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特表2024-534883動的架橋性ポリマー組成物、物品、及びそれらの方法
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  • 特表-動的架橋性ポリマー組成物、物品、及びそれらの方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】動的架橋性ポリマー組成物、物品、及びそれらの方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/06 20060101AFI20240918BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20240918BHJP
   C08L 31/02 20060101ALI20240918BHJP
   C08K 3/011 20180101ALI20240918BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C08L101/06
C08J3/24 CES
C08J3/24 CEX
C08L31/02
C08K3/011
C08K5/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513801
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(85)【翻訳文提出日】2024-04-25
(86)【国際出願番号】 IB2022020063
(87)【国際公開番号】W WO2023031675
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/239,810
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514091253
【氏名又は名称】ブラスケム・エス・エー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ムリーロ・ラウアー・サンソン
(72)【発明者】
【氏名】キンバリー・ミラー・マクローリン
(72)【発明者】
【氏名】ハディ・モハンマディ
(72)【発明者】
【氏名】ネイ・セバスティアン・ドミンゲス・ジュニオル
(72)【発明者】
【氏名】アナ・パウラ・デ・アゼレード
(72)【発明者】
【氏名】ミッシェル・ケイ・シング
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AC32
4F070AC42
4F070AE08
4F070GA06
4F070GB08
4J002AA011
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB061
4J002BB121
4J002BB141
4J002BB151
4J002BF011
4J002BF021
4J002BF031
4J002EG026
4J002EG036
4J002EG046
4J002EZ006
4J002FD146
4J002GC00
4J002GF00
4J002GG01
4J002GJ02
4J002GL00
4J002GM01
4J002GQ01
4J002GT00
(57)【要約】
ポリマー組成物は、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種のモノマー;及び動的架橋基を含む、熱可塑性ポリマー;並びにイオン結合又は金属-配位子相互作用によって熱可塑性ポリマーを動的に架橋する架橋剤を含みうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種のモノマー;及び
動的架橋基を含む、熱可塑性ポリマー;並びに
イオン結合又は金属-配位子相互作用によって熱可塑性ポリマーを動的に架橋する架橋剤を含む、ポリマー組成物。
【請求項2】
動的架橋基が、エステル、カルボン酸、カルボン酸の誘導体、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
少なくとも1種のモノマーが、動的架橋基を含む、請求項1又は2に記載のポリマー組成物。
【請求項4】
ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーを含む熱可塑性ポリマー;並びに
イオン結合又は金属-配位子相互作用によって熱可塑性ポリマーを架橋する架橋剤を含む、ポリマー組成物であって、
架橋が、酸素分子の存在に比較的非感受性である、ポリマー組成物。
【請求項5】
熱可塑性ポリマーが、エステル、カルボン酸、カルボン酸の誘導体、及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの部分を含む、請求項4に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
架橋剤が、o-求核試薬;n-求核試薬;金属酸化物、NaOH又はKOH等の金属水酸化物;アセチルアセトン酸塩、ジアクリル酸塩、炭酸塩、酢酸塩、及びそれらの組合せからなる群から選択される有機金属塩であり、金属が、亜鉛、モリブデン、銅、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、スズ、リチウム、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、鉛、鉄、バナジウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項4から5のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項7】
熱可塑性ポリマーが、架橋系によって動的に架橋された、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項8】
動的架橋が、イオン又は金属リガンド結合を介して形成される、請求項7に記載のポリマー組成物。
【請求項9】
20~150℃の温度範囲内でプラトー弾性貯蔵率を示す、請求項7又は8に記載のポリマー組成物。
【請求項10】
弾性貯蔵率が、230℃未満の温度で10,000秒以内にその初期値(G0、プラトー弾性率)に対して少なくとも50%低下するように、120℃を超える温度で時間依存的である、請求項7から9のいずれか一項に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
ポリマー組成物を製造するための方法であって、架橋系を熱可塑性ポリマーと加工して請求項1から6のいずれか一項に記載のポリマー組成物を形成する工程を含み、
加工する工程が、ポリマー組成物において架橋を形成するのに十分な、第2の温度よりも低い第1の温度においてである、方法。
【請求項12】
加工する工程が、溶融混合する工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
加工する工程の前に、重合後反応性加工を介してベースポリマーをエステル、カルボン酸、カルボン酸の誘導体、及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つの部分と反応させて熱可塑性ポリマーを形成する工程を更に含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
反応性加工が、溶融グラフト化、溶液グラフト化、又は固体状態グラフト化を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ポリマー組成物を溶融温度又は軟化温度を超える第2の温度で加工する工程により、ポリマー組成物を架橋する工程を更に含む、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
架橋が酸素分子の存在下で起こる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
熱可塑性ポリマーが、反応性加工によって最初に形成され、それから架橋系と溶融混合され、その後架橋される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
ポリマー組成物を製造する方法であって、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリマー組成物をその溶融温度又は軟化温度を超えてインターナルミキサー又は押出機中で加工する工程;及び
酸素の存在下でポリマー組成物を架橋する工程を含む、方法。
【請求項19】
架橋する工程が、インターナルミキサー、押出機、熱風トンネル、オーブン、液圧プレス、射出成形機、さらなる製造機械、又はオートクレーブ中である、請求項15から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
架橋ポリマー組成物を再加工する工程を更に含む、請求項15から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ポリマー組成物を再加工する方法であって、請求項7から10のいずれか一項に記載のポリマー組成物を熱可塑性ポリマーの溶融温度又は軟化温度を超えて再加工する工程を含み、再加工する工程の後に、ポリマー組成物が、動的機械分析によって測定した場合に、再加工する工程の前のポリマー組成物と比較して、その初期貯蔵弾性率プラトーの少なくとも40%をその溶融温度を超えて維持する、方法。
【請求項22】
少なくとも更に4回加工する工程を繰り返す工程を更に含み、再加工する工程を繰り返した後に、ポリマー組成物が、動的機械分析によって測定した場合に、再加工する工程の前のポリマー組成物と比較して、その初期貯蔵弾性率プラトーの少なくとも40%をその溶融温度を超えて維持する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項7から10のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む部品。
【請求項24】
発泡していないものである、請求項23に記載の物品。
【請求項25】
発泡したものである、請求項23に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
エチレン酢酸ビニル(EVA)は、軽量で、非常に高い強靭性、弾力性、及び圧縮永久歪みのある発泡体を製造するために広く使用されている。EVA発泡体は、ランニングシューズの中敷等の厳しい用途、並びに内部パッド材、カーペット下敷き、ガスケット等の自動車及び建築用途への応用が見出されている。EVA発泡体及び高い耐熱性を必要とする他のコンパクトなエラストマー用途に必要となるポリマー構造は、隣接するポリマー分子を架橋することによって作製される三次元ネットワークである。
【0002】
共有結合されたポリマーネットワークは、性能、特性、及び耐久性のバランスが取れている。しかし、高性能の発泡体の材料の選択において、永続的なネットワークを優れた候補とする同様の特徴は、困難な環境課題を示す。一度形成されると、これらのネットワーク構造は、溶融したり、流動したり、又は溶解して、従来の再加工又はリサイクル方法を使用することができない。
【0003】
履物の中敷を製造する成形プロセスでは、小片が生じる。永続的なネットワークの加工中に生じた小片は、加工するのが困難であるため、二次的な原料として製造プロセスに完全に再導入することができない。架橋ポリマーからのほんのわずかの廃棄小片だけが、粉砕されて、充填剤として再導入される。同じく、永久架橋ポリマーから製造された寿命をむかえた部品は、価値の低い材料しか生成しないエネルギーを大量に消費する粉砕作業等、再生利用の選択肢が限られている。結果として、かなりの割合の小片及び使用済み部品が、環境廃棄物として蓄積する。
【0004】
環境への影響が大きいことに加えて、共有結合的な、架橋EVA発泡体が溶融によって再加工することができないことは、製造業者にとって大きな費用となっている。大量の廃棄物により、一次材料の利用率が制限され、廃棄物を扱うための費用が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第17/063,488号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】GUOら、2019 - https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.macromol.9b02281
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
架橋ポリマー、特に架橋発泡体EVAの再加工を可能にする技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の概要は、詳細な説明で下記に更に記載される概念から選択したものを紹介するために提供される。この発明の概要は、特許請求される主題の鍵となる又は必須の特色を特定することを意図したものではなく、特許請求される主題の範囲を制限する際の助けとして使用されることを意図したものでもない。
【0009】
一態様では、本明細書に開示される実施形態は、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマー、並びに動的架橋基を含む熱可塑性ポリマーを含む、ポリマー組成物に関する。ポリマー組成物は、イオン結合又は金属-配位子相互作用によって熱可塑性ポリマーを動的に架橋する架橋剤を更に含む。
【0010】
別の態様では、本明細書に開示される実施形態は、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマー、並びに動的架橋基を含む熱可塑性ポリマー;イオン結合又は金属-配位子相互作用によって熱可塑性ポリマーを架橋する架橋剤を含む、ポリマー組成物であって、架橋が、酸素分子の存在に比較的非感受性である、ポリマー組成物に関する。
【0011】
別の態様では、本明細書に開示される実施形態は、ポリマー組成物を製造するための方法であって、架橋系を熱可塑性ポリマーと加工して、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマー、並びに動的架橋基を含む熱可塑性ポリマーを含むポリマー組成物を形成する工程を含み、ポリマー組成物が、熱可塑性ポリマーをイオン結合又は金属-配位子相互作用によって動的に架橋する架橋剤を更に含む、方法に関する。加工する工程は、ポリマー組成物において架橋を形成するのに十分な、第2の温度よりも低い第1の温度においてである。
【0012】
別の態様では、本明細書に開示される実施形態は、ポリマー組成物を製造するための方法であって、架橋系を熱可塑性ポリマーと加工して、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマーを含む熱可塑性ポリマー;熱可塑性ポリマーをイオン結合又は金属-配位子相互作用によって架橋する架橋剤を含む、ポリマー組成物を形成する工程を含み;架橋が、酸素分子の存在に比較的非感受性である、方法に関する。加工する工程は、ポリマー組成物において架橋を形成するのに十分な、第2の温度よりも低い第1の温度においてである。
【0013】
別の態様では、本明細書に開示される実施形態は、ポリマー組成物をその溶融温度又は軟化温度を超えて加工する工程及び酸素分子の存在下でポリマー組成物を架橋する工程を含む、ポリマー組成物を製造する方法に関する。このポリマー組成物は、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマー、並びに動的架橋基を含む熱可塑性ポリマーを含む。このポリマー組成物は、熱可塑性ポリマーをイオン結合又は金属-配位子相互作用によって動的に架橋する架橋剤を更に含む。
【0014】
別の態様では、本明細書に開示される実施形態は、ポリマー組成物をその溶融温度又は軟化温度を超えて加工する工程及び酸素分子の存在下でポリマー組成物を架橋する工程を含む、ポリマー組成物を製造する方法に関する。このポリマー組成物は、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマーを含む熱可塑性ポリマー;熱可塑性ポリマーをイオン結合又は金属-配位子相互作用によって架橋する架橋剤を含み;架橋が、酸素分子の存在に比較的非感受性である。
【0015】
更に別の態様では、本明細書に開示される実施形態は、ポリマー組成物を熱可塑性ポリマーの溶融温度又は軟化温度を超えて再加工する工程を含む、ポリマー組成物を再加工する方法であって、再加工する工程の後に、ポリマー組成物が、動的機械分析によって測定した場合に、再加工する工程の前のポリマー組成物と比較して、その初期貯蔵弾性率プラトーの少なくとも40%をその溶融温度を超えて維持する、方法に関する。このポリマー組成物は、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマー、及び動的架橋基を含む熱可塑性ポリマー;並びに熱可塑性ポリマーをイオン結合又は金属-配位子相互作用によって動的に架橋した架橋剤を含む。
【0016】
更に別の態様では、本明細書に開示される実施形態は、ポリマー組成物を熱可塑性ポリマーの溶融温度又は軟化温度を超えて再加工する工程を含む、ポリマー組成物を再加工する方法であって、少なくとも更に2回加工する工程を繰り返した後に、ポリマー組成物が、動的機械分析によって測定した場合に、再加工する工程の前のポリマー組成物と比較して、その初期貯蔵弾性率プラトーの少なくとも40%をその溶融温度を超えて維持する、方法に関する。このポリマー組成物は、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマーを含む熱可塑性ポリマー、並びに熱可塑性ポリマーをイオン結合又は金属-配位子相互作用によって架橋した架橋剤を含み、架橋が、酸素分子の存在に比較的非感受性である。
【0017】
更に別の態様では、本明細書に開示される実施形態は、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマー、並びに動的架橋基を含む熱可塑性ポリマー;熱可塑性ポリマーをイオン結合又は金属-配位子相互作用によって動的に架橋する架橋剤を含む、ポリマー組成物を含む物品に関する。
【0018】
更に別の態様では、本明細書に開示される実施形態は、ビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマーを含む熱可塑性ポリマー、並びに熱可塑性ポリマーをイオン結合又は金属-配位子相互作用によって架橋する架橋剤を含む、ポリマー組成物を含む物品であって、架橋が、酸素分子の存在に比較的非感受性である、物品に関する。
【0019】
特許請求される主題の他の態様及び利点は、以下の説明及び添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】熱可塑性ポリマー対照、EVA、並びに1.5及び3%アクリル酸Znで架橋されたEVAのDSC冷却曲線の比較を示すグラフである。
図2】熱可塑性ポリマー対照、EVA、並びに1.5及び3%アクリル酸Znで架橋されたEVAのDSC加熱曲線(第2溶融)の比較を示すグラフである。
図3】せん断レオロジー試験の結果を示すグラフである。
図4】DMA貯蔵弾性率対温度を示すグラフである。
図5】DMA損失弾性率対温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に開示される実施形態は、ポリマー組成物、かかるポリマー組成物を形成する方法及び再加工する方法、並びにかかるポリマー組成物から形成される物品に関する。ポリマー組成物は、動的に架橋されたビニルエステル、C2~C12オレフィン、及びそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーを含む熱可塑性ポリマーでありうる。本開示の実施形態によれば、動的架橋反応は、酸素分子の存在に比較的非感受性である。本明細書で使用される場合、「比較的非感受性」という用語は、ポリマー組成物が5を超える粘着性番号(tackiness number)を有することを意味する。
【0022】
動的架橋系は、化学的架橋ポリマーの1種であり、外部刺激(温度、応力、pH等)が結合交換反応を引き起こすことによって、結合及び架橋の数を一定に保ちながらネットワークのトポロジーの変化を可能にする。存在する動的なイオン又は金属リガンド結合は、ネットワークのトポロジーが変化でき、材料が応力を緩和して流動するように、結合的交換反応(associative exchange reaction)を受けることができる。動的架橋系は、室温で、架橋材料の特徴を示す(高い耐薬品性、並外れた機械的特性)が、高温で、熱可塑性材料として加工又は再加工することができる。
【0023】
1つ又は複数の実施形態によれば、ポリマー組成物は、熱可塑性ポリマーと架橋系を混合することによって調製することができる。架橋系は、架橋剤及び触媒を含むことができる。熱可塑性ポリマーは、動的架橋基を含むことができ、且つ/又は動的架橋基は、そこにグラフト化されていてもよい。架橋性ポリマー組成物は、架橋系を熱可塑性ポリマーと加工する工程を含む方法を介して調製することができる。ポリマー組成物の架橋は、ポリマー組成物の架橋を引き起こすために、組成物の溶融温度又は軟化温度を超えて行われる加工を含みうる。更に、架橋ポリマー組成物は動的に架橋されているために、以前に架橋されたポリマー組成物は、その後の工程において高温で再加工することができる。
【0024】
熱可塑性ポリマー
1つ又は複数の実施形態では、熱可塑性ポリマーは、C2~C12オレフィン、ビニルエステル、及びそれらの組合せから選択される少なくとも1種のモノマーを含む。オレフィンは、エチレン、1-プロペン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、及びそれらの組合せのうちの1つ又は複数を含むことができる。したがって、例えば、熱可塑性ポリマーが、エチレンホモポリマー、エチレンと1種又は複数のC3~C12アルファオレフィンとのコポリマー、プロピレンホモポリマー、プロピレンとエチレン、C4~C12アルファ-オレフィン、及びそれらの組合せから選択される1種又は複数のコモノマーとのコポリマーを含むポリオレフィン、エチレン酢酸ビニル、ポリ(酢酸ビニル)、並びにそれらの組合せ等のポリマーを含むことができることが想定される。オレフィンとビニルエステルとのコポリマーでは、ビニルエステルが、コポリマーの全質量の1、5、10、15、18、又は20wt%の下限値から25、40、60、又は80wt%のうちの任意の上限値までの範囲の量で、コモノマーとして存在することができることが想定される。1つ又は複数の特定の実施形態では、酢酸ビニルをモノマー又はコモノマーとして使用することができる。1つ又は複数の更により特定の実施形態では、熱可塑性ポリマーは、バイオベースのポリマー、特にエチレン酢酸ビニル及びポリエチレンであってもよく、例えば、エチレンは、バイオベースのエタノールに由来しうる。
【0025】
熱可塑性ポリマーが、分岐ビニルエステルコモノマーを含むことができることも想定される(エチレンのみと組み合わせてコポリマーを形成するか、又はエチレン及び酢酸ビニルと組み合わせてターポリマーを形成する)。そのようなコポリマー及びターポリマーは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第17/063,488号に記載されている。例えば、そのような分岐ビニルエステルモノマーは、一般構造(I):
【0026】
【化1】
【0027】
(式中、R4及びR5は、6個又は7個の組み合わせた炭素数を有する)を有するモノマーを含むことができる。しかし、米国特許出願第17/063,488号に記載されている他の分岐ビニルエステルを使用することができることも想定される。
【0028】
1つ又は複数の実施形態では、熱可塑性ポリマーは、ポリマー組成物の少なくとも1wt%、少なくとも5wt%、10wt%、15wt%、少なくとも20wt%、少なくとも25wt%、少なくとも50wt%、少なくとも70wt%、又は少なくとも80wt%、又は少なくとも90wt%、又は少なくとも99wt%を形成する。熱可塑性ポリマーの量は、例えば、他の成分、例えば、架橋剤、充填剤、添加剤、油、及び/又は可塑剤の存在に依存しうるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書に記載されるポリマー組成物を形成する熱可塑性ポリマーに言及する場合、ポリマーが、動的架橋基及び架橋系の添加を介して動的に架橋されることが意図される。動的架橋基、例えば、EVAのビニルエステルは、重合の間に熱可塑性ポリマー中に組み込むことができ、又は動的架橋基は、ベースポリマーが重合された後にベースポリマーに加えることができる。動的架橋基は、例えば、熱可塑性ポリマーを形成する反応性加工工程の間に、グラフト化反応を介してベースポリマーに付加することができる。グラフト化反応は、ベースポリマーと動的架橋基を含む分子との間に少なくとも1つの共有結合を形成することを含みうる。グラフト化は、例えば、溶融グラフト化、溶液グラフト化、又は固体状態グラフト化を含みうる。
【0030】
動的架橋基
1つ又は複数の実施形態では、動的架橋基は、エステル、カルボン酸、例えばアクリル酸、又はそれらの誘導体、例えばカルボキシレート、及びそれらの組合せから誘導されうる。
【0031】
また上述の通り、その部分又は動的架橋基は、重合から熱可塑性ポリマーに存在してもよく(ビニルエステルモノマーを含む熱可塑性物質におけるエステルの場合において等)、又はそのような部分は、重合後反応性加工を介してベースポリマーと反応させて、熱可塑性ポリマーを形成してもよい。そのような反応加工は、例えば、溶融グラフト化、溶液グラフト化、又は固体状態グラフト化を含みうる。動的架橋基が、熱可塑性ポリマーを形成するモノマーと同一又は異なる化学種でありうることも想定される。例えば、熱可塑性ポリマーがポリ酢酸ビニルである場合、酢酸ビニルは、モノマー及び動的架橋基の両方である。
【0032】
1つ又は複数の実施形態では、動的架橋基は、ビニルエステル、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、2-エチルヘキサン酸ビニル、デカン酸ビニル、ネオデカン酸ビニル、ネオノナン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバル酸ビニル、酪酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、ケイ皮酸ビニル、4-tert-ブチル安息香酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ケイ皮酸アリル、メタクリル酸ビニル等、及びそれらの組合せを含みうる。
【0033】
1つ又は複数の実施形態では、動的架橋基は、不飽和有機酸、例えばイタコン酸、マレイン酸、アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、フマル酸、1-ビニル-1H-ピロール-2-カルボン酸、1,2-ベンゼンジカルボン酸等、及びそれらの組合せを含みうる。
【0034】
1つ又は複数の実施形態では、動的架橋基は、動的架橋系と反応することができる部分を含みうる。1つ又は複数の実施形態では、動的架橋基は、熱可塑性ポリマーの100wt%、90wt%、70wt%、50wt%、30wt%、10wt%、5wt%、4wt%、3wt%、2wt%、1wt%、0.05wt%、又は0.01wt%までの量で熱可塑性ポリマーに存在する。
【0035】
架橋剤
1つ又は複数の実施形態では、架橋剤は、イオン結合又は金属リガンド結合を形成しうる。架橋剤は、o-求核試薬、n-求核試薬、金属酸化物、金属水酸化物、NaOH又はKOH等の酸/アルカリ触媒、アセチルアセトン酸塩、ジアクリル酸塩、炭酸塩、酢酸塩、及びそれらの組合せからなる群から選択される有機金属塩であって、金属が、亜鉛、モリブデン、銅、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、スズ、リチウム、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、鉛、鉄、バナジウム、及びそれらの組合せからなる群から選択される、有機金属塩から選択することができる。
【0036】
1つ又は複数の実施形態では、架橋剤は、ポリマー組成物の0.01wt%、0.1wt%、0.5wt%、少なくとも1wt%、少なくとも2wt%、又は3wt%のうちの任意の下限値及び4wt%、5wt%、6wt%、8wt%、10wt%、12wt%、15wt%、20wt%、又は25wt%のうちの任意の上限値を形成し、任意の下限値を任意の上限値と組み合わせて使用することができる。
【0037】
任意選択の添加剤
本開示のポリマー組成物は、架橋ポリマー、触媒、及び任意選択の架橋されていないポリマーに加えて、1つ若しくは複数の任意選択の添加剤、例えば、これらに限定されないが、充填剤、発泡剤、発泡促進剤、エラストマー、可塑剤、加工助剤、離型剤、滑沢剤、染料、顔料、抗酸化剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、粘着防止添加剤(antiblock additive)、又はポリマー組成物における剛性及び弾力性のバランスを変更するための他の添加剤、例えば、繊維、充填剤、小片、ナノ粒子、ナノ繊維、ナノウィスカー、ナノシート、及び他の補強要素も含みうる。いくつかの実施形態では、1種又は複数のそのような添加剤を、架橋ポリマー、及び触媒の最初の混合又は溶融加工中に加えることができ、一方、1つ又は複数の実施形態では、1種又は複数のそのような添加剤を、その後のプロセス工程において配合することができる。
【0038】
本開示に従うポリマー組成物は、関連する低い活性化温度によって発泡剤の作用を高める又は引き起こす1種又は複数の発泡促進剤(キッカーとしても知られる)を含みうる。例えば、選択された発泡剤が170℃よりも高い温度、例えば、220℃以上で反応又は分解し、周囲のポリマーが活性化温度に加熱されると分解する可能性がある場合に、発泡剤促進剤を使用することができる。発泡促進剤は、選択された発泡剤を活性化することができる任意の適切な発泡促進剤を含みうる。1つ又は複数の実施形態では、適切な発泡促進剤は、カドミウム塩、カドミウム-亜鉛塩、鉛塩、鉛-亜鉛塩、バリウム塩、バリウム-亜鉛(Ba-Zn)塩、酸化亜鉛、二酸化チタン、トリエタノールアミン、ジフェニルアミン、スルホン化芳香族酸、及びそれらの塩等を含みうる。本開示の特定の実施形態に従うポリマー組成物は、1種又は複数の発泡促進剤として酸化亜鉛を含みうる。
【0039】
本開示に従うポリマー組成物は、膨張ポリマー組成物及び発泡体を製造するために1種又は複数の発泡剤を含みうる。発泡剤は、固体、液体、又はガスの発泡剤を含みうる。固体の発泡剤を利用する実施形態では、発泡剤は、粉末又は顆粒としてポリマー組成物と組み合わせてもよい。
【0040】
本開示に従う発泡剤は、ポリマー加工温度で分解し、発泡ガス、例えばN2、CO、CO2等を放出する化学発泡剤を含みうる。化学発泡剤の例は、トルエンスルホニルヒドラジン等のヒドラジン、オキシジベンゼンスルホニルヒドラジド、ジフェニルオキシド-4,4'-ジスルホン酸ヒドラジド等のヒドラジド、硝酸塩、アゾジカルボンアミド等のアゾ化合物、シアノ吉草酸、アゾビス(イソブチロニトリル)、並びにN-ニトロソ化合物及び他の窒素系材料、並びに当技術分野で公知の他の化合物を含む有機発泡剤を含みうる。
【0041】
無機系化学発泡剤は、炭酸塩、例えば炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)、炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等を含むことができ、これらは単独で使用してもよく、又はクエン酸、乳酸、若しくは酢酸等の弱い有機酸と組み合わせてもよい。
【0042】
本開示に従うポリマー組成物は、組成物の物理的特性及び加工性を調整するために、1種又は複数の可塑剤を含みうる。いくつかの実施形態では、本開示に従う可塑剤は、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジ-イソノニル(DINP)、フタル酸ビス(n-ブチル)(DNBP)、フタル酸ブチルベンジル(BZP)、フタル酸ジ-イソデシル(DIDP)、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP又はDNOP)、フタル酸ジ-o-オクチル(DIOP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジ-イソブチル(DIBP)、フタル酸ジ-n-ヘキシル、トリメリット酸トリ-メチル(TMTM)、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)(TEHTM-MG)、トリメリット酸トリ-(n-オクチル、n-デシル)、トリメリット酸トリ-(ヘプチル、ノニル)、トリメリット酸n-オクチル、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHA)、アジピン酸ジメチル(DMD)、アジピン酸モノ-メチル(MMAD)、アジピン酸ジオクチル(DOA))、セバシン酸ジブチル(DBS)、VIERNOL等のアジピン酸のポリエステル、マレイン酸ジブチル(DBM)、マレイン酸ジ-イソブチル(DIBM)、ベンゾエート、エポキシ化ダイズ油及び誘導体、n-エチルトルエンスルホンアミド、n-(2-ヒドロキシプロピル)ベンゼンスルホンアミド、n-(n-ブチル)ベンゼンスルホンアミド、リン酸トリクレジル(TCP)、リン酸トリブチル(TBP)、グリコール/ポリエステル、トリエチレングリコールジヘキサノエート、3gh)、テトラエチレングリコールジ-ヘプタノエート、ポリブテン、アセチル化モノグリセリド;クエン酸アルキル、クエン酸トリエチル(TEC)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリブチル、クエン酸トリオクチル、クエン酸アセチルトリオクチル、クエン酸トリヘキシル、クエン酸アセチルトリヘキシル、クエン酸ブチリルトリヘキシル、o-ブチリルクエン酸トリヘキシル、クエン酸トリメチル、アルキルスルホン酸フェニルエステル、2-シクロヘキサンジカルボン酸ジ-イソノニルエステル、ニトログリセリン、ブタントリオールトリナイトレート、ジニトロトルエン、トリメチロールエタントリナイトレート、ジエチレングリコールジナイトレート、トリエチレングリコールジナイトレート、ビス(2,2-ジニトロプロピル)ホルマール、ビス(2,2-ジニトロプロピル)アセタール、2,2,2-トリニトロエチル2-ニトロキシエチルエーテル、鉱油、他の可塑剤の中でも、植物油又はバイオベースの油、並びにポリマー可塑剤のうちの1種又は複数を含みうる。特定の実施形態では、1種又は複数の可塑剤のうちの1つは、鉱油でありうる。
【0043】
本開示に従うポリマー組成物は、1種又は複数の無機の充填剤及びナノ充填剤、例えば、タルク、ガラス繊維、マーブルダスト、セメントダスト、クレイ、カーボンブラック、長石、シリカ又はガラス、ヒュームドシリカ、シリケート、ケイ酸カルシウム、ケイ酸粉末、ガラス微小球、マイカ、金属酸化物の粒子及びナノ粒子、例えば、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、無機塩の粒子及びナノ粒子、例えば、硫酸バリウム、珪灰石、アルミナ、ケイ酸アルミニウム、チタン系酸化物、炭酸カルシウム、グラフェン、カーボンナノチューブ及び他の炭素系ナノ構造、窒化ホウ素ナノチューブ、セルロース系ナノ構造、並びに他のナノ粒子、ナノ繊維、ナノウィスカー、ナノシート、多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)、再生EVA、並びに他の再生ゴムを含みうる。本明細書に定義するように、再生EVAは、成形又は押出し等の少なくとも1つの加工方法を経てその後のスプルー、ランナー、フラッシュ、不合格部品等が粉砕若しくは刻まれたリグラインド材料に由来する場合がある。本開示の実施形態に従って、そのような再生材料は、触媒と組み合わされて、動的架橋ネットワークを有する本明細書に記載されるポリマー組成物を形成するが、さらなる再生EVA又は他のポリマーを充填剤としてその後の配合工程において加えることができることも想定される。
【0044】
架橋ポリマー組成物
1つ又は複数の実施形態では、架橋時に、組成物は、20℃から150℃の温度範囲内でプラトー弾性貯蔵率を示す。
【0045】
1つ又は複数の実施形態では、架橋時に、組成物は、230℃未満の温度で10,000秒以内にその初期値(G0、プラトー弾性率)に対して少なくとも50%低下するように、120℃を超える温度で時間依存的である弾性貯蔵率を有する。正規化緩和弾性率の値は、弾性貯蔵率データに対する指数関数的崩壊適合を介して得ることができる。プラトー弾性率は、t=0秒での適合に対応し、G0とも呼ばれる。
【0046】
加工
1つ又は複数の実施形態では、熱可塑性ポリマーと架橋剤及び触媒を含む架橋系とを含みうる架橋性ポリマー組成物は、溶融-加工操作にかけられ、架橋性ポリマー組成物(すなわち、まだ動的に架橋されていない)を形成する。それから、このポリマー組成物は、多工程プロセスの一部として動的に架橋することができる。第1の工程では、ポリマー組成物は、熱可塑性ポリマー、及び架橋剤を、ポリマー組成物において動的架橋を形成するのに十分でない温度で溶融混合することによって調製される。第2の工程では、第1の工程で形成されたポリマー組成物は、任意選択で酸素分子の存在下で、例えば、熱風トンネル、オーブン、オートクレーブ、又は他の適切な架橋装置を使用するプロセスで架橋される。ポリマー組成物を架橋する工程は、動的架橋ポリマー組成物を形成するのに十分に高い温度で実行される。架橋する工程は、ポリマー組成物を形成するために使用されるのと同じ装置で実行することができ、又は、別々の装置で実行することができる。動的架橋は、有利には過酸化物を使用せずに実行される。したがって、架橋用の化学的性質は、酸素分子に比較的非感受性である。動的架橋を形成するための架橋反応は、酸素を含む環境で実行することができる。
【0047】
1つ又は複数の実施形態では、熱可塑性ポリマーと架橋剤をとを含みうる架橋性ポリマー組成物は、溶融-加工操作にかけられ、1工程又は多工程プロセスで動的に架橋されたポリマー組成物を形成することができる。具体的に、熱可塑性ポリマー、及び架橋剤は、高温、すなわち、組成物の軟化温度又は溶融温度を超えて混合することができる。例えば、熱可塑性ポリマー及び架橋剤の混合物は、架橋されていない熱可塑性ポリマーの加工温度よりも高い加工温度にかけられ、ポリマー組成物を形成することができる。すなわち、混合物は、架橋されていないポリマーの融点又は軟化点のいずれかよりも高い温度にかけることができる。温度は、ポリマーの分解温度を超えない限り、選択された加工操作の要件に従って選択されるべきである。非晶質の架橋されていないポリマーの軟化点は、ASTM D-1525に従ってビカット法によって決定し、半結晶性の架橋されていないポリマーの融点は、DSCに従って測定する。
【0048】
1つ又は複数の実施形態では、本開示に従うポリマー組成物は、連続若しくは不連続押出しを使用して、又は連続若しくはバッチ混合において調製することができる。方法は、単軸押出機、二軸押出機、若しくは多軸押出機、インターナルミキサー、熱風トンネル、オーブン、液圧プレス、射出成形機、さらなる製造機械、又はオートクレーブを使用することができ、これらのいずれもが、いくつかの実施形態では60~270℃、いくつかの実施形態では140~230℃の範囲の温度で使用されうる。いくつかの実施形態では、原材料(熱可塑性ポリマー、及び架橋系)は、押出機又は他の加工方法に、同時に又は順次に加えられる。
【0049】
本開示に従うポリマー組成物を調製する方法は、熱可塑性ポリマー、及び架橋剤を押出機又はミキサー内で混ぜ合わせる一般的工程と;組成物を溶融押出しする一般的工程と;ポリマー組成物のペレット、フィラメント粉末、バルクコンパウンド、又はシートを形成する一般的工程とを含みうる。
【0050】
本方法によって調製されるポリマー組成物は、物品を製造するための、押出し、カレンダー処理、射出成形、発泡、圧縮成形、スチームチェスト成形(steam chest molding)、超臨界成形、追加の製造等から選択されるプロセスを含む異なる成形プロセスに適用できる顆粒の形態でありうる。
【0051】
動的架橋を考慮すると、本開示の実施形態は、架橋ポリマー組成物の再加工にも関する。1つ又は複数の実施形態では、使用される化学的性質の固有の特性のため、架橋ポリマー配合物は、最初の架橋プロセスでバージンポリマーに適用される同様の加工を使用して再加工又は再生することができる。小片又は使用済み部品は、再粉砕又は他の必要となるプロセスを経て、二次的な原料として未だ有用である方法で、加工性又は特性が容認できる程度に低下しながら、所望の操作において材料を供給することができる。意図しているのは、一般に、再加工パラメーターが最初の製造プロセスで使用されるものと同様であることである。有利には、ポリマー組成物は、再加工することができ、ポリマー組成物の特性は、再加工する工程の直前と比較して実質的に維持することができる。具体的に、1つ又は複数の実施形態では、再加工する工程の後に、ポリマー組成物は、動的機械分析によって測定した場合に、再加工する工程の前のポリマー組成物と比較して、その初期貯蔵弾性率プラトーの少なくとも40%をその溶融温度を超えて維持する。
【0052】
再加工する工程は繰り返し(複数サイクルを通して)行われることも想定される。1つ又は複数の実施形態では、再加工する工程を繰り返した後(例えば、3又は更に5サイクルの再加工の後)、ポリマー組成物は、動的機械分析によって測定した場合に、再加工する工程の前のポリマー組成物と比較して、その初期貯蔵弾性率プラトーの少なくとも40%をその溶融温度を超えて維持する。
【0053】
物品
1つ又は複数の実施形態では、物品を動的架橋ポリマー組成物から形成することができる。形成される物品は、発泡したものである場合も、発泡していないものである場合もある。
【0054】
1つ又は複数の実施形態では、物品は、靴底、インソール、ミッドソール、ユニソール、又は他の靴付属品;ガスケット、ホース、ケーブル、ワイヤー、シーリングシステム、コンベヤーベルト、フォクシングテープ、NVH材料、遮音材、屋根材、及び工業用床材からなる群から選択される。多層物品の実施形態では、層のうちの少なくとも1つが本開示のポリマー組成物を含むことが想定される。
【0055】
架橋時の酸素非感受性
オーブン(真空でも不活性雰囲気でもない)中で硬化(架橋)後の架橋ポリマー組成物の粘着性を評価するために、以下の手順を使用した。
【0056】
ポリマー組成物のシートは、カレンダー処理及び/又は圧縮成形を介して調製され、その後カミソリの刃、はさみ、又は他の切断デバイスで厚さ0.7~3mm、幅2.5cm、及び長さ4cmの寸法に切断される(ほとんどが表面現象であるため、寸法は重要なパラメーターではないが)。その後、それは硬化のために、金属トレイ等のある表面に置かれるか、又は金属ワイヤーを使用して、オーブンの上部に吊るされ、熱風オーブン設定205℃で15分間予熱されたオーブンに入れられる。
【0057】
15分の硬化の後、シートを取り出し、直ちに絶縁表面(例えば、硬化ゴム)の上に置き、その後直ちにKleenex(登録商標) Facial Tissueで被覆し、ゴム表面全体に手でしっかりと圧力をかけ、平面を持つ1.8kgの重りを供試体上に5分間置く。室温に冷却後、ティッシュペーパーを注意深く取り除く。
【0058】
目視評価時に、ポリマー表面にはティッシュペーパー繊維があってはならない。ティッシュペーパー又はその繊維の大部分がポリマーに接着する場合、表面架橋が不十分であるか、配合物の表面粘着性が過剰であることを示している。
【0059】
この試験の測定基準は、粘着性番号として定義され、ペーパー繊維で被覆されていないポリマー表面の百分率÷10で、10~0の範囲である。粘着性がない表面(ペーパー繊維なし)は、評定10であり、一方でティッシュペーパー繊維で完全に被覆された粗悪な材料表面は、等級0である。
【0060】
本開示の実施形態に従って、酸素分子の存在に比較的非感受性である架橋ポリマー組成物は、5を超える粘着性番号を有する。より具体的な実施形態では、架橋ポリマー組成物は、少なくとも6、7、8、又は9の粘着性番号を有する場合がある。
【実施例
【0061】
(実施例1)
動的架橋剤を用いたEVAの溶融/混合
エラストマーネットワークを、EVAの溶融温度を超える温度でのエチレン-酢酸ビニルコポリマー(EVA)とカルボン酸亜鉛塩の押出しによって作製した。従来のEVA(Braskem社市販等級HM728、VAc含有量28wt%、メルトインデックス(190℃/2.16kg=6g/10分)を、Werner-Pfleiderer社18mm二軸押出機で、亜鉛中心ジカルボン酸塩と溶融/混合した。一連の比較例では、EVAは、同じ押出し条件を使用してジクミルペルオキシド(DCP)と押し出した。ジクミルペルオキシドは、商業的な実施においてEVAを架橋するために広く使用されている従来の架橋剤である。
【0062】
押出し条件は、Table 1(表1)に詳述される。各配合で、混合を促進するためにEVAペレットを少量(0.4wt%)の鉱物油で被覆し、それからDCP又はジアクリル酸亜鉛と乾燥-ブレンドした。EVAとDCP又はEVAとジアクリル酸亜鉛の混合物を押出機のホッパーに導入し、ジクミルペルオキシドの架橋を避けるために押出し条件を選択した。配合物をダイを通して押し出し、水浴中で冷却し、ペレット化した。
【0063】
すべての温度ゾーンを120℃に設定したXplore社 MC15マイクロコンパウンダーでEVA HM728とアセチルアセトン亜鉛(Zn(acac)2)とを溶融/混合することによって2つの追加の試料(実施例7及び実施例8)を製造した。供給ホッパーを使用してEVAペレットを混合チャンバーに供給し、それらをスクリュー回転数150rpmを使用して約1分間、力が一定になりそれらが完全に溶融したことが示されるまで混合した。それから、アセチルアセトン亜鉛を混合チャンバーに供給した。再循環を伴う混合を更に1分間継続させた。それから、混合物をダイを通して押し出し、空気中で冷却した。
【0064】
【表1】
【0065】
示差走査熱量測定
動的架橋ネットワークの形成を説明するために、押し出されたEVAブレンドの熱反応を示差走査熱量測定(DSC、TA Instruments社によって製造されたQ200機器)によって測定した。
【0066】
1回目の加熱工程では、試料を10℃/分の加熱速度で160℃に加熱した。温度を160℃で一定に保った。それから、試料を10℃/分の速度で-20℃に冷却し、-20℃で1分間平衡化した。2回目の加熱工程では、試料を10℃/分の加熱速度で160℃に加熱し、160℃で1分間保ち、それから10℃/分の速度で30℃に冷却した。1回目の加熱工程の後に得られた冷却曲線は、図1に報告される。2回目の加熱工程の後に得られた加熱曲線は、図2に報告される。
【0067】
各配合について、1回目の加熱工程の後に観察された結晶化ピーク温度、Tc、及び2回目の加熱工程の後に観察された溶融温度、Tmは、Table 2(表2)に報告される。
【0068】
Table 2(表2)の比較例は、ジクミルペルオキシド(DCP)を用いたEVAの従来の架橋は、溶融温度及び結晶化温度の両方の低下をもたらすことを示す。より低いTm値及びTc値へのこれらのシフトの大きさは、DCPの量が増加するにつれて増加する。本発明の組成物では、結晶化温度、Tcの値は、未架橋EVAと比較して低下する。より低いTcへのこれらのシフトは、EVAを亜鉛塩と共に押し出した結果として動的架橋ネットワークが形成されたことを示唆する。
【0069】
【表2】
【0070】
せん断レオロジー
小角振動せん断(SAOS)測定は、室温から150℃まで作動するAnton Parr社トルクレオメーターを使用した。試料は、押し出されたEVAペレットをCarverプレスで成形して直径25mmの円盤を与えることによって調製した。粘弾性応答は、最初に試料を25℃で平衡化し、それから温度を2℃/分の加熱速度で150℃に上昇させることによって測定した。10Nの垂直抗力を加えた。
【0071】
結果は、図3に報告される。対照試料の弾性貯蔵率(G')は、25℃~60℃温度範囲にわたって第1のプラトーを示し、それから75℃で急激に低下し、温度が上昇するにつれて低下し続ける。ジクミルペルオキシド(DCP)を用いて架橋された試料は、25℃~60℃の範囲でG'プラトーを示し、これは対照のそれよりも顕著に低い。これは、EVAのポリエチレン成分が結晶化するのを妨げる弾性ネットワークの形成と一致する。この結晶化の抑制は、DSCによっても観察される。75℃を超える温度で、DCP硬化試料は、ブロードなG'プラトーを示し、ゴム状ネットワークの形成を示す。約75℃~150℃の温度範囲にわたって、DCP硬化試料は、1未満のtanデルタ値を有し、これは、架橋されたエラストマーネットワークが形成されたことを示す別の指標である。
【0072】
DCP硬化試料のように、ジアクリル酸Znを含む本発明組成物も、25℃~60℃の温度範囲にわたって対照よりも低いプラトー弾性率値を示し、結晶化が抑制されたことを示唆する。これらの試料は、75℃を超える温度で1未満のtanデルタ値も示す。より低いプラトー弾性率及び1未満のtanデルタは、共に本発明組成物における架橋ネットワークの形成を示す。
【0073】
(実施例2)
再加工(複数の溶融及び冷却サイクル)
本発明組成物を加熱及び溶融によって再加工することができることを説明するために、押し出されたペレットを、Table 3(表3)に記載された条件を使用して、Carverプレスで複数回プレスした。試料の厚さを制御するために0.6mmの厚さの真鍮の型を使用して、ペレット試料を鋼板の間でプレスした。1回目のプレス工程後に、フィルムを冷却し、小片状に切断し、再度プレスして第2のフィルムを形成した。第2のフィルムを小片状に切断し、プレスして第3のフィルムを形成した。各プレス後に、フィルムの試料を動的機械分析用に収集した。
【0074】
再加工性能について2つの配合を試験した:2wt%DCPを含んだ比較例4、及び3wt%ジアクリル酸亜鉛を含んだ本発明実施例6であった。ジクミルペルオキシドを含む比較試料は、その後のプレス工程で加熱しても流動しなかったため、1回だけプレスした(1回目プレス)。本発明試料は、各プレス後に、滑らかで均一なフィルムをもたらし、組成物が流動して型の形状となったことを実証した。
【0075】
【表3】
【0076】
プレスしたフィルムの粘弾性応答は、引張固定具が装備されたTA Instruments社によって製造されたレオメーターを使用して、動的機械分析(DMA)温度掃引によって、測定した。試料の寸法は、厚さ0.6mm、幅7mm、及び長さ22~26mmであった。歪み振幅は15ミクロン、周波数は1Hz、及び加熱速度は毎分3℃であった。
【0077】
弾性率及び貯蔵弾性率の値は、温度の関数として図4及び図5に報告される。過酸化物硬化配合物のように、本発明組成物は、約20℃~約80℃の範囲の温度にわたってプラトー貯蔵弾性率を示す。3つの加工工程後、本発明組成物のプラトー弾性率は、1回目のプレス後のE'の値とされるその初期値の少なくとも半分を保持する。
【0078】
ほんのわずかの例示的な実施形態を上記で詳細に記載したが、当業者であれば、本発明から実質的に逸脱することなく、例示的な実施形態において多くの改変が可能であることを容易に理解するであろう。したがって、すべてのそのような改変は、以下の特許請求の範囲で定義される本開示の範囲内に含まれることが意図される。特許請求の範囲では、ミーンズプラスファンクション節は、列挙された機能を実行するものとして、本明細書に記載の構造、及び構造的均等物だけでなく、均等な構造も網羅とすることが意図される。したがって、釘とネジは、釘が木製部品を一緒に固定するために円柱状の表面を用いるのに対して、ネジは、らせん状の表面を用いるという点で、構造的均等物ではないかもしれないが、木製部品を留める環境では、釘とネジは均等な構造である可能性がある。特許請求の範囲が関連する機能と共に「~のための手段」という語を明示的に使用しているものを除いて、本明細書のいずれの請求項のいかなる限定についても米国特許法第112条(f)を適用しないことは、出願人の明確な意図である。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】