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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-25
(54)【発明の名称】人工酵素・細菌系及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/745 20150101AFI20240917BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20240917BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240917BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240917BHJP
   A61P 1/06 20060101ALI20240917BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240917BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240917BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20240917BHJP
   A61K 35/741 20150101ALI20240917BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20240917BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240917BHJP
   A61K 38/44 20060101ALI20240917BHJP
   C12N 11/16 20060101ALI20240917BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20240917BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20240917BHJP
【FI】
A61K35/745
A61P1/12
A61P1/00
A61P1/04
A61P1/06
A61P29/00
A61P37/06
A61K35/747
A61K35/741
A61K35/74 A
A61K47/64
A61K38/44
C12N11/16
C12N1/20 E
C12N9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507083
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 SG2022050638
(87)【国際公開番号】W WO2023033745
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2021/116214
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509034605
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティ オブ シンガポール
(71)【出願人】
【識別番号】514157940
【氏名又は名称】チョーチアン ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】NO.866 Yuhangtang Rd, Xihu District, Hangzhou, Zhejiang 310058, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン シアオユアン
(72)【発明者】
【氏名】マオ チョンウェイ
(72)【発明者】
【氏名】カオ ファンファン
【テーマコード(参考)】
4B033
4B065
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B033NA23
4B033NB56
4B033NC03
4B033ND12
4B065AA21X
4B065AA30X
4B065BD44
4B065CA44
4C076AA99
4C076BB01
4C076CC16
4C076CC29
4C076EE23
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084DC23
4C084DC24
4C084MA02
4C084MA52
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA661
4C084ZA662
4C084ZA681
4C084ZA682
4C084ZA721
4C084ZA722
4C084ZB081
4C084ZB082
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087BC56
4C087BC59
4C087BC75
4C087MA02
4C087MA52
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA68
4C087ZA72
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZC75
(57)【要約】
人工酵素、プロバイオティクス細菌、並びに前記人工酵素及びプロバイオティクス細菌をコンジュゲートするリンカーを含む系を開示する。さらに、前記系を含む組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)レドックス反応を促進する人工酵素、
b)プロバイオティクス細菌、及び
c)人工酵素及びプロバイオティクス細菌とコンジュゲートするリンカー、
を含む、系。
【請求項2】
前記人工酵素が、一つ以上の活性酸素種(ROS)を除去する活性酸素種(ROS)除去能を有する、請求項1に記載の系。
【請求項3】
前記人工酵素が、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)及びグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)からなる群から選択される活性酸素種(ROS)除去酵素の活性酸素種(ROS)除去能を有する、請求項2に記載の系。
【請求項4】
前記人工酵素が、グルタチオン(GSH)、システイン(Cys)、ポリフェノール、及びビタミンCからなる群から選択される抗酸化分子の活性酸素種(ROS)除去能を有する、請求項2に記載の系。
【請求項5】
前記人工酵素がナノザイムを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の系。
【請求項6】
前記ナノザイムが、単原子ナノザイム(SAzyme)、炭素系ナノザイム、及びクラスター系ナノザイムからなる群から選択される、請求項5に記載の系。
【請求項7】
前記リンカーがフェニルボロン酸官能基を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の系。
【請求項8】
前記リンカーがポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む、請求項7に記載の系。
【請求項9】
前記プロバイオティクス細菌が、Bifidobacterium、Lactobacillus、Komagataeibacter、及びLeuconostocからなる群から選択される属由来である、請求項1~8のいずれか一項に記載の系。
【請求項10】
前記プロバイオティクス細菌がBifidobacteriumである、請求項9に記載の系。
【請求項11】
前記Bifidobacteriumが、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium infantis、及びBifidobacterium animalisからなる群から選択される、請求項10に記載の系。
【請求項12】
約1×10CFUのプロバイオティクス細菌に対して、人工酵素及びリンカーの量が約10μg~約500μgである、請求項1~11のいずれか一項に記載の系。
【請求項13】
約1×10CFUのプロバイオティクス細菌に対して、人工酵素及びリンカーの量が約50μgである、請求項1~12のいずれか一項に記載の系。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の系を含む医薬組成物。
【請求項15】
薬剤的に許容される担体をさらに含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
治療上有効な量の請求項1~13のいずれか一項に記載の系又は請求項14若しくは15に記載の医薬組成物を投与することによって、それを必要とする対象における疾患を治療する方法。
【請求項17】
前記疾患が胃腸管障害である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記胃腸管障害が、潰瘍性大腸炎の炎症性腸疾患(IBD)、クローン病の炎症性腸疾患(IBD)、ディスバイオシス、壊死性腸炎、急性感染性下痢症、抗生物質関連下痢症、乳児疝痛からなる群から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
約1.0×10~約3.0×10CFU/kgのプロバイオティクス細菌と、
約1.0~約3.0mg/kgの人工酵素及びリンカーと
を含む、有効量の前記系又は前記医薬組成物を投与することを含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
約2.5×10CFU/kgのプロバイオティクス細菌と、
約1.25mg/kgの人工酵素及びリンカーと
を含む、有効量の前記系又は前記医薬組成物を投与することを含む、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~13のいずれか一項に記載の系を製造する方法であって、(i)リンカーにコンジュゲートした人工酵素及び(ii)プロバイオティクス細菌をインキュベートすることを含み、前記リンカーが前記人工酵素及びプロバイオティクス細菌をコンジュゲートする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年9月2日に出願されたPCT特許出願番号PCT/CN2021/116214の優先権の利益を主張し、その内容はあらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して、バイオテクノロジーの分野に関する。特に、人工酵素系に関し、さらに詳細には、人工酵素とプロバイオティクス細菌とリンカーとを含む系を使用して胃腸管障害を治療するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
胃腸管障害には、些細な胃もたれやディスバイオシスから、炎症性腸疾患(IBD)などの重篤な状態まで及ぶ無数の状態が含まれる。炎症性腸疾患(IBD)は、クローン病(CD)や潰瘍性大腸炎(UC)などの、消化管の炎症を引き起こす特発性腸障害の系統群である。そのような状態は、世界中の地域社会に健康及び経済的負担をかけ、患者の生活の質を大きく低下させる可能性がある。
【0004】
炎症性腸疾患(IBD)の現在の臨床治療は、主に炎症症状の管理に集中しており、一般に、根本的な原因は無視されている。さらに、これらの抗炎症薬や免疫抑制薬は完全に有効なわけではなく、これらの長期間の使用は、有害な副作用及び/又は重篤な合併症を引き起こす可能性がある。
【0005】
以上のことから、炎症性腸疾患(IBD)に対して、より効果的な新規治療法を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0006】
一態様において、本開示は:
a)レドックス反応を促進する人工酵素、
b)プロバイオティクス細菌、及び
c)人工酵素及びプロバイオティクス細菌をコンジュゲートさせるリンカーと
を含む系を指す。
【0007】
別の態様では、本開示は、本明細書中に開示する系を含む医薬組成物を指す。
【0008】
別の態様では、本開示は、治療上有効な量の本明細書中で開示する系又は医薬組成物を投与することによって、それを必要とする対象における疾患を治療する方法に関する。
【0009】
別の態様では、本開示は、本明細書中に開示する系を製造する方法であって、(i)リンカーにコンジュゲートした人工酵素、及び(ii)プロバイオティクス細菌をインキュベートすることを含み、前記リンカーが前記人工酵素及びプロバイオティクス細菌をコンジュゲートさせる方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明は、非限定的な例や添付の図面とあわせて考慮すれば、詳細な説明を参照してよりよく理解されるであろう。
図1図1は人工酵素・プロバイオティクス細菌系の概略図である。(a)は、本明細書中で開示する人工酵素・プロバイオティクス細菌系の一般的な構造を示す。(b)リンカーがフェニルボロン酸官能基を有する人工酵素・プロバイオティクス細菌系の一例。(c)は、リンカーがフェニルボロン酸官能基とPEGとを有する人工酵素・プロバイオティクス細菌系のもう一つの例。図1は、本明細書中で開示する人工酵素・プロバイオティクス系の例示的構造を提示する。
図2図2は、炎症性腸疾患(IBD)治療における人工酵素・プロバイオティクス細菌系の例示的な調製とその微小環境制御を示す画像である。(a)BL@B-SAは、人工酵素(例えば、FeSA)、プロバイオティクス細菌(例えば、Bifidobacterium longum(BL))、並びに人工酵素及びプロバイオティクス細菌をコンジュゲートさせるためのリンカー(例えば、C18-PEG-B)で構成される。この例では、ZIF-8カプセル化Fe前駆体(Fe@MOF)の熱分解によってFeSAを作製する。リンカーC18-PEG-Bは、非共有相互作用によりFeSA表面に結合できる疎水性C18基と、ボロン酸隣接ジオールベースのクリック反応により細菌を捕捉するフェニルボロン酸官能基とを含む。(b)BL@B-SAは、SOD及びCAT抗酸化酵素を模倣することができ、また複数の活性酸素種(ROS)を除去する抗酸化分子として機能して、細胞や微生物の運命を制御することができる。(c)IBDの臨床で使用される治療薬は、臨床薬の不可逆的喪失や回避不能なオフターゲット効果、また酸化的ストレスに対するプロバイオティクス特有の脆弱性のために、有効性が低く、重大な全身毒性という問題に直面している。対照的に、人工酵素・プロバイオティクス細菌系は、SAzymeの標的抗酸化療法と耐久性プロバイオティクス細菌の迅速なマイクロバイオーム制御との組み合わせを使用することによって炎症性腸疾患(IBD)などの胃腸管障害を治療できる。図2は、人工酵素・プロバイオティクス細菌系の調製と、それらが胃腸微小環境とどのように相互作用するかを示す。
図3-1】図3は、人工酵素・プロバイオティクス細菌系の特徴を表す透過電子顕微鏡(TEM)画像とグラフである。(a)は透過電子顕微鏡(TEM)画像であり、(b)は人工酵素・プロバイオティクス細菌系の一部を示す収差補正型高角環状暗視野走査型透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)画像であり、(c)は鉄単原子(FeSA)の拡大画像である。鉄(Fe)単原子は白丸で示されている。(d)HAADF-STEM画像と、Fe(右下)、C(右上)、及びN(左下)の分布を示す対応する元素マップ。Feホイル、Fe、FePc及びFeSAのFeKエッジのFeKエッジの、(e)XANESスペクトルおよび(f)フーリエ変換(FT)。(g)R空間でのFeSAの対応するEXAFSフィッティング曲線。(h)k空間でのFeSAのEXAFSフィッティング曲線。異なる倍率での(i,j)B-SA及び(k,l)BL@B-SAのTEM画像。図3は、人工酵素・プロバイオティクス細菌系の特性評価及び活性酸素種(ROS)除去能を示す。
図3-2】同上。
図4-1】図4は、インビトロにおける複数のROS除去能の結果を示す。B-SAの(a)O 、(b)H、及び(c)・OH除去能のグラフ。異なる物質の(d)O 、(e)H、及び(f)・OH除去能の比較を示すグラフ。ns:有意性なし、BL群に対してP<0.05、**P<0.01、***P<0.001。(g)2時間、200μMのH中、異なる濃度のB-SAの保護下でのBLの相対的生存率を示す棒グラフ。ns:有意性なし、BL群に対してP<0.05、**P<0.01、***P<0.001。異なる期間、200μMのHの(h)非存在下又は(i)存在下で、BL@B-SA50の保護下でのBLの相対的生存率を示すグラフ。ns:有意性なし、0hに対してP<0.05、**P<0.01、***P<0.001。(j)様々な処理を受けたHT29細胞の相対的細胞生存率を示す棒グラフ。非処置群に対してP<0.05、**P<0.01、***P<0.001。(k)200μMのHの存在下で様々な処置を受けたHT29細胞の相対的生存率を示す棒グラフ。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。###P<0.001。(l)異なる物質で処置し、続いて400μMのHで処置した後のHT29細胞における細胞内ROSのフローサイトメトリ測定を示す棒グラフ。細胞内ROSをDCFH-DAによって示した。ns:有意性なし、非処置群に対してP<0.05、**P<0.01、***P<0.001。###P<0.001。(m)異なる処置を受けたHT-29細胞におけるROSレベルの共焦点蛍光画像。細胞をROSプローブジクロロフルオロセインジアセタート(DCFH-DA)及びHoechstで染色した。図4は、例示的人工酵素・プロバイオティクスリンカー系がHT29細胞の成長を促進し、それらをROSの攻撃から保護することを示す。
図4-2】同上。
図4-3】同上。
図5-1】図5は、炎症を起こした腸におけるBL@B-SAの安定性及び蓄積を示すグラフ及び画像である。(a)模擬胃液(SGF)、(b)模擬腸液(SIF)、及び(c)模擬炎症性結腸液(SICF)の模擬胃腸環境におけるBL@B-SA50及びBLのROS除去能力を示す棒グラフ。(d)SGF、(e)SIF、及び(f)SICFにおけるBLの対応する生存率を示す棒グラフ。ns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。(g)6時間BL@B-SA及びB-SAを強制経口投与した後の腸管の代表的光音響(PA)画像及びPAシグナルの強度。ns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び**P<0.001。図5は、例示的人工酵素・プロバイオティクス細菌系の修飾がROS除去及び炎症軽減を改善することを示す。
図5-2】同上。
図6-1】図6は、BL@B-SAのインビボ毒性試験の結果を示す。BL@B-SA50を28日間経口投与したか又は経口投与していない健常マウスの(a)血液分析及び(b)血液生化学分析。1は対照マウスを指す。2は、BL@B-SA50で処置したマウスを指す。(c)BL@B-SA50を28日間経口投与したか、又は投与していない健常マウスの体重。データは平均±s.d.で示す(n=5/群)。対照マウス及び様々な処置を第28日に受けた健常マウスの主要臓器から得られた、(d)代表的な写真及び(e)ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)画像。スケールバー:50μm。
図6-2】同上。
図6-3】同上。
図6-4】同上。
図6-5】同上。
図7-1】図7は、潰瘍性大腸炎(UC)に対するBL@B-SAの有効性を示す画像及びグラフである。(a)実験セットアップの概略図。C57BL/6マウスに、水又は3%DSS含有水を4日間与える。第4日、第5日、第6日、及び第7日に、マウスに、培地、B-SA(1.25mg/kg)、BL(2.5×10CFU/kg)、BL(2.5×10CFU/kg)+B-SA(1.25mg/kg)、又はBL@B-SA50(BL:2.5×10CFU/kg、B-SA:1.25mg/kg)を経口投与した。(b)9日間の各群における毎日の体重変化を示すグラフ。データを第0日の体重のパーセンテージとして正規化した。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(c)便のかたさ指数(0~3)、便出血指数(0~3)、及び体重減少指数(0~4)の総和である疾患活動性指数(DAI)の9日間の変化を示すグラフ。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(d)第8日に表示された処置を受けたマウスの結腸の長さを示す棒グラフ。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(e)表示された処置後第8日のマウスの結腸のH&E染色及び免疫組織化学的分析の写真。表示された処置後第8日のマウスの結腸の(f)相対的ROS及び(g)典型的炎症性サイトカインを示す棒グラフ、対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。P<0.05。(h)表示された処置後二週間のマウスの生存率を示すグラフ。データは平均±s.d.(n=5/群)として提示した。(i)シャノン指数によって示される便マイクロバイオームのα多様性を示す棒グラフ。BL@B-SA50群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。(j)便マイクロバイオームのβ多様性を示すNMDSプロットの画像、(k)選択分類群の相対的存在量を示す棒グラフ。Verrucomicrobiota及びFirmicutesの場合、対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001、ns:有意性なし、P<0.05。Firmicutes/Bacteroidotaの場合、ns:有意性なし、P<0.05。Lachnospiraceaeの場合、BL@B-SA50群に対して、**P<0.05及び**P<0.001。(l)表示された処置後第8日のマウスの結腸(上)及び直腸部(下)の画像。図7は、例示的な人工酵素・プロバイオティクス細菌系がDSS誘導性潰瘍性大腸炎を改善することを示す。
図7-2】同上。
図7-3】同上。
図7-4】同上。
図7-5】同上。
図7-6】同上。
図8-1】図8は、異なる割合のBL及びB-SAと、BL@B-SAの潰瘍性大腸炎(UC)療法を比較した画像及びグラフを示す。(a)実験セットアップの概略図。C57BL/6マウスに、水又は3%DSS含有水を4日間与えた。第4日、第5日、第6日、及び第7日に、マウスに培地、BL@B-SA25(BL:2.5×10CFU/kg、B-SA:0.625mg/kg)、BL@B-SA50(BL:2.5×10CFU/kg、B-SA:1.25mg/kg)、又はBL@B-SA100(BL:2.5×10CFU/kg、B-SA:2.5mg/kg)を経口投与した。(b)9日間の各群における毎日の体重変化を示すグラフ。データは第0日の体重のパーセンテージとして正規化した。対照群に対してP<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(c)便の硬さ指数(0~3)、便出血指数(0~3)、及び体重減少指数(0~4)の総和である疾患活動性指数(DAI)の変化を示すグラフ。対照群に対して***P<0.001。(d)第8日に表示された処置を受けたマウスの結腸の長さを示す棒グラフ。大腸炎群に対して***P<0.001、ns:有意性なし、健常群に対してP<0.05。(e)それぞれ、第8日に表示された処置を受けたマウスの結腸の画像。データは平均±s.d.で示した(n=5/群)。図8は、BL@B-SA50及びBL@B-SA100が動物に対してより良好な保護を与えたことを示す。
図8-2】同上。
図9-1】図9は、投与量が異なるBL@B-SA50のUC療法を比較する画像及びグラフを示す。(a)実験セットアップの概略図。C57BL/6マウスに、水又は3%DSS含有水を4日間与えた。第4日、第5日、第6日、及び第7日に、マウスに0、0.625mg/kg(BL:1.25×10CFU/kg、B-SA:0.625mg/kg)、1.25mg/kg(BL:2.5×10CFU/kg、B-SA:1.25mg/kg)、2.5mg/kg(BL:5×10CFU/kg、B-SA:2.5mg/kg)及び5mg/kgのBL@B-SA(BL:10×10CFU/kg、B-SA:5mg/kg)のBL@B-SA50を経口投与した。(b)9日間の各群における毎日の体重変化を示すグラフ。データを第0日の体重のパーセンテージとして正規化した。BL@B-SA50を与えていない対照群に対してP<0.05及び***P<0.001。(c)便の硬さ指数(0~3)、便出血指数(0~3)、及び体重減少指数(0~4)の総和である疾患活動性指数(DAI)の変化を示すグラフ。対照群に対してns:有意性なし、**P<0.01及び***P<0.001。(d)第8日に指示された治療を受けたマウスの結腸の長さを示す棒グラフ。対照群に対してP<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(e)それぞれ、第8日に表示された治療を受けたマウスの結腸の画像。データは平均±s.d.で示した(n=5/群)。図9は、副作用を最小限に抑えることができる例示的人工酵素・プロバイオティクス系の様々な用量を示す。
図9-2】同上。
図10-1】図10は、BL@B-SAと臨床薬とでの潰瘍性大腸炎(UC)療法を比較した画像及びグラフを示す。(a)実験セットアップの概略図。C57BL/6マウスに、水又は3%DSS含有水を4日間与えた。第4日、第5日、第6日、及び第7日に、マウスに、培地、5-ASA(30mg/kg)、DEX(1mg/kg)、MPS(1mg/kg)又はBL@B-SA50(BL:2.5×10CFU/kg、B-SA:1.25mg/kg)を経口投与した。(b)9日間各群における毎日の体重変化を示すグラフ。データを0日の体重のパーセンテージとして正規化した。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(c)便の硬さ指数(0~3)、便出血指数(0~3)、及び体重減少指数(0~4)の総和である疾患活動性指数(DAI)の変化を示すグラフ。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(d)第8日に表示された処置を受けたマウスの結腸の長さを示す棒グラフ。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(e)それぞれ、第8日に表示された処置を受けたマウスの結腸の画像。データは平均±s.d.で示した(n=5/群)。図10は、例示的人工酵素・プロバイオティクス系が、5-ASA、MPS、及びDEXなどの他の従来型IBD治療薬と比較して、DSS誘導性大腸炎に対して有効性の増強を示すことを示す。
図10-2】同上。
図11-1】図11は、BL@B-SAを用いたクローン病(CD)療法の効果を示す画像及びグラフである。(a)実験セットアップの概略図。C57BL/6マウスは、TNBS溶液を皮膚から吸収させることによって前感作させた。一週間後、TNBS溶液をマウスの結腸内腔にゆっくりと投与して、CDを誘導した。次いで、マウスに培地又はB-SA(1.25mg/kg)、BL(2.5×10CFU/kg)、BL(2.5×10CFUkg-1)+B-SA(1.25mg/kg)、BL@B-SA50(BL:2.5×10CFU/kg、B-SA:1.25mg/kg)1.25mg/kg(BL:2.5×10CFU/kg、B-SA:1.25mg/kg)を4日間に経口投与した。(b)TNBS溶液を結腸内腔に投与した後の毎日の体重変化を示すグラフ。データを第8日の体重のパーセンテージとして正規化した。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(c)便の硬さ指数(0~3)、便出血指数(0~3)、及び体重減少指数(0~4)の総和である疾患活動性指数(DAI)の変化を示すグラフ。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(d)第13日に表示された処置を受けたマウスの結腸の長さを示す棒グラフ。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。(e)それぞれ、第8日に表示された処理を受けたマウスの結腸の画像。データは平均±s.d.として提示した(n=5/群)。図11は、クローン病を治療するために使用できる例示的人工酵素・プロバイオティクス系を示す。
図11-2】同上。
図12-1】図12は、ビーグル犬におけるBL@B-SAを使用した潰瘍性大腸炎(UC)療法の効果を示す画像及びグラフである。(a)実験セットアップの概略図。ビーグル犬を7%2mL/kg酢酸で120秒間灌流した。一日後、治療を施すUC群には、BL@B-SA50(BL:1×10CFU/kg、B-SA:0.5mg/kg)を連続6日間経口投与した。(b)それぞれ、第7日に表示された処置を受けたイヌの白血球(WBC)含有量を示す棒グラフ。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。(c)7日間異なる処置を受けたイヌの内視鏡写真画像。(d)第7日に表示された処置を受けたイヌから得られた結腸の画像。(e)第7日に表示された処置を受けたイヌから得られた結腸のH&E染色及び免疫組織化学分析の写真。(f)第7日に表示された処置を受けたイヌから得られた結腸の典型的な炎症性サイトカインを示す棒グラフ。対照群に対してns:有意性なし、P<0.05、**P<0.01、及び***P<0.001。スケールバー:50μm。図12は、例示的人工酵素・プロバイオティクス系が、イヌにおける潰瘍性大腸炎(UC)の治療に有効であることを示す。
図12-2】同上。
図12-3】同上。
図12-4】同上。
図13図13はイヌに対するBL@B-SAのバイオセイフティーの結果である。第7日の指定群のイヌの(a)主要臓器(心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓)及び(b)主要消化管(食道、胃、小腸、空腸、回腸)の代表的なヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色切片。スケールバー:100μm。図13は、例示的人工酵素・プロバイオティクス細菌系が安全であり、イヌに適していることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
胃腸管の異なる障害は病因も異なる。一般的な胃腸管障害の一例は、クローン病(CD)や潰瘍性大腸炎(UC)などの炎症性腸疾患(IBD)である。炎症性腸疾患(IBD)が腸粘膜バリアの機能不全と細菌叢の乱れとによって引き起こされ、その結果、フリーラジカルや炎症性因子の発現の増加などの過剰な免疫応答をもたらすことが新たな証拠によって示唆されている。
【0012】
本明細書中で使用する場合、「フリーラジカル」という語は、原子軌道中に一つ以上の不対電子を含む分子を指し、独立して存在できる。フリーラジカルは細胞代謝の産物であり、限定されるものではないが、活性酸素種(ROS)を挙げることができる。一つ以上の不対電子が存在するために、フリーラジカルは反応性の高い種であり、一つ以上の不対電子を別の分子に供与できるか、又は一つ以上の不対電子を別の分子に受容できる。これにより、他の分子がフリーラジカルになり、それによって連鎖反応が開始され、フリーラジカルのレベルが不均衡な状態になると細胞において悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、フリーラジカルが胃腸管障害や炎症性障害をはじめとする多種多様な状態や疾患に関与していることは驚くことではない。
【0013】
現行の臨床治療は、腸の炎症負荷を抑制することによって疾患に関連する症状を軽減することに主に重点を置いている。抗炎症薬の開発が進んでいるが、従来の治療はあまり有効ではない。さらに、そのような薬剤を長期間使用すると、薬剤代謝が変化し、依存性が増加する可能性がある。抗炎症薬はまた、オフターゲット効果により望ましくない副作用を引き起こし、場合によっては重篤な合併症をもたらす可能性がある。さらに重大なことに、ほとんどの抗炎症薬は、炎症性腸疾患(IBD)の根本的な原因である腸粘膜バリアの機能不全や細菌叢の乱れを標的にしない。炎症性腸疾患(IBD)の根本的な原因の治療を軽視すると、炎症反応がさらに強まる可能性がある。
【0014】
プロバイオティクス細菌は、腸部位に蓄積することで、病原体の定着を阻害し、それによって、菌体成分のバランスを積極的に調節することが示されている。これにより、腸粘膜の修復が促進され、健康な免疫系が積極的に形成される。現在、プロバイオティクス細菌は、胃腸管中のH+、プロテアーゼ、及び抗生物質からの攻撃に抵抗できる物理的コーティングを用いて送達される。しかしながら、プロバイオティクス細菌の有効性は、依然として、不適合pH、温度、又は抗酸化酵素の欠乏などの環境因子によって悪影響を受ける可能性がある。例えば、プロバイオティクス細菌の菌株は、胃内の酸性条件下で機能できるが、腸内の非酸性条件では有効性が低下する。例えば、Bifidobacterium longum(BL)は、大腸炎の重症度を軽減することが示されている嫌気性菌である。さらに、炎症を起こした胃腸管中に存在する機能亢進性活性酸素種(ROS)も嫌気性菌の代謝に有害である。
【0015】
人工酵素は小分子抗酸化剤の代替物である。人工酵素は、コストが低く、安定性と耐久性が高く、酵素模倣活性を有するように調節できる。単原子人工酵素は非常に高い触媒活性と頑強な安定性を有し、SOD及びCATを模倣して、IBD治療のためにスーパーオキシドラジカル(O )及び過酸化水素(H)の複数のROSを効率的に除去できる。さらに、ヒドロキシルラジカル(・OH)を除去して、結果をさらに改善することもできる。
【0016】
したがって、炎症を抑制し、腸バリア機能を再構築し、感染組織における腸マイクロバイオームを調節することによって、胃腸管の任意の炎症を起こした臓器を効果的に標的とすることができ、微小環境を再形成できる、炎症性腸疾患(IBD)などの胃腸管障害の新規かつより有効な治療が必要とされる。さらに、プロバイオティクス細菌の利点を活かして胃腸管障害の治療で利用できるように、酸化的ストレスに対するプロバイオティクス細菌に固有の脆弱性に対処する必要もある。
【0017】
前記観点から、本発明者らは、
a)レドックス反応を促進する人工酵素、
b)プロバイオティクス細菌、及び
c)人工酵素及びプロバイオティクス細菌をコンジュゲートさせるリンカー
を含む系を開発した。
【0018】
一例において、系は、a)レドックス反応を促進する人工酵素、及びb)プロバイオティクス細菌を含み、前記プロバイオティクス細菌及び人工酵素は、リンカーを介してコンジュゲート(結合)する。別の例では、系は、a)レドックス反応を促進する人工酵素、及びb)プロバイオティクス細菌、をコンジュゲートするリンカーを含む。
【0019】
本明細書中で使用する場合、「人工酵素」という用語は、天然に存在しない合成タンパク質又は物質を指す。人工酵素は、天然に存在する酵素の触媒機能を保有し得る。人工酵素は、内因性触媒ドメインを有さないが、フリーラジカルと反応することによって化学反応に関与し得る化合物でもあり得る。
【0020】
一例において、人工酵素は、ナノザイム、又は遺伝子改変酵素若しくは双直交触媒を含む。別の例では、人工酵素はナノザイムである。
【0021】
本明細書中で使用する場合、「ナノザイム」という用語は、内因性酵素様活性を含むナノマテリアルで作製された合成分子を指す。ナノザイムは、限定されるものではないが、単原子触媒、金属クラスター、金属-有機フレームワーク、及び炭素系ナノマテリアルなどのナノマテリアルから作製された人工酵素である。ナノザイムは、天然酵素の触媒部位を模倣することによって機能し、この機能は、活性金属元素及び配位化学構造を変化させることによって適切に調節できる。一例において、ナノザイムは、限定されるものではないが、単原子ナノザイム(SAzyme)、炭素系ナノザイム、及びクラスター系ナノザイムのいずれか一つであり得る。別の例では、ナノザイムは単原子ナノザイム(SAzyme)である。
【0022】
理解されるように、本明細書において用いられる「単原子ナノザイム」又は「SAzyme」という用語は、酵素様活性を有する単原子触媒を指す。単原子触媒は、全ての活性金属種が、別の金属の担持によって、又は別の金属との合金にすることによって安定化される、孤立した単原子として存在する触媒と定義される。一例において、SAzymeは、限定されるものではないが、鉄単原子ナノザイム、銅単原子ナノザイム、亜鉛単原子ナノザイム、コバルト単原子ナノザイム、金単原子ナノザイム、白金単原子ナノザイム、ニッケル単原子ナノザイム、または前記のいずれかの組み合わせのうちのいずれか一つであり得る。別の例では、SAzymeは鉄単原子ナノザイム(SAzyme)である。
【0023】
ナノザイムと同様に、単原子ナノザイム機能も、配位化学構造を変えることによって調節できる。一例において、SAzymeはFe-N五配位構造、四配位構造、又はS/Pドーピング構造を含む。別の例では、SAzymeはFe-N五配位構造を含む。
【0024】
本願では、人工酵素はレドックス反応を促進する。本明細書中で使用する場合、「レドックス反応」という用語は、分子における一つ以上の電子の交換を含む反応を指す。レドックス反応は、別名酸化還元反応とも呼ばれる。一例では、レドックス反応は還元反応である。還元は、分子中で一つ以上の電子が増えるか、分子中で一つ以上の酸素が失われるか、又は分子中で一つ以上の水素が増える場合に起こる。別の例では、レドックス反応は酸化反応である。酸化は、分子中で一つ以上の電子が失われるか、分子中で一つ以上の酸素が増えるか、又は分子中で一つ以上の水素が失われる場合に起こる。酸化反応により、フリーラジカルが生成する可能性がある。
【0025】
別の例では、レドックス反応は抗酸化反応である。理解されるように、抗酸化反応は、還元反応と同じではないにしても、似ている。抗酸化剤は抗酸化反応を可能にすることが知られている。本明細書中で使用する場合、「抗酸化剤」という用語は、酸化反応を阻害又は低減する任意の天然又は合成化合物を指す。抗酸化剤は、細胞がフリーラジカルレベルのある特定のバランスを維持できるようにフリーラジカルを除去できる。抗酸化剤の作用は、フリーラジカルの悪影響から細胞を保護するのに役立つ。一例において、抗酸化剤は、活性酸素種(ROS)除去酵素などの酵素的抗酸化剤である。別の例では、抗酸化剤は、活性酸素種(ROS)除去能を有する低分子量化合物である、抗酸化分子である。
【0026】
したがって、レドックス反応を促進する人工酵素は、本質的に、前記のようにレドックス反応を始動、開始、触媒、又は可能にできる人工触媒を指す。
【0027】
本明細書中に記載する系は、一つ以上の活性酸素種(ROS)を除去する活性酸素種(ROS)除去能を有する人工酵素を含む。「活性酸素種」又は「ROS」という用語は、本明細書で使用する場合、酸素分子由来の高反応性分子及びフリーラジカルを指し、通常、細胞における酸化的代謝から生じる。活性酸素種の例としては、限定されるものではないが、スーパーオキシドラジカル(O・-)、過酸化水素(H)及びヒドロキシルラジカル(・OH)が挙げられる。
【0028】
一例において、系は、活性酸素種(ROS)除去酵素の活性酸素種(ROS)除去能を有する人工酵素を含む。活性酸素種(ROS)除去酵素は任意のROS除去酵素であり得る。別の例では、人工酵素は、限定されるものではないが、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、及びグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)のいずれか一つであり得る活性酸素種(ROS)除去酵素を模倣する。別の例では、系は、抗酸化分子の活性酸素種(ROS)除去能を有する人工酵素を含む。抗酸化分子は当該技術分野で公知の任意の抗酸化分子であり得る。別の例では、人工酵素は、限定されるものではないが、グルタチオン(GSH)、システイン(Cys)、ポリフェノール及びビタミンCのいずれか一つであり得る抗酸化分子の活性酸素種(ROS)除去能を有する。
【0029】
人工酵素に加えて、系はプロバイオティクス細菌も含む。本明細書中で使用する場合、「プロバイオティクス細菌」という用語は、微生物バランスを改善することによって宿主対象に有益な影響を及ぼす任意の細菌を指す。プロバイオティクス細菌の利点としては、限定されるものではないが、健常な腸微生物叢を維持すること、健常な消化管を維持すること、健常な免疫系を維持することが挙げられる。系は任意の公知プロバイオティクス細菌を含み得る。一例において、プロバイオティクス細菌は、限定されるものではないが、Bifidobacterium、Lactobacillus、Komagataeibacter、及びLeuconostocのいずれか一つの属由来である。別の例では、プロバイオティクス細菌はBifidobacteriumである。
【0030】
Bifidobacterium属には多種多様な種が含まれ、プロバイオティクス細菌はBifidobacteriumの特定種に限定されないと理解される。一例において、Bifidobacteriumは、限定されるものではないが、Bifidobacterium longum、Bifidobacterium bifidum、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium adolescentis、Bifidobacterium infantis、及びBifidobacterium animalisのいずれか一つであり得る。別の例では、BifidobacteriumはBifidobacterium longumである。
【0031】
系は、人工酵素及びプロバイオティクス細菌をコンジュゲートするリンカーをさらに含む。本明細書中で使用する場合、「コンジュゲート」という用語は、化学的コンジュゲーション又は組換え手段を含むあらゆる手段によって、二つ以上の化学要素又は成分をあわせて結合させることを指す。一例において、リンカーはフェニルボロン酸官能基を含む。本明細書中で使用する場合、「フェニルボロン酸官能基」という用語は、以下の化学構造
【0032】
【化1】
【0033】
を指す。一例では、フェニルボロン酸官能基はプロバイオティクス細菌とコンジュゲートする。化学構造
【0034】
【化2】
【0035】
中で示される「B」はホウ素を指す。
【0036】
フェニルボロン酸官能基に加えて、リンカーは、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、一本鎖DNA(ssDNA)、ポリシアル酸(PSA)、デンプン、ヒドロキシアルキルデンプン(HAS)、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)、炭水化物、多糖類、プルラン、キトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、デキストラン、カルボキシメチルデキストラン、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリオキサゾリン、ポリアクリロイルモルホリン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリホスファゼン、ポリオキサゾリン、ポリエチレン-コ無水マレイン酸、ポリスチレン-コ無水マレイン酸、ポリ(1-ヒドロキシメチルエチレンヒドロキシメチルホルマール)(PHF)、又は2-メタクリロイルオキシ-2’-エチルトリメチルアンモニウムホスフェート(MPC)をさらに含み得る。これらの化合物のうちのいくつか、例えば、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、炭水化物、多糖類、キトサン、又はデキストランは、アミド化反応によりカルボキシルフェニルホウ酸と反応できる活性アミノオキシ基又はエステル化反応によりカルボキシルフェニルホウ酸と反応できるヒドロキシル基を含む。一例において、リンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)又は一本鎖DNA(ssDNA)をさらに含む。
【0037】
一例において、リンカーはポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む。ポリエチレングリコール(PEG)は、PEG化のプロセスによってリンカーに付加させることができる。本明細書で記載するように、「PEG化」という用語は、限定されるものではないが、例えばフェニルボロン酸官能基、ペプチド、タンパク質又は薬剤などの分子又は物質へのポリエチレングリコールの付加を指す。PEG化は、分子又は物質に対するポリエチレングリコール(PEG)の共有結合によって起こる。一例において、ポリエチレングリコール(PEG)は直鎖状又は分枝状である。別の例では、ポリエチレングリコール(PEG)は直鎖状である。共役炭素鎖長の数に応じてポリエチレングリコール(PEG)の異なる形態が存在し得る。本明細書中で用いられるPEGは、C-PEGと記載することができ、ここで、C-PEGは、非共有相互作用によって人工酵素を修飾するCアルキル鎖と、PEG(分子量(Mw)=2000)リンカーとを含む。「n」はアルキル鎖中の炭素の数を表す。PEG中の炭素の数は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30又はそれ以上であり得る。したがって、PEGは、C1-PEG、C2-PEG、C3-PEG、C4-PEG、C5-PEG、C6-PEG、C7-PEG、C8-PEG、C9-PEG、C10-PEG、C11-PEG、C12-PEG、C13-PEG、C14-PEG、C15-PEG、C16-PEG、C17-PEG、C18-PEG、C19-PEG、C20-PEG、C21-PEG、C22-PEG、C23-PEG、C24-PEG、C25-PEG、C26-PEG、C27-PEG、C28-PEG、C29-PEG、又はC30-PEGであり得る。別の例では、PEGはC12-PEG又はC18-PEGである。一例において、リンカーはフェニルボロン酸官能基とPEGとを含む。さらに詳細な例では、リンカーはフェニルボロン酸官能基とC12-PEGとを含む。別の特定の例において、リンカーはフェニルボロン酸官能基とC18-PEGとを含む。一例において、リンカーは構造
【0038】
【化3】
【0039】
を含む。
【0040】
別の例では、リンカーは一本鎖DNA(ssDNA)をさらに含む。一本鎖DNA(ssDNA)は10~50残基の長さであり得る。一本鎖DNA(ssDNA)はまた、例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49又は50残基の長さであり得る。
【0041】
一例において、本明細書中に記載する系は、まず人工酵素及びリンカーを合成し、続いてプロバイオティクス細菌を人工酵素及びリンカーと共にインキュベートすることによって産生される。プロバイオティクス細菌の数は、固定量の人工酵素及びリンカーに基づいて増加又は減少させることができるか、或いは人工酵素及びリンカーの量は、固定数のプロバイオティクス細菌に基づいて増加又は減少させることができることが理解される。
【0042】
一例において、系は、約1×10~約1×1010CFUのプロバイオティクス細菌、又は約1×10~約1×10CFUのプロバイオティクス細菌、又は約1×10~約1×10CFUのプロバイオティクス細菌、約1×10~約1×10CFUのプロバイオティクス細菌、約1×10~約1×10CFUのプロバイオティクス細菌、約1×10~約1×1010CFUのプロバイオティクス細菌、又は約1×10~約5×10CFU、5×10~約1×10CFU、約1×10~約5×10CFU、5×10~約1×10CFU、約1×10~約5×10CFU、5×10~約1×10CFU、約1×10~約5×10CFU、5×10~約1×10CFU、約1×10~約5×10CFU、5×10~約1×1010CFU、又は約1.0×10CFU、約1.5×10CFU、約2.0×10CFU、約2.5×10CFU、約3.0×10CFU、約3.5×10CFU、約4.0×10CFU、約4.5×10CFU、約5.0×10CFU、約5.5×10CFU、約6.0×10CFU、約6.5×10CFU、約7.0×10CFU、約7.5×10CFU、約8.0×10CFU、約8.5×10CFU、約9.0×10CFU、約9.5×10CFU、約1.0×10CFU、約1.5×10CFU、約2.0×10CFU、約2.5×10CFU、約3.0×10CFU、約3.5×10CFU、約4.0×10CFU、約4.5×10CFU、約5.0×10CFU、約5.5×10CFU、約6.0×10CFU、約6.5×10CFU、約7.0×10CFU、約7.5×10CFU、約8.0×10CFU、約8.5×10CFU、約9.0×10CFU、約9.5×10CFU、約1.0×10CFU、約1.5×10CFU、約2.0×10CFU、約2.5×10CFU、約3.0×10CFU、約3.5×10CFU、約4.0×10CFU、約4.5×10CFU、約5.0×10CFU、約5.5×10CFU、約6.0×10CFU、約6.5×10CFU、約7.0×10CFU、約7.5×10CFU、約8.0×10CFU、約8.5×10CFU、約9.0×10CFU、約9.5×10CFU、約1.0×10CFU、約1.5×10CFU、約2.0×10CFU、約2.5×10CFU、約3.0×10CFU、約3.5×10CFU、約4.0×10CFU、約4.5×10CFU、約5.0×10CFU、約5.5×10CFU、約6.0×10CFU、約6.5×10CFU、約7.0×10CFU、約7.5×10CFU、約8.0×10CFU、約8.5×10CFU、約9.0×10CFU、約9.5×10CFU、約1×10CFU、約1.5×10CFU、約2.0×10CFU、約2.5×10CFU、約3.0×10CFU、約3.5×10CFU、約4.0×10CFU、約4.5×10CFU、約5.0×10CFU、約5.5×10CFU、約6.0×10CFU、約6.5×10CFU、約7.0×10CFU、約7.5×10CFU、約8.0×10CFU、約8.5×10CFU、約9.0×10CFU、約9.5×10CFU、又は約1.0×1010CFUのプロバイオティクス細菌を含む。別の例では、系は約1×10CFUのプロバイオティクス細菌を含む。
【0043】
系中の人工酵素及びリンカーの量は約10μg~約10mgであり得る。一例において、系中の人工酵素及びリンカーの量は、約10μg~約1mg、約1mg~約2mg、約2mg~約3mg、約3mg~約4mg、約4mg~約5mg、約5mg~約6mg、約6mg~約7mg、約7mg~約8mg、約8mg~約9mg、約9mg~約10mg、又は約10μg、約20μg、約30μg、約40μg、約50μg、約60μg、約70μg、約80μg、約90μg、約100μg、約150μg、約200μg、約250μg、約300μg、約350μg、約400μg、約450μg、約500μg、約1.0mg、約1.5mg、約2.0mg、約2.5mg、約3.0mg、約3.5mg、約4.0mg、約4.5mg、約5.0mg、約5.5mg、約6.0mg、約6.5mg、約7.0mg、約7.5mg、約8.0mg、約8.5mg、約9.0mg、約9.5mg、又は約10.0mgであり得る。別の例では、系中の人工酵素及びリンカーの量は約10μg~約500μgである。別の例では、系中の人工酵素及びリンカーの量は約50μgである。
【0044】
使用される人工酵素及びリンカーの量は、系において使用される細菌数と相関させることができる。一例において、系で使用される約1×10CFUのプロバイオティクス細菌に対して、人工酵素及びリンカーの量は、約10μg~約1000μg、又は約10μg~約500μg、又は約10μg~約200μg、又は約100μg~約300μg、約200μg~約400μg、約300μg~約500μg、約400μg~約600μg、約500μg~約700μg、約600μg~約800μg、約700μg~約900μg、約800μg~約1000μg、又は約10μg、約20μg、約30μg、約40μg、約50μg、約60μg、約70μg、約80μg、約90μg、約100μg、約110μg、約120μg、約130μg、約140μg、約150μg、約160μg、約170μg、約180μg、約190μg、約200μg、約210μg、約220μg、約230μg、約240μg、約250μg、約260μg、約270μg、約280μg、約290μg、約300μg、約310μg、約320μg、約330μg、約340μg、約350μg、約360μg、約370μg、約380μg、約390μg、約400μg、約410μg、約420μg、約430μg、約440μg、約450μg、約460μg、約470μg、約480μg、約490μg、約500μg、約550μg、約600μg、約650μg、約700μg、約750μg、約800μg、約850μg、約900μg、約950μg、又は約1000μgである。別の例では、系で使用される約1×10CFUのプロバイオティクス細菌に対して、人工酵素及びリンカーの量は約50μgである。
【0045】
本明細書中に記載する系は、レドックス反応を促進する人工酵素とプロバイオティクス細菌とリンカーとを組み合わせることによって製造され、前記リンカーは、前記人工酵素及びプロバイオティクス細菌のコンジュゲートに関与する。一例において、本明細書中で開示する系を製造する方法であって、(i)リンカーにコンジュゲートされた人工酵素であって、レドックス反応を促進する前記人工酵素と、(ii)プロバイオティクス細菌とをインキュベートすることを含み、前記リンカーが前記人工酵素及びプロバイオティクス細菌をコンジュゲートする方法が提供される。人工酵素とリンカーとをインキュベートすることを含む第一インキュベーションステップによって、まずリンカーを人工酵素とコンジュゲートさせる。第一インキュベーションステップは、例えば、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、又は約10時間であり得る。第一インキュベーションステップ後に、人工酵素及びリンカーを第二インキュベーションステップにおいてプロバイオティクス細菌と共にインキュベートする。第二インキュベーションステップは、例えば、約10分、約20分、約30分、約40分、約50分、又は約60分であり得る。この第二インキュベーションステップにより、プロバイオティクス細菌は、リンカーによるコンジュゲーションを介して人工酵素及びリンカーと結合することが可能になる。インキュベーションの方法は当該技術分野で一般的に知られている。
【0046】
別の例では、プロバイオティクス細菌とリンカーとをインキュベートすることを含む第一インキュベーションステップによって、リンカーをまずプロバイオティクス細菌とコンジュゲートさせる。第一インキュベーションステップ後に、プロバイオティクス細菌及びリンカーを第二インキュベーションステップにおいて人工酵素と共にインキュベートする。別の例では、リンカーは、人工酵素及びプロバイオティクス細菌と同時にコンジュゲートされる。
【0047】
本明細書中に記載する系は、投与に適した組成物、例えば、医薬組成物に処方することができる。適用できる場合、系は薬剤的に許容される担体と共に投与してもよい。「担体」は、担体が処方の他の成分と適合性することができ、患者にとって有害でない限り、任意の薬剤的に許容される担体を含むことができる。したがって、使用される医薬組成物は、活性化合物の薬剤的に使用できる製剤に加工することを容易にする賦形剤及び補助薬を含む一つ以上の生理学的に許容される担体を使用して従来の方法で処方できる。適切な処方は、選択された投与経路に依存する。したがって、一例では、本開示は、限定されるものではないが、本明細書中に記載する系を含む医薬組成物を記載する。一例において、医薬組成物は本明細書中に記載する系を含む。さらに別の例において、医薬組成物は、一つ以上の薬剤的に許容される賦形剤、ビヒクル又は担体をさらに含む。別の例では、医薬組成物は、薬剤的に許容される担体をさらに含む。したがって、一例では、医薬組成物は、限定されるものではないが、薬剤的に許容される担体、リポソーム担体、賦形剤、アジュバント又はそれらの組み合わせであり得る化合物をさらに含んでもよい。
【0048】
本明細書中に記載する系の組成、形状、及び剤形の種類は、典型的には、意図する用途に応じてさまざまであろう。例えば、疾患又は関連する疾患の急性治療で使用される剤形では、それに含まれる一つ以上の活性化合物の量が、同じ疾患の慢性治療で使用される剤形よりも多くてもよい。同様に、非経口剤形では、それに含まれる一つ以上の活性化合物の量は、同じ疾患又は障害を治療するために使用される経口剤形よりも少ない量であってよい。本発明に含まれる特定の剤形が互いに異なる、これらの方法やその他の方法は、当業者には容易に明らかになるであろう。剤形の例としては、限定されるものではないが:錠剤;カプレット;ソフト弾性ゼラチンカプセルなどのカプセル;カシェー剤;トローチ;ロゼンジ;分散剤;坐剤;軟膏;パップ剤(湿布);ペースト;粉末;包帯材;プラスター;溶液;ゲル;懸濁液(例えば、水性若しくは非水性懸濁液、水中油エマルジョン、又は油中水液体エマルジョン)、溶液、及びエリキシル;患者への非経口投与に特に適した液体投与形態をはじめとする、患者への経口又は粘膜投与に適した液体投与形態;及び患者への非経口投与に適した液体投与形態を提供するように復元できる滅菌固体(例えば、結晶性又はアモルファス固体)が挙げられる。したがって、一例では、本明細書中に記載する系は、限定されるものではないが、錠剤、カプレット、カプセル、ハードカプセル、ソフトカプセル、ソフト弾性ゼラチンカプセル、ハードゼラチンカプセル、カシェー剤、トローチ、ロゼンジ、分散剤、坐剤、軟膏、パップ剤、湿布、ペースト、粉末、包帯材、プラスター、溶液、ゲル、懸濁液、水性懸濁液、非水性懸濁液、水中油エマルジョン、油中水液体エマルジョン、溶液、滅菌固体、結晶性固体、アモルファス固体、復元用固体又はそれらの組み合わせであり得る形態で提供される。
【0049】
組成物は、経口、非経口、局所、経直腸、経鼻、又は頬側をはじめとする任意の好適な方法で対象に投与することができる。本明細書において用いられる「非経口」という用語は、静脈内又は頭蓋内注射を含む。
【0050】
薬剤的に許容される担体は、任意の好適な希釈剤、アジュバント、賦形剤、緩衝液、安定剤、等張剤(isotonicising agent)、保存料又は抗酸化剤を含むことができる。薬剤的に許容される担体は、非毒性でなければならず、また本明細書中に記載する系又は医薬組成物の有効性を妨げてはならないと理解される。担体又は組成物への任意の他の添加剤の詳細な特質は、投与経路や必要とされる治療の種類に依存するであろう。医薬組成物は、例えば、従来型の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、湿式粉砕(levigating)、乳化、カプセル化、捕捉、又は凍結乾燥プロセスによって製造することができる。
【0051】
組成物の経口的に許容される剤形としては、限定されるものではないが、カプセル、錠剤、丸薬、散剤、リポソーム、顆粒剤、球剤(sphere)、糖衣錠、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤などが挙げられる。好適な経口形態は当業者には公知であろう。錠剤は、ゼラチンなどの固体担体又はアジュバント又は不活性希釈剤を含み得る。液体医薬組成物には、概して、水、石油、動物油若しくは植物油、鉱物油又は合成油などの液体担体が含まれる。生理的食塩水溶液、又はエチレングリコール、プロピレングリコール若しくはポリエチレングリコールなどのグリコールが含まれていてもよい。そのような組成物や製剤は、概して、所与の担体中の溶解度に応じて、少なくとも0.1重量%、一例では、約25重量%までの本明細書中に記載する系又は医薬組成物を含有する。
【0052】
組成物は、化合物を特定の臓器若しくは組織に送達するため、及び/又は化合物が生物学的効率を失うことなく、例えば腸から摂取され得ることを確実にするための送達ビヒクルを含み得る。送達ビヒクルは、例えば、脂質、ポリマー、リポソーム、エマルジョン、抗体及び/又はタンパク質を含み得る。リポソームは、皮膚を通して化合物を送達するために特に好ましい。一例では、リポソームは、本明細書中に記載する系を含む蛍光リポソームである。蛍光リポソームは、本明細書中に記載する系を含むリポソームの産生中に一つ以上の蛍光色素を導入することによって産生される。蛍光色素は、限定されるものではないが、DiIC18(7)(1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドトリカルボシアニンヨウ化物(DIC)、DiRヨウ化物、IR800、BODIY、IR808及びCy5.5、又はそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0053】
組成物は、前記化合物を含む固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスなどの徐放系を用いて送達することができる。当業者にとって、様々な徐放性物質が利用可能であり、周知である。徐放性カプセルは、それらの化学的性質に応じて、前記化合物を約1~20週間放出することができる。
【0054】
炎症は、炎症誘発性因子や抗炎症性因子などの多種多様な因子が関与する複雑なプロセスである。本明細書中に記載する系及び医薬組成物は、炎症誘発性因子のレベルを低下させるか、又は抗炎症性因子のレベルを増加させることによって、任意の炎症負荷及び障害を軽減できることが想定される。一態様において、治療上有効な量の本明細書中に記載する系又は本明細書中に記載する医薬組成物を投与することによって、炎症誘発性因子のレベルを低下させる方法が提供される。一例において、本明細書中で開示する系又は本明細書中に記載する医薬組成物は、その対象における炎症誘発性因子のレベルを低下させるのに使用される。例えば、炎症誘発性因子は、限定されるものではないが、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)、インターフェロンガンマ(IFNγ)及びCD45を含む。
【0055】
別の態様において、治療上有効な量の本明細書中に記載する系又は本明細書中で開示する医薬組成物を投与することによって抗炎症性因子のレベルを低下させる方法が提供される。一例において、本明細書中に記載する系又は本明細書中に記載する医薬組成物は、その対象において抗炎症性因子のレベルを増加させるのに使用される。例えば、抗炎症性因子には、限定されるものではないが、インターロイキン10(IL-10)又は形質転換成長因子β(TGFβ)が含まれる。
【0056】
本明細書中に記載する系又は本明細書中に記載する医薬組成物が療法において使用されることも想定される。したがって、本明細書中に記載する系及び医薬組成物は、治療ツール、治療レジメン、又は治療方法に組み込むことができる。本明細書中で使用する場合、「治療」という用語は、疾患状態又は症状を治療する、疾患の確立を予防する、或いはいずれの方法によるかを問わず、疾患若しくは他の望ましくない症状の進行を予防、阻害、遅延、又は逆行させる、あらゆる使用を指す。
【0057】
一態様において、治療上有効な量の本明細書中に記載する系又は本明細書中に記載する医薬組成物を投与することによって、それを必要とする対象における微生物のバランスを改善することによって、胃腸管の健康を改善する方法が提供される。一例において、本明細書中に記載する系又は本明細書中に記載する医薬組成物は、微生物のバランスを改善することによって胃腸管の健康を改善するのに使用される。別の例では、微生物のバランスを改善することによって胃腸管の健康を改善するための薬剤の製造における本明細書中に記載する系又は本明細書中に記載する医薬組成物の使用が提供される。本明細書中で使用する場合、「胃腸管」という用語は、食物や水が入り、消化及び/又は吸収され、排出される臓器を指す。臓器としては、限定されるものではないが、小腸、大腸、胃、口、咽頭、食道、直腸、及び肛門が挙げられる。
【0058】
微生物のバランスが崩壊すると、ディスバイオシスとなる可能性があり、ディオバイオシスとは、本明細書で使用される場合、胃腸管内の微生物叢の不均衡を指し、機能的組成及び代謝活性の変化をもたらす。微生物叢不均衡の例としては、プロバイオティクス細菌集団の減少及び/又は潜在的に有害な細菌集団の増加が挙げられる。ディスバイオシスは胃腸管障害であり、限定されるものではないが、腹部膨満、放屁、痙攣、胃もたれなどの症状によって特徴づけることができる。慢性的ディスバイオシスは重篤な胃腸管障害を引き起こす可能性もある。例えば、過敏性腸症候群の患者は、Firmicutesの割合及びFirmicutes/Bacteroidetes比の低下、並びにVerrucomicrobiotaの増加を特徴とするディスバイオシスを有することが示されている。
【0059】
別の態様において、治療上有効な量の本明細書中に記載する系又は本明細書中に記載する医薬組成物を投与することによって、それを必要とする対象における疾患を治療する方法が提供される。本明細書中で使用する場合、「治療する(treat)」又は「治療している(treating)」という用語は、衰弱及び/又は不健康な状態の発症を予防するために予防的に作用するのに充分な、薬剤的に有効な量の系又はその各医薬組成物若しくは薬剤を提供すること;並びに/或いは疾患状態及び/又は疾患状態の症状、並びに衰弱及び/又は不健康な状態を軽減又は除去するために充分な量の複合体又は医薬組成物又は薬剤を対象に提供することを指すことが意図される。一例において、疾患は胃腸管障害である。別の例では、本明細書中に記載する系又は本明細書中に記載する医薬組成物は、胃腸管障害の治療で使用されるものである。別の例では、それを必要とする対象における胃腸管障害の治療用薬剤の製造における本明細書中に記載する系又は本明細書中に記載する医薬組成物の使用が提供される。例えば、胃腸管障害は、限定されるものではないが、潰瘍性大腸炎の炎症性腸疾患(IBD)、クローン病の炎症性腸疾患(IBD)、ディスバイオシス、壊死性腸炎、急性感染性下痢症、抗生物質関連下痢症、乳児疝痛である。
【0060】
系又はその医薬組成物は、それを必要とする対象に投与できる。本明細書で使用される「対象」という用語には、投与、治療、観察、又は実験の対象となる動物、好ましくは、哺乳類又は鳥類を指す。「哺乳類」には、ヒトや、実験動物や家庭用ペット(例えば、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ)などの家畜、野生生物、家禽、鳥類などの家畜以外の動物の両方が含まれる。さらに詳細には、哺乳動物は、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、リス)である。さらに、最も詳細には、哺乳動物はヒトである。
【0061】
系又はその医薬組成物は、本明細書に記載の疾患の必要に応じて予防上有効な量又は治療上有効な量のいずれかで対象に投与することができる。組成物の実際の量、並びに組成物の投与速度及び投与時間経過は、治療される胃腸管障害の性質及び重症度又は必要な予防法に依存するであろう。投与量などの決定といった治療の処方は、対象のケアを担当する医師又は獣医師の技術範囲内である。典型的には、対象に投与するための系又は医薬組成物は、体重1kgあたり約1.0×10~約3.0×10CFUのプロバイオティクス細菌、並びに体重1kgあたり約1.0mg~約3.0mgの人工酵素及びリンカーを含む。単位「CFU/kg」が体重1kgあたりのプロバイオティクス細菌数を指すことは容易に理解されるであろう。一例において、単位「CFU/kg」は、体重1kgあたり経口投与されるBifidobacterium longumの数を指す。単位「mg/kg」は、体重1kg当たりの人工酵素及びリンカーの量を指す。一例において、投与される系又は医薬組成物は、約1.0×10~約3.0×10CFU/kgのプロバイオティクス細菌;並びに約1.0~約3.0mg/kgの人工酵素及びリンカーを含む。別の例では、投与される系又は医薬組成物は、約1.0×10CFU/kg、約1.5×10CFU/kg、約2.0×10CFU/kg、約2.5×10CFU/kg、約3.0×10CFU/kg、約3.5×10CFU/kg、約4.0×10CFU/kg、約4.5×10CFU/kg、約5.0×10CFU/kg、約5.5×10CFU/kg、約6.0×10CFU/kg、約6.5×10CFU/kg、約7.0×10CFU/kg、約7.5×10CFU/kg、約8.0×10CFU/kg、約8.5×10CFU/kg、約9.0×10CFU/kg、約9.5×10CFU/kg、約1.0×10CFU/kg、約1.5×10CFU/kg、約2.0×10CFU/kg、約2.5×10CFU/kg、若しくは約3.0×10CFU/kgのプロバイオティクス細菌;及び約1.0mg/kg、約1.1mg/kg、約1.2mg/kg、約1.3mg/kg、約1.4mg/kg、約1.5mg/kg、約1.6mg/kg、約1.7mg/kg、約1.8mg/kg、約1.9mg/kg、約2.0mg/kg、約2.1mg/kg、約2.2mg/kg、約2.3mg/kg、約2.4mg/kg、約2.5mg/kg、約2.6mg/kg、約2.7mg/kg、約2.8mg/kg、約2.9mg/kg、若しくは約3.0mg/kgの人工酵素及びリンカー、又はそれらの任意の組み合わせを含む。別の例では、投与される系又は医薬組成物は、約2.5×10CFU/kgのプロバイオティクス細菌、並びに約2.5mg/kgの人工酵素及びリンカーを含む。別の例では、投与される系又は医薬組成物は、約2.5×10CFU/kgのプロバイオティクス細菌;並びに約1.25mg/kgの人工酵素及びリンカーを含む。
【0062】
本願で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈上明らかに別段の指示が無い限り、複数の言及が含まれる。例えば、「遺伝子マーカー」という用語には、その混合物及び組み合わせを含む複数の遺伝子マーカーが含まれる。
【0063】
本明細書中で使用する場合、「増加」及び「減少」という用語は、集団全体に存在するのと同じ形質又は特徴と比較して、集団のサブセットにおける選択された形質又は特徴の相対的変化を指す。したがって、増加は正のスケールでの変化を示し、減少は負のスケールでの変化を示す。本明細書中で使用される「変化」という用語はまた、全体としての集団における同じ形質又は特徴と比較した、単離された集団サブセットの選択された形質又は特徴間の差も指す。しかしながら、この用語は、見た目の違いの評価ではない。
【0064】
本明細書中で使用する場合、「約」と言う用語は、物質の濃度、物質のサイズ、時間の長さ、又は他の記載された値の関連で、記載された値±5%、又は記載された値±4%又は記載された値±3%、又は記載された値±2%、又は記載された値±1%、又は記載された値±0.5%を意味する。
【0065】
本開示全体を通して、ある特定の実施形態は範囲形式で開示される場合がある。範囲形式での記載は単に便宜上や簡潔にするためと理解すべきであり、開示された範囲に対する柔軟性のない限定と解釈すべきでない。したがって、範囲の記載は、全ての可能な部分的範囲並びにその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものとみなされるべきである。例えば、1~6などの範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分的範囲、並びにその範囲内の個々の数値、例えば、1、2、3、4、5、及び6を具体的に開示したものとみなされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく当てはまる。
【0066】
本明細書で例示的に記載された発明は、本明細書で具体的に開示されていない任意の要素、限定がなくても、好適に実施できる。したがって、例えば、「含む(comprising)」、「包含する(including)」、「含有する(containing)」などという用語は、限定することなく拡大解釈されるものとする。さらに、本明細書中で採用した用語や表現は、限定ではなく説明の用語として使用され、そのような用語や表現の使用では、図示され説明された特徴又はその一部の均等物を排除することを意図しないが、発明の請求の範囲内で様々な修飾が可能であることが認識される。したがって、本発明は好ましい実施形態や任意の特徴によって具体的に開示されているが、本明細書中で開示されて具現化された発明の修飾や変更を当業者は使用することができ、そのような修飾及び変更は、本発明の範囲内であると考えられると理解されるべきである。
【0067】
本発明を本明細書中で広く一般的に記載した。一般的な開示に含まれるより狭い種及び亜属のグループのそれぞれも本発明の一部を形成する。これには、取り出された内容が本明細書中で具体的に記載されているか否かにかかわらず、但し書きや否定的な限定付きでの発明の一般的記載が含まれる。
【0068】
他の実施形態は、以下の特許請求の範囲と非限定的例の範囲内である。さらに、本発明の特徴又は態様がマーカッシュ群に関して記載されている場合、当業者は、本発明がマーカッシュ群の任意の個々のメンバー又はメンバーのサブグループに関してもそれによって記載されていることを認識するであろう。
【実施例
【0069】
材料及び方法
化学物質
硝酸亜鉛六水和物(Zn(NO・6HO)及びメタノールをBeijing Chemicals社(中華人民共和国、北京)から入手した。2,4-ペンタジオン酸鉄(III)(Fe(acac))及び2-メチルイミダゾール(2-MI)をSigma-Aldrich社(米国、ミズーリ州、セントルイス)社に注文した。C12-PEG-Bは、Shaoxing Qixin Trading Co.,LTD(中華人民共和国、紹興)から取得した。Bifidobacterium longum(BL、ATCC(登録商標)BAA999(商標))はAmerican Type Culture Collectionから購入した。
【0070】
単原子ナノザイム(FeSA)の合成
単原子ナノザイム(FeSA)は、不活性窒素(N)環境でのFe(acac)_ENREF_2:Fe(acac)カプセル化金属有機フレームワーク(MOF)(Fe@MOF、FE@ZIF-8とも称する)の熱分解によって調製した。Zn(NO・6HO(1160mg)及びFe(acac)_ENREF_2:Fe(acac)(35mg)の均一なメタノール溶液30mLを2-メチルイミダゾール(2-MI)(1314mg)メタノール溶液30mLと穏やかに撹拌しながら2時間混合した。その後、Fe@MOFを遠心分離によって集め、リンスし、真空オーブン中、70℃で一晩乾燥させた。最後に、得られた乾燥Fe@MOFを粉砕して粉末にし、磁器ボートに装填して、900℃で3時間、5℃/分の加熱速度で熱分解した。冷却後、得られたFeSAを集めた。
【0071】
C18-PEG-B修飾単原子触媒(B-SA)の合成
SA(1mg/mL)及びリンカーボロン酸-C18-ポリ(エチレングリコール)(C18-PEG-B)(1mg/mL)の均質溶液100mLを暗所で4時間撹拌して、C18-PEG-B修飾単原子触媒(B-SA)を得た。B-SAを遠心分離によって集め、リンスし、100mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再分散させ、暗所で4℃にて保存した。
【0072】
人工酵素武装プロバイオティクス(BL@B-SA)の合成
Bifidobacterium longum(BL)を37℃で18時間振盪しながら#1490ブロスのチューブ中で嫌気的に培養した。BLをブルセラ血液プレート上で嫌気的に37℃にてインキュベートして、汚染及び濃度をチェックした。等量のB-SA(500μg/mL)をBL(1×l0CFU/mL)と共に振盪しながらインキュベートすることによってBL@B-SA50の人工酵素・プロバイオティクスプラットフォームを調製した。30分後、混合物を遠心分離し、洗浄し、培地を含む嫌気性チューブ中に再分散させた。結果として得られたBL@B-SA50を暗所で4℃にて保存した。BL及びB-SAの濃度を変えることによって、異なる比率のBL@B-SAを合成した。
【0073】
蛍光C18-PEG-B修飾リポソーム(DIR-B-Lip)の合成
レシチン(36.27mg)、コレステロール(5mg)、及び1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-ポリ(エチレングリコール)(DSPE-PEG)(7.76mg)を4.9mLのエタノール中で混合することによって、リン脂質エタノール溶液(10mg/mL)をまず調製した。1.08mLのリン脂質エタノール溶液(10mg/mL)、0.3mLのC18-PEG-Bエタノール溶液(4mg/mL)及び0.12mLのDiIC18(7);1,1’-ジオクタデシル1-3,3,3’,3’-テトラメチルインドトリカルボシアニンヨウ化物(DIR)エタノール溶液(5mg/mL)を丸底フラスコ中の4.5mLのクロロホルムに添加し、クロロホルムを低圧下で蒸発させ、その結果、フラスコの底に透明フィルムが形成された。フィルムを12mLのPBSで水和させ、超音波処理して、蛍光C18-PEG-B修飾リポソーム(DIR-B-Lip)の透明懸濁液を形成した。
【0074】
蛍光リポソーム-プロバイオティクス系(BL@DIR-B-Lip)の合成
B-SAをDIR-B-Lipで置換する以外は、BL@B-SA50を合成する場合と類似したプロセスにより、蛍光リポソーム・プロバイオティクス系(BL@DIR-B-Lip)を調製した。
【0075】
酸化的ストレス下での細菌生存率
天然BL(1×10CFU/mLのBL)、BL@B-SA3.125(1×10CFU/mLのBL及び3.125μg/mLのB-SA)、BL@B-SA6.25(1×10CFU/mLのBL及び6.25μg/mLのB-SA)、BL@B-SA12.5(1×10CFU/mLのBL及び12.5μg/mLのB-SA)、BL@B-SA25(1×10CFU/mLのBL及び25μg/mLのB-SA)、BL@B-SA50(1×10CFU/mLのBL及び50μg/mLのB-SA)及びBL@B-SA100(1×10CFU/mLのBL及び100μg/mLのB-SA)を、過酸化水素(H)(200μM)を含有するPBS緩衝液(pH7.4、10mM)と共に37℃で2時間インキュベートした後、それぞれ生存率分析を行った。細菌生存率を血小板計数によってモニタリングした。H処理をしていない天然BL(1×10CFU/mLのBL)を対照として使用し、それらの生存率レベルを100%とした。
【0076】
BL及びBL@B-SAの成長曲線の評価
嫌気性条件下での天然のBL及びBL@B-SAの成長曲線を試験した。具体的には、200μlの天然のBL(1×10CFU/mLのBL)及びBL@B-SA50(1×10CFU/mLのBL及び50μg/mLのB-SA)をそれぞれ10mLの#1490ブロスのチューブ中に注入した。12時間、24時間、36時間、及び48時間インキュベーションした後、100μlの混合物を各チューブから集め、血液プレート計数法によって細菌数を測定した。
【0077】
BL@B-SAのインビトロROS除去活性
誘導性酸化的ストレスから細胞を保護するために、異なる濃度のBL@B-SA50をH(200μM)の非存在下又は存在下で24時間HT-29細胞と共に培養した。相対的細胞生存率を3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイにより試験した。
【0078】
共焦点イメージング及びフローサイトメトリアッセイのために、HT-29細胞をBL@B-SA50(0、2.5、5、及び10μg/mL)と共にH(400μM)の非存在下又は存在下で培養した。2時間後、20μMの2’-7’ジクロロフルオレシン(dichlorofluorescin)ジアセタート(DCFH-DA)を添加して、細胞間ROS生成を検出した。PBSで3回洗浄した後、細胞を共焦点顕微鏡法で定性的に観察し、活性酸素種(ROS)含量をフローサイトメトリにより定量的に分析した。
【0079】
インビトロROS除去能の比較
BL、B-SA、BL+B-SA、BL@B-SA50のインビトロROS除去活性を、MTTアッセイ、共焦点顕微鏡法、及びフローサイトメトリによって等しい濃度で評価した。MTTアッセイの異なる測定におけるナノマテリアル濃度は0.625μg/mLであり、共焦点顕微鏡法及びフローサイトメトリではどちらも2.5μg/mLであった。処理していないHT-29細胞の生存率を100%とし、処理していないHT-29細胞のROS含量を1とした。
【0080】
胃腸管におけるBL@B-SAの触媒活性及び細菌生存率
胃腸管におけるBL@B-SAの安定性を調査するために、300μlの等量のBL(1×10CFU)及びBL@B-SA50(1×10CFUのBL及び50μgのB-SAを含有する)を、ペプシンを含有する模擬胃液(SGF)(pH1.2)、トリプシンを含有する模擬腸液(SIF)(pH6.8)又は200μMのHを含有する模擬炎症結腸液(SICF)(pH7.8)のいずれかを追加した700μlの培地に添加し、37℃にて穏やかに振盪しながらインキュベートした。所定の時点で、BL@B-SAの触媒活性及び細菌生存率の両方を測定した。
【0081】
触媒活性を評価するために、サンプルを遠心分離し、洗浄し、PBS中に再懸濁させて、500μg/mLのBL@B-SA50又はBLを得た。最終濃度を50μg/mLとしたものを使用して、WST-8を用いたトータルスーパーオキシドジスムターゼキット、カタラーゼアッセイキット及びTAプローブによってROS除去能を測定した。
【0082】
細菌生存率を測定するために、100μlの希釈サンプルを採取し、血液プレート上に広げた。37℃で48時間インキュベーションした後にコロニーを計数した。
【0083】
インビボターゲティング
プロバイオティクスが生体適合性人工酵素のターゲティングとコロニー形成とを促進できることを証明するために、光音響(PA)イメージングを実施した。500μLのB-SA又はBL@B-SA50(各々、500μg/mLのB-SAを含有する)を潰瘍性大腸炎(UC)マウスに経口投与した。6時間後、マウスをイソフルランで麻酔し、37℃で維持した。Vevo LAZRシステムを用いて仰臥位で画像を取得し、画像は808nmで集めた。
【0084】
プロバイオティクスがナノマテリアルの保持を促進できることをさらに検証するために、B-SA及びBL@B-SA50の代わりに蛍光DiR-B-Lip及びBL@DiR-B-Lipを採用した。6時間後、潰瘍性大腸炎(UC)マウスを安楽死させ、腸を切除した。各群からの腸における蛍光強度を、Cy5.5フィルターチャネルを備えたIVISルミナシリーズIIIインビボイメージングシステムを用いて曝露時間1秒で分析した。
【0085】
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)で誘導したマウスの潰瘍性大腸炎(UC)
6週齢のメスC57BL/6マウスを1ケージあたり5匹の群で収容し、実験に加える前に1週間馴化させた。潰瘍性大腸炎(UC)モデルを誘導するために、飲料水に添加した3%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)をマウスに4日間与え、続いて標準水を与えた。対照健常マウスには標準水のみを与えた。その後、異なる比率のBL@B-SA(BL@B-SA25、BL@B-SA50、BL@B-SA100)、1.25mg/kgのB-SA、BL、BL@B-SA50、BL+B-SA混合物(等用量のBL@B-SA50のBL及びB-SA)、1mg/kgのMPS、1mg/kgのDEX、40mg/kgの5-ASA又はPBS、並びに0.625、1.25、2.5及び5mg/kgのBL@B-SA50を所定の日にマウスに経口経路で投与した。体重の変化を9日の実験期間にわたって毎日評価した。マイクロバイオーム分析のために所定の日に便を集めた。実験の最終日に、マウスを犠牲死させ、結腸全体を切除した。結腸の長さを測定し、生理食塩水でやさしく洗浄した。2片の結腸を組織学的評価及び免疫蛍光染色に使用した。残りの結腸組織サンプルを酵素結合免疫吸着測定(ELISA)分析及び活性酸素種(ROS)評価に使用した。
【0086】
マウスの2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)誘導性クローン病(CD)
メスC57BL/6マウスを7日間馴化させ、1群あたり5匹で様々な群にランダムに分けた。TNBS誘導マウスを1重量%の2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)で前感作させ、7日間保持した。マウスを第8日に2.5重量%TNBS浣腸でさらに処置した。最後に、B-SA、BL、BL+B-SA、及びBL@B-SAを、上記のDSSモデルと同じプロトコルを使用して処理した。
【0087】
酢酸で誘導したイヌの潰瘍性大腸炎(UC)
9匹のビーグル犬を実験に加える前に1週間馴化させた。イヌのUCモデルを構築する前に、浣腸を用いてイヌの腸をまずきれいにした。麻酔後、ポリエチレンカテーテルを肛門から結腸内に20cm挿入し、7%酢酸溶液(2mL/kg)をゆっくりと注入した。注入直後は、頭を低く、尾を高く保ち、結腸を酢酸で溶かしてUCモデルを構築した。最後に、イヌの結腸を100mL生理食塩水で2回フラッシュし、イヌを安静にさせた。各群のイヌの状態と糞便の特徴を覚醒後に観察した。一日後、UCイヌを二群に分けた。3匹のUCイヌを含む対照群には培地を投与し、一方、3匹のUCイヌを含むBL@B-SA群にはBL@B-SAを連続して5日間経口投与した。健常群については、3匹の健常なイヌには、7%酢酸を生理食塩水に代えて毎日培地を投与する以外、対照群と同様のプロセスを受けさせた。体重の変化を8日の実験期間にわたって毎日評価した。0日、1日、2日、4日、及び7日に、イヌを内視鏡検査のために麻酔した。最終日に、イヌの血液サンプルを集めて、全血パネル分析を実施しつつ、結腸及び主要臓器(心臓、肝臓、脾臓、肺、及び腎臓)、並びに消化管(食道、胃、小腸、空腸、及び回腸)を組織学的評価及び免疫蛍光染色のために切除した。
【0088】
実験結果
プロバイオティクス細菌がSAzymesの標的化及びコロニー形成を促進して、増加した活性酸素種(ROS)及び炎症性因子を除去できる、人工酵素・プロバイオティクス細菌系を開発した。これにより炎症が軽減され、それによって細菌生存率が改善され、腸バリア機能及び腸微生物叢が再形成される。この系は、フェニルボロン酸官能基と含むリンカー、例えばC18-PEG-Bリンカーを介してBifidobacterium longum(BL)と単原子ナノザイム(SAzyme)とを組み合わせることによって、炎症性腸疾患(IBD)治療に適用できる(図1c)。開発された人工酵素・プロバイオティクス細菌系は、Bifidobacterium longum(BL)がSAzymeのターゲティングとコロニー形成を改善して、炎症を低減する一方で、SAzymeは抗酸化酵素を模倣して、過酷な酸化条件下でも高い細菌生存率を維持することができることを示す()。最終的に、結果として得られるプロバイオティクス・SAzyme(BL@B-SA)系は、過剰なROSレベルを低下させ、炎症誘発性サイトカイン産生を阻害し、腸バリア機能を回復させ、また腸微生物叢の豊富さや多様性を増大させ、マウスの潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病(CD)モデル並びにビーグル犬の潰瘍性大腸炎(UC)モデルにおいて顕著なインビボ治療効果を示す。この人工酵素・プロバイオティクス細菌系は、炎症性腸疾患(IBD)を治療するための新たな戦略を提示し、またプロバイオティクス及び人工酵素を統合することによって疾患治療への新たな見識を提供する。
【0089】
BL@B-SAの設計及び特性決定
単原子ナノザイム(FeSA)は、走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡によって特徴づけられるような、金属有機フレームワークカプセル化鉄(Fe)前駆体(Fe@MOF、Fe@ZIF-8としても知られる)(図2a)の熱分解によって調製した。鉄含有ナノ粒子が存在しないことは、高解像度透過型電子顕微鏡(HRTEM)画像(図3a)及び粉末X線回折(XRD)試験によって明らかになった。一方、原子的に分散したFe単原子を、収差補正型原子分解能高角度環状暗視野走査型透過電子顕微鏡法(HAADF-STEM)(図3b及びc)及びエネルギー分散スペクトル(EDS)(図3d)によって確認した。さらに、FeSAの構造をラマン分光法及びX線光電子分光法(XPS)スペクトルによって分析すると、Fe-Nの配位と黒鉛状炭素の存在とが示唆された。さらに、FeSA中のFe原子の正確な構造は、シンクロトロン放射ベースのX線吸収端近傍構造(XANES)及び拡張X線吸収微細構造(EXAFS)測定によってさらに明らかになった。正に荷電したFeδ+をN原子によって安定化させ、FeKエッジXANESスペクトル(図3e)及びフーリエ変換κ加重EXAFSスペクトル(図3f)で示されるように、FeSA38全体に亘って原子的に分散させた。定量的には、原子Fe部位は、EXAFSフィッティングにより窒素種によって5配位であることが確認され(図3g~h及び表1)、Fe原子ローディングは誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)によって1.31重量%であると決定された。
【0090】
【表1】
【0091】
N:配位数;R:結合距離;σ:デバイワラー因子;ΔE:内部電位補正。R因子:適合度、S 、0.8は、Feの実験的EXAFSフィットから得た。EXAFS分光法によって得られた構造パラメータを特徴づける誤差範囲は、N±20%;R±1%;σ±20%;ΔE±20と推定された。
【0092】
人工酵素をプロバイオティクスとさらに統合するために、ボロン酸-ポリ(エチレングリコール)(C18-PEG-B)のリンカーを採用した。C18-PEG-Bは、ボロン酸隣接ジオールベースのクリック反応により細菌の細胞壁からの多糖類と可逆的に結合できるだけでなく、疎水性C18基と黒鉛状炭素との非共有相互作用によりFeSA表面上で修飾することができる。FeSAをC18-PEG-Bで官能化することによってB-SAの作製に成功し、FeSAのエッジがぼやけ(図3i及びj)、ゼータ電位は負から中性に変化した。最後に、異なる割合のB-SAとBLを単に混合することで、BL@B-SA(xは1×10CFUのBLに対するB-SAの含量(μg)を意味する)のプロバイオティクス・人工酵素系を構築でき、インビトロ又はインビボで使用できる。インビボで使用する場合、BL@B-SAを算出する際には対象の体重を考慮する。例えば、BL@B-SA50は、体重1kgあたり2.5×10CFUのプロバイオティクス細菌(例えば、Bifidobacterium longum)、並びに体重1kgあたり1.25mgの人工酵素及びリンカー(例えば、B-SA)を指す。これは、1×10CFUのプロバイオティクス細菌中の50μgの人工酵素及びリンカーに相当する。別の例では、BL@B-SA100は、1kgあたり2.5×10CFUのプロバイオティクス細菌及び体重1kgあたり2.5mgの人工酵素及びリンカーを指す。これは、1×10CFUのプロバイオティクス細菌中100μgの人工酵素及びリンカーに相当する。TEM画像によって明らかになるように、B-SAはBLの表面上に位置し、このプロセス中にBLの形態変化は起こらなかった(図3k及び1)。次に、BL@B-SA50を詳細に調査して、それらの最適細菌保護能力とIBD治療効果とを特定した(図4g及び図8)。
【0093】
BL@B-SAのROS除去能
IBDに関与する代表的ROSである、O ・-、H、及び・OHに対するB-SAのROS除去能をモニタリングした(図4a~c)。まず、O ・-除去についてのSOD様活性を、WST-8を用いたO特異的トータルスーパーオキシドジスムターゼアッセイキットを用いて調査した。図4aに示すように、B-SAは、O ・-のH及びOへの不均化を触媒することで顕著なSOD様活性を有していた。産生したHは、B-SAのCAT様特性によってさらに除去することができ、これは生成したO図4b)と240nmでのH吸光度の顕著な減少によって示される。H除去能をカタラーゼアッセイキットによってさらに定量化した。さらに、B-SAの・OH除去活性は、それぞれ5,5’-ジメチル-1-ピロリン-N-オキシド(DMPO)プローブ(図4c)及びテレフタル酸(TA)プローブによって検出された。これらの明らかに減少したシグナル強度は、B-SAが・OHを効果的に除去できることを裏付けた。全体として、B-SAは三つの代表的なROSに対して高い除去活性を示し、これらの性能は、B-SAの濃度が増加するにつれて強化され、プロバイオティクス及び細胞を酸化的ストレスから保護する可能性を示唆する。
【0094】
B-SAの組込みによりBifidobacterium longum(BL)の抗酸化能力が増強されるか否かを明らかにするために、次に、素のBL、B-SA、BL+B-SA、及びBL@B-SA50のROS除去能を比較した。B-SAで武装することにより、BLは、天然のBLよりも有意に増強されたROS除去活性を示し(図4d~f)、過酷な(hash)酸化的微小環境での耐性を確保した。ROSに対するB-SA封入の防御は、操作されたプロバイオティクスに毒性Hを供給することによって分析した。BLに対して様々な濃度のB-SAは細菌生存率を有意に高め、BL@B-SA50は最良の保護効果を達成した(図4g)。次に、Hの非存在下又は存在下でのBL@B-SA50の長期的結果を調査した。驚くべきことに、B-SAでの操作は、通常の条件下ではBLの代謝を変化させない(図4h)だけでなく、H培地中で定常期に達するまでそれらの増殖を保護した(図4i)。
【0095】
プロバイオティクスに対する人工酵素の細胞保護能力を検証して、HT29細胞株をモデルとして使用することにより、BL@B-SA50アンサンブルのインビトロ抗酸化能力をさらに調査した(BL、B-SA、BL+B-SAも比較として検討した)。細胞毒性の結果から、単一B-SAがHT29に対して無毒であることが実証され、生物学的応用が容易になった。一方、天然のBLはHT29の成長を促進でき、これは分泌された生物活性因子に起因する可能性がある(図4j)。組み合わせた後でも、BL@B-SA50はHT29の成長を高めることができ、腸粘膜組織の修復が期待される。200μMのHに曝露されると、HT29細胞の生存率は約20%まで急激に減少し(図4k)、明らかな酸化的損傷を示す。しかしながら、B-SA、BL+B-SA、及びBL@B-SA50の保護下で、B-SAの細胞保護能力に起因して、生存率が有意に改善された。注目すべきことに、BLの菌体外多糖類(EPS)の抗酸化活性のために、BL処置群の生存率も上昇した。フローサイトメトリと蛍光顕微鏡法を用いて抗酸化機構を分析した。明らかに、ROSはBL@B-SA50によって効果的に除去でき、効力はBL単独よりも高かった(図4l及びm)。まとめると、インビトロの結果から、BL@B-SA50がHT29細胞の成長を促進でき、ROSの攻撃からそれらを保護できることを示された。
【0096】
胃腸管におけるBL@B-SAの触媒活性及び細菌生存率
BL@B-SAは、炎症を起こした腸に到達する前に、胃酸、胆汁酸塩及び炎症などの、経口摂取後の過酷な胃腸環境にさらされる可能性が高く、これにより人工酵素が不安定になる可能性があり、細菌が不活化される可能性さえある。BL及びBL@B-SA50のROS除去能を模擬胃液(SGF)、模擬腸液(SIF)及び模擬炎症性結腸液(SICF)中で測定して、不利な条件により触媒活性が低下する可能性があるか否かを評価した。図5a~cに示すように、BL@B-SA50のROS除去能は、表示された時点でSGF、SIF、及びSICFの全てにおいて一貫したままであり、BLのROS除去能よりも明らかに高く、BL@B-SA50の並外れた安定性が示唆される。次に、BLの生存率を上記模擬胃腸環境中で測定した。注目すべきことに、B-SAで武装することで、炎症性腸管におけるBLの生存率を向上させることができ、酸性の胃やアルカリ性の腸におけるそれらの耐容性は損なわれない(図5d~f)。BL@B-SAは、炎症に対するBLの抵抗性を高めるだけでなく、ROS除去能も維持し、炎症性環境を軽減し、腸微生物叢を調節することが期待される。
【0097】
プロバイオティクスが腸内での人工酵素のターゲティングと保持を増強できるか否かをさらに試験した。近赤外領域におけるB-SAの吸収から、その光音響(PA)シグナルを調査した。808nmでのパルスレーザ励起下で、B-SAは強力なPAコントラストを提供し、これは25~100μg/mLの範囲内で濃度の関数として直線的に増加した。次に、大腸炎マウスに等量のB-SAとBL@B-SA50とを経口投与した。図5gに示すように、808nmでのBL@B-SA50群のPAシグナルは、B-SA群のPAシグナルよりも有意に高く、BLの固有の腸コロニー形成能力の結果として、6時間で、DSSで炎症を起こした腸にBL@B-SA50がより多く蓄積したことを示す。BLのターゲティング能力の向上をさらに実証するために、投与後6時間でインビボイメージングシステム(IVIS)を使用してナノマテリアルの存在を可視化した。NIR領域におけるB-SAの広いスペクトル吸収のために、DIRの蛍光は完全に消光される。この問題に対処するために、B-SAを、C18-B-PEGのターゲティング基とDIRの蛍光分子とからなる蛍光DIR-B-Lipで置換した。すると、DIR-B-LipをBL上で容易に組み立てて、BL@DIR-B-Lipを形成でき、蛍光変化は無視できるほどであった。PAイメージング結果と一致して、経口投与されたBL@DIR-B-Lipはまた、DSSで炎症を起こした結腸において、DIR-B-Lipよりも効果的に蓄積する可能性があり、BLの腸コロニー形成能力の恩恵を受けることができる。まとめると、BLの修飾は、ナノマテリアルの滞留時間を延長して、持続可能なROS除去及び炎症軽減性能を達成できる。
【0098】
BL@B-SAのインビボ毒性
安全なバイオアプリケーションを確実にするために、BL@B-SA50のインビボ毒物学を体系的に評価した。健常マウスにBL@B-SA50を28日間毎日経口投与するか又は経口投与しなかった。その後、それらの生化学及び血液学的パラメータ、体重変化、並びに主要臓器のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色を分析した(図6a~e)。BL@B-SA処置群と対照群との間に明確な差はなく、BL@B-SA50の毒性は無視できることが示唆された。
【0099】
UCに対するBL@B-SAの効力
次に、BL@B-SAの治療可能性をインビボで評価した。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)は基底腺窩(basal crypt)の腸上皮細胞にとって有毒であり、粘膜バリアの完全性に影響を及ぼす。マウスに飲料水中3%(w/v)DSSを4日連続して投与して、大腸炎を誘導した。BLとB-SAとの割合がBL@B-SAの治療結果に影響を及ぼすか否かを調べるために、大腸炎の初期段階で、マウスに様々なBL@B-SA処方を4日間毎日経口投与した。BL@B-SA50(2.5×10CFU/kgのBL及び1.25mg/kgのB-SAを含む)及びBL@B-SA100(2.5×10CFU/kgのBL及び2.5mg/kgのB-SAを含む)は、DSSで誘導された体重減少、疾患活動指数の増加、また結腸の長さの短縮から動物をよりよく保護した(図8)。副作用を最小限に抑えつつ用量の節約を達成するために、低処方のBL@B-SA50の投与量も調査した(図9)。最終的に、1.25mg/kgのBL@B-SA50が大腸炎に対して強固な治療効果を発揮し、さらなる研究のために選択された。
【0100】
その後、他の治療に対するBL@B-SA50の有効性も評価した(図7)。経口強制飼養後、BL@B-SA50は、DSSで誘導された大腸炎に関連した体重減少、DAI増加、及び結腸の長さの短縮を主に妨害することができ、他の処方は、抗IBD結果の低下を示した(図7b~d及び7l)。さらに、BL@B-SA50で処置した大腸炎マウスは正常な糞便であったが、他の処置を施した大腸炎マウスは、下痢や血便をはじめとする症状を発現した(図7l)。重要なことに、H&E染色及び免疫組織化学的分析により、BL@B-SA50治療が結腸上皮を病的損傷から保護でき、IL-6、TNFα、及びCD45の発現を抑制できることが検証された(図7e)。同様に、ROS実験及びELISA分析でも、BL@B-SA50がROS並びにIL-6、IFNγ及びMPOをはじめとする炎症誘発性因子のレベルを低下させることができ、その一方で、IL-10などの抗炎症性因子のレベルを増加させることができることが確認された(図7f及びg)。最後に、BL@B-SA50処置は、全身毒性、自己免疫、又は主要臓器における病態の明白な兆候を引き起こすことなく、UCマウスの生存率を劇的に向上させることができた(図7h)。まとめると、これらの結果はすべて、プロバイオティクス療法の人工酵素に媒介された増強により、大腸炎療法についてBL、B-SA、及びBL+B-SAよりも優れたBL@B-SA50の有効性を実証した。
【0101】
腸マイクロバイオームの調節
BL@B-SA50を使用したUCマウスにおける腸微生物叢の組成の調節を療法の一形態として調査した。V4領域における16SリボソームRNA(rRNA)遺伝子発現決定による便サンプルの分析により、BL@B-SA50処置が、他の群と比較したα多様性のシャノンエントロピー指数の増加によって示されるように、DSS大腸炎マウスにおける細菌多様性を劇的に改善したことが明らかになった(図7i)。非計量的多次元尺度法(NMDS)プロットにより、BL@B-SA50で処置されたUCマウスは、他の処置群と比べて異なる腸微生物叢プロファイルを有することが明らかになった(図7j)。門/科レベルでのさらなる分析により、BL@B-SA50処置によりVerrucomicrobiotaの相対的存在量が劇的に減少し、Firmicutesの相対的存在量が増大し、Firmicutes/Bacteroidota比が改善され、健常な腸微生物叢が再形成されることが明らかになった(図7k)。興味深いことに、ClostridiumクラスターXlVaに含まれ、Treg細胞を誘導することが知られているLachnospiraceaeの相対的存在量は、BL@B-SA50での処置後に有意に増加し(図7k)、それによって炎症が軽減された。まとめると、SAzyme武装プロバイオティクスBL@B-SAの経口投与により、腸微生物叢の豊富さと多様性を増加させて、IBDを効率的に治療できる。
【0102】
臨床IBD薬との比較
BL@B-SAの有効性を、5-アミノサリチル酸(5-ASA)、デキサメタゾン(DEX)、メチルプレドニゾロン(MPS)をはじめとする、臨床で広く使用されている他の従来型IBD治療薬と比較した。BL@B-SAは、臨床用量で使用された5-ASA、MPS、及びDEXよりも優れ、DSS誘導性急性大腸炎に対して有効性が有意に増大し、体重回復、DAI減少、及び結腸の長さの維持が達成された(図10)。したがって、BL@B-SA50はIBD治療の臨床薬に代わる有望な候補である。
【0103】
マウスのクローン(Chron’s)病(CD)に対するBL@B-SAの効力
クローン(Chron’s)病(CD)はヒトにおける炎症性腸疾患(IBD)の別の主要な形態である。プロバイオティクス・SAzymeの治療適用範囲を探索するために、その有効性をクローン(Chron’s)病(CD)の治療として評価した。クローン(Chron’s)病(CD)は、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)の直腸内投与によって誘導され、これによって、ハプテン修飾オートローガスタンパク質/内腔抗原に対するT細胞媒介性応答が誘導される(図11a)。第9日に明らかな体重減少と出血が観察され、マウスにおいてクローン病(CD)の誘導に成功したことが示唆される(図11b、c)。その後、クローン病(CD)マウスに様々な物質を4日間経口投与した。体重変化、疾患活動指数(DAI)、及び結腸の長さを比較すると、BL@B-SAのかなりの治療有効性が示され(図11b~e)、BL@B-SAが他の処方よりも有効性が高いことが示された。
【0104】
イヌの潰瘍性大腸炎(UC)に対する効力
人工酵素武装プロバイオティクスの臨床応用を促進するために、大腸炎に罹った大型動物で治療可能性をさらに評価した。ビーグル犬の結腸内腔に7%酢酸を投与することによってイヌUCモデルを構築した(図12a)。酢酸は腸管に損傷を与え、炎症性因子の産生を引き起こす可能性があり、このことは、ヒト大腸炎における炎症の伝播及び種類と類似している。一日後、健常なイヌの平滑でピンク色の結腸と比較して、酢酸で処置したイヌの結腸では内視鏡により明らかな出血と傷が観察され、UCモデルの確立に成功したことが明らかになった(図12c)。療法中、BL@B-SA50の経口投与は、損傷した結腸の治癒を有意に促進したが、未処置のUCイヌでは依然として傷と出血が見られた(図12c及びd)。最後に、対照群と比較して、BL@B-SA50処置群のWBCレベルは、処置後に正常に戻り、潜在的有効性が示された(図12b)。一方、H&E分析でも、未処置のイヌで、粘膜固有層における炎症細胞浸潤、腺破壊、杯細胞枯渇をはじめとする重度の炎症が明らかになった(図12e)。しかしながら、炎症反応は、BL@B-SA50処置後に低減し、このことは、免疫組織化学的染色によってもさらに確認された(図12e)。炎症レベルを画像Jによってさらに定量化すると、以前の結果と一致していた(図12f)。全体的に、これらの結果は、BL@B-SAがイヌのIBDに対して有効であることを示し、ヒトでの使用可能性が期待される。
【0105】
イヌに対するBL@B-SAのバイオセイフティー。
最後に、BL@B-SAのバイオセイフティーを処置後のイヌに関して評価した(図13)。処置中、イヌの有意な体重変化はなく、処置の安全性が示される()。さらに、H&E染色した主要臓器(心臓、肝臓、脾臓、肺、及び腎臓)並びに消化管(食道、胃、小腸、空腸、及び回腸)は、健常群とBL@B-SA50処置群(図13)との間でごくわずかな違いしか示さず、処方が大型動物や人に適していることが示される。
【0106】
結論
炎症の急速な寛解と腸マイクロバイオームのバランスの回復は、限定されるものではないが、潰瘍性大腸炎の炎症性腸疾患(IBD)、クローン病の炎症性腸疾患(IBD)又はディスバイオシスなどの胃腸管障害の治療で極めて重要である。しかしながら、抗炎症薬及び/又はプロバイオティクスの使用などの従来の治療では満足できる結果は得られない。さらに、このような抗炎症薬及び/又はプロバイオティクスの長期使用は、患者の生活の質を低下させ、結腸がんなどのより重篤な疾患のリスクを高める潜在的な健康被害をもたらす可能性がある。
【0107】
本願は、IBDの微小環境を迅速かつ効率的に調節する抗酸化能力を有する人工酵素に対するプロバイオティクス細菌リンカーを含む操作された系を提示する(図2)。この系では、臨床的に使用されている抗炎症薬の代わりに、天然の抗酸化防御系を模倣するために人工酵素を使用した。これらはROSを除去して炎症を軽減し(図4)、臨床薬よりも優れた持続的カスケード触媒作用とバイオセイフティーの利点がある。そして、炎症環境が緩和されると、細菌生存率が向上し、腸バリア機能と腸微生物叢が急速に再形成される(図4g及び図7)。
【0108】
さらに、ナノマテリアルの保持時間は延長され(図5g)、これは、プロバイオティクスの固有のコロニー形成能力によるものである。したがって、本明細書で記載するようなBL@B-SAなどの本明細書中で開示する系は、(i)活性酸素種(ROS)のレベル及び炎症の抑制;(ii)損傷した腸バリアの修復;及び(iii)局所組織における腸マイクロバイオームの調節という利点を提供する。DSS誘導性潰瘍性大腸炎(UC)で治療可能性が実証され(図7)、これは、5-ASA、MPS、及びDEXなどの臨床で使用される他の従来型治療薬を上回った(図10)。さらに、例示的な系BL@B-SAは、TNBS誘発性クローン病(CD)の症状を軽減することも示されている(図11)。最後に、例示的系BL@B-SAは、ビーグル犬の酢酸関連UCにも有効であることが示され(図12)、これはヒト大腸炎における炎症の伝播と種類に類似している。処置中、例示的系BL@B-SAを使用した反復処置後のマウス及びイヌでは、日和見感染、自己免疫、肝毒性などの有害事象は観察されなかった(図6及び13)。これらの結果は、本願の系が、様々な胃腸管障害を治療するための治療薬として使用できることを示す。
【0109】
まとめると、炎症性腸疾患(IBD)などの胃腸管障害の微小環境を調節するために人工酵素・プロバイオティクス細菌系を開発した。この系は炎症を起こした結腸を効果的に標的とすることができ、活性酸素種(ROS)の発現及び炎症を抑制でき、損傷した腸バリアを修復でき、局所組織における腸マイクロバイオームを調節できる。この研究によって、炎症性腸疾患(IBD)などの胃腸管障害を効果的に治療するための新規方策が開発されるだけでなく、炎症を軽減し、微生物叢のディスバイオシスを管理する新規抗炎症プロバイオティクスも提供される。
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【国際調査報告】