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  • 特表-電気化学素子用分離膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】電気化学素子用分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/403 20210101AFI20240912BHJP
   H01M 50/451 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20240912BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M50/403 D
H01M50/451
H01M50/446
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/403 A
H01M50/489
H01M50/42
H01M50/426
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518223
(86)(22)【出願日】2023-08-07
(85)【翻訳文提出日】2024-03-21
(86)【国際出願番号】 KR2023011554
(87)【国際公開番号】W WO2024035025
(87)【国際公開日】2024-02-15
(31)【優先権主張番号】10-2022-0100284
(32)【優先日】2022-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2023-0101473
(32)【優先日】2023-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ソ・ヨン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・シク・ベ
(72)【発明者】
【氏名】ソ・ミ・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・キュ・イ
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB01
5H021BB12
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE03
5H021EE06
5H021EE10
5H021EE21
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH03
5H021HH06
(57)【要約】
本発明は、(S1)高分子バインダー、無機物粒子及び分散媒を含むコーティングスラリーを製造する段階と、(S2)多孔性基材の少なくとも一面を加熱する段階と、(S3)前記(S1)段階で製造されたコーティングスラリーを前記(S2)段階で加熱された多孔性基材の少なくとも一面に塗布して多孔性コーティング層を形成する段階と、を含み、前記多孔性コーティング層は、前記多孔性基材と接触する面の少なくとも一部に前記高分子バインダーがフィルム化された領域を含むものである、電気化学素子用分離膜の製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S1)高分子バインダー、無機物粒子及び分散媒を含むコーティングスラリーを製造する段階と、
(S2)多孔性基材の少なくとも一面を加熱する段階と、
(S3)前記(S1)段階で製造されたコーティングスラリーを、前記(S2)段階で加熱された多孔性基材の少なくとも一面に塗布して多孔性コーティング層を形成する段階と、を含み、
前記多孔性コーティング層は、
前記多孔性基材と接触する面の少なくとも一部に前記高分子バインダーがフィルム化された領域を含むことを特徴とする、電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記(S1)段階は、
前記コーティングスラリーを常温(25℃)より高く、前記高分子バインダーのガラス転移温度(T)より低い温度(T)で製造するものである、請求項1に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記(S2)段階は、
前記多孔性基材を前記高分子バインダーのガラス転移温度(T)より高い温度(T)に加熱するものである、請求項2に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項4】
下記式(1)を満たすものである、請求項3に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
式(1)
-T≧T-T
【請求項5】
前記(S2)段階は、
前記多孔性基材を前記多孔性基材の融点(T)未満に加熱するものである、請求項1に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記高分子バインダーがフィルム化された領域は、
前記多孔性コーティング層全体の重量に対して25重量%~50重量%である、請求項1に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記多孔性コーティング層の厚さは1μm~20μmである、請求項1に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記(S2)段階は、
前記一面の縁から予め決められた厚さだけ延びる領域、前記一面上に形成される碁盤模様の領域、及び前記一面上に同じ形状が繰り返し形成されるパターン領域の内、いずれか1つ以上の領域のみが加熱されるものである、請求項1に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記(S3)段階は、
前記コーティングスラリーが塗布された多孔性基材を50℃~70℃の温度で5分~10分間乾燥する段階を含むことを特徴とする、請求項1に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項10】
前記(S3)段階は、
前記乾燥する段階が5回以上繰り返されるものである、請求項9に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項11】
前記高分子バインダーは、
アクリル系高分子、フッ素系高分子、及びアクリル系高分子とフッ素系高分子とのハイブリッド高分子からなる群から選択される少なくとも1つの粒子状高分子バインダーである、請求項1に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項12】
前記フッ素系高分子は、
フッ化ビニリデンのホモポリマー、フッ化ビニリデンと他の重合可能なモノマーとの共重合体、またはこれらの2種以上の混合物である、請求項11に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項13】
前記粒子状高分子バインダーの平均粒径(D50)は100nm~700nmであり、
前記無機物粒子の平均粒径(D50)は300nm~700nmである、請求項11に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項14】
前記高分子バインダーは、
アクリル系高分子、フッ素系高分子、及びアクリル系高分子とフッ素系高分子とのハイブリッド高分子を含むものである、請求項11に記載の電気化学素子用分離膜の製造方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の製造方法で製造された電気化学素子用分離膜。
【請求項16】
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に介在された分離膜を含む電気化学素子であって、
前記分離膜は、請求項15に記載の分離膜である、電気化学素子。
【請求項17】
前記電気化学素子はリチウム二次電池である、請求項16に記載の電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2022年8月11日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10-2022-0100284号の出願日の利益を主張し、その内容のすべては本発明に含まれる。
【0002】
本発明は、電気化学素子用分離膜を製造する方法と、それによって製造された電気化学素子用分離膜に関する。
【背景技術】
【0003】
電気化学素子は電気化学反応を用いて化学的エネルギーを電気的エネルギーに変換するものであり、近年ではエネルギー密度と電圧が高く、サイクル寿命が長く、様々な分野で使用可能なリチウム二次電池が広く使用されている。
【0004】
リチウム二次電池は、正極、負極、正極と負極との間に配置された分離膜から製造される電極組立体を含むことができ、前記電極組立体が電解液と共にケースに収納されて製造することができる。分離膜は、多孔性基材の少なくとも一面に高分子バインダーと無機物粒子を含む多孔性コーティング層を含むことができる。無機物粒子は高分子バインダーによって他の無機物粒子と連結されてインタースティシャルボリュームを形成することができ、リチウムイオンは前記インタースティシャルボリュームを通過して移動することができる。高分子バインダーは、無機物粒子を固定することに加えて、多孔性コーティング層に接着力を付与することができ、多孔性コーティング層は、多孔性基材及び電極とそれぞれ接着することができる。
【0005】
従来は、油系分散媒と前記油系分散媒に分散する油系高分子バインダーとを含むスラリーで多孔性コーティング層を形成し、多孔性基材及び電極に対する優れた接着力を確保した。しかし、前記スラリーで製造した多孔性コーティング層は、高分子バインダーと無機物粒子の分布を制御することが困難であり、分離膜が電解液に含浸したときの接着力(Wet接着力)が低下する問題があった。近年、多孔性コーティング層の形成のためのスラリーに水系分散媒と、前記分散媒に分散する水系高分子バインダーを用いてWet接着力を向上させたが、多孔性コーティング層の多孔性基材及び電極に対する接着力がそれぞれ低下する問題が発生した。従って前記問題を解決するために電極組立体を積層したり、積層した電極組立体を加圧する過程でより高い温度と圧力を加える方法が導入されたが、分離膜の通気度とイオン伝導率が劣化したり、多孔性基材に損傷が発生する問題が発生した。
【0006】
従って、水系高分子バインダーを含む多孔性コーティング層の利点と分離膜の物性は維持しながら、多孔性コーティング層の電極及び多孔性基材への接着力を向上させることができる分離膜の製造方法に関する研究がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高分子バインダーと無機物粒子とを含む多孔性コーティング層の多孔性基材及び電極に対する接着力に優れた電気化学素子用分離膜を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、電気化学素子用分離膜の製造方法であって、(S1)高分子バインダー、無機物粒子及び分散媒を含むコーティングスラリーを製造する段階、(S2)多孔性基材の少なくとも一面を加熱する段階、及び(S3)前記(S1)段階で製造されたコーティングスラリーを、前記(S2)段階で加熱された多孔性基材の少なくとも一面に塗布して多孔性コーティング層を形成する段階と、を含み、前記多孔性コーティング層は、前記多孔性基材と接触する面の少なくとも一部に前記高分子バインダーがフィルム化された領域を含むことを提供する。
【0009】
前記(S1)段階は、前記コーティングスラリーを常温(25℃)より高く、前記高分子バインダーのガラス転移温度(T)より低い温度(T)で製造することができる。
【0010】
前記(S2)段階は、前記多孔性基材を多孔性基材の融点(T)未満に加熱することができる。
【0011】
前記(S2)段階は、前記多孔性基材を前記高分子バインダーのガラス転移温度(T)より高い温度(T)に加熱することができる。
【0012】
前記電気化学素子用分離膜の製造方法は、下記式(1)を満足することができる。
【0013】
式(1)
-T≧T-T
【0014】
前記高分子バインダーがフィルム化された領域は、多孔性コーティング層の全重量に対して25重量%~50重量%であり得る。
【0015】
前記多孔性コーティング層の厚さは1μm~20μmであり得る。
【0016】
前記(S2)段階は、前記一面の縁から予め決められた厚さだけ延びた領域、前記一面上に形成される碁盤模様の領域、及び前記一面上に同一形状が繰り返し形成されるパターン領域の内、いずれか一つ以上の領域のみを加熱することができる。
【0017】
前記電気化学素子用分離膜の製造方法において、前記(S3)段階は、前記コーティングスラリーが塗布された多孔性基材を50℃~70℃の温度で5分~10分間乾燥する段階を含むことができる。
【0018】
前記電気化学素子用分離膜の製造方法において、前記(S3)段階は、前記乾燥する段階が5回以上繰り返されるもので有り得る。
【0019】
前記電気化学素子用分離膜の製造方法において、前記高分子バインダーは、アクリル系高分子、フッ素系高分子、及びアクリル系高分子とフッ素系高分子とのハイブリッド(混成)高分子からなる群から選択される1以上の粒子状高分子バインダーで有り得る。
【0020】
前記電気化学素子用分離膜の製造方法において、前記フッ素系高分子は、フッ化ビニリデンのホモポリマー(単独重合体)、フッ化ビニリデンと他の重合可能なモノマー(単量体)との共重合体、またはこれらの内、2種以上の混合物で有り得る。
【0021】
前記電気化学素子用分離膜の製造方法において、前記粒子状高分子バインダーの平均粒径(D50)は100nm~700nmであり、前記無機物粒子の平均粒径(D50)は300nm~700nmであり得る。
【0022】
前記電気化学素子用分離膜の製造方法において、前記高分子バインダーは、アクリル系高分子、フッ素系高分子、及びアクリル系高分子とフッ素系高分子とのハイブリッド高分子を含むことができる。
【0023】
本発明の他の一態様は、前記一態様に係る電気化学素子用分離膜の製造方法に従って製造した電気化学素子用分離膜を提供する。
【0024】
本発明のさらに他の一態様は、正極、負極、及び前記正極と負極との間に介在された分離膜を含む電気化学素子であって、前記分離膜が前記一側面に係る電気化学素子用分離膜であることを提供する。
【0025】
前記電気化学素子はリチウム二次電池であり得る。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る電気化学素子用分離膜は、多孔性コーティング層中に高分子バインダーがフィルム化された領域を含み、前記フィルム化された領域は、前記多孔性コーティング層が前記多孔性基材と接触する面から形成され、従来対比で向上した剥離強度を提供する。
【0027】
本発明に係る電気化学素子用分離膜は、多孔性コーティング層全体重量に対して25重量%~50重量%がフィルム化され、従来対比で向上した電極接着力を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に係る電気化学素子用分離膜を製造する過程を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように本発明の各構成をさらに詳細に説明するが、これは一例に過ぎず、本発明の権利範囲は以下の内容により限定されない。
【0030】
本明細書で使用される「含む」という用語は、本発明に有用な材料、組成物、装置、及び方法を列挙するために使用され、その記載された例に限定されない。
【0031】
本明細書で使用される「約」、「実質的に」は、固有の製造及び物質許容誤差に鑑みて、その数値または程度の範囲またはそれに近い意味で使用され、本発明の理解を助けるために提供された正確または絶対的な数値が開示された開示を侵害者が不当に使用するのを防ぐために使用される。
【0032】
本明細書で使用される「電気化学素子」は、一次電池、二次電池、スーパーキャパシタなどを意味することができる。
【0033】
本明細書で使用される「粒径」は、他の特定の記載がない限り、粒径による粒子数の累積分布において50%に相当する粒径であるD50を意味する。
【0034】
本明細書で使用される「フィルム化領域」は、多孔性コーティング層に含まれる高分子バインダーがガラス転移温度以上にさらされて元の形状を維持することができず、1つ以上の隣接する高分子バインダーと物理的または化学的に接続されて形成される領域を意味する。
【0035】
本発明の一実施形態は、(S1)高分子バインダー、無機物粒子及び分散媒を含むコーティングスラリーを製造する段階、(S2)多孔性基材の少なくとも一面を加熱する段階、及び(S3)前記(S1)段階で、製造されたコーティングスラリーを前記(S2)段階で加熱された多孔性基材の少なくとも一面に塗布して多孔性コーティング層を形成する段階を含む電気化学素子用分離膜の製造方法を提供する。製造された電気化学素子用分離膜に形成された多孔性コーティング層は、多孔性基材と接触する面の少なくとも一部に高分子バインダーがフィルム化された領域を含むことができる。
【0036】
前記(S3)段階は、(S1)及び(S2)段階の後に行われるが、前記(S1)段階及び(S2)段階は、その順序が特定されない。例えば、(S1)段階でコーティングスラリーを製造した後、(S2)段階で多孔性基材を加熱することができ、その逆も可能である。また、(S1)段階でコーティングスラリーの製造と(S2)段階で多孔性基材の加熱を同時に行うことができる。
【0037】
前記(S1)段階は、高分子バインダー、無機物粒子及び分散媒を含むコーティングスラリーを製造する段階である。コーティングスラリーは、水系分散媒、水系分散媒に分散する高分子バインダー、及び無機物粒子を含むことができる。
【0038】
前記水系分散媒は、水及び炭素数1~5のアルコールからなる群から選択される少なくとも1つであり得る。例えば、水系分散媒は、水とイソプロピルアルコールの混合物であり得る。高分子バインダーは、水系分散媒の中で粒子形状を維持することができ、粒子形状は球状で有り得るが、これに限定されない。水系分散媒は、(S3)段階でコーティングスラリーが加熱された多孔性基材の少なくとも一面に塗布される過程またはその後に蒸発することができる。
【0039】
前記高分子バインダーは、アクリル系高分子、フッ素系高分子、及びアクリル系高分子とフッ素系高分子とのハイブリッド高分子からなる群から選択される少なくとも1つの粒子状高分子バインダーであり得る。
【0040】
粒子状高分子バインダーの平均粒径(D50)は100nm~700nmで有り得る。多孔性コーティング層の形成過程で、高分子バインダーは、水系分散媒の蒸発を駆動力として多孔性基材の反対方向に移動(migration)することができ、多孔性コーティング層の表面に分布して電極に対する接着力を提供することができる。
【0041】
粒子状高分子バインダーの平均粒径が700nmより大きいと、高分子バインダーの移動が妨げられ、電極への接着力が低くなる。平均粒径が大きい高分子バインダーは、(S3)段階で多孔性基材表面に近い位置で滞留する時間が長くなる。前記(S3)段階で形成された多孔性コーティング層は、前記多孔性コーティング層の全重量に基づいてフィルム化された領域が50重量%を超えることができる。この場合、分離膜の通気度と電気抵抗の上昇を招き、剥離強度は高いが電極接着力が低く、電気化学素子の構造的安定性を確保できない。
【0042】
粒子状高分子バインダーの平均粒径が100nmより小さいと、高分子バインダーが密に積層され、分離膜の通気度とイオン伝導率が急激に低くなる。平均粒径の小さい高分子バインダーは、(S3)段階で多孔性基材の反対方向への移動が活発である。前記(S3)段階で形成された多孔性コーティング層は、前記多孔性コーティング層の全重量を基準にフィルム化された領域が25重量%未満であり、前記多孔性コーティング層の剥離強度を確保できなくなる。
【0043】
前記アクリル系ポリマーは、多孔性コーティング層にドライ接着力を付与することができる。Dry接着力は、分離膜が電解液で含浸されていない状態で多孔性コーティング層と多孔性基材との間の接着力、及び多孔性コーティング層と隣接する電極との間の接着力を包括して意味することができる。アクリル系高分子の平均粒径(D50)は400nm~700nmで有り得る。
【0044】
アクリル系高分子は、炭素数1~18のアルキル(メタ)アクリレート繰り返し単位を含む(共)重合体、ブチルアクリレートとエチルヘキシルアクリレートの共重合体、ブチルアクリレートとスチレンの共重合体、メチルメタクリレートとエチルヘキシルアクリレートのコポリマー、ポリアクリロニトリル及びポリシアノアクリレートからなる群から選択される少なくとも1つで有り得るが、これらに限定されない。例えば、アクリル系高分子は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムなどの粒子状高分子をさらに含むことができる。好ましくは、アクリル系ポリマーは、メチルメタクリレートとエチルヘキシルアクリレートとのコポリマー(共重合体)であり得る。
【0045】
前記フッ素系高分子と前記アクリル系高分子と前記フッ素系高分子とのハイブリッド高分子は、多孔性コーティング層にウェット接着力を付与することができる。Wet接着力は、分離膜が電解液で含浸された状態で多孔性コーティング層と多孔性基材との間の接着力、及び多孔性コーティング層と隣接する電極との間の接着力を包括して意味することができる。フッ素系高分子の平均粒径(D50)は100nm~500nmで有り得る。
【0046】
前記フッ素系高分子は、フッ化ビニリデンのホモポリマー、フッ化ビニリデンと他の重合可能なモノマーとのコポリマー、またはそれらの2つ以上の混合物であり得る。フッ化ビニリデンと他の重合可能なモノマーは、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、1,2-ジフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニル)エーテル、パーフルオロ(エチルビニル)エーテル、パーフルオロ(プロピルビニル)エーテル、パーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)、トリクロロエチレン及びフッ化ビニルからなる群から選択される少なくとも1つで有り得るが、これに限定されるものではない。好ましくは、フッ素系高分子はフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーであり得る。フッ素系高分子中のフッ化ビニリデンと他の重合可能なモノマーの含有量は、フッ素系高分子の全重量に基づいて1重量%~40重量%であり得る。
【0047】
前記アクリル系高分子とフッ素系高分子とのハイブリッド高分子において、アクリル系高分子とフッ素系高分子は、それぞれ前記と同様のものを用いることができる。ハイブリッド高分子中のアクリル系ポリマーの含有量は、ハイブリッド高分子の全重量に基づいて20重量%~40重量%であり得る。好ましくは、ハイブリッド高分子は、アクリル系高分子とフッ素系高分子とを3:7の重量比で含むことができる。
【0048】
好ましくは、高分子バインダーは、アクリル系高分子、フッ素系高分子、及びアクリル系高分子とフッ素系高分子とのハイブリッド高分子を含むことができる。例えば、高分子バインダーは、メチルメタクリレートとエチルヘキシルアクリレートのコポリマー、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンのコポリマー、及びそれらのハイブリッドポリマーの両方を含む優れたドライ接着性及びウェット接着力を提供することができる。
【0049】
前記高分子バインダーは、そのガラス転移温度(T)以上の温度で粒子状を維持できず、フィルム状に変換され得る。高分子バインダーのガラス転移温度(T)は、前記高分子バインダーに含まれる非晶質高分子バインダーのうち最も低いガラス転移温度を意味することができる。
【0050】
例えば、高分子バインダーがアクリル系高分子とフッ素系高分子とを含む場合、高分子バインダーのガラス転移温度(T)はアクリル系高分子のガラス転移温度で有り得る。非結晶性であるアクリル系高分子のガラス転移温度以上で前記アクリル系高分子が粒子形状を維持できず、フィルム化領域を形成することができる。結晶性を有するフッ素系高分子は、前記アクリル系高分子のガラス転移温度より相対的に高い融点を有し、前記融点以下では粒子形状を維持することができる。
【0051】
例えば、高分子バインダーが複数のアクリル系高分子を含む場合、高分子バインダーのガラス転移温度(T)は、比較的低いガラス転移温度を有するアクリル系高分子のガラス転移温度であり得る。
【0052】
好ましくは、高分子バインダーは、アクリル系高分子またはアクリル系高分子とフッ素系高分子とのハイブリッド高分子を含むことができる。高分子バインダーのガラス転移温度(Tg)は常温(25℃)より高くすることができる。
【0053】
無機物粒子は、平均粒径(D50)が300nm~700nmの無機物ナノ粒子であり、好ましくは300nm~500nmであり得る。前記無機物粒子は、バインダーポリマーによって隣接する無機物粒子と連結及び固定することができ、無機物粒子間のインタースティシャルボリュームが多孔性コーティング層の細孔を形成することができる。無機物粒子の平均粒径が前記範囲に含まれる場合、分離膜に均一な細孔を形成することができる。より均一な細孔を有する分離膜は、リチウムイオンの移動が容易で電解液の含浸率が高くなり、電池の性能向上に寄与することができる。
【0054】
前記無機物粒子は多孔性コーティング層の厚さを均一に形成し、適用される電気化学素子の作動電圧範囲内で酸化還元反応が起こらないものであり得る。例えば、無機物粒子は、リチウムイオン伝達能力、圧電性及び難燃性のうちの1つまたは複数の特性を有することができる。
【0055】
リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子は、リチウム元素を含有するがリチウムを貯蔵せず、リチウムイオンを移動させる機能を有することを意味する。リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子は、粒子構造内に存在する一種の欠陥のためにリチウムイオンを伝達及び移動させることができる。したがって、電気化学素子内のリチウムイオン伝導度が向上し、これにより電気化学素子の性能向上を図ることができる。
【0056】
例えば、リチウムイオン伝達能力を有する無機物粒子は、LiPO、LixTiy(PO)3(0<x<2、0<y<3)、LixAlyTiz(PO(0<x<2、0<y<1,0<z<3),LixLayTiO(0<x<2,0<y<3),LixGeyPzSw(0<x<4,0<y<1,0<z<1,0<w<5)、LiNなどのリチウムナイトライド(LixNy、0<x<4、0<y<2)、LiPO-LiS-SiSなどのSiS系ガラス(LixSiySz、0<x<3、0<y<2、0<z<4)、LiI-LiS-PなどのP系のガラス(LixPySz、0<x<3、0<y<3、0<z<7)、LiLaZr12などのLLZO系及びそれらの混合物からなる群から選択された1つ以上で有り得るが、これに限定されない。
【0057】
圧電性を有する無機物粒子とは、常圧では不導体であり、一定圧力が印加された場合、内部構造変化により電気が通じる物性を有する物質を意味する。前記無機物粒子は誘電率定数が100以上の高誘電率特性を示すことができ、一定圧力を印加して引張または圧縮すると電荷が発生し、一方の面は正に、反対側は負にそれぞれ帯電することにより、両面間に電位差が発生する機能を持つことができる。前記のような無機物粒子は、Local crush、Nailなどの外部衝撃により正極と負極の内部短絡が発生した場合、分離膜にコーティングされた無機物粒子により正極と負極が直接接触しないだけでなく、無機物粒子の圧電性により、粒子内の電位差が発生し、これにより正極と負極との間の電子移動、すなわち微細な電流の流れが生じることにより、緩やかな電気化学素子の電圧減少及びそれによる安全性向上を図ることができる。
【0058】
例えば、圧電性を有する無機物粒子は、BaTiO、BaSO、Pb(Zr、Ti)O(PZT)、(0<x<1,0<y<1),Pb(Mg1/3Nb2/3)O-PbTiO(PMN-PT)、HfO(ハフニア)及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つで有り得るが、これらに限定されるものではない。
【0059】
難燃性を有する無機物粒子は、分離膜に難燃特性を付加したり、電気化学素子内部の温度が急激に上昇することを防止することができる。
【0060】
例えば、難燃性の無機物粒子は、Sb、Sb、Sb、SrTiO、SnO、CeO、MgO、Mg(OH)、NiO、CaO、ZnO、ZnSnO、ZnSnO、ZnSn(OH)、ZrO、Y、SiO、Al、AlOOH、Al(OH)、SiC、TiO、HBO、HBO及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つであり得るが、これらに限定されない。
【0061】
前記コーティングスラリーは、全重量に対して、高分子バインダーと無機物粒子とを含む固形分を10~30重量%含むことができる。コーティングスラリーによって形成される多孔性コーティング層は、高分子バインダーと無機物粒子とを1:9~9:1の重量比で含むことができ、好ましくは3:7~7:3の重量比で含むことができる。
【0062】
前記(S1)段階は、前記コーティングスラリーを常温(25℃)より高く、前記高分子バインダーのガラス転移温度(T)より低い温度(T)で製造することで有り得る。例えば、水系分散媒に高分子バインダーと無機物粒子を投入して攪拌して、高分子バインダーと無機物粒子とが均一に分散したコーティングスラリーを製造した後、前記温度(T)に加熱することができる。前記コーティングスラリーに含まれる高分子バインダーは粒子状を維持することができ、後述する(S3)段階で前記コーティングスラリーが多孔性基材に塗布されて多孔性コーティング層を形成する際に、高分子バインダーの少なくとも一部がフィルム化された領域を形成する。
【0063】
前記(S2)段階は、多孔性基材の少なくとも一面を前記高分子バインダーのガラス転移温度(Tg)より高い温度(T)に加熱する段階である。
【0064】
前記多孔性基材は、正極と負極とを電気的に絶縁し、電極接触による短絡を防止しながらリチウムイオンが移動できる経路を提供することができる。例えば、多孔性基材は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポレフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド及びポリエチレンナフタレンからなる群から選択される少なくとも1つの高分子樹脂を含む高分子フィルムまたは不織布で有り得るが、これらに限定されない。多孔性基材は、単層の高分子フィルムまたは不織布からなるもので有り得るが、これに限定されず、複数の層から構成され得る。
【0065】
前記多孔性基材の厚さは3μm~50μmであり得る。多孔性基材の厚さが3μm未満であると、製造される分離膜の機械的物性が低下し、分離膜が容易に破損することがある。多孔性基材に存在する細孔サイズは0.01μm~50μmであり、気孔度は10vol%~90vol%であり得るが、これに限定されない。
【0066】
前記(S2)段階はヒーター等を用いて多孔性基材の少なくとも一面を加熱するが、前記多孔性基材の融点(T)未満に加熱することができる。例えば、多孔性基材がポリエチレン(融点約107℃)である場合、(S2)段階は多孔性基材の両面を約40℃~60℃(T)より高く、約107℃(T)より低い温度である。(T)で加熱することができる。
【0067】
前記(S2)段階は、多孔性基材の少なくとも一面の一部のみを加熱することで有り得る。この場合、後述する(S3)段階でコーティングスラリーの塗布によって高分子バインダーがフィルム化される領域を制御して、過度のフィルム化に伴う多孔性コーティング層の通気度及びイオン伝導率が低下する現象を防止することができる。例えば、前記(S2)段階は、前記一面の縁から予め決められた厚さだけ延びた領域、前記一面に形成される碁盤模様の領域、前記一面に同一形状が繰り返し形成されるパターン領域のうち、任意の1つ以上の領域のみが加熱されることができる。パターン領域は、円形、楕円形、三角形、四角形などの多角形、点線、実線などの線形、非定形の形状を含むことができるが、これらに限定されない。
【0068】
前記(S3)段階は、(S1)段階で製造されたコーティングスラリーを(S2)段階で加熱された多孔性基材の少なくとも一面に塗布して多孔性コーティング層を形成する段階である。
【0069】
前記コーティングスラリーは、多孔性基材にディップコーティング、ダイコーティング、バーコーティング、ロールコーティング、及びコンマコーティングからなる群から選択される1つまたは複数の方法で塗布することができる。しかし、これに限定されることはない。
【0070】
前記コーティングスラリーは、高分子バインダーのガラス転移温度(T)より高い温度(T)に加熱された多孔性基材の表面と接触しながら熱が伝導され、前記ガラス転移温度(T)以上に加熱される。コーティングスラリーに含まれる高分子バインダーの少なくとも一部は粒子を保持することができず、多孔性コーティング層中に高分子バインダーがフィルム化された領域を形成する。フィルム化された領域は、多孔性コーティング層と多孔性基材との間の接着力を向上させ、接着力は剥離強度として表すことができる。フィルム化領域が形成された多孔性コーティング層を含む電気化学素子用分離膜は、約50gf/20mm~80gf/20mmの剥離強度を有することができる。分離膜の剥離強度が50gf/20mmより低いと、電極組立体の製造及び電気化学素子の使用過程で分離膜の損傷が起こり得る。
【0071】
多孔性コーティング層に含まれる高分子バインダーのガラス転移温度(T)を基準に、コーティングスラリーは比較的低い温度(T)に加熱され、多孔性基材は比較的高い温度(T)に加熱されるが、これらの温度が下記式(1)を満足すると、前記範囲に属する剥離強度を得ることができる。
【0072】
式(1)
-T≧T-T
【0073】
例えば、多孔性基材は、高分子バインダーのガラス転移温度(T)より10℃~30℃さらに高い温度(T)で加熱され、コーティングスラリーは高分子バインダーのガラス転移温度(T)より5℃~10℃さらに低い温度(T)で加熱することができる。好ましくは、多孔性基材は、高分子バインダーのガラス転移温度(T)より10℃~20℃さらに高い温度(T)で加熱することができる。
【0074】
前記(S3)段階で形成された多孔性コーティング層は、前記多孔性コーティング層の全重量に基づいて、25重量%~50重量%がフィルム化された領域で有り得る。多孔性基材が有する熱エネルギーが多孔性コーティング層に伝導すると、熱エネルギーの一部が分離膜外に放出されて失われるため、多孔性コーティング層の厚さ方向に一部のみに前記フィルム化領域を形成することができる。
【0075】
前記(S3)段階は、前記コーティングスラリーを塗布した多孔性基材を50℃~70℃の温度で5分~10分間乾燥する段階を含むことができる。コーティングスラリーに含まれる分散媒の一部は、多孔性基材に塗布した後も残り、乾燥する段階によって除去することができる。好ましくは、前記(S3)段階は、前記乾燥する段階が5回以上繰り返されるもので有り得る。
【0076】
前記(S3)段階でコーティングスラリーに含まれる高分子バインダーの一部は、多孔性基材との接触面でフィルム化され、他の一部は、多孔性基材との接触面から対向する方向に移動することができる。高分子バインダーは、コーティングスラリーの塗布及び乾燥段階で多孔性コーティング層の表面方向に移動することができる。本実施形態では、多孔性基材を上述の温度TPに加熱するか、または前記温度TPに加熱された多孔性基材に上述した温度TSで準備されたコーティングスラリーを塗布することにより、高分子の移動が従来より容易になり得る。
【0077】
多孔性コーティング層が形成された後、前記多孔性コーティング層は、前記多孔性基材と接触する面と対向する表面から厚さ50%以下の部分に、前記多孔性コーティング層の全重量に基づいて25重量%~50重量%のフィルム化された領域を含むことができる。好ましくは、前記多孔性コーティング層は、前記多孔性基材と接触する面と対向する表面から50%以下の部分に、前記多孔性コーティング層の全重量に基づいて30重量%~50重量%のフィルム化された領域を含み得る。多孔性コーティング層は、前記多孔性基材と接触する面で相対的に少量の高分子バインダーを含むが、前記高分子バインダーはフィルム化されて多孔性基材との接着力を提供することができ、前記多孔性基材と対向する表面では相対的に大量の粒子状高分子バインダーを含みから電極との接着力を確保することができる。前記のような高分子バインダー分布を有する電気化学素子用分離膜は、約70gf/20mm~90gf/20mmの電極接着力を有することができる。分離膜の電極に対する接着力が70gf/20mmより低いと、電極と分離膜とを接着して電極組立体を製造することができない。
【0078】
前記多孔性コーティング層の厚さは1μm~20μmであり得る。好ましくは、多孔性コーティング層の厚さは2μm~10μmであり得る。
【0079】
以下、添付の図面を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明し、先の実施形態と同様の説明を前記実施形態の説明とする。
【0080】
図1は、分離膜製造装置100を用いて本発明の一実施形態に係る電気化学素子用分離膜1を製造する過程を示す概念図である。
【0081】
図1を参照すると、分離膜製造装置100は、多孔性基材供給ロール110、ヒーター120、スラリー供給部130、乾燥オーブン140及び巻き取りロール150を含むことができる。
【0082】
多孔性基材10は、多孔性基材供給ロール110に巻き取られた状態で設けられ、分離膜製造装置100にシート状に供給することができる。
【0083】
多孔性基材10は、少なくとも片面を加熱することができるヒーター120に供給される。ヒーター120は、多孔性基材10の対象面の少なくとも一部に加熱ゾーンを形成し、加熱ゾーンを予め決められた温度TPに加熱することができる。加熱された多孔性基材10はスラリー供給部130に供給される。
【0084】
スラリー供給部130は、スラリー貯留部131、スラリー加熱部132、前記スラリー貯留部131に収容されるコーティングスラリー133、スラリー塗布部134などを含むことができる。スラリー貯留部131は、コーティングスラリー133を貯蔵するための空間を提供するが、これに限定されない。高分子バインダー、無機物粒子及び分散媒がスラリー貯留部131に供給され攪拌されてコーティングスラリー133を形成することができ、スラリー加熱部132はコーティングスラリー133を予め決められた温度(T)に加熱することができる。加熱されたコーティングスラリー133は、スラリー塗布部134を介して多孔性基材10の少なくとも一面に塗布することができる。スラリー塗布部134は、コーティング方式に応じてダイ、バー、ロールなどで有り得る。コーティングスラリーが塗布された多孔性基材は乾燥オーブン140に供給される。
【0085】
乾燥オーブン140は、予め決められた温度及び時間の間コーティングスラリーが塗布された多孔性基材を乾燥して多孔性コーティング層を形成することができる。乾燥オーブン140は、同一または異なる条件で2回以上乾燥する段階を繰り返すことができ、好ましくは乾燥段階を5回以上繰り返すことができる。製造された分離膜1は巻き取りロール150に供給される。
【0086】
本発明の別の1実施形態は、正極、負極、及び前記正極と負極との間に介在する分離膜を含む電気化学素子であり、前記分離膜は前述の一実施形態に従って製造されたものを提供する。例えば、電気化学素子は、リチウムイオンを提供する正極を含むリチウム二次電池であり得る。
【0087】
前記正極及び前記負極は、それぞれの集電体の少なくとも一面に活物質が塗布及び乾燥されたもので有り得る。前記集電体は、電気化学素子に化学的変化を引き起こすことなく導電性を有する材料を使用することができる。例えば、正極用集電体は、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、ステンレス鋼:アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどで有り得るが、これに限定されるものではない。例えば、負極用集電体は、銅、ニッケル、チタン、焼成炭素、ステンレス鋼である。銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどで有り得るが、これに限定されるものではない。前記集電体は、金属薄板、フィルム、箔、ネット、多孔質体、発泡体など様々な形態であり得る。
【0088】
例えば、正極活物質は、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)である。化学式Li1+xMn2-x(ここで、xは0~0.33である)、LiMnO、LiMn、LiMnOなどのリチウムマンガン酸化物。リチウム銅酸化物(LiCuO):LiV、LiFe、V、Cuなどの酸化バナジウム;式LiNi1-xMxO(ここで、M=Co、Mn、Al、Cu、Fe、Mg、BまたはGaであり、x=0.01~0.3である)で表されるNiサイト型リチウムニッケル酸化物。化学式LiMn-xMxO(ここで、M=Co、Ni、Fe、Cr、ZnまたはTaであり、x=0.01~0.1である)またはLiMnMO(ここで、M=Fe、Co、Ni、CuまたはZnである)で表されるリチウムマンガン複合酸化物。式のLiの一部がアルカリ土類金属イオンで置換されたLiMn;ジスルフィド化合物;Fe(MoO等含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0089】

負極活物質は、難黒鉛化炭素、黒鉛系炭素などの炭素:LixFe(0≦x≦1),LixWO(0≦x≦1),SnxMe1-xMe‘yOz(Me:Mn,Fe,Pb,Ge;Me’:Al,B,P,Si,周期律表の1族、2族、3族元素、ハロゲン;0<x≦1;1≦y≦3;1≦z≦8)などの金属複合酸化物;リチウム金属;リチウム合金;ケイ素系合金;錫系合金;SnO、SnO、PbO、PbO、Pb、Pb、Sb、Sb、Sb、GeO、GeO、Bi、Bi、及びBiなどの金属酸化物;ポリアセチレンなどの導電性高分子;Li-Co-Ni系材料等を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0090】
前記電解液は、リチウム塩含有非水系電解液であり得る。電解液は電解液とリチウム塩とからなり、電解液としては非水系有機溶媒、有機固体電解質、無機固体電解質などを用いることができる。
【0091】
前記非水系有機溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ガンマ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非プロトン性有機溶媒を用いることができる。
【0092】
前記有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリエジテーションリジン、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、イオン性解離基を含む重合剤などを使用することができる。
【0093】
前記無機固体電解質としては、例えば、LiN、LiI、LiNI、LiNLiI-LiOH、LiSiO、LiSiO-LiI-LiOH、LiSiS、LiSiO、LiSiO-LiI-LiOH、LiPO-LiS-SiSなどのLiの窒化物、ハロゲン化物、硫酸塩などを使用することができる。
【0094】
前記リチウム塩は、非水系電解質に溶解しやすい物質であり、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、(CFSO)クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4フェニルホウ酸リチウム、イミドなどを用いることができる。
【0095】
前記電気化学素子は、正極、負極、分離膜及び電解液をケースやパウチに挿入して封止して製造することができる。前記ケースやパウチの形状は限定されない。例えば、電気化学素子は、円筒形、角形、コイン型、パウチ型リチウム二次電池で有り得る。
【0096】
前記リチウム二次電池ユニットセルとしてパックまたはモジュール化されたコンピュータ、携帯電話、パワーツールなどの小型デバイス、及びバッテリモータによって動力を受けて動くパワーツール;電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle、HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)などを含む電気自動車;電気自転車、電動スクーターを含む電気二輪車;電気ゴルフカート;電力貯蔵用システムなどの中大型デバイスに使用することができる。
【0097】
以下においては、具体的な実施例及び実験例により本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例及び実験例は本発明を例示するためのものであり、本発明が下記の実施例及び実験例によって限定されるものではない。
【0098】
実施例1
コーティングスラリーの準備
【0099】
常温(25℃)で水とイソプロピルアルコールを95:5の重量比で混合して水系分散媒100mLを準備した。前記水系分散媒にアクリル系高分子バインダーとして(Styrene-アクリル、粒径:350nm~400nm、Tg:40℃)11.7g、フッ素系高分子バインダーとして(PVDF-HFP、粒径:250nm、Tg:-40℃)8.2g、無機物粒子として(Al、粒径:400nm)27.615gを投入し、シェーカーで60分間撹拌して高分子バインダーと無機物粒子が分散したコーティングスラリーを製造した。コーティングスラリーを35℃に加熱した。
【0100】
多孔性基材の準備
【0101】
多孔性基材としては(MI:0.2g/10min、Tm:135℃、気孔度:45%、平均気孔サイズ:45nm)であり、サイズ20cm×30cm、厚さ9μmのポリエチレンフィルムを用いた。ポリエチレンフィルムをオーブンに入れ、両面の表面温度が50℃になるように加熱した。
【0102】
分離膜の製造
【0103】
50℃で加熱されたポリエチレンフィルムにバーコーターを用いて35℃で加熱されたコーティングスラリーを両面コーティングして、各コーティングの厚さが2μmの多孔性コーティング層を形成した。
【0104】
多孔性コーティング層が形成されたポリエチレンフィルムを低温風量を加えて乾燥する過程を5回繰り返し、全厚13μmの分離膜を作製した。
【0105】
比較例1
コーティングスラリー及び多孔性基材をそれぞれ加熱しなかったことを除いては、前記実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。
【0106】
比較例2
コーティングスラリーを加熱しなかったことを除いては、前記実施例1と同様の方法で分離膜を作製した。
【0107】
比較例3
多孔性基材を加熱しなかったことを除いては、前記実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。
【0108】
比較例4
コーティングスラリーを45℃に加熱したことを除いては、前記実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。
【0109】
比較例5
アクリル系高分子バインダーとフッ素系高分子バインダーの粒径がそれぞれ50nm以上100nm未満のものを用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。
【0110】
比較例6
アクリル系高分子バインダーとフッ素系高分子バインダーの粒径がそれぞれ750nm~1000nmのものを用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で分離膜を製造した。
【0111】
実験例1.フィルム化された領域の分布確認
実施例及び比較例の分離膜一面にテープ剥離実験を繰り返し行い、多孔性コーティング層中のフィルム化領域の分布を確認した。多孔性コーティング層に含まれる高分子バインダーのうちフィルム化された高分子バインダーはテープ剥離実験により除去されず、粒子状を保持した高分子バインダーのみがテープに接着することができる。
【0112】
各分離膜試料を5cm×5cmの大きさに準備し、最初の重量(Lini)を測定した。分離膜試料の片面にテープ(3M)を貼り、前記テープの末端をUTM(Universal Testing Machine, Instron)を用いて接着方向に対して180°方向に300mm/minの速度で剥がすことを3回繰り返した後、分離膜の重量(L)を測定した。
【0113】
テープ3回剥離後分離膜の重量(L)から生地の重量(L)を引いた値(多孔性コーティング層中フィルム化された領域の重量、L-L)を多孔性コーティング層の重量(Lini-L)に対する割合(フィルム化率、%)で計算し、下記表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
実験例2.分離膜の物性確認
実施例及び比較例の分離膜の通気度、前記分離膜において多孔性基材と多孔性コーティング層との間の接着力(剥離強度、ピールストレングス)、分離膜と電極接着力(lami strength)を確認して下記表2に示した。
【0116】
通気度測定
通気度は、Gurley densometer(Gurley社、4110N)を用いて、100ccの空気が直径28.6mm、面積645mmの分離膜を透過するのに要する時間を測定した。
【0117】
剥離強度測定
各分離膜を幅20mmでサンプリングし、幅18mmの両面テープ(3M)を用いてスライドガラスに貼り付けて試験用サンプルを用意した。
【0118】
UTMでスライドガラスを分離膜から接着方向に対して180°方向に300mm/minの速度で剥がし、剥離強度を測定した。
【0119】
電極-分離膜接着力の測定
負極活物質(天然黒鉛及び人造黒鉛重量比5:5)と導電材(super P)及びバインダー(ポリフッ化ビニリデン(PVdF))を92:2:6の重量比で混合し、水に分散させた後、銅箔にコーティングして負極を製造した。
【0120】
実施例及び比較例の分離膜と、前記負極の幅をそれぞれ20mmでサンプリングして重ねた後、60℃で6.5MPaの圧力で1秒間加圧して電極接着力試験用サンプルを作製した。
【0121】
UTMで前記カソードを前記分離膜から接着方向に対して180°方向に300mm/minの速度で剥離しながら、分離膜の電極接着力を測定した。
【0122】
【表2】
【符号の説明】
【0123】
1:電気化学素子用分離膜 10:多孔性基材
100:分離膜製造装置 110:多孔性基材供給ロール
120:ヒーター 130:スラリー供給部
131:スラリー貯留部 132:スラリー加熱部
133:コーティングスラリー 134: スラリー塗布部
140:乾燥オーブン 150:巻き取りロール
図1
【国際調査報告】