(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】シヌクレイノパチーの予防及び治療のための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240918BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240918BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240918BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240918BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240918BHJP
A61P 1/06 20060101ALI20240918BHJP
A61P 1/08 20060101ALI20240918BHJP
A61P 1/10 20060101ALI20240918BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20240918BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240918BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240918BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240918BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240918BHJP
C07K 14/46 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K48/00
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P25/00
A61P1/00
A61P1/06
A61P1/08
A61P1/10
A61P1/14
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/20
A61P25/24
C07K14/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514038
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(85)【翻訳文提出日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 US2022075836
(87)【国際公開番号】W WO2023034914
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524078033
【氏名又は名称】ヴァクシニティ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ドダート, ジーン-コスメ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA021
4C084ZA051
4C084ZA121
4C084ZA151
4C084ZA661
4C084ZA691
4C084ZA711
4C084ZA721
4C084ZA731
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA11
4H045BA17
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、シヌクレイノパチーを予防及び治療するための方法及び組成物を提供する。一態様では、本発明は、必要とする対象におけるシヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症を予防、軽減、抑制、または遅延させる方法を提供し、この方法は、α-シヌクレイン(α-syn)を標的とする有効量の免疫療法を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態では、シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状は、筋硬直、動作緩慢、安静時振戦、及び姿勢の不安定性からなる群から選択される。別の態様では、本発明は、必要とする対象におけるシヌクレイノパチーの1つ以上の胃腸症状を治療、予防、軽減、または抑制する方法を提供し、この方法は、α-synを標的とする有効量の免疫療法を対象に投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症の予防、軽減、抑制、または遅延を必要とする対象における、シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症の予防、軽減、抑制、または遅延方法であって、前記方法が、α-シヌクレイン(α-syn)を標的とする有効量の免疫療法を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状が、筋硬直、動作緩慢、安静時振戦、及び姿勢の不安定性からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シヌクレイノパチーの1つ以上の胃腸症状の治療、予防、軽減、または抑制を必要とする対象における、シヌクレイノパチーの1つ以上の胃腸症状の治療、予防、軽減、または抑制方法であって、前記方法が、α-synを標的とする有効量の免疫療法を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項4】
前記1つ以上の胃腸症状が、流涎症、唾液分泌過多、嚥下障害、悪心、嘔吐、消化不良、便秘、腹痛、胃不全麻痺、及び糞便失禁からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記胃腸症状が、前記対象の結腸で生じる、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
胃腸管(例えば、結腸)のα-synレベルの低下を必要とする対象における、胃腸管(例えば、結腸)のα-synレベルの低下方法であって、前記方法が、α-synを標的とする有効量の免疫療法を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項7】
前記対象が、シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状を有しないか、またはシヌクレイノパチーの最小限の運動症状のみを示す、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象が、筋硬直、動作緩慢、安静時振戦、及び姿勢の不安定性からなる群から選択されるシヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状を有しない、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記対象が、初期の前駆段階のシヌクレイノパチーを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
対象におけるα-synに対する免疫応答の誘導、対象におけるα-syn凝集の阻害、または対象におけるα-syn凝集体の量の低減の方法であって、前記方法が、α-synを標的とする有効量の免疫療法を前記対象に投与することを含み、前記対象が、初期の前駆段階のシヌクレイノパチーを有する、前記方法。
【請求項11】
前記シヌクレイノパチーが、パーキンソン病(PD)、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、神経軸索ジストロフィー、及び純粋自律神経失調症(PAF)からなる群から選択される、請求項1~6または10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫療法が、ペプチド、タンパク質(例えば、抗体)、ペプチドもしくはタンパク質(例えば、抗体)のフラグメントもしくは融合体、または前記分子のうちの1つをコードする核酸分子(例えば、ベクター内のmRNAもしくは核酸)を含む、請求項1~6または10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記免疫療法が、ペプチド免疫原コンストラクトを含む、請求項1~6または10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチド免疫原コンストラクトが、B細胞エピトープ、異種T細胞エピトープ、及び任意選択のリンカーを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記B細胞エピトープが、α-synに対する免疫応答を誘導する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記B細胞エピトープが、α-synタンパク質のC末端領域のペプチドを含み、前記ペプチドが、任意選択で約10~約25アミノ酸長である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記α-synタンパク質が、配列番号1の配列を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記B細胞エピトープが、表1の配列から選択されるペプチド(例えば、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、及び69のいずれか1つ)を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記異種T細胞エピトープが、病原性タンパク質に由来する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記異種T細胞エピトープが、表2の配列から選択される配列を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記ペプチドが、前記B細胞エピトープと前記T細胞エピトープとの間に異種スペーサーまたはリンカーを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記異種スペーサーまたはリンカーが、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、及びε-N-Lys-Lys-Lys-Lys、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記B細胞エピトープが、前記T細胞エピトープのN末端側に位置する、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
前記T細胞エピトープが、前記B細胞エピトープのN末端側に位置する、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
前記ペプチド免疫原コンストラクトが、表3の配列から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項26】
前記ペプチド免疫原コンストラクトが、
(a)配列番号1のアミノ酸G111付近~アミノ酸D135付近に対応する、α-SynのC末端フラグメント由来の約10~約25個のアミノ酸残基を含むB細胞エピトープ、
(b)配列番号70~98からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むTヘルパーエピトープ、及び
(c)アミノ酸、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、及びε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号148)、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される任意選択の異種スペーサー、
を含み、
前記B細胞エピトープが、直接的に、または前記任意選択の異種スペーサーを介して、前記Tヘルパーエピトープに共有結合されている、請求項13に記載の方法。
【請求項27】
前記B細胞エピトープが、配列番号12~15、17、及び49~63からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、及び98からなる群から選択され、例えば、配列番号81、83、及び84のいずれか1つから選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記任意選択の異種スペーサーが、(α,ε-N)Lysまたはε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号148)である、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記Tヘルパーエピトープが、前記B細胞エピトープのアミノ末端に共有結合されている、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記Tヘルパーエピトープが、前記任意選択の異種スペーサーを介して前記B細胞エピトープのアミノ末端に共有結合されている、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記ペプチド免疫原コンストラクトが、以下の式:
(Th)
m-(A)
n-(α-Syn C末端フラグメント)-X
または
(α-Syn C末端フラグメント)-(A)
n-(Th)
m-X
を含み、式中、
Thが前記Tヘルパーエピトープであり、
Aが前記異種スペーサーであり、
(α-Syn C-末端フラグメント)が前記B細胞エピトープであり、
Xが、アミノ酸のα-COOHまたはα-CONH2であり、
mが1~約4であり、
nが1~約10である、
請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記ペプチド免疫原コンストラクトが、配列番号107、108、111~113、及び115~147からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記ペプチド免疫原コンストラクトが、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)との安定化された免疫刺激複合体内にある、請求項13に記載の方法。
【請求項35】
前記免疫療法が、複数の免疫療法、例えば、複数のペプチド免疫原コンストラクトを任意選択で含む組成物中に含まれる、請求項1~6または10に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物が、配列番号112及び113のアミノ酸配列を含むペプチド免疫原コンストラクトを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物が、前記免疫療法(複数可)ならびに薬学的に許容される送達ビヒクル及び/またはアジュバントを含む医薬組成物である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物が、任意選択でAl(OH)
3及びAlPO
4からなる群から選択されるアルミニウムの無機塩を含むアジュバントを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
(a)前記ペプチド免疫原コンストラクトが、配列番号99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、及び147からなる群、例えば、配列番号107、108、111~113、及び115~147からなる群から選択され、
(b)前記組成物が、Al(OH)
3及びAlPO
4からなる群から選択されるアルミニウムの無機塩であるアジュバントを含む、
請求項37に記載の方法。
【請求項40】
(a)前記ペプチド免疫原コンストラクトが、配列番号99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、及び147からなる群、例えば、配列番号107、108、111~113、及び115~147からなる群から選択され、
(b)前記ペプチド免疫原コンストラクトが、CpG ODNとの安定化された免疫刺激複合体の形態である、
請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記免疫療法が、請求項13~40のいずれか1項に記載のペプチド免疫原コンストラクトの前記B細胞エピトープ、配列番号1のB細胞エピトープ(例えば、配列番号1のC末端領域)、または表1のペプチド(例えば、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、及び69のいずれか1つ)に特異的に結合する抗体またはそのエピトープ結合フラグメントを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項42】
2つ以上、3つ以上、4つ以上、または5つ以上の免疫療法の使用を含む、請求項1~6または10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記対象が、急速眼球運動(REM)睡眠行動障害(RBD)と診断される、請求項1~6または10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記対象が、嗅覚低下、REM睡眠行動障害、日中の過剰な眠気、うつ病、認知症状、自律神経系機能不全、嗅覚喪失、色覚低下、定量的運動試験の低下、黒質神経画像の異常所見、または、例えば本明細書に記載されるような他の前駆症状の1つ以上を有する、請求項1~6または10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記対象が、任意のまたは任意の有意な運動緩慢、硬直、及び/または振戦、または前駆段階ではないシヌクレイノパチーの他の症状を有しない、請求項1~6または10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記免疫療法が、配列番号112を含むか、またはそれからなるペプチド免疫原コンストラクトを含むか、またはそれからなる、請求項1~6または10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
請求項1~6または10のいずれか1項に記載の方法のいずれか1つを実施する際に使用するための組成物またはキット。
【請求項48】
シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症を治療、予防、抑制、軽減、または遅延させることを必要とする対象において、シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症を治療、予防、抑制、軽減、または遅延させるための薬剤の調製における、本明細書に記載のペプチド免疫原コンストラクトまたは組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、XML形式で電子的に提出された配列表を含み、参照によりその全体が本明細書に援用される。2022年8月31日に作成された前記XMLコピーは、51615-002WO2_Sequence_Listing_8_31_22_と名付けられ、サイズが272,021バイトである。
【0002】
本開示は、シヌクレイノパチーの予防方法及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
シヌクレイノパチーは、脳内のα-シヌクレイン(α-syn)の蓄積を特徴とする慢性進行性神経変性疾患である。シヌクレイノパチーには、パーキンソン病(PD)、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)、レビー小体型認知症(DLB)、及び多系統萎縮症(MSA)が含まれる(Outeiro et al.,Mol.Neurodegener.14(1):5,2019)。これらの疾患にはいくつかの治療オプションが利用可能であるが、それらは症候性緩和を提供するのみであり、根底にある病理を直接標的としない。現在の加齢集団では、PD及びDLB症例が増加しており、これは、神経変性の進行を予防または遅延させることができる療法を開発するための緊急の必要性を強調している。
【0004】
α-Synは、主に細胞内タンパク質である。しかしながら、多くの研究は、細胞外のα-synもまた、疾患において役割を果たし、ニューロン間のα-synの伝播に関与することを示している。α-Synは、脳脊髄液(CSF)中及び脳実質の間質液(ISF)中で検出することができる(Emmanouilidou et al.,PLoS One 6(7):e22225,2011)。α-Synは、主に、エキソサイトーシスによって細胞から分泌される(Lee et al.,J.Neurosci.25(25):6016-6024,2005)か、または細胞溶解及び細胞死により、細胞外空間に直接放出される。隣接する細胞によるタンパク質の内在化は、タンパク質凝集体の形成をもたらし、これは、解剖学的につながった脳領域への疾患の伝播をもたらし得る(Danzer et al.,Mol.Neurodegener.7:42,2012;Lee et al.,J.Biol.Chem.285:9262-9272,2010)。この機構は細胞培養研究で実証されており、CSF中に認められる濃度(0.1ng/ml)と同等の濃度でα-synの前形成原線維を初代神経細胞培養物に添加すると、内在性α-synによるLB様封入体の形成が誘導された。これは、単量体のα-synでは起こらなかったが、これは、PDにおいてオリゴマー及び線維化α-syn種が毒性種であることと一致する(Volpicelli-Daley et al.,Neuron 72:57-71,2011)。
【0005】
PDの診断は、動作緩慢、硬直、及び振戦の症状を含む、運動機能の特徴的な変化の観察を含む。PDでは、最長で20年間、運動症状より非運動機能障害または自律神経機能障害が先行するのが一般的である(Yu et al.,Scientific Reports 8(1):567,2018;Postuma et al.,Nat.Rev.Neurol.12(11)622-634,2016;Durcan et al.,Eur.J.Neurol.26(7):979-985,2019)。PDの最も一般的な非運動機能の1つは、胃腸(GI)の機能不全である(Fasano et al.,The Lancet Neurology 14(6):625-639,2015;Noyce et al.,Annals of Neurology 72(6):893-901,2012)。PD疾患を発症する患者に関する多数の独立した集団ベースの縦断的研究では、PD患者の50%超がGIの機能不全を患っていることが示されている(Mukhtar et al.,BMJ Open 8(5):e019172,2018)。運動症状の発症に先行するPDのさらなる特徴としては、例えば、嗅覚低下、レム睡眠行動障害、日中の過剰な眠気、うつ病、認知症状、及び自律神経系機能不全(Crosiers et al.,Front.Neurol.Doi.org/10.3389/fneur.2020634490,2021)、ならびに嗅覚喪失、色覚低下、定量的運動試験の低下、及び黒質神経画像の異常所見が挙げられる。
運動前症状の軽減、及び運動症状の発症の遅延、軽減、または予防を目的として、PDなどのシヌクレイノパチーの初期の運動前症状を治療するためのアプローチが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Outeiro et al.,Mol.Neurodegener.14(1):5,2019
【非特許文献2】Emmanouilidou et al.,PLoS One 6(7):e22225,2011
【非特許文献3】Lee et al.,J.Neurosci.25(25):6016-6024,2005
【非特許文献4】Danzer et al.,Mol.Neurodegener.7:42,2012
【非特許文献5】Lee et al.,J.Biol.Chem.285:9262-9272,2010
【非特許文献6】Volpicelli-Daley et al.,Neuron 72:57-71,2011
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、必要とする対象におけるシヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症を予防、軽減、抑制、または遅延させる方法を提供し、この方法は、α-シヌクレイン(α-syn)を標的とする有効量の免疫療法を対象に投与することを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状は、筋硬直、動作緩慢、安静時振戦、及び姿勢の不安定性からなる群から選択される。
【0009】
別の態様では、本発明は、必要とする対象におけるシヌクレイノパチーの1つ以上の胃腸症状を治療、予防、軽減、または抑制する方法を提供し、この方法は、α-synを標的とする有効量の免疫療法を対象に投与することを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、1つ以上の胃腸症状は、流涎症、唾液分泌過多、嚥下障害、悪心、嘔吐、消化不良、便秘、腹痛、胃不全麻痺、及び糞便失禁からなる群から選択される。
【0011】
いくつかの実施形態では、胃腸症状は、対象の結腸において生じる。
【0012】
別の態様では、本発明は、必要とする対象における胃腸管(例えば、結腸)のα-synレベルの低下方法を提供し、この方法は、α-synを標的とする有効量の免疫療法を対象に投与することを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、対象は、シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状を有しないか、またはシヌクレイノパチーの最小限の運動症状のみを示す。
【0014】
いくつかの実施形態では、対象は、筋硬直、動作緩慢、安静時振戦、及び姿勢の不安定性からなる群から選択されるシヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状を有しない。
【0015】
いくつかの実施形態では、対象は、初期の前駆段階のシヌクレイノパチーを患っている。
【0016】
別の態様では、本発明は、対象におけるα-synに対する免疫応答の誘導方法、対象におけるα-syn凝集の阻害方法、または対象におけるα-syn凝集体の量の低減方法を提供し、この方法は、α-synを標的とする有効量の免疫療法を対象に投与することを含み、対象は、初期の前駆段階のシヌクレイノパチーを有する。
【0017】
いくつかの実施形態では、シヌクレイノパチーは、パーキンソン病(PD)、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、神経軸索ジストロフィー、及び純粋自律神経失調症(PAF)からなる群から選択される。
【0018】
いくつかの実施形態では、免疫療法は、ペプチド、タンパク質(例えば、抗体)、ペプチドもしくはタンパク質(例えば、抗体)のフラグメントもしくは融合体、またはこれらの分子のうちの1つをコードする核酸分子(例えば、ベクター内のmRNAもしくは核酸)を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、免疫療法は、ペプチド免疫原コンストラクトを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原コンストラクトは、B細胞エピトープ、異種T細胞エピトープ、及び任意選択のリンカーを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、B細胞エピトープは、例えば、ペプチド免疫原コンストラクト内に存在する場合、α-synに対する免疫応答を誘導する。
【0022】
いくつかの実施形態では、B細胞エピトープは、α-synタンパク質のC末端領域のペプチドを含み、このペプチドは、任意選択で、約10~約25アミノ酸長である。
【0023】
いくつかの実施形態では、α-synタンパク質は、配列番号1の配列を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、B細胞エピトープは、表1の配列から選択されるペプチド(例えば、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、または69のうちのいずれか1つのペプチド)を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、異種T細胞エピトープは、病原性タンパク質由来である。
【0026】
いくつかの実施形態では、異種T細胞エピトープは、表2の配列(例えば、配列番号70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、及び98のうちのいずれか1つの配列)から選択される配列を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、ペプチドは、B細胞エピトープとT細胞エピトープとの間に異種スペーサーまたはリンカーを含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、異種スペーサーまたはリンカーは、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、及びε-N-Lys-Lys-Lys-Lysからなる群から選択される。
【0029】
いくつかの実施形態では、B細胞エピトープは、T細胞エピトープのN末端側に位置する。
【0030】
いくつかの実施形態では、T細胞エピトープは、B細胞エピトープのN末端側に位置する。
【0031】
いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原コンストラクトは、表3の配列(例えば、配列番号99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、及び147のうちのいずれか1つのコンストラクト)から選択される。
【0032】
いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原コンストラクトは、(a)配列番号1のアミノ酸G111付近~アミノ酸D135付近に対応するα-SynのC末端フラグメントからの約10~約25アミノ酸残基を含むB細胞エピトープ、(b)配列番号70~98からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むTヘルパーエピトープ、(c)アミノ酸Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、及びε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号148)からなる群から選択される任意選択の異種スペーサーを含み、B細胞エピトープは、Tヘルパーエピトープに直接または任意選択の異種スペーサーを介して共有結合されている。
【0033】
いくつかの実施形態では、B細胞エピトープは、配列番号12~15、17、及び49~63からなる群から選択される。
【0034】
いくつかの実施形態では、Tヘルパーエピトープは、配列番号70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、及び98からなる群から選択され、例えば、配列番号81、83、及び84からなる群から選択される。
【0035】
いくつかの実施形態では、任意選択の異種スペーサーは、(α,ε-N)Lysまたはε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号148)である。
【0036】
いくつかの実施形態では、Tヘルパーエピトープを、B細胞エピトープのアミノ末端に共有結合させる。
【0037】
いくつかの実施形態では、Tヘルパーエピトープを、任意選択の異種スペーサーを介してB細胞エピトープのアミノ末端に共有結合させる。
【0038】
いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原コンストラクトは、以下の式:(Th)m-(A)n-(α-Syn C末端フラグメント)-Xまたは(α-Syn C末端フラグメント)-(A)n-(Th)m-Xを含み、式中、ThはTヘルパーエピトープであり、Aは異種スペーサーであり、(α-Syn C末端フラグメント)は、B細胞エピトープであり、Xは、アミノ酸のα-COOHまたはα-CONH2であり、mは1~約4であり、nは1~約10である。
【0039】
いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原コンストラクトは、配列番号107、108、111~113、及び115~147からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原コンストラクトは、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)との安定化された免疫刺激複合体内にある。
【0041】
いくつかの実施形態では、免疫療法は、複数の免疫療法、例えば、複数のペプチド免疫原コンストラクトを任意選択で含む組成物中に含まれる。
【0042】
いくつかの実施形態では、組成物は、配列番号112及び113のアミノ酸配列を含むペプチド免疫原コンストラクトを含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、組成物は、免疫療法(複数可)ならびに薬学的に許容される送達ビヒクル及び/またはアジュバントを含む医薬組成物である。
【0044】
いくつかの実施形態では、組成物は、任意選択でAl(OH)3及びAlPO4からなる群から選択されるアルミニウムの無機塩を含むアジュバントを含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、(a)ペプチド免疫原コンストラクトは、配列番号99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、及び147からなる群から選択され、例えば、配列番号107、108、111~113、及び115~147からなる群から選択され、(b)組成物は、Al(OH)3及びAlPO4からなる群から選択されるアルミニウムの無機塩であるアジュバントを含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、(a)ペプチド免疫原コンストラクトは、配列番号99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、及び147からなる群から選択され、例えば、配列番号107、108、111~113、及び115~147からなる群から選択され、(b)ペプチド免疫原コンストラクトは、CpG ODNとの安定化された免疫刺激複合体の形態である。
【0047】
いくつかの実施形態では、免疫療法は、本明細書に記載のペプチド免疫原コンストラクトのB細胞エピトープに特異的に結合する抗体またはそのエピトープ結合フラグメント(例えば、配列番号99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、及び147を参照のこと)、配列番号1のB細胞エピトープ(例えば、配列番号1のC末端領域)、または表1のペプチド(例えば、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、及び69のうちのいずれか1つ)を含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、本方法は、2つ以上、3つ以上、4つ以上、または5つ以上の免疫療法の使用を含む。
【0049】
いくつかの実施形態では、対象は、急速眼球運動(REM)睡眠行動障害(RBD)を有すると診断される。
【0050】
いくつかの実施形態では、対象は、嗅覚低下、REM睡眠行動障害、日中の過剰な眠気、うつ病、認知症状、自律神経系機能不全、嗅覚喪失、色覚低下、定量的運動試験の低下、黒質神経画像の異常所見、または例えば本明細書に記載されるような他の前駆症状の1つ以上を有する。
【0051】
いくつかの実施形態では、対象は、任意のまたは任意の有意な運動緩慢、硬直、及び/または振戦、または前駆段階ではないシヌクレイノパチーの他の症状を有しない。
【0052】
いくつかの実施形態では、免疫療法は、配列番号112を含むか、またはそれからなるペプチド免疫原コンストラクトを含むか、またはそれからなる。
【0053】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の方法のいずれか1つを実施する際に使用するための組成物またはキットを提供する。
【0054】
他の態様では、本発明は、本明細書に記載の1つ以上の疾患もしくは病態、またはその1つ以上の症状の治療、阻害、予防、改善、軽減、抑制、または発症の遅延に使用するための、本明細書に記載の組成物を提供する。
【0055】
他の態様では、本発明は、本明細書に記載の1つ以上の疾患もしくは病態、またはその1つ以上の症状の治療、阻害、低減、予防、改善、軽減、抑制、または発症の遅延のための薬剤を製造するための、本明細書に記載の1つ以上の組成物の使用を提供する。
【0056】
他の態様では、本発明は、本明細書に記載の方法のいずれかを実施するための薬剤の調製に使用するための、本明細書に記載の組成物またはキットを提供する。
【0057】
他の態様では、本発明は、本明細書に記載の1つ以上の疾患または病態の治療、阻害、低減、予防、改善、軽減、抑制、または発症の遅延に使用するための、本明細書に記載の組成物及びキットの製造方法を提供し、この方法は、例えば、その成分を混合することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】免疫化レジームの概略図。10週齢のThy1SNCA/15マウス及び野生型対照に、UB312またはアジュバントのいずれかを、3週間間隔で筋肉内注射により投与した。各注射の前、10週目及び15週目(最終時点)に、抗体価分析のために血液試料を採取した。行動試験を、免疫療法の開始前及び15週間の試験期間の終了時に行った。
【
図2】抗体価分析。10週齢のThy1SNCA/15マウス及び野生型同腹仔に、3週間間隔でUB312またはアジュバントのいずれかを3回の筋肉内注射により投与した。各注射の前、9週目及び15週目(最終時点)に血液試料を採取し、採取した血清の各々について抗体価を測定した。データ点は、平均±95%CIを表す。
【
図3】行動分析。10週齢のThy1SNCA/15マウス及び野生型同腹仔を、免疫化の前(免疫化前)及び最初の注射の15週間後(免疫化後)に、3つの異なる運動性能試験に供した。これらには、チャレンジング梁横断試験、ポール試験、及びワイヤーハンギング試験が含まれていた。バーは、平均±95%CIを表す。
【
図4】α-synの免疫組織化学。α-Syn免疫反応性を、UB312(n=12)またはアジュバント(n=11)を投与したThy1SNCA/15マウスの皮質、海馬、線条体、及び黒質において定量した。両側T検定では、処置群間のα-syn免疫反応性の平均面積百分率に差は示されなかった。細胞核の可視化にはDAPIを使用した。スケールバー:50μm。
【
図5】α-synオリゴマーのウエスタンブロット分析。UB312(n=14)またはアジュバント(n=16)を投与したThy1SNCA/15マウスの皮質、線条体、及び海馬由来の脳ホモジネート中のα-Syn集合体を、非変性ウエスタンブロットによって分離した。オリゴマー及び単量体の免疫反応性バンドの定量では、UB312処理によるα-synオリゴマーの有意な減少が示されたが、単量体では減少は示されなかった。バーは、平均±95%CIを表す。
【
図6】ミクログリアの免疫組織化学。UB312(n=11)もしくはアジュバント(n=9)を投与したThy1SNCA/15マウスまたはアジュバント(n=8)を投与した野生型同腹仔の皮質、海馬、線条体、及び黒質において、Iba1免疫反応性を定量した。ボンフェローニ補正を用いた一元配置分散分析では、黒質におけるIba1の平均面積百分率の有意な増加が示された。バーは、平均±95%CIを表す。
【
図7】星状細胞についての免疫組織化学。UB312(n=11)もしくはアジュバント(n=9)を投与したThy1SNCA/15マウスまたはアジュバント(n=8)を投与した野生型同腹仔の皮質、海馬、線条体、及び黒質において、GFAP免疫反応性を定量した。一元配置分散分析では、各脳領域における処置群間に差異は示されなかった。バーは、平均±95%CIを表す。
【
図8】内皮活性化及びT細胞浸潤についての免疫組織化学。UB312(n=11)もしくはアジュバント(n=9)を投与したThy1SNCA/15マウスまたはアジュバント(n=8)を投与した野生型同腹仔の皮質、海馬、線条体、及び黒質において、ICAM1免疫反応性を定量した。一元配置分散分析では、各脳領域における処置群間に差異は示されなかった。全脳切片において、CD3+T細胞を計数した。バーは、平均±95%CIを表す。
【
図9】胃腸管におけるα-syn及び腸内グリア細胞(EGC)活性化の免疫組織化学。免疫蛍光は、DAPI対比染色を伴う十二指腸及び結腸の筋肉内(矢印)のα-syn免疫反応性を示す。両側t検定では、Thy1SNCA/15マウスにおけるアジュバントと比較して、UB312免疫療法後の結腸筋層におけるα-synの平均面積百分率の有意な減少が示された。EGC反応性を、筋層神経節内のGFAP免疫反応性を定量することによって測定した。一元配置分散分析では、アジュバント、またはアジュバントを投与した野生型同腹仔と比較した場合、UB312を投与したThy1SNCA/15マウスの結腸におけるGFAPの平均面積百分率の有意な減少が示された。α-synまたはGFAP発現レベルに対する十二指腸におけるUB312免疫療法の効果はなかった。バーは、平均±95%CIを表す。
【
図10】ウエスタンブロット分析のための抗体濃度の最適化。Aは、α-syn(MJFR1)及び総タンパク質(Revert,Licor)の線形範囲の決定を示す。脳ホモジネートを、12%非変性ゲル中にタンパク質1~50μgの漸増濃度でロードした。α-syn免疫反応性バンド及び総タンパク質の定量を右に示す。Bは、線維化させた後(左)と比較した、自家合成されたα-synモノマー(右)の透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。単量体α-synを、ウエスタンブロット分析のための分子量マーカーとして使用した。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本開示は、α-シヌクレイン(α-syn)に対する免疫療法を用いて、シヌクレイノパチーに特徴的な運動症状の発症または初期発生を予防または低減し、ならびに胃腸管内のα-synレベルを低減することができるという発見に部分的に基づく。
【0060】
したがって、本開示は、α-synを標的とする免疫療法を使用することによって、それを必要とする対象におけるシヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症を予防または低減する方法に関する。本開示はまた、そのようなアプローチを用いて、シヌクレイノパチーの1つ以上の胃腸症状または無症候性胃腸疾患を治療、予防、低減、または抑制する方法に関する。さらに、本開示は、そのようなアプローチを使用して、必要とする対象の胃腸管内のα-synのレベルを低下させる方法に関する。利点として、いくつかの実施形態では、本開示の方法は、シヌクレイノパチーの発症が初期段階にある対象を治療するために使用することができ、これにより、疾患の発症を抑制または遅延させるための実質的な有益性を提供することができ、生活の質が向上し、健康な期間を延ばすことができる。
【0061】
本明細書で使用される分子及び組成物を含む、本開示の方法を、以下の例示的な方法に記載する。
【0062】
本明細書に使用される節の見出しは、構成目的のものに過ぎず、記載される主題を限定すると解釈されるものではない。本出願で引用されるすべての参考文献または参考文献の一部は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に明示的に組み込まれる。
【0063】
別途示されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明の所属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。「a」、「an」、及び「the」という単数形の用語には、文脈が他を明確に示さない限り、複数の指示対象が含まれる。同様に、「または」という単語は、文脈で明確に示されていない限り、「及び」を含むことを意図している。したがって、「AまたはBを含むこと」とは、AもしくはB、またはA及びBを含むことを意味する。さらに、ポリペプチドに与えられた全てのアミノ酸サイズ、及び全ての分子量または分子質量値が近似であり、説明のために提供されていることを理解されたい。本明細書において記載されているものと類似または同等の方法及び物質を開示される方法の実施または試験において使用することができるが、適切な方法及び物質を以下に記載する。
【0064】
本明細書において言及される全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。矛盾する場合、用語の説明を含む本明細書が優位となるであろう。更に、物質、方法、及び例は、例示にすぎず、限定を意図しない。
【0065】
免疫治療薬及び組成物
本開示の方法は、例えば、1つ以上のペプチド、タンパク質(例えば、抗体)、ペプチドもしくはタンパク質(例えば、抗体)のフラグメントもしくは融合体、または前記分子のうちの1つをコードする核酸分子(例えば、ウイルスベクター中のmRNAまたは核酸)の使用を含み得、その分子はα-synに対するものである。
【0066】
ペプチド
いくつかの実施形態では、本開示の方法は、異種Tヘルパー細胞(Th)エピトープに直接または任意の異種スペーサーを介して連結されたα-syn由来のB細胞エピトープを含むペプチド免疫原コンストラクトを使用する。これらのようなコンストラクトは、例えば、WO2018/232369に記載されており、その内容は、参照により本明細書に援用される。
【0067】
ペプチド免疫原コンストラクトのB細胞エピトープ部分は、任意選択で、例えば、全長α-syn(配列番号1)のアミノ酸111位のグリシン(G111)付近からアミノ酸135位のアスパラギン(D135)付近までの配列に対応する、α-synのC末端から約10~約25個のアミノ酸残基を含み得る。ペプチド免疫原コンストラクトの異種Thエピトープ部分は、任意選択で、病原性タンパク質に由来し得る。ペプチド免疫原コンストラクトのB細胞エピトープ部分及びThエピトープ部分は、対象に投与された場合、一緒に作用して、コンストラクトのα-syn B細胞エピトープ部分を特異的に認識し、それに結合する抗体の生成を刺激する。
【0068】
したがって、本明細書で使用される場合、語句「α-synペプチド免疫原コンストラクト」とは、(a)全長α-syn(配列番号1)のアミノ酸111位のグリシン(G111)付近からアミノ酸135位のアスパラギン(D135)付近までの配列に対応する、α-synのC末端から約10~約25個のアミノ酸残基を有するB細胞エピトープ、(b)異種Thエピトープ、及び(c)任意選択の異種スペーサー、を含有するペプチドを指す。
【0069】
特定の実施形態では、ペプチド免疫原コンストラクトは、式:(Th)m-(A)n-(α-Syn C末端フラグメント)-Xまたは(α-Syn C末端フラグメント)-(A)n-(Th)m-Xによって表すことができ、式中、Thは、異種Tヘルパーエピトープであり、Aは、異種スペーサーであり、(α-Syn C末端フラグメント)は、α-SynのC末端から約10~約25アミノ酸残基を有するB細胞エピトープであり、Xは、アミノ酸のα-COOHまたはα-CONH2であり、mは1~約4の整数であり、nは0~約10の整数である。いくつかの実施形態では、Aはアミノ酸であり、nはアミノ酸の数を示し、各Aは、互いに同一であり得るか、またはAの1つ以上は、異なるアミノ酸であり得る。本開示のα-synペプチド免疫原コンストラクトの様々な成分を、以下に記載する。
【0070】
α-Syn及びα-Syn C末端フラグメント
用語「α-syn」、「アルファ-シヌクレイン」、「α-シヌクレイン」などは、本明細書で使用される場合、α-Synを発現する任意の生物由来の(a)全長α-synタンパク質及び/または(b)そのフラグメントを指す。いくつかの実施形態では、α-synタンパク質はヒトである。特定の実施形態では、全長ヒトα-synタンパク質は、140個のアミノ酸を有する(受託番号NP_000336)(配列番号1)。
【0071】
α-synの「C末端領域」または「C末端」という語句は、本明細書で使用される場合、α-synのカルボキシル末端部分からの任意のアミノ酸配列を指す。特定の実施形態では、α-synのC末端領域またはC末端は、α-synの残基96~140の間のアミノ酸配列、またはそのフラグメントに関する。
【0072】
本明細書で使用される場合、語句「α-syn C末端フラグメント」または「α-synのC末端由来のB細胞エピトープ」は、全長α-synのアミノ酸111位のグリシン(G111)付近からアミノ酸135位のアスパラギン(D135)付近までの配列に対応する、α-synのC末端からの約10~約25個のアミノ酸残基を含む全長α-syn配列の一部を指す。α-syn C末端フラグメントは、本明細書ではα-syn G111-D135ペプチド及びそのフラグメントとも呼ばれる。本明細書に記載の様々なα-syn C末端フラグメントは、配列番号1によって表されるα-synの全長配列に対するそれらのアミノ酸位置によって言及される。
【0073】
いくつかの実施形態では、α-syn C末端フラグメントは、配列番号12によって表される25アミノ酸のα-syn G111-D135ペプチドである。他の実施形態において、α-syn C末端フラグメントは、配列番号12によって表されるα-syn G111-D135ペプチドの約10個の連続したアミノ酸を含む。特定の実施形態では、α-syn C末端フラグメントは、配列番号12によって表されるα-syn G111-D135ペプチドの10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25個の連続したアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、α-syn C末端フラグメントは、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、及び69のいずれか1つから選択される配列を有する。特定の実施形態では、α-syn C-末端フラグメントは、表1に示すように、配列番号12~15、17、または49~64のうちの1つによって表されるアミノ酸配列を有する。
【0074】
いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原コンストラクトのB細胞エピトープは、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、または69のうちのいずれか1つのペプチドを含むか、またはそれからなる。
【0075】
本開示のα-syn C末端フラグメントには、α-syn G111-D135ペプチドまたはそのフラグメントの免疫学的に機能的な類似体または相同体も含まれる。α-syn G111-D135ペプチドまたはそのフラグメントの機能的免疫学的類似体または相同体には、元のペプチドと実質的に同じ免疫原性を保持するバリアントが含まれる。免疫学的に機能的な類似体は、アミノ酸位置への1つ以上の保存的置換、全体的な電荷の変化、別の部分への共有結合、アミノ酸付加、挿入、もしくは欠失、及び/またはそれらの任意の組み合わせを有し得る。
【0076】
保存的置換は、あるアミノ酸残基を類似の化学的特性を有する別のアミノ酸残基に置き換える置換である。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びメチオニンが含まれ、極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが含まれ、正に荷電した(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジン、及びヒスチジンが含まれ、負に荷電した(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。
【0077】
免疫学的に機能的な類似体には、α-syn G111-D135ペプチドと交差反応する、免疫応答を誘発する1~約4個のアミノ酸残基の保存的置換、付加、欠失、または挿入を含むアミノ酸配列が含まれる。保存的置換、付加、及び挿入は、天然または非天然のアミノ酸を用いて達成することができる。非天然のアミノ酸としては、ε-Nリジン、β-アラニン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、チロキシン、γ-アミノ酪酸、ホモセリン、シトルリン、アミノ安息香酸、6-アミノカプロン酸(Aca,6-アミノヘキサン酸)、ヒドロキシプロリン、メルカプトプロピオン酸(MPA)、3-ニトロ-チロシン、ピログルタミン酸などが挙げられる。天然のアミノ酸には、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンが含まれる。
【0078】
一実施形態では、特定のペプチドの免疫学的に機能的な類似体は、元のペプチドと同じアミノ酸配列を含み、α-syn G111-D135ペプチド(またはそのフラグメント)のB細胞エピトープペプチドのアミノ末端に付加された3つのリジン残基(Lys-Lys-Lys)をさらに含む。本実施形態では、元のペプチド配列への3つのリジン残基の付加により、元のペプチドの全体的な電荷は変化するが、元のペプチドの機能は変化しない。
【0079】
本明細書に記載の他のペプチドの機能的類似体または相同体も含まれる(上記のリスト及び表1を参照のこと;例えば、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、及び69)。
【0080】
特定の実施形態では、α-syn C-末端フラグメントの機能的類似体は、元のアミノ酸配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有する。他の実施形態では、機能的類似体は、元のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する。さらに他の実施形態では、機能的類似体は、元のアミノ酸配列に対して少なくとも85%の同一性を有する。さらに他の実施形態では、機能的類似体は、元のアミノ酸配列に対して少なくとも90%または少なくとも95%の同一性を有する。2つの配列間の同一性の割合は、2つの最適にアラインメントされた配列を検査することによって手動で、または当技術分野で公知であるように、標準的なパラメータを使用するソフトウェアプログラムもしくはアルゴリズム(例えば、BLAST、ALIGN、CLUSTAL)を使用することによって、決定することができる。
【0081】
異種Tヘルパー細胞エピトープ(Thエピトープ)
本開示の方法において使用されるペプチド免疫原コンストラクトは、異種Tヘルパー細胞(Th)エピトープに直接または任意の異種スペーサーを介して共有結合したα-syn由来のB細胞エピトープを含む。α-synペプチド免疫原コンストラクト中の異種Thエピトープは、α-syn C末端フラグメントの免疫原性を増強し、これは、合理的設計を通じて、最適化された標的B細胞エピトープ(すなわち、α-syn C末端フラグメント)に対する特異的な高力価の抗体の産生を促進する。
【0082】
本明細書で使用される場合、用語「異種」とは、α-synの野生型配列の一部ではない、または野生型配列と相同でないアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を指す。したがって、異種Thエピトープは、α-synに天然に見出されないアミノ酸配列に由来するThエピトープである(すなわち、Thエピトープはα-synに対して自己由来ではない)。Thエピトープは、α-synに対して異種であるため、異種Thエピトープがα-syn C末端フラグメントに共有結合される場合、α-synの天然アミノ酸配列は、N末端またはC末端方向のいずれにも伸長されない。
【0083】
本開示の異種Thエピトープは、α-synに天然に見出されるアミノ酸配列を有しない任意のThエピトープであり得る。Thエピトープは、任意の種(例えば、ヒト、ブタ、ウシ、イヌ、ラット、マウス、モルモットなど)または病原体(例えば、麻疹ウイルスもしくは肝炎ウイルス(例えば、肝炎ウイルス表面タンパク質、下記を参照のこと)に由来するアミノ酸配列を有し得る。Thエピトープはまた、複数の種のMHCクラスII分子に対する無差別結合モチーフを有し得る。特定の実施形態では、Thエピトープは、免疫応答の開始及び調節をもたらすヘルパーT細胞の最大活性化を可能にする複数の無差別MHCクラスII結合モチーフを含む。Thエピトープは、好ましくは、それ自体で免疫サイレントであり、すなわち、α-synペプチド免疫原コンストラクトによって生成される、存在するとしてもわずかな抗体がThエピトープに向けられるため、α-syn C末端フラグメントの標的B細胞エピトープに向けられた非常に集中した免疫応答が可能になる。
【0084】
エピトープとしては、表2に例示されるような外来病原体由来のアミノ酸配列(配列番号70~98)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、Thエピトープは、理想化された人工Thエピトープ及び理想化された人工Thエピトープの組み合わせが含まれる(例えば、配列番号71及び78~84)。コンビナトリアル配列として提示される異種Thエピトープペプチド(例えば、配列番号79~82)は、その特定のペプチドに対する相同体の可変残基に基づいて、ペプチドフレームワーク内の特定の位置に示されるアミノ酸残基の混合物を含む。コンビナトリアルペプチドの集合体は、1つの特定のアミノ酸の代わりに、指定される保護されたアミノ酸の混合物を、合成プロセス中の指定された位置に添加することによって、1つのプロセスにおいて合成することができる。そのようなコンビナトリアル異種Thエピトープペプチド集合体により、多様な遺伝的バックグラウンドを有する動物に対して広範なThエピトープをカバーすることができる。異種Thエピトープペプチドの代表的なコンビナトリアル配列としては、配列番号79~82が挙げられ、表2に示されている。本発明のThエピトープペプチドは、遺伝的に多様な集団由来の動物及び患者に対して広範な反応性及び免疫原性を提供する。
【0085】
したがって、ペプチド免疫原コンストラクトのThエピトープは、配列番号70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、及び98、ならびにそれらの免疫学的に機能的な類似体(下記を参照のこと)のいずれか1つから選択することができる。
【0086】
Thエピトープを含むα-Synペプチド免疫原コンストラクトは、α-syn C末端フラグメントとタンデムに、単一の固相ペプチド合成において同時に生成することができる。Thエピトープはまた、Thエピトープの免疫学的類似体を含む。免疫学的Th類似体は、免疫増強類似体、交差反応性類似体、及びα-syn C末端フラグメントに対する免疫応答を増強または刺激するのに十分なこれらのThエピトープのいずれかのフラグメントを含む。
【0087】
Thエピトープペプチドの免疫学的に機能的な類似体もまた有効であり、本開示の方法において使用することができる。免疫学的に機能的なTh類似体は、ThエピトープのTh刺激機能を本質的に改変しない、Thエピトープ中の1~約5個のアミノ酸残基の保存的置換、付加、欠失、及び挿入を含み得る。保存的な置換、付加、及び挿入は、α-syn C-末端フラグメントについて上述したように、天然または非天然アミノ酸を用いて達成することができる。表2は、Thエピトープペプチドに対する機能的類似体の別のバリエーションを同定する。特に、配列番号71及び78のMvF1及びMvF2のThは、配列番号81及び83のMvF4及びMvF5の機能的類似体であり、それらは、アミノ酸フレームにおいて、N末端及びC末端にそれぞれ2つのアミノ酸が欠失しているか(配列番号71及び78)、または含まれる(配列番号81及び83)点で異なっている。これらの2つの一連の類似配列間の差異は、これらの配列内に含まれるThエピトープの機能に影響を及ぼさないであろう。したがって、機能的免疫学的Th類似体は、例えば、麻疹ウイルス融合タンパク質MvF1~4 Th(配列番号71、78、79、81、及び83)由来の、ならびに肝炎表面タンパク質HBsAg 1~3 Th(配列番号80、82、及び84)由来のThエピトープのいくつかのバージョンを含み得る。
【0088】
α-synペプチド免疫原コンストラクト中のThエピトープは、α-syn C末端ペプチドのN末端またはC末端のいずれかに共有結合させることができる。いくつかの実施形態では、Thエピトープを、α-syn C末端ペプチドのN末端に共有結合させる。他の実施形態では、Thエピトープを、α-syn C末端ペプチドのC末端に共有結合させる。特定の実施形態では、複数のThエピトープを、α-syn C末端フラグメントに共有結合させる。複数のThエピトープをα-syn C-末端フラグメントに連結させる場合、各Thエピトープは、同じアミノ酸配列または異なるアミノ酸配列を有することができる。さらに、複数のThエピトープをα-syn C-末端フラグメントに連結させる場合、Thエピトープを任意の順序で配置することができる。例えば、Thエピトープを、α-syn C末端フラグメントのN末端に連続的に連結させることができ、もしくはα-syn C末端フラグメントのC末端に連続的に連結させることができ、またはあるThエピトープを、α-syn C末端フラグメントのN末端に共有結合させることができる一方で、別のThエピトープを、α-syn C末端フラグメントのC末端に共有結合させる。α-syn C末端フラグメントに対するThエピトープの配置に制限はない。
【0089】
いくつかの実施形態では、Thエピトープが、α-syn C末端フラグメントに直接的に共有結合している。他の実施形態では、Thエピトープが、以下にさらに詳細に記載する異種スペーサーを介してα-syn C-末端フラグメントに共有結合している。
【0090】
異種スペーサー
α-synペプチド免疫原コンストラクトは、任意選択で、α-syn由来のB細胞エピトープを異種ヘルパーT細胞(Th)エピトープに共有結合させる異種スペーサーを含む。
【0091】
上記で述べたように、用語「異種」とは、α-synの野生型配列の一部ではないか、または相同ではないアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を指す。したがって、α-synの天然のアミノ酸配列は、異種スペーサーがα-syn由来のB細胞エピトープに共有結合される場合、スペーサーがα-synに対して異種であるため、N末端またはC末端方向のいずれにも伸長されない。
【0092】
スペーサーは、2つのアミノ酸及び/またはペプチドを一緒に連結することができる任意の分子または化学構造である。スペーサーは、用途に応じて長さまたは極性は様々に異なり得る。スペーサーの結合は、アミド結合またはカルボキシル-結合を介して行われ得るが、他の官能基も同様に可能である。スペーサーは、化合物、天然のアミノ酸、または非天然のアミノ酸を含み得る。
【0093】
スペーサーは、α-synペプチド免疫原コンストラクトに構造的特徴を提供することができる。構造的には、スペーサーは、α-syn C末端フラグメントのB細胞エピトープからThエピトープを物理的に分離させる。スペーサーによって物理的に分離することにより、B細胞エピトープへのThエピトープの結合によって生じる任意の人工的な二次構造を破壊することができる。さらに、スペーサーによってエピトープを物理的に分離することにより、Th細胞応答及び/またはB細胞応答間の干渉を排除することができる。さらに、ペプチド免疫原コンストラクトの二次構造が生成または改変されるようにスペーサーを設計することができる。例えば、ThエピトープとB細胞エピトープの分離を促進するための可撓性ヒンジとして作用するようにスペーサーを設計することができる。可撓性ヒンジスペーサーはまた、提示されたペプチド免疫原と適切なTh細胞及びB細胞との間のより効率的な相互作用を可能にして、ThエピトープとB細胞エピトープに対する免疫応答を増強することができる。可撓性ヒンジの配列の例は、多くの場合プロリンリッチである免疫グロブリン重鎖ヒンジ領域に見出される。スペーサーとして使用することができる1つの特に有用な可撓性ヒンジは、配列Pro-Pro-Xaa-Pro-Xaa-Pro(配列番号149)によって提供され、式中、Xaaは、任意のアミノ酸、例えば、アスパラギン酸である。
【0094】
スペーサーはまた、α-synペプチド免疫原コンストラクトに機能的特徴も提供することができる。例えば、α-synペプチド免疫原コンストラクトの全体的な電荷を変化させるようにスペーサーを設計することができ、これは、ペプチド免疫原コンストラクトの溶解性に影響を及ぼし得る。さらに、α-synペプチド免疫原コンストラクトの全体的な電荷の変化は、ペプチド免疫原コンストラクトが他の化合物及び試薬と会合する能力に影響を及ぼし得る。以下でさらに詳細に考察するように、α-synペプチド免疫原コンストラクトを、静電結合を介してCpGオリゴマーなどの高荷電オリゴヌクレオチドを有する安定な免疫刺激複合体に形成することができる。α-synペプチド免疫原コンストラクトの全体的な電荷は、これらの安定な免疫刺激複合体の形成に重要である。
【0095】
スペーサーとして使用することができる化合物としては、(2-アミノエトキシ)酢酸(AEA)、5-アミノ吉草酸(AVA)、6-アミノカプロン酸(Ahx)、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸(AEEA、ミニ-PEG1)、12-アミノ-4,7,10-トリオキサドデカン酸(ミニ-PEG2)、15-アミノ-4,7,10,13-テトラオキサペンタデカン酸(ミニ-PEG3)、トリオキサトリデカン-コハク酸(Ttds)、12-アミノ-ドデカン酸、Fmoc-5-アミノ-3-オキサペンタン酸(O1Pen)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
天然のアミノ酸には、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンが含まれる。
【0097】
非天然のアミノ酸としては、ε-Nリジン、β-アラニン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、チロキシン、γ-アミノ酪酸、ホモセリン、シトルリン、アミノ安息香酸、6-アミノカプロン酸(Aca,6-アミノヘキサン酸)、ヒドロキシプロリン、メルカプトプロピオン酸(MPA)、3-ニトロ-チロシン、ピログルタミン酸などが挙げられる。
【0098】
α-synペプチド免疫原コンストラクト中のスペーサーは、Thエピトープ及びα-syn C末端ペプチドのN末端またはC末端のいずれかに共有結合し得る。いくつかの実施形態では、スペーサーは、ThエピトープのC末端及びα-syn C末端ペプチドのN末端に共有結合している。他の実施形態では、スペーサーは、α-syn C末端ペプチドのC末端及びThエピトープのN末端に共有結合している。特定の実施形態では、例えば、複数のThエピトープがペプチド免疫原コンストラクトに存在する場合、複数のスペーサーを使用することができる。複数のスペーサーを使用する場合、各スペーサーは、互いに同じであっても、異なっていてもよい。さらに、複数のThエピトープがペプチド免疫原コンストラクト中に存在する場合、B細胞エピトープからThエピトープを分離するために使用するスペーサーと同じであっても異なっていてもよいスペーサーでThエピトープを分離することができる。Thエピトープまたはα-syn C末端フラグメントに対するスペーサーの配置に制限はない。
【0099】
特定の実施形態では、異種スペーサーは、天然のアミノ酸または非天然のアミノ酸である。他の実施形態では、スペーサーは、複数の天然または非天然のアミノ酸を含有する(例えば、スペーサーはペプチドである)。スペーサーは、1つ以上のLys(例えば、1、2、3、4、5、または6)及び/または1つ以上のGly(例えば、1、2、3、4、5、または6)を含み得る。具体的な実施形態では、スペーサーは、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、またはε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号148)である。
【0100】
α-Synペプチド免疫原コンストラクトの特定の実施形態
α-synペプチド免疫原コンストラクトは、以下の式によって表すことができる:
(Th)m-(A)n-(α-syn C末端フラグメント)-Xまたは(α-syn C末端フラグメント)-(A)n-(Th)m-X、式中、Thは、異種Tヘルパーエピトープであり、Aは、異種スペーサーであり、(α-Syn C末端フラグメント)は、α-SynのC末端から約10~約25アミノ酸残基を有するB細胞エピトープであり、Xは、アミノ酸のα-COOHまたはα-CONH2であり、mは1~約4の整数であり、nは0~約10の整数である。いくつかの実施形態では、Aはアミノ酸であり、nはアミノ酸の数を示し、各Aは互いに同一であり得るか、またはAの1つ以上は異なるアミノ酸であり得る。
【0101】
特定の実施形態では、α-synペプチド免疫原コンストラクトにおける異種Thエピトープは、表2に示される配列番号70~98のいずれか、またはそれらの組み合わせから選択されるアミノ酸配列を有する。特定の実施形態では、Thエピトープは、配列番号78~84のいずれかから選択されるアミノ酸配列を有する。特定の実施形態では、α-synペプチド免疫原コンストラクトは、複数のThエピトープを含む。
【0102】
特定の実施形態では、任意選択の異種スペーサーは、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号148)、及びそれらの組み合わせから選択される。特定の実施形態では、異種スペーサーは、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号148)である。
【0103】
特定の実施形態では、α-Syn C末端フラグメントは、全長α-synのアミノ酸111位のグリシン(G111)付近からアミノ酸135位のアスパラギン(D135)付近までの配列に対応する、α-synのC末端から約10~約25個のアミノ酸残基を有する。いくつかの実施形態では、α-syn C末端フラグメントは、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、及び69のいずれか1つのアミノ酸配列を有する。特定の実施形態では、α-syn C末端フラグメントは、表1に示すように、配列番号12~15、17、または49~64によって表されるアミノ酸配列を有する。
【0104】
特定の実施形態では、α-synペプチド免疫原コンストラクトは、表3のアミノ酸配列、例えば、表3に示される配列番号107~108、111~113、及び115~147のいずれかから選択される配列を有する。特定の実施形態では、α-Synペプチド免疫原コンストラクトは、配列番号107~108及び111~113のいずれかから選択されるアミノ酸配列を有する。
【0105】
いくつかの実施形態では、α-synペプチド免疫原コンストラクトは、配列番号99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、及び147のいずれか1つ、ならびにその相同体、類似体、フラグメント、及び/または組み合わせを含み得るか、またはそれからなり得る。
【0106】
組成物
ペプチド免疫原コンストラクトは、対象(例えば、ヒト患者)においてペプチド免疫原コンストラクトに対する免疫応答及び抗体産生を誘発することができる医薬組成物などの組成物に含まれ得る。開示される組成物は、1つのペプチド免疫原コンストラクトまたは複数のペプチド免疫原コンストラクトの混合物を含み得る。さらに、いくつかの実施形態では、組成物は、ペプチド免疫原コンストラクト(複数可)を、1つ以上の追加の成分、例えば、担体、アジュバント、緩衝液、及び他の好適な試薬と共に含む。いくつかの実施形態では、組成物は、任意選択でアジュバントが添加された、CpGオリゴマーとの安定化された免疫刺激複合体の形態のペプチド免疫原コンストラクトを含む。
【0107】
開示されるα-synペプチド免疫原コンストラクトを含有する組成物は、液体または固体の形態であり得る。液体組成物は、水、緩衝液、溶媒、塩、及び/またはα-synペプチド免疫原コンストラクトの構造的または機能的特性を変化させない任意の他の許容される試薬を含むことができる。ペプチド組成物は、1つ以上の開示されるα-synペプチド免疫原コンストラクトを含み得る。
【0108】
医薬組成物
本開示の方法は、開示されるα-synペプチド免疫原コンストラクト(複数可)を含有する医薬組成物を利用することができる。
【0109】
医薬組成物は、薬学的に許容される送達系内に担体及び/または他の添加剤を含有し得る。したがって、医薬組成物は、薬学的に許容される担体、アジュバント、及び/または他の賦形剤、例えば、希釈剤、添加剤、安定化剤、防腐剤、可溶化剤、緩衝液などと共に、薬学的に有効な量のα-synペプチド免疫原コンストラクトを含有し得る。
【0110】
医薬組成物は、いかなる特定の抗原効果自体も有することなく、α-synペプチド免疫原コンストラクトに対する免疫応答を加速、延長、または増強するように作用する1つ以上のアジュバントを含有し得る。医薬組成物に使用されるアジュバントは、油、アルミニウム塩、ビロソーム、リン酸アルミニウム(例えば、ADJU-PHOS(登録商標))、水酸化アルミニウム(例えば、ALHYDROGEL(登録商標))、リポシン、サポニン、スクアレン、L121、Emulsigen(登録商標)、モノホスホリル脂質A(MPL)、QS21、ISA35、ISA206、ISA50V、ISA51、ISA720、ならびに他のアジュバント及び乳化剤を含み得る。
【0111】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、Montanide(商標)ISA51(油中水型エマルジョンを生成するための植物油及びマンニドオレエートからなる油アジュバント組成物)、Tween(登録商標)80(ポリソルベート80またはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエートとしても知られる)、CpGオリゴヌクレオチド、及び/またはそれらの任意の組み合わせを含有する。他の実施形態では、医薬組成物は、EmulsigenまたはEmulsigen Dをアジュバントとして含む水中油中水型(すなわち、w/o/w)エマルジョンである。
【0112】
医薬組成物は、即時放出または持続放出用に製剤化することができる。さらに、医薬組成物を、免疫原の捕捉及び微粒子との共投与を通じて、全身性、または局所粘膜性の免疫を誘導するために製剤化することができる。そのような送達系は、当業者によって容易に決定される。
【0113】
医薬組成物は、液体の溶液または懸濁液のいずれかとして、注射剤として調製することができる。α-synペプチド免疫原コンストラクトを含有する液体ビヒクルも、注入前に調製することができる。医薬組成物は、任意の好適な適用様式、例えば、筋肉内、皮下、皮内、静脈内、腹腔内、鼻腔内、経口などによって、及び任意の好適な製剤または送達装置を使用することによって投与することができる。
【0114】
医薬組成物はまた、好適な剤形単位で製剤化することができる。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、kg体重当たり約0.5μg~約1mgのα-synペプチド免疫原コンストラクトを含有する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、10~1000μg、例えば、20~500μg、50~400μg、または100~300μgの本明細書に記載の免疫療法(例えば、ペプチド免疫原コンストラクト)を含有する。医薬組成物の有効用量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるか動物であるか、投与される他の薬剤、及び処置が予防的なものであるか治療的なものであるかを含む多くの異なる要因によって変化する。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含む非ヒト哺乳動物も治療することができる。複数用量で送達する場合、医薬組成物は、当業者によって適切であると判断されるように、剤形単位当たりの適切な量に好都合に分割してもよい。治療分野で周知であるように、投与量は、対象の年齢、体重、及び全体的な健康状態に依存する。
【0115】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、複数のα-synペプチド免疫原コンストラクト及び/または抗体を含有する。医薬組成物は、複数のα-synペプチド免疫原コンストラクト(及び/または抗体)の混合物を含有し、コンストラクトの免疫有効性を相乗的に増強することができる。複数のα-synペプチド免疫原コンストラクトを含有する医薬組成物は、MHCクラスIIを広範囲にカバーするため、より大きな遺伝子集団においてより効果的となり、したがって、α-synペプチド免疫原コンストラクトに対する免疫応答を向上させることができる。
【0116】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、配列番号107、108、111~113、及び115~147、ならびにそれらの相同体、類似体、フラグメント、及び/または組み合わせから選択されるα-synペプチド免疫原コンストラクトを含有する。特定の実施形態では、医薬組成物は、配列番号107、108、111~113、及びそれらの任意の組み合わせから選択されるα-synペプチド免疫原コンストラクトを含有する。
【0117】
いくつかの実施形態では、α-synペプチド免疫原コンストラクトは、配列番号99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、及び147のいずれか1つ、ならびにその相同体、類似体、フラグメント、及び/または組み合わせを含み得るか、またはそれからなり得る。
【0118】
α-synペプチド免疫原コンストラクトを含有する医薬組成物を使用して、投与時に対象において免疫応答を誘発し、抗体を産生させることができる。いくつかの実施形態では、当業者によって適切であると判断される場合、本明細書に記載の医薬組成物を、1、2、3、4、5回、またはそれ以上の回数で対象に投与する。組成物を、例えば、初期用量で投与し、その後、1回以上(例えば、2、3、4、5回、またはそれ以上)のブースター用量で投与することができる。いくつかの実施形態では、初期用量を第1週に投与し、次いで、第5週に用量を投与し、第13週に追加用量を投与する。いくつかの実施形態では、各用量の量は同じである(例えば、100μgまたは300μg、上記も参照のこと)。いくつかの実施形態では、各用量の量は、当業者によって適切であると判断され得るように様々に異なり得る。例えば、初期用量を40μgとし、続いて、その後の投与(例えば、5週目及び13週目)において100μg、300μg、または1000μgの用量としてもよい。
【0119】
免疫刺激複合体
本開示の方法はまた、CpGオリゴヌクレオチドとの免疫刺激複合体の形態のα-synペプチド免疫原コンストラクトを含有する医薬組成物を利用することができる。そのような免疫刺激複合体は、アジュバントとして、及びペプチド免疫原安定剤として作用するように特異的に適合される。免疫刺激複合体は粒子状の形態であり、これはα-synペプチド免疫原を免疫系の細胞に効率的に提示して免疫応答を生じさせることができる。免疫刺激複合体は、非経口投与のための懸濁液として製剤化してもよい。免疫刺激複合体はまた、非経口投与後に対象の免疫系の細胞にα-synペプチド免疫原を効率的に送達するために、無機塩またはin-situゲル化ポリマーと組み合わせた懸濁液として、油中水型エマルジョンの形態で製剤化することもできる。
【0120】
安定化された免疫刺激複合体は、α-synペプチド免疫原コンストラクトを、静電結合を介してアニオン性分子、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはそれらの組み合わせと複合体化することによって形成され得る。安定化された免疫刺激複合体を、免疫原送達系として医薬組成物に組み込んでもよい。
【0121】
特定の実施形態では、α-synペプチド免疫原コンストラクトを、5.0~8.0の範囲のpHで正に荷電されるカチオン性部分を含有するように設計する。α-synペプチド免疫原コンストラクトまたはコンストラクトの混合物のカチオン性部分の正味の電荷は、配列内の各リジン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)に+1の電荷を、各アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)に-1の電荷を、そして他のアミノ酸に0の電荷を割り当てることによって計算される。電荷は、α-synペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分内で合計され、正味の平均電荷として表される。好適なペプチド免疫原は、+1の正味の平均正電荷を有するカチオン性部分を有する。いくつかの実施形態では、ペプチド免疫原は、+2より大きい範囲の正味の正電荷を有する。いくつかの実施形態では、α-synペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分は、異種スペーサーである。特定の実施形態では、α-synペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分は、スペーサー配列が(α,ε-N)Lys、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号148)である場合、+4の電荷を有する。
【0122】
本明細書に記載の「アニオン性分子」は、5.0~8.0の範囲のpHで負に荷電した任意の分子を指す。特定の実施形態では、アニオン性分子はオリゴマーまたはポリマーである。オリゴマーまたはポリマー上の正味の負電荷は、オリゴマー中の各ホスホジエステル基またはホスホロチオエート基に-1の電荷を割り当てることによって計算される。好適なアニオン性オリゴヌクレオチドは、8~64ヌクレオチド塩基を有する一本鎖DNA分子であり、CpGモチーフの反復数は1~10の範囲である。いくつかの実施形態では、CpG免疫刺激性一本鎖DNA分子は18~48ヌクレオチド塩基を含み、CpGモチーフの反復数は3~8の範囲である。
【0123】
いくつかの実施形態では、アニオン性オリゴヌクレオチドは、式:5’ X1CGX23’で表され、式中、C及びGはメチル化されておらず、X1は、A(アデニン)、G(グアニン)、及びT(チミン)からなる群から選択され、X2は、C(シトシン)またはT(チミン)である。他の実施形態では、アニオン性オリゴヌクレオチドは、式:5’ (X3)2CG(X4)23’で表され、式中、C及びGはメチル化されておらず、X3は、A、T、またはGからなる群から選択され、X4は、CまたはTである。
【0124】
得られる免疫刺激複合体は、通常1~50ミクロンの範囲のサイズを有する粒子の形態であり、相互作用種の相対電荷化学量論及び分子量を含む多くの因子の関数である。微粒子化された免疫刺激複合体は、in vivoでのアジュバント化及び特異的免疫応答の上方制御を提供するという利点を有する。さらに、安定化された免疫刺激複合体は、油中水型エマルジョン、無機塩懸濁液、及び高分子ゲルを含む様々なプロセスによって医薬組成物を調製するのに適している。
【0125】
本開示の方法で使用されるα-synペプチド免疫原コンストラクトは、当技術分野で周知の化学合成方法を使用して作製することができる(例えば、Fields et al.,Chapter 3 in Synthetic Peptides:A User’s Guide,ed.Grant,W.H.Freeman & Co.,New York,NY,1992,p.77を参照のこと)。例えば、α-synペプチド免疫原コンストラクトは、例えば、Applied Biosystems Peptide Synthesizer Model 430Aまたは431上で側鎖保護アミノ酸を用いてt-BocまたはF-moc化学のいずれかによって保護したα-NH2を使用して、固相合成の自動Merrifield技術を使用して合成することができる。Thエピトープに対するコンビナトリアルライブラリーペプチドを含むα-synペプチド免疫原コンストラクトの調製は、所与の可変位置でカップリングするための代替アミノ酸の混合物を提供することによって達成することができる。所望のα-synペプチド免疫原コンストラクトを完全に組み立てた後、標準的な手順に従って樹脂を処理して、樹脂からペプチドを切断し、アミノ酸側鎖上の官能基を脱ブロックすることができる。遊離ペプチドを、HPLCによって精製し、生化学的に、例えば、アミノ酸分析または配列決定によって特徴決定することができる。ペプチドの精製及び特徴決定方法は、当業者に周知である。
【0126】
この化学プロセスによって生成されるペプチドの品質は、制御及び定義可能であり、その結果、α-synペプチド免疫原コンストラクトの再現性、免疫原性、及び収量を保証することができる。固相ペプチド合成によるα-synペプチド免疫原コンストラクトの製造の詳細な説明は、WO2018/232369の実施例1に記載されている。
【0127】
意図される免疫学的活性の保持を可能にする構造可変性の範囲は、小分子薬による特定の薬物活性、または生物学的に誘導される薬物と共産生される高分子薬に認められる望ましい活性及び望ましくない毒性の保持を可能にする構造可変性の範囲よりもはるかに柔軟であることがわかっている。したがって、意図的に設計されたペプチド類似体、または意図するペプチドと同様のクロマトグラフィー及び免疫学的特性を有する欠失配列副産物の混合物として合成プロセスのエラーによって必然的に生成されるペプチド類似体は、多くの場合、所望のペプチドの精製調製物と同じくらい有効である。これらのペプチドを用いる最終生成物の再現性及び有効性を保証するために、製造プロセス及び生成物評価プロセスの両方をモニタリングするための識別QC手順が開発されるならば、設計された類似体と意図されない類似体の混合物は有効である。
【0128】
α-synペプチド免疫原コンストラクトは、核酸分子、ベクター、及び/または宿主細胞の使用を含む組換えDNA技術を使用して作製することもできる。したがって、α-synペプチド免疫原コンストラクト及びその免疫学的に機能的な類似体をコードする核酸分子も、本発明の一部として本開示に包含される。同様に、核酸分子を含む発現ベクターなどのベクター、及びベクターを保有する宿主細胞も、本発明の一部として本開示に包含される。
【0129】
様々な例示的な実施形態はまた、α-synペプチド免疫原コンストラクト及びα-syn G111~D135フラグメント由来ペプチド免疫原コンストラクトの免疫学的に機能的な類似体を産生する方法を包含する。例えば、方法は、α-synペプチド免疫原コンストラクト及び/またはその免疫学的に機能的な類似体をコードする核酸分子を含有する発現ベクターを含有する宿主細胞を、ペプチド及び/または類似体が発現するような条件下でインキュベートするステップを含み得る。より長い合成ペプチド免疫原は、周知の組換えDNA技術によって合成され得る。そのような技術は、詳細なプロトコルを有する周知の標準マニュアルにおいて提供される。本発明のペプチドをコードする遺伝子を構築するために、アミノ酸配列を逆翻訳して、好ましくは遺伝子を発現させる生物に最適なコドンでアミノ酸配列をコードする核酸配列を得る。次に、通常、ペプチド及び必要に応じて任意の調節エレメントをコードするオリゴヌクレオチドを合成することによって、合成遺伝子を作製する。合成遺伝子を好適なクローニングベクターに挿入し、宿主細胞にトランスフェクトする。次いで、選択された発現系及び宿主に適した好適な条件下でペプチドを発現させる。ペプチドを精製し、標準的方法によって特徴決定する。
【0130】
免疫刺激複合体の製造方法
上記のように、本開示の方法は、α-synペプチド免疫原コンストラクト及びCpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)分子を含む免疫刺激複合体をさらに使用することができる。安定化された免疫刺激複合体(ISC)は、α-synペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分及びポリアニオン性CpG ODN分子に由来する。自己組織化系は、電荷の静電中和によって駆動される。α-synペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分のアニオン性オリゴマーに対するモル電荷比の化学量論によって、会合の程度が決定される。α-synペプチド免疫原コンストラクトとCpG ODNとの非共有結合性の静電結合は、完全に再現可能なプロセスである。ペプチド/CpG ODN免疫刺激複合体凝集体は、免疫系の「プロフェッショナル」抗原提示細胞(APC)への提示を促進し、したがって、複合体の免疫原性をさらに増強する。これらの複合体は、製造中の品質管理のために、容易に特徴決定される。ペプチド/CpG ISCはin vivoで十分に許容される。CpG ODN及びα-syn G111~D135フラグメント由来ペプチド免疫原コンストラクトを含むこの粒子系を、CpG ODNの使用に関連する一般化されたB細胞分裂促進性を利用し、さらに均衡のとれたTh-1/Th-2型応答を促進するように設計する。
【0131】
開示される医薬組成物中のCpG ODNは、反対電荷の静電中和によって媒介されるプロセスにおいて免疫原に100%結合し、ミクロンサイズの粒子の形成をもたらす。この微粒子形態により、CpGの用量を、CpGアジュバントの従来の使用に比べて有意に低減することができ、有害な自然免疫応答の可能性を低くすることができ、抗原提示細胞(APC)を含む別の免疫原プロセシング経路が促進される。したがって、そのような製剤は概念的に新規であり、代替機構による免疫応答の刺激を促進することによって潜在的な利点を提供する。
【0132】
抗体
本開示の方法は、α-syn、例えば、α-synのC末端ペプチド、例えば、本明細書に記載のペプチド免疫原コンストラクトのB細胞エピトープ部分を特異的に認識し、それに結合する抗体を利用することができる(WO2018/232369も参照のこと)。治療に使用するための抗体は、当技術分野における標準的な方法を使用して作製することができ、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体及び三重特異性抗体)、ならびに抗体フラグメント(所望の抗原結合活性及び特異性が維持される限り)を含む。抗体フラグメントには、例えば、Fv、一本鎖Fv(scFv)、Fab、Fab’、di-scFv、sdAb(単一ドメイン抗体)、及び(Fab’)2(化学的に連結されたF(ab’)2を含む)が含まれる。抗体には、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、及びマウス、ヒト、カニクイザルなどの様々な種の抗体も含まれる。さらに、他の生物由来の配列を有する抗体バリアントも含まれる。抗体フラグメントには、いずれかの配向の一本鎖scFv、タンデム型di-scFv、ダイアボディ、タンデム型tri-sdcFv、ミニボディなども含まれる。抗体フラグメントにはさらに、ナノボディ(sdAb、すなわち、軽鎖を有さず、重鎖の一対の可変ドメインなどの単一の単量体ドメインを有する抗体)が含まれる。抗体フラグメントは、いくつかの実施形態では、特定の種であると言及され得る(例えば、ヒトscFvまたはマウスscFv)。これは、コンストラクトの供給源ではなく、非CDR領域の少なくとも一部の配列を示している。
【0133】
治療方法
本開示は、開示される免疫療法(例えば、ペプチド免疫原コンストラクト及び/またはペプチド免疫原コンストラクトに対する抗体)を使用して、シヌクレイノパチーを治療し、遅延させ、軽減し、及び/または予防するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、開示されたペプチド免疫原コンストラクト及び/または抗体を含有する組成物を対象に投与することを含む。特定の実施形態では、本方法において利用される組成物は、静電会合を介して、CpGオリゴマーなどの負に荷電したオリゴヌクレオチドとの安定な免疫刺激複合体の形態における開示されるペプチド免疫原コンストラクトを含有し、シヌクレイノパチーに罹患している対象へ投与するために、この複合体に、任意選択で、アジュバントとして無機塩または油をさらに補充する。開示される方法はまた、シヌクレイノパチーのリスクを有するかまたは罹患している対象に、ペプチド免疫原コンストラクトを投与するための投与レジメン、剤形、及び経路を含む。
【0134】
本開示の方法に従って治療可能な対象としては、例えば、パーキンソン病(PD)、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、神経軸索ジストロフィー、純粋自律神経失調症(PAF)などのシヌクレイノパチーに罹患しているか、または発症するリスクを有するヒト患者などの患者が挙げられる。
【0135】
いくつかの実施形態では、本開示の方法に従って治療される対象は、シヌクレイノパチーの発症の初期段階にある。例えば、対象は、当技術分野で「前駆」段階として知られている段階にあってもよく、この段階では、疾患の初期の兆候及び症状が現れる場合があるが、疾患の主要な症状(例えば、運動症状)はまだ存在していない。前駆段階における対象の識別には、通常、臨床的、体液的、組織的、遺伝的、及び画像上の特徴またはマーカーの組み合わせを考慮することが含まれる。例えば、陽電子放射断層撮影法(PET)、単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)、または磁気共鳴画像法(MRI)による画像化を使用することができる。いくつかの実施形態では、PETまたはSPECTを、ドーパミントランスポーター(DAT)を検出するために使用する(DAT-PETまたはDAT-SPECT)。使用することができる追加のアプローチは、タンパク質ミスフォールディング循環増幅法(PMCA)による、脳脊髄液または組織生検中の病理学的α-synの検出である。他の例では、皮膚試験を、例えば、リン酸化α-syn(例えば、Syn-One Test(商標))または皮脂脂質を検出するために使用することができる(Sinclair et al.,Nature 12:1592,2021)。これらの試験に加えて、例えば、REM睡眠行動障害、嗅覚低下、便秘、気分障害、日中の過剰な傾眠、包括的失認、小字症、むずむず脚症候群、起立性低血圧症、性機能障害、排尿障害、音声及び顔の無動症、またはそれらの組み合わせを含むシヌクレイノパチーの前駆症状を検出することによって対象を識別することができる。さらに、家族歴は、有用な考慮事項であり得る。加えて、閾値下パーキンソニズムのスコア、例えば前駆PDのUPDRSスコア(Goetz et al.,Mov.Disord.27:1239-1242,2012)を測定することができる。α-syn、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)、及び血漿の尿酸塩レベルなどのマーカーも評価することができる。遺伝子マーカー(例えば、LRRK2、GBA、SNCA、及び/またはVPS35遺伝子の変異)をさらに使用することができる。シヌクレイノパチーの初期(例えば、前駆)段階にある対象は、本開示の方法によって治療され得る。いくつかの実施形態では、対象は、REM睡眠行動障害と診断されるが、任意のまたは任意の有意な運動症状(例えば、動作緩慢、硬直、及び/または振戦)を有しない。いくつかの実施形態では、対象は、嗅覚低下、REM睡眠行動障害、日中の過剰な眠気、うつ病、認知症状、自律神経系機能不全、嗅覚喪失、色覚低下、定量的運動試験の低下、及び黒質神経画像の異常所見の1つ以上を有する。いくつかの実施形態では、対象は、任意のまたは任意の有意な運動症状(例えば、動作緩慢、硬直、及び/または振戦)を有しない。
【0136】
本開示はまた、α-synペプチド免疫原コンストラクトを含有する医薬組成物の使用方法を含む。特定の実施形態では、α-synペプチド免疫原コンストラクトを含有する医薬組成物を、(a)対象におけるα-syn凝集の阻害、(b)対象における前形成α-syn凝集体の脱凝集の誘導、(c)対象におけるミクログリアTNF-α及びIL6分泌の低減、(d)対象における外来性α-syn凝集体によって誘発される神経変性の低減、(e)α-syn過剰発現細胞における神経変性の低減、(f)対象における血清α-synレベルの低下、(g)対象の脳内のオリゴマーα-synレベルの低下、(h)対象における神経病理の軽減及び運動活動性の回復などに使用することができ、その場合、対象は、シヌクレイノパチーの初期の前駆段階にある。
【0137】
上記の方法は、α-synを標的とする薬理学的に有効な量の免疫療法(例えば、1つ以上のペプチド免疫原コンストラクト及び/または抗体(例えば、本明細書に記載される))を含む医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。本方法で使用される量及びレジメンは、組成物に関する節において上記で提供される情報と一致し得るか、または当業者によって適切であると判断され得る。
【0138】
本発明はまた、本明細書に記載の任意の疾患または病態の予防、改善、抑制、遅延、または治療に使用するための、本明細書に記載の組成物及びキットを提供する。
【0139】
以下の実施例は、本開示の特定の特徴及び態様を示し、いかなる方法でも本開示の範囲を限定するものとみなされるべきではない。
【実施例】
【0140】
α-シヌクレイン(α-syn)は、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(LBD)、及び多系統萎縮症(MSA)の病因に重要な役割を有する。毒性のα-syn種の中和を目的とする免疫療法は、PD及び他のシヌクレイノパチーに対する潜在的な疾患修飾療法として臨床で研究されている。本試験では、UB312ワクチンによるα-synに対する能動免疫の効果を、PDのThy1SNCA/15マウスモデルにおいて調べた。若いトランスジェニックマウス及び野生型マウスを、6週間にわたって免疫化レジメンに供し、次いで、さらに9週間観察した。免疫化の前及び最初の投与の15週間後に行動評価を実施した。
【0141】
UB312免疫化により、ワイヤー試験及びチャレンジング梁試験において運動障害の発症が予防されたが、これは、Thy1SNCA/15マウスの大脳皮質、海馬、及び線条体におけるα-synオリゴマーのレベルの低下と関連していた。UB312免疫療法により、結腸におけるα-syn負荷の有意な低下が生じ、これに付随して、結腸神経節における腸内グリア細胞の反応性が低下した。
【0142】
本発明者らの結果は、UB312による免疫化が、Thy1SNCA/15マウスにおける機能的欠損、ならびに中枢及び末梢の両方の病理を予防することを示している。
【0143】
材料及び方法
動物
Jackson Laboratory(Bar Harbour,Maine,USA)からThy1SNCA/15マウス(ストック番号017682)を入手し、University of Southamptonで再誘導してコロニーを確立し、維持した。Thy1SNCA/15マウスは、マウス胸腺細胞抗原1(Thy1)プロモーターによって駆動されるヒト野生型α-synをコードする1~2コピーの遺伝子を過剰発現する(Choi et al.,Nat.Commun.11(1):1386,2020)。Thy1SNCA/15マウスは、広範なα-syn発現を示し、生後10か月までは主にシナプスで発現し、LB様凝集体またはリン酸化α-synは報告されていない(Rabl et al.,BMC Neurosci.18:22,2017;Choi et al.,Nat.Commun.11(1):1386,2020)。非トランスジェニック(C57BL/6Jバックグラウンド)同腹仔マウスを対照として使用した。Thy1SNCA/15マウスでは、現在まで行動研究は行われていない。
【0144】
全てのマウスを5~10匹の群で収容し、標準的な12時間の明/暗サイクル下で維持し、標準的なRM1固形飼料(SDS,UK)及び水を自由に摂取させた。全ての手順を、United Kingdom Animals(Scientific Procedures)Act 1986,Home Office licenseによって規定される動物管理ガイドラインに従って実施した。
【0145】
UB312によるマウスのワクチン接種及び抗体価
免疫化レジメンを
図1に要約する。10週齢のThy1SNCA/15に、UB312(注射当たり40μg、n=29)またはアジュバント(Adju-Phos(登録商標)及びCpG1)(n=27)のいずれかを筋肉内注射で3回(3週間間隔で)投与した。10週齢の非トランスジェニックC57BL/6Jマウスも、アジュバントによる同等の免疫化に供した(n=22)。各注射の前、ならびに最初の注射後10週目及び15週目に、抗体価分析のために血清を回収した。α-synの領域K97~D135に対する合成標的ペプチド免疫吸着剤を用いる抗α-syn酵素免疫測定法(EIA)キット(United Biomedical,Inc.)を用いて抗体価を測定した。UB312:UBITh1-εK-KKK-α-シヌクレイン126-135(配列番号112;UBITh1-εk-kkk-EMPSEEGYQD)。
【0146】
初回注射から15週間後、マウスをペントバルビトン(200mg/kg)で終末麻酔し、免疫組織化学(Tg-UB-312、n=12;Tg-Adj、n=11;WT-Adj、n=9)または生化学分析(Tg-UB-312、n=17;Tg-Adj、n=16;WT-Adj、n=13)のために灌流した。免疫組織化学分析のために、PBS(0.01M)、続いて4%パラホルムアルデヒド(PFA)(0.01M PBS中、pH7.4)でマウスを心臓内灌流した。脳及び腸(十二指腸及び近位結腸)を切り出し、4%PFAにさらに4時間浸漬し、その後、凍結保護のために30%スクロースに移した。ウエスタンブロット分析のために、マウスを氷冷PBS(0.01M)で灌流し、皮質、海馬、及び線条体を直ちに氷冷PBS上で解剖し、さらなる処理のためにドライアイス上でスナップ凍結した。
【0147】
行動試験
免疫化の前及び最初の免疫化投与の15週間後に、マウスを3つの異なる行動試験に供し、各々を、任意の日に行動試験が重複しないように、馴化期間を含めて別々の日に行った。試験と馴化期間の順序は、治療前後で同じになるように維持した(Tg-UB-312、n=29;Tg-Adj、n=27;WT-Adj、n=22)。評価者を、動物の処置状態に対して盲検化した。
【0148】
チャレンジング梁横断試験
端に向かって狭くなる4つの等しい区画(3.5、2.5、1.5、0.5cm幅)からなる長さ1mの梁を横断するようにマウスを訓練した。マウスを梁の広い端に配置し、反対側の清浄なケージまで梁を横断するように促した。マウスに、1日あたり5回の試行を3日間にわたって行わせ、その後を試験日とした。試験日には、梁区画上に1cm2のワイヤーメッシュを配置し、5回の試行でマウスに梁を自由に横断させた。各試行についてビデオ記録を分析し、エラー数を記録した。マウスが前方に移動し、足の1つがワイヤーメッシュの途中まで滑り落ちた場合に、エラーとみなした。5回の試行にわたるエラーの平均数を計算した。
【0149】
ポール試験
ポール試験は、清浄なケージ内に固定された垂直ポール(直径1.5cm及び高さ55cm)からなる。マウスを、その頭部をポールの側面に上向きに向けて配置し、それら自身が180°下向きに再配向し、ポールを降下する時間を記録した。各マウスに、3日間の馴化、1セッション当たり最大5回の試行を行わせ、続いて試験日とした。
【0150】
ワイヤーハンギング試験
免疫療法の前後に、ワイヤー試験においてマウスに1回のみ試行を行わせた。ピボット上で自由に回転し得る6mmの厚さのワイヤーループ(直径20cm)上に、マウスを上下逆さまに吊り下げて配置した。ワイヤーの上部でバランスをとるか、またはワイヤーから意図的に飛び降りるなどの不適切な行動については阻止し、その試行を破棄するか、または繰り返した。ワイヤーから落ちるまでの合計時間を、カットオフを5分として記録した。
【0151】
免疫組織化学
脳(正中線から1800μm)または腸に由来する20μm厚の矢状切片を、Leica Cryostatを使用して切断した。免疫蛍光を用いてα-Synを検出した。簡潔に述べると、組織切片を0.01M PBS(Sigma,1002795531)中で再水和し、15%正常ヤギ血清(Fisher Scientific,1002817944)中で1時間ブロッキングした。切片を、0.01M PBS、0.1% Triton(登録商標)X[1001466726,ThermoFisher]中の抗α-syn抗体MJFR1(1:2000,Abcam,ab138501)中で、4℃にて一晩インキュベートした。次いで、切片をAlexa-Fluor555をコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ二次抗体(Molecular Probes life technologies)中で室温にてインキュベートした。切片をDAPIで対比染色し、Mowiol及びCitifluor(ThermoFisher)中に封入した。
【0152】
脳及び腸における炎症状態を分析するために、星状細胞(GFAP,1:400,Dako)、ミクログリア(Iba1,1:400,Wako,019-19741)、T細胞(CD3(KT3),1:200,BioRad,MCA500G)、及び内皮活性化(ICAM1,1:200,Bioledgend,116101)のマーカーを選択した。内在性ペルオキシダーゼ活性を、3%H2O2(H1009-500ml,Sigma Aldrich)で10分間クエンチした。Iba1染色では、Panasonic 800Wマイクロ波を中程度の加熱で25分間使用して、クエン酸緩衝液(15mM Trisクエン酸ナトリウム[101578237,Sigma Aldrich]、0.1%tween(登録商標)、pH6[P1379,Sigma Aldrich])中で組織を加熱することにより、熱誘導抗原賦活化を実施した。非特異的結合部位を15%正常ヤギ血清(Fisher Scientific)で1時間ブロッキングした。次いで、この組織を、0.01M PBS、0.1%triton(登録商標)X中の一次抗体と共に、4℃で一晩インキュベートした。次いで、組織をビオチン化二次抗体中で室温にて1時間インキュベートした。組織をアビジンビオチン複合体(ABC)中で室温にて1時間インキュベートした(PK-6100 Vectastain ABCキット)。Nickel DABを用いて色素原の現像を行った。Distyrene Plasticizer Xylene(DPX,12658646 Fisher Scientific)に封入する前に、組織をそれぞれ50%、70%、95%、100%のIMSで2分間脱水し、エオシンで対比染色し、キシレン中で5分間インキュベートした。
【0153】
ウエスタンブロット
組織試料を、HALTプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤カクテル(ThermoScientific,78442)を使用して、10%W/V放射性免疫沈降分析(RIPA)緩衝液(ThermoFisher,89901)中のKontes pellet pestleホモジナイザーを用いて氷上で均質化した。ホモジネートをEppendorf 5417Rベンチトップ遠心分離機内で14000rpm、4℃にて遠心分離した。ペレットを捨て、上清を分析用に保持した。Pierceウシ血清アルブミン(BSA)アッセイキット(ThermoFisher,23227)を使用して、製造業者の指示に従って、各上清のタンパク質濃度を決定した。
【0154】
脳ホモジネートからタンパク質を分離するために、Mini-PROTEIN Tetra垂直電気泳動セル(BioRad;1568004)を使用した。変性条件または非変性条件のいずれかのための1mm厚ポリアクリルアミドゲルを調製した。
【0155】
非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)のために、脳ホモジネートを4×Laemmliサンプル緩衝液(BioRad,1620112)中に希釈し、20μgのタンパク質を10%または12%非変性ゲルにロードした。分子量マーカーとして高純度の単量体α-syn(
図10A)を、脳ホモジネートと並行させて流した。ローディング用のタンパク質濃度を、使用する抗体の線形範囲から決定した(
図10A)。電気泳動を、Laemmli緩衝液(192mMグリシン[Sigma Aldrich,G8898],25mM Tris塩基[ThermoFisher,10103203])中で、100~150Vにて2時間実施した。Trans Blot turboシステム(BioRad,1704150)及びMini転写キット(BioRad,1704270)を用いてセミドライ式転写を実施した。タンパク質を、0.2μmニトロセルロース膜に、2.5V、2A、及び15分で転写した。膜を3%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma Aldrich,102052095)で室温にて1時間ブロッキングした。Tris緩衝生理食塩水(TBS)(0.25M Tris塩基、1.5M NaCl、pH7.2)、0.1%tween(登録商標)20(Sigma,P1379)中で膜を3×5分間洗浄した後、それらをMJFR1(1:5000;ab138501,Abcam)中で4℃にて一晩インキュベートした。タンパク質のローディングを正規化するために、Revert 700 total protein stain(LiCor,926-11015)をアプライした後、BSA中でブロッキングした。
【0156】
画像分析及び統計
イムノブロットをLiCor Odyssey Fcスキャナ上で画像化し、Image Studio Lite V5.2を用いて分析した。免疫反応性α-synバンドを、SDS-PAGEではGAPDHに対して、非変性PAGEではRevertに対して正規化した。蛍光顕微鏡用に処理した免疫染色された組織切片を可視化し、SP8共焦点レーザー走査型顕微鏡(Milton Keys,UK)を用いて20倍で画像をキャプチャした。DAB免疫染色された組織切片を、Olympus VS110ハイスループットバーチャル顕微鏡システムを使用して、20倍で分析するためにスキャンした。スキャンした画像から、Olympus VSソフトウェアを使用して画像(各0.16mm2)を取り込んだ。試験した各マーカーについて、1動物当たり2つの連続切片にわたる免疫反応性の面積百分率を、FIJIソフトウェアを用いて計算した。平均面積百分率を各脳領域について計算し、GraphPad Prismソフトウェアを用いて統計解析を実施した。二元配置分散分析(ANOVA)を、事後多重比較のためのボンフェローニ補正法による行動分析に使用した。ウエスタンブロット及び免疫組織化学におけるα-syn免疫反応性の分析については、特に明記しない限り、T検定を実施した。炎症マーカーの分析には、一元配置分散分析を用いた。事後分析は、適用可能な場合には、多重比較分析のためのボンフェローニ補正法により実施した。p<0.05の場合に、差異を有意であるとみなした。数(n)は、各実験に使用するマウスの数を指す。
【0157】
結果
抗体価
全てのトランスジェニックマウスは、最初の注射後に高レベルの抗α-syn97-135抗体価を産生した。抗体価レベルは、最初の6週間で急速に上昇し、6~10週目の間にピークに達し、15週間の試験期間の残り期間にかけて安定なままであった(
図2)。意外にも、アジュバントを投与した一部の野生型マウス及びトランスジェニックマウスも、バックグラウンドの抗体価を産生したが、これらは、UB312で誘導された抗体価よりも2~3桁低かった。
【0158】
UB312免疫化は運動能力を改善する
Thy1SNCA/15マウスにおける機能的アウトカムに対するUB312免疫療法の効果を、運動機能を評価するように設計された3つの行動試験を用いて調べた。これらには、握力を測定するためのワイヤーハンギング試験、感覚運動能力についてのチャレンジング梁試験、及び自発運動制御についてのポール試験が含まれていた(Fleming et al.,J.Neurosci.24:9434-9440,2004)。
図3に示すように、免疫療法開始前の10週齢では、Thy1SNCA/15マウスは、いずれの試験においても野生型マウスと比較して運動能力に差を示さなかった。Thy1SNCA/15マウスの運動能力は、梁試験及びワイヤー試験において週齢とともに悪化していたが(26週齢)、この悪化は15週間のUB312免疫療法で予防された。
【0159】
チャレンジング梁横断試験において、二元配置分散分析により、足のエラー数に対する週齢(F(1,83)=22.46、p<0.0001)及び処置(F(2,83)=5.72、p=0.0047)の有意な影響が示された。多重比較の事後解析により、アジュバントを投与したThy1SNCA/15マウスの対照群では、6月齢において、10週齢と比較して(P<0.0001)、及び6月齢の野生型マウスと比較して(Wt-Adj:3.1、Tg-Adj:5.1;p<0.0001)、試行当たり有意により多くのエラーが生じていたことが示された。試行あたりのエラー数は、野生型マウスとUB312処置Thy1SNCA/15マウスとの間で有意に異なってはいなかった(p=0.38)。
【0160】
ワイヤーハンギング試験では、アジュバントを投与したThy1SNCA/15マウスにおいて認められた加齢に関連した低下に対する処置の有意な効果が観察された(F(2,80)=4.03、P=0.022)。事後分析では、アジュバントで処置したThy1SNCA/15マウスの対照群において、野生型マウスと比較して落下までの潜時に低下の傾向が示された(Wt-Adj:3.85、Tg-Adj:2.98;p=0.102)。これは、UB312処置Thy1SNCA/15マウスよりも有意に低かった(Tg-Adj:2.98、Tg-UB312:4.2;p=0.0095)。処置期間の終了時に、野生型マウスとUB312処置Thy1SNCA/15マウスとの間に有意差はなかった(Wt-Adj:3.85、Tg-UB312:4.20;p>0.99)。
【0161】
ポール試験に関して、マウスが旋回して、ポールを下降するのに要する時間は、Thy1SNCA/15マウスと野生型マウスで同様であり、運動能力に対する週齢(F(1,64)=0.156、p=0.6941)または処置(F(2,64)=2.688、p=0.076)の影響はなかった。
【0162】
UB312免疫化は脳内のα-synオリゴマーを減少させる
15週間の処置期間の完了時に、6か月齢のマウスを麻酔し、組織を採取して、α-syn媒介性病理に対するUB312免疫療法の効果を評価した。Thy1SNCA/15マウスによって過剰発現されたヒトα-synに特異的なMJFR1抗α-syn抗体を用いた免疫組織化学及びウエスタンブロットによってα-synの病理を分析した。予想通り、野生型マウスはヒトα-synに対する免疫反応性を示さず、定量分析には含まれなかった。Thy1SNCA/15マウスにおいて、α-synについての脳切片の免疫組織化学染色で、広範な顆粒状または点状パターンが灰白質で示され、これはシナプス位置と一致していた。レビー小体などのα-syn含有は、6か月齢のThy1SNCA/15マウスの脳では検出できなかった。関心のある各領域(皮質、線条体、海馬、黒質、及び小脳;
図4)におけるα-syn免疫反応性によってカバーされる面積百分率の定量分析では、UB312とアジュバント処置マウスとの間に差は示されなかった。同様に、ウエスタンブロット分析によって検出されたα-synの総レベル(
図5)で、UB312とアジュバント処置マウスとの間に差異は示されなかった。UB312がより高分子量のα-synオリゴマーを特異的に減少させるかどうかを調べるために、ネイティブ非変性ウエスタンブロットを実施した。高純度の単量体α-synを分子量マーカーとして使用し、ゲル中の最低バンドに対応させた。結果は、
図5に示されており、アジュバントを投与した対照Thy1SNCA/15マウスと比較して、UB312がThy1SNCA/15マウスの海馬において27.8%(p=0.049)、線条体において27.9%(p=0.045)、及び皮質において49.8%(p=0.035)、α-synオリゴマーを有意に減少させたが、単量体は減少させなかったことを示している。
【0163】
UB312は広範なグリア細胞反応を誘導しない
グリア細胞マーカーのミクログリア(Iba1)及び星状細胞(GFAP)について、隣接する組織切片に対して免疫組織化学を行った。
図6は、Iba1の代表的な画像を示し、
図7は、各脳領域(皮質、海馬、線条体、及び黒質)におけるGFAP免疫染色を示す。Iba1及びGFAP免疫反応性の一元配置分散分析では、各群間に差異は示されなかったが、例外として、SN(F
(2,25)=4.989)は、UB312を処置したThy1SNCA/15マウスにおいて、対照アジュバントを処置したThy1SNCA/15マウスまたは野生型マウスと比較して、Iba1免疫染色が有意に増加したことを示した(Wt-Adj:0.29%、Tg-UB312:0.65%;p=0.015)。Iba1及びGFAP免疫反応性は、全ての脳領域にわたって、アジュバントを処置したThy1SNCA/15マウスと野生型マウスで同等であった。
【0164】
UB312はT細胞浸潤を誘導しない
T細胞浸潤に対するUB312処理の効果を、20μm厚の連続した3つの脳切片にわたって実質CD3陽性T細胞の数を計数することによって調べた。脳切片の大部分は、CD3 T細胞に対して陰性であり、UB312を処置したThy1SNCA/15マウスにおいてT細胞数は増加していなかった(
図8)。内皮の活性化状態を評価するために、脳内皮細胞上のICAM1免疫反応性を定量した。ICAM1は内皮細胞上に発現し、炎症時に上方制御されて、T細胞溢出を促進する。結果は
図8に示されており、UB312処置及びアジュバント処置したThy1SNCA/15マウスまたは野生型マウスとの間で、ICAM1免疫反応性の差異は示されない。
【0165】
UB312は結腸内のα-syn及び腸内グリア細胞活性化を低減する
胃腸(GI)機能不全は、PDの一般的な前駆的特徴であり、PD患者の結腸生検においてLBが同定されている。Thy1SNCA/15マウスは、10週齢で腸壁の筋層の神経線維及びシナプスにα-synの蓄積を示す(
図9)。腸壁におけるα-syn免疫反応率の両側t検定により、結腸におけるアジュバント対照と比較した場合、UB312を処置したThy1SNCA/15マウスにおいて有意な減少が示された(Tg-Adj:2.65%、Tg-UB312:0.98%;p=0.0093)が、十二指腸では示されなかった(Tg-Adj:1.12%、Tg-UB312:1.18%;p=0.91)。
【0166】
神経節腸内グリア細胞活性化のマーカー(GFAP)を用いて、腸内のグリア細胞反応性のパターンを調べた。
図9は、GFAP免疫染色の代表的な画像及びその後の腸筋層間神経節内のGFAP免疫反応性の定量を示す。一元配置分散分析により、GFAP発現に対する有意な処置効果が明らかになった(F
(2,20)=7.007;p=0.0049)。Thy1SNCA/15マウスにおけるUB312免疫療法では、アジュバントを処置したThy1SNCA/15マウスと比較した場合に、結腸筋層神経節におけるGFAP発現レベルが有意に低下した(Tg-Adj:16.86%、Tg-UB312:8.47%;P=0.014)。対照群の野生型及びThy1SNCA/15アジュバント処置マウスではGFAP免疫反応性に差はなかったが(Wt-Adj:16.73、Tg-Adj:16.86;p>0.99)、一方、UB312を処置したThy1SNCA/15マウスでは、野生型マウスと比較した場合に、GFAPの有意な減少が示された(Wt-Adj:16.73%、Tg-Adj:8.47%;p>0.012)。十二指腸における処置群間では、GFAP発現に差異はなかった。
【表1-1】
【表1-2】
【表2-1】
【表2-2】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【0167】
他の実施形態
記載される本発明の様々な修正及び変形は、本発明の範囲及び主旨から逸脱することなく当業者には明白である。本発明を特定の実施形態に関連して記載してきたが、特許請求の範囲に記載されるような本発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際に、当業者には明らかである本発明を実施するために記載される様式の様々な修正は、本発明の範囲内であると意図される。
【0168】
いくつかの実施形態は、以下の番号付き段落の範囲内にある。
【0169】
1. シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症の予防、軽減、抑制、または遅延を必要とする対象における、シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症の予防、軽減、抑制、または遅延方法であって、前記方法が、α-シヌクレイン(α-syn)を標的とする有効量の免疫療法を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0170】
2. 前記シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状が、筋硬直、動作緩慢、安静時振戦、及び姿勢の不安定性からなる群から選択される、第1項に記載の方法。
【0171】
3. シヌクレイノパチーの1つ以上の胃腸症状の治療、予防、軽減、または抑制を必要とする対象における、シヌクレイノパチーの1つ以上の胃腸症状の治療、予防、軽減、または抑制方法であって、前記方法が、α-synを標的とする有効量の免疫療法を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0172】
4. 前記1つ以上の胃腸症状が、流涎症、唾液分泌過多、嚥下障害、悪心、嘔吐、消化不良、便秘、腹痛、胃不全麻痺、及び糞便失禁からなる群から選択される、第3項に記載の方法。
【0173】
5. 前記胃腸症状が、前記対象の結腸で生じる、第3項または第4項に記載の方法。
【0174】
6. 胃腸管(例えば、結腸)のα-synレベルの低下を必要とする対象における、胃腸管(例えば、結腸)のα-synレベルの低下方法であって、前記方法が、α-synを標的とする有効量の免疫療法を前記対象に投与することを含む、前記方法。
【0175】
7. 前記対象が、シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状を有しないか、またはシヌクレイノパチーの最小限の運動症状のみを示す、第1~6項のいずれか1項に記載の方法。
【0176】
8. 前記対象が、筋硬直、動作緩慢、安静時振戦、及び姿勢の不安定性からなる群から選択されるシヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状を有しない、第7項に記載の方法。
【0177】
9. 前記対象が、初期の前駆段階のシヌクレイノパチーを有する、第1~8項のいずれか1項に記載の方法。
【0178】
10. 対象におけるα-synに対する免疫応答の誘導、対象におけるα-syn凝集の阻害、または対象におけるα-syn凝集体の量の低減の方法であって、前記方法が、α-synを標的とする有効量の免疫療法を前記対象に投与することを含み、前記対象が、初期の前駆段階のシヌクレイノパチーを有する、前記方法。
【0179】
11. 前記シヌクレイノパチーが、パーキンソン病(PD)、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)、神経軸索ジストロフィー、及び純粋自律神経失調症(PAF)からなる群から選択される、第1~10項のいずれか1項に記載の方法。
【0180】
12. 前記免疫療法が、ペプチド、タンパク質(例えば、抗体)、ペプチドもしくはタンパク質(例えば、抗体)のフラグメントもしくは融合体、または前記分子のうちの1つをコードする核酸分子(例えば、ベクター内のmRNAもしくは核酸)を含む、第1~11項のいずれか1項に記載の方法。
【0181】
13. 前記免疫療法が、ペプチド免疫原コンストラクトを含む、第1~12項のいずれか1項に記載の方法。
【0182】
14. 前記ペプチド免疫原コンストラクトが、B細胞エピトープ、異種T細胞エピトープ、及び任意選択のリンカーを含む、第13項に記載の方法。
【0183】
15. 前記B細胞エピトープが、α-synに対する免疫応答を誘導する、第14項に記載の方法。
【0184】
16. 前記B細胞エピトープが、α-synタンパク質のC末端領域のペプチドを含み、前記ペプチドが、任意選択で約10~約25アミノ酸長である、第15項に記載の方法。
【0185】
17. 前記α-synタンパク質が、配列番号1の配列を含む、第16項に記載の方法。
【0186】
18. 前記B細胞エピトープが、表1の配列から選択されるペプチド(例えば、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、及び69のいずれか1つ)を含む、第14~17項のいずれか1項に記載の方法。
【0187】
19. 前記異種T細胞エピトープが、病原性タンパク質に由来する、第14~18項のいずれか1項に記載の方法。
【0188】
20. 前記異種T細胞エピトープが、表2の配列から選択される配列を含む、第14~19項のいずれか1項に記載の方法。
【0189】
21. 前記ペプチドが、前記B細胞エピトープと前記T細胞エピトープとの間に異種スペーサーまたはリンカーを含む、第14~20項のいずれか1項に記載の方法。
【0190】
22. 前記異種スペーサーまたはリンカーが、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、及びε-N-Lys-Lys-Lys-Lys、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、第21項に記載の方法。
【0191】
23. 前記B細胞エピトープが、前記T細胞エピトープのN末端側に位置する、第14~22項のいずれか1項に記載の方法。
【0192】
24. 前記T細胞エピトープが、前記B細胞エピトープのN末端側に位置する、第14~22項のいずれか1項に記載の方法。
【0193】
25. 前記ペプチド免疫原コンストラクトが、表3の配列から選択される、第13~24項のいずれか1項に記載の方法。
【0194】
26. 前記ペプチド免疫原コンストラクトが、
(a)配列番号1のアミノ酸G111付近~アミノ酸D135付近に対応する、α-SynのC末端フラグメント由来の約10~約25個のアミノ酸残基を含むB細胞エピトープ、
(b)配列番号70~98からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むTヘルパーエピトープ、及び
(c)アミノ酸、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、及びε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号148)、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される任意選択の異種スペーサー、
を含み、
前記B細胞エピトープが、直接的に、または前記任意選択の異種スペーサーを介して、前記Tヘルパーエピトープに共有結合されている、第13~25項のいずれか1項に記載の方法。
【0195】
27. 前記B細胞エピトープが、配列番号12~15、17、及び49~63からなる群から選択される、第26項に記載の方法。
【0196】
28. 前記Tヘルパーエピトープが、配列番号70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、及び98からなる群から選択され、例えば、配列番号81、83、及び84のいずれか1つから選択される、第26または27項に記載の方法。
【0197】
29. 前記任意選択の異種スペーサーが、(α,ε-N)Lysまたはε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号148)である、第26~28項のいずれか1項に記載の方法。
【0198】
30. 前記Tヘルパーエピトープが、前記B細胞エピトープのアミノ末端に共有結合されている、第26~29項のいずれか1項に記載の方法。
【0199】
31. 前記Tヘルパーエピトープが、前記任意選択の異種スペーサーを介して前記B細胞エピトープのアミノ末端に共有結合されている、第26~30項のいずれか1項に記載の方法。
【0200】
32. 前記ペプチド免疫原コンストラクトが、以下の式:
(Th)m-(A)n-(α-Syn C末端フラグメント)-X
または
(α-Syn C末端フラグメント)-(A)n-(Th)m-X
を含み、式中、
Thが前記Tヘルパーエピトープであり、
Aが前記異種スペーサーであり、
(α-Syn C-末端フラグメント)が前記B細胞エピトープであり、
Xが、アミノ酸のα-COOHまたはα-CONH2であり、
mが1~約4であり、
nが1~約10である、第26~31項のいずれか1項に記載の方法。
【0201】
33. 前記ペプチド免疫原コンストラクトが、配列番号107、108、111~113、及び115~147からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、第26~32項のいずれか1項に記載の方法。
【0202】
34. 前記ペプチド免疫原コンストラクトが、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)との安定化された免疫刺激複合体内にある、第13~33項のいずれか1項に記載の方法。
【0203】
35. 前記免疫療法が、複数の免疫療法、例えば、複数のペプチド免疫原コンストラクトを任意選択で含む組成物中に含まれる、第1~34項のいずれか1項に記載の方法。
【0204】
36. 前記組成物が、配列番号112及び113のアミノ酸配列を含むペプチド免疫原コンストラクトを含む、第35項に記載の方法。
【0205】
37. 前記組成物が、前記免疫療法(複数可)ならびに薬学的に許容される送達ビヒクル及び/またはアジュバントを含む医薬組成物である、第35項または第36項に記載の方法。
【0206】
38. 前記組成物が、任意選択でAl(OH)3及びAlPO4からなる群から選択されるアルミニウムの無機塩を含むアジュバントを含む、第37項に記載の方法。
【0207】
39.
(a)前記ペプチド免疫原コンストラクトが、配列番号99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、及び147からなる群、例えば、配列番号107、108、111~113、及び115~147からなる群から選択され、
(b)前記組成物が、Al(OH)3及びAlPO4からなる群から選択されるアルミニウムの無機塩であるアジュバントを含む、
第37項または第38項に記載の方法。
【0208】
40.
(a)前記ペプチド免疫原コンストラクトが、配列番号99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、及び147からなる群、例えば、配列番号107、108、111~113、及び115~147からなる群から選択され、
(b)前記ペプチド免疫原コンストラクトが、CpG ODNとの安定化された免疫刺激複合体の形態である、
第37~39項のいずれか1項に記載の方法。
【0209】
41. 前記免疫療法が、第13~40項のいずれか1項に記載のペプチド免疫原コンストラクトの前記B細胞エピトープ、配列番号1のB細胞エピトープ(例えば、配列番号1のC末端領域)、または表1のペプチド(例えば、配列番号3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、及び69のいずれか1つ)に特異的に結合する抗体またはそのエピトープ結合フラグメントを含む、第1~12項のいずれか1項に記載の方法。
【0210】
42. 2つ以上、3つ以上、4つ以上、または5つ以上の免疫療法の使用を含む、第1~41項のいずれか1項に記載の方法。
【0211】
43. 前記対象が、急速眼球運動(REM)睡眠行動障害(RBD)と診断される、第1~42項のいずれか1項に記載の方法。
【0212】
44. 前記対象が、嗅覚低下、REM睡眠行動障害、日中の過剰な眠気、うつ病、認知症状、自律神経系機能不全、嗅覚喪失、色覚低下、定量的運動試験の低下、黒質神経画像の異常所見、または、例えば本明細書に記載されるような他の前駆症状の1つ以上を有する、第1~43項のいずれか1項に記載の方法。
【0213】
45. 前記対象が、任意のまたは任意の有意な運動緩慢、硬直、及び/または振戦、または前駆段階ではないシヌクレイノパチーの他の症状を有しない、第1~44項のいずれか1項に記載の方法。
【0214】
46. 前記免疫療法が、配列番号112を含むか、またはそれからなるペプチド免疫原コンストラクトを含むか、またはそれからなる、第1~45項のいずれか1項に記載の方法。
【0215】
47. 第1~46項のいずれか1項に記載の方法のいずれか1つを実施する際に使用するための組成物またはキット。
【0216】
48. シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症を治療、予防、抑制、軽減、または遅延させることを必要とする対象において、シヌクレイノパチーの1つ以上の運動症状の発症を治療、予防、抑制、軽減、または遅延させるための薬剤の調製における、本明細書に記載のペプチド免疫原コンストラクトまたは組成物の使用。
【0217】
他の実施形態は、特許請求の範囲内にある。
【配列表】
【国際調査報告】