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特表2024-5347522次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法
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  • 特表-2次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法 図1
  • 特表-2次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法 図1A
  • 特表-2次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法 図2
  • 特表-2次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法 図3
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  • 特表-2次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法 図8
  • 特表-2次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法 図8A
  • 特表-2次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法 図8B
  • 特表-2次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法 図9
  • 特表-2次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法 図9A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】2次元異方性ビスマス材料、およびコロイド合成を用いて同ビスマス材料を得るための方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/102 20220101AFI20240918BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20240918BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240918BHJP
   C07F 9/94 20060101ALI20240918BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20240918BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240918BHJP
   B22F 1/06 20220101ALI20240918BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F9/24 Z
B22F1/00 R
C07F9/94
B82Y30/00
B82Y40/00
B22F1/06
B01J31/02 103M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504170
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 ES2022070492
(87)【国際公開番号】W WO2023007051
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P202130722
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513283589
【氏名又は名称】ウニベルシタット デ バレンシア
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドール,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】オーストライヒャー,ビクトル
(72)【発明者】
【氏名】アベラン サエズ,ゴンサロ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H050
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BC25A
4G169BC25B
4G169BD08A
4G169BE01B
4G169DA05
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EE01
4G169FB43
4H050AA03
4H050AB84
4K017AA03
4K017AA06
4K017BA10
4K017CA03
4K017CA07
4K017DA09
4K017EJ01
4K017FB03
4K017FB07
4K017FB11
4K018BA20
4K018BB01
4K018BB04
4K018BB06
4K018BC29
4K018BD10
4K018EA60
(57)【要約】
本発明は、Bi-S結合を形成する硫黄原子を含有する有機分子によって形成された少なくとも2つの外部層と、Bi(0)原子の結晶格子によって形成された少なくとも1つの内部層と、を有するサンドイッチ型層状構造を有する、2次元ビスマス材料(「ビスマテン」とも称される)に関する。これらの材料は、電子用途、光電子用途および触媒用途、又はエネルギー貯蔵及びエネルギー変換における使用に好適である。本発明はまた、放射線の適用及びその後の還元の影響下においてアミンと反応し続いてチオールと反応する、ビスマス塩から材料を得る方法に関する。本方法は、コロイドアプローチを使用して、Bi(0)結晶を得る(これは、当該結晶の発生をもたらす可溶性Bi(III)有機金属錯体の光触媒還元に基づくものである)。
【選択図】(なし)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi(0)の二次元結晶を含む材料であって、
- 有機分子R-SHを含み、Rが所望により置換されている直鎖若しくは分岐C~C18アルキル又は所望により置換されているC~C10アリールである、少なくとも2つの外層Aと、
- 結晶構造を形成する金属Bi(0)原子を含んでなる、層Aの間の少なくとも1つの内層Bと、
によって形成され、
前記層Aの有機分子R-SHのS原子が、層Bの隣接するBi(0)原子に共有結合しており、前記層A及びBが、積層軸上に異方性順序を有するサンドイッチ様シート構造を形成するように配置されている、
ことを特徴とする材料。
【請求項2】
層Aが、0.5~3nmの間の厚さを有する、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
層Aが、1.5nmの厚さを有する、請求項2に記載の材料。
【請求項4】
層Bが、5~10nmの厚さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
層Bが、7nmの厚さを有する、請求項4に記載の材料。
【請求項6】
前記層BのBi(0)が、菱面体結晶構造(PDF#44-1246)を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
前記材料が、六方晶形態の結晶を形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の材料。
【請求項8】
前記結晶が、1,000nmより大きい直径を有する、請求項7に記載の材料。
【請求項9】
前記結晶が、20nm未満の厚さを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の材料。
【請求項10】
前記結晶が、500より大きなアスペクト比を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
前記外層Aが、Bi-S結合を形成する硫黄原子で官能化されており、かつ前記内層Bが、菱面体ビスマスである、請求項1~10のいずれか一項に記載の材料。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の材料を製造する方法であって、当該方法は、以下の各工程、すなわち、
(a) 以下の式(I)を有するビスマス塩の、以下の式(II)を有する有機溶媒中での溶液を調製すると共に、以下の式(III)を有するアミンを添加する工程であって、
【化1】

式中、Rが、直鎖又は分岐C~C18アルキルであり、
【化2】

式中、mが、1~20から選択される整数値であり、
【化3】

式中、n1及びn2が、1~10から独立して選択される整数値である、
ところの溶液を調製しアミンを添加する工程と、
(b) (a)で得られた反応混合物の温度を150~250℃の温度まで上昇させ、真空に供し、そして430~530nmの波長を有する放射線を適用する工程と、
(c) 不活性ガスの導入によって(b)の反応媒体の真空を破壊する工程と、
(d) 反応混合物へ、以下の式(IV)を有する還元剤を添加する工程であって、
【化4】

式中、Rが、所望により置換された直鎖若しくは分岐C~C18アルキル又は所望により置換されたC~C10アリールから選択される、還元剤を添加する工程と、
(e) 反応を停止させ、そして得られた生成物を分離する工程と、
を備えてなる、方法。
【請求項13】
前記式(I)のビスマス塩中のRが、直鎖又は分岐Cアルキルである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記式(I)のビスマス塩が、
【化5】

のとおりである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記式(II)の有機溶媒におけるmが、10~18から選択される整数値である、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記式(II)の有機溶媒が、
【化6】

である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記式(III)のアミンにおけるn1及びn2が、5~8から独立して選択される整数値である、請求項12~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記式(III)のアミンが、
【化7】

である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(b)の温度が、200℃である、請求項12~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記工程(b)の放射線が、10~30分、好ましくは15分の時間にわたり適用される、請求項12~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記工程(c)の不活性ガスが、非酸化性ガスであり、好ましくは、アルゴン、窒素、又は二酸化炭素から選択される非酸化性ガスである、請求項12~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記式(IV)の還元剤におけるRが、直鎖C~C12アルキル、またはフェニルから選択される、請求項12~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記式(IV)の還元剤が、ドデカンチオール又はチオフェノールから選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
工程(e)において、(d)で得られた混合物の温度を突然低下させることによって、好ましくは氷浴の手段によって、反応が停止される、請求項12~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
工程(e)において、遠心分離又は濾過によって生成物が分離される、請求項12~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
エネルギー貯蔵又はエネルギー発生のための、請求項1~11のいずれか一項に記載の材料の使用。
【請求項27】
触媒作用のための、請求項1~11のいずれか一項に記載の材料の使用。
【請求項28】
フォトニクスの用途のための、請求項1~11のいずれか一項に記載の材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄原子を有する有機分子によって形成された少なくとも2つの外層と、Bi(0)原子の結晶ネットワークによって形成された少なくとも1つの内層と、を有するサンドイッチ様シート構造を有する、二次元(2D)ビスマス材料(ビスマテン(bismuthene)とも称される)に関する。本発明はまた、可溶性Bi(III)有機金属錯体の光触媒還元が実施されることでBi(0)結晶格子が発生する、コロイドアプローチに基づいてこの材料を得る方法に関する。したがって、本発明は、第15族元素(pnictogens)に基づくナノ材料及びその生成方法の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
ポストグラフェンシート材料は、二次元(2D)限界に近づくにつれて、その前例のない物理的特性及び化学的特性に起因する大きな科学的関心がある。これらのシステムは、(光)電子用途だけでなく、触媒作用、エネルギー貯蔵、又は生物学的用途にもまた有望であり得る。全ての超薄シート材料の中で、2次元第15族元素は、それらの特性がグラフェンを補完し得るか、又は場合によってはグラフェンを超える可能性すらあるので、顕著な場所(地位)を占める。P及びAs、Sb及びBiの両方は、剥離できるシート同素体を有する。しかしながら、異方性薄層の発生は、周期表を下降するにつれてますます複雑になる。これは、原子量の増加に存在する層間力の増加に起因する(P<As<Sb<<Bi)。これは、剥離が液相で実施される場合の横寸法及び明確に定義されていない形態での、並びにマイクロメカニカル剥離が使用される場合の非常に低い又は0度の剥離での、劇的な減少をもたらす。全ての2次元第15族元素のうち、ビスマスは剥離が最も困難である。それ故に、特にビスマスから2次元第15族元素を得ることは、非常に重要な課題である。
【0003】
概して高品質である2次元第15族元素、特にビスマスのスケーラブルな合成は、科学界にとって大きな課題である(非特許文献1)。今日、最も一般的な戦略は、液相剥離及びエピタキシャル成長である。液相剥離は典型的なアプローチであるが、しかしビスマスの場合、この技術は、主に層間の強い相互作用及び顕著な酸化に起因して横寸法の大幅な減少を引き起こし、最終特性及び実際の装置における使用の両方に影響を及ぼす。エピタキシャル成長技術は、非常に高価であり、かつ独立した結晶を得ることができず、これらの材料の大量生成を妨げている。どちらの場合においても、方法は、主に、異なるサイズ及び高い多分散性の小さなナノ粒子の発生をもたらす。
【0004】
文献(非特許文献2)には、NaBiO、ポリビニルピロリドン及び、Fe(III)を用いたナノキューブ、三角ナノプレート、ナノベルト、及びBi球の合成が記載されているが、これらの材料は二次元と見なすことはできない。文献(非特許文献3)には、ペルオキシ二硫酸アンモニウム((NH)、HSO及びHを用いた粗Biの酸剥離について記載しており、これにより、形態を制御することなく、かつ高度に欠陥のある、500nm未満の形態を有しない粒子が得られる。
【0005】
非特許文献4には、オクタデセン中のドデカンチオールとネオデカン酸ビスマスとの反応、及びその後のトリ-n-オクチルホスフィン(tri-n-octylphosphine:TOP)による還元によって発生された、ドデカンチオール酸ビスマス(bismuth dodecanethiolate)の還元によるBiナノ結晶の合成について記載している。非特許文献5は、オレイルアミン中での酢酸ビスマスの熱分解によってビスマスナノ球体を生成する方法について記載している。しかし、2次元材料は、これらの場合のいずれにおいても得られない。
【0006】
したがって、2次元第15族元素結晶、特にBiの成長及び形態を制御することを可能にし、かつ容易に拡張可能である、それらの合成のための効率的な方法を有する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Applied Physics Reviews」、第6巻、021308(2019年)
【非特許文献2】「J.Phys.Chem.B」、第110巻第51号、2006年
【非特許文献3】「Nanoscale」、2018年、第10巻第21106~21115頁
【非特許文献4】「Angew.Chem.Int.Ed.」、2011年、第50巻第1363~1366頁
【非特許文献5】「J.Phys.Chem.C」、2014年、第118巻第2号第1155~1160頁
【発明の概要】
【0008】
[発明の詳細な説明]
本発明は、硫黄原子を含有する有機分子によって形成された少なくとも2つの外層と、Bi(0)原子の結晶ネットワークによって形成された少なくとも1つの内層と、を有するサンドイッチ様シート構造を有する、2次元ビスマス材料に関する。これらBi(0)の異方性結晶は、横寸法が200nmを超え、サイズ/厚さ比率が大きい。外層の硫黄原子と最も隣接するBi(0)原子との間の共有結合の形成は、開放雰囲気中での劣化に対する抵抗性をもたらす安定性を誘導する。この特定の構造によって与えられる材料の特徴により、これは、触媒用途、磁気用途、及び光電子用途において特に有用となる。
【0009】
更に、本発明は、上述の2次元ビスマス材料の生成方法に関する。当該方法は、当該結晶の発生をもたらす可溶性有機金属錯体Bi(III)の光触媒還元に基づくコロイドアプローチを有する。この単純な合成アプローチは、2次元ビスマスの製造を可能にし、単層結晶への道を開き、かついくつか例を挙げると、興味深い医療用途、トポロジー的特性、及び触媒作用の実装においてこれらの2次元結晶を使用するために容易にスケールアップすることができる。
【0010】
より具体的には、本発明は、Bi(III)-ドデカンチオールの有機金属錯体の光化学的還元に基づいて、ビスマテンともまた称される、Bi(0)の異方性2次元結晶を得るためのコロイド合成について開示する。反応変数(ドデカンチオール(dodecanethiol:DDT)濃度、温度、強度、及び光の色)の役割、動力学への影響、並びに結晶サイズ及び形態を評価し、結果を以下に示す。条件を最適化した後、[001]面を優先的に呈する、10nm未満の厚さを有する菱面体Bi(0)のマイクロメトリック結晶(>1.5μm)を、容易に得ることができる。綿密な構造的特徴付け、分光学的特徴付け、及び化学的特徴付けにより、結晶は、1000nmより大きい表面上に欠陥を有しない単結晶であり、酸化が存在せず、かつ結晶を酸化から保護するチオールの薄層(容易に除去可能)を提示することを断定することが可能になる。
【0011】
二次元第15族元素、特にフォスフォレンは、強く酸化する傾向にあり、したがって周囲条件下において分解する傾向があるが、一方で本発明の材料は、シリコンウェハ中の個々の六角形のラマンスペクトルを、合成直後及び数日後の酸化ケイ素の層と比較することによって実証される酸化に対する、極めて大きな安定性を有する(実施例3)。この安定性は、本発明の合成方法に基づく表面コーティングの直接的な結果である。
【0012】
【表1】
【0013】
Bi(0)を得るために使用される光化学反応
【0014】
【表2】
【0015】
2次元第15族元素は、開放雰囲気中で重度の劣化を受ける傾向があることが知られている。例えば、下層のフォスフォレン(phosphorene)及びアルセネン(arsenene)は、数時間以内に完全に酸化する。しかしながら、この制限は、低層ビスマスが表面コーティングによって保護されるので、本発明の合成方法によって克服される。得られた材料の酸化安定性は、老化の兆候の一切ない数日後に特徴付けられた個々の六角形と比較した、新鮮な個々のビスマテン六角形の構造的特徴付けによって実証される。
【0016】
したがって、第1の態様では、本発明は、Bi(0)の二次元結晶を含む材料であって、以下:
- 有機分子R-SHを含み、Rが所望により置換されている直鎖若しくは分岐C~C18アルキル又は所望により置換されているC~C10アリールである、少なくとも2つの外層Aと、
- 結晶構造を形成する金属Bi(0)原子を含む、層Aの間の少なくとも1つの内層Bと、
によって形成されることを特徴とし、
当該層Aの有機分子R-SHのS原子が、層Bの隣接するBi(0)原子に共有結合しており、該層A及びBが、積層軸上に異方性順序を有するサンドイッチ様シート構造を形成するように配置されている、
材料に関する。
【0017】
この材料を形成する結晶は、二次元ハイブリッドマクロ結晶(ミクロンオーダーの直径、ナノメートルスケールの厚さ)である。外層AはR-SHの硫黄原子で官能化され、内層Bは菱面体ビスマスであり、これは、構造中に存在する分子と共有結合及び他タイプの結合を形成することができ、かつ当該構造への他分子又は他官能基の組込みを促進する、官能基の組込として官能化を理解し、新しい特性及び/又は官能性を与える。
【0018】
好ましい実施形態では、層Aは、0.5~3nmの厚さを有する。より好ましい実施形態では、層Aは、1.5nmの厚さを有する。
【0019】
好ましい実施形態では、層Bは、5~10nmの厚さを有する。より好ましい実施形態では、層Bは、7nmの厚さを有する。
【0020】
別の好ましい実施形態では、層BのBi(0)は、菱面体結晶構造を有する(PDF#44-1246)。
【0021】
別の好ましい実施形態では、本発明の材料は、六方晶形態(hexagonal morphology)の結晶を形成する。これらの結晶は、好ましくは1,000nmより大きい直径を有し、かつより好ましくは最大10~25ミクロンまで及び/又は20nm未満の厚さであってもよく、かつより好ましくは最大3nmまで及び/又は500より大きいアスペクト比であってもよい。
【0022】
別の好ましい実施形態では、外層Aは、内層Bよりも低い密度を有する。
【0023】
第2の態様では、本発明は、上記のBi(0)ナノ結晶材料を製造する方法に関し、
当該方法は以下の各工程を備える、即ち、
(a) 以下の式を有するビスマス塩の、以下の式を有する有機溶媒中での溶液を調製すると共に、
【化1】

式中、Rが、直鎖又は分岐C~C18アルキルであり、
【化2】

式中、mが、1~20から選択される整数値であり、
かつ、以下の式を有するアミンを添加する、
【化3】

式中、n1及びn2が、1~10から独立して選択される整数値である、
ところの溶液を調製しアミンを添加する工程、
(b) (a)で得られた反応混合物の温度を150~250℃の温度まで上昇させ、真空に供し、そして430~530nmの波長を有する放射線を適用する工程、
(c) 不活性ガスの導入によって(b)の反応媒体の真空を破壊する工程、
(d) 反応混合物へ、以下の式を有する還元剤を添加する工程であって、
【化4】

式中、Rが、所望により置換された直鎖若しくは分岐C~C18アルキル又は所望により置換されたC~C10アリールから選択される、還元剤を添加する工程、
(e) 反応を停止させ、そして得られた生成物を分離する工程、
を備えてなる。
【0024】
「アルキル」という用語は、本発明では、1~18個の炭素原子を有し、単結合によって分子の残りに結合している、直鎖又は分岐の炭化水素鎖ラジカル、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、n-ペンチル、ドデシルなどを指すが、これらに限定されない。これらのアルキル基は、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボキシル、カルボニル、シアノ、アシル、アルコキシカルボニル、アミノ、ニトロ、メルカプト、及びアルキルチオなどの1つ以上の置換基で置換することができる。
【0025】
「アリール」という用語は、本発明では、5~10個の結合を有する単一又は複数の芳香環を指し、ここで、プロトンは、環から除去されている。好ましくは、アリール基は、5~7個の炭素原子を有する。アリール基は、例えば、フェニル、ナフチル、ジフェニル、インデニル、フェナントリル、又はアントラシルであるが、これらに限定されない。アリールラジカルは、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、カルボキシル、カルボニル、シアノ、アシル、アルコキシカルボニル、アミノ、ニトロ、メルカプト、及びアルキルチオなどの1つ以上の置換基によって、所望により置換され得る。
【0026】
好ましい実施形態では、式(I)のビスマス塩において、Rは、直鎖又は分岐Cアルキルである。
【0027】
より好ましい実施形態では、式(I)のビスマス塩は、以下のとおりである:
【化5】
【0028】
別の好ましい実施形態では、式(II)の有機溶媒において、mは、10~18から選択される整数値である。
【0029】
より好ましい実施形態では、式(II)の有機溶媒は、以下のとおりである:
【化6】
【0030】
別の好ましい実施形態では、式(III)のアミンにおいて、n1及びn2は、5~8から独立して選択される整数値である。
【0031】
より好ましい実施形態では、式(III)のアミンは、以下のとおりである:
【化7】
【0032】
別の好ましい実施形態では、工程(b)の温度は、200℃である。
【0033】
別の好ましい実施形態では、工程(b)の放射線は、10~30分、好ましくは15分の時間にわたり適用される。
【0034】
別の好ましい実施形態では、工程(c)の不活性ガスは非酸化性ガスである。より好ましくは、アルゴン、窒素、又は二酸化炭素から選択される。
【0035】
別の好ましい実施形態では、式(IV)の還元剤において、Rは、直鎖C~C12アルキル又はフェニルから選択される。より好ましくは、式(IV)の還元剤は、ドデカンチオール又はチオフェノールから選択される。
【0036】
好ましい実施形態では、反応は、氷浴を用いて実施され得る温度の突然の低下によって工程(e)において停止される。
【0037】
別の好ましい実施形態では、生成物は、工程(e)において遠心分離によって分離される。
【0038】
本発明の別の態様は、例えばLi、Na、又はK電池におけるエネルギー貯蔵及びエネルギー発生のための;電気触媒又は有機触媒作用のための;(光)電子材料を得るための;フォトニクス用途のための;診断試験用の造影剤における、上記の二次元Bi(0)ナノ結晶材料の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】(a)二次元ビスマテン(2次元)の数層を得るための合成手順を示す。ODE中のBiNeo及びOAの溶液を、200℃で脱気し、次いでDDTを反応混合物に添加する。有機金属錯体Bi-DDTの形成は、溶液の黄色によって実証される。続いて、チオールがジスルフィドに酸化されている間に、Bi(III)はBi(0)に還元される。(b)直径1.5μmより大きいBi(0)の単結晶のBF-TEM、(c)軸[001]に沿った菱面体晶秩序化を観察可能な電子回折(SAEP)。(d)高解像度TEM画像。(e)z軸上のスケールを指し示すタッピングモードで実施されるAFM。
図1A】(f)菱面体構造のBi(0)を得ることを概して裏付けることを可能にするPXRDパターン(PDF#44-1246)。(g)ピークE及びA1gを排他的に示す、赤色レーザ(633nm)で記録された単結晶ラマンスペクトル(挿入図は光学顕微鏡写真を示す)。
図2】(a)DDT濃度に対する反応速度の依存性。黒い曲線は、Bi(III)に対して3当量のDDTであるが、一方で灰色の曲線は、過剰のDDT(1000mM)を有する。反応物の最初(黄色、Bi-DDT)及び最後(黒色、Bi(0)NP))の溶液の写真。(b)球状形態を有するBi(0)NPの存在を観察することを可能にするTEM画像。
図3】光化学的還元によるBi(0)の生成に対する光及び温度の依存性。異なる強度:807lm(a)及び2000lm(b)の白色LED光を用いて評価した、異なる温度で得られたナノ材料の代表的なBF-TEM画像。温度及び光強度又は輝度に対する反応速度の依存性(c)。
図3A】使用したLEDランプの特徴的な発光スペクトル:807lm(灰色)及び2000lm(黒色)(d)。灰色のボックスは、光触媒反応を担う電磁スペクトルの領域450~550nmを指し示す。
図4】厚さプロファイル(b)が抽出された六角形粒子(a)のAFM画像。典型的に、シグナルE及びシグナルA1g(c)で得られたラマンスペクトル。
図4A図4に関する上記説明を参照。
図5】Bi(b)、S(c)、及びO(d)のBF-STEM画像(a)及び積分EDSシグナル。EDSスペクトルシグナル伝達ラインBi-M、Bi-L、及びS-K(e)。硫黄シグナルを考慮したBi-Mライン及びS-Kラインに含まれるエネルギー領域における、EDSシグナルの調整。
図6】Bi 4fシグナルと重ね合わされたS 2pの明確な特徴シグナルが観察される、合成方法によって得られた材料のXPSスペクトル(a)。Ar酸洗いによってこのS含有表面層を除去した後、Sシグナルは観察されず、代わりに、Bi(0)シグナルが排他的に観察され得る(b)。
図7】欠陥のない表面が、1000nmより大きいスケールで観察され得る、Bi(0)のAC-HAADF-HRSTEM画像。画像のFFTがボックスに示されている。
図8】Bi(III)の有機金属前駆体の特徴付け:PXRDパターン。ボックス:2~10°の範囲の増加。最初の3つのピークは、31.7Åの層間距離を有する00l基で指標付けされ得る(A)。ATR-FTIR分光法。2500cm-1(S-H振動)におけるシグナルの非存在は、遊離チオールの非存在を確実にし、これは、Bi-S結合を示唆する(B)。拡散UV-Vis反射率スペクトルは、417nmに吸収極大を有する(C)。不活性雰囲気(He、20mL/分)中において10℃/分で実施した熱重量分析により、305℃での単一の分解工程を観察することができる(D)。
図8A図8に関する上記説明を参照。
図8B図8に関する上記説明を参照。
図9】Bi-Neo、DDT、及びアミンの混合物を含有する溶液のUV-Vis吸収スペクトル:純粋な試薬(A)及びそれらの混合物(B)。
図9A図9に関する上記説明を参照。
図10】本発明の方法によって得られた六角形粒子の断面検査。約1.5nm及びおよそ7nmのコア部分の表面層に基づくサンドイッチ構造。実験(左)、シミュレーション(中央)、及びモデル(右)。
図11】コロイド的に合成された数層のビスマテンの局在表面プラズモン。(a)STEM-EELS実験データ:(a1)EELスペクトルの抽出について指し示された位置である、HAADF-STEMデータ。(a2)~(a5)指し示されたエネルギー範囲内の4つの別個のプラズモニックモードを示す積分EELS強度。(b)個々の六角形のEELS強度のシミュレーション。
図12】ビスマス/ビスマテンのサンドイッチハイブリッド構造の詳細な概略図。指し示された領域の各々の電子回折パターン。(右下パネル)それぞれのシミュレーションと比較した、HRTEMの手段による断面の検査。
図13】EDS/EDXプローブとカップリングしたSTEMによる、本発明の方法によって得られた六角形粒子の断面の検査。上部パネル:ラインは、Bi-Mシグナル、SKシグナル、C-Kシグナル、及びO-Kシグナルの質量正規化パーセンテージを表す。注記:S-Kシグナルを、10倍増加させて観察を促進した。HAADF画像(下部パネル)から各元素のシグナルに対応するラインを抽出することで、次いで、原子分布を目視で確認可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、実施例として説明する。
【実施例
【0041】
[実施例1]:Bi 2次元の合成
この方法では、ドデカンチオールを還元剤として用いて、Bi(III)の可溶性有機前駆体を、光及び温度の影響下において還元した。得られた材料を、反応混合物から遠心分離により分離し、クロロホルムで洗浄した。
【0042】
第1の工程として、1-オクタデセン(1-octadecene:ODE)中の100mMネオデカン酸ビスマス(BiNeo)の原液を、3.614gのBiNeoを25mLのODE中に溶解することによって調製した。コロイド合成の特定の場合において、125μmol(1.25mL)のこの溶液を、ピペットで取り、50mLの二口フラスコに入れた。その後、22.22mLのODE及び1.235mLのオレイルアミン(3.75mmol、30当量)を添加した。一定の磁気撹拌(400RPM)下において油浴(200℃)中で加熱しながら、システムを真空に供し、LEDランプを用いて連続的に照射した。13分間にわたり脱気した後、反応混合物を200℃で更に2分間にわたり保持しながら、アルゴン雰囲気に変更した。セプタムを通して、シリンジを用いて、0.3mL(1.25mmol、10当量)のドデカンチオール(DDT)を注入した。得られた混合物を30~40秒間反応させた。DDTを添加する際、反応混合物は、直ちに黄色に変化し、Bi-DDTの形成を指し示した。DDTをジスルフィドに酸化しながら、Bi(III)の有機金属錯体を、光化学的にBi(0)に還元した。Bi(0)へのBi(III)の還元、その結果として反応の終了は、黒い色(図1のaのスキームにおける色発展を参照)の外観によって確認され、顕著なネマティックテクスチャ(結晶の高い異方性、すなわち、二次元(2次元)結晶の第1のエビデンス)を示した。フラスコを氷浴に5分間浸漬することによって反応を停止した。次いで、溶液を、アルゴン・ドライ・ボックス中において遠心分離(10k RPM、10分)して、Bi(0)結晶の酸化を回避した。
【0043】
Bi(0)の2次元結晶の分離後、固体を、クロロホルム中に再分散させ、遠心分離により3回洗浄した(10k RPM、10分)。このようにして、本発明者らは、残りのODEをクロロホルムと交換し、したがって固体をより容易に乾燥させることを試みた。
【0044】
最終生成物をドライボックス中で乾燥させるか、又はクロロホルム中の懸濁液として貯蔵して、その後の特徴付け(キャラクタライゼーション)に使用した。顕微鏡検査の場合、懸濁液を使用前に超音波処理し(TEM、SEM、AFM、ラマン)、一方で、他のアッセイでは最終乾燥固体を使用した(PXRD、TGA)。
【0045】
【表3】
【0046】
[実施例2]:2次元ビスマス結晶の特徴付け
図1及び図1Aは、得られたBi(0)の2次元六方晶の顕微鏡及び構造特徴付けを示す。図1(b)では、BF-TEMの低倍率画像は、六方晶形態を呈する直径およそ1.5μmの結晶を観察することを可能にする。図1(c)では、電子回折パターン(SAEP)は、結晶子サイズが層状結晶の積層軸に沿って軸[001]上に配向している、菱面体結晶構造の明確なエビデンスを提供する。HRTEM(d)及びAFM(e)は、得られた層状結晶の六方晶形態を確認する。図1Aの(f)のPXRDパターンは、菱面体Biについて報告された結晶構造と完全に指数付けすることができ(PDF#44-1246)、得られた結晶の全体的な菱面体構造の最終試験を提供する。
【0047】
有機金属錯体Bi-DDTは、Bi(III)からBi(0)への還元反応における活性種(前駆体)として同定され、これは、室温でさえも監視され得る(以下の実施例3参照)。図2(a)では、DDTの濃度に対する反応速度の依存性が観察される。化学量論量のDDT(Bi(III)に対して3当量、黒色の曲線)を用いる場合、反応は、1000mMを超えるDDTを用いる場合よりもかなり遅い(灰色の曲線)。使用したDDTの濃度を超えて、評価した全ての場合において、20nmより小さいサイズの球状ナノ粒子が室温で得られる(図2b参照)。Bi(0)へのBi-DDTの還元が起こるためには、反応が不可避的に可視光を必要とすることに言及することが重要である。Bi-DDT前駆体又は反応混合物が暗所で貯蔵される場合、還元は起こらない。
【0048】
室温での挙動を考慮して、光強度及び反応温度の両方に対する反応速度及び得られた形態の依存性もまた評価した。結果を図3及び図3Aに示す。全体として、反応速度と温度との明確な傾向が観察され得る。より高い温度では、図3(c)から分かるように、Bi(III)をBi(0)に還元するのに必要な時間は大幅に減少する(時間軸は対数スケールであることに留意されたい)。反応速度に対する温度の影響に加えて、より明るい/強いLEDランプを使用した場合にも、反応速度の顕著な増加をまた観察することができる(黒色の四角、2000lm対灰色の円、807lm)。図3Aの(d)は、強度の変化を超えて、両方の発光が類似していることが観察され得るランプの発光スペクトルを示し、したがって、発光スペクトルの変化の影響を除外する。次に、赤色光及び青色光を用いて実験を実施したところ、青色発光のみが反応速度の増加に関与しているものと結論付けることができた(灰色のボックス、図3Aのd)。興味深いことに、赤色光は反応速度をわずかに遅くすることさえできる。
【0049】
図3(a)に見られるように、温度は、Bi(0)結晶の形態において重要な役割を果たす。回転楕円体粒子は低温で優勢であるが、一方で回転楕円体粒子の増加は、最終的に200℃以上の温度で高度に異方性の2次元材料へと発達する粒子のファセット形成を促進する。興味深いことに、最高温度及び最も強い光が使用される場合、結晶のサイズは再び減少し、最も顕著な積層軸(厚さ)に沿った成長が観察される。
【0050】
この分析後、200℃及び2000lmのパラメータを、最適化合成条件として選んだ。図4及び図4Aは、厚さ測定値(b)が取得されたセクタを指し示すAFM画像(a)を示す。8nm厚の結晶のラマンスペクトルを図4Aの(c)に示す。ここで、典型的な二重縮退の面内モード及び面外モードは、それぞれ74.8cm-1及び99.8cm-1のラマン転置を有する対称性E及びA1gで観察され得る。スペクトルは、発光波長632.8nmのHeNeレーザを用いて測定した。ラマン顕微鏡法によって実施される特徴付けは、Bi(およそ320cm-1のシグナル)の存在を除外することを可能にし、Bi(0)結晶における酸化の非存在を保証する。
【0051】
STEM-EDSマッピングは、表面に少量の硫黄(S)を有するBi(0)の六方晶の元素組成を明らかにする。図5(b)~図5(d)は、元素Bi、元素S、及び元素Oのマッピングを示す。Bi及びSは等しく分布しているが、一方で結晶中にOが存在しないことにより、得られた結晶(酸化されていない天然の表面)の純度が保証される。図5(e)は、S-Kラインを指し示す積分EDSスペクトルを示す。硫黄シグナルはBi-Mラインと極めて重複するので、EDSシグナルの調整は、エネルギー範囲2.20~2.65keVで行われた。結果を図5f~gに示す。このようにして、EDSシグナルの定量的調整は、S-Kラインの強度を考慮した場合にのみ行うことができることは明らかである。
【0052】
XPS測定により、Bi結晶の表面に硫黄が存在することが確認される。EDS測定の場合と同様に、Bi 4f及びS2pのエネルギーが重複し、結晶の界面化学の明確な特徴付けを妨げる(図6a)。しかしながら、第1の表面層を除去するためにAr+イオンを用いて酸洗いを実施した後、特徴Bi(0)シグナルを明確に観察することができる(図6b)。この第1の表面層(複数可)は、硫黄が豊富であり、かつ酸化に対するバリアとして作用し、材料の同一性を保つ。
【0053】
図7は、収差補正を伴うHAADF-HRSTEMの画像を示し、次に、高速フーリエ変換、FFT(Fast Fourier Transformation、高速フーリエ変換)が観察される。上述のように、材料は、大規模(>1000nm)で大きな欠陥のない単結晶である。
【0054】
[実施例3]:界面化学
特に、分光分析技術、すなわちXPS及びSTEM-EDSをラマン分光法と組み合わせて用いて、より詳細な研究を実施した。図5において、STEM-EDSマッピングは、BF-STEM画像に隣接する積分されたBi-M、S-K、及びO-Kシグナルを示す。EDに含有される高倍率TEMデータは、コーティング層の厚さを指し示すBi結晶子の周りの薄い非晶質縁部を示す。
【0055】
EDSから、Bi及びSは等しく分布しているが、一方で酸素シグナル及び炭素シグナルは、TEMの下にある支持フィルムと明確に相関し得るようになる。図5eの挿入図に示すように、硫黄の追加的な寄与のみが、得られた積分シグナルの正確な調整を可能にする。X線光電子分光法の表面感度は、図6に見られるように、硫黄リッチ表面層の存在を明確にするのに役立つ。興味深いことに、165~170eVのS 2pの強い寄与は、強く酸化された硫黄種(Bi-S結合試験)を指し、酸素保護を指し示している。
【0056】
XPSの真空条件下において、Arの簡単なスパッタリング(30秒)を実施して、このコーティング層を除去し、結果を図6a及び図6bに示す。エッチング後、炭素(285eV)及び酸素(532eV)に関連したXPS強度のほぼ完全な損失、並びに165~170eVのS 2p寄与の消失を追跡することができる(図6b)。Bi 4f領域に注目すると、4f7/2と4f5/2との両方の寄与のシフトが明らかであり、これは純粋なBi(0)表面を生じさせる。したがって、Arスパッタリングは、保護層の簡単で効果的な除去を可能にし、かつ純粋な非酸化Bi(0)への容易なアクセスを与える。
【0057】
したがって、表面感度XPSと空間的分解EDSとの組合せは、Biを環境劣化から分離しながらイオンビームスパッタリングによって容易に除去することができる、保護硫黄種で等しく分布した表面コーティングを結論付けることを可能にする。
【0058】
最後に、六角形の微粒子の断面検査を実施して硫黄系保護層を明確に実証した。図10は、六角形の粒子に記録されたTEM画像を示す。見て分かるように、材料は、検査された区域全体にわたって原子の秩序化を示す。興味深いことに、2つの異なるセクションを観察することができ、すなわち、表面は、内側部分と比較して異なる原子分布を呈する。微粒子のコアにおいて構造は菱面体晶Biに対応するが(図1のPXRDによって実証されるとおり)、一方で、表面はBi-S原子の高度に規則的な配置からなり、表面酸化の欠如の原因となる(図5d)。
【0059】
このサンドイッチ構造の更なる分析を、電子回折(electron diffraction:ED)によって実施された。図12は、各層のEDシミュレーションによるビスマス/ビスマスハイブリッド構造のより詳細な説明を示す。得られたEDパターンとシミュレーションとの完全な相関は、本発明を保護する構造を得ることに関する仮説を補強する。最後に、本発明の方法によって得られたこの六角形材料の断面の検査を、各タイプの要素を空間的に配置することを可能にするEDS/EDXプローブとカップリングされたステムの手段によって行った(図13)。上部パネルに見られるように、これは、粒子の中心ではBiからのみ構成されているが、DDT分子に典型的なS原子及びC原子の存在が観察される面上にある。材料の内部又は表面のいずれにもO原子は一切観察されず、したがってBiタイプの酸化ビスマスの形成を除外できることに留意することが重要である。したがって、これらの結果は、菱面体Biコアと、DDT分子に共有結合した官能化Biの2つの保護外層(Bi-S結合)と、で構成されるサンドイッチ構造が得られることを確認する。
【0060】
[実施例4]:表面プラズモンモード
分光分析技術によって表面の官能化/保護を明確にした後、単色及び収差補正STEM-EELSスペクトル画像を使用して、低エネルギー損失状態(low energy loss regime)における材料のプラズモン挙動を調査した。空軌道の電子励起は、通常、EELSでプローブされる。ここでは、材料の低エネルギー領域を調査した。観察された低エネルギーモードは、フォノニックモード(<1eV)、局在表面プラズモン共鳴(1~10eV)、及び体積プラズモンモード(約20~50eV)へのアクセスを与え得る。金属表面を指し示すこれらの光学モードは、フォトニクス及び触媒作用にとって特に興味深い。
【0061】
局在表面プラズモンの観察は、表面の高品質の証明であり、通常、ビスマスシステムにおけるプラズモン発光の品質は、結晶秩序における欠陥及び歪みの蓄積によって低下する。図1に示すように、コロイド合成六角形ビスマス微粒子は、局所的(HR-STEM)又は全体的(PXRD)のいずれかに言及可能な結晶欠陥を示さず、本発明の方法のコロイドアプローチの利点を強調している。
【0062】
材料のこの例外的な品質は、10eV未満のエネルギー範囲で異なるプラズモンモードを見ることを可能にする。図11aは、調査した六角形、分解モード(a2-a5)、並びに計算された磁場分布(b2-b5)のSTEM画像を示す。したがって、次世代電子顕微鏡と組み合わせた例外的な表面品質は、一切の事前処理を必要とせずにこれらの表面モードの直接測定を可能にする。
【0063】
具体的には、指し示されたエネルギーで4つの異なるプラズモンモードを表示することができる。シミュレートされた結果と比較すると、表面付近の局在化の優れた一致が明らかになる。局在化EELSスペクトルを抽出するために、対数フーリエ逆畳み込み、及びその後の真空取得逆畳み込みZLPの減算を実施した。
【0064】
[測定における方法論の説明]
電子顕微鏡法:
透過(走査)型電子顕微鏡法及び回折は、CHCl溶液のレース状炭素フィルムで覆われたTEM試料ホルダー上に配置されたBi(0)結晶に対して行われた。JEOL-ARM200Fを、200kVで動作するAC-HRSTEMに使用した。TEM及びED測定は、Tecnai F20(200kV)又はJEOL JEM1010(100kV)を用いて行った。EDXSマッピングをFei Titan Themis300(300kV)で記録した。走査型電子顕微鏡データは、10kVで動作するHitachi S4800 FEGで取得した。AFM、SEM、及びラマン測定用の試料は、標準的な酸化ケイ素層を有するシリコンウェハ上にBi(0)溶液を注入し、CHClを蒸発させることによって調製した。
【0065】
原子間力顕微鏡:
原子間力顕微鏡は、Siカンチレバーのストライクモードで動作するVeeco Nanoscope IVaを用いて行った。
【0066】
ラマン分光法:
最終出力7.6μW及び100倍対物レンズ(NA0.9)を備えるHeNeレーザ(632.8nm)を用いて、Horiba LabRam HR Evolutionにより、ラマン分光学的測定を実施した。
【0067】
粉末X線回折:
粉末X線回折(Powder X-ray diffraction:PXRD)パターンは、毛細管プラットフォーム(直径:0.7mm)及び銅放射(Cu Kα=1.54178Å)を備えたPANalytical Empyrean X線プラットフォームを用いて得られた。測定は、0.02°/工程の工程サイズを用いて2θ2~70°の範囲で3回行い、積分時間は1秒であった。
【0068】
X線光電子分光法(X-ray photoelectron spectroscopy:XPS):
XPS測定は、Thermo Scientific(商標)K-Alpha X線光電子分光計で記録した。X線源としてはAl Kα X線照射を使用した。全ての元素について、400μmより大きい集束点を有する0.1eV工程を用いて、100を超えるスペクトルを記録した。XPSデータをThermo Avantage v5.9912ソフトウェアで分析した。
【0069】
FIB断面:
FIBは、FEI Helios G4デュアルビームFIB-SEMを用いて行った。代表的な結晶子を断面のために選び、Ptの保護層を、結晶子の上に堆積させた。次いで、30kVのGaイオンを有するシリコン基板に2つのトレンチを切断した。シートを、マイクロマニピュレータの針に取り付け、シリコンウェハから持ち上げ、Ptを用いてOmniprobe銅グリッドへと溶接した。その後、シートを、Gaイオンによる電子透過性(厚さ約80nm)に達するまで薄くした。次いで、箔試料を、200kVで動作したPhilips CM200 FEG TEMで調査した。
【符号の説明】
【0070】
(なし)
図1
図1A
図2
図3
図3A
図4
図4A
図5
図6
図7
図8
図8A
図8B
図9
図9A
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】