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特表2024-534928改善されたPAM特異性を有する新規小型RNAプログラム可能エンドヌクレアーゼ系およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-26
(54)【発明の名称】改善されたPAM特異性を有する新規小型RNAプログラム可能エンドヌクレアーゼ系およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/16 20060101AFI20240918BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C12N9/16 ZNA
C12N15/09 110
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514519
(86)(22)【出願日】2022-08-31
(85)【翻訳文提出日】2024-05-01
(86)【国際出願番号】 EP2022074218
(87)【国際公開番号】W WO2023036669
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】21195270.0
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】313006625
【氏名又は名称】バイエル・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】コーネン,アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】リヒター,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ニーリンクス,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA44
(57)【要約】
新規M-SmallCas9ヌクレアーゼおよびその変異体を使用して細胞においてDNAを標的化、編集または操作するための新規系を本明細書に記載する。該M-SmallCas9ヌクレアーゼは、野生型または親の小さなII型CRISPR Cas9エンドヌクレアーゼに由来し、単純なPAM配列と組合された親II型CRISPR Cas9酵素と比較して改善された忠実度を示し、小さなエンドヌクレアーゼサイズを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5または前記のもののいずれかに対して少なくとも95%同一である任意のポリペプチド配列の群から選択されるポリペプチドであって、ただし、該ポリペプチドが、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のCas9配列(NCBI RefSeq ID J7RUA5.1)と比較して以下のアミノ酸置換:
配列番号1のI1017K、P1013E、R991M、
配列番号2のI1017K、P1013E、R991M、L989R、
配列番号3のI1017K、P1013E、R991M、L989R、R1012G、D1010I、L1005C、
配列番号4のI1017K、P1013E、R991M、L989R、N986S、L988T、
配列番号5のI1017K、P1013E、R991M、L989R、R1012G、D1010I、L1005C、N986S、L988T
を含み、一方、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)Cas9の位置の前のアミノ酸が、該ポリペプチドに存在しなければならないアミノ酸を特徴付ける、前記ポリペプチド。
【請求項2】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4および配列番号5の群から選択されるポリペプチド。
【請求項3】
配列番号3、配列番号4および配列番号5の群から選択されるポリペプチド。
【請求項4】
配列番号5に記載されているポリペプチド。
【請求項5】
(I)請求項1~4のいずれか1項記載のポリペプチド、および
(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)、またはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成を可能にするDNA[ここで、それぞれのsgRNA、またはsgRNAをコードするDNAは、
(d)ポリヌクレオチド遺伝子座における標的配列にハイブリダイズしうる操作されたDNA標的化セグメント、
(e)tracrメイト配列および
(f)tracr RNA配列
を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズ可能であり、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]
を含む組成物。
【請求項6】
前記の操作されたDNA標的化セグメントがその3’末端においてPAM配列に直接隣接しており、またはそのようなPAM配列がDNA標的化配列のその3’部分における一部である、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
(I)請求項1~4のいずれか1項記載の異種ポリペプチドまたはそのようなポリペプチドをコードする核酸を細胞内またはインビトロ環境内に導入すること、および
(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)、またはそのような1以上のsgRNAをコードするDNAを、細胞内またはインビトロ環境内に導入すること[ここで、それぞれのsgRNA、またはsgRNAをコードするDNAは、
(d)ポリヌクレオチド遺伝子座における標的配列にハイブリダイズしうる、RNAを含む操作されたDNA標的化セグメント、
(e)RNAから構成されるtracrメイト配列および
(f)RNAから構成されるtracr RNA配列
を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズし、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]、および
(III)標的DNAにおいて1以上のニック(nick)またはカット(cut)または塩基編集を生成させること(ここで、該ポリペプチドは、sgRNAによって、そのプロセシングされたまたはプロセシングされていない形態で、標的DNAへと導かれる)
を含む、細胞またはインビトロにおいて1以上の位置において標的DNAを標的化、編集、修飾または操作する方法。
【請求項8】
(I)請求項1~4のいずれか1項記載のポリペプチドもしくはそれをコードする核酸、および/または
(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)、もしくはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA[ここで、それぞれは、
(d)ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、
(e)RNAから構成されるtracrメイト配列および
(f)RNAから構成されるtracr RNA配列
を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズし、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]
を含む組成物の、細胞またはインビトロにおいて1以上の位置において標的DNAを標的化、編集、修飾または操作するための使用。
【請求項9】
(I)請求項1~4のいずれか1項記載のポリペプチドまたはそのようなポリペプチドをコードする核酸、および
(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)、またはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA[ここで、それぞれは、
(d)ポリヌクレオチド遺伝子座における標的配列にハイブリダイズしうる操作されたDNA標的化セグメント、
(e)tracrメイト配列および
(f)tracr RNA配列
を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズ可能であり、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]
を含む細胞。
【請求項10】
(I)請求項1~4のいずれか1項記載のポリペプチドをコードする核酸配列(ここで、該ポリペプチドをコードする核酸配列はプロモーターに機能的に連結されている)、および
(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)、またはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA[ここで、それぞれのsgRNAは、
(d)ポリヌクレオチド遺伝子座における標的配列にハイブリダイズしうる操作されたDNA標的化セグメント、
(e)tracrメイト配列および
(f)tracr RNA配列
を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズ可能であり、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全般的には分子生物学の分野、特に遺伝子編集用の新規ヌクレアーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)-Cas(CRISPR関連タンパク質)のRNAガイド化(guided)DNA標的化原理を用いたゲノム編集は、ここ数年にわたり、広範に利用されている。3つの型のCRISPR-Cas系(I型、II型およびIIb型、III型ならびにV型)が記載されている。ゲノム編集のためのCRISPR-Casの使用のほとんどはII型系でのものである。細菌II型CRISPR-Cas系によってもたらされる主な利点は、プログラム可能なDNA干渉のための最小要件、すなわち、カスタマイズ可能なデュアルRNA構造によってガイド(guide)されるエンドヌクレアーゼCas9にある。ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)の元のII型系において最初に実証されたとおり、トランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)は前駆体CRISPR RNA(pre-crRNA)の不変性反復に結合して、Cas9の存在下のRNアーゼ(RNase)IIIによるRNA共成熟とCas9による侵入DNA切断との両方に不可欠なデュアルRNAを形成する。ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)において実証されているとおり、成熟活性化tracrRNAと標的化crRNAとの間で形成される二重鎖によってガイドされたCas9は、侵入した同族DNAにおいて部位特異的二本鎖DNA(dsDNA)切断を導入する。Cas9は、HNHヌクレアーゼドメインを使用して標的鎖(crRNAのスペーサー配列に相補的なものと定義される)を切断する、およびRuvC-Iikeドメインを使用して非標的鎖を切断する多ドメイン酵素である。該ヌクレアーゼは該ヌクレアーゼの選択的モチーフ不活性化によってニッカーゼとして作用しうる。DNA切断特異性は以下の2つのパラメーターによって決定される:プロトスペーサー配列(crRNAのスペーサーに対して非相補的であるDNA標的上の配列)を標的化するcrRNAの可変性スペーサー由来配列、および非標的DNA鎖上のプロトスペーサーの直に3’(下流)側に位置する短い配列であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)。
【0003】
研究は、RNAガイド化Cas9が、原核生物および真核生物(ヒトを含む)の細胞を含む種々の細胞においてゲノム編集ツールとして使用されうることを実証している。この系は汎用的であり、複数のガイドRNAを使用することによってゲノム内の幾つかの部位を同時に編集するようにCas9をプログラムすることによって、多重ゲノム操作を可能にする。ニッカーゼへのCas9の変換は、変異原性活性が低下した哺乳類ゲノムにおける相同組換え修復(homology-directed repair)を促進させることが示された。また、Cas9触媒不活性突然変異体のDNA結合活性は、例えば、RNAプログラム可能転写サイレンシングおよび活性化装置またはエピジェネティック修飾因子を操作するために利用されている。哺乳類細胞におけるゲノム編集は、部分的には、Cas9タンパク質のサイズによって制限されている。現在までに最も広く使用されている酵素であるスタフィロコッカス・ピオゲネス(Staphylococcus pyogenes)由来のCas9(SpyCas9)は約4.2kbのDNAを含み(WO2013/176722)、同族のシングル(単一)ガイドRNA(sgRNA)との直接的合体はサイズを更に増大させる。アデノ随伴ウイルスは、遺伝子治療用途においてCas9酵素の運搬に使用されるベクターの1つである。しかし、AAVカーゴ(積荷)サイズは約4.5kbに制限される。サイズ制約ゆえに、Cas9をそのsgRNAおよび潜在的DNA修復鋳型と共に運搬することは該方法の使用の障害となりうる。より小さなCas9分子が特徴付けられているが、それらのほとんどは、SpyCas9によって使用されるものほど明確には特徴付けられていないプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列という欠点を有する。例えば、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(Sau)Cas9は「NNGRR(T)」配列(ここで、R=AまたはG)を使用し、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(Cja)Cas9は「NNNACAC」/「NNNRYAC」PAM(ここで、Y=TまたはG)を使用する(J.Biol.Chem.,Vol.295,Issue 19,2020,pp 6509-6517)。PAMの曖昧さは、PAMに対する高いまたは完全な配列同一性を有するオフターゲット配列における該酵素の望ましくない活性の可能性を増加させる。これらの系の特異性は依然として懸念事項である。なぜなら、類似部位を偶然に誤って標的化すること(「オフターゲット」)は有害事象の可能性を増加させるからである。
【0004】
既存のCRISPR-Cas9系は、一般に、以下の欠点の1以上を有する。
【0005】
a)それらのサイズは、アデノ随伴ウイルス(AAV)のような確立された治療的に適したウイルス運搬系のゲノム内で運搬されるには大きすぎる。
【0006】
b)それらの多くは、非宿主環境において、例えば真核細胞、特に哺乳類細胞において、実質的に活性でない。
【0007】
c)それらのヌクレアーゼは、スペーサー配列とプロトスペーサー配列との間にミスマッチが存在する場合にDNA鎖切断を触媒して、望ましくないオフターゲット効果を引き起こす可能性があり、これは、例えば、遺伝子治療用途または高精度を要する他の用途に、それらを不適切なものとする。
【0008】
d)それらは免疫応答を誘発する可能性があり、これは、哺乳動物におけるインビボ用途のためのそれらの使用を制限しうる。
【0009】
e)それらは、DNA標的化セグメントの標的選択を制限する複雑なおよび/または長いPAMを要する。
【0010】
f)それらはプラスミドまたはウイルスベクターからの不十分な発現を示す。
【発明の概要】
【0011】
発明の概括
本発明は、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)のCRISPR Cas9ヌクレアーゼのような小型CRISPR Cas9ヌクレアーゼ(M-SauCas9)(NCBI RefSeq ID J7RUA5.1)および類似したCRISPR Casヌクレアーゼ(一般にはM-SmallCas9)に基づく、改良され操作されたCRISPR Casヌクレアーゼ(小型Cas9)に関するものであり、これは、有意に改良されたPAM要件[例えば、SauCas9の「NNGRR(T)」(J.Biol.Chem.,Vol.295,Issue 19,2020,pp 6509-6517)と比較した場合の「NNGG」]を有し、それによって該ヌクレアーゼの高い活性を維持する。1つまたは少数の選択されたアミノ酸交換を導入することによって、該野生型酵素のPAM選択性が容易に最適化可能であり、それによっては、典型的には、該酵素の活性は一般に影響を受けない。
【0012】
本発明の1つの特定の実施形態は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5または前記のもののいずれかに対して少なくとも95%同一である任意のポリペプチド配列の群から選択されるポリペプチドであって、ただし、該ポリペプチドが、SauCas9と称される後記のアミノ酸残基を有し、SauCas9の位置の前のアミノ酸が、該ポリペプチドに存在しなければならないアミノ酸を特徴付ける、前記ポリペプチドであり、あるいは、
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5または前記のもののいずれかに対して少なくとも95%同一である任意のポリペプチド配列の群から選択されるポリペプチドであって、ただし、該ポリペプチドが、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)由来のCas9配列(NCBI RefSeq ID J7RUA5.1)と比較して以下のアミノ酸置換:
(I)配列番号1のI1017K、P1013E、R991M、
(II)配列番号2のI1017K、P1013E、R991M、L989R、
(III)配列番号3のI1017K、P1013E、R991M、L989R、R1012G、D1010I、L1005C、
(IV)配列番号4のI1017K、P1013E、R991M、L989R、N986S、L988T、
(V)配列番号5のI1017K、P1013E、R991M、L989R、R1012G、D1010I、L1005C、N986S、L988T
を含み、SauCas9の位置の前のアミノ酸が、該ポリペプチドに存在しなければならないアミノ酸を特徴付ける、前記ポリペプチドである。
【0013】
好ましいのは、配列番号2、3、4および5に基づくポリペプチドである。
【0014】
より好ましいのは、配列番号3、4および5に基づくポリペプチドである。
【0015】
より一層好ましいのは、配列番号4および5に基づくポリペプチドである。
【0016】
より一層特に好ましいのは、配列番号5に基づくポリペプチドである。
【0017】
最も好ましいのは、配列番号5によるポリペプチドである。
【0018】
本発明のもう1つの実施形態は、
(I)請求項1~2のいずれか1項記載のM-SmallCas9ポリペプチド、および
(II)1以上の異種シングル(単一)ガイドRNA(sgRNA)、またはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成を可能にするDNA[ここで、それぞれのsgRNA、またはsgRNAをコードするDNAは、
(a)ポリヌクレオチド遺伝子座における標的配列にハイブリダイズしうる操作されたDNA標的化セグメント、
(b)tracrメイト(mate)配列および
(c)tracr RNA配列
を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズ可能であり、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]
を含む組成物に関する。好ましくは、そのような組成操作されたDNA標的化セグメントはその3’末端においてPAM配列に直接隣接しており、またはそのようなPAM配列はDNA標的化配列のその3’部分における一部である。
【0019】
本発明の更にもう1つの実施形態は、
(I)請求項1~2のいずれか1項記載の異種M-SmallCas9ポリペプチドまたは請求項1もしくは請求項2記載のM-SmallCas9をコードする核酸を細胞内またはインビトロ環境内に導入すること、および
(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)、またはそのような1以上のsgRNAをコードするDNAを、細胞内またはインビトロ環境内に導入すること[ここで、それぞれのsgRNA、またはsgRNAをコードするDNAは、
(a)ポリヌクレオチド遺伝子座における標的配列にハイブリダイズしうる、RNAを含む操作されたDNA標的化セグメント、
(b)RNAから構成されるtracrメイト配列および
(c)RNAから構成されるtracr RNA配列
を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズし、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]、および
(III)標的DNAにおいて1以上のニック(nick)またはカット(cut)または塩基編集を生成させること(ここで、M-SmallCas9ポリペプチドは、sgRNAによって、そのプロセシングされたまたはプロセシングされていない形態で、標的DNAへと導かれる)
を含む、細胞またはインビトロにおいて1以上の位置において標的DNAを標的化、編集、修飾または操作する方法に関する。
【0020】
本発明のもう1つの実施形態は、
(I)請求項1もしくは請求項2記載のM-SmallCas9ポリペプチドもしくはそれをコードする核酸、および/または
(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)、もしくはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA[ここで、それぞれは、
(a)ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、
(b)RNAから構成されるtracrメイト配列および
(c)RNAから構成されるtracr RNA配列
を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズし、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]
を含む組成物の、細胞またはインビトロにおいて1以上の位置において標的DNAを標的化、編集、修飾または操作するための使用に関する。
【0021】
本発明のもう1つの実施形態は、
(I)請求項1もしくは請求項2記載のM-SmallCas9ポリペプチドまたは請求項1もしくは請求項2記載のM-SmallCas9ポリペプチドをコードする核酸、および
(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)、またはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA[ここで、それぞれは、
(a)ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる操作されたDNA標的化セグメント、
(b)tracrメイト配列および
(c)tracr RNA配列
を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズ可能であり、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]
を含む細胞に関する。
【0022】
本発明のもう1つの実施形態は、
(I)請求項1もしくは請求項2記載のM-SmallCas9ポリペプチドをコードする核酸配列(ここで、M-SmallCas9をコードする核酸配列はプロモーターに機能的に連結されている)、および
(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)、またはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA[ここで、それぞれのsgRNAは、
(a)ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる操作されたDNA標的化セグメント、
(b)tracrメイト配列および
(c)tracr RNA配列
を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズ可能であり、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]
を含むキットに関する。
【0023】
表1は、本明細書中で用いる命名法およびタンパク質の参照を含む。
【表1】
【0024】
【0025】
本特許出願内のNCBI Refseqデータベースへのいずれの言及も以下の引用を指す:National Center for Biotechnology Information(NCBI)[インターネット].Bethesda(MD):National Library of Medicine(US),National Center for Biotechnology Information;[1988]-[2020年3月26日に引用](https://www.ncbi.nlm.nih.gov/proteinから入手可能)。例えば、NCBI Refseq WP_048803085に関しては、これはhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/WP_048803085である。
【0026】
1つの態様においては、細胞またはインビトロにおいて1以上の位置において標的DNAを標的化、編集、修飾または操作する方法を本明細書において提供し、該方法は、(I)本明細書に開示されている異種M-SmallCas9ポリペプチドまたは本明細書に開示されているM-SmallCas9をコードする核酸を細胞内またはインビトロ環境内に導入すること、および(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)またはそのような1以上のsgRNAをコードするDNAを細胞内またはインビトロ環境内に導入すること[ここで、それぞれのsgRNA、またはsgRNAをコードするDNAは、(a)ポリヌクレオチド遺伝子座における標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、(b)RNAから構成されるtracrメイト配列、および(c)RNAから構成されるtracr RNA配列を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズし、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]、および(III)標的DNAにおいて1以上のニック(nick)またはカット(cut)または塩基編集を生成させること(ここで、M-SmallCas9ポリペプチドは、sgRNAによって、そのプロセシングされたまたはプロセシングされていない形態で、標的DNAへと導かれる)を含む。
【0027】
1つの態様においては、(I)本明細書に開示されているM-SmallCas9ポリペプチドもしくはそれをコードする核酸、および/または(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)もしくはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA[ここで、それぞれは、(a)ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、(b)RNAから構成されるtracrメイト配列、および(c)RNAから構成されるtracr RNA配列を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズし、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]を含む組成物の、細胞またはインビトロにおいて1以上の位置において標的DNAを標的化、編集、修飾または操作するための使用を、本明細書において提供する。
【0028】
もう1つの態様においては、(I)本明細書に開示されているM-SmallCas9ポリペプチドまたは本明細書に開示されているM-SmallCas9ポリペプチドをコードする核酸、および(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)またはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA[ここで、それぞれは、(a)ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる操作されたDNA標的化セグメント、(b)tracrメイト配列、および(c)tracr RNA配列を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズ可能であり、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]
を含む細胞を、本明細書において提供する。
【0029】
更にもう1つの態様においては、(I)本明細書に開示されているM-SmallCas9ポリペプチドをコードする核酸配列(ここで、M-SmallCas9をコードする核酸配列はプロモーターに機能的に連結されている)、および(II)1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)またはそのような1以上のsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA[ここで、それぞれのsgRNAは、(a)ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる操作されたDNA標的化セグメント、(b)tracrメイト配列、および(c)tracr RNA配列を含み、ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズ可能であり、(a)、(b)および(c)は5’から3’の方向に配置される]を含むキットを、本明細書において提供する。
【0030】
本明細書において言及されている各特許文書および科学論文の開示全体、ならびにそれらによって引用されている特許文書および科学論文を、あらゆる目的で、参照により本明細書に明示的に組み入れることとする。
【0031】
本発明の追加的な特徴および利点は後記で更に詳細に説明される。
【0032】
発明の詳細な説明
本出願は、以下の種、すなわち、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)、スタフィロコッカス・パステウリ(Staphylococcus pasteuri)、スタフィロコッカス・ヒカス(Staphylococcus hyicus)およびスタフィロコッカス・ミクロチ(Staphylococcus microti)に由来する既存の小型CRISPR-Cas9ヌクレアーゼの突然変異誘発によって誘導された新規CRISPR-Casヌクレアーゼおよびそのようなヌクレアーゼに基づく遺伝子編集系を提供する。これらのヌクレアーゼは、既存のCRISPR-Cas系と比較された場合の利点を示し、特に、それらが由来する親ヌクレアーゼと比較された場合の利点を示す。しかし、特定されている突然変異またはアミノ酸交換は、前記に列挙されているヌクレアーゼに限定されない。あらゆる小型CRISPR Cas9ヌクレアーゼが、本明細書中に特定されているアミノ酸交換を導入することによって、そのPAM特異性に関して改善されうる。該新規ヌクレアーゼは本明細書においてはM-SmallCas9ヌクレアーゼ(またはM-SmallCas9ヌクレアーゼ)と称される。M-SmallCas9の改善された活性の例には、原核生物環境、真核生物環境および/もしくはインビトロ環境における、または例えばヒト宿主細胞のような真核生物環境においてDNAプラスミドから発現された場合の、より高い活性が含まれうる。特に、それらは、好ましい酵素サイズと共に、既存のCRISPR Cas9系よりも改善された忠実度を示す。
【0033】
本発明による新規CRISPR-CasヌクレアーゼはM-SmallCas9と総称され、例えばスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(SauCas9)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(Staphylococcus lugdunensis)(SluCas9)、スタフィロコッカス・パステウリ(Staphylococcus pasteuri)(SpaCas9)、スタフィロコッカス・ヒカス(Staphylococcus hyicus)(ShyCas9)およびスタフィロコッカス・ミクロチ(Staphylococcus microti)(SmiCas9)に由来する小型CRISPR-Cas9ヌクレアーゼから誘導される。M-SmallCas9ヌクレアーゼは、その対応野生型ヌクレアーゼと比較して遺伝子編集忠実度を改善するアミノ酸変化を含有する。
【0034】
特に、M-SmallCas9ヌクレアーゼの群には、表2に記載されている以下のメンバーが含まれる。
【0035】
M-SauCas_X(配列番号1)、
M-SluCas_X(配列番号2)、
M-SpaCas_X(配列番号3)、
M-ShyCas_X(配列番号4)、
M-SmiCas_X(配列番号5)。あるいは、M-SluCas_Xの任意の変異体は配列番号2、7または9の737位にセリンを有しうる。
【表2】
【0036】
表2のM-SmallCas9の好ましいメンバーの例としては、表3に列挙されているものが挙げられる。
【表3】
【0037】
M-SmallCas9の追加的な例としては、以下のものが挙げられる。
【0038】
配列番号1によるM-SauCas9-R420A;
配列番号1によるM-SluCas9-R414A;そしてまた、以下のタンパク質:
配列番号8によるMGib11SpaCas9-3-E410A;
配列番号133によるMGib11Spa-1-M417L。
【0039】
本発明による更にもう1つの実施形態はM-SmallCas9の以下の変異体である。
【0040】
(I)a.それぞれの配列番号に関して表1に列挙されているアミノ酸位置を除く全長にわたる配列番号1、2、3、4および5のいずれか、ならびに
b.全長にわたる配列番号6、7、8および133(ただし、配列番号6は420位にアラニンを有し、配列番号7は414位にアラニンを有し、配列番号8は414位にアラニンを有し、配列番号133は417位にロイシンを有する)
による配列に対して少なくとも95%、例えば少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.9%、少なくとも99.95%のアミノ酸同一性の変異体;
(II)無細胞反応または原核細胞においてだけでなく、植物または動物のような生きた生物を含む真核細胞環境においてもM-SmallCas9 CRISPR系の適切な活性を得るための例えば核局在化シグナルとしての追加的な成分を含有する、(I)による変異体;
(III)(I)および(II)による変異体ならびにM-SmallCas9をコードする対応ポリヌクレオチド配列のコドン最適化変異体。
【0041】
特に示されていない限り、M-SmallCas9なる語は、(I)、(II)、(III)で特定されている変異体の全てを含む。
【0042】
幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8または133のいずれかに対して、それぞれの配列番号に関して表1に列挙されているアミノ酸位置を除くそれらの全長にわたって、少なくとも95%のアミノ酸同一性、例えば少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.9%、少なくとも99.95%または100%のアミノ酸同一性を示す。
【0043】
本発明による更にもう1つの実施形態はM-SmallCas9の以下の変異体である。
【0044】
(IV)a.それぞれの配列番号に関して表1に列挙されているアミノ酸位置を除く全長にわたる配列番号1、2、3、4および5のいずれか、ならびに
b.全長にわたる配列番号6、7、8および133(ただし、配列番号6は420位にアラニンを有し、配列番号7は414位にアラニンを有し、配列番号8は414位にアラニンを有し、配列番号133は417位にロイシンを有する)
による配列に対して少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.9%または少なくとも99.95%のアミノ酸同一性の変異体;
(V)無細胞反応または原核細胞においてだけでなく、植物または動物のような生きた生物を含む真核細胞環境においてもM-SmallCas9 CRISPR系の適切な活性を得るための例えば核局在化シグナルとしての追加的な成分を含有する、(I)による変異体;
(VI)(I)および(II)による変異体ならびにM-SmallCas9をコードする対応ポリヌクレオチド配列のコドン最適化変異体。
【0045】
特に示されていない限り、M-SmallCas9なる語は、(I)、(II)、(III)で特定されている変異体の全てを含む。
【0046】
幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドは、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8または133のいずれかに対して、それぞれの配列番号に関して表1に列挙されているアミノ酸位置を除くそれらの全長にわたって、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、少なくとも99.9%または100%を示す。
【0047】
M-SmallCas9に基づくCRISPR-Cas系
本発明による1つの実施形態は、
(a)M-SmallCas9ポリペプチドまたはそのようなM-SmallCas9をコードするポリヌクレオチド、
(b)i.ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、
ii.RNAから構成されるtracrメイト配列、および
iii.RNAから構成されるtracr RNA配列
[ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズし、(i)、(ii)および(iii)は5’から3’の方向に配置される]を含む異種シングルガイドRNA(sgRNA)またはそのようなsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成を可能にするDNA
を含む組成物を表す。
【0048】
sgRNA内で、tracrメイト配列とtracr配列とは、一般に、適切なループ配列によって連結されており、ステムループ構造を形成している。
【0049】
M-SmallCas9を含むCRISPR-Cas9系における使用のためのPAM配列
本発明に従い一般に使用されるPAM配列を表4に列挙する。
【表4】
【0050】
幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9をコードするポリヌクレオチドおよびsgRNAは、細胞環境もしくはインビトロ環境における発現のための適切なプロモーターおよび/または適切な核局在化シグナルを含有する。
【0051】
本発明によるもう1つの実施形態は、
(a)細胞内またはインビトロ環境内に、異種M-SmallCas9ポリペプチドを導入する、またはそのタンパク質をコードする核酸を導入する工程、ならびに
(b)i.ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、
ii.RNAから構成されるtracrメイト配列、および
iii.RNAから構成されるtracr RNA配列
[ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズ可能であり、(i)、(ii)および(iii)は5’から3’の方向に配置される]を含む異種シングルガイドRNA(sgRNA)またはそのようなsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNAを導入する工程、
(c)標的DNAにおいて1以上のカット(cut)、ニック(nick)または編集を生成させる工程(ここで、M-SmallCas9ポリペプチドは、sgRNAによって、そのプロセシングされたまたはプロセシングされていない形態で、標的DNAへと導かれる)
を含む、細胞またはインビトロにおいて1以上の位置において標的DNAを標的化、編集、修飾または操作する方法を表す。
【0052】
本発明によるもう1つの実施形態は、
(a)M-SmallCas9ポリペプチドまたはそのようなM-SmallCas9をコードするポリヌクレオチド、
(b)i.ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、
ii.RNAから構成されるtracrメイト配列、および
iii.RNAから構成されるtracr RNA配列
[ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズ可能であり、(i)、(ii)および(iii)は5’から3’の方向に配置される]を含む異種シングルガイドRNA(sgRNA)またはそのようなsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA
を含む組成物の、細胞またはインビトロにおいて1以上の位置において標的DNAを標的化、編集、修飾または操作するための使用である。
【0053】
本発明によるもう1つの実施形態は、
(a)異種M-SmallCas9ポリペプチドもしくはそれをコードする核酸、
(b)i.ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、
ii.RNAから構成されるtracrメイト配列、および
iii.RNAから構成されるtracr RNA配列
[ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズし、(i)、(ii)および(iii)は5’から3’の方向に配置される]を含む異種シングルガイドRNA(sgRNA)もしくはそのようなsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA
を含む、エクスビボもしくはインビトロの細胞、または前記(a)および(b)を使用して標的化、編集、修飾もしくは操作されているゲノムを有する細胞である。
【0054】
本発明による追加的な実施形態は、
(a)M-SmallCas9をコードする核酸配列(ここで、M-SmallCas9をコードする核酸配列はプロモーターまたはリボソーム結合部位に機能的に連結されている)、
(b)i.ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、
ii.RNAから構成されるtracrメイト配列、および
iii.RNAから構成されるtracr RNA配列
[ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズし、(i)、(ii)および(iii)は5’から3’の方向に配置される]を含む異種シングルガイドRNA(sgRNA)またはそのようなsgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA、
あるいは、
(a)M-SmallCas9タンパク質、
(b)iv.ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、
v.RNAから構成されるtracrメイト配列、および
vi.RNAから構成されるtracr RNA配列
[ここで、tracrメイト配列はtracr配列にハイブリダイズし、(i)、(ii)および(iii)は5’から3’の方向に配置される]をそれぞれが含む1以上の異種シングルガイドRNA(sgRNA)
を含むキットである。
【0055】
本発明によるもう1つの実施形態は、
(a)M-SmallCas9、
(b)i.ポリヌクレオチド遺伝子座におけるそのような標的配列にハイブリダイズしうる、RNAから構成される操作されたDNA標的化セグメント、
ii.RNAから構成されるtracr RNA配列
[ここで、(i)および(ii)は単一RNA分子上に存在し、(iii)は別個のRNA分子上に存在する]を含むガイドRNA(gRNA)またはそのようなgRNAのインサイチュ(in situ)での生成に適したDNA
を含む、細胞またはインビトロにおいて1以上の位置において1以上の標的DNAを標的化、編集、修飾または操作するための組成物または方法を含む。
【0056】
多重化
もう1つの態様においては、細胞内で複数の位置においてDNAを編集または修飾するための方法を本明細書において提供し、該方法は、i)M-SmallCas9ポリペプチドまたはM-SmallCas9ポリペプチドをコードする核酸を細胞内に導入すること、およびii)2以上のプレ-CRISPR RNA(プレ-crRNA)を、1つのプロモーターの制御下、RNAとして、またはDNAとしてコードされたものとして含む単一の異種核酸を、細胞内に導入することから本質的になり、ここで、各プレ-crRNAは反復-スペーサーアレイまたは反復-スペーサーを含み、スペーサーは、該DNA内の標的配列に相補的な核酸配列を含み、反復はステム-ループ構造を含み、M-SmallCas9ポリペプチドはステム-ループ構造の上流の2以上のプレ-crRNAを切断して2以上の中間的crRNAを生成し、前記の2以上の中間的crRNAは2以上の成熟crRNAへとプロセシングされ、それぞれの2以上の成熟crRNAはM-SmallCas9ポリペプチドをガイド(誘導)してDNA内に2以上の二本鎖切断(DSB)を生成させる。例えば、M-SmallCas9の利点の1つは、幾つかの反復-スペーサー単位を含むただ1つのプレ-crRNAを導入可能であることであり、該プレ-crRNAは、導入されると、M-SmallCas9によって、DNA上の幾つかの異なる配列を標的化する活性な反復-スペーサー単位へとプロセシングされる。
【0057】
もう1つの態様においては、細胞内で複数の位置においてDNAを編集または修飾するための方法を本明細書において提供し、該方法は、i)低下したエンドリボヌクレアーゼ活性を有するM-SmallCas9の一形態を、ポリペプチドとして、またはM-SmallCas9ポリペプチドをコードする核酸として、細胞内に導入すること、およびii)2以上のプレ-CRISPR RNA(プレ-crRNA)、中間的crRNAまたは成熟crRNAを、1以上のプロモーターの制御下、RNAとして、またはDNAとしてコードされたものとして含む単一の異種核酸を、細胞内に導入することから本質的になり、ここで、各crRNAは反復-スペーサーアレイを含み、スペーサーは、該DNA内の標的配列に相補的な核酸配列を含み、反復はステム-ループ構造を含み、M-SmallCas9ポリペプチドは、単一異種核酸における1以上のスペーサー配列によって定められるとおりにエンドヌクレアーゼ活性が低下した又は存在しない及びエンドヌクレアーゼ活性が完全である単一異種RNAの領域の1以上に結合する。
【0058】
幾つかの実施形態においては、単一異種核酸におけるプレ-crRNA配列は、特定の位置、配向、順序で、または特定の化学結合で互いに連結されていて、異なるcrRNA配列によって特定される部位のそれぞれにおいてM-SmallCas9のエンドヌクレアーゼ活性を定め又は示差的に調節する。
【0059】
もう1つの態様においては、細胞内で複数の位置においてDNAの構造または機能を編集または改変するための一般的方法の一例を本明細書において提供し、該方法は、i)RNAガイド化(guided)エンドヌクレアーゼ、例えばM-SmallCas9を、ポリペプチドとして、またはRNAガイド化エンドヌクレアーゼをコードする核酸として、細胞内に導入すること、およびii)2以上のガイドRNAを、1以上のプロモーターの制御下、RNAとして、またはDNAとしてコードされたものとして含む又はコードする単一異種核酸を導入することから本質的になり、ここで、RNAガイド化エンドヌクレアーゼの活性または機能は単一異種核酸におけるガイドRNA配列によって導かれる。
【0060】
定義
本明細書において互換的に用いられる「ポリヌクレオチド」、“核酸”および「核酸」なる語はリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのいずれかの任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を意味する。したがって、この用語は、一本鎖、二本鎖または多重鎖のDNAまたはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド/三重らせん、またはプリンおよびピリミジン塩基もしくは他の天然の、化学的または生化学的に修飾された、非天然の、もしくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーを含むが、これらに限定されるものではない。
【0061】
「オリゴヌクレオチド」は、一般に、一本鎖または二本鎖DNAの約5~約100ヌクレオチドのポリヌクレオチドを意味する。しかし、本開示の目的においては、オリゴヌクレオチドの長さに上限はない。オリゴヌクレオチドは「オリゴマー」または「オリゴ」としても公知であり、当技術分野で公知の方法によって、遺伝子から単離可能であり、または化学合成されうる。「ポリヌクレオチド」および「核酸」なる語は、記載されている実施形態に適用可能である場合には、一本鎖(例えば、センスまたはアンチセンス)および二本鎖のポリヌクレオチドを含むと理解されるべきである。
【0062】
「ゲノムDNA」は、細菌、真菌、古細菌、原生生物、ウイルス、植物または動物のゲノムのDNA(これらに限定されるものではない)を含む、生物のゲノムのDNAを意味する。
【0063】
DNAを「操作する」なる語は、DNAの結合、DNAの一方の鎖にニックを入れること、またはDNAを切断すること、例えばDNAの両方の鎖を切断することを含み、あるいは、DNAまたはDNAに関連するポリペプチドを修飾または編集することを含む。DNAの操作は、DNAによってコードされるRNAまたはポリペプチドの発現をサイレンシングし、活性化し、または調節する(増加または減少させる)ことが可能であり、あるいは、DNAへのポリペプチドの結合を妨げ、または増強することが可能である。
【0064】
「ステム-ループ構造」は、主に一本鎖ヌクレオチドの領域(ループ部分)によって片側において連結された二本鎖(ステム部分)を形成することが公知である又は予測されるヌクレオチドの領域を含む二次構造を有する核酸を意味する。「ヘアピン」構造および「フォールドバック」構造なる語も、ステム-ループ構造を意味するものとして本明細書において用いられる。そのような構造は当技術分野において周知であり、これらの用語は当技術分野におけるそれらの公知の意味で一貫して用いられる。当技術分野で公知のとおり、ステム-ループ構造は正確な塩基対形成を必要としない。したがって、ステムは1以上の塩基ミスマッチを含みうる。あるいは、塩基対形成は、例えばミスマッチを全く含まず、正確でありうる。
【0065】
「ハイブリダイズ可能」または「相補的」または「実質的に相補的」は、核酸(例えば、RNAまたはDNA)が、温度および溶液イオン強度の適切なインビトロおよび/またはインビボ条件下、配列特異的な逆平行の様態で(例えば、核酸は相補的核酸に特異的に結合する)、別の核酸に対して非共有結合により結合すること、例えば、ワトソン-クリック塩基対および/またはG/U塩基対を形成すること、「アニール」または「ハイブリダイズ」することを可能にするヌクレオチドの配列を該核酸が含むことを意味する。当技術分野で公知のとおり、標準的なワトソン-クリック塩基対形成は、アデニン(A)とチミジン(T)との対形成、アデニン(A)とウラシル(U)との対形成、およびグアニン(G)とシトシン(C)との対形成を含む[DNA、RNA]。また、2つのRNA分子(例えば、dsRNA)間のハイブリダイゼーションでは、グアニン(G)塩基がウラシル(U)と対形成することも当技術分野で公知である。例えば、G/U塩基対形成は、mRNAにおけるコドンとのtRNAアンチコドン塩基対形成の場合に、遺伝暗号の縮重(例えば、冗長性)の部分的な原因となる。本開示の文脈においては、ガイドRNA分子のタンパク質結合性セグメント(dsRNA二本鎖)のグアニン(G)はウラシル(U)に相補的であると考えられ、またその逆も同様である。したがって、ガイドRNA分子のタンパク質結合性セグメント(dsRNA二本鎖)の所定のヌクレオチド位置でG/U塩基対が形成されうる場合、該位置は非相補的であるとはみなされず、その代わりに、相補的であるとみなされる。
【0066】
ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件は周知であり、Sambrook,J.,Fritsch,E.F.およびManiatis,T.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor(1989)、特に、それにおけるChapter 11およびTable 11.1;ならびにSambrook,J.およびRussell,W.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor(2001)に例示されている。温度およびイオン強度の条件がハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を決定する。
【0067】
ハイブリダイゼーションは、2つの核酸が相補的配列を含有することを要するが、塩基間のミスマッチが可能である。2つの核酸間のハイブリダイゼーションに適切な条件は、当技術分野で周知の変数である、核酸の長さおよび相補性の度合に左右される。2つのヌクレオチド配列間の相補性の度合が大きいほど、それらの配列を有する核酸のハイブリッドの融解温度(Tm)の値は大きくなる。短い伸長の相補性(例えば、35個以下、30個以下、25個以下、22個以下、20個以下または18個以下のヌクレオチドにわたる相補性)を有する核酸間のハイブリダイゼーションの場合、ミスマッチの位置が重要となる(Sambrookら,前掲,11.7-11.8を参照されたい)。一般に、ハイブリダイズ可能な核酸の長さは少なくとも10ヌクレオチドである。ハイブリダイズ可能な核酸の例示的な最小長は少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも22ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチドおよび少なくとも30ヌクレオチドである。更に、温度および洗浄溶液の塩濃度は、相補性の領域の長さおよび相補性の度合のような要因に従って、必要に応じて調整されうる、と当業者は認識するであろう。
【0068】
ポリヌクレオチドの配列は、特異的にハイブリダイズ可能であるためには、その標的核酸の配列に対して100%相補的である必要はない、と当技術分野において理解されている。更に、ポリヌクレオチドは、介在または隣接セグメントがハイブリダイゼーション事象に関与しないように(例えば、ループ構造またはヘアピン構造)、1以上のセグメントにわたってハイブリダイズしうる。ポリヌクレオチドは、それらが標的化される標的核酸配列内の標的領域に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%の配列相補性を含みうる。例えば、アンチセンス化合物の20ヌクレオチドのうち18ヌクレオチドが標的領域に相補的であり、したがって特異的にハイブリダイズするアンチセンス核酸は、90パーセントの相補性を示すであろう。この例では、残りの非相補的ヌクレオチドはクラスター化していること、あるいは相補的ヌクレオチドのなかに点在していることが可能であり、互いにまたは相補的ヌクレオチドに連続している必要はない。核酸内の核酸配列の特定の伸長間の相補性の割合(%)は、当技術分野で公知のBLASTプログラム(ベーシック・ローカル・アライメント・サーチ・ツール)およびPowerBLASTプログラム(Altschulら,J.Mol.Biol.1990,215,403-410;ZhangおよびMadden,Genome Res.,1997,7,649-656)、またはGapプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix,Genetics Computer Group,University Research Park,Madison Wis.)を使用し、SmithおよびWatermanのアルゴリズム(Adv.Appl.Math.1981(2)482-489)を使用し、デフォルト設定を用いて、常套的に決定されうる。
【0069】
「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」なる語は本明細書において互換的に用いられ、コード化アミノ酸および非コード化アミノ酸、化学的または生化学的に修飾または誘導体化されたアミノ酸を含みうる、任意の長さのアミノ酸の重合体形態、ならびに修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチドを意味する。
【0070】
本明細書中で用いる「結合」(例えば、ポリペプチドのRNA結合ドメインに関するもの)は巨大分子間(例えば、タンパク質と核酸との間)の非共有結合性相互作用を意味する。非共有結合性相互作用の状態にある場合、高分子は「会合している」、「相互作用している」または「結合している」と言われる(例えば、分子Xが分子Yと相互作用すると言われる場合、分子Xは分子Yに非共有結合様態で結合することを意味する)。結合相互作用の全ての成分が配列特異的である必要はないが(例えば、DNA骨格におけるリン酸残基との接触)、結合相互作用の幾つかの部分は配列特異的でありうる。結合相互作用は、一般に、10-6M未満、10-7M未満、10-8M未満、10-9M未満、10-10M未満、10-11M、10-12M未満、10-13M未満、10-14M未満または10-15M未満の解離定数(Kd)によって特徴付けられる。「アフィニティ」は結合の強さを意味し、結合アフィニティの増加はKdの低下と相関する。
【0071】
「結合ドメイン」は、別の分子に非共有結合しうるタンパク質ドメインを意味する。結合ドメインは、例えば、DNA分子(DNA結合タンパク質)、RNA分子(RNA結合タンパク質)および/またはタンパク質分子(タンパク質結合タンパク質)に結合しうる。タンパク質ドメイン結合タンパク質の場合、それはそれ自体に結合可能であり(ホモ二量体、ホモ三量体などを形成する)、および/またはそれは、異なるタンパク質の、1以上の分子に結合可能である。
【0072】
「保存的アミノ酸置換」なる語は、類似側鎖を有するアミノ酸残基のタンパク質における互換性に関するものである。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸の群はグリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンからなる。脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸の群はセリンおよびスレオニンからなる。アミド含有側鎖を有するアミノ酸の群はアスパラギンおよびグルタミンからなる。芳香族側鎖を有するアミノ酸の群はフェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンからなる。塩基性側鎖を有するアミノ酸の群はリジン、アルギニンおよびヒスチジンからなる。酸性側鎖を有するアミノ酸の群はグルタミン酸およびアスパラギン酸からなる。硫黄含有側鎖を有するアミノ酸の群はシステインおよびメチオニンからなる。例示的な保存的アミノ酸置換の群としては、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリンおよびアスパラギングルタミンが挙げられる。
【0073】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは別のポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対して或る割合の「配列同一性」を有し、このことは、2つの配列を比較し、アライメント(整列)させた場合、その割合の塩基またはアミノ酸が同一相対位置において同一であることを意味する。配列同一性は幾つかの異なる方法で決定されうる。配列同一性を決定するためには、ncbi.nlm.nili.gov/BLAST、ebi.ac.uk/Tools/msa/tcoffee、ebi.Ac.Uk/Tools/msa/muscle、mafft.cbrc/alignment/softwareを含むサイトにおいてワールドワイドウェブ上で利用可能な種々の方法およびコンピュータプログラム(例えば、BLAST、T-COFFEE、MUSCLE、MAFFTなど)を使用して、配列がアライメントされうる。例えば、Altschulら(1990),J.Mol.Biol.215:403-10を参照されたい。本開示の幾つかの実施形態においては、別のCas9エンドヌクレアーゼのアミノ酸残基に「対応する」、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体におけるアミノ酸残基を決定するためには、当技術分野において標準的な配列アライメントが本開示に従い使用される。他のCas9エンドヌクレアーゼのアミノ酸残基に対応する、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体のアミノ酸残基は、それらの配列のアライメントにおける同一位置に現れる。
【0074】
特定のRNAを「コードする」DNA配列は、RNAに転写されるDNA核酸配列である。ポリデオキシリボヌクレオチドは、タンパク質に翻訳されるRNA(mRNA)をコードすることが可能であり、あるいは、タンパク質に翻訳されないRNA(例えば、tRNA、rRNAまたはガイドRNA;「非コーディング」RNAまたは「ncRNA」とも称される)をコードすることが可能である。「タンパク質コード配列」、または特定のタンパク質もしくはポリペプチドをコードする配列は、適切な調節配列の制御下に配置された場合、インビトロまたはインビボで、(DNAの場合には)mRNAに転写され、(mRNAの場合には)ポリペプチドに翻訳される核酸配列である。コード配列の境界は5’末端(N末端)における開始コドン、および3’末端(C末端)における翻訳停止ナンセンスコドンによって決定される。コード配列には、原核生物または真核生物のmRNAからのcDNA、原核生物または真核生物のDNAからのゲノムDNA配列、および合成核酸が含まれうるが、これらに限定されるものではない。転写終結配列は、一般に、コード配列の3’側に位置する。
【0075】
本明細書中で用いる「プロモーター配列」または「プロモーター」は、RNAポリメラーゼに結合し下流(3’方向)のコード配列または非コード配列の転写を開始しうるDNA調節領域である。本明細書中で用いるプロモーター配列はその3’末端において転写開始部位に接しており、バックグラウンドを超えて検出可能なレベルで転写を開始するのに必要な最小数の塩基または要素を含むように上流(5’方向)に伸長する。プロモーター配列内には、転写開始部位と、RNAポリメラーゼの結合をもたらすタンパク質結合ドメインとが見出される。真核生物プロモーターは、常にというわけではないがしばしば、「TATA」ボックスおよび「CAAT」ボックスを含有する。本開示の種々のベクターを駆動するためには、誘導性プロモーターを含む種々のプロモーターが使用されうる。プロモーターは、構成的に活性なプロモーター(例えば、構成的に、活性な「オン」の状態にあるプロモーター)であることが可能であり、それは誘導性プロモーター(例えば、活性/「オン」または不活性/「オフ」のその状態が外部刺激、例えば特定の温度、化合物またはタンパク質の存在によって制御されるプロモーター)であることが可能であり、それは、空間的に制限されるプロモーター(例えば、転写制御要素、エンハンサーなど)(例えば、組織特異的プロモーター、細胞型特異的プロモーターなど)であることが可能であり、それは、時間的に制限されるプロモーターであることが可能である[例えば、プロモーターは、胚発生の特定の段階または生物学的プロセスの特定の段階(例えば、マウスにおける毛包サイクル)において、「オン」状態または「オフ」状態にある]。適切なプロモーターはウイルス由来であることが可能であり、したがってウイルスプロモーターと称されうる。あるいは、それらは、原核生物または真核生物を含む任意の生物に由来することが可能である。適切なプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼによる発現を駆動するために使用されうる(例えば、pol I、pol II、pol III)。例示的なプロモーターには、SV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス長末端反復(LTR)プロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばCMV最初期プロモーター領域(CMVIE)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、ヒトU6小型核プロモーター(U6)(Miyagishiら,Nature Biotechnology 20,497-500(2002))、強化U6プロモーター(例えば、Xiaら,Nucleic Acids Res.2003 Sep 1;31(17))、ヒトH1プロモーター(H1)などが含まれるが、これらに限定されるものではない。誘導性プロモーターの例には、T7 RNAポリメラーゼプロモーター、T3 RNAポリメラーゼプロモーター、イソプロピル-ベータ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)調節性プロモーター、ラクトース誘導性プロモーター、熱ショックプロモーター、テトラサイクリン調節性プロモーター、ステロイド調節性プロモーター、金属調節性プロモーター、エストロゲン受容体調節性プロモーターなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。したがって、誘導性プロモーターは、ドキシサイクリン;RNAポリメラーゼ、例えばT7 RNAポリメラーゼ;エストロゲン受容体;エストロゲン受容体融合体など(これらに限定されるものではない)を含む分子によって調節されうる。
【0076】
幾つかの実施形態においては、プロモーターは、空間的に制限されるプロモーター(例えば、細胞型特異的プロモーター、組織特異的プロモーターなど)であり、多細胞生物においては、該プロモーターは、特定の細胞のサブセットにおいて活性(例えば、「オン」)である。空間的に制限されるプロモーターはエンハンサー、転写制御要素、制御配列などとも称されうる。任意の適切な空間的に制限されるプロモーターが使用可能であり、適切なプロモーター(例えば、脳特異的プロモーター、ニューロンのサブセットにおいて発現を駆動するプロモーター、生殖系列において発現を駆動するプロモーター、肺において発現を駆動するプロモーター、筋肉において発現を駆動するプロモーター、膵臓の島細胞において発現を駆動するプロモーターなど)の選択は当該生物に左右される。例えば、植物、ハエ、線虫、哺乳動物、マウスなどに関して、種々の空間的に制限されるプロモーターが公知である。したがって、当該生物に応じて、多種多様な組織および細胞型における部位特異的修飾酵素をコードする核酸の発現を調節するために、空間的に制限されるプロモーターが使用されうる。幾つかの空間的に制限されるプロモーターは時間的にも制限されて、その結果、該プロモーターは、胚発生の特定の段階または生物学的プロセスの特定の段階(例えば、マウスにおける毛包サイクル)において、「オン」状態または「オフ」状態にある。例示目的としては、空間的に制限されるプロモーターの例には、ニューロン特異的プロモーター、脂肪細胞特異的プロモーター、心筋細胞特異的プロモーター、平滑筋特異的プロモーター、光受容体特異的プロモーターなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。空間的に制限されるニューロン特異的プロモーターには、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(例えば、EMBL HSEN02、X51956を参照されたい);芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)プロモーター;ニューロフィラメントプロモーター(例えば、GenBank HUMNFL,L04147を参照されたい);シナプシンプロモーター(例えば、GenBank HUMSYNIB,M55301を参照されたい);thy-1プロモーター(例えば、Chenら(1987)Cell 51:7-19;およびLlewellynら(2010)Nat.Med.16(10):1161-1166を参照されたい);セロトニン受容体プロモーター(例えば、GenBank S62283を参照されたい);チロシンヒドロキシラーゼプロモーター(TH)(例えば、Ohら(2009)Gene Ther.16:437;Sasaokaら(1992)Mol.Brain Res.16:274;Boundyら(1998)J.Neurosci.18:9989;およびKanedaら(1991)Neuron 6:583-594);GnRHプロモーター(例えば、Radovickら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:3402-3406を参照されたい);L7プロモーター(例えば、Oberdickら(1990)Science 248:223-226を参照されたい);DNMTプロモーター(例えば、Bartgeら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3648-3652を参照されたい);エンケファリンプロモーター(例えば、Combら(1988)EMBOJ.17:3793-3805を参照されたい);ミエリン塩基性タンパク質(MBP)プロモーター;Ca2+-カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ11-アルファ(CamKIM)プロモーター(例えば、Mayfordら(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:13250;およびCasanovaら(2001)Genesis 31:37を参照されたい);CMVエンハンサー/血小板由来増殖因子-pプロモーター(例えば、Liuら(2004)Gene Therapy 11:52-60を参照されたい);など。
【0077】
「DNA調節配列」、「制御要素」および「調節要素」なる語は本明細書において互換的に用いられ、非コード配列(例えば、ガイドRNA)またはコード配列(例えば、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体)の転写をもたらすおよび/または調節するおよび/またはコードポリペプチドの翻訳を調節する転写および翻訳制御配列、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーター、タンパク質分解シグナルなどを意味する。
【0078】
核酸、ポリペプチド、細胞または生物に適用される、本明細書中で用いる「天然に存在する」または「未修飾」なる語は、天然で見出される核酸、ポリペプチド、細胞または生物を意味する。例えば、天然源から単離可能であり、実験室において人間によって意図的に修飾されていない、生物(ウイルスを含む)に存在するポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、天然に存在する。
【0079】
核酸またはポリペプチドに適用される、本明細書中で用いる「キメラ」なる語は、異なる源に由来する構造から構成される1つの実体を意味する。例えば、「キメラ」がキメラポリペプチド(例えば、キメラM-SmallCas9タンパク質)の文脈で用いられる場合、キメラポリペプチドは、異なるポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含む。キメラポリペプチドは、修飾されたまたは天然に存在するポリペプチド配列(例えば、修飾されたまたは未修飾のM-SmallCas9タンパク質からの第1のアミノ酸配列、およびM-SmallCas9タンパク質以外の第2のアミノ酸配列)を含みうる。同様に、キメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの文脈における「キメラ」は、異なるコード領域に由来するヌクレオチド配列(例えば、修飾されたまたは未修飾のM-SmallCas9タンパク質をコードする第1のヌクレオチド配列、およびM-SmallCas9タンパク質以外のポリペプチドをコードする第2のヌクレオチド配列)を含む。
【0080】
「キメラポリペプチド」なる語は、天然に存在しないポリペプチドを意味し、例えば、キメラポリペプチドでなければ分離している2以上のアミノ酸配列セグメントの、人間の介入による人為的合体(例えば、「融合」)によって製造されるポリペプチドを意味する。キメラアミノ酸配列を含むポリペプチドはキメラポリペプチドである。幾つかのキメラポリペプチドは「融合変異体」と称されうる。
【0081】
本明細書中で用いる「異種」は、ヌクレオチドまたはペプチドが、それぞれ、天然の核酸またはタンパク質において見出されないことを意味する。本明細書に記載されているM-SmallCas9融合タンパク質は、異種ポリペプチド配列(例えば、M-SmallCas9以外のタンパク質からのポリペプチド配列)に融合されたM-SmallCas9ポリペプチド(またはその変異体)のRNA結合ドメインを含みうる。異種ポリペプチドは、M-SmallCas9融合タンパク質によっても示される活性(例えば、酵素活性)(例えば、メチルトランスフェラーゼ活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、キナーゼ活性、ユビキチン化活性など)を示しうる。異種核酸は、融合ポリペプチドをコードする融合ポリヌクレオチドを得るために、天然に存在する核酸(またはその変異体)に(例えば、遺伝子操作によって)連結されうる。もう1つの例として、融合変異体M-SmallCas9ポリペプチドにおいて、変異体M-SmallCas9ポリペプチドは、融合変異体M-SmallCas9ポリペプチドによっても示される活性を示す異種ポリペプチド(例えば、M-SmallCas9以外のポリペプチド)に融合されうる。異種核酸は、融合変異体M-SmallCas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを得るために、変異体M-SmallCas9ポリペプチドに(例えば、遺伝子操作によって)連結されうる。本明細書中で用いる「異種」はまた、ヌクレオチドまたはポリペプチドが、その天然細胞ではない細胞におけるものである場合を意味する。
【0082】
「同族」なる語は、天然において通常は相互作用または共存する2つの生体分子に関するものである。
【0083】
本明細書中で用いる「組換え」は、特定の核酸(DNAまたはRNA)またはベクターが、天然系において見出される内因性核酸から区別できない構造的なコード配列または非コード配列を有する構築物を与える、クローニング、制限処理、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および/または連結工程の種々の組合せの産物であることを意味する。ポリペプチドをコードするDNA配列はcDNA断片または一連の合成オリゴヌクレオチドから組み立てられて、細胞または無細胞転写および翻訳系に含まれる組換え転写単位から発現されうる合成核酸が得られる。関連配列を含むゲノムDNAも組換え遺伝子または転写単位の形成に使用されうる。非翻訳DNAの配列はオープンリーディングフレームの5’側または3’側に存在する可能性があり、この場合、そのような配列はコード領域の操作または発現を妨げず、種々のメカニズムによって所望の産物の産生を調節するように実際に作用しうる(後記の「DNA調節配列」を参照されたい)。追加的または代替的に、翻訳されないRNA(例えば、ガイドRNA)をコードするDNA配列も組換え体とみなされうる。したがって、例えば、「組換え」核酸なる語は、天然に存在しない核酸を意味し、例えば、組換え体でなければ分離している2つの配列セグメントの、人間の介入による人為的合体によって製造される核酸を意味する。この人為的合体は、しばしば、化学合成手段によって、または核酸の単離セグメントの人為的操作によって、例えば遺伝子工学技術によって達成される。それは一般に、あるコドンを、同じアミノ酸、保存的アミノ酸または非保存的アミノ酸をコードするコドンで置換するように行われる。追加的または代替的に、所望の機能の組合せ得るために、所望の機能の核酸セグメントを互いに連結することが行われる。この人為的合体は、しばしば、化学合成手段によって、または核酸の単離セグメントの人為的操作によって、例えば遺伝子工学技術によって達成される。組換えポリヌクレオチドがポリペプチドをコードする場合、コード化ポリペプチドの配列は天然に存在するもの(「野生型」)であることが可能であり、あるいは、天然に存在する配列の変異体(例えば、突然変異体)であることが可能である。したがって、「組換え」ポリペプチドなる語は、必ずしも、天然に存在しない配列を有するポリペプチドを意味するわけではない。実際、「組換え」ポリペプチドは組換えDNA配列によってコードされるが、ポリペプチドの配列は天然に存在するもの(「野生型」)または天然に存在しないもの(例えば、変異体、突然変異体など)でありうる。したがって、「組換え」ポリペプチドは人間の介入の結果であるが、天然に存在するアミノ酸配列でありうる。「天然に存在しない(非天然)」なる語は、化学的に修飾された分子または突然変異した分子を含む、天然に存在する対応物とは著しく異なる分子を含む。
【0084】
「ベクター」または「発現ベクター」は、別のDNAセグメント、例えば「インサート」が連結されて該連結DNAセグメントの細胞内複製を引き起こしうるレプリコン、例えばプラスミド、ファージ、ウイルスまたはコスミドである。
【0085】
「発現カセット」は、プロモーターに機能的に連結されたDNAコード配列を含む。「機能的に連結」は、そのように記載されている成分が、意図される様態でそれらが機能することを可能にする関係にある、並置を意味する。例えば、プロモーターがコード配列に機能的に連結されていると言えるのは、プロモーターがその転写または発現に影響を及ぼす場合である。「組換え発現ベクター」または「DNA構築物」なる語は、ベクターと少なくとも1つのインサートとを含むDNA分子を意味するものとして、本明細書において互換的に用いられる。組換え発現ベクターは、一般に、インサートを発現および/もしくは増殖させる目的または他の組換えヌクレオチド配列を構築する目的で作製される。核酸はプロモーター配列に機能的に連結されていてもされていなくてもよく、あるいは、DNA調節配列に機能的に連結されていてもされていなくてもよい。
【0086】
本明細書中で用いる「機能的に連結」なる語は、2以上の要素、例えばポリペプチド配列またはポリヌクレオチド配列の間の物理的または機能的連結であって、それらの意図された様態でそれらが働くことを可能にする連結を示す。例えば、関心のあるポリヌクレオチドと調節配列(例えば、プロモーター)との間の機能的連結は、関心のあるポリヌクレオチドの発現を可能にする機能的連結である。この意味において、「機能的に連結」なる語は、関心のあるコード配列の転写または翻訳を調節するのに調節領域が有効となるような、調節領域および転写されるコード配列の配置を意味する。本明細書に開示されている幾つかの実施形態においては、「機能的に連結」なる語は、ポリペプチドをコードするmRNA、ポリペプチドおよび/または機能的RNAの発現または細胞局在化を制御配列が指令または調節するように、ポリペプチドまたは機能的RNAをコードする配列に対して調節配列が適切な位置に配置されていることを意味する。したがって、プロモーターは、それが核酸配列の転写をもたらしうる場合、核酸配列に機能的に連結されていると言える。機能的に連結された要素(エレメント)は連続的または非連続的でありうる。
【0087】
細胞が外因性DNA、例えば組換え発現ベクターによって「遺伝的に修飾」または「形質転換」または「トランスフェクト」されていると言えるのは、そのようなDNAが細胞内に導入されている場合である。外因性DNAの存在は永続的なまたは一過性の遺伝的変化をもたらす。形質転換DNAは細胞のゲノム内に組み込まれていても(共有結合していても)組込まれていなくてもよい。
【0088】
例えば原核生物、酵母および哺乳類細胞においては、形質転換DNAはエピソーム要素、例えばプラスミド上で維持されうる。真核細胞に関しては、安定に形質転換された細胞は、形質転換DNAが染色体内に組み込まれていて、それが染色体複製を介して娘細胞によって受け継がれる細胞である。この安定性は、形質転換DNAを含有する娘細胞の集団を含む細胞株またはクローンを樹立する真核細胞の能力によって実証される。「クローン」は、有糸分裂によって単細胞または共通祖先から誘導された細胞の集団である。「細胞株」は、多数の世代にわたってインビトロで安定な増殖が可能な初代細胞のクローンである。
【0089】
遺伝的修飾(「形質転換」とも称される)の適切な方法には、例えば以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:ウイルスまたはバクテリオファージの感染、トランスフェクション、接合、プロトプラスト融合、リポフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介トランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション、ナノ粒子媒介核酸送達(例えば、Panyamら,Adv Drug Deliv Rev.2012 Sep 13.pp:S0169-409X(12)00283-9.doi:10.1016/j.addr.2012.09.023を参照されたい)など。
【0090】
本明細書中で用いる「宿主細胞」は、インビボまたはインビトロの真核細胞、原核細胞(例えば、細菌細胞または古細菌細胞)、または単細胞体として培養された多細胞生物からの細胞(例えば、細胞株)を意味し、該真核細胞または原核細胞は核酸のレシピエントとして使用可能である又は使用されており、核酸によって形質転換された元の細胞の後代(子孫)を含む。単一細胞の後代は、自然突然変異、偶発的突然変異または意図的突然変異により、形態において、またはゲノムもしくは全DNA相補性において、元の親と必ずしも完全に同一ではない場合がありうると理解される。「組換え宿主細胞」(「遺伝的修飾宿主細胞」とも称される)は、異種核酸、例えば発現ベクターが導入された宿主細胞である。例えば、細菌宿主細胞は、適切な細菌宿主細胞内への外因性核酸(例えば、プラスミドまたは組換え発現ベクター)の導入によって遺伝的に修飾される細菌宿主細胞であり、真核生物宿主細胞は、適切な真核宿主細胞内への外因性核酸の導入によって遺伝的に修飾される真核生物宿主細胞(例えば、哺乳類生殖細胞)である。
【0091】
本明細書中で用いる「標的DNA」は、「標的部位」または「標的配列」を含むポリデオキシリボヌクレオチドである。「標的部位」、「標的配列」、「標的プロトスペーサーDNA」または「プロトスペーサー様配列」なる語は本明細書において互換的に用いられ、十分な結合条件が存在する場合にガイドRNAのDNA標的化セグメント(「スペーサー」とも称される)が結合する標的DNAに存在する核酸配列を意味する。例えば、標的DNA内の標的部位(または標的配列)5’GAGCATATC-3’はRNA配列5’-GAUAUGCUC-3’によって標的化される(またはそれに結合する、またはハイブリダイズする、または相補的である)。適切なDNA/RNA結合条件には、細胞内に通常存在する生理的条件が含まれる。他の適切なDNA/RNA結合条件(例えば、無細胞系における条件)は当技術分野で公知であり、例えばSambrook,前掲を参照されたい。ガイドRNAに相補的でありハイブリダイズする標的DNAの鎖は「相補鎖」と称され、「相補鎖」に相補的である(したがって、ガイドRNAに相補的ではない)標的DNAの鎖は「非相補鎖」と称される。
【0092】
「部位特異的修飾酵素」または「RNA結合性部位特異的修飾酵素」は、RNAに結合し特定のDNA配列に標的化されるポリペプチド、例えばM-SmallCas9ポリペプチドを意味する。本明細書に記載されている部位特異的修飾酵素は、それが結合するRNA分子によって特定のDNA配列に標的化される。該RNA分子は、標的DNA内の標的配列に結合する又はハイブリダイズする又は相補的である配列を含み、したがって、結合ポリペプチドを標的DNA(標的配列)内の特定の位置に標的化する。「切断」はDNA分子の共有結合骨格の切断を意味する。切断は、ホスホジエステル結合の酵素的または化学的加水分解(これらに限定されるものではない)を含む種々の方法によって開始されうる。一本鎖切断と二本鎖切断との両方が可能であり、二本鎖切断は2つの異なる一本鎖切断事象の結果として生じうる。DNA切断は平滑末端または付着末端の生成をもたらしうる。特定の実施形態においては、ガイドRNAと部位特異的修飾酵素とを含む複合体は標的化二本鎖DNA切断のために使用される。
【0093】
「ヌクレアーゼ」および「エンドヌクレアーゼ」は本明細書において互換的に用いられ、ポリヌクレオチド切断のためのエンドヌクレアーゼ触媒活性を有する酵素を意味する。
【0094】
ヌクレアーゼの「切断ドメイン」または「活性ドメイン」または「ヌクレアーゼドメイン」は、DNA切断のための触媒活性を有するヌクレアーゼ内のポリペプチド配列またはドメインを意味する。切断ドメインは単一のポリペプチド鎖内に含有されることが可能であり、または切断活性は2つ(またはそれ以上)のポリペプチドの会合から生じうる。単一のヌクレアーゼドメインは所与のポリペプチド内の複数の分離したアミノ酸伸長からなりうる。
【0095】
「ガイド配列」または「DNA標的化セグメント」または「DNA標的化配列」または「スペーサー」は、本明細書において「プロトスペーサー様」配列と称される標的DNA(標的DNAの相補鎖)内の特定の配列に相補的なヌクレオチド配列を含む。タンパク質結合性セグメント(または「タンパク質結合性配列」)は部位特異的修飾酵素と相互作用する。部位特異的修飾酵素がM-SmallCas9またはM-SmallCas9関連ポリペプチド(後記で更に詳細に説明される)である場合、標的DNAの部位特異的切断は、(i)ガイドRNAと標的DNAとの間の塩基対形成相補性、および(ii)標的DNAにおける短いモチーフ[プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と称される]の両方によって決定される位置において生じる。ガイドRNAのタンパク質結合性セグメントは、部分的には、互いにハイブリダイズして二本鎖RNA二重鎖(dsRNA二重鎖)を形成する2つの相補的ヌクレオチド伸長を含む。幾つかの実施形態においては、核酸(例えば、ガイドRNA、ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、部位特異的修飾酵素をコードする核酸など)は、追加的な望ましい特徴(例えば、改変または調節された安定性;細胞内標的化;追跡、例えば蛍光標識;タンパク質またはタンパク質複合体の結合部位など)をもたらす修飾または配列を含む。非限定的な例には、以下のものが含まれる:5’キャップ(例えば、7-メチルグアニル酸キャップ(m7G));3’ポリアデニル化テール(例えば、3’ポリ(A)テール);リボスイッチ(riboswitch)配列(例えば、タンパク質および/またはタンパク質複合体による、調節された接近および/または調節された安定性を可能にするもの);安定性制御配列;dsRNA二本鎖を形成する配列(例えば、ヘアピン);RNAを細胞内位置(例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体など)に標的化する修飾または配列;追跡をもたらす修飾または配列(例えば、蛍光分子への直接結合、蛍光検出を容易にする部分への結合、蛍光検出を可能にする配列など);タンパク質(例えば、転写アクチベーター、転写リプレッサー、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAデメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼなどを含む、DNAに作用するタンパク質)への結合部位をもたらす修飾または配列;およびそれらの組合せ。
【0096】
幾つかの実施形態においては、ガイドRNAは、前記の特徴のいずれかをもたらす追加的なセグメントを5’末端または3’末端のいずれかに含む。例えば、適切な第3のセグメントには、以下のものが含まれうる:5’キャップ(例えば、7-メチルグアニル酸キャップ(m7G));3’ポリアデニル化テール(例えば、3’ポリ(A)テール);リボスイッチ(riboswitch)配列(例えば、タンパク質および/またはタンパク質複合体による、調節された接近および/または調節された安定性を可能にするもの);安定性制御配列;dsRNA二本鎖を形成する配列(例えば、ヘアピン);RNAを細胞内位置(例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体など)に標的化する配列;追跡をもたらす修飾または配列(例えば、蛍光分子への直接結合、蛍光検出を容易にする部分への結合、蛍光検出を可能にする配列など);タンパク質(例えば、転写アクチベーター、転写リプレッサー、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAデメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼなどを含む、DNAに作用するタンパク質)への結合部位をもたらす修飾または配列;およびそれらの組合せ。
【0097】
ガイドRNAおよび部位特異的修飾酵素、例えばM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、リボ核タンパク質複合体を形成しうる(例えば、非共有結合性相互作用によって結合しうる)。ガイドRNAは、標的DNAの配列に相補的なヌクレオチド配列を含むことによって、複合体に標的特異性をもたらす。複合体の部位特異的修飾酵素はエンドヌクレアーゼ活性をもたらす。換言すれば、部位特異的修飾酵素は、標的DNA配列(例えば、染色体核酸における標的配列;染色体外核酸、例えばエピソーム核酸、ミニサークルなどにおける標的配列;ミトコンドリア核酸における標的配列、葉緑体核酸における標的配列、プラスミドにおける標的配列など)へと、ガイドRNAのタンパク質結合性セグメントへのその結合によって導かれる(ガイドされる)。RNAアプタマーは当技術分野で公知であり、一般に、リボスイッチの合成形態である。「RNAアプタマー」および「リボスイッチ」なる語は本明細書において互換的に用いられ、合成核酸配列と天然核酸配列との両方を包含し、該核酸配列は、それらが一部をなすRNA分子の構造体の誘導性調節(したがって、特定の配列の利用可能性)をもたらす。RNAアプタマーは、一般に、特定の薬物(例えば、小分子)に特異的に結合する特定の構造(例えば、ヘアピン)へとフォールディングされる配列を含む。薬物の結合はRNAのフォールディングにおける構造変化を引き起こし、これは、アプタマーが一部をなす核酸の特徴を変化させる。非限定的な例としては、以下のものが挙げられる:(i)アプタマーを伴うアクチベーターRNAは、アプタマーが適切な薬物と結合しない限り、同族ターゲッター(targeter)RNAに結合できない可能性がある;(ii)アプタマーを伴うターゲッターRNAは、アプタマーが適切な薬物と結合しない限り、同族アクチベーターRNAに結合できない可能性がある;および(iii)異なる薬物に結合する異なるアプタマーをそれぞれが含むターゲッターRNAおよびアクチベーターRNAは、両方の薬物が存在しない限り、互いに結合できない可能性がある。これらの例で例示されているとおり、2分子ガイドRNAは、誘導可能となるように設計されうる。
【0098】
アプタマーおよびリボスイッチの例は、例えば、Nakamuraら,Genes Cells.2012 May;17(5):344-64;Vavalleら,Future Cardiol.2012 May;8(3):371-82;Citartanら,Biosens Bioelectron.2012 Apr 15;34(1):1-11;およびLibermanら,Wiley lnterdiscip Rev RNA.2012 May-Jun;3(3):369-84(それらの全ての全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に見出されうる。
【0099】
遺伝的修飾方法の選択は、一般に、形質転換される細胞のタイプおよび形質転換が生じる環境(例えば、インビトロ、エクスビボまたはインビボ)に左右される。これらの方法の一般的考察は、Ausubelら,Short Protocols in Molecular Biology,3rd ed.,Wiley & Sons,1995に見出されうる。
【0100】
アプタマーおよびリボスイッチの例は、例えば、Nakamuraら,Genes Cells.2012 May;17(5):344-64;Vavalleら,Future Cardiol.2012 May;8(3):371-82;Citartanら,Biosens Bioelectron.2012 Apr 15;34(1):1-11;およびLibermanら,Wiley lnterdiscip Rev RNA.2012 May-Jun;3(3):369-84(それらの全ての全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に見出されうる。
【0101】
「幹細胞」なる語は、本明細書においては、自己再生と分化細胞型生成との両方の能力を有する細胞(例えば、植物幹細胞、脊椎動物幹細胞)を意味するものとして用いられる(Morrisonら(1997)Cell 88:287-298を参照されたい)。細胞個体発生の文脈においては、形容詞「分化した」または「分化している」は相対的な用語である。「分化した細胞」は、比較対象の細胞よりも更に発生経路を進んだ細胞である。したがって、多能性幹細胞(後記)は、系統が制限された前駆細胞(例えば、中胚葉幹細胞)に分化可能であり、そしてこれは、更に制限された前駆細胞(例えば、ニューロン前駆細胞)に分化可能であり、これは最終段階の細胞(例えば、最終分化細胞、例えば、ニューロン、心筋細胞など)に分化可能であり、これは特定の組織型において特徴的な役割を果たし、更に増殖する能力を保持している場合も保持していない場合もある。幹細胞は、特定のマーカー(例えば、タンパク質、RNAなど)の存在と特定のマーカーの非存在との両方によって特徴付けられうる。幹細胞は、インビトロおよびインビボの両方の機能アッセイ、特に、複数の分化後代を幹細胞が生成する能力に関するアッセイによっても特定されうる。
【0102】
関心のある幹細胞には、多能性幹細胞(PSC)が含まれる。「多能性幹細胞」または「PSC」なる語は、本明細書においては、生物の全細胞型を生成しうる幹細胞を意味するものとして用いられる。したがって、PSCは生物の全胚葉(例えば、脊椎動物の内胚葉、中胚葉および外胚葉)の細胞を生成しうる。多能性細胞は奇形腫を形成することが可能であり、生きた生物における外胚葉、中胚葉または内胚葉組織に寄与することが可能である。植物の多能性幹細胞は植物の全細胞型(例えば、根、茎、葉などの細胞)を生成することが可能である。
【0103】
動物のPSCは幾つかの異なる方法で誘導されうる。例えば、胚性幹細胞(ESC)は胚の内部細胞塊から誘導され(Thomsonら,Science.1998 Nov 6;282(5391):1145-7)、一方、人工多能性幹細胞(iPSC)は体細胞から誘導される。(Takahashiら,Cell.2007 Nov 30;131(5):861-72;Takahashiら,Nat Protoc.2007;2(12):3081-9;Yuら,Science.2007 Dec 21;318(5858):1917-20.Epub 2007 Nov 20)。
【0104】
PSCなる語は、その由来に無関係に、多能性幹細胞を意味するため、PSCなる語は、ESCおよびiPSCなる語、ならびにPSCの別の例である胚性生殖幹細胞(EGSC)なる語を含む。PSCは樹立細胞株の形態であることが可能であり、初代胚組織から直接的に入手可能であり、あるいは体細胞から誘導されうる。PSCは、本明細書に記載されている方法の標的細胞でありうる。
【0105】
「胚性幹細胞」(ESC)は、胚から、一般的には胚盤胞の内部細胞塊から単離されたPSCを意味する。ESC株はNIH Human Embryonic Stem Cell Registryに列挙されている[例えば、hESBGN-01,hESBGN-02,hESBGN-03,hESBGN-04(BresaGen,Inc.);HES-1,HES-2,HES-3,HES-4,HES-5,HES-6(ES Cell International);Miz-hES1(MizMedi Hospital-Seoul National University);HSF-1,HSF-6(University of California at San Francisco);およびH1,H7,H9,H13,H14(Wisconsin Alumni Research Foundation(WiCell Research Institute))]。関心のある幹細胞にはまた、他の霊長類からの胚性幹細胞、例えばアカゲザル幹細胞およびマーモセット幹細胞が含まれる。幹細胞は、任意の哺乳動物種、例えばヒト、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、齧歯動物、例えばマウス、ラット、ハムスター、霊長類などから得られうる(Thomsonら(1998)Science 282:1145;Thomsonら(1995)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:7844;Thomsonら(1996)Biol.Reprod.55:254;Shamblottら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726,1998)。培養においては、ESCは、一般に、大きな核細胞質比、明確な境界および顕著な核小体を有する平坦コロニーとして成長する。また、ESCはSSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81およびアルカリホスファターゼを発現するが、SSEA-1を発現しない。ESCを作製し特徴付ける方法の例は、例えば、米国特許第7,029,913号、米国特許第5,843,780号および米国特許第6,200,806号(これらの開示を参照により本明細書に組み入れることとする)において見出されうる。未分化形態のhESCを増殖させるための方法はWO 99/20741、WO 01/51616およびWO 03/020920に記載されている。「胚性生殖幹細胞」(EGSC)または「胚性生殖細胞」もしくは「EG細胞」は、生殖細胞および/または生殖細胞前駆体、例えば始原生殖細胞、例えば精子および卵になるものから誘導されるPSCを意味する。胚性生殖細胞(EG細胞)は、前記の胚性幹細胞に類似した特性を有すると考えられている。EG細胞を作製し特徴付ける方法の例は、例えば、米国特許第7,153,684号;;Matsui,Y.ら,(1992)Cell 70:841;Shamblott,M.ら(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:113;Shamblott,M.ら(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,95:13726;およびKoshimizu,U.ら(1996)Development,122:1235(その開示内容を参照により本明細書に組み入れることとする)において見出されうる。
【0106】
「人工多能性幹細胞」または「iPSC」は、PSCではない細胞から(例えば、PSCと比較して分化している細胞)から誘導されるPSCを意味する。iPSCは、最終分化細胞を含む複数の異なる細胞型から誘導されうる。iPSCはES細胞様形態を有し、大きな核細胞質比、明確な境界および顕著な核を有する平坦コロニーとして成長する。また、iPSCは、アルカリホスファターゼ、SSEA3、SSEA4、Sox2、Oct3/4、Nanog、TRA160、TRA181、TDGF1、Dnmt3b、Fox03、GDF3、Cyp26al、TERTおよびzfp42(これらに限定されるものではない)を含む、当業者に公知の1以上の重要な多能性マーカーを発現する。
【0107】
iPSCを作製し特徴付ける方法の例は、例えば、米国特許公開番号US20090047263、US20090068742、US20090191159、US20090227032、US20090246875およびUS20090304646(それらの開示を参照により本明細書に組み入れることとする)において見出されうる。一般に、iPSCを作製するためには、多能性幹細胞になるように体細胞を再プログラム化することが当技術分野で公知である再プログラム化因子(例えば、Oct4、SOX2、KLF4、MYC、Nanog、Lin28など)を体細胞に付与する。
【0108】
「体細胞」は、実験的操作の非存在下で生物における全細胞型を生成しない、生物における任意の細胞を意味する。換言すれば、体細胞は、身体の3つ全ての胚葉(例えば、外胚葉、中胚葉および内胚葉)の細胞を自然には生成しないほどに十分に分化した細胞である。例えば、体細胞にはニューロンおよび神経前駆細胞の両方が含まれ、それらのうちの後者は中枢神経系の細胞型の全てまたは一部を自然に生成しうるが、中胚葉または内胚葉系統の細胞を生成し得ない。
【0109】
「有糸分裂細胞」は有糸分裂中の細胞を意味する。
【0110】
「有糸分裂後細胞」は、有糸分裂を終了した細胞を意味し、例えば、それは「静止状態」にあり、例えば、それは、もはや分裂を行っていない。この静止状態は一過性、例えば可逆的であることが可能であり、あるいはそれは永続的でありうる。
【0111】
「減数分裂細胞」は、減数分裂を受けている細胞を意味する。
【0112】
「組換え」は、2つのポリヌクレオチド間の遺伝情報の交換のプロセスを意味する。本明細書中で用いる「相同組換え修復(HDR)」は、例えば細胞における二本鎖切断の修復中に生じる特殊な形態のDNA修復を意味する。このプロセスはヌクレオチド配列相同性を要し、「ドナー」分子を使用して「標的」分子(例えば、二本鎖切断を受けた分子)を鋳型修復し、ドナーから標的への遺伝情報の伝達をもたらす。ドナーポリヌクレオチドが標的分子とは異なっており、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部または全部が標的分子内に組み込まれる場合、相同組換え修復は標的分子の配列の変化(例えば、挿入、欠失、突然変異)をもたらしうる。幾つかの実施形態においては、ドナーポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチドの一部、ドナーポリヌクレオチドのコピーまたはドナーポリヌクレオチドのコピーの一部は標的DNA内に組み込まれる。
【0113】
「非相同末端結合(NHEJ)」は、相同鋳型を要しない、切断末端のお互いに対する直接連結によるDNAにおける二本鎖切断の修復を意味する(ガイド修復のために相同鋳型を要する相同組換え修復とは対照的である)。NHEJは、しばしば、二本鎖切断部位付近のヌクレオチド配列の喪失(欠失)を引き起こす。
【0114】
「治療」、「治療する」などの用語は、本明細書においては、一般に、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味するものとして用いられる。該効果は、疾患もしくはその症状を完全もしくは部分的に予防するという点で予防的であることが可能であり、ならびに/または疾患および/もしくは疾患に起因する副作用の部分的もしくは完全な治癒という点で治療的であることが可能である。本明細書中で用いる「治療」は哺乳動物における疾患または症状のあらゆる治療を包含し、以下のことを含む:(a)疾患または症状を患う素因を有するが、それを有するとは未だ診断されていない対象において、疾患または症状が生じるのを予防すること;(b)疾患または症状を抑制すること、例えば、その進展を阻止すること;あるいは(c)疾患を軽減すること、例えば、疾患の消失をもたらすこと。治療用物質は疾患または傷害の発生の前、途中または後に投与されうる。対象の望ましくない臨床症状を治療が安定化または軽減する、進行中の疾患の治療に、特に関心が持たれる。そのような治療は、望ましくは、罹患組織における機能の完全喪失の前に行われる。治療は、望ましくは、疾患の症候期中に、そして幾つかの場合には、疾患の症候期後に行われる。
【0115】
「個体」、「対象」、「宿主」および「患者」なる語は本明細書において互換的に用いられ、診断、治療または療法が望まれる任意の哺乳動物対象、特にヒトを意味する。
【0116】
分子生化学および細胞生化学における一般的方法は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Ed.(Sambrookら,Harbor Laboratory Press 2001);Short Protocols in Molecular Biology,4th Ed.(Ausubelら編,John Wiley & Sons 1999);Protein Methods(Bollagら,John Wiley & Sons 1996);Nonviral Vectors for Gene Therapy(Wagnerら編,Academic Press 1999);Viral Vectors(Kaplift & Loewy編,Academic Press 1995);Immunology Methods Manual(1.Lefkovits編,Academic Press 1997);およびCell and Tissue Culture:Laboratory Procedures in Biotechnology(Doyle & Griffiths,John Wiley & Sons 1998)(それらの開示内容を参照により本明細書に組み入れることとする)のような標準的なテキストにおいて見出されうる。
【0117】
値の範囲が記載されている場合、その範囲の上限および下限と、その示されている範囲における任意の他の示されている又は介在する値との間の、文脈が明確に別段の定めを示していない限り下限の単位の10分の1までの各介在値は、本開示内に含まれると理解される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、独立して、より小さい範囲に含まれることが可能であり、また、示されている範囲における任意の特に除外される限界値があることを条件として、本開示内に含まれる。示されている範囲が限界値の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界値の一方または両方を除く範囲も本開示に含まれる。
【0118】
「から本質的になる」なる表現は、本明細書においては、系の、特定されている活性成分ではない、または分子の、特定されている活性部分ではないいかなるものをも除外することを意味する。
【0119】
本明細書においては、ある範囲は、数値の前に「約」なる語を付けて示される。「約」なる語は、本明細書においては、それに続く正確な数値、およびその語に続く数値に近いまたはほぼ等しい数値に対する、文言上の補強をもたらすものとして用いられる。数値が、具体的に列挙されている数値に近いまたはほぼ等しいかどうかを判断する場合、その近いまたはほぼ等しい列挙されていない数値は、それが示されている文脈において、具体的に列挙されている数値の実質的に同等な数値でありうる。
【0120】
明瞭化のために個別の実施形態に関して記載されている本開示の或る特徴はまた、単一の実施形態において組合せて提供されうると理解される。逆に、簡潔に表すために単一の実施形態に関して記載されている本開示の種々の特徴はまた、個別に、または任意の適切なサブコンビネーションとして提供されうる。本開示に関する実施形態の全ての組合せ(コンビネーション)が本開示に具体的に包含され、それらは、各個の組合せが個別かつ明示的に開示されている場合と全く同様に、本明細書に開示される。また、種々の実施形態およびその要素の、全てのサブコンビネーションも、本開示に具体的に包含され、それらは、各個のそのようなサブコンビネーションが個別かつ明示的に本明細書に開示されている場合と全く同様に、本明細書に開示される。
【0121】
M-SmallCas9融合ポリペプチド
M-SmallCas9は、M-SmallCas9ヌクレアーゼと比較して追加的なドメインおよび活性を有する融合タンパク質を形成させるために使用されうる。非限定的な例示として挙げると、触媒活性エンドヌクレアーゼドメインを含有しうるM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体にFokIドメインが融合されることが可能であり、あるいは、M-SmallCas9エンドヌクレアーゼドメインが不活性となるように修飾されているM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体にFokIドメインが融合されることが可能である。M-SmallCas9との融合タンパク質を製造するために融合されうる他のドメインには、転写モジュレーター、エピジェネティック修飾因子、タグおよび他の標識もしくは造影剤、ヒストン、ならびに/または遺伝子配列の構造もしくは活性を調節もしくは修飾する当技術分野で公知の他のモダリティが含まれる。
【0122】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は転写アクチベーターもしくは転写リプレッサー、またはエピジェネティック修飾因子、例えばメチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼもしくはデアセチラーゼに融合される。
【0123】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、検出、分子間相互作用、翻訳活性化、修飾または当技術分野で公知の任意の他の操作のために機能性タンパク質成分に融合される。
【0124】
例示的なM-SmallCas9変異体ポリペプチド
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、a)標的化部位に結合する能力を保持し、所望により、b)その活性を保持していてもよい。幾つかの実施形態においては、保持される活性はエンドヌクレアーゼ活性である。特定の実施形態においては、エンドヌクレアーゼ活性はtracr RNAを必要としない。
【0125】
幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の活性部分が修飾されている。幾つかの実施形態においては、修飾は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体のヌクレアーゼ活性を低減または増強するアミノ酸変化(例えば、欠失、挿入または置換)を含む。例えば、幾つかの実施形態においては、修飾されたM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、対応する未修飾M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体のヌクレアーゼ活性の50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満または1%未満を有する。幾つかの実施形態においては、修飾されたM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は実質的なヌクレアーゼ活性を有さない。幾つかの実施形態においては、それは50%、2倍、4倍または最大10倍を超えるヌクレアーゼ活性を有しうる。
【0126】
幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の活性部分は、DNA修飾活性および/または転写因子活性および/またはDNA関連ポリペプチド修飾活性を有する異種ポリペプチドを含む。幾つかの実施形態においては、異種ポリペプチドは、ヌクレアーゼ活性をもたらすM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の部分に取って代わる。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、ヌクレアーゼ活性を通常はもたらすM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の部分(そしてその部分は完全に活性であることが可能であり、あるいは、対応する未修飾活性の100%未満を有するように修飾されることが可能である)と異種ポリペプチドとの両方を含む。換言すれば、幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、ヌクレアーゼ活性を通常はもたらすM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の部分と異種ポリペプチドとの両方を含む融合ポリペプチドでありうる。
【0127】
例えば、M-SmallCas9融合タンパク質においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は異種ポリペプチド配列(例えば、M-SmallCas9以外のタンパク質からのポリペプチド配列)に融合されうる。異種ポリペプチド配列は、M-SmallCas9融合タンパク質によっても示される活性(例えば、酵素活性)(例えば、メチルトランスフェラーゼ活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、キナーゼ活性、ユビキチン化活性など)を示しうる。異種核酸配列は、融合ポリペプチドをコードする融合ヌクレオチド配列を得るために、別の核酸配列に(例えば、遺伝子操作によって)連結されうる。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9融合ポリペプチドは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を、細胞内局在化[例えば、核へ標的化するための核局在化シグナル(NLS);ミトコンドリアへ標的化するためのミトコンドリア局在化シグナル;葉緑体へ標的化するための葉緑体局在シグナル;ER保持シグナルなど]をもたらす異種配列に融合することによって生成される。幾つかの実施形態においては、異種配列は、追跡または精製を容易にするためのタグ[例えば、蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、RFP、CFP、mCherry、tdTomatoなど;HISタグ、例えば、6×Hisタグ;ヘマグルチニン(HA)タグ;FLAGタグ;Mycタグなど]を提供しうる。幾つかの実施形態においては、異種配列は安定性の増強または低減をもたらしうる。幾つかの実施形態においては、異種配列は結合ドメイン[例えば、関心のある別のタンパク質、例えばDNAもしくはヒストン修飾タンパク質、転写因子もしくは転写リプレッサー、リクルートタンパク質など、または関心のあるヌクレオチド(例えば、ヌクレオチド結合タンパク質の標的部位またはアプタマー)にM-SmallCas9融合ポリペプチドが結合する能力をもたらすもの]を提供しうる。
【0128】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているM-SmallCas9ポリペプチド変異体のいずれかにおいては、M-SmallCas9ポリペプチド変異体は、低下したエンドデオキシリボヌクレアーゼ活性を有する。例えば、本開示の転写調節方法における使用に適したM-SmallCas9ポリペプチド変異体は未修飾M-SmallCas9ポリペプチドのエンドデオキシリボヌクレアーゼ活性の約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約1%未満または約0.1%未満を示す。
【0129】
幾つかの実施形態においては、変異体M-SmallCas9ポリペプチドは、検出可能なエンドデオキシリボヌクレアーゼ活性を実質的に有さない(dM-SmallCas9)。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチド変異体が、低下した触媒活性を有する場合、該ポリペプチドは、それがガイドRNAと相互作用する能力を保持する限り、標的DNAに部位特異的に尚も結合しうる[なぜなら、それはガイドRNAによって標的DNA配列へと尚も導かれる(ガイドされる)からである]。幾つかの実施形態においては、変異体M-SmallCas9ポリペプチドは、標的DNAの相補鎖を切断しうるニッカーゼであって、標的DNAの非相補鎖を切断する能力の低下を示すニッカーゼである。
【0130】
幾つかの実施形態においては、変異体M-SmallCas9ポリペプチドは、標的DNAの非相補鎖を切断しうるニッカーゼであって、標的DNAの相補鎖を切断する能力の低下を示すニッカーゼである。
【0131】
幾つかの実施形態においては、変異体M-SmallCas9ポリペプチドは、標的DNAの相補鎖と非相補鎖との両方を切断する能力の低下を示す。例えば、アラニン置換が想定される。
【0132】
幾つかの実施形態においては、変異体M-SmallCas9ポリペプチドは、融合ポリペプチド(「変異体M-SmallCas9融合ポリペプチド」)、例えば、i)変異体M-SmallCas9ポリペプチドと、ii)共有結合した異種ポリペプチド(「融合パートナー」とも称される)とを含む融合ポリペプチドである。
【0133】
異種ポリペプチドは、変異体M-SmallCas9融合ポリペプチドによっても示されうる活性(例えば、酵素活性)(例えば、メチルトランスフェラーゼ活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、キナーゼ活性、ユビキチン化活性など)を示しうる。異種核酸配列は、融合ポリペプチドをコードする融合ヌクレオチド配列を得るために、別の核酸配列に(例えば、遺伝子操作によって)連結されうる。幾つかの実施形態においては、変異体M-SmallCas9融合ポリペプチドは、変異体M-SmallCas9ポリペプチドを、細胞内局在化[例えば、異種配列は、細胞内局在化配列、例えば、核へ標的化するための核局在化シグナル(NLS)、ミトコンドリアへ標的化するためのミトコンドリア局在化シグナル、葉緑体へ標的化するための葉緑体局在シグナル、ER保持シグナルなどである]をもたらす異種配列に融合することによって生成される。幾つかの実施形態においては、異種配列は、追跡または精製を容易にするためのタグ(例えば、異種配列は、検出可能な標識である)[例えば、蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、RFP、CFP、mCherry、tdTomatoなど;ヒスチジンタグ、例えば、6×Hisタグ;ヘマグルチニン(HA)タグ;FLAGタグ;Mycタグなど]を提供しうる。幾つかの実施形態においては、異種配列は安定性の増強または低減をもたらしうる[例えば、異種配列は、幾つかの場合には制御可能である安定性制御ペプチド、例えばデグロンである(例えば、温度感受性または薬物制御可能なデグロン配列;後記を参照されたい)]。幾つかの実施形態においては、異種配列は標的DNAからの転写の増強または低減をもたらしうる(例えば、異種配列は、転写調節配列、例えば、転写因子/アクチベーターまたはその断片、転写因子/アクチベーターをリクルートするタンパク質またはその断片、転写リプレッサーまたはその断片、転写リプレッサーをリクルートするタンパク質またはその断片、小分子/薬物応答性転写調節因子などである)。異種配列は結合ドメイン(例えば、異種配列はタンパク質結合性配列であり、例えば、関心のある別のタンパク質、例えばDNAもしくはヒストン修飾タンパク質、転写因子もしくは転写リプレッサー、リクルートタンパク質などに融合dM-SmallCas9ポリペプチドが結合する能力をもたらすものである)を提供しうる。
【0134】
安定性の増強または低減をもたらす適切な融合パートナーには、デグロン配列が含まれるが、これに限定されるものではない。デグロンは、それが一部をなすタンパク質の安定性を制御するアミノ酸配列である、と当業者に容易に理解される。例えば、デグロン配列を含むタンパク質の安定性はデグロン配列によって少なくとも部分的に制御される。幾つかの実施形態においては、適切なデグロンは構成的であり、その結果、デグロンは、実験的制御に無関係に、タンパク質の安定性に対してその影響を及ぼす(例えば、デグロンは薬物誘導性、温度誘導性などではない)。幾つかの実施形態においては、デグロンは、制御可能な安定性を有する変異体M-SmallCas9ポリペプチドを提供し、その結果、変異体M-SmallCas9ポリペプチドは、所望の条件に応じて、「オン(on)」(例えば、安定である)または「オフ(off)」(例えば、不安定である;分解される)の状態になりうる。例えば、デグロンが温度感受性デグロンである場合、変異体M-SmallCas9ポリペプチドは閾値温度(例えば、42℃、41℃、40℃、39℃、38℃、37℃、36℃、35℃、34℃、33℃、32℃、31℃、30℃など)未満では機能的であるが、閾値温度を超えると非機能的(例えば、「オフ」の状態、分解)でありうる。もう1つの例としては、デグロンが薬物誘導性デグロンである場合、薬物の存在または非存在が該タンパク質を「オフ」(例えば、不安定)状態から「オン」(例えば、安定)状態へと変換することが可能であり、あるいはその逆もありうる。代表的な薬剤誘導性デグロンはFKBP12タンパク質から誘導される。デグロンの安定性は、デグロンに結合する小分子の存在または非存在によって制御される。
【0135】
適切なデグロンの例には、シールド(Shield)-1、DHFR、オーキシンおよび/または温度によって制御されるデグロンが含まれるが、これらに限定されるものではない。適切なデグロンの非限定的な例は当技術分野で公知である(例えば、Dohmenら,Science,1994.263(5151):p.1273-1276:Heat-inducible degron:a method for constructing temperature-sensitive mutants;Schoeberら,Am J Physiol Renal Physiol.2009 Jan;296(1):F204-11:Conditional fast expression and function of multimeric TRPV5 channels using Shield-1;Chuら,Bioorg Med Chem Lett.2008 Nov 15;18(22):5941-4:Recent progress with FKBP-derived destabilizing domains;Kanemaki,Pflugers Arch.2012 Dec 28:Frontiers of protein expression control with conditional degrons;Yangら,Mol Cell.2012 Nov 30;48(4):487-8:Titivated for destruction:the methyl degron;Barbourら,Biosci Rep.2013 Jan 18;33(1).:Characterization of the bipartite degron that regulates ubiquitin-independent degradation of thymidylate synthase;およびGreussingら,J Vis Exp.2012 Nov 10;(69):Monitoring of ubiquitin-proteasome activity in living cells using a Degron(dgn)-destabilized green fluorescent protein(GFP)-based reporter protein;これらの全ての全体を参照により本明細書に組み入れることとする)。
【0136】
例示的なデグロン配列は細胞および動物の両方において十分に特徴付けられており、試験されている。したがって、デグロン配列へのM-SmallCas9の融合は「調整可能」かつ「誘導可能な」M-SmallCas9ポリペプチドを生成する。本明細書に記載されている融合パートナーはいずれも、任意の望ましい組合せで使用されうる。この点を例示するための非限定的な一例としては、M-SmallCas9融合タンパク質は検出のためのYFP配列、安定性のためのデグロン配列、および標的DNAからの転写を増強するための転写アクチベーター配列を含みうる。更に、M-SmallCas9融合タンパク質において使用されうる融合パートナーの数は無制限である。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9融合タンパク質は1以上(例えば、2以上、3以上、4以上または5以上)の異種配列を含む。
【0137】
適切な融合パートナーには、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラーゼ活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチラーゼ活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、クロトニル化活性、脱クロトニル化活性、プロピオニル化活性、脱プロピオニル化活性、ミリストイル化活性または脱ミリストイル化活性を提供するポリペプチド(これらに限定されるものではない)が含まれ、それらの活性はいずれも、直接的にDNAを修飾すること(例えば、DNAのメチル化)またはDNA関連ポリペプチドを修飾すること(例えば、ヒストンまたはDNA結合性タンパク質)に向けられたものでありうる。更に適切な融合パートナーには、境界要素(boundary element)(例えば、CTCF)、末梢リクルートメントをもたらすタンパク質およびその断片(例えば、ラミンA、ラミンBなど)、ならびにタンパク質ドッキング要素(例えば、FKBP/FRB、Pil 1/アビー(Aby)1など)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0138】
M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体はまた、組換え合成の通常の方法に従い単離および精製されうる。発現宿主からライセートが調製可能であり、HPLC、排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティクロマトグラフィーまたは他の精製技術を用いて、ライセートが精製可能である。ほとんどの場合、使用される組成物は、産物の製造およびその精製の方法に関連する汚染物質に対して、少なくとも20重量%、少なくとも約75重量%、少なくとも約95重量%、そして治療目的の場合には典型的には少なくとも99.5重量%の所望の産物を含む。一般に、割合(%)は総タンパク質に基づいている。DNA切断および組換え、または標的DNAに対する任意の所望の修飾、または標的DNAに関連するポリペプチドに対する任意の所望の修飾を誘発するために、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドは、それらが核酸として導入されるかポリペプチドとして導入されるかにかかわらず、約30分~約24時間、例えば1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、18時間、20時間、または約30分~約24時間のうちの他の任意の時間にわたって、細胞に供与され、これは、ほぼ毎日~約4日ごとの頻度、例えば1.5日ごと、2日ごと、3日ごと、またはほぼ毎日~約4日ごとのうちの任意の他の頻度で反復されうる。該物質は、1回以上、例えば1回、2回、3回または3回を超える回数で細胞に供与されることが可能であり、細胞は、各接触事象後の或る長さの時間、例えば16~24時間にわたって、該物質と共にインキュベートされることが可能であり、その時間の後、培地は新鮮培地と交換され、細胞は更に培養される。2以上の異なる標的化複合体(例えば、同じまたは異なる標的DNA内の異なる配列に相補的である2つの異なるガイドRNA)を細胞に供与する場合には、それらの複合体は(例えば、2つのポリペプチドおよび/または核酸として)同時に供与されることが可能であり、または同時に送達される。あるいは、それらは連続的に供与されることが可能であり、例えば、最初に標的化複合体が供与され、次いで第2の標的化複合体などが供与されることが可能であり、あるいはその逆であってもよい。
【0139】
核酸
ガイドRNA/sgRNA
幾つかの実施形態において本明細書に記載されている系、組成物および方法は、関連ポリペプチド(例えば、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体)の活性を標的核酸内の特定の標的配列に導きうるゲノム標的化核酸を使用する。幾つかの実施形態においては、ゲノム標的化核酸はRNAである。ゲノム標的化RNAは本明細書においては「ガイドRNA」または「gRNA」と称される。ガイドRNAは、少なくとも、関心のある標的核酸配列にハイブリダイズしうるスペーサー配列と、CRISPR反復配列(そのようなCRISPR反復配列は「tracrメイト配列」とも称される)とを有する。II型系においては、gRNAは、tracr RNA配列と称される第2のRNAをも有する。II型ガイドRNA(gRNA)においては、CRISPR反復配列とtracr RNA配列とが互いにハイブリダイズして二本鎖を形成する。V型ガイドRNA(gRNA)においては、crRNAが二重鎖を形成する。どちらの系においても、二重鎖は部位特異的ポリペプチドに結合して、ガイドRNAと部位特異的ポリペプチドとが複合体を形成する。ゲノム標的化核酸は、部位特異的ポリペプチドへのその結合により、該複合体に標的特異性をもたらす。したがって、ゲノム標的化核酸は部位特異的ポリペプチドの活性を導く。
【0140】
幾つかの実施形態においては、ゲノム標的化核酸は二分子ガイドRNAである。幾つかの実施形態においては、ゲノム標的化核酸は単一分子ガイドRNAまたはシングルガイドRNA(sgRNA)である。二分子ガイドRNAは2本のRNA鎖を有する。第1鎖は、5’から3’の方向に、所望により含有されていてもよいスペーサー伸長配列、スペーサー配列および最小CRISPR反復配列を有する。第2鎖は、最小tracr RNA配列(最小CRISPR反復配列に相補的である)、3’tracr RNA配列、および所望により含有されていてもよいtracr RNA伸長配列を有する。II型系における単一分子ガイドRNA(sgRNA)は、5’から3’の方向に、所望により含有されていてもよいスペーサー伸長配列、スペーサー配列、最小CRISPR反復配列、単一分子ガイドリンカー、最小tracr RNA配列、3’tracr RNA配列および所望により含有されていてもよいtracr RNA伸長配列を有する。所望により含有されていてもよいtracr RNA伸長は、追加的な機能性(例えば、安定性)をガイドRNAに付与する要素を有しうる。単一分子ガイドリンカーは最小CRISPR反復と最小tracr RNA配列とを連結してヘアピン構造を形成する。所望により含有されていてもよいtracr RNA伸長はは1以上のヘアピンを有する。V型系における単一分子ガイドRNA(sgRNA)は、5’から3’の方向に、最小CRISPR反復配列およびスペーサー配列を有する。
【0141】
例示的なゲノム標的化核酸は、例えば、WO2018002719に記載されている。
【0142】
一般に、CRISPR反復配列は、(1)対応するtracr配列を含有する細胞におけるCRISPR反復配列に隣接するDNA標的化セグメントの切除、および(2)標的配列におけるCRISPR複合体の形成(ここで、CRISPR複合体は、tracr配列にハイブリダイズしたCRISPR反復配列を含む)のうちの1以上を促進するのに十分な、tracr配列に対する相補性を有する任意の配列を含む。一般に、相補性の度合は、CRISPR反復配列とtracr配列との、それらの2つの配列のうち短いほうの長さに沿った最適アライメントを基準としている。最適アライメントは任意の適切なアライメントアルゴリズムによって決定可能であり、更に、tracr配列またはCRISPR反復配列内の自己相補性のような二次構造を考慮することが可能である。幾つかの実施形態においては、最適にアライメントされた場合のtracr配列とCRISPR反復配列との間の、それらの2つのうちの短いほうの30ヌクレオチド長に沿った相補性の度合は、約25%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97.5%以上、99%以上である。幾つかの実施形態においては、tracr配列は約5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、13個以上、14個以上、15個以上、16個以上、17個以上、18個以上、19個以上、20個以上、25個以上、30個以上、40個以上、50個以上のヌクレオチドの長さを有する。幾つかの実施形態においては、tracr配列およびCRISPR反復配列は単一の転写産物内に含有され、その結果、それらの2つの間のハイブリダイゼーションは、ヘアピンのような二次構造を有する転写産物を生成する。幾つかの実施形態においては、転写産物または転写ポリヌクレオチド配列は少なくとも2以上のヘアピンを有する。
【0143】
ガイドRNAのスペーサーは、標的DNAにおける配列に相補的なヌクレオチド配列を含む。換言すれば、ガイドRNAのスペーサーはハイブリダイゼーション(例えば、塩基対形成)によって標的DNAと配列特異的に相互作用する。したがって、スペーサーのヌクレオチド配列は変動可能であり、ガイドRNAと標的DNAとが相互作用する標的DNA内の位置を決定する。ガイドRNAのDNA標的化セグメントは、標的DNA内の任意の所望の配列にハイブリダイズするように(例えば、遺伝子操作によって)修飾されうる。
【0144】
幾つかの実施形態においては、スペーサーは10ヌクレオチド~30ヌクレオチドの長さを有する。幾つかの実施形態においては、スペーサーは13ヌクレオチド~25ヌクレオチドの長さを有する。幾つかの実施形態においては、スペーサーは15ヌクレオチド~23ヌクレオチドの長さを有する。幾つかの実施形態においては、スペーサーは18ヌクレオチド~22ヌクレオチド、例えば、20ヌクレオチド~22ヌクレオチドの長さを有する。
【0145】
幾つかの実施形態においては、スペーサーのDNA標的化配列と標的DNAのプロトスペーサーとの間の相補性(%)は20~22ヌクレオチドにわたって少なくとも60%(例えば、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%)である。
【0146】
幾つかの実施形態においては、プロトスペーサーは、適切なPAM配列に、その3’末端において直接隣接しており、またはそのようなPAM配列は、DNA標的化配列の、その3’部分における一部である。
【0147】
ガイドRNAの修飾は、ガイドRNAとM-SmallCas9のようなCasエンドヌクレアーゼとを含むCRISPR-Casゲノム編集複合体の形成または安定性を増強するために利用されうる。ガイドRNAの修飾は、追加的または代替的に、ゲノム編集複合体とゲノム内の標的配列との間の相互作用の開始、安定性または動態を増強するために利用可能であり、これは、例えば、オンターゲット活性を増強するために利用されうる。ガイドRNAの修飾は、追加的または代替的に、特異性、例えば、他の(オフターゲット)部位における効果と比較した場合のオンターゲット部位におけるゲノム編集の相対速度を増加させるために利用されうる。
【0148】
修飾は、追加的または代替的に、例えば、細胞内に存在するリボヌクレアーゼ(RNアーゼ)による分解に対する抵抗性を増強して細胞内でのその半減期を増加させることによって、ガイドRNAの安定性を増強するために利用されうる。M-SmallCas9エンドヌクレアーゼを生成するために翻訳される必要があるRNAを介して編集される細胞にM-SmallCas9のようなCasエンドヌクレアーゼが導入される実施形態においては、ガイドRNAの半減期を増加させる修飾が特に有用でありうる。なぜなら、エンドヌクレアーゼをコードするRNAと同時に導入されるガイドRNAの半減期の増加は、ガイドRNAとコード化Casエンドヌクレアーゼとが細胞内で共存する時間を増加させるために利用されうるからである。
【0149】
ドナーDNAまたはドナー鋳型
DNAエンドヌクレアーゼのような部位特異的ポリペプチドは、核酸、例えばゲノムDNAに二本鎖切断または一本鎖切断を導入しうる。二本鎖切断は細胞の内因性DNA修復経路[例えば、相同組換え修復(HDR)または非相同末端結合または代替非相同末端結合(A-NHEJ)または微小相同性(マイクロホモロジー)媒介性末端結合(MMEJ)]を刺激しうる。NHEJは、相同鋳型を要することなく、切断された標的核酸を修復しうる。これは時には、切断部位において、標的核酸内で小さな欠失または挿入(インデル)を生じさせる可能性があり、遺伝子発現の破壊または変化を招きうる。相同組換え(HR)としても公知であるHDRは、相同修復鋳型またはドナーが利用可能な場合に生じうる。
【0150】
相同ドナー鋳型は、標的核酸切断部位に隣接する配列と相同な配列を有する。修復鋳型としては、一般に、姉妹染色分体が細胞によって使用される。しかし、ゲノム編集の目的においては、修復鋳型は、しばしば、外因性核酸、例えばプラスミド、二本鎖オリゴヌクレオチド、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチドまたはウイルス核酸として供給される。外因性ドナー鋳型の場合、相同性の隣接領域の間に追加的な核酸配列(例えば、導入遺伝子)または修飾(例えば、単一または複数の塩基の変化または欠失)を導入して、追加的な又は変化した核酸配列も標的遺伝子座内に組み込まれるようにするのが一般的である。MMEJは、小さな欠失および挿入が切断部位に生じうる点で、NHEJに類似した遺伝的結果をもたらす。MMEJは、好ましい末端結合DNA修復結果を導くために、切断部位に隣接する数塩基対の相同配列を利用する。幾つかの実施形態においては、ヌクレアーゼ標的領域における潜在的な微小相同性の分析に基づいて、生じうる修復結果を予測することが可能でありうる。
【0151】
したがって、幾つかの場合には、外因性ポリヌクレオチド配列を標的核酸切断部位内に挿入するために、相同組換えが用いられる。外因性ポリヌクレオチド配列は本明細書においてはドナーポリヌクレオチド(またはドナーもしくはドナー配列もしくはポリヌクレオチドドナー鋳型)と称される。幾つかの実施形態においては、ドナーポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチドの一部、ドナーポリヌクレオチドのコピーまたはドナーポリヌクレオチドのコピーの一部が標的核酸切断部位内に挿入される。幾つかの実施形態においては、ドナーポリヌクレオチドは、外因性ポリヌクレオチド配列、すなわち、標的核酸切断部位に天然では存在しない配列である。
【0152】
二本鎖切断が存在する細胞の核内に外因性DNA分子が十分な濃度で供給されると、外因性DNAはNHEJ修復プロセス中に二本鎖切断部位に挿入されて、ゲノムに永久的に付加されうる。これらの外因性DNA分子は、幾つかの実施形態においては、ドナー鋳型と称される。ドナー鋳型が、所望によりプロモーター、エンハンサー、ポリA配列および/またはスプライスアクセプター配列のような関連調節配列と共に、本明細書に記載されている1以上の系成分のコード配列を含有する場合、それらの1以上の系成分はゲノム内の組み込まれた核酸から発現されて、細胞の寿命にわたる永久的な発現がもたらされうる。更に、ドナーDNA鋳型の、組み込まれた核酸は、細胞分裂の際に娘細胞に伝達される。
【0153】
二本鎖切断の両側のDNA配列に対する相同性を有する隣接DNA配列(相同アームと称される)を含有する十分な濃度のドナーDNA鋳型の存在下、ドナーDNA鋳型はHDR経路を介して組み込まれる。相同アームは、二本鎖切断の両側の配列とドナー鋳型との間の相同組換えのための基質として作用する。これは、二本鎖切断の両側の配列が未修飾ゲノムにおける配列から改変されない、ドナー鋳型の、エラーのない挿入をもたらしうる。
【0154】
HDRによる編集のために供給されるドナーは著しく変動するが、一般に、ゲノムDNAへのアニーリングを可能にする小さなまたは大きな隣接相同アームを有する意図される配列を含有する。導入される遺伝的変化に隣接する相同領域は30bp以下であることが可能であり、あるいは、プロモーター、cDNAなどを含有しうる数キロベースのカセットほどの大きさでありうる。一本鎖および二本鎖の両方のオリゴヌクレオチドドナーが使用されうる。これらのオリゴヌクレオチドのサイズは100nt未満から数kbを超える範囲であるが、より長いssDNAも作製され使用されうる。PCRアンプリコン、プラスミドおよびミニサークルを包含する二本鎖ドナーがしばしば使用される。一般に、AAVベクターはドナー鋳型の送達の非常に効果的な手段であることが判明しているが、個々のドナーに関するパッケージング限界は5kb未満である。ドナーの活性転写はHDRを3倍増加させた。このことは、プロモーターの含有が変換を増強しうることを示している。逆に、ドナーのCpGメチル化は遺伝子発現およびHDRを低減しうる。
【0155】
幾つかの実施形態においては、ドナーDNAは、種々の異なる方法によって、例えばトランスフェクション、ナノ粒子、マイクロインジェクションまたはウイルス形質導入によって、ヌクレアーゼと共に、または独立して供給されうる。幾つかの実施形態においては、HDRに対するドナーの利用可能性を高めるために、一連の繋留(tethering)の選択肢が用いられうる。例示には、ヌクレアーゼへのドナーの結合、近傍に結合するDNA結合性タンパク質への結合、またはDNA末端結合もしくは修復に関与するタンパク質への結合が含まれる。
【0156】
NHEJまたはHDRによるゲノム編集に加えて、NHEJ経路とHRとの両方を使用する部位特異的遺伝子挿入が行われうる。組合せアプローチは、おそらくイントロン/エクソン境界を含む特定の設定において適用可能でありうる。NHEJはイントロンにおける連結に有効でありうるが、コード領域においては、エラーのないHDRの方が好適でありうる。
【0157】
ベクター
もう1つの態様においては、M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードする、および/またはgRNAをコードする、および/または本開示の実施形態を実施するのに必要な任意の核酸もしくはタンパク質性分子をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸を、本明細書において提供する。幾つかの実施形態においては、そのような核酸はベクター(例えば、組換え発現ベクター)である。
【0158】
想定される発現ベクターには、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、SV40、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、レトロウイルス[例えば、マウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、およびレトロウイルス(例えば、ラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、レンチウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルスおよび乳腺腫瘍ウイルス)に由来するベクター]に基づくウイルスベクター、および他の組換えベクターが含まれるが、これらに限定されるものではない。真核生物標的細胞用に想定される他のベクターには、ベクターpXT1、pSG5、pSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVLSV40(Pharmacia)が含まれるが、これらに限定されるものではない。真核生物標的細胞用に想定される追加的なベクターには、ベクターpCTx-1、pCTx-2およびpCTx-3が含まれるが、これらに限定されるものではない。宿主細胞に適合する限り、他のベクターも使用されうる。
【0159】
幾つかの実施形態においては、ベクターは1以上の転写および/または翻訳制御要素を有する。利用される宿主/ベクター系に応じて、構成的プロモーターおよび誘導性プロモーター、転写エンハンサー要素、転写ターミネーターなどを含む、多数の適切な転写および翻訳制御要素のいずれかが発現ベクターにおいて使用されうる。幾つかの実施形態においては、ベクターは、ウイルス配列、またはCRISPR機構もしくは他の要素の成分のいずれかを不活性化する自己不活性化ベクターである。
【0160】
適切な真核生物プロモーター(すなわち、真核細胞において機能するプロモーター)の非限定的な例には、サイトメガロウイルス(CMV)最初期、単純ヘルペスウイルス(HSV)チミジンキナーゼ、初期および後期SV40、レトロウイルス由来の長末端反復(LTR)、ヒト伸長因子1プロモーター(EF1)、ニワトリベータアクチンプロモーター(CAG)に融合したサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーを有するハイブリッド構築物、マウス幹細胞ウイルスプロモーター(MSCV)、ホスホグリセリン酸キナーゼ1遺伝子座プロモーター(PGK)およびマウスメタロチオネイン-Iに由来するプロモーターが含まれる。
【0161】
Casエンドヌクレアーゼと共に使用されるガイドRNAを含む低分子RNAの発現のためには、例えばU6およびH1を含むRNAポリメラーゼIIIプロモーターのような種々のプロモーターが有利でありうる。そのようなプロモーターの使用を促進するための説明およびパラメーターは当技術分野で公知であり、追加的な情報およびアプローチは定期的に記載されている。例えば、Ma,H.ら,Molecular Therapy - Nucleic Acids 3,e161(2014)doi:10.1038/mtna.2014.12を参照されたい。
【0162】
発現ベクターは、翻訳開始のためのリボソーム結合部位および転写ターミネーターをも含有しうる。発現ベクターは、発現を増幅するための適切な配列をも含みうる。発現ベクターはまた、部位特異的ポリペプチドに融合されて融合タンパク質を生成する非天然タグ(例えば、ヒスチジンタグ、ヘマグルチニンタグ、緑色蛍光タンパク質など)をコードするヌクレオチド配列を含みうる。
【0163】
幾つかの実施形態においては、プロモーターは誘導性プロモーター(例えば、熱ショックプロモーター、テトラサイクリン調節性プロモーター、ステロイド調節性プロモーター、金属調節性プロモーター、エストロゲン受容体調節性プロモーターなど)である。幾つかの実施形態においては、プロモーターは構成的プロモーター(例えば、CMVプロモーター、UBCプロモーター)である。幾つかの実施形態においては、プロモーターは、空間的に制限されるおよび/または時間的に制限されるプロモーター(例えば、組織特異的プロモーター、細胞型特異的プロモーターなど)である。幾つかの実施形態においては、ゲノム内に存在する内因性プロモーターの存在下、遺伝子がゲノム内に挿入された後、遺伝子が発現されることになる場合、ベクターは、宿主細胞内で発現される少なくとも1つの遺伝子のためのプロモーターを有さない。
【0164】
核酸およびポリペプチドの修飾
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているポリヌクレオチドは、本明細書中で更に説明され当技術分野で公知のとおり、例えば、活性、安定性もしくは特異性を増強するため、送達を改変するため、宿主細胞における自然免疫応答を低減するため、タンパク質サイズを更に低減するため、または他の促進のために利用されうる1以上の修飾を含む。幾つかの実施形態においては、そのような修飾は、配列番号2の配列に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含むM-SmallCas9ポリペプチドを与える。
【0165】
コドン最適化
特定の実施形態においては、修飾ポリヌクレオチドは、本明細書に記載されているCRISPR-M-SmallCas9系において使用され、この場合、M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするポリヌクレオチド配列を含むDNAもしくはRNA、および/またはガイドRNAは、後記に記載され例示されているとおりに修飾されうる。そのような修飾ポリヌクレオチドは、任意の1以上のゲノム遺伝子座を編集するために、CRISPR-M-SmallCas9系において使用されうる。幾つかの実施形態においては、本開示のポリヌクレオチドにおけるそのような修飾は、コドン最適化、例えば、コード化ポリペプチドが発現される特定の宿主細胞に基づくコドン最適化によって達成される。本開示の任意のヌクレオチド配列および/または組換え核酸は、関心のある任意の種における発現のためにコドン最適化されうる、と当業者に理解されるであろう。コドン最適化は当技術分野で周知であり、種特異的コドン使用率表を使用するコドン使用率の偏りに関するヌクレオチド配列の修飾を伴う。コドン使用率表は、関心のある種に関する最高発現遺伝子の配列分析に基づいて作成される。非限定的な例において、ヌクレオチド配列が核内で発現される場合には、コドン使用率表は、関心のある種に関する高発現核遺伝子の配列分析に基づいて作成される。ヌクレオチド配列の修飾は、天然ポリヌクレオチド配列に存在するコドンと種特異的コドン使用率表を比較することによって決定される。
【0166】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体はコドン最適化ポリヌクレオチド配列から発現される。例えば、意図される標的細胞がヒト細胞である場合には、M-SmallCas9(またはM-SmallCas9変異体、例えば酵素的に不活性な変異体)をコードするヒトコドン最適化ポリヌクレオチド配列が適切であろう。もう1つの非限定的な例としては、意図される宿主細胞がマウス細胞である場合には、M-SmallCas9(またはM-SmallCas9変異体、例えば酵素的に不活性な変異体)をコードするマウスコドン最適化ポリヌクレオチド配列が適切であろう。
【0167】
コドン最適化のための戦略および方法論は当技術分野で公知であり、酵母(Outchkourovら,Protein Expr Purif,24(1):18-24(2002))および大腸菌(E.coli)(Fengら,Biochemistry,39(50):15399-15409(2000))(これらに限定されるものではない)を含む種々の系に関して記載されている。幾つかの実施形態においては、コドン最適化は、GeneGPS(登録商標)発現最適化技術(ATUM)および該製造業者が推奨する発現最適化アルゴリズムを使用することによって行われた。幾つかの実施形態においては、本開示のポリヌクレオチドはヒト細胞における発現増強のためにコドン最適化される。幾つかの実施形態においては、本開示のポリヌクレオチドは大腸菌細胞における発現増強のためにコドン最適化される。幾つかの実施形態においては、本開示のポリヌクレオチドは昆虫細胞における発現増強のためにコドン最適化される。幾つかの実施形態においては、本開示のポリヌクレオチドはSf9昆虫細胞における発現増強のためにコドン最適化される。幾つかの実施形態においては、コドン最適化法において使用される発現最適化アルゴリズムは、推定ポリAシグナル(例えば、AATAAAおよびATTAAA)および長いA(4個を超える)の伸長(これはポリメラーゼスリッページを引き起こしうる)を回避するように定義される。
【0168】
当技術分野でよく理解されているとおり、ヌクレオチド配列のコドン最適化は、天然ヌクレオチド配列に対して100%未満(例えば、70%未満、71%未満、72%未満、73%未満、74%未満、75%未満、76%未満、77%未満、78%未満、79%未満、80%未満、81%未満、82%未満、83%未満、84%未満、85%未満、86%未満、87%未満、88%未満、89%未満、90%未満、91%未満、92%未満、93%未満、94%未満、95%未満、96%未満、97%未満、98%未満または99%未満)の同一性を有するヌクレオチド配列であって、元の天然のヌクレオチド配列によってコードされるものと同じ機能を有するポリペプチドを尚もコードするヌクレオチド配列をもたらす。したがって、本開示の代表的な実施形態においては、本開示のヌクレオチド配列および/または組換え核酸は、関心のある特定の種における発現のためにコドン最適化されうる。
【0169】
幾つかの実施形態においては、コドン最適化ポリヌクレオチド配列は配列番号1に対して少なくとも90%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.2%、99.5%、99.8%、99.9%または100%の配列同一性を有する。幾つかの実施形態においては、本開示のポリヌクレオチドは標的細胞におけるコード化M-SmallCas9ポリペプチドの発現増強のためにコドン最適化される。幾つかの実施形態においては、本開示のポリヌクレオチドはヒト細胞における発現増強のためにコドン最適化される。一般に、本開示のポリヌクレオチドは任意のヒト細胞における発現増強のためにコドン最適化される。幾つかの実施形態においては、本開示のポリヌクレオチドは大腸菌細胞における発現増強のためにコドン最適化される。幾つかの実施形態においては、本開示のポリヌクレオチドは昆虫細胞における発現増強のためにコドン最適化される。一般に、本開示のポリヌクレオチドは任意の昆虫細胞における発現増強のためにコドン最適化される。幾つかの実施形態においては、本開示のポリヌクレオチドはSf9昆虫細胞発現系における発現増強のためにコドン最適化される。
【0170】
ポリアデニル化シグナルは、意図される宿主における発現を最適化するために選択されうる。
【0171】
他の修飾
修飾は、追加的または代替的に、細胞内に導入されたRNAが自然免疫応答を誘発する可能性または度合を減少させるために使用されうる。そのような応答は、後記および当技術分野において記載されているとおり、低分子干渉RNA(siRNA)を含むRNA干渉(RNAi)に関して十分に特徴付けられており、RNAの半減期の減少および/またはサイトカインもしくは免疫応答に関連する他の因子の誘発に関連している傾向にある。
【0172】
細胞内に導入されるM-SmallCas9のようなエンドヌクレアーゼをコードするRNAに対する1以上のタイプの修飾が実施可能であり、これらには、RNAの安定性を増強する修飾(例えば、細胞内に存在するRNアーゼによるその分解を低減することによるもの)、生じる産物(例えば、エンドヌクレアーゼ)の翻訳を増強する修飾、および/または細胞に導入されたRNAが自然免疫応答を誘発する可能性もしくは度合を減少させる修飾が含まれるが、これらに限定されるものではない。前記の修飾および他の修飾のような修飾の組合せも同様に用いられうる。例えば、CRISPR-M-SmallCas9の場合、ガイドRNAに対する1以上のタイプの修飾(前記で例示したものを含む)が実施可能であり、および/またはM-SmallCas9をコードするRNAに対する1以上のタイプの修飾(前記で例示したものを含む)が実施可能である。
【0173】
例示として挙げると、CRISPR-M-SmallCas9系において使用されるガイドRNAまたはより小さい他のRNAは、後記で例示されており当技術分野において記載されているとおり、多数の修飾が容易に組み込まれることを可能にする化学的手段によって容易に合成可能である。化学合成法は絶えず進展しているが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC;これはPAGEのようなゲルの使用を回避する)のような方法によるそのようなRNAの精製は、ポリヌクレオチドの長さが約100ヌクレオチドを超えて大幅に増加するにつれて、より困難になる傾向にある。より長い化学修飾RNAを生成させるために用いられる1つのアプローチは、一緒に連結される2以上の分子を製造することである。はるかに長いRNA(例えば、M-SmallCas9エンドヌクレアーゼをコードするもの)は、酵素を利用することによって、より容易に生成される。一般に、酵素を利用して製造されるRNAに利用可能な修飾のタイプはより少ないが、後記および当技術分野において更に詳細に記載されているとおり、安定性の増強、自然免疫応答の可能性もしくは度合の低減および/または他の特性の向上に使用されうる修飾は尚も存在し、新たなタイプの修飾が常に開発されている。種々のタイプの修飾、特に、より小さな化学合成RNAで頻繁に使用される修飾の例示としては、修飾には、糖の2’位で修飾された1以上のヌクレオチドが含まれ、幾つかの実施形態においては、2’-O-アルキル、2’-O-アルキル-O-アルキルまたは2’-フルオロ修飾ヌクレオチドが含まれうる。幾つかの実施形態においては、RNA修飾には、ピリミジンのリボース、塩基性残基または反転塩基(RNAの3’末端におけるもの)における2’-フルオロ、2’-アミノおよび2’O-メチル修飾が含まれる。そのような修飾は常套的にオリゴヌクレオチド内に組み込まれ、これらのオリゴヌクレオチドは、特定の標的に対して、2’-デオキシオリゴヌクレオチドより高いTm(例えば、より高い標的結合アフィニティ)を有することが示されている。
【0174】
多数のヌクレオチドおよびヌクレオシド修飾は、それらが組み込まれたオリゴヌクレオチドをヌクレアーゼ消化に対して天然オリゴヌクレオチドより抵抗性にすることが示されている。これらの修飾オリゴヌクレオチドは未修飾オリゴヌクレオチドより長い時間にわたって無傷で残存する。修飾オリゴヌクレオチドの具体例には、修飾骨格、例えばホスホロチオアート、ホスホトリエステル、メチルホスホナート、短鎖アルキルもしくはシクロアルキル糖間結合または短鎖ヘテロ原子もしくは複素環糖間結合を含むものが含まれる。幾つかのオリゴヌクレオチドは、ホスホロチオアート骨格を有するオリゴヌクレオチド、およびヘテロ原子骨格、特にCH2-NH-O-CH2、CH、-N(CH3)-O-CH2[メチレン(メチルイミノ)またはMMI骨格として公知である]、CH2-ON(CH3)-CH2、CH2-N(CH3)-N(CH3)-CH2およびO-N(CH3)-CH2-CH2骨格;アミド骨格[De Mesmaekerら,Ace.Chem.Res.,28:366-374(1995)を参照されたい];モルホリノ骨格構造(SummertonおよびWeller,米国特許第5,034,506号を参照されたい);ペプチド核酸(PNA)骨格(ここで、オリゴヌクレオチドのホスホジエステル骨格はポリアミド骨格で置換されており、ヌクレオチドはポリアミド骨格のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合している;Nielsenら,Science 1991,254,1497を参照されたい)を有するオリゴヌクレオチドである。リン含有結合には、ホスホロチオアート、キラルホスホロチオアート、ホスホロジチオアート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチルおよび他のアルキルホスホナート(3’アルキレンホスホナートおよびキラルホスホナートを含む)、ホスフィナート、ホスホルアミダート(3’アミノホスホルアミダートおよびアミノアルキルホスホルアミダートを含む)、チオノホスホロアミダート、チオノアルキルホスホナート、チオノアルキルホスホトリエステルおよびボラノホスファート(通常の3’-5’結合を有するもの)、これらの2’-5’結合類似体、ならびにヌクレオシド単位の隣接ペアが3’-5’から5’-3’に、または2’-5’から5’-2’に結合している逆極性を有するものが含まれるが、これらに限定されるものではない。米国特許第3,687,808号、第4,469,863号、第4,476,301号、第5,023,243号、第5,177,196号、第5,188,897号、第5,264,423号、第5,276,019号、第5,278,302号、第5,286,717号、第5,321,131号、第5,399,676号、第5,405,939号、第5,453,496号、第5,455,233号、第5,466,677号、第5,476,925号、第5,519,126号、第5,536,821号、第5,541,306号、第5,550,111号、第5,563,253号、第5,571,799号、第5,587,361号および第5,625,050号を参照されたい。
【0175】
モルホリノに基づくオリゴマー化合物は、BraaschおよびCorey,Biochemistry,41(14):4503-4510(2002);Genesis,Volume 30,Issue 3,(2001);Heasman,Dev.Biol.,243:209-214(2002);Naseviciusら,Nat.Genet.,26:216-220(2000);Lacenraら,Proc.Nat/.Acad.Sci.,97:9591-9596(2000);ならびに米国特許第5,034,506号(1991年7月23日付発行)に記載されている。シクロヘキセニル核酸オリゴヌクレオチド模倣体はWangら,J.Am.Chem.Soc.,122:8595-8602(2000)に記載されている。
【0176】
リン原子を含まない修飾オリゴヌクレオチド骨格は、短鎖アルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、混合ヘテロ原子およびアルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間結合、または1以上の短鎖ヘテロ原子もしくは複素環ヌクレオシド間結合によって形成された骨格を有する。これらには、モルホリノ結合(ヌクレオシドの糖部分から部分的に形成される)を有するもの;シロキサン骨格;スルフィド、スルホキシドおよびスルホン骨格;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;メチレンホルムアセチルおよびチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;スルファマート骨格;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノ骨格;スルホナートおよびスルホンアミド骨格;アミド骨格;ならびにN、O、SおよびCH2の混合成分部分を有する他のものが含まれる。米国特許第5,034,506号、第5,166,315号、第5,185,444号、第5,214,134号、第5,216,141号、第5,235,033号、第5,264,562号、第5,264,564号、第5,405,938号、第5,434,257号、第5,466,677号、第5,470,967号、第5,489,677号、第5,541,307号、第5,561,225号、第5,596,086号、第5,602,240号、第5,610,289号、第5,602,240号、第5,608,046号、第5,610,289号、第5,618,704号、第5,623,070号、第5,663,312号、第5,633,360号、第5,677,437号および第5,677,439号(これらのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい。
【0177】
1以上の置換糖部分、例えば、2’位における以下のものの1つも含まれうる:OH、SH、SCH、F、OCN、OCH、OCHO(CHCH、O(CHNHまたはO(CHCH(ここで、nは1~10である);C~C10低級アルキル、アルコキシアルコキシ、置換低級アルキル、アルカリールまたはアラルキル;Cl;Br;CN;CF;OCF;O-、S-またはN-アルキル;O-、S-またはN-アルケニル:SOCH;SOCH;ON;NO;N;NH;ヘテロシクロアルキル;ヘテロシクロアルカリル;アミノアルキルアミノ;ポリアルキルアミノ;置換シリル;RNA切断基;レポーター基;インターカレーター;オリゴヌクレオチドの薬物動態特性を改善するための基;または、オリゴヌクレオチドおよび類似特性を有する他の置換基の薬力学特性を改善するための基。幾つかの実施形態においては、修飾には、2’-メトキシエトキシ(2’-O-CHCHOCH;2’-O-(2-メトキシエチル)としても公知である)が含まれる(Martinet a/,Helv.Chim.Acta,1995,78,486)。他の修飾には、2’-メトキシ(2’-O-CH)、2’-プロポキシ(2’-OCHCHCH)および2’-フルオロ(2’-F)が含まれる。同様の修飾は、オリゴヌクレオチド上の他の位置、特に、3’末端ヌクレオチド上の糖の3’位および5’末端ヌクレオチドの5’位においても行われうる。オリゴヌクレオチドはペントフラノシル基の代わりにシクロブチルのような糖模倣体を有しうる。幾つかの実施形態においては、ヌクレオチド単位の糖およびヌクレオシド間結合(例えば、骨格)の両方が新たな基で置換される。塩基単位は適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。1つのそのようなオリゴマー化合物である、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが示されているオリゴヌクレオチド模倣体は、ペプチド核酸(PNA)と称される。PNA化合物においては、オリゴヌクレオチドの糖骨格がアミド含有骨格、例えばアミノエチルグリシン骨格で置換されている。核酸塩基は保持されており、骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合している。PNA化合物の製造を教示する代表的な米国特許には、米国特許第5,539,082号、第5,714,331号および第5,719,262号が含まれるが、これらに限定されるものではない。PNA化合物の更なる教示はNielsenら,Science,254:1497-1500(1991)において見出されうる。
【0178】
ガイドRNAはまた、追加的または代替的に、核酸塩基(当技術分野においては単に「塩基」と称されることが多い)の修飾または置換を含みうる。本明細書中で用いる「未修飾」または「天然」核酸塩基には、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)が含まれる。修飾核酸塩基には、天然核酸において稀または一時的にしか見出されない核酸塩基、例えばヒポキサンチン、6-メチルアデニン、5-Meピリミジン、特に5-メチルシトシン(5-メチル-2’デオキシシトシンとも称され、当技術分野ではしばしば5-Me-Cと称される)、5-ヒドロキシメチルシトシン(HMC)、グリコシルHMCおよびゲントビオシルHMC、ならびに合成核酸塩基、例えば2-アミノアデニン、2-(メチルアミノ)アデニン、2-(イミダゾリルアルキル)アデニン、2-(アミノアルキルアミノ)アデニンまたは他のヘテロ置換アルキルアデニン、2-チオウラシル、2-チオチミン、5-ブロモウラシル、5-ヒドロキシメチルウラシル、8-アザグアニン、7-デアザグアニン、N6(6-アミノヘキシル)アデニンおよび2,6-ジアミノプリン。Kornberg,A,DNA Replication,W.H.Freeman & Co.,San Francisco,pp75-77(1980);Gebeyehuら,Nucl.Acids Res.15:4513(1997)。当技術分野で公知の「普遍的(ユニバーサル)」塩基、例えばイノシンも含まれうる。5-Me-C置換は、核酸二本鎖安定性を0.6~1.2℃増加させることが示されており(Sanghvi,Y.S.,in Crooke,S.T.およびLebleu,B.編,Antisense Research and Applications,CRC Press,Boca Raton,1993,pp.276-278)、塩基置換の実施形態である。
【0179】
修飾核酸塩基には、他の合成および天然の核酸塩基、例えば5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6-メチルおよびの他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2-プロピルおよび他のアルキル誘導体、2-チオウラシル、2-チオチミンおよび2-チオシトシン、5-ハロウラシルおよびシトシン、5-プロピニルウラシルおよびシトシン、6-アゾウラシル、シトシンおよびチミン、5-ウラシル(シュードウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシルおよび他のα-置換アデニンおよびグアニン、5-ハロ、特に5-ブロモ、5-トリフルオロメチルおよび他の5-置換ウラシルおよびシトシン、7-メチルクアニンおよび7-メチルアデニン、8-アザグアニンおよび8-アザアデニン、7-デアザグアニンおよび7-デアザアデニンおよび3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンが含まれる。
【0180】
他の有用な核酸塩基には、米国特許第3,687,808号に開示されているもの、“The Concise Encyclopedia of Polymer Science And Engineering”,pp.858-859,Kroschwitz,J.l.編,John Wiley & Sons,1990に開示されているもの、Englischら,Angewandte Chemie,International Edition,1991,30,pp.613に開示されているもの、ならびにSanghvi,Y.S.,Chapter 15,Antisense Research and Applications,pp.289-302、Crooke,S.T.およびLebleu,B.ea.,CRC Press,1993に開示されているものが含まれる。これらの核酸塩基の或るものは、本開示のオリゴマー化合物の結合アフィニティを増加させるのに特に有用である。これらには、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、ならびにN-2、N-6および-O-6置換プリン、例えば2-アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシルおよび5-プロピニルシトシンが含まれる。5-メチルシトシン置換は、核酸二本鎖安定性を0.6~1.2℃増加させることが示されており(Sanghvi,Y.S.,Crooke,S.T.およびLebleu,B.編,“Antisense Research and Applications”,CRC Press,Boca Raton,1993,pp.276-278)、塩基置換の実施形態であり、より一層詳細には、2’-O-メトキシエチル糖修飾と組合された場合の実施形態である。修飾核酸塩基は、米国特許第3,687,808号、および第4,845,205号、第5,130,302号、第5,134,066号、第5,175,273号、第5,367,066号、第5,432,272号、第5,457,187号、第5,459,255号、第5,484,908号、第5,502,177号、第5,525,711号、第5,552,540号、第5,587,469号、第5,596,091号、第5,614,617号、第5,681,941号、第5,750,692号、第5,763,588号、第5,830,653号、第6,005,096号、および米国特許出願公開第20030158403号に記載されている。
【0181】
所与のオリゴヌクレオチドにおける全ての位置が均一に修飾される必要はなく、実際、複数の前記修飾が単一オリゴヌクレオチド内に、または更にはオリゴヌクレオチド内の単一ヌクレオシド内に組み込まれうる。
【0182】
幾つかの実施形態においては、本開示のM-SmallCas9のようなエンドヌクレアーゼをコードするmRNAおよび/またはガイドRNAは、生物活性を維持する及び自己/非自己の細胞内応答を回避する生存可能なmRNA構築物を生成するために、mCAP、ARCAまたは酵素キャッピング法のような現在のキャッピング法のいずれか1つを用いてキャッピングされる。幾つかの実施形態においては、本開示のM-SmallCas9のようなエンドヌクレアーゼをコードするmRNAおよび/またはガイドRNAは、CleanCap(商標)(TriLink)共転写キャッピング法を用いることによってキャッピングされる。
【0183】
幾つかの実施形態においては、本開示のエンドヌクレアーゼをコードするmRNAおよび/またはガイドRNAは、シュードウリジン、N-メチルシュードウリジンおよび5-メトキシウリジンからなる群から選択される1以上の修飾を含む。幾つかの実施形態においては、哺乳類細胞(例えば、ヒトおよびマウス)のような動物細胞におけるRNA安定性および/またはタンパク質発現の増強ならびに免疫原性の低下をもたらすために、1以上のN-メチルシュードウリジンが、本開示のエンドヌクレアーゼをコードするmRNAおよび/またはガイドRNAに組み込まれる。幾つかの実施形態においては、N-メチルシュードウリジン修飾は1以上の5-メチルシチジンと組合せて組み込まれる。
【0184】
幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9のようなエンドヌクレアーゼをコードするmRNA(またはDNA)および/またはガイドRNAは、オリゴヌクレオチドの活性、細胞分布または細胞取り込みを増強する1以上の部分またはコンジュゲートに化学的に連結される。そのような部分には、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:脂質部分、例えばコレステロール部分[Letsingerら,Proc.Nat/.Acad.Sci.USA,86:6553-6556(1989)];コール酸[Manoharanら,Bioorg.Med.Chem.Let.,4:1053-1060(1994)];チオエーテル、例えばヘキシル-S-トリチルチオール[Manoharan eta/,Ann.N.Y Acad.Sci.,660:306-309(1992)およびManoharanら,Bioorg.Med.Chem.Let.,3.2765-2770(1993)];チオコレステロール[Oberhauserら,Nucl.Acids Res.,20:533-538(1992)];脂肪族鎖、例えばドデカンジオールまたはウンデシル残基[Kabanovら,FEBS Lett.,259:327-330(1990)およびSvinarchukら,Biochimie,75:49-54(1993)];リン脂質、例えばジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールまたはトリエチルアンモニウム 1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホナート[Manoharanら,Tetrahedron Lett.,36:3651-3654(1995)およびSheaら,Nucl.Acids Res.,18:3777-3783(1990)];ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖[Mancharanら,Nucleosides & Nucleotides,14:969-973(1995)];アダマンタン酢酸[Manoharanら,Tetrahedron Lett.,36:3651-3654(1995)];パルミチル部分[Mishraら,Biochim.Biophys.Acta,1264:229-237(1995)];あるいはオクタデシルアミンまたはヘキシルアミノ-カルボニル-t-オキシコレステロール部分[Crookeら,J.Pharmacol.Exp.Ther.,277:923-937(1996)]。また、米国特許第4,828,979号、第4,948,882号、第5,218,105号、第5,525,465号、第5,541,313号、第5,545,730号、第5,552,538号、第5,578,717号、第5,580,731号、第5,580,731号、第5,591,584号、第5,109,124号、第5,118,802号、第5,138,045号、第5,414,077号、第5,486,603号、第5,512,439号、第5,578,718号、第5,608,046号、第4,587,044号、第4,605,735号、第4,667,025号、第4,762,779号、第4,789,737号、第4,824,941号、第4,835,263号、第4,876,335号、第4,904,582号、第4,958,013号、第5,082,830号、第5,112,963号、第5,214,136号、第5,082,830号、第5,112,963号、第5,214,136号、第5,245,022号、第5,254,469号、第5,258,506号、第5,262,536号、第5,272,250号、第5,292,873号、第5,317,098号、第5,371,241号、第5,391,723号、第5,416,203号、第5,451,463号、第5,510,475号、第5,512,667号、第5,514,785号、第5,565,552号、第5,567,810号、第5,574,142号、第5,585,481号、第5,587,371号、第5,595,726号、第5,597,696号、第5,599,923号、第5,599,928および第5,688,941号も参照されたい。
【0185】
タンパク質および複合体(ヌクレオチドを含む)、例えばカチオン性ポリソームおよびリポソームを特定の部位に標的化するために、糖および他の部分が使用されうる。例えば、肝細胞指向性導入はアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)を介してもたらされうる。例えば、Huら,Protein Pept Lett.21(10):1025-30(2014)を参照されたい。この場合に有用な生体分子および/またはその複合体を、関心のある特定の標的細胞に標的化するために、当技術分野で公知であり常に開発されている他の系が使用されうる。
【0186】
これらの標的化部分またはコンジュゲートには、一級または二級ヒドロキシル基のような官能基に共有結合したコンジュゲート・グループが含まれうる。適切なコンジュゲート・グループには、インターカレーター、レポーター分子、ポリアミン、ポリアミド、ポリエチレングリコール、ポリエーテル、オリゴマーの薬力学特性を増強するグループ、およびオリゴマーの薬物動態特性を増強するグループが挙げられる。典型的なコンジュゲート・グループには、コレステロール、脂質、リン脂質、ビオチン、フェナジン、フォラート、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリンおよび色素が含まれる。薬力学的特性を増強しうるグループには、取り込みを改善し、分解に対する抵抗性を増強し、および/または標的核酸に対する配列特異的ハイブリダイゼーションを増強するグループが含まれる。薬物動態特性を増強しうるグループには、本開示の化合物の取り込み、分布、代謝または排泄を改善するグループが含まれる。代表的なコンジュゲート・グループは1992年10月23日付出願の国際特許出願番号PCT/US92/09196および米国特許第6,287,860号(これらを参照により本明細書に組み入れることとする)に開示されている。コンジュゲート部分には、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:脂質部分、例えばコレステロール部分、コール酸、チオエーテル、例えばヘキシル-5-トリチルチオール、チオコレステロール、脂肪族鎖、例えばドデカンジオールまたはウンデシル残基、リン脂質、例えばジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールまたはトリエチルアンモニウム 1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホナート、ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖、またはアダマンタン酢酸、パルミチル部分、あるいはオクタデシルアミンまたはヘキシルアミノ-カルボニル-オキシコレステロール部分。例えば、米国特許第4,828,979号、第4,948,882号、第5,218,105号、第5,525,465号、第5,541,313号、第5,545,730号、第5,552,538号、第5,578,717号、第5,580,731号、第5,580,731号、第5,591,584号、第5,109,124号、第5,118,802号、第5,138,045号、第5,414,077号、第5,486,603号、第5,512,439号、第5,578,718号、第5,608,046号、第4,587,044号、第4,605,735号、第4,667,025号、第4,762,779号、第4,789,737号、第4,824,941号、第4,835,263号、第4,876,335号、第4,904,582号、第4,958,013号、第5,082,830号、第5,112,963号、第5,214,136号、第5,082,830号、第5,112,963号、第5,214,136号、第5,245,022号、第5,254,469号、第5,258,506号、第5,262,536号、第5,272,250号、第5,292,873号、第5,317,098号、第5,371,241号、第5,391,723号、第5,416,203号、第5,451,463号、第5,510,475号、第5,512,667号、第5,514,785号、第5,565,552号、第5,567,810号、第5,574,142号、第5,585,481号、第5,587,371号、第5,595,726号、第5,597,696号、第5,599,923号、第5,599,928号および第5,688,941号を参照されたい。
【0187】
化学合成されるのにそれほど適しておらず、一般に酵素利用合成によって製造される、より長いポリヌクレオチドも、種々の手段によって修飾されうる。そのような修飾には、例えば、特定のヌクレオチド類似体の導入、分子の5’または3’末端における特定の配列または他の部分の組み込み、および他の修飾が含まれうる。例示としては、M-SmallCas9をコードするmRNAは約4kbの長さを有し、インビトロ転写によって合成されうる。mRNAに対する修飾は、例えば、(例えば、細胞による分解に対するその抵抗性を増強することによって)その翻訳または安定性を増強するために、または外因性RNA、特に、より長いRNA(例えば、M-SmallCas9をコードするもの)の導入の後に細胞においてしばしば観察される自然免疫応答をRNAが誘発する傾向を低減するために適用されうる。
【0188】
多数のそのような修飾が当技術分野において記載されており、例えば以下のものが挙げられる:ポリAテール、5’キャップ類似体(例えば、アンチ・リバース・キャップ類似体(Anti Reverse Cap Analog)(ARCA)またはm7G(5’)ppp(5’)G(mCAP))、修飾された5’または3’非翻訳領域(UTR)、修飾塩基[例えば、シュードUTP、2-チオ-UTP、5-メチルシチジン-5’-三リン酸(5-メチル-CTP)またはN6-メチル-ATP]の使用、または5’末端リン酸を除去するためのホスファターゼでの処理。これらおよび他の修飾が当技術分野で公知であり、RNAの新規修飾が常に開発中である。
【0189】
修飾RNAの多数の商業的供給業者があり、それらには、例えば、TriLink Biotech、Axolabs、Bio-Synthesis Inc.、Dharmaconおよびその他多数が含まれる。例えば、TriLinkによって説明されているとおり、5-メチル-CTPは、ヌクレアーゼ安定性の増強、翻訳の増強または自然免疫受容体とインビトロ転写RNAとの相互作用の低減のような望ましい特性を付与するために使用されうる。また、後記で言及されているKonmannらおよびWarrenらによる刊行物において例示されているとおり、5’-メチルシチジン-5’-三リン酸(5-メチル-CTP)、N6-メチル-ATP、ならびにシュードUTPおよび2-チオUTPは、翻訳を増強する一方で、培養内およびインビボでの自然免疫刺激を低減することが示されている。
【0190】
インビボで送達される化学修飾mRNAは、治療効果の改善を達成するために使用されうることが示されている。例えば、Kormannら,Nature Biotechnology 29,154-157(2011)を参照されたい。そのような修飾は、例えば、RNA分子の安定性を増強するため、および/またはその免疫原性を低減するために使用されうる。シュードU、N6-メチル-A、2-チオ-Uおよび5-メチル-Cのような化学修飾を用いた場合、ウリジンおよびシチジン残基のわずか4分の1がそれぞれ2-チオ-Uおよび5-メチル-Cで置換されて、マウスにおけるmRNAのトール様受容体(TLR)媒介性認識における有意な減少が生じることが判明した。したがって、自然免疫系の活性化を低減することによって、これらの修飾は、インビボでのmRNAの安定性および寿命を有効に増加させるために利用されうる。例えば、Konmannら,前掲を参照されたい。
【0191】
また、自然抗ウイルス応答を回避するように設計された修飾が組込まれた合成メッセンジャーRNAの反復投与は分化ヒト細胞を多能性へと再プログラムしうることも示されている。例えば、Warrenら,Cell Stem Cell,7(5):618-30(2010)を参照されたい。一次再プログラミングタンパク質として機能するそのような修飾mRNAは、複数のヒト細胞型を再プログラムする効率的な手段となりうる。そのような細胞は人工多能性幹細胞(iPSC)と称され、5-メチル-CTP、シュードUTPおよびアンチ・リバース・キャップ類似体(Anti Reverse Cap Analog)(ARCA)が組込まれた酵素利用合成RNAは、細胞の抗ウイルス応答を有効に回避するために使用されうることが判明した。例えば、Warrenら,前掲を参照されたい。当技術分野で記載されているポリヌクレオチドの他の修飾には、例えば、ポリAテールの使用、5’キャップ類似体(例えば、m7G(5’)ppp(5’)G(mCAP))の付加、5’または3’非翻訳領域(UTR)の修飾、または5’末端リン酸を除去するためのホスファターゼでの処理が含まれ、新規アプローチが常に開発されている。
【0192】
本明細書において用いられる修飾RNAの生成に適用可能な多数の組成物および技術が、低分子干渉RNA(siRNA)を含むRNA干渉(RNAi)の修飾に関連して開発されている。siRNAはインビボにおいては特別な難題を提起する。なぜなら、mRNA干渉を介した遺伝子サイレンシングに対するそれらの効果は一般に一過性であり、したがって反復投与が必要となりうるからである。また、siRNAは二本鎖RNA(dsRNA)であり、哺乳類細胞は、ウイルス感染の副産物であることが多いdsRNAを検出し中和するように進化した免疫応答を有する。したがって、dsRNAに対する細胞応答を媒介しうるPKR(dsRNA応答性キナーゼ)のような哺乳類酵素および潜在的レチノイン酸誘導性遺伝子I(RIG-I)、ならびにそのような分子に応答してサイトカインの誘導を誘発しうるToll様受容体(例えば、TLR3、TLR7およびTLR8)が存在する。例えば、Angartら,Pharmaceuticals(Basel)6(4):440-468(2013);Kanastyら,Molecular Therapy 20(3):513-524(2012);Burnettら,Biotechnol J.6(9):1130-46(2011);JudgeおよびMaclachlan,Hum Gene Ther 19(2):111-24(2008)によるレビュー、ならびにそれらにおいて引用されている参考文献を参照されたい。
【0193】
RNAの安定性を増強し、自然免疫応答を低減し、および/または本明細書に記載されているヒト細胞内へのポリヌクレオチドの導入に関して有用でありうる他の利点を達成するために、多種多様な修飾が開発され適用されている。例えば、Whitehead KAら,Annual Review of Chemical and Biomolecular Engineering,2:77-96(2011);Gaglione and Messere,Mini Rev Med Chem,10(7):578-95(2010);Chernolovskayaら,Curr Opin Mol Ther.,12(2):158-67(2010);Deleaveyら,Curr Protoc Nucleic Acid Chem Chapter 16:Unit 16.3(2009);Behlke,Oligonucleotides 18(4):305-19(2008):Fuciniら,Nucleic Acid Ther 22(3):205-210(2012);Bremsenら,Front Genet 3:154(2012)によるレビューを参照されたい。
【0194】
前記のとおり、修飾RNAの多数の商業的供給業者が存在し、それらのうちの多くは、siRNAの有効性を改善するように設計された修飾に特化している。文献で報告されている種々の知見に基づいて、種々のアプローチが提供されている。例えば、Dharmaconは、siRNAのヌクレアーゼ抵抗性を改善するために、硫黄(ホスホロチオアート、PS)での非架橋酸素の置換が広範に用いられていると指摘している(Kale,Nature Reviews Drug Discovery 11:125-140(2012)に報告されているとおり)。リボースの2’位の修飾はヌクレオチド間リン酸結合のヌクレアーゼ抵抗性を改善する一方で二本鎖安定性(Tm)を増強すると報告されており、これは免疫活性化からの防御をもたらすことも示されている。Soutschekら,Nature 432:173-178(2004)に報告されているとおり、十分な抵抗性を有する小さな2’-置換(2’-O-、2’-フルオロ、2’-ヒドロ)と適度なPS骨格修飾との組合せはインビボでの適用のための高安定性siRNAに関連付けられており、Volkov,Oligonucleotides 19:191-202(2009)に報告されているとおり、2’-O-メチル修飾は安定性の改善に有効であると報告されている。自然免疫応答の誘導の低減に関しては、2’-O-メチル、2’-フィオロ、2’-ヒドロでの特定の配列の修飾はTLR7/TLR8相互作用を低減する一方でサイレンシング活性を概ね維持すると報告されている。例えば、Judgeら,Mol.Ther.13:494-505(2006);およびCekaiteら,J.Mol.Biol.365:90-108(2007)を参照されたい。2-チオウラシル、シュードウラシル、5-メチルシトシン、5-メチルウラシルおよびN6-メチルアデノシンのような追加的な修飾も、TLR3、TLR7およびTLR8によって媒介される免疫効果を最小にすることが示されている。例えば、Karikoら,Immunity 23:165-175(2005)を参照されたい。
【0195】
当技術分野で同様に公知であり、商業的に入手可能な多数のコンジュゲートが、本明細書において用いられるRNAのようなポリヌクレオチドに適用可能であり、これらはそれらの送達および/または細胞による取り込みを向上させることが可能であり、例えばコレステロール、トコフェロールおよび葉酸、脂質、ペプチド、ポリマー、リンカーならびにアプタマーを包含する。例えば、Winkler,Ther.Deliv.4:791-809(2013)によるレビューおよびそれにおいて引用されている参考文献を参照されたい。
【0196】
追加的な配列
幾つかの実施形態においては、ガイドRNAは5’末端または3’末端のいずれかに少なくとも1つの追加的なセグメントを含む。例えば、適切な追加的なセグメントは以下のものを含みうる:5’キャップ(例えば、7-メチルグアニル酸キャップ(m7G));3’ポリアデニル化テール(例えば、3’ポリ(A)テール);リボスイッチ(riboswitch)配列(例えば、タンパク質および/またはタンパク質複合体による、調節された接近および/または調節された安定性を可能にするもの);dsRNA二本鎖を形成する配列(例えば、ヘアピン);RNAを細胞内位置(例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体など)に標的化する配列;追跡をもたらす修飾または配列(例えば、蛍光分子への直接結合、蛍光検出を容易にする部分への結合、蛍光検出を可能にする配列など);タンパク質(例えば、転写アクチベーター、転写リプレッサー、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAデメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼなどを含む、DNAに作用するタンパク質)への結合部位をもたらす修飾または配列;増強した、低減した、および/または制御可能な安定性をもたらす修飾または配列;ならびにそれらの組合せ。
【0197】
安定性制御配列
安定性制御配列はRNA(例えば、ガイドRNA)の安定性に影響を及ぼす。適切な安定性制御配列の非限定的な例としては、転写ターミネーターセグメント(例えば、転写終結配列)が挙げられる。ガイドRNAの転写ターミネーターセグメントは、10ヌクレオチド~100ヌクレオチド、例えば10ヌクレオチド(nt)~20nt、20nt~30nt、30nt~40nt、40nt~50nt、50nt~60nt、60nt~70nt、70nt~80nt、80nt~90nt、または90nt~100ntの全長を有しうる。例えば、転写ターミネーターセグメントは、15ヌクレオチド(nt)~80nt、15nt~50nt、15nt~40nt、15nt~30nt、または15nt~25ntの長さを有しうる。
【0198】
幾つかの実施形態においては、転写終結配列は、真核細胞において機能するものである。幾つかの実施形態においては、転写終結配列は、原核細胞において機能するものである。
【0199】
安定性制御配列(例えば、転写終結セグメント、または安定性の増強をもたらすガイドRNAの任意のセグメント)に含まれうるヌクレオチド配列には、例えば、Rho非依存性trp終結部位が含まれる。
【0200】
模倣体
幾つかの実施形態においては、核酸は核酸模倣体でありうる。ポリヌクレオチドに適用される「模倣体」なる語は、フラノース環のみまたはフラノース環とヌクレオチド間結合との両方が非フラノース基で置換されているポリヌクレオチドを含むと意図され、フラノース環のみの置換体は当技術分野においては糖代用物(sugar surrogate)とも称される。複素環塩基部分または修飾複素環塩基部分は適切な標的核酸とのハイブリダイゼーションのために維持される。1つのそのような核酸である、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが示されているポリヌクレオチド模倣体は、ペプチド核酸(PNA)と称される。PNAにおいては、ポリヌクレオチドの糖骨格がアミド含有骨格、特にアミノエチルグリシン骨格で置換される。ヌクレオチドは保持され、骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合している。
【0201】
優れたハイブリダイゼーション特性を有することが報告されている1つのポリヌクレオチド模倣体として、ペプチド核酸(PNA)が挙げられる。PNA化合物における骨格は2以上の連結アミノエチルグリシン単位であり、これはPNAにアミド含有骨格をもたらす。複素環式塩基部分は骨格のアミド部分のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合している。PNA化合物の製造を記載している代表的な米国特許には、米国特許第5,539,082号、第5,714,331号および第5,719,262号が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0202】
研究されているポリヌクレオチド模倣体のもう1つのクラスは、モルホリノ環に結合した複素環塩基を有する連結モルホリノ単位(モルホリノ核酸)に基づく。モルホリノ核酸におけるモルホリノ単量体単位を連結する多数の連結基が報告されている。非イオン性オリゴマー化合物を得るために、1つの連結基クラスが選択された。非イオン性のモルホリノに基づくオリゴマー化合物は、細胞タンパク質との望ましくない相互作用を引き起こす可能性がより低い。モルホリノに基づくポリヌクレオチドはオリゴヌクレオチドの非イオン性模倣体であり、これは、細胞タンパク質との望ましくない相互作用を引き起こす可能性がより低い(Dwaine A.Braasch and David R.Corey,Biochemistry,2002,41(14),45034510)。モルホリノに基づくポリヌクレオチドは米国特許第5,034,506号に開示されている。単量体サブユニットを連結する多種多様な連結基を有する、ポリヌクレオチドのモルホリノクラス内の種々の化合物が製造されいる。
【0203】
ポリヌクレオチド模倣体のもう1つのクラスはシクロヘキセニル核酸(GeNA)と称される。DNA/RNA分子に通常存在するフラノース環がシドヘキセニル環で置換されている。古典的なホスホルアミダイト化学法に従い、GeNADMTで保護されたホスホルアミダイト単量体が製造され、オリゴマー化合物の合成に使用されている。完全修飾GeNAオリゴマー化合物、およびGeNAで修飾された特定の位置を有するオリゴヌクレオチドが製造され、研究されている(Wangら,J.Am.Chem.Soc.,2000,122,85958602を参照されたい)。一般に、DNA鎖内へのGeNA単量体の組み込みはDNA/RNAハイブリッドの安定性を増強する。GeNAオリゴアデニラートは、天然複合体に類似した安定性を有する、RNAおよびDNA相補体との複合体を形成した。GeNA構造を天然核酸構造内に組み込む研究は、NMRおよび円二色性によって、容易なコンホメーション適応を続行することが示された。
【0204】
もう1つの修飾には、ロックト核酸(Locked Nucleic Acid)(LNA)が含まれ、これにおいては、2’-ヒドロキシル基が糖環の4’炭素原子に連結されており、それによって2’-C,4’-C-オキシメチレン結合が形成されており、それによって二環式糖部分が形成されている。連結は、2’酸素原子と4’炭素原子を架橋するメチレン(-CH-)基であり、ここで、nは1または2である(Singhら,Chem.Commun.,1998,4,455-456)。LNAおよびLNA類似体は、相補的DNAおよびRNAとの非常に高い二重鎖熱安定性(Tm=+3~+10℃)、3’エキソヌクレオチド分解に対する安定性、および良好な溶解特性を示す。LNAを含有する強力かつ無毒性のアンチセンスオリゴヌクレオチドが記載されている(Wahlestedtら,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A,2000,97,5633-5638)。
【0205】
LNA単量体であるアデニン、シトシン、グアニン、5-メチル-シトシン、チミン、ウラシルの合成および製造、ならびにそれらのオリゴマー化および核酸認識特性が記載されている(Koshkinら,Tetrahedron,1998,54,3607-3630)。LNAおよびその製造はWO 98/39352およびWO 99/14226にも記載されている。
【0206】
修飾糖部分
核酸は1以上の置換糖部分を含みうる。適切なポリヌクレオチドは、OH;F;O-、S-もしくはN-アルキル;O-、S-もしくはN-アルケニル;O-、S-もしくはN-アルキニル;またはO-アルキル-O-アルキル(ここで、アルキル、アルケニルおよびアルキニルは、置換されていても置換されていなくてもよいC1~C10アルキルまたはC2~C10アルケニルおよびアルキニルである)から選択される糖置換基を含む。特に適しているのは、O((CH2)nO)mCH3、O(CH2)nOCH3、O(CH2)nNH2、O(CH2)CH3、O(CH2)nONH2およびO(CH2)nON((CH2)nCH3)2であり、ここで、nおよびmは1~約10である。他の適切なポリヌクレオチドは、C1~C10低級アルキル、置換低級アルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリル、アラルキル、O-アルカリルもしくはO-アラルキル、SH、SCH3、OCN、Cl、Br、CN、CF3、OCF3、SOCH3、SO2CH3、ONO2、NO2、N3、NH2、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA切断基、レポーター基、インターカレーター、オリゴヌクレオチドの薬物動態学的特性を改善するための基、またはオリゴヌクレオチドの薬力学的特性を改善するための基、および類似特性を有する他の置換基から選択される糖置換基を含む。適切な修飾には、2’-メトキシエトキシ 2’-O-CH2-CH2OCH3[-2’-O-(2-メトキシエチル)または2’-MOEとしても公知である](Martinら,Hely.Chim.Acta,1995,78,486-504)、例えばアルコキシアルコキシ基が含まれる。もう1つの適切な修飾には、2’-ジメチルアミノオキシエトキシ、例えば、本明細書中の後記実施例に記載されているO(CH2)2ON(CH3)2基(2’-DMAOE)および2’ジメチルアミノエトキシエトキシ(当技術分野においては2’-O-ジメチル-アミノ-エトキシ-エチルまたは2’DMAEOEとしても公知である)、例えば2’-O-CH2-O-CH2-N(CH3)2が含まれる。
【0207】
他の適切な糖置換基には、メトキシ(-O-CH3)、アミノプロポキシ(-O-CH2CH2CH2NH2)、アリル(-CH2-CH=CH2)、-O-アリル(-O-CH2-CH=CH2)およびフルオロ(F)が含まれる。2’-糖置換基はアラビノ(上)位またはリボ(下)位に位置しうる。適切な2’-アラビノ修飾は2’-Fである。オリゴマー化合物の他の位置、特に、3’末端ヌクレオシドまたは2’-5’連結オリゴヌクレオチドにおける糖の3’位、および5’末端ヌクレオチドの5’位においても、類似修飾が施されうる。オリゴマー化合物は、ペントフラノシル糖の代わりにシクロブチル部分のような糖模倣体をも有しうる。
【0208】
塩基の修飾および置換
核酸は核酸塩基(当技術分野においては単に「塩基」と称されることが多い)の修飾または置換をも含みうる。本明細書中で用いる「未修飾」または「天然」核酸塩基には、プリン塩基であるアデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基であるチミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)が含まれる。修飾核酸塩基には、他の合成および天然の核酸塩基、例えば5-メチルシトシン(5-me-C)、5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6-メチルおよびの他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2-プロピルおよび他のアルキル誘導体、2-チオウラシル、2-チオチミンおよび2-チオシトシン、5-ハロウラシルおよびシトシン、5-プロピニル(-C=C-CH3)ウラシルおよびシトシンおよびピリミジン塩基の他のアルキニル誘導体、6-アゾウラシル、シトシンおよびチミン、5-ウラシル(シュードウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシルおよび他の8-置換アデニンおよびグアニン、5-ハロ、特に5-ブロモ、5-トリフルオロメチルおよび他の5-置換ウラシルおよびシトシン、7-メチルクアニンおよび7-メチルアデニン、2-F-アデニン、2-アミノアデニン、8-アザグアニンおよび8-アザアデニン、7-デアザグアニンおよび7-デアザアデニンおよび3-デアザグアニンおよび3-デアザアデニンが含まれる。更に他の修飾核酸塩基には、三環式ピリミジン、例えばフェノキサジンシチジン(1H-ピリミド(5,4-b)(1,4)ベンゾオキサジン-2(3H)-オン)、フェノチアジンシチジン(1H-ピリミド(5,4-b)(1,4)ベンゾチアジン-2(3H)-オン)、G-クランプ、例えば置換フェノキサジンシチジン(例えば、9-(2-アミノエトキシ)-H-ピリミド(5,4-(b)(1,4)ベンゾオキサジン)-2(3H)オン)、カルバゾールシチジン(2H-ピリミド(4,5-b)インドール-2-オン)、ピリドインドールシチジン(H-ピリド(3’,2’:4,5)ピロロ(2,3)-d)ピリミジン-2-オン)が含まれる。
【0209】
複素環塩基部分には、プリンまたはピリミジン塩基が他の複素環、例えば7-デアザ-アデニン、7-デアザグアノシン、2-アミノピリジンおよび2-ピリドンで置換されたものも含まれうる。更に他の核酸塩基には、米国特許第3,687,808号に開示されているもの、The Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering,pp.858-859,Kroschwitz,J.1.編,John Wiley & Sons,1990に開示されているもの、Englischら,Angewandte Chemie,International Edition,1991,30,613に開示されているもの、ならびにSanghvi,Y.S.,Chapter 15,Antisense Research and Applications,pp.289-302,Crooke,S.T.およびLebleu,B.編,CRC Press,1993に開示されているものが含まれる。これらの核酸塩基の或るものは、オリゴマー化合物の結合アフィニティを増加させるのに有用である。これらには、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジンおよびN-2、N-6およびO-6置換プリン、例えば2-アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシルおよび5-プロピニルシトシンが含まれる。5-メチルシトシン置換は、核酸二本鎖安定性を0.6~1.2℃増加させることが示されており(Sanghviら編,Antisense Research and Applications,CRC Press,Boca Raton,1993,pp.276-278)、例えば2’-O-メトキシエチル糖修飾と組合された場合に適切な塩基置換である。
【0210】
「相補的」は、天然または非天然(例えば、前記のとおりに修飾された)塩基(ヌクレオシド)またはその類似体を含む2つの配列の間で塩基スタッキングおよび特異的水素結合によって対形成しうることを意味する。例えば、核酸の或る位置の塩基が標的の対応位置の塩基と水素結合しうる場合、それらの塩基はその位置において互いに相補的であるとみなされる。核酸には、普遍的(ユニバーサル)塩基、または水素結合に正もしくは負の寄与をもたらさない不活性な脱塩基(abasic)スペーサーが含まれうる。塩基対形成には、標準的なワトソン-クリック塩基対形成および非ワトソン-クリック塩基対形成(例えば、ウォブル塩基対形成およびフーグスティーン塩基対形成)の両方が含まれうる。
【0211】
相補的塩基対形成の場合、アデノシン型塩基(A)はチミジン型塩基(T)またはウラシル型塩基(U)に相補的であり、シトシン型塩基(C)はグアノシン型塩基に相補的であり、3-ニトロピロールまたは5-ニトロインドールのような普遍的塩基は任意のA、C、UまたはTにハイブリダイズ可能であり、それらに相補的であるとみなされている、と理解される。Nicholsら,Nature,1994;369:492-493およびLoakesら,Nucleic Acids Res.,1994;22:4039-4043。当技術分野においてはイノシン(I)も普遍的塩基であるとみなされており、任意のA、C、UまたはTに相補的であるとみなされている。WatkinsおよびSantalucia,Nucl.Acids Research,2005;33(19):6258-6267を参照されたい。
【0212】
コンジュゲート
核酸のもう1つの可能な修飾は、オリゴヌクレオチドの活性、細胞分布または細胞取り込みを向上させる1以上の部分またはコンジュゲートをポリヌクレオチドに化学的に連結することを含む。これらの部分またはコンジュゲートには、一級または二級ヒドロキシル基のような官能基に共有結合したコンジュゲート・グループが含まれうる。コンジュゲート・グループには、インターカレーター、レポーター分子、ポリアミン、ポリアミド、ポリエチレングリコール、ポリエーテル、オリゴマーの薬力学特性を増強するグループ、およびオリゴマーの薬物動態特性を増強するグループが含まれるが、これらに限定されるものではない。適切なコンジュゲート・グループには、コレステロール、脂質、リン脂質、ビオチン、フェナジン、フォラート、フェナントリジン、アントラキノン、アクリジン、フルオレセイン、ローダミン、クマリンおよび色素が含まれるが、これらに限定されるものではない。薬力学的特性を増強しうるグループには、取り込みを改善し、分解に対する抵抗性を増強し、および/または標的核酸に対する配列特異的ハイブリダイゼーションを増強するグループが含まれる。薬物動態特性を増強しうるグループには、核酸の取り込み、分布、代謝または排泄を改善するグループが含まれる。
【0213】
コンジュゲート部分には、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:脂質部分、例えばコレステロール部分(Letsingerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1989,86,6553-6556)、コール酸(Manoharanら,Bioorg.Med.Chem.Let.,1994,4,1053-1060)、チオエーテル、例えばヘキシル-S-トリチルチオール(Manoharanら,Ann.N.Y.Acad.Sci.,1992,660,306-309;Manoharanら,Bioorg.Med.Chem.Let.,1993,3,2765-2770)、チオコレステロール(Oberhauserら,Nucl.Acids Res.,1992,20,533-538)、脂肪族鎖、例えばドデカンジオールまたはウンデシル残基(Saison-Behmoarasら,EMBO J.,1991,10,1111-1118;Kabanovら,FEBS Lett.,1990,259,327-330;Svinarchukら,Biochimie,1993,75,49-54)、リン脂質、例えばジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールまたはトリエチルアンモニウム 1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホナート(Manoharanら,Tetrahedron Lett.,1995,36,3651-3654;Sheaら,Nucl.Acids Res.,1990,18,3777-3783)、ポリアミンまたはポリエチレングリコール鎖(Manoharanら,Nucleosides & Nucleotides,1995,14,969-973)、またはアダマンタン酢酸(Manoharanら,Tetrahedron Lett.,1995,36,36513654)、パルミチル部分(Mishraら,Biochim.Biophys.Acta,1995,1264,229-237)、あるいはオクタデシルアミンまたはヘキシルアミノ-カルボニル-オキシコレステロール部分(Crookeら,J.Pharmacal.Exp.Ther.,1996,277,923-937)。
【0214】
コンジュゲートは「タンパク質形質導入ドメイン(Protein Transduction Domain)」またはPTD(CPP - 細胞透過性ペプチドとしても公知である)を含むことが可能であり、これは、脂質二重層、ミセル、細胞膜、オルガネラ膜または小胞膜の通過を促進させるポリペプチド、ポリヌクレオチド、炭水化物または有機もしくは無機化合物を意味しうる。小さな極性分子から大きな高分子および/またはナノ粒子までの範囲にわたりうる別の分子に結合したPTDは、分子が膜を通過すること、例えば細胞外腔から細胞内腔へ、またはサイトゾルからオルガネラ内へ移動することを促進させる。幾つかの実施形態においては、PTDは外因性ポリペプチド(例えば、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体)のアミノ末端に共有結合している。幾つかの実施形態においては、PTDは外因性ポリペプチド(例えば、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体)のC末端またはN末端に共有結合している。幾つかの実施形態においては、PTDは核酸(例えば、ガイドRNA、ガイドRNAをコードするポリヌクレオチド、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするポリヌクレオチドなど)に共有結合している。例示的なPTDには、以下のものを含む最小ウンデカペプチドタンパク質形質導入ドメイン(HIV-1 TATの残基47~57に対応する(J Dispers Sci Technol.2003;24(3):465-473))が含まれるが、これに限定されるものではない:細胞内への進入を導くのに十分な数のアルギニン(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10または10~50個のアルギニン)を含むポリアルギニン配列;VP22ドメイン(Zenderら(2002)Cancer Gene Ther.9(6):489-96);ショウジョウバエアンテナペディアタンパク質形質導入ドメイン(Noguchiら(2003)Diabetes 52(7):1732-1737);トランケート化ヒトカルシトニンペプチド(Trehinら(2004)Pharm.Research 21:1248-1256);ポリリジン(Wenderら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:13003-13008)。幾つかの実施形態においては、PTDは活性化可能なCPP(ACPP)である(Aguileraら(2009)lntegr Biol(Camb)June;1(5-6):371-381)。ACPPには、正味電荷をほぼゼロに減少させることによって細胞への接着および細胞内への取り込みを抑制する、対応ポリアニオン(例えば、Glu9または「E9」)に切断可能リンカーを介して連結されたポリカチオン性CPP(例えば、Arg9または「R9」)が含まれる。リンカーの切断に際して、該ポリアニオンが放出されて、ポリアルギニンおよびその固有の接着性が局所的に脱遮蔽(unmask)されて、膜を通過するようにACPPが「活性化」される。幾つかの実施形態においては、PTDは、PTDの生物学的利用能を高めるために化学修飾される。例示的な修飾はExpert Opin Drug Deliv.2009 Nov;6(11):1195-205に開示されている。
【0215】
ポリペプチド修飾
コドン最適化ポリヌクレオチド配列から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、インビトロで、または真核細胞、原核細胞もしくはインビトロ転写および翻訳(IVTT)によって製造可能であり、それはアンフォールディング、例えば熱変性、OTT減少などによって更にプロセシングされることが可能であり、当技術分野で公知の方法を用いて更にリフォールディングされうる。
【0216】
一次配列を改変しない、関心のある修飾には、ポリペプチドの化学的誘導体化、例えばアシル化、アセチル化、カルボキシル化、アミド化などが含まれる。また、グリコシル化の修飾も含まれ、例えば、合成およびプロセシング中に、または更なるプロセシング段階において、ポリペプチドのグリコシル化パターンを修飾することによって、例えば、グリコシル化に影響を及ぼす酵素(例えば、哺乳類グリコシル化または脱グリコシル化酵素)にポリペプチドをさらすことによって行われる、グリコシル化の修飾も含まれる。また、リン酸化アミノ酸残基、例えばホスホチロシン、ホスホセリンまたはホスホスレオニンを有する配列も含まれる。
【0217】
幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、タンパク質分解に対するそれらの抵抗性を改善するために、または標的配列特異性を変化させるために、または溶解特性を最適化するために、またはタンパク質活性(例えば、転写調節活性、酵素活性など)を変化させるために、またはそれらを治療用物質として、より適したものにするために、通常の分子生物学的技術および合成化学を用いて修飾されている。そのようなポリペプチドの類似体には、天然に存在するL-アミノ酸以外の残基、例えばO-アミノ酸または非天然合成アミノ酸を含有するものが含まれる。アミノ酸残基の一部または全部がD-アミノ酸によって置換されうる。M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、当技術分野で公知の通常の方法を用いて、インビトロ合成によって製造されうる。種々の市販の合成装置、例えば、Applied Biosystems,Inc.、Beckmanなどによる自動合成装置が入手可能である。合成装置を使用することによって、天然アミノ酸は非天然アミノ酸で置換されうる。製造の個々の順序および方法は利便性、経済性、要求される純度などによって決定されうる。
【0218】
所望により、合成中または発現中に種々の基がペプチド内に導入可能であり、これは他の分子への又は表面への結合を可能にする。例えば、チオエーテルを得るためにはシステインが使用可能であり、金属イオン錯体に結合させるためにはヒスチジンが使用可能であり、アミドまたはエステルを形成させるためにはカルボキシル基が使用可能であり、アミドを形成させるためにはアミノ基が製造可能である、などである。
【0219】
組換え細胞
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているコドン最適化M-SmallCas9系は、真核細胞、例えば哺乳類細胞、例えばヒト細胞において使用されうる。本明細書に開示されているコドン最適化M-SmallCas9系と共に使用されるには、任意のヒト細胞が適している。
【0220】
幾つかの実施形態においては、エクスビボまたはインビトロの細胞は、(a)本明細書に記載されているM-SmallCas9ポリペプチドもしくは変異体をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体;および(b)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列へと導きうる(ガイドしうる)gRNA、または該gRNAをコードする核酸を含む。幾つかの実施形態においては、細胞は、コドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸を含む。幾つかの実施形態においては、細胞はgRNAを含む。幾つかの実施形態においては、細胞は、gRNAをコードする核酸を含む。幾つかの実施形態においては、gRNAはシングルガイドRNA(sgRNA)である。幾つかの実施形態においては、細胞は1以上の追加的なgRNA、または1以上の追加的なgRNAをコードする核酸を含む。幾つかの実施形態においては、細胞はドナー鋳型を更に含む。
【0221】
1つの態様においては、本明細書に開示されている幾つかの実施形態は、本明細書において提供される核酸を宿主細胞内、例えば動物細胞内に導入すること、および形質転換細胞を選択またはスクリーニングすることを含む、細胞を形質転換する方法に関する。「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」なる語は本明細書において互換的に用いられる。そのような用語は、特定の対象細胞を意味するだけでなく、そのような細胞の後代または潜在的後代をも意味すると理解される。突然変異または環境的影響により、後続の世代において或る修飾が生じうるため、そのような後代は実際には親細胞と同一ではない可能性があるが、本明細書中で用いる用語の範囲内に尚も含まれる。前記の多種多様な宿主細胞および種を形質転換するための技術が当技術分野で公知であり、科学技術文献に記載されている。したがって、本明細書に開示されている少なくとも1つの組換え細胞を含む細胞培養も本出願の範囲内である。細胞培養を作製し維持するのに適した方法および系は当技術分野で公知である。
【0222】
関連態様において、幾つかの実施形態は、組換え宿主細胞、例えば、本明細書に記載されている核酸を含む組換え動物細胞に関する。核酸は宿主ゲノム内に安定に組み込まれることが可能であり、あるいはエピソーム複製されること、または安定もしくは一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして組換え宿主細胞内に存在することが可能である。したがって、本明細書に開示されている幾つかの実施形態においては、核酸はエピソーム単位として組換え宿主細胞内で維持され複製される。幾つかの実施形態においては、核酸は組換え細胞のゲノム内に安定に組み込まれる。幾つかの実施形態においては、核酸は安定または一過性発現のためのミニサークル発現ベクターとして組換え宿主細胞内に存在する。
【0223】
幾つかの実施形態においては、宿主細胞は、例えば、本出願のベクター構築物で遺伝的に操作(例えば、形質導入または形質転換またはトランスフェクト)されることが可能であり、該ベクター構築物は、例えば、宿主細胞のゲノムの一部に相同な核酸配列を含む相同組換えのためのベクターであることが可能であり、あるいは、関心のある遺伝子のいずれかまたは組合せの発現のための発現ベクターであることが可能である。ベクターは、例えば、プラスミド、ウイルス粒子、ファージなどの形態でありうる。幾つかの実施形態においては、関心のあるポリペプチドの発現のためのベクターはまた、例えば相同組換えによって、宿主内に組み込まれるように設計されうる。
【0224】
幾つかの実施形態においては、本開示は、遺伝的に修飾された宿主細胞(遺伝的修飾宿主細胞)、例えば、単離された遺伝的修飾宿主細胞を提供し、ここで、遺伝的修飾宿主細胞は、1)外因性ガイドRNA;2)ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸;3)M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む外因性核酸;4)コドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸から発現される外因性M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体;あるいは5)前記の任意の組合せを含む。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾細胞は、例えば、1)外因性ガイドRNA;2)ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸;3)M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む外因性核酸;4)コドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸から発現される外因性M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体;あるいは5)前記の任意の組合せで、宿主細胞を遺伝的に修飾することによって作製される。
【0225】
前記の標的細胞に適した全ての細胞は、遺伝的に修飾される宿主細胞(遺伝的修飾宿主細胞)にも適している。例えば、関心のある遺伝的修飾宿主細胞は、任意の生物に由来する細胞、例えば、細菌細胞、古細菌細胞、単細胞真核生物の細胞、植物細胞、藻類細胞[例えば、ボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)、クラミドモナス・レインハルドティー(Chlamydomonas reinhardtii)、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)、クロレラ・ピレノイドサ(Chlorela pyrenoidosa)、サルガッスム・パテンス(Sargassum patens)(C.Agardh)など]、真菌細胞(例えば、酵母細胞)、動物細胞、無脊椎動物(例えば、ショウジョウバエ、刺胞動物、棘皮動物、線虫など)に由来する細胞、脊椎動物(例えば、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)に由来する細胞、哺乳類(例えば、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、げっ歯類、ラット、マウス、非ヒト霊長類、ヒトなど)に由来する細胞でありうる。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞はヒト由来の任意の細胞でありうる。
【0226】
幾つかの実施形態においては、本開示の遺伝的修飾宿主細胞は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸で遺伝的に修飾されている。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は、本明細書に記載されているM-SmallCas9ポリペプチドまたは変異体をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸で遺伝的に修飾されている。遺伝的修飾宿主細胞のDNAは、ガイドRNA(または修飾されるべきゲノム位置/配列を決定するガイドRNAをコードするDNA)を、そして所望によりドナー核酸を、細胞内に導入することによって、修飾のために標的化されうる。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするヌクレオチド配列は誘導性プロモーター(例えば、熱ショックプロモーター、テトラサイクリン調節性プロモーター、ステロイド調節性プロモーター、金属調節性プロモーター、エストロゲン受容体調節性プロモーターなど)に機能的に連結される。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列は、空間的に制限されるおよび/または時間的に制限されるプロモーター(例えば、組織特異的プロモーター、細胞型特異的プロモーター、細胞周期特異的プロモーター)に機能的に連結される。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列は構成的プロモーターに機能的に連結される。
【0227】
幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞はインビトロである。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞はインビボである。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は原核細胞であり、または原核細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は細菌細胞であり、または細菌細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は古細菌細胞であり、または古細菌細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は真核細胞であり、または真核細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は植物細胞であり、または植物細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は動物細胞であり、または動物細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は無脊椎動物細胞であり、または無脊椎動物細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は脊椎動物細胞であり、または脊椎動物細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は哺乳類細胞であり、または哺乳類細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞はげっ歯類細胞であり、またはげっ歯類細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞はヒト細胞であり、またはヒト細胞に由来する。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞はヒト細胞であり、またはヒト細胞に由来する。
【0228】
本開示は更に、遺伝的修飾細胞の後代を提供し、ここで、後代は、それが由来する遺伝的修飾細胞と同じ外因性核酸またはポリペプチドを含みうる。本開示は更に、幾つかの実施形態において、遺伝的修飾宿主細胞を含む組成物を提供する。
【0229】
幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は、遺伝的に修飾された幹細胞または前駆細胞である。適切な宿主細胞には、例えば幹細胞(成体幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞など)および前駆細胞(例えば、心臓前駆細胞、神経前駆細胞など)が含まれる。他の適切な宿主細胞には、哺乳類幹細胞および前駆細胞、例えばげっ歯類幹細胞、げっ歯類前駆細胞、ヒト幹細胞、ヒト前駆細胞などが含まれる。他の適切な宿主細胞には、インビトロ宿主細胞、例えば単離された宿主細胞が含まれる。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は外因性ガイドRNA核酸を含む。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は、ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸を含む。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は、コドン最適化ヌクレオチド配列から発現される外因性M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を含む。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む外因性核酸を含む。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は、1)ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列と、2)M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列とを含む外因性核酸を含む。
【0230】
非ヒト遺伝的修飾生物
幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む外因性核酸で遺伝的に修飾されている。そのような細胞が真核性単細胞生物である場合、修飾細胞は遺伝的修飾生物であるとみなされうる。幾つかの実施形態においては、非ヒト遺伝的修飾生物はM-SmallCas9トランスジェニック多細胞生物である。
【0231】
幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾非ヒト宿主細胞(例えば、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む外因性核酸で遺伝的に修飾された細胞)は、遺伝的に修飾された非ヒト生物(例えば、マウス、魚類、カエル、ハエ、線虫など)を生成しうる。例えば、遺伝的修飾宿主細胞が多能性幹細胞(例えば、PSC)または生殖細胞(例えば、精子、卵母細胞など)である場合、遺伝的修飾生物全体が遺伝的修飾宿主細胞に由来しうる。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は、遺伝的に修飾された生物を生成しうる、インビボまたはインビトロのいずれかにおける多能性幹細胞(例えば、ESC、iPSC、多能性植物幹細胞など)または生殖細胞(例えば、精子細胞、卵母細胞など)である。幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾宿主細胞は脊椎動物PSC(例えば、ESC、iPSCなど)であり、[例えば、PSCを胚盤胞内に注入してキメラ/モザイク動物(次いで、これを交配させて、非キメラ/非モザイクの遺伝的修飾生物を作製することが可能である)を得ることによって、または植物の場合は接ぎ木によって、など]遺伝的修飾生物を作製するために使用される。本明細書に記載されている方法を含む、遺伝的修飾生物を作製するための任意の適切な方法/プロトコルは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む外因性核酸を含む遺伝的修飾宿主細胞を作製するのに適している。遺伝的修飾生物の生産方法は当技術分野で公知である。例えば、Choら,Curr Protoc Cell Biol.2009 Mar;Chapter 19:Unit 19.11:Generation of transgenic mice;Gamaら,Brain Struct Funct.2010 Mar;214(2-3):91-109.Epub 2009 Nov 25:Animal transgenesis:an overview;Husainiら,GM Crops.2011 Jun-Dec;2(3):150-62.Epub 2011 Jun 1:Approaches for gene targeting and targeted gene expression in plantsを参照されたい。
【0232】
幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾生物は本開示の方法のための標的細胞を含み、したがって、標的細胞の供給源とみなされうる。例えば、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む外因性核酸を含む遺伝的修飾細胞を、遺伝的修飾生物を作製するために使用する場合、遺伝的修飾生物の細胞は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む外因性核酸を含む。幾つかのそのような実施形態においては、遺伝的修飾生物の細胞のDNAは、ガイドRNA(またはガイドRNAをコードするDNA)を、そして所望によりドナー核酸を、細胞内に導入することによって、修飾のために標的化されうる。例えば、遺伝的修飾生物の細胞のサブセット(例えば、脳細胞、腸細胞、腎細胞、肺細胞、血液細胞など)内へのガイドRNA(またはガイドRNAをコードするDNA)の導入は修飾のためにそのような細胞のDNAを標的化することが可能であり、そのゲノム位置は、導入されるガイドRNAのDNA標的化配列に左右されるであろう。
【0233】
幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾生物は本開示の方法のための標的細胞の供給源である。例えば、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む外因性核酸で遺伝的に修飾された細胞を含む遺伝的修飾生物は、遺伝的修飾細胞、例えばPSC(例えばESC、iPS細胞、精子、卵母細胞など)、ニューロン、前駆細胞、心筋細胞などの供給源となりうる。
【0234】
幾つかの実施形態においては、遺伝的修飾細胞は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む外因性核酸を含むPSCである。したがって、PSCは標的細胞となることが可能であり、この場合、ガイドRNA(またはガイドRNAをコードするDNA)を、そして所望によりドナー核酸を、PSC内に導入することによって、PSCのDNAが修飾のために標的化可能であり、修飾のゲノム位置は、導入されるガイドRNAのDNA標的化配列に左右されるであろう。したがって、幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は、遺伝的修飾生物に由来するPSCのDNAを修飾する(例えば、任意の所望のゲノム位置を欠失および/または置換する)ために使用されうる。次いで、そのような修飾PSCを使用して、(i)M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む外因性核酸と、(ii)PSC内に導入されたDNA修飾との両方を有する生物を作製することが可能である。
【0235】
幾つかの実施形態においては、外因性核酸は、(例えば、核酸が宿主細胞ゲノム内にランダムに組み込まれる場合)未知プロモーターの制御下にある(例えば、それに機能的に連結されている)ことが可能であり、または公知プロモーターの制御下にある(例えば、それに機能的に連結されている)ことが可能である。適切な公知プロモーターは任意の公知プロモーターであることが可能であり、構成的に活性なプロモーター(例えば、CMVプロモーター)、誘導性プロモーター(例えば、熱ショックプロモーター、テトラサイクリン調節性プロモーター、ステロイド調節性プロモーター、金属調節性プロモーター、エストロゲン受容体調節性プロモーターなど)、空間的に制限されるおよび/または時間的に制限されるプロモーター(例えば、組織特異的プロモーター、細胞型特異的プロモーターなど)などを包含する。
【0236】
遺伝的修飾生物(例えば、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む細胞を有する生物)は、例えば植物、藻類、無脊椎動物(例えば、刺胞動物、棘皮動物、線虫、ハエなど)、脊椎動物[例えば、魚類(例えば、ゼブラフィッシュ、フグ、金魚など)、両生類(例えば、サンショウウオ、カエルなど)、爬虫類、鳥類、哺乳類など]、有蹄動物(例えば、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシなど)、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット)、ウサギ目動物(例えば、ウサギ)などを含む任意の生物でありうる。
【0237】
幾つかの実施形態においては、活性部分はRNアーゼドメインである。幾つかの実施形態においては、活性部分はDNアーゼドメインである。
【0238】
トランスジェニック非ヒト動物
前記のとおり、幾つかの実施形態においては、核酸(例えば、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列)または組換え発現ベクターは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を産生するトランスジェニック動物を作製するための導入遺伝子として使用される。したがって、本開示は更に、前記のとおり、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む核酸を含む導入遺伝子を含むトランスジェニック非ヒト動物を提供する。幾つかの実施形態においては、トランスジェニック非ヒト動物のゲノムは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む。幾つかの実施形態においては、トランスジェニック非ヒト動物は遺伝的修飾に関してホモ接合性である。幾つかの実施形態においては、トランスジェニック非ヒト動物は遺伝的修飾に関してヘテロ接合性である。幾つかの実施形態においては、トランスジェニック非ヒト動物は、脊椎動物、例えば、魚類(例えば、ゼブラフィッシュ、金魚、フグ、洞窟魚など)、両生類(カエル、サンショウウオなど)、鳥類(例えば、ニワトリ、シチメンチョウなど)、爬虫類(例えば、ヘビ、トカゲなど)、哺乳類[例えば、有蹄動物、例えば、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジなど);ウサギ目動物(例えば、ウサギ)ウサギ);げっ歯類(例えば、ラット、マウス);非ヒト霊長類など]である。
【0239】
幾つかの実施形態においては、核酸は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む外因性核酸である。幾つかの実施形態においては、外因性核酸は、(例えば、核酸が宿主細胞ゲノム内にランダムに組み込まれる場合)未知プロモーターの制御下にある(例えば、それに機能的に連結されている)ことが可能であり、または公知プロモーターの制御下にある(例えば、それに機能的に連結されている)ことが可能である。適切な公知プロモーターは任意の公知プロモーターであることが可能であり、構成的に活性なプロモーター(例えば、CMVプロモーター)、誘導性プロモーター(例えば、熱ショックプロモーター、テトラサイクリン調節性プロモーター、ステロイド調節性プロモーター、金属調節性プロモーター、エストロゲン受容体調節性プロモーターなど)、空間的に制限されるおよび/または時間的に制限されるプロモーター(例えば、組織特異的プロモーター、細胞型特異的プロモーターなど)などを包含する。
【0240】
宿主細胞内への核酸の導入
幾つかの実施形態においては、本開示の方法は、ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列および/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む1以上の核酸を宿主細胞内に導入することを含む。幾つかの実施形態においては、標的DNAを含む細胞はインビトロである。幾つかの実施形態においては、標的DNAを含む細胞はインビボである。幾つかの実施形態においては、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするヌクレオチド配列は誘導性プロモーターに機能的に連結される。幾つかの実施形態においては、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするヌクレオチド配列は構成的プロモーターに機能的に連結される。
【0241】
ガイドRNA、またはそれをコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、種々の周知方法のいずれかによって、宿主細胞内に導入されうる。同様に、方法が、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするコドン最適化ヌクレオチド配列を含む核酸を宿主細胞内に導入することを含む場合、そのような核酸は種々の周知方法のいずれかによって宿主細胞内に導入されうる。ガイドポリヌクレオチド(RNAまたはDNA)および/またはM-SmallCas9ポリヌクレオチド(RNAまたはDNA)は、当技術分野で公知であるウイルスまたは非ウイルス送達ビヒクルによって送達されうる。
【0242】
核酸を宿主細胞内に導入する方法は当技術分野で公知であり、幹細胞または前駆細胞内に核酸(例えば、発現構築物)を導入するために任意の公知方法が用いられうる。適切な方法には、例えば、ウイルスまたはバクテリオファージ感染、トランスフェクション、接合、プロトプラスト融合、リポフェクション、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介トランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、パーティクルガン技術、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション、ナノ粒子媒介核酸送達(例えば、Panyamら,Adv Drug Deliv Rev.2012 Sep 13.pii:50169-409X(12)00283-9.doi:10.1016/j.addr.2012.09.023を参照されたい)など(エキソソーム送達が含まれるが、これに限定されるものではない)が含まれる。
【0243】
ポリヌクレオチドは、非ウイルス性送達ビヒクル、例えば、ナノ粒子、リポソーム、リボ核タンパク質、正荷電ペプチド、小分子RNAコンジュゲート、アプタマー-RNAキメラおよびRNA-融合タンパク質複合体(これらに限定されるものではない)によって送達されうる。幾つかの例示的な非ウイルス性送達ビヒクルは、PeerおよびLieberman,Gene Therapy,18:1127-1133(2011)(これは、他のポリヌクレオチドの送達にも有用であるsiRNA用非ウイルス性送達ビヒクルに焦点を合わせている)に記載されている。
【0244】
遺伝子編集のために本開示の核酸(例えば、mRNAおよびsgRNA)を送達するための適切な系および技術には、脂質ナノ粒子(LNP)が含まれる。本明細書中で用いる「脂質ナノ粒子」なる語は、層状性、形状または構造にかかわらず、リポソームを含み、また、細胞内への核酸および/またはポリペプチドの導入に関して記載されているリポプレックスを含む。これらの脂質ナノ粒子は、生物学的に活性な化合物(例えば、核酸および/またはポリペプチド)と複合体を形成することが可能であり、インビボ送達ビヒクルとして有用である。一般に、本開示の1以上の核酸を含む脂質ナノ粒子を製造するため、および生物学的に活性な化合物と前記脂質ナノ粒子との複合体を製造するために、当技術分野で公知の任意の方法が適用されうる。そのような方法の例は、例えば、Biochim Biophys Acta 1979,557:9;Biochim et Biophys Acta 1980,601:559;Liposomes:A practical approach(Oxford University Press,1990);Pharmaceutica Acta Helvetiae 1995,70:95;Current Science 1995,68:715;Pakistan Journal of Pharmaceutical Sciences 1996,19:65;Methods in Enzymology 2009,464:343)に詳細に開示されている。本開示の1以上の核酸および/またはポリペプチドを含むLNP製剤を製造するための特に適切な系および技術には、Intellia(例えば、WO2017173054A1を参照されたい)、Alnylam(例えば、WO2014008334A1を参照されたい)、Modernatx(例えば、WO2017070622A1およびWO2017099823A1を参照されたい)、TranslateBio、Acuitas(例えば、WO2018081480A1を参照されたい)、Genevant Sciences、Arbutus Biopharma、Tekmira、Arcturus、Merck(例えば、WO2015130584A2を参照されたい)、Novartis(例えば、WO2015095340A1を参照されたい)およびDicernaによって開発されたものが含まれるが、これらに限定されるものではない(これらの全ての刊行物の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)。
【0245】
ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするヌクレオチド配列を含む適切な核酸には、ガイドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターが含まれる。幾つかの実施形態においては、発現ベクターは、ウイルス構築物、例えば、組換えアデノ随伴ウイルス構築物(例えば、米国特許第7,078,387号を参照されたい)、組換えアデノウイルス構築物、組換えレンチウイルス構築物、組換えレトロウイルス構築物などである。適切な発現ベクターには、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:ウイルスベクター[例えば、以下のものに基づくウイルスベクター:ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス(例えば、Liら,Invest Opthalmol Vis Sci 35:2543 2549,1994;Borrasら,Gene Ther 6:515 524,1999;LiおよびDavidson,PNAS 92:7700 7704,1995;Sakamotoら,H Gene Ther 5:10881097,1999;WO 94/12649,WO 93/03769;WO 93/19191;WO 94/28938;WO 95/11984およびWO 95/00655を参照されたい)、アデノ随伴ウイルス(例えば、Aliら,Hum Gene Ther 9:81 86,1998,Flanneryら,PNAS 94:6916 6921,1997;Bennettら,Invest Opthalmol Vis Sci 38:2857 2863,1997;Jomaryら,Gene Ther 4:683-690,1997,Rollingら,Hum Gene Ther 10:641 648,1999;Aliら,Hum Mol Genet 5:591 594,1996;Srivastava,WO 93/09239,Samulskiら,J.Vir.(1989)63:3822-3828;Mendelsonら,Viral.(1988)166:154-165;およびFlotteら,PNAS(1993)90:10613-10617を参照されたい)、SV40、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(例えば、Miyoshiら,PNAS 94:10319 23,1997;Takahashiら,J Virol 73:7812 7816,1999を参照されたい)、レトロウイルスベクター[例えば、マウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、およびレトロウイルス(例えば、ラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、レンチウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルスおよび乳腺腫瘍ウイルス)に由来するベクター]など。
【0246】
アデノ随伴ウイルス(AAV)
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが送達に使用されうる。当技術分野におけるrAAV粒子を製造するための公知技術は、2つのAAV逆方向末端反復(ITR)間の、送達されるべきポリヌクレオチド、AAV repおよびcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能を、細胞に供与することである。rAAVの産生は、以下の成分が単一細胞(本明細書においてはパッケージング細胞と表記される)内に存在することを要する:2つのITR間の、関心のあるポリヌクレオチド、AAVゲノムから分離している(すなわち、AAVゲノム内に存在しない)AAV repおよびcap遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能。AAV rep遺伝子およびcap遺伝子は、組換えウイルスが由来しうる任意のAAV血清型に由来することが可能であり、パッケージ化ポリヌクレオチド上のITRのものとは異なるAAV血清型に由来することが可能であり、それらには、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13およびAAV rh.74が含まれるが、これらに限定されるものではない。シュードタイプ化rAAVの産生は、例えば、WO 01/83692に開示されている。
【表5】
【0247】
パッケージング細胞の作製方法は、AAV粒子産生に必要な成分の全てを安定に発現する細胞株を作製することである。例えば、AAV ITR間の、関心のあるポリヌクレオチドと、AAVゲノムから分離しているAAV rep遺伝子およびcap遺伝子と、ネオマイシン耐性遺伝子のような選択マーカーとを含むプラスミド(または複数のプラスミド)を、細胞のゲノム内に組み込む。AAVゲノムは、GCテーリング(tailing)(Samulskiら,1982,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ切断部位を含有する合成リンカーの付加(Laughlinら,1983,Gene,23:65-73)、または直接的な平滑末端連結(Senapathy & Carter,1984,J.Bioi.Chem.,259:4661-4666)のような方法によって、細菌プラスミド内に導入されている。次いでパッケージング細胞株にアデノウイルスのようなヘルパーウイルスを感染させる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模産生に適していることである。適切な方法の他の例は、プラスミドではなくアデノウイルスまたはバキュロウイルスを使用して、rAAVゲノムならびに/またはrepおよびcap遺伝子をパッケージング細胞内に導入する。
【0248】
rAAV産生の一般的原理は、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539;およびMuzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial.and lmmunol.,158:97-129において概説されている。種々のアプローチが以下のものに記載されている:Ratschinら,Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hermonatら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984);Tratschinら,Mol.Cell.Biol.5:3251(1985);Mclaughlinら,J.Virol.,62:1963(1988);およびLebkowskiら,1988 Mol.Cell.Biol.,7:349(1988).Samulskiら(1989,J.Virol.,63:3822-3828);米国特許第5,173,414号;WO 95/13365および対応する米国特許第No.5,658.776号;WO 95/13392;WO 96/17947;PCT/US98/18600;WO97/09441(PCT/US96/14423);WO 97/08298(PCT/US96/13872);WO 97/21825(PCT/US96/20777);WO 97/06243(PCT/FR96/01064);WO 99/11764;Perrinら(1995)Vaccine 13:1244-1250;Paulら(1993)Human Gene Therapy 4:609-615;Clarkら(1996)Gene Therapy 3:1124-1132;米国特許第5,786,211号;米国特許第5,871,982号;および米国特許第6,258,595号。
【0249】
形質導入に使用されるAAVベクター血清型は標的細胞型に左右される。例えば、以下の典型的な細胞型は、とりわけ、示されているAAV血清型によって形質導入されることが公知である。
【表6】
【0250】
多数の適切な発現ベクターが当業者に公知であり、多くは商業的に入手可能である。以下のベクターが例示される:真核宿主細胞の場合:pXT1、pSG5(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSGおよびpSVLSV40(Pharmacia)。しかし、宿主細胞に適合する限り、任意の他のベクターが使用されうる。
【0251】
利用される宿主/ベクター系に応じて、多数の適切な転写および翻訳制御要素のいずれか、例えば、構成的プロモーターおよび誘導性プロモーター、転写エンハンサー要素、転写ターミネーターなどが、発現ベクターにおいて使用されうる(例えば、Bitterら(1987)Methods in Enzymology,153:516-544を参照されたい)。
【0252】
幾つかの実施形態においては、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体はRNAとして提供されうる。そのような場合、M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするRNAおよび/またはガイドRNAは直接的な化学合成によって製造可能であり、あるいは、ガイドRNAをコードするDNAからインビトロで転写されうる。DNA鋳型からRNAを合成する方法は当技術分野で周知である。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするRNAおよび/またはガイドRNAは、RNAポリメラーゼ酵素(例えば、T7ポリメラーゼ、T3ポリメラーゼ、SP6ポリメラーゼなど)を使用して、インビトロで合成される。RNAは、合成されると、標的DNAと直接接触することが可能であり、または核酸を細胞内に導入するための周知の技術(例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、トランスフェクションなど)のいずれかによって細胞内に導入されうる。
【0253】
ガイドRNA(DNAまたはRNAとして導入される)および/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体(DNAまたはRNAとして導入される)および/またはドナーポリヌクレオチドをコードするヌクレオチドは、十分に開発されたトランスフェクション技術を用いて、細胞に供与されうる。例えば、AngelおよびYanik(2010)PLoS ONE 5(7):e 11756、ならびに商業的に入手可能な、QiagenのTransMessenger(登録商標)試薬、StemgentのStemfect(商標)RNAトランスフェクションキット、およびMims BioのTransiT(登録商標)-mRNAトランスフェクションキットを参照されたい。また、Beumerら(2008)Efficient gene targeting in Drosophila by direct embryo injection with zinc-finger nucleases.PNAS 105(50):19821-19826も参照されたい。追加的または代替的に、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはM-SmallCas9融合ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドをコードする核酸はDNAベクター上で供与されうる。核酸を標的細胞内に導入するのに有用な多数のベクター(例えば、プラスミド、コスミド、ミニサークル、ファージ、ウイルスなど)が利用可能である。核酸を含むベクターは、例えばプラスミド、ミニサークルDNA、ウイルス、例えばサイトメガロウイルス、アデノウイルスなどとして、エピソーム的に維持されることが可能であり、それらは、相同組換えまたはランダム組み込みによって、例えばレトロウイルス由来ベクター、例えばMMLV、HIV-1、ALVなどによって、標的細胞ゲノムに組み込まれうる。
【0254】
ベクターは細胞に直接的に供与されうる。換言すれば、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはM-SmallCas9融合ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドをコードする核酸を含むベクターと細胞を接触させて、ベクターを細胞に取り込ませる。プラスミドである核酸ベクターと細胞を接触させるための方法、例えばエレクトロポレーション、塩化カルシウムトランスフェクション、マイクロインジェクションおよびリポフェクションは当技術分野で周知である。ウイルスベクター送達のために、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはM-SmallCas9融合ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドをコードする核酸を含むウイルス粒子と細胞を接触させる。レトロウイルス、例えばレンチウイルスは、本開示の方法に特に適している。一般的に使用されるレトロウイルスベクターは「欠損型」であり、例えば、増殖性感染に必要なウイルスタンパク質を産生できない。したがって、ベクターの複製はパッケージング細胞株における増殖を要する。関心のある核酸を含むウイルス粒子を生成させるために、該核酸を含むレトロウイルス核酸をパッケージング細胞株によってウイルスキャプシド内にパッケージングさせる。キャプシド内に組み込まれるエンベロープタンパク質は、それを提供するパッケージング細胞株によって異なり(エコトロピック、アンホトロピックまたはゼノトロピック)、このエンベロープタンパク質が細胞に対するウイルス粒子の特異性を決定する(マウスおよびラットではエコトロピック;ヒト、イヌおよびマウスを含むほとんどの哺乳類細胞型ではアンホトロピック;ならびにマウス細胞を除くほとんどの哺乳類細胞型ではゼノトロピック)。パッケージ化ウイルス粒子によって細胞が標的化されることが保証されるように、適切なパッケージング細胞株が使用されうる。再プログラミング因子をコードする核酸を含むレトロウイルスベクターをパッケージング細胞株内に導入し、パッケージング細胞株によって生成されたウイルス粒子を収集する方法は、当技術分野で周知である。核酸は直接マイクロインジェクション(例えば、ゼブラフィッシュ胚内へのRNAの注入)によっても導入されうる。
【0255】
ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはM-SmallCas9融合ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドをコードする核酸を細胞に供与するために使用されるベクターは、一般に、関心のある核酸の発現を導くための、すなわち、転写活性化のための適切なプロモーターを含む。換言すれば、関心のある核酸はプロモーターに機能的に連結される。これには、遍在的に活性なプロモーター、例えばCMV-13-アクチンプロモーター、または誘導性プロモーター、例えば、特定の細胞集団において活性である、またはテトラサイクリンのような薬物の存在に応答するプロモーターが含まれうる。転写活性化によって、転写は、標的細胞において、基底レベルを超えて、少なくとも10倍、少なくとも100倍、より典型的には少なくとも1000倍増加すると意図される。また、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはM-SmallCas9融合ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドを細胞に供与するために使用されるベクターは、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはM-SmallCas9融合ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドを取り込んだ細胞を特定するための、標的細胞における選択マーカーをコードする核酸配列を含みうる。
【0256】
その代わりに、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはM-SmallCas9融合ポリペプチドもしくはその変異体は、DNAと接触させるために使用可能であり、またはRNAとして細胞内に導入されうる。RNAを細胞内に導入する方法は当技術分野で公知であり、例えば、直接注入、トランスフェクション、またはDNAの導入に用いられる任意の他の方法を包含しうる。その代わりに、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体はポリペプチドとして細胞に供与されうる。そのようなポリペプチドは、所望により、産物の溶解度を増加させるポリペプチドドメインに融合されうる。該ドメインは、定められたプロテアーゼ切断部位(例えば、TEVプロテアーゼによって切断されるTEV配列)を介してポリペプチドに連結されうる。リンカーはまた、1以上の柔軟な配列、例えば1~10個のグリシン残基を含みうる。幾つかの実施形態においては、融合タンパク質の切断は、産物の溶解度を維持するバッファー中、例えば0.5~2Mの尿素の存在下、溶解度を増加させるポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドの存在下などで行われる。関心のあるドメインには、エンドソーム溶解ドメイン、例えばインフルエンザHAドメイン、および産生を助ける他のポリペプチド、例えばIF2ドメイン、GSTドメイン、GRPEドメインなどが含まれる。該ポリペプチドは安定性の改善のために含有されうる。例えば、該ペプチドはPEG化されていることが可能であり、この場合、ポリエチレンオキシ基は血流中の寿命を延長させる。
【0257】
追加的または代替的に、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、細胞による取り込みを促進させるために、ポリペプチド浸透性ドメインに融合されうる。多数の浸透性ドメインが当技術分野で公知であり、ペプチド、ペプチド模倣体および非ペプチド担体を含む本開示の非組み込みポリペプチドにおいて使用されうる。例えば、浸透性ペプチドは、ペネトラチンと称されるキイロショウジョウバエ転写因子アンテナペディアの第3アルファヘリックスに由来することが可能であり、これはアミノ酸配列RQIKIWFQNRRMKWKK(この配列は本特許出願における開示ではない)を含む。もう1つの例として、浸透性ペプチドは、例えば、天然に存在するtatタンパク質のアミノ酸49~57を含みうるHIV-1 tat塩基性領域アミノ酸配列を含む。
【0258】
他の浸透性ドメインには、ポリアルギニンモチーフ、例えば、HIV-1 revタンパク質のアミノ酸34~56の領域、ノナアルギニン、アクタアルギニンなどが含まれる[例えば、Futakiら(2003)Curr Protein Pept Sci.2003 Apr;4(2):87-9および446;ならびにWenderら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.2000 Nov.21;97(24):13003-8;公開米国特許出願公開番号20030220334、20030083256、20030032593および20030022831を参照されたい(転座ペプチドおよびペプトイドの教示に関して、それらを参照により本明細書に具体的に組み入れることとする)]。ノナアルギニン(R9)配列は、特徴付けられているより効率的なPTDの1つである(Wenderら,2000;Uemuraら,2002)。融合が行われる部位は、ポリペプチドの生物活性、分泌または結合特性が最適化するように選択されうる。最適部位は常套的な実験によって決定されうる。幾つかの実施形態においては、ポリペプチド浸透性ドメインは、PTDの生物学的利用能を高めるために化学修飾される。例示的な修飾はExpert Opin Drug Deliv.2009 Nov;6(11):1195-205に開示されている。
【0259】
一般に、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドの有効量が、標的化修飾を誘導するために、標的DNAまたは細胞に供与される。ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドの有効量は、陰性対照(例えば、空ベクターまたは無関係なポリペプチドと接触させた細胞)と比較して、gRNAで観察される標的化修飾の量における2倍以上の増加を誘導する量である。すなわち、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドの有効量または用量は、標的DNA領域において観察される標的修飾の量における2倍の増加、3倍の増加、4倍またはそれ以上の増加を誘導し、幾つかの実施形態においては、観察される組換えの量における5倍の増加、6倍またはそれ以上の増加、時には7倍または8倍以上の増加、例えば10倍、50倍または100倍以上の増加を誘導し、幾つかの実施形態においては、観察される組換えの量における200倍、500倍、700倍または1000倍以上の増加、例えば5000倍または10,000倍の増加を誘導する。標的修飾の量は任意の適切な方法によって測定されうる。例えば、組換えられると活性レポーターコード化核酸を再構成する相同配列に隣接するガイドRNAのスペーサーに対する相補的配列を含むスプリットレポーター構築物が細胞内にコトランスフェクトされることが可能であり、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドとの接触の後、例えば、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドとの接触の2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、72時間後またはそれ以上の時間の後、レポータータンパク質の量が評価されうる。もう1つの、より高い感度のアッセイとして、例えば、標的DNA配列を含む、関心のあるゲノムDNA領域における組換えの度合は、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドとの接触の後、例えば、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドとの接触の2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、72時間後またはそれ以上の時間の後、該領域のPCRまたはサザンハイブリダイゼーションによって評価されうる。
【0260】
ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドと細胞を接触させることは、細胞の生存を促進する任意の培地および任意の培養条件において行われうる。例えば、細胞は、ウシ胎児血清または熱不活化ウシ胎児血清(約5~10%)、L-グルタミン、チオール、特に2-メルカプトエタノールおよび抗生物質、例えばペニシリンおよびストレプトマイシンで補足された、イスコブ(Iscove’s)改変DMEMまたはRPMI 1640のような、好適な任意の適切な栄養培地に懸濁されうる。培養は、細胞が応答する増殖因子を含有しうる。この場合に定義される増殖因子は、膜貫通受容体に対する特異的作用により、培養または無傷組織のいずれかにおいて細胞の生存、増殖および/または分化を促進しうる分子である。増殖因子には、ポリペプチド因子および非ポリペプチド因子が含まれる。細胞の生存を促進する条件は、一般に、非相同末端結合および相同組換え修復を許容する。ポリヌクレオチド配列を標的DNA配列内に挿入することが望ましい用途においては、挿入されるドナー配列を含むポリヌクレオチドも細胞に供与される。「ドナー配列」または「ドナーポリヌクレオチド」は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体によって誘導される切断部位に挿入される核酸配列を意味する。ドナーポリヌクレオチドは切断部位の隣接ゲノム領域に対して十分な配列相同性を含み、例えば、切断部位から多くとも約50塩基以内、例えば約30塩基以内、約15塩基以内、約10塩基以内、約5塩基以内の、または切断部位に直に隣接するヌクレオチド配列に対して例えば70%、80%、85%、90%、95%または100%の配列同一性を含んでいて、それと、それが相同性を有するゲノム配列との間の、相同組換え修復を支持する。ドナーとゲノム配列と間の相同配列の約25、50、100または200ヌクレオチドまたは200ヌクレオチドを超えるヌクレオチド(または10~200ヌクレオチド以上の間の任意の整数値)が相同組換え修復を支持する。ドナー配列は任意の長さ、例えば10ヌクレオチド以上、50ヌクレオチド以上、100ヌクレオチド以上、250ヌクレオチド以上、500ヌクレオチド以上、1000ヌクレオチド以上、5000ヌクレオチド以上などのものでありうる。
【0261】
ドナー配列は、一般に、それが置換するゲノム配列と同一ではない。むしろ、ドナー配列は、相同組換え修復を支持するのに十分な配列同一性が存在する限り、ゲノム配列と比較して少なくとも1以上の単一塩基の置換、挿入、欠失、逆位または再配列を含有しうる。幾つかの実施形態においては、ドナー配列は、標的DNA領域に相同な2つの領域(相同アームとも称される)に隣接する非相同配列を含み、その結果、標的DNA領域と2つの隣接相同アームとの間の相同組換え修復は標的領域における非相同配列の挿入をもたらす。ドナー配列はまた、関心のあるDNA領域に相同ではない、そして関心のあるDNA領域内への挿入が意図されない配列を含有するベクター骨格をも含みうる。一般に、ドナー配列の相同領域は、組換えが望まれるゲノム配列に対して少なくとも50%の配列同一性を有する。特定の実施形態においては、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%または99.9%の配列同一性が存在する。ドナーポリヌクレオチドの長さに応じて、1%~100%の任意の値の配列同一性が存在しうる。ドナー配列は、ゲノム配列と比較して、或る配列差異を含むことが可能であり、それらは、例えば、制限部位、ヌクレオチド多型、選択マーカー(例えば、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質、酵素など)であり、これらは、ドナー配列が切断部位において成功裏に挿入されたことを評価するために使用可能であり、幾つかの場合には、他の目的(例えば、標的化ゲノム遺伝子座における発現を示すため)に使用可能である。幾つかの実施形態においては、コード領域内に位置する場合、そのようなヌクレオチド配列の差異はアミノ酸配列を変化させず、またはタンパク質の構造もしくは機能に実質的に影響を及ぼさないアミノ酸変化を引き起こす。あるいは、これらの配列差異は、マーカー配列の除去のために後で活性化されうる例えばFLP、loxP配列のような隣接組換え配列を含みうる。
【0262】
ドナー配列は一本鎖DNA、一本鎖RNA、二本鎖DNAまたは二本鎖RNAとして細胞に供与されうる。それは線状形態または環状形態で細胞内に導入されうる。線状形態で導入される場合、ドナー配列の末端は、当業者に公知の方法によって(例えば、エキソヌクレオチド分解から)保護されうる。例えば、1以上のジデオキシヌクレオチド残基が線状分子の3’末端に付加され、および/または自己相補的オリゴヌクレオチドが一方または両方の末端に連結される。例えば、Changら(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:4959-4963;Nehlsら(1996)Science 272:886-889を参照されたい。外因性ポリヌクレオチドを分解から保護するための追加的な方法には、末端アミノ基の付加、および修飾ヌクレオチド間連結、例えばホスホロチオアート、ホスホルアミダートおよびO-メチルリボースまたはデオキシリボース残基の使用が含まれるが、これらに限定されるものではない。直鎖状ドナー配列の末端を保護する代わりに、組換えに影響を及ぼすことなく分解されうる追加的な長さの配列が相同アームの外側に含有されうる。ドナー配列は、例えば複製起点、プロモーターおよび抗生物質耐性をコードする遺伝子のような追加的な配列を有するベクター分子の一部として細胞内に導入されうる。更に、ドナー配列は、裸(例えば、未修飾)の核酸として、またはリポソームもしくはポロクサマーのような物質と複合体を形成した核酸として導入可能であり、あるいは、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドをコードする核酸に関して前記に記載されているとおり、ウイルス(例えば、アデノウイルス、AAV)によって送達されうる。
【0263】
前記の方法に従い、関心のあるDNA領域がエクスビボで切断され、修飾(例えば、「遺伝的修飾」)されうる。幾つかの実施形態においては、選択マーカーが、関心のあるDNA領域内に挿入されている場合と同様に、遺伝的修飾細胞を残りの集団から分離することによって、細胞集団は遺伝的修飾を含む細胞に関して富化されうる。富化前に、「遺伝的修飾」細胞は細胞集団の約1%以上(例えば、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、15%以上または20%以上)しか構成しないことが可能である。「遺伝的修飾」細胞の分離は、使用される選択マーカーに適した任意の適切な分離技術によって達成されうる。例えば、蛍光マーカーが挿入されている場合には、細胞は蛍光活性化細胞選別によって分離可能であり、一方、細胞表面マーカーが挿入されている場合には、細胞は、アフィニティ分離技術、例えば磁気分離、アフィニティクロマトグラフィー、固体マトリックスに結合したアフィニティ試薬を使用する「パンニング」または他の適切な技術によって、不均一集団から分離可能である。適切な分離をもたらす技術には、種々の度合の精巧さ(例えば、複数のカラーチャネル、低角および鈍角光散乱検出チャネル、インピーダンスチャネルなど)を有しうる蛍光活性化細胞選別機が含まれる。死細胞に関連する色素(例えば、ヨウ化プロピジウム)を使用することによって、死細胞に対して細胞が選択されうる。遺伝的修飾細胞の生存性に過度に悪影響を及ぼさない任意の技術が用いられうる。修飾DNAを含む細胞に関して高度に富化された細胞組成物はこのようにして得られる。「高度に富化された」は、遺伝的修飾細胞が細胞組成物の70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、例えば、細胞組成物の約95%以上または98%以上であることを意味する。換言すれば、該組成物は遺伝的修飾細胞の実質的に純粋な組成物でありうる。
【0264】
本明細書に記載されている方法によって生成された遺伝的修飾細胞は直ちに使用されうる。追加的または代替的に、細胞を液体窒素温度で凍結し、長期間保存し、解凍し、再使用することが可能である。そのような場合、細胞は、一般に、10% ジメチルスルホキシド(DMSO)、50% 血清、40% 緩衝培地、またはそのような凍結温度で細胞を保存するために当技術分野で一般的に使用される何らかの他の溶液中で凍結され、凍結培養細胞を解凍するための当技術分野で一般に公知である方法で解凍される。
【0265】
遺伝的修飾細胞は種々の培養条件下でインビトロで培養されうる。細胞は培養内で増殖可能であり、例えば、その増殖を促進する条件下で増殖可能である。培養培地は液体または半固体(例えば、寒天、メチルセルロースなどを含有する)でありうる。細胞集団は、ウシ胎児血清(約5~10%)、L-グルタミン、チオール、特に2-メルカプトエタノールおよび抗生物質、例えばペニシリンおよびストレプトマイシンで通常は補足される、イスコブ(Iscove’s)改変DMEMまたはRPMI 1640のような、好適な任意の適切な栄養培地に懸濁されうる。培養は、それぞれの細胞が応答する増殖因子を含有しうる。この場合に定義される増殖因子は、膜貫通受容体に対する特異的作用により、培養または無傷組織のいずれかにおいて細胞の生存、増殖および/または分化を促進しうる分子である。増殖因子には、ポリペプチド因子および非ポリペプチド因子が含まれる。このようにして遺伝的に修飾された細胞は、例えば疾患を治療するための遺伝子治療のような目的のために、または抗ウイルス、抗病原体もしくは抗癌治療用物質として、または農業における遺伝的修飾生物の生産のために、または生物学的研究のために、対象に移植されうる。対象は新生児、若年者または成体でありうる。特に関心が持たれるのは哺乳類対象である。本方法で治療されうる哺乳類種には、イヌおよびネコ、ウマ、ウシ、ヒツジなど、および霊長類、特にヒトが含まれる。動物モデル、特に小型哺乳動物[例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ目動物(例えば、ウサギ)など]は実験的研究に使用されうる。
【0266】
細胞は、単独で、または適切な基質もしくはマトリックス(例えば、細胞が移植される組織におけるその増殖および/または組織化を支持するためのもの)と共に、対象に供与されうる。一般に、少なくとも1×10細胞、例えば5×10細胞、1×10細胞、5×10細胞、1×10細胞、1×10細胞以上が投与される。細胞は、以下の経路のいずれかを介して、対象に導入されうる:非経口、皮下、静脈内、頭蓋内、脊髄内、眼内または脊髄液内。細胞は注射、カテーテルなどによって導入されうる。局所送達、すなわち損傷部位への送達の方法の例には、以下のものが含まれる:例えばオンマイヤー・リザバー(Ommaya reservoir)を介したもの、例えば髄腔内送達のためのもの[例えば、米国特許第5,222,982号および第5,385,582号(これらを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい];ボーラス注射によるもの、例えばシリンジによるもの、例えば関節内へのもの;連続注入によるもの、例えばカニューレ挿入によるもの、例えば対流によるもの[例えば、米国特許出願第20070254842号(これを参照により本明細書に組み入れることとする)];または細胞が可逆的に固定された装置を移植することによるもの[例えば、米国特許出願第20080081064号および第20090196903号(これらを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい]。細胞は、トランスジェニック動物(例えば、トランスジェニックマウス)を作製する目的で、胚(例えば、胚盤胞)内に導入されうる。
【0267】
幾つかの実施形態においては、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするヌクレオチド配列は、制御要素、例えば転写制御要素、例えばプロモーターに機能的に連結される。転写制御要素は、一般に、真核細胞、例えば哺乳類細胞(例えば、ヒト細胞)、または原核細胞(例えば、細菌細胞または古細菌細胞)のいずれかにおいて機能的である。幾つかの実施形態においては、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするヌクレオチド配列は、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくは変異体をコードするヌクレオチド配列の、原核細胞および真核細胞の両方における発現を可能にする複数の制御要素に機能的に連結される。
【0268】
プロモーターは、構成的に活性なプロモーター(例えば、構成的に、活性な「オン」の状態にあるプロモーター)であることが可能であり、それは誘導性プロモーター(例えば、活性/「オン」または不活性/「オフ」のその状態が外部刺激、例えば特定の温度、化合物またはタンパク質の存在によって制御されるプロモーター)であることが可能であり、それは、空間的に制限されるプロモーター(例えば、転写制御要素、エンハンサーなど)(例えば、組織特異的プロモーター、細胞型特異的プロモーターなど)であることが可能であり、それは、時間的に制限されるプロモーターであることが可能である[例えば、プロモーターは、胚発生の特定の段階または生物学的プロセスの特定の段階(例えば、マウスにおける毛包サイクル)において、「オン」状態または「オフ」状態にある]。
【0269】
適切なプロモーターはウイルス由来であることが可能であり、したがってウイルスプロモーターと称されうる。あるいは、それらは、原核生物または真核生物を含む任意の生物に由来することが可能である。適切なプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼによる発現を駆動するために使用されうる(例えば、pol I、pol II、pol III)。例示的なプロモーターには、SV40初期プロモーター、マウス乳癌ウイルス長末端反復(LTR)プロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、例えばCMV最初期プロモーター領域(CMVIE)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、ヒトU6小型核プロモーター(U6)(Miyagishiら,Nature Biotechnology 20,497-500(2002))、強化U6プロモーター(例えば、Xiaら,Nucleic Acids Res.2003 Sep 1;31(17))、ヒトH1プロモーター(H1)などが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0270】
誘導性プロモーターの例には、T7 RNAポリメラーゼプロモーター、T3 RNAポリメラーゼプロモーター、イソプロピル-ベータ-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)調節性プロモーター、ラクトース誘導性プロモーター、熱ショックプロモーター、テトラサイクリン調節性プロモーター(例えば、Tet-ON、Tet-OFFなど)、ステロイド調節性プロモーター、金属調節性プロモーター、エストロゲン受容体調節性プロモーターなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。したがって、誘導性プロモーターは、ドキシサイクリン;RNAポリメラーゼ、例えばT7 RNAポリメラーゼ;エストロゲン受容体;エストロゲン受容体融合体など(これらに限定されるものではない)を含む分子によって調節されうる。
【0271】
幾つかの実施形態においては、プロモーターは、空間的に制限されるプロモーター(例えば、細胞型特異的プロモーター、組織特異的プロモーターなど)であり、多細胞生物においては、該プロモーターは、特定の細胞のサブセットにおいて活性(例えば、「オン」)である。空間的に制限されるプロモーターはエンハンサー、転写制御要素、制御配列などとも称されうる。任意の適切な空間的に制限されるプロモーターが使用可能であり、適切なプロモーター(例えば、脳特異的プロモーター、ニューロンのサブセットにおいて発現を駆動するプロモーター、生殖系列において発現を駆動するプロモーター、肺において発現を駆動するプロモーター、筋肉において発現を駆動するプロモーター、膵臓の島細胞において発現を駆動するプロモーターなど)の選択は当該生物に左右される。例えば、植物、ハエ、線虫、哺乳動物、マウスなどに関して、種々の空間的に制限されるプロモーターが公知である。したがって、当該生物に応じて、多種多様な組織および細胞型におけるSmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする核酸の発現を調節するために、空間的に制限されるプロモーターが使用されうる。幾つかの空間的に制限されるプロモーターは時間的にも制限されて、その結果、該プロモーターは、胚発生の特定の段階または生物学的プロセスの特定の段階(例えば、マウスにおける毛包サイクル)において、「オン」状態または「オフ」状態にある。
【0272】
例示目的としては、空間的に制限されるプロモーターの例には、ニューロン特異的プロモーター、脂肪細胞特異的プロモーター、心筋細胞特異的プロモーター、平滑筋特異的プロモーター、光受容体特異的プロモーターなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。ニューロン特異的な空間的に制限されるプロモーターには、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(例えば、EMBL HSEN02、X51956を参照されたい);芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)プロモーター;ニューロフィラメントプロモーター(例えば、GenBank HUMNFL,L04147を参照されたい);シナプシンプロモーター(例えば、GenBank HUMSYNIB,M55301を参照されたい);thy-1プロモーター(例えば、Chenら(1987)Cell 51:7-19;およびLlewellynら(2010)Nat.Med.16(10):1161-1166を参照されたい);セロトニン受容体プロモーター(例えば、GenBank S62283を参照されたい);チロシンヒドロキシラーゼプロモーター(TH)(例えば、Ohら(2009)Gene Ther.16:437;Sasaokaら(1992)Mol.Brain Res.16:274;Boundyら(1998)J.Neurosci.18:9989;およびKanedaら(1991)Neuron 6:583-594);GnRHプロモーター(例えば、Radovickら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:3402-3406を参照されたい);L7プロモーター(例えば、Oberdickら(1990)Science 248:223-226を参照されたい);DNMTプロモーター(例えば、Bartgeら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3648-3652を参照されたい);エンケファリンプロモーター(例えば、Combら(1988)EMBOJ.17:3793-3805を参照されたい);ミエリン塩基性タンパク質(MBP)プロモーター;Ca2+-カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ11-アルファ(CamKIM)プロモーター(例えば、Mayfordら(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:13250;およびCasanovaら(2001)Genesis 31:37を参照されたい);CMVエンハンサー/血小板由来増殖因子-0プロモーター(例えば、Liuら(2004)Gene Therapy 11:52-60を参照されたい);など。
【0273】
脂肪細胞特異的な空間的に制限されるプロモーターには、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:aP2遺伝子プロモーター/エンハンサー、例えば、ヒトaP2遺伝子の-5.4kb~+21bpの領域(例えば、Tozzoら(1997)Endocrinol.138:1604;Rossら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:9590;およびPavjaniら(2005)Nat.Med.11:797を参照されたい);グルコーストランスポーター-4(GLUT4)プロモーター(例えば、Knightら(2003)Proc.Nat/.Acad.Sci.USA 100:14725を参照されたい);脂肪酸トランスロカーゼ(FAT/CD36)プロモーター(例えば、Kurikiら(2002)Biol.Pharm.Bull.25:1476;およびSatoら(2002)J.Biol.Chem.277:15703を参照されたい);ステアロイル-CoAデサチュラーゼ-1(SCD1)プロモーター(Taborら(1999)J.Biol.Chem.274:20603);レプチンプロモーター(例えば、Masonら(1998)Endocrinol.139:1013;およびChenら(1999)Biochem.Biophys.Res.Comm.262:187を参照されたい);アディポネクチンプロモーター(例えば、Kitaら(2005)Biochem.Biophys.Res.Comm.331:484;およびChakrabarti(2010)Endocrinol.151:2408を参照されたい);アディプシンプロモーター(例えば、Plattら(1989)Proc.Nat/.Acad.Sci.USA 86:7490を参照されたい);レジスチンプロモーター(例えば、Seoら(2003)Malec.Endocrinol.17:1522を参照されたい);など。
【0274】
心筋細胞特異的な空間的に制限されるプロモーターには、以下の遺伝子に由来する制御配列が含まれるが、それらに限定されない:ミオシン軽鎖-2、α-ミオシン重鎖、AE3、心筋トロポニンC、心筋アクチンなど;Franzら(1997)Cardiovasc.Res.35:560-566;Robbinsら(1995)Ann.N.Y.Acad.Sci.752:492-505;Linnら(1995)Circ.Res.76:584591;Parmacekら(1994)Mol.Cell.Biol.14:1870-1885;Hunterら(1993)Hypertension 22:608-617;およびSartorelliら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4047-4051。
【0275】
平滑筋特異的な空間的に制限されるプロモーターには、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:SM22aプロモーター(例えば、Akyilrekら(2000)Mol.Med.6:983;および米国特許第7,169,874号を参照されたい);スムーゼリンプロモーター(例えば、WO 2001/018048を参照されたい);α-平滑筋アクチンプロモーターなど。例えば、2つのCArG要素が内部に存在するSM22aプロモーターの0.4kb領域は血管平滑筋細胞特異的発現をもたらすことが示されている(例えば、Kimら(1997)Mol.Cell.Biol.17,2266-2278;Liら,(1996)J.Cell Biol.132,849-859;およびMoesslerら(1996)Development 122,2415-2425を参照されたい)。
【0276】
光受容体特異的な空間的に制限されるプロモーターには、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:ロドプシンプロモーター;ロドプシンキナーゼプロモーター(Youngら(2003)Ophthalmol.Vis.Sci.44:4076);ベータホスホジエステラーゼ遺伝子プロモーター(Nicoudら(2007)J.Gene Med.9:1015);網膜色素変性症遺伝子プロモーター(Nicoudら(2007)前掲);光受容体間レチノイド結合タンパク質(IRBP)遺伝子エンハンサー(Nicoudら(2007)前掲);IRBP遺伝子プロモーター(Yokoyamaら(1992)Exp Eye Res.55:225);など。
【0277】
ガイドRNAを含む組成物
幾つかの実施形態においては、ガイドRNAを含む組成物を本明細書において提供する。組成物は、ガイドRNAに加えて、以下のものの1以上を含みうる:塩、例えばNaCl、MgCl、KCl、MgSOなど;緩衝剤、例えばトリスバッファー、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)(HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、MESナトリウム塩、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N-トリス[ヒドロキシメチル]メチル-3-アミノプロパンスルホン酸(TAPS)など;可溶化剤;界面活性剤、例えば非イオン性界面活性剤、例えばTween-20など;ヌクレアーゼインヒビター;など。例えば、幾つかの実施形態においては、組成物は、ガイドRNAと、核酸を安定化するためのバッファーとを含む。
【0278】
幾つかの実施形態においては、組成物中に存在するガイドRNAは純粋であり、例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%または99%超の純度を有し、ここで、「%の純度」は、ガイドRNAが、ガイドRNAの生成中に存在しうる他の高分子または夾雑物を除いた示されている割合(%)で存在することを意味する。
【0279】
M-SmallCas9ポリペプチドを含む組成物
幾つかの実施形態においては、コドン最適化ポリヌクレオチド配列から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を含む組成物を本明細書において提供する。組成物は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体に加えて、以下のものの1以上を含みうる:塩、例えばNaCl、MgCl、KCl、MgSOなど;緩衝剤、例えばトリスバッファー、HEPES、MES、MESナトリウム塩、MOPS、TAPSなど;可溶化剤;界面活性剤、例えば非イオン性界面活性剤、例えばTween-20など;プロテアーゼインヒビター;還元剤(例えば、ジチオスレイトール);など。
【0280】
幾つかの実施形態においては、組成物中に存在するM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は純粋であり、例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%または99%超の純度を有し、ここで、「%の純度」は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体が、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の生成中に存在しうる他のタンパク質、他の高分子または夾雑物を除いた示されている割合(%)で存在することを意味する。
【0281】
ガイドRNAおよび部位特異的修飾ポリペプチドを含む組成物
幾つかの実施形態においては、以下を含む組成物を本明細書において提供する。(i)ガイドRNAまたはガイドRNAをコードするポリヌクレオチドと、ii)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体とを含む組成物を、本明細書において提供する。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、標的DNAを修飾する酵素活性を示す。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、標的DNAによってコードされるポリペプチドを修飾する酵素活性を示す。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は標的DNAからの転写を調節する。
【0282】
幾つかの実施形態においては、組成物の成分は個別に純粋であり、例えば、成分のそれぞれは少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%または少なくとも99%の純度を有する。幾つかの実施形態においては、組成物の個々の成分は、組成物に添加される前は純粋である。
【0283】
キット
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法を実施するためのキットを提供する。キットは、例えばコドン最適化ポリヌクレオチド配列から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体、ガイドRNA、ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸のうちの1以上を含みうる。キットは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードするヌクレオチドを含む核酸、ガイドRNA、ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸のうちの2以上を含む複合体を含みうる。幾つかの実施形態においては、キットは、M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、またはそれをコードするポリヌクレオチドを含む。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の活性部分はヌクレアーゼ活性の低下または不活性化を示す。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体はM-SmallCas9融合タンパク質である。
【0284】
幾つかの実施形態においては、キットは、(a)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(b)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導きうるgRNAまたは該gRNAをコードする核酸を含む。幾つかの実施形態においては、キットは、コドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸を含む。コドン最適化ポリヌクレオチド配列から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体またはコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸を含むキットは1以上の追加的な試薬を更に含むことが可能であり、ここで、そのような追加的な試薬は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を細胞内に導入するためのバッファー、洗浄バッファー、対照試薬、対照発現ベクターまたはポリリボヌクレオチド、DNAからのM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体のインビトロ産生のための試薬などから選択されうる。
【0285】
本明細書に記載されているキットのいずれかの幾つかの実施形態においては、キットはsgRNAを含む。幾つかの実施形態においては、キットは2以上のsgRNAを含む。
【0286】
本明細書に記載されているキットのいずれかの幾つかの実施形態においては、gRNA(例えば、2以上のガイドRNAを含む)は、アレイ(例えば、RNA分子のアレイ、ガイドRNAをコードするDNA分子のアレイなど)として提供されうる。そのようなキットは、例えば、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を含む前記の遺伝的修飾宿主細胞と組合せて使用するのに有用でありうる。
【0287】
本明細書に記載されているキットのいずれかの幾つかの実施形態においては、キットは、所望の遺伝的修飾をもたらすためのドナーポリヌクレオチドを更に含む。
【0288】
キットの成分は別々の容器内に存在することが可能であり、または単一の容器内に組合せて存在することが可能である。
【0289】
本明細書に記載されているキットはいずれも、1以上の追加的な試薬を更に含むことが可能であり、ここで、そのような追加的な試薬は、希釈バッファー、再構成溶液、洗浄バッファー、対照試薬、対照発現ベクターまたはポリリボヌクレオチド、DNAからのM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体のインビトロ産生のための試薬などから選択されうる。
【0290】
前記の成分に加えて、キットは、該方法を実施するためにキットの成分を使用するための説明を更に含みうる。該方法を実施するための説明は、一般に、適切な記録媒体上に記録される。例えば、説明は、例えば紙またはプラスチックなどのような基体上に印刷されうる。したがって、説明は、(例えば、パッケージングまたはサブパッケージングに付随する)キットまたはその成分の容器のラベルにおいて、添付文書などとしてキット内に存在しうる。幾つかの実施形態においては、説明は、適切なコンピュータ可読記憶媒体、例えばCD-ROM、ディスケット、フラッシュドライブなどに存在する電子記憶データファイルとして存在する。更に他の実施形態においては、実際の説明はキットには含まれていないが、例えばインターネット経由などのように、リモートソースから説明を得るための手段が提供される。この実施形態の一例は、ウェブアドレスを含むキットであり、この場合、そのウェブアドレスにおいて説明が閲覧可能であり、および/またはそのウェブアドレスから説明がダウンロード可能である。説明と同様に、説明を得るためのこの手段は適切な基体上に記録される。
【0291】
開示方法
標的DNAおよび/または標的DNAによってコードされるポリペプチドを修飾する方法
幾つかの実施形態においては、標的DNAおよび/または標的DNAによってコードされるポリペプチドを修飾するための方法を本明細書において提供する。幾つかの実施形態においては、該方法は、(i)配列番号1もしくは配列番号1に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体(これはM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする)をコードする核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(ii)gRNAまたはgRNAをコードする核酸を提供することを含み、ここで、gRNAは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導くことが可能であり、その結果、M-SmallCas9またはその変異体とgRNAとを含む複合体(「標的化複合体」)が形成され、標的ポリヌクレオチド配列を含む標的DNAと接触する。
【0292】
幾つかの実施形態においては、該方法は、(i)配列番号2もしくは配列番号2に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体(これはM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする)をコードする核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(ii)gRNAまたはgRNAをコードする核酸を提供することを含み、ここで、gRNAは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導くことが可能であり、その結果、M-SmallCas9またはその変異体とgRNAとを含む複合体(「標的化複合体」)が形成され、標的ポリヌクレオチド配列を含む標的DNAと接触する。
【0293】
幾つかの実施形態においては、該方法は、(i)配列番号3もしくは配列番号3に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体(これはM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする)をコードする核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(ii)gRNAまたはgRNAをコードする核酸を提供することを含み、ここで、gRNAは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導くことが可能であり、その結果、M-SmallCas9またはその変異体とgRNAとを含む複合体(「標的化複合体」)が形成され、標的ポリヌクレオチド配列を含む標的DNAと接触する。
【0294】
幾つかの実施形態においては、該方法は、(i)配列番号4もしくは配列番号4に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体(これはM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする)をコードする核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(ii)gRNAまたはgRNAをコードする核酸を提供することを含み、ここで、gRNAは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導くことが可能であり、その結果、M-SmallCas9またはその変異体とgRNAとを含む複合体(「標的化複合体」)が形成され、標的ポリヌクレオチド配列を含む標的DNAと接触する。
【0295】
幾つかの実施形態においては、該方法は、(i)配列番号5もしくは配列番号5に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体(これはM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする)をコードする核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(ii)gRNAまたはgRNAをコードする核酸を提供することを含み、ここで、gRNAは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導くことが可能であり、その結果、M-SmallCas9またはその変異体とgRNAとを含む複合体(「標的化複合体」)が形成され、標的ポリヌクレオチド配列を含む標的DNAと接触する。
【0296】
幾つかの実施形態においては、該方法は、(i)配列番号6もしくは配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体(これはM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする)をコードする核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(ii)gRNAまたはgRNAをコードする核酸を提供することを含み、ここで、gRNAは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導くことが可能であり、その結果、M-SmallCas9またはその変異体とgRNAとを含む複合体(「標的化複合体」)が形成され、標的ポリヌクレオチド配列を含む標的DNAと接触する。
【0297】
幾つかの実施形態においては、該方法は、(i)配列番号7もしくは配列番号7に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体(これはM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする)をコードする核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(ii)gRNAまたはgRNAをコードする核酸を提供することを含み、ここで、gRNAは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導くことが可能であり、その結果、M-SmallCas9またはその変異体とgRNAとを含む複合体(「標的化複合体」)が形成され、標的ポリヌクレオチド配列を含む標的DNAと接触する。
【0298】
幾つかの実施形態においては、該方法は、(i)配列番号8もしくは配列番号8に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体(これはM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする)をコードする核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(ii)gRNAまたはgRNAをコードする核酸を提供することを含み、ここで、gRNAは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導くことが可能であり、その結果、M-SmallCas9またはその変異体とgRNAとを含む複合体(「標的化複合体」)が形成され、標的ポリヌクレオチド配列を含む標的DNAと接触する。
【0299】
幾つかの実施形態においては、該方法は、(i)配列番号9もしくは配列番号9に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体(これはM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする)をコードする核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(ii)gRNAまたはgRNAをコードする核酸を提供することを含み、ここで、gRNAは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導くことが可能であり、その結果、M-SmallCas9またはその変異体とgRNAとを含む複合体(「標的化複合体」)が形成され、標的ポリヌクレオチド配列を含む標的DNAと接触する。
【0300】
幾つかの実施形態においては、該方法は、(i)配列番号133もしくは配列番号133に対して少なくとも90%の配列同一性を有するその変異体(これはM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする)をコードする核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、および(ii)gRNAまたはgRNAをコードする核酸を提供することを含み、ここで、gRNAは、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を標的ポリヌクレオチド配列に導くことが可能であり、その結果、M-SmallCas9またはその変異体とgRNAとを含む複合体(「標的化複合体」)が形成され、標的ポリヌクレオチド配列を含む標的DNAと接触する。
【0301】
幾つかの実施形態においては、(a)例えば、M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体と、(b)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体を標的DNAにおける標的ポリヌクレオチド配列に導きうるgRNAまたは該gRNAをコードする核酸とを、細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む、細胞またはインビトロ環境における1以上の位置において標的DNAを標的化、編集、修飾または操作する方法を、本明細書において提供する。幾つかの実施形態においては、該方法は、コドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸を細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む。幾つかの実施形態においては、該方法は、該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドは、配列番号1~9または133のアミノ酸配列を含む(またはそれからなる)。幾つかの実施形態においては、該方法は、gRNAを細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む。幾つかの実施形態においては、該方法は、gRNAをコードする核酸を細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む。幾つかの実施形態においては、gRNAはシングルガイドRNA(sgRNA)である。幾つかの実施形態においては、該方法は、標的DNAを標的化する1以上の追加的なgRNAまたは1以上の追加的なgRNAをコードする核酸を細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む。幾つかの実施形態においては、該方法は、ドナー鋳型を細胞またはインビトロ環境内に導入することを更に含む。
【0302】
幾つかの実施形態においては、(a)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードする核酸、またはそのような核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体と、(b)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体を標的DNAにおける標的ポリヌクレオチド配列に導きうるgRNAまたは該gRNAをコードする核酸とを、細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む、細胞またはインビトロ環境における1以上の位置において標的DNAを標的化、編集、修飾または操作する方法を、本明細書において提供する。幾つかの実施形態においては、該方法は、該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、配列番号1~9もしくは133のアミノ酸配列、またはそれらのアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するその変異体を含む。幾つかの実施形態においては、該方法は、gRNAを細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む。幾つかの実施形態においては、該方法は、gRNAをコードする核酸を細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む。幾つかの実施形態においては、gRNAはシングルガイドRNA(sgRNA)である。幾つかの実施形態においては、該方法は、標的DNAを標的化する1以上の追加的なgRNAまたは1以上の追加的なgRNAをコードする核酸を細胞またはインビトロ環境内に導入することを含む。幾つかの実施形態においては、該方法は、ドナー鋳型を細胞またはインビトロ環境内に導入することを更に含む。
【0303】
前記のとおり、gRNAまたはsgRNAとM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体とはリボ核タンパク質複合体を形成しうる。ガイドRNAは、標的DNAの配列に相補的なヌクレオチド配列を含むことによって、複合体に標的特異性をもたらす。複合体のM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体はエンドヌクレアーゼ活性をもたらす。幾つかの実施形態においては、複合体は標的DNAを修飾して、例えばDNA切断、DNAメチル化、DNA損傷、DNA修復などを引き起こす。幾つかの実施形態においては、複合体は、標的DNAに関連する標的ポリペプチド(例えば、ヒストン、DNA結合タンパク質など)を修飾して、例えば、ヒストンのメチル化、ヒストンのアセチル化、ヒストンのユビキチン化などを引き起こす。標的DNAは、例えば、インビトロにおける裸の(例えば、DNA関連タンパク質によって結合されていない)DNA、インビトロにおける細胞内の染色体DNA、インビボにおける細胞内の染色体DNAなどでありうる。
【0304】
本明細書に記載されているM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体のヌクレアーゼ活性は標的DNAを切断して、二本鎖切断を生じさせうる。次いでこれらの切断は、非相同末端結合と相同組換え修復との2つの方法のいずれかで、細胞によって修復される。非相同末端結合(NHEJ)においては、二本鎖切断は、切断末端が互いに直接連結されることによって修復される。その過程において、少数の塩基対が切断部位において挿入または欠失されうる。相同組換え修復においては、切断された標的DNA配列に対する相同性を有するドナーポリヌクレオチドが、切断された標的DNA配列の修復のための鋳型として使用されて、ドナーポリヌクレオチドから標的DNAへの遺伝情報の伝達がもたらされる。したがって、新たな核酸物質が該部位内に挿入/コピーされうる。幾つかの実施形態においては、標的DNAをドナーポリヌクレオチドと接触させる。幾つかの実施形態においては、ドナーポリヌクレオチドを細胞内に導入する。NHEJおよび/または相同組換え修復による標的DNAの修飾は、例えば、遺伝子修正、遺伝子置換、遺伝子タグ付け、導入遺伝子挿入、ヌクレオチド欠失、ヌクレオチド挿入、遺伝子破壊、遺伝子突然変異、配列置換などを引き起こす。したがって、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体によるDNAの切断は、標的DNA配列を切断して外因性供与ドナーポリヌクレオチドの非存在下で該配列を細胞が修復することを可能にすることによって、標的DNA配列から核酸物質を欠失させるために[例えば、感染に対して細胞を感受性にする遺伝子(例えば、HIV感染に対してT細胞を感受性にするCCRS遺伝子またはCXCR4遺伝子)を破壊するために]、ニューロンにおける病原性トリヌクレオチド反復配列を除去するために、研究における疾患モデルとしての遺伝子ノックアウトおよび突然変異を生成させるためなどに用いられうる。したがって、該方法は、遺伝子をノックアウトする(その結果、転写/翻訳の完全な欠如または転写/翻訳の改変がもたらされる)ために、または標的DNAにおける選択された遺伝子座内に遺伝物質をノックインするために使用されうる。
【0305】
追加的または代替的に、ガイドRNAおよびM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体を、標的DNA配列に対する相同性を有するセグメントを少なくとも含むドナーポリヌクレオチド配列と共に細胞に共投与する場合には、本方法は、例えば、核酸物質を標的DNA配列に付加する、例えば挿入または置換するために(例えば、タンパク質、siRNA、miRNAなどをコードする核酸を「ノックイン」するために)、タグ[例えば、6×His、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質など)、ヘマグルチニン(HA)、FLAGなど]を付加するために、調節配列[例えば、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム進入配列(IRES)、2Aペプチド、開始コドン、終止コドン、スプライスシグナル、局在化シグナルなど]を遺伝子に付加するために、核酸配列を修飾するため(例えば、突然変異を導入するため)などに使用されうる。したがって、ガイドRNAとM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体とを含む複合体は、部位特異的、例えば「標的化」様態でDNAを修飾することが望ましい任意のインビトロまたはインビボ用途、例えば、遺伝子治療において、例えば疾患を治療するために、または抗ウイルス、抗病原体もしくは抗癌治療用物質として、農業における遺伝的修飾生物の生産、治療、診断または研究目的での細胞によるタンパク質の大規模製造、iPS細胞の誘導、生物学的研究、欠失または置換のための病原体の遺伝子の標的化などにおいて用いられる、例えば、遺伝子ノックアウト、遺伝子ノックイン、遺伝子編集、遺伝子タグ付け、配列置換などにおいて有用である。
【0306】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体、例えば異種配列を含むもの(例えば、M-SmallCas9融合ポリペプチド)を使用する。幾つかの実施形態においては、異種配列はM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の細胞内局在化[例えば、核に標的化するための核局在化シグナル(NLS);ミトコンドリアに標的化するためのミトコンドリア局在化シグナル;葉緑体に標的化するための葉緑体局在化シグナル;ER保持シグナル;など]をもたらしうる。幾つかの実施形態においては、追跡または精製を容易にするためのタグ[例えば、蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、YFP、RFP、CFP、mCherry、tdTomatoなど;ヒスチジンタグ、例えば、6×Hisタグ;ヘマグルチニン(HA)タグ;FLAGタグ;Mycタグなど]を提供しうる。幾つかの実施形態においては、異種配列は安定性の増強または低減をもたらしうる。
【0307】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は、標的細胞における遺伝子発現を遮断するための誘導可能な系として使用されるM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体およびガイドRNAを使用する。幾つかの実施形態においては、適切なガイドRNAおよび/または適切なM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードする核酸は標的細胞の染色体内に組み込まれ、誘導性プロモーターの制御下にある。ガイドRNAとM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体との両方が存在し、複合体を形成する場合、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体が誘導されると、標的DNAは、関心のある位置(例えば、別個のプラスミド上の標的遺伝子)において切断(または修飾)される。したがって、幾つかの実施形態においては、いずれかの標的化遺伝子(株内に導入された別個のプラスミドから発現されるもの)の発現がガイドRNAおよびM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の発現の誘導によって制御されうる実験が可能となるように、標的細胞は、ゲノムにおける適切なM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはプラスミド上の適切なガイドRNA(例えば、誘導性プロモーターの制御下)をコードする核酸配列を含むように操作される。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、二本鎖切断の導入以外の方法で標的DNAを修飾する酵素活性を有する。標的DNAを(例えば、酵素活性を有する異種ポリペプチドをM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体に融合させ、それによってM-SmallCas9融合ポリペプチドまたはその変異体を生成させることによって)修飾するために使用されうる関心のある酵素活性には、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラーゼ活性、DNA修復活性、DNA損傷活性、脱アミノ化活性、ジスムターゼ活性、アルキル化活性、脱プリン活性、酸化活性、ピリミジン二量体形成活性、インテグラーゼ活性、トランスポザーゼ活性、リコンビナーゼ活性、ポリメラーゼ活性、リガーゼ活性、ヘリカーゼ活性活性、フォトリアーゼ活性またはグリコシラーゼ活性が含まれるが、これらに限定されるものではない。メチル化および脱メチル化は、エピジェネティック遺伝子調節の重要な態様として当技術分野において認識されており、一方、DNA損傷の修復は細胞の生存および環境ストレスに応答した適切なゲノム維持のために不可欠である。したがって、本明細書における方法は標的DNAのエピジェネティック修飾において有用であり、ガイドRNAのスペーサー領域内に所望の配列を導入することによって、標的DNA内の任意の位置における標的DNAのエピジェネティック修飾を制御するために使用されうる。本明細書における方法は標的DNA内の任意の所望の位置におけるDNAの意図的な制御された損傷においても有用である。本明細書における方法は標的DNA内の任意の所望の位置におけるDNAの配列特異的な制御された修復においても有用である。DNA修飾酵素活性を標的DNA内の特定の位置に標的化する方法は研究および臨床用途の両方において有用である。
【0308】
幾つかの実施形態においては、異なる標的DNA上または同じ標的DNA上の異なる位置を同時に修飾するために、複数のガイドRNAが使用される。幾つかの実施形態においては、2以上のガイドRNAが、同じ遺伝子または転写産物または遺伝子座を標的化する。幾つかの実施形態においては、2以上のガイドRNAが、異なる無関係な遺伝子座を標的化する。幾つかの実施形態においては、2以上のガイドRNAが、異なるが関連する遺伝子座を標的化する。
【0309】
幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体はタンパク質として直接供与される。1つの非限定的な例として、真菌(例えば、酵母)は、スフェロプラスト形質転換を用いて、外因性タンパク質および/または核酸で形質転換されうる(Kawaiら,Bioeng Bugs.2010 Nov-Dec;1(6):395-403:“Transformation of Saccharomyces cerevisiae and other fungi:methods and possible underlying mechanism”;およびTankaら,Nature.2004 Mar 18;428(6980):323-8:“Conformational variations in an infectious protein determine prion strain differences”(それらの両方の全体を参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい)。したがって、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体はスフェロプラスト内に組込まれることが可能であり(ガイドRNAをコードする核酸の存在下または非存在下およびドナーポリヌクレオチドの存在下または非存在下)、スフェロプラストは、内容物を酵母細胞内に導入するために使用されうる。M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は任意の適切な方法によって細胞内に導入可能であり(細胞に供与される)、そのような方法は当業者に公知である。もう1つの非限定的な例として、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、(例えば、ガイドRNAをコードする核酸の存在下または非存在下およびドナーポリヌクレオチドの存在下または非存在下)細胞内に、例えば、ゼブラフィッシュ胚の細胞、マウス受精卵の前核などに直接注入されうる。
【0310】
転写を調節する方法
幾つかの実施形態においては、宿主細胞における標的核酸の転写を調節する方法を本明細書において提供する。該方法は、一般に、標的核酸を酵素的に不活性なM-SmallCas9ポリペプチドおよびガイドRNAと接触させることを含む。該方法は、同様に提供される種々の用途において有用である。
【0311】
本開示の転写調節方法は、RNAiを含む方法の欠点の幾つかを克服する。本開示の転写調節方法は、研究用途、創薬(例えば、ハイスループットスクリーニング)、標的検証、産業用途(例えば、作物工学、微生物工学など)、診断用途、治療用途およびイメージング技術を含む多種多様な用途において有用である。
【0312】
幾つかの実施形態においては、宿主細胞、例えばヒト細胞における標的DNAの転写を選択的に調節する方法を本明細書において提供する。該方法は、一般に、a)i)ガイドRNAまたはガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、およびii)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体、またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を宿主細胞内に導入することを含み、ここで、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体はエンドデオキシリボヌクレアーゼ活性の低下を示す。ガイドRNAとM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体とは宿主細胞において複合体を形成し、該複合体は宿主細胞における標的DNAの転写を選択的に調節する。
【0313】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法はM-SmallCas9タンパク質の修飾形態を使用する。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9タンパク質の修飾形態は、M-SmallCas9タンパク質のヌクレアーゼ活性を低下させるアミノ酸変化(例えば、欠失、挿入または置換)を含む。例えば、幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9タンパク質の修飾形態は、対応する未修飾M-SmallCas9ポリペプチドのヌクレアーゼ活性の50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満または1%未満を有する。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドの修飾形態は実質的なヌクレアーゼ活性を有さない。M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体が、実質的なヌクレアーゼ活性を有さないM-SmallCas9ポリペプチドの修飾形態である場合、それは「dM-SmallCas9」と称されうる。
【0314】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている転写調節方法は宿主細胞における標的核酸の選択的調節(例えば、低減または増強)を可能にする。例えば、標的核酸の転写の「選択的」低減は、ガイドRNA/M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の複合体の非存在下の標的核酸の転写レベルと比較して、標的核酸の転写を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または90%超、低減する。標的核酸の転写の選択的低減は標的核酸の転写を低減するが、非標的核酸の転写を実質的に減少させない。例えば、非標的核酸の転写は、ガイドRNA/M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の複合体の非存在下の非標的核酸の転写のレベルと比較して、低減したとしても10%未満しか低減しない。
【0315】
幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、(例えば、M-SmallCas9融合ポリペプチドまたはその変異体の場合など)標的DNAの転写を調節する活性を有する。幾つかの実施形態においては、転写を増強または低減する能力を示す異種ポリペプチド(例えば、転写アクチベーターポリペプチドまたは転写リプレッサーポリペプチド)を含むM-SmallCas9融合ポリペプチドまたはその変異体は、ガイドRNAのスペーサーによって導かれる標的DNAにおける特定の位置での標的DNAの転写を増強または低減するために使用される。M-SmallCas9融合ポリペプチドまたはその変異体に転写調節活性を付与するための供給源ポリペプチドの例には、光誘導性転写調節因子、小分子/薬物応答性転写調節因子、転写因子、転写リプレッサーなどが含まれるが、これらに限定されるものではない。幾つかの実施形態においては、該方法は、標的化遺伝子コードRNA(タンパク質コードmRNA)および/または標的化非コードRNA(例えば、tRNA、rRNA、snoRNA、siRNA、miRNA、長いncRNAなど)の転写を制御するために使用される。幾つかの実施形態においては、M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、DNAに関連するポリペプチド(例えば、ヒストン)を修飾する酵素活性を有する。幾つかの実施形態においては、酵素活性はメチルトランスフェラーゼ活性、デメチラーゼ活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチラーゼ活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性(例えば、ユビキチン化活性)、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、ミリストイル化活性、脱ミリストイル化活性、グリコシル化活性(例えば、GlcNAcトランスフェラーゼ由来)または脱グリコシル化活性である。ここに挙げられている酵素活性はタンパク質への共有結合修飾を触媒する。そのような修飾は、標的タンパク質の安定性または活性を変化させることが当技術分野で公知である(例えば、キナーゼ活性によるリン酸化は、標的タンパク質に応じて、タンパク質活性を刺激または抑制しうる)。タンパク質標的として特に関心を持たれるのはヒストンである。ヒストンタンパク質はDNAに結合し、ヌクレオソームとして公知の複合体を形成することが当技術分野で公知である。ヒストンは修飾(例えば、メチル化、アセチル化、ユビキチン化、リン酸化による)されて、周囲のDNAにおける構造変化を誘発することが可能であり、したがって、転写因子、ポリメラーゼなどのような相互作用因子へのDNAの潜在的に大きな部分のアクセス可能性を制御しうる。単一のヒストンは多数の異なる方法および多数の異なる組合せで修飾されうる[例えば、ヒストン3のリジン27のトリメチル化(H3K27)は転写抑制のDNA領域と関連しており、一方、ヒストン3のリジン4のトリメチル化(H3K4)は活性転写のDNA領域と関連している]。したがって、ヒストン修飾活性を有するM-SmallCas9融合ポリペプチドまたはその変異体は染色体構造の部位特異的制御において有用であり、標的DNAの選択された領域におけるヒストン修飾パターンを改変するために使用されうる。そのような方法は研究および臨床用途の両方において有用である。
【0316】
転写の増強
標的DNAの「選択的」な転写の増強は、ガイドRNA/M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の複合体の非存在下の標的DNAからの転写のレベルと比較して、標的DNAからの転写を少なくとも1.1倍(例えば、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも12倍、少なくとも15倍または少なくとも20倍)増強しうる。標的DNAの転写の選択的増強は標的DNAからの転写を増強するが、非標的DNAの転写を実質的に増強しない。例えば、非標的DNAの転写は、ガイドRNA/M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体の複合体の非存在下の非標的DNAの転写のレベルと比較して、増強したとしても約5倍未満(例えば、約4倍未満、約3倍未満、約2倍未満、約1.8倍未満、約1.6倍未満、約1.4倍未満、約1.2倍未満または約1.1倍未満)しか増強しない。
【0317】
非限定的な例として、転写の増強は、dM-SmallCas9を異種配列に融合することによって達成されうる。適切な融合パートナーには、標的DNAに又は標的DNAへ結合するポリペプチド(例えば、ヒストンまたは他のDNA結合タンパク質)に直接作用することによって、転写を間接的に増強する活性をもたらすポリペプチドが含まれるが、これに限定されるものではない。適切な融合パートナーには、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラーゼ活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチラーゼ活性、キナーゼ活性、ホスファターゼ活性、ユビキチンリガーゼ活性、脱ユビキチン化活性、アデニル化活性、脱アデニル化活性、SUMO化活性、脱SUMO化活性、リボシル化活性、脱リボシル化活性、クロトニル化、脱クロトニル化、プロピオニル化、脱プロピオニル化、ミリストイル化活性または脱ミリストイル化活性をもたらすポリペプチドが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0318】
追加的な適切な融合パートナーには、標的核酸の転写の増強を直接もたらすポリペプチド(例えば、転写アクチベーターまたはその断片、転写アクチベーターをリクルートするタンパク質またはその断片、小分子/薬物応答性転写調節因子など)が含まれるが、これに限定されるものではない。)。
【0319】
原核生物における転写を増強するためにdM-SmallCas9融合タンパク質を使用する方法の非限定的な例には、細菌のワンハイブリッド(B1H)またはツーハイブリッド(B2H)系の修飾が含まれる。B1H系においては、DNA結合ドメイン(BD)が細菌転写活性化ドメイン[AD;例えば、大腸菌RNAポリメラーゼのαサブユニット(RNAPa)]に融合される。したがって、dM-SmallCas9は、ADを含む異種配列に融合されうる。dM-SmallCas9融合タンパク質がプロモーターの上流領域(ガイドRNAによってそこに標的化される)に達すると、dM-SmallCas9融合タンパク質のAD(例えば、RNAPa)がRNAPホロ酵素をリクルートして、転写活性化を引き起こす。B2H系においては、BDはADに直接的には融合されない。その代わりに、それらの相互作用はタンパク質-タンパク質相互作用(例えば、GAL11P-GAL4相互作用)によって媒介される。該方法において使用するためにそのような系を修飾するために、dM-SmallCas9は、タンパク質間相互作用をもたらす第1のタンパク質配列(例えば、酵母GAL11Pおよび/またはGAL4タンパク質)に融合可能であり、RNAaは、タンパク質-タンパク質相互作用を完全なものとする第2のタンパク質配列(例えば、GAL11PiがdM-SmallCas9に融合する場合にはGAL4、GAL4がdM-SmallCas9に融合する場合にはGAL11P、など)に融合可能である。GAL11PとGAL4との間の結合アフィニティは結合効率および転写開始速度を増加させる。
【0320】
真核生物における転写を増強するためにdM-SmallCas9融合タンパク質を使用する方法の非限定的な例には、活性化ドメイン(AD)(例えば、GAL4、ヘルペスウイルス活性化タンパク質VP16またはVP64、ヒト核因子NF-KB p65サブユニットなど)へのdM-SmallCas9の融合が含まれる。系を誘導可能にするためには、dM-SmallCas9融合タンパク質の発現は誘導プロモーター(例えば、Tet-ON、Tet-OFFなど)によって制御されうる。ガイドRNAは、公知転写応答要素(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)、公知上流活性化配列(UAS)、標的DNAの発現を制御しうると思われる未知または公知の機能の配列などを標的化するように設計されうる。
【0321】
追加的な融合パートナー
転写の増強または低減を達成するための融合パートナーの非限定的な例には、転写アクチベータードメインおよび転写リプレッサードメイン[例えば、クルッペル関連ボックス(KRABまたはSKD);Mad mSIN3相互作用ドメイン(SID);ERFリプレッサードメイン(ERD)など]が含まれるが、これらに限定されるものではない。幾つかのそのような場合には、dM-SmallCas9融合タンパク質はガイドRNAによって標的DNAにおける特定の位置(例えば、配列)に標的化され、遺伝子座特異的調節、例えば、(転写アクチベーター機能を選択的に抑制する)プロモーターへのRNAポリメラーゼの結合の遮断、および/または(例えば、標的DNAを修飾する、または標的DNAに関連するポリペプチドを修飾する融合配列が使用される場合の)局所クロマチン状態の修飾をもたらす。幾つかの実施形態においては、変化は一過性である(例えば、転写抑制または活性化)。幾つかの実施形態においては、変化は遺伝性である(例えば、標的DNAに対して、または標的DNAに関連するタンパク質、例えばヌクレオソームヒストンに対して、エピジェネティック修飾が行われる場合)。幾つかの実施形態においては、dM-SmallCas9ポリペプチドのC末端に異種配列が融合されうる。幾つかの実施形態においては、dM-SmallCas9ポリペプチドのN末端に異種配列が融合されうる。幾つかの実施形態においては、dM-SmallCas9ポリペプチドの内部部分(例えば、N末端またはC末端以外の部分)に異種配列が融合されうる。dM-SmallCas9融合タンパク質を使用する方法の生物学的効果は任意の適切な方法[例えば、遺伝子発現アッセイ、クロマチンに基づくアッセイ、例えばクロマチン免疫沈降(ChIP)、クロマチンインビボアッセイ(CiA)など]によって検出されうる。
【0322】
幾つかの実施形態においては、方法は2以上の異なるガイドRNAの使用を含む。例えば、2つの異なるガイドRNAが単一の宿主細胞において使用可能であり、この場合、それらの2つの異なるガイドRNAは、同じ標的核酸における2つの異なる標的配列を標的化する。幾つかの実施形態においては、同じ標的核酸における2つの異なる標的配列を標的化する2つの異なるガイドRNAの使用は標的核酸の転写における調節(例えば、低減または増強)の向上をもたらす。
【0323】
もう1つの例として、2つの異なるガイドRNAが単一の宿主細胞において使用可能であり、この場合、それらの2つの異なるガイドRNAは2つの異なる標的核酸を標的化する。したがって、例えば、転写調節方法は、第2のガイドRNA、または第2のガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を宿主細胞内に導入することを更に含みうる。
【0324】
幾つかの実施形態においては、核酸(例えば、ガイドRNA、例えば、単一分子ガイドRNA;ドナーポリヌクレオチド;M-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体をコードする核酸;など)は、追加的な望ましい特徴(例えば、修飾または調節された安定性、;細胞内標的化;追跡、例えば蛍光標識;タンパク質またはタンパク質複合体への結合部位;など)をもたらす修飾または配列を含む。非限定的な例には、以下のものが含まれる:5’キャップ(例えば、7-メチルグアニル酸キャップ(m7G));3’ポリアデニル化テール(例えば、3’ポリ(A)テール);リボスイッチ(riboswitch)配列またはアプタマー配列(例えば、タンパク質および/またはタンパク質複合体による、調節された接近および/または調節された安定性を可能にするもの);ターミネーター配列;dsRNA二本鎖を形成する配列(例えば、ヘアピン);RNAを細胞内位置(例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体など)に標的化する修飾または配列;追跡をもたらす修飾または配列(例えば、蛍光分子への直接結合、蛍光検出を容易にする部分への結合、蛍光検出を可能にする配列など);タンパク質(例えば、転写アクチベーター、転写リプレッサー、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAデメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼなどを含む、DNAに作用するタンパク質)への結合部位をもたらす修飾または配列;およびそれらの組合せ。
【0325】
複数の同時ガイドRNA
幾つかの実施形態においては、異なる標的DNA上または同じ標的DNA上の異なる位置における転写を同時に調節するために、複数のガイドRNAが、同じ細胞において同時に使用される。幾つかの実施形態においては、2以上のガイドRNAが、同じ遺伝子または転写産物または遺伝子座を標的化する。幾つかの実施形態においては、2以上のガイドRNAが、異なる無関係な遺伝子座を標的化する。幾つかの実施形態においては、2以上のガイドRNAが、異なるが関連する遺伝子座を標的化する。
【0326】
ガイドRNAは小さく頑強であるため、同じ発現ベクター上に同時に存在することが可能であり、所望により、同じ転写制御下にさえも配置されうる。幾つかの実施形態においては、2以上(例えば、3以上、4以上、5以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上または50以上)のガイドRNAが標的細胞において(同じまたは異なるベクターから/同じまたは異なるプロモーターから)同時に発現される。幾つかの実施形態においては、複数のガイドRNAが、ターゲッターRNAの天然に存在するCRISPRアレイを模倣するアレイにおいてコードされうる。標的化セグメントは、約30ヌクレオチド長の配列(約16~約100ntでありうる)としてコードされ、CRISPR反復配列によって分離される。アレイは、RNAをコードするDNAによってまたはRNAとして細胞内に導入されうる。
【0327】
複数のガイドRNAを発現させるためには、Csy4エンドリボヌクレアーゼによって媒介される人工RNAプロセシング系が使用されうる。例えば、複数のガイドRNAが前駆体転写産物(例えば、U6プロモーターから発現されるもの)上でタンデムアレイ内に連結され、Csy4特異的RNA配列によって分離されうる。共発現Csy4タンパク質は前駆体転写産物を複数のガイドRNAに切断する。RNAプロセシング系を使用する利点には、第1に、複数のプロモーターを使用する必要がないこと、第2に、全てのガイドRNAが前駆体転写産物からプロセシングされるため、それらの濃度が類似dM-SmallCas9結合に関して正規化されることが含まれる。
【0328】
Csy4は、細菌シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)由来の低分子エンドリボヌクレアーゼ(RNアーゼ)タンパク質である。Csy4は最小の17bpRNAヘアピンを特異的に認識し、迅速(1分未満)かつ高効率(99.9%超)のRNA切断を示す。ほとんどのRNアーゼとは異なり、切断されたRNA断片は安定で機能的に活性なままである。Csy4に基づくRNA切断は人工RNAプロセシング系に再利用されうる。この系においては、17bpのRNAヘアピンが、単一プロモーターから前駆体転写産物として転写される複数のRNA断片の間に挿入される。Csy4の共発現は個々のRNA断片の生成において有効である。
【0329】
宿主細胞
幾つかの実施形態においては、本開示の方法は、インビボおよび/またはエクスビボおよび/またはインビトロで有糸分裂細胞または有糸分裂後細胞における転写調節を誘導するために使用されうる。幾つかの実施形態においては、本開示の方法は、インビボおよび/またはエクスビボおよび/またはインビトロで有糸分裂細胞または有糸分裂後細胞におけるDNA切断、DNA修飾および/または転写調節を誘導するために(例えば、個体内に再導入されうる遺伝的修飾細胞を生成させるために)使用されうる。
【0330】
ガイドRNAは、標的DNAにハイブリダイズすることによって特異性をもたらすため、有糸分裂細胞および/または有糸分裂後細胞は種々の宿主細胞のいずれかであることが可能であり、ここで、適切な宿主細胞には、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:細菌細胞;古細菌細胞;単細胞真核生物;植物細胞;藻類細胞、例えばボツリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii)、クラミドモナス・レインハルドティー(Chlamydomonas reinhardtii)、ナンノクロロプシス・ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)、クロレラ・ピレノイドサ(Chlorela pyrenoidosa)、サルガッスム・パテンス(Sargassum patens)(C.Agardh)など;真菌細胞;動物細胞;無脊椎動物(例えば、昆虫、刺胞動物、棘皮動物、線虫など)に由来する細胞;真核寄生虫[例えば、マラリア原虫、例えば、プラスモジウム・ファキパルム(Plasmodium fakiparum);蠕虫;など);脊椎動物(例えば、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)に由来する細胞;哺乳類細胞、例えば、げっ歯類細胞、ヒト細胞、非ヒト霊長類細胞など。幾つかの実施形態においては、宿主細胞は任意のヒト細胞でありうる。適切な宿主細胞には、天然に存在する細胞、遺伝的修飾細胞(例えば、実験室で、例えば「人の手」によって遺伝的に修飾された細胞)、および何らかの方法でインビトロで操作された細胞が含まれる。幾つかの実施形態においては、宿主細胞は単離される。
【0331】
任意のタイプの細胞に関心が持たれうる[例えば、幹細胞、例えば胚性幹(ES)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、生殖細胞;体細胞、例えば線維芽細胞、造血細胞、ニューロン、筋細胞、骨細胞、肝細胞、膵臓細胞;任意の段階の胚のインビトロまたはインビボ胚細胞、例えば1細胞、2細胞、4細胞、8細胞などの段階のゼブラフィッシュ胚;など]。細胞は、樹立された細胞株由来のものであることが可能であり、初代細胞であることが可能であり、ここで、「初代細胞」、「初代細胞株」および「初代培養」は本明細書においては互換的に用いられ、対象から誘導された細胞および細胞培養であって、限られた数の培養継代(例えば、培養の分割)にわたってインビトロの増殖に付されたものを意味する。例えば、初代培養には、0回、1回、2回、4回、5回、10回または15回継代された可能性があるが、危機的段階になるのに十分な回数の継代に付されていない培養が含まれる。初代細胞株はインビトロで10回未満の継代で維持されうる。幾つかの実施形態においては、標的細胞は単細胞生物であり、または培養内で増殖される。
【0332】
細胞が初代細胞である場合、そのような細胞は任意の適切な方法によって個体から採取されうる。例えば、白血球はアフェレーシス、白血球アフェレーシス、密度勾配分離などによって適切に採取可能であり、一方、皮膚、筋肉、骨髄、脾臓、肝臓、膵臓、肺、腸、胃などのような組織からの細胞は、最も適切には、生検によって採取される。採取された細胞の分散または懸濁には、適切な溶液が使用されうる。そのような溶液は、一般に、平衡塩類溶液、例えば生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ハンクス平衡塩類溶液などであって、低濃度、例えば5~25mMの許容可能なバッファーと共に、ウシ胎児血清または他の天然に存在する因子で適切に補足されたものである。適切なバッファーには、HEPES、リン酸バッファー、乳酸バッファーなどが含まれる。細胞は直ちに使用可能であり、または長期間保存され、凍結され、解凍して再利用されうる。そのような場合、細胞は、一般に、10% ジメチルスルホキシド(DMSO)、50% 血清、40% 緩衝培地、またはそのような凍結温度で細胞を保存するために当技術分野で一般的に使用される何らかの他の溶液中で凍結され、凍結培養細胞を解凍するための当技術分野で一般に公知の方法で解凍される。
【0333】
用途
本開示による転写を調節するための方法は、同様に提供される種々の用途において有用である。用途には、研究用途、診断用途、産業用途および治療用途が含まれる。
【0334】
研究用途には、例えば発生、代謝、下流遺伝子の発現などに対する標的核酸の転写の低減または増強の効果を決定することが含まれる。転写調節方法を用いて、ハイスループットのゲノム解析が実施可能であり、この場合、ガイドRNAのスペーサーのみを変更する必要があるに過ぎず、一方、タンパク質結合性セグメントおよび転写終結セグメントは(幾つかの場合には)一定に保たれうる。ゲノム解析に使用される複数の核酸を含むライブラリーは、ガイドRNAをコードするヌクレオチド配列に機能的に連結されたプロモーターを含み、ここで、各核酸は、共通のタンパク質結合性セグメント、異なるスペーサーおよび共通の転写終結セグメントを含む。チップは、5×10個を超えるユニークなガイドRNAを含有しうる。用途には、大規模な表現型解析、遺伝子-機能マッピングおよびメタゲノム解析が含まれる。
【0335】
本明細書に開示されている方法は代謝工学の分野において有用である。転写レベルは、本明細書に開示されているとおり、適切なガイドRNAを設計することによって効率的かつ予測可能に制御されうるため、関心のある代謝経路内の特定の酵素のレベルを制御することによって(例えば、転写の増強または低減によって)、代謝経路(例えば、生合成経路)の活性が厳密に制御され、調整されうる。関心のある代謝経路には、化学物質(ファインケミカル、燃料、抗生物質、毒素、アゴニスト、アンタゴニストなど)および/または薬品生産に使用されるものが含まれる。
【0336】
関心のある生合成経路には、以下のものが含まれるが、それらに限定されるものではない:(1)メバロン酸経路(例えば、HMG-CoAレダクターゼ経路)[アセチルGoAをジメチルアリルピロリン酸(DMAPP)およびイソペンテニルピロリン酸(IPP)に変換し、これらは、テルペノイド/イソプレノイドを含む多種多様な生体分子の生合成に使用される];(2)非メバロン酸経路(例えば、「2-Cメチル-D-エリスリトール 4-リン酸/1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸経路」または「MEP/DOXP経路」または「DXP経路」)(メバロン酸経路の代替経路を介してピルビン酸およびグリセルアルデヒド 3-リン酸をDMAPPおよびIPPに変換することによって、同様にDMAPPおよびIPPを生成する);(3)ポリケチド合成経路[種々のポリケチドシンターゼ酵素によって種々のポリケチドを生成する。ポリケチドには、化学療法に使用される天然に存在する小分子(例えば、テトラサイクリンおよびマクロライド)が含まれ、産業上重要なポリケチドには、ラパマイシン(免疫抑制剤)、エリスロマイシン(抗生物質)、ロバスタチン(抗コレステロール薬)およびエポチロンB(抗癌薬)が含まれる];(4)脂肪酸合成経路;(5)DAHP(3-デオキシ-D-アラビノ-ヘプツロソン酸 -リン酸)合成経路;(6)潜在的なバイオ燃料(例えば、短鎖アルコールおよびアルカン、脂肪酸メチルエステルおよび脂肪アルコール、イソプレノイドなど)を生成する経路など。
【0337】
ネットワークおよびカスケード
本明細書に開示されている方法は、制御の統合ネットワーク(例えば、1以上のカスケード)を設計するために使用されうる。例えば、ガイドRNAおよびM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は、別のDNA標的化RNAまたは別のM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体の発現を制御(例えば、調節、例えば、増強、低減)するために使用されうる。例えば、第1のガイドRNAは、第1のM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体とは異なる機能(例えば、メチルトランスフェラーゼ活性、デメチラーゼ活性、アセチルトランスフェラーゼ活性、脱アセチラーゼ活性など)を有する第2の融合dM-SmallCas9ポリペプチドの転写の調節を標的化するように設計されうる。幾つかの実施形態においては、第2の融合dM-SmallCas9ポリペプチドは、それが第1のガイドRNAと相互作用し得ないように選択されうる。幾つかの実施形態においては、第2の融合dM-SmallCas9ポリペプチドは、それが第1のガイドRNAと相互作用するように選択されうる。幾つかのそのような場合においては、それらの2つ(またはそれ以上)のdM-SmallCas9タンパク質の活性は競合することが可能であり(例えば、ポリペプチドが反対の活性を有する場合)または相乗することが可能である(例えば、ポリペプチドが類似活性または相乗活性を有する場合)。同様に、前記のとおり、ネットワーク内の複合体(例えば、ガイドRNA/dM-SmallCas9ポリペプチド)はいずれも、他のガイドRNAまたはdM-SmallCas9ポリペプチドを制御するように設計されうる。ガイドRNAおよびM-SmallCas9ポリペプチドまたはその変異体は任意の所望のDNA配列に標的化されうるため、本明細書に記載されている方法は、任意の所望の標的の発現を制御し調節するために使用されうる。設計されうる統合ネットワーク(例えば、相互作用のカスケード)は、非常に単純なものから非常に複雑なものまで、多岐にわたり、制限はない。
【0338】
2以上の成分(例えば、ガイドRNAおよびdM-SmallCas9ポリペプチド)のそれぞれが別のガイドRNA/dM-SmallCas9ポリペプチド複合体の調節制御下にあるネットワークにおいては、ネットワークの1成分の発現のレベルがネットワークの別の成分の発現のレベルに影響を及ぼしうる(例えば、発現を増強または低減しうる)。このメカニズムを介して、1つの成分の発現が、同じネットワークにおける異なる成分の発現に影響を及ぼす可能性があり、ネットワークは、他の成分の発現を増強する成分および他の成分の発現を低減する成分の混合物を含みうる。当業者に容易に理解されるとおり、1つの成分の発現レベルが1以上の異なる成分の発現レベルに影響を及ぼしうる前記の例は例示目的のものであり、限定的なものではない。1以上の成分が(例えば、実験制御下、例えば温度制御下;薬物制御下、例えば薬物誘導性制御下;光制御下;など)操作可能となるように(前記のとおりに)修飾される場合、追加的な複雑な層が、所望により、ネットワーク内に導入されうる。
【0339】
1つの非限定的な例として、第1のガイドRNAは、標的治療/代謝遺伝子の発現を制御する第2のガイドRNAのプロモーターに結合しうる。そのような場合、第1のガイドRNAの条件発現は治療/代謝遺伝子を間接的に活性化する。このタイプのRNAカスケードは、例えば、リプレッサーをアクチベーターへと容易に変換するのに有用であり、標的遺伝子の発現のロジックまたはダイナミクスを制御するために使用されうる。
【0340】
転写調節方法は創薬および標的検証にも使用されうる。
【0341】
疾患または病態の治療方法
本開示の幾つかの態様においては、ガイドRNAおよび/またはM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体および/またはドナーポリヌクレオチドは、遺伝子治療のような目的で、例えば疾患を治療するために、または抗ウイルス、抗病原性または抗癌治療用物質として、農業における遺伝的修飾生物の生産のために、あるいは生物学的研究のために、インビボで細胞DNAを修飾するために使用される。これらのインビボ実施形態においては、(i)ガイドRNAまたはgRNAをコードする核酸;(ii)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体;および/または(iii)ドナーポリヌクレオチドを含む、CRISPR/M-SmallCas9系の成分が個体に投与される。投与は、ペプチド、小分子および核酸を対象に投与するための当技術分野で周知の任意の方法によるものでありうる。CRISPR/M-SmallCas9系の成分は種々の製剤に配合されうる。より詳細には、本開示のCRISPR/M-SmallCas9系成分は、適切な薬学的に許容される担体または希釈剤と組合せることによって、薬学的組成物に製剤化されうる。
【0342】
幾つかの実施形態においては、薬学的に許容されるビヒクル中に存在する、(i)ガイドRNAまたはgRNAをコードする核酸;(ii)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体;および/または(iii)ドナーポリヌクレオチドを含むCRISPR/M-SmallCas9系の成分を含む医薬製剤または組成物を、本明細書において提供する。「薬学的に許容されるビヒクル」は、米国連邦政府もしくは州政府の規制当局によって承認されたビヒクル、またはヒトのような哺乳動物での使用に関して米国薬局方または他の一般に認められた薬局方に収載されているビヒクルでありうる。「ビヒクル」なる語は、哺乳動物への投与のために本開示の化合物が配合される希釈剤、アジュバント、賦形剤または担体を意味する。そのような医薬ビヒクルは、脂質、例えばリポソーム、例えばリポソームデンドリマー;液体、例えば水および油(石油、動物、植物または合成起源のものを含む)、例えばラッカセイ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油など、生理食塩水;アカシアガム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイドシリカ、尿素などでありうる。また、補助剤、安定剤、増粘剤、潤滑剤および着色剤が使用されうる。医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、溶液、坐剤、注射剤、吸入剤、ゲル剤、ミクロスフェアおよびエアロゾルのような固体、半固体、液体または気体の形態の製剤に製剤化されうる。したがって、CRISPR/M-SmallCas9系成分の投与は、経口、口腔、直腸、非経口、腹腔内、皮内、経皮、気管内、眼内などのような投与を含む種々の方法で達成されうる。活性物質は投与後に全身性であることが可能であり、あるいは局所投与、壁内投与、または移植部位で活性用量を保持するように作用するインプラントの使用によって、局在化されうる。活性物質は即時活性のために製剤化されることが可能であり、またはそれは持続放出のために製剤化されることが可能である。
【0343】
幾つかの病態、特に中枢神経系の病態においては、血液脳関門(BBB)を通過する物質を製剤化する必要がありうる。BBBを介した薬物送達のための1つの戦略は、マンニトールまたはロイコトリエンのような浸透圧手段によって、あるいはブラジキニンのような血管作動性物質の使用によって生化学的に、BBBを破壊することを要する。特定の物質を脳腫瘍に標的化ためにBBB開口部を用いる可能性も1つの選択肢である。組成物が血管内注射によって投与される場合、BBB破壊物質は本開示の治療用組成物と共投与されうる。BBBの通過のための他の戦略は、カベオリン-1媒介性トランスサイトーシス、担体媒介性トランスポーター、例えばグルコースおよびアミノ酸担体、インスリンまたはトランスフェリンのための受容体媒介性トランスサイトーシスならびに能動排出トランスポーター、例えばasp-糖タンパク質を含む内因性輸送系の使用を必要としうる。また、血管の内皮壁を通過する輸送を促進するために、本開示において使用される治療用化合物に能動輸送部分がコンジュゲート化されうる。追加的または代替的に、BBBの向こう側における治療用物質の薬物送達は、局所送達によるもの、例えば髄腔内送達によるもの、例えばオンマイヤー・リザバー(Ommaya reservoir)を介したもの、[例えば、米国特許第5,222,982号および第5,385,582号(これらを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい];ボーラス注射によるもの、例えばシリンジによるもの、例えば硝子体内または頭蓋内へのもの;連続注入によるもの、例えばカニューレ挿入によるもの、例えば対流によるもの[例えば、米国特許出願第20070254842号(これを参照により本明細書に組み入れることとする)];または該物質が可逆的に固定された装置を移植することによるもの[例えば、米国特許出願第20080081064号および第20090196903号(これらを参照により本明細書に組み入れることとする)を参照されたい]でありうる。
【0344】
一般に、(i)ガイドRNAまたはgRNAをコードする核酸;(ii)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体;および/または(iii)ドナーポリヌクレオチドを含む、CRISPR/M-SmallCas9系の成分の有効量が供与される。エクスビボ法に関して前記したとおり、インビボにおけるCRISPR/M-SmallCas9系成分の有効量または有効用量は、陰性対照、例えば空ベクターまたは無関係なポリペプチドと接触させた細胞と比較して、2つの相同配列間で観察される組換えの量における2倍以上の増加を誘導する量である。組換えの量は、例えば前記および当技術分野で公知の、任意の適切な方法によって測定されうる。投与されるCRISPR/M-SmallCas9系成分の有効量または有効用量の計算は当業者の技量の範囲内であり、当業者にとっては常套的なものである。投与される最終的な量は、投与経路、および治療される障害または病態の性質に左右される。
【0345】
個々の対象に投与される有効量は種々の要因に左右され、そのうちの幾つかは対象によって異なる。有能な臨床家は、必要に応じて病態の進行を停止または逆転させるために、対象に投与する治療用物質の有効量を決定しうるであろう。臨床家は、LD50の動物データおよび該物質に関して入手可能な他の情報を利用して、投与経路に応じて、個体に対する最大安全用量を決定しうる。例えば、静脈内投与用量は髄腔内投与用量より多くなりうる。これは、治療用組成物が投与される体液の量がより多いことを考慮したものである。同様に、体から急速に除去される組成物は、治療濃度を維持するために、より高い用量で、または反復用量で投与されうる。有能な臨床家は、通常の技術を用いて、通常の臨床試験の過程において個々の治療用物質の投与量を最適化しうるであろう。
【0346】
CRISPR/M-SmallCas9系の成分は、医薬に配合される場合、適切な商業的供給源から入手されうる。一般論としては、用量当たり非経口的に投与されるCRISPR/M-SmallCas9系成分の薬学的有効量の合計は、用量反応曲線によって測定されうる範囲内になる。
【0347】
例えば、治療投与に使用される、(i)ガイドRNAまたはgRNAをコードする核酸;(ii)M-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体をコードするコドン最適化ポリヌクレオチド配列を含む核酸、または該核酸から発現されるM-SmallCas9ポリペプチドもしくはその変異体;および/または(iii)ドナーポリヌクレオチドの製剤のような、CRISPR/M-SmallCas9系の成分に基づく治療剤は、無菌性でなければならない。無菌状態は、滅菌濾過膜(例えば、0.2マイクロメートルの膜)を介して濾過することによって容易に達成される。治療用組成物は、一般に、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下注射針によって穿孔可能な栓を有する静脈内溶液バッグまたはバイアル内に配置される。CRISPR/M-SmallCas9系成分に基づく治療剤は、水溶液として、または再構成用の凍結乾燥製剤として、単位用量または複数回用量の容器、例えば密封されたアンプルまたはバイアル内に保存されうる。凍結乾燥製剤の一例としては、化合物の滅菌濾過1%(w/v)水溶液5mlを10mlバイアルに充填し、得られた混合物を凍結乾燥する。注入溶液は、静菌注射用水を使用して凍結乾燥化合物を再構成(還元)することによって調製される。
【0348】
医薬組成物は、所望の製剤に応じて、薬学的に許容される無毒性の希釈剤担体を含むことが可能であり、これは、動物またはヒトへの投与用の医薬組成物を製剤化するために一般に使用されるビヒクルとして定義される。希釈剤は、該組合せの生物活性に影響を及ぼさないように選択される。そのような希釈剤の例としては、蒸留水、緩衝水、生理食塩水、PBS、リンガー液、ブドウ糖液およびハンクス液が挙げられる。また、医薬組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または無毒性、非治療的、非免疫原性の安定剤、賦形剤などを含みうる。組成物はまた、生理的条件に近づけるための追加的な物質、例えば、pH調整剤および緩衝剤、毒性調整剤、湿潤剤および界面活性剤を含みうる。
【0349】
組成物は、種々の安定化剤のいずれか、例えば抗酸化剤をも含みうる。医薬組成物がポリペプチドを含む場合、ポリペプチドは、ポリペプチドのインビボ安定性を増強する又はその薬理学的特性を向上させる(例えば、ポリペプチドの半減期を延長する、その毒性を軽減する、溶解性または取り込みを向上させる)種々の周知の化合物と複合体形成されうる。そのような修飾または複合体形成剤の例には、スルファート、グルコナート、シトラートおよびホスファートが含まれる。組成物の核酸またはポリペプチドは、それらのインビボ特性を向上させる分子と複合体形成されうる。そのような分子には、例えば、炭水化物、ポリアミン、アミノ酸、他のペプチド、イオン(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン)および脂質が含まれる。
【0350】
種々のタイプの投与に適した製剤に関する更なる指針は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mace Publishing Company,Philadelphia,Pa.,20th ed.(2003)、および米国薬局[The United States Pharmacopeia:The National Formulary(USP 24 NF19),1999年公開]において見出されうる。薬物送達のための方法の簡潔な概説は、Langer,Science 249:1527-1533(1990)を参照されたい。
【0351】
医薬組成物は予防的および/または治療的処置のために投与されうる。有効成分の毒性および治療効果は細胞培養および/または実験動物における標準的な薬学的方法に従って決定可能であり、これは、例えば、LD50(集団の50%に致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効である用量)を決定することを含む。毒性効果と治療効果との間の用量比が治療指数であり、それはLD50/ED50の比として表されうる。大きな治療指数を示す療法が一般に好ましい。
【0352】
細胞培養および/または動物研究から得られたデータは、ヒトに対する投与量の範囲を決定する際に使用されうる。有効成分の投与量は、一般に、低毒性のED50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、使用される剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動しうる。医薬組成物を製剤化するために使用される成分は一般に高純度であり、潜在的に有害な夾雑物を実質的に含有しない[例えば、少なくともナショナル・フード(National Food)(NF)グレード、一般に、少なくとも分析グレード、より典型的には、少なくとも医薬品グレード)。更に、インビボでの使用を意図した組成物は一般に無菌性である。所与の化合物が使用前に合成される必要がある場合には、得られた生成物は、一般に、合成または精製プロセス中に存在しうるいずれの潜在的な毒性物質をも、特にいずれのエンドトキシンをも実質的に含有しない。非経口投与用の組成物も無菌性であり、実質的に等張性であり、GMP条件下で製造される。
【0353】
個々の対象に投与される治療組成物の有効量は、種々の要因に左右され、そのうちの幾つかは対象によって異なる。有能な臨床家は、必要に応じて病態の進行を停止または逆転させるために、対象に投与する治療用物質の有効量を決定しうるであろう。臨床家は、LD50の動物データおよび該物質に関して入手可能な他の情報を利用して、投与経路に応じて、個体に対する最大安全用量を決定しうる。例えば、静脈内投与用量は髄腔内投与用量より多くなりうる。これは、治療用組成物が投与される体液の量がより多いことを考慮したものである。同様に、体から急速に除去される組成物は、治療濃度を維持するために、より高い用量で、または反復用量で投与されうる。有能な臨床家は、通常の技術を用いて、通常の臨床試験の過程において個々の治療用物質の投与量を最適化しうるであろう。
【0354】
対象に対する治療の投与回数は変動しうる。対象への遺伝的修飾細胞の導入は1回限りの出来事でありうるが、特定の状況においては、そのような治療は、限られた期間にわたって改善をもたらし、継続的な一連の反復治療を要しうる。特定の状況においては、効果が観察される前に、遺伝的修飾細胞の複数回投与が必要とされうる。厳密なプロトコルは疾患または病態、病期、および治療される個々の対象のパラメーターに左右される。
【0355】
均等物
全ての技術的特徴はそのような特徴の全ての可能な組合せにおいて個別に組合されうる。本発明は、その精神または本質的特徴から逸脱することなく、他の特定の形態において具体化されうる。したがって、前記の実施形態は、本明細書に記載されている本発明を限定するものではなく、あらゆる点で例示的であるとみなされるべきである。
【0356】
実施例
以下の非限定的な実施例は、本明細書に記載されている本発明の実施形態を更に例示するものである。
【0357】
実施例1:
M-SmallCas9ポリペプチドの活性
細胞培養
HEK293T細胞(ATCC(登録商標)CRL-3216(商標))を、10% FBSおよび1% Pen/Strepを含有するDMEM内で培養した。細胞をT75フラスコ内で培養し、2~3日ごとに分割した。
【0358】
トランスフェクション
トランスフェクションの1日前に、ポリ-D-リジンでコーティングされた96ウェルプレート(Poly-D-Lysine CELLCOAT(登録商標);Greiner)においてウェル当たり12,000細胞の密度で細胞を播いた。翌日、培地を交換し、LipoD293(商標)In Vitro DNAトランスフェクション試薬(Transfection Reagent)(SignaGen)を製造業者の説明に従い使用して、140ngのCas9プラスミドおよび60ngのgRNAプラスミドで細胞をトランスフェクトした。翌日、トランスフェクション混合物を交換し、標準培地と交換した。トランスフェクションの3日後、下流DNA抽出のために細胞を採取した。
【0359】
粗DNAの抽出および増幅
採取した細胞を100μlのPBSに再懸濁させ、60μlを新たな96ウェルプレートに移し、ペレット化した。次いで上清を除去し、25μg/ml プロテイナーゼK(Thermo Scientific)で補足された0.05% SDSを含有する10mM Tris(pH7.0)の60μlを各ウェルに添加し、十分に混合した。粗DNAサンプルを37℃で1時間インキュベートし、80℃で30分間加熱した。2.5μlの粗DNAを1.25μlの10μM バーコード化フォワードプライマーおよびリバースプライマーならびに12.5μlのQ5高忠実度(High-Fidelity)2×マスターミックス(Master Mix)(NEB)および7.5μlの水と混合した。増幅のために、全てのアンプリコンに関して以下の設定を用いた:初期変性(98℃で30秒)、増幅の30サイクル(98℃で10秒、66℃で30秒および72℃で30秒)および最終伸長(72℃で2分)。プライマーを、5つの追加的なヌクレオチドを5’末端に付加することによって、バーコード化した。次いで全てのPCR反応をプールし、SPRIビーズを製造業者の説明に従い1:1の比で使用して、精製した。
【0360】
ライブラリーの調製および次世代シーケンシング
2μgのバーコード化および精製されたアンプリコンをライブラリー調製の投入物として使用した。アンプリコンプールを末端修復およびdAテール化に付し(NEBNext Ultra II Repair/dA-Tailing Module,NEB)、次いでIlluminaバーコード連結に付した(Blunt/TA Ligase Master Mix,NEB)。正確なアンプリコンサイズをゲル電気泳動(E-gel EX 2%,ThermoFisher)によって確認した。ライブラリーの濃度を、dsDNA HSキット(ThermoFisher)を使用して、Qubit(ThermoFisher)で測定した。5% PhiXスパイクインを含む8pMライブラリーを、MiSeq 300PE v2ケミストリー(Illumina)を使用する次世代シーケンシングの投入物として使用した。
【0361】
NGS分析
生fastqリード(read)を、cutadaptバージョン1.18(http://dx.doi.org/10.14806/ej.17.1.200)を使用して、Q30の最小品質スコアで品質調整(quality trim)した。フィルターされたリードを、fastq-joinバージョン1.3.1(doi:10.2174/1875036201307010001)を使用して結合し、Nat Commun.2021 Jul 9;12(1):4219(doi:10.1038/s41467-021-24454-5,Supplementary Material,Section entitled:“Amplicon sequencing(AmpSeq)for on- and off-target analysis and NGS analysis”)に記載されているとおりにカスタム逆多重化スクリプトを使用して逆多重化(デマルチプレックス)した。次いで逆多重化fastqファイルをCRISPResso v 1.0.13(doi:10.1038/nbt.3583)で分析した。
【0362】
8つのPAM配列と「NNGG」PAMベースのガイド配列との組合せに関して決定された先行技術の結果(アンプリコンシーケンシングにおける活性)と比較した、本発明による種々のCasエフェクターに関する結果を表5に列挙する。
【表7】
【0363】
【0364】
8つのPAM配列と「NNGRRT」PAMベースのガイド配列との組合せに関して決定された先行技術の結果(アンプリコンシーケンシングにおける活性)と比較した、本発明による種々のCasエフェクターに関する結果を表6に列挙する。
【表8】
【0365】
【配列表】
2024534928000001.xml
【国際調査報告】