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▶ シン バイオテクノロジー、エルエルシーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】治療用単一ドメイン抗体
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240918BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20240918BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240918BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240918BHJP
   C07K 16/32 20060101ALN20240918BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
A61K39/395 E
C07K16/18 ZNA
C07K14/47
A61P35/00
A61P35/02
A61K45/06
A61P43/00 121
A61K39/395 T
A61K31/704
A61K31/7068
A61K45/00
C12N15/13
C12P21/08
C07K16/32
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024512121
(86)(22)【出願日】2022-08-26
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 US2022075526
(87)【国際公開番号】W WO2023028589
(87)【国際公開日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】63/237,987
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】524008672
【氏名又は名称】シン バイオテクノロジー、エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シン、シュナンダ
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA05
4C084AA17
4C084AA18
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085BB50
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA10
4C086EA17
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、細胞内成分に対して作られた単一ドメイン抗体(sdAb)を使用して、対象における異常な細胞増殖を防止するための組成物および方法であって、前記異常な細胞増殖は癌であり得る、組成物および方法を提供する。sdAbは、1つまたは複数の化学療法薬と相乗的であり、癌に対する1つまたは複数の化学療法薬の治療効果を改善する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内成分に対して作られた単一ドメイン抗体(sdAb)を使用して、対象における異常な細胞増殖を防止する方法。
【請求項2】
前記異常な細胞増殖が癌である、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記癌が、骨肉腫、線維肉腫、神経膠芽腫、白血病、膵臓癌、乳癌および前立腺癌を含む群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記sdAbが、1つまたは複数の化学療法薬と相乗的であり、癌に対する前記1つまたは複数の化学療法薬の治療効果を改善する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記1つまたは複数の化学療法薬がドキソルビシンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1つまたは複数の化学療法薬がゲムシタビンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記sbAbが、1つまたは複数の化学療法薬の毒性を減少させ、前記処置された対象の生存を改善する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記sbAbが1つまたは複数の化合物と組み合わせて使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞内成分がタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質が、STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5a、STAT5bまたはSTAT6を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
STAT3のリン酸化を阻害するための方法であって、STAT3のリン酸化を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項13】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
STAT3の活性化を阻害するための方法であって、STAT3の活性化を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項15】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
T細胞増殖を阻害するための方法であって、T細胞増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項17】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
視力を維持するための方法であって、視力を維持することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項19】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
CD4+IL-17+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+IL-17+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項21】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
CD4+IL-17+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+IL-17+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項23】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
CD4+IFN-γ+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+IFN-γ+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項25】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
CD4+IFN-γ+T細胞増殖によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+IFN-γ+T細胞増殖によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項27】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
CD4+IL-17+IFN-γ+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+IL-17+IFN-γ+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項29】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
CD4+IL-17+IFN-γ+T細胞の増殖によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+IL-17+IFN-γ+T細胞の増殖によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項31】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
CD4+RORγT+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+RORγT+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項33】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
CD4+RORγT+T細胞の増殖によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+RORγT+T細胞の増殖によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項35】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
CD4+グランザイム-B+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+グランザイム-B+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項37】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
CD4+グランザイム-B+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+グランザイム-B+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項39】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
CD4+Foxp3+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+Foxp3+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項41】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
CD25+Foxp3+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD25+Foxp3+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項43】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
CD25+Foxp3+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD25+Foxp3+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項45】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
CD4+IL-10+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+IL-10+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項47】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
CD4+IL-10+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+IL-10+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項49】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項に記載の方法。
【請求項50】
IL-17、IFN-γ、IL-23、GM-CSFおよびIL-1αを含む群から選択される1つまたは複数のサイトカインによって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、IL-17、IFN-γ、IL-23、GM-CSFおよびIL-1αを含む群から選択される1つまたは複数のサイトカインによって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項51】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
Th1、TregおよびTh17病原性細胞の増殖を阻害するための方法であって、Th1、TregおよびTh17病原性細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項53】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
Th1、TregおよびTh17病原性細胞によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、Th1、TregおよびTh17病原性細胞によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項55】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記疾患が、関節リウマチ、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、アトピー性皮膚炎および1型糖尿病を含む群から選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
自己免疫疾患によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、自己免疫疾患によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項58】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
加齢黄斑変性(AMD)のインビトロモデルにおいて網膜上皮細胞によるVEGF産生を阻害するための方法であって、加齢黄斑変性(AMD)のインビトロモデルにおいて網膜上皮細胞によるVEGF産生を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項60】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
AMDおよび眼の血管新生疾患によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、AMDおよび眼の血管新生疾患によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項62】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
VEGFによって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、VEGFによって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項64】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
PD-L1発現の下方制御のための方法であって、PD-L1発現の下方制御を必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項66】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
細胞の核内へのSTAT3の移行を阻害するための方法であって、細胞の核内へのSTAT3の移行を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項68】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
IL-6の作用を阻害するための方法であって、IL-6の作用を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項70】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
化学療法薬の有効性を増強するための方法であって、化学療法薬の有効性を増強することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項72】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記化学療法薬がゲムシタビンを含む、請求項71に記載の方法。
【請求項74】
細胞膜、血液脳関門および血液網膜関門を透過させるための方法であって、細胞膜、血液脳関門および血液網膜関門を透過させることを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項75】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
化学療法薬の毒性を減少させるための方法であって、化学療法薬の毒性を減少させることを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項77】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項に記載の方法。
【請求項78】
前記化学療法薬がドキソルビシンである、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
STAT3の機能を阻害するための方法であって、STAT3の機能を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項80】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
癌細胞におけるKRASおよび変異KRASの機能を阻害するための方法であって、癌細胞におけるKRASおよび変異KRASの機能を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項82】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
VEGF産生を阻害するための方法であって、VEGF産生を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項84】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
PD-L1発現を阻害するための方法であって、PD-L1発現を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法。
【請求項86】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項85に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年8月27日に出願された米国仮特許出願第63/237,987号の恩典を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
配列表
本出願は、電子形式の配列表とともに出願されている。配列表は、2022年8月19日に作成された「seq listing_ST26」という表題のファイルとして提供されており、サイズが3,000バイトである。配列表の電子形式の情報は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
シグナル伝達および転写活性化因子3(STAT3)は、シグナル伝達分子かつ転写因子であり、一方、Kirsten RASの哺乳動物ホモログ(KRAS)は、GTP結合タンパク質を中継するシグナルである。いずれも、細胞増殖、生存、分化、アポトーシス、細胞遊走、幹細胞自己再生、炎症および血管新生を制御する。STAT3およびKRASの変異活性型(例えば、G12D、G12C、G12V)の異常な発現は、複数の癌の誘導および維持において十分に確立されている。腫瘍過程におけるそれらの中心的役割故に、STAT3およびKRAS変異タンパク質は抗癌標的と考えられてきた。しかしながら、STAT3およびKRAS変異タンパク質はまた、薬物動態学的障壁および毒性障壁のために臨床的に「薬になり得ない」細胞内分子であると考えられている。癌細胞中のこれらのタンパク質の阻害は、腫瘍量を低下させ、癌の臨床管理を強化すると思われるが、この重要な課題は、満たされていない要求であり続けている。
【0004】
伝統的な化学療法は、単独では、しばしば処置に不十分であり、重大な毒性をもたらすことがあり得、膵臓癌、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)、神経膠芽腫および肉腫を含む多くのヒト悪性腫瘍の処置を困難にする。さらに、新しい標的療法は、しばしば重要なシグナル伝達経路の遮断に関連する癌細胞における薬物耐性の発生のために、最終的にしばしば無効になり得る。発癌性変異、腫瘍抑制遺伝子の喪失、正常なタンパク質の過剰発現またはこれらの事象のいくつかの組み合わせも薬物耐性に寄与する。ヤヌスキナーゼ(JAK)/STAT経路は、細胞増殖、分化および炎症応答の重要な調節因子である。リン酸化されたSTAT3(p-STAT3)の上昇は、固形腫瘍を有する癌の予後不良と関連付けられてきた。活性化されたSTAT3は、核に移行するホモ二量体を形成し、そこでDNAを結合して、細胞の増殖、増殖、抗アポトーシス、血管新生、免疫抑制および浸潤/遊走に関連する標的遺伝子の転写を開始する。腫瘍プロセスにおけるその中心的な役割のために、STAT3は、1998年に癌遺伝子として最初に記載されて以来、抗癌標的となり得ると考えられており、インビトロおよびインビボ実験腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性についてのSTAT3阻害剤の評価に至った。しかしながら、主として薬物動態、有効性および安全性が支障となって、これらの阻害剤の大部分は、癌処置のための臨床的使用に移行するには至っていない。KRAS変異体は、ヒト癌の約25%に対するドライバー変異であることが示されているが、膵臓癌(98%)および結腸直腸癌(53%)で最も頻繁に存在する。変異型は、GTPを加水分解せずにGDPを保持し、それによって恒常的に活性になる。多くの研究者が、数十年にわたってKRAS変異体に対する小分子標的の開発に注力してきた。しかしながら、これらの小分子がKRASを結合するための結合ポケットを検出する上での問題のため、これはほぼ不可能な課題となっており、処置における使用に関して承認されている阻害性薬物はこれまでのところ存在しない。
【0005】
癌細胞は、化学療法および放射線療法に対して耐性になるための回避機構としてp-STAT3を利用する。小分子阻害剤でSTAT3を阻害することは、癌の増殖を抑制し、アポトーシスを活性化し、血管新生を阻害するだけでなく、膵臓癌の間質を構築し直すことも示されている。第1相試験中にヒト患者においてSTAT3を阻害することは、これが安全で耐容性が高いアプローチであることを実証している。研究は、STAT3のリン酸化を阻害すること、DNA結合を阻害すること、または機能的なSTAT3二量体の形成を妨げることのいずれかによって作用する、STAT3の新規な小分子阻害剤を同定することに焦点を当ててきた。
【0006】
ラクダ科動物の抗体は、重鎖あたり1つの可変ドメインを有する2つの重鎖免疫グロブリン(VHH)から構成される。ラクダ科動物のVHHは複数の細胞外標的(例えば、IL-6R、IL-17、TNF-α、VWFなど)を標的とするために使用されており、いくつかのVHHはヒト臨床試験の様々な段階にあり(第II相および第III相)、大きな副作用または毒性は報告されていない。1つのVHH、すなわちカプラシズマブが、FDAによって承認されており、成人後天性血栓性血小板減少性紫斑病を処置するために市販化に成功している。
【0007】
本発明は、15kDaの単一ドメイン抗体(sdAb)、SBT-100(配列番号1)の治療的使用に関する。SBT-100(配列番号1)は、STAT3およびKRASタンパク質の両方にナノモル濃度の親和性で結合し、腫瘍細胞の細胞質中に透過し、STAT3のリン酸化および核移行を損ない、最終的にVEGFレベルおよびPD-L1発現の低下、ウイルス複製の減少および有意な癌細胞増殖阻害をもたらすことができる。さらに、SBT-100(配列番号1)は、インビトロでKRAS GTPアーゼ活性およびERKの下流のリン酸化を阻害する。複数のヒト癌細胞株の増殖をインビトロで阻害することに加えて、KRAS(G13D)変異を有するトリプルネガティブ乳癌細胞株(MDA-MB-231)およびKRAS(G12D)変異を有する膵臓癌細胞株(PANC-1)の両方の無胸腺異種移植マウスモデルにおいて、SBT-100(配列番号1)処置は、観察可能な毒性なしに腫瘍体積を低下させる。SBT-100(配列番号1)はまた、血液脳関門(BBB)を透過するその能力において他に類を見ないように見受けられる。これらの結果は、癌治療を改善するために、到達困難な異常な細胞内転写因子およびシグナル伝達タンパク質を1つのVHHによって同時に標的とすることが実現可能であることを実証している。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、細胞内成分に対して作られた単一ドメイン抗体(sdAb)を使用して、対象における異常な細胞増殖を防止する方法を含む。一局面において、異常な細胞増殖は、例えば、骨肉腫、線維肉腫、神経膠芽腫、白血病、膵臓癌、乳癌および前立腺癌などの癌である。別の局面において、sdAbは、1つまたは複数の化学療法薬と相乗的であり、例えばドキソルビシンおよびゲムシタビンなどの、癌に対する1つまたは複数の化学療法薬の治療効果を改善する。一局面において、sbAbは、1つまたは複数の化学療法薬の毒性を減少させ、処置された対象の生存を改善する。別の局面において、sbAbは、1つまたは複数の化合物と組み合わせて使用される。一局面において、細胞内成分は、例えば、STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5a、STAT5bまたはSTAT6などのタンパク質を含む。前記sdAbがSBT-100(配列番号1)を含む、請求項1に記載の方法。STAT3のリン酸化を阻害するための方法であって、STAT3のリン酸化を阻害することを必要とする患者への、例えば、SBT-100(配列番号1)などのsdAbの投与を含む、方法。
【0009】
別の態様において、本発明は、STAT3の活性化を阻害するための方法であって、STAT3の活性化を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0010】
別の態様において、本発明は、T細胞増殖を阻害するための方法であって、T細胞増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0011】
別の態様において、本発明は、視力を維持するための方法であって、視力を維持することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0012】
別の態様において、本発明は、CD4+IL-17+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+IL-17+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0013】
別の態様において、本発明は、CD4+IL-17+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+IL-17+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0014】
別の態様において、本発明は、CD4+IFN-γ+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+IFN-γ+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0015】
別の態様において、本発明は、CD4+IFN-γ+T細胞増殖によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+IFN-γ+T細胞増殖によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)(配列番号1)を含む。
【0016】
別の態様において、本発明は、CD4+IL-17+IFN-γ+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+IL-17+IFN-γ+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)(配列番号1)を含む。
【0017】
別の態様において、本発明は、CD4+IL-17+IFN-γ+T細胞の増殖によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+IL-17+IFN-γ+T細胞の増殖によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0018】
別の態様において、本発明は、CD4+RORγT+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+RORγT+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0019】
別の態様において、本発明は、CD4+RORγT+T細胞の増殖によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+RORγT+T細胞の増殖によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0020】
別の態様において、本発明は、CD4+グランザイム-B+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+グランザイム-B+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0021】
別の態様において、本発明は、CD4+グランザイム-B+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+グランザイム-B+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0022】
別の態様において、本発明は、CD4+Foxp3+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+Foxp3+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0023】
別の態様において、本発明は、CD25+Foxp3+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD25+Foxp3+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0024】
別の態様において、本発明は、CD25+Foxp3+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD25+Foxp3+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0025】
別の態様において、本発明は、CD4+IL-10+T細胞の増殖を阻害するための方法であって、CD4+IL-10+T細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0026】
別の態様において、本発明は、CD4+IL-10+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、CD4+IL-10+T細胞によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0027】
別の態様において、本発明は、IL-17、IFN-γ、IL-23、GM-CSFおよびIL-1αを含む群から選択される1つまたは複数のサイトカインによって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、IL-17、IFN-γ、IL-23、GM-CSFおよびIL-1αを含む群から選択される1つまたは複数のサイトカインによって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0028】
別の態様において、本発明は、Th1、TregおよびTh17病原性細胞の増殖を阻害するための方法であって、Th1、TregおよびTh17病原性細胞の増殖を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0029】
別の態様において、本発明は、Th1、TregおよびTh17病原性細胞によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、Th1、TregおよびTh17病原性細胞によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。別の局面において、疾患は、関節リウマチ、炎症性腸疾患、多発性硬化症、乾癬、アトピー性皮膚炎および1型糖尿病を含む群から選択される。
【0030】
別の態様において、本発明は、自己免疫疾患によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、自己免疫疾患によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0031】
別の態様において、本発明は、加齢黄斑変性(AMD)のインビトロモデルにおいて網膜上皮細胞によるVEGF産生を阻害するための方法であって、加齢黄斑変性(AMD)のインビトロモデルにおいて網膜上皮細胞によるVEGF産生を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0032】
別の態様において、本発明は、AMDおよび眼の血管新生疾患によって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、AMDおよび眼の血管新生疾患によって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0033】
別の態様において、本発明は、VEGFによって引き起こされる疾患を阻害するための方法であって、VEGFによって引き起こされる疾患を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0034】
別の態様において、本発明は、PD-L1発現の下方制御のための方法であって、PD-L1発現の下方制御を必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0035】
別の態様において、本発明は、細胞の核内へのSTAT3の移行を阻害するための方法であって、細胞の核内へのSTAT3の移行を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0036】
別の態様において、本発明は、IL-6の作用を阻害するための方法であって、IL-6の作用を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0037】
別の態様において、本発明は、化学療法薬の有効性を増強する方法であって、化学療法薬の有効性を増強することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。別の局面において、化学療法薬はゲムシタビンを含む。
【0038】
別の態様において、本発明は、細胞膜、血液脳関門および血液網膜関門を透過させるための方法であって、細胞膜、血液脳関門および血液網膜関門を透過させることを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0039】
別の態様において、本発明は、化学療法薬の毒性を減少させるための方法であって、化学療法薬の毒性を減少させることを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。一局面において、化学療法薬はドキソルビシンである。別の局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0040】
別の態様において、本発明は、STAT3の機能を阻害するための方法であって、STAT3の機能を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0041】
別の態様において、本発明は、癌細胞におけるKRASおよび変異KRASの機能を阻害するための方法であって、癌細胞におけるKRASおよび変異KRASの機能を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0042】
別の態様において、本発明は、VEGF産生を阻害するための方法であって、VEGF産生を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0043】
別の態様において、本発明は、PD-L1発現を阻害するための方法であって、PD-L1発現を阻害することを必要とする患者へのsdAbの投与を含む、方法を含む。一局面において、sdAbは、SBT-100(配列番号1)を含む。
【0044】
本発明のこれらおよび他の特徴、局面および利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲および添付の図面に関してよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、A)SBT-100(配列番号1)抗体B)VHH抗体なしC)陰性対照とともにインキュベートされたMDA-MB-231細胞の免疫蛍光染色およびD)SBT-100(配列番号1)検出の共焦点画像によって示されたMDA-MD-231細胞の細胞膜のSBT-100(配列番号1)透過を表す。
【0046】
図2図2は、A)処理されていない、B)SBT-100(配列番号1)処理で6時間処理されたMDA-MB-231細胞におけるリン酸化されたSTAT3と総STAT3の両方の細胞内レベルを示す蛍光画像;C)処理されていないか、またはD)6時間のSBT-100(配列番号1)処理後のMDA-MB-231細胞におけるtSTAT3の共焦点画像を表す。E)処理されていないか、またはF)6時間のSBT-100(配列番号1)処理後のいずれかのMDA-MB-231細胞におけるpSTAT3の蛍光画像が示されている。G)処理されていないか、またはH)6時間のSBT-100(配列番号1)処理後のいずれかのMDA-MB-231細胞におけるpSTAT3の共焦点画像が示されている。
【0047】
図3A図3Aは、SBT-100(配列番号1)をありおよびなしでの、pSTAT3、tSTAT3およびPD-L1についてのMDA-MB-231タンパク質抽出物のイムノブロットを表す。
図3B図3Bは、図3Aからのイムノブロットの定量化を示す。
【0048】
図4図4は、A)通常の条件下、B)IL-6刺激時およびC)IL-6刺激とSBT-100(配列番号1)処理の両方でのHep-2細胞、D)通常の条件下、E)IL-6刺激時およびF)IL-6刺激およびSBT-100(配列番号1)処理の両方でのPanc-1細胞におけるリン酸化されたSTAT3の蛍光顕微鏡観察を示す写真を表す。
【0049】
図5図5は、SBT-100(配列番号1)処理ありまたはなしで、様々なKRAS変異癌細胞におけるリン酸化されたERK1/2について、A)発光(RLU)およびB)ウエスタンブロット分析によって測定されたKRAS GTPアーゼ活性を表す。レーン1および2はMDA-MB-231細胞であり、レーン3および4はPANC-1細胞であり、レーン5および6はビヒクルのみとインキュベートされたBxPC3癌細胞である。
【0050】
図6図6は、SBT-100(配列番号1)で処置されたおよび処置されていない無胸腺ヌードマウスにおける経時的な腫瘍体積のグラフを表す。
【0051】
図7図7は、A)腫瘍細胞およびB)脳細胞での、大きな確立されたMDA-MB-231腫瘍を有する無胸腺ヌードマウスにおけるSBT-100(配列番号1)の免疫組織化学の写真を表す。
【0052】
図8図8は、SBT-100(配列番号1)処置ありおよびなしのマウスに対する眼底検査スコアを表す。
【0053】
図9図9は、SBT-100(配列番号1)処置ありおよびなしでの光干渉断層撮影からの結果を表す。凡例:GC/IPL:神経節細胞-内網状層;OPL:外網状層;INL:内顆粒層;ONL:外顆粒層;OLM:眼幼虫移行症;RPE/CC:網膜色素上皮/脈絡毛細管。
【0054】
図10図10は、SBT-100(配列番号1)処置ありおよびなしのEAUマウスの網膜電図(ERG)を表す。
【0055】
図11図11は、A)SBT-100(配列番号1)処置ありおよびなしのEAUマウスを示すFACS分析を表す。B)SBT-100(配列番号1)処置ありおよびなしのEAUマウスにおけるIFN-γ+IL-17A+細胞の百分率。
【0056】
図12図12は、細胞株における免疫沈降研究を表す。M=マーカー、レーン1=PANC-1 STAT3;レーン2=DU145;レーン3=HeLa+IFN-γ(P-STAT3);レーン4=4T1;レーン5=PANC-1 KRAS;レーン6=PC-3。
【0057】
図13A図13Aは、SBT-100(配列番号1)で処理されたHeLa細胞におけるエボラウイルス複製を表す。
図13B図13Bは、HFF細胞におけるエボラウイルス複製を表す。
【0058】
図14図14は、ベロ細胞におけるジカウイルス複製を表し、図14Bは、ジカウイルスに感染したベロ細胞およびHFF細胞におけるEC50を示す。
【0059】
図15図15は、VEEウイルスに感染したHeLa、BE2M17およびU87MG細胞におけるEC50を表す。
【0060】
図16図16は、チクングニアウイルスに感染したU205細胞におけるEC50を表す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本明細書で使用される場合、以下の用語およびその変形は、そのような用語が使用される文脈によって異なる意味が明確に意図されない限り、以下に与えられている意味を有する。
【0062】
本明細書で使用される「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という用語および同様の指示対象は、文脈におけるそれらの使用が別段の指示をしない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。
【0063】
「抗原決定基」という用語は、抗原結合分子(本発明のsdAbまたはポリペプチドなど)によって、より具体的には抗原結合分子の抗原結合部位によって認識される抗原上のエピトープを指す。「抗原決定基」および「エピトープ」という用語も互換的に使用され得る。特定の抗原決定基、エピトープ、抗原またはタンパク質に結合することができる、親和性を有する、および/または特異性を有するアミノ酸配列は、抗原決定基、エピトープ、抗原またはタンパク質「に対する」または「に対して作られた」と言われる。
【0064】
本明細書で使用される場合、「含む(comprise)」という用語および「含む(comprising)」および「含む(comprises)」などのこの用語の変形は、他の付加要素、成分、整数または工程を排除することを意図しない。
【0065】
本明細書に記載されるsdAb、ポリペプチドおよびタンパク質は、アミノ酸残基が類似の化学構造の別のアミノ酸残基で置換され、ポリペプチドの機能、活性または他の生物学的特性にほとんどまたは本質的に影響を及ぼさないアミノ酸置換として一般に記述することができる、いわゆる「保存的」アミノ酸置換を含有することができると考えられる。保存的アミノ酸置換は当技術分野で周知である。保存的置換は、以下の群(a)~(e)内の1つのアミノ酸が同じ群内の別のアミノ酸によって置換される置換である:(a)小さい脂肪族、非極性またはわずかに極性の残基:Ala、Ser、Thr、ProおよびGly;(b)極性の負に荷電した残基およびそれらの(非荷電)アミド:Asp、Asn、GluおよびGln;(c)極性の正に荷電した残基:His、ArgおよびLys;(d)大きな脂肪族非極性残基:Met、Leu、Ile、ValおよびCys;ならびに(e)芳香族残基:Phe、TyrおよびTrp。他の保存的置換としては、AlaからGlyもしくはSerへ;ArgからLysへ;AsnからGlnもしくはHisへ;AspからGluへ;CysからSerへ;GlnからAsnへ;GluからAspへ;GlyからAlaもしくはProへ;HisからAsnもしくはGlnへ;IleからLeuもしくはValへ;LeuからIleもしくはValへ;LysからArg、GlnもしくはGluへ;MetからLeu、TyrもしくはIleへ;PheからMet、LeuもしくはTyrへ;SerからThrへ;ThrからSerへ;TrpからTyrへ;TyrからTrpへ;および/またはPheからVal、IleもしくはLeuへの置換が挙げられる。
【0066】
本明細書で使用される「ドメイン」は、一般に、抗体鎖の球状領域、特に重鎖抗体の球状領域、またはそのような球状領域から本質的になるポリペプチドを指す。
【0067】
sdAbのアミノ酸配列および構造は、典型的には、それぞれ、「フレームワーク領域1」または「FR1」と;「フレームワーク領域2」または「FR2」と;「フレームワーク領域3」または「FR3」と;および「フレームワーク領域4」または「FR4」と称される、4つのフレームワーク領域または「FR」から構成される。フレームワーク領域は、それぞれ「相補性決定領域1」または「CDR1」と、「相補性決定領域2」または「CDR2」と、および「相補性決定領域3」または「CDR3」称される3つの相補性決定領域または「CDR」によって中断されている。
【0068】
本明細書で使用される場合、「ヒト化sdAb」という用語は、天然に存在するVHH配列のアミノ酸配列中の1つまたは複数のアミノ酸残基が、ヒト由来の従来の4鎖抗体からのVHドメイン中の対応する位置に存在するアミノ酸残基の1つまたは複数によって置き換えられたsdAbを意味する。これは、当技術分野で周知の方法によって行われ得る。例えば、sdAbのFRは、ヒト可変FRによって置き換えられ得る。
【0069】
本明細書で使用される場合、「単離された」核酸またはアミノ酸は、その供給源または培地、別の核酸、別のタンパク質/ポリペプチド、別の生物学的成分または高分子または夾雑物、不純物または微量成分などの、その核酸またはアミノ酸に通常伴っている少なくとも1つの他の成分から分離されている。
【0070】
「哺乳動物」という用語は、哺乳綱に属する個体として定義され、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、イヌおよびネコなどの、家畜および農耕動物ならびに動物園、スポーツおよびペット動物を含むがこれらに限定されない。
【0071】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容され得る担体」は、薬学的投与に適合する、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含むことが意図される。適切な担体は、当該分野の標準的な参照テキストであるRemington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版に記載されている。そのような担体または希釈剤の好ましい例には、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)および5%ヒト血清アルブミンが含まれるが、これらに限定されない。リポソーム、カチオン性脂質および不揮発性油などの非水性ビヒクルも使用され得る。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および作用物質の使用は、当技術分野で周知である。任意の従来の媒体または作用物質が上で定義した治療剤と適合しない場合を除いて、本発明の組成物におけるその使用が企図される。
【0072】
「定量的イムノアッセイ」とは、抗体を使用することによって試料中に存在する抗原の量を測定する任意の手段を指す。定量的イムノアッセイを行うための方法としては、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、特異的分析物標識および再捕捉アッセイ(SALRA)、液体クロマトグラフィー、質量分析、蛍光活性化セルソーティングなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
「溶液」という用語は、溶媒および溶質を含む組成物を指し、真の溶液および懸濁液を含む。溶液の例としては、液体に溶解された固体、液体または気体、および液体に懸濁された微粒子またはミセルが挙げられる。
【0074】
「特異性」という用語は、特定の抗原結合分子または抗原結合タンパク質分子が結合することができる異なる種類の抗原または抗原決定基の数を指す。抗原結合タンパク質の特異性は、親和性および/またはアビディティに基づいて決定され得る。抗原と抗原結合性タンパク質との解離の平衡定数(KD)によって表される親和性は、抗原決定基と抗原結合性タンパク質上の抗原結合部位との間の結合強度の尺度であり、KDの値が低いほど、抗原決定基と抗原結合分子との間の結合強度がより強くなる(あるいは、親和性は、1/KDである親和定数(KA)として表すこともできる)。当業者に明らかなように、親和性は、関心対象の特異的抗原に応じて決定され得る。アビディティは、抗原結合分子と抗原との間の結合の強さの尺度である。アビディティは、抗原決定基と抗原結合分子上のその抗原結合部位との間の親和性および抗原結合分子上に存在する関連結合部位の数の両方に関連する。抗原または抗原決定基への抗原結合タンパク質の特異的結合は、例えばスキャッチャード解析ならびに/またはラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素イムノアッセイ(EIA)およびサンドイッチ競合アッセイなどの競合結合アッセイなどの任意の公知の方法によって決定され得る。
【0075】
本明細書で使用される場合、「組換え」という用語は、本発明のsdAbを産生するために使用される遺伝子工学的方法(例えば、クローニングおよび増幅)の使用を指す。
【0076】
「単一ドメイン抗体」、「sdAb」または「VHH」は、一般に、3つの相補性決定領域によって中断された4つのフレームワーク領域から構成されるアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはタンパク質として定義され得る。これは、FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4と表される。本発明のsdAbはまた、sdAbアミノ酸配列を含むポリペプチドまたはタンパク質を含む。典型的には、sdAbはラマなどのラクダ科動物で産生されるが、当技術分野で周知の技術を使用して合成的に生成することもできる。本明細書で使用される場合、天然に存在する重鎖抗体中に存在する可変ドメインは、「VHドメイン」と呼ばれる従来の4鎖抗体中に存在する重鎖可変ドメインおよび「VLドメイン」と呼ばれる従来の4鎖抗体中に存在する軽鎖可変ドメインと区別するために、「VHHドメイン」とも呼ばれる。「VHH」および「sdAb」本明細書では互換的に使用される。sdAbまたはポリペプチドのアミノ酸残基のナンバリングは、Kabatら(「Sequence of proteins of immunological interest」、US Public Health Services,NIH Bethesda,MD,Publication No.91)によって与えられるVHドメインに対する一般的なナンバリングに従う。このナンバリングによれば、sdAbのFR1は位置1~30のアミノ酸残基を含み、sdAbのCDR1は位置31~36のアミノ酸残基を含み、sdAbのFR2は位置36~49のアミノ酸を含み、sdAbのCDR2は位置50~65のアミノ酸残基を含み、sdAbのFR3は位置66~94のアミノ酸残基を含み、sdAbのCDR3は位置95~102のアミノ酸残基を含み、sdAbのFR4は位置103~113のアミノ酸残基を含む。
【0077】
「合成」という用語は、インビトロ化学合成または酵素合成による産生を指す。
【0078】
本明細書で使用される「標的」という用語は、sdAbによって認識される任意の成分、抗原または部分を指す。「細胞内標的」という用語は、細胞内に存在する任意の成分、抗原または部分を指す。「膜貫通標的」は、細胞膜内に位置する成分、抗原または部分である。「細胞外標的」は、細胞の外側に位置する成分、抗原または部分を指す。
【0079】
本明細書で使用される「治療用組成物」は、薬学的組成物、遺伝物質、生物製剤および他の物質などの、治療効果を有することが意図される物質を意味する。遺伝物質には、遺伝子ベクター、遺伝子調節エレメント、遺伝子構造エレメント、DNA、RNAなどの直接的または間接的な遺伝子治療効果を有することが意図される物質が含まれる。生物製剤には、治療効果を有することが意図された、生命体であるまたは生命体に由来する物質が含まれる。
【0080】
本明細書で使用される場合、「治療有効量」および「予防有効量」という語句は、疾患または疾患の明白な症候の処置、予防または管理において治療上の利益を提供する量を指す。治療有効量は、疾患、疾患の症候または疾患に対する素因を治癒する、治す、緩和する、軽減する、変化させる、治療する、寛解させる、改善する、または影響を与える目的で、疾患または症状、疾患の症候または疾患に対する素因を処置し得る。治療上有効な具体的な量は、通常の医療従事者によって容易に決定され得、例えば、疾患の種類、患者の病歴および年齢、疾患の病期、ならびに他の治療薬の投与などの当技術分野で公知の要因に応じて変化し得る。
【0081】
STAT3は、IL-6、他のサイトカインおよび細胞内キナーゼによって活性化され、その結果、P-STAT3が血管内皮増殖因子(VEGF)などの遺伝子を作動させ、CNVおよび炎症性疾患に必要なTH17細胞の分化を促進する細胞内転写因子である。STAT3を阻害すると、VEGF産生が停止され、TH17細胞の生成が妨げられる。
【0082】
血清中でのVHHの半減期は短いにもかかわらず、血管形成が十分でなく、容易に接近できない組織中に存在する抗原を標的とする能力のために、ラクダ科動物のVHHは、臨床使用に関してますます検討されている。さらに、VHHは、室温および還元的な細胞質環境において安定である。腫瘍形成に関与する2つの異なる非相同細胞内標的(STAT3およびKRAS)に結合することができる、細胞透過能を有するVHH、SBT-100(配列番号1)が本明細書に記載されている。SBT-100(配列番号1)は、(1)細胞膜を横切って細胞内STAT3に結合し、(2)STAT3のリン酸化を阻害し、(3)総STAT3を減少させ、(4)活性化されたSTAT3の核内へのIL-6媒介性移行を遮断して、pSTAT3二量体がその標的遺伝子に結合するのを妨げ、(5)重要な血管新生因子であり、腫瘍細胞の公知の調節因子である血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を阻害し、(6)腫瘍細胞表面上のチェックポイント阻害剤PD-L1の細胞表面発現を阻害し、これにより免疫正常マウスにおいて抗腫瘍免疫を改善し得、(7)KRAS-GTPアーゼ活性および下流のERKリン酸化を阻害して細胞増殖を阻害し、(8)11のヒト癌に対してインビトロで広範囲の抗腫瘍細胞増殖を示し、(9)トリプルネガティブ乳癌細胞株(MDA-MB-231)および膵臓癌(PANC-1)についての無胸腺異種移植マウスモデルにおいて、観察可能な毒性なしに腫瘍(活性化KRAS変異を有するヒト癌)退縮を誘導する。SBT-100(配列番号1)の生物学的効果は可逆的であり、インビトロで少なくとも72時間、インビボで7日間持続する。SBT-100(配列番号1)はまた、BBBを透過するその能力において他に類を見ないように見受けられる。細胞膜を透過し、細胞内のKRASおよびSTAT3を結合するSBT-100(配列番号1)の能力は、インビトロおよびインビボでの癌の成長および増殖の機能的抑制につながる。これは、ヒト癌を阻害するSBT-100(配列番号1)の広範な適用を示すために、複数のヒト癌を用いて実証された。
【0083】
本発明は、細胞膜を透過してSTAT3に結合し、KRAS(変異型および非変異型)と交差反応する能力を有し、nM結合親和性を有する二重特異性抗体として作用するSBT-100(配列番号1)の能力に関する。(1)細胞膜を横切って細胞内STAT3に結合し、(2)STAT3のリン酸化を阻害し、(3)総STAT3を減少させ、(4)活性化されたSTAT3の核内へのIL-6媒介性移行を遮断し、p-STAT3二量体がその標的遺伝子に結合するのを妨げ、(5)重要な血管新生因子であり、腫瘍細胞の公知の調節因子である血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を阻害し、(6)腫瘍細胞表面上のチェックポイント阻害剤PD-L1の細胞表面発現を阻害し、これにより免疫正常マウスにおいて抗腫瘍免疫を改善し得、(7)KRAS-GTPアーゼ活性および下流のERKリン酸化を阻害し、これにより細胞増殖を阻害し、(8)インビトロで広範囲の抗腫瘍細胞増殖を示し、(9)KRAS(G13D)変異を有するトリプルネガティブ乳癌細胞株(MDA-MB-231)およびKRAS(G12D)変異を有する膵臓癌細胞株(PANC-1)についての無胸腺異種移植マウスモデルにおいて、観察可能な毒性なしに腫瘍退縮を誘導するので、SBT-100(配列番号1)は、抗癌薬として治療的に投与され得る。さらに、SBT-100(配列番号1)の生物学的効果は、インビトロで72時間およびインビボで7日間の間持続する。
【0084】
加齢黄斑変性(AMD)を処置する上での現在の標準的な治療は、VEGFを標的とすることを含み、3~4週間毎の眼内注射を必要とする。この抗VEGF抗体療法は、1つのサイトカイン経路のみを標的とし、他のサイトカイン経路は影響を受けない。
【0085】
より高いレベルの全身性炎症マーカーであるCRPおよびIL-6は、独立して、AMDの進行と関連する。AMDにおける脈絡膜新生血管(CNV)膜は、増加したIL-6と関連している。全身のIL-6レベルは、AMDの発生および進行と相関することが示されている。IL-6シグナル伝達は、後期新生血管AMDにおける網膜下線維形成の発病に寄与し得る。
【0086】
老化した眼における増加したIL-10は、マクロファージの活性化および血管増殖を誘導するSTAT3シグナル伝達を活性化する。マクロファージにおけるIL-10受容体媒介性シグナル伝達およびSTAT3活性化の両方の標的化された阻害は、老化表現型を逆転させる。
【0087】
IL-17は、AMDの病原性炎症に関与している。IL-17は、VEGF非依存的に血管新生を刺激する強い潜在能力を有する。IL-17Aは、ARPE-19細胞において細胞生存率を低下させ、細胞代謝を変化させ、アポトーシスを誘導する。老化およびAMD様変性は、マウスにおける眼のIL-17発現の増加に関連する。
【0088】
骨髄系細胞におけるSOCS3の遺伝的欠失は、自発的なSTAT3活性化および加速されたCNV形成をもたらした。小ペプチドLLL12を用いたSTAT3活性化の阻害は、レーザーによって誘発されたCNVを抑制した。循環免疫細胞におけるSTAT3活性化は、新生血管加齢黄斑変性に関連している。
【0089】
STAT3は、VEGF、IL-6、IL-10およびIL-17を転写する転写因子である。これらのサイトカインは全て、AMDを促進する網膜中の炎症性変化を引き起こす。したがって、STAT3の阻害は、これらのAMDを引き起こすサイトカインの産生を停止させるであろう。
【0090】
SBT-100(配列番号1)は、免疫組織化学(IHC)染色によって実証されるように、6時間以内に細胞内に移行する。SBT-100(配列番号1)は、ヒト網膜上皮細胞によるVEGFタンパク質産生を12時間以内にゼロ近くまで阻害する。SBT-100(配列番号1)は、24~48時間以内にPD-L1細胞表面発現を1/10に阻害する。VEGFおよびPD-L1はいずれも、SBT-100(配列番号1)によって阻害されるSTAT3転写因子の遺伝子標的である。
【0091】
SBT-100(配列番号1)は、15分でBBBを通過し、マウス脳のニューロンおよびグリア細胞内で染色され得る。マウスおよびラットにおけるSBT-100(配列番号1)の血清半減期は1時間である。癌異種移植モデルにおけるSBT-100(配列番号1)の生物学的半減期は12~24時間である。網膜の生物学的半減期は、少なくとも24~48時間である。SBT-100(配列番号1)は、11の異なる種類のヒト癌および網膜細胞の細胞膜を透過し、BBBを横切り、網膜血液関門も通過する。
【0092】
炎症カスケードおよび血管シグナル伝達経路を遮断することによって、STAT3を阻害することは、角膜血管新生、増殖性糖尿病性網膜症、乾性角結膜炎、AMDおよびブドウ膜炎などの多くの眼の炎症性および新生血管性症状を処置する上で有効であり得る。角膜血管新生は、角膜の透明性を維持する、血管新生因子と抗血管新生因子の間のバランスの崩壊によって引き起こされる。増殖性糖尿病性網膜症(PDR)は、主に、網膜内の血管が閉じて血流が妨げられているときに起こる。元の血管が閉鎖した領域に血液を供給しようとして、網膜は新しい血管を成長させることによって応答する(血管新生)。これらの新しい血管は異常であり、不適切な血流を網膜に供給し、新しい血管は、網膜にしわまたは剥離を引き起こす瘢痕組織をしばしば伴う。網膜虚血は、その後網膜の損傷をもたらす線維性および新生血管の成長を誘導する血管増殖因子を促進する。乾性角結膜炎は、眼表面の破壊であり、涙膜は角膜の炎症および損傷をもたらす。不十分な涙膜(乾燥)による結膜および角膜の慢性的な両側性乾燥による。AMD-脈絡膜新生血管膜(CNVM)からの網膜下新生血管膜は、網膜の下で成長して視力を乱す新しい血管である。CNVMは、多くの重篤な眼疾患、最も一般的には「滲出型」加齢黄斑変性(AMD)に関連する。
【0093】
ブドウ膜炎および多発性硬化症などの中枢神経系(CNS)自己免疫疾患は、血液網膜関門(BRB)、血液脳関門(BBB)および周皮細胞、血管周囲マクロファージ、密着して結合した内皮細胞、ミュラー/ミクログリアのグリア境界膜によって構成される神経血管単位(NVU)によって維持される脳、脊髄または神経網膜の免疫特権の破壊の結果として生じる。これらの構造は、末梢免疫系からCNS組織を隔離し、グランザイムBを産生するTh17細胞は、BBBまたはBRBの破壊を促進することによってCNS自己免疫疾患を開始する初期事象に関与する。しかしながら、ミクログリア細胞の持続的活性化および他の炎症性細胞の動員は、炎症応答を増幅し、慢性ブドウ膜炎または多発性硬化症に特徴的な病理学を担う。それにもかかわらず、マウスにおいてブドウ膜炎を抑制するためにサイトカインまたは免疫抑制化合物などの生物製剤を使用する介入研究は、疾患改善と病原性Th17細胞の抑制との強い相関を常に示す。その後の研究により、Th17分化および発達に対するSTAT3の必要性が明らかにされたが、他の研究では、STAT3の標的化された欠失がEAEまたはEAUの発達を妨げることが示された。これらの研究により、Th17細胞を標的とすることが、自己免疫疾患および自己炎症性疾患を抑制および緩和するための実行可能な治療アプローチであるという現在確立されている概念が導かれた。
【0094】
ブドウ膜炎は、寛解および再発性眼内炎症の反復サイクルを特徴とする視力を脅かす可能性がある眼内炎症性疾患の多様な群であり、視力障害は、患者の生活の質に影響を及ぼすため、公衆衛生上極めて重要である。網膜へのTh17細胞の動員の増加は、ブドウ膜炎の病態生理学に関与しており、現在の治療法には、眼周囲または硝子体内のコルチコステロイドが含まれる。しかしながら、慢性ブドウ膜炎を処置するための眼周囲または硝子体内コルチコステロイドの長期使用には、緑内障などの重篤な副作用の発生が伴い、代替療法の開発を推し進める原因となっている。Th17細胞を誘導することができない遺伝子改変マウスは、ブドウ膜炎の発症に対して抵抗性であるので、Th17細胞の分化および拡大のために必要とされるSTAT3経路を標的とすることが、ブドウ膜炎を緩和するための治療法になり得るとして提案されている。しかしながら、STAT3経路を標的とすることに対する主な障害は、STAT3が細胞内タンパク質であり、STAT3特異的抗体にアクセスできないことに加えて、低分子量STAT3阻害性ペプチドまたは模倣物の予測不可能な薬物動態学的特徴である。
【0095】
ブドウ膜炎は、自己免疫症状、外傷および感染症から起こり得る虹彩、毛様体または脈絡膜の眼炎症である。腫脹を生じ、眼壁(ブドウ膜)内の組織の中間層を破壊する炎症性疾患の群を表す一般用語。これらの疾患には、交感性眼炎、散弾状網脈絡膜症、ベーチェット病、フォークト・小柳・原田病および眼サルコイドーシスが含まれる。ブドウ膜炎は、ブドウ膜に限らず、水晶体、網膜、視神経および硝子体にも影響を及ぼし、視力低下または失明をもたらす。ブドウ膜炎は、米国における視力喪失の10%の原因である一群の眼内炎症性疾患である。Th17 Tヘルパー細胞サブセットは、マウスおよびヒトにおけるブドウ膜炎の病因に関与している。STAT3は、Th17細胞の分化において極めて重要な役割を果たしており、Th17細胞を標的化して欠失させたマウスは、ヒトブドウ膜炎のマウスモデルである実験的自己免疫性ブドウ膜炎(EAU)を発症しない。その結果、ブドウ膜炎および他の炎症性疾患の治療法としてSTAT3経路を標的とする薬物および生物製剤の開発に大きな関心が寄せられている。
【0096】
SBT-100(配列番号1)は、インビトロでは6時間未満で細胞膜を素早く通過し、インビボでは15分未満でBBBを通過する。細胞に入ると、SBT-100(配列番号1)は、ナノモル濃度の親和性でKRASおよびSTAT3に非共有結合する。不可逆的な共有結合を形成する小分子阻害剤とは異なり、SBT-100(配列番号1)は、KRASおよびSTAT3への非共有結合性の可逆的結合のために、毒性を生じる可能性がより低い。KRASのGTPアーゼ活性の遮断およびその後のpERK1/2のレベルの減少は、細胞増殖、生存およびアポトーシス回避を促進するKRAS経路の能力を阻害する。同時に、SBT-100(配列番号1)は、STAT3にも結合し、STAT3のリン酸化の阻害を引き起こして、STAT3が核内に移行できないようにし、STAT3がそのDNAプロモーターに結合するのを妨げる。SBT-100(配列番号1)の阻害能力および抗炎症能力の絶好の例は、STAT3がVEGFおよびPD-L1などの核内の標的遺伝子を転写することを妨げることによって、インビトロで癌細胞および正常細胞に対するIL-6の作用を遮断するSBT-100(配列番号1)の能力によっても実証される。
【0097】
VEGFは、新しい血管の発達を引き起こすことによって、腫瘍の成長および転移において極めて重要な役割を果たす。SBT-100(配列番号1)は、インビトロで網膜上皮細胞によるVEGFの産生を12時間という迅速さで著しく低下させ、単回投与の生物学的効果は少なくとも48時間持続する。これは、SBT-100(配列番号1)が癌における抗腫瘍効果を低減し得、加齢黄斑変性(AMD)などの新生血管症状における失明を低減し得ることを示唆している。失明のためのインビボモデルにおいて、SBT-100(配列番号1)は視力の著しい改善を与えることが示された。STAT3の他の遺伝子標的は、PD-1およびPD-L1である。IFAは、SBT-100(配列番号1)が24時間以内にTNBC(MDA-MB-231)上のPD-L1発現を減少させることを実証する。同様の結果が骨肉腫(SJSA-1)についても得られ、FACS分析は、SBT-100(配列番号1)が48時間以内にPD-L1発現を減少させることを示した。これは、チェックポイント阻害剤遺伝子を下方制御することによる免疫療法への新しいアプローチに相当する。SBT-100(配列番号1)を使用するこの戦略は、STAT3の利用可能性を減少させることを通じてPD-L1分子およびおそらくはPD-1分子の数を減少させ得るので、ニボルマブおよびペンブロリズマブが遮断する細胞表面標的の存在がより少なくなる。これは、チェックポイント阻害剤の応答を増強し得るか、またはチェックポイント阻害剤の投与量の低下を可能にし得る。STAT3は炎症促進性メディエータであるので、SBT-100(配列番号1)によるSTAT3阻害はまた、肺臓炎および重症COVID-19病態などの、チェックポイント阻害剤療法に関連する炎症性合併症の一部を減少させ得る。
【0098】
これらの結果は、KRAS(G13D)変異を有するTNBC腫瘍(少なくとも50~100mm)を有する無胸腺ヌードマウス異種移植片における腫瘍退縮の形態で、SBT-100(配列番号1)の有効性を確認する。SBT-100(配列番号1)の治療効果は、最後の用量後少なくとも7日間持続した。同様に、SBT-100(配列番号1)は、ゲムシタビンと組み合わせた場合、腫瘍増殖の抑制を増強した。PANC-1は、KRAS非依存性であるため、処置することが困難な悪性腫瘍であることが知られている。これらの実験は、SBT-100(配列番号1)が、単独でまたは他の化学療法剤と組み合わせて、インビボで著しい腫瘍増殖抑制を引き起こすことを示唆している。
【0099】
本明細書に記載されているSBT-100(配列番号1)の最も独特な局面は、細胞内透過性および非相同なKRASとの交差反応性である。細胞膜およびBBBを透過するというSBT-100(配列番号1)の新規な特性は、SBT-100(配列番号1)に、STAT3媒介性である疾患またはKRAS変異を有する癌を標的とする上で多大な臨床的可能性を与える。
【0100】

例1:材料および方法
【0101】
SBT-100(配列番号1)の開発:そのN末端にGSTタグが融合された組換え完全長ヒトSTAT3(STAT3-1496H)は、Creative BioMart(Shirley、NY)によって提供された。簡潔に述べると、組換えヒトSTAT3での免疫化のためにカメラス・バクトリアヌス(Camelus bactrianus)を使用した。SBT-100(配列番号1)VHHの生成:ラクダ科動物を関連抗原で免疫した。免疫化期間後、末梢白血球(PWBC)を収集し、関心対象のVHHを探すためにファージディスプレイライブラリーを作製した。パニングプロセスが完了したら、STAT3およびKRASに対するVHHの結合親和性によってVHHを同定した。最終的なエンドトキシンレベルは、1EU/mg未満であった。SBT-100(配列番号1)のアミノ酸配列(配列番号1)は、HVQLVESGGGSVQAGGSLRLSCAASGANGGRSCMGWFRQVPGKEREGVSGISTGGLITYYADSVKGRFTISQDNTKNTLYLQMNSLKPEDTAMYYCATSRFDCYRGSWFNRYMYNSWGQGTQVTVSS)である。SBT-100(配列番号1)は、米国特許第14,922,093号に以前に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0102】
細胞株および細胞培養:細胞株PANC-1、BxPC3、MDA-MB-231、MDA-468、MCF-7、BT474、U87、SJSA-1、HT-1080、HEp2、DU-145および網膜上皮細胞(ARPE-19)は全て、American Type Culture Collection(ATCC)(Manassas,VA)から入手した。ウシ胎児血清を含むまたは含まないDMEMまたはRPMI培地のいずれかの中で、全ての細胞を37℃、5%COで増殖させた。
【0103】
免疫蛍光および免疫組織化学染色:免疫組織化学および免疫蛍光アッセイ(IFA)染色のために、標準的な手順を使用した。IFのための一次抗体は、抗t-STAT3:(Cell Signaling Technology)、抗p-STAT3:(Cell Signaling Technology)、抗PD-L1:(Cell Signaling Technology)、抗VHH抗体:(Rockland)、Alexa Fluor 488-抗ウサギIgG:(AF抗rabIgG、Jackson ImmunoResearch)であった。ブロッキング溶液、1°および2°抗体希釈液は1%BP:(PBS中1%BSA)であった。全ての細胞インキュベーションは、培地中で、5%COインキュベータ中において、37℃で行われた。4,500細胞/ウェルをチャンバースライドに播種し、一晩接着させた。様々な時点で細胞をSBT-100(配列番号1)で処理し、次いで、-20℃で、100%メタノールで固定した。
【0104】
IFA:ウェルを30分間以上ブロッキングし、ブロッキング剤を除去し、一次抗体を以下の希釈で添加した後、5℃で一晩インキュベートした:抗VHH=1:500、抗t-STAT3=1:300、抗P-STAT3=1:125、抗PD-L1=1:300。ウェルをPBSで洗浄し、AF抗rabIgG(1:300)と1時間以上インキュベートした後、PBSで洗浄し、カバーガラスをかぶせ、蛍光顕微鏡によって検査した。DAPI染色のために、ウェルを0.143mM DAPIとともに7分間インキュベートし、カバーガラスを適用する前にPBSで洗浄した。Nikon 80i顕微鏡および適切な波長フィルターを使用して、従来の蛍光顕微鏡検査を行った。添付のSpot RT3カメラ(モデル25.4、2Mpスライダー)および付属のSpot 5.1ソフトウェアを使用して画像を撮影した。
【0105】
共焦点顕微鏡法:Leica TCS SP8共焦点顕微鏡を使用して共焦点画像を得た。Fijiソフトウェアを使用して画像を定量化した。
【0106】
腫瘍内およびBBB方法論のためのIHC染色:確立されたMDA-MB-231腫瘍を有する無胸腺ヌードマウス(n=3)に、SBT-100(配列番号1)(1mg/kg)をIP注射した。15分後、マウスを屠殺し、その脳および腫瘍を採取した。10%ホルマリン中に組織を24時間配置した後、70%エタノールに移した。組織をデルマトーム(AML Laboratories,Baltimore,MD)で切片に切断した。ヤギ抗Ilamaコンジュゲート(Bethyl Laboratories,Montgomery,TX)二次抗体(1:10,000)をこれらの組織切片とともに室温で10分間インキュベートし、PBS-Tween 20で3分間2回洗浄した。組織切片のストレプトアビジン/ペルオキシダーゼ複合体中でのインキュベーションを室温で5分間行い、次いでPBSで5分間洗浄した。次に、組織切片をペルオキシダーゼ基質溶液(AEC)と15分間インキュベートし、水道水中で5分間洗浄し、ヘマトキシリンQS(各切片上に1滴)で対比染色し、30秒間インキュベートした。次いで、水が無色になるまで、組織切片を水道水ですすいだ。切片を水性封入剤中に封入し、15分後、これらのスライドをOlympus BX51蛍光顕微鏡で観察した。
【0107】
ウエスタンブロット(Slot Blot):標準的な手順を免疫ブロッティングのために使用した。一次抗体は、抗βアクチン:(Cell Signaling Technology)、抗t-STAT3:(Cell Signaling Technology)、抗P-STAT3:(Cell Signaling Technology)、抗PD-L1:(Cell Signaling Technology)、HRP-抗ウサギIgG:(Jackson ImmunoResearch)であった。ブロッキング緩衝液、一次および二次抗体希釈液=5% BT:(TBS中5% BSA)TBS=トリス緩衝生理食塩水:25mM Tris、150mM NaCl、pH 7.5 TBST=TBS+0.1% Tween-20。簡潔には、2×10個のMDA細胞/ウェルを6ウェルプレートの各ウェルに播種し、培地中で、5%COインキュベータ中において37℃で一晩接着させた。培地を除去し、培地中のSBT-100(配列番号1)を添加した。示された時間のインキュベーション後、培地を除去し、細胞の接着性単層を氷冷したPBSで洗浄し、次いで、EDTA、プロテアーゼ阻害剤およびホスファターゼ阻害剤を添加したTBS+0.05% SDS中で細胞をこすり取ることによって細胞の溶解を行った。非接着性細胞が明白であった処理のその後の時点で、これらの細胞を遠心分離によって収集し、溶解を行い、接着性細胞集団の可溶化液と合わせた。
【0108】
ウエスタンブロットの定量:BCAタンパク質アッセイ(ThermoFisher Scientific)を使用して、各画分のタンパク質濃度を決定した。細胞画分のそれぞれからの等量のタンパク質(典型的には約10μg/スロット)をTBSで200μl/スロットに希釈し、スロットブロット装置を介して、100%メタノール中で事前に活性化され、次いでTBS中で平衡化されたPVDF膜上に搭載した。5%BT中でブロットを1時間以上ブロッキングし、次いで、抗体の以下の希釈液中で、5℃で一晩インキュベートした:抗βアクチン=1:1000、抗t-STAT3=1:1000、抗P-STAT3=1:750、抗PD-L1=1:1000。ブロットをTBSTで3回洗浄し、TBS中に短時間平衡化し、次いで、HRP-抗rabIgG(1:5000)と事前に1時間以上インキュベートした。洗浄工程を繰り返し、製造業者のプロトコルに従って、ブロットを化学発光HRP基質とインキュベートした。ケミイメージャを用いて反応を可視化した。Fiji画像処理パッケージ内に含まれるImageJソフトウェアを使用して定量化を行った。
【0109】
p-STAT3核移行のIL-6刺激および阻害:細胞(HEp-2およびPANC-1)を4つのPermanoxチャンバースライド上で増殖させた。SBT-100(配列番号1)抗体を一晩添加し(培地中に1~10希釈)、スライドを37℃に保った。陰性対照試料にはSBT-100(配列番号1)抗体を添加しなかった。翌日、細胞をIL-6(Peprotech、100ng/ml)で15分間刺激した。刺激後、氷冷した100%メタノール中で、チャンバースライドを20℃で10分間、直ちに固定した。スライドを乾燥させ、前述のIFA工程を進めた。PBS中3% BSAにより室温で1時間、その後、一次抗体であるStat3(Cell Signaling Technology)により、4℃で一晩、スライドをブロッキングした。二次抗体抗マウスIgG(H&L)、Alexa Fluor 488(Cell Signaling Technology)を室温で1時間添加した。最後に、チャンバースライドを洗浄し、封入剤で封入し、Nikon蛍光顕微鏡で観察した。
【0110】
Promega Dual Luciferase Reporter Assay System(GTPアーゼ-Glo(商標)Assay):このアッセイでは、HEK 293 IL-6 STAT3レポーター細胞株(Promega,Madison WI)を使用してSTAT3転写活性を測定した。この細胞株において、40ng/mlのIL-6による誘導は、STAT3転写因子を活性化してルシフェラーゼレポーター発現を推進し、次いで、ルシフェラーゼレポーター発現を標準的なルミノメーターで測定することができる。10細胞/ウェルをSBT-100(配列番号1)抗体とともにまたは抗体なしで48時間インキュベートした。IC50値を試験するために、100ug/mlで開始する8点の2倍滴定を行った。インキュベーションの最後の18時間の間にIL-6を添加した。全ての時点は、SBT-100(配列番号1)阻害剤の添加から計時される。48時間で、細胞を溶解し、BMG Labtechマイクロプレートリーダーを使用して発光測定を行った。結果を対照ウェル(細胞+IL-6)のパーセントとして表す。
【0111】
ヒトVEGF-A ELISAアッセイ:ヒトVEGF-A ELISA(ThermoFisher Scientific)アッセイを、24ウェルフォーマットから96ウェルプレートフォーマットで実施するように改変した。ARPE-19細胞をDMEM中10% FBSで血清飢餓状態にし、一晩インキュベートした。次いで、培地を、100、10、1もしくは0.1μg/mlのSBT-100(配列番号1)、抗EMP 2抗体(Abcam)または培地のみを含有する培地と交換し、12、24または48時間インキュベートした。適切な時点で、上清を除去し、≦-65℃で保存した。RIPA溶解緩衝液(ThermoFisher Scientific)を用いて細胞を溶解し、細胞可溶化液のタンパク質含有量をBCAアッセイ(ThermoFisher Scientific)で測定した。キットの説明書に従ってHuman VEGF-A ELISA Kit(ThermoFisher Scientific)を利用して、VEGF-Aを測定した。対照カラムとして陰性対照を用いたDunnett多重比較検定でのANOVAによる実験統計解析を行った。対照として陰性対照を用いたDunnett多重比較検定でのANOVAによる統計解析を行った。
【0112】
フローサイトメトリー分析:SJSA-1細胞を50 ng/mlの組換えヒトIFN-γ(Peprotech)とともに24時間インキュベートし、次いで培地を50μg/mlのSBT-100(配列番号1)を含有する培地と交換し、48時間インキュベートした。次いで、細胞を採取し、以下の抗体で染色した:CD276(Clone MIH-42、Biolegend)、CD274(Clone 29E.2A3、Bilegend)およびCD200(Clone OX-104、Bilegend)。染色したら、試料をBD Celesta Flow Cytometerに通し、FlowJoソフトウェアを使用してデータを分析した。
【0113】
MTTアッセイ:これらの実験のために、90%の密集度に達するまで癌細胞を増殖させた。細胞を洗浄し、トリプシン処理し、Coulter Counter(Beckman,Brea,CA)を用いて計数した。3-[4,5-ジメチルチアロリル]-2,5-ジフェニル-テトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイ(Roche Diagnostics Corporation、カタログ11465007001、Sigma-Aldrich)を使用して、増殖試験を行った。このために、細胞を96ウェルプレートに5×10の密度で播種した。細胞を24時間接着させ、表2に記載されているように適切な濃度(100ug/mlで開始する段階希釈)で処理した。3日目に、製造業者によって示されるように、10ulのMTT試薬(0.5mg/ml)を各ウェルに添加した。4時間のインキュベーション期間後、100ulの可溶化溶液を添加し、プレートを一晩インキュベータ中に置いた。Biotekプレートリーダー(Winooski、VT)を使用して、全てのプレートを570nmの波長で読み取った。GraphPad InStat3(GraphPad Software,Inc.,La Jolla,CA)を使用して、全てのデータを分析した。一元配置ANOVAを使用して、処置群をビヒクル対照群と比較した。有意差(p<0.05)が観察された場合、Tukey-Kramer多重比較検定を行った。
【0114】
酵素アッセイにおけるKRAS阻害活性の測定:KRASのGTPアーゼ活性はGTPをGDPに変換する。GTPアーゼ-Glo試薬キット(Promega,Madison WI)は、この活性を測定するために設計されている。Glo試薬は、加水分解されていないGTPをATPに変換し、発光シグナルを生じる。KRAS活性が阻害されると、GTPは加水分解されないままであり、高い発光シグナルが予想される。KRASが阻害されなければ、GTPはGDPに変換され、低いシグナルが観察される。PHERAstarプレートリーダー(BMG Labtech)を用いて発光を測定した。製造業者の緩衝液中に供給された成熟した活性なKRAS(SignalChem、Richmond、BC Canada)の活性を、阻害剤の希釈系列の存在に対して試験した。いくつかの阻害剤の存在下で、Promega GTPアーゼ/GAP緩衝液中およびSBT-100(配列番号1)緩衝液中で市販のKRAS GTPアーゼ活性を滴定した。KRASのGTPアーゼ活性に対する緩衝液条件の阻害および効果を比較した。
【0115】
動物:全ての動物を病原体のない条件下で飼育し、Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care International(AAALAC)によって認定されているIllinois Institute of Technology(IIT)Research Institute Animal Use and Care Committee(IACUC)に従って実験を行った。5~6週齢の無胸腺ヌード-Foxn1nu雌マウスをENVIGO Laboratories(Indianapolis,IN)から購入した。動物を1週間隔離し、20℃~26℃および50%の相対湿度で、12時間の明暗サイクルでケージあたり5匹のマウスを飼育した。飲料水および食餌(20%粗タンパク質、4.5%粗脂肪および6.0%粗繊維からなるPicoLab Rodent Diet 20 Irradiated)を自由に動物に供給した。
【0116】
マウス異種移植モデル:第5継代の腫瘍細胞を移植に使用し、対数期増殖中に採取した。100μlの培地あたり5×10細胞の濃度のPANC-1細胞またはMDA-MB-231細胞を右脇腹に皮下注射した。腫瘍が触知可能になったら直ちに、腫瘍測定を開始した。その後、腫瘍を週に2回測定した。ノギスを使用して腫瘍を二次元で測定し、以下の式を使用して体積を計算した:腫瘍体積(mm)=(w×l)/2;式中、w=腫瘍の幅、l=腫瘍のmmでの長さである。PANC-1腫瘍については、腫瘍が79~172mm、MDA-MB-231腫瘍については55~150mmのサイズ範囲に達したときに、層別化された無作為サンプリングアルゴリズムを使用して動物を無作為化した。腹腔内経路を介して注射されたSBT-100(配列番号1)またはビヒクルによる動物の処置を、1日目と表記される無作為化の翌日に開始した。Study Log Study Director Animal Study Management Software(San Francisco,CA)を使用して、動物を無作為化し、データ(例えば、投薬、体重、腫瘍測定値、臨床観察)を収集し、データ統計解析を行った。
【0117】
例2:抗STAT3および抗KRASラクダ科動物VHH:SBT-100(配列番号1)の結合特性
【0118】
そのN末端にGSTタグが融合された組換え完全長ヒトSTAT3(STAT3-1496H)は、Creative BioMart(Shirley、NY、USA)によって提供された。簡潔に述べると、組換えヒトSTAT3での免疫化のためにカメラス・バクトリアヌス(Camelus bactrianus)を使用した。免疫化プロトコルが完了した後、全RNA単離および2ラウンドのネステッドPCRのために末梢血細胞を収集して、VHHライブラリーを作製した。次に、ヒトSTAT3およびヒトKRASタンパク質への細胞透過および結合を最もよく示したクローンを選択した。このスクリーニングでは、組換えSTAT3ならびにKRAS、野生型および変異型(G12D)の両方へのSBT-100(配列番号1)の高親和性結合が、Biacore 3000を使用して観察された(表1)。偵察のために、試料をチップ上に流し、リガンドへの試料の結合をリアルタイムで監視した。親和定数(KD)は、解離速度と会合速度の比として決定した。SBT-100(配列番号1)は、野生型KRASをKD=4.20×10-9で結合し、KRAS(G12D)をKD=1.50×10-8で結合し、STAT3をKD=2.24×10-8で結合する。SBT-100(配列番号1)は無関係の抗原(12-リポキシゲナーゼ)を結合しない。STAT3およびKRAS分子は本質的に高度に保存されているが、それらはそれらのタンパク質配列において有意な相同性を共有しない。SBT-100(配列番号1)の免疫原であるSTAT3への結合は予想されたが、KRASに対する交差反応性は予想されなかった。使用した抗KRAS VHH(SBT-102)(配列番号2)の配列は、EVQLVESGGGSVQTGGSLRLSCAVSGNIGSSYCMGWFRQAPGKKREAVARIVRDGATGYADYVKGRFTISRDSAKNTLYLQMNRLIPEDTAIYYCAADLPPGCLTQAIWNFGYRGQGTLVTVSSであった。したがって、SBT-100(配列番号1)は、野生型KRAS、KRAS(G12D)(最も一般的な変異体)およびKRAS(G13D)変異を有する癌に結合し、それらの癌を阻害することができる。SBT-100(配列番号1)は、KRAS GTPアーゼ活性部位付近の共通のエピトープを結合し、それによってSBT-100(配列番号1)を汎KRAS阻害剤にする可能性が高い。SBT-100(配列番号1)sdAbのKRASおよびSTAT3への二重特異的結合は、SBT-100(配列番号1)sdAbが、次いでSBT-100(配列番号1)をKRASに近接させる高濃度のSTAT3とともに細胞の内側に濃縮することを可能にし得る。
【0119】
表1はまた、抗エボラVP24 VHH(SBT-106)(配列番号3:EVQLVESGGGSVQAGGSLRLSCAASVYSYNTNCMGWFRQAPGKEREGVAVIYAAGGLTYYADSVKGRFTISQENGKNTVYLTMNRLKPEDTAMYYCAAKRWCSSWNRGEEYNYWGQGTQVTVSS)および抗HIV-1逆転写酵素(RT)VHH(SBT-107)(配列番号4):MGDVQLVESGGDSVRAGGSLQLSCKASGYTYNSRVDIRSMGWFRQYPGKEREGVATINIRNSVTYYADSVKGRFTISQDNAKNTVYLQMNALKPEDTAMYYCALSDRFAAQVPARYGIRPSDYNYWGEGTLVTVSSSSGLE)の、それぞれ、エボラVP24およびHIV-1 RTへの結合を示す。
【表1】
【0120】
例3:SBT-100(配列番号1)による細胞透過
【0121】
MDA-MD-231 TNBC細胞株の免疫蛍光分析(IFA)を使用して、SBT-100(配列番号1)VHHが細胞膜を透過し、細胞内STAT3を結合する能力を決定した。SBT-100(配列番号1)で処理された細胞は、SBT-100(配列番号1)の細胞内局在化を示したのみならず、TNBC細胞株であるMDA-MD-231において抗GSTタグ抗体を使用していくらかの膜会合が示された。図1Aは、SBT-100(配列番号1)抗体とともにインキュベートされたMDA-MB-231細胞の免疫蛍光染色を示し、緑色のチャネルに抗Hisタグ抗体を使用した陽性の細胞質染色を有する。図1Bは、ビヒクルのみで処理されたMDA-MB-231細胞の陰性対照を示す。予想通り、ビヒクルで処理した細胞は染色を示さなかった。さらなる陰性対照として、MDA-MB-231細胞を抗HIV-1逆転写酵素VHHとともに培養した(図1C);MDA-MB-231細胞はHIV-1ウイルスを産生しないので、従来の蛍光顕微鏡法ではこれらの細胞において細胞内染色は認められなかった。図1Dは、MDA-MB-231細胞の細胞質全体に位置する顆粒状染色を示す、抗VHH抗体を介したSBT-100(配列番号1)検出の共焦点画像を示す。共焦点蛍光顕微鏡法により、SBT-100(配列番号1)は、SBT-100(配列番号1)で処理した後のMDA-MB-231細胞の細胞質全体に分散された顆粒状染色として存在することが明らかになった(図1D)。図1Aおよび図1DにおけるSBT-100(配列番号1)の観察された染色は細胞質ゾル性であり、エンドサイトーシス性ではない。
【0122】
STAT3の細胞内レベルに対するSBT-100(配列番号1)の効果を決定した。図2Aおよび図2Bに示されているように、IFAは、SBT-100(配列番号1)がリン酸化されたSTAT3および総(t)STAT3の両方の細胞内レベルを低下させることを示す。MDA-MB-231細胞は、処理されないか(図2A)または150μg/mlのSBT-100(配列番号1)で6時間処理された(図2B)。主として核および核周辺から細胞全体に分散したtSTAT3へのtSTAT3の再分布が存在し、核局在化t-STAT3が、SBT-100(配列番号1)処理されたMDA-MB-231細胞において低下していることを示している。非処理(図2C)または150μg/mlのSBT-100(配列番号1)処理の6時間後(図2D)のいずれかのMDA-MB-231細胞におけるtSTAT3の共焦点画像は、SBT-100(配列番号1)による処理がMDA-MB-231細胞におけるリン酸化された(p)STAT3の細胞内レベルを減少させることを実証する。さらに、tSTAT3染色された核およびDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)染色された核の両方に対する共焦点蛍光画像分析は、核/細胞中心部から細胞の細胞質全体にわたる染色への、SBT-100(配列番号1)によって誘導されたtSTAT3染色のこの再分布をさらに裏付ける(図2Cおよび2D)。オンラインツール「Prot Pi」(https://www.protpi.ch/Calculator/ProteinTool#Results)を使用したタンパク質配列分析は、生理学的pHでわずか+2.34の理論的正味電荷を与え、示唆された+14の最適な正味電荷から大幅に逸脱していた。したがって、SBT-100(配列番号1)は、細胞を透過し、非相同なタンパク質(STAT3およびKRAS)を結合し、血液脳関門(BBB)を通過するその能力において他に類を見ないようである。VHHによる細胞透過は他の者によって示されているが、これは分子のカチオン性リサーフェシング後にのみ見られた。SBT-100(配列番号1)が細胞膜を透過する能力は、ポリカチオン性リサーフェシング、遺伝子工学またはモノマーのコンジュゲーションを含まない。
【0123】
例4:STAT3のリン酸化および核移行の阻害とそれに続くチェックポイント分子の低下
【0124】
SBT-100(配列番号1)の細胞透過能の実証に続いて、インビトロでのpSTAT3に対する効果を評価した。IFAは、SBT-100(配列番号1)がtSTAT3の細胞内レベルを減少させたことを示した。さらに、主として核および核周辺から細胞全体に分散したtSTAT3へのtSTAT3の再分布が存在し、核局在化tSTAT3が、SBT-100(配列番号1)処理されたMDA-MB-231細胞において低下していることを示している。tSTAT3染色された核およびDAPI染色された核の両方に対する共焦点蛍光画像分析は、核/細胞中心部から細胞の細胞質全体にわたる染色への、SBT-100(配列番号1)によって誘導されたtSTAT3染色のこの再分布をさらに裏付ける(図2Cおよび2D)。IFA研究は、SBT-100(配列番号1)とともにインキュベートされたMDA-MB-231細胞が6時間以内に減少したpSTAT3レベルを示すことを実証した。処理されていないMDA-MB-231細胞(図2Eおよび図2G)または6時間の150μg/ml SBT-100(配列番号1)処理後に顕微鏡観察を行った(図2Fおよび図2H)。図2E図2F図2Gおよび図2Hは、処置後の低下したpSTAT3レベルを示す。SBT-100(配列番号1)によって誘導されたpSTAT3の細胞局在化の変化は、tSTAT3の変化と極めて類似していた。これらのデータは、SBT-100(配列番号1)が、総STAT3およびリン酸化されたSTAT3の両方の、細胞質から核への移行を妨げることを示唆している。このため、従来の蛍光画像および共焦点蛍光画像はいずれも、SBT-100(配列番号1)がMDA-MB-231細胞中のpSTAT3の細胞内レベルを減少させることを明らかにした。
【0125】
STAT3の転写遺伝子標的である、PD-L1などの癌細胞における免疫チェックポイント阻害剤に対するSBT-100(配列番号1)の効果を調べた。チェックポイント分子は腫瘍細胞の表面に発現され、最終的にT細胞の活性化機能を抑制し、免疫抑制性腫瘍微小環境に寄与する。IL-6およびIFN-γなどの炎症性サイトカインは、PD-L1(CD274)、B7-H3(CD276)およびOX-2(CD200)などのチェックポイント分子の発現を促進する。ヒト骨肉腫細胞株SJSA-1をSBT-100(配列番号1)とともに培養することにより、SBT-100(配列番号1)の存在下または非存在下で、SJSA-1骨肉腫細胞において75ug/mlのIFN-γで刺激すると、B7-H3、OX-2およびPD-L1の細胞表面発現の減少がもたらされた(データは示さず)。B7-H3は約1/3に減少し、OX-2は約1/4に減少し、PD-L1は約1/4に減少した。SBT-100(配列番号1)での24時間の処理後にMDA-MB-231細胞を分析して、他の細胞型内のPD-L1タンパク質合成レベルの潜在的変化を調べた。SBT-100(配列番号1)なしおよびSBT-100(配列番号1)ありのいずれかで、75ug/mlのIFN-γで24時間刺激されたMDA-MB-231細胞において、PD-L1発現の蛍光顕微鏡観察が示された(データは示さず)。MDA-MB-231細胞におけるPD-L1発現の共焦点蛍光顕微鏡観察が、SBT-100(配列番号1)の添加ありまたはなしのいずれかで、75ug/mlのIFN-γによる24時間の刺激の際に示される(データは示さず)。IFAを使用したPD-L1染色は、SBT-100(配列番号1)によって媒介される膜および細胞内タンパク質レベルの低下を示し、細胞のPD-L1の発現の局在化に関する公表されたデータと一致していた。インターフェロン(IFN)-γは、PD-L1発現を誘導することが知られており、IFN-γによる処理後に細胞内染色および膜染色の両方が増加した(データは示さず)。これは、抗体による、遺伝子発現レベルでのチェックポイント阻害剤の下方制御の最初の実証である。
【0126】
イムノブロット技術を使用して、タンパク質レベルの変化を定量した。図3Aは、24時間での、SBT-100(配列番号1)ありおよびなしでの、pSTAT3、tSTAT3およびPD-L1についてのMDA-MB-231タンパク質抽出物のイムノブロッティングの代表的な画像を示す。処理されていないMDA-MB-231細胞ならびに陽性対照としてSTAT3阻害剤であるS31-201を使用してSBT-100(配列番号1)で3時間、6時間および24時間処理された細胞からのタンパク質抽出物のイムノブロッティングによって、MDA-MB-231細胞のSBT-100(配列番号1)処理によって誘導されたtSTAT3、pSTAT3およびPD-L1タンパク質のレベルの変化を定量した(図3Bおよびデータは示さず)。各データ点は、その最終濃度が50μg/ml~100μg/mlの間で変動する4つの異なるSBT-100(配列番号1)調製物でMDA-MB-231細胞が処理された3~5回の独立した実験から得られた、β-アクチンに対して正規化された値の平均±標準偏差を表す。複製イムノブロットを、調べている3つのタンパク質のそれぞれに対する抗体と反応させた。化学発光検出後、各抽出物中の各タンパク質のシグナル強度を、その試料中に存在するβ-アクチンの強度に対して正規化した。次いで、各処理された試料中のレベルを処理されていない細胞で見られるレベル(1に設定)と比較して、SBT-100(配列番号1)投与後の時点で、誘導されたtSTAT3、pSTAT3およびPD-L1のレベルの差を定量した。PD-L1のレベルを減少させることが示されている公知のSTAT3リン酸化阻害剤であるS3I-201を陽性対照として使用した。SBT-100(配列番号1)処理は、tSTAT3、p-STAT3およびPD-L1のレベルを低下させ、3つのタンパク質は全て24時間での低下が最も顕著であった。このように、定量により、免疫蛍光によって観察されたデータが確認された。
【0127】
核(青色のDAPI)染色と同時に生じた緑色の抗体特異的蛍光の定量化によって、市販のtSTAT3抗体およびpSTAT3抗体による染色の核部分を二次元画像から決定した。SBT-100(配列番号1)での6時間の処理後に、元のtSTAT3染色の41%および元のpSTAT3染色の70%が核内に残存していた。共焦点顕微鏡観察によって得られた対応するZスタック画像の三次元投影に基づくと、なお存在するtSTAT3のうち、核内に残存するものはなかった。2次元画像においてDAPIと共染色されたいずれのtSTAT3も、核膜を取り囲む細胞質中に存在した。IFA系におけるpSTAT3抗体の染色強度は極めて低いために、当該抗体を使用したこの分析は不可能である。これらのデータは、SBT-100(配列番号1)が、S3I-201と同様に、24時間の処理の間、tSTAT3、pSTAT3およびPD-L1を減少させたことを示している。減少の前に、3つのタンパク質種の全てにおいて早期(3時間)の増加が存在するようであった。tSTAT3の低下は6時間で明らかであり、pSTAT3の低下に先行したのに対して、PD-L1レベルの低下はSBT-100(配列番号1)による処理の24時間後に明らかであった。総合すると、これらのデータは、SBT-100(配列番号1)へのSTAT-3の結合が、pSTAT3転写因子のレベルを減少させることによってPD-L1翻訳を減少させるという仮説を支持する。
【0128】
例5:IL-6誘導性STAT3核移行の阻害およびSTAT3媒介性VEGF産生の抑制
【0129】
IL-6は活性化されたpSTAT3の核移行を調節する上で重要な役割を果たすので、SBT-100(配列番号1)がIL-6活性を阻害することによってその活性を媒介するかどうかを決定するために実験を行った。図4に示されているように、SBT-100(配列番号1)とのHEp-2およびPANC-1細胞のIL-6刺激は、pSTAT3の核移行を阻害し、その後、HEp-2細胞およびPANC-1細胞の増殖を低下させた。Hep-2細胞におけるリン酸化されたSTAT3の蛍光顕微鏡観察が、通常の条件下(図4A)、IL-6刺激時(図4B)およびIL-6刺激とSBT-100(配列番号1)処理の両方(図4C)で示されている。Panc-1細胞におけるリン酸化されたSTAT3の蛍光顕微鏡観察が、通常の条件下(図4D)、IL-6刺激時(図4E)およびIL-6刺激とSBT-100(配列番号1)処理の両方(図4F)で示されている。レポーター細胞アッセイを行って、STAT3プロモーターをルシフェラーゼ遺伝子に連結する構築物で形質移入されたHEK 293細胞からのルシフェラーゼ発現を測定した。IL-6刺激後にSBT-100(配列番号1)処理したHEK 293T細胞におけるSTAT3ルシフェラーゼレポーターアッセイは、STAT3二量体が核に移行し、STAT3プロモーターに結合してルシフェラーゼ活性を誘導することを示す。SBT-100(配列番号1)の添加は、用量依存的にこの効果を消失させた。したがって、STAT3活性に対するIL-6の作用は、SBT-100(配列番号1)によって著しく阻害された。このアッセイは、SBT-100(配列番号1)による処理が、100μg/mLの用量で、IL-6誘導性の、pSTAT3のそのDNAプロモーターへの結合をほぼ100%低下させ、2.68μg/mL(0.18μM)のIC50であることを示した(データは示さず)。
【0130】
12、24および48時間の時点で、100ug/mlのSBT-100(配列番号1)は、VEGFタンパク質産生の99%を超える抑制を与えた(p<0.01)
【0131】
癌細胞では、STAT3は、VEGFなどの細胞の増殖および生存に必要な多くの遺伝子を転写する。SBT-100(配列番号1)がVEGF産生を阻害する能力を決定するために、VEGFを大量に産生する網膜上皮細胞を使用した。漸増濃度のSBT-100(配列番号1)の存在下でIL-6で刺激された網膜上皮細胞において、VEGFレベルをELISAによって測定した。12、24および48時間の時点で、100μg/mLのSBT-100(配列番号1)は、VEGFタンパク質産生の99%を超える抑制を与えた(データは示さず)この実験において試験されたいずれの濃度でも細胞毒性は観察されなかった(データは示さず)。VEGFは、癌細胞の増殖および生存にとって極めて重要なサイトカインであり、VEGF機能の阻害が癌患者(結腸直腸癌、肺癌、神経膠芽腫、腎臓癌、子宮頸癌および卵巣癌)の全生存を有意に改善することができることは周知である。例えば、ベバシズマブは、細胞外空間においてVEGFを結合することによってVEGFの作用を妨げる。SBT-100(配列番号1)は細胞膜を透過し、STAT3機能を阻害して、著しく減少したVEGFタンパク質産生をもたらす。これは、ベバシズマブと比較してVEGFを阻害する完全に独特の方法である。
【0132】
COVID-19に重度に感染した患者の血液中には高レベルのIL-6が存在する。IL-6は、多くの癌の腫瘍微小環境において重要な役割を果たし、黄斑変性およびブドウ膜炎を引き起こす眼におけるSTAT3媒介性炎症を促進する。SBT-100(配列番号1)は、STAT3を結合し、阻害することにより、患者におけるSARS-CoV-2複製を低下させ得る。IL-6の作用を遮断することにより、SBT-100(配列番号1)は、肺の炎症を軽減するのに役立ち得、肺の炎症の軽減は、その後、患者の肺コンプライアンスおよび酸素化を改善し得る。
【0133】
例6:SBT-100(配列番号1)は、インビトロにおいて、KRAS変異およびpSTAT3の恒常的発現を有するヒト癌の増殖を阻害する
【0134】
SBT-100(配列番号1)は、膵臓癌(PANC-1およびBxPC3)、TNBC(MDA-MB-231、MDA-MB-468、MDA-MB-453)、ER+PR+乳癌(MCF-7)、HER-2+増幅乳癌(BT474)、神経膠芽腫(U87)、骨肉腫(SJSA-1)、線維肉腫(HT-1080)および転移性化学療法抵抗性前立腺癌(DU-145)を含む様々な癌に由来する11のヒト細胞株において増殖を障害した(表2)。MDA-MB-231細胞はKRAS(G13D)を有し、PANC-1細胞はKRAS(G12D)活性化変異を有する。これらの癌細胞のほとんどは、pSTAT3の恒常的発現を有する。これらの結果は、SBT-100(配列番号1)が広範囲の抗癌活性を有することを実証している。このデータは、SBT-100(配列番号1)が、活性化KRAS変異を有するまたは有さない、恒常的pSTAT3発現を伴うヒト悪性腫瘍に対して有意な(p<0.001)腫瘍細胞阻害効果(85~93%)を有することを示唆している。
【表2】
【0135】
例7:KRAS GTPアーゼ活性の阻害および下流pERKシグナル伝達の抑制
【0136】
結合データは、KRASおよびSTAT3タンパク質ならびにリポキシゲナーゼを使用して決定されたとおり、SBT-100(配列番号1)がKRASおよびSTAT3に対して二重特異性であるのに対して、SBT-102は、ナノモル濃度の親和性でヒトKRASおよびその最も一般的な変異KRAS(G12D)に対して単一特異性であるが、STAT3を結合しないことを実証している(表1)。GTPアーゼ活性を用いて、KRASに対するSBT-100(配列番号1)およびSBT-102(配列番号2)の生化学的効果を実証した。KRAS GTPアーゼ活性の読み取りとして、発光(RLU)を測定した。試薬をSBT-100(配列番号1)、SBT-102(配列番号2)または抗KRASポリクローナル抗体のいずれかとともにインキュベートし、RLUを測定した。KRAS GTPアーゼ活性は、漸増用量のSBT-100(配列番号1)およびSBT-102(配列番号2)によって阻害され、その阻害的結合活性を実証した(図5A)。ここでは、抗KRASポリクローナル抗体を陽性対照として使用した。SBT-100(配列番号1)、SBT-102(配列番号2)および抗KRASポリクローナル抗体によるKRAS GTPアーゼ活性の阻害は用量依存的に起こり、3つの間で結果は同等であった。SBT-100(配列番号1)処理ありまたはなしで、様々なKRAS変異癌細胞におけるリン酸化されたERK1/2について、ウエスタンブロット分析を行った(図5B)。レーン1(MDA-MB-231)、レーン3(PANC-1)およびレーン5(BxPC3)では、癌細胞をビヒクルのみとインキュベートした。レーン2(MDA-MB-231)、レーン4(PANC-1)およびレーン6(BxPC3)では、癌細胞を100ug/mlのSBT-100(配列番号1)とともに72時間インキュベートした。結果は、ERKの下流のリン酸化(pERK)が、KRAS変異を有するMDA-MD-231およびPANC-1癌細胞株の両方において阻害されることを示している。KRASを結合し、そのGTPアーゼ活性を阻害することにより、SBT-100(配列番号1)はKRASシグナル伝達経路を遮断する。より大きな基底STAT3活性を有する癌細胞は、より大きな程度でSBT-100(配列番号1)を細胞質内に捕捉し、それにより、KRASを阻害するSBT-100(配列番号1)の能力を増強する可能性がある。これは、これらの癌細胞株間でのpERKレベルが異なることに対する説明である可能性が高い。MDA-MB-231は、PANC-1よりはるかに高いレベルのSTAT3を有することが実証されている。これは、SBT-100(配列番号1)がKRASを結合し、阻害する時間の短縮をもたらし得る。さらに、文献は、PANC-1がKRAS非依存性であるのに対して、KRAS変異を有する他の癌はKRAS依存性であることを示している。これも、MDA-MB-231と比較して、PANC-1におけるpERKレベルの低下がより低いことを説明し得る。したがって、SBT-100(配列番号1)はKRASに結合し、その後、KRAS GTPアーゼ活性の阻害および下流のKRASシグナル伝達の抑制がpERKレベルを低下させ、pERKレベルの低下が活性化KRAS変異を有する癌細胞の増殖の阻害をもたらす。
【0137】
例8:腫瘍担持マウスにおけるSBT-100(配列番号1)による腫瘍体積の低下
【0138】
TNBC細胞株(MDA-MB-231)または膵臓癌細胞(PANC-1)を皮下注射された無胸腺マウスをSBT-100(配列番号1)で14日間処置し、7日間回復させた後、腫瘍体積を測定した。MDA-MB-231腫瘍は、処置の開始前に50~100mmであった(図6)。腫瘍担持マウスを、屠殺するまで14日間、腹腔内注射によってPBSを与えた対照群と、5mg/kgのSBT-100(配列番号1)(1日2回)を与えた処置群とに無作為に分けた。処置群は腫瘍増殖の急速な抑制を示し、これは14日間の処置期間後も維持された。7日の処置後観察期間中、腫瘍増殖のリバウンドは起こらず、全てのマウスは処置を生き延び、正常な体重を維持した。SBT-100(配列番号1)の最後の用量の後、観察期間中にMDA-MB-231の有意な増殖は存在しなかった。
【0139】
PANC-1腫瘍は処置前に100~150mmであり、次いで、全て14日間腹腔内注射を介した、対照(PBS)、ゲムシタビンのみ(20mg/kg、1日1回)、SBT-100(配列番号1)のみ(100mg/kg、1日2回)およびゲムシタビンとSBT-100(配列番号1)の4つの群に無作為化した。14日間の処置期間の後、7日間の観察期間が存在した。研究の終了時に、ゲムシタビンのみの群は、対照群に対して14.93%の腫瘍増殖抑制を有していた(表3)。SBT-100(配列番号1)のみの群は、対照群に対して19.17%の腫瘍増殖抑制を有していた。最後に、ゲムシタビンとSBT-100(配列番号1)を併用した群は、対照群に対して31.52%の抑制を示した(p<0.05)。処置されたマウスはいずれも死亡せず、またはSBT-100(配列番号1)による体重減少を有さなかった。SBT-100(配列番号1)の潜在的毒性を決定するために、マウスにSBT-100(配列番号1)が与えられた全ての異種移植研究からの体重データを合わせた。3週間の異種移植研究の間、処置のためにSBT-100(配列番号1)を受けた群に有意な体重減少は存在しなかった(データは示さず)。観察可能な毒性が存在しない理由としては、可逆的である生物学的効果が最長7日間持続する一方、血清半減期が短いことが挙げられ得る。さらに、正常な成体組織中でのSTAT3の役割は限られている。成体マウスにおけるSTAT3の条件的破壊は、致死性をもたらす胚の標的化とは異なり、致死性であることなしに様々な程度で異なる系に影響を及ぼすことが示されている。癌細胞における異常なレベルの細胞内STAT3発現のために、注入されたSBT-100(配列番号1)が癌病変内に優先的に蓄積している可能性もあり得る。
【0140】
【表3】
【0141】
インビボでの別の重要な発見は、SBT-100(配列番号1)が血液脳関門(BBB)を通過することであった。大きな確立されたMDA-MB-231腫瘍(>200mm)を有する無胸腺ヌードマウスに、15分間、5mg/kgのSBT-100(配列番号1)を1回IP注射し、次いで屠殺した。免疫組織化学分析は、血液脳関門(BBB)を横切った、癌細胞の内側でのSBT-100(配列番号1)の局在化を実証する。(図7A)腫瘍塊のこの代表的な切片は、矢印によって示されるようにTNBC細胞内での細胞内染色を示す。これらの細胞は、密な腫瘍間質によって取り囲まれている。(図7B)矢印は、腫瘍担持マウスの脳内のニューロンおよびグリア細胞の細胞内染色の集合を指す。塩基性pIを有するVHHは自発的にBBBを通過することができる(9.3では通過できるが、7.7では通過できない)ことが実証されている。SBT-100(配列番号1)は8.22の塩基性pIを有しており(Prot Piオンラインツールを使用して計算)、これはBBB通過を可能にする報告されたpIの範囲外である。
【0142】
例9:眼疾患
【0143】
実験的自己免疫性ブドウ膜炎(EAU)をマウスにおいて誘導した。これを行うために、CFAおよび百日咳毒素のエマルジョン中の光受容体間レチノイド結合タンパク質(IRBP)でマウスを免疫した。EAUが誘導されたら、次いで、SBT100を眼に注射した。15および18日目に眼底検査、15日目に光干渉断層撮影(OCT)および14日目に網膜電図検査(ERG)によって、ブドウ膜炎に対するSBT-100(配列番号1)の効果を調べた。眼底検査は、拡大レンズおよび光を使用して眼の眼底(網膜および視神経を含む眼の内側の後部)を確認する検査である。マウスを18日目に屠殺し、組織学のために眼を回収し、細胞内サイトカイン分析をFACSによって行った。図8に示されているように、EAU臨床スコアは、眼底検査によって測定した場合、SBT-100(配列番号1)処置マウスにおいて減少する。眼底検査画像は、SBT-100(配列番号1)がブドウ膜炎を改善したことを示した(データは示さず)。OCTの結果は、視神経乳頭および硝子体における炎症細胞の動員の低下を示した(図9)。図10A図10Dは、SBT-100(配列番号1)処置されたEAUマウスにおける改善された視覚機能を示すERG結果を表す。図11は、SBT-100(配列番号1)での処置細胞内サイトカイン染色分析は、IL-17を分泌する病原性Th17細胞の有意な低下をもたらすことを示す。したがって、SBT-100(配列番号1)は、ヒトブドウ膜炎のマウスモデルにおいてブドウ膜炎の重症度を減弱させ、単一ドメインSBT-100(配列番号1)がブドウ膜炎および他の炎症性疾患の治療法として使用され得ることを示唆した。
【0144】
例10:SBT-100(配列番号1)は、溶解された癌細胞株からのSTAT3を結合する
【0145】
SPT-100がリン酸化されていないSTAT3を結合することができることは以前に示されている。図12は、リン酸化されたSTAT3とSBT-100(配列番号1)の結合を実証する。SBT-100(配列番号1)、陽性対照(市販のSTAT3)または陰性対照(市販のSTAT1)を予め搭載したDynabeadsとともに、細胞可溶化液を4℃で1時間インキュベートした。結合したタンパク質をSDS-PAGEによって分離した後、STAT3(79D7)ウサギmAb#4904を用いたウエスタンブロット分析を行った。図12は、STAT3細胞の量を示す:レーン1はPANC-1細胞であり、レーン2はDU145細胞であり、レーン3はHeLa細胞であり、レーン4はマウスSTAT3(ヒトSTAT3と99%相同)と4T1細胞であり、レーン5はPANC-1およびKRASを有する陰性対照であり、レーン6はPC-3細胞である。イムノブロットは、PANC-1細胞が低い細胞内STAT3を有し、DU145前立腺癌細胞が高い濃度のSTAT3を有することを示す。これは、より少ないSTAT3を有する他の細胞と比較して、STAT3がより効果的に抑制される理由を説明し得る。
【0146】
例11:ウイルス感染症におけるSTAT3
【0147】
エボラウイルスによる感染は、宿主の免疫応答を損ない、サイトカインストームを引き起こす。エボラウイルスVP24タンパク質は、カリオフェリンα1を結合し、STAT1の核蓄積を遮断する。エボラウイルスインターフェロンアンタゴニストVP24はSTAT1を直接結合する。STAT1の非存在下では、抗ウイルス状態は確立されない。STAT3シグナル伝達は、EBV、MCMV、HCMV、HSV、VZVおよびHCVを含むDNAおよびRNAウイルスによって活性化される。I型IFN媒介性の抗ウイルス応答を抑制することまたは微小管動態を制御することによる多数のウイルスの複製のためには、STAT3の活性化または増大した発現が必要とされる。STAT3阻害剤はウイルス複製を著しく減少させる。
【0148】
SBT-100(配列番号1)は、Hela細胞(図13A)およびHFF細胞(図13B)においてエボラウイルス増殖を阻害する。さらに、SBT-100(配列番号1)は、ベロ細胞(図14A)およびHFF細胞(図14B)においてジカウイルス(ダカール、セネガル)増殖を阻害する。SBT-100(配列番号1)は、異なる細胞株においてベネズエラウマ脳炎(TC83)ウイルス増殖を阻害する(図15)。SBT-100(配列番号1)はチクングニアウイルス増殖を阻害する(図16
【0149】
【表4】
【0150】
SBT-100(配列番号1)は、デング、マールブルク、アレナウイルス(ラッサおよびフニンウイルス)、ブニヤウイルスを含む出血熱ウイルス;蚊媒介脳炎ウイルス、西ナイルウイルス(WNV)、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEE)、東部ウマ脳炎ウイルス(EEE)、西部ウマ脳炎ウイルス(WEE)などのトガウイルス(アルファウイルス);チクングニアウイルスならびに重度急性呼吸器症候群(SARS)および中東呼吸器症候群(MERS)を含むコロナウイルスなどの他のウイルスの複製を阻害し得る。
【0151】
上に示されているように、SBT-100(配列番号1)はIL-6を阻害する。IL-6は炎症の重要なメディエータであり、炎症を媒介するためにSTAT3経路を使用する。COVID-19に重度に感染した患者の血液中には高レベルのIL-6が存在する。IL-6は、多くの癌の腫瘍微小環境において重要な役割を果たし、黄斑変性およびブドウ膜炎を引き起こす眼におけるSTAT3媒介性炎症を促進する。SBT-100(配列番号1)は、STAT3を結合し、阻害することにより、患者におけるSARS-CoV-2複製を低下させ得る。IL-6の作用を遮断することにより、SBT-100(配列番号1)は、肺の炎症を軽減するのに役立ち得、肺の炎症の軽減は、その後、患者の肺コンプライアンスおよび酸素化を改善し得る。
【0152】
本発明は、特定の好ましい態様を参照してかなり詳細に説明されているが、他の態様も可能である。本方法のために開示された工程は、例えば、限定することを意図するものでも、各工程が本方法に必須であることを示すことを意図するものでもなく、例示的な工程にすぎない。したがって、添付の特許請求の範囲は、本開示に含まれる好ましい態様の説明に限定されるべきではない。本明細書で引用される全ての参考文献は、その全体が参照により組み入れられる。
【0153】
上記の説明が以下の特許請求の範囲に含まれない追加の主題を開示している限り、本発明は公衆に提供されておらず、そのような追加の発明を請求するために1つまたは複数の出願を出願する権利が留保される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E-2F】
図2G-2H】
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図11
図12
【配列表】
2024534833000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-05-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内成分に対して作られた単一ドメイン抗体(sdAb)を使用して、対象における異常な細胞増殖を防止する方法。
【請求項2】
前記異常な細胞増殖が癌である、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記癌が、骨肉腫、線維肉腫、神経膠芽腫、白血病、膵臓癌、乳癌および前立腺癌を含む群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記sdAbが、1つまたは複数の化学療法薬と相乗的であり、癌に対する前記1つまたは複数の化学療法薬の治療効果を改善する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記1つまたは複数の化学療法薬がドキソルビシンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1つまたは複数の化学療法薬がゲムシタビンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記sbAbが、1つまたは複数の化学療法薬の毒性を減少させ、前記処置された対象の生存を改善する、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記sbAbが1つまたは複数の化合物と組み合わせて使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞内成分がタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質が、STAT1、STAT2、STAT3、STAT4、STAT5a、STAT5bまたはSTAT6を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記sdAbが配列番号1を含む、請求項1に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0058
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0059
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0060
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0148
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0148】
表4に示すように、SBT-100(配列番号1)は、Hela細胞およびHFF細胞においてエボラウイルス増殖を阻害する。さらに、SBT-100(配列番号1)は、ベロ細胞およびHFF細胞においてジカウイルス(ダカール、セネガル)増殖を阻害する。SBT-100(配列番号1)は、異なる細胞株においてベネズエラウマ脳炎(TC83)ウイルス増殖を阻害する。SBT-100(配列番号1)はチクングニアウイルス増殖を阻害する。
【国際調査報告】