(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-20
(54)【発明の名称】細胞外シクロフィリン阻害剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 7/64 20060101AFI20240912BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240912BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240912BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20240912BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240912BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20240912BHJP
【FI】
C07K7/64 ZNA
A61P43/00 111
A61P31/12
A61P3/00
A61P29/00
A61P35/00
A61P25/00
A61P21/00
A61P9/00
A61P3/04
A61P3/10
A61K38/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024519104
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 CN2021121201
(87)【国際公開番号】W WO2023050037
(87)【国際公開日】2023-04-06
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514104645
【氏名又は名称】北京大学深▲ヂェン▼研究生院
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY SHENZHEN GRADUATE SCHOOL
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】全軍民
(72)【発明者】
【氏名】楊震
(72)【発明者】
【氏名】劉思宇
(72)【発明者】
【氏名】張慶舟
(72)【発明者】
【氏名】胡敏強
(72)【発明者】
【氏名】李鳳霞
(72)【発明者】
【氏名】付佳苗
(72)【発明者】
【氏名】朱振東
(72)【発明者】
【氏名】李勤凱
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA24
4C084BA32
4C084CA59
4C084MA17
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4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA57
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA701
4C084ZA702
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC021
4C084ZC022
4C084ZC211
4C084ZC212
4C084ZC351
4C084ZC352
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA30
4H045CA15
4H045EA20
4H045FA10
(57)【要約】
本発明は、生物医学分野に属し、具体的に、細胞外シクロフィリン阻害剤及びその使用に関する。本発明の細胞外シクロフィリン阻害剤の構造式は、式(I)に示される。本発明は、新しいシクロスポリン誘導体の側鎖に血液アルブミン上の特異的部位のシステインのチオール基と反応可能な基を導入し、体内に入ると迅速に薬物複合体を形成ことによって、薬物を細胞外に効果的に制限し、細胞外シクロフィリンを標的として抑制することができ、これによって、これに関連する疾患を治療する目的が達成される。
【化1】
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される構造を有する細胞外シクロフィリン阻害剤。
【化1】
(式中、R
1は、-CH=CHR
1’又は-CH
2CH
2R
1’であり、
R
1’は、アルキル基、カルボキシル基、アセトアミド基又はフェニル基から選択され、
R
2は、H、SR
2’、CH
2SR
2’又はCH
2OR
2’であり、ここで、R
2’は、アルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アセトアミド基又はフェニル基から選択され、
リンカーは、-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2)
y-又は-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2CH
2O)
y-から選択され、ここで、xは1-4の整数であり、yは1-6の整数である。)
【請求項2】
R
1’は、-CH
3、-(CH
2)
n-COOH、-(CH
2)
n-NH(C=O)CH
3、-フェニル基又はシクロアルキル基から選択され、ここで、nは1-6の整数であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤。
【請求項3】
前記フェニル基は、-COOCH
3及び/又は-CH
2NH(C=O)CH
3によって1回以上置換されていることを特徴とする、請求項2に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤。
【請求項4】
前記シクロアルキル基は、シクロプロピル基であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤。
【請求項5】
R
2’は、-CH
3、-(CH
2)
n-COOH、-(CH
2)
n-OH、-(CH
2)
n-NH(C=O)CH
3、-フェニル基又はシクロアルキル基から選択され、nは1-6の整数であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤。
【請求項6】
前記フェニル基は、-COOCH
3及び/又は-CH
2NH(C=O)CH
3によって1回以上置換されていることを特徴とする、請求項5に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤。
【請求項7】
R
1は、-CH=CHCH
3であり、R
2は、Hであり、リンカーは、-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2)
y-又は-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2CH
2O)
y-から選択され、ここで、xは1-4の整数であり、yは1-6の整数であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤。
【請求項8】
R
1は、-CH=CHCH
3であり、R
2は、Hであり、リンカーは、-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2)
y-であり、ここで、xは2又は3であり、yは3、4又は5であることを特徴とする、請求項1又は7に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤及びその非毒性で薬学的に許容される塩を活性成分とする医薬組成物。
【請求項10】
シクロフィリン媒介疾患を予防又は治療するための薬物の調製における請求項1から8のいずれか1項に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学分野に属し、具体的に、細胞外シクロフィリン阻害剤及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロフィリン(cyclophilins,CyPs)は、自然界に広く分布し、高度に保存された多機能タンパク質ファミリーであり、免疫抑制薬シクロスポリン(CyclosporiNA,CsA)の主な細胞内結合タンパク質として同定されている。シクロフィリンは、ペプチジルプロリルシス-トランスイソメラーゼ(peptidyl-prolyl cis-trans isomerase,PPIase)の活性及び分子シャペロン機能を有し、細胞内タンパク質の正確なフォールディングを補助し、免疫抑制に関与し、炎症反応を媒介し、酸化ストレス応答などの様々な生物学的機能に関与することができる。シクロフィリンは、主に細胞質に位置し、多くの生命プロセスにおいて重要な役割を果たしている。酸化ストレス状態又は炎症環境下で、シクロフィリンA(CyclophiliNA,CypA)は、小胞輸送を通じて細胞外に分泌されて細胞外CypA(eCypA)を形成し、次いで膜受容体と結合し、標的細胞においてシグナル伝達応答を開始し、好中球、好酸球、T細胞などの免疫細胞を走化させ、免疫応答及び炎症反応を媒介することができ、様々な炎症関連疾患と密接に関係している。CypAは、細胞内外の分布に応じて異なる役割を果たしている。
【0003】
細胞外シクロフィリンは、多くの重篤な疾患において重要な役割を果たすと考えられている。慢性的な炎症の状態では、単球、血管平滑筋細胞及び内皮細胞は、ROS及び炎症によって刺激されると、小胞により大量の細胞外シクロフィリンを細胞外に分泌する。細胞外に分泌されたシクロフィリンは、膜タンパク質と相互作用してERK1/2、AKT、JAK、NF-KB及びJNKの活性化を刺激し、ひいてはROS及び炎症をさらに増幅させ、単球及びマクロファージがIL-1β、IL-6、IL-8を分泌するように誘導することができる。それは、マトリックスメタロプロテイナーゼMMP-2及びMMP-9を活性化させ、血管平滑筋細胞の増殖と遊走を促進することができる。細胞外シクロフィリンは、これらの経路の作用下で腫瘍の増殖と遊走、インスリン抵抗性、心血管疾患、神経変性病変などの種々の疾患過程を媒介する。細胞外シクロフィリンは、上記の様々な慢性炎症条件下でアップレギュレーションされた状態にあり、がん、関節リウマチ、呼吸器炎症、糖尿病、高血圧、心血管疾患、狼瘡、皮膚疾患、ドライアイ、腸疾患、脂質代謝異常、老化などの疾患の発症・進行において重要な役割を果たすことが実証されている。シクロフィリンの阻害剤は、広い治療範囲(例えば、感染症、喘息、肺炎、心血管疾患、糖尿病、関節炎、皮膚炎、乾癬、多発性硬化症、腫瘍、アルツハイマー病の治療、及び毛髪成長促進、免疫反応抑制など)を有すると報告されている。したがって、シクロフィリンの阻害剤は、重要な薬物となっている。
【0004】
シクロスポリン(CsA)は、最初に発見された天然シクロフィリン阻害剤であり、細胞内CypAと複合体を形成してNFATに対するカルシニューリンの脱リン酸化を阻害することによりT細胞の活性化を阻害し、免疫抑制作用を発揮し、臓器移植、自己免疫疾患などに幅広く使用されている。CsAは、細胞外と細胞内両方のシクロフィリン機能を阻害できるため、様々な炎症疾患にも使用されている。しかし、細胞外シクロフィリンに対する特定の細胞外作用を得るのに、細胞内に遊走する分子の「損失」を補うためにより高い用量が必要とされる場合が多い。しかし、細胞内シクロフィリンの多くの重要な機能のため、高用量CsAによる毒性、特に、膵島損傷、肝臓毒性及び腎臓毒性によって、その発展は大幅に制限されている。そのため、所望の治療効果を奏するとともに細胞に入らない細胞外シクロフィリン類を阻害する化合物を開発できれば、これらの望ましくない副作用は回避することができる。
【0005】
従来技術において、分泌型細胞外シクロフィリンを標的とすることにより呼吸器及び心血管疾患のような炎症を効果的に減少させることができる。CsAにカルボキシベンゾイミダゾールを導入して改質した分子MM284は、分子の親水性が向上するとともに細胞を透過しないことから、その作用が細胞外のシクロフィリンを制限し、免疫細胞の遊走を効果的に抑制し、これによって炎症を減少させることができる。類似の分子にはMM218がさらに含まれる。CsAにローダミン側鎖を導入することにより、細胞への進入が阻止され、肺の炎症が減少し、哮喘が改善される。しかし、このような基は多剤耐性送達システムと作用できるため、副作用を引き起こす可能性がある。また、このような純粋に化学修飾されたCsAは、負帯電基により細胞への進入が回避されるが、親水性の向上が体内での蓄積が減り、腎臓から速やかに排泄され、代謝が比較的速いことで長期効果を発揮しにくいという顕著な問題が残っている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、細胞外シクロフィリン阻害剤4MCsAを提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、上記化合物4MCsAの使用を提供することである。
【0008】
本発明の具体的な実施形態に係る細胞外シクロフィリン阻害剤は、その構造が下式(I)で表される。
【0009】
【化1】
式中、R
1は、-CH=CHR
1’又は-CH
2CH
2R
1’であり、R
1’は、アルキル基、カルボキシル基、アセトアミド基又はフェニル基から選択され、
R
2は、H、SR
2’、CH
2SR
2’又はCH
2OR
2’であり、ここで、R
2’は、アルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アセトアミド基又はフェニル基から選択され、
リンカーは、-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2)
y-又は-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2CH
2O)
y-から選択され、ここで、xは1-4の整数であり、yは1-6の整数である。
【0010】
本発明の具体的な実施形態に係る細胞外シクロフィリン阻害剤において、R1’は、-CH3、-(CH2)n-COOH、-(CH2)n-NH(C=O)CH3、-フェニル基又はシクロアルキル基から選択され、ここで、nは1-6の整数であり、即ち、nは1、2、3、4、5又は6であり、
前記フェニル基は、-COOCH3及び/又は-CH2NH(C=O)CH3によって1回以上置換されており、
前記シクロアルキル基は、好ましくはシクロプロピル基である。
【0011】
本発明の具体的な実施形態に係る細胞外シクロフィリン阻害剤において、R2’は、-CH3、-(CH2)n-COOH、-(CH2)n-OH、-(CH2)n-NH(C=O)CH3、-フェニル基又はシクロアルキル基から選択され、nは1-6の整数であり、前記フェニル基は、-COOCH3及び/又は-CH2NH(C=O)CH3によって1回以上置換されている。
【0012】
本発明における「アルキル基」は、飽和炭化水素基、即ち、アルカン分子から水素原子が1つ欠けて形成された炭化水素基であって、炭素原子と水素原子のみを含む鎖状の有機基である。本発明に適用されるアルキル基は、メチル基CH3-、エチル基CH3CH2-、CH3CH2CH2-などを含むが、これらに限定されない。
【0013】
本明細書において、用語「シクロアルキル基」は、炭素数3から12の飽和の単環式、二環式、三環式又は多環式炭化水素基を含み、そのうち、置換反応が発生可能な任意の環原子が置換基で置換されていてもよい。シクロアルキル基の例は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基を含むが、これらに限定されない。
【0014】
本発明の具体的な実施形態に係る細胞外シクロフィリン阻害剤において、R1は、-CH=CHCH3であり、R2は、Hであり、リンカーは、-(CH2)x-NH(C=O)-(CH2)y-又は-(CH2)x-NH(C=O)-(CH2CH2O)y-から選択され、ここで、xは1-4の整数であり、yは1-6の整数である。
好ましくは、R1は、-CH=CHCH3であり、R2は、Hであり、リンカーは、-(CH2)x-NH(C=O)-(CH2)y-であり、ここで、xは2又は3であり、yは3、4又は5であり、
より好ましくは、R1は、-CH=CHCH3であり、R2は、Hであり、リンカーは、-(CH2)3-NH(C=O)-(CH2)5-である。
【0015】
本発明によれば、細胞外シクロフィリン阻害剤及びその非毒性で薬学的に許容される塩を活性成分とする医薬組成物がさらに提供される。
【0016】
用語「薬学的に許容される塩」とは、本発明の化合物の生物的有効性及び特性を保持する塩であって、生物学的又はその他の点で非理想的ではないものを指す。多くの例において、本発明の化合物は、アミノ基及び/若しくはカルボキシル基又は類似の基の存在により酸性塩及び/又は塩基性塩を形成することができる。薬学的に許容される酸付加塩は、無機又は有機酸で調製することができる。薬学的に許容される塩基付加塩は、無機又は有機塩基で調製することができる。薬学的に許容される塩については、Bergeらの((1977)J.Pharm.Sd,vol.66,1)に記載されている。「非毒性で薬学的に許容される塩」とは、非毒性ありかつ薬学的に許容される無機若しくは有機酸又は無機若しくは有機塩基で形成された非毒性の塩を指す。例えば、上記塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸に由来する塩、及び酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、無水p-アミノベンゼンスルホン酸、フマル酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの有機酸に由来する塩を含む。
【0017】
本発明の式(I)の化合物は単独で投与することができ、好ましくは、それらを医薬組成物として提供する。本発明に有用な上記の医薬組成物は、獣医学用又は人間用にも関わらず、上記の定義を有する少なくとも1種の式(I)の化合物、1つ又は複数の薬学的に許容される担体、及び任意の他の治療成分を含む。
【0018】
いくつかの好ましい実施形態において、併用療法に必要な活性成分を単一の医薬組成物に組み込んで同時投与することができる。
【0019】
組成物、担体、希釈剤及び薬剤に言及する場合、用語「薬学的に許容される」及びその文法的変化は互換的に使用され、物質が吐き気、目眩、不安などの有害な生理学的影響を引き起こすことなく哺乳動物に投与され得ることを意味する。
【0020】
活性成分が溶解又は分散した医薬組成物の調製方法は、従来技術において既知のものであり、処方によりそれを限定する必要がない。通常、このような組成物は、液体溶液又は懸濁液として注射剤に調製されているが、使用前に液体中に溶解又は懸濁するのに適した固体形態に調製されてもよい。製剤は、乳化されたものであってもよい。特に、上記の医薬組成物は、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉剤、糖丸剤又は顆粒剤などの固体剤形に製剤化することができる。
【0021】
通常、活性化合物の溶解性、化学的性質、投与形態、及び薬学的実践で遵守される規制に基づいて賦形剤の選択及び賦形剤中の活性成分の含有量を確定する。例えば、賦形剤(例えば、乳糖、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム)と、崩壊剤(例えば、デンプン、アルギン酸及び特定の複合ケイ酸塩)と、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク)とを組み合わせて錠剤を調製することができる。カプセルの調製には、乳糖と高分子量ポリエチレングリコールの使用は有利である。水懸濁液を使用する場合、乳化剤又は懸濁促進剤を含んでもよい。スクロース、エタノール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン及びクロロホルム、又はその混合物などの希釈剤を使用してもよい。
【0022】
上記の医薬組成物は、適切な剤形で経口投与、直腸投与、経鼻投与、口腔内投与、眼内投与、舌下投与、経皮投与、直腸投与、局所投与、膣投与、非経口投与(皮下注射、動脈注射、筋肉注射、静脈注射、皮内注射、髄腔内注射、硬膜外注射を含む)、脳槽内投与及び腹腔内投与を含む局所投与又は全身投与によりヒト及び動物に使用することができる。なお、好ましい経路は、例えば、被験体の状況によって変化することができる。
【0023】
処方は、製薬分野で知られている任意の方法によって単位用量で調製することができる。このような方法は、活性成分と、1種又は複数種の助剤からなる担体とを結合させることを含む。通常、上記の処方は、将活性成分と、液体担体及び/又は極細固体担体とを均一かつ緊密に結合させることで調製され、その後、必要に応じて製品を成形する。本発明の化合物の1日の総用量は、単回又は複数回の用量で対象に投与される。
【0024】
本発明によれば、シクロフィリンに媒介される疾患を予防又は治療するための薬物の調製における上記の細胞外シクロフィリン阻害剤の使用がさらに提供される。シクロフィリンに媒介される疾患は、a)ウイルス感染、b)代謝性疾患、c)急性及び慢性炎症性疾患、d)がん、e)神経変性疾患、f)退化性筋疾患、g)心血管疾患、h)肥満症、i)糖尿病を含むが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の有益な効果
本発明では、シクロフィリンの活性ポケット及び既知のCsA構造活性相関に基づいて、新しい4MCsA化合物が得られる。この4MCsA化合物は、アルバミンと効率的に反応した後、化合物の作用を細胞外に制限するとともに化合物の代謝時間を延長させ、特異性を向上させることができ、細胞外シクロフィリンの効果的な阻害剤である。この化合物又はその薬学的に許容される塩の形態は、細胞外シクロフィリンに結合することにより慢性炎症の拡大を抑制することができ、腫瘍、2型糖尿病及びアテローム性動脈硬化症などの様々な慢性炎症疾患において良好な治療効果を示している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明の実施例又は従来技術における技術的手段をより明確に説明するために、以下、実施例又は従来技術の説明に必要な図面を簡単に紹介する。明らかなように、以下に説明する図面は、本発明のいくつかの実施例に過ぎず、当業者であれば、これらの図面に基づいて創造的努力なしで他の図面を得ることができる。
【0027】
【
図1】4MCsAで修飾されたアルブミンのマススペクトルである。同図において、上図はBSA、下図はBSA-4MCsA複合体である。
【
図2】BSA上のCysteine修飾部位に対する4MCsAの鑑定結果を示す。同図において、上図はBSAサンプルに対応するペプチド断片の2+イオンであり、下図はBSA-4MCsAに対応するペプチド断片の3+イオンである。
【
図3】CsA、4MCsA及びチオフェノールでブロッキングした4MCsA(Ar-S-4MCsA)のEIC図である。同図において、I.F.は細胞内抽出部分を示し、E.S.は標準品の曲線であり、曲線下面積は細胞内濃度を定量的に計算するために使用され、網掛け部分はI.F.曲線下面積である。
【
図4】CsA-FITC蛍光標識Jurkat細胞の競合フローサイトメトリーを示す図である。
【
図5】4MCsA分子のインビトロ活性検証を示す。同図において、Aは競合蛍光偏光法によりCypAに対するCsA(●)、4MCsA(■)及びBSA-4MCsA(▲)の結合能力を測定することを示す。BはCsA(●)、4MCsA(■)及びBSA-4MCsA(▲)が用量依存性の方式でCypAを抑制するシス-トランスイソメラーゼ活性を示す。Cは各阻害剤に対するK
i及びIC50を示す。
【
図6】4MCsA分子が免疫抑制活性を有しないことを示す。同図において、AはWesterNBlotによりJurkat細胞において25nM PMA及び1mg/mLイオノマイシンによって誘導されるNFAT1の脱リン酸化に対する分子の抑制(分子量が下方に位置するバンド)を検出することを示し、BはELISAによりJurkat細胞が活性化した後のIL-2の分泌を検出することを示す。
【
図7】細胞外CypAによって刺激された炎症及び単球遊走に対する4MCsAの抑制を示す。同図において、AはTHP-1細胞におけるIL-8の発現に対するCypAの誘導を示し、THP-1細胞は100nMのCypAで12h処理された後、IL-8のmRNAレベルが顕著に高くなり、4MCsA及びCsAはいずれもこの効果を抑制することができる。BはCypAによって誘導されるTHP-1細胞の遊走係数を示す。Cは、細胞遊走実験においてクリスタルバイオレットで染色したTHP-1細胞の代表図である。
【
図8】ヒト腎臓細胞HEK293に対するCsA及び4MCsAの細胞毒性作用を示す。
【
図9】T2DMマウスモデルにおける疾患の状態及びCypA阻害剤の投与治療後の血清CypA含有量を示す。
【
図10】DBマウス及びHFDマウスにおける血糖に対する、尾静脈注射により投与された4MCsA及びCSAの制御を示す。同図において、aはDBマウスの空腹血糖であり、bはC57マウスの空腹血糖であり、cはDBマウスの投与後の体重であり、dはHFD及びDBマウスに対応するC57対照の体重であり、eはHFDマウスの空腹血糖であり、fはHFDのHbA1cに対する4MCsA及びCsA 5mg/kg/weekの制御である。
【
図11】DBマウスにおけるGTTに対する異なる薬物及び用量の影響を示す。
【
図12】HFDマウスにおける4MCsA及びCsA、並びにそれらを投与した後の異なる時間間隔でのGTTに対する影響を示す。
【
図13】インスリンに対するCsA及び4MCsAの影響を示す。同図において、aは投与後のDBマウスインスリンの基礎レベルを示し、bは投与後のブドウ糖刺激に応答するDBマウスのインスリン分泌を示す。
【
図14】マウスITT実験に対するCsA及び4MCsAの影響を示す。同図において、a及びcは投与後のDBマウスのITTを示し、b及びdはC57マウスにおけるITT応答を示し、e及びfは投与後のHFDマウスのITTを示す。
【
図15】投与後のDBマウスの血液中における炎症因子のレベルを示す。同図において、aはIL1βのレベルであり、bはCRPのレベルであり、cはTNF-αのレベルであり、dはIL-6のレベルである。
【
図16】投与後のDBマウスの肝毒性及び腎毒性の評価結果を示す。同図において、aはアスパラギン酸アミノ基転移酵素ASTのレベルであり、bはアラニンアミノ基転移酵素ALTのレベルであり、Cは尿素のレベルであり、dはクレアチニンのレベルである。
【
図17】腫瘍モデルマウスのインビボでの腫瘍体積の変化状況を示す。
【
図18】腫瘍微小環境におけるCD8
+T細胞に対する4MCsAの影響を示す。
【
図19】高脂肪食によって誘導されたアテローム性動脈硬化症マウスの大動脈病変程度に対する4MCsAの影響を示す。
【
図20】高脂肪食によって誘導されたアテローム性動脈硬化症マウスの血清中のCRP含有量に対する4MCsAの影響を示す。
【
図21】高脂肪食によって誘導されたアテローム性動脈硬化症マウスの血清中の血中脂質プロフィール指標に対する4MCsAの影響を示す。同図において、aは血清総コレステロール(TC)の含有量であり、bは血清トリグリセリド(TG)の含有量であり、cはLDLコレステロール(LDL-C)の含有量であり、dはHDLコレステロール(HDL-C)の含有量であり、eは総コレステロールとHDLコレステロールとの含有量比(TC/HDL-C)である。
【
図22】高脂肪食によって誘導されたアテローム性動脈硬化症マウスの血清中のALT、AST含有量に対する4MCsAの長期注射の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の目的、技術的手段及び利点をより明確にするために、以下、本発明の技術的手段を詳しく説明する。以下の実施例は、本発明の実施例の一部であり、全ての実施例ではない。本発明の実施例に基づいて、当業者が創造的努力なしで得る全ての他の実施形態は、いずれも本発明の保護範囲に含まれる。
【0029】
本発明では、4位修飾マレイミド(Maleimide)によって修飾された4MCsAを例とし、CsAの4位にマレイミド反応性基を導入してBSAと共有結合反応することによって、分子を細胞外に制限する機能を実現することができる。
【0030】
細胞外CypAを選択的に標的とするために、従来の修飾(MM284)はシクロスポリンの1位の二重結合に負帯電基を導入して行われている。シクロスポリンの1位における二重結合の存在により、この位置での修飾は比較的に容易である。しかし、この位置は、シクロスポリンとシクロフィリンの結合部位でもあるため、比較的大きな基の導入に適していない。また、このようなCsAアナログは、通常、血液循環において腎臓によって迅速に除去されるため、さらなる臨床応用が防がれる。シクロスポリンとシクロフィリンの結合形態において、P4位はシクロフィリンから遠い方向に位置し、理想的な修飾部位であるが、この位点での修飾は比較的困難であり、比較的複雑な合成経路が必要とされる。シクロスポリンは、複雑な天然産物分子として分子量が1000Daを超え、分離精製及び反応中の不純物の制御が比較的高い挑戦に直面している。そこで、現在、シクロスポリン誘導体とタンパク質をカップリングして薬物に適用する応用は、まだない。
【0031】
本発明では、シクロスポリンの4位をアルブミンにカップリングした活性生成物を得るために、シクロスポリンの4位にマイケル受容体の誘導体分子3及び8を導入し、シクロスポリン-アルブミンのカップリング及び活性検証作業に使用する。
【0032】
本発明では、4MCsAの合成過程において、2ステップのカラムクロマトグラフィー精製のみが行われるため、操作の難しさが大幅に軽減され、収率が極めて高くなる。
【0033】
【0034】
本発明の合成スキームは、2つの主なステップを含む。
【0035】
第1のステップは、CsA(1)P3及びP4位から開環し、P4位のアミノ酸を脱離させるデカペプチド4の合成過程である。合成4の主要な課題はエドマン分解ステップである。多くの場合は、ウンデカペプチド(1b)、デカペプチド(4)及びバリン欠失ノナペプチドの混合物が生成する。本発明では、過剰(2.0-5.0当量)なPhNCSを1aと十分に反応させ、その後、DMAPAで未反応のPhNCSを捕捉する。このようにして、エドマン分解後の過剰なDMAPAが洗浄されて高純度の中間体4が得られる。
【0036】
第2のステップは、デカペプチド4とアミノ酸Fmoc-N-Me-Lys(Boc)-OH(5)をカップリングした後、NMe4OHでFmoc、アセチル基を脱離させ、メチルエステルを加水分解し、最後にHATUで大環化反応して環状ペプチド[MeLys(Boc)4]CsA(6)を得ることである。
【0037】
トリフルオロ酢酸(TFA)の条件下で[MeLys(Boc)4]CsA(6)からBoc保護を外して[MeLys4]-CsAを得た後、6-マレイミドカプロン酸-N-スクシンイミドエステル(7)とカップリングして4MCsA(3)を生成する。
【0038】
最終的に、CsA(1)から10ステップの反応及び2ステップのカラムクロマトグラフィー精製を経て30%の総収率で4MCsA(3)を合成する。
【0039】
実施例1:線状デカペプチドの合成プロセス
【化3】
【0040】
CsA(24.0g,20mmol,1.0当量)を無水酢酸(80mL)とピリジン(80mL)の混合物に溶解させた。0℃でDMAP(0.8g,6.5mmol,0.33当量)を加え、撹拌しながら一晩反応させた。LC/MS検出によりCsAが完全に消耗したことを確認した後、反応液を氷浴に入れ、氷水(100mL)を滴下して白色固体沈殿を析出させた。その後、濾過により白色固体を分離し、粗生成物をさらにDMF(72mL)に溶解し、水(72mL)を加えて沈殿を析出させた。洗浄、濾過及び乾燥を行った後、白色固体1a(23.2g,18.6mmol,93%)を得た。C64H113N11NaO13
+([M+Na]+)のHRMS(ESI)m/z計算値:1266.8412;実測値:1266.8446。
【0041】
1a(37.4g,30mmol,1.0equiv.)をDCM(300mL)に溶解させ、トリメトキシテトラフルオロボレート(13.3g,90mmol,3.0当量)を加えた。20時間反応させた後、アセトニトリル及び水を加え、さらに3時間反応させた。有機相を分層させ、100mL/回で3回水洗した。その後、反応溶液を濃縮して真空乾燥させた。その後、白色結晶粉末を2-メチルテトラヒドロフラン(100mL)とメチルtert-ブチルエーテル(50mL)の混合物中で結晶化して1b(29.9g,21.9mmol,73%)を形成した。C
65H
118N
11O
14
+([M+H]
+)のHRMS(ESI)m/z計算値:1276.8854;実測値:1276.8882。
【化4】
【0042】
1b(13.7g,10.0mmol)をDCM(100mL)に溶解し、DIPEA(6.6mL,40mmol,4.0equiv.)及びイソチオシアン酸フェニル(4.1g,30mmol,3.0equiv.)を加え、撹拌しながら2.0時間反応させ、N,N-ジメチル-1,3-プロピレンジアミン(3.2mL,25mmol,2.5当量)を加え、引き続き撹拌して60分間反応させた。その後、メタノール(60mL)及び50%ホウフッ化水素酸水溶液(23g,130mmol)を加え、反応終了までLCMSにより検出した。DCMで反応液を希釈し、1NHCl及び塩水で洗浄した。有機相を合わせ、濃縮し、2-メチルテトラヒドロフラン(50mL)とメチルtert-ブチルエーテル(25mL)の混合溶液中で再結晶し、白色泡状生成物4(11.2g,91%)を得た。C58H105N10O13
+([M+H]+)のHRMS(ESI)m/z計算値:1149.7857;実測値:1149.7902。
【0043】
実施例2:デカペプチドから4MCsAまでの合成手順
【化5】
【0044】
4a:線状デカペプチド4(1.20g,0.97mmol,1.0equiv.)を10mL無水DMF中に溶解させ、撹拌しながら引き続きアミノ酸Fmoc-N-Me-Lys(Boc)-OH(5)(468mg,0.97mmol,1.0当量)及びHATU(737mg,1.94mmol,2.0当量)を加えた。反応溶液を氷浴で0℃に冷却した後、DIPEA(0.68mL,3.88mmol,4.0当量)を加え、室温下で一晩撹拌した。LCMS検出により反応終了を確認した後、1NHCl(10mL)溶液を加えて反応混合物をクエンチし、得られた混合物をDCM(2×30mL)で抽出した。合わせた有機層を塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。抽出液を真空濃縮し、残留物を15mLメタノールに溶解させた。4aの特徴データ:C83H135N12O17
+[M+H]+のMS(ESI)m/z計算値:1572.0;実測値:1572.0。
【0045】
6:4aのメタノール溶液に5mLのNMe4OH(25%メタノール溶液)を加え、室温下で撹拌しながら反応させた。LCMS検出によりP1位のアセチル基及びN端Fmocが除去されたことを確認した後、0.5mL水を溶液に入れて30分間撹拌することでP3位のメチルエステルを加水分解した。反応終了後、1NHClを加えてpHを5.0に調整することで反応をクエンチし、DCMで得られた混合物を抽出した。合わせた有機層を塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。真空下で抽出液の溶媒を濃縮して新たに200mL無水DCMに溶解させた。その後、HATU(1.32g,3.47mmol,3.85当量)を撹拌した溶液に加えた。HATUが溶解した後、氷浴で0℃に冷却し、N-メチルモルホリン(0.76mL,6.94mmol,7.7当量)を滴下した。LCMS検出により反応終了を確認した後、反応混合物を1NHCl、水及び塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで干燥させ、真空濃縮し、残留物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(DCM:MeOH=20:1)により精製し、白色の6(992mg,78%収率)を得た。
【0046】
6の特徴データ:1HNMR(500MHz,CDCl3)δ7.88(d,J=9.6Hz,1H),7.75(d,J=7.3Hz,1H),7.43(d,J=8.4Hz,1H),7.15(d,J=7.8Hz,1H),3.49(s,3H),3.36(s,3H),3.22(s,3H),3.12(s,3H),3.07(s,3H),2.72(s),3H),2.69(s,3H)。HRMS(ESI)m/z:C67H120N12NaO14
+([M+Na]+)の計算値:1339.8939;実測値:1339.8937。
【0047】
4MCsA(3):6(89mg,66.4mol,1.0当量)を2mLのDCMに溶解させた後、650LのTFAを加え、30分間撹拌した。その後、溶液を濃縮し、残留物をDCMに溶解させ、水、飽和NaHCO3及び塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空濃縮した。残留物を1.0mL無水DCMに溶解させた後、N-スクシンイミジル-6-マレイミドカプロン酸エステル(7)(31mg,0.1mmol,1.5当量)及びEt3N(28μL,0.2mmol,3.0当量)を加えた。溶液を一晩撹拌した。その後、10mLのDCMで反応混合物を希釈し、1NHCl、水及び塩水で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空濃縮し、残留物をHPLCにより精製し、白色の4MCsA(3)(58mg,41.1μmol,62%収率)を得た。
【0048】
4MCsA(3)の特徴データ:HPLC精製法,勾配(70%MeOH10min,70%-100%10-25min,100%25-35min),Rt=32.6min。1HNMR(500MHz,CDCl3)δ7.91(d,J=9.4Hz,1H),7.72(d,J=7.3Hz,1H),7.52(d,J=8.4Hz,1H),7.20(d,J=7.8Hz,1H),6.68(s,3H),3.49(m,6H),3.36(s,3H),3.21(s,6H),3.12(s,3H),3.09(s,3H),2.71(s,3H),2.69(s,3H)。C72H123N13NaO15
+[M+Na]+のHRMS(ESI)m/z計算値:1432.9154,実測値1432.9165。
【0049】
【0050】
8a:化合物6からTFA条件下でBoc保護を外した生成物(50mg,41.06μmol)、9(28.03mg,82.13μmol)及びHATU(31.23mg,82.13μmol)を3mlのDCMに溶解させ、その後、撹拌しながらDIPEA(21.23mg,164.25μmol,28.61μL)を加え、一晩反応させた。カラムクロマトグラフィーにより精製して淡黄色固体生成物8a(50mg,32.45μmol,79%収率)を得た。
【0051】
8:8a(12mg,7.79μmol)をMeOH(2mL)に溶解させ、その後、炭酸カリウム(2.15mg,15.57μmol,0.94μL)を加え、室温下で原料が完全に添加したまで反応させた。回転蒸発により溶媒を除去した後、生成物をそのままDCMに溶解させた。その後、10(1.37mg,15.17μmol,1.25μL)及びDIPEA(1.96mg,15.17μmol,2.64μL)を加えた。反応終了後、抽出し、カラムクロマトグラフィーにより精製して生成物9(10.3mg,7.4μmol,95%)を得た。
【0052】
4MCsA-2(8)の特徴データ:1HNMR(500MHz,CDCl3)δ7.97(d,J=9.4Hz,1H),7.67(d,J=7.3Hz,1H),7.48(d,J=8.4Hz,1H),7.15(d,J=7.8Hz,1H)。C69H121N13NaO15
+[M+Na]+のHRMS(ESI)m/z計算値:1394.8997,実測値1394.9006。
【0053】
実施例4:CsA-FITCプローブの合成経路
【化7】
【0054】
CsA-FITCの特徴データ:HPLC法,勾配(30%-100%ACN,0-25min),カラム温度70℃,Rt=16.9分間。C93H134N14NaO19S+[M+Na]+のHRMS(ESI)m/z計算値:1805.9563,実測値1805.9536。
【0055】
実施例5:4MCsAとアルバミンの反応性の検証
分子とアルバミンの反応性は、インビトロ結合の後に、Q Exactive HFX mass spectrometer(ThermOFisher)質量分析計を用いてインタクトタンパク質法により測定された。
【0056】
インビトロで4MCsA:BSA=2:1の比率で室温で1時間反応させ、その後、限外濾過チューブを用いて遠心分離して過剰な分子及び塩を除去し、サンプルを逆相フェニルカラム(MAbPac,ThermOFisher,088648)にかけ、LC-ESI-MSによりデータを採取し、BioPharma Finderソフトウェア(ThermOFisher)を用いて原質量スペクトルのデコンボリューションによりインタクトタンパク質の質量を解析した。
【0057】
図1に示すように、4MCsAによりアルブミンの分子量が1410Da増加し、これは、4MCsAがアルブミンに効果的に共有結合し、化学量論比が1:1であり、良好な反応性を有することを示している。
【0058】
実施例6:4MCsAとアルバミンシステインの反応位置の検証
【0059】
実施例4の複合体を取り、尿素で変性した後、トリプシン:タンパク質=1:50の比で希釈後のタンパク質サンプルに加え、37℃で18h酵素加水分解した後、C18SpiNColumns(ThermOFisher)脱塩カラムを用いてペプチド断片サンプルから塩を除去し、溶出物を70%アセトニトリルにより溶出した後、凍結乾燥させ、0.1%ギ酸水溶液で溶解させ、LC-ESI-MSによりペプチド断片を分析し、BioPharmaFinderソフトウェア(ThermOFisher)を用いて修飾位置を分析した。
【0060】
図2に示すように、bottom-upペプチド断片を同定した結果、4MCsA修飾ペプチド断片[K].GLVLIAFSQYLQQcPFDEHVK.[L]のペプチド指紋スペクトルを有し、Cys34が4MCsA分子で修飾されたことを示している。4MCsA分子とBSAの迅速かつ特異的な反応性は、その細胞膜非透過性に役に立っている。
【0061】
実施例7:高分解能質量スペクトルによるJurkat細胞に対する分子の膜透過性の測定
分子の透過性を直接測定するために、QE-Focus質量分析計を用いて細胞内の化合物濃度を外部標準法により定量した。
【0062】
1×10
8のJurkat細胞を、5μMのCsA、4MCsA及びチオフェノールでブロッキングした4MCsAを含むRPMI1640培地に加え、37℃で2時間インキュベートした後、メタノールで細胞内の化合物成分を抽出して分析し、5μMの対応する分子のメタノール溶液を外部標準として抽出液を質量分析した。対応する分子のm/zシグナルを選択してクロマトグラムをピーク抽出し、対応する分子で抽出したイオンクロマトグラム(EIC)を得た。その後、標準品及び細胞抽出物のEIC図の曲線下ピーク面積を用いて抽出物の濃度を定量した。結果を
図3、表1に示す。
【0063】
【0064】
結果については、表1、
図3に示すように、CsAは、細胞内に豊富なCypAに結合し、細胞内に濃化作用が存在するため、細胞内のCsA濃度は細胞外よりも高かった(7.2μMvs5μM)。4MCsAは、細胞内で検出されなかった。一方、疎水性のチオフェノールでブロッキングした4MCsAは、細胞内により容易に入った。チオフェノールでブロッキングした4MCsA分子中のマレイミド基はチオフェノールと反応した後、アルブミンに結合できなくなるとともに、細胞膜透過性がCsAよりも高く、これは、4MCsA中のマレイミド基が分子の細胞膜非透過性にとって非常に重要であることを示している。4MCsAは、細胞外に効果的に制限された。
【0065】
実施例8:蛍光競合法によるJurkat細胞に対する分子の膜透過性の測定
CsAと4MCsAの細胞膜透過性をさらに比較するために、本実施例において、細胞内CypAに結合するCsA-FITC蛍光プローブを用い、フローサイトメトリーにより、競合法を用いて細胞内蛍光シグナルに対する化合物の影響を検出した。
【0066】
結果として、
図4に示すように、CsA-FITCは、細胞内のCypAに効果的に結合するため、細胞に蛍光を標識することができ、CsAは細胞に入った後にCsA-FITCプローブと競合して細胞内のCypAに結合し、これによって、蛍光細胞の割合が大幅に減少した(95.30%から6.75%のレベル)。これに対し、4MCsAは、細胞内蛍光シグナルに対する影響が非常に小さかった。
【0067】
実施例6の結果と合わせて、4MCsAは、分子を細胞外に制限する作用を達成し、後で細胞外eCypAを標的とする効果的な分子である。
【0068】
実施例9:ペプチジル-プロリル-シス/トランス-イソメラーゼ(PPI酵素)に対する4MCsA及び複合体の結合能力の測定
蛍光偏光(FP)は、溶液系におけるリガンドと受容体の結合を測定する広く使用されている技術である。遊離状態の遊離蛍光プローブは、溶液系中で高速に回転し、発した蛍光はほとんど偏光解消光(depolarized light)である。プローブがより大きな分子に結合すると、分子の回転は制限され、この場合、偏光の発光は増加する。
【0069】
本発明では、フルオレセインイソチオシアネートで標識したCsAアナログを蛍光トレーサープローブ(CsA-FITC)として合成し、競合蛍光偏光測定法によりCypAに対するリガンドの親和力を測定した。まず、CsA-FITCとCypAの結合定数Kd=14.81±0.70nMを確定した。さらに、50nMのCypAを異なる濃度の阻害剤に結合させ、次いで、20nMのCsA-FITCプローブを加え、測定して競合蛍光偏光曲線を得た。
【0070】
結果として、
図5に示すように、CsA及び4MCsAと組換えCypAとのK
iは、それぞれ195.8±25.7nM及び197.8±17nMであった。また、CypAに対するBSA-4MCsA複合体のK
iは、86.9±6.2nMであった。三者は、CypAへの結合能力が近く、4MCsA及び4MCsAとBSAとのカップリングがCypAへの阻害剤の結合に影響を与えず、活性がCsAに相当することを示している。
【0071】
実施例10:ペプチジル-プロリル-シス/トランス-イソメラーゼ(PPI酵素)活性に対する4MCsA及び複合体の阻害の測定
キモトリプシンでN-スクシニル-Ala-Ala-Pro-Phe p-ニトロアニリド基質ペプチドを加水分解し、CypA酵素活性に対する阻害剤の影響を測定した。基質ペプチドのプロリンは、特定の成分系において主にシスであり、この場合、キモトリプシンの切断効率が比較的低いが、プロリンシス-トランスイソメラーゼで触媒された後、その構成がシスからトランスに変換するため、キモトリプシンによって特異的に切断されてp-ニトロアニリドを放出することができ、390nm左右に最大吸収がある。したがって、CypA酵素の活性が高いほど、基質の分解速度が速くなり、390nmでの吸光度値の増加が速くなる。50nMのCypAを異なる濃度の阻害剤に結合した後、250μg/mLキモトリプシンを加え、最後に、オートサンプラーを備えたマイクロプレートリーダーを用いて80μMのハイパードライした基質ペプチド溶液(470mMのLiCLのトリフルオロエタノールに溶解)を加えて反応を開始させ、動力学監視した。
【0072】
図5に示すように、CypAを異なる濃度の阻害剤分子と共にインキュベートした後、その酵素活性が顕著に抑制され、曲線をフィッティングした結果、4MCsA、CsA及びBSA-4MCsAのIC50は、それぞれ22.55±4.30nM、17.16±4.09nM及び21.87±3.16nMであり、4MCsA及びそれとBSAのカップリング複合体がCypA酵素活性を効果的に抑制でき、CsAの効率に相当することをさらに示しており、これは、結合活性の測定と一致し、4MCsAはBSAにカップリングした後、CypAを標的とする抑制作用を正常に発揮できることを実証している。
【0073】
実施例11:NFATシグナル伝達における非免疫抑制作用の検出
CsAの免疫抑制作用は、主に分子が細胞内に入った後、細胞内CypAと共にCypA/CsA複合体を形成し、次いでカルシニューリンに結合し、NFATタンパク質の脱リン酸化に対するこの酵素の活性化を阻害するためである。
【0074】
上記に鑑みて、本発明では、イオノマイシン及びPMAに引き起こされるJurkat T細胞活性化過程におけるNFATシグナル伝達に対する分子の影響を研究した。1×106のJurkat細胞をCsA及び4MCsAを事前に添加したRPMI1640培地(10%血清含有)に接種して1.5hインキュベートした後、25nMホルボールエステルPMA及び1μg/mLイオノマイシンで2h処理し、Jurkat細胞の活性化を誘導し、細胞を収集した後、抽出、電気泳動、転写を経た後、NFAT抗体によりNFATタンパク質の脱リン酸化レベルを検出した。NFAT脱リン酸化後、リン酸化及び非リン酸化の2本のバンドが現れた。
【0075】
図6に示すように、CsAは、PMA及びイオノマイシンによって誘導されたNFATの脱リン酸化を顕著に抑制するのに対し、細胞非透過性の4MCsAは、顕著な効果がなかった。
【0076】
また、本発明では、NFATが関与したT細胞活性化の下流IL-2タンパク質の分泌をさらに検出した。PMA及びイオノマイシンで24h刺激した後、ELISA方法により培地中IL-2タンパク質の含有量を測定した。Westernblotの結果と一致し、0.2μMのCsAはIL-2の分泌を顕著に抑制できるのに対して、4MCsAは、濃度が5μMに達してもIL-2の分泌にほとんど影響を与えなかった。この結果から分かるように、4MCsAは、免疫抑制作用を有さず、それが細胞外に効果的に制限される効果と同様であり、したがって、細胞内CypAと複合体を形成してカルシニューリン及びNFATの活性化を干渉することができない。
【0077】
実施例12:炎症性細胞に対する4MCsAの影響
本発明では、まず、CypAによって促進される炎症促進因子IL-8の分泌に対する4MCsAの影響を検証した。
【0078】
薬物分子を培地と共にプレインキュベートしてからCypAタンパク質で細胞を刺激する方法により、CypAによって刺激された炎症促進因子IL-8の転写変化及び炎症細胞の遊走に対する4MCsA及びCsAの影響を検出した。4MCsA及びCsAを0.1%BSA含有するRPMI1640培地と共に1時間プレインキュベートした後、CypAでTHP1細胞を12時間刺激し、RT-PCR法によりIL-8の転写レベルの変化を検出した。Transwell遊走実験において、下チャンバで4MCsA及びCsAを0.1%BSA含有するRPMI1640培地と共に1時間プレインキュベートした後、200ng/mLのCypAを加え、上チャンバに1.0×105のTHP1細胞を添加し、37℃で1時間培養した後、ウェル基底膜をクリスタルバイオレット染色した後、撮影して遊走細胞数を記録した。
【0079】
図7に示すように、細胞外CypAは、IL-8のmRNAの転写レベルを顕著に向上させた。この効果は、4MCsA及びCsAによって顕著に抑制することができる。また、本発明では、TranswellによりCypAによって誘導されたTHP-1細胞遊走に対する4MCsAの抑制を検証した。CypAによって促進された遊走活性は、4MCsA及びCsAによって顕著に解消することができる。以上の結果から分かるように、4MCsA及びCsAは、いずれもCypAの酵素活性ポケットを標的とすることができ、4MCsAは、細胞外CypAの酵素活性ポケットが媒介した炎症効果及び白血球遊走を効果的に抑制することができる。
【0080】
実施例13:4MCsAと天然シクロスポリンの細胞毒性の比較
本実施例では、正常HEK293ヒト腎臓細胞に対するCsA及び非細胞透過性4MCsAの細胞毒性作用を比較した。
【0081】
薬物の細胞毒性を検証するために、MTT法により4MCsA及びCsAで処理した後の細胞殺傷効果を検出した。HEK293細胞を1.0×10
4/ウェルの密度で96ウェルプレートに接種し、細胞を適宜な密度まで接着増殖させた。また、4MCsA及びCsAの勾配濃度薬物を調製し、4%BSA含有培地と共に1時間プレインキュベートした後、96ウェルプレートの培地を薬物プレインキュベーション培地に変更し、引き続き30時間培養し、MTT法により細胞生存率を検出した。
図8に示すように、4MCsA濃度が50μMに達しても細胞毒性がほぼないのに対し、CsAは、HEK293細胞の増殖を顕著に抑制し、濃度の増加につれて濃度依存的な細胞毒性作用を示した。これは、臨床使用におけるCsAの肝毒性及び腎毒性と一致しており、4MCsAはこの点で大きな利点を示している。
【0082】
実施例14:4MCsAの投与は糖尿病モデルにおけるCypAを減少できる。
本実施例では、レプチン受容体が欠失したdb/db遺伝子操作マウス(DBマウス)をT2DMモデルとして使用し、マウス血清CypAの含有量に対する薬物の影響を検出した(C57マウスを健常対照群とする)。尾静脈注射により5mg/kg/週の用量のCsA又は4MCsA及び1mg/kg/週の4MCsAをDB及びC57マウスに3週間投与した後、マウス血清を採取し、ELISAにより血液CypAの含有量を検出した。
【0083】
図9に示すように、糖尿病モデルマウスは、投与後に血液CypAの含有量が減少し、4MCsAが炎症及びROS循環増幅過程における細胞外シクロフィリンの作用を効果的に遮断し、この増幅過程におけるCypAの分泌を減少させることができる。
【0084】
実施例15:4MCsAはT2DMマウスモデルの空腹血糖を減少させる。
T2DMにおける薬物の作用効果を効果的に評価するために、本実施例では、DBマウス及び高脂肪食によって誘導された肥満マウスモデル(HFDマウス)を選択し、異なる2種の誘因の2型糖尿病マウスモデルとして研究した。DBモデルに対して、対照群Ctrl、4MCsA 5mg/kg/week群DB 4MC5、4MCsA 1mg/kg/week群DB 4MC1、CsA 5mg/kg/week群DB CsA5を設け、HFDモデルにおいて、4MCsA及びCsAの投与量はいずれも5mg/kgであり、両モデルは、いずれも週1回の尾静脈注射により投与された。
【0085】
図10に示すように、4MCsA投与後、CsAと比較してDB及びHFDマウスの空腹血糖を顕著に低減し、糖化ヘモグロビンの含有量を減少させることができ、4MCsAが糖尿病の血糖を長期的で効果的に制御できることを示している。なお、正常C57マウスに5週間投与した後、CsA 5mg/kg/week実験群の空腹血糖は、C57ctrl群よりもやや高く、4MCsA 5mg/kg/week群は正常群に相当した。
【0086】
実施例16:4MCsAはT2DMマウスモデルのブドウ糖負荷を改善する。
実施例15における2種類のモデルマウスに投与し、ブドウ糖負荷試験(GTT)を行ってマウスがブドウ糖を制御する能力を検出した。5週間投与後、マウスを16時間断食させ、次いでマウスに腹腔内注射によりブドウ糖(DBマウス用量:1g/kg,HFDマウス用量:2g/kg)を注射し、その後、異なる時点で採血し、血糖含有量を検出した。対応する時点での血液試料を同時に保存して後のブドウ糖刺激によるインスリン分泌の検出に用いた。
【0087】
図11に示すように、4MCsA及びCsA 5mg/kgは、いずれもDBマウスブドウ糖負荷の状態を顕著に改善することができる(図a-b)。図eに示すように、Ctrl群と比較して5mg/kgの投与群の曲線下面積(AUC)は顕著に減少し、インビボでのブドウ糖のクリアランス速度がより速かった。C57群のGTT曲線及びそのAUC(図d及びf)において、CsAはC57健常マウスのAUCを顕著に増加させ、4MCsA群のAUCはCsA群に対して増加が比較的少ないことが観察され、CsA投与が健常マウスのブドウ糖負荷にある程度の悪影響を与える可能性があるのに対し、4MCsAの影響が比較的小さいことを示している。
【0088】
HFDモデルにおいて、T2DMマウスGTTに対するCsA及び4MCsAの改善に対してさらに研究した。
【0089】
図12に示すように、HFDモデルにおいて、投与の23日目の36hrs内で測定した結果、4MCsA及びCsAはいずれもHFDのGTTを顕著に改善し、AUCが顕著に低下した。投与の17日目の60時間内で測定した結果、CsAはHFDのGTTに対して作用がないのに対し、4MCsAは依然として顕著な改善を示し、AUCを顕著に低下させた。上記の結果から分かるように、4MCsAは、代謝時間がより長く、細胞外eCypAに対する持続制御により炎症及びROS状態を長期間に改善し、常に薬効を発揮することができる。
【0090】
実施例17:ブドウ糖刺激によるインスリン分泌に対する4MCsAの影響
【0091】
実施例16におけるブドウ糖注射後の対応する時点での血液試料を取り、ELISA法により血液試料中のインスリンの含有量を検出し、ブドウ糖刺激によるインスリン分泌の結果を得た。
【0092】
図13に示すように、DBマウスインビボでのインスリンの基礎レベルは、C57健常群よりも顕著に高く、投与後、CsA及び4MCsAは、DBマウスのインスリンの基礎レベルに対する影響が大きくない(図aの左側)のに対し、C57健常群では、4MCsA群のインスリンがCsA群よりもやや高かった(図aの右側)。ブドウ糖で刺激した後、4MCsA及びCsAでは、DBマウスの異なる段階での刺激によるインスリン分泌は、DB ctrl群と比較して顕著な違いがなかった(図bの左側)。4MCsA及びCsA(5mg/kg/day)の使用は、DBマウスのインスリン分泌を変化させないため、DBマウスGTTの改善は、インスリンシグナル応答に影響を与えることによるものである。しかし、健常C57マウス(図bの右側)では、依然として4MCsAは、C57ctrlと比較してブドウ糖刺激によるインスリン分泌をより多く増加できる一方、CsA群では、了ブドウ糖刺激によるインスリン産生を減少させ、GTT実験におけるC57に対するCsA投与の影響を示している。これによって、本発明の4MCsAはCsAよりも優れたことがさらに実証されている。
【0093】
実施例18:インスリン感受性に対する4MCsAの影響
実施例15における2種類のマウスに対してそれぞれインスリン感受性試験(インスリン負荷試験,ITT)を行い、さらにインスリンシグナル応答を測定した。マウスを6時間断食させた後、腹腔内注射によりインスリン(DBマウス用量:2U/kg,HFDマウス用量:1U/kg)を注射し、その後、異なる時点での血糖含有量を検出した。
【0094】
図14に示すように、4MCsA及びCsAは、いずれもDBインスリン感受性を顕著に改善できるとともに、健常C57においても投与後に両者がITTを改善したことが観察された。4MCsAは、DBマウスにおいてITTに対する影響がある程度の用量効果を有した(例えば、図a-d)。HFDモデルのマウスにおいて、4MCsA及びCsAは、肥満に起因するインスリン抵抗を低減させ、ITTを改善することもでき、4MCsAは、CsAと比較してAUCがより低く、効果がより顕著であった(例えば、図e-f)。
【0095】
実施例19:DBマウス炎症因子に対する4MCsAの影響
実施例15におけるDBモデルマウス(対照群Ctrl,4MCsA 5mg/kg/week群DB 4MC5,4MCsA 1mg/kg/week群DB 4MC1,CsA 5mg/kg/week群DB CsA5)に42日間投与した後、血液を採取し、ELISAにより血清中の炎症因子レベルを測定した。
【0096】
図15に示すように、4MCsAは、42日間投与された後、DBマウス中の炎症因子TNF-a及びIL1βのレベルを顕著に低下させたのに対し、CsAは、IL1βのみを改善した。観察されたのは、4MCsAがマウス炎症を軽減でき、かつ効果がCSAよりも高く、これによって、炎症に起因するインスリンシグナル損傷を軽減させ、インスリン感受性を向上させ、マウスの糖尿病状態を改善することができる。
【0097】
実施例20:DBマウスの肝毒性及び腎毒性に対する4MCsA及びCSAの影響の調査
【0098】
50日間投与した後、実施例15における2種類のモデルマウスの対応投与群の血清を取り、南京建成生化製キットを用いて血清中のアラニンアミノ基転移酵素(ALT)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)の含有量(肝毒性指標)及び腎毒性指標(クレアチニン及び尿素)を検出した。
【0099】
図16のa及びbに示すように、DBマウスは、C57健常マウスと比較してALT及びASTがいずれも顕著に増加した。これは、肥満マウスが非アルコール性脂肪肝を罹患しやすいためこれらの肝臓指標の上昇を引き起こすためである。4MCsA及びCsAを投与してもDBマウスの肝毒性及び腎毒性をさらに向上されなかった(
図16におけるc及びd)。同様に、4MCsA及びCSAも顕著な腎毒性を引き起こさなかった。その尿素及びクレアチニンレベルは、群間に違いがなかった。しかし、C57健常マウスにおいて、50日間の長期投与後、CsA投与群では、AST、ALT及び尿素レベルはいずれも顕著に高くなった一方、4MCsAは、健常対照に近いレベルを維持したことが見られた。この結果によって、本発明の4MCsAは、毒性低減に優れたことがさらに直接実証されている。
【0100】
DBマウス及びHFDの2種類のT2DMモデルマウスにおいて、T2DMの改善効果について4MCsAとCsAを比較した。疾患モデルにおいて、低用量、長周期投与の場合、両者とも空腹血糖を減少させ、ブドウ糖負荷を改善し、インスリン感受性を向上できるとともに、インスリン分泌及び他の肝毒性、腎毒性の変化に影響を与えなかった。これらの指標では、4MCsAはより高いポテンシャルを示しており、CsAと比較してより長期間で持続的に制御し、改善効果がより顕著で、効きが早く、毒性がより低かった。
【0101】
また、CsAは、糖尿病対象において代謝速度がより速いことが報告されているため、健常状態の対象にとっては潜在的な危害を有する。これは、発明の実験において何度も証明されている。具体的には、健常C57マウスに長期間投与した後、そのGTTに悪影響を与え、インスリンの分泌が減少し、血糖レベルが向上し、肝毒性及び腎毒性が高くなった。これに対し、本発明者らが設計した4MCsAは、健常C57のこれらの不具合を顕著に軽減させることができる。
【0102】
実施例21:4MCsAはマウス結腸がん腫瘍モデルにおいて抗腫瘍効果を奏する。
本実施例においてマウス腫瘍モデルを構築し、腫瘍のサイズを測定することで薬物の作用効果を反映した。
【0103】
Balb/Cマウスの背中の側面にCT26-LUCマウス結腸がん細胞を接種量106/匹で皮下接種し、6日後に腫瘍のサイズが約100mm3になり、ノギスで測定しながら投与し、4MCsAの投与量は5mg/kgであり、毎日投与し、2日ごとに腫瘍を測定し、腫瘍サイズを統計した。3週間後に実験を終了させた。
【0104】
実験結果として、
図17に示すように、4MCsAは、ある程度の抗腫瘍効果を示し、抗腫瘍薬の潜力を有する。
【0105】
実施例22:4MCsAが腫瘍微小環境中のCD8 T細胞の浸潤を向上させることを調査する。
【0106】
凍結切片の厚さは4~8μmである必要がある。切片を-80℃から取り出した後、室温で30分間静置し、4℃でアセトンを用いて10分間固定し、PBS(5分間×3)で洗浄した。5~10%正常なヤギ血清(PBS希釈)でブロッキングし、室温で10分間インキュベートした。血清を捨て、洗浄せずに適切な割合で希釈した一次抗体又は一次抗体作動液を滴下し、37℃で1~2時間インキュベートし又は4℃で一晩インキュベートした。PBSで(5分間×3回)で洗い流した。適切な割合で希釈したビオチン標識二次抗体(1%BSA-PBS希釈)を滴下して37℃で90-120分間インキュベートし、或いは第2世代ホースラディシャーゼ標識ストレプトアビジン作動液を滴下して37℃又は室温で10~30分間インキュベートし、PBS(5分間×3回)で洗い流し、切片を封入した後、倒立蛍光顕微鏡を用いて撮影した。最後にimageJを用いて統計分析した。
【0107】
結果として、
図18に示すように、4MCsAは、腫瘍微小環境中のCD8 T細胞の浸潤を促進することができ、これによって、腫瘍抑制効果を得られる。
【0108】
実施例23:高脂肪食によって誘導されたアテローム性動脈硬化症マウスの大動脈病変程度に対する4MCsAの影響
ApoE遺伝子欠陥C57BL/6Jマウス(5週齢)を選択し、ランダムに群分けした後、WesterNdiet飲食により高脂肪を誘導し、7週目から尾静脈注射により実験群に4MCsAを投与し始めた(用量:5mg/kg/week,投与周期:9週間)。実験終了後、実験動物を安楽死させ、解剖した後、右心耳から10mLのPBSを灌注した後、10mL組織固定液(4%パラホルムアルデヒド)を灌注し、立体顕微鏡下で大動脈を完全に分離し、脂肪ピンセットで血管外に付着した脂肪組織を剥離した。オイルレッドO染色法により分離した大動脈全体を染色し、撮影して記録し、ImageJを用いて実験群及び対照群動物の大動脈弓の病変面積を統計し、差異の有意性を統計した。
【0109】
図19に示すように、モデル構築に成功したアテローム性動脈硬化症マウスを周期的で断続的に投与した後、対照群(ApoE-/-)と比較して、投与群(4MCsA)の大動脈弓の病変面積は顕著に減少し、4MCsAが血管プラーク病変の発生を直接改善できることを示している。
【0110】
実施例24:高脂肪食によって誘導されたアテローム性動脈硬化症マウスの血清中CRP含有量に対する4MCsAの影響
アテローム性動脈硬化症マウスのモデルを成功に構築した後、実施例23に記載の方法により、実験マウスに対して週に1回で5mg/kgの4MCsAを尾静脈注射し、9週間連続投与し、マウス血清中のCRPレベルを検出することにより生体の心血管疾患の発症リスクを評価し、生体の心血管疾患の発症に対する化合物の影響を評価した。
【0111】
図20に示すように、対照群(ApoE-/-)と比較して、4MCsAは、実験群マウスの血清中CRPの含有量を顕著に減少でき、4MCsAが生体の心血管疾患の発症に対して非常に優れた予測的な改善作用を有することを示している。
【0112】
実施例25:高脂肪食によって誘導されたアテローム性動脈硬化症マウスの血清中の血中脂質プロフィール指標に対する4MCsA影響
【0113】
実施例23に記載の方法により高脂肪食誘導マウスアテローム性動脈硬化症モデルを構築し、群別に応じて投与し、5mg/kgの4MCsA又はプラセボを週に1回で尾静脈注射し、9週間連続投与後、マウスを安楽死させ、血清を採取し、血中脂質プロフィールを検出した。
【0114】
結果として、
図21に示すように、対照群と比較して、4MCsAは、生体の血清中のLDL-C含有量を顕著に減少させ、HDL-Cの含有量をある程度増加できた(有意性なし)が、TC及びTGの含有量には顕著な影響を与えなかった。また、計算結果から分かるように、4MCsAは、生体のTC/HDL-Cを顕著に減少でき、アテローム性動脈硬化症、冠状動脈性心臓病などの心血管疾患に対してある程度の予測的な改善作用を有する。
【0115】
実施例26:高脂肪食によって誘導されたアテローム性動脈硬化症マウスの血清中のALT、AST含有量に対する4MCsAの長期注射の影響
【0116】
実施例25に記載の方法によりマウスアテローム性動脈硬化症モデルの誘導及び投与を行い、動物実験の周期が終了した後、マウスを安楽死させ、血清を採取し、血清中のアラニンアミノ基転移酵素(ALT)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)の含有量を測定した。
【0117】
図22に示すように、対照群と比較して、実験群の血清中のALT、AST活性には顕著な変化がなく、4MCsAの周期的で断続的な尾静脈注射は、生体に対して顕著な肝毒性を引き起こさなかった。
【0118】
以上の説明は、本発明の具体的な実施形態に過ぎず、本発明の保護範囲はこれに限定されない。当業者であれば、本発明に開示されている技術的範囲内において変化及び置換を容易に想到することができる。これらの変化及び置換は、本発明の保護範囲内に含まれるべきである。したがって、本発明の保護範囲は、添付する特許請求の範囲に定めるものとする。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-07-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される構造を有する細胞外シクロフィリン阻害剤及びその薬学的に許容される塩。
【化1】
(式中、R
1は、-CH=CHR
1’又は-CH
2CH
2R
1’であり、
R
1’は、アルキル基、カルボキシル基、アセトアミド基又はフェニル基から選択され、
R
2は、H、SR
2’、CH
2SR
2’又はCH
2OR
2’であり、ここで、R
2’は、アルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アセトアミド基又はフェニル基から選択され、
リンカーは、-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2)
y-又は-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2CH
2O)
y-から選択され、ここで、xは1-4の整数であり、yは1-6の整数である。)
【請求項2】
R
1’は、-CH
3、-(CH
2)
n-COOH、-(CH
2)
n-NH(C=O)CH
3、-フェニル基又はシクロアルキル基から選択され、ここで、nは1-6の整数であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤及びその薬学的に許容される塩。
【請求項3】
前記フェニル基は、-COOCH
3及び/又は-CH
2NH(C=O)CH
3によって1回以上置換されていることを特徴とする、請求項2に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤及びその薬学的に許容される塩。
【請求項4】
前記シクロアルキル基は、シクロプロピル基であることを特徴とする、請求項2に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤及びその薬学的に許容される塩。
【請求項5】
R
2’は、-CH
3、-(CH
2)
n-COOH、-(CH
2)
n-OH、-(CH
2)
n-NH(C=O)CH
3、-フェニル基又はシクロアルキル基から選択され、nは1-6の整数であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤及びその薬学的に許容される塩。
【請求項6】
前記フェニル基は、-COOCH
3及び/又は-CH
2NH(C=O)CH
3によって1回以上置換されていることを特徴とする、請求項5に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤及びその薬学的に許容される塩。
【請求項7】
R
1は、-CH=CHCH
3であり、R
2は、Hであり、リンカーは、-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2)
y-又は-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2CH
2O)
y-から選択され、ここで、xは1-4の整数であり、yは1-6の整数であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤及びその薬学的に許容される塩。
【請求項8】
R
1は、-CH=CHCH
3であり、R
2は、Hであり、リンカーは、-(CH
2)
x-NH(C=O)-(CH
2)
y-であり、ここで、xは2又は3であり、yは3、4又は5であることを特徴とする、請求項1に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤及びその薬学的に許容される塩。
【請求項9】
シクロフィリン媒介疾患を予防又は治療するための医薬組成物であって、請求項1から8のいずれか1項に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤及びその薬学的に許容される塩を含む、医薬組成物。
【請求項10】
前記シクロフィリン媒介疾患は、ウイルス感染、代謝性疾患、急性及び慢性炎症性疾患、がん、神経変性疾患、退化性筋疾患、心血管疾患、肥満症及び糖尿病からなる群から選択される、請求項9に記載の細胞外シクロフィリン阻害剤及びその薬学的に許容される塩。
【国際調査報告】