(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】鎌状赤血球症、β-サラセミア、若しくは鎌状赤血球β-サラセミア、又はそれらの表現型の阻害剤をスクリーニングするアッセイ方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240918BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20240918BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240918BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240918BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240918BHJP
C12Q 1/06 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/49 A
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/53 R
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510314
(86)(22)【出願日】2022-08-18
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 US2022040732
(87)【国際公開番号】W WO2023023236
(87)【国際公開日】2023-02-23
(32)【優先日】2021-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503102674
【氏名又は名称】アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】コフィール, ロクサンヌ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ソン-クォン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA02
2G045AA07
2G045AA24
2G045AA29
2G045CA02
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2G045FB03
4B063QA18
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4B063QS33
(57)【要約】
本開示は、鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法を対象とする。本方法は、細胞を含む検査サンプルを、ヘム、血清、及び検査化合物と接触させること、並びに(1)検査サンプル中の細胞上の補体因子の沈着;又は(2)標的エフェクター細胞に対する(1)の補体因子沈着の効果を含む生物学的現象を測定することを含み、参照基準中の生物学的現象と比較した検査サンプル中の生物学的現象の減衰は、検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法であって、前記方法は、
細胞を含む検査サンプルを、ヘム、血清、及び前記検査化合物と接触させること;並びに
(1)前記検査サンプル中の前記細胞上の補体因子の沈着;又は
(2)標的エフェクター細胞に対する前記補体因子沈着の効果
を含む生物学的現象を測定すること
を含み;
参照基準中の前記生物学的現象と比較した前記検査サンプル中の前記生物学的現象の減衰は、前記検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す、方法。
【請求項2】
前記検査サンプルが、赤血球細胞(RBC)、内皮細胞、若しくは血液細胞、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血液細胞が、単球、好中球、及び/又は血小板である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
RBC及び/又は内皮細胞上の前記補体因子の沈着が測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記標的エフェクター細胞が、内皮細胞又は血液細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記血液細胞が、単球、好中球及び/又は血小板である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記参照基準が、前記検査化合物を欠く対照サンプル中の実験的に測定された又は所定レベルの前記生物学的現象についてのシグナルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記生物学的現象の前記シグナルが、内皮細胞の集団中の約20%又はそれを超える数のベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
内皮細胞の前記集団中の前記ベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルが、30%を超える、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
内皮細胞の前記集団中の前記ベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルが、50%を超える、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記生物学的現象についての前記シグナルが、単球中の約10%又はそれを超える数のベースライン組織因子(TF)陽性レベルである、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
単球中の前記ベースラインTF陽性レベルが、15%を超える、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
単球中の前記ベースラインTF陽性レベルが、20%を超える、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法であって、前記方法は、
(a)細胞を含む第1のサンプルを、ヘム及び血清と接触させること;
(b)前記細胞を含む第2のサンプルを、前記検査化合物、ヘム及び血清と接触させること、並びに
(c)(1)前記第1及び前記第2のサンプル中の前記細胞上の補体因子の沈着;又は(2)標的エフェクター細胞に対する前記第1及び第2のサンプルの前記細胞中の前記補体沈着の効果を含む生物学的現象を測定すること
を含み;
前記第1のサンプル中の(c)の前記生物学的現象と比較した前記第2のサンプル中の(c)の前記生物学的現象の減衰は、前記検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す、方法。
【請求項15】
前記第1のサンプルが、赤血球細胞(RBC)若しくは内皮細胞、又はそれらの組み合わせを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記血液細胞が、単球、好中球、及び/又は血小板である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2のサンプルが、RBC若しくは内皮細胞、又はそれらの組み合わせを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記血液細胞が、単球、好中球、及び/又は血小板である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記標的エフェクター細胞が、内皮細胞若しくは血液細胞、それらの組み合わせである、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記血液細胞が、単球、好中球及び/又は血小板である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記生物学的現象が、内皮細胞の集団中の約20%又はそれを超える数のベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルである、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
内皮細胞の前記集団中の前記ベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルが、30%を超える、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
内皮細胞の前記集団中の前記ベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルが、50%を超える、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記生物学的現象が、単球中の約10%又はそれを超える数のベースライン組織因子(TF)陽性レベルである、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
単球中の前記ベースラインTF陽性レベルが、15%を超える、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
単球中の前記ベースラインTF陽性レベルが、20%を超える、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法であって、前記方法は、
(a)RBCを含む第1のサンプルを、ヘム及び血清と接触させること;
(b)前記RBCを含む第2のサンプルを、前記検査化合物、ヘム、及び血清と接触させること、並びに
(c)(1)前記第1及び前記第2のサンプル中の前記RBC上の補体因子の沈着を含む生物学的現象を測定すること
を含み;
前記第1のサンプル中の(c)の前記生物学的現象と比較した前記第2のサンプル中の(c)の前記生物学的現象の減衰は、前記検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す、方法。
【請求項28】
鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法であって、前記方法は、
(a)内皮細胞(EC)を含む第1のサンプルを、ヘム及び血清と、EC上の補体沈着を誘導するのに十分な期間接触させること;
(b)前記ECを含む第2のサンプルを、前記検査化合物、ヘム、及び血清と接触させること、並びに
(c)(1)前記第1及び前記第2のサンプル中の前記EC上の補体因子の沈着;又は(2)ECを含む標的エフェクター細胞に対する前記第1及び第2のサンプルの前記EC中の前記補体沈着の効果を含む生物学的現象を測定すること
を含み;
前記第1のサンプル中の(c)の前記生物学的現象と比較した前記第2のサンプル中の(c)の前記生物学的現象の減衰は、前記検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す、方法。
【請求項29】
鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法であって、前記方法は、
(a)血液細胞、例えば、単球、好中球、及び/又は血小板を含む第1のサンプルを、ヘム及び血清と接触させること;
(b)前記血液細胞を含む第2のサンプルを、前記検査化合物、ヘム、及び血清と接触させること、並びに
(c)血液細胞を含む標的エフェクター細胞に対する前記第1及び前記第2のサンプル中の前記血液細胞上の補体因子の沈着の効果を含む生物学的現象を測定すること
を含み;
前記第1のサンプル中の(c)の前記生物学的現象と比較した前記第2のサンプル中の(c)の前記生物学的現象の減衰は、前記検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す、方法。
【請求項30】
前記測定ステップが、フローサイトメトリーを含む、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記補体因子が、前記補体因子が、補体C3因子、若しくはその断片、又は補体C5b9因子を含む、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記補体因子が、補体C3因子である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記補体因子が、補体C3因子のタンパク質断片である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
補体C3因子の前記タンパク質断片が、iC3bである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記ヘムが、200μMの濃度で提供される遊離ヘムを含む、請求項1~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記RBCが、鎌状赤血球RBC(ssRBC)又はssRBC表現型を形成するように誘導されたRBCを含む、請求項1~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
ssRBC表現型を形成するように誘導された前記RBCが、ホスファチジルセリン(PS)又はホスファチジルエタノールアミン(PE)の細胞表面発現を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記RBCが、鎌状赤血球患者から得られたssRBCを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記血清が、自己血清を含む、請求項1~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記血清が、鎌状赤血球患者からのものである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記内皮細胞が、皮膚微小血管内皮細胞を含む、請求項2、4、5、15、17、19、又は28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
標的エフェクター細胞に対する補体沈着の前記効果が、エフェクター細胞中の補体受容体(CR)を介して媒介される、請求項1~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記補体受容体が、単球中のCR3である、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
標的エフェクター細胞に対する補体沈着の前記効果が、組織因子(TF)のアップ調節をもたらす、請求項1~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記サンプルが、血液サンプルを含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記血液サンプルが、全血サンプルである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記血液サンプルが、抗凝固剤を含む、請求項45又は46に記載の方法。
【請求項48】
前記抗凝固剤が、ヒルジンである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記第1及び/又は前記第2のサンプルが、血液サンプルを含む、請求項14~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記血液サンプルが、全血サンプルである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記血液サンプルが、抗凝固剤を含む、請求項49又は50に記載の方法。
【請求項52】
前記抗凝固剤が、ヒルジンである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記方法が、ヘム及び血液と接触した細胞を含む第3のサンプルを、補体代替経路(CAP)の阻害剤と接触させることをさらに含む、請求項1~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記細胞が、赤血球細胞(RBC)、内皮細胞(EC)、又は血液細胞である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記血液細胞が、単球、好中球及び/又は血小板である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記CAP阻害剤が、C3阻害剤、P因子阻害剤、D因子(FD)阻害剤、又はC5阻害剤を含む、請求項53~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記CAP阻害剤が、C3のぺプチド阻害剤又は経口D因子阻害剤を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記CAP阻害剤が、プロパージン阻害剤を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
前記プロパージン阻害剤が、抗プロパージン抗体である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
抗プロパージン抗体が、二重特異的抗体である、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記二重特異的抗プロパージン抗体が、ミニボディである、請求項59又は60に記載の方法。
【請求項62】
前記CAP阻害剤が、C5阻害剤を含む、請求項56に記載の方法。
【請求項63】
前記C5阻害剤が、抗C5抗体である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記抗C5抗体が、ヒトC5に特異的に結合するエクリズマブ、ラブリズマブ,抗体8110、又は抗体N19-8である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
前記抗C5抗体が、二重特異的抗体である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記二重特異的抗C5抗体が、ミニボディである、請求項63又は65に記載の方法。
【請求項67】
前記方法が、ヘム及び血液と接触した細胞を含む対照サンプルを、P-セレクチンの阻害と接触させることをさらに含む、請求項1~66のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
前記細胞が、赤血球細胞(RBC)、内皮細胞(EC)、若しくは血液細胞、又はそれらの組み合わせである、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記血液細胞が、単球、好中球及び/又は血小板である、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
P-セレクチンの前記阻害剤が、P-セレクチンに結合する抗体である、請求項67~69のいずれか1項に記載の方法。
【請求項71】
前記抗体が、モノクローナル抗体である、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
前記抗体が、クリザンリズマブである、請求項70又は71に記載の方法。
【請求項73】
前記接触が、ヘム、血清、及び前記検査化合物を検査動物に投与することを含む、請求項1~72のいずれか1項に記載の方法。
【請求項74】
前記検査動物が、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、サル、又は霊長類である、請求項73に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
鎌状赤血球症(SCD)は、硬い鎌状の赤血球細胞をもたらす、赤血球細胞中に見出される酸素運搬タンパク質ヘモグロビンの異常により特徴付けられる血液障害群である。SCDの治療のために現在承認されている治療薬は、根本的な原因に対処せずにSCDの1つ以上の症状、例えば、疼痛及び貧血を低減する。SCDの阻害剤をスクリーニングする改善された方法が当分野で必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本開示は、鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BT(sickle cell BT)を治療するための検査化合物を同定する方法を対象とする。
【0003】
本開示は、鎌状赤血球症(SCD)の病態生理を細胞、組織、及び/又は生理学的レベルで分析するためのモデル系及びアッセイに関する。本開示は、部分的には、ヘムが細胞(例えば、鎌状赤血球RBC、内皮細胞)上の補体経路の活性化、特に補体C3及び/又はC5b9沈着を誘導するという所見に基づく。補体経路の活性化は、直接的な細胞損傷を誘発し、並びに/又は下流プロセス、例えば、表面タンパク質の細胞発現の変化及び/若しくは組織因子(TF)のリクルートメントを誘導する。本モデル系及びアッセイ方法は、赤血球細胞(例えば、ssRBC又は誘導ssRBCを用いる)、内皮細胞(EC)、及び血液細胞(例えば、単球、好中球、及び血小板)に対するインサイチューでの補体活性化の効果の試験において有用であり、それらを用いて鎌状赤血球表現型の改善における補体経路阻害剤、例えば、C3阻害剤、C5阻害剤、FD阻害剤、FB阻害剤、プロパージン阻害剤、及び他の補体モジュレーターの潜在的な有用性をベンチマーク化することができる。本開示のアッセイ方法は、様々なマーカー(例えば、ECマーカー発現及びTFリクルートメントを含むiC3b及び/又はC5b9沈着)のモジュレーションを分析する、簡易ながらロバストでハイスループットの方法を提供する。
【0004】
本明細書で開発されるモデル系のもと、P因子阻害剤(例えば、抗プロパージン抗体、例えば、ALXN1820)、経口B因子阻害剤、例えば、例えば、イプタコパン(LNP023)、経口D因子阻害剤、例えば、ALXN2050、補体C3阻害剤(例えば、ペプチド阻害剤)及び補体C5阻害剤(例えば、抗C5抗体、例えば、N19/8)を含む代替経路(AP)阻害剤は、それらがSCDの病態生理、例えば、RBCを破損のために標的化する補体、内皮活性化、及び組織因子リクルートメントを有意に阻害し得たので、SCDの療法において治療的に有用であると同定された。補体系の他のモジュレーター、例えば、補体C1q、補体C1、補体C1s、補体C2、MASP-2、MASP-3、H因子、補体C5a/C5aR(受容体)、補体C3a/C3aR(受容体)、補体C6、及び/又はCD59などを標的化する薬物も、SCDを治療するための薬物/医薬品としての潜在的な使用について調査することができる。
【0005】
いくつかの実施形態では、本開示は、ヘム及び血清に応答する細胞中の生物学的現象の変化を測定することによりSCDを診断する方法に関する。生物学的現象の測定される変化としては、例えば、ヘム及び血清の存在下の細胞上の補体活性化増加、例えば、RBC若しくは内皮細胞(EC)中のC3及び/若しくはC5b9沈着増加;又は標的エフェクター細胞に対する補体沈着増加の間接的効果、例えば、EC若しくは血液細胞、例えば、単球、好中球及び/若しくは血小板の活性化増加を挙げることができる。補体タンパク質の活性及び/又はレベルの変化は、SCDの病態生理を示す。特に、本開示は、補体モジュレーター、例えば、補体の代替経路(AP)の阻害剤の存在下で補体沈着をイメージングし、又はその活性若しくはその下流効果を測定することを含む、SCDを診断する方法に関する。組成物沈着及び/又は補体活性若しくはその下流効果の測定は、蛍光アッセイ(FACS)又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いるハイスループットフォーマットで実施することができる。
【0006】
いくつかの実施形態では、本開示は、ヘム及び血清により誘発される細胞中の生物学的現象の変化を好転又は減衰させる検査化合物の能力を測定することによりSCDの療法において有用な検査化合物をスクリーニングする方法に関する。生物学的現象の変化の好転又は減衰としては、例えば、ヘム及び血清の存在下の細胞上の補体活性化増加の好転若しくは阻害、特に、RBC若しくは内皮細胞(EC)中のC3及び/若しくはC5b9沈着増加の好転若しくは阻害;又はEC若しくは血液細胞、例えば、単球、好中球及び/若しくは血小板の活性化増加の好転若しくは阻害を挙げることができる。上記に提供される通り、生物学的現象を好転又は減衰させる検査化合物の能力は、FACS又はELISAアッセイを用いるハイスループットフォーマットで測定することができる。
【0007】
いくつかの実施形態では、本開示は、補体阻害剤、例えば、APの阻害剤での療法に応答性であるSCD患者の下位集団を同定する方法に関する。本方法は、SCDを有する又は有すると疑われる患者からの細胞(例えば、RBC又は内皮細胞)を含む生物学的サンプルを、ヘム及び血清と、場合により補体阻害剤と一緒に接触させること;補体阻害剤の存在下の細胞中の生物学的現象の変化を測定すること;並びに補体阻害剤に応答して生物学的現象の変化を受ける細胞を含有するサンプルを選択すること;並びに選択されたサンプルに基づいて、補体阻害剤での療法に応答性であるSCDの下位集団を同定することを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、本開示は、SCDを有する又は有すると疑われる患者の治療方法に関する。本方法は、上記に提供される通り、患者のSCD状態の評価を行うこと、例えば、ヘム及び血清に応答する細胞中の生物学的現象の変化、例えば、細胞中の補体沈着増加又は標的エフェクター細胞に対するヘム誘発性補体沈着の下流効果の擾乱を測定すること;並びに生物学的現象改変を正常化させる化合物の投与を介して患者を治療することを含み得る。いくつかの実施形態では、化合物は、補体阻害剤、特にAPの阻害剤である。
【0009】
いくつかの実施形態では、本開示は、SCDの治療において有用な検査化合物のスクリーニングにおける、ヘム及び血清に応答して細胞(例えば、RBC、EC、又は血液細胞)中で誘発される生物学的現象の使用に関し、該現象は、インビボ状況においてSCD病態生理を代表するものである。特に、本使用は、エフェクター細胞、例えば、EC並びに血液細胞(例えば、単球、好中球、及び血小板)に対する補体沈着の下流効果の活性化を含む細胞中の補体沈着を減衰させ得る補体阻害剤、例えば、AP阻害剤を同定することに関する。いくつかの実施形態では、本開示は、SCDの患者の診断、分類、モニタリング、及び治療における、ヘム及び血清に応答して細胞(例えば、RBC、EC、又は血液細胞)中で誘発される生物学的現象の使用に関する。
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明は、鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法に関し、それが企図され、該方法は、細胞を含む検査サンプルを、ヘム、血清、及び検査化合物と接触させること;並びに(1)検査サンプル中の細胞上の補体因子の沈着;又は(2)標的エフェクター細胞に対する(1)の補体因子沈着の効果を含む生物学的現象を測定することを含み;参照基準中の生物学的現象と比較した検査サンプル中の生物学的現象の減衰は、検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す。
【0011】
いくつかの実施形態では、検査サンプルが、赤血球細胞(RBC)、内皮細胞、若しくは血液細胞、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、血液細胞が、単球、好中球、及び/又は血小板である。いくつかの実施形態では、RBC及び/又は内皮細胞上の補体因子の沈着が測定される。いくつかの実施形態では、標的エフェクター細胞が、内皮細胞又は血液細胞である。いくつかの実施形態では、血液細胞が、単球、好中球及び/又は血小板である。
【0012】
いくつかの実施形態では、参照基準が、検査化合物を欠く対照サンプル中の実験的に測定された又は所定レベルの生物学的現象についてのシグナルを含む。いくつかの実施形態では、生物学的現象についてのシグナルが、内皮細胞の集団中の約20%又はそれを超える数のベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルである。いくつかの実施形態では、内皮細胞の集団中のベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルが、30%を超える。いくつかの実施形態では、内皮細胞の集団中のベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルが、50%を超える。いくつかの実施形態では、生物学的現象についてのシグナルが、単球中の約10%又はそれを超える数のベースライン組織因子(TF)陽性レベルである。いくつかの実施形態では、単球中のベースラインTF陽性レベルが、15%を超える。いくつかの実施形態では、単球中のベースラインTF陽性レベルが、20%を超える。
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明は、鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法に関し、該方法は、(a)細胞を含む第1のサンプルを、ヘム及び血清と接触させること;(b)細胞を含む第2のサンプルを、検査化合物、ヘム及び血清と接触させること、並びに(c)(1)前記第1及び第2のサンプル中の細胞上の補体因子の沈着;又は(2)標的エフェクター細胞に対する前記第1及び第2のサンプルの細胞中の補体沈着の効果を含む生物学的現象を測定することを含み;第1のサンプル中の(c)の生物学的現象と比較した第2のサンプル中の(c)の生物学的現象の減衰は、検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す。
【0014】
いくつかの実施形態では、第1のサンプルが、赤血球細胞(RBC)若しくは内皮細胞、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、血液細胞が、単球、好中球、及び/又は血小板である。いくつかの実施形態では、第2のサンプルが、RBC若しくは内皮細胞、又はそれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、血液細胞が、単球、好中球、及び/又は血小板である。いくつかの実施形態では、標的エフェクター細胞が、内皮細胞若しくは血液細胞、又はそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、血液細胞が、単球、好中球及び/又は血小板である。
【0015】
いくつかの実施形態では、生物学的現象が、内皮細胞の集団中の約20%又はそれを超える数のベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルである。いくつかの実施形態では、内皮細胞の集団中のベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルが、30%を超える。いくつかの実施形態では、内皮細胞の集団中のベースラインC3陽性レベル及び/又はベースラインC5b9陽性レベルが、50%を超える。
【0016】
いくつかの実施形態では、生物学的現象が、単球中の約10%又はそれを超える数のベースライン組織因子(TF)陽性レベルである。いくつかの実施形態では、単球中のベースラインTF陽性レベルが、15%を超える。いくつかの実施形態では、単球中のベースラインTF陽性レベルが、20%を超える。
【0017】
いくつかの実施形態では、本発明は、鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法に関し、該方法は、(a)RBCを含む第1のサンプルを、ヘム及び血清と接触させること;(b)RBCを含む第2のサンプルを、検査化合物、ヘム、及び血清と接触させること、並びに(c)(1)前記第1及び第2のサンプル中のRBC上の補体因子の沈着を含む生物学的現象を測定することを含み;第1のサンプル中の(c)の生物学的現象と比較した第2のサンプル中の(c)の生物学的現象の減衰は、検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す。
【0018】
いくつかの実施形態では、本発明は、鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法に関し、該方法は、(a)内皮細胞(EC)を含む第1のサンプルを、ヘム及び血清と、EC上の補体沈着を誘導するのに十分な期間接触させること;(b)ECを含む第2のサンプルを、検査化合物、ヘム、及び血清と接触させること、並びに(c)(1)前記第1及び第2のサンプル中のEC上の補体因子の沈着;又は(2)ECを含む標的エフェクター細胞に対する第1及び第2のサンプルのEC中の補体沈着の効果を含む生物学的現象を測定することを含み;第1のサンプル中の(c)の生物学的現象と比較した第2のサンプル中の(c)の生物学的現象の減衰は、検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す。
【0019】
いくつかの実施形態では、本発明は、鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTを治療するための検査化合物を同定する方法に関し、該方法は、(a)血液細胞、例えば、単球、好中球、及び/又は血小板を含む第1のサンプルを、ヘム及び血清と接触させること;(b)血液細胞を含む第2のサンプルを、検査化合物、ヘム、及び血清と接触させること、並びに(c)血液細胞を含む標的エフェクター細胞に対する前記第1及び第2のサンプル中の血液細胞上の補体因子の沈着の効果を含む生物学的現象を測定することを含み;第1のサンプル中の(c)の生物学的現象と比較した第2のサンプル中の(c)の生物学的現象の減衰は、検査化合物が鎌状赤血球症(SCD)、β-サラセミア(BT)、又は鎌状赤血球BTの治療において有効であることを示す。
【0020】
いくつかの実施形態では、測定ステップが、フローサイトメトリーを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、補体因子が、補体C3因子、若しくはその断片、又は補体C5b9因子を含む。いくつかの実施形態では、補体因子が、補体C3因子である。いくつかの実施形態では、補体因子が、補体C3因子のタンパク質断片である。いくつかの実施形態では、補体C3因子のタンパク質断片が、iC3bである。
【0022】
いくつかの実施形態では、ヘムが、200μMの濃度で提供される遊離ヘムを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、RBCが、鎌状赤血球RBC(ssRBC)又はssRBC表現型を形成するように誘導されたRBCを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、ssRBC表現型を形成するように誘導されたRBCが、ホスファチジルセリン(PS)又はホスファチジルエタノールアミン(PE)の細胞表面発現を含む。いくつかの実施形態では、RBCが、鎌状赤血球患者から得られたssRBCを含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、血清が、自己血清を含む。いくつかの実施形態では、血清が、鎌状赤血球患者からのものである。
【0026】
いくつかの実施形態では、内皮細胞が、皮膚微小血管内皮細胞を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、標的エフェクター細胞に対する補体沈着の効果が、エフェクター細胞中の補体受容体(CR)を介して媒介される。いくつかの実施形態では、補体受容体が、単球中のCR3である。いくつかの実施形態では、標的エフェクター細胞に対する補体沈着の効果が、組織因子(TF)のアップ調節をもたらす。
【0028】
いくつかの実施形態では、サンプルが、血液サンプルを含む。いくつかの実施形態では、血液サンプルが、全血サンプルである。いくつかの実施形態では、血液サンプルが、抗凝固剤を含む。いくつかの実施形態では、抗凝固剤が、ヒルジンである。
【0029】
いくつかの実施形態では、第1及び/又は第2のサンプルが、血液サンプルを含む。いくつかの実施形態では、血液サンプルが、全血サンプルである。いくつかの実施形態では、血液サンプルが、抗凝固剤を含む。いくつかの実施形態では、前記抗凝固剤が、ヒルジンである。
【0030】
いくつかの実施形態では、本方法が、ヘム及び血液と接触した細胞を含む第3のサンプルを、補体代替経路(CAP)の阻害剤と接触させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、細胞が、赤血球細胞(RBC)、内皮細胞(EC)、又は血液細胞である。いくつかの実施形態では、血液細胞が、単球、好中球及び/又は血小板である。
【0031】
いくつかの実施形態では、CAP阻害剤が、C3阻害剤、P因子阻害剤、D因子(FD)阻害剤、又はC5阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、CAP阻害剤が、C3のぺプチド阻害剤又は経口D因子阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、CAP阻害剤が、プロパージン阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、プロパージン阻害剤が、抗プロパージン抗体である。いくつかの実施形態では、抗プロパージン抗体が、二重特異的抗体である。いくつかの実施形態では、二重特異的抗プロパージン抗体が、ミニボディである。いくつかの実施形態では、CAP阻害剤が、C5阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、C5阻害剤が、抗C5抗体である。いくつかの実施形態では、抗C5抗体が、ヒトC5に特異的に結合するエクリズマブ、ラブリズマブ、抗体8110、又は抗体N19-8である。いくつかの実施形態では、抗C5抗体が、二重特異的抗体である。いくつかの実施形態では、二重特異的抗C5抗体が、ミニボディである。
【0032】
いくつかの実施形態では、本方法が、ヘム及び血液と接触した細胞を含む対照サンプルを、P-セレクチンの阻害と接触させることをさらに含む。いくつかの実施形態では、細胞が、赤血球細胞(RBC)、内皮細胞(EC)、若しくは血液細胞、又はそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、血液細胞が、単球、好中球及び/又は血小板である。いくつかの実施形態では、P-セレクチンの阻害剤が、P-セレクチンに結合する抗体である。いくつかの実施形態では、抗体が、モノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、抗体が、クリザンリズマブであり、又はクリザンリズマブのアミノ酸配列を有する。
【0033】
いくつかの実施形態では、接触が、ヘム、血清、及び検査化合物を検査動物中に投与することを含む。いくつかの実施形態では、動物が、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、サル、又は霊長類である。
【0034】
本特許又は出願書類は、少なくとも1つの有色の図面を含有する。有色図面を有する本特許又は特許出願公開の複写物は、請求及び必要な費用の支払い時に官庁により提供される。
【0035】
本明細書に開示される原理、及びその利点のより完全な理解のため、目下、添付の図面と合わせて以下の説明が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】鎌状赤血球症病態生理における鎌状赤血球細胞の代替経路活性化を示す。
【
図2】赤血球細胞上のヘム誘発性補体沈着における、クリザンリズマブの配列を有する抗体(抗P-セレクチン抗体)に対する、ALXN1820(抗プロパージン抗体)、ALXN2050(D因子阻害剤)、及びN19/8(抗C5抗体)を含む代替経路阻害剤のベンチマーク化を示す。
図2Aは、タンパク質C3についての赤血球細胞のヘム誘発性補体沈着を示す。
図2Bは、タンパク質C5b-9についての赤血球細胞のヘム誘発性補体沈着を示す。
図2A及び
図2Bは、クリザンリズマブの配列を有する抗体が、C3オプソニン化又はC5b-9沈着に対する効果をほとんど又は全く有さないことを示す。
【
図3】ヘムがSS-RBC上のC3沈着を用量依存的に誘導することを示す。
【
図4】内皮細胞上のヘム誘発性補体沈着における、クリザンリズマブの配列を有する抗体に対する、ALXN1820、ALXN2050、及びN19/8を含む代替経路阻害剤のベンチマーク化を示す。
図4Aは、タンパク質C3についての内皮細胞のヘム誘発性補体沈着を示す。
図4Bは、タンパク質C5b-9についての内皮細胞のヘム誘発性補体沈着を示す。
図4A及び
図4Bは、ALXN1820及びALXN2050がヘム誘発性C3及びC5b-9を遮断することを示す。
【
図5】ヘムとインキュベートされた全血からの単球のフローサイトメトリー分析を用いて、全血中の単球によるヘム誘発性TF発現を遮断するAP阻害剤が、外因系の凝固経路の開始因子であるTFの発現をアップ調節したことを示す。
図5A及び
図5Bは、組織因子(TF)のアップ調節についての、クリザンリズマブの配列を有する抗体に対する、ALXN1820、LNP023、ペプチドC3阻害剤、N19/8、ALXN2050、及び小分子D因子(fD)阻害剤を含む補体阻害剤のベンチマーク化を示す。
図5は、クリザンリズマブの配列を有する抗体が、単球によるTFアップ調節に対する効果を有さないことを示す。
【
図6】血栓炎症の全血モデルをクリザンリズマブに曝露した場合と比較した、ALXN1820、及びEc(抗C5)を含む代替経路阻害剤に曝露した場合の血栓炎症の全血モデル中のIL-8レベルを示す。
図6は、クリザンリズマブの配列を有する抗体が、血栓炎症の全血モデル中のIL-8産生に対する効果を有さないことを示す。
【
図7-1】ヘムで処置された内皮細胞上のP-セレクチンアップ調節及び補体沈着の顕微鏡イメージングをそれぞれ示す。
図7Aは、P-セレクチンが鎌状赤血球症関連アゴニストによりアップ調節されることを示す。
図7Bは、補体沈着がヘムにより誘導されることを示す。
【
図8】鎌状RBC上のヘム誘発性補体沈着並びに抗プロパージン及び抗C5抗体治療の効果に関するフローサイトメトリーに基づくデータを示す。左は、正常、ヘム、ヘム+抗プロパージン、(ALXN1820)、及びヘム+抗C5を含む様々な条件下のiC3b沈着を示す散布図である。右は、iC3b沈着を定量する棒グラフである。
****P<0.0001;
**P<0.01。
【
図9】鎌状RBC上のヘム誘発性補体沈着並びに抗プロパージン(ALXN1820)及び抗C5抗体治療の効果に関するフローサイトメトリーに基づくデータを示す。左は、正常、ヘム、ヘム+抗プロパージン、及びヘム+抗C5を含む様々な条件下のC5b9レベルを示す散布図である。右は、C5b9レベル、沈着を定量する棒グラフである。
**P<0.01。
【
図10】ヘムに曝露された内皮細胞上のヘム誘発性補体断片沈着並びに補体沈着に対する抗プロパージン(ALXN1820)及び抗C5モノクローナル抗体の効果のフローサイトメトリーに基づく分析を示す棒グラフである。右から左にかけて、正常、ヘム、ヘム+抗プロパージン、及びヘム+抗C5前治療の補体断片レベルの変化が示される。左側パネルはC3/C3b/iC3b沈着を示し、右側パネルは、C5b9沈着を示す。ns=有意でない。
****P<0.0001。
【
図11】SCDのインビボマウスモデルにおけるVOCにおける補体活性化の阻害の効果を試験するための実験アウトラインを示す。Townes SSマウスを5つの群に分け、ヘム処置の10日前からPBS(ビヒクル)、抗プロパージンモノクローナル抗体(14E1)、又は抗C5(BB5.1)モノクローナル抗体で4回、予防的に治療する。動物を50μmol/Kgのヘムに3時間曝露し、その後に動物を屠殺した。ビヒクル治療群の1つにおいて、動物をヘムに曝露せず、それはベースラインとして機能する。安楽死時、血液サンプル及び重要器官を動物から回収してRBC上の補体沈着のレベル、血管内溶血及び血管閉塞の重症度を測定した。
【
図12】SCD動物におけるヘム誘発性血管内溶血に対する抗プロパージン(14E1)及び抗C5(BB5.1)抗体の効果を示す棒グラフを示す。左から右にかけて、正常(対照)、ヘム、ヘム+14E1、及びヘム+BB5.1前治療下の溶血マーカーレベルの変化が示される。以下の溶血マーカーを測定した:ビリルビン(左端);乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)(中央);及び遊離ヘモグロビン(右端)。
****P<0.0001;
***P<0.001;
**P<0.01;
*P<0.05;ns:有意でない。
【
図13】SCD動物におけるヘム誘発性血管内溶血に対する14E1及びBB5.1モノクローナル抗体の効果を示す棒グラフを示す。左から右にかけて、正常、ヘム、ヘム+14E1、及びヘム+BB5.1前治療の補体断片レベルの変化が示される。左側パネルはC3/C3b/iC3b沈着を示し、右側パネルはC5b9沈着を示す。
***P<0.001;
**P<0.01;
*P<0.05;ns:有意でない。
【
図14】肺中のヘム誘発性血管閉塞並びに14E1及びBB5.1モノクローナル抗体治療の効果に関するデータを示す。左は、様々な条件:正常(対照)、ヘム、ヘム+14E1、及びヘム+BB5.1前治療下のマウスの肺中の鎌状赤血球(SS)RBCの代表的な顕微鏡写真である。右パネルは、標準的ソフトウェアを用いて画像の蛍光密度を定量する棒グラフを示す。
****P<0.0001;
***P<0.001。
【
図15】肝臓中のヘム誘発性血管閉塞及びBB5.1モノクローナル抗体治療の効果に関するデータを示す。左は、様々な条件:正常(対照)、ヘム、ヘム+14E1、及びヘム+BB5.1前治療下のマウスの肺中の鎌状赤血球(SS)RBCの代表的な顕微鏡写真である。右パネルは、標準的ソフトウェアを用いて画像の蛍光密度を定量する棒グラフを示す。
****P<0.0001;
***P<0.001;
*P<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本開示は、部分的には、患者の不十分なクオリティ・オブ・ライフを伴う生命を脅かす疾患である鎌状赤血球症(SCD)の発症及び/又は発現における、補体タンパク質、例えば、補体C5及びプロパージンの役割の所見に基づく。
【0038】
補体代替経路における近位及び終末補体阻害を評価するため、鎌状赤血球の赤血球細胞(SS-RBC)及び内皮細胞系、HMEC-1上のヘム誘発性沈着における補体遮断を試験するためのインビトロアッセイを開発した。近位AP阻害剤での細胞の前治療は、ヘムに曝露されたSS-RBC上及び内皮培養物中のオプソニン化及び膜侵襲複合体(MAC)沈着を有効に阻害した。C5の遮断はMAC沈着を有効に阻害したが、C3沈着を阻害しなかった。特に、抗P-セレクチン抗体であるクリザンリズマブは、補体沈着に対する効果を有さなかった。
【0039】
ヘム及び補体が相乗作用して単球上の組織因子(TF)発現を誘導する血栓炎症の全血モデルも開発した。実施例に提示されるデータは、補体阻害がTF発現を予防した一方で、クリザンリズマブは予防しなかったことを実証する。
【0040】
定義
本開示の詳述前、本開示は特定の組成物にも生物系にも限定されず、それらは無論変動し得ることが理解されるべきである。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を記載する目的のためのものにすぎず、限定を意図しないことも理解されるべきである。
【0041】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、内容が特に明示しない限り、複数の参照対象を含む。従って、例えば、「分子」への言及は、場合により、2つ以上のそのような分子の組み合わせを含む、などである。
【0042】
用語「及び/又は」は、関連する列挙項目の1つ以上の任意の及び全ての考えられる組み合わせ、並びに選択肢(「又は」)で解釈される場合、組み合わせの欠落を含む。
【0043】
本明細書に記載の本開示の態様及び実施形態は、態様及び実施形態「を含む」、「からなる」、及び「から本質的になる」を含むことが理解される。
【0044】
用語「約」は、その値のプラス又はマイナス10%の範囲を意味し、本開示の文脈が特に示さない限り、又はそのような解釈と矛盾しない限り、例えば、「約5」は4.5~5.5を意味する。例えば、数値の列挙、例えば、「約49、約50、約55」において、「約50」は、先行値と後続値との間隔の半分未満に及ぶ範囲、例えば、49.5超~52.5未満を意味する。
【0045】
用語「実質的に」は、意図される目的について機能するのに十分であることを意味する。従って、用語「実質的に」は、絶対的又は完全な状態、寸法、測定値、結果などからのわずかな非有意の変動、例えば、当業者により予測されるが全体的な性能にあまり影響を及ぼさない変動(例えば、+/-10%)を許容する。
【0046】
値の範囲が本開示で提供される場合、その範囲の上限と下限との間の各介在値、及びその記述範囲中の任意の他の記述又は介在値が本開示内に包含されることが意図される。例えば、1mM~8mMの範囲が記述される場合、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、及び7mMも明示的に開示されることが意図される。
【0047】
用語「対象」は、任意の動物、例えば、哺乳類であり得る。対象は、例えば、ヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル、ヒヒ、若しくはチンパンジー)、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、又はマウスであり得る。例えば、トランスジェニック動物又は遺伝子改変(例えば、ノックアウト若しくはノックイン)動物が含まれる。
【0048】
本明細書で使用される場合、「予防が必要とされる」、「治療が必要とされる」、又は「それが必要とされる」対象は、適切な医療施術者(例えば、ヒトの場合、医師、看護師、又は診療看護師;非ヒト哺乳類の場合、獣医)の判断により、所与の治療、例えば、補体媒介性疾患又は障害を治療するための特定の治療又は予防又は診断剤から合理的に利益を得るものを指す。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「検出すること」は、サンプル中の1つ以上のパラメーターの測定によりサンプルに関連する値又は値のセットを決定するプロセスを指し、検査サンプルを参照サンプルに対して比較することをさらに含むことができる。本開示によれば、SCDの検出としては、1つ以上のマーカーの同定、アッセイ、測定及び/又は定量が挙げられる。
【0050】
用語「サンプル」は、本明細書で使用される場合、例えば、物理的、生化学的、化学的及び/又は生理学的特徴に基づいて、特徴付け及び/又は同定されるべき細胞及び/又は他の分子実体を含有する、目的の対象から得られ、又はそれに由来する組成物を指す。好ましくは、サンプルは、「生物学的サンプル」であり、それは、生存実体、例えば、細胞、組織、器官、インビトロ操作された器官などに由来するサンプルを意味する。いくつかの実施形態では、組織サンプルの資源は、血液又は任意の血液成分;体液;新鮮な、冷凍及び/又は保存された器官若しくは組織サンプル又は生検物若しくは吸引物からの固形組織;並びに対象の妊娠若しくは発生の任意の時点からの細胞又は血漿であり得る。サンプルとしては、限定されないが、初代若しくは2D及び3D培養細胞又は細胞系、細胞上清、細胞溶解物、血小板、血清、血漿、及び組織培養培地、並びに組織抽出物、例えば、ホモジナイズ組織及び細胞抽出物が挙げられる。サンプルは、それらの調達後に任意の様式で、例えば、試薬(例えば、Ca2+負荷)での処置により操作された生物学的サンプルをさらに含む。
【0051】
用語「標識」は、本明細書で使用される場合、例えば、直接的又は間接的に検出可能な化合物を指す。この用語は、比色(例えば、発光)標識、光散乱標識又は放射性標識を含む。蛍光標識としては、とりわけ、市販のフルオレセインホスホロアミダイト、例えば、FLUOREPRIME(商標)(Pharmacia(商標))、FLUOREDITE(商標)(Millipore(商標))及びFAM(商標)(ABI(商標))(例えば、米国特許第6,287,778号を参照されたい)が挙げられる。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「マーカー」は、正常な生物学的プロセス、病原性プロセス又は治療介入、例えば、SCD用の薬物/医薬品での治療に対する薬理学的応答の指標として客観的に測定することができる特徴を指す。代表的なタイプのマーカーとしては、例えば、細胞中に沈着した量、又は複数の差、例えば、目的のマーカーのレベル及び活性の両方を含む、マーカーの構造(例えば、タンパク質分解に起因する、例えば、タンパク質、例えば、C3若しくはC5中のアミノ酸の長さ)又は数の分子変化が挙げられる。用語「マーカー」は、直接的又は間接的現象の両方を含む。例えば、分析物がC3である場合、マーカーはC3自体又はC3の下流効果、例えば、終末補体経路タンパク質、例えば、C5及びその効果、例えば、C5切断及びC5b9沈着であり得る。
【0053】
用語「生物学的現象」は、本明細書で使用される場合、検査化合物又は実薬に応答するその測定可能な変化を含む疾患状態で擾乱され得る任意のプロセスを指す。
【0054】
用語「スクリーニング」は、本明細書で使用される場合、限定されないが、タンパク質の量又は構造又は活性(例えば、切断C3のレベル、特に切断C3、より特定すると、C3の転換酵素活性)の変化を含む細胞又は細胞産物の遺伝子型又は表現型を評価するためのアッセイを指す。アッセイとしては、ELISAベースアッセイ、BIACOREアッセイ、活性アッセイ(例えば、C3転換酵素活性を測定するためのもの)などが挙げられる。
【0055】
用語「陽性」は、本明細書で使用される場合、対照(例えば、対照細胞、例えば、非治療細胞における同じタンパク質の発現又はその活性)を少なくとも5%(例えば、10%、20%、30%、50%、75%、100%、200%、300%、500%以上、例えば、10倍、20倍又は50倍)超えるパラメーター(例えば、マーカータンパク質の発現又はその活性)の同定を指す。
【0056】
用語「陰性」は、本明細書で使用される場合、対照(例えば、対照細胞、例えば、非治療細胞における同じタンパク質の発現又はその活性)の5%未満(例えば、4%、3%、2%、1%)であるパラメーター(例えば、タンパク質の発現又はその活性)の同定を指す。本明細書で使用される場合、用語「治療する」又は「治療すること」は、介入を提供すること、例えば、対象の任意のタイプの医学的又は外科的管理を提供することを指す。治療は、障害若しくは病態の進行を好転させ、緩和し、阻害し、その可能性を防止若しくは低減するため、又は障害若しくは病態の1つ以上の症状若しくは発現(例えば病態生理)の進行を好転させ、緩和し、阻害若しくは防止し、その可能性を防止若しくは低減するために提供することができる。「予防する」は、少なくともいくつかの個体において、障害若しくは病態、又はそのようなものの症状若しくは発現が少なくとも一定期間起こらないようにすることを指す。治療することは、補体媒介性病態を示す1つ以上の症状又は発現の発症後に、例えば、病態の重症度を好転させ、緩和し、低減するため、及び/又はその進行を阻害若しくは防止するため、並びに/或いは病態の1つ以上の症状若しくは発現の重症度を好転させ、緩和し、低減するため、及び/又はその1つ以上の症状若しくは発現を阻害若しくはするために補体阻害剤(例えば、C3阻害剤、P因子阻害剤、D(FD)因子阻害剤、又はC5阻害剤)を対象に投与することを含むことができる。本明細書に記載の方法によれば、補体阻害剤(例えば、C3阻害剤、P因子阻害剤、D(FD)因子阻害剤、又はC5阻害剤)を、補体媒介性疾患を発症しているか、又は一般集団のメンバーと比較して増加した、そのような障害を発症するリスクがある対象に投与することができる。そのような阻害剤(例えば、補体C5阻害剤)は、予防的に、即ち、病態の任意の症状又は発現の発症前に投与することができる。典型的には、この場合、対象は、例えば、補体活性化条件、例えば、低酸素に曝露された場合、病態を発症するリスクがある。
【0057】
用語「症状」は、疾患、疾病、損傷、又は体内に何らかの異常がある兆候を指す。症状は、その症状を経験している個体により感じられ、又は気付かれるが、他者、例えば、非ヘルスケア専門家には容易に気付かれないことがある。用語「徴候」も、医師、看護師、又は他のヘルスケア専門家により確認され得る、体内に何らかの異常がある兆候を指す。
【0058】
用語「投与」又は「投与すること」は、薬剤、例えば、薬物と同時に使用される場合、薬剤を細胞若しくは標的組織中若しくは上に直接送達すること、又は薬剤を患者に提供し、それにより薬剤が標的化される組織に薬剤が影響を及ぼすことを意味する。
【0059】
用語「接触する」は、薬剤(例えば、抗体、核酸分子、ぺプチド、小分子、又はアプタマー)及び標的(例えば、C3、P因子、D因子、又はC5)を、一方が他方に生物学的効果(例えば、標的の阻害)を発揮するように互いに十分に近接させることを指す。いくつかの実施形態では、接触という用語は、標的への薬剤の結合を意味する。
【0060】
用語「阻害剤」又は「アンタゴニスト」は、本明細書で使用される場合、別の物質(例えば、C3、P因子、D因子、又はC5)の発現、活性、及び/又はレベルを抑制する物質、例えば、抗体、核酸、アプタマー、及び小分子を指す。機能的又は生理学的拮抗は、2つの物質が同じ生理学的機能に対して逆の効果を生じさせる場合に起こる。化学的拮抗又は不活性化は、2つの物質間の、それらの効果を中和する反応、例えば、抗原がその標的に作用するのを防止する抗原への抗体の結合である。体内動態拮抗は、標的に到達する作用物質がより少なくなり、又はそこでのその持続性が低減されるような、物質の体内動態(その吸収、生体内変化、分布、又は排泄)の改変である。用語「阻害する」若しくは「低減する」又はそれらの文法的変形は、標的の規定レベル又は活性の減少又は縮小、例えば、標的のレベル又は活性がほとんどないか又は本質的に検出不可能(多くとも非有意量)であることを指す。このタイプの阻害剤の例は、抗体、干渉RNA分子、例えば、siRNA、miRNA、及びshRNAである。用語「補体経路の阻害剤」は、補体経路の活性化又は応答を抑制する阻害剤を指す。
【0061】
用語「P-セレクチンの阻害剤」は、白血球と相互作用する、細胞接着分子(CAM)であるP-セレクチンの能力を抑制する阻害剤を指す。P-セレクチンの阻害剤は、抗体、例えば、モノクローナル抗体(例えば、クリザンリズマブ)であり得る。
【0062】
本明細書で使用される場合、用語「内因性」は、特定の生物(例えば、ヒト)中で又は生物内の特定の位置(例えば、器官、組織、若しくは細胞、例えば、ヒト細胞)中で天然に見出される分子(例えば、代謝産物、ポリペプチド、核酸、又は補因子)を説明する。
【0063】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、抗原、例えば、補体タンパク質に対する高い結合親和性を有する抗体、又はその機能的部分若しくは断片を意味する。この用語は最も広い意味で使用され、一本鎖可変断片(scFv)、及び単一ドメイン抗体(例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ)断片を含む断片抗原結合(Fab)断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、Fv断片、組換えIgG(rIgG)断片、一本鎖抗体断片を含む、インタクト抗体及び機能的(抗原結合)抗体断片を含むポリクローナル及びモノクローナル抗体を含む。この用語は、IgG並びにそのサブクラス、IgM、IgE、IgA、及びIgDを含む、任意のクラス又はサブクラスの天然、遺伝子操作並びに/又はそうでなければ修飾抗体を包含する。
【0064】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用される場合、特定のエピトープに対する単一結合特異性及び親和性を示す抗体を指す。それゆえ、用語「ヒトモノクローナル抗体」、又は「HuMab」は、単一結合特異性を示し、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変及び定常領域を有する抗体を指す。
【0065】
用語「単一ドメイン抗体」は、ドメイン抗体、VHH、VNAR又はsdAbとしても公知であり、単一単量体可変抗体ドメインからなり、慣用のFab領域中の軽鎖及び重鎖のCHドメインを欠く抗体の一種である。sdAbは、例えば、ラクダ科(例えば、ヒトコブラクダ、ラクダ、ラマ、及びアルパカ)重鎖抗体のVHHドメイン及び軟骨魚(例えば、サメ)重鎖抗体(免疫グロブリン新抗原受容体(IgNAR)としても公知)のVNARドメインから生成することができる。或いは、sdAbは、ヒト又はマウスの正常IgGからの二量体可変ドメインを、数個の重要な残基のラクダ化により単量体に分割することにより生成することができる。
【0066】
用語「二重特異的」は、2つの抗原に結合し得る本開示の融合タンパク質を指す。用語「多価融合タンパク質」は、2つ以上の抗原結合部位を含む融合タンパク質を意味する。
【0067】
用語「小分子」は、約2500amu未満、約2000amu未満、約1500amu未満、約1000amu未満、又は約750amu未満の分子量を有する有機分子を指す。いくつかの実施形態では、小分子は、1つ以上のヘテロ原子を含有する。
【0068】
本明細書で使用される用語「アプタマー」は、特異的標的に結合されるオリゴヌクレオチド(一般に、RNA分子)を指す。「アプタマー」は、オリゴヌクレオチドアプタマー(例えば、RNAアプタマー)を指し得る。用語「アプタマー」は、本明細書で使用される場合、他の分子へのその結合能に基づいてランダムプールから選択されたDNA又はRNA分子を指す。核酸、タンパク質、小分子有機化合物、及びさらには生物全体に結合するアプタマーが選択されている。アプタマーのデータベースは、aptamer(dot)icmb(dot)utexas(dot)edu/のワールド・ワイド・ウェブで維持されている。
【0069】
本明細書で使用される場合、用語「補体C5」は、全長のプロセシングされていない補体C5、及び細胞中のプロセシングから生じる補体C5の任意の形態、及び補体C5の任意の天然に存在する変異体(例えば、スプライス変異体又はアレル変異体)を包含する。ヒト補体C5は、NCBI Gene ID番号727を有する。例示的な野生型ヒト補体C5核酸配列は、NCBI RefSeqアクセッション番号NM_001317163.1及びNM_001735.2に提供されており、それぞれの例示的な野生型補体C5アミノ酸配列は、NCBI RefSeqアクセッション番号NP_001304092.1及びNP_001726.2に提供されている。
【0070】
本明細書で使用される場合、用語「補体C3」は、全長のプロセシングされていない補体C3、及び細胞中のプロセシングから生じる補体C3の任意の形態、及び補体C3の任意の天然に存在する変異体(例えば、スプライス変異体又はアレル変異体)を包含する。ヒト補体C5は、NCBI Gene ID番号718を有する。
【0071】
本明細書で使用される場合、用語「ヒトプロパージン」又は「P因子」は、トランケートドメインであるN末端ドメイン、TSR0を有する7つのトロンボスポンジンI型反復配列(TSR)を有する、血漿中に見出される469アミノ酸可溶性糖タンパク質を指す。ヒトプロパージンは、53kDaタンパク質であり、シグナルぺプチド(アミノ酸1~28)、並びに以下の各々約60アミノ酸の6つの非同一TSR反復配列を含む:アミノ酸80~134(TSR1)、アミノ酸139~191(TSR2)、アミノ酸196~255(TSR3)、アミノ酸260~313(TSR4)、アミノ酸318~377(TSR5)、及びアミノ酸382~462(TSR6)。プロパージンは、棒状単量体の環状二量体、三量体、及び四量体へのオリゴマー化により形成される。ヒトプロパージンのアミノ酸配列は、GenBankデータベースに以下のアクセッション番号で見出される:ヒトプロパージンについては、例えば、GenBankアクセッション番号AAA36489、NP_002612、AAH15756、AAP43692、S29126及びCAA40914を参照されたい。プロパージンは、代替補体活性化カスケードの正の調節因子である。プロパージンに対する公知の結合リガンドとしては、C3b、C3bB及びC3bBbが挙げられる(Blatt,A.et al.,Immunol.Rev.,274:172-90,2016)。
【0072】
本明細書で使用される場合、用語「マウスプロパージン」は、トランケートされているN末端ドメイン、TSR0を有する7つのTSRを有する、血漿中に見出される457アミノ酸可溶性糖タンパク質を指す。マウスプロパージンは、50kDaタンパク質であり、シグナルぺプチド(アミノ酸1~24)、並びに以下の各々約60アミノ酸の6つの非同一TSRを含む:アミノ酸73~130(TSR1)、アミノ酸132~187(TSR2)、アミノ酸189~251(TSR3)、アミノ酸253~309(TSR4)、アミノ酸311~372(TSR5)、及びアミノ酸374~457(TSR6)。マウスプロパージンは、棒状単量体の環状二量体、三量体、及び四量体へのオリゴマー化により形成される。マウスプロパージンのアミノ酸配列は、例えば、GenBankデータベース(GenBankアクセッション番号P11680及びS05478)に見出される。
【0073】
用語「P-セレクチン」は、ヒトにおいてSELP遺伝子によりコードされ、血管の内表面を裏打ちする活性化内皮細胞、及び活性化血小板の表面上で細胞接着分子(CAM)として機能する1型膜貫通タンパク質を指す。P-セレクチンは、炎症中の傷害部位への白血球(白血球細胞)の初期リクルートメントにおける必須の役割を担う。
【0074】
用語「赤血球細胞」又は「RBC」は、酸素運搬を担う循環系を通り循環する細胞を指す。赤血球細胞は、Ca2+負荷を介してホスファチジルセリン(PS)又はホスファチジルエタノールアミン(PE)の細胞表面発現を含む鎌状赤血球表現型を形成するように誘導することができる。
【0075】
本明細書で使用される場合、用語「代替補体経路」は、補体活性化の3つの経路の1つ(他の経路は古典的経路及びレクチン経路である)を指す。代替補体経路は、典型的には、細菌、寄生虫、ウイルス又は真菌により活性化されるが、IgA Ab及び特定のIgL鎖もこの経路を活性化させることが報告されている。
【0076】
本明細書で使用される場合、用語「代替補体経路ディスレギュレーション」は、病原体に対する宿主防御を提供し、免疫複合体及び損傷細胞を除去し、並びに免疫調節についての代替補体経路の能力の任意の異常を指す。代替補体経路ディスレギュレーションは、液相中及び細胞表面の両方で起こり得、過剰の補体活性化又は不十分な調節をもたらし得、それらは両方とも組織損傷を引き起こす。
【0077】
用語「細胞」は、組織の基礎的な構成単位、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、フェレット、ウシ、ヒツジ、ウマなどからの細胞を指す。細胞は、二倍性又は半数性(即ち、性細胞)であり得る。細胞は、倍数性、異数性、又は無核でもあり得る。細胞は、特定の組織又は器官、例えば、血液、心臓、肺、腎臓、肝臓、骨髄、膵臓、皮膚、骨、静脈、動脈、角膜、血液、小腸、大腸、脳、脊髄、平滑筋、骨格筋、卵巣、精巣、子宮、臍帯などからのものであり得る。細胞は、血小板、骨髄球、赤血球、リンパ球、脂肪細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、心筋、骨格筋細胞、内分泌細胞、グリア細胞、神経細胞、分泌細胞、バリア機能細胞、収縮性細胞、吸収細胞、粘膜細胞、周辺細胞、幹細胞(全能性、多能性又は多分化能性)、未授精又は受精卵母細胞、精子などでもあり得る。正常細胞及び形質転換細胞が含まれる。
【0078】
用語「鎌状赤血球症」又は「SCD」は、当技術分野におけるそれらの一般的な意味を有し、赤血球細胞が異常な硬い鎌状をなす遺伝性血液障害を指す。赤血球の鎌状化は、細胞のフレキシビリティを減少させ、様々な生命を脅かす合併症のリスクをもたらす。この用語は、鎌状赤血球貧血、ヘモグロビンSC疾患及び鎌状赤血球ベータ-サラセミアを含む。
【0079】
「ベータサラセミア」又は「βサラセミア」は、本明細書で使用される場合、ヘモグロビンのベータ鎖の合成の低減又は非存在に起因する遺伝性血液障害を意味する。これは、βグロビン遺伝子中又はその付近の1つ以上の突然変異の結果である。
【0080】
用語「静脈内(intravenous)」は、一般に「静脈内(within a vein)」を意味し、対象の標的細胞又は組織に血管系を介してアクセスすることを指す。静脈内(IV)療法では、液体物質が静脈中に直接投与される。他の投与経路と比較して、静脈内経路は、薬剤を身体全体に送達するおそらく最速の方法である。いくつかの医薬、輸血、及び非経口(例えば、非食物)栄養素は、標準的な送達系を用いて静脈内投与される。
【0081】
用語「血管閉塞」又は「VOC」は、当技術分野におけるそれらの一般的な意味を有し、例えば、血管機能不全、組織壊死、及び/又は器官損傷を伴う虚血をもたらす毛細血管の閉塞及び器官への血流の制限をもたらすSCDの一般的合併症に関する。VOCは、通常、血管閉塞危機の構成要素であるが、それらはより限定的であり、臨床的にサイレントであり、血管閉塞危機について入院を引き起こさなくてもよい。本明細書で使用される場合、用語「血管閉塞危機」は、虚血、激痛、壊死、及び器官損傷をもたらす毛細血管の閉塞及び器官への血流の制限に伴う、入院をもたらすSCDの有痛性合併症を指す。
【0082】
用語「急性胸部症候群」は、典型的には発熱、胸痛、及び胸部x線写真上の新たな浸潤の出現により特徴付けられる病態である。SCDに関する用語「慢性肺疾患」は、典型的には、x線写真の間質異常、肺機能損害として、及びその最も重度の形態で肺高血圧の証拠により発現する。
【0083】
用語「溶血性疾患」は、細胞溶解、細胞損傷及び炎症が疾患の病理における役割を担う任意の障害又は疾患を指す。溶血性疾患は、代替経路(AP)活性化が細胞溶解、細胞損傷、及び炎症を引き起こす炎症性障害又は疾患でもある。溶血性疾患としては、赤血球及び/又は血小板の病理的溶解により特徴付けられる疾患が挙げられる。無核細胞、例えば、赤血球及び血小板は、完全溶解に供される。赤血球の溶解は、多くのマーカー、例えば、ヘム、ヘモグロビン、LDH、ビリルビンを放出し、それらのいくつかは、血液及び器官についての病理学的アウトカムを有し得る。有核細胞、例えば、好中球、単球、Tリンパ球は、MACにより侵襲され得るが、完全溶解を受けない。用語「血管内溶血」は、AP活性化並びにC5b-9の付随産生及び細胞表面上のその沈着により引き起こされる無核及び有核細胞の溶解を指す。用語「血管外溶血」は、補体受容体を介するC3b沈着及び除去に起因する細胞の溶解を指す。C3bは、古典的及び代替経路の活性化を介して産生される。本開示は、代替補体経路を介して産生されるC3bに関する。
【0084】
用語「溶血性貧血」は、本明細書で使用される場合、1mm当たりの赤血球(RBC)数又は100mLの血液中のヘモグロビン量が正常未満であり、例えば、赤血球の破損から生じる任意の病態を指す。用語「血小板減少症」は、本明細書で使用される場合、血液中で循環する血小板数が血小板の正常範囲未満である病態を指す。
【0085】
用語「補体沈着」は、血液中の補体関連タンパク質群を含有する一連のカスケード(補体活性化経路)を誘発するような様式で標的細胞(例えば、RBC又は内皮細胞)上の補体組成物、例えば、C5b9及び/又はC3の沈着をもたらす活性又は事象を指す。さらに、補体の活性化により生成されるタンパク質断片は、免疫細胞の移動、食作用及び活性化を誘導し得る。関連下流事象としては、例えば、(a)血液細胞中のヘム放出及び/又は貧血をもたらす標的細胞の溶血;又は(b)食作用及び血管外溶血(EVH)をもたらし得るC3オプソニン化;活性化内皮へのオプソニン化細胞の接着;並びに/又は好中球及び血小板の活性化が挙げられる。
【0086】
SCDに関する用語「誘発因子」は、疾患症状又は病理、例えば、血管閉塞危機を開始させ、伝播させ、又は悪化させる任意の事象又は現象を含む。代表的な例としては、例えば、アシドーシス、低酸素及び脱水が挙げられ、それらの全てはSSヘモグロビンの細胞内重合を増強する(J.H.Jandl,Blood:Textbook of Hematology,2ndEd.,Little,Brown and Company,Boston,1996,544-545頁)。
【0087】
本明細書で使用される場合、用語「マーカー」は、正常な生物学的プロセス、病原性プロセス、又は治療介入、例えば、補体阻害剤での治療に対する薬理学的応答の指標として客観的に測定することができる特徴を指す。代表的なタイプのマーカーとしては、例えば、マーカーのレベル、濃度、活性、又は特性の変化を含む、マーカーの構造(例えば、配列若しくは長さ)又は数の分子変化を含む。
【0088】
用語「対照」又は「参照基準」は、本明細書で使用される場合、検査サンプル、例えば、対照の健常対象又は非治療対象などについての参照を指す。「参照サンプル」は、本明細書で使用される場合、比較に使用される疾患を有しても有さなくてもよい組織又は細胞のサンプルを指す。従って、「参照」サンプルは、これにより、別のサンプル、例えば、SCD患者からの血液と比較することができる基準を提供する。対照的に、「検査サンプル」は、参照サンプルと比較されるサンプルを指す。参照及び検査サンプルが同じ患者から時間を空けて得られる場合など、参照サンプルは無疾患である必要はない。
【0089】
用語「レベル」は、特定の分子種の存在を示す二元的情報(例えば、非存在/存在)、定性的情報(例えば、非存在/低/中/高)、又は定量的情報(例えば、数、頻度、又は濃度に比例する値)を指し得る。タンパク質又は核酸(例えば、mRNA)の「レベル減少」又は「レベル増加」は、参照と比較したタンパク質又は核酸(例えば、mRNA)レベルの減少又は増加を意味する(例えば、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、約500%、若しくはそれよりも大きい数の減少若しくは増加;参照と比較して約10%、約15%、約20%、約50%、約75%、約100%、又は約200%を超える減少若しくは増加;約0.01倍、約0.02倍、約0.1倍、約0.3倍、約0.5倍、約0.8倍、若しくはそれよりも小さい数未満の減少若しくは増加;又は約1.2倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.8倍、約2.0倍、約3.0倍、約3.5倍、約4.5倍、約5.0倍、約10倍、約15倍、約20倍、約30倍、約40倍、約50倍、約100倍、約1000倍、若しくはそれよりも大きい数を超える増加)。タンパク質のレベルは、質量/容積(例えば、g/dL、mg/mL、μg/mL、ng/mL)又はサンプル中の総タンパク質若しくは核酸(例えば、mRNA)と比較した割合で表現することができる。
【0090】
スクリーニングにおいて使用される用語「化合物」は、任意の小分子又は巨大分子化合物を含む。用語「小分子」は、典型的には5KDaよりも小さい化合物、例えば、有機化合物、ペプチド、アプタマーなどを含む。用語「巨大分子」は、典型的には5KDaよりも大きい化合物、例えば、タンパク質及び抗体を含む。化合物としては、所望の生物学的効果を有する、例えば、SCDにおける血管閉塞を低減することが公知の薬剤を挙げることができる。
【0091】
用語「医薬組成物」は、その中に含有される活性成分の生物学的活性が有効であることを許容するような形態であり、製剤が投与される対象に許容不可能に毒性である追加の成分を含有しない調製物を指す。
【0092】
用語「減衰」は、参照と比較した力、効果、又は値の低減(例えば、参照と比較して約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、又は約95%の減少)を指す。
【0093】
病理における補体系
補体系は、身体の他の免疫系と同時に作用して細胞及びウイルス病原体の侵入に対して防御する。適切に機能する補体系は感染微生物に対するロバストな防御を提供する一方、補体経路の不適切な調節及び活性化は、様々な障害の病理発生に関与するとされている。
【0094】
例えば、補体活性化がSCDに関与し得るという最初の報告は、1967年に最初に公開された(Francis and Womack.Am.J.Med.Technol.1967;33(2):77-86)。それ以降、研究はSCD患者の血液中の補体由来断片のレベル増加を報告しており、SCDにおいて補体が活性化されることを実証し、補体が疾患の病態生理における重要な役割を担い得ることを示唆する。
【0095】
SCD病理は、グロビン分子の外表面上のバリンのグルタミン酸に対する置換をもたらす、β-グロビン遺伝子内のミスセンス突然変異から生じることが公知である。このアミノ酸置換により鎌状赤血球ヘモグロビン(HbS)は溶解性が低くなり、脱酸素時に重合しやすくなる。従って、重合HbSを担持する赤血球(例えば、赤血球細胞;RBC)は変形性が低く、微小血管を閉塞し得る。この血管閉塞は、組織虚血及び梗塞を生じさせ、SCD患者間の合併症及び死亡の主因を表す。SCDの臨床的発現は、ホモ接合性グロビン突然変異をはるかに超えて拡大する。画期的な所見は、鎌状(SS)RBCが正常RBCと異なり、インビトロで刺激内皮に接着し得るという発見及びSS-RBC接着がSCDの臨床的重症度と相関するという発見であった。後続の研究は、内皮へのSS-RBC接着における血漿因子、例えば、補体タンパク質の重要性を認識している。SCDのモデル系では、低酸素/再酸素化の誘導後に補体タンパク質の1つ、C5aが活性化されることが示されており(例えば、Vercellotti et al.,Am.J.Hematol,94:3(2019),327-338を参照されたい)、補体タンパク質がこの障害の病理発生に直接関与し得ることをさらに示唆する。しかしながら、重要なことに、SCD又はそのモデルの病理発生における補体系の直接の因果的役割は依然として実証されるべきである。
【0096】
β-グロビン遺伝子中の突然変異は、例えば、ベータサラセミア(BT)を含む他の病理も引き起こす。BTメジャーは、ベータグロビン産生の完全な非存在をもたらす突然変異を含有するベータ-グロビン遺伝子の両アレルにより引き起こされる一方、BT中間型は、ベータグロビン鎖の産生低減及び/又は突然変異ベータグロビン鎖の産生に起因する。BTは、慢性貧血(例えば、RBCの不足)を引き起こす疾患であり、そのことは、補体タンパク質が遺伝子関連障害BTの病理発生における追加の役割を担うことを示唆し得る。
【0097】
病理における補体系
補体系は、身体の他の免疫系と同時に作用して細胞及びウイルス病原体の侵入に対して防御する。適切に機能する補体系は感染微生物に対するロバストな防御を提供する一方、補体経路の不適切な調節又は活性化は、例えば、関節リウマチ(RA);ループス腎炎;喘息;虚血再灌流傷害;非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS);デンスデポジット病(DDD);発作性夜間血色素尿症(PNH);黄斑変性症(例えば、加齢性黄斑変性症(AMD));溶血、肝酵素上昇及び血小板減少(HELLP)症候群;ギラン・バレー症候群(GBS);タンパク質喪失性腸症(例えば、CHAPLE症候群);重症筋無力症(MG);視神経脊髄炎(NMO);造血幹細胞移植後血栓性微小血管症(HSCT後TMA);骨髄移植後TMA(BMT後TMA);デゴス病;ゴーシェ病;糸球体腎炎;血栓性血小板減少性紫斑病(TTP);自然流産;微量免疫血管炎;表皮水疱症;習慣性流産;多発性硬化症(MS);外傷性脳傷害;並びに心筋梗塞、心肺バイパス法及び血液透析から生じる傷害を含む様々な障害の病理発生に関与するとされている(Holers,V.,Immunol.Rev.,223:300-16,2008)。
【0098】
例えば、補体活性化が鎌状赤血球症(SCD)に関与し得るという最初の報告は、1967年に最初に公開され、例えば、Francis and Womack.Am.J.Med.Technol.1967;33(2):77-86を参照されたい。それ以降、研究はSCD患者の血液中の補体由来断片のレベル増加を報告しており、SCDにおいて補体が活性化されることを実証し、補体が疾患の病態生理における重要な役割を担い得ることを示唆する。
【0099】
SCD病理は、グロビン分子の外表面上のバリンのグルタミン酸に対する置換をもたらす、β-グロビン遺伝子内のミスセンス突然変異から生じることが公知である。このアミノ酸置換により鎌状赤血球ヘモグロビン(HbS)は溶解性が低くなり、脱酸素時に重合しやすくなる。従って、重合HbSを担持する赤血球(例えば、赤血球細胞;RBC)は変形性が低く、微小血管を閉塞し得る。この血管閉塞は、組織虚血及び梗塞を生じさせ、SCD患者間の合併症及び死亡の主因を表す。SCDの臨床的発現は、ホモ接合性グロビン突然変異をはるかに超えて拡大する。画期的な所見は、鎌状(SS)RBCが正常RBCと異なり、インビトロで刺激内皮に接着し得るという発見及びSS-RBC接着がSCDの臨床的重症度と相関するという発見であった。後続の研究は、内皮へのSS-RBC接着における血漿因子、例えば、補体タンパク質の重要性を認識している。SCDのモデル系では、低酸素/再酸素化の誘導後に補体タンパク質の1つ、C5aが活性化されることが示されており(例えば、Vercellotti et al.,Am.J.Hematol,94:3(2019),327-338を参照されたい)、補体タンパク質がこの障害の病理発生に直接関与し得ることをさらに示唆する。しかしながら、重要なことに、SCD又はそのモデルの病理発生における補体系の直接の因果的役割は依然として実証されるべきである。
【0100】
β-グロビン遺伝子中の突然変異が、ベータサラセミア(BT)を含む他の病理も引き起こすことも知られている。BTメジャーは、ベータグロビン産生の完全な非存在をもたらす突然変異を含有するベータ-グロビン遺伝子の両アレルにより引き起こされる一方、BT中間型は、ベータグロビン鎖の産生低減及び/又は突然変異ベータグロビン鎖の産生に起因する。BTは、慢性貧血(例えば、RBCの不足)を引き起こす疾患であり、そのことは、補体タンパク質が遺伝子関連障害BTの病理発生における追加の役割を担うことも示唆し得る。
【0101】
補体タンパク質
血漿タンパク質及び膜補因子の複雑な集合体である少なくとも25種の補体タンパク質が存在する。血漿タンパク質は、脊椎動物血清中のグロブリンの約10%を構成する。補体成分は、一連の複雑であるが正確な酵素的切断及び膜結合事象における相互作用によりそれらの免疫防御機能を達成する。生じた補体カスケードは、オプソニン性、免疫調節及び溶解機能を有する産物の産生をもたらす。
【0102】
補体カスケードは、古典的経路(CP)、レクチン経路、又は代替経路(AP)を介して進行し得る。CPは、典型的には、標的細胞上の抗原性部位の抗体認識、及びそれへの抗体結合により開始される。レクチン経路は、典型的には、高マンノース基質へのマンノース結合レクチン(MBL)の結合で開始される。APは、抗体非依存的であり、病原体表面上の特定の分子により開始され得る。これらの経路は、C3転換酵素に集中し、そこで補体成分C3は活性プロテアーゼにより切断されてC3a及びC3bを生じさせる。
【0103】
血液の血漿分画中に豊富である補体成分C3の自然加水分解は、AP C3転換酵素開始ももたらし得る。このプロセスは、「アイドリング」として公知であり、C3i又はC3(H20)を形成するためのC3中のチオエステル結合の自然切断を介して起こる。アイドリングは、活性化C3の結合を支持し、及び/又は中性若しくは陽性電荷特徴を有する表面(例えば、細菌細胞表面)の存在により容易にされる。C3(H20)の形成は、血漿タンパク質B因子の結合を可能とし、次いでそれはD因子がB因子をBa及びBbに切断するのを可能とする。Bb断片は、C3に結合し続けてC3(H20)Bb-「液相」又は「開始」C3転換酵素を含有する複合体を形成する。少量で産生されるにすぎないが、液相C3転換酵素は、複数のC3タンパク質をC3a及びC3bに切断し得、C3bの生成及び表面(例えば、細菌表面)へのその後続の共有結合をもたらす。表面結合C3bに結合しているB因子は、D因子により切断されてC3b、Bbを含有する表面結合AP C3転換酵素複合体を形成する。
【0104】
AP C5転換酵素((C3b)2、Bb)は、AP C3転換酵素への第2のC3b単量体の付加時に形成される。第2のC3b分子の役割は、C5に結合し、Bbによる切断のためにそれを提示することである。AP C3及びC5転換酵素は、三量体タンパク質プロパージンの付加により安定化される。しかしながら、機能代替経路C3又はC5転換酵素を形成するためにプロパージン結合は要求されない。
【0105】
CP C3転換酵素は、C1q、C1r及びC1sの複合体である補体成分C1と、標的抗原(例えば、微生物抗原)に結合している抗体との相互作用時に形成される。抗体-抗原複合体へのC1のC1q部分の結合は、C1rを活性化させるC1の立体構造変化を引き起こす。次いで、活性C1rは、C1会合C1sを切断して活性セリンプロテアーゼを生成する。活性C1sは、補体成分C4をC4b及びC4aに切断する。C3bと同様に、新たに生成されるC4b断片は、標的表面(例えば、微生物細胞表面)上の適切な分子とのアミド又はエステル結合を容易に形成する高反応性チオールを含有する。C1sはまた、補体成分C2をC2b及びC2aに切断する。C4b及びC2aにより形成される複合体は、CP C3転換酵素であり、それはC3をC3a及びC3bにプロセシングし得る。CP C5転換酵素(C4b、C2a、C3b)は、CP C3転換酵素へのC3b単量体の付加時に形成される。
【0106】
C3及びC5転換酵素におけるその役割に加え、C3bは、抗原提示細胞、例えば、マクロファージ及び樹状細胞の表面上に存在する補体受容体とのその相互作用を介してオプソニンとしても機能する。C3bのオプソニン機能は、一般に、補体系の最も重要な抗感染機能の1つとみなされる。C3b機能を遮断する遺伝子病変の患者は、広範な病原性生物による感染を受けやすい一方、補体カスケード順序の後期の病変の患者、例えば、C5機能を遮断する病変の患者は、ナイセリア属(Neisseria)感染の感染のみをより受けやすく、この場合、少しだけより受けやすいことが見出される。
【0107】
AP及びCP C5転換酵素は、C5をC5a及びC5bに切断する。C5の切断はC5bを放出し、それは溶解終末補体複合体、C5b-9の形成を可能とする。C5bは、C6、C7及びC8と組み合わさって標的細胞の表面でC5b-8複合体を形成する。いくつかのC9分子の結合時、膜侵襲複合体(MAC、C5b-9、終末補体複合体(「TCC」))が形成される。十分な数のMACが標的細胞膜中に挿入される場合、それらが作出する開口部(MAC細孔)は、標的細胞の急速な浸透圧溶解を媒介する。
【0108】
C5の切断はC5aも放出し、それは強力なアナフィラトキシン及び化学走化性因子であることが示されている。
【0109】
補体経路阻害剤
補体経路の成分に結合し、それを阻害する化合物は、SCD、BT、又は鎌状赤血球BTの治療に有用であり得る。開示されるアッセイを用いて補体タンパク質(例えば、C3、P因子(プロパージン)、D因子、又はC5)に結合し、それを阻害し、SCD、BT、又は鎌状赤血球BTの治療に有用である化合物を検査することができる。
【0110】
代替補体経路阻害剤のための検査化合物は、多数の異なるモダリティから選択することができる。検査化合物は、抗体、核酸分子(例えば、DNA分子若しくはRNA分子、例えば、mRNA若しくは阻害性RNA分子(例えば、短鎖干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、若しくはショートヘアピンRNA(shRNA))、若しくはハイブリッドDNA-RNA分子)、ぺプチド、小分子(例えば、プロパージン小分子阻害剤)、シグナリングカスケードの阻害剤、シグナリングカスケードの活性化因子、若しくはエピジェネティック調節因子)、又はアプタマーであり得る。これらのモダリティのいずれかは、補体タンパク質の機能;補体発現;補体結合;又は補体シグナリングを標的化するように(例えば、阻害するように)指向される補体阻害剤であり得る。核酸分子又は小分子は、修飾を含むことができる。例えば、修飾は、化学的修飾、例えば、マーカー、例えば、蛍光マーカー又は放射性マーカーへのコンジュゲーションであり得る。修飾としては、薬剤を特定の細胞又は組織に標的化するための抗体へのコンジュゲーションを挙げることもできる。さらに、修飾は、化学的修飾、パッケージング修飾(例えば、ナノ粒子若しくはマイクロ粒子内のパッケージング)、又は標的化修飾であり得る。
【0111】
本明細書に記載のアッセイにおいて使用される補体経路阻害剤としては、プロパージン及びヒト血清アルブミンに結合する二重特異的融合分子であるALXN1820;小分子D因子阻害剤である、ベルミンコパン(vermincopan)としても公知であるALXN2050;抗C5抗体であるN19/8(例えば、Wuerzner et al.Inhibition of terminal complement complex formation and cell lysis by monoclonal antibodies,Complement Inflammation,8:328-340 1991を参照されたい);及びLNP023としても公知であり、小分子B因子阻害剤であるイプタコパンが挙げられる。イプタコパンは、CAS#1644670-37-0及びFDA Drug番号8E05T07Z6Wを有する。
【0112】
他の補体阻害剤としては、経口D因子(FD)阻害剤であり、構造:
【化1】
を有する化合物3及び4が挙げられる。
【0113】
本明細書で使用される対照は、抗P-セレクチン抗体であり、SCDにおけるVOC予防用のFDA承認製品であるADAKVEO(登録商標)としても公知の、クリザヌルマブ(Crizanulumab)の公開配列を用いて製造された抗体である。クリザヌルマブは、CAS#1690318-25-2及びFDA Drug番号L7451S9126を有する。
【0114】
抗体8110は、ヒト抗C5組換え抗体(クローン8110)である。この抗体は市販されている(例えば、Creative Biolabs#HPAB-1796LY)。
【実施例】
【0115】
以下は、本開示の方法の実施例である。上記に提供される一般的説明を考慮して、様々な他の実施形態を実施することができることが理解される。
【0116】
実施例セクション及び他箇所で、本開示の様々な実施形態の実施において有用な代表的なタイプの抗体が、例えば、特定の供給業者及び/又はカタログ番号に関する情報と提供される。本開示は、特定の供給業者/製造業者からの抗体検出試薬を利用する例示的な実施形態に限定されないことが理解されるべきである。本開示のバイオマーカー/分析物に対する抗体は、Biolegend(San Diego、CA)、Southern Biotech(Birmingham、AL)、United States Biological(USB;Salem、MA)、Lifespan Biosciences(LSBIO;Seattle、WA)、Abcam(Cambridge、United Kingdom)、Cell Signaling Technology(Danvers、MA)、及びSigma-Aldrich(St.Louis、MO)を含む任意の製造業者から入手することができる。抗体は、慣用の技術、例えば、哺乳類、例えば、マウス若しくはウサギの免疫化及び/又はハイブリドーマ技術を用いて生成することもできる。
【0117】
実施例1~3は、SCDに関連する疾患病態生理の機序をモデリングするインビトロアッセイを用いて補体阻害の有効性を実証する実験及び結果を記載する。これらの実験において、抗プロパージン/抗ヒト血清アルブミン二重特異的VHH抗体(ALXN1820)、小分子D因子阻害剤(ALXN2050)、及びC5のモノクローナル抗体阻害剤(N19/8)を含む比較分析を実施した。さらに、これらの阻害剤を、近年FDA承認されたSCDにおけるVOC予防用の治療薬である、クリザンリズマブの配列を有する抗体に対してベンチマーク化した。
【0118】
実施例1~3からの検査対象品を表1に示す。
【0119】
【0120】
実施例1:C3及びC5b-9についての補体誘発性沈着アッセイ
ヘムによるSS RBC上の補体沈着の誘導及びALXN1820遮断の評価
ヘモグロビン遺伝子中の突然変異についてホモ接合性(SS)であるSCD患者からのRBC及び血清を、BioIVT(それぞれカタログHUMANRBCALSUZN及びHMRBC-SCA)及びSanguine Biosciences(Study#24348)から入手した。ゼラチンベロナール緩衝液(GVB)をBoston Bioproducts(カタログIBB-300X)から入手した。Mg-EGTA(カタログB106)、C8枯渇正常ヒト血清(カタログA325)及び正常ヒト血清(カタログNHS)をComplement Technologyから入手した。PBSをCorning、カタログ21-031-CVから入手した。ブタヘム(Sigma、カタログ51280)を様々な濃度(50~800uM)で用いて補体活性化を増幅させ、ヒト細胞上の沈着を誘導した。
【0121】
全ての遠心分離を4℃で440×gで5分間実施し、上清をマルチチャンネルピペットで吸引して緩いRBCペレットの妨害を回避した。
【0122】
補体阻害アッセイにおける使用のためのヘムの適切な濃度の同定
患者SS-RBCをPBS中で3回洗浄し、GVB、5mMのMg-EGTA中で再懸濁させ、無菌V底96ウェルプレートに2×106個の細胞/ウェルの濃度で再分注した。自己血清を20%の最終濃度まで添加した。ヘムを0、100、200、400、及び800μMで用いた。37℃ 5%のCO2での20~30分間のインキュベーション後、10%EDTAを含有するPBS(Corning、カタログ46-030-CI)を添加して補体活性化を停止させた。RBCを洗浄し、以下に詳述される通りiC3bに対する抗体で染色した。
【0123】
ヘムにより誘導されるSS-RBC上の補体沈着のAP遮断
患者SS-RBCをPBS中で2回又は3回洗浄した。補体沈着を誘導するため、RBCをGVB、5mMのMg-EGTA(アッセイ緩衝液)中で5×10
7個の細胞/mLで再懸濁させ、30μLを無菌V-96ウェルに添加した。自己血清を20%の最終濃度まで添加した。或いは、正常ヒト血清を20%の最終濃度まで添加した(
図8及び
図9に示されるデータについて)。補体阻害剤をアッセイ緩衝液中で3.125μMの5×作業原液に希釈し、細胞を含有するウェルに10μLを添加した。ブタヘムを400μMまで添加し、細胞を37℃、5%のCO
2で20~30分間インキュベートした。150μL/ウェルの、10mMのEDTAを含有するPBSの添加により補体活性化を停止させた。細胞を遠心分離し、200μLのPBSで1回洗浄し、以下のiC3b及びC5b-9沈着について染色した。
【0124】
SS-RBCの表面上のiC3b及びC5b-9沈着のフローサイトメトリー分析
細胞を、PBS中で4μg/mLまで希釈されたウェル当たり50μLのiC3b(Quidel、カタログA209)又はC5b-9抗体(Quidel、カタログA239)中で再懸濁させ、4℃で20~30分間インキュベートした(いくつかの場合、フローサイトメトリーのための染色をシース液中で実施した)。細胞を150~200μLのPBSで2回洗浄し、PBS中で4μg/mLまで希釈された50μLのヤギ抗マウスIgG(H+L)-AF488(InvitrogenカタログA11029)中で再懸濁させ、4℃で20~30分間インキュベートした。いくつかの実験では、ヤギ抗マウスIgG2b AF488を4μg/mLで用いた(Invitrogen、カタログA21141)。細胞を150~200μLのPBSで2回洗浄し、フローサイトメトリー分析のためにLSR Fortessa上で取得した。
【0125】
結果
ヘムがC3沈着の誘導における役割を担うかどうか決定するため、及び阻害アッセイにおける使用に最適な濃度を見出すために、SS-RBCを、MgEGTAを含有するGVB中で希釈された20%の自己血清の存在下で様々な濃度のヘム(100~800μM)とインキュベートした。
図3及び表2に示される通り、フローサイトメトリー分析は、ヘムがSS-RBCの強力で用量依存的なオプソニン化を誘導することを明らかにした。
図3に示される通り、染色は血清の非存在下で観察されず、細胞への抗体結合が、フローサイトメトリー実験における一般的な非特異的抗体染色の原因である細胞損傷の結果でないことを示した。GVB/10mMのEDTAにおいて実施された同様の実験はSS-RBCのオプソニン化をもたらさず、染色が補体活性化に起因し、アッセイ条件のアーチファクトでないことを裏付けた。RBc及び内皮細胞アッセイにおいて進めるために選択されたヘムの濃度は、200uMであった。
【0126】
【0127】
図2A及び
図2Bは、赤血球細胞上のヘム誘発性補体沈着における、クリザンリズマブの配列を有する抗体に対する、ALXN1820、ALXN2050、及びN19/8を含む代替経路阻害剤のベンチマーク化を示す。
図2Aは、タンパク質C3についての赤血球細胞のヘム誘発性補体沈着を示す。
図2Bは、タンパク質C5b-9についての赤血球細胞のヘム誘発性補体沈着を示す。
図2A及び
図2Bは、クリザンリズマブの配列を有する抗体が、C3オプソニン化又はC5b-9沈着に対する効果をほとんど又は全く有さないことを示す。
【0128】
図2A、
図2B及び表3に示される通り、ヘム及び自己血清とインキュベートされたSS-RBCのフローサイトメトリー分析は、C3の顕著な沈着及びC5b-9のわずかな沈着を実証する AP阻害剤ALXN1820及びALXN1850(それぞれプロパージン及びD因子阻害剤)の添加は、C3沈着を90%超低減した。予測される通り、C5阻害剤N19/8は、補体カスケード中でC5がC3の下流であるので、C3沈着に対する効果を有さなかった。注目すべきことに、
図2A及び
図2Bに示される通り、SCD患者を治療するためにFDAにより近年承認された抗P-セレクチン抗体は、C3沈着に対する効果を有さなかった。SS-RBC上のC5b-9沈着がC3沈着ほどロバストでなかった一方で、AP遮断はMACを50%超低減した。予測される通り、
図2A及び
図2Bに示される通り、C5阻害剤、N19/8はMAC沈着を75%超遮断した一方で、抗Pセレクチン抗体は効果を有さなかった。
【0129】
【0130】
本実験は、近位補体カスケードがC3及び膜侵襲複合体(MAC)沈着の両方を阻害する一方で、C5阻害剤、N19/8はMAC沈着のみを遮断することを実証した。SCD患者におけるVOCの発生率の低減のために近年承認された抗Pセレクチン抗体である、クリザンリズマブの配列を有する抗体は、沈着に対する効果を有さなかった。
【0131】
本質的に上記の通り実施されたさらなる実験では、
図8及び
図9に示される通り、ヘムは、鎌状赤血球患者からの赤血球細胞上の有意水準のiC3b及びC5b-9沈着を誘発した。スチューデントのt検定により決定されたiC3b及びC5b-9それぞれについてのP<0.0001及び<0.01の有意水準を注釈表示した。SCD RBC上のヘム誘発性補体沈着は、抗プロパージンの存在下でiC3bについては>95%、C5b-9については>85%遮断された(それぞれP<0.0001及び<0.01)。C5阻害は、SCD RBC上のiC3b及びC5b-9沈着低減ももたらした(両方についてP<0.01)。
【0132】
実施例2:AP阻害剤は、HMEC-1細胞上のヘム誘発性補体沈着を遮断する
内皮細胞系HMEC-1をATCC(CRL3243)から購入し、AcCellerate(カタログCBA02、ロット92-190318FG01)で拡大培養及びバンク化した。これは、皮膚微小血管内皮細胞系である。細胞を<5の継代で実験において使用した。
【0133】
全ての遠心分離ステップを室温(RT)で200~300gで5~7分間実施した。HMEC-1細胞を6ウェルプレート中にウェル当たり1.5×10
5個の細胞で培地(内皮細胞成長培地MV2、Promocell、カタログ22022)中で播種し、コンフルエンシーに到達させた(72時間)。正常ヒト血清(Complement Technologies、カタログNHS)を1uMの阻害剤でスパイクし、5~10mMのMgEGTAを含有する生細胞イメージング溶液(LCIS)(Invitrogen、カタログA1429DJ)を用いて20%まで希釈し、培地に代えてHMEC-1培養物に添加した。或いは、MgEGTAを有さないLCISを検査緩衝液として用いた(
図10に示されるデータについて)。ヘムを400μMまで添加し、混合し、37℃で20~30分間インキュベートした。細胞を2mLのPBS(Corning、カタログ21-031-CV)で2回リンスし、10mMのEDTAを含有するPBS(Corning、カタログ46-034-CI)で剥離した。細胞を遠心分離し、ペレットを400μLのシース液(BD Biosciences、カタログ342003)中で再懸濁させ、V底96ウェルプレートにデュプリケートで移した。遠心分離後、4μg/mLまで希釈されたiC3b又はC5b-9抗体のいずれかを含有するウェル当たり50μLのシース液中でペレットを再懸濁させた。数回の洗浄後、細胞をシース液中で4μg/mLまで希釈された50μLのヤギ抗マウスIgG(H+L)AF488と4℃で30分間インキュベートした。数回の洗浄後、細胞をフローサイトメトリー分析のためにLSR Fortessa上で取得した。
【0134】
結果
図4A及び
図4Bは、内皮細胞上のヘム誘発性補体沈着における、クリザンリズマブの配列を有する抗体に対する、ALXN1820、ALXN2050、及びN19/8を含む代替経路阻害剤のベンチマーク化を示す。
図4Aは、タンパク質C3についての内皮細胞のヘム誘発性補体沈着を示す。
図4Bは、タンパク質C5b-9についての内皮細胞のヘム誘発性補体沈着を示す。
図4A及び
図4Bは、ALXN1820及びALXN2050が内皮細胞上のヘム誘発性C3及びC5b-9沈着を遮断することを示す。
【0135】
図4A、
図4B、及び表4に見られる通り、ヘム及びNHSとインキュベートされたHMEC-1細胞のフローサイトメトリー分析は、C3及びC5b-9の両方の顕著な沈着を実証する。AP阻害剤ALXN1820及びALXN1850の添加は、C3沈着を90%超低減した。予測される通り、C5阻害剤N19/8は、C3沈着に対する効果を有さなかった。SS-RBCで得られた実験結果と同様、抗P-セレクチン抗体は、
図4A及び
図4Bに示される通り、内皮細胞上のC3沈着に対する効果を有さなかった。予想外に、C5b-9沈着は、HMEC-1細胞上でSS-RBC上よりもかなりロバストであった。これは、報告の通り(Frimat et al.(Frimat,Marie,Fanny Tabarin,Jordan D.Dimitrov,et al.2013,Complement Activation by Heme as a Secondary Hit for Atypical Hemolytic Uremic Syndrome.Blood 122(2):282-292))、バイベル・パラーデ小体の移行時の補体のEC表面調節因子の切断に起因し得、それらは沈着をより受けやすいままとなる。近位(C3)及び終末(C5)補体活性化の両方の遮断は、MAC沈着の90%を超える阻害をもたらした。特に、
図4A及び
図4Bに示される通り、抗P-セレクチンは、TCC形成に対する効果を有さず、クリザンリズマブがSCD内皮を補体媒介性の活性化からも損傷からも保護しないことを示唆した。
【0136】
【0137】
図7A及び
図7Bは、ヘムで処置された内皮細胞上のp-セレクチンアップ調節及び補体沈着の顕微鏡イメージングをそれぞれ示す。
図7Aは、p-セレクチンが鎌状赤血球症関連アゴニストによりアップ調節されることを示す。
図7Bは、補体沈着がヘムにより誘導されることを示す。
【0138】
本実験は、近位補体遮断がC3及び膜侵襲複合体(MAC)沈着の両方を阻害する一方で、C5阻害剤、N19/8がMAC沈着のみを遮断することを実証した。SCD患者におけるVOCの発生率の低減のために近年承認された抗Pセレクチン抗体である、クリザンリズマブの配列を有する抗体は、沈着に対する効果を有さなかった。
【0139】
図10は、本質的に上記の通り実施されたさらなる実験の結果を示す。
図10は、ヘムに曝露された内皮細胞上のヘム誘発性補体断片沈着並びに補体沈着に対する抗プロパージン及び抗C5抗体の効果のフローサイトメトリーに基づく分析を示す棒グラフを掲載する。左から右にかけて、正常、ヘム、ヘム+抗プロパージン、及びヘム+抗C5前治療の補体断片レベルの変化が示される。左側パネルはC3/C3b/iC3b沈着を示し、右側パネルは、C5b9沈着を示す。
図10に示される通り、ヘムはHMEC-1細胞上のiC3b及びC5b-9の沈着を強力に誘発した(両方についてP<0.0001)。
【0140】
図10は、抗プロパージン抗体の存在下で、HMEC-1上の沈着がiC3bについては>70%、C5b-9については>85%遮断されたことを示す。C5阻害がMAC沈着を有効に遮断した一方で(P<0.0001)、iC3bの沈着は影響を受けなかった。
【0141】
実施例3:AP阻害剤は全血中のヒト単球上の組織因子発現のヘム誘発性アップ調節を予防する
ヒト全血をInstitutional Review Boardプロトコルに従って健常ドナーから社内で入手した。Haematologic Technologies(カタログSCAT-296-5/5、500ATU/mL)から入手したカスタムヒルジン採血チューブ中に採血した。この抗凝固剤は、補体及び凝固(トロンビンを介するがそれを越えない)の同時活性化を可能とする。血液をfacsチューブ中にアリコート化し(チューブ当たり0.2mL)、阻害剤を1μMまで添加した。ヘムを100μMまで添加し、サンプルをおよそ30分ごとに混合しながら37℃、5%のCO2で4時間インキュベートした。フローサイトメトリーのために染色するため、10μLのTruStain FcX(Biolegend、カタログ422302)をRTでの5~10分間のインキュベーションのために添加した(IgG受容体を遮断するため)。マウス抗ヒトCD14 PerCP Cy5.5(BD Biosciences、カタログ550787)(サンプル当たり5μL)及びマウス抗ヒト組織因子-PE(BD Biosciences、カタログ550312)を添加し(サンプル当たり20μL)、サンプルを混合し、RTで30分間インキュベートした。RBCを溶解させるため、3mLの1×溶解緩衝液(BD Biosciencesカタログ555899)を各チューブに添加し、次いでボルテックスに供し、RTで20分間インキュベートした。サンプルを340gで5分間遠心分離し、PBSで2回洗浄した。細胞ペレットを0.5mLのPBS中で再懸濁させ、フローサイトメトリー分析のためにLSR Fortessa上で取得した。単球をCD14トリガリングを介してゲーティングし、データを組織因子(TF)について陽性であるCD14単球の割合として表現した。
【0142】
結果
ヘムは、強力なDAMP(損傷関連分子パターン)及び血栓性障害、例えば、aHUS(非典型溶血性尿毒症症候群)についてのセカンドヒットであるとみなされる。さらに、複数の報告が、血栓炎症におけるC5aについての役割を示している(Ekdahl et al.(Ekdahl,Kristina N.,Teramura,Yuji,Hamad,Osama A.,et al.2016 Dangerous Liasons:Complement,Coagulation,and Kallikrein/Kinin Cross-talk as a Linchpin in the Events Leading to Thromboinflammation.Immunological Reviews 274:245-269)、Thomas et al.(Thomas,Anub M.,et al.2019 Complement Component C5 and TLR Molecule CD14 Mediate Heme-Induced Thromboinflammation in Human Blood.J.Immunol 203:1571-1578))。ヘム誘発性血栓炎症における補体の役割についての課題に対処するため、補体及びトロンビンの両方の活性化を可能とする抗凝固剤ヒルジンを利用して全血モデルを開発した。健常ドナーからのヒト血液をヘムとインキュベートし、単球組織因子TF発現について分析した。TFは、外因系凝固カスケードの開始因子であり、血栓症及び止血に関連する。ヘムによる補体活性化は、単球中のTFアップ調節を誘導する。下流凝固プロテアーゼは、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)を介して血小板及び炎症を増幅させる。
図5A及び
図5Bは、TFのアップ調節についての、クリザンリズマブの配列を有する抗体に対する、ALXN1820、LNP023(イプタコパン)、C3ペプチド阻害剤、N19/8、ALXN2050、及び小分子D因子(fD)阻害剤を含む補体阻害剤のベンチマーク化を示す。
図5A、
図5B及び表5に見られる通り、ヘムとインキュベートされた全血からの単球のフローサイトメトリー分析は、TFの発現をアップ調節した。補体の近位及び終末補体経路の両方の阻害剤とインキュベートされたサンプルは、TFアップ調節を遮断した。クリザンリズマブの配列を有する抗体とインキュベートされたサンプルは、
図5A及び
図5Bに見られる通り、TF発現に対する効果を有さず、補体療法がSCDにおける血栓症により良好に対処することを示唆した。クリザンリズマブの配列を有する抗体を除き、検査された全ての補体阻害剤は、ヘムにより誘導されるTFのアップ調節を予防した。
【0143】
【0144】
ケモカインIL-8は、好中球遊走及び活性化のメディエーターである。IL-8レベルは、鎌状赤血球症の患者において上昇し、VOCに関連する。ヘムは、単球上の、外因系凝固カスケードの開始因子であるTF発現の誘導及び炎症性サイトカインIL-8の産生を誘発した。
図6は、ALXN1820、及びEc(抗C5)を含む代替経路阻害剤に曝露し、クリザンリズマブの配列を有する抗体と比較した場合の血栓炎症の全血モデル中のIL-8レベルを示す。
図6は、クリザンリズマブの配列を有する抗体が、血栓炎症の全血モデル中のIL-8産生に対する効果を有さないことを示す。ALXN1820は、血栓炎症の全血モデル中のIL-8の産生を阻害した一方で、クリザンリズマブの配列を有する抗体は効果を有さなかった。
【0145】
実施例4.ヘム誘発性血管閉塞危機における補体活性化の阻害の有効性
この試験は、129/B6混合遺伝的背景上の雄Townes S/Sマウス(Wu et al.2006)を用いた。Townes S/Sマウスにおいて、マウスα-及びβ-グロビン遺伝子座は欠失され、ヒトα及びAγβSグロビンにより置き換えられている。2コピーのβSアレル(hα/hα::βS/βS)を担持する場合、マウスは鎌状赤血球細胞(RBC)が血液スメア中に見られるヒト鎌状疾患表現型を発症する。雌雄をJackson Laboratoriesから入手した。動物をImagine InstituteのAnimal Care Facilityで慣用の条件下で収容した。
【0146】
VOCにおける補体活性化の阻害の有効性を実証するため、Townes SSマウスを5つの群に分け、ヘム処置の10日前からPBS(ビヒクル)、抗プロパージンmAb、又はBB5.1(抗C5 mAb)で4回、予防的に治療した(
図11)。動物を50μmol/Kgのヘムに3時間曝露し、その後に動物を屠殺した(
図12)。ビヒクル治療群の1つにおいて、動物をヘムに曝露せず、それはベースラインとして機能する(
図12)。安楽死時、血液サンプル及び重要器官を動物から回収してRBC上の補体沈着のレベル、血管内溶血及び血管閉塞の重症度を測定した(
図12)。マウスをヘパリン/EDTA抗凝固剤で内部コーティングされた毛細管を用いて後眼窩採血により瀉血処理した。マウスを頸椎脱臼により安楽死させ、左心室を介して1mLの生理食塩水溶液を灌流させた。肺、肝臓、腎臓及び脾臓を回収し、秤量した。
【0147】
ヘミンアッセイキット(Sigma-Aldrich製品番号MAK036)を用いて血漿ヘムを測定し、それは、血漿中に存在するヘミンに比例する比色(570nm)産物をもたらす結合酵素反応により決定した。血漿をヘミンアッセイ緩衝液で1:4希釈して50μLの最終容量にした。反応混合物を以下の順序:3μLの酵素混合物、2μLのヘミン基質、43μLのヘミンアッセイ緩衝液及び2μLのヘミンプローブでデュプリケートで調製した。血漿中に存在するヘモタンパク質はバックグラウンドシグナルを生成し得、この変数を制御するため、反応混合物から酵素を除外することにより各サンプルについてブランクを調製した。反応混合物を96ウェルプレート中のサンプルに添加し、水平シェーカーを用いてホモジナイズし、光から保護して室温で30分間インキュベートした。キットに提供されるヘミンスタンダードを希釈することによりヘミン標準溶液を96ウェルプレート中で調製した。Infinite F200 Proマルチモードプレートリーダー(Tecan)を用いてキネティックモードで570nmで吸光度を測定した。各サンプル読取値からブランクサンプル値を差し引くことによりバックグラウンドシグナルを除去して補正測定値を得た。補正測定値を標準曲線にプロットすることによりヘミン濃度を決定した。
【0148】
血管内溶血のレベルは、総ビリルビン、血漿乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)活性、及び遊離ヘモグロビンを含む複数の尺度により決定した。ヘムへのSCD動物の曝露は、血管内溶血を誘発し、それは抗プロパージン又は抗C5抗体での前治療により有効に予防される(
図12)。
【0149】
血漿ビリルビンは、ジェンドラシック・グロフ法に基づくビリルビンアッセイキット(Sigma-Aldrich製品番号MAK126)を用いて測定した。この方法は、サンプル中に存在するビリルビンに比例する530mmで測定される比色産物をもたらすビリルビンとジアゾ化スルファニル酸との反応に基づくものであった。総ビリルビンは、ビリルビンを非コンジュゲートビリルビン-タンパク質複合体から分割する安息香酸カフェインを含有する試薬Cの添加により決定した。血漿をPBSで1:2希釈して50μLの最終容量にした。作業試薬を以下の順序:50μLの試薬A、20μLの試薬B及び130μLの試薬Cで調製した。反応混合物から試薬B及びCを除外する(生理食塩水溶液により置き換える)ことにより各サンプルについてブランクを調製した。反応混合物を96ウェルプレート中のサンプルに添加し、水平シェーカーを用いてホモジナイズし、光から保護して室温で10分間インキュベートした。Infinite F200 Proマルチモードプレートリーダー(Tecan)を用いて530mmで吸光度を測定した。各サンプル読取値からブランクサンプル値を差し引くことによりバックグラウンドを除去して補正測定値を得た。ビリルビン濃度は、以下の式:[(サンプル-ブランク)/(キャリブレーター-水)]×5mg/dLにより決定した。
【0150】
全血をK2EDTAチューブ(Melet Schloesing Laboratoires)上で回収した。細胞を、冷蔵遠心機を用いる2,000×gの15分間の遠心分離により血漿から除去した。このステップは、血漿サンプル中の血小板も枯渇させる。血漿を50μLのアリコートに分配し、-80℃で貯蔵した。
【0151】
血漿LDHは、Pierce LDH細胞毒性アッセイキット(Thermofisher Scientific製品番号88953)を用いて測定した。0.6mLのアッセイ緩衝液を11.4mLの基質混合物と15mLコニカルチューブ中で合わせることにより反応混合物を調製した。血漿をPBSで1:2希釈して50μLの最終容量にした。反応混合物を96ウェルプレート中のサンプルに添加し、水平シェーカーを用いてホモジナイズし、光から保護して室温で30分間インキュベートした。50μLの停止溶液を各サンプルに添加することにより反応を停止させた。Infinite F200 Proマルチモードプレートリーダー(Tecan)を用いて490nm及び680nmで吸光度を測定した。LDH活性を[(LDH 490nm)-(LDH 680nm)]として決定した。
【0152】
血漿ヘモグロビンは、Drabkin試薬(Sigma-Aldrich製品番号D5941)を用いて測定した。この手順は、アルカリフェリシアン化カリウムの存在下のヘモグロビン及びその誘導体(スルフヘモグロビンを除く)のメトヘモグロビンへの酸化に基づくものであった。メトヘモグロビンは、シアン化カリウムと反応してシアンメトヘモグロビンを形成し、それは540nmでの最大吸収を有した。540nmで測定される色強度は、総ヘモグロビン濃度に比例する。血漿を96ウェルプレートに移した(各サンプルについて20μL)。Drabkin試薬の1つのバイアルを1,000mLの水及び0.5mLの30%Brij(登録商標) L23溶液、(Sigmaカタログ番号B4184)で再構成することによりDrabkin溶液を調製した。Drabkin溶液(180μL)を96ウェルプレート中のサンプルに添加し、水平シェーカーを用いてホモジナイズし、光から保護して室温で15分間インキュベートした。ヘモグロビン検量線をDrabkin溶液において作成した。Infinite F200 Proマルチモードプレートリーダー(Tecan)を用いて540nmで吸光度を測定した。各サンプル読取値からブランクサンプル値を差し引くことによりバックグラウンドを除去して補正測定値を得た。補正測定値を検量線にプロットすることによりヘモグロビン濃度を決定した。
【0153】
血液(45μL)を5μLのマウスFcR遮断試薬(Miltenyi Biotec製品番号130-092-575)と10分間インキュベートし、50μLの細胞染色緩衝液(Biolegend製品番号420201)で1:2希釈した。次いで、サンプルをTer-119 Pacific Blue(Biolegend製品番号116232;1/100希釈)、マウスTfR1/CD71 PerCP/Cy5.5(Biolegend製品番号113816;1/100希釈)、C5b9-FITC(Santa Cruz Biotechnologies製品番号sc-66190 FITC;1/20希釈)又はC3-FITC(Cedarlane製品番号CL7631F;1/50希釈)に対する抗体で染色した。死細胞をLive-Dead(eBioscience)により除外した。
【0154】
細胞をFlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いるフローサイトメトリー(Gallios Beckman Coulter)によりさらに分析した。フローサイトメトリーに基づくSS RBC分析は、ヘムへの曝露時にSS RBC上のC5b9及びC3沈着の両方の顕著な増加を明らかにした(
図13)。BB5.1(抗C5)又は14E1(抗プロパージン)のいずれかでの前治療は、SS RBC上のC5b9沈着の増加をほぼ完全に予防した(
図13)。C5b9染色は潜在的な膜侵襲複合体(MAC)形成を表すため、C5b9沈着の予防は、補体媒介性血管内溶血を低減することが予測される(
図13)。次に、次いでC3沈着をSS RBC上で測定した。ヘムへの曝露時のC3沈着の増加は、14E1(抗プロパージン)により顕著に低減された一方で、抗C5はC3オプソニン化のレベルを低減しなかった(
図13)。
【0155】
パラフィン包埋された肺、脾臓、肝臓又は腎臓切片(5μm)を脱パラフィン、再水和及び抗原賦活化のためにクエン酸塩緩衝液を用いて95℃で20分間処理した(Biolegend製品番号928502)。サンプルをPAPペンで区切り、高タンパク質(high protein)IHC/ICCブロッキング緩衝液(eBioscience製品番号00-4952-54)で15分間ブロッキングし、次いでalexa fluor-488にカップリングしている、血管捕捉RBCのマーカーであるTer-119に対する一次抗体(Biolegend製品番号116215;1/100希釈)と1時間インキュベートした。スライドをTBS Tween(登録商標)-20 0.05%で10分間3回、十分に洗浄し、DAPIを有するprolong diamond褐色防止用封入剤(ThermoFischer Scientifc製品番号P36962)で封入した。画像をEVOS M5000イメージングシステム(ThermoFisher Scientific)上で200倍の倍率で取得し、ImageJソフトウェアを用いて面積当たりの陽性ピクセルを分析した。血管閉塞の強度を、肺及び肝臓を含む重要器官中の血管を閉塞するRBCの免疫蛍光(IF)染色(Ter-119)により可視化及び定量した(それぞれ
図14及び
図15)。ヘムへのSCDマウスの曝露は、肺及び肝臓中の血管閉塞の強度を顕著に増加させた。抗プロパージン(14E1)又は抗C5(BB5.1)のいずれかでの前治療は、PBS治療と比較して統計的に有意に血管閉塞のレベルを有効に低減した。BB5.1及び14E1治療群間で明確な差は観察されなかった。
【0156】
対照に対する治療効果の分析のために一元配置分散分析(ANOVA)検定とそれに続くテューキーの検定(多重比較検定)又はクラスカル・ウォリス検定(ノンパラメトリック)を用いて統計解析試験を実施した。全ての統計解析は、GraphPadソフトウェア(v6.00、San Diego、California、USA)を用いて導いた。帰無仮説を棄却するための統計的有意性は、P<0.05水準で同定した。説明目的のため、P<0.01及びP<0.005の有意水準も注釈表示した。
【0157】
他の実施形態
本明細書全体にわたり挙げられるあらゆる最大数値限定は、それよりも小さいあらゆる数値限定をそのような小さい数値限定が本明細書に明示的に記載されたものとして含むことが理解されるべきである。本明細書全体にわたり挙げられるあらゆる最小数値限定は、それよりも大きいあらゆる数値限定をそのような大きい数値限定が本明細書に明示的に記載されたものとして含む。本明細書全体にわたり挙げられるあらゆる数値範囲は、そのようなより広い数値範囲内に収まるより狭いあらゆる数値範囲をそのようなより狭い数値範囲が全て本明細書に明示的に記載されたものとして含む。
【0158】
特に定義されていない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者により一般に理解される意味と同じ意味を有する。方法及び材料は本開示における使用のために本明細書に記載され;当技術分野で公知の他の適切な方法及び材料を用いることもできる。材料、方法、及び実施例は説明にすぎず、限定を意図するものではない。本明細書に挙げられる全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリー(例えば、PUBMED、NCBI、FDA Drug又はUNIPROTアクセッション番号)、及び他の参照文献は、参照により全体として組み込まれる。矛盾する場合、定義を含め本明細書が優先される。
【0159】
本開示の特定の実施形態を説明及び記載してきた一方、本開示の主旨及び範囲を逸脱せずに様々な他の変更及び改変を行うことができることは当業者には明白である。従って、添付の特許請求の範囲において本開示の範囲内である全てのそのような変更及び改変を含めることが意図される。
【国際調査報告】