(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】QT延長症候群を治療するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240918BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240918BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240918BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240918BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240918BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240918BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240918BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240918BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20240918BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240918BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61P9/06
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514395
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 IB2022058286
(87)【国際公開番号】W WO2023031881
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524081103
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ベルン
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リー, ジン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZC412
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA21
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、抗KCNQ1モノクローナル抗体、及びQT延長症候群(LQTS)の治療におけるそれらの使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトKCNQ1に特異的に結合する単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片であって、前記抗体が、配列番号1~6に記載される6つのCDRのセットを含む、単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
配列番号7に記載される軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
配列番号8に記載される重鎖可変領域アミノ酸配列を含む、請求項1又は請求項2に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗原結合断片が、Fab断片又はscFvである、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
重鎖定常ドメインを更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
軽鎖定常ドメインを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体と、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤と、を含む、薬学的組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体の重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項10】
請求項8に記載の核酸又は請求項9に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項11】
真核細胞である、請求項10に記載の宿主細胞。
【請求項12】
前記真核細胞が、CHO細胞、又はヒト胚性腎臓293(HEK293)細胞である、請求項11に記載の宿主細胞。
【請求項13】
QT延長症候群(LQTS)に罹患している対象を治療する方法であって、前記対象に、QT延長症候群を治療するのに有効な量で、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体を投与することを含む、方法。
【請求項14】
前記QT延長症候群が、LQTS1、LQTS2又はLQTS3である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
QT延長症候群の治療のために、前記対象に標準治療を投与することを更に含む、請求項13又は請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記標準治療が、β遮断薬、植込み型除細動器(ICD)、又は左心交感神経除神経である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記対象がまた、心筋症、糖尿病、てんかん又は神経学的併存疾患に罹患している、請求項13~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体を投与することが、前記抗体を受けなかった対象と比較して、より短い心再分極をもたらす、請求項13~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体を投与することが、前記抗体を受けなかった対象と比較して、突然の心停止を含む心室頻拍性不整脈の発生率の低下をもたらす、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記抗体を投与することが、前記対象におけるKCNQ1チャネル発現に影響を及ぼさない、請求項13~18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、QT延長症候群の治療のための材料及び方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年9月3日に出願された米国仮出願第63/240,494号(この開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に対する優先権の利益を主張する。
【0003】
参照による配列表の組み込み
本出願は、開示の別個の部分として、コンピュータ可読形式の配列表(ファイル名:56242A_SeqListing.XML10,587バイト-2022年9月1日に作成されたASCIIテキストファイル)を含み、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0004】
QT延長症候群(LQTS)は、心臓性突然死のかなりの割合を占めている(1)。心臓電圧ゲートKCNH2(LQTS 2型[LQTS2])又はKCNQ1(LQTS 1型[LQTS1])カリウムイオン(K+)チャネルの機能喪失につながる遺伝子変異が、最も一般的な原因である(2)。結果として、KCNH2(又はヒトEther-a-go-go(hERG)、Kv11.1)及びKCNQ1(又はKvLQT1、Kv7.1)チャネル、IKr及びIKsにわたる対応する再分極電流がそれぞれ低減し、心再分極相が延長される。体表面心電図(ECG)において、この遅延は、患者を生命を脅かす不整脈に陥れる延長したQT間隔によって反映される。LQTS患者の現在の治療選択肢には、抗不整脈薬(β遮断薬を含む)、左心交感神経除神経、及び/又は心拍除細動器の植込みが含まれる(3)。
【0005】
一部のLQTS患者は、電気的ストームの期間に入り、標準療法に耐性があり、繰り返しの除細動ショック及び死亡率の上昇に耐える(2)。更に、2型形態のLQTSを有する患者は、LQTS1個体と比較して、従来の治療にあまり反応しない(10~15)。
【0006】
LQTS3は、SCN5AコードNav1.5ナトリウムイオン(Na+)チャネルにおける機能獲得変異によって引き起こされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、ヒトKCNQ1に特異的に結合する単離されたモノクローナル抗体又はその抗原結合断片が本明細書に記載され、この抗体は、配列番号1~6に記載の6つのCDRのセットを含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号7に記載される軽鎖可変領域アミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号8に記載される重鎖可変領域鎖アミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号10に記載されるアミノ酸配列を含むエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体は、マウス抗体である。
【0009】
抗原結合断片も企図される。いくつかの実施形態では、抗原結合断片は、Fab断片又はscFvである。
【0010】
本明細書に記載される抗体をコードする核酸、並びに核酸をコードするベクター及びベクターを含む宿主細胞も企図される。
【0011】
別の態様では、QT延長症候群(LQTS)に罹患している対象を治療する方法であって、対象に、QT延長症候群を治療するのに有効な量で、抗体を投与することを含む、方法が本明細書に記載される。いくつかの実施形態では、QT延長症候群は、LQTS1、LQTS2又はLQTS3である。
【0012】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載される方法は、任意選択で、対象に、QT延長症候群の治療のために、標準治療を投与することを更に含む。いくつかの実施形態では、標準治療は、β遮断薬、植込み型除細動器(ICD)、又は左心交感神経除神経である。
【0013】
いくつかの実施形態では、対象はまた、心筋症、糖尿病、てんかん又は神経学的併存疾患に罹患している。
【0014】
いくつかの実施形態では、抗体を投与することは、抗体を受けなかった対象と比較して、より短い心再分極をもたらす。いくつかの実施形態では、抗体を投与することは、抗体を受けなかった対象と比較して、突然の心停止を含む心室頻拍性不整脈の発生率の低下をもたらす。いくつかの実施形態では、抗体を投与することは、対象におけるKCNQ1チャネル発現に影響を及ぼさない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】チャイニーズハムスター卵巣(CHO)KCNQ1
+/KCNE1
+細胞において記録されたI
Ksに対する6つの異なるモノクローナルKCNQ1抗体の効果。試験電位の関数としてのI
Ksステップ(
図1A)及びテール(
図1B)の電流密度。対照細胞(n=16、平均セル容量17.2±2.2pF)と、30μg/mlの選択されたモノクローナル抗体で処理した細胞とを比較した、平均±SEMを示す:IgG2a 8-F11-D4(n=15、平均セル容量16.7±1.1pF)、IgG1 5-D4-D1(n=12、平均セル容量18.2±1.9pF)、IgG2b 7-D12-B11-D12(n=8、平均セル容量18.4±2.5pF)、IgG2b 9-F5-H2-2-G11-F6(n=8、平均セル容量20.8±3.4pF)、IgG2b 10-F10-D7-B1(n=8、平均セル容量17.7±1.9pF)、IgG1 3-A11-H3-F3(n=5、平均セル容量26.0±6.3pF)。
【
図2】I
Ksに対するIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体の効果。対照条件下(
図2A、セル容量13.72pF)及び30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4の存在下(
図2B、13.59pF)での、CHO KCNQ1
+/KCNE1
+細胞において記録された代表的なI
Ks電流トレース。(
図2C)及び(
図2D)試験電位の関数としてのI
Ksステップ電流密度及びテール電流密度。対照細胞(n=16)と、30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4(n=15)で処理された細胞とを比較した、平均±SEMを示す。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、****P<0.0001。(
図2E)I
Ksの電圧依存的な活性化。30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4の存在下で、I
Ks電流を、スロープ係数kに明らかな影響を与えることなく、対照細胞と比較してより多くの負の電位で活性化した(対照:V1/2=23.6±1.3mV、スロープ係数k=16.9±1.2mV;IgG2a 8-F11-D4:V1/2=14.6±0.9mV、スロープ係数k=17.5±1.0mV)。対照とIgG2a 8-F11-D4との間のV1/2を比較する場合、P<0.0001;対照とIgG2a 8-F11-D4との間のスロープ係数kを比較する場合、P値は有意ではない。(
図2F)I
Ksの電圧依存的な不活性化。30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4は、スロープ係数kに影響を与えることなく、不活性化の電圧依存性の左方シフトにつながる(対照:V1/2=20.0±1.4mV、スロープ係数k=15.9±1.4mV;IgG2a 8-F11-D4:V1/2=8.7±1.1mV、スロープ係数k=14.2±1.1mV)。対照とIgG2a 8-F11-D4との間のV1/2を比較する場合、P<0.0001;対照とIgG2a 8-F11-D4との間のスロープ係数kを比較する場合、P値は有意ではない。
【
図3】抗KCNQ1ポリクローナル抗体と比較した、CHO KCNQ1
+/KCNE1
+細胞に対するIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体の効果。(
図3A)及び(
図3B)試験電位の関数としてのI
Ksステップ電流密度及びテール電流密度。対照細胞(n=16)と、30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4(n=15)で処理された細胞と、30μg/mlの抗KCNQ1ポリクローナル抗体(n=23)とを比較した、平均±SEMを示す。対照と30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4とを比較した場合、
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001。+70mVでのI
Ksステップ電流を除いて(P=0.01)、30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4で処理された細胞と、30μg/mlの抗KCNQ1ポリクローナル抗体で処理された細胞とを比較した場合、P>0.05。
【
図4】hiPSC-CMCに対するIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体の効果。対照条件下、及び30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4の存在下で、hiPSC-CMCにおいて記録された代表的な活動電位トレース(
図4A)。(
図4B)バーは、対照細胞(n=15)、並びに5μg/ml(n=4)、10μg/ml(n=10)、20μg/ml(n=11)、30μg/ml(n=14)及び60μg/ml(n=14)IgG2a 8-F11-D4で処理された心筋細胞のAPD
90の平均±SEMを表す。
**P<0.01、
***P<0.001、****P<0.0001。全ての測定は、37℃で実施した。(
図4C)5つの異なる濃度のIgG2a 8-F11-D4における絶対APD
90低減効果の濃度応答曲線。データを、平均APD
90±SEMとして表す。抗体濃度を、ベース10対数スケールとしてプロットする。データに対するシグモイド曲線フィットを用いて、5.7μg/ml(R二乗=0.9967)で半最大有効濃度(EC
50)を決定した。APD
90=90%再分極における活動電位持続時間;hiPSC-CMC=ヒト誘導多能性幹細胞由来心筋細胞。
【
図5】薬理学的LQTS 2型の状況におけるhiPSC-CMCに対するIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体の効果。(
図5A)EAD、心拍停止における不整脈性拍動変性を示す、10nMのE-4031でチャレンジしたhiPSC-CMCにおいて記録された代表的な活動電位。(
図5B)30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4で処理し、10nMのE-4031でチャレンジしたhiPSC-CMCにおいて記録された代表的な活動電位。(
図5C)バーは、10nMのE-4031(n=7)±30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4(n=8)でチャレンジしたhiPSC-CMCにおけるEAD、不整脈性拍動及び拍動停止の発生率を表す。(
図5D)バーは、10nMのE-4031(n=7)±30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4(n=8)でチャレンジしたhiPSC-CMCの平均APD
90±SEMを表す。***P<0.001。APD
90=90%再分極における活動電位持続時間;EAD=早期後脱分極;hiPSC-CMC=ヒト誘導多能性幹細胞由来心筋細胞。
【
図6】薬理学的LQTS 3型の状況におけるhiPSC-CMCに対するIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体の効果。(
図6A)EAD及び不整脈性拍動につながる、5nMのATX-IIでチャレンジしたhiPSC-CMCにおいて記録された代表的な活動電位。(
図6B)30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4で処理し、5nMのATX-IIでチャレンジしたhiPSC-CMCにおいて記録された代表的な活動電位。(
図6C)バーは、5nMのATX-II(n=16)±30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4(n=14)でチャレンジしたhiPSC-CMCにおけるEAD及び不整脈性拍動の発生率を表す。(
図6D)バーは、5nMのATX-II(n=16)±30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4(n=14)でチャレンジしたhiPSC-CMCの平均APD
90±SEMを表す。****P<0.0001。APD
90=90%再分極における活動電位持続時間;EAD=早期後脱分極;hiPSC-CMC=ヒト誘導多能性幹細胞由来心筋細胞。
【
図7】IgG2a 8-F11-D4の構造的エピトープマッピング。(
図7A)7、10及び13アミノ酸長の重複する拘束性環状ペプチドに翻訳されたKCNQ1タンパク質の配列全体をカバーするPEPperCHIP(登録商標)ペプチドマイクロアレイ。合計で、マイクロアレイは、対照として機能する追加のHAペプチド(YPYDVPDYAG、134スポット)によってフレーム化された、2043個の異なるペプチドを複製したものを含有した。マイクロアレイを、0.1μg/mlのIgG2a 8-F11-D4でプローブし、続いて抗マウスIgG(赤色)及び抗HA IgG(緑色)で染色した。反応スポット(赤色)の配列を示す。抗体結合に潜在的に寄与する残基を、青色で強調表示する。(
図7B)コンセンサスモチーフVEFGの明確なエピトープピークを示すペプチドマイクロアレイの強度プロット。コンセンサスモチーフFGTE及びVDGYを有するペプチドについて、有意に弱い相互作用が見出された。
【
図8】KCNQ1とIgG2a 8-F11-D4との間の分子相互作用。(
図8A)ヒトKCNQ1チャネル及びマウスIgG2a 8-F11-D4の予測される構造。抗体の相補性決定領域(CDR)を、オレンジ色で強調表示する。KCNQ1の第3の細胞外ドメイン上の標的エピトープを、紫色で色付けし、チャネルの膜貫通セグメントを、緑色で示す。(
図8B)KCNQ1及びIgG2aの予測される結合部位。表は、KCNQ1チャネルへの水素及びイオン結合に関与する抗体の軽鎖(VL)及び重鎖(VH)のアミノ酸残基を示す。それぞれの結合エネルギー及び距離を列挙する。分子グラフィックスは、Molecular Operating Environmentソフトウェア(MOE、Chemical Computing Group)を使用してレンダリングした。
【
図9】KCNQ1チャネルペプチドへのIgG2a 8-F11-D4の結合。異なる濃度のKCNQ1チャネルペプチド(2倍で連続希釈)を120秒間注入し、続いて600秒間解離させた。三重に実施された注入の代表的な結合センサーグラム。
【
図10A】細胞表面KCNQ1へのIgG2a 8-F11-D4の結合。市販されているウサギポリクローナルKCNQ1抗体(
図10B)及びマウスモノクローナルIgG2a 8-F11-D4(
図10A)抗体は、2つの異なるCHO細胞株(KCNQ1及びKCNE1が融合するもの、及びそれらの)においてKCNQ1に結合する
【
図11】IgG2a 8-F11-D4は、ウサギのベースラインQT間隔を短縮する。様々な用量のIgG2a 8-F11-D4で処置された遠隔測定されたウサギは、全ての試験用量でウサギにおけるベースラインQT間隔の短縮を示す。短縮は、用量投与後6~12時間の間に観察され、定常状態レベルの短縮は、投与後12~20時間で観察された。
【
図12】IgG2a 8-F11-D4は、薬物誘導性QT延長及びトルサード・ド・ポワンツから保護する。IgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体で処置したウサギは、用量依存的に薬物誘導性QT延長に対する保護を提供した。40mg/kgを薬物誘導性トルサード・ド・ポワンツから保護した。
【
図13A】IgG2a 8-F11-D4処理は、KCNQ1/KCNE1を発現するHEK293細胞における電流密度を増加させる。(
図13A)電流密度は、30μg/mLの濃度のIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体の存在下で増加した。(
図13B)電流密度は、60μg/mLの濃度のIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体の存在下で増加した。
【
図14】IgG2a 8-F11-D4は、KCNQ1/KCNE1ステップ電流密度を増加させる。I
Ksステップ電流密度は、対照(
図14B)と比較して、30ug/mL及び60ug/mLのIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体(
図14A)において、-20mVよりも正の膜電位で増加した。
【
図15】IgG2a 8-F11-D4は、KCNQ1/KCNE1テール電流密度を増加させる テール電流密度(
図15B)は、対照(
図15B)と比較して、60ug/mLのIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体(
図15a)において、-20mVよりも正の膜電位で増加した。
【
図16A】20aa KCNQ1標的配列へのmAb結合の動態測定。(
図16A)1×PBS pH7.4、1×動態緩衝液及び1% BSA中の1mMのN末端ビオチン化KCNQ1ペプチド(Nterm-ビオチン-(CH2O)4-AEKDAVNESGRVEFGSYADA-Cterm(配列番号10)へのmAb結合(100mMで)の代表的なOctetセンサーグラム。(
図16B)mAb-KCNQ1ペプチド相互作用を、1:1結合モデルによって分析し、報告されたKDを、抗体解離(koff)及び会合(kon)速度定数から導出した。重複実行に基づいて、平均KD値を有するテーブルを計算した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、抗カリウム電圧ゲートチャネルサブファミリーQメンバー1(KCNQ1)モノクローナル抗体が、IKSチャネル上のアゴニストとして作用するという発見に基づいている。実施例に示されるように、KCNQ1抗体濃度を2倍にすると、CHO KCNQ1+/KCNE1+細胞においてIKs電流密度が濃度依存的に増加した。パッチクランプ記録は、KCNQ1抗体の二重の効果、すなわち、活性化の電圧依存性の負のシフト及びIKS不活性化の顕著な減速を開示した。総合すると、本明細書に提供されるデータは、再分極予備能を増強し、LQTS2の電気的安定性を回復させることによって、KCNQ1モノクローナル抗体の治療的電位を示す。
【0017】
以前の研究(Maguy et al.JACC,75:2140-2152,2020、その開示は、参照によりその全体が組み込まれる)は、KCNQ1に対するポリクローナル抗体の効果を示した。抗KCNQ1ポリクローナル抗体と同様に、電圧クランプ条件下でI
Ks電流を増加させるのに有効である、KCNQ1に特異的に結合するモノクローナル抗体が本明細書に記載される。
図3に示されるように、抗KCNQ1モノクローナル抗体は、以前にMaguy et al.(上記)に開示された抗KCNQ1ポリクローナル抗体と同様に、I
Ks電流を増加させた。
【0018】
抗体
一態様では、ヒトKCNQ1(配列番号9)に特異的に結合するモノクローナル抗体が本明細書に記載される。抗体は、当該技術分野において既知である任意のタイプの抗体、すなわち、免疫グロブリンであり得る。例示的な実施形態では、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、又はIgMのクラス又はアイソタイプの抗体である。例示的な実施形態では、本明細書に記載される抗体は、1つ以上のアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、及び/又はミュー重鎖を含む。例示的な実施形態では、本明細書に記載される抗体は、1つ以上のカッパ又はラムダ軽鎖を含む。
【0019】
本明細書で使用される「特異的に結合する」という用語は、抗体(又は抗原結合断片)が、他のタンパク質よりも抗原(例えば、KCNQ1)に優先的に結合することを意味する。いくつかの実施形態では、「特異的に結合する」とは、抗体が他のタンパク質よりも抗原に対して高い親和性を有することを意味する。抗原に特異的に結合する抗体は、1×10-7M以下、2×10-7M以下、3×10-7M以下、4×10-7M以下、5×10-7M以下、6×10-7M以下、7×10-7M以下、8×10-7M以下、9×10-7M以下、1×10-8M以下、2×10-8M以下、3×10-8M以下、4×10-8M以下、5×10-8M以下、6×10-8M以下、7×10-8M以下、8×10-8M以下、9×10-8M以下、1×10-9M以下、2×10-9M以下、3×10-9M以下、4×10-9M以下、5×10-9M以下、6×10-9M以下、7×10-9M以下、8×10-9M以下、9×10-9M以下、1×10-10M以下、2×10-10M以下、3×10-10M以下、4×10-10M以下、5×10-10M以下、6×10-10M以下、7×10-10M以下、8×10-10M以下、9×10-10M以下、1×10-11M以下、2×10-11M以下、3×10-11M以下、4×10-11M以下、5×10-11M以下、6×10-11M以下、7×10-11M以下、8×10-11M以下、9×10-11M以下、1×10-12M以下、2×10-12M以下、3×10-12M以下、4×10-12M以下、5×10-12M以下、6×10-12M以下、7×10-12M以下、8×10-12M以下、又は9×10-12M以下の抗原に対する結合親和性を有し得る。上記の値をエンドポイントとして有する範囲が、本開示の状況において企図されることを理解されたい。例えば、抗体又はその抗原結合断片は、約1×10-7M~約9×10-12Mの親和性又は1×10-9~約9×10-12の親和性で配列番号9のKCNQ1に結合し得る。
【0020】
いくつかの又は任意の実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のKCNQ1、又はその天然に存在するバリアントに、1×10-7M以下、1×10-8M以下、1×10-9M以下、1×10-10M以下、1×10-11M以下、若しくは1×10-12M以下、又は1×10-9~1×10-10の範囲、若しくは1×10-12~約1×10-13の範囲の親和性(Kd)で結合する。親和性は、様々な技法を使用して決定され、その例には、親和性ELISAアッセイ及び表面プラズモン共鳴(BIACORE(商標))アッセイが含まれる。
【0021】
いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸291~297を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸292~298を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸293~299を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸294~300を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸288~297を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸289~298を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸290~299を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸291~300を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸292~301を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸293~302を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸294~303を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸285~297を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸286~298を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸287~299を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸288~300を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸289~301を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸290~302を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸291~303を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸292~304を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸293~305を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸294~306を含むKCNQ1のエピトープに結合する。
【0022】
いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸291~297を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。「クロスブロック」、「クロスブロックされた」、及び「クロスブロッキング」という用語は、本明細書で互換的に使用され、抗体がKCNQ1への他の抗体の結合を干渉する能力を意味する。抗体が別の抗体のKCNQ1への結合を干渉することができる程度、したがってクロスブロックと言えるかどうかは、競合結合アッセイを使用して決定することができる。いくつかの態様では、クロスブロッキング抗体又はその断片は、参照抗体のKCNQ1結合を、約40%~約100%、例えば約60%~約100%、具体的には70%~100%、より具体的には80%~100%の間で低下させる。クロスブロッキングを検出するための特に好適な定量アッセイは、表面プラズモン共鳴技術を使用して相互作用の程度を測定するBIACORE(商標)マシンを使用する。別の好適な定量的クロスブロッキングアッセイは、ELISAベースのアプローチを使用して、KCNQ1への結合の観点から抗体間の競合を測定する。
【0023】
いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸292~298を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸293~299を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸294~300を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸288~297を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸289~298を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸290~299を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸291~300を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸292~301を含むKCNQ1のエピトープに結合する。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸293~302を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸294~303を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸285~297を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸286~298を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸287~299を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸288~300を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸289~301を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸290~302を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸291~303を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸292~304を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸293~305を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号9のアミノ酸294~306を含むKCNQ1のエピトープに結合する抗体によってクロスブロックするか、又はクロスブロックされる。
【0024】
「CDR」は、抗体可変配列内の相補性決定領域を指す。重鎖及び軽鎖の可変領域の各々において3つのCDRが存在し、これらは可変領域の各々について、CDR1、CDR2、及びCDR3と称される。本明細書で使用される「6つのCDRのセット」という用語は、抗原に結合することができる軽鎖可変領域及び重鎖可変領域に存在する3つのCDRの群を指す。CDRの正確な境界は、異なるシステムに応じて異なる方法で定義されている。Kabat(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987)及び(1991))は、抗体の任意の可変領域に適用可能な明確な残基付番システムを提供するだけでなく、3つのCDRを画定する正確な残基境界も提供する。これらのCDRは、Kabat CDRと称され得る。Chothia及び共同研究者ら(Chothia&Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987)及びChothia et al.,Nature 342:877-883(1989)は、Kabat CDR内のある特定の下位部分が、アミノ酸配列のレベルで大きな多様性を有するにもかかわらず、ほぼ同一のペプチド骨格構造を採用することを見出した。これらの下位部分は、L1、L2及びL3又はH1、H2及びH3として指定され、「L」及び「H」は、それぞれ、軽鎖領域及び重鎖領域を指定する。これらの領域は、Kabat CDRと重複する境界を有する、Chothia CDRと称され得る。Kabat CDRと重複するCDRを定義する他の境界は、Padlan(FASEB J.9:133-139(1995))及びMacCallum(J Mol Biol 262(5):73245(1996))によって記載されている。更に他のCDR境界定義は、厳密には上記のシステムのうちの1つに従わないかもしれないが、それにもかかわらず、Kabat CDRと重複するであろうが、それらは、特定の残基若しくは残基の群、又はCDR全体が抗原結合に有意に影響を及ぼさないという予測又は実験的所見に照らして短縮又は延長され得る。本明細書で使用される方法は、これらのシステムのうちのいずれかに従って定義されたCDRを利用し得るが、好ましい実施形態は、Kabat又はChothiaにより定義されたCDRを使用する。
【0025】
CDRは、例えば、好適な宿主細胞における目的のCDR及び発現をコードするポリヌクレオチドを構築することによって得られる。そのようなポリヌクレオチドは、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して、抗体を産生する細胞のmRNAを鋳型として使用して可変領域を合成することによって調製される(例えば、Larrick et al.,Methods:A Companion to Methods in Enzymology,2:106(1991)、Courtenay-Luck,“Genetic Manipulation of Monoclonal Antibodies,”Monoclonal Antibodies Production,Engineering and Clinical Application,Ritter et al.(eds.),page 166,Cambridge University Press(1995)、及びWard et al.,“Genetic Manipulation and Expression of Antibodies,”Monoclonal Antibodies:Principles and Applications,Birch et al.,(eds.),page 137,Wiley-Liss,Inc.(1995)を参照)。
【0026】
様々な態様では、抗体(又はその抗原結合断片)は、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3から選択されるCDRに対して少なくとも75%の同一性(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は100%の同一性)を有する少なくとも1つのCDR配列を含み、CDR-H1は、配列番号1で示される配列を有し、CDR-H2は、配列番号2で示される配列を有し、CDR-H3は、配列番号3で示される配列を有し、CDR-L1は、配列番号4で示される配列を有し、CDR-L2は、「WAS」のアミノ酸配列を有し、CDR-L3は、配列番号6で示される配列を有する。様々な態様では、抗体(又はその抗原結合断片)は、配列番号1で示される配列を有するCDR-H1(その中に3つ、2つ、又は1つのアミノ酸置換を有する)、配列番号2で示される配列を有するCDR-H2(その中に3つ、2つ、又は1つのアミノ酸置換を有する)、配列番号3で示される配列を有するCDR-H3(その中に3つ、2つ、又は1つのアミノ酸置換を有する)、配列番号4で示される配列を有するCDR-L1(その中に3つ、2つ、又は1つのアミノ酸置換を有する)、CDR-L2(その中に3つ、2つ、又は1つのアミノ酸置換を有する)、及び配列番号6で示される配列を有するCDR-L3(その中に3つ、2つ、又は1つのアミノ酸置換を有する)を含む。抗KCNQ1抗体は、様々な態様では、CDRのうちの2つ、CDRのうちの3つ、CDRのうちの4つ、CDRのうちの5つ、又はCDRのうちの6つ全てを含む。好ましい実施形態では、抗KCNQ1抗体は、以下の6つのCDRのセットを含む:配列番号1のCDR-H1、配列番号2のCDR-H2、配列番号3のCDR-H3、配列番号4のCDR-L1、配列番号6のCDR-L3、及びアミノ酸配列「WAS」を有するCDR-L2。
【0027】
いくつかの又は任意の実施形態では、抗体は、配列番号7に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも75%の同一性(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は100%の同一性)を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、及び/又は配列番号8に記載されるアミノ酸配列に対して少なくとも75%の同一性(例えば、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は100%の同一性)を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む。様々な態様では、配列番号7(又は配列番号8)と比較した配列の差異は、対応する配列におけるCDR領域の外側にある。
【0028】
いくつかの又は任意の実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、配列番号8に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号7に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0029】
本明細書に記載される抗KCNQ1抗体の抗原結合断片もまた企図される。抗原結合断片は、少なくとも1つの抗原結合部位を有する抗体の任意の部分であり得、抗原結合断片は、抗原結合断片がKCNQ1を認識する能力を保持するより大きな構造(「抗体産物」)の一部であり得る。参照を容易にするために、抗原結合断片を含むこれらの抗体産物は、本明細書における「抗原結合断片」の開示に含まれる。抗原結合断片の例としては、Fab、F(ab’)2、単一特異性又は二重特異性Fab2、三重特異性Fab3、scFv、dsFv、scFv-Fc、二重特異性ダイアボディ、三重特異性トリアボディ、ミニボディ、IgNARの断片(例えば、V-NAR)、hcIgGの断片(例えば、VhH)、bis-scFv、Fab発現ライブラリによって発現される断片等が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な態様では、抗原結合断片は、ドメイン抗体、VhHドメイン、V-NARドメイン、VHドメイン、VLドメイン等である。しかしながら、本開示の抗体断片は、これらの例示的な種類の抗体断片に限定されない。例示的な態様では、抗原結合断片は、Fab断片である。例示的な態様では、抗原結合断片は、2つのFab断片を含む。例示的な態様では、抗原結合断片は、リンカーを介して接続された2つのFab断片を含む。例示的な態様では、抗原結合断片は、2つのFab断片を含むか又は2つのFab断片を含むミニボディである。例示的な態様では、抗原結合断片は、リンカーを介して接合された2つのFab断片を含むミニボディを含むか、又はミニボディである。ミニボディは、当該技術分野において既知である。例えば、Hu et al.,Cancer Res 56:3055-3061(1996)を参照されたい。例示的な態様では、抗原結合断片は、任意選択でアルカリホスファターゼドメインを含むリンカーを介して接合された2つのFab断片を含むミニボディを含むか、又はミニボディである。
【0030】
ドメイン抗体は、抗体の機能的結合単位を含み、抗体の重(VH)鎖又は軽(VL)鎖のいずれかの可変領域に対応し得る。ドメイン抗体は、およそ13kDa、又は完全な抗体のおよそ10分の1の分子量を有し得る。ドメイン抗体は、本明細書に記載されるものなどの完全な抗体に由来し得る。
【0031】
抗体又は抗原結合断片の産生方法
抗体を作製する好適な方法は、当該技術分野において既知である。例えば、標準的なハイブリドーマ法は、例えば、Harlow and Lane(eds.),Antibodies:A Laboratory Manual,CSH Press(1988)、及びCA.Janeway et al.(eds.),Immunobiology,5th Ed.,Garland Publishing,New York,NY(2001))に記載されている。本開示の方法で使用するためのモノクローナル抗体は、培養物中の連続細胞株による抗体分子の産生を提供する任意の技法を使用して調製されてもよい。これらには、Koehler and Milstein(Nature 256:495-497,1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Kosbor et al.,Immunol Today 4:72,1983、Cote et al.,Proc Natl Acad Sci 80:2026-2030,1983)及びEBV-ハイブリドーマ技法(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R Liss Inc,New York N.Y.,pp77-96,(1985)が含まれるが、これらに限定されない。代替的には、EBV-ハイブリドーマ法(Haskard and Archer,J.Immunol.Methods,74(2),361-67(1984)、及びRoder et al.,Methods Enzymol.,121,140-67(1986))、及びバクテリオファージベクター発現系(例えば、Huse et al.,Science,246,1275-81(1989)を参照)などの他の方法は、当該技術分野において既知である。更に、非ヒト動物における抗体を産生する方法は、例えば、米国特許第5,545,806号、同第5,569,825号、及び同第5,714,352号、並びに米国特許出願公開第2002/0197266A1号に記載されている。抗体はまた、リンパ球集団におけるインビボ産生を誘導することによって、又はOrlandi et al(Proc Natl Acad Sci86:3833-3837;1989)、及びWinter G and Milstein C(Nature 349: 293-299,1991)に開示されているような組換え免疫グロブリンライブラリ又は高度に特異的な結合試薬のパネルをスクリーニングすることによって産生され得る。抗体又は抗原結合断片の完全な配列が既知である場合、組換えタンパク質を産生する方法を用いてもよい。例えば、“Protein production and purification”Nat Methods 5(2):135-146(2008)を参照されたい。いくつかの実施形態では、抗体(又は抗原結合断片)は、インビボで生成された場合、細胞培養物又は生体試料から単離される。
【0032】
ファージディスプレイを使用して、本開示の抗体を生成することもできる。この点で、抗体の抗原結合可変(V)ドメインをコードするファージライブラリは、標準的な分子生物学及び組換えDNA技法を使用して生成することができる(例えば、Sambrook et al.(eds.),Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(2001)を参照)。所望の特異性を有する可変領域をコードするファージを、所望の抗原への特異的結合のために選択し、選択された可変ドメインを含む完全な又は部分的な抗体を再構築する。再構成された抗体をコードする核酸配列は、ハイブリドーマ産生に使用される骨髄腫細胞などの好適な細胞株に導入され、その結果、モノクローナル抗体の特性を有する抗体が細胞によって分泌される(例えば、Janeway et al.,(上記)、Huse et al.,(上記)、及び米国特許第6,265,150号を参照)。関連する方法はまた、米国特許第5,403,484号、米国特許第5,571,698号、米国特許第5,837,500号、米国特許第5,702,892号に記載されている。米国特許第5,780,279号、米国特許第5,821,047号、米国特許第5,824,520号、米国特許第5,855,885号、米国特許第5,858,657号、米国特許第5,871,907号、米国特許第5,969,108号、米国特許第6,057,098号、及び米国特許第6,225,447号に記載される技法。
【0033】
抗体は、特異的重鎖及び軽鎖免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックであるトランスジェニックマウスによって産生され得る。そのような方法は、当該技術分野において既知であり、例えば、米国特許第5,545,806号及び同第5,569,825号、並びにJaneway et al.,(上記)に記載されている。
【0034】
モノクローナル抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域の1つ、2つ、及び/又は3つのCDRを含む組成物を生成することができる。例示的な抗体のCDRは、本明細書では配列番号1~6として提供される。ヌクレオチド及びポリペプチド配列のクローニング及び発現のための技法は、当該技術分野において十分に確立されている(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor,New York(1989)を参照)。増幅されたCDR配列を、適切な発現ベクターにライゲートする。1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、及び/又は6つのクローニングされたCDRを含むベクターは、任意選択で、CDRに連結された追加のポリペプチドコード領域を含有する。
【0035】
化学的に構築された二重特異性抗体は、ヘテロ二官能性試薬スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオール)-プロピオネート(SPDP、Pierce Chemicals、Rockford,Ill.)などの化学物質によって、異種Fab又はF(ab’)2断片を化学的に架橋することによって調製されてもよい。Fab及びF(ab’)2断片は、それぞれ、パパイン又はペプシンで消化することによって、無傷の抗体から得ることができる(Karpovsky et al.,J.Exp.Med.160:1686-701(1984)、Titus et al.,J.Immunol.,138:4018-22(1987))。
【0036】
抗体がどのように産生されるかにかかわらず、KCNQ1のエピトープに結合する能力について抗体を試験する方法は、当該技術分野において既知であり、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ELISA、ウェスタンブロット、免疫沈降、表面プラズモン共鳴(例えば、Biacore)、及び競合阻害アッセイを含む(例えば、Janeway et al.,(下記)、及び米国特許出願公開第2002/0197266号を参照)。
【0037】
抗体分子の抗原結合又はイディオタイプを含む抗体断片は、当該技術分野において既知の技法によって生成され得る。例えば、F(ab’)2断片は、抗体分子のペプシン消化によって産生され得、Fab’断片は、F(ab’)2断片のジスルフィド架橋を還元することによって生成され得、2つのFab’断片は、抗体分子をパパイン及び還元剤で処理することによって生成され得る。本開示は、抗原結合断片を生成する酵素法に限定されず、抗原結合断片は、好適な宿主細胞において断片をコードするポリヌクレオチドを発現することによって産生される組換え抗原結合断片であってもよい。
【0038】
本明細書に記載されるモノクローナル抗体の重鎖は、重鎖を含有する抗体の、1つ以上のFc受容体への結合に影響を与える1つ以上の変異を更に含んでもよい。抗体のFc部分の機能のうちの1つは、抗体がその標的と結合するときに免疫系と連通することである。これは、一般的に「エフェクター機能」と称される。連通は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)につながる。ADCC及びADCPは、免疫系の細胞の表面上のFc受容体へのFcの結合を通して媒介される。CDCは、Fcと補体系のタンパク質、例えば、C1qとの結合を介して媒介される。
【0039】
抗体のエフェクター機能は、1つ以上の変異をFcに導入することによって増加又は減少され得る。本発明の実施形態は、エフェクター機能を増加させるように操作されたFcを有するヘテロ二量体抗体を含む(U.S.7,317,091及びStrohl,Curr.Opin.Biotech.,20:685-691,2009;両方とも参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる)。
【0040】
様々な実施形態では、本開示は、本明細書に記載されるような抗体の重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。
【0041】
抗体をコードする核酸を含むベクターもまた企図される。様々な実施形態では、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコードする核酸は、同じベクター又は異なるベクター上で発現される。
【0042】
更に提供されるのは、抗体重鎖及び/若しくは軽鎖可変領域をコードする核酸、又は当該核酸を発現するベクターを含む宿主細胞である。いくつかの実施形態では、宿主細胞は、真核細胞である。
【0043】
合成ペプチドを介して抗体軽鎖のVドメインに連結された抗体重鎖の可変(V)ドメインを含む切断Fab断片からなる一本鎖可変領域断片(scFv)は、ルーチン組換えDNA技術の技法を使用して生成することができる(例えば、Janeway et al.(上記)を参照)。同様に、ジスルフィド安定化可変領域断片(dsFv)は、組換えDNA技術によって調製することができる(例えば、Reiter et al.,Protein Engineering,7,697-704(1994)を参照)。
【0044】
組換え抗体断片、例えば、scFvは、異なる標的抗原に対する高い結合親和性及び特異性を有する安定した多量体オリゴマーに組み立てるように操作することもできる。そのような二重特異性抗体(二量体)、三重特異性抗体(三量体)又は四重特異性抗体(四量体)は、当該技術分野において周知である(例えば、Kortt et al.,Biomol Eng.2001 18:95-108,(2001)及びTodorovska et al.,J Immunol Methods.248:47-66(2001)を参照)。
【0045】
検出方法
試料中のKCNQ1の存在を検出するか、又は量を測定することが望ましい場合がある。この点において、本開示は、本明細書に記載される抗体又はその断片を使用して、試料中のKCNQ1の量を測定する方法を提供する。KCNQ1の測定を決定するために、哺乳動物対象からの生体試料を、免疫複合体を形成するのに十分な時間、本明細書に記載される抗KCNQ1抗体(又はその抗原結合断片)と接触させる。次いで、抗体と試料中のKCNQ1との間に形成される免疫複合体を検出する。生体試料中のKCNQ1の量は、抗体とKCNQ1との間に形成される免疫複合体の量を測定することによって任意選択で定量される。例えば、抗体が検出可能な標識を有する場合、抗体を定量的に測定することができるか、又は二次抗体を使用して免疫複合体を定量することができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、生体試料は、組織試料、細胞試料、又は血液、唾液、血清、若しくは血漿などの生物学的流体試料を含む。
【0047】
抗体を試験試料とともにインキュベートするための条件は様々である。インキュベーション条件は、アッセイに用いられる形式、用いられる検出方法、及びアッセイに使用される抗体の種類及び性質に依存する。当業者は、一般的に利用可能な免疫学的アッセイフォーマットのうちのいずれか1つが、本開示の抗体(又はその断片)を用いるように容易に適合され得ることを認識するであろう。そのようなアッセイの例は、Chard,T.,An Introduction to Radioimmunoassay and Related Techniques,Elsevier Science Publishers,Amsterdam,The Netherlands(1986)、Bullock,G.R.et al.,Techniques in Immunocytochemistry,Academic Press,Orlando,FL Vol.1(1982),Vol.2(1983),Vol.3(1985)、Tijssen,P.,Practice and Theory of immunoassays: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology,Elsevier Science Publishers,Amsterdam,The Netherlands(1985)において見出すことができる。上記の方法において使用される試験試料は、アッセイフォーマット、検出方法の性質、及びアッセイされる試料として使用される組織、細胞又は流体に基づいて変動する。
【0048】
本明細書に記載されるアッセイは、例えば、動物研究、臨床試験、又は個々の患者の治療のモニタリングにおける特定の治療的処置レジメンの有効性を評価するのに有用であり得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、抗KCNQ1抗体(又はその抗原結合断片)は、固体支持体に結合され、結合は、固体支持体上のKCNQ1と抗体(又はその抗原結合断片)との間の複合体を検出することによって検出される。抗体(又はその断片)は、任意選択で、検出可能な標識を含み、結合は、KCNQ1-抗体複合体中の標識を検出することによって検出される。
【0050】
KCNQ1-抗体複合体の存在又は非存在の検出は、当該技術分野において既知である任意の方法を使用することによって達成され得る。例えば、標的分子(例えば、抗体)と相互作用するKCNQ1ペプチドのレポーター遺伝子転写アッセイから得られる転写産物は、典型的には、直接的又は間接的に検出可能な産物(例えば、β-ガラクトシダーゼ活性及びルシフェラーゼ活性)をコードする。無細胞結合アッセイの場合、構成要素のうちの1つは、通常、検出可能な標識を含むか、又は検出可能な標識にカップリングされる。直接検出(放射能、発光、光学密度若しくは電子密度など)又は間接検出(例えば、FLAGエピトープなどのエピトープタグ、ワサビペルオキシダーゼなどの酵素タグ)を提供するものなどの多様な標識を使用することができる。標識は、抗体に結合するか、又は抗体の構造に組み込むことができる。
【0051】
標識及び他のアッセイ構成要素の性質に応じて、種々の方法を使用して、標識を検出することができる。例えば、標識は、固体基板に結合している間、又は固体基板からの分離の後に検出され得る。標識は、光学密度若しくは電子密度、放射性放出、非放射性エネルギー移動によって直接検出することができるか、又は抗体コンジュゲート若しくはストレプトアビジン-ビオチンコンジュゲートによって間接的に検出することができる。標識を検出するための方法は、当該技術分野において周知である。
【0052】
薬学的組成物
本明細書に記載される抗KCNQ1抗体又はその抗原結合断片を含む薬学的組成物もまた企図される。いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、例えば、組成物のpH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、臭気、無菌性、安定性、溶解若しくは放出速度、吸着又は貫通を修正、維持又は保存するための製剤材料を含有する。そのような実施形態では、好適な製剤材料としては、アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、プロリン、メチオニン又はリジンなど);抗菌剤;抗酸化剤(還元剤、酸素/遊離基スカベンジャー、及びキレート剤(例えば、アスコルビン酸、EDTA、亜硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウム)など);緩衝液(ホウ酸塩、重炭酸塩、トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩又は他の有機酸など);増量剤(マンニトール又はグリシンなど);キレート剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など);錯化剤(カフェイン、ポリビニルピロリドン、ベータ-シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンなど);充填剤;単糖類;二糖類;及び他の炭水化物(グルコース、マンノース又はデキストリンなど);タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなど);着色剤、香味剤及び希釈剤;乳化剤;親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど);低分子量ポリペプチド;塩形成対イオン(ナトリウムなど);保存剤(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素など);溶媒(グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールなど);糖アルコール(マンニトール又はソルビトールなど);懸濁剤;界面活性剤又は湿潤剤(プロン酸、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサパールなど);安定性向上剤(スクロース又はソルビトールなど);張性向上剤(アルカリ金属ハロゲン化物、好ましくは塩化ナトリウム又は塩化カリウム、マンニトールソルビトールなど);送達ビヒクル;希釈剤;賦形剤及び/又は薬学的アジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,18”Edition,(A.R.Genrmo,ed.),1990,Mack Publishing Companyを参照されたい。
【0053】
本明細書に記載される特定の製剤材料の選択は、例えば、意図される投与経路、送達形態、及び所望の投与量によって駆動され得る。例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(上記)を参照されたい。薬学的組成物中の一次ビヒクル又は担体は、本質的に水性であっても非水性であってもよい。例えば、好適なビヒクル又は担体は、注射用水、生理食塩水溶液、又は人工脳脊髄液であってもよく、場合によっては、非経口投与用の組成物に共通する他の材料で補充されてもよい。中性緩衝生理食塩水又は血清アルブミンと混合された生理食塩水は、更なる例示的なビヒクルである。特定の実施形態では、薬学的組成物は、約pH7.0~8.5のTris緩衝液、又は約pH4.0~5.5の酢酸緩衝液を含み、ソルビトール又はそのための好適な代替物を更に含み得る。ある特定の実施形態では、組成物は、所望の純度を有する選択された組成物を、凍結乾燥ケーキ又は水溶液の形態で任意選択の製剤(REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES、上記)と混合することによって保管のために調製され得る。更に、いくつかの実施形態では、抗体又は(その抗原結合断片)は、スクロースなどの適切な賦形剤を使用して凍結乾燥物として製剤化されてもよい。
【0054】
本発明の薬学的組成物は、非経口送達のために選択することができる。あるいは、組成物は、吸入のために、又は経口などの消化管を介した送達のために選択され得る。そのような薬学的に許容される組成物の調製は、当業者の範囲内である。製剤成分は、好ましくは、投与部位に許容される濃度で存在する。ある特定の実施形態では、緩衝液を使用して、組成物を生理学的pH又はわずかに低いpH、典型的には、約5~約8のpH範囲内で維持する。
【0055】
非経口投与が企図される場合、組成物は、薬学的に許容されるビヒクル中の所望の抗体又は断片を含む、パイロジェンフリーの非経口的に許容される水溶液の形態で提供され得る。非経口注射に特に好適なビヒクルは、抗体又は断片が無菌の等張溶液として製剤化され、適切に保存された無菌蒸留水である。ある特定の実施形態では、植込み型薬物送達デバイスを使用して、所望の抗体(又はその抗原結合断片)を導入することができる。
【0056】
持続送達又は制御送達製剤中の抗原結合タンパク質を伴う製剤を含む追加の薬学的組成物は、本明細書で企図される。リポソーム担体、生体浸食性微粒子又は多孔質ビーズ及びデポー注射などの様々な他の持続送達又は制御送達手段を製剤化するための技法は、当該技術分野において入手可能である。例えば、国際特許出願第PCT/US93/00829号(これは、参照により組み込まれ、薬学的組成物の送達のための多孔質ポリマー微粒子の制御放出を説明する)を参照されたい。持続放出調製物は、成形品の形態の半透過性ポリマーマトリックス、例えば、フィルム又はマイクロカプセルを含み得る。持続放出マトリックスには、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリラクチド(各々が参照により組み込まれる、米国特許第3773919号及び欧州特許出願公開第EP058481号に開示されているような)、L-グルタミン酸及びガンマエチル-L-グルタメートのコポリマー(Sidman et al.,1983,Biopolymers 2:547-556)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)(Langer et al.,1981,J.Biomed.Mater.Res.15:167-277及びLanger,1982,Chem.Tech.12:98-105)、エチレン酢酸ビニル(Langer et al.,1981、上記)又はポリ-D(-)-3-ヒドロキシ酪酸(欧州特許出願公開第EP133988号)が含まれ得る。持続放出組成物はまた、当該技術分野において既知のいくつかの方法のうちのいずれかによって調製され得るリポソームを含み得る。例えば、参照により組み込まれる、Eppstein et al.,1985,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.82:3688-3692、欧州特許出願公開第EP036676号、同第EP088046号及び同第EP143949号を参照されたい。
【0057】
抗体製剤の実施形態は、1つ以上の保存剤を更に含み得る。
【0058】
本明細書に記載される組成物の投与は、標的組織がその経路を介して利用可能である限り、任意の共通経路を介して行われる。薬学的組成物は、任意の従来の方法、例えば、静脈内、皮下、皮内、筋肉内、乳房内、腹腔内、髄腔内、眼内、小球後、肺内(例えば、用語放出)によって、経口、舌下、鼻、肛門、膣、若しくは経皮送達によって、又は特定の部位での外科的移植によって、対象に導入され得る。
【0059】
投与量
いくつかの実施形態では、1回以上の用量の抗体又は抗原結合断片は、QT延長症候群(LQTS)の対象を治療するのに有効な量及び時間で投与される。例えば、本明細書に記載される抗体又はその抗原結合断片の1回以上の投与は、任意選択で、例えば、約1週間~約24ヶ月(例えば、約1ヶ月~約12ヶ月、約1ヶ月~約18ヶ月、約1ヶ月~約9ヶ月、又は約1ヶ月~約6ヶ月、又は約1ヶ月~約3ヶ月)の治療期間にわたって実行される。いくつかの実施形態では、対象は、例えば、約1ヶ月~約12ヶ月(52週間)(例えば、約2ヶ月、約3ヶ月、約4ヶ月、約5ヶ月、約6ヶ月、約7ヶ月、約8ヶ月、約9ヶ月、約10ヶ月、又は約11ヶ月)の治療期間にわたって、1回以上の用量の本明細書に記載される抗体又はその断片を投与される。
【0060】
特定の対象に選択された治療レジメンに応じて、複数回用量の抗体又は抗原結合断片を規則的な間隔で投与することが有利であり得る。いくつかの実施形態では、抗体又はその断片は、1年(12ヶ月、52週間)以下(例えば、9ヶ月以下、6ヶ月以下、又は3ヶ月以下)の期間にわたって定期的に投与される。この点で、抗体又はその断片は、ヒトに、約3日毎、又は約7日毎、又は約2週毎、又は3週毎、又は4週毎、又は5週毎、又は6週毎、又は7週毎、又は8週毎、又は9週毎、又は10週毎、又は11週毎、又は12週毎、又は13週毎、又は14週毎、又は15週毎、又は16週毎、又は17週毎、又は18週毎、又は19週毎、又は20週毎、又は21週毎、又は22週毎、又は23週毎、又は6ヶ月毎、又は12ヶ月毎に1回投与される。
【0061】
様々な実施形態では、約50mg~約1,000mgの抗体又はその抗原結合断片を含む1回以上の用量を、対象(例えば、ヒト対象)に投与する。例えば、用量は、少なくとも約5mg、少なくとも約15mg、少なくとも約25mg、少なくとも約50mg、少なくとも約60mg、少なくとも約70mg、少なくとも約80mg、少なくとも約90mg、少なくとも約100mg、少なくとも約120mg、少なくとも約150mg、少なくとも約200mg、少なくとも約210mg、少なくとも約240mg、少なくとも約250mg、少なくとも約280mg、少なくとも約300mg、少なくとも約350mg、少なくとも約400mg、少なくとも約420mg、少なくとも約450mg、少なくとも約500mg、少なくとも約550mg、少なくとも約600mg、少なくとも約650mg、少なくとも約700mg、少なくとも約750mg、少なくとも約800mg、少なくとも約850mg、少なくとも約900mg、少なくとも約950mg、又は最大約1,000mgの抗体を含むことができる。これらのエンドポイントのうちのいずれか及び全ての間の範囲、例えば、約50mg~約80mg、約70mg~約140mg、約70mg~約270mg、約75mg~約100mg、約100mg~約150mg、約140mg~約210mg、又は約150mg~約200mg、又は約180mg~約270mgもまた企図される。用量は、週に複数回(例えば、週に2回又は3回)、週に1回、2週毎に1回、3週毎に1回、又は4週毎に1回などの任意の間隔で投与される。
【0062】
いくつかの実施形態では、1回以上の用量は、対象の体重キログラム(mg/kg)当たり約0.1~約50mg(例えば、約5~約50mg)、又は約1~約100mgの抗体(又はその抗原結合断片)を含むことができる。例えば、用量は、少なくとも約0.1mg/kg、少なくとも約0.5mg/kg、少なくとも約1mg/kg、少なくとも約2mg/kg、少なくとも約3mg/kg、少なくとも約4mg/kg、少なくとも約5mg/kg、少なくとも約6mg/kg、少なくとも約7mg/kg、少なくとも約8mg/kg、少なくとも約9mg/kg、少なくとも約10mg/kg、少なくとも約11mg/kg、少なくとも12mg/kg、少なくとも13mg/kg、少なくとも14mg/kg、少なくとも約15mg/kg、少なくとも16mg/kg、少なくとも17mg/kg、少なくとも18mg/kg、少なくとも19mg/kg、少なくとも約20mg/kg、少なくとも21mg/kg、少なくとも22mg/kg、少なくとも23mg/kg、少なくとも24mg/kg、少なくとも約25mg/kg、少なくとも約26mg/kg、少なくとも約27mg/kg、約28mg/kg、少なくとも約29mg/kg、少なくとも約30mg/kg、少なくとも約31mg/kg、少なくとも約32mg/kg、少なくとも約33mg/kg、少なくとも約34mg/kg、少なくとも約35mg/kg、少なくとも約36mg/kg、少なくとも約37mg/kg、少なくとも約38mg/kg、少なくとも約39mg/kg、少なくとも約40mg/kg、少なくとも約41mg/kg、少なくとも約42mg/kg、少なくとも約43mg/kg、少なくとも約44mg/kg、少なくとも約45mg/kg、少なくとも約46mg/kg、少なくとも約47mg/kg、少なくとも約48mg/kg、少なくとも約49mg/kg、少なくとも約50mg/kg、少なくとも約55mg/kg、少なくとも約60mg/kg、少なくとも約65mg/kg、少なくとも約70mg/kg、少なくとも約75mg/kg、少なくとも約80mg/kg、少なくとも約85mg/kg、少なくとも約90mg/kg、少なくとも約95mg/kg、又は最大約100mg/kgを含み得る。これらのエンドポイントのうちのいずれか及び全ての間の範囲、例えば、約1mg/kg~約3mg/kg、約1mg/kg~約5mg/kg、約1mg/kg~約8mg/kg、約3mg/kg~約8mg/kg、約1mg/kg~約10mg/kg、約1mg/kg~約20mg/kg、約1mg/kg~約40mg/kg、約5mg/kg~約30mg/kg、又は約5mg/kg~約20mg/kgもまた企図される。
【0063】
治療方法
別の態様では、QT延長症候群(LQTS)に罹患している対象を治療する方法であって、対象に、QT延長症候群を治療するのに有効な量で、抗体(若しくはその抗原結合断片)又は薬学的組成物を投与することを含む、方法が本明細書に記載される。
【0064】
いくつかの実施形態では、QT延長症候群は、LQTS2又はLQTS3である。いくつかの実施形態では、QT延長症候群は、LQTS2である。いくつかの実施形態では、QT延長症候群は、LQTS3である。
【0065】
いくつかの実施形態では、対象はまた、心筋症、糖尿病、てんかん又は神経学的併存疾患に罹患している。いくつかの実施形態では、抗体(又はその抗原結合断片)を投与することは、抗体(又はその抗原結合断片)を受けなかった対象と比較して、より短い心再分極をもたらす。いくつかの実施形態では、抗体(又はその抗原結合断片)を投与することは、抗体(又はその抗原結合断片)を受けなかった対象と比較して、突然の心停止を含む心室頻拍性不整脈の発生率の低下をもたらす。
【0066】
いくつかの実施形態では、抗体(又はその抗原結合断片)を投与することは、ベースラインでの対象の心再分極と比較して、対象のより短い心再分極(ECG上のQT若しくはJT間隔、又はその変形、例えば、Bazett式(QT/RR1/2)、Fridericia(QT/RR1/3)、Framingham(QT+0.154(1-RR)、Hodges(QT+1.75(HR-60)、Rautaharju(QT×(120+HR)/180)、心拍補正されたJT(QTc-QRS))によって少なくとも5%(又は少なくとも10%、又は少なくとも15%、又は少なくとも20%、又は少なくとも25%、又は少なくとも30%、又は少なくとも35%、又は少なくとも40%、又は少なくとも45%、又は少なくとも50%以上)補正されたQT間隔)をもたらす。
【0067】
いくつかの実施形態では、抗体(又はその抗原結合断片)を投与することは、対象におけるKCNQ1チャネル発現に影響を及ぼさない。
【0068】
いくつかの実施形態では、抗体は、検出可能な又は最小限のオフターゲット効果、例えば、てんかん、神経精神併存症、糖尿病又は耐糖能障害、甲状腺障害を有しない。
【0069】
併用療法
本明細書に開示される抗KCNQ1モノクローナル抗体は、単独で、又は任意選択で、LQTSの治療に有用な他の治療剤と組み合わせて投与され得る。したがって、本明細書に記載される状態、疾患、又は障害の治療に有用であることが知られている任意の活性剤は、本発明の方法で使用され得、本発明の方法で使用されるアミノステロール組成物と組み合わせるか、又は別々に若しくは連続的に投与され得る。例示的な追加の薬剤には、プロパノロール(例えば、Inderal(登録商標))、アテノロール(例えば、Tenormin(登録商標))、メトプロロール(例えば、Metoprolol(登録商標)、Lopressor(登録商標))、ナドロール(例えば、Corgard(登録商標))、ビソプロロール(例えば、Zebeta(登録商標)、Monocor(登録商標))などのβ遮断薬;メキシレチン(例えば、Mexitil(登録商標))、ラノラジン(例えば、Ranexa(登録商標))などの抗不整脈薬;ジルチアゼム(例えば、Cardizem(登録商標))及びベラパミル(例えば、Verelan(登録商標))などのカルシウムチャネル遮断薬;並びにジゴキシン(例えば、Lanoxin(登録商標)などのジギタリス由来の薬物が含まれるが、これらに限定されない。
【0070】
キット
薬学的組成物が製剤化されると、それは、溶液、懸濁液、ゲル、エマルション、固体、結晶、又は脱水若しくは凍結乾燥粉末として、滅菌バイアルに保管され得る。そのような製剤は、すぐに使用できる形態で、又は投与前に再構成される形態(例えば、凍結乾燥された)で保管され得る。本発明はまた、単回用量投与単位を製造するためのキットも提供する。本開示のキットは、各々、乾燥タンパク質を有する第1の容器と、水性製剤を有する第2の容器との両方を含有してもよい。ある特定の実施形態では、単一及びマルチチャンバ型プリフィルドシリンジ(例えば、液体シリンジ及び凍結乾燥シリンジ)を含むキットが提供される。
【0071】
以下の実施例は、本開示の態様を更に例示するために提供されており、本開示を任意の特定の応用又は動作理論に限定するものではない。
【実施例】
【0072】
実施例1-材料及び方法
抗KCNQ1抗体の生成:5匹のBalb/cマウスを、ProteoGenix(Schiltigheim,France)による標準プロトコルを使用して、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)担体にカップリングしたKCNQ1チャネルペプチド配列(AEKDAVNESGRVEFGSYADA、配列番号10(配列番号9のアミノ酸283~302))に対して免疫化した。簡潔に述べると、マウスは、50μgのKCNQ1ペプチドと完全フロイトアジュバントとの皮下注射、続いて不完全フロイトアジュバント(IFA)を補充した25μgのKCNQ1ペプチドの週次注射を受けた。4週目の最終的なブースター注射(50μgのKCNQ1ペプチド+IFA)の後、最も高い抗体価を有するマウス由来の脾臓細胞を収集し、ポリエチレングリコール(ProteoGenix、Schiltigheim,France)によって骨髄腫細胞と融合させた。ハイブリドーマ細胞を、10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したRPMI 1640/1% L-グルタミンを含有する完全培地中で培養した。異なる継代の細胞の順次分離を、ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)及び完全培地を使用して実施した。限界希釈技法による反復サブクローニング及び酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によるスクリーニングによって、KCNQ1チャネル配列を標的とするIgGを特異的に産生する6つのクローンが同定された。6つのモノクローナル抗体を、選択されたクローンから産生し、プロテインGカラム(ProteoGenix、Schiltigheim,France)上で精製した。標準ELISAを使用して、IgGサブタイプを決定した。モノクローナル抗体を滅菌した1×PBS(pH7.4)中に収集し、A280法を用いて濃度を決定した。
【0073】
組換え抗体の産生:マウスIgG2aの定常領域に融合した可変領域の配列は、哺乳動物の発現のために最適化されたシグナルペプチドと組み合わせて、ProteoGenix(France)によって化学的に合成された。cDNAを、制限酵素、EcoRI及びNotIを使用して発現ベクターpTX1に挿入した。次いで、Proteogenix独自の方法で、プラスミドをXtenCHO(商標)細胞内で一過性にトランスフェクトした。次いで、抗体をXtenCHO(商標)細胞の上清から親和性精製した。SDS-PAGEゲルによる分離後、モノクローナル抗体を、還元及び非還元条件下でウェスタンブロットによって分析した。
【0074】
抗体動態及び親和性測定:CM5センサーチップを備えたBiacore 8K表面プラズモン共鳴(SPR)機器(GE Healthcare Life Sciences,ProteoGenix、France)を使用して、室温で結合速度定数及び親和性定数を生成した。IgG2a 8-F11-D4(10μg/ml)を、製造業者のプロトコルに従って、アミドカップリングによってCM5チップ上に固定化した。表面化学を、固定化前に1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びスルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)試薬を使用して活性化し、一方でエタノールアミンを使用して残りの活性エステルを不活性化した。試料を、10mMのHEPES(pH7.4)、150mMのNaCl、3mMのEDTA、0.05%の界面活性剤P20で構成されたHBS-EP+緩衝液中で調製した。抗原ペプチドを20mMの酢酸ナトリウム(pH4.5)に懸濁し、グリシン-HCl(pH1.5)を再生緩衝液として使用した。結合親和性を定義するために、相互作用の動態分析を、10’000共鳴単位(RU)の抗体固定化レベルを使用して実施した。このレベルは、リガンド(IgG2a)に対する分析物(抗原ペプチド)の最大応答(Rmax)の計算に基づいて最適と考えられた。Rmax=(MWanalyte/MWligand)×RL×Sm(式中、MWanalyte及びMWligandは、それぞれ、抗体(リガンド、SDS-PAGEによって決定されるように、180kDa)に対するペプチド(分析物、2.12kDa)の分子量であり、RLは、RUで結合されたリガンドの目標量であり、Smは、分析物/リガンド相互作用の化学量論比を表す(Sm=1)。100RUの理論上のRmaxは、10’000RUのリガンドで達成される。異なる濃度のモノクローナル抗体(7.8125nM~500nM、2倍の段階希釈液)を、30μl/分の流量で120秒間注入し、続いて600秒の解離相を注入した。アッセイの再現性を評価するために、注入を三重に実施した。全てのデータを、Biacore 8K評価ソフトウェアで処理し、分析した。
【0075】
高解像度構造的エピトープマッピング:抗体エピトープのマッピングは、切断されたペプチドを回避するために、C末端及びN末端で中性GSGSGSGリンカーで伸長されたKCNQ1タンパク質(NP_000209.2)の完全長配列を網羅するPEPperPRINT GmbH(Germany)によってPEPperCHIP(登録商標)上で実施した。伸長した抗原配列を、C末端システインと適切に修飾されたN末端との間のチオエーテル連結を介して環化された、7、10、及び13の重複アミノ酸ペプチドに翻訳した。得られた構造的KCNQ1ペプチドマイクロアレイは、複製された2043の異なるペプチドを含有し、追加のヘマグルチニン(YPYDVPDYAG(配列番号11)、134スポット)対照ペプチドによってフレーム化した。モノクローナル抗体を、0.1μg/mlの濃度でインキュベートした。ヤギ抗マウスIgG(H+L)DyLight680を、二次抗体として用いた。走査には、LI-COR Odysseyイメージングシステムを使用した。スポット強度の定量化及びペプチドアノテーションは、PepSlide(登録商標)Analyzerを用いて実施した。平均した前景強度の中央値に基づいて、強度マップを生成した。40%の最大スポット間偏差を許容し、それ以外の場合、対応する強度値をゼロにした。
【0076】
分子ドッキング:以下の3次元構造を、RCSBタンパク質データバンク(PDB)から取得し、以下のタンパク質を構築するための鋳型として用いた:ホモサピエンスKCNQ1-カルモジュリンチャネル複合体(PDB:6UZZ)及びMus musculus免疫グロブリン2a(PDB:1IGT)。以前に得られたIgG2a 8-F11-D4配列を、モノクローナル抗体の3D構造をモデリングするための初期データとして組み込んだ。剛性抗原-抗体ドッキングを、分子作動環境(MOE)プログラム(Chemical Computing Group、Montreal,Canada)を使用して実施した。抗体及びKCNQ1チャネルは、それらのエネルギーを最小限に抑え、次いでMOEアルゴリズムのデフォルトパラメータに従って3Dプロトン化することによってドッキングのために調製した。KCNQ1チャネル(細胞外ドメイン)及び抗体(CDR)の両方の標的部位を、ドッキングの前に特定した。膜貫通セグメントS1~S2、S3~S4及びS5~S6(細孔領域を含む)間のループは、Chouabe et al.(Chouabe,Neyroud,Guicheney,Lazdunski,Romey&Barhanin,1997)によって定義されるように、KCNQ1チャネル複合体の細胞外ドメインを構成する。H鎖及びL鎖の相補性決定領域(CDR)は、Kabat付番スキーム(Kabat,Wu,Perry,Foeller&Gottesman,1991)を使用して予測された。細胞膜をシミュレートするために、細胞外チャネル領域には、大きなAtomQ特徴(半径20Å)が設定され、一方、脂質二重層領域には、大きな排除体積(半径20Å)が作成された。MOEプログラムを使用して、分子グラフィック及びタンパク質視覚化をレンダリングした。
【0077】
CHO細胞培養及びパッチクランプ記録:ヒトKCNQ1/KCNE1チャネルを安定的に発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、10%ウシ胎仔血清(Bioswisstec Ltd、Schaffhausen,Switzerland)、ペニシリン/ストレプトマイシン(ペニシリン10.000U/ml-ストレプトマイシン10mg/ml、Bioswisstec Ltd、Schaffhausen,SwitzerlandによるSeraglob)を補充したHamのF-12栄養ミックス(Life Technologies Europe BV、Zug,SwitzerlandによるGibco(商標))中、37℃、5% CO2で培養した。トリプシン-EDTA(Sigma Aldrich、Buchs,Switzerland)を使用して、細胞を酵素的に分割した。パッチクランプ実験のために、CHO細胞を、培養培地±モノクローナル抗体中の滅菌ペトリ皿(1000~2000細胞/cm2)上にプレーティングした。PATCHMASTER(HEKA Elektronik GmbH、Lambrecht,Germany)によって制御されるEPC-10増幅器を使用して、室温で全セル構成のIKs電流を記録した。以下の外部溶液を(mmol/Lで)使用した:140NaCl、5KCl、1MgCl2、10HEPES、1.8CaCl2、10グルコース(NaOHで調整したpH7.4)±モノクローナル抗体。ホウケイ酸ガラス毛細管(Harvard Apparatus、Holliston,Massachusetts,USA、先端抵抗5~7MΩ)を、(mmol/Lで)以下で構成された内部溶液で充填した:100K+アスパラギン酸塩、20KCl、2MgCl2、1CaCl2、10EGTA、5K+ATP、10HEPES、40グルコース(KOHで調節したpH7.2)。IK電流は、CHO細胞を-60mVで保持し、-50mV~+70mVの脱分極試験パルス(3000ms、0.1Hz)を10mV増分ステップで印加し、続いて-40mVに再分極すること(2000ms)によって測定した。IKs電流を2.9kHzでローパスフィルタリングし、4kHzでサンプリングした。全細胞パッチクランプデータをFITMASTER(HEKA Elektronik GmbH、Lambrecht,Germany)で分析した。活性化曲線及び不活性化曲線は、ボルツマン関数で適合させた:I/Imax=1/(1+e(V1/2-Vt)/k)、式中、V1/2=半最大活性化電位、Vt=試験パルス電位、k=スロープ係数(Maguy et al.J Am Coll Cardiol 2020)。
【0078】
hiPSC-CMC培養及びパッチクランプ記録:Ncardia(Pluricyte(著作権)、Ncardia BV、Leiden,The Netherlands)由来のヒト誘導多能性幹細胞由来心室心筋細胞(hiPSC-CMC)を、製造業者の指示に従って培養した(Maguy et al.,J Am Coll Cardiol 2020)。hiPSC-CMCを、DMEM/F-12,GlutaMAX(商標)サプリメント(Life Technologies Europe BV、Zug,SwitzerlandによるGibcoTM)中で1:100に希釈したCorning Matrigel(VWR International GmbH、Dietikon,Switzerlandからの成長因子低減基底膜マトリックス)でコーティングしたペトリ皿上に25’000細胞/cm2の密度でプレーティングした。前述のように、37℃でPATCHMASTER(HEKA Elektronik GmbH、Lambrecht,Germany)によって制御されるEPC-10増幅器を用いた電流クランプ条件下で、解凍後7日目~14日目の間に自発的な活動電位を記録した(Maguy et al.J Am Coll Cardiol 2020)。外部溶液は、(mmol/Lで)以下で構成された:140NaCl、5KCl、1MgCl2、10HEPES、1.8CaCl2、10グルコース(NaOHで調整したpH7.4)±モノクローナル抗体。hiPSC-CMCにおいてLQTS2を薬理学的に誘導するために、細胞を選択的hERG遮断薬、10nMのE-4031(Alomone Labs、Israel)に曝露し、インキュベーションの30分後に記録を開始した。LQTS3の電気表現型をシミュレートするために、5分間のインキュベーション後に、イソギンチャク毒(5nM ATX-II、Alomone Labs、Israel)を使用して、後期INa電流を選択的に増加させた。ホウケイ酸ガラスピペットは、2~4MΩの先端抵抗を有した。内部溶液は、(mmol/Lで)以下を含有した:110K+アスパラギン酸塩、20KCL、1MgCl2、5Mg2+ATP、0.1Li+GTP、10HEPES、5Na+ホスホクレアチン、0.05EGTA(pHをKOHで7.3に調節した)、200μg/mlのアムホテリシン(AppliChem GmbH、Germany)。活動電位をFITMASTER(HEKA Elektronik GmbH、Germany)で分析した。活動電位持続時間(APD)を、90%(APD90)再分極時に決定した。
【0079】
統計分析:特に断りのない限り、結果は、平均±SEMとして示される。全てのデータを、Shapiro-Wilk試験に供して分布の正規性を評価した。正規分布データを有する群間の統計的差異は、一元分散分析、続いてTukeyの多重比較事後検定によって決定した。2つの群平均を比較するために、両側スチューデントt検定を適用して、正規分布データの統計的有意性を決定した。非正規分布の場合、マン・ホイットニーU検定を使用した。統計分析には、GraphPad Prism 7ソフトウェア(GraphPadソフトウェア、USA)を使用した。<0.05のp値は、統計学的に有意であると考えられた。
【0080】
実施例2-機能的KCNQ1モノクローナル抗体の選択
ハイブリドーマ上清をELISAによって試験して、分泌された抗体がKCNQ1チャネルペプチドに対する特異性を保持したことを確認した。40のハイブリドーマクローンのうち、特異性を有する機能性IgG抗体を産生する6つが同定された(すなわち、3-A11-H3-F3、5-D4-D1、7-D12-B11-D12、8-F11-D-4、9-F5-H2-2-G11-F6及び10-F10-D7-B1)。全細胞パッチクランプ実験を実施して、ヒトI
Ksチャネルを安定的に発現するCHO細胞におけるI
Ks電流に対する6つ全てのモノクローナル抗体の効果を研究した。30μg/ml IgGの濃度を試験する選択は、ポリクローナルKCNQ1抗体に関する以前のデータに基づいた(Maguy,Kucera,Wepfer,Forest,Charpentier&Li,2020)。
図1に例示されるように、IgG2a 8-F11-D4(配列番号1~6に記載されるCDRを含む)は、ポリクローナル抗体集団の効果を最もよく複製した。IgG2a 8-F11-D4は、平均I
Ksステップ電流を+70mVで1.6倍、平均I
Ksテール電流を-40mVに再分極すると1.5倍増加させた(
図2A~2D)。モノクローナル抗体で処理したCHO細胞の容量は、対照群と同様であった。ポリクローナルKCNQ1抗体に類似して、IgG2a 8-F11-D4は、半最大活動電位(V
1/2)を-9mVシフトし、一方、不活性化の電圧依存性をより負の電位に11mVシフトした(
図2E~2F)。電圧感度を反映する活性化及び不活性化スロープ係数kは変化しなかった。
【0081】
実施例3-KCNQ1モノクローナル抗体IgG2a 8-F11-D4の特徴付け
次に、心再分極に対するIgG2a 8-F11-D4の効果を様々な濃度で試験した(
図4A及び4B)。全ての活動電位(AP)パラメータを表1に記載する。
【表1】
【0082】
モノクローナル抗体によるAPD90の濃度依存的な低下が、シグモイド濃度-応答関係で観察された(
図4C)。半最大有効濃度(EC50)を、5.7μg/mlのIgG2a 8-F11-D4で計算した。それぞれのKCNQ1ペプチドに結合するモノクローナル抗体の動態は、SPR技法で決定された(
図9)。抗体-抗原相互作用について、以下の平均会合速度定数(オンレート、ka)、平均解離速度定数(オフレート、kd)、及び平均平衡解離速度定数(KD)の値を計算した(±標準偏差):ka=9.09×10
4±1.53×10
3M
-1s
-1、kd=8.20×10
-4±5.34×10
-5s
-1、KD=9.02×10
-9±6.99×10
-10M。したがって、同定されたモノクローナル抗体IgG2a 8-F11-D4は、ナノモル範囲のKD値と全体的に高い親和性を示す。
【0083】
実施例4-IgG2a 8-F11-D4の構造的エピトープマッピング
コンセンサスモチーフVEFG(我々の標的エピトープに対応する配列、すなわち、KCNQ1の第5の膜貫通ドメインと第6の膜貫通ドメインとの間の細胞外ループ)を有する隣接するペプチドによって形成されるエピトープ様スポットパターンに対する非常に強い抗体応答が、全てのペプチド長で観察された(
図7)。この配列に先行するアルギニン(R)アミノ酸は、同様に、抗体結合に寄与し得る。コンセンサスモチーフ
【化1】
を有するペプチドについては、更なる有意に弱い相互作用が見出され、おそらくマイナー配列相同性(下線付きアミノ酸位置)に基づく交差反応によるものである。それにもかかわらず、両方のペプチド配列は細胞内に位置しているため、循環抗体に容易にアクセスすることはできない。
【0084】
実施例5-KCNQ1-8-F11-D4 IgG2aドッキング
ペプチドベースのエピトープマッピングアプローチは、KCNQ1チャネルの三次及び/又は四次構造の関与を特定する可能性が低いため、計算ドッキングを実施した。IgG2a 8-F11-D4の可変領域の重(H)及び軽(L)鎖コード配列をmRNAから増幅させ、クローニングし、親和性精製モノクローナル抗体のタンパク質配列決定と比較することによって検証した。IgG2a 8-F11-D4の軽鎖及び重鎖可変配列は、それぞれ、配列番号7及び8に記載されている。配列を確認するために、組換えマウスIgG2a 8-F11-D4抗体を開発し、ヒトI
Ksを安定的に発現するCHO細胞に対してパッチクランプ測定を実施した。30μg/mlの組換え抗体の存在下で、I
Ksテール電流が1.5倍増加した一方で、+70mVでの対照細胞と比較して、I
Ksステップ電流の同様の1.6倍の増加が観察された。次いで、計算ドッキング方法を使用して、IgG2aの表面曝露可変領域とKCNQ1チャネルとの間で抗原-抗体結合部位を検索した(
図8A)。軽鎖(Cys94)及び重鎖(Tyr58、Asp61)からの重要な残基は、チャネルの第3の細胞外ループのAsp286及びLys285アミノ酸への水素結合接触を媒介すると予測された(
図8B)。重鎖のIgG軽鎖のAsp1残基及びAsp61は、それぞれ、KCNQ1のAsp286及びLys285とイオン相互作用を形成する(
図8B)。
【0085】
実施例6-インビトロでのIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体の治療可能性
hiPSC-CMCにおいてLQTS 2型を薬理学的に誘導するために、選択的hERG阻害剤(E-4031)を使用した。10nMの濃度でのE-4031は、APD90の4倍の増加(表2)及び頻繁な早期後脱分極(EAD、71.4%、
図5A)をもたらした。1つの細胞は、不整脈性拍動をも発症し、その後、拍動停止で変性した(
図5A)。IgG2a 8-F11-D4は、30μg/mlの濃度でAPD90を有意に短縮した(
図5B、表2)。更に、モノクローナル抗体は、不整脈性事象を完全に鈍化させた(
図5C)。
【表2】
【0086】
次に、後期INa電流ATX-IIを特異的に強化する(Karagueuzian,Pezhouman,Angelini&Olcese,2017)、ATX-IIを使用したLQTS 3型の細胞モデルにおけるIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体の効果を研究した。5nMのATX-IIは、APD90を2倍延長し(表3)、EAD(25%、
図6A)、並びに不整脈性拍動(81.3%、
図6A)を誘発した。細胞を30μg/mlのIgG2a 8-F11-D4で処理したとき、APD90は一貫して正規化され(
図6B~6D、表3)、EADは抑制され、不整脈性拍動は低減した(
図6C)。
【表3】
【0087】
考察:
本研究は、抗不整脈治療に適応可能なマウスモノクローナル抗体を同定した。まとめると、IgG2a 8-F11-D4は、細胞外細孔ループを特異的に標的とし、KCNQ1チャネルを開放する。得られたK+流出(IKs電流の増加)は、hiPSC-CMCにおける心再分極相を短縮する。その治療可能性は、薬理学的LQTS2の細胞モデルにおいて検証された。IgG2a 8-F11-D4は、病理学的に遅延したAPDを正常化し、不整脈性事象を抑制した。更に、その種の最初のものとして、モノクローナル抗体は、LQTS3の状況において、インビトロで好ましい転帰を証明した:IgG2a 8-F11-D4は、APDを短縮し、抗不整脈特性を示した。ポリクローナル抗体を用いた以前のデータに基づいて、IgG2a 8-F11-D4を30μg/mlの濃度で試験した(Maguy,Kucera,Wepfer,Forest,Charpentier&Li,2020)。IgG2a 8-F11-D4のKDをナノモル範囲で測定し、膜結合標的に対するモノクローナル抗体に最適な高い結合親和性を示した(Tiwari,Abraham,Harrold,Zutshi&Singh,2017)。抗体-抗原相互作用をマッピングするために使用される実験的及び計算的方法の両方が、第5の膜貫通セグメントと第6の膜貫通セグメントとの間の予想される第3の細胞外ドメインを標的の特異的部位として描写した。構造的エピトープマッピングは、抗体とコンセンサスモチーフVEFGとの間の強い相互作用を示した。対照的に、KCNQ1チャネルの三次及び四次構造を考慮したドッキングシミュレーションは、より近位のK及びDアミノ酸残基に対する関連性を予測した。両方の知見は、LQTSにおける治療有効性に対するそれぞれの重要性を一致して強調する。
【0088】
実施例7-IgG2a 8-F11-D4のハイコンテントイメージング
以下の実験を実施して、ウサギ抗KCNQ1(細胞外)抗体(Alomone labs)及びマウスモノクローナル抗体IgG2a 8-F11-D4が、以下の細胞株におけるKCNQ1の細胞外ループに結合することができるかどうかを決定した。
【0089】
(1)ヒトKv7.1/KCNE1(KvLQT1/minK)-CHO(Charles River研究所から一緒に連結されたテトラサイクリン誘導性CHO細胞株KCNQ1-KCNE1)。カタログ番号CT6101
(2)上記と同様であるが、誘導されない(陰性対照として)。
(3)CHO KvLQT1/MinK(KCNQ1及びKCNE1が別々に発現した)細胞株
(4)CHO K1-WT(追加の陰性対照)。
【0090】
簡潔に述べると、試験抗体を、氷冷アッセイ緩衝液で2回洗浄し、次いで4℃で1~2時間インキュベートした細胞に添加した。次いで、細胞を氷冷アッセイ緩衝液で3回洗浄し、フルオロフォアコンジュゲート二次抗体を氷冷アッセイ緩衝液中で適切な希釈で添加し、遮光しながら4℃で1時間インキュベートした。次に、500nMのHoescht染料を、最終使用のために氷冷PBSを添加し、室温で5分間インキュベートし、氷冷アッセイ緩衝液で3回洗浄し、次いで排水した。次いで、顕微鏡検査を進める前に、氷冷PBSを添加して細胞を覆った。
【0091】
結果は、ウサギポリクローナルKCNQ1(細胞外)及びマウスモノクローナルIgG2a 8-F11-D4抗体が、誘導性及び安定性CHOK1細胞株の両方でKCNQ1に結合することを示した(
図10A及び10Bを参照)。
【0092】
実施例8-インビボでのIgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体のQT間隔の短縮
ウサギ(雄、ニュージーランドホワイト)に、リード2位のMillar ECG遠隔測定電極を移植し、7日の最小回復期間を与えた。IgG2a 8-F11-D4を、10mMの酢酸塩、pH5.2、0.01%(w/v)のポリソルベート80、9%(w/v)のスクロース中、20mg/mLで製剤化した。遠隔測定されたウサギを、様々な用量のIgG2a 8-F11-D4(5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg及び40mg/kg)又はビヒクルで処置した。
【0093】
実験日に、モノクローナル抗体又はビヒクルを2mL/kgで(辺縁耳静脈を介して)静脈内注射する前に、ECGを5分間連続的に記録した。動物を、連続的なECG記録のためにプラスチックケージ内に移し、投与後23時間まで5分毎に測定値を記録した。ECGを、記録しながらリアルタイムで自動的に分析した。QT間隔の定常状態短縮(すなわち、23時間)に続いて、動物をケタミン/キシラジンで麻酔し、メトキサミン+ドフェチリドチャレンジ(カールソンモデル)のために調製した。カールソンのチャレンジは、動物がTdPに進行するか、又は40分のメトキサミン注入が経過するまで継続した。
図11に示されるように、IgG2a 8-F11-D4での処置は、全ての試験用量でウサギのQT間隔の短縮をもたらした。QT間隔の初期短縮は、投与後6~12時間で観察され、投与後約12~20時間でプラトー/定常状態短縮が観察された。
【0094】
実施例9-IgG2a 8-F11-D4モノクローナル抗体は、用量依存的に薬物誘導性QT延長に対する保護を提供した
抗KCNQ1抗体がQT延長症候群のモデルにおいて効果を有するかどうかを決定するために、ウサギに、様々な用量のIgG2a 8-F11-D4(5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg若しくは40mg/kg)又はビヒクルを投与した23時間後に、ドフェチリド及びメトキサミンでチャレンジして、動物においてより長いQT間隔を誘導した。ドフェチリド注入後、5分毎に最大30分間ECG記録を行った。
図12に示されるように、IgG2a 8-F11-D4治療は、薬物誘導性QT延長及び不整脈から保護する。カールソンモデル誘導を、投与後23時間で実施した。薬物誘導性QT延長に対する用量依存的な保護が観察された。最高用量(40mg/kg)では、カールソンモデルの誘導後のQT間隔は、ビヒクルよりも100ms短かった。この用量で処置したウサギは、トルサード・ド・ポワンツを経験しなかった。
【0095】
実施例10-IgG2a 8-F11-D4の機能的特徴付け
この研究の目的は、手動パッチクランプ技法を使用して、哺乳動物細胞におけるIKsチャネル複合体(KCNQ1+KCNE1)に対する試験抗体の影響を決定することであった。
【0096】
tsA201細胞(形質転換されたヒト胚性腎臓293細胞)を、10%のウシ胎仔血清及び100μg/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、及び0.25 100μg/mlのアンフォトレシンを補充した改変イーグル培地(MEM)中で増殖させた。TsA201細胞は、構築物で使用されるpCDNA3.1などのSV40ベクターを含有するベクターのより高いレベルの発現を可能にする、SV40大腫瘍抗原で安定的にトランスフェクトされたHEK293細胞である。細胞を、空気/5% CO2インキュベーター内で37℃に維持した。トランスフェクションの前日、細胞をMEMで洗浄し、トリプシン/EGTAで1分間処理し、25mmのカバースリップ上にプレーティングした。リポフェクタミン2000を使用して、KCNQ1、KCNE1及びGFP cDNAをトランスフェクトした。
【0097】
緑色蛍光タンパク質cDNA(GFP、1μg)を、KCNQ1及びKCNE1とともに共トランスフェクトして、トランスフェクトされた細胞を同定した。抗体処理は、トランスフェクションの24時間後に開始して、24時間の期間行った。電気生理学的手順:細胞を含有するカバースリップを、インキュベーターから取り出し、外部バス溶液を含有する超融合チャンバ(体積250μl)に配置し、室温で維持した。試験抗体(30μg/mL)は、実験を通して外部溶液中に存在した。全細胞電流記録は、Axopatch 200B増幅器を使用して実施した。パッチ電極を、水平マイクロピペットプラー上の薄壁ホウケイ酸ガラスから引っ張り、火炎研磨した。電極は、対照充填溶液で充填した場合、1.5~3.0mWの抵抗を有した。全ての測定で、アナログ容量補正及び60%~85%の直列抵抗補正を使用した。データを、10~20kHzでサンプリングし、デジタル化前に5~10kHzでフィルタリングし、pClamp10ソフトウェアを使用して後の分析のためにコンピュータに保存した。-80mV~+80mVのパルスを用いる4秒ステッププロトコル、続いて2秒間の-40mVへの再分極化ステップからなる電流-電圧(I-V)プロトコルを適用した。保持電位は-90mVであり、パルス間隔は15秒であった。
【0098】
結果:
電流密度は、IgG2a 8-F11-D4の存在下で、30μg/mL(
図13A)及び60μg/mL(
図13B)の濃度で増加した。特に、I
Ksステップ及びテール電流密度は、30μg/mL及び60μg/mLのIgG2a 8-F11-D4の両方で-20mVよりも正の膜電位で増加した(
図14及び15)。重要なことに、-20mVよりも正の膜電位での電流密度の増加は、I
Ksチャネルが開いている生理学的に関連する電位に対応する(Jesperson et al.,Physiology 20:408-416,2005)。30ug/mL及び60ug/mLの両方で、IgG2a 8-F11-D4は、活性化の電圧依存性をより負の電位に有意にシフトした(それぞれ、表4及び5)。
【表4】
【表5】
【0099】
結論:IgG2a 8-F11-D4は、ヒトIKsチャネルを発現するように一過性にトランスフェクトしたHEK293細胞におけるK+流出を増加させた。
【0100】
実施例11-IgG2a 8-F11-D4の結合親和性
KCNQ1チャネルタンパク質の細胞外ループ領域に対応する標的ペプチドに対するマウスモノクローナル抗KCNQ1モノクローナル抗体IgG2a 8-F11-D4の親和性を決定するために、以下の実験を実施した。
【0101】
IgG2a 8-F11-D4とのKCNQ1ペプチド相互作用の結合動態を、Octet RED96バイオレイヤー干渉法(Sartorius)を使用してモニタリングした。全ての測定は、1,000rpmの軌道振れ速度を有する96ウェルプレートを使用して、1×PBS(pH7.4)、1×動態緩衝液及び1% BSAを含有するアッセイ特異的緩衝液中、25℃で二重に実施した。結合曲線は、最初に1mMのN末端ビオチン化KCNQ1ペプチドをストレプトアビジンでコーティングされたバイオセンサーチップに2.5分間固定し、続いて5分間ベースライン平衡化ステップを行うことによって生成された。次いで、バイオセンサーチップを、100mMのmAbを含むウェルに5分間沈めて、mAb-ペプチド複合体の形成をモニタリングし、続いてアッセイ緩衝液中で5分間抗体解離を行った。抗体結合/解離によって引き起こされるバイオセンサー先端の表面から反射される白色光の干渉パターンのシフトを、リアルタイムでモニタリングした。抗体-ペプチド相互作用を1:1結合モデルによって分析し、解離定数(KD)を、GraphPad Prismの非線形適合モデルを使用して導出された解離(koff)及び会合(kon)結合速度定数の比として決定した。
【0102】
結果:
IgG2a 8-F11-D4は、高い親和性(KD=約4nM)でKCNQ1ペプチドと相互作用した。
図16を参照されたい。
【0103】
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