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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】眼炎症性疾患を処置する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/44 20060101AFI20240912BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 27/04 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 27/14 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240912BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
A61K31/44
A61P27/02
A61P27/04
A61P27/14
A61P29/00
A61P37/06
A61P31/22
A61P31/04
A61P31/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518365
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 US2022076876
(87)【国際公開番号】W WO2023049809
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】63/247,174
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/251,874
(32)【優先日】2021-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523306184
【氏名又は名称】イオリクス セラピューティクス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】ジェフォーズ,エリザベス・ダブリュー
(72)【発明者】
【氏名】グカスヤン,ホヴハンネス・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】バーホーベン,ローズマリーン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンマティー,フーマン・デビッド
(72)【発明者】
【氏名】エスティス,ダニエル・ジェイ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA23
4C086MA58
4C086NA06
4C086ZA33
4C086ZB08
4C086ZB11
4C086ZB13
4C086ZB32
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、ロフルミラストの眼科用医薬組成物を投与することによって、眼炎症性疾患を処置する方法に関する。ロフルミラストの眼科用医薬組成物の投与は、副腎皮質ステロイドおよび抗ヒスタミン薬を含む既存の免疫調節、免疫抑制、または非ステロイド系抗炎症性の治療と比較して、著しい免疫調節性および抗炎症活性を提供しながら、一方または両方の薬剤と比較して、改善された安全性および利便性のプロファイルも提供し得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼炎症性または免疫介在性の障害を有する患者を処置する方法であって:
治療有効量のロフルミラストまたはその薬学的に許容される塩を含む眼科用医薬懸濁剤を、前記患者の眼表面に投与する工程であり、
前記投与が、免疫抑制剤、免疫調節剤、または非ステロイド系抗炎症剤の投与と比較して、少なくとも1つの副作用の低減をもたらす工程を含む、方法。
【請求項2】
免疫抑制剤、免疫調節剤、または非ステロイド系抗炎症剤が、眼科用プレドニゾロン局所用組成物または抗ヒスタミン薬オロパタジン局所用組成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記副作用が:眼内圧の増加、角膜、強膜および上皮組織の薄化、角膜、強膜および上皮組織の穿孔、遅延または減少した創傷または上皮の治癒、視覚欠損、灼熱感、刺痛感、異物感、充血、眼瞼浮腫、疼痛、眼のそう痒症、じん麻疹、発疹、アレルギー性反応、角膜炎、結膜炎、後嚢下白内障形成、緑内障、視神経損傷、角膜潰瘍、散瞳、視覚欠損、灼熱感、刺痛感、異物感、真菌性、細菌性、またはウイルス性の感染症に対する増加した感受性、真菌性またはウイルス性の感染症の再活性化、急性化膿性感染症のマスキング、術後の増加した小疱形成、ドライアイ、点状角膜症、中心性漿液性網脈絡膜症、薬剤性眼、調節幅の減衰、眼瞼下垂、急性前部ブドウ膜炎または眼球穿孔からなる群から選択される眼性副作用である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記副作用が:血糖値の変化、体重の増加または減少、減少した全身性創傷治癒、全身性の微生物感染に対する感受性、目周辺の組織に対する刺激作用、かぜ症候群、咽頭炎、無力症、背部痛、頭痛、咳、悪心、鼻炎、副鼻腔炎、骨粗鬆症、および味覚倒錯もしくは味覚異常、または亜硫酸塩に関連するアナフィラキシーからなる群から選択される全身性副作用である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
プレドニゾロンまたはオロパタジンの局所用組成物が、懸濁剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記投与が、免疫抑制剤、免疫調節剤、または非ステロイド系抗炎症剤の投与と比較して、投薬頻度の低減または他の指標である投薬利便性をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記投与が、角膜および結膜の組織からなる群から選択される少なくとも1つの眼組織において、炎症性ストレスによって主導されるサイトカインまたはケモカイン活性を下方制御する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記投与が:角膜、結膜、マイボーム腺、虹彩、ブドウ膜、網膜、または脈絡膜からなる群から選択される、患者の少なくとも1つの支持的な組織または腺における疾患修飾活性をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記眼炎症性または免疫介在性の障害が:白内障もしくは他の眼科手術またはレーザー治療からの術後の疼痛および炎症、角膜屈折矯正手術後のかすみ、全層または部分層の角膜移植の術後、シェーグレン症候群または他の自己免疫性もしくは炎症性のドライアイ疾患を含むドライアイ症候群、蒸発性または乾燥性のドライアイ疾患、眼の移植片対宿主病、眼の酒さ、アレルギー性の結膜炎または角結膜炎、アトピー性角結膜炎、春季角結膜炎、角膜炎、ヘルペス性またはウイルス性の角膜実質炎/ヘルペス性またはウイルス性の眼瞼炎または結膜炎を含むヘルペス性またはウイルス性の角膜炎、帯状疱疹関連の炎症、細菌性、ウイルス性、または真菌性の感染症を含む他の感染病原体に続発した炎症、眼化学熱傷に続発した炎症、眼スティーブンス-ジョンソン症候群/中毒性表皮融解症、若年性特発性関節炎のブドウ膜炎を含むブドウ膜炎、脂漏性または他の形態の眼瞼炎、角膜縁幹細胞欠損、マイボーム腺機能不全、上強膜炎、瞼裂斑炎、および翼状片、フリクテン性結膜炎、ブドウ球菌性過敏症、モーレン潰瘍、内皮炎、上輪部角結膜炎、または眼内圧、創傷治癒、もしくは真菌性もしくは他の微生物感染症の病歴に起因して患者が禁忌とされる、ステロイドで伝統的に処置される他の眼的状態からなる群から選択される眼表面疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記眼炎症性または免疫介在性の障害が:前部ブドウ膜炎、汎ブドウ膜炎および後部ブドウ膜炎(感染性または非感染性)、糖尿病性網膜症、糖尿病黄斑浮腫、地図状萎縮、乾性または湿性の加齢性黄斑変性症、網膜静脈閉塞症、薬物関連/医原性、非感染性/減菌、または特発性の網膜血管炎、眼内炎、または網膜炎、ベーチェット病の眼症状発現、または他の網膜もしくは前部の疾患からなる群から選択される前眼部または後眼部の疾患である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記眼炎症性または免疫介在性の障害が、ドライアイ疾患、ブドウ膜炎、またはヘルペス性もしくはウイルス性の角膜炎である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
眼炎症性または免疫介在性の障害を有する患者を処置する方法であって:
治療有効量のロフルミラストまたはその薬学的に許容される塩もしくは代謝物を含む眼科用医薬懸濁剤を、前記患者に投与する工程であり、
前記投与が、角膜および結膜の組織からなる群から選択される少なくとも1つの眼組織において、炎症性ストレスによって主導されるサイトカイン活性を下方制御する工程を含む、方法。
【請求項13】
前記投与が:角膜、結膜、マイボーム腺、強膜、毛様体、虹彩、レンズ、ブドウ膜、脈絡膜、網膜色素上皮(RPE)、または網膜からなる群から選択される、患者の少なくとも1つの支持的な組織または腺における疾患修飾活性をもたらす、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記眼炎症性または免疫介在性の障害が:白内障もしくは他の眼科手術またはレーザー治療からの術後の疼痛および炎症、角膜屈折矯正手術後のかすみ、全層または部分層の角膜移植の術後、シェーグレン症候群または他の自己免疫性もしくは炎症性のドライアイ疾患を含むドライアイ症候群、蒸発性または乾燥性のドライアイ疾患、眼の移植片対宿主病、眼の酒さ、アレルギー性の結膜炎または角結膜炎、アトピー性角結膜炎、春季角結膜炎、角膜炎、ヘルペス性またはウイルス性の角膜実質炎/ヘルペス性またはウイルス性の眼瞼炎または結膜炎を含むヘルペス性またはウイルス性の角膜炎、帯状疱疹関連の炎症、細菌性、ウイルス性、または真菌性の感染症を含む他の感染病原体に続発した炎症、眼化学熱傷に続発した炎症、眼スティーブンス-ジョンソン症候群/中毒性表皮融解症、若年性特発性関節炎のブドウ膜炎を含むブドウ膜炎、脂漏性または他の形態の眼瞼炎、角膜縁幹細胞欠損、マイボーム腺機能不全、上強膜炎、瞼裂斑炎、および翼状片、フリクテン性結膜炎、ブドウ球菌性過敏症、モーレン潰瘍、内皮炎、上輪部角結膜炎、または眼内圧、創傷治癒、もしくは真菌性もしくは他の微生物感染症の病歴に起因して患者が禁忌とされる、ステロイドで伝統的に処置される他の眼的状態からなる群から選択される眼表面疾患である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記眼炎症性または免疫介在性の障害が:前部ブドウ膜炎、汎ブドウ膜炎および後部ブドウ膜炎(感染性または非感染性)、糖尿病性網膜症、糖尿病黄斑浮腫、地図状萎縮、乾性または湿性の加齢性黄斑変性症、網膜静脈閉塞症、薬物関連/医原性、非感染性/減菌、または特発性の網膜血管炎、眼内炎、または網膜炎、ベーチェット病の眼症状発現、または他の前眼部分もしくは後眼部分の疾患からなる群から選択される前眼部または後眼部の疾患である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記眼炎症性障害が、ドライアイ疾患、ブドウ膜炎、またはヘルペス性もしくはウイルス性の角膜実質炎である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記投与が、免疫抑制剤、免疫調節剤、または非ステロイド系抗炎症剤の投与と比較して、投薬頻度の低減または他の指標である投薬利便性をもたらす、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
眼炎症性または免疫介在性の障害を有する患者を処置する方法であって:
治療有効量のロフルミラストまたはその薬学的に許容される塩もしくは代謝物を含む眼科用医薬懸濁剤を、前記患者に投与する工程であり、
前記投与が、免疫抑制剤、免疫調節剤、または非ステロイド系抗炎症剤の投与によるサイトカインの下方制御より優れた手法で、サイトカイン活性を下方制御する工程を含む、方法。
【請求項19】
免疫抑制剤、免疫調節剤、または非ステロイド系抗炎症剤が、眼科用プレドニゾロン局所用組成物または抗ヒスタミン薬オロパタジン局所用組成物である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001]本出願は、2021年9月22日に出願された米国仮出願第63/247,174号、および2021年10月4日に出願された米国仮出願第63/251,874号の優先権を主張する。これらの出願のそれぞれは、本明細書に参照により組み込まれる。
【0002】
[0002]本発明は、ロフルミラストの眼科用医薬組成物を投与することによって、眼炎症性疾患を処置する方法を含む。本出願の発明者らは、ロフルミラストの眼科用医薬懸濁剤の投与が、副腎皮質ステロイドおよび抗ヒスタミン薬を含む既存の免疫抑制および免疫調節の治療と比較して、著しい抗炎症活性を提供しながら、一方または両方の薬剤と比較して、改善された安全性プロファイルおよび利便性も提供し得ることを、驚いたことに発見した。
【背景技術】
【0003】
[0003]ロフルミラストは、ホスホジエステラーゼ(PDE)4型の強力かつ選択的な長期作用性阻害剤であり、抗炎症性および潜在的な抗悪性腫瘍活性を有する。ロフルミラストは、気管支治療剤として、同様に炎症性障害の処置に好適であることが公知である。ロフルミラストを含有する組成物は、ヒトおよび動物用の医薬品に使用され:炎症性およびアレルゲン誘導性の気道障害(例えば、気管支炎、喘息、COPD)、皮膚疾患(例えば、増殖性、炎症性、およびアレルゲン誘導性の皮膚障害)、ならびに胃腸管領域における全身性炎症(クローン病および潰瘍性大腸炎)を含むが、これらに限定されない疾患の処置および予防用に提案されてきた。ロフルミラストの経口医薬組成物は、COPD用にDaliresp(登録商標)(米国)およびDaxas(登録商標)(ヨーロッパ)の商標名で現在販売されており、ロフルミラストクリームの局所用組成物が、皮膚科学的使用のために、乾癬用にZoryve(商標)(米国)の商標名で現在販売されている。
【0004】
[0004]ロフルミラストおよびその合成は、米国特許第5,712,298号に記載されている。ロフルミラストなどの、ホスホジエステラーゼ(PDE)-4阻害特性を有する医薬化合物は、乾癬およびアトピー性皮膚炎などの炎症性障害の処置に治療上有効であり、有用であることが認識されている。経口および経皮的な医薬組成物の治療的有効性が研究されてきたが、眼の炎症性または免疫介在性の障害を処置するのに好適なロフルミラストの眼科用医薬組成物に対する必要がある。今日、抗炎症性の眼用薬物の市場の大部分は、抗生物質/抗菌薬(感染性/炎症性の徴候の文脈において)、免疫抑制剤(副腎皮質ステロイドを含む)、免疫調節剤(抗ヒスタミン薬を含む)、および非ステロイド系抗炎症剤に基づく。これらの主要な種類の薬剤は、典型的には、中期から長期の炎症性もしくは免疫介在性の疾患の臨床的必要を満足しないか、または著しい併存症および安全上の課題が存在する。したがって、簡便で容認できる形態の抗炎症性のロフルミラスト眼科用製剤に対する未だ対処されていない高い必要性がある。
【0005】
[0005]医薬的眼科用剤は、容認性、減菌性、安全性、および有効性の均衡をとらなければならないため、薬剤の眼への送達は非常に困難である。Priyanka Agarwalら、Formulation Considerations for the Management of Dry Eye Disease、Pharmaceutics、13、207(2021年2月3日)は、眼科用医薬製剤に関する製剤上の難題を論じている。例えば、製剤用賦形剤の乏しい容認性があり得る。加えて、患者コンプライアンスが低いことが、眼科用医薬製剤では頻繁に難題となる。活性剤の物理化学的特性を保持し、目に対して容認できるpHおよび不活性成分の狭い範囲に収まりながら、減菌条件下で作製され得て、目に対して有効な用量で送達され得る、安定な眼科用製剤を開発することは非常に困難である。眼への送達は、眼表面、前眼区、または後眼区のいずれかに集中される。眼表面製剤は、1日に1回~4回以上、患者によって送達されることが多く、在宅患者の送達に見られる一般的な操作者の誤差:減菌性の課題、送達量の変動、および位置の正確さにもかかわらず、投薬の一貫性、また有効量を送達する融通性が要求されるというさらなる難題を有する。長期の眼疾患を有する患者はまた、活性成分および不活性成分ならびに防腐剤に対する感受性が高くなり、さらなる製剤化の難題が生じている。
【0006】
[0006]眼表面疾患(OSD)は、3つの主要な部類の治療用の眼科用医薬剤:免疫調節剤、免疫抑制剤(副腎皮質ステロイドを含む)、抗菌薬、および非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を用いて優先的に処置される。それぞれ適した場合があり、さらに全てが難題を抱えている。眼疾患に対する免疫抑制の治療的手法である副腎皮質ステロイドは、炎症活性を弱めるのに有効であるが、全身的、眼局所的、または眼内の眼科用処置のいずれで使用されても、その副作用が長く知られており、かつ頻繁に投薬されなければならないことが多い。抗生物質は、特定のOSDを主導し得る細菌性感染に高度に有効であるが、炎症性の疾患は、本質的に純粋に細菌性であると誤診されることが多いため、したがって、抗細菌薬が過剰使用されることが多く、長期の公衆衛生の難題である抗生物質および抗菌薬の耐性を引き起こし、同様に炎症または根底にある自己免疫性もしくは免疫介在性の眼の状態の不適切な処置をもたらす。非ステロイド系の免疫調節剤または免疫抑制剤(抗ヒスタミン薬、抗インテグリン薬、およびカルシニューリン阻害剤を含む)ならびに非ステロイド系抗炎症剤(ブロムフェナク、ジクロフェナクおよびその他を含む)もまた、炎症性または免疫主導性の眼疾患の処置において役割を果たすが、これらは、小群の免疫標的(細胞性または目内の位置に基づく)による限られた有効性または困難な安全性もしくは容認性のプロファイルのいずれかに起因し、限られた有用性を有すると認識されることが多い。全ての現在の標準ケアの免疫および炎症性に着目した治療剤についての難題は、高い有効性を有するが、さらに低い患者ベース-または集団ベースの副作用、より高い利便性を有する、目の疾患の根底的な主導要因に直接取り組む代替的な種類の薬剤に対する未だ対処されていない大きな必要性を残すことである。詳細には、本発明以前に、炎症性および免疫介在性の目疾患の、最も頻度が高いが多角的な根底的な主導要因を標的とする広範囲の作用機序を有するが、全身性または眼性の副作用がほとんどなく、投薬頻度が低い抗炎症性医薬剤に対する未だ対処されていない高い必要性があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[0007]副腎皮質ステロイドは、最も頻繁に使用される種類の眼用医薬剤の1つであり、非感染性の病因を有する目の炎症性疾患における最初および最後の手段の薬剤として投与されるか、または感染性の病因が疑われる疾患においても抗菌剤と組み合わせて使用されることが多い。副腎皮質ステロイドは、典型的には、相対的に有効で、作用発生が相対的に短く、多くの製剤:局所的懸濁剤、ゲル剤、軟膏剤、注射剤またはデポー剤で投与され得て;抗生物質または他の標的医薬剤と共に共製剤で投与され得る。しかし、皮膚科学的、免疫学的、自己免疫的、および多くの他の疾患状態における使用と同じように;副腎皮質ステロイドは、たとえ短期間であっても、局部的および全身的な多様で深刻な副作用を伴う。目における副腎皮質ステロイド使用は、局部的に創傷治癒を減少させ、真菌性またはウイルス性の感染症に対する感受性を増加させるかまたは再活性化させ(実際、減菌されていない状態で不適切に送達された場合、直接的な眼内炎または他の感染症のリスクを増加させる可能性さえある)、角膜、強膜および他の組織における上皮組織の薄化などの組織特異性の副作用を起こす場合があり、緑内障、視神経損傷、白内障または中心性漿液性網脈絡膜症をもたらし得る眼内圧の増加に対するそれらの影響はおそらく最もよく知られている(Fung 2020)。滴下注入に関連する影響は、部位に関連する疼痛、灼熱感または刺痛感、アレルギー性反応、異物感、視覚障害、そう痒症、じん麻疹、および発疹;同様に角膜炎、結膜炎、角膜潰瘍、散瞳、充血、遠近調節幅の減衰、眼瞼下垂、急性前部ブドウ膜炎および眼球穿孔を含み得る(Pred Forte Label、2017年)。全身性副作用は、頭痛、血糖上昇および全身性の微生物感染に対する感受性を含み得る。目において、これらの副作用は、短期間(例えば、数週間)の投薬後でさえ起こり得る。例えば、副腎皮質ステロイドは、炎症性または免疫介在性の眼疾患に対する最適以下の解決策となり、中期または長期の抗炎症性管理を必要とすることが多い。抗ヒスタミン薬およびシクロスポリンもまた、目のアレルギー性、免疫介在性、または炎症性の疾患に取り組むために、大集団のOSDに頻繁に使用されるが、これらの薬剤もまた、眼組織への刺激作用、かぜ症状、咽頭炎、および創傷治癒の遅れから亜硫酸塩に関連するアナフィラキシーまでの全身性副作用を含む重度の副作用を有する場合がある。これらの一般的に使用される免疫調節剤/免疫抑制剤クラスの全ては(副腎皮質ステロイド、抗ヒスタミン薬、シクロスポリンを含む)、局部的な副作用、詳細には患者の生活の質に直接的に影響するもの(疼痛、不快感、かゆみ)を起こす場合があり、これらの製品は、詳細にはこれらの使用の開始時に、1日4~8回またはそれ以上で与えられることが多く、これらの副作用のためにより低用量に減らされる必要があることが多いという事実によって増悪する。臨床的実施では、前部ブドウ膜炎のような徴候に対して、この免疫介在性疾患に固有の根底にある炎症に対する適切な効果を得ようとするために、1~2時間ごとに副腎皮質ステロイドを使用することは珍しいことではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0008]本発明は、ロフルミラストの眼科用医薬組成物を投与することによって、眼の炎症性または免疫介在性の疾患を処置する方法に関する。本出願の発明者らは、ロフルミラストの眼科用医薬組成物の投与が、副腎皮質ステロイドおよび抗ヒスタミン薬を含む既存の標準ケア治療と比較して、臨床的に意味のある免疫調節性および抗炎症活性を提供しながら、一方または両方の種類の薬剤と比較して、改善された安全性および利便性のプロファイルも提供し得ることを、驚いたことに発見した。本発明は、臨床的に意味のある有効性を有し、かつ患者ベースまたは集団ベースの副作用がさらにより低い、眼表面および前眼部/後眼部の障害の免疫性および炎症主導の要因に取り組むための代替的な種類の薬剤に対する未だ対処されていない高い必要性に取り組む。強い有効性および低レベルの副作用を伴い、本発明は、炎症性または免疫介在性の要素を有する多くの眼疾患に対する短期、中期、または長期の治療的解決策を提供し得る。
【0009】
[0009]本発明の一実施形態は、眼炎症性障害を有する患者を処置する方法を提供する。本方法は、治療有効量のロフルミラストまたはその薬学的に許容される塩もしくは代謝物を含む眼科用医薬懸濁剤を、患者の眼表面に投与する工程を含む。本投与は、免疫抑制剤、免疫調節剤、または非ステロイド系抗炎症剤の投与と比較して、少なくとも1つの副作用の低減をもたらす。特定の実施形態では、ロフルミラスト組成物の投与は、眼科用プレドニゾロン懸濁剤または抗ヒスタミン薬オロパタジン懸濁剤と比較して、少なくとも1つの副作用の低減をもたらす。
【0010】
[00010]特定の実施形態では、低減された副作用は:眼内圧の増加、角膜、強膜および上皮組織の薄化、角膜、強膜および上皮組織の穿孔、遅延または減少した創傷または上皮の治癒、充血、眼瞼浮腫、疼痛、眼のそう痒症、じん麻疹、発疹、アレルギー性反応、角膜炎、結膜炎、後嚢下白内障形成、緑内障、視神経損傷、角膜潰瘍、散瞳、視覚欠損、灼熱感、刺痛感、異物感、真菌性、細菌性、またはウイルス性の感染症に対する増加した感受性、真菌性またはウイルス性の感染症の再活性化、急性化膿性感染症のマスキング、術後の増加した小疱形成、ドライアイ、点状角膜症、中心性漿液性網脈絡膜症、および薬剤性眼(ophthalmicus medicamentosa)、調節幅の減衰、眼瞼下垂、急性前部ブドウ膜炎または眼球穿孔からなる群から選択される眼性副作用である。
【0011】
[00011]特定の実施形態では、低減された副作用は:血糖値の変化、体重の増加または減少、減少した全身性創傷治癒、全身性の微生物感染に対する感受性、目周辺の組織に対する刺激作用、かぜ症候群、咽頭炎、無力症、背部痛、頭痛、咳、悪心、鼻炎、副鼻腔炎、骨粗鬆症、および味覚倒錯もしくは味覚異常、または亜硫酸塩に関連するアナフィラキシーからなる群から選択される全身性副作用である。
【0012】
[00012]特定の実施形態では、本投与は、角膜および結膜の組織からなる群から選択される少なくとも1つの眼組織において、炎症性ストレスによって主導されるサイトカインまたはケモカインの活性、詳細にはTh17、Th1、および/またはTh2サイトカインの活性を下方制御する。
【0013】
[00013]特定の実施形態では、ロフルミラストは、免疫抑制剤、免疫調節剤、または非ステロイド系抗炎症剤によるサイトカイン下方制御と比較して、Th1、Th2、および/またはTh17関連のサイトカインを含むサイトカインの活性をより強く下方制御する。さらに、特定の実施形態では、ロフルミラストによるサイトカインの下方制御は、結膜において、ステロイドまたは抗ヒスタミン薬による下方制御より頑強である。
【0014】
[00014]特定の実施形態では、本投与は、角膜、結膜、マイボーム腺、虹彩、ブドウ膜、網膜、および脈絡膜からなる群から選択される少なくとも1つの支持的な組織または腺における疾患修飾活性をもたらす。
【0015】
[00015]特定の実施形態では、眼炎症性障害は:白内障もしくは他の眼科手術またはレーザー治療からの術後の疼痛および炎症、角膜屈折矯正手術後のかすみ、全層または部分層の角膜移植の術後、シェーグレン症候群または他の自己免疫性もしくは炎症性の疾患関連のドライアイ症候群、蒸発性または乾燥性のドライアイ疾患、眼の移植片対宿主病、眼の酒さ、アレルギー性の結膜炎または角結膜炎、アトピー性角結膜炎、春季角結膜炎、角膜炎、ヘルペス性またはウイルス性の角膜実質炎/ヘルペス性またはウイルス性の眼瞼炎または結膜炎を含むヘルペス性またはウイルス性の角膜炎、帯状疱疹関連の炎症、細菌性、ウイルス性、または真菌性の感染症などの他の感染病原体に続発した炎症、眼化学熱傷に続発した炎症、眼スティーブンス-ジョンソン症候群/中毒性表皮融解症、若年性特発性関節炎のブドウ膜炎を含むブドウ膜炎、脂漏性または他の形態の眼瞼炎、角膜縁幹細胞欠損、マイボーム腺機能不全、上強膜炎、瞼裂斑炎、および翼状片、フリクテン性結膜炎、ブドウ球菌性過敏症、モーレン潰瘍、内皮炎、上輪部角結膜炎、または眼内圧、創傷治癒、もしくは真菌性もしくは他の微生物感染症の病歴に起因して患者が禁忌とされる、ステロイドで伝統的に処置される他の眼的状態からなる群から選択される眼表面疾患である。
【0016】
[00016]特定の実施形態では、眼炎症性障害は:前部ブドウ膜炎、汎ブドウ膜炎および後部ブドウ膜炎(感染性または非感染性)、糖尿病性網膜症、糖尿病黄斑浮腫、地図状萎縮、乾性または湿性の加齢性黄斑変性症、網膜静脈閉塞症、薬物関連/医原性、非感染性/減菌、または特発性の網膜血管炎、眼内炎、または網膜炎、眼ベーチェット病、ならびに目の前部組織および後部組織の他の炎症性疾患からなる群から選択される前眼部または後眼部の疾患である。好ましい実施形態では、眼炎症性障害は、ドライアイ疾患、ブドウ膜炎、またはヘルペス性もしくはウイルス性の角膜炎である。
【0017】
[00017]本発明の別の実施形態は、眼炎症性または免疫介在性の障害を有する患者を処置する方法を提供する。本方法は、治療有効量のロフルミラストまたはその薬学的に許容される塩もしくは代謝物を含む眼科用医薬製剤を、患者の眼表面に投与する工程を含む。本投与は、角膜および結膜の組織からなる群から選択される少なくとも1つの眼組織において、炎症性ストレスによって主導されるサイトカイン活性を下方制御する。特定の実施形態では、医薬製剤は、懸濁剤である。
【0018】
[00018]本発明の別の実施形態は、眼炎症性または免疫介在性の障害を有する患者を処置する方法を提供する。本方法は、治療有効量のロフルミラストまたはその薬学的に許容される塩もしくは代謝物を含む眼科用医薬製剤を、患者の眼表面に投与する工程を含む。本投与は、副腎皮質ステロイドまたは他の免疫抑制剤、免疫調節剤、または抗ヒスタミン薬を含む非ステロイド系抗炎症剤によるサイトカインの下方制御より優れた手法で、サイトカイン活性を下方制御する。特定の実施形態では、ロフルミラスト組成物の投与は、眼科用プレドニゾロン懸濁剤または抗ヒスタミン薬オロパタジン懸濁剤の投与によるサイトカインの下方制御より優れた手法で、サイトカイン活性の下方制御をもたらす。
【0019】
[00019]本明細書に組み込まれ、本開示の一部を形成する添付の図面は、本発明のさまざまな実施形態を例示する助けとなり、説明とともに、当業者が本明細書に開示される実施形態を作製および使用することを可能にするように、本発明を説明するのにさらに役立つ。図中の誤差バーは、標準偏差値である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】[00020]全身および局所的なアレルゲン誘発のマウス前臨床モデルにおいて測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の7日投与後の体重に関するデータを提供するグラフである。
図2】[00021]全身および局所的なアレルゲン誘発のマウス前臨床モデルにおいて測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後の充血の臨床応答に関するデータを提供するグラフである。
図3】[00022]マウス前臨床モデルにおいて測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後の眼瞼腫脹の臨床応答に関するデータを提供するグラフである。
図4】[00023]マウス前臨床モデルにおいて測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後の眼脂の臨床応答に関するデータを提供するグラフである。
図5】[00024]マウス前臨床モデルにおいて測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後の斜視の臨床応答に関するデータを提供するグラフである。
図6】[00025]マウス前臨床モデルにおいて測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後のTh2サイトカイン応答に関するデータを提供するグラフである。
図7】[00026]マウス前臨床モデルにおいて測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後のTh17(IL-6)ならびにTh1(IL-12p70およびTNF-a)サイトカイン応答に関するデータを提供するグラフである。
図8】[00027]マウス前臨床モデルにおいて測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後のTh1サイトカインおよびケモカイン応答に関するデータを提供するグラフである。
図9】[00028]ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%、0.3%、1.0%)およびプラセボ/ビヒクルの投与後の体重に関する13週間のGLP毒性学研究の結果を提供するグラフである。
図10】[00029]ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%、0.3%、1.0%)およびプラセボ/ビヒクルの投与後の眼内圧(IOP)に関する13週間のGLP毒性学研究の結果を提供するグラフである。
図11】[00030]ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%、0.3%、1.0%)およびプラセボ/ビヒクルの投与後の中心角膜厚(角膜厚測定)に関する13週間のGLP毒性学研究の結果を提供するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[00031]本明細書に記載される特定の方法論、プロトコル、および試薬は変更できるため、本発明はこれらに限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図したものではないことも理解されたい。別段に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0022】
[00032]本明細書で引用される全ての刊行物、特許および特許出願は、別段記載されない限り、その全容が参照により本明細書に組み込まれる。刊行物、特許、または特許出願および参照により本明細書に組み込まれる本開示において同じ用語が定義される場合、本開示における定義が支配的な定義を表す。特定の種類の化合物、化学などを説明するために参照される刊行物、特許、特許出願に関して、そのような化合物、化学などに関する部分が、参照により本明細書に組み込まれる文献の部分である。
【0023】
[00033]本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈によってそうでない旨が明確に示されない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「活性成分」は、単一の成分および2つ以上の異なる成分を含む。
【0024】
[00034]用語「約」は、数値と関連して使用された場合、示された数値より5%小さい下限値を有し、示された数値より5%大きい上限値を有する範囲内の数値を包含することを意図する。
【0025】
[00035]用語「有効な」は、疾患症状の重症度の低下、疾患症状のない期間の頻度および期間の増加、または疾患苦痛に起因する機能障害もしくは能力障害の防止をもたらすのに十分な量の化合物、薬剤、物質、製剤または組成物の量を指す。その量は、単回投薬としてまたは複数回投薬レジメンにより、単独でまたは他の化合物、薬剤もしくは物質と組み合わせられてもよい。当業者は、対象の体格、対象の症状の重症度、および選択された特定の組成物または投与経路などの要因に基づき、このような量を決定することができる。
【0026】
[00036]用語「目の障害」、「目の状態」、または「眼障害」は、視覚を脅かし、目の不快感をもたらす場合があり、全身健康状態を示し得る目の疾患/状態(複数可)を指す。目の表面は、角膜、結膜、眼瞼、涙腺およびマイボーム腺、および相互接続する神経で構成される。
【0027】
[00037]「薬学的に許容される」とは、ヒトまたは動物に対する投与に対し、一般的に安全であることを意味する。好ましくは、薬学的に許容される成分は、動物、より詳細にはヒトにおける使用に関して、連邦もしくは州政府の規制機関により承認されたか、または米国薬局方、Inc.、Rockville Md.によって出版された米国薬局方、もしくは他の一般に認められている薬局方に収載されているものである。
【0028】
[00038]本発明による「医薬組成物」は、異なる活性成分ならびに希釈剤および/もしくは担体が互いに混合された組成物の形態で存在してもよく、または活性成分が部分的にもしくは全体的に異なった形態で存在する、組み合わされた調製物の形態を取ってもよい。そのような組合せまたは組み合わされた調製物の例は、小分けキットである。
【0029】
[00039]用語「ロフルミラスト」は、本出願で使用される場合、言及がロフルミラスト自体であることが別段に規定されない限りまたは文脈において明らかでない限り、ロフルミラスト、その塩、ロフルミラストのN-酸化物、およびその塩、ならびに他の加水分解性またはアミドの代謝物を指す。
【0030】
[00040]本明細書で使用される場合、用語「対象」または「患者」は、最も好ましくはヒトを指す。用語「対象」または「患者」は、本明細書に記載の化合物から利益を受ける可能性がある任意の哺乳動物を含み得る。
【0031】
[00041]「治療量」または「治療有効量」は、意図された目的を達成するのに十分な治療剤の量である。所与の治療剤の有効量は、薬剤の性質、投与経路、治療剤を受ける対象の体格、および投与目的などの要因によって変動する。それぞれ個々の場合の有効量は、当技術分野で確立された方法により、当業者によって経験的に決定され得る。
【0032】
[00042]本明細書で使用される場合、疾患または障害を「処置する」、「処置すること」または「処置」は、以下のうちの1つまたは複数を成し遂げることを意味する:(a)障害の重症度および/または持続期間を低減すること;(b)処置される障害(複数可)に特徴的な症状の発生を制限または防止すること;(c)処置される障害(複数可)に特徴的な症状の悪化を阻害すること;(d)以前に障害(複数可)を有した患者におけるその障害(複数可)の再発を制限または防止すること;ならびに(e)以前に障害(複数可)の症状があった患者における症状の再発を制限または防止すること。
【0033】
[00043]本発明は、ロフルミラストの眼科用医薬懸濁剤を投与することによって、眼炎症性疾患を処置する方法に関する。本出願の発明者らは、ロフルミラストの眼科用医薬懸濁剤の投与が、副腎皮質ステロイドおよび抗ヒスタミン薬を含む既存の免疫調節、免疫抑制および非ステロイド系抗炎症性の治療と比較して、これらの薬剤と比較して改善された安全性プロファイルを提供し、投薬頻度が低い形態における利便性の利益も付け加えながら、臨床的に意味のある抗炎症活性を提供し得ることを驚いたことに発見した。本発明は、高い有効性を有し、かつ患者ベースまたは集団ベースの副作用および不便さがさらにより低い、OSDの炎症主導要因に取り組むための代替的な種類の薬剤に対する未だ対処されていない高い必要性に取り組む。本発明は、炎症性または免疫介在性の要素を有する眼疾患に対する短期、中期、または長期の治療を提供し得る。
【0034】
[00044]特定の実施形態では、本方法は、眼炎症性疾患に苦しむ患者に、治療有効量のホスホジエステラーゼ-4阻害剤、ロフルミラストまたはその薬学的に許容される塩もしくは代謝物を含む眼科用医薬懸濁剤を投与することを含む。特定の実施形態では、医薬組成物は、活性成分として、ロフルミラストのピリジン残基のN-酸化物またはその塩を含む、ロフルミラストの代謝物を含む。
【0035】
[00045]ロフルミラストは、式(I)の化合物であり:
【0036】
【化1】
【0037】
式中、R1はジフルオロメトキシであり、R2はシクロプロピルメトキシであり、R3は3,5-ジクロロピリド-4-イルである。
[00046]ロフルミラストは、化学名N-(3,5-ジクロロピリド-4-イル)-3-シクロプロピルメトキシ-4-ジフルオロメトキシベンズアミドを有する。ロフルミラストのN-酸化物は、化学名3-シクロプロピルメトキシ-4-ジフルオロメトキシ-N-(3,5-ジクロロピリド-4-イル1-オキシド)ベンズアミドを有する。ロフルミラストおよびその合成、ホスホジエステラーゼ(PDE)4阻害剤としてのロフルミラストの使用、ならびにロフルミラスト製剤は、米国特許第5,712,298号に記載され、これは本明細書に参照により組み込まれる。眼科用医薬組成物は、遊離塩基またはその薬学的に許容される塩としてロフルミラストを含み得る。ロフルミラストの例示的な塩は、米国特許出願公開第2006/0084684号の[0012]および[0013]段落に記載される塩であり、その開示は本明細書に参照により組み込まれる。特定の実施形態では、医薬組成物は、活性成分として、ロフルミラストのピリジン残基のN-酸化物またはその塩を含む、ロフルミラストの代謝物を含む。特定の実施形態では、医薬組成物は、ロフルミラストの加水分解性またはアミドの代謝物を含む。
【0038】
[00047]本発明の特定の実施形態では、ロフルミラストは、例えば眼炎症性障害を含む目の障害または目の状態を有する患者の眼表面に投与される。特定の実施形態では、眼炎症性障害は:白内障もしくは他の眼科手術またはレーザー治療からの術後の疼痛および炎症、角膜屈折矯正手術後のかすみ、全層または部分層の角膜移植の術後、シェーグレン症候群または他の自己免疫性もしくは炎症性の疾患関連のドライアイ症候群、蒸発性または乾燥性のドライアイ疾患、眼の移植片対宿主病、眼の酒さ、アレルギー性の結膜炎または角結膜炎、アトピー性角結膜炎、春季角結膜炎、角膜炎、ヘルペス性またはウイルス性の角膜実質炎/ヘルペス性またはウイルス性の眼瞼炎または結膜炎を含むヘルペス性またはウイルス性の角膜炎、帯状疱疹関連の炎症、細菌性、ウイルス性、または真菌性の感染症などの他の感染病原体に続発した炎症、眼化学熱傷に続発した炎症、眼スティーブンス-ジョンソン症候群/中毒性表皮融解症、若年性特発性関節炎のブドウ膜炎を含むブドウ膜炎、脂漏性または他の形態の眼瞼炎、角膜縁幹細胞欠損、マイボーム腺機能不全、上強膜炎、瞼裂斑炎、および翼状片、フリクテン性結膜炎、ブドウ球菌性過敏症、モーレン潰瘍、内皮炎、上輪部角結膜炎、または眼内圧、創傷治癒、もしくは真菌性もしくは他の微生物感染症の病歴に起因して患者が禁忌とされる、ステロイドで伝統的に処置される他の眼的状態からなる群から選択される眼表面疾患である。
【0039】
[00048]本発明の特定の実施形態では、ロフルミラストは、目の障害または目の状態を有する患者の前眼区または後眼区に投与される。特定の実施形態では、眼炎症性障害は:前部ブドウ膜炎、汎ブドウ膜炎および後部ブドウ膜炎(感染性または非感染性)、糖尿病性網膜症、糖尿病黄斑浮腫、地図状萎縮、乾性または湿性の加齢性黄斑変性症、網膜静脈閉塞症、薬物関連/医原性、非感染性/減菌、または特発性の網膜血管炎、眼内炎、または網膜炎、眼ベーチェット病、ならびに目の前部組織および後部組織の他の炎症性疾患からなる群から選択される前眼部または後眼部の疾患である。好ましい実施形態では、眼炎症性障害は、ドライアイ疾患、ブドウ膜炎、またはヘルペス性もしくはウイルス性の角膜炎である。
【0040】
[00049]本明細書に開示される方法によって処置され得る目の障害の他の例は、眼内圧、創傷治癒、真菌性または他の微生物感染症、薄いかまたは点状の角膜または網膜の上皮組織などの病歴に起因して、または投与頻度に不耐性もしくは遵守不能、または薬剤投与そのものに不耐性であることで、患者が禁忌とされる、副腎皮質ステロイドで伝統的に処置される眼的状態を含み得る。本明細書に記載の方法によって処置可能な目の障害は、急性または慢性であり得る。特定の実施形態では、目の障害は、感染性または他の外部抗原起源に由来するが、これは次に、炎症性カスケードを生じる。好ましい実施形態では、眼炎症性障害は、ドライアイ疾患、ブドウ膜炎またはヘルペス性もしくはウイルス性の角膜実質炎である。
【0041】
[00050]特定の実施形態では、眼科用医薬製剤は、前部ブドウ膜炎、汎ブドウ膜炎および/または後部ブドウ膜炎(感染性または非感染性)、糖尿病性網膜症、糖尿病黄斑浮腫、地図状萎縮、乾性または湿性の加齢性黄斑変性症、網膜静脈閉塞症、薬物関連/医原性、非感染性/減菌、または特発性の網膜血管炎、眼内炎、または網膜炎、ベーチェット病の眼症状発現、または目の前部組織および後部組織の他の炎症性疾患の眼の症状発現などの、前部または後部の炎症性眼疾患を処置するために使用され得る複数の種類の注射剤(硝子体内、上脈絡膜、テノン嚢下、結膜下もしくは他の部位を含む)または装置、埋め込み注射剤、またはデポー剤として投与される。
【0042】
[00051]特定の実施形態では、医薬組成物は、規則的な間隔におけるなどのレジメンのとおりに投与される。例えば、医薬組成物は、眼表面に直接、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1週間に1回、1週間に2回、1週間に3回、または1週間に4回、毎月、必要に応じて(PRN)または処置し延長して投与され得る。特定の実施形態では、医薬組成物は、維持投薬または用量設定投薬のレジメンの一部として投与され得る。医薬組成物は、処方された期間で投与され得る。例えば、医薬組成物は、約2日から少なくとも約6週間の期間、または目の状態もしくは疾患における改善が見られるまで投与され得る。処置レジメンの例示的な期間は、1週間、2週間、1か月、6週間、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、または1年を含む。例えば、医薬組成物は、1週間に1回、1か月に1回、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16週間に1回、四半期に1回、6か月に1回、必要に応じて(PRN)、医師の指導に従って、または処置および延長もしくは他の基準などのいくつかの臨床基準に従って、注射剤として投与され得るか、または埋め込み型装置、デポー剤、もしくは吸着性装置として投与され得る。医薬組成物は、終わりのない継続的な処置として投与され得る。
【0043】
[00052]特定の実施形態では、ロフルミラストの眼科用医薬組成物の患者への投与は、著しい免疫調節性および抗炎症活性をもたらす。明細書に開示される方法の結果として達成される抗炎症活性は、眼科用プレドニゾロン懸濁剤および眼科用オロパタジン液剤を含むが、これらに限定されない、頻繁に投薬され、一般的に使用され、かつ強力な副腎皮質ステロイドおよび/または抗ヒスタミン薬を介して達成される抗炎症活性と同様、同等、またはより大きくあり得る。PDE4阻害剤としてのロフルミラストは、環式AMPおよび他の下流介在物質の増加を介して、サイトカインなどの炎症介在物質に対する広範囲の阻害的影響を有することで公知である。本明細書に開示される方法は、結膜と角膜の組織の両方において、炎症性ストレスによって主導されるサイトカイン疾患活性、詳細にはTh17、Th1、およびTh2サイトカインを下方制御することができる。さらに、本明細書に開示される方法は、結膜および角膜の組織を越えて、マイボーム腺などの支持組織、ならびに虹彩(毛様体を含む)およびブドウ膜などの前部組織、ならびに網膜および脈絡膜などの後部組織を含む、他の目および眼窩の組織まで疾患修飾活性を広げることができる。本発明の方法は、炎症活性の低減、同様に角膜および結膜の中およびこれらにわたる炎症の徴候ならびに/またはサイトカインの細胞内輸送の低減によって立証されるように、細胞組織にわたるサイトカインおよび免疫細胞の細胞内輸送の減少をもたらすことができる。サイトカインおよびケモカインの下方制御はまた、血管の走化性または新生血管の成長、マクロファージ極性化、ならびに眼組織にわたるより広い浸潤性のt-細胞およびb-細胞の免疫応答、ならびに目とより広い全身環境との間の交換における低減にも重要である。特定の実施形態では、サイトカイン活性および関連する免疫活性のロフルミラストによる下方制御は、副腎皮質ステロイドまたは抗ヒスタミン薬などの免疫調節剤および免疫抑制剤と同様であるか、またはこれらより優れている。
【0044】
[00053]加えて、本明細書に開示される方法の安全性プロファイルは、眼科用プレドニゾロン懸濁剤および眼科用オロパタジン液剤を含むが、これらに限定されない、頻繁に投薬され、一般的に使用され、かつ強力な副腎皮質ステロイドおよび/または抗ヒスタミン薬の安全性プロファイルと同様、同等、またはより良好であり得る。特定の実施形態では、本方法は、眼科用プレドニゾロン懸濁剤または他の副腎皮質ステロイドの投与と比較して、少なくとも1つの副作用の低減をもたらす。特定の実施形態では、低減された副作用は:眼内圧の増加、角膜、強膜および上皮組織の薄化、角膜、強膜および上皮組織の穿孔、遅延または減少した創傷または上皮の治癒、充血、眼瞼浮腫、疼痛、眼のそう痒症、じん麻疹、発疹、アレルギー性反応、角膜炎、結膜炎、後嚢下白内障形成、緑内障、視神経損傷、角膜潰瘍、散瞳、視覚欠損、灼熱感、刺痛感、異物感、真菌性、細菌性、またはウイルス性の感染症に対する増加した感受性、真菌性またはウイルス性の感染症の再活性化、急性化膿性感染症のマスキング、術後の増加した小疱形成、ドライアイ、点状角膜症、中心性漿液性網脈絡膜症、および薬剤性眼、調節幅の減衰、眼瞼下垂、急性前部ブドウ膜炎および眼球穿孔からなる群から選択される眼性副作用である。
【0045】
[00054]特定の実施形態では、低減された副作用は:血糖値の変化、体重の増加または減少、減少した全身性創傷治癒、全身性の微生物感染に対する感受性、目周辺の組織に対する刺激作用、かぜ症候群、咽頭炎、無力症、背部痛、頭痛、咳、悪心、鼻炎、副鼻腔炎、骨粗鬆症、および味覚倒錯または味覚異常、ならびに亜硫酸塩に関連するアナフィラキシーからなる群から選択される全身性副作用である。加えて、これらの医薬成分中の不活性成分および防腐剤は、コンタクトレンズ装着者のコンタクトレンズに吸収され得る。
【0046】
[00055]加えて、特定の実施形態では、ロフルミラスト医薬組成物の使用は、患者および介護者に投与頻度が低いという利益を提供することができ、これは双方ともより便利であり、患者がこれらの薬剤投与を伴うことなく、働き、旅行し、家を出ることを可能にするだけでなく、1日に多数回の薬物の適用の疼痛および不快感の回避も意味し得る。本薬剤のPKプロファイルは、特定の実施形態では、副腎皮質ステロイドに対する1日8回以上というQIDの頻回投薬と比較して、1日1回または2回(QDまたはBID)が使用され得るものである。一部の眼疾患では、医師は、患者に、副腎皮質ステロイド局所的眼科用調製物を1時間または2時間ごとに1回使用し、かつ付加的な用量を滴下注入するために夜間起きていることを要請し、患者および介護者に著しい負担となる。
【0047】
[00056]加えて、中等度から長期の抗炎症性の医薬介入が要求される患者に関して、副腎皮質ステロイドの使用は、患者が、眼内圧、白内障形成、および感染症を含む安全に関する懸念のため頻回のモニタリングを必要とするため、患者および医師診療の負担の増加を伴う。これは、このモニタリングが困難または不快である患者:幼児、高齢者、長期の疾患に起因して敏感な眼組織を有する患者において特に困難であり、この群の全ては、炎症性眼疾患と頻回に重複する。本実施形態では、この薬剤は、このような頻回のモニタリングに対する必要性および費用を回避することができる。
【0048】
[00057]本発明では、眼科用医薬組成物の投与を必要とする患者は、治療有効量のロフルミラストを含む眼科用医薬組成物を投与される。眼科用医薬組成物は、当業者に周知の広く使用される多くの方法を利用して、以下のような調製物に製剤化され得る。例えば、眼科用医薬組成物は、ゲル剤、軟膏剤、クリーム剤、液剤、懸濁剤、または他の局所的製剤であり得る。特定の実施形態では、眼科用医薬組成物は、さまざまな部位(硝子体内、結膜下、テノン嚢下、上脈絡膜など)を介した眼周囲もしくは結膜下の埋め込み注射剤もしくは注射剤、または角膜内もしくは硝子体内の埋め込み注射剤、注射剤、もしくはデポー剤であり得る。好ましい実施形態では、眼科用医薬組成物は、懸濁剤の形態で、眼に直接、局所的に投与される。
【0049】
[00058]特定の実施形態では、眼科用医薬組成物は、ロフルミラストを、約0.01%w/v~約5.0%w/v、または約0.01%w/v~約3.0%w/v、または約0.01%w/v~約2.0%w/v、または約0.01%~約1.0%w/v、または約0.01%~約0.3%w/vの範囲で含み得る。例えば、眼科用医薬品は、以下のw/vパーセントのいずれかのロフルミラストを含む:0.01%、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、7%、1.8%、1.9%、1.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%など。
【0050】
[00059]特定の実施形態では、眼科用医薬組成物は、懸濁剤、液剤、眼滴剤、眼軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、噴霧剤、鼻内噴霧剤、注射用製剤(硝子体内、結膜下、テノン嚢下、上脈絡膜もしくは他の注射剤)、または吸着性装置もしくは埋め込み注射剤もしくはデポー剤、または吸着性コンタクトレンズであり得る。好ましい実施形態では、医薬組成物は懸濁剤であり、活性成分(すなわち、ロフルミラスト)は、医薬的担体および/または賦形剤中で懸濁化される。特定の実施形態では、ロフルミラストの眼科用医薬組成物は、増粘剤、界面活性剤、および緩衝剤を含む。特定の実施形態では、眼科用医薬組成物は、例えば、安定剤、防腐剤、湿潤剤、希釈用剤、pH調整剤、等張化剤、または吸収増強薬を含む1つまたは複数の付加的な賦形剤を含み得る。特定の実施形態では、眼科用医薬組成物はまた、注射剤(硝子体内、上脈絡膜、またはその他)の形態で、デポー剤、任意の眼科用もしくは周辺組織配置用の埋め込み型吸着性装置、in situ形成ゲル、または薬物/装置の組合せとして前部または後部の眼位置に利用され得て、活性成分(すなわち、ロフルミラスト)は、例えば増粘剤、界面活性剤、または緩衝剤のような上記の1つまたは複数の賦形剤と共に懸濁化され;装置または不活性デポー化合物を伴うかまたは伴わない。
【0051】
[00060]特定の実施形態では、増粘剤は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルピロリジオンもしくはポビドン、カルボキシメチルセルロース、ヒプロメロース、メチルセルロース、またはポリビニルアルコール(PVA)からなる群から選択されるうちの少なくとも1つである。特定の実施形態では、増粘剤は、デキストランまたはゼラチンである。加えて、増粘剤は、特定の実施形態では、Lubrizol(登録商標)によってCarbopol(登録商標)の商標名で販売されているものを含む、カルボマーコポリマータイプAまたはカルボマーコポリマータイプBなどのカルボマーを含み得る。特定の実施形態では、眼科用医薬製剤は、増粘剤を、約0.1%w/v~約5.0%w/v、または約0.1%w/v~約4.0%w/v、または約0.1%w/v~約3.0%w/v、または約0.1%w/v~約2.0%w/v、または約0.1%~約1.0%w/v、または約0.1%~約0.5%w/vの範囲で含み得る。例えば、眼科用医薬品は、以下のw/vパーセントのいずれかの増粘剤を含む:0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、7%、1.8%、1.9%、1.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%、3.1%、3.2%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.9%、4.0%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%、4.6%、4.7%、4.8%、4.9%、5.0%など。
【0052】
[00061]特定の実施形態では、界面活性剤は、ポリソルベート(ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、およびポリソルベート80を含む)ならびにチロキサポールからなる群から選択されるうちの少なくとも1つである。特定の実施形態では、眼科用医薬製剤は、界面活性剤を、約0.05%w/v~約3.0%w/v、または約0.05%w/v~約2.0%w/v、または約0.05%~約1.0%w/v、または約0.1%~約0.5%w/vの範囲で含み得る。例えば、眼科用医薬品は、以下のw/vパーセントのいずれかの界面活性剤を含む:0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、7%、1.8%、1.9%、1.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%など。
【0053】
[00062]特定の実施形態では、緩衝剤は、シトレート、ホスフェート、Tris-HCl(Tris)、アセテート、およびボレートの緩衝剤からなる群から選択されるうちの少なくとも1つである。特定の実施形態では、眼科用医薬製剤は、緩衝剤を、約0.5%w/v~約7.5%w/v、または約0.5%w/v~約5.0%w/v、または約0.5%~約3.0%w/v、または約0.5%w/v~約2.0%w/v、または約0.5%~約1.0%w/vの範囲で含み得る。例えば、眼科用医薬品は、以下のw/vパーセントのいずれかの緩衝剤を含む:0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1.0%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、7%、1.8%、1.9%、1.0%、2.1%、2.2%、2.3%、2.4%、2.5%、2.6%、2.7%、2.8%、2.9%、3.0%、3.0%、3.1%、3.2%、3.3%、3.4%、3.5%、3.6%、3.7%、3.8%、3.9%、4.0%、4.1%、4.2%、4.3%、4.4%、4.5%、4.6%、4.7%、4.8%、4.9%、5.0%など。
【0054】
[00063]特定の実施形態では、眼科用医薬製剤は軟膏剤である。軟膏剤は、ペトロラタム、鉱油からなる群から選択される不活性成分を含み得て、そのような実施形態では、眼科用医薬製剤は、治療有効量のロフルミラスト、ペトロラタム、および鉱油を含み得る。特定の実施形態では、組成物は、約0.1%w/v~約3.0%w/v、または約0.1%w/v~約2.0%w/v、または約0.1%~約1.0%w/vのロフルミラストを含む。特定の実施形態では、組成物は、約75%~約85%w/wのペトロラタム、またはより好ましくは約75%~約80%w/wのペトロラタムを含む。特定の実施形態では、組成物は、約15%~約25%w/wの鉱油、またはより好ましくは約15%~約20%w/wの鉱油を含む。軟膏剤は、懸濁剤と比較して、例えば、接触時間の増加、および投薬系における可溶性薬物濃度の増加を含む利益をもたらすことができ、これは、ロフルミラストのような水不溶性薬物にとって重要であり得る。
【0055】
[00064]本出願の発明者らは、ロフルミラストが、特定の眼科用医薬組成物において、特定の標準的な減菌製造プロセス下で加水分解を受けることを確認した。特定の実施形態では、眼科用医薬組成物のpHは、5.5~7.5の間である。好ましい実施形態では、眼科用医薬組成物のpHは、ロフルミラストの加水分解の速度を低減するために、約6.0~約6.7の間である。特定の実施形態では、眼科用医薬組成物のpHは約6.2~約6.7の間であるか、または一部の実施形態では、6.3~6.6の間である。特定の実施形態では、眼科用医薬組成物の浸透圧は、約270mOsm/kg~330mOsm/kg、より好ましくは約270mOsm/kg~約300mOsm/kg、さらにより好ましくは270mOsm/kg~280mOsm/kgである。
【0056】
[00065]本発明の眼科用医薬組成物は安定であり、眼への送達に好適な粒度分布を示す。懸濁剤用の眼科用医薬組成物の粒度は、レーザー回折法を使用して判定することができる。レーザー回折は、ISOおよびASTMを含む標準および指導の機関によって認められており、粒度分布を決定するために広く使用されている。判定を実行する際、試料はレーザービームを通過し、その結果、レーザー光をある範囲の角度で散乱させる。固定された角度に置かれた検出器が、その位置に散乱された光の強度を測定する。次に数学モデルを適用して、粒度分布を作成する。
【0057】
[00066]粒度決定では、中央値は、集団の半分がこの点より上に存在し、半分がこの点より下に存在する値として定義される。粒度分布に関して、中央値はD50と呼ばれる。D50は、半分がこの直径の上に、半分がこの直径の下にあるように、分布を分割する大きさである。分布幅はまた、典型的には、D10、D50、およびD90のいくつかの組合せのような、x軸上の1つ、2つ、または3つの値を挙げることによって特徴付けられ得る。D50(または中央値)は、上で論じたように、集団の半分がこの値より下にある直径を指す。同様に、分布の90パーセントはD90より下にあり、分布の10パーセントはD10より下にある。
【0058】
[00067]本発明の特定の実施形態では、眼科用医薬組成物は、優先処理の前に、約50μm以下のd90値によって特徴付けられる粒度分布を示す。特定の実施形態では、眼科用医薬組成物は、約5μm~約25μmのd90値によって特徴付けられる粒度分布を示す。特定の実施形態では、医薬組成物は、約5μm~約15μmのd90値によって特徴付けられる粒度分布を示す。好ましい実施形態では、医薬組成物は、10μm以下のd90値によって特徴付けられる粒度分布を示す。
【0059】
[00068]特定の実施形態では、ロフルミラストの医薬組成物は、ロフルミラストの融点未満の温度での緩徐な乾熱滅菌、ガンマ線照射、または他の滅菌方法を使用して滅菌される。特定の実施形態では、ガンマ放射線または他の最終製品の滅菌方法は、低~中等度のレベルのガンマ線照射の適用によって、最終包装における最終的な薬物製品を減菌し、無菌性を確実にするために使用され得て、この製品は、適用時に刺痛感があることが公知である防腐剤を含有する必要がないため、患者の安全性および快適さを最大にするために好ましい実施形態である。特定の実施形態では、眼科用医薬組成物は、有効物質の元の値の99%より大きい保持効力によって特徴付けられ得る。特定の実施形態では、保持効力は、有効物質の元の値の99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、または99.5%より大きい。
【0060】
[00069]以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を限定することなく例示する。
【実施例
【0061】
[00070]さまざまな実施形態が本明細書に記載されてきたが、これらは一例としてのみ提示され、限定するものではないことを理解されたい。したがって、本開示の広さおよび範囲は、記載された例示的な実施形態のいずれかによって限定されるべきではない。その上、その全ての可能な変形における、上記の要素のいかなる組合せも本明細書に別段の指示がない限り、または明らかに文脈に矛盾することがない限り、本開示に包含される。
【0062】
[00071]実施例1
[00072]表1に明示されるロフルミラストを含む眼科用医薬組成物を調製した。
【0063】
【表1】
【0064】
[00073]実施例2
[00074]表2に明示されるロフルミラストを含む眼科用医薬組成物を調製した。
【0065】
【表2】
【0066】
[00075]実施例3
表3に明示されるロフルミラストを含む眼科用医薬組成物を調製した。
【0067】
【表3】
【0068】
[00076]実施例4
[00077]表4に明示されるロフルミラストを含む眼科用医薬組成物を調製した。
【0069】
【表4】
【0070】
[00078]実施例5および6
[00079]表5に明示されるロフルミラストを含む眼科用医薬軟膏剤を調製した。
【0071】
【表5】
【0072】
[00080]実施例7
[00081]表6に明示されるロフルミラストを含む眼科用医薬組成物を調製した。
【0073】
【表6】
【0074】
[00082]実施例8
[00083]ロフルミラスト(実施例7)の安全性および容認性を判定するために、2つの動物研究を実行した。ロフルミラストは、2つの動物モデルにおいて良好に容認されることを示し、これはヒトモデルと高い相関性がある。第1の研究は、ウサギの容認性の3日間のパイロット試験であり、第2の研究は、5日間の容認性のウサギモデルであり、これは、眼組織に対する薬物の影響はなく、同様に動物の体重に有害作用はないと確定されることを見い出した。これらの研究における動物は、研究期間にわたり、体重を維持したか、または正常体重を得た。ウサギの眼容認性は、眼科用調製物に対するヒトの容認性の代用として周知であり、体重は動物の全般的健康の指標である。
【0075】
[00084]実施例9
[00085]ロフルミラスト(実施例7、BID)の安全性と、副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤、1%、QID~BID)および抗ヒスタミン薬(オロパタジンHCl眼科用液剤、0.1%、QID~BID)の安全性とを、長期の炎症を有するアレルギー性結膜炎の24日マウス前臨床モデルにおいて比較した。全身および局所的なブタクサアレルゲン(SRW)を用いた抗原誘発によって引き起こされる短期および長期の炎症のマウス前臨床モデルにおいて、誘発環境(68~79dF、50%+/-20%の湿度、55~60換気/時)におけるn=70の雌のBalb C マウスを、17日間にわたり、0日目および11日目に両後脚にSC注射をすることによって、全身的にSRWに暴露させた。次に、このマウスを、18日目に局所的SRW誘発(第1の局所的誘発-ベースライン)に暴露させ、続いてロフルミラスト(実施例7)、活性薬物を伴わないビヒクル、頻回投薬(BID~QID)の高用量プレドニゾロン1%、または頻回投薬(BID~QID)のオロパタジン0.1%の第1の局所的薬物処置を行った。18日目に、充血応答の臨床的レベルの達成に基づいて、マウスを無作為化した(1群当たり10匹)。次に、マウスに、21~24日目に、1日2回のSRW抗原の局所的誘発(薬物処置の30~90分内)の前に、2日間(19~20日目)の予防的薬物処置を施し、次に薬物処置に対する応答を追跡した(ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤およびビヒクルをBID)、(2つの正の対照(プレドニゾロンおよびオロパタジン)をQID、TID、またはBID)。本研究の結果を図1~5に明示し、以下に記載する。マウスモデルは、標準ケアの副腎皮質ステロイドおよび抗ヒスタミン薬と、新規の薬剤とを比較するために一般的に使用される。
【0076】
[00086]薬物投薬は、18日目にのみ開始した。研究中、マウスの体重を、研究の11、18、および24日後に決定した。図1は、動物モデル研究において測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後のマウスの体重を例示する。高頻度、高用量の副腎皮質ステロイドに暴露されたマウスは、18~24日にわたり体重減少を示し、これは、副腎皮質ステロイドに暴露されたマウスの典型的な応答である。ヒトの応答とは異なるが、局所的でさえ副腎皮質ステロイド暴露に起因する、全身性健康リスク全般の徴候である。ロフルミラスト群では、体重、ケージ側面からの観察、摂食量、または眼もしくは全身性の健康全般の他のマーカーに対する影響は見られず、これは、本薬剤が良好に容認されることを示唆する。充血、眼瞼腫脹、眼脂および斜視の炎症性臨床応答もまた、18、21日目(初期段階)、ならびに22、23、および24日目(後期段階)に検討した。図2は、動物モデル研究において測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後の充血の臨床応答を例示する。図3は、動物モデル研究において測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後の眼瞼腫脹の臨床応答を例示する。図4は、動物モデル研究において測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後の眼脂の臨床応答を例示する。図5は、動物モデル研究において測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後の斜視の臨床応答を例示する。
【0077】
[00087]図5に例示されるように、副腎皮質ステロイド群と抗ヒスタミン薬群の両方とも、研究過程にわたり斜視の増加を示し、これも局所的刺激作用に対するマーカーとして認識され得る。斜視は、ロフルミラスト群とビヒクル群の両方においてより少なく、初期段階においては著しく少なかった。ケージ側面における安全性または挙動課題は、前述の体重減少および斜視以外にはいずれの群にも見られなかった。したがって、ロフルミラスト群およびビヒクル群は、大部分のOSDのヒトの医薬局所的処置における現在の標準ケアを表す実薬対照と比較して、この前臨床研究において、改善された容認性を示した。
【0078】
[00088]さらに、図2~5に例示されるように、アレルギー性結膜炎の全身モデルと局所的モデルの両方によって起きる長期炎症の前臨床マウスモデルは、ロフルミラストが、ベースラインと比較して、充血、眼瞼腫脹、眼脂および斜視の炎症性臨床応答を改善できたことを例示した。ベースラインからの有意性は、本実験では測定されなかった。本モデルで見られた全般的なベースラインの炎症は相対的に低かったが、治療介入は、ロフルミラスト群を含み、全般にベースラインより良好に実施され、臨床的改善をもたらした。副腎皮質ステロイド群は、より少ない日数および臨床エンドポイントにおいて他の群より良好に実施されたが、一貫性がなく、ロフルミラストが、上に概略した安全性懸念を伴うことなく、同様のレベルの有効性を提供し得ることを示唆している。
【0079】
[00089]実施例10
[00090]実施例9で論じたマウス前臨床モデルの一部として、炎症の医薬制御のマーカーとしてのサイトカイン上方制御の管理は、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後に、実験時間枠の最後に、結膜および角膜の組織におけるサイトカインのレベルを比較することによって測定した。これらのサイトカインに基づく炎症測定の結果を図6~8に明示し、以下に記載する。図6は、動物モデル研究において測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後のTh2サイトカイン応答を例示する。図7は、動物モデル研究において測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後のTh17サイトカイン応答を例示する。図8は、動物モデル研究において測定された、ロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(0.1%)、ビヒクル、プレドニゾロン酢酸エステル眼科用懸濁剤(1.0%)、およびオロパタジンHCl眼科用液剤(0.1%)の投与後のTh1サイトカイン応答、同様にCXCL1としても公知のケモカインKC/GROの応答を例示する。
【0080】
[00091]最終サイトカインレベルによって測定された細胞性炎症は、臨床所見より両方とも高い絶対的レベルにあり、群間でより変動性があり、疾患応答の有用な指標となった。長期炎症の媒介物であるSRWによる全身および局所的な抗原誘発を、それぞれ1日目および18日目に開始したが、各群における医薬的処置は、これらの実験のそれぞれにおいて合計24日間の18日目に開始したのみであり、任意の処置が施される前に、長期炎症が経時的に作り出されることが可能であった。しかし、4つの試料中にプールされた7個の目の試料(十分なサイトカイン濃度を確実にするためにプールした)において、Th2応答(モデルの根底にあるアレルギー性結膜炎疾患状態に対する応答の主要な組織および機構)に関連する結膜の4種のサイトカインの全て-すなわち、IL2、IL4、IL5、およびIL10の4つの試料全てにおいて、ロフルミラスト処置された動物のみが、検出不可能なサイトカインレベルを有した。この最終値アッセイにおいて、検出不可能なレベルとは、サイトカインがモデル中もしくはその組織中のいずれにも存在しないか、または本薬剤が、サイトカインを測定可能限界未満まで低減することに成功し、その特定のサイトカインを十分に下方制御したことを意味した。関連組織のpg/μgにおいて測定されたサイトカインの相対的レベルが高くなるほど、サイトカインが眼組織に与える炎症性影響がより大きくなる。処置の目標は、サイトカインを検出不可能まで、または可能な限りそれに近くなるまで低下させ、かつ炎症標的がどの組織内で最も関連しているかを理解することであった。この疾患に対する処置の標準ケアは、即時応答(例えば、オロパタジン)または強く持続性の応答(例えば、副腎皮質ステロイド)のいずれかを有することが従来知られており、結膜のTh2サイトカイン試料では、疾患に対するそれらの炎症性影響が管理されず、サイトカインの著しく高い残留レベルを有した。PDE-4阻害の主要機構が公知の2つのTh17およびTh1のサイトカインでは、ロフルミラストは、ステロイドおよび抗ヒスタミン薬に対して、結膜におけるIL-6およびIL-12p70に対してより高度に有意な影響を有し(p<0.0005)(ビヒクルに対しても同様に有意)、副腎皮質ステロイドに対して統計的に異なることはなく(結膜におけるTNF-αならびに角膜におけるIL-6およびTNF-α、モデルに直接関係しない組織)、目の組織にわたるサイトカイン細胞内輸送を示唆している。本薬剤はまた、典型的には、初期段階のアレルギー性マスト細胞に主導された応答と関連付けられる、Th1サイトカインにおけるオロパタジンおよび副腎皮質ステロイドと同様のレベルのサイトカインおよびケモカインの制御を示した(角膜におけるIL-1bのオロパタジンに対する強い応答によって立証された)。副腎皮質ステロイドは、Th1経路に対するその影響で公知であり、角膜組織におけるIL-12p70に対する高度に有意な下方制御効果を示し、これはTh1活性化に関連する。
【0081】
[00092]Th2サイトカインは、IL-4を介してIgEを引き起こす寄生虫に対する防御から適応したそのB細胞の活性化、典型的にはIL-5によって引き起こされる好酸球依存性の炎症、ならびにマスト細胞の増殖および脱顆粒のカスケード(IL3/IL4)に起因して、アレルギー性および短期から中期の炎症性疾患にとって特に重要である。Th17主導されたサイトカイン応答は、自己免疫性シグナル伝達およびCD4+エフェクター応答の重要な主導要因であり、そのため、自己免疫性および免疫介在性の疾患(多くの眼疾患を含む)に高度に関連し、これは典型的には、特に炎症性の組合せであると考えられるTh17サイトカインとTh1サイトカインの両方の上方制御を示す。IL-17、1L-17F、IL6、IL-22、およびTNF-αは、組織炎症ならびに好中球の活性化および補充の、重要なT-細胞の主導要因である。IL-1、INF-γ、およびTNF-βなどのTh1サイトカインは、単独で自己免疫性起源の疾患において重要であるが、これらはまた、感染病原体およびマクロファージ浸潤から保護する場合にも上方制御されることが多い(Kaiko ら、Immunology 2008年)。Th2およびTh17サイトカインは、目の炎症性疾患を含む炎症性主導された疾患と関係づけられてきた(Sakkas 2017年)。Tanら(2014)とLiuら(2017)の両者は、Th17サイトカインとさまざまな形態のドライアイ疾患との相関性を調査し、Th17細胞カスケードからのサイトカイン上昇などの、炎症主導要因と高度に関連する、ドライアイ疾患の病因における一致の増加および良好な相関性を見出した。加えて、彼らは、より高いレベルのTh17サイトカイン発現が、OSDI、Schirmer試験、CFSなどのドライアイの臨床重症度マーカーと相関することを見出した。したがって、Th17、Th1、およびTh2サイトカイン全てのサイトカイン上方制御が、眼疾患における炎症の良好な指標であり;サイトカイン関連の炎症が疾患重症度と相関し;これらのサイトカインを下方制御する能力が、これらの疾患の管理における有効な手段であり得るということには広範な支持がある。サイトカインの関与は、疾患の重症度を悪化させることに結び付いているため、サイトカインの下方制御は、本出願で述べられる研究の合理的な治療目標であり前向きな結果である。実施例14では、本発明者らは、サイトカイン測定が、マウスモデルにおける炎症および免疫活性化、同様に試験された薬剤の免疫管理および抗炎症的成功を観察して推定するための良好なエンドポイントであり、かつ薬剤ロフルミラストが、多数の眼疾患に関連することが公知の数種の主要なサイトカインの下方制御において、副腎皮質ステロイドおよび抗ヒスタミン薬より性能的に優れていることを驚いたことに見い出した。
【0082】
[00093]加えて、本研究は、アレルギー性結膜炎モデルで試みたが、さらなる全身性誘発の追加が、より長期の炎症性および免疫介在性の眼ストレスを模倣した観察を提供するように、本研究を適合させた。したがって、これらのサイトカイン結果は、多数の他の疾患に適応可能である。実施例13および14はアレルギー性結膜炎のモデルに関し、したがってサイトカイン上方制御は、Th2サイトカインを伴う結膜において最も高かったが、角膜の関与もまた本研究で見られた。本研究において観察されたTh2およびTh17サイトカインの効果は、広範な関連眼疾患にわたる潜在的な影響を示唆する。多くの眼疾患は、毛包虫眼瞼炎(Th17:IL-7、IL-12、IL-17;Kimら、2010年)、JIA関連のブドウ膜炎(Th17;Walschield、2019年)、同種幹細胞移植後の眼の移植片対宿主病(IFN-γ(初期)、IL-6(後期);Riemens 2012年)および再発性角膜実質炎ヘルペス(Th17/Th1;Rajasagi 2019年)を含む、関与および重症度の広いサイトカインマーカーを有する。
【0083】
[00094]驚いたことに、本出願の発明者らは、全身的ではなく局所的に、少用量および好都合な用量で投与されたロフルミラストが、Th17に重要なIL-6およびIL-12のサイトカイン、ならびにTh2主導された炎症に関連するIL-2、IL-4、およびIL-5に対して強力な応答を提供することを発見した。実施例14における結果は、ロフルミラストが、多数の眼疾患に関連する広範囲の免疫調節性および抗炎症性の効果を有することを示唆し、本薬剤が、他の一般の免疫調節剤、免疫抑制剤、および抗炎症剤と同様またはより多くの効果を生じ、さらにより良好な安全性および利便性のプロファイルも伴い得ることも再度示唆している。
【0084】
[00095]実施例11
[00096]雄のダッチベルテッド種ウサギ(1群当たりn=3)で、軟膏製剤における1%ロフルミラスト(実施例6)、または2種の懸濁剤製剤における0.1%ロフルミラスト(実施例1および3)を、誇張された投薬の濃度および/または頻度での反復局所的な眼投与の眼容認性を評価するために、研究を実行した。ビヒクル群は含まなかった。試験材料を即時使用できるように提供し、投薬体積は片目当たり40μLであり、懸濁剤を用量投与前に振盪した。コホートAは、軟膏剤(実施例6)のBID投与または懸濁剤(実施例1および3)のQID投与を受け、誇張された投薬頻度、すなわち、予期される臨床投薬頻度より多い頻度で容認性を試験した。評価したパラメータは、死亡率/罹患率、臨床観察、体重、獣医眼科委員会認定により実施される、Hackett-McDonaldスコアリングを用いるスリットランプ生体顕微鏡および間接的眼底検査を含む眼科検査、ならびに眼病理組織診断を含んだ。それぞれの目に関して、5μm厚さの薄片を準備した(片目当たり5スライド)。各眼球の中央薄片を、視神経および視覚ストリークを含み、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、光学顕微鏡を使用して検討した。眼科検査(OE)を、ベースラインならびに1日目、3日目、および5日目に実施した。5日目の最終投薬のおよそ30分~1時間後に、病理組織診断用に眼を採取した。
【0085】
[00097]5日間の1%ロフルミラスト眼科用軟膏剤(実施例6)の両側BID投与は、5日目に軽度から中等度の眼瞼炎の所見をもたらした。HPMC(実施例1)またはPVP(実施例3)製剤のいずれかにおける、0.1%ロフルミラスト眼科用懸濁剤の両側QID投与は良好に容認され、眼科検査中に、充血、結膜浮腫、眼脂、混濁、角膜パンヌス、瞳孔反射、房水フレアもしくは細胞、硝子体細胞、もしくは脈絡膜、網膜、または視神経の病変を含む所見は観察されなかった。加えて、全ての動物は、5日の期間にわたり、体重を維持したか、または正常体重を得た。
【0086】
[00098]病理組織学判定は、1%軟膏剤(実施例1)を受けた目の1/6およびPVP製剤(実施例3)における0.1%ロフルミラスト眼科用懸濁剤を受けた目の3/6は、縁部における単核細胞の軽度の増加を示した。他の異常は、いずれの目にも認められなかった。縁部における浸潤は、軽度で正常変動内であり;したがって、試験物質関連の有害眼病変は、このコホートでは観察されなかった。加えて、白内障、網膜剥離、または網膜変性の病理組織学的徴候は見られなかった。
【0087】
[00099]これらのデータは、1%ロフルミラスト軟膏剤(実施例6)および0.1%ロフルミラスト懸濁剤(実施例1および3)が、ダッチベルテッド種ウサギに、誇張された頻度で1日2回または4回(それぞれ)5日間投与された場合でさえ、良好に容認されたことを実証する。ロフルミラスト軟膏剤(実施例6)は、眼瞼に軽度炎症を誘導したが、これは有害とは考えられなかった。
【0088】
[000100]実施例12
[000101]ニュージーランドホワイト種ウサギにおける、0.1%ロフルミラスト軟膏剤(実施例5)の眼容認性、またはダッチベルテッド種ウサギにおける、前の研究において研究されたより高い範囲の濃度のロフルミラスト懸濁剤(0.3%、1%、または3%)(実施例1および3)の眼容認性を評価するために、研究を実行した。ウサギ(1群当たりn=3)は、ロフルミラストもしくはプラセボ軟膏剤のQD投与またはロフルミラスト懸濁剤のQID投与を受けた。投薬体積は片目当たり40μLであり、懸濁剤を用量投与前に振盪した。評価したパラメータは、死亡率/罹患率、臨床観察、体重、獣医眼科委員会認定により実施される、Hackett-McDonaldスコアリングを用いるスリットランプ生体顕微鏡および間接的眼底検査を含む眼科検査、ならびに眼病理組織診断を含んだ。各眼に関して、5μm厚さの薄片を準備した(片目当たり5スライド)。各眼球の中央薄片を、視神経および視覚ストリークを含み、H&Eで染色し、光学顕微鏡を使用して検討した。OEを、ベースラインならびに1日目、3日目、および5日目に実施した。5日目の最終投薬のおよそ45分~6.5時間後に、病理組織診断用に眼を採取した。
【0089】
[000102]0.1%ロフルミラスト眼科用軟膏剤(実施例5)の片側1日1回投与は、5日目に目の1/3において軽度眼瞼炎を誘導し;この所見は、対側のプラセボ目において観察されなかった。0.3%、1%、または3%のロフルミラスト眼科用懸濁剤(実施例1および3)の両側QID投与は良好に容認され、眼科検査中に、充血、結膜浮腫、眼脂、混濁、角膜パンヌス、瞳孔反射、房水フレアもしくは細胞、硝子体細胞、もしくは脈絡膜、網膜、または視神経病変を含む所見は観察されなかった。加えて、全ての動物は、5日の期間にわたり、体重を維持したか、または正常体重を得た。
【0090】
[000103]病理組織学判定は、0.1%軟膏剤(実施例5)で処置された1つの目およびプラセボ軟膏剤を受けた1つの目において、縁部および毛様体における軽度の単核炎症性細胞浸潤が存在することを示した。0.3%ロフルミラスト眼科用懸濁剤での処置は、1つの懸濁剤の目(実施例3)に軽度/限局性の結膜下の単核細胞浸潤をもたらし、1つの懸濁剤の目(実施例1)に硝子体中の数個の単核細胞をもたらした。1%および3%のロフルミラスト眼科用懸濁剤を受けた複数の目は、縁部および結膜下領域において、軽度の単核炎症性細胞浸潤を示した。重症度は低かったが、高用量で、発生は増加すると考えられた。この軽度炎症において、2つの懸濁ビヒクル間では差異は観察されなかった。加えて、白内障、網膜剥離、または網膜変性の病理組織学的徴候は見られなかった。したがって、試験物質関連の有害眼病変は、このコホートでは観察されなかった。
【0091】
[000104]実施例13
[000105]ヒト臨床試験で使用される投薬長さと同様に、延長された投薬の範囲および頻度、ならびに延長された投薬期間にわたるロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤の容認性および安全性をさらに試験するために、本医薬組成物を、ウサギにおける13週間の処置のGLP-毒性学研究に利用した。0.1%、0.3%、もしくは1.0%の濃度のロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤(実施例3、表3)、または対照(生理食塩水または同じロフルミラスト局所的眼科用懸濁剤のビヒクル(実施例1、表1、活性薬物を除いたもの)のいずれか)のいずれかを、ニュージーランドホワイト種ウサギにTID(1日3回)で13週間にわたり与え、続いて4週間の回復期間を設けた。雄と雌の動物の両方を、それぞれの性/投薬群においてn=7の動物、合計n=56に関して試験した。動物を、臨床観察、罹患率/死亡率、体重、摂食量、眼内圧、角膜厚、McDondald-Shadduckスコアリングを用いる眼科検査、網膜電図(ERG)、臨床病変(血液学、凝固学、臨床化学)、全身性暴露、臓器重量、ならびに眼および全身性の病理組織診断に関して判定した。研究した3つの領域の特定の目的は、いくらかの種間の差異を伴うが、標準ケア抗炎症剤の公知のヒト副作用であった。動物を、両目における眼内圧(IOP)、角膜厚の変化、ならびに動物の全般的な好調および健康の代用としての全般的な体重変化に関して、規則的な間隔で評価した。図9~11に示されるように、実施例13では、研究の持続期間の全体を通して、体重、IOP、または中心角膜厚(角膜厚測定)に対する試験物質効果はなかった。図9は、体重に関する研究の結果を提供する。図10は、IOPに関する研究の結果を提供する。図11は、中心角膜厚(角膜厚測定)に関する研究の結果を提供する。注目すべきことに、IOPにおいて認められたいずれの目にも、IOPスパイクはなく、特定の目または性別の群において、IOPまたは角膜厚にいくらかの一過性の変化があったが、いずれも有害とは考えられなかった。
【0092】
[000106]前述の説明は、例示および説明の目的で提示された。この説明は、開示された正確な形態に本発明を限定することを意図するものではない。当業者は、基本的な本発明の説明の修正および置き換えがなされ得ることを理解されよう。
図1
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【国際調査報告】