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特表2024-534545インターロイキン2変異体およびその融合タンパク質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】インターロイキン2変異体およびその融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240912BHJP
   C07K 14/55 20060101ALI20240912BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240912BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/26 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240912BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240912BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20240912BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240912BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K14/55 ZNA
C07K19/00
C07K16/18
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/26
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/09 Z
C12P21/08
C12P21/02 C
A61K39/395 U
A61K38/20
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518144
(86)(22)【出願日】2022-09-21
(85)【翻訳文提出日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 CN2022120265
(87)【国際公開番号】W WO2023045977
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】202111110032.3
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523353465
【氏名又は名称】フォートビタ バイオロジクス(シンガポール)プライベート リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100227592
【弁理士】
【氏名又は名称】孔 詩麒
(72)【発明者】
【氏名】ホー カイチエ
(72)【発明者】
【氏名】フー フォンケン
(72)【発明者】
【氏名】ウー ウェイウェイ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ショアイシアン
(72)【発明者】
【氏名】コアン チエン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG05
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA41
4C084DA14
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA21
4C085BB01
4C085BB11
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG06
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA04
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、新規インターロイキン2(IL-2)変異タンパク質およびその使用に関する。具体的には、本発明は、野生型IL-2と比較して、改善された特性、例えば、改善されたIL-2受容体結合特性および改善された創薬可能性を有するIL-2変異タンパク質に関する。本発明は、当該IL-2変異タンパク質を含む融合タンパク質、二量体、免疫複合体、および当該IL-2変異タンパク質、二量体、免疫複合体をコードする核酸、当該核酸を含むベクターおよび宿主細胞をさらに提供する。より具体的には、本発明は、特にIL-2変異タンパク質および抗PD-1抗体を含む免疫複合体を提供する。本発明は、当該IL-2変異タンパク質、融合タンパク質、二量体および免疫複合体の調製方法、それらを含む医薬組成物および治療的使用をさらに提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)PD-1に結合する抗体、および(ii)IL-2変異タンパク質を含む免疫複合体であって、前記変異タンパク質は、野生型IL-2(好ましくはヒトIL-2で、より好ましくは配列番号3の配列を含むIL-2)と比較して、以下の変異を含む:
(i)IL-2とIL-2Rα結合界面において、特に位置35および/または42に、IL-2Rα受容体に対する結合親和性を排除または低減する変異、
かつ/または
(ii)IL-2とIL-2Rβγ結合界面において、特に位置88、127および/または130から選択される少なくとも1つの位置に、IL-2Rβγ受容体に対する結合を弱める変異、
ならびに
(iii)短縮されたB’C’ループ領域(すなわち、アミノ酸残基aa72とaa84を連結する配列)であって、好ましくは、前記短縮されたループ領域は10個、9個、8個、7個、6個、または5個未満のアミノ酸長を有し、かつ好ましくは7個のアミノ酸長であり、好ましくは、前記短縮されたB’C’ループ領域はタンパク質の発現量および/または純度の改善をもたらし、
そのうち、アミノ酸の位置は配列番号3に従って番号付けられる、
免疫複合体。
【請求項2】
前記変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、
(i)N88R+S130R、
N88D、
N88R、
F42A+N88R+S127E、または
K35E+N88R+S127E、および
(ii)B’C’ループ領域配列AGDASIHまたはAQSKNFH、
ならびに、任意に(iii)T3Aを含む、
請求項1に記載の免疫複合体。
【請求項3】
前記IL-2変異タンパク質は、配列番号4、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29もしくは配列番号31のアミノ酸配列またはそれらと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる、
請求項1に記載の免疫複合体。
【請求項4】
前記免疫複合体は、
Fc断片と融合されるIL-2変異タンパク質を含む第1のモノマー、および
PD-1に特異的に結合する抗体またはその断片を含む第2のモノマーであって、好ましくは、前記断片は、前記抗PD-1抗体の1つの重鎖および1つの軽鎖を含む、第2のモノマーを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の免疫複合体。
【請求項5】
第1のモノマーのFc断片においてKnob変異を含み、第2のモノマーの抗体重鎖においてhole変異を含み、または第1のモノマーのFc断片においてhole変異を含み、第2のモノマーの抗体重鎖においてknob変異を含む、
請求項4に記載の免疫複合体。
【請求項6】
前記第1のモノマー中のFc断片は、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4のFc断片であり、好ましくは配列番号6、配列番号42もしくは配列番号43のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる、
請求項4または5に記載の免疫複合体。
【請求項7】
前記Fc断片と融合されるIL-2変異タンパク質は、配列番号7、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30もしくは配列番号32のアミノ酸配列またはそれらと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる、
請求項4~6のいずれか1項に記載の免疫複合体。
【請求項8】
前記PD-1抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域を含む重鎖を含み、前記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号9、配列番号10、および配列番号11のアミノ酸配列に示されるHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む、
請求項4~7のいずれか1項に記載の免疫複合体。
【請求項9】
前記PD-1抗体またはその抗原結合断片は、軽鎖可変領域を含む軽鎖を含み、前記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号16、配列番号17、および配列番号18のアミノ酸配列に示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、
請求項4~8のいずれか1項に記載の免疫複合体。
【請求項10】
前記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号8に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる重鎖可変領域、および
配列番号15に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる軽鎖可変領域を含む、
請求項4~9のいずれか1項に記載の免疫複合体。
【請求項11】
前記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号14もしくは配列番号22に示されるアミノ酸配列またはそれらと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる重鎖、および
配列番号20に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる軽鎖を含む、
請求項4~9のいずれか1項に記載の免疫複合体。
【請求項12】
前記IL-2変異タンパク質とFcはリンカーを介して連結され、または前記IL-2変異タンパク質と前記抗PD-1抗体はリンカーを介して連結され、好ましくは、前記リンカーは(GGGGS)から選択され、そのうち、n=1、2、3もしくは4であり、例えば、前記リンカーは配列番号5である、
請求項1~11のいずれか1項に記載の免疫複合体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の免疫複合体の1つまたは複数の鎖、あるいは第1のモノマーおよび/または第2のモノマーをコードする、
単離されたポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13に記載のポリヌクレオチドを含む、
発現ベクター。
【請求項15】
請求項13に記載のポリヌクレオチドまたは請求項14に記載のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、前記宿主細胞は、酵母細胞または哺乳動物細胞、特にHEK293細胞またはCHO細胞である、
宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか1項に記載の免疫複合体を生産するための方法であって、前記免疫複合体の発現に適する条件で、請求項15に記載の宿主細胞を培養することを含む、
方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載の免疫複合体、および任意に医薬賦形剤を含む、
医薬組成物。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか1項に記載の免疫複合体または請求項17に記載の医薬組成物の、癌の予防および/または治療のための薬物の調製における使用であって、好ましくは、前記癌は、固形腫瘍または血液腫瘍、例えば、胃腸腫瘍または黒色腫、例えば、結腸直腸癌または結腸癌であり、例えば、前記癌は、PD-1抗体治療抵抗性癌である、
使用。
【請求項19】
前記医薬組成物は、第2の治療剤をさらに含む、
請求項18に記載の使用。
【請求項20】
対象における癌を予防および/または治療するための方法であって、請求項1~12のいずれか1項に記載の免疫複合体または請求項17に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含み、好ましくは、前記癌は、固形腫瘍または血液腫瘍、例えば、胃腸腫瘍または黒色腫、例えば、結腸直腸癌または結腸癌であり、例えば、前記癌は、PD-1抗体治療抵抗性癌である、
方法。
【請求項21】
前記変異タンパク質、前記融合タンパク質または前記医薬組成物は、第2の治療剤と併用療法により投与される、
請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規インターロイキン2(IL-2)変異タンパク質およびその使用に関する。具体的には、本発明は、野生型IL-2と比較して、改善された特性、例えば、改善されたIL-2受容体結合特性および改善された創薬可能性を有するIL-2変異タンパク質に関する。本発明は、当該IL-2変異タンパク質を含む融合タンパク質、二量体、免疫複合体、および当該IL-2変異タンパク質、二量体、免疫複合体をコードする核酸、当該核酸を含むベクターおよび宿主細胞をさらに提供する。より具体的には、本発明は、特にIL-2変異タンパク質および抗PD-1抗体を含む免疫複合体を提供する。本発明は、当該IL-2変異タンパク質、融合タンパク質、二量体および免疫複合体の調製方法、それらを含む医薬組成物および治療的使用をさらに提供する。
【背景技術】
【0002】
T細胞成長因子(TCGF)とも呼ばれるインターロイキン-2(IL-2)は、主に活性化T細胞、特にCD4Tヘルパー細胞によって産生される多能性サイトカインである。真核細胞において、ヒトIL-2(uniprot:P60568)は153個のアミノ酸の前駆体ポリペプチドとして合成され、N末端の20個のアミノ酸を除去した後、成熟した分泌性IL-2を産生する。他の種のIL-2の配列も開示されており、NCBI Ref Seq No.NP032392(マウス)、NP446288(ラット)またはNP517425(チンパンジー)を参照する。
【0003】
インターロイキン2は、その機能に不可欠な4次構造を形成する4つの逆平行両親媒性αヘリックスを有する(Smith、Science 240、1169-76(1988);Bazan、Science257、410-413(1992))。ほとんどの場合、IL-2は、インターロイキン2受容体α(IL-2Rα、CD25)、インターロイキン2受容体β(IL-2Rβ、CD122)、およびインターロイキン2受容体γ(IL-2Rγ、CD132)という3つの異なる受容体を介して作用する。IL-2RβおよびIL-2RγはIL-2のシグナル伝達に非常に重要であるが、IL-2Rα(CD25)はシグナル伝達に必須ではないが、IL-2の受容体への高親和性結合を与えることができる(Kriegら、Proc Natl Acad Sci 107、11906-11(2010))。IL-2Rα、β、およびγを組み合わせて形成される三量体受容体(IL-2αβγ)はIL-2高親和性受容体(KDが約10pM)であり、βとγからなる二量体受容体(IL-2βγ)は中間親和性受容体(KDが約1nM)であり、αサブユニットのみから形成されるIL-2受容体は、低親和性受容体である。
【0004】
免疫細胞は二量体または三量体IL-2受容体を発現する。二量体受容体は細胞傷害性CD8T細胞とナチュラルキラー(NK)細胞で発現され、三量体受容体は主に活性化リンパ球とCD4CD25FoxP3抑制性制御性T細胞(Treg)で発現される(Byman、O.およびSprent.J.Nat.Rev.Immunol.12、180-190(2012))。静止状態のエフェクターT細胞およびNK細胞は、細胞表面上にCD25を持たないので、IL-2に対して比較的非感受性である。一方、Treg細胞は一貫してインビボで最高レベルのCD25を発現しているため、通常IL-2はTreg細胞の増殖を優先的に刺激する。
【0005】
IL-2は、異なる細胞上のIL-2受容体との結合を介して、免疫応答において多重作用を媒介する。一方では、IL-2は免疫系刺激作用を有し、T細胞とナチュラルキラー(NK)細胞の増殖と分化を刺激することができる。したがって、IL-2は、免疫治療剤として癌や慢性ウイルス感染の治療に使用されることが承認されている。他方では、IL-2は、免疫抑制性CD4CD25制御性T細胞(すなわち、Treg細胞)の維持を促進することもでき(Fontenotら、Nature Immunol 6、1142-51(2005);D’CruzおよびKlein、Nature Immunol 6、1152-59(2005);MaloyおよびPowrie,Nature Immunol 6、1171-72(2005))、患者において活性化Treg細胞による免疫抑制を引き起こす。
【0006】
なお、長年の臨床実践経験により、高用量のIL-2は、黒色腫や腎臓癌などの癌の治療において顕著な臨床効果をもたらすことができるが、同時に、血管漏出症候群や低血圧などの心血管系毒性を含む薬物関連の重度の毒性と副作用を引き起こす可能性もあることが見出されている。研究によると、これらの毒性は、リンパ球(特にT細胞とNK細胞)に対するIL-2の過剰な活性化によって、炎症性因子の放出を刺激することが原因である可能性が高いことが示されている。例えば、これは血管内皮細胞を収縮させ、細胞間の隙間を大きくし、組織液の流出を引き起こし、それにより血管漏出の副作用を引き起こす可能性がある。
【0007】
IL-2の臨床使用に関する別の制限的な問題は、その半減期が非常に短いため、投与が困難になることである。IL-2の分子量はわずか15KDaであるため、主に糸球体の濾過作用によって除去され、ヒト半減期はわずか1時間程度である。十分に高いヒトへの曝露量を達成するために、臨床的には8時間ごとに高用量のIL-2を注入する必要がある。しかし、頻繁な投与は、患者に大きな負担をかけるだけでなく、さらに重要なことにIL-2の高用量注入は非常に高いピーク血中濃度(Cmax)を引き起こし、これは薬物毒性を引き起こすの別の要因である可能性が高い。
【0008】
IL-2免疫療法に関連するこれらの問題を克服するために、いくつかのアプローチが取られてきた。例えば、IL-2といくつかの抗IL-2モノクローナル抗体との組み合わせは、インビボでIL-2の治療効果を増強することが見出されている(Kamim uraら、JImmunol177、306-14(2006);Boymanら、Science311、1924-27(2006))。IL-2分子のいくつかの操作方法も提案されている。例えば、Helen R.Mottらは、排除されたIL-2Rα結合能力を有するヒトIL-2の変異タンパク質F42Aを開示している。Rodrigo Vazquez-Lombardiら(Nature Communications、8:15373、DOI:10.1038/ncomms15373)は、排除されたIL-2Rα結合能力を有する三重変異ヒトIL-2変異タンパク質IL-23Xも提案し、当該タンパク質はアミノ酸残基位置38、43および61にそれぞれ残基変異R38D+K43E+E61Rを有する。CN1309705Aは、IL-2とIL-2Rβγとの結合の低減をもたらす、位置D20、N88およびQ126の変異を開示している。これらの変異タンパク質は、薬物動態学的および/または薬力学的特性に依然として欠陥があり、かつ哺乳動物細胞で発現される場合、発現量が低い、および/または分子安定性が比較的悪いという問題も存在する。
【0009】
プログラム細胞死タンパク質1(PD-1またはCD279)は、CD28受容体ファミリーの阻害性メンバーであり、当該ファミリーは、さらにCD28、CTLA-4、ICOS、およびBTLAも含む。PD-1は、細胞表面受容体であり、かつ活性化されたB細胞、T細胞、および骨髄細胞上で発現される。PD-1の構造は、免疫グロブリン可変様細胞外ドメインと、チロシンベースの免疫受容体の阻害モチーフ(ITIM)およびチロシンベース免疫受容体のスイッチモチーフ(ITSM)を含む細胞質ドメインとからなるモノマー1型膜貫通タンパク質である。PD-1の2つのリガンド、PD-L1とPD-L2が同定されており、これらはPD-1への結合後にT細胞の活性化をダウンレギュレートすることが示されている。PD-L1とPD-L2は両方ともB7ホモログであり、PD-1に結合するが、他のCD28ファミリーメンバーに結合しない。PD-1の1つのリガンドであるPD-L1は、多くのヒト癌に豊富に存在する。PD-1とPD-L1の間の相互作用は、腫瘍浸潤リンパ球の減少、T細胞受容体媒介性増殖の低減、および癌細胞の免疫逃避をもたらす。
【0010】
PD-1に結合する様々な抗体、例えば、WO2017024465A1に開示されているPD-1抗体が当該分野で知られている。
【0011】
したがって、当該分野では、改善された特性(例えば、その受容体への結合の低減、創薬可能性の改善など)を有する新規IL-2分子、特にPD-1抗体との免疫複合体をさらに開発する必要がある。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、以下の実施形態に関する。
1.(i)PD-1に結合する抗体、および(ii)IL-2変異タンパク質を含む免疫複合体であって、前記変異タンパク質は、野生型IL-2(好ましくはヒトIL-2で、より好ましくは配列番号3の配列を含むIL-2)と比較して、以下の変異を含む:
(i)IL-2とIL-2Rα結合界面において、特に位置35および/または42に、IL-2Rα受容体に対する結合親和性を排除または低減する変異、
かつ/または
(ii)IL-2とIL-2Rβγ結合界面において、特に位置88、127および/または130から選択される少なくとも1つの位置に、IL-2Rβγ受容体に対する結合を弱める変異、
ならびに
(iii)短縮されたB’C’ループ領域(すなわち、アミノ酸残基aa72とaa84を連結する配列)であって、好ましくは、前記短縮されたループ領域は10個、9個、8個、7個、6個、または5個未満のアミノ酸長を有し、かつ好ましくは7個のアミノ酸長であり、好ましくは、前記短縮されたB’C’ループ領域はタンパク質の発現量および/または純度の改善をもたらし、ならびに
任意に(iv)IL-2のN末端、特に位置3に、IL2のN末端のO糖修飾を除去する変異を有し、
ここで、前記アミノ酸の位置は配列番号3に従って番号付けられる、
免疫複合体。
2.前記変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、
(i)N88D、
N88R、
N88R+S130R、
F42A+N88R+S127E、
F42A+N88R+S127E、または
K35E+N88R+S127E、
および
(ii)B’C’ループ領域配列AGDASIHまたはAQSKNFH、
ならびに、任意に(iii)T3Aを含む、実施形態1に記載の免疫複合体。
3.前記IL-2変異タンパク質は、配列番号4、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29もしくは配列番号31のアミノ酸配列またはそれらと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる、実施形態1に記載の免疫複合体。
4.前記免疫複合体は、
Fc断片と融合されるIL-2変異タンパク質を含む第1のモノマー、および
PD-1に特異的に結合する抗体またはその断片を含む第2のモノマーであって、好ましくは、前記断片は、前記抗PD-1抗体の1つの重鎖および1つの軽鎖を含む、第2のモノマーを含む、実施形態1~3のいずれか1項に記載の免疫複合体。
5.第1のモノマーのFc断片においてKnob変異を含み、第2のモノマーの抗体重鎖においてhole変異を含み、または第1のモノマーのFc断片においてhole変異を含み、第2のモノマーの抗体重鎖においてknob変異を含む、実施形態4に記載の免疫複合体。
6.前記第1のモノマー中のFc断片は、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4のFc断片であり、好ましくは配列番号6、配列番号42もしくは配列番号43のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなる、実施形態4または5に記載の免疫複合体。
7.前記Fc断片と融合されるIL-2変異タンパク質は、配列番号7、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30もしくは配列番号32のアミノ酸配列またはそれらと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる、実施形態4~6のいずれか1項に記載の免疫複合体。
8.前記PD-1抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域を含む重鎖を含み、前記重鎖可変領域は、それぞれ配列番号9、配列番号10、および配列番号11のアミノ酸配列に示されるHCDR1、HCDR2、およびHCDR3を含む、実施形態4~7のいずれか1項に記載の免疫複合体。
9.前記PD-1抗体またはその抗原結合断片は、軽鎖可変領域を含む軽鎖を含み、前記軽鎖可変領域は、それぞれ配列番号16、配列番号17、および配列番号18のアミノ酸配列に示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、実施形態4~8のいずれか1項に記載の免疫複合体。
10.前記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号8に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる重鎖可変領域、および
配列番号15に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる軽鎖可変領域を含む、実施形態4~9のいずれか1項に記載の免疫複合体。
11.前記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号14もしくは配列番号22に示されるアミノ酸配列またはそれらと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる重鎖、および
配列番号20に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる軽鎖を含む、実施形態4~9のいずれか1項に記載の免疫複合体。
12.前記IL-2変異タンパク質とFcはリンカーを介して連結され、または前記IL-2変異タンパク質と前記抗PD-1抗体はリンカーを介して連結され、好ましくは、前記リンカーは(GGGGS)であり、ここで、n=1、2、3もしくは4であり、例えば、前記リンカーは配列番号5である、実施形態1~11のいずれか1項に記載の免疫複合体。
13.実施形態1~12のいずれか1項に記載の免疫複合体の1つまたは複数の鎖、あるいは第1のモノマーおよび/または第2のモノマーをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
14.実施形態13に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
15.実施形態13に記載のポリヌクレオチドまたは実施形態14に記載のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは前記宿主細胞は酵母細胞または哺乳動物細胞、特にHEK293細胞またはCHO細胞である、宿主細胞。
16.実施形態1~12のいずれか1項に記載の免疫複合体を生産するための方法であって、前記免疫複合体の発現に適する条件で、実施形態15に記載の宿主細胞を培養することを含む、方法。
17.実施形態1~12のいずれか1項に記載の免疫複合体、および任意に医薬賦形剤を含む医薬組成物。
18.実施形態1~12のいずれか1項に記載の免疫複合体または実施形態17に記載の医薬組成物の、癌の予防および/または治療のための薬物の調製における使用であって、好ましくは、前記癌は、固形腫瘍または血液腫瘍、例えば、胃腸腫瘍または黒色腫、例えば、結腸直腸癌または結腸癌であり、例えば、前記癌は、PD-1抗体治療抵抗性癌である、使用。
19.前記医薬組成物は、第2の治療剤をさらに含む、実施形態18に記載の使用。
20.対象における癌を予防および/または治療するための方法であって、実施形態1~12のいずれか1項に記載の免疫複合体または実施形態17に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含み、好ましくは、前記癌は、固形腫瘍または血液腫瘍、例えば、胃腸腫瘍または黒色腫、例えば、結腸直腸癌または結腸癌であり、例えば、前記癌は、PD-1抗体治療抵抗性癌である、方法。
21.前記変異タンパク質、前記融合タンパク質または前記医薬組成物は、第2の治療剤と併用療法により投与される、実施形態20に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の抗PD-1とIL-2変異体の免疫複合体の分子構造であり、
図1B】分子2124および分子3010のIL-2-Fc融合タンパク質の分子構造である。
図2】IL-2の受容体に結合した結晶構造(PDB:2ERJ)である。
図3】IL-2Rβγに対する免疫複合体および対照分子の結合曲線である。
図4】IL-2Rαに対する免疫複合体または対照分子の結合曲線である。
図5】ヒトPD1に対する免疫複合体または対照分子の結合曲線である。
図6】CTLL2WT(huPD1-)およびCTLL2-hPD-1(huPD1+)における免疫複合体または対照分子の活性アッセイである。
図7】それぞれPD-1-およびPD-1+のT細胞集団(CD4またはCD8)における免疫複合体または対照分子の活性である。
図8】それぞれHEK-BlueTM IL-2Cells(huPD-1-細胞)および過剰発現したPD-1の細胞(HEK293+hIL2R+hPD-1/SEAP安定形質転換細胞株(huPD-1+細胞))における免疫複合体の活性を示す。
図9A】マウス抗腫瘍効果に対する2132および2063の影響を示し、
図9B】マウス体重に対する2132および2063の影響を示す。
図10A】マウスMC38腫瘍の抗腫瘍効果に対する2063の影響を示し、
図10B】マウス体重に対する2063の影響を示す。
図11A】マウスB16F10腫瘍の抗腫瘍効果に対する2063の影響を示し、
図11B】マウスB16F10腫瘍の抗腫瘍効果に対する2063の影響-個体の腫瘍値を示し、
図11C】マウス体重に対する2063の影響を示す。
図12A】マウスMC38腫瘍の抗腫瘍効果に対する2149の影響を示し、
図12B】マウスMC38腫瘍の抗腫瘍効果に対する2149の影響-生存曲線を示し、
図12C】マウス体重に対する2149の影響を示す。
図13A】マウスB16F10腫瘍の抗腫瘍効果に対する2149の影響を示し、
図13B】マウスB16F10腫瘍の抗腫瘍効果に対する2149の影響-個体の腫瘍値を示し、
図13C】マウスB16F10腫瘍の抗腫瘍効果に対する2149の影響-生存曲線を示し、
図13D】マウス体重に対する2149の影響を示す。
図14A】マウスB16F10腫瘍の抗腫瘍効果に対する2061および2149の影響-個体の腫瘍値を示し、
図14B】マウスB16F10腫瘍の抗腫瘍効果に対する2061および2149の影響-生存曲線プロットを示し、
図14C】マウス体重に対する2061および2149の影響を示す。
図15A】マウス抗腫瘍効果に対する2214の影響を示し、
図15B】マウス抗腫瘍効果に対する2214の影響-生存曲線を示し、
図15C】マウス体重に対する2214の影響を示す。
図16A】マウスB16F10腫瘍の抗腫瘍効果に対する2214の影響を示し、
図16B】マウスB16F10腫瘍の抗腫瘍効果に対する2214の影響-生存曲線を示し、
図16C】マウス体重に対する2214の影響を示す。
【発明の詳細な説明】
【0014】
I.定義
以下、本発明を詳細に説明するに先立ち、本明細書に記載される特定の方法学、形態または試薬が変更され得るため、本発明はそれらに限定されるものではないことが理解すべきである。また、本明細書に使用される用語は、具体的な実施形態を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定しようとは意図せず、本発明の範囲は、特許請求の範囲のみによって限定されると理解すべきである。特に定義のない限り、本明細書に使用される技術・科学用語は、当業者による通常の理解と同じ意味を有する。
【0015】
本明細書を解釈するために次の定義が使用され、また、適切であるならば、単数形で使用される用語には複数形が含まれてもよく、その逆も同様である。本明細書で使用される用語は、具体的な実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定するためのものではないと理解しなければならない。
【0016】
用語「約」は、数字または数値とともに使用される場合、下限として指定された数字または数値より5%小さく、上限として指定された数字または数値より5%大きい範囲内の数字または数値をカバーすることを意味する。
【0017】
本明細書で使用されるように、用語「および/または」は、選択可能なオプションのうちのいずれか1つ、または選択可能なオプションの2つもしくは複数を指す。
【0018】
本明細書で使用されるように、用語「包含する」または「含む」は、記載される要素、整数またはステップを含むが、任意の他の要素、整数またはステップを排除しないことを意味する。本明細書において、用語「包含する」または「含む」を使用する場合、特記しない限り、言及される要素、整数またはステップからなる場合も含まれる。例えば、ある変異または変異の組み合わせを「包含する」または「含む」IL-2変異タンパク質に言及する場合、上記変異または変異の組み合わせのみを有するIL-2変異タンパク質を包含することも意図される。
【0019】
本明細書において、野生型「インターロイキン-2」または「IL-2」とは、本発明の変異または変異の組み合わせを導入するテンプレートとしての親IL-2タンパク質、好ましくは天然に存在するIL-2タンパク質、例えば、未処理(例えば、シグナルペプチドが除去されていない)の形態および処理済み(例えば、シグナルペプチドが除去された)の形態を含む、ヒト、マウス、ラット、非ヒト霊長類由来の天然IL-2タンパク質を指す。シグナルペプチドを含む全長の天然ヒトIL-2配列は配列番号1に示され、その成熟タンパク質の配列は配列番号2に示される。なお、この表現には、天然に存在するIL-2対立遺伝子変異体およびスプライス変異体、アイソタイプ、相同体、および種相同体も含まれる。この表現には、天然IL-2の変異体も含まれ、例えば、上記変異体は、天然IL-2と少なくとも95%~99%もしくはそれ以上の同一性を有してもよく、または1個~10個以下もしくは1個~5個以下のアミノ酸変異(例えば、保存的置換)を有してもよく、かつ好ましくは、天然IL-2タンパク質と基本的に同一のIL-2Rα結合親和性および/またはIL2Rβγ結合親和性を有する。したがって、いくつかの実施形態において、野生型IL-2は、天然IL-2タンパク質と比較して、IL-2受容体へのその結合に影響を及ぼさないアミノ酸変異を含んでもよく、例えば、変異C125Sを125位に導入した天然ヒトIL-2タンパク質(uniprot:P60568)は、本発明の野生型IL-2に属する。C125S変異を含む野生型ヒトIL-2タンパク質の実例は配列番号3に示される。いくつかの実施形態において、野生型IL-2配列は、配列番号1もしくは配列番号2もしくは配列番号3のアミノ酸配列と少なくとも85%、95%、さらには少なくとも96%、97%、98%もしくは99%またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を有する。
【0020】
本明細書において、アミノ酸変異は、アミノ酸置換、欠失、挿入および付加であってもよい。置換、欠失、挿入および付加の任意の組み合わせを行うことで、所望の特性(例えば、低減されたIL-2Rα結合親和性および/または改善された創薬可能性および/または弱められたIL-2Rβγ)を有する最終的な変異タンパク質構築物を得ることができる。アミノ酸の欠失および挿入は、ポリペプチド配列のアミノ基および/またはカルボキシ基末端での欠失および挿入を含むとともに、ポリペプチド配列内での欠失および挿入も含む。例えば、全長ヒトIL-2位置1でアラニン残基を欠失するか、またはB’C’ループ領域で1つまたは複数のアミノ酸を欠失することで、当該ループ領域の長さを短縮することができる。いくつかの実施形態において、好ましいアミノ酸変異は、単一アミノ酸置換の組み合わせまたはアミノ酸配列セグメントの置換など、アミノ酸置換である。例えば、野生型IL-2のB’C’ループ領域配列の全体または一部を異なる配列(例えば、IL-15のB’C’ループ)で置換することができ、好ましくは、長さが短縮されたB’C’ループ領域配列を得ることができる。
【0021】
本発明において、IL-2タンパク質またはIL-2配列セグメントにおけるアミノ酸位置に言及する場合、野生型ヒトIL-2タンパク質(IL-2WTとも呼ばれる)の配列番号3のアミノ酸配列を参照することによって決定される。配列番号3とのアミノ酸配列アラインメントによって、他のIL-2タンパク質またはポリペプチド(全長配列または切り詰め断片を含む)上の対応するアミノ酸位置を同定することができる。したがって、本発明において、特記しない限り、IL-2タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸位置は、配列番号3に従って番号付けられるアミノ酸位置である。例えば、「F42」に言及する場合は、配列番号3の第42位のフェニルアラニン残基F、または他のIL-2ポリペプチド配列上にアラインメントされた対応する位置のアミノ酸残基を指す。同時に、理解と比較を容易にするために、本発明の変異がいくつかの特定のセグメントの部位の切り詰めまたは欠失(例えば、B’C’ループ領域の配列、すなわち配列番号3の第73~83位の合計11個のアミノ酸残基)に関する時、特定の変異領域およびその変異方式が与えられた場合、この領域外のアミノ酸残基の番号付けは依然として変更されず、例えば、B’C’ループ領域の配列、すなわち、配列番号3の第73~83位の合計11個のアミノ酸残基を7個のアミノ酸残基に切り詰めた後、番号付けにおける80~83は割り当てられなくなり、B’C’ループ領域のすぐ次のアミノ酸残基の位置番号付けは依然として84である。アミノ酸位置決定のために実施される配列アラインメントは、https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiから得ることができるBasic Local Alignment Search Toolを使用して、デフォルトパラメータを用いて行うことができる。
【0022】
本明細書において、IL-2変異タンパク質に言及する場合、以下のように単一アミノ酸置換を説明する:[元のアミノ酸残基/位置/置換のアミノ酸残基]。例えば、グルタミン酸による位置35のリジンの置換は、K35Eと表すことができる。1つの所定の位置(例えば、K35位)に複数の選択可能なアミノ酸置換方式(例えば、D、E)があり得る場合、当該アミノ酸置換は、K35D/Eと表すことができる。対応的に、個々の単一アミノ酸置換は、プラス記号「+」または「-」によって連結されて、複数の所定の位置での組み合わせ変異を表すことができる。例えば、位置F42A、N88R、およびS127Eの組み合わせ変異は、F42A+N88R+S127E、またはF42A-N88R-S127Eと表すことができる。
【0023】
本明細書において、「配列同一性パーセント」は、比較ウィンドウ内で2つの最適アラインメント配列を比較することによって決定されることができる。好ましくは、配列同一性は、参照配列(例えば、配列番号3)の全長にわたって決定される。比較のための配列アラインメント方法は、当該分野において周知である。配列同一性パーセントを決定するのに適したアルゴリズムは、例えば、BLASTおよびBLAST2.0アルゴリズムを含む(Altschulら、Nuc.Acids Res.25:3389-402、1977およびAltschulら J.Mol.Biol.215:403-10、1990参照)。BLAST分析を実行するためのソフトウェアは、アメリカ国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information)から公的に入手可能である。本願の目的のため、同一性パーセントは、https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiから得ることができるBasic Local Alignment Search Toolを使用して、デフォルトパラメータを使用して決定されることができる。
【0024】
本明細書で使用されるように、用語「保存的置換」は、アミノ酸配列を含むタンパク質/ポリペプチドの生物学的機能に悪影響を及ぼさない、または変化させないアミノ酸置換を意味する。例えば、保存的置換は、部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発などの当該分野で既知の標準的な技術によって導入されることができる。典型的な保存的アミノ酸置換は、1つのアミノ酸を、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する別のアミノ酸に置換することを指す。機能的に類似するアミノ酸の保存的置換表は、当該分野でよく知られているものである。本発明において、保存的置換残基は、以下の保存的置換表X、特に表Xにおける好ましい保存的アミノ酸置換残基に由来する。
【0025】
【表1】
【0026】
例えば、野生型IL-2タンパク質は、配列番号1~3の1つに対して保存的アミノ酸置換を有してもよく、または保存的アミノ酸置換のみを有してもよく、かつ1つの好ましい実施形態において、保存的置換は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個の残基など、10個以下のアミノ酸残基を有する。さらに例えば、本発明の変異IL-2タンパク質は、本明細書に具体的に示されるIL-2変異タンパク質配列(例えば配列番号4、配列番号23、配列番号25、配列番号27、配列番号29、および配列番号31のいずれか1つ)に対して保存的アミノ酸置換を有してもよく、または保存的アミノ酸置換のみを有してもよく、かつ1つの好ましい実施形態において、保存的置換は、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個もしくは10個の残基など、10個以下のアミノ酸残基を有する。
【0027】
「親和性」または「結合親和性」は、結合対のメンバー間の相互作用の内部結合能力を反映するために使用することができる。分子Xのその結合パートナーYに対する親和性は、平衡解離定数(K)によって示されてもよく、平衡解離定数は、解離速度定数と結合速度定数(それぞれkdisとkonである)との比率である。結合親和性は当該分野で既知の常用方法で測定されてもよい。親和性を測定するための一具体的な方法は、本明細書のSPR親和性測定技術またはBLI測定技術である。
【0028】
本明細書において、抗原結合分子は、抗原に特異的に結合し得るポリペプチド分子、例えば免疫グロブリン分子、抗体または抗体断片、例えばFab断片およびscFv断片である。一実施形態において、本発明の抗原結合分子は、免疫チェックポイント分子に対して抗原とする結合分子、例えば抗体、例えばモノクローナル抗体である。一実施形態において、免疫チェックポイント分子はPD-1もしくはPD-L1もしくはPD-L2である。
【0029】
本明細書において、抗体Fc断片とは、定常領域の少なくとも一部を含む免疫グロブリン重鎖のC-末端領域であり、かつ天然配列Fc断片および変異体Fc断片を含むことができる。天然配列Fc断片は、様々なIgサブタイプおよびそのアロタイプのFc領域など、天然に存在する様々な免疫グロブリンFc配列を含む(Gestur Vidarssonら、IgG subclasses and allotypes:from structure to effector functions、20 October 2014、doi:10.3389/fimmu.2014.00520.)。一実施形態において、ヒトIgG重鎖Fc断片は、重鎖のCys226から、またはPro230からカルボキシ基末端まで延びる。他の実施形態において、Fc-断片のC-末端リジン(Lys447)が存在してもよく、存在しなくてもよい。他のいくつかの実施形態において、Fc断片は変異を含む変異体Fc断片であり、例えば、L234A-L235A変異を含む。本明細書に特記しない限り、Fc断片におけるアミノ酸残基の番号付けは、EU番号付けシステムによるものであり、EUインデックスとも呼ばれ、例えば、Kabat、E.A.ら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th Ed.、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)、NIH Publication 91~3242に記載される。いくつかの実施形態において、抗体Fc断片は、N末端にIgG1ヒンジ配列またはIgG1ヒンジ配列の一部、例えばEU番号付けによる配列E216からT225または配列D221からT225を有することができる。上記ヒンジ配列に変異が含まれ得る。
【0030】
IL-2タンパク質は、4つのαヘリックスバンドル(A、B、C、D)構造を有する短鎖I型サイトカインファミリーのメンバーに属する。本明細書において、用語「B’C’Loop」または「B’C’ループ領域」または「B’C’ループ配列」は交換して使用されてもよく、IL-2タンパク質のBヘリックスとCヘリックスとの間の連結配列を指す。IL-2の結晶構造の分析(例えばPDB:2ERJ)により、1つのIL-2タンパク質のB’C’ループ配列を決定することができる。本発明の目的のために、配列番号3の番号付けによれば、当該B’C’ループ配列は、IL-2ポリペプチドにおける位置72の残基と位置84の残基を連結する配列を指す。配列番号1、配列番号2および配列番号3の野生型IL-2タンパク質において、当該連結配列は、A73-R83の合計11個のアミノ酸を含む。対応的には、本明細書において、用語「短縮されたループ領域」または「短縮されたB’C’ループ領域」は、野生型IL-2タンパク質と比較して、長さが短縮されたB’C’ループ配列を有する変異タンパク質を指し、すなわち、配列番号3の番号付けによると、アミノ酸残基aa72とaa84との間の連結配列の長さが短縮されている。「短縮されたループ領域」は、ループ配列の置換または切断によって実現することができる。上記置換または切断は、B’C’ループ配列の任意の領域または部分で発生することができる。例えば、置換または切り詰めは、ループ領域A73-R83配列の置換(例えば、IL-15のB’Cループ領域に置換する)または当該配列C末端の1つもしくは複数のアミノ酸残基からの切り詰めであってもよい。さらに例えば、置換もしくは切り詰めは、ループ領域Q74-R83配列の置換または当該配列C末端の1つもしくは複数のアミノ酸残基からの切り詰めであってもよい。上記置換または切り詰めの後、必要に応じて、創薬可能性などの変異タンパク質の特性をさらに改善するために、グリコシル化を排除するためのアミノ酸置換などの単一アミノ酸置換、および/または逆変異をさらにループ領域配列に導入することができる。したがって、本明細書において、変異後の短縮されたB’C’ループ領域は、変異の導入後、位置72の残基と位置84の残基との間の配列を連結することにより説明することができる。
【0031】
本明細書において、「IL-2Rα結合界面」変異は、IL-2とIL-2Rα(すなわち、CD25)が相互作用するアミノ酸部位で発生する変異を指す。IL-2およびその受容体複合体の結晶構造(例えばPDB:1Z92)を分析することにより、これらの相互作用部位を決定することができる。いくつかの実施形態において、上記変異は、特にIL-2のアミノ酸残基35~72領域での変異を指し、特にアミノ酸部位35、37、38、41、42、43、45、61、62、68、72での変異を指す。好ましくは、上記変異を導入する前の対応するタンパク質と比較して、上記変異を含むIL-2タンパク質は、低減または排除されたIL-2Rα結合を有する。
【0032】
本明細書において、「IL-2βγ結合界面」変異は、IL-2とIL-2Rβγ(すなわち、CD122とCD132)が相互作用するアミノ酸部位で発生する変異を指す。IL-2およびその受容体複合物の結晶構造(例えばPDB:2ERJ)を分析することにより、これらの相互作用アミノ酸部位を決定することができる。いくつかの実施形態において、上記変異は、特にIL-2のアミノ酸残基12~20、アミノ酸残基84~95、およびアミノ酸残基126~130領域での変異を指し、特にアミノ酸部位12、15、16、19、20、84、87、88、91、92、95、126、127、130での変異を指す。好ましくは、上記変異を導入する前の対応するタンパク質と比較して、上記変異を含むIL-2タンパク質は、弱められたIL-2Rβγ結合を有する。
【0033】
本明細書において、IL-2Rβγ受容体結合に関しては、IL-2タンパク質分子の「弱め」は、IL-2Rβγ結合界面に変異を導入することを指し、ここでこの変異の導入前の対応するIL-2タンパク質と比較して、上記変異は、IL-2Rβγ受容体に対する結合親和性の低減をもたらす。さらに好ましくは、対応するタンパク質と比較して、上記弱め分子は、低減されたT細胞(例えばCD8+T細胞またはCD4+T細胞)および/またはNK細胞を活性化する活性を有する。例えば、上記弱め分子と対応するタンパク質のT細胞pSTAT5シグナルを活性化するEC50値の比率を検出することにより、減少する倍数は例えば5倍以上、例えば10倍以上、または50倍以上、または100倍以上、またはさらに1000倍以上に達することができる。例えば、対応するタンパク質と比較して、弱め分子のT細胞を活性化する活性は、10倍~50倍、または50倍~100倍、または100倍~1000倍、またはそれ以上の倍数減少することができる。したがって、本発明において、いくつかの実施形態において、本発明の弱め分子は、「弱められ」たIL-2Rβγ受容体への結合親和性および「弱められ」たT細胞活性化活性を有する。
【0034】
「抗原結合断片」とは、完全な抗体の一部を含むとともに、完全な抗体の結合する抗原と結合する、完全な抗体とは異なる分子を指す。抗体断片の例は、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、dAb(domain antibody)、線状抗体、単鎖抗体(例えば、scFv)、単一ドメイン抗体(例えば、VHH)、二価抗体またはその断片、あるいはラクダ科抗体を含むが、これらに限定されない。
【0035】
用語「抗原」とは、免疫応答を引き起こす分子を指す。このような免疫応答は、抗体の産生または特異性免疫細胞の活性化に関係し、あるいは両方に関係する可能性がある。当業者であれば、ほぼすべてのタンパク質またはペプチドを含む高分子は、いずれも抗原として利用できると理解される。なお、抗原は、組換えDNAまたはゲノムDNAから誘導されてもよい。いくつかの実施形態において、本発明に記載される抗原は腫瘍関連抗原、すなわち腫瘍の発生、発展または進行に関連する抗原、例えばPD-1、PD-L1またはPD-L2である。
【0036】
「相補性決定領域」、「CDR領域」または「CDR」は、抗体可変ドメインにおいて、配列において超可変であるとともに構造上に形成されて決定されたループ(「超可変ループ」)であり、および/または抗原接触残基(「抗原接触点」)を含む領域である。CDRは、主に抗原エピトープに結合する役割を果たす。重鎖および軽鎖のCDRは通常、CDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれ、N-末端から順に番号付けられる。抗体の重鎖可変ドメインにあるCDRはHCDR1、HCDR2およびHCDR3と呼ばれ、抗体の軽鎖可変ドメインにあるCDRはLCDR1、LCDR2およびLCDR3と呼ばれる。1つの所定の軽鎖可変領域または重鎖可変領域のアミノ酸配列において、各CDRの精確なアミノ酸配列の境界は、多くの公知の抗体CDR割り当てシステムのいずれか1種またはその組み合わせにより決定されることができ、上記割り当てシステムは、例えば、抗体の3次元構造とCDRループのトポロジーに基づくChothia(Chothiaら.(1989)Nature 342:877~883、Al-Lazikaniら、「Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins」、Journal of Molecular Biology、273、927~948(1997))、抗体配列の可変性に基づくKabat(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、4th Ed.、U.S.Department of Health and Human Services、National Institutes of Health(1987))、AbM(University of Bath)、Contact(University College London)、国際ImMunoGeneTics database(IMGT)(ワールドワイドウェブのimgt.cines.fr/にて利用可能)、および大量の結晶構造が利用されるアフィニティ伝播クラスタリング(affinity propagation clustering)に基づくNorth CDR定義を含む。
【0037】
例えば、異なるCDRの決定方案によって、それぞれのCDRの残基は、以下のとおりである。
【0038】
【表2】
【0039】
CDRは、参照CDRの配列(例えば、本発明の例示的なCDRのいずれか1つ)と同じKabat番号付け位置を有することで決定されてもよい。
【0040】
特記しない限り、本発明において、用語「CDR」または「CDR配列」は、上記いずれか1つの方法で決定されるCDR配列を含む。
【0041】
特記しない限り、本発明において、抗体可変領域における残基位置(重鎖可変領域残基と軽鎖可変領域残基を含む)に言及する場合、Kabat番号付けシステム(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th Ed.Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1991))に基づく番号付け位置を指す。
【0042】
一実施形態において、本発明抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域CDRは、North番号付け方案に基づいて定義されるCDR配列である。
【0043】
本明細書で使用される用語「リンカー」は、融合タンパク質の異なる部分に直接連結可能な任意の分子を指す。融合タンパク質の異なる部分の間で共有結合を確立するリンカーの例には、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンまたはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体を含むが、これらに限定されないペプチドリンカーおよび非タンパク質ポリマーが含まれる。本発明による用語「ペプチドリンカー」は、融合タンパク質の第1の部分のアミノ酸配列を融合タンパク質の第2の部分に連結するアミノ酸の配列を指す。例えば、ペプチドリンカーは、融合タンパク質のIL-2部分をFcドメインまたはその断片に連結することができる。例えば、ペプチドリンカーは、抗体重鎖のC末端をIL-2に連結するなど、抗体をIL-2に連結することもできる。好ましくは、上記ペプチドリンカーは、所望の活性を妨害せずに、それらが互いに対してコンフォメーションを維持するように、2つの実体を連結するのに十分な長さを有する。ペプチドリンカーは、Gly、Ser、AlaもしくはThrというアミノ酸残基を主に含んでもよいが、主に含まなくてもよい。有用なリンカーには、例えば(GS)、(GSGGS)、(GGGGS)、(GGGS)および(GGGGS)Gを含むグリシン-セリンポリマーが含まれ、ここで、nは少なくとも1(かつ好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10)の整数である。有用なリンカーには、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマーおよび他のフレキシブルリンカーがさらに含まれる。好ましくは、本発明のリンカーは(GGGGS)であり、ここで、n=1、2、3、4もしくは5であり、好ましくは2である。好ましくは、本発明のリンカーは配列番号5である。
【0044】
「IgG形態の抗体」は、抗体の重鎖定常領域の属するIgG形態を指す。すべての同じタイプの抗体は、その重鎖定常領域がいずれも同じであり、異なるタイプの抗体は、その重鎖定常領域が異なる。例えば、IgG4形態の抗体は、その重鎖定常領域がIgG4由来のものであることを指し、またはIgG1形態の抗体は、その重鎖定常領域がIgG1由来のものであることを指す。
【0045】
「ヒト化」抗体は、非ヒトCDRからのアミノ酸残基とヒトFRからのアミノ酸残基を含む抗体を指す。いくつかの実施形態において、ヒト化抗体は、ほぼすべての可変ドメインの少なくとも1つ、一般的に2つを含み、ここで、すべてまたはほぼすべてのCDR(例えば、CDR)は、非ヒト抗体に由来する部分に対応し、かつすべてまたはほぼすべてのFRは、ヒト抗体に由来する部分に対応する。ヒト化抗体は、任意に、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。抗体(例えば、非ヒト抗体)の「ヒト化形態」は、ヒト化が行われた抗体を指す。
【0046】
「ヒト抗体」または「完全ヒト抗体」または「完全ヒト化抗体」は、交換して使用されてもよく、ヒトまたはヒト細胞から生成され、または非ヒト由来のものから由来し、ヒト抗体ライブラリーや他のヒト抗体で配列がコードされた抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有する抗体を指す。ヒト抗体についての当該定義には、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体が明確に除外されている。
【0047】
本発明の免疫複合体における抗体部分は、ヒト化抗体、ヒト抗体、またはキメラ抗体であってもよい。
【0048】
本明細書で使用される用語「融合物」は、2つまたは複数の最初別々のタンパク質/遺伝子/化合物を連結することによって形成される融合物を指す。融合物を構成する実体がタンパク質である場合、融合タンパク質と呼ばれる。融合タンパク質は、本願の融合物の範囲内に含まれる。例えば、IL-2とFc二量体との連結は、IL-2融合タンパク質を構成してもよい。融合物を構成する2つの実体の間の連結は、リンカーを介して達成されてもされなくてもよい。
【0049】
本明細書で使用される用語「免疫複合体」とは、少なくとも1つのIL-2分子および少なくとも1つの抗体または抗体断片を含むポリペプチド分子を指す。本明細書に記載されるように、IL-2分子は、様々な相互作用および様々な構造により抗体に連結されてもよい。例えば、IL-2とFcの融合タンパク質、および重鎖と軽鎖を含む抗体分子の断片は、二量体化を通じて免疫複合体を構成してもよい。好ましくは、本発明の免疫複合体は、図1Aに示される構造、またはIL-2部分とPD-1抗体部分が入れ替わった図1Aに示される構造を有する。
【0050】
本明細書で使用されるような用語「第1の」および「第2の」は、Fcドメインまたはモノマーなどに関して、各タイプのモジュールが2つ以上ある場合の区別を容易にするために使用される。そのように明示的に記載されていない限り、これらの用語の使用は、免疫複合体に特定の順序や配向を付与することを意図していない。
【0051】
本明細書に記載の用語「治療剤」は、癌などの腫瘍の治療または予防に有効ないずれの物質も含み、化学療法剤、サイトカイン、血管新生抑制剤、細胞傷害剤、他の抗体、低分子薬物、または免疫調節剤(例えば、免疫抑制剤)を含む。
【0052】
用語「有効量」とは、本発明の抗体もしくは断片または組成物または組み合わせの1回分または複数回分の量を患者に投与した後、治療または予防が必要な患者に所望の効果が得られるという量または投与量を指す。「有効量」には、「治療有効量」または「予防有効量」が含まれてもよい。
【0053】
「治療有効量」とは、必要な期間にわたって必要な用量で所望の治療結果を効果的に実現するための量を指す。治療有効量は、抗体もしくは抗体断片または組成物または組み合わせのいずれの毒性または有害作用も治療による有益な作用に及ばないという量でもある。未治療の対象と比較して、「治療有効量」は、好ましくは、測定可能なパラメータ(例えば腫瘍体積)を少なくとも約40%、さらに、より好ましくは少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%ひいては100%抑制する。「予防有効量」とは、必要な期間にわたって必要な用量で所望の予防結果を効果的に実現するための量を指す。一般的に、予防目的の用量が対象における疾患の初期段階より前にまたは疾患の初期段階に適用されるため、予防有効量は治療有効量を下回る。
【0054】
用語「宿主細胞」、「宿主細胞株」および「宿主細胞培養物」は、交換して使用されてもよく、外因性核酸が導入された細胞を指し、この細胞の子孫を含む。宿主細胞は、「形質転換体」と「形質転換細胞」を含み、初代形質転換細胞および継代数に関係なくそれに由来する子孫を含む。子孫は、核酸の内容において親細胞とは全く同じではない可能性があり、変異を含んでもよい。本明細書では、初代形質転換細胞からスクリーニングまたは選択された同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫を含む。
【0055】
本明細書で使用される用語「標識」とは、試薬(例えば、ポリヌクレオチドプローブもしくは抗体)に直接的または間接的に結合または融合され、かつ、その結合または融合の対象試薬による検出を促進する化合物または組成物を指す。標識は、それ自体が検出可能(例えば、放射性同位体標識または蛍光標識)であるか、または、酵素触媒によって標識される場合に、検出可能な基質化合物または組成物の化学的改変に触媒作用を及ぼすことができる。当該用語は、検出可能な物質をプローブまたは抗体にカップリング(すなわち、物理的連結)することによってプローブもしくは抗体を直接標識すること、および、直接標識されている別の試薬との反応によりプローブもしくは抗体を間接的に標識することを含もうとする。
【0056】
「個体」または「対象」は、哺乳動物を含む。哺乳動物は、家畜(例えば、ウシ、ヤギ、ネコ、イヌおよびウマ)、霊長類動物(例えば、ヒト、サルなどの非ヒト霊長類動物)、ウサギ、およびげっ歯類動物(例えば、マウスとラット)を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、個体または対象はヒトである。
【0057】
用語「抗腫瘍作用」とは、さまざまな手段により表示できる生物学的効果であり、例えば、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、腫瘍細胞増殖の低減または腫瘍細胞の生存率の減少を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、抗腫瘍効果は、対象の体重を減少させない抗腫瘍効果にも関する。
【0058】
用語「腫瘍」および「癌」は、本明細書において交換して使用され、固形腫瘍および血液腫瘍を含む。
【0059】
用語「癌」とは、無秩序な細胞成長を典型的に特徴とする哺乳動物の生理学的疾患を指すか、または説明する。いくつかの実施形態において、本発明の抗体による治療に適する癌は、癌の転移性形態を含む固形腫瘍または血液腫瘍などを含む。用語「腫瘍」とは、悪性か良性かを問わず、すべての腫瘍性(neoplastic)の細胞の成長と増殖、およびすべての前癌性(pre-cancerous)と癌性の細胞や組織を指す。用語「癌」、「癌性」および「腫瘍」は、本明細書で言及される場合、互いに排他的ではない。
【0060】
用語「薬用補助材料」は、活性物質とともに投与される希釈剤、アジュバント(例えば、フロイントアジュバント(完全もしくは不完全))、賦形剤、ベクターや安定化剤などを指す。
【0061】
用語「医薬組成物」とは、それに含まれる活性成分の生物学的活性を有効にする形態で存在するとともに、上記組成物が投与された対象に許容されない毒性がある別の成分を含まない組成物を指す。
【0062】
用語「薬物組み合わせまたは組み合わせ製品」とは、非固定組み合わせ製品または固定組み合わせ製品を指し、薬物キット、医薬組成物を含むが、これらに限定されない。用語「非固定組み合わせ」とは、活性成分(例えば、(i)本発明の変異タンパク質または融合物、および(ii)他の治療剤)が、別個の実体で同時に、特定の時間制限なしに、または同じもしくは異なる時間間隔で、患者に順に投与されるものを指し、ここで、このような投与は、患者の体内において予防的または治療的に有効なレベルの2つ以上の活性剤を提供する。用語「固定組み合わせ」とは、2つ以上の活性剤が単一実体の形態で同時に患者に投与されるものを指す。好ましくは、2つ以上の活性剤の用量かつ/または時間間隔を選択することにより、各成分の併用が疾患または病症の治療において、いずれか1つの成分を単独で使用する場合よりもよい効果を達成することができる。各成分はそれぞれ、単独の製剤形態であってもよく、その製剤形態は同じであってもよく、異なってもよい。
【0063】
用語「組み合わせ療法」とは、2つ以上の治療剤または治療形態(例えば、放射線治療や手術)を投与することにより、本明細書に記載の疾患を治療するものを指す。そのような投与は、ほぼ同時に、例えば、一定の割合の活性成分を有する単一のカプセルで、これらの治療剤を共投与することを含む。または、このような投与は、複数または別個の容器(例えば、錠剤、カプセル、粉末および液体)での各有効成分の共投与を含む。粉末および/または液体は、投与前に所望の用量に再構成または希釈することができる。なお、このような投与は、各タイプの治療剤を実質的に同じ時間、または異なる時間で順番によって使用することを含む。いずれの場合においても、治療プログラムは、本明細書に記載の病症または病状の治療における医薬組み合わせの有益な効果を提供する。
【0064】
本明細書で使用される場合、「治療」とは、存在している症状、病症、病状または疾患の進行もしくは重症度を軽減、中断、遅延、寛解、停止、低減、または逆転することを指す。
【0065】
本明細書で使用される場合、「予防」は、疾患、病症、または特定の疾患もしくは病症に係る症状の発生または進行に対する阻害を含む。いくつかの実施形態において、癌の家族歴がある対象は、予防プログラムの候補である。一般的に、癌の背景では、用語「予防」とは、癌にかかる病徴または症状が生じる前に、特に、癌に罹患するリスクのある対象に癌が生じる前の医薬投与を指す。
【0066】
用語「ベクター」は、本明細書で使用される場合、それに連結された別の核酸を増殖可能な核酸分子を指す。当該用語は、自己複製の核酸構造であるベクター、およびそれが導入された宿主細胞のゲノムに結合されたベクターを含む。一部のベクターは、それに操作可能に連結された核酸の発現をガイドすることができる。かかるベクターは本明細書において、「発現ベクター」と呼ばれる。
【0067】
「対象/患者/個体試料」とは、患者または対象から得た細胞または流体の集まりを指す。組織または細胞試料の由来としては、新鮮な、冷凍されたおよび/または保存された器官や組織試料や生検試料や穿刺試料などの固形組織、血液もしくは任意の血液成分、脳脊髄液、羊膜液(羊水)、腹膜液(腹水)や間質液などの体液、対象における妊娠もしくは発育の任意段階に由来する細胞であってもよい。組織試料は、自然界において天然に組織と混ぜ合わせない化合物、例えば、防腐剤、抗凝固剤、緩衝剤、固定剤、栄養素、抗生物質などを含んでもよい。

II.本発明のIL-2変異タンパク質
本発明のIL-2変異タンパク質の有利な生物学的特性
本発明者らは、長期の研究を通じて、以下の分子変異および改造を次のように実施し、または上記変異および改造のうちの1つまたは複数を組み合わせて、IL-2の薬効を同時に改善し、IL-2の毒性と副作用を低減し、および良好な生産性能を達成することができることを発見した。
【0068】
(i)IL-2とIL-2Rβγ受容体の結合界面に特定の残基変異を導入し、IL-2Rβγ受容体との結合を弱め、IL-2の活性をある程度ダウンレギュレートする。IL-2Rβγ受容体結合を弱めるこのような変異を含むことにより、本発明のIL-2変異タンパク質はリンパ球を活性化して腫瘍を殺傷すると同時に、リンパ球の過剰な活性化によって引き起こされる大量の炎症性因子の放出、およびそれによってもたらした薬物関連毒性を回避することができる。なお、当該弱める変異は、本発明のIL-2変異タンパク質の、リンパ球に広く存在するIL-2受容体との結合親和性を低減することにより、IL-2受容体によって媒介されるIL-2変異タンパク質のクリアランスを減少させ、IL-2変異タンパク質の作用持続時間を遅延することができる。
【0069】
(ii)本発明の変異IL-2タンパク質をIL-2-Fc二量体に構築する。当該二量体の形成は、本発明のIL-2変異タンパク質の分子量を増加させ、腎クリアランスを大幅に減少させ、かつインビボでのFcRn媒介のリサイクルを通じて、IL2-Fc融合タンパク質の半減期をさらに延長することができる。それにより、IL-2の短い半減期および高頻度と高用量の投与によって引き起こされる高いピーク血中濃度の問題を克服する。
【0070】
(iii)IL-2のB’C’loop構造を改造し、例えば、それぞれIL-15分子のloopで置換するまたはIL-2分子B’C’loopを切り詰める。当該B’C’ループ変異は、本発明のIL-2変異タンパク質におけるB’C’loop構造の安定性を顕著に増強し、顕著に向上した発現量と純度などの、IL-2変異タンパク質およびそれによって構築されるIL-2-Fc二量体分子の生産性能を顕著に向上させることができる。
【0071】
(iv)野生型IL-2と実質的に同等のIL-2Rα結合活性を保持する。あるいは、(v)IL-2とIL-2Rα受容体の結合界面での1つまたは複数の特定の変異をさらに組み合わせて、IL-2変異タンパク質のIL-2Rαへの結合性能を変化させることができる。また、本発明者らは、本発明の変異タンパク質において、上記優れた特性を維持すると同時に、抗腫瘍または自己免疫疾患の治療などの多くの側面におけるIL-2の異なる薬物形成要件を満たすために、必要に応じて、IL-2変異タンパク質のIL-2Rαとの結合活性を調節することもでき、それにより、本発明の変異タンパク質に優れた薬力学的特性をさらに付与することを見出した。
【0072】
それにより、本発明のIL2-Fcシリーズ分子は、配列を改造することにより、その受容体IL2Rβ/γへの結合親和性を弱め、より優れた薬物動態学実験結果および薬効結果を達成する一方で、タンパク質の発現量と純度などの創薬可能性の面で顕著に向上する。
【0073】
したがって、本発明は、改善された創薬可能性および改善されたIL-2受容体結合特性を有するIL-2変異タンパク質を提供する。本発明のIL-2変異タンパク質を含むIL-2-Fc分子は、リンパ球の強力な刺激によって引き起こされる炎症性因子の過剰な放出を効果的に回避することができ、より安定して長時間作用する薬物動態特性を有する。したがって、比較的低い単回投与量によって、Cmaxが高すぎることによる薬物関連毒性を回避するのに十分に高いヒト薬物曝露量を達成することができる。なお、より有意義なことに、本発明の長時間作用型IL-2-Fc分子は、天然IL-2と比較して弱められたリンパ球免疫刺激活性を有するが、薬物動態特性が顕著に改善されるため、本発明の分子のインビボ有効薬物濃度の持続時間がより長く、リンパ球に対する比較的長時間の連続刺激を発揮し、天然IL-2分子と同等であるか、またはそれよりも優れた薬力学的効果を達成し、動物において、より優れた抗腫瘍効果と耐性を達成することができる。
【0074】
なお、本発明の有利な生物学的特性を有する変異IL-2タンパク質はさらに、抗原結合分子(例えば、抗体またはその断片)と免疫複合体を形成してもよく、T細胞またはNK細胞を活性化するとともに増殖させると同時に、抗原結合分子の免疫または免疫療法効果を増強する。
【0075】
改善された創薬可能性
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、改善された創薬可能性を有し、例えば、HEK293またはCHO細胞などの哺乳動物細胞で発現される場合、特にFc融合タンパク質で発現される場合、以下から選択される1項または複数項の特性を有する。(i)野生型IL-2タンパク質より優れた発現量、および(ii)より高いタンパク質の純度に精製されやすいこと。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して発現レベルの増加を示す。本発明のいくつかの実施形態において、増加する発現は哺乳動物細胞発現系で起こる。発現レベルは、細胞培養上清(好ましくはワンステップアフィニティークロマトグラフィー精製後の上清)中の組換えIL-2タンパク質の量を定量的または半定量的に分析することを可能にする任意の適切な方法によって測定することができる。例えば、試料中の組換えIL-2タンパク質の量は、ウェスタンブロットまたはELISAによって評価することができる。いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、哺乳動物細胞における発現量が少なくとも1.1倍、または少なくとも1.5倍、または少なくとも2倍、3倍もしくは4倍以上、または少なくとも5、6、7、8もしくは9倍、またはさらに約10、15、20、25、30および35倍など、10倍以上増加する。
【0077】
いくつかの実施形態において、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー後の精製タンパク質の純度を測定することによって示されるように、本発明のIL-2変異タンパク質-Fc融合体は、野生型IL-2タンパク質融合体と比較して、より高い純度を示す。いくつかの実施形態において、タンパク質の純度は、SEC-HPLC技術によって検出される。いくつかの好ましい実施形態において、ワンステップタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー精製後、本発明のIL-2変異タンパク質-Fc融合体の純度は、70%、または80%、または90%以上、好ましくは92%、93%、94%、95%、98%もしくは99%以上に達することができる。
【0078】
いくつかの実施形態において、タンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー後の精製タンパク質の純度を測定することによって示されるように、本発明のIL-2-Fc二量体タンパク質は、野生型IL-2タンパク質によって形成された対応するIL-2-Fc二量体タンパク質と比較して、より高い純度を示す。いくつかの実施形態において、タンパク質の純度は、SEC-HPLC技術によって検出される。いくつかの好ましい実施形態において、ワンステップタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィー精製後、本発明のIL-2-Fc二量体タンパク質の純度は、70%、または80%、または90%以上、好ましくは92%、93%、94%、95%、98%もしくは99%以上に達することができる。
【0079】
弱められたIL-2βγ受容体結合性
IL-2Rβγ結合界面に変異を導入することにより、いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、上記変異を導入する前の対応するタンパク質と比較して、弱められたIL-2βγ結合親和性を有する。
【0080】
いくつかの実施形態において、IL-2Rβγ結合界面の変異を導入して弱める前と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL-2Rβおよび/またはIL-2Rβγ受容体への結合親和性が低減する。いくつかの実施形態において、弱める前と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL-2Rβ受容体への結合親和性が低減し、例えば、いくつかの実施形態におけるIL-2Rβ受容体への結合の除去を含めて、1倍~20倍またはそれ以上低減する。いくつかの実施形態において、弱める前と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL-2Rβγ受容体への結合親和性が低減し、例えば1倍~100倍またはそれ以上低減する。いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL-2Rβ受容体と結合しないが、それでもIL-2Rβγ受容体と結合することができ、好ましくは、上記IL-2Rβγ受容体との結合は、弱める前と比較して、例えば、約20倍~80倍など、1倍~100倍低減することができる。SPR親和性測定技術により、Fc断片と融合された本発明のIL-2変異タンパク質またはその二量体分子などの本発明のIL-2変異タンパク質と受容体IL-2RβまたはIL-2Rβγ受容体の平衡解離定数(K)を測定することで、結合親和性を決定することができる。
【0081】
IL-2Rβγ結合界面に変異を導入することにより、いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、上記変異を導入する前の対応するタンパク質と比較して、弱められたIL-2活性、例えば、以下の少なくとも1項から選択されるIL-2活性を有する。
【0082】
-弱める前と比較して、T細胞(例えばCD4+とCD8+T細胞、例えばCD4+/CD8+CD25-T細胞、CD4+CD25+T細胞)に対する活性化の低減、
-弱める前と比較して、NK細胞に対する活性化の低減、
-弱める前と比較して、IL-2によって刺激されるT細胞/NK細胞の炎症性因子の放出の低減。
【0083】
一実施形態において、弱める前と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL-2により媒介されるリンパ球(例えばT細胞および/またはNK細胞)の活性化および/または増殖の低下をもたらす。一実施形態において、リンパ球は、CD25T細胞などのCD4+とCD8+T細胞である。一実施形態において、STAT5リン酸化測定試験において、CD4+とCD8+T細胞を活性化するIL-2変異タンパク質の能力は、IL-2変異タンパク質によるT細胞またはNK細胞などのリンパ球におけるSTAT5リン酸化シグナルの活性化を検出することによって同定される。例えば、最大半量有効濃度(EC50)は、本出願の実施例に記載されるように、フローサイトメトリーによって細胞中のSTAT5リン酸化を分析することによって決定されることができる。例えば、上記の本発明のIL-2弱め分子と対応するタンパク質の、T細胞のSTAT5リン酸化シグナルを活性化するEC50値の比率を検出することにより、本発明のIL-2変異分子は「弱められ」たT細胞活性化活性を有する。当該比率に基づき、本発明のIL-2変異分子のT細胞活性化活性は、例えば5倍以上、例えば10倍以上、または50倍以上、または100倍以上、またはさらに1000倍以上減少することができる。例えば、対応するタンパク質と比較して、本発明のIL-2変異分子のT細胞活性化活性は、10倍~50倍、または50倍~100倍、または100倍~1000倍、またはそれ以上の倍数減少することができる。いくつかの好ましい実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、低減された細胞表面IL-2受容体により媒介されるIL-2のクリアランスを有し、増加したインビボ半減期を示す。
【0084】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、低減されたIL-2およびその受容体により媒介されるインビボ毒性を有する。
【0085】
維持または変化した(好ましくは弱められた)IL-2Rα受容体結合
IL-2タンパク質は、IL-2受容体と相互作用することによってシグナル伝達を開始し、機能を発揮する。野生型IL-2は、異なるIL-2受容体に対して異なる親和性を示す。野生型IL-2との親和性が低いIL-2βおよびγ受容体は、静止エフェクター細胞(CD8T細胞およびNK細胞を含む)上で発現される。野生型IL-2との親和性が高いIL-2Rαは、制御性T細胞(Treg)細胞および活性化エフェクター細胞上で発現される。高い親和性のために、野生型IL-2は、細胞表面のIL-2Rαに優先的に結合し、さらにIL-2Rβγを動員し、IL-2Rβγを介して下流のp-STAT5シグナルを放出し、Treg細胞および活性化エフェクター細胞を刺激する。理論に束縛されることなく、IL-2のIL-2Rα受容体に対する親和性を変化させると、CD25細胞を優先的に活性化するIL-2の偏向性を変化させ、IL-2により媒介されるTreg細胞の免疫ダウンレギュレート作用を変化させる。
【0086】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、維持または変化したIL-2Rα受容体結合能力を有する。
【0087】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、IL-2Rα受容体に対する結合が維持される。本明細書において、「IL-2Rα受容体に対する結合の維持」という表現は、IL-2変異タンパク質が野生型IL-2タンパク質と比較してIL-2Rα受容体と同等の結合活性を有することを指す。好ましくは、「同等の結合活性」は、同じ測定方法によって測定する場合、IL-2変異タンパク質と野生型IL-2タンパク質との結合活性の値(例えば結合親和性K)の間の比率が1:20~20:1の間にあり、好ましくは、1:10~10:1の間にある。好ましくは、IL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、IL-2Rα結合界面の変異を有さない。
【0088】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、弱めIL-2変異分子であり、かつIL-2Rα受容体に対する結合が維持される。さらなるいくつかの実施形態において、本発明の弱めIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、IL-2Rα結合界面の変異を有さない。好ましくは、上記弱めIL-2変異分子は、改善されたTreg選択性および/または改善されたNK細胞(例えば、CD3CD56NK細胞)選択性を有する。一実施形態において、STAT5リン酸化測定試験において、リンパ球に対するIL-2変異タンパク質の選択性は、IL-2変異タンパク質によるTreg細胞、NK細胞、CD4+およびCD8+エフェクターT細胞など、異なるリンパ球におけるSTAT5リン酸化シグナルの活性化を検出することによって同定される。一実施形態において、STAT5リン酸化測定試験において、IL-2変異タンパク質の選択性は、他のリンパ球を実質的に活性化することなく、特定(1種または複数種)のリンパ球を選択的に活性化するIL-2変異タンパク質用量ウィンドウによって反映することができる。例えば、いくつかの実施形態において、本発明の弱めIL-2変異タンパク質は、CD25-/lowCD4+および/またはCD8+エフェクターTリンパ球などのエフェクターT細胞と比較して、改善されたTreg選択性および/または改善されたNK細胞(CD3CD56NK細胞)選択性を示すことができる。さらなるいくつかの実施形態において、改善された選択性は、IL-2変異タンパク質の低い薬物関連毒性によって反映することができる。
【0089】
他のいくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、IL-2変異タンパク質がIL-2Rα受容体結合を低減または排除するIL-2Rα結合界面の変異を導入する。
【0090】
さらなるいくつかの実施形態において、本発明の当該IL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、CD25細胞を優先的に活性化するIL-2の偏向性を低減する。さらなるいくつかの実施形態において、本発明の当該IL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、IL-2により媒介されるTreg細胞の免疫ダウンレギュレート作用を低減する。
【0091】
他のいくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、免疫ダウンレギュレート作用を有する。さらなるいくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、自己免疫疾患の治療に使用することができる。
【0092】
したがって、いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、例えば、以下の1項または複数項から選択される改善された特性を有する。
【0093】
-野生型IL-2と比較して、IL-2R受容体(IL-2Rαβγ、IL-2Rαおよび/またはIL2Rαβγ)に対する結合親和性の維持または変化(例えば、低減または増加、好ましくは低減)、
-野生型IL-2と比較して、CD25+細胞(例えばCD8+T細胞とTreg細胞)に対する活性化の維持または変化(例えば、低減または増加)、
-野生型IL-2と比較して、CD25+細胞(例えばTreg細胞)を優先的に活性化するIL-2の偏向性の維持または変化(例えば、除去もしくは低減、または増加)、
-野生型IL-2と比較して、IL-2により誘導されるTreg細胞による免疫反応のダウンレギュレート作用の維持または変化(例えば、低減または増加)。
【0094】
いくつかの実施形態において、野生型IL-2(例えば、配列番号1または配列番号3に示されるIL-2WT)と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL-2Rα受容体に対する結合親和性が少なくとも5倍、少なくとも10倍、または少なくとも25倍、特に少なくとも30倍、50倍もしくは100倍以上低減した。好ましい実施形態において、本発明の変異タンパク質はIL-2受容体αに結合しない。SPR親和性測定技術により、Fc断片と融合された本発明のIL-2変異タンパク質またはその二量体分子などの本発明のIL-2変異タンパク質と受容体IL-2Rα受容体の平衡解離定数(K)を測定することで、結合親和性を決定することができる。
【0095】
一実施形態において、野生型IL-2と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL-2により媒介されるCD25細胞の活性化および/または増殖の低下をもたらす。一実施形態において、CD25細胞はCD25CD8T細胞である。別の実施形態において、CD25細胞はTreg細胞である。一実施形態において、STAT5リン酸化測定試験において、CD25細胞を活性化するIL-2変異タンパク質の能力は、IL-2変異タンパク質によるCD25細胞におけるSTAT5リン酸化シグナルの活性化を検出することによって同定される。例えば、最大半量有効濃度(EC50)は、本出願の実施例に記載されるように、フローサイトメトリーによって細胞中のSTAT5リン酸化を分析することによって決定されることができる。
【0096】
一実施形態において、野生型IL-2と比較して、本発明のIL-2変異タンパク質は、CD25細胞を優先的に活性化するIL-2の偏向性を除去または低減する。一実施形態において、CD25細胞はCD25CD8T細胞である。別の実施形態において、CD25細胞はTreg細胞である。一実施形態において、STAT5リン酸化測定試験において、CD25細胞を活性化するIL-2変異タンパク質の能力は、それぞれCD25細胞およびCD25細胞においてSTAT5リン酸化シグナルを活性化するIL-2変異タンパク質のEC50値を検出することによって同定される。例えば、CD25細胞に対するIL-2変異タンパク質の活性化偏向性は、CD25およびCD25T細胞でSTAT5リン酸化シグナルを活性化するEC50値の比率を計算することによって決定される。好ましくは、野生型タンパク質と比較して、CD25に対する変異タンパク質の偏向性は、少なくとも10倍、好ましくは少なくとも100倍、150倍、200倍、300倍またはそれ以上低減した。
【0097】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、PCT/CN2021/081840に示される変異タンパク質の特性を有し、上記特許はその全体が本明細書に組み込まれる。

本発明の変異タンパク質
一態様において、本発明は、野生型IL-2(好ましくはヒトIL-2で、より好ましくは配列番号3配列を含むIL-2)と比較して、以下の変異を含むIL-2変異タンパク質を提供する。
【0098】
(i)IL-2とIL-2Rα結合界面において、特に位置35および/または42に、IL-2Rα受容体に対する結合親和性を排除または低減する変異、
かつ/または
(ii)IL-2とIL-2Rβγ結合界面において、特に位置88、127および/または130から選択される少なくとも1つの位置に、IL-2Rβγ受容体に対する結合を弱める/低減する変異、
および
(iii)短縮されたB’C’ループ領域(すなわち、アミノ酸残基aa72とaa84を連結する配列)であって、好ましくは、上記短縮されたループ領域は10個、9個、8個、7個、6個、または5個未満のアミノ酸長を有し、かつ好ましくは7個のアミノ酸長であり、好ましくは、上記短縮されたB’C’ループ領域はタンパク質の発現量および/または純度の改善をもたらし、
ここで、アミノ酸の位置は配列番号3に従って番号付けられる。
【0099】
一実施形態において、上記変異タンパク質は、変異(i)と(iii)を含むか、または変異(ii)と(iii)を含むか、または(i)、(ii)および(iii)を含む。
【0100】
IL-2Rβγ結合界面の変異
本発明の変異タンパク質に適用されるIL-2Rβγ結合界面の変異は、本発明の他の変異と組み合わせるとともに、IL-2Rβγ結合親和性の弱めもしくは低減および/またはリンパ球(例えばT細胞/NK細胞)を活性化する活性の弱めをもたらすことができる任意の変異であってもよい。
【0101】
このような変異の例は、IL-2とIL-2Rβγ結合界面において、特に位置88、127および130から選択される少なくとも1つの位置に、IL-2Rβγ受容体結合の弱めまたは低減をもたらす変異を含むが、これらに限定されない。
【0102】
いくつかの実施形態において、IL-2Rβγ結合界面の変異は、以下の変異の1つもしくは複数または以下の変異の組み合わせを含む。
【0103】
N88D、N88R、S127E、S130R、N88R+S130RおよびN88R+S127E。
【0104】
他のいくつかの実施形態において、本発明のIL-2Rβγ結合界面の変異を含む本発明のIL-2変異タンパク質は、弱められたかまたは低減したIL-2Rβγ結合を有し、例えば、SPR親和性測定による弱められたかまたは低減したIL-2Rβγ結合親和性を有する。
【0105】
B’C’ループ領域の変異
一態様において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、B’C’ループ領域の変異を含み、好ましくは上記変異はB’C’ループ領域の安定性の向上をもたらし、より好ましくは、上記変異は本発明のIL-2変異タンパク質が増加された発現量および/または純度など、改善された創薬可能性を有することをもたらす。
【0106】
いくつかの実施形態において、導入された変異は、野生型IL-2(好ましくはヒトIL-2、より好ましくは配列番号3配列を含むIL-2)と比較して、変異タンパク質が短縮されたB’C’ループ領域(すなわち、アミノ酸残基aa72とaa84との間の連結配列長が短縮された)を含むことをもたらす。
【0107】
好ましくは、上記短縮されたループ領域は、10個、9個、8個、7個、6個または5個未満のアミノ酸長を有し、かつ好ましくは7個のアミノ酸長であり、ここで、アミノ酸残基は配列番号3に従って番号付けられる。
【0108】
本明細書において、本発明に適用されるB’C’ループ領域の変異はB’C’ループ領域の切り詰めおよび置換を含む。一実施形態において、上記変異は、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa73~aa83の切り詰め(例えば、B’C’ループ領域の1、2、3、もしくは4個のアミノ酸の切り詰め)または置換を含み、例えば、A(Q/G)SKN(F/I)Hに切り詰め、好ましくはAQSKNFHに切り詰め、またはSGDASIHに置換する。他の実施形態において、上記変異は、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa74~aa83の切り詰めまたは置換を含み、例えば、(Q/G)SKN(F/I)Hに切り詰め、またはGDASIHもしくはAGDASIHに置換する。
【0109】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、B’C’ループキメラ変異を含む。野生型IL-2と比較して、上記変異タンパク質は、他の4ヘリックス短鎖サイトカインファミリーのメンバー由来の短いB’C’ループ配列による置換など、aa72~aa84を連結する配列のすべてまたは一部に対する置換を含む。IL-15、IL-4、IL-21などの他の4ヘリックス短鎖サイトカインILファミリーのメンバーから、または非ヒト種(例えば、マウス)由来のILファミリーのメンバーから、結晶構造のsuperposeにより、野生型IL-2を置換するのに適用される短いB’C’ループを同定することができる。一実施形態において、置換のための配列は、インターロイキンIL-15(特にヒトIL-15)由来のB’C’ループ配列である。一実施形態において、上記置換は、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa73~aa83の置換を含む。他の実施形態において、上記置換は、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa74~aa83の置換を含む。好ましくは、置換後、本発明のIL-2変異タンパク質は、SGDASIHまたはAGDASIHから選択され、AGDASIHが好ましいB’C’ループ配列(すなわち、aa72~aa84を連結する配列)を有する。
【0110】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、B’C’ループ切り詰め変異を含む。野生型IL-2と比較して、上記変異タンパク質は、aa72~aa84を連結する配列に対する切り詰めを含む。一実施形態において、上記切り詰めは、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa73~aa83の切り詰めを含む。他の実施形態において、上記切り詰めは、B’C’ループ領域のアミノ酸残基aa74~aa83の切り詰めを含む。例えば、C末端から1個、2個、3個または4個のアミノ酸を切り詰めることができる。好ましくは、切り詰め後、本発明のIL-2変異タンパク質のB’C’ループ領域は配列A(Q/G)SKN(F/I)Hを有し、好ましくは、AQSKNFHである。好ましくは、切り詰め後、本発明のIL-2変異タンパク質は以下から選択されるB’C’ループ配列(すなわち、aa72~aa84を連結する配列)を有する。
【0111】
【表3】
1つの好ましい実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、AQSKNFHまたはAGDASIHから選択されるB’C’ループ領域配列(すなわち、aa72~aa84を連結する配列)を含む。
【0112】
IL-2Rα結合界面の変異
一態様において、本発明のIL-2変異タンパク質は、野生型IL-2と比較して、IL-2Rα結合界面において、好ましくは位置35および/または42に、1つまたは複数の変異を含む。好ましくは、上記変異は、IL-2Rα受容体に対する結合親和性を排除または低減する。
【0113】
いくつかの好ましい実施形態において、本発明のIL-2Rα結合界面の変異は、変異K35Eおよび/またはF42Aを含む。
【0114】
他のいくつかの実施形態において、本発明のIL-2Rα結合界面の変異を含む本発明のIL-2変異タンパク質は、変化したIL-2Rα結合を有し、例えば、SPR親和性測定による変化した(好ましくは、低減または排除した)IL-2Rα結合を有する。
【0115】
他の変異
上記「IL-2Rβγ結合界面の変異」、「B’C’ループ領域の変異」および「IL-2Rα結合界面の変異」を除いて、本発明のIL-2変異タンパク質の上記の1つまたは複数の有益な特性を保持すれば、本発明のIL-2変異タンパク質は、他の領域または位置に1つまたは複数の変異をさらに有してもよい。例えば、本発明のIL-2変異タンパク質は、発現または均質性または安定性の改善などのさらなる利点を提供するために、位置125での置換、例えばC125S、C125A、C125T、またはC125Vをさらに含んでもよい(例えば、米国特許第4,518,584号参照)。さらに、例えば、本発明のIL-2変異タンパク質は、IL2のN末端でのO糖修飾を除去するために、T3Aなど、位置3での置換をさらに含んでもよい。当業者は、本発明のIL-2変異タンパク質に組み込まれることができる追加の変異をどのように決定するかを知っている。
【0116】
好ましい例示的な変異の組み合わせ
いくつかの好ましい実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、弱められたIL-2Rβγ結合を有し、かつ(i)低減された(または排除された)IL-2Rα結合、および(ii)改善された発現レベルと純度の1項またはすべて2項から選択される改善された特性を有する。いくつかの実施形態において、上記IL-2変異タンパク質は、野生型IL-2タンパク質と比較して、IL-2Rα受容体結合が維持される。
【0117】
いくつかの実施形態において、本発明は、野生型IL-2と比較して、以下を含むIL-2変異タンパク質を提供する。
【0118】
(i)N88D、
N88R、
N88R+S130R、
F42A+N88R+S127E、または
K35E+N88R+S127E、
および
(ii)B’C’ループ領域配列AGDASIHまたはAQSKNFH、
ならびに、任意に(iii)T3Aを含む。
【0119】
いくつかの実施形態において、本発明は、野生型IL-2と比較して、以下を含むIL-2変異タンパク質を提供する。
【0120】
(i)N88D、
N88R、
N88R+S130R、
F42A+N88R+S127E、または
K35E+N88R+S127E、
および
(ii)B’C’ループ領域配列AGDASIHまたはAQSKNFH、
ならびに、(iii)T3Aを含む。
【0121】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号4のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号4のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、N88D置換およびB’C’ループ領域配列AGDASIH、ならびに、任意にT3Aを含む。
【0122】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号23のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号23のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号23のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、N88R置換およびB’C’ループ領域配列AGDASIH、ならびに、任意にT3Aを含む。
【0123】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号25のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号25のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号25のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、N88R+S130R置換およびB’C’ループ領域配列AGDASIH、および任意にT3Aを含む。
【0124】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号27のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号27のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号27のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、F42A+N88R+S127E置換およびB’C’ループ領域配列AQSKNFH、および任意にT3Aを含む。
【0125】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号29のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号29のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号29のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、F42A+N88R+S127E置換およびB’C’ループ領域配列AGDASIH、および任意にT3Aを含む。
【0126】
いくつかの実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号31のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号31のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、K35E+N88R+S127E置換およびB’C’ループ領域配列AQSKNFH、および任意にT3Aを含む。
【0127】
本発明に適用される変異および変異の組み合わせについては、本出願人の同時係属中の出願PCT/CN2021/081840を参照することもできる。当該出願は、全て参照として本明細書に組み込まれている。
【0128】
IL-2変異タンパク質と野生型タンパク質との間の配列の相違点は、配列同一性によって表してもよく、または両方の間の異なるアミノ酸の数によって表してもよい。一実施形態において、IL-2変異タンパク質と野生型タンパク質との間は、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%の同一性、好ましくは90%以上の同一性、好ましくは95%であるが、好ましくは97%以下、より好ましくは96%以下の同一性を有する。他の実施形態において、本発明の上記変異を除いて、IL-2変異タンパク質と野生型タンパク質との間は、15個以下、例えば1個~10個、または1個~5個の変異、例えば、0個、1個、2個、3個、4個の変異を有してもよい。一実施形態において、上記残りの変異は保存的置換であってもよい。
III.融合タンパク質とIL-2-Fc二量体タンパク質
一態様において、本発明は、本発明のIL-2変異タンパク質を含む融合タンパク質をさらに提供する。1つの好ましい実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質は、改善された薬物動態特性を付与することができる別のポリペプチド、例えばアルブミン、より好ましくは抗体Fc断片と融合される。
【0129】
一実施形態において、本発明は、抗体Fc断片と融合される本発明のIL-2変異タンパク質を含むIL-2変異タンパク質融合タンパク質を提供する。
【0130】
本発明に使用されるFc断片は、エフェクター機能を低減または除去する変異を含むことができる。一好ましい実施形態において、Fc断片は、低減されたFc領域により媒介されるエフェクター機能を有し、例えば低減または排除されたADCCおよび/またはADCPおよび/またはCDCエフェクター機能を有する。例えば、いくつかの特別な実施形態において、本発明に使用されるFc断片は、Fcγ受容体に対する結合を低減するL234A/L235A変異またはL234A/L235E/G237Aを有する。
【0131】
さらなる好ましい実施形態において、Fc断片は、血清半減期を増加する変異、例えばFc断片とFcRnとの結合を改善する変異を有してもよい。
【0132】
いくつかの実施形態において、IL-2変異タンパク質と融合されるFc断片は、ヒトIgG1 Fc、ヒトIgG2 FcまたはヒトIgG4 FcなどのヒトIgG Fcである。一実施形態において、Fc断片は、配列番号6、配列番号12、配列番号42もしくは配列番号43のアミノ酸配列またはそれらと少なくとも90%の同一性、例えば95%、96%、97%、99%もしくはそれ以上の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、あるいはそれらからなる。
【0133】
いくつかの実施形態において、IL-2変異タンパク質は、直接またはリンカーによってFcと融合される。いくつかの実施形態において、CD25T細胞に対するFc融合タンパク質の活性化作用を向上させるために、リンカーを選択することができる。一実施形態において、リンカーは(GGGGS)またはGSGSであり、より好ましくは(GGGGS)である。
【0134】
さらなる態様において、本発明はまた、Fc断片と融合される本発明のIL-2変異タンパク質を含む二量体分子を提供する。このような二量体分子は、分子量を60KDa~80KDaに増加させ、腎クリアランスを大幅に減少させ、かつインビボでのFcRn媒介リサイクルを通じて、IL2-Fc融合タンパク質の半減期をさらに延長することができる。
【0135】
いくつかの実施形態において、本発明により提供されるIL-2-Fc二量体タンパク質は、ホモ二量体であり、ここで、第1のモノマーと第2のモノマーはそれぞれ、N末端からC末端まで、i)IL-2変異タンパク質、ii)リンカー、およびiii)Fc断片を含む。
【0136】
他のいくつかの実施形態において、本発明により提供されるIL-2-Fc二量体タンパク質は、ヘテロ二量体であり、
a)N末端からC末端まで、i)IL-2変異タンパク質、ii)リンカー、およびiii)第1のFc断片を含む第1のモノマーと、
b)第2のFc断片を含む第2のモノマーと、を含む。
【0137】
いくつかの実施形態において、第1のFc断片と第2のFc断片はそれぞれ、第1のモノマーと第2のモノマーがヘテロ二量体を形成することを促進する第1と第2のヘテロ二量体化変異を含む。いくつかの好ましい実施形態において、第1と第2のヘテロ二量体化変異は、、Knob:Hole変異の組み合わせ、例えば変異の組み合わせT366W/S354C:Y349C/T366S/L368A/Y407Vを含む。
【0138】
いくつかの好ましい実施形態において、第1のFc断片における第1のヘテロ二量体変異はKnob変異を含み、第2のFc断片における第2のヘテロ二量体変異はHole変異を含み、あるいは、第1のFc断片における第1のヘテロ二量体変異はHole変異を含み、第2のFc断片における第2のヘテロ二量体変異はKnob変異を含む。
【0139】
当業者に理解されるように、本発明に適用される融合タンパク質と二量体分子のFc断片は任意の抗体Fc断片であってもよい。一実施形態において、本発明のFc断片は、エフェクター機能サイレントである。
【0140】
一実施形態において、Fc領域のエフェクター機能とFc領域の補体活性化機能から選択される1つまたは複数の特性でFc断片を修飾する。一実施形態において、上記エフェクター機能または補体活性化機能は、同じアイソタイプの野生型Fc領域と比較して、低減または排除されている。一実施形態において、Fc領域のグリコシル化を低減すること、低減または排除されたエフェクター機能を天然に有するFcアイソタイプを使用すること、およびFc領域を修飾することなどの方法によって、エフェクター機能を低減または排除する。
【0141】
一実施形態において、Fc領域のグリコシル化を低減することによってエフェクター機能を低減または排除する。一実施形態において、野生型のグリコシル化を許容しない環境で本発明の融合タンパク質または二量体分子を生産すること、Fc領域ですでに存在する炭水化物基を除去すること、および野生型のグリコシル化が起こらないようにFc領域を修飾することなどの方法によって、Fc領域のグリコシル化を低減する。一実施形態において、野生型のグリコシル化が起こらないように修飾する方法によって、Fc領域のグリコシル化を低減し、例えば、下記位置の野生型アスパラギン残基が当該位置のグリコシル化に干渉する別のアミノ酸で置換されるように、Fc領域の位置297で変異、例えばN297A変異を含む。
【0142】
一実施形態において、少なくとも1つのFc領域の修飾によって、エフェクター機能を低減または排除する。一実施形態において、少なくとも1つのFc領域の修飾は、位置238、239、248、249、252、254、265、268、269、270、272、278、289、292、293、294、295、296、297、298、301、303、322、324、327、329、333、335、338、340、373、376、382、388、389、414、416、419、434、435、437、438および439から選択され、1つまたは複数のFc受容体との結合を破壊するFc領域の点変異、位置270、322、329および321から選択され、C1qとの結合を破壊するFc領域の点変異、およびCH1構造ドメインの位置132の点変異から選択される。一実施形態において、エフェクター機能は、Fc領域における点変異L234A&L235A(すなわち、LALA変異)によって低減または排除される。一実施形態において、上記修飾は、位置270、322、329および321から選択され、C1qとの結合を破壊するFc領域の点変異である。別の実施形態において、上記修飾は、いくつかのFc領域を排除することである。
【0143】
当業者に理解されるように、本発明のヘテロ二量体の形成を促進するために、本発明の二量体分子のFc断片は、第1のモノマーと第2のモノマーの二量体化に有利な変異を含むことができる。好ましくは、Knob-in-Hole技術に基づいて、第1のモノマーと第2のモノマーに対応するKnob変異とHole変異を導入する。
【0144】
したがって、一実施形態において、本発明の二量体分子は、
i)任意に変異P329G、L234AおよびL235Aを有するか、または変異L234AおよびL235Aを有するヒトIgG1サブクラスのホモ二量体Fc-領域、あるいは
ii)任意に変異P329G、S228PおよびL235Eを有する、ヒトIgG4サブクラスのホモ二量体Fc-領域、あるいは
iii)ヘテロ二量体Fc-領域であって、ここで、
a) 1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366Wを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368AおよびY407Vを含み、または
b) 1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびY349Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびS354Cを含み、または
c) 1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびS354Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびY349Cを含む、ヘテロ二量体Fc-領域、
あるいは
iv)ヒトIgG4サブクラスのヘテロ二量体Fc-領域であって、ここで、2つのFc-領域ポリペプチドはいずれも、変異P329G、L234AおよびL235Aを含み、かつ
a) 1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366Wを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368AおよびY407Vを含み、または
b) 1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびY349Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびS354Cを含み、または
c) 1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびS354Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびY349Cを含む、ヒトIgG4サブクラスのヘテロ二量体Fc-領域、
あるいは
v)ヒトIgG4サブクラスのヘテロ二量体Fc-領域であって、ここで、2つのFc-領域ポリペプチドはいずれも、変異P329G、S228PおよびL235Eを含み、かつ
a) 1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366Wを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368AおよびY407Vを含み、または
b) 1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびY349Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびS354Cを含み、または
c) 1つのFc-領域ポリペプチドは変異T366WおよびS354Cを含み、別のFc-領域ポリペプチドは変異T366S、L368A、Y407VおよびY349Cを含む、ヒトIgG4サブクラスのヘテロ二量体Fc-領域、を含む。
【0145】
いくつかの実施形態において、Fc領域は、ヘテロ二量体の精製に有利な他の変異をさらに含む。例えば、タンパク質Aを使用したヘテロ二量体の精製を容易にするために、H435R変異(Eric J.Smith、Scientific Reports | 5:17943 | DOI:10.1038/srep17943)をヘテロ二量体のFc領域の1つ(例えば、Hole変異を持つFc領域)に導入することができる。他のいくつかの実施形態において、ヒンジ領域を含むヘテロ二量体モノマーに関しては、ヘテロ二量体の形成を容易にするために、ヒンジ領域にC220Sなどの変異を導入することもできる。
【0146】
本発明の融合タンパク質に適用されるFc領域は、本発明の免疫複合体におけるFc部分として使用することもできる。
【0147】
いくつかの実施形態において、Fc領域と融合されるIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号7、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30もしくは配列番号32のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号7、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30もしくは配列番号32のアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(iii)配列番号7、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30もしくは配列番号32のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
ここで、上記IL-2変異タンパク質は本明細書に記載の変異を含む。
【0148】
いくつかの実施形態において、本発明のFcと融合されるIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号7のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号7のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、N88D置換およびB’C’ループ領域配列AGDASIH、ならびに、任意にT3Aを含む。
【0149】
いくつかの実施形態において、本発明のFcと融合されるIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号24のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号24のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、N88R置換およびB’C’ループ領域配列AGDASIH、ならびに、任意にT3Aを含む。
【0150】
いくつかの実施形態において、本発明のFcと融合されるIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号26のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号26のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号26のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5、4、3、2、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、N88R+S130R置換およびB’C’ループ領域配列AGDASIH、および任意にT3Aを含む。
【0151】
いくつかの実施形態において、本発明のFcと融合されるIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号28のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号28のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号28のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5、4、3、2、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、F42A+N88R+S127E置換およびB’C’ループ領域配列AQSKNFH、および任意にT3Aを含む。
【0152】
いくつかの実施形態において、本発明のFcと融合されるIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号30のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号30のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号30のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5、4、3、2、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、F42A+N88R+S127E置換およびB’C’ループ領域配列AGDASIH、および任意にT3Aを含む。
【0153】
いくつかの実施形態において、本発明のFcと融合されるIL-2変異タンパク質は、
(i)配列番号32のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号32のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号32のアミノ酸配列と比較して、1つまたは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5、4、3、2、1個以下)のアミノ酸変化を含み、
好ましくは、上記変異タンパク質は、K35E+N88R+S127E置換およびB’C’ループ領域配列AQSKNFH、および任意にT3Aを含む。
【0154】
当業者には明らかなように、本発明に適用される融合タンパク質と二量体分子においてIL-2変異タンパク質とFc断片を連結するリンカーは、当該分野で既知の任意のリンカーであってもよい。いくつかの実施形態において、リンカーはIgG1ヒンジを含んでもよく、または(GS)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、および(GGGS)nから選択されるリンカー配列を含んでもよく、ここで、nは少なくとも1の整数である。好ましくは、リンカーは、(GS)、すなわちGGGGSGGGGS(配列番号5)を含む。
IV.免疫複合体
本発明は、本発明のIL2変異タンパク質またはIL-2変異タンパク質融合タンパク質(例えば、Fc断片と融合した融合タンパク質)および抗原結合分子を含む免疫複合体をさらに提供する。好ましくは、抗原結合分子は、免疫グロブリン分子、特にIgG分子、または抗体もしくは抗体断片、特にFab分子およびscFv分子、または半抗体(1つの重鎖および1つの軽鎖を含む、または1つの重鎖と1つの軽鎖で構成される)である。
【0155】
いくつかの実施形態において、上記抗原結合分子は、腫瘍細胞上または腫瘍環境中に提示される抗原に特異的に結合し、特に好ましくは、PD-1、PD-L1および/またはPD-L2である。したがって、本発明の免疫複合体は、対象への投与後に腫瘍細胞または腫瘍環境を標的にすることができ、さらなる治療上の利点、例えば、より低い用量での治療の可能性およびそれによる副作用の低減、免疫療法効果または抗腫瘍効果の増強などを提供する。
【0156】
本発明の免疫複合体において、本発明のIL-2変異タンパク質は、別の分子または抗原結合分子に直接またはリンカーを介して結合することができ、かついくつかの実施形態において、タンパク質加水分解切断部位が両者の間に含まれる。本発明の免疫複合体において、本発明のIL-2変異タンパク質またはその融合タンパク質は、二量体化を介して他の分子または抗原結合分子に連結されてもよい。
【0157】
いくつかの実施形態において、上記抗体は、腫瘍に関連する抗原に対する抗体、例えばPD-1、PD-L1もしくはPD-L2である。
【0158】
IL-2変異タンパク質との連結に適する抗体は、完全な抗体、またはその抗原結合断片であってもよい。いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、IgG1形態の抗体、IgG2形態の抗体、IgG3形態の抗体またはIgG4形態の抗体であり、好ましくは、IgG1形態の抗体である。いくつかの実施形態において、本発明の抗体はモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態において、本発明の抗体はヒト化されたものである。いくつかの実施形態において、本発明の抗体はヒト抗体である。いくつかの実施形態において、本発明の抗体はキメラ抗体である。一実施形態において、本発明の抗体の抗原結合断片は、Fab、Fab’、Fab’-SH、Fv、単鎖抗体(例えばscFv)、(Fab’)2、単一ドメイン抗体(例えばVHH)、dAb(domain antibody)、線状抗体または半抗体という抗体断片から選択される。
【0159】
本発明の一実施形態において、本発明の免疫複合体は、IL-2変異タンパク質またはその融合タンパク質、および抗PD-1抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0160】
本発明の一実施形態において、本発明の免疫複合体は、
Fc断片と融合されるIL-2変異タンパク質を含む第1のモノマー、および
PD-1に特異的に結合する抗体またはその断片を含む第2のモノマーであって、好ましくは、上記抗PD-1抗体の1つの重鎖および1つの軽鎖を含む断片である、第2のモノマーを含む。
【0161】
いくつかの実施形態において、第1のモノマーのFc断片にKnob変異を含み、第2のモノマーの抗体重鎖にhole変異を含み、逆にも同じである。いくつかの実施形態において、Knob変異は、Knob:S354C&T366Wであり、かつ/またはHole変異は、Y349C&T366S&L368A&Y407Vである。
【0162】
一具体的な実施形態において、本発明のIL-2変異タンパク質融合タンパク質は、図1AのFormat1に示される形態を有する。
【0163】
本発明の一実施形態において、上記PD-1に対する抗体またはその抗原結合断片は、WO2017024465A1に開示される抗PD-1抗体またはその抗原結合断片である。一実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、WO2017024465A1に開示される抗PD-1抗体またはその抗原結合断片の1つもしくは複数のCDR(好ましくは3つのCDR、すなわちHCDR1、HCDR2HおよびHCDR3、またはLCDR1、LCDR2およびLCDR3、より好ましくは6つのCDR、すなわちHCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3)を含むか、またはWO2017024465A1に開示される抗PD-1抗体またはその抗原結合断片のVHおよび/またはVLを含むか、または上記抗体の重鎖および/または軽鎖を含む。
【0164】
いくつかの実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(HCDR)であるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む。いくつかの実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、軽鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(LCDR)であるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。いくつかの実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(HCDR)と、軽鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(LCDR)とを含む。
【0165】
いくつかの態様において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)を含む。いくつかの態様において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、軽鎖可変領域(VH)を含む。いくつかの態様において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む。いくつかの実施形態において、上記重鎖可変領域は、重鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(CDR)であるHCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む。いくつかの実施形態において、上記軽鎖可変領域は、軽鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(CDR)であるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0166】
いくつかの実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、抗体重鎖を含む。いくつかの実施形態において、上記抗PD-1抗体重鎖は、重鎖可変領域および重鎖定常領域を含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、抗体軽鎖を含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗PD-1抗体の軽鎖は、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、重鎖および軽鎖をさらに含む。
【0167】
いくつかの実施形態において、上記重鎖可変領域VHは、
(i)配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号8のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号8のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくはアミノ酸保存的置換)を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、好ましくは、上記アミノ酸変化はCDR領域に生じない。
【0168】
いくつかの実施形態において、上記軽鎖可変領域VLは、
(i)配列番号15のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、あるいは
(ii)配列番号15のアミノ酸配列を含むか、またはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号15のアミノ酸配列と比較して、1つもしくは複数(好ましくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくはアミノ酸保存的置換)を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、好ましくは、上記アミノ酸変化はCDR領域に生じない。
【0169】
いくつかの実施形態において、上記重鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(HCDR)であるHCDR1、HCDR2およびHCDR3は、
(i)配列番号8に示されるVHに含まれる3つの相補性決定領域であるHCDR1、HCDR2およびHCDR3、あるいは
(ii)(i)の配列に対して、上記3つのHCDR領域に合計で少なくとも1個であり、かつ5個、4個、3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)が含まれる配列、から選択される。
【0170】
いくつかの実施形態において、上記軽鎖可変領域からの3つの相補性決定領域(LCDR)であるLCDR1、LCDR2およびLCDR3は、
(i)配列番号15に示されるVLに含まれる3つの相補性決定領域であるLCDR1、LCDR2およびLCDR3、あるいは
(ii)(i)の配列に対して、上記3つのLCDR領域に合計で少なくとも1個であり、かつ5個、4個、3個、2個もしくは1個以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)が含まれる配列、から選択される。
【0171】
いくつかの実施形態において、HCDR1は、配列番号9のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、HCDR1は、配列番号9のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0172】
いくつかの実施形態において、HCDR2は、配列番号10のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、HCDR2は、配列番号10のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0173】
いくつかの実施形態において、HCDR3は、配列番号11のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、HCDR3は、配列番号11のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0174】
いくつかの実施形態において、LCDR1は、配列番号16のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、LCDR1は、配列番号16のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0175】
いくつかの実施形態において、LCDR2は、配列番号17のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、LCDR2は、配列番号17のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0176】
いくつかの実施形態において、LCDR3は、配列番号18のアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは、LCDR3は、配列番号18のアミノ酸配列と比較して1個、2個もしくは3個の変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0177】
いくつかの実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片の重鎖定常領域HCは、IgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4の重鎖定常領域、好ましくはIgG1の重鎖定常領域であり、例えばL234A&L235A(LALA)変異を有するIgG1の重鎖定常領域である。いくつかの実施形態において、重鎖定常領域にknob-into-holeの変異を導入する。例えばS354CおよびT366Wの変異を導入してknob変異を含む抗体重鎖を取得し、および/またはY349C&T366S&L368A&Y407Vの変異を導入してhole変異を含む抗体重鎖を取得する。いくつかの実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片の軽鎖定常領域は、lambdaまたはKappa軽鎖定常領域である。
【0178】
いくつかの実施形態において、上記抗体またはその抗原結合断片の重鎖定常領域は、
(i)配列番号21から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、
(ii)配列番号21から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号21から選択されるアミノ酸配列と比較して1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくはアミノ酸保存的置換)を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0179】
いくつかの実施形態において、上記抗体またはその抗原結合断片のhole変異を含む重鎖定常領域は、
(i)配列番号13から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、
(ii)配列番号13から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号13から選択されるアミノ酸配列と比較して1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくはアミノ酸保存的置換)を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0180】
いくつかの実施形態において、上記抗体またはその抗原結合断片のhole変異を含む重鎖は、
(i)配列番号14から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、
(ii)配列番号14から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号14から選択されるアミノ酸配列と比較して1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくはアミノ酸保存的置換)を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0181】
いくつかの実施形態において、上記抗体またはその抗原結合断片の重鎖は、
(i)配列番号22から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、
(ii)配列番号22から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号22から選択されるアミノ酸配列と比較して1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくはアミノ酸保存的置換)を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0182】
いくつかの実施形態において、上記抗体またはその抗原結合断片の軽鎖定常領域は、
(i)配列番号19から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、
(ii)配列番号19から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号19から選択されるアミノ酸配列と比較して1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくはアミノ酸保存的置換)を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0183】
いくつかの実施形態において、上記抗体またはその抗原結合断片の軽鎖は、
(i)配列番号20から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、またはそれらからなり、
(ii)配列番号20から選択されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなり、あるいは
(iii)配列番号20から選択されるアミノ酸配列と比較して1つもしくは複数(好ましくは20個もしくは10個以下、より好ましくは5個、4個、3個、2個、1個以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくはアミノ酸保存的置換)を有するアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなる。
【0184】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号8に示されるVHに含まれる3つの相補性決定領域HCDR1、HCDR2およびHCDR3、ならびに配列番号15に示されるVLに含まれる3つの相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0185】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、
それぞれアミノ酸配列の配列番号9、配列番号10および配列番号11に示されるHCDR1、HCDR2およびHCDR3、ならびに、それぞれアミノ酸配列の配列番号16、配列番号17および配列番号18に示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0186】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号8に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかあるいはそれらからなるVHと、配列番号15に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかあるいはそれらからなるVLと、を含む。
【0187】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、上記抗PD-1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号14もしくは配列番号22に示されるアミノ酸配列またはそれらと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかあるいはそれらからなる重鎖と、配列番号20に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかあるいはそれらからなる軽鎖と、を含む。
【0188】
いくつかの好ましい実施形態において、上記免疫複合体中の抗PD-1抗体断片は、1つの重鎖および1つの軽鎖を含むか、またはそれらからなる。
【0189】
本発明のいくつかの具体的な実施形態において、上記抗PD-1抗体断片は、
配列番号14に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかあるいはそれらからなる、hole変異を含む重鎖、および
配列番号20に示されるアミノ酸配列またはそれと少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むかあるいはそれらからなる軽鎖を含む。
【0190】
本発明の免疫複合体は、好ましくは、抗PD-1抗体と比較して、IL-2変異タンパク質もしくはそのFcとの融合タンパク質と比較して、および/または抗PD-1抗体およびIL-2変異タンパク質を含む既知の免疫複合体と比較して、以下の特性の1つもしくは複数もしくはすべてを有する:
(1)特に野生型IL-2またはその融合タンパク質と比較して、IL-2Rαに対する結合親和性が低減または排除しており、
(2)特にIL-2変異タンパク質またはそのFcとの融合タンパク質と比較して、および/または抗PD-1抗体およびIL-2変異タンパク質を含む既知の免疫複合体と比較して、IL-2Rβγに対する結合親和性が低減しており、
(3)PD-1を発現する細胞を選択的に活性化することができ、すなわち、PD-1に対して高度選択性を有し、
(4)PD-1を発現しないT細胞(例えば、CD8+またはCD4+T細胞)では活性が低く、PD-1を発現するT細胞(例えば、CD8+またはCD4+T細胞)では活性が高く、特に抗PD-1抗体およびIL-2変異タンパク質を含む既知の免疫複合体と比較して、PD-1に対する高度選択性を有することを示し、
(5)IL-2受容体を発現する(例えば、過剰発現する)細胞におけるIL-2の活性は、特に抗PD-1抗体およびIL-2変異タンパク質を含む既知の免疫複合体と比較してより弱く、
(6)IL-2受容体とPD-1を発現する細胞において、IL-2受容体を発現するがPD-1を発現しない細胞より強いIL-2活性を有し、PD-1陽性細胞に対する選択性を示し、
(7)好ましくは、抗PD-1抗体と比較するか、IL-2変異タンパク質もしくはそのFcとの融合タンパク質と比較するか、または抗PD-1抗体とIL-2変異タンパク質もしくはその融合タンパク質との併用と比較するか、かつ/または抗PD-1抗体およびIL-2変異タンパク質を含む既知の免疫複合体と比較して、より強力な抗腫瘍効果を有し、および/またはより低い毒性(例えば、治療対象の体重に影響しないか、または影響が比較的少ない)を有する。

V.ポリヌクレオチド、ベクターおよび宿主
本発明は、上記IL-2変異タンパク質または融合タンパク質または二量体分子または複合体のいずれかの鎖またはいずれかのモノマーまたはドメインをコードする核酸を提供する。本発明の変異タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列は、当該分野で周知の方法により、新規固相DNA合成、または野生型IL-2をコードする既存の配列のPCR変異誘発によって産生することができる。なお、本発明のポリヌクレオチドおよび核酸は、分泌シグナルペプチドをコードするセグメントを含んでもよく、本発明の変異タンパク質をコードするセグメントに操作可能に連結されて、本発明の変異タンパク質の分泌発現を誘導することができる。
【0191】
本発明はまた、本発明の核酸を含むベクターを提供する。一実施形態において、ベクターは発現ベクター、例えば、真核発現ベクターである。ベクターは、ウイルス、プラスミド、コスミド、λファージまたは酵母人工染色体(YAC)を含むが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、本発明の発現ベクターはpYDO_017発現ベクターである。
【0192】
本発明はまた、上記核酸または上記ベクターを含む宿主細胞を提供する。変異IL-2タンパク質または融合体または二量体または免疫複合体の発現を複製および支持するのに適用される宿主細胞は、当該分野で周知である。特定の発現ベクターでこのような細胞をトランスフェクションまたは形質導入することができるとともに、ベクターを含む多くの細胞を大規模な発酵槽に接種するために増殖させることができ、臨床的使用のための十分な量のIL-2変異体または融合体または二量体または免疫複合体が得られる。一実施形態において、宿主細胞は真核のものである。別の実施形態において、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞もしくは293細胞)から選ばれる。有用な哺乳動物宿主細胞系の例は、SV40により形質転換されたサル腎臓CV1系(COS-7)、ヒト胎児腎臓系(例えばGrahamら、JGenVirol36、59(1977)に記載された293または293T細胞)、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ(sertoli)細胞(例えばMather、BiolReprod23、243-251(1980)に記載されたTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト子宮頸がん細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、buffaloラット肝臓細胞(BRL3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(HepG2)、マウス乳房腫瘍細胞(MMT060562)、TRI細胞(例えばMatherら、AnnalsN.Y.AcadSci383、44-68(1982)に記載された)、MRC5細胞およびFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株は、dhfr-CHO細胞(Urlaubら、ProcNatlAcadSciUSA77、4216(1980))を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、およびYO、NS0、P3X63およびSp2/0などの骨髄腫細胞株を含む。一実施形態において、宿主細胞は真核生物細胞であり、好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒト胎児腎臓(HEK)細胞、またはリンパ球(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)などの哺乳動物細胞である。
VI.調製方法
さらなる態様において、本発明は、本発明のIL-2変異タンパク質または融合体または二量体または複合体を調製する方法を提供し、上記方法は、IL-2変異タンパク質または融合体または二量体または複合体の発現に適した条件下で、上記タンパク質または融合体または二量体または複合体をコードする核酸を含む上記で提供されるような宿主細胞を培養するステップと、任意に上記宿主細胞(または宿主細胞培地)から上記タンパク質または融合体または二量体または複合体を回収するステップとを含む。
【0193】
一実施形態において、IL-2変異タンパク質をコードする核酸を含むベクターを細胞内にトランスフェクショして発現させ、次いで細胞(または細胞培養上清)を収集し、上記IL-2変異タンパク質を抽出し、精製して上記IL-2変異タンパク質を得る。一具体的な実施形態において、上記精製方法はアフィニティー精製方法である。別の具体的な実施形態において、上記精製方法はイオン交換精製である。
【0194】
一実施形態において、Fcと融合されるIL-2変異タンパク質をコードする核酸を含むベクターを細胞内にトランスフェクショして発現させ、次いで細胞(または細胞培養上清)を収集し、上記Fcと融合されるIL-2変異タンパク質を抽出し、精製して上記Fcと融合されるIL-2変異タンパク質を得る。一具体的な実施形態において、上記精製方法はアフィニティー精製方法である。別の具体的な実施形態において、上記精製方法はイオン交換精製である。
【0195】
一実施形態において、Fcと融合されるIL-2変異タンパク質をコードする核酸、PD-1抗体重鎖をコードする核酸、およびPD-1抗体軽鎖をコードする核酸を含むベクターを細胞内にトランスフェクショし、それぞれ発現させて免疫複合体として集合させ、その後細胞(または細胞培養上清)を収集し、上記免疫複合体を抽出し、精製を行って上記免疫複合体を得る。一具体的な実施形態において、上記精製方法はアフィニティー精製方法である。別の具体的な実施形態において、上記精製方法はイオン交換精製である。

VII.測定法
当該分野で既知の様々な測定方法を利用して、本明細書により提供されるIL-2変異タンパク質に対して同定、スクリーニング、またはその物理的/化学的特性および/または生物学的活性の特性評価を行うことができる。
【0196】
一態様において、本発明のIL-2変異タンパク質に対してIL-2受容体へのその結合活性を測定することができる。例えば、ELISA、Westernブロットなどのような当該分野で既知の方法、または本明細書の実施例に開示されている例示的な方法によって、ヒトIL-2Rαまたはβタンパク質またはIL-2RβγまたはIL-2Rαβγとの結合を測定することができる。例えば、細胞表面上で変異タンパク質を発現するようにトランスフェクションされた酵母ディスプレイ細胞などの細胞を、標識された(例えばビオチン標識された)IL-2Rαまたはβタンパク質またはIL-2RβγまたはIL-2Rαβγ複合物と反応させるフローサイトメトリーによって測定することができる。代替的には、結合ダイナミクス(例えばK値)を含めて、変異タンパク質の受容体への結合は、IL-2-Fc融合体または二量体分子の形態を使用してSPR測定法において測定することができる。
【0197】
さらなる態様において、受容体結合の下流で起こるシグナル伝達および/または免疫賦活効果を測定することによって、IL-2変異タンパク質のIL-2受容体に結合する能力を間接的に測定することができる。
【0198】
したがって、いくつかの実施形態において、生物学的活性を有する変異IL-2タンパク質を同定するための測定法を提供する。生物学的活性は、例えば、IL-2受容体を有するTおよび/またはNK細胞および/またはTreg細胞の増殖を誘導する能力、IL-2受容体を有するTおよび/またはNK細胞および/またはTreg細胞におけるIL-2シグナル伝達を誘導する能力、低下したT細胞におけるアポトーシスを誘導する能力、腫瘍の退縮を誘導するおよび/または生存を改善する能力、ならびに低下した血管透過性などの低下したインビボ毒性特性を含んでもよい。本発明は、インビボおよび/またはインビトロにこのような生物学的活性を有する変異IL-2タンパク質、そのFc融合体およびそれを含む二量体分子も提供する。
【0199】
当該分野で周知の様な方法は、IL-2の生物学的活性を測定するために使用することができる。例えば、(例えば、二量体分子の形態で)NK細胞によるIFN-γの生成を刺激する本発明のIL-2変異タンパク質の能力を試験するための適切な測定法は、培養されたNK細胞を本発明の変異IL-2タンパク質とインキュベートし、その後、ELISAによって培地中のIFN-γ濃度を測定するステップを含むことができる。IL-2シグナル伝達は、いくつかのシグナル伝達経路を誘導し、JAK(Janusキナーゼ)およびSTAT(シグナル伝達物質および転写活性化因子)シグナル伝達分子に関与する。
【0200】
IL-2と受容体βおよびγサブユニットとの相互作用は、受容体およびJAK1とJAK3(βおよびγサブユニットとそれぞれ結合する)のリン酸化をもたらす。次に、STAT5はリン酸化受容体と結合し、それ自体が非常に重要なチロシン残基上でリン酸化される。これによりSTAT5が受容体から解離し、STAT5が二量体化され、STAT5二量体が細胞核に移行し、当該位置に標的遺伝子の転写を促進する。これにより、IL-2受容体を介してシグナル伝達を誘導する変異体IL-2ポリペプチドの能力は、例えばSTAT5のリン酸化を測定することによって評価することができる。この方法の詳細は、実施例に開示されている。例えば、PBMCを本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または二量体または免疫複合体で処理し、リン酸化STAT5のレベルをフローサイトメトリーによって測定することができる。
【0201】
本発明の抗原に対する抗体との免疫複合体の場合、IL-2の上記活性またはレベルは、抗原を発現する細胞においてアッセイすることによって決定することができる。
【0202】
さらに、腫瘍の増殖および生存に対する変異IL-2またはその融合体または二量体または免疫複合体の影響は、当該分野で知られている様々な動物腫瘍モデルにおいて評価することができる。例えば、癌細胞系の異種移植片を免疫不全マウスに移植し、本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または二量体または免疫複合体で処理することができる。腫瘍抑制率(例えば、アイソタイプ対照抗体と比較して計算される)に基づいて、本発明の変異体IL-2ポリペプチド、融合体、二量体および免疫複合体のインビボ抗腫瘍効果を検出することができる。なお、動物の体重変化(例えば、投与前と比較して、絶対体重の変化または体重変化パーセント)に基づいて、本発明の変異体IL-2ポリペプチド、融合体、二量体分子および免疫複合体のインビボ毒性を測定することができる。死亡率、生存期間観察(行動、体重、体温などの有害作用の目に見える症状)および臨床的および解剖学的病理学(例えば、血液化学値の測定および/または組織病理学的分析)に基づいて、上記インビボ毒性を測定することもできる。
【0203】
さらなる態様において、当該分野で既知の方法によって、発現量と製品の純度などの本発明の変異タンパク質の創薬可能性を特徴付けることができる。発現量の測定について、変異タンパク質が培養細胞から分泌され、培養上清で発現される場合、遠心分離により収集された細胞培養液のタンパク質含有量を測定することができる。あるいは、収集された細胞培養液のワンステップの精製後に、例えばワンステップアフィニティークロマトグラフィー精製後に、測定することができる。製品純度の測定について、得られた生産細胞の培養上清に対してワンステップアフィニティークロマトグラフィー精製を実施した後、純度を測定して、変異タンパク質の精製性能を検出することができる。好ましくは、本発明の変異タンパク質は、このワンステップアフィニティークロマトグラフィーによる精製後、野生型タンパク質よりも顕著に優れた純度を有し、本発明の変異タンパク質がより良好な精製性能を有することを示している。純度測定法は、SEC-HPLC法を含むが、これに限定されない、当該分野で既知の任意の従来の方法であってもよい。
【0204】
さらに別の態様において、本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または二量体または免疫複合体の半減期などの薬物動態特性は、当該分野で知られている方法によって特徴付けることができる。
VIII.医薬組成物および医薬製剤
本発明は、変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または二量体または免疫複合体を含む組成物(医薬組成物または医薬製剤を含む)、および変異体IL-2ポリペプチドまたは融合物または二量体または免疫複合体をコードするポリヌクレオチドを含む組成物をさらに含む。これらの組成物はまた、任意に本分野で既知の薬学的に許容可能なベクター、緩衝剤を含む薬用賦形剤などの、適切な薬用補助材料を含んでもよい。
【0205】
本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または二量体または免疫複合体を含む医薬組成物は、従来の混合、溶解、乳化、カプセル化、封入または凍結乾燥プロセスによって調製することができる。医薬組成物は、タンパク質を薬学的に使用可能な製剤に加工することを助ける1つまたは複数の生理学的に許容されるベクター、希釈剤、賦形剤または助剤を使用して従来の方法で製剤化することができる。適切な製剤は、選択した投与経路に依存する。
【0206】
免疫複合体は、遊離酸または遊離塩基、中性または塩の形態で組成物に製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、遊離酸または遊離塩基の生物学的活性を実質的に保持する塩である。これらには、タンパク質性組成物の遊離アミノ基、無機酸(例えば、塩酸やリン酸など)、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸との間で形成されるような酸付加塩(acid addition salt)が含まれる。遊離のカルボキシル基と形成される塩は、無機塩基、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウムもしくは鉄、または有機塩基、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジンもしくはプロカイン(procaine)から誘導されることもできる。薬学的に許容される塩は、対応する遊離塩基の形態より水性溶媒および他のプロトン性溶媒に溶けやすい傾向がある。
IX.組み合わせ製品
一態様において、本発明は、本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または二量体または免疫複合体、および1つまたは複数の他の治療剤(例えば、化学療法剤、他の抗体、細胞傷害剤、ワクチン、抗感染症剤など)を含む組み合わせ製品をさらに提供する。本発明の組み合わせ製品は、本発明の治療方法に使用することができる。
【0207】
いくつかの実施形態において、上記組み合わせ製品は癌の予防または治療に用いられる。
X.治療方法および使用
一態様では、本発明は、対象の癌などの疾患を予防または治療する方法に関し、上記方法は、有効量の本明細書に記載の任意の変異体IL-2ポリペプチドもしくは融合体もしくは二量体もしくは免疫複合体を上記対象に投与することを含む。癌は、早期、中期または末期にある癌または転移性癌であってもよい。いくつかの実施形態において、癌は固形腫瘍または血液腫瘍であってもよい。いくつかの実施形態において、上記癌は、胃腸腫瘍または黒色腫、例えば、結腸癌または結腸直腸癌である。いくつかの実施形態において、上記腫瘍は、既知の薬物、例えば、既知の抗PD-1抗体に対して耐性を有する腫瘍またはは癌、例えば、難治性腫瘍または癌である。
【0208】
いくつかの実施形態において、上記癌は、上昇したPD-1、PD-L1、および/またはPD-L2のタンパク質レベルおよび/または核酸レベルを有する(例えば、発現の上昇)ことによって特徴付けられる癌である。いくつかの実施形態において、本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または二量体または免疫複合体は、宿主の免疫系を刺激し、例えば細胞性免疫応答を増強するように使用され得る。上記実施形態のいずれかによる「免疫系を刺激する」は、免疫機能の全体的な増加、T細胞機能の増加、B細胞機能の増加、リンパ球機能の回復、IL-2受容体発現の増加、T細胞応答性の増加、ナチュラルキラー細胞活性またはリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞活性の増加などのうちの1つまたは複数を含み得る。
【0209】
本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または二量体または免疫複合体(およびそれらを含む医薬組成物、任意に他の治療剤)は、非経口投与、肺内投与および鼻腔内投与を含む任意の適切な方法により投与されてもよく、かつ、局所治療に必要な場合、病巣内に投与されてもよい。非経口注入は、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与または皮下投与を含む。投与が短期であるか長期であるかによってある程度決まり、任意の適切な経路、例えば、静脈内注射投与または皮下注射投与などの注射により投与することができる。本明細書において、様々な投与スケジュールが含まれ、単回投与または複数の時点での複数回投与、ボーラス投与およびパルス注入を含むが、これらに限定されない。
【0210】
疾患を予防または治療するために、本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または二量体または免疫複合体の適切な用量(単独で投与される場合または1つもしくは複数の他の治療剤と組み合わせて投与される場合)が、治療される疾患のタイプ、抗体のタイプ、疾患の重症度とその進行、予防目的の投与か治療目的の投与か、過去の治療、患者の臨床病歴および上記抗体に対する応答、主治医の判断によって決定される。上記抗体は、単回の治療で、または一連の治療を経て患者に適当に投与される。いくつかの実施形態において、本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合タンパク質または二量体または免疫複合体は、毒性を生じることなく、より高い用量で患者に投与され得る。
【0211】
さらに別の態様において、本発明は、本発明の変異体IL-2ポリペプチドまたは融合体または二量体または免疫複合体の、前述の方法(例えば、治療のため)で使用するための薬物の調製における使用をさらに提供する。
【0212】
本発明の理解を補助するために、以下の実施例を説明する。如何なる方法によって、実施例を、本発明の請求範囲を制限するものと解釈する意図もなく、そうすべきでもない。
【0213】
本発明にかかる上記と他の態様および実施形態は、図面(図面の簡単な説明がその後に続く)と以下の発明の詳細な説明において記載され、以下の実施例に例示されている。上記および本願にわたって説明された特徴のいずれかまたはすべては、本発明の各実施形態において組み合わせることができる。以下の実施例を用いて本発明をさらに説明するが、実施例は、限定ではなく、説明することで記載され、当該業者は、様々な変更を行うことができると理解すべきである。
【0214】
実施例1.抗-hPD-1およびIL-2変異体の免疫複合体の設計
本発明は、ヒトPD-1に特異的に結合してPD-1とPD-L1の組み合わせを遮断して、免疫ブレーキ機構を解除することができると同時に、T細胞またはNK上のIL-2受容体にも特異的に結合でき、これによりT細胞またはNK細胞を活性化および増殖させる免疫複合体分子(αPD-1/IL-2m免疫複合体)設計し、上記免疫複合体分子は、抗PD-1抗体とIL-2変異体を含み、PD-1抗体の免疫効果を増強することができた。
【0215】
本発明の免疫複合体の分子形態は図1Aに示すように、1)第2のモノマーであって、PD-1に結合する抗体に由来し、上記PD-1に結合する抗体配列は、WO2017024465A1に由来する第2のモノマー、および2)IL-2変異体(IL-2変異タンパク質またはIL-2m)である第1のモノマーという2つの部分を含み、上記変異体は、IL-2および受容体複合体の結晶構造2ERJによると(図2)、受容体の結合界面に変異部位を選択し、受容体へのIL-2の結合を減少させ、IL-2のB’C’ループ領域配列(A73~R83、野生型は配列番号40)を最適化してIL-2の創薬可能性を改善するように改造され、上記ループ領域は、IL-2のB’C’ループ領域をヒトIL-15B’C’ループ領域(AGDASIH、配列番号39)に置換すること、またはIL-2B’C’ループ領域の最後の4アミノ酸を欠失させて、切り詰めされたIL-2B’C’ループ領域(AQSKNFH、配列番号41)を得るように最適化した。
【0216】
実施例で使用した対照分子、IL-2-Fc融合タンパク質、およびIL-2変異体-抗PD-1抗体免疫複合体における配列情報は配列表に示し、IL-2変異情報は以下の表に示した。
【0217】
【表4】
【0218】
実施例2.IL-2受容体および免疫複合体の調製
IL-2受容体の発現と精製
ベクターの構築
IL-2受容体IL-2Rα(Uiprot:P01589、aa22-217)は、配列のC末端にaviタグ(GLNDIFEAQKIEWHE、このタグペプチドはBirA酵素によって触媒されてビオチン化される)および6つのヒスチジンタグ(HHHHHH)を付加し、pTT5ベクター(Addgene)に構築し、次いでHEK293細胞にトランスフェクトして発現させ、ニッケルカラム(Histrap excel、GE、17-3712-06)を通してアフィニティー精製してIL-2Rαを得た。
【0219】
IL-2Rβγ複合物はKnobs in holesに基づいたFcヘテロ二量体であり、IL-2Rβの配列はFc-KnobのN末端(配列番号37)に構築され、IL-2Rγの配列はFc-HoleのN末端(配列番号38)に構築され、それぞれpcDNA3.1ベクターに構築された後、細胞で共発現された。一過性トランスフェクション法を使用してIL-2Rβを含むベクターおよびIL-2Rγを含むベクターを、HEK293細胞に共トランスフェクトして発現させた。まず超クリーンベンチでプラスミドDNAとトランスフェクション試薬PEI(Polysciences、23966)を準備し、3mLのOpti-MEM培地(Gibco製品番号:31985-070)を50mLの遠心管に入れ、対応するプラスミドのDNAを30μg加え、プラスミドを含むOpti-MEM培地を0.22μmのフィルターヘッドで濾過し、続いて90μgのPEI(1g/L)を加え、20min静置した。DNA/PEI混合物を27mLのHEK293細胞に穏やかに注ぎ、均一に混合し、37℃、8%COで6日間培養し続けた。細胞上清を精製のために得て、IL-2Rβγ複合体を得た。ニッケルカラムアフィニティー精製は、精製に使用したニッケルカラム(5mL Histrap excel、GE、17-3712-06)を0.1MのNaOHで2h浸漬した後、5倍~10倍カラム体積の超純水ですすぎ、アルカリ液を除去した。精製前に5倍カラム体積の結合緩衝液(20mMのTris、pH 7.4、300mMのNaCl)で精製カラムを平衡化し、細胞上清を平衡化したカラムに通し、10倍カラム体積の洗浄緩衝液(20mMのTris 7.4、300mMのNaCl、10mMのimidazole)をカラムに通し、非特異的に結合するヘテロタンパク質を除去し、次いで目的のタンパク質を3倍~5倍カラム体積の溶出液(20mMのTris 7.4、300mMのNaCl、100mMのimidazole)で溶出した。収集したタンパク質を限外濾過によって濃縮してPBS(Gibco、70011-044)に交換した後、superdex200 increase(GE、10/300GL、10245605)でさらに単離して精製し、モノマーの溶出ピークを収集し、カラムの平衡化および溶出緩衝液はPBSであった。
【0220】
Mabselectアフィニティー精製は、13000rpmで20min遠心分離し、上清を収集し、プレ充填カラムHitrap Mabselect Sureを用いて上清を精製した。操作は以下のとおりであった:精製前に5倍カラム体積の平衡液(0.2MのTris、0.15MのNaCl、pH7.2)で充填カラムを平衡化し、収集した上清をカラムに通し、さらに10倍カラム体積の平衡液で充填カラムを洗浄し、非特異的に結合するタンパク質を除去し、5倍カラム体積の溶出緩衝液(0.1Mのsodium citrate、pH3.5)で充填剤をすすぎ、溶出液を収集し、溶出液1mLあたり80μLのTris(2MのTris)を加え、限外濾過濃縮管を用いてPBS緩衝液に交換し、濃度および純度を測定した。
【0221】
イオン交換精製は、イオン交換クロマトグラフィーを使用して、二重特異性分子中のヘテロ二量体分子を分離し、ホモ二量体不純物を除去した。
【0222】
免疫複合体の調製
抗PD-1抗体の重鎖Holeと軽鎖をそれぞれpcDNA3.1ベクターに構築し、IL-2タンパク質をリンカーを介してIgG1 Fc KnobのN末端に接続してpcDNA3.1ベクターに構築し、上記3つのプラスミドを3倍量のPEI(例えば、3mLのHEK293をトランスフェクトするには、1ug重鎖Hole+1ug軽鎖+1ugのIL-2m-リンカー-Fc-Knob+9μgのPEI)とHEK293細胞に共トランスフェクトして発現させ、本実施例で使用される各免疫複合体分子を調製した。
【0223】
細胞の調製および試料の収集精製は、上記受容体の調製方法と同様であった。
【0224】
実施例3.IL-2と受容体の親和性測定
表面プラズモン共鳴法(SPR)は、ヒトIL-2受容体(IL2RαまたはIL-2Rβγ)に結合する本発明の免疫複合体の平衡解離定数(K)を決定するために使用された。SPRの原理により、偏光ビームがプリズムの端面に一定の角度で入射すると、プリズムと金膜の界面で表面プラズモン波が発生し、金属膜内の自由電子の共鳴、すなわち表面プラズモン共鳴を引き起こした。分析時、まずセンシングチップの表面に一層のタンパク質を固定し、次に測定対象の試料がチップ表面を流れ、チップ表面のタンパク質と相互作用可能な分子が試料中に存在すると、金膜表面の屈折率変化を引き起こし、最終的にSPR角度の変化につながり、SPR角度の変化を検出することにより、被分析物の親和性、動力学定数などの情報を得た。
【0225】
本実施例は、Biacore T200(Cytiva)により免疫複合体とIL-2受容体のKを測定し、具体的な方法は次のとおりであった:ビオチンタグを含むIL2RαおよびIL2Rβγタンパク質をそれぞれSA(ストレプトアビジン)がカップリングされたチップ表面に捕獲した後、チップ表面タンパク質と、移動相中で検討した免疫複合体および対照分子との間の結合および解離を検出することにより、親和性と速度定数を得た。
【0226】
この方法は、チップの調製および親和性の検出を含んだ。測定プロセスは、10倍に希釈した10×HBS-EP+(BR-1006-69、Cγtiva)を実験緩衝液として使用した。チップの調製プロセスは、アミノカップリングキット(BR-1006-33、Cγtiva)を使用し、SAをCM5チップ(29-1496-03、Cγtiva)の表面にカップリングし、カップリングした後、1Mのエタノールアミンを注入して残りの活性化部位をブロッキングした。親和性検出に関しては、各サイクルは、受容体の捕獲、特定濃度の研究対象の分子への結合、およびチップの再生を含んだ。勾配希釈された分子(分子濃度勾配は0nM~400nM)が、流速30μL/minで低濃度から高濃度の順にチップ表面を流れ、結合時間180s、解離時間300sであった。最後に、5mMのNaOH(BR-1003-58、Cytiva)を使用してチップを再生した。データ結果は、Biacore T200分析ソフトウェア(バージョン3.1)を使用し、分析1:1結合または定常状態分析モデルを使用して分析された。
【0227】
Biacore T200(Cytiva、T200)は、研究対象の免疫複合体または対照分子とヒトPD1(製品番号:PD1-H5221、ACROBiosystem)の親和性を測定し、具体的な方法は次のとおりであった:研究対象の分子をProtein A(29127555、Cytiva)がカップリングされた表面に捕獲した後、チップ表面分子と移動相中の抗原との間の結合および解離を検出することによって、親和性と速度定数を得た。測定プロセスは、10倍に希釈した10×HBS-EP+(BR-1006-69、Cγtiva)を実験緩衝液として使用した。親和性検出に関しては、各サイクルは、研究対象の分子の捕獲、特定濃度の抗原への結合、およびチップの再生を含んだ。勾配希釈された抗原(研究対象の分子と結合する場合、抗原の濃度勾配は0nM~40nM)が、流速30μL/minで低濃度から高濃度の順にチップ表面を流れ、結合時間180s、解離時間600sであった。最後に、10mMのGlycine-HClを使用し、pH1.5(BR-1003-54、Cytiva)でチップを再生した。データ結果は、Biacore T200分析ソフトウェア(バージョン3.1)を使用し、1:1結合モデルを使用して分析された。
【0228】
表2と図3は、それぞれ免疫複合体または対照分子のIL-2Rβγに対する結合定数と結合曲線であり、3010はFcと融合した野生型IL-2配列であり、配列は配列リストを参照し、その親和性は1.09nMであり、2061(US20180326010A1に由来)は対照分子であり、IL-2Rβγに対する2061の親和性は1.48nMであり、本研究におけるIL-2免疫複合体の親和性はいずれも3010および2061より弱いであった。
【0229】
表3と図4は、それぞれ免疫複合体または対照分子のIL-2Rαに対する親和性と結合曲線であり、IL-2Rαに対する3010の親和性は4.38E-08Mであり、2061は非結合であり、本研究における二重特異性分子は、IL-2Rαに対する結合が野生型IL-2より弱いが、対照分子2061より強いであった。
【0230】
表4と図5は、それぞれ免疫複合体または対照分子のヒトPD1に対する親和性と結合曲線であり、対照分子と本研究の分子は両方ともヒトPD1に対して強い親和性を有した。
【0231】
【表5】
【0232】
【表6】
【0233】
【表7】
【0234】
実施例4.免疫複合体のインビトロ活性アッセイ
1.CTLL2(huPD1-)およびCTLL2-hPD-1(huPD1+)におけるPD-1の活性検出
IL-2は、CTLL2細胞表面のIL-2受容体に結合し、CTLL2 JAK-STATシグナル伝達経路を活性化し、レポーター遺伝子シグナルを誘導した。CTLL2細胞株表面でヒトPD-1(hPD-1、unprot:Q15116)を過剰発現させ、hPD-1の濃縮作用下でCTLL2 JAK-STATシグナル伝達経路をさらに強化する可能性があった。
【0235】
CTLL2-hPD-1細胞株の構築:
Lentvirus+hPD-1レンチウイルスの構築とパッケージ化:
1.6x10^6個の293T細胞をT75培養フラスコにプレーティングして、融合率が75%~80%に達するようにした。
【0236】
2.以下の表に示すように、均一に混合してパッケージシステムをし、室温で15分間静置した。
【0237】
【表8】
3.予めペトリ皿培地を捨て、新鮮な10%FBS(PEAK)DMEM(ATCC)培地を6mL加えた。
【0238】
4.ステップ<3>で交換した後の培地に、ステップ<2>で調製した中パッケージシステムを添加し、37℃、5%COインキュベーター内で4h~6h静置した。
【0239】
5.37℃、5%COインキュベーター内に4h~6h静置した後、2%血清を除去したDMEM培地に交換して培養し、それぞれ48hと72hでウイルスを収集した。
【0240】
6.ウイルス濃縮は、収集したウイルスを遠心分離し、0.45μmフィルター膜で濾過した。各成分の体積比は、ウイルス上清:50%のPEG8000:5MのNaCl=87:10:3であり、均一に混合し、4℃で一晩濃縮した。4℃、3000g、20min遠心分離し、1mLのCTS培地(Gibco、A3021002)にウイルスを再懸濁し、4℃で溶解し、-80℃で保存した。
【0241】
CTLL2(Promega、CS2028B04)をLentvirus+hPD-1に感染させ、圧力スクリーニングとソーティングを通じてCTLL2-hPD-1安定形質転換細胞株を得た。
【0242】
実験方法:
1.Assay Medium:1%のMEM NEAA(Gibco、11140-050)、10%のFBS(PEAK、PS-FB1)および89%のIMDM(Gibco、12440-053)を配置した。
【0243】
2.CTLL2またはCTLL2-hPD-1細胞をAssay Mediumで2回洗浄した。
【0244】
3.0.4ng/mLのrhIL2(R&D、202-IL)を含むAssay Mediumを使用してCTLL2またはCTLL2-hPD-1細胞の密度を調整し、96ウェル白色細胞培養プレート(NUNC)の中央に、各ウェルに50000個の細胞をプレーティングした。
【0245】
4.エッジウェルに等体積のAssay Mediumをプレーティングし、5%CO、37℃で18h~20h飢餓処理をした。
【0246】
5.希釈した被験免疫複合体分子を細胞プレートにそれぞれ加え、5%CO、37℃で6hインキュベートした。
【0247】
6.培養プレートを取り出し、室温で15min~20min平衡化し、各ウェルに等体積のLuciferease assay system試薬(Bio-Glo)を加え、室温で5min~15minインキュベートし、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices)で読み取った。
【0248】
結果は図6に示された。図6の結果は、本研究のαPD-1/IL-2m免疫複合体は、PD-1陽性のCTLL2細胞上の活性がPD-1陰性のCTLL2細胞上の活性より強く、ここで、2132の2つの細胞間での活性(EC50)は24倍の選択性を有し、2063の選択性は42倍、2149の選択性は115倍、2219の選択性は500倍、2213と2214の選択性は>10000倍であることを示した。この結果は、本発明の免疫複合体分子がPD-1陽性のCTLL2細胞を選択的に活性化し得ることを示した。
【0249】
二、PBMC細胞におけるαPD-1/IL2m免疫複合体分子のpSTAT5シグナルの検出
IL-2とT細胞表面IL-2受容体との結合は、Tリンパ球のJAK-STATシグナル経路を活性化し、ここで、STAT5リン酸化レベルは、当該シグナル経路の活性化レベルを評価する重要な指標であった。
【0250】
実験方法:
1.PBMC細胞の蘇生
(1)、PBMC細胞を液体窒素で凍結し(MiaotongBiotech、商品番号PB100C)、37℃ですばやく振って融解した。
【0251】
(2)、細胞を10mLのCTS培地(Gibco)にゆっくりと加え、培地を事前に37℃に予熱し、100μLのDNA酵素(STRMCELL、商品番号07900)を加えた。
【0252】
(3)、300g/8minで遠心分離し、上清を除去した。
【0253】
(4)、10mLのCTSで再懸濁し、T75培養フラスコに移し、37℃で5%のインキュベーターで一晩安定化した。
【0254】
2.pSTAT5実験
(1)、AlexaFluorTM488Antibody Labeling Kit(ThermoFisher、A20181)を使用してPD-1mAb(Innovent、ADI-11416)を標識し、AF488-anti human PD-1蛍光抗体を調製し、蛍光抗体で一晩培養したPBMC浮遊細胞を標識した。
【0255】
(2)、標識されたPBMC懸濁細胞を5x10cells/wellの細胞数で96ウェルU字型プレートにプレーティングした。
【0256】
(3)、異なる希釈濃度の被験免疫複合体を96ウェルプレートに加え、被験試料と細胞を37℃で30minインキュベートした。
【0257】
(4)、400g/5minで遠心分離し、上清を除去した。
【0258】
(5)、200μL/ウェルで、4%の組織細胞固定液(Solarbio、P1110)を加え、常温で400g/30min遠心分離した。
【0259】
(6)、破膜液を200μL/ウェルで加え、4℃で30min静置し、400g/10min遠心分離した。
【0260】
(7)、perm/wash Buffer(BD)を200μL/ウェルで加え、細胞を共に2回洗浄した。
【0261】
(8)、抗体染色溶液を配置し、AF647-pSTAT5抗体の量は3μL/100μLのperm/wash Buffer/wellであり、残りの染色抗体は1μL/100μLのperm/wash Buffer/wellであり、室温で1.5hインキュベートし、perm/wash Bufferで2回洗浄した。
【0262】
【表9】
【0263】
(9)、150μLのperm/wash Buffer/wellで再懸濁し、フローサイトメトリーを行った。

三、活性化されたPBMC細胞における免疫複合体分子のpSTAT5シグナルの検出
Tリンパ球が活性化された後、PD-1の作用下で、活性化Tリンパ球のpSTAT5シグナルに対する免疫複合体の影響を調査し、検証した。
【0264】
1.PBMC細胞の蘇生
(1)、PBMC細胞を液体窒素で凍結し、37℃ですばやく振って融解した。
【0265】
(2)、細胞を10mLのCTS培地(37℃で予熱し、100μLのDNA酵素を含む)にゆっくりと加えた。
【0266】
(3)、300g/8minで遠心分離し、上清を除去した。
【0267】
(4)、10mLのCTSで再懸濁し、T75培養フラスコに移し、37℃で5%のインキュベーターで一晩安定化した。
【0268】
2.Tリンパ球の活性化と静止
(1)、一晩培養したPBMCから懸濁細胞を取り出し、細胞をカウントし、細胞の数と同等のCD3/CD28 Beadsを加え、48h活性化して刺激した。
【0269】
(2)、Beadsと培地を除去し、活性化細胞を洗浄した。
【0270】
(3)、活性化細胞をT75培養フラスコに移し、37℃、5%で48h静止した。
【0271】
3.pSTAT5実験
(1)、AlexaFluorTM488Antibody Labeling Kit(ThermoFisher、A20181)を使用してPD-1mAb(Innovent、ADI-11416)を標識し、AF488-anti human PD-1蛍光抗体を調製し、蛍光抗体で活性化T細胞と静止T細胞を標識した。
【0272】
(2)、5x10cells/wellの細胞数で96ウェルU字型プレートにプレーティングした。
【0273】
(3)、異なる希釈度の検出分子をそれぞれ96ウェルプレートに加え、検出分子を細胞とともに37℃で30minインキュベートした。
【0274】
(4)、400g/5minで遠心分離し、上清を除去した。
【0275】
(5)、200μL/ウェルで、4%の組織細胞固定液を加え、常温で400g/30min遠心分離した。
【0276】
(6)、破膜液を200μL/ウェルで加え、4℃で30min静置し、400g/10min遠心分離した。
【0277】
(7)、perm/wash Bufferを200μL/ウェルで加え、細胞を共に2回洗浄した。
【0278】
(8)、抗体染色溶液を配置し、pSTAT5抗体(BD)の量は3μL/100μLのperm/wash Buffer/wellであり、残りの染色抗体は1μL/100μLのperm/wash Buffer/wellであり、室温で1.5hインキュベートし、perm/wash Bufferで2回洗浄した。
【0279】
(9)、150μLのperm/wash Buffer/wellで再懸濁し、フローサイトメトリーを行った。
【0280】
図7の結果は、PD-1陰性(PD-1-)のT細胞(CD4+PD1-TまたはCD8+PD1-T)において、本研究の分子活性がいずれも対照分子2061より弱いことを示し、PD-1陽性(PD-1+)のT細胞(CD4+PD1+TまたはCD8+PD1+T)において、2063の活性は対照分子2061より優れており、2063のPD-1に対する選択性は2061より大きいことが示され、本研究の他のいくつかの分子もPD-1+のT細胞において活性が2061より弱く、本研究の分子は高活性IL-2による毒性が2061より小さく、インビボで耐え得る用量も2061より高いことが示された。
四、HEK-BlueTM IL-2cell reporter assayによる本発明の免疫複合体の活性の検出
HEK293細胞において、IL2R(CD25、CD122、CD132)、JAK3およびSTAT5遺伝子の過剰発現を導入して、IL2シグナル伝達経路を持つHEK293+hIL2R/SEAP細胞株(huPD-1-細胞、HEK-BlueTM IL-2 Cells、Invivogen、hkb-il2)を構築し、IL2の作用下で、HEK293+hIL2R/SEAP cell reporterレポーター遺伝子を活性化した。
【0281】
【表10】
【0282】
HEK293+hIL2R+hPD-1/SEAP細胞株の構築:以下の実験のために、上記のようにLentvirus+hPD-1レンチウイルスを構築およびパッケージングし、HEK293+hIL2R/SEAP(Invivogen、hkb-il2)をLentvirus+hPD-1で感染させ、HEK293+hIL2R+hPD-1/SEAP安定形質転換細胞株(huPD-1+細胞)を加圧スクリーニングとソーティングした。
【0283】
実験方法:
1.細胞を消化し、細胞密度を調整し、60ウェルの中央に、各ウェルに50000個の細胞をプレーティングした。
【0284】
2.図に示すように、希釈した免疫複合体と対照分子をそれぞれ対応する細胞ウェルプレートに加え、37℃で20h~24hインキュベートした。
【0285】
4.20μLの細胞培養上清を180μLのQUANTI-Blueに加え、室温で15min放置し、OD630を測定した。
【0286】
HEK-BlueTM IL-2 Cells(huPD-1-細胞)は、IL-2受容体を過剰発現したHEK293細胞であった。図8および表4からわかるように、本研究で得られた免疫複合体のIL-2活性は、2061より最小3.14倍弱く、最大2.21E+08倍まで弱まった。
【0287】
PD-1を過剰発現した細胞(HEK293+hIL2R+hPD-1/SEAP安定形質導入細胞株(huPD-1+細胞))において、免疫複合体は強力なIL-2活性に達することができ、2つの細胞で高い選択性を維持し、2063の選択性は3.52倍、2132の選択性は53.45倍、2149の選択性は96.04倍、2219は606.11倍、2214は5119.78倍、2213は1.57E+07倍に達することができた。
【0288】
【表11】
実施例5.免疫複合体のインビボ薬効実験
αPD-1/IL2m免疫複合体のインビボでの薬効を証明するために、MC38細胞(マウス結腸癌細胞株、上海和元生物)を使用してhPD-1ノックインマウスに接種し、本発明の二機能性PD-1抗体およびIL-2変異分子免疫複合体(2063、2132)の抗腫瘍薬効を測定した。実験は、SPFグレードの雌性hPD-1ノックインマウス(SHANGHAI MODEL ORGANISMSから購入)を使用し、認証番号はNO.20170010005748であった。
【0289】
MC38細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でMC38細胞を再懸濁し、細胞濃度が5×10個/mLの細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってhPD-1ノックインマウスの右腹部領域に皮下接種し、MC38担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0290】
腫瘍細胞接種の6日後、各マウスの腫瘍体積を検出し、群分けを行い(1群あたり8匹のマウス)、投与量および投与方式は表5に示された。
【0291】
【表12】
【0292】
h-IgG、2063および2132をそれぞれ2mg/mL、1mg/mLおよび1mg/mLの濃度で使用し、週に1回、合計3回(QWx3)投与した。MC38細胞接種後の6日目、13日目、20日目にそれぞれ投与し、図9Aに示すように、マウスの腫瘍体積と体重を週に2回モニタリングし、24日後にモニタリングを終了した。
【0293】
接種後の24日目に、相対腫瘍阻害率(TGI%)を算出し、算出式は、TGI%=100%×(対照群腫瘍体積-治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積-対照群投与前腫瘍体積)であった。腫瘍体積の測定:ノギスを用いて腫瘍の最大長軸(L)と最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は下記式:V=L×W/2に従って計算された。電子天びんを用いて体重を測定した。
【0294】
腫瘍阻害率の結果を表6に示した。接種後24日目に、h-IgG,20mg/kg群と比較して、2063および2132の腫瘍阻害率はそれぞれ98%および96%であった。同時に、マウス体重の検出結果(図9B)から、接種後の24日目に、マウスの体重は有意差がないことが示された。
【0295】
【表13】
αPD-1/IL2m免疫複合体のインビボ薬効が親抗PD-1モノクローナル抗体(Sintilimab、IBI308とも称される)より優れていることをさらに証明するために、MC38細胞(マウス結腸癌細胞株、上海和元生物)を使用してhPD-1ノックインマウスを接種し、本発明の免疫複合体(2063)の抗腫瘍薬効を測定した。実験は、SPFグレードの雌性hPD-1ノックインマウス(SHANGHAI MODEL ORGANISMSから購入)を使用し、認証番号はNO.20170010004237であった。
【0296】
MC38細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でMC38細胞を再懸濁し、細胞濃度が5×10個/mLの細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってhPD-1ノックインマウスの右腹部領域に皮下接種し、MC38担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0297】
腫瘍細胞接種の12日後、各マウスの腫瘍体積を検出し、群分けを行い(1群あたり8匹のマウス)、投与量および投与方式は表7に示された。
【0298】
【表14】
【0299】
h-IgG、2063およびIBI308をすべて1mg/mLの濃度で使用し、週に1回、合計3回(QWx3)投与した。MC38細胞接種後の12日目、19日目、26日目にそれぞれ投与し、図10Aに示すように、マウスの腫瘍体積と体重を週に2回モニタリングし、29日後にモニタリングを終了した。接種後の29日目に、相対腫瘍阻害率(TGI%)を算出し、算出式は、TGI%=100%×(対照群腫瘍体積-治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積-対照群投与前腫瘍体積)であった。腫瘍体積の測定:ノギスを用いて腫瘍の最大長軸(L)と最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は下記式:V=L×W/2に従って計算された。電子天びんを用いて体重を測定した。
【0300】
腫瘍阻害率の結果を表8に示した。接種後29日目に、h-IgG,20mg/kg群と比較して、2063およびIBI308の腫瘍阻害率はそれぞれ112%および56%であった。同時に、マウス体重の検出結果(図10B)から、接種後の29日目に、マウスの体重は有意差がないことが示された。
【0301】
【表15】
【0302】
αPD-1/IL2m免疫複合体のインビボ薬効をさらに証明するために、PD-1抗体耐性B16F10細胞(マウス黒色腫細胞株、ATCC CRL-6475)を使用してhPD-1ノックインマウスに接種し、本発明のαPD-1/IL2m免疫複合体(2063)、親抗PD-1モノクローナル抗体(IBI308)、およびPD-1モノクローナル抗体とIL2m-Fc融合タンパク質(2124、IL-2配列は2063と同じで、配列は配列表を参照)を併用投与した抗腫瘍薬効を測定した。実験は、SPFグレードの雌性hPD-1ノックインマウス(SHANGHAI MODEL ORGANISMSから購入)を使用し、認証番号はNO.20170010004768であった。
【0303】
B16F10細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でB16F10細胞を再懸濁し、細胞濃度が2.5×10個/mLの細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってhPD-1ノックインマウスの右腹部領域に皮下接種し、B16F10担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0304】
腫瘍細胞接種の7日後、各マウスの腫瘍体積を検出し、群分けを行い(1群あたり6匹のマウス)、投与量および投与方式は表9に示された。
【0305】
【表16】
h-IgG、IBI308、2124および2063をそれぞれ1mg/mL、1mg/mL、0.6mg/mLおよび1mg/mLの濃度で使用し、週に1回、合計3回(QWx3)投与した。B16F10細胞接種後の8日目、15日目、22日目にそれぞれ投与し、図11A図11Cに示すように、マウスの腫瘍体積と体重を週に2回モニタリングし、28日後にモニタリングを終了した。
【0306】
B16F10細胞が容易に転移してマウスの死亡を誘導するため、接種後の22日目に、相対腫瘍阻害率(TGI%)を算出し、算出式は、TGI%=100%×(対照群腫瘍体積-治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積-対照群投与前腫瘍体積)であった。腫瘍体積の測定:ノギスを用いて腫瘍の最大長軸(L)と最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は下記式:V=L×W/2に従って計算された。電子天びんを用いて体重を測定した。腫瘍が2000mmを超えると、このマウスを安楽死させた。群内の死亡率が半数を超える場合、群全体の腫瘍増殖曲線は、この時点で示されなかった。
【0307】
腫瘍阻害率の結果を表10に示した。接種後22日目に、h-IgG群と比較して、IBI308、IBI308+2214、および2063の腫瘍阻害率は、それぞれ2%、84%、および99%で、かつ2063のCR率は、明らかにIBI308およびIBI308と非標的化IL2m-Fc分子の併用(2124)より優れていた。同時に、マウス体重の検出結果(図11C)から、モニタリング期間中に、マウスの体重は有意差がないことが示された。
【0308】
【表17】
【0309】
本発明のαPD-1/IL2m免疫複合体2149のインビボ薬効をさらに証明するために、MC38細胞(マウス結腸癌細胞株、上海和元生物)を使用してhPD-1ノックインマウスを接種し、本発明の免疫複合体(2149)の抗腫瘍薬効を測定した。実験は、SPFグレードの雌性hPD-1ノックインマウス(SHANGHAI MODEL ORGANISMSから購入)を使用し、認証番号はNO.20170010006762であった。
【0310】
MC38細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でMC38細胞を再懸濁し、細胞濃度が5×10個/mLの細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってhPD-1ノックインマウスの右腹部領域に皮下接種し、MC38担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0311】
腫瘍細胞接種の8日後、各マウスの腫瘍体積を検出し、群分けを行い(1群あたり8匹のマウス)、投与量および投与方式は表11に示された。
【0312】
【表18】
【0313】
h-IgG、2149,10mg/kg、2149,20mg/kg、および2149,40mg/kgをそれぞれ4mg/mL、1mg/mL、2mg/mL、および4mg/mLの濃度で使用し、週に1回、合計3回(QWx3)投与した。MC38細胞接種後の8日目、15日目、22日目にそれぞれ投与し、図12A図12Bに示すように、マウスの腫瘍体積と体重を週に2回モニタリングした。腫瘍が2000mmを超えると、マウスを安楽死させ、61日間が終了するまで実験全体を通してマウスをモニタリングした。一部のマウス群では腫瘍体積が2000mmを超えて安楽死させたため、接種後の36日目に相対腫瘍阻害率(TGI%)を算出し、算出式は、TGI%=100%×(対照群腫瘍体積-治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積-対照群投与前腫瘍体積)であった。腫瘍体積の測定:ノギスを用いて腫瘍の最大長軸(L)と最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は下記式:V=L×W/2に従って計算された。電子天びんを用いて体重を測定した。
【0314】
腫瘍増殖曲線と生存曲線を図12Aおよび図12Bに示すように、2149分子の異なる用量群の抗腫瘍効果は用量依存性であり、20mg/kg群と40mg/kg群ではマウス腫瘍が完全に退縮した。この利点は、図12Bの生存曲線にも反映されており、これらの2群のマウスは、100%腫瘍退縮したが、10mg/kg群では、8匹のマウスのうち2匹だけの腫瘍が完全に退縮した。腫瘍阻害率の結果を表12に示した。接種後の36日目に、h-IgG群と比較して、2149,10mg/kg、2149,20mg/kg、および2149,40mg/kgの腫瘍阻害率はそれぞれ84%、103%、103%であった。同時に、マウス体重の検出結果(図12C)から、接種後の36日目に、マウスの体重は有意差がないことが示された。
【0315】
【表19】
【0316】
免疫複合体2149のインビボ薬効を証明するために、PD-1抗体耐性B16F10細胞(マウス黒色腫細胞株、ATCC CRL-6475)を使用してhPD-1ノックインマウスに接種し、本発明の二機能性PD-1抗体およびIL-2変異分子融合タンパク質(2149)の抗腫瘍薬効を測定した。実験は、SPFグレードの雌性hPD-1ノックインマウス(SHANGHAI MODEL ORGANISMSから購入)を使用し、認証番号はNO.20170010007909であった。
【0317】
B16F10細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でB16F10細胞を再懸濁し、細胞濃度が2.5×10個/mLの細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってhPD-1ノックインマウスの右腹部領域に皮下接種し、B16F10担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0318】
腫瘍細胞接種の6日後、各マウスの腫瘍体積を検出し、群分けを行い(1群あたり8匹のマウス)、投与量および投与方式は表13に示された。
【0319】
【表20】
【0320】
h-IgG、IBI308,20mg/kg、IBI308,40mg/kg、2149,20mg/kgおよび2149,40mg/kgをそれぞれ4mg/mL、2mg/mL、4mg/mL、2mg/mLおよび4mg/mLの濃度で使用し、週に1回、合計3回(QWx3)投与した。B16F10細胞接種後の8日目、15日目、22日目にそれぞれ投与し、図13A図13Bに示すように、マウスの腫瘍体積と体重を週に2回モニタリングし、22日後にモニタリングを終了した。B16F10細胞が容易に転移してマウスの死亡を誘導するため、接種後の15日目に、相対腫瘍阻害率(TGI%)を算出し、算出式は、TGI%=100%×(対照群腫瘍体積-治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積-対照群投与前腫瘍体積)であった。腫瘍体積の測定:ノギスを用いて腫瘍の最大長軸(L)と最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は下記式:V=L×W/2に従って計算された。電子天びんを用いて体重を測定した。腫瘍が2000mmを超えると、このマウスを安楽死させた。
【0321】
マウス腫瘍増殖曲線を図13Aおよび13Bに示すように、PD1耐性モデルでは、IBI308はほとんど薬効を示さなかったが、2149の20mg/kgおよび40mg/kg群は一定の抗腫瘍効果を示し、かつ高用量の抗腫瘍効果は低用量より優れており、この効果は同時にマウスの生存曲線にも反映されており、高用量群では、実験終了時にまだ2匹のマウスの腫瘍が完全に退縮していなかった(図13Cおよび表14)。
【0322】
腫瘍阻害率の結果を表12に示した。接種後15日目、40mg/kg群のh-IgGと比較して、IBI308,20mg/kg、IBI308,40mg/kg、2149,20mg/kg、および2149,40mg/kgの腫瘍阻害率は、それぞれ29%、27%、82%および86%であった。同時に、マウス体重の検出結果(図13D)から、接種後の22日目に、マウスの体重は有意差がないことが示された。
【0323】
【表21】
【0324】
αPD-1/IL2m免疫複合体2149のインビボ薬効が対照薬物PD-1-IL2v(分子番号2061、配列はUS20180326010A1に由来し、配列表も参照)より優れていることを証明するために、PD-1抗体耐性B16F10細胞(マウス黒色腫細胞株、ATCC CRL-6475)を使用してhPD-1ノックインマウスに接種し、本発明の二機能性PD-1抗体およびIL-2変異分子融合タンパク質(2149)の抗腫瘍薬効を測定した。実験は、SPFグレードの雌性hPD-1ノックインマウス(SHANGHAI MODEL ORGANISMSから購入)を使用し、認証番号はNO.20170010008942であった。
【0325】
B16F10細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でB16F10細胞を再懸濁し、細胞濃度が2.5×10個/mLの細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってhPD-1ノックインマウスの右腹部領域に皮下接種し、B16F10担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0326】
腫瘍細胞接種の8日後、各マウスの腫瘍体積を検出し、群分けを行い(1群あたり7匹のマウス)、投与量および投与方式は表15に示された。
【0327】
【表22】
【0328】
h-IgG、IBI308,40mg/kg、2061,10mg/kg、2061,20mg/kg、2061,40mg/kg、2149,10mg/kg、2149,20mg/kg、および2149,40mg/kgをそれぞれ4mg/mL、2mg/mL、4mg/mL、2mg/mL、および4mg/mLの濃度で使用し、週に1回、合計3回(QWx3)投与した。B16F10細胞接種後の8日目、15日目、22日目にそれぞれ投与し、図14Aに示すように、マウスの腫瘍体積と体重を週に2回モニタリングし、33日後にモニタリングを終了した。B16F10細胞が容易に転移してマウスの死亡を引き起こすため、接種後の19日目に、相対腫瘍阻害率(TGI%)を算出し、算出式は、TGI%=100%×(対照群腫瘍体積-治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積-対照群投与前腫瘍体積)であった。腫瘍体積の測定:ノギスで腫瘍の最大長軸(L)および最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は下記式:V=L*W/2に従って計算された。電子天びんを用いて体重を測定した。腫瘍が2000mmを超えると、このマウスを安楽死させた。群内の死亡率が半数を超える場合、群全体の腫瘍増殖曲線は、この時点で示されなかった。
【0329】
腫瘍阻害率の結果を表16に示した。接種後19日目、h-IgG,40mg/kg群と比較して、IBI308,40mg/kg、2061,10mg/kg、2149,10mg/kg、2149,20mg/kg、および2149,40mg/kgの腫瘍阻害率は、それぞれ21%、96%、79%、87%および97%であった。2061の20mg/kgおよび40mg/kgについては、最初の注射後に体重が大幅に減少し、かつマウスが死亡したため、この群のTGIは計算されなかった。
【0330】
さらに、マウス生存率について統計分析を行い(図14B)、図に示すように、本実験における2061と2149の最大投与量/耐性用量を比較すると、2149が40mg/kgの用量で、2061が10mg/kgの分子用量でマウスの生存率が高く、2149については、7匹のマウスのうちの3匹の腫瘍が完全に退縮したが、2061については1匹だけのマウスの腫瘍が完全に退縮したことが分かった。同時に、マウスの体重を検出した結果(図14C)は、接種後の29日目に、2149の各用量群のマウスの体重はいずれも減少しなかったが、2061群のマウスは体重が減少し、低用量(10mg/kg)では、マウスの体重は平均5%超減少し、中用量(20mg/kg)および高用量(40mg/kg)ではマウスの死亡が現れ、各群のマウスは合計7匹で、6匹が死亡したことが示され、詳細は表12に示した。2149は比較的安全で、低用量、中用量、高用量のいずれであっても、体重減少は明らかではなく、低用量と中用量では1匹のマウスのみが死亡したが、高用量ではマウスが死亡せず、かつ2061より高い完全腫瘍寛解率を有した(表16)。したがって、2149は2061より薬効が優れており、より安全であり、より高い治療可能時間域を有した。
【0331】
【表23】
【0332】
αPD-1/IL2m免疫複合体2214のインビボ薬効を検証するために、MC38細胞(マウス結腸癌細胞株、上海和元生物)を使用してhPD-1ノックインマウスに接種し、本発明の二機能性PD-1抗体およびIL-2変異分子融合タンパク質(2214)の抗腫瘍薬効を測定した。実験は、SPFグレードの雌性hPD-1ノックインマウス(SHANGHAI MODEL ORGANISMSから購入)を使用し、認証番号はNO.20170010010829であった。
【0333】
MC38細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でMC38細胞を再懸濁し、細胞濃度が5×10個/mLの細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってhPD-1ノックインマウスの右腹部領域に皮下接種し、MC38担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0334】
腫瘍細胞接種の7日後、各マウスの腫瘍体積を検出し、群分けを行い(1群あたり7匹のマウス)、投与量および投与方式は表17に示された。
【0335】
【表24】
【0336】
h-IgGおよび2214をすべて4mg/mLの濃度で使用し、週に1回、合計3回(QWx3)投与した。MC38細胞接種後の7日目、14日目、21日目にそれぞれ投与し、図15Aに示すように、マウスの腫瘍体積と体重を週に2回モニタリングし、56日後にモニタリングを終了した。対照群の腫瘍体積が2000mmを超えたため、接種後の28日目に相対腫瘍阻害率(TGI%)を算出し、算出式は、TGI%=100%×(対照群腫瘍体積-治療群腫瘍体積)/(対照群腫瘍体積-対照群投与前腫瘍体積)であった。腫瘍体積の測定:ノギスを用いて腫瘍の最大長軸(L)と最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は下記式:V=L×W/2に従って計算された。電子天びんを用いて体重を測定した。
【0337】
腫瘍阻害率の結果を表18に示した。接種後28日目に、h-IgG,20mg/kg群と比較して、2214の腫瘍阻害率は104%であった。同時に、マウス体重の検出結果(図15C)から、接種後の28日目に、マウスの体重は有意差がないことが示された。
【0338】
【表25】
【0339】
αPD-1/IL2m免疫複合体2214のインビボ薬効を証明するために、PD-1抗体耐性B16F10細胞(マウス黒色腫細胞株、ATCC CRL-6475)を使用してhPD-1ノックインマウスに接種し、本発明の二機能性PD-1抗体およびIL-2変異分子融合タンパク質(2214)の抗腫瘍薬効を測定した。実験は、SPFグレードの雌性hPD-1ノックインマウス(SHANGHAI MODEL ORGANISMSから購入)を使用し、認証番号はNO.20170010010829であった。
【0340】
B16F10細胞を定期的に継代培養してその後のインビボ実験に使用した。遠心分離により細胞を収集し、PBS(1×)でB16F10細胞を再懸濁し、細胞濃度が2.5×10個/mLの細胞懸濁液を調製した。0日目に細胞懸濁液0.2mLを取ってhPD-1ノックインマウスの右腹部領域に皮下接種し、B16F10担腫瘍マウスモデルを確立した。
【0341】
腫瘍細胞接種の7日後、各マウスの腫瘍体積を検出し、群分けを行い(1群あたり7匹のマウス)、投与量および投与方式は表19に示された。
【0342】
【表26】
【0343】
h-IgG、2214,20mg/kgおよび2214,40mg/kgをそれぞれ4mg/mL、2mg/mL、および4mg/mLの濃度で使用し、週に1回、合計3回(QWx3)投与した。B16F10細胞接種後の7日目、14日目、21日目にそれぞれ投与し、図16A~16Bに示すように、マウスの腫瘍体積と体重を週に2回モニタリングし、63日後にモニタリングを終了した。腫瘍体積の測定:ノギスを用いて腫瘍の最大長軸(L)と最大幅軸(W)を測定し、腫瘍体積は下記式:V=L×W/2に従って計算された。電子天びんを用いて体重を測定した。腫瘍が2000mmを超えると、このマウスを安楽死させた。
【0344】
マウス生存曲線は図16Aに示すように、2214の2つの用量は、両方ともマウスの生存期間を顕著に延長することができた。同時に、マウス体重の検出結果(図16C)から、接種後の22日目に、マウスの体重は有意差がないことが示された。
【0345】
【表27-1】
【0346】
【表27-2】
【0347】
【表27-3】
【0348】
【表27-4】
【0349】
【表27-5】
【0350】
【表27-6】
【0351】
【表27-7】
【0352】
【表27-8】
【0353】
【表27-9】
【0354】
【表27-10】
【0355】
【表27-11】
【0356】
【表27-12】
図1A
図1B
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図12C
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図14C
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図16C
【配列表】
2024534545000001.xml
【国際調査報告】