(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ハイブリッドフォイル膜によりマイクロ流体構造を封止するための方法
(51)【国際特許分類】
B81C 3/00 20060101AFI20240918BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20240918BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240918BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B81C3/00
B81B3/00
G01N37/00 101
B01J19/00 321
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510632
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(85)【翻訳文提出日】2024-03-06
(86)【国際出願番号】 EP2022071161
(87)【国際公開番号】W WO2023025502
(87)【国際公開日】2023-03-02
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518066507
【氏名又は名称】クレガナ・アンリミテッド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Creganna Unlimited Company
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(74)【代理人】
【識別番号】100229736
【氏名又は名称】大場 剛
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス レデスマ,ルイス
(72)【発明者】
【氏名】リョベラ アダン,アンドレウ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレラ レニス,イレーネ
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア デ マディナベイチア メリノ,パブロ
(72)【発明者】
【氏名】オリア マルティネス,ロレア
【テーマコード(参考)】
3C081
4G075
【Fターム(参考)】
3C081AA01
3C081AA07
3C081BA09
3C081BA23
3C081BA30
3C081BA42
3C081CA05
3C081CA32
3C081CA35
3C081CA40
3C081DA10
3C081EA27
4G075AA02
4G075AA39
4G075AA56
4G075BB10
4G075DA18
4G075EB50
4G075FB12
4G075FB13
4G075FC17
(57)【要約】
本発明は、好ましくはポリマー基材(1)にパターニングされた、1つまたは複数のマイクロ流体構造を、ハイブリッドフォイル膜(2)により封止するための方法に関する。ハイブリッドフォイル膜(2)は、異なる機械的特性、ならびに好ましくは異なる剛性および/または剛度の値を有する2つの層(3、4)を備えることが有利である。好ましくは、フォイルは、剛性かつ機械的に安定な層(4)に結合される1つの可撓性かつ弾性の層(3)を備える。さらに、弾性層(3)の厚さは、封止しようとする基材(1)の粗さ寸法に等しいまたはそれよりも大きい。この構成により、ハイブリッドフォイル膜(2)が基材(1)の表面に適応し、一方で、圧力によるマイクロ流体構造の変形の下での十分な機械的安定性が与えられる。これは、結果として得られるマイクロ流体デバイスの封止および機能性の両方に良好な影響を及ぼす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基材(1)にパターニングされているマイクロ流体構造を、前記ベース基材(1)に配置されているハイブリッドフォイル膜(2)により封止するための方法において、前記方法が、
a)第1の層(3)および第2の層(4)を接合することにより前記ハイブリッドフォイル膜(2)を形成するステップであって、
前記第1の層(3)は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備え、
前記第2の層(4)は、150MPa~3.5GPaの間のヤング率を有する剛性かつ機械的に安定な材料を備え、
前記第1の層(3)は、前記ベース基材(1)の粗さ寸法(R)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T)を有し、
b)前記ハイブリッドフォイル膜(3)を前記ベース基材(1)に配置するステップと、
c)前記ベース基材(1)および前記ハイブリッドフォイル膜(2)に物理的処理および/または化学的処理を施すことにより前記マイクロ流体構造を封止するステップと
を行うことを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第1の層(3)のヤング率は、300kPa~60MPaの間であり、かつ/または、前記第2の層(4)のヤング率は、1.5GPa~3.5GPaの間である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の層(3)のポアソン比は、0.43~0.50の間であり、かつ/または、前記第2の層(4)のポアソン比は、0.35~0.43の間である、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の層(3)および前記第2の層(4)を接合するステップは、共押出し、熱融着、超音波溶接、表面改質、および/または溶剤結合により行われる、
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ベース基材(1)および前記ハイブリッドフォイル膜(2)に施される前記物理的処理および/または化学的処理は、共押出し、熱融着、超音波溶接、表面改質、溶剤結合のうちの1つまたは複数を含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の層(3)は、少なくともエラストマーを備える、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の層(4)は、少なくとも熱可塑性プラスチックを備える、
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の層(3)の厚さは、1μm~500μm、5μm~250μm、または10μm~200μmの間である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の層(4)の厚さは、20μm~25mm、40μm~2mm、または100μm~1.5mmの間である、
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第2の層(4)はさらなる層(5)に接合されており、
前記さらなる層(5)は、前記ベース基材(1)にパターニングされている前記マイクロ流体構造の封止の前に前記第2の層(4)に積層されている、
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第2の層(4)に積層され接合されている層(5)の総数は、
1~10の間、
1~6の間、または
1~4の間
である、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ベース基材(1)にパターニングされているマイクロ流体構造を備えるマイクロ流体デバイスであって、前記マイクロ流体構造は前記ベース基材(1)に配置されるハイブリッドフォイル膜(2)で封止されるように構成されており、
前記ハイブリッドフォイル膜(2)は、第1の層(3)および第2の層(4)を備え、
前記第1の層(3)は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備え、
前記第2の層(4)は、150MPa~3.5GPaの間のヤング率を有する剛性かつ機械的に安定な材料を備え、
前記第1の層(3)は、前記ベース基材(1)の粗さ寸法(R)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T)を有し、
前記マイクロ流体デバイスは、請求項1から9に記載の方法により直接得ることが可能である、
マイクロ流体デバイス。
【請求項13】
前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第1の層(3)のヤング率は、300kPa~60MPaの間であり、かつ/または、前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第2の層(4)のヤング率は、1.5GPa~3.5GPaの間である、
請求項12に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
間に配置されているハイブリッドフォイル膜(3)を介して接合されている2つのマイクロ流体構造を備えるマイクロ流体デバイスであって、
前記マイクロ流体構造の各々は、対応するベース基材(1)および二次基材(6)にパターニングされ、
前記ハイブリッドフォイル膜(2)は、第1の層(3)および第2の層(4)を備え、
前記第1の層(3)は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備え、
前記第2の層(4)は、150MPa~3.5GPaの間のヤング率を有する剛性かつ機械的に安定な材料を備え、
前記第2の層(4)は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備える追加層(5)に接合され、
前記第1の層(3)は、前記ベース基材(1)の粗さ寸法(R)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T)を有し、
前記追加層(5)は、前記二次基材(6)の粗さ寸法(R’)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T’)を有し、
前記マイクロ流体デバイスは、請求項10から11に記載の方法により直接得ることが可能である、
マイクロ流体デバイス。
【請求項15】
前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第1の層(3)および/または前記追加層(5)のヤング率は、300kPa~60MPaの間であり、かつ/または、
前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第2の層(4)のヤング率は、1.5GPa~3.5GPaの間である、
請求項14に記載のマイクロ流体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体構造を封止するためのポリマーフィルムの技術的分野に関する。より具体的には、本発明は、好ましくはポリマー基材にパターニングされた、任意のタイプのマイクロ流体チャネルまたはジオメトリを、当該基材に配置されたハイブリッドフォイル膜により封止するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体力学は、マイクロメートルおよびナノメートルの規模における流体処理技術を開発するための多数の科学的および工業的な背景における主要分野となっている。これは、化学分析および生物学的分析、環境モニタリング、ならびに品質管理などの多数の作業に広く適用されている。これに関連して、マイクロ流体デバイスの生産には、典型的にはチャネル、反応チャンバ、ハイブリダイゼーションチャンバ、ポンプ、およびバルブを備える小型システム内で流体を格納、操作、制御、または案内するための様々な種類のマイクロ構造を製造することが必要である。「ラボオンチップ(lab-on-a-chip)」デバイスとも称されるそのようなマイクロ流体デバイスの利点としては、必要な試料および試薬が少量であること、分析時間の短縮、容易な使用、大量生産およびスクリーニングのための高いスケーラビリティ、および実行されるプロセスに対する高度な制御が挙げられる。
【0003】
マイクロ流体デバイスは、様々な異なる処理ステップを必要とする種々の材料から製造される。最初に用いられた材料は、その有機溶媒耐性、金属の堆積させやすさ、優れた熱伝導性、および表面安定性に起因してシリコンであった。しかしながら、その可視光に対する不透過性、フォトリソグラフィまたは湿式/乾式エッチング法に基づく製造の高価さ、およびそれからマイクロ流体構成要素を形成する難しさにより、シリコンは急速にガラスに置き換えられた。ガラスは、シリコンに対する以下のさらなる利点を呈する。すなわち、可視波長における光透過性、優れた耐高圧性、生体適合性、および非化学反応性である。価格はシリコンに対して大幅に低減したが、依然としてかなり高い生産コストが克服すべき主な障害となっている。この制約が、主にポリジメチルシロキサン(PDMS)および熱可塑性プラスチックに基づく、低コストかつ使い捨てのポリマーベースのマイクロ流体デバイスの開発の発端であった。
【0004】
PDMSは、その低いコストおよび生産の容易さから、マイクロ流体デバイスを高速に試作するための最良の材料である。PDMSは、UV-NIR域における良好な光透過性を有し、最大250℃の温度に耐える。PDMSは可撓性であり、他の材料に容易に接着することができるため、多層ソフトリソグラフィによる複雑なマイクロ流体設計(すなわちバルブ、ポンプ、およびマイクロミキサ)に好都合である。その無毒性および高い透気性は、細胞研究および長期実験に有利であり得る。PDMSマイクロ流体デバイスの主な欠点としては、その疎水性、溶媒および酸/塩基への低い耐性、非特異的タンパク質吸着(場合によっては表面改質を必要とする)、その弾性(すなわち収縮またはたるみ)に起因するチャネルのジオメトリの制約、および圧力によるチャネルの変形に起因する安定性の欠如がある。
【0005】
熱可塑性ポリマー、主にポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリイミド(PI)、および環状オレフィンポリマー類(すなわち環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)、および環状ブロックコポリマー(CBC))が、マイクロ流体デバイスの商業的に実現可能な工業規模生産のための優れた選択肢として浮上してきた。熱可塑性プラスチックは、多数の生物学的分析マイクロ流体アプリケーションにおける重要な因子である、広範な動作温度および圧力にわたる良好な機械的安定性、低い吸水率、ならびに有機溶媒および酸/塩基への耐性を特徴とする剛性ポリマー材料である。熱可塑性プラスチックのマイクロパターニング構造は、熱エンボス加工、ローラ刻印、熱成形、および射出成形を含む複製プロセスにより、大量に形成することができる。
【0006】
PDMSおよび熱可塑性プラスチックの両方のマイクロ流体デバイスの製造は、主に、一方または両方の基材に製造されるマイクロチャネルまたは他の閉鎖アーキテクチャを密閉するために効果的に封止される必要がある2つの基材の製造に基づく。この封止法は、接合強度、生産されたマイクロ流体デバイスのジオメトリ安定性、UV-NIR域における光透過性、および表面の化学的性質を規定するため、完全に組み立てられた機能的なデバイスに向けた重要なステップである。PDMSの接合とは異なり、熱可塑性プラスチックの接合は、内在する粗さに起因して2つの剛性材料の間の接触面積がより小さいため、多くの場合に技術的課題を呈する。これは封止に欠陥を生じさせ、その結果、ほとんどの場合で漏出が生じる。
【0007】
一般に、熱可塑性プラスチックの接合は、直接接合または中間接合アプローチのいずれかにより実現される。直接接合は、熱融着、超音波溶接、表面改質、および溶剤結合などの、接合界面に中間材料を用いない接合プロセスである。一方、間接接合は、接着剤、エポキシ、アクリレートおよびさらにはPDMSのようなエラストマー層などの、両方の基材の間の有効接触面積を増大させることにより接合を補助するための中間材料の使用を伴う。しかしながら、大量生産の観点から、間接接合は、製造プロセスにおける追加のステップを意味するため、作業のコストおよび時間に関して望ましくない。
【0008】
他の場合では、エラストマー層が、マイクロ流体デバイスの製造に必要な2つの部品のうちの一方の単なる構造材料として用いられる。しかしながら、最終デバイスの機械的安定性の欠如は、深刻な課題を呈し、操作中におけるチャネルの変形をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、マイクロ流体デバイスにおける封止および機械的安定性の両方の従来技術の克服を可能とする新規な方法により、上述の技術的課題に対する解決策を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の目的は、ベース基材にパターニングされた1つまたは複数のマイクロ流体構造を、当該ベース基材に配置されたハイブリッドフォイル膜により封止するための方法に関する。
【0011】
有利には、本発明の方法は、
a)第1の層および第2の層を接合することによりハイブリッドフォイル膜を形成するステップであって、
第1の層は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備え、
第2の層は、150MPa~3.5GPaの間のヤング率を有する剛性かつ機械的に安定な材料を備え、
第1の層は、ベース基材の粗さ寸法(R)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T)を有する、
形成するステップと、
b)ハイブリッドフォイル膜をベース基材に配置するステップと、
c)ベース基材およびハイブリッドフォイル膜に物理的処理および/または化学的処理を施すことにより、ベース基材にパターニングされたマイクロ流体構造を封止し、次いで完全に組み立てられたマイクロ流体デバイスを得るステップと
を行うことを含む。
【0012】
本発明の解釈の範囲において、「粗さ寸法(roughness dimension)」という表現は、微小規模におけるベース基材の表面を形成する山および谷(凹凸とも称される)の間の最大距離として理解される。
【0013】
ハイブリッドフォイル膜のこの構成は、結果として得られるマイクロ流体デバイスの封止および機能性の両方に良好な影響を及ぼす。その層の各々を形成する材料の異なる剛度、および弾性層の規定された厚さにより、ハイブリッドフォイル膜がベース基材の表面に適応する。これは、(基材の表面凹凸の間に含まれる空間を膜が充填するため)膜と基材との間の効果的な接合を生じさせ、一方でその接合に十分な機械的安定性を与える。
【0014】
本発明の好適な実施形態において、第1の層のヤング率は、300kPa~60MPaの間であり、かつ/または、第2の層のヤング率は、1.5GPa~3.5GPaの間である。
【0015】
本発明の別の好適な実施形態において、第1の層のポアソン比は、0.43~0.50の間であり、かつ/または、第2の層のポアソン比は、0.35~0.43の間である。
【0016】
本発明のさらなる好適な実施形態において、ハイブリッドフォイル膜の第1の層および第2の層を接合するステップは、共押出し、熱融着、超音波溶接、表面改質、および/または溶剤結合により行われる。
【0017】
本発明のさらに別の好適な実施形態において、ベース基材およびハイブリッドフォイル膜に施される物理的処理および/または化学的処理は、共押出し、熱融着、超音波溶接、表面改質、溶剤結合のうちの1つまたは複数を含む。
【0018】
本発明のさらに別の好適な実施形態において、第1の層は、エラストマー、好ましくはポリジメチルシロキサン(PDMS)、環状オレフィンコポリマーエラストマーE-140、寒天(agar-agar)、またはそれらの任意の組み合わせを備える。
【0019】
本発明のさらに別の好適な実施形態において、第2の層は、熱可塑性プラスチック、好ましくはポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)、またはそれらの任意の組み合わせを備える。
【0020】
本発明のさらに別の好適な実施形態において、ハイブリッドフォイル膜の形成中における両方の層の表面間の接触面積を最大化するために、第1の層の厚さは、通常、1μm~500μmの間、好ましくは5μm~250μmの間、または、より好ましくは10μm~200μmの間である。
【0021】
本発明のさらに別の好適な実施形態において、結果として得られるマイクロ流体デバイスの機械的安定性を確保するために、第2の層の厚さは、20μm~25mmの間、好ましくは40μm~2mmの間、または、より好ましくは100μm~1.5mmの間である。
【0022】
本発明のさらに別の好適な実施形態において、ハイブリッドフォイル膜の第2の層は、さらなる層に接合されている。さらなる層は、ベース基材にパターニングされたマイクロ流体構造の封止の前に、当該第2の層に積層される。
【0023】
本発明のさらに別の好適な実施形態において、ハイブリッドフォイル膜の層の総数は、1~10の間、好ましくは1~6の間、またはより好ましくは1~4の間である。
【0024】
本発明の第2の目的は、ベース基材にパターニングされているマイクロ流体構造を備えるマイクロ流体デバイスに関し、マイクロ流体構造は当該ベース基材に配置されるハイブリッドフォイル膜で封止されるように構成されており、ハイブリッドフォイル膜は、第1の層および第2の層を備え、
第1の層は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備え、
第2の層は、150MPa~3.5GPaの間のヤング率を有する剛性かつ機械的に安定な材料を備え、
第1の層は、ベース基材の粗さ寸法(R)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T)を有し、
マイクロ流体デバイスは、本明細書に記載の方法のいずれかに従って直接得ることが可能である。
【0025】
本発明の好適な実施形態において、ハイブリッドフォイル膜の第1の層のヤング率は、300kPa~60MPaの間であり、かつ/または、ハイブリッドフォイル膜の第2の層のヤング率は、1.5GPa~3.5GPaの間である。
【0026】
本発明の第3の目的は、間に配置されたハイブリッドフォイル膜を介して接合された2つのマイクロ流体構造を備えるマイクロ流体デバイスに関し、当該マイクロ流体構造の各々は、対応するベース基材および二次基材にパターニングされ、ハイブリッドフォイル膜は、第1の層および第2の層を備え、
第1の層は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備え、
第2の層は、150MPa~3.5GPaの間のヤング率を有する剛性かつ機械的に安定な材料を備え、
第2の層は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備える追加層に接合され、
第1の層は、ベース基材の粗さ寸法(R)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T)を有し、
追加層は、二次基材の粗さ寸法(R’)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T’)を有し、
マイクロ流体デバイスは、上述の方法のいずれかに従って直接得ることが可能である。
【0027】
本発明の好適な実施形態において、ハイブリッドフォイル膜の第1の層および/または追加層のヤング率は、300kPa~60MPaの間であり、かつ/または、ハイブリッドフォイル膜の第2の層のヤング率は、1.5GPa~3.5GPaの間である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】一方が熱可塑性プラスチックから作製され、他方がエラストマーから作製される2つのポリマー層を備える、本発明の好適な実施形態のうちの1つにおける本発明のハイブリッドフォイル膜の断面図である。
【
図2】
図2aおよび
図2bは、直接接合によるエラストマーフォイルを有する基材の従来の封止プロセスである。
【
図3】
図3aおよび
図3bは、直接接合による熱可塑性プラスチックフォイルを有する基材の従来の封止プロセスである。
【
図4】膜の熱可塑性プラスチック層が、少なくとも一方にマイクロ流体アーキテクチャがパターニングされた2つの基材を封止することにより機能的でありかつ機械的に安定なマイクロ流体デバイスを形成するための追加層に接合される、本発明の好適な実施形態のうちの1つにおける本発明のハイブリッドフォイル膜の断面図である。
【符号の説明】
【0029】
本発明の技術的特徴のより良好な理解を提供するために、参照される
図1~
図4には、例示的かつ非限定的な性質のものとしてここに示す、一連の参照番号が付されている。
1 ベース基材
2 ハイブリッドフォイル膜
3 第1の層、可撓性/弾性層
4 第2の層、剛性/機械的安定層
5 追加層
6 二次基材
【発明を実施するための形態】
【0030】
前段で説明したように、本発明の1つの目的は、好ましくはポリマーベース基材(1)にパターニングされた、マイクロ流体構造を、ハイブリッドフォイル膜(2)(
図1)により封止するための方法に関する。これを行うために、ハイブリッドフォイル膜(2)は、異なる機械的特性、ならびに好ましくは異なる剛性および/または剛度の値を有する2つの層(3、4)を備えることが有利である。結果として、ハイブリッドフォイル膜(2)は、ベース基材(1)に適応し、それらの間の効果的な接合を実現する(すなわち、ベース基材(1)の表面凹凸の間に含まれる空間を完全に充填する)のみならず、ベース基材(1)およびハイブリッドフォイル膜(2)により形成される配列の機械的安定性が最終的なマイクロ流体デバイスにおいて維持されることも確実にする。
【0031】
本発明の好適な実施形態において、ハイブリッドフォイル膜(2)は、第1の層(3)および第2の層(4)を備え、第1の層(3)は、ハイブリッドフォイル膜(2)が配置されることになるベース基材(1)の粗さ寸法(R)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T)を有する。前述のように、「粗さ寸法」という表現は、本明細書において、微小規模におけるベース基材(1)の表面を形成する山および谷(凹凸とも称される)の間の最大距離として理解される。
【0032】
本発明のアプローチとは異なり、先行技術の既知の技法は、ベース基材(1)に形成されるマイクロチャネルまたは他の閉鎖アーキテクチャを封止するために、機械的特性の異なる2つの層を組み合わせて用いるのではなく、単一の剛性層または弾性層のみを用いることに基づくものであった。先行技術における不利な点として、1つの弾性/可撓性層(3)(
図2aおよび
図2b)のみを用いることで、当該層(3)とベース基材(1)との間の効果的な接合をもたらすことができるが、これは通常、機械的に不安定となる(それにより、例えば操作中におけるチャネルの変形が生じる)。他方、剛性層(4)(
図3aおよび
図3b)のみを用いることで、当該層(4)とベース基材(1)との間の機械的に安定な接合をもたらすことができるが、当該層(4)は、ベース基材(1)の表面凹凸の間に含まれる空間を完全に充填することができない。
【0033】
本発明のより好適な実施形態において、ハイブリッドフォイル膜(2)の第1の層(3)は、300kPa~150MPaの間、より好ましくは300kPa~60MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備え、一方で第2の層(4)は、150MPa~3.5GPaの間、より好ましくは1.5GPa~3.5GPaの間のヤング率を有する剛性かつ機械的に安定な材料から作製される。それらの対応するポアソン比は、第1の層(3)については0.43~0.50の間、第2の層(4)については0.35~0.43の間となることがより好ましい。
【0034】
これらの実施形態において、ハイブリッドフォイル膜(2)の第1の層(3)は、様々な材料、好ましくはエラストマー材料、より好ましくはポリジメチルシロキサン(PDMS)、環状オレフィンコポリマーエラストマーE-140または寒天から作製されてよい。第2の層(4)は、様々な熱可塑性プラスチック材料から作製されてよいが、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、環状オレフィンポリマー(COP)、および/または類似の熱可塑性プラスチック材料の堆積により製造されることが好ましい。
【0035】
第1の層(3)の厚さは、通常、1μm~500μmの間、好ましくは5μm~250μmの間、より好ましくは10μm~200μmの間に含まれる。
【0036】
第2の層(4)の厚さは、通常、20μm~25mmの間、好ましくは40μm~2mmの間、より好ましくは100μm~1.5mmの間に含まれる。
【0037】
ハイブリッドフォイル膜(2)を形成する第1の層(3)および第2の層(4)は、共押出し、加圧接合、熱融着、超音波溶接、表面改質または溶剤結合などの任意の好適な接合手段またはプロセスにより接合されてよい。上記の接合プロセスの後、両方の層(3、4)は、ベース基材(1)に製造されるマイクロチャネルまたは他の閉鎖アーキテクチャを封止する準備の整った単一の構造体(single structure)(2)を形成する。
【0038】
より具体的には、好ましくはポリマーベース基材(1)にパターニングされた、単一のまたは複数のマイクロ流体構造を、ハイブリッドフォイル膜(2)により封止するための本発明の方法は、
a)第1の層(3)および第2の層(4)を接合することによりハイブリッドフォイル膜(2)を形成するステップと、
b)ハイブリッドフォイル膜(2)をベース基材(1)に配置するステップと、
c)ベース基材(1)およびハイブリッドフォイル膜(2)に物理的処理および/または化学的処理を施すことによりマイクロ流体構造を封止するステップと
を含む。
【0039】
ハイブリッドフォイル膜(2)に含まれる第1の層(3)および第2の層(4)の異なる剛度は、ベース基材(1)の表面に適応するための十分な弾性を提供するとともに、圧力によるマイクロ流体構造の変形の下での十分な機械的安定性を与える。この特徴は、完全に組み立てられたマイクロ流体デバイスの封止の有効性のみならず機能性にも良好な影響を及ぼす。
【0040】
本発明のさらなる好適な実施形態において、ハイブリッドフォイル膜(2)の第2の層(4)は、ベース基材(1)にパターニングされたマイクロ流体構造の封止の前に第2の層(4)に積層され得るさらなる層(5)に接合されてよい。これらの追加層(5)は、完全に組み立てられたマイクロ流体デバイスにさらなる機械的特性を与えるため、または、2つの基材(1、6)の接合により機能的でありかつ機械的に安定なマイクロ流体デバイスを形成するために用いられてよい。この後者のシナリオ(
図4)において、二次基材(6)と接触する追加層(5)は、
二次基材(6)の粗さ寸法(R’)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T’)を有し、
300kPa~150MPaの間、または、より好ましくは300kPa~60MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備える。
【0041】
本実施形態においてハイブリッドフォイル膜(2)の剛性層(4)に積層され接合され得る追加層(5)の総数は、好ましくは1~10の間、より好ましくは1~6の間、さらにより好ましくは1~4の間である。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース基材(1)にパターニングされているマイクロ流体構造を、前記ベース基材(1)に配置されているハイブリッドフォイル膜(2)により封止するための方法において、前記方法が、
a)第1の層(3)および第2の層(4)を接合することにより前記ハイブリッドフォイル膜(2)を形成するステップであって、
前記第1の層(3)は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備え、
前記第2の層(4)は、150MPa~3.5GPaの間のヤング率を有する剛性かつ機械的に安定な材料を備え、
前記第1の層(3)は、前記ベース基材(1)の粗さ寸法(R)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T)を有し、
b)前記ハイブリッドフォイル膜(
2)を前記ベース基材(1)に配置するステップと、
c)前記ベース基材(1)および前記ハイブリッドフォイル膜(2)に物理的処理および/または化学的処理を施すことにより前記マイクロ流体構造を封止するステップと
を行うことを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記第1の層(3)のヤング率は、300kPa~60MPaの間であり、かつ/または、前記第2の層(4)のヤング率は、1.5GPa~3.5GPaの間である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の層(3)のポアソン比は、0.43~0.50の間であり、かつ/または、前記第2の層(4)のポアソン比は、0.35~0.43の間である、
請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の層(3)および前記第2の層(4)を接合するステップは、共押出し、熱融着、超音波溶接、表面改質、および/または溶剤結合により行われる、
請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記ベース基材(1)および前記ハイブリッドフォイル膜(2)に施される前記物理的処理および/または化学的処理は、共押出し、熱融着、超音波溶接、表面改質、溶剤結合のうちの1つまたは複数を含む、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の層(3)は、少なくともエラストマーを備える、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の層(4)は、少なくとも熱可塑性プラスチックを備える、
請求
項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の層(3)の厚さは、1μm~500μm、5μm~250μm、または10μm~200μmの間である、
請求項
6に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の層(4)の厚さは、20μm~25mm、40μm~2mm、または100μm~1.5mmの間である、
請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第2の層(4)はさらなる層(5)に接合されており、
前記さらなる層(5)は、前記ベース基材(1)にパターニングされている前記マイクロ流体構造の封止の前に前記第2の層(4)に積層されている、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第2の層(4)に積層され接合されている層(5)の総数は、
1~10の間、
1~6の間、または
1~4の間
である、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ベース基材(1)にパターニングされているマイクロ流体構造を備えるマイクロ流体デバイスであって、前記マイクロ流体構造は前記ベース基材(1)に配置されるハイブリッドフォイル膜(2)で封止されるように構成されており、
前記ハイブリッドフォイル膜(2)は、第1の層(3)および第2の層(4)を備え、
前記第1の層(3)は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備え、
前記第2の層(4)は、150MPa~3.5GPaの間のヤング率を有する剛性かつ機械的に安定な材料を備え、
前記第1の層(3)は、前記ベース基材(1)の粗さ寸法(R)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T)を有し、
前記マイクロ流体デバイスは、請求項1から
4のいずれか一項に記載の方法により直接得ることが可能である、
マイクロ流体デバイス。
【請求項13】
前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第1の層(3)のヤング率は、300kPa~60MPaの間であり、かつ/または、前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第2の層(4)のヤング率は、1.5GPa~3.5GPaの間である、
請求項12に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
間に配置されているハイブリッドフォイル膜(
2)を介して接合されている2つのマイクロ流体構造を備えるマイクロ流体デバイスであって、
前記マイクロ流体構造の各々は、対応するベース基材(1)および二次基材(6)にパターニングされ、
前記ハイブリッドフォイル膜(2)は、第1の層(3)および第2の層(4)を備え、
前記第1の層(3)は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備え、
前記第2の層(4)は、150MPa~3.5GPaの間のヤング率を有する剛性かつ機械的に安定な材料を備え、
前記第2の層(4)は、300kPa~150MPaの間のヤング率を有する可撓性かつ弾性の材料を備える追加層(5)に接合され、
前記第1の層(3)は、前記ベース基材(1)の粗さ寸法(R)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T)を有し、
前記追加層(5)は、前記二次基材(6)の粗さ寸法(R’)に等しいまたはそれよりも大きい厚さ値(T’)を有し、
前記マイクロ流体デバイスは、請求項
10に記載の方法により直接得ることが可能である、
マイクロ流体デバイス。
【請求項15】
前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第1の層(3)および/または前記追加層(5)のヤング率は、300kPa~60MPaの間であり、かつ/または、
前記ハイブリッドフォイル膜(2)の前記第2の層(4)のヤング率は、1.5GPa~3.5GPaの間である、
請求項14に記載のマイクロ流体デバイス。
【国際調査報告】