(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】アンモニアの電気化学的合成のための方法及びその方法を実施するための装置
(51)【国際特許分類】
C25B 1/27 20210101AFI20240912BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240912BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20240912BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20240912BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240912BHJP
【FI】
C25B1/27
C25B9/00 Z
C25B9/19
C25B11/032
C25B11/052
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518503
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 US2022076898
(87)【国際公開番号】W WO2023049820
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522155073
【氏名又は名称】ゲンセル エルティーディー
【氏名又は名称原語表記】GENCELL LTD.
【住所又は居所原語表記】7 Hatnufa St. 4951025 Petah Tikva ISRAEL
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィンケルシュテイン, ゲンナディ
(72)【発明者】
【氏名】ボルシュトチョウコヴァ, ニノ
(72)【発明者】
【氏名】シロコヴ, アレクサンダー ヴィ.
(72)【発明者】
【氏名】イングランダー, ヨセフ
(72)【発明者】
【氏名】シャラビ, ロニット
(72)【発明者】
【氏名】ザビルスキー, マキシム
(72)【発明者】
【氏名】ツァイ, ツェピン
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA12
4K011AA25
4K011AA29
4K021AB25
4K021BA02
4K021BB03
4K021DB36
(57)【要約】
アンモニアの電気化学的合成のための方法及びその方法を実施するための装置。アンモニア(NH3)の電気化学的合成法は、窒素含有ガスを、カソードと、アノードと、アルカリ性水電解質と、好ましくは陰イオン交換膜とを含む電気化学セルのカソードと接触させることを含む。このカソードは、窒素の電気化学的還元を触媒することができ、電解質と接触する材料を含む活性層と、活性層を支持する導電性材料の層と、電解質と接触せず、窒素含有ガスと直接接触する、活性層の側の多孔性高分子膜と、を含む多孔質ガス拡散電極である。窒素と水からアンモニアを電気化学的に合成するために、電気化学セル上の電位が印加される。この方法は、分子状水素を使用せずにアンモニアを合成するために使用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア(NH
3)の電気化学的合成のための方法であって、窒素含有ガスを、カソードと、アノードと、アルカリ性水性電解質とを含む電気化学セルの前記カソードと接触させることを含み、前記カソードは、(i)窒素(N
2)の電気化学的還元を触媒することができ、前記電解質と直接接触する材料を含む活性層と、(ii)前記活性層を支持する導電性材料の層と、(iii)前記電解質と直接接触せず、前記窒素含有ガスと直接接触する、前記活性層の側の多孔質ポリマーフィルムと、を含む多孔質ガス拡散電極であり、前記アノードは、前記電解質に対して不活性である導電性材料からなり、前記方法は窒素及び水からの前記アンモニアの電気化学的合成をもたらすために前記電気化学セル上に電位を印加することを含む、方法。
【請求項2】
前記方法が、約20℃~約200℃の温度で、及び/又はほぼ大気圧~約10atmの気圧で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が連続的に実施される、請求項1及び2の何れか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記方法がバッチ式で実施される、請求項1及び2の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記窒素含有ガスが実質的に純粋な窒素である、請求項1乃至4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記窒素含有ガスの流れが、前記ガス拡散電極の前記多孔質ポリマーフィルムに接触させられる、請求項1乃至5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
分子状水素(H
2)が使用されない、請求項1乃至6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水性電解質が、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の水酸化物を含む、請求項1乃至7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
定電位が使用される、請求項1乃至8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
定電流が使用される、請求項1乃至8の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
カソードと、アノードと、アルカリ性水性電解質とを含む電気化学セルを含み、前記カソードは、(i)窒素(N
2)の電気化学的還元を触媒することができ、前記電解質と直接接触する材料を含む活性層と、(ii)前記活性層を支持する導電性材料の層と、(iii)前記電解質と直接接触しない前記活性層の側の多孔質ポリマーフィルムと、を含む多孔質ガス拡散電極であり、前記アノードは、前記電解質に対して不活性である導電性材料からなる、請求項1乃至10の何れか一項に記載の方法を実施するための装置。
【請求項12】
前記活性層がバインダー材料をさらに含む、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記バインダー材料が疎水性ポリマーを含む、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
窒素の前記電気化学的還元を触媒することができる材料が、Pd、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Ni、Co、Mo、Cr、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、及びMnのうちの1つ以上を含む、請求項11乃至13の何れか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記カソードの前記導電性材料の層が金属メッシュを含む、請求項11乃至14の何れか一項に記載の装置。
【請求項16】
前記カソードの前記導電性材料の層が前記活性層に埋め込まれている、請求項11乃至15の何れか一項に記載の装置。
【請求項17】
前記多孔質ポリマーフィルムがフッ素化ポリマーを含む、請求項11乃至16の何れか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記アノードが金属メッシュの形態で存在する、請求項11乃至17の何れか一項に記載の装置。
【請求項19】
前記電気化学セルの前記カソード側に隣接し、ガスのための入口及び出口を備える、前記カソードの前記ポリマーフィルムと接触する窒素含有ガスの流れを通過させることができる格納容器をさらに備える、請求項11乃至18の何れか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記電気化学セルがセパレータをさらに含む、請求項11乃至19の何れか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記セパレータが陰イオン交換膜を含む、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
ポテンショスタット及び/又はガルバノスタットをさらに含む、請求項11乃至21の何れか一項に記載の装置。
【請求項23】
(i)水性アルカリ性電解質の存在下で、窒素(N
2)の前記電気化学的還元を触媒することができる材料を含む活性層と、(ii)前記活性層を支持する導電性材料の層と、(iii)前記活性層の、前記電解質と接触する前記活性層の側とは反対側上の多孔質ポリマーフィルムと、を含む、請求項11乃至22の何れか一項に記載の装置で使用するのに適した多孔質ガス拡散電極。
【請求項24】
前記活性層がバインダーをさらに含む、請求項23に記載の電極。
【請求項25】
前記バインダーが疎水性ポリマーを含む、請求項24に記載の電極。
【請求項26】
前記疎水性ポリマーがフッ素化ポリマーを含む、請求項25に記載の電極。
【請求項27】
前記多孔質ポリマーフィルムがフッ素化ポリマーを含む、請求項23乃至27の何れか一項に記載の電極。
【請求項28】
前記活性層の前記フッ素化ポリマーと前記ポリマーフィルムの前記フッ素化ポリマーとが同じである、請求項26及び27の何れか一項に記載の電極。
【請求項29】
前記フッ素化ポリマーがポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である、請求項26乃至28の何れか一項に記載の電極。
【請求項30】
前記電極が約7nm~約9nmの平均細孔径を有する、請求項23乃至29の何れか一項に記載の電極。
【請求項31】
前記ポリマーフィルムが約0.75mm以下の厚さを有する、請求項23乃至30の何れか一項に記載の電極。
【請求項32】
前記電極が約0.85mm以下の総厚を有する、請求項23~31の何れか一項に記載の電極。
【請求項33】
アンモニア(NH
3)の電気化学的合成のための方法であって、分子状水素(H
2)を使用せずに実施され、窒素含有ガスを、カソードと、アノードと、アルカリ性水性電解質と、電解質のアノード側から電解質のカソード側を分離するための陰イオン交換膜と、を含む電気化学セルの前記カソードと接触させることを含み、前記カソードは、(i)窒素の電気化学的還元を触媒することができ、前記電解質と直接接触する材料を含む活性層と、(ii)前記活性層を支持する導電性材料の層と、(iii)前記電解質と直接接触せず、前記窒素含有ガスと直接接触する、前記活性層の側の多孔質ポリマーフィルムと、を含む多孔質ガス拡散電極であり、前記アノードは、前記電解質に対して不活性である導電性材料からなり、前記方法は窒素及び水からの前記アンモニアの電気化学的合成をもたらすために前記電気化学セル上に電位を印加することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素及び水からアンモニアを電気化学的に合成するための方法、並びにこの方法に使用するための装置及びガス拡散電極に関する。
【背景技術】
【0002】
[背景情報の考察]
アンモニア(NH3)は、産業において、及び農業肥料として広く使用されている化学物質であるが、再生可能なエネルギー貯蔵中間体としても利用することができる。現在、アンモニアの生成は、エネルギー的に要求の厳しいハーバー・ボッシュ法によって達成され、これは低効率に関連付けられる。アンモニア合成のための一世紀前のハーバー・ボッシュ法は、不均一鉄系触媒を使用する高温(400~500℃)及び高圧(150~300atm)を含む過酷な操作条件を必要とする。2019年の世界のアンモニア生産量は2億3500万tであり、これは世界のエネルギー需給の1~2%を占め、世界のエネルギー関連CO2排出量の約1%を生じさせている。ハーバー・ボッシュ法の新たな代替法は、窒素還元反応(NRR)によるアンモニアの電気化学的合成である。電気化学的アンモニア合成において、アンモニアは、触媒を用いて電気化学セル上に電位を印加することによって形成される。例えば、米国特許出願公開第2016/0083853A1号明細書を参照されたい。電極触媒還元法はNH3製造のための環境に優しいアプローチであると考えられており、実際、室温及び大気圧などの穏やかな条件下で実施することができ、再生可能なエネルギーによって動力を供給することもできる。
【0003】
アンモニアは17.6wt%の水素からなり、これはアンモニアを間接的な水素貯蔵化合物にする。アンモニアのエネルギー密度は4.32kWh/Lで、メタノール(CH3OH)のものと同等で、液体水素のものの約2倍である。アンモニアは大気圧下-33.4℃で液化し、水素は-253℃以下に冷却して液化する必要があるため、アンモニアに比べて水素の液化に要するエネルギーは大きい。エネルギー担体として水素を使用することの別の欠点は、水素を消散させずに輸送及び貯蔵することが困難であり、それによって、その意図される最終用途に利用できないことである。さらに、水素とは異なり、アンモニアは典型的には爆発性ではない。上記の要因を考慮すると、アンモニアは、水素に対する好ましいエネルギー貯蔵中間体であると考えられる。
【0004】
種々の電解質に基づく電気化学的アンモニア合成を開発するために、いくつかの研究努力がなされてきた。固体酸化物から溶融塩までの範囲で、これらの努力のほとんどは中~高温システムに焦点を当てている。より高い温度ではアンモニア合成の動力学はより良好であるが、より高い温度での熱力学的効率はより低い。所望の動作温度を維持するためのプラントのバランスにおける寄生エネルギー損失は、さらなる問題を表す。さらに、その伴う高温のため、電気化学反応器は、比較的高価な材料で構成されなければならない。さらに、このシステム全体は、長期動作において不十分な安定性を示すように見える。
【0005】
電気化学手段によるアンモニア合成又は窒素固定は通常、電気化学セルに、窒素源、好ましくは精製空気からの純粋なN2、及び例えば純粋な水素の陽極酸化からのプロトン(H+)を提供することによって行われる。主に供給された電解質からのシステム中の水の存在により、水電解などの副反応が起こり、陽極反応及び陰極反応の両方と競合することがある。陽極H2又はOH-は、反応を所望の生成物に導くのを助けることができる適切な触媒を使用して酸化される。
【0006】
上記を考慮すると、低温電解質系を使用し、さらにアンモニアの電気化学的合成中にその場水分解を介して水素源として水を使用することによって、水及び窒素から直接アンモニアを合成することができる、アンモニアの電気化学的合成のためのシステム及び方法が利用可能であることが有利であろう。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、アンモニアの電気化学的合成のための方法を提供する。この方法は、窒素含有ガスを、カソードと、アノードと、アルカリ性水性電解質とを含む電気化学セルのカソードと接触させることを含む。このカソードは、(i)窒素の電気化学的還元を触媒することができ、電解質と直接接触する材料を含む活性層と、(ii)活性層を支持する導電性材料の層と、(iii)電解質と直接接触せず、窒素含有ガスと直接接触する、活性層の側の多孔質ポリマーフィルムと、を含む多孔質ガス拡散電極である。このアノードは、電解質に対して不活性である導電性材料からなる。この方法は、窒素及び水からのアンモニアの電気化学的合成をもたらすために電気化学セル上に電位を印加することをさらに含む。
【0008】
この方法の一態様では、この方法が、約20℃~約200℃の温度で、及び/又はほぼ大気圧~約10atmの圧力で、例えば、周囲(室温)温度及び大気圧で実施されてもよい。
【0009】
別の態様では、この方法が連続的に又はバッチ式で実施されてもよい。
【0010】
この方法のさらに別の態様では、窒素含有ガスは実質的に純粋な窒素であってもよい。
【0011】
この方法のさらに別の態様では、窒素含有ガスの流れが、ガス拡散電極の多孔質ポリマーフィルムに接触させられてもよい。
【0012】
別の態様では、アンモニアの電気化学的合成中に分子状水素(H2)は使用されない(すなわち、電気化学的反応中にその場で生成されない分子状水素は使用されない)。
【0013】
別の態様では、アルカリ性水性電解質が、Na若しくはKなどのアルカリ金属の水酸化物及び/又はMg若しくはCaなどのアルカリ土類金属の水酸化物を含んでもよい。
【0014】
この方法の別の態様では、定電位又は定電流が使用されてもよい。
【0015】
本発明はまた、(その様々な態様のうちの1つ以上を含む)上述の方法を実行するための装置を提供する。この装置は、カソードと、アノードと、アルカリ性水性電解質とを含む電気化学セルを含む。このカソードは、(i)窒素の電気化学的還元(N2)を触媒することができ、電解質と直接接触する材料を含む活性層と、(ii)活性層を支持する導電性材料の層と、(iii)電解質と直接接触せず、活性層の側の多孔質ポリマーフィルムと、を含む多孔質ガス拡散電極である。このアノードは、電解質に対して不活性である導電性材料からなる。
【0016】
この装置の一態様では、活性層が例えば、疎水性ポリマーなどのバインダー材料をさらに含んでもよい。
【0017】
この装置の別の態様では、窒素の電気化学的還元を触媒することができる材料が、Pd、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Ni、Co、Mo、Cr、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Fe及びMnのうちの1つ以上を含んでもよい。
【0018】
この装置のさらに別の態様では、カソードの導電性材料の層が例えば、ニッケルメッシュなどの金属メッシュを含んでよく、及び/又は活性層に埋め込まれてもよい。
【0019】
この装置の別の態様では、多孔質ポリマーフィルムがフッ素化ポリマーなどの疎水性ポリマーを含むか、又はそれからなってもよい。
【0020】
この装置の別の態様では、アノードが例えば、ニッケルメッシュなどの金属メッシュの形態で存在してもよい。
【0021】
さらに別の態様では、この装置が、電気化学セルのカソード側に直接隣接し、ガスのための入り口を備える、カソードのポリマーフィルムと接触する窒素含有ガスの流れを通過させることができる格納容器をさらに備えてもよい。
【0022】
この装置の別の態様では、電気化学セルが電解質のカソード側を電解質のアノード側から分離する、例えば、陰イオン交換膜などのセパレータをさらに備える。
【0023】
別の態様では、この装置がポテンショスタット及び/又はガルバノスタットをさらに備えてもよい。
【0024】
この発明はまた、(その様々な態様のうちの1つ以上を含む)上述の装置での使用に適した多孔質ガス拡散電極を提供する。この電極は、(i)アルカリ性水性電解質の存在下で、窒素(N2)の電気化学的還元を触媒することができる材料を含む活性層と、(ii)活性層を支持する導電性材料の層と、(iii)活性層の、電解質と直接接する活性層の側とは反対側の多孔質ポリマーフィルムと、を含む。
【0025】
この電極の一態様では、活性層が疎水性ポリマー(例えば、フッ素化ポリマー)などのバインダーをさらに含んでもよい。
【0026】
この電極の別の態様では、ポリマーフィルムが疎水性ポリマー(例えば、テトラフルオロエチレンなどのフッ素化ポリマー)を含むか、又はそれからなってもよい。このポリマーは、活性層においてバインダーとして使用されるポリマーと同じであってもよい。
【0027】
この電極のさらに別の態様では電極が約7nm~約9nmの平均細孔径を有してよく、及び/又はポリマーフィルムは約0.75mm以下の厚さを有してよく、及び/又は電極は約0.85mm以下の総厚を有してよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明は、本発明の例示的な実施形態の非限定的な例として、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明においてさらに説明される。図面において、
【
図1】以下に説明する実験に用いた電解反応器を模式的に示す。
【
図2】本発明の装置で使用するためのガス拡散電極を概略的に示す。
【
図3】Pt-Pd窒素還元触媒を含む本発明のガス拡散電極を用いてサイクリックボルタンメトリーによって得られた電流対電圧のグラフである。
【
図4】以下に記載する実験で得られたアンモニア濃度対サンプリング時間のグラフである。
【
図5】以下に記載する対照実験で得られたアンモニア濃度対サンプリング時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書に示される詳細は例として、本発明の実施形態の例示的な議論の目的のためだけであり、本発明の原理及び概念的な態様の最も有用かつ容易に理解される説明を提供する原因として提示される。この点に関して、本発明の基本的な理解のために必要である以上に詳細に本発明の構造的詳細を示す試みはなされておらず、説明は、本発明のいくつかの形態が実際にどのように具現化され得るかを当業者に明らかにする図面と共になされる。
【0030】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は文脈が明らかにそわないことを指示をしない限り、複数形の参照を含む。例えば、「ガス」への参照は、特に除外されない限り、2つ以上のガスの混合物が存在し得ることも意味する。
【0031】
別段の指示がない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される成分の量、反応条件などを表す全ての数は全ての例において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本発明によって得ようとする所望の特性に応じて変化し得る近似値である。少なくとも、各数値パラメータは、有効数字の数及び一般丸めの慣例に照らして解釈されるべきである。
【0032】
さらに、本明細書内の数値範囲の開示は、その範囲内の全ての数値及び範囲の開示であると考えられる。例えば、範囲が1~50である場合、それは、例えば、1、7、34、46.1、23.7、又はその範囲内の任意の他の値若しくは範囲を含むとみなされる。
【0033】
上述のように、本発明の方法は、窒素含有ガス(例えば、純粋な窒素だけでなく、カソード中の窒素還元触媒を汚染し得るCO2などのガスが除去されたエア)を、カソード、アノード及びアルカリ性水電解質を含む電気化学セルのカソードと接触させることを含む。このカソードは、(i)窒素の電気化学的還元を触媒することができ(本明細書では単に「還元触媒」又は「触媒材料」と称されることもある)、電解質と直接接触する材料を含む活性層と、(ii)活性層を支持する(活性層のための基材である)導電性材料の層と、(iii)電解質と直接接触せず、窒素含有ガスと直接接触する、活性層の側の多孔質ポリマーフィルムと、を含む多孔質ガス拡散電極である。この陽極は、電解質に対して不活性な導電性材料(例えば、導電性材料(ii)として用いられるものと同じ導電性材料)からなる。この方法は、窒素及び水からのアンモニアの電気化学的合成をもたらすために電気化学セル上に電位を印加することをさらに含む。好ましい実施形態では、この方法は、分子状水素(電気化学反応中にその場で形成され得る任意の分子状水素以外)を使用せずに実施される。分子状水素を使用せずにアンモニアを生成する能力は、この方法の主要な(及び予想外の)利点である。陰イオン交換膜を使用して、電解質の陰極側を電解質の陽極側から分離することがさらに好ましい。
【0034】
この方法は、約20℃~約200℃で、及び/又はほぼ大気圧~約10atmで実施されてもよい。例えば、大気圧及び周囲(室温)温度(例えば、約20℃~約30℃)で実施されてもよい(好ましくは実施される)。
【0035】
この方法は、連続的に又はバッチ式でさらに実施することができ、連続的又は半連続的動作が好ましい。
【0036】
この方法で使用される窒素含有ガスは窒素に加えて他のガス(例えば、酸素、ヘリウム、アルゴン、及びそれらの混合物)を含有する可能性があるが、窒素含有ガスは通常、実質的に純粋な窒素、例えば、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、又は少なくとも99.9%(全て体積で)の純度を有する窒素であることが好ましい。
【0037】
電気化学セルのアルカリ性水性電解質は液体及び/又はゲル電解質であってもよく、多くの場合、Na及び/若しくはK(特に、KOH)などのアルカリ金属の水酸化物並びに/又はMg及び/若しくはCaなどのアルカリ土類金属の水酸化物を含むだろう。この水酸化物の濃度は例えば、約0.5M~約9M、例えば、約1M~約5Mの範囲であってもよく、電解質のpHは多くの場合、少なくとも約8、例えば、少なくとも約9、少なくとも約10、又は少なくとも約11であるだろう。
【0038】
本発明の方法を実施するための装置は、カソード、アノード及びアルカリ性水性電解質を含む電気化学セルを含む。このカソードは、(i)窒素の電気化学的還元を触媒することができ、電解質と直接接触する材料を含む活性層と、(ii)活性層を支持する(活性層のための基材である)導電性材料の層と、(iii)電解質と直接接触しない、活性層の側の多孔質ポリマーフィルムと、を含む多孔質ガス拡散電極である。このアノードは、電解質に対して不活性である導電性材料からなる。
【0039】
活性層(i)は、例えば疎水性ポリマーなどのバインダー材料をさらに含んでもよい(好ましくは含む)。一般に、ガス拡散電極の活性層は、反応速度を最大にするために、いわゆる三相境界(液体電解質の場合は固体-液体-ガス)における反応ガス、電解質、及び触媒の間の接触を最適化するように設計される。触媒は、所望の反応の速度を増加させるために活性層構造に組み込まれる。触媒はしばしば、非常に高い表面積の形態の貴金属又はその合金であり、高い表面積の導電性多孔質カーボンブラック又はグラファイト上に分散及び支持される。触媒成分はまた、1種以上の遷移金属などの非貴金属を含んでもよい。活性層は多くの場合、触媒材料に加えて、非触媒成分、通常、層を一緒に保持するためのバインダーとして作用するポリマー材料も含み、最終構造の疎水性/親水性バランスを調整する追加の機能も有してもよい。テフロン(登録商標)として商業的に知られている疎水性バインダー、しばしばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は主に2つの形成で、すなわち、乾燥粉末又は懸濁液として使用される。最良の方法の1つは、テフロン化カーボンブラックと呼ばれる材料の調製である。これは、カーボンブラックとPTFE懸濁液とを混合することによって行われる。その結果、高いガス拡散速度を有する高疎水性材料が得られる。この材料は例えば、米国特許番号3,537,906及び4,031,033に記載されており、その開示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
活性層(i)に使用するためのポリマーバインダーは疎水性であってもよく、例えば、フッ素化ポリマー(例えば、PTFE、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及びフッ素化エチレン-プロピレンコポリマー)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、及びそれらの2つ以上の組合せなどの疎水性ポリマーから選択されてもよい。活性層に使用するための好ましいポリマーバインダーはPTFEである。使用される還元触媒の疎水性に応じて、活性層のためのポリマーバインダーは、活性層の親水性/疎水性バランスを適切な値に調整する(十分に安定な三相境界を提供する)ために、1種以上の疎水性ポリマーと1種以上の親水性ポリマーとの混合物であってもよい。この目的のための適切な親水性ポリマーの非限定的な例としては、ポリスルホン、ペルフルオロスルホネートアイオノマー、及びエポキシ樹脂が挙げられる。
【0041】
活性層(i)のためのバインダーは、電極における最適なイオン伝導経路を提供する、電極の適切な疎水性/親水性バランスを保証する組合せでの使用のために選択されてもよい。この方法のさらなる利点は、構造体へのポリマー材料の組み込みを注意深く制御できることである。これは、改善された性能特性を与えるためにマトリクスの疎水性/親水性の性質を調整する能力を提供する。
【0042】
窒素の電気化学的還元を触媒することができる材料は例えば、Pd、Pt、Au、Ir、Ru、Rh、Ni、Co、Mo、Cr、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Fe及びMnのうちの1つ以上を、それ自体で、又はその合金及び化合物(例えば、酸化物)の形態で含んでもよい。適切な還元触媒の非限定的なリストは、Pd、Ni、Au、Pd-Pt、Pd-Ni、Au-Ni、Au-Pd、Au-Ni-Pd、Au-Ni-Pd、MoS-FeMoS、NiO-Cr2O3、CoO-Cr2O3、NiO-MoO3、CoO-MoO3、及びCoO-Fe2O3のうちの1つ以上を含む。
【0043】
導電性材料(ii)の層(導電性基板)は電解質によって提供されるアルカリ性条件に耐えることができなければならず、例えば、この目的のために知られている導電性支持構造体から選択されてもよい。材料は例えば、限定されるものではないが、導電性メッシュ、グリッド、金属発泡体、エキスパンドメタル、及びこれらの任意の組合せから選択されてもよい。本発明のガス拡散電極に使用するための好ましい導電性基板は導電性金属メッシュ(例えば、ニッケルメッシュ)である。導電性基板は任意の導電性材料から作製されてもよく、好ましくは純金属又は金属合金などの金属材料から作製される。他の適切な導電性材料(ii)としては、例えば、炭素繊維、カーボンペーパー、ガラス状炭素、カーボンナノファイバー、及びカーボンナノチューブが挙げられる。この導電性材料は、多くの場合、活性層に埋め込まれる。
【0044】
本発明のガス拡散電極の多孔質ポリマーフィルム(iii)は例えば、フッ素化ポリマー(例えば、PTFE、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、及びフッ素化エチレン-プロピレンコポリマー)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、及びそれらの2つ以上の組合せから選択され得る疎水性ポリマーを含むか、又はそれらからなってもよい。ポリマーフィルム(iii)に使用するための好ましいポリマーバインダーはPTFEである。
【0045】
本発明のガス拡散電極の多孔質ポリマーフィルム(iii)及び活性層(i)の製造のために同一の疎水性ポリマーを使用することが有利である。これは、多孔質ポリマーフィルム(iii)と活性層(i)との間の特に良好な接着を確実にする。
【0046】
電気化学セルのアノードは、電気化学セルのカソードに使用される導電性材料(ii)の層と同一又は類似であってもよい。これらの例は、材料(ii)について上述したものと同じである。例えば、アノードは例えば、ニッケルメッシュなどの金属メッシュの形態で存在してもよい。
【0047】
本発明の装置は、電気化学セルのカソード側に直接隣接し、ガスのための入り口を備える、カソードのポリマーフィルムと接触する窒素含有ガスの流れを通過させることができる格納容器をさらに備えてもよい。
【0048】
本発明の装置の電気化学セルは通常、イオンの通過を可能にし、電解質のアノード側から電解質のカソード側を分離する、例えば、陰イオン交換膜又は薄いポリマーフィルムなどのセパレータを含むだろう。陰イオン交換膜は、装置で使用するのに好ましいセパレータである。
【0049】
本発明の装置の使用するのに適した多孔質ガス拡散電極は、(i)アルカリ性水性電解質の存在下で、窒素(N2)の電気化学的還元を触媒することができる材料を含む活性層と、(ii)活性層を支持する(活性層のための基材である)導電性材料の層と、(iii)活性層の、電解質と直接接する活性層の側とは反対側上の多孔質ポリマーフィルムと、を含む。電極の詳細は上で述べた。
【0050】
例示的な実施形態において、本発明のガス拡散電極は通常、シートの形態で存在し、約7nm~約9nmの平均細孔径を有してもよい。ポリマーフィルム(iii)は例えば、約0.75mm以下、例えば、約0.3mm~約0.7mmの厚さを有してもよい。本発明のガス拡散電極の総厚は、約0.85mm以下であることが好ましく、約0.5mm程度であってもよい。
【0051】
[実験セクション]
以下に記載される試験で使用される電気化学反応器は、10cm
2の実効電極面積を有し、
図1に概略的に示され、以下の略語が使用される。
WE = 作動電極(カソード)
CE = カウンター電極(アノード)
RE = 基準電極
WG = 使用ガス
AEM = 陰イオン交換膜(セパレータ)
使用されるカソードの一般的な構造は
図2に示され、ここで、1はPTFEフィルムであり、2は活性層であり、3は活性層2に(部分的に)埋め込まれたニッケルメッシュである。
【0052】
カソード調製:25gの触媒(炭素上に堆積したPd-Pt)を、重量比80/20でPTFEと混合した。混合は、ブレンダーを用いて室温で約15~30分間行った。得られた触媒とPTFEの混合物を圧延装置に入れ、触媒層薄膜を得た。生成した触媒層をニッケルメッシュに埋め込んだ。次に、触媒層のニッケルメッシュ側とは反対側の表面に多孔質PTFE膜を塗布し、電極を得た。
【0053】
カソード電解質チャンバーは、セパレータによってアノード電解質チャンバーから分離された。使用したセパレータはFuma-Techから購入し、長鎖ペルフルオロスルホン酸ポリマー(Fumion(登録商標)F)から構成した。
【0054】
2つの電解質チャンバを有する2つの異なる電解セルを使用した。1つの細胞は660mlの総容量(チャンバーあたり330ml)を有し、他の1つは360mlの総容量を有した。
【0055】
この方法は、室温及び大気圧で実施した。
【0056】
水銀/水銀酸化物-Hg/HgO(以下、「MMO」)の基準電極を6.6M KOHで満たし、塩橋によってセルに接続した。純粋な窒素ガス(99.99%)を電解質溶液及びカソードガスチャンバーに流した。溶液中の溶解ガスを除去するために、窒素又はアルゴンをアノード電解質キャンバーに流した。
【0057】
カソード電解質及びガスチャンバーのコンセントはアンモニウム塩として合成アンモニアを保持するために、硫酸(H2SO4)の希釈液を含む捕獲器に接続された。
【0058】
電気装置(ポテンショスタット/ガルバノスタット)をリアクタに接続して、定電位又は定電流をそれぞれシステムに印加した。
【0059】
アンモニア合成用セルの操作手順は以下の通りであった。
【0060】
セルが組み立てられ、全ての電極が適所に配置されたら、セルに新しい電解質(KOH水溶液、1M、5.4% w/w)を充填した。
【0061】
新鮮な硫酸溶液をトラップに入れ、カソードガス出口に接続した。
【0062】
溶存酸素を除去するために、N2気体をカソード電解質チャンバーにバブリングした。アルゴン又はN2を用いた陽極電解質チャンバーについても同様である。
【0063】
電極をポテンショスタット/ガルバノスタットに接続し、システムのOCV(開回路電圧)を測定した。クロノアンペロメトリーを、MMOに対して-0.9V~-1.1Vの様々な電位で一定時間適用したが、ガスはチャンバー内に流れ続け、酸トラップを通過した。
【0064】
酸トラップ中の溶液を定期的にサンプリングし、アンモニアの存在について試験した。電流及び電極電位(カソード及びアノード)を記録し、電池の動作全体を通して観察した。
【0065】
生成されたアンモニア濃度は、UV VIS光計を使用する比色法によって決定された。2つの同定及び定量法を用いた。その1つはネスラー試薬-テトラヨード水銀酸カリウム(II)を利用し、もう1つはインドフェノール誘導体としてのサリチル酸とのベルテロー反応に基づく。アンモニアの定量化における最初の工程は、既知濃度の塩化アンモニウムをアンモニアの前駆体として用いて、ネスラー試薬及びバーテロット反応の両方についての検量線を確立することであった。
【0066】
既知濃度の塩化アンモニウム溶液を1000ppmの原液から調製した。1ppm~6ppmのNH4Cl塩素サンプルをネスラー試薬及びベルテロー反応を用いて調製し、得られた吸光度測定値をプロットして検量線を形成した。
【0067】
特定の電極に印加される定電位を、サイクリックボルタンメトリーで電極を試験して、水の還元がいつ始まるか、アンモニア合成に必要なプロセスを決定することによって決定した。その結果を
図3に示す。
【0068】
[結果]
上記の条件下で、14時間の操作後に2.8mg/Lのアンモニアの濃度が検出された。この濃度は、作用電極(カソード)トラップにおいて観察された。対照として使用した対極トラップ中にアンモニアは検出されなかった。窒素ガス流をアルゴンで置き換える(
図5参照)又は印加電位を除去するなどの対照実験は、観察されたアンモニアが電気化学的合成の生成物であることを全て確認した。
【0069】
図4は、MMO作用電極トラップに対して-1.1Vの定電位でのサンプリング時間の作用としてのアンモニアの濃度を示す。測定された総アンモニア濃度は、カソード酸トラップ中及びカソード電解質溶液中で検出されたアンモニアの合計である。
図4の上の曲線は組み合わされたアンモニア濃度を示し、一方、下の曲線は下の表に部分的に記載されるように、作用電極トラップ中のアンモニア濃度を示す。
図5は、N
2を使用しない対照試験の成績を示す。
【表1】
【0070】
得られたアンモニア量は、酸トラップ及び電解質中の全溶液の体積を考慮に入れて、酸トラップ及び電解質のサンプル中で測定された対応するppm濃度から計算された。得られた総アンモニア量は0.35mgアンモニアであり、電極表面のcm2当たり35μgのアンモニアに対応し、電極表面の1時間及びcm2当たり2.5μgのアンモニアであった。
【国際調査報告】