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特表2024-534823海上航行船舶のメンテナンスの必要性を診断するための方法及びシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】海上航行船舶のメンテナンスの必要性を診断するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   B63B 79/30 20200101AFI20240918BHJP
   B63B 79/10 20200101ALI20240918BHJP
   B63B 59/06 20060101ALI20240918BHJP
   B63H 1/28 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B63B79/30
B63B79/10
B63B59/06 Z
B63H1/28 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024510692
(86)(22)【出願日】2022-08-23
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2022073430
(87)【国際公開番号】W WO2023030958
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】21194583.7
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
(71)【出願人】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,スティーブン・アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】フリズウェル・マーク・ロバート
(57)【要約】
本開示は、船舶メンテナンスの最適化のための方法を提供し、本方法は、船舶の運航データを取得するステップと、トルク指数を計算するステップと、スリップ指数を計算するステップと、トルク指数がトルク指数閾値を超える場合にプロペラ洗浄が必要であることを示すステップと、スリップ指数がスリップ指数閾値を超える場合に船体洗浄が必要であることを示すステップと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上航行船舶のメンテナンスの必要性を診断するためのコンピュータ実装方法であって、前記船舶が、船体、プロペラ、エンジン、及び前記エンジンを前記プロペラに接続する駆動シャフトを備え、前記方法が、
(a)式(A)を使用してプロペラ距離を計算するステップであって、
プロペラ距離=(公称ピッチ)*(1未満、好ましくは0.7~0.99の範囲の数)*(観測RPM)(A)
前記公称ピッチは、半径0.7におけるピッチを示す値であり、
前記観測RPMは、選択された期間にわたる前記駆動シャフトの毎分回転数を示す値である、計算するステップと、
(b)式(B)を使用してスリップ係数を計算するステップであって、
スリップ係数=(プロペラ距離)/(観測距離)(B)
前記観測距離は、前記選択された期間にわたって前記船舶が移動した観測距離である、計算するステップと、
(c)プロペラ研磨指標及び船体洗浄指標のうちの少なくとも1つを出力するステップであって、
前記プロペラ研磨指標を出力することが、
-式(C)を使用して基準トルク乗数を計算することであって、
基準トルク乗数=(1未満、好ましくは0.8~最大0.99の範囲の数)*(定格エンジン出力)/(定格RPM) (C)
前記定格エンジン出力は、エンジン製造業者によって指定された前記エンジンの最大動力出力値であり、
前記定格RPMは、前記エンジン製造業者によって指定された前記定格エンジン出力における前記プロペラの最大RPMである、計算することと、
-式(D)を使用して観測トルク乗数を計算することであって、
観測トルク乗数=観測エンジン出力/(観測RPM) (D)
前記観測エンジン出力は、前記選択された期間にわたる前記船舶の観測エンジン出力である、計算することと、
-式(E)を使用してトルク指数を計算することと、
トルク指数=(85~110の範囲の数)*(観測トルク乗数)/(基準トルク乗数)/(スリップ係数) (E)
-前記トルク指数を上側トルク指数閾値と比較することと、を含み、
前記船体洗浄指標を出力することが、
-式(F)を使用してスリップ指数を計算することと、
スリップ指数=(85~110の範囲の数)*(スリップ係数) (F)
-前記スリップ指数を上側スリップ指数閾値と比較することと、を含む、出力するステップと、
を含む、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
-前記プロペラ研磨指標を出力する前記ステップが、前記トルク指数を下側トルク指数閾値及び上側トルク指数閾値と比較することと、前記トルク指数が前記下側トルク指数閾値を超えるが前記上側トルク指数閾値は超えない場合にプロペラ研磨が有益であろうことを示すことと、前記トルク指数が前記上側トルク指数閾値を超える場合にプロペラ研磨が必要であることを示すことと、を更に含み、
-前記船体洗浄指標を出力する前記ステップが、前記スリップ指数を下側スリップ指数閾値及び上側スリップ指数閾値と比較することと、前記スリップ指数が前記下側スリップ指数閾値を超えるが前記上側スリップ指数閾値は超えない場合に船体洗浄が有益であろうことを示すことと、前記スリップ指数が前記上側スリップ指数閾値を超える場合に船体洗浄が必要であることを示すことと、
を更に含む、請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項3】
-前記船舶が最後に塗装されたときから始まる期間にわたって、少なくとも前記上側スリップ指数閾値、及び任意選択的に前記下側スリップ指数閾値を調整することを更に含む、請求項1又は2に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項4】
-前記船舶が塗装されたときに、少なくとも前記上側スリップ指数閾値、及び任意選択的に前記下側スリップ指数閾値をリセットすることを更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項5】
前記スリップ指数を計算する前記ステップが、ある期間、任意選択的に少なくとも15日、より好ましくは30日にわたって、前記スリップ指数のローリング平均を計算することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項6】
前記トルク指数を計算する前記ステップが、ある期間、任意選択的に少なくとも15日、より好ましくは30日にわたって、前記トルク指数のローリング平均を計算することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項7】
海上航行船舶のメンテナンスの必要性を診断するためのコンピュータプログラムであって、前記船舶が、船体、プロペラ、エンジン、及び前記エンジンを前記プロペラに接続する駆動シャフトを備え、前記コンピュータプログラムが、命令を含み、前記命令は、前記プログラムがコンピュータによって実行されるときに、前記コンピュータに、
(a)式(A)を使用してプロペラ距離を計算するステップであって、
プロペラ距離=(公称ピッチ)*(1未満、好ましくは0.7~0.99の範囲の数)*(観測RPM)(A)
前記公称ピッチは、半径0.7におけるピッチを示す値であり、
前記観測RPMは、選択された期間にわたる前記駆動シャフトの毎分回転数を示す値である、計算するステップと、
(b)式(B)を使用してスリップ係数を計算するステップであって、
スリップ係数=(プロペラ距離)/(観測距離)(B)
前記観測距離は、前記選択された期間にわたって前記船舶が移動した観測距離である、計算するステップと、
(c)プロペラ研磨指標及び船体洗浄指標のうちの少なくとも1つを出力するステップであって、
前記プロペラ研磨指標を出力することが、
-式(C)を使用して基準トルク乗数を計算することであって、
基準トルク乗数=(1未満、好ましくは0.8~最大0.99の範囲の数)*(定格エンジン出力)/(定格RPM) (C)
前記定格エンジン出力は、エンジン製造業者によって指定された前記エンジンの最大動力出力値であり、
前記定格RPMは、前記エンジン製造業者によって指定された前記定格エンジン出力における前記プロペラの最大RPMである、計算することと、
-式(D)を使用して観測トルク乗数を計算することと、
観測トルク乗数=観測エンジン出力/(観測RPM) (D)
-式(E)を使用してトルク指数を計算することと、
トルク指数=(85~110の範囲の数)*(観測トルク乗数)/(基準トルク乗数)/(スリップ係数) (E)
-前記トルク指数を上側トルク指数閾値と比較することと、を含み、前記船体洗浄指標を出力することが、
-式(F)を使用してスリップ指数を計算することと、
スリップ指数=(85~110の範囲の数)*(スリップ係数) (F)
-前記スリップ指数を上側スリップ指数閾値と比較することと、を含む、出力するステップと、
を実行させる、コンピュータプログラム。
【請求項8】
-前記プロペラ研磨指標を出力する前記ステップが、前記トルク指数を下側トルク指数閾値及び上側トルク指数閾値と比較することと、前記トルク指数が前記下側トルク指数閾値を超えるが前記上側トルク指数閾値は超えない場合にプロペラ研磨が有益であろうことを示すことと、前記トルク指数が前記上側トルク指数閾値を超える場合にプロペラ研磨が必要であることを示すことと、を更に含み、
-前記船体洗浄指標を出力する前記ステップが、前記スリップ指数を下側スリップ指数閾値及び上側スリップ指数閾値と比較することと、前記スリップ指数が前記下側スリップ指数閾値を超えるが前記上側スリップ指数閾値は超えない場合に船体洗浄が有益であろうことを示すことと、前記スリップ指数が前記上側スリップ指数閾値を超える場合に船体洗浄が必要であることを示すことと、
を更に含む、請求項7に記載のコンピュータプログラム。
【請求項9】
前記スリップ指数を計算する前記ステップが、ある期間、任意選択的に少なくとも15日、より好ましくは30日にわたって前記スリップ指数のローリング平均を計算することを含む、請求項7又は8に記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記トルク指数を計算する前記ステップが、ある期間、任意選択的に少なくとも15日、より好ましくは30日にわたって前記トルク指数のローリング平均を計算することを含む、請求項7~9のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項11】
海上航行船舶のメンテナンスの必要性を診断するためのコンピュータ可読媒体であって、前記船舶が、船体、プロペラ、エンジン、及び前記エンジンを前記プロペラに接続する駆動シャフトを備え、前記コンピュータ可読媒体が、命令を含み、前記命令は、コンピュータによって実行されるときに、前記コンピュータに、
(a)式(A)を使用してプロペラ距離を計算するステップであって、
プロペラ距離=(公称ピッチ)*(1未満、好ましくは0.7~0.99の範囲の数)*(観測RPM)(A)
前記公称ピッチは、半径0.7におけるピッチを示す値であり、
前記観測RPMは、選択された期間にわたる前記駆動シャフトの毎分回転数を示す値である、計算するステップと、
(b)式(B)を使用してスリップ係数を計算するステップであって、
スリップ係数=(プロペラ距離)/(観測距離)(B)
前記観測距離は、前記選択された期間にわたって前記船舶が移動した観測距離である、計算するステップと、
(c)プロペラ研磨指標及び船体洗浄指標のうちの少なくとも1つを出力するステップであって、
前記プロペラ研磨指標を出力することが、
-式(C)を使用して基準トルク乗数を計算することであって、
基準トルク乗数=(1未満、好ましくは0.8~最大0.99の範囲の数)*(定格エンジン出力)/(定格RPM) (C)
前記定格エンジン出力は、エンジン製造業者によって指定された前記エンジンの最大動力出力値であり、
前記定格RPMは、前記エンジン製造業者によって指定された前記定格エンジン出力における前記プロペラの最大RPMである、計算することと、
-式(D)を使用して観測トルク乗数を計算することと、
観測トルク乗数=観測エンジン出力/(観測RPM) (D)
-式(E)を使用してトルク指数を計算することと、
トルク指数=(85~110の範囲の数)*(観測トルク乗数)/(基準トルク乗数)/(スリップ係数) (E)
-前記トルク指数を上側トルク指数閾値と比較することと、を含み、前記船体洗浄指標を出力することが、
-式(F)を使用してスリップ指数を計算することと、
スリップ指数=(85~110の範囲の数)*(スリップ係数) (F)
-前記スリップ指数を上側スリップ指数閾値と比較することと、を含む、出力するステップと、
を実行させる、コンピュータ可読媒体。
【請求項12】
-前記プロペラ研磨指標を出力する前記ステップが、前記トルク指数を下側トルク指数閾値及び上側トルク指数閾値と比較することと、前記トルク指数が前記下側トルク指数閾値を超えるが前記上側トルク指数閾値は超えない場合にプロペラ研磨が有益であろうことを示すことと、前記トルク指数が前記上側トルク指数閾値を超える場合にプロペラ研磨が必要であることを示すことと、を更に含み、
-前記船体洗浄指標を出力する前記ステップが、前記スリップ指数を下側スリップ指数閾値及び上側スリップ指数閾値と比較することと、前記スリップ指数が前記下側スリップ指数閾値を超えるが前記上側スリップ指数閾値は超えない場合に船体洗浄が有益であろうことを示すことと、前記スリップ指数が前記上側スリップ指数閾値を超える場合に船体洗浄が必要であることを示すことと、
を更に含む、請求項11に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項13】
前記スリップ指数を計算する前記ステップが、ある期間、任意選択的に少なくとも15日、より好ましくは30日にわたって前記スリップ指数のローリング平均を計算することを含む、請求項11又は12に記載のコンピュータ可読媒体。
【請求項14】
前記トルク指数を計算する前記ステップが、ある期間、任意選択的に少なくとも15日、より好ましくは30日にわたって前記トルク指数のローリング平均を計算することを含む、請求項11~13のいずれか一項に記載のコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]
本発明は、海上航行船舶のメンテナンスの必要性を診断するための方法及びシステムに関する。船舶は船であってもよい。船舶は、例えばバルク貨物を運搬するための、商業船舶であってもよい。貨物は、原油、石油製品、LNG、水素、ISOコンテナ、粒状材料などのうちの1つ以上を含んでもよいが、これらに限定されない。
【背景技術】
【0002】
[0002]
大型の外洋航行船舶は、通常は、例えば5年ごとに、修繕活動が課され、その際に水中部分が塗装され、プロペラが研磨される。船舶の性能は、5年の期間にわたって劣化していく。劣化の速度及び程度はいくつかの要因に依存するが、決定的な影響を与え、影響され得るものは、塗布する塗料の選択である。海運業界は、所与の動力に対する速度損失という観点から、性能を定量化するための規格ISO 19030を開発した。しかしながら、この方法論は、性能劣化の影響を収益化するために必要な最終ステップを踏んでいない。
[0003]
船に塗布される水中コーティングの設計上の耐用年数は、例えば5年と、限られている。海運業界では、これを7.5年に引き上げる提案が広まってきている。水中コーティング性能が経時的に劣化した船舶は、新しく塗布した状態と比較して、同じ速度を達成するために、例えば、最大25%増の動力又は25%増の燃料を必要とし得る。その結果、船団全体の平均燃料消費量は、一般的に「理想的な」値又は達成可能な最良の値を超えてしまう。全体的な燃料消費量は、多数の船舶で着実に、理想値を約9%上回る可能性がある。
[0004]
一般に、船団管理では、航海指図(voyage order)によって必要とされる速度が固定されると仮定する傾向があるため、性能劣化の影響で、動力需要が増加し、それによって、燃料消費量、コスト、及び排出を増加させることになる。燃料消費量の管理は、船体抵抗指数(Hull Resistance Index、HRI)を使用して行うことができ、これは典型的にはISO規格19030に基づいている。HRIは、要求された速度を維持するための動力需要の増加を決定するために、動力と速度の関係をとる。これは、燃料、コスト及び排出の増加に直結するが、この劣化を船体又はプロペラの要因に帰するものではない。
[0005]
船体を洗浄することは、一般に、プロペラのみを研磨することよりもかなり費用がかかる。プロペラ研磨は浅い水深で比較的容易に行うことができるが、船体洗浄は、特に喫水が一定以上、例えば10メートル以上の大型船舶の場合、複雑な手順及び特殊な設備を必要とする。ISO規格及びHRIでは、劣化が船体又はプロペラの問題の結果であるかどうかを区別することができない。これを緩和するために、定期的にプロペラ研磨を実行する運航会社もある。出願人が管理している船団を含む、他の船団は、アドホックな対応でプロペラ研磨を実施している。
[0006]
プロペラの劣化を判定できるようにすることを目指す技術があり、数学的手段によるものと、発生する推力を正確に測定し、それによってプロペラの効率を直接判定できるとするシャフト推力計の装備によるものがある。しかしながら、これらの推力測定システムのための資本支出(capital expenditure、CAPEX)が比較的高く、新規性が高い商品であるため、現在までのところ普及は非常に遅れている。いずれにしても、既存のトン数に対して大規模な推力計改装プログラムが実施されることを期待するのは非現実的であり、出願人のポートフォリオの大半の船舶は長期又は短期ベースのいずれかでチャーターされているため、データに基づくアプローチが不可欠である。
[0007]
国際公開第2019/243932号は、船舶に搭載され、プロペラに動力を供給する主エンジンに接続されたプロペラの汚損を検出する方法及び装置を開示している。この方法は、実際の状態での沿岸航行操縦中に得られたプロペラの単位時間当たりの回転数対時間の関係と、汚損のないプロペラで沿岸航行操縦を行っている間に得られた対応する曲線とを比較することを含む。
[0008]
米国特許第10543886号明細書は、回転可能なシャフトに取り付けられたプロペラを有する海洋船舶が、シャフトからプロペラに伝達される回転シャフト動力を推力に変換して海洋船舶を水中で推進させる例示的な方法を開示しており、この方法は、海洋船舶のシャフト動力、推力及び水中速度を表す測定値を取得することと、プロペラの汚損によって引き起こされる第1の過剰シャフト動力及び海洋船舶の船体の汚損によって引き起こされる第2の過剰シャフト動力のうちの少なくとも1つを別々に推定することと、第1の過剰シャフト動力に応じてプロペラ洗浄の指示を発行し、第2の過剰シャフト動力に応じて船体洗浄の指示を発行することと、を含む。
[0009]
上記で参照したシステムによって提供される利点及びコスト削減にもかかわらず、本開示は、更なる改善を提供する代替的な方法及びシステムを提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/243932号
【特許文献2】米国特許第10543886号明細書
【発明の概要】
【0004】
[0010]
とりわけ、本開示は、船舶メンテナンス、船体洗浄、及びプロペラ洗浄を改善する方法を提供し、これにより、9%等の所望のレベルを超える燃料消費量の削減を可能にすることができる。より少ない燃料消費量をもたらす、適切なメンテナンスによる性能の向上に加えて、本明細書に記載の方法は、船体の洗浄又はメンテナンスの必要性を、プロペラの洗浄及びメンテナンスの必要性を示すプロペラの性能とは別個かつ独立して、評価することを可能にする。本開示の方法は、(a)船体洗浄及びプロペラ研磨の両方を実行、(b)船体洗浄のみを実行、又は(c)プロペラ研磨単独、という船舶メンテナンスにおける選択肢を提供する。どのタイプのメンテナンスが必要かを知ることにより、プロペラ研磨のみが必要なときに、船体洗浄及びプロペラ研磨の両方を行うことによって生じ得る不必要なコストを削減することができ、特に、船体の洗浄が一般的に、プロペラのみの研磨よりも大幅にコストがかかる場合はなおさらである。
[0011]
大半の洗浄方法では、塗膜が多少剥がれ、洗浄された表面に微細な傷が残るため、洗浄後に汚れを加速するように作用する。修繕サイクル中に船体洗浄を繰り返すと、ペイントフィルム厚が過剰に除去されてしまい、早期の修繕及び再塗装以外では、高い性能状態に表面を維持することができなくなる可能性がある。本発明によって提供される洞察は、船体洗浄が汚損により実際に必要とされるときにのみ実行されることを保証し、それにより塗料の早期消耗を排除する。
[0012]
一態様では、本発明は、海上航行船舶のメンテナンスの必要性を診断するためのコンピュータ実装方法を提供し、この船舶は船体、プロペラ、エンジン、及びエンジンをプロペラに接続する駆動シャフトを備え、方法は、
(a)式(A)を使用してプロペラ距離を計算するステップであって、
プロペラ距離=(公称ピッチ)*(1未満、好ましくは0.7~0.99の範囲の数)*(観測RPM)(A)
公称ピッチは、半径0.7におけるピッチを示す値であり、
観測RPMは、選択された期間にわたる駆動シャフトの毎分回転数を示す値である、計算するステップと、
(b)式(B)を使用してスリップ係数を計算するステップであって、
スリップ係数=(プロペラ距離)/(観測距離)(B)
観測距離は、選択された期間にわたって船舶が移動した観測距離である、計算するステップと、
(c)プロペラ研磨指標及び船体洗浄指標のうちの少なくとも1つを出力するステップであって、プロペラ研磨指標が、船体洗浄指標とは別の値として出力される、出力するステップと、を含む。
[0013]
プロペラ研磨指標を出力するステップは、
-式(C)を使用して基準トルク乗数を計算することであって、
基準トルク乗数=(1未満、好ましくは0.8~最大0.99の範囲の数)*(定格エンジン出力)/(定格RPM) (C)
定格エンジン出力は、エンジン製造業者によって指定されたエンジンの最大動力出力値であり、
定格RPMは、エンジン製造業者によって指定された定格エンジン出力におけるプロペラの最大RPMである、計算することと、
-式(D)を使用して観測トルク乗数を計算することと、
観測トルク乗数=観測エンジン出力/(観測RPM) (D)
-式(E)を使用してトルク指数を計算することと、
トルク指数=(85~110の範囲の数)*(観測トルク乗数)/(基準トルク乗数)/(スリップ係数) (E)
-トルク指数を上側トルク指数閾値と比較することと、を含む。
[0014]
船体洗浄指標を出力するステップは、
-式(F)を使用してスリップ指数を計算することと、
スリップ指数=(85~110の範囲の数)*(スリップ係数) (F)
-スリップ指数を上側スリップ指数閾値と比較することと、を含む。
[0015]
任意選択的に、プロペラ研磨指標を出力するステップは、トルク指数を下側トルク指数閾値及び上側トルク指数閾値と比較することと、トルク指数が下側トルク指数閾値を超えるが上側トルク指数閾値は超えない場合にプロペラ研磨が有益であろうことを示すことと、トルク指数が上側トルク指数閾値を超える場合にプロペラ研磨が必要であることを示すことと、を更に含む。任意選択的に、船体洗浄指標を出力するステップは、スリップ指数を下側スリップ指数閾値及び上側スリップ指数閾値と比較することと、スリップ指数が下側スリップ指数閾値を超えるが上側スリップ指数閾値は超えない場合に船体洗浄が有益であろうことを示すことと、スリップ指数が上側スリップ指数閾値を超える場合に船体洗浄が必要であることを示すことと、を更に含む。
[0016]
任意選択的に、本方法は、船舶が最後に塗装されたときから始まる期間にわたって、少なくとも上側スリップ指数閾値、及び任意選択的に下側スリップ指数閾値を調整することを更に含む。
[0017]
任意選択的に、本方法は、船舶が塗装されたときに、少なくとも上側スリップ指数閾値、任意選択的に下側スリップ指数閾値をリセットすることを更に含む。
[0018]
任意選択的に、スリップ指数を計算するステップは、ある期間、任意選択的に少なくとも15日、より好ましくは30日にわたるスリップ指数のローリング平均を計算することを含む。
[0019]
任意選択的に、トルク指数を計算するステップは、ある期間、任意選択的に少なくとも15日、より好ましくは30日にわたるトルク指数のローリング平均を計算することを含む。
[0020]
この改善は、ハードウェアの追加や専門家の解釈のためにデータを送る必要なしに実現することができる。既存のダッシュボードにプロセスを組み込んで結果を得ることができるか、又はシンプルな独立型スプレッドシートでプロセスを実行することができる。データソースは、単純な正午レポート(Noon report)又は高頻度自動データを包含することができる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
[0021]
これらの図面は、単に例として、本教示に沿った1つ以上の実施態様を例示として描いたものであり、限定するものではない。図面では、同様の参照番号は、同一又は類似の要素を指す。
図1】本発明の一実施形態のフロー図を表す。
図2】最後の修繕(メンテナンス)からの経時的な船舶の例示的なHRIデータを示す比較図を表す。
図3】最後の修繕からの経時的な船舶の例示的なスリップ指数データ(運航正午データに基づく)を示す図を表す。
図4】最後の修繕からの経時的な船舶の例示的なトルク指数(運航正午データに基づく)を示す図を表す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[0022]
本明細書に記載の方法は、ISO 19030又は類似の計算に記載された速度損失から決定される総合性能損失において、プロペラ及び船体の影響を有利に区別することができる。本明細書に記載の方法は、プロペラ性能及び船体性能を個別に評価することを可能にし、これにより、船体状態及びプロペラ状態を互いに独立して個別に評価することができる。これにより、実際の必要性に合わせたメンテナンス活動が可能になる。
[0023]
本開示の方法及びシステムは、船団の全体的な燃料消費量を全体で少なくとも1~2%低減することができる。本明細書では、多数の船舶が典型的には平均燃料消費量の理想値を約9%超える場合、本開示の方法及びシステムは、船団全体の平均で過剰燃料消費量を約2%、実際にはおそらくそれ以上削減することができる。更に、本発明の様々な実施形態は、コンピュータ実行可能命令を介して実装することができ、本発明の実施形態の様々な要素は、本質的に、そのような様々な要素の動作を定義するソフトウェアコードである。また、本発明の実施形態は、コントローラ又はプロセッサに実装されてもよい。実行可能命令又はソフトウェアコードは、可読媒体(例えば、ハードドライブ媒体、光学媒体、EPROM、EEPROM、テープ媒体、カートリッジ媒体、フラッシュメモリ、ROM、メモリスティック等)から取得されてもよく、又は通信媒体(例えば、インターネット)からデータ信号を介して通信されてもよい。実際に、可読媒体は、情報を記憶又は転送することができる任意の媒体を含むことができる。
[0024]
本明細書において、以下で使用される用語は、以下のように定義され得る。
[0025]
「エンジン出力」という用語は、駆動シャフトに伝達されるエンジン出力(例えば、馬力又はkWで表される)に関する。
[0026]
「HRI」という用語は、船体抵抗指数(Hull Resistance Index)を意味し、これは、当業者に知られているその通常の意味を有する。一般に、この指標は、運航データ(当業者には「正午データ」として知られる)と呼ばれることもある船性能データを入力として使用し、各々の船舶の動力及び速度を、エンジン出力に関連する満載状態及びバラスト状態の基準速度に基づく3次曲線を有する「仮想曲線」と比較する。姉妹船舶は、異なるコーティング及び/又は他のドック内処理の相対的性能を定量化することができるように、同じ参照値を与えられる。例えば2.5年及び5年サイクルのように、ライフサイクルにおける異なるコーティングの相対的な性能を定量化する試みにおいて、個々のコーティングサイクルについて総合的な数値が生成される。ベースライン値100は、修繕による新しいコーティングに期待される性能を表し、それ以上の値は、性能の劣化を補い、所与の速度を達成するために必要な動力増加の割合に近似している。
[0027]
「下側スリップ指数閾値」という用語は、ユーザによって決定される、それを上回ると船体洗浄を行うことが有益であろうレベルを示す、所定の値である。この値は、好ましくは、汚損の増加などによる船体に起こり得る劣化状態を反映するために、経過する期間にわたって上側に調整される。当業者は、例えば、船体洗浄及び/又は塗装が有益であったときの履歴データに基づいて、この値を選択することができる。例えば、本明細書に記載の方法は、過去の運航データに適用されて、実際のプロペラ状態及び研磨の必要性に相関させることができる過去のスリップ指数値を作成することができ、そこから適切な下側スリップ指数閾値を選択することができる。一実施例では、塗装からの月数を12で割った値を増加させ得る。この値は、船体が洗浄及び/又は塗装されるとリセットされてもよい。
[0028]
「下側トルク指数閾値」という用語は、ユーザによって決定される、プロペラ研磨を行うことが有益であろうレベルを上回るレベルを示す所定の値である。この値は、好ましくは、汚損の増加などによるプロペラの起こり得る劣化状態を反映するために経過する期間にわたって上側に調整される。当業者は、プロペラ研磨が有益であったときの履歴データ等に基づいて、この値を選択することができる。例えば、本明細書に記載の方法は、過去の運航データに適用されて、実際のプロペラ状態及び研磨の必要性に相関させることができる過去のトルク指数値を作成することができ、そこから適切な下側トルク指数閾値を選択することができる。この値は、プロペラを研磨するとリセットしてもよい。
[0029]
「海里」(Nm)という用語は、当業者に知られているその通常の意味を有し、海洋航法で使用される測定単位を含み、領海の定義に使用するためのものである。海里は正確に1852メートルとして定義される。
[0030]
「公称ピッチ」という用語は、半径0.7におけるピッチを示す値である。
[0031]
「観測距離」という用語は、利用可能である適用可能な運航データに応じて、分、時間、日などの選択された期間にわたって実際の状態で船舶が移動する観測された距離又は実際の距離である。適用可能な運航データは、典型的には、GPS追跡、又は(任意選択的に)ログシステムによって示される水中の距離を含む。実際の距離という用語は、本明細書では、観察距離と互換的に使用され得る。
[0032]
「観測エンジン出力」という用語は、選択された期間、特に、本明細書に記載の方法が適用される運航データのためにすでに選択された期間にわたる船舶の観測された又は実際のエンジン出力である。選択された期間は、利用可能である適用可能な運航データに応じて、分、時間、日などであり得る。適用可能な運航データは、典型的には、GPS追跡、又は(任意選択的に)ログシステムによって示される水中の距離を含む。
[0033]
「観測RPM」という用語は、選択された期間、特に、本明細書に記載の方法が適用される運航データのためにすでに選択された期間にわたる、駆動シャフトの毎分回転数を示す値に関する。選択された期間は、利用可能である適用可能な運航データに応じて、分、時間、日などであり得る。適用可能な運航データは、典型的には、GPS追跡、又は(任意選択的に)ログシステムによって示される水中の距離を含む。
[0034]
「観測トルク乗数」という用語は、式(D)を使用して計算される。
【0007】
観測トルク乗数=観測エンジン出力/(観測RPM) (D)
[0035]
理論に束縛されるものではないが、観測トルク乗数値とプロペラの状態との間に相関関係があり、値の増加が汚損の増加(すなわち、プロペラ状態の悪化)を示すことがわかっている。
[0036]
「半径0.7におけるピッチ」という用語は、当業者に知られているようなその通常の意味を有し、公称ピッチと呼ばれ得る。典型的には、ブレードの各半径は、異なるピッチを有することができる。半径0.7におけるピッチは、プロペラが使用されている(すなわち、水中を移動している)ときの公称ピッチを示す代表値として使用されることが多い。0.7の半径値におけるピッチは、製造業者によって提供され得る。
[0037]
「プロペラ」という用語は、一般に、回転ハブと、あるピッチで設定された放射ブレードとを備え、回転時に線形推力を及ぼして船舶を水中で推進させる水中装置に関する。ほとんどの船用プロペラは、駆動シャフト上で回転するヘリカルブレードを有するスクリュープロペラである。
[0038]
「プロペラ距離」という用語は、以下の式(A)を使用して計算される。
【0008】
プロペラ距離=(公称ピッチ)*(1未満、好ましくは0.7~0.99の範囲の数)*(観測されたRPM)(A)
[0039]
「プロペラピッチ」という用語は、プロペラが柔らかい固体を通って移動している場合(すなわち、スリップがない場合)にプロペラが1回転で理論的に前進する距離を含む、当業者に知られているその通常の意味を有する。
[0040]
「プロペラ研磨」という用語は、喫水線より下のプロペラに適用することができる任意のタイプの洗浄方法を指す。典型的には、これは物理的研磨を含むが、これに限定されない。
[0041]
「定格エンジン出力」という用語は、エンジン製造業者によって指定されたエンジンの最大動力出力を含む通常の意味を有する。
[0042]
「定格RPM」という用語は、エンジン製造業者によって指定された定格エンジン出力におけるプロペラの最大RPMを含む、その通常の意味を有する。
[0043]
「基準トルク乗数」という用語は、式(C)を使用して計算される。
【0009】
基準トルク乗数=(1未満、好ましくは0.8~最大0.99の範囲の数)*(定格エンジン出力)/(定格RPM) (C)
[0044]
基準トルク乗数は、プロペラ計算において一般的に使用される尺度ではない。理論に束縛されるものではないが、この値の増加は、プロペラ表面粗さの増加によるプロペラトルクの増加を示すことが見出されている。基準トルク乗数は、基準情報を使用して導出される。基準トルク乗数は、変化しない特定の設計値を有し、したがってプロペラトルクに対するいかなる変化も示さない「プロペラトルク係数kQ」という用語とは異なる。
[0045]
「RPM」という用語は、その通常の意味を有し、毎分の旋回数又は回転数で表される回転速度に関する。この回転速度は、通常、シャフト及びプロペラの回転に関連する。
[0046]
「シャフト」という用語は、エンジンとプロペラとの間の駆動シャフト(代替的にプロペラシャフトと呼ばれる)又は類似の機械的接続を指す。
[0047]
「スリップ係数」という用語は、式(B)を使用して計算される。
【0010】
スリップ係数=(プロペラ距離)/(観測距離)(B)
[0048]
スリップ係数は、水中でのプロペラスリップの相対的尺度である。
[0049]
「スリップ指数」(「プロペラスリップ指数」と呼ばれることもある)という用語は、式(F)を使用して計算される。
【0011】
スリップ指数=(85~110の範囲の数)*(スリップ係数) (F)
[0050]
「トルク」という用語は、エンジンによってシャフトに伝達されるトルク[例えばNmで表される]を指す。
[0051]
「トルク指数」(「エンジン/駆動シャフト/プロペラトルク指数」と呼ばれることもある)という用語は、式(E)を使用して計算される。
【0012】
トルク指数=(85~110の範囲の数)*(観測トルク乗数)/(基準トルク乗数)/(スリップ係数) (E)
[0052]
「上側スリップ指数閾値」という用語は、ユーザによって決定される、それを上回ると船体洗浄が行われる必要があるレベルを示す所定の値である。この値は、好ましくは、汚損の増加などによる船体に起こり得る劣化状態を反映するために、経過する期間にわたって上側に調整される。当業者は、例えば、船体洗浄及び/又は塗装が有益であったときの履歴データに基づいて、この値を選択することができる。例えば、本明細書に記載の方法は、過去の運航データに適用されて、実際のプロペラ状態及び研磨の必要性に相関させることができる過去のスリップ指数値を作成してもよく、そこから適切な上側スリップ指数閾値が選択されてもよい。一実施例では、塗装からの月数を12で割った値を増加させ得る。この値は、船体を洗浄及び/又は塗装するとリセットしてもよい。
[0053]
「上側トルク指数閾値」という用語は、ユーザによって決定される、プロペラ研磨が必要とされるレベルを上回るレベルを示す、所定の値である。この値は、好ましくは、汚損の増加などによるプロペラの起こり得る劣化状態を反映するために経過する期間にわたって上側に調整される。当業者は、プロペラ研磨が有益であったときの履歴データ等に基づいて、この値を選択することができる。例えば、本明細書に記載の方法は、過去の運航データに適用されて、実際のプロペラ状態及び研磨の必要性に相関させることができる過去のトルク指数値を作成してもよく、そこから適切な上側トルク指数閾値が選択されてもよい。この値は、プロペラを研磨するとリセットしてもよい。
[0054]
船におけるシャフト動力の速度への変換は、2つのステップからなる。
【0013】
-トルク及びRPMを変換して推力を出す、
-推力を使用して速度を出す。
[0055]
最初のステップは主にプロペラ性能によって決定され、2つ目は主に船体性能によって決定されるが、必然的に、プロペラの船体性能への影響は小さく、船体のプロペラ性能への影響は大きい。
[0056]
一般に、プロペラスリップは、プロペラが水中を前方に移動する実際の距離(プロペラ距離)と、プロペラがスリップなしに理論的に移動すべき距離(プロペラピッチ)との差である。例えば、21インチのピッチを有するプロペラは、理論的には、柔らかい固体を通って(木片にねじが回るなど)、1回転で21インチ前進する。しかしながら、水中を移動する際には、ある程度のスリップが存在し、プロペラの移動量は理論値よりも少なくなる。上述したように、プロペラ研磨(塗装又は再塗装を含むことができる)は、プロペラの劣化状態に起因する滑りを低減する(したがって、燃料消費量の低減につながる性能を改善する)のを助けることができる。しかしながら、そのような研磨が必要とされるか又は要求される前に、早期にプロペラ研磨を実行しても、スリップは低減せず、コストの増加を招き、最小限の性能改善及び燃料低減にしかならない。上述したように、これは船体洗浄についても同様である。更に、船体洗浄及びプロペラ研磨というサービスの各々に関連するコストの差により、とにかく両方を一緒に実行してしまうのではなく、各サービスがいつ要求されるか又は必要とされるかを知ることが有益である。
[0057]
本明細書に記載の方法は、船体洗浄が要求されるか又は必要とされているかどうか、それとは別にプロペラ研磨が必要とされているか又は要求されるかどうか、あるいはその両方か、を決定することを可能にし、それにより、本明細書に開示される利益が完全に実現できるようにする。更に、本明細書で説明の方法は、以下に基づいて、船体洗浄指標又はプロペラ研磨指標を確実に決定することができる。(i)選択された期間にわたって移動した観測距離(観測距離)、選択された期間中の観測エンジン出力(観測エンジン出力)、及び選択された期間中の観測毎分回転数(観測RPM)を含む運航データと、(ii)船舶の基準情報であって、船舶のプロペラのプロペラピッチ@0.7R値(Propeller Pitch@0.7R)、船舶のエンジンの定格エンジン出力値(Rated Engine Power)、及び船舶のプロペラの定格毎分回転数値(Rated RMP)を含む、基準情報。そのような運航データ及び基準情報の両方は、船体及びプロペラ状態を得るために、複雑なデータ取得、記憶、及び/若しくは分析セット(追加の機器及び/又は第三者の関与を必要とし得る)、又は追加の機器(センサ等)を必要とせずに、容易に利用可能である。
[0058]
図1は、船体洗浄及び/又はプロペラ研磨のための指標を出力するステップ100を示し、各指標出力は、互いに独立して決定することができる。図1に示すように、ステップ102は、式(A)を使用してプロペラ距離を計算することを含む。
【0014】
プロペラ距離=(公称ピッチ)*(1未満、好ましくは0.7~0.99の範囲の数)*(観測されたRPM)(A)
[0059]
観測RPMは、正午データが使用される場合には24時間などの選択された期間にわたる、若しくは特定の運航データによってはより短い又はより長い期間にわたる、駆動シャフトの毎分回転数を示す値である。
[0060]
ステップ104は、式(B)を使用してスリップ係数を計算することを含む。
【0015】
スリップ係数=(プロペラ距離)/(観測距離)(B)
観測距離は、式(A)で使用されるものと同じ選択された期間にわたって船舶が移動した観測距離である
[0061]
ステップ106は、プロペラ研磨指標及び船体洗浄指標のうちの少なくとも1つを出力することを伴う。図からわかるように、プロペラ研磨指標は、船体洗浄指標とは別に計算及び出力することができる。したがって、ユーザは、プロペラ研磨指標のみ、又は船体洗浄指標のみ、若しくは両方を出力することを選択することができる。更に、これらの値が本明細書に記載の方法及びシステムによって別々に提供されることにより、ユーザは、船体のみが洗浄を必要とするか、プロペラのみが研磨を必要とするか、又は両方であるかを知ることができる。例えば、プロペラ研磨指標は上側スリップ指数閾値を下回るが、船体洗浄指標は上側トルク指数閾値を上回ることもある。そのような出力は、船体のみが洗浄されるべきであることをユーザに知らせ、それによって、おそらく不必要なプロペラ研磨に関連するコストを節約する。
[0062]
図1からわかるように、プロペラ研磨指標を出力するステップ106Aは、ステップ202~208を含む。ステップ202は、式(C)を使用して基準トルク乗数を計算することを含む。
【0016】
基準トルク乗数=(1未満、好ましくは0.8~最大0.99の範囲の数)*(定格エンジン出力)/(定格RPM) (C)
[0063]
ステップ204は、式(D)を使用して観測トルク乗数を計算することを含む。
【0017】
観測トルク乗数=観測エンジン出力/(観測RPM) (D)
[0064]
ステップ206は、式(E)を使用してトルク指数を計算することを含む。
【0018】
トルク指数=(85~110の範囲の数)*(観測トルク乗数)/(基準トルク乗数)/(スリップ係数) (E)
[0065]
ステップ208は、トルク指数を上側トルク指数閾値と比較することを含む。
[0066]
図1に見られるように、船体洗浄指標を出力するステップ106Bは、ステップ302~304を含む。ステップ302は、式(F)を使用してスリップ指数を計算することを含む。
【0019】
スリップ指数=(85~110の範囲の数)*(スリップ係数) (F)
[0067]
ステップ304は、スリップ指数を上側スリップ指数閾値と比較することを含む。
[0068]
スリップ指数を計算するステップは、スリップ指数のローリング平均を計算することを有利に含むことができる。スリップ指数のそのようなローリング平均を計算することは、
-船舶の最後の修繕(メンテナンス)から始まる期間(典型的には最後の60日間)にわたってスリップ指数値を平均することと、メンテナンス作業が生じたときにローリング期間をリセットすることと、を含み得る。
[0069]
ある期間の平均スリップ指数を等級付けすることは、以下を含む。
【0020】
-緑、下側スリップ指数閾値を下回る、
-アンバー、下側スリップ指数閾値を上回るが、上側スリップ指数閾値を下回る、
-赤、上側スリップ指数閾値を上回る。
[0070]
トルク指数を計算するステップは、有利には、トルク指数のローリング平均を計算するステップを含むことができる。トルク指数のそのようなローリング平均を計算することは、
-ある期間(典型的には最後の60日間)にわたってトルク指数値を平均化することとし、船舶の最後の修繕(メンテナンス)から開始し、保守作業が発生したときにローリング期間をリセットするステップ、を含むことができる。
[0071]
ある期間の平均トルク指数の等級付けは、以下を含む。
【0021】
-緑、低トルク指数閾値を下回る、
-アンバー、下側トルク指数閾値を上回るが、上側トルク指数閾値を下回る、
-赤、上側トルク指数閾値を上回る。
[0072]
次に、出力を2つの目的に使用することができる。
【0022】
1.短期的には、船体洗浄又はプロペラ研磨は、特定の船舶に対して最大の利益をもたらす場合に対象とすることができる。
【0023】
2.長期的には、コーティング選択及びプロペラ研磨戦略を、実際のデータに基づいて開発することができる。
[0073]
どちらにしても、任意の所与の船舶に対して燃料消費量の低減を達成することができ、それによってコスト及び排出量の両方を低減することができる。
[0074]
本開示の方法及びシステムの利点の1つは、方法が、広範囲のタイプの運航又は性能データ、特に異なる収集点を有するデータ、に適用され得ることである。例示的なタイプの運航又は性能データは、1日に1回(毎日)収集される正午データ、及び1時間に1回(毎時)、15分ごと、及び/又はリアルタイムデータといったより頻繁に収集されるデータを含む。例えば、本明細書に記載の方法及びシステムが正午データに適用される場合、観測値を計算するために、又は観測値に適用されるために選択される期間は24時間であろう。運航データ入力のタイプが1時間ごとに収集される場合、選択される期間は1時間であり得る。当業者であれば、適切な期間を選択することができ、好ましくは、エンジン出力及びRPMが比較的一定のままである期間を選択することができることを理解されたい。
[0075]
スリップ指数及び/又はトルク指数のいずれかがアンバーになったら(すなわち、各々の下側閾値を超える)、運航会社は緩和する機会を検討するよう勧められる。いったん赤に入ったら(すなわち、各々の上側閾値を超える)、運航会社は、積極的に緩和する機会を求めることが推奨される。
[0076]
本開示による分析のために、選択された期間にわたる1つ以上の性能指標のローリング平均が生成され、性能グラフと並んでプロットされる。データを平均化する期間は、典型的には15~90日のオーダーであり、例えば60日である。60日平均が言及される場合、他の期間も同様に良好な結果を提供することができる。システムが、船舶に搭載されたセンサからのリアルタイム入力を使用する場合、周期は短縮され得る。しかしながら、天候の影響を考慮すると、少なくとも2日の期間が好ましい。
[0077]
ローリング平均は、プロペラ研磨又は船体洗浄などの事象の後にリセットされる。これは、作業前の読取り値の多さによって、何らかの改善点が隠されてしまうのを防止する。
[0078]
図2~4に示されるように、HRI、スリップ指数、及びトルク指数の平均の3つの測定基準は、それぞれ、船舶の最後の修繕(メンテナンス)から60ヶ月の期間にわたってプロットされる。縦軸に各指標をとり、横軸に時間をとっている。時間の開始各データ点は、60日間のローリング平均を表す。値は、例えば天候による補正といった、いかなるフィルタリングは行っていない。各々のグラフには、各々の下側閾値(破線)及び上側閾値(一点鎖線)もプロットされている。横軸の菱形及び十字の記号は、作業時期及び種類を示す本発明のマーカーを表す。作業は、以下で明らかにされるように、船体洗浄(×印)、プロペラ研磨(菱形印)、又は両方(×付き菱形印)を含むことができる。
[0079]
図2にプロットされる船体抵抗指数(HRI)は、本開示の方法及びシステムを実装するために必要とされないが、有用な比較基準を提供する。HRIは、一般に、海運業界において船体抵抗を示すために使用される。作業後のHRI値の変化は、水平軸上の第2、第3、第4、第5、及び第6の作業マーカー上で非常に明確に見ることができる。
[0080]
図3の×印は、船体洗浄作業が適用されたことを示す。第1及び第2の船体洗浄作業はスリップ指数の有意な改善(低下)をもたらさず、ほぼ間違いなく費用がうまく使われなかったことを示すことがわかる。特に、スリップ指数は下側スリップ指数閾値を超えていなかった。3回目及び4回目の船体洗浄は、スリップ指数的な下側への「ジャンプ」によって証明される改善を(比較的短時間だが)生じた。図3に見られるように、これらの後者の場合において、スリップ指数は、船体洗浄の作業の前に、より低いスリップ指数閾値(破線によって示される)を超え始めたが、最初の2つの場合においては、これは当てはまらなかった。
[0081]
図4の菱形記号は、プロペラ研磨作業がより頻繁に行われたことを示す。第1、第3、第4、第6、及び第7の研磨は、トルク指数の顕著な改善をもたらしたことがわかる。第2の研磨は、トルク指数を減少させるのに有効ではなく、実際に、研磨前のトルク指数値は、下側トルク指数閾値にまだ近かった。研磨によって引き起こされた改善は、研磨後3~6ヶ月にわたって失われた。
[0082]
開発された分析ツールは、20を超える船舶で試験された。
[0083]
【0024】
【表1】
【0025】
[0084]
本開示の方法によれば、トルク指数のみが特定の閾値を超える場合、プロペラ研磨でおそらく十分である。スリップ指数のみが上昇する場合、又はトルク及びスリップの両方が上昇する場合、船体洗浄が賢明である。船体を洗浄する場合、一般に、プロペラも同時に研磨することが有利である。
[0085]
本開示の主要な目的は、特定の船舶に作業が有益かどうか、また、その作業がプロペラ研磨か、船体洗浄か、又は両方であるべきかを判断する際に、運用チームにとって有用なツールを生成することである。
[0086]
水中作業は、危険性の高い活動として認識されているため、厳格な作業許可制度の対象となる。潜水チームの動員には多大の費用がかかるし、船は適切な港で雇止めの時間を必要とするため、任意の水中活動のタイミング及び範囲を正確に狙えることにはかなりの利益がある。
[0087]
ローリングデータの使用は、レポートがいつでも最新であり得ることを意味する。本開示のシステム及び方法は、ダッシュボードに含めることができ、グラフィカルオプションの選択を可能にする。個々のレポートを生成することができる。試験では、最大約8~10%であり得る予測された燃料節約を検証した。本システム及び方法は、船体及びプロペラの状態に対するより良い洞察を別々に提供し、水中作業のより多くの情報に基づく標的化及びコーティングのより多くの情報に基づく評価を可能にする。全体として、システムは、作業要件を予測することを可能にする。
[0088]
アルゴリズムは、既存のダッシュボードに組み込むことができ、性能をリアルタイムで表示することができる。一実施例は、例えば船舶が浮体式倉庫として使用する場合など、その結果、船舶が長期間停泊している場合、ある程度の汚損が生じる可能性がある。
[0089]
本明細書に記載の方法は、任意の好適なシステム上で実装され得る。通常、プロセッサ又はコントローラは、例えば、Microsoft Corporationから入手可能なWindows NT、Windows 2000(Windows ME)、Windows XP、又はWindows VistaオペレーティングシステムなどのWindowsベースのオペレーティングシステム、Apple Computerから入手可能なMAC OS System Xオペレーティングシステム、例えば、Red Hat Inc.から入手可能なEnterprise Linux(登録商標)オペレーティングシステム、Sun Microsystemsから入手可能なSolarisオペレーティングシステム、又は様々なソースから入手可能なUNIX(登録商標)オペレーティングシステムなどの多くのLinux(登録商標)ベースのオペレーティングシステムディストリビューションのうちの1つであり得るオペレーティングシステムを実行する。他の多くのオペレーティングシステムを使用してもよく、実施形態は任意の特定の実装に限定されない。
[0090]
プロセッサ及びオペレーティングシステムは共に、高水準プログラミング言語でアプリケーションプログラムを書くことができるコンピュータプラットフォームを定義する。これらのコンポーネントアプリケーションは、例えば、TCP/IPのような通信プロトコルを使用して、例えば、インターネットのような通信ネットワーク上で通信する、実行可能コード、中間コード(例えばCの)、バイトコード、又はインタプリタコードであってもよい。同様に、本発明による態様は、.Net、SmallTalk、Java、C++、Ada、又はC#(Cシャープ)などのオブジェクト指向プログラミング言語を使用して実装してもよい。他のオブジェクト指向プログラミング言語を使用することもできる。代替的に、関数型プログラミング言語、スクリプト言語、又は論理プログラミング言語を使用してもよい。
[0091]
追加的に、本発明による様々な態様及び機能は、非プログラム環境、例えば、ブラウザプログラムのウィンドウ内で閲覧されたときにグラフィカルユーザインターフェースの外観をレンダリングするか、又は他の機能を実行する、HTML、XML、又は他のフォーマットで作成された文書で実装してもよい。更に、本発明による様々な実施形態は、プログラムされた要素又はプログラムされていない要素、若しくはそれらの任意の組み合わせとして実装してもよい。例えば、ウェブページは、HTMLを使用して実装してもよく、ウェブページ内から呼び出されるデータオブジェクトは、C++で書かれてもよい。したがって、本発明は、特定のプログラミング言語に限定されず、任意の適切なプログラミング言語を使用することもできる。更に、少なくとも1つの実施形態において、ツールはVBA Excelを使用して実装されてもよい。
[0092]
この改善は、ハードウェアの追加や専門家の解釈のためにデータを送る必要なしに実現することができる。既存のダッシュボードにプロセスを組み込んで結果を得ることができるか、又はシンプルな独立型スプレッドシートでプロセスを実行することができる。データソースは、単純な正午レポート又は高頻度自動データを包含することができる。
[0093]
船舶が水中を移動することによる性能の任意の自然な改善を追跡することができ、作業なしに、予想される改善の程度についてより大きな洞察を得ることができる。必要とされるいかなる作業も事前に計画することができ、特に船体、プロペラ、又は両方を対象とすることができる。本発明は、追加のハードウェア又はデータ収集ソフトウェアを必要としない。これは、手動の正午読取り値に適用することができ、高周波データシステムに組み込むのにも適している。
[0094]
本開示は、上述の実施形態及び添付の特許請求の範囲に限定されない。添付の特許請求の範囲内で多くの修正が考えられる。各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】