(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】全固体Liイオン電池用のアノードコーティング
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240912BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240912BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20240912BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240912BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20240912BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240912BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20240912BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240912BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240912BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240912BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/485
H01M4/587
H01M4/48
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518829
(86)(22)【出願日】2022-09-23
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 FR2022051795
(87)【国際公開番号】W WO2023047065
(87)【国際公開日】2023-03-30
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,グレゴリー
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029HJ01
5H029HJ04
5H029HJ09
5H050AA04
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA03
5H050DA11
5H050DA13
5H050EA11
5H050EA24
5H050EA28
5H050FA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA09
(57)【要約】
本発明は、一般に、Liイオンタイプの充電式蓄電池における電気エネルギーの貯蔵の分野に関する。より具体的には、本発明は、完全固体Liイオン電池用のアノードコーティングに関する。本発明はまた、該コーティングの調製のための方法に関する。本発明はまた、このコーティングでコーティングされたアノード、そのようなアノードを製造するための方法及びまたそのようなアノードを備えるLiイオン蓄電池に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.少なくとも1つのポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)(成分A)と、
b.少なくとも1つのリチウム塩(成分B)と、
c.少なくとも1つの導電性添加剤(成分C)と
からなる、アノードコーティング。
【請求項2】
前記成分Aが、ポリ(フッ化ビニリデン)ホモポリマー並びにビニリデンジフルオリドと、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、3,3,3-トリフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロブチルエチレン、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロプロペン及びエチレン、及びそれらの混合物のリストから選択された少なくとも1つのコモノマーとのコポリマーから選択される、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
前記PVDFが、以下の官能基、すなわち、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ(グリシジルなど)、アミド、ヒドロキシル、カルボニル、メルカプト、スルフィド、オキサゾリン、フェノール、エステル、エーテル、シロキサン、スルホン酸、硫酸、リン酸又はホスホン酸のうちの少なくとも1つを有するモノマー単位を含む、請求項1又は2に記載のコーティング。
【請求項4】
前記成分Bが、LiPF
6(リチウムヘキサフルオロホスフェート)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、TFSI(リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)、LiTDI(リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾレート)、LiPOF
2、LiB(C
2O
4)
2、LiF
2B(C
2O
4)
2、LiBF
4、LiNO
3、LiClO
4及び挙げられた塩のうちの2つ以上の混合物から選択される、請求項1~3のいずれかに記載のコーティング。
【請求項5】
前記成分Cが、直鎖若しくは環状エーテル、エステル、ラクトン、ニトリル、カーボネート及びイオン液体から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項6】
0.1~100μm、優先的には0.1~50μm及びより優先的には0.1~35μmの範囲の厚さを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項7】
以下の重量組成:
-20%~80%の比率の成分A、
-1%~40%の比率の成分B、
-2%~50%の比率の成分C
(ただし、これらの比率の合計は100%である)
を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項8】
前記コーティングのすべての構成物質を溶媒中で混合することによって得られたインクから、請求項1~7のいずれか一項に記載のアノードコーティングを製造するための方法。
【請求項9】
前記溶媒が、アセトン、トリエチルアセチルシトレート、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジブチルフタレート、ジブチルセバケート、ジエチルカーボネート、ジエチルフタレート、ジヒドロレボグルコセノン、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、3-ヘプタノン、ヘキサメチルホスホラミド、3-ヘキサノン、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリジノン、3-オクタノン、3-ペンタノン、プロピレンカーボネート、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリアセチン、トリエチルシタレート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、N,N’-テトラブチルスクシンアミド、及びそれらの混合物のリストから選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
全固体リチウムイオン電池用のアノードであって、該アノードが、請求項1~7のいずれか一項に記載のコーティング層で被覆された活性物質からなる、アノード。
【請求項11】
前記活性物質が、グラファイト、Li
4Ti
5O
12タイプのリチウムチタネート、酸化チタンTiO
2、シリコン若しくはリチウム/シリコンアロイ、酸化スズ、リチウム金属間化合物、又はそれらの混合物から選択される、請求項9に記載のアノード。
【請求項12】
10%未満、好ましくは5%未満の多孔度を有する、請求項10又は11に記載のアノード。
【請求項13】
Liイオン電池負極を製造するための方法であって、該方法が以下の作業:
-アノードを提供すること、
-前記アノード上に、請求項1~7のいずれか一項に記載のコーティング層を堆積させること
を含む、方法。
【請求項14】
カソードと、請求項10~12のいずれか一項に記載のアノードと、全固体電解質とを備える、全固体Liイオン蓄電池。
【請求項15】
前記カソードが、請求項1~7のいずれか一項に記載のコーティング層で被覆されている、請求項15に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、Liイオンタイプの充電式蓄電池における電気エネルギーの貯蔵の分野に関する。より具体的には、本発明は、全固体Liイオン電池用のアノードコーティングに関する。本発明はまた、該コーティングの調製のための方法に関する。本発明はまた、このコーティングで被覆されたアノード、そのようなアノードを製造するための方法及びまたそのようなアノードを備えるLiイオン蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム蓄電池は、携帯電話、ラップトップコンピューター及び家庭用小型電子機器から車両まで、さらには大容量のエネルギー貯蔵装置に至るまでの様々な電子デバイスの電源として使用することができ、リチウム蓄電池の需要は絶え間なく拡大している。
【0003】
従来のリチウム蓄電池は、一般に、有機物を含有する液体電解質を用いる。これらの液体電解質は、有利には高いイオン伝導度を有するが、液体の漏出、火災又は高温での爆発の危険性のために追加の安全装置を必要とする。
【0004】
液体電解質に関連する安全性の問題を解決するために、近年、固体電解質を使用した完全に固体の電池が開発されている。
【0005】
全固体電池は、一般に、正極と、固体電解質と、負極と、を備える。正極は、正極活物質と、固体電解質と、を含み、さらに電子伝導性材料と、結合剤と、を含む。固体電解質は、以下の、ポリマー、可塑剤、リチウム塩、無機粒子、イオン液体のリストからの1つ以上の要素を含む。負極は、正極と同様に、負極活物質と、固体電解質と、を含み、さらに導電性材料と、結合剤と、を含む。
【0006】
しかしながら、現時点では、全固体電池のバルク用途のための仕様を満たす固体電解質は存在しない。これは、固体電解質に対して、イオン伝導度、電気化学的安定性、機械的強度及びアノード又はカソード材料との適合性を組み合わせることが一般に困難であるためである。
【0007】
特に、例として、非常に高いイオン伝導度を示すが、アノードでの電位及びカソードでの高い電位に関して電気化学的不安定性を示す無機化合物が挙げられ得る。(Y.Zhu,ACS Appl.Mater.Interfaces,2015,7,23685-23693)
全固体Liイオン電池においてアノードを固体電解質と適合させることを可能にする解決策を開発する必要性が依然として存在する。とりわけ、充電及び放電サイクル中のアノードの体積の変動の問題を解決する必要がある。最後に、リチウム金属のアノードの特定の場合には、効果的な手段によってデンドライトの形成から保護されたアノードを提供する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y.Zhu,ACS Appl.Mater.Interfaces,2015,7,23685-23693
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、Liイオン電池負極に直接適用することができ、次いで固体電解質と電極活性物質との間の物理的分離を可能にするコーティングを提供することである。したがって、本発明は、通例の負極からなる第1の層と、本発明によるアノードコーティングからなる第2の層と、を含む負極を提供する。
【0010】
本発明はまた、該アノードコーティングを製造するための方法を提供することを目標とする。最後に、本発明は、そのようなコーティングを示すアノード及びそのようなアノードを製造するための方法に関する。
【0011】
最後に、本発明は、そのようなアノードを備える充電式Liイオン蓄電池を提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によって提案される技術的解決策は、全固体電池においてカソードを固体電解質と適合させるアノードコーティングを提供することである。
【0013】
本発明は、第一に、
a.1つ以上のポリ(フッ化ビニリデン)と、
b.リチウム塩と、
c.導電性添加剤と
からなる、アノードコーティングに関する。
【0014】
本発明はまた、コーティングのすべての構成物質を混合することによって得られたインクからアノードコーティングを製造するための方法に関する。
【0015】
本発明はまた、リチウムイオン電池用のアノードであって、該アノードが、本発明によるコーティング層で被覆された負極活物質の層からなる、アノードに関する。
【0016】
本発明はまた、Liイオン電池負極を製造するための方法であって、該方法が以下の作業:
-アノードを提供すること、
-該アノード上にコーティング層を堆積させること
を含む、方法に関する。
【0017】
本発明の別の主題は、負極と、正極と、全固体電解質とを備え、アノードが上記の通りである、Liイオン蓄電池である。
【0018】
本発明は、最新技術の欠点を克服することを可能にする。本発明は、デンドライトの形成を回避するのに十分な機械的強度を維持しながら、その誘電率の均一な分布を有するイオン伝導性コーティングを提供する。このコーティングは、良好な還元安定性及び良好な可撓性を実証し、それによって、充電及び放電サイクル中のアノード体積の変動に耐えることが可能になる。
【0019】
リチウムアノードの特定の場合において、本発明によるコーティングは、短絡を引き起こし得るデンドライトの成長を阻むことを可能にし、誘電率の良好な均一性は、高濃度のリチウムイオンを有する領域の形成を回避することを可能にする。このコーティングはまた、安定しており低抵抗率である固体電解質界面(SEI)をリチウム金属上に形成することを可能にし、それによって、全固体電池の性能及び寿命を改善する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を以下の説明において非限定的に、より詳細に説明する。
【0021】
第1の態様によれば、本発明は、
a.1つ以上のポリ(フッ化ビニリデン)(成分A)と、
b.少なくとも1つのリチウム塩(成分B)と、
c.少なくとも1つの導電性添加剤(成分C)と
からなる、アノードコーティングに関する。
【0022】
様々な実施態様によれば、該コーティングは、適切に組み合わされると、以下の特性を含む。なお、別段の指定がない限り、含有量は重量で示される。
【0023】
成分A
本発明で使用される半結晶性フルオロポリマーは、ビニリデンジフルオリドをベースとするポリマーであり、一般にPVDFという略語で示される。
【0024】
一実施形態によれば、PVDFは、ポリ(フッ化ビニリデン)ホモポリマー又はフッ化ビニリデンホモポリマーの混合物である。
【0025】
一実施形態によれば、PVDFは、ポリ(フッ化ビニリデン)ホモポリマー又はビニリデンジフルオリドと、ビニリデンジフルオリドと相溶性のある少なくとも1つのコモノマーとのコポリマーである。
【0026】
一実施形態によれば、PVDFは半結晶性である。
【0027】
ビニリデンジフルオリドと相溶性のあるコモノマーは、ハロゲン化(フッ素化、塩素化若しくは臭素化)又は非ハロゲン化であり得る。
【0028】
適切なフッ素化コモノマーの例は、フッ化ビニル、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロプロペン、特に3,3,3-トリフルオロプロペン、テトラフルオロプロペン、特に2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロブチルエチレン、ペンタフルオロプロペン、特に1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン又は1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、特に一般式Rf-O-CF-CF2のものであり、Rfはアルキル基、好ましくはC1-C4アルキル基(好ましい例はパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)及びパーフルオロ(メチルビニルエーテル))である。
【0029】
フッ素化コモノマーは、塩素原子又は臭素原子を含み得る。フッ素化コモノマーは、特に、ブロモトリフルオロエチレン、クロロフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン及びクロロトリフルオロプロペンから選択され得る。クロロフルオロエチレンは、1-クロロ-1-フルオロエチレン又は1-クロロ-2-フルオロエチレンのいずれかを指し得る。1-クロロ-1-フルオロエチレン異性体が好ましい。クロロトリフルオロプロペンは、好ましくは、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン又は2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンである。
【0030】
VDFコポリマーはまた、エチレン及び/又はアクリル若しくはメタクリルコモノマーなどの非ハロゲン化モノマーを含み得る。
【0031】
フルオロポリマーは、好ましくは、少なくとも50mol%のビニリデンジフルオリドを含有する。
【0032】
一実施形態によれば、PVDFは、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とのコポリマー(P(VDF-HFP))であり、ヘキサフルオロプロピレンモノマー単位の重量パーセントは、コポリマーの重量に対して2重量%~23重量%、好ましくは4重量%~15重量%である。
【0033】
一実施形態によれば、PVDFは、ポリ(フッ化ビニリデン)ホモポリマーとVDF-HFPコポリマーとの混合物である。
【0034】
一実施形態によれば、PVDFは、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレン(TFE)とのコポリマーである。
【0035】
一実施形態によれば、PVDFは、フッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレン(CTFE)とのコポリマーである。
【0036】
一実施形態によれば、PVDFは、VDF-TFE-HFPターポリマーである。一実施形態によれば、PVDFは、VDF-TrFE-TFEターポリマー(TrFEはトリフルオロエチレンである)である。これらのターポリマーにおいて、VDFの重量含有率は少なくとも10%であり、コモノマーは様々な割合で存在する。
【0037】
一実施形態によれば、PVDFは、2つ以上のVDF-HFPコポリマーの混合物である。HFP系のコモノマーの存在により、リチウム金属に対するコーティングの化学的安定性を改善することが可能になる。
【0038】
一実施形態によれば、PVDFは、以下の官能基、すなわち、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ(グリシジルなど)、アミド、ヒドロキシル、カルボニル、メルカプト、スルフィド、オキサゾリン、フェノール、エステル、エーテル、シロキサン、スルホン酸、硫酸、リン酸又はホスホン酸のうちの少なくとも1つを有するモノマー単位を含む。官能基は、当業者に周知の技術に従って、フッ素化モノマーと、該官能基のうちの少なくとも1つ及びフッ素化モノマーと共重合することができるビニル官能基を有するモノマーとのグラフト化又は共重合であり得る化学反応によって導入される。
【0039】
一実施形態によれば、官能基は、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートから選択される(メタ)アクリル酸タイプの基であるカルボン酸官能性を有する。
【0040】
一実施形態によれば、カルボン酸官能性を有する単位は、酸素、硫黄、窒素及びリンから選択されるヘテロ原子をさらに含む。
【0041】
一実施形態によれば、官能性は、合成工程中に使用される移動剤によって導入される。移動剤は、以下の基である、カルボン酸、カルボン酸無水物、カルボン酸エステル、エポキシ(グリシジルなど)、アミド、ヒドロキシル、カルボニル、メルカプト、スルフィド、オキサゾリン、フェノール、エステル、エーテル、シロキサン、スルホン酸、硫酸、リン酸又はホスホン酸から選択された官能基を有する20000g/mol以下のモル質量を有するポリマーである。このタイプの移動剤の一例は、アクリル酸オリゴマーである。
【0042】
PVDFにおける官能基の含有率は、少なくとも0.01mol%、好ましくは少なくとも0.1mol%及び最大でも15mol%、好ましくは最大でも10mol%である。
【0043】
PVDFは、高分子量であることが好ましい。本明細書で使用される「高分子量」という用語は、100Pa.s超、好ましくは500Pa.s超、より好ましくは1000Pa.s超、有利には2000Pa.s超の溶融粘度を有するPVDFを意味すると理解される。粘度は、規格ASTM D3825に従って、キャピラリーレオメータ又は平行平板レオメータを使用して、232℃、100s-1の剪断勾配で測定される。2つの方法は、同様の結果を与える。
【0044】
本発明で使用されるPVDFホモポリマー及びVDFコポリマーは、乳化重合などの既知の重合方法によって得ることができる。
【0045】
一実施形態によれば、それらは、フッ素化界面活性剤の非存在下での乳化重合工程によって調製される。
【0046】
PVDFの重合により、一般に10重量%~60重量%、好ましくは10重量%~50重量%の固形分含有率を有し及び1マイクロメートル未満、好ましくは1000nm未満、好ましくは800nm未満及びより好ましくは600nm未満の重量平均粒径を有するラテックスが得られる。粒子の重量平均サイズは、一般に少なくとも10nm、好ましくは少なくとも50nmであり及び有利には平均サイズは100~400nmの範囲内である。ポリマー粒子は、二次粒子と呼ばれる弱凝集体を形成し得、その重量平均サイズは、5000μm未満、好ましくは1000μm未満、有利には1~80マイクロメートル及び好ましくは2~50マイクロメートルである。弱凝集体は、配合中及び基材への適用中に個別の粒子に分解することができる。
【0047】
いくつかの実施形態によれば、PVDFホモポリマー及びVDFコポリマーは、バイオベースVDFから構成されている。「バイオベース」という用語は、「バイオマスから得られる」ことを意味する。これにより、コーティングのエコロジカルフットプリントを改善することが可能になる。バイオベースVDFは、規格NF EN 16640に従って14Cの含有率によって決定されるように、少なくとも1原子%の再生可能炭素、すなわち、生体材料又はバイオマスに由来する天然起源の炭素の含有率によって特徴付けられ得る。「再生可能炭素」という用語は、以下に示すように、炭素が天然起源であり、及び生体材料(又はバイオマス)に由来することを示す。いくつかの実施形態によれば、VDFのバイオカーボン含有率は、5%超、好ましくは10%超、好ましくは25%超、好ましくは33%以上、好ましくは50%超、好ましくは66%以上、好ましくは75%超、好ましくは90%超、好ましくは95%超、好ましくは98%超、好ましくは99%超、有利には100%に等しくあり得る。
【0048】
成分B
非限定的な例として、リチウム塩(又は複数のリチウム塩)は、LiPF6(リチウムヘキサフルオロホスフェート)、LiFSI(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド)、TFSI(リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)、LiTDI(リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾレート)、LiPOF2、LiB(C2O4)2、LiF2B(C2O4)2、LiBF4、LiNO3、LiClO4及び挙げられた塩のうちの2つ以上の混合物から選択される。
【0049】
成分C
導電性添加剤は、フルオロポリマーを溶解することなくそれを膨潤させることができ及び1を超える誘電率を有する有機分子又は有機分子の混合物であり得る。一実施形態によれば、成分Cは、直鎖若しくは環状エーテル、エステル、ラクトン、ニトリル、カーボネート及びイオン液体から選択される。
【0050】
非限定的な例として、エーテルの中では、例えば、ジメトキシエタン(DME)、2~5個のオキシエチレン単位のオリゴエチレングリコールのメチルエーテル、ジオキソラン、ジオキサン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン及びそれらの混合物などの直鎖若しくは環状エーテルが挙げられ得る。
【0051】
エステルの中では、リン酸エステル又は亜硫酸エステルが挙げられ得る。例えば、メチルホルマート、メチルアセテート、メチルプロピオネート、エチルアセテート、ブチルアセテート、γ-ブチロラクトン又はそれらの混合物が挙げられ得る。
【0052】
ラクトンの中では、特に、シクロヘキサノンが挙げられ得る。
【0053】
ニトリルの中では、例えば、アセトニトリル、ピルボニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、ジメチルアミノプロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、ピバロニトリル、イソバレロニトリル、グルタロニトリル、メトキシグルタロニトリル、2-メチルグルタロニトリル、3-メチルグルタロニトリル、アジポニトリル、マロノニトリル及びそれらの混合物が挙げられ得る。
【0054】
例えば、カーボネートの中では、エチレンカーボネート(EC)(CAS:96-49-1)、プロピレンカーボネート(PC)(CAS:108-32-7)、ブチレンカーボネート(BC)(CAS:4437-85-8)、ジメチルカーボネート(DMC)(CAS:616-38-6)、ジエチルカーボネート(DEC)(CAS:105-58-8)、エチルメチルカーボネート(EMC)(CAS:623-53-0)、ジフェニルカーボネート(CAS:102-09-0)、メチルフェニルカーボネート(CAS:13509-27-8)、ジプロピルカーボネート(DPC)(CAS:623-96-1)、メチルプロピルカーボネート(MPC)(CAS:1333-41-1)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ビニレンカーボネート(VC)(CAS:872-36-6)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)(CAS:114435-02-8)、トリフルオロプロピレンカーボネート(CAS:167951-80-6)又はそれらの混合物などの環状カーボネートが挙げられ得る。
【0055】
イオン液体の中では、特に、EMIM:FSI、PYR:FSI、EMIM:TFSI、PYR:TFSI、EMIM:BOB、PYR:BOB、EMIM:TDI、PYR:TDI、EMIM:BF4又はPYR:BF4が挙げられ得る。
【0056】
本発明によるアノードコーティングの重量組成:
-20%~80%の重量比を有する成分A、
-1%~40%の重量比を有する成分B、
-2%~50%の重量比を有する成分C
(ただし、これらの比率の合計は、100%である)
を有する。
【0057】
本発明はまた、溶媒中でコーティングのすべての構成物質を混合することによって得られたインクから、溶媒ルートによって上記のアノードコーティングを製造するための方法に関する。
【0058】
コーティングを調製することを可能にするインクは、プラネタリーミキサ、遠心分離機、オービタルミキサ、スターラーシャフト又はUltra-Turraxなどの当業者に知られている任意の種類のミキサによって生成され得る。インクの異なる構成物質は、厳密な順序で加えられるわけではない。インクは、周囲温度から最大でインクを製造するために使用される溶媒の沸点までの範囲の異なる温度で製造することができる。
【0059】
使用される溶媒は、好ましくはハンセンパラメータが2より大きい極性溶媒である。非限定的な例として、特に、アセトン、トリエチルアセチルシトレート(TEAC)、γ-ブチロラクトン(GBL)、シクロヘキサノン(CHO)、シクロペンタノン(CPO)、ジブチルフタレート(DBP)、ジブチルセバケート(DBS)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジエチルフタレート(DEP)、ジヒドロレボグルコセノン(Cyrene)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,4-ジオキサン、3-ヘプタノン、ヘキサメチルホスホラミド(HMPA)、3-ヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)、3-オクタノン、3-ペンタノン、プロピレンカーボネート(PC)、テトラヒドロフラン(THF)、テトラメチル尿素(TMU)、トリアセチン、トリエチルシタレート(TEC)、トリエチルホスフェート(TEP)、トリメチルホスフェート(TMP)、N,N,N’,N’-テトラブチルスクシンジアミド(TBSA)又は挙げられた溶媒のうちの2つ以上の混合物が挙げられ得る。
【0060】
一実施形態によれば、本発明によるコーティングされたアノードの多孔度は、10%未満、好ましくは5%未満である。
【0061】
コーティングされた電極(CE)の多孔度は、M.Cai,Nature Communications,10,2019,4597による刊行物に記載されている以下の計算に従って得られる:
【0062】
【数1】
式中、V
CEは、コーティングされた電極の真の体積を表し、コーティングされた電極の表面積にコーティングされた電極の厚さを掛けることによって計算される。V
denseCEは、孔を有さない構成物質の各々が占める体積を表し、以下の式に従って計算される:
【0063】
【数2】
V
denseCEは、コーティングされた電極の各構成物質が占める体積の合計である。
【0064】
このコーティングの厚さは、0.1~100μm、優先的には0.1~50μm及びより優先的には0.1~35μmの範囲であり得る。
【0065】
本発明はまた、本発明によるコーティング層で被覆された活性物質を含む、好ましくはそれからなる、全固体リチウムイオン電池用のアノードに関する。好ましくは、アノードの該活性物質は、金属支持体上に堆積されている。
【0066】
一実施形態によれば、負極中の活性物質は、グラファイト、Li4Ti5O12タイプのリチウムチタネート、酸化チタンTiO2、シリコン若しくはリチウム/シリコンアロイ、酸化スズ、リチウム金属間化合物、リチウム金属又はそれらの混合物から選択される。
【0067】
活性物質は、リチウム金属とは別に、電子伝導性物質及び結合剤と混合される。
【0068】
電子伝導性物質は、カーボンブラック、天然若しくは合成グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、金属繊維及び金属粉末並びに導電性金属酸化物から選択される。優先的には、それらは、カーボンブラック、天然若しくは合成グラファイト、炭素繊維及びカーボンナノチューブから選択される。
【0069】
アノードを製造するために使用される結合剤は、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン)、酸官能性を呈し得るフルオロポリマー(PVDF)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、セルロース系のポリマー、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、PTFE又は液晶ポリマーから選択されるポリマーである。
【0070】
したがって、該アノードは、a)少なくとも1つのポリ(フッ化ビニリデン)(成分A)と、b)少なくとも1つのリチウム塩(成分B)と、少なくとも1つの導電性添加剤(成分C)とを含む、好ましくはそれらからなる本発明によるコーティング層で被覆された活性物質を含み、好ましくはそれからなる。好ましくは、該アノードは、本出願で定義された多孔度を有する。
【0071】
本発明はまた、Liイオン電池負極を製造するための方法であって、該方法が、以下の作業:
-アノードを提供すること、
-該アノード上に、本発明によるコーティング層を堆積させること
を含む、方法に関する。
【0072】
したがって、本発明は、a)少なくとも1つのポリ(フッ化ビニリデン)(成分A)と、b)少なくとも1つのリチウム塩(成分B)と、少なくとも1つの導電性添加剤(成分C)とを含む、好ましくはそれらからなる本発明によるコーティング層で被覆された活性物質がその上に堆積された金属支持体を備える、好ましくはそれからなる負極を提供する。
【0073】
このコーティングは、溶媒ルートによるコーティング、浸漬-引上げ法、遠心コーティング法、スプレーコーティング法又はカレンダ加工によるコーティングの方法などの、当業者に知られている任意の堆積方法によって生成することができる。これらの堆積技術は、5℃~最大180℃の範囲であり得る異なる温度で実施することができる。
【0074】
アノードの金属支持体は、一般に銅製である。金属支持体は、表面処理され得、5μm以上の厚さの導電性プライマーを有し得る。支持体はまた、炭素繊維で作製された織布又は不織布であり得る。
【0075】
本発明の別の主題は、負極と、正極と、全固体電解質とを備え、アノードが上記の通りである、全固体Liイオン蓄電池である。
【0076】
一実施形態によれば、該電池のカソードもまた本発明によるコーティング層で被覆されている。
【実施例】
【0077】
以下の実施例は、本発明の範囲を非限定的に示す。
【0078】
フルオロポリマー(FP)溶液の調製:
23%の重量含有率のHFPを有するVDF-HFPコポリマー14.992gを、アセトン85.753gに、完全に溶解させるために2000rpmで6回×1分間プラネタリーミキサを使用して溶解させる。
【0079】
コーティング用インクIの調製:FP/LiFSI/S1 60/20/20
LiFSI0.441gを、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(CAS 143-24-8)0.449gに、磁気スターラを21℃で10分間使用して溶解する。次いで、アセトン中FP15%溶液8.826gを加える。
【0080】
コーティング用インクIIの調製:FP/LiFSI/MPCN 60/20/20
LiFSI0.3986gを、メトキシプロピオニトリル(CAS 110-67-8)0.3986gに、磁気スターラを21℃で10分間使用して溶解する。次いで、アセトン中FP15%溶液7.972gを加える。
【0081】
コーティング用インクIIIの調製:FP/LiFSI/S1 40/30/30
LiFSI0.528gを、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(CAS143-24-8)0.528gに、磁気スターラを21℃で10分間使用して溶解する。次いで、アセトン中FP15%溶液4.675gを加える。
【0082】
インクIIIによるリチウム金属のコーティング:
コーティングブレードを用いて、厚さ200μmのリチウム金属箔にインクIIIをコーティングする。堆積したウェットフィルムの厚さは50μmである。周囲温度で2時間乾燥させた後、堆積したフィルムの厚さは38μmと測定される。次いで、電極をカレンダ加工して、リチウム金属上に2μmの堆積物を得る。イオン伝導度は、インピーダンス分光法により測定される。得られた値は0.553mS/cmである。
【0083】
デンドライト試験:
デンドライト試験を実施して、インクIIIを用いて得られたLi金属上のコーティングを標準的な液体電解質と比較する。
【0084】
方法:方法は、対称Li金属/Li金属電池を充電及び放電することからなり、次いで、電池の電位が測定される。この電位は電極の表面積に比例するため、デンドライトの出現により電位が上昇する。
【0085】
使用されたシステム:
カソード:コーティングされた又はコーティングされていないリチウム金属
アノード:リチウム金属
0.25mAの正電流を用いて0.25mAhのエネルギー密度まで電池を充電する。次いで、0.25mAの負電流を用いて0.25mAhのエネルギー密度まで電池を放電する。
【0086】
液体電解質の場合、多孔質PEセパレータを、EC/EMC 3/7体積比中に1M LiFSIを含有する電解質溶液に浸す。
【0087】
電池の初期電位が2倍になるまで要する時間を表1に示す。
【0088】
【国際調査報告】