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特表2024-534921強誘電性ネマチック相を含む混合物およびこれを形成し使用する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】強誘電性ネマチック相を含む混合物およびこれを形成し使用する方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 19/46 20060101AFI20240918BHJP
【FI】
C09K19/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514429
(86)(22)【出願日】2022-09-05
(85)【翻訳文提出日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 US2022042586
(87)【国際公開番号】W WO2023034628
(87)【国際公開日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】63/240,666
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/278,039
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508214950
【氏名又は名称】ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・コロラド,ア・ボディー・コーポレイト
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(72)【発明者】
【氏名】マクレナン,ジョセフ・イー
(72)【発明者】
【氏名】クラーク,ノエル・エイ
(72)【発明者】
【氏名】グレイサー,マシュー・エイ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シー
(72)【発明者】
【氏名】スミス,グレゴリー
【テーマコード(参考)】
4H127
【Fターム(参考)】
4H127BA01
4H127BD03
4H127BD17
4H127BE05
4H127CF05
4H127DH05
(57)【要約】
強誘電性ネマチック相を含む材料が開示される。材料は第1の分子と第2の分子を含む混合物を含むことができる。第1の分子の流体と第2の分子の流体のうち少なくとも1つは強誘電性ネマチック相を呈する。第1の分子と第2の分子は混和性である。第1の分子は上記第2の分子の極性配向秩序を誘起することができる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電性ネマチック相を含む材料であって、
第1の分子と第2の分子を含む混合物を含み、
第1の分子の流体と第2の分子の流体のうち少なくとも1つが強誘電性ネマチック相を呈し、
第1の分子と第2の分子が混和性であり、
第1の分子が前記第2の分子の極性配向秩序を誘起する、
材料。
【請求項2】
第1の分子と第2の分子が化学的に類似していない、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
第1の分子と第2の分子のうち少なくとも1つがハロゲンを含む、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
第1の分子と第2の分子のうち少なくとも1つがハロゲンを含まない、請求項1から3のいずれか一項に記載の材料。
【請求項5】
第1の分子と第2の分子のうち少なくとも1つが複数のハロゲン原子を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の材料。
【請求項6】
第1の分子がそれぞれ、第1の骨格、第1の分子の第1の末端官能基、および第1の分子の第2の末端官能基を含み、第2の分子がそれぞれ、第2の骨格、第2の分子の第1の末端官能基、および第2の分子の第2の末端官能基を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の材料。
【請求項7】
第1の骨格と第2の骨格が異なる、請求項6に記載の材料。
【請求項8】
第1の分子の第1の末端官能基が第2の分子の第1の末端官能基と異なる、請求項6または7に記載の材料。
【請求項9】
第1の分子の第2の末端官能基が第2の分子の第2の末端官能基と異なる、請求項6から8のいずれか一項に記載の材料。
【請求項10】
第1の分子の第1の末端官能基、第2の分子の第1の末端官能基、第1の分子の第2の末端官能基、および第2の分子の第2の末端官能基のうち1つまたは複数がハロゲンを含む、請求項6から9のいずれか一項に記載の材料。
【請求項11】
第1の分子の第1の末端官能基、第2の分子の第1の末端官能基、第1の分子の第2の末端官能基、および第2の分子の第2の末端官能基のうち1つまたは複数がアルキル基およびアルコキシ基のうち少なくとも1つを含む、請求項6から10のいずれか一項に記載の材料。
【請求項12】
骨格が3つまたは4つの環構造、少なくとも1つのリンカー基、および任意選択で1つまたは複数の環構造の上の側鎖を含む、請求項6から11のいずれか一項に記載の材料。
【請求項13】
環構造がフェニル環、シクロヘキサン環、ジオキサン環、チオフェン環、モノキサン環、ピリジン環、ピリミジン環、または他の任意のヘテロ環基からなる群から選択される、請求項12に記載の材料。
【請求項14】
第1種および第2の分子が類似した電荷分布を呈する、請求項1から13のいずれか一項に記載の材料。
【請求項15】
混合物中に混和性の1つまたは複数のさらなる分子をさらに含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の材料。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の材料を含む非線形の光学材料。
【請求項17】
調節可能な強誘電性ネマチック相を有する材料を形成する方法であって、
第1の分子と第2の分子を混合して、強誘電性ネマチック相を有する混合物を形成するステップを含み、
第1の分子が前記第2の分子の極性配向秩序を誘起する、
方法。
【請求項18】
第1種および第2の分子が化学的に類似していない、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
第1の分子と第2の分子のうち少なくとも1つがハロゲンを含む、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
第1の分子と第2の分子のうち少なくとも1つがハロゲンを含まない、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
第1の分子と第2の分子のうち少なくとも1つがそれぞれ複数のハロゲン原子を含む、請求項17から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
第1の分子がそれぞれ、第1の骨格、第1の分子の第1の末端官能基、および第1の分子の第2の末端官能基を含み、第2の分子がそれぞれ、第2の骨格、第2の分子の第1の末端官能基、および第2の分子の第2の末端官能基を含む、請求項17から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
第1の骨格と第2の骨格が異なる、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
第1の分子の第1の末端官能基が第2の分子の第1の末端官能基と異なる、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
第1の分子の第2の末端官能基が第2の分子の第2の末端官能基と異なる、請求項22から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
第1の分子の第1の末端官能基、第2の分子の第1の末端官能基、第1の分子の第2の末端官能基、および第2の分子の第2の末端官能基のうち1つまたは複数がハロゲンを含む、請求項22から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
第1の分子の第1の末端官能基、第2の分子の第1の末端官能基、第1の分子の第2の末端官能基、および第2の分子の第2の末端官能基のうち1つまたは複数がアルキル基およびアルコキシ基のうち少なくとも1つを含む、請求項22から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
骨格が3つまたは4つの環構造、少なくとも1つのリンカー基、および任意選択で1つまたは複数の環構造上の側鎖を含む、請求項22から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
環構造がフェニル環、シクロヘキサン環、ジオキサン環、チオフェン環、モノキサン環、ピリジン環、ピリミジン環、または他の任意のヘテロ環基からなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
第1種および第2の分子が類似した形状および電荷分布を呈する、請求項22から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
混合物が混合物中に混和性の1つまたは複数のさらなる分子をさらに含む、請求項22から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
第1の分子がRM734を含み、第2の分子がDIOを含む、請求項17から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
第1の分子がRM734を含み、第2の分子がDIOを含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の材料。
【請求項34】
強誘電性ネマチック相を含む多成分混合物であって、
RM734分子、および
DIO分子
を含む多成分混合物。
【請求項35】
調節可能な強誘電性ネマチック相を有する材料を形成する方法であって、
RM734分子とDIO分子を混合して、強誘電性ネマチック相を有する混合物を形成するステップを含む方法。
【請求項36】
請求項17から32のいずれか一項に記載の方法を含む、非線形光学材料を形成する方法。
【請求項37】
請求項17から32のいずれか一項に記載の方法を含む、電子的電気光学材料を形成する方法。
【請求項38】
請求項1から15のいずれか一項に記載の材料を含む電子的電気光学材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2021年9月3日に出願した「Preparation and Characterization of Mixtures Displaying the Ferroelectric Nematic Liquid Crystal Phase」と題する米国仮特許出願第63/240,666号の恩恵を主張し、また2021年11月10日に出願した「Mixture Including Ferroelectric Nematic Phase and Methods of Forming and Using Same」と題する米国仮特許出願第63/278,039号の恩恵を主張する。該出願のそれぞれの内容は、その内容が本開示と矛盾しない範囲内で、これにより参照により本明細書に組み込まれる。
連邦支援による研究
本発明は、National Science Foundationによって授与された認可番号DMR2005270、DNR1710711、およびDMR1420736の下の政府の援助によってなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本開示は一般に、強誘電性ネマチック相を含む材料に関する。より具体的には、本開示は、強誘電性ネマチック相を含む混合物を含む材料、材料を形成する方法、および材料を含むデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
液体における強誘電性はP.DebyeおよびM.Bornによって1910年代に予言された。彼らは、強磁性のランジュバン・ワイスモデルを分子電気双極子の配向秩序化に適用した。最近、ネマチック強誘電性に対する興味が注目を集めてきた。ネマチック強誘電性は、その巨視的な極性秩序化と流動性との特有の組合せのために、新規な液晶の科学および技術のための好機を提供している。RM734の強誘電性ネマチック(NF)相は、そのNF範囲の高温において急速な電気光学的応答を示すが、結晶化および徐冷時に強く増大する粘度を呈する。一方、急冷時に得られる室温NF相はガラス状である。したがって、ネマチック強誘電性を呈する改善された材料が広く望まれている。
【0004】
本節において説明する課題および解決策に関するいずれの考察も、本開示のための文脈を提供する目的のためのみに本開示に含まれており、本発明がなされた時点で本考察のいずれかまたは全てが既知であったということを認めるとみなすべきではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本概要は、概念の選択を紹介するために提供される。本概要は、特許を請求する主題の重要な特徴または本質的な特徴を特定することを必ずしも意図しておらず、特許を請求する主題の範囲を限定するために用いられることも意図していない。
【0006】
本開示の実施形態は、強誘電性ネマチック相を含む材料に関する。材料は第1の分子と第2の分子を含む混合物を含んでよく、第1の分子の流体と第2の分子の流体のうち少なくとも1つは強誘電性ネマチック相を呈し、第1の分子と第2の分子は混和性であり、第1の分子は上記第2の分子の極性配向秩序を誘起する。これらの実施形態の例によれば、第1の分子と第2の分子は化学的に類似していない。この点に関して、化学的な非類似性は、分子のトポロジーに基づくフィンガープリントから計算される分子の類似性係数S(化学構造のベクター表現)によって定義することができる。0.33未満のSを有する区別できる分子の対は高度に非類似であり、0.8を超えるSを有する対は高度に類似している。広く用いられている化学的類似性の尺度は、拡張された接続性(Morgan)フィンガープリントから計算されるDice類似性係数である[D.RogersおよびM.Hahn、J.Chem.Inf.and Model.50、742~754頁(2010)]。この類似性の尺度に基づいて、RM734とDIOは高度に非類似(S=0.29)であり、一方、以前に報告された強誘電性ネマチック相を呈する棒状分子の全ての二元混合物は、高度に類似な(S>0.85)第1種および第2の分子からなる。例によれば、化学的な非類似性は、Sが0.75未満、0.5、0.33、または0.3でもよい。さらなる例によれば、第1の分子と第2の分子のうち少なくとも1つはハロゲンを含む。さらなる例によれば、第1の分子と第2の分子のうち少なくとも1つはハロゲンを含まない。一部の例では、第1の分子と第2の分子のうち少なくとも1つは複数のハロゲン原子を含んでもよい。本開示のさらなる例によれば、第1の分子はそれぞれ、第1の骨格、第1の分子の第1の末端官能基、および第1の分子の第2の末端官能基を含み、第2の分子はそれぞれ、第2の骨格、第2の分子の第1の末端官能基、および第2の分子の第2の末端官能基を含む。一部の例では、第1の骨格(例えばその化学構造)と第2の骨格は異なる。さらにまたはその代わりに、第1の分子の第1の末端官能基は第2の分子の第1の末端官能基と異なり、および/または第1の分子の第2の末端官能基は第2の分子の第2の末端官能基と異なる。1つまたは複数の末端基はハロゲン(例えばフッ素)、アルキル基、またはアルコキシ基を含んでもよい。骨格は3つまたは4つの環構造、少なくとも1つのリンカー基、および任意選択で1つまたは複数の環構造の上の側鎖を含んでもよい。例示的な環構造には、例えばフェニル環、シクロヘキサン環、ジオキサン環、チオフェン環、モノキサン環、ピリジン環、ピリミジン環、または他の任意のヘテロ環基等が含まれる。第1種および第2の分子は、例えば形状および静電ポテンシャルの類似性の尺度である類似性係数Sによって定義される類似した電荷分布を呈し得る。[A.KumarおよびK.Y.J.Zhang、Frontiers in Chemistry 6、315(2018)]。0.33未満のSを有する区別できる分子の対は高度に非類似であり、0.8を超えるSを有する対は高度に類似している。この場合、類似とは、S=0.5、0.7、もしくは0.8、またはそれ以上でもよい。材料は混合物中に混和性の1つまたは複数のさらなる分子を含んでもよい。さらなる例によれば、非線形の光学材料は、本明細書に記載した材料を含んでもよい。
【0007】
本開示のさらなる実施形態によれば、調節可能な強誘電性ネマチック相を有する材料を形成する方法が提供される。例示的な方法には第1の分子と第2の分子を混合して、強誘電性ネマチック相を有する混合物を形成するステップが含まれ、第1の分子は上記第2の分子の極性配向秩序を誘起する。第1種、第2種、およびさらなる任意の分子は、上記の通りでもよい。
【0008】
具体的な例として、第1の分子はRM734を含み、第2の分子はDIOを含む。
電子的、電気光学的、および非線形のデバイスを含むデバイスは、1つまたは複数(例えば2つ)の電極および本明細書に記載した材料/混合物を含んでもよい。
【0009】
本開示の実施形態のより完全な理解は、以下の説明的な図面と併せて考慮すれば、詳細な説明および特許請求の範囲を参照することによって導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】RM734およびDIOを示す図である。これらは、新規な極性ネマチック相を呈するニトロおよびフルオロ系分子のファミリーの代表的なメンバーである。強誘電性ネマチック(NF)は、両方の材料において、またそれぞれのファミリーの中で近接したホモログにおいて、独立に観察された。DIOはさらに、反強誘電性スメクチックであることが最近示された中間相SmZAを呈する。
図2】本開示の実施例によるDIOの合成スキームを示す図である。
図3】RM734とDIOの二元混合物の相図を示す図である。相転移温度は、偏光顕微鏡、DSC、および分極電流測定を用いて決定した。Iso、N、およびN相の中の連続的な混和性は、これらがRM734およびDIOにおいて同一であることを示す。転移は一次であり、相図にわたる平均エントロピー変化は、▼-ΔS~(0.16±0.01)R;
【数1】
である。N/SmZ転移は、極めて弱い一次(DIOについて▲-ΔS~0.001R)である。N相への転移(マゼンタ色の丸)の温度は濃度とともにほぼ直線状に変化し、RM734とDIOの理想的な混合挙動およびこの転移における同等のエントロピー変化、ΔSDIO=ΔSRM734を示す。cが50重量%未満の場合には観察されないDIOのSmZ相が反強誘電性スメクチックとして同定された。この相はラメラ状で密度変調されており、配向子は層の平面に平行で、分極は層から層へと符号が入れ替わる。混合物の実効配向粘度ηは冷却によって急速に増大し、破線で約5Pa・sに達し、配向性ガラス転移へのアプローチの契機となっている。結晶化はガラスでは観察されないが、混合物を灰色の区域に冷却した後で直ぐに(約1時間)相図のいずれかの末端で生じる。
図4】純DIOのNF相におけるドメインの進化および電場応答を示す図である。このセルは厚みd=3.5μmで、2つのプレートの上に逆平行で一方向のバフ研磨を有し、捻じれた状態の配向子に有利になっている。(A)にスケールバーを示す。(A)N相への冷却の際に観察された初期の配向子の状態は、最初はN相およびSmZ相と同様に均一平面状(U)であるが、さらに数度(T=65℃まで)冷却すると極性表面にとって好ましい左手および右手のπ捻じれ状態が発達する。逆向きの捻じれを有するドメインの間の境界は、2π捻じれ回位ラインである。赤から青の矢印のシーケンスは、セル中の増大する高さにおける強誘電性分極配向を表し(x=0、d/4、d/2、3d/4、d)、ピンク色の矢印は、光の伝播の方向でもあるセルの底部から頂部への極性方位角φ(x)の進行を示す。右側に描かれた初期の光学的に均一な(U)状態は、局在化した極性反転壁をセルの内部に有し、π捻じれ表面ラインの通過によって連続的なπ捻じれ状態に転移する。均一な状態は交差したポラライザとアナライザとの間で消去することができる一方、捻じれ状態は試料の配向に関わらず複屈折のままである。(B-D)アナライザを脱クロスすることによってLHおよびRHの状態の光学的縮退が解除され、区別できる色彩/濃淡が生じ、それにより、根底にあるキラリティが明らかになる。脱クロス角を反転させることによって2つの捻じれた状態が色彩/濃淡を交換し、その配向子構造が鏡対称であることを示している。(E-G)印加した電場における捻じれの反転。緩和されたπ捻じれ状態において、セル中の中間高さにおけるNの分極は、LHおよびRHの領域において反対方向に向いている。このセルにおけるバフ研磨は電極の縁に平行であるので、印加した特定の符号の電場はLHまたはRHのいずれかの状態に有利となり、したがって、好ましい状態の核生成および成長によって、これら2つの配置の間でセルを駆動するために用いることができる。この例では、電場はRH捻じれ状態に有利である。スケールは全ての画像で同じである。
図5】逆平行で一方向にバフ研磨された表面を有するd=3.5μmのセル内におけるN-NF転移によってc=40重量%のDIO混合物を冷却した際に観察されたテクスチャーの変化を示す図である。(A)N相において、配向子場は均一(U)で、バフ研磨の方向に沿っている。(B)この状態は、配向子に沿って延びる不規則な極性のドメインの過渡的な出現によって特徴付けられる位相面(白い破線)がいったんセルを通過すれば、初期にNF相に保持される。(C)NF相においてさらに数度冷却すると、強度が増大する逆極性表面アンカリングによって安定化されたπ捻じれ状態は核形成し、以前は均一であったN領域の中で成長する。捻じれた領域内の色彩/グレイスケールの変化は、ドメインの区域にわたるn(r)/P(r)カップルと、捻じれ壁上の分極電荷によって生じる面内電場とのカップリングに起因する。そのような捻じれた状態は全ての濃度のDIO混合物で観察される。興味深いことに、純RM734のN相において報告されたような配向子の自発的な周期的変調は、混合物のいずれにおいても、または純DIOにおいても観察されない。
図6AB】DIO/RM734混合物における分極反転の特徴を示す図である。厚みd=8μmで平面状に配置したセル中のギャップ1mmのITO電極に印加したピーク振幅104Vを有する50Hzの矩形波は、ギャップの中央部において69V/mmの面内電場をもたらす。この相対的に小さな電場は、より高温でN相のバルクの分極の完全な反転を達成するためには十分に大きい。分極は、駆動電圧の半サイクル(10m秒)にわたってセルを通過する電流を積分することによって決定される。 (A)c=90重量%のDIO混合物についての温度の関数としての時間に対する分極電流。挿入図は最低温度における電流応答を示す。N相(T=90℃)において見られる小さな電流ピークは、駆動電圧に対するセルの容量性応答である。N-N転移を通る冷却に際して、大きな分極反転電流ピークが生じ、T=70℃付近でピークに達して、さらに冷却すると粘度の増大によってより小さく、より幅広くなる。分極反転時間τRは最大半値における電流ピークの全幅とみなされる。挿入図は低温における応答を示す。T=26.5℃でも試料は切り替わる(τ=約6m秒)が、T=25.5℃に冷却すると分極反転は結晶化によって妨げられる。 (B)純RM734およびDIOならびにそれらの混合物における電場反転の間に輸送され積分された電荷/面積Q/2A。T>Tsat(中実四角)について、Pの完全な切り替えはそれぞれの電場反転の間で生じ、Q/2Aは強誘電性分極P(c,T)に対応する。(B)および(D)において白四角で示される最大分極Psat(c)は温度Tsatで測定され、この温度未満では配向子の再配向は遅くなり、分極の反転は不完全になり(中実の丸)、そのためQは真の分極密度の一部のみを反映し(Q<2AP)、コンピュータシミュレーションおよびさらなる測定に基づいて、TがTsatから低下するとともにこれはPsat(c)からわずかに増加する。 (C)反転温度の関数としてτ(T)P(T)/Psatによって拡大したτ(T)のプロット。この量は、右手側の目盛りに示した配向粘度η(T)=0.1τPEに比例する。反転時間は、電場反転の間で再配向が完了したより高温(T>Tsat)においてのみ評価した。粘度は温度に対してアレニウス様の依存性を示す。本文に記載した三成分DIO/RM734/W1027混合物の切り替え時間を白色丸でプロットする。これらは、より長い積分時間を用いて低温で測定した。 (D)固定した温度[T=80℃、(C)における黒い破線]における濃度による配向粘度の変化(着色した丸)。2つの成分の粘度は、混合物中で対数的に増加することが分かる。飽和分極Psat(c)(白色四角)は相図にわたってほぼ直線的に変化し、N相への転移の熱力学における理想的混合を示す。
図6CD】DIO/RM734混合物における分極反転の特徴を示す図である。厚みd=8μmで平面状に配置したセル中のギャップ1mmのITO電極に印加したピーク振幅104Vを有する50Hzの矩形波は、ギャップの中央部において69V/mmの面内電場をもたらす。この相対的に小さな電場は、より高温でN相のバルクの分極の完全な反転を達成するためには十分に大きい。分極は、駆動電圧の半サイクル(10m秒)にわたってセルを通過する電流を積分することによって決定される。 (A)c=90重量%のDIO混合物についての温度の関数としての時間に対する分極電流。挿入図は最低温度における電流応答を示す。N相(T=90℃)において見られる小さな電流ピークは、駆動電圧に対するセルの容量性応答である。N-N転移を通る冷却に際して、大きな分極反転電流ピークが生じ、T=70℃付近でピークに達して、さらに冷却すると粘度の増大によってより小さく、より幅広くなる。分極反転時間τRは最大半値における電流ピークの全幅とみなされる。挿入図は低温における応答を示す。T=26.5℃でも試料は切り替わる(τ=約6m秒)が、T=25.5℃に冷却すると分極反転は結晶化によって妨げられる。 (B)純RM734およびDIOならびにそれらの混合物における電場反転の間に輸送され積分された電荷/面積Q/2A。T>Tsat(中実四角)について、Pの完全な切り替えはそれぞれの電場反転の間で生じ、Q/2Aは強誘電性分極P(c,T)に対応する。(B)および(D)において白四角で示される最大分極Psat(c)は温度Tsatで測定され、この温度未満では配向子の再配向は遅くなり、分極の反転は不完全になり(中実の丸)、そのためQは真の分極密度の一部のみを反映し(Q<2AP)、コンピュータシミュレーションおよびさらなる測定に基づいて、TがTsatから低下するとともにこれはPsat(c)からわずかに増加する。 (C)反転温度の関数としてτ(T)P(T)/Psatによって拡大したτ(T)のプロット。この量は、右手側の目盛りに示した配向粘度η(T)=0.1τPEに比例する。反転時間は、電場反転の間で再配向が完了したより高温(T>Tsat)においてのみ評価した。粘度は温度に対してアレニウス様の依存性を示す。本文に記載した三成分DIO/RM734/W1027混合物の切り替え時間を白色丸でプロットする。これらは、より長い積分時間を用いて低温で測定した。 (D)固定した温度[T=80℃、(C)における黒い破線]における濃度による配向粘度の変化(着色した丸)。2つの成分の粘度は、混合物中で対数的に増加することが分かる。飽和分極Psat(c)(白色四角)は相図にわたってほぼ直線的に変化し、N相への転移の熱力学における理想的混合を示す。
図7】DIO/RM734/W1027三元混合物における(A)分極および(B)拡大した粘度の温度依存性を示す図である。
図8】(A)PM158等のN混合物中に組み込まれた、電子ドナー、パイコンジュゲート架橋、および電子アクセプターからなるNLO発色団分子の概略を示す図である。このような「プッシュプル」型分子は、大きな電気双極子モーメントおよび大きな第一超分極率を有する。(B)PM146(黒色四角、NLO発色団分子を含まないN混合物)およびPM158(赤色丸、PM146に25重量%のNLO発色団を加えることによって得られたN混合物)についての強誘電性分極密度Pの測定された温度依存性。極性整列の欠如によってPが発色団濃度の増大とともに顕著に低下するので、PM158の分極がホスト混合物PM146の分極と同程度であるという観察は、Nホストによって双極性発色団分子が極性配列していることの説得力のある証拠である。PM158の35℃未満におけるPの急峻な低下は、温度の低下による粘度の急速な増大に起因するアーチファクトであり、これはこの混合物の低温におけるPの正確な決定を妨げる。
図9】図示したポラライザおよびアナライザを有するPLMで観察した、1mmの間隔を有する面内電極および電極ギャップに平行な逆平行のバフ研磨を有するd=3.5μmのセル中のDIOのテクスチャーを示す図である。(A、B)nがプレートおよび電極ギャップに均一に平行な、平面状に整列したネマチックモノドメインであり、(A)nがポラライザに対して45°に配向した場合の複屈折(複屈折色はΔn=0.18に対応する)、(B)nがポラライザに平行に配向した場合の消光状態を示す。(C)これまで均一であった状態に面内E場を印加した際に捻じれフレデリクス転移によって誘起された歪み状態。(D、E)nと平行、セルプレートに対して垂直である(ブックシェルフ(BK)形状)スメクチック層を有する、ネマチックから冷却によって形成された、平面状に整列したSmZモノドメイン。波数ベクトルqはスメクチック層に対して垂直である。複屈折はN相におけるよりもわずかに大きい。nがポラライザと平行になるようにセルが配向された場合には、前と同様に優れた消光が得られる。(F)冷却によってネマチックに成長するSmZ相。印加した電場は、((C)の場合と同様に)N相にあるセルの一部で歪んだ捻じれ状態を誘起するが、SmZ相では捻じれフレデリクス転移はスメクチック層化によって抑制される。(G、H)冷却によってSmZに成長する捻じれN状態。逆平行バフ研磨は、交差したポラライザとアナライザの間のいずれの配向でも消光しない分極-配向子場におけるπ捻じれ状態を安定化する。
図10】RM734およびDIOのN相におけるフレデリクス転移の閾値の温度依存性を示す図である。面内で印加した電場は配向子の捻じれ変形を生じる一方、セルプレートに垂直な電場はスプレイベンド変形を生じる。1つの表面に面内電極を有する厚み3.5μmの逆平行にバフ研磨されたセルでは捻じれ転移が観察された一方、d=4.6μmの従来型のITOサンドイッチセルではスプレイベンド転移が観察された。両方の場合に200Hzの矩形波電場を印加した。観察されたスプレイベンド閾電圧は、他で与えられたKおよびΔεの値を用いて計算したV thとよく一致している。RM734およびDIOはいずれもTの低下とともにΔεの一般的な増大を呈する。フレデリクス閾値はRM734ではより低く、N相への転移に接近するとともにΔεの強力な転移前成長によって急速に低下する。これは、冷却の際の転移がSmZ相に向かうDIOでは生じない現象である。理論的な捻じれ/広がりの閾値の比
【数2】
による測定値の比較により、弾性定数比K/Kの推定が可能になる。破線は係数286によって拡大した
【数3】
を示す。この量は、DIOでは約3.5の係数で、両方の材料における
【数4】
より大きく、ネマチック範囲の大部分にわたってK≒10Kを示す。
図11-1】異なるDIO濃度の混合物における温度に対する印加した電場反転への分極電流応答を示す図である。挿入図のプロットは、最低温度における応答を示す。正味の電荷フローQ=∫i(t)dtは、50Hzの矩形波駆動波形の10m秒半期にわたって電流を積分することによって得られる。対応する電荷密度Q/2Aを図6(B)にプロットする。ここでAは2つの電極の中間の印加した電場に垂直な平面における液晶試料の断面積である。次に印加される電場反転が起こる前に分極反転が完了する、それぞれの混合物におけるより高い温度では、P(T)=Q(T)/2Aで与えられる分極は、図6(B)に見られるように、冷却に際してN-N転移における小さなバックグラウンド値から、温度Tsatで到達するPsatまで増大する。Tsat未満の温度では、図6(B)で見られるように、分極の再配向は利用可能な時間では完了することができず、Q(T)/2Aは減少する。印加した電圧振幅は104V、電極ギャップは1mm、セル厚みは8μmであった。
図11-2】異なるDIO濃度の混合物における温度に対する印加した電場反転への分極電流応答を示す図である。挿入図のプロットは、最低温度における応答を示す。正味の電荷フローQ=∫i(t)dtは、50Hzの矩形波駆動波形の10m秒半期にわたって電流を積分することによって得られる。対応する電荷密度Q/2Aを図6(B)にプロットする。ここでAは2つの電極の中間の印加した電場に垂直な平面における液晶試料の断面積である。次に印加される電場反転が起こる前に分極反転が完了する、それぞれの混合物におけるより高い温度では、P(T)=Q(T)/2Aで与えられる分極は、図6(B)に見られるように、冷却に際してN-N転移における小さなバックグラウンド値から、温度Tsatで到達するPsatまで増大する。Tsat未満の温度では、図6(B)で見られるように、分極の再配向は利用可能な時間では完了することができず、Q(T)/2Aは減少する。印加した電圧振幅は104V、電極ギャップは1mm、セル厚みは8μmであった。
図11-3】異なるDIO濃度の混合物における温度に対する印加した電場反転への分極電流応答を示す図である。挿入図のプロットは、最低温度における応答を示す。正味の電荷フローQ=∫i(t)dtは、50Hzの矩形波駆動波形の10m秒半期にわたって電流を積分することによって得られる。対応する電荷密度Q/2Aを図6(B)にプロットする。ここでAは2つの電極の中間の印加した電場に垂直な平面における液晶試料の断面積である。次に印加される電場反転が起こる前に分極反転が完了する、それぞれの混合物におけるより高い温度では、P(T)=Q(T)/2Aで与えられる分極は、図6(B)に見られるように、冷却に際してN-N転移における小さなバックグラウンド値から、温度Tsatで到達するPsatまで増大する。Tsat未満の温度では、図6(B)で見られるように、分極の再配向は利用可能な時間では完了することができず、Q(T)/2Aは減少する。印加した電圧振幅は104V、電極ギャップは1mm、セル厚みは8μmであった。
図12】RM734/DIO二元混合物のエナンチオトロピーな挙動を示す相図を示す図である。転移温度は、数か月前に調製したセルにおける偏光顕微鏡および分極電流測定を用いて加熱時に決定した。混合物の全てにおいてN相はエナンチオトロピーであることが観察された。40~90%の範囲の濃度のDIOを含む混合物では、SmZ相はエナンチオトロピーであることが見出された。
図13A-C】RM734およびDIOの広角X線散乱の比較を示す図である。
図13D】RM734およびDIOの広角X線散乱の比較を示す図である。
図14】DIOおよびRM734の散乱のWAXS画像のライン走査I(qz)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に提供する例示的な実施形態の記述は単に例示であり、説明のみを目的とすることを意図している。以下の記述は本開示の範囲または特許請求の範囲を限定することを意図していない。さらに、記載した特徴を有する多数の実施形態への言及は、さらなる特徴を有する他の実施形態または記載した特徴の異なる組合せを組み込んだ他の実施形態を排除することを意図していない。
【0012】
本開示において、任意の2つの変数は実行可能な変数の範囲を構成し得、指示した任意の範囲は終点を含んでもよく、含まなくてもよい。さらに、指示した変数の任意の値は(これらが「約」で示されているか否かに関わらず)正確な値または近似的な値を意味し、等価物を含み得、平均値、メディアン、代表値、大多数、値±10%(例えば体積、原子、または質量%0)等を意味し得る。さらに、本開示において、用語「含む」、「からなる」、および「有する」は、一部の実施形態では、独立に「典型的にまたは広範囲に含む」、「含む」、「本質的に~からなる」、または「からなる」を意味し得る。本開示において、定義された任意の意味は、通常のおよび習慣的な意味を必ずしも排除しない。
【0013】
2017年に、2つのグループが独立に、極性分子の新規なネマチック相、即ち分子RM734における反強誘電性のスプレイネマチックおよび分子DIOにおける「強誘電体のような」相を報告した。引き続いてRM734およびDIOにおいて強誘電性が実証された。図1から明らかなように、RM734およびDIOは明らかに異なる分子構造を有する別個の分子ファミリーのメンバーであるので、この開発のセレンディピティは顕著である。新規な極性ネマチックがこれらのファミリーの中の近接したホモログおよび混合物において独立に観察された。一方、DIOとRM734は類似した分子形状およびサイズを有し、両方の分子は約11デバイの長手方向の分子双極子モーメントを有し、これはNF相中におけるこれらの混和性にとって有利になり得る類似性である。
【0014】
これらの観察により、本発明者らは、ネマチック強誘電性に関してこれらの区別できる分子種の間の相互作用の研究を追求するように動機付けられた。ここで本発明者らは、二元DIO/RM734混合物の相および電気光学的挙動の実験的検討を提示する。RM734およびDIOの光学的テクスチャー、熱量測定、および第二高調波発生における類似性が最近報告されたが、RM734およびDIOで同定された強誘電性ネマチックが同じ相であるか否かの疑問は、二元の混和性を検討することによってのみ、明確に回答することができる。これらの材料をその強誘電性ネマチック相において混合することの現象論は未知であったが、それらは化学的に相違しているので、これらの分子がその結晶相において極めて混和性であることは考えにくく、結晶化を抑制し、室温での強誘電性混合物を達成する機会が約束されている。本研究に関連して、本発明者らは、もともとDIOで報告されていたが構造的に解析されていないM2相を検討した。シンクロトロンに基づくマイクロビーム小角X線散乱(SAXS)および電気光学的偏光顕微鏡は、M2がラメラ状で層面に平行なネマチック配向子を有する密度変調の反強誘電性LCであり、本発明者らが他で報告した研究においてスメクチックZ(SmZ)と命名した相であることを示す。
【0015】
ネマチック強誘電性は、その巨視的な極性秩序化と流動性との特有の組合せのために、新規な液晶の科学および技術のための好機を提供する。例えばRM734の強誘電性ネマチック(N)相は、N範囲の高温において急速な電気光学的応答を示すが、結晶化および徐冷時に強く増大する粘度を呈する。一方、急冷により得られた室温N相はガラス状である。液晶技術の応用開発において、混合物の探索は、結晶化の防止、相範囲の拡大、および液晶特性の調節等の課題に対処するためのアプローチである。混合物の研究はまた、液晶科学を進歩させるための鍵であり、組成を連続的に変化させることによって相の構造モデルを試験するため、それらの成分のいずれによっても呈示されない混合物中の相を発見するため、および新たな相を発見するための方法を提供する。
結果
相図- RM734およびDIOを、図1に示すスキームを用いて合成した。透過型の偏光顕微鏡(PLM)、示差走査熱量測定(DSC)、分極測定、およびSAXS実験を用い、等方(Iso)相からの徐冷に際して決定した混合物中のDIOの様々な重量パーセント(wt%)cについての相図を図3に示す。それぞれの転移においてセルを通過する明瞭な位相面が顕微鏡で観察され、転移温度の正確な決定が可能であった。純成分の観察された転移温度は、公開された値とよく一致する。混合物の冷却に際して、3つの異なる液晶相、即ち常誘電性ネマチック(N)、反強誘電性スメクチックZ(SmZ)、および強誘電性ネマチック(N)が観察された。強誘電体または反強誘電体を超える無秩序な相についての標準的な簡略化された物質用語を用いて、N相を「常誘電相」と称する。最も低い温度では結晶相が観察されたが、その特性および組成については検討されなかった。Iso相、N相、およびN相は相図全体にわたって連続した様式で現われ、これらの相において全ての濃度で2つの成分が完全に混和していることが示された。混和性の法則に従えば、この観察は上で提起した疑問に答えるものであり、RM734におけるIso相、N相、およびN相がDIOにおけるものと同じ相であることを示す。純DIOにおいて約15℃であるSmZの相範囲はDIO濃度の減少とともに低減し、c≒50重量%未満では消失する。図3から明らかなように、Nへの相の境界はcに対して直線的に傾斜しており、以下に詳細に論じるように、この転移における理想的な混合挙動を示唆している。
【0016】
注目すべき相特性は以下のようにまとめることができる。
・等方性相(Iso)- Iso相は交差したポラライザとアナライザとの間の透過光の消光を示し、100V/mmまでの印加した電場に対して検出可能な応答を呈さない。
・常誘電ネマチック相(N)- 予想されたように、N相はバフ研磨方向に平行な、均一で面内の配向子場n(r)との平面状の整列を有する。セルが配向子をポラライザまたはアナライザと平行に配向する場合に、優れた消光が達成される(図5(A)、図9(B))。200Hzの矩形波電場によって駆動されるフレデリクス転移がN相で観察され(図9(C))、面内電場が配向子の捻じれ変形を生じ[RMS閾電圧
【0017】
【数5】
【0018】
、セルプレートに垂直な電場がスプレイベンド変形を生じる[RMS閾電圧
【0019】
【数6】
【0020】
。ここでDは面内電極ギャップ、KおよびKは捻じれおよび広がりのフランク弾性定数、Δεは低周波数誘電異方性である。RM734およびDIOにおける閾電圧の温度依存性を図10に示す。RM734およびDIOは印加した電場に対して典型的なフレデリクス様の閾のある配向応答を呈する。RM734とDIOのいずれも、冷却に際してΔεのおおまかな増大を呈する。しかしRM734ではフレデリクス閾値はより低く、Δεの強い転移前成長およびKの低下のために、N相への転移に近づくとともに低下する。これは、DIOのN相ではNが反強誘電相に近づくために生じない現象である。RM734で観察されたスプレイ閾電圧は、参考文献から得られたKおよびΔεの値を用いて計算した
【0021】
【数7】
【0022】
とよく一致する。理論的な捻じれ/広がりの閾値の比
【0023】
【数8】
【0024】
による測定値の比較により、弾性定数比K/Kの推定が可能になる。図10における破線から、286倍に拡大した
【0025】
【数9】
【0026】
が得られ、RM734におけるN-N転移の近傍を除いて、Kの転移前の低下によって両方の材料でK>Kであることを示す。DIOにおいては、ネマチック範囲の大部分にわたってK≒10Kである。
・面内ネマチック配向子を有するラメラ反強誘電性LC(SmZ)- 最近、磁気的に整列した毛細管上の非共鳴SAXSおよび整列したセルのPLM電気光学を用いて、以前報告されたが構造解析がなされていないDIOのM2相が層化された(密度変調された)反強誘電性LCであることを確定し、これをスメクチックZ(SmZ)と命名した。これは交互分極を有する厚み9nmの極性層および層平面に平行なネマチック配向子の周期的なアレイを含む。セル内では、これらの層は明瞭なスメクチック様の配置で三次元空間を満たしており、層はプレートに対して平行または垂直である。バフ研磨されたポリイミド表面を有するセルにおいてN相から冷却すると、層はプレートに垂直に成長し、セルの平面に印加された電場への面内捻じれフレデリクス応答を抑制するが、プレートに垂直に印加された電場についてのスプレイベンド・フレデリクス転移を持続する。これらの特徴により、SmZをN相およびN相の両方から識別することが容易になる。
・強誘電性ネマチック相(N)- 純DIOにおけるSmZ相の均一なドメインを冷却して得られたN相のテクスチャーの進化を図4(A-D)のPLM画像に示し、c=40重量%のDIO混合物におけるN相の均一なドメインを冷却して得られたN相のテクスチャーの進化を図5に示す。いずれも電場は存在しない。特徴的な光学的変化を受けたことに加えて、Nへの転移は、N相における10分の数ボルトからN相における100ボルトを超えるまでのスプレイベンド・フレデリクス転移の閾値の増大によって特徴付けられる。これは、当初は平面状であったセルにおいて強誘電性分極Pを回転してセルプレートに垂直な成分を与えるための大きな静電的エネルギーコストの結果である。同時に、面内電場によって誘起される捻じれのための閾電場は、PとEの強誘電性カップリングの進行によってほぼ1000の係数で低減し、示したN配向子状態の全てにおいて非常に弱い面内印加電場(0.1~1V/mmの範囲で)における極度の電気光学的応答性を生じる。NからNへの転移において、局所的な配向の揺動によって特徴付けられる面がセルを通過し(図4B)、その後にN相の平滑で平面状のテクスチャーを残し、N相に数度入ったバフ研磨軸に平行なnを有するN相(およびSmZ相)の均一な配向子場(U状態)を保持する。しかしさらに冷却すると構造的な転移が起こり、区別できる転移ライン(1つの表面で形成されたπ捻じれ回位ライン)がセルを通って横方向に通過し、左手および右手(LHおよびRH)のπ捻じれドメインの形成を媒介する。これらは消光されず、図4(A)、図5(C)で見られるように、それ自体で別種の区別できる線欠陥(セルの中央平面における2π捻じれライン)によって分離される。これらの捻じれ状態は交差したポラライザとアナライザとの間で光学的に同一のようであるが、ポラライザの交差が解除されればそれらの等価性は失われ、LHおよびRHドメインは、ポラライザが他の方法で交差解除された場合に交換される、区別できる色彩/濃淡を呈する(図4(B-D))。この挙動は純RM734のANTIPOLARセルで最初に観察され、π捻じれラインの通過による均一なネマチック配向子/分極状態のπ捻じれ状態への自発的な変換を示す。この観察は、ネマチック強誘電性のための重要で明白な確認的証拠である。N相の逆平行にバフ研磨されたセルにおけるπ捻じれ転移への自発的な均一性は特有的に強誘電性のネマチック現象であり、バルクLCの巨視的な極性秩序化のみでなく、巨視的に極性の表面への極性カップリングも必要とする。LHおよびRHのπ捻じれ状態はそれぞれ左手または右手の配向子ヘリックスの半回転を支持し、トポロジカルな2π捻じれラインによって分離される。2つの捻じれ状態はバフ研磨軸に垂直な反対の正味分極を有し、それにより、図4(E-G)に示すように、この方向に印加された電場の反転を用いてそれらの間で切り替えることができる。そのようなπ捻じれ状態は全ての混合物および純DIOで観察され、純RM734で観察された挙動と定性的に同様の挙動を示し、それにより本発明者らはNが相図にわたって連続的であるとの結論に達した。RM734とDIOのテクスチャーの類似性は、ランダム平面のセルで観察されている。
【0027】
相への転移- この転移は相図の2つの終端で明らかに異なる。RM734が多い混合物では、N-N転移に近づくとともに、純RM734において既に報告し、図5(B)に示すように、揺動する極性ドメインのランダムなパターンが観察される。これらのドメインは、分極Pの長手方向の揺動の静電的抑制の現われとして配向子の配向nに沿って延在している。Nへの冷却に際してのこれらのドメインの粗大化の詳細は表面の状態に依存するが、数ミクロンの厚みの擦過されたポリイミドセルでは、ドメインは典型的には数ミクロンのサイズまで成長し、テクスチャーの欠陥を消去し、大きく均一なモノドメイン、続いて捻じれ状態を形成する。より厚いセルまたはより弱く整列したセルでは、RM734およびNからNへ直接転移するDIOのホモログにおいて見られるように、粗大化ドメインの長さスケールが、ミリメーターの大きさへの冷却に際して、配向子に沿って延在する反転分極の不規則で巨視的なパターンを伴って連続的に増大することが観察された。典型的な試験セルにおいては、均一なNドメインは純粋な分極反転ウォールまたはスプレイベンドウォールによって分離される。この挙動は、DIOで観察された強誘電性の均一で捻じれた状態とともに、混合物で観察されたN相がRM734およびDIOにおけるN相と同じであることを示唆する。
【0028】
RM734、DIO、またはそれらの混合物のいずれの調製物のN相ではなく、平面またはランダム平面で整列した標準的な薄いセル、毛細管、またはより厚い(10~50μm)セルのいずれにおいても、RM734ファミリーのN相において以前報告された種類の約9μmの間隔の周期的複屈折(スプレイネマチック)ストライプは観察されなかったことに留意する。
【0029】
相図のDIO終端において、冷却に際しての転移シーケンスは最初にN-SmZ、次いでSmZ-Nである。これらの転移は弱い一次であり、相は冷却に際してN-N転移で見られた劇的な極性の揺動なしに、光学的に区別できる均一なドメインとして成長する。これはSmZ相の反強誘電性秩序化に起因すると考えられる。SmZ相の大部分にわたって配向子場の面内再配向は強く抑制されるが、N相への転移に近づくより低温においては強誘電性の揺動が現われ、電場によって誘起される再配向に対する感受性が増大する。これについては後の出版物で論じる。
【0030】
強誘電性分極- 時間に対する様々な温度における50Hz、104V/mmの矩形波の面内で印加した電場に応答する分極電流i(t)の測定の典型的な組を、この場合にはc=90重量%のDIO混合物について、図11に含まれる追加データとともに図6(A)にプロットする。この弱い印加電場はNにおける分極を反転させるためには十分に大きい。Iso相、N相、およびSmZ相において、電流は印加電圧の符号の反転の直後にピークに達し、次いで指数関数的に減衰するシグナルのみからなる。このシグナルは、セルのRC回路線形応答および直列抵抗に対応し、NがTにおいて接近するとともにN相におけるεの増大により、測定されたPの初期の上向き湾曲を生じる。Nへの転移に際して、試料における自発的分極の反転に起因するはるかに大きな電流シグナルがより長い時間で現われる。この電流ピークは時間に対して積分され、図6(B)、図11に示す正味電荷流Q=∫i(t)dtおよび対応する電荷密度Q/2Aが得られる。ここでAは2つの電極の中間の印加電場に垂直な面における液晶試料の断面積である。
【0031】
初期の定性的観察は、電流ピークの時間における幅がTの低下とともに劇的に増大することを示し(図11)、電流応答の時間的な幅を最小化するために矩形波駆動を選択することを動機付けた。したがって、高温においては、印加電場反転の間の利用可能な10m秒の積分時間の間に分極反転が完了する。このレジームにおいて、図6(B)の中実四角符号によって示されるように、量Q/2AはP(c,T)=Q(c,T)/2Aによって、バルクのN分極と等価である。この温度範囲では、温度に対するP(T)の依存性は全ての混合物において全く同様であり、N相への転移に接近するとともに分極はS字状に増大し、初期の上向き湾曲は、RM734とDIOの両方で観察されたN(またはSmZ)相における誘電定数の転移前増大を反映する。
【0032】
しかし、図6(A)および図6(C)に示すように、分極反転に付随する電流ピークの最大半幅における全幅τは冷却に際して急速に増大する。温度Tsat未満では、分極反転は矩形波駆動によっても利用可能な10m秒の時間ウィンドウ以内で完了することができず、測定されたQ(c,T)/2A値はTの低下とともにPsatの最大値から急速に低下する(図6(B)の中実の丸)。積分時間を長くした試験的実験によって、これらのデータは、RM734において観察され、RM734の原子論的なシミュレーションにおいて確認されたように、Tが低下するとともにPsat(c)から数パーセント増大する真の分極を反映していないことが確認される。以下の時間反転動力学の解析において、Tsat未満の温度における分極を単純にPsat(c)と近似する。この仮定の下で時間反転動力学を用いて、Tsat未満の温度Tにおける配向粘度の測定を得ることができる。
【0033】
分極の飽和値は図6(B)で見られるように全ての混合物において同様でPsat≒6μC/cmであり、Psat(c)は図6(D)で見られるようにRM734の多い終端からDIOの多い終端までわずかに低下する。
【0034】
低温では、起こり得る結晶化の時間を考慮して、分極測定はほぼ30分間隔で行なった。図6(A)の挿入図は、最低温度におけるc=90% DIO混合物の電場反転の後の電流応答を示す。この混合物において、結晶化はT=26.5℃とT=25.5℃のスキャンの間で起こり、プロットから明らかなように、積分電流の急激な低下が惹起された。結晶化は流体のN相がまだ比較的低い粘度を有しているより高い温度で熱力学的に有利になるので、一般に結晶化はc≒0%およびc≒100%に近い相図の両端における混合物の冷却に際して観察される(図3の灰色の結晶領域)。興味深いことに、結晶化は矩形波分極反転電場が印加されている間にc=90% DIO混合物において主として抑制されるが、試料はT=25℃において電場の非存在下で約1時間以内に結晶化する。分極反転時間は全ての混合物について温度の関数として測定し、結果を図6(C)に示す。
【0035】
sat未満のTについて、測定したQ(T)データは、完全な分極を生じてはいないが、Tsat未満のTについてP(c,T)=Psat(c)という仮定の下に10m秒の積分ウィンドウの中に再配向した分極分画の上限の推定f(T)=(Q(T)/2A)/Psat(c)を提供するために用いることができる。最低温度における測定した電荷密度の急激な低下は、ガラス状態への接近に伴う実効配向粘度の急速な上昇に起因する切り替え時間の急激な増大と一致する。濃度の中間範囲では結晶化の証拠はない。これは低いTにおいて高い粘度および凝固点の低下によって妨げられ、その代わりに冷却はガラス状態をもたらす。結晶化は全てのDIO濃度において急速な冷却によって抑制され、いずれの混合物も室温のガラスに急冷されることが可能になる。
【0036】
分極再配向の動力学:配向粘度の測定- N相における電場駆動再配向の特性時間はτ=η/PE、即ちPがEに対して垂直である場合の高トルクの状態から出発する誘起された90°の回転についての固有応答時間である。ここでηは配向粘度であり、これはN相においてTに強く依存する。これらの測定において用いる駆動電圧は、RM734において時間間隔τ≒10τ=10η/PEで起こる分極反転を生じる。急速な電場反転の条件下では、Pは一般に電場が切り替わった直後にセル体積の大部分にわたって極めて低いトルク配向でEに対して逆平行に配向するので、分極反転はこのように長い時間を要する。したがって、η(c,T)の推定を得るために、η(c,T)=0.1[P(c,T)τ(c,T)]Eを用いてもよい。結果を図6(C)にプロットする。測定は固定した電場振幅で行なったので、ここでτデータは、Tsat未満のTについてP(T)=PsatとしてNの温度範囲の全体にわたって粘度を直接呈示する(τP/Psatはηに比例する)拡大した量τ(T)P(T)/Psatとしてプロットする。
【0037】
全ての混合物の測定した粘度は、N相における最高温度でη≒0.05Pa・sであり、冷却に際して測定できる最長の時間(ここでτが10m秒に達する)でη≒3Pa・sに増大する。それぞれの混合物の粘度は温度に対してほぼアレニウス型の依存性を示し(図6(C))、バリアに制限される消散プロセスを示唆する。実験データは一般に最低温度でアレニウス線を超える傾向を示す上向きの湾曲を呈し、これはガラス状態への転移に近づくことに起因すると考えられる。測定した分極がPsatの80%(f(T)=0.8)に低下する温度とみなされる開始温度Tg(c)は、偶然にもτ≒5msecである温度でもあるが、図3で中空三角として示す。この転移温度は濃度とともにほぼ直線的に変化し、TNF転移の温度と平行している。
【0038】
室温三元混合物- そのN相が室温まで持続するc=90重量%のDIO混合物の低温における動力学を、第3成分であるW1027(図2に示す)中に混合して(70重量% DIO)/(15重量% RM734)/(15重量% W1027)の混合物を作製することによって、さらに探索した。この混合物の試料は、数時間にわたって結晶化に対して安定な室温で流体のN相を形成した。この混合物の粘度の温度依存性を、白色円として図6(C)にプロットする。
【0039】
本文に記載した三成分DIO/RM734/W1027混合物の温度に対する分極を図7(A)にプロットする。この混合物の拡大した粘度を図7(B)にプロットする。
強誘電性ネマチックホストにおける双極性発色団の極性秩序化の実験的証拠- 図8に示すように、非線形光学(NLO)発色団を含む多成分F混合物における強誘電性分極密度Pの測定により、ホストN混合物が発色団分子の高度の極性配向秩序化を誘起することの説得力のある証拠が提供される。図8(A)に図式的に示す典型的なNLO発色団分子の構造は、電子ドナー、パイコンジュゲートした架橋、および電子アクセプターからなる。そのような「プッシュプル」型分子は、大きな電気双極子モーメント(約10D)および大きな第一超分極率を有している。分極の測定は、Polaris Electro-Optics社から入手した2つのN混合物、即ち、RM734と類似した双極性分子からなるがNLO発色団を含まないNホスト混合物であるPM146、およびホスト混合物PM146に25重量%のNLO発色団分子を添加することによって得られたN混合物であるPM158について行なった。図8(B)に示すように、PM158の分極は広い温度範囲にわたってホスト混合物PM146の分極と同程度であることが観察される。極性整列の欠如は発色団濃度の増大とともにPの顕著な低下をもたらすので、これはNホストによる双極性発色団分子の極性整列の説得力のある証拠である。PM158についての補足的なUV-Vis二色性測定も、発色団分子がS≒0.7のネマチック秩序パラメーターでNホストによって強く整列されることを示す。
【0040】
相挙動- DIO/RM734の場合に、全てのDIO濃度cにわたって相図に広がる2つの相の間で一次転移を呈する二元混合物が観察される。そのような混合物は、相境界温度T(c)の計算において、混合のエントロピーが、それらのモル分率に基づく個別の成分の転移のエンタルピー(ΔH)とエントロピー(ΔS)の変化の線形の重み付けに加えて、考慮すべき唯一の具体的に混合に関連する熱力学的な寄与であるならば、「理想的」と考えられる。これはつまり、2つの相の間のギブスポテンシャルの相違ΔGへの「過剰の」寄与は無視してもよいということである。例えば、A-B分子の対形成においてA-AおよびB-Bの対形成におけるこれらの効果の単純な平均化とは異なる引力、斥力、無秩序化、または秩序化があったならば、そのような寄与はA/B混合物で現われるであろう。理想的な相挙動の条件下では、N相への転移における相共存範囲の中央温度TNF(c)は、シュレーダー・ファンラール(SvL)方程式:
【0041】
【数10】
【0042】
によって記述される。ここでx=モル分率、TDIO=343KおよびTRM734=405Kは純DIOおよびRM734のNへの転移温度、ΔSDIO=0.07R、ΔSRM734=0.06R、ΔHDIO=0.2kJ/mol、およびΔHRM734=0.2kJ/molは、純粋成分のモルあたりの量である。この理論的なSvL相境界は一般にx,T平面に湾曲しているが、TDIO<T(x)<TRM734の範囲の温度に限られている。理想的な混合条件の下では、ΔS(x)はこれらの限界の間で直線的に内挿されることになる。検討すると、ΔSDIO=ΔSRM734であれば、RM734/DIO混合物における条件が得られることが分かる。ΔS(x)は定数で式から消去され、T(x)はxの一次関数となり、相境界はxにおいて相図にわたってTDIOとTRM734の間で直線を形成し、分子量の差が小さい(MWRM734=423、MWDIO=510)のでcにおいてほぼ直線を形成する。中間の濃度におけるΔS(x)のDSC測定により〈ΔS(x)〉=0.056±0.02Rが得られ、これは本パラグラフで既に提示したΔSDIOおよびΔSRM734の値と同程度である。
【0043】
相図のRM734終端ではN-N転移は直接で一次である一方、DIO終端では相シーケンスは2つの一次転移N-SmZ-Nを含む。しかし、xに対するT(x)の線形変動はNへの転移がN相からまたはSmZ相からに関わらず維持される。T(x)はN-N転移を支配するギブスの自由エネルギー表面の切片(これは純粋な成分の自由エネルギー表面の間で直線的に内挿される)によって支配されるので、T(x)の直線性はN-SmZ転移の熱力学的な効果がより小さいことを示唆する。これはおそらく、極めて小さいN-SmZ転移エンタルピー(ΔHNZ=0.003kJ/mol)の結果であり、パラネマチックなN相と反強誘電性のSmZ相の〈P=0〉の性質とも一致している。N相の全ての正味の分極は、図3で丸い点によってマークした相境界において、Nへの最終的な転移を通して進行する。小さなΔHNZ、cに対するTNF(c)の依存性の直線性、およびNへの最終的な転移の転移エントロピーの相図にわたる類似性は、同程度の飽和値を有するP(T,c)曲線と一致する。
【0044】
四極子であるが無極性のN相から四極子で極性のN相への相変化について現在提案しているモデルは、これが一次のランドー・ドジェンヌ平均場転移であるか、または長距離の双極子-双極子相互作用によって一次となった、配向の二元的選択(+nまたは-nに沿う)を有する分子双極子のイジング様配向転移のいずれかであるということである。いずれの場合にも、分極P(T)が転移の主要な秩序パラメーターである。図6(B)はP(T)の成長が異なる濃度について同様であることを示し、図6(D)はPsat(c)がcに対して弱い直線的依存性を有していることを示す。理想的混合に関しては、この観察は、このような転移の理論におけるパラメーターのcに対する依存性を制約する。例えばイジング様のシステムにおいては、TDIOはTRM734よりいくらか小さいので、双極子の対(i,j=DIO,DIO;i=DIO,j=RM734;i,j=RM734,RM734)の間の局所的な強誘電性相互作用を与え、T(x)に比例するイジング相互作用エネルギーJij(x)は、TNF(x)と同様に直線的に内挿しなければならない。これはJDR=(JDD+JRR)/2の場合にのみ起こり、その条件ではΔGは「過剰の」内部エネルギーを有しないことになる。最近傍イジングモデル(3Dにおいて二次相転移を生じる)については、エントロピーはT/Jの万能関数であり、その場合にもΔGに対する「過剰な」エントロピー寄与はないことになる。
【0045】
しかし、Nへの転移は一次で平均場のようであり、N相において高度に異方性の配向相関を呈することが見出されており、これはN相における揺動に対する長距離の双極子-双極子相互作用の効果を含むモデルによって理解できる特徴である。長距離の相互作用を有するイジングシステムの重要な挙動は、短距離の強誘電性交換力を有するある種の磁性材料に関連して広範囲に研究されてきたが、長距離の双極子相互作用も重要である。繰り込み群解析により、RM734において観察されたように、長距離の相互作用は、長手方向の電荷-密度の揺動δPz/δzを強力に抑制することによって、磁気相関を高温相における転移付近で双極子-異方性にし、これらをn、z軸に沿って延長することが示されている。具体的には、自由エネルギー式Eq.(1)から開始して双極子-双極子相互作用の項を加えて、q=0に関するPのオルンスタイン・ゼルニッケ分極揺動についての構造因子は、χ(q)=1/[τ(T)(1+ξ(T))+(2π/ε)(q/q)]として〈P(q)P(q)〉=kTχ(q)となる。ここで相関長ξ(T)=b/τ(T)、τ(T)は(T-TNF)/TNFに比例し、bは定数、q=q+qである。双極子-双極子(第3)項は、xおよびyに沿ってξ(τ)として、しかしzに沿ってはξ(τ)として成長する拡張された相関を生じ、相転移を通過する際のテクスチャーの画像配列から、またそれらの光学的フーリエ変換から、定性的に観察されるように、有限のqについてχ(q)を抑制する。この異方性のために、このモデルにおける相関体積は3Dにおいて等方性のV≒ξ(τ)よりむしろV≒ξ(τ)として成長し、転移の上限次元を3に低減し、転移を3Dイジング普遍性による揺動支配であるよりむしろ対数補正によって平均場のようにする。双極子-双極子項はPとして拡大され、したがってDIOとRM734のほぼ等しい双極子モーメントおよびほぼ等しいJは、この挙動を相図にわたって同様にする傾向がある。当面、TDIO=TRM734と仮定し、したがってJDD=JRRと仮定すれば、「理想的な」混合平均化条件JDR=(JDD+JRR)/2はJDR=JDD=JRRに還元され、分子はN相を安定化する対の相互作用エネルギーに関して同じように挙動する。
【0046】
粘度- 測定した粘度は、有効バリア高さEηを決定するために図6(C)に示すようにアレニウス形η(T)=Aexp[Eη/kT]と一致した。勾配の均一性から分かるように、Eηは本質的にcに依存せず、Eηの平均値は相図にわたって7800Kである。対照的に係数Aはcとともに実質的に変動し、これは単一の温度、例えば80℃で濃度に対して粘度を測定することによって定量できる挙動である。図6(D)のプロットは、DIO/RM734混合物についてのη(T)の対数での加成性を示し、ln[η(80℃)]=(x)ln[ηDIO(80℃)]+(1-x)ln[ηRM734(80℃)]である。この挙動についての基本的理解は、MacedoおよびLitovitzによって提唱されたコーエン・ターンブル自由体積/アイリング速度理論を組合せたモデルを用いることによって得られる。このモデルはマックスウェルの直感的な図解またはその現代の実施形態に基づいており、その中で粘度η=G/ν、即ち局所的剪断変形についての典型的な弾性率Gのランダムに起こる局所的な構造の閉じ込め解除/緩和の事象の分子あたりの平均速度νに対する比である。速度νはν=νp=νで与えられ、ここでνは試験の頻度、pは成功の確率、即ち十分なエネルギーEが利用可能である確率p=exp(-Eη/E)と十分な自由体積Vが利用可能である確率p=exp(-V/V)との積であり、Vは粒子あたりの平均自由体積である。これらの確率は粘度をそれぞれ温度および密度に関連させ、一般化された関係式、η(T)=G/(ν)=(G/ν)exp(cV/V+Eη/kT)を与える。ここでVは粒子あたりの密に充填された体積であり、利用可能なエネルギーは平均してkTである。これをDIO/RM734混合物に適用して、Gおよびνは2つの成分について同じであり、ケルビン範囲がかなり狭いので温度にも依存せず、成分の粘度の相違はVの相違の結果であると考えることができる。一般に二元混合物では、ν=νp=ν(pDIO(pRM7341-x=νT[(pDIO (pDIO (pRM734 1-x(pRM734 1-x]となる。この式は、図6(C)における1/Tに対するlnη(T)の近似式の同様な勾配からEηが2つの成分について同じ、即ち(EηDIO=(EηRM734とできることに着目することによって単純化でき、この単純化から(pDIO=(pRM734=p=exp(-Eη/kT)が得られる。したがって混合物の粘度はη(x,T)=(G/ν)[p 1-x(pDIO (pDIO 1-x-1=ηDIO(T)ηRM734(T)1-xで与えられ、これにより、粘度の対数的加成性、即ち図6(D)にプロットした実験データから明らかな挙動が予測される。上記のモデルに関連して、(EηDIO=(EηRM734と仮定すれば、この対数的加成性は、混合物における有効自由体積が2成分についてのV/Vの線形組合せから得られることを暗示している。
【0047】
エナンチオトロピーなN相およびSmZ相- これまでに報告された全ての単一成分N材料はRM734およびDIOを含めてモノトロピー性であり、N相は冷却時にのみ観察され、N状態が結晶状態と比較して熱力学的に準安定であることを暗示している。N状態において固定された温度に保持した場合、そのような単一成分の材料は数秒から数日にわたる時間スケールで結果的に結晶化する。N材料の実用的な応用のため、エナンチオトロピーな挙動(即ち熱力学的に安定なN相)が極めて望ましい。多成分の混合は液晶においてエナンチオトロピーな挙動を達成するためのよく確立された経路であり、実際、エナンチオトロピーなNの挙動はRM734のホモログの混合物についてMandleおよび共同研究者によって以前に記載されている。RM734およびDIOの混合物におけるエナンチオトロピーな挙動を研究するため、試料を8μmの厚みのセルに等方性相で満たし、室温に冷却して、2か月静置した。ガラス状態を呈した全ての混合物の中で、90% DIOの試料のみがこの期間の後でセルの一部にいくらかの再結晶化を示した。電場を印加せずにセルをゆっくりと加熱し、相挙動を偏光顕微鏡で観察した。その後の加熱サイクルで、面内電場を用いて温度の関数として自発的分極を測定した。これらの観察に基づいて、N相がRM734/DIOの混合物中で10%~80%のDIOの組成範囲にわたってエナンチオトロピーであることを判定した(図12、表1)。例えば10%のDIO、即ち最も広いエナンチオトロピーなNの温度範囲を呈する濃度では、熱力学的に安定なN相がT=97.5℃~124.7℃で観察される。加熱実験において広範囲の組成にわたって観察されるSmZ相も、SmZがモノトロピー性である純DIOとは対照的に、エナンチオトロピーである。
【0048】
【表1】
【0049】
考察
等方-ネマチック液晶転移について、広範囲に異なる分子構造を有する異なる分子種の相挙動において観察された共通点は、ネマチック液晶の構造および秩序化の必須の要素がいくつかの関係する分子的特徴に基づいてモデル化することができるという発想を刺激し、支持してきた。したがって、ネマチックは電場の非存在下においては誘電性かつ非極性であり、約1kJ/molの転移エンタルピーの一次相転移によって等方相から分離され、光学的に一軸で、温度の低下または濃度の増大とともにゆっくりと増大する複屈折を有していることが見出された。単純な平均場または第2ビリアル統計機械的モデルにおいて分子間相互作用を記述するために採用される異方性の立体形状および/またはファンデルワールス力が、ネマチック秩序化の基本的な説明を得るために必要な分子的特徴であることが示された。
【0050】
本明細書における結果は、強誘電性ネマチック相に関して同様の蒸留が可能であることを示唆しており、強誘電性ネマチック相をもたらす分子的に区別できる種の相互作用に対するファミリー起源の効果がΔH(T,x)およびΔS(T,x)を得る最も単純な平均化手順によって説明できることを示す。これは、例えばいずれかの成分濃度が低い場合に、その単離された分子が、それ自体の種類と相互作用するのと同様の様式で他の分子のファミリーの海と相互作用することを意味する。
【0051】
ネマチック強誘電性のために必要な一般的な分子的特徴とは何か?現在、ネマチック強誘電性を誘起することが知られている2つのファミリーの中に約60種の分子があり、2つのファミリーから合成された40を超える分子が報告され、MandleらはRM734ファミリーの中で25種の変種を報告している。図3および表1に純粋な材料としてのLi化合物の観察された相挙動をまとめており、これらは3つのカテゴリー、即ち、エナンチオトロピーなN相を呈する9種の分子、急速な結晶化のために研究が困難であったモノトロピーN相を呈する12種の分子、およびN相を呈さない21種の分子に分類される。種々の置換の効果のこの印象的な探索は、これらのファミリーの中にN相を形成する一般的な傾向があることを示す。
【0052】
ファミリーの中に同様の分子-棒形状およびサイズ(約3環の長さ)ならびに同様に大きな分子双極子モーメント(約11デバイ)があることは、これらがN相を呈するために必須であることを示唆している。この組合せが必要であり得ると考えられる一方、(i)リエントラントネマチック/スメクチック常誘電相または反強誘電相のみを呈する長手方向に極性のLCに関するN以前の広範な文献、および(ii)-NOを-CNで置換することによって、それらの双極子モーメントが同程度であるにも関わらず、それ以外は同一である分子においてN相が消失するという観察に基づけば、これは明らかに十分でない。この後者の結果は、静電的な頭尾自己集合に対して観察された傾向の詳細の重要性を説明し得る。
【0053】
RM734ファミリーにおいて、オルト位にあるMeOのような嵩高な側鎖が、分子をナシ形により近づけることによって、新規なN相、即ちスプレイストライプの反強誘電性の周期的なアレイを安定化させるために必要であると仮定した。本明細書で報告した観察は、N相のテクスチャーが多くは巨視的に変調されていないか、または観察可能ないずれの長さスケールでも局所的に広がっていることを示す。さらに、N相を呈する分子パレットへのより最近の追加のいくつかは、分子の中央部または他端に側鎖を有しているか、側鎖を全く欠いている(例えばDIOファミリーの多くのメンバーおよびRM734ファミリー)。
【0054】
化学的に類似していない化合物DIOとRM734のほぼ理想的な混合挙動は、一見驚くべきことであるが、これらの材料の二元混合物における混合の熱力学において静電的相互作用および静電的分子間会合が主役であることを示唆する。それらの区別できる官能基および化学的置換のパターンにも関わらず、DIOとRM734は同様の双極子モーメント(約11D)および分子の長さに沿った電荷符号の交替によって特徴付けられる電荷分布を有する。これは、RM734および関連化合物の原子論的シミュレーションにおいて観察された典型的なペア会合モチーフ(例えば頭尾「連鎖形成」および側鎖同士の「ドッキング」)と強く相関する特徴である。N相の安定化における長手方向の電荷密度変調の役割も、最近の理論的研究で取り扱われてきた。RM734とDIOのほぼ理想的な混和性は、それらの類似した分子形状、電荷分布、および静電的相互作用に由来すると仮定している。これは、分子内電荷分布が改変されたRM734およびDIOのアナログの混合挙動によって証明され得る仮説である。
【0055】
材料は、双極性溶質分子において極性配向秩序を極めて一般的に誘起する非常に独特の極性溶媒であり、これは「溶媒ポーリング」と名付けた現象である。本明細書で報告したRM734およびDIOの二元混合物における強誘電性分極測定によって明らかなように、誘起された極性秩序の程度は極めて大きくなり得る。この測定は、RM734 Nホストが低いDIO濃度という限定においてDIO溶質分子にほぼ完全な秩序を付与することを示す(DIO Nホストにおける低い濃度のRM734溶質分子についても同様)。この溶媒ポーリング現象は単にNホスト中に存在する大きな(約10V/m)局所的電場における溶質電気双極子の配向に起因し得るが、より一般的には、分子内電荷分布および分子形状の詳細に依存する。溶媒ポーリングは最適化された材料特性を有する新規な機能性材料を創成するための容易な経路である。例えば、大きな二次非線形光学感受性を有する材料は、Nホスト中で高ベータ発色団分子を溶媒ポーリングすることによって設計することができる。
【0056】
有機メソゲンRM734およびDIOは、区別できる分子構造を特徴とする別個の分子ファミリーのメンバーである。これらのファミリーは、強誘電性ネマチック液晶(LC)相を呈することが知られている。ここで本発明者らは、RM734およびDIOの二元混合物の相図および電気光学の実験的検討を提示する。両方の材料で常誘電性ネマチック(N)相および強誘電性ネマチック(N)相が観察され、そのそれぞれは相図にわたって完全な混和性を呈し、常誘電性および強誘電性はRM734においてDIOと同じ相であることを示している。目立つことに、これらの分子は、転移の主要な秩序パラメーターである、混合物の常誘電性-強誘電性ネマチック相挙動と強誘電性分極密度の両方に関して理想的な混合物を形成する。理想的な混合は、配向粘度および低温におけるガラス状動力学の発生においても明示される。この挙動は部分的にそれらの全体の分子形状および正味の長手方向の双極子モーメント(約11デバイ)の類似性、ならびに頭尾の分子会合への共通の傾向に帰せられる。対照的に、分子構造の顕著な相違は、結晶相における低い溶解性をもたらし、低温における混合物中の強誘電性ネマチック相の安定性を増強し、室温での電気光学的効果を可能にする。過剰のDIOを含む混合物では、常誘電性と強誘電性のネマチックの間の狭い温度範囲で、中間相が極めて弱い一次の転移を介してN相から出現する。
材料および方法
DIOの合成- DIO(2,3’,4’,5’-テトラフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル2,6-ジフルオロ-4-(5-プロピル-1,3-ジオキサン-2-イル)ベンゾエート、図2、化合物3)は、長さ約20Å、直径5Åの棒状分子であり、長手方向の電気双極子モーメントは約11デバイである。合成した化合物はT=173.6℃で融解し、等方性(I)相および2つのさらなるネマチック様の相を有していることが見出された。冷却時の転移温度はI-173.6℃-N-84.5℃-M2-68.8℃-N-34℃-Xであった。
【0057】
一般的な合成反応に基づいた本発明者らの合成スキームを図2に示す。重要な中間体1はManchester Organics Ltd.社、UKから購入し、中間体2はSigma-Aldrich Inc.社、USAから購入した。オーブンで乾燥したガラス器具中、乾燥アルゴン雰囲気下で反応させた。フラッシュクロマトグラフィーにより、Zeochem AG社から購入したシリカゲル(40~63ミクロン)を使って精製した。分析用薄層クロマトグラフィー(TLC)を、Millipore Sigma社(Darmstadt)製のシリカゲル60 F254 TLCプレート上で実施した。短波長紫外(UV)を用いて化合物を可視化した。Bruker Avance-III 300分光計を用いて核磁気共鳴(NMR)スペクトルを得た。NMR化学シフトは重水素化クロロホルムを基準とした(Hについて7.24ppm、13Cについて77.16ppm)。
【0058】
CHCl(125mL)中の化合物1(3.44g、12mmol)および中間体2(2.91g、12mmol)の懸濁液に、DCC(4.95g、24mmol)および微量のDMAPを加えた。
【0059】
反応混合物を室温で4日間撹拌し、次いで濾過し、水およびブラインで洗浄し、MgSOで脱水し、濾過し、減圧下で濃縮した。
得られた生成物をフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、石油エーテル/10%酢酸エチル)で精製した。粗生成物を75mLの沸騰石油エーテル/20%酢酸エチル溶媒混合物に溶解し、続いて-20℃に1時間冷却することによって結晶化して、化合物3の白色針状結晶2.98g(49%)を得た。
1H NMR (300 MHz, クロロホルム-d) δ 7.64 - 7.35 (m, 1H), 7.24 - 6.87 (m, 6H), 5.40 (s, 1H), 4.42 - 4.14 (m, 2H), 3.54 (ddd, J = 11.6, 10.3, 1.5 Hz, 2H), 2.14 (tddd, J = 11.4, 9.2, 6.9, 4.6 Hz, 1H), 1.48 - 1.23 (m, 2H), 1.23 - 1.01 (m, 2H), 0.94 (t, J = 7.3 Hz, 3H).
13C NMR (75 MHz, クロロホルム-d) δ 162.50, 162.43, 160.85, 159.08, 159.00, 157.52, 150.87, 150.72, 145.60, 145.47, 130.51, 130.46, 117.99, 117.94, 113.22, 113.17, 113.02, 112.93, 112.88, 110.65, 110.30, 110.26, 110.00, 109.95, 98.65, 98.62, 98.59, 72.41, 33.72, 30.05, 19.35, 14.01.
W1027の合成- W1027(4’-ニトロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル2,4-ジメトキシベンゾエート、化合物6)は比較的広いネマチック相を有し、化学的にはRM734と類似しており、相違は分子のニトロ末端に近いエステル基が炭素-炭素リンケージで置換されてビフェニル構造を形成していることである。合成した化合物はT=188℃で融解し、等方性(Iso)相およびN相を有していることが見出された。冷却時の転移はIso-154℃-N-116℃-Xであった。
【0060】
W1027は、図2に描き、以下に記載するスキームに従って合成した。出発材料および試薬はさらなる精製を行なわずに正規の供給業者から購入して用いた。中間体4および5はSigma-Aldrich Inc.社、USAから購入した。2,4-ジメトキシベンゾイルクロリド(4)(1.41g、7.1mmol)および4-ヒドロキシ-4’-ニトロビフェニル(1.52g、7.1mmol)をテトラヒドロフラン(50mL)に溶解し、その後、トリエチルアミン(0.862g、8.5mmol、1.2mL)を滴下して加えた。反応混合物を室温で一夜撹拌し、クロロホルムで抽出し、水、重炭酸ナトリウム、およびブラインで洗浄し、次いでMgSOで脱水した。次いで混合物を濾過し、減圧で濃縮した。粗生成物を150mLの沸騰アセトニトリルから2回結晶化して、W1027を長い淡黄色針状結晶として得た(2.11g、78%)。
1H NMR (300 MHz, クロロホルム-d) δ 8.34 - 8.24 (m, 2H), 8.17 - 8.03 (m, 1H), 7.78 - 7.70 (m, 2H), 7.70 - 7.60 (m, 2H), 7.39 - 7.29 (m, 2H), 6.63 - 6.51 (m, 2H), 3.92 (d, J = 10.4 Hz, 6H).
13C NMR (75 MHz, クロロホルム-d) δ 165.29, 163.60, 162.47, 151.99, 147.16, 147.03, 136.14, 134.68, 128.50, 127.85, 124.26, 122.91, 110.97, 105.03, 99.16, 56.17, 55.73.
HRMS-EI(m/z)C2117NO[M-H]+1についての計算値380.1134;実測値380.1147;差異+3.4ppm。
【0061】
混合物- RM734およびDIOはそれぞれ図2に示すスキームを用いて合成した。2つの材料の試料を個別に秤量し、等方性相に融解し、200℃で撹拌することによって完全に混合した。自発的強誘電性分極の出現の確立、その大きさの決定、および電気光学的応答の測定のため、偏光顕微鏡(PLM)、示差走査熱量測定(DSC)、ならびに小角および広角X線散乱(SAXSおよびWAXS)、ならびに組合せた分極測定/電気光学的手法を含む標準的な液晶相解析手法を用いて混合物を研究した。RM734、DIO、およびそれらの混合物に関するDSC研究を、Mettler Toledo STAReシステム熱量計を用いて実施した。N-SmZ転移におけるエントロピー変化は小さすぎて観察できなかった。
【0062】
電気光学- 電気光学的特徴解析のため、Instec,Inc.社から入手した3.5μm~8μmの範囲の均一な厚みdを有する平面状に整列した面内切り替え試験セル内に混合物をおおまかに充填した。1つのガラスプレート上の面内インジウム-酸化スズ(ITO)電極は1mmの間隔を空けた。整列層を、2つのプレートに対して逆平行、電極の縁に対してはほぼ平行の方向に、一方向にバフ研磨した。そのような表面は、N相およびN相においてバフ研磨の方向に沿った配向子の四重極整列を生じ、N相においてそれぞれのプレートで極性の整列を生じる。逆平行のバフ研磨により、N相においてセルの面内に配向子/分極電場を有するANTIPOLARセルがもたらされるが、プレート間でπ捻じれが生じる。N相におけるスプレイベンド・フレデリクス転移を、d=4.6μmの従来のITOサンドイッチセルを用いて研究した。Zeiss偏光顕微鏡、EZ Digital FG-8002関数発生器、およびTektronix TDS 2014Bオシロスコープを用いて電気光学的測定を行なった。Instec HCS402ホットステージを用いて温度制御を維持した。
【0063】
分極測定- 強誘電性分極密度Pを、分極反転を誘起する面内電場を印加する一方、セルを通過する電流を測定することによって測定した。50Hzでピーク電圧V=104Vの矩形波電圧を試料セルの1mm幅の電極ギャップに印加した。分極電流i(t)を、セルと直列に接続した55kΩのレジスタにかかる電圧をモニターすることによって得た。異なる温度についての結果を図6(A)に示す。分極反転は対称的であり、+/-および-/+の反転は本質的に同一の電流シグナルを生じることが観察された。等方相、ネマチック相、およびスメクチックZ相において、印加した電圧の符号反転に続いて観察された電流は小さな初期隆起を有し、次いで指数関数的に減衰する。このシグナルはセルおよび外部レジスタのRC回路線形応答に対応し、TにおいてNに近づくとともにN相においてεが増大するので、測定したPに初期の上向きの湾曲を生じる。N相に入ると、図11に示すように、電場によって誘起された分極反転に由来するさらなるもっと大きな電流ピークがより長い時間において出現する。切り替えられた正味の分極電流Q=∫i(t)dtおよび対応する電荷密度Q/2A(ここでAは2つの電極の中間の印加した電場に垂直な面における液晶試料の断面積である)を図6(B)、図9に示す。Qはこの電流ピークを積分することによって得られ、N分極密度は一般にP=Q/2Aによって与えられる。ここでAは2つの電極の中間の電場線に垂直な面における液晶試料の断面積である。
【0064】
データ収集システムは、反転後10m秒の周期で電流をサンプリングすることができる。図11に示すように、電流ピークは低温ではより長い時間の方に延びるので、この有限のデータ収集間隔はQ=2APである温度範囲を制限する。より低温ではQは2AP未満であり、電流ピークが長くなるとTとともに減少する(図6)。分極は三角波を用いて測定することもでき、この場合には+/-反転の付近でより小さな電圧が印加され、したがって相転移の付近で誘電分極のより小さな疑似の寄与(TNFより大きなTについて上向きの湾曲)が誘起される。しかし、三角波の場合には電流ピークは矩形波の場合より長く、Tの低下とともに粘度が増大するので、この場合には矩形波について記載したよりも問題が大きい。
【0065】
図13は、RM734とDIOの広角X線散乱の比較を示す。試料は、約1テスラの磁場によってzに沿って磁気的に整列したネマチック配向子を有する。色彩/グレイスケールの全域は強度が線形であり、(黒色/最も暗い)最低値がゼロ強度に対応する。そのようなWAXS画像からの散乱強度ライン走査I(q)を図14に示す。全体として、RM734およびDIOは、SmZの層化ピーク(SAXS画像で見られる)の出現は別として、N相への冷却に際して出現し、より低い温度相への冷却に際してはあまり変化しない、驚くほど同様の特徴的なWAXS散乱パターンを呈する。(A-D)WAXSパターンは、典型的には分子の立体的な棒状の形状によって生じ、それぞれ(2π/分子長さ約0.25Å-1)および(2π/分子幅約1.4Å-1)に位置する、それぞれ終端同士および側部同士のペア相関から生じるq約0.25Å-1およびq約1.4Å-1に、よく知られたネマチックな拡散散乱の特徴を呈する。典型的なネマチックとは対照的に、RM734も、q<0.4Å-1およびq>0.25Å-1について、RM734およびそのホモログにおいて最初に報告された非定型的な一連の散乱バンドを呈する。興味深いことに、DIOは定性的には極めて類似した散乱パターン(A、B、D)を示すが、さらに明瞭なピーク構造を有しており、これはフッ素に関連する分子に沿った過剰の電子密度のより大きな変動の結果と思われる。RM734においてq約0.25Å-1という特徴が5CBおよび全ての芳香族LC等の典型的なネマチックで見出されたqと比較して弱いことも注目に値する。この弱い散乱はRM734における頭尾静電付着に起因すると考えられ、それにより、zに沿う分子相関はより極性かつ鎖状になり、分子間の頭尾ギャップが小さくなる。次いで得られる終端同士の相関はギャップがない主鎖LCポリマーにおける相関と同様になり、結果としてqに沿う散乱はモノマーネマチックにおける散乱より弱くなる。一方DIOでは、分子の終端にあるトリフルオロ基が大きな電子密度ピークを生じ、ギャップがない場合でさえもこれがzに沿う鎖状相関を周期的に画定し、q約0.25Å-1において強力な散乱をもたらす。B、Cにおけるq=0(q<0.1Å-1について)付近のシグナルは迷光に由来する。
【0066】
図14は、q=0.004Å-1におけるqに沿った図13と同様のDIOおよびRM734からの散乱のWAXS画像のライン走査I(q)を示す。(A)I(q)のピーク構造が最も強くなる温度であるT=160℃におけるRM734およびT=85℃におけるDIOの比較は、共通の特徴を明らかにしている。これらは、既に報告したq約0.25Å-1およびq約1.4Å-1における強烈に広がった散乱の特徴およびRM734ファミリーで既に観察されたqに沿う多重の広がったピークを含む。同様に着色した/濃淡のあるドットの対は、2つの化合物について類似したピークを示す。qzp≒0.25Å-1に位置する広がったピーク(白色ドット)は、両方の材料において2π/qzp=p≒24Åの準周期的な間隔を有する短距離の秩序に対応し、DIOおよびRM734の分子の長さ、およびRM734の場合にはシミュレーションで見られた頭尾集合における配向子に沿った分子間隔の周期性と同程度である。そのような頭尾集合を鎖に沿った変位の揺動を有する一次元の鎖とみなせば、鎖に沿って近接する分子の相対的変位の二乗平均平方根√(δu)は、qzpに対するqzp(0.04Å-1)における散乱ピークの最大半量における半値幅の比から推定することができる。この比は0.2であり、これから√(δu)/p≒0.25および√(δu)≒5Åが得られる。これは約400個のRM734分子の原子論的コンピュータシミュレーションで見出されたrms変位よりやや大きく、長いスケールの揺動もピーク幅に寄与している可能性を暗示している。(B、C)DIOおよびRM734におけるWAXSの温度依存性。RM734のN相において、I(q)のピークは温度の上昇によって規定されるようになり、これは他の結果と一致する目立った挙動である。DIOでは対照的に、I(q)はN範囲およびそれ未満の大部分にわたって同じようであり、T=85℃で明瞭なピークが出現し(B)、Iso相で消失する前にN-Iso転移の付近でのみ温度の上昇とともに幅広くなる。N相では、q=[0.25、0.50、0.78、1.25、1.58Å-1]におけるDIOのピーク位置の配列は比q/qzp=[1、2.0、3.1、5.0、7.8]の中にあり、これは一次元の周期性として近似的に指数化することができ、qzp≒0.25Å-1の倍数の調和級数が得られる。RM734の場合には、T=100℃でq/qzp=[1、2.2、3.1、5.3、7.0]としてピーク配列q=[0.28、0.60、0.85、1.46、1.96Å-1]の同様の指数化が可能であるが、RM734ファミリーの他のメンバーで観察されたように、T=160℃において調和挙動からの顕著な逸脱がある。Iso相では、この構造は完全に失われる。
【0067】
上記の開示の例示的実施形態は添付した特許請求の範囲およびそれらの法的等価物によって定義される本発明の実施形態の例に過ぎないので、これらの実施形態は本発明の範囲を限定するものではない。いずれの等価の実施形態も本発明の範囲内であることが意図される。本明細書で示し記載した改変に加えて記載した要素の代替の有用な組合せ等の、本開示の種々の改変は、本明細書から当業者には明らかになり得る。そのような改変および実施形態も添付した特許請求の範囲に含まれることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6AB
図6CD
図7
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図12
図13A-C】
図13D
図14
【国際調査報告】