分子又は構築物は、細菌クローニングベクター、例えば、大腸菌クローニングベクター、などの汎用クローニングベクター中で産生することができるか又はその中に導入することができる。典型的には、クローニングベクターは、細菌プラスミド、例えば大腸菌プラスミド、である。このようなクローニングベクターの例としては、pUC19(例えば、New England Biolabs(NEB)社、米国から入手可能)、pBluescriptベクター(Agilent社、米国)及びThermo Fisher Scientific社からのpCR TOPO(登録商標)ベクターが挙げられる。
【0118】
本明細書で提供される核酸分子又は構築物は、哺乳動物発現ベクターなどの、本明細書で提供される特異的結合分子の発現のための発現ベクター中にサブクローニングすることができる。発現ベクターは、種々の発現制御配列を含有し得る。発現ベクターは、そのそれぞれの宿主細胞における効率的な遺伝子転写及び翻訳のために、翻訳開始部位におけるKozak配列であるTATAボックス及び転写終結をシグナルで知らせる3’UTR AATAAAポリアデニル化シグナル配列を始めとするプロモーター配列(上述)などの必須の5’上流及び3’下流調節エレメントを有していなければならない。
【0119】
転写及び翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターは、例えばベクター複製、選択マーカーなどを始めとする、他の機能を果たす追加の核酸配列を含有し得る。細菌宿主細胞の選択に適した選択マーカーの例としては、アンピシリン耐性遺伝子(例えば、β-ラクタマーゼ)、カナマイシン耐性遺伝子又はクロラムフェニコール耐性遺伝子(例えば、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)などの抗生物質耐性遺伝子が挙げられる。哺乳類宿主細胞における使用に適した選択マーカーには、ヒグロマイシンBに対する耐性を付与するヒグロマイシン-Bホスホトランスフェラーゼ遺伝子(hph)、抗生物質G418に対する耐性をコードするTn5由来のアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo又はaph)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子、アデノシンデアミナーゼ遺伝子(ADA)及び多剤耐性(MDR)遺伝子が含まれる。このような選択マーカーは、ベクターを保有する細胞のインビトロ選択を可能にする。
【0120】
ベクターは、そのベクターを保有する免疫エフェクター細胞を、インビボで、負の選択に感受性にさせるマーカーを含有することができる。このようなマーカーを含有させることにより、このような細胞が投与された個人、例えば養子細胞療法を用いて治療された患者、において、ベクターを保有する免疫エフェクター細胞を選択的に破壊することが可能になる。これは、例えば患者が治療に対して重度の副作用を経験した場合に重要となることがある。負の選択が可能な表現型は、投与された薬剤に対する感受性を付与する遺伝子の挿入に起因し得る。負の選択が可能な遺伝子は、当技術分野で公知であり、とりわけ、ガンシクロビル感受性を付与する単純ヘルペスウイルスI型チミジンキナーゼ(HSV-I TK)遺伝子(非特許文献16)、及び5-フルオロシトシン感受性を付与する細菌シトシンデアミナーゼ(非特許文献17)を包含する。
【0121】
ベクターはウイルスベクターであってもよい。ウイルスベクターは、レンチウイルス又はスパマウイルス/泡沫状ウイルスのようなレトロウイルスに由来することができる。本明細書において、用語「ウイルスベクター」は、本明細書で提供される核酸分子又は構築物を保有し、この核酸分子/構築物を標的細胞に送達することができるウイルス由来の粒子をいう。ウイルスベクターは、非必須ウイルス遺伝子の代わりに又は天然ウイルス遺伝子に加えて、本明細書で提供される核酸分子を含有することができる。ベクターは、DNA、RNA又は他の核酸を、インビトロ又はエクスビボのいずれかで、細胞に移入する目的で利用することができる。
【0122】
多数の形態のウイルスベクターが当技術分野で公知であり、一本鎖及び二本鎖RNAウイルスベクター並びにDNAウイルスベクターの両方を含む、任意の適切なウイルスベクターが、本教示に従って使用され得る。一本鎖ウイルスベクターは、ポジティブ検知(positive sense)又はネガティブ検知(negative sense)ウイルスベクターであり得る。或る実施形態では、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクター(即ち、レンチウイルスに由来するウイルスベクター)などのレトロウイルスベクター(即ち、レトロウイルスに由来するウイルスベクター)である。レトロウイルスゲノムは感染細胞のゲノムに組み込まれるので、本明細書に記載したレトロウイルスベクターを用いて、標的細胞を安定的に形質導入する、即ち、標的細胞の遺伝子構成を永久的に変化させる、ことができる。
【0123】
ウイルスベクターは、自己不活化ベクター又は複製欠損ベクターであってもよい。複製欠損レトロウイルスベクターは、例えば、ウイルスゲノムの(U3領域として知られている)3’LTRエンハンサー-プロモーター領域を改変(例えば、欠失又は置換)して、ウイルス複製の第1ラウンドを超えるウイルス転写を防止することによって得ることができる。その結果、ベクターは、宿主ゲノムに感染した後、一度だけ組み込まれることができ、更に通過することができない。
【0124】
本明細書で使用するためのレトロウイルスベクターは、例えば、任意の公知のレトロウイルス、例えば、Moloneyマウス肉腫ウイルス(M-MSV)、Harveyマウス肉腫ウイルス(Ha-MuSV)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、gibbon ape白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、spumavirus、Friendウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)及びRous肉腫ウイルス(RSV)などのC型レトロウイルス;HTLV-1及びHTLV-2などのヒトT細胞白血病ウイルス;ヒト免疫不全ウイルスHIV-1及びHIV-2、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、馬免疫不全ウイルス(EIV)及び他のクラスのレトロウイルスなどのレンチウイルスファミリーに由来し得る。
【0125】
レトロウイルスパッケージング細胞株(典型的には、哺乳動物細胞株)は、ウイルスベクターを産生するために使用することができ、次いで、これは、T細胞の形質導入のために使用することができる。パッケージング細胞株は、ウイルス粒子組立体に必要な遺伝子を保有する1つ以上のベクター(例えば、プラスミド)でのトランスフェクションによってウイルスベクターを産生するために使用することができる。例示的なウイルスベクターは、例えば特許文献5に記載されている。レトロウイルスベクターの産生のための例示的なプラスミドは、非特許文献18に記載されているpMP71である。
【0126】
別の実施形態では、ベクターはmRNAベクターである。mRNAベクターは、上記の核酸分子又は構築物を含有するポジティブ検知mRNA鎖である。mRNAベクターは翻訳可能なmRNA鎖であり、標的細胞に送出されると、リボソームに結合し、コードされたタンパク質の合成を開始することができる。mRNAベクターは、そのコードされたタンパク質の生産を開始するために核への侵入や転写を必要とせず、代わりに細胞質リボソームに直接結合して翻訳を開始することができるので、有利である。従って、mRNAベクターによる標的細胞のトランスフェクションは、コードされた特異的結合分子の迅速な産生のために使用することができる。RNAは、その固有の不安定性のために限定された半減期しか有しておらず、従って、mRNAベクターは、標的細胞の一過性トランスフェクションのために使用することができる。
【0127】
mRNAベクターは、翻訳のための必須要素、例えば、リボソーム認識のための5’ 7-メチルグアニル酸頭部及びポリアデニル酸尾部を含有する。mRNAベクターは、当該分野で公知の方法に従って、細胞系又は無細胞系を用いてmRNA発現ベクターから産生することができる。適切なmRNA発現ベクターには、pClpA102(非特許文献19)及びpCIpA120-G(非特許文献18)が含まれる。無細胞系は、転写される遺伝子及び適切なプロモーターを含有するDNA鋳型を必要とし、RNAポリメラーゼ、一般的にはファージRNAポリメラーゼ、を利用する。インビトロ転写の実施のためのキット(例えば、MEGAscript(商標)SP6 Transcription Kit)は、例えば、Thermo Fisher Scientific社から得ることができる。
【0128】
本明細書では、本明細書で提供される結合タンパク質の第1の鎖をコードする第1の核酸分子と本明細書で提供される第2の鎖をコードする第2の核酸分子とを含有するキットも、また、提供される。従って、キットは、上述のように、一方が第1の鎖をコードし他方が第2の鎖をコードする一対の核酸分子を含有する。
【0129】
第1及び第2の核酸分子は、上述のようなものであり、例えば、それらは、DNA又はRNA、二本鎖又は一本鎖、線状又は環状などであり得る。第1の組換え核酸分子及び第2の核酸分子は、第1の組換え構築物及び第2の組換え構築物(第1の核酸分子を含有する第1の組換え構築物及び第2の核酸分子を含有する第2の組換え構築物)に関連してキットで、又は第1のベクター及び第2のベクター内に提供され得る。組換え構築物及びベクターは、上述した。キットの第1及び第2の核酸分子は、別個の分子として提供される。即ち、それらは両方ともが同じ構築物又はベクター内には位置しない。
【0130】
上記のように、ベクターは、ベクターを取り込んだ細胞が積極的に選択され得るように、選択マーカーを含有し得る。1つの実施形態において、第1及び第2の核酸分子が第1及び第2のベクター内に提供される場合、第1のベクター及び第2のベクターは、それぞれ、選択マーカーを含有する。第1及び第2のベクターのマーカーは、一般的に異なっており、その結果、両方のベクターを取り込んだ細胞は、2つのベクターのうちの一方のみを取り込んだ(又はいずれのベクターも取り込まなかった)細胞よりも多く選択され得る。適切な選択マーカーは、上記で議論している。
【0131】
キットの2つの核酸分子(例えば、第1及び第2の組換え構築物又は第1及び第2のベクター)は、単一の容器で(即ち、2つの核酸分子の混合物で)又は別個の容器で提供することができる。核酸分子は、水溶液(例えば、水又はTE緩衝液などの適切な緩衝液)で提供されてもよく、又は凍結乾燥形態で提供されてもよい。
【0132】
キット中の核酸分子によってコードされる第1の鎖及び第2の鎖は、両方とも、T1又はT3 TCRのいずれかに由来する(即ち、キットは、T1 TCRに由来する鎖をコードする1つの核酸分子及びT3 TCRに由来する鎖をコードする1つの核酸分子を含まない)。
【0133】
従って、第1の実施形態では、キットは、T3 TCRベースの結合タンパク質の第1及び第2の鎖をコードする核酸分子を含有し、このキットは、下記を含有する。
(i)それぞれ、配列番号16、17及び18に示すアミノ酸配列を含有するCDR1、CDR2及びCDR3を含有する可変ドメインを含有する第1の鎖をコードする第1の核酸分子であって、特に、可変ドメインが、配列番号22に示すアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する第1の核酸分子;及び
(ii)それぞれ、配列番号19、20及び21に示すアミノ酸配列を含有するCDR1、CDR2及びCDR3を含有する可変ドメインを含有する第2の鎖をコードする第2の核酸分子であって、特に、可変ドメインが、配列番号23に示すアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する第2の核酸分子。
【0134】
従って、第1の鎖は、上述のように、任意の、T3 TCRベースの全長又は切断α鎖であってよく、第2の鎖は、上述のように、任意の、T3 TCRベースの全長又は切断β鎖であってよい。
【0135】
従って、第2の実施形態では、キットは、T1 TCRベースの結合タンパク質の第1及び第2の鎖をコードする核酸分子を含有し、このキットは、下記を含有する。
(i)それぞれ、配列番号2、3及び4に示すアミノ酸配列を含有するCDR1、CDR2及びCDR3を含有する可変ドメインを含有する第1の鎖をコードする第1の核酸分子であって、特に、可変ドメインが、配列番号8に示すアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する第1の核酸分子;及び
(ii)それぞれ、配列番号5、6及び7に示すアミノ酸配列を含有するCDR1、CDR2及びCDR3を含有する可変ドメインを含有する第2の鎖をコードする第2の核酸分子であって、特に、可変ドメインが、配列番号9に示すアミノ酸配列又はそれに対して少なくとも90%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含有する第2の核酸分子。
【0136】
従って、第1の鎖は、上述のように、任意の、T1 TCRベースの全長又は切断α鎖であってよく、第2の鎖は、上述のように、任意の、T1 TCRベースの全長又は切断β鎖であってよい。
【0137】
配列同一性は、任意の好都合な方法によって評価することができる。しかしながら、配列間の配列同一性の程度を決定するためには、配列のペアごとの又は多重のアラインメントを作成するコンピュータープログラムが便利である。例えば、ペアごとの配列アラインメントには、EMBOSSニードル又はEMBOSSストレッチャー(いずれも、非特許文献20)を使用することができ、一方、Clustal Omega(非特許文献21)又はMUSCLE(非特許文献22)を多重配列アラインメントに使用することができるが、任意の他の適切なプログラムを使用することもできる。別の適切なアラインメントプログラムは、タンパク質アラインメントのためのblastpアルゴリズム及び核酸アラインメントのためのblastnアルゴリズムを使用するBLASTである。アラインメントは、ペアごとであるか多重であるかにかかわらず、局所的ではなく全体的に(即ち、参照配列の全体に亘って)行なわれなければならない。
【0138】
配列アラインメント及び%同一性計算は、例えば、標準的なClustal Omegaパラメーター:マトリックスGonnet、ギャップ開放ペナルティ6、ギャップ延長ペナルティ1を使用して決定することができる。代わりに、標準のEMBOSSニードルパラメータ:マトリクスBLOSUM62、ギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5を使用することもできる。これらに代えて、任意の他の適切なパラメーターを使用することができる。
【0139】
配列が本明細書に引用される参照配列に対して100%未満の同一性を有する場合、配列は、参照配列(又はその任意の組合せ)と比較して、アミノ酸の置換、欠失又は付加によって変更することができる。
【0140】
本明細書で提供される核酸分子、構築物及びベクターは、周知の方法によって、細胞、例えば免疫エフェクター細胞、に導入することができる。本明細書で提供されるキットの第1及び第2の核酸分子は、同様に、宿主細胞に同時導入することができる。核酸分子、構築物及びベクターは、トランスフェクション(例えば、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション若しくはバイオリスティック、又は当技術分野で公知の任意の他の方法)又はウイルスベクターを使用する形質導入によって、標的真核生物(例えば、ヒト)細胞に導入することができる。核酸分子、構築物及びベクターは、当技術分野で公知の任意の方法、例えば形質転換、形質導入又はコンジュゲーション、によって、標的原核(例えば、細菌)細胞に導入することができる。
【0141】
従って、本明細書で提供される組換え核酸分子若しくはベクター又は本明細書で提供されるキットに含まれる核酸分子の対を含有する細胞が、更に、本明細書で提供される。
【0142】
細胞は、特に、本明細書で提供される組換え核酸分子若しくはベクター、又は膜貫通ドメインを含有する上述の結合タンパク質をコードするキット由来の核酸分子の対を含有する、エフェクター細胞、より具体的には、免疫エフェクター細胞又はそのための前駆体若しくは前駆細胞であり得る。組換え核酸分子、ベクター又は核酸分子の対は、TCRをコードし得る。或いは、TCR-CAR又はキメラTCRがコードされ得る。細胞、例えばエフェクター細胞、又は免疫エフェクター細胞がその細胞膜においてそのような結合タンパク質を発現する場合、それらはTdT発現細胞を認識し、標的とすることができる。従って、このような組換え核酸分子、ベクター又は核酸分子の対を含有する細胞は、その細胞膜においてコードされた特異的結合タンパク質を発現する。即ち、コードされた特異的結合タンパク質は、細胞膜において発現及び局在化され、機能的である。特定の実施形態において、細胞、例えばエフェクター、又は免疫エフェクター細胞は、その細胞膜において機能的TCRを発現する。
【0143】
本明細書で言及する「免疫エフェクター細胞」とは、活性化されるとエフェクター機能(例えば、細胞毒性による標的細胞殺傷、サイトカイン放出など)を発揮することができ、機能的TCRを発現することができる任意の免疫細胞を意味する。より一般的には、「エフェクター細胞」は、エフェクター機能を実行することができる任意の細胞である。これは、細胞によって発揮される任意の有用な効果、又は細胞の任意の有用な特性であり得る。エフェクター細胞は、幹細胞を含有する。エフェクター細胞(この用語は、特に免疫エフェクター細胞を含有する)は、治療的使用、例えば養子細胞移入療法における使用、に適した細胞と見なすことができるか又はそれを包含し得る。従って、エフェクター細胞は、代替的に、治療用細胞又は治療のための細胞と称することができる。
【0144】
「免疫エフェクター細胞」という用語は、特に、成熟した又は完全に分化した免疫エフェクター細胞を包含し得るが、上述のように、本明細書の開示の範囲内にも含まれ、本明細書における使用は、幹細胞(例えば、造血幹細胞、HSC)又はHSC若しくは他の幹細胞に由来する細胞、並びに、より拘束性の前駆体を包含する、前駆体(又は前駆体)細胞である。従って、免疫エフェクター細胞の前駆体は、造血組織、例えば骨髄、臍帯血又は血液、例えば動員された(mobilised)末梢血に由来する細胞のCD34+集団内に含まれるHSCから得られるか又は誘導される細胞であってよく、これらの細胞は、被験者への投与時に成熟免疫エフェクター細胞に分化するか又はインビボ若しくはインビトロで免疫エフェクター細胞に分化するように誘導することができる。幹細胞は、また、誘導された多能性幹細胞(iPSC)であってもよく、従って免疫エフェクター細胞の前駆体であってもよく、iPSC又はiPSC細胞から得られた若しくは誘導された細胞であってもよい。
【0145】
特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞はT細胞である。T細胞は、任意のタイプのT細胞であり得る。例えば、それは、細胞傷害性T細胞(CD8+T細胞)、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、ナイーブT細胞、記憶T細胞又は任意の他のタイプのT細胞であり得る。T細胞は、ヘルパーT細胞又は細胞傷害性T細胞であり得る。別の特定の実施形態では、免疫エフェクター細胞はナチュラルキラー細胞(NK細胞)である。
【0146】
従って、免疫エフェクター細胞は、細胞傷害性T細胞、NK細胞及びTヘルパー細胞から選択することができる。1つの実施形態において、免疫エフェクター細胞はNK細胞であり、発現される結合タンパク質はTCRである。この場合、1つ以上のCD3鎖の更なる発現が、特許文献6及び特許文献7に開示されるように必要となり得る。
【0147】
本明細書に記載されるような組換え核酸分子、ベクター又は核酸分子の対を含有するT細胞又はNK細胞は、上記のように、標的T細胞又はNK細胞をトランスフェクト(transfect)又は形質導入することによって得ることができる。トランスフェクトされるべきT細胞又はNK細胞は、既存の細胞系に由来してもよく又は対象の被験者(治療される患者又はドナーであり得る)から単離される原発性のT細胞又はNK細胞であってもよい。T細胞又はNK細胞は、また、結合分子を発現するように改変される前及び/又は後に、インビトロで増殖するように活性化され、また、刺激され得る(増殖するためのこのような活性化及び刺激は、増殖と呼ばれ得る)。NK細胞は、特許文献8に記載された方法を用いて増殖され活性化され得る。
【0148】
T細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位からの組織、腹水、胸水、脾臓組織及び腫瘍を始めとする多くの供給源から得ることができる。T細胞は、当技術分野で公知の任意の方法を使用して単離することができる。T細胞は、PBMCから得ることができ、これは、全血の密度勾配遠心分離によって得られるバフィーコートから単離することができる。CD4+又はCD8+T細胞などのT細胞の特異的サブ集団は、正又は負の選択手法によって更に単離することができる。例えば、ネガティブ選択によるT細胞集団の濃縮は、ネガティブ選択された細胞に特有の表面マーカーに対する抗体の組合せで達成することができる。このようなネガティブ選択は、例えば蛍光活性化細胞選別(FACS)によって、行なうことができる。
【0149】
NK細胞は、同様に、T細胞と同じ供給源から、上述のような当技術分野で公知の標準的方法を使用して得ることができる。例えば、細胞株由来のNK細胞、例えばNK-92細胞、を使用することができる。一次NK細胞は、例えば、非特許文献23又は非特許文献24に記載されているように、血液、例えばPBMC又は非胆汁性臍帯血(UCB)、から単離することができる。
【0150】
細胞、例えば、本明細書で使用されるエフェクター細胞又は免疫エフェクター細胞は、ヒトであり得る。エフェクター細胞、例えばTCR(又は本明細書で提供される他の膜結合結合タンパク質)を発現する免疫エフェクター細胞、は、自己由来又は同種異系であり得る。即ち、細胞、例えばエフェクター細胞又は免疫エフェクター細胞、が治療用である場合、それは、自己由来細胞であり、即ち、治療される患者に由来し、これは、組織適合性及び非免疫原性を保証し、一旦遺伝的に改変されれば、それは患者からの免疫応答を誘導しないことを意味する。或いは、細胞は、治療的使用のための非自己由来細胞(即ち、それは、患者以外の個体から得られたドナー細胞である)であることができ、この場合、それは同種異系であり得る。
【0151】
治療用の非自己由来細胞は、被験者に投与されたとき、治療における細胞の使用に影響し、干渉し又は妨害する免疫応答を生じないような、非免疫原性であり得る。非自己由来細胞(例えば免疫エフェクター細胞又はその前駆体など)は、それらが患者にHLA適合性である場合、勿論、非免疫原性であり得る。非自己由来細胞は、MHC分子の発現を減少し又は排除するための改変により、例えば、MHCタンパク質をコードする遺伝子の発現をノックアウトし又はノックダウンすることにより、非免疫原性にすることができる。細胞は、HLA陰性ヒト細胞であってもよい。一実施形態では、クラスI MHC発現の破壊は、β2-ミクログロブリン(β2-m)をコードする遺伝子をノックアウトすることによって行なうことができる。
【0152】
細胞(例えばエフェクター細胞、又はより具体的には免疫エフェクター細胞)は、代替的には、被験者に投与される前に照射され得る。理論に拘束されることを望まないが、細胞の照射は、細胞を一時的にのみ被験者中に存在させ、従って被験者の免疫系が細胞に対する免疫学的応答を開始するために利用可能な時間を減少させると考えられる。このような細胞は、その細胞表面に機能的なMHC分子を発現する可能性があるが、非免疫原性であるとも考えられる。放射線は、α、β又はγ放射線の任意の供給源からのものであってもよく、又は、X線放射線又は紫外線であってもよい。増殖を抑制するには、5~10Gyの放射線量で十分であろう。或いは、細胞を改変して「自殺遺伝子」を発現させてもよく、これにより、細胞が誘導的に殺傷されるか又は外部刺激に応答して複製することを妨げることが可能になる。
【0153】
本明細書で提供される細胞は、或いは、産生宿主細胞であり得、組換え核酸分子、ベクター又は核酸分子の対は、上述のような可溶性結合タンパク質(例えば可溶性TCR)をコードする。生産宿主細胞は、タンパク質生産における使用に適した任意の細胞である。適切な産生宿主は、当該分野で公知である。産生宿主は、原核生物、例えばRosetta株のような真核生物タンパク質産生のために最適化された大腸菌株、であってもよい。産生宿主は、真核細胞、例えば、酵母細胞、例えばPichia pastoris、のような真菌細胞、であってもよい。産生宿主は、ヒト細胞又は非ヒト細胞などの哺乳動物細胞であってもよい。非ヒト哺乳動物細胞が使用される場合、細胞は、ヒトタンパク質発現のために最適化することができる。適切な哺乳動物細胞は、Cos細胞、例えばCos-7細胞、HEK293細胞及びCHO細胞、を包含するが、任意の適切な細胞株又はタイプを使用することができる。CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞は、タンパク質産生のために当技術分野で一般的に使用されるが、本開示に従って使用することができる。特異的結合分子をコードする遺伝子は、選択された宿主における発現のためにコドン最適化することができる。
【0154】
本明細書で提供される細胞は、本明細書で提供される組換え核酸又はベクターの合成中に使用されるクローニング宿主か又はキットによって提供される核酸分子の対の1つであり得る。原核細胞は、上述の核酸分子、構築物又はベクターのためのクローニング宿主として使用することができる。クローニング宿主として使用するのに適した原核細胞には、グラム陰性又はグラム陽性生物などの真正細菌、例えば、大腸菌などのエシェリチア属などの腸内細菌科及び枯草菌などの桿菌、が含まれる。クローニング宿主は、代替的に、真菌細胞、例えばPichia pastoris、又は酵母細胞、又は哺乳動物細胞のような高等真核細胞であってもよい。
【0155】
本開示の別の局面は、TdT特異的細胞、又はより特定のエフェクター細胞、又は免疫エフェクター細胞(即ち、本明細書で提供される免疫エフェクター細胞)若しくはその前駆体を生成する方法を提供し、この方法は、本明細書で提供される組換え核酸分子、本明細書で提供されるベクター又は本明細書で提供されるキットに含まれる組換え核酸分子の対を細胞(例えば、免疫エフェクター細胞又はその前駆体)に導入することを含む。免疫エフェクター細胞は、上述のような任意の免疫エフェクター細胞、特にT細胞(細胞傷害性T細胞又はTヘルパー細胞など)又はNK細胞であり、前駆体は、任意の幹細胞、例えばiPSC又はそれに由来する細胞、を包含し得る。核酸分子又はベクターは、上にも記載したように、当技術分野で公知の任意の方法、例えばトランスフェクション又は形質導入、によって細胞に導入することができる。細胞は、上述のように、更に改変することができる(例えば、それを非免疫原性にするために又は対象の更なるタンパク質を発現するために、例えば、上述のように、NK細胞は、機能的TCR-CD3複合体を発現させるために、TCR及びCD3鎖の両方を発現するように改変することができる)。エフェクター細胞は、また、上記のように拡大することができる。細胞の改変及び拡大は、任意の順序で実施することができる。
【0156】
更に本明細書では、本明細書で提供される細胞、特にエフェクター細胞、より具体的には、そのための免疫エフェクター細胞又は前駆体、を含有する医薬組成物が提供される。また、本明細書で提供される可溶性結合タンパク質(例えば、TCR-scFv又は可溶性TCR)を含有する医薬組成物が提供される。本明細書で提供される細胞を含有する医薬組成物は、以下に更に記載されるように、癌処置において使用することができる。同様に、本明細書で提供される可溶性結合タンパク質を含有する医薬組成物は、上述し、また、以下に更に論じるように、癌の処置又は診断において使用することができる。
【0157】
本明細書で提供される医薬組成物は、活性医薬(即ち、細胞又は可溶性結合タンパク質)及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な希釈剤、担体又は賦形剤を含有する。組成物は、医薬分野で公知の技術及び手順に従って、任意の好都合な様式で製剤化することができる。本明細書で使用される「薬学的に許容可能な」という用語は、組成物の他の成分と適合性があり、且つ、レシピエントに生理学的に許容可能な成分を指す。組成物及び担体又は賦形剤材料の特性、投薬量などは、選択及び所望の投与経路、治療の目的などに従って、日常的な様式で選択することができる。
【0158】
医薬組成物は、被験者への投与のために、任意の適切な手段によって調製することができる。このような投与は、例えば、経口、経鼻又は非経口であり得る。本明細書で使用される経口投与は、頬側及び舌下投与を包含する。本明細書で定義される非経口投与は、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内及び皮内投与を包含する。
【0159】
本明細書で提供される医薬組成物は、液体溶液又はシロップ、粉末、顆粒、錠剤又はカプセルのような固体組成物、クリーム、軟膏及び他技術分野で一般的に使用される任意の他のスタイルの組成物を含有する。このような組成物で使用するための薬学的に許容可能な希釈剤、担体及び賦形剤は、当技術分野で周知である。
【0160】
例えば、適切な賦形剤には、ラクトース、トウモロコシデンプン又はその誘導体、ステアリン酸又はその塩、植物油、ワックス、脂肪及びポリオールが含まれる。適切な担体又は希釈剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、デキストロース、トレハロース、リポソーム、ポリビニルアルコール、医薬品グレードのデンプン、マンニトール、ラクトース、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース(及び他の糖)、炭酸マグネシウム、ゼラチン、油、アルコール、界面活性剤、及びポリソルベートなどの乳化剤が挙げられる。安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料なども使用することができる。
【0161】
液体医薬組成物は、溶液、懸濁液又は他の同様の形態であっても、以下のものの1つ以上を含有し得る:注射用水、生理食塩水(生理学的であってよい)、リンゲル溶液、等張性塩化ナトリウム、溶媒又は懸濁媒体として働き得る合成モノ又はジグリセリドなどの不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の溶媒;ベンジルアルコール又はメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸又は重亜硫酸ナトリウムなどの抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩などの緩衝液、及び塩化ナトリウム又はデキストロースなどの張性調節剤。非経口製剤は、ガラス又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器又は多数回投与バイアルに封入することができる。注射可能な医薬組成物は、無菌であり得る。
【0162】
本明細書では、治療に使用するための本明細書で提供されるような細胞、特にエフェクター細胞、より具体的にはそのための免疫エフェクター細胞又は前駆体、が提供される。同様に、本明細書では、治療に使用するためのこのような細胞(上記)を含有する医薬組成物が提供される。また、本明細書では、治療に使用するための又は診断に使用するための、本明細書で提供される可溶性結合タンパク質(例えば、TCR-scFv又は可溶性TCR)も提供される。同様に、本明細書では、治療に使用するための又は診断に使用するための、そのような可溶性結合タンパク質を含有する医薬組成物が提供される。本明細書で提供される可溶性結合タンパク質の関連において、(上記に詳述した)治療薬に連結又は接合された可溶性結合タンパク質は、治療において使用することができ、診断薬(上記に詳述した)に連結又は接合された可溶性結合タンパク質は、診断において使用することができる。
【0163】
本明細書で使用される「治療」とは、任意の医学的状態の治療を意味する。そのような治療は、予防的(即ち、防止的)、治癒的(又は治癒することを意図した治療)、又は緩和的(即ち、状態の症状を、単に制限し、軽減し又は改善するために設計された治療)であり得る。
【0164】
細胞又は細胞を含有する組成物を使用する治療は、養子移入療法(或いは養子移入として知られている)である。養子移送療法は、公知の技術を用いて行なうことができる。細胞は、最初にそれらをそれらの培養培地から回収し、次いで、細胞を処置有効量での投与に適した培地及び容器システム(薬学的に受容可能なキャリア)中で洗浄し、濃縮することによって、治療のために処方され得る。適切な注入媒体は、任意の等張性媒体製剤、典型的には通常の生理食塩水、例えば、Normosol R(Abbott社)又はPlasma-Lyte A(Baxter社)であり得るが、水又は乳酸リンゲル液中の5%デキストロースも利用することができる。注入媒体は、ヒト血清アルブミンを補充することができる。
【0165】
上述のように膜結合特異的結合分子(例えば、TCR)を発現する、本明細書で治療的使用のために提供される細胞は、単独で、或いは、希釈剤と、及び/又は、IL-2若しくは他のサイトカイン又は細胞集団などの他の構成要素と組み合わせた医薬組成物としての、いずれかで、投与することができる。このような医薬組成物は上述されている。
【0166】
本明細書で提供される治療的使用のための細胞及びそのような細胞を含有する医薬組成物は、任意の適切な経路によって患者に投与することができる。特に、細胞は、静脈内投与又は腫瘍内注射によって投与することができる。
【0167】
本明細書に記載されるような治療は、本明細書中の細胞の薬学的に有効な用量の投与を含み得る。薬学的に効果的な投与量は、例えば、結合タンパク質(例えば、TCR)を発現する1×105~1×1010細胞の範囲又はそれ以上であり得る。薬学的に効果的な投与量は、例えば、TCRを発現する1×107~5×109のT細胞であり得る。本明細書で提供される使用のために、細胞は、一般に、1リットル以下、500mL以下、更には250mL又は100mL以下の体積である。従って、所望の細胞の密度は、典型的には、106細胞/mLを超え、一般的には、107細胞/mLを超え、一般的には、108細胞/mL以上である。臨床的に関連する数は、累積して、105、106、107、108、109、1010、1011又は1012細胞以上となる複数の注加物に分配することができる。例えば、2、3、4、5、6以上の別個の注加物を、24若しくは48時間の間隔で、又は3、4、5、6又は7日毎に、患者に投与することができる。注入は、また、週1回、2週間若しくは月1回の間隔、又は6週間若しくはそれ以上の間隔で行なってもよい。細胞組成物は、上記の範囲内の用量で複数回投与することができる。所望であれば、治療は、また、免疫応答の誘導を増強するために、マイトジェン(例えば、PHA)又はリンホカイン、サイトカイン及び/又はケモカイン(例えば、IFN-γ、IL-2、IL-12、TNF-α、IL-18、及びTNF-β、GM-CSF、IL-4、IL-13、Flt3-L、RANTES、MGRTαなど)の投与を含むこともできる。
【0168】
本明細書で提供される可溶性結合タンパク質を使用する治療において、用量などは、選択及び所望の投与経路、処置の目的などに従って、日常的に選択することができる。用量も同様に、患者の性質、例えば、年齢、大きさ及び容態、並びに、患者の疾患の種類及び重症度に依存し得る。適切な用量は、臨床試験によって決定することができる。本明細書で提供される可溶性結合タンパク質は、代替的に、インビボ診断方法において使用され、この場合、可溶性結合タンパク質は、上述のように、診断薬に連結又は結合される。適切なインビボ診断方法は、熟練した医師に知られており、患者のスキャンにおけるトレーサー又はそのようなもの、例えば放射性標識、に結合された可溶性結合タンパク質の利用が含まれる。
【0169】
可溶性結合タンパク質は、当技術分野で一般的な任意の経路によって、例えば上述のような経口、経鼻又は非経口経路によって、投与することができる。
【0170】
本開示は、T細胞起源の癌の処置において使用するための、TdTペプチドを提示するHLA複合体(又は前述の細胞を含有する医薬組成物)に特異的に結合するTCRを発現する細胞、より具体的には、エフェクター細胞又は免疫エフェクター細胞又はそのための前駆体を広く提供する。同様に、本開示は、TdTペプチドを提示するHLA複合体に特異的に結合するTCRを発現する細胞の薬学的に有効な用量を含有する医薬組成物を投与することを含む、T細胞起源の癌を治療するための方法を提供する。
【0171】
本明細書では、更に、本明細書で提供される細胞、特にエフェクター細胞、より具体的には免疫エフェクター細胞又はその前駆体、本明細書で提供される可溶性結合タンパク質、又はTdTを発現する癌の治療に使用するための本明細書で提供される医薬組成物が提供される。癌は、本明細書において、悪性、前悪性又は非悪性を問わず、任意の腫瘍性状態を包含するように、広範に定義される。しかし、一般的には悪性の状態である。固形腫瘍と非固形腫瘍の両方が含まれており、「癌細胞」という用語は「腫瘍細胞」と同義とみなすことができる。TdTを発現する癌は、構成癌細胞がTdTを発現する癌である。癌がTdTを発現するかどうかは、例えば生検試料の分析によって、同定することができる。固体又は液体の試料は、標準的な生検手順によって得られ、組織学、例えば抗TdT抗体を使用する免疫組織化学、によって分析され、TdT発現を同定する。TdT発現を同定するために、他の免疫学的方法、例えば生検試料のウェスタンブロット、を使用してもよい。TdT発現は、また、mRNA分析、例えばqPCR又はRNA-Seq、によって同定することができる。本開示のこの局面は、HLA-A2遺伝子を保有する患者において癌を治療するために使用することができ、これは、癌細胞がHLA-A2を発現する(即ち、癌がHLA-A2陽性であるか、又はHLA-A*02陽性であり、場合により、HLA-A*02:01陽性である)ことを意味する。従って、開示に従って治療される癌は、HLA-A2陽性である。
【0172】
癌はあらゆる癌であってよいが、特に血液癌の場合もある。特定の実施形態において、血液癌は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)である。癌は、B細胞起源のALL(B-ALL)又はT細胞起源のALL(T-ALL)の場合がある。特定の実施形態において、癌はT-ALLである。別の実施形態において、血液癌は、非ホジキンリンパ腫、特にリンパ芽球性リンパ腫、である。
【0173】
同様に、TdTを発現するHLA-A*02陽性癌を治療するための方法であって、本明細書で提供される細胞、特にエフェクター細胞、より具体的には免疫エフェクター細胞又はその前駆体、可溶性結合タンパク質又は医薬組成物を、それを必要とする被験者に投与することを含む方法、が本明細書で提供される。このような被験者は、このような癌(即ち、TdT及びHLA-A*02を発現する癌)を患うヒト被験者である。癌は、特に、上記で詳述されたものであり得る。
【0174】
一般に、本発明者らは、また、TdTから得られ得るペプチド断片を提示するHLAクラスI分子に特異的に結合した受容体を発現する細胞、特にエフェクター細胞及びより具体的には免疫エフェクター細胞又はその前駆体を含有する医薬組成物を投与するステップを含む、患者におけるTdT陽性癌を治療するための、方法を提供する。本発明者らは、また、TdTから得られ得るペプチド断片を提示するHLAクラスI分子に特異的に結合した細胞傷害性タンパク質を含有する医薬組成物を投与するステップを含む、患者におけるTdT陽性癌を治療するための方法を提供する。TdTから得られ得る適切なペプチド断片は、8~12アミノ酸残基を含有していてよく、好ましくは、TdTに特有のものであり得る。
【0175】
同様に、本明細書では、被験者におけるTdTを発現するHLA-A*02陽性癌の処置のための医薬の製造における、細胞、特にエフェクター細胞、より具体的にはそのための免疫エフェクター細胞若しくは前駆体、又は本明細書で提供される可溶性結合タンパク質の使用が提供される。癌は、特に、上述のような癌であり得る。
【0176】
更に、本明細書では、TdTを発現するHLA-A*02陽性癌の診断に使用するための本明細書で提供される可溶性結合タンパク質が提供される。癌の診断における可溶性結合タンパク質の使用については、上記に詳述している。癌は、癌治療における本開示の使用に関して上記で詳述したように、任意の癌であり得る。同様に、本明細書において、HLA-A*02陽性でありTdTを発現する癌を有することが疑われる被験者に、本明細書において提供される可溶性結合タンパク質を投与することを含む、癌を診断する方法が提供される。
【0177】
本開示は、以下の非限定的な実施例から及び図面を参照して、より完全に理解することができるであろう。
【実施例】
【0178】
[材料及び方法]
(原発性の患者細胞と細胞株)
小児及び若年成人の再発又は難治性(r/r)B-ALL患者を登録し、Chimeric Antigen Receptor(CAR)T細胞試験 ClinicalTrials.gov Identifier NCT02435849及びNCT03123939に従って治療し、小児T-ALL患者は、NOPHO-ALL-2008(NCT00816049)に従った。
【0179】
オスロ大学病院の血液バンクから得た健康なドナーバフィーコートから密度勾配遠心分離(Axis-Shield)によって末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。PBMCは、フローサイトメトリーによりHLA-A2発現についてタイピングした。エプスタイン・バー・ウイルス形質転換リンパ芽球細胞株(EBV-LCL)は、非特許文献25に記載されているようにHLA-A2posおよびHLA A2neg PBMCから生成した。胸腺組織から血栓、結合組織、脂肪組織及び壊死組織を除去し、小片に切断し、これを広口径ピペットチップに取り付けた1mLマイクロピペットでやさしく粉砕し、冷RPMI-1640培地に胸腺細胞を放出させた。胸腺細胞を培地中で2回洗浄し、次いで凍結保存した。
【0180】
American Type Culture Collection(ATCC)又はGerman Collection of Microvories and Cell Cultures(DSMZ)から以下の細胞株を得た:NALM-6、BV173、REH、HPB-ALL、RS4;11、T2、RD、U-2 OS、FM-6、HeLa、HaCaT、MCF7、K562、COLO 688、EA.hy926、EST149、U-87 MG、Daoy、HCT-116、CHP-212及びPhoenix-AMPHO。ほとんどの細胞株は、研究のためにATCC及びDSMZから購入され、既に認証され、継代に従って標識された凍結保存アリコートであった。低継代細胞株のみを用いて新鮮培養を開始した。これらの研究に先立って取得された細胞株の同一性は、米国ノースカロライナ州、ラボコープDNA同定検査室(Labcorp DNA Identification Lab)(旧Genetica、https://celllineauthentication.com/)が提供するサービスである、短縦列反復DNAプロファイリング(short tandem repeat DNA profiling)によって確かめられた。細胞株を、供給者によって指示された培地中、37℃で、5%CO2を含有する加湿細胞インキュベーター中で培養し、マイコプラズマ汚染を定期的に検査した。
【0181】
(抗原特異的T細胞の誘導)
TdTペプチドに反応性のT細胞の誘導並びに細胞傷害性T細胞株及びクローンの生成を、非特許文献26記載のように、但し、いくつかの改変を加えて行なった。簡潔に説明すると、4日目に、単球を、CD14反応性マイクロビーズ及びAutoMACS Pro Separator(Miltenyi Biotec社)を用いて、HLA-A2pos健常ドナーのPBMCから単離し、1%(vol/vol)ヒト血清(HS、Trina biotech社)並びに50IU/mLインターロイキン(IL)-4(PeproTech社)及び800IU/mL GM-CSF(Genzyme社)を含有する1%(vol/vol)P/Sを補充したCellGro GMP DC培地(CellGenix社)中で、3日間、培養した。続いて、単球由来樹枝状細胞(MoDC)を、リポ多糖(LPS;Sigma-Aldrich社)及びIFN-γ(PeproTech社)をそれぞれ10ng/mL及び100IU/mLの最終濃度となるように添加することによって、14~16時間成熟させた。1日目に、未処置のCD8+T細胞を、HLA-A2neg供与体からのPBMCから、AutoMACS Pro Separator並びにCD45RO-及びCD57-反応性ビーズ(Miltenyi Biotecs社)と混合したCD8+T細胞単離キットの使用によって単離した。0日目に、MoDCを回収し、全長TdTをコードするmRNAでエレクトロポレーションし、30ng/mLのIL-21(PeproTech社)を補充したDC-T細胞培地中でDC:T細胞比1:4でナイーブT細胞と共培養した。並行対照共培養を、無関係なmRNAをトランスフェクトしたMoDCで開始した。
【0182】
(pMHC多量体+CD8+T細胞の選別とクローニング)
ペプチド-1及びペプチド-3特異性CD8+T細胞の単一細胞クローニングを、非特許文献26に記載されているように行なった。機能性を評価するために、T細胞クローンを、関連ペプチドでパルスしたEBV-LCL及びTdTを自然発現するNALM-6細胞株で刺激し、CD137の上方制御について評価した。
【0183】
(TCRの配列決定とクローニング)
ペプチド-1に対して反応性である3つのクローン及びペプチド-3に対して反応性である1つのクローンからのTCRα鎖とTCRβ鎖とのペアを、TCRα及びβ転写物の標的化増幅のために改変され適合された、非特許文献27及び非特許文献28に記載されたプロトコルを用いて、増幅した。簡潔に述べると、RNAを抽出し、処理してTCR特異的cDNAを得た。4対のTCRα/β定常ドメイン特異的プライマーを用いて、各クローンについてRT PCRを行ない、続いてポリGテールと鋳型スイッチを付加して二本鎖DNAを得た。最後に、追加の定常ドメインプライマー及びポリ-Gドメインに導入されたアンカー配列にアニーリングするアダプタープライマーを用いて、ネステッドPCR増幅の2ラウンドを行なった。カッパ Illuminaキットを利用してライブラリーを調製し、後で、Illumina MiSeqで配列を決定した。MiTCRスクリプトを用いて配列決定データを分析し、社内のPythonスクリプトTCRプライマーを用いて、非特許文献27及び非特許文献29に記載されたように、全長TCR鎖を再構築した。IMGT/V-Quest(非特許文献30)において、各サンプルについて出力を手動で検証した。同定されたTCRの可変TCRα及びTCRβフラグメントを、Genscriptによってコドン最適化し、合成し、クローニングした。
【0184】
(ヒトPBMC及び細胞株への遺伝子移入)
T1及びT3 TCRを、HLA-A2posドナー由来及び患者由来PBMCに形質導入した。1G4及びDMF5 TCRを、また、インビボ実験のための対照として、HLA-A2posドナー由来PBMCに形質導入した。ヒトPBMCの刺激のために、6ウェル又は12ウェル組織培養処理プレートを、抗CD3(クローンOKT3、eBioscience社)及び抗CD28(クローンCD28.6、eBioscience社)抗体で被覆した。IL-7及びIL-15(それぞれ5ng/mL、PeproTech社)を補充したT細胞培地中のPBMC(2×106細胞/mL)を抗体被覆したプレートに添加し、5%CO2で37℃において72時間インキュベートした。レトロウイルス上清の生成のために、4×106のフェニックス-AMPHOパッケージング細胞を10cmのペトリ皿に24時間プレートし、細胞をγ-レトロウイルスベクターDNAでトランスフェクトし、X-tremeGENE 9 DNAトランスフェクション試薬(Roche Diagnostics社)及びOpti-MEM中で混合した。翌日、培地をリフレッシュし、細胞を32℃、5%CO2で24時間インキュベートした。続いて、PBMCを回収し、IL-7及びIL-15を補充したT細胞培地に再懸濁し、レトロウイルス上清と混合し、レトロネクチン(20μg/mL、Takara社)で予めコーティングした非組織培養処理6ウェルプレートに載置し、900×gで60分間スピノキュレートした。翌日、新鮮なレトロウイルス上清を用いて第2のスピノキュレーションを行ない、3~5日後に抗マウスTCRβ鎖抗体及び/又はpMHC多量体で染色し、続いてフローサイトメトリーを行なうことによって形質導入効率を決定した。機能性実験の前に、細胞を、低濃度のサイトカイン(0.5ng/mL IL-7及びIL-15)を含有するT細胞培地中で48~72時間培養した。また、細胞を後の実験のために凍結した。
【0185】
全長HLA-A2及びTdTをコードするウイルスDNAを含有するレトロウイルス上清も上記のように産生され、REH、RD、HeLa、K562、HaCaT、COLO688、EA.hy926及びHLA-A2を有するHPB-ALL細胞株、並びにTdTを有するEBV-LCLを形質導入するために利用された。インビボ実験のために、BV173細胞株を安定的に形質導入してホタルルシフェラーゼ及び緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させ、BV173ffluc-eGFPと名付けた。その後、形質導入された全ての細胞株をFACSソーティングによって精製し、拡大し、後の実験で使用するために凍結した。
【0186】
TdT及びHLA-A2のcDNAを、非特許文献31に記載されたように、mRNA産生のためにpClpA102ベクター中にクローン化した。
【0187】
(抗体とフローサイトメトリー)
フローサイトメトリーは、BD LSR IIフローサイトメーター(BD Biosciences社)で行ない、データは、FlowJo(TreeStar社)又はFACS DIVA(BD Biosciences社)ソフトウェアを用いて分析した。表面抗体染色のために、抗体を氷上で15~20分に亘って細胞に添加し、続いて洗浄工程を行なった。細胞内染色のために、細胞をCytofix/Cytoperm(BD Bioscience社)溶液に20分間懸濁し、Perm/Wash緩衝液(BD Bioscience社)で洗浄し、次いで抗体で染色した。以下の蛍光結合抗ヒト抗体は、特に明記しない限り、BD Bioscience社又はBioLegend社から取得した。抗CD14(HCD14)、-HLA-A2(BB7.2)、-CD62L(DREG-56)、CD56(HCD56)、-CD57(HNK-1)、-CD45RO(UCHL1)、-CD45RA(HI100)、-CCR7(150503)、-CD137(4B4-1)、-CD45(HI30)、-TdT(E17-1519)、-CD10(HI10a)、-CD19(HIB19、SJ25C1)、-CD38(HIT2)、-CD34(581)、-CD1a(HI149)、-CD2(S5.2)、-CD3(UCHT1,OKT3)、-CD8a(RPA-T8)、-CD4(RPA-T4)、-CD5(UCHT2、L17F12)、-CD7(M-T701)、抗マウスCD45(30-F11)、-CD99(DN16、Bio-Rad社)及び-CD3(SK7)、eBioscience社)。抗マウスTCRβ鎖PE(H57-597、BD Biosciences社)を用いて、ヒト細胞におけるT1及びT3 TCRの形質導入効率を試験し、マウスにおけるインビボ処理に用いた形質導入T細胞をモニターした。全てのフローサイトメトリー実験において、死細胞を排除するために、Live/Dead Fixable Near-IR Dead Cell Stainキット(Life Technologies社)を使用した。
【0188】
(T細胞活性化分析)
T細胞クローン及びTCR形質導入T細胞の反応性を、CD137上方制御又はIFN-γ放出を測定することによって調査した。簡単に述べれば、100,000細胞/ウェルの示された標的細胞株又は原発性の患者腫瘍細胞を、T細胞クローン又はTCR形質導入PBMC(50,000細胞/ウェル)と、共インキュベートした。指示された場合、標的細胞は、特定の濃度のペプチドで1~2時間パルスされるか、又は全長TdTをコードするmRNAでエレクトロポレーションされ、洗浄され、次いでエフェクター細胞と共培養された。14~16時間の共インキュベーション後、プレートを400×gで3分間遠心分離した。ELISAによるIFN-γの測定のために培養上清を回収し、残りの細胞をフローサイトメトリーのために染色して、生存CD8+細胞上のCD137の上方制御を測定した。結果は、TCR形質導入CD8+T細胞中のCD137+/CD8+細胞の百分率(形質導入効率>90%)又はCD137+事象の百分率として報告する。いくつかの実験では、細胞を、0.75μMの、CellTrace Violet(CTV、Life Technologies社)又はカルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CSFE、Life Technologies社)のいずれかの蛍光細胞染色色素で標識して、標的細胞とエフェクター細胞とを区別した。以下の試薬は、BD Pharmingen社又はR&D Systems社から取得した:マウス抗ヒトIFN-γ捕捉抗体(NIB42)、ビオチンマウス抗ヒトIFN-γ検出抗体(4S.B3)、ストレプトアビジン-HRP、基質溶液としての安定化テトラメチルベンジジン及び過酸化水素、停止溶液としての硫酸、及び、標準としての組換えヒトIFN-γタンパク質。アッセイは、製造業者の指示に従って行なった。
【0189】
(細胞株をターゲットとして使用したフローサイトメトリーに基づく細胞毒性アッセイ)
B-及びT-ALL細胞株に対する細胞毒性アッセイのために、T細胞培地中の50,000個の標的細胞を、丸底96ウェルプレート中で、T1又はT3 TCR形質導入PBMCと共に3連で48時間共培養した。エフェクター細胞は、PBMC産物中のTCR形質導入CD8+T細胞(通常は、形質導入効率90%超、CD8+T細胞55~65%、残りはCD4+T細胞)と定義され、エフェクター対標的比は1:1であった。共培養後、細胞を回収し、洗浄し、ヒト抗-CD3、-CD8、-CD19及び生/死固定近赤外線で染色して、死細胞を排除した。15分後、細胞を洗浄し、10,000個のCountBright Absolute Counting Beads(Thermo Fisher社)を含有する200μLのFACS緩衝液に再懸濁した。データ取得時に、等しい数のビーズ事象(5000)を各ウェルから記録した。データを正規化し、同じドナーからのモック形質導入T細胞と共培養した3つの並行ウェルから得た平均生腫瘍細胞数の百分率として報告した。
【0190】
(原発性のヒトB-ALL及びT-ALL試料を用いたT細胞活性化及び細胞毒性に関するフローサイトメトリーに基づく分析)
B-ALL及びT-ALL患者からの末梢血又は骨髄試料を解凍し、低濃度のIL-7及びIL-15(0.5ng/mL)を含有するT細胞培地に再懸濁した。細胞を丸底96ウェルプレートに移して、TCR形質導入T細胞に対するCD137アップレギュレーション又は標的細胞に対する細胞毒性を測定するアッセイを行った。悪性芽球及び正常白血球集団を同定するための個別化抗体パネル及びゲート設定戦略を、病院の記録で利用可能な診断的表現型分類を再検討した後に、設計した。TCRで形質導入された、同種異系T細胞又は患者1Nの場合は患者由来の自己由来T細胞を実験に使用した。TCR形質導入細胞をCTV色素で前標識し、標的細胞から区別した。示されている場合はいつでも、標的細胞に関連ペプチドを1~2時間負荷し、洗浄し、次いで、上述のように、CD137上方制御の測定のためにTCR形質導入T細胞と共インキュベートした。
【0191】
細胞毒性アッセイのために、ウェルあたり50,000個の標的細胞を同数のエフェクター細胞と、条件ごとに、2~4を並行して、48~72時間共インキュベートし、次いで、フローサイトメトリーのために個別化抗体パネルで染色した。CountBright Absolute Counting Beadsを取得標準化のために利用し、データを標準化し、上記のように報告した。フローサイトメトリープロットを視覚的に表示するために、本発明者らは、FlowJo(TreeStar社)ソフトウェアを用いたT-分散確率的近傍埋め込み(t-SNE)のような教師なし(unsupervised)非線形次元縮小アルゴリズムを利用した。
【0192】
(2種類の異種移植B-ALL細胞系モデルにおけるインビボTdT TCR T細胞活性)
これらの実験では、8~10週齢の雌雄のNOD-scid IL2Rgnull(NSG)系の自家飼育したネズミを用いた。11日目に、MultiRad225 X線照射器(RPS services社)を用いて、マウスに2.5Gy放射線を亜致死的に照射した。10日目に、GFP及びホタルルシフェラーゼを発現するヒトB-ALL細胞株BV173の4×106個の細胞を、尾静脈を通して注入した。白血病が確立され、1日目に生物発光イメージング(BLI)によって確認された後、マウスをTCR形質導入PBMCで処理し、癌精巣抗原NY-ESO-1(1G4)(非特許文献32)を標的とするT1、T3又は対照TCRのいずれかで形質導入した。別の対照マウス群には、T細胞注射を全く行なっていない。マウスに毎日2500IUのIL-2(R&D Systems社)を腹腔内注射により注射し、BLI画像(IVISシステム、PerkinElmer社)及び血液分析を異なる間隔でフローサイトメトリーにより行なった。生存分析のために、腫瘍の広がりの臨床徴候についてマウスを観察し、20%以上の体重減少、円背姿勢、波状毛皮又は四肢麻痺を発症した場合には屠殺した。移植片対宿主病のリスクを避けるため、T細胞注射の2カ月後に実験を終了し、処置群の生存マウスを人道的に屠殺した。1つの実験群では、生存しているT3処置マウスの骨髄を屠殺時に採取し、フローサイトメトリー用に処理してT細胞及び腫瘍細胞の存在並びにTdT及びHLA-A2の発現を分析した。
【0193】
(患者由来異種移植モデルにおけるインビボTdT TCR T細胞活性)
原発性ヒトB-ALL異種移植マウスを確立するために、NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ(NSG;Jackson Laboratory stock 005557)マウス9~15週齢を、4時間間隔で1.65Gy(X線源)を2回照射することによって亜致死的に照射した。HLA-A2pos B-ALL患者20Oからの生存骨髄細胞を、7AAD排除によって同定し、T細胞枯渇骨髄細胞を、CD3+細胞の排除によって、BD FACS Aria(商標) Fusion上で収率仕分けした。4×105個の生存CD3陰性骨髄細胞を、最終照射線量の4~6時間後にNSGマウスの尾静脈を介して注射した。移植後18~19日及び20~26日に、それぞれ、全移植マウスからのPB分析及び骨髄吸引の両方により安定した生着が確認された。
【0194】
NSGマウスは、その生着レベルに基づいて、未処置、DMF5及びT3 T細胞群に割り当てられ、その結果、平均ヒト白血病生着は、処置群間で同等であった。DMF5 TCR又はT3 TCRで形質導入した7.5×106個のmTCRβ+CD8+T細胞を、原発性のB-ALL細胞の移植の22~25日後に注射し、全ての群に、毎日、マウス当たり腹腔内(IP)2500IU IL-2(R&D Systems社)を与えた。T細胞注入の3日後と10日後にPBで生着をモニターした。T細胞注入11日後のマウスの屠殺時に、骨髄、脾臓及びPBを、ヒト抗-CD45、-CD8a、-CD4、-CD3、-CD19、-HLA-A2、-CD10及びマウス抗-CD45、-Ter119及び-TCRβで、詳細なフローサイトメトリー分析に供した。BM試料の分析のために、最低1.8×105の事象を全てのマウスについて獲得し、少なくとも3×105の事象を、2匹を除く全てのT3細胞処理マウスについて獲得し、NOPHOガイドラインに従ってMRDレベルを決定した。
【0195】
骨髄(脛骨2例、大腿骨2例、及び稜2例)、及び屠殺マウスの脾臓の細胞数をSysmex血液細胞カウンターにより測定した。TrueCountビーズ(BD Biosciences社)を、製造業者の指示に従って、全PBに添加し、マウスCD45.1及びヒトCD45について染色して、血液1μL当たりの絶対MNCカウントを決定した。
【0196】
各組織について、白血病負荷及びTCR形質導入CD8+細胞を、それぞれ、ヒトCD45+CD19+CD10+及びヒトCD45+CD3+CD8+mTCRβ+細胞の頻度に基づき、総細胞数に関連して定量した。
【0197】
(ヒト化NSGマウスにおける正常ヒト造血に対するT3細胞処理のインビボでの影響)
HLA-A2posヒト臍帯血細胞で安定に生着したNSGマウスを、ジャクソン研究所から購入した。移植21週後にヒトの生着が確認された時点で、3匹のマウスを屠殺した。3匹の生着NSGマウスの脾臓からの単一細胞懸濁液を、1G4又はT3 TCR構築物で形質導入し、上記のように増殖させた。NSG由来1G4及びT3細胞の活性は、残りのヒト化NSGマウスへの注入と並行して、BV173細胞に対してフローサイトメトリーに基づく細胞毒性アッセイを実施することにより、インビトロで確認した。107個のNSG由来1G4又はT3細胞を生着マウスに尾静脈を介して注入し、注入した細胞が正常造血に及ぼす影響を、T細胞注入の17日後に、PB、脾臓、胸腺及び骨髄で調べた。生着したマウスには、IL-2産生能を有する内因性臍帯血由来T細胞も含まれていたことから、IL-2の1日500IUのIP用量の補助的な注入(supportive infusion)は半数のマウスでは含まれなかった(IL-2補助的な注入の有無で差が認められなかったため、これらの群のデータを統合した)。注入されたT細胞の残存をPBでモニターし、治療の成熟血球系統への影響を、ヒト抗-CD45、-CD8a、-CD19、-CD33、-CD4、-CD3及びマウス抗CD45、-Ter119及びTCRβを用いたフローサイトメトリーにより、PB、脾臓、胸腺及び骨髄でモニターした。マウス胸腺におけるヒトT細胞前駆細胞への影響を、ヒト抗-TdT、-CD45、-CD8 -CD19、-CD3(細胞内及び表面)、-CD4、-HLA-A2及びマウス抗CD45による表面及び細胞内染色により検討した。屠殺したマウスの骨髄(脛骨2例、大腿骨2例、及び稜2例)の細胞計数は、シスメックス血液細胞カウンターにより実施した。
【0198】
(正常造血前駆細胞のクローン形成能に対するインビトロの影響)
カロリンスカ大学病院で集められた4人のHLA-A2pos健常ドナーから、インフォームドコンセント及び医療承認(EPN 2018/901-31)を得て、骨髄単核細胞を得た。生存可能な単一のCD34+前駆細胞を、DAPI及び成熟系統排除によって同定し、そしてBD FACS Aria Fusion上で選別した。250個のCD34+系統前駆体を、500個のCD4-CD19-(抗-ヒトCD4-PE-Cy5及び抗-ヒトCD19-PE-Cy5によって同定され、BD FACS Aria Fusion上で選別された)1G4、T1又はT3 TCR形質導入T細胞と、10% BIT9500((Stem cell technologies社)、ペニシリン/ストレプトアビジン(100U/mL;Hyclone Laboratories社)、2-メルカプトエタノール(2-ME;0.1mM;Sigma Aldrich社)、幹細胞因子(SCF;10ng/mL)、flt3配位子(FL;10ng/ml)、トロンボポイエチン(TPO;10ng/mL)、インターロイキン3(IL3;5ng/mL)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF;10ng/mL)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF;10ng/mL)及びエリスロポイエチン(EPO;1U/mL)を補充したStemSpan SFEM(Stem cell technologies社)中で、37℃、5%CO2で共培養した。T細胞なしで培養したCD34+系統前駆体を対照として使用した。
【0199】
72時間後、共培養物からの細胞を、20%ウシ胎児血清(FBS、Sigma Aldrich社)、L-グルタミン(2mM;Sigma Aldrich社)、ペニシリン/ストレプトアビジン(100U/mL)及び2-ME(0.1mM)を補充したIscoveの改変ダルベッコ培地(IMDM;Gibco社)中のサイトカイン含有メチルセルロース(MethoCult H4434、StemCell Technologies社)に移して、コロニーを生成させた。メチルセルロース中で14日後、コロニーを倒立顕微鏡下で骨髄性又は赤血球性としてスコア化した。陽性対照として、CD34+系統前駆体を、StemSpan SFEM中の1μMのペプチド-1又はペプチド-3で、2時間、外部負荷し、続いて、100nMペプチドの存在下で、形質導入T細胞を伴い又は伴わないで、48時間共培養し、細胞をメチルセルロースに移した10日後に、上記のようにコロニーをスコア化した。
【0200】
(統計解析)
統計分析は、GraphPad Prism version 6又は7(GraphPad Software社)を用いて行なった。BLIシグナル分析のために、Tukeyのポスト試験との多重比較のための調整を伴う通常の一元分散分析(ANOVA)試験を採用した。生存分析は、Log-rank(Mantel-Cox)試験により実施した。PDXマウスモデルとヒト化NSGマウスモデルにおけるインビボ投与群の差を明らかにするため、Dunnの多重比較試験及びMann-Whitney試験によるKruskal-Wallis ANOVAを実施した。P<0.05を統計学的に有意とみなした。
【0201】
[結果]
(TCR T1及びTCR T3は、HLA-A2制限的な方法でTdTペプチドを特異的に認識する)
HLA-A2バインダー(ペプチド-1(配列番号1)及びペプチド-3(配列番号15))として同定された2つのTdT由来ペプチドを使用して、TdTタンパク質を認識するT細胞クローンを得た。解析した3種のペプチド-1反応性クローンからのTCR配列は同一であり、T1と命名し、ペプチド-3反応性クローンからの配列をT3と命名した。
【0202】
両TCRは、pMHC多量体による又はTCRに導入されたマウス定常領域に対して反応性である抗マウスTCR-β抗体による染色によって実証されるように、第三者末梢血(PB)CD8+T細胞において効率的に発現された(データは示していない。)。全てのT3形質導入細胞及び抗マウスTCR-βで陽性に染色されたT1形質導入細胞の大部分は、pMHC-多量体陽性であり、これは、レトロウイルス形質導入後に導入されたTCRα及びβ鎖の優先的なペアリングを示す(データは示していない)。
【0203】
T1及びT3は、それらの同族ペプチドを高感度で認識した(T1 EC
50=5.8nM及びT3 EC
50=1.2nM、
図2A)。
【0204】
T1及びT3 TCR(以下、T1細胞及びT3細胞と呼ぶ。)を形質導入したT細胞は、HLA制限的な方法で抗原を認識した。T1細胞及びT3細胞は、TdT
posHLA-A2
negEBV-LCLによってではなく、外部負荷ペプチドを提示するか又は完全長TdTをコードするmRNAに由来する内因的に処理された抗原を提示するHLA-A2
posEBV-LCLによって活性化された(
図2B)。同様に、元々TdT
posだがHLA-A2
negの細胞株REH(B-ALL起源)及びHPB-ALL(T-ALL起源)は、HLA-A
*02:01が導入された場合にのみT1及びT3細胞を活性化した。更に、本発明者らは、T1及びT3細胞を種々の組織起源のヒトTdT
neg細胞株の大規模パネルと共培養したところ、関連ペプチドを負荷し、かつ生来的に又は遺伝子導入によってHLA-A2を発現しない限り、いかなるTCR活性化も観察しなかった(
図2C)。これらの結果から、T1及びT3 TCRは、HLA-A2上に提示された意図しない標的、又は細胞株によって発現された多種多様な他のHLA分子上に提示された意図しない標的と反応しないことが示された。
【0205】
(TCR T1及びTCR T3の反応性のマッピングでは交差認識ペプチドが明らかにならない)
候補TCRの前臨床試験では、潜在的な臨床的意義のある交差反応性を除外すべきである。この目的のために、本発明者らは、経験的アプローチとコンピュータを用いたアプローチとを組み合わせて採用して潜在的なオフターゲット毒性を同定した。本発明者らは、最初に、各位置のアミノ酸残基が全ての他の天然アミノ酸によって、一度に1つずつ、置き換えられたペプチド-1及びペプチド-3の配列をコードするペプチドミモトープライブラリーを合成した。T1及びT3細胞を、関連ライブラリーからの単一ミモトープを負荷した標的細胞と組み合わせた。得られたT細胞活性化は、IFN-γの産生又はCD137の上方制御によって測定したところ、高度に相関していた(
図3A)。次に、ScanPrositeツール(https://prosite.expasy.org/scanprosite/)を使用することによって、T1又はT3細胞において反応性を誘導するaa置換の全ての組合せについて、管理されたヒトプロテオームデータベースUniProtKB/Swiss-Prot and Protein Data Bankに照会した。検索では、これらの組み合わせに一致するヒトプロテオーム内の天然に存在する9量体又は11量体ペプチドは特定されなかった。
【0206】
UniProtKB/Swiss-Protの約261倍のエントリーを含有する非管理データベースUniProtKB/TrEMBLを検索すると、T3に対する反応性の組合せに合致する小さな内在性膜タンパク質19(GLFMYAKRIFG)に由来する1つのペプチドを見出した。しかし、機能的チャレンジでは、このペプチドはT3細胞においていかなる応答も誘導しなかった(記載せず)。総合すると、データはT1とT3によるオフターゲット反応性の証拠を提供しなかった。更に、TdTタンパク質配列中のペプチド-1及び3配列の上流及び/又は下流にシフトしたペプチドは、全同族ペプチド配列を包含するより長い変異体が使用されない限り、T1及びT3細胞を活性化することができなかった(
図3B-C)。更に、ペプチド-1は、T3細胞を活性化しなかったが、ペプチド-3は、T1細胞を高濃度でのみ活性化し、おそらく、培養物中でペプチド-1を生成するペプチド-3の分解によるものと考えられる。
【0207】
(T1及びT3はマウスモデルにおける播種性白血病の拒絶反応を媒介する)
次に、本発明者らは、T1及びT3細胞がTdTを自然発現する白血病細胞株を殺傷できるかどうかを検討した。T1及びT3細胞は、IFN-γの産生、増殖及び死滅によって測定されるように、B細胞白血病細胞株BV173及びNALM6(本来はTdT
pos及びHLA-A2
pos)に強く応答した(低エフェクター対標的比率(E:T=1:1)で96%~99%)(
図4A~B)。
【0208】
インビボでの効力を研究するために、BV173ffluc-eGFP細胞をNOD-scid IL2Rgnull(NSG)マウスに生着させ、白血病確立後にT1又はT3細胞による処置を開始した。これらのマウスでは、21日目(BV173、
図5A、B)及び14日目(NALM-6、
図5D、E)に、腫瘍シグナルが非常に低い(T1)か、又は認められず(T3)、その直後に、未処置及び1G4処置の対照マウス(NY-ESO-1に対する対照TCR)を、高い腫瘍量のために屠殺しなければならなかった(
図5C、F)。特に、T3細胞で処置したマウスでは、白血病細胞の注射後の観察期間中に、白血病により死亡したマウスは、いなかった(
図5C、F)。NALM-6モデルの中の2匹のT3細胞処理マウスは、白血病の蔓延とは関係なく、原因不明で死亡した。生物発光イメージング(BLI)は、NALM-6モデルのT3細胞処置マウスでは57日目でも陰性のままであり、屠殺マウスの骨髄に腫瘍が認められなかったことと一致している(図示せず)。T3処置BV173マウス5匹中1匹のみが、屠殺時に、骨髄にGFP
+腫瘍細胞を有していた(
図5G)。対照の1G4 TCR-形質導入T細胞も、おそらくIL-2の注射により、最初に増殖した。T1細胞で処置したBV173マウスについては、生存利益もきわめて有意であったが(
図5C)、これらのマウスのいくつかは最終的に腫瘍を発症し、T3と比較してT1に対するペプチド感受性がより低いことと一致している。
【0209】
(T1及びT3はB-ALL及びT-ALLから一次芽球を排除するが、正常リンパ球及び非系統の拘束性造血前駆細胞を温存する)
本発明者らは、次に、正常なB細胞及びT細胞並びに非系統の拘束性造血前駆細胞を含有する試料中のヒト原発性のALL細胞を選択的に認識するT1及びT3細胞の能力を定量した。次に、様々な割合の白血病芽細胞、正常B及びT細胞並びに正常CD34
+造血前駆細胞(CD34
+lin
-)を含有する9名のB-ALL及び3名のT-ALL患者からの凍結保存したTdT
pos及びHLA-A2
pos診断試料を、T1又はT3細胞と共培養した。48~72時間の共培養後、T3細胞は平均97%の、T1細胞は69%の白血病芽球を排除した(T3:平均97%、範囲92%~99.9%;T1:平均69%、範囲13%~96%、n=12)。対照的に、正常B細胞及びT細胞は影響を受けず(
図6A~B)、4例で検出された非癌性CD34
+lin
-細胞も影響を受けなかった(
図6A)。
【0210】
次に、本発明者らは、HLA-A2
posTdT
pos B-ALL患者からの正常T細胞へのT3の導入が、T細胞の活性化及び実質的に全ての自己由来腫瘍細胞の排除をもたらしたことを示した(
図7A)。正常なB、T及びCD34
+lin
-前駆細胞は温存された(
図7A~B)。まとめると、これらのデータは、代表的なTdT及びHLA-A2発現を有する原発性白血病細胞に対するT1及びT3細胞の高度の標的選択性及び治療有効性を示す。
【0211】
(T3細胞を示す更なる研究はインビボでの健常造血を維持しながら原発性B-ALL細胞を効率的に排除する)
本発明者らは、次に、原発性B-ALL白血病患者由来の細胞を安定的に生着させたNSGマウスのT3細胞処置の有効性を検討した。未処置のマウス及び対照のMART-1(DMF5)(非特許文献33)又はT3 TCR形質導入T細胞で処置したマウスは、ベースラインで骨髄中の白血病負荷が高く、同等であり(未処置の平均9.7±3.4%、DMF5平均15.6±5.7%、T3平均15.4±7.2%)、治療効果を検証するための厳密な条件が示された。本発明者らは、HLA-A2発現に適合したが、それ以外の点ではALLとHLA-適合ではないT細胞を利用した。注入T細胞は、主に、養子T細胞療法における抗腫瘍反応性を促進する臨床製品に似た、ナイーブ及びセントラルメモリーT細胞並びに平均して34%のCD4
+T細胞を含有していた。しかしながら、治療対象のマウスにおいて、T細胞とHLA-適合ではない白血病細胞の負荷が高いことと同様に、ナイーブT細胞の割合が高いことも同種反応性を促進する。本発明者らは、そこで、DMF5(対照TCR)処置マウスの血液中の白血病性生着を未処置マウスと比較することにより、移植片対白血病効果の発現の可能性についてマウスをモニターし、結果が有意な同種反応性により交絡する前に詳細な最終段階分析を実施した。これは処置10~11日後に観察された。この実験のエンドポイントにおいて、対照マウス群の白血病負荷は非常に高く、骨髄では同等であったが(未処置の平均42.9±3.4%、DMF5平均40.1±4.5%)、T3細胞による処置後には僅か0.009±0.005%に低下した(
図8A-D)。
【0212】
未処置及びDMF5細胞処置マウスにおける末梢血及び脾臓の白血病負荷は骨髄よりも低かった。それにもかかわらず、同様でほぼ完全な白血病細胞消失が、T3細胞で処置したマウスで観察された(PB:平均0.003±0.001%;脾臓:平均0.002±0.001%)(データは示していない)。総合すると、白血病負荷は、NOPHO-2008プロトコル(NCT00816049)によって設定された基準に従って、微小残存病変(MRD)陰性とみなされるレベル(0.1%未満)まで低下した。TCR形質導入T細胞は、全てのマウスの骨髄、PB及び脾臓で検出された(図示せず)。白血病生着マウスの骨髄で抑制されるマウスの造血は、DMF5マウスよりもT3マウスで有意に高かった(図示せず)。
【0213】
正常な末梢のB細胞とT細胞のレパートリーはTdT陰性であり、インビトロ殺傷試験や形質導入細胞の増殖中にはT3やT1のTCRの影響を受けなかった(例えば、
図6Bを参照)。正常個体におけるナイーブT細胞の恒常性が、遡及的な
14C年代測定を用いて測定された研究は、ナイーブT細胞のレパートリーは、若年者であっても末梢適応性T細胞免疫を生涯に亘って維持できるほど十分に多様であり、従って、胸腺細胞に対する潜在的な毒性影響は、長期に亘る治療中でさえ大きな懸念にはならないという見解を支持する。しかし、末梢レパートリーへの胸腺の寄与は20歳未満の個体において、より高く、この年齢群では毒性がより高くなる可能性を高めている。この疑問に答えるために、本発明者らは、ヒト胸腺細胞分化中のTdTとHLA-A2の発現を研究した。本発明者らは、興味深いことに、HLA-A2発現が、初期の二重陰性(DN)及び単一陽性(SP)細胞を含有するTdT
neg胸腺細胞上でのみ高く、一方、二重陽性(DP)細胞に移行する後期DN細胞では、HLA-A2発現がTdTの上方制御と同時に下方制御されることを見出した(データは示していない)。
【0214】
本発明者らは、次に、マウス脾臓から採取したT3-又は1G4-形質導入自己由来ヒトT細胞を注射したヒト化CD34+NSGマウスにおける胸腺細胞に対するT3細胞療法の影響を調べた。T3細胞が注射前にインビトロでTdTpos細胞株を効果的に殺傷することが実証された(図示せず)。TdTpos胸腺細胞の割合は、T3及び1G4処置マウスで同様であった。HLA-A2レベルは、両方の実験群において、表層CD3+TdTneg胸腺細胞と比較して、TdTpos胸腺細胞上で同様に低かった(図示せず)。これに対応して、マウス胸腺内の臍帯血前駆細胞によって補充されたヒト胸腺細胞のごく一部のみが、ヒト胸腺に由来する胸腺細胞についても観察されたように、両方の群において、TdThighとHLA-A2highであった(図示せず)。実験は、T細胞注射後17日目に終了した。このとき、TCR形質導入T細胞は依然としてPBで検出可能であり、1G4形質導入T細胞の割合は、T3形質導入T細胞の割合より速く低下した。これは、おそらく、T3 T細胞の低レベル抗原刺激を示唆している(図示せず)。PB、骨髄、脾臓及び胸腺におけるヒト骨髄系及びリンパ系の分布、並びに骨髄における細胞充実性の分析では、1G4群とT3群との間に差異は観察されなかった(図示せず)。造血幹細胞及び骨髄前駆細胞に対する毒性がないことを更に裏付けるように、成人CD34+骨髄前駆細胞からの骨髄及び赤血球コロニーの形成は、共培養をペプチド1又は3の存在下で行なわない限り、T1又はT3細胞との共培養後に悪影響を受けなかった(図示せず)。
【0215】
[結論]
本発明者らの研究は、同種異系HLA-A2との関連で、新規癌標的TdT由来のペプチドを認識するTCRで形質導入されたT細胞が、インビトロで、B細胞及びT細胞起源のTdTposHLA-A2pos患者由来リンパ芽球性白血病細胞を効率的に死滅させたことを示す。TdT TCRは、多数のTdTposALL細胞株並びに原発性のALL細胞を死滅させるのに非常に効率的であった。更に、TdT TCRは、B-ALLの3つの異なるマウスモデルにおいて、インビボで、生着白血病の枯渇を仲介した。本発明者らのデータは更に、TCRを、有害な毒性なしに治療において使用できることを示す。
【0216】
本発明者らは、更に、TdTペプチド及びHLA-A2制限に対する特異性が、TdTがノックアウトされ又はHLA-A2が存在しない、TdTpos白血病細胞に対する反応性の喪失によって確認され、原発性白血病細胞のHLAによって提示される同族ペプチドがマススペクトロメトリーによって直接的に同定されたことを示す、本明細書には提示されていないデータを作製した。TdTnegである種々のHLA-A2pos細胞株は認識されず、TCR反応性のマッピングでは、T1又はT3が反応性を示す置換ペプチドの組合せに適合するヒトプロテオーム中の天然に存在する9量体又は11量体ペプチドは同定されなかった。総合すると、TdT TCRの高い有効性と特異性をTdTの独自の発現プロファイルと組み合わせて示すデータは、現在予後が不良である患者群を包含する、TdTpos急性白血病の治療のための新しい可能性を開く。
【0217】
配列表における配列の説明
【表1-1】
【表1-2】
【配列表】
【国際調査報告】