(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】ポリ乳酸を生産する遺伝子工学菌株及びポリ乳酸を生産する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240912BHJP
C12N 9/04 20060101ALI20240912BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/53 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240912BHJP
C12P 7/56 20060101ALI20240912BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20240912BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240912BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20240912BHJP
C12N 9/00 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N9/04 Z
C12N9/10
C12N15/53
C12N15/54
C12P7/56
C12P7/62
C12N15/31
C12N15/52 Z
C12N9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518773
(86)(22)【出願日】2022-08-19
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 CN2022113485
(87)【国際公開番号】W WO2023051077
(87)【国際公開日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】202111147519.9
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524113068
【氏名又は名称】シャンハイ スーポン テクノロジー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI SIPENG TECHNOLOGY LTD.
【住所又は居所原語表記】Building 4,No.878 Jianchuan Road,Minhang District,Shanghai 201111 CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】タオ,フェイ
(72)【発明者】
【氏名】タン,チュンリン
(72)【発明者】
【氏名】シー,ピン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD83
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD01
4B064CE03
4B064CE08
4B064DA16
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA23Y
4B065AA41Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065BD14
4B065CA11
4B065CA27
4B065CA28
4B065CA29
4B065CA60
(57)【要約】
ポリ乳酸を生産する遺伝子工学菌株及びポリ乳酸を生産する方法を提供し、該方法は、D-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、プロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子及びポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子を目的遺伝子に合成し、ベクターと二重酵素切断し、精製後、感受容体細胞を形質転換し、組換えプラスミドを得るステップと、組換えプラスミドのDNAを抽出し、工学菌株に導入し、抽出、検証し、遺伝子工学細胞菌株を得るステップと、その後、培地中に培養し、培地中に二酸化炭素を導入し、光照条件で遠心分離、乾燥、回収するステップと、を含む。本発明は、天然的なシアノバクテリアを改造するとともに、高密度発酵戦略を採用することによって、シアノバクテリアのバイオマスが非常に大きく向上し、本発明は、従来の技術におけるポリ乳酸の生産には糖由来の原料のみを使用するという問題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長いシネココッカスの遺伝子工学菌株であって、前記遺伝子工学菌株のゲノムに外因性のD-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列、外因性のプロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子のコード配列及び外因性のポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子のコード配列を統合することにより、前記遺伝子工学菌株は、外因性のD-乳酸デヒドロゲナーゼ、外因性のプロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ及び外因性のポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素を発現することができる、ことを特徴とする細長いシネココッカスの遺伝子工学菌株。
【請求項2】
前記D-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列は、P
trcプロモーター、P
psbaプロモーターまたはP
cpc560プロモーターによって制御される、請求項1に記載の遺伝子工学菌株。
【請求項3】
前記プロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子のコード配列は、P
trcプロモーター、P
psbaプロモーターまたはP
cpc560プロモーターによって制御される、請求項1に記載の遺伝子工学菌株。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子のコード配列は、P
trcプロモーター、P
psbaプロモーターまたはP
cpc560プロモーターによって制御される、請求項1に記載の遺伝子工学菌株。
【請求項5】
前記外因性のD-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列はブルガリア乳酸菌に由来し、前記外因性のプロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子のコード配列はプロピオン酸クロストリジウムに由来し、前記外因性のポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子のコード配列はシュードモナスに由来する、請求項1に記載の遺伝子工学菌株。
【請求項6】
前記遺伝子工学菌株のゲノムに外因性のアセチル補酵素A合成酵素遺伝子のコード配列を統合することにより、前記遺伝子工学菌株は、外因性のアセチル補酵素A合成酵素遺伝子を発現することができる、請求項1に記載の遺伝子工学菌株。
【請求項7】
前記遺伝子工学菌株の酢酸キナーゼ遺伝子の発現がノックダウンされる、請求項1に記載の遺伝子工学菌株。
【請求項8】
前記遺伝子工学菌株のゲノムに酢酸キナーゼ遺伝子の発現を抑制する外因性のsRNAのコード配列が統合される、請求項7に記載の遺伝子工学菌株。
【請求項9】
前記遺伝子工学菌株のアセチル補酵素Aカルボキシラーゼ遺伝子、ケトジェニック合成酵素遺伝子及び/又はβ-ケトアシル-ACP合成酵素III遺伝子の発現がノックダウンされる、請求項1に記載の遺伝子工学菌株。
【請求項10】
前記遺伝子工学菌株のゲノムにそれぞれアセチル補酵素Aカルボキシラーゼ遺伝子、ケトジェニック合成酵素遺伝子及び/又はβ-ケトアシル-ACP合成酵素III遺伝子の発現を抑制できる外因性のsRNAのコード配列が統合される、請求項9に記載の遺伝子工学菌株。
【請求項11】
前記遺伝子工学菌株は細長いシネココッカスPCC 7942菌株である、請求項1~10のいずれかに記載の遺伝子工学菌株。
【請求項12】
二酸化炭素を利用してポリ乳酸を生産する方法であって、
1)請求項1~11のいずれかに記載の細長いシネココッカスの遺伝子工学菌株を提供するステップと、
2)二酸化炭素を導入して光照条件下で前記遺伝子工学菌株を培養するステップと、
3)前記遺伝子工学菌株の成長ODが最大値に達すると、前記遺伝子工学菌株を収集して乾燥し、前記遺伝子工学菌株内のポリ乳酸を回収するステップと、を含む、二酸化炭素を利用してポリ乳酸を生産する方法。
【請求項13】
ステップ2)では、前記二酸化炭素の通気量は1.5vvmであり、導入される二酸化炭素と空気との体積比は1:(1-10)である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップ2)では、前記光照の強度は125μmol光量子m
-2s
-1から1000μmol光量子m
-2s
-1未満であり、好ましくは、前記光照の強度は125-500μmol光量子m
-2s
-1である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
ステップ2)では、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、クエン酸、クエン酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸、ホウ酸、塩化マンガン、硫酸亜鉛、モリブデン酸ナトリウム、硫酸銅及び硝酸コバルトを含む培地で前記遺伝子工学菌株を培養する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記培地の組成に加えて、Na
2CO
3、MgSO
4・7H
2O、NaNO
3、KH
2PO
4及び微量元素を添加し、好ましくは、前記微量元素はH
3BO
3、MnCl
2・7H
2O、ZnSO
4・7H
2O、Na
2MoO
4・2H
2O、CuSO
4・5H
2O及びCo(NO
3)
2・6H
2Oから選ばれる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記培地において、前記炭酸ナトリウムの最終濃度は0.25-1.5g/Lである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
ステップ2)では、誘導剤の存在下で前記遺伝子工学菌株を培養し、好ましくは、前記誘導剤はIPTG、テオフィリンから選ばれる1種または複数種である、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
ステップ3)では、前記遺伝子工学菌株を収集することは、高分子電解質凝集剤と前記遺伝子工学菌株を含む培養液を5分間混合し、5分間静置し、静置した後に、上清を捨て沈殿を収集することを含み、好ましくは、前記高分子電解質凝集剤はポリアクリルアミド凝集剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
ステップ3)では、前記遺伝子工学菌株内のポリ乳酸を、有機溶媒で回収するか、または無機水相抽出法で回収し、好ましくは、前記有機溶媒は、クロロホルム、1,4-エポキシジアン、メチル-テトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、アセトン及び酢酸エチルから選ばれる、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオエンジニアリング技術の分野に関し、具体的にはポリ乳酸(PLA)を生産する遺伝子工学菌株及びPLAを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PLAは非常に有望な生分解性材料であり、使い捨て包装、農業、医薬、3Dプリントなどの分野で広範な応用の見通しを持っている。現在、PLAの生産は、主に微生物発酵によって乳酸エステルを生成し、乳酸エステルをラクチドに変換することにより、ラクチド環の環化作用によりPLAを合成する。しかし、このような化学重合反応は装置に対する要求が高く、且つ添加する必要がある溶媒や鎖カップリング剤が除去されにくいため、これは、PLAの商業化生産の進展を大きく制限する。このため、高性能のPLAを開発して調製する方法は非常に意味がある。現在、PLAをバイオ法で生産するのは、主に糖由来の原料に依存しており、これも工業生産と食糧の競争を引き起こし、潜在的なリスクがある。同時に、工業化の進展の進みに伴い、温室効果ガスCO2排出はますます激しくなり、地球温暖化問題は深刻である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術における不足に対して、本発明は、PLAを生産する遺伝子工学菌株及びPLAを生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本発明の解決手段は、以下の通りである。
【0005】
(1) 細長いシネココッカスの遺伝子工学菌株であって、前記遺伝子工学菌株のゲノムに外因性のD-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列、外因性のプロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子のコード配列及び外因性のポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子のコード配列を統合することにより、前記遺伝子工学菌株は外因性のD-乳酸デヒドロゲナーゼ、外因性のプロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ及び外因性のポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素を発現することができることを特徴とする。
【0006】
(2) (1)に記載の遺伝子工学菌株によれば、前記D-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列はPtrcプロモーター、PpsbaプロモーターまたはPcpc560プロモーターによって制御される。
【0007】
(3) (1)に記載の遺伝子工学菌株によれば、前記プロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子のコード配列はPtrcプロモーター、PpsbaプロモーターまたはPcpc560プロモーターによって制御される。
【0008】
(4) (1)に記載の遺伝子工学菌株によれば、前記ポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子のコード配列はPtrcプロモーター、PpsbaプロモーターまたはPcpc560プロモーターによって制御される。
【0009】
(5) (1)に記載の遺伝子工学菌株によれば、前記外因性のD-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列はブルガリア乳酸菌に由来し、前記外因性のプロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子のコード配列はプロピオン酸クロストリジウムに由来し、前記外因性のポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子のコード配列はシュードモナスに由来する。
【0010】
(6) (1)に記載の遺伝子工学菌株によれば、前記遺伝子工学菌株のゲノムに外因性のアセチル補酵素A合成酵素遺伝子のコード配列を統合することにより、前記遺伝子工学菌株は外因性のアセチル補酵素A合成酵素遺伝子を発現することができる。
【0011】
(7) (1)に記載の遺伝子工学菌株によれば、前記遺伝子工学菌株の酢酸キナーゼ遺伝子の発現がノックダウンされる。
【0012】
(8) (7)に記載の遺伝子工学菌株によれば、前記遺伝子工学菌株のゲノムに酢酸キナーゼ遺伝子の発現を抑制する外因性のsRNAのコード配列が統合される。
【0013】
(9) (1)に記載の遺伝子工学菌株によれば、前記遺伝子工学菌株のアセチル補酵素Aカルボキシラーゼ遺伝子、ケトジェニック合成酵素遺伝子及び/又はβ-ケトアシル-ACP合成酵素III遺伝子の発現がノックダウンされる。
【0014】
(10) (9)に記載の遺伝子工学菌株によれば、前記遺伝子工学菌株のゲノムにそれぞれアセチル補酵素Aカルボキシラーゼ遺伝子、ケトジェニック合成酵素遺伝子及び/又はβ-ケトアシル-ACP合成酵素III遺伝子の発現を抑制できる外因性のsRNAのコード配列が統合される。
【0015】
(11) (1)-(10)のいずれかに記載の遺伝子工学菌株によれば、前記遺伝子工学菌株は細長いシネココッカスPCC 7942菌株である。
【0016】
(12) 二酸化炭素を利用してポリ乳酸を生産する方法であって、
1) (1)-(11)のいずれかに記載の細長いシネココッカスの遺伝子工学菌株を提供するステップと、
2) 二酸化炭素を導入して光照条件下で前記遺伝子工学菌株を培養するステップと、
3) 前記遺伝子工学菌株の成長ODが最大値に達すると、前記遺伝子工学菌株を収集して乾燥し、前記菌株内のポリ乳酸を回収するステップと、を含む。
【0017】
(13) (12)に記載の方法によれば、ステップ2)では、前記二酸化炭素の通気量は1.5vvmであり、導入される二酸化炭素と空気の体積比は1:(1-10)である。
【0018】
(14) (12)に記載の方法によれば、ステップ2)では、前記光照の強度は125μmol光量子m-2 s-1から1000μmol光量子m-2 s-1未満であり、好ましくは、前記光照の強度は125-500μmol光量子m-2 s-1である。
【0019】
(15) (12)に記載の方法によれば、ステップ2)では、このような培地で前記遺伝子工学菌株を培養し、前記培地は炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、クエン酸、クエン酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸、ホウ酸、塩化マンガン、硫酸亜鉛、モリブデン酸ナトリウム、硫酸銅及び硝酸コバルトを含む。
【0020】
(16) (15)に記載の方法によれば、前記培地の組成に加えて、Na2CO3、MgSO4・7H2O、NaNO3、KH2PO4及び微量元素を添加し、好ましくは、前記微量元素はH3BO3、MnCl2・7H2O、ZnSO4・7H2O、Na2MoO4・2H2O、CuSO4・5H2O及びCo(NO3)2・6H2Oから選ばれる。
【0021】
(17) (15)または(16)に記載の方法によれば、前記培地において、前記炭酸ナトリウムの最終濃度は0.25-1.5g/Lである。
【0022】
(18) (12)に記載の方法によれば、ステップ2)では、誘導剤の存在下で前記遺伝子工学菌株を培養し、好ましくは、前記誘導剤はIPTG、テオフィリンから選ばれる1種または複数種である。
【0023】
(19) (12)に記載の方法によれば、ステップ3)では、前記遺伝子工学菌株を収集することは、高分子電解質凝集剤と前記遺伝子工学菌株を含む培養液を5分間混合し、5分間静置し、静置した後に、上清を捨て沈殿をすることを含み、好ましくは、前記高分子電解質凝集剤はポリアクリルアミド凝集剤である。
【0024】
(20) (12)に記載の方法によれば、ステップ3)では、前記遺伝子工学菌株内のポリ乳酸を、有機溶媒で回収するかまたは無機水相抽出法で回収し、好ましくは、前記有機溶媒は、クロロホルム、1,4-エポキシジアン、メチル-テトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、アセトン及び酢酸エチルから選ばれる。
【発明の効果】
【0025】
上記手段を採用するため、本発明の有益な効果は以下の通りである。
【0026】
本発明は、天然的な細長いシネココッカス(Synechococcus elongatus)(本文で「シアノバクテリア」ともいう)を出発菌株とし、遺伝子工学技術を利用して異種のD-乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、プロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ(PCT)及びポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素(PHA)を導入することによって、シネココッカスの代謝経路を利用してPLAを合成することに成功した。次に、本発明は、律速ステップ酵素のプロモーター最適化、アセチル補酵素Aの自己循環の構築、炭素フラックスの再配向を含む、異なる代謝工学戦略を系統的に行った。即ち、律速ステップ酵素PCTとPHAのプロモーター最適化を行い、アセチル補酵素A合成酵素を過剰発現し、酢酸キナーゼの発現を弱め、脂肪酸経路のキー酵素であるアセチル補酵素Aカルボキシラーゼ、ケトジェニック合成酵素、β-ケトアシル-ACP合成酵素IIIの遺伝子をノックダウンすることで、PLAの収量がさらに向上した。
【0027】
同時に、本発明は、培地へのCO2の導入条件と光照条件を探索することを含む高密度培養戦略(HDC)を探索する。高密度発酵戦略は、高低光の簡単な調整、異なるタイプの光の組み合わせ使用(赤色光と白色光の組合わせ)を実現した。本発明は、凝縮、発酵時に自動的に補充と攪拌を行うことができ、培養条件の攪拌速度は200rpmである。本発明は、培養と発酵条件の探索によりPLAの収量がさらに向上される。
【0028】
本発明は、シアノバクテリア細胞工場を利用して二酸化炭素からプラスチックを生産することを開示する。
【0029】
本発明は、天然的なシアノバクテリア(細長いシネココッカス)を改造するとともに、高密度発酵の戦略を採用することにより、CO2と光照条件を直接利用してPLAを生産することができ、シアノバクテリアのバイオマスが非常に大きく向上する。本発明は、従来の技術におけるPLAの生産に糖由来の原料のみを使用するという問題を解決し、さらに生産コストと収集コストが削減され、プラスチックの汚染と温室効果ガスCO2の過度排出の問題を同時に解決することが望ましく、同時に生分解性材料PLAの生産に使用でき、非常に大きな潜在的な工業化応用価値があり、シアノバクテリアによるPLAの生産の商業化進展も加速する。また、本発明は、両性電解質ポリアクリルアミド凝集剤を利用して、シアノバクテリア細胞の収集を非常に簡単且つ容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施手段によるPLA合成経路及び代謝工学改造戦略の模式図である。
【
図2】本発明の実施例7で合成されるPLAの核磁気検出の水素スペクトルと炭素スペクトルであり、
図2Aは水素スペクトルを示し、
図2Bは炭素スペクトルを示し、
図2CはPLAの構造式であり、
図2Dは
1H-
1H二次元COSY図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一態様は、細長いシネココッカスの遺伝子工学菌株を提供し、前記遺伝子工学菌株のゲノムに外因性のD-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列、外因性のプロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子のコード配列、及び外因性のポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子のコード配列を統合することにより、前記遺伝子工学菌株は、外因性のD-乳酸デヒドロゲナーゼ、外因性のプロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ及び外因性のポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素を発現することができることを特徴とする。
【0032】
幾つかの実施手段において、前記外因性のD-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列は、ブルガリア乳酸菌(Lactobacillus bulgaricus)に由来し、前記外因性のプロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子のコード配列は、プロピオン酸クロストリジウム(Clostridium propionicum)に由来し、前記外因性のポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子のコード配列は、シュードモナス(Pseudomonas)に由来する。
【0033】
本発明において、前記D-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列、プロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子のコード配列、及びポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子のコード配列は、野生型であってもよいし、適切に改造されていてもよい。本発明は、3種類の酵素の遺伝子コード配列に、文献「Yang et al.,Biotechnology & Bioengineering,2010,105(1):150-160.」及び「Li, C., Tao, F., Ni, J. et al. Enhancing the light-driven production of D-lactate by engineering cyanobacterium using a combinational strategy. Sci Rep 5, 9777 (2015).」のように突然変異を行うと、PLAの収量を向上させることを発見した。上記文献の全部内容は、援用により本文に組み込まれる。
【0034】
本文では、遺伝子、コード配列、タンパク質、酵素などに言及する際に用いられる「外因性」という用語は、自然の状態で、ある特定の菌株に属していない物質を指す。例えば、外因性の遺伝子とは、外部から、ある特定の菌株の遺伝子を導入することであり、該外因性の遺伝子は、前記菌株ゲノム中の既存の遺伝子であってもよいし、ゲノム中に有さない遺伝子であってもよい。本発明の一実施手段において、必要に応じて、外部から細長いシネココッカス菌株ゲノムに既存のアセチル補酵素A合成酵素遺伝子を導入することで、該遺伝子を過剰発現する。
【0035】
本発明は、外因性の遺伝子の転写を制御するプロモーターをさらに最適化することで、PLAの収量が更に向上する。好ましくは、前記D-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子のコード配列は、Ptrcプロモーター、PpsbaプロモーターまたはPcpc560プロモーターによって制御される。さらに好ましくは、前記プロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子のコード配列は、Ptrcプロモーター、PpsbaプロモーターまたはPcpc560プロモーターによって制御される。さらに好ましくは、前記ポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子のコード配列は、Ptrcプロモーター、PpsbaプロモーターまたはPcpc560プロモーターによって制御される。
【0036】
本発明は、前記遺伝子工学菌株のゲノムに外因性のアセチル補酵素A合成酵素遺伝子のコード配列をさらに統合することで、前記遺伝子工学菌株は外因性のアセチル補酵素A合成酵素遺伝子を発現することができ、このように、PLA収量を更に向上させることができると発見した。
【0037】
本発明は、さらに、酢酸キナーゼの発現を弱めること、及び/又は、脂肪酸経路のキー酵素であるアセチル補酵素Aカルボキシラーゼ、ケトジェニック合成酵素、β-ケトアシル-ACP合成酵素IIIの遺伝子をノックダウンすることによって、PLAの収量が更に向上すると発見した。
【0038】
このため、好ましくは、前記遺伝子工学菌株の酢酸キナーゼ遺伝子の発現がノックダウンされる。これは、前記菌株のゲノム中に酢酸キナーゼ遺伝子の発現を抑制できる外因性のsRNAのコード配列を統合することによって実現される。
【0039】
さらに好ましくは、前記遺伝子工学菌株のアセチル補酵素Aカルボキシラーゼ遺伝子、ケトジェニック合成酵素遺伝子及び/又はβ-ケトアシル-ACP合成酵素III遺伝子の発現がノックダウンされる。これは、それぞれ前記菌株のゲノム中に、アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ遺伝子、ケトジェニック合成酵素遺伝子及び/又はβ-ケトアシル-ACP合成酵素III遺伝子の発現を抑制できる外因性のsRNAのコード配列を統合することによって実現される。
【0040】
幾つかの具体的な実施手段において、前記遺伝子工学菌株は、細長いシネココッカスPCC 7942菌株である。
【0041】
本発明の他の態様は、二酸化炭素を利用してポリ乳酸を生産する方法を提供し、
1) (1)-(11)のいずれかに記載の細長いシネココッカスの遺伝子工学菌株を提供するステップと、
2) 二酸化炭素を導入して光照条件下で前記遺伝子工学菌株を培養するステップと、
3) 前記遺伝子工学菌株の成長ODが最大値に達すると、前記遺伝子工学菌株を収集して乾燥し、前記菌株内のポリ乳酸を回収するステップと、を含む。
【0042】
好ましくは、ステップ2)では、前記二酸化炭素の通気量は1.5vvmである。さらに好ましくは、導入される二酸化炭素と空気の体積比は1:(1-10)であり、最も好ましくは5%である。
【0043】
好ましくは、ステップ2)では、前記光照の強度は125μmol光量子m-2 s-1から1000μmol光量子m-2 s-1未満であり、より好ましくは、前記光照の強度は125~500μmol光量子m-2 s-1であり、最も好ましくは500μmol光量子m-2 s-1である。
【0044】
さらに、本発明は、前記遺伝子工学菌株が成長初期に光が強過ぎるのは好ましくなく、その場合、好ましくは、150μmol photons m-2 s-1以下の光の強さ、最も好ましくは125μmol photons m-2 s-1の光の強さを選択し、菌株の成長に伴い、次第に光の強さを500μmol photons m-2 s-1に上げることで、菌株を最適に成長させることができると発見した。
【0045】
本発明は、さらに前記菌株の培養に用いられる培地を探索し、以下の組成の培地が前記遺伝子工学菌株のバイオマスを向上させることができる。前記培地は、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、クエン酸、クエン酸鉄アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸、ホウ酸、塩化マンガン、硫酸亜鉛、モリブデン酸ナトリウム、硫酸銅及び硝酸コバルトを含む。より好ましくは、上記組成に加えて、Na2CO3、MgSO4・7H2O、NaNO3、KH2PO4及び微量元素を添加する。好ましくは、前記微量元素は、H3BO3、MnCl2・7H2O、ZnSO4・7H2O、Na2MoO4・2H2O、CuSO4・5H2O及びCo(NO3)2・6H2Oから選ばれる。
【0046】
本発明は、前記培地中での前記炭酸ナトリウムの最終濃度は、好ましくは0.25-1.5g/Lであると発見した。
【0047】
好ましくは、ステップ2)では、誘導剤の存在下で前記遺伝子工学菌株を培養し、このように、PLAの収量をさらに向上させることができる。前記誘導剤は、好ましくは、IPTG、テオフィリンから選ばれる1種または複数種である。
【0048】
ステップ3)では、前記遺伝子工学菌株を収集することは、高分子電解質凝集剤と前記遺伝子工学菌株を含む培養液を5分間混合し、5分間静置し、静置した後に上清を捨て沈殿を収集することを含み、好ましくは、前記高分子電解質凝集剤は、ポリアクリルアミド凝集剤である。
【0049】
前記遺伝子工学菌株の乾燥には、凍結乾燥を採用することができる。
【0050】
ステップ3)では、前記遺伝子工学菌株内のポリ乳酸を、有機溶媒で回収するかまたは無機水相抽出法で回収することができる。
【0051】
用いられる有機溶媒は、クロロホルム、1,4-エポキシジアン、メチル-テトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、アセトン及び酢酸エチルから選ばれる。
【0052】
無機水相抽出法は、(a)ポリマー粒子を豊富に含む乾燥した細菌細胞を提供するステップと、(b)乾燥した細胞粒子を粉砕するステップと、(c)アルカリ水溶液(pHが8-10)でステップ(b)から得られた破砕した細胞粉末を溶解するステップと、(d)ポリマーに富むアルカリ溶液を均質化するステップと、(e)細胞内に残された非標的ポリマーの断片を分離し、一次製品を取得するステップと、(f)上記濃縮物を濾過して乾燥し、ポリマー粒子を取得するステップと、を含んでも良い。
【0053】
工業規模で微細藻類バイオマスを収穫することは、藻類バイオマス産業の技術経済的ボトルネックであり、微細藻類の小さな細胞サイズと培養物に希釈したバイオマス濃度によって状況はさらに複雑になる。収穫の過程で大量の水を除去する必要があり、プロセスエネルギーとコストが密集し、バイオマス生産の総コストの約30%を占めている。PLAは細胞の内包物であるため、遠心分離によってPLA粒子と細胞を一緒に収集することができる。本発明は、凝集剤を使用すると、細胞をより迅速かつ簡便に収集できることを発見し、これは大きな潜在的工業的価値を有する。
【0054】
本発明の一具体的な実施手段において、二酸化炭素を利用してポリ乳酸を生産する前記方法は、
(1) 変性されたD-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子、変性されたプロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子、及び変性されたポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子をプライマーにより目的遺伝子に合成し、目的遺伝子とベクターを二重酵素切断し、精製された後、大腸菌感受性細胞を形質転換し、組換えプラスミドを得るステップと、
(2) 組換えプラスミドのDNAを抽出し、シアノバクテリアS. elongatus PCC 7942に導入し、抽出、検証し、遺伝子工学細胞菌株を得るステップと、
(3) 遺伝子工学細胞菌株を培地中で培養し、培地中に二酸化炭素を導入し、光照条件で遠心分離して収集し、そして凍結乾燥して、回収し、PLAを得るステップと、を含む。
【0055】
本発明は、培地へのCO2の導入条件と光照条件を探索することを含む、高密度培養戦略(HDC)を探索する。高密度発酵戦略は、高低光の簡単な調整、異なるタイプの光の組み合わせ使用(赤色光と白色光の組合わせ)を実現した。本発明は、凝縮、発酵時に自動的に補充と攪拌を行うことができ、培養条件の攪拌速度は200rpmである。本発明は、培養と発酵条件の探索によりPLAの収量がさらに向上される。
【0056】
例示
実施例に基づいて、本発明の技術的内容をさらに説明する。下記の実施例は、説明的なものであり、限定的なものではなく、下記の実施例によって本発明の範囲を限定することはできない。以下の実施例で使用する実験方法は、特に断りのない限り、通常の方法である。下記の実施例で使用する材料、試薬などは、特に断りのない限り、商業的なルートから入手することができる。
【0057】
BG-11液体培地(1×): NaNO3 1.5g、K2HPO4・3H2O 0.04g、MgSO4・7H2O 0.075g、CaCl2・2H2O 0.036g、クエン酸0.006g、クエン酸鉄アンモニウム 0.006g、EDTA 0.001g、Na2CO3 0.02g、金属イオン母液 1mL(g/L:ホウ酸 2.86、MnCl2・4H2O 1.81、ZnSO4・7H2O 0.222、Na2MoO4・2H2O 0.39、CuSO4・5H2O 0.079、Co(NO3)2・6H2O 0.0494)を溶解して、1Lの蒸留水に定容する。121℃の高温高圧で20min蒸気滅菌する。
【0058】
BG-11固体培地: BG-11液体培地に、1.6-2.0%(w/v)寒天粉末を加える。121℃の高温高圧で20min蒸気滅菌する。
【0059】
培養方法: PLAを生産するための菌株培養方法は、指数期に成長したS. elongatus PCC 7942細胞を取り、100mLのBG-11液体培地を入れた300mLの三角フラスコに希釈し、細胞の最終濃度をOD730nm=0.05にし、該培地に20mg/Lのスペクチノマイシンを添加する。菌体がOD730nm=0.4-0.6に成長したら、1mmol/Lのイソプロピル-β-D-チオガラクトシド(IPTG)を加えて誘導する。毎日、2mLのサンプルを取って細胞の成長を測定し、毎回のサンプリングが終わった後、三角フラスコ中に等体積の除菌したBG-11液体培地を補充する。
【0060】
実施例1: PLA合成の代謝経路の導入
【0061】
図1に示すように、すでに報告されている改造されたD-乳酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(ldhD)、プロピオニル補酵素Aトランスフェラーゼ遺伝子(pct)、ポリヒドロキシ脂肪酸エステル合成酵素遺伝子(pha)のコード配列(文献「Yang et al.,Biotechnology & Bioengineering,2010,105(1):150-160.」と「Li, C., Tao, F., Ni, J. et al.,Enhancing the light-driven production of D-lactate by engineering cyanobacterium using a combinational strategy.,Sci Rep 5, 9777 (2015).」参照)に基づいて、IdhD、pct、phaの順序に従って、且つ、2つの遺伝子の間にRBS(SEQ ID NO.19:AAGAAGGAGATATACC)配列を挿入することによって、上記3種類の酵素の改造された遺伝子コード配列からなる全長配列を人工的に合成した後、以下のプライマーを用いて、合成した配列をテンプレートとしてPCR増幅して、3つのキー酵素を含む組換え遺伝子の断片を得る。
SEQ ID NO.1: 5-
ACTCGAGATGAGCAACAAGTCAAATGATGAA-3;
SEQ ID NO.2: 5-
GGATCCTCTAGGACTTCATTTCTTTCAGGCC-3。
【0062】
組換え遺伝子とpAMMCS12を、それぞれXhoI、BamHIで二重酵素切断し、精製後にT4 DNAリガーゼを用いて16℃で一晩接続した。接続生成物化学法によって、大腸菌感受性細胞を形質転換する。形質転換液にスペクチノマイシン(50μg/mL)LBプレートを塗布し、プラスミドを抽出し、二重酵素切断により、構築された組換えプラスミドを検証し、pAM-ldhD-pct-phaと命名した。シーケンシングは上海派森諾生物技術会社により完了した。
【0063】
抽出した組換えプラスミドDNAは、自然形質転換を通じて相同組換えの原理を利用し、標的遺伝子を細長いシネココッカスPCC 7942(全球生物資源センター、ATCCから)染色体に統合する。組換え形質転換子のゲノムを抽出した後、検証プライマーSEQ ID NO.3: 5- ACCTGGAATTGGTTGAAGG-3、SEQ ID NO.4: 5-ACAGCCAAGCTTGCATGC-3を用いて、PCR増幅検証により挿入の成功を確認し、PYLW01菌株を得る。実施例7に記載の方法に従った測定による、得られたPYLW01菌株の収量は、0.8mgg-1 DCWである。
【0064】
実施例2: 律速ステップ酵素プロモーターの最適化
【0065】
Ptrcプロモーターに従って全遺伝子合成を行い、プライマーSEQ ID NO.5: 5-CGACTGCACGGTGCACCA-3、SEQ ID NO.6: 5-CATGGTCTGTTTCCTGTGTGAA-3を設計し、PCR増幅によりPtrcプロモーターを得る。
【0066】
Ppsbaプロモーターに従って全遺伝子合成を行い、プライマーSEQ ID NO.7: 5- TATCAATAAGTATTAGGTATATGG-3、SEQ ID NO.8: 5- ATGTATTTGTCGATGTTCAGAT-3を設計し、PCR増幅によりPpsbaプロモーターを得る。
【0067】
Pcpc560プロモーターに従って全遺伝子合成を行い、プライマーSEQ ID NO.9: 5- ACCTGTAGAGAAGAGTCCCT-3、SEQ ID NO.10: 5-TGAATTAATCTCCTACTTGACTTTA-3を設計し、PCR増幅によりPcpc560プロモーターを得る。
【0068】
PCR増幅により得られたPtrcプロモーター配列、上記ldhD、pct、及びphaの3つの遺伝子コード配列をそれぞれ1μL取り、まず、重複誘導体化PCRでPtrc-ldhD断片、Ptrc-pct断片、及びPtrc-pha断片をそれぞれ形成し、次に、3つの断片を順次にEcoRI、BamHI及びXhoI酵素切断酵素によりpAMベクターに連結し、ベクターpAM-Ptrc-ldhD-Ptrc-pct-Ptrc-phaを得る。
【0069】
PCR増幅により得られたPpsbaプロモーター配列、上記ldhD、pct及びphaの3つの遺伝子コード配列をそれぞれ1μL取り、まず、重複誘導体化PCRでPpsba-ldhD断片、Ppsba-pct断片、及びPpsba-pha断片をそれぞれ形成し、次に、この3つの断片を順次にEcoRI、BamHI及びXhoI酵素切断酵素によりpAMベクターに連結し、ベクターpAM-Ppsba-ldhD-Ppsba-pct-Ppsba-phaを得る。
【0070】
PCR増幅により得られたPcpc560プロモーター配列、上記ldhD、pct、及びphaの3つの遺伝子コード配列をそれぞれ1μL取り、まず、重複誘導体化PCRでPcpc560-ldhD断片、Pcpc560-pct断片、及びPcpc560-pha断片をそれぞれ形成し、次に、この3つの断片を順次にEcoRI、BamHI及びXhoI酵素切断酵素によりpAMベクターに連結し、ベクターpAM-Pcpc560-ldhD-Pcpc560-pct-Pcpc560-phaを得る。
【0071】
実施例3: PYLW02、PYLW03、PYLW004遺伝子工学菌株の構築
【0072】
ベクターpAM-Ptrc-ldhD-Ptrc-pct-Ptrc-phaを、自然変換により細長いシネココッカスPCC 7942染色体中性サイトIに統合し、PYLW02菌株を得る。
【0073】
ベクターpAM-Ppsba-ldhD-Ppsba-pct-Ppsba-phaを、自然変換により細長いシネココッカスPCC 7942染色体中性サイトIに統合し、PYLW03菌株を得る。
【0074】
ベクターpAM-Pcpc560-ldhD-Pcpc560-pct-Pcpc560-phaを、自然変換により細長いシネココッカスPCC 7942染色体中性サイトIに統合し、PYLW04菌株を得る。
【0075】
実施例7に記載の方法に従った測定による、得られたPYLW02菌株の収量は最も高く、収量は5.6 mgg-1 DCWである。
【0076】
実施例4: アセチル補酵素A合成酵素の過剰発現
【0077】
細長いシネココッカスPCC 7942ゲノム(NC_007595.1)配列に基づくプライマー:
SEQ ID NO.11:5-ACTAGTATGGCTGCACCTGTCACGAA-3;
SEQ ID NO.12:5-GGATCCTTAGTCACTGCTTTCCAGAAACAC-3を設計する。
【0078】
組換え遺伝子acsA(GenBank: ABB57382.1)とpBA3031Mを、それぞれSpeI、BamHI二重酵素で切断し、精製後にT4 DNAリガーゼで16℃で一晩接続した。接続生成物化学法によって、大腸菌感受性細胞を形質転換する。形質転換液でカナマイシン(50μg/mL)LBプレートを塗布し、プラスミドを抽出し、二重酵素切断により、構築された組換えプラスミドを検証し、pBA-acsAと命名した。シーケンシングは、上海派森諾生物技術会社により完了される。
【0079】
抽出した組換えプラスミドDNAは、自然形質転換を通じて相同組換えの原理を利用し、標的遺伝子を、細長いシネココッカスPCC 7942中性サイトIII染色体に統合する。組換え形質転換子のゲノムを抽出した後、検証プライマーであるSEQ ID NO.3: 5- ACCTGGAATTGGTTGAAGG-3、SEQ ID NO.4: 5-ACAGCCAAGCTTGCATGC-3を用いて、PCR増幅検証により挿入の成功を確認し、PYLW05菌株を得る。実施例7に記載の方法に従った測定による、得られたPYLW05菌株の収量は、6.5mgg-1 DCWである。
【0080】
実施例5: 酢酸キナーゼ遺伝子のノックダウン
【0081】
細長いシネココッカスPCC 7942ゲノム上の酢酸キナーゼの遺伝子配列に基づき、24bpのアンチセンスRNAを設計し、sRNAの骨格であるMiccとTrbclの配列に基づいて、酢酸キナーゼのsRNA全長配列(SEQ ID NO.20に示す)を人工的に合成する。
【0082】
プライマーであるSEQ ID NO.15:5-GGATCCTATCAATAAGTATTAGGTATATGG-3、SEQ ID NO.16:5- GAATTCGCTGTCGAAGTTGAACAT-3を設計し、sRNA全長配列を増幅し、sRNA全長配列と実施例4で得られた組換えプラスミドpBA-acsAをそれぞれBamHI、EcoRIで二重酵素切断し、精製後に、T4 DNAリガーゼで16℃で一晩接続した。接続生成物化学法によって大腸菌感受性細胞を形質転換する。形質転換液でカナマイシン(50μg/mL)LBプレートを塗布し、プラスミドを抽出し、二重酵素切断により、構築された組換えプラスミドを検証し、pBA-acsA-as-ackAと命名した。シーケンシングは上海派森諾生物技術会社により完了される。
【0083】
抽出した組換えプラスミドDNAは、自然形質転換を通じて相同組換えの原理を利用し、標的遺伝子を、細長いシネココッカスPCC 7942中性サイトIII染色体に統合する。PYLW06菌株を得る。実施例7に記載の方法に従った測定による、得られたPYLW06菌株の収量は、9.8mgg-1 DCWである。
【0084】
実施例6: アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ遺伝子、ケトジェニック合成酵素遺伝子、β-ケトアシル-ACP合成酵素III遺伝子をノックダウンし続ける
【0085】
細長いシネココッカスPCC 7942ゲノム上のアセチル補酵素Aカルボキシラーゼ遺伝子、ケトジェニック合成酵素遺伝子、β-ケトアシル-ACP合成酵素III遺伝子の配列に基づいて、それぞれ24bpのアンチセンスRNAを設計し、sRNAの骨格であるMiccとTrbclの配列に基づいて、アセチル補酵素Aカルボキシラーゼ遺伝子、ケトジェニック合成酵素遺伝子、β-ケトアシル-ACP合成酵素IIIのsRNA全長配列(SEQ ID NO.21に示す)を人工的に合成する。
【0086】
プライマーであるSEQ ID NO.17:5-GAATTCTATCAATAAGTATTAGGTATATGG-3、SEQ ID NO.18: 5- GAGCTCGCTGTCGAAGTTGAACAT-3を設計し、sRNA全長配列を増幅し、sRNA全長配列と実施例5で得られた組換えプラスミドpBA-acsA-as-ackAをそれぞれEcoRI、SacIで二重酵素切断し、精製後にT4 DNAリガーゼで16℃で一晩接続した。形質転換液でカナマイシン(50μg/mL)LBプレートを塗布し、プラスミドを抽出し、二重酵素切断により、構築された組換えプラスミドを検証し、pBA-acsA-as-ackA-as-accC-as-fabF-as-fabHと命名した。シーケンシングは上海派森諾生物技術会社により完了される。
【0087】
抽出した組換えプラスミドDNAは、自然形質転換を通じて相同組換えの原理を利用し、標的遺伝子を細長いシネココッカスPCC 7942中性サイトIII染色体に統合する。PYLW07菌株を得る。実施例7に記載の方法に従った測定による、得られたPYLW06菌株の収量は、15.0mgg-1 DCWである。
【0088】
実施例7: 組換えシアノバクテリア細胞を利用してPLAを調製する
【0089】
実施例1で構築された組換えシアノバクテリア細胞菌株によって、BG-11液体培地中で、30℃で、5%(v:v)の二酸化炭素通気量、光照強度125μmolの光量子m
-2 s
-1の条件下でOD
730nmが0.5になるまで、1mol/Lの最終濃度のIPTGを誘導剤として加え、誘導発現後に成長ODが最大値に達する時点で、遠心分離により該菌株を収集する。回収した菌株を凍結乾燥して、クロロホルムで、菌株体内に集めたポリマー物質を回収し、回収されたポリマーを核磁気共鳴(NMR)分析する。結果から、上記得られたポリマー物質はPLAであることが証明され、結果を
図2に示す。
【0090】
該菌株からPLAを生産する定量実験について、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を用いてその単体含有量を測定してPLAの収量を計算し、方法は、Jungら、Biotechnology & Bioengineering, 2010, 105(1):161-171に記載されるようなものである。
【0091】
実施例8: 異なる濃度のCO2がシアノバクテリア成長に与える影響を探る
【0092】
シアノバクテリアは、CO2を炭素源として利用して成長する細菌であるため、CO2の導入濃度は、シアノバクテリアに非常に大きな影響を与える。シアノバクテリアの高密度発酵戦略を開発するために、本発明は、まず、培養過程で、培地中に異なる濃度のCO2を導入することによるシアノバクテリアの成長への影響(その他の培養条件は実施例7と同じ、PYLW07菌株を利用する)を探る。導入するCO2と空気の体積比が1%、2%、5%、7%、10%であると、5日間成長のODはそれぞれ2.5、3.0、3.5、3.1、2.8である。CO2と空気の体積比が5%であると、細長いシネココッカスPCC 7942菌株における成長のOD730nmが最高3.5であると発見した。
【0093】
実施例9: 光の強さがシアノバクテリアの成長に与える影響を探る
【0094】
実施例8の条件に基づいて、本発明は、さらに光の強さがシアノバクテリアの成長に与える影響(実施例8の最適な条件下で、その他の培養条件は実施例7と同じ、PYLW07菌株を利用する)を探る。本発明は、125-1000μmol photons m-2 s-1の光の強さを試みる。光照射が500μmol photons m-2 s-1に増加すると、シアノバクテリアの成長ODが最大に達し、500μmol photons m-2 s-1を超えると、成長速度が下ることを発見した。1000μmol photons m-2 s-1 に達すると、シアノバクテリアが強い光に脅かされて成長しなくなった。光の強さ(μmol photons m-2 s-1)がそれぞれ125、250、500、750であると、5日間成長のODはそれぞれ2.0、2.5、3.5、2.2である。しかし、シアノバクテリアにはOD730nm=1.0までは光照射が強すぎるべきではないため、シアノバクテリアにはOD730=1.0までに、125μmol photons m-2 s-1の光の強さを選択し、成長につれて500μmol photons m-2 s-1の光の強さに増加させるに伴い、成長を最もよくすることができ、5日間以内にOD730nmが3.5に達することができる。
【0095】
実施例10: 培地のシアノバクテリアの成長に対する影響を探る
【0096】
実施例9でシアノバクテリア成長に最適な光の強さを見つけた後、培地を最適化することで、成長のOD(実施例9の最適な条件下で、その他の培養条件は実施例7と同じ、PYLW07菌株を利用する)をさらに高めることができるかどうか探る。本発明は、BG-11を出発培地とし、5×BG-11培地の組成を参照し、BG-11の基礎培地に以下の条件(L-1):Na2CO3 1g、MgSO4・7H2O 5g、NaNO3 5g、KH2PO4(1mol/L)2 mL及びBG11微量元素、BG11微量元素溶液(mM):0.4 H3BO3、0.1 MnCl2・7H2O、0.004 ZnSO4・7H2O、0.01 Na2MoO4・2H2O、0.003 CuSO4・5H2O及び0.001 Co(NO3)2・6H2Oを添加する。該培地はMBG-11と命名される。これは、成長が以前より向上し、OD730nmが1.5から4.0に向上した。
【0097】
さらに、高濃度のNa2CO3がより多くのバイオマスをもたらすかどうかを探るために、本発明は、異なる濃度Na2CO3がシアノバクテリアの成長に与える影響を試験し、それぞれ0.25g/L、0.50g/L、1.0g/L、1.5g/LのNa2CO3を試みる。実験により、5日間成長のODは、それぞれ3.5、5.0、7.0、3.0である。1.0g/LのNa2CO3を添加する際に、OD730nmは最高7.0である。
【0098】
実施例11: 組換えシアノバクテリアPYLW07の高密度発酵
【0099】
実施例7の実験データから、最も収率の高い菌株はPYLW07であり、該菌株を利用して高密度発酵の戦略を探る。シェイクフラスコを使用して発酵させる場合に、PCC 7942菌株の基礎培地(BG-11液体培地)を使用する。高密度培養戦略に対して、遺伝子工学化されたPCC 7942を、改良されたBG-11固体培地(即ちMBG-11 液体培地)において30℃で、自作の光バイオリアクター(中国特許に公開されており、特許番号:ZL202220201535.5、その全文は援用により本文に組み込まれる)を使用して培養し、成長初期に光照強度は125μmol photons m-2 s-1であり、2日後に500μmol photons m-2 s-1まで増加させる。体積比5%のCO2を含むバブリング空気培養について、ガスは、50mLのmin-1の流速バブリングで5μm孔径の排気バルブを通過する。PLA生産に対して、800mLのフラスコにおいて20mg/Lのスペクチノマイシンを含む500mLのMBG-11液体培地にPYLW07菌株を接種し、CO2を豊富に含む空気(5%、v/v)を持続的に供給した。次に、OD730nmが0.4-0.6に成長した後、1mmol/LのIPTGと2mmol/Lのテオフィリン誘導培養物を加える。
【0100】
GC-MSによりPLAの収量を検出すると、その収量は最終的に108mg/Lに達し、23mg/g DCWに相当し、初期に構築した菌株のシェイクフラスコ培養条件下での収量の約270倍である。調製されたPLAの分子量(重量平均分子量Mwが62.5kDaであり、数平均分子量Mnが32.8kDaである)は、文献報告されている中で最も高いレベルにある。なお、高密度培養戦略を採用し、その細胞密度を同じ遺伝子工学菌株よりシェイクフラスコ培養時に10倍増加させた。
【0101】
実施例12: 組換えシアノバクテリア細胞の収集
【0102】
シアノバクテリア細胞の収集を容易かつ迅速に実現するために、本発明は、高分子電解質凝集剤を用いて自然沈降の効果を探ることを試みた。ポリアクリルアミド凝集剤を、室温下で、それぞれ1:300(w/w)と5:100(w/w)の割合で水中に溶解させる。次に、溶解したポリアクリルアミド凝集剤を、1.5%(v/v)の割合で、高密度で培養した発酵液に加える。培養物を混合して2min攪拌する。次に、培養物は重力沈降を5-10分間許容する。凝集効率は、OD730nmの波長で、沈降前後の光学密度測定で特徴付けられ、測定結果により、凝集効率が90%に達していることが示された。
【0103】
産業上の利用可能性
工業規模で微細藻類バイオマスを収穫することは、藻類バイオマス産業の技術経済的ボトルネックであり、微細藻類の小さな細胞サイズと培養物に希釈したバイオマス濃度によって、状況はさらに複雑になる。収穫の過程で大量の水を除去する必要があり、プロセスエネルギーとコストが密集し、バイオマス生産の総コストの約30%を占めている。PLAは細胞の内包物であるため、遠心分離によってPLA粒子と細胞を一緒に収集することができる。本発明は、凝集剤を使用すると、細胞をより迅速かつ簡便に収集できることを発見し、これは大きな潜在的工業的価値を有する。
【0104】
上記の実施形態の説明は、当業者が本発明を理解し、使用できるようにするためのものである。当業者であれば、これらの実施例にさまざまな修正を容易に加えることができ、本明細書で説明する一般的な原理を創造的な労働を経ることなく他の実施例に適用できることは明らかである。このため、本発明は、上記実施例に制限されない。当業者が本発明の原理に基づいて本発明の範疇から逸脱しない改良や修正を加えることも、本発明の範囲内にあるべきである。
【配列表】
【国際調査報告】