(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】シリコン-カーボン複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/21 20170101AFI20240918BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20240918BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240918BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240918BHJP
C01B 33/027 20060101ALI20240918BHJP
B01J 27/135 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C01B32/21
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
C01B33/027
B01J27/135 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024513904
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-01
(86)【国際出願番号】 EP2022074124
(87)【国際公開番号】W WO2023031227
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523446561
【氏名又は名称】アンワイヤー
【氏名又は名称原語表記】ENWIRES
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】ブルチャーク・オルガ
【テーマコード(参考)】
4G072
4G146
4G169
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
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5H050AA07
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5H050AA19
5H050BA16
5H050CB11
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5H050GA22
5H050GA27
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】シンプルかる低コストで生産規模の拡大にも対応し得るシリコン-カーボン複合材料の製造方法、ならびにリチウムイオン電池用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン-カーボン複合材料を製造する方法であって、a)少なくともカーボン系材料のフレーク、さらに任意で、触媒を、反応器のチャンバに導入する工程と、b)少なくともシリコンナノ構造体の前駆体化合物を、前記反応器のチャンバに導入する工程と、c)前記反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、d)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、e)第1のシリコン-カーボン複合材料を回収する工程と、f)工程(e)で得られた生成物に球状化を施すことにより、第2のシリコン-カーボン複合材料を得る工程と、を備える、方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン-カーボン複合材料を製造する方法であって、
(a)少なくともカーボン系材料のフレーク、さらに任意で、触媒を、反応器のチャンバに導入する工程と、
b)少なくともシリコンナノ構造体の前駆体化合物を、前記反応器のチャンバに導入する工程と、
c)前記反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
d)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
e)第1のシリコン-カーボン複合材料を回収する工程と、
f)工程(e)で得られた生成物に球状化を施すことにより、第2のシリコン-カーボン複合材料を得る工程と、
を備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記カーボン系材料のフレークのD50粒径が、25μm~500μmである、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記第2のシリコン-カーボン複合材料が5%~25%内部空隙率を有する、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法において、前記シリコンナノ構造体は、ナノ粒子、好ましくは粒径が1nm~250nmの範囲のナノ粒子の形をとる、方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法において、工程a)で、金属類、金属酸化物類および金属ハロゲン化物類から選択される触媒を、前記反応器のチャンバに導入する方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法において、前記触媒を、金(Au)、錫(Sn)、二酸化錫(SnO
2)、ハロゲン化錫(SnX
2)およびこれらの混合物から選択する、方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の方法において、前記シリコンナノ構造体は、ナノワイヤまたはナノファイバー、好ましくは1nm~250nmの範囲の直径を有するナノワイヤの形をとる、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法において、前記第1のシリコン-カーボン複合材料において、前記カーボン系材料の表面のシリコンナノ構造体で覆われている部分の平均割合が、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である、方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法において、前記第2のシリコン-カーボン複合材料の外表面の、シリコンナノ構造体で覆われている部分の平均割合が、20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である、方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法において、工程(a)~(e)を、固定床反応器で実施する、方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法において、前記球状化工程(f)が、粉砕、摩砕、圧密化、緻密化、加圧、圧縮、折畳み、巻き、圧延、破砕、粗粒化、微粉砕、遠心力適用、またはこれらの1つ以上の過程の組合せから選択される、少なくとも1つのステップを含む、方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法において、前記第2のシリコン-カーボン複合材料の少なくとも一部は、D50が5~50μmのマイクロメートル粒子の形をとる、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記第2のシリコン-カーボン複合材料の前記マイクロメートル粒子が、ポテト状の形を有する、方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法において、前記マイクロメートル粒子が、20m
2/g以下、好ましくは10m
2/g以下、より好ましくは5m
2/g以下の比表面積を有する、方法。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか一項に記載の方法において、前記カーボン系材料が、グラファイト、グラフェン、カーボン、好ましくはグラファイトから選択される、方法。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の方法において、前記シリコン粒子の前記前駆体化合物が、シラン化合物またはシラン化合物の混合物、好ましくはジフェニルシランである、方法。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の方法において、前記工程f)の後に、さらに、
前記第2の材料の外表面を、前記カーボン系材料のフレークとは異なる第2のカーボン系材料によって被覆する工程、
を備える、方法。
【請求項18】
集電体を具備した電極を製造する方法であって、
(i)電極活物質として、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法に従ってカーボン-シリコン複合材料を作製する工程と、
(ii)前記集電体の少なくとも一方の表面を前記電極活物質を含む組成物で被覆する工程と、
を備える、方法。
【請求項19】
正極、負極、およびこれら正極と負極との間に配置されたセパレータを具備する、リチウム二次電池などのエネルギー貯蔵素子を製造する方法であって、少なくとも一方の電極、好ましくは前記負極が、請求項18に記載の方法によって得られる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン系材料及びシリコンナノ構造体を含有するシリコン-カーボン複合材料の製造方法に関する。本発明は、さらに、リチウムイオン電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリチウムイオン電池(LIB)よりもエネルギー密度を高めていくことは、電気自動車や先端エレクトロニクスの需要に応えるうえで重要である。シリコンは、理論容量が極めて高いため、従来のグラファイト負極に代わって高エネルギーLIBを実現するための最も有望な負極材料の一つと考えられているが、リチウムの挿入/脱離の際の体積変化が激しい点が実用化の大きな課題となっていた。
【0003】
電気化学サイクルで体積がこのように大きく変化すると、シリコンのクラックや粉砕が繰返し発生し、そのため、シリコン電極が崩壊破損し、電気的に絶縁される。また、クラックや粉砕が繰り返されると、固体電解質界面(SEI)層が連続的に破壊されて新規の界面が急増し、電解質やLiイオンが急速に消費されることになる。そのため、シリコン単体の負極の使用には、激しい体積変化とSEI膜の不安定性の結果として、容量が極めて急速に低下するとともに、クーロン効率(CE)が低下するという難点がある。
【0004】
LIBのサイクル寿命を大幅に向上させるために、独特のナノ構造(例えば、ナノワイヤ材、ナノチューブ材、コア/シェル材、ヨークシェル材、ナノポーラス材等)の採用や、カーボン、導電性高分子などとの複合材料の形成といった先端材料の設計戦略が学術的アプローチとして採用されている。しかし、これらの材料の体積エネルギー密度や電極上での面積質量負荷(areal mass loading)は、一般に工業的な実用化には低過ぎる。近い将来に既存の市販グラファイト材料に代わる高性能な負極を実現する上での商業的目標には、500~1000サイクル後の容量維持率80%として、比容量を500mAh/g~1000mAh/gとすることが含まれ、その際、初期CEが90%を超え、平均CEは99.8%を超えることが望ましい。したがって、圧縮密度は約1.65g/cm3に等していることが望ましく、また、電極の膨らみは約10%に抑えられていることが望ましい。
【0005】
近年、シリコンとグラファイトの併用が、高エネルギーLIBの最も実用的な負極材料として浮上している。グラファイトは、コストが低く、CEが高く、サイクル寿命に優れ、良好な機械的柔軟性を有し、体積変化が小さく、高い導電率を有する、市販の負極材料である。グラファイトにシリコンを添加すると、体積変化を抑制し、導電率を高めると同時に、比容量、面積容量および体積容量を高めることができる。さらに、シリコンとグラファイトの併用には、同じ商業生産ラインを用いることができ、最小限の投資で高い生産性を得ることができる。したがって、その併用により、材料レベルで異なる2種類の負極を組み合わせて単一の複合材料とし、両者の欠点を回避しながら利点を残し、負極市場での成功を確保することが可能になる。
【0006】
シリコン-グラファイト複合材料には主として二種類があり、一つはグラファイト粒子をシリコン(ナノ粒子、ナノワイヤなど)で被覆したもの、(すなわち、一次粒子)(非特許文献1、2)であり、もう一つは、シリコンがグラファイトマトリクス中に埋め込まれたもの(すなわち、二次粒子)である。前者は、(例えば、表面積が大きい、SEIが不安定である、ICE及びその後のCEが低い、複合材料密度が低いなど)ナノシリコンと同じ欠点を有するため、課題にはあまり関係しない。後者は、(表面積が小さい、SEIが安定している、ICE及びその後のCEが高い、タップ密度及び圧縮密度が高い、など)グラファイトマイクロ粒子と類似したと個性を有する粒子であることから、遥かに妥当性がある。
【0007】
シリコンがグラファイト材料中に埋め込まれたシリコン-グラファイト複合材料の設計には、多様な合成法が存在する。例えば、Sui等(非特許文献3)は、主に乾式/湿式ボールミリング、噴霧乾燥及び炭化からなる多段階プロセスを用いて、グラファイト粒子中にシリコンが存在するSi-グラファイト複合材料を形成しているが、著者らは、サイクル安定性にすぐれても、初期CEには不利な炭素質材料を多量に使用している。Liu等(非特許文献4)は、ナノシリコンが導電性グラファイトフレーク/アモルファスカーボン骨格内に内包されたSi-グラファイト複合材料を設計しているが、この手法は、5段階の合成工程からなり、不活性条件と希少かつ高価な試薬を必要とする上、最終的な複合材料は、ICEが低く(47~68%)、その後に保持されるCEも99%未満であることが確認されている。Wang等(非特許文献5)は、天然グラファイトとシリコン/ポリ(アクリロニトリル-co-ジビニルベンゼン)マイクロスフィアを噴霧乾燥及び後続の熱分解によって造粒することにより作製された、シリコン/カーボン/天然グラファイト複合材料を報告している。シリコンのナノ粒子は、微細懸濁重合によって架橋ポリ(アクリロニトリル-co-ジビニルベンゼン)マイクロスフィアに取り込まれる。この複合材料は初期クーロン効率が78%であり、金属Liに対する負極とした場合の100サイクル後の容量維持率が88%となっている。そのため、この複合材料は、技術的および経済的な理由から、市販の電池には使用できなかった。
【0008】
上記の各手法は、マイクロメートルサイズの階層構造と、構成成分、導電性ネットワーク、サイズ、ボイド、シェルの分布を適切に操作した適切な形態を工作しているところに強みがある。これらの構造は、エネルギー密度の面では競争力のある性能を発揮するかもしれないが、初めの3つの例は、電池産業におけるシリコン-グラファイト複合材料の工業規模での生産に移し替えることはできない。
【0009】
過去20年にわたって、微細な二次粒子の形をとるシリコン-グラファイト複合材料をより工業的に製造する方法をさぐる努力が、幾つかなされている。2006年に、Uono等(非特許文献6)は、粉砕プロセスと熱処理により作製した、シリコンとカーボン(ピッチ)とグラファイトとの「表面被覆型」複合材料を報告している。彼らは、Siの粒径を小さくし(100nm)、グラファイトの粒径を大きくする(30μm)ことが、複合材料の表面積を減少させて不可逆比容量を低下させるために有益であると結論付けている。この方法の主要な工程は、シリコン粉末とピッチコークス粉末とグラファイト粉末とを単に混合し、数種類の混合工程によって、数種類のマイクロメートル二次粒子を形成する点にある。しかし、この方法では、どの場合も、有機溶媒としてエタノールを使用しなければならない。その他の短所としては、シリコンナノ粒子の大部分がグラファイト/カーボン/シリコン複合材料の表面上に位置しているため、合成後の複合材料のサイクル性が制限される点がある。
【0010】
2008年に、Lee等(非特許文献7)は、ナノシリコン/グラファイト/石油ピッチ粉末の混合物をペレット化した後、アルゴン雰囲気下にて1000℃で熱処理を行うことによってシリコン/グラファイト/カーボンの球状のナノ構造化複合材料を設計している。得られた複合材料スフィアは、石油ピッチを熱分解してなるカーボンマトリクス中にナノサイズシリコン及びフレーク化されたグラファイトが埋め込まれたものからなり、フレーク化グラファイトシート同士は同心状に平行配向している。この複合材料は、700mAh/gの可逆容量および良好な初期CE(86%)を示す。この方法の主な欠点は、溶剤系の処理を適用する点と、工程が多数ある点と、最終的な複合材料のサイクル性が低いという点である。
【0011】
2010年に、Jo等(非特許文献8)は、2種類の(Si-グラファイト-ピッチ)複合材料の比較を行った。一つのケース(タイプA)では、シリコン粒子がグラファイトの表面上にあり、もう一つのケース(タイプB)では、シリコン粒子がグラファイト/カーボンのマトリクス中に埋め込まれている。両者ともにサイクルCEに変わりはないのに対し、タイプBの充電容量(657mAh/g)と放電容量(568mAh/g)はタイプAよりも高くなることが認められている。この方法は、溶剤を使用せず、また、単純であるが、最終的な複合材料は、二次粒子(500~1000nmの大きな凝集体)の内部におけるシリコンナノ粒子の不均質な分布を示しており、結果としてサイクル性が低かった。
【0012】
このように、Liイオン電池の負極材料としてのシリコン-グラファイト複合材料の製造に工業的手法を用いようとする努力もなされているが、そこから出てきた方法は、費用が高すぎて大規模生産には適さないものであった。主な問題の一つは、溶剤を使用することなく、シリコンをグラファイトに均一に分散させることが難しいところにある。
【0013】
特許文献1および特許文献2には、電極活物質を製造する方法であって、板状のグラファイト材料上にシリコンを含有する被覆層を形成する工程と、板状のシリコン被覆グラファイトを機械装置により摩砕又は研磨して上記板状のグラファイト材料の外側に堆積したシリコン被覆層が最終的なグラファイト材料の内側に移動するように再構成する工程と、を備える方法が記載されている。この方法は、約4μmという極めて小さい粒度のグラファイトシートを用いるが、まず一つの欠点は、この方法では、最終的なシリコン-グラファイト材料の空隙率や必要なサイクル性を満足に制御できないという点にある。さらに、極めて微細なグラファイト粉末上に堆積されたナノシリコン層を得ることは難しく、特に大きな(工業的な)規模では困難であり、そのため、グラファイト内部に埋め込まれるシリコンの量は限られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2020-0095017号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2021/013499号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】M. Holzapfel, H. Buqa, F. Krumeich, P. Novak, F.-M. Petrat, C. Veit Chemical Vapor Deposited Silicon/Graphite Compound Material as Negative Electrode for Lithium-Ion Batteries, Electrochemical and Solid-State Letters, 2005, 8(10), A516-A520.
【非特許文献2】Bei Liu, Peng Huang, Zhiyong Xie, Qizhong Huang Large-Scale Production of a Silicon Nanowire/Graphite Composites Anode via the CVD Method for High-Performance Lithium-Ion Batteries, Energy & Fuels 2021, 35, 2758‐2765.
【非特許文献3】Sui D, Xie Y, Zhao W, et al. A high‐performance ternary Si composite anode material with crystal graphite core and amorphous carbon shell. J Power Sources. 2018, 384, 328‐333.
【非特許文献4】Liu W, Zhong Y, Yang S, et al. Electrospray synthesis of nano‐Si encapsulated in graphite/carbon microplates as robust anodes for high performance lithium‐ion batteries. Sustain Energy Fuels. 2018; 2(3), 679‐687.
【非特許文献5】Wang A, Liu F, Wang Z, Liu X. Self‐assembly of silicon/carbon hybrids and natural graphite as anode materials for lithium‐ion batteries. RSC Adv. 2016; 6(107), 104995‐105002.
【非特許文献6】Uono H, Kim BC, Fuse T, Ue M, Yamaki J. Optimized structure of silicon/carbon/graphite composites as an anode material for Li‐ion batteries. J Electrochem Soc. 2006; 153(9), A1708‐A1713.
【非特許文献7】Lee JH, Kim WJ, Kim JY, Lim SH, Lee SM. Spherical silicon/ graphite/carbon composites as anode material for lithium‐ion batteries. J Power Sources. 2008 ; 176(1), 353‐358.
【非特許文献8】Jo YN, Kim Y, Kim JS, et al. Si-graphite composites as anode materials for lithium secondary batteries. J Power Sources. 2010 ; 195(18), 6031‐6036.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
電池産業は、依然、シリコンとグラファイトを単一系/複合体に一体化し、シリコンの一様な分散、材料サイクル時のシリコンの膨張に対処できるように制御された空隙率、小さい表面積、許容し得る負極圧縮密度などの所望の設計条件を得るために用いられる、単純、低コストで、規模拡大の容易な製造方法を必要としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を等成するために、本発明では、容易に大規模化することが可能な簡単な方法を提供する。この方法によれば、カーボン系材料のフレークとシリコンナノ構造体の材料から、化学気相成長法(CVD)によるカーボン系材料表面へのナノシリコンの堆積と、得られた複合材料の球状化という2段階の工程のみで、特殊な二次粒子の設計が可能となる。本発明に係る方法では、特定の材料、具体的にはカーボン系材料の選択、および/または触媒の存在により、特性が良好に制御されたシリコン-カーボン系材料の最終製品が得られる。
【0018】
本発明の第一の構成は、カーボン-シリコン複合材料を製造する方法であって、該方法は、
a)少なくともカーボン系材料のフレーク、さらに、任意で、触媒を、反応器のチャンバに導入する工程と、
b)少なくともシリコンナノ構造体の前駆体化合物を、前記反応器のチャンバに導入する工程と、
c)前記反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
d)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
e)第1のシリコン-カーボン複合材料を回収する工程と、
f)工程(e)で得られた生成物に球状化を施すことにより、第2のシリコン-カーボン複合材料を得る工程と、
を備える、方法である。
【0019】
第1の態様において、本発明に係る前記方法は、
a)少なくとも、D50粒径が25μm~500μmのカーボン系材料のフレークを、反応器のチャンバに導入する工程と、
b)少なくともシリコンナノ構造体の前駆体化合物を、前記反応器のチャンバに導入する工程と、
c)前記反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
d)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
e)第1のシリコン-カーボン複合材料を回収する工程と、
f)工程(e)で得られた生成物に球状化を施すことにより、第2のシリコン-カーボン複合材料を得る工程と、
を備える方法である。
【0020】
第2の態様において、本発明に係る前記方法は、
a)少なくとも、カーボン系材料のフレークおよび触媒を、反応器のチャンバに導入する工程と、
b)少なくともシリコンナノ構造体の前駆体化合物を、前記反応器のチャンバに導入する工程と、
c)前記反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
d)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
e)第1のシリコン-カーボン複合材料を回収する工程と、
f)工程(e)で得られた生成物に球状化を施すことにより、第2のシリコン-カーボン複合材料を得る工程と、
を備える方法である。
【0021】
第3の態様において、本発明に係る前記方法は、
a)少なくとも、D50粒径が25μm~500μmのカーボン系材料のフレークおよび触媒を、反応器のチャンバに導入する工程と、
b)少なくともシリコンナノ構造体の前駆体化合物を、前記反応器のチャンバに導入する工程と、
c)前記反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
d)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
e)第1のシリコン-カーボン複合材料を回収する工程と、
f)工程(e)で得られた生成物に球状化を施すことにより、第2のシリコン-カーボン複合材料を得る工程と、
を備える方法である。
【0022】
本発明の任意の態様の好適な一実施形態において、前記第1のシリコン-カーボン複合材料における前記カーボン系材料の表面がシリコンナノ構造体で覆われている部分の平均割合は、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。
【0023】
本発明の任意の態様の好適な一実施形態において、前記第2のシリコン-カーボン複合材料の外表面において、シリコンナノ構造体で覆われている部分の平均割合は、20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0024】
本発明の任意の態様の第1の例では、工程(a)~(e)が、回転及び/又は混合機構によって動かされるタンブラ型反応器で実施される。
本発明の任意の態様の第2の例では、工程(a)~(e)が、固定床反応器で実施される。
本発明の任意の態様の第3の例では、工程(a)~(e)が、垂直流動床反応器で実施される。
【0025】
本発明の任意の態様の好適な一実施形態において、前記球状化工程(f)は、粉砕、摩砕、圧密化、緻密化、加圧、圧縮、折畳み、巻き、圧延、破砕、粗粒化、微粉砕、遠心力適用、またはこれらの1つ以上のステップの組合せから選択される、少なくとも1つのステップを含む。
【0026】
本発明の任意の態様の好適な一実施形態において、前記第2のシリコン-カーボン複合材料の少なくとも一部は、D50が5~50μmのマイクロメートル粒子の形をとる。
【0027】
本発明の任意の態様の好適な一実施形態において、前記第2のシリコン-カーボン複合材料の前記マイクロメートル粒子は、ポテト状の形をとる。
【0028】
本発明の任意の態様の好適な一実施形態において、前記第2のシリコン-カーボン複合材料の前記マイクロメートル粒子は20m2/g以下、好ましくは10m2/g以下、より好ましくは5m2/g以下の比表面積を有する。
【0029】
本発明の第1の態様及び/又は第3の態様の好適な一実施形態において、前記第2のシリコン-カーボン複合材料は、5%~25%の内部空隙率を有する。
【0030】
本発明の任意の態様の好適な一実施形態において、前記カーボン系材料は、グラファイト、グラフェン、カーボンから選択される。
好ましくは、前記カーボン系材料は、グラファイトである。
有利には、前記グラファイトは、天然グラファイトまたは人造グラファイトである。
【0031】
本発明の任意の態様の好適な一実施形態において、前記シリコン粒子の前記前駆体化合物は、シラン化合物または複数のシラン化合物の混合物、好ましくはジフェニルシランである。
【0032】
触媒を使用する場合、金属類、金属酸化物類および金属ハロゲン化物類から前記触媒を選択することが好ましい。好ましくは、触媒は、金(Au)、錫(Sn)、二酸化錫(SnO2)、ハロゲン化錫(SnX2)およびこれらの混合物から選択される。
【0033】
本発明の前記第1の態様によれば、前記シリコンナノ構造体は、有利にはナノ粒子、好ましくは粒径が1nm~250nmの範囲のナノ粒子の形をとる。
【0034】
本発明の前記第2の態様および/または前記第3の態様によれば、前記シリコンナノ構造体は、有利にはナノワイヤまたはナノファイバー、好ましくは直径が1nm~250nmの範囲のナノワイヤの形をとる。本発明の任意の態様の好適な一実施形態において、本発明に係る方法は、工程(f)の後に、さらに、前記第2の材料の外表面を、前記カーボン系材料のフレークとは異なる第2のカーボン材料によって被覆する工程、を備える。
【0035】
本発明の他の構成は、集電体を具備する電極を製造する方法であって、(i)電極活物質として、上記の説明や下記の詳細な説明の方法の任意の態様に従ってカーボン-シリコン複合材料を作製する工程と、(ii)前記集電体の少なくとも一方の表面を前記電極活物質を含む組成物で被覆する工程と、を備える方法である。
【0036】
本発明のさらに別の構成は、正極、負極、およびこれら正極と負極との間に配置されたセパレータを具備する、リチウム二次電池などのエネルギー貯蔵素子を製造する方法であって、少なくとも一方の電極、好ましくは前記負極を、上記の説明や下記の詳細な説明のカーボン-シリコン複合材料の製造方法によって得られたものとする、方法である。
【0037】
本発明は、先行技術の負極材料の製造方法と比べて、下記の利点をもたらす。
簡単で、大規模化も容易、かつ、環境に優しく、安価な製造方法であり、
前記第2のシリコン-カーボン複合材料は、優れた粒子形状、制御された内部空隙率、小さな表面積を有し、
シリコンが前記シリコン-カーボン複合材料中に一様に分散しており、
化学気相成長法(CVD)により、シリコンナノ構造体をカーボン系材料の表面に付着させると、第1のシリコン-カーボン系材料の加工性を向上させることができ、
第2のシリコン-カーボン複合材料は、遥かに高いクーロン効率(CE)を有するために、サイクル性が向上しており、
全体的な方法は、シリコンナノ構造体を前記カーボン系材料に付着させて行うマイクロ粒子加工をベースとしたものであるため、ナノ構造材料に伴う懸念が最小限に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】シリコンナノワイヤ(SiNW)/BNB-90の複合材料M1(実施例1)の低倍率の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図2】BNB-90/SiNWの複合材料M1(実施例1)の高倍率の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】BNB-90/SiNWの複合材料M1(実施例1)のSiNW平均粒径分布を表す挿図(横軸:粒径範囲(nm)、縦軸:任意単位)である。
【
図4】複合材料M2(実施例2)の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図5】M17グラファイト/SiNWの複合材料M3(実施例3)の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図6】M17グラファイト/SiNWの複合材料M3(実施例3)のSiNWの平均粒径分布を表す挿入チャート(横軸:粒径範囲(nm)、縦軸:任意単位)である。
【
図7】複合材料M4(実施例4)の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図8】材料M1(黒色)および材料M2(灰色)の典型的な電位プロファイルを示す図である(破線の楕円で囲まれた部分は、Si材料特有の応答を指している)。
【
図9】材料M3(黒色)および材料M4(灰色)の典型的な電位プロファイルを示す図である(破線の楕円で囲まれた部分は、Si材料特有の応答を指している)。
【
図10】材料M1(黒色)および材料M2(灰色)の可逆容量を示す図である(各材料ごとに、2つの電池を提示している)。
【
図11】材料M3(黒色)および材料M4(灰色)の可逆容量を示す図である(各材料ごとに、2つの電池を提示している)。
【発明を実施するための形態】
【0039】
「本質的に…」1つ以上の特徴「…からなる」という表現は、明記されている構成要素/成分や工程以外に、本発明の特性や特徴に大きな影響を与えない構成要素/成分や工程が、本発明の方法や物質に含まれていてもよいということを意味する。
【0040】
「X~Y」という表現は、特に断りのない限り、境界値を含むものとする。この表現は、対象範囲にXとYの値、さらには、XからYまでの間の全ての値が含まれることを意味する。
【0041】
本発明は、まず、シリコンナノ構造体材料及びカーボン系材料を含有するシリコン-カーボン複合材料を製造する方法に関する。該シリコン-カーボン複合材料は、リチウムイオン電池の負極活物質としての使用に適している。
【0042】
「複合材料」とは、物理的特性や化学的特性が著しく異なる少なくとも2種類の構成素材からなる材料のことを指す。
【0043】
本発明の意味において「ナノ構造体材料」という用語は、単体粒子、場合によっては、凝結体または凝集体の形をとる単体粒子からなる材料であって、該材料の総重量を基準として5重量%以上、好ましくは10重量%以上の粒子について、その外形寸法の一つ以上が、1nm~500nm、好ましくは1~100nmの範囲にある材料を意味するものと理解されたい。
【0044】
粒子の外形寸法は、本発明に係る複合材料の走査型電子顕微鏡(SEM)観察で得られた画像の分析など、任意の既知の方法によって測定できる。
【0045】
具体的には、本発明は、シリコン-カーボン複合材料を製造する方法に関し、この方法は、
a)少なくともカーボン系材料のフレーク、さらに、任意で、触媒を、反応器のチャンバに導入する工程と、
b)少なくともシリコンナノ構造体の前駆体を、前記反応器のチャンバに導入する工程と、
c)前記反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
d)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
e)シリコンナノ構造体が前記カーボン系材料のフレーク上に配された第1のシリコン-カーボン複合材料を回収する工程と、
f)前記工程e)で得られた生成物に球状化を施すことにより、シリコンナノ構造体の少なくとも一部がカーボン系材料中に埋め込まれた第2のシリコン-カーボン複合材料を得る工程と、
を備える方法である。
【0046】
1態様では、本発明に係る方法の工程a)にて、カーボン系材料のフレークの少なくとも一部のD50粒径、好ましくは全てのD50粒径が、25μm~500μmである。
【0047】
1態様では、本発明に係る方法の工程a)にて、触媒が前記反応器のチャンバに導入される。
【0048】
上記2種類の態様を組み合わせてなる第3の態様では、本発明に係る方法の工程a)にて、カーボン系材料のフレークの少なくとも一部のD50粒径、好ましくは全てのD50粒径が25μm~500μmであり、かつ、触媒が前記反応器のチャンバに導入される。
【0049】
なお、本発明の3種類の態様は、本発明に係る方法の工程a)に関する点のみが異なる。 以下の開示では、工程b)~f)や考えられ得るその他の工程について説明するが、これらは3種類のどの態様にも当てはまる。
【0050】
本発明の目的上、以下の説明では、カーボン系材料、触媒、およびシリコンナノ構造体の前駆体を「出発材料」と称し、第1および第2のシリコン-カーボン複合材料を「得られた複合材料」と称する。第1のシリコン-カーボン複合材料は「シリコンーカーボン中間複合材料」や「第1粒子」と称し、第2のシリコン-カーボン複合材料は「シリコンーカーボン最終複合材料」や「第2粒子」と称する。第1のシリコン-カーボン複合材料と第2のシリコン-カーボン複合材料は、一部の特性が共通している。これらの特性については、得られた複合材料の特性であると言及する。
【0051】
本発明の第2の構成は、本発明に係る方法によって得られた前記シリコン-カーボン最終複合材料を含む電極活物質を製造する方法、さらには、該電極活物質を含むエネルギー貯蔵素子を製造する方法にある。
【0052】
(出発材料)
カーボン系材料
本発明に係る方法では、カーボン系材料のフレークを出発材料として使用する。
特に断りのない限り、カーボン系材料について以下で説明される好ましい実施形態は、本発明のどの態様にも当てはまる。
【0053】
本明細書で用いる「カーボン系材料」とは、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%のカーボン、さらに好ましくは90重量%、最も好ましくは100重量%のカーボンを含む材料のことを指す。
【0054】
本発明では、カーボン系材料が、シリコンナノ構造体を成長/堆積させるための担体として使用される。
【0055】
本発明の意味において「フレーク」という用語とは、薄層または鱗片状の形をとる炭素系材料の薄片であって、数ナノメートルないし数マイクロメートルの厚みと、ほぼ同じ大きさの2つの主面を有する物を意味するものと理解されたい。
【0056】
カーボン系材料のフレークは、例えばプレートレット、ニードル、リボン、チューブ、連続繊維、チョップドファイバー等、異なる形状のカーボン系材料との混合物として使用されてもよい。好ましくは、カーボン系材料のフレークは、本発明に係る方法で使用されるカーボン系材料の50重量%以上、有利には70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、より良くは95重量%以上、極めて好ましくは99重量%以上を占める。カーボン系材料は、本質的にカーボン系材料のフレークからなることが好ましく、カーボン系材料のフレークのみで構成されていることがより好ましい。
【0057】
カーボン系材料は、グラファイト、グラフェンおよびカーボンからなる群から選択される任意の材料であってもよい。より詳細には、カーボン系材料は、例えば天然グラファイト、人造グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラフェン、またはこれらの2種類以上の混合物から選択できる。
【0058】
好適な一実施形態において、カーボン系材料は、グラフェン、人造グラファイトおよび天然グラファイトから選択される。好ましくは、カーボン系材料は、天然グラファイトおよび人造グラファイトから選択される。
【0059】
天然グラファイトは、天然で産出されるグラファイト材料に由来するものであり、土状黒鉛、鱗片状黒鉛、または鱗状黒鉛として産出する。人造グラファイトは、例えば石油コークスやコールタールピッチのグラファイト化等といった不定形カーボン材料の高温処理によって形成される製造品である。
【0060】
好ましくは、カーボン系材料の総重量を基準として、カーボン系材料の75重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、有利には99重量%以上が、天然グラファイトおよび人造グラファイトで構成されている。
【0061】
カーボン系材料は、本質的に天然グラファイトまたは人造グラファイトからなることが好ましく、天然グラファイトまたは人造グラファイトのみで構成されていることがより好ましい。
【0062】
カーボン系材料(好ましくは、グラファイト)の純度は、有利には95%、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。純度は、金属微量元素を測定するICP-OES又はそれに相当する手段による化学分析や、グラファイトの秩序化/無秩序化や組成比を推定するXRD、ラマン分光法および高精度重量測定などの網羅的な試験によって測定が可能である。
【0063】
好ましくは、カーボン系材料のフレークの厚さは、100nm~50μm、より好ましくは200nm~20μm、さらに好ましくは500nm~10μmである。
【0064】
好ましくは、カーボン系材料のフレークは、厚さに対する平均長さのアスペクト比が2~2000、好ましくは2~500、より好ましくは2~100、さらに好ましくは2~50の平板状の形をとる。
【0065】
カーボン系材料のタップ密度は、有利には0.01~2g/cm3、好ましくは0.02~1g/cm3、より好ましくは0.03~0.5g/cm3である。
【0066】
本発明の第2の態様に特に適する一実施形態において、カーボン系材料のフレークのD50粒径は、有利には1μm~800μm、好ましくは1μm~500μm、より好ましくは10~100μmである。
【0067】
本発明の第1の態様および第3の態様において、カーボン系材料のフレークのD50粒径は、25μm~500μm、好ましくは30μm~500μm、より好ましくは30μm~100μm、最も好ましくは35μm~50μmの範囲である。好ましくは、本発明の第1の態様および第3の態様において、D50粒径が25μm~500μmの範囲のカーボン系材料のフレークは、本発明に係る方法の第1の態様および第3の態様で使用されるカーボン系材料の50重量%以上、有利には70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、より良くは95重量%以上、極めて好ましくは99重量%以上を占める。
【0068】
本願の出願人は、カーボン系材料(特には、グラファイト)の比較的大きなフレークをこれらの態様で使用することにより、該材料の内部空隙率をより良好に制御できることを見出した。これにより、カーボン系材料中に埋め込まれるシリコンナノ構造体の量が最適な量になる。
【0069】
フレークのD50粒径の測定は、例えばレーザ回折法や標準篩の使用等の、当業者にとって既知の技術によって行うことができる。
【0070】
・触媒
本発明に係る方法では、任意で、少なくとも1種の触媒が反応器のチャンバに導入される。後述の特徴、特に、好適であると定めた特徴は、本発明に係る方法において該触媒が存在する場合、特には、第2の態様および第3の態様に係る場合に関係する特徴である。
【0071】
触媒の機能は、カーボン系材料の表面に成長部位を形成することにある。
好ましくは、触媒は、金属類、二金属化合物類、金属酸化物類、金属ハロゲン化物類、金属窒化物類、金属塩類、金属硫化物類および有機金属化合物類から選択される。
【0072】
金属触媒としては、金(Au)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ビスマス(Bi)、錫(Sn)、鉄(Fe)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、銅(Cu)、カルシウム(Ca)およびこれらの混合物が挙げられる。
【0073】
二金属化合物としては、マンガン白金(MnPt3)や鉄白金(FePt)が挙げられる。
金属硫化物としては、硫化錫(SnS)が挙げられる。
金属酸化物としては、酸化第二鉄(Fe2O3)および酸化錫(SnO2-x)(式中、0≦x<2)が挙げられる。
金属ハロゲン化物としては、ハロゲン化錫(SnX2)(式中、Xは、F、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲン化物イオンである)が挙げられる。
【0074】
より好ましくは、触媒は、金属類、金属酸化物類および金属ハロゲン化物類から選択される。
好ましくは、触媒は、金(Au)、錫(Sn)、二酸化錫(SnO2)、ハロゲン化錫(SnX2)およびこれらの混合物から選択される。
【0075】
本発明の第1の好適な実施形態において、触媒は、金(Au)である。例えば、本発明に係る方法において使用できる金ナノ粒子が、M. Brust et al., J. Chemical Society, Chemical Communications, 7(7) :801-802, 1994に開示されている。
【0076】
第2の好適な実施形態において、触媒は、塩化錫(II)(SnCl2)である。
【0077】
触媒は、好ましくは粒子の形態、より好ましくはナノ粒子の形をとる。
触媒ナノ粒子の最長寸法は、好ましくは1nm~100nm、より好ましくは1nm~50nm、さらに好ましくは5nm~30nmの範囲である。
【0078】
有利には、触媒ナノ粒子は、球状である。
好適な一実施形態において、触媒は、粒径が1~30nm、好ましくは5nm~30nmの範囲のナノメートル球状粒子の形をとる。
【0079】
触媒とカーボン系材料は、触媒/カーボン系材料の質量比にして、好ましくは0.01~1、より好ましくは0.02~0.5、さらに好ましくは0.05~0.15の範囲の質量比で使用される。
【0080】
触媒とカーボン系材料は、反応器のチャンバに導入される前から接触していてもよいし、接触していなくてもよい。
【0081】
好ましい一実施形態において、カーボン系材料と触媒は、反応器に導入される前に互いに関連付けられる。
本発明の目的上、「関連付けられる」という用語は、カーボン系材料と触媒が、カーボン系材料の表面の少なくとも一部に触媒の少なくとも一部を付着又は堆積させることにあたる混合工程を予め経ていることを意味するものとする。
【0082】
触媒とカーボン系材料を関連付けることで、カーボン系材料の表面に粒子の成長部位を複数形成することができる。
【0083】
有利には、カーボン系材料は、その表面に触媒粒子を保持している。好適な一実施形態において、触媒ナノ粒子がカーボン系材料のフレークの表面に均一に分散していることが好ましい。
【0084】
SnX2の触媒を使用する方法の場合、SnX2(好ましくは、SnCl2)とカーボン系材料とを組み合わせるという構成が、シンプルで着実である。SnCl2は、他のハロゲン化錫と同様に極めて安定な生成物であるため、他種の触媒に比べて処理を簡単にできる。実際に、SnCl2は、それ以外のハロゲン化錫と同じく、カーボン系材料と固相同士混合するだけでよい。対照的に、金ナノ粒子を使用する場合には、固相/液相の調製後に、溶剤を蒸発させる必要がある。
【0085】
SnX2(好ましくは、SnCl2)とカーボン系材料は、ボールミル、アトリッションミル、ハンマーミル、高エネルギーミル、ピンミル、ターボミル、ファインカッティングミル、衝撃式ミル、流動床ミル、コニカルスクリューミル、ローターミル、攪拌ビーズミル、ジェットミルなどの、当業者にとって既知の任意の工業用の混合装置によって組み合わせることが可能である。この工程には30分を超える時間を要さず、溶剤を用いずとも、また水性から有機性まで任意の溶剤を用いても行うことができる。
【0086】
●シリコンナノ構造体の前駆体
本発明に係る方法では、シリコンナノ構造体の少なくとも1種の前駆体化合物が反応器のチャンバに導入される。「シリコンナノ構造体の前駆体化合物」とは、本発明に係る方法の実施によってシリコンナノ構造体材料を形成することができる化合物、特に、CVD法の条件下でシリコンナノ構造体材料を形成することができる化合物のことを指す。
【0087】
この化合物は、反応器のチャンバに、液体として導入してもよいし、気体として導入してもよい。該化合物を液体として反応器のチャンバに導入する場合には、反応器のチャンバ内の温度及び圧力を制御し、反応器のチャンバ内部で気相状態に変化させるようにする。気相状態にあるときのシリコンナノ構造体の前駆体化合物は、「反応性シリコン含有ガス種」とする。
【0088】
例えば、シリコンナノ構造体の前駆体化合物が例えばジフェニルシラン等の液体である場合には、反応器を適切な温度/圧力パラメータに到達させることで、液体の前駆体が蒸発してガス種になる。
【0089】
シリコンナノ構造体の前駆体化合物は、キャリアガスとの混合ガスとして、あるいは、前駆体ガス単独で、反応器に導入できる。
【0090】
前駆体化合物が反応性シリコン含有ガス種の形をとる場合、前駆体化合物は、キャリアガスとの混合物として(反応性シリコン含有混合ガスを形成して)反応器のチャンバに導入できる。例えば、常温/常圧において気体であるSiH4を、それ単独で、あるいは、キャリアガスとの混合物として、反応器のチャンバに直接導入してもよい。あるいは、ジフェニルシラン(Ph2SiH2)などの液体の前駆体化合物を、本方法の前処理段階で加熱して蒸気状態に変化させた後、気体として反応器のチャンバにそれ単独で、あるいは、キャリアガスとの混合物として導入してもよい。
【0091】
「キャリアガス」とは、還元性ガス、不活性ガス、またはこれらの混合物から選択されるガスのことを指す。好ましくは、還元性ガスは、水素ガス(H2)である。好ましくは、不活性ガスは、アルゴン(Ar)、窒素ガス(N2)、ヘリウム(He)またはこれらの混合物から選択される。
【0092】
好ましい一実施形態において、シリコン含有混合ガスは、1体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは50体積%以上、さらに好ましくは100体積%のシリコン含有ガス種で構成されている。シリコン含有ガス種とキャリアガスの比率を、本方法における別の工程では、異なるレベルに調節してもよい。
【0093】
好ましくは、シリコンナノ構造体の前駆体化合物、すなわち、「反応性シリコン含有ガス種」は、シラン化合物またはシラン化合物の混合物である。
【0094】
本発明の目的上、「シラン化合物」という用語は、式(I):R1-(SiR2R3)n-R4(I)(式中、nは1~10の整数であり、R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、C1~C15アルキル基、C6~C12アリール基、C7~C20アラルキル基および塩化物から選択される。)で示される化合物のことを指す。
【0095】
好ましくは、本実施形態において、シリコン含有ガス種は、式(I)において、nが1~5の整数であり、R1、R2、R3およびR4が、互いに独立して、水素、C1~C3アルキル基、フェニルおよび塩化物から選択される、化合物から選択される。
【0096】
さらに好ましくは、nは1~3の整数であり、R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、メチル、フェニルおよび塩化物から選択される。
【0097】
好ましくは、本実施形態において、シリコンナノ構造体の前駆体化合物は、シラン、ジシラン、トリシラン、クロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、ジクロロジメチルシラン、フェニルシラン、ジフェニルシラン、トリフェニルシランまたはこれらの混合物から選択される。
【0098】
好ましい一実施形態において、シリコンナノ構造体の前駆体化合物は、シラン(SiH4)またはジフェニルシラン(Si(C6H5)2H2)である。シリコンナノ構造体の前駆体化合物の形態や物理的状態は、反応器の種類や本方法のその他のパラメータに応じて選択される。
【0099】
最も好ましい一実施形態において、シリコンナノ構造体の前駆体化合物は、ジフェニルシランSi(C6H5)2H2である。実際、ジフェニルシランにおけるフェニル基の存在が第2のシリコン-カーボン複合材料内部のアモルファスカーボンの供給源となって、サイクル中の複合材料の導電率を著しく向上させることができる。
【0100】
・ドーピング材料
一実施形態において、本発明に係る方法では、少なくとも1種のドーピング材料が反応器に導入される。
【0101】
本発明の意味において「ドーピング材料」という用語は、シリコンの導電性を変えることが可能な材料を意味するものと理解されたい。本発明の意味においてドーピング材料とは、例えば、リン原子、ホウ素原子、または窒素原子を豊富に含む材料のことである。
【0102】
好ましくは、本実施形態において、ドーピング材料は、ジフェニルホスフィン、トリフェニルボラン、ジフェニルアミンおよびトリフェニルアミンから選択される前駆体を介して反応器のチャンバに導入される。第1の例において、この導入は、シリコンナノ構造体の成長が開始される前に実施される。例えば、工程(b)の後、工程(c)の前にドーピング材料を反応器のチャンバに導入してもよい。
【0103】
他の例において、ドーピング材料の前駆体は、気体として、反応性シリコン含有混合ガスと同時に(場合によっては、その一部として)導入される。
【0104】
好ましくは、シリコンナノ構造体の前駆体化合物に対するドーピング材料のモル比は、10-4mol%~10mol%、より好ましくは10-2mol%~1mol%である。
【0105】
(カーボン-シリコン複合材料の製造方法)
本発明に係る方法は、
a)少なくともカーボン系材料のフレーク、さらに、任意で、触媒を、反応器のチャンバに導入する工程と、
b)少なくともシリコンナノ構造体の前駆体を、前記反応器のチャンバに導入する工程と、
c)前記反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
d)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
e)シリコンナノ構造体が前記カーボン系材料のフレーク上に配された第1のシリコン-カーボン複合材料を回収する工程と、
f)工程e)で得られた生成物に球状化を施すことにより、前記シリコンナノ構造体の少なくとも一部が前記カーボン系材料中に埋め込まれた第2のシリコン-カーボン複合材料を得る工程と、
を備える方法である。
【0106】
具体的には、工程a)は、上記や実施例の欄で説明する第1、第2及び第3の態様のうちの任意の態様に応じて実施できる。
【0107】
[工程(a)~(e)]
工程(a)から(d)までの順序は、そのとおりの順序であってもよいし、本方法を実施する反応器の特性や、酸素分子量を減少させる方法、さらには、シリコンナノ構造体の前駆体化合物が反応器に導入される際の状態(液体または気体)にも実質よるが、別の順序とされてもよい。
【0108】
・方法のパラメータ
本発明に係る方法は、カーボン系材料、さらに、任意で、触媒を反応器のチャンバに導入する工程(a)を含む。
【0109】
好適な一例において、本発明に係る方法は、カーボン系材料を触媒と関連付ける前処理工程を備える。この例では、触媒とカーボン系材料のフレークを、互いに混合してから反応器に導入する。
【0110】
好ましくは、カーボン系材料と触媒との混合物の充填率は、反応器のチャンバの容積を基準として10体積%~60体積%、より好ましくは20体積%~50体積%、さらに好ましくは30体積%~50体積%である。
【0111】
反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させることからなる工程(c)は、各種の方法によって実施できる。反応器のチャンバ内の酸素分子量は、反応器を真空に、好ましくは10-1bar(10-2MPa)以下の圧力にすることによって減少させることができる。あるいは、反応器のチャンバを不活性ガスで洗浄することによって反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させてもよい。
【0112】
本発明の文脈において「反応器のチャンバを不活性ガスで洗浄」という表現は、不活性ガス流を反応器のチャンバに注入することにより、反応器内に存在するガスを、注入した不活性ガスで置き換えることを意味する。
【0113】
好ましくは、不活性ガスは、窒素ガス(N2)、アルゴン(Ar)およびこれらの混合物から選択される。
【0114】
反応器が閉鎖型反応器である場合、反応器のチャンバは、不活性ガスで好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上洗浄される。
【0115】
反応器が開放型反応器である場合、本方法の全体又は一部のあいだ、不活性ガスを反応器のチャンバ内に流通させてもよい。
【0116】
好ましくは、工程(c)の終了時に、反応器のチャンバ内の酸素分子量は、反応器のチャンバの全容積に対して1体積%以下となっている。
【0117】
好ましくは、熱処理は、200~900℃、好ましくは300℃~700℃、さらに好ましくは300℃~600℃の範囲の温度で行われる。
【0118】
好ましくは、熱処理は、低圧、大気圧または0.11~30MPaの範囲の圧力で行われる(ただし、圧力パラメータは、選択される反応器の種類や、反応器の開閉状態の影響を受ける)。
【0119】
本発明に係る方法では、熱処理によって反応器内の圧力が上昇する場合がある。この内圧は、適用される熱処理を適用に左右され、必ずしも制御したり監視したりする必要はない。
【0120】
熱処理は、好ましくは1分~5時間、好ましくは10分~2時間、より好ましくは30分~60分適用される。
【0121】
実施形態の一変形例において、本発明に係る方法は、工程(d)と工程(e)の間に、有機物をカーボン材料に変換するための後処理工程を備える。この工程が実施される場合、この工程は、本質的に熱処理からなる。有利には、この工程は、不活性雰囲気下、例えばN2、Ar、Ar/H2の混合物などのキャリアガス雰囲気下にて、500℃~700℃、好ましくは550℃~650℃、有利には600℃前後の範囲の温度で行われる。
【0122】
一変形例において、本発明に係る方法が、工程(e)の終わりに得られた第1のシリコン-カーボン複合材料を洗浄する追加の工程(e’)を備える。
【0123】
工程(e)の終わりに得られた第1のシリコン-カーボン複合材料は、有機溶剤、好ましくはクロロホルム、エタノール、トルエン、アセトン、ジクロロメタン、石油エーテルおよびこれらの混合物から選択される有機溶剤で洗浄できる。
【0124】
あるいは、好適な一実施形態では、工程(e)の終わりに得られた第1のシリコン-カーボン複合材料が酸溶液で洗浄される。
【0125】
この変形例において、好ましくは、本方法が、さらに、工程(e’)の後に、洗浄後の複合材料を乾燥させる補助的な工程を備える。
【0126】
乾燥は、例えば、第1のシリコン-カーボン複合材料をオーブン、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上の温度のオーブンに入れることによって行われる。乾燥工程は、好ましくは15分~12時間、より好ましくは2時間~10時間、さらに好ましくは5時間~10時間行われる。
【0127】
・反応器
第1の例において、本発明に係る方法は、固定床反応器で実施される。
第2の例において、本発明に係る方法は、回転及び/又は混合機構を具備したタンブラ形反応器の筒状チャンバ内で実施される。
第3の例において、本発明に係る方法は、(垂直)流動床反応器で実施される。
【0128】
第1の実施形態では、本方法のあいだ、反応器が閉鎖されている。
第2の実施形態では、本方法のあいだ、反応器が開放されている。
【0129】
開放型反応器とは、本方法の実施中、特に、熱処理工程のあいだ、ガス流に対して開放状態に維持される反応器のことを意味する。閉鎖型反応器とは、本方法の始めにガス種を反応器に導入した後、熱処理工程のあいだ、ガス流に対して閉鎖状態となる反応器のことを意味する。
【0130】
[第1の例]
第1の例において、本発明に係る方法は、固定床反応器で実施される。
・反応器の特徴
固定床反応器は、開放型反応器でも閉鎖型反応器でもよい。
【0131】
本発明に係る方法の実施に使用可能な反応器は、例えば国際公開第2019/020938号に開示されている。この文献では、反応器は「閉鎖型反応器」のモードで用いられている。
【0132】
代替的な一実施形態において、本発明に係る方法の実施には、開放型固定床反応器が使用される。このような反応器は、例えば、固定モードで(回転や混合なしで)使用されるタンブラ形反応器の筒状チャンバである。
【0133】
・パラメータ
この第1の例において、反応器が閉鎖型である場合、反応器のチャンバ内の酸素分子量は、該反応器を真空に、好ましくは10-1bar(10-2MPa)以下の圧力にすることによって減少させることができる。
【0134】
あるいは、反応器のチャンバを不活性ガスで洗浄することによって反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させてもよい。
【0135】
好ましくは、不活性ガスは、窒素ガス(N2)、アルゴン(Ar)およびこれらの混合物から選択される。反応器が閉鎖型である場合、反応器のチャンバは、不活性ガスで好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上洗浄される。反応器が開放型である場合、本方法の全体又は一部のあいだ、不活性ガスを反応器のチャンバ内に流通させてもよい。
【0136】
好ましくは、工程(c)の終了時に、反応器のチャンバ内の酸素分子量は、反応器のチャンバの全容積に対して1体積%以下となっている。
【0137】
この例の第1の実施形態では、反応器が閉鎖型となるとき、一般的に、シリコンナノ構造体の前駆体化合物が、液体として反応器に導入される。
【0138】
この例の第1の実施形態において、反応器が閉鎖型となるとき、カーボン系材料、触媒、およびシリコンナノ構造体の前駆体化合物は、混合物の形で反応器に導入できる。
【0139】
この例の第1の実施形態において、反応器が閉鎖型となるとき、シリコンナノ構造体の前駆体化合物を受け入れることが可能な第1のゾーンと、カーボン系材料および触媒を受け入れることが可能な第2のゾーンの、少なくとも2つの投入ゾーンを反応器が有することが好ましい。
【0140】
第1の形態例において、第1の投入ゾーンおよび第2の投入ゾーンは、反応器のチャンバ内の同じ高さに位置している。
【0141】
好ましい一形態例において、第2の投入ゾーンは、第1の投入ゾーンよりも高くなっている。
【0142】
この例の第2の実施形態では、反応器が開放型となるとき、一般的に、シリコンナノ構造体の前駆体化合物が、気体として、不活性ガスとの「反応性シリコン含有混合ガス」とされる混合ガスとなって反応器に導入される。
【0143】
[第2の例]
第2の例において、本発明に係る方法は、回転及び/又は混合機構を具備したタンブラ形反応器の筒状チャンバ内で実施される。
【0144】
・反応器の特徴
前述のタンブラ形反応器は、少なくとも、カーボン系材料を充填することが可能で加熱炉により加熱される管状のチャンバで構成されている。反応器には、回転機構及び/又は混合機構が組み込まれている。反応器は、2つの筒状チャンバからなり得る。筒状チャンバの長手方向軸心は、水平であるか、あるいは、水平軸と最大で20°の角度をなすように傾斜させられることが可能である。反応器は、さらに、生成物供給システムおよび生成物排出システムを含み、第1のシリコン-カーボン複合材料を半連続的に製造することができる。タンブラ形反応器は、例えばニードルバルブ、圧力コントローラ等のような反応器圧力制御装置を具備している。
【0145】
典型的な機械式タンブラ形反応器は、筒状チャンバ内の水平軸螺旋の回転によって流動化を生じさせるレーディゲ(L〇dige:〇はウムラウト付きのオー)式の流動床反応器である。
【0146】
別の典型的な機械式タンブラ形反応器は、長手方向軸心回りに回転することによって流動化を生じさせる筒状回転チャンバを具備している。
【0147】
・パラメータ
この例は、本発明に係る方法の実施上極めて重要度の高いものである。反応器によって機械的に引き起こされる流動化は、カーボン系材料と、反応性ガス種を構成するシリコンとを接触させる上で有益である。
【0148】
この例において、好ましくは、シリコンナノ構造体の前駆体化合物が気体として反応器に導入される。
【0149】
・本方法の各工程
この例において、有利には、本発明に係る方法は、
(a1)少なくともカーボン系材料、さらに、任意で、触媒を、反応器の筒状チャンバに導入する工程と、
(a2)キャリアガス流下で前記筒状チャンバを加熱する工程と、
(a3)前記筒状チャンバを回転させ、かつ/あるいは、混合機構を始動させる工程と、
(b)反応性シリコン含有混合ガスを前記筒状チャンバに導入する工程と、
(c)前記混合ガスの流量によって前記反応器のチャンバ内の圧力を制御する工程と、
(d)前記筒状チャンバ内において、回転及び/又は混合しながら、反応性シリコン含有混合ガス流下で、200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
(e)得られた生成物を回収する工程と、
を備える。
【0150】
この例では、大半の工程が上記の順序で実施される必要があるが、工程(a3)の回転及び/又は混合は、工程(a1)または工程(a2)の前または後に開始するようにしてもよい。
【0151】
この例において、工程(d)の熱処理は、(大気圧よりも低い)低圧、大気圧または大気圧よりも高い圧力で適用される。
【0152】
好ましくは、反応器が回転及び/又は混合機構を具備したタンブラ形反応器である場合、工程(d)の熱処理は大気圧よりも高い圧力で適用される。
【0153】
[第3の例]
第3の例において、本発明に係る方法は、垂直流動床反応器で実施される。
【0154】
・反応器の特徴
垂直流動床反応器は、一般的に、垂直円筒状のステンレス鋼製カラムで構成される。 該カラムの底部には、粉体を支持するとともにガスを一様に分布させる穴あき鋼板、さらに、シリコンナノ構造体の前駆体の早期分解を防ぐために水で冷却されるフランジが設けられている。出口には高性能ろ過カートリッジがあり、粒子をろ過させてから回収することが可能となっている。反応器は、2ゾーン電気加熱炉によって外部から加熱され、その壁の温度は、レギュレータに接続された少なくとも2つの熱電対によって制御される。反応器沿いには、さらに、温度の軸方向プロファイルを監視するための複数の熱電対が設置されている。圧力センサにより、反応器内の圧力の制御/監視が可能となっている。流量計により、反応器内の粉体を通過する各種ガスの流量の制御が可能となっている。
【0155】
・パラメータ
垂直流動床反応器では、本発明に係る方法を、大気圧または大気圧よりも僅かに高い圧力で行うことができる。例えば、1.3×105Pa以上の圧力が好適である。
好ましくは、印加温度は、300℃~600℃の範囲である。
【0156】
本例では、好ましくは、シリコンナノ構造体の前駆体化合物が気体として反応器に導入される。
本例では、触媒およびカーボン系材料は、粉末の形をとる必要がある。
【0157】
・本方法の各工程
(a)少なくともカーボン系材料、さらに、任意で、触媒を、筒状チャンバに導入する。
(c)密封試験:窒素(1slm)を使って反応器の密封試験を行う。1分後の圧力が安定していれば、該密封試験は合格である。
(c’)触媒とカーボン系材料の流動化:該流動化は中性ガスを用いて行い、その流量は、所望の流量に等するまで一定時間毎に増加させる。例えば、所望の流量に等するまで、2分毎に0.5slmずつ流量を増加させる。
(d)熱処理の適用:次に、加熱炉の加熱系統と床底部のフランジの冷却系統を始動させる。
(b)流動床が等温安定に等してから、反応性ガスをチャンバに導入する。
(e)生成物の回収:反応が終わると、反応器を冷却してから、得られた生成物を回収する。例えば、反応器を150℃以下に冷却してから、生成物を回収する。
【0158】
大半の工程は、このとおりの順序で実施される必要がある。
このような方法は、例えば国際公開第2011/137446号に開示されている。
【0159】
[工程(f)]
本発明に係る方法では、工程(a)~(e)の終わりに得られたシリコンーカーボン中間複合材料に、少なくとも球状化工程(f)が適用される。
【0160】
本発明に係る方法の球状化工程(f)は、第1のシリコン-カーボン複合材料の形状および微細構造、さらに、その結果として、物理化学的特性を変化させることを目的としている。
【0161】
本発明の文脈において、明細書で用いる「球状化」や「丸状化」という用語は、フレークの形をとる第1のシリコン-カーボン複合材料に少なくとも1つの機械的応力を加えることからなる形状の変更および/または表面処理の工程によって、第1のシリコン-カーボン複合材料よりも高い密度の丸形状の材料を得ることを意味する。この過程により、シリコン-カーボン系複合材料の粒子が小さくなる。未加工のフレークが何度も折り畳まれて且つ/或いは圧密化されて且つ/或いは巻かれて且つ/或いは丸められることで、球状又はポテト状の粒子が形成される。
【0162】
本発明の文脈では、「球状化」や「丸状化」という用語を同義的に用いる。
【0163】
有利には、球状化は、粉砕、摩砕、圧密化、緻密化、圧縮、加圧、折畳み、巻き、圧延、破砕、粗粒化、微粉砕、遠心分離、またはこれらの1つ以上の過程の組合せから選択される、少なくとも1つのステップを含む。
【0164】
各ステップ又はこれらの1つ以上のステップの組合せは、同じ球状化手段で実行してもよいし、異なる手段で実行してもよい。
【0165】
球状化手段は、例えば、次のようなものから選択することができる:乳鉢と乳棒;例えばカレンダー、プレス等の圧縮機;衝撃式ミル、回転衝撃式ミル、ボルテックスミル、振動ミル、ボールミル、攪拌ボールミル、プラネタリミル、ジェットミル、オポジットジェットミル、流動床ジェットミル、遠心ミル、超遠心ミル、ピンミル、ハンマーミル、圧延ミル、分級ミル、下流分級ミルなどのミル;および、これらの機器や当業者にとって既知の任意の他の粉砕機器の組合せ。
【0166】
好適な一実施形態において、球状化手段は、乳鉢と乳棒である。
好ましい他の実施形態において、球状化手段は、オポジットジェットミルである。
好適な他の実施形態において、球状化手段は、回転衝撃式ミルである。
好適な他の実施形態において、球状化手段は、分級ミル又は下流分級ミルである。
他の実施形態において、球状化手段は、超遠心ミルである。
【0167】
他の実施形態において、球状化手段は、ボールミルである。本実施形態において、粉砕ボールは、ジルコニア粉砕ボール、スチールボール、メノウ粉砕ボール、アルミナ粉砕ボール、窒化シリコン粉砕ボール、またはこれらのボールの組合せから選択できる。有利には、粉砕ボールの直径は5~20mmである。有利には、シリコンーカーボン中間複合材料の体積と粉砕ボールの体積とボールミル内の空間の容積との比は、1:1:1である(ただし、同比のそれぞれの値は±20%変動してもよい)。
【0168】
球状化手段をミルから選ぶ場合、該ミルはバッチ式ミルまたは連続式ミルであってもよい。
本発明の意味において「バッチ式ミル」とは、球状化対象の第1のシリコン-カーボン系複合材料の部分的な量を受け取って排出するミルを意味するものと理解されたい。そして、この過程は必要に応じて繰り返される。
【0169】
本発明の意味において「連続式ミル」とは、球状化対象の第1のシリコン-カーボン系複合材料の連続流を受け入れて、したがって、連続的に運転することが可能なミルを意味するものと理解されたい。
【0170】
有利なことに、球状化工程は、乾燥環境で、すなわち溶剤を使用せずに行われる。
【0171】
本発明に係る方法の球状化工程(f)は、室温または高温で行うことができる。例えば、球状化は、20℃~80℃の温度で行うことができる。
【0172】
有利には、球状化又は丸状化工程は、得られるシリコン-カーボン系複合材料が本質的に丸状の粒子からなるように時間をかけて行われる。
【0173】
球状化又は丸状化工程は、得られるシリコン-カーボン系複合材料のタップ密度が第1のシリコン-カーボン系複合材料の密度と比べて有利には2倍以上、好ましくは5倍以上になるように時間をかけて行われる。
【0174】
球状化又は丸状化工程は、得られるシリコン-カーボン系複合材料の比表面積が第1のシリコン-カーボン系複合材料の比表面積と比べて有利には1/2倍以下、好ましくは1/4倍以下になるように時間をかけて行われる。
【0175】
当業者であれば、球状化工程の時間や、例えば粉砕機の回転速度、圧縮機の力、温度等の球状化手段のパラメータを調整することで、期待する特性に相当するシリコン-カーボン系複合材料を得ることが可能である。
【0176】
[追加工程]
一実施形態において、本発明に係る方法は、さらに、第2のシリコン-カーボン複合材料の外表面の少なくとも一部を、カーボン系材料のフレークとは異なる第2のカーボン材料で被覆する工程(g)を備える。
【0177】
有利には、第2のカーボン材料は、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブおよびこれらの混合物から選択される。
【0178】
第2のカーボン材料の被覆物の、被覆後のシリコン-グラファイト複合材料の総重量に対する重量比は、有利には20重量%以下、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下となる。
【0179】
第2のカーボン材料による被覆物は、例えばカーボン前駆体(アセチレン、ピッチ、スクロース、CMCなど)の分解、CVD、熱処理等といった、当業者にとって既知の任意の方法によって実現することができる。
【0180】
(得られる材料)
・シリコンーカーボン中間複合材料
本発明に係る方法の工程(a)~(d)により、第1のシリコン-カーボン複合材料、すなわち、シリコンーカーボン中間複合材料が得られる。
【0181】
シリコンーカーボン中間複合材料についての以下の説明での各実施形態は、特に断りのない限り、本発明どの態様にも当てはまる。
【0182】
この第1のシリコン-カーボン系の材料は、カーボン系材料(特には、フレークの形態のカーボン系材料)およびシリコンナノ構造体を含有し、好ましくは本質的にこれらからなる。シリコンナノ構造体は、カーボン系材料のフレーク上でシリコンナノ構造体の前駆体化合物が化学気相分解(成長)することによって生じる。
【0183】
シリコンーカーボン中間複合材料のシリコン含有量は、第1のシリコン-カーボン複合材料の総重量を基準として有利には5重量%以上、好ましくは20重量%以上である。 シリコン含有量は、第1のシリコン-カーボン複合材料の総重量を基準として有利には5重量%~70重量%、好ましくは20重量%~50重量%である。
【0184】
また、シリコンーカーボン中間複合材料は、微量の触媒や触媒分解の残渣を含有している場合がある。
【0185】
例えば、本発明の第2の態様および第3の態様に応じて触媒が使用される場合、特に、触媒が金属ハロゲン化物、特には、SnCl2などのハロゲン化錫から選択される場合、シリコンーカーボン中間複合材料は、残存する金属ハロゲン化物、特には、ハロゲン化錫を含有していることがある。残存するハロゲン化錫は、シリコンーカーボン中間複合材料の酸処理によって部分的に除去することが可能である。
【0186】
また、シリコンーカーボン中間複合材料は、反応時の触媒の分解によって生じる金属粒子を含有している場合がある。
【0187】
また、触媒が金属ハロゲン化物、特に、SnCl2などのハロゲン化錫である場合、シリコンーカーボン中間複合材料は、微量のハロゲン化物を含有していることがある。
【0188】
触媒または触媒分解の残渣は、シリコンーカーボン中間複合材料の総重量を基準として好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
【0189】
シリコン-カーボン複合材料のフレークは、厚さに対する平均長さのアスペクト比が好ましくは2~2000、好ましくは2~500、より好ましくは2~100、さらに好ましくは2~50である。
【0190】
シリコンーカーボン中間複合材料のタップ密度は、有利には0.01~2g/cm3、好ましくは0.02~1g/cm3、より好ましくは0.03~0.5g/cm3である。
【0191】
本発明の好ましい一実施形態において、シリコンーカーボン中間複合材料は、シリコンナノ構造体で装飾されたフレークの形で得られる。
【0192】
好ましくは、シリコンナノ構造体による装飾後のフレークの粒径は、出発材料であるカーボン系材料のフレークの粒径と同じである。
【0193】
前駆体化合物の化学気相分解(成長)により得られるシリコンナノ構造体は、この過程から得ることが可能などのような形態であってもよく、特には、ワイヤ、ワーム、ロッド、フィラメント、シートまたはスフィアの形をとる。
【0194】
本発明の第1の態様において、シリコンナノ構造体は、ナノ粒子の形をとることが好ましい。
本発明の意味において「ナノ粒子」という用語は、粒径がナノメートル級である球体状、楕円体状または板状の物体を意味するものと理解されたい。ナノ粒子としては、例えば、ナノスフェア、ナノシート等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0195】
好ましくは、シリコンナノ粒子の平均粒径は、1nm~250nmの範囲、より好ましくは10nm~200nmの範囲、さらに好ましくは30nm~180nmの範囲である。本発明の第2の態様および第3の態様において、特に、本発明に係る方法の工程a)で触媒が使用される場合には、シリコンナノ構造体がナノワイヤの形をとる。
【0196】
本発明の意味において「ナノワイヤ」という用語は、形状がワイヤに類似し且つ直径がナノメートル級である細長い物体を意味するものと理解されたい。この用語には、例えば、ナノワイヤ、ナノワーム、ナノロッド、ナノファイバー、ナノフィラメント等が包含されるが、これらに限定されない。
【0197】
シリコンナノワイヤの平均直径は、好ましくは1nm~250nmの範囲、より好ましくは10nm~200nmの範囲、さらに好ましくは30nm~180nmの範囲である。
【0198】
好ましくは、シリコンナノワイヤの平均長さは、50nm~500nmの範囲である。
【0199】
シリコンナノ構造体の特性評価は、例えば、得られたカーボン-シリコン複合材料の1つ以上の試料について、走査型電子顕微鏡法(SEM)または透過型電子顕微鏡法(TEM)で得られた画像の分析等といった、当業者にとって周知の幾つかの技術によって実施できる。
【0200】
ナノワームとは、アスペクト比(平均直径に対する平均長さの比)がナノワイヤの中でも低い範囲にある、すなわち、L/D比が10以下、より好ましくは5以下、有利には2以下である点を特徴とする、ナノワイヤの特定の好適な一部類のことである。
【0201】
好ましくは、シリコンーカーボン中間複合材料では、シリコンナノ構造体がカーボン系材料のフレークの表面上に一様に分散している。「一様に分散している」という表現は、シリコンナノ構造体が、カーボン系材料のフレークの表面上において所定の領域が他の領域よりも高密度になることなく、すなわち、シリコンの含有量が多くなることなく均一に分散していることを意味する。
【0202】
シリコンーカーボン中間複合材料のカーボン系材料の表面において、シリコンナノ構造体で覆われている部分の平均割合は、有利には50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。
【0203】
一実施形態において、シリコンナノ構造体は、カーボン系材料の表面に、500nm未満、好ましくは200nm未満、より好ましくは100nm未満の厚さの層を形成している。
【0204】
シリコンナノ構造体は、カーボン系材料の表面に、有利には5nm~500nm、好ましくは10nm~200nm、より好ましくは20nm~100nmの厚さの層を形成している。
【0205】
●シリコンーカーボン最終複合材料
本発明に係る方法の工程(f)を経て、第2のシリコン-カーボン複合材料、すなわち、シリコンーカーボン最終複合材料が得られる。
【0206】
シリコンーカーボン最終複合材料についての以下の説明での各実施形態は、特に断りのない限り、本発明のどの態様にも当てはまる。
【0207】
この第2のシリコン-カーボン系複合材料は、カーボン系材料およびシリコンナノ構造体を含有し、好ましくは本質的にこれらからなる。また、シリコンーカーボン最終複合材料は、微量の触媒や触媒分解物の残渣を含有している場合がある。
【0208】
好ましい一実施形態において、工程(f)を経て得られるシリコンーカーボン最終複合材料の組成は、前述の工程(e)を経て得られるシリコンーカーボン中間複合材料の組成と実質的に同じある。
【0209】
シリコンーカーボン最終複合材料のシリコン含有量は、シリコンーカーボン最終複合材料の総重量を基準として有利には5重量%以上、好ましくは20重量%以上である。シリコン含有量は、シリコンーカーボン最終複合材料の総重量を基準として有利には5重量%~70重量%、好ましくは20重量%~50重量%である。
【0210】
好ましくは、本発明に係るシリコンーカーボン最終複合材料の少なくとも一部は、マイクロメートル大である。
【0211】
好ましくは、シリコンーカーボン最終複合材料の少なくとも一部は、マイクロメートル粒子の形をとる。シリコンーカーボン最終複合材料は、より好ましくはその70%以上、好ましくはその80%以上、さらに好ましくは90%以上がマイクロメートル粒子である。
【0212】
本発明に係る方法の球状化工程(f)により、本質的に角や尖りのない丸みを帯びた形状のシリコン-カーボン複合材料のマイクロメートル粒子が得られる。具体的には、マイクロメートル粒子は、楕円体状および/または棒状および/またはポテト形状であり得る。
【0213】
有利には、シリコンーカーボン最終複合材料のマイクロメートル粒子は、フレーク以外の形をとる。好ましくは、シリコンーカーボン最終複合材料において、フレークの形をとるのは、マイクロメートル粒子の10%以下、好ましくは5%以下である。
【0214】
有利には、シリコンーカーボン最終複合材料のマイクロメートル粒子は、ポテト形状である。
【0215】
「ポテト形状」とは、一般的に不規則な形状を有する粒子において、角が丸みをおびた、長い立体的形状をとり、長さと直径の比が5:1~1:1、好ましくは3:1~1:1、さらに好ましくは、2:1~1:1となるものをさす。
【0216】
シリコンーカーボン最終複合材料は、マイクロメートル粒子の有利には80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、有利には100%が、ポテト形状である。
【0217】
有利には、シリコンーカーボン最終複合材料のマイクロメートル粒子は、狭い粒径分布を有する。当業者であれば、例えばミルの回転速度および/または球状化工程の時間および/または球状化手段の特性(例えば、ボールミルを使用する場合の粉砕ボールの直径等)のような、本発明に係る方法の球状化工程(f)のパラメータを調節することで、粒子の粒径分布を狭くすることが可能である。あるいは、工程f)の後に篩分け工程を実施することにより、所定の粒径のマイクロメートル粒子を選別してもよい。
【0218】
「粒径分布」や「粒度分散」とは、シリコンーカーボン最終複合材料の粒子の、その粒径に応じた相対的な存在量(典型的には、相対質量)のことを指す。
【0219】
好適な一実施形態において、シリコンーカーボン最終複合材料のマイクロメートル粒子のD50は、5μm~50μm、好ましくは10μm~30μm、より好ましくは15μm~25μmである。
【0220】
「メジアン粒径」や「メジアン粒度」とも称される「D50」は、粒子の集団の半分がこの値よりも下となり、残りの半分がこの値よりも上となるミクロン単位の粒径である。 例えば、試料のD50が5μmである場合には、50%の粒子が5μmよりも大きく、50%の粒子が5μmよりも小さいことを意味する。
【0221】
粒径、粒子形状および粒径分布は、例えば、走査型電子顕微鏡法(SEM)及び/又は集束イオンビーム(FIB)トモグラフィー法及び/又は動的光散乱法(DLS)及び/又は走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析法(SEM/EDS)及び/又はレーザ回折法等などの、当業者にとっての既知の任意の方法によって測定できる。
【0222】
シリコンーカーボン最終複合材料のマイクロメートル粒子は、有利には20m2/g以下、好ましくは10m2/g以下、より好ましくは5m2/g以下の比表面積を有する。
【0223】
「比表面積」とは、シリコンーカーボン最終複合材料の粒子の、単位質量当たりの総表面積のことを指す。最終複合材料の比表面積は、例えばブルナウアーエメットテラー(BET)吸着法等といった、当業者にとって周知の幾つかの技術によって測定できる。
【0224】
有利には、シリコンーカーボン最終複合材料のマイクロメートル粒子は、0.05~2g/cm3、好ましくは0.2~1.5g/cm3、より好ましくは0.35~1g/cm3のタップ密度を有する。
【0225】
一実施形態、特に、本発明の第2の態様の一実施形態において、シリコンーカーボン最終複合材料のマイクロメートル粒子は、有利には10%~60%、より好ましくは15%~50%、より好ましくは20%~40%の内部空隙率を有する。
【0226】
本発明の第1の態様及び第3の態様の好ましい実施形態において、シリコンーカーボン最終複合材料のマイクロメートル粒子は、5%~25%の内部空隙率を有する。
【0227】
「内部空隙率」とは、マイクロメートル粒子の全体積のうち、孔や何もない空間が占める率のことを指す。複合材料の内部空隙率は、例えば水銀圧入法、密度測定等といった、当業者にとって既知の任意の方法で測定することができる。
【0228】
有利には、本発明の全ての態様において、シリコンーカーボン最終複合材料のマイクロメートル粒子は、閉鎖孔を有する。
【0229】
「閉鎖孔」とは、マイクロメートル粒子の孔同士が相互に連結していないことを意味する。
【0230】
第2のシリコン-カーボン系複合材料は、カーボン系材料とシリコン材料の配置構成が中間材料と異なる。本発明に係る方法の球状化工程(f)により、工程(e)を経て得られた第1のシリコン-カーボン複合材料とは異なる微細構造のマイクロメートル粒子が得られる。具体的には、球状化工程(f)以前は、シリコンナノ構造体がカーボン系材料のフレークの表面に配されているのに対し、球状化後に得られるマイクロメートル粒子では、シリコンナノ構造体の少なくとも一部がカーボン系材料中に埋め込まれている。
【0231】
本発明の文脈において「微細構造」という用語は、複合材料の構成成分同士、特には、シリコンナノ構造体とカーボン系材料が互いにどのように配置されているのかを意味しているものとする。複合材料の微細構造は、例えば、走査型電子顕微鏡法(SEM)及び/又は透過型電子顕微鏡法(TEM)及び/又はエネルギー分散型分光分析法(EDS)及び/又はX線回折法(XRD)及び/又はラマン分光法によって特性評価が可能である。
【0232】
本発明の文脈において「埋め込まれている」という用語は、シリコンナノ構造体が周囲のカーボン系材料マトリクス中に、特には、球状化工程で生じたカーボン材料のひだの間に入り込んでいることを意味するものとする。
【0233】
本発明の全ての態様において、第2のシリコン-カーボン系複合材料のシリコンナノ構造体の総重量を基準として、該シリコンナノ構造体の有利には70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上が、カーボン系材料中に埋め込まれている。
【0234】
第2のシリコン-カーボン系複合材料におけるシリコンナノ構造体の総重量を基準として、該シリコンナノ構造体の好ましくは70重量%~99重量%、好ましくは80重量%~90重量%が、カーボン系材料中に埋め込まれている。
【0235】
シリコン-カーボン系最終複合材料のカーボン系材料の粒子の外表面において、シリコンナノ構造体で覆われている部分の平均割合は、好ましくは0%~20%、好ましくは0%~10%、より好ましくは0%~5%である。
【0236】
本願の出願人は、カーボン系材料中に埋め込まれた、シリコンナノ構造体の上記のように高い割合は、特に、大きな粒径のカーボン系のフレーク、具体的には、D50粒径が25μm~500μm、好ましくは30μm~500μm、より好ましくは30μm~100μm、最も好ましくは35μm~50μmのフレークを使用することにより得られりことを見出した。
【0237】
シリコンナノ構造体は、カーボン系材料の内部に、有利には5nm~500nm、好ましくは10nm~200nm、より好ましくは20nm~100nmの厚さの材料の層を形成する。
【0238】
(カーボン-シリコン複合材料の使用)
本発明に係るシリコン-カーボン複合材料は、負極活物質として、また、リチウムイオン電池の製造に使用できる。
【0239】
本発明に係る方法によって得られるシリコンーカーボン最終複合材料は、製造後そのまま、あるいは、製造後に処理を経てから、リチウムイオン電池のシリコン-カーボン複合材料による負極材料として使用できる。
【0240】
本発明は、さらに、集電体を具備した電極を製造する方法に関する。この方法は、
(i)電極活物質として、前述の方法に従ってカーボン-シリコン複合材料を作製する工程と、
(ii)集電体の少なくとも一方の表面を前記電極活物質を含む組成物で被覆する工程と、
を備える。
【0241】
集電体を具備する電極は、当該技術分野で古典的に用いられる製造方法によって製造することができる。例えば、本発明のカーボン-シリコン複合材料からなる負極活物質を、バインダ、溶剤および導電剤と混合してもよい。必要に応じて、分散剤を添加してもよい。その混合物を攪拌することにより、スラリーが作製される。次に、集電体をスラリーで被覆してプレス成形することにより、負極が製造される。
【0242】
本発明でバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-co-HEP)、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチルなどの、各種のバインダポリマーを使用できる。
【0243】
この電極は、当該技術分野で一般的に使われて正極と負極との間に配置されるセパレータ及び電解液を具備する、リチウム二次電池の製造に使用することができる。
【0244】
具体的には、本発明は、正極、負極、およびこれら正極と負極との間に配置されたセパレータを具備する、リチウム二次電池などのエネルギー貯蔵素子を製造する方法を提供する。前記負極は、電極を製造する前述の方法によって得られる。
【実施例】
【0245】
以下の実施例では、特に断りのない限り、含有量と百分率は質量を基準とする。
【0246】
素材
反応器(固定床):ステンレス鋼製反応器(内部容積=1L、直径=100mm、高さ=125mm)、
ボールミル装置:レッチェ(Retsch)社から市販されている型番PM100、
遠心ミル装置:レッチェ社から市販されている型番ZM200、
シリコンナノ構造体前駆体:シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社から市販されているジフェニルシラン(Si(C6H5)2H2)(CAS番号:775-12-2)、
触媒:ストレムケミカルズ(Strem Chemicals)社から市販されているSnCl2、
グラファイトのフレーク:イメリス(Imerys)社から市販されているBNB90グラファイト(SSA=21.18m2/g、D50=43μm)、ヌーボーモンドグラファイト(Nouveau Monde Graphite)社から市販されているM17グラファイト(SSA=24.48m2/g、D50=16μm)、
導電性フィラー:イメリス社から商品名C-NERGY(登録商標)Actilion GHDR-15-4で市販されているグラファイト粉末、
導電性添加剤:イメリス社から商品記号Timcal C-NERGY C65(CAS番号:1333-86-4)で市販されているカーボンブラック、
バインダ:アルファエイサー(Alfa-Aesar)社から市販されているカルボキシメチルセルロースナトリウム(Na-CMC)(CAS番号:9004-32-4)、MTI社から市販されているスチレンブタジエンゴム(SBR)(CAS番号:9003-55-8)、
電解液:エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合物(体積1:1)にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)(1M)が溶解し、かつ、フルオロエチレンカーボネート(FEC)(10重量%)およびビニレンカーボネート(添加剤)(2重量%)を含有してなる、ソルビオニック(Solvionic)社から市販されている電解液。
【0247】
(実施例1:BNB-90グラファイト/シリコンナノワイヤ材料(M1)のバッチ合成)
a)BNB-90グラファイト/SnCl
2
材料の作製
30gのBNB-90を5gのSnCl2と組み合わせて、ボールミル装置PM100の鋼製容器に投入する。次に、10mmステンレス鋼ボール(50個)を該容器に入れた後、該容器を堅く閉じる。このBNB-90-SnCl2材料を、400rpmで10分30秒かけて混合する。
【0248】
篩で前記ボールを取り除いて、BNB-90グラファイト/SnCl2を簡単に回収する。
【0249】
b)シリコンナノワイヤ(SiNW)の成長
過程a)の終わりに得られるBNB-90グラファイト/SnCl2材料を、固定床反応器内のガラス製カップ体に載せる。次に、250mLのジフェニルシラン(Ph2SiH2,)を該反応器の底に注ぐ。
【0250】
前記反応器を密閉した後、ガスラインと昇温体を該反応器に接続する。次に、該反応器を真空排気するとともに、N2によるパージを数回行って空気/水分といった汚染物質を除去する。その後、反応器の外表面と接触させた電気抵抗体によって反応器を加熱する。加熱サイクルは次のとおりである:20℃から430℃まで90分かけて昇温させ、430℃を60分間維持し、加熱を中断した後、反応器の温度を水冷により60分かけて50℃まで低下させる。最後に、反応器を開き、得られた材料を回収する。
【0251】
c)BNB-90グラファイト/シリコン複合材料の後処理
Ph2SiH2の分解によって生じた有機物を、熱処理により炭化させる。
過程b)の終わりに得られる複合材料を、坩堝に入れた後、石英製の水平チューブ加熱炉に装入する。加熱炉の入口にはアルゴンガス(Ar)と水素ガス(H2)のガスラインが接続されており、これらを97.5:2.5(v/v)の比率に制御した量で、前記材料に対して連続的に流す。熱処理は、600℃の温度まで6℃/分の昇温量で且つ2時間実行し、その後、自然冷却させる。最後に、前記加熱炉を開いて複合材料M1を回収する。
【0252】
図1及び
図2に、平均粒径(直径)66nmのSiNW101,201(SiNWの粒径分布を表す
図3の挿入チャートを参照のこと)、BNB-90グラファイト102,202および錫の粒子203からなる複合材料M1を示す。
【0253】
(実施例2:複合材料M1(M2)の成形)
a)粉砕
超遠心ミル装置ZM200に、10gの複合材料M1を投入した。この材料を6000rpmで粉砕し、カセットパンで瞬時に回収した。最後に、この粉末を250μmで篩分けした。
【0254】
b)圧密化
次に、粉砕後の材料を約7.5t/cm2でカレンダー処理した。ペレットを回収し、乳鉢で細かく粉砕した。この粉末を400μmで篩分けして最終的に回収し、複合材料M2を得た。
【0255】
c)
図4の説明
図4に、SiNW301およびBNB-90グラファイト302からなる複合材料M2を示す。M1の観察結果に比べて、SiNW301はBNB-90グラファイト302の表面上にあまり見受けられない。このことは、SiNWが複合材料の芯部において、グラファイトのフレーク間に存在している確率が極めて高いことを表している。本成形過程により、黒色の破線303で示すように平均粒径15μmの粒子が形成される。
【0256】
(実施例3:M17グラファイト/シリコン複合材料(M3)のバッチ合成)
a)M17グラファイト/SnCl
2
材料の作製
30gのM17グラファイトを5gのSnCl2と組み合わせて、ボールミル装置PM100のステンレス鋼製容器に投入する。次に、10mmステンレス鋼ボール(50個)を該容器に入れた後、該容器を堅く閉じる。このM17グラファイト/SnCl2材料を、400rpmで10分30秒かけて混合する。
篩で前記ボールを取り除いて、M17グラファイト/SnCl2材料を簡単に回収する。
【0257】
b)シリコンナノワイヤの成長
過程a)の終わりに得られる成長基材/プレ触媒材料を、固定床反応器内のガラス製カップ体に載せる。次に、250mLのジフェニルシラン(Ph2SiH2,)を該反応器の底に注ぐ。
【0258】
反応器を密閉した後、ガスラインと昇温体を該反応器に接続する。次に、該反応器を真空にするとともに、N2によるパージを数回行って空気/水分といった汚染物質を除去する。その後、反応器の外表面と接触させた電気抵抗によって反応器を加熱する。加熱サイクルは次のとおりである:20℃から430℃まで90分かけて昇温させ、430℃を60分間維持し、加熱を中断した後、該反応器の温度を水冷により60分かけて50℃まで低下させる。 最後に、反応器を開き、得られた材料を回収する。
【0259】
c)成長基材/シリコン複合材料の後処理
Ph2SiH2の分解によって生じた有機物を、熱処理により炭化させる。
【0260】
過程b)の終わりに得られる複合材料を、坩堝に入れた後、石英製の水平チューブ加熱炉に装入する。加熱炉の入口にはアルゴン(Ar)と水素ガス(H2)のガスラインが接続されており、これらを97.5:2.5(v/v)の比率に制御した量で、前記材料に対して連続的に流す。熱処理は、600℃の温度まで6℃/分で昇温して2時間実行し、その後、自然冷却させる。最後に、加熱炉を開いて複合材料M3を回収する。
【0261】
図5に、平均粒径(直径)77nmのSiNW401(SiNWの粒径分布を表す
図6の挿入チャートを参照のこと)をM17グラファイト402上に有する複合材料M3を示す。
【0262】
(実施例4:複合材料M3(M4)の成形)
a)粉砕
超遠心ミル装置ZM200に、10gの複合材料M3を投入した。この材料を6000rpmで粉砕し、カセットパンで瞬時に回収した。最後に、この粉末を250μmで篩分けした。
【0263】
b)圧密化
次に、粉砕後の材料を約7t/cm2でカレンダー処理した。ペレットを回収し、乳鉢で細かく粉砕した。最終的にこの粉末を回収し、複合材料M4を得た。
【0264】
c)
図7の説明
図7に、SiNW501およびM17グラファイト502からなる複合材料M4を示す。M3の観察結果に比べて、SiNW501はM17グラファイト502の表面上にはあまり見受けられない。このことは、SiNWが複合材料の芯部において、グラファイトのフレーク間に存在している確率が極めて高いことを表している。本成形過程により、黒色の破線503で示すように平均粒径15μmの二次粒子が形成される。
【0265】
(実施例5:リチウム電池用電極の作製)
作製した(実施例1、実施例2、実施例3、実施例4として各々提示した)材料M1,M2,M3,M4のいずれかを負極活物質としたコイン電池を作製することにより、各材料の電気化学的特性の評価を行った。
【0266】
a)導電性フィラーとの混合
得られた複合材料を出発材料として、分散チューブST-20を使ったIKA(登録商標)社製のUltra-Turrax分散機により、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粉砕ボールでグラファイト粉末と混合した。分散機には、複合材料と前記グラファイトを38:62の重量比で投入した。直径3mmのYSZボール(12g)を、回転数=7.5で10分間使用した。
最後に、混合した材料を回収し、さらなる処理又は特性評価に供した。
【0267】
b)コイン電池の作製
合成した材料とグラファイト粉末(イメリス社製のActilion GHDR-15-4)を前述のようにおよそ38:62の比率で混合し、電極活物質を形成した。活物質:C65:バインダの重量比は、95:1:4とする。各系に対し、カーボンブラック(1重量%)を導電性添加剤として添加し、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na-CMC)(2重量%)溶液とスチレンブタジエンゴム(SBR)(2重量%)とをバインダとして使用した。純水を溶剤として使った。水を加えて、電極加工が可能な粘度(乾燥分:約40重量%)にする。30分間、回転数=5で各材料の湿式混合を行った。ドクターブレードを使って、20μm銅箔上に各電極インキをキャストした。部分的に空気乾燥させた後、該電極を65℃のオーブンで1時間さらに乾燥させた。その後、電極を直径14mmの円盤状に切断し、約0.6t/cm2でカレンダー加工して秤量し、最後に110℃の真空中で一晩乾燥させた。
【0268】
Arグローブボックス内で、金属Liを対極及び参照電極に使用するハーフコイン電池(株式会社兼松KGK(登録商標):ステンレス鋼316L)を、Whatmanガラス繊維の層、Celgard2325セパレータの層、および評価対象の電極を用いて作製した。電極及びセパレータの素材には、ソルビオニック(Solvionic(登録商標))社から購入した電解液を含浸させた。電解液の組成は、10重量%FEC(フルオロエチレンカーボネート)及び2重量%VC(ビニレンカーボネート)を添加したEC:DEC(v/v=1/1)にLiPF6(1M)を溶解させたものである。その後、自動プレスで電池を封止し、グローブボックスから取り出して充放電評価装置で測定した。1Cレートによる通常の充放電サイクルの前に、7回の形成サイクルを実施した。該形成サイクルは、定電流定電圧放電(リチウム挿入)・定電流充電(リチウム脱離)による、C/7の2サイクルおよびC/5の5サイクルからなる。その後、1Cによる充放電サイクルを、内容を変えずに22サイクル実施した。
【0269】
c)電気化学的性能の測定
各自2つの異なる電極からなる8種類の方式が可能なバイオロジック(Biologic)社製BCS-805充放電測定システムを用いた定電流充放電サイクルにより、電池の性能を測定する。
【0270】
1.電位プロファイル
図8及び
図9に、C/7の2回目のサイクル(2番目の形成サイクル)での記録で電池C1,C2,C3,C4(材料M1,M2,M3,M4)からそれぞれ得られた電位プロファイルを示す。複合材料M1,M2,M3,M4から得られた各電池の電位プロファイルから、いずれの複合材料も、グラファイト物質とシリコン物質の電気化学的活性が相加して電気的・電気化学的に活性を示すことが分かる。グラファイト由来の応答は、リチウム挿入(放電)時やリチウム脱離(充電)時に0.3V未満のみで測定される。リチウム脱離(充電)プロファイルを確認すると、Siの電気化学的活性は0.1~0.8Vに広がっている。SiイオンとLiイオンは、その反応機序から、リチウム挿入後に立方晶Li
15Si
4相を最終的に形成するため、リチウム脱離(充電)時には、充電(リチウム脱離)中の0.45V付近で、はっきりとした特徴的な屈曲部/平坦部を伴う。このような平坦部は、M1からM2への材料成形を経ることで、また、M3からM4への材料成形を経ることで歴然となる。このことは、材料の成形によってSiナノ材料の電気化学的活性が妨げられたり低下したりしないことを実証している。
【0271】
2.可逆容量
図10及び
図11に、1Cによる充放電サイクル時の記録で電池C1,C2,C3,C4(材料M1,M2,M3,M4)からそれぞれ得られた可逆容量を示す。サイクル寿命曲線同士は、形状及び傾きが極めて類似していることから、材料を成形しても、材料の性能に悪影響が生じないことが分かる。これらの曲線から、サイクルnの容量をサイクルn-1の容量で割った比率である後述のCRの値を導き出すと、成形工程f)によって材料の耐久性が低下しないことがさらに裏付けられる。
【0272】
3.初期可逆容量(ICE)、クーロン効率(CE)および容量維持率(CR)の値
それぞれ材料M1,M2,M3,M4による電池C1,C2,C3,C4について、C/7による充放電サイクル時に、かつ、その後のC/5や1Cによる充放電サイクル時の該電池の電位を容量の関数として測定することにより、それらの電位プロファイルを得た。表1に、C/7の1回目のサイクルの測定から導き出した初期可逆容量とクーロン効率、さらに、1Cによる充放電サイクル時に得られたCEとCRの値を示す。
【0273】
【0274】
複合材料M2から作製した電池C2の初期容量(847mA.h/g)は、複合材料M1から作製した電池C1(799mA.h/g)よりも高い。したがって、複合材料M2の活性シリコン量は、M1よりも僅かに高い。このことは、M1よりもM2のほうが、Si材料とグラファイト材料との間の物理的接触が優れていることに起因し得る。さらに、C1とC2とを比較すると、サイクル10、サイクル20の平均クーロン効率(それぞれ99.21/99.18%、99.50/99.51%)が約0.3%上昇しており、サイクル10、サイクル20の平均容量維持率が約99.9%(それぞれ99.92/99.87%、99.88/99.91%)とほぼ同じであることが分かる。まとめると、CEの結果から、複合材料M1に成形過程を適用して複合材料M2とすることでグラファイトのフレーク間にシリコンが挿入されてシリコンの表面保護と安定性が向上するとともに、CRの結果から、充放電サイクルを何度実施してもシリコンナノ構造材料の機械的耐久性が維持されるということが分かる。
【0275】
複合材料M4から作製した電池C4の初期容量(805mA.h/g)は、複合材料M3から作製した電池C3(761mA.h/g)よりも高い。したがって、複合材料M4の活性シリコン量は、M3よりも僅かに高い。このことは、M3よりもM4のほうが、Si材料とグラファイト材料との間の物理的接触が優れていることに起因し得る。さらに、C3とC4とを比較すると、10サイクル、20サイクルの平均クーロン効率(それぞれ99.20/99.22%、99.47/99.47%)が約0.25%上昇しており、20サイクルの容量維持率(それぞれ99.77/99.78、99.76/99.83)が僅かに向上していることが分かる。まとめると、以上の結果から、複合材料M3に成形過程を適用して複合材料M4とすることでグラファイトのフレーク間にSiが挿入されてSiの表面保護と安定性が向上するとともに、CRの結果から、充放電サイクルを何度実施してもシリコンナノ物体材料の機械的耐久性が維持されるということが分かる。
【0276】
また、限られたLi容量の正極(例えば、NMC622等)を具備するフルセルでは、CEが増加することでLiの消費が抑えられるため、成形後の材料M2,M4を具備する完全なセル電池のサイクル寿命は、未成形の材料に基づく電池よりも優れたものになる。
【0277】
なお、負極材料のCEは、リチウムイオン電池の長期的なサイクル性を可能にするうえで重要なパラメータである。CEn=容量維持率という式(式中、nはサイクル数であり、CEは負極単独のクーロン損失を説明する)を用いると、限られた容量の正極材料(例えば、NMC622等)を使用したフルセルにCE=99%の負極を設置した場合の負極の損失を想定すると、100サイクル後の残存容量にして37%となる。同様に、より優れた99.5%のCEを有する負極では、フルセルでの50サイクル後の容量維持率が約60%となり、負極のCEを99.9%までさらに高めた場合には、フルセルでの容量維持率が90%になると推定される。したがって、優れたCEの負極材料を設計することが肝要である。
【符号の説明】
【0278】
101,201,301,401 SiNW
102、202、302 BNB-90グラファイト
203 錫粒子
303 複合材料粒子
【国際調査報告】