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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】核酸検出
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20240912BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20240912BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240912BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12Q1/48
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518411
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2022076362
(87)【国際公開番号】W WO2023046829
(87)【国際公開日】2023-03-30
(31)【優先権主張番号】21198450.5
(32)【優先日】2021-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519155413
【氏名又は名称】ミダイアグノスティクス・エヌブイ
【氏名又は名称原語表記】miDiagnostics NV
【住所又は居所原語表記】Gaston Geenslaan 1, B-3001 Heverlee, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】メールセマン、ヘールト
(72)【発明者】
【氏名】ロロ、セレナ
(72)【発明者】
【氏名】フェルハウベ、ニコラス
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4B063QX04
(57)【要約】
標的核酸にRNAポリメラーゼの配列を付加し、例えばRNAポリメラーゼの転写活性によって放出されるプロトンを検出することを含む、試料中の少なくとも1つの標的核酸配列を検出する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の少なくとも1つの標的核酸配列の存在を検出する方法であって、
- 前記少なくとも1つの標的核酸配列が含まれることが疑われる試料を提供する工程;
- 前記試料中に存在する標的核酸配列にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加する工程;
- 前記試料を
- 少なくとも1つの検出ゾーン;及び
- 固体支持体上に配置され、前記標的核酸と間接的又は直接的に結合するように適合している少なくとも1つの捕捉核酸;
を有する反応チャンバに導入し、
固体支持体上に配置された捕捉核酸に直接的又は間接的に結合した一本鎖核酸の配列を生成する工程;
- 前記一本鎖核酸に相補的な核酸鎖の生成を可能にする伸長条件を適用し、RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含み、前記固体支持体上に配置された前記捕捉核酸に直接的又は間接的に結合した二本鎖核酸を形成する工程;
- 前記固体支持体上に捕捉された前記二本鎖核酸からの転写物の産生を可能にする転写条件を適用する工程であって、転写物の産生が、転写が進行するにつれてプロトンを放出する工程;並びに、
- 前記プロトンの存在を前記検出ゾーンからのシグナルとして検出する工程であって、前記シグナルが前記試料中の前記標的核酸配列の存在の指標である工程;
の一連の工程を含む方法。
【請求項2】
前記複数の標的配列は、固体支持体上に配置された複数の捕捉核酸と一致し、それぞれが異なる標的核酸配列と間接的又は直接的に結合するように適合している、複数の標的核酸配列の存在を検出するための請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の捕捉核酸は前記固体支持体上にアレイの形態で配置され、各捕捉核酸が前記アレイ上のアドレス指定可能な位置を表す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記捕捉核酸又は各捕捉核酸の前記配列の少なくとも一部分は、前記標的核酸配列の少なくとも一部分と同一又は相補的であり、検出対象の前記二本鎖核酸の前記鎖の1つに直接的に結合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
- 前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加する工程は、特異的なアダプター配列を前記試料中に存在する標的核酸配列に付加する工程を更に含み;
- 前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、固有のアダプター配列を含み;かつ、
- 前記反応チャンバは、
- 前記試料中に存在する前記標的核酸配列中の前記特異的なアダプター配列と同一又は相補的である第1の特異的なアダプター配列;及び
- 前記捕捉核酸の前記固有のアダプター配列と相補的である第2の固有のアダプター配列;
を含む少なくとも1つのアダプター核酸を更に含み、
前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、前記アダプター核酸又は各アダプター核酸と、前記補足核酸及び前記標的核酸か各標的核酸の両者との重複ハイブリダイゼーションにより、検出対象の対応する標的核酸と間接的に結合する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記試料を提供し、RNAポリメラーゼのプロモーター配列及び存在する場合には特異的なアダプター配列を付加する工程は、増幅反応の一部として行われる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記増幅反応は、
- 遺伝物質試料を提供する工程;
- 前記遺伝物質試料を変性する工程;
- 前記遺伝物質試料への前記プライマーのアニーリングを可能にする条件で、少なくとも1つの標的プライマー対を付加する工程であって、
前記標的プライマー対は、
- 前記標的配列に特異的な配列;及び
- RNAポリメラーゼのプロモーター配列;
を含む第1のプライマー;並びに
- 前記標的配列に特異的な配列;
を含む第2のプライマー;
を含み、
前記標的核酸配列が前記遺伝物質試料中に存在する場合、前記プライマー中の前記標的配列に特異的な前記配列は、標的核酸配列の増幅を可能にするように選択される工程;
- 所定のサイクル数の増幅反応を行い、前記遺伝物質試料中に存在する標的核酸配列が増幅され、RNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加される工程;
の一連の工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの標的プライマー対の付加は、複数の標的プライマー対の付加を含み、各プライマー対は、異なる標的配列に特異的な配列を含み、前記増幅反応は、前記遺伝物質試料中に存在する全ての異なる標的配列を増幅する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記捕捉核酸又は各捕捉核酸の前記配列の少なくとも一部分は、前記第1のプライマー又は各第2のプライマーと同一又は相補的であり、前記標的核酸又は各標的核酸の前記鎖の1つに直接的に結合する、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
- 前記第2のプライマー又は各第2のプライマーは、特異的なアダプター配列を更に含み;
- 前記補足核酸又は各補足核酸は、固有のアダプター配列を含み;並びに
- 前記反応チャンバは、
- 前記第2のプライマー又は各第2のプライマー中の前記特異的なアダプター配列と同一である第1の特異的なアダプター配列;及び
- 前記補足核酸の前記固有のアダプター配列と相補的である第2の固有のアダプター配列;
を含む少なくとも1つのアダプター核酸を更に含み、
前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、前記アダプター核酸又は各アダプター核酸と、前記補足核酸及び前記第2のプライマーか各第2のプライマーの両者との重複ハイブリダイゼーションにより、対応する標的核酸と間接的に結合する、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのアダプター核酸は、前記第1の特異的なアダプター配列に隣接する追加の標的配列を更に含み、所望のアンプリコンと前記アダプター核酸との間の相補的な範囲が、前記第2のプライマーによって提供される標的配列の部分を超えて増加する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である、請求項6~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記検出ゾーンが、検出ユニット、例えばイオン感応性電界効果トランジスタを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記伸長条件がDNAポリメラーゼの存在を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記転写条件がRNAポリメラーゼの存在を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列がT7RNAポリメラーゼのプロモーター配列である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
対象の状態を診断し、対象の状態の予後を判断し、患者を階層化し、又は、患者の治療法を選択するための基礎として、前記試料中の少なくとも1つの標的核酸の存在、非存在又は量を使用する追加の工程を含む、in vitroでの、診断、予後の判断、患者状態の階層化、又は治療法の選択の方法である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
- 試験を行う対象から遺伝物質試料を得る工程;
- 前記遺伝物質試料中に存在する標的核酸を濃縮して、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法によって検出を可能にする工程;
を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記検出を、請求項6~12のいずれか一項に記載の方法で行い、濃縮を、前記遺伝物質試料から前記標的核酸を増幅するように設計されたプライマーを用いる前記増幅反応で行う、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料中の少なくとも1つの標的核酸配列を検出する方法であって、標的核酸にRNAポリメラーゼの配列を付加し、例えばRNAポリメラーゼの転写活性によって放出されるプロトンを検出することを含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)は、少量のDNA又はRNAバイオマーカー増幅の標準となっている。qPCR及び核酸検出の大半の実施形態では、蛍光標識した配列特異的プローブ又はインターカレーティング色素が必要である。PCR産物の指数関数的産生は、同時に蛍光の指数関数的増加を引き起こす。マルチプレックスPCRでは、複数のプライマー対と、(例えば光学フィルターを使用して)同時に又は連続して検出可能な異なる蛍光標識配列特異的プローブを含めることで、同じ試料内の複数の標的バイオマーカー配列をqPCR反応で増幅できる。しかし、高度に多重化されたPCR法の可能性は、蛍光色素間の避けることができないスペクトルの重複と、水ベースの溶液用の手ごろな色素におけるスペクトルの限られたセグメントによって妨げられている。qPCRにおいて、異なる標識プローブを使用して標的を多重化できる能力は、通常、1回のqPCR反応で5つの標的配列の分析に限定される。
【0003】
現在、生化学分析の分野では、以前は実験室全体が必要であった作業を多くの場合マイクロ流体工学によって統合した、ポータブルでコンパクトなシステムの開発に細心の注意が払われ、小型化の取り組みが進められている。そのようなマイクロ流体デバイスは、通常、実施する生体分子技術において、微量の液体と分析物を処理し、多重化能力を向上させ、非常に狭い設置面積でのハイスループット、速い処理時間及び低コストを可能にすることを目的とする。
【0004】
電界効果トランジスタ(FET)による標識を使用しないバイオセンシング法を用いた核酸ハイブリダイゼーションなどの生物学的事象のモニタリングは、特に、それらの小型化の可能性、標準的なCMOS技術と必要とされる電子機器への低コストでの容易な統合、及び多重化能力のために、大きな注目を集めている。FETによる方法は、光学的シグナル(電気化学的検出)よりも電気的シグナルに依存するので、蛍光色素及びかさばる装置による制限の影響を受けない。
【0005】
単にpHセンサーと呼ばれることもあるイオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)は、溶液中のイオン濃度を測定する。増幅反応における読み出し出力としてのその適合性は、広く研究されてきた。
【0006】
国際公開第2003/073088号は、反応化学と統合した熱作動の相補型金属酸化膜半導体(CMOS)による増幅デバイスを開示している。ISFETは、オリゴヌクレオチド鎖の末端における個々のヌクレオチドの挿入に関連するピロリン酸加水分解反応において放出されるプロトンをモニターするために使用されている。pH感受性ISFETによる個々のヌクレオチド挿入の検出は、「合成時解読」に基づくDNA配列決定技術で使用されている。
【0007】
国際公開第2008/107014号も、プロトンがPCRの産物であるという点に依存している。そのため、qPCRも、増幅の進行に伴い各ヌクレオチドの挿入によって放出されるプロトンをモニタリングするpH感受性ISFETを使用することで実現できる。増幅は、pHの変化を検出することでモニターされる。検出に必要な感度は、試料の緩衝能を超えた場合に放出されたプロトンによるpHの急速な変化を引き起こすこと確実にする、少量及び低緩衝能での増幅を行うことで達成される。標的DNAを捕捉し、望ましくない干渉産物から標的DNAを分離する、ISFET上に固定化したDNAプローブの使用が説明されている。
【0008】
スケールダウンしたISFET設計によるアレイの作製は、少しの努力により、小型化されたチップに多くのセンサーを実装した。核酸への応用について、生物学的事象をモニタリングする大型FETアレイが、特に核酸配列決定の用途について記載されている。
【0009】
国際公開第2010/138182号は、核酸合成時解読反応などの化学反応及び/又は生物学的反応をモニタリングする大型FETアレイを含むFETアレイについての方法及び装置を記載している。そこに記載のいくつかの方法は、核酸配列決定反応中に放出された水素イオンのシグナル(及びS/N比)を改善することに関する。
【0010】
国際公開第2010/047804号は、分析のために試料流体からの化学的又は生物学的試料を保持できる試料保持領域のアレイを有する大規模化学電界効果トランジスタのアレイを備えた装置及びチップを対象とする。この装置及びチップは、大規模なpHベースのDNA配列決定並びに他の生物科学及び生物医学に、応用されている。
【0011】
核酸配列決定への応用に加え、核酸増幅をモニタリングするISFETの有用性も、ループ介在等温増幅(LAMP)及びPCRを組み込むCMOSチッププラットフォームとして記載されている。
【0012】
したがって、Toumazouら(2013, Nat Methods 10:641-646)は、標準的なCMOSのプロセスフローを使用して、埋め込みヒーター、10の温度センサー及び40のISFETセンサーを有するチップ上で、DNAを増幅し、同時に検出する集積回路を作製した。LAMP及びPCRの条件を、増幅効率と特異性を維持する低緩衝条件で最適化した。多重化能は、2つの既知のバイオマーカーを同時に調べることで実証した。
【0013】
Duarte-Guevaraら(2014, Anal Chem 86:8359-8367)は、ファウンドリーで製造した個々にアドレス指定可能なデュアルゲートISFETを用い、LAMP反応に関するバイオセンシング分解能の向上を検討した。
【0014】
さらに、Toumazou及びDuarte-Guevara(前掲)によるISFETチップアーキテクチャの適用性を臨床で試験し(Duarte-Guevara et al (2016), RSC Adv 6:103872-103887)、そこでは、デュアルゲートISFETアレイのプラットフォームを、食品に由来する細菌病原体を標的とするLAMP反応のオンチップ電気検出に使用した。
【0015】
列挙した文献は、自動化に適し、多くの利点を提供する実行可能なバイオセンシング技術として、ISFET法を説明しているが、これらの方法には、依然として、実用を制限する欠点がある。
【0016】
このような欠点の1つは、PCRにおける電気化学的検出では、特に標的核酸が低濃度の場合、十分な量のプロトンが発生して測定可能なシグナルを得る増幅反応に、比較的長い時間を必要とすることである。この点に関し、Tomazouら(前掲)は、40サイクルのオンチップpH測定PCRが完了するのに35分を必要とし、従来の光学ベースのPCR装置の所要時間を短縮しないと述べている。特定の設定、例えばポイントオブケア診断では、患者の管理と患者アウトカムへの迅速な介入を可能にするために、ポータブルでコンパクトなシステムだけではなく、感度を失うことなく可能な限り迅速に検査結果を得る必要がある。さらに、(例えばPCRにおける)熱サイクルにさらされたISFETを使用する検出は、ISFETの温度感受性を常に考慮し、補償する必要があるため困難であるかもしれない。
【0017】
さらに、検出方法としてISFETを用いるPCRへの現在の手法は、多くの場合、高度に多重化された設定においてフットプリントが増加する、それぞれに異なるプライマーを注入する複数のマイクロ流体チャンバを作製するか、又は、反応を開始するためにプライマーをチップに直接結合させるために、アッセイに新しい標的を含める必要がある場合ではそのチップが使用できない、特定の分析物を標的とする非常に特異的なアッセイが含まれる。この場合、新しい標的を追加する必要があるたびに、新しい標的のためのプローブを含む新しいチップを製造しなければならず、製造の観点で多くの労力がかかる。これは、オールインワン診断アプローチが望ましい(1つのチップで複数の分析物をスクリーニングする)、患者のスクリーニングに特に関係する。
【0018】
代りの核酸分析技術の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0019】
この開示の1つの目的は、従来のバイオセンサーによる検出方法の限界を克服することである。
【0020】
この開示の別の目的は、標的核酸を確実に検出するために十分な量のプロトンを生成する方法を提供することである。
【0021】
この開示の別の目的は、従来のISFETによる検出方法の限界を克服することである。
【0022】
この開示の別の目的は、試験の感度及び/又は信頼性に影響を及ぼす高温の条件を必要とせずに、ISFETセンサーの使用を可能にすることである。
【0023】
この開示の更に別の目的は、小型化された及び/又は携帯可能なシステムに適合しやすい方法で標的核酸配列を検出する方法を提供することである。
【0024】
この開示の更に別の目的は、所要時間の短い方法を提供して、例えば診断又は予後の判断において、標的核酸配列を検出する既存の技術をスピードアップすることである。
【0025】
これらの目的、及びこの明細書の教示から当業者に明らかな他の目的は、本明細書及び特許請求の範囲で定義されるこの開示のさまざまな側面によって満たされる。
【0026】
したがって、第1の側面では、この開示は、試料中の少なくとも1つの標的核酸配列の存在を検出する方法であって、
- 前記少なくとも1つの標的核酸配列が含まれることが疑われる試料を提供する工程;
- 前記試料中に存在する標的核酸配列にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加する工程;
- 前記試料を
- 少なくとも1つの検出ゾーン;及び
- 固体支持体上に配置され、前記標的核酸と間接的又は直接的に結合するように適合している少なくとも1つの捕捉核酸;
を有する反応チャンバに導入し、
固体支持体上に配置された捕捉核酸に直接的又は間接的に結合した一本鎖核酸の配列を生成する工程;
- 前記一本鎖核酸に相補的な核酸鎖の生成を可能にする伸長条件を適用し、RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含み、前記固体支持体上に配置された前記捕捉核酸に直接的又は間接的に結合した二本鎖核酸を形成する工程;
- 前記固体支持体上に捕捉された前記二本鎖核酸からの転写物の産生を可能にする転写条件を適用する工程であって、転写物の産生が、転写が進行するにつれてプロトンを放出する工程;並びに、
- 前記プロトンの存在を前記検出ゾーンからのシグナルとして検出する工程であって、前記シグナルが前記試料中の前記標的核酸配列の存在の指標である工程;
の一連の工程を含む方法を提供する。
【0027】
この明細書では、用語「生物学的試料」又は単に「試料」は、生物から新たに得たもの(すなわち、新鮮な組織試料)であるか、当該技術分野で知られている方法(例.FFPE試料)で保存されたものであるかに関係なく、核酸及び/又は細胞物質を含むさまざまな生物源の1つ以上を意味することを意図している。試料の例には、哺乳動物細胞又は真核微生物といった細胞培養物;体液;体液沈殿物;洗浄標本;細針吸引物;生検試料;組織試料;がん細胞;患者から得られた他の細胞;疾患若しくは感染について試験及び/若しくは処置を受ける対象の組織に由来する細胞若しくはin vitroで培養された細胞;又は法医学試料が含まれる。体液の例には、全血、骨髄、脳脊髄液(CSF)、腹腔液、胸膜液、リンパ液、血清、血漿、尿、乳び、便、精子、喀痰、乳頭吸引液、唾液、スワブ標本、洗浄液(wash/lavage fluid)及び/又はブラシ標本が含まれる。
【0028】
この明細書では、用語「核酸」及び「その等価なポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドモノマー間のホスホジエステル結合によって結合したリボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのポリマーを指す。核酸鎖内でこれらの塩基(又はヌクレオシド又はヌクレオチド)が続く配列を「核酸配列」と呼び、核酸鎖の化学的方向を指す、いわゆる5’末端から3’末端の方向で示される。少なくとも1つの標的核酸配列が含まれることが疑われる試料は、標的核酸配列を有する標的核酸が含まれる疑いのある試料である。核酸には、ゲノムDNA、ミトコンドリア又はmeDNA、cDNA、mRNA、rRNA、tRNA、hnRNA、マイクロRNA、lncRNA、siRNAを含むDNA及びRNA、並びにそのさまざまな修飾体が含まれるが、これらには限定されない。核酸は、最も一般的には、さまざまな種類の生物から得られる生物学的試料などの天然の供給源から得られる。核酸は、また、合成され、組換えられ、又は公知の方法(例.PCR)で産生若しくは操作される。
【0029】
標的核酸が捕捉核酸に直接的又は間接的に結合するか否かにかかわらず、標的核酸は、一本鎖の形態で反応チャンバに適切に導入される。二本鎖核酸から一本鎖核酸を得る方法は当業者に広く知られており、例えば、二本鎖核酸が変性するのに十分に高い温度(例.90℃)で、二本鎖核酸を加熱することが含まれてもよく、又は、二本鎖標的核酸の化学的処理が含まれてもよい。このような処理方法(変性条件)は、試料を反応チャンバに導入する前に適用してもよく、あるいは、生成した一本鎖の標的核酸を捕捉核酸にハイブリダイズさせる前に、反応チャンバ内で適用してもよい。
【0030】
ある態様では、標的核酸を導入する場合、標的核酸を含む反応混合物の温度は、75~80℃である。この温度では、一本鎖の標的核酸は、捕捉核酸に直接的又は間接的にハイブリダイズする。標的核酸と捕捉核酸のハイブリダイゼーションの生成物は、伸長条件の基質として機能し、標的核酸の一本鎖部分が「埋められて」、標的核酸配列全体の二本鎖DNAと、機能的な二本鎖RNAポリメラーゼプロトマー配列が生成する。
【0031】
この発明での使用に適した固体支持体上に配置された「捕捉核酸」は、例えば、DNA、RNA、PNA(ペプチド核酸)、LNA(ロックド核酸)、ANA(アラビノ核酸)及びHNA(ヘキシトール核酸)からなる群から選択できる。それは、適切なハイブリダイゼーション条件下で標的核酸とのホモ二本鎖(DNA:DNA)又はヘテロ二本鎖の形成を可能にするオリゴヌクレオチドであってもよい。明細書に記載した方法が示すように、少なくとも1つの一本鎖の核酸配列は、固体支持体上に配置された捕捉核酸に直接的又は間接的に結合する。この明細書では、用語「結合した」及び「結合する」は、「ハイブリダイズした」と同じ意味で、固体支持体上の捕捉核酸の近傍での表面特異的な検出を可能にするために、標的核酸を直接的又は間接的に捕捉することを意味する。捕捉核酸の捕捉部分(捕捉プローブともいう)は、結合する標的又はアダプター核酸配列に特異的な10~200のヌクレオチド、好ましくは15~50のヌクレオチドを含んでいてもよい。理想的には、捕捉核酸は、15、16、17、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40、45又は50のヌクレオチドを含む。捕捉核酸は、また、捕捉部分と固体表面との間のスペーサーとして機能できる、又は安定化機能を有する、追加のヌクレオチドを含むことができる。このような追加のヌクレオチドの数は、0~200、好ましくは0~50であってもよい。理想的には、スペーサー核酸は、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45又は50ヌクレオチドからなる。
【0032】
「試料中に存在する標的核酸配列にRNAポリメラーゼ配列を付加する」とは、RNAポリメラーゼのプロモーター配列が、試料中に存在する標的核酸に組み込まれることを意味する。この目的に適したさまざまな酵素法が広く知られており、例えば、ライゲーション技術、組換え技術及びPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)が含まれる。
【0033】
「RNAポリメラーゼのプロモーター配列」について、当業者は、これが、RNAポリメラーゼによって選択的に認識され、当該酵素の結合と活性のプロモーターとして作用するヌクレオチド配列であることを認識する。所定の特異的RNAポリメラーゼ酵素での使用に適したそのような配列を選択及び/又は設計することは、当業者の能力の範囲内である。ある態様では、RNAポリメラーゼのプロモーター配列の長さは、17~26塩基対である。適切なRNAポリメラーゼのプロモーター配列の一例は、5’-TAATACGACTCACTATA-3’(配列番号1)を含むT7RNAポリメラーゼのプロモーター配列である。効率的なプロモーターでは、少なくとも1つ以上のGヌクレオチド塩基を含むことが好ましい場合もある。したがって、T7RNAの転写に使用する別の配列は、5’-TAATACGACTCACTATAG-3’(配列番号2)を含んでいてもよい。
【0034】
伸長条件で二本鎖DNAが生成した後、新たな条件(転写条件)を適用して、RNAポリメラーゼのプロモーター配列からの転写を可能にする。言い換えれば、これらの条件下では、RNA分子は開始サイクルを繰り返して合成され、ヌクレオチドが新たに組み込まれるごとに1つのプロトンが放出される。等温での高速の反応により、ごく短時間でpHが局所的に変化し、これは、検出ゾーン内、例えば検出ユニットにおいて測定できる。
【0035】
したがって、第1の側面の方法では、標的核酸は、RNAポリメラーゼのプロモーター配列とともに提供され、反応チャンバ内の固体支持体上の捕捉核酸を介して固定化される。標的核酸が二本鎖の形態に変換された後、その存在は、転写条件を適用する転写により検出できる。転写中にプロトンが放出され、反応チャンバ内に設けられた検出ゾーンにおいて検出される。
【0036】
このように、第1の側面の方法は、PCRの増幅工程などの他の工程とは別に標的核酸の検出が可能となるという利点がある。この結果の1つは、検出が、熱サイクルを伴う高温ではなく、等温条件、例えば室温などの比較的低い一定の温度で実施できることである。
【0037】
第1の側面の方法の別の利点は、大量のプロトンが短時間の間に放出されるように転写条件を適合できることで、検出ゾーンにおける効率的で信頼性の高い検出が保証される。転写中にNTPが組み込まれる場合、プロトンは、直接的に放出されてもよく、又は放出されたピロリン酸の変換を介して間接的で同時に放出されてもよい。
【0038】
本方法のさらに別の利点は、微量の液体と分析物の処理に適していることである。別の利点は、この方法が、以下で説明するように、多重フォーマットへの適合に適していることである。
【0039】
この方法のある態様では、検出ゾーンは、プロトンを検出、すなわちpHの変化を測定する検出ユニットを含む。この技術分野では、pH変化を測定し、したがってプロトンを検出するさまざまな適切な技術が存在する。pH変化は、例えば、蛍光などのpH指示薬又は溶液の吸光度を使用して測定してもよい。pHに依存して溶液の色が変化するpH指示薬及び当該pH変化を測定する光学検出ユニットは、当業者に広く知られている。具体的な態様では、検出ユニットは、リーダー内の光学系である。別の具体的で有利な態様では、検出ユニットは、イオン感応性電界効果トランジスタ(ISFET)である。
【0040】
ある態様では、一本鎖の標的核酸を二本鎖の核酸に変換する伸長条件は、DNAポリメラーゼの存在を含む。
【0041】
ある態様では、伸長条件は75~90℃の反応温度を含む。
【0042】
ある態様では、転写条件はRNAポリメラーゼの存在を含む。より具体的な態様では、RNAポリメラーゼは、一般に入手可能なT7RNAポリメラーゼである。
【0043】
ある態様では、転写条件は、20~40℃の反応温度を含む。転写条件の反応温度は、検出ゾーンに配置された検出ユニット、例えばISFETの最適な性能及び耐久性のために、室温付近であることが有利であるかもしれない。
【0044】
ある態様では、この開示の第1の側面の方法は、例えば患者試料中に存在する可能性があるいくつかのバイオマーカーをモニタリングするのに有用な、複数の標的核酸配列の存在を検出する方法である。そのような態様では、複数の標的配列は、固体支持体上に配置された複数の捕捉核酸と一致し、補足核酸のそれぞれは、異なる標的核酸配列と結合するように適合している。
【0045】
この態様のより具体的な形態では、複数の補足核酸は、固体支持体上にアレイの形態で配置され、各捕捉核酸が前記アレイ上のアドレス指定可能な位置を表す。このような設定では、検出ゾーンは、一態様では、アレイ上のシグナルが検出される位置を識別するように適合されてもよい。
【0046】
この開示の第1の側面の方法のある態様では、前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、その配列が、捕捉することが意図される標的核酸配列の配列と一致するように設計される。この態様では、前記捕捉核酸又は各捕捉核酸の配列の少なくとも一部分は、標的核酸配列の少なくとも一部分と同一又は相補的であり、検出対象の二本鎖核酸の鎖の1つに直接的に結合する。
【0047】
図1は、この開示の第1の側面の方法の1つの態様を示し、そこでは、異なる配列の2つの捕捉核酸が、反応チャンバ内の固体支持体の2つのアレイアドレスi及びj上に固定化されている。各捕捉核酸は、その配列又はその配列の一部が、捕捉対象の標的核酸の配列の一部と一致する(相補する)ように設計されている。図1の(1)(「(1)」は1に〇。以下、同様。)に示すように、RNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加された(組み込まれた)一本鎖の標的核酸は、捕捉核酸1の標的特異的配列とハイブリダイズし、固体支持体のアドレスiに固定化される。(2)に示すように、相補鎖の生成のための鋳型として一本鎖の標的核酸を使用して、RNAポリメラーゼ配列を含む二本鎖核酸が形成されるように伸長条件が適用される。最後に、(3)に示すように、RNAポリメラーゼを含むこの態様において、転写条件が適用され、固定化された二本鎖の標的配列からいくつかの転写物が産生され、例えばISFETなどの検出ユニットによって、検出ゾーン内で検出されるプロトンの関連する放出につながる。
【0048】
別の有利な態様では、少なくとも1つの捕捉核酸、例えばアドレス指定可能な支持体上の所定のアドレスに存在する捕捉核酸は、代わりに標的に由来しない固有のアダプター配列を含み、この方法は、検出対象の所定の標的核酸に対して固体支持体を調整する必要性を回避するために、アダプター核酸配列の使用が含まれる。この態様では:
- RNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加する工程は、特異的なアダプター配列を試料中に存在する標的核酸配列に付加する工程を更に含み;
- 前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、固有のアダプター配列を含み;かつ、
- 反応チャンバは、
- 試料中に存在する標的核酸配列中の特異的なアダプター配列と同一又は相補的である第1の特異的なアダプター配列;及び
- 捕捉核酸の固有のアダプター配列と相補的である第2の固有のアダプター配列;
を含む少なくとも1つのアダプター核酸を更に含む。
【0049】
この態様では、アドレス指定可能な固体支持体中の所定のアドレスに存在する少なくとも1つの捕捉核酸は、標的核酸の配列と直接一致しないという意味で固有である。また、例えばアレイ中の、別のアドレスにある対応する固有のアダプター配列とも同一ではない。
【0050】
ある態様では、試料中に存在する標的核酸配列に付加される特異的なアダプター核酸配列は、標的核酸中に既に存在する核酸配列の少なくとも一部からなってもよい。これは、例えば、特異的なアダプター配列が、例えばPCRのような増幅反応により付加される場合があてはまる。この場合、アダプター核酸配列は、増幅反応で使用するプライマーの1つの核酸配列と同一又は相補的であり、同じプライマー核酸配列は、標的核酸配列の一部と同一又は相補的である。
【0051】
反応チャンバ内でアダプター核酸を使用する態様では、アダプター核酸の特異的なアダプター配列の少なくとも一部は、存在する標的核酸中の対応する核酸配列の少なくとも一部と同一又は相補的である。アダプター核酸の核酸配列の少なくとも別の固有の部分は、補足核酸配列の少なくとも一部分と同一又は相補的であり、検出対象の二本鎖核酸の鎖の1つに直接的に結合する。
【0052】
捕捉配列及びアダプター配列のこの設計により、前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、前記アダプター核酸又は各アダプター核酸と、補足核酸及び前記標的核酸か各標的核酸の両者との重複ハイブリダイゼーションにより、検出対象の対応する標的核酸と間接的に結合する。この態様では、適切なアダプター配列を設計することで、考えられる全ての標的核酸配列を検出するために調整できる1種類の固体支持体(例.チップ)のみに生産を限定することが可能である。
【0053】
図2は、この開示の第1の側面の方法の1つの態様を示し、そこでは、さまざまな配列の捕捉核酸が、反応チャンバ内の固体支持体の2つのアレイアドレスi及びj上に固定化されている。2つの異なるアダプター核酸が反応チャンバ内に存在し、それぞれ、特定のアドレスにおいて対応する捕捉核酸配列にハイブリダイズする異なる固有のアダプター配列を有し、それぞれ、異なる標的特異的配列を有する。図2のアダプター核酸1は標的核酸1に特異的であるが、アダプター核酸2は、図示するように、反応チャンバ内に存在しない別の標的核酸に特異的である特異的配列を有する。図2の(1)に示すように、RNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加された一本鎖の標的核酸が付加され、アダプター核酸1の標的特異的配列とハイブリダイズし、固体支持体のアドレスiに固定化される。(2)に示すように、相補鎖の生成のための鋳型として一本鎖の標的核酸を使用して、RNAポリメラーゼ配列を含む二本鎖核酸が形成されるように伸長条件が適用される。最後に、(3)に示すように、RNAポリメラーゼを含むこの態様において、転写条件が適用され、固定化された二本鎖の標的配列からいくつかの転写物が産生され、例えばISFETなどの検出ユニットによって、検出ゾーン内で検出されるプロトンの関連する放出につながる。
【0054】
これまでに説明したように、この開示の第1の態様による方法は、RNAポリメラーゼのプロモーター配列を、分析する試料中に存在する標的核酸配列に付加することを含む。開示した方法のある態様では、RNAポリメラーゼのプロモーター配列のこの付加は、増幅反応の一部として行われる。適切には、増幅反応は、患者試料又は他の遺伝物質試料中に存在する標的配列を増幅するように設計される。したがって、この態様は、遺伝物質試料中のバイオマーカー又は他の配列変異体を検出する公知の増幅方法に類似しているが、最初の標的増幅反応が、この開示の第1の側面の方法を使用する標的検出の後の工程とは別であるという有利な違いがある。さらに、反応の目的は、RNAポリメラーゼのプロモーター配列を存在する標的核酸に付加することであって、増幅産物を測定する必要はないので、増幅反応のサイクル数は、増幅反応で一般的に行われる35~40サイクルほど多い必要はない。
【0055】
ある態様では、増幅反応により、標的配列にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加し、前記増幅反応は、
- 遺伝物質試料を提供する工程;
- 前記遺伝物質試料を変性する工程;
- 前記遺伝物質試料への前記プライマーのアニーリングを可能にする条件で、少なくとも1つの標的プライマー対を付加する工程であって、
前記標的プライマー対は、
- 前記標的配列に特異的な配列;及び
- RNAポリメラーゼのプロモーター配列;
を含む第1のプライマー;並びに
- 前記標的配列に特異的な配列;
を含む第2のプライマー;
を含み、
前記標的核酸配列が前記遺伝物質試料中に存在する場合、前記プライマー中の前記標的配列に特異的な前記配列は、標的核酸配列の増幅を可能にするように選択される工程;
- 所定のサイクル数の増幅反応を行い、前記遺伝物質試料中に存在する標的核酸配列が増幅され、RNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加される工程;
の一連の工程を含む。
【0056】
この明細書では、用語「プライマー」は、ポリヌクレオチド鋳型と二本鎖を形成する場合、核酸合成の開始点として機能でき、3’末端から鋳型に沿って伸長できるので、伸長した二本鎖(二重鎖)が形成される、オリゴヌクレオチド長の核酸を指す。この明細書では、用語「プライマー対」は、少なくとも2つのプライマーを指し、一方は、「フォワードプライマー」と呼ばれ、他方は、「リバースプライマー」と呼ばれ、増幅する鋳型核酸の断片に隣接するヌクレオチド配列、すなわち、それぞれ始めと終わりに存在するヌクレオチド配列と相補的である。
【0057】
当業者であれば容易に理解できるように、この態様における増幅反応は、図3に概略的に示すように、目的の標的領域に隣接する少なくとも1つのプライマー対を利用する。
【0058】
この態様の増幅反応は、標的の存在を検出するその後のさまざまな態様(「検出段階」ともいう)に適合させてもよい。
【0059】
したがって、検出段階が複数の異なる標的核酸配列の存在を検出するように設計されている態様では、検出段階の前の増幅反応は、複数の異なるプライマー対を含むように適切に設計され、各プライマー対は、検出対象の各標的核酸配列を増幅するように適合されている。この態様の増幅反応では、少なくとも1対の標的プライマーの添加は、複数の対の標的プライマーの添加を含み、それぞれのプライマー対は、異なる標的配列に特異的な配列を含み、その結果、このポリメラーゼ連鎖反応は、遺伝物質試料中に存在する全ての異なる標的配列を増幅する。
【0060】
ある態様では、増幅反応は、標的核酸が固体支持体上に配置された捕捉核酸に直接的又は間接的に結合することを可能にする配列を標的核酸に付加するためにも使用される。
【0061】
前記捕捉核酸又は各捕捉核酸が、標的核酸配列の少なくとも一部分と同一又は相補的で、検出対象の二本鎖核酸の鎖の1つに直接的に結合する検出段階の態様では、増幅反応における前記第2のプライマー又は各第2のプライマーは、前記捕捉核酸又は各捕捉核酸の配列の少なくとも一部と同一又は相補的である配列を含む。このような第2のプライマーを使用する増幅は、検出のために、増幅された標的核酸が一本鎖の形態で反応チャンバ中に導入される場合、捕捉核酸にハイブリダイズする増幅された標的核酸中に配列を組み込む。
【0062】
ある態様では、第2のプライマーは、標的配列と同一又は相補的な配列を含んでいてもよく、そのような標的に特異的な核酸配列を増幅された標的核酸に付加する。検出段階のこの態様では、各捕捉核酸は、標的に特異的な核酸配列の少なくとも一部と同一又は相補的である核酸配列を有するように設計され、増幅された標的核酸が捕捉核酸とハイブリダイズすることが可能となる。
【0063】
あるいは、第2のプライマーは、標的配列と同一又は相補的である配列に加えて、標的に特異的ではない核酸配列を含んでいてもよく、このような標的非特異的核酸配列も、増幅された標的核酸に付加する。検出段階のこの態様では、各捕捉核酸は、標的に特異的ではない核酸配列の少なくとも一部と同一又は相補的である核酸配列を有するように設計され、増幅された標的核酸が捕捉核酸とハイブリダイズすることが可能となる。
【0064】
代わりの態様では、上記検出段階で検討した、より柔軟な「捕捉-アダプター-標的」の概念に基づき、それに応じた前記第2のプライマー又は各第2のプライマーを設計することで、増幅反応を代わりに使用して、標的核酸にアダプター配列に相補的な配列を導入する。この態様では、次いで、前記第2のプライマー又は各第2のプライマーは、特異的なアダプター配列を更に含み、一方で、前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、固有のアダプター配列を含む。反応チャンバは、前記第2のプライマー又は各第2のプライマー中の特異的なアダプター配列と同一である第1の特異的なアダプター配列、及び補足核酸の固有のアダプター配列と相補的である第2の固有のアダプター配列を含む少なくとも1つのアダプター核酸を更に含み、前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、前記アダプター核酸又は各アダプター核酸と、補足核酸及び前記第2のプライマーか各第2のプライマーの両者との重複ハイブリダイゼーションにより、対応する標的核酸と間接的に結合する。したがって、有利なことに、複数の標的配列を調べる態様では、異なるアダプター配列を異なる標的核酸に付加することがこの場合は可能で、その結果、検出対象の各標的核酸は、その特異的なアダプター配列を含むアダプター核酸のみに結合するのに有用な、それ自体のアダプター配列を含む。全てのアダプター核酸は、対応する捕捉核酸上の固有の配列に対してのみ相補的である固有のアダプター配列も含む。
【0065】
この有利な設定のより具体的な態様では、第1の特異的なアダプター配列に隣接する(すなわち、前記第2のプライマー又は各第2のプライマー中にも存在する一続きの配列に隣接する)追加の標的配列を含むようにアダプター核酸を設計することで、更なる利点が得られる可能性がある。前記第2のプライマー又は各第2のプライマーが提供する標的配列の部分を超えて、増幅された標的配列とアダプター配列との間にさらなる配列の一致が存在するため、標的核酸が捕捉核酸と間接的に結合する場合、標的核酸とアダプター核酸の相補的な範囲は増大する。このような設計のさらなる利点は、その後に、標的核酸とアダプター核酸との間のアニーリングを、プライマーのハイブリダイゼーションに必要な温度よりも高い温度で実施できることである。その結果、標的核酸とアダプター核酸との間のハイブリダイゼーションにおける過剰なプライマーによる干渉が、抑制又は排除される。さらに、検出段階において一本鎖の標的核酸の相補鎖を合成するために伸長条件を適用する場合、アダプター核酸中の前記第2のプライマー又は各第2のプライマー中の標的配列よりもわずかに長い標的部分の存在は、望ましくない副産物(例.プライマー二量体)に対する選択性も追加される(図1、工程(2))。
【0066】
ある態様では、増幅反応はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。
【0067】
後の検出のために、標的核酸を調製において遺伝物質試料に対して増幅反応(例.PCR)を実施することは、RNAポリメラーゼのプロモーター配列や捕捉核酸と直接的又は間接的に結合するように設計された追加の配列について、遺伝物質試料中の1つ以上の特定の所望の標的配列の増幅に使用する前記プライマー対又は各プライマー対にこれらの配列要素を導入することで、標的核酸に付加できるという利点がある。この方法で検出前に増幅(例.PCR)することの別の利点は、DNAポリメラーゼ及びdNTPといった増幅反応混合物中の試薬が、検出段階の伸長工程における有用な成分の可能性があることである。この態様では、増幅反応からの反応混合物は、追加の操作を行うことなく検出段階の反応チャンバに単に移し、直接使用してもよい。しかし、この態様の方法は、増幅と検出が別の反応工程に分離され、異なる反応条件で連続的に行われるという事実からも恩恵を受ける。したがって、増幅反応は、それ自体で検出可能な数のプロトンを生成するほど長く続ける必要はなく、付加したRNAポリメラーゼのプロモーター配列で十分な量の標的核酸を増幅するのに十分な時間であればよい。これは、分析が迅速かつ効率的に実行できることを意味する。同様に、例えば、温度感受性ISFETを使用するプロトンの検出は、PCRのような増幅法における熱サイクルに伴う高温や温度変化にさらされず、その結果、機器や検出ユニットの寿命が長くなり、信頼性が高まる。このようにして、従来のpHセンサーによる検出法の大きな欠点が回避される。
【0068】
必要とされる配列(すなわち、RNAポリメラーゼのプロモーター配列及び捕捉核酸への直接的又は間接的結合のための追加の配列)を付加するために増幅を行うある態様では、増幅反応の所定のサイクル数は1サイクルのみであってもよく、この1サイクルで、遺伝物質試料中に存在する標的核酸に配列を付加する機能を果たす。ある態様では、所定のサイクル数は、1~40サイクル、例えば1~30サイクル、1~20サイクル、1~10サイクル、2~10サイクルである。具体的な態様では、所定のサイクル数は、2、3、4、5、6、7、8、9又は10サイクルである。
【0069】
この明細書に記載の方法は、自動化できる。したがって、この開示の好ましい態様では、開示する方法は、自動化システムによって行われる。この明細書では、用語「自動化システム」は、機器と、システムが特定の工程を完了するために自動化された方法で使用するプラスチック及び溶液のような使い捨て材料とを含む統合されたプラットフォームを指してもよい。そのような工程は、ユーザが開始でき、システムの自動化処理中は、工程が完了するまで、ユーザの介入は必要ではない。この明細書では、用語「機器」は、少なくともユーザーインターフェース(例えば、少なくともスタートボタン又は電気プラグ)、この明細書で開示する方法によりアッセイするなどの機能を実行するようにプログラムされたソフトウェアを有するコンピュータを備えた機械として理解すべきである。これには、例えば、混合、加熱、データ検出、データ収集、データ解析等が含まれてもよい。好ましい態様では、使い捨て材料はキットの形態で提供される。この明細書では、用語「キット」は、少なくとも1つの物品を含むセットとして、又は、例えば分子生物学の方法若しくはアッセイを実施するなど特定の目的のために必要とされる物品若しくは装置のアセンブリとして解釈されるべきである。この開示の第2の側面は、核酸の転写中のプロトンの放出/蓄積を検出する検出ゾーンを有する反応チャンバ、固体支持体上に配置され、標的核酸に間接的又は直接的に結合するように適合している捕捉核酸、並びに、核酸の伸長及び転写の条件を適用する試薬を含むキットを提供する。
【0070】
標的核酸にRNAポリメラーゼ配列を付加し、転写活性、例えばRNAポリメラーゼの活性によって放出されるプロトンを検出することを含む、試料中の少なくとも1つの標的核酸配列を検出するための、この明細書中に記載した方法及び(キット、自動化システムなどの)製品の使用も、この明細書で提供する。
【0071】
この開示の第3の側面は、試料中の標的核酸の存在、非存在又は量を、対象の臨床判断の基礎として使用する、さまざまなin vitro方法を提供する。
【0072】
ある態様では、この方法は、試料中の少なくとも1つの標的核酸の存在、非存在又は量を、対象の状態の診断の基礎として使用する別の工程を含む、in vitro診断法である。
【0073】
別の態様では、この方法は、試料中の少なくとも1つの標的核酸の存在、非存在又は量を、対象の状態の予後の判断の基礎として使用する別の工程を含む、in vitro予知法である。
【0074】
更に別の態様では、この方法は、試料中の少なくとも1つの標的核酸の存在、非存在又は量を、対象の状態の治療が成功する可能性の予測の基礎として使用する別の工程を含む、in vitro対象階層化法である。
【0075】
関連する態様では、この方法は、試料中の少なくとも1つの標的核酸の存在、非存在又は量を、対象の状態の治療に対する抵抗性の可能性の予測の基礎として使用する別の工程を含む、in vitro対象階層化法である。
【0076】
別の態様では、この方法は、試料中の少なくとも1つの標的核酸の存在、非存在又は量を、対象の状態に適した治療法選択の基礎として使用する別の工程を含む、対象の状態の適切な治療法を選択するin vitro法である。
【0077】
そのような方法の好ましい態様は、
- 試験を行う対象から遺伝物質試料を得る工程又は以前に得た遺伝物質試料を供給する工程;
- 前記遺伝物質試料中に存在する標的核酸を濃縮して、この明細書で開示する方法によって検出を可能にする工程;
を含んでいてもよい。
【0078】
そのような方法の特定の態様では、検出を、増幅反応によりRNA転写プロモーター配列を付加する方法で行い、濃縮を、遺伝物質試料から標的核酸を増幅するように設計されたプライマーを用いる増幅反応で行う。
【0079】
そのような方法のある特定の態様では、前記遺伝物質試料は、対象から採取した試料から得られる。これまでに定義したように、試料は、細胞培養物、体液、体液沈殿物、洗浄標本、細針吸引物、生検試料、組織試料、がん細胞、対象から得られた他の細胞、疾患又は感染について試験及び/又は処置を受ける対象の組織に由来する細胞又はin vitroで培養された細胞、並びに法医学試料からなる群から選択されてもよい。試料が体液の場合、全血、骨髄、脳脊髄液(CSF)、腹腔液、胸膜液、リンパ液、血清、血漿、尿、乳び、便、精子、喀痰、乳頭吸引液、唾液、スワブ標本、洗浄液(wash/lavage fluid)及びブラシ標本からなる群から選択されてもよい。
【0080】
そのような方法のある特定の態様では、対象は哺乳動物である。特定の態様では、対象はヒトである。
【0081】
また、診断、予後の判断、治療のための対象の階層化、及び/又は対象の適切な治療法の選択のためのキットも提供する。そのようなキットは、開示したさまざまな方法及び使用に関連して言及したさまざまな特徴、側面及び態様のいずれかを組み込むことができる。
【0082】
明細書に開示した一般原理が、現代の生化学及び遺伝子技術の当業者に提供されれば、この開示のさまざまな態様で使用するさまざまな核酸要素を設計し、具体化することは、そのような当業者の技能の範囲内であると考えられる。一例として、当業者は、プライマー中の標的特異的配列の長さ及び他の設計上の考慮事項を含めて、遺伝物質試料中で検出するのに好適な標的配列、並びに、そのような標的配列の検出及び増幅のための関連するプライマー対を選択できる。同様に、当業者は、固体支持体上に固定化する適切な捕捉核酸配列、及び適用可能な場合、標的核酸配列及び捕捉核酸配列と、それぞれ必要な程度の重複を有する適切なアダプター核酸配列を設計できる。さらに、必要な配列要素を標的核酸に付加するために増幅を行う態様では、ポリメラーゼ酵素、dNTP又はNTP、及び他の既知の因子の性質及び濃度を含む、反応温度や反応混合物の成分などの、そのような増幅の適切な反応パラメーターを選択することは、当業者の能力の範囲内である。
【0083】
また、さまざまな代表的な側面及び態様を参照してこの発明を説明してきたが、当業者であれば、明細書の開示の範囲から逸脱することなく、さまざまな変更を行うことができ、その要素を均等物で置き換えることができることを理解する。さらに、この発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況をこの発明の教示に適合させるために、多くの修正を行うことができる。したがって、この発明は、企図されるいかなる特定の態様に限定されず、特許請求の範囲に含まれるすべての態様を含むことが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0084】
図1図1は、この開示の方法の一つの態様の概略図であり、捕捉核酸は、反応チャンバ内の固体支持体の2つのアレイアドレスi及びjに固定化され、試料中に存在する標的核酸は、捕捉核酸に直接結合される。
図2図2は、この開示の方法の別の態様の概略図であり、捕捉核酸は、反応チャンバ内の固体支持体の2つのアレイアドレスi及びjに固定化され、試料中に存在する標的核酸は、アダプター核酸を介して捕捉核酸に間接的に結合される。
図3図3は、検出対象の標的核酸にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加するために増幅を行う、この開示の方法の一つの態様において有用なプライマー設計の概略図である。
図4図4は、実施例1に示した実験におけるさまざまな濃度(x軸)の鋳型標的核酸の反応で測定された電流(y軸)を示す図である。
図5図5は、実施例2に記載したクリックケミストリーを使用して固定化した捕捉核酸を有するISFETセンサーアレイの写真である。
図6図6は、図6Aの挿入図に示され、実施例2に記載の4つのセンサーのベースラインを減算した後の、標的配列の存在下(A)又は非存在下(B)での出力電流(y軸)対時間(x軸)の図である。
【実施例
【0085】
以下の実施例は、さまざまな設定で実施されるこの開示の態様を示す。
【0086】
実施例1
ISFETセンサーのアレイ(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company;TSMC)を使用して、T7プロモーター配列を含むモデル標的核酸のT7RNAポリメラーゼ活性に由来するpH変化を検出した。アレイのサイズは850×850μmで、pH感応層として酸化ハフニウム(HfO)を有する1024個のセンサーが含まれていた。センサーは32行32列に配置された。アレイは、標準的な相補型金属酸化膜半導体(CMOS)として製造され、測定ステーション(Demoboxと呼ぶ)への電気的接続を提供するプリント基板に配置され、TSMCが提供する制御ソフトウェアを実行するラップトップと接続された。緩衝液を体積20μLの感知領域に閉じ込めるのに、ポリマー閉じ込めウェルを使用した。Demoboxに接続した漏れのない小型Ag/AgCl参照電極(eDAQ)を使用して、緩衝液にバイアスをかけた。
【0087】
標的核酸として、マルチクローニング部位の上流にT7RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含むことが知られているpSP73 DNAプラスミドを実験に使用した。プラスミド、CutSmart(登録商標)10×緩衝液及び制限酵素HPAIの、RNAseを含まない水中の混合物を、37℃で1時間加熱し、プラスミドを特定の配列に切断し、線状化した。全ての試薬は、Integrated DNA Technologies(IDT)から得た。続いて、20mMのNaCl、6mMのMgCl、10MmのDTT、1Mmのスペルミジン、12U/μLのT7酵素及び0.5mMの各NTPの最終組成物としてのT7RNAポリメラーゼのマスターミックスを、CHES緩衝液中で調製した。pHをNaOHで約8に調整した。実験の前に、ISFETセンサーアレイのチップのpH感受性を、1M CHES緩衝液中で、pH7.5~8.5で0.2ごとのpHについて試験した。
【0088】
これまでに説明したように調製した標的核酸を、最終容量が20μLとなるように、さまざまな濃度でT7RNAポリメラーゼのマスターミックスに添加し、Demoboxが接続されたISFETセンサーアレイのチップに接着された閉じ込めウェルに、ピペットを使用して素早く注いだ。
【0089】
ソフトウェアを、アレイ内のすべてのセンサーからの出力電流を毎秒測定するようにプログラムした。さまざまな濃度の標的核酸について、同じ方法で複数の実験を行った。T7RNAポリメラーゼの緩衝液のみを陰性対照として使用した。
【0090】
結果を図4に示す。この図は、実験の開始(すなわち、緩衝液をチップ上に置いた瞬間)から2分後に測定した出力電流の値(絶対値)を、代表的なセンサー上の標的濃度の対数に対して示している。標的の濃度が変化するとpH変化も異なることから、測定される電流は、pHに応じて変化する。具体的には、ISFETはnチャネルトランジスタであることから、標的濃度の減少(生成するプロトンの減少)とともに、電流が減少すると予想される。試験を行った線状プラスミドの最低濃度は、10-6ng/μL(約10分子)で、この濃度でも、陰性対照と比較した場合、センサーによって認識された。
【0091】
実施例2
捕捉プローブ、アダプター及び標的核酸として作用する3つのオリゴヌクレオチドを用いて、概念実証システムを試験し、設計した。オリゴヌクレオチドを、IDTE緩衝液(pH8)に溶解し、100μMとした。
【0092】
【表1】
【0093】
設定を試験するために、4つの異なる捕捉プローブ(表1;配列番号3~6)を、クリックケミストリーによってISFETセンサーのアレイに固定化した(Movilli et al (2020), ACS Langmuir 36:4272-4279)。最初に、TSMCから得たチップを、溶媒と温和なオゾンで湿式及び乾式洗浄した。次いで、3-アジドプロピルトリエトキシシラン(Gelest)を使用し、クリックケミストリーによって70℃で6時間かけて官能化して、DBCO修飾オリゴヌクレオチドと効率的に反応することができるアジド基を表面上に形成させた。DBCO官能化捕捉プローブを設計し、アジド官能化チップ上に、sciFLEXARRAYER SX(Scienion)を、1nLの緩衝液(1MのNaCl及び10mMのTris HCl(pH8))中10μMの濃度でスポットした。スポットしたチップを高湿度環境(85%)でインキュベートして蒸発を回避し、クリックケミストリーの反応を1時間続けた。1時間後、チップを脱イオン水ですすいだ。捕捉プローブをスポットしたアレイの写真を図5に示す。
【0094】
クリックケミストリーの反応の成功を確認する試験を以下のとおり行った。蛍光分子を有し、スポットした捕捉プローブに相補的な4つの異なる試験プローブ(表1;配列番号7~10)を、スポットしたチップ上で、室温で1時間ハイブリダイズさせた。次いで、励起/発光フィルターを備えた光学顕微鏡で蛍光を観察した。光学的シグナルがスポットした領域に由来することが確立され、これは、それぞれのスポットされた捕捉プローブ上で試験プローブのハイブリダイゼーションが成功したことを意味する。
【0095】
【表2】
【0096】
試験の成功後、アダプター(配列番号11)及び標的(配列番号12)核酸分子を、チップ上にスポットした捕捉プローブ(配列番号13)とハイブリダイズさせた(表2)。アダプター及び標的オリゴヌクレオチドの配列は、ハイブリダイズすると二本鎖となり、緩衝液に曝露される側にT7RNAポリメラーゼのプロモーター配列がくるように設計した。アダプター及び標的オリゴヌクレオチドは、その位置での捕捉プローブとの相補性によってアレイ上の特定のスポット上でのみハイブリダイズでき、捕捉プローブが存在しないか、相補的ではない捕捉プローブを有するスポット上ではハイブリダイゼーションは生じなかった。1MのNaCl、10mMのTris HCl緩衝液中、それぞれ500nMの2つのオリゴヌクレオチドの溶液を調製し、ピペットを使用してISFETセンサーアレイに直接移し、室温で1時間静置した。1時間後、チップを同じ溶液で洗浄した。この時点で、ISFETセンサーチップは、実施例1に記載の設定を使用して試験される準備ができた。緩衝液用の閉じ込めウェルを取り付け、アレイ中のすべてのセンサーからの出力を経時的に測定するようにプログラムしたDemoboxにチップを挿入した。実施例1に記載のものと同じ組成のT7RNAポリメラーゼのマスターミックスを使用した。
【0097】
図6は、スポットパターンを反映する、各センサーからの出力電流を示す。スポットされた位置とスポットされていない位置の化学的組成は異なり、スポットの外側の領域にはアジド基を有するシラン化層のみで、スポットはこの層の上にオリゴヌクレオチドがあり、したがって、電気化学ポテンシャルも電流値をもたらす。
【0098】
図6A及び図6Bは、挿入図で強調する4つのセンサーのベースラインを減算した後の電流対時間のグラフを示す。センサーと曲線の組は、凡例で示すようにコード化されている。最初に、電気出力シグナルを安定化させるために、酵素を含まないT7RNAポリメラーゼのマスターミックスをチップ上に置いた。この条件では、酵素が存在しないために反応は開始しなかった。続いて、この酵素を含まない緩衝液をピペットでウェルから取り出し、反応の開始に必要な全ての成分を有する緩衝液と交換した。
【0099】
図6Aに示すように、(T7プロモーター配列を含む)標的核酸がハイブリダイズしたピクセル(左上の角、ピクセル7.7)は、酵素を有するT7RNAポリメラーゼのマスターミックスの導入時に、標的を欠くピクセルと比較して、過渡応答が速い。この速い応答の理由は、T7RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含むハイブリダイズした標的を有するセンサー上で反応が開始し、その結果、ヌクレオチドの挿入時に生成するプロトンがISFETによって直ちに検出されるためと考えられる。しかし、最終的には、チップ全体への拡散によって、離れたセンサーからも応答が得られる。
【0100】
陰性対照として捕捉プローブを同様にスポットしたが、その上に標的核酸がハイブリダイズされていないチップからも時間応答が得られた。ベースラインを減算した後のこのチップの電流対時間応答を図6Bに示す。位置が異なるピクセルの応答の間に遅延は認められず、これは、反応が起こらず、全てのセンサーが同じ化学緩衝液組成(電気化学ポテンシャル)に同時に曝露されるという事実に起因する。
【0101】
実施態様の項別リスト
1 試料中の少なくとも1つの標的核酸配列の存在を検出する方法であって、
- 前記少なくとも1つの標的核酸配列が含まれることが疑われる試料を提供する工程;
- 前記試料中に存在する標的核酸配列にRNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加する工程;
- 前記試料を
- 少なくとも1つの検出ゾーン;及び
- 固体支持体上に配置され、前記標的核酸と間接的又は直接的に結合するように適合している少なくとも1つの捕捉核酸;
を有する反応チャンバに導入し、
固体支持体上に配置された捕捉核酸に直接的又は間接的に結合した一本鎖核酸の配列を生成する工程;
- 前記一本鎖核酸に相補的な核酸鎖の生成を可能にする伸長条件を適用し、RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含み、前記固体支持体上に配置された前記捕捉核酸に直接的又は間接的に結合した二本鎖核酸を形成する工程;
- 前記固体支持体上に捕捉された前記二本鎖核酸からの転写物の産生を可能にする転写条件を適用する工程であって、転写物の産生が、転写が進行するにつれてプロトンを放出する工程;並びに、
- 前記プロトンの存在を前記検出ゾーンからのシグナルとして検出する工程であって、前記シグナルが前記試料中の前記標的核酸配列の存在の指標である工程;
の一連の工程を含む方法。
2 前記複数の標的配列は、固体支持体上に配置された複数の捕捉核酸と一致し、それぞれが異なる標的核酸配列と間接的又は直接的に結合するように適合している、複数の標的核酸配列の存在を検出するための項1に記載の方法。
3 前記複数の捕捉核酸は前記固体支持体上にアレイの形態で配置され、各捕捉核酸が前記アレイ上のアドレス指定可能な位置を表す、項2に記載の方法。
4 前記検出ゾーンからの検出シグナルは、前記アレイ上の特定のアドレス指定可能な位置から生じるものとして識別される、項3に記載の方法。
5 前記捕捉核酸又は各捕捉核酸の前記配列の少なくとも一部分は、前記標的核酸配列の少なくとも一部分と同一又は相補的であり、検出対象の前記二本鎖核酸の前記鎖の1つに直接的に結合する、前項のいずれかに記載の方法。
6 - 前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列を付加する工程は、特異的なアダプター配列を前記試料中に存在する標的核酸配列に付加する工程を更に含み;
- 前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、固有のアダプター配列を含み;かつ、
- 前記反応チャンバは、
- 前記試料中に存在する前記標的核酸配列中の前記特異的なアダプター配列と同一又は相補的である第1の特異的なアダプター配列;及び
- 前記捕捉核酸の前記固有のアダプター配列と相補的である第2の固有のアダプター配列;
を含む少なくとも1つのアダプター核酸を更に含み、
前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、前記アダプター核酸又は各アダプター核酸と、前記補足核酸及び前記標的核酸か各標的核酸の両者との重複ハイブリダイゼーションにより、検出対象の対応する標的核酸と間接的に結合する、
項1~4のいずれか一つに記載の方法。
7 前記試料を提供し、RNAポリメラーゼのプロモーター配列及び存在する場合には特異的なアダプター配列を付加する工程は、増幅反応の一部として行われる、前項のいずれかに記載の方法。
8 前記増幅反応は、
- 遺伝物質試料を提供する工程;
- 前記遺伝物質試料を変性する工程;
- 前記遺伝物質試料への前記プライマーのアニーリングを可能にする条件で、少なくとも1つの標的プライマー対を付加する工程であって、
前記標的プライマー対は、
- 前記標的配列に特異的な配列;及び
- RNAポリメラーゼのプロモーター配列;
を含む第1のプライマー;並びに
- 前記標的配列に特異的な配列;
を含む第2のプライマー;
を含み、
前記標的核酸配列が前記遺伝物質試料中に存在する場合、前記プライマー中の前記標的配列に特異的な前記配列は、標的核酸配列の増幅を可能にするように選択される工程;
- 所定のサイクル数の増幅反応を行い、前記遺伝物質試料中に存在する標的核酸配列が増幅され、RNAポリメラーゼのプロモーター配列が付加される工程;
の一連の工程を含む、項7に記載の方法。
9 前記少なくとも1つの標的プライマー対の付加は、複数の標的プライマー対の付加を含み、各プライマー対は、異なる標的配列に特異的な配列を含み、前記増幅反応は、前記遺伝物質試料中に存在する全ての異なる標的配列を増幅する、項8に記載の方法。
10 前記捕捉核酸又は各捕捉核酸の前記配列の少なくとも一部分は、前記第1のプライマー又は各第2のプライマーと同一又は相補的であり、前記標的核酸又は各標的核酸の前記鎖の1つに直接的に結合する、項7~9のいずれか一つに記載の方法。
【0102】
11 - 前記第2のプライマー又は各第2のプライマーは、特異的なアダプター配列を更に含み;
- 前記補足核酸又は各補足核酸は、固有のアダプター配列を含み;並びに
- 前記反応チャンバは、
- 前記第2のプライマー又は各第2のプライマー中の前記特異的なアダプター配列と同一である第1の特異的なアダプター配列;及び
- 前記補足核酸の前記固有のアダプター配列と相補的である第2の固有のアダプター配列;
を含む少なくとも1つのアダプター核酸を更に含み、
前記捕捉核酸又は各捕捉核酸は、前記アダプター核酸又は各アダプター核酸と、前記補足核酸及び前記第2のプライマーか各第2のプライマーの両者との重複ハイブリダイゼーションにより、対応する標的核酸と間接的に結合する、項7~9のいずれか一つに記載の方法。
12 前記少なくとも1つのアダプター核酸は、前記第1の特異的なアダプター配列に隣接する追加の標的配列を更に含み、所望のアンプリコンと前記アダプター核酸との間の相補的な範囲が、前記第2のプライマーによって提供される標的配列の部分を超えて増加する、項11に記載の方法。
13 前記増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である、項7~12のいずれか一つに記載の方法。
14 前記検出ゾーンが、検出ユニット、例えばイオン感応性電界効果トランジスタを含む、前項のいずれかに記載の方法。
15 前記伸長条件は、75~90℃の反応温度を含む、前項のいずれかに記載の方法。
16 前記伸長条件がDNAポリメラーゼの存在を含む、前項のいずれかに記載の方法。
17 前記転写条件は、20~40℃の反応温度を含む、前項のいずれかに記載の方法。
18 前記転写条件がRNAポリメラーゼの存在を含む、前項のいずれかに記載の方法。
19 前記RNAポリメラーゼのプロモーター配列がT7RNAポリメラーゼのプロモーター配列である、前項のいずれかに記載の方法。
20 前記RNAポリメラーゼはT7RNAポリメラーゼである、項18又は19に記載の方法。
【0103】
21 対象の状態を診断し、対象の状態の予後を判断し、患者を階層化し、又は、患者の治療法を選択するための基礎として、前記試料中の少なくとも1つの標的核酸の存在、非存在又は量を使用する追加の工程を含む、in vitroでの、診断、予後の判断、患者状態の階層化、又は治療法の選択の方法である、前項のいずれかに記載の方法。
22 - 試験を行う対象から遺伝物質試料を得る工程;
- 前記遺伝物質試料中に存在する標的核酸を濃縮して、項1~18のいずれか一つに記載の方法によって検出を可能にする工程;
を含む、項21に記載の方法。
23 前記検出を、項7~13のいずれか一つに記載の方法で行い、濃縮を、前記遺伝物質試料から前記標的核酸を増幅するように設計されたプライマーを用いる前記増幅反応で行う、項22に記載の方法。
24 前記遺伝物質試料は、前記対象から採取した試料から得られる、項21~23のいずれか一つに記載の方法。
25 前記試料が、細胞培養物、体液、体液沈殿物、洗浄標本、細針吸引物、生検試料、組織試料、がん細胞、対象から得られた他の細胞、疾患又は感染について試験及び/又は処置を受ける対象の組織に由来する細胞又はin vitroで培養された細胞、並びに法医学試料からなる群から選択される、項24に記載の方法。
26 前記試料が、全血、骨髄、脳脊髄液(CSF)、腹腔液、胸膜液、リンパ液、血清、血漿、尿、乳び、便、精子、喀痰、乳頭吸引液、唾液、スワブ標本、洗浄液(wash/lavage fluid)及びブラシ標本からなる群から選択される体液である、項25に記載の方法。
27 前記哺乳動物、例えばヒトである、項21~26のいずれか一つに記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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【国際調査報告】