(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】薬物濃度及び標的濃度を定量化するためのアッセイ
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240912BHJP
【FI】
G01N33/53 N
G01N33/53 U
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518992
(86)(22)【出願日】2022-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 US2022045048
(87)【国際公開番号】W WO2023055808
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】パートリッジ マイケル
(72)【発明者】
【氏名】チェン ジーファ
(72)【発明者】
【氏名】ケンドラ キンバリー
(72)【発明者】
【氏名】シャンク ステイシー
(72)【発明者】
【氏名】ディステファノ リサ
(72)【発明者】
【氏名】アンディシク マシュー
(72)【発明者】
【氏名】トッリ アルバート
(72)【発明者】
【氏名】オリベイラ サムナー ジャンヌ
(57)【要約】
本発明は、概して、薬物及びその標的の濃度を決定する方法に関する。特に、本発明は、部分的には、標的干渉又は薬物干渉のいずれかを軽減するために、弱酸性アッセイ条件を使用して全薬物濃度及び全標的濃度を決定することに関する。本発明は、薬物と比較して会合及び解離速度がはるかに遅いより低い親和性を有する捕捉物質を使用する、遊離標的アッセイも開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、サンプル中の遊離標的の濃度を決定するための方法:
a.結合標的及び前記遊離標的を有する前記サンプルを、捕捉物質でコーティングされた固体支持体に添加するステップであって、前記捕捉物質が、薬物と比較して、標的に対しより低い親和性及びより大きなt
1/2を有する、前記ステップと、
b.検出可能な標識を有する検出物質を添加するステップと、
c.前記サンプル中の前記遊離標的の濃度を決定するために、前記検出物質の前記検出可能な標識からのシグナルを測定するステップであって、前記シグナルが前記サンプル中の前記遊離標的の濃度に比例する、前記ステップ。
【請求項2】
前記固体支持体が、ストレプトアビジンでコーティングされている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記捕捉物質が、ビオチン化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(a)の前記サンプルが、約15分間又は約45分間インキュベートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記検出可能な標識が、ルテニウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記検出可能な標識が、電気化学発光基質である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(c)の前記シグナルが、電圧を印加することによって取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記シグナルを標準検量線と比較することによって、前記シグナルから遊離標的の量を決定するステップを更に含み、前記標準検量線が、3つの異なる濃度の前記遊離標的を有する少なくとも3つの標準溶液を前記サンプルの代わりに使用することによって作成される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
以下を含む、サンプル中の全標的の濃度を決定するための方法:
a.前記サンプルを酸性溶液に接触させるステップと、
b.前記サンプルを、捕捉物質でコーティングされた固体支持体に添加するステップと、
c.検出可能な標識を有する検出物質を添加するステップと、
d.前記サンプル中の前記全標的の濃度を決定するために、前記検出物質からのシグナルを測定するステップであって、
前記全標的が、薬物と複合体を形成した標的と、遊離標的とを含み、
前記シグナルが、前記サンプル中の前記全標的の濃度に比例する、前記ステップ。
【請求項10】
前記捕捉物質が、ビオチン化されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記検出可能な標識が、ルテニウムである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記検出可能な標識が、電気化学発光基質である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
(c)の前記シグナルが、電圧を印加することによって取得される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(b)が約60分間インキュベートされる、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(c)が約60分間インキュベートされる、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記酸性溶液が、約5.0~約7.0のpHを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記酸性溶液が、約6.0のpHを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記酸性溶液が、300mMの酢酸を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記捕捉物質が、前記標的に対して、前記薬物よりもより低い解離速度及びより大きなt
1/2を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
前記検出物質が、前記標的に対して、前記薬物よりもより低い解離速度及びより大きなt
1/2を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項21】
前記シグナルを標準検量線と比較することによって、前記シグナルから全標的の量を決定するステップを更に含み、前記標準検量線が、3つの異なる濃度の遊離標的を有する少なくとも3つの標準溶液を前記サンプルの代わりに使用することにより、請求項9に記載の方法を実行することによって作成される、請求項9に記載の方法。
【請求項22】
以下を含む、サンプル中の全薬物の濃度を決定するための方法:
a.前記サンプルを酸性溶液に接触させるステップと、
b.前記サンプルを、捕捉物質でコーティングされた固体支持体に添加するステップと、
c.検出可能な標識を有する検出物質を添加するステップであって、前記捕捉物質が前記捕捉物質とは異なる、前記ステップと、
d.前記サンプル中の前記全標的の濃度を決定するために、前記検出物質からのシグナルを測定するステップであって、
前記全薬物が、標的と複合体を形成した薬物と、遊離薬物とを含み、
前記シグナルが、前記サンプル中の前記遊離標的の濃度に比例する、前記ステップ。
【請求項23】
前記シグナルを標準検量線と比較することによって、前記シグナルから遊離薬物の量を決定するステップを更に含み、前記標準検量線が、3つの異なる濃度の前記遊離薬物を有する少なくとも3つの標準溶液を前記サンプルの代わりに使用することによって作成される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記捕捉物質が、前記薬物に結合するモノクローナル抗体である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記検出物質が、前記捕捉物質とは異なる、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
前記検出物質が、ビオチン化されている、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
前記検出物質との結合に特異的な基質を添加するステップを更に含み、前記検出物質に結合した前記基質が、(d)の前記シグナルを提供する、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
前記酸性溶液が、約5.0~約7.0のpHを有する、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
前記酸性溶液が、約6.0のpHを有する、請求項22に記載の方法。
【請求項30】
前記酸性溶液が、30mMの酢酸を含む、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月28日に出願された米国仮特許出願第63/249,417号の優先権及び利益を主張し、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、一般に、臨床研究サンプル中の薬物濃度及び標的濃度を正確に定量できる全薬物アッセイ、遊離標的アッセイ及び全標的アッセイを提供することに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
血清などの複雑な生体サンプル中の微量の生物療法薬の測定は、基礎科学だけでなく患者管理にとっても臨床上の重要性が高まっている。例えば、モノクローナル抗体(mAb)は、糖尿病、がん、炎症、感染症などの様々な症状の治療を目的として急速に発展している生物療法薬である。リガンド結合アッセイ(LBA)は、mAb及び対応する標的を定量化するために一般的に使用される。生体サンプルには、遊離mAb(すなわち、標的に結合しない)、遊離標的(すなわち、mAb又は可溶性の生理学的/内因性結合パートナーに結合しない)、並びにmAbと標的の一価及び/又は二価複合体を含む、複数の形態のmAb及び標的が存在する。非臨床設定では、循環中の全mAb濃度は通常、全身曝露の評価と潜在的な薬物毒性の評価に使用され、ファースト・イン・ヒューマン(FIH)試験における安全な開始用量及び/又は有効用量を決定するのに役立つ。
【0004】
臨床評価では、mAb濃度データを使用して主要な薬物動態(PK)パラメータを決定し、薬物消長を特徴付け、曝露と安全性及び有効性を相関させ、後の段階の研究での投与計画の選択を行う。標的濃度は、非臨床開発段階でも使用され、有効なmAb濃度を決定し、モデルに基づいた用量の決定を可能にすることができる。臨床現場の標的データは、ヒトのPKプロファイルを特徴付け、安全性と有効性に関するPK/薬力学(PD)の関係を定義し、患者集団におけるPK/PDモデルを確立するために使用され得る。特に、全標的データは、標的の蓄積に対するmAbの影響、及び持続的な完全な標的抑制を達成するために循環中に継続的な標的の関与があるかどうかに関する情報を提供する。遊離標的データは、有効な用量を決定し、用量レベル/スケジュールの選択をガイドするのに役立つ。遊離標的は、PK/PDモデリングにも使用でき、他のPD/エンドポイントの結果を理解するのに役立つ。
【0005】
薬物と標的の測定は重要な情報を提供するが、薬物と標的の測定の精度は、生物分析法の適切な設計と使用される重要な試薬の品質に依存する。捕捉試薬と検出試薬は、遊離標的アッセイ及び全標的アッセイのアッセイ特異性を決定する上で重要な成分である。更に、標的アッセイで使用される抗標的抗体が生物療法薬と重複する認識領域を持っている場合、生物療法薬の存在により、全標的の正確な定量が妨げられる可能性がある。従って、薬物干渉を軽減するには、酸解離や抗薬物抗体の使用などの特定の戦略を使用する必要がある。更に、標的結合に関して薬物と競合しない抗標的抗体は、捕捉試薬及び検出試薬として使用され得る。しかし、標的:薬物の複合体中の薬物は、立体障害によって依然として全標的の正確な検出に影響を与える可能性がある。アッセイのpHを調整して、薬物及び/又は捕捉試薬と検出試薬への標的の結合を選択的に変更し、薬物干渉を軽減することもできる。
【0006】
多くの場合、遊離標的濃度は非常に低く、代謝回転が速く、アッセイ条件によって変化し得るため、薬物の存在下で遊離標的を測定するための高感度LBA法の開発も困難である。捕捉抗体は通常、標的上の薬物と同じ結合エピトープをめぐって競合するため、アッセイプロセス中の薬物結合標的と捕捉抗体との間のサンプル平衡の変化は、遊離標的濃度の過大評価につながる可能性がある。従って、生物療法薬と標的の会合の動態を完全に理解することが重要である。既存の薬物結合標的の解離を最小限に抑え、遊離標的を正確に測定するには、アッセイ条件を最適化する必要がある。標的に対する捕捉抗体の親和性は通常、サンプル平衡への影響や遊離標的濃度の人為的増加を最小限に抑えるために、薬物の親和性と比較してはるかに弱い必要がある。同様の理由で、捕捉抗体の濃度を最適化する必要がある。更に、サンプルの収集、希釈、凍結/解凍サイクル、保管などの他の要因も、生物療法薬と標的との間の会合の動態を変化させる可能性があり、例えば、塩や界面活性剤の濃度の高い緩衝液を使用し、サンプルのインキュベーション時間を長くすると、薬物と標的との間の解離に影響を与えることができる。
【0007】
免疫沈降、固相抽出、又は親和性分離を使用して結合標的を除去することにより、遊離標的アッセイを開発することもできる。しかし、追加のプロセスは、カラム又はフィルタ/ビーズ表面への標的の吸着によって他の変化を導入することができる。標的:薬物の複合体の解離は、プロセス全体を通じて依然として発生することができる。更に、この手順は労働集約的でスループットが低く、個々のアッセイ手順の各ステップの厳密な標準化が必要である。Gyrolabテクノロジーなどの他のアッセイプラットフォームを使用して、通常最小限のサンプル希釈と短いサンプルインキュベーション時間で遊離標的の定量を可能にすることもできる。Dysinger and Ma.AAPS J.,20(6),106(2018)(非特許文献1)を参照のこと。
【0008】
最後に、また、全薬物アッセイの開発も困難になる可能性があり、特に標的が高濃度で存在する場合には、抗イディオタイプ捕捉又は検出mAbが薬物に結合する能力が妨げられる可能性がある。Lee,J.W.,et al.,AAPS J,2011.13(1):p.99-110(非特許文献2);Watanabe et al.AAPS J.23(1),21(2021)(非特許文献3)を参照のこと。
【0009】
LC-MSは、生物療法薬とその標的の濃度を測定するための定量ツールとして登場した。van de Merbel NC.Bioanalysis 11(7),629-644(2019)(非特許文献4)を参照のこと。優れた精度と正確さを有する広いダイナミックレンジを提供する。また、複数の分析物を同時に定量化するために使用することもでき、重要な免疫試薬への依存度が低くなる。このアプローチは、薬物、標的、他の内因性結合タンパク質などによるアッセイ干渉も克服でき、薬物や標的の総量を測定するために簡単に使用できる。しかし、LC-MSは通常、感度が限られた低スループットの方法である。
【0010】
治療用タンパク質とその標的の正確な定量は、有効性と安全性の評価及び用量選択をサポートする曝露-反応関係の評価にとって重要であるためである。従って、医薬品開発プログラムをサポートするには、信頼性が高く正確な生物分析法を開発することが重要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Dysinger and Ma.AAPS J.,20(6),106(2018)
【非特許文献2】Lee,J.W.,et al.,AAPS J,2011.13(1):p.99-110
【非特許文献3】Watanabe et al.AAPS J.23(1),21(2021)
【非特許文献4】van de Merbel NC.Bioanalysis 11(7),629-644(2019)
【発明の概要】
【0012】
概要
本明細書に開示される例示的な実施形態は、薬物濃度及び標的濃度を決定するための方法を提供することによって、前述の要求を満たす。
【0013】
本開示は、サンプル中の遊離標的の濃度を決定するための方法を提供する。例示的な一実施形態では、該方法は、結合標的及び上記遊離標的を有する上記サンプルを、捕捉物質でコーティングされた固体支持体に添加するステップであって、上記捕捉物質は、薬物と比較して、標的に対する親和性が低く、会合速度がはるかに遅い、ステップと、検出可能な標識を有する検出物質を添加するステップと、上記サンプル中の上記遊離標的の濃度を決定するために検出物質の検出可能な標識からのシグナルを測定するステップであって、シグナルが上記サンプル中の上記遊離標的の濃度に比例する、ステップとを含む。
【0014】
この実施形態の一態様では、該方法は、上記シグナルを標準検量線と比較することによって、上記シグナルから遊離標的の量を決定するステップを更に含み、標準検量線は、3つの異なる濃度の上記遊離標的を有する少なくとも3つの標準溶液を上記サンプルの代わりに使用することにより、方法を実行することによって作成される。
【0015】
この実施形態の一態様では、サンプルは捕捉物質とともに約15分間インキュベートされる。この実施形態の別の態様では、サンプルは捕捉物質とともに約30分間インキュベートされる。更に、この実施形態の別の態様では、サンプルは捕捉物質とともに約45分間インキュベートされる。更に、この実施形態の別の態様では、サンプルは捕捉物質とともに約60分間インキュベートされる。
【0016】
この実施形態の一態様では、サンプルは検出物質とともに約15分間インキュベートされる。この実施形態の別の態様では、サンプルは検出物質とともに約30分間インキュベートされる。更に、この実施形態の別の態様では、サンプルは検出物質とともに約45分間インキュベートされる。更に、この実施形態の別の態様では、サンプルは検出物質とともに約60分間インキュベートされる。
【0017】
この実施形態の一態様では、上記捕捉物質の親和性は、薬物よりも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、約10倍、約15倍、約20倍、約25倍、約30倍、約35倍、約40倍、約45倍、又は約50倍低い。この実施形態の別の態様では、上記捕捉物質の親和性は、薬物よりも約50倍超低い。
【0018】
この実施形態の一態様では、上記捕捉物質の半減期は、薬物よりも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍長い。この実施形態の別の態様では、上記捕捉物質の半減期は、薬物よりも約10倍超長い。
【0019】
この実施形態の一態様では、固体支持体はストレプトアビジンでコーティングされている。
【0020】
この実施形態の一態様では、捕捉物質はビオチン化されている。
【0021】
この実施形態の一態様では、検出可能な標識は、ルテニウムである。この実施形態の別の態様では、検出可能な標識は、電気化学発光基質である。
【0022】
この実施形態の一態様では、上記シグナルは、電圧を印加することによって取得される。
【0023】
この実施形態の一態様では、上記検出物質は、上記捕捉物質とは異なる。この実施形態の別の態様では、上記検出物質は、上記捕捉物質と同じである。
【0024】
本開示は、サンプル中の全標的の濃度を決定するための方法を提供する。例示的な一実施形態では、該方法は、上記サンプルを酸性溶液に接触させるステップと、上記サンプルを、捕捉物質でコーティングされた上記固体支持体に添加するステップと、検出可能な標識を有する検出物質を添加するステップと、上記サンプル中の上記全標的の濃度を決定するために検出物質からのシグナルを測定するステップであって、上記全標的は、薬物と複合体を形成した標的と、遊離標的とを含み、シグナルは、上記サンプル中の上記全標的の濃度に比例する、ステップとを含む。
【0025】
この実施形態の一態様では、該方法は、上記シグナルを標準検量線と比較することによって、上記シグナルから全標的の量を決定するステップを更に含み、標準検量線は、3つの異なる濃度の遊離標的を有する少なくとも3つの標準溶液を上記サンプルの代わりに使用することにより、方法を実行することによって作成される。
【0026】
この実施形態の一態様では、上記シグナルは、電圧を印加することによって取得される。
【0027】
この実施形態の一態様では、上記酸性溶液は、約5.0~約7.0のpHを有する。好ましい実施形態では、上記酸性溶液は、約6.0のpHを有する。
【0028】
この実施形態の一態様では、上記酸性溶液は、約50~500mMの酢酸を含む。好ましい実施形態では、上記酸性溶液は、約300mMの酢酸を含む。別の好ましい実施形態では、上記酸性溶液は、約30mMの酢酸を含む。
【0029】
この実施形態の一態様では、上記標的に対して上記捕捉物質は、前記薬物よりもより低い解離速度及びより大きなt1/2を有する。
【0030】
この実施形態の一態様では、上記捕捉物質の解離速度は、薬物よりも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、約10倍、約15倍、約20倍、約25倍、約30倍、約35倍、約40倍、約45倍、又は約50倍低い。この実施形態の別の態様では、上記捕捉物質の解離速度は、上記薬物よりも約50倍超低い。
【0031】
この実施形態の一態様では、上記捕捉物質のt1/2は、薬物よりも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍長い。この実施形態の別の態様では、上記捕捉物質のt1/2は、薬物よりも約10倍超長い。
【0032】
この実施形態の一態様では、上記標的に対して上記検出物質は、前記薬物よりもより低い解離速度及びより大きなt1/2を有する。
【0033】
この実施形態の一態様では、上記検出物質の解離速度は、薬物よりも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、約10倍、約15倍、約20倍、約25倍、約30倍、約35倍、約40倍、約45倍、又は約50倍低い。この実施形態の別の態様では、上記検出物質の解離速度は、薬物よりも約50倍超低い。
【0034】
この実施形態の一態様では、上記検出物質のt1/2は、薬物よりも約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍長い。この実施形態の別の態様では、上記検出物質のt1/2は、薬物よりも約10倍超長い。
【0035】
この実施形態の一態様では、サンプルは捕捉物質とともに約15分間インキュベートされる。この実施形態の別の態様では、サンプルは捕捉物質とともに約30分間インキュベートされる。更に、この実施形態の別の態様では、サンプルは捕捉物質とともに約45分間インキュベートされる。更に、この実施形態の別の態様では、サンプルは捕捉物質とともに約60分間インキュベートされる。
【0036】
この実施形態の一態様では、サンプルは検出物質とともに約15分間インキュベートされる。この実施形態の別の態様では、サンプルは検出物質とともに約30分間インキュベートされる。更に、この実施形態の別の態様では、サンプルは検出物質とともに約45分間インキュベートされる。更に、この実施形態の別の態様では、サンプルは検出物質とともに約60分間インキュベートされる。
【0037】
この実施形態の一態様では、上記検出物質は、上記捕捉物質とは異なる。この実施形態の別の態様では、上記検出物質は、上記捕捉物質と同じである。
【0038】
この実施形態の一態様では、固体支持体はストレプトアビジンでコーティングされている。
【0039】
この実施形態の一態様では、捕捉物質はビオチン化されている。
【0040】
この実施形態の一態様では、検出可能な標識は、ルテニウムである。この実施形態の別の態様では、検出可能な標識は、電気化学発光基質である。
【0041】
本開示は、サンプル中の全薬物の濃度を決定するための方法を提供する。例示的な一実施形態では、該方法は、上記サンプルを、捕捉物質でコーティングされた前記固体支持体に添加するステップと、検出可能な標識を有する検出物質を添加するステップであって、上記捕捉物質は捕捉物質とは異なる、ステップと、上記サンプル中の上記全標的の濃度を決定するために検出物質からのシグナルを測定するステップであって、上記全薬物は、標的と複合体を形成した薬物と、遊離薬物とを含み、シグナルは、上記サンプル中の上記遊離標的の濃度に比例する、ステップとを含む。
【0042】
この実施形態の一態様では、該方法は、検出物質との結合に特異的な基質を添加するステップを更に含み、検出物質に結合した上記基質は、上記シグナルを提供する。
【0043】
この実施形態の一態様では、捕捉物質は、上記薬物に結合するモノクローナル抗体である。
【0044】
この実施形態の一態様では、上記検出物質は、上記捕捉物質とは異なる。
【0045】
この実施形態の一態様では、検出物質はビオチン化されている。
【0046】
この実施形態の一態様では、上記酸性溶液は、約5.0~約7.0のpHを有する。好ましい実施形態では、上記酸性溶液は、約6.0のpHを有する。
【0047】
この実施形態の一態様では、上記酸性溶液は、約50~500mMの酢酸を含む。好ましい実施形態では、上記酸性溶液は、約300mMの酢酸を含む。別の好ましい実施形態では、上記酸性溶液は、約30mMの酢酸を含む。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1A】例示的な実施形態による、中性緩衝液(アッセイ希釈緩衝液、酸なし)、中和を伴う酸処理(300mM、pH約3.2)、及び弱酸(30mM)を用いた標準曲線シグナルを示す。
【
図1B】例示的な実施形態による、酸処理(300mM)及び弱酸(30mM)によるLLOQスパイクサンプルのアッセイシグナルを示す。
【
図2A】例示的な実施形態による、中性アッセイpH下での1mg/mLの薬物の非存在下及び存在下での3つのヒト血漿サンプル中の全標的レベルを示す。
【
図2B】例示的な実施形態による、中性アッセイpH、酸処理(300mMの酢酸、pH約3.2)及び中和、並びに5%BSA中の30mMの酢酸(pH約6.0)による全標的アッセイシグナルを示す。
【
図2C】例示的な実施形態による、弱酸性アッセイpH(pH約6.0)下での1mg/mLの薬物の非存在下及び存在下での4つのヒト血漿サンプル中の全標的レベルを示す。
【
図2D】例示的な実施形態による、弱酸性アッセイpH(pH約6.0)下、200μg/mL又は1mg/mLの抗薬物抗体遮断薬の存在下で、1mg/mLの薬物を含む又は含まない、4つのヒト血漿サンプル中の全標的の濃度を示す。
【
図2E】例示的な実施形態による、新しい捕捉抗体と検出抗体のペア及び穏やかなアッセイpH(pH約6.0)を使用した、1mg/mLの薬物の有無にかかわらず、3つのヒト血漿サンプル中の全標的レベルを示す。
【
図3A】例示的な実施形態による、遊離標的アッセイからのLLOQシグナルと、5%BSAでサンプルを1:2に希釈し、捕捉抗体としてMab-2又はMab-3を使用した、モル比1:5、1:2及び1:1の標的:薬物の複合体からのアッセイシグナルを示す。
【
図3B】例示的な実施形態による、遊離標的アッセイからのLLOQシグナルと、5%BSAでサンプルを1:50に希釈し、捕捉抗体としてMab-2又はMab-3を使用した、モル比1:5、1:2及び1:1の標的:薬物の複合体からのアッセイシグナルを示す。
【
図3C】例示的な実施形態による、Mab-1、Mab-2、又はMab-3を捕捉抗体として使用した場合の、標的:薬物の複合体からの遊離標的の濃度の予測値(緑色のバー)及び測定値(青色のバー)を示す。
【
図3D】例示的な実施形態による、1:50に希釈したサンプルがそれぞれMab-1、Mab-2又はMab-3と約15又は45分間インキュベートされた場合の、モル比1:0.25の標的:薬物の複合体からの遊離標的の回収率(%AR)を示す。
【
図3E】例示的な実施形態による、Mab-3を捕捉抗体として使用して1回又は7回の凍結/解凍サイクルを受けたサンプルに対する、標的:薬物の複合体(1:50のサンプル希釈)による遊離標的の回収率を示す。
【
図4】例示的な実施形態による、異なる捕捉抗体を用いた遊離標的アッセイの概略図を示す。
【
図5A】例示的な実施形態による、1mg/kgの静脈内薬物を用いた単回用量の臨床研究に参加した個体からのヒト血清及び血漿サンプル中の薬物、全標的及び遊離標的の濃度を示す。
【
図5B】例示的な実施形態による、30mg/kgの静脈内薬物を用いた単回用量の臨床研究に参加した個体からのヒト血清及び血漿サンプル中の薬物、全標的及び遊離標的の濃度を示す。
【
図5C】例示的な実施形態による、300mg/kgの皮下薬物を用いた単回用量の臨床研究に参加した個体からのヒト血清及び血漿サンプル中の薬物、全標的及び遊離標的の濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
詳細な説明
循環中のmAbとその標的を測定するための信頼できる生物分析法は、有効性と安全性の評価及び用量選択をサポートする曝露-反応関係の評価とって重要である。Lee,J.W.,et al.,AAPS J,2011.13(1):p.99-110;Lee,J.W.and H.Salimi-Moosavi.Bioanalysis,2012.4(20):p.2513-23;Zheng,S.,T.McIntosh,and W.Wang.J Clin Pharmacol,2015.55 Suppl 3:p.S75-84;Gupta,S.,et al.,2017(Part 3-LBA:immunogenicity,biomarkers and PK assays).Bioanalysis,2017.9(24):p.1967-1996;Yang,J.and V.Quarmby.Bioanalysis,2011.3(11): p.1163-5を参照のこと。
【0050】
遊離mAbレベルは、標的に結合するために利用できる活性薬物に関する情報を提供し、全mAbレベルは、mAbと標的の間の動的な相互作用を特徴付けるのに役立つ。標的濃度は、非臨床開発段階でも使用され、有効なmAb濃度を決定し、モデルに基づいた用量の決定を可能にする。Betts,A.M.,et al.J Pharmacol Exp Ther,2010.333(1):p.2-13を参照のこと。
【0051】
臨床段階の標的データは、ヒトのPKプロファイルを特徴付け、安全性と有効性に関するPK/薬力学(PD)の関係を定義し、及び標的集団におけるPK/PDモデルを確立するに使用される。特に、全標的データは、標的の蓄積に対するmAbの影響、及び持続的な完全な標的抑制を達成するために循環中に継続的な標的の関与があるかどうかに関する情報を提供する。投与中に遊離標的をモニタリングすることは、有効な用量を決定し、用量レベル/スケジュールの選択をガイドするのに有益である。遊離標的は、PK/PDモデリングにも使用でき、他のPD/エンドポイントの結果を理解するのに役立つ。
【0052】
本発明は、標的干渉を軽減するために弱酸性アッセイpHを用いた全薬物アッセイを提供する。本発明はまた、薬物と比較して標的に対する解離速度が低く、酸性アッセイ条件下で非常に大きなt1/2を有するペアの抗標的抗体とともに、全標的アッセイのための同様の弱酸性アッセイ条件を提供する。本発明はまた、薬物と比較して標的に対する親和性がはるかに低く、会合速度がはるかに遅い捕捉抗体を用いて開発された遊離標的アッセイを提供する。従って、これらのアッセイは、臨床研究サンプル中の薬物濃度及び標的濃度を正確に定量することができ、生物療法薬のPK/PDモデリングをサポートする。
【0053】
別段記載されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法及び材料と同様又は同等の任意の方法及び材料は、実施又は試験において使用され得るが、特定の方法及び材料が、これより記載される。言及された全ての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0054】
「1つ(a)」という用語は、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきであり、「約」及び「およそ」という用語は、当業者によって理解されるように標準的な変化を可能にすると理解されるべきであり、範囲が提供される場合、エンドポイントが含まれる。
【0055】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語には、共有結合したアミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーが含まれる。タンパク質は、当技術分野で一般に「ポリペプチド」として知られる、1つ以上のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して連結されたアミノ酸残基、関連する天然に存在する構造変異体、及びその合成非天然に存在する類似体、関連する天然に存在する構造変異体、及びその合成非天然に存在する類似体から構成されるポリマーを指す。「合成ペプチド又はポリペプチド」は、非天然に存在するペプチド又はポリペプチドを指す。合成ペプチド又はポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置を使用して合成することができる。様々な固相ペプチド合成法が知られている。タンパク質は、単一の機能性生体分子を形成するために1つ以上のポリペプチドを含有し得る。タンパク質は、生物治療用タンパク質、研究又は治療に使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、及び二重特異性抗体のいずれかを含み得る。例示的な別の態様では、タンパク質は、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含み得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス系、酵母系(例えば、ピキア種)、哺乳類系(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞のようなCHO誘導体)などの組換え細胞ベースの生産系を使用して生産できる。生物治療用タンパク質及びその生産について論じた総説については、Ghaderi et al.“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins.Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,”(BIOTECHNOL.GENET.ENG.REV.147-175(2012))を参照のこと。いくつかの例示的な実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合部分を含む。これらの修飾、付加物及び部分は、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、他の単糖類)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識、他の色素などを含む。タンパク質は組成と溶解度に基づいて分類できるため、球状タンパク質、繊維状タンパク質などの単純タンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質、リポタンパク質などの複合タンパク質、及び一次派生タンパク質、二次派生タンパク質などの派生タンパク質を含む。
【0056】
いくつかの例示的な実施形態では、対象タンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体断片、モノクローナル抗体、又はFc融合タンパク質であり得る。
【0057】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、及びCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に更に細分できる。各VH及びVLは、3つのCDRと4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端までFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4のような順序で配置される。異なる例示的な実施形態では、抗big-ET-1抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であり得、又は天然若しくは人工的に修飾され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義することができる。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、完全な抗体分子の抗原結合断片も含む。本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成、又は遺伝子操作されたポリペプチド若しくは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、タンパク質分解消化又は抗体可変ドメイン及び任意で定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を伴う組換え遺伝子工学技術などの任意の適切な標準技術を使用して、完全な抗体分子から誘導され得る。このようなDNAは既知であり、かつ/又は、例えば、商業的供給元、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であり、又は合成することができる。DNAは、化学的又は分子生物学技術を使用して配列決定及び操作され、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/又は定常ドメインを適切な配置に配置したり、コドンを導入したり、システイン残基を作製したり、アミノ酸を修飾、追加又は削除したりすることができる。
【0058】
本明細書で使用される場合、「抗体断片」は、例えば、抗体の抗原結合領域又は可変領域などの、無傷の抗体の一部を含む。抗体断片の例は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)2断片、Fc断片、scFv断片、Fv断片、dsFvダイアボディ、dAb断片、Fd’断片、Fd断片及び単離された相補性決定領域(CDR)領域、並びにトリアボディ、テトラボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子及び抗体断片から形成される多重特異性抗体を含むが、これらに限定されない。Fv断片は、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続される組換え一本鎖ポリペプチド分子である。抗体断片は、様々手段によって産生され得る。例えば、抗体断片は、無傷の抗体の断片化によって酵素的又は化学的に生成することができ、及び/又は部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換え的に生成することができる。任意選択的に、又は更に、抗体断片は、全体又は部分的に合成的に生成され得る。抗体断片は、任意で、一本鎖抗体断片を含み得る。任意選択的に、又は更に、抗体断片は、例えば、ジスルフィド結合によって一緒に連結された複数の鎖を含み得る。抗体断片は、任意で、多分子複合体を含み得る。
【0059】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、ハイブリドーマ技術によって産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野で利用可能な又は公知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージクローンを含む単一クローンに由来することができる。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で公知の広範な技術を使用して調製することができる。
【0060】
本明細書で使用される「Fc融合タンパク質」という用語は、天然の状態では融合しない2つ以上のタンパク質の一部又は全部を含み、そのうちの1つは免疫グロブリン分子のFc部分である。抗体由来ポリペプチド(Fcドメインを含む)の様々な部分に融合した特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenazi et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA 88:10535,1991;Byrn et al.,Nature 344:677,1990;及びHollenbaugh et al.,“Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins,”in Current Protocols in Immunology,Suppl.4,pages 10.19.1-10.19.11,1992によって記載される。「受容体Fc融合タンパク質」は、Fc部分に結合した受容体の1つ以上の細胞外ドメイン(複数可)のうちの1つ以上を含み、これは、いくつかの実施形態では、ヒンジ領域とそれに続く免疫グロブリンのCH2及びCH3ドメインを含む。いくつかの実施形態では、Fc融合タンパク質は、単一又は複数のリガンドに結合する2つ以上の異なる受容体鎖を含む。例えば、Fc融合タンパク質は、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したIL-1R1細胞外領域に融合したIL-1 RAcPリガンド結合領域を含むリロナセプト、U.S.Pat.No.6,927,004を参照のこと、それは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、又はVEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含むアフリベルセプト、例えば、配列番号1、U.S.Pat.Nos.7,087,411及び7,279,159、それらは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)などのトラップである。
【0061】
本明細書で使用される場合、「親和性」という用語は、対象のタンパク質又はタンパク質と標的との間の相互作用の強さを指す。親和性はKDで測定される。
【0062】
本明細書で使用される「サンプル」という用語は、患者から取得された任意の生物標本を含む。サンプルは、限定されないが、全血、血漿、血清、赤血球、白血球(例えば、末梢血単核球)、唾液、尿、便(すなわち、糞便)、痰、気管支肺胞洗浄液、涙、乳頭吸引物、リンパ液(リンパ節の播種性腫瘍細胞など)、穿刺吸引物、他の体液、腫瘍の生検(例えば、針生検)などの組織サンプル(例えば、腫瘍組織)、及びそれらの細胞抽出物を含む。いくつかの実施形態では、サンプルは全血、又は血漿、血清、細胞ペレットなどのその一部の成分である。好ましい実施形態では、サンプルは、当技術分野で知られている任意の技術を使用して全血又はその細胞分画から固形腫瘍の循環細胞を単離し、循環細胞の細胞抽出物を調製することによって取得される。別の実施形態では、サンプルは、例えば肺、結腸、又は直腸の固形腫瘍からのホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)腫瘍組織サンプルである。
【0063】
別の実施形態では、サンプルは、全血、血清、血漿、尿、痰、気管支肺胞洗浄液、涙、乳頭吸引物、リンパ液、唾液、及び/又は穿刺吸引物サンプルを含み得る。特定の例では、全血サンプルは、血漿又は血清分画と細胞分画(すなわち、細胞ペレット)に分離される。細胞画分は、典型的には、赤血球、白血球、及び/又は循環腫瘍細胞(CTC)、循環内皮細胞(CEC)、循環内皮前駆細胞(CEPC)、がん幹細胞(CSC)、及びそれらの組み合わせなどの固形腫瘍の循環細胞を含有する。血漿又は血清分画には通常、とりわけ、固形腫瘍の循環細胞によって放出される核酸(例えば、DNA、RNA)及びタンパク質を含有する。
【0064】
本明細書で使用される場合、「捕捉試薬」という用語は、表面上に固定化されてアッセイで使用するための結合表面を形成する結合試薬を指すために本明細書で使用される。アッセイモジュール及び方法はまた、結合表面上の結合反応への関与を測定できる別の結合試薬、「検出試薬」を使用又は含んでもよい。検出試薬は、色、発光、放射能、磁場、電荷、屈折率、質量、化学活性などの試薬の固有の特性を測定することによって測定され得る。あるいは、検出試薬は、検出可能な標識で標識され、標識の特性を測定することによって測定され得る。適切な標識は、電気化学発光標識、発光標識、蛍光標識、燐光標識、放射性標識、酵素標識、電気活性標識、磁気標識及び光散乱標識からなる群から選択される標識を含むが、これらに限定されない。
【0065】
捕捉試薬又は検出試薬は、対象分析物(薬物又は標的)に直接結合(又は競合)することも、1つ以上の架橋リガンドを介して間接的に相互作用することもできる。従って、乾式アッセイ試薬は、そのような架橋リガンドを含み得る。例として、ストレプトアビジン又はアビジンは、対象分析物に結合又は競合するビオチン標識架橋試薬を使用することにより、捕捉試薬又は検出試薬として使用され得る。同様に、抗ハプテン抗体は、対象分析物に結合又は競合するハプテン標識結合試薬を使用することにより、捕捉試薬又は検出試薬として使用され得る。別の例では、抗種抗体又はFc受容体(タンパク質A、G、もしくはLなど)は、検体特異的抗体に結合する能力により、捕捉試薬又は検出試薬として使用される。このような技術は、結合アッセイの分野で十分に確立されており、当業者であれば、特定の用途に適した架橋リガンドを容易に同定することができる。
【0066】
アッセイモジュール/プレートの特定の実施形態は、結合表面を形成するようにモジュール/プレートの表面に固定化された捕捉試薬を含む。固定化は、ELISAアッセイ又はアレイベースの結合アッセイを実施するために確立された技術などの固相結合アッセイの分野で十分に確立された固定化技術を使用して実施することができる。一例では、結合試薬は、マルチウェルプレートのウェルの表面に非特異的に吸着され得る。表面は未処理であってもよいし、表面の吸着特性を高めるための処理(例えば、プラズマ又は荷電ポリマーによる処理)を受けてもよい。別の例では、表面は、結合試薬の共有結合を可能にする活性な化学官能基を有し得る。試薬を固定化した後、任意で、表面を、表面上のコーティングされない部位を遮断するための遮断剤を含む試薬と接触させてもよい。多重化測定を行うには、異なる捕捉試薬のアレイを備えた結合表面を使用することができる。捕捉試薬のアレイを形成するための様々な技術が、現在、アレイベースのアッセイの分野で十分に確立される。
【0067】
結合表面は、任意で、再構成可能な乾燥保護層でコーティングされている。保護層は、結合表面を安定化し、製造中や保管中に結合表面が検出試薬と接触するのを防ぎ、あるいは単に架橋試薬、遮断試薬、pH緩衝液、塩、界面活性剤、電気化学発光共反応物などのアッセイ試薬を保管する場所として使用する。保護層中に見出され得る安定剤は、糖(ショ糖、トレハロース、マンニトール、ソルビトールなど)、多糖類と糖ポリマー(デキストラン、フィコールなど)、ポリマー(ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンなど)、両性イオン浸透圧調節物質(グリシン、ベタインなど)及び他の安定化浸透圧調節物質(トリメチルアミン-N-オキシド)を含むが、これらに限定されない。遮断剤は、アッセイ成分、特に検出試薬が結合表面に非特異的に結合するのを防ぐ物質で、タンパク質(血清アルブミン、ガンマグロブリン、免疫グロブリン、粉乳又は精製カゼイン、ゼラチンなど)、ポリマー(ポリエチレンオキシドやポリプロピレンオキシドなど)、界面活性剤(例えば、非イオン性洗剤又は界面活性剤のクラスは、BRIJ(商標)、TRITON(商標)、TWEEN(登録商標)、THESIT(登録商標)、LUBROL、GENAPOL(登録商標)、PLURONIC(登録商標)、TETRONIC(登録商標)(登録商標)、及びSPANの商品名で知られている)などを含む。特定の実施形態では、緩衝成分としてリン酸アンモニウムを含み、他のアンモニウム塩を含み、及び/又は1%若しくは0.1%(w/w)未満のナトリウム若しくはカリウムイオンを含む保護層が含まれる。
【0068】
固体支持体は、タンパク質を固定化するための任意の適切な基質を含み得る。固体支持体の例は、ガラス(例えば、スライドガラス)、プラスチック、チップ、ピン、フィルタ、ビーズ(例えば、磁気ビーズ、ポリスチレンビーズなど)、紙、膜、繊維束、ゲル、金属、セラミックなどを含むが、これらに限定されない。ナイロン(Biotrans(商標)、ICN Biomedicals、Inc.(Costa Mesa、Calif.)、Zeta-Probe(登録商標)、Bio-Rad Laboratories(Hercules,Calif.))、ニトロセルロース(Protran(登録商標)、Whatman Inc.(Florham Park、N.J.))、PVDF(Immobilon(商標)、Millipore Corp.(Billerica、Mass.))などの膜は、本発明のアレイにおける固体支持体としての使用に適している。好ましくは、捕捉抗体は、ニトロセルロースポリマーでコーティングされたスライドガラス、例えば、Whatman Inc.(Florham Park、N.J.)から市販されるFAST(登録商標)Slides上に拘束される。
【0069】
「インキュベート」という用語は、「接触」及び「曝露」と同義で使用され、特に示されない限り、特定の時間又は温度の要件を意味するものではない。
【0070】
特許、特許出願、公開された特許出願、受入番号、技術論文及び学術論文を含む様々な刊行物が、明細書全体にわたって引用されている。これらの引用文献のそれぞれは、その全体が参照により組み込まれる。
【0071】
本発明は、以下の実施例を参照することによってより完全に理解されるであろう。しかし、それらは本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0072】
材料及び試薬。全薬物アッセイ、全標的アッセイ、及び遊離標的アッセイでは、特に指定のない限り、全ての溶液は、Gibco(Grand Island、NY)製のアッセイ希釈緩衝液(0.5%ウシ血清アルブミン[BSA]、0.05%ツイーン-20、1×リン酸緩衝生理食塩水[PBS])PBSで調製された。氷酢酸はThermo Fisher Scientific(Waltham、MA)から入手した。ヒト血清及び血漿は、BioIVT(Westbury、NY)から入手した。ストレプトアビジンでコーティングされたマイクロプレートは、Meso Scale Discovery(MSD、Rockville、MD)から入手した。黒色のマイクロウェルプレート、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合したNeutrAvidin(NeutrAvidin-HRP)、及びSuperSignal ELISA Pico化学発光基質はThermo Fisher Scientific(Rockford、IL)から入手した。精製された天然ヒト標的はEMD Millipore(Burlington、MA)から入手した。薬物(完全ヒトmAb)、マウス抗薬物mAb、ビオチン化マウス抗薬物mAb、全てのヒト抗標的mAb(標的アッセイで使用)は、Regeneron Pharmaceuticals(Tarrytown、NY)によって製造された。
【0073】
全薬物アッセイ。このアッセイは、可溶性標的:薬物の複合体を解離し、可溶性標的が血清中に存在する間に薬物の検出を向上させるための血清サンプルの弱酸処理を含む。この手順では、マウス抗薬物mAb(2μg/mL)でコーティングされたマイクロタイタープレートを使用し、薬物を標準物質として利用する。標準物質、対照、及びサンプルをADB(pH約5.0)中の30mMの酢酸で1:50に希釈し、プレートに添加した。プレート上に捕捉された薬物は、別の非競合ビオチン化マウス抗薬物mAb(200ng/mL)、続いてNeutrAvidin HRP(200ng/mL)を使用して検出された。全てのインキュベーションは室温で約60分間行われた。最後に、ペルオキシダーゼに特異的なルミノールベースの基質を添加して、全薬物の濃度に比例するシグナル強度を達成した。
【0074】
全標的アッセイ。このアッセイは、血漿サンプル中に存在する可溶性標的:薬物の複合体を解離し、薬物存在下での標的の検出を向上させるための、血漿サンプルの弱酸前処理を含む。この手順では、ストレプトアビジンでコーティングされたMSDプレートを使用し、捕捉試薬としてビオチン化ヒト抗標的mAb(5μg/mL)を使用し、標準物質として精製標的を使用する。標準物質、対照、及びサンプル(5%BSAで1:5に事前希釈したサンプル)を5%BSA中の30mMの酢酸で1:10に希釈し、プレートに添加する前に6.25μg/mLの捕捉mAbを含む5%BSA(約6.0のpH、アッセイのバックグラウンドを下げるために5%BSAを使用した)中の30mMの酢酸で更に1:5に希釈した。1:5希釈後、サンプル/捕捉抗体混合物中の捕捉mAbの最終濃度は5μg/mLであった。捕捉試薬に結合し、プレート上に捕捉された標的は、別のルテニウム標識ヒト抗標的mAb(2μg/mL)を使用して検出された。全てのインキュベーションは室温で約60分間行われた。最後に、MSDプレートリーダーによってプレートに電圧が印加された場合にルテニウム標識によって生成される電気化学発光シグナルによって標的濃度を測定した。結果として取得される電気化学発光シグナル(カウントなど)は、血漿サンプル中の全標的の濃度に比例する。
【0075】
遊離標的アッセイ。この手順では、ストレプトアビジンでコーティングされたMSDプレートを使用し、捕捉試薬としてビオチン化ヒト抗標的mAb(5μg/mL)を使用し、標準物質として精製標的を使用する。標準物質、品質管理(QC)、及びサンプルを5%BSAで1:2又は1:50に希釈し、プレートに添加した。プレートが室温で約15又は45分間インキュベートされた。捕捉mAbに結合し、プレート上に捕捉された標的は、標的結合に関して薬物又は異なる捕捉抗体と競合しない、別のルテニウム標識ヒト抗標的mAb(2μg/mL)を使用して検出された。プレートが室温で約15分間インキュベートされた。最後に、MSDプレートリーダーによってプレートに電圧が印加された場合にルテニウム標識によって生成される電気化学発光シグナルによって標的濃度が測定された。結果として取得される電気化学発光シグナル(カウントなど)は、血漿サンプル中の遊離標的の濃度に比例する。
【0076】
標的:薬物の複合体の調製。モル比1:5、1:2、1:1、1:0.5、1:0.25及び1:0.125の標的:薬物の複合体は、全標的アッセイを使用した分析に基づいた既知の標的濃度でナイーブヒト血漿サンプル中で調製された。標的:薬物の複合体サンプルは、標的と薬物の分子量に基づいて特定量の薬物を血漿サンプルにスパイクすることによって調製された。取得された標的:薬物の混合物は、標的アッセイで使用される前に、室温で約1~3時間インキュベートされた。
【0077】
Biacore表面プラズモン共鳴分析。抗標的抗体の結合反応速度と結合親和性は、濾過及び脱気したPBS-T泳動用緩衝液(0.01MのNa2HPO4/NaH2PO4、0.15MのNaCl、0.05%v/vのツイーン-20、pH7.4又はpH6.0)中でSeries S CM5センサーチップを使用し、Biacore T200(Cytiva、MA、USA)機器の表面プラズモン共鳴技術を使用して評価した。捕捉センサー表面は、以前に報告されるように、標準アミンカップリング化学を使用してマウス抗ヒトFc mAbを共有結合的に固定することによって調製された。異なる濃度の標的(PBS-P、pH7.4の泳動用緩衝液、100~11.11nMの範囲で調製、3倍希釈)を、流速50pl/分で3分間、抗標的抗体捕捉表面上に注入し、2つの泳動用緩衝液PBS-T、pH約7.4及びPBS-T、pH6.0中でのそれらの解離を6分間監視した。各サイクルの終わりに、20mMリン酸の12秒間の注入により抗ヒトFc表面を再生した。特異的表面プラズモン共鳴結合センサーグラムの全ては、以前に報告されたように二重参照を差し引いた。動態パラメータ定数(kd及びka)は、Scrubber 2.0c(BioLogic Software、Campbell、Australia)カーブフィッティングソフトウェアを使用して、リアルタイムセンサーグラムを1:1結合モデルにフィッティングすることによって決定された。解離速度定数(kd)は、解離相中の結合応答の変化をフィッティングすることによって決定され、会合速度定数(ka)は、様々な濃度での分析物の会合をグローバルにフィッティングすることによって決定される。平衡解離定数(KD)は、kdとkaの比から計算された。分単位の解離半減期(t1/2)はln2/(kd*60)として計算された。
【0078】
実施例1.弱酸性アッセイpHの使用による全薬物アッセイにおける標的干渉の軽減
全薬物濃度を定量化するために、2つの非競合抗薬物抗体を捕捉試薬及び検出試薬として使用するサンドイッチELISAアッセイフォーマットが研究された。ヒト血清中で調製された標準物質を用いた最初の実験では、予想外に貧弱なシグナルが生成され(
図1A)、サル血清中で調製された標準物質よりもはるかに低かった(データは示さず)。この結果は、薬物に結合した血清中に高濃度(80~100μg/mL)で存在する薬物標的が、抗イディオタイプ捕捉又は検出mAbの薬物を認識する能力を妨げる可能性があることを示唆した。
【0079】
潜在的な標的干渉を最小限に抑えるために、血清サンプルを酸性化(300mMの酢酸)して標的:薬物の複合体を解離し、分析前に中和した。酸前処理ステップとそれに続く中和により、標準曲線の範囲全体にわたって均一ではなかったものの、アッセイシグナルが大幅に改善された。ULOQでは、酸前処理によってシグナルがおおよそ約10倍増加したが、LLOQでは、シグナルはおおよそ約4倍増加した(
図1A)。更に、このアッセイは、LLOQでスパイクされた個々の血清サンプルで可変シグナル応答を生成し(
図1B)、内因性標的レベルが校正範囲の下限で干渉する可能性があることを示唆する。
【0080】
公表されたデータは、弱酸性アッセイ条件(pH約5)では、抗イディオタイプmAbが結合能力を保持している一方で、一部の標的が薬物から解離する可能性があることを示す(Partridge,M.A.,et al.,Minimizing target interference in PK immunoassays:new approaches for low-pH-sample treatment.Bioanalysis,2013.5(15):p.1897-910.)。全薬物アッセイでこのアプローチを試験するために、ヒト血清中の標準物質を弱酢酸(30mM)で希釈し、中和ステップを行わずにサンドイッチELISAで分析した。標準酸性化/中和前処理と同様に、弱酸で希釈したサンプルのアッセイシグナルは、酸前処理なしで分析したサンプルと比較して大幅に増加した。しかし、弱酸アプローチでは、アッセイシグナルの改善は標準曲線の範囲全体にわたって均一であった(
図1A)。更に、このアッセイは、LLOQレベルでスパイクされた個々の血清サンプルでより一貫したシグナル応答を生成し(
図1B)、%ARは、全てのスパイクされたサンプルについて名目上のスパイクした薬物濃度の±20%以内であった(データは示さず)。
【0081】
実施例2.全標的アッセイにおける薬物干渉を軽減するための捕捉及び検出抗体の選択と弱酸性アッセイpHの使用
単純なヒト血漿サンプルの標的濃度は約80~100μg/mLであるが、臨床研究による投与後のサンプルでは更に高くなる可能性がある。従って、持続的な標的抑制を達成するために、通常、かなりの量の薬物が投与される。そのため、通常、循環中にかなりのレベルの標的:薬物の複合体が形成され、それが全標的の正確な検出に影響を与える可能性がある。標的結合に関して薬物と競合しない2つの抗標的抗体が、全標的を測定するための捕捉試薬及び検出試薬として最初に選択された(表1)。
【0082】
(表1)全標的アッセイ用の元の及び新たな捕捉抗体及び検出抗体の特性評価
*現在の実験条件下では、捕捉されたモノクローナル抗体からの標的の解離は観察されず、kd値は1.0E-05に固定された。
【0083】
3つの単純なヒト血漿サンプル中の全標的レベルは、80~150μg/mLの範囲であった(
図2)。しかし、標的濃度は、1mg/mLの薬物の存在下で約20%減少し(
図2A)、これは、2つの抗標的抗体が標的結合に関して薬物と競合しないとしても、薬物が高濃度で存在する場合、立体障害が捕捉抗体及び/又は検出抗体の標的への結合に影響を与える可能性があることを示唆する。次に、酸解離を使用して、標的:薬物の複合体を解離させた。しかし、アッセイシグナルは、中性条件下で取得されたシグナルと比較して、酸処理(300mMの酢酸)及び中和後に大幅に減少し(
図2B)、これは、標的タンパク質がこの厳しい酸性条件下では安定ではない可能性があることを示唆する。全薬物アッセイと同様に、弱酸性アッセイ条件(pH約6.0)を使用して、標的:薬物の複合体を解離させた。弱酸性pHでの標準曲線シグナルは、酸処理なしのシグナルに相当した(
図2B)。しかし、1mg/mLの薬物の存在下で、標的濃度の15%~25%の減少が依然として観察された(
図2C)。
【0084】
抗薬物抗体は、全標的濃度の決定における薬物干渉を軽減するために使用することに成功している(未発表データ)。標的と薬物の結合を効果的に遮断できる抗薬物抗体を、弱酸性アッセイpH(pH約6.0)を使用した全標的アッセイで試験した。200μg/mLの抗薬物抗体も1mg/mLの抗薬物抗体も、弱酸性アッセイ条件下では薬物干渉を効果的に阻害できず(
図2D)、これはおそらく、弱酸性アッセイ条件では標的:薬物の複合体を完全に解離できなかった、かつ/又はこの酸性アッセイ条件下では抗体が薬物に効果的に結合できない可能性があるためと考えられる。
【0085】
全標的アッセイは、捕捉試薬及び検出試薬として2つの新しい抗標的抗体を使用して再開発された(第2世代アッセイ)。選択した2つの抗標的抗体は、薬物と比較した場合、標的に対する解離速度が低く、pH約6.0でのt
1/2がはるかに大きくなる(表1)。実際、弱酸性pHでは、中性pHと比較して薬物の解離速度が約5倍増加し、t
1/2が大幅に短くなる。これらの結果は、酸性条件下では、薬物の標的への結合が大幅に減少しても、新たな捕捉抗体と検出抗体の両方が依然として標的に効果的に結合できることを示す。最後に、同様の標的濃度が、1mg/mLの薬物の非存在下及び存在下で、第2世代アッセイフォーマットを用いた10個のヒト血漿サンプル(
図2E)で取得され、これは、新たな捕捉抗体と検出抗体のペア及び弱酸性アッセイpH(pH約6.0)によって薬物干渉が首尾よく軽減されたことを示す。
【0086】
実施例3.遊離標的アッセイの開発における捕捉抗体の選択及びアッセイフォーマットの最適化
遊離標的データは有効用量を決定し、用量選択をガイドするのに役立つため、このプログラムをサポートするために遊離標的アッセイも開発された。遊離標的濃度を正確に測定するには、捕捉抗体の選択、サンプルの希釈、サンプルのインキュベーション時間、標的:薬物の複合体の安定性など、特別な考慮を払う必要がある。(Hansen,R.J.,et al.MAbs,2013.5(2):p.288-96;Liu,Y.,et al.,Bioanalysis, 2021.13(7):p.575-585;Colbert,A.,et al.MAbs,2014.6(4):p.1103-13;Peng,K.,et al.AAPS J,2018.21(1):p.9.)を参照のこと。標的結合に関して薬物と競合する3つの抗標的抗体、Mab-1、Mab-2及びMab-3は、遊離標的アッセイの捕捉抗体として試験された。Mab-2は薬物と同様のKD値を持つが、Mab-1及びMab-3は薬物と比較して標的に対する親和性が約5~7倍低くなる(表2)。
【0087】
(表2)遊離標的アッセイ用の抗体Mab-1、Mab-2及びMab-3の特性評価
【0088】
標的:薬物の複合体が解離する可能性を防ぐため、モル比1:1、1:2及び1:5の標的:薬物の複合体が分析前に1:2に希釈された。薬物が過剰な複合体(例えば、1:5及び1:2モル比)では、検出可能なレベルの遊離標的はほとんど又はまったく存在しないと予想され、従って、これらの複合体からのアッセイシグナルは、定量シグナルのアッセイ下限値(LLOQ、1.56μg/mL)以下である必要がある。
【0089】
Mab-1又はMab-2が捕捉抗体として使用された場合、これらの複合体からのアッセイシグナルはアッセイLLOQよりも大きく、又はLLOQに近くなり(
図3A)、これは、より高濃度の遊離標的が測定されることを示す。しかし、Mab-3が捕捉試薬として使用された場合、これらの複合体からのアッセイシグナルはアッセイLLOQシグナルを下回った(
図3A)。標的と薬物が等モル濃度で存在する場合(例えば、1:1複合体)、少量の遊離標的が検出され得るが、Mab-3と比較した場合、Mab-1及びMab-2でははるかに高いシグナルが観察された。これらの結果は、標的が溶液中の薬物から解離するにつれて、Mab-1及びMab-2(Mab-3よりも標的との会合速度が高い)がより効果的に薬物と競合し、プレート表面上の遊離標的を捕捉して溶液から除去し、薬物との再会合を防ぎ、平衡を更に崩壊させる可能性があることを示唆する。
【0090】
これらの捕捉抗体を更に評価し、シグナルが標準曲線の範囲内に収まるようにサンプルを更に希釈できることを確実にするために、より大きなサンプル希釈(1:50)を行って、様々な濃度の薬物の存在下で遊離標的を定量化した。以前の発見と同様に、Mab-1が捕捉抗体として使用された場合、これらの標的:薬物の複合体からのシグナルはアッセイLLOQシグナルを上回っており(
図3B)、この高いサンプル希釈度でも複合体の解離がまだ存在することを示す。Mab-2が捕捉試薬として使用された場合、1:1複合体からのアッセイシグナルはアッセイLLOQを上回った。しかし、Mab-3が捕捉抗体として使用された場合、1:5、1:2及び1:1複合体からのアッセイシグナルはアッセイのLLOQシグナルを下回っており(
図3B)、これは、このアッセイフォーマットがサンプル中に存在する遊離標的濃度をより正確に測定できることを示唆する。
【0091】
測定可能なレベルの遊離標的が予想される場合、遊離標的濃度も、1:0.5、1:0.25及び1:0.125のモル比で標的:薬物の複合体によって測定された。Mab-3を捕捉抗体として使用して検出された遊離標的の量は、臨床現場で全薬物濃度及び全標的濃度を使用して開発された標的媒介薬物動態PKモデルに基づいて予測された遊離標的濃度と非常に類似した(
図3C)。しかし、Mab-1又はMab-2を捕捉抗体として使用して測定された濃度はモデル予測よりも大きく(
図3C)、これは、これらの抗体が平衡に対してより大きな影響を及ぼし、標的:薬物の複合体の解離に有利であることを更に示唆した。
【0092】
最後に、これらの複合体中の遊離標的濃度は、サンプルのインキュベーション時間を約15分間又は45分間に変化させた場合にも測定された。Mab-3を捕捉抗体として使用した場合、遊離標的濃度はサンプルインキュベーション時間に関係なく同程度であり(
図3D)、これは、サンプルのインキュベーション時間が長くても溶液中の複合体に対する影響が最小限であることを示した。しかし、Mab-1又はMab-2を捕捉抗体として使用した場合、サンプルのインキュベーション時間が長くなると遊離標的濃度が増加し(
図3D)、これは、複合体の更なる解離を示唆した。最後に、これらのサンプルがMab-3を捕捉抗体として使用して1回又は7回の凍結/解凍サイクルを行った場合、同様の遊離標的濃度が取得され(
図3E)、これは、サンプルがストレスにさらされた場合でも、標的:薬物の複合体及び遊離標的がこれらのサンプル中で安定することを示す。
【0093】
遊離標的濃度を正確に測定するには、捕捉抗体の選択が重要である。Liu,Y.,et al.,Development of a Meso Scale Discovery ligand-binding assay for measurement of free (drug-unbound) target in nonhuman primate serum.Bioanalysis,2021.13(7):p.575-585)を参照のこと。この研究では、Mab-3は薬物と比較して標的に対する親和性(K
D値)がはるかに低く、会合速度もはるかに遅いため、溶液中の標的:薬物の複合体の平衡を乱す可能性は低くなる。従って、平衡では、1:5、1:2及び1:1複合体で標的:薬物の解離が存在するが、標的の大部分はすぐに薬物と再会合する可能性があるため、遊離標的アッセイでは検出されない。遊離標的のみがMab-3によって捕捉され、アッセイで検出される(
図4)。しかし、Mab-1も薬物と比較して標的に対する親和性が低いにもかかわらず、薬物と同様の会合速度(k
a)を有する。標的:薬物の複合体から解離した標的の一部が、薬物と再会合するのではなく、プレート上のMab-1に結合する可能性があり、従って、遊離標的アッセイで検出され(
図4)、遊離標的濃度の過大評価をもたらす。
図4の上のパネルは、Mab-1又はMab-2が薬物と同様のka値を有するため(Mab-1の親和性が低いにもかかわらず)、捕捉抗体として使用される場合の遊離標的アッセイの概略図を示し、標的:薬物の複合体から新たに解離した標的の一部は、溶液中の薬物と再結合するのではなく、プレート表面上のMab-1又はMab-2に結合する可能性があり、その結果、遊離標的濃度が過大評価される。下のパネルは、薬物と比較して親和性が低く、標的との会合速度が遅いMab-3を捕捉試薬として使用した場合の概略図を示し、新たに解離した標的はすぐに薬物と再結合する可能性があり、遊離標的アッセイでは検出されない。遊離標的のみがMab-3によって捕捉され、アッセイで検出される。
【0094】
実施例4.臨床研究サンプル中の全薬物濃度、全標的濃度及び遊離標的濃度の測定
第I相単回投与臨床試験で1mg/kgの薬物を静脈内(iv.)、30mg/kgの薬物(iv.)、又は300mgの薬物を皮下(sc.)投与された個体からのサンプルは、血清中の全薬物濃度、並びに血漿中の全標的濃度及び遊離標的濃度について試験された(
図5)。
【0095】
1mg/kgの薬物を静脈内(
図5A)投与された個体では、循環薬物濃度は時間の経過とともに減少し、57日目頃に減少し、試験した全ての時点で全標的レベルは80~100μg/mLであり、顕著な標的の蓄積はなかった(
図5A)。しかし、遊離標的レベルは薬物投与後に大幅に減少し、投与後約1週間は低レベルに留まり、その後徐々にベースラインレベルに戻った。
【0096】
30mg/kgの薬物を静脈内投与された個体では、薬物濃度は最初の4週間以内にかなり高いレベルに達し、29日目あたりから減少し始め、99日目までに非常に低くなった(
図5B)。全標的濃度は、2日目から4日目あたりにかけて増加するように見え、22日目から29日目に最高レベルに達し、その後ベースラインレベルに戻った(
図5B)。薬物が投与されると、薬物濃度が著しく低下する57日目まで、遊離標的は検出できなかった(
図5B)。1mg/kg及び30mg/kgの用量の両方において、遊離標的レベルの減少と薬物濃度の増加の間には強い相関関係があった。同様の相関関係は、300mgの薬物を皮下投与された個体でも観察された(
図5C)。これらのデータは、全標的アッセイ及び遊離標的アッセイが臨床研究サンプル中の標的濃度を正確に定量化でき、その結果が全薬物濃度とよく相関していることを示す。
【0097】
この研究では、治療用mAb、薬物の開発プログラムをサポートするために、全薬物アッセイ、全標的アッセイ及び遊離標的アッセイが開発された。内因性標的濃度が高いため、薬物は非常に高濃度で投与される。全薬物アッセイにおける標的干渉を軽減するために、弱酸性アッセイ条件が使用された。最初の全標的アッセイには薬物干渉の問題があり、弱酸性条件や抗薬物抗体の使用では軽減できなかった。従って、全標的アッセイが再開発され、薬物干渉を軽減するために、(1)薬物と比較して標的に対する親和性がはるかに高く、(2)弱酸性条件下での半減期(t1/2)値がはるかに長い、新たな抗標的抗体のペアが捕捉試薬及び検出試薬として使用される。新たなアッセイフォーマットは、薬物の存在下でヒト血漿サンプル中の全標的濃度を正確に定量できる。更に、薬物と比較して標的への会合速度がはるかに遅い捕捉抗体を使用した遊離標的アッセイも開発された。遊離標的濃度の測定は更に困難になる可能性がある。上に示したように、標的結合に関して薬物と競合する複数の抗標的抗体が、遊離標的アッセイの開発において評価された。このアッセイフォーマットは、サンプルの希釈、サンプルの捕捉抗体とのインキュベーション時間、又はサンプルの凍結/解凍サイクルの影響を受けなかった。最後に、これらのアッセイは、第I相臨床試験サンプルのサブセット中の全薬物、全標的及び遊離標的の濃度を決定して精度を実証するために使用した場合、精度を示した。
【国際調査報告】