(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】廃リチウム電池からリチウムを回収する方法
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20240912BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240912BHJP
C22B 1/08 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B1/02
C22B1/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518882
(86)(22)【出願日】2022-12-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-26
(86)【国際出願番号】 KR2022019599
(87)【国際公開番号】W WO2023106758
(87)【国際公開日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0176599
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(71)【出願人】
【識別番号】592000705
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ウン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 ギルソー
(72)【発明者】
【氏名】ウ、 クワン ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ビュン ウォン
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA11
4K001CA13
4K001DA08
(57)【要約】
本実施形態は、廃リチウム電池セルおよび添加剤を含む混合物を熱処理する段階;および熱処理段階で生成されるリチウム塩を捕集する段階;を含む廃リチウム電池からリチウムを回収する方法を提供することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃リチウム電池セルおよび添加剤を含む混合物を熱処理する段階;および
前記熱処理段階で生成されるリチウム塩を捕集する段階;を含む
廃リチウム電池からリチウムを回収する方法。
【請求項2】
前記廃リチウム電池セルおよび添加剤を含む混合物を熱処理する段階は、100℃~1500℃の範囲の温度で行われる、請求項1に記載の廃リチウム電池からリチウムを回収する方法。
【請求項3】
前記廃リチウム電池セルおよび添加剤を含む混合物を熱処理する段階は、100℃~1100℃の範囲の温度で行われる、請求項2に記載の廃リチウム電池からリチウムを回収する方法。
【請求項4】
前記廃リチウム電池セルおよび添加剤を含む混合物を熱処理する段階は、10分~5時間の範囲の時間行われる、請求項1に記載の廃リチウム電池からリチウムを回収する方法。
【請求項5】
前記添加剤は、Cl化合物またはF化合物、P化合物、S化合物およびN化合物のうちから選択される1種以上のものである、請求項1に記載の廃リチウム電池からリチウムを回収する方法。
【請求項6】
前記添加剤のCl化合物は、MgCl
2、FeCl
2およびFeCl
3のうちから選択される1種以上である、請求項5に記載の廃リチウム電池からリチウムを回収する方法。
【請求項7】
前記廃リチウム電池セルに含まれるリチウムを基準にして、Cl当量が0.5当量~3当量の範囲で前記添加剤を投入する、請求項5に記載の廃リチウム電池からリチウムを回収する方法。
【請求項8】
前記廃リチウム電池セルおよび添加剤を含む混合物を熱処理する段階;以前に、
廃リチウム電池セルの負極材を前処理する段階を行う、請求項1に記載の廃リチウム電池からリチウムを回収する方法。
【請求項9】
前記捕集されたリチウム塩は液相、固相、液相または固相と液相の混合物であり、
前記捕集されたリチウム塩を水洗浄して高純度のリチウム塩を得る、請求項1に記載の廃リチウム電池からリチウムを回収する方法。
【請求項10】
前記捕集されたリチウム塩は気相であり、
前記気相リチウム塩を冷却ゾーンで固相化後、水洗浄して高純度のリチウム塩を得る、請求項1に記載の廃リチウム電池からリチウムを回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、廃リチウム電池からリチウムを回収する方法に関するものである。より具体的に、廃リチウム電池に添加剤を混合し、低温溶融条件でリチウム塩を回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム電池は充放電性能に優れエネルギー密度が高いため二次電池として広く使用されており、特に携帯電話機およびノートパソコンなどの小型電子製品に広範囲に活用されている。最近、電気自動車などの普及が可視化されるにつれて大容量リチウム電池の開発が活発に行われている。
【0003】
リチウム電池に含まれているリチウムは非常に高価の金属であって、廃棄されるリチウム電池からリチウムを回収して再使用することが必要である。
【0004】
リチウム電池からリチウムを抽出するかまたは回収する従来の方法としては、廃リチウム電池から正極物質を分離した後、強酸で抽出した後にアルカリで中和させてコバルト、ニッケルなどを水酸化物として沈殿させて回収する工程と、過酸化水素存在下で硫酸または硝酸で正極物質を溶解した後に中和沈殿法で金属を分離回収する湿式工程が一般に使用されてきた。しかし、前記湿式工程は、塩酸、硫酸および硝酸を使用する方法は抽出工程時に強酸を使用しなければならないため大気中への蒸発による深刻な環境汚染と、特に酸による設備腐食などの問題がある。
【0005】
また、このような湿式工程で発生する問題を解決する代案として、廃リチウム電池に添加剤を混合し、溶融させてリチウムを回収する乾式工程が提示されている。しかし、このような溶融による乾式工程は投入されるCaCl2、MgCl2およびMnCl2など添加剤の場合、塩化リチウム生成と共にCaO、MgOなどがスラグとして生成されて、高温上のスラグの粘性および流動性を低下させることがある。このような高温のスラグ上の流動性低下問題を解決するために追加フラックスの投入が不可避である。
【0006】
したがって、環境汚染および設備腐食問題を解決しながら運転の容易な技術の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本実施形態では、廃リチウム電池から効率的にリチウムを回収することができる低温乾式リチウム回収方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態による廃リチウム電池からリチウムを回収する方法は、廃リチウム電池セルおよび添加剤を含む混合物を低温溶融する段階;および前記低温溶融段階で生成されるリチウム塩を捕集する段階;を含むことができる。
【0009】
廃リチウム電池セルおよび添加剤の混合物を低温溶融する段階;および前記低温溶融段階で生成されるリチウム塩を捕集する段階;を含むことができる。
【0010】
また、前記廃リチウム電池セルおよび添加剤を含む混合物を低温溶融する段階は、100℃~1500℃の範囲の温度で行われてもよく、具体的に、100℃~1100℃の範囲の温度で行われてもよく、10分~5時間の範囲の時間行われてもよい。
【0011】
また、前記添加剤はFeCl3であってもよく、前記廃リチウム電池セルに含まれるリチウムを基準にして、Cl当量が0.5当量~3当量範囲で添加剤FeCl3を投入することができる。
【0012】
前記廃リチウム電池セルおよび添加剤を含む混合物を低温溶融する段階以前に、廃リチウム電池セルの負極材を前処理する段階を行うことができる。
【0013】
前記捕集されたリチウム塩は液相、固相、液相または固相と液相の混合物であってもよく、前記捕集されたリチウム塩を水洗浄して高純度のリチウム塩を得ることができる。
【0014】
また、前記捕集されたリチウム塩は気相であり、前記気相リチウム塩を冷却ゾーンで固相化後、水洗浄して高純度のリチウム塩を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本実施形態によれば、添加剤を廃リチウム電池と混合して、低温で溶融させて廃リチウム電池内のリチウムを効率的に回収することができる。
【0016】
添加剤を使用して低温条件で溶融することによって、設備に対する腐食など問題を防止することができ、全体運転制御が容易であるだけでなく、低温運転による運転費用を減らすことができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態による廃リチウム電池からリチウムを回収する方法を概略的に示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1、第2および第3などの用語は多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語はある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下で述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションとして言及できる。
【0019】
ここで使用される専門用語は単に特定実施形態を言及するためのものに過ぎず、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は文句がこれと明確に反対の意味を示さない限り複数形態も含む。明細書で使用される“含む”の意味は特定特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外するのではない。
【0020】
ある部分が他の部分“の上に”または“上に”あると言及する場合、これは直に他の部分の上にまたは上にあるかまたはその間に他の部分が伴われることもある。対照的に、ある部分が他の部分“の真上に”あると言及する場合、その間に他の部分が介されない。
【0021】
別段に定義してはいないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞典に定義された用語は関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されていない限り理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
【0022】
以下、本発明の実施形態を詳しく説明する。但し、これは例示として提示されるもので、これによって本発明が制限されず、本発明は後述の請求範囲の範疇によってのみ定義される。
【0023】
図1は、一実施形態による廃リチウム電池からリチウムを回収する方法を概略的に示したものである。
【0024】
図1を参照すれば、本発明の一実施形態による廃リチウム電池からリチウムを回収する方法は、廃リチウム電池セルと添加剤を混合し低温溶融する段階(S1);および前記低温溶融段階で得られたリチウム塩を捕集する段階(S2);を含むことができる。
【0025】
まず、廃リチウム電池セルと添加剤を混合し低温溶融する段階(S1)を行うことができる。
【0026】
廃リチウム電池セルは、破砕されるかまたは破砕されていない状態で反応炉に投入することができる。
【0027】
廃リチウム電池セルは、負極材、正極材およびセル構造体からなり得る。負極材は銅、カーボンなどを含むことができ、正極材はリチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、アルミニウムおよび鉄を含むことができ、セル構造体は銅およびアルミニウムを含むことができる。
【0028】
廃リチウム電池内のリチウムを選択的に回収するためには、廃リチウム電池に含まれるAlとLiの化合物であるLiAlO2のような化合物生成を最小化するためにLi酸化物と比較してLiの蒸気圧を最大化することができる化合物であるLiCl、LiF、Li3PO4、Li2S、Li2SO4、LiNO3のような化合物を形成することが有利である。
【0029】
一実施形態では、添加剤はCl化合物またはF化合物、P化合物、S化合物およびN化合物のうちから選択される1種以上であってもよく、具体的に、MgCl2、FeCl2およびFeCl3のうちから選択される1種以上であってもよく、より具体的に、FeCl3であってもよい。FeCl3の場合、低温で廃リチウム電池内のLiと反応してLiClが製造可能で、CaCl2、MgCl2などの添加剤が塩化物と反応時には高温の反応温度が必要な問題を解決することができる。
【0030】
一方、前記添加剤使用量は、廃リチウム電池セルに含まれるリチウムを基準にしてClが0.5当量~3当量範囲で投入でき、具体的に1当量~2当量範囲で投入できる。
【0031】
添加剤の投入量が前記範囲より少なければ、リチウム回収率が低まることがある。反面、添加剤の投入量が前記範囲を超過すれば、その他の金属塩化物生成可能性を誘発することがある。
【0032】
反応炉で添加剤FeCl3は廃リチウム電池内のNiMnCo合金と共に捕集金属として活用可能であり、一部はFeOに転換される。ここで、廃リチウム電池内の過量のカーボン(C)によって金属の捕集が難しいこともある。投入された添加剤FeCl3が反応後残ったFeは、一部NiCoMnと共にCと反応してFe3C形態に合金化可能である。一例として、カーボン含量によって注入したFeCl3中のClがLiと反応してLiClを形成し、残ったFeはFe3Cになるか、またはFeOになって生成スラグとして浮遊可能である。
【0033】
また、K2O、BaO、Na2Oのような酸化物を追加的に投入することができる。前記酸化物を投入することによって、廃リチウム電池に含まれるAlとLiの化合物であるLiAlO2のような化合物生成を低下させるのに有利である。
【0034】
廃リチウム電池と添加剤は混合されて低温溶溶される。
【0035】
低温溶融温度は100℃~1500℃の範囲であってもよく、具体的に100℃~1100℃の範囲であってもよく、より具体的に100℃~1000℃の範囲であってもよい。また、低温溶融時間は10分~5時間の範囲であってもよい。
【0036】
低温溶融温度が前記温度範囲より低い場合、反応生成駆動力が低く、廃リチウム電池内のリチウムがリチウム塩に転換される効率が低下する問題がある。また、前記温度範囲より高い場合、反応炉内の雰囲気が不安定で、生成されるリチウムの品質が低下する問題が発生することがあり、温度上昇による運転費用が増加する問題がある。
【0037】
一方、廃リチウム電池セルを反応炉に投入する前に負極材に含まれるカーボンを除去するための負極材前処理過程を行うことができる。前記負極材前処理方法は、カーボンを選択的に酸化させるか、または負極材を事前除去せずそのまま活用することができる。但し、これに限定されない。
【0038】
前記負極材前処理を通じて負極材内のカーボンを処理するようになると、還元合金の溶融および捕集が安定化される。これはリチウム回収効率を向上させることができる利点がある。
【0039】
その次に、低温溶融段階で生成されるリチウム塩を捕集部で捕集する段階(S2)を行うことができる。
【0040】
低温溶融段階で廃リチウム電池セル内のリチウムはリチウム塩に転換され、工程温度および冷却環境によって気相、液相および固相のうちの一つ以上の状態であり得る。
【0041】
また、生成されたリチウム塩は別途に備えられた捕集部で捕集できる。反応炉温度が1000℃以上である時、生成されたリチウム塩は蒸発されて気相であり得る。気相の塩化リチウムが生成されると、後段部に冷却ゾーンでリチウムを固相化し水洗浄して塩化リチウム水溶液として回収する。
【0042】
反応炉温度が600℃~1000℃の範囲である時、生成されたリチウム塩は溶融されて液相であり、反応炉温度が600℃未満の範囲である時、生成されたリチウム塩は固相であり得る。
【0043】
反応炉温度が100℃~1000℃の範囲である時、液相、固相、液相または固相と液相の混合物であり得る。
【0044】
リチウム塩が液相、固相または固相と液相の混合物である場合、前記反応炉下段部に位置する別途の捕集装置を用いててリチウム塩を分離することができる。このとき、分離されたリチウム塩は水洗浄を通じてリチウム塩水溶液に転換された後、高純度のリチウム塩を得ることができる。
【0045】
前記得られたリチウム塩水溶液内のリチウム濃度分析を通じてリチウム回収率を計算することができる。
【0046】
一方、前記リチウム塩が液相または固相である場合、後段に高温反応炉を備えて、塩化リチウムを高温で蒸発させて、高純度の塩化リチウムを得ることができる。このとき、高温反応炉温度は1400℃以上であってもよい。
【0047】
以下、本発明の実施例、比較例を詳しく説明する。但し、これは例示として提示されるもので、これによって本発明が制限されず、本発明は後述の請求範囲の範疇によってのみ定義される。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
廃リチウム電池セルとFeCl3を混合して、1100℃以下の温度で1時間以内に加熱してリチウム塩を回収した。リチウム塩は気化せずに原料内生成物として残存している。
【0049】
(比較例1および2)
比較例1は添加剤をFeCl3の代わりにCaCl2を使用し、比較例2はMgCl2を使用したことを除いては、実施例1と同様な方法でリチウム塩を回収した。
【0050】
実施例1、比較例1および比較例2によって回収されたリチウムの回収率は下記表1に示した。回収率は、廃リチウム電池セル内のリチウム総量に対する水浸出で回収されたリチウム塩をリチウム回収率を算定した。
【0051】
【0052】
上記表1を参照すれば、実施例1によって回収されたリチウムの回収率は83.83%で、比較例1の68.99%および比較例2の69.09%より優れていることが明らかになった。
【0053】
本発明は前記実施形態に限定されるわけではなく、互いに異なる多様な形態に製造でき、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に実施できるということが理解できるはずである。したがって、以上で述べた実施形態は全ての面で例示的なものであり限定的ではないと理解しなければならない。
【国際調査報告】