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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ROCK阻害剤の新規な形態
(51)【国際特許分類】
   C07D 405/12 20060101AFI20240918BHJP
   A61K 31/443 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C07D405/12 CSP
A61K31/443
A61P1/04
A61P1/00
A61P37/06
A61P29/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510429
(86)(22)【出願日】2023-09-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 GB2023052341
(87)【国際公開番号】W WO2024052704
(87)【国際公開日】2024-03-14
(31)【優先権主張番号】2213103.1
(32)【優先日】2022-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2214708.6
(32)【優先日】2022-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BRIJ
(71)【出願人】
【識別番号】520274482
【氏名又は名称】レデックス・ファーマ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】REDX PHARMA LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ベルフィールド,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ,クリフォード ディー
(72)【発明者】
【氏名】アーマー,リチャード
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA03
4C086BC17
4C086GA02
4C086GA08
4C086GA15
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA03
4C086ZA66
4C086ZA68
4C086ZB08
4C086ZB11
(57)【要約】
本発明は、線維性疾患、例えば線維性狭窄性クローン病の治療に有用である、Rho-アソシエーテッドプロテインキナーゼ(ROCK)阻害剤の、単一のエナンチオマーおよび結晶形態に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にエナンチオピュアな形態の
【化1】
で示される化合物AのS-エナンチオマー(S-A)またはその医薬的に許容される塩。
【請求項2】
化合物Aが遊離塩基の形態である、請求項1に記載の化合物A。
【請求項3】
化合物Aが医薬的に許容される塩の形態である、請求項1に記載の化合物A。
【請求項4】
【化2】
で示される化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項5】
塩が塩酸塩である、請求項4に記載の結晶塩の形態。
【請求項6】
塩がコハク酸塩である、請求項4に記載の結晶塩の形態。
【請求項7】
化合物Aがラセミ体である、請求項4~6のいずれか一項に記載の結晶塩の形態。
【請求項8】
化合物Aが、実質的に、単一のエナンチオマーの形態である、請求項4~6のいずれか一項に記載の結晶塩の形態。
【請求項9】
エナンチオマーが、S-エナンチオマー(S-A):
【化3】
である、請求項8に記載の結晶塩の形態。
【請求項10】
エナンチオマーが、R-エナンチオマー(R-A):
【化4】
である、請求項8に記載の結晶塩の形態。
【請求項11】
塩が化合物Aの単一のエナンチオマーの塩酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、16.2±0.2、22.7±0.2、23.3±0.2、24.0±0.2、24.9±0.2および25.4±0.2より選択される2θで少なくとも2個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項5に記載の結晶塩の形態。
【請求項12】
結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、16.2±0.2、22.7±0.2、23.3±0.2、24.0±0.2、24.9±0.2および25.4±0.2より選択される2θでピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項11に記載の結晶塩の形態。
【請求項13】
結晶形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、実質的に図3に示されるようなXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項11に記載の結晶塩の形態。
【請求項14】
塩が化合物Aの単一のエナンチオマーの塩酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、13.6±0.2、14.4±0.2、14.5±0.2、16.2±0.2および16.5±0.2より選択される2θで少なくとも2個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項5に記載の結晶塩の形態。
【請求項15】
結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、13.6±0.2、14.4±0.2、14.5±0.2、16.2±0.2および16.5±0.2より選択される2θでピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項14に記載の結晶塩の形態。
【請求項16】
結晶形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、実質的に図1に示されるようなXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項14に記載の結晶塩の形態。
【請求項17】
塩が化合物Aの単一のエナンチオマーのコハク酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、18.2±0.2、18.6±0.2、19.1±0.2、21.4±0.2、23.0±0.2、24.1±0.2および25.8±0.2より選択される2θで少なくとも2個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項6に記載の結晶塩の形態。
【請求項18】
結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、18.2±0.2、18.6±0.2、19.1±0.2、21.4±0.2、23.0±0.2、24.1±0.2および25.8±0.2より選択される2θでピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項17に記載の結晶塩の形態。
【請求項19】
結晶形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、実質的に図2に示されるようなXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項17に記載の結晶塩の形態。
【請求項20】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物Aまたは請求項4~19のいずれか一項に記載の結晶塩の形態を含む、医薬組成物。
【請求項21】
線維性疾患を治療するための請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物Aまたは請求項4~19のいずれか一項に記載の結晶形態。
【請求項22】
線維性疾患が胃腸系の疾患である、請求項21にて使用される塩の形態。
【請求項23】
線維性疾患が線維性狭窄性クローン病である、請求項21にて使用される塩の形態。
【請求項24】
化合物Aの単一のエナンチオマーのHCl結晶塩の形態IIを製造する方法であって、
a)化合物Aの単一のエナンチオマーのHCl結晶塩の形態Iのサンプルを溶媒に懸濁させて懸濁液を形成し;
b)その懸濁液をろ過してHCl結晶塩の形態IIを得る
ことを含む、方法。
【請求項25】
溶媒がアセトンと水との混合液である、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は4-(アミノメチル)-N-(3-フルオロピリジン-4-イル)-3-{3-[(4-{[(2-オキソオキソラン-3-イル)メチル]スルファニル}フェニル)カルバモイル]フェニル}ベンズアミド(化合物A)の単一のエナンチオマーおよび結晶形態に関する。化合物Aは、線維症、例えば、線維性狭窄性疾患の治療に有用である、Rho-アソシエーテッドプロテインキナーゼ(ROCK)阻害剤である。
【背景技術】
【0002】
4-(アミノメチル)-N-(3-フルオロピリジン-4-イル)-3-{3-[(4-{[(2-オキソオキソラン-3-イル)メチル]スルファニル}フェニル)カルバモイル]フェニル}ベンズアミド(化合物A)は、線維症の治療において有用である効果的なRho-アソシエーテッドプロテインキナーゼ(ROCK)阻害剤である(WO2014/118133を参照のこと)。特に、化合物Aは、消化管(GI)での線維化部位に特異的に作用し、酵素介在性代謝によって血流中に吸収された場合に、速やかに分解されるように設計されている。
【化1】
【0003】
クローン病は、世界で150万人が罹患している慢性炎症性腸疾患であり、新規に毎年70000件より多くのケースが診断されている。クローン病の患者の50%までが、診断してから10年以内に有意な線維化および狭窄形成を発症しうる;クローン病に付随するこの線維化は線維性狭窄性疾患として知られている。
【0004】
抗炎症療法の介入にもかかわらず進行し得る、線維化に対して特に承認されている薬物がないため、GI管の線維性狭窄の現在の管理は主として外科的手術によるものである。
【0005】
外科的手術の介入後の再発率は高く、50%を超える患者が10年以内に、多くは12か月以内にさらなる外科的手術を必要とする。結果として、患者はGI機能が進行的に喪失する苦しみを感じ、切除を繰り返すことで短腸症候群などの健康上の大きな合併症に至り得る。
【0006】
前臨床データによれば、化合物Aが炎症性腸疾患の複数の動物実験で強力な抗線維化治療効果を表すことが示されている。
【0007】
遊離塩基の化合物Aは安定性が低い。
【0008】
化合物Aの安定した結晶形態を提供することが本発明の特定の実施形態の目的である。他の結晶形態よりも安定している化合物Aの結晶形態を提供することが本発明の特定の実施形態の目的である。
【0009】
本発明の特定の実施形態は、上記した目的のいくつかまたはすべてを満たすものである。
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様において、化合物AのS-エナンチオマー(S-A):
【化2】
が、実質的にエナンチオピュアな形態にて、またはその医薬的に許容される塩で提供される。化合物AのS-エナンチオマーは遊離塩基の形態であってもよい。化合物AのS-エナンチオマーは医薬的に許容される塩の形態であってもよい。該塩は結晶塩の形態であってもよい。
【0011】
本発明者らは、化合物AのS-エナンチオマーが、R-エナンチオマーよりも多種多様な代替となる標的にてより低い阻害を示すことを見出した。特に、化合物AのS-エナンチオマーは、R-エナンチオマーよりも、ROCK以外の多種多様なキナーゼにてより低い阻害を表す。このことは、今日まで、本発明者らが、キナーゼROCK1またはROCK2に対して化合物AのS-エナンチオマーとR-エナンチオマーとの活性の間に統計的に有意義な差異を検出していなかったために、特に意外なことである。
【0012】
加えて、S-エナンチオマーは、ヒトにて副作用を惹起する可能性のある、望ましくない標的外の活性を同定するのに使用される、有意な数のアッセイにおいてもR-エナンチオマーよりも活性が低い。
【0013】
本発明が化合物Aの医薬的に許容される塩に関する場合、その塩は、典型的には、酸付加塩であろう。適切な酸付加塩は、非毒性の塩を形成する酸より形成される。例として、酢酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンシル酸塩、クエン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/クロリド、臭化水素酸塩/ブロミド、ヨウ化水素酸塩/ヨーダイド、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩、2-ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素塩/リン酸二水素塩、サッカリン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、およびトリフルオロ酢酸塩が挙げられる。
【0014】
塩は塩酸塩およびコハク酸塩から選択され得る。本発明者らは、化合物Aのコハク酸塩および塩酸塩が、遊離塩基よりもより安定している結晶を形成することを見出した。塩はコハク酸塩であってもよい。塩は塩酸塩であってもよい。本発明者らは、化合物Aの塩酸塩の結晶形態が特に安定していることを見出した。
【0015】
本発明の第2の態様において、化合物A:
【化3】
の結晶塩の形態が提供される。
【0016】
化合物Aの遊離塩基は、化学安定性、特にエステル加水分解に対する安定性が低い。本発明者らは化合物Aの塩の形態が、遊離塩基と比べて安定性の改善を示すことを見出した。
【0017】
本発明は化合物Aの医薬的に許容される塩に関する。塩は典型的には酸付加塩であろう。
【0018】
適切な酸付加塩は非毒性の塩を形成する酸から形成される。例として、酢酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンシル酸塩、クエン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/クロリド、臭化水素酸塩/ブロミド、ヨウ化水素酸塩/ヨーダイド、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、1,5-ナフタレンジスルホン酸塩、2-ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素塩/リン酸二水素塩、サッカリン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、およびトリフルオロ酢酸塩が挙げられる。
【0019】
塩は塩酸塩およびコハク酸塩から選択され得る。本発明者らは、化合物Aのコハク酸塩および塩酸塩が、遊離塩基よりもより安定している結晶を形成することを見出した。塩はコハク酸塩であってもよい。塩は塩酸塩であってもよい。本発明者らは、化合物Aの塩酸塩の結晶形態が特に安定していることを見出した。
【0020】
結晶塩の形態は溶媒和物であってもよい。結晶塩の形態は水和物であってもよい。結晶塩の形態は溶媒和物でなくてもよい。結晶塩の形態は水和物でなくてもよい。
【0021】
化合物Aは、フラノン環が分子の残基と結合する点で、単一のキラル中心を含有する。本発明の第1の態様の結晶形態にて、化合物Aは2つのエナンチオマーの混合物であってもよい。化合物Aは2つのエナンチオマーのラセミ混合物であってもよい。化合物Aは、実質的に、単一のエナンチオマーの形態であってもよい。
【0022】
単一のエナンチオマーは、S-エナンチオマー(S-A):
【化4】
であってもよい。
【0023】
単一のエナンチオマーはR-エナンチオマー(R-A):
【化5】
であってもよい。
【0024】
「実質的に」なる語は、化合物Aが90%以上のエナンチオマー過剰率を有することを意味し得る。「実質的に」なる語は、典型的には、化合物Aが95%以上のエナンチオマー過剰率を有することを意味する。それは化合物Aが98%以上、99%以上または99.5%以上のエナンチオマー過剰率を有することを意味し得る。本明細書を通じて、化合物Aが単一のエナンチオマーである(RまたはSのいずれかである)と記載される場合、それはエナンチオマー過剰率が別途特定されない限り、本段落の意味の範囲内で実質的にエナンチオピュアな形態であることを意味するものとする。
【0025】
エナンチオマーは、セルロース-トリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)で被覆されたシリカを含むカラム、例えば、キラルセル(Chiralcel)OD-3カラムを用いて実施されるキラルHPLCにおいて、より早く溶出するエナンチオマーであってもよい。エナンチオマーは、セルロース-トリス(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)で被覆されたシリカを含むカラム、例えば、キラルセルOD-3カラムを用いて実施されるキラルHPLCにおいて、より遅く溶出するエナンチオマーであってもよい。HPLCの移動相として用いられる溶媒系は、溶媒混合液A中28%溶媒混合液Bであってもよく、ここで溶媒混合液Aは0.05%ジエチルアミンを含有するヘプタンであり;溶媒混合液Bは同様に0.05%ジエチルアミンを含有する、イソプロピルアルコールとアセトニトリルとの4:1混合液である。
【0026】
塩が化合物Aの単一のエナンチオマーの塩酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、16.2±0.2、22.7±0.2、23.3±0.2、24.0±0.2、24.9±0.2および25.4±0.2より選択される2θで少なくとも2個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられるものであってもよい。塩が化合物Aの単一のエナンチオマーの塩酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、16.2±0.2、22.7±0.2、23.3±0.2、24.0±0.2、24.9±0.2および25.4±0.2より選択される2θで少なくとも4個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられるものであってもよい。塩が化合物Aの単一のエナンチオマーの塩酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、16.2±0.2、22.7±0.2、23.3±0.2、24.0±0.2、24.9±0.2および25.4±0.2より選択される2θでピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられるものであってもよい。該結晶形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、実質的に図1に示されるようなXRPDパターンを有するものであってもよい。この結晶形態は、本明細書において、HCl塩の形態Iとして知られている。単一のエナンチオマーはS-エナンチオマーであってもよい。単一のエナンチオマーはR-エナンチオマーであってもよい。
【0027】
塩が化合物Aの単一のエナンチオマーの塩酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、13.6±0.2、14.4±0.2、14.5±0.2、16.2±0.2および16.5±0.2より選択される2θで少なくとも2個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられるものであってもよい。塩が化合物Aの単一のエナンチオマーの塩酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、13.6±0.2、14.4±0.2、14.5±0.2、16.2±0.2および16.5±0.2より選択される2θで少なくとも4個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられるものであってもよい。塩が化合物Aの単一のエナンチオマーの塩酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、13.6±0.2、14.4±0.2、14.5±0.2、16.2±0.2および16.5±0.2より選択される2θでピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられるものであってもよい。該結晶形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、実質的に図3に示されるようなXRPDパターンを有するものであってもよい。この結晶形態は、本明細書において、HCl塩の形態IIとして知られている。単一のエナンチオマーはS-エナンチオマーであってもよい。単一のエナンチオマーはR-エナンチオマーであってもよい。
【0028】
塩が化合物Aの単一のエナンチオマーのコハク酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、18.2±0.2、18.6±0.2、19.1±0.2、21.4±0.2、23.0±0.2、24.1±0.2および25.8±0.2より選択される2θで少なくとも2個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられるものであってもよい。塩が化合物Aの単一のエナンチオマーのコハク酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、18.2±0.2、18.6±0.2、19.1±0.2、21.4±0.2、23.0±0.2、24.1±0.2および25.8±0.2より選択される2θで少なくとも4個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられるものであってもよい。塩が化合物Aの単一のエナンチオマーのコハク酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、18.2±0.2、18.6±0.2、19.1±0.2、21.4±0.2、23.0±0.2、24.1±0.2および25.8±0.2より選択される2θでピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられるものであってもよい。該結晶形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、実質的に図2に示されるようなXRPDパターンを有するものであってもよい。この結晶形態は、本明細書において、コハク酸塩の形態Iとして知られている。単一のエナンチオマーはS-エナンチオマーであってもよい。単一のエナンチオマーはR-エナンチオマーであってもよい。
【0029】
HCl塩の形態I、HCl塩の形態IIおよびコハク酸塩の形態Iは、すべて化学的に安定した結晶性材料であり、化合物Aの遊離塩基よりも安定している。HCl塩の形態IおよびHCl塩の形態IIはコハク酸塩の形態Iよりも安定している。HCl塩の形態IIは、それがHCl塩の形態Iよりも結晶性が高く、また低pHでより可溶性あるため、特に有益である。
【0030】
本発明の第3の態様において、第1の態様の結晶塩の形態、または第2の態様の化合物Aまたはその医薬塩を含む、医薬製剤が提供される。
【0031】
本発明の第4の態様において、医療的治療にて用いるための、第1の態様の結晶塩の形態、または第2の態様の化合物Aまたはその医薬塩が提供される。
【0032】
本発明の第5の態様において、疾患の治療にて用いるための、第1の態様の結晶塩の形態、または第2の態様の化合物Aまたはその医薬塩が提供される。
【0033】
本発明の第6の態様において、疾患の治療方法であって、その治療を必要とする対象に、治療的に効果的な量の第1の態様の結晶塩の形態、または第2の態様の化合物Aまたはその医薬塩を投与することを含む、方法が提供される。
【0034】
本発明の第7の態様において、疾患を治療するための医薬の製造における、第1の態様の結晶塩の形態、または第2の態様の化合物Aまたはその医薬塩の使用が提供される。
【0035】
疾患は線維性疾患であってもよい。
【0036】
疾患は胃腸系の疾患であってもよい。
【0037】
疾患は炎症性腸疾患であってもよい。
【0038】
疾患は、クローン病、例えば、線維性狭窄性疾患であってもよい。
【0039】
疾患は、がん、例えば、大腸がんであってもよい。
【0040】
疾患は、皮膚疾患、例えば、ケロイドまたは強皮症であってもよい。
【0041】
疾患は眼疾患であってもよい。
【0042】
本発明の第8の態様において、化合物Aの単一のエナンチオマーのHCl結晶塩の形態IIを製造する方法であって、
a)化合物Aの単一のエナンチオマーのHCl結晶塩の形態Iのサンプルを溶媒に懸濁させて懸濁液を形成し;
b)その懸濁液をろ過してHCl結晶塩の形態IIを得る
ことを含む、方法が提供される。
【0043】
溶媒は溶媒の混合液であってもよい。
【0044】
溶媒は極性の非プロトン性有機溶媒であってもよい。溶媒は極性の非プロトン性有機溶媒を含んでもよい。溶媒は水であってもよい。溶媒は水を含んでもよい。溶媒は極性のプロトン性有機溶媒であってもよい。溶媒は極性のプロトン性有機溶媒を含んでもよい。
【0045】
溶媒は、極性の非プロトン性有機溶媒と、極性のプロトン性有機溶媒および水から選択される溶媒との混合液であってもよい。溶媒は極性の非プロトン性有機溶媒と水との混合液であってもよい。
【0046】
適切な極性の非プロトン性有機溶媒には、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、アセトニトリル、エーテル(例えば、THF、ジグライム、エチレングリコールジメチルエーテル、t-ブチル-メチルエーテル)、エステル(例えば、酢酸エチル)が含まれる。
【0047】
適切な極性のプロトン性有機溶媒には、エタノール、メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールが含まれる。
【0048】
溶媒はアセトンを含んでもよい。溶媒はアセトンと水との混合液であることが好ましい。本発明者らは、アセトンと水との混合液を用いることで、他の可能性のある溶媒系よりもよりクリーンな生成物が得られることを見出した。
【0049】
極性の非プロトン性有機溶媒(例えば、アセトン)の水に対する割合は、容量で1:1~50:1のアセトン:水の範囲であってもよい。極性の非プロトン性有機溶媒(例えば、アセトン)の水に対する割合は、容量で10:1~30:1のアセトン:水の範囲であってもよい。極性の非プロトン性有機溶媒(例えば、アセトン)の水に対する割合は、容量で15:1~25:1のアセトン:水の範囲であってもよい。
【0050】
単一のエナンチオマーはS-エナンチオマーであってもよい。単一のエナンチオマーはR-エナンチオマーであってもよい。
【0051】
工程a)は、典型的には、混合物を攪拌することを含む。混合物は1時間より長く攪拌されてもよい。混合物は5時間より長く攪拌されてもよい。混合物は12時間より長く攪拌されてもよい。混合物は48時間未満で攪拌されてもよい。混合物は24時間未満で攪拌されてもよい。
【0052】
工程a)は、典型的には、5℃ないし40℃の範囲の温度で実施されるであろう。工程a)は、典型的には、15℃ないし30℃の範囲の温度で実施されるであろう。
【0053】
製造方法は、さらに:工程c)HCl塩の形態IIを、例えば、真空下で乾燥させる工程を含んでもよい。工程c)は30℃~60℃の範囲にある温度で実施されてもよい。工程c)は30分間よりも長く実施されてもよい。工程c)は6時間未満、例えば、3時間未満にわたって実施されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
本発明の実施態様を、添付した図面を参照にして、以下にさらに説明する:
【0055】
図1】HCl塩の形態IのXRPDスペクトルを示す。
図2】コハク酸塩の形態IのXRPDスペクトルを示す。
図3】HCl塩の形態IIのXRPDスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明は、化合物Aの医薬的に許容される塩に関する。適切な塩に関する総説については、StahlおよびWermuthの、「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use」(Wiley-VCH, Weinheim, Germany, 2002)を参照のこと。
【0057】
化合物Aの医薬的に許容される酸付加塩は、1または複数の以下の2種の方法:
化合物Aを所望の酸と反応させること;
化合物Aの1の塩を適切な酸または塩基と反応させることによって、あるいは適切なイオン交換カラムによってもう一つ別の塩に変換すること
で製造され得る。
【0058】
かかる反応は、典型的には、溶液中で実施される。得られた塩を沈殿させてろ過で集めてもよいし、あるいは溶媒を蒸発させて回収してもよい。得られる塩のイオン化の程度は、完全にイオン化したものから、ほとんどイオン化していないものまで変化してもよい。
【0059】
「溶媒和物」なる語は、本明細書にて、本発明の化合物と、1または複数の医薬的に許容される溶媒分子、例えば、エタノールとを含む、分子の複合体を説明するのに使用される。「水和物」なる語は、その溶媒が水である場合に利用される。
【0060】
X線粉末回折パターンが、測定条件(使用される装置、サンプル調製または機械など)に応じて1または複数の測定誤差を含んで得られ得ることは、当該分野において公知である。特に、X線粉末回折パターンの強度が測定条件およびサンプル調製に応じて変動し得ることは周知である。例えば、X線粉末回折パターンの分野における当業者であれば、ピークの相対強度がサンプルの向き、および使用される装置の型およびセッティングによって変動し得ることを理解するであろう。当業者はまた、サンプルが回折計に設置される正確な高さ、および回折計のゼロ校正によって、反射の位置が影響を受け得ることを理解するであろう。サンプルの表面の平坦度も少なからず影響を及ぼすかもしれない。かくして、当業者であれば、本明細書中に表された回折パターンのデータは絶対的であると解釈されるべきでなく、本明細書に開示される粉末回折パターンと実質的に同一であるパターンを提供するいずれの結晶形態も本開示の範囲内にあると理解するであろう(さらなる情報については、Jenkins, R & Snyder, R.L.、「Introduction to X-Ray Powder Diffractometry」 John Wiley & Sons, 1996を参照のこと)。
【0061】
「安定な」なる語は化学的安定性または物理的安定性をいってもよい。特に、遊離塩基の化合物Aは化学的に不安定であるのに対して、本発明の結晶形態は、40℃の75%相対湿度で7日間まで化学的に安定しており、および/または60℃の外界湿度で7日間まで化学的に安定している。本発明の結晶形態は、40℃の75%相対湿度で3か月間まで化学的に安定しており、および/または25℃の60%相対湿度で3か月間まで化学的に安定している可能性がある。
【0062】
本発明の上記した化合物について、投与される用量は、もちろん、利用される化合物、投与様式、所望の治療、および適用の障害で変化するであろう。例えば、本発明の化合物が経口的に投与される場合、その時には本発明の化合物の一日の用量は、体重1キログラムに付き0.01マイクログラム(μg/kg)ないし体重1キログラムに付き100ミリグラム(mg/kg)の範囲であってもよい。
【0063】
本発明の結晶塩の形態または化合物は、それ自体で使用されてもよいが、一般に、本発明の結晶塩の形態または化合物、またはその医薬的に許容される塩が、医薬的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体と合わさった医薬組成物の形態にて投与されるであろう。適切な医薬製剤を選択し、かつ製造するための従来の操作は、例えば、「Pharmaceuticals - The Science of Dosage Form Designs」, M. E. Aulton、Churchill Livingstone, 1988に記載されている。
【0064】
本発明の結晶塩の形態または化合物の投与様式に応じて、本発明の結晶塩の形態または化合物を投与するのに使用される医薬組成物は、好ましくは、0.05~99%w(重量パーセント)の本発明の結晶塩の形態または化合物、より好ましくは、0.05~80%wの本発明の結晶塩の形態または化合物、さらに好ましくは、0.10~70%wの本発明の結晶塩の形態または化合物、さらにより好ましくは、0.10~50%wの本発明の結晶塩の形態または化合物を含み、ここですべての重量パーセントは組成物の全量に基づくものであろう。
【0065】
医薬組成物は、例えば、クリーム、ゲル、ローション、液剤、懸濁液の形態で局所的に(例えば、皮膚または眼に)投与されてもよく、あるいは、例えば、錠剤、カプセル、シロップ、散剤または顆粒の形態で経口投与することで;坐剤の形態にて経直腸投与することで、あるいはエアロゾルの形態で吸入することにより、全身的に投与されてもよい。
【0066】
経口投与の場合、本発明の結晶塩の形態または化合物は、アジュバントまたは担体、例えば、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール;デンプン、例えば、イモデンプン、トウモロコシデンプンまたはアミロペクチン;セルロース誘導体;結合剤、例えば、ゼラチンまたはポリビニルピロリドン;および/または滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ポリエチレングリコール、ワックス、パラフィン等と混和され、ついで打錠されてもよい。錠剤のコーティングが必要な場合、上記にて製造したコアを、例えば、アラビアガム、ゼラチン、タルクおよび二酸化チタンを含有し得る糖濃縮液でコーティングしてもよい。別法として、揮発性の高い有機溶媒に溶かした適切なポリマーで錠剤をコーティングしてもよい。
【0067】
軟ゼラチンカプセルを製造する場合、本発明の結晶塩の形態または化合物を、例えば、植物油またはポリエチレングリコールと混和してもよい。硬ゼラチンカプセルは、上記した錠剤用の賦形剤のいずれかを用いて塩の形態の顆粒を含有してもよい。また、本発明の結晶塩の形態または化合物の液体または半固体製剤は硬ゼラチンカプセル中に充填されてもよい。経口適用のための液体製剤は、シロップまたは懸濁液の形態であってもよく、残りは糖およびエタノール、水、グリセロールおよびポリエチレングリコールの混合液である。かかる液体製剤は、所望により、着色剤、香料、甘未剤(サッカリンなど)、保存剤および/または増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース、または当業者に既知の他の賦形剤を含有してもよい。
【0068】
本発明の結晶塩の形態または化合物の治療を目的とする用量の大きさは、当然、医薬の周知の原理に従って、症状の特性および重篤度、動物または患者の年齢および性別、および投与経路に従って、変化するであろう。
【0069】
本発明の結晶塩の形態または化合物の投与量レベル、投薬頻度、および治療期間は、製剤ならびに患者の臨床適応症、年齢、および併存する病状に応じて異なると考えられる。
【0070】
本明細書および特許請求の範囲の記載を通して、「含む」および「含有する」なる語、およびそれらの変形は、「包含するが、限定されない」を意味し、それらは他の部分、添加物、成分、整数または工程を除外するものとはせず(かつ除外しない)。本明細書および特許請求の範囲の記載を通して、文脈にて別段の定めがない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、本明細書は、文脈にて別段の定めがない限り、複数形、ならびに単数形を意図するものと理解すべきである。
【0071】
本発明の特定の態様、実施態様または実施例と関連して記載される、特徴、整数、特性、化合物、化学的部分または基は、本明細書の記載の他のいずれの態様、実施態様または実施例にも、それと両立しない場合を除いて、適用可能であると理解されるべきである。本明細書(添付したいずれの特許請求の範囲、要約および図面も含む)にて開示される特徴はすべて、および/またはそのように開示されたいずれの方法またはプロセスの工程はすべて、そのような特徴および/または工程の少なくとも一部が相互に排他的である組み合わせを除き、どのような組み合わせでも組み合わせることができる。本発明は上記したいずれかの実施態様の詳細な事項に限定されない。本発明は、本明細書(添付したいずれの特許請求の範囲、要約および図面も含む)にて開示される特徴の新規な任意の1つ、または任意の新規な組み合わせ、あるいはそのように開示される任意の方法またはプロセスの工程の新規な任意の1つ、または任意の新規な組み合わせにも及ぶ。
【0072】
読み手の注意は、本願と関連して、本明細書と同時に、またはそれ以前に出願されており、本明細書と共に公衆の閲覧に付されている、すべての論文および文献に向けられ、かかるすべての論文および文献の内容を出典明示により本明細書に組み込むものとする。
【0073】
実施例
実施例1 - ラセミ化合物4の形成
化合物3の製造
【化6】
化合物2(98.0g、999ミリモル、1.00当量)のTHF(テトラヒドロフラン;980mL)中懸濁液に、TEA(トリエチルアミン;101g、999ミリモル、139mL、1.00当量)および化合物1(233g、1.50モル、1.50当量)を25℃でN下にて添加した。混合物を25℃でN下にて6時間にわたって攪拌した。LCMSは化合物2が消費され、所望のMS(RT=0.592分)が検出されることを示した。反応物をろ過し、固体を石油エーテル(1.00L)で洗浄して暗色を洗い流した。ろ過ケークを濃縮してラセ化合物3(389g、1.53モル、収率76.3%、純度99.3%)を黄色の固体として得た。
【0074】
LCMS:生成物:RT=0.592分間、m/z=254.0(M+H)
H NMR:400MHz、DMSO δ/ppm:8.15(d,J=8.8Hz,2H)、7.56(d,J=8.8Hz,2H)、4.35-4.30(m,1H)、4.20-4.15(m,1H)、3.54(dd,J=4.8、4.4Hz,1H)、3.31-3.26(m,1H)、3.12-3.05(m,1H)、2.39-2.34(m,1H)、2.11-2.00(m,1H)
【0075】
化合物4の製造-
【化7】
ラセミ化合物3(131g、512ミリモル、純度99.3%、1.00当量)のMeOH(366mL)、THF(366mL)およびDMA(ジメチルアセトアミド;52.0mL)中溶液に、Pd/C(41.8g、512ミリモル、純度10.0%、1.00当量)を25℃のN下で添加した。懸濁液をH(50psi)で3回にわたって脱気処理に付してパージした。混合物を45℃に加熱し、H(50psi)下にて45℃で16時間にわたって攪拌した。TLC(石油エーテル:酢酸エチル=1:1)によれば、化合物3(R=0.60)が消費され、1つの新たなスポット(R=0.30)が検出されることを示した。3バッチの反応物をろ過し、真空下にて濃縮してロータリーエバポレーター上で排除できない、DMAだけが残った。これをHO(1.00L)でクエンチさせ、ろ過し、ついでろ過ケークを濃縮して化合物4(336g、1.50モル、収率97.5%、純度99.5%)をオフホワイトの固体として得た。
【0076】
LCMS:生成物:RT=0.260分間、m/z=224.1(M+H)
HPLC:生成物:RT=0.585分間、220nm下で純度99.5%
SFC:(ラセミ体)、生成物:RT=0.926分間、生成物:Rt=1.507分間
H NMR:400MHz、DMSO δ/ppm:7.13(d,J=8.8Hz,2H)、6.53(d,J=8.4Hz,2H)、5.29(s,2H)、4.31-4.26(m,1H)、4.17-4.11(m,1H)、3.08(dd,J=3.6、3.6Hz,1H)、2.83-2.77(m,1H)、2.76-2.68(m,1H)、2.38-2.30(m,1H)、2.06-1.96(m,1H)
【0077】
実施例2 - 化合物4のエナンチオマーの分離
化合物4の2つのエナンチオマーを、キラルカラムを用いる超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)で分離した。
【化8】
【0078】
SFCカラム条件:イソクラティック
【表1】
【0079】
化合物4(332g、1.48モル、純度99.5%)を分取性SFC(カラム:DAICEL CHIRALPAK AD(250mm*50mm、10μm);移動相:[Neu-MeOH];B%:50%-50%、5.6;2880分間)に付して精製し、R-4(150g、666ミリモル、収率45.0%、純度99.1%)を黄色の固体として、S-4(162g、粗製)を黄色の固体として得た。粗S-4を石油エーテル:酢酸エチル=3:1(1.62L)を用いて25℃で2時間にわたってトリチュレートし、S-4(132g、591ミリモル、収率40.0%、純度99.8%)を明黄色の固体として得た。
【0080】
R-4
LCMS:生成物:RT=0.663分間、m/z=224.0(M+H)
HPLC:生成物:RT=1.419分間、220nm下で純度99.1%
SFC:(ホモキラル)、生成物:RT=0.912分間、ee%:99.4%
H NMR:400MHz、DMSO δ/ppm:7.13(d,J=8.8Hz,2H)、6.53(d,J=8.4Hz,2H)、5.29(s,2H)、4.31-4.26(m,1H)、4.17-4.11(m,1H)、3.08(dd,J=3.6,3.6Hz,1H)、2.83-2.77(m,1H)、2.76-2.68(m,1H)、2.38-2.30(m,1H)、2.06-1.96(m,1H)
【0081】
S-4
LCMS:生成物:RT=0.656分間、m/z=224.0(M+H)
HPLC:生成物:RT=1.358分間、220nm下で純度99.8%
SFC:(ホモキラル)、生成物:RT=1.491分間、ee%:99.7%
H NMR:400MHz、DMSO δ/ppm:7.13(d,J=8.4Hz,2H)、6.53(d,J=8.8Hz,2H)、5.29(s,2H)、4.31-4.26(m,1H)、4.17-4.11(m,1H)、3.08(dd,J=3.6, 3.6Hz,1H)、2.83-2.77(m,1H)、2.75-2.68(m,1H)、2.38-2.30(m,1H)、2.06-1.96(m,1H)
【0082】
実施例3 - R-4のR-Aへの変換
化合物R-6の製造
【化9】
化合物5(Bolandら、Bioorg. Med. Chem. Lett. 2013, 6442-6446)(141g、294ミリモル、純度97.4%、1.00当量)のDCM(1.41L)中溶液に、化合物R-4(69.7g、309ミリモル、純度99.1%、1.05当量)およびDMAP(ジメチルアミノピリジン;7.19g、58.9ミリモル、0.200当量)、TEA(89.4g、883ミリモル、123mL、3.00当量)を20℃でN下にて添加した。TP(無水プロピルホスホン酸;281g、442ミリモル、263mL、純度50.0%、1.50当量)を該混合物に20℃で添加し、混合物を20℃で3時間にわたって攪拌した。LCMSは化合物5が消費され、所望のMS(RT=0.922分間)が検出されていることを示した。反応物をDCM(1.40L)で希釈し、NaHCO飽和溶液(1.40Lx3)で洗浄した。有機層をNaSO上で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮して残渣を得た。該残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO、石油エーテル:酢酸エチル=1:0~0:1、石油エーテル:酢酸エチル=0:1、R=0.50)に付して精製し、化合物R-6(195g、289ミリモル、収率98.0%、純度99.3%)を明黄色の固体として得た。
【0083】
LCMS:生成物:RT=0.922分間、m/z=671.3(M+H)
SFC:(ホモキラル)、生成物:RT=4.269分間、ee%:100%
H NMR:400MHz、DMSO δ/ppm:10.5(s,1H)、10.37(s,1H)、8.59(d,J=2.4Hz,1H)、8.39(d,J=5.6Hz,1H)、8.02-8.01(m,3H)、7.93-7.90(m,2H)、7.79(d,J=8.4Hz,2H)、7.70-7.64(m,2H)、7.57(d,J=8.0Hz,1H)、7.51(t,J=6.0Hz,1H)、7.42(d,J=8.8Hz,2H)、4.33-4.28(m,1H)、4.19-4.12(m,3H)、3.08-3.02(m,1H)、2.93-2.85(m,1H)、2.38-2.31(m,1H)、2.09-2.01(m,1H)、1.37(s,9H)、1.22(s,1H)
【0084】
R-4の製造
【化10】
化合物R-6(97.5g、144ミリモル、純度99.3%、1.00当量)のDCM(ジクロロメタン;975mL)およびジオキサン(975mL)中溶液に、HCl/ジオキサン(4.00M、361mL、10.0当量)を35℃で滴下して加えた。混合物を35℃で2時間にわたって攪拌した。LCMSは化合物R-6が消費され、所望のMS(RT=0.773分間)が検出されていることを示した。反応混合物を25℃に冷却し、25℃で12時間にわたって攪拌した。混合物を減圧下で濃縮して残渣を得た。該残渣を脱イオン化HO(2.00L)で希釈し、NaHCO飽和溶液(300mL)を用いてpHを7に調整し、ろ過してろ過ケークを濃縮した。両方の反応からの粗生成物を合わせ、脱イオン化HO(1.50L)を用いて25℃で12時間にわたってトリチュレートし、ついでろ過してろ過ケークを濃縮し、R-A HCl(110g、180ミリモル、収率62.2%、純度99.1%、HCl)を明黄色の固体として得た。
【0085】
LCMS:生成物:RT=0.773分間、m/z=571.3(M+H)
HPLC:生成物:RT=7.942分間、220nm下で純度99.1%
キラル NP-HPLC、生成物:Rt=13.573分間、ee%:100%
キラル NP-HPLC条件:
【表2】
【0086】
EA-CHNS:C:54.0%、H:5.36%、N:7.98%、S:4.59%
H NMR:400MHz、DMSO δ/ppm:10.7(s,1H)、10.56(s,1H)、8.60(d,J=2.8Hz,1H)、5.54(s,2H)、8.40(d,J=5.2Hz,1H)、8.18(s,1H)、8.11(dd,J=2.0, 2.0Hz,1H)、8.07-8.05(m,2H)、7.91-7.88(m,2H)、7.85(d,J=8.8Hz,2H)、7.72-7.67(m,2H)、7.41(d,J=8.8Hz,2H)、4.33-4.28(m,1H)、4.18-4.12(m,1H)、4.06(s,2H)、3.32(s,1H)、3.08-3.02(m,1H)、2.91-2.87(m,1H)、2.38-2.31(m,1H)、2.09-2.02(m,1H)
【0087】
実施例4 - S-4のS-Aへの変換
化合物S-6の製造
【化11】
化合物5(Bolandら、Bioorg. Med. Chem. Lett. 2013, 6442-6446)(141g、294ミリモル、純度97.4%、1.00当量)のDCM(1.41L)中溶液に、化合物S-4(69.2g、309ミリモル、純度99.8%、1.05当量)およびDMAP(7.19g、58.9ミリモル、0.200当量)、TEA(89.4g、883ミリモル、123mL、3.00当量)を20℃でN下にて添加した。TP(281g、442ミリモル、263mL、純度50.0%、1.50当量)を混合物に20℃で加え、該混合物を20℃で3時間にわたって攪拌した。LCMSは化合物5が消費され、所望のMS(RT=0.917分間)が検出されていることを示した。反応物をDCM(1.40L)で希釈し、NaHCO飽和溶液(1.40Lx3)で洗浄した。有機層をNaSO上で乾燥させ、ろ過し、減圧下で濃縮して残渣を得た。該残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO、石油エーテル:酢酸エチル=1:0~0:1、石油エーテル:酢酸エチル=0:1、R=0.50)に付して精製し、化合物S-6(197g、290ミリモル、収率98.5%、純度98.9%)を黄色の固体として得た。
【0088】
LCMS:生成物:RT=0.917分間、m/z=671.3(M+H)
HPLC:生成物:RT=2.119分間、220nm下で純度98.9%
SFC:(ホモキラル)、生成物:Rt=5.810分間、ee%:100%
H NMR:400MHz、DMSO δ/ppm:10.5(s,1H)、10.4(s,1H)、8.59(d,J=2.4Hz,1H)、8.39(d,J=5.6Hz,1H)、8.02-8.01(m,3H)、7.93-7.90(m,2H)、7.79(d,J=8.8Hz,2H)、7.70-7.64(m,2H)、7.58(d,J=8.0Hz,1H)、7.51(t,J=6.0Hz,1H)、7.42(d,J=8.4Hz,2H)、4.33-4.28(m,1H)、4.19-4.12(m,3H)、3.08-3.02(m,1H)、2.93-2.85(m,1H)、2.38-2.32(m,1H)、2.09-2.01(m,1H)、1.38(s,9H)、1.22(s,1H)
【0089】
S-Aの製造
【化12】
化合物S-6(98.3g、145ミリモル、純度98.9%、1.00当量)のDCM(983mL)およびジオキサン(983mL)中溶液に、HCl/ジオキサン(4M、363mL、10.0当量)を35℃で滴下して加えた。混合物を35℃で2時間にわたって攪拌した。LCMSは化合物S-6が消費され、所望のMS(RT=0.774分間)が検出されていることを示した。反応混合物の2つのバッチを25℃に冷却し、25℃で12時間にわたって攪拌した。混合物を減圧下で濃縮して残渣を得た。該残渣を脱イオン化HO(2.00L)で希釈し、NaHCO飽和溶液(310mL)でpHを7に調整し、ろ過してろ過ケークを濃縮した。両方の反応からの粗生成物を合わせ、脱イオン化HO(1.50L)を用いて25℃で12時間にわたってトリチュレートし、ついでろ過してろ過ケークを濃縮し、S-A・HCl(112g、182ミリモル、収率62.8%、純度98.8%、HCl)を明黄色の固体として得た。
【0090】
LCMS:生成物:RT=0.774分間、m/z=571.3(M+H)
キラル NP-HPLC、生成物:Rt=11.407分間、ee%:100%
キラル NP-HPLCは実施例3に記載されているのと同一である
EA-CHNS:C:56.7%、H:5.39%、N:8.35%、S:4.72%
H NMR:400MHz、DMSO δ/ppm:10.7(s,1H)、10.5(s,1H)、8.60(d,J=2.8Hz,1H)、8.41-8.40(m,3H)、8.16(s,1H)、8.11(dd,J=2.0、1.6Hz,1H)、8.08-8.06(m,2H)、7.91-7.87(m,2H)、7.85(d,J=8.8Hz,2H)、7.72-7.67(m,2H)、7.41(d,J=8.8Hz,2H)、4.33-4.28(m,1H)、4.18-4.12(m,1H)、4.06(s,2H)、3.36(s,1H)、3.08-3.02(m,1H)、2.91-2.87(m,1H)、2.37-2.31(m,1H)、2.07-2.02(m,1H)
【0091】
この方法はS-A・HCl塩の形態Iを直接的に形成する。S-A・HCl塩の形態Iについて、以下の条件でXRPDを行った:
【0092】
XRPD条件
XRPD回折図はX線回折装置を用いて集められた。サンプルはゼロ-バックグラウンドのシリコンウエハー上にて平坦な表面に軽くプレスすることで製造された。XRPD回折のパラメータを以下に示す。
【0093】
XRPD試験のパラメータ
【表3】
【0094】
S-A・HCl塩の形態IのXRPD(図1も参照のこと)
【表4】
【0095】
実施例5 - S-A・コハク酸塩の形態Iの形成
S-A遊離塩基の形態Iの形成:
約100mgのS-A・HCl塩の形態Iを1mLのアセトニトリルに室温(24℃)で懸濁させた。15分間にわたって攪拌した後に、粘度の高い懸濁液が観察され、次に6当量のNaHCO水溶液(84mgのNaHCOを0.8mLの水に溶かした)を添加した。35分間にわたって攪拌した後、懸濁液が観察された。2mLのアセトニトリルおよび10mLの水を添加し、次に10分間にわたって攪拌したところ、油の混じった固体が沈殿した。最終的に、室温で15時間にわたって攪拌した後に、懸濁液が得られた。固体をろ過して集め、真空下にて40℃で約3時間にわたって乾燥させ、S-A遊離塩基の形態Iを得た。
【0096】
S-A・コハク酸塩の形態Iの形成:
約400mgのS-A遊離塩基の形態Iおよび1.1当量のコハク酸(91mg)を8mLのMEK(メチルエチルケトン)に室温(約24℃)で添加した。混合物を室温で4時間にわたって攪拌し、ついで固体をろ過で集め、MEKで洗浄し、真空条件下、40℃で24時間にわたって乾燥させ、S-A・コハク酸塩の形態Iを得た。
【0097】
XRPDをS-A・コハク酸塩の形態Iに対して行った。条件は、実施例4においてHCl塩の形態IのXRPD分析について説明されている条件と、同じであった。
コハク酸塩の形態IのXRPDピーク(図2も参照のこと)
【表5】
【0098】
実施例6 - S-A・HCl塩の形態IIの形成
約600mgのS-A・HCl塩の形態Iを20mLのアセトン/水(19/1、v/v)に室温で懸濁させ、約16時間にわたって攪拌した。固体をろ過で集め、真空下、40℃で約2時間にわたって乾燥させた。約545mgのHCl塩の形態IIが91%の収率で製造された。
XRPDをS-A・HCl塩の形態IIに対して行った。条件は、実施例4においてHCl塩の形態IのXRPD分析について説明されている条件と、同じであった。
【0099】
S-A・HCl塩の形態IIのXRPDピーク(図3も参照のこと)
【表6】
【0100】
実施例7 - 安定性の試験データ
方法:
約10mgの遊離塩基の形態I、HCl塩の形態II、コハク酸塩の形態I、およびレシーブしたHCl塩の形態Iを、各々、60℃/密封系、および40℃/75%RH(開放系)に置いた。サンプルは各条件について二重重複して製造した。0日目と7日目に、サンプルを、各々、HPLCおよびXRPDに付して分析し、純度および結晶形態をチェックした。
【0101】
結果を以下の表に示す。
【表7】
【0102】
3種のすべての塩の形態は遊離塩基の化合物Aよりも安定している。2種のHCl塩の形態はコハク酸塩の形態よりも安定している。
【0103】
HCl塩の形態IIについてより長期にわたる安定性も以下の条件下で試験した:
・25℃±2℃、60%RH±5%RH
・40℃±2℃、75%RH±5%RH
【0104】
サンプルは各条件について二重重複して製造した。0日目と、1か月および3か月後に、サンプルを、各々、HPLCおよびXRPDに付して分析し、純度および結晶形態をチェックした。
【0105】
結果を以下の表で示す。
条件25℃±2℃、60%RH±5%RHにおけるHCl塩の形態IIの安定性
【表8】
【0106】
条件40℃±2℃、75%RH±5%RHにおけるHCl塩の形態IIの安定性
【表9】
【0107】
以上のように、HCl塩の形態IIは、促進条件下であっても最大で3カ月まで安定している。
【0108】
実施例8 - 溶解度試験データ
方法:
約15mgのサンプルを秤量して各サンプルバイアルに入れ、次に3.0mLの水、疑似胃液(SGF)、絶食状態の疑似腸液(FaSSIF)または食事した状態の疑似腸液(FeSSIF)媒体を加えた。サンプルを各媒体について3重重複して製造した。懸濁液を37℃で24時間まで震盪し続けた。0.5、2および24時間経過した際に、懸濁液をろ過してろ液をHPLCで分析した。
【0109】
結果を以下の表で示す。
【表10】
【0110】
HCl塩の形態IIおよびコハク酸塩の形態Iは、HCl塩の形態IよりもSGFに可溶性であった。
【0111】
実施例9 - R-およびS-化合物AのROCK以外のキナーゼに対する活性
化合物AのS-エナンチオマーおよびR-エナンチオマーのHCl塩をパネルにあるキナーゼに対して試験した。
【0112】
化合物を粉末で受け取り、10mM DMSOストックに再懸濁させた。10μMから開始して連続して3倍希釈する10-用量IC50モードで化合物を試験した。対照となる化合物のスタウロスポリンを20μMから開始して連続して4倍希釈する10-用量IC50モードで試験した。反応はKm(ミカエリス定数)ATP濃度(表中に示される)で実施された。
【0113】
反応条件:バッファー条件:20mM HEPES((4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸;pH7.5)、10mM MgCl、1mM EGTA(エチレングリコール-ビス(β-アミノエチル)-N,N,N’,N’-テトラ酢酸)、0.01%Brij35、0.02mg/ml BSA(ウシ血清アルブミン)、0.1mM NaVO、2mM DTT(ジチオスレイトール)、1%DMSO;反応操作:1.新たに製造した反応バッファーにて指示された基質を製造する。 2.必要な補酵素を上記した基質溶液に供給する。 3.指示されたキナーゼを基質溶液に供給し、穏やかに混合する。 4.DMSO中の化合物をアコースティック技法(Echo550)を利用してキナーゼ反応混合物に供給する。 5.33P-ATP(比活性0.01μCi/μl最終)を反応混合物に供給し、反応を開始させる。 6.キナーゼ反応物を室温で120分間にわたってインキュベートする。 7.反応物をP81イオン交換紙(Whatman # 3698-915)上にてスポットに付す。 8.フィルターを0.75%リン酸にて十分に洗浄する。 9.ろ紙上に残っている放射性リン酸化基質を測定する。データ解析:キナーゼ活性データは、ビヒクル(ジメチルスルホキシド)反応と比べて、試験サンプル中に残存するキナーゼ活性のパーセントで表される。IC50値および曲線フィットはPrism4ソフトウェア(GraphPad)を用いて得られた。
【0114】
結果を以下の表にて示す。
【表11】
【0115】
化合物AのS-エナンチオマーは、7種の標的外キナーゼのうち6種のキナーゼに対して、R-エナンチオマーよりも活性が低い。化合物AのR-エナンチオマーは、7種の標的外キナーゼのうちわずかに1つだけに対して、S-エナンチオマーよりも活性が低い。このことは、発明者が、これまで、キナーゼROCK1またはROCK2に対して、化合物AのS-エナンチオマーとR-エナンチオマーの活性の間に統計的に有意義な差異を検出していないため、特に驚くべきことである。
【0116】
実施例10 - R-およびS-化合物AのCEREPパネルに対する活性
様々な標的(受容体、イオンチャネル、酵素およびトランスポーター)に対するインビトロでの薬理学的スクリーニングの使用は、ヒトにて有害な薬物反応を引き起こす可能性のある、望ましくない標的外の活性を同定するのに用いられる。スクリーニングパネル(例えば、セーフティスクリーン(SafetyScreen)44(登録商標)パネル、Eurofins)は、薬物が承認された後に発見された場合に、薬物の候補体の開発を妨げるか、または中止させるか、あるいは市場から撤退させ得る、ヒトにおける既知のイシュと関連付けられるオフ標的を選択することを含む。化合物AのS-エナンチオマーおよびR-エナンチオマーのHCl塩を一連のかかる標的について試験した。
【0117】
これらのオフ標的と関連付けられる典型的な薬物有害反応が要約されている(Bowesら、Nature Reviews Drug Discovery 2012, 11, 909)。
【0118】
G-タンパク質共役型受容体
カンナビノイド受容体CB1
作動作用/活性化:多幸感および不快感;不安;記憶障害および集中力低下;鎮痛;低体温
拮抗作用:体重減の向上;嘔吐;抑うつ

カンナビノイド受容体CB2
拮抗作用:炎症作用の増大;骨量の減少

ムスカリン性アセチルコリン受容体M1
作動作用:痙攣促進;胃酸分泌の増加;高血圧;頻脈;高体温
拮抗作用:認知機能の低下;胃酸分泌の低下;眼のかすみ

ムスカリン性アセチルコリン受容体M2
作動作用:心拍数の減少;リフレックス;血圧の上昇;陰性クロノトロピーおよび変力作用;心臓伝導の減少;心臓活動電位持続性の低下
拮抗作用:頻脈;気管支収縮;振戦

μ型オピオイド受容体(mu-MOP)
作動作用:鎮静;消化管運動の低下;瞳孔収縮;乱用傾向;呼吸抑制;ミオーシス;低体温
拮抗作用:消化管運動の亢進;消化不良;鼓腸
【0119】
酵素
モノアミンオキシダーゼA(MAO)
阻害作用:チラミンなどのアミンと併用した場合の血圧の上昇;薬物と薬物との相互作用の可能性;めまい;睡眠障害;吐き気
【0120】
トランスポーター
ノルエピネフリントランスポーターの取り込み
阻害作用:心拍数の増大;血圧の上昇;運動活性の増加;便秘;乱用の可能性
セロトニントランスポーターの取り込み
阻害作用:消化管運動の亢進;上部消化管通過の減少;血漿中レニンの減少;他のセロトン介在性作用の増加;不眠症;不安;吐き気;性的機能不全
【0121】
試験は、以下の表および指示される参考文献に記載の方法に従って、実施された。
CEREPパネル:
【表12】
【0122】
【表13】
【表14】
【0123】
1. Cesura, A.M.ら、(1990), Mol. Pharmacol., 37:358-366
2. Felder, C.C.ら、(1995), Mol. Pharmacol., 48:443-450
3. Sur, C.ら、(2003), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 100:13674-13679
4. Michal, P.ら、(2001), Brit.J. Pharmacol., 132:1217-1228
5. Wang,J.B.ら、(1994), FEBS Lett., 338:217-222
6. Perovic, S.およびMuller, W.E.G.、(1995), Arzneim-Forsch. Drug Res., 45:1145-1148
7. Verrico C.ら、(2007), Psychopharmacology, 189, 489-503
【0124】
結果を以下の表にて示す。
【表15】
【表16】
【0125】
化合物AのS-エナンチオマーは、13種のアッセイのうち7種のアッセイでR-エナンチオマーよりも活性が低い。化合物AのR-エナンチオマーは、13種のアッセイのうち1つのアッセイだけでS-エナンチオマーよりも活性が低い。
CEREPパネルに対するこのデータと、キナーゼパネルに対する実施例9にて提供されるデータとを合わせると、S-エナンチオマーは、多種の一連のオフ標的のタンパク質に対してR-エナンチオマーよりも選択的であり、ヒトにおける有効性および忍容性を制限する望ましくない毒性および副作用に付随するであろう可能性が低いことを示している。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エナンチオピュアな形態の式:
【化1】
で示されるS-エナンチオマー(S-A)である化合物A、またはその医薬的に許容される塩。
【請求項2】
化合物Aが遊離塩基の形態である、請求項1に記載の化合物A。
【請求項3】
化合物Aが医薬的に許容される塩の形態である、請求項1に記載の化合物A。
【請求項4】
化合物Aが結晶塩の形態である、請求項3に記載の化合物A。
【請求項5】
塩が塩酸塩である、請求項4に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項6】
塩がコハク酸塩である、請求項4に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項7】
医薬的に許容される塩が化合物Aの単一のエナンチオマーの塩酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、16.2±0.2、22.7±0.2、23.3±0.2、24.0±0.2、24.9±0.2および25.4±0.2より選択される2θで少なくとも2個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項5に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項8】
結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、16.2±0.2、22.7±0.2、23.3±0.2、24.0±0.2、24.9±0.2および25.4±0.2より選択される2θでピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項7に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項9】
結晶形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、図3に示されるようなXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項7に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項10】
塩が化合物Aの単一のエナンチオマーの塩酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、13.6±0.2、14.4±0.2、14.5±0.2、16.2±0.2および16.5±0.2より選択される2θで少なくとも2個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項5に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項11】
結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、13.6±0.2、14.4±0.2、14.5±0.2、16.2±0.2および16.5±0.2より選択される2θでピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項10に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項12】
結晶形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、図1に示されるようなXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項10に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項13】
塩が化合物Aの単一のエナンチオマーのコハク酸塩であって、該結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、18.2±0.2、18.6±0.2、19.1±0.2、21.4±0.2、23.0±0.2、24.1±0.2および25.8±0.2より選択される2θで少なくとも2個のピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項6に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項14】
結晶塩の形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、18.2±0.2、18.6±0.2、19.1±0.2、21.4±0.2、23.0±0.2、24.1±0.2および25.8±0.2より選択される2θでピークを有するXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項13に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項15】
結晶形態が、Kα2/Kα1の割合を0.5としたCu放射線を用いて測定した場合に、図2に示されるようなXRPDパターンを有することで特徴付けられる、請求項13に記載の化合物Aの結晶塩の形態。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の化合物Aまたはその医薬的に許容される塩を含む、医薬組成物。
【請求項17】
線維性疾患を治療するための、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
線維性疾患が胃腸系の疾患である、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
線維性疾患が線維性狭窄性クローン病である、請求項17に記載の医薬組成物。
【国際調査報告】