(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】硫黄によって架橋可能な、有機フィラーとオルガノシランとを含むゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240912BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20240912BHJP
C08K 5/37 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K5/5419
C08K5/37
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519094
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 EP2022076858
(87)【国際公開番号】W WO2023052365
(87)【国際公開日】2023-04-06
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522244562
【氏名又は名称】サンコール・インダストリーズ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・シュトゥッカー
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・ヴィットマン
(72)【発明者】
【氏名】ゲルト・シュマウクス
(72)【発明者】
【氏名】ヤーコプ・ポドシュン
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト・シュヴァイガー
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC001
4J002AC011
4J002CP032
4J002EV006
4J002GM00
4J002GM01
(57)【要約】
本発明は、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含む加硫系VSと、硫黄によって架橋可能な少なくとも1種のゴムを含むゴム成分Kと、0.2~0.45Bq/g炭素の範囲の14C含有量及び>20~150m2/gの範囲のBET表面積を有する少なくとも1種の有機フィラーを含むフィラー成分Fと、少なくとも1個の加水分解性基及び少なくとも1個の硫黄原子を有する少なくとも1種のオルガノシランとを含む加硫化可能なゴム組成物;パーツ(A)として上記成分F及びKを含むゴム組成物と、パーツ(B)として少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含む加硫系VSとを含むキットオブパーツであって、上記オルガノシランがパーツ(A)に含まれている、キットオブパーツ;それぞれそれらから得られうる加硫ゴム組成物;タイヤ、タイヤ成分及びゴム物品の製作における利用のための上記生成物の使用;並びに対応するタイヤ、タイヤ成分及びゴム物品それら自体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分Kと、フィラー成分Fと、加硫系VSとを含む加硫化可能なゴム組成物であって、
前記加硫系VSが、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含み、
前記ゴム成分Kが、硫黄によって架橋可能な少なくとも1種のゴムを含み、
前記フィラー成分Fが、0.20~0.45Bq/g炭素の範囲の
14C含有量及び>20~150m
2/gの範囲のBET表面積を有する少なくとも1種の有機フィラーを含み、
少なくとも1種のオルガノシランを前記フィラー成分Fの一部分として更に含み、前記少なくとも1種のオルガノシランが、少なくとも1個の加水分解性基及び少なくとも1個の硫黄原子を有し、0.25~5phrの範囲にある量で含まれている、ゴム組成物。
【請求項2】
硫黄によって架橋可能な前記ゴム成分Kの前記少なくとも1種のゴムが、天然ゴム(NR)、合成天然ゴム、特にイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(SSBR)、乳化重合スチレンブタジエンゴム(ESBR)、特に官能化SSBR、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR;ニトリルゴム)、イソブチレンイソプレンゴム(IIR)、臭素化イソブチレンイソプレンゴム(BIIR)、塩素化イソブチレンイソプレンゴム(CIIR)、及びそれらの混合物からなる群から選択されるジエンゴムであり、好ましくは天然ゴム、スチレンブタジエンゴム又は溶液重合スチレンブタジエンゴム、及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記有機フィラーが、>18~<150m
2/g、好ましくは20~130m
2/g、特に好ましくは25~120m
2/g、更に特に好ましくは30~110m
2/g、特に40~100m
2/g、最も好ましくは40~<100m
2/gの範囲のSTSA表面積、及び/又は25~120m
2/gの範囲、特に好ましくは30~110m
2/gの範囲、最も好ましくは40~100m
2/gの範囲のBET表面積、及び/又は<25μm、好ましくは<20μm、特に好ましくは<18μm、更に特に好ましくは<15μm、更により好ましくは<12μm、更により好ましくは<10μm、更により好ましくは<9μm、更により好ましくは<8μmのd99を有し、d99が好ましくは、それぞれISO 13320:2009に従ってレーザー回折によって決定されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記有機フィラーが、それぞれ灰不含及び水不含フィラーに対して>8質量%~<30質量%、好ましくは>10質量%~<30質量%、特に好ましくは>15質量%~<30質量%、最も好ましくは>20質量%~<30質量%の範囲の酸素含有量、又は>60質量%~<90質量%、好ましくは>60質量%~<85質量%、特に好ましくは>60質量%~<82質量%、最も好ましくは>60質量%~<80質量%の範囲の炭素含有量を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種の有機フィラーを1~150phr、好ましくは5~100phr、特に好ましくは10~80phr、更に特に好ましくは15~70phr、最も好ましくは15~60phrの範囲にある量で含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記有機フィラーが、リグニンベースのフィラーであり、好ましくは少なくともリグニン、更により好ましくは有機フィラーそれ自体が、水熱処理によって得ることができる形で少なくとも部分的に存在し、特に好ましくは水熱処理によって得ることができ、前記水熱処理が、好ましくは>100℃~<300℃、特に好ましくは>150℃~<250℃の範囲の温度で実施されたことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1種のオルガノシランが、一般式(I)及び/又は(II)の化合物であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のゴム組成物
Si(X)
4-y(R)
y (I)、
(X)
3-z(T)
zSi-(RA)-Si(X)
3-z(T)
z (II)
[式中、一般式(I)の場合に、
Xはそれぞれ相互に独立的に、フェノール性OH基、フェノレート基、脂肪族OH基、カルボン酸基、カルボキシレート基及び/又はこれらの基の混合物と反応する加水分解性基を表し、前記加水分解性基はそれぞれ相互に独立的に、アルコキシ基を表し、特に好ましくはO-C
1~4アルキルから選択され、
パラメータyは、1~3の範囲の整数を表すが、少なくとも1であり、好ましくは正確に1であり、
Rは、非加水分解性有機基、好ましくは少なくとも1個の硫黄原子を有する脂肪族C
3~C
20基を表し、硫黄原子は、好ましくはチオール基、ブロックチオール基、ジ及び/又はポリスルフィド基、並びにそれらの混合物、特に好ましくはチオール基からなる群から選択される少なくとも1個の官能基の一部であることが好ましく、
式中、一般式(II)の場合に、
Xはそれぞれ相互に独立的に、フェノール性OH基、フェノレート基、脂肪族OH基、カルボン酸基、カルボキシレート基及び/又はこれらの基の混合物と反応する加水分解性基を表し、前記加水分解性基は相互に独立的に、アルコキシ基を表し、特に好ましくはO-C
1~4アルキルから選択され、
RAは、2個の結合を有する非加水分解性有機基、好ましくは少なくとも1個の硫黄原子を含む2個の結合を有する脂肪族C
6~C
20基、好ましくは少なくとも1個のジスルフィド及び/又はポリスルフィド基、特に好ましくはジ又はテトラスルフィド基を表し、
パラメータzはそれぞれ、0~2の範囲の整数を表し、好ましくはそれぞれ0又は2を意味し、
Tは、RA基と異なり、官能基を有しない非加水分解性有機基を表し、好ましくは脂肪族C
1~C
20基である]。
【請求項8】
前記少なくとも1種のオルガノシランが、
少なくとも1個のメルカプトアルキル基R[式中、Rは好ましくは、脂肪族C
3~C
8基、特に好ましくは脂肪族C
3~C
6基である]、及び少なくとも1個のX基を有する一般式(I)のモノシランであって、好ましくは2又は3個のX基を含み、特に好ましくは4-メルカプトブチルトリアルコキシシラン及び/又は6-メルカプトヘキシルトリアルコキシシラン及び/又は3-メルカプトプロピルトリアルコキシシランからなる群から選択され、アルコキシ基が相互に独立的に、メトキシキ又はエトキシ基を意味することが好ましい、モノシラン、並びに/或いは
一般式(II)のビス(シラン)[式中、非加水分解性有機基RAは好ましくは、脂肪族C
6~C
20基、特に好ましくは脂肪族C
6~C
10基であり、少なくとも1個の硫黄原子、好ましくはジ又はポリスルフィド基、特に好ましくはジ又はテトラスルフィド基を有し、少なくとも1個のX基、好ましくは2又は3個のX基を含む]
であり、好ましくは一般式(II)のビス(シラン)であり、特に好ましくはビス(ジメチルエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(DMESPT)、ビス(ジメチルエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(DMESPD)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPT)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD)及びそれらの混合物からなる群から選択される一般式(II)のビス(シラン)であり、更に特に好ましくはTESPT及び/又はTESPDであり、最も好ましくはTESPDであることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記オルガノシランが、0.25~3phr、好ましくは0.5~3phrの範囲にある量で含まれ、かつ/又は有機フィラーに対して1~10質量%、好ましくは2~8質量%、特に好ましくは2.5~6質量%、最も好ましくは3~6質量%の範囲にある量で含まれていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項10】
硫黄架橋剤が、0.25~10phr、好ましくは0.25~7phr、特に好ましくは0.5~5phr、最も好ましくは1~3phrの範囲にある量で含まれていることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項11】
硫黄による架橋のための少なくとも1種の促進剤を含み、促進剤が好ましくは、ゴム組成物の加硫系VSの一部であり、好ましくはジチオカルバメート、キサントゲネート、チウラム、例えばチウラムモノスルフィド及び/又はチウラムジスルフィド及び/又はテトラベンジルチウラムジスルフィド(TbzTD)、チアゾール、例えば2-メルカプトベンゾチアゾール及び/又はジベンゾチアジルジスルフィド、スルフェンアミド、例えばN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジル-スルフェンアミド及び/又は2-モルホリノチオベンゾチアゾール及び/又はN-tert-ブチル-2-ベンゾチアジル-スルフェンアミド、グアニジン、例えばN,N'-ジフェニルグアニジン、チオ尿素、ジチオホスフェート、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、4,4'-ジチオジモルホリン、カプロラクタムジスルフィド、並びにそれらの混合物からなる群から選択され、特に好ましくはN-tert-ブチル-2-ベンゾチアジル-スルフェンアミド、テトラベンジルチウラムジスルフィド及びN,N'-ジフェニルグアニジン、並びにそれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項12】
空間的に分離された形で、
パーツ(A)として、それぞれ請求項1から11のいずれか一項に記載の上記ゴム成分K及び少なくともフィラー成分Fを少なくとも含むゴム組成物であって、パーツ(A)が、しかしながら請求項1から11のいずれか一項に記載の加硫系VSの硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含まない、ゴム組成物と、
パーツ(B)として、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の加硫系VSと
を含むキットオブパーツであって、請求項1から11のいずれか一項に記載のオルガノシランが、パーツ(A)中のフィラー成分Fに0.25~5phrの範囲にある量で含まれている、キットオブパーツ。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか一項に記載の加硫化可能なゴム組成物の加硫によって、又は請求項12に記載のキットオブパーツの両パーツ(A)と(B)を組み合わせ、混合することによって得られうる加硫化可能なゴム組成物の加硫によって得られうる、加硫ゴム組成物。
【請求項14】
タイヤの生産、好ましくは空気入りタイヤ及びソリッドタイヤの生産、ベース成分、すなわちトレッド、ショルダーストリップ(ウイング)、キャッププライ、ベルト、ビード及び/若しくはビード補強物の下の成分から選択されることが好ましいタイヤ成分の生産における利用のための、並びに/又は好ましくはドライブベルト、ストラップ/ベルト、成形パーツ、例えば緩衝物/クッション、ベアリング/マウント、特に液封マウント、コンベヤーベルト、プロファイル、シール、リング及び/若しくはホースから選択される好ましいテクニカルゴム物品の生産における利用のための、請求項1から11のいずれか一項に記載の加硫化可能なゴム組成物、請求項12に記載のキットオブパーツ、又は請求項13に記載の加硫ゴム組成物の使用。
【請求項15】
請求項1から11のいずれか一項に記載の加硫化可能なゴム組成物、請求項12に記載のキットオブパーツ、又は請求項13に記載の加硫ゴム組成物を利用することによってそれぞれ生産されたタイヤ、好ましくは空気入りタイヤ若しくはソリッドタイヤ、タイヤ成分、又は好ましいテクニカルゴム物品であって、好ましくはタイヤ成分の場合に、これらが、ベース成分、すなわちトレッド、ショルダーストリップ(ウイング)、キャッププライ、ベルト、ビード及び/又はビード補強物の下の成分から選択され、好ましくはゴム物品、例えば好ましいテクニカルゴム物品の場合に、これらが、好ましくはドライブベルト、ストラップ/ベルト、成形パーツ、例えば緩衝物/クッション、ベアリング/マウント、特に液封マウント、コンベヤーベルト、プロファイル、シール、リング及び/又はホースから選択される、タイヤ、タイヤ成分、又は好ましいテクニカルゴム物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも硫黄及び/又は加硫条件下で硫黄を放出する少なくとも1種の硫黄供与体を含む加硫系VSと、硫黄によって架橋可能な少なくとも1種のゴムを含むゴム成分Kと、0.20~0.45Bq/g炭素の範囲の14C含有量及び>20~150m2/gの範囲のBET表面積を有する少なくとも1種の有機フィラーを含むフィラー成分Fと、少なくとも1個の加水分解性基及び少なくとも1個の硫黄原子を有する少なくとも1種のオルガノシランとを含む加硫化可能なゴム組成物;パーツ(A)として上記成分F及びKを含むゴム組成物と、パーツ(B)として少なくとも硫黄を含む加硫系VSとを含むキットオブパーツであって、上記オルガノシランがパーツ(A)に含まれている、キットオブパーツ;それぞれそれらから得られうる加硫ゴム組成物;タイヤ、タイヤ成分及びゴム物品の製作における利用のための上記生成物の使用;並びに対応するタイヤ、タイヤ成分及びゴム物品それら自体に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物中における補強フィラーの利用は、先行技術において公知である。補強フィラーを利用することによって、それらから生産された加硫ゴム物品のサービスの特徴が保証される。例えば、補強フィラーの利用によって、ゴムの粘度が増加し、加硫物の破壊挙動が改善される。ここで、工業用カーボンブラックは、補強フィラーの最大の部分を表す。工業用カーボンブラックは、有機化合物の不完全燃焼又は炭化水素の熱分解によって生産される。大部分の工業用カーボンブラックは、炉プロセスによって生産される。生産プロセス中においてCO2量が高いので、フィラー生産のための化石エネルギー源の使用を回避又は最小限に低減することが望ましい。更に、工業用カーボンブラックは、色が原因で、ある種の用途への使用に適していないことが多い。補強フィラーとしての工業用カーボンブラックの利用に対する公知の代替物は、沈降シリカと二官能性シランとからなる。
【0003】
自動車のタイヤ用のトレッドの製作では、120~200m2/gのBET表面を有するシリカを硫黄官能性シラン等二官能性カップリング剤と共に利用することが公知であった。というのは、それらを用いると、工業用カーボンブラックの利用と比較して、摩耗、転がり抵抗及びウェットトラクション(wet traction)からなるタイヤ性能の「マジックトライアングル」を拡大することができたからである。
【0004】
トレッドとは対照的に、動的構造パーツ(カーカス、ベルト、レイヤー、バンド/ストリップ)では、摩耗による摩滅又はウェット若しくはドライトラクションが、タイヤトレッドの場合より重要な役割を果たさない。動的構造パーツを用いた主要目的は、力学的エネルギーの熱への変換を低減することである。熱生成は、損失係数tanデルタ(tanδ)によって表現される。損失係数tanδは、粘弾性挙動を特徴づけ、粘性成分及び弾性成分(損失モジュラス及び貯蔵モジュラス)の比に由来する。貯蔵モジュラスは、系によって貯蔵される、力学的エネルギーの一部を表し、損失モジュラスは、力学的エネルギーが熱エネルギーに変換されることを表す。したがって、熱生成の重要な指標として低損失係数が、特に上記動的構造パーツの場合に好ましい。
【0005】
熱生成では、使用されるポリマーは、その動的特性のため既に熱生成を起こす要因になっているので、それも考慮に入れられなければならない。したがって、低ガラス転移温度Tgによって、損失係数が低下する。
【0006】
動的構造パーツ用のゴムコンパウンドでは、主として低比表面積を有する工業用カーボンブラックが、熱生成を最小限に抑える目的で使用される。熱生成又は損失係数は、補強フィラーの充填度の低下、考察中の体積単位の補強フィラーの粒子の増大、及び/又は体積単位の補強粒子の距離の増大によって低減されうる。体積充填比は、構造パーツの硬度に影響することなく、工業用カーボンブラックの高構造化(いわゆる圧縮オイル吸収量(COAN)によって表現される)で低減されうる。
【0007】
しかし、この独立性は、パラメータすべてに当てはまるわけではない。対照的に、可能な限り低い熱生成を達成するための損失係数の低減は、通常加硫ゴム組成物の他の特性にも影響を及ぼす。補強フィラーにかかわらず、架橋密度の上昇によっても、損失係数が低下する。しかし、より高い架橋密度は、加硫ゴム組成物に例えばその引裂特性(破損点伸びの低下)及び老化性に関して悪影響を及ぼす。
【0008】
補強フィラーについて重要な問題点は、損失係数の低減が動的剛性を犠牲にして達成されるということである。損失係数tanδのより低い値では、典型的に低動的剛性のみ観察されうる。しかし、そのような低動的剛性は、同じ荷重でゴム組成物のより高い変形を引き起こし、したがって特にタイヤ又はそれらの動的構造パーツを生産するためにゴム組成物を利用するには不利である。
【0009】
したがって、加硫後に可能な限り低い損失係数と可能な限り高い動的剛性とを両方有し、したがって力学的エネルギーの熱への変換が最小限に抑えられ、加硫ゴム組成物が、荷重下で可能な限り低い変形のみ有する、ゴム組成物を提供することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2008 052 116号
【特許文献2】国際公開第2017/085278号
【特許文献3】国際公開第2017/194346号
【特許文献4】欧州特許出願公開第3 470 457号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、加硫化可能なゴム組成物であって、その加硫後に、可能な限り高い動的剛性と同時に可能な限り低い熱生成とを有し、特にこれらの2つのパラメータを、ゴム組成物が達成されるべきその性能に関してより柔軟にかつよりよく調整されうるように切り離すことができるゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、特許請求の範囲にクレームされた主題及び以下の明細書に記載されているこれらの主題の好ましい実施形態によって達成される。
【0013】
本発明の第1の主題は、ゴム成分Kと、フィラー成分Fと、加硫系VSとを含む加硫化可能なゴム組成物であって、
加硫系VSが、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含み、
ゴム成分Kが、硫黄によって架橋可能な少なくとも1種のゴムを含み、
フィラー成分Fが、0.20~0.45Bq/g炭素の範囲の14C含有量及び20~150m2/g、好ましくは>20~150m2/gの範囲のBET表面積を有する少なくとも1種の有機フィラーを含み、
加硫化可能なゴム組成物が、少なくとも1種のオルガノシランをフィラー成分Fの一部分として更に含み、少なくとも1種のオルガノシランが、少なくとも1個の加水分解性基及び少なくとも1個の硫黄原子を有し、好ましくは0.25~5phrの範囲にある量で含まれている、ゴム組成物である。
【0014】
本発明の別の主題は、空間的に分離された形で、
パーツ(A)として、少なくとも本発明に従って利用される上記ゴム成分K及び少なくとも本発明に従って利用されるフィラー成分Fを含むゴム組成物であって、キットオブパーツのパーツ(A)が、しかしながら本発明に従って利用される加硫系VSの硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含まない、ゴム組成物と、
パーツ(B)として、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含む、本発明に従って利用される加硫系VSと
を含むキットオブパーツであって、本発明に従って利用されるオルガノシランが、パーツ(A)中のフィラー成分Fに好ましくは0.25~5phrの範囲にある量で含まれている、キットオブパーツである。
【0015】
本発明の別の主題は、本発明による加硫化可能なゴム組成物の加硫によって、又は本発明によるキットオブパーツの2つのパーツ(A)及び(B)を組み合わせ、混合することによって得られうる加硫化可能なゴム組成物の加硫によって得ることができる、加硫ゴム組成物である。
【0016】
本発明の別の主題は、タイヤの生産、好ましくは空気入りタイヤ及びソリッドタイヤの生産、並びにタイヤ成分の生産、好ましくはそれらの生産において使用される、例えば天然ゴム及び/若しくは低ガラス転移温度Tgを有するゴムを含むゴム組成物等加硫ゴム組成物の可能な限り低いtanδ値が目標とされるようなタイヤ成分の生産、特にベース成分、すなわちトレッド、ショルダーストリップ(ウイング)、キャッププライ、ベルト、ビード及び/若しくはビード補強物の下の成分の群から選択されるタイヤ成分の生産における利用のための、又はテクニカルゴム物品等ゴム物品の生産、好ましくはドライブベルト、ストラップ/ベルト、成形パーツ、例えば緩衝物/クッション、ベアリング/マウント、例えば液封マウント、コンベヤーベルト、プロファイル、シール、リング及び/若しくはホースの生産における利用のための、本発明による加硫化可能なゴム組成物、本発明によるキットオブパーツ又は本発明による加硫ゴム組成物の使用である。
【0017】
本発明の別の主題は、本発明による加硫化可能なゴム組成物、本発明によるキットオブパーツ又は本発明による加硫ゴム組成物を利用してそれぞれ生産される、タイヤ、好ましくは空気入りタイヤ若しくはソリッドタイヤ、又はゴム成分、又はテクニカルゴム物品等ゴム物品であって、好ましくはゴム成分の場合に、これらが、ベース成分、すなわちトレッド、ショルダーストリップ(ウイング)、キャッププライ、ベルト、ビード及び/又はビード補強物の下の成分から選択され、テクニカルゴム物品等のゴム物品の場合に、これらが、好ましくはドライブベルト、ストラップ/ベルト、成形パーツ、例えば緩衝物/クッション、ベアリング/マウント、例えば液封マウント、コンベヤーベルト、プロファイル、シール、リング及び/又はホースから選択される、タイヤ、又はゴム成分、又はゴム物品である。
【0018】
驚くべきことに、本発明によるゴム組成物は、高動的剛性と同時に低tanδ値を有することが見出された。これらの2つの特性を良好に切り離すほど、特に工業用カーボンブラックを含むゴム組成物と比べて、ゴム組成物の目標とされる性能を柔軟にかつ良好に調整することができる。
【0019】
具体的には、本発明に従って利用されるフィラーと本発明に従って利用されるオルガノシランの組合せによって、ゴム組成物の性能が改善される。工業用カーボンブラックを本発明に従って利用されるフィラーで(部分)置換することによって、動的剛性は少なくとも不変のままでありながら、tanδ値が低減されうる。驚くべきことに、本発明に従って利用されるオルガノシランを追加的に使用することによって、tanδ値が更に低減することに加えて、より高い動的剛性も達成されうる。更に、驚くべきことに、本発明に従って利用されるフィラーと本発明に従って利用されるオルガノシランの組合せによって、(フィラーとしてカーボンブラックを含む加硫ゴム組成物と比較して)しばしば等しい~高い破損点伸びが達成されることが見出された。更に、ゴム組成物の硬度は、悪影響を与えられなかった。本発明に従って利用されるフィラーと本発明に従って利用されるオルガノシランの組合せは、特に硫黄によって架橋されたゴム組成物にとって有利である。
【0020】
本発明によるフィラーの使用は、環境の観点からも大いに有利である。工業用カーボンブラックの生産中、大量のCO2が生産プロセスにおいて放出される。したがって、本発明によるフィラーは、環境に優しいフィラー代替物を表し、更に工業用カーボンブラックとは対照的に、ゴム組成物の色に影響を及ぼさない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、工業用カーボンブラックの有機フィラーL1による部分置換及び硫黄官能性オルガノシランの添加によって損失係数の低減を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
例えば、本発明による加硫化可能なゴム組成物及び本明細書に記載されるプロセスのプロセス工程又は段階に関して本発明において使用される用語「含む」は、好ましくは「~からなる」という意味を有する。例えば、本発明による加硫化可能なゴム組成物に関してこの文脈では、本明細書の以下に記載されている任意選択で含まれている別の構成要素の1種又は複数が、その中に強制的に存在している構成要素に加えてその中に含まれていてもよい。構成要素はすべて、以下に記載されるそれらの好ましい実施形態のそれぞれに存在することができる。本明細書に記載される本発明によるプロセスに関して、これらは、強制的な工程及び/又は段階に加えて別の任意選択のプロセス工程及び段階を有することができる。
【0023】
本発明による加硫化可能なゴム組成物に含まれている構成要素等(いずれの場合にも、強制的な構成要素すべて、及び更に任意選択の構成要素すべてを含む)本明細書に記載される組成物すべての量は、いずれの場合にも合計100質量%になる。
【0024】
加硫化可能なゴム組成物
本発明による加硫化可能なゴム組成物は、ゴム成分Kと、フィラー成分Fと、加硫系VSとを含み、
加硫系VSが、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含み、
ゴム成分Kが、硫黄によって架橋可能な少なくとも1種のゴムを含み、
フィラー成分Fが、0.20~0.45Bq/g炭素の範囲の14C含有量及び20~150m2/g、好ましくは>20~150m2/gの範囲のBET表面積を有する少なくとも1種の有機フィラーを含み、
加硫化可能なゴム組成物が、少なくとも1種のオルガノシランをフィラー成分Fの一部分として更に含み、少なくとも1種のオルガノシランが、少なくとも1個の加水分解性基及び少なくとも1個の硫黄原子を有し、少なくとも1種のオルガノシランが、好ましくは0.25~5phrの範囲にある量で含まれている。
【0025】
ゴム成分K
本発明による加硫化可能なゴム組成物のゴム成分Kは、少なくとも硫黄を含む加硫系VSによって架橋可能である少なくとも1種のゴムを含む。
【0026】
いずれの種類のゴムも、それが硫黄によって架橋されうる限り本発明によるゴム組成物の生産に適している。好適なゴムは、ジエンゴム、特に天然ゴム(NR)、合成天然ゴム、特にイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(SSBR)、乳化重合スチレンブタジエンゴム(ESBR)、官能化SBR、特に官能化SSBR、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR;ニトリルゴム)、イソブチレンイソプレンゴム(IIR)、臭素化イソブチレンイソプレンゴム(BIIR)、塩素化イソブチレンイソプレンゴム(CIIR)、及びそれらの混合物からなる群から選択されるジエンゴムである。
【0027】
好ましくは、SSBR等の官能化ジエンゴムは、1つ又は複数の側鎖及び/又は末端基に1個又は複数の官能基を有し、少なくとも1種の官能基が、好ましくは極性基から選択され、特にカルボキシル、ヒドロキシ、アミノ、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド又はスルホン酸基、及びそれらの混合物からなる群から選択される。官能化SSBRは、とりわけ独国特許出願公開第10 2008 052 116号から公知である。
【0028】
好ましくは、ゴム成分Kの少なくとも1種のゴムは、天然ゴム、溶液重合スチレンブタジエンゴム(SSBR)、乳化重合スチレンブタジエンゴム(ESBR)又はブタジエンゴム、又は上記ゴムの少なくとも2種の混合物である。ゴム成分Kのゴムとして特に好ましいのは、天然ゴムである。
【0029】
加硫系VS
本発明による加硫化可能なゴム組成物の加硫系VSは、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含む。硫黄供与体は、加硫条件下で硫黄を放出する。硫黄は、加硫系VSに直接含まれている場合にも、使用された硫黄供与体から放出された後にもポリマーの架橋剤の働きをする。
【0030】
加硫系VS並びにその中に含まれている硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体の存在によって、本発明による加硫化可能なゴム組成物は加硫化されうる。
【0031】
典型的に、S8環の形をした硫黄元素は、硫黄による架橋に使用される。S8環は、熱的に又はアルカリ性物質によって開環される。硫黄は、ゴム組成物中に可溶性又は不溶性硫黄として存在することができる。促進剤という用語は、開環を活性化するアルカリ性有機化合物を指す。硫黄元素の代替物として、又は硫黄元素に加えて、少なくとも1種の硫黄供与体が利用されうる。この場合、硫黄は、加硫中にのみそのような硫黄供与体から放出される。硫黄供与体の例は、4,4'-ジチオモルホリン(DTDM)やテトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)等の硫黄含有化合物であり、0.5~2.0phrの範囲の投与量、例えば1.5phr(DTDM)又は1.0phr(TMTD)の量で利用される。
【0032】
本発明によるゴム組成物中の硫黄の割合は、好ましくは0.25~10phr、特に好ましくは0.25~7phr、更に特に好ましくは0.5~5phr、最も好ましくは1~3又は~2phrの範囲である。
【0033】
好ましくは、加硫系VSは、硫黄による架橋のための少なくとも1種の促進剤を含む。加硫系VSが架橋剤として硫黄を含む場合、以上に引用された硫黄供与体もそのような促進剤として適している。好ましくは、少なくとも1種の促進剤は、ジチオカルバメート、キサントゲネート、チウラム、例えばチウラムモノスルフィド並びに/又はチウラムジスルフィド及び/若しくはテトラベンジルチウラムジスルフィド(TbzTD)及び/若しくはテトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、チアゾール、例えば2-メルカプトベンゾチアゾール及び/又はジベンゾチアジルジスルフィド、スルフェンアミド、例えばN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジル-スルフェンアミド(CBS)及び/又は2-モルホリノチオベンゾチアゾール及び/又はN-tert-ブチル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド、グアニジン、例えばN,N'-ジフェニルグアニジン、チオ尿素、ジチオホスフェート、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、4,4'-ジチオジモルホリン(DTDM)、カプロラクタムジスルフィド、並びにそれらの混合物からなる群から選択され、更に特に好ましくは、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアジル-スルフェンアミド、テトラベンジルチウラムジスルフィド及びN,N'-ジフェニルグアニジン、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0034】
本発明によるゴム組成物中の少なくとも1種の促進剤の割合は、好ましくは0.1~10phr、特に好ましくは0.2~8phr、更に特に好ましくは0.2~6phr、最も好ましくは0.2~3phrである。
【0035】
本発明による加硫化可能なゴム組成物の加硫系VSは、硫黄及び/若しくは硫黄供与体以外の他の加硫化剤、並びに/又は酸化亜鉛及び/若しくは例えばステアリン酸等の脂肪酸等の加硫を促進する添加剤を含むことができる。
【0036】
本発明による加硫化可能なゴム組成物の加硫系VSは、加硫を促進するものの単独では加硫を開始することができない1種又は複数の添加剤を含むことができる。そのような添加剤としては、例えばステアリン酸等好ましくは12~24個、特に好ましくは14~20個、最も好ましくは16~18個の炭素原子を有する飽和脂肪酸、及び上記脂肪酸の亜鉛塩等の加硫促進剤が挙げられる。
【0037】
加硫を促進する添加剤、特に上記脂肪酸及び/又はそれらの亜鉛塩、好ましくはステアリン酸及び/又はステアリン酸亜鉛が、本発明によるゴム組成物において利用される場合、それらの割合は、好ましくは0~10phr、特に好ましくは1~8phr、最も好ましくは1.5~5phrである。
【0038】
本発明による加硫化可能なゴム組成物の加硫系VSは、硫黄及び/又は硫黄供与体と異なる、好ましくは酸化亜鉛等1種又は複数の別の加硫化剤を更に含むことができる。硫黄及び/又は硫黄供与体に加えて、加硫系VSのそのような加硫化剤を利用することが特に好ましい。
【0039】
酸化亜鉛等の他の加硫化剤が本発明によるゴム組成物において利用される場合、それらの割合は、好ましくは0~10phr、特に好ましくは1~8phr、最も好ましくは2~5phrである。
【0040】
少なくとも使用される硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体に加えて、別の架橋剤として過酸化物を加硫系VSに添加することもできる。しかし、これは好ましくない。
【0041】
本発明のゴム組成物の加硫は、好ましくは硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を使用して、特に好ましくは硫黄を酸化亜鉛及び/又は少なくとも1種の脂肪酸と組み合わせて使用して、特に好ましくは硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を使用して、更に特に好ましくは硫黄を酸化亜鉛及び少なくとも1種の脂肪酸と組み合わせて使用して行われる。
【0042】
フィラー成分F
本発明による加硫化可能なゴム組成物のフィラー成分Fは、少なくとも1種の有機フィラーを含む。本発明に従って利用されるフィラーは、有機フィラーであるので、沈降シリカ等の無機フィラーは、このカテゴリーに入らない。
【0043】
特にフィラー及び有機フィラーという用語は、当業者に公知である。好ましくは、本発明に従って利用される有機フィラーは、補強フィラー、すなわち活性フィラーである。補強フィラー又は活性フィラーは、不活性フィラーより高い比表面積によって特徴づけられ、不活性(非補強)フィラーとは対照的に、ゴム組成物内のゴムと相互作用することによってゴムの粘弾性特性を変えることができる。例えば、それらは、ゴムの粘度に影響することができ、引張下における伸び及び加硫物の破壊挙動を、例えば引裂強さ、引裂き及び摩耗に関して、改善することができる。一方、不活性フィラーは、ゴムマトリックスを希釈し、例えば破砕エネルギーを低減する。
【0044】
本発明に従って利用される有機フィラーは、0.20~0.45Bq/g炭素、好ましくは0.23~0.42Bg/g炭素の範囲の14C含有量を有する。以上に引用された必要とされる14C含有量は、バイオマスから得られた有機フィラーによって、更なる処理又は反応によって、好ましくは熱的、化学的及び/又は生物学的に実施されうる、好ましくは熱的及び化学的に実施される分画によって達成される。したがって、特に化石燃料等化石材料から得られたフィラーは、対応する14C含有量を有しないので、本発明に従って使用されるべきフィラーの本発明による定義に該当しない。
【0045】
バイオマスは、原則として本明細書にいずれのバイオマスとも定義され、本明細書では「バイオマス」という用語は、いわゆるファイトマス、すなわち植物に起源をもつバイオマス、ズーマス(zoomass)、すなわち動物に起源をもつバイオマス、及び微生物バイオマス、すなわち真菌を含めて微生物に起源をもつバイオマスを含み、バイオマスは、ドライバイオマス又はフレッシュバイオマスであり、死又は生有機体に起源をもつ。フィラーの生産に本明細書で特に好ましいバイオマスは、ファイトマス、好ましくは死ファイトマスである。死ファイトマスは、とりわけ死植物、廃棄植物又は分離植物、及びそれらの部分を含む。これらには、例えば切除及び引裂葉、穀物茎、副梢、小枝及び枝、落葉、伐採木又は剪定木も、種子及び果実並びにそれらに由来する部分も含まれるだけでなく、木材加工に由来するおがくず、木くず/チップ及び他の生成物も含まれる。
【0046】
本発明に従って利用される有機フィラーは、20~150m2/gの範囲、好ましくは>20~150m2/gの範囲、特に好ましくは25~120m2/gの範囲、特に好ましくは30~110m2/gの範囲、最も好ましくは40~100m2/gの範囲のBET表面積(Brunauer、Emmett及びTellerによる比総表面積)を有する。BET表面積を決定する一方法は、本明細書の以下に方法の節で引用されている。
【0047】
好ましくは、有機フィラーは、それぞれ灰不含及び水不含フィラーに対して>8質量%~<30質量%、特に好ましくは>10質量%~<30質量%、更に特に好ましくは>15質量%~<30質量%、最も好ましくは>20質量%~<30質量%の範囲の酸素含有量を有する。酸素含有量は、例えばEuroVector S.p.A.社のEuroEA3000 CHNS-O Analyzerを使用して高温熱分解によって決定されうる。
【0048】
好ましくは、有機フィラーは、それぞれ灰不含及び水不含フィラーに対して>60質量%~<90質量%、特に好ましくは>60質量%~<85質量%、更に特に好ましくは>60質量%~<82質量%、最も好ましくは>60質量%~<80質量%の範囲の炭素含有量を有する。炭素含有量を決定する一方法は、本明細書の以下に方法の節で引用されている。この点に関して、有機フィラーは、カーボンブラックの対応する炭素含有量が少なくとも95質量%であるので、化石原料で作製された工業用カーボンブラック等のカーボンブラックとも、再生原料で作製されたカーボンブラックとも異なる。
【0049】
好ましくは、有機フィラーは、>18~<150m2/gの範囲、特に好ましくは20~130m2/gの範囲、更に詳細には25~120m2/gの範囲、更により好ましくは30~110m2/gの範囲、特に40~100m2/gの範囲、最も好ましくは40~<100m2/gの範囲のSTSA表面積を有する。STSA表面積(統計的厚さ比表面積)を決定する方法は、本明細書の以下に方法の節で引用されている。
【0050】
好ましくは、有機フィラーは、フェノール性OH基、フェノレート基、脂肪族OH基、カルボン酸基、カルボキシレート基及びそれらの混合物から選択される少なくとも1種の官能基を有する。
【0051】
好ましくは、本発明に従って利用される有機フィラーは、バイオマス及び/又はバイオマス成分から生産されたリグニンベースの有機フィラーである。例えば、リグニンベースの有機フィラーの生産のためのリグニンは、バイオマスから単離され、抽出され、かつ/又は溶解されうる。リグニンベースの有機フィラーをバイオマスから生産するためのリグニンを得る好適な方法は、例えば加水分解プロセス又はKraftパルプ化プロセス等パルプ化プロセスである。本発明において使用される「リグニンベースの」という用語は、好ましくは1つ又は複数のリグニン部分及び/又は1つ又は複数のリグニン足場が本発明に従って利用される有機フィラー中に存在することを意味する。リグニンは、植物細胞壁に組み込まれ、したがって植物細胞のリグニン化を行う固体バイオポリマーである。したがって、それらは、バイオマス、特に生物学的再生原料中に存在し、したがって特に水熱処理された形をした、環境に優しいフィラー代替物を表す。
【0052】
好ましくは、リグニン、好ましくは本発明に従って利用される有機フィラーそれ自体は、リグニンベースのフィラーである場合、それぞれ少なくとも部分的に水熱処理された形で存在し、特に好ましくは水熱処理によって得られうる。特に好ましくは、本発明に従って利用される有機フィラーは、水熱処理によって得ることができるリグニンをベースにしている。特にリグニン及びリグニン含有有機フィラーの水熱処理に適したプロセスについては、例えば国際公開第2017/085278号及び同第2017/194346号、並びに欧州特許出願公開第3 470 457号に記載されている。好ましくは、水熱処理は、液体の水の存在下に>100℃~<300℃、特に好ましくは>150℃~<250℃の温度で実施される。好ましくは、有機フィラーは、リグニンベースのフィラーであり、好ましくは少なくともリグニン、更により好ましくは有機フィラーそれ自体は、水熱処理によって得ることができる形で少なくとも部分的に存在し、特に好ましくは水熱処理によって得ることができ、水熱処理は、好ましくは>100℃~<300℃、特に好ましくは>150℃~<250℃の範囲の温度で実施された。
【0053】
好ましくは、有機フィラーは、7~9の範囲、特に好ましくは>7~<9の範囲、更に特に好ましくは>7.5~<8.5の範囲のpH値を有する。
【0054】
本発明に従って利用される有機フィラーは、好ましくは<25μm、更により好ましくは<20μm、特に好ましくは<18μm、更に特に好ましくは<15μm、更により好ましくは<12μm、更により好ましくは<10μm、更により好ましくは<9μm、更により好ましくは<8μmのd99値を有する。d99値を決定する方法は、本明細書の以下に方法の節で記載され、ISO 13320:2009に従ってレーザー回折によって実施される。以下に引用されるd90及びd25値も、同様に決定される。当業者は、本発明に従って利用される有機フィラーが粒子の形で存在すること、これらの粒子の平均粒径(平均結晶粒径)が、上記d99値によって、更には以上に記載されているd90及びd25値によっても記述されていることを認識している。
【0055】
特に好ましくは、本発明に従って利用される有機フィラーは、好ましくはそれぞれISO 13320:2009に従ってレーザー回折によって決定して<9μm、更により好ましくは<8μmのd99値を有する。
【0056】
好ましくは、有機フィラーは、好ましくはそれぞれISO 13320:2009に従ってレーザー回折によって決定して<7.0μm、特に好ましくは<6.0μmのd90値を有し、かつ/又は好ましくは<3.0μm、特に好ましくは<2.0μmのd25を有する。
【0057】
好ましくは、本発明によるゴム組成物は、少なくとも1種の有機フィラーを1~150phr、特に好ましくは5~100phr、更に特に好ましくは10~80phr、更により好ましくは15~70phr、最も好ましくは15~60phrの範囲にある量で含む。
【0058】
本明細書で使用されるphr(ゴム100質量部当たりの質量部)指定は、コンパウンド配合のためにゴム産業においてよく使用される量指定である。個々の構成要素の質量部の投与量は、常にコンパウンド中に存在するすべてのゴム全質量の100質量部に対する投与量である。
【0059】
本発明に従って利用される少なくとも1種の有機フィラーに加えて、フィラー成分Fは、本発明に従って利用される有機フィラーと異なる1種又は複数の他のフィラーを含むことができる。
【0060】
本発明に従って利用される有機フィラーがよく見られる工業用カーボンブラックの部分置換物としてのみ役立つ場合、本発明によるゴム組成物は、例えばASTMコードN660又はASTMコードN550で汎用性カーボンブラックと分類される工業用カーボンブラック、特に炉カーボンブラックも含むことができる。
【0061】
更に又は代替物として、本発明によるゴム組成物は、特に無機フィラー、例えばさまざまな粒径、粒子表面及び化学的性質を有し、特定の特性ではあるが特に加工挙動(レオロジー)に影響する異なる可能性をもつものを含むことができる。別のフィラーが含まれている場合、これらは、好ましくは本発明によるゴム組成物において使用される有機フィラーと特にそれらのpH値に関してできるだけ似ている特性を有するべきである。
【0062】
他のフィラーが利用される場合、それらは、好ましくはクレイ鉱物等のフィロシリケート、例えばタルク;炭酸カルシウム等の炭酸塩;例えばケイ酸カルシウム、マグネシウム及びアルミニウム等のケイ酸塩;並びに例えば酸化マグネシウム及びシリカ又はケイ酸等の酸化物である。
【0063】
特に、本発明に従って利用される有機フィラーがよく見られるケイ酸又はシリカの部分置換物としてのみ役立つ場合、本発明によるゴム組成物は、そのような無機フィラー、例えばシリカ又はケイ酸も含むことができる。
【0064】
しかし、本発明の文脈において、酸化亜鉛は、加硫を促進する添加剤の仕事を負っているので無機フィラーに入らない。しかし、追加のフィラーは、シリカが有機分子をその表面に結合させ、したがってそれらの作用を阻害する傾向があるので、注意して選択されなければならない。
【0065】
オルガノシラン
本発明による加硫化可能なゴム組成物の少なくとも1種のオルガノシランは、少なくとも1個の加水分解性基及び少なくとも1個の硫黄原子を有する。好ましくは、少なくとも1個の硫黄原子は、オルガノシランの非加水分解性有機基の一部分であり、又はチオール基等の官能基の形をしたそのような基に共有結合しており、特に少なくとも1個の硫黄原子は、オルガノシランの脂肪族有機基の一部分であり、又はチオール基等の官能基の形をしたそのような基に共有結合している。
【0066】
好ましくは、本発明による加硫化可能なゴム組成物の少なくとも1種のオルガノシランは、一般式(I)及び/又は(II)の化合物である。
Si(X)4-y(R)y (I)、
(X)3-z(T)zSi-(RA)-Si(X)3-z(T)z (II)
[式中、一般式(I)の場合に、
Xはそれぞれ相互に独立的に、フェノール性OH基、フェノレート基、脂肪族OH基、カルボン酸基、カルボキシレート基及び/又はこれらの基の混合物と反応する加水分解性基を表し、加水分解性基はそれぞれ相互に独立的に、アルコキシ基を表し、特に好ましくはO-C1~4アルキルから選択され、
パラメータyは、1~3の範囲の整数を表すが、少なくとも1であり、好ましくは正確に1であり、
Rは、非加水分解性有機基、好ましくは少なくとも1個の硫黄原子を有する脂肪族C3~C20基を表し、硫黄原子は、好ましくはチオール基、ブロックチオール基、テトラスルフィド基等のジ及び/又はポリスルフィド基、並びにそれらの混合物、更に特に好ましくはチオール基からなる群から選択される少なくとも1個の官能基の一部であることが好ましく、
式中、一般式(II)の場合に、
Xはそれぞれ相互に独立的に、フェノール性OH基、フェノレート基、脂肪族OH基、カルボン酸基、カルボキシレート基及び/又はこれらの基の混合物と反応する加水分解性基を表し、加水分解性基は相互に独立的に、アルコキシ基を表し、特に好ましくはO-C1~4アルキルから選択され、
RAは、2個の結合を有する非加水分解性有機基、好ましくは少なくとも1個の硫黄原子を含む2個の結合を有する脂肪族C6~C20基、好ましくは少なくとも1個のジスルフィド及び/又はポリスルフィド基、特に好ましくはジ又はテトラスルフィド基を表し、
パラメータzはそれぞれ、0~2の範囲の整数を表し、好ましくはそれぞれ0又は2を意味し、
Tは、RA基と異なり、官能基を有しない非加水分解性有機基を表し、好ましくは脂肪族C1~C20基であり、特に好ましくは硫黄原子を含まない]。
【0067】
一般式(I)のモノシランの場合に、少なくとも1個のR基は、メルカプトアルキル基であり、Rは、好ましくは脂肪族C3~C8基、特に好ましくは脂肪族C3~C6基であること、モノシランは、少なくとも1個のX基、好ましくは2又は3個のX基を有することが好ましい。
【0068】
好ましくは、一般式(I)のモノシランは、4-メルカプトブチルトリアルコキシシラン及び/又は6-メルカプトヘキシルトリアルコキシシラン及び/又は3-メルカプトプロピルトリアルコキシシランからなる群から選択され、アルコキシ基は相互に独立的に、メトキシ又はエトキシ基を意味することが好ましい。
【0069】
好ましくは、少なくとも1種のオルガノシランは、一般式(II)の化合物である。
【0070】
一般式(II)のビス(シラン)の場合に、非加水分解性有機基RAは、脂肪族C6~C20基、特に好ましくは脂肪族C6~C10基であること、RAは少なくとも1個の硫黄原子を有することが好ましい。特に好ましくは、RAは、ジ又はポリスルフィド基、更に特に好ましくはジ又はテトラスルフィド基を有する。好ましくは、少なくとも1個の硫黄原子は、RA基内に存在し、特に好ましくは、少なくとも1個の硫黄原子は、ケイ素原子に隣接していない。
【0071】
好ましくは、一般式(II)のビス(シラン)は、少なくとも1個のX基、特に好ましくは2又は3個のX基を有する。
【0072】
好ましくは、一般式(II)のビス(シラン)は、ビス(ジメチルエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(DMESPT)、ビス(ジメチルエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(DMESPD)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPT)、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD)及びそれらの混合物からなる群から選択され、特に好ましくは、一般式(II)のビス(シラン)は、TESPT及び/又はTESPDであり、最も好ましくはTESPDである。
【0073】
好ましくは、少なくとも1種のオルガノシランは、本発明による加硫化可能なゴム組成物に0.25~7phr、特に好ましくは0.25~5phr、更に特に好ましくは0.5~3phrの範囲にある量で含まれている。
【0074】
好ましくは、少なくとも1種のオルガノシランは、本発明による加硫化可能なゴム組成物に、その中に含まれている有機フィラーに対して1~10質量%、特に好ましくは2~8質量%、更に特に好ましくは2.5~6質量%、最も好ましくは3~6又は~5質量%の範囲にある量で含まれている。
【0075】
加硫化可能なゴム組成物の他の構成要素
本発明によるゴム組成物は、可塑剤/軟化剤及び/又は劣化防止剤及び/又は光安定化用ワックス及び/又は樹脂、特に接着力を増加させる樹脂等任意選択の別の構成要素を含むことができる。
【0076】
軟化剤を利用することによって、未加硫ゴム組成物の特性、例えば特に加工性に影響することができ、加硫ゴム組成物の特性、例えば特に低温におけるその柔軟性にも影響することができる。本発明の文脈において特に好適な軟化剤は、パラフィン系油(実質的に飽和の鎖状炭化水素)及びナフテン油(実質的に飽和の環状炭化水素)の群からの鉱油である。芳香族系炭化水素油を利用することもでき、更には好ましい。しかし、ゴム組成物の、例えばカーカス等タイヤ中の他のゴム含有成分への接着に関して、パラフィン系及び/又はナフテン油の混合物は、軟化剤としても有利でありうる。他の考えうる軟化剤は、例えば脂肪族ジカルボン酸、例えばアジピン酸又はセバシン酸のエステル、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスである。軟化剤のうち、パラフィン系油及びナフテン油は、本発明の文脈において特に好適である。しかし、最も好ましいのは、芳香族油、特に芳香族鉱油である。
【0077】
好ましくは、軟化剤、それらのうち特に好ましいパラフィン系及び/又はナフテン系、特に芳香族プロセス油は、0~10phr、特に好ましくは1~8phr、更に特に好ましくは1~7phr、最も好ましくは1~3phrの量で利用される。
【0078】
好ましくは、TMQ(2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン)等のキノリン及び6-PPD(N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン)又はIPPD(N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)等のジアミン、特に好ましくはIPPDは、劣化防止剤として使用される。好ましくは、それらの割合は、1~10phr、特に好ましくは1~7phr、更に特に好ましくは1~5phr、最も好ましくは1~2phrである。
【0079】
光安定化用ワックスの例には、H&R Group社からのNegozone 3457又はRhein Chemie社からのAntilux光安定化用ワックス、例えばAntilux 111又はAntilux 654がある。好ましくは、それらの割合は、0.25~10phr、特に好ましくは0.5~7phr、更に特に好ましくは0.5~5phr、最も好ましくは0.5~2phrである。
【0080】
いわゆる接着増強性樹脂は、本発明の加硫ゴムコンパウンドの、他の隣接するタイヤ成分への接着を改善するように使用されうる。特に好適な樹脂は、好ましくはフェノール系樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂及びフェノール-アセチレン樹脂からなる群からのフェノールをベースにしたものである。フェノールベースの樹脂に加えて、ExxonMobil社からのEscorez(商標)1102 RM等の脂肪族炭化水素樹脂、及び芳香族炭化水素樹脂も使用されうる。脂肪族炭化水素樹脂は特に、タイヤの他のゴム成分への接着を改善する。それらは、一般にフェノールをベースにした樹脂より低い接着力を有し、単独で又はフェノールをベースにした樹脂との混合物として使用されうる。
【0081】
接着増強性樹脂が使用されるとしても、好ましくはフェノールをベースにした樹脂、芳香族炭化水素樹脂及び脂肪族炭化水素樹脂からなる群から選択されるものである。好ましくは、それらの割合は、0~15phr、特に好ましくは1~15phr、更に特に好ましくは2~10phr、最も好ましくは3~8phrである。
【0082】
キットオブパーツ
本発明の別の主題は、空間的に分離された形で、
パーツ(A)として、少なくとも本発明に従って利用される上記ゴム成分K及び少なくとも本発明に従って利用されるフィラー成分Fを含むゴム組成物であって、パーツ(A)が、しかしながら本発明に従って利用される加硫系VSの硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含まない、ゴム組成物と、
パーツ(B)として、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含む、本発明に従って利用される加硫系VSと
を含む、又は好ましくはそれらかなるキットオブパーツであって、本発明に従って利用されるオルガノシランが、パーツ(A)中のフィラー成分Fに好ましくは0.25~5phrの範囲にある量で含まれている、キットオブパーツである。
【0083】
したがって、パーツ(A)は、それ自体硫黄によってまだ加硫化可能でなく、したがってこの時点では硫黄によって加硫化可能でないゴム組成物を表す。硫黄による加硫は、硫黄それ自体が存在しており、かつ/又は少なくとも1種の硫黄供与体からのみ放出されるにかかわらず、パーツ(A)及び(B)を混合してからのみ可能である。
【0084】
好ましくは、一方で本発明によるゴム組成物の成分K及びFと他方で加硫系VSが、キットオブパーツ中において互いから空間的に分離されており、したがって貯蔵されうる。キットオブパーツは、加硫化可能なゴム組成物の調製に役立つ。したがって、例えば、成分K及びF並びに硫黄と異なる加硫化剤を含めて任意選択で他の構成要素、例えば酸化亜鉛及び/又は少なくとも1種の脂肪酸を含む、キットオブパーツの1個のパーツを構成するゴム組成物を、本明細書の以下に更に記載される加硫化可能なゴム組成物を調製するプロセスの段階1においてパーツ(A)として利用することができ、キットオブパーツの第2のパーツ、すなわち少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含む、パーツ(B)としての加硫系VSを、前記プロセスの段階2において利用することができ、本発明に従って利用されるオルガノシランは、パーツ(A)中のフィラー成分Fに含まれている。
【0085】
本発明によるゴム組成物の両構成要素K、Fと、少なくとも1個の加水分解性基及び少なくとも1個の硫黄原子を有するオルガノシランと、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含む関連した加硫系VSとを、加硫化可能なゴム組成物が直接加硫化されうるように好ましくは均質な混合物として含む加硫化可能なゴム組成物とは対照的に、成分Kと、Fと、好ましくは少なくとも1個の加水分解性基及び少なくとも1個の硫黄原子を有するオルガノシランと、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を含む加硫系VSとを含むゴム組成物が、本発明によるキットオブパーツにおいて互いに空間的に分離されている。
【0086】
本発明による加硫化可能なゴム組成物に関して本明細書の以上に記載されたすべての好ましい実施形態は、本発明によるキットオブパーツに関した好ましい実施形態でもある。
【0087】
好ましくは、本発明によるキットオブパーツは、
パーツ(A)として、少なくとも成分K、F、並びに少なくとも1個の加水分解性基及び少なくとも1個の硫黄原子を有する1種のオルガノシランを含むゴム組成物と、
パーツ(B)として、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体、更に酸化亜鉛を含む加硫系VSであって、酸化亜鉛が、別法としてパーツ(A)内に存在してよい、加硫系VSと
を含む。
【0088】
特に好ましくは、本発明によるキットオブパーツは、
パーツ(A)として、少なくとも成分K、F、並びに少なくとも1個の加水分解性基及び少なくとも1個の硫黄原子を有する1種のオルガノシランを含むゴム組成物と、
パーツ(B)として、少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体、酸化亜鉛及び少なくとも1種の飽和脂肪酸、例えばステアリン酸並びに/又は任意選択でステアリン酸亜鉛を含む加硫系であって、少なくとも酸化亜鉛及び/又は脂肪酸が、別法としてパーツ(A)内に存在してよい、加硫系と
を含む。
【0089】
加硫化可能なゴム組成物を調製するプロセス
本発明の別の主題は、本発明による加硫化可能なゴム組成物を調製するプロセスである。
【0090】
本発明による加硫化可能なゴム組成物及び本発明によるキットオブパーツに関して本明細書の以上に記載されたすべての好ましい実施形態は、本発明によるプロセスに関して好ましい実施形態でもある。
【0091】
本発明による加硫化可能なゴム組成物の調製は、好ましくは2段階、すなわち段階1及び2で実施される。
【0092】
第1の段階(段階1)において、本発明による加硫化可能なゴム組成物の調製に利用されるすべての構成要素を互いに混合するが、硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体とは混合しないことによって、ベース混合物(マスターバッチ)としてゴム組成物が最初に調製される。第2の段階(段階2)において、加硫系VSの硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体、並びに任意選択で追加の構成要素が、段階1の後に得られたゴム組成物に混和される。
【0093】
段階1
好ましくは、本発明によるゴム組成物のゴム成分Kに含まれている少なくとも1種のゴム、及びそれと異なる任意選択で利用されうる樹脂が提供される。しかし、後者は、別法として別の添加剤と一緒に続いて添加されうる。好ましくは、ゴムは、少なくとも室温(23℃)を有し、又は特に好ましくは最高で50℃、更に特に好ましくは最高で45℃、特に好ましくは最高で40℃の温度に予熱される。特に好ましくは、ゴムは、他の構成要素が添加される前に短時間前素練りされる。酸化マグネシウム等の阻害剤がその後の加硫制御に使用される場合、好ましくはこの時点で添加される。
【0094】
次いで、本発明に従って利用される少なくとも1種の有機フィラー、及び好ましくは酸化亜鉛を除いて任意選択で別のフィラーが添加される。というのは、酸化亜鉛が、本明細書の以上に述べたように本発明によるゴム組成物中の加硫系の構成要素として使用され、したがって本明細書ではフィラーとみなされないからである。少なくとも1種の有機フィラー及び任意選択で他のフィラーの添加は、好ましくは少しずつ実施される。
【0095】
有利ではあるが、強制的ではなく、軟化剤、本発明に従って利用されるオルガノシラン、及び硫黄以外の加硫化剤等の他の構成要素、例えばステアリン酸及び/若しくはステアリン酸亜鉛並びに/又は酸化亜鉛は、少なくとも1種の有機フィラー又は他のフィラーが使用される場合その添加後にのみ添加される。これは、少なくとも1種の有機フィラー、及び他の有機フィラーが存在する場合それらの取り込みを促進する。しかし、有機フィラー、又は他のフィラーが存在する場合それらの一部分を、軟化剤及び任意選択で使用される他の任意の構成要素と一緒に取り込むことが有利でありうる。
【0096】
第1の段階においてゴム組成物の調製中に得られた最高温度(「ダンプ温度」)は、170℃を超えるべきではない。これらの温度を超えると反応性ゴム及び/又は有機フィラーの部分分解の可能性があるからである。しかし、特に利用されるゴムに依存して、>170℃、例えば最高で200℃の温度も可能でありうる。好ましくは、第1の段階のゴム組成物の調製における最高温度は、80℃~<200℃、特に好ましくは90℃~190℃、最も好ましくは95℃~170℃である。
【0097】
ゴム組成物の構成要素の混合は、通常、接線式又は噛合式(すなわち、インターメッシング(intermeshing))ロータを装備したインターナルミキサーによって実施される。後者は、通常、よりよい温度制御を可能にする。接線式ロータを備えた混合器は、接線式混合器とも呼ばれる。しかし、混合は、例えば双ロール混合器を使用して実施することもできる。使用されるゴムに応じて、混合プロセスは、従来通り、ポリマーの添加で始まり、又は逆に、すなわち混合物の他のすべての構成要素を添加してから最後にポリマーの添加を行って実施されうる。
【0098】
ゴム組成物の調製が完了した後、それは、好ましくは第2の段階を実施する前に冷却される。このタイプのプロセスは、緩和とも呼ばれる。典型的な緩和期間は、6~24時間、好ましくは12~24時間である。
【0099】
段階2
第2の段階において、加硫系VSの少なくとも硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体は、好ましくは追加の構成要素が第1の段階のゴム組成物に取り込まれ、それによって本発明による加硫化可能なゴム組成物が得られる。好ましくは、硫黄による架橋のための促進剤が利用される/存在する場合それらも、段階2において取り込まれる。
【0100】
酸化亜鉛、更に任意選択でステアリン酸等の少なくとも1種の飽和脂肪酸が、硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体に加えて加硫系として利用される場合、これらの構成要素すべての添加は段階2において行われる。しかし、これらの構成要素を硫黄及び/又は少なくとも1種の硫黄供与体を除いて、段階1において既にゴム組成物に統合することもできる。
【0101】
第2の段階において加硫系の混和物のゴム組成物への調製中に得られた最高温度(「ダンプ温度」)は、好ましくは130℃を超えるべきではなく、特に好ましくは125℃を超えるべきではない。好ましい温度範囲は、70℃~125℃、特に好ましくは80℃~120℃にある。架橋系の105℃~120℃の最高温度を超える温度では、早期加硫が起こりうる。
【0102】
段階2において加硫系を混和した後、組成物は、好ましくは冷却される。
【0103】
本明細書の以上に記載された2段階プロセスでは、ゴム組成物が、まず第1の段階において得られ、次いで第2の段階において加硫化可能なゴム組成物に拡大される。
【0104】
本発明による加硫化可能なゴム組成物を更に加工するプロセス
加硫前に、こうして調製された加硫化可能なゴム組成物は、変形プロセスを経て、好ましくは最終物品にカスタマイズ又は適合される。ゴム組成物は、好ましくは押出又はカレンダリングによって、加硫プロセスに必要とされる好適な形状に形成される。加硫は、加硫鋳型において圧力及び温度によって実施されてよく、又は加硫は、空気又は液体材料が熱伝達を実現する温度制御型チャネルにおいて圧力なしで実施される。
【0105】
加硫ゴム組成物
本発明の別の主題は、本発明による加硫化可能なゴム組成物の加硫によって、又は本発明によるキットオブパーツの2つのパーツ(A)及び(B)を組み合わせ、混合することによって得られうる加硫化可能なゴム組成物の加硫によって得ることができる加硫ゴム組成物である。
【0106】
本発明による加硫化可能なゴム組成物及び本発明によるキットオブパーツ並びに本発明によるプロセスに関して本明細書の以上に記載されたすべての好ましい実施形態は、本発明による加硫ゴム組成物に関しても好ましい実施形態である。
【0107】
典型的に、加硫は、加圧下及び/又は熱の影響下で実施される。好適な加硫温度は、好ましくは100℃~200℃、特に好ましくは120℃~180℃、最も好ましくは140℃~170℃である。任意選択で、加硫は、50バール~300バールの範囲の圧力で実施される。しかし、加硫を、例えばプロファイルの場合に0.1バール~1バールの圧力範囲で実施することもできる。プレスの閉鎖圧は、混合物及び製品幾何形状に応じて典型的に150バール~500バールの範囲である。
【0108】
使用
本発明の別の主題は、タイヤの生産、好ましくは空気入りタイヤ及びソリッドタイヤ、並びにタイヤ成分の生産、好ましくはそれらの生産において使用される、例えば天然ゴム及び/若しくは低ガラス転移温度Tgを有するゴムを含むゴム組成物等加硫ゴム組成物の可能な限り低いtanδ値が目標とされるようなタイヤ成分の生産、特にベース成分、すなわちトレッド、ショルダーストリップ(ウイング)、キャッププライ、ベルト、ビード及び/若しくはビード補強物の下の成分の群から選択されるタイヤ成分の生産における利用のための、又はテクニカルゴム物品等ゴム物品の生産、好ましくはドライブベルト、ストラップ/ベルト、成形パーツ、例えば緩衝物/クッション、ベアリング/マウント、例えば液封マウント、コンベヤーベルト、プロファイル、シール、リング及び/若しくはホースの生産における利用のための、本発明による加硫化可能なゴム組成物、本発明によるキットオブパーツ又は本発明による加硫ゴム組成物の使用である。
【0109】
「テクニカルゴム物品」(また機械的ゴム商品、MRG)という用語は、当業者に公知である。テクニカルゴム物品の例には、ドライブベルト、ストラップ/ベルト、成形パーツ、例えば緩衝物/クッション、ベアリング/マウント、特に液封マウント、コンベヤーベルト、プロファイル、シール、ダンパー及び/又はホースがある。
【0110】
本発明による加硫化可能なゴム組成物、本発明によるキットオブパーツ、本発明によるプロセス及び本発明による加硫ゴム組成物に関して本明細書の以上に記載されたすべての好ましい実施形態は、本発明による上記の使用に関しても好ましい実施形態である。
【0111】
タイヤ及びタイヤ成分
本発明の別の主題は、本発明による加硫化可能なゴム組成物、本発明によるキットオブパーツ又は本発明による加硫ゴム組成物を利用してそれぞれ生産された、タイヤ、好ましくは空気入りタイヤ若しくはソリッドタイヤ、又はタイヤ成分であり、好ましくはタイヤ成分の場合、これらは、ベース成分、すなわちトレッド、ショルダーストリップ(ウイング)、キャッププライ、ベルト、ビード及び/又はビード補強物の下の成分から選択される。
【0112】
本発明による加硫化可能なゴム組成物、本発明によるキットオブパーツ、本発明によるプロセス及び本発明による加硫ゴム組成物並びに本発明による使用に関して本明細書の以上に記載されたすべての好ましい実施形態は、本発明による上記のタイヤに関しても好ましい実施形態である。
【0113】
ゴム物品、特にテクニカルゴム物品
本発明の別の主題は、本発明による加硫化可能なゴム組成物、本発明によるキットオブパーツ、又は本発明による加硫ゴム組成物を利用することによって生産された、好ましくはドライブベルト、ストラップ/ベルト、成形パーツ、例えば緩衝物/クッション、ベアリング/マウント、特に液封マウント、コンベヤーベルト、プロファイル、シール、リング及び/又はホースから選択される、ゴム物品、特にテクニカルゴム物品である。
【0114】
本発明による加硫化可能なゴム組成物、本発明によるキットオブパーツ、本発明によるプロセス及び本発明による加硫ゴム組成物、並びに本発明による使用に関して本明細書の以上に記載されたすべての好ましい実施形態は、本発明による好ましいテクニカルゴム物品に関しても好ましい実施形態である。
【0115】
決定方法
1.14C含有量の決定
14C含有量(生物学に基づいた炭素含有量)の決定は、DIN EN 16640:2017-08に準拠した放射性炭素法によって実施される。
【0116】
2.粒径分布の決定
粒径分布は、ISO 13320:2009に従って、水中に分散された材料(水中1質量%)のレーザー回折によって決定することができ、測定の前に12000Wsの超音波処理が実施される。体積分率は、例えばd99(単位μm)として指定される(試料の体積の99%の結晶粒の直径がこの値を下回る)。d90及びd25値(単位μm)は、同様に決定される。
【0117】
3.炭素含有量の決定
炭素含有量は、DIN 51732: 2014-7に準拠した元素分析によって決定される。
【0118】
4.酸素含有量の決定
酸素含有量は、EuroVector S.p.A.社のEuroEA3000 CHNS-O分析装置を使用して高温熱分解によって決定される。プロセスでは、CHNS含有量は、上記の分析装置によって決定され、酸素は、続いて差(100-CHNS)として計算される。
【0119】
5.利用された有機フィラーの乾物含有量の決定
試料の乾物含有量を、DIN 51718:2002-06に沿って以下の通り決定した。このために、Sartorius社からのMA100モイスチャーバランスを105℃の乾燥温度に加熱した。乾燥試料はまだ粉末の形でない場合、乳鉢ですり又は粉砕して、粉末にした。水分天秤で、約2gの測定対象の試料を好適なアルミニウムパンに秤量し、次いで測定を始めた。試料の質量が30秒間1mg超変化しない限り、この質量は一定であると考えられ、測定を終えた。次いで、乾物含有量は、試料の表示された含有量(単位質量%)に対応する。少なくとも1つのデュプリケート決定を各試料について行った。重み付き平均値を報告した。
【0120】
6.利用された有機フィラーのpH値の決定
pHを、ASTM D 1512規格に沿って以下の通り決定した。乾燥試料はまだ粉末の形でない場合、乳鉢ですり又は粉砕して、粉末にした。いずれの場合にも、5gの試料及び50gの完全脱イオン水をガラスビーカーに秤量した。加熱機能及び撹拌子(stirring flea)を備えた磁気式撹拌装置を使用して、懸濁液を常に撹拌しながら、60℃の温度に加熱し、温度を60℃で30分間維持した。続いて、撹拌しながら混合物が冷えることができるように、撹拌装置の加熱機能を停止した。冷えた後、蒸発した水を、完全脱イオン水を再び添加することによって補充し、5分間再び撹拌した。較正した計測機器を用いて、懸濁液のpH値を決定した。懸濁液の温度は、23℃(±0.5℃)であるべきである。各試料についてデュプリケート決定を行い、平均値を報告した。
【0121】
7.有機フィラーの灰分の決定
試料の水不含灰分を、DIN 51719規格に従って熱重量分析によって以下の通り決定した。秤量する前に、試料を粉砕し又は乳鉢ですった。灰分決定より前に、秤量した材料の乾燥物質含有量が決定される。試料材料を0.1mg単位でるつぼに秤量した。試料を含む炉を、9K/分の加熱速度で815℃の目標温度に加熱し、次いでこの温度で2時間保持した。次いで、試料が取り出される前に、炉を300℃に冷却した。試料をデシケーター中で室温に冷却し、再び秤量した。残っている灰分を初期質量と相関させ、したがって灰分の質量百分率を決定した。各試料についてトリプリケート決定を行い、平均値を報告した。
【0122】
8.有機フィラーのBET及びSTSA表面積の決定
調査対象のフィラーの比表面積を、工業用カーボンブラックについて規定されたASTM D 6556(2019-01-01)規格に従って窒素吸着によって決定した。この規格によれば、BET表面積(Brunauer、Emmett及びTellerによる比総表面積)及び外部表面積(STSA表面積;統計的厚さ比表面積)も以下の通り決定された。
【0123】
分析対象の試料を、測定より前に105℃で乾物含有量≧97.5質量%に乾燥した。更に、試料を秤量する前に、測定用セルを乾燥炉中105℃で数時間乾燥した。次いで、漏斗を使用して、試料を測定セルに充填した。充填中に上部測定セルシャフトが汚染された場合に、好適なブラシ又はパイプ掃除器を使用してそれを掃除した。強く飛散する(静電的)材料の場合に、ガラスウールを試料に追加的に秤量した。ガラスウールを使用して、焼出しプロセス中に飛散し、ユニットを汚染する可能性があるいずれの材料も保持した。
【0124】
分析対象の試料を150℃で2時間焼き出し、Al2O3標品を350℃で1時間焼き出した。圧力範囲に応じて、以下のN2投与量を決定に使用した。
p/p0=0~0.01:N2投与量:5ml/g
p/p0=0.01~0.5:N2投与量:4ml/g。
【0125】
BET表面を決定するために、p/p0=0.05~0.3の範囲において少なくとも6つの測定点で外挿を行った。STSAを決定するために、吸着されたN2の層厚さのt=0.4~0.63nm(p/p0=0.2~0.5に対応する)の範囲において少なくとも7つの測定点で外挿を行った。
【0126】
9.硬度の決定
Sauter GmbH社からデジタルショア硬度試験機を使用して、加硫ゴム組成物のショアA硬度の決定が、ISO 48-4:2018-08に従って23℃で実施された。規格によって必要とされる少なくとも6mmの供試体の厚さに達するために、供試体は3層以下から構成された。このために、ISO 37:2011に従って引張試験を行うためにパンチで打ち出された3本のS2バーを、互いの上にスタックした。各試料スタックについて、スタックの異なる点で5回の測定を行った。得られた結果は、これら5回の測定の平均値を表す。加硫と試験の間は、試料を、実験室で少なくとも16時間室温で貯蔵した。
【0127】
10.架橋密度/反応速度論の決定
ゴム組成物の架橋密度及び反応速度論を、DIN 53529-3:1983-06に従って160℃で、ただし0.5又は3°の撓み(実験の部にそれぞれ記載される値によって)で決定した。測定時間は30分であった。プロセスでは、最小及び最大トルク(ML、MH)を決定した。これらから、差Δ(Δ(MH-ML)(最大トルク-最小トルク)を計算した。更に、最小トルクMLの時間から始まり、トルクがそれぞれ最大トルクMHの10%、50%及び90%に達する時間を決定した。時間をT10、T50及びT90と指定した。
【0128】
11.引張下における伸びの決定
加硫ゴム組成物について、ISO 37:2011に従って引張強さ及び破断点伸びを含めて、引張下における伸びを決定した。
【0129】
12.動的機械的熱分析(DMTA)又は動的機械的分析(DMA)
DMTA/DMAは、粘弾性挙動を特徴づけるのに役立つ。試験を規格DIN EN ISO 6721 1-12に従って実施し、この場合、6721-7が使用された。粘弾性挙動を、Anton Paar社からの試験装置MCR 501によって分析した。プロセスでは、加硫ゴム組成物に、線状弾性変形の範囲で正弦波振動応力を加えた。試験を以下のパラメータで行った:変形:1%;振動数:10Hz;応力のタイプ:捩り;加熱速度:2K/分;加熱シーケンス:-70℃から+100℃。変形の振幅及び位相ずれを記録し、複素及び損失モジュラス並びに機械損失係数tanδを使用して、粘弾性挙動を記載することができた。
【0130】
一般に、複素数又は動的モジュラス(G*)は、以下のように定義される。
G*=G'+ixG"
ただし、G':貯蔵モジュラス(実数成分;弾性成分を表す)
G":損失モジュラス(虚数成分;粘性成分を表す)
i:虚数
【0131】
損失係数tanδ(tanδ)は、以下のように定義される。
tanδ=G"/G'
【0132】
13.利用されたフィラーの材料密度
フィラーの材料密度を、ISO 21687に従ってヘリウム比重びんによって決定した。
【0133】
実施例及び比較例
以下の実施例及び比較例は、本発明を説明するのに役立つが、限定するものと解釈されるべきでない。
【0134】
1.本発明に従って利用される有機フィラーの生産
1.1本発明による第1の有機フィラーとして、水熱処理によって得られうるリグニンL1を使用した。
【0135】
水熱処理によって得られうるリグニンL1を、国際公開第2017/085278号に記載されている水熱処理によって得られうるリグニンを生産するプロセスに従って生産した。
【0136】
このために、リグニンを含む液体を用意した。まず、水及びリグニンを混合し、したがって有機乾燥質量の含有量15%でリグニン含有液体を調製する。続いて、リグニンは大部分がリグニン含有液体に溶解する。このために、NaOHを添加することによって、pH値を調整する。溶液の調製を、80℃で3時間激しい混合によって促進する。リグニン含有液体を水熱処理にかけ、したがって固体物を得る。プロセスでは、調製された溶液を、2K/分で220℃の反応温度に加熱し、次いで8時間の反応期間にわたって保持する。続いて、冷却を行う。その結果、固体物の水性懸濁液が得られる。濾過及び洗浄によって、固体物は大部分が脱水及び洗浄される。後続の乾燥及び熱処理は、流動床で窒素下に実施され、乾燥では、温度を1.5K/分で50℃にし、2.5時間保持し、続いて熱処理では、温度を1.5K/分で190℃にし、15分間保持し、次いで再び冷却する。乾燥した固体物を、カウンタージェットミルで窒素を用いて、(本明細書の以上に記載された決定方法に従って決定して)d99値<10μmに解凝集する。
【0137】
1.2本発明による第2の有機フィラーとして、水熱処理によって得られうるリグニンL2を利用し、1.1節に記載されているプロセスに類似して調製し、有機フィラーとして使用することができる。しかし、1.1に記載されているプロセスから逸脱して、水熱処理を、生産されたリグニン含有溶液が10質量%の有機乾燥質量含有量で調製されるように実施した。NaOHを添加した後、リグニン含有液体を水熱処理にかけ、1.5K/分で230℃の反応温度に加熱し、1時間の反応時間維持した。更に、リグニン含有液体を、水熱処理が実施される前にホルムアルデヒドを使用して改変した。最後に、最終粉砕をスチームジェットミルで実施した。
【0138】
1.3しかし、1.1に記載されているプロセスから逸脱して、水熱処理を、生産されたリグニン含有溶液が9.7質量%の有機乾燥質量含有量で調製されるように実施した。NaOHを添加した後、リグニン含有液体を水熱処理にかけ、1.5K/分で240℃の反応温度に加熱し、2時間の反応時間維持した。更に、リグニン含有液体を、水熱処理が実施される前にホルムアルデヒドを使用して改変した。最後に、最終粉砕をカウンタージェットミルで実施した。
【0139】
1.4水熱処理によって得られうるリグニンL1、L2及びL3は、本明細書の以上に記載された方法によって以下の表1.1に指定されたように特徴づけられた。
【0140】
【0141】
2.加硫化可能なゴム組成物の生産
加硫化可能なゴム組成物を2段階プロセスによって調製した。
【0142】
第1の段階において、ゴム組成物Kと、フィラー成分Fと、オルガノシランとを含む本発明によるゴム組成物の構成要素をコンパウンドすることによって、ベース混合物としてのゴム組成物(マスターバッチ)を調製した。第2の段階において、架橋系(加硫系VS)の構成要素を混和した。
【0143】
本発明に従って利用される有機フィラーL1を有する加硫化可能なゴム組成物、及び単独のフィラーとして工業用カーボンブラックを有する対応する比較ゴム組成物を、以下の通り調製した。
【0144】
段階1
商事会社Astlett Rubberからの天然ゴム(NR)SMR 5 CV 60をゴムとして使用した。工業用カーボンブラックを単独のフィラーとして使用するとき(比較ゴム組成物VK1V1)、それは、1:30分後に1バッチ分の33.3%として(使用される添加剤、例えば酸化亜鉛、ステアリン酸及び他の添加剤と一緒に;以下の表2.1を参照のこと)添加され、3:30分後に別のバッチ分の33.3%として(使用されるプロセス油の50%と一緒に)添加される。5分後に、工業用カーボンブラックの最後のバッチ分の33.3%は、使用されるプロセス油の残りの50%と一緒に添加される。工業用カーボンブラックの本発明に従って利用されるフィラーによる部分置換(比較ゴム組成物VK1V2及び本発明によるゴム組成物VK1B1)の場合に、使用される工業用カーボンブラックの100%が、1:30分後に使用される添加剤と一緒に添加される。3:30分後に、本発明に従って利用されるフィラーの50%が(使用されるプロセス油の50%と一緒に)添加され、5分後にもう50%が(使用されるプロセス油のもう50%と一緒に、及び本発明による実施例VK1B1の場合には、硫黄官能性オルガノシランの100%とも一緒に)添加される。
【0145】
すべての組成物では、混合物の構成要素を、混合プロセスを10分後(V1B1の場合のみ13分後)に止めるまで分散的及び分布的に混合し、ゴム組成物を実験室用混合器から取り出した。これらの混合条件下で、ゴム組成物は、130℃~155℃の最終温度を達成した。ゴム組成物の調製が完了した後、第2の段階(緩和/貯蔵)を実施する前に、それを冷却した。
【0146】
本明細書の以上に記載された段階1によって、ゴム成分Kとして天然ゴム(K1B1)とフィラー成分の有機フィラーとして水熱処理によって得られうるリグニンL1とを含む本発明に従って利用されるゴム組成物を得た。更に、本発明によるゴム組成物K1B1は、硫黄官能性オルガノシランとしてビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD)を含んだ。
【0147】
更に、ゴム成分Kとして天然ゴムも含む比較組成物K1V1及びK1V2を得た。比較組成物K1V1は、フィラー成分の唯一の有機フィラーとして市販のカーボンブラックを含むが、リグニンL1を含まず、いずれの硫黄官能性オルガノシランも含まず、比較組成物K1V2は、リグニンL1を含むが、硫黄官能性オルガノシランを含まなかった。
【0148】
加硫化可能なゴム組成物の正確な組成は、以下の表2.1から知ることができる。量は、それぞれ単位phr(ゴム100質量部当たりの質量部)で記載される。
【0149】
段階2
第2の段階において、架橋剤としての硫黄、並びに1種(K1V1、K1V2)又は複数(K1B1)の促進剤を第1の段階のゴム組成物に取り込み、したがって加硫化可能なゴム組成物を得た。共作用剤として硫黄架橋剤及び1種又は複数の硫黄促進剤系を実験室用混合器に添加し、第1の段階からのゴム組成物と一緒に50rpmの速度で5分間混合した。この場合、最終温度は、90℃~100℃であった。架橋系を混和した後、得られた組成物を冷却した。
【0150】
本明細書の以上に記載された段階2によって、架橋剤と促進剤からなる加硫系VSの添加後に、本発明による加硫化可能なゴム組成物(VK1B1)を得た。それを、段階2の実行が完了した後に加硫化することができる。更に、このようにして2種の加硫化可能な比較ゴム組成物(VK1V1及びVK1V2)を得た。それらも、段階2の実行が完了した後に加硫化することができる。加硫化可能なゴム組成物の正確な組成は、以下の表2.1から知ることができる。
【0151】
【0152】
工業用カーボンブラックとして、Pentacarbon社(カーボンブラックの配給元)からの市販製品のカーボンブラックN550を利用した。有機フィラーL1は、本明細書の以上に既に記載されている。Evonik社からのビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD、Si 266)を、硫黄官能性オルガノシランとして使用した。プロセス油として、Hansen & Rosenthal社からのナフテン系軟化剤を使用した。老化防止剤として、販売名Luvomax IPPDでLehmann & Voss & Co.社からのN-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)を使用し、光安定化用ワックスとして、Hansen & Rosenthal社からのNegozone 3457 Fを使用した。架橋剤(硫黄)として、Schill+Seilacher社からのStruktol SU95を使用した。促進剤として、Rhein Chemie社からの製品TBBS-80(B1)、TBzTD-70(B2)及びDPG-80(B3)を使用した。酸化亜鉛として、Bruggemann社からの製品WeiBsiegelを使用した。ステアリン酸として、Avokal-Heller社からの製品Palmera B 1805を使用した。
【0153】
本発明に従って利用されるフィラーL2及びL3を有する加硫化可能なゴム組成物、並びに単独のフィラーとして工業用カーボンブラックを有する対応する比較ゴム組成物を、以下の通り調製した。
【0154】
段階1
商事会社Astlett Rubberからの天然ゴム(NR)SMR 5 CV 60をゴムとして使用した。工業用カーボンブラックを単独のフィラーとして使用するとき(比較ゴム組成物VK2V1及びVK2V2)、それは、2:00分後に1バッチ分の33.3%として(使用される添加剤、例えば酸化亜鉛、ステアリン酸及び他の添加剤と一緒に;以下の表2.2を参照のこと)添加され、3:00分後に別のバッチ分の33.3%として(使用されるプロセス油の50%と一緒に)添加される。5分後に、工業用カーボンブラックの最後のバッチ分の33.3%は、使用されるプロセス油の残りの50%と一緒に添加される。工業用カーボンブラックの本発明に従って利用されるフィラーの1種による部分置換(本発明によるゴム組成物VK2B1及びVK2B2)の場合に、使用される工業用カーボンブラックの50%が、2:00分後に使用される添加剤と一緒に添加され、3:00分後に、工業用カーボンブラックの残りの50%が、使用されるプロセス油の50%と共に添加される。5:00分後に、本発明に従って利用されるフィラーの100%が、使用されるプロセス油の50%及び硫黄官能性オルガノシランの100%と一緒に添加される。本発明に従って利用されるフィラーが単独のフィラーとして利用されるとき(本発明によるゴム組成物VK2B3、VK2B4及びVK2B5)、それは、2:00分後に1バッチ分の33.3%として(使用される添加剤と一緒に)添加され、3:00分後に別のバッチ分の33.3%として(使用されるプロセス油の50%と一緒に)添加される。5分後に、本発明に従って利用されるフィラーの最後のバッチ分の33.3%は、使用されるプロセス油のもう50%及び本発明に従って利用されるオルガノシランの100%と一緒に添加される。
【0155】
すべての組成物では、混合物の構成要素を、混合プロセスを16分後に止めるまで分散的及び分布的に混合し、ゴム組成物を実験室用混合器から取り出した。これらの混合条件下で、ゴム組成物は、145℃~155℃の最終温度を達成した。ゴム組成物の調製が完了した後、第2の段階(緩和/貯蔵)を実施する前に、それを冷却した。
【0156】
本明細書の以上に記載された段階1によって、ゴム成分Kとして天然ゴム及びフィラー成分の有機フィラーとして水熱処理によって得られうるリグニンL2(K2B1及びK2B3)又はリグニンL3(K2B2、K2B4又はK2B5)を含む5種の本発明によるゴム組成物を得た。更に、本発明によるゴム組成物K2B1、K2B2、K2B3、K2B4及びK2B5は、硫黄官能性オルガノシランとしてビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD)を含んだ。
【0157】
更に、比較組成物K2V1及びK2V2を得た。それらも、ゴム成分Kとして天然ゴムを含んだが、リグニンL2又はL3を含まず、フィラー成分の有機フィラーとして排他的に市販のカーボンブラックを含み、硫黄官能性オルガノシランを含まなかった。
【0158】
加硫化可能なゴム組成物の正確な組成は、以下の表2.2から知ることができる。量は、それぞれ単位phr(ゴム100質量部当たりの質量部)で記載される。
【0159】
段階2
第2の段階において、1種(K2V1)又は2種(K2V2、K2B1、K2B2、K2B3、K2B4及びK2B5)の促進剤を、第1の段階のゴム組成物に架橋剤として取り込み、したがってそれぞれ加硫化可能なゴム組成物を得た。共作用剤として硫黄架橋剤及び1又は2種の硫黄促進剤系を実験室用混合器に添加し、第1の段階からのゴム組成物と一緒に50rpmの速度で5分間混合した。この場合、最終温度は、90℃~100℃であった。架橋系を混和した後、得られた組成物を冷却した。
【0160】
本明細書の以上に記載された段階2によって、架橋剤と促進剤からなる加硫系VSの添加後に、5種の本発明による加硫化可能なゴム組成物(VK2B1、VK2B2、VK2B3、VK2B4及びVK2B5)を得た。それらを、段階2の実行が完了した後に加硫化することができる。更に、このようにして、2種の加硫化可能な比較ゴム組成物(VK2V1及びVK2V2)を得た。それらも、段階2の実行が完了した後に加硫化することができる。加硫化可能なゴム組成物の正確な組成は、以下の表2.2から知ることができる。
【0161】
【0162】
表2.2に記載されている天然ゴム、工業用カーボンブラック、プロセス油、オルガノシラン、酸化亜鉛、ステアリン酸、架橋剤、光安定化用ワックス、老化防止剤、並びに促進剤B1及びB2という構成要素として、表2.1と関連して既に記載された製品を使用した。有機フィラーL2及びL3は、本明細書の以上に既に記載されている。
【0163】
3.加硫化可能なゴム組成物及びそれらから得られうる加硫組成物の検査及び試験
3.1 架橋密度及び反応速度論
段階2の後に得られたゴム組成物をそれらの原料混合物の特性に関して検査した。プロセスでは、反応速度論及び架橋密度を、本明細書の以上に記載された方法に従って測定した。
【0164】
表3.1は、本発明に従って加硫化された比較例VK1V1及びVK1V2、並びにゴム組成物VK1B1の最小及び最大トルク(ML、MH)、差Δ(MH-ML)並びに時間T10、T50及びT90に関して得られた結果の概要を示す。値を3℃の撓みで決定した。
【0165】
【0166】
本発明によるゴム組成物VK1B1は、比較例VK1V1及びVK1V2と同様の反応速度論(T10、T50、T90)を示す。わずかな偏りが、最大及び最小トルクの差Δ(MH-ML)(単位dNm)を表す架橋密度で生ずる。
【0167】
表3.2は、本発明に従って加硫化された比較例VK2V1及びVK2V2、並びにゴム組成物VK2B1、VK2B2、VK2B3、VK2B4及びVK2B5の最小及び最大トルク(ML、MH)、差Δ(MH-ML)並びに時間T10、T50及びT90に関して得られた結果の概要を示す。値を0.5℃の撓みで決定した。
【0168】
【0169】
カーボンブラックのリグニンベースのフィラーL2又はL3による部分置換によって特徴づけられる、本発明によるゴム組成物VK2B1及びVK2B2は、比較例VK2V1及びVK2V2と比較して同様の又は改善された反応速度論(T10、T50、T90)を示す。カーボンブラックのリグニンベースのフィラーL2又はL3による完全置換によって特徴づけられる、本発明によるゴム組成物VK2B3、VK2B4及びVK2B5は、比較例VK2V1及びVK2V2の場合と比較して、増大したインキュベーション時間(よりよいスコーチ時間)を示し、より長いT90値をもたらす。
【0170】
3.2 引張強さ、破損点伸び、ショアA硬度
得られたゴム組成物K1V1、K1V2及びK1B1は、すべて160℃で加硫化され、加硫時間は、それぞれの混合物の反応速度論に適応させた。加硫時間は、混合物VK1V1の場合6分、混合物VK1V2の場合7分、混合物VK1B1の場合5分であった。続いて、引張強さ、破損点伸び、及びショアA硬度を、本明細書の以上に記載される方法に従って決定した。
【0171】
表3.3は、本発明に従って加硫化された比較例VK1V1及びVK1V2、並びにゴム組成物VK1B1について得られた結果の概要を示す。
【0172】
【0173】
本発明によるゴム組成物VK1B1は、比較ゴム組成物VK1V1及びVK1V2と同様の引張強さを有する。工業用カーボンブラックの有機フィラーL1による部分置換及び硫黄官能性オルガノシランの添加によって、等しい硬度(ショアA)及び等しい破断点伸びが達成された。
【0174】
得られたゴム組成物K2V1、K2V2、並びにK2B1、K2B2、K2B3、K2B4及びK2B5は、すべて160℃で加硫化され、加硫時間は、それぞれの混合物の反応速度論に関するデータに適応させた。加硫時間は、混合物VK2V1の場合7分、混合物VK2V2の場合6分、混合物VK2B1の場合7分、混合物VK2B2の場合7分、混合物VK2B3の場合9分、混合物VK2B4の場合11分、混合物VK2B5の場合10分であった。続いて、引張強さ、破損点伸び、及びショアA硬度を、本明細書の以上に記載された方法に従って決定した。
【0175】
表3.4は、本発明に従って加硫化された比較例VK2V1及びVK2V2、並びにゴム組成物VK2B1、VK2B2、VK2B3、VK2B4及びVK2B5について得られた結果の概要を示す。
【0176】
【0177】
比較ゴム組成物VK1V1及びVK1V2と比較して、本発明によるゴム組成物VK2B1、VK2B2、VK2B3、VK2B4及びVK2B5は、カーボンブラックのリグニンベースのフィラーL2又はL3による部分又は完全置換の場合に引張強さが同様又は減少するが、硬度(ショアA)は、不変のまま、又は増加する。
【0178】
3.3 動的機械的熱分析(DMTA)
加硫ゴム組成物は、その粘弾性挙動を特徴づけるために本明細書の以上に記載された方法に従って動的機械的熱分析(DMTA)によって分析された。表3.5は、比較例VK1V1及びVK1V2、並びに本発明に従って加硫化されたゴム組成物VK1B1について得られた結果の概要を示す。
【0179】
【0180】
加硫ゴム組成物では、可能な限り高い動的剛性及び可能な限り低いtanδ値を達成することが基本的に望ましい。動的剛性の1つの重要な指標は、複素モジュラスG*である。本発明による加硫ゴム組成物VK1B1は、比較例VK1V1及びVK1V2と比較して増大した剛性を示す。通常、高動的剛性G*(60℃)は、損失係数tanδを増大させる。しかし、低発熱、したがって低tanδ値が好ましい。驚くべきことに、工業用カーボンブラックの有機フィラーL1による部分置換を硫黄官能性オルガノシランの添加と組み合わせることによって、増大した剛性G*(60℃)で、損失係数の低減が同時に生じたので、逆効果が観察された(VK1B1対VK1V1及びVK1V2を参照のこと)。
【0181】
したがって、有機フィラーL1をオルガノシランと組み合わせて使用すると、発熱を低減することができ、同時に動的剛性を増大させる。更に、等しい硬度が達成されうる。
【0182】
損失係数tanδに関する表3.5に示した結果は、
図1にグラフで示される。
図1は、工業用カーボンブラックの有機フィラーL1による部分置換及び硫黄官能性オルガノシランの添加によって損失係数の低減を示す。
【0183】
表3.6は、本発明に従って加硫化された比較例VK2V1及びVK2V2、並びにゴム組成物VK2B1、VK2B2、VK2B3、VK2B4及びVK2B5について得られた結果の概要を示す。
【0184】
【0185】
本発明による加硫ゴム組成物VK2B1、VK2B2、VK2B3、VK2B4及びVK2B5の、複素モジュラスによって表される動的剛性は、単独のフィラーとして工業用カーボンブラックを有する比較例VK2V1及びVK2V2の場合より驚くほど高い。同時に、本発明に従って加硫化されたゴム組成物VK2B1、VK2B2、VK2B3、VK2B4及びVK2B5は、驚くべきことに単独のフィラーとして工業用カーボンブラックを有する比較例VK2V1及びVK2V2の場合より有意に低い損失係数tanδを示す。単独のフィラーとしてリグニンL2を有するゴム組成物VK2B3と比較して、単独のフィラーとしてリグニンL3を有するゴム組成物VK2B4及びVK2B5は、これらのパラメータについて単独のフィラーとしてカーボンブラックを有するゴム組成物VK2V1及びVK2V2に比べて特に顕著な改善を示す。力学的エネルギーの熱への変換であるヒステリシスの指標として高動的剛性と低損失係数の組合せは、これらのリグニンベースのフィラーに特有である。熱生成のこの低減は、タイヤの転がり抵抗を低減し、車両の燃料消費及びCO2排出へのプラス効果を伴う。工業用カーボンブラックを含むゴム組成物と比較して、これらの2つのゴムのテクニカルな重要な値をよりよく切り離すことによって、本明細書に開示されるリグニンベースの組成物は、例えばタイヤの転がり抵抗を改善するためにタイヤカーカスのためのコンパウンドにおいて使用するため、又はテクニカルゴム物品において使用するため、動的変形下で使用されるゴム物品における利用に非常に好都合である。
【国際調査報告】