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特表2024-534815熱間プレス成形後に優れた塗装密着性と耐食性を示すめっき鋼板、めっき鋼板の製造方法及び熱間プレス成形部材
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  • 特表-熱間プレス成形後に優れた塗装密着性と耐食性を示すめっき鋼板、めっき鋼板の製造方法及び熱間プレス成形部材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】熱間プレス成形後に優れた塗装密着性と耐食性を示すめっき鋼板、めっき鋼板の製造方法及び熱間プレス成形部材
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/12 20060101AFI20240918BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20240918BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20240918BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20240918BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240918BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240918BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240918BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20240918BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C23C2/12
C23C2/28
C23C2/40
C23C2/26
C22C38/00 301T
C22C38/38
C22C38/58
C21D1/18 Q
C21D9/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510486
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(85)【翻訳文提出日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 KR2022020870
(87)【国際公開番号】W WO2023121241
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0185822
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】オー、 ジン-クン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ソン-ウ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 サ-ウン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 サン-ホン
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジェ-ソン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ル-リ
【テーマコード(参考)】
4K027
4K042
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA23
4K027AB02
4K027AB48
4K027AC12
4K027AC64
4K027AE02
4K027AE03
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA08
4K042BA14
4K042CA02
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042DD01
4K042DE02
(57)【要約】
本発明は、熱間プレス成形後に優れた塗装密着性と耐食性を示す熱間プレス成形用めっき鋼板、上記めっき鋼板の製造方法及び熱間プレス成形部材に関するものである。
本発明の一実施形態によるめっき鋼板は、素地鋼板及び上記素地鋼板上に形成されたAl-Fe合金からなるめっき層を含み、上記めっき層中のAlとFeの含有量の合計は重量基準で80%以上であり、上記めっき層中のFeの平均含有量は重量基準で20%以上であり、上記めっき層の表面のRaとRPcの積が60~150μm/cmであることができる。
但し、Raは算術平均粗さを意味し、単位はμmであり、RPcは単位長さ当たりのピーク数を意味し、単位は/cmである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板及び
前記素地鋼板上に形成されたAl-Fe合金からなるめっき層を含み、
前記めっき層中のAlとFeの含有量の合計は重量基準で80%以上であり、
前記めっき層中のFeの平均含有量は重量基準で20%以上であり、
前記めっき層の表面のRaとRPcの積が60~150μm/cmである、熱間プレス成形用めっき鋼板。
但し、Raは算術平均粗さを意味し、単位はμmであり、RPcは単位長さ当たりのピーク数を意味し、単位は/cmである。
【請求項2】
素地鋼板及び
前記素地鋼板上に形成されたAl-Fe合金からなるめっき層を含み、
前記めっき層中のAlとFeの含有量の合計は重量基準で80%以上であり、
前記めっき層中のFeの平均含有量は重量基準で20%以上であり、
前記めっき層の表面を走査電子顕微鏡で100倍の倍率で観察したときに得られる視野を横及び縦に10等分して得られる各領域内に存在するクラックの個数が1mm当たり10~200個であり、
前記めっき層の表面で圧痕部が占める面積の割合が5~50%である、熱間プレス成形用めっき鋼板。
ここで、圧痕部とは、光学顕微鏡で100倍の倍率で観察した領域で測定される最も高い明度に対して70%以上の明度を有する領域を意味する。
【請求項3】
前記めっき層の表面部のFeの含有量が前記めっき層中のFeの平均含有量に対して50%以上である、請求項1に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
ここで、表面部のFe含有量は走査電子顕微鏡(SEM)で100倍拡大した部位でEDS面分析を介して測定した値であり、Feの平均含有量はGDS分析により得られる表層からFeとAl含有量が交差する深さまでのFe含有量の曲線を積分した後、これを表層からFeとAl含有量が交差する深さまでの距離で割った値を意味する。
【請求項4】
前記めっき層の表面部のFeの含有量が重量基準で15%以上である、請求項3に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
【請求項5】
前記めっき層の表面部のFeの含有量が、前記めっき層中のFeの平均含有量に対して50%以上である、請求項2に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
ここで、表面部のFe含有量は走査電子顕微鏡(SEM)で100倍拡大した部位でEDS面分析を介して測定した値であり、Feの平均含有量はGDS分析により得られる表層からFeとAl含有量が交差する深さまでのFe含有量の曲線を積分した後、これを表層からFeとAl含有量が交差する深さまでの距離で割った値を意味する。
【請求項6】
前記めっき層の表面部のFeの含有量が重量基準で15%以上である、請求項5に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
【請求項7】
前記めっき層中のFeの平均含有量は90%以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
【請求項8】
前記めっき層は、Mg、Zn、Mn、Cr、Mo、Si、Tiの中から選択される1種又は2種以上の元素を含有量の合計で20重量%以下含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
【請求項9】
前記素地鋼板は、重量基準で、C:0.01~0.5%、Si:2.0%以下(0%は除く)、Mn:0.1~4.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.001~1%、Cr:5.0%(0%は除く)、N:0.02%以下、Ti:0.1%以下(0%は除く)、B:0.0001~0.01%、残部Fe及び不可避不純物を含む組成を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
【請求項10】
前記素地鋼板は、Nb:0.1%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1%以下、Cu:1%以下、及びV:0.5%以下の中から選択された1種または2種以上の元素をさらに含む、請求項9に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板。
【請求項11】
素地鋼板上にAlとFeの合金からなるめっき層が形成されたAl-Feの合金めっき鋼板を得る段階;及び
前記Al-Fe合金めっき鋼板に対して下記関係式1で表されるSPMIが5000~8500となる条件下でスキンパス圧延する段階を含む、熱間プレス成形用めっき鋼板の製造方法。
【数1】
ここで、前記Pはスキンパス圧延時の圧下力(単位:ton)、前記Rarollはスキンパス圧延ロール表面の算術平均粗さ(単位:μm)、前記RPcrollはスキンパス圧延ロールの単位長さ当たりのピーク数(単位:/cm)を意味する。また、前記SPMIの単位は√Ton・μm/cmである。
【請求項12】
前記Al-Fe合金めっき鋼板は、
アルミニウムまたはアルミニウム合金がめっきされたアルミニウムめっき鋼板を得る段階;及び
前記アルミニウムめっき鋼板を加熱して合金化する段階を含む過程によって得られる、請求項11に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記アルミニウムめっき鋼板を加熱して合金化する段階は、鋼板をアルミニウムまたはアルミニウム合金でめっきするラインに直接連結され、前記めっき鋼板が走行する状態で加熱するオンライン加熱によって行われる、請求項12に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記アルミニウムめっき鋼板を加熱して合金化する段階は、巻き取られためっき鋼板を箱型焼鈍炉で加熱する箱焼鈍によって行われる、請求項12に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記素地鋼板は、重量基準で、C:0.01~0.5%、Si:2.0%以下(0%は除く)、Mn:0.1~4.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.001~1%、Cr:5.0%以下(0%は除く)、N:0.02%以下、Ti:0.1%以下(0%は除く)、B:0.0001~0.01%、残部Fe及び不可避不純物を含む組成を有する、請求項11から14のいずれか一項に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記素地鋼板は、Nb:0.1%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1%以下、Cu:1%以下、及びV:0.5%以下の中から選択された1種または2種以上の元素をさらに含む、請求項15に記載の熱間プレス成形用めっき鋼板の製造方法。
【請求項17】
素地鋼板及び
前記素地鋼板上に形成されたAl-Fe合金からなるめっき層を含み、
前記めっき層中のAlとFeの含有量の合計は重量基準で70%以上であり、
前記めっき層中のFeの含有量は重量基準で30%以上であり、
前記めっき層の表面のRaとRPcの積が60~150μm/cmである、熱間プレス成形部材。
但し、Raは算術平均粗さを意味し、単位はμmであり、RPcは単位長さ当たりのピーク数を意味し、単位は/cmである。
【請求項18】
素地鋼板及び
前記素地鋼板上に形成されたAl-Fe合金からなるめっき層を含み、
前記めっき層中のAlとFeの含有量の合計は重量基準で70%以上であり、
前記めっき層中のFeの平均含有量は重量基準で30%以上であり、
前記めっき層の表面を走査電子顕微鏡で100倍の倍率で観察した際に得られる視野を横及び縦に10等分して得られる各領域内に存在するクラックの個数が1mm当たり15~220個であり、
前記めっき層の表面で圧痕部が占める面積の割合が5~50%である、熱間プレス成形部材。
ここで、圧痕部とは、光学顕微鏡で100倍の倍率で観察した領域で測定される最も高い明度に対して70%以上の明度を有する領域を意味する。
【請求項19】
前記素地鋼板は、重量基準で、C:0.01~0.5%、Si:2.0%以下(0%は除く)、Mn:0.1~4.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.001~1%、Cr:5.0%以下(0%は除く)、N:0.02%以下、Ti:0.1%以下(0%は除く)、B:0.0001~0.01%、残部Fe及び不可避不純物を含む組成を有する、請求項17または18に記載の熱間プレス成形部材。
【請求項20】
前記素地鋼板は、Nb:0.1%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1%以下、Cu:1%以下、及びV:0.5%以下の中から選択された1種または2種以上の元素をさらに含む、請求項19に記載の熱間プレス成形部材。
【請求項21】
前記素地鋼板は、面積基準でマルテンサイト5~50%と残りのフェライト、パーライト、ベイナイト及びオーステナイトの中から選択された1種又は2種以上の相からなる微細組織を有し、引張強度が400~800MPaである、請求項17または18に記載の熱間プレス成形部材。
【請求項22】
前記素地鋼板は、面積基準でマルテンサイト90%以上と残りのフェライト、パーライト、ベイナイト及びオーステナイトの中から選択された1種または2種以上の相からなる微細組織を有し、引張強度が800~1300MPaである、請求項17または18に記載の熱間プレス成形部材。
【請求項23】
前記素地鋼板は、面積基準でマルテンサイト95%以上と、残りのフェライト、パーライト、ベイナイト及びオーステナイトの中から選択された1種または2種以上の相からなる微細組織を有し、引張強度が1300MPa以上である、請求項17または18に記載の熱間プレス成形部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間プレス成形用めっき鋼板、上記めっき鋼板の製造方法及び熱間プレス成形部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、石油エネルギー資源の枯渇及び環境に関する関心の高まりに伴い、自動車の燃費向上に対する規制は日々、強化されつつある。材料的側面から、自動車の燃費を向上させるための1つの方法として用いられる鋼板の厚さを減少させる方法が挙げられるが、厚さを減少させる場合には、自動車の安全性に問題が生じる可能性があるため、必ず鋼板の強度向上が確保される必要がある。
【0003】
このような理由から、高強度鋼板に対する需要が継続的に発生し、様々な種類の鋼板が開発されている。しかし、かかる鋼板は、それ自体が高い強度を有しているため加工性が不良であるという問題がある。すなわち、鋼板の等級別に強度と延伸率の積は常に一定の値を有しようとする傾向にあることから、鋼板の強度が高くなる場合には、加工性の指標となる延伸率が減少するという問題があった。
【0004】
かかる問題を解決するために、熱間プレス成形法が提案されている。熱間プレス成形法は、鋼板を加工しやすい高温で加工した後、これを低い温度で急冷することにより、鋼板内にマルテンサイトなどの低温組織を形成させて、最終製品の強度を高める方法である。このような方法により、高い強度を有する部材を製造する際に、加工性の問題を最小限に抑えることができるという利点がある。
【0005】
しかし、上記熱間プレス成形法においては、鋼板を高温で加熱するため鋼板の表面が酸化することから、プレス成形後に鋼板表面の酸化物を除去する過程が追加される必要があるという問題があった。かかる問題点を解決するための方法として、特許文献1が提案されている。上記特許文献1では、アルミニウムめっきを行った鋼板を熱間プレス成形または常温成形後に、加熱し急冷する過程(つまり「後熱処理」)を用いており、アルミニウムめっき層が鋼板表面に存在するため、加熱時に鋼板が酸化することはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公報第6,296,805号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一実施形態によると、熱間プレス成形部材の塗装密着性を改善させることができるだけでなく、耐食性も確保可能な熱間プレス成形用めっき鋼板、上記めっき鋼板の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の他の一実施形態によると、塗装密着性と耐食性に優れた熱間プレス成形部材が提供される。
【0009】
本発明の課題は、上述した範囲に限定されない。本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、誰でも本明細書に記載された全体的な事項から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によるめっき鋼板は、素地鋼板及び上記素地鋼板上に形成されたAl-Fe合金からなるめっき層を含み、上記めっき層中のAlとFeの含有量の合計は重量基準で80%以上であり、上記めっき層中のFeの平均含有量は重量基準で20%以上であり、上記めっき層の表面のRaとRPcの積が60~150μm/cmであってよい。
【0011】
但し、Raは算術平均粗さを意味し、単位はμmであり、RPcは単位長さ当たりのピーク数を意味し、単位は/cmである。
【0012】
本発明の他の一実施形態によるめっき鋼板は、素地鋼板及び上記素地鋼板上に形成されたAl-Fe合金からなるめっき層を含み、上記めっき層中のAlとFeの含有量の合計は重量基準で80%以上であり、上記めっき層中のFeの平均含有量は重量基準で20%以上であり、上記めっき層の表面を走査電子顕微鏡で100倍の倍率で観察したときに得られる視野を横及び縦に10等分して得られる各領域内に存在するクラックの個数が1mm当たり10~200個であり、上記めっき層の表面で圧痕部が占める面積の割合が5~50%であってよい。
【0013】
ここで、圧痕部とは、光学顕微鏡で100倍の倍率で観察した領域で測定される最も高い明度に対して70%以上の明度を有する領域を意味する。
【0014】
本発明のさらに他の一実施形態によるめっき鋼板の製造方法は、素地鋼板上にAlとFeの合金からなるめっき層が形成されたAl-Feの合金めっき鋼板を得る段階;及び上記Al-Fe合金めっき鋼板に対して、下記関係式1で表されるSPMIが5000~8500となる条件下でスキンパス圧延する段階を含むことができる。
【数1】
ここで、上記Pはスキンパス圧延時の圧下力(単位:ton)、上記Rarollはスキンパス圧延ロール表面の算術平均粗さ(単位:μm)、上記RPcrollはスキンパス圧延ロールの単位長さ当たりのピーク数(単位:/cm)を意味する。また、上記SPMIの単位は√Ton・μm/cmである。
【0015】
本発明のまた他の一実施形態による熱間プレス成形部材は、素地鋼板及び上記素地鋼板上に形成されたAl-Fe合金からなるめっき層を含み、上記めっき層中のAlとFeの含有量の合計は重量基準で70%以上であり、上記めっき層中のFeの含有量は重量基準で30%以上であり、上記めっき層の表面のRaとRPcの積が60~150μm/cmであってよい。
【0016】
但し、Raは算術平均粗さを意味し、単位はμmであり、RPcは単位長さ当たりのピーク数を意味し、単位は/cmである。
【0017】
本発明のまた他の一実施形態による熱間プレス成形部材は、素地鋼板及び上記素地鋼板上に形成されたAl-Fe合金からなるめっき層を含み、上記めっき層中のAlとFeの含有量の合計は重量基準で70%以上であり、上記めっき層中Feの平均含有量は重量基準で30%以上であり、上記めっき層の表面を走査電子顕微鏡で100倍の倍率で観察したときに得られる視野を横及び縦に10等分して得られる各領域内に存在するクラックの個数が1mm当たり15~220個であり、上記めっき層の表面で圧痕部が占める面積の割合が5~50%であってよい。
【0018】
ここで、圧痕部とは、光学顕微鏡で100倍の倍率で観察した領域で測定される最も高い明度に対して70%以上の明度を有する領域を意味する。
【発明の効果】
【0019】
上述したように、本発明のめっき鋼板は表面のRaとRPcが適正レベルに制御されたものであるため、熱間プレス成形過程で大幅の照度増加が起こらなくても部材の十分な塗装密着性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】比較例1(a)及び発明例2(b)により製造されたアルミニウム-鉄系めっき鋼板の表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した写真である。
図2】比較例1(a)及び発明例2(b)により製造されたアルミニウム-鉄系めっき鋼板の表面を光学顕微鏡で観察した結果をイメージ処理した写真である。
図3】スキンパス圧延条件によるアルミニウム-鉄系めっき鋼板の表面に発生したクラック数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで用いられる専門用語は、単に特定の実施形態に言及するためのものであり、本発明を限定する意図ではない。ここで用いられる単数の形態は、文句がこれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数の表現も含む。
【0022】
明細書で用いられる「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素及び/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分及び/または群の存在や付加を除外させるものではない。
【0023】
他に定義してはいないが、ここで用いられる技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。普通用いられる事前に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有するものと追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味として解釈されない。
【0024】
なお、本発明において鋼板とは、コイルや板材(sheet)状態のものであり、まだ特定の形状に加工される前のものを意味し、部材とは成形過程により板状ではない形態に加工されたものを意味する。また、本発明でいうめっき層は、素地鋼板と接して形成された金属、合金又は金属間化合物の層を意味する。
【0025】
本発明において、各元素の含有量を示すとき、特に断りのない限り、重量を基準とすることに留意する必要がある。また、結晶や組織の割合は、特に断りのない限り、面積を基準とし、またガスの含有量は特に断りのない限り体積を基準とする。
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
上述したように、熱間プレス成形のためにアルミニウムめっき鋼板を加熱する場合には、加熱速度によってアルミニウムめっき層が溶融して設備を汚染させるなどの問題が発生することがある。また、強度の高い部材の場合には、素地鋼板内にトラップされた水素が集積されて部品の破壊にまで至る、いわゆる水素遅れ破壊の問題が発生する場合もある。
【0028】
このような問題を解決するための一つの方案として熱間プレス成形のための加熱前にアルミニウムめっき鋼板を加熱して鋼板上にアルミニウム-鉄合金層を形成させた後、上記アルミニウム-鉄合金めっき層が形成された鋼板を熱間プレス成形に用いる方法がある。すなわち、熱間プレス成形のための加熱前に比較的低い温度範囲でめっき層を合金化させておくことにより、比較的速い速度で加熱するとしても、すでにアルミニウムが合金化されているため、アルミニウムの融点より高い温度で加熱されるとしても、アルミニウムの溶融による問題を防止することができる。また、事前に合金化させためっき鋼板の場合には、水素が排出されやすい構造の合金層を表面に有することができ、水素遅れ破壊が発生する可能性を減少させるという効果を奏することができる。
【0029】
一方、一般的なめっき鋼板上に塗装を行う場合、塗装(ペンキ)層を固定することができるアンカーが存在せず、塗装と鋼板表面の密着が十分でなくなるという問題が発生することがある。したがって、このような問題を解決するために通常的にリン酸塩処理を行うことになるが、リン酸塩処理により鋼板表面の粗さが増加して、鋼板と塗装との間の密着性が高くなる。
【0030】
ところで、このように表面にアルミニウム-鉄めっき層が形成されためっき鋼板を熱間プレス成形する場合、部材の表面粗さがこれ以上増加し難いという問題がある。熱間プレス成形部材の表面に形成されためっき層は、アルミニウムと鉄の合金化反応によって形成されたものであり、比較的化学的に安定する。このように、熱間プレス成形部材の表面が化学的に安定するため、リン酸塩処理を行っても、粗さがさらに改善され難い。しかし、通常のアルミニウムめっき鋼板を加熱して熱間プレス成形する場合には、アルミニウムめっき鋼板を加熱する過程で表面の粗さが増加するため、リン酸塩処理なしでも十分な粗さ確保が可能であり、塗装密着性に大きな問題はない場合がある。
【0031】
一方、予め合金化処理が行われてアルミニウム-鉄合金層が形成されたアルミニウム-鉄合金めっき鋼板の場合には、後続の熱間プレス成形のための加熱時に表面粗さの増加幅が大きくない。したがって、たとえ事前合金化熱処理過程で粗さが一部増加しても、後続の熱間プレス成形過程での粗さ増加が大きくないため、アルミニウム-鉄合金めっき鋼板を熱間プレス成形して得られた部材の表面粗さは、アルミニウムめっき鋼板を合金化熱処理なしですぐ熱間プレス成形して得られた部材の表面粗さに比べて十分でなく、したがって塗装密着性が十分でないという問題がある。
【0032】
また、アルミニウム合金めっき層は亜鉛系めっき層に比べて犠牲防食性能に優れておらず、クラック等により鋼板が露出する場合には、ブリストと共に腐食が発生する問題がある。
【0033】
通常、表面の粗さ(Ra)を高める場合には塗装密着性が向上し、それにより塗装後の耐食性も向上することが一般的であったが、本発明者によると、単に表面粗さを高めるだけでなく、単位長さ当たりのピーク数(RPc)と粗さ(Ra)の積(Ra×RPc)の値を高めることが塗装密着性と耐食性を向上させるのに効果的であるということを研究結果により確認することができた。
【0034】
また、本発明の発明者らは、熱間プレス成形前に既に合金化された、いわゆるアルミニウム-鉄合金めっき鋼板を用いて製造された熱間プレス成形部材の塗装性を把握している中に、上述したように合金めっき鋼板の場合には既にかなりの量の鉄がめっき層に拡散していたことから、追加的な鉄拡散による表面粗さ(Ra)と単位長さ当たりのピーク数(RPc)の増加量が大きくないため、結局熱間プレス成形前のめっき鋼板の粗さ(Ra)または単位長さ当たりのピーク数(RPc)を増加させて、結果的にRa×RPc値を増加させることが熱間プレス成形部材のRa×RPc値を高めるのに効果的であることを見出した。
【0035】
したがって、本発明の一実施形態では、高い塗装密着性を確保するために熱間プレス成形により得られた部材の表面Ra×RPcを考慮して、めっき鋼板のめっき層の表面のRa×RPcは60μm/cm以上であってよい。数式において、Raは算術平均粗さとしてμmの単位を有し、RPcはピーク数(Peak Count)としてのcmの逆数(/cm)の単位を有する。上記Ra×RPcが十分でない場合には、十分な塗装密着性を期待し難いため、上記Ra×RPcの下限を60μm/cmと定めることができる。場合によっては、上記Ra×RPcの下限を70μm/cmと定めることもできる。塗装密着性の改善のためにRa×RPcの数値が高いほど有利であるが、上記数値が高すぎる場合にはRaとRPcを高めるための加工過程でめっき層の表面に過度のクラックが導入されて耐食性が低下することがあるため、本発明の一実施形態では、上記Ra×RPcの上限を150μm/cmと定めることができ、場合によっては上記Ra×RPcの上限を140μm/cmと定めることもできる。
【0036】
また、本発明の他の一実施形態によるめっき鋼板は、表面に形成されたクラックの個数と圧痕部の面積割合を適切に調整することにより、以降の熱間プレス成形工程によって得られた部材の塗装密着性と耐食性を向上させることができる。このために本発明の一実施形態によるめっき鋼板は、めっき層の表面積1mm当たりのクラックが10~200個存在し、上記めっき層の表面で圧痕部が占める面積の割合が5~50%であってよい。
【0037】
上記クラックは、熱間プレス成形部材の表面で塗装層が固定(anchoring)される固定部の役割を果たすことができるため、本発明の一実施形態では、めっき層の単位面積1mm当たり10個以上、場合によっては15個以上のクラックが存在していてもよい。クラックの個数は、顕微鏡(倍率:100倍)の視野を縦横それぞれ10等分して得られる100個の領域内で観察されるクラックの個数を観察面積1mmで観察されるものに換算して測定する。本発明の一実施形態において、上記顕微鏡は、ZEISS SUPRA 55VPモデル走査電子顕微鏡であってよい。このとき、1つのクラックであっても観察される領域が複数個存在する場合には、クラックの個数は、そのクラックが観察された領域の数だけとしてよい。1つの領域内に複数個のクラックが観察される場合には、クラックの個数はその数だけとしてよい。これは、観察面積内のクラックの全体長さを考慮した概念であり、クラックの全体長さが塗装層の固定効果に影響を及ぼすためである。但し、アルミニウム系めっき鋼板は亜鉛系めっき鋼板とは異なり、犠牲防食機能がないため、クラックが存在する場合、クラックを介して腐食が発生する可能性がある。したがって、過度のクラックの個数は鋼板の耐食性を損なう可能性があるため、上述の方式で計算した1mm当たりのクラックの個数の上限は200個に制限することができ、場合によっては180個に制限することもできる。
【0038】
また、本発明の一実施形態では、塗装層の接触面積を増加させるためにめっき層の表面に多量の圧痕部を形成させることができる。上記圧痕部が存在する場合にはめっき層の表面のRaとRPcを増加させることができるが、本発明の一実施形態ではめっき層の表面で圧痕部の割合が5%以上であってよく、場合によっては8%以上であってもよい。本発明の一実施形態において、上記圧痕部とは、光学顕微鏡で100倍の倍率で観察した領域で測定される最も高い明度に対して70%以上の明度を有する領域を意味することができる。また、必ずしもこれに制限するものではないが、本発明の一実施形態において、ライカ(Leica)DM6000Mモデル光学顕微鏡を用いて倍率100倍で表面イメージを観察した結果をClemex Vision PEソフトウェアを用いて色の明度を256個に区分した後、最も高い明度値の70%値に該当する明度以上の部分を上記圧痕部として特定してその面積割合を求めることができる。上記圧痕部の割合が高すぎる場合には、上記圧痕部を形成させるために鋼板に加わる負荷が過度であり、表面クラックが増加することがあるため、上記圧痕部の割合の上限は50%と定めることができ、45%と定めることもできる。本発明の一実施形態において、上記圧痕部をスキンパス圧延によって形成させることができるが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0039】
また、本発明の対象はアルミニウムと鉄の合金めっき鋼板であるため、AlとFeの含有量の合計が重量基準で80%以上である必要がある。これらの元素の含有量合計の上限は特に定める必要はなく、100%AlとFeのみからなるめっき層も該当する。
【0040】
また、本発明の一実施形態は十分に合金化されためっき鋼板を対象とするものであるため、Feの平均含有量が重量基準で20%以上の値を有する。もし、めっき層中のFeの含有量が20%未満の場合には、加熱時のアルミニウムめっき層の溶融や水素脆化等の問題解決にあまり役に立たないことがあるため、本発明では、Feが重量基準で20%以上含まれたAl-Fe合金めっき鋼板を対象とする。場合によっては、上記Fe含有量は30%以上であってよく、40%以上であってもよい。
【0041】
Fe含有量の上限には特に制限はないが、通常の合金めっき鋼板内のFe含有量を考慮する場合、Fe含有量の上限を90%と定めることもでき、場合によっては80%以下と定めることもできる。ここで、Feの平均含有量は、全体めっき層中のFe含有量の平均を意味するものであり、測定方法がいくつかあることができるが、本実施例ではグロー放電分光分析(Glow Discharge emission Spectrometry;略してGDS)法でめっき層の表面から鋼板の界面まで分析したときに現れる深さ(厚さ)に応じたFeの含量曲線を積分した後、これをめっき層の厚さ(すなわち、表面から鋼板の界面までの距離)で割った値を用いることができる。めっき層と鋼板の界面を判断する基準は色々あるが、一実施形態ではGDS結果からAlとFe含有量の曲線が交差する、すなわち2元素の含有量が同様になる地点をめっき層と鋼板の界面として規定することができる。
【0042】
本発明の一実施形態においては、めっき層は、上述したAl及びFe以外にもめっき層に含まれる一般的な元素をさらに含んでよい。このような元素の例としては、Mg、Zn、Mn、Cr、Mo、Si、Tiの中から選択される1種または2種以上が挙げられ、これらは合計で20重量%以下までめっき層に含まれ得る。
【0043】
また、本発明の一実施形態においては、上記熱間プレス成形用アルミニウム鉄合金めっき鋼板の表面部におけるFe含有量は、上記めっき層中のFeの平均含有量に対して50%以上であるってよい。すなわち、表面におけるFe含有量をめっき層中のFeの平均含有量に対して50%以上とすることにより、めっき層の表面まで十分に合金化されためっき鋼板を得ることができる。本発明の一実施形態では、上記表面におけるFe含有量は重量基準で15%以上であってよい。本発明の一実施形態において、上記表面部とは、最表面から深さ1μmの地点を意味することができる。また、本発明の一実施形態において、表面部のFe含有量は、走査電子顕微鏡で100倍拡大した部位でEDS面分析を介して測定することができる。
【0044】
本発明の鋼板は、熱間プレス成形用鋼板であり、熱間プレス成形に用いられるものであれば、その組成を特に制限しない。但し、本発明の一実施形態においては、重量%で(以下、特に断りのない限り、本発明の鋼板とめっき層の組成は重量を基準とすることに留意する必要がある)、C:0.01~0.5%、Si:2.0%以下(0%は除く)、Mn:0.1~4.0%、P:0.05%以下、S:0.02%以下、Al:0.001~1%、Cr:5.0%以下(0%は除く)、N:0.02%以下、Ti:0.1%以下(0%は除く)、B:0.0001~0.01%、残部Fe及び不可避不純物を含む組成を有していてよい。
【0045】
C:0.01~0.5%
上記Cは、熱処理部材の強度を向上させるための必須元素であって、適正量で添加されることができる。すなわち、熱処理部材の強度を十分に確保するために、上記Cは0.01%以上添加されてよい。一実施形態では、上記C含有量の下限は0.05%であってよい。但し、その含有量が高すぎると、冷延材を生産する場合、熱延材を冷間圧延する際に熱延材の強度が高すぎて、冷間圧延性が大きく劣化するだけでなく、スポット溶接性を大きく低下させるため、十分な冷間圧延性及びスポット溶接性を確保するために0.5%以下添加されるてもよい。また、上記C含有量は、0.45%以下または0.4%以下に制限することもできる。
【0046】
Si:2.0%以下(0%は除く)
上記Siは、製鋼において脱酸剤として添加される必要があるだけでなく、熱間プレス成形部材の強度に最も大きく影響を与える炭化物の生成を抑制するだけでなく、熱間プレス成形におけるマルテンサイトの生成後に、マルテンサイトラス(lath)粒界に炭素を濃化させて残留オーステナイトを確保するために鋼中に添加てもよい。但し、鋼板にアルミニウムめっきを行うとき、十分なめっき性を確保するためには、上記Siの含有量の上限を2%に定めることができる(0%は除く)。本発明の一実施形態では、上記Si含有量を1.5%以下に制限することもできる。また、本発明の他の一実施例では、上記Si含有量の下限を0.01%に定めることもできる。
【0047】
Mn:0.1~4.0%
上記Mnは、固溶強化の効果を確保するためだけでなく、熱間プレス成形部材においてマルテンサイトを確保するための臨界冷却速度を下げるために、0.1%以上の含有量で添加されてよい。また、鋼板の強度を適切に維持することにより、熱間プレス成形工程の作業性を確保し、製造原価を節減し、スポット溶接性を向上させるという点から、上記Mn含有量は4%以下にすることができ、本発明の一実施形態では、3.5%以下、または2.5%以下にすることができる。
【0048】
P:0.05%以下
上記Pは、鋼内に不純物として存在し、なるべくその含有量が少ないほど有利である。したがって、本発明の一実施形態におけるPは、0.05%以下の含有量で含まれていてもよい。本発明の他の一実施形態におけるPは、0.03%以下に制限されることもできる。Pは、少ないほど有利な不純物元素であるため、その含有量の上限を特に定める必要はない。但し、P含有量を過度に下げるためには製造費用が上昇するおそれがあるため、これを考慮する場合にはその下限を0.001%とすることもできる。
【0049】
S:0.02%以下
上記Sは、鋼中に不純物として部材の延性、衝撃特性、及び溶接性を阻害する元素であるため、最大含有量を0.02%とする(好ましくは0.01%以下)。また、その最小含有量が0.0001%未満では、製造費用が上昇されるおそれがあるため、本発明の一実施形態では、その含有量の下限を0.0001%とすることができる。
【0050】
Al:0.001~1%
上記Alは、Siと共に製鋼において脱酸作用を行って、鋼の清浄度を高めることができるため、0.001%以上の含有量で添加されてよい。また、Ac3温度が高すぎないようにして熱間プレス成形時に必要な加熱を適切な温度範囲で行うことができるようにするために、上記Al含有量は、1%以下にすることができる。
【0051】
Cr:5.0%以下(0%は除く)
上記Crは、鋼の硬化能を向上させて熱間プレス成形部材の強度を向上させる役割を果たすため、添加が必要である。場合によっては、上記Cr含有量の下限は0.001%と定めることもできる。但し、その含有量が5.0%を超過する場合には、これ以上の効果上昇を期待することは難しいだけでなく、費用も増加することがあるため、Cr含有量の上限は5.0%と定めることができる。
【0052】
N:0.02%以下
上記Nは、鋼中に不純物として含まれる元素であって、スラブの連続鋳造時にクラック発生に対する敏感度を減少させ、衝撃特性を確保するためには、その含有量が低いほど有利であるため、0.02%以下含むことができる。下限を特に定める必要はないが、製造費用の上昇などを考慮して、一実施形態におけるN含有量を0.001%以上に定めることもできる。
【0053】
Ti:0.1%以下(0%は除く)
上記Tiは、窒素と反応することによりBによる硬化能向上に役立つことができる。また、微細析出物を形成することにより熱間プレス成形部材の強度を向上させ、結晶粒を微細化して衝撃靭性の向上に効果があるため、0.1%以下の量で添加することができる(0%は除く)。上述した効果をより確実に得るために、本発明の一実施例では、上記Tiの含有量の下限を0.0005%と定めることもできる。
【0054】
B:0.0001~0.01%
上記Bは、少量の添加でも硬化能を向上させることができるだけでなく、旧オーステナイト結晶粒界に偏析されて、P及び/またはSの粒界偏析による熱間プレス成形部材の脆性を抑制することができる元素である。したがって、Bは0.0001%以上添加されてもよい。但し、0.01%を超過すると、その効果が飽和するだけでなく、熱間圧延において脆性をもたらすため、その上限を0.01%とすることができ、一実施形態では、上記B含有量を0.005%以下にすることができる。
【0055】
本発明の一実施形態では、必要に応じて、Nb:0.1%以下、Mo:0.5%以下、Ni:1%以下、Cu:1%以下及びV:0.5%以下の中から選択された1種又は2種以上の元素をさらに含むことができる。
【0056】
Nb:0.1%以下
上記Nbは、微細析出物形成で熱処理部材の鋼板向上と、結晶粒微細化により残留オーステナイト安定化と衝撃靭性の向上に効果があるため、鋼中に添加することができる。但し、その添加量が0.1%を超過すると、その効果が飽和されるだけでなく、過度の合金鉄添加により費用上昇をもたらすことがある。本発明の一実施形態では、上記Nbは0.001%以上添加することもできる。
【0057】
Mo:0.5%以下
Moは、硬化能向上と、析出強化の効果による強度及び結晶粒微細化を確保することができる元素である。但し、過度に添加する場合には、溶接性が悪くなる可能性があるため、これを考慮して0.5%以下で添加することができる。本発明の一実施形態では、上記Moを添加する場合、添加量の下限を0.001%と定めることもできる。
【0058】
Ni:1%以下
上記Niは、微細析出物を形成させて強度を向上させる元素である。但し、その値が1.0%を超過すると過度の費用増加となるため、その上限を1%とする。本発明の一実施形態では、上述した効果を確実に得るために、Niの添加量を0.005%以上とすることができる。
【0059】
Cu:1%以下
上記Cuは、Niと同様に微細析出物を形成させて強度を向上させる元素である。但し、その値が1.0%を超過すると過度の費用増加となるため、その上限を1%とする。上述した効果を確実に得るためには、Cuの添加量を0.005%以上とすることができる。
【0060】
V:0.5%以下
上記Vは、微細析出物形成で熱処理部材の鋼板向上と、結晶粒微細化により残留オーステナイト安定化と衝撃靭性の向上に効果があるため、鋼中に添加されることができる。但し、その添加量が0.5%を超過すると、その効果が飽和するだけでなく、過度の合金鉄添加により費用上昇をもたらすことがある。本発明の一実施形態では、上述したV添加の効果を確実にするためにVを0.001%以上添加することができる。
【0061】
上述した成分以外の残部としては、鉄及び不可避不純物が挙げられるが、熱間成形用鋼板に含まれることができる成分であれば、特に制限しない。
【0062】
以下、本発明の一実施形態による熱間プレス成形用鋼板の製造方法の一例を説明すると以下のとおりである。但し、下記熱間プレス成形用鋼板の製造方法は、一例示であり、本発明の熱間プレス成形用鋼板が必ずしも本製造方法によって製造される必要があるというわけではなく、如何なる製造方法であっても本発明の特許請求の範囲を満たす方法であれば、本発明の各実施例を実現するのに何ら問題がないことに留意する必要がある。
【0063】
本発明の一実施形態による場合、鋼板は、素地鋼板上にアルミニウム-鉄合金めっき層が形成されたアルミニウム-鉄(Al-Fe)合金めっき鋼板を得る段階;及び、上記アルミニウム-鉄(Al-Fe)合金めっき鋼板にスキンパス圧延を行うことにより製造することができる。
【0064】
本発明の一実施形態において、上記アルミニウム-鉄合金めっき鋼板は、アルミニウムまたはアルミニウム合金がめっきされたアルミニウムめっき鋼板を得る段階;及び、上記アルミニウムめっき鋼板を加熱して合金化する段階を含む過程によって得ることができる。
【0065】
このとき、アルミニウムめっき鋼板は工業的にアルミニウム系と称されるものであればどのようなものでも使用可能であり、本発明の一実施形態ではAl含有量が重量基準で70%以上であるものを用いることができる。めっき層においてAl以外の残りの元素としては、アルミニウム系めっき層に通常添加できるSiとMg、Zn、Mn、Cr、Mo、Ti、Feの中から選択される1種又は2種以上の成分及び/又はその他の不純物元素が挙げられる。そのうち、Siは0.01~20%の割合で含まれてよい。Si含有量を0.01%以下に制御するためには高純度の原材料が必要であり、製造費用の上昇が非常に大きく、20%を超過するようになると、めっき浴溶融温度の増加による設備維持に困難があり、合金化速度が低下して十分な合金化を得ることが難しい。したがって、本発明においてめっき浴に含まれるSi含有量は0.01~20%に制限することができる。上記Mg、Zn、Mn、Cr、Mo、Tiの中から選択される1種又は2種以上の元素は、含有量の合計で20重量%以下だけめっき層に含まれていていよい。
【0066】
上述したアルミニウム系めっき層は、熱間圧延または冷間圧延及び焼鈍熱処理された鋼板を溶融アルミニウムめっき浴に浸漬するめっきする溶融アルミニウムめっき方式により形成することができる。
【0067】
本発明の一実施形態において、上記アルミニウムめっき時のめっき量は、片面当たり10~100g/mであってよい。めっき量が10g/m未満であると、耐食性が減少し、これに対し、めっき量が100g/mを超過すると、溶接性が低下する問題が生じる。したがって、本発明において、アルミニウムめっき時のめっき量は片面当たり10~100g/mに制限することが好ましい。一方、本発明の他の一実施形態では、上記アルミニウムめっき時のめっき量は片面当たり20~90g/mであることもできる。
【0068】
また、本発明の一実施形態では、上記アルミニウムめっき鋼板を加熱して合金化する段階は、鋼板をアルミニウムまたはアルミニウム合金でめっきするラインに直接連結され、上記めっき鋼板が走行する状態で加熱するオンライン加熱によって行われることができる。本発明の一実施形態において、上記合金化時の加熱温度範囲は670~900℃であってよく、維持時間は1~20秒であってよい。さらに、本発明の他の一実施形態では、上記加熱温度範囲は680~880℃であってよく、上記維持時間は1~10秒であってよい。
【0069】
本発明の他の一実施形態では、上記アルミニウムめっき鋼板を加熱して合金化する段階は、巻き取られためっき鋼板を箱型焼鈍炉で加熱する箱焼鈍によって行うこともできる。このとき、アルミニウムめっき後の常温まで冷却されたコイルを露点温度-10℃未満の水素または水素と窒素雰囲気の箱焼鈍炉で600~800℃の範囲の温度で0.1~100時間加熱して合金化熱処理することができる(本発明では、上記温度範囲で炉雰囲気温度が到達する最高温度を加熱温度とする)。
【0070】
各実施形態における維持時間は、雰囲気温度が目標温度に到達した後、冷却を開始するまでの時間を意味する。
【0071】
本発明の一実施形態において、上記スキンパス圧延は、下記関係式1で表されるSPMIが5000~8500となる条件下で実施されることができる。
【数2】
ここで、上記Pはスキンパス圧延時の圧下力(単位:ton)、上記Rarollはスキンパス圧延ロール表面の算術平均粗さ(単位:μm)、上記RPcrollはスキンパス圧延ロールの単位長さ当たりのピーク数(単位:/cm)を意味する。また、上記SPMIの単位は√Ton・μm/cmである。
【0072】
すなわち、上記SPMIは、本発明者が考案した鋼板表面状態を制御することができる条件であり、鋼板表面のRaとRPcは、ロール表面のRaとRPcはもちろんであり、ロールが加える押下力によっても影響を受け、これらの影響度を定量的に分析した結果、上記関係式1によって表れる関係を示していることが研究結果によって分かった。鋼板表面のRaとRPcの積が十分な値を有するようにするためには、上記SPMI値は5000以上である必要があり、場合によっては上記SPMI値を5500以上に制限することもできる。但し、SPMI値が高すぎる場合には、熱間プレス成形後に得られる部材の耐食性が低下することがあるため、その値を8500以下に制限することができ、場合によっては8000以下に制限することもできる。
【0073】
以下では、本発明の一実施形態による熱間プレス成形部材について説明する。但し、熱間プレス成形部材を製造する方法は、従来公知のように鋼板をオーステナイト化温度以上の温度で加熱して維持した後、急冷と同時に成形する過程からなるものであるため、本発明において特に制限しない。
【0074】
本発明の一実施形態による熱間プレス成形部材は、素地鋼板及び上記素地鋼板上に形成されたAl-Fe合金からなるめっき層を含むものであって、めっき層の表面のRaとRPcの積が調整されて塗装密着性と耐食性を兼ね備えたものであることができる。
【0075】
本発明の一実施形態では、高い塗装密着性を確保するために熱間プレス成形によって得られた部材のめっき層の表面のRa×RPcは60μm/cm以上であることができる。数式において、Raは算術平均粗さとしてμmの単位を有し、RPcはピーク数(Peak Count)としてのcmの逆数(/cm)の単位を有する。上記Ra×RPcが十分でない場合には、十分な塗装密着性を期待し難いことがあるため、上記Ra×RPcの下限を60μm/cmと定めることができる。場合によっては、上記Ra×RPcの下限を70μm/cmと定めることもできる。塗装密着性の改善のためにRa×RPcの数値が高いほど有利であるが、上記数値が高すぎる場合には、本発明の一実施形態によって部材のRaとRPcを高めるためのめっき鋼板の加工過程でめっき層の表面に過度のクラックが導入されて耐食性が低下することがあるため、本発明の一実施形態では上記Ra×RPcの上限を150μm/cmと定めることができ、場合によっては上記Ra×RPcの上限を140μm/cmと定めることもできる。
【0076】
また、本発明の他の一実施形態による熱間プレス成形部材は、Al-Fe合金めっき層の表面に形成されたクラックの個数と圧痕部の面積割合を適宜調整することで、この後の熱間プレス成形工程によって得られた部材の塗装密着性と耐食性を向上させることができる。このために本発明の一実施形態によるめっき鋼板は、めっき層の表面積1mm当たりのクラックが15~220個存在し、上記めっき層の表面で圧痕部が占める面積の割合が5~50%であることができる。
【0077】
上記クラックは、熱間プレス成形部材の表面で塗装層が固定(anchoring)される固定部の役割を果たすことができるため、本発明の一実施形態においてめっき層の単位面積1mm当たり15個以上、場合によっては20個以上のクラックが存在することができる。クラックの個数は、顕微鏡(倍率100倍)の視野を縦横それぞれ10等分して得られる100個の領域内で観察されるクラックの個数を観察面積1mmで観察されるものに換算して測定する。本発明の一実施形態において、上記顕微鏡は、ZEISS SUPRA 55VPモデル走査電子顕微鏡であってよい。このとき、1つのクラックであっても観察される領域が複数個存在する場合、クラックの個数は、そのクラックが観察された領域の数だけとしてよい。1つの領域内に複数個のクラックが観察される場合、クラックの個数がその数だけになることはもちろんである。これは、観察面積内のクラックの全体長さを考慮した概念であり、クラックの全体長さが塗装層の固定効果に影響を及ぼすためである。但し、アルミニウム系めっき鋼板(部材)は亜鉛系めっき鋼板と異なって犠牲防食機能がないため、クラックが存在する場合、クラックを介して腐食が発生することがある。したがって、過度のクラックの個数は部材の耐食性を損なう可能性があるため、1mm当たりのクラック個数の上限は220個に制限することができ、場合によっては200個に制限することもできる。
【0078】
また、本発明の一実施形態では、塗装層の接触面積を増加させるために鋼板のめっき層の表面に多量の圧痕部を形成させることができ、このような圧痕部は部材にまで残留して塗装密着性を向上させることができる。上記圧痕部が存在する場合にはめっき層の表面のRaとRPcが増加することがあるが、このために本発明の一実施形態ではめっき層の表面で圧痕部の割合が5%以上であってよく、場合によっては8%以上であってもよい。必ずしもこれに制限するものではないが、本発明の一実施形態では、ライカ(Leica)DM6000Mモデル光学顕微鏡を用いて倍率100倍で表面イメージを観察した結果をClemex Vision PEソフトウェアを用いて色の明度を256個に区分した後、最も高い明度値の70%値に該当する明度以上の部分を上記圧痕部として特定してその面積割合を求めた。上記圧痕部の割合が高すぎる場合には、圧痕部を形成させるためにめっき層に加わる負荷が過度であって表面クラックが増加することがあるため、上記圧痕部の割合の上限は50%と定めることができ、45%と定めることもできる。
【0079】
本発明の一実施形態によると、上記アルミニウム-鉄(Al-Fe)合金めっき層は、AlとFeを重量基準で合計70%以上含むことができる。これらの元素のみでめっき層が行われることもできるため、含有量合計の上限を特に定める必要はなく、これら元素の含有量の合計は100%にであってもよい。
【0080】
めっき層のうち、Feは熱間プレス成形中にめっき層に拡散することができるため、重量基準で30%以上含まれてよい。仮に、めっき層中のFeの含有量が30%未満の場合には、保管時の水素脆化等の問題解決にあまり役に立たない場合があるため、本発明では部材のめっき層中にFeが重量基準で30%以上含まれてよく、場合によっては、上記Fe含有量は35%以上であってよく、40%以上であってもよい。
【0081】
Fe含有量の上限には特に制限はないが、通常の熱間プレス成形部材のめっき層内のFe含有量を考慮する場合、Fe含有量の上限を90%と定めることもでき、場合によっては80%以下に定めることもできる。ここで、Feの平均含有量は、全体めっき層中のFe含有量の平均を意味するものであり、測定方法が様々であることができるが、本実施形態ではグロー放電分光分析(Glow Discharge emission Spectrometry;略してGDS)法でめっき層の表面から鋼板の界面まで分析したときに現れる深さ(厚さ)に応じたFeの含有量の曲線を積分した後、これをめっき層の厚さで割った値として用いることができる。めっき層と鋼板の界面を判断する基準には様々なものがあるが、本実施例ではGDS結果でAlとFe含有量の曲線が交差する、すなわち2元素の含有量が等しくなる地点をめっき層と鋼板の界面として規定することができる。
【0082】
本発明の一実施形態によると、熱間プレス成形部材のめっき層は、上述したAl及びFe以外にもめっき層に含まれる一般的な元素をさらに含むことができる。このような元素の例としては、Mg、Zn、Mn、Cr、Mo、Si、Tiの中から選択される1種または2種以上が挙げられ、これらは合計で20重量%以下までめっき層に含まれ得る。
【0083】
本発明の熱間プレス成形部材の素地鋼板は、強度別に様々な組織を有することができる。仮に引張強度が400~800MPaの場合には、面積基準でマルテンサイト5~50%と残りのフェライト、パーライト、ベイナイト及びオーステナイトの中から選択された1種又は2種以上の相からなる微細組織を有することができ、引張強度が800~1300MPaの場合には面積基準でマルテンサイト90%以上と残りのフェライト、パーライト、ベイナイト及びオーステナイトの中から選択された1種又は2種以上の相からなる微細組織を有することができ、引張強度が1300MPa以上の場合には、面積基準でマルテンサイト95%以上と残りのフェライト、パーライト、ベイナイト及びオーステナイトの中から選択された1種又は2種以上の相からなる微細組織を有することができる。
【実施例
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して、具体化するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を制限するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、これから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0085】
(実施例)
素地鋼板として下記表1の組成を有する熱間プレス成形用冷間圧延鋼板を用意した。上記素地鋼板を通常の方法で焼鈍熱処理した後、溶融アルミニウムめっきを行った。めっき浴は実質的に重量%で9.5%Siと残部Alからなる組成を有するものとし、めっき浴温度は660℃とした。めっき後、エアナイフ(air knife)を用いてめっき付着量を片面当たり40g/mに調整した。
【0086】
この後、各発明例及び比較例別にオンライン又は箱焼鈍により合金化を行い、Al-Feの合金めっき鋼板を得た。オンライン合金化は、720℃まで鋼板を再加熱した後、5秒間維持及び常温まで冷却する方式で行われ、箱焼鈍による合金化は、コイルを650℃の箱焼鈍炉で10時間維持する方式で行われた。
【0087】
合金化の後に、表2に示した表面粗さ(Ra)とピーク数(RPc)を有するロールを用いて表2に示した圧下力でめっき鋼板をスキンパス圧延することにより、鋼板の合金化されためっき層の表面の状態を調整した。
【0088】
全ての発明例と比較例において、それぞれの合金化方式及びスキンパス圧延により得た合金めっき層内のAlとFeの含有量の合計とFe含有量はそれぞれ90%及び43%であることから、実施例別の差異は特に確認されなかった。また、全ての発明例と比較例においてめっき層の表面におけるFe含有量がめっき層中のFeの平均含有量に対して77%レベルと大きな差異を示さなかった。このとき、めっき層の表面は、めっき層の最表面から深さ1μmの地点を意味する。
【0089】
上記スキンパス圧延されためっき鋼板に対して大気雰囲気下930℃で6分間鋼板を加熱した後、熱間でプレス成形と急冷を実施して、熱間プレス成形部材を得た。得られた熱間プレス成形部材の内部組織は実質的に100%マルテンサイトからなり、強度が1500MPaであることを確認することができた。但し、鋼材の組織と強度は必要に応じて変更できるものであり、通常の技術者であれば鋼材の組成や冷却条件等をはじめとする製造条件を変更させることで目標とする組織と強度を有する部材を製造するのに何ら困難がない。
【0090】
また、全ての発明例と比較例により得られた熱間プレス成形部材において、合金めっき層内のAlとFeの含有量の合計とFe含有量はそれぞれ83%及び44%レベルであり、実施例別に特別な差異は確認されなかった。
【0091】
スキンパス圧延されためっき鋼板及び熱間プレス成形部材の表面粗さ(Ra)、ピーク数(RPc)、単位面積当たりのクラックの個数及び圧痕部の割合を測定した。表面粗さとピーク数は、JIS B 0601(2013)規格によって5部位を測定し、その値を平均して求めた。クラックの個数は、顕微鏡(倍率:100倍)の視野を縦横それぞれ10等分して得られる100個の領域のそれぞれにおいて観察されるクラックの総個数を観察面積1mmで観察されるものに換算して測定した。測定にはZEISS SUPRA 55VPモデル走査電子顕微鏡を使用し、5部位に対して測定したものの平均値を求めて解析に使用した。また、圧痕部の割合はライカ(Leica)DM6000Mモデル光学顕微鏡で倍率100倍で表面イメージを観察した結果をClemex Vision PEソフトウェアを用いて色の明度を256個に区分した後、最も高い明度値の70%値に該当する明度以上の部分を上記圧痕部として特定して、その面積割合を求めた。上記面積割合も5か所を観察した結果の平均値とした。上記測定結果のうち、めっき鋼板に対したものは表3に示し、熱間プレス成形部材に対したものは表4に示した。
【0092】
また、得られた熱間プレス成形部材の塗装密着性と耐食性を以下の方法によって評価し、その結果を表4に示した。
【0093】
まず、塗装密着性等級は、GMW14829方法により得られた部材に塗装を実施した後、1mm間隔の格子スクラッチ(scratch)を形成し、これに対してテープ剥離評価により等級を定めた。上記等級が1以下の場合、良好であるとみなすことができる。
【0094】
耐食性は、GMW14872規格によって上記部材にリン酸塩処理及び塗装を行った後、クロスカット(crosscut)を出した後、塩水雰囲気でCyclic corrosion testを52回実施した後、ブリスター(blister)幅を測定した。本実施例では、幅が2mm以下であることを良好であると判断した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
比較例1~3は、スキンパス圧延時のSPMIが5000未満であった場合であって、その結果、合金化されためっき鋼板表面のRa×RPcが十分に確保されないか、圧痕部の割合とクラックの個数が十分に形成されなかった。このような鋼板を熱間プレス成形して得られた熱間プレス成形部材も十分なRa×RPcが低いか、クラックの個数または圧痕部の割合が十分でなかった。このような場合、アンカリング効果が不足して塗装層が部材表面に強固に結合し難いことがあり、その結果、塗装密着性の等級が全て2以上と良くないことが確認できた。一方、比較例4~6はSPMI値が高すぎた場合である。このような場合には、めっき層のRa×RPcや圧痕部の割合とクラックの個数などは部材の塗装密着性を確保するには十分であることがあるが、却ってめっき層に損傷が発生しながら表4に示したように部材の耐食性が悪くなった結果を示した。すなわち、めっき層が損傷する場合には、犠牲陽極方式の防食性能を提供することができないアルミニウム合金系めっき層の損傷した隙間から素地鋼板が露出して腐食が発生する可能性があり、その結果、耐食性の指標であるブリスターの幅が許容限界値より大きくなる可能性がある。
【0100】
一方、本発明の条件を満たす発明例1~7は、スキンパス圧延条件を適宜制御してめっき鋼板の表面特性を確保した結果、最終的に得られる部材の塗装密着性と耐食性を同時に確保することができた。
【0101】
図1に比較例1により製造されためっき鋼板(a)と発明例2によって製造されためっき鋼板(b)を示した。図面から分かるように、比較例1によって製造されためっき鋼板の場合には表面の凹凸が十分ではないのに対し、発明例2によって製造されためっき鋼板の場合には表面に凹凸が十分に形成されて、この後の熱間プレス成形によって製造された部材の表面が塗装層を固定するのに適合することができる。
【0102】
図2に比較例1と発明例2によって製造された鋼板の表面を100倍率顕微鏡(DM6000M)で観察し、Clemex Vision PEソフトウェアを用いて処理した後、最高明度の70%以上の領域(圧痕部)を白色で表した結果を示した。図面から確認できるように、本発明によりSPMIを適正範囲に制御してスキンパス圧延を行った発明例2の場合が低いSPMI条件でスキンパス圧延した比較例1に比べてはるかに高い圧痕部を形成させることができた。
【0103】
図3のグラフにSPMI値とクラック数との間の関係を示した。図面においてSPMI値が5000~8000√Ton・μm/cmの間の値を有する場合、クラックの個数が適切な範囲内に維持され得ることが確認できる。
【0104】
したがって、本発明の有利な効果を確認することができた。
図1
図2
図3
【国際調査報告】