(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】バッテリベントプロテクタ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/35 20210101AFI20240918BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20240918BHJP
H01M 50/213 20210101ALI20240918BHJP
H01M 50/289 20210101ALI20240918BHJP
H01M 50/367 20210101ALI20240918BHJP
【FI】
H01M50/35 201
H01M50/342 201
H01M50/213
H01M50/289 101
H01M50/367
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510396
(86)(22)【出願日】2022-08-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-11
(86)【国際出願番号】 US2022041006
(87)【国際公開番号】W WO2023034050
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510238959
【氏名又は名称】イーグルピッチャー テクノロジーズ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ノルテ ケビン
(72)【発明者】
【氏名】シールズ ロンダ
(72)【発明者】
【氏名】フレンチ ガレット
(72)【発明者】
【氏名】マリス ダコタ
(72)【発明者】
【氏名】スミス マーク イー.
【テーマコード(参考)】
5H012
5H040
【Fターム(参考)】
5H012AA01
5H012BB08
5H012CC09
5H012EE01
5H012EE05
5H040AA33
5H040AT01
5H040AY05
5H040CC12
5H040JJ03
(57)【要約】
バッテリのためのベントシステムは、バッテリの複数の電気化学セルの各セルに近接して配置されたベント材料を含み、ベント材料は、熱事象により放出された材料がベント材料を流れることを可能にするように構成される。またシステムは、ベント材料及び複数の電気化学セルに対して固定位置に配置されたベントデバイスも含み、ベントデバイスはセルごとに構造体を含む。この構造体は、それぞれのセルに対応する領域を取り囲み、それぞれのセルから離れて延出する壁部を含み、この壁部は、放出された材料をそれぞれのセルから遠ざけるように構成されたベント経路を画定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリのためのベントシステムであって、
前記バッテリの複数の電気化学セルの各セルに近接して配置されたベント材料であって、熱事象により放出された材料が前記ベント材料を流れることを可能にするように構成される、前記ベント材料と、
前記ベント材料及び前記複数の電気化学セルに対して固定位置に配置されたベントデバイスであって、前記ベントデバイスは、セルごとに構造体を含み、前記構造体は、それぞれのセルに対応する領域を取り囲み、前記それぞれのセルから離れて延出する壁部を含み、前記壁部は、放出された材料を前記それぞれのセルから遠ざけるように構成されたベント経路を画定する、前記ベントデバイスと、
を含む、前記ベントシステム。
【請求項2】
各構造体は、前記複数の電気化学セルから離れてベント領域まで延在する、請求項1に記載のベントシステム。
【請求項3】
前記ベント材料は、電気絶縁性であり、前記熱事象に関連する温度に耐性がある、請求項1に記載のベントシステム。
【請求項4】
前記ベント材料は、前記放出された材料によって開口し、前記ベント経路を設けるように構成される、請求項3に記載のベントシステム。
【請求項5】
前記ベント材料は、前記放出された材料に透過性である、請求項3に記載のベントシステム。
【請求項6】
前記ベントデバイスは、前記ベント材料を前記固定位置に固定するように構成される、請求項1に記載のベントシステム。
【請求項7】
前記ベントデバイスは、クランプ機構によって前記複数の電気化学セルのハウジングに前記ベント材料をクランプするように構成される、請求項6に記載のベントシステム。
【請求項8】
前記ベントデバイスは、セルごとに前記構造体を画定するために一体型の構成要素である、請求項1に記載のベントシステム。
【請求項9】
セルハウジング内に配置された複数の電気化学セルと、
ベントシステムであって、
前記バッテリの複数の電気化学セルの各セルに近接して配置されたベント材料であって、熱事象により放出された材料が前記ベント材料を流れることを可能にするように構成される、前記ベント材料、ならびに
前記ベント材料及び前記複数の電気化学セルに対して固定位置に配置されたベントデバイスであって、前記ベントデバイスは、セルごとに構造体を含み、前記構造体は、それぞれのセルに対応する領域を取り囲み、前記それぞれのセルから離れて延出する壁部を含み、前記壁部は、放出された材料を前記それぞれのセルから遠ざけるように構成されたベント経路を画定する、前記ベントデバイス、
を有する、前記ベントシステムと、
を含む、バッテリ。
【請求項10】
各構造体は、前記複数の電気化学セルから離れてベント領域まで延在する、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項11】
前記ベント材料は、電気絶縁性であり、前記熱事象に関連する温度に耐性がある、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項12】
前記ベント材料は、前記放出された材料によって開口し、前記ベント経路を設けるように構成される、請求項3に記載のバッテリ。
【請求項13】
前記ベント材料は、前記放出された材料に透過性である、請求項3に記載のバッテリ。
【請求項14】
前記ベント経路及び前記構造体は、前記複数の電気化学セル内の他のセルを損傷することなく、前記放出された材料を前記それぞれのセルから遠ざけることを可能にする、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項15】
前記ベントデバイスは、クランプ機構によって前記ベント材料を前記セルハウジングにクランプするように構成され、前記クランプ機構は、前記ベント材料を前記固定位置に固定する、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項16】
前記ベントデバイスは、セルごとに前記構造体を画定するために一体型の構成要素である、請求項1に記載のバッテリ。
【請求項17】
セルハウジング内に配置された複数の電気化学セルを含むバッテリを動作させることであって、前記バッテリは、ベントシステムを含み、前記ベントシステムは、
前記バッテリの複数の電気化学セルの各セルに近接して配置されたベント材料、ならびに
前記ベント材料及び前記複数の電気化学セルに対して固定位置に配置されたベントデバイスであって、前記ベントデバイスは、セルごとに構造体を含み、前記構造体は、それぞれのセルに対応する領域を取り囲み、前記それぞれのセルから離れて延出する壁部を含み、前記壁部は、放出された材料を前記それぞれのセルから遠ざけるように構成されたベント経路を画定する、前記ベントデバイス、
を含む、前記動作させることと、
影響されたセル内で発生する熱事象に基づいて、前記影響されたセルから放出された材料が前記ベント材料を流れることを可能にし、前記影響されたセルに関連する前記壁部によって前記ベント経路に沿って前記影響されたセルから前記放出された材料を遠ざけることと、
を含む、方法。
【請求項18】
前記構造体は、前記放出された材料をベント領域に向ける、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ベント材料は、前記放出された材料によって開口し、前記ベント経路を設ける、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記放出された材料は、前記複数の電気化学セル内の他のセルを損傷することなく、前記それぞれのセルから遠ざかる、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年9月2日に出願された米国出願第63/240,110号の利益を主張するものであり、この全体を参照により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルは、様々な装置および適用での電源として使用されている。このようなセルは、例えば電子機器、電気自動車、陸上車両、航空機、及び/または船舶に電力を供給するためのバッテリパックとして利用される。これらのセルは、高いエネルギー密度及び小さいサイズを達成するために、複数のセルがすぐ近くにパッキングされているパック内で通常使用される。セルが互いに接近しているため、セルが(例えば、内部短絡、熱暴走、またはその他の事象が原因で)高温ガス及び材料を放出する場合、隣接するセルに損傷を与える可能性がある。損傷から保護し、セルの熱暴走が他のセルに損傷を与え、カスケード故障を引き起こす可能性を防止する、セルの組立体またはパックの改良された設計を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【0003】
バッテリのためのベントシステムの実施形態は、バッテリの複数の電気化学セルの各セルに近接して配置されたベント材料を含み、ベント材料は、熱事象により放出された材料がベント材料を流れることを可能にするように構成される。またシステムは、ベント材料及び複数のセルに対して固定位置に配置されたベントデバイスも含み、ベントデバイスはセルごとに構造体を含む。この構造体は、それぞれのセルに対応する領域を取り囲み、それぞれのセルから離れて延出する壁部を含み、この壁部は、放出された材料をそれぞれのセルから遠ざけるように構成されたベント経路を画定する。
【0004】
バッテリの実施形態は、セルハウジング内に配置された複数の電気化学セルと、バッテリの複数の電気化学セルの各セルに近接して配置されたベント材料を有するベントシステムとを含み、ベント材料は、熱事象により放出された材料がベント材料を流れることを可能にするように構成される。またベントシステムは、ベント材料及び複数のセルに対して固定位置に配置されたベントデバイスも含み、ベントデバイスはセルごとに構造体を含む。この構造体は、それぞれのセルに対応する領域を取り囲み、それぞれのセルから離れて延出する壁部を含み、この壁部は、放出された材料をそれぞれのセルから遠ざけるように構成されたベント経路を画定する。
【0005】
方法の実施形態は、セルハウジング内に配置された複数の電気化学セルを含むバッテリを動作させることを含み、バッテリはベントシステムを含む。ベントシステムは、バッテリの複数の電気化学セルの各セルに近接して配置されたベント材料と、ベント材料及び複数のセルに対して固定位置に配置されたベントデバイスとを含み、ベントデバイスはセルごとに構造体を含む。この構造体は、それぞれのセルに対応する領域を取り囲み、それぞれのセルから離れて延出する壁部を含み、この壁部は、放出された材料をそれぞれのセルから遠ざけるように構成されたベント経路を画定する。また方法は、影響されたセル内で発生する熱事象に基づいて、影響されたセルから放出された材料がベント材料を流れることを可能にし、影響されたセルに関連する壁部によってベント経路に沿って影響されたセルから放出された材料を遠ざけることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】複数の個々の電気化学セルと、放出された材料及び熱をベントするための構成要素とを含むバッテリ組立体の態様を示す。
【
図2】
図1の組立体の個々の電気化学セルの断面図である。
【
図6】ベント材料及びベントデバイスを含むバッテリ組立体の態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の発明の態様は、様々な図面を参照して以下で詳細に説明される。実施例は、開示された主題を説明するために記載されている。当業者であれば、以下の説明で提供される様々な特徴の多くの同等の変形形態があることを認識するであろう。
【0008】
本開示は、放出された材料をベントするように構成された構成要素を有するセル組立体など、電気化学バッテリに関する。「放出された材料」には、セルから放出されることができる、微粒子(例えば、セルから放出された煙、導電粒子、及び/またはその他の粒子または物質)、流体(例えば、液体及び気体)及び/またはその他の材料が含まれる。態様では、ベント構成要素は、例えば熱または他の事象に応じて、ベント式セルから放出される材料がベント式セルから、そしてセル組立体の他のセルから遠ざかること、及びバッテリまたはセル組立体内の他のセルへの伝播を回避することを可能にするように構成される。この事象は、セルの内部故障、物理的損傷、過充電、熱の蓄積、またはセルがベントを引き起こすその他の任意の例に関連し得る。ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、銀亜鉛電池、またはリチウムイオン電池など、様々なタイプの電気化学セルによって態様が使用され得るため、開示されたセル組立体及びその構成要素が任意の特定のタイプのセルに限定されないことに留意されたい。また、セルは、任意の適切な配置、サイズ、または形状を有し得る。例えば、セルは円筒型、角型、またはパウチ型のセルであってもよい。
【0009】
バッテリの態様は、複数の個々の電気化学セル(例えば、リチウムイオン電池など)を含み、そのうえベントを可能にし、セルから放出され得る任意の材料のためのベント経路を設けるベント構成要素を有するベントシステムも含む。態様では、ベント保護構成要素は、セルから放出された材料がベント材料を通過するように、個々のセルのそれぞれの上に配置された、またはその他の方法で個々のセルのそれぞれに近接して配置された「ベント材料」を含む。ベント材料は、隣接するセル内のベント材料が開口しないように、十分にレジリエントでありながら、及び/または拘束されていながら、セルより上で開口する、またはその他の方法で、セルから放出された材料が通過することを可能にするように構成される。セルに対するベント材料の「近接」位置は、ベント材料の一部がセルのベント構成要素によって画定されるベント経路内にある位置である。ベント材料は、放出された材料が容易に通過することを可能にするように透過性構造体を有してもよく、及び/または物理的手段か化学的手段かいずれかによって放出された材料のため、破砕、引裂、またはその他の方法で開口が起こるように構成されてもよい。例えば、ベント材料は、放出された材料のために破砕してベント経路を設けてもよく、またはセルから発生する高温ガスが存在する場合に融解してもよい。ベント材料は、放出された材料、または放出された材料が通過することを可能にする透過性材料によって開口可能であっても、または破砕可能であってもよい。態様では、ベント材料は電気絶縁材料である。
【0010】
またベント構成要素は、ベント材料に対して固定位置に配置されるベントデバイスも含み得る。態様では、ベントデバイスは、放出された材料をセルから遠ざけ、組立体の外部(例えば、バッテリケースのベントまたは他の所望の位置)の方に向けるベント経路の少なくとも一部を画定する。ベント経路により、組立体内の他のセルに損傷を与えることなく、放出された材料及びエネルギーをベントすることが可能になる。実施形態では、ベントデバイスは、セルに対応する領域を取り囲み、放出された材料及びエネルギーをセルより上のベント領域に押し進める構造体を含み、そのうえ開口部(例えば、ホールまたは引裂部)のサイズを、開口部が他のセルより上の領域に渡らないように制限する。以下でさらに説明されるように、またベントデバイスは、気体または他の材料がベント材料の下で隣接するセルに進むのを防止するのに役立ってもよい。
【0011】
ベント材料及びベントデバイスは、任意の適切な方法で適所に位置決めされても、固定されてもよい。例えば、ベント材料は、機械的締結用部品によってセル組立体及び/またはベントデバイスに固定される、または接着剤を使用して接着される。態様では、ベントデバイスは、個々のセルごとのベント経路を妨げることなく、各セルに対して適所にベント材料を固定するように構成されたクランプまたは固定デバイス(単一デバイスまたは複数の個々の構成要素であり得る)として構成される。
【0012】
本明細書に記載される電気化学セル及びセル組立体の態様は、いくつかの利点を提示し、いくつかの問題に対処する。マルチセルバッテリパックは、電子デバイスの電圧及び容量のニーズを満たすために、ますます一般的になってきている。マルチセルパックは、自動車、航空、防衛、宇宙飛行、グリッドエネルギーストレージなど、様々な用途で使用されている。セルは、高いエネルギー密度を得るために互いのすぐ近くにパッケージ化され得るが、これにより、いくつかの安全上の懸念が提示されることがある。例えば、熱暴走事象中に、材料(例えば、微粒子及び気体)がセルから放出される可能性がある。セルが近接しており、パッケージ化がコンパクトであることにより、放出された材料が隣接するセルのすぐ近くにある状態に保たれ得ると、熱暴走事象中に1つまたは複数のセルに短絡及び伝播が起こる可能性がある。
【0013】
バッテリには、セルの動作を電気的に管理する電子管理システムが含まれる場合がある。ただし、そのようなシステムは、熱暴走の原因となる内部セルの不具合、またはほとんど徴候なく起こることができるセルのベントなどの場合には、効果的に対応することができない可能性がある。
【0014】
本明細書に記載される態様は、バッテリ、セル組立体、またはバッテリが設置されるデバイスへの損傷を制限する受動的なシステムを提供する。態様は、放出された材料及び気体のためのベント経路を提供し、このベント経路は、セルパック内の他のセルを保護しながら、これら材料及び気体を効果的にセルから遠ざける。放出された材料のためのベント経路を比較的小さく保つことができると、セル組立体の実現可能な最高エネルギー密度を維持することができる。
【0015】
図1は、所望の電圧及び容量を達成するために直列及び並列に電気的に接続された複数の個々の電気化学セル12を含む、電気化学セル組立体10の一部の断面図である。態様では、電気化学セル12はリチウムイオン電池であるが、他の任意の適切なタイプのセルであってもよい。例えば、組立体10は、複数の円筒型リチウムイオン電池を含むバッテリパックである。
【0016】
組立体10は、セル12が合わせてパッケージ化されるハウジング14を含み、示されるように、セルは同じ方向で、互いのすぐ近くに向けられ得る。「すぐ近く」とは、約1~100mm、2mm~90mm、5mm~100mmの隣接するセル間の距離、または前述の距離の上限と下限との任意の適切な組み合わせであり得る。例えば、セル12は約0.5mm~約10mmだけ離隔される。各セル12はベント材料16によって覆われ、このベント材料は、電気絶縁及び熱絶縁を与え、そのうえセル12から放出された材料及び気体のためのベント経路を、気体及び/または固体材料をセルに放出させる事象の場合に与えるように構成される。このような事象の例として熱暴走がある。熱暴走は、セルの内部の不具合、過充電または放電による誤用、物理的損傷、及び過度の熱の蓄積など、様々な理由で発生する可能性がある。
【0017】
態様では、ベント材料16は、放出された材料が通過することを可能にするように構成される多孔質の耐熱絶縁材料である。ベント材料は、耐熱性であり、さらに所与のセル12からの放出を可能にするように選択され、そのうえベント経路に隣接するまたは近接するセル12に保護層も設ける。
【0018】
ベント材料16は、放出された材料が材料内の通路を通過することを可能にしてもよく、及び/またはセルのベントの力による破砕、破裂、またはその他の方法で開口を行うことによって放出された材料が通過することを可能にしてもよい。
【0019】
またベント材料16は、ベント式セル12以外のセル12においてその完全性を維持するのに十分な弾性係数、実質性、または堅牢性も有する。ベント材料は織布または不織布材料であってもよく、セラミックまたはガラス繊維を含んでもよい。例えば、ベント材料16は、セラミック、多孔質または透過性の高温プラスチック(例えば、約300℃を超える温度に耐性のあるプラスチック、ただし、より低い温度のプラスチックを使用可能である)、織物、発泡体、または耐熱紙材料などの緩い織布材料または不織布材料であることができる。一般に、ベント材料16は、材料を高い表面温度(例えば、約600℃~約1200℃)に対してレジリエントにする特性を有するように選択される。ベント材料16はそのように限定されず、セル12から放出される気体及び他の材料が通過することを可能にすることを容易にすることができる任意の種類の材料または材料の組み合わせを含み得る。ベント材料の例には、セラミック繊維紙、アラミド繊維材料、ポリマーフィルム、ポリアミドポリマー、エアロゲル積層体、メッシュフィルタなどが含まれる。
【0020】
図1は、各セル12を覆うベント材料(例えば、織布材料または耐熱紙)のシートとして設けられる、ベント材料16の例を示す。ベント材料16は、示されるような単一シートなどの一体型の構成要素であってもよく、または各セル12より上の材料の個々の区画として構成されてもよい。ベント材料16のシートは、材料の単層であってもよく、材料の複数層であってもよく、または異なる材料の複数層を含んでもよい。ベント材料16は、他のセル12に対する熱及びデブリからの保護層を維持しながら、放出された材料が容易に通過することを可能にするように、緩く織られる、またはその他の方法で通路もしくは開口部を画定するように構成される。代替またはさらに、ベント材料16は、他のセルでは無傷のままでありながら、セルからの放出により(例えば、ダイカット「バーストディスク」領域を介して)破裂しても、または破砕してもよい。
【0021】
図1では単層が示されているが、複数層またはベント材料の組み合わせ(例えば、同じ材料または異なる材料)が使用され得ることを理解されたい。ベント材料は、高温(例えば、熱暴走温度)に耐える、任意の種類の適切な材料を含み得、ベント経路を設けるように構成されることができる。例には、耐熱性及び不燃性の紙、リフラクトリーウール、セラミック材料、高温プラスチック、様々な種類の軽量、繊維状、高温材料などが含まれる。
【0022】
態様では、ベント材料16は、いかなる放出された材料も望ましくない経路をたどることを防止するために、各セルと密接に接触して、または近接して維持される。例えば、密接な接触または近接により、放出された材料がベント材料16の下を流れ、所望のベント経路を迂回することが防止される。
【0023】
様々な材料及び/または機構を使用して、ベント材料16を適所に固定し得る。例には、クランプデバイスと組み合わされているか、クランプデバイスの代替としてかいずれかで、接着剤及び高温絶縁テープが含まれる。
【0024】
態様では、セル組立体10は、放出された材料のためのベント経路を設けるように構成されるベントデバイス18を含み、ベント材料16をセル12に対して固定位置に(例えば、ベント材料16をセル12及び/またはハウジング14にクランプすることによって)維持するように構成され得る。またベントデバイス18は、放出するセル12から離れたベント経路の全部または一部を画定してもよい。ベント経路により、組立体内の他のセルに損傷を与えることなく、放出された材料をベントすることが可能になる。ベントデバイス18は、単一の一体化された本体もしくは構造体であってもよく、または複数の構成要素もしくは構造体を含んでもよい。
【0025】
図1は、個々の構造体を画定する単一の一体型の構成要素である、ベントデバイス18の例を示し、各構造体はそれぞれのセル12から離れたベント経路の一部を形成する。この例では、ベントデバイス18は、各セル12より上の領域(「ベント領域」)を取り囲む六角形(または部分六角形)構造体20を画定する平らなハニカム構造体である。各構造体20は、それぞれのセル12の頂部及び関連するベント領域から離れて垂直方向に延出する壁部を画定する。この例では「垂直」とは、セル12の長手方向軸に平行な方向を指すことに留意されたい。構造体20は、隣接するセルに影響する前にベント材料を適切に冷却することが困難な経路を設ける場合があるため、任意の数または種類の開口部、チャネル、溝部、コンジット(例えば、チューブ類)及び/または他の配置を使用してもよい。
【0026】
ベントデバイス18は、任意の適切な方法でハウジング14及びベント材料16に固定されてよい。例えば、ベントデバイス18は、カバー22に(例えば、ねじまたは他の機械的固定機構によって)接着される、または固定されることができ、このカバーは本体14に固定される。カバー22は、
図1に示されるように、ベントデバイス18より上にギャップまたは容積を設けるように垂直方向に延出する側壁部24を画定し得る。カバーまたは他の特徴は、ベント経路の一部を画定するために、ベントデバイス18より上の水平方向に延在するように含まれ得る。この例では「水平方向」とは、セルの長手方向軸に垂直な平面内の方向を指す。ベントデバイス18はベント材料16を適所に固定するクランプ機構の全部もしくは一部を形成してもよく、またはベント材料16は別の固定機構によって適所に固定されてもよい。
【0027】
図2は、個々のセル12及び組立体10の一部の断面図であり、ベント材料16を通って設けられ、少なくともベントデバイス18によって画定されたベント経路の例を示す。ベント経路は、放出された材料の流れを図示する矢印26によって示される。示されるように、ベント経路はベントデバイス18を通って垂直方向にあり、その後ほぼ水平方向に延在する。カバー22は、ベントデバイス18の頂部から選択された垂直距離に配置され、ベントデバイス(及びそれに関連するベント領域)より上に「自由領域」を画定し、セル12から十分なクリアランスを設けることで、そこへの損傷が回避される。例として、側壁部24は、約0.11インチ(またはそれ以上もしくはそれ以下)の垂直範囲を有することができ、自由領域の(ベント材料16からカバー22までの)厚さは、約0.3インチ(またはそれ以上もしくそれ以下)であることができる。示されるように、放出された材料は、デバイス構造体20を通って垂直方向に放出され、次いで自由領域を通って本体14の外部またはヒートシンクなどの所望の位置に水平方向に向けられる。
【0028】
図3A及び
図3Bは、ベントデバイス18の他の例を示す。これらの例では、各セル12は矩形の角型セルであり(
図3Aに示されるようにほぼ正方形の形状、または
図3Bに示されるようにより細長い矩形の形状を有し)、ベントデバイス18は、各セルより上の矩形領域を取り囲む個々の構造体20を画定する。この例でのベント経路は、ベントデバイス18より上の自由領域まで延在する各ベント領域を通る垂直経路である。したがって、所与のセル12から放出された材料は、自由領域に垂直方向に流れた後、水平方向または任意の適切な方向に流れることができる。
【0029】
図4A、
図4B、
図5A及び
図5Bは、複数のセル12を含む電気化学セル組立体10の実施形態を示す。この実施形態ではセル12は円筒型リチウムイオン電池であるが、実施形態はそのように限定されない。セル組立体10は、セル12から電気絶縁され、任意の所望の材料(例えば、鋼、アルミニウム、または他の熱伝導性材料)から作製され得る筐体(図示せず)を含み得る。セル組立体10の筐体及び/または他の部分は、温度調節を助けるためのヒートシンクとして機能する。
【0030】
図4Aはセル組立体10の断面図であり、
図4Bはセル組立体10の一部の斜視図である。ハウジング14は、取付板42上に取り付けられるヒートシンク40上に配置される。ベントデバイス18及びベント材料16は、ハウジング14と絶縁層44との間に配置される。絶縁層44は、セル12を保護構成要素46(例えば、PCB、バッテリケースなど)から絶縁する。
【0031】
ベント材料16は、複数のセル12より上に配置され、開口する(例えば、破砕するもしくは破裂する)材料から、または熱暴走もしくは他の熱事象中にセルから放出され得る材料に透過性である材料から作製されてもよい。
【0032】
実施形態では、ベントデバイス18は、ベント材料16をセル12に対して固定位置に維持する。この実施形態では、ベントデバイス18は、放出するセル12及び他のセル12から離れて放出された材料が流れるための垂直経路を確立する壁部を有する個々の構造体20を画定する本体である。ベントデバイス18は、ボルトなどの機械的締結用部品または任意の他の適切な機構によって適所に保持される。このようにして、それぞれのセル12から離れて延出する、構造体ごとに垂直経路を含むベント経路が確立される。例えば、
図4Aは、ベントデバイス18と絶縁材料44との間のギャップまたは空間内に確立されたほぼ水平方向の経路50を含むベント経路の一部を示す。
【0033】
図5A及び
図5Bは、セル組立体10の実施形態の上断面図であり、適切な筐体、ケーシング、または他の構造体によって画定されたベント経路、及びベントデバイス18によって画定された個々のベント構造体20の態様を示す。また
図5A及び
図5Bは、セル12の正極端子56と電気通信している導電体52を示す。
図5Bは、正極端子56がワイヤボンド54を介して導電体52に並列に接続される実施形態を示す。
【0034】
示されるように、各構造体20は、それぞれのセル12の真上の空間の周囲に六角形の壁部を形成し、この壁部は放出された材料及びエネルギーのための垂直経路を画定する。垂直経路は、キャビティ(例えば、
図4Aに示されるベントデバイス18と絶縁材料44との間の空間)内で終端し、放出された材料を、セル12より上でそれらの周辺部の周囲の水平経路50に沿って(例えば、バッテリケースのベントを介して)組立体内の安全な位置及び/または外部の位置に向ける。
【0035】
図6~
図8は、セル組立体10の実施形態を示し、熱事象に対するベント材料16及びベントデバイス18の効果を示す。
図6に示されるように、セル組立体10は、耐熱紙の形態でのベント材料16と、各セルより上に六角形のベント経路を画定するベントデバイス18とを含む。
図7に示されるように、セル組立体10は、セル12a~gとして示される、複数のセル12を含む。
【0036】
この例では、中央に位置しているセル12g内で内部短絡が誘発され、熱暴走が発生した。各セル12a~12gの温度を熱暴走事象の前及び最中に測定した。
【0037】
図8は、この事象に対応する期間にわたる各セルの温度を示す。
図8は、時間の関数としての温度(摂氏単位)のグラフを示す。セル12aの温度は曲線201で表され、セル12bの温度は曲線202で表され、セル12cの温度は曲線203で表され、セル12dの温度は曲線204で表される。セル12eの温度は曲線205で表され、セル12eの温度は曲線206で表され、セル12gの温度は曲線207で表される。
【0038】
示されるように、セル12gの温度は約45℃の初期温度から上昇し、約88℃の開始温度で熱暴走が始まり、その後急激に上昇する。ただし、残りのセルは著しく影響されず、熱暴走開始温度よりも低い最高温度を維持する。
【0039】
本明細書に記載される様々な構成要素は、例えば、金属、銅、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、プラスチック、プラスチック樹脂、ナイロン、複合材料、ガラス、及び/またはセラミック、または、例えば、所望に応じて他の任意の材料を含む様々な材料のいずれかから作られ得ることが理解される。
【0040】
組成物、方法、及び物品は、代替的に、本明細書に開示された任意の適切な材料、ステップ、または構成要素を含み、それらからなり、またはそれらから本質的になることができる。組成物、方法、及び物品は、追加的または代替的に、組成物、方法、及び物品の機能または目的の達成に通常は必要でない材料(または種)、ステップ、または構成要素を含まないように、または実質的に含まないように配合することができる。
【0041】
「組み合わせ」には、ブレンド、混合物、合金、反応生成物などが含まれる。「第1の」、「第2の」などの用語は、順序、量、重要性を表すものではなく、ある要素を別の要素から区別するために使用される。用語「a」、及び「an」、及び「the」は、数量の限定を意味するものではなく、本明細書において別途指示されない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数及び複数の両方を網羅するものと解釈される。「または」は、特に明記されていない限り、「及び/または」を意味する。本明細書全体にわたる「ある態様」、「一態様」などへの言及は、その態様に関連して説明される特定の要素が本明細書に記載される少なくとも1つの態様に含まれ、他の態様には、存在することもあれば、存在しないこともあるということを意味する。さらに、記載された要素は、様々な態様において、任意の適切な方法で組み合わせることができることを理解されたい。「その組み合わせ」とは非制限的であり、リストされた構成要素または特性の少なくとも1つと、場合によってはリストされていない同様または同等の構成要素または特性を共に含む任意の組み合わせが含まれる。
【0042】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、本出願が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。引用する全ての特許、特許出願、及びその他の文献は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。しかしながら、本出願の用語が、組み込まれた参考文献の用語と矛盾する場合、または対立する場合には、本出願の用語が、組み込まれた文献の対立する用語よりも優先される。
【0043】
特定の態様を説明してきたが、出願人または当業者は、現時点では予見できない、または予見できない可能性がある代替形態、修正形態、変形形態、改良形態、及び実質的均等物を思いつく可能性がある。したがって、提出された、及び補正される可能性がある、添付の特許請求の範囲は、そのような代替形態、修正形態、変形形態、改良形態、及び実質的均等物を全て包含することを意図している。
【手続補正書】
【提出日】2024-04-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリのためのベントシステムであって、
前記バッテリの複数の電気化学セルの各セルに近接して配置されたベント材料であって、熱事象により放出された材料が前記ベント材料を流れることを可能にするように構成される、前記ベント材料と、
前記ベント材料及び前記複数の電気化学セルに対して固定位置に配置されたベントデバイスであって、前記ベントデバイスは、セルごとに構造体を含み、前記構造体は、それぞれのセルに対応する領域を取り囲み、前記それぞれのセルから離れて延出する壁部を含み、前記壁部は、放出された材料を前記それぞれのセルから遠ざけるように構成されたベント経路を画定する、前記ベントデバイスと、
を含む、前記ベントシステム。
【請求項2】
各構造体は、前記複数の電気化学セルから離れてベント領域まで延在する、請求項1に記載のベントシステム。
【請求項3】
前記ベント材料は、電気絶縁性であり、前記熱事象に関連する温度に耐性がある、請求項1に記載のベントシステム。
【請求項4】
前記ベント材料は、前記放出された材料によって開口し、前記ベント経路を設けるように構成される、請求項3に記載のベントシステム。
【請求項5】
前記ベント材料は、前記放出された材料に透過性である、請求項3に記載のベントシステム。
【請求項6】
前記ベントデバイスは、前記ベント材料を前記固定位置に固定するように構成される、請求項1に記載のベントシステム。
【請求項7】
前記ベントデバイスは、クランプ機構によって前記複数の電気化学セルのハウジングに前記ベント材料をクランプするように構成される、請求項6に記載のベントシステム。
【請求項8】
前記ベントデバイスは、セルごとに前記構造体を画定するために一体型の構成要素である、請求項1に記載のベントシステム。
【請求項9】
バッテリであって、
セルハウジング内に配置された複数の電気化学セルと、
ベントシステムであって、
前記バッテリの複数の電気化学セルの各セルに近接して配置されたベント材料であって、熱事象により放出された材料が前記ベント材料を流れることを可能にするように構成される、前記ベント材料、ならびに
前記ベント材料及び前記複数の電気化学セルに対して固定位置に配置されたベントデバイスであって、前記ベントデバイスは、セルごとに構造体を含み、前記構造体は、それぞれのセルに対応する領域を取り囲み、前記それぞれのセルから離れて延出する壁部を含み、前記壁部は、放出された材料を前記それぞれのセルから遠ざけるように構成されたベント経路を画定する、前記ベントデバイス、
を有する、前記ベントシステムと、
を含む、
前記バッテリ。
【請求項10】
各構造体は、前記複数の電気化学セルから離れてベント領域まで延在する、請求項
9に記載のバッテリ。
【請求項11】
前記ベント材料は、電気絶縁性であり、前記熱事象に関連する温度に耐性がある、請求項
9に記載のバッテリ。
【請求項12】
前記ベント材料は、前記放出された材料によって開口し、前記ベント経路を設けるように構成される、請求項
11に記載のバッテリ。
【請求項13】
前記ベント材料は、前記放出された材料に透過性である、請求項
11に記載のバッテリ。
【請求項14】
前記ベント経路及び前記構造体は、前記複数の電気化学セル内の他のセルを損傷することなく、前記放出された材料を前記それぞれのセルから遠ざけることを可能にする、請求項
9に記載のバッテリ。
【請求項15】
前記ベントデバイスは、クランプ機構によって前記ベント材料を前記セルハウジングにクランプするように構成され、前記クランプ機構は、前記ベント材料を前記固定位置に固定する、請求項
9に記載のバッテリ。
【請求項16】
前記ベントデバイスは、セルごとに前記構造体を画定するために一体型の構成要素である、請求項
9に記載のバッテリ。
【請求項17】
セルハウジング内に配置された複数の電気化学セルを含むバッテリを動作させることであって、前記バッテリは、ベントシステムを含み、前記ベントシステムは、
前記バッテリの複数の電気化学セルの各セルに近接して配置されたベント材料、ならびに
前記ベント材料及び前記複数の電気化学セルに対して固定位置に配置されたベントデバイスであって、前記ベントデバイスは、セルごとに構造体を含み、前記構造体は、それぞれのセルに対応する領域を取り囲み、前記それぞれのセルから離れて延出する壁部を含み、前記壁部は、放出された材料を前記それぞれのセルから遠ざけるように構成されたベント経路を画定する、前記ベントデバイス、
を含む、前記動作させることと、
影響されたセル内で発生する熱事象に基づいて、前記影響されたセルから放出された材料が前記ベント材料を流れることを可能にし、前記影響されたセルに関連する前記壁部によって前記ベント経路に沿って前記影響されたセルから前記放出された材料を遠ざけることと、
を含む、方法。
【請求項18】
前記構造体は、前記放出された材料をベント領域に向ける、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ベント材料は、前記放出された材料によって開口し、前記ベント経路を設ける、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記放出された材料は、前記複数の電気化学セル内の他のセルを損傷することなく、前記それぞれのセルから遠ざかる、請求項17に記載の方法。
【国際調査報告】